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亡落の暗渠(作者 しばざめ
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 ここから逃げたいのは、戻ったところで同じだった。
 何もなかったし、何も手に出来なかった。守ってくれる誰かも、真っ当に愛してくれる誰かも、どこにもなかった。
 誰か助けて――と。
 ここでもそう叫んでいた。元通りになれば救いの手があるものだと無根拠に信じていた。けれど。
 戻ったところで誰も助けには来ない。ならばいっそ、ここで――。
 ――『だれも助けに来ないなら、あなたが助けてあげたら』と。
 嗤う声がどこから聞こえて、誰のものだったかすらも、もう覚えてはいないけれど。


 行くも地獄、戻るも地獄。
「救いがないなァ」
 ゆらりと竜尾を揺らすニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が、そうとだけ声を溢した。
 アリスラビリンスにおいて、アリスがオウガと化すことがあるのは、既に周知の事実だろう。介入によって未然に防げた事例もあれば――当然、間に合わないこともある。
「ミーシャと名乗っていたアリスが、オウガに変じた。説得したとてもう間に合いはすまい。既に扉は鎖され、不思議の国は『絶望の国』と化している」
 『絶望の国』は、いわばオウガの揺り籠だ。
 放置すればオウガを生み続け、生まれたそれらが新たなアリスを襲う。その主たる元アリスごと――早急に破壊する必要がある。
 しかし全ての声が無為になることはないだろうと、男は続ける。絶望の国を超えた先に待つミーシャだったオウガの抱く昏さを少しでも拭ってやることが出来れば、それはきっと、互いにとっての光明となるだろう。
「で、その絶望の直接の原因とみられるのが――」
 ――『暗闇』だ。
「そんなことで――とは、言ってやるなよ。私もそう思ったがな。見れば分かるが、あちらも多分、『ただ』暗闇が怖いだけということではなかったのだ」
 歪む空間が見せるのは、無明の迷宮である。一筋の光もない静寂が辺りを包み、足元すらも見えはしない。
 ――暗闇とは鏡だ。
 己の心の裡にある恐怖を映す。故に人は恐れるのだ。何もない静謐と、上も下も分からぬ暗がりの中にある、己の恐れるものを。
「死ぬより怖いこと――でなければ、死んだ方がマシだと思うことがあるであろう」
 或いは幻影として、或いは幻聴として、或いは脳内に取り憑く妄執として。
 暗闇に覆われた『絶望の国』を抜け出すまで、どこまでも追って来る。それを振り切って扉まで辿り着かねばならないが――してはいけないことが一つある。
「光を持ち込んではならない。一筋たりともな」
 ――かつてアリスだったオウガは、己自身が『暗がりを照らすたった一つの光』としてそこに在る。
 誰も助けてくれないから、己が光となる。オウガへ堕ちた彼女が歪んだ形で齎される慈愛は歪だ。苦しみ抜いた来訪者を包み、柔らかな翼で食らう。行くも帰るも闇ならば、ここで途絶えたましだと、彼女自身が最期に描いた救済の形だったのだろう。
「心折れるほど暗闇を恐れる――私には想像も出来んが。レディの苦痛を反映したらしい暗がりの迷宮を抜ければ、何か見えるものもあるやも分からん」
 一つ息を吐いて、ニルズヘッグの手中でグリモアが瞬く。禍々しい光が溢れると同時、男は小さく声を溢した。
「辛いことを強いるが、よろしく頼むよ」





第3章 集団戦 『ストレンジ・レインボー』

POW ●ソロモン・グランディの永遠
敵を【ぽこぽこ殴って皆】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
SPD ● 終末の過ごし方
技能名「【団体行動】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
WIZ ●奇妙な虹彩
自身が戦闘で瀕死になると【アリスを素材にしてストレンジ・レインボー】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「――これで」
 ミーシャと呼ばれた娘の声がちいさく響く。無明の闇に差した光が薄らいで、錆びた鎖に閉ざされた扉が崩落を始める。
「わたし、救われるの――」
 主の零した最期の息と共に、『絶望の国』が終わりを告げる。脱出を試みんとするのはまだ早い。俄かに崩壊を始めた暗闇の中で、蠢く影が孵化を始めるのを、猟兵たちは見ただろう。
 ――闇の裡より出でる無数の色。娘の亡骸を墓と変え、それを囲んで湧き出る無貌たちが、この暗がりより這い出て獲物を探さんとしている。
 出口を求めてひしめくそれらを斃さねば、絶望の国より孵化を迎えたそれらは、新たなアリスを屠るだろう。これらの全てを掃討せねばなるまいと、めいめい再びに武器を構える猟兵らに、無数の色が襲い掛かる。
 それを――。
 頭上より照らし、無明に道を拓く星の名残こそ、娘の声なき感謝の証だった。


※プレイングの受け付けは『7/7(火)8:31~7/10(金)22:00』とさせて頂きます。お時間いただいており、大変申し訳ございません。
榎本・英
【春嵐】

嗚呼。彼女はもう救えない。
仕方がないと諦めて良い事なのだろうか。
現実から目を逸らした彼女がこの世界で生き延びる事も難しいのだろう。

私は、この物語を綴る事ができない。
闇の底に落ち、ただ一人が光であろうとした娘。
誰かの手で立ち上がる事も時には必要だろう。
しかし、君の救済は果たして本当に救済と言えたのだろうか。
……これ以上は止めておこう。

なゆ、行けるかい?
光であろうとした娘の物語を、今ここで終わらせる。
歪んだ救済が、幸福を齎す事は無いのだ。

なぜ、君が逃げなければならなかったのだろうね。
理不尽な物語はここで終いだ。
無数の色も、この物語も、情念の獣が貪りつくそう


蘭・七結
【春嵐】○

絶ち切ることを救済と謳ったひと
救いを求めたあなたの、いのちの終幕
掬いたい
この手のひらでは救えない
――これで、よかったのかしら
溢れた問い掛けへの解答は、もうきこえない

ええ、英さん
この足で歩んで往くわ
あなたの隣を歩みたいの
ひかりであろうとしたひとへと、結びを

ひととひとを結びつける糸
そのすべてが、よいものとは限らない
あなたの心を絡め取った絶望のいろ
縺れたままの黒き縁を絶ち切ってゆく

この行為を救済だとは思わないから
ただただ、たんたんと
慈悲の色を添えることはない
わたしからあなたへの、ひとつきりの我儘よ

さようなら。おやすみなさい
糸が途切れても、物語が終わっても
光を望んだあなたを、忘れないでしょう



 掬いたい。救えない。巣食ったものは、覆せない。
 ――これで、よかったのかしら。
 ほつりと零れた蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)の声は、星の光に惑いて揺れる。見上げる先の想いの名残が瞬くのを、紫水晶はたしかに映していた。
 決して相容れぬ救済のいろ。絶ち切ることをして救いとわらったいのちの終幕。『そう』なるべきでなくて、けれど『そう』と在ることでしかわらえなかった星のひかり。
 それを――。
 綴ることは出来ない。
 書くことを正しく生きる業とするからこそ、榎本・英(人である・f22898)はそれをまざまざと悟って、眼鏡の奥の眸を伏せた。
 春の熱も、暁光の色も知らぬまま、娘は暗渠の海へ帰した。最初から届かないと言われていた手をすり抜けていったいのちに、それでも心のどこかの凍てつく空虚が訴える。
 ――仕方がないと、諦めて良いことなのだろうか。
 その過程がどうあれ、彼女は現実を諦めた。目を逸らした果てに落ちたのがこの世界なのなら、もうここで生き残ることさえ出来なかったのだろう。
 闇の中にしか在れなくて、アイデンティティさえも支配されたのだろうか。己を恐怖の底に押し込めた暗闇の中で、自分が光になろうとした。確かに、どうしようもなく鬱屈した過去の果てに辿り着く場所で差し伸べられるその手は、誰かにとっては光となりえたのだろうけれど。
 果たしてそれを、救済と呼んでも良いのか。彼女が身を浸したそのひかりを、手放しに肯定することは――。
 ――止めよう。
 ゆるりと首を振って、英は前を見た。星の仄かな灯りに照らされた悪趣味な極彩色が、娘の墓を囲むように湧き出るのが見える。
「なゆ、行けるかい?」
 傍らの君へ問うた声は、質問というよりも確認に近しい色を孕んだ。君が首を横に振ることはないだろうと知っている。すくえなかったことを嘆いて立ち止まるほど、弱いいのちではないから。
「ええ、英さん」
 あなたに返す声は確かな意志に満ちている。この足は前に進むためにあるのだ。咲き乱れる春の中を、あなたの隣でわらって歩む。
 だから――為すべきはひとつだけ。
 ひかりであろうとしたひとを捕らえた悪い夢を、今ここで結ぶ。
 誰かに押し付けられる救いで、幸福になれはしない。歪な夢に膝を折って、泪に濡れて光を乞うたりはしない。
 ――七結と英は。
 ――ひとだ。
 溢れ出る色を喰らって獣が吼える。捲る著作に描かれた人々のことを、その指先が忘れることなく繰るように、かれらもまた声高に謳うだろう。たったひとり、闇に沈んだ娘を、ひとに繋ぎ止めるように。
 英に群がらんとする虹色を、七結の黒が穿ち刻む。縁絶の黒鍵と躍るその腕に、断罪も慈悲も込めぬまま。
 ひとの結ぶ縁には、たくさんのいろがある。その全てが良いものでないと知っている。歓びも愛しみもない、縺れて解けなくなっていくえにしに心を縛り上げられて、闇に沈んでしまった娘――彼女を未だ捕らえる、その黒だけを断ち切るように。
 これは救済ではない。
 七結にとっては、慈愛でもないから。
 ただ熟れた果実を刈り取るように、たんたんと。すくえなかったあなたに捧ぐくろくれなゐが、『救い』のいろを奪っていく。ゆるして、と言うつもりは、ひとつだってないけれど。
 ――わたしからあなたへの、ひとつきりの我儘よ。
 『助けて』と叫ぶ声も、たすけてくれるひともなかったあなたの慈愛と救済を、認められないこと。
 黒鍵の閃く向こうで、獣の群れが伸ばす指先が、虹色を屠って消し去っていく。用意された墓の周囲で、ちいさな生き物を抱え込むように膝をつく姿は、葬送の日の光景にどこか似ていた。現実に立ち返れば、きっと誰も彼女のために泣きはしないのだろうけれど。
「なぜ、君が逃げなければならなかったのだろうね」
 英の唇から零れ落ちたのは、どこまでも静かで切実な疑問だった。
 打倒されるべきは彼女ではなかったろう。人々は顔も名前も分からぬ十把一絡げの民の死に憤るくせ、名と人格の用意された誰かの死を悲劇と呼んで仰々しく飾る。
 ――忘れ去られていく彼女の終わりは、もっと静かであるべきだったろうに。
 だから。
「理不尽な物語はここで終いだ」
「ええ」
 暗闇に在っては無意味な極彩色も、穢され続けただれかの物語も、獣が屠り尽くす。
 英は書く者だから――解るのだ。
 綴るべきものと、綴るべきでないものが。
「さようなら。おやすみなさい」
 絶ち切られていく虹と黒のえにしの中にあって、ひととなった鬼は建てられた墓に目を遣った。
「糸が途切れても、物語が終わっても。光を望んだあなたを、忘れないでしょう」
 ――せめてもの手向けに、心のひとかけを。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

緋翠・華乃音
マリス・ステラ(f03202)と共に


「……彼女の魂は、還りたい場所へと還れたのだろうか」

己が内にある蝶が想うのはそれだけだ。
いつかは全て、無くなってしまうものだから。

それを悲しいと思うつもりはない。
失うということは、その時までは確かに自分の中にあったということだ。
大切なのは、その事実。

……悲しいとは思わないけれど、ほんの少しだけ寂しいとは思う。

「静かにしてやらないと、彼女も穏やかに眠れないだろう?」

敵を映すのは冷たく深い湖水にも似た瑠璃の瞳。
意識を切り替える必要も無く、その繊指は殺戮を紡ぐ。

「……殺せば済む戦いというのは、楽で良い」

物事を深く考え過ぎてしまう悪癖があるが故に。


マリス・ステラ
華乃音(f03169)と

「主よ、憐れみたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯り、やがて全身は『オーラ防御』の輝きを纏う

「少なくとも彼女に後悔はないでしょう」

問いに答え、続いた言葉に頷く

「灰は灰に、塵は塵に」

輝きを広げて闇を照らすように
彼女の拓く道に続くように、私もまた紡ぎましょう

「あまねく魂の救済を」

オブリビオンは骸の海に還します

華乃音を『かばう』
ダメージに輝きが星屑のように散る
負傷時は【不思議な星】

「私たちもまた、死とは無縁ではいられない」

彼女だけではない
彼も私もいずれは死ぬ
そうなった時、私たちを覚えている人がいてくれたら
きっと少しだけ寂しくないと思います
だから私はあなたを覚えています



「主よ、憐れみたまえ」
 星明かりに照らされて、光を返す花器は俄かに輝き出す。祈りを捧ぐマリス・ステラ(星の織り手・f03202)の声に応えるように、開いた星辰の聖痕浮かぶ眸より燐光が生まれ、その身を覆う加護となる。
 静かに薄い光を放つその姿は、正しく赦しの御使いに似た。
 玲瓏たる輝きを見遣る双眸は――それでも、深い湖面の静謐さで、生まれ出づる極彩のさなかにある墓を見据えていた。
「……彼女の魂は、還りたい場所へと還れたのだろうか」
 緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)の裡に息づく瑠璃色の魂の運び手は、ただそれだけを想っていた。
 永劫など想像の中にしかない。全ては何れ朽ち果てて消えていく――それが世の定めだ。滅びゆくものを送ることが役目であるなら、その心に幽かな爪を立てるのは、行きつく先が望むものであったかどうかだけ。
「少なくとも彼女に後悔はないでしょう」
 ――マリスに言えるのは、それだけだった。彼女も彼も、死した娘ではないから。その本当の心の、本人にも見えない奥の奥に潜んでいたものは分からない。彼女が今、何を思っているのかも。
 ただ――この世を去るそのときに、顔を歪めるようなことだけはなかった。
「そうだな」
 それだけでも、充分なのだろう。
 華乃音が、この世の無常を嘆くことはない。いずれ失われる結末が決まっているのなら、大切なのはそこにある過程だ。失われるまでは、心の中に在ったということ。失われたことに揺らぐほどには、身の裡の大切な部分に触れていたということ。
 ――悲嘆はないけれど。
 ただ、そこに跡形もなくなってしまうことを、ほんの少しだけ寂しいと思うから。
 湖面に一滴跳ねた水のような揺らぎを抱えたまま、彼は墓へと目を遣った。
「静かにしてやらないと、彼女も穏やかに眠れないだろう?」
 マリスもまた、その声にゆっくりと頷く。
 ようやく手に入れた穏やかな眠りは、静謐の裡にあるべきだ。毒々しい虹色たちに食い荒らされて良いものではないだろう。
 そこに生まれた、オウガの魂もまた――望んでこの世に落とされた、神のいとし子たちのそれではないのだから。
「灰は灰に、塵は塵に」
 続く星の道を照らすように、マリスの光が柔く広がっていく。声なき感謝に編み上げられたうつくしい星空の道を、更に強く、はっきりと――真なる救済の道へ変えるように。
「あまねく魂の救済を」
 祈りとともに広げられた光の中を進み来る濁った色へ、花器に宿るカミはその身を挺した。付けられた傷にもまた笑むようにする彼女の後方より、静かに唸る銃弾が飛ぶ。
 華乃音にとって、鏖殺とはそういうものだ。
 この内側にて揺らいだ波紋の一片は、トリガーを引き死を紡ぐ繊指に何らの揺らぎももたらさない。裡に巡る如何なる感情をも、深く冷たい湖水のいろに上りはしない。
 一つを引いて殺し。二つを引けば弾け飛んで、それで終わりだ。何らの考えも巡らせる必要はない。ここにはただ、生者と死者の無機質な応答があるだけ。
「……殺せば済む戦いというのは、楽で良い」
 ――ひとつ考えれば、たちまち思考の海に沈んでしまう悪癖が首をもたげるから。
 吐息とともに零れ落ちた声を拾って、けれどマリスは何も言わなかった。それが彼であるのだから。今ここにて、交わすべき言葉は多くないと知っている。
「私たちもまた、死とは無縁ではいられない」
 いずれ死ぬ。
 その運命はモノであるマリスにも降りかかる。生命である華乃音であればなおのこと。だからこそ、それを嘆いたり、果てを想起して苦しむこともない。
 けれど――光放つマリスの眸が、華乃音のそれと噛み合った。
 魂を運ぶ瑠璃の輝き。全てを赦す星の煌めき。命の終わりをそれと受け入れて、痛みだけが残るのでも、悲しみだけが残るのでもないと知っているふたつのひかり。
 それでも、寂しくないわけではない。その感情までもを、いつかの別離から切り離して考えてはいない。
 だから、思うのだ。
 誰かが忘れずにいてくれるならば、それは少しだけ、逝く日の寂しさを癒してくれるだろうと。
 花器は笑う。
 ――だから私は、あなたを覚えています。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

レイッツァ・ウルヒリン
ティア(f26360)さんと 〇

『絶望の国』なんて名前自体が気に食わないと思ってたんだよね
人の歩む先は希望であるべきだ
絶望に向かって歩き続ける人がいるなら、それは愚者だよ

此処から出たら…
そうだなぁ、お花でも見に行きたいな
一面の花畑
この時期なら珍しくも無い
そこに転がって言うんだ
「人生って楽しいなぁ」ってさ!

さぁて前は任せた
後ろは僕が守るよ、だから思いっきり行って!
サイキックエナジーを駆使して動かせそうなものを
全てぶん投げて攻撃、花の嵐よ巻き起これ
敵からの攻撃は衝撃波で相殺
己もティアさんも守って見せるよ

さぁ、還りなよ骸の海へ
君の居場所はここじゃない

僕の帰る場所はどこなんだろう
出来たら君の隣が良いな


ティア・メル
レイッツァ(f07505) ○

やっぱりレイッツァちゃんは光だね
あのとき小さな花火を見せてくれたみたいに
君が絶望を厭うなら希望を拓こう

誘惑溶ける支配の音色
存在全てを認識させない花弁はレイッツァちゃんの護りに

ここから出たら何がしたい?
素敵だね
ぼくも隣に転がっちゃおう

任されたよ
前へ一気に駆け抜ける

沙羅の華夢を数多散らせたなら
花嵐が巻き起こる
なんて綺麗なんだろう

此方への攻撃が消えていく
護られてる事が擽ったい
でもね、ぼくも護るよ

攻撃力を特化
キャンディ・クロスを毒呪纏う細剣に
一息に薙ぎ払う

さぁ、お還り
あるべき場所へ

ぼくが帰る場所はレイッツァちゃんの隣
レイッツァちゃんの帰る場所もぼくの隣だったらいいな



 光明のない世界に、未来はない。
「『絶望の国』なんて名前自体が気に食わないと思ってたんだよね」
 レイッツァ・ウルヒリン(紫影の星使い・f07505)の吐く息は、先の凍てつく温度を孕んだまま。何しろ、この国のありよう自体が相容れない。
 行く先は希望であるべきだ。痛みと苦しみを背負ってなおも歩みを止めない理由が、ただその先にある虚空に身を浸すための猶予期間であるはずがない。
 生きているということは――それだけで無限の可能性に満ちているのだから。
「絶望に向かって歩き続ける人がいるなら、それは愚者だよ」
 はっきりと言い切る声に、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)が細めた眸は、いたく眩しいものを見るようだった。
「やっぱりレイッツァちゃんは光だね」
 ほとりと零れた声はどこまでも無垢な色を孕む。ちいさな花火を見た日のような、暖かくて柔らかな光の渦は、いつだってティアの昏い場所を照らして、その手を伸べてくれるのだ。
 ならば、ティアはその傍にあろう。
 そうあるべきだと君が言うのならば、それが真実であるように。絶望を厭い振り払うのなら、希望をこそ拓き見据えられるように。
 ひらりと舞う白花弁は、甘やかな支配の薫りで渦巻いた。けれど隣にあるそのひとだけは、その身にひとひらの傷とて残らぬように護る絶対の盾となる。
 それを感じ取っているのか否か、真っ直ぐに絶望を払うレイッツァの眼差しは、前を睨むように見ている。
 冷えた横顔は、ティアに向けるあたたかな表情とはひどく違って――それに怯えたりはしないけれど。
 希望の音色をひとつ、分け与えるように少女はわらう。
「ここから出たら何がしたい?」
「此処から出たら……そうだなぁ、お花でも見に行きたいな」
 返す声は穏やかだった。
 レイッツァのまなうらに、美しい色が咲き誇る。紫と濃桃が風に乗ってどこまでも空高く融けていく、そのあわいに立つ己がありありと思い浮かんだ。
「転がって言うんだ。『人生って楽しいなぁ』ってさ!」
「素敵だね」
 ころころと笑うティアの脳裏もまた、きっと同じいろを思い浮かべただろう。衒いなく笑うまま、おどけた調子の声が続けるのだ。
「ぼくも隣に転がっちゃおう」
 ――高い空の下、ふたりの彩の中で戯れることの幸福を、希望と呼んで。
 ふたりは顔を見合わせて、目の前の悪趣味な極彩色へと視線を遣った。
「さぁて前は任せた」
「任されたよ」
「後ろは僕が守るよ、だから思いっきり行って!」
 レイッツァの声に後押しされて、ティアのちいさな体が跳ねる。纏う沙羅双樹が舞って、散って、ミーシャの命を喰らい生まれた虹を奪い去る。
 花弁が掠めた先には何も残らない。魂も、命も亡くした骸が、ひとつふたつと転がるばかり。静かな仲間の死に狼狽えるそれらが、ティアへと群がらんとするより早く、空より降り注いだ流星が極彩を穿つ。
 レイッツァの持ちうる超常の力は容赦ない。少女が男へ傷をつけぬようにと願ったのと同じ、彼もまた、彼女に一つの傷とてつけさせるつもりはない。落ちた鋼鉄の羽が飛び交い、散り行く花弁を巻き上げ、生まれた嵐が仄明かりに照らされる。
 視界を奪われた敵を屠らんと少女が花嵐の向こうに身を躍らせれば、正しく花畑の中で踊るような、幻想的な光景が目に映る。それがひどく美しく思えて、ふとその双眸が緩んだ。
 ――守られている。
 それがなんだか、ひどくこそばゆい。けれど護られているばかりではないから、無力も劣等感も覚えない。
 懐から取り出したキャンディは、甘やかな毒の細剣へ。突き刺すそれの周囲に集まったものたちは、レイッツァが放つ石が攫っていく。崩れて、潰えて、静かになって――。
 そうして還って行けば良い。
 あるべき場所は、ここではないから。
 思いは重なる。ミーシャと呼ばれた娘への悼みに似た、葬送のような、深い断絶。
 帰る場所へ。在るべき場所へ――。
 後方を振り返るティアの眸に、帰るべき君の隣が見える。同じように君も、ここに戻ってくれたら良い。
 こちらを見る少女を映したレイッツァに、まだ帰る場所は曖昧だ。それでも今わらう君の隣が、帰る場所であったら良い。
 互いに交わした眸の奥に同じ想いが巡るのを、果たして二人は知っただろうか。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

水衛・巽
○◇
「アリス」の「墓」から孵るだけに表現は選ぶべきですが
残念ながらあまり興が乗らず申し訳ない
ですから多少下賤な表現になるのはご容赦ください
何せこれほど色彩豊かな蛆が湧いて出るとは

多数で来るならどうぞご自由に
まったく狙う必要がないのは楽でいい
むしろこの数なら挑発すら不要でしょうか

玄武を式神使いにて敵集団へ、限界突破し暴れ回らせる
まず玄武を排除せねば埒が明かないと思わせられれば上々
群がってきたところを纏めて一網打尽にします
今や繋ぎ止めるべき先の星にも事欠きませんしね

さて
苗床としたはずのアリスに捕まえられた気分はどうです?


嘉納・日向
○◇
表人格:日向

オルタナティブ・ダブルを使用
ひまり、
声だけの親友、私の罪悪の証明を、呼ぶ
多分、これは確認だと思う
背負い直す前、重荷が崩れていないか。バランス崩して潰れないように
あの人の救いを断った手前、できるだけ自分で歩いときたいかなって

後ろで聞こえる親友の声に、足音が加わった
『呼んだ?ひなちゃん』
呼んだ呼んだ。……こいつら掃除して、帰ろっか
『よっし、あたしに任せなさい!』

夜鷹を銃に戻し、後ろのひまりにパス
シャベルを色の塊に振り上げる
埋めた時のそれはいやに手に馴染む
罪を投げ出さないという気持ちの再確認

隙を埋めるように、銃弾が飛ぶ

『ないっしゅー!』
自分で言うなし
ほっとしながら、そんなことを。



 息を吸って――吐いてから、もう一度吸う。
「――ひまり、」
 かげひなたの声が揺れる。嘉納・日向(ひまわりの君よ・f27753)が呼ぶのは、声だけが添う親友だった。
 紛れもなく己の罪過のはずなのに、本当の最期の姿は見ていない。真っ暗で、何も見えなくて、目の前にある顔が辛うじて夜目に浮かび上がるような裏山の奥。その暗くて深い穴の奥に落ちていった彼女の足音が、日向の罪の証明として、わらう。
『呼んだ? ひなちゃん』
「呼んだ呼んだ」
 振り返った先で、ひまりは笑っていた。その眸を真っ直ぐに見詰めて言葉を返せたから、日向は見えないところで力を抜く。
 ――これは確認だ。
 これから永劫背負う重荷が崩れていないかどうか。背負った瞬間にバランスを崩して倒れこんでいたのでは、救済の手に拒絶を返したのが、本当にただのやせ我慢でしかなくなってしまうから。
 重さに耐えきれなくなって膝をつくまでは――自分の足で歩く。
 飛び回る夜鷹が銃へと変わる。それを無造作に投げ渡せば、以心伝心の親友は軽々と受け取った。
「……こいつら掃除して、帰ろっか」
『よっし、あたしに任せなさい!』
 胸を張るひまりが隣に並ぶ。手に握ったシャベルの感触を握り締める日向の横に、長躯の影が一つ立つ。
 日向のそれより一段深い藍の眸。見上げた先、水衛・巽(鬼祓・f01428)の視線は真っ直ぐだ。慌てて顔ごと逸らしたのは癖のようなもの――青年は、教室の中心から発される重圧に負けない人間に見えたから。
 少女の視線が外れたのを、巽が気にすることはない。何しろ視線が噛み合った理由は同じとみえる。青年は歩いた先にいた少女に目を遣って、少女は己の隣に並んだ気配に顔を上げたのだ。
 実家に戻れば姉妹に囲まれるのが常である。そうでなくとも、年頃の少女を不躾に見据えるのは些か失礼で――ついでに言えば、己にとって少なからず不名誉な称号を受け取ることにもなりかねない。故に、彼は俯く少女と、その奥できょとんとした顔をする娘の得物に目を配るにとどめた。
 時間にして数秒。すぐに極彩色へと向けた顔で、巽は息を吐く。
 全く――悪趣味極まりない。
「『アリス』の『墓』から孵るだけに表現は選ぶべきですが、残念ながらあまり興が乗らず申し訳ない」
 ですから多少下賤な表現になるのはご容赦ください――告げる言葉は傍らの少女に向けたか、或いは墓の下の娘への断りだったか。どちらにせよ、彼の表情は穏やかに、けれど言葉ばかりはひどく皮肉げに、星明かりの森を揺らした。
「何せこれほど色彩豊かな蛆が湧いて出るとは」
「蛆――」
 ――ちらりと、隣の親友を見遣ってしまう。
 想像を振り払う日向の得物はシャベル。その横に立つひまりの手には銃。殲滅においては些か不向きな武器であることに間違いはないから、巽はどこまでも穏やかな声で問いかける。
「少々お待ちいただけますか」
 日向の視線が持ち上がるより先。
 陰陽師の袂を揺らす風は温く、水気を帯びた気配が質量を伴って現れる。北の星宿、その神格――凶将、玄武。
 思わず一歩を後ずさった少女を置いて、蛇尾の亀が前へ出る。突然の闖入者に狼狽える毒々しい虹色を長い脚が踏み、術者に向かうそれらを、鎌首を擡げる大蛇の口が一呑みにする。
 その脅威を正しく理解したかどうかは知らないが、ちいさな化け物たちは上帝翁へ群がった。挑発などする必要さえなかったとみえるのは、その頭が小さいが故か、否か。
 巽の指示に従って、アリスが残した北方七宿が水を呼ぶ。黒大蛇が天へと延びれば、無数の棘と流水にて全てを縛る縄と化した。逃れんと藻掻けば余計に傷が深くなる。寄って来るものは未だ暗がりに潜んでいるのだろうが、視認出来る範囲に極彩色はもういない。
「さて、苗床としたはずのアリスに捕まえられた気分はどうです?」
 ――さあ、どうぞ。
 茫然と蹂躙を見ていた日向は、はっと我に返って藍色を見上げた。笑みの逆隣から背をぱしりと叩かれて、時の止まった親友の顔を見る。
『ひなちゃん、行こ!』
 いつもと同じ。
 その声に、シャベルを力いっぱい振り上げた。いやに手に馴染む感触は、親友の躰を奥深くに埋めたときとよく似ている。
 けれど、放り投げたりしない。罪の象徴を何度だって振り下ろして、この感触を刻み込んで、生きていく。
 暗闇から迫る一匹を蛇が呑んだ。横合いの一つに対処するより先、後方からの銃弾が見事ちいさな的を射抜く。
『ないっしゅー!』
 ――それ、バスケの授業のたびに聞いた。
「自分で言うなし」
 零した声でようやく笑って、日向は柔らかく目を伏せた。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

リカルド・アヴリール
ライナス(f10398)と
アドリブ歓迎

本当に、良かったのか
……己の選択に、まだ迷いはすれども
差し出された右手を、人の身である左手で掴もうと――
唐突に駆け出す動きには
目を丸くして、慌ててついて行こうとする

って、お前は……!
勝手に前に出るなとあれ程、この……!
ライナスが狼の群れを嗾けた直後を狙う敵を警戒
間に入り、即座に【かばう】事が出来る様な立ち位置を心掛ける

敵への攻撃にはUC:撲、を
死者への冒涜行為を見過ごす訳にはいかないからな
崩落する世界へは『鏖』の刃で薙ぎ払おうと 

これをデートと呼ぶには
些か物騒過ぎる気がするが?
……肝が冷えそうになるからな、程々にしろ


ライナス・ブレイスフォード
リカルドf15138と

…リカルド、あんた少し揺れただろ?
そう隣の相手を振り返りつつ右手を差し出してみる

…あ?離してやる気はねえっつたろ
そう差し出された手を掴むと共に頭上に光る星を頼りに駆けんと試みるぜ
現れた敵には【飢えし狼の群れ】
生じさせた狼を嗾け数を減らしながらも、頭上から崩れて来るかもしれない世界の欠片等へは左手に構えたリボルバーを向け『武器受け』弾で弾き返さんとしながら行動
又リカルドに迫る敵には『クイックドロウ・暗殺』で確実に仕留めて行こうと思うぜ

慌てた様な声には顔を向けにぃと笑みを
ま、あんたが居んだから大丈夫だろ

…星空デートっつうには物騒だけどよ
ま、偶にはこういうのもいいんじゃねえの?



 星明かりが煌めく森の色は、よく見るそれとさして変わりなかった。
 葉擦れの音の最中で振り返ったライナス・ブレイスフォード(ダンピールのグールドライバー・f10398)が、ふと翠の双眸を眇める。唇にはゆるゆると笑みを刷いて、しかし零した言葉は真実を突く鋭さを孕んだ。
「……リカルド、あんた少し揺れただろ?」
 ――名を呼ばれて。
 リカルド・アヴリール(遂行機構・f15138)は動きを止めた。疑問というより確信に近い声だ。否定のしようはない。さりとて素直に頷くことも出来ず、彼はゆっくりと目を上げる。
 そこに、差し出されたライナスの右手があった。
 あの暗闇の中で繋いだのと同じ。穏やかな生きた温度で、リカルドを安心させてくれる、所有者の掌。導かれるように、半ば無意識に左手を持ち上げた。おずおずとも取れる調子で伸ばすその指先は、しかし未だ迷いに揺れた。
 温もりは傍にある。あとほんの少しで触れられる、その熱を感ずる僅かな隙間を残したまま、押し出すように声が零れる。
「本当に良かったのかと、思わないわけでは――」
「……あ?」
 煮え切らない指先をぐいと握られて、リカルドは反射的に顔を上げた。
 不敵に笑うライナスの双眸に映り込んだ己を見る。その表情は、どこまでも――。
「離してやる気はねえっつったろ」
 鍛え抜かれた傭兵の身とて、不意に力を掛けられれば揺らぐものだ。強く手を引かれ、倒れぬよう反射的にたたらを踏んだリカルドを意にも介さず、手を握った主が走り出す。
 風を切る感覚についていくのは簡単だ。けれどリカルドの眉根が寄るのは、何も突然の行動に苦言を呈するばかりではない。
「お前は……! 勝手に前に出るなとあれ程、この……!」
「そうだっけか」
 星の光を頼りに葉擦れを抜ける。ライナスの足は、いけしゃあしゃあと零す声のように軽やかに。笑みはなおも深まるばかりだ。
 振り返った先の緑はの顔が、いたく面白いような心地がした。釣り上げた口許を揺らして届ける声は楽観的な軽口のようで、しかし今度は、確かな真摯を孕む。
「ま、あんたが居んだから大丈夫だろ」
 ――そう言われてしまったら。
 リカルドは、溜息とともに顔を上げるしかないのだ。
 ライナスの放つ焔が青く唸った。狩猟者の牙が空を引き裂き、吼える青狼の群れが極彩色を噛み千切る。
 理性なき獣の群れは、主を決して守らない。獲物を屠るそれらの使い手が手薄になったと見るや、寄って来た毒々しい虹色には、リカルドが機械の右腕を振り上げる。
 死者への冒涜を赦さぬ一撃に、いともたやすく吹き飛ぶちいさな化け物の群れは、その身が縛されていることに気づいただろうか。狼狽える間に迫る飢えた獣が、身を焼く焔を突き立てる。
 そうするうちにも崩落は早まった。頭上から降り注ぐ欠片を見ることもせず、高々と掲げられたライナスのリボルバー銃が吼える。千々になるそれらのうち、未だ質量を保つものは、リカルドの刃が塵と成す。
 蒼焔に照らされる星々の光が道を拓く。娘の墓より湧き出す化け物たちの居場所を理解したか、飢えに狂う牙はその隣を狩場と定めた。生まれた端から食われ消えていくそれらの声なき断末魔を横目に、ライナスの声はあくまでも普段の調子を崩さない。
「星空デートも良いもんかもな」
「これをデートと呼ぶには、些か物騒過ぎる気がするが?」
「違いねえや」
 射撃と剣戟のはざま、暗闇の向こうで煌めく星が、二人の目に映る。
 見上げる星々はこの世界のためだけにあるのだろう。崩落と同時に揺らぎ消えていく紛い物を、まるでプラネタリウムでも見上げるような調子で、ライナスが笑う。
「ま、偶にはこういうのもいいんじゃねえの?」
 言いながら一射。リカルドに迫る赤が弾け飛ぶ。
 僅か言葉に詰まったのは、何のせいだっただろう。ゆるゆると吐き出した息とともに、傭兵は緩やかに首を横に振る。
「……肝が冷えそうになるからな、程々にしろ」
「了解」
「お前は……」
 気儘な主の軽やかな返答に額を押さえ、けれどそうした手がひどく暖かいような気がして、リカルドは小さく眦を緩めた。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

琴平・琴子
かつての敵に感謝されるのは何だか妙な気持ちですが
星が輝くのであれば暗闇も何も、怖くありませんね

…そんな彼女の安らかなる眠りを邪魔しないでくださいませ
わらわらと集まられてもいばらの道には棘がある事をお忘れなく

暗闇に紛れようとも色がついてるから見つけやすいですよ、貴方がた
彼女の安らかな眠りを邪魔するなら散りなさいな
墓から遠ざけるだけでなく、その体も散り散りにしますよ
逃げようとするなら切り裂くまで

…静かに対峙しようとしたのですが、煩かったでしょうか
でもこれで、貴女の眠りを邪魔する者はきっといないでしょうから
どうか安らかなる眠りを、貴女に



 煌めく星を見上げて、翠が瞬いた。
 ――たとえその命と心がどうあったとしても、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)とミーシャは敵同士だった。
 それが、今は感謝の想いで照らされている。それが何ともむず痒いような、少しだけ居心地が悪いような――それでいて、暖かさを実感するような。
 何とも不思議な気分だった。けれど決して嫌だとは思わない。仄明かりに照らされる暗闇は一つも恐ろしくなくて、琴子の道には何の憂いもないと感ぜられる気がする。
 だからこそ。
 湧き出る極彩色の無貌を、一つたりとて逃がしはしない。
「邪魔しないでくださいませ」
 猛然と向かい来る歪なヒトガタは、琴子を正しくアリスと認識しているようだった。彼女を喰らうべく走り来るそれに恐怖を抱くことはしない。逃げ惑ったりも、しない。
 恐れの代わりに心を埋めるのは、無粋な闖入者への確かな嫌悪感だ。悍ましい姿で墓を掘り返す化け物どもに、ようやくミーシャが得られた安寧を邪魔させたりなどしはしない。
 全て切り刻む――王子様たらんとする少女の意志に応じて、現れるのは無数の茨。ちいさな異形の足を絡め取り、飲み込んで、その身を切り裂く刃だ。とりどりの色彩を飲みうねる緑の奔流が、死した娘さえ屠る絶望の使徒たちを引き裂いていく。
 眠る姫君を目覚めさせる王子は、茨の海を越え渡り、そうしてようやく真実の愛と巡り合う。
 ならば、安らかに眠る娘を起こさんとする輩にも、同じ試練が圧し掛かるものだろう。
「色がついてるから見つけやすいですよ、貴方がた」
 逃げ惑い暗がりへ散ろうとしたとて許さない。奇妙な極彩色は暗闇にもよく映えて、天上に輝く星々の灯りは、翠玉の眸を導いてくれる。声なき断末魔と、裂かれ消える色の中で、少女はそっと墓へと近寄った。
 ――静かに戦うつもりだった。
 これ以上、彼女の心を波立てることのないようにと思ったのだ。どんなに理不尽だと思っても、どんなに客観的な視点から見ても、悲しみと苦しみは濁流のように押し寄せる。気にしていないような顔をすることは出来ても、傷つけられて平気な人間なんていない。否応なく与えられる苦痛を、琴子は知っている。
「煩かったでしょうか」
 まろく静かに零した問いかけに、応じる声はない。代わりに遺された星が一つ瞬いて、琴子の頭上を流れていく。
 それが、何だかひどく優しい応答のようだ。
 唇にちいさく笑みを刷く。彼女の遺した痛みも絶望も、ここで全てが消えるだろう。そのときこそ、この参る者なき墓の主は、ようやく安息を得られるように思えた。
「これで、貴女の眠りを邪魔する者はきっといないでしょうから」
 ――墓守にはなれないけれど、せめて、その眠りを守ろう。今いっときばかりでも、守護者として在りたいと願うこの心に秘める、誇りにかけて。
「どうか安らかなる眠りを、貴女に」
 そっと拭う墓の表面に刻まれた、手書きの名に笑いかけて――琴子の足は、前に進んでいく。
大成功 🔵🔵🔵

黒柳・朔良
感謝されるいわれはない
私は私の成すべきことをしたまでなのだから
それにこの世界を完全に『終わらせる』まで、彼女(ミーシャ)も安らかには眠れないだろう

選択UCを発動して【目立たない】ように【闇に紛れ】、『色』たちをヒット&ラン(【逃げ足】使用)で屠っていく
気付かれなければ攻撃されることもないし、集団の間を縫えば一網打尽に出来るだろう(【戦闘知識】)

無数の『色』たちは、どれも獲物を探しているように感じる
それをいうならば、私も『あの方』の考えに反する者を狩るために獲物を探しているのだから、似ていると言えるか(自嘲気味な笑い)
しかし、だからこそここで終わらせなければいけないな



 星々が照らす緑の地に立って、漆黒は緩やかに天を眇め見た。
 ――感謝されるような謂れはない。
 黒柳・朔良(「影の一族」の末裔・f27206)は為すべきを成した。そこにミーシャへの同情や憐憫がひとひらたりともなかったとは言わない。だがあくまでも、主体となるのは朔良自身のすべきことだった。
 だから――今からも、為すべきことを成す。
 ようやく眠りを得たミーシャとて、この国が『終わり』を迎えなければ、安らかに目を閉じていることも出来まい。生まれたオウガが墓荒らしとあらば、なおのこと。
 一度目を伏せて、開ける。そうしてこの場に満ちる静寂と同化した黒は、もはや闇と何も変わりはしない。一面の漆黒の中に紛れた影は、決してその存在を悟られない。だから、近寄る足音もしなかっただろう。気配さえ融かして歩み寄る漆黒の温度に気づく様子もなく、めいめい警戒態勢を取る毒々しい色たちが目に映る。
 そして。
 ――暗闇から見る光は、光から見る暗闇よりも、ずっとよく見える。
 迸る刃に貫かれたことを、一体何体が理解しただろう。穿たれ、斬られ、力なく転がる仲間に極彩色が気づいた頃には、もう朔良はそこにいない。
 吹き抜ける風だけが残っている。それでようやく襲撃を悟った虹色の化け物たちは、けれどその主を見つけられないまま。
 狼狽える間に、一陣の漆黒が駆けた一集団が骸と変わる。どろどろと融けて地に還っていくそれらを見て、俄かに暗がりへと逃げ出したのもまた、朔良にとっては格好の獲物だ。
 眼前で不意に翻る黒を見ただろうか。それとも視認するより早く意識が絶えたか。ちいさな体が立てる絶命の音はささやかで、無貌からは声すら発されないから、周囲で身を潜めたつもりになっている虹色は、誰も気づかないままだ。
 後方よりそれらを穿ちながら、影は粛々と仕事を熟す。
 獲物を探し、何かを屠り、そうして無数の犠牲に飽きることも知らず、その毒牙にかかる新たな何かを探す。
 ちいさな化け物たちのありさまに、朔良はふと嗤うように息を吐き出した。
 ――影にとって、その主は絶対の善だ。
 何者であれど反逆は赦さない。それは思考の一端に至るまで。敬愛というのも生ぬるい感情を抱え、この身を尽くして仕える主の考えに反するものを、屠るためにあり続ける。
 そうして暗闇の裡から目を光らせて刃を揮う朔良のありようは、アリスを屠らんとする化け物たちとおよそ似通っているものだろう。いつだって、暗がりの中から獲物を探している。この刃にかかる、主を害するやもしれない誰かのことを――待ち構えている。
 だからこそ――。
 影は迸る。その身を血に濡らし、声なき断末魔を重ねて、己と似たありさまの極彩を狩る。
 ――塗り潰された絶望を、ここで終わらせるために。
大成功 🔵🔵🔵

鏡島・嵐

……救い、か。
……おれらは本当に、あのミーシャって娘(こ)を救えたんかな?
たとえもう彼女が苦しむことは無いとしても、本当に……他に救う道は無かったんかな。
それを考えると、やるせねえ気持ちになる。
(少しだけこみ上げる、泣きたい気分を押し止め)
……駄目だ。今は悩んでる場合じゃねえ。
あの娘が感謝してくれたっていうんなら、ちゃんと後始末をしねえとな。

あの娘が残してくれた輝きの名残を借りて、孵化しつつある影を打ち払う。
命は救えなかったけど、せめて最期の輝きだけは、意味のあるものにしてやりてえ。
どんな生も、どんな死も、悲しくはねえんだって。

《幻想虚構・星霊顕現》……星(ほし)の威吹よ、絶望を砕け――!



 解放が、それ即ち救いとなるわけではない。
 救済を求め、己がその姿を取りながらわらった娘の声は、今はもう亡い。最期に遺された声こそが彼女の真の気持ちだったとしても、心に凝るものがなくなることもない。
 ふと何かを探すように、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)の金の双眸が揺らいだ。
 ――本当に、彼女は救われたのだろうか。
 これが最良の方法だったのだと、誰が言えるのだろう。彼女が求めた安楽の眠りは、虐げられ続けた果てに生まれたものなのだから――心底、最初から、そう在りたいと思ったものではないのではないか。
 もう苦しむことはない。それは事実だ。彼女がそれを望んだように、もう何にも怯えることなく眠れるのだろう。暗闇も、虐げる誰かも、守ってくれない盾も、もうその心に絶望を刻むことはない。
 けれど。
 それは同時に、もう歓びも楽しさも抱えてはいられないということでもある。
 こみ上げる遣る瀬なさに、目の奥がじわりと熱を帯びた。視界が僅かに歪む感覚と、自然に寄る眉間の皺の感覚は、嵐にとっては馴染み深いものだ。
 浅く息を吐いて目を伏せる。瞬きを幾度か繰り返せば、涙の気配は過ぎ去った。気合を入れるように首を横に振って、己の頬に手を当てる。
 息を吸って、深く吐く。今は悩んでいる場合ではないのだ。瞬く星々と姿を変え、今は墓の下に眠る彼女が、少なくとも彼らに感謝の想いを懐いてくれたこと――それを、無碍にするわけにはいかない。
 湧き出る極彩色の無貌を全て終わらせて、後始末をつけなくてはなるまい。
 ――本当のハッピーエンドへの模索と反省は、その後でも出来るのだ。嵐が、ここで生きている限り。
 現れる影が形を成す。幾多の猟兵が同じように薙ぎ払っているのだろうに、未だ尽きぬそれこそが、この世に蔓延る絶望の証のように見えた。
 だから――。
 嵐は、今は眠る彼女の力を借りるのだ。
 命を救うことは成せなかった。この手が届かなかった彼女が生きた証――瞬く声なき星々を、意味のあるものにするために。
 この世に溢れたどんな生も。
 この世を去り行くどんな死も。
 決して、悲しみに満ちているだけのものなどではない。
 あえかな光が渦巻く。星が輝く。嵐を中心に轟々と叫ぶ風の音が、命の証明を叫ぶように極彩色を切り裂く。
 それは、遙か遠い世界の話。ここでないどこかの、今でないいつかに紡がれた物語。古い本を捲るような、異界の冒険譚を根源として、娘の遺したひかりが降り注ぐ。
「星(ほし)の威吹よ、絶望を砕け――!」
 逆巻く風と、応える星と。
 その最中にて叫ぶ少年へ柔らかな礼を告げるように、流星がいっとう強く瞬いた。
大成功 🔵🔵🔵

エドガー・ブライトマン
○◇
おや、オスカーじゃない。どこに行ってたんだい?
しかしやっぱり、キミは私のところに戻ってきてくれるんだね

闇の中でかがやく星々を見上げる
きっとあれは未来へ進むための導きなんだろう
私はいつか、愛する国へ戻らなくてはならないんだから……
レディ、オスカー
あの星のかがやきが失われる前に、この国を出なくちゃ

生まれたばかりのキミらには悪いけれど、ココで終わりだ
何色もココから出してやらない
“Hの叡智” 攻撃力を重視しよう
束になってかかってきたって、キミらだって無数にいるワケじゃない
ひとりずつ確実に倒してゆく

私は、闇を恐れるべきではなかったんだ
闇を払う力を私はちゃんと持っている
“輝く者”の血は、私に流れている


キトリ・フローエ
○◇

…なんて悍ましい姿をしているのかしら
どこへ行くつもりなの、なんて、聞かなくてもわかってる
あなた達の誰ひとりとして、この世界の外へ行かせはしない
…何より、あの子のいのちを、心を
ひとかけらだって使わせてなるものですか

いらっしゃい、こっちよ!
敵はここにいるのだと伝えるよう
幾つもの色へ向けて声を上げながら空を駆け
しっかりと目を凝らし狙いを定めて、一体でも多く巻き込めるように
全力を籠めた空色の花嵐で範囲攻撃を
新しい色を生み出すわずかな隙も与えぬよう
詠唱と攻撃を重ねていくわ

少しでも、貴女への手向けになるかしら
…これも、きっとわたしがそう思いたいだけなの
でも、ミーシャ
今だけはどうか、わたし達を見ていてね



「おや、オスカーじゃない。どこに行ってたんだい?」
 肩に留まった燕の鳴き声に微笑んで、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)の指先はその頬を撫でた。白い手袋にふかりと沈む柔らかな羽毛の感触は、幸福な王子に応えるように、再びひとつ声を上げてみせる。
 果たして何と言ったのか――。
 どうであれ、エドガーの唇に浮かんだのは、安堵にも似た笑みだった。
「しかしやっぱり、キミは私のところに戻ってきてくれるんだね」
 ――頼もしいことだ。
 確かな気持ちで前を向き、それでも王子の責務は忘れない。星光を纏うちいさな姿は目にしていたし、体を抱きしめるようにしていたのも見ているからだ。
「平気かい、妖精のお嬢さん」
「ええ。大丈夫」
 差し伸べられる手に頷くキトリ・フローエ(星導・f02354)の大きさからすれば、極彩を纏う化け物たちは、決してちいさいとは言い難い。自分と同じような大きさの――或いは自分よりもやや大きいかもしれない歪なかたちは、心の底を冷たい水で撫でていくように思えた。
 けれど、ここで悍ましさに震えている暇はない。無貌の異形は嫌悪感を呼び起こすけれど、キトリには為すべきことがある。
「あなた達の誰ひとりとして、この世界の外へ行かせはしない」
 アリスたちを屠ることなどさせない。誰かの命を奪うことだって許さない。
 何よりも。
 光を求めて光となって、今ようやくの安寧を得たミーシャを踏み躙るようなことなど、させはしない。
 ――いのちも、心も、ひとかけらだって使わせない。
 睨むように見る星空色の眸とともに、ちいさな体が空を切る。呼びかける花の精はその意に応じ、手にした杖から姿を変える。
 舞い散る白と青が、煌めく色で真暗の空を彩った。星の仄明かりを受けて煌めくその光を携え、星空の下を駆けるちいさな姿を見送って、エドガーはひかりを見上げる。
 ――きっと、この光が導きなのだ。
 未来へ進むため、未来を絶った娘の遺した、最期の煌めき。左腕に巻き付く茨にそっと触れ、燕の頬をもう一度撫でて、紺碧は目を伏せる。
「レディ、オスカー」
 ――私たちも行こう。
「あの星のかがやきが失われる前に、この国を出なくちゃ」
 深く息を吸って、吐いてひとつ。
 開いた眸を瞬かせて、ふたつ。
 何を忘れても忘れることのない、遙けき故郷の名を心に呼んで、みっつ。
 いつか戻らねばならない。この身に資格を携えて、愛する国を護る王であるために。
 握った細剣が鋭く反射する光の中で、流星めいた少女の姿が飛翔する。ちいさく、けれど気高く、その声は凛と無貌を呼んだ。
「いらっしゃい、こっちよ!」
 纏う花弁が周囲に舞い散っていく。その目には大きなものばかりが映るかもしれないが、彼女だってここにいる。群がるそれらの中央めがけ、口許を引き結んだキトリが一気呵成に飛び込んだ。
 目を凝らす。決して閉じない。青と白が混ざり合い、空色の花嵐を生んで巻き上がる。その最中に切り裂かれて消えていく毒々しい虹色は、一つだって残さない。
 綺麗で静かな星空に――極彩色は煩すぎる。
 少女の生み出す花弁の嵐は、化け物たちを生まれた端から屠っていく。それでもその体から離れたものは多いから――。
「生まれたばかりのキミらには悪いけれど、ココで終わりだ」
 ――エドガーの刃が唸るのだ。
 貫き、穿つ。幅広剣のように全てを薙ぎ払うことは出来ずとも、一体を確実に仕留めうるのがこのレイピアだ。例え束になってかかってきたとて、絶望の主を失った今、その数は無限ではない。
 彼から逃れんと退けば、即座にキトリの花弁がその身を切り裂く。さりとて刃花の群れから逃れれば、前に立つのは如何なる苦難にも怯まぬ王子だ。退路を断たれて迷った端から、声なき断末魔とともに地へと融けて消えていく。
 刃を揮いながら、エドガーの唇は知らず笑みを描いていた。闇を恐れ、不安に揺らいだ己が、今は遥か遠く思えてならない。
 ――闇を払う力は。
 信ずるべき『輝く者』の血は。
 彼の身の中に、確かに流れていると、知ったのだから。
 王子を祝福するように、少女の勇敢を讃えるように――空色が彩る暗い天蓋は、ゆっくりと崩れ落ちていく。その向こうにあるはずの世界に帰れない、たったひとつの墓を遺して。
 舞い散るうつくしい色が、少しでも、その中に眠る彼女への手向けになれば良いと。
 それさえも、きっとエゴだと知っている。それを受け取る彼女がどう思うのかも、キトリには分からないけれど。
「でも、ミーシャ」
 ――今だけはどうか、わたし達を見ていてね。
 南の一つ星が零す細やかな祈りに応じるように、煌めきが一筋、天を奔った。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

冴木・蜜
ずるり
這うように身を起こす
頭が重い

ですが動けないことも無い

随分と長く溶けていた気がします
……、やはり
彼の言葉はよく効きますね

彼女が救われたというのなら良かった
ならば最後の仕上げといきましょう

複数が相手なら都合が良い
もう一度身体を蕩かし『微睡』
液状化した体を広げて
揮発した毒で色を包んで
全てを無に帰しましょう

確かに私はあの時救えなかった
彼の言葉は私のとって
二度と消せぬ毒となった

それでも私は諦めない
歩き続けると決めたのです

まだ私には足掻く力がある
毒の身でも
私は誰かを救ってみせる

まだ見ぬアリス達の為に
私は今一度毒と成りましょう

それが救いになると信じて



 ――頭が重い。
 もう随分と長い間、暗闇に融ける、ただの黒泥となっていたような気がする。その間の記憶も判然としない。ずっと何かを考えていたのかもしれない倦怠感があるし、何も考えられずにいたような気怠さもある。
 暗がりから這い出るように、冴木・蜜(天賦の薬・f15222)はゆっくりと身を起こした。まどろみの中の悪い夢に溺れていたような重さが全身を支配する。このまま臥して眠りたいと、己の中のどこかが訴えかけてくるような、嫌な心地だ。
 けれど――動けないことはない。
 瞬いた紫が、どろりと昏い色を孕む。吐いた息がひどく重い。再び吸い込むことを拒絶したくなるような心地に、投げかけられた忘れもしない言葉だけが渦巻いている。
 ――だからね、キミには誰も救えないんだ。
 ああ。
 よく効く猛毒だ。心を浸し、冒し、喰らって融かす。希望も憧憬も、懐いたうつくしい思い出の全てに、無造作に黒を塗り込めるような。成さんとしてきた全てを否定するような、それなのに憎むことさえ出来ない、どうしようもなく身を抉る言葉だ。
 手が見えて、足が見えて、己を照らす光に気付く。ふと見上げれば瞬く星たちがあって、それが蜜の心へその顛末を伝え来る。
「良かった」
 この暗闇を作り出した彼女は、救われたのだと言うから。
 蜜が成すべきは、救済の先の後始末だ。
 見遣る先に蠢く悪趣味な極彩色が、形を成した死毒に気づいて向かい来る。無数の色たちは見渡す限りに広がっていて――。
 彼にとっては、都合が良い。
 不意に、人のかたちをした泥が崩れ落ちる。先のような動揺ではなく、彼自身の意志として。目の前から消えた彼を探すように周囲を見渡すちいさな化け物たちは、けれどすぐに、ゆっくりと地面に倒れ伏す。
 ――融けた体は空気へ変わる。揮発した見えぬ死毒が緩やかに満ちていく。命を刈り取る黒き毒が、その身を微睡みの死へと誘うのだ。
 救えなかったものがある。
 救いたいと思った全てが手をすり抜けた。己の作った希望が、絶望と墜ちたことだけを知って――残された言葉が、永劫この身を蝕む毒へと変じた。
 だとしても。
 たとえこの身が変え難く毒なのだとしても。幻影が、残る声が、脳裏に過って心を穿つのだとしても。
 ――蜜は、その痛みとともに歩むと決めたのだ。
 まだ足掻ける。この心は潰えていない。己の足に籠める力が残っている、その間は。
 諦めない。
 死毒であっても、救える命があると。
 安らかな毒が誘う眠りに、零れ消えていくのはオウガのみで良い。この絶望たちが食い散らかすかもしれない、まだ見ぬアリスたちの命を救うため、蜜は再びその体を毒へと変える。
 それが。
 それこそが――。
 綺羅星のような救いとなるのだと、信じて。
大成功 🔵🔵🔵

鳴宮・匡
影の銃を携えて
目についたものから落としていく

昔の自分なら
仕事だからそうするだけなんて言ったんだろう

奪うことを罪だなんて思えない
他人を思いやることも、悼むこともできない
そういうものが自分だと思っていた

“守りたい”も“助けたい”も
誰かを真似ただけ、自己欺瞞しているだけの偽物だと
ずっとそう思っていた

――本当は、認めたくなかっただけだ
それを自覚してしまったら
自分を許せてしまうかもしれないから

だけど、もう目を逸らすわけにはいかない
自分と向き合うと約束したんだから
それがどんなに醜くても
どんなに美しくて、自分には許されないものだとしても
それも“自分”なんだと、認めなきゃいけない

――だから
きっと、この想いも、



 赤は警告色だ。
 まず目を遣ったのは、恐らく染み付いた癖だったろう。そう思考する間に、既に三つが屍に変わっている。
 双頭の黄色は的が増えて狙いやすい。頽れる橙は顔を上げる前に撃ち抜く。暗がりに紛れる青も、よろよろと逃げ出す緑も逃さない。
 ――そうするのは、仕事だからだ。
 嘗ての鳴宮・匡(凪の海・f01612)ならば、迷いなくそう言い切っただろう。己の裡側にある全てを殺すように、封ずるように、一片の波紋さえ立たない鏡面であり続けるように。
 けれど、今――吐き出した息は揺らいでいる。
 自分の中に、綺麗なものはひとつだってないと思って来た。
 誰かの幸福を奪って命を繋ぐ。罪悪感も、悼みも、思いやりも遥か遠い『ひとでなし』だ。それこそが匡であり――匡とは、『そうあるべき』だったのだ。
 守りたいと思うのは、『ひと』の真似事で。
 助けたいと思うのは、『ひと』になりたい自分の都合の良い幻想で。
 己の裡より湧き出る如何なるうつくしい感情も、そうありたいと願う醜い心が生み出した、ただの自己欺瞞だ。
 そう思うのは、辛くて、苦しくて――。
 トリガーを引く。唸る銃弾が空を切り裂く。影が弾けて、全てを滅ぼして、極彩色は消える。
 ――きっとどこかで、安心していた。
 ひとは美しいものだと。己は到底そこに届くことはないと。この歪でちいさな心の中にある、どんな綺麗な結晶も、所詮は継ぎ接ぎだらけの偽物に過ぎないと。
 そう思い続けるから自分を赦せない。赦せないままでいられる。どこまでも悪辣で利己的で、どうしようもなく矮小な存在であり続ければ、彼は取り返しのつかない失敗をした自分を赦さずに生きていける。
 認めたくなかった。
 己が不利益を被ってでも守りたい。己を助ける存在とならなくとも助けたい。この手を振り払われるかもしれなくとも、手を伸ばしたい――。
 そんなにも美しいものがこの心にあるとするなら、己はこの痛みを手放してしまえるかもしれない。罪を重ね、罪とも思えず、たったひとつの喪失に自罰を続けるこの身を、赦してしまえるかもしれない。
 それが――怖かった。
 けれど。
 トリガーを引く。ホルターへ仕舞った銃に括りつけられた瑠璃唐草が揺れる。
 自分と向き合う――。
 約束を果たさなくてはいけない。果たしたいと思う。醜さからも、美しさからも、目を逸らさずに歩かねばならない。
 マガジンを取り換える必要はなかった。無尽蔵の影の弾丸を吐き出しながら、焦げ茶色の眸が僅かに眇められる。
 ――思い出すまでもなく脳裏に焼き付いている、笑う顔。
 懐く想いを、受け入れられずにいた。例えこれが本心より抱えるものだったとしても、その根底が美しいものであるはずがないと思って生きてきた。
 けれど。
 無垢なものが、美しいものが、己の中にあるならば。それを抱えることに、目を伏せないと誓うのならば――。
 星々に照らされ、弾けて消える極彩色の中に。
 匡は確かに、鮮烈な藤色のひかりを見た。
大成功 🔵🔵🔵

ニコ・ベルクシュタイン
○◇

そう、君は救われる
此れだけの人々が言葉と心を尽くしたのだから
君の物語がめでたしめでたしで終わるようにと
俺達も最後の仕事をしよう

言い忘れていて悪かった、俺も死を以て救済と為す者にて
其の証が【葬送八点鐘】――さあ、鳴り響け
此の国は間も無く滅びる、ならばお前達も運命を共にせよ

世界は不平等だと人は言うが、時間ばかりは平等だ
遅かれ早かれ、命あるものには必ず終の刻が訪れる

傲慢を許せ、ミーシャ
君の事を言えた身では無いが、其れでも俺は時計であるが故に
此の悲劇に終止符を打つ事で以て――救済と為そう

天国や地獄が本当にあるとしたら
其の何方かで会おう、俺はきっと君と同じ方へ行く
――はは、誹りが有れば其の時に聞こう


加里生・煙
◯◇
何もかも間に合っていない。この手は命を掬い上げない。けれど、まだやれることが残っているから。

人を救うのは苦手だ。何故なら救われた記憶がない。希望がない。信じられない。救う前に、救われたい。そんな自分勝手な人間が、人を救うだなんておこがましいと、そう思う。
だから苦手だ。この手は人を救わない。けれど、殺すことが手向けとなるならば。

……そういうのは、得意だ。なぁ、アジュア。

▼救い
……これは救いになるだろうか。俺の炎は狂気を照らすから、アンタの助けには来れなかった。悪かったな。けれど、俺よりもずっと、上手く救えるヤツがいただろう。
黄昏刻は、な。終わりを示すんだ。これで、あんたの苦しみも…終わりさ。



 そう。
「君は救われる」
 ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)の声はただ厳然と、時を告げるそれと同じような確信を以て発された。
 悪意に、怒りに、絶望に疎い。
 それは彼が愛されたが故の存在だからだ。愛を前提に成るものに、そうでない感情を理解するのは難しい。
 けれど――。
 愛によって生まれたが故に、ニコは知っている。ここにいた人々が、皆ミーシャに向き合っていたことを。彼女を無碍に暗闇に放り出すことなどなかったことを。
 だからこそ――この物語の終わりは、めでたしめでたしでなくてはならないと。
 眼鏡の奥の紅を煌めかせるニコの規則正しい歩みの後方、加里生・煙(だれそかれ・f18298)はただ、暗がりに立ち尽くすようにしてそこにいた。
 間に合いはしなかった。何もかも。この手は何も掬えない。分かっていることだ。
 愛を知らない。救われたことがない。希望も歓びも遠く、故に目の前に差し出されても信じられない。気付けないことさえある。
 誰かを救うより先に、自分が救われたくてたまらない。
 信じられない癖に。愛も希望も救いの色も知らない癖に。そんな身勝手な人間が誰かに手を伸ばすなど烏滸がましいにも程がある。
 だから煙は、救済が苦手だ。
 けれど、殺すことが手向けとなるのなら。この有象無象の極彩色を屠り喰らうことこそが、彼女を救う一助となるのなら。
「……そういうのは、得意だ。なぁ、アジュア」
 呼びかけるように視線を下へと遣れば、足許で狼が嗤う。蒼焔の狂気を飼う男の唇もまた、嗤う。
 その前に立ったニコの背筋は伸びていた。真っ直ぐに睨むのは、ようやく眠りに就いた娘を蹂躙せんとする化け物どもだ。
「言い忘れていて悪かった、俺も死を以て救済と為す者にて」
 その声に温もりはない。ただ静謐に、平等に、時を運ぶ時計がゆらりと本を開く。
「此の国は間も無く滅びる、ならばお前達も運命を共にせよ」
 ――絶望は全て、迅く壊れてしまうべきだ。
 鳴り響く八点鍾が使者を呼ぶ。流れる時間の果ての涯、全てを刈り取る鎌がゆらめいて、黒衣の死神が闇を裂いた。
 この世は不平等だと口々に人は言う。けれどその中にも、絶対的に平等なものがある。
 紡がれていく時間――その終わり、何もかもを終焉へと運んでいく、死と称されたそれ。生きている限り訪れる永劫の終わりを以てして、時計であるニコはこの物語にエンドマークを打つ。
 彼女が謳う慈愛の色と似通うそれを救済と謳いながら、彼女のありさまに対峙した己の在り様は、およそ憤慨されるに足るべきだろうと知りながら。
 死を操る時計は、ほつりと声を漏らす。
「傲慢を許せ、ミーシャ」
「悪かったな」
 重なるのは煙の声だ。闇を割る蒼焔が零れ落ちる。鎖した左目の裡で、黄昏が燃えているのを感じながら。
「俺の炎は狂気を照らすから、アンタの助けには来れなかった」
 ――これは、およそ美しい色をしてはいない。
 誰かの道行きを照らす光などにはなれないのだ。救いも、慈愛も、およそ遠い。彼自身がそれを知らないが故。
 けれど――そう。
 煙が来ずとも、きっと彼女をうまく救ってくれる誰かがいたのだろう。愛を知り、想いを知って、静かに怒れる誰かが。煮えたぎる業火のような絶望と怒りではなく、もっと悲哀や悼みに似た思いを捧げられる誰かが。
 だから、煙が成すのは、ただの手向け。
 救われて眠った彼女の墓を暴かんとする化け物どもを屠り喰らい、この狂気の劫火の裡へと融かしひずめて狂うこと。
「黄昏刻は、な。終わりを示すんだ」
 これで、苦しみも終わりだ。
 ――ひらいた左目の裡で、轟々と燃えるのは、日の差す時間の終わり。あかあかと滾る眸だけを残して、その身は狂う蒼獣へと変わる。
 耳障りな声は、咆哮に似る。孤独の裡に狂気を飼って、やるかたない正義の檻に己が身を閉じた獣が躍る。
 その色に、ニコの眸が僅かな悲哀を湛えた。
 ああ。
 この世には、彼の知る温もりは、思うほど多くはない。
「天国や地獄が本当にあるとしたら――」
 だからせめてと、少女の墓に向けて声を投じる。
「其の何方かで会おう、俺はきっと君と同じ方へ行く」
 何か一つでも、そこに信じられる温度があれば良いと思った。ただ絶望するだけの終わりなどでなかったと。そのときにこそ紅茶でも淹れよう。スコーンを用意して、それで。
 それで――。
「――はは、誹りが有れば其の時に聞こう」
 零れ落ちた笑声は、思うよりもずっと、力なく響いた。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ヘンリエッタ・モリアーティ

救われてしまったの?
あらら残念。とても、「おもしろくない」人生だったでしょうに
――でも、そうね
死にたい人に、生きてなんて言えないしね
そんな責任のある事、できないし

でも、私はちょっと「むかつく」かな
【物語の書き手】として、書き換えてしまおう
――救われない物語にしてあげる
死んだ命を蘇えらせようなんて、そんな冒涜的なことはしない
ただ、そうね。死体は返してもらいましょう
あなたは誰からも忘れられない、一生玩具にされた可哀想な女の子として眠っておいで
二度と目覚めたくないと思うほど、盛大に悲しまれて
送られればいい
あなたを愛した友達や、世界を知って、絶望したらいい
感謝なんて要らない、――しっかり「恨んで」よ



「救われてしまったの?」
 その声はひどく落胆に満ちていた。
「とても、『おもしろくない』人生だったでしょうに」
 全く易々と死に身を擲って、娘は最期の瞬間、確かに笑っていた。それが何とも気に食わなくて、ヘンリエッタ・モリアーティ(悪形・f07026)は怒気を孕む息を噛み潰す。
 簡単なものだ。無責任で。
「――でも、そうね。死にたい人に、生きてなんて言えないしね」
 それこそ責任が大きすぎる。親しい友人にさえ軽々しく伝えてはやれないだろうその言葉を、まして赤の他人に投げかけることなど出来ようか。誰かの一生を変え、為したかったことを折らせて、それで投げ出すなどという無責任を、彼女は己に許せなかった。
 ――とはいえ。
 事務的で無感動な事実は横に置いておくとしても、彼女の中には見過ごせぬ感情がある。
 救われたがって喚いて嘆いて、自分一人救えなくて――そのくせ、地獄と向き合い続ける覚悟も強さもなかった。
 どこまでも『普通の女の子』の話が、密かな悲劇として消えていくだろうこと。彼女が誰の何の絶望も知らず、擲った命でどれだけの悲しみを引き起こすかも知らずに、一人で穏やかな眠りに就いたことが。
 少々ばかり、『むかつく』。
 だから今、彼女はこの物語を書き換えよう。あのとき、誰より傍にいたあのひとの物語を紡いだように。その役割の中にて今一度、結末を書き換えよう。
 暖かくて優しくて美しいだけの話じゃあない。
 ――救われない物語に。
「あなたは誰からも忘れられない、一生玩具にされた可哀想な女の子として眠っておいで」
 跳躍すると同時、着地したのは墓の前だ。その中にある少女の綺麗な亡骸を抱きかかえ、物語の書き手(ワトスン)は再び有象無象の群れより離脱する。
 ――何も死体をどうこうしたり、失われた命を取り戻すなんて冒涜を働く気はない。
 死体はただの死体に過ぎないのだから、傷つけたところで救われない話にはならないし。
「二度と目覚めたくないと思うほど、盛大に悲しまれて送られればいい」
 ――ただ、骸を現実に返すだけ。彼女が耳をふさいでいただけで、そこにいたはずの、彼女とともに笑い合ったひとたちの元へ。
「あなたを愛した友達や、世界を知って、絶望したらいい」
 きっと葬儀が出されるだろう。遺影の前で、棺の前で、誰かが泣くだろう。戻っても来られない天上から、それを眺めて泣くと良い。自分が簡単に捨てた命の価値を、そこで初めて知ると良い。
 崩れ落ちる天蓋に輝く星々を睨むように見て、銀の助手は低く唸るように声を上げた。
「感謝なんて要らない、――しっかり『恨んで』よ」
 浮かべた笑みは――たいそう、悪らしかった。
大成功 🔵🔵🔵

神元・眞白
【WIZ/割と自由に】シンさん(f13886)と一緒に
安らかに。あなたの問題が解決したなら、それはきっと救いなのでしょう。
星の灯り。それが残滓、気持ちの表れなのだとしたら、この場は残しておかないと。

飛威、シンさんと合わせて攻撃を。相手の隙は私でなんとか作ってみるから。
一度シンさんには攻めてもらって、相手の動きを待つ様に。
相手が動いたら私が孤立する様な演技を混ぜて狙ってもらう事に。
鏡には……そう、ミーシャさんでも映しましょう。楽しげに?悲しげに?
相手からはどう映るか分かりませんが、隙ができたらお願いね。

きっと、一段落がついたらこの国も終わり。ちゃんと最後は見届けないと


シン・コーエン
眞白さん(f00949)と

ミーシャに「無事に逝けたか。せめて安らかな眠りを。」と手向けの言葉を掛け、残された闇(ストレンジ・レインボー)がアリスを襲わぬよう殲滅する。

戦闘では前衛に。

相手は【団体行動】に秀で、規律の取れた戦術を取る。
逆に言えば予測しやすい。
【集団戦術・第六感】で予測し、灼星剣と村正の二刀流による【2回攻撃・風の属性攻撃・衝撃波・範囲攻撃】で、剣刀の二閃にて相手を纏めて葬り去る。
相手の攻撃は【残像】を作って【見切り】で躱すか、【武器受け・オーラ防御】で防ぐ。

眞白さんが相手を誘き寄せれば、【ダッシュ】で相手の背後に回り、上記戦法で殲滅し、眞白さんを護る。

数を減らして最後にUCで一掃



 静かに輝く星の光を見上げて、ゆるゆると息を吐く。
「無事に逝けたか」
 ――ミーシャと呼ばれた娘の終わりは、穏やかなものだった。
 たとえその信念がシン・コーエン(灼閃・f13886)と相容れないとしても、彼自身、彼女にこれ以上苦しんで欲しかったわけではない。だからこそ、手向けの言葉は穏やかに、静かな温度で零された。
「せめて安らかな眠りを」
 ――苦しいいのちだったのだろうから。生が痛みの最中にあったのならば、先に続く永劫の眠りは穏やかなものであれと。
 そう願うのは、隣で眸を伏せる神元・眞白(真白のキャンパス・f00949)も同じだった。
「安らかに。あなたの問題が解決したなら、それはきっと救いなのでしょう」
 それを、否定はしない。
 彼女がそれで良いと笑うのならば、眞白は頷くだけだ。救済の色は決して一つではないから、誰かに押し付けない限り、自由であるものだと思う。
 見上げた星々こそが、遺された想いの結晶だという。シンの金色と、眞白の白銀と、静かに沈黙する墓を照らすそれが、気持ちの表れであるとするなら――残しておかなくてはならないと思った。せめて、この国が完全に潰えて、新たなオウガを産まなくなるまでは。
 静謐が流れたのはほんの僅か。地より孵化する毒々しい極彩色が、二人の前に形を成す。
 それを見るや、男と女の視線は緊張感を孕んで交わった。互いに頷いて、まずはシンが前に出る。
 ――仲間を守る彼らしからぬ疾さで、その身は眞白を置き去りにする。構えた灼星剣が帯びる光が赤を断ち、隙を見て飛びかかる黄色を構えた村正の白刃が一刀のもとに両断する。
 集団で行動するが故に、動きを見切るのは易いのだ。数あらば隙を生むことは出来るが、数がそれ即ち優位性を示すわけではない。
 たとえば一気に襲いかかって来る前は、波が引くように攻撃の手が止む。一体だけで掛かってくるときは、その隙を窺う数体が周囲にいる。敵以外に他者がいるが故に型破りな行動を起こせぬ短所は、果たして歴戦の男の前には致命的だった。
 それでも取り囲まれれば傷は避け得ない。後方にて機を待つ眞白も、それは大いに理解していた。
 故に――。
 共にある人形の一体へ声を投げる。戦術器の第一世代、その無表情な顔を紺碧の眸が見据えた。
「飛威、シンさんと合わせて攻撃を。相手の隙は私でなんとか作ってみるから」
 頷いた飛威が、巨大な双刃と共に飛び立っていく。シンの後方に回り込む色彩を断ち切り、闖入者へと向かうそれらはシンの輝く刃が捉える。
 ――そうして夢中で前線にいるもののうち、一つが眞白に気づいたようだった。
 護衛のない娘。ただ立っているだけのようにも見えるだろう。新たな獲物を見つけた一団が猛然とこちらへ走って来るのを、彼女はただ見つめていた。
 それもまた――作戦の一部であることに、気付いてはいないのだろうから。
 攻撃が届くよりも先、銀色の符がひらりと舞った。生み出された障壁に弾かれて転がる極彩色の前に、映し出されるのは夢か現か――。
 そこにいるのは。
 慈愛と呼んで死を振りまいた、彼らを生んだ絶望を抱く娘だった。
 突如として眼前へ現れた、死んだはずのアリスに、虹色が狼狽えているのが分かる。よほど心を揺さぶったらしいその幻影に、俄かに統率を崩した濁った色たちがいる。
 効果は覿面だった。その表情が悲哀と映っているのか、あるいは笑っているのか――眞白には分からないけれど。
 そうして出来た隙を逃さぬ二人が、後方より迫っていることさえ、悟られてはいないのだから。
 迫る赤き刃は、男の紅輝を受けて巨大な一刃となる。シンの眸と眞白の眼が重なって、どちらにも傷一つないことがよく見えた。
「甘い!」
 叩きつけるように薙ぎ払われた剣に、統率を乱したそれらが対処出来ようはずもない。成すすべなく消えていくそれらの中で、運良く難を逃れたものは、けれど飛威の双刃が屠るのだ。
 二人の眸が、この国の終わりを見届けるまで。
 ――舞踏めいた戦いは、今しばし続く。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

鷲生・嵯泉
自らを唯一の光とした事は、正しくはないが間違いでもなかろう
しかし何が真の救いかなぞ当人にしか判るまい
だが――“解放”されはしたのだろうから
もう逃げ隠れをせずとも済む事が、せめてもの安らぎと成れば良い

……暗闇の内で目にした「結末」は、未だに己が裡に凝っている
訪れる事なぞ無い様にと足掻く事を決めた今でさえ失せはしない
だが裡から心を蝕む其れは、同時に此の歩みを止めぬ為の燃料でもある

選ぶのは私自身
ならばこそ目を逸らす事も逃げる事も此の身に赦しはしない
此の声に応えるものが在る限り、伸ばした手を掴むものが在る限り
――私を光と喩う声がある限り
此処に在り続けよう

――弩炮峩芥、残さず砕けろ
お前達に行き場なぞ無い



 誰にも、何にも救われないから、己が無明の光となる。
 正しいことではない。暗闇の中に在って、光の何たるかも知らぬままでは、如何なる救いも継ぎ接ぎにしかなり得ない。
 けれど間違ってもいない――そう在ることしか出来ない者を、どうして否定出来ようか。
 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の見上げる先の星々は、晴れやかに瞬いている。
 彼女の望んだ真なる救済の形は知れない。だから、ただ身を隠して怯えるだけの命から解放されたことが、せめてもの安らぎであれと願う。照らされた暗がりに、もう丸くなって震えることのないように。
 嵯泉自身も――。
 深く息を吐き、一瞬ばかり目を伏せる。暗闇の中に見た地獄は未だ脳裏に凝り、間隙を突くように冷や水を生んだ。所詮は幻と斬って捨てることを赦さないのは、それが一度、彼の前に横たわった現実であるという事実だ。
 ――もう二度と。
 見知った顔と、大切な者の命が喪われることのないように。その魂が失せていく重みを、この手の中で感じることのないように。
 置いて逝かれることも――置いて逝くこともせずに済むように。
 あの惨憺たる未来が、決して訪れぬようにと、抗うことを決めた。命を削り続ける日々の、どこか空虚な軋みではなく、今ここに根付く確かな誓いとして。さりとてそれを為し続けることがどれほど難しいのかを知っているが故に、男の胸中には確かな氷が突き刺さるのだ。
 だとして――左の懐を探るのは、ただ慣れた感触を求めるが故だった。果たして応じる失くせぬものに、嵯泉は小さく吐息を漏らす。
 ――この心に突き立つ、凍てた毒こそが。
 彼の足を前に出す。繰り返して為るかと戒める。立ち止まったときこそが、真の終わりなのだと――幾度でも、この心に刻むのだ。
 握った刃は、濁った極彩色を逃がさない。空を裂くように生まれた衝撃は、彼の目に映る全てを断ち斬る慈悲なき一刀だ。
「お前達に行き場なぞ無い」
 星明かりに冴え冴えと閃く銀が色を裂き、柘榴の眼光は睨むように前を見る。その道を違わぬように。歩み続けるべき場所を見失わぬように。
 ――定め選ぶのが己ならば、目を逸らすことも逃げることも赦さない。我が身は我が心の許に、諦念と甘えこそを斬ると誓う。
 今や嵯泉は、決して独りではない。何をも掴まず生きて死ぬはずだった我が身には、手放せないものが増えすぎた。
 呼ぶ声に応じる者が在る。伸ばした手を掴む者が在る。
 ――この身を光と喩えては、笑う声が傍に在る。
 ならば、決して違えはすまい。約束も、誓いも――願いも。彼が在ることを望む声がある限り。託される祈りがある限り。
 全ての憂いが斬り払われた星の許、軍靴の音が、確かな重みで前へ往く。
大成功 🔵🔵🔵