●窓際のモンストル
白い私の身体が、真っ赤に染まる。ビシャッと飛び散る液体は、いつも下さる水よりもどろりとしていて。
――嗚呼、ご主人様、あなたの中に脈打つものは、こんなにも紅かったのですね。うつくしい。炎よりも濃く、他のどんな花よりも鮮やかで。ご主人様の色は、私が夢見たあらゆる『あか』よりきれいです。嗚呼、嗚呼、私も……ご主人様のように『あか』を宿したい! 私はご主人様の水を戴いて、真っ赤な花に生まれ変わります。
少女・モンストルは、純白に凛と咲く立派な薔薇を育てていた。窓際の、陽の差さない世界で少しでも明るいところで元気に育つようにと。真っ暗な世界で、せめて白く輝くものがあるようにと。慈しみ、愛おしみながら、今日も今日とて世話を欠かさない。
其処で起こった悲劇。領主たるヴァンパイアは戯れに村を訪れて、軽やかに人々を殺して回った。簡素な家で慎ましやかに過ごしていたモンストルに、それが回ってきたのは不幸としか言いようがない。
ザシュっと真っ二つに切り裂かれる身体。鮮血が部屋中に飛び散った。倒れたモンストルの心臓から直接血を啜る光景を、紅く染まった白薔薇がじっと睨んでいたのを……ヴァンパイアは目敏く見つけた。そしてニタリと笑うと、自らの爪を掌に食い込ませ、その血を数滴白薔薇に浴びせ去っていく。
その夜、白薔薇――否、二種の血によって紅薔薇へと変わった華は、月の光を浴びて人の容を為した。それは最愛の主、地に伏し何の反応もない少女と同じ形。紅薔薇はひとがたを得てまだふらつく足取りで、人の形から壊れたモンストルに近づき、口づけをした。「お姫様は王子様のキスで目覚めるの」、そう教えてくれたのはモンストルだったから。それでも息絶えた肉塊は元には戻らない。何も、どこも、動かない。
「ご主人様……私は王子様ではなかったみたいです。でも、今度は、私が。貴方の代わりに歩いてゆきますね」
新たな生を受けた紅薔薇。美しく可憐なオブリビオンの少女の誕生。主人の名を貰った彼女は、生きる為に何でもやった。お腹が空いたから人の血を啜る。歩くのに邪魔だったから殺す。祈りに意味なんてないから侵す。すべてすべて、ご主人様もきっとやってきたこと。そうでなければ私のこの衝動に説明がつかないからと、紅薔薇は自分を納得させて。それがヴァンパイアの祝福だとも知らずに。
やがて紅薔薇は自分の手足が必要だと考えた。自由に動く為には、端々まで目をつける事はできない。そうして村をひとつ食い潰し、無理矢理従えた少女たちを、紅薔薇であるモンストルは『黒薔薇の娘』と名付けた。黒は赤が沈んだ色、血が固まり淀んだ色だと、満足気に。
そうして選ばれた娘たちに定期的に鮮血を届けさせ、紅薔薇は今日も優雅に窓際であかに塗れる。時に暴れまわる村人がいればその身を以って啜り上げ、床掃除は娘たちに任せながら。
いつからか紅薔薇は、『死薔薇のモンストル』と呼ばれ恐れられるようになった。愛しい主人と同じ名前、顔、身体。一つ違うのは頭上に戴く紅薔薇のみ。お揃いなことがとても嬉しいと、純粋な笑みを湛える彼女に笑い返せる者は誰もいない。
月灯りに照らされ、モンストルは今夜も亡き主を想い、ひっそりと泪を零す。何者にも見られない、ひとりきりの窓際で。
――泣いていてはダメよ、モンストル。今日あったことを書き残さなくては。皆にお話を聞かせてあげなくては。<往き><生き>ましょう、ご主人様。私は今日も、あなたの衝動に従います。あなたが私の中で生き続ける限り、ずっと一緒に――。
●グリモアベースにて
「と言うわけで、だ。討伐……いや伐採か? して来てほしい」
抑揚の無い声で説明を始めたのは、グリモア猟兵トート・レヒト(Insomnia・f19833)だ。色白く深いクマの青年は、事のあらましを集まった猟兵に伝える。
「最終目標は『死薔薇のモンストル』を倒す事だが、その前に『黒い薔薇の娘たち』と戦ってもらいたい。自分の手足が全て潰されたとなれば、主人も出てこないわけにはいかないだろう」
先に娘たちを屠り、モンストルを呼び寄せる。そこに臨戦状態の猟兵が襲い掛かるという作戦だ。
「モンストルは純粋な狂気に満ちている。人の常識などほとほと通じないが……元の主が行ってきたことを再現すれば、戦闘一辺倒とはまた違った反応を引き出せる事があるかもしれないな」
それが何なのかは分らんがね、と零すトートはどこか悲しそうで。
死薔薇のモンストル、元は唯の薔薇だったそれに、命を吹き込んだヴァンパイアの意図はわからない。戯れに意味など求めることそのものが無意味なのかもしれないが。
それでも今彼女は、空き家となっていた豪奢な館に居を構え、近隣の村人を恐怖に陥れている。人々の安寧の為に、討伐を果たさねばならない。
「辺境の地はまだ寒い。仕事が片付いたら早めの春を探すのも良いだろう。……花を散らすのは気分が悪いと思うが、これも仕事の一環だ。どうかよろしく頼む」
トートは猟兵たちに一礼すると、グリモアを輝かせて常闇の世界へと送り出した。
まなづる牡丹
オープニングをご覧いただきありがとうございます。まなづる牡丹です。
今回の舞台はダークセイヴァーにて、薔薇をモチーフとしたオブリビオンと戦って頂きます。薔薇ネタ、好きです。
●第一章
『黒い薔薇の娘たち』。
モンストルが集めた、元は平凡な村に住んでいた少女達です。今はオブリビオンとなり、モンストルの手下として邪魔者は排除しようと動きます。
●第二章
『死薔薇のモンストル』。
窓際からの景色しか識らなかった、無垢な華。ヴァンパイアの血により変えられてしまいましたが、その本質、ご主人様への愛は本物です。
●第三章
寒空の下、辺境の地にもやっと訪れた春を探しに――。
●プレイング送信タイミングについて
各章ごとに断章を執筆します。以降はMSページにてプレイング受付期間を告知いたしますので、お手数ですがご確認お願いします。
(基本的に断章を投下した次の日よりプレイングを受付致します。申し訳ありませんがそれ以前に送られたプレイングは返金とさせていただきますのでご了承ください)
それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
第1章 集団戦
『黒い薔薇の娘たち』
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POW : ジャックの傲り
戦闘中に食べた【血と肉】の量と質に応じて【吸血鬼の闇の力が暴走し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : クイーンの嘆き
自身に【死者の怨念】をまとい、高速移動と【呪いで錬成した黒い槍】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : キングの裁き
対象のユーベルコードを防御すると、それを【書物に記録し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑11
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●主へ捧ぐ
ダークセイヴァーに辿り着いた猟兵は、慎重に、あるいは大胆に各々の方法で館に侵入する。しん、と静かな館に忍び寄る気配に、黒い薔薇の娘たちは仄かに口元を歪ませ「餌が自らやってくるなんて」「今日のお仕事は楽ね」「生け捕りにしましょう」と口々に話しながら動き出す。
広間で、廊下で、窓硝子が割られた部屋で。猟兵は娘たちと対峙した。統一された服と髪は、此処の主の趣味だろうか。暗い瞳に猟兵を映し、娘らはさして期待していない口調で語り掛けてくる。
「大人しく捕まる気はありませんか? 主は逆らわない者にはお優しい方です。屹度痛みも一瞬でしょう」
全く悪い冗談だ! 猟兵の誰かが心中で叫ぶ。拒否の意を示す猟兵に、ふぅと溜息を吐いた娘は手にした手記と魔力が込められたペンを構える。
「残念です。死骸を届けると御機嫌が悪くなられるのでなるべく生かして捕まえたかったのですが……我らが主に、少し早めの食事を届ける事と致しましょう」
黒い薔薇の娘は臨戦態勢に入り、猟兵に戦いを挑む! 自らの辿る運命も知らずに、ただ盲目的に主に仕えるその姿を、健気とみるか偏屈とみるかで彼女らへの印象は変わるだろう。
あなたは娘らになにか話しかけてみても良いし、無言で屠っても構わない。どの道救えない存在なのだから――。
アンナ・オルデンドルフ
【恋華荘】のみなさんと参加します。
……墜ちてしまったのであれば、救いようがありませんね。
私たちに危害を加えるつもりなら、戦うしかありません。
【血統覚醒】を使用し、ヴァンパイアに変身して立ちはだかります。
向かってくる黒い薔薇の娘たちを各個撃破するようにいちごさんと詞さんと協力します。
ちょっと不安感を覚えつつも、背中を守ってくれるのは嬉しくもあり。
背中を二人に預けつつ、【2回攻撃】を駆使しながら目の前の敵を倒すように戦うつもりです。
生きとし生けるものを傷つける……そのような行いは許せません。
だからこそ、私は戦います。その命を燃やしても。
牧杜・詞
【恋華荘】
今回はいちごさんとアンナさんといっしょ、か。
これに慣れるのがいいことなのか、まだわからないわね。
もちろんできることは、やるけどね。
わたしにできることなんて『殺す』ことくらいだけど、
災魔にはそれが救いになるのでしょう?それなら、救ってあげるわ。
なんて、良い口実。
【識の境界】を発動させて、めいっぱい殺して殺して殺して殺すわ。
切って刻んで差して貫いて、仮初めの命を刈り取ってあげる。
背中はいちごさんが、隣にはアンナさんが。
心強いけど、こんな戦闘に慣れると、また一人になったときが怖いわね。
おっと……余計な思考は命取り。
今は『殺す』ことに集中しよう。
数を競うわけではないけど機会を逃すのはダメね。
彩波・いちご
【恋華荘】
もう救えない相手なんですよね…哀れな
せめて眠らせてあげるのが慈悲というものでしょうか
詞さんもアンナさんも前に出て戦うので、私は後方から支援
3尾の邪神の依代体の姿に変身して【異界の守り】を
この姿なら肉弾戦もできますが、無理せず支援に徹します
…精神的な負担もあるので…2人にはそんな弱み見せませんけどねっ
黒い薔薇の娘たちが詞さんやアンナさんの死角から攻撃してきても、私の操作する結界で攻撃を受け止め、2人が憂いなく攻撃に専念できるように支え続けましょう
私自身に向かってきた相手には徒手空拳で対応しつつ
2人の支援は途切れさせないように
貴女たちの手も、主の手も、私がいる限り2人には届きませんよ
●
出来る事は、やれること。その役目を果たすのみと、武器と向けた三者。その瞳の輝きは堕つることなく、きらきらと輝いて、屹度それが今出来る最大で最良の選択肢だからと、想う。
「……墜ちてしまったのであれば、救いようがありませんね。私たちに危害を加えるつもりなら、戦うしかありません」
「もう救えない相手なんですよね……哀れな。せめて眠らせてあげるのが慈悲というものでしょうか」
アンナ・オルデンドルフ(真っ直ぐな瞳・f17536)と彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)が交互に呟くと、牧杜・詞(身魂乖離・f25693)も深く頷いた。そして続ける。
「わたしにできることなんて『殺す』ことくらいだけど、災魔にはそれが救いになるのでしょう? それなら、救ってあげるわ」
何せ今回は優秀な友人であるいちごとアンナが一緒なのだ、これに慣れるのが良い事なのか、まだ分からない成つつも……精一杯の努力はする。それが詞の答え、なんて。良い口実。実際のところは――。
フォーメーションはアンナを前衛に、詞を真ん中へ、いちごは後方支援へとまわるように隊列を組む。最前線に立つアンナは自らの血統である真紅の瞳を抱き、ヴァンパイアとして目覚めた。
「各個撃破、が安全策でしょうか」
「守備は上々、私にお任せを。アンナさんも詞さんも、全力で戦ってください」
邪神の依代体たる尾を増やした姿に変形したいちごは、刻一刻と削られる自らの理性と正気を代償とし、二人を守る防御結界を展開する。祈りによって形成されたそれは強靭で柔らかく、バネや餅のようにしなやかだ。アンナと詞、先に動いたのはどちらだったか、黒い薔薇の娘目掛けて武器を振り下ろす!
「めいっぱい殺して殺して殺して殺すわ。切って刻んで差して貫いて、仮初めの命を刈り取ってあげる」
衝動が解放される。顕現する殺人鬼の衝動。爆発的に上がる反応速度と思考回路。今なら何にでも対応出来るだろう――その強さを、詞は黒薔薇の娘へとぶつける。この1分1秒にすら寿命が掛かっているのだ、無駄な時間は使えない。
「数が多いですね、それが強さでもありますか」
「かもしれませんけど、私達のコンビネーションに勝てるでしょうか?」
詞の疑問に、いちごは颯爽と答えを返す。いちごの三尾の邪神姿は、精神面を大きく削る。もちろん二人にそんな弱みを見せはしないが、もし時間が掛かればそうも言ってられないだろう。人数が多くとも、短期決戦が肝になる。そう判断して二人への防御へ徹する。
黒い薔薇の娘たちは横に展開し、其々吸血鬼の力を暴走させ、死者の怨念を纏いながら高速移動しながら呪いで錬成した黒い槍をアンナ達に放出してくる!
「いあ……いあ……させませんよ!」
いちごの死すら耐える防御結界が二人を護り、槍を跳ね返す! 礼は目配せで済ませ、アンナと詞は反撃に入った。少しの不安感を覚えつつも、背中を守ってくれるのは嬉しくもあり。背を二人に預けつつ眼前の敵へ確実な一太刀をアンナは浴びせていく。
一方、詞。殺人鬼の血脈は心臓をどくどくと昂らせて、そこに転がっているように見える命――まだ息のある、黒薔薇の娘を、ザシュっと音を立てて首と胴体を切断した。上半身と下半身を別れさせた。心の臓を抉り貫いた。一息に三人、アンナの一太刀から逃れられなかった者たちを須らく屠り、恍惚の笑みを浮かべる詞。
――嗚呼、わたしは今、救いの主にも似た者なのだと、背筋にゾっと悪寒が走る。背中にはいちごが、隣にはアンナが。心強いけど、こんな戦闘に慣れると、また一人になったときが怖いわね。なぁんて柄にもない弱音を零したりして。
「この……化け物どもめっ!」
黒い娘が叫ぶ。それに三人娘は顔を見合わせ、あははと笑った。屈託のない、何を言ってるんだというようにあっけらかんと、笑い、返す。
「化け物は、貴方たちでしょう」
「堕ちた者に言われる筋合いなどありません」
いちごは言い返し、アンナは素気無く。詞は声には出さず笑みだけ浮かべて。
おっと……余計な思考は命取り、今は『殺す』ことに集中しよう。数を競うわけではないけど、機会を逃すのはダメね。その考えは三人の共通認識でもある。
「生きとし生けるものを傷つける……そのような行いは許せません。だからこそ、私は戦います。この命を燃やしても」
アンナは再び黒い薔薇の娘と対峙し、背中を二人に預け狩りへと向かう! 取りこぼしは詞が、守りはいちごが担ってくれる以上、アンナの役目はひたすら前に出る事。
「お前たちにくれてやる慈悲は無い!」
伸びた爪で1回、2回と十文字に傷を刻み込めば、倒れ伏したり半狂乱で向かってくる娘と様々だ。皆一様にアンナの連続攻撃で弱体化している。詞が止めをさすのは簡単なことだった。
「あなたで最後みたいね」
「……ウアアアア!」
黒い薔薇の娘は一矢報いようと、それまで防御結界に専念していたいちごの元へと素早く駆け寄る! 後衛を狙うなんて卑怯な――しかし合理的か。その戦法をあなたたちの間で共有していれば、また違った戦いになっただろうにと詞は思う。
しかし、それまでだ。防御結界に専念しているからといって、本人が戦えないなんて、一体どこの誰が決めたのか。向かい来る娘を徒手空拳で対応しいなせば、思わぬ反撃に隙が生まれる。その隙を逃す二人ではなく、アンナと詞の同時攻撃が黒い薔薇を散らした。
「此のフロアにはもう誰も居ませんね」
「先に進みましょう」
「はいっ」
小部屋を抜けて廊下に出れば、其々の部屋から感じる緊張の気配。まだどこかで猟兵が戦っている。助太刀に行くべきか迷っている間に、また新しい黒い薔薇の娘が三人の前へと現れて。
「同胞を倒したようですが、主の元へは行かせません」
道を塞ぐようにして立ちふさがる。やれやれと思いながらも、陣形を崩さず冷静に対処する三人は、最早息の合った抜群のチームだろう――。
大成功
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シャルロット・クリスティア
……もはや、引き返せないところまで行きついてしまいましたか。
良いでしょう、ならばこちらも遠慮はしません。
あくまで人の血を求めるなら……その業、死を以て祓わせて頂く。
まずは挨拶代わりの斉射を。出方を伺います。
いくら怨念を纏い、身体能力が増そうと言えど、それを操るのは所詮彼女たち自身に違いは無い。
回避、戦術、仕掛けてくるタイミング……個々人の癖と言うのはどうしても出るものです。
思考速度で負けなければ予測できる。
予測できれば、後はその『先』へ撃ちこむだけ。何も難しいことは無い。
……まったく。
どこの誰か知りませんが、種を撒くだけ撒いて放置とは……。
……刈らせて頂きますよ、モンストルとやら。
●
蒼空の瞳を曇らせて、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は黒い薔薇の娘へと銃口を向けた。
「……もはや、引き返せないところまで行きついてしまいましたか」
「はて、可笑しなことを。私たちは最初から主のもの。行きつくもなにもございません」
「――そうですか。良いでしょう、ならばこちらも遠慮はしません。あくまで人の血を求めるなら……その業、死を以て祓わせて頂く」
あくまで主の名を立てる娘に呆れ半分諦め半分の溜息を零し、挨拶代わりの機銃の斉射を浴びせ出方を伺う。いくら怨念を纏い、身体能力が増すと云えど、それを操るのは所詮娘たち本人に違いない。回避、戦術、仕掛けてくるタイミング……個々人の癖というのは、どうしても出てくるはずだ。
それなら、思考速度で負けなければ予測できる。予測出来れば勝ったも同然、後はその『先』へ撃ちこむだけ。何も難しいことは無い。
そう考えられるのは、シャルロットの高い身体能力と積み重ねてきた経験あってこそ。ただ猟兵というだけでは机上の空論に過ぎないものを――彼女は実現させるだけの力を持つ!
二人組の黒い薔薇の娘、斉射に対し其々横に走り出したり、後方に下がったり。ほら、もう乱れている。呼吸が合ってない。
「なるほどそう反応しますか!」
その後どう動くか。屹度横に逸れたほうはそのまま走ってシャルロットに向かうだろう。折角走り出した勢いを殺すのは勿体ないから。対して後方に下がったほうはその場から槍を放出か。遠距離の利はお互いの武器が射撃系である以上ないが、近ければそれだけ被弾率も上がることを考えたらそれ以上踏み込めないからこそ後ろに下がったのだろう。少なくともこれだけの情報が回避行動だけで見極められる。
「それで?」
無言のまま、それでも焦ったのか斜めにシャルロットを捉えた娘は槍を手に錬成しだす。しかし、その間を許しはしない。振り上げられた手の動きを正確に見定め狙撃。間を入れて、ぱぁんと弾ける掌。吹き飛ぶ紅塗りの指。その場にしゃがみ込む娘。
其処に油断や哀れみの感情はなく、理論で構築された丁寧でブレのない動きがシャルロットを突き動かす。
「あぁっ……」
「あなたも」
後方に居るもう一方の娘へ照準を移したら、一息も入れずに発砲、今度弾けたのは娘の頭部だった。ぐしゃっと真っ赤に広がる赤が、床に鮮やかな華を咲かせる。悲鳴も上げられずに沈んだ相方を呆然と見つめる腕先のない娘は、キッとシャルロットを睨みつけもう一方の腕をのばしながら叫ぶ!
「悪魔!」
「――」
返事もせずに、ショットガンを抜いて銃爪を引く。がちん、と音が妙に響いたのは、一体誰の耳へか。倒れ伏す娘たちに、冷ややかな目を向ける。嗚呼、彼女は悪魔ではない。もっと血が通っていながら、凍てついたもの。そうあるべきなのだ。
「……まったく。どこの誰か知りませんが、種を撒くだけ撒いて放置とは……刈らせて頂きますよ、モンストルとやら」
じんわりと広がるあかが足元を汚さぬうちに、シャルロットはその場を後にした。狙いは最初から、死薔薇ただ一輪――。
大成功
🔵🔵🔵
マルグレーテ・エストリゼン
戯れにこのようなものを生み出すヴァンパイアは許せん!
華に罪はないが…
危険なものは排除しなくては
屋敷に踏み入り高らかに名乗る!
「猟兵マルグレーテ・エストリゼン!
お前達を倒しにきた!」
以下は思うだけで口には出さない
(この娘達は…
主の道具として創られた、という点ではかつての私と同じだ
だが決定的な違いがある
それが私と彼女等を敵対させている)
血統覚醒しヴァンパイアの血を引くことを自ら明かす
そして死霊銃兵に撃たせ攻撃
血肉を食らう前に速攻で射殺したい
接近戦を挑まれたら距離を取る
私も華は好きだ
だが薔薇はあの女(母親)を思い出させるので、華の中では好きではない
そのうえ人の血を求めるなら、それはもはや華ではない!
●
館の正面、豪奢な玄関扉から堂々と立ち入るのは黒を纏いて真紅を宿すマルグレーテ・エストリゼン(ダークプリンセス・f23705)だ。
「猟兵マルグレーテ・エストリゼン! お前達を倒しにきた!」
「まぁまぁ、随分な来客ですね。主に御用ですか?」
「痴れたことを!」
深い真紅の緋に焼ける瞳。その深い血統がヴァンパイアへと覚醒する! 燃える緋が娘を射抜き、もう相手だってマルグレーテから目を逸らせない。
――この娘たちは……主の道具として創られた、という点ではかつての私と同じだ。だが決定的な違いがある。それが私と彼女等を敵対させているのだ。そう想うマルグレーテの哀に気付く者など、此処には居やしない。敵にして過去の象徴。偽らざる記録と、改竄された記憶。その両方ともを、マルグレーテは予知の段階で知っているからこそ、戦いから目を背けない。過去から流れ出る過ちの川を、大股で渡ろうとその脚をのばす。
「私は大いなる血を引く者。ヴァンパイアの血族にして女王の娘! さぁ、死霊どもよ……その力存分に揮うがいい!」
掲げた右手に集まる死霊から撃ち放たれるは怨嗟の銃弾。何十体もの死霊が列を為し、一斉に黒い薔薇の娘に銃撃を浴びせる。血肉を食らう前に速攻で射殺しなければ、接近戦へと持ち込まれていただろう。まだ11歳の小さなマルグレーテの躰に、年若いと云えど十分に成熟した娘の体躯は脅威になりかねない故注意が必要で。
「戯れにこのようなものを生み出すヴァンパイアは許せん! 華に罪はないが――」
「くっ、おのれ主すら無き分際で……!」
「危険なものは、排除しなくてはな。大体、人の血を求めるなど、それはもはや華ではない!」
「っ!? あああ、ああああ!!」
死霊の放った弾丸は、娘に食い込んだ後、ぐじゅぐじゅとその身体を蝕んだ。怨嗟の念は時間と共に肥大化し、娘を形作る死薔薇のモンストルの種子をどろどろに溶かしてゆく。もはや身を留めておくことすら出来ない程に娘は肉の器が削げ、真っ赤な脈動をマルグレーテに向ける。……どくん、どくん、と脈打つ鼓動に、息が止まりそうになった。
「痛いか、苦しいか。それももう、お終いだ。お前たちをこう仕向けた主も、いずれそちらに向かわせる。文句はその時に伝えてくれ」
尤も、君にとっては同じ処など死んでも御免かもしれないが。等とは告げず、せめて今が長く続かないよう死霊銃兵にトドメを任せる。ばきゅうんと響いて、薬莢が落ちた。赤が沈んだ黒薔薇が、どろりとした鮮血の池に浮かび上がる。
「私も、華は好きだ……。だが薔薇はあの女を思い出させる」
故に、どうしても好きにはなれなかった。無理に好きになる必要はどこにもない。頭では理解できる。それでも。
「華はただ咲いているだけなのにな……」
先程とはうってかわって悲色の瞳が、ぷかぷかと浮かぶ黒薔薇を見つめていた――。
成功
🔵🔵🔴
セツナ・クラルス
少女達の悪意のある笑みに臆する様子もなく微笑み返し
おや、同じことを考えるとは気が合うね
ねえ?
投降する気はないかな
無駄に血を流すこともなかろう
大人しくしていれば
この鎌一振りで楽園へと導くから
…まあ、こんな交渉に意味があるとは思えないがね
…この世界では
絶対的な存在が心の拠り所となるということは知っているよ
私もそうだから
(光の加減なのか、瞳が一瞬金に光る
きみたちか、私
どちらの思いがこの世界に認められるのか確かめよう
選ばれた方が生き残る
シンプルで分かりやすいだろう?
緩急を付け攻撃し敵を翻弄
一太刀でも与えられたら
UCの性質上攻撃の精度は上がる筈だよ
すまないが、私はここで終われない
まだやることがあるのだよ
●
黒い薔薇の娘の悪意ある笑みに臆する様子もなく微笑み返し、いっそ柔らかな物腰でセツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は逆に問いかける。同じことを考えるとは、気が合うね等と言っておいて、その実。
「ねぇ? 投降する気はないかな。無駄に血を流すこともなかろう。大人しくしていれば、この鎌一振りで楽園へと導くから」
「いいえ、いいえ。嘘ね。この世の楽園は主の元のみ。それ以外の場所など、仮初の庭園に過ぎません」
「はぁ……まあ、こんな交渉に意味があるとは思えないがね」
その実、最初から分かっていた。どう説得の言葉を投げかけようと、娘たちが頷くことなど無いと。
この世界では絶対的な存在が心の拠り所になるということを、セツナは識っている。何故って、セツナ自身がそうであるから。光の加減なのか、瞳が一瞬金色に光り、その言葉を肯定する。絶対的な強さ、誇り、精神、存在感、そして向けられる愛にも似た感情。それが自分を強くもし、弱くもすると、かつての自分を振り返る。――其処にあったのは、希望か、絶望か。今それに応えられるのは『彼』だけだと、心を再び戦場に戻して。
「きみたちか、私。どちらの思いがこの世界に認められるのか確かめよう。選ばれた方が生き残る、シンプルで分かりやすいだろう?」
「まぁ、まぁ。良いでしょう、私の世界は主のみ。その主を、一介の猟兵が越えられるかしら」
愛用の鎌『宵』を、緩急をつけながら振るう。素早く、次は想像以上にゆっくりと、法則性のない動きに娘は翻弄される。死者の怨念こそ纏えたが、黒い槍はまだ錬成出来ていない。早くしないと、ほら。鎌は全てを刈り取らんと踊る。
「抵抗するからだよ」
セツナの瞳がにんまり弧を描く。鎌の一太刀が娘の胸に入った。大きい傷ではあるが、しかしまだ致命傷じゃない、鈍るとはいえ動けるだろう。可哀そうに。大人しくしていれば一撃で葬れたものを、この娘は永遠にその権利を手放したのだ。
くるりとセツナの腕を回り、一回転した宵。血に塗れた刃がきらりと光り、いっそのこと太刀筋は見切りやすい。それでも逃げることなどもう到底不可能なのだ。娘の心の底に眠る罪悪感を、もう覚えたから――あとは目を瞑っていても、気配で断てる。そうして娘から放たれる槍の一撃をガチンと宵で防御したら、一転攻勢前傾に身を構え、急加速の直進! 胸に大きく傷を負った娘の喉元を掻っ捌いた!
「ああああ!」
「……すまないが、私はここで終われない。まだやることがあるのだよ」
「嗚呼、主……ごめんなさい……」
「……君は」
君はどうして、そこまで主に盲目的になれるのだい。とは、既に息絶えた身に問いかけてもなんの反応もない。主の洗脳のたまものか、あるいは主自身が、何かを盲目的に信仰しているからか。
娘らの絶対的な存在、それをこれから、刈りに行く。躊躇いなど何処にも無い。その為にも、こんなところで立ち止まってはいられない――。
成功
🔵🔵🔴
メール・ラメール
【爪痕】
イカれていても、美味しそうなものは大歓迎!
でも、食べたいのはそのご主人サマかなあ
あの子たちは、一途で健気で愛らしいじゃない
食べるのもったいないもの
軽口を叩きあうふたりは仲良しねと見守って
耳栓?
持ってきてない。ふたりの声が聞えづらいと面倒だし、って!
吼える瞬間に耳を塞ぐ
あの子たちよりレジーちゃんの方が怖いんだけど!
ふたりとも数捌くの得意よね
じゃあ、アタシはふたりが取りこぼしたのを抑えときましょ
とってもとーっても、カワイくしてあげる!
リボンやフリルでぐるぐるにして満足そうに
ジェイちゃーん、そのカワイイお友達でやっちゃってー
……あら。レジーちゃんってば守ってほしいの?
構わないわよ、お姫様?
ジェイ・バグショット
【爪痕】
おー、活きの良さそうな餌だらけ。
食い放題だなァ。
若い娘なら尚更大歓迎。
なんの為に…、と思いつつレジーの指示通り耳栓は持ってきた。
足引っ張る?誰に言ってんだ。
お前こそ俺の邪魔するなよ。
鼻で笑うといつものように軽口の応酬
咆哮には思わず驚く
うるせー…。
耳栓無かったら鼓膜破れてた
多数を相手取るのは得意でね。
拷問具
【傷口を抉る】『荊棘王ワポゼ』棘の鉄輪を複数空中に召喚。多方面から輪を強襲させる
…あぁそうだ、お前ら二人とも見たがってたろ。
コイツのこと、と思い出したように影のUDC『テフルネプ』を敵へけしかける
影は這うように地面を滑ると敵を串刺しに。
どこからでも出現でき広範囲に対応可能
レジー・スィニ
【爪痕】
最高にイカれた野郎だね。
その主とやらはさ。
こんな作品を作り上げるなんて、趣味悪い。
元々は生きた娘だろうがさ、今は死んでるんだろ。
なら思いっきりやったほうがいいよね。
耳栓は持ってきた?ジェイもメールも足引っ張るなよ。
肺一杯に息を吸い込んで吼える。
これだけの数をちまちま相手にするなんて面倒だね。
ほら、背後だよ背後。気をつけなよ。
駒吉、思う存分血を啜りな。
妖刀駒吉で娘だったやつらの傷口を抉る。
オブリビオンの血は不味いだろうけどさ。我慢しなよ。
ジェイもメールもやるー。
二人に守ってもらおうかなー。
冗談でーす。
さっさと終わらせよう。
●
「おー、活きの良さそうな餌だらけ。食い放題だなァ。若い娘なら尚更大歓迎」
「キャハハ、イカれてても、美味しそうなものは大歓迎! でも、食べたいのはそのご主人サマかなぁ。あの子たちは、一途で健気で愛らしいじゃない。食べるのがもったいないもの」
ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)の感想に、メール・ラメール(砂糖と香辛料・f05874)が本心を零す。本当の狙いは死薔薇のモンストルであること、決して忘れてはいないから。
「最高にイカれた野郎だね、この主とやらはさ。こんな作品を作り上げるなんて、趣味悪い」
レジー・スィニ(夜降ち・f24074)もまた、こんな悪趣味になんか付き合ってらんないとばかりに溜息を吐きながら更に悪態を零す。
「元々は生きた娘だろうがさ、今は死んでるんだろ。なら思いっきりやったほうがいいよね」
「賛成さんせーい!」
きゃっきゃとはしゃぐメールに対し、ジェイは至って冷静に状況を判断していた。このフロアに居る黒い薔薇の娘は3体。一対一の戦いはやや不利か、ならば隙を作り各個撃破を狙うのがベスト……といったところでレジーが前に踊りでる。そして二人に「耳栓は持ってきたか」と問いかけた。
「耳栓? 持ってきてない。二人の声が聞こえづらいと面倒だし、って!」
「嗚呼、一応持ってきた」
「結構結構。ジェイもメールも足ひっぱるなよ」
「足ひっぱる? 誰に言ってんだ。お前こそ俺の邪魔するなよ」
軽口を叩くレジーを鼻で笑うジェイ。この応酬が面白くて、メールは「二人は仲良しね!」なんて見当違いのことを考えていた。いや、ある意味合っているのかもしれない。軽口を叩き合えるのは信頼の証だ。
すぅっと肺一杯に息を吸い込んで、レジーはフロアを轟かす激しい咆哮を放った! とっさに耳を塞ぐメール。あの子たちよりレジーちゃんの方が怖いんだけど! とは賢明にも言わなかった。言ったら屹度後でこれをネタに弄られること請け合いだ。
ビリビリと揺れる室内、吹き飛びそうになる娘たちの隙を、ジェイもメールも見逃さない。
「うるせー……耳栓なかったら鼓膜敗れてた」
「持ってきて正解だったろ。さてと、これだけの数をちまちま相手するなんて面倒だね。ほら、背後だよ背後。気を付けなよ」
「確かにな。まぁ幸い俺も多数を相手取るのは得意でね」
ジェイは拷問具『荊棘王ワポゼ』を空中に複数召喚。茨の鉄輪を多方面から強襲させる! きゃあきゃあと逃げ惑う娘たちをレジーの駒吉が捕まえ、咆哮で傷ついた箇所を思い切り抉った!
「オブリビオンの血は不味いだろうけどさ。我慢しなよ」
「二人とも数捌くの得意よね。じゃあアタシは取りこぼしたのを抑えときましょ!」
とってもとーってもカワイくしてあげる! と満足そうに語るメールは、どこまでいっても明るく戦場にあって明るさを失わない。それはジェイとレジー、二人の憂鬱な態度を掻き消す程に。リボンやフリルでぐるぐるにした娘を、とんっとジェイの方に突き放したら、さようなら人生。
「ジェイちゃーん、そのカワイイお友達でやっちゃってー」
「カワイイのか? それ」
向けられたジェイの武器に、訝しがるレジーだったが、それはさておき。
「……ああそうだ、お前ら二人とも見たがってたろ。コイツのこと」
思い出したようにジェイは影のUDC『テフルネプ』を娘たちにけしかける。影は這うように地面を滑り、敵の足元まで行ったら下から娘を串刺しにした! ボタボタっと溢れる血に、楽しそうにはしゃぐメール。
「すごいよねー! ちょーカワイイ、イケてるー! そーいうのアタシ大好き!」
「ジェイもメールもやるー。二人に守ってもらおうかなー」
経験の差から来るあらゆる攻撃への対処法に、関心しつつも、素直にすごいと言うのは恥ずかしくて。レジーはまた軽口で二人を揶揄う。そこへすかさず入るメールからのツッコミ。
「あら、レジーちゃんってば守ってほしいの? 構わないわよ、お姫様?」
「……冗談でーす。さっさと終わらせよう」
『テフルネプ』が串刺にした娘へ、妖刀駒吉で止めを差し。取りこぼした娘はメールがリボンとレースでカワイく仕立てあげ動きを封じた。娘たちに出来ることは、もうなにも残されていない。ただ蹂躙されるだけの、哀れな存在である。しかし、そう思う者はこの場に誰一人いない。黒い薔薇の娘は主の為ならと全てを尽くせることに感謝すらし、メール達は戦いそのものを楽しんでいる風故に。
「俺たちの前に現れたことを後悔するんだな」
「きゃはっ、そんな事この娘たちが考えると思う?」
「どうだっていーよ。要は勝てば良いんだから」
主の為に戦い抜いて死ぬのが本望なのか、微かにでも生きたいと願うのか、それを知るのは黒い薔薇の娘本人だけが知る感情だ。そしてそれを忖度してやる必要など、猟兵には全くない! 想い思いの言葉を吐露し、更に向かい来る娘たちを相手取る。軽口を叩けているうちは、少なくとも余裕の3人だ――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
三嵩祇・要
望まない戦いを強いられる運命に巻き込まれて気の毒だとは思うが
それはこの娘たちにはわからない事だろうし
わからせる必要もないだろう
己の運命が抗えない地獄だなんて、気付かない方が幸せだ
恐怖や苦しみが一瞬で終わるよう、お互い「お優しく」終わらせちまおうぜ。
【クロックアップ・スピード】使用
導雷針で属性攻撃を叩きこんでくぜ
ちょっと痺れるが意識を失えば恐怖も痛みも感じなくて済むだろ
…気の毒だとは思うが、可哀想だとは思わないでおくよ
紅い薔薇の為に戦う、凛とした花のまま逝きな
●
望まない戦いを強いられる運命。それに巻き込まれたのは至極気の毒だとは思うが、それはこの娘には分からない事。また分からせる必要もない。己の運命が抗えない地獄だなんて、気付かない方が幸せだろう。
「なぁ、あんたらの主は「お優しい」んだろ? だったらその配下であるあんたも優しいのかい」
「我が主の想うままに。それが主のお気持ちならば、わたくしもまたそうなのでしょう」
「そうかよ」
その優しさすら、主に委ねるか。ハっと三嵩祇・要(CrazyCage・f16974)は鼻で嗤った。そんな紛い物の優しさが願う先にあるものは何だというのだ。未来はなく、過去すら奪われて。幸せを願うことすら忘れた人形に用はない。
「お互い『お優しく』終わらせようぜ」
即ち、一瞬でケリをつけようと云う宣言。恐怖や苦しみが一瞬で終わるよう、サクっと。
ぱちんと鳴らした指を合図とし、高速戦闘モードへと移行する要。ブンっと導雷針を振り回し、背を低くして走る! バチバチと迸る雷を、導雷針に乗せて娘に叩き込んでいく! 凶器であるバールそのものの攻撃力で肉に食い込み、触れた場所から電撃が娘の体中に広がる。咄嗟に防御した娘の腕がジュウジュウと音を立てて焦げ、まるで内側から爛れたように肉の焼ける匂いが立ち込めた。
「……人ならざるもの。所詮おまえたちもわたくし達と変わらない」
「なんだと?」
焦げた方の腕を庇いながら、黒い槍を錬成した娘は要に向かい至近距離から肩にそれを突き刺す。じわり、死霊の怨念が肩から侵入してきた。気持ち悪い、この「主こそ」「主なら」「主さえ」と延々続く怨嗟の渦は、一体誰のものだ。主が、何だというのだ。後ろに大きく跳躍し距離を取る。肩を押さえ槍を食らった場所へ放電し、傷を癒しながら娘に問う。
「――何が言いたい」
「主に縋る事と、過去に縋る事。それは同じ。主を変えられぬように、過去もまた変えられない。わたくしにとって、主こそ全て!」
「……」
それは要にとって重い言葉だった。過去は変えられない。そんなこと、言われずとも分かっている。わざわざ言われるまでもない。それを要に言うということは、この娘たちは過去から……主から逃れたいと思っていた頃もあったのだろう。しかし、此処まで堕ちた以上それもまた不可能なこと。要が出来ることは一つしかない。「優しく」屠る……それだけ。
「違うね。俺は――過去に縋ったりはしねぇよ。思い出に囚われて未来を捨てるような子供じみた真似はよ」
ちょっと痺れるが、意識を失えば何も感じずに済むだろう。狙いは娘の首、導雷針を真っ直ぐ構え、ぐっと勢いをつけて吸い込まれるように娘へと高速で接近! 首と頭の境目に思い切り導雷針の牙を立てる!
ガクっと倒れ込む黒い薔薇の娘。急所に流れる猛烈な電流に意識を失ったようだ。
「………気の毒だとは思うが、可哀想だとは思わないでおくよ。紅い薔薇の為に戦う、凛とした花のまま逝きな」
伏した娘の頭を狙い、凶器を振り下ろす。黒い薔薇を塗りつぶすあかい液体が、じわりと足元に広がった。哀れみはない、それは彼女にとって侮辱だろう。咲き誇ったまま逝くのが、黒薔薇らしい結末だと……要は振り返らずにその場を去った――。
成功
🔵🔵🔴
リーヴァルディ・カーライル
…ん。餌に食事…ね。既に身も心も怪物に堕ちたなら容赦はしない。
その身をもって、吸血鬼狩りの業を知るが良い。
事前に大鎌を武器改造して手甲剣に変化させて、
殺気や気合いを断ち存在感を薄めて闇に紛れ、
敵の第六感や暗視の死角に滑り込む早業の気配遮断で接近
…かつては貴女達も人間だったはずなのに…残念ね。
呪詛を纏う手甲剣を突き刺す先制攻撃で生命力を吸収した後、
怪力任せになぎ払い傷口を抉る2回攻撃で仕留めUCを発動
犠牲になった死者の怨念を左眼の聖痕に取り込み、
心の中で祈りを捧げて呪力を溜め次に備える
…いまだ魂が鎮まらないならば一緒に来て。
私の為でも、この世界は為でもない。
貴方達の魂の平穏の為に力を貸して…。
●
大鎌を改造し手甲剣に変化させると、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は殺気を押し殺し存在感を薄め闇に紛れる。
娘たちの第六感や死角にすら滑り込む早業の気配遮断。そろり、じわりと、しかし素早く腰を低くして接近したら、気付かれる前に先制攻撃を仕掛ける!
「っ!?」
「あら、耐えるの」
「お、お前は……」
吸血鬼狩り。その名はダークセイヴァーにも広く轟いている。此処の主たるモンストルも警戒していたのか、黒い薔薇の娘たちも知っていたようだ。
呪詛を纏った手甲剣を突き刺された娘は、生命力を吸収されその場に蹲る。その子を庇うように別の娘が前に出でてリーヴァルディと対峙した!
「餌の分際で……あなたは主の食事になる運命より他にない!」
「……ん。餌に食事……ね。既に身も心も怪物に堕ちたなら容赦はしない。その身をもって、吸血鬼狩りの業を知るが良い」
左眼の聖痕がきゅいんと光を吸収し妖しく光る。死霊の魂で覆われたリーヴァルディは、霊魂との精神同調率を高め限りなく強靭な精神力を得た。怪力任せの豪快な薙ぎ払いが手甲剣が庇う娘の肉に食い込み、傷口をぐいぐいと抉る。深まった傷へ更に二度目の斬撃を与え、ずたぼろとなった身体を力を溜めたタックルで押し倒した。
「……っは」
娘は押し倒された拍子に息が霞む。おかしい、おかしい、こんなはずではない。私は主に選ばれた、祝福された者。こんなところで、こんな小娘に負ける等、あってはならない。嗚呼、主に食事を届けなければ。
「あ、主……」
「………かつては貴女達も人間だったはずなのに……残念ね」
宙に向かって手をのばす黒い薔薇の娘。それを眺めながら、リーヴァルディは嘘偽りのない慈悲の心を向けた。かつて人であり、同じくモンストルを恐れた者でありながら、今やそのモンストルしか見えてない。――その囚われた魂を救いたいと、心の裡で祈りを捧げ、呪力を溜める。
「……いまだ魂が鎮まらないならば一緒に来て。私の為でも、この世界は為でもない。貴方達の魂の平穏の為に力を貸して……」
「ああ、私は……」
行き場を見失い揺れる血に塗れた腕を、リーヴァルディは掴んだ。そしてぐいとひっぱり娘の耳元で囁く。
「共に行きましょう。あなたを、救いたい」
ほろり、娘の眼から薄水が零れる。小さく頷いた娘に「ん」と短く返し、刃を心臓に突き立てた。ぶるりと震えて事切れた娘の魂を聖痕に取り込んで、娘の亡骸を横たえて立ち上がる。その瞳は紫黒に戻り、いつも通りを映す。
さぁ、華を摘み取りに行かなければ。堕ちた華はそのまま地に落ちるべきだと知らしめる為に――。
大成功
🔵🔵🔵
鈴桜・雪風
人食い薔薇と、それに支配された人間ですか
悪趣味にも程がありますわね
救えない事件は心苦しいですが、せめて次の殺人を止めるくらいの事は出来ましょう
これら娘は只の従犯
主犯の傀儡となれば、話を伺っても大したことは聞き出せぬでしょう
――そう、せいぜいが聞いて不快になる四方山話程度
であるなら、単に斬り伏せるだけで済みますわ
「出来ぬ、とは思わないでくださいまし。わたくし、探偵の心得として武芸も嗜んでおりますのよ」(傘から仕込み刀を抜きつつ)
犯罪者とは言え、無駄に苦しめるのは本意では有りません
皆、一刀で首を落として差し上げましょう
●
まぁ、なんと悪趣味なんでしょうと鈴桜・雪風(回遊幻灯・f25900)はくすり、笑った。人食い薔薇とそれに支配された人間、あまりにも程がある。涼やかな空色の髪を靡かせ、雪風は黒に染まった娘たちを見上げた。彼女らの昏い赤の瞳に、雪風の青は映らない。
「救えないのは心苦しいですが、せめて次の殺人を止めるくらいの事は出来ましょう」
「救いなど、求めておりません。私にとって、求めるは主の喜びのみ」
「――重症。いえ、侵食が進んでいるのですね」
可哀そうに、とは言わなかった。彼女たちにとって、主に仕えることは矜持に近い感情なのだろう。ならば憐れむのは筋違い、雪風の中の探偵の勘と経験が、娘の感情を察する。
――これら娘は、只の従犯。主犯の傀儡となれば、話を伺っても大したことは聞きだせぬでしょう。せいぜいが聞いて不快になる四方山話程度。であるなら、単に切り伏せるだけで済みますわ。
「これ、ひとつ面白いものをご覧にいれましょう」
「何を……主の加護なき小娘に、何が出来ましょうか」
「あらあら、見くびられたものですね」
探偵業は危険と常に隣合わせ。身を護る術のひとつやふたつ取り揃えていなければ、到底帝都の謎を解き明かすことなど出来やしない。しゃらん、傘を回してたおやかに微笑む。
「出来ぬ、とは思わないでくださいまし。わたくし、探偵の心得として武芸も嗜んでおりますのよ。例えばこんな風に――」
傘から仕込み刀を抜き、雪風だけが扱える桜純の構え。刀を逆手に持ち、三味線のように刀身を敵に向ける。闇の力を暴走させ、魔力を込めたペンを突き立てようと襲い来る娘をその刃で流水の如く受け流し、くるりと90度回転したら、滑らせるように刀を引き挙げる。スパっと切れた娘の肩口から、勢いよく血潮が吹きあがった。それは柔らかい太刀筋から想像できない程に深く、致命傷を与える。首が切れなかったのは娘の精一杯の抵抗故か。
「犯罪者とはいえ、無駄に苦しめるのは本意ではありません」
次は、ありませんよと続く雪風の言葉に、憎々し気に娘が息も絶え絶えに叫ぶ。
「悪魔め……」
「……」
いやはや、雪風にとっては耳を疑うような言葉だった。『悪魔』。このわたくしが。それはまた、なんと可笑しい冗談だろう。この娘はわたくしの過去など何もしらないくせに、わたくしを悪魔と罵る。嗚呼、滑稽ですわ!
「人に依って視方は変わるものです。悪鬼羅刹と化したあなた方にも、悪魔という概念があるのですね」
興味深いが、此処で追及している暇はない。雪風は刃を閃かせ、ストン、と娘の首と胴を切り離した。前言を撤回しよう。やはりこの娘らは可哀そうなのだ。本物の悪魔が間近にいながら、それを認識すら出来ぬ現実。そして……。
「わたくしを悪魔だなんて。ちゃんちゃら可笑しい話ですこと」
例え慈悲深さの奥底に、鬼を隠していようとも。その言葉に続く者は、誰もいない――。
成功
🔵🔵🔴
仇死原・アンナ
アドリブOK
…黒薔薇の娘達よ
大人しく捕まる気も食われる気もないんだ
私はただ…貴様らを狩り取る為にここに来た!
その命を狩り取ってやろう…!
[呪詛耐性、オーラ防御]を身に纏いながら
敵の攻撃を[見切り、地形を利用し闇に紛れ]ながら回避しよう
敵を自身の周囲に[おびき寄せ]たら
妖刀を振るい[早業、破魔、なぎ払い、串刺し]を用いた
【剣樹地獄の刑】を放ち敵を八つ裂き切り刻もう…!
黒い薔薇の花束はいらない…
欲しいのは一輪の紅い薔薇…死薔薇モンストルの命…!
●
呪詛に対する抵抗力、オーラによる防御力、そして黒の気配を身に纏い、仇死原・アンナ(炎獄の執行人・f09978)は戦場へ降り立った。娘らは鋭い殺気に震え、アンナを睨みつける。
「随分と粗っぽい方がいらっしゃいましたね……ようこそ、死薔薇の館へ、美味しく主に召し上がられませ」
「……黒薔薇の娘達よ、大人しく捕まる気も食われる気もないんだ。私はただ…貴様らを狩り取る為にここに来た! その命を狩り取ってやろう……!」
話が通じないとなれば、互いの間に走る緊張感。娘は手に錬成術を込め槍を作り出す。アンナは立ち込める闇に紛れ、テーブルを蹴り上げると盾代わりとなったそれが飛来する槍を受け止める! ザクザクザクっと突き刺さるそれに当たれば痛いのはもちろん、怨念が逆流し感情を揺さぶられてしまうだろう。咄嗟に身を隠したアンナの判断力たるや凄まじく速い!
「いい狙いだ」
「くっ……左右に展開するわよ!」
二人の娘はテーブルの左右から回り込み、アンナを挟撃しようと試みる。しかしそれすらもお見通し、巧妙に仕掛けた罠なのだ。
おびき寄せた二人のうち、右から来る娘へ破魔の力を乗せた早業の一撃を食らわせ昏倒させると、容赦なく踏みつけ一回転。妖刀と振るい左から来た娘へと薙ぎ払いを叩き込む! そのまま串刺しを喰らわせようと一歩引いて前傾で踏み込んだ!
「させない!」
「!? くっ」
急に足元がグラついた。先ほど昏倒した娘がアンナの足元に絡みつき、動きを制限している。その隙を狙いもう一方の娘が槍を錬成、至近距離からアンナに呪いを込めた怨念の槍を――。
「甘い……!」
ブワっと立ち込める恨みと殺意が、妖刀に集まる。怯んだ娘は槍の放出が一瞬遅れた。そのタイミングを喰らい、剣樹地獄の刑を解き放ち槍を持つその腕ごと娘を滅多刺しにし切り刻んだ! 吹き飛ばされた娘は壁に磔にされ、ずるりと血の絵画を描く。それを確認する前に、足に絡まるもう一人の娘に妖刀を突き刺せば、娘は「きゃああ」と声を上げ転げまわる。しかし赤の眼には怯えと共にまだ闘志を宿していると、アンナは気付いていた。
「そこまでして何故主に従う」
「お前には決して分かるまい……仕えるべき主もいない者には」
「……」
「――私ら黒薔薇の前に伏すがいい!」
「……黒い薔薇の花束はいらない……欲しいのは一輪の紅い薔薇……死薔薇モンストルの命……!」
命を掛ける程の使命。主という存在。確かにそういった対象は今は居ないが。心を強くする方法がそれだけではないと、アンナは識っている。それを、自身が証明している。
力を込めた渾身の一撃が黒い薔薇の娘を屠り、はらりはらりと黒の花弁を散らす。動かなくなった二人が冠する黒薔薇は、赤に染まっていた。まるで死んでも死薔薇からは逃がさないと言うように。
「根本から絶たねばならないということか……」
そうどこか悲しそう呟き、アンナは部屋を出た。廊下ではまだ戦っている音が聞こえる、加勢しに行かなければ。この脆く強固な絆を断ち斬るために――。
成功
🔵🔵🔴
リリー・ベネット
大人しく捕まるだなんてごめんですね。
行きますよ、アントワネット、フランソワーズ。
統一された容姿、盲目的に主に仕える姿は人形のようで……
愛らしく、哀しい存在ですね。
花は散って、季節が廻ればまた次の花を咲かすもの。
本来の姿でない貴方たちには別れを告げるしかありませんが……
どうか華麗に散ってください。
【先制攻撃】アントワネットの毒の鋏で攻撃。
【目潰し】で目を狙って、【傷口をえぐる】のを忘れずに。
フランソワーズの〈空色の恋心〉でお一人ずつ確実に倒していきましょう。
【怪力】【鎧砕き】でより重い一撃をお願いしますね、フランソワーズ。
●
統一された容姿、盲目的に主に仕える姿は人形のようで……愛らしくも哀しい存在だと、リリー・ベネット(人形技師・f00101)は思う。人形師であるリリーの作品には、ひとつとして同じものはない。どれにも皆主に可愛がってもらえるよう特徴を付け、愛を込めている。この娘たちの様に、記号的ではない。それが仮にこの娘らが人形だとしても、リリーの作品との違いだ。
「大人しく捕まるだなんてごめんですね。行きますよ、アントワネット、フランソワーズ」
こくりと頷いたのはアントワネット、口元に手を当てて笑みを隠すフランソワーズ。其々の反応の違いが愛らしい。毒塗れの鋏を手にし、アントワネットは素早く手近な娘へと近づくと、身体全体を使って鋏を振り回す! 狙いは相手の赤い瞳、目潰しで動きを鈍らせようと容赦なく鋭い刃を向ければ、娘も当たるまいと必死に避ける。
其処へすかさず、恋心に浮き立つフランソワーズの一撃が食い込んだ! その華奢な体からは想像もつかない程の怪力でもって、娘を捉えては鎧をも砕く重撃で心臓を叩き潰す!
「っは……!」
「フランソワーズ、貴女はそのまま。アントワネットは他にも目を向けて」
重鈍なフランソワーズの一撃により潰された心臓と肺に、息が出来なく無くなる娘。手を伸ばすもその腕は虚しく宙を掴むのみ。倒れ伏す娘には目もくれず、リリーは二体に的確に指示を飛ばし、自身もまた別の娘からの攻撃を避ける!
「……主には、はぁっ、近づかせません……!」
「ここで食い止めます」
彼女らは、いっそ人形であれば良かったのにと思う。主の云う事に疑問を持たないのはもちろん、痛みも悼みも感じない、心なき只の器であったなら、こんなに苦しむこともないのにと。それでも尚ここの主が人の形に拘ったのには、何か理由があるのだろうか。――寂しいから? まさか、オブリビオンがそんな事を考えるのだろうか。今のリリーには分からなかったけれど、機会があるなら知りたいと思った。
黒い薔薇の娘は息を合わせて二体の人形に襲い来る。小さな体躯を活かし、くるり、ふわりと翻弄するアントワネットとフランソワーズ。毒の鋏を勢いよく目に突き刺し抉るようにぐりぐりと捩じり回せば、痛みにのたうつ娘。視覚を奪われた背後にゆらりと近づき、その首を跳ね飛ばした。
ばっと散るあかの花弁。床に咲く血潮の華。美しい、生きていた証。人形でなかった証拠。
「花は散って、季節が廻ればまた次の花を咲かすもの。本来の姿でない貴方たちには別れを告げるしかありませんが……どうか華麗に散ってください」
ひっ、と怯む一人残った娘を、リリー達は冷ややかな目で見つめた。逃がすわけにはいかない、かといってやられてやる気も更々ないのだから、此処で屠るより他にない。躍起になった娘がリリーを狙う。それをリリーはじっと見つめて、二体の人形に任せる。
アントワネットもフランソワーズも、言われずとも息を合わせて黒い薔薇の娘を赤に染めた。嗚呼、この子たちはひょっとして、近づいているのだろうか。自律人形、その境地へ。……いや、まだだ。まだ『リリーを護る』という機構がそうさせているに過ぎない。それはこの娘たちと同じだ。いつか……。
「自らの意思というのは、線引きが難しいものですね」
それは散っていった娘へ掛けた言葉なのか、それとも二体の人形へ向けたのか。リリーの心中を知るのは本人のみである――。
成功
🔵🔵🔴
ココレット・セントフィールズ
従者を持つ「主」として今回の件は見過ごせないわ。
わたくしの従者_ディアリスと共に往くわ。(f00545)
あわれな黒薔薇の娘たち。
せめて、わたくしたちの手で屠ってやりましょう。
同じ服装で並ぶと屋敷のメイドたちを思い出すけれど…
これは決して主に対する忠義の感情ではないわ。
…せめて、この村が襲われる前に助けてあげることが出来ていたなら__。
今は無駄な考えね。
わたくしは今、モンストル嬢の薔薇まで辿り着かなければいけないの。
この歌が、あなたたちへの鎮魂歌よ。
せめて、その魂が救われますように…。
※アドリブ、他の方との絡みも歓迎です
ディアリス・メランウォロス
お嬢様(f00369)、私の後ろへ。
黒い薔薇の者たち、従者足りえない者たちよ。
君らに思うところはあるが我々に危害を加えようというのならば容赦はしないよ。
せめて速やかに屠ってあげよう。
立ち回りとしては、基本的にお嬢様と敵の間に割り込む形で護っていくよ。
お嬢様に何かあってはいけないからね。
攻撃時はただ力を込めて斬り伏せていくよ。
ちょっと壁や床が壊れるくらいだったらいいだろう、うん。
黒い槍と高速移動には注意が必要だね。
私のユーベルコードが使用されたら剣で弾くなり避けるなりしよう。
単調なものだからね。
戦闘が終わったらお嬢様のドレスの埃を払わなくては。
それは忘れないでおこう。
●
従者を持つ「主」として、今回の件は見過ごせないとココレット・セントフィールズ(幽玄のドレス・f00369)はディアリス・メランウォロス(羅刹の黒騎士・f00545)を引き連れ館へと正面から挑んだ。
「あわれな黒薔薇の娘たち。せめて、わたくしたちの手で屠ってやりましょう」
「はい、お嬢様」
ディアリスにとって、彼女らは従者足りえない。何故って、自分で考えもせず、主の指示に従うだけの傀儡に、主の本心など掴めないと知っているから。想うところは色々あるが、危害を加えようというのなら容赦はしない。せめて速やかに屠ってやろうと、剣を構える。
ココレットを護るように、娘との間に割り込むようにして前衛に躍り出たディアリスは、黒く鈍光りする剣に力を込めて叩き込んでいく。重く鈍い一撃に娘はフッと笑って避けるものの、それが一陣で終わるはずがないとも確信していた。
――この羅刹には護るべきものがある。私達と同じ。同じ? わからない、唯、主に仇なす者を排斥するだけだと、そう思っていたのに――なぜだか、どうして、感情が底冷えする。どうして主を護りたいのか分からない。そういうものだと、頭がずきずき痛む。まるでそれ以上考えるなと云うように。
「お嬢様になにかあってはいけないからね……容赦はしないよ」
力の込められた一刀に粉砕される壁や床。まぁ、これくらい壊れるのも仕方ないだろうとディアリスは個人的に納得を決め込み、ガシャンガシャンと調度品も装飾品も気にせず薙ぎ払ってゆく! 一度でも、切っ先でも当たれば肉が抉り取られることは必至。娘は分かっているからこそ安易に近づくことが出来ない。となれば、狙いは後方でサポートに回るココレットに向けられる!
「同じ服装で並ぶと屋敷のメイドたちを思い出すけれど……これは決して主に対する忠義の感情ではないわ」
そう語るココレットの瞳に浮かぶのは穏やかでありながら悲哀と愁傷の感情。誰も指摘する者はおらず、主もまたこの関係性に疑問を持つことなど無かったのだろう。自分と従者の関係を思い出せば、それは歪な関係性に見えた。主と従者というものは、近すぎてもいけないが、心が遠く離れていては互いを慮ることなどできやしないのに。
ココレットへと向かったのは、ディアリスの重撃を模したユーベルコード。羽ペンを黒剣に見立て、高く振り上げたら突き刺そうと素早く技を開放する。しかし、そこに挟み込むようにしてディアリスが駆け込みココレットを自分の技を真似た一撃から黒剣を翻し守る!
「ディア――」
「ご無事ですか」
「ええ、お陰様で」
「それは重畳」
黒剣はバキィンと音を立てて、羽根ペンを弾き飛ばす。その矢先からびりびりと響く痛みに、くっと膝を折るディアリスに、ココレットはすかさず癒しの歌声を与えた。それは涼風のように清らかで、春風の様に暖かい。
「~♪――あなたに、我らが祝福を。この歌があなたたちへの鎮魂歌よ」
「……ありがとうございます、お嬢様」
「当然のことよ。さぁ、ディア。止めを」
「御意」
号令に合わせ、ココレットに害為す全ての者を穿たんとディアリスが駆ける。羽ペンを失った娘は再び手に魔力を込め錬成するが、もう遅い。ディアリスの剛剣は、今や数多の風を受けてそれより速い! 単調な攻撃だと、自分の攻撃の弱点を見抜いていた。故に避けるのも簡単で、カウンターに持ち込むのも容易! ココレットの歌声が室内に響く。嗚呼、これだ。この歌声こそ、主たる者の勇躍たる印。
にじり潰すように、黒剣は娘の脳天からはらわたまでを断ち斬った。ぶしゃっと溢れ出る血で汚れないよう、ディアリスはマントでココレットを庇う。その真っ白な外套が血に塗れようとも、主にはあかのひとつもつかないように。そして、無残な亡骸を見せないように。
「ディア、ディア。もう大丈夫よ」
「いえ……もう少し、このまま」
「そう
……。……せめて、この村が襲われる前に助けてあげることが出来ていたなら――。いいえ、今は無駄な考えね。せめて、その魂が救われますように」
こう言うと優しいと大概のものは勘違いするが、ココレットの真意は違う。魂が救われたのなら、せめて次は自分の意思で、仕える主を選ぶようにと想うのだ。強制された忠誠ではなく、こころからの忠義を向け、あるいは向けられたのなら、その関係はきっと唯一無二のものとなる。そう信じているから。
ココレットの衣服についた瓦礫などの汚れを軽く叩いて祓い、ディアリスは手を引いて此の血に塗れたフロアを後にする。赤く咲く主に酔う死薔薇に会いに、二人は会いに行かなければ――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
誘名・櫻宵
【桜一華】
本当ね
七結
喰らうだなんて恐ろしい
喰らわれるのはあなた達でしょう
染めましょう!あえやかなあかに
あかは好きよ
いのちの温もり
甘い甘い愛の色彩
ねぇ咲かせて
お腹が減ってたまらない
噫、レディの前ではしたないかしら
ええ振り向かないわ
可愛い子
前を見ないで頂戴
乱れ咲いてしまうから
愛し合いましょう!
戀人の腕に飛び込むみたいに駆け出しなぎ払い
衝撃波と共に命を喰らい尽くす
おいしい
あかを咲かす
足りない
もっともっと
呪殺吹雪かせ舞うように
斬って穿って蹂躙の果て
「喰華」
戀紅と愛紅舞う穹に、笑む
秘密
秘密よ七結
蕩ける笑顔は甘くておいし
戀し愛して喰らって咲いて
ひとならざるあなたと
ひとならざるわたし
同じね
まっかな秘密
私達の
蘭・七結
【桜一華】
喰らうですって
恐ろしいことを云うのね
あかく染まるのは何方かしら
捕らうのはわたしたちよ
あか、あか、あか
いのちの色
いっとう好ましい色
人に巡る鮮血の色
嗚呼、いけない
心の奥底から込み上げてくる
あかへの衝動
ほしいという渇慾
悪いこになってしまう
後ろはなゆに任せて
どうか振り返らないでね
笑みがこぼれる
はじめましょう
絶ち斬る黒鍵を喚ぶ
衝動に身を委ねたなら時が加速する
乱れ咲く花を薙ぎ払い
薄紅と濃紅が舞って
あかいはなを咲かせて
とびきりあまく笑いましょう
はしたないかしら
あなたはわらってくださるでしょうね
ひとに堕ちたわたしのひと成らざるもの
ここだけのひみつ
ひみつだわ
嗚呼、ほんとうに
この渇慾は人には見せられない
●
あかを宿すものがいた。あかに魅入られたものがいた。あかに誓ったものがいた。嗚呼、此処に集まったのは運命か、或いはそれの悪戯か。ともあれ出会ってしまったあかとくろ。どちらがより深い色なのか。二人、誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)と蘭・七結(こひくれなゐ・f00421)はどちらからともなく――決着をつけましょう、と声をあげた。
「喰らうですって。恐ろしいことを云うのね。あかく染まるのは何方かしら」
「本当ね、七結。喰らうだなんて恐ろしい。喰らわれるのはあなた達でしょう」
「捕らうのはわたしたちよ」
謳うように、語らうように、あかは踊る。あえやかなあかに、たおやかなあかに。甘い甘い愛の色彩。どろりとぬくい戀の澱み香。それでいて、いっとう好ましい誠の色。蒼でもなく翠でもなく、どうしてあかに誘われるのか。それは人が本来持つ、いのちの色で温もり、巡る鮮血の色だから。
嗚呼、いけない。七結は心の奥底から込み上げてくるあかへの衝動に震えた。ほしいという渇慾に喉がひり焼ける。このままでは、悪いこになってしまう。もうなゆは大丈夫だと、もう『ひと』に溺れたと思っていたのに。この『おに』は何処に隠れていたの? くすり、笑みがこぼれる。
「後ろはなゆに任せて。……どうか振り返らないでね」
「ええ、ええ。振り向かないわ。可愛い子、どうか前を見ないで頂戴」
「ふふ。もちろん。――はじめましょう」
櫻宵は乱れ咲いてしまうから、とは声に出さず、戀人の腕に飛び込むように駆け出して、一閃。薙ぎ払った後に咲く娘の肢体を、衝撃波でもって侵し、命を食らい尽くす。噫、レディの前ではしたないかしら。でも仕方ないじゃない、お腹が減ってたまらないんだもの。啜り上げるあかは甘美でとろけて、頬が綻ぶ。おいしい。あかを咲かせて、もっともっと!
「さぁ、愛し合いましょう!」
呪いの言葉を櫻吹雪に乗せて、くるりくるうり舞うように、斬って穿って蹂躙の果て。意思をも蕩かす蠱惑の龍眼で娘を睨めば、戦場が桜獄へと造り替わる。あかが乱れて、陽炎のように揺れる。ゆらゆら、ひらひら、哀しくもないのに、ぐしゃりと溢れ出たあかの軌道。戀紅と愛紅舞う穹に、弧を描く唇と眼。あかを翻す櫻宵の舞台で隣に立つものは、同じあかを纏ったものが良い。
黒い華なんてお呼びでないと、後方から加速した刻を渡り七結が翔ける。吸血鬼としての衝動に身を委ね、乱れ咲く黒薔薇を屠る。散らす。薄紅と濃紅が舞って、ぽたぽたと、はたはたとあかいはなを咲かせて。それはまるで夢の世界。いいえ幽明の世界かしら、それすらも今はどうでもいい。わたしたちの紡ぐあかは、如何? と、からから笑いながら娘等に問う。
「素敵ね、あか。きらりと、どろりとしていて。貴女方もそう想わない?」
「おいしいわ、あか。なめらかで、しっとりと濃い。貴女たちの味わい、悪くないわ」
「……貴方たちは人を辞めたのね。私たちと同じ」
同じ。同類ですって! くすくす、うふふと、とびきり甘く笑う、嗤う、二人。全く、一体どこからそんな言葉が出てきたのか、ああ可笑しい。
「いいえ、なゆは『ひと』よ。どうしようもなく」
「龍を忘れたことなどないけれど、あの子が望むになら『ひと』にだってなれるわ」
「化け物! 鬼! お前たちは悪魔だ! 主に仇為す敵よっ!」
「「でも今は……」」
声が重なる。でも今は、鬼とも悪魔とも呼ばれよう。どんな謗りも受けて立とう。あかに濡れる今だけは、私たちは『ひと』を手放す。
――はしたないかしら。あなたはわらってくださるでしょうね。『ひと』に堕ちたわたしの『ひと』成らざるもの。ここだけのひみつ。七結は小さく微笑んで。
――秘密、秘密よ七結。蕩ける笑顔は甘くておいし、戀し愛して喰らって咲いて。ひとならざるあなたと、ひとならざるわたし。私たちだけが、同じねと櫻宵は口元を隠し眸だけで笑む。
まっかな秘密、私達の。嗚呼ほんとうに、この渇慾は人には見せられない。想いを共感する者が一人でも居て、良かったと。二人、甘く笑い合った。いつの間にか床は血のあかが広がり、急速に酸化していく。
「永遠のあかを、なゆは知りたいわ」
「そうね、もしそんなものがあるとしたら……身に着けて、一生離さないわ」
二人の歌声が終わる頃、部屋の中の娘たちは皆血を流し、事切れていた。どの味が1番だったかなんて、そんな『はしたないこと』はしなかったけれど、最後にわたしたちを鬼と罵った娘……あれは格別の味がしたと考えて、戦場を後にする。次のわたしは、『ひと』にもどっていられるかしら? そんな問いかけを自分に課して――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リンタロウ・ホネハミ
おーおー、可愛い村娘をこんなひでぇ存在にしやがって……
なんとも救えねぇ話っすけど、剣を抜かねぇわけにはいかなっすね
なるべく早く葬ってやることが、もはや唯一の救いでしょうから
ヤマアラシの骨を食って【一九八番之針地獄】を発動!
斬りかかって始めた剣戟の最中、不意に背中を向けてお嬢さんの攻撃を誘うっす(だまし討ち)
作られた隙を突いたが最後、槍衾で突き返されるっつー寸法っすわ(カウンター)
それを予測されていても、オレっちのユーベルコードをパクるんでしょ?
骨を食わねぇと使えない、ね
戦うことを知らない素人の、何かカウンターを狙ってるっつのが丸わかりの動きっした
……そんな娘を斬りたくはなかったっすねぇ……
●
なんの骨かも分からない一本をがじがじ噛みながら、リンタロウ・ホネハミ(骨喰の傭兵・f00854)は廊下に一定間隔で静かに佇む娘たちを物陰から伺っていた。
「おーおー、可愛い村娘をこんなひでぇ存在にしやがって……。なんとも救えねぇ話っすけど、剣を抜かねぇわけにはいかなっすね」
ここまで主の命に従い侍るならば、なるべく早く葬ってやることが、もはや唯一の救いであろうと、ポキっと口にした骨を噛み砕く。新しく食むはヤマアラシの骨。
殺気を察知した娘の一人が、廊下の端を睨む。じっと見つめる其処には、なにも無いように見える。目立たない、とはこういう時に役立つが……いつまでも隠れてはいられない。針山を背に生やした姿に変身したリンタロウは、ガッと丸まりながら廊下へ転げ出でた! 当然複数の娘が気が付き近寄ろうとするが、無数の高硬度の針が邪魔をしてそう簡単には触れられない!
「くっ……」
「ビビってるとこ悪いっすけど、こっちからいくっすよ」
ダガーで斬りかかって羽根ペンと刃が交差する。相手は複数だ、一人を相手にしていては残りが疎かになるのは必至。剣戟の最中、不意に背を向ければ娘たちはしめたとばかりにその針山に攻撃を仕掛ける! しかし、その隙こそが最大の罠だと娘たちは気付かない。突いたが最後、鋭い槍衾が娘の掌を貫き顔面に貫通する! ああああ、と顔を覆う娘の反応に、他の娘はリンタロウの技を盗もうと書物にその構造を認める。しかし、仕組みが分かったところでどうすると云うのか。彼の技は彼だけが使える業。ホネハミの名に違わないシロモノ。その技は――骨を喰らわないと使えない。
ただの骨ならば同じ娘の骨を使うことすら厭わなかっただろう。だがしかし、彼の者が使うはヤマアラシの骨。そんなもの、整理整頓と清掃の行き届いた此処には存在しない。であれば、本人から盗むのがてっとり早いとリンタロウに襲い掛かるも、針とダガーの合わせ技が娘が近かろうと遠かろうと娘らを傷つける。対複数であろうとも、リンタロウは全く劣勢ではなかった。むしろ複数の娘を此処に抑えている事で、他のフロアで闘う猟兵へのサポートにもなっている。
「いやはや、なんとも素人なんですわ」
「何を……っ! わたくしたちは主の為にっ」
「主の為に、何が出来るっていうんすか? 其の身を賭すことしかできないでしょうが、あんたらは」
娘らの主を想像する。恐ろしく気難しくて、少しの事で癇癪を起し、娘らを蹂躙していたか。あるいは微笑みを絶やさず威圧感のみで従えているか。どちらにせよロクなものじゃない。そんな主従関係に、リンタロウは何の共感も出来なかった。戦うことを知らないド素人の娘を無理矢理仕立て上げて、狙いが丸わかりの動きが見え見えで。いっそ可哀そうな程に、娘たちは素直だというのに。
「はぁー……。こんな娘さんらを斬りたくはなかったっすねぇ……」
ボキっとヤマアラシの骨を噛み砕き、背の針を全方位に放出する! ドスドスドスっと壁に、床に、天井に磔になった娘たちからぽたり、どろりと流れ咲くあかい花。それをぴしゃんと踏みならして、リンタロウは先に進む。この先に居る死薔薇、屹度世にも美しい花と対峙しに。世にも悍ましい華を退治しに――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『死薔薇のモンストル』
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POW : 食事にしましょう
自身の装備武器に【触れたものの体力を吸う茨】を搭載し、破壊力を増加する。
SPD : なんでしたっけ、これ
自身の【つけているリボン】を代償に、【巨大な動く薔薇】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【猛毒の花粉、茨の鞭】で戦う。
WIZ : 刈り取りましょうね
【種子の弾丸】が命中した対象に対し、高威力高命中の【発芽した茨による拘束を行い、更に鎌の斬撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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●主へ献ぐ
黒い薔薇の娘は散り落ちて、崩れた花弁は真っ赤に塗れる。まるで死んでも逃がさないと、――死んでもお前の罪は赦されないというように、黒い花を真紅の赤に染めた。全ての花が消えたあと、最後に残った一輪がひらり、可憐に晦冥に降臨する。
それは真っ赤な薔薇を戴く、美しい少女。眸にもあかを携えて、薄らと笑う少女は純真無垢。開いた口は鈴の声で猟兵に語り掛ける。
「皆様、ようこそおいでくださいました。待っては居なかったけれど、食事が自ら来るなんて僥倖よ。でも、私の薔薇を散らした罪を、噛み締めたりはしたかしら? 彼女たちも生きていたのよ。無残に散らして、罪悪感のひとつも無いの?」
くすり、くすくす。少女――モンストルは静かに笑う。其処には確かに怒りが浮かび……同時に悔恨が擡げていた。私が彼女らを殺したの? 私に召されなければ彼女らは殺されなかった? と。でも思うのだ、彼女らを助けたのは私、活かしてあげたのは私なのだと。二律背反の感情がモンストルの脳内を巡る。嗚呼、もう何が真実なのか分からない。私は一体何を為した――?
●死薔薇の手記
――誰かが屋敷にやってきた。屹度今度こそ私を罰しにきたのでしょう。
――ご主人様、あなたの姿をお借りして、私はこうして生きてきました。でもとうとう、限界が来たようです。
――あなたのお姿で、私は衝動のまま生きてきました。それが悪い事だとは思いません、屹度あなたもそうやって生きてきたのでしょうから。
――でも。
――出来る事なら、貴方の隣で、またお話を聞かせていただきたかった。だってあの娘たちときたら、昔の私の様に、お話を聞かせても何の反応も無かったのです。それはとても、悲しい事です。
――ですから、ご主人様。親愛なるモンストルさま。私がもし、同じ地平にいけたなら……その時はどうか、私にまた、今日あった色んな出来事・様々な夢物語を、聞かせて下さいね。
――その為に、いいえ、今日だけは私の為に散っていった娘たちのために、戦うといたしましょう。
あなたの白薔薇・モンストルより
ココレット・セントフィールズ
オセ、来てくれたのね。心強いわ。
…行きましょう、ディア、オセ。
わたくしは彼女をモンストルでも、死薔薇でもないと思っているわ。
彼女は主を愛したただの、「モンストル嬢の薔薇」。
わたくしはこの認識を頑なに崩さない。
その上で……
ヴァンパイアに侵されたあなたに対してとても困難で不可能な提案であることは承知の上よ。
でも……だけれど、主を愛したあなたを、わたくしは放っておくことはできない!
モンストル嬢の薔薇よ!
わたくしの…この、ココレット・セントフィールズの薔薇におなりなさい!
…どうか、応えて。
モンストル嬢の想いを、わたくしに引き継がせて…!
※アドリブ、他の方との絡み歓迎
オセロ・コールブランド
お嬢様(f00369)ディアねーさん(f00545)と
あーららなんつーかなれの果てェ…
言いたかないけどさ、そちらサン
何で一緒に散ってやらなかった
主人の命も令もなく名前だけを語り続ける、アンタのそれは不忠だよ
でもま、それ教えてやる人間もいなかったンスよねぇ、かーわいそ
悪い悪いはヴァンパイアなんでしょうし?
だからまァ、
俺たちの白く輝くもの。
お嬢様のお言葉ァ頂く名誉はあってもいいんじゃない?
つーわけで、お嬢様、此方に
【無敵城塞】で御護りしますよ
脇はディアねーさんに任せて
もともとこの人が汚れないよう護るのが俺たちの役目
この人が散る前に貫かれるのが俺の仕事
で、アンタどーすんの
散り方くらいは自分で選びなよ
ディアリス・メランウォロス
お嬢様(f00369)の説得を見守るが、いつ攻撃してくるとも限らないのですぐにかばえるようにしておこう。
オセロ(f05438)とも合わせて動けるようにしておかなければいけないね。
万が一にも説得できるならそれも良し、お嬢様を褒めましょう。
元の白さが少しでも心に残っているのならば効果はでるのだろうか。
なんにせよ、私のすることはお嬢様を護ること。
戦闘になれば全力でいかなければならないね。
お嬢様や私への攻撃を剣で弾き、叩きこめるようなら思いっきり一撃を叩きこもう。
なに、元が白く、血の赤で染まっているのなら今の私も同じようなものだ。
仲良くしようじゃないか。
●
ココレット達の要請を受け、一足遅れでオセロ・コールブランド(宣誓剣・f05438)もまた戦場へと駆け付けた。ぱちんっといつものようにウインクを飛ばし軽いノリの彼が来ると、場が明るくなるようだった。
「オセ、来てくれたのね。心強いわ」
「そりゃもーお嬢様のお呼びだしとあればどこへでもっすよ」
薄ら微笑み、その元気な対応に応えるココレット。ディアリスもまたうむ、と頷く。此処に三者が集まり、いつものお屋敷の面子が揃う。シャチのあの子がいないのが残念だが、彼女もまたメイドとして忙しい身、都合がつかない時もある。
「……行きましょう、ディア、オセ」
敵対する彼女『死薔薇のモンストル』は、モンストルでも死薔薇でもないとココレットは思っている。彼女は主を愛した、ただの『モンストル嬢の薔薇』であると、その認識を頑なに崩さない。薔薇は薔薇らしく、咲き誇っていればいれば良い。誰かを傷つける為にあるべきではないはずだ。ヴァンパイアに侵されたその身――その上で、多少の無理は承知で困難な提案を彼女に投げかける!
「主を愛したあなたを、わたくしは放っておくことはできない! モンストル嬢の薔薇よ! わたくしの……この、ココレット・セントフィールズの薔薇におなりなさい!」
モンストルは呆気にとられたようだった。ぽかん、と口をあけて暫しの棒立ち。続いて込み上げる笑い、嘲笑。この私に、この子は何を言っているのか。
「私はご主人様の薔薇よ。例えあの方がもう居らずとも、私がご主人様を捨てることはありえない。ご主人様は私の全て、他人にお世話されるなんて、まっぴら御免だわ」
「あーらら、なんつーかなれの果てェ……。言いたかないけどさ、そちらサン」
モンストルの瞳を睨みつけ、オセロはきっぱりと言い切る。そこに揺らぐ気持ちはない。自分はあくまで、ココレットの従者。
「何で一緒に散ってやらなかった。主人の命も令もなく名前を語り続ける、アンタのそれは不忠だよ。でもま、それ教えてやる人間もいなかったンスよねぇ、かーわいそ。悪い悪いはヴァンパイアなんでしょうし?」
はぁーあ、と深いため息を吐きながら肩を竦めるオセロの様子に、モンストルはスっと瞳の赤から煌めきを無くす。何とも言えない感情がモンストルの中に湧き上がる、それすらも彼の作戦の内か。
「だからまぁ、俺たちの白く輝くもの。お嬢様のお言葉ァ頂く名誉はあってもいいんじゃない?」
「……なぁに? それ」
死薔薇は無感情なのか、それとも呆れなのか、うんざりした様子ながらもココレット達の説得を最後まで聞いた。聞いたうえで、何を言っているのか理解できなかった。
「私のご主人様は、いつだってモンストルよ。そうして、今は私がモンストル。ご主人様が散った時、私も共に散れたならよかったけれど、私は愛するご主人様の肉体を得た。今度は私が、ご主人様の代わりに生きていくの。それが、私の忠義よ。誰にも文句は言わせないわ」
どこまでもモンストルに執着する彼女を説得するのはやはり難しいのか、揺れ動かない死薔薇の心を溶かす渾身の一言が出てこない。ディアリスはさっとココレットの前に出て、マントで主を隠しながら進言する。
「お嬢様、これ以上は」
「ディア。でも……」
「彼女には彼女なりの、矜持と信念があるのでしょう。それを手折ってしまったら、彼女はモンストルの薔薇ですらなくなってしまいます」
「……そう、ね」
「ムズカシー話っすねぇ」
なに、簡単な話さとディアリスは黒剣を構える。説得が通じない以上、残る道は戦うことのみ。何にせよ、ディアリスのすることはココレットを護ること。それ以上の任務など存在しない。たとえ白薔薇を散らそうとも、この方だけは護ってみせると――それが騎士としての務め。それを感じとったのか、オセロもふんわり笑って頷いた。そうだ、薔薇の棘でお嬢様が血を流すなんて、使用人失格、管理不行き届きだ。ならばとディアリスに並び、臨戦態勢に入る!
「お嬢様には俺らが近づけさせませんで。見守っててくださいっす!」
「頼んだわ」
鎌にしゅるりと茨を巻きつけ、モンストルは一歩ずつ前衛で後ろを遮るディアリスに歩み寄る。鋭い鎌を振りかぶり、ガチンと響く剣戟。鎌を受け止めた黒剣がギチギチと茨に侵食され絡まっていく。振り払えばブチブチと千切れ萎れる蔦だが、同じことを繰り返していては茨の成長速度の方が早い。それを視切ったのはディアリスに限らず、モンストルもだった。
ならば、リーダーから潰す。黒騎士の脇をすり抜け、可憐な花に飛び掛かる死薔薇に応えたのは待ってましたとばかりに躍り出たオセロ。ココレットを部屋の隅に寄せ、自分が前に出ることによって死角を無くす作戦だ。無敵城塞と化したオセロはそう簡単に崩れることはなく、一歩引いたところで後方からディアリスの剛剣が唸る!
「あなたたちもご主人様を護りたいのね。気持ちは分かるわ。分かるから、許せない。そうしてのうのうと生きていることが。私はご主人様とお話する事すら出来なかったのに。ご主人様をお守りすることすら出来なかったのに。貴方たちはずるい、ずるいわ!」
護ることが出来る怒り、自分に叶わなかったことを実行する眼前の敵。真っ赤な瞳は嫉妬の炎を宿して、掌から種子の弾丸をオセロとディアリスに投げつける! 当たった箇所からぷつぷつと発芽した茨は二人を拘束し、身動きを奪った。
「くっ、これでは!」
「うごけねーっすよ~!」
「目障りな貴方たちから刈り取ってあげる」
モンストルの死の鎌が近づく。振り上げた鎌が降ろされるその前に、清らかで聖なる光が二人に降り注ぎ、茨をじゅわじゅわと焼き尽くしていった! じわ、と焼けこげるような熱い光に怯え、一旦引くモンストル。
「なに……?」
「わたくしの従者はわたくしのもの。勝手に縛り付けないでいただけるかしら」
「さっすがお嬢様ー! 頼りになります!」
生まれながらの高貴な光が二人を照らせば、癒しの力は悪しき力を奪い、二人に加護を与える。その分、ふらっと力の抜けたようになったココレットを、オセロがすかさず支える。手をとって、もう大丈夫っすというオセロは、その口調さえどうにかすれば王子様のように格好良いシチュエーションだ。
そんな二人を背にして、ディアリスは黒剣をぎゅっと握りしめ大きな一歩でモンストルに近づく! 動揺するモンストルに、黒く輝く刃が鈍重な一撃を浴びせた。鎌でガードしても風圧で吹き飛び、床は大きく凹んでいる。痛みに耐えながらモンストルは護られし者へ憎しみの視線を沿わせた。
「……許せない」
「許さなくて結構。ディア、オセ……終幕を」
「はい、お嬢様」
「はーい!」
冴えわたる聖光に包まれた騎士たちに、恐れるものなど何もない――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
セツナ・クラルス
…そうだね
美しい黒薔薇を散らすのは心苦しかった
だが――それがどうした?
手を汚す覚悟など、とうにできている
彼女たちはあなたの為に命を賭して戦った
あなたはどうなのかな
あなたにも、自らを、誰かを穢してでも
叶えたい願いがあるのだろう?
あなたが願いを叶えたいなら、私は妨げにしかならないよ?
さあ、私を滅ぼすといい
私はあなたの歪んだ希望ごと平らげてみせよう
慈しむような笑みを浮かべてUCを発動、
敵の攻撃を受け止め浄化しよう
敵の攻撃が緩んだらUCを解除し反撃
属性魔法・炎で茨を焼き
毒+破魔の力で彼女の喉を掻き切ろう
過ぎた願いは身を滅ぼすものだよ
…、
自嘲的に微笑むと目を伏せて
●
覚悟など、とうにできている。花を毟る覚悟も、散らす覚悟も、此の手を汚す覚悟だって、とうの昔に。美しく舞った黒薔薇を散らすのは心苦しかったけれど、それがどうしたというのだ。何もかも今更だ。
「黒薔薇の娘を散らしたのね。可哀そうに、彼女らは私の為に頑張っただけなのにね」
「……彼女たちはあなたの為に命を賭して戦った。あなたはどうなのかな。あなたにも、自らを、誰かをけがしてでも叶えたい願いがあるのだろう?」
モンストルは首を傾げた。叶えたい願い、それはなんだろう。ご主人様とお話すること? それとも永遠に、ご主人様のまま生きる事? 分からない。でも、屹度何かあるんだろう。そうでなければこんなに、生に執着しない。これではまるで……人間みたいではないか!
「私の願いは――ご主人様と共にあること。今が久遠に続くこと。それが望み。邪魔をするのなら、消えてもらうしかないわ」
「そうだろうとも。あなたが願いを叶えたいなら、私は妨げにしかならない。さぁ、私を滅ぼすといい。私はあなたの歪んだ希望ごと平らげてみせよう」
慈しむような笑みを浮かべ、両手を広げるセツナ。それを機を睨んだか、モンストルは頭上の薔薇を巨大化させ、猛毒の花粉をまき散らし茨の鞭を振るう。攻撃が当たる直前、完全な脱力状態となってそれらを無効化すると、全てを受け止めて浄化の言葉に変える。
「あなたはご主人様を愛していた。屹度ご主人様もそうだったのだろう、でなければ、こんな風に主を模したりしない。主の名を戴いたりしない」
「わ、わたしは……」
「あなたは許されるべきだ。その為にも、罪は償わないとね」
優しい言葉に震えるモンストルに、脱力状態を解除したセツナは炎の魔法で茨を焼き払う! きゃあっと怯んだ彼女に向けて一直線、破魔に毒を乗せたダガーを翳す。涙を浮かべるモンストルに、一瞬の躊躇い。その隙を狙い、モンストルは思い切りセツナを蹴って距離をとった。涙をごしごしと拭う姿は、まるで本当に、人間の少女のようで――。
「あなたは、誰なんだい」
「私は、モンストルよ。誰よりも優しくて、私を愛おしんでくれた、私にとっての神様。いまは私が、ご主人様の代わり」
黒い薔薇の娘をまとめ上げ、従えていたモンストル。其処に何かしら想うところがあったのかもしれない。例えば、昔まだ白薔薇だった頃、水を注いでくれたこと、愛を注いでくれたこと、色々な話を語ってくれたこと。それを再現しようとしたのか。しかし、やり方が良くなかった。娘たちは強制されて此処に来て、オブリビオンに堕ちた。今や逆らえる者もおらず、何の反応も示さない娘は白薔薇以下だ。モンストルがまだ薔薇だった頃さえ、嬉しければ精一杯花を咲かせたというのに。
「私は、モンストル……ご主人様の、薔薇よ」
「そうか。では、そのまま逝くといい」
セツナにはその気持ちが少しわかるような気がした。誰かに愛されたなら、それを返したいと思う。期待されたなら、頑張りたいと思う。それが『悪いこと』だとしても、気付かなければ何の罪悪感も持たない。嗚呼、彼女はもう、人に慣れすぎたのだ。可哀そうに。何も識らない薔薇ならば、こんなに傷つくことも無かったのにと憐れむ。でも、だからといって容赦はしない。――さぁ、あなたを散らそう。この昏い世界に、あかをさかせようじゃないか――。
成功
🔵🔵🔴
三嵩祇・要
罪悪感ならあるぜ
生きる為にあとどのくらい罪を重ねるんだろうな?お前たちと何も変わらないさ
死ねばそれ以上罪を重ねなくて済むってだけの事だよ
白薔薇のまま逝けなかったのは心底、可哀想に思う
ただひたすらに惜しみなく尽くすだけの綺麗な存在でいられたのにな
理不尽に踏みにじられたお前自身と、お前の主の為に
ここで終わらせてやる
増強剤で能力を上げて敵の攻撃はなるべくかわす
拘束を解けずとも致命傷を避けるくらいはできるだろう
命を刈り取るからには捨て身も覚悟の上だ
肉を斬らせたからには、骨を断ってくれよジェベル・セテカー
紅色は全部ここに捨てて主の元へ逝きな
●
罪悪感はないの? と問うモンストルに、あるぜ。と素っ気なく応える要。生きる為にあとどのくらいの罪を重ねるのか……お前たちと何も変わらないと。死ねばそれ以上罪を重ねなくて済むってだけの話だ。
白薔薇のまま逝けなかったのは心底、可哀そうに思う。それは黒い薔薇の娘の時には決して持たなかった感情。暴れ壊し回らねば、ただひたすらに惜しみなく尽くすだけの綺麗な存在でいられたのに。理不尽に踏みにじられ、踏みにじったお前自身と、お前の主の為に。
「ここで終わらせてやる」
「私は終わらないわ。ご主人様の為に生き続ける!」
自分用にカスタマイズされた専用の増強剤をごくりと飲み、身体能力を大幅にあげる。一瞬ぐわんと視界が歪んだのは、速さに自分自身がついていけないから。これは慣れが必要だな……と思いながら、モンストルの発する種子の弾丸を躱して走る! しかし種子の発射の方が速度が速い、腕でそれを庇えばぷつぷつと服を破り茨が発芽して要の自由を奪う。ニヤリと笑ったモンストル、大鎌でザシュっと要を叩き切るが……増強剤によって力を増していた要は足の力だけで加減して避け、茨だけを刈り取らせる。
「まぁ、器用なのね」
「あんたもな」
茨だけがはらりと地に落ち、二人、薄ら笑う。要の方は笑っているのか微妙な表情だったが。
さて、命を刈り取るからには捨て身も覚悟の上。肉は切らせちゃいないが、骨くらいはサービスで断ってくれよ、ジェベル・セテカー。その声に呼応するように、音にならない声音が響き渡り、首のない悪魔が姿を現す。今日は4つ足の強靭な脚を持ち、人のような上半身で現れたジェベル・セテカーに、要も「気に入ったのか? その姿」なんて軽口を叩いて。口も無いのにどこから声を出しているのか、悪魔は手にした発光する球体に雷光を集めだす。
『今宵の獲物は……花か。哀れなことだ』
「お前もそう想うか」
『然り。花は散ってこそ花、永久に咲く花など妖に過ぎぬ』
即ち、散らない花など花ではないと。モンストルが愛した白薔薇、何もかもを主を模して、それでもなお主になり切れない憐れな娘。
ジェベル・セテカーの雷撃がモンストルに直撃する。が、くるりと回した鎌で霧散した雷に、少し驚いた。相手は植物、雷はそれほど効果が高くないのか、モンストルは恐れず鎌を握りしめ走り寄る。狙いは要一人!
「おっと……あんま効いてねぇな。セテカー、いけるか」
『構わん』
「んじゃ俺は奴を引き付ける。あとは殴るでも蹴るでもしてあいつを何とかしてくれ」
増強剤の効果はまだ効いている。走りだした要を捉えるのは容易ではない。追いかけるモンストルの脇を捉え――ジェベル・セテカーは思い切りその剛腕で当て飛ばした! ヒュっと息が一瞬止まるモンストル。飛ばされた先で壁に叩きつけられ、ぱらぱらと壁が落ちる。
「紅色は全部ここに捨てて主の元へ逝きな」
「……そういうわけには、いかないわ」
スカートを翻し、気丈に立ち上がる娘の瞳は、まだまだ闘志に燃えていた。我こそはモンストル、白き世界を捨てた者――!
成功
🔵🔵🔴
仇死原・アンナ
アドリブ歓迎
…死薔薇モンストル
その命を摘む為に私は来た…処刑人として…!
真の姿の[封印を解き]
鉄塊剣を抜き振るい[怪力、吹き飛ばし、武器落とし]で攻撃
[破魔・呪詛耐性]を施した鉄塊剣の[見切り、武器受け]で防御しつつ
隙を付き鎖の鞭を振るい[ロープワーク、マヒ攻撃]で縛り上げよう
…死薔薇モンストルよ
最期に言い遺す事はあるか…
止めを刺す前にモンストルの話を聞いてやろう
彼女の話を聞き終えたらその身と紅い薔薇に水や血でもなく
【ブレイズフレイム】の地獄の炎を注ぐとしよう
紅蓮の炎でその身をさらに赤く染め上げてやろう…
そして物言わぬ灰燼へと生まれ変わるがいい…
戦いが終わったら静かに[祈り]を捧げよう…
●
真の姿の封印を解き放ち、アンナは僅かに彩を宿した視線でモンストルを射抜いた。鉄塊剣を抜き振るい、黒い薔薇の娘たちとの戦いがお遊びだったかのような、強烈に凍てつくオーラで自身を覆う。
「……死薔薇モンストル。その命を摘む為に私は来た……処刑人として……!」
「まぁ、野蛮ね。女の子はもっと上品でなくてはならないのよ? じゃなきゃ、王子様が来てくれないわ」
鉄塊剣をその怪力で以って素早く振り回し、モンストルが鎌を構えるよりも早く武器ごと壁へ吹き飛ばす! からん、と落ちる鎌にしめたとばかりに踏み込んで鎌を踏んだら大きく振りかぶって鉄塊剣をモンストルに振り下ろした! しかしそれはモンストルまで届かない。あと一歩のところで、鎌から生えた茨が鎖のようにアンナの動きを絡めとり、主人を護る。
「チッ、面倒な……!」
「嗚呼、ああ、やっぱりね。愛情を注げば応えてくれる。そうでなければいけないわ。この子のように。あの娘たちはてんでダメだったわね。いくら愛情を注いでも、まるで素っ気ないままだったんですもの」
あの娘達――恐らく黒い薔薇の娘の事だろう。しかし見た限り、彼女らもまたモンストルに忠誠を誓い、散る時ですら名を呼んでいたというのに……この死薔薇は、それすら見ていないのか。あるいは、見ようとしないようにしているのか。どちらにせよ、哀れな存在だ。娘も、モンストルも。愛情の何たるか、その本質を勘違いしている。アンナにとっても胸を張ってこうだと言えるものでもないが、この主従関係は歪だと感じた。
茨を斬り払い、アンナは再び剣を構える。対峙するは鎌を携えたモンストル。今度は油断も隙もない。先に動いたのはモンストル、茨を先行させてアンナに絡みつかせ、その隙に鎌で屠ろうというのだろう。しかしこちらも負けてはいない。一歩一歩確実に茨を避け、時に鉄塊剣で薙ぎ払い防御する。互いに一歩も引かぬ攻防。モンストルがはぁっと息を吐いた隙を狙い、鎖付きの鞭を振るい麻痺を帯びたロープワークで締めあげる!
「……死薔薇、モンストルよ。最期に言い残すことはあるか……」
「最期? ふふ、何のこと? 私はご主人様の加護を受けた者。こんなところで死なないわ。だってほら――」
「……!?」
いつの間にか部屋中に蔓延った蔦が、一斉にアンナを狙っている。少しでも動けば死薔薇の命は儚く散るだろう。しかしどうして、自分の命の保証もない。アンナはゆっくりと鉄塊剣を下ろす。死を刈り取りに来たのだ、自分が死んでは元も子もない。
「お前は何がしたいんだ?」
「私はいつも通りを過ごしたいだけ。食事をして、大地に種をまき、今日あったことをまとめて眠る。ご主人様と同じことを私はしたいわ」
「お前の主人は血など啜らなかっただろう!」
「私は植物よ。ご主人様と同じ食事は食べられないわ。血は命の水よ。飲まなければ死んでしまう」
この華は、もはや狂っている! 主の名を借りて悪行を為す、唯のオブリビオンだ! 彼女の話を聞き終えたアンナは、怒りとも分からぬ感情のまま、自身のからだを切り裂き噴出した地獄の炎をその身と紅い薔薇に注ぐ!「きゃああ!」と燃え移る火をぱたぱたと消すモンストル。
「紅蓮の炎でその身をさらに赤く染め上げてやろう……そして物言わぬ灰燼へと生まれ変わるがいい」
生憎炎で燃え尽きることは無かったけれど、服はボロボロにやぶれ、髪もすこし焼けこげたようだ。
――許せない、ご主人様から頂いた大切な体に! モンストルは憎悪の念をアンナに向ける。
それを意にも解さず、アンナは三度鉄塊剣を持つ。この華には、相応の死が必要だと心が震えた――。
成功
🔵🔵🔴
アンナ・オルデンドルフ
【恋華荘】で参加します。
罪? 命の尊厳をわかっていないのはあなたたちではありませんか?
私たちがなぜこの世に「作られた」のか、考える必要があります。
それは、私たちの尊厳を認めてくださっていることに他ならないのです。
だから私は、私と仲間を、そしてこの世の生きとし生けるものを殺させません!
鞭の形をしたルーンソードを振るって戦います。
とにかく、皆の壁となるように戦うつもりです。
瀕死になったら、【戦場の亡霊】を呼び出します。
決して、引きはしません。
守る者がいる限り、戦い続けます。
彼らの命の尊厳を背負いながら。
きっと、詞さんといちごさんと一緒なら、勝てますから。
みなさんを、守れますから……!
彩波・いちご
【恋華荘】
残念ですが……私達を、私の大切な人たちを害そうとするものを倒すことに罪悪感なんてありません
それは貴方も同じことです
貴女が何をしようとも、私の大切な人たちは傷つけさせませんよ?
先程と同じように2人に前に立ってもらいますが
守ってばかりでは勝てません
2人に対して【異界の守り】での防御結界は貼り続けますが、同時に私も少し無理をしましょう
この状態からさらに【異界の深焔】を召喚
2人に迫る攻撃を、モンストルの防御を、燃やし、2人の攻撃の支援をしましょう
「どんなに巨大だろうと、私の炎で燃やせないものはありませんっ」
巨大な薔薇も燃やし尽くし、2人を妨げるものを消しましょう
私の仲間には届かせませんよ?
牧杜・詞
【恋華荘】
罪? 罪悪感? なにを言っているのかしら。
あなたの真実はわからない。
彼女たちは殺しに来た。だからわたしは殺し返した。それが真実。
殺すということは、殺されるということ。
あなたは本能でわかっているみたいね。
でもね、あなたはいちごさんも、アンナさんも、わたしすら殺せないわ。
あなたには、誰かを守ろうとする想いも、
傷つけさせないという意志も、死にたくないという恐怖もない。
そんなからっぽのままで、なにも殺せるわけがない。
待っていたのでしょう、
そのからっぽを埋めてくれるものを、あなたを殺してくれるナニカを。
攻撃は【命根裁截】を使用。
いいよ。殺してあげるから、そのかわり全力でかかってきてね。
●
「罪? 罪悪感? 何を言ってるのかしら。あなたの真実はわからない。彼女たちは殺しに来た。だから私は殺し返した。それが真実」
ぼんやりした口調で詞が語る。嘘は言ってない、単純に、あったことをそのまま伝えただけ。
「命の尊厳を分かってないのはあなたたちではありませんか?」
強い口調でアンナが語る。それには私たちがなぜこの世に『作られた』のか考える必要がある。
「残念ですが……私達を、私の大切な人を害そうとするものを倒すことに罪悪感なんてありません」
のらりくらりといちごが語る。それはモンストルも同じこと。彼女が何をしようとも、いちごの大切な人たちは傷つけさせない。
モンストルは三者の言い分をよぉく聞いたうえで、くすりと嗤った。なんて可笑しいんでしょう、それを言ったら、貴方たちさえ此処に来なければ、私達は平穏に過ごせていたのに。住民たちの生き血を啜り、娘たちにパンを与え、寝る前には日々の記録をつけて。今日もまた退屈で素晴らしい日々が訪れる筈だったのに。
「先にこの日常を壊したのはあなたたちのクセに、雄弁に語るのね。猟兵にとってはオブリビオンの生活なんてどうでもいいのかしら。――私達だって、生きているのに」
否、モンストルの言い分には御幣がある。オブリビオンは生きてないどいない。ただ過去を繰り返す幻影に過ぎないものを、生きていると錯覚している。それを教え込んでやらねばと、いちご達は動いた!
鞭の形のルーンソードを振るい、アンナは後者二人を護るように壁役に徹した。激しい鎌の斬撃が襲い掛かるが、後方からの支援で耐えられる。そう、いちごの【異界の守り】だ。柔らかい膜に覆われたようなアンナに、いまいち手応えがなく歯痒いモンストルだが、後方を狙おうにもナンナが先回りをして邪魔をする。
そこに飛んでくる詞の思念の刃。当たってもフロアの調度品は何も壊れない……察するに、命や精神だけを抉り取る術なのだろうと、最大限警戒する。同時に二人を狙うのは無理だと、モンストルは避けるのは最大限に、攻撃はアンナ一筋目掛けて鎌を振り下ろす! ぽよよんとした異界の守りも、すぅっと切れ目が入りそろそろ限界が近いかというところで、いちごは多少の無理は承知で神の炎を召喚した!
「ふんぐるいぐんぐるい……遠き星海にて燃え盛る神の炎よ!」
ぶわっと燃え上がる炎に、慄き下がるモンストル。その下がる方向を事前に予知していた詞の一閃が走る!
「ぐっ」
よろめくモンストルは、まるで命を、寿命を、なにか大切な生命の息吹のようなものを失ったと感じた。それは詞の命を捌く命根裁截。肉体派そのままに命を奪う業。
「殺すということは、殺されるということ。あなたは本能でわかってるみたいね」
「そうね……私はたくさん、ころしてきたもの。いずれそのツケが回ってきてもおかしくないわ。でもそれは今じゃないッ」
途端、無詠唱から繰り出される巨大な邪華が召喚され、茨の鞭が撓り戦場で暴れまわる。そんな中、淡々と告げる詞。
「そう。でもね、あなたはいちごさんもアンナさんも、わたしすら殺せないわ」
「なにを……」
「あなたには、誰かを守ろうとする想いも、傷つけさせないという意思も、死にたくないという恐怖もない。そんな空っぽのままで、何も殺せるわけがない」
最後まで視線は外さずに、モンストルに言い切る。この想いの丈を。詞という人間が想う意思を!
「待っていたのでしょう、そのからっぽを埋めてくれるものを、あなたを殺してくれるナニカを。いいよ。殺してあげるから、そのかわり全力でかかってきてね」
「よく言いました詞さん! ぐっ、さぁ、ここからが本番ですよ!」
猛毒の花粉はいちごの防御結界が防いでくれた。あとはモンストルを捉えられれば……! 巨大な邪華がモンストルへの路を阻む。そこへ炎の渦とルーンソードで応戦する二人。詞はじっと耐えて邪華が散る瞬間を待っている。
「私達が何故この世につくられたのか、それは、私達の尊厳を認めてくださっていることに他ならないのです。だから私は、私と仲間、そしてこの世の生きとし生けるものを殺させません!」
「あははは! 嘘つき! あなたは豚を喰らうでしょう? 鳥を喰らうでしょう? それと同じよ、私はひとを食べることで私という尊厳を守っている! それの何が悪いというの!」
すかさずいちごが否定の言葉を紡ぐ。正直オブリビオンとこんなに対話するとは思っていなかったけれど。相手がその気ならこっちだって。
「悪だなんて言ってません、唯、私達の敵だから倒す――他に理由がいりますか? 言っておきますが、私の仲間にはその攻撃、届かせませんよ?」
邪華をぱちぱちと燃やしながら、隣で闘うアンナは最早限界寸前。当然だ、3人の中で一番被弾し、またダメージも与えていたのだから、そろそろ意識が朦朧としてきてもおかしくない。ついでにいくら防御結界が張ってあるとはいえ微細な猛毒の花粉を間近で吸い込み、ついに倒れる。意識が完全に落ちる前に、アンナは戦場の亡霊を呼び出し、代わりにルーンソードを振るう! 亡霊ならば花粉も熱さも気にならず戦える、そう踏んだいちごは火力を最大にして邪華に猛烈な勢いの業火を浴びせた! 声とも軋みともつかない音を立てて、巨大な邪華はその場に伏す。そして後ろで鎌を握りしめ射殺す勢いのモンストルに、詞の一撃が放たれた。
ガチィン!!
鎌が詞の一撃を弾き飛ばす。邪華が時間を稼いでいる間に、多少体力を回復したのだろう。その表情は強気に満ちている。
「そう簡単にやられないわ。私はご主人様の加護受けしもの。お前たち凡人とは違う!」
自信に満ち溢れたモンストルの瞳は爛々と耀き、何物をも寄せ付けぬ気が溢れていた。ぐっと息を飲むいちごと詞に、よろめきながら立ったアンナがか細い声で言い放った。
「決して、引きはしません。守る者がいる限り、戦い続けます。彼らの命の尊厳を背負いながら。大丈夫、きっと、詞さんといちごさんと一緒なら、勝てますから。みなさんを、守れますから……!」
ヒュっと再び構えたルーンソードはモンストルに向いている。その言葉に鼓舞され、二人も向き直った。そうだ、仲間がいる限り、決して折れはしない。手折るのは私たちの方なのだから――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
鈴桜・雪風
狂気の淵でまともな会話は成り立たないとの言は真のようですわね
この者の口から罪悪感などと、聞かされるとは思ってもみませんでしたわ
「それが愉快であるかどうかは別ですけども。同じ花のよしみで心根の一つもお伺いしようかと思っていましたが、どうやら筋道立ったお話は無理そうですわね」
早々に伐採せんと、傘から仕込み刀を抜いて斬りかかります
茨を纏った大鎌も、剣戟の度に茨が切られては形無しでしょう
「人の側で、人の営みを見守り咲いてきたのに、己が衝動に違和感を持てなかった事。それが貴女の最大の過ちです。良いですか?――『多くの人はそこまで衝動に身を任せないのです』。貴女の愛する主も、今の貴女を見たら嘆くでしょう」
●
心底驚いた、という風に、雪風は傘をくるりと回し、のうのうと『罪悪感』などと宣う華やかな唇を覗き見た。狂気の淵でまともな会話は成り立たないとの言は真のようだ。
「やれ、それが愉快であるかどうかはべつですけれども。同じ花のよしみで心根の一つもお伺いしようかと思っていましたが、どうやら筋道だったお話は無理そうですわね」
「お話は好きよ。ふふ、ご主人様は私に色んな話を聞かせてくれたわ」
「そう、素敵な主だったのね」
言いながらも雪風は早々に伐採せんと、傘から仕込み刀をするりと抜いて地を蹴る! 斬りかかられたモンストルは鎌から茨を生やし、刀に絡めとるが、瞬殺の剣戟が茨をただの蔓の端くれへと変えてしまう。フっと鎌から力を抜いたモンストルは茨を絡めた拳で雪風の手元を叩く! バシっと殴られたことで雪風の手から刀が落ちる。拾おうとすれば隙が生まれるだろう、一瞬の判断で雪風は後方へ跳んだ。ザリ……と刀を踏み付けるモンストル。
「これがなければあなた、何もできないんでしょう? 可哀そう、今散らせてあげる……」
勢いよく飛び込んでくるモンストル。しかしその勢いが仇となる! ヒュっと紙一重で大鎌を避け、モンストルの下を姿勢を限界まで下げかい潜り、伸ばした先には相棒の刀。一旦離れたとしてもお互いがお互いを呼ぶ、その絆はモンストルと鎌の関係とよく似ていた。
「なにも出来なくはありませんが、手段が減るのは事実ですわ。途中までは良い作戦でしたけど、目を離したのは間違いでしたわね」
「……次は失敗しないわ」
「まぁ、まぁ。同じ手を二度喰らう程、わたくし頓馬ではありません」
傘をそっと床に置き、手腕に刀を添えて真正面にモンストルを捉えた。澄んだ瞳で捕まえるは真っ赤な薔薇、狙いは首元、散らす為に――駆ける! 再び鍔迫り合う鎌と刀。しかし、次の手が読めている分雪風に分がある! 手刀はもう通じない、茨も鋭い刃の前には巻き付いたその場から千切れてしまう。
「……っ、ああああっ!」
叫び、渾身の力で雪風を圧すモンストル。そこにぐいっと肘鉄を喰らわせ、一歩引いたモンストルに一太刀を浴びせる!
「きゃあああ!」
「少しはしたなかったかしら。でも、許して頂戴ね、あなたが先にやったのだから」
腕を損傷したモンストルは、どくどくと流れるものを呆然と見た。それは血。ご主人様にも、あの黒い薔薇の娘にも、啜り上げてきた村人にも流れていたもの。それと同じものが、自身にも流れている。嗚呼、これではまるで人の……。
「人の側で、人の営みを見守り咲いてきたのに、己が衝動に違和感を持てなかった事。それが貴女の最大の過ちです。良いですか?――『多くの人はそこまで衝動に身を任せないのです』。貴女の愛する主も、今の貴女を見たら嘆くでしょう」
「ご主人様が……悲しむの?」
いやいやと云う様に首を振るモンストル。雪風は心底、この娘に同情した。ヴァンパイアさえいなければ愛しい主人と散るまで共に居られただろうに。しかし、もはや堕ちた白に容赦する道理は無い。再び一刀を断つべく、雪風は刀を構え直した――。
大成功
🔵🔵🔵
シャルロット・クリスティア
罪悪感は無いか、ですか……。
……ありますよ。あれ以外に救う方法が無かったのか、考えないわけないでしょう。
ですが、彼女たちをそうさせたのは貴方ですよ、モンストル……いえ、敢えてその名はやめましょうか、紅薔薇。
炎爆弾……炎属性を込めた術式弾を使いましょう。
ショットガンにセットし、炎の散弾をばら撒きます。
単純な破壊力は落ちますが、それでも植物を燃やす程度の火力はありますよ。
こうしてばら撒いてしまえば、避けきるのは難しい。近接武器を扱うなら、なおの事でしょう。
もはや弄ばれた自覚も無いのでしょうが……それならそのまま散った方が幸せでしょうよ。
本来の主の下へお逝きなさい……!
●
「罪悪感は無いか、ですか
……。……ありますよ。あれ以外に救う方法が無かったのか、考えないわけないでしょう」
シャルロットは穏やかな口調の中にはっきりとした怒りを湛え、モンストルを詰る。当の本人は何のこと? と言わんばかりに朗らかに笑ってそれを聞いている。
「ですが、彼女たちをそうさせたのは貴方ですよ、モンストル……いえ、敢えてその名はやめましょうか、紅薔薇」
「赤くなってしまったのは残念だけど……私はモンストル。ご主人様の薔薇よ、それは変わらない」
「――そうですか。では、本来の主の元へお逝きなさい……!」
装填、安全装置解除。炎属性を込めた術式弾『炎爆弾』をショットガンにセットし、炎散る銃弾をばら撒く! 単純な火力こそ落ちるが、それでも植物を燃やす程度の火力はある。こうしてばら撒いてしまえば、何処へ逃げても身を焦がす炎からは逃げられない。モンストルの武器が鎌である以上、なおの事。
「熱いわ。炎は、嫌い。嫌いよ!」
茨の鞭で燃え盛る炎を叩くが、炎上し芯のある弾は中々消えてはくれない。モンストルは右往左往しながらじわじわとシャルロットへ近づく。しかしその道筋はこちらにはお見通し、来る方向が分かっていれば、撃ち抜くのは容易である!
着弾時に炸裂するそれは本来対人戦のものだ。体中に突き刺さる散弾の一発では殺せなくとも、文字通りハチの巣にしてしまえれば関係ない。ショットガンを構えガチンと銃爪を弾けば……一瞬の逡巡、そして判断。モンストルは炎の中に身を投げた! 散弾の直撃より焼けるほうがマシだと考えたのだろう。しかし、その決断は痛みとなって身体を焼く。
「いやっ……ご主人様の、身体が、燃えちゃう……!」
服の一部が焦げ付き、ぱんぱんと焦げ目を払うと、そこには再び銃を構えたシャルロット。そんな大きな隙を、黙って見ている程お人好しではない。
「散ってください」
ぱぁん! 音を立てて銃弾が炸裂する! 咄嗟に茨で身を覆ったモンストルだったが、衝撃には耐えられず大きな音を立てて壁に叩きつけられた。
この娘は、やはりモンストルなどではない。シャルロットは深く息を吸い込んで彼の華に近づく。もしも本当にモンストルであるならば、自責の念や両親の呵責に苛まれている筈だ。それに何より、ご主人様を愛するあまり、そのものになろうとして、黒い薔薇の娘や村人たちにそれを強いている。本来のモンストルは、そんなことはしていなかったはずなのに。
「もはや弄ばれた自覚も無いのでしょうが……それならそのまま散った方が幸せでしょうよ」
「……いや! 私はモンストル! ご主人様の名を冠す、勇ましき死――ろ、薔薇」
最後の方は疑問符がつくようなイントネーションだったが、それが紅薔薇の必死の自分への喝入れなのだろう。健気で、愚かだ。悲劇を繰り返させない為にも、此の手で引導を渡してやらねばなるまい――。
大成功
🔵🔵🔵
マルグレーテ・エストリゼン
食事だとか罪だとかいった単語には反応しない
代わりに一つだけ問う
「お前の主人とは、誰だ?」
慎ましやかに薔薇を育てた娘か。
残虐な吸血鬼か。
それだけだ
もうこの華は引き返せない所まで来ているだろうから
黒薔薇達と同じ所に送ろう
変身し、飛行することで狙いをつけ難くする
こちらの攻撃はハートを飛ばして行う
茨に絡め取られた場合は攻撃に移る一瞬の隙をつく
私は片腕さえ動かせれば撃つことは出来る
薔薇は好きではないが…
美しさは否定できん
この娘もそうだ
戦闘中、口にする
「薔薇の美しさは育てた人の愛情あってこそだ
お前の場合は…
モンストルというただの娘の
この意味が解るか?」
真実を悟らせた上で倒したい
●
罪悪感だとか食事だとか、問いかけには一切答えず、マルグレーテは逆にモンストルに質問を投げかける。
「お前の主人とは、誰だ?」
慎ましやかに薔薇を育てた娘か、残虐な吸血鬼か。此の薔薇の云う『ご主人様』とは一体誰なのか、真紅の眸がモンストルの赤を内包する瞳を貫く。くすり、唇を三日月の様に歪め、紅い薔薇は微笑んだ。
「もちろん、私のご主人様はモンストルよ。私と同じ姿、声、言葉。決まっているでしょう?」
「……そうか。分かった、私が聞きたいのはそれだけだ」
本物のモンストルは、斯様に禍々しく茨を操り、人の生き血を啜るような真似はしなかったはずだ。それを疑問にも思わない此の華は、もう引き返せないところまできているのだろう。マルグレーテがしてやれることは、黒い薔薇の娘と同じところに送るだけだ。運が良ければあの世で『ご主人様』と再会できるやもしれないが。
豪華絢爛煌びやかなドレス姿へと変身したマルグレーテは、ふわりと浮いて鎌からの狙いをズラしながら飛び回る。ひらりふわりと躱される攻撃に、モンストルはあからさまに苛ついたようにがむしゃらに鎌を振るう。ほわっと宙を蹴り浮き跳ねながら、マルグレーテはプリンセスハートから黒のハートを飛ばして応戦。柔らかそうにぷわわっと浮かぶ黒のハートは、見た目よりもずっと重く硬く、物質化した呪いの力でモンストルの身体に圧し掛かりぱちぱちぱちんと風船が割れるように弾ける!
「きゃっ、なに、これ――べとべと」
「お前にはそう感じるのか。呪いは人によって感じ方が違う。お前のそれは、人々の怨念か、黒薔薇の娘達の怨嗟かは知らないが……相当な恨みを買っているようだな」
「私は……生きる為に行動しただけよ。何も悪い事なんて、していないのに! どうして」
マルグレーテは呆れたように溜息を吐く。あそこまでしておいて、何の罪悪感も無いなんて、一体どの口が先の言葉を口走ったのだろう。まるで支離滅裂で、成程まともな思考回路ではない。それでもなお『ご主人様』に執着するのは、もはや依存からくる執念と言って良いだろう。
しゅるりと茨が伸びてきて、マルグレーテの足を掴む。引きずり降ろそうと引っ張られるが、ハートを弾けさせ茨を引き千切る。痛みを感じているのかいないのか、じっと下からマルグレーテを睨むモンストル。しかしどんなに願っても空を飛ぶことは出来ないのだ。ご主人様がそうであったように。
「薔薇の美しさは育てた人の愛情あってこそだ。お前の場合は……モンストルというただの娘の。この意味がわかるか?」
薔薇は好きになれない、しかしその美しさを否定する事は誰にも出来ない。そしてこの娘もまた、同様に美しい。ただ、咲き方を間違えただけで。
「意味なんて分からない。私は愛情を注がれて育ったわ、だから今こうしている! ご主人様の王子様にはなれなくても、ご主人様になることは出来た! 私は……」
「そうだとも。お前は愛を注がれた。その愛情を、裏切るんじゃない」
プリンセスハートが幾重にも重なり弾ける! ああ、やっぱり薔薇は好きじゃない。美しすぎて、目に痛い――。
成功
🔵🔵🔴
蘭・七結
【桜一華】
死してなお逃がさない
なんてつよい慾望なの
罪を問われるだなんて久方振りね
散る花のなんとうつくしいこと
とてもきれいなあかだったわ
あかく染まった白い花
あなたもうつくしいのかしら
嗚呼、サヨさん
だめね、だめだわ
まだわるい子のまま
いい子に戻れない
心が踊って止まないの
還り咲いてもよいかしら
今宵の出来事はひそかごと
ひみつ、だものね
『本当の“あなた”はだれ?』
どこか似ているあなた
きっとなゆには理解できない
だからちょうだい
あなたの感情といのちを蒐集させて
私は、人になりたいの。
毒はこわくない
茨を見切り留針で薙ぎ払う
あかいいとで縫い付けて
その音色を穿ちましょう
とめどない慾
理性は欠けたまま
わるい子から戻れない
誘名・櫻宵
【桜一華】
罪だなんて…酷いわ
私たちはただ、愛でていただけだというのに
綺麗な薔薇が咲いてるわね、七結
私も私の桜となったものを逃す気はないもの
全部ほしいわ
まだ足りないの
だって
そこに美しい薔薇が咲いているから
白を染めるあかも美しいわ
もっとあかく染まって頂戴
うふふ
七結―じゃあ今日は
悪い子の日にしましょうか?
いつもいい子なあなた
今日くらい悪い子で、いいわ
だから私が、わるい龍になっても秘密にしてね
ひみつ、薔薇の下のまっかな秘密
この高鳴りは戀かしら?
あかを縫とめ還り咲いて
私はあかを射止めて乱れ咲く
指の代わりに真っ赤な刀を這わせなぎ払い
満たされぬ慾を埋めるよう生命力吸収食らい蹂躙するわ
綺麗に龍を咲かせて頂戴!
●
はらりはらりと舞うは花びら。くるりくるりと踊って地と口づけ。甘くてとろける、まどろみのあか。紅のはなを狙う悪い子が二人。一人は鬼で、一人は龍。秘密緋密の夢心地。
「死してなお逃がさない、なんてつよい慾望なの。まるで駄々っ子ね、私達みたい。――嗚呼、罪を問われるだなんて久方振りね」
「罪だなんて…酷いわ。私たちはただ、愛でていただけだというのに」
散る花のなんとうつくしいこと。とてもきれいな、あか、あか、あか! あかく染まった白い花。あなたもうつくしいのかしら? うっそりと七結が呟けば、かえってくるのは密やかな声音。あかくつやめいた聲が耳に響く。
「綺麗な薔薇が咲いているわね、七結。――私も私の桜となったものを逃す気はないもの。全部ほしいわ。まだ、まだ、ちっとも足りないの。だってそこに美しい薔薇が咲いているから」
白を染めるあかも美しいわ、もっとあかく染まって頂戴。唇にそっと指を這わせて、彩るはやわいのあか。櫻宵の鴇色の眸が一瞬真朱に耀く。
「あかは、命の色。私を形作るご主人様にも流れていたもの。あなたたちも、それを求めるの?」
純粋なモンストルの声に、くすり、笑い返す二人。否とも応ともとれぬ曖昧な返答に、首を傾げる紅の薔薇。
「嗚呼、サヨさん。だめね、だめだわ。まだわるい子のまま、いい子に戻れない。心が踊って止まないの」
還り咲いても、よいかしら。……判っている、ダメだなんてかえってこないってこと。そんな狭量なお友達の輪なら、とうの昔に糸は解れてる。
「うふふ、七結――じゃあ今日は、悪い子の日にしましょうか? いつもいい子なあなた。今日くらい悪い子で、いいわ。だから私が、わるい龍になっても秘密にしてね」
ひみつ、薔薇の下のまっかな秘密。本当は真っ白、潔白のしろだった華なのに、今やこの高鳴り。戀を隠す魔法のあかへと姿を変えた。
「本当の“あなた”はだれ?」
どこか似ているあなた。きっとなゆには理解できない。ナユになら理解できたのかしら、なんて、とうにできない事を夢見てしまうなんて、本当に悪い子になってしまったみたい。――だから、ちょうだい。あなたの感情といのちを蒐集させて? あなたの中に渦巻くあかとしろのマーヴル模様を、わたしに覗かせて?
私は、ひとになりたいの。あらゆるものを、学び、蒐集したなら、我が物としたいの。嗚呼、私こそ強慾。でも良いの、それこそが人らしさであるとも、既に識っているから。
モンストルの鎌がどちらかを見定め、櫻宵に狙いをつける。大きな鎌が振り下ろされる直前、指の代わりに真っ赤な刀を這わせ流れるように薙ぎ払い。満たされぬ慾を埋めるようにモンストルの生命力を吸収し、喰らい、蹂躙する。ひとたまりもないのは紅薔薇のほう。段々と力が抜けていく。刃をむりやり引き抜いて、カランと落とせばまぁまぁと声をあげながら櫻宵は刀を持ち直す。此の相手は、だめだと判断したモンストルは未だ薄ら笑みを浮かべる七結に攻撃を仕掛ける。
邪華の猛毒は怖くない。茨を見切り、留針で薙ぎ払う。あかいいとで縫い付けて、その声音を穿ちましょう。縫い留められたモンストル、いつのまにか身動き一つできない、いや、かろうじて動けるが、これはわざとだ。彼女たちは、モンストルと遊んでいる。あかに魅せられ、あかに染まったこの華が、如何に美しいのかを吟味している。紅薔薇の背筋にぞくりと、悪寒が走った。この猟兵らは、人ではない。悪い子という免罪符を使いこなし、悪を為す獣だ。
理性は欠けたまま、わるい子から戻れない。射止めたあかは今にも抜け出しそう。生意気。二人の悪い子は其々押さえつけていたものを開放し、再びあかに濡れる喜びに喚起する。
「私をころすの? 鬼さん龍さん」
「殺す? いいえ、まさか。そんな勿体ないこと、いまはしないわ」
「そうねサヨさん。このあかは、まだ本当を零していない」
ほんとうの、あか。モンストルは堪らず縫い留められた背中をブチブチブチと破り、背から血を垂らしながら二人の声を纏めて地に落とす。
「私はモンストルの薔薇、あかいのは、ご主人様の血を啜ったから。それ以上の理由も、意味も、必要あるかしら」
「ほんとうの、あか。祝福のいろ」
七結はうっそりと微笑み。
「ほんとうの、あか。いとなみのいろ」
櫻宵はこっそりと含み笑い。
あかはくるり、どうせ秘密なのだからとわるい子を開放する。あかを求め、あかを信じ、あかに縋った娘。
「あなたはのご主人様は、あかが好きだった?」
「……――いいえ。ご主人様は白を好んだ」
「じゃあ今のあなたは、ご主人様からは愛されないかもしれないのね。可哀そう。こんなにきれいなのに」
「いいのよ、いいの。今日だけは。さぁ、綺麗に龍を咲かせて頂戴!」
あかを謡う二人のわるい子。秘密だから、今だけは良いの。射止めたあかからとろぅり流れる血。それもまたあかく、舞い散る花弁はひとひらずつ崩れて。
ひらりひらりと散るは花芯。ぼとりごそっと捥げて血と口づけ。辛くて焼け付く、あたらのあか――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リリー・ベネット
貴方の薔薇を散らしたのは私達……。
でも、無残な最後を迎えさせたのは貴方です。
自分のしたこと、今一度わからせてあげますよ。
私の可愛い子達をご紹介しましよう。
貴方の薔薇とどちらが優秀でしょうか?聞くまでもないですね。
召喚した彩萌の糸で動きを封じて、召喚したオートさんの鍼で攻撃します。
アントワネットには鋏を、フランソワーズには斧を持たせて追撃です。
敵の攻撃は、機動力を生かして協力して避けてくださいね。
貴方の付けていたリボン、大事な物ではないのですか?
もうわからないなら、早く終わらせてあげないと。
●
死薔薇は疲弊していた。片腕はぼろぼろで、頭上の花も散りかけて、可愛らしい服は焼け焦げて。とても美しいなんて言えやしない。でもその魂の輝き、それだけはまだ、凛と咲いて眩しかった。
「貴方の薔薇を散らしたのは私達……。でも、無残な最後を迎えさせたのは貴方です。自分のしたこと、今一度わからせてあげますよ」
「私は生きてきただけよ。ご主人様の衝動に従って、今日までずっと」
「今のあなたを見たらご主人様とやらは呆れ果てるでしょうね」
素っ気ない言い方だったが、其処には怒りと呆れと憐憫を含んでいる。この華の主は、こうなることなど何の予想もしていなかったはず。この世界にあの世というものがあるのなら、屹度其処から叫んでいることだろう。
「皆どうして私を否定するの? 黒薔薇の娘の世話だってちゃんとしたわ。私はご主人様だもの、褒められるべきはずなのに」
「その娘らが自ら望んだのなら褒めて差し上げても良かったのですが……。私も、私の可愛い子たちをご紹介しましょう。貴方の薔薇とどちらが優秀でしょうか?」
聞くまでもない。召喚した友を模した人形・彩萌の糸で、しゅるしゅるとモンストルを絡めとる。細い糸は暴れれば暴れる程食い込んで痛む。続いてオートの鍼でちくちくと体を差していく。巨大な縫い針だ、刺されたところから血が溢れ出る。痛みに耐えきれずモンストルは巨大な邪華を呼び猛毒の鱗粉をまき散らした。ケホケホと引き下がる人形達。その隙に糸は外れ針も抜き取り姿勢を正す。モンストルはあくまで普通の少女だったが、このオブリビオンは戦う術を産まれながらに知っている。そこがご主人様との最大の違いとも言って良いだろう。
リリーは、ほんの少しだけ興味が湧いた。この華はある意味、人形と同じなのではないかと。主の為に働き、主の為に咲いて、主に奉仕する。そんな存在であったはずなのに。ヴァンパイアめ、余計なことをしてくれたものだ。ギリリと奥歯を噛み締める。
「アントワネット、鋏を持って。フランソワーズは斧。あの巨大な華は邪魔です。刈り取ってください」
はぁいと返事をするように手を挙げて、二体の人形が邪華に近づく。鱗粉を華麗に避け、茨の鞭はちょきちょきんと切り落として。左右に揺れながら邪華を翻弄する。
「私の花を虐めないで!」
「それは黒薔薇の娘たちの時に聞きたかった台詞ですね」
黒薔薇の娘。主の為に散っていった、元は人の堕ちた姿。可哀そうに、主がこうでなければ、有効的な関係を築けていたのかもしれないのに。それも今となっては夢物語。たらればを語っても意味がないと、リリーは痛い程分かっている。だってあの時、伸ばした手の先に掴めなかった祖父の背が今も――。
「ああ、なんでしたっけ、これ。リボン。ご主人様が巻いてくれたような気がします」
邪華を連続で召喚した代償に、その真っ黒なリボンはくしゃくしゃの虫食いのように崩れかけていた。愛しい存在であるはずなのに、なぜだかちっとも思い出が蘇らない。
「――あなたの付けていたそのリボン、大事な物ではないのですか? もうわからないなら、早くおわらせてあげないといけませんね」
邪華の動きをアントワネットとフランソワーズが翻弄している間、再び彩萌人形とオート人形が攻撃態勢に入る。まだ、でもあと少し。この華は、もうすぐ散る――。
成功
🔵🔵🔴
リーヴァルディ・カーライル
…ん。確かに、あの娘達は必死に生きていた。
その人としての生を散らし吸血鬼にしたのは他ならぬ貴女。
…その所業は貴女の主を殺めた吸血鬼と同じもの。
それを貴女の主が本当に望んでいるとでも…?
今までの戦闘知識から敵の殺気を暗視して見切り、
茨鞭を大鎌を乱れ撃つカウンターで迎撃して、
負傷や毒は耐性と気合いで耐え自身の生命力を吸収して治癒する
…物語が聞きたいならば聞くが良い。
お前に全てを奪われた者達の哀しみの物語を…。
第六感が好機を捉えたら魔力を溜めてUCを発動
吸血鬼化した怪力の踏み込みから高速で切り込み、
残像が生じる早業で呪詛を結晶化した魔刃をなぎ払う
…この一撃を手向けとする。眠りなさい、安らかに…。
●
生けるものを殺して良い道理は何処にも無い。それが人間同士、いや華と人なら尚更だ。その道を外れたモンストルは、外道に堕ちているのだろうか。
「……ん。確かに、あの娘達は必死に生きていた。その人としての生を散らし吸血鬼にしたのは他ならぬ貴方。……その所業は貴女の主を殺めた吸血鬼と同じもの。それを貴女の主が本当に望んでいるとでも……?」
「わからない、そんなの。でも、私は生きる為に殺した。貴方たちだって家畜を殺すでしょう? 一体何が違うというの?」」
紅薔薇の云う『ご主人様』を、リーヴァルディは識らない。でも、想像することは出来る。白薔薇を愛おしみ、日々水をやって、毎日語り掛けて。まるで友人のように扱ったのだろう。そこに自我が芽生えたとしても、可笑しくはない話なのかもしれない。しかし、夢物語が長く続かないこともまた分かっていた。ヴァンパイアの祝福に塗れ、残酷な生を与えられた命。可哀そうとか、愁傷の念より先に、怒りが湧いてくる。
この娘ときたら、自分は悪くないとばかり言い張り、人間すら家畜と同列に見ている。『ご主人様』はまさか人肉を喰らう者だったわけもあるまいし、この華はもうきっと半分以上ヴァンパイアの血に汚染されている。この娘が召され、『ご主人様』と同じ地平にいけたとして……どんな反応になるのだろうか。リーヴァルディはそんな事を考えながら、鎌を構える。
獲物は同じ、ならば戦闘知識と経験がものを言うリーヴァルディが圧倒的有利! モンストルの殺気を見切り、茨鞭を大鎌で乱れ撃ち、カウンターで迎撃! ぱしんぱしんと撓る音がフロア中に響く。避けきれなかった茨の棘や毒は、持ち前の気合で耐えながら、生命力を体力に変換し治療を施した。この僅かな時間で咄嗟に動けるのは、やはり吸血鬼狩りの名を冠するだけある。
「……物語が聞きたいならば聞くが良い。お前に全てを奪われた者達の哀しみの物語を……」
「いや! いや! 私は、ご主人様はお姫様なのよ! 屹度王子様が迎えに来て、幸せな生活をおくるの。それが物語でしょう? すべてのお話は喜びと慈愛に満ちていると、ご主人様は言っていたもの!! そして私が今はモンストル……お姫様のはずなのよ!」
なるほど、『ご主人様』はハッピーエンドがお好みだったようだが、この華に与えるには些か都合が良すぎる話ばかりだ。自分をお姫様だと信じるその心も、本来ならば清らかなものであったはずなのに、今はどうしてか痛々しい。
話の最中、第六感が捉えた好機に魔力を溜め、犠牲者達――きっと、黒薔薇の娘やその家族――の霊魂を結晶化した魔刃を錬成する。吸血鬼と化したリーヴァルディの恐るべき速さの踏み込み、からの怪力による切り込みで、娘の胸にドスっと穴をあける。それは残像が生じるほどの早業で、一生懸命叫んでいたモンストルには避けきれないもの。魔刃はぐっと薙ぎ払われ、肩から心臓にかけ大きな亀裂が生じた。
「ああっ、痛い。いたい、よ……ご主人様」
「あなたはもう眠りなさい。それがご主人様のためでもあるはず」
リーヴァルディの声はもう届いていないのか、半狂乱になったモンストルは巨大な邪華を召喚し身を守る。まるで自分の殻に引きこもるように――。
成功
🔵🔵🔴
メール・ラメール
【爪痕】
もちろん美味しく頂けますとも!
アタシは調理なしでもおっけーデス☆
お話しましょ!と、左手に埋め込まれた刻印を起動
触手に似たそれで彼女の動きを邪魔しましょう
ちょっとくらいつまみ食いしても許される?
ヘタな細工はせず真正面から。捨て身の一撃は得意なの!
アタシもね、お前と同じようにダイスキなひとがいるわ
愛してるの、とってもとても
でも、だから、嗚呼、――いとしいひとを、その手で汚すな!!
ちょっと血腥いけれど、レジーちゃんったらすっかりお姫様だわ!
そうね、野に咲く花は手折りたくなるものよね
だからジェイちゃん、アタシ首から刈り取ってイタダキマスしたいな
ねえ、お前のいちばんキレイで美味しいトコロを、頂戴
ジェイ・バグショット
【爪痕】
元は花だろ?
園芸鋏持ってくりゃ良かったなァ。
片手で鋏のポーズを作るとチョキチョキとジェスチャー
どっちが餌になるかは力づくで決めりゃイイ。
植物性か…美味いかな。楽しみだ。
黒剣『絶起のザラド』でレジーと連携攻撃
刀と違ってスピードはさほどないが、一撃は重いぜ
レジーが足なら俺は腕を貰うわ
生憎花を散らしたくらいで痛む心は持ち合わせていないんでね。
ご主人様ごっこはもういいか?
付き合わされるこっちの身にもなってくれ。
拷問具
『首刎ねマリー』断頭台と拘束具が個別に飛来。拘束具で囚われた対象を自動で追尾し、断頭台の刃で切断する
メールはどこから喰いたい?
レディファースト、先に選ばせてやるよ。
レジー・スィニ
【爪痕】
食事になったつもりはないけどね。
逆にお前が俺たちの食事になるの。
二人とも、あれイケる口?
調理なら駒吉がやってくれるけど。
俺はパース。
さっきの女の方が従順でかわいいや。
軽口を叩きながら駒吉を構えて、足を狙うよ
定石でしょ。
先に腕の方が良かった?
さっきは思いっきり吼えたからね
喉が痛いや。
二人とも強いって分かったからさ
今度こそ二人に任せまーすって事で
以降は闇に紛れて間合いを詰めながら
二人の付けた傷を抉ろうかな
任せるとは言ったけど
絶対に手を出さないとも、手加減するとも言ってないじゃん。
駒吉は俺よりも血を求めているから大目に見てよ。
●
食事の時間だ。お腹が空いた。こんなに暴れたのは久しぶりだから、それだけ沢山啜らなければ。嗚呼、食事がやってきた。邪華の中からふわりと飛び出たモンストルは、にこやかにメール達に声を掛けた。
「こんにちわ。お食事になってくれるのね、嬉しいわ。さぁ、誰から啜らせてくれるの?」
「食事になったつもりはないけどね。逆にお前が俺たちの食事になるの。二人とも、あれイケる口?」
「どっちが餌になるかは力づくで決めりゃイイ。植物性か……美味いかな、楽しみだ」
この者達、両方が捕食者である。飢えている、だからその血肉が、とても美味しそうにジェイには見えた。続くメールもニシシと笑いながら楽しそうに答える。
「もちろん美味しくい頂けますとも! アタシは調理なしでもおっけーデス☆」
「あっそ。まぁ調理なら駒吉がやってくれるから、必要だったら言ってよ」
そんな軽口にゾっとしたのはモンストルの方。私がしてきたことを、この人たちはやろうとしている? どうして、どうして。私は上位者のはずなのに!
メールは物怖じすることもなくモンストルに手ぶらで近づき、お話しましょ! と、左手を差し出す。途端、埋め込まれた刻印が起動。ぶわっと超至近距離の左手から悍ましい触手が這い出てモンストルの動きを封じる。ちょっとくらいならつまみ食いしてもゆるされるかしらなんて、メールは可愛く言ってモンストルの腕をガブリ。ぐっと力を込めて引き千切る!
「ああああああ!!!」
「むぐむぐ……けっこーイケる感じ~」
「食い尽くすなよ。……元は花なんだし、園芸鋏でも持ってくりゃ良かったなァ」
片手で鋏のポーズをとると、チョキチョキとジェスチャーを始めるジェイ。ご丁寧に裁断してから食すつもりだったのだろうか。残念先にもぎ取られている。
「俺はパース。さっきの女の方が純純でかわいいや」
軽口を叩きながら、駒吉を構え触手で身動きが取れなくなっている足を狙う。逃げられないようにする為の定石だ。それとも腕が良かった? なんていうけれど、腕はもう先にボロボロになっている。全く、悪食が揃ったもんだなぁとレジーは苦笑した。その中に自分も入っているって言うんだから、世の中どんな縁があるか分からないものだ。
レジーが足を狙っている間、ジェイは黒剣『絶起のザラド』で、噛み千切られていない方の腕を攻撃。刀と違ってスピードは然程ないが、鈍重な一撃がスパっと腕を断つ。絡みつく触手が腕を捨てて、今度は腹に巻き付いた。
「痛い、やめて。やめて……」
「いーやーでーすぅー。その言葉、あなたは何回無視してきたの?」
鋭いメールの言葉に、ぐっと息を詰めるモンストル。メールは小細工一つせず、真正面から触手を抱いたまま捨て身の一撃を腹に喰らわせる!
「アタシもね、お前と同じようにダイスキなひとがいるわ。愛しているの、とってもとても。でも、だから、嗚呼、――いとしいひとを、その手で汚すな!!」
叫ぶように放ったメールの言葉に、呆気にとられるモンストル。いとしいひとを、その手で汚す。私は、モンストルを、ご主人様を汚していた……? そんな疑問に囚われて、身体の痛みが嘘のように引いていく。
一方レジーはといえば、二人が強いとわかったところで今度こそ二人に任せようと闇に紛れる。先ほど思い切り吠えたせいで喉が痛い。精々仕えても1日1回だなぁなんて考えて、静かにゆっくりとモンストルと間合いを詰め、二人の付けた傷を抉る。途端にぶり返すモンストルの痛み。
「ああっ!」
「任せるとは言ったけど……あれ、言ったっけ。まぁいいや、絶対に手を出さないとも手加減するともいってないじゃん。駒吉は俺よりも血を求めているから大目に見てよ」
「ちょっと血腥いけれど、レジーちゃんったらすっかりお姫様だわ! そうね、野に咲く花は手折りたくなるものよね」
うんうんと頷くメールは心底純粋に狂気に満ち満ちていた。その上でんー、と唇に手をあて考える。
「んぅー、なんかー、弱いものいじめしてるみたいじゃない? さっさと終わらせましょ」
「生憎花を散らしたくらいで痛む心は持ち合わせてないんでね。ご主人様ごっこはもういいか? 付き合わされるこっちの身にもなってくれ」
ちくちくと駒吉で刺すレジーに、ところどころつまみ食いをするメール。それに飽き飽きしたのか、ついに登場した拷問具『首刎ねマリー』。断頭台と拘束具が個別に飛来し、メールを巻き込まないようがっちりと拘束具がモンストルを固定する。
「いや、いや……わたしは、いきたかっただけなの――」
断頭台の刃が首に嵌ると、――ストン。ごろり。真っ赤な血を噴き出して、死薔薇のモンストルはそれ以上の言葉もなく息絶えた。その壮絶な最後に心を痛めるような三人ではなく、むしろにこにこと朗らかな表情でやりきった感を醸し出している。
「メールはどこから食いたい? レディファースト、先に選ばせてやるよ」
「ジェイちゃん、アタシ首をイタダキマスしたいな。ねぇ、お前のいちばんキレイで美味しいところを、頂戴」
転がる首を拾ったメールは、その瞼にそっと口付けて。大きな口をあけて齧り付いた。嗚呼、甘美――いきたかったものの味。
――いきたかった。ご主人様とお外を歩いて、広い世界に行きたかった。
――いきたかった。ご主人様とお話をして、毎日楽しく生きたかった。
――いきたかった。ご主人様が召されたあの夜、私も共に空へ逝きたかった。
でも、きっとだめね。私はご主人様の名を汚してしまった。同じ地平へは行けないでしょう。でもせめて、ご主人様に二度目の生があるならば、その時はまた白い薔薇を植えて下さいね――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『雪花散る、春探し。』
|
POW : 人混みに春を探す。
SPD : 自ずから春を迎えに行く。
WIZ : 自然に春の気配を探る。
|
●きっと主が愛した季節
モンストルが去り、静まり返った館は酷く寂しい雰囲気を醸し出している。
彼女が治めていた辺境の村はまだ寒い。樹々の蕾はかたく閉じ、葉もまだ若い。
水は冷たく、残雪もほんのり霞む今日この頃。
それでも野に、山に、街に、人々に。
ほんのり色づいた景色に見える、春の気配はすぐそこに――。
※PSWは参考程度に、ご自由な発想で春を見つけてくださいませ。
仇死原・アンナ
アドリブOK
終わったか…
静かになったね
館の近くを散策しようか
ここは寒い…雪がまだ残っている…
別世界には万年華やかに咲き続ける幻朧桜があるけど
この世界にそれはない…
それでも…雪は溶け、いずれ春は来る…
…こんな所に薔薇がある
…何色の薔薇が咲くのだろう
この世界は暗い…長い長い冬のように未だに冷たい闇の中…
いつかその闇が溶けて春のように光射す時が訪れるのだろうか…
その時が来るまで私は…剣を振るい闇を払い続けよう…
光射す時が訪れるように[祈り]を捧げよう…
●
荒れ果てた土壌を踏み、アンナは館の近くを散策していた。静かになった其処はまるで人の気配がしない。冬が果て、これから芽吹く様な息吹の感覚に、自然と足取りは軽くなる。
此処は寒い。雪がまだ残り、ひんやりと冷たい冷気を感じる。別世界には万年華やかに咲き続ける幻朧桜があるけれど、この世界にはそれはない……。それでも……雪は溶け、いずれ春は来る。それは季節という決められた巡りが定めた運命。
一歩野山に踏み込めば、樹に巻き付く野ばらが蕾を付けている。雪にも、寒さにも負けず、健気に花を咲かせようと踏ん張っている。
「……こんなところに、薔薇が……」
この花は、何色の薔薇を咲かせるのだろう。血潮の赤か、朗らかな黄色か、可愛らしさを隠さない桃色か。どれにしても屹度白ではないと思う。白は彼女だけの色だ……生まれ変わるには、まだ早い。
ダークセイヴァーは暗い。長い長い冬のように、いまだに冷たい闇の中。誰もかれもが羨望に生き絶望に沈む世界。それでも、いつかその闇が溶けて光射す時が訪れるのだろうか。アンナが踏みしめた土がぎゅっと軋み、うんともすんとも云えぬ返事を返す。。
やがて春は訪れても、光がこの世界を照らすことは無い。ならば永遠に、この世に生きる人々は虹を見ることが出来ないのか。否、それは違う。必ずや、その領域を広げてみせると、アンナは剣に誓う。その時が来るまで剣を振るい、闇を払い続けようと……光射す時が訪れるように、祈りを捧げるのだった。
春は、まだ来ない。しかしいつか必ずや訪れる未来だからこそ、人は夢を見ることが出来るのだ。
「なぁ。外の世界には『暁』という言葉がある。朝日が差し込む美しい光景だ。陽光でこの世を照らし、七色の……いや、薔薇色の世界を齎してみせよう」
祈りを胸に、誇りを剣に。アンナは真っ直ぐ進んで行く――。
大成功
🔵🔵🔵
マルグレーテ・エストリゼン
私の母は華の美しさしか見ようとしなかった
美しさを生み出したもの……例えば、育てた庭師の努力と愛情
そういうものは何とも思わなかった
だから母の薔薇を枯らした庭師のシグールを処刑しようとしたのだ……
今は私が保護している
本当に価値があるのは、そういうものだと私は思う
猟兵ではないシグールはこの世界を一人では出歩けない
せめて、土産話をと思い
野山に春の気配を探しにきた
命の息吹……しかと覚えて帰ろう
どんな出会いが待っているのだろうか……
(他PCとの絡み可)
・特徴(聞かれて答えたり自発的に語ったりしてOK)
護りたい人がいる
(詳しくは語らない)
敵視している吸血鬼がいる
花が好き
自然が好き
●
母は、華の美しさしか見ようとしなかった。美しさを生み出したもの……例えば、育てた庭師の努力と愛情、育種家の創り出す香りや冬にも耐えるたくましさ、活ける華道家の作り出す雰囲気に、目もくれやしない。そういうものは何とも思わない人だった。故に、薔薇を枯らした庭師シグールを処刑しようとした。今はマルグレーテが保護しているが、あの時の事を思い出すと今でも背筋が凍る。
本当に価値があるのは、そういう――掛けられた手間という名の愛情だと、マルグレーテは思う。猟兵ではないシグールはこの暗闇の世界を一人で歩くことは出来ない。せめて華やぐ土産話をと思い、野山に春の気配を探しに来たのだが……何がどうして、中々見つからない。雪は残り、空気はひやりと湿っている。
どんな出会いが待っているのだろうか。だが、果たして出会いなど期待しても良いものなのだろうか。あんなに哀しい薔薇の末路を見た後だ、見つけるもの全てが美しいとは限らないと少しだけ心が重くなる。
ふと見かけたのは木に芽吹く小さな蕾。何の木だろうか……これは、木蓮か。この世界では、マグノリアと呼ぶんだとか。少し名前が似ている花に、自然と表情が柔らかくなる。
「命の息吹……しかと覚えて帰ろう」
誰にだって、どこにだって、未来に向かって咲く権利があるのだ。それを侵す権利など、人にもオブリビオンにも無い。ならば、私はその未来と大切な人を守る為に努力しよう。私に出来る全てをかけて、誰にも傷つけさせやしない。
「シグール、待っててくれ。今日の話は、悲しい話ばかりではなさそうだ」
木蓮の蕾をひと撫でし、踵を返すマルグレーテ。帰ろう、帰れば土産話に花が咲く――。
大成功
🔵🔵🔵
リリー・ベネット
季節は廻り、移りゆくもの。
暖かな季節に向けて……彼女の主人に向けて。何か遺せたのでしょうか。
いずれ私が朽ちた時、この子達はどうなってしまうんでしょうね。
ーーああ、アントワネット、フランソワーズ。悲しそうな顔はしないでください。
貴女達を置いて逝ったりしませんよ。
一緒のお墓で眠りましょうね。
彼女のように、寂しい思いはさせません。
大丈夫。闇が迫る怖い夜も、雷鳴の騎士が護ってくれますよ。
季節が巡り、年を重ねても……何も……怖いことなんて、ありません。
●
季節は廻り、移りゆくもの。それは老若男女、生きとし生けるものから無機物まで逃れられぬ運命。私も、彼女――紅薔薇も。暖かな季節に向けて……紅薔薇の主人に向けて、何か遺せたのでしょうか。
そう想うリリーは何輪か、地にしっかりと根付いて今にも蕾が解けそうな花たちを見る為にしゃがみ込む。こんなに小さいのに天を向いて、可愛らしい。陽の差さないこの世界でも、季節を感じることは出来るのだと考えると、また新しい季節にも来てみたいと思う。
いずれリリー自身が朽ちた時、二体の人形たちはどうなってしまうのだろうか。人形は朽ちることは無い、その身が壊れるまで、永遠の命をもつ。もし不慮の事故や、猟兵生活の中で、リリーだけが逝くことになったら……。いや、それは無い。二体とリリーは一心同体。いつでも一緒。
「――ああ、アントワネット、フランソワーズ。そんな悲しそうな顔はしないでください。貴女達を置いて逝ったりしませんよ。一緒のお墓で眠りましょうね」
<彼女>のように、寂しい思いはさせません。<彼女>も何処かで泣いているのかと思うと、胸が苦しくなる。……どうだろうか、案外自由を謳歌して、楽しんでいたりして。お爺様と仲良く暮らしていたりして。それはそれで、微妙な気持ちにならんでもないが。
「大丈夫。闇が迫る怖い夜も、雷鳴の騎士が護ってくれますよ」
いつか自分たちが先に旅立っても、迸る閃光で辺りを照らしてくれるだろう。悲しくないように、寂しくないように、つまらなくないように。リリーとリリーが愛する者全てを、きっと彼の騎士もまた愛してくれる。
「季節が巡り、年を重ねても……何も……怖いことなんて、ありません」
だから、いつでも、いつまでも一緒にいましょうね。彼には今の内から、よぅく言い聞かせておかなくては――。
大成功
🔵🔵🔵
鈴桜・雪風
嗚呼、もしかして……この世界には桜がないのですか
少なくともこの村には根付いていない様子
「春を告げるのは、ただ雪解けの水と吹く風の暖かさのみ。それがこの地の営みと言われれば悲しむのは筋違いですが、異郷育ちのわたくしには少し寂しく感じますわ。でも……」
土も水も風も違う土地とは言え、変わらないものもありますわね
木々も草花も一斉に芽吹き、陽光の恵みを浴びようと咲き誇る春の様はここでも同じ御様子
「この様子なら、本格的な春の訪れも遠くなさそうですわね」
彼女の花…薔薇の開花はもう少し後、初夏の頃でしたか
あの花がここで咲いている様子を見たかったですが、致し方ありませんわ
「また訪れましょう。今度は薔薇の季節に」
●
冷え切った空気。まだ外は寒く、雪もちらほら残る中、雪風は傘をくるくる回しながらのんびりと歩いていた。そして気付く。この世界には桜がないのだと。少なくともこの村周辺には根付いていない様子。
「春を告げるのは、ただ雪解けの水と吹く風の暖かさのみ。それがこの地の営みと言われれば悲しむのは筋違いですが、異郷育ちのわたくしには少し寂しく感じますわ。でも……」
土も水も風も、何もかも違う土地とは言え、変わらないものもあると気付く。樹々や草花には柔らかい蕾がつき、陽光の恵みを浴びようと咲き誇らんとする春の様は此処でも同じ様子。全ては春という暖かく朗らかな季節に憧れ、運命を享受しようと凛と上を向いている。
光はいつか屹度差す。全てを照らして、陽の影に遊ぼう。時には暑くて汗を垂らす日があってもいいかもしれない。太陽は色々なものを齎してくれる。そんな日を待ちわびている……花も、人も。全てが。
「この様子なら、本格的な春の訪れも遠くなさそうですわね」
彼女の花……薔薇の開花はもう少し後、初夏の頃。あの花がここで咲いている様子を見たかったが、致し方ない。しかし、いつまでもこの世界も冬ではないのだ、巡り巡って、春が過ぎたら。
「また訪れましょう。今度は薔薇の季節に」
その時は、屹度色とりどりに咲き誇る薔薇達が彼女を祝福してくれるでしょう。白くて純真無垢な、本来は癒しと麗しの華を。
さぁ、もう少し此の世界を堪能しよう。いつの間にか随分と村から離れてしまったが、その分自然豊かだ。溶ける雪あれば咲く花があるのはどこの世界も同じなら、絶対にこの世界にも希望はある。その欠片を探して歩き出す雪風だった――。
大成功
🔵🔵🔵
三嵩祇・要
春は好きじゃない。そう思っていたが
季節が廻って毎年花を沢山咲かせる春は
この薄暗い世界には必要なのかもしれない
モンストルが心を込めて育てた白い薔薇が
ただひたすらに惜しみなく尽くし、見る人の心を癒す様に
この世界で花を咲かせる植物は、この世界を癒そうと尽くしてくれているのかもしれない
朽ちた花は土にかえって
悲しくなくなるまで繰り返し何度も咲くんだろう
モンストルと白い薔薇にいつか安らぎが訪れるといいと心から思う
…なんて柄にもない事を考えてるうちに、オレ史上最悪の吐き気が収まってきた。
考えてみれば、今のこの静けさも春の訪れって事なのかもな…
暗い冬は終わった。白い薔薇の為に春を願おうか。
●
季節が廻って毎年花を咲かせる春は、此の薄暗い世界には必要なのかもしれない――。例え自分にとって春が好ましい季節でなかろうと。世界が望むのならば、それもまたアリなのだろうと、要は考えた。
モンストルが心を込めて育てた白い薔薇は、ただひたすらに惜しみなく尽くし、見る人の心を癒す様に、この世界で花を咲かせる植物は、この世界を癒そうと尽くしてくれているのかもしれない。アネモネもクロッカスも、地に生えながら真っ直ぐに天に向かい、蕾を開こうと懸命に微かな光を集めている。その姿は健気で、人々の心に勇気を与えるようだった。
朽ちた花は土に還って、悲しくなくなるまで繰り返し何度も咲くのだろう。モンストルと白い薔薇にいつか安らぎが訪れると良いと、心から願う。彼女……白薔薇は最後まで、モンストルの華だった。それがいずれ輪廻を越えて、彼女と同じ地平に辿り着いたなら――屹度いつか並んで花を咲かせるはずだ。
……なぁんて、柄にもない事を考えているうちに、要史上最悪の吐き気も収まってきた。増強剤の副作用は想像以上に大きい。これは依頼の時でもなければ使えないなと心に刻み、懐の紙袋をくしゃっと握りつぶす。
「――考えてみれば、今のこの静けさも春の訪れってことなのかもしれないな……」
暗い冬は終わった。白い薔薇の為に、今は春を願おうか。誰も踏みにじらない、純真の薔薇へ、たったひとつ願うこと。どうか今度はご主人様と一緒に、同じ地平で仲良くなと。お前が愛したご主人様だ、ご主人様だってお前の事を愛していたはずだろう。そう思わずには、いられない――。
大成功
🔵🔵🔵
アンナ・オルデンドルフ
【恋華荘】
生きたかったあなたの願い、わからなくもありません。
今度生まれてくることがあるとしたら、その時は
人を傷つけることなく、共に歩んでいくことができたらと思います。
私は白い薔薇をお供えして、
彼女たちが救いに与れることを祈りたいと思います。
そしていちごさんのお弁当を食べながら、
春の訪れを全身で感じようと思います。
詞さんの言葉にも、うなずいてしまいそうです。
そんな私も呪われた血を受け継いでいますが、
行いを改めればきっと未来は拓けることでしょう。
私たちの未来が輝けるものになるという
希望を持って生きていきたいと思います。
みなさんの生き様に、救いがありますように。
彩波・いちご
【恋華荘】
一件落着、というには少々後味悪いですかね
せめて白い薔薇で送ってあげましょうか?
とはいえ、いつまでもしんみりしているのももったいないです
「お弁当用意してきましたし、少し早いピクニックと行きましょうか?」
彼女のために薔薇を捧げられる場所を探し、シートを敷いて
花と、少しだけお弁当をお供え
安らかな眠りを祈りましょうか
「さ、お弁当食べてくださいな。簡単ですけど、腕によりをかけましたよ♪」
簡単なサンドイッチ程度ですけれど
私達は倒した彼女の分も、未来に希望を持って、今を楽しんでいきましょう
私も、どことなく影のある2人を守ってあげないと、ですね
私の料理で少しでも明るい未来を想えれば幸いです(にこっ
牧杜・詞
【恋華荘】
手向けっていうのはあまりしたことがないけど、
あなたの気持ちは送らせてもらうわ。
ご主人さまとおなじところへ逝けているといいわね。
薔薇の花言葉、
白い薔薇は『深い尊敬』
赤い薔薇は『あなたを愛してます』
だっけ?
やり方は間違ったかもしれないけど、
あなたのその想いは純粋だったと思うわよ。
生まれ変わったら、ご主人さまとおなじ世界で、
おなじ景色を見られるといいわね。
いちごさんのお弁当がお供えになるかどうかは解らないけど、
美味しい食べ物と飲み物で送るのは悪くないわよね。
……なんて、柄じゃないか。
わたしもそのくらい愛せる人ができれば、
違う世界が見えるのかもしれないわね。
そこは少し羨ましいかもしれないな。
●
アンナ、いちご、詞の三人は、それぞれ白い薔薇を手に戦場に想う。静謐な雰囲気に、自然と身が引き締まるような思いになる。
「手向けっていうのはあまりしたことがないけど、あなたの気持ちは送らせてもらうわ。ご主人さまと同じところに逝けてるといいわね」
「生きたかったあなたの願い、わからなくもありません。今度産まれてくることがあるとしたら、その時は人を傷つけることなく、共に歩んでいくことができたらと思います」
「んん、一件落着、というには少々後味悪いですかね。せめてこの白薔薇で送ってあげましょう?」
モンストルのために薔薇を捧げられる場所を探して、行きついたのは小高い丘。屋敷も見えて、近くには村がある。そして一本の大きな木。これは何の木だろうか、植物に詳しいものがいたなら分かったかもしれないが、生憎と三人の中にはいない。それでも立派な樹に巻き付いている野ばらくらいは見分けがついた。丁度良い、薔薇のあるところに手向けてやろうと、三人は薔薇を樹の根元に置く。風に揺られて左右に踊る白薔薇は、まるで喜んでいるようだった。
さて、いつまでもしんみりしているのも勿体ない。
「お弁当用意してきましたし、少し早いピクニックと行きましょうか?」
「ええ。お弁当がお供えになるかどうかは解らないけど、美味しい食べ物と飲み物で送るのは悪くないわよね」
まずは少量のお弁当をすくって同じく樹の根元へ。そして祈りを捧げる――いつかご主人様に会えますように。生まれ変わったらご主人さまと同じ世界で、同じ景色を見られますように、と――。祈りが終わったならいちごは満面の笑みを浮かべて手を広げる。
「さぁ、お弁当食べて下さいな。簡単ですけど、腕によりをかけましたよ♪」
中身は簡単なサンドイッチだったが、肉系に野菜系にフルーツ系と、バランスよく整っている。二人とも手を拭いたらサッと摘んでもぐもぐと食べ始めた。風はまだ冷たいけれど、薔薇の蕾を見ながら春の訪れを感じる食事はまた一段と美味しく感じられる。
「薔薇の花言葉、白い薔薇は『深い尊敬』、赤い薔薇は『貴女を愛しています』だっけ? やりかたは間違ったかもしれないけど、モンストルのその想いは純粋だったのね」
詞の言葉に深く頷くアンナと、優しく微笑むいちご。皆考えることは一緒だ。モンストルの妄執染みた愛がこの様な結果を生み出してしまったのは悲しいけれど、元を辿ればヴァンパイアのせい。彼女もまた被害者だったのだ。かといって今までやってきたことが許されるわけではないけれど……ご主人さまに会えたら、屹度彼女も変わるだろうと信じて。
詞は自分もそのくらい愛せる人ができれば、違う世界が見えるのかもしれないと、少し羨ましく感じた。純粋な想いと狂気。その愛は時に燃え上がるほどの熱量を生み出すのだろう。
一方のアンナは、自身も呪われた血を受け継いでいるが行いを改めればきっと未来は開けると信じている。私たちの未来が輝けるものになるという希望をもって生きたいと、心から願った。
どことなく影のある二人を見守るいちごは、この子たちを守ってあげないとと心に固く決心する。手料理で少しでも明るい未来を想えれば幸いだと、にこり、二人に微笑みかけるのだった。そんないちごにつられてふたりも緊張感が解れたように微笑を浮かべ、はむはむとサンドイッチを平らげてゆく。
食べることは、生きる事。皆の生きざまに救いがありますように、未来に向かって、私たちは今日も生きてゆく――。
大成功
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レジー・スィニ
【爪痕】
春だって
この世界にも春は来るんだ
折角だから花見でもしたい所だけどさ
あんなのを見た後だから酒も不味くなるだろうけど
レジ―さんはジェイとは違って繊細なの
メールはちゃんと吐き出した?
へぇ、食べた。
さてと、みんなで春探しでもする?
春ってあれっしょ
桜とか、綺麗な花だとか。
あまり縁がない景色だけどさ。
二人とも春ってやつを教えてよ。
俺の春は……ああ、あれ。
白いやつ。綿毛だっけ?
飛ぶのとかさ、面白いよね。
ああ、二人ともちゃんとしたやつでよろしく
花見に浮かれた野郎を見たら春とかはなしね
メールは随分と乙女じゃん。
ジェイの春の匂いって分かるなー
鼻はいいの。
それじゃ、春の匂いを辿って歩きますか。
休憩はなしね。
ジェイ・バグショット
【爪痕】
…当たり前だろ。
こんな世界でも、時間は流れてるってこった。
ダークセイヴァー出身だから景色自体は馴染み深い
なんだよ、あれくらいで酒が不味くなるような繊細さ持ってたのか?
意外だな。と笑って揶揄う
俺は花の名前とか全然知らねーけど。
春の匂いってあるよな。
冬とは違う、春らしい匂い。
すん、と空気の匂いを嗅いで、分かる?と二人に問う
この世界の春を意識したのは久しぶりな気がする。
…たまには悪くない。
煙草に火をつけ一服
穏やかな時間は確かにあるんだ、こんな世界でも。
あ?綿毛?
……えーっと、たんぽぽ…?
それくらいなら分かる
ハハっ、恋とは随分ロマンチックだな、メール。
さすが女子、そういうの好きだなぁと。
メール・ラメール
【爪痕】
あれはちゃーんと刻印の触手が美味しく頂きました、ご馳走様
この世界の春ってあんまり想像できないな
ジェイちゃんは詳しい?
春探し? 桜とか、お花とか…
確かにお酒で潰れてるひとを見ると春を感じるなあ
でもダメなんでしょう? ちゃんとした春…。むむむ。
日差しがぽかぽかしてくると、春だなあって思うけど
匂いとはすこし違うかしらね
ああ、恋とかどうかしら
それこそ、さっきの彼女みたいな
……彼女も、今ぐらいの時期に植えてもらったのかしらね
うん。きっとそうだわ。春だもの。バラだってひとに恋くらいするわ
春の陽気が狂わせるのはひとだけじゃないのね、ふふ
乙女? そりゃあメルちゃんはカワイイオンナノコですので!
●
「春だって。この世界にも春は来るんだ」
「……当たり前だろ。こんな世界でも、時間は流れてるってこった」
レジーの軽口に同じく軽口を返すジェイ。ダークセイヴァー出身故に、景色自体はなじみ深い。このどこか寂しい雰囲気も、寂しい風も、懐かしさを感じるばかり。
「折角だから花見でもしたいところだけどさ、あんなの見た後だから酒も不味くなるだろうけど」
「なんだよ、あれくらいで酒が不味くなるような繊細さ持ってたのか?」
意外だなと、と笑って揶揄うジェイに、レジーはんべっと下を出してお茶らけて返し。そういえば一番たらふく食べた少女は一体どういう気持ちだったのか尋ねる。
「レジーさんはジェイと違って繊細なの。で、メールはちゃんと吐き出した?」
「あれはちゃーんと刻印の触手が美味しく頂きました、ご馳走様!」
「へぇ、食べたんだ。美味しかったなら結構」
中々の悪食だ、触手については触れないでおこうと考えるレジーに、わきわきと手を動かすメール。悪いことを考えている顔だ。全く、ちっとも侮れやしない。
そうして館周りから離れ、少し森に入る三人。其処には人々が作ったであろうか細い道がひかれていて、なんとなくそれに沿って進む。樹々や地面のあちこちに、新芽が芽吹いているのが見てとれた。
「さてと、みんなで春探しでもする? 春ってあれっしょ、桜とか、綺麗な花だとか。あんまり縁がない景色だけどさ。二人とも春ってやつを教えてよ。ああ、ちゃんとしたやつでよろしく、花見に浮かれた野郎を見たら春とかはなしね」
レジーの言葉に顔を見合わせるジェイとメール。二人して顔に手をやり、うーんと考えてみる。春と言えば……。
「花の名前とか全然知らねーけど。春の匂いってあるよな。冬とは違う、春らしい匂い」
すん、と空気の匂いを嗅いで、分かる? と二人に問う。レジーもメールも鼻をくんくんさせてみるが、いまいちピンとこない様子で、その様に思わず笑ってしまうジェイだった。
「春探しねぇ? 桜とか、お花とか……。あっ、確かにお酒で潰れてるひとを見ると春を感じるなぁ。暖かくなってきた証拠って感じ。でもダメなんでしょう? ちゃんとした春……むむむ。日差しがぽかぽかしてくると春だなぁって想うけど、匂いとは少し違うかしらね」
雰囲気っていうの? とメールはろくろをまわすように「こう、ね……」と説明するが、二人には伝わっているのかどうか。レジーはなるほどね、と頷くと暗い常世の世界の空気を思い切り吸い込んだ。
「ジェイの春の匂いって分かるなー。鼻はいいの、俺」
言われてからジェイもこの世界の春を意識したのは随分と久しぶりだったと気付く。たまには、悪くない。煙草に火をつけ、ぷわ、と一服。穏やかな世界もあるものだと思う。こんな世界でも。
「そういうレジーは春っぽい事なんか思いうかぶわけ」
「俺の春は……ああ、あれ。白いやつ。綿毛だっけ? 飛ぶのとかさ、面白いよね」
「あ? 綿毛? ……えーと、たんぽぽ……? それくらいなら分かる」
男連中が可愛らしい話をしている間、まだ春について考え込んでいるメールはあっ! と声をあげて手をあげて、春についてさらに語りだした。
「恋とかどうかしら。それこそ、さっきの彼女みたいな。……彼女も、今ぐらいのじきに植えてもらったのかしらね。……うん、きっとそうだわ。春だもの。バラだってひとに恋くらいするわ。春の陽気が狂わせるのはひとだけじゃないのね、ふふ」
なぁんて一人納得したように満足気に語ったメールは、謎が解決したようにスッキリとした表情。それに二人は苦笑なんだか心からの笑みなのか分からない何ともいえない貌で答える。
「へぇ、メールのは随分と乙女じゃん」
「ハハッ、恋とはロマンチックだなぁ、メール。さすが女子、そういうの好きだなぁ」
「乙女? そりゃあメルちゃんはカワイイオンナノコですので! あったり前じゃない!」
恋に恋するどこからどうみてもプリティキュートな女の子を捕まえて、当然なことを言われてもね。なんて強気の言葉で二人を翻弄し、メールは細い道を先だって進んで行く。一番最初に春らしい春を見つけるのはこのアタシと言わんばかりに――。
大成功
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ディアリス・メランウォロス
お嬢様、私は彼女がどう感じていたかは分かりません。
ヴァンパイアに想いが捻じ曲げられていた可能性もあります。
どうであれ彼女は忠義を謳い我々に刃を向けました。
であれば、それに正々堂々と向かい合わなければなりません。
自分の意思を彼女に訴えることのできたお嬢様はご立派でいらっしゃいました。
その力不足を悔しく思う気持ち、忘れずにいてください。
そういった経験を経て人は成長するのです。
それに、私の忠義はお嬢様へのものです。
あなたに何があろうとそれは変わりません。
そういうことです。
そうですね、私達は優雅にこれからも咲き続けていましょう。
とりあえず帰ってお茶にしませんか。
暖かい風を感じながら楽しく飲みましょう。
オセロ・コールブランド
お屋敷二人と
あー…こう言うのこれから山ほどあンだよなァ
お嬢様はこれから繰り返すのか
それともそ考え変わるのか
やる事変わらないンで
どっちでもいいっちゃいいんだけど
ネーサンはどんな顔してんのかな
「そースね。あっちが可愛いレディースとして来たなら保護したけど、主を冠したのなら話は別しょ。同じ土踏んだンなら優しくは出来ねっス」
自分に万一が?
は、何それ
もーお優しいんだからァ
「お嬢様が失われるときに俺たちはもう居ないし、居たらもうそいつは俺たちじゃないンです」
「花は花、剣は剣として愛してもらえたら、それでいーの」
や、俺は花にはなれないけど
「暖かいところ、行きましょうよ。それがいい」
ココレット・セントフィールズ
…わたくし、彼女を救えなかったわ。
気を落としているわけではないの、力不足だったことは悔しく思うけれど。
ディア、オセ、あなたたちはわかっていたようだったわね、
彼女がああいった対応をすることを。
わたくしは、彼女に必要なのは彼女をまた愛でることができる新しい主だと思っていたけれど…
違ったのね、彼女の主はその人しかありえなかった。
でも、あなたたちもわたくしに万が一があれば、新しい主に仕えることになるでしょう。
同じことだと思ったのだけれども…。
わからなかったわ、まだ、わたくしには。
芽吹きの季節が来るわ。
わたくしたちはせめて、美しく優雅に咲いていましょう。
*アドリブ歓迎、ふわっとお願いします
●
ココレットはあからさまに何か思うところがある、といった様子で地面に転がる石を蹴った。普段ならそんなはしたない事しないのに、どうしてか、やりたくなってしまった。
「……わたくし、彼女を救えなかったわ。気を落としているわけではないの、力不足だったことは悔しく思うけどね」
「お嬢様……」
「ディア、オセ、あなたたちはわかっていたようだったわね、彼女がああいった対応をすることを。わたくしは、彼女に必要なのは彼女をまた愛でることができる新しい主だと思っていたけれど……」
「……私には彼女がどう感じていたかは分かりません。ヴァンパイアに想いが捻じ曲げられていた可能性もあります。どうであれ彼女は忠義を謳い我々に刃を向けました。であれば、それに正々堂々と向かい合わなければなりません」
揺ぎ無く語るディアリスに、それでも晴れることはないココレットの表情。思い切って浮かんだ疑問の続きを聞いてみる。
「彼女の想いの先に、ご主人様がいたのだとしても?」
「はい。それに、自分の意思を彼女に訴えることの出来たお嬢様は立派でいらっしゃいました。その力不足を悔しく思う気持ち、忘れずにいて下さい」
そういった経験を経て、人は成長するのだから。もちろんこの黒騎士も、最初から強かったわけではない、悔しい思いも、苦々しい思いも幾度となくした。その上で、この場に、ココレットの横に立っている。
「そースね。あっちが可愛いレディースとして来たなら保護したけど、主を冠したのなら話は別しょ。同じ土踏んだなら優しくは出来ねッス」
土俵に上がった以上、容赦する事の方が失礼だ。オセロもまた自分自身の答えを持っている。屹度これからこういう事が山ほどあるのだろう。その度にココレットはこれを繰り返すのか。それとも考えを改めるのか。オセロがやる事は変わらないのだからどっちでも良いのだが。――それが何だか眩しくて、ココレットは目を細めた。
「そう……私は、間違ってしまったのね。彼女の主はその人しかありえなかった」
でも、と心に陰りが差す。猟兵として生きる以上、避けられない現実がある。
「あなたたちもわたくしに万が一があれば、新しい主に仕えることになるでしょう。同じことだと思ったのだけれども……分らなかったわ、まだ、わたくしには」
その言葉にきょとん、とするオセロ。そしてくしゃりと顔を崩す。自分に万一が? 何だそれ。お優しいんだからと笑みを歪める。ディアリスは険しい表情を浮かべ冷やりと雰囲気を固くする。
「お嬢様が失われるときに俺たちはもう居ないし、居たらもうそいつは俺たちじゃないンです。花は花、剣は剣として愛してもらえたら、それでいーの」
「そういうことです。私の忠義はお嬢様へのものです。あなたに何があろうとそれはかわりません」
護るべき人を守れず、先に逝かせて、のうのうと生き残る従者など、それは自分たちの望む姿じゃない。そんな姿、あってはならないのだ。それがココレットという華に仕える従者としての矜持。花にはなれないもの達の、せめてもの思いやり。
「そう……ありがとう、ディア、オセ。あなた達の想い、しかと受け取ったわ。――芽吹きの春が来るわ。わたくしたちはせめて、美しく優雅に咲いていましょう」
「そうですね、私達は優雅にこれからも咲き続けていましょう。とりあえず帰ってお茶にしませんか、暖かい風を感じながら楽しく飲みましょう」
「いいッスねー! 暖かいところ行きましょうよ。それがいい!」
いつの間にか、ココレットの心に陰っていた曇りは晴れていた。二人の騎士が身も心も守ってくれる限り、心配することなど何も無い――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
【桜一華】
絢爛に咲いた興奮も今は静かな春夜の夢
溜息ひとつ
うっとりと
あまやかな指先で紅をひき
あかの残り馨と余韻に咲む
なんてことを
なんて夢心地
素敵な舞踏会だったわ
七結
まっかなドレスが良く似合うわ
散らすよろこびを憶えた可愛い少女と笑みかわす
うつくしいあかを摘んで踊るのはとても
たのしいの
けれど
獲物は選ぶの
バケモノには堕ちないわ
秘密、秘蜜よ
かわいい妹のようなあなた
いっとうのあかは胸の内に咲かせて
散らして(喰らって)しまったら
もうもどらない
あか
ありがとう
あかに染まる一華も一段とうつくしきこと
君を愛すと謳う牡丹一華に
桜と同じ春をみる
あかの夢が覚めるまで
お手をどうぞ
お嬢さん
もう少しだけ
あかい春を踊りましょう?
蘭・七結
【桜一華】
染まるゆびさき
香りが纏わう
あまくてあかくて
………、なゆはなにを
なにを、だなんて可笑しなことを
とっくに目は醒めている
知らないふりはいけない子
演ずることをやめたのに
一時的に満たされている
“たのしい”と
散らす悦びを憶えた
いっとうの色
ただ散らして喰らうのはばけもの
選ぶという誇りは棄てていない
この夜だけ
“私”と龍(あなた)のひそかごと
秘密緋蜜ね、ふふ
この身をあかく染めたとしても
くちづけるのはひとつだけ
その“あか”以外いらない
桜角と翼に春を視る
きれい
春はすきよ
さくらの花も、すきなの
こころにぬくもりを灯した
駆けてゆくのは、いい子に戻ってから
嗚呼、よろこんで
うつくしい桜のひと
あかの余韻に浸りましょう
●
絢爛に咲いた興奮も、今は静かな春夜の夢。溜息ひとつ、うっとりと。あまやかな指先で紅をひき、あかの残り馨と余韻に咲む。それはそれは鮮やかで、咲き誇ったひと時の理想夢想の時間。いいえ、けっしてただの理想ではない、実際にあったこと。それを理想と認めてしまうのは簡単だけれど、そうだとみとめたら負けた気がして。――何に? それは自分のなかの龍に。鬼に。
染まるゆびさき。香りが纏わう。あまくてあかくて。
「…… ……、なゆはなにを」
なにを、だなんて可笑しなことを。とっくに目は醒めている。知らないふりはいけない子。演ずることをやめたのに、一時的に満たされている。“たのしい”と、散らす悦びを憶えた。
「なんてことを。なんて夢心地。素敵な舞踏会だったわ、七結。真っ赤なドレスが良く似合うわ」
「……あか。いっとうの色。なゆには甘すぎないかしら」
仄暗いよろこびを憶えた可愛い少女と笑みをかわす。うつくしいあかを摘んで踊るのはとても『楽しい』の、と。けれどと諫めるように七結のくちびるに指をのばす。
「獲物は選ぶの。バケモノには堕ちないわ。秘密、秘蜜よ」
とろけるようなあか。広がるいのちのいろを、ただ散らして喰らうのはばけもの。でも、選ぶという誇りを七結は棄てていない。この時、この夜だけの“私”と龍<あなた>のひそかごと。
「秘密緋蜜ね、ふふ」
櫻宵は七結のくちびるに触れた指をゆるやかに滑らせ、弧を描く。かわいい妹のような七結<あなた>、いっとうのあかは胸の裡に咲かせて、散らして――喰らってしまったら、もうもどらない、あか。
七結はその指遣いに合わせるように微笑み、くちびるも眸もほそめる。この身をあかく染めたとしても、くちづけるのはひとつだけ。その“あか”以外いらない。
眼前の桜龍の桜角と翼に春を視る。嗚呼、なんてうつくしくて、はかなくて、心をさざめかせるの。
「きれい……春は好きよ。さくらの花も、すき」
心にぬくもりを灯した。あたたかくてあらたかな焔が、ゆっくりと七結のこころに沁み渡る。駆けてゆくのは、いい子に戻ってから。
「ありがとう。あかに染まる一華も一段とうつくしきこと」
君を愛すと謳う牡丹一華に、桜と同じ春をみる。櫻宵のこころに広がるあかの滴る心の泉。嗚呼、この泉は、屹度この牡丹の娘にもあるのでしょうね。
あかの夢が覚めるまで、楽しい輪舞を舞い誘い。もう少し、心地よい時間が続く様に。
「お手をどうぞ、お嬢さん。あかい春を踊りましょう?」
「よろこんで、うつくしい桜のひと」
あかの余韻に浸りましょう。春はいつだって此処に、胸に、隣に、いのちに咲き誇っているから――。
大成功
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