帝竜戦役②〜月と共に、火精は竜翼で舞う
ゆらり、ゆらりと。
何も無い筈の荒野の夜に、無数の赤い色が舞っている。
白い月の姿と共に、廃墟のような一面の空を踊る姿。
まるで蛍たちのようだと思うかもしれない。けれど、明らかに違っている。
何しろ平野だったこの辺り一帯は、何かの火で焼き払われている。夜空を見上げれば、黒ずみとなったそれらが何の仕業なのかと問う必要はないだろう。
火は火なのだ。不吉な色合いをもって、空を舞う。
吹き抜ける風の中で動き続ける獰猛さは、まさに獣のそれ。
妖しいというよりは危険なのだ。直感でわかってしまう。これは何かを求めて、彷徨う狂精の類いなのだと。
そして、ここは群竜大陸。
真っ当に存在する訳がない。
炎で形作られた姿は虎のような四足獣。が、竜種の力を受け継いだように、翼が、角が、そして鱗が産まれている。
それらをもって空を翔る姿は、獲物を探して地を這う捕食者のそれに他ならない。
ゆらり、ゆらりと。
空より、月と共に荒野を見下ろしている。
もしも、その赤い瞳が、この荒野に踏み入れる命を見付ければ、それを貪ろうと翼をはためかせ、一気に迫るのだろう。全てを燃やし尽くそうと、その牙を剥くのだろう。
空を翔る火竜のように、何一つの容赦なく、敵も大地も纏めて焼き付くして貪るのだ。
彼ら、この大陸の主たちがそう命じているのだから。
そして、そういうものなのだから。
この地に踏み入れる猟兵、その魂の熱を待つように、空を無数の火精が舞う。
月ばかりしらじらしく、戦場となるこの地を見下ろしていた。
●
ぺこりとお辞儀をするのは秋穂・紗織(木花吐息・f18825)だ。
ふんわりとした様子は変わることなく、軽やかに今回の戦いのことを説明していく。
「お集まり頂いた有り難う御座いますね。……侵略すること火の如し。どこかの将の言葉ですが、攻めるにあたって遅いという事はそうないでしょうしね」
今回は皆殺しの平野と言われるエリアだ。
吹き抜ける風は何処までも強く、そして、容赦なく全てを変えていく。
そこに存在するオブリビアンはドラゴン化し、竜の角と翼、そして鱗を持つようになるのだ。
「簡単にいえば元々のオビリビアンが、更に竜の特徴と強みを手に入れた、ということでしょうね。一体、一体は然程ではない筈ですが、ドラゴン化したことで手こずる事も出てくるでしょう」
元々は火と熱を貪る炎の精霊なのだという。
それがドラゴン化したというのなら、小型の火竜といってもいいのかもしれない。
「猛りて攻める身体は炎にして、翔る翼をもって空を自在」
ただ地を疾走するだけではなく、空をも自在に動きながら襲いかかる。
「傷を刻まんとするとするのは爪と牙のみならず、その角も」
攻撃の方法もただの獣化の精霊のみならず。
「加えて、身体のほぼ全身が鱗のようなもので覆われて、硬い防御も持っています」
自由自在、かつ、多種に渡る攻撃手段を持つ敵を相手取り、かつ、その鱗の守りを穿たなければならない。
空を飛ぶ翼があるというだけで厄介なのは言うまでもないのだが、加えて、鱗による防御。
「とはいえ、空飛ぶものが無敵なわけではありません。加えて、鱗も全身にあるわけではありません。上手く弱点、守られていない急所に一撃を加えられればと」
元々、強いとはいえない群れる敵。確実な一撃を送り込めれば仕留められる筈だと。
「それでは、火を侵すが如く、参りましょう。みなさんなら、きっと大丈夫です」
小型の火竜と見立てて、まずはその前哨戦と参りましょう。
その感覚が、翼持つものへの対策、鱗の隙間を狙う方法を見付け、戦い方へと組み込むことができれば。
「――帝竜の命へと届くものへとなるはず」
ふわりと微笑む姿は、風のように柔らかく、軽やかで、気負いない。
遙月
初めまして、或いは、またまたお世話になります。遙月です。
第六猟兵MSとして二本目のシナリオを出させて頂きます。
今回は集団戦。存分に心情と行動をぶつけてあげてください。
敵は無数ながら、故に、個々はドラゴン化していたとしても。
しっかりとプレイングボーナスを活用すれば、苦戦することなく倒せる相手の筈です。
だからこそ、心情もしっかり、情景として、動きとして、戦いに組み込めたらな。
そんなハードルを自分に課しつつ。
どうぞ、宜しくお願い致します。
執筆は今回は、のんびりマイペースのつもりですが。
速い時は速く、遅い時は遅いので、そこはどうぞご了承くださいませ。
第1章 集団戦
『炎の精霊』
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POW : 炎の身体
【燃え盛る身体】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に炎の傷跡が刻まれ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 空駆け
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ : 火喰い
予め【炎や高熱を吸収する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
👑7
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※追加補足
失礼致します。
書き忘れてしまっておりましたので。
『フィールドシチュエーション」
夜の荒野
月灯りが周囲を照らしております
ただし、視界などは相手自体が燃えているため、特別に光源の必要はなし
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プレイングボーナス……空中からの攻撃に対処し、硬いうろこに覆われた「急所」を攻撃する。
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アウレリア・ウィスタリア
ボクも空に舞い上がり
空中で戦いましょう
【蒼く凍てつく復讐の火焔】の蒼焔を鞭剣と自分の周囲に配置
防御は周囲に配置した焔で行い
攻撃は鞭剣に纏わせた焔で行う
熱を吸収すると強くなるようですが、
ボクの火焔は絶対零度
お前たちの熱を奪い去りましょう
凍えさせ動きが鈍れば急所も狙いやすいでしょう
それに鱗も凍ってしまえば強度が下がるのではないでしょうか
さあ、トドメです
急所に向けて魔銃を構え、必殺の呪殺弾で撃ち抜きましょう
どれだけ数かいるのかわかりませんが
ボクの火焔が続く限り
そのすべてを凍てつかせてみせましょう
アドリブ歓迎
先陣を翔るは、瑠璃色の輝き。
敵が空を飛ぶというのならば自らもその翼を広げ、果敢に舞い上がるのはアウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)だ。
紫の髪と、そこに咲くロベリアの花が揺らしながら突き進む先にいるのは、竜化した火の精霊。標的を見付けたと竜翼をはたかめせる。
押し寄せる熱波は確かに暴威の気配。夜の色彩に赤い色。
けれど、それを塗り替える色彩が、アウレリアの周囲に浮かぶ。
それは氷よりなお冷たく、蒼い。
復讐の思いと、刻まれた魂から湧き上がる絶対零度の蒼い焔。
闇夜より暗く深いそれは、ぴしりと周囲の空気を凍てつかせながら、鋭い牙を思わせる鞭剣に纏わり付く。
「凄い熱ではあっても、ダメてせすよ。お前達ではボクを焼いたりは出来ないんですから」
いいや。
「そもそも、触れることさえできないんですから」
しゃりん、と凍てついた夜が砕きながら、鞭剣が撓る音が響いた。
瑠璃の蝶が、蒼き斬閃と舞う。
無数の絶対零度の蒼焔を伴って、螺旋を描く斬撃が周囲を駆け巡り、竜化した炎精を切り裂いていく。
火精は貪欲なまでに熱を喰らい、奪おうとしていたが、アウレリアの放つ刃が纏わせるのは凍てつかせる狂気の蒼焔だ。
斬撃そのものは鱗の強度で耐えきれも、刀身が纏う冷気によって存在そのものである火の力を削がれ、凍てついてく身体。動きは鈍り、翼はよろめき、防御の要である鱗もぴきりとひび割れて、その強度を衰えさせる。
絡みつく蒼焔は絶対零度。
そこから逃れられる熱はありはしない。
「動きが鈍り、そして、隙を晒しましたね」
アウレリアがもう片方の手で握るは、ヤドリギの精霊を宿した破魔の魔銃『ヴィスカム』。
ほんの僅か。一瞬の交差。
それで十分なのだ。破魔と呪殺が織り成す、必殺の弾丸の前では。
「さあ、トドメです」
脆くなった胸部に触れた銃口から放たれるは、神さえ屠る呪殺の銃弾。
操る全ての蒼焔を集め、圧縮したそれは確かに火精の芯核を撃ち抜き、その存在を凍結させ、砕け散らせる。
「心臓があるかは知りません。どのような体内をもっているか、感情を抱いているか……ただ、魂があるとしたら、これでお前は終わりですよ」
アウレリアの黒猫の仮面で隠された顔が、どのような表情を浮かべているのか、それは誰にも判らない。
ただ再び拡散し、周囲に浮かぶ蒼焔が、まだ終わりではないのだと冷え冷えと揺れている。
そんなアウレリアを警戒するように取り囲むのは、まだ尽きせぬ狂った炎精たち。蒼焔を警戒して容易に近づいてこないが、その戦意は衰えていない。
「さあ、後どれだけいるのか。そして、続けられるのか判りませんが」
しゃらりと。
打ち鳴らされた鞭剣に再び蒼焔が纏わりつく。
夜気の中にその冷気で氷の礫が浮かび、そして、地面へと落ちていった。
「ボクの蒼焔が続く限り、全てを凍てつかせてみせましょう」
触れる全て。
迫る全て。
夜天より落ちて砕ける、氷の欠片となれと。
仮面に覆われた表情は、変わらずみえないけれども。
風に吹かれて揺れる、ロベリア――悪意の花言葉を持つそれは、アウレリアの髪の上で、冷ややかな青紫の色を湛えている。
決して、赤い炎たちでは触れることのできない、その色彩。
大成功
🔵🔵🔵
シャーリー・クラーク
まるで火竜のようだけど、
私と同じ精霊の気配を感じる…
でも相手が火なら私達の方に分があるよね!
みんな、いくよ!
UC【EXシャークショー:Awaking Shark!】で鮫魔術より召喚された
サメさん達をサポートするよ!
相手が何か力を蓄えているようだけど、
飛翔能力を得たサメさん達の【集団戦術】の前じゃそんな動き【空中戦】の的だよ!
サメさん達が身に纏ったソーダ水の刃や
【捕食】で相手の炎を削ってくれたら
―見えたよ!
【高速詠唱】の【全力魔法・属性攻撃】で
急所に素早く水の精霊の一撃を叩き込む!
同じ精霊でも、だれかの笑顔を奪う存在なんだったら…
私は…戦う!
みんなで笑顔でいる。
ただそれだけが、どうして難しいというのだろう。
シャーリー・クラーク(大空を遊泳する鮫天使・f26811)には判らない。判らないからこそ、今もなお笑顔を絶やさない。
いつも笑顔で。みんなで笑顔で。その合い言葉は、秘密の魔法のようにシャーリーの心を強く脈打たせる。
炎は恐怖の象徴だという。
竜は悪意の象徴だという。
ならば、眼前で舞う竜化した炎精たちは、悪魔なのかもしれない。
だったらいっそうのこと、笑顔を消す訳にはいかないから。
絶望の前でこそ、笑顔は、ひとの心を癒やすのだから――。
「さあ、サメさん達のみんな、行くよ!」
同じような精霊の力を感じるからこそ、なおのこと負けられないのだ。
「火が相手というのなら、私達のほうに分があるんだしね!」
そうなのだろうか。そうとは言い切れない。
火に水は勝つというけれど、水に火が勝つことだってあるのだ。
だとしても、ここで告げて、笑わなければ、どうしてシャークパフォーマーの名を名乗れるだろうか。
それら同感だと波打ち、遊び、跳ねるは召喚された無数の鮫たちだ。
戦意に染まる必要はない。自分は自分たちだと示すかのように、無数のソーダ水の刃を生やして、水のない筈の空を、まるで海の中のように泳ぎ回る。
火を喰らい、力を溜め、周囲に熱波を放とうとしていた炎精たちの先を制する動き。元より、力を蓄えていると判っているのなら、先んじて動けばそれは不発に終わりやすいのだ。
「そんな動きじゃ、サメさん達の的だよ」
それは夜空が海へと変わったかのように錯覚するように光景。集団からはぐれた一体の火精を追い詰めていく、ソーダ水の刃を纏って空を泳ぐ鮫たち。
鮫から生えた刃に触れただけでその身が削られる。
その殆どは刃で撫でられただけ。鱗を掠めただけ。それでも無数に迫り来る鮫の集団は脅威に若ならず、狙いを定められた一体はその炎と身を削られ、隙あれば顎で捕食され、弱らされて動きが鈍る。
容赦のない集団戦闘。だが、シャーリーは加減なんてしない。
同じ精霊だとしても、それがひとの笑顔を奪うものだというのならば……。
「――見えたよ!」
高速で練り上げらていく、全身全霊を籠めた水の魔法。
それはさながら、海中にできた渦。螺旋を描くそれは、巨大な投槍の如く、身動きの取れなくなった火精の急所、その喉へと突き立つ。
火という存在そのものを搔き消し、空で弾ける海水たち。シャーリーが全力で放つ魔法は、連打はできず、撃ち込んだ後も隙だらけだ。けれど、そんな彼女を守る鮫たちがいる。
衝突しあう炎のソーダ水の刃。
まだまだ削り合い、喰らい合い、そして続く戦いの中で。
「私は……戦う!」
呼吸を整え、魔力を巡らせて、再び次の標的へと狙いを定めるシャーリーの藍色の瞳は、決意に満ちている。
「こうやって一緒に戦ってくれるサメさん達がいる。笑いたい毎日がある」
そして、自分は変わらず。例え全力の魔法を、高速で放った後で呼吸が苦しくても。
一切、苦しさを滲ませることのなかった笑顔を、浮かべ続けて。
「さあ、シャークショーはまだまだ続くよ。普通は見られない、特別な、夜空を泳ぐ鮫と炎精の舞台だよっ!」
その声は、決して、虚勢などではなく、明るい思いと願いから発せられていた。
大成功
🔵🔵🔵
ビスマス・テルマール
●POW
『早業』でUC発動
『オーラ防御』と『激痛耐性』で備え
即座に『属性攻撃(味噌)』と『誘導弾』を込め『鎧無視攻撃』で貫通性を付与した『一斉発射』の『砲撃』の『制圧射撃』で『範囲攻撃』で炎の精霊に仕掛けます
とあるお寺の火事を味噌を撒き消化した逸話もあるので、味噌は炎には以外にも有効なんですよ
同程度かそれ以上の弾幕で対抗すれば
牽制と炎の地形も消化出来るので一石二鳥かなと
弾幕に紛れて『空中戦』で駆け、攻撃を『第六感』で『見切り』『残像』で回避し
なめろうフォースセイバーで急所を狙い『属性攻撃(味噌)』を込めて『鎧無視攻撃』で『2回攻撃』で『切り込み』一匹ずつ仕留めます
※アドリブ絡み掛け合い大歓迎
ナイツ・ディン
「何でもかんでも竜にしちまうか。ただ暴れまわるだけじゃでかいトカゲだぜ?」
『本物の竜の力、見せてやろうではないか!』
紅竜の竜槍『ディロ』を握り、自前の翅で飛び回って戦うぜ。
空中戦、見切り、盾受け、第六感。飛び火は火炎耐性や激痛耐性である程度はゴリ押せるぜ。
さて、弱点はどこかな。竜の逆鱗ってのは大概首元にあるもんだが。狙うは一撃必殺。【竜の血】使って全力でかかるとしよう。
同じように竜のうろこを纏い、翅が翼膜に変わる。だがこっちは完全な竜人だぜ?
鱗があろうと鎧無視攻撃とランスチャージで貫くぜ。
「竜の力ってのは、こう使うんだぜ!穿け、ディロ!」
『なり損ないが、失せろ!』
ナターシャ・フォーサイス
WIZ
ただでさえと言うのに、さらに竜の力を得たのですね。
お腹を空かせるのは摂理そのままなのでしょうが…
貴方がたもまた過去から蘇りし哀れな魂。
ならば、我らも使徒として導きましょう。
火を食らい、炎となり、爆炎へと至るのですね。
そして、群れ成し煌々と猛るその光をもって空から…と。
ならば、我らも群で当たりましょう。
天使たちを呼び、守護結界を張って彼らの歯牙を防ぎます。
空は天使たちの領分、天より至るなら彼らが相手をするでしょう。
そして、【高速詠唱】【全力魔法】【範囲攻撃】の聖なる光をもって、鱗の隙間諸共清めましょう。
猛り爆ぜ、疾駆し食らうその夢の続きは楽園にて。
どうか貴方がたにも、ご加護のあらんことを。
ルード・シリウス
竜化した精霊か…というより、獣の姿をした竜か
どちらにせよ、喰らうに変わりはねぇ
先ずは簒奪銃で翼に狙いを定めて撃つ。空を飛ぶなら先ずは地に落とせはいい。落ちずとも、こっちに襲い来る様に仕向ければいい
上手く襲い来れば、神喰と無愧に持ち替えて構え、攻撃の瞬間を見切り残像を囮に回避と二刀による防御で凌ぐ。
そこからの、無愧による【咆刃】で鱗を砕く一撃叩き込み急所を晒け出させ、続く神喰の一撃以て、その命に刃を突き立てる
竜の鱗が堅牢なのは百も承知だ。だが、喰らい尽くすなら鱗までと決めてる。なら、鱗を砕く牙を用意するのは当然だ。
そもそも、お前等の鱗を砕けねぇ様じゃ、帝竜を喰らうなんざ出来ねえからな
「さあ、過去から蘇りし憐れなる魂に」
ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)のその言葉は、夜の空気に溶け込むように。
静かに、丁寧に、けれど、どうしようもない歯車の食い違った歪みの音を滲ませて。
「我らは、使徒として導きましょう。竜の力を得てもなお、熱を求める、満たされぬ魂に、今こそ救済を」
祈り、捧げ、告げた直後。
それは戦いによって成るのだと、ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)が電光石火の早業で、己のユーベルコードを発動させる。
纏うは蒼鋼による三種の鎧装。全身を『鮪』『アボカド』『バナナ』のその武装で固めた姿は、一瞬だけ、戦場を硬直させるけれども。
「ご存じないかもしれませんが、火を統べてこそ、料理は成り立つんですよ」
その言葉と共に、放たれたのは弾幕による制圧砲撃。
対空砲火として放たれるそれらの悉く、誘導と貫通の効果を持たせ、一斉射撃による範囲攻撃となっている。
が、通常ならばこれで足りない。収束させるのと逆、拡散させるばかりの砲火ではドラゴン化した鱗を穿つには届かない。
だというのに、空中で怯む火精の姿。鱗を貫くほどではなく、痛打には届かないものの、確実にその身体と存在を削り取るだけのダメージを与えている。
その原理は砲弾に付与された属性だ。
「このような逸話があります。とあるお寺の火事を味噌を撒き消化した、というものが。存外、火に味噌は利くものですよ」
それは迷信か真実かは判らない。が、料理の技能と意思を戦闘力に変換するのがビスマスのユーベルコードの特徴だ。
「そう、信じる気持ちこそが大切なのです。滴は岩をも穿つともいいましょう」
「そして、それが現実に起きているのだから、間違いはないということで」
空中で苦しみ、悶える火精たちを放置しながら微笑むナータシャとビスマス。
何処かズレているが、二人の認識と主軸もズレている。狂信故に全てを肯定した上で楽園に導こうとするのがナターシャで、料理……特に『なめろう』に価値観と人格の主軸を置くビスマス。
放置すれば幾らでも二人の信念について話し合い、そして、それを布教する術を高め合っていっただろうが、ここは戦場だ。
まだ、ナータシャが救済して楽園に導く存在は、空にいる。
「憐れな、憐れな」
その火たる身、喰らいて、炎へと到り、爆ぜるしかないその存在。
「到る場所を知らず、ただ群れなす憐れ子たちよ。群れて逝くべき先導のいない魂たちよ」
だから、ナターシャがその存在になってみせるのだと、柔らかな――そして狂信の微笑みをもって、告げるのだ。
「真に煌々たる光は、天の御空よりくることを知りなさい。まだ楽園の路を知らぬ同胞を導く、闇と罪を祓う光で、さあ、救いましょう」
それは夜と月が掻き消える、奇跡の御技。
機械じかけの大天使へと変身したナターシャが放つのは罪祓う浄化の光。眩いそれは、部分的に世界を夜を昼へと転じさせたかのような輝きの結界をもって周囲を満たす。
光の結界内の味方には強化を。敵には浄化の閃撃を。自らの寿命を一気に燃やしながら放たれるそれは、確かに戦況を一変させるに事足りる。
溜め込んでいた力で滑空し、空から強襲しようとしていた火精たちが光に灼かれて地面へと落ち、もがき苦しむ。
それ以上はナターシャにも出来ないが、これで十分。優雅にお辞儀をひとつ、そして、宣言も。
「さあ、楽園へと逝きましょう」
機械じかけの大天使は、相手の意思の一切を無視して、己が光で全てを塗りつぶす。
「――罪といえば、俺も罪と闇ばかりなんだが」
まあ、いいさ。
好き勝手にやって、好きに戦い、殺し、喰らい合うのが性に合っているのだとルード・シリウス(暴食せし黒の凶戦士・f12362)はひとり呟いて、一歩踏み出す。
空を飛ぶ相手は得意ではない。簒奪銃を片手に翼へと狙いをつけ、既に落下していた火精を二度と飛べないよう、その皮膜を完全に撃ち抜く。
飛ぶのなら撃ち通せばいい。落ちずとも、こちらに迫るように仕向ければいい。剣撃さえ届く距離ならば――そこから逃げられないようになれば、後はルードの獲物に他ならないのだ。
「喰わせて貰うぜ。竜化した、精霊の力ってやつをさ」
「おや、では後で『なめろう』も如何ですか?」
対して、落下した火精に駆け寄り、瞬きする間もなく、ビスマスは手にした刃を二度、閃かせる。斬撃で頸部を半ばまで斬り付け、続く刺突で胸部を刺し貫いて、引き抜きながら付着した血ならぬ残り火を払う。
それはフォースセイバーの一種。だが、『なるろう』をエネルギーの主体としているものだ。気や形状、色も含ませた『なるろう』という味噌を反映している。
「このように素晴らしい力と、素晴らしい美味しさを持ちますよ」
いっそシュールでしかないそれに、苦笑してルードが応える。
「色や見た目がゲテモノっていうのは総じて上手いものだ。戦いが終わったら、是非ともお願いするさ。ただ、目の前には据え膳の火精。放っておくものじゃないだろう?」
ようやく立ち上がり、穿たれた翼で飛翔は無理と地を疾駆する竜化の火精。
手負い、かつ、飛翔能力の喪失。だが、それがなんだと地形ごと焼き尽くす業火での突進。顎で捕らえて、更に炎で喰らい尽くそうとする姿に、ルードは獰猛に笑った。
「似ているな」
俺と、お前は。
幾ら喰っても足りないんだろう。
燃えさかる炎は、常にその燃料を求めて、周囲を這いずりまわる。
「だから、俺の薪木になれ」
銃を仕舞い、両手に携えるは『神喰』と『無愧』。担い手を吸った漆黒の大剣と、磔にした邪精を原動力にする大鉈。それを片手にひとつずつ、戦鬼の怪力を持って構える。
そう、戦鬼。多少の負傷は動じず、揺るがず。
過程としてでは結果としての勝利を求める姿は、いっそ罪であり、罰であり。
「ああ、楽園を知らぬのですね」
ナターシャの言葉は、真実を貫いている。
「……くっ!!」
襲いかかる炎精の突進を重ねた二刀で受け止める。寸前で緩急をつけた動きで直撃は避けた筈だが、閉じようとした顎とその牙が身に食い込まないようにするのが精一杯。
炎精の頭部から生えた角でルードの胸部は貫かれ、そして、全身が炎で焼かれる。正面から受けるというのは不利な相手なのだ。
だが、だからこそ受ける。正面から。そして、ねじ伏せる。
地形を燃やし、その効果で更に強化された筈の火精の瞳が映したのは餓狼の笑みだ。
「おい、こんなものかよ」
竜とは。
この先にいる帝竜という巨大なるものは。
いいや、そもそも闘争の熱というものは。
「この程度じゃねぇだろうが!!」
ルードのその絶叫が全てを語る。
全身の剛力をもって互いを弾き合う。その動きで角によって肉が抉られ、破られ、傷が広がっても無視だ。ナターシャの結界による守護と加護がなければ……などと考えるようなば、そもそも、こんな凶戦士になどなり果てはしない。
「救いのないひと。いずれ、その凶悪で獰猛な魂にも、救いがあらんことを」
「そんなものより、目の前に欲しいものがあるんだよ!!」
燃え上る傷口だと無視して、ルードが放つのは『無愧』による渾身での重撃。それこそ竜の咆哮の如き音を響かせ、斬り込む一撃は単調だが、その分、驚異的な破壊力を持つ。刀身から放たれたから斬撃、という括りごと壊すしょうな衝撃に、竜化した火精の鱗と肉片が砕けるように飛び散る。
けれど、それでも足りない。鱗と身体の表面は壊せても、命と魂には届かない。
「だからこそ、だろうが」
故に、続く刃。『神喰』の漆黒の刃が鱗を喪った箇所へと続けて差し込まれ、その体内、精霊としての存在と核へと喰らい付く。
無茶にして無謀。確かにその一撃で葬りさったとはいえ、ずるりと負傷で重くなった身体を引きずるルード。
「鱗が硬いのは百も承知だ。だが、これぐらい砕けなくて、帝竜には届かないさ。喰らいつくすなら鱗まで。その主まで」
一から十まで、辿る道筋の悉くを暴食するのだと、ルードは吠えて次の火精を睨みつける。
だからこそ、ナイツ・ディン(竜呼びの針・f00509)は苦笑してしまう。
男して、まあ、悪い奴ではないのだろう。
真っ直ぐにすぎる。暴力的に過ぎる。それらはヒーローにあるまじき姿で、むしろ、いっそ悪役のそれだ。
だが、フェアリーとして産まれ、竜騎士となり、ヒーローとして活躍する今のディンも、やはり正道ではないのだ。
真っ当に正しくないからこそ、映える道があるのだ。それこそ男の様というものだろう。
「道なき道を、自らいくっていくうのも、やはりいいものだろうさ」
今度は純粋に笑うディン。道と導なきまま世界を何処まで巡り、そして、振り替えることもない自分とて、そのようなもの。
多少外れているからこそ、より、華となる道があればそれを行くのだ。
「しかし、なんでもかんでも竜にしちまうか。ただ暴れまわるだけじゃトカゲで、そこの無頼漢より外れてしまっているぜ。様にならないし、カッコもつかない」
そんなじゃツマラナイだろうと呼掛ければ、応じるのは握りしめる紅竜の竜槍『ディロ』だ。宿る魂が、音にならない思いをもって語りかけている。
『本物の竜の力、見せてやろうではないか!』
「ああ、偽物でも、飾り物でも、外れ者でもない本当のな!」
開幕の弾幕より自前の翅で飛び回り、火精を相手取り続けていてディン。
戦場狭しと駆け回り、ビスマルの弾幕で怯んだ個体を、そして、ナターシャの結界から逃れた相手を削り、穿ち、貫いては自由自在に空を翔る。
「やっぱり、いうまでもなく、弱点は首、かね」
自在な空中戦に、竜騎士としての第六感。
迫る牙や爪、角を紙一重で避け、或いは槍の柄で受け止める。飛び跳ねる火はあれど、それに耐性を持つディンだからこその立ち回りだ。
つまり、常に複数を相手取り、決して逃さない。穂先で放つ刺突、身ごと旋回させて放つ薙ぎ払い。時に相手より上に飛びあがって、逆に強襲を仕掛ける。
攻防一体の動きは、複数の火精の身体を捉え、鱗の硬さと、何よりその弱点の位置を確かめている。
「逆鱗っていうものがあるぐらいだし、な」
加え、大本の精霊が四足獣。急所は共通してそこにある。
ましてや鱗がすり合い、動きの妨げとなる関節部分は薄いか、或いはないのが基本。それをこの精霊もまた外してはいないのは、あくまで竜化だからかもしれない。
「さてさて、お前達の弱点もはっきりしたことだ」
翔る姿は妖精というよりは、これもまた小さな火竜であるディン。
藍色の瞳の奥では焼け付くような闘志が脈打ち、未だに本懐果たせていないのだと熱を帯びている。
これでは先のルードを笑えない。
だが、この場にいる誰もが、誰かを笑うようなことはない。
それがいっそ清々しい。焼けて朽ちたとはいえ、野を駆け抜ける風とはそういうものでなければならない。
「さあ、さあ、尋常に」
準備て細工。そして、下調べは終わった。
ならばあとは成すだけ。ディンがその思いを槍に込めて、振るうだけ。
身体の中を巡る血は、眼前の炎精などに劣らぬ熱量を秘めているのだから。
いざ、いざ。
この舞台に幕を下ろす槍を。
手にした深紅の竜槍に、盟約を果たせと血を捧げる。穂先を掌を握りしめ、ぼだぼたと流れる血を吸わせて、己が想いを、赤い命の流れに乗せて告げるのだ。
ディンが変貌する姿は小柄な赤い竜人。
それこそ、烈火の具現の如く、武の猛りを見せる。
いいや、見るだけで感じさせるのだ。思わず、火精たちが逃げようと幾度かの細かな飛翔を繰り返すほどに。
「狙うは一撃必殺」
ディンが貫くは一閃。ただ一条の彗星の如くと。
いいや、己こそが天翔る竜人。紛い物など、その動きで吹き飛び崩れさるのみだと。
「竜の力ってのは、こう使うんだぜ! 穿け、ディロ!」
己が相棒たる槍、そして、そこに宿る竜の魂に叫ぶディンへの返答に、湧き上がるのは紅蓮の閃光。
『なり損ないが、失せろ!』
ディロと名乗る火竜が告げる、破滅の宣言。
これこそが竜の息吹。
万象、悉く焼き滅ぶべしと、次げるものに外ならぬものを槍の一閃に変えて、虚空を奔る。緋色に世界が揺れ、夜景が染まり、ただ真っ直ぐに滅びの業火が伸びる。
急所と知った喉の逆鱗。そして身体の駆動関節。それを貫き、穿ち、灼いていく。多少の鱗の強度は寿命を対価にした威力で押し通す。
それは刹那。ほんの一瞬。吐息のひとつぶん。
だが、直線上に並ぶように誘導された残る火精は、その全てが深紅の竜槍によって貫かれ、弾け飛ぶように火を散らす。真実の竜の息吹は、必滅の火に他ならないのだから。
その様はまるで花火。夜に浮かび、無数に咲き誇るそれは確かにそのようで。
血飛沫でしかないはずのそれらが、綺麗に瞬く姿は、どうしてか幻想的。
皆殺しの地平、と名付けられたというのに。
「ああ、このような綺麗な救いが、全てに届きますように」
祈りを捧げるように、囁くナターシャの声。
この群竜大陸での戦いの終わり。
それはどのような姿と色と、形で迎えるのか。
まだ敵の姿すらわからない中、赤い炎と色を喪った荒野で、月が白く。
――巨大な竜の瞳のように、猟兵たちを見つめていた。
大成功
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