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隠恋慕

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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●ふたりのアリスと生きている花園の国
「アリスが! アリスたちが来たよ!」
 美しく花々が咲き乱れる花園の中、一際高い声がそう告げた。
 喜色満面のスイセンに他の花人たちはちらりと視線を向けてから、別の花人たちと視線を交わし合う。以前もそう言ったスイセンの言葉を思い出し、そうして悲しかった出来事も芋づる式に思い出して――キュッ。花弁に僅かな皺がよった。
「スイセン、僕らのアリスはもう――」
「あ、違うんだ、違う。違うアリスたちが来たんだよ」
「でもそれは」
「ううん、今度は間違いなく『ちゃんとした』アリスだよ」
 それでも花人たちはひそひそと囁きあう。
 君は早とちりがすぎるからなぁ。
 こないだだってそうさ。
 でもさ、スイセンが言っていることが本当だったら?
「君たちもおいでよ。アリスたちが困っているんだ。助けてあげよう」
 アリスのためだと言われれば他の花人たちも顔を見合わせ、そうしてしっかりと頷きを返すのだった。

●雪白と薔薇紅
 その日、『生きている花園の国』にふたりの少女――アリスが現れた。
 花園が広がる丘の上に現れたふたりが最初に覚えたのは、困惑だ。
 ふたりを見つけた花の姿をした不思議なヒトたちが話しかけてくるけれど、ふたりにはどう返せばいいのか解らない。
 それもそのはず、『召喚』されたばかりのアリスには決まって記憶が無いのだから。
 この世界のことも、自分たちのことも、なにひとつ解らない。
 一緒にいる女の子が知り合いなのかすらも、ふたりには解らなかった。
 例えその手が、ずっと、繋がれていようとも。

 ふたりのアリスの小指は、約束事を交わす時のように絡められて。
 けれどふたりの意思でも絡んだまま離れない。
 気付いたららこの世界にいて、気付いたら彼女といた。
 何も思い出せないふたりだけれど、アリスたちは少しも不安にはならなかった。
 ひとりじゃ、ないから。

「名前をつけてくださらない?」
 長い真っ直ぐな黒髪に、赤い薔薇の髪飾りのアリスが僕たちへ口を開いた。美しく綺麗な声の彼女へ僕は視線を向け、首をかしげる。彼女は《アリス》だ。愛しさを込めて僕らはアリスと呼ぶのに、他の呼び方がいるのだろうか。
 周りのハナたちも僕と似たような顔でアリスたちを見ていた。
「私たち、お互いをなんて呼べばいいかわからないの。だからお花さん、名前を授けてくださらないかしら」
 柔らかなウェーブの栗色の髪に、白い薔薇のアリスが口を開く。春風のようにふわりと優しい声の彼女は、少しだけ困ったような顔で隣のアリスを見て、お願いよと僕らに微笑んだ。
 アリスのお願い。アリスにお願いをされたら、僕らはなんだって叶えてあげたくなる。
 君たちがそう望むのなら、僕らは叶えよう。叶えられなかった、あの子の分も、僕らは叶えよう。
 けれど突然名前と言われても、困ってしまう。僕らには《アリス》で、アリスと呼ぶことしか考えられない。チューリップはチューリップと呼ぶし、スイセンの僕はスイセンと呼ばれる。そう、僕らに名付けのセンスなんてものはなかったのだ。
「あ、ねえ。『雪白』と『薔薇紅』はどう?」
 スイートピーが愛を語るように口にした。自分の頭を指差してアリスたちの髪飾りの事を示せば、アリスちは指が絡まっていない外側の手でそれぞれの頭に触れる。そこで初めて気付いたのだろう。鏡写しのように、髪飾りをつけていることに。
 アリスたちはそっと窺うように顔を見合せ、小さく頷きあう。
「とても素敵なお名前」
「ありがとう、お花さんたち」
 雪白と薔薇紅が笑う。アリスが笑う。
 僕らは、ああ、とても嬉しい。

●猫の語り
「アリスたちをね、助けてあげてほしいんだ」
 花人の愉快な仲間が暮らす『生きている花園の国』。そこに現れたふたりのアリスは、優しい花人たちと暮らし始めた。例え記憶が無くとも、例えふたりが離れられなくとも、知らない世界に慣れようとして。
 初めは困惑の表情が多かったふたりも、過ごす内に笑顔が増えていった。
「ずっと幸せに花人たちと暮らしていく――そう思っていたところだったのだけれど、ね。予知を、見たんだ」
 オウガが現れて、アリスたちと花人たちを襲う予知だ。
 その日、アリスたちは花人たちと薔薇園に行く。
 生垣迷路を抜けて、薔薇園に行って、ちょっとした遊びをしようと黄色の薔薇が誘ったのだ。白い薔薇に『ないしょ』を囁いて赤い薔薇に染める『かくれんぼ』。隠したら目印のリボンをして、探すのも楽しいよ、と。
「幸せになろうとしている彼らを守ってあげてほしい」
 グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)の掌の上に手紙が踊る。封が開いてパッと飛び出た便箋に、何事か文字を書き込む仕草をすれば道は開かれる。
 行き先はアリスラビリンス。
 新たなアリスが訪れた美しい花園の、不思議な国。


壱花
 大変大変! アリラビ戦争の気配! 急がなくっちゃ!
 と言うわけでシュッと滑り込みにきました、壱花です。

 以前出した『甘き宿花の物語』と同じ国ですが、知らなくても大丈夫です。
 早期完結を目指しますので、一章二章は完結に必要な🔵を確保できたら締切、締切前に来ていた🔵余剰分は書けそうだったら……な運営となります。
 三章は出来るだけ描写したいと思っております。ひとつの章だけでも大丈夫ですので、お気軽にご参加ください。

 受付・締切・再送等、TwitterとMS頁にお知らせが出ます。
 送信前に確認頂けますと幸いです。

●愉快な仲間達『花人』
 頭がお花、手は葉っぱの生ける花。優しくお喋りで、猟兵たちにも友好的。そしてアリスのことが大好きです。
 行えることは【鼓舞】【かばう】【花の嵐(鈴蘭の嵐/花は花人が咲かせてる花)】。基本的にはアリスを身を挺して庇おうとしますが、アリスが安全なら猟兵たちを応援して成功率をちょっぴり上げてくれます。

●第1章:集団戦『迷わせの森』
 アリスたちを連れて森を抜けて下さい。
 対象を選べない火の扱いはご用心。

【第1章のプレイング受付は、8/2(日)朝8:31~でお願いします】

●第2章:ボス戦『トラウマン』
 アリスたちを守り抜いて下さい。
 『アリス』はトラウマに苦しむこととなります。『アリス』の猟兵も、勿論対象となります。WIZは他の人にも見られてしまう可能性もあるので、一人描写希望の方は『♣』をプレイング頭にお願いします。

●第3章:日常
 薔薇園で隠恋慕――かくれんぼをいたしましょう。
 秘めた恋、明かせぬ恋、好いた相手に直接言えない話などはありませんか? 友達に言うのも恥ずかしかったり、伴侶や恋人に言うのも恥ずかしかったり――けれど誰かに聞いてもらいたい。そんな恋のお話を薔薇園に隠してしまいましょう。
 誰にも明かせぬ恋の話を白薔薇に囁やけば、白薔薇はそっと頬を染めて赤く染まることでしょう。 ※この白薔薇は花人ではありません。
 ペア等で参加の場合、同行者にも聞かれてしまうことになります。聞かれたくはないので別々に薔薇に告げ、後から合流するプレイングを書かれる際は『🌹』を記載してください。
※今回、グリモア猟兵は「聞いて欲しい」と言う事でなければ登場いたしません。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『迷わせの森』

POW   :    絡まった枝の迷路
戦場全体に、【互いの枝を絡ませて作った壁】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD   :    絡まった枝の迷路
戦場全体に、【互いの枝を絡ませて作った壁】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    絡まった枝の迷路
戦場全体に、【互いの枝を絡ませて作った壁】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●生垣迷路?
 ――アリスたちはまだ、こっちには来たことが無かったよね?
 先導する黄色い薔薇のお花さんが、私を振り返ります。
 私の左隣を歩む薔薇紅の横顔を覗えば瞳が合って、彼女も同じ気持ちで私を見たのだと解りました。たったそれだけのことなのに私は嬉しくて――そうして小指に感じた感覚にまた、嬉しくなりました。
 不安な時、嬉しい時、分かち合う気持ちのある時。私たちは絡まったまま離れない小指に力を入れる癖のようなものが、いつからか出来ていたのです。
「ええ」
 薔薇紅が、涼やかな声で答えます。
 楽しみねと向けられる瞳が嬉しくて、私も「ええ」と気持ちを表しました。

「あれ、おかしいわ」
「どうされたましたの?」
 黄色い薔薇の声に、雪白が首を傾げる。同行する他の花人たちも、それぞれ不思議そうに言葉を発して、先導する黄色い薔薇へと何かあったのかと尋ねた。
「生垣がね、おかしいの」
「ええ、そんなことはないだろう」
「そうだよ、生垣は生垣――えっ! どうしたんだい、これは」
「おかしいでしょう?」
 ふたりのアリスの前で花人たちは慌てだし、事情が解らない雪白と薔薇紅は、ただ不思議そうに顔を見合わせる。道を間違えたわけではないのかしら、と。

 アリスたちと花人たちの眼前に生垣はなく、薄暗い森が広がっていた。
 そこには確かに生垣の迷路があったはずなのに。
 生垣の迷路ならば、花人たちは道を知っているから迷わず進める。
 けれど枝の絡まる薄暗い森は、時折枝を動かし変動し続けているようだ。
 伸ばす枝で、アリスたちを傷つけるかも知れない――。
「気をつけて」
「何かあったら僕らが護るから」
「とりあえず抜けてしまいましょう」
 アリスたちへと注意を促す声を掛け、花人たちは森へと入っていった。
琥珀川・れに(サポート)
※人が多いなら流すも自由さ

「貴族たるもの余裕を忘れてはいけないな」
「やあ、なんて美しい人だ」

ダンピール貴族
いかにも王子様っぽければねつ造歓迎さ
紳士的ジョークやいたずらも好きかな

敵も味方も性別か見た目が女性ならとりあえず一言は口説きたいね
ナンパではなくあくまで紳士的にだよ?

実は男装女子で
隠しはしないが男風源氏名レニーで通している
その方がかっこいいからね

戦闘スタイルは
・剣で紳士らしくスマートに
・自らの血を操作した術技
が多い
クレバーで余裕を持った戦いができれば嬉しいよ
早めに引くのも厭わない

説得系は
キラキライケメンオーラやコミュ力で
相手を照れさせてみせよう



●迷わせの森
 木枝がうねり、道を塞ぐ。
「ああっ、順路はこっちなのに」
「迂回はできませんの?」
 困った花人が足を止め、アリスたちも困り顔。なんとか進めないかと試みているようだが、花人たちが枝を振り払っても次の枝が迫ってきていた。
「アリス、気をつけて!」
「――あっ!」
 アリスの後方から、老婆の爪のような枝が迫る。
 前へ出て枝を払っていた花人は間に合わない。
 雪白を庇い、薔薇紅が一歩前へと足を踏み出した時――。
 ――ザッ!
 伸ばされた枝が二人の目の前で斬り裂かれた。
「お怪我は有りませんか、美しい人」
 間に合ってよかった。
 駆けつけた猟兵、琥珀川・れに(男装の麗少女 レニー・f00693)は魔法剣『エペ ド ルーン』を片手に微笑み、恭しい礼をアリスたちへと贈る。
「これより先は僕もお供いたしましょう。可憐な蕾のような君たちに、決して傷はつけさせないと誓うよ」
 年頃の少女の心をあっという間に掴んでしまいそうな笑みを浮かべ、れには同行を申し出る。猟兵の存在を知らない雪白と薔薇紅は少しだけ躊躇ったものの、お願いしますと揃って頭を下げたのだった。
「あ、旅人さんだ」
「アリスを護ってくれてありがとう、旅人さん」
「助けて旅人さん。僕らに力を貸して」
「勿論さ」
 れにはアリスたちのよこをすり抜けて、前へ行く。
 花人たちが苦戦している太い枝の前まで進むと、構えて。
 またたきひとつ分の間だけ肉体を強化したれにが、邪魔をしていた枝を切り落とした。
「――さあ、先に進もう」

成功 🔵​🔵​🔴​

ライラック・エアルオウルズ
涙池に沈む優しい花束
想い出せば、未だ悲しくて
だからこそ、守りたいんだ
花人と寄り添い微笑う君達をね

森駆けて、花の子等と邂逅すれば
久しく思う心も込めて、柔く語り
ふたりのアリスに穏やかに一礼
素敵な時を妨げる無粋な森を、
皆で早々と抜けてしまおうか

恒に《オーラ防御》で庇える様に、
動きを見切る為に観察し乍ら進み
枝が敵や障害と成るならば、
《全力魔法》込めた黒線引いて
路の終わりを訂正するみたいに、
作家として物語の続きを綴ろう
跳ねた洋墨を目印代わりにしたら
きっと、彷徨う事も無い事だろうさ

皆で往く路は、宛ら冒険のよう
君達は薔薇を何で染める御心算?
何て聞くのは、凄く野暮な事だね
――ふふ。僕もね、『ないしょ』


ティル・レーヴェ
愛らしき花の住人に名を貰い
共にと幸せになろうとする少女達
あゝ白雪殿と紅薔薇殿のこれからを
哀しく奪わせるわけにはいかぬ
その道行妾にも手助けをさせて?

道を塞ぐ迷わせの森
その伸び絡んで塞ぐものは
翼より放つ羽で狙い撃ち
魔力溜めからの全力魔法や
二回攻撃に多重詠唱などを重ね
堅牢な其れを破ってみせよう

わざと外した羽根より生んだ
花の陣にて己の強化や
少女達や花人への癒しにも変えて
常の生垣と違う暗き森
その様を少しでも明るく
あゝ花に満ちて見えればいい

少女や花人達が狙われたなら
オーラ防御纏いてかばいに入り
万一お怪我などあれば
聖痕による癒しの力を歌に乗せて
先に進む勇気を鼓舞を

この道だけでなくその先に
花満ちる様な未来を


旭・まどか
♢♡

……暗くて、深いね
森を歩むのは初めてでは無いし
此処よりもっと足場の悪い戦場だって在ったけれど

不自然に突然広がった森と云うのは得体が知れなくて
――あまり、気持ちの良いものではないね

注意しながらも戯れに近くの枝葉に手を伸ばす
不自然に“生まれた”生垣はただ其処に在って
恐らく成長速度は他とは違うのだろうけれど
特別襲ってくるような素振りは、無い

いっそ枝葉が向かって来でもした方が、手っ取り早かったのだけれど

他に思いつく手も無いから
仕方無い
一番したくは無かったけれど
とりあえず何か変わるまでこのまま道らしい道を、進もうか

迷路の先は一体何処へと繋がっているのだろう
――一体何処へ、導こうとしているのだろうか


花房・英
本来はきっと綺麗な生垣なんだろうな
生垣の迷路はちょっと楽しそうだ

燃やしてしまいそうなものは、使わない
警戒しながら、二人のアリスや花人を護衛しつつ迷路を進む
迷わないように、分岐点には通ったことが判るように目印を…花人たちに許可が貰えるならお菓子を落として行こう
迷路が護衛対象を攻撃しようとするなら、
手に持った無銘やUC花散里で対抗するけど
無事に迷路を抜けるのが最優先

話すのは苦手だから、時々護衛対象を振り返って様子を伺う

離れない小指、か
互いに離れられない存在なのかな
こうして二人や花人たちを見てると何故だかひどく羨ましい
別に俺はひとりだっていいはずなのに



●拓かれる道
 辿り着いた場所は、木々が絡み合う『迷わせの森』の入り口だった。花で満ち溢れているこの国に不釣り合いな、薄暗くて得体の知れない森が目の前に広がっている。時折ざわりと揺れたように見えるのは、枝を伸ばし続けているからだろう。
 この国に一度訪れたことがあるふたり――ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は僅かに眉を顰め、旭・まどか(MementoMori・f18469)も表情こそ変えぬがそっと息を呑みこんだ。きっとここもまた、美しい景色だったのだろう。それが今、失われている。
(本来はきっと綺麗な生垣なんだろうな)
 この国に初めて訪れた花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)とて、そう思う。重ね絡みついた枝の向こうに少しだけ見える生垣の葉は青々として美しく、こうして木々に覆われてしまっていなければ迷いこんでみるのも楽しい場所だっただろう。生垣迷路を越えた先のご褒美のような薔薇園を思い浮かべれば、花人たちから薔薇園の話を聞いたアリスたちの心の内も知れよう。
「急ごう」
「そうだな」
「うむ!」
 花人とアリスたちは、もう森へと入ってしまっている。
 ライラックの短な声にティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は大きく頷き、ふわりと浮かぶ。この迷わせの森の中に居るのは、愛らしき花の住人に名を貰い共にと幸せになろうとする少女たち。これから共に花開き、花園の中で幸せに暮らしていくであろう少女の生命を、幸せを奪わせる訳にはいかない。
 暗くて深い森だが、アリスと花人の元まではあまり迷うことなく辿り着ける。
 払われた枝の残骸を追って進めば、お揃いの服装――UDCアース等の学校を知っている猟兵ならば制服だとひと目で分かる服装――を纏ったふたりの少女と、花の頭の愉快な仲間たちの姿が見えてくる。
「やあ、君達」
「あ、旅人さん!」
 久しいね、なんて柔らかに語り掛けるライラックを振り返れば、パッとパンジーの花人が笑顔になった。愛しく優しい花束を抱えながら、涙池にぽろぽろと溢れた甘い蜜。彼らの姿を見れば否応なく想い出す気持ちに胸は悲しみに歪むけれど、だからこそ守りたいという想いが満ちる。寄り添い微笑い合う、アリスと花人たちを。
「気を抜かないで」
「わ、ありがとう。旅人さん」
 音もなく伸ばされた枝を、注意深く視線を向けていたまどかが払う。そんなまどかに、きっとまた花冠をいっしょに作ろうねと思っているのだろう、スイートピーが嬉しげににっこりと笑いかけていた。
 気付かない振りをして、まどかは口を開く。
「道は分かるの?」
「大体こっちって言うのは分かるよ。分かるけれど――」
「けれど?」
「わからなくなっちゃったね」
「ね」
 花人たちが顔を見合わせ、互いに確認し合う。こう進んできたから、向こうだよね、と。
「矢張り、枝が邪魔なのかい?」
「そうだよ、旅人さん。生垣が見えれば僕らは道が分かるのだけれど……」
 そう言って困り顔で視線を向ける先にあるのは、絡み合う枝だ。
「枝をなんとかすればよいのかえ?」
「お願いできるかな、旅人さん」
「おまかせあれなのじゃ」
 うむと大きく頷いたティルは、まず目の前の枝からどうにかしようかのぅと翼を広げ、白い羽根を射出する。カカッと羽根が突き刺されば、刺さった箇所がボロリと崩れた。
「わあ、流石旅人さんだね」
「旅人さんはお強いのですね」
「アリス、僕らも強いよー」
 初めて猟兵を見て目を丸くするアリスたちの両脇に花人が付き、空いている手を取って、繋ぐ。その仲の良い様子に目元を和らげたライラックが先頭に立てば、護衛対象であるアリスたちをちらと確認した英も隣へ並んだ。
「……菓子を落として行ってもいいか?」
 ふたりのすぐ後についてきたスイセンへ英が問う。
 どうしてと向けられる視線に、ああと言葉足らずに気付いて。
「迷わないように印があると良いかと思って」
「ありがとう、旅人さん。行き止まりに辿り着いてしまった時のことを考えてくれたんだね!」
 パァッと浮かんだ明るい笑みに、『こいつら切り拓いて進むことしか考えていないな』なんて思ったけれど、口には出さない。
「けれどお菓子を撒くのなら最後尾についた方がいいかもしれないね。僕たちが踏んで台無しにしてしまうかも」
「それもそうだな」
 アリスの前に立ち振り返りながら進むつもりだった英だが、後ろに下がって背中を守りながら菓子を撒き歩くことにした。
(離れない小指、か)
 雪白と薔薇紅を視界に入れ、じっくりと眺めれば視界に入る、ふたりの間で絡められた小指。アリスラビリンスに喚ばれる前のふたりは、どんな生活をしていたのだろうか。互いに離れられない存在だったのだろうか。疑問をいくつも浮かばせては、はらり、菓子を撒いて。
「あっ」
 雪白が、足元に伸びていた枝に足を取られてつんのめる。
 ただ絡めているだけに見える小指は、身体が傾けばするりと解けてしまいそうなのに、離れることはなく――薔薇紅の身体まで傾きそうになったところをすかさず傍らのスイートピーとチューリップがふたりを支えた。気をつけるんだよ、ごめんなさい、ありがとう。花人とアリスたちが微笑みあい、言葉を交わす。助け合い、支え合い、微笑み合って、離れられない――そこには慈しみが確りとあって、優しい空気に満たされている。
(……別に、俺は)
 何故だかそれがひどく羨ましく感じて、英は視線をそらした。別に、俺はひとりだっていいはずなのに。
「大丈夫じゃったかえ? 万一お怪我などあれば妾にお任せあれなのじゃ」
「ええ、ご心配をお掛けしてごめんなさい」
 お花さんたちのおかげでこのとおり。
 元気な姿を披露する雪白に、そうやって調子に乗るからよと薔薇紅が窘めれば、アリスたちが笑いあい、囲む花人たちが笑う。暗く陰鬱な森でも、雪白と薔薇紅がいれば花人たちの笑顔が尽きることはない。
(花人たちの『花』なのじゃな)
 羽根を散らして花の陣を描き、少しでも暗い森を花に満ちさせながらティルはそっと綻ぶように微笑む。この道だけでなくその先に花満ちる様な未来を願って。
「……結構進んだようだけれど」
「そうだね、いつもならもっと早く抜けられるのだけれど……でもきっとそろそろかな」
 まどかの言葉に、スイセンが頷く。
 物語を進めるには、何が必要?
 物語を描き事件を起こすための黒インク?
 人々を導く白い鳥?
 道を彩り物語を彩る花たち?
 注意を促し警戒しながらも連れ添う狼?
 菓子の家に向かう兄妹たちが残した道標?
 それとも――少女たちの笑顔だろうか。
 けれど全部、此処に揃っている。
 黒墨が払い、白羽根が花を描き、時折舞う花弁が切り裂いて。
 邪魔する枝を切り拓いて、前へ、ただ前へ。
 皆で往く路は、宛ら冒険のようだ。
「君達は薔薇を何で染める御心算?」
 振り返り、眼鏡の下の柔和に細められる。
「だめだよ、アリス」
「そうでしたわ、『ないしょ』」
「ええ、『ないしょ』でなくちゃ」
「――ふふ。僕もね、『ないしょ』」
 物語の先頭は、いつだって黒インク。
 太い枝をバサリと切り落せば――。
「抜けた」
 暗い森へ差し込む光へと、まどかが指をさす。
 最初に駆け出したのは誰だったろう。
 気をつけてと誰かが声を掛け、光へと駆けていく。
 少女と花人たちが、光の中へ溶けて消えいくようだった。
(ああ、やはり――)
 ひどく羨ましい。
 眩くて――世界がひとつ色付いたように見えて、英は瞳を細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『トラウマン』

POW   :    集まれ、心の闇
【周囲のアリスの負】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD   :    トラウマツールモード
【体の一部をアリスのトラウマを刺激する道具】に変形し、自身の【狙うアリスの記憶が一部戻ること】を代償に、自身の【攻撃力と相手の心を追い詰める力】を強化する。
WIZ   :    Hurtful cinema
戦闘力のない【が壊れない、アリスの心を映すスクリーン】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【思い出したくない記憶の断片を映す事】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リカルド・マスケラスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●とおせんぼ
 お花さんと旅人さんが、絡む枝を斬り道を拓いてくれました。そうして私たちは進んで、進んで。薄暗く、歪で、どこか恐ろしい森を抜けました。雪白が不安にならないように口にはしませんでしたが、私はとても不安で――指先の震えまで隠しきれていたかはわかりません。
 森を抜けた先には、白が広がっていました。青々と茂る葉に、八重咲きの白薔薇の生垣。小さなゲートの向こうは、きっと迷路のようになっているのでしょうね。
 森を駆け出て、そのままお花さんたちご自慢の薔薇園へ。
 ――けれど、私たちの足は止まってしまいます。

 ピュルルルルルルルル――……。

 どこからか、風を切るような音が聞こえてきました。
 風と私は思ったけれど、雪白には鳥の鳴き声に聞こえたようです。彼女が小さく呟く声が聞こえました。
 視線を彷徨わせたのは、ほんの少しの間だけ。
 私たちはすぐにその音の正体を知ることとなります。

 ドォォオオオォォォン!

 何かが墜ち、地面が揺れ、荒々しく風が吹き――私たちの疑問も消し飛ばされました。
 濛々と立ち込める砂煙。
 お花さんたちが、何かを叫んだような気がします。
 旅人さんの声も聞こえたような気がします。
 雪白の悲鳴だけが、はっきりと聞こえました。
 守らなくちゃ。私が守らなくちゃ。雪白は、私の――。

                              ◆薔薇紅

◆◇◆

 鐘が鳴る。青空に、鳩が飛ぶ。
 見上げた私は、髪を揺らして校舎に戻る。
 下級生の挨拶を笑顔で躱し、今すぐにも駆け出したい気持ちを抑え込む。それは教師たちの眉を顰めさせることだと、初等部からここで暮らす私はよくよく理解していたから。
 教室のドアに手をかける。ぐっと力を掛けかけて一度躊躇って、後は気持ちのままに。
 窓から空を眺めている■■の横顔が泣いているように見えて、私は名を呼びながら駆け寄る。柔らかな波を描く栗色の髪を光に溶かしたまま、■■が振り返る。泣いているように思えたけれど、彼女は泣いてはいなかった。
 ――泣きたいのはきっと、私。
 駆け寄った私を、■■は優しく抱きとめてくれる。
 最初に出会った初等部の頃から、■■はずっと優しかった。
「ついに、明日ね」
「ええ、明日」
「私たち、■■になるのね」
「ああ、どうしてこんなことに」
 神様の悪戯としか、言えない。
 私たちはふたり、寄り添い合って空を眺める。窓の外の色が変わるまで、ずっと。家に帰りたがらない、こどものように。
 ああ、鳥になって羽ばたいて何処かへいけたら、どんなに楽だろうか。

                              ◆◇◆

 広がるスクリーンに映し出されたのは、雪白でした。雪白を見る、誰かの視線――それはきっと、
「――嫌!」
 見ないで、見ないで、見ないで、見ないで、見ないで、見ないで、見ないで!
 どうか、暴かないでください。見ないでください。
 私たちだけの約束。私たちだけの秘密。私たちだけの思い出。
 けれど私たちは、スクリーンから視線が外せません。
 だってそれは、失われた私の記憶なのだから――。

●トラウマン
 空から落ちてきた巨体が咆哮する。
 濛々と立ち込める砂煙の中、赤く光る瞳をぎょろりと動かし的確にアリスを捕らえたのは、空から確りと場所を測っていたからなのだろう。
 宙に広がったスクリーンに薔薇紅が崩折れるのを見て、けたけたと楽しそうに嗤う。悲しむ姿が面白いのだろうか。簡単に人の心を揺らす力が楽しいのだろうか。力を手にした幼子のように楽しげに声を上げて笑って、そうしてにんまり。オモチャがひとつではないことを思い出したように瞳を三日月型に歪めた。

 スクリーンの映像が切り替わる。
 薔薇紅を抱きしめる雪白が、小さく息を呑んだ。
姫神・咲夜(サポート)
 桜の精の死霊術士×悪魔召喚士、女性です。
 普段の口調は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、
 片思いの人には「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

清楚で女流階級風の口調で、お淑やかな性格です。
基本的に平和的な解決を望みますが
戦わざるを得ない時は果敢に戦いに向かう勇敢さを持っています。

 あとはおまかせです。よろしくおねがいします!


メイリン・コスモロード(サポート)
『一緒に頑張りましょうね。』
人間の竜騎士×黒騎士、13歳の女です。
普段の口調は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「対人恐怖症(ワタシ、アナタ、デス、マス、デショウ、デスカ?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
人と話すのに慣れていなくて
「えっと……」とか「あの……」とか多様します。
戦闘ではドラゴンランスを使う事が多い。

その他、キャラの台詞はアドリブ等も歓迎です。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●薔薇の連なり
「なんてことをするのでしょうか!」
 巻き起こる風によって白薔薇の花弁が舞う中、響いた声に姫神・咲夜(静桜・f24808)はハッと驚いたように傍らを見つめた。同じ古城に顔を出すメイリン・コスモロード(飛竜の鉾・f13235)が怒りを露わにしている。それがとても、普段の彼女からは想像もつかなくて。
 人と話すことに慣れていないメイリンは人前では緊張することが多く、淑やかな咲夜からしてみても大人しい少女だ。
 けれどその少女が、確かな怒りを瞳に宿し、光属性のドラゴンランス『シリウス』を握りしめる手には力が籠もっていた。
 嫋やかな雰囲気の咲夜も、気持ちは同じだ。静かな怒りは胸の内。春の花見の提灯のように、ぽつんと淡い光を放って灯っている。
「咲夜さん!」
 強い口調で咲夜を呼んで、「はい、メイリンさん」と返る声に少しだけ冷静になったのだろう。そろりと伺うように咲夜へと視線が向けられた。
「えっと、その……力を、貸して頂けないでしょうか」
「ええ、勿論です」
 このオウガは美しい景色――咲夜が愛する花々が咲き、住民までもが花の生ける花々の国を壊すオウガだ。そしてオウガの向こうに見える花は、ふたりにとっても縁深いもの。荒らされるところなど見たいはずもなく、そうさせることは元より望まない。
 眼前で膝を折った少女も、花と一緒に散らせはしない。
 慈しみ深い瞳を一度伏せた咲夜は、強い意志を篭めて瞳を開いた。
「おいでくださいな」
 咲夜の求めに応じて現れた死霊騎士と死霊蛇竜が咲夜に傅いて。
 いきなさいと振られる桜枝の先へと、死霊騎士と死霊蛇竜が駆けていく。
 同時にメイリンがドラゴンランスをトラウマンへと投げつけ――。
『グ、ガ――!』
 トラウマンの巨体に死霊蛇竜が巻き付き行動を阻害し、離れる一瞬の隙きに死霊騎士が斬りつける。
「――ポラリス!!」
 槍が届いた瞬間、メイリンが高らかに声を上げる。
 メイリンが持つもう一つのドラゴンランス『ポラリス』がドラゴンへと変じ、トラウマンへと向かって滑空した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 土煙の中飛んだドラゴンのタックルにトラウマンの巨体が揺れ、ドォンと大きく地面が悲鳴をあげた。
 トラウマンは、倒れない。
 倒れないトラウマンの――少女たちの前で、スクリーンに映像が映し出される。


                              ◇雪白
◇◆◇

 誰にも言ってはいけない。
 誰にも告げてはいけない。
 この想いは隠し通さなくてはならない。
 あなたと出会った、初等部。――あなたは大人びていた。
 あなたに■をした、中等部。――あなたは私を避けていた。
 あなたと■■となった、高等部。――あなたの表情を忘れない。
 あなたと出会って十年。私は沢山変わった。それはこれからも――。
 学園を卒業したら、もっと私たちは変われるのだと思っていた。
 けれど――。

 からり、と聞こえた音に、あなたが来たのだと気がつく。
 けれど私は外を見つめたまま、すぐには振り返らない。
「■■――!」
 あなたが呼ぶ。私は振り返る。
 強くて綺麗なあなたの、泣きそうな顔。
 この想いを共有できる、唯一のあなた。
 泣き出しそうなあなたを抱きとめて、私はあなたから表情を隠した。
「私たち、家族になるのね」
 神様の悪戯ならば、何て酷な神様なのでしょうか。
 翼をもがれた鳥になった心地だった。

                              ◇◆◇
花房・英
スクリーンの映像は、彼女たちの記憶なのか
……こういうとき、どうするのが正解なのだろう
でも、俺だったら…
過去のこと見せられるのは嫌、だな
辛いことしか憶えていない

壊せないなら、隠せばいい
いけ
荒れ狂え
音すら掻き消すくらい
花弁をありったけ振り撒こう
敵の目隠しも兼ねながら攻撃する

だけど、もし彼女たちが映し出されるものと向き合おうとするのなら
その中に少しでも幸いがあったのなら
邪魔はしない

攻撃は花散里を主体に
Rosa multifloraで敵の動きを抑えて、他の猟兵のサポートをする
アリスたちに攻撃の手が及ぶなら、阻害する
花人たちが庇うんだろうけど、花が散るのを見るのは好きじゃない


旭・まどか
♢♡

耳障りだ。煩いその嗤い声を今すぐ已めてくれないか
他者の情や憶えを弄ぶものにロクなものはいないね
――常識が無いからこそ、平気でこころを弄べるのだろうけれど

スクリーンに映し出される在りし日の記録
最期を知らぬお前が笑う姿が映る度
僕の中の憎悪は膨らみ上がる
残念だね。僕のトラウマは原動力にしか成り得ない

ねぇ君たち
夢を見たくは無い?
現実から目を背け全てを失った真っ新な世界で
“ふたりだけ”で生きたいと、そうは思わない?

君たちが望むなら、優しい夜をあげる
目を醒ました時には嫌な事など目の前から消えている筈だ

けれど
向き合う勇気があるならば、その意思を尊重するよ
さぁ、どうする?
決めるのは他でもない、君たちだ


ティル・レーヴェ
嗚呼、何と無粋な事じゃろう
秘する記憶を想いを掘り起すだけに止まらず
其れを他者の見える所へと
あまつさえ楽しみ笑うとは何事か

失う記憶を引き出したいと
当人が願ったならいざ知らず
他者が土足で踏み入るなど……
言語道断と言うものぞ

彼女らの前に立ち
広げた翼で視界を覆ったとて
全て隠せるものでは無かろうが
秘したき其れが少しでもと
頼もしき子らよ
どうか彼女らをそうして集う皆をも護って

過去失う気持ちも
披けた其処に埋まる痛みも
決して同じとは言えぬが妾も知る所
あゝだからこそ
誰彼と容易に触れてはいけないの

知って欲しいと願うなら
如何な秘密とて過去とて聞き受け入れよう
されどそうでないのなら……
妾も見ぬ様にするよ
大切な、其れを


ライラック・エアルオウルズ
君が見たくないと感じるのなら、
見詰めるべきものなのだろうね
――けれど、今じゃない
悪趣味な真似は止めてくれる?

万年筆を絵筆と変えて、
画面を《アート》で塗り潰し
叶わずなら絵具踏み締めて、
《魔力溜め》て敵に向けよう

攻撃は《オーラ防御》で凌ぎ
タイミングを《見切り》、
行動妨害を兼ね乍ら絵筆走らせ
隙有れば敵前へ踏み込み、
その身を赤く染めるように

『ないしょ』にしたままでも良い
それはきっと、君だけのものだ

――ああ、然して

君自身に『ないしょ』にしては
忘れたままでは、いけないよ
緩やかで良い、どうか見詰めて

ふたりならば、怖くはないさ



●薔薇のアルマンド
 花人たちがふたりのアリスを呼ぶ。立てるかどうか問いながらふたりを支え、邪魔をするなと言いたげに振るわれる腕を視界に捕らえても、彼らは臆しはしない。
 今度こそ、僕らがアリスを護るんだ。
 脅えないで、僕らのアリス。
 かつてこの地に居たアリスとは違うアリスだけれど、新しく来てくれたアリスたちを受け入れ、愛している。向かってくる腕に向けられる花人たちの瞳に宿る蜜は、彼女たちの心まで護れなかったことに対して感じた不甲斐なさから来る蜜だ。
「――させない」
 アリスたちを庇おうとする花人たちの前へ、英が滑り込むように割り込む。振るわれる腕に『無銘』を構えるが、巨体から繰り出される衝撃を殺し切る事は出来ない。
 花人たちが庇うであろうことは、この場にいる誰もがきっと解っていた。けれどそれを良しとせず、真っ先に動いたのが英だった。花が散るのを見るのは好きではない。守れる距離で、守れる力があるのならば、英は迷わずその身を敵前へと晒す。
 耐えて沈みかけた足が、浮かぶ。押し止めず、振り払われた方がダメージも少なく、アリスや花人たちへの被害もないだろう。巡らされた一瞬の判断でその身を任せれば、花人たちの眼前でその体は横へと薙ぎ払われた。
 払われた身体は森を形成している木々の幹へと叩きつけられる――ことは、なかった。
「おっと。――大丈夫かい?」
「すまない」
 花人たちの前へ駆けゆく背を見たライラックが、英が吹き飛ばされるであろう方向へと周り、彼の背を支えた。アリスたちが一人ではないように、猟兵たちも一人ではない。協力しあい、支え合い、ともに戦う力がある。
「耳障りだ。煩いその嗤い声を今すぐ已めてくれないか」
「嗚呼、何と無粋な事じゃろう」
 英の代りに、まどかとティルがアリスと花人たちの前に立つ。
 ふたりが覚えるのは、確かな怒り。秘した記憶を呼び覚まし、あまつさえそれを他者の目に触れさせる。そうして苦しむアリスたちを嘲笑うオウガ。
「他者の情や憶えを弄ぶものにロクなものはいないね」
「全くじゃ。他者が土足で踏み入るなど……言語道断と言うものぞ」
 常識が無いからこそ平気で心を弄ぶのだろう、とまどかが口にすれば、ティルも確りと頷き同意を示す。
 ひとが秘したいと願う『ないしょ』は、その人が話したいと思った時に、話したいと思った相手へと告げるもの。それを暴いて晒して良いものではない。記憶を失った彼女たちがいつか自分でその記憶へと行き着くのならばいざ知らず、何の心の備えもないままに悪意ある他者に知らしめられるものであっていいはずがないのだ。
 少しでもアリスたちの目に触れぬように、ティルは小さな白翼を広げる。小さな白翼では全ての視界を覆えるものではないと知っていても、少しでも彼女たちの目に触れぬように、と願った。
 まどかが静かに睨みつける視線の先――スクリーンには、次々と花人たちにアリスと呼ばれる少女たちの過去が映し出される。悩み、戸惑い、昇華して。そうしてまた訪れた不幸に嘆く少女たちの姿。もしもまどかが『アリス』だったならば、そこにはまどかの記憶も映し出されていたことだろう。何が映し出されるか、なんて。想像に、容易い。
(最期を知らぬお前が笑う姿が映ったことだろう)
 けれどそれが映されたとしても、まどかが悲しむことはない。ただただ不快感と、憎悪が膨らみ上がったことだろう。まどかのトラウマは、原動力にしか成り得ない。
 鮮やかな赤と白が、宙に線を引いた。絵筆を握ったライラックが、まどかとティルの横を駆け抜けていく。万年筆を絵筆へと持ち替えた彼が何をするかなど、解りきったこと。小さく彼の愛称を呼んだティルは羽根を揺らして見送って。
「君が見たくないと感じるのなら、見詰めるべきものなのだろうね」
 けれどそれは、今じゃない。いつか見詰めなければいけない時は来るだろうけれど、今ではないのだ。
「悪趣味な真似は止めてくれる?」
 絵筆を握った絵筆を振るう。白い薔薇を塗り替えるペンキのように、白いスクリーンを塗りつぶしてしまおうと――《薔薇のあやまち(ペイント・ザ・ローズ)》を発動させて。
「――っと」
 しかし絵筆は、スクリーンまで届かない。
 トラウマンがそうはさせぬと腕を振るう。ブンッと聞こえた風鳴に気づいたライラックは、オーラを籠めた絵筆でトランプ兵を描いて防御に転じた。
 ひらり。青い薔薇の花弁が舞う。
 大きく振られたトラウマンの腕を避けて、ひらり、ひらり。
 英には、こういう時にどうすればいいか解らない。正解なんて知らない。もしかしたら、正解なんてないのかもしれない。どうするかなんて、きっと人によって違うから。
(でも、俺だったら……)
 過去のこと見せられるのは嫌、だな。そう、思った。辛いことしか憶えていない英は、それを暴かれ晒されるだなんて、絶対に嫌だ。
 正解なんて知らない。けれど他の猟兵たちも彼女たちに見せないようにと覆い隠そうとしている。ならば、『これが正解』だろう。
 ――けれど、彼女たちが向き合おうとするのならば邪魔はしない。
 ちらりとだけ、アリスたる少女たちを振り返る。何も解らない状態で突然記憶を叩きつけられるのは辛いことだろう。ティルの翼の後ろで、未だ立ち上がれずに居る少女たち。今はまだその時期ではない事が察せられた。
「いけ、荒れ狂え」
 ひらりと舞った穏やかさが夢幻だったかのように、青い花弁の勢いが増す。持てる武器全てを薔薇の花弁へと変え、《花散里》によってスクリーンを覆い隠した。『ないしょ』はいつだって薔薇の下に隠すのがお約束。
 薔薇の嵐はトラウマンをも巻き込んで。
 そこへ、赤に塗られた白の薔薇の花が咲く。
「『ないしょ』にしたままでも良い。それはきっと、君だけのものだ」
 時が来たら、見詰めればいい。けれど今は、塗り潰してしまおう。
 けたけたと嗤う不快な悪を、スクリーンの白を、全部、全部。
 青い薔薇のUnder the Rose.
 赤白絵の具のPaint the Rose.
 ふたつの薔薇を瞳に映したティルが目を瞬かせる。
 過去を失う気持ちも披けた其処に埋まる痛みも、ティルには解る。痛みも想いもその人だけのものだから、同じだとは言い切れない。けれど、解る。解ってしまうから――。
(――あゝだからこそ、誰彼と容易に触れてはいけないの)
「頼もしき子らよ」
 宝石角の有翼獣を喚ぶ。
「どうか彼女らをそうして集う皆をも護って」
 護りたいと言う気持ちが喚ぶ有翼獣の顔を撫で、其れ等の半数はアリスたちの護りに就かせ、残り半数はトラウマンへと差し向ける。
「妾も見ぬ様にするよ」
 アリスたちが見られることを望まない、秘密。暴きはしない。けれど聞いて欲しいと知ってほしいとねがうのならばその時は――。
 背後の少女たちに届くだけの声量で、そっと零した。
「ねぇ君たち、夢を見たくは無い?」
 薔薇が舞い、描かれ、有翼獣が駆ける中、まどかは静かにアリスたちへと語りかける。
「現実から目を背け全てを失った真っ新な世界で、“ふたりだけ”で生きたいと、そうは思わない?」
 振り返るピンクアイが問いかける。望むのなら、優しい夜をあげる。ただ夜を受け入れて、眠っていればいい。そうしたら嫌なことなんて全て消えているから。
「わたし、は――」
「わたしたちは――」
 雪白と薔薇紅が顔を上げてまどかを見る。
 戦う、猟兵たちの背中を見る。
 護ってくれている、護られている。戦って、くれている。
 絡む小指へきゅうと力を籠めたのはどちらが先だったろうか。一度だけ視線を交わしあった雪白と薔薇紅は、一度だけきゅっと唇を噛み締めて。そうしてまどかを見た。
(ああ、決意を固めた顔だ)
「わたしたちは、あなたたちの背中を見ていたい」
「あなたたちが分けてくれた心に応えたいのです」
「アリス……」
 寄り添う花人が、ふたりのアリスを抱きしめる。
「わたしたちに、あなた方の勇気を分けて下さい」
「それが、わたしたちの、今の望みです」
「……そう」
 君たちがそう願うのなら、僕たちもそれを見せねばならないね。
「ご覧。悪夢が消え去るよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『Under the Rose』

POW   :    ――あのね、だぁれにもないしょだよ。

SPD   :    ――ねぇ、しってる?

WIZ   :    ――君にだけ教えてあげる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


束なのだから。
 『ないしょ』を共有するのも、そっと隠してしまうのも。
 秘めるか秘めないかさえも、ふたりだけの秘め事だ。
「行こう、アリス。かくれんぼをしよう」
 花人たちに手を引かれ、ふたりのアリスは薔薇園へと入っていった。

●隠恋慕
 むかぁしむかしのお話です。
 恥ずかしがり屋の白薔薇をご存知でしょうか?
 遠目には真白で美しく、凛とした佇まいは皆からの憧れの的。白薔薇と話したいと願うひとは後を絶ちません。
 けれども白薔薇は、自ら誰かの前には現れようとはしません。何故なら白薔薇は、とても恥ずかしがり屋だったのです。
 誰かの前に出るだけで、頬は薄紅に染まってしまいます。白を保てなくは皆が望む『白』薔薇ではない、と悩んでいたのです。
 朝露の美しいある朝のこと。白薔薇は女王陛下に願いました。
「全てを統べ全能なる方、お願いがございます。わたくしをどうか、皆に望まれているような花にしてください」
 白薔薇の美しさを愛していた女王陛下は、その願いを叶えます。白薔薇が望むとおり、皆に望まれる姿を与えてくれたのです。
 こうして、恥ずかしがり屋の白薔薇は頬を染めること無く誰とでもお話が出来るようになりました。
 めでたし、めでたし。

「けれど白薔薇はね」
 生垣に白の薔薇咲く薔薇園は、広大な迷路となっている。案内をしながら、黄薔薇が口を開いた。
「誰とも会わずにいたから特定のお話に弱くって、そのお話を聞くと真っ赤に染まってしまうそうなの」
 ひと前に出る恥ずかしさとは別問題。
 だからこの薔薇園で『ないしょ』を白薔薇に話すと、真っ赤になってしまうの。
 黄薔薇が笑い、スイートピーが甘く囁きアリスの手を引く。

 さあ、隠してしまいましょう。誰にも言えないあなたの気持ち。
 あなたの『ないしょ』を、白薔薇だけが知っているの。
======================

⚠ MSより ⚠
スマートフォンで操作をしたら、上の方の文章が切れてしまいました。
見づらくて申し訳有りませんが、全体の文章をこの下にあげ直してあります。

======================

●かくれんぼ
 トラウマンの巨体が、倒れる前に光の粒となって消えていく。
 絵の具をピッと払った文字書きが振り返り、「ふたりならば、怖くはないさ」と薔薇園を指差した。
 抱えた『ないしょ』を隠すなら、薔薇園はもってこい。
 ――Under the Rose.
 ここで交わされる会話は、すべて『ないしょ』がお約束なのだから。
 『ないしょ』を共有するのも、そっと隠してしまうのも。
 秘めるか秘めないかさえも、ふたりだけの秘め事だ。
「行こう、アリス。かくれんぼをしよう」
 花人たちに手を引かれ、ふたりのアリスは薔薇園へと入っていった。

●隠恋慕
 むかぁしむかしのお話です。
 恥ずかしがり屋の白薔薇をご存知でしょうか?
 遠目には真白で美しく、凛とした佇まいは皆からの憧れの的。
 白薔薇と話したいと願うひとは後を絶ちません。
 けれども白薔薇は、自ら誰かの前には現れようとはしません。何故なら白薔薇は、とても恥ずかしがり屋だったのです。
 誰かの前に出るだけで、頬は薄紅に染まってしまいます。白を保てなくは皆が望む『白』薔薇ではない、と悩んでいたのです。
 朝露の美しいある朝のこと。白薔薇は女王陛下に願いました。
「全てを統べ全能なる方、お願いがございます。わたくしをどうか、皆に望まれているような花にしてください」
 白薔薇の美しさを愛していた女王陛下は、その願いを叶えます。白薔薇が望むとおり、皆に望まれる姿を与えてくれたのです。
 こうして、恥ずかしがり屋の白薔薇は頬を染めること無く誰とでもお話が出来るようになりました。
 めでたし、めでたし。

「けれど白薔薇はね」
 生垣に白の薔薇咲く薔薇園は、広大な迷路となっている。案内をしながら、黄薔薇が口を開いた。
「誰とも会わずにいたから特定のお話に弱くって、そのお話を聞くと真っ赤に染まってしまうそうなの」
 ひと前に出る恥ずかしさとは別問題。
 だからこの薔薇園で『ないしょ』を白薔薇に話すと、真っ赤になってしまうの。
 黄薔薇が笑い、スイートピーが甘く囁きアリスの手を引く。
 さあ、隠してしまいましょう。誰にも言えないあなたの気持ち。
 あなたの『ないしょ』を、白薔薇だけが知っているの。
🌹

●ふたり
 花人や猟兵たちと別れた薔薇紅と雪白は、生垣に沿って歩んでいく。
 きゅ、と絡められた小指は、少し前までとは違って意思のあるもの。
 想いを分けてもらった。
 勇気を与えてもらった。
 ここから先は、二人で歩んでいく道。
 二人なら、大丈夫。
 二人なら。
 ――何年か前にも、二人でそう口にして、誓った。学園を卒業して、おとなになって、親に縛られない自由な身になったら――その先を、夢見ていた。
(けれどそれは、叶わないものになってしまったのよね)
 薔薇紅の瞳に影が落ちる。
 信じて、望みを絶たれて、終わらせるつもりだった。ふたりで永遠になる、つもりだった。
 けれど今は全てをなくしてここにいて、また『二人なら大丈夫』、そう思えている。
 そのことがひどく、不思議に思えた。
「この子にしようかしら」
 傍らから聞こえた声に視線をやれば、雪白が微笑んでいる。大丈夫だと薔薇紅に告げている。
(そういえば、こんな顔で微笑う子だったわ)
 波打つ栗色の髪は柔らかく、優しいお姉さまだと下級生たちから慕われているのに、その実芯が強い。だぁれも知らない、薔薇紅だけが知っている顔だ。
(嫌い、だったのに)
 好きに、なった。
(口を開けば嫌味ばかりを言う私は、あなたにとって嫌な存在だったでしょうに)
 いつも優しく微笑う彼女は、出逢ったときから変わらない。
 薔薇紅は雪白が見つめる白薔薇へと手を伸ばし、優しく撫でた。
「そうね、この子にしましょう」
 柔らかな声に、雪白は微笑む。
 此処へ来る寸前までの、今にも張り裂けてしまいそうな薔薇紅は何処にも居ない。
 悲しんで、日に日にやつれていく薔薇紅を見るのは辛かった。けれどそんな彼女はもう居ない。幸せになってほしい、微笑んでいてほしい。そう願って、絡む指にそっと力を籠めた。
「白薔薇さん、お話を聞いて下さる?」
 誰にも言えなかった私たちのこと。
 ――私たちは、愛し合っているのです。
 約束を、しました。ずっと一緒に居る、約束。
 学園を卒業したら二人で暮らして、それからずっと一緒にいる約束を。
 けれど現実は、愛し合う私たちを引き裂こうとしました。
 お互いの親が再婚し、姉妹になってしまったのです。
 帰りたく、ありません。
 許されるならば、此処でずっと一緒に。
 二人で生きていきたいと思うのです。
 親不孝でしょうか? 私たちのために再婚をしたのに。
 親不孝でしょうか? 彼らが望む未来を見せられないのは。
 それでも、私は――。
「薔薇紅が好き」
「雪白が好き」
 どうか白薔薇さん、『ないしょ』にしておいてくださいね。

 ――白薔薇は微笑むように、ゆっくりと赤く染まりました。
旭・まどか
♢♣

君達はこれからどうするの?
結った小指の契りが潰えない限り
君達は君達の思う侭、在るが侭に生きれば良い

それが君達が選択した未来なのだから

手伝ってくれる隣人は沢山いるでしょう?
捨て置いた道を悔い惜しむ事はあっても、懺悔する必要は無い
それが君達の人生――君達が選んだ道だもの
好きに生きれば良いよ


彼女らから離れ、向かうは真白の君
君へ語らう言葉を
秘せる『ないしょ』を持っていれば良かったのだけれど

すまないね
其は、僕にとって一番程遠い感情だから
君を赤く染める事は出来ないんだ

代わりに少し話を聞いてくれるかい

なに、すぐに終わる
瞬きの間に過ぎてしまったとても短い時間だったから

なにって?
――愚かな愚かな、仔狼の話さ



●ひとひら
 薔薇園の中を散策する、ふたりのアリス。
 一人で散策をする途中、その姿を見つけたまどかは、静かにふたりの側へと近寄った。
「君達はこれからどうするの?」
 ふたりが思う儘に、在るが儘に生きれば良いと思いながら声を掛ければ、ふたり分の視線が向けられる。それはとても、穏やかなものだった。困惑も動揺も、涙もない。花園が似合う、穏やかな瞳だった。
 その瞳に、敏いまどかは悟る。ふたりが既に、未来を決めていることを。いいや、元々決めていたのだろう。そう、きっと、喚ばれる前に。
 まどかを見たふたりのアリスは、そっと顔を見てから契られたままの小指を持ち上げ、淡く笑む。
「もう、決めていますの」
「ええ、ずっと前に」
 先に口を開いたのは、薔薇紅。続いて雪白。
 本当はね、薔薇の蕾のような唇が開かれる。
「私たち二人は、永遠で閉ざしてしまうつもりでしたの」
「けれどここに喚ばれて、何も知らない私たちは『生きて』しまいました」
「ねえ、旅人さん。――此処で生きて、良いのかしら?」
 優しい花人たちには言えない『ないしょ』。
 勇気を分けてもらったから、それに此処は薔薇の下だから。と、少女たちは柔く笑む。
「それが君達が選択した未来なら」
 少女たちが望めば、優しい隣人たる花人たちは幾らでも手を貸すことだろう。彼女たちが幸せに生きるために必要なことに、全力で。
「好きに生きれば良いよ」
 望まないならば元の世界に戻る必要はない。此処で生きればいい。
 ふたりの横を、まどかは通り過ぎる。
 『ありがとう』を背中で聞いて、白薔薇の生垣迷路を気の向くままに歩き、進む。
 どの白薔薇でも良いけれど、まどかには真白の君へ語らう言葉を、秘せる『ないしょ』を持っていない。其の感情はまどかにとって一番程遠いものだから。
 けれど代わりに話せることはあるから、と茂みに隠れる真白へと近寄って。
「聞いてくれるかい」
 茂みに隠れるように佇む白薔薇に、そっと唇を寄せた。
 赤く染めることは出来なくとも、まどかの話はきっと白薔薇を退屈になんてさせない。
 飽きてしまうほどの長さのない、ほんの瞬きの間に過ぎてしまう、短な話。
 なにって、それは。
 ――愚かな愚かな、仔狼の話さ。

 ――白薔薇は白のまま、穏やかに揺れました。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花房・英
…彼女たちは、特別な好きだったんだな

俺、高校卒業したら俺の好きにしていいって言われてるんだ
住むとこも、仕事のことも
…俺はひとりでも平気だし、あいつもひとりならひとりでも大丈夫だって笑う
でも、居心地いいんだ
安心する
ああいうの家族って言うのかなって
…ずっと守ってもらってばかりなんだ
仕事以外でも役に立ちたい
ひとりにしたくない
あいつは強がりで寂しがりだから

あ、赤くなった
…ん?いや別に。これは、恋じゃないし…ない、よな?
思わず真顔になってしまう

…きっと本当の家族になんてなれっこない
分かってるんだ
ただ、『今』を手放すのが怖い

言葉にしたら、少しすっきりしたかも
帰ったら、庭の手入れするかな



●かぞく
 緑にぽつりぽつりと咲く白へと手を伸ばし、そっと撫でるように触れる。
 艷やかで、瑞々しく、そして儚い花弁。片手に収まる白花は、握りしめるだけでくしゃりと散ってしまうだろう。だからこそ慈しみ、散らさないようにしたい。人にこうして手を伸ばすのにはまだ躊躇いを覚えてしまうけれど、花になら。花になら、いつだって英は優しくあれた。
「……彼女たちは、特別な好きだったんだな」
 ぽつりと零された、小さな声。聞き留めるのは、目の前の白薔薇しかいない。
「なあ、俺の話も聞いてくれるか?」
 言葉を返さぬ白薔薇に視線だけを柔らかに落とし、口を開いて話し出す。
 英と『あいつ』のことを。
 英は、高校を卒業したら好きにしていいと言われている。それは住むところも、仕事のことも、全部含めて英の好きにしていいって――あいつが。
 あいつが言う通り、英はひとりで暮らしても、ひとりで過ごしてもきっと大丈夫。平気だ。離れたって縁が切れてしまう訳でもない。会いたくなれば、いつだって会えばいい。
「でも、居心地いいんだ」
 安心するんだ。あいつの側が。
 ああいうのが家族って言うのかもしれないなと口にした英は、何処か遠くを見るような目をする。瞳の奥に宿る色は優しく、穏やかだ。目の前には咲いていないのに、朝顔のような、夏の香りがした。
 あいつもひとりでも大丈夫って笑っていた。けど、あいつが強がりで寂しがり屋なことを、英は知っている。いつも英の心を護って、側にいて、そうして背中を押してくれる。英に気を使わせないように、お日様のように笑って。
 仕事以外でも役に立ちたい。ひとりにしたくない。あいつが強がらなくていいように、強くなりたい。寂しくならないように、側にいたい。朝顔の支柱のように、支えられるようになりたい。
「なんて、思ってるんだが――あ、赤くなった」
 本当に赤く染まるのか、不思議だ。
 そう思ったのは一瞬。またと思い出したように、固まって。
「……ん? いや別に。これは、恋じゃないし……ない、よな?」
 思わず真顔になったけれど、照れるような要素があったか? と優しく撫でた。
「俺、さ。『今』を手放すのが怖いんだ」
 きっと本当の家族になんてなれっこないことなんて、分かっている。分かってるんだ。
 瞳を閉じて、脳裏に姿を映す。
 大きく息を吐いてから、うん、と頷いて。
 そうしてあげられた顔は、どこかすっきりとしたものになっていた。
「話、聞いてくれてありがとな」
 帰ろう、あいつの待つ家へ。
 ただいまを告げて、庭の手入れでもしよう。
 思い描いた情景に自然と穏やかに微笑って、英は薔薇園を後にした。

 ――赤く染まった白薔薇は、微笑ましげに揺れました。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
しおらしい話だ
赤でも白でも薔薇は美しいのに
しかし内緒話で染まるとは愛らしい

園の奥へひとり花を眺め
白い花のかんばせを見ると
思い出してしまうのが、よくない

隠れんぼは君の方が得意だろう
わたしはあまり得意じゃないから
口に出来ない言葉は、此処へ置いて行くよ

白薔薇に手を添え
耳打ちのように顔寄せて

こうして君に触れられたら
きっと幸福だろうね

信を置いてくれたことを
裏切るような真似はしたくない
君の時間を奪うくらいなら
黙って去るべきだろう
何もかもが違い過ぎる
瞬きの間に君も消えてしまう

そしてまた後悔を繰返すなら
白薔薇よ、いっそ枯れてはくれないか
…まだ言の葉は届くだろうか
影を追うより隣にいて欲しいなんて
我儘を、すまない



●かんばせ
 楽しげにアリスへと語る黄薔薇を見て、覚えたのは微笑ましさだった。
 しおらしく、それでいて愛らしい昔話。薔薇は赤でも白でも美しいのに、少女のように気にした薔薇。見目を気にして、完璧を手に入れて、けれど心までは変わらぬために内緒の話に身を染めて――そんな姿が目裏に宿るようだった。
 静かにくつりと鳴った喉を自覚して、高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)は薔薇園の奥へとひとり、足を向けた。
 新緑に、白が映える。
 白い花のかんばせに『君』を思い出してしまうのは癖に近い。よくないと思いながらも止められるものでもないから、仕方ないのだと思うことにした。
 隠れんぼが得意なのは君だった。梟示は身体を隠すのも、言葉を隠すのも、得意ではなくて――だから、君に告げられない言葉は此処へ置いていこう。そう、思った。
 生垣の影に隠れる君を探してしまわないように、白へと瞳を止める。
 頬に触れるように、伸ばした手をそっと添えて。
 耳へと睦言を落とすように、顔を寄せて。
 そっと、そっと。薄い唇を開いた。
 ――こうして君に触れられたら、きっと幸福だろうね。
 君を想う。
 信を置いてくれたことを裏切るような真似はしたくない。
 君の時間を奪うくらいなら、黙って去るべきだろう。
 何もかもが違い過ぎる瞬きの間に、君も消えてしまう。
 想いは胸に浮かび、表には出せぬまま、燻って消える。
 手を伸ばして頬に触れることも叶わず、伸ばし掛けそうになっては押し止める。
 ああ、本当に。こうして触れられたら、と思わずにはいられない。
 瑞々しい花弁を、つ、と撫でる指先に宿る色は赤。
 染まった色を瞳に留め、零した言葉にすら、既に後悔の念が湧いてくる。
「白薔薇よ、いっそ枯れてはくれないか」
 影を追うより隣にいて欲しい、なんて。
 自嘲するように不健康な顔が歪む。
「我儘を、すまない」
 吐き出した息は、愛を囁くよりも重たいものだった。

 ――白薔薇には、誰に向けられた言葉なのかはわかりません。
 けれども恥ずかしげに、その身を赤く染めました。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
ペペル嬢(f26758)と
白薔薇殿へ語るのは、恋を知らない私達の、夢見心地な理想の話
どうか内緒にしておくれ
いつか恋を知る時まで、大事に秘めておきたいんだ

彼女の甘くて優しい夢のような恋物語を聞きながら
儚く寂しい恋の結末をほんの少し過ぎらせて
少女に重なる人魚の苦い涙を思い描く

悲しいくらいなら、恋なんて
思わないこともないけれど―

私はね、応えてくれる声が聞きたい
好きだと告げる言葉も
傍に居たいと願う思いも
一人では成り立たないから
優しい声と、暖かな温度を伝えてくれる
そんな、ささやかなことを、幸せだと笑い合うんだ

その笑顔には、きっと熱があり、甘さがある
それを一番近くで見てみたい、なんて
欲張りに、思うんだ


ペペル・トーン
エンティちゃん(f00526)と
これは私の理想 絵本のようなお話よ
とてもわがままな恋よ

波音がしないこの胸に 響くような恋がいいわ
荒波じゃなく 心地いい波
好き、の言葉で心が揺らぐ
私に好きを教えてくれる 優しい波が寄せる恋
揺蕩う言葉で 互いの頬を染めるような 熱のある恋
染めた頬におかしく笑って 手を繋ぐのよ 楽しいねって

反対の手には 私のゴースト達もいて
少し妬かれて 一緒に宥めて 困らせて

ゴーストも 貴方のことが大好きで
貴方を取り合って遊んで でも 最後に私を選んでくれて
お話をして 色んな所へ連れ出して
ずっと一緒と言ってくれる

私を泡にしない そんな夢

貴方のお話も いつか本当になると
とても ステキね



●りそうのこい
 さて、何を話そうか。と言っても、私は恋をしたことがなくてね。話せるようなことがないのさ。
 あら、それならこうしましょう? お互いの理想の恋のお話をするの。
 素敵じゃない? とペペル・トーン(融解クリームソーダ・f26758)が微笑めば、エンティ・シェア(欠片・f00526)がにっこり笑って。それじゃぁ聞いてくれるかい? と白薔薇へと声を掛けながら、お先にどうぞとリトルレディに視線を向けた。
「これは私の理想 絵本のようなお話よ」
 ペペルは、とてもわがままな恋がしたい。
 絵本の中のヒロインは、みぃんなそうでしょう? だから私も、わがままな恋を夢見ているの。
 それは、波音がしないこの胸に響くような甘い恋。
 穏やかな好きの波が押し寄せて心を揺らす、心地よい海のような恋。
 私に好きを教えてくれる波の発生源は、貴方。
 寄せては返す『好き』の波で互いの気持ちを揺らし合って、海に沈む夕日のように恋に落ちれば――波も、頬も、自然と赤く染まってしまう。太陽の熱さはきっと、恋の熱。
 反対の手にゴースト達が居るのも忘れて、私は恋に、貴方に、夢中になるの。
 互いの頬の朱に気がついて笑って、手を繋ぐ。そんなひと時が愛おしくて、また楽しく思えて微笑い合う――そんな私に、ゴーストは達が少し妬いてしまうかもしれないわ。
 私が大好きな貴方のことは、ゴースト達も大好き。だから妬いて困らせてきても、私と貴方がそろって宥めたら折れてくれちゃうのよ。ううん、寧ろ貴方を取り合いになってしまうかも。私とゴースト、どっちが大事なのって詰め寄って、貴方を困らせるのも楽しいかもしれないわ。
 けれど貴方は、最後には必ず私を選んでくれる。わかっているの。
 貴方と私とゴーストは、いつもいっしょ。お話も、お出かけも。その先も、ずぅっと。
 貴方は約束してくれる。私とずっと一緒に居てくれるって。
「私を泡にしない。そんな夢のような恋よ」
「素敵な恋物語だね」
「でしょう?」
 少女らしく甘やかで、可愛らしい恋物語。けれど儚く寂しい恋の結末を、ほんの少しだけ頭に過ぎらせた。
(悲しいくらいなら恋なんて、と思わないこともないけれど――)
 胸に過ぎった少女に重なる人魚の苦い涙への思いを、表面に出しはしない。にっこりと笑って、エンティは素敵だと繰り返した。
「エンティちゃんの理想は?」
「私の理想はね」
 エンティは、欲張りな恋がしたい。
 私はね、応えてくれる声が聞きたいな。
 好きだと告げる言葉も、傍に居たいと願う思いも、一人では成り立たないから。好きに好きを返してくれて、傍に寄り添ってくれる。優しい声と、暖かな温度。そんな細やかな事を幸せだとともに笑い合い、お互いを瞳に映し合う。一人では出来ない事やひと時を分かち合いたい。
 私を好いてくれる君の笑顔には、きっと熱があり、甘さがある。
「それを一番近くで見てみたい、なんて。欲張りに、思うんだ」
 そうして好いた君の瞳に映ったら、私の姿も映り込むだろう? その時に私がどんな表情をしているのかも、私は気になるんだ。君と同じ顔をしているのかな。していたらいい。そんな私を、今は未だ、想像ができないのだけれど。
 こんな感じかなと微笑めば、エンティのお話はおしまい。
「貴方のお話もいつか本当になると、とてもステキね」
 微笑むペペルの前で、白薔薇が赤く染まる。
 お話と一緒ねと瞳を輝かせるペペルの傍らで、ああそうだと思い出したようにエンティは、赤く染まった白薔薇に内緒話をするように唇を寄せる。
「白薔薇殿、どうか内緒にしておくれ」
 いつか恋を知る時まで、大事に秘めておきたいのだから。

 ――赤く染まった白薔薇は、少女が笑うように揺れました。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

東雲・咲夜
🌹【藤桜】
かくれんぼ、隠恋慕…ふふ、おもろい言葉遊び
うちの御話も聴いてくれはる?
誰にも言えへん、内緒の戀――

生まれた時からうちの宿命は決まっとったの
代々そうやったように
神様のお嫁さんになるんやって
せやからだぁれも好きにならへんよう生きとった
…それがあかんかったんかな
甘えるのも、本音を言うんも、いつも双子の弟

うちの『とくべつ』は比翼の片割れ

そのきもちが依存めいた『戀』になってから
いろんなひとを『愛』してしもた
巫女であり血族…報われへん想いやさかい
虚しさ惨めさを感じひんよう
…『愛』してもろたら、此の痛みが紛れるから

嗚呼、醜いうちの物語
綺麗なそうくんには聴こえてへんかな
内緒にしとってね…白薔薇さん


朧・蒼夜
【藤桜】 🌹

この華が白薔薇かな?
彼女と逸れて探していると綺麗な白薔薇が一輪

彼女を探そうと思ったが足を止めて話かける
心に秘めた想いを

彼女と出逢ったのは幼き頃
良く笑う天使の様な子
その時はまだこの想いが何なのかわからなかった

父親違いの妹に告白された
好きだと
血が繋がってるとか関係無くその時浮かんだ顔は彼女しか無かった

その時気付いた俺の気持ち

でも彼女の大切な相手は違う人
それはずっと傍に居たから気付いてた
それでも俺はいいと思った
他人から何を言われようと俺の特別は彼女

咲夜も白薔薇を見つけただろうか?
きっと哀しい想いをしてるかもしれない

聴いてくれてありがとう
彼女の傍に行かないと
あの子の笑顔護ると誓ったから



●こい
 そうくんにも内緒やからね。
 そう言ってほんのひと時離れただけなのに、今頃彼女はどうしているのだろうか……なんて考えてしまった朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)はフ、と息を吐く。愛おしい姿を思い浮かべて漏れた笑みと、今にでも探しにいきそうな自分への苦笑だ。
 そんな蒼夜の心を知らず、東雲・咲夜(桜妃*水守姫・f00865)はひとりで薔薇生垣の迷宮を彷徨う。隠恋慕とかくれんぼ。面白い言葉遊びだと小さく微笑って。
「ねえ、白薔薇さん。うちの御話も聴いてくれはる?」
 それは、誰にも言えない内緒の戀の話。
 咲夜の宿命は、生まれた時から決まっていた。
 東雲の娘は代々数多の神々から寵愛を賜る巫女『水守姫』。神に愛され、仕え、神嫁となる。それが東雲の家の娘のしきたりで、宿命。粛々と受け継がれる変えられない宿命。咲夜もまた、家のためにも、人々のためにも、そうあらねばならぬと教えられ、そうあらねばと己を律してきた。
 他の誰かを好きになってはいけない。裡にいれてはいけない。
 そうして人と線引いて、距離を取って――それがいけなかったのだろう。今なら解る。
 咲夜が甘えるのも、本音を言えるのも、いつも双子の弟だけだった。
「うちの『とくべつ』は比翼の片割れ」
 弟離れできない姉だと思っていた気持ちが、『戀』だと気付いたのはいつだっただろうか。いけないと自分を律して離れるには遅すぎる。彼無しでは生きていけないと心が涙を零してしまう。
 許されない戀を知った。色んな人を『愛』してしまった。
 報われない想いを胸に抱いて生きるには辛すぎて。せめて虚しさや惨めさを感じないように――この痛みが紛れるように、愛されたくて、愛を差し出した。
 嗚呼、なんて醜悪なのだろう。
(こんなうちを、そうくんは愛してくらはる……)
 綺麗な心で真直ぐに愛してくれる彼には聞かせられない。
 そろりと辺りを見渡して、優しい幼馴染の色を探し、そっと安堵の息を吐く。
「内緒にしとってね……白薔薇さん」
 赤く染まった白は、戀を知った咲夜にも似て。
 指先でそろりと撫でてから咲夜はその場を離れる。
 この醜い胸の内が、大好きな幼馴染に知られぬように。

 矢張り咲夜を探しに行こうか。
 歩く最中に幾度も想いが過る。その度、白薔薇に話をしている彼女の邪魔をしてしまうのではないかと言う気持ちが蒼夜を押し留め、こうしてひとり薔薇園内を散策し、ひとつの白薔薇の前に佇んでいる。
(咲夜のような綺麗な白薔薇だ)
 白に愛しいかんばせを思い浮かべ、蒼夜は口を開いた。
「俺の話を聴いてもらえるかな?」
 心に秘めた想いを。
 咲夜と出逢ったのは、蒼夜も咲夜もまだ幼い頃。
 きっと、初めて逢った時から惹かれていたのだろう。けれどその時は未だこの想いを表す言葉を知らず、ただ良く笑う天使のような子だと思っていた。
 いつだったろうか。種違いの妹に告白された。好きだ、と。愛している、と。
 けれど妹に想いを告げられた蒼夜の頭に浮かんだのは、咲夜の笑顔だった。血が繋がっているから妹の想いに応えられない訳ではなく、既に心に住み着いている人が居る。その事に、その時気付いたのだ。
 蒼夜はいつも咲夜の側に居た。だから、彼女の心には別の相手が居る事を知っていた。ずっと見守っていた大切な幼馴染。その瞳が、その顔が、特別な色を宿して見つめる相手に気付かないはずがなかった。彼女が、許されない恋をしていることも――知っていた。
「それでも俺はいいと思ったんだ」
 彼女が自分以外の相手を好いていようと、許されない恋をしていようと、他人に何と言われようと、構わない。咲夜は蒼夜の特別なひと。どんな時でも笑顔を護りたいと思う、女の子だ。
「聴いてくれてありがとう」
 あの子は寂しがりやだから、そろそろ傍に行かないと。
 些細な悲しみからもあの子の笑顔護ると誓ったのだから。
 しっかりと前を見据えた蒼夜は藤色の羽織を翻し、咲夜を探して歩き出した。

 ――赤く染まった白薔薇は、祈るように揺れました。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
🌹
ライラック殿(f01246)と

白薔薇殿に内緒話の唇添えて
すこうしお話聞いてくれる?

胸に宿った小さな蕾が
知らぬ間に大きくなって
恋の花が咲くなんて
物語だと思うていたの

でもね、本当に
いつの間にやら膨らんで
今はこんなにも愛おしい

重ねた想い出触れた心
一つ一つが大切で
彼の傍でずうと添い咲きたいと
我儘な願いが溢れてやまぬの

染まる薔薇を見守れば
頬染める様思い微笑ましくて
聞いてくれて有難うと
礼を告げて彼の元へ

ないしょのお話は存分に語れた?
問うも中身は聞かぬお約束
気になる気持ちに蓋をして

妾も聞いて貰えたよ
染まる薔薇殿が愛らしかったと微笑んで

己の内緒を気にしてくれる
それが何だか嬉しくて
いつかね、と悪戯に微笑んだ


ライラック・エアルオウルズ
🌹
ティルさん(f07995)と

君を染めるに至るか、どうか
そんな淡い内緒を語らせて

君に語る恋を、僕は知らない
僕は友が一番大切だから
きっと、知る事も無いのだろう
――けれど、何だか妙でさ
恋も知らぬ癖、恋しいばかり
恋も知らぬ癖、愛しいばかり
知らず知らずと満ちてゆく
僕は変なのかもしれないね
大切な友達に対して、こんな、

……?

染まる薔薇に気付けば、首傾ぎ
僕が可笑しくて顔を赤くした?
疑問符飛ぶ侭、薔薇に手振り
貴方の元へ、足早に

ああ、知らぬ間に頬染めていたけど
未だ残る怪訝も微笑に融けて
野暮はしないと誓えど、結局
――ね、ティルさん
何時か僕にも聞かせてね?

貴方の内緒に抱く複雑な想いを
僕が飲み下す事の出来る頃に



●いまはまだ
 白い羽を揺らして薔薇園を歩いたティルは、腰程の高さに咲いた白薔薇を見つけると、スカートを円の形に広げてそっと腰を下ろした。
 座り込むことでティルの視線と白薔薇が同じ高さとなり、嬉しそうに微笑んでから唇を添える。内緒話をするならば、近い距離で。誰にも聞かれぬよう、優しい声音で囁いた。
「すこうしお話聞いてくれる?」
 それは、ティルの胸に宿った小さな蕾の話。
 最初は気が付かなくて。もしかして、と気付いた時には恋の花が咲いていた。そんなこと、物語の中だけだと思っていた。現実に――況してや我が身に、だなんて。
 恋というものに憧れたことが無いと言えば嘘になる。物語の中の登場人物は恋をして、きらきらとした世界へ飛び込んでいく。いつかそうなれたら、とは思うものの、もっともっと大人になってからだって思っていたのだ。
「でもね、本当に。いつの間にやら膨らんで、今はこんなにも」
 ――愛おしい。
 想いを口にすれば想い人の顔が浮かんで、ほろりと綻ぶような笑みを浮かべてしまう。
 同時に覚えるのは、我儘な願い。彼の傍でずうと添い咲きたいと、願ってしまう。
 重ねた日々に、重ねた思い出、触れた心。交わした言葉のひとつだって大切で、こんなにも心が彼で染まってしまう。
 今日だって、彼は――。
「おぅや」
 頬を染めるようにじんわりと赤く染まっていく白薔薇に気付き、ティルは菫色の瞳をぱちくりと瞬く。その様が微笑ましくて微笑むが、きっとティル自身は寸前まで己がしていた表情には気付いていないのだろう。白薔薇が頬を染めてしまう、恋する乙女の顔は瞬きとともに隠れてしまった。
「聞いてくれて有難う。――さぁて、ライラック殿はいずこかのぅ」
 立ち上がり、スカートを叩いて歩き出す。
 彼はどんな話をしているのだろう。気になる気持ちで胸を弾ませて、ハッとして胸を押さえる。『ないしょ』は聞かないお約束。彼に会う時はきちんと蓋をしておかねばと、きりりと眉をあげるのだった。

「君を染めるに至るか、どうか」
 伸ばした指先に触れる、瑞々しい白の花弁。この真白を染められる程の甘さはないかもしれない。けれどどうかそんな淡い内緒を語らせてほしいと、作家の男は目を細めた。
「君に語る恋を、僕は知らない」
 穏やかな声で紡がれたのは、そんな言葉。
 ライラックには『友』が一番大切だから、恋という気持ちは知らないのだ。これかもきっと、その気持を知ることはないのだろう。甘い甘い、恋なんてさ、
「――けれど、何だか妙でさ」
 恋も知らぬ癖、恋しいばかり。
 恋も知らぬ癖、愛しいばかり。
 知らず識らずに心の小瓶が満ちていく。
 不思議に想いながら小瓶を振って、暖かな何かで満たされていくのを、ライラックは見守ることしかできない。この小瓶が満杯になったら、果たしてどうなるのだろう。口から君が好きだと溢れるのだろうか。それとも、恋に色付く想いをペン先に付け、想いを綴るのだろうか。
 なんてね。そんな未来はきっとないのだろうけれど、と微笑むライラックの顔は、どこか迷子のような顔で。
 変だろう? 大切な友達に対して、こんな――。
「……?」
 じんわりと赤いインクが滲んだように染まりいく薔薇に気付き、首を傾げる。
「僕が可笑しくて顔を赤くした?」
 それとも例えが悪かったのかな。
 書にペンで語るのは容易いけれど、誰かに語るのは得手ではないなぁ。
「聴いてくれてありがとう。僕はそろそろいくね」
 手を振り別れの挨拶を告げれば、振り返りはしない。
 真直ぐに顔を上げ、求める白を探す。
 新緑にぽつりぽつりと咲く白は、ライラックが求める白ではない。
「ティルさん」
 視線の先に求める白を見つければ、帽子を押さえて軽やかに足を運んだ。
 菫色が振り返り、穏やかに細められる。
「ないしょのお話は存分に語れた?」
「ああ、知らぬ間に頬染めていたけど」
 拭いきれぬ疑問は、同じ温度の微笑に融けて。
「妾も聞いて貰えたよ。染まる薔薇殿が愛らしかった」
 互いに相手の『ないしょ』が気になりつつも口を閉ざし、ともに歩きだして暫くたった頃、ライラックは口を開いてしまう。
「――ね、ティルさん。何時か僕にも聞かせてね?」
 男の声にぱちぱちと瞬けば、鮮やかな緑がきらきらと輝く。
 知られるのは恥ずかしい。気にしてくれるのが嬉しい。
「……、いつかね」
 けれどせいいっぱいの背伸びをして、ティルは悪戯に微笑んだ。いつかきっと、告げられる日がくればいい。我儘な願いが叶う日がくるといい。そう、思って。
 少女の微笑に、父親程も年上の男は少年じみた微笑を返す。
 ――貴方の内緒に抱く複雑な想いを、僕が飲み下す事の出来る頃に。
 その時が来たら『Drink Me』と小瓶が告げてくれるのだろうか。
 先のことはまだ、わからない。

 ――赤に染まった白薔薇は、穏やかに、ふたりを見守るように揺れました。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


                    ――They lived happily ever after.

最終結果:成功

完成日:2020年08月17日


挿絵イラスト