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かみさまつくろ

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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●傀儡の祈り
 小さく水を吐いて、水面を見上げる。
 水底には、仲間だった“何か”が砂に埋もれるように横たわるだけ。
 最初に殺されるのは、次に溺れるのは、僕かもしれない。あの子かもしれない。
 哀れにも迷い込んだアリスかもしれない。
 あ、ほらまた隣に存在していたはずの彼がただの長靴になってしまった。こうなればもう、生きていたことすら定かではない。
 そういえば、この間、僕らの目の前から消えたアリスが必死に唱えていた誰か。
 呼べば救ってくれると言うならば、僕らの平穏を取り戻してくれると言うならば。
 助けて、助けて!!
 たすけて。
「かみさま」
 それが、泡沫の安寧だとしても。

●探求者の愉悦
 ここはグリモアベース。
「聞きたまえ、皆の衆!!」
 美しい紺色の髪を揺らすエルフの女性、染葉・ラヴィニア(自由への逃亡者・f18335)は眼鏡をきらりと光らせて猟兵たちに呼びかけた。その声に驚いた猟兵は、次々と彼女に目を向ける。
「フッフッフッフッ! ご清聴願おう、何を隠そう依頼なのだよ!! 実に興味深い場所が見つかったのだ!!」
 彼女はそう一頻り大声を上げていたが、猟兵達からの何だこいつ……という視線に、爛々と輝くガラス越しの瞳が、正気を取り戻した。
「おっと失礼、興奮しすぎたね。こほん……場所はアリスラビリンス。私はそこに、比較的新しい不思議の国を発見したんだ」
 うんうん、と頷く猟兵達に、ラヴィニアは「しかもね」と情報を追加した。
「その小世界は水中にある。あぁ安心して。その世界のメインフィールドは大きな泡に包まれてて、水中呼吸ができない人でも活動できるから」
 泡の中の世界。息をしながら水天井を眺める贅沢さ。美しいものが好きな者は想像するだけで溜息が出るだろう。

 それをぶち壊すように、エルフは自分の長い耳の端をつまんだ。
「そこの住民の様子がおかしいんだ」
 その口から語られたのは、惨状だった。
「不思議の国の不思議な仲間たち〜なんて謳えないくらいには退廃的な連中しかいない。世界の様子もゴミだらけで、無残に荒れ果てたものだ。もはやメルヒェンの欠片もない、ただの汚れた海底だね」
 肩をすくめる彼女に、猟兵はその原因を問うた。それを聞くと、彼女は満足そうににやりと笑む。
「よくぞ聞いてくれたな! 彼らは等しく、オウガへの感情で、傀儡になっているようなのだ」
 ここでオウガが出てくるのか、と猟兵のひとりが納得したように頷く。猟兵達に声をかけられたという時点で、オブリビオンが関わっていないことはありえないのだ。
「恐怖、逃避、防衛。理由は様々なのだが、根本的な原因はオウガがすぐ側に生きているという事に他ならんだろう。彼らが住まう巨大なあぶくには、まだオウガは侵略していない筈なのだが、オウガは、彼らにも察知できるほどにすぐ近くにいる。確定的な死がいつ襲ってくるかわからないという状況から考えると、中々に内臓を痛めそうではないかね?」
 なる程、つまり彼らが動けなくなっている理由は、過度なストレスからかもしれない。
「つまりだ!! 彼らを安心させ、世界の発展を手伝い、彼らの懸念事項であるオウガを彼らの目の前で退治することにより!! 我ら猟兵にとってのセーフゾーンを広げよう!! という目論見なのだ!!」
 目的はわかった。これは猟兵の仕事で間違いないだろう。
 だが、どうやって? と思考を巡らせだす猟兵に、ラヴィニアはずいっと顔を近付けた。

「神様になりたまえ」

 かみさまになりたまえ。
 どう考えてもそう言っていた。
 ぽかんとする猟兵達を放置して、ラヴィニアは青い目を愉快そうに細めた。
「無論、個人に“神”を背負わせるつもりはない。言うなれば、“猟兵様”とでも言ってやろうか」
 その言葉に困惑する猟兵もいれば、身を乗り出す猟兵もいるかもしれない。
「彼らの心の支えの第一候補を猟兵にする、と言い換えれば、“神”という名を冠することを忌避する者も減ろう」
 心底可笑しそうにラヴィニアは猟兵達を見回す。
「……最も、“神”は種族として確かに存在している。フフ、種族関係なく、己が“そう”だと言うのならば普段通りに振る舞い、己の信者をつくってもよかろう。それもまた“猟兵様”たりうるのだからな!!」
 でも、何故、“神様”でなくてはいけないのか? 眉間に皺を寄せた猟兵がラヴィニアに疑問を投げかけた。
 ラヴィニアは、真っ直ぐに答えた。
「彼らが求めていたからだ。“救世主”でもなく“改革者”でもなく、“神様”を」
 そう言うと、彼女はほんの少しだけ、皮肉っぽく目を伏せた。

 だがすぐに彼女はこほんと咳払いをする。その頬はほんのり赤い。
「……と、ともかく、君達には、“猟兵様”として彼らの信頼を得て、世界の発展を手伝って欲しいんだ。“神”に抵抗がある人や、熱狂的に信じてる神様がいる人は、ちょっと向かないかもだけど、自分こそが“神”だ! って思うような人や、皆に沢山慕われたい! って思う人ならならこういうの、楽しめるんじゃないかな?」

 ラヴィニアは、光で出来た杖をひと振りする。そのたびに輝きの粒がさらさらと零れて消えた。彼女のグリモアだ。
「さぁ、こころとからだの準備が整ってる君から転送するよ。いっておいで、“猟兵様”」
 ぶわりと蒼い魔法陣が杖先を向けられた猟兵の足元に展開された。
 その先は、君たちが救う世界だ。


城嶋ガジュマル
 毎日お疲れ様です。そしてお久しぶりです。城嶋ガジュマルと申します。今回もよろしくお願いいたします。

 さて、オープニングをご覧いただきありがとうございます。今回は現場に行って愉快な仲間たちのメンタルをケアして信頼を得て、水底の泡の世界を探索したり発展させたり観光したりして更に信頼を得て、ボスを倒すという、第1章:日常 第2章:日常 第3章:ボス戦という構成のシナリオでございます。

 受付は、第1章の断章が投稿された時点からいつでもどうぞ。ですが今回、ガジュマルの体調面から、先着順ではなく、楽しくなりそうだな〜と思ったプレイングを優先的に受理いたします。アドリブや連携も思い付かなかったら書きません。まったり進行になるかもしれませんので、予め心の器を広げておいてください。

 ちなみに、登場する愉快な仲間達ですが、基本的に体は非生物がベースです。性格や体の形、どんな風にメンタルが死んでるかなどはご指定いただければその通りの子を生やしますので、希望があれば「こんな子と喋ります!」と記載していただけると幸いです。ご指定がない場合はガジュマルがええ感じに生やします。

 そしてプレイングなのですが、アドリブや連携などでNG行為がある場合それを明記してくださると幸いです。特定の誰かとの連携がしたい場合もお相手様のIDとお名前を記載してください。あと、使いたいアイテムは正式名称で記載してください。
 お手数をおかけしますが何卒よろしくお願い申し上げます。

 皆様で、心の拠り所のない彼らに“猟兵様”という安寧を与えてあげてください。
 それでは素敵なプレイング、ラヴィニアと共に心よりお待ち申し上げております。
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第1章 日常 『ともだちになろうよ』

POW   :    鍛え上げた肉体を誇示して魅了する

SPD   :    音楽や手品などで楽しませる

WIZ   :    おしゃべりや魔法で懐柔する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●死屍累々
 猟兵達が転送されたのは、まるで水族館のような蒼と、細々とした緑の中だった。
 先にグリモア猟兵から聞いていた通り、都市一つ分ほどの大きなシャボンがドーム状になっていて、外界からの水を遮断している。地面は清潔な海岸のようなさらさらとした白砂で、気を付けないと足が埋まりそうだ。
 辺りには、謎の植物が生えていた。
 整備されていないため、半分が枯れ果て、白くなっている。が、生き残っている一本を知識のあるものが見ると、この植物が新鮮な空気と世界を包む泡を維持している事がわかるはずだ。

 周囲を見回す猟兵たちの耳に、か細い声が聞こえた。

「かみさま……?」

 砂を見る。
 君の足のすぐ側に、打ち捨てられたように汚れ、ヒビが入った、生けるティーポットがいた。
 よく見たら砂の上には、この世界の「愉快な仲間たち」が無数にいる。
 逆に言うと、意識して見なくては、彼らの姿はゴミと変わらないということだ。


「だれ?」

「こわいよ」

「やめて」

「そばにきて」

「こないで、こないで」

「もうだめだよ」

「しにたい」

「いきたい」


「たすけて」


 泣き、喚き、この世界の異常を知りつつ何も行動しないもの。

 絶望の空気に怯えて縮こまり、盲目に全てを悲観するもの。

 何らかに怒り、誰かを傷付けたいのに、誰も傷つけたくないから、己を傷付けるもの。

 思考もしない、何も語らない、逃避の末に、ただの“物”となってしまったもの。

 彼らは見渡す限りに存在していて、様々な様子で救われたがっている。
 このままではこの小世界に言葉を話せるものはいなくなってしまうだろう。


 “猟兵様”よ、どう救う?
五条・巴
かみさま
君たちが望むのなら
僕はそう在るようにしよう。

いつ来るのか分からない敵に、肝を冷やしている状況はなかなかに辛いよね。

怖がっている子に、怒りを露わにする子に、
まずは僕とお話しよう。

意識をオウガから僕に向けて。
そう、ゆっくりと、僕を見て。

心配は尽きないかもしれないけれど、
心にゆとりを持つことも大切だと思うから。
彼らが安心するように微笑みかけよう

君たちはどんな子なの?
何が出来るの?日常の話をしよう。最近楽しかった話をしよう。

心を占める考えを、想いを、
オウガから僕へ移して
じんわりと僕を刻み込んで

大丈夫だよ。顔を上げてごらん
君たちの目の届く場所に、僕は必ず居るから。



●ふれる。うつる。
 生ける物達が散らばる砂浜に、一人の人間が立っている。
 五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)はこの場所についてすぐ、ふっと上を見上げた。
 その視線の先にある泡の天井は、海の青に覆われていて、天体は見えない。
 だが、ゆらゆらと差し込む光が白銀の色をしていたから、己が愛おしく思うものは見えない所にいるだけで、この世界にも存在しているのかもしれない、と改めて辺りを見渡すのだった。
 広大な海底に、救うべきものは幾らでもいる。もたもたしている暇はない。
 彼は、とりあえず怖がっていたり、怒っていたりするようなものをターゲットにすることにした。
 ざっと見ると、それらしいもので彼の一番近くにいたのは、持ち手のところが外れている鞄と、錆びた燭台だった。
 元々は上等なものだったのだろう。ふたつとも、砂に埋もれ、ぼろぼろになってすら、どこか気品があった。
「やあ」
 巴は砂を腹に詰めた鞄をそっと拾い上げる。砂を食んでいては話せなさそうだ、と中にあるものを全部落としてあげてから、もう一度優しく声をかけた。
「ねえ」
「……ひっ」
 鞄は、小さく上擦った悲鳴を上げて彼の腕から逃げようとした。だが巴は、彼女をきゅっと掴んで、放さない。
「大丈夫、安心して」
「あ、あ、ああ安心できるかよッ!」
 足元にいた燭台が大声を上げた。彼から見れば、この人間が隣人に何をするかわからない以上、警戒する以外の選択肢はない。燭台は砂を落としながら勇気を振り絞って起き上がり、いつでも体当たりできるように身構えた。
 だがそれに巴がマイナスな感情を一切見せなかったことだけで、燭台は怯み、後ずさる。
「な、なん、だよてめェ……」

「“かみさま”」

 威嚇する燭台へ、巴は柔らかく笑いかける。
「君たちが望むのなら、僕はそう在るようにしよう」
 その笑みは、酷く穏やかで、繊細で、燭台は思わず気が抜けたように威嚇を緩めてしまった。
 巴は、腕の中の鞄に話しかけた。
「いつ来るのか分からない敵に、肝を冷やしている状況はなかなかに辛いよね」
 鞄には瞳もないはずなのに、それが怯えた目をしていることが分かった。
 しらないひと。かみさま。
 こわい。
 かみさまとはなしたら、すくわれることをねがったことがわかったら、おこられるかも。
 しんじゃうかも。
「へ……ヘッ、同情か? あ、あ、生憎、ンな事で現実は変わらねェんだよ!」
 横から、鞄を庇うように、燭台ががたがたと震えながら巴の整った顔を睨む。無力なものは、“力”に対して吠えることか、過ぎることを待つしかできないのだ。
「厄災様が、厄災様、や、厄災様がお怒りに、あなた、は、ここにきちゃだめ、だめです、わたしたちに、かかわっては、わたしが、しんじゃ、ひゅ」
 対して鞄は閉まりきらない壊れた口を出来る限り小さく窄めていて、その上で息を吸わなくてはならないとの義務感から、息がとても浅くなってる。
 彼らは巴を見ているようで、背後のオウガの存在を見ていることは明らかだった。
 まいったなぁ、と、巴は首を傾げる。
 彼らの意識を僕に移さなくちゃ、とそう考えながら。
「う~ん……そうだ。こういうのはどうかな?」
 巴はそう呟くと、震える燭台をも抱き寄せて。
 とろぉりと笑んだ。
「僕とお話ししよう」
 ぞわりと甘い引力が働いた。彼らは、そう錯覚した。
「心配は尽きないかもしれないけれど、心にゆとりを持つことも大切だと思うよ」
「ゆ、ゆとりなんて」
 その時、彼らの頭にふわりと霞がかかった。現実が限りなく遠くなっていくのを感じる。

 彼を、いつまでも見ていたい。

「君たちはどんな子なの?」
「…………」
 鞄の呼吸は自然と落ち着いていた。
「……わたしたちは」
「うん」
「この世界に住んでいて、いきている、だけです」
「生きているだけ? 普段どんなことをして過ごしていたの?」
 巴の問いに、鞄は、ふるふると体を震わせた。
「お、おぼえてません、この世界に産み落とされたときから、生きることがすべてで」
「じゃあ、最近楽しかったこととかもないんだ」
「はい、いえ」
 鞄は熱に浮かされたように口を動かした。
「……あなたさまにであえたことが、わたしのいきたじかんのなかで、いちばんのよろこびです」
「そっか。嬉しいな」

 ゆっくりと、思考のすべてが『巴』に支配される。

 だが、そこでハッとしたように燭台が言った。
「あ、あ、のな、かみさま、あのさ、ここにはな“厄災様”ってのがいてな」
「厄災様?」
「ちかくに、いンだ。いつ、ころされちまうか、あ、あんただって」
 いけない、燭台がまた恐怖に支配されてしまう。
 それを聞いた鞄も、ぷしゅりと萎れてしまった。
 巴は、それを許さない。

 駄目だよ、僕を見て。もっと。ずぅっと。
 目を離さないでいて。

「大丈夫だよ。顔を上げてごらん」
 その声が彼らに届いた途端、何も考えられなくなり、巴の姿を視界に収めたくなる。彼らが見上げる巴は、実際の何倍も神々しく、蠱惑的に映っていた。
「君たちの目の届く場所に、僕は必ず居るから」

 鞄は思う。
 まるで、話に聞いた『月』を見ているようだ。
 夜道で迷い、何処にもいけずに蹲る我らを、自らが光り輝く事で導く、道標。なのに、どうして。この手は自分に触れられているのだろうか。

 燭台は思う。
 まるで、『宇宙』だ。
 気が遠くなるほど深く、広く、そして全てを包み込む闇。その美しさに眩み、覗き込むと、そこにあるのは、『深淵』。魅入られてしまうと、もう正気ではいられない。

 月に、宇宙に、狂気に触れる。
 夜明けなどいらない。
 あなたの側にいたい。
 あなたの為ならば、何をしたってかまわない。

「おなまえを……おきかせください」
 信者の願いを、かみさまは聞き入れる。
「ともえ。僕の名前は、五条・巴だよ」

 鞄や、燭台だけじゃない。
 巴の近くにいたもの達の思いは、ただ、それだけになっていた。
 『巴』という存在が、彼らの心にじんわりと沁み込んで、そしてもう二度と忘れられないほどに沁みついていく。
 その姿は“神”と呼ぶには些か強烈過ぎて、最早、“魔性”と言っても有り余る。
 こうなってしまうと、刻み込まれた信仰は、消えることはあり得ない。
「ともえさま」
 どこからか、ほぅ、と、とけるようなため息が漏れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルヒディ・アーデルハイド
「もう絶望する必要なんてない」

『華麗なる姫騎士』でプリンセスモードに変身
光の粒子に包まれて降臨
その姿は神々しく愉快な仲間達には光臨して来たように演出
自分から神を名乗る事はしないけど
神と見間違え勇気と希望を抱けるなら本望かな
ボクは未来を照らす愛と勇気と希望のマジカルプリンセスナイトだから


内心に猟兵は“救世主”や“改革者”でしかなく
本当の意味では“神様”にはなれないと思うけど
相手が“神様”と拝み望むとあれば成り得ると思う
しかし、そこまで“神様”を求めるほどに追い込まれているって事だよね



●姫騎士の慈悲
 先ほどの猟兵がいた場所から少し離れたところ。
「愛と勇気と希望を抱きしめてフェアクライドゥング」
 透き通るような声とともに、溢れんばかりの光の粒子を全身に纏わせ、幼き姫騎士がそこに降臨した。
 ふわふわのスカートを翻す彼は、オルヒディ・アーデルハイド(アリス適合者のプリンセスナイト・f19667)。ミルク色をしていて艶やかに光る穢れなき肌を持つ、輝かしき藍と青紫の瞳のアリスだ。
 横たわった大小様々な動物の剥製が、体躯の小さな彼を見上げる。どれもこれも手入れされた様子もなく、歩くごとに毛がはらりと落ちた。
 醜いその彼らにとっては、こんなにも麗しいものがそこにいただけで、ガラス玉から涙がこぼれだすのだろう。動けなかったものも、ゆるやかに顔を上げる。
「もう絶望する必要なんてない」
 さらにその美しい声が紡ぐ言葉は、慈悲深い。彼のなにもかもが、清らかで、尊いものだと認識される。
 剥製たちは、口々に唱える。
「か、かみさま」
「かみさまぁ……」
「ありがたい……ありがたい……」
 まるで、女神が住まう泉に集まる動物たちのように、剥製たちはオルヒディを囲い、救いを乞う。
 そのさまは、例え、何の力もないただの泉であったとしても、神を見出す者がいるならば、それがどんな呪いを孕んでいても聖地となるかのようで、オルヒディは少し複雑な気持ちを抱く。
「(それでも、ボクは未来を照らす愛と勇気と希望のマジカルプリンセスナイトだから)」
 彼らが己を神と見間違え、勇気と希望を抱けるなら本望だ、と彼は笑う。

 猟兵は“救世主”や“改革者”でしかなく、本当の意味では“神様”にはなれない。
 でも、相手が“神様”と拝み、望むとあれば成り得るはず。
 ほら、こんな風に。
 しかし。
「(そこまで“神様”を求めるほどに追い込まれているって事だよね……)」
 そう、思いながら、オルヒディは剥製の兎を撫で、泡越しの青海を見上げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジークムンド・コンラッド
ルーク◆f19717と
アドリブ◎

俺自身はかみさまにゃ程遠いが
姫さんならなれるだろうよ
無い筈の過去が保証するから
もし噛みついてくるヤツがいたら俺の手を代わりに噛ませるくらいはするが
ソレ以外は手を出さず
後に備えておくとするかな
…とはいえ怯えられちゃ話にならねぇ
姫さんの視線にハイハイと頷いて
武器を砂浜に投げ捨てて
どかっと腰を下ろす
姫さんが乗ってきてもなすがまま
怖がってた奴らが近づいてくるなら
ソイツらもみんな受け入れてやるよ

望みを問われてすぐ思い付くようなら放っておくが
咄嗟に出てこないなら
助け船くらいは出すかな

快適な暮らしにはまず衣食住とかじゃないですか?
姫さんに投げかけつつ
どれが欲しいと聞いてやろう


ルーク・テオフィルス
ジークムンド◆f19706と
アドリブ◎

小さく縮こまってる姿は
何だかどこかで見たような光景で
無い筈の記憶を慰めるように
真っ直ぐ目を見て話しかける

怖くない
大丈夫、怖くない
ほら、僕をよく見ろ
手だってこんなに小さくて
お前たちがどれだけ弱くても
僕じゃ何にもできないぞ

普段は嫌いな自分の弱さが誇らしい
だって大きすぎるジークじゃ無理だろう?
どかりと腰を下ろしたジークの膝に座り込み
ほら、コレで動けないぞ!
だからお前たちの声を聞かせて

お腹がすいたなら食料を
寒いなら暖かい毛布を
お前たちにあげる
僕はアリスナイト《かみさま》だから
だから、ほら
暗いのが怖いなら
お前たちに太陽をあげる
水の中でも消えない光
小さな炎をうみだそう



●ともしびとなり
 それは、彼がどこかで見たような姿だった。
「さむい」
「くらい」
「つめたい」
 腕のないトルソー、足のないビスクドール、歌わないガラス細工のオルゴール。砂浜に身を埋め、小さく縮こまる彼らを見ると、無い筈の記憶がじわりと切なくなる。
 ルーク・テオフィルス(亡国のアリス・f19717)は、大きな琥珀色の瞳を見まわし、世界の光量の少なさを目の当たりにした。
 そんな主を、ジークムンド・コンラッド(壊れた時計・f19706)は見て、兎の耳をぴんと立てる。
「(俺自身はかみさまにゃ程遠いが、姫さんならなれるだろうよ)」
 無い筈の記憶がそう保証する。仮初の保証でも、全て、まるっきり無いよりは確かだ。
「ひ、ひぃ」
「だめ」
「こわ、こわこわこわい」
「だれ、だれ」
 なんにせよ、この神頼みの盲物の“かみさま”にならなくては。切ない胸の内を慰めるように、ルークは、足のないビスクドールと目を合わせた。作り物の眼が、恐怖を湛えて零していた。
「怖くない。僕は“かみさま”。お前たちの呼びかけに、応えに来たんだ」
「かみ、さま」
 怯え切って自棄になったのか、それを聞いたトルソーがちょろろろっとルークに体当たりを仕掛けようとした。
「オイ」
 ジークムンドは牽制に一睨みしてみたが。
「ピ、ピィ!!」
 それだけでトルソーは震えあがって後ろに後ずさる。波のように寄って、引いただけだ。
「……思ったより根性ねぇのな」
「ちょっと、ジーク」
「うっす、すいませんっと」
 もし噛みついてくるものがいたら自分の手を代わりに噛ませるくらいはしたのだが、どうも必要ないらしい、とジークムンドは“かみさま”に道を開けた。
 ルークが、逃げたトルソーを捕まえる。
「大丈夫、怖くない」
「きええぇ」
「怖くないってば。ほら、僕をよく見ろ」
 震えるトルソーの胸に、ルークはぴとりと手を当てた。
「手だってこんなに小さくて」
 彼の言う通り、ジークムンドと比べると、どれくらいの差があるのだろう。
「お前たちがどれだけ弱くても、僕じゃ何にもできないぞ」

 普段は嫌いな自分の弱さが誇らしい。ルークはそう思いつつ、視線を上にやる。
 どんな時代でも、どんな世界でも、弱者は強者が怖いのは不変の真実。大きすぎるジークムンドじゃあ無理だ、と言わんばかりのルークの視線に、ハイハイ、とジークムンドは頷き、剣のような先端の槍をぽいっと砂浜に投げ捨てた。ぱふ、と柔らかい砂の音がしたかと思うと、そしてその場にどかっと腰を下ろす。また砂埃が舞うが、それをあまり気にせずに、ルークはジークムンドの膝の上に座り込んだ。
「ほら、コレで動けないぞ!」
 そう、ルークはにっこりと笑いかけた。その姿は、彼のための玉座に腰掛けているかのように堂々としていて、それなのにどこか親しみやすい空気を宿していた。
「だからお前たちの声を聞かせて」
 ルークの言葉に、もの達が唸り始める。
「でも」
「よわいかみさま」
「どうしよう」
「かみさまなのに、よわいの」
「ほんとに、たすけて、くれるの?」 
 ルークはそれを聞き、小さく苦笑する。なんとも身勝手なものだ。敵なら弱者を求めるのに、味方とわかった途端強者を求めるなんて! だがそれは、ひとが目を背けがちな本音であり、実際、心情はわからなくはなかった。
「僕は、敵を一匹残らず殲滅するようなかみさまには、なれない」
 彼らに向かって、ルークは本当のことを話す。
「でも、お前たちが望むものを何でもあげる」
 彼らの“生”を守るための“かみさま”。
 それは日常に密接している分、彼らの我儘を優しく包み込む必要がある。
「快適な暮らしにはまず衣食住とかじゃないですか?」
 それをアシストするように、従者が声を上げる。ルークは、それに感謝を感じつつ、彼らの声を聞いた。

 お腹がすいたなら食料を。
 寒いなら暖かい毛布をお前たちにあげる。
 僕はアリスナイト……想像を創造し、無から有を生み、不可能を可能にする《かみさま》だから。

「だから、ほら、暗いのが怖いなら」
 ぽうっと灯るのは、水底の太陽。
 ルークが“ルーク”である限り、消えない燈火。
「お前たちに太陽をあげる」
 細く光が差し込むが故に暗い世界で、その眩い炎は希望以外の何物でも無いのだった。

 歌えなかったオルゴールが、むくりと起き上がると、ルークの傍にふわっと浮いてやってきた。 
「かみさまの、み使いになりたいです!」
「なッ!?」
 ジークムンドがオルゴールの方に勢いよく顔を向けた。
 オルゴールはそんなジークムンドに構わずに、かみさまに捧げるための歌を歌うために巻けない螺子を巻こうとしていた。
 かみさまが弱いなら、弱い自分たちにもできることがあるかもしれない。
 オルゴールがそう笑うと、それに賛同するように己もみ使いになりたい、と志願するものがぽこぽこ出てきて、遂には絶えなくなってしまった。
 予想外ではあったが、要するに彼らは、“かみさま”にとっての“てんし”になりたいという意思でいいのだろうか。
「……従者じゃないんだな?」
「え? はい!」
「それなら、いいぞ」
 ルークの言葉に、やったぁ~! と無い腕で万歳をするトルソー達や、半分破れているのにルークに風を送ろうとする大扇を見て、ジークムンドは体勢を直し、何かを誤魔化すように炎を見詰める。
 姫は、肩をすくめて、玉座に深く腰掛けなおすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

馬飼家・ヤング
パンパカパーン!ナニワが誇るスーパースタァ、『笑いの神様』バカウケ参上やで!
人間、美味いもん食うてワハハと笑えばストレス解消、免疫力上昇で心も体もめっちゃ健康で文化的な生活送れるさかい!
ささ、遠慮なくこのたこ焼き食べや。飴ちゃんもやろ。

せや、ナニワの神さんには『ビリケン』っちゅーのがおってな?
足の裏をなでなですると無病息災、家内安全、商売繁盛のご利益バッチリなんや。
わいのことビリケンさんや思て、足の裏撫でてみ?

……う、は、うははははははは!!
そ、そんな笑いの足ツボ刺激されたら、こしょばい、こしょばいでえええええ!!

……はっ、わいが大爆笑してみんなに笑われとるやないけー!
お後がよろしいようで。


セシリア・サヴェージ
私が神様とは烏滸がましい話ですが、要するに指導者が必要ということでしょうか。
絶望の淵に立つ者を救い、道を示すのもまた暗黒騎士の務めです。

打ち捨てられた愉快な仲間たちの一人に話しかけましょう。あなた方を救いに来ました、と。
信用されないか、あるいは私の姿に怯えてしまうかもしれません。
私は暗黒騎士ですし、彼らの境遇を考えれば無理もない話です。

ですが、それでも言葉を尽くしましょう。笑顔も……苦手ですが努力します。
彼らを護るという意思を見せることで少しでも心を開いてくれたらよいのですが……。



●喝采と合掌
「(私が神様とは烏滸がましい話ですが、要するに指導者が必要ということでしょうか……)」
 そう、黒を着込む女騎士、セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)は、グリモア猟兵に言われた言葉を心の内で反響させた。
「(絶望の淵に立つ者を救い、道を示すのもまた暗黒騎士の務めです)」
 そう己を奮い立たせ、軋んだ笑みを浮かべて、セシリアは打ち捨てられたもの達の傍へと慎重に歩み寄った。
 割れた鏡台、乾いた口紅、タイヤの無いミニカー。どれも恵まれた人々が美しい日常を送るためのものだった。
「あなた方を救いに来ました」
 そう言ったセシリアに、彼らは口々に恐怖を伝染させる。
「あなたが、かみさま?」
「黒くて、こわい」
「ほんとに救ってくれるの……?」
「……勿論です」
 放った意志は実直で、偽りなど無い。
 だが、自分が“神”であることに引け目を感じているからか、ほんの少しだけ、セシリアの目が泳ぐ。
 そこに追い打ちをかけるように、ぬらりと割れた鏡が彼女の目の前に現れた。
「ほんとうに??」
 そこに映っているのは、暗黒を身に纏った、ただの半吸血鬼だ。
「(私は)」
 神などでは決して。

「パンパカパーン! ナニワが誇るスーパースタァ、『笑いの神様』バカウケ参上やで!」

 セシリアの後ろから、陽気な大声が轟いた。

 セシリアは、咄嗟に彼らを護れるように振り返る。
 大きなたこ焼きがソースの香りを漂わせてそこにいた。
 否、それは、セシリアの下半身ほどの大きさもない、道化師のような服をしたテレビウムだった。
「ば、ばかうけ……?」
 セシリアの銀の瞳が驚愕の意思を示す。テレビウムは両手にたこ焼きを掲げ、セシリアの前を通って愉快な仲間たちに美味を運んだ。
「ささ、遠慮なくこのたこ焼き食べや。飴ちゃんもやろ。ほれそこの嬢ちゃんも!」
「え? あ、はい。ありがとうございます……」
 たこ焼きを躊躇いがちに受け取り、もぐもぐと食べるセシリアと、まだ戸惑っている愉快な仲間たちに、馬飼家・ヤング(テレビウムのちっさいおっちゃん・f12992)はその頭の画面をニカッ! とした顔文字に変え、自分もばくん! とたこ焼きを頬張った。
「あっふあふあふ……ンッグ……ウマーイ!! 人間、美味いもん食うてワハハと笑えばストレス解消、免疫力上昇で心も体もめっちゃ健康で文化的な生活送れるさかい!」
「……な、なるほど、一理ありますね……ですが、彼らは“人間”ではなく“物”では?」
「細かいことはええねん!! 要するに、わいが笑いで皆救ったろって話や!!」
 たこ焼きを飲み込んだセシリアは顎に手を当て、真面目に考え出すが、それをヤングが手をひらひら振って打ち消した。
 さて、客席の様子は。

「わらいのかみさま……?」
「わらい?」
「わらうって、なに?」

 ヤングが筋肉でできた顔だったら、顔が引きつっていたかもしれない。重症だ。まさか笑いの概念まで知らないなんて。
「(人生十一割損しとるな)」
 そういえばこの銀髪の嬢ちゃんも笑顔が不自然やったな、とヤングは腕を組む。
 ここはイッチョ、わいがドカンとこのイヤンな空気をバッコンしたろ! と、組んでいた短い腕を腰にやった。
「せや、ナニワの神さんには『ビリケン』っちゅーのがおってな? 足の裏をなでなですると無病息災、家内安全、商売繁盛のご利益バッチリなんや」
 その時、後ろからセシリアの声がした。
「ほう、ビリケン神とは、初耳です」
 ……おや、これは……。
 今までのやり取りから、芸人は、嫌な予感を肌で感じ取っていた。
 なんやこの嬢ちゃん……ボケ殺しの気配がすんな……?
 だがヤングは、流石プロと言うべきか、そんな憂いを微塵も感じさせない様子でどかっと砂の上に座った。
「わいのことビリケンさんや思て、足の裏撫でてみ?」
 だが、彼らは一向にヤングの近くに寄ってこない。まだ警戒しているのもそうだが、神様の足裏を触ろうなどという罰当たりな事は出来ないのだ。
 空気は、ダークセイヴァーの夜のように冷え切っていた。
「(こらあかん)」
 冷や汗が背中を伝う。
 ヤングはチラッ……!! チラァ……!! と切実な視線をセシリアに送る。
 後生や……ここは協力したって……?? とでも言いたげなその画面の中の瞳をセシリアはどう捉えたのか、重々しく頷いた。
「わ、わかりました。皆さん、このお方が安全かどうか、私が先に触れて確かめます。皆さんに危害は及ぼさせないと、約束いたしましょう」
 セシリアの真剣な顔に、ヤングはわりと素でズッコケた。
「わいそんなオブリビオンみたいな扱いされんの!? 心外やわ! 心外賠償請求すんでホンマ!!」
 ヤングの顔文字がンモー! と言いたげに憤る。
「キマイラフューチャーには、そんな法があるのですか……わかりました。貯えで足りるでしょうか……?」
「んなワケあるかーいッ!!」
 なに!? わい試されてんの!? と思わず液晶の中の目を回しかけるが、セシリアの表情は疑う余地もなく真剣だ。
「いやあんたキレーな顔しとって実は天然ボケか!?」
「綺麗だなんて、そんな……それに、まだボケるような歳ではないはずなのですが……。これも暗黒の力ですかね……? ふと思ったのですが、分類上、暗黒の力は天然なのでしょうか? それとも養殖なのでしょうか?」
「暗黒の力ってそんなマグロみたいな扱いでええの!? まってェやボケが捌き切られへんねんけど!? YOUのショックでわいの目の前が暗黒世界やわ!!」
「なんですって!? それはいけません、やはり私が足裏を触るべきではないのでは……」
「もうええわ!!」
 このままだと埒が明かない。ヤングは耐えかねた様にセシリアに足をぐいぐい主張した。
「はよ!! なんでもええからはよ触って!!」
「あっはい! では、失礼して……」
 セシリアの細い指が、恐る恐るヤングの足裏に触れる。
 傷つけないように、優しく、丁寧に。

「……う、は、うははははははは!!」

 そんな風に触ったら、とんでもなくくすぐったくなるに決まっているのだ。
「そ、そんな笑いの足ツボ刺激されたら、こしょばい、こしょばいでえええええ!!」
「あっ申し訳ありません! やめますね」
「ホンマやで!! そこはゼッタイ触らんとってや」
「はい……!」
 …………。
「……なんで触らへんねーーーーーん!!」
 海底に再度おっさんの絶叫が響き渡った。
「なっ!? 触るなと仰ったので……」
「今のはどう考えてもフリやろ!!」
「振り……成程、演技でしたか……。ですが、それに何の意味があるのですか? すみません、よくわかりませんでした……」
「検索エンジンか!! んもーエンギでもないこと言わんとって!? “よくわからんかった”ってのはおもろないって言われんのとおんなじくらい堪えるんやからな!? ちょそんないきなりわはははははははははははははは!!」
 そのあとにセシリアが足裏を触っていたのは、実質三十秒にも満たないだろう。それくらいでヤングがギブアップして、笑うどころじゃなくなったのだ。
 だが、不思議なことに。
 ヤングの大爆笑が途切れても、笑い声が聞こえていたのだ。
「……はっ!」

「……あはははは!」
「なにこれ、なんか、たのしい!!」
「おっかしい!! うふふふふふ!!」

 キレ散らかすヤングのツッコミと、セシリアの真面目故のボケ。それが奇跡的に噛み合った、完成されたコントのようなそのやり取りに、いつの間にやら彼らの周りには沢山の物たちが集まっていた。そこには絶望を凌駕するほどの笑顔があふれ、暖かな空気で満ちていた。
 そんな彼らの様子に、セシリアの口元にも笑みが浮かんでいる。その表情はさっきまでのぎこちない笑みより、ずっと綺麗だ。
「ねえねえ、僕も触りたい!! おねえちゃん、いい?」
 セシリアに、喋る帽子がふわふわと宙に浮きながら話しかけた。
「ええ。何かあれば、私が必ずあなた方をお護りします」
「まてまてまてぇ! まずわいに許可取って!?」
「でも先ほど許可は出していたはずですよね?」
「そういうことちゃうやん! ちゃ、うはははははははははは!!」
 ヤングのツッコミを遮ったのは、喋る帽子の羽飾りだ。それがヤングの足裏をこしょこしょと擽る。それを皮切りに、大小様々な愉快な仲間たちがヤングに群がった。

「わぁ~!! もちもち~!!」
「そこは腹!! フットを触って!! え? 太いからフットと間違えたって!? やかましわ!!」
「あはははははは! かみさま、さっむ」
「辛辣ゥ!!」

 猟兵達の周りに集まる彼らは、神を崇め、慕うだけではなく、身近に感じ、親しみを持って受け入れている。
 これもまた、“神”の姿。
 拍手と柏手は紙一重なのだ。

 それでは、お後がよろしいようで。
 テケテンテンテンテンテン、テテン。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御狐・稲見之守
救いを願う声あらば聞き届けるが神さまの務め。こう見えてワシ、神さまやって長いんじゃよ。マジでマジで。

オウガに怯え暮らす者達よ、我はオウガを退けるためやってきた神さまであるゾ。今後彼奴らに怯えることのないよう、この世界を守る"お友達"を遣わそう。

UC和魂顕現、霊符に我が力を分けて命を吹き込むこととする…まあ式神なんじゃが。容姿はエプロンドレスの女の子がよかろか、それとも甲冑の騎士や妖精か。住人達の要望を聞くのも悪くないナ。

皆の"お友達"よ、汝にこの地の守護を命ずる。

この子は生まれたばかりゆえ、この世界のことは分からん。誰か教えてやってはくれぬかナ?

(お友達の名前容姿仔細含めアドリブ増し増しとす)


薄荷・千夜子
アドリブ連携可

本来は神様にお仕えする側なのですけれども
彼らの望むようなかみさまになれるかは分かりませんが寄り添うことはできるはず

こんにちは、私たちを呼んでくれてたのは貴方たちですか?
怖がらせないように優しく穏やかに愉快な仲間たちに話しかけます【優しさ】【コミュ力】
神聖さもあった方がいいのでしょうか?とそっと【破魔】の力も纏わせて
怖がらないで大丈夫です、貴方たちの味方です
まずは心を開いてもらえるよう
微笑みかけて、彼らが少しでも明るい気持ちになれるように
『神楽鈴蘭』を鳴らし【楽器演奏】【歌唱】で清らかな音色を奏でながら
近寄って来てくれたならそっと手を差し伸べて一緒に音で繋がれればと


御園・桜花
「みんなが元気になって、怖いものが居なくなるように。みんなが前を向いて立ち上がれるように」

UC「魂の歌劇」使用
慰めのスキルを乗せ歌う
童謡や合唱曲、小学校唱歌等分かりやすく歌いやすいものを選択
朝になったから起きてみんなで挨拶しましょう、おともだちと一緒にこうどうするのは楽しいよ、顔を上げて前を見て手を繋いで歩いてみませんか等の意味や内容を含む歌を歌いながら歩き回る
顔をあげた子達がいたら近寄って優しく撫で一緒に歌いませんかとゼスチャー
可能ならどんどん手を繋いでみんなで歩く

「ね、顔を上げて周りを見て下さい。あなたには、こんなにおともだちがいるんです。怖いことも不安も、全部吹き飛ばしてしまいましょう」



●花盛りに歌え
「およ、そこの娘、巫女かいナ」
「はいっ!?」
 ぴこぴこと揺れる狐の耳が急に眼下に飛び込んできて、薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)はうわぁと声を上げる。それを見て、黒い狐耳の少女はおかしそうに笑った。
「そう驚かずともよい。ワシは御狐・稲見之守。正真正銘、妖狐の神さまじゃゾ。ゆえに神に仕えし者はなんとなしにわかる」
 もふりと尾を揺らす妖狐、御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)はそう千夜子にネタばらしをした。それで、千夜子は納得したようにほっと息をつく。
「なんと、お稲荷様でしたか! 私は薄荷・千夜子と申します! お察しの通り、本来は神様にお仕えする側なのです」
「ふっふ、元気で良いナ。しかし、巫女か……。そんな千夜子殿がなにゆえに“かみさま”になろうとしてるのかの?」
 それは純粋に疑問に思っての言葉だった。神に仕える者が“かみさま”に、なんて、どうもしっちゃかめっちゃかな感じがする。だが、千夜子ははっきりとこう答えた。
「彼らの望むようなかみさまになれるかは分かりませんが、寄り添うことはできるはずと思いまして」
「ん、成程ナ」
「……無粋なようですが、稲見之守さまは?」
「救いを願う声あらば聞き届けるが神さまの務め。こう見えてワシ、神さまやって長いんじゃよ」
「ほわ~! 本当ですか!?」
「マジでマジで」
「まじですか!」
 きゃいきゃいと語らうその光景は、傍から見たら年の離れた友達かなにかの様だが、彼女らは実際には神と巫女。そして狐と狩人だ。それでも猟兵というだけで、そんな垣根も超えてしまえるような、心地いいなにかがそこにあった。

 どれだけ話が盛り上がっても仕事を忘れないのが良い猟兵。彼女たちはさふさふと砂を踏みしめながら、まだほかの猟兵たちが手を付けていない中央辺りへと向かった。
 稲見之守と千夜子は目配せした。どうもこの辺に、命の気配がある。
 確実に、いる。
 そのはずなのに、誰もいない。姿が見えない。彼女たちはちょっと困っていた。

 姿がなくとも声は聞こえるだろうと、稲見之守はすぅっと息を吸い込んだ。
「オウガに怯え暮らす者達よ、我はオウガを退けるためやってきた神さまであるゾ」
 凛としたその声はまさに“神”である。

「…………」
「かみさま……」
「かみ」
「…………」

 どうやら、ここにいる物達がこの世界の中で最も心をやられている物達なのかもしれない。そう思うくらいに反応が薄かった。
 ありゃー? と思いつつ、取り敢えず、稲見之守は考えていたことをしようと力を集中させる。
「今後彼奴らに怯えることのないよう、この世界を守る"お友達"を遣わそう」
 だが、その集中は桜の香りで途切れてしまった。

 淡いピンクの髪が、ふわりと靡く。
 それは桜吹雪のように、儚く柔らかい。

「みんなが元気になって、怖いものが居なくなるように。みんなが前を向いて立ち上がれるように。貴方の一時を私に下さい……響け魂の歌劇、この一瞬を永遠に」

 見たところによると、どうやら、桜の精のパーラーメイドらしい。
「“お友達”って、あの方、ですか?」
 千夜子がそう聞いたが、稲見之守は予定外だといわんばかりの表情を見せた。
「い、いやァ……うむ、知らぬ顔じゃナ」
 そうこうしている間に、あの桜の精はマイペースに物達の前に出た。
 言葉が、詩になる。

「おはよう。起きよう! ほうら、青い朝に手を振って!
 未来を、つかんで! よりどりみどりだね」

 歌だ。彼女は聞いたものすべてを癒すような歌声を響かせ、海底に希望を届けていた。

「ちょっぴりこわくて、べそかきそな時でも
 手と手を、つなげば! いっぱい、めいっぱい、うれしくなるね!」

 旋律は童謡や合唱曲、小学校唱歌のように不快な音がひとつもなく、聞きやすい。更に彼女の歌声が優しく、警戒心を抱かせないような空気を含んでいたこともあり、実に見事な歌劇だとしか言えなかった。

「指切りげんまん、その手で、仲良ししよう
 みんなで歌って、となりのともだちに、しあわせどうぞ!
 くらがり、みえない、それでも大丈夫さ
 伝わる楽しさは、世界を超えるんだ!」

 思わずずっと聞きたくなるような、それでいて、自分も歌いたくなるような、そんな歌。
 決して少なくない数のものたちが、もぞりと動き出す。
 生きている気配が全く無かったものまで。

「うわぁ……とっても綺麗な声!!」
「うぅん、ほうじゃなァ……」
 千夜子が歓声を上げ、稲見之守はうっとりと目を細める。
「あー、じゃが……」
 それでも、まだ、彼らは目を塞いでいた。耳を傾けるだけなら、じっとしていても出来てしまう。
 彼らは、顔を上げる方法を知らなかった。

「おっ! 妙案が浮かんだゾ」
「妙案、ですか?」
 千夜子が首を傾げると、稲見之守の金と銀の眼光が強まっていく。
「和たる御霊此処に在り、我が名を以て汝、森羅に芽出づる命たれ」
 千夜子の肌に“力”が触れる。
 今この瞬間、命が、創り出されていく。
 其処にいたのは、見紛う事なき、現人神だった。
「あ、可愛い!」
 そうして出来上がったのは、数個の狐のぬいぐるみだった。
「まあ見てると良いゾ」
 狐たちは歌声に紛れて砂浴びし始めた。そして、ある程度汚れたら、こっそりと歩き回りながら歌う桜の精に近寄った。
 ひょこっと顔を上げた狐たちに、桜の精は近寄り、手招きする。狐たちはその両腕にちょんっと乗っかって、皆で歌い始めたのだ。
 桜の精はとても嬉しそうに歌い、くるくると舞っている。
 それを見て、千夜子は稲見之守についぽろっと聞いてしまった。
「え、あれでいいんですか? でも、あれって、稲見之守さまの……」
 しィッと稲見之守は、幼い容姿からは想像できぬほど妖艶に、唇に人差し指を当てる。それを見て千夜子はぺちっと己の口元を両手で抑えた。千夜子には、あの“お友達”には稲見之守の力が詰まっていることがびりびりと感じられる。それもそのはず。あれは霊符に稲見之守の力を分けて命を吹き込み作り上げられた式神なのだ。
「あれも所謂、“サクラ”というヤツじゃナ」
「さ、サクラ……なんだか、ズルイ響きです……!」
「ふふっ、否定はせんゾ。じゃがな、臆病モンは切欠がなけりゃあ桜に気付いても寄ろうとせんのじゃよ」
「え? 何故ですか?」
 不思議そうな千夜子に、稲見之守は言う。
「普通の者が花を見る場面でも、其奴らは幹や枝に毛虫が付いとる事を考えるのじゃよ」
「…………」
 稲見之守はそう目を伏せ、直ぐに前を向いた。
「故に、先行者が必要なのじゃ」
「先行者……」

 清らかな鈴の音色が、桜の歌声を後押しする。
 その透き通った波紋は、心の憂いをさあっと晴らす。
 顔の上げ方を、教えてくれる。

「こんにちは、私たちを呼んでくれてたのは貴方たちですか?」
 鈴蘭の形の鈴がついた神楽鈴を手に持った巫女が、彼らに優しく、穏やかに話しかけた。
 顔を上げたそれは、半分溶けたプラスチックのロボットだ。
 他にも顔を上げるもの達が大勢いる。その全部が、一瞬目を逸らしたくなるほどに形状があやふやになっていた。
「あう、あうあ」
 千夜子は、揺るがない。
「怖がらないで大丈夫です、あの方も、私たちも、貴方たちの味方です」
「みかた」
 千夜子のその雰囲気に、もの達の心がますます解ける。
「ねえ、貴方たちも、あの子たちと一緒に、歌いませんか?」
 彼らは、歌声の主を初めて見る。
 たちまち、目を奪われた。

「きれい」
「たのしそう」
「うたいたい」
「でも」
「でも」
「でも、いいの?」
「こんなことして、いいの?」

 まだ不安が拭いきれない彼らの元に、桜の精が舞い降りた。
 彼女の手が、赤黒い絵の具がこびり付き、先がぼそぼそになった絵筆に触れる。彼女の慰めの力が、彼に浸み込んでいく。
「ね、顔を上げて周りを見て下さい。あなたには、こんなにおともだちがいるんです。怖いことも不安も、全部吹き飛ばしてしまいましょう」
 ふたりの“かみさま”が、おともだちに手を差し伸べる。
「もし手が無くたって大丈夫です!」
「歌で」
「音で」
「「繋がればいいんだから」」
 猟兵たちの周りに、様々なものが増えていく。
 歌い、舞い、花を拝む。
 彼らは、水中の明るさに目を焼いた。
「私、薄荷・千夜子と申します。あなたは?」
「私は御園・桜花。お会いできて光栄です」
 一先ずこの世界が優しい空気に包まれたことを喜びながら、そう、千夜子と御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はお互いに笑みを通じ合わせるのだった。

 こそっと、詔が這う。
「皆の"お友達"よ、汝らにこの地の守護を命ずる」
 桜花の周りにいた“お友達”が、瞬きする間だけ“式神”に戻る。彼らは、作り手の命令に答えるようにコンと高く歌った。

「……あれ、あんな子いたっけ」
 勘のいい糸切狭がしゃきりと音を立てる。稲見之守はまずい、とにっこり笑った。
「この場所が愉快になったことでぽんと生まれてきたのじゃろう。さて、あの子らは生まれたばかりゆえ、この世界のことは分からん。誰か教えてやってはくれぬかナ?」
 稲見之守のその言葉に、愉快な仲間たちは知りえること全てを伝える。

 この世界には恐るべき“厄災”が近くに住んでいること。
 でもその“厄災”の居場所は全くわからないということ。
 あぶくを吐き、世界を保つ草木のこと。
 この世界にいる愉快な仲間は、全員どこか壊れていること。

 そして、心をつないで歌ったら、みんな友達になれること。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『泡の中の国』

POW   :    遠見の道具で外の景色を観察する。

SPD   :    人が乗れる泡に乗って浮遊による観光を楽しむ。

WIZ   :    子供達と一緒にシャボン玉を作って遊ぶ。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【連絡】
第二章の断章は2020/3/22 23:59までに提出予定です。受付は断章が提出された時点からいつでもお受付いたします。
ですが、今回の章も何回か再送をお願いするかもしれません。連携アドリブについても、一章と同じです。また、二章からのお客様も勿論歓迎いたします。
参加される方は、心の器を更に広げておいてください。
●ライフ・ワーク
 泡の中は、今までにないほどに活気づいている。世界にやっと生命力が感じられるようになっていた。地に伏していた愉快な仲間達は一つ残らず動き出していて、絶望しか無かった胸に希望を宿して。
 誰か個人を信仰していた愉快な仲間も、猟兵同士が仲間であると知ったため、誰を崇めていたとしても、猟兵であればちゃんと命令を聞いてくれるようだ。
「猟兵さま」
「かみさま!」
「ぼくらになんなりとお申し付けください!」
 様々なものがそう猟兵達に人懐っこく擦り寄ってくる。救いをもたらしたことで、彼らにそれ程までに信頼されているということだろう。

 だが、君達は気付くはずだ。
 その中でも、未だに少し表情が暗いものがちらほらいることに。
 それに、動き出したはいいもののどうやって“生きる”のかわからないものもいる。
 半分枯れかけてた、泡を吐く草木も少しずつ生き返ってきているようだが、手入れをするともっとはやく回復するかもしれない。
 それはそれとしてこの世界は美しい。不思議な海底を散策し、愉快な仲間たちと語らうだけでも有意義な時間になることだろう。

 世界の安定や発展を考えるも良し、来たる敵に備え情報収集をするも良し、信者達と優しい時間を過ごすのも良し。

 “猟兵さま”よ、彼らに生き方を命じてあげてくれ。
【MSより】
今回の章の推奨行動欄はあまり気にしなくて大丈夫です。貴方が好きな行動を取ってください。
馬飼家・ヤング
「生きる」とはどういうことか、ねえ……
笑いはさっきやったから、今度は「食」でみんなを元気にする番かのう
栄養補給は命の源。腹が減っては戦はできんっちゅーやろ?

よっしゃ!そうと決まれば早速タコパや、タコパ!
タコパ知らんの?「たこ焼きパーティー」やがな!
熱したたこ焼きプレートに、ダシで溶いた粉を注いで、その中に一個ずつタコのぶつ切りを落としてく。
程よく焼けたら先っぽの尖ったたこ焼き返しで端っこからちょちょちょっと返していって、くるん!
どや、おもろいやろ?
コツさえ掴めば簡単やさかいレッツチャレンジ!
ソースと青海苔、お好みでマヨもかけて完成や!

めっちゃうまー!
な、自分で手を動かして作った料理は格別やろ?



●生命燃焼、またはカロリーは世界を救う
 無事に温まった海底に、馬飼家・ヤング(テレビウムのちっさいおっちゃん・f12992)は頭部の画面を一仕事終えたという風にきゅっと拭いた。ちなみに「額に汗かいとらんやんけ!」というツッコミ待ちである。無論、物たちは初めての笑顔に夢中になっていて気が付いていない。
 内心、少し寂しく思いつつも、先程彼らに投げかけられた疑問をそのたこ焼き頭に放り込んだ。
「(「生きる」とはどういうことか、ねえ……)」
 それは決して簡単に考えられることではない。人によって返答は変わってしまう。
 だが、ヤングには確固たる哲学があった。
「笑いはさっきやったから、今度は「食」でみんなを元気にする番かのう」
 栄養補給は命の源。腹が減っては戦は出来ぬ。ついでに言うと医食同源、病は気から。
 笑い、食べる。どんな苦境でも、これさえあれば何とかなるものなのだ。
 ヤングは、パンパンッ! と手を叩き、物たちの視線を集めた。
「よっしゃ! そうと決まれば早速タコパや、タコパ!」
「たこぱ……?」
 聞きなれぬ単語に、物たちがざわめく。だが、嫌なざわめきではない。ヤングが聞きなれた、期待の予兆だった。
「タコパ知らんの?「たこ焼きパーティー」やがな!」

 ヤングがどこからともなく用意したのは半円状のクレーターがいくつもある鉄板だ。
「かみさま~、なあにこれ」
 欠けた陶器の皿が首(概念)を傾げると、ヤングがニヤリと絵文字を変えた。
「聞いて驚き! その名もたこ焼きプレートや!!」
 ジャジャーン!! と効果音でも出そうな勢いで、そのたこ焼きプレートを掲げると、暗い表情をしていた物たちもすすっと近くに寄ってきた。
 更にヤングは、これまたどこからともなくたこ焼き用の粉が詰まった袋と出汁が入ったボトル、そして大粒のタコが沢山入ったパックも取り出し、脚が三本の机をちょいちょいと呼び寄せるとその上にそれらを置いた。
「いけそう?」
 そのヤングの言葉に、机は明るく応える。
「だいじょーぶ!! バランスとるの、楽しいね!!」
「おっイケとるやん! そら良かったわ」
 机を信じたヤングは、そこに漂っていたひび割れたボウルも呼び寄せた。だが彼女は体を揺らして拒否する。
「わたし、底が割れてるわよ。それに砂だらけで汚いもの! 使えないわ!」
 だがヤングはビッと細長い長方形の何かを高く掲げてサムズアップした。
「そんなんラップ巻けば余裕や!」
 おぉお!! と様々なところから歓声が聞こえる。
「ほんまやったら洗ったり、金継ぎとか出来たら話は早かったんやろけどなぁ。ま、いけるいける」
 謎の自信と共にラップを引き抜き、ヤングはボウルに隙間なくラップを敷いた。
「おらん調理器具は自前のモン使わしてもらうで。カンニンな!」
 そう言いつつ、ボウルに粉と出汁を入れ、調理箸でちゃっちゃと溶かしていく。
「ダシで溶いた粉を注いで」
 説明しながら、ヤングはごくごく薄い黄色の液体を鉄板に流し込む。瞬間、じゅわ! っと液体が焼ける音がして、物たちから歓声があふれた。
「その中に一個ずつタコのぶつ切りを落としてく」
 手慣れた様子で、ヤングはひとつひとつの窪みに吸盤の付いた魚介を投入していく。
「ふわわ、いい匂い!」
「せやろ? もーちょい待っとってや。我慢の子やで」
 その言葉に、物たちはにこにこしてじっとその未知を観察している。
 しばらくすると、香ばしい香りと共に、液体が固体に変わっていく。ヤングはそれを確認するとしゃきん! と細長い棒状のものを取り出した。
「程よく焼けたら先っぽの尖ったたこ焼き返しで端っこからちょちょちょっと返していって……」
 かりかりと固まった薄黄色を鉄板から剥がしていき、窪みに棒の先を差し込む。
「くるん!」
 その掛け声と同時に、焦げ目がついた綺麗な円形の食べ物、たこ焼きが生まれる。
 その光景に、物たちはうわぁ! と色めきだった。
「わー!! すごい!!」
「色がちがうくなったー!!」
「どや、おもろいやろ?」
 ヤングは、にっこりと笑い、傍にいたステッキにたこ焼き返しを渡した。
「コツさえ掴めば簡単やさかいレッツチャレンジ!」
 だが、ステッキは不安そうに少し後ずさった。
「ぼく、燃えない?」
「気ぃ付けたら大丈夫や! 怖いなら、わしがボクの手、持ったろか? 手どこか知らんけど」
 ヤングの言葉に、ステッキだけではなく、遠巻きに見ていた物たちも笑みを浮かべる。
「うん!!」
 陶器の皿に、たこ焼きが盛り付けられていく。ヤングはそれにソースとマヨネーズをかけ、青海苔を机に置いた。
「完成や!!」
 出来上がったものを、ぱくりと口に放り込むと、ソースとマヨネーズの合わさったハーモニーと、出汁の風味が混然一体となってヤングに襲い掛かった。
「めっちゃうまー!! ほれ、食うてみ!!」
 許可を貰った物たちも、我先にと皿に寄ってくる。みるみるうちに丸い幸せは数を減らしていくが、作ることを気に入った物たちが追加をつくっている。ここにいる全員に行きわたる事は簡単に想像がついた。
「なにこれ~!! ふしぎ~!!」
「これが、うまい!?」
「すごいすごい!! たのしいね!!」
 きゃっきゃとはしゃぐ物たちに、ヤングは満足げな表情を作った。
「な、自分で手を動かして作った料理は格別やろ?」
 そう言ったヤングに、物たちは適当に返事してたこ焼きを頬張る。
 丸い笑い声と丸いたこ焼き。それは生まれては浮かんでこの世界になる丸い泡のように優しさを広げていった。
 ……そういえば。
「いや、作っといてなんやけど、自分ら、どっから食べてんの……????」
 不思議な世界の不思議な仲間たちは、本来の彼らの愉快さを表すように、コメディアンに悪戯っぽく笑いかけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

五条・巴
いい子、いい子
皆かわいいね。
愛おしいね。

ファンより近いようでファンより遠い
不思議な関係
これを神と、信仰と呼ぶのなら、なるほど、”理解”できる面もある。

なんなりと、なんて言わないで。
皆でやりたいことしようよ。

そうだな、例になるだろうか、僕のしたいこと
君たちと共に海底を歩いてみたい。
踏みしめる底はどんな感触かな、先には何が見えるかな。

僕の射程範囲内、君たちは僕のもので僕は君たちのものだよ。
僕の周り全部、不安な思いさせてあげない。

共に歩こう。面白いもの落ちてたりするかな?
君たちの興味をそそるものはあった?

月の光が届かない海の底で、僕が君たちの光となろう。



●月光浴
 持っていた鞄をそぅっと解放して、五条・巴(照らす道の先へ・f02927)は湯浴みをする女神のような仕草で、靴を脱ぎ棄て、裸足になった。足元から伝わる冷ややかな砂の感触を確かめながら、踊るように泡の世界に爪先を遊ばせる。
 彼の全てを見逃すまいとする信者たちの視線を浴びながら、巴は想う。
 ファンより近くて、ファンとの距離感よりも遠い、そんな不思議な関係。
「(なるほど。少しわかるかもね)」
 でも、その距離は少し寂しくもあった。海底と月は決して交わらない事がじわりと忍び寄るかのように。
 なんなりと、なんて言わないで欲しい。
「そうだ、皆でやりたいことしようよ」
 優しい声で想いを伝えると、その仲間たちはこう言った。
「でもわたしたちは、あなた様の御意志に従いたいのです」
 彼らのしたいことと、己のしたいこと。同じようで違う感覚を擦り合わせなくては。
 こういう時は……。と呟きつつ、巴はその愉快で不思議な信者に近寄っていき、かがんで笑む。
「君たちと共に海底を歩いてみたい。踏みしめる底はどんな感触かな、先には何が見えるかな」
「あるく?」
 巴は彼らを不安にさせないように手を差し伸べた。役割演技は、彼の得意分野なのだ。
「共に歩こう」
 そうすると愉快な仲間たちは、彼の周りにふわふわと漂った。どうやら、巴の言葉の意味は分からないが、従ってくれそうだった。
 信者を引き連れた海底散歩は、閉じた空間の空気を緩やかに混ぜる。
「面白いもの落ちてたりするかな? 君たちの興味をそそるものはあった?」
 そう本体からこぼれた大きな螺子たちが砂底を擦って巴を見上げた気がした。
「どう……でしょうか……」
「いつもと、おなじ……かな……」
 しばらく、何処までも続くかのような地面を歩いていくと、小さな棘の付いた蔦が見えた。よく見れば、他の植物と違い、この植物だけ泡が出ていないことに、巴は気が付く。
 地上で見ても特に違和感のないそれが、巴は妙に気になった。もしかしたら、彼らが言っていた『厄災様』に関係しているかもしれない。
 その時、愉快な仲間である錆びた断ち切り鋏がそれに近づいていった。巴が危ない、と止める前に、近くで飛んでいた泡が先にその植物に触れて割れ、断ち切り鋏は後ずさった。
「きゃ」
 巴は直ぐに近づき、その仲間をそっと手のひらに乗せる。それが更に壊れていないことを確認して、よかった、と心の中で胸をなでおろした。
「大丈夫。怖くなんてないでしょ?」
 魅入られた信者は、思考の隅から隅までがよろこびに満ちていく。
 彼の輝きが届く範囲内の、全ての意思あるもの達が巴のもので、巴は意思あるもの達のものであると、彼らは妄信する。
「……はい」
 その心から安心しきった声は、もはや彼らが恐怖する対象など存在しないかのよう。
「いい子、いい子。……皆かわいいね。愛おしいね」
 月の光が届かない海の底で、僕が君たちの光となろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシリア・サヴェージ
なんとか皆さんに元気を出していただけたようで……私も嬉しいです。
私はこの世界のことをもっとよく知りたいです。愉快な仲間たちの方々にお話を伺ってみましょう。

この世界は美しい……水の中とはこうも美しいものなのですね。海底を歩くという感覚もなんだか不思議です。
おすすめの散策スポットなどあれば是非。共に参りましょう。

しかし、この美しい世界を侵略しようとするオウガが間違いなく来る。
オウガについて何か知っていることがないか聞いてみましょう。
……辛い思いをさせてしまうかもしれません。ですがこの世界を護るためにも重要な事。
ご安心ください。あなたたちの事は、私が必ず護ります。



●いかりの行く先
「ねえかみさま、たまにね、地震が来るんだ」
「……地震」
 ふわふわと浮かび上がる不思議な生物が、セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)に世間話をするような声で、話しかけた。
 この世界のことをもっと理解したいセシリアは、近くにいた、綿のこぼれた枕や折れた万年筆に連れられて水越しの光が透けた世界を歩いていたのだ。もしおすすめの探索スポットなどあれば、と聞いてみたが、「わかんなーい」と答えられてしまい、一先ず小世界の広さを確かめるようにざふざふと歩いていた。
「うん。地震。怖くてさ、砂に埋まってたら揺れなくて済むし」
「それで、彼方でじっとしていらしたのですね」
 セシリアは先ほどまで埋まっていたこの枕がいた所を思い出して、ふむとうなずいた。
 するとその反応に完全に気を許したのか、それはだまってセシリアの言葉を待つ。セシリアはならばと、こう尋ねた。
「オウガについて、何かご存じですか?」
 彼らはぽしょぽしょと内緒話をするように体温のないものだけで相談すると、
「厄災様のことかな」
「それなら、一番古い子に聞くといいよ」
 セシリアの前に浮かんでそれだけを言った。
「有難う御座います。では、その御方がお住まいになられている場所を教えていただけますか?」
「いーよー」
 セシリアは先導するそれを見失わないように追いかける。その先が、ウサギの穴ではないのを重々承知の上で。

「よくも来ましたね、強き者よ」
 船から見捨てられた錨が、砂に半分埋もれかけている。
 セシリアは彼女が愉快な仲間に聞いた『一番古い子』なのだろうと恭しく跪いた。
「かみさまは、厄災様について、どうしても知りたいのですか?」
 それが、あなた様を災いに導くとしても? と、錨は刺すように冷たい声でセシリアに問いかける。
 だがセシリアは、気丈な眼差しを錨に向け、胸に手を当てた。
「ご安心ください。あなたたちの事は、私が必ず護ります」
 その心には、紛れようもない強い信念があった。
 錨の声が泡の中に響く。
「やさしいのですね。……かみさまには逆らいませんとも、ええ」
 錨が、柔らかく微笑んだ気がした。
「幾つか前の世代から伝えられてきた言葉を、お伝えいたします」
 錨の声が少し強いモノへと変わる。
「“厄災様がお怒りになられる時、水底は揺らぎ、天上は破れ、凡ては海の藻屑と消えゆく”」
 セシリアは、彼女が言う言葉を脳裏に刻み込む様に口から零した。
「その真の意味をわたくしは存じ上げませんが……少しでもかみさまのお力になりますように」
 彼女の紡いだそれは言葉遊びや謎解きのごとく難解で、引っかかるものでもあった。セシリアは頭の隅に浮かんだ疑問を錨に尋ねた。
「もうひとつだけ、すみません。“厄災様”は、どんな時にお怒りになるのですか?」
「……外のものが……“アリス”がいたとき……」
 少しの沈黙が訪れるも、何とか言葉を繋ごうとしている錨を、セシリアは急かすことなく待った。
「そして……」
 錨は意を決したように、言葉に力を込めた。
「わたくしは先ほど、幾つか前の世代、と言いましたね」
 錨の声は、突拍子が無い言葉と思えたが、セシリアがその意を問いかける前に錨は言った。
「実を言うと、わたくしたちは一度も厄災様を見ていません」
「……え?」
「幾つか前の世代は、厄災様を倒そうとしました」
 セシリアの脳裏で、先程の言葉達がぱちりと繋がっていく感覚があった。
「……その方々は」
 その答えを確認する為の質問を、セシリアは僅かに躊躇いながら尋ねてしまった。
 次の錨の声は、いやに穏やかに聞こえた。
「此の世界の砂の半分は、わたくしたちと同じ存在だったものですよ」
 ひゅ、と喉が鳴った。
 それが真ならば、今、己が踏みしめている砂は。
 ぞっとするような寒気が膝から伝っていく。
「其の教訓を活かし、わたくしたちは生きるために、弱くなりました。負けることを学んだ世代から生まれた生命。敗北を運命付けられた未来。それが、此の世界の我々ですよ」
「…………」
 彼らの姿がどこか壊れている理由が、わかった気がした。
「厄災様は、強い者が世界にいるとき、お怒りになられます。きっと、もうすぐで目を覚ますことでしょう」
 沈み切った諦観。そんな感情がありありとわかる。ただ、それだけじゃないような気がして、セシリアは黙って聞いた。
「かみさま」
 錨が、ほんの少しだけ砂を動かした。
「わたくしは、いえ、我々は負けたくありません。皆、本当は胸を張って、生きていきたいのです」
 それが彼女の、遺されたものの中で、一番過去に近い物の想いなのだろう。
 そんな錨に、セシリアは思わず、手のひらを当てた。
「この世界は、美しい」
「……え?」
「……水の中とはこうも美しいものなのですね。海底を歩くという感覚もなんだか不思議です」
 手を錨から離し、天を見上げて状況を把握する。上空はただひたすら碧かった。
「それに、なんとか皆さんも元気になって、私も嬉しいのです」
 セシリアは錨に視線を戻して誓う。
「こんなに素晴らしい世界も、生きることを求める皆さんも、絶対に壊させやしません」
 セシリアは最後にそれだけをいうと、錨の傍から離れていった。
「有難う御座います、かみさま」
 地鳴りが、漆黒の鎧を伝っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薄荷・千夜子
ふふふ、植物ならお任せください……!
と思ったのですが、こちらの植物も地上の植物と同じ感じなのでしょうか?
交流も兼ねて愉快な仲間たちにもお話を聞いてみましょう
皆さんはこの植物の育て方は知っていますか?
もし知っている方がいれば、物知りさんですね!と褒めつつ
何かを育てる、世話をするということで安らぎややる気等を覚えてもらえれば一番ですね

枯れかけた草木が綺麗に花開くまではもう少し時間がかかるかもですが、皆さんが頑張ってお世話を続けていれば素敵な光景が見れますよ
例えば、こんな風にとUCを発動
花嵐とともに足元を色彩豊かな花畑にしながら
お花に囲まれて散歩というのもとても楽しいですよ!


オルヒディ・アーデルハイド
でておいで
『いつでもフワリン』で沢山のフワリンたちを呼び出す
“生きる”って何だろうね
明確な答えはないのかも知れない
今できる事、今やりたい事をするのが“生きる”って事かな
今はフワリンたちと戯れときを忘れよう
フワリンたちの背中に愉快な仲間たちを乗せて空中浮遊の旅
人が乗れる泡に乗って浮遊してる愉快な仲間たちもいるよ
各地を巡り泡を吐く草木に『フワリンの癒し』を施し癒す
世界中をシャボン玉で泡いっぱいの世界にしよう
子供達と一緒にシャボン玉を作って遊ぶ

遊び疲れたら
『フワリンの癒し』で心身ともに癒し眠らせる
「今は夢見て眠ると良いよ」
「起きる頃には素敵な未来がひらけてるかもね



●子供たちへ
「ふふふ、植物ならお任せください……!」
 薄荷・千夜子(陽花・f17474)はむん! と二つこぶしを作って気合を入れるが、眉をきゅっと寄らせて首をひねった。
「と、思ったのですが……こちらの植物も地上の植物と同じ感じなのでしょうか……?」
 微かに唸る千夜子に、近くにいたオルヒディ・アーデルハイド(アリス適合者のプリンセスナイト・f19667)は声をかける。
「そんなに不安なら、皆に聞いてみたらどう?」
「いいですね! これをきっかけに、もっともっと仲良しになれるかもしれませんし!」
 千夜子の明るい笑顔につられるように微笑んだオルヒディは、そうだね、いこっか。と応え、二人で物たちが多いところまで歩いて行った。

「みなさーん。ちょっといいですかー」
 千夜子が手を挙げて呼びかける。すると物たちが彼女の周囲を取りまいた。
「あー、かみさまだー」
「かみさま、どったのー?」
 彼らは千夜子とオルヒディを怖がることなく応えてくれた。どうやら振る舞いからして、この物たちは精神年齢が幼いもの達のようだった。
「皆さんは、この植物の育て方は知っていますか?」
 千夜子が指をさしたのは、地面に生えているイネ科のような植物だった。その色褪せた植物から泡がぽつ……と出ている。
「しらなーい」
「僕もしらないよぉ」
「あら、そうですか……」
 千夜子が少ししょんとしていると、持ち手が壊れたスコップが、
「はいはーい! ぼくしってる!!」
 と勢いよく飛び出してきた。それに、千夜子はぱあっと表情を明るくして駆け寄る。
「わあ、本当ですか! 是非教えてください!」
 スコップは上機嫌にバク転して、こう答えた。
「それねー。みんながげんきになれば、げんきになるやつだよ」
「元気になれば……」
「元気になるやつ……?」
 それは実に不思議な答えで、二人は少々面食らったが、まあそういう世界なのだろうと二人はなんとなく納得した。
「有難うございます。物知りさんですね!」
「えへえ。それほどでも……ありますけどね!」
 スコップは表情があればドヤ顔しているであろうという口調で宙高く浮かんだ。
「同じ感じ……ではありませんでしたが、私たちの常識が通じるところだってありますよね!」
「そうだね。みんなの元気で植物が蘇るなら、みんなを喜ばせてあげれば、この植物のお世話になるんじゃないかな?」
 千夜子に相槌を打ちながら、オルヒディは少し考えて言った。
「でておいで」
 彼が呼びかけると、どこからかピンク色をしたヒレのような形の足を持ち、兎かなにかのような耳を持つ円らな瞳の生き物がふわっとやってきた。それらは何匹もいて、一メートルほどの高さで浮いていた。
「うわぁっ。可愛らしいですね!」
 と千夜子が言った後、ふわふわ浮かぶものたちが、彼らの周りにたくさん近づいてきた。
「なんだろう……」
「かみさまの、しもべですか?」
「ううん、フワリンだよ。みんな仲良くしてね」
「僕らとは違うんですか?」
「ちょっと違うかな。でも大丈夫。怖くないよ」

「みんな、近くのフワリンに乗ってくれる?」
 オルヒディの言葉に、千夜子は目を輝かせた。
「乗っていいんですか!? うわぁ、彗以外に乗って飛ぶのは新鮮です!」
 彼らが不思議そうにフワリンに近付くのを、オルヒディは穏やかに見守る。
 さぁ、水の底で、空中遊泳に出掛けよう。

 上空から見えたのは、悲しいほどに殺風景な世界だ。
 枯れかけた草木に、無機質な砂。しかも、心なしかその砂地は蠢いているような気がして、オルヒディは瞬きをした。
 フワリンに乗った物たちは、砂からの距離が遠くなればなるほど表情を緩めている。
 きっと、なにかあるのだ。この地の底に。
 オルヒディはどこか確信めいたものをそれに感じていた。
 なぁん。
 隣から、慣れ親しんだ声が聞こえた。
 そちらを向くと、一体のフワリンと、それに乗った千夜子の手のひらの上で、短針の無い懐中時計がオルヒディが乗るフワリンの傍に横付けしている。
「どうしたの?」
 稚い声をした懐中時計がオルヒディに恐る恐る問う。
「ねぇ銀色のかみさま、きいていいですか?」
「え? うん、いいよ」
「“生きる”って、なんですか?」
 オルヒディの銀の髪が揺れる。
 生きるとは、なんだろう、と。
 まだ幼いはずのオルヒディは、歳不相応であり、歳相応に輝きを集めた、左右で色の違う瞳を閉じて思案した。
 浮かぶ答え、知る答え。全て正解であり、間違っているような気がして、この問いには明確な答えは無いのかもしれない、と悟ったように微笑む。
 だが、彼らには一先ず何らかの“答え”が必要だ。それが無くては、きっと彼らは拠り所が無いままにこの世界に埋もれてしまうだろう。
 オルヒディは、懐中時計を真っ直ぐに見つめた。
「今できる事、今やりたい事をするのが“生きる”って事かな」
 泡に乗って浮遊しながらオルヒディ達を追う物もいて、その表情は柔らかく、明るい。
 なぁ~ん。
 泡の中で優しい歌声が響き、草木に浸み込むと、見違えるように色が鮮やかになっていく。
 そしてその木々は、ぽこりと輝きを放つシャボン玉を次々に生み出した。
「ふふっ! そうですよ。今貴方にできることは、楽しく過ごすことです」
「たのしくすごすことが……“生きる”?」
「枯れかけた草木が綺麗に花開くためには、皆さんが楽しく過ごすことが不可欠です。それを、一先ず“生きる”ということにしてみませんか?」
「……いいの?」
「何を仰いますか! いいに決まってます! そう、ずっと元気で楽しく過ごし続けていたら、もっと素敵な光景が見れますよ!」
 例えば、こんな風に! と、千夜子は手を大地に翳す。
「虹の花、咲き誇れば天上楽土!」
 びゅう、と停滞していた世界に一陣の風が吹く。それに交じって彼らの目を惹いたのは、ビビットなマゼンダだった。
 弾けるような赤、ピンク、黄、オレンジ。水の下の世界では見られない、暖かな色の花嵐が吹き荒れオルヒディは思わず目をつぶった。
 だが、瞼のない物たちは絶え間なく流れる初めての極彩色に声を上げて喜ぶ。
「すごい……!!」
「綺麗だね!! ねっ!!」
 それだけでは終わらないのが、千夜子の術式だ。
「あれ!? 地面が……!」
 そう、千夜子のユーベルコード『操花術式:七彩天趣』は大地に宿ると、その一帯は魅惑的なまでに美しい花畑となるのだ。
 陽光が歩くように、冷たい世界に温度が彩付く。
 世界に息吹が蘇る。

 幽玄が碧に映えるようになった頃合いで、フワリンたちはゆっくりと下降する。ふさっとオルヒディが花畑に降り立つと、千夜子と物たちも続けてフワリンから降りる。
「お花に囲まれて、今度は地上で散歩しましょう!」
「じゃあ、あそこを目指さない?」
 オルヒディが指し示したそこは、芝生のような柔らかい草が生えている場所だった。
「いいですね! 皆さ~ん、いいですか?」
 いいですよ~といろんな場所から声が聞こえる。いつの間にか、この近くにいたであろう物たちが列に加わっていた。
 一行は芝生を目指し、七色の花を楽し気に眺めながら歩いた。泡の吐かない植物は彼らにとって珍しいようで、つついてはきゃっきゃと喜んでいる。
 案外近かったのか、楽しい時間はあっという間というべきか、さほど時間はかからずに芝生にたどり着いた。この植物もこの世界に自生していた植物の例に漏れず泡を生み出しているが、他の草木よりも細かく、まるでここはソーダ水の中のようであった。
「じゃあ今からここでお昼寝しちゃおうか」
「おひるね……?」
「うん、フワリン達とお昼寝しよう」
「で、でも……」
 言いよどむ彼らを遮るように、フワリンたちは鳴き歌った。

 なぁ~ん、と。
 
 癒しの声が彼らを包む。その途端、彼らの体から力が抜け、幸せな微睡みが胸を占めた。
 

「今は夢見て眠ると良いよ」
 透き通った瞳が、彼らをとらえた。
「起きる頃には素敵な未来がひらけてるかもね」
「えぇ……きっと!」
 オルヒディと千夜子はその言葉を現実にしようと決意を固めた。


 厄災は、忘れたころにやってくる。

 だから、今はおやすみ、子供たち。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジークムンド・コンラッド
ルーク◆f19717
アドリブ◎
ああ、くっそかっこわりぃなぁ
あんなことで動揺するとは
自分もまだまだすぎるだろ
苦笑しながら本物だったらどうしたのかなんて
無駄なことを考えてたらすっと膝の重りが退いた
あ~ハイハイ、重たいものの運搬は俺の仕事ですね
姫さんのだした栄養剤を木のところに運んで振り分ける
他にも力仕事があるなら手を貸すけどよ
俺の―従者の出番はこの後でしょう?
まあソレまでは恐がらせないようになるべく小さくなっておきますよ

ああ、下町時代の本物《俺》も昔はよくそうやって皆で固まってたなぁ

そうそう
怖いもんが来たら弱いもんの手をとってな
ちゃんと隠れておきゃ…怖いのなんかすぐ終わるから
大丈夫だ、安心してな


ルーク・テオフィルス
ジークムンド◆f19706
アドリブ◎
いいか、お前たち
僕の使いになるのならやらなきゃいけないことがたくさんあるぞ!
笑って立ち上がり
まずは木の世話だ
僕は植物の栄養になりそうなものを創造しよう
世話なんてしたことはないけれど
わからないと諦めないでもっともっと自由な発想で
音楽を聴けば元気になれる栄養剤とかどうだ?
ほら、これをもって行っておいで

それからお前たちの一番大事な仕事があるぞ
自分より弱いものを助けることだ
一番弱いものたちは集まって強いものを助けてあげて
大丈夫、難しくないぞ
ぎゅっと抱き締めてあげるだけでいいんだ
そうすればきっと落ち着けるから
―もっと怖いものが来たときも
一人じゃないなら耐えれるだろう?



●力のあわせかた
「ほら、あそこ。見えるか?」
 ジークムンドの膝から腰を上げたルーク・テオフィルス(亡国のアリス・f19717)は、愉快な仲間たちに向かってそう言った。彼の指を真っすぐたどると、枯れ木の森があった。
「いいか、お前たち。僕の使いになるのならやらなきゃいけないことがたくさんあるぞ!」
「はい!!」
「なんでもおもうしつけください!」
「じゃあ、あの木の世話からだな!」
 弱い“かみさま”と愉快な“てんし”たちは、我先にその木までと走った。
「でもわたしたちは、この植物がなんで枯れているのかはしりません! かみさまはしってますか?」
「いや、僕もわからないよ。木の世話だって、したことはないし」
 でもルークは心配ないと胸を張った。
「わからないとあきらめないで、もっと自由な発想をしても良い筈だろう?」
 するとルークは、どさっと一抱えほどの大きな注射器を出現させる。
「なんですかそれ?」
「ふふふ……。これは『音楽を聴けば元気になれる栄養剤』だ!!」
 ルークは後ろにいたうさ耳の大男ジークムンド・コンラッド(壊れた時計・f19706)に、目配せする。
 ジークムンドは少しばつの悪そうな顔をしていたが、ルークの視線に気づくとすぐにいつもの表情になった。
「あ~ハイハイ、重たいものの運搬は俺の仕事ですね」
 彼はそういうと、ルークから注射器を受け取り、木の根元に針を刺して、薬剤を注入する。
 そして、少し木の周囲に沿って、先程とは少し距離を空けてまた同じように注入していった。
 それを見ていた愉快な仲間たちに、ルークは手のひらサイズの注射器を生み出し、彼らに与えた。
「ほら、これをもって行っておいで」
『はーい!』

 ジークムンドと愉快な仲間たちが、その薬剤をありったけ注入したあと、彼らは森の中心に行き、思い思いに座った。
「さあ、唄おうか」
 赤髪の“かみさま”がそう言うと、彼らはそわそわわくわくと、文字通り浮足立った。
「うたう!」
「僕たち歌えます!」
 愉快な仲間たちの楽しそうな仕草に、ルークは彼らと同じくらい楽しそうにする。
「お前も唄うんだよ」
 そして、しれッとした顔で時計ウサギにも同じ命令を告げた。
「他にも力仕事があるなら手を貸すけどよ。俺の―従者の出番はこの後でしょう? まあソレまでは恐がらせないようになるべく小さくなっておきますよ」
 逃げるようにそう言ったジークムンドに、ルークはぴしゃりと、
「だめ」
 と短く命じる。
「……ったく。我儘な姫さんだ」
「“僕の従者”なんだろ?」
 隣にいる主の発言に喉を詰まらせたジークムンドは頭をガシガシと掻いた。彼の感情がどこまで見破られたのかは、ルークにしかわかるまい。
 せーのとルークが音頭をとると、もの達は好き勝手なメロディを奏でだす。それはわーわーと喧しい不協和音ではあったが、そこから広がるように、枯れ木の森が色づいていくことが分かった。たちまち虹色の泡がぽこぽこと生まれてくる。新緑の世界にシャボンがくるくる光った。
 愉快な仲間たちは、その様子をみて無邪気に歓声をあげる。
 “かみさま”も、満足そうに笑ったのだった。

 しばらくすると、他の場所にいた愉快な仲間たちも集まってきた。
「ほかになにか仕事はありますか?」
 愉快な仲間たちは、ルークを信頼しきっている様子で尋ねた。
「それなら、お前たちの一番大事な仕事があるぞ」
 そういってルークは人差し指を口に当てて、にっこりと笑う。
「自分より弱いものを助けることだ。 一番弱いものたちは集まって強いものを助けてあげて」
「でも、ぼくたちは……」
 戸惑う物たちに、ルークは頼もしげに笑みを深めた。
「大丈夫、難しくないぞ」
 そう言ってぴょこんと立ち上がると、全員を見回した。
「ぎゅっと抱き締めてあげるだけでいいんだ。そうすればきっと落ち着けるから」
 すると、愉快な仲間たちはお互いを見て、できるか? と尋ねあった。
「―もっと怖いものが来たときも、一人じゃないなら耐えれるだろう?」
「できる……かな?」
「できるさ」


 ふたりの“かみさま”と“てんし”達が泡を生み出す森を出たその時だった。

 大きく、世界が揺らいだ。
 癒されていた植物は泡を吐きながら白砂をかぶり、足元はズズズズズズズズズ……と蠢いて、全ての者の歩みを止めようとする。
 だが、隣の手を取って、力を合わせて、耐える。

 砂埃が視界を覆った。つないだ手と手だけが、自分が生きている証だ!
 巨大な影が、茨の鎧を背負って生まれた。

「此の時を待っておったぞ、強者よ」

 歓喜に震える声は、“厄災”の音。

「ほんとに……きちゃった」
「や、イヤアアアアアアアアア!!!!」
「やっぱりダメだったんだ!! もう、おしまいだぁああああ!!!!」

「落ち着いて!!」
 パニックを起こしかけた愉快な仲間たちに、ルークの声が届く。
 自分より弱い者の存在を思い出す。
「じっとして!」
「壊れないように、硬度が似てる子同士で固まって!」
 自分が支えたい強い者の姿を思い浮かべる。
「がんばれ、かみさまをたすけるために!!」
「ちゃんと、生きなきゃ!」
 悲鳴がみるみる小さくなり、混乱が治まるのを、竜は興味深そうに見ていた。
「言っただろう? できるって」

 ジークムンドは、構える。
 護るべきものと、護りたいものを背に。
「ちゃんと隠れておきゃ……怖いのなんかすぐ終わるから」

「(ああ、下町時代の本物《俺》も昔はよくそうやって皆で固まってたなぁ)」
 それは本当に“自分”の記憶なのか、本当の事は決して言えない。
 それでも、この心は本物だと躊躇い無く言えた。
「大丈夫だ、安心してな」
 ここからが、従者の仕事だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『獄炎薔薇竜カタストローフェ』

POW   :    破滅の蒼き炎
【なにかに接触すると大爆発を起こす蒼炎の弾】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    心躍る闘争を!
全身を【地獄の蒼き炎】で覆い、自身の【強者との戦闘を楽しむ意思】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ   :    地獄へと誘う薔薇の舞
自身の装備武器を無数の【炎の如き熱を持った薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はノーラ・カッツェです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●地獄に救いを
 世界に絡みついた茨の蔓が、しゅるりしゅるりと砂地を這う。
 天を破るかのような大きさの蒼い炎を纏う大竜が、吠えるように名乗りを上げる。
「我は強きを喰らう者、獄炎の薔薇、カタストローフェ」
 地鳴りのような低音が、泡の世界をびりびりと震わせた。
「あ、あぁ、厄災様……」
 その姿を確認した物たちは、震え、怯え、動けなくなりそうになる。
 だが、彼らの胸には確かに“かみさま”がいた。
 自分を救ってくれた“かみさま”に、自分が壊れるところは見せたくない!
「ほう、強くなったようだな、弱者どもよ」
 竜のその口振りは、余裕。そして、多大なる期待。
 だがその声に少しの違和感がにじみ出た。
「……ふむ? なんだこの楔は」
 竜は己の巨躯をたどる。植物で出来た体の隙間から、なにやら不快な新緑や太い根が巻き付いている。
 どうやら、自分の猟兵達が蘇らせた泡の出る植物が、竜の本体に絡みついてそれの動きを妨害しているようだ。
 薔薇竜は構わないというように左目の赤い薔薇を揺らした。
「まあ良い、これは手加減というものだ。直ぐ蹴散らしては詰まらぬ……こうでもせんと、張り合いが無いわ!!」
 世界を構成する泡まで割らんばかりの声が、君たちの肌に届く。
 めらりと、蒼炎が蒼い空間に溶ける。

 さあ“猟兵さま”よ、真の救済を与えたまえ。
火土金水・明
「この世界を平和にするために、全力で戦うことにしましょう。」
【WIZ】で攻撃です。
攻撃方法は、【高速詠唱】で【破魔】と【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【全力魔法】の【コキュートス・ブリザード】で、『獄炎薔薇竜カタストローフェ』を【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【見切り】【残像】【オーラ防御】【火炎耐性】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。



●地獄をもって地獄を制す
 真っ先に薔薇竜の前に躍り出たのは闇色の魔女だった。豊満で瑞々しい肉体を惜しげもなく露わにした女性が、その黒と金のローブを翻して竜と愉快な仲間達の間に立ちはだかる。そのローブと揃いのとんがり帽子から覗く表情はまだまだ少女と言い表して差し支えないが、竜は「ほう、面白い」と悦を隠しきれない様子で己の蔦で砂底に鞭打った。
「あ、あなたは……」
「あたらしい“かみさま”……?」
 彼女の背後にいる壊れかけの物達が、思い思いに呟く。それを聞いた魔女は、興味深そうにポニーテールを揺らした。
「なるほど、“落とし子”である私も、ここでは“かみさま”という訳ですか」
 きょとんとした愉快な仲間に、明は彼等には明かす必要は無いと言いたげに首を振った。
「何でもありません、私は火土金水・明。この世界を平和にするために、全力で戦うことにしましょう」
 そう名乗りを上げた火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)は、七色に光る杖をびしっと茨の竜に翳す。
「さぁ、獄炎薔薇竜カタストローフェ! 私はこっちです!」
 瞬間、明の口から何らかの呪文が目にも止まらぬ速度で唱えられた。その途端、無数の氷矢が彼女の前に召喚される。
「ふん、いくら束になろうと矢は矢!! そんなもので我を射殺せるものか!!」
 薔薇竜は己に自生する花弁を震えさせると忽ちこの場の気温がグッと上がり、明の鼻先に丸い汗が滲んだ。そしてその花どもを一気に彼女や愉快な仲間達がいる場所に叩きつけようとする。その花はまるで隕石かのように強者らを蒸発させようと迫りくる。
 そのタイミングを見計らったかのように明の杖先が動いた。装填済みの矢が凄まじい音を立てながら派手に舞う。
 シュワァアアッ!!
 火焔の華と氷柱の矢がぶつかり合い、ぶわりと水煙が上がった。蒸気のヴェールがかかり、視界が真っ白になった。
 竜はほくそ笑む。強者と思ったが、人間如きに己が倒せるはずがない。人間はこの視界では動けないだろうが己にはわかる。少女の影がある場所を目掛け、竜は超高温の死を放った。
「この勝負、もらった!!」
 だが、その薔薇が何かを傷付けることは無かった。
「残念、それは残像です」
「……ハッ」
「我、求めるは、冷たき力」
 今度ははっきりと。その詠唱が霧の中から聞こえたと知覚した瞬間に、どしゅどしゅどしゅ、と竜の身体に衝撃が走る。其方を見ると、竜が警戒していた箇所とは真逆の方向だった。
 叩きつけられたのは、罪人を永久に閉じ込める為に流る川のごとき氷魔の波動。びしり、びしりとそこから厄災の身体が凍り、構成する蔦の一部が粉々に砕け、蒼い炎が轟と散る。
 水煙が晴れる。其処には、無傷の明と愉快な仲間達が立っていた。
「クハハハ……!! 愉快愉快!!」
 それでも大竜は戦闘意欲を欠片も失う事なく吼える。寧ろ、これによって蒼の狂気は更に燃え上がったようだった。明は砂を舞い上がらせるほどの雄叫びにも臆することなくキッと獄炎を睨みつけた。
 その瞳の先は竜を透かし、海色の世界を見据える。この美しい世界には、この業炎は不似合いだろう。
「……少しでもダメージを与えて次の方に」
 死の果ての氷河を携え冷静にそう呟く明と、地の底の焔を携えて嗤う竜。
 はてさて、本当の地獄は何処だろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリア・サヴェージ
その傲慢さでこの世界の住人たちを虐げてきたのですね。
暗黒騎士の使命はあなたの様な者を倒す事。覚悟しなさい。

無数の薔薇の花びら……それも一つ一つが高温を発するようです。暗黒剣の【なぎ払い】により風を起こし【吹き飛ばし】で対処します。
ですがすべてを防ぐ事は不可能……せめて囲まれないようにしなければ。

状況はこちらが不利ですが活路はきっとあります。
UC【暗黒の反逆者】により高まった回避率を利用して花びらを避け、【切り込み】で一気に剣の間合いに踏み込み、その勢いを活かして暗黒剣を振り下ろす【重量攻撃】を行います。

これ以上悲しむ者を増やさぬ為に、彼らが胸を張って生きていけるように……厄災の竜はここで討つ!


馬飼家・ヤング
※アドリブ、連携歓迎

折角ここまで復興したんや
愉快な仲間たちの期待には応えたらんと、ナニワ男がすたるってもんやろ
見さらせ!バカウケ神、一世一代の大勝負や!

いくで、必殺【ゴム・パチ~ノ】!
超強力なゴム紐を敵に向かって投擲!
当然接触すると大爆発する蒼炎の弾で反撃してくるやろうけど
残念、それはフェイントや!
敵に隙が出来たらすかさず2本目のゴムを投擲!
絡みつく植物の隙間に絡ませて固定し、あとはブンブン振り回すで!
そーら、びったんびったん!
今までちっちゃい子ら相手にイキっとったんが
こんなギャグみたいな技で倒されるとかどんな気持ち?

最後は強力な一撃「ぱちーん!!」



●こういう具合にしやしゃんせ
 信者たちの視線を背に受けながら、ふたつの影が厄災竜の許に急行していた。
 背の高い方は、銀の暗黒騎士、セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)、もうひとつの背の低い方は、たこ焼き頭の派手なテレビウム、馬飼家・ヤング(テレビウムのちっさいおっちゃん・f12992)だ。二人は少し前まで別々の場所にいたが、敵襲を確認し、そちらへ向かっている途中に合流したのだ。
「折角ここまで復興したんや、愉快な仲間たちの期待には応えたらんと、ナニワ男がすたるってもんやろ」
 走りながらのヤングの言葉に、セシリアは無言で頷いた。
「あっ、せや!!」
 急にズザザザーと砂を巻き上げながら止まったヤングに、セシリアは振り返る。ヤングはちょいちょいっとセシリアに手招きをする。
「嬢ちゃん、ちょと考えがあるんやけど、ええか?」
「え?」
 今はいち早く現場に駆けつけるべきでは、と思ったが、彼女は、この小世界に来てすぐのとき、彼のお陰で事態が好転した事を思い出し、しゃがんで耳を傾けた。
「……はい、何でしょう」
 ヤングはセシリアにゴニョゴニョ耳打ちする。
「……えっ……えっ? えええっ!?」
 その内容を咀嚼する度に、セシリアの頭にクエスチョンマークが飛んだ。出来る保証も何も無い、だが、これが成功すれば、この薔薇竜を一発で倒すことだって夢ではないことは事実だった。
「嬢ちゃんなら多分いける!! わいがコツ教えたるさかいな!!」
 セシリアは自分に問いかけた。この作戦に乗るべきだろうか、と。実行することで形勢が不利になる可能性だって大いにある。
 一瞬迷い、躊躇し、それでも彼女は頷いた。勇気なら、胸にいつでも持っている。だからきっと、なんとかなるだろう。知らんけど。

「ほう?……女は強者のようだが……其処の貴様はどうだ? 丸々と肥え、背も小さく、武器もない……貴様に何ができる?」
 目の前に来た挑戦者達を見て、竜は心底愉しそうに蒼炎を揺らす。ふたりは各々に戦闘態勢を取った。
「なんやと〜!? バカにしてられんのも今のうちやで!!」
「その傲慢さでこの世界の住人たちを虐げてきたのですね……暗黒騎士の使命はあなたの様な者を倒す事。覚悟しなさい」
「見さらせ! バカウケ神、一世一代の大勝負や!」
 それを合図に飛び出したのはセシリアだった。ぐんぐんと彼女の視界の炎が大きくなる。
 真っ直ぐに敵を刈ろうとする彼女に、業火の如き花弁が降り注ぐ。彼女はそれらを漆黒の大剣で薙ぎ払い、薔薇を吹き飛ばす。
 だが払いきれなかった露がちりちりと彼女の頬を、髪を、肌を焼く。分厚い鎧の内側が蒸されて脳の動きが鈍る。
 セシリアはそれでも尚走った。せめて囲まれないように、と進路を切り開きながら。
 彼女は想い返す。この世界で出会った物たちの事を。
 背負うべきでは無かったはずの運命を。
 その刹那、銀の瞳が使命を纏って輝いた。

「ここで倒れるわけにはいきません……人々を想えばこれしきの苦境!」

 集中力が研ぎ澄まされ、暗黒騎士の感覚が鋭くなる。漆黒は俊敏かつ繊細に小さな花びらを避けていき、瞬く間に竜の麓に辿り着いた。
 彼女は細く息を吐くと、一気に植物で出来た過去の残骸の背を駆け上がる。
「小癪な……!!」
 炎を避けながら、軽やかに、確りと登りつめる彼女を振り落とそうと、竜が身をよじろうとしたときだ。
「いくで、必殺【ゴム・パチ~ノ】!」
 ばしゅっ!!
 たこ焼き頭が豪速球の如く投げたのは、白いゴム紐だった。が、竜はそれを鼻で嗤う。
「遅いわ!!」
 竜はゴム紐に蒼い炎球を放つ。それが触れるや否やといったところでドゴオオオオオオン!! と途轍もない轟音を立てながら爆発した。
 その光景を見ながら悦に浸る竜に、冷水がかけられたような錯覚を覚える声が聞こえた。
「残念! それはフェイントや!!」
「ハッ!!」
 爆風に髪を乱したセシリアが、ガッ!! っと竜の胴体の一部に暗黒剣を突き立てる。重力を利用したその攻撃で、めり、めりめりめり……と軋む破壊の証がヤングに伝わった。
「でかした!!」
 セシリアが暗黒剣を引き抜いたあとに開けた風穴に、くるくるくるっ!! っと超強力なゴム紐が絡まる。セシリアはそれを確認すると、目にも止まらぬ速さで竜の身体から退避した。
「何を……するつもりだ……!!」
「そらぁ……決まっとるやろ!!」
 ヤングが、大きく腕を振り上げた。
 それに追従するようにゴム紐が伸び、地に縛り付けられていた竜を浮遊感が襲った。

「のびーるのびーる……離したらあかんで! 離したらビュビューンと飛んでってえらいことなるでぇ!!」

 そして、無造作に腕を振るった。
「そーら、びったんびったん!」
 白砂が砂嵐になる程に竜は地に這いつくばり、宙に浮くのを繰り返す。強制的な蹂躙は、行動そのものの邪気の無さを凌駕するほどに強烈だった。
 ブンブンと振り回される竜を見て、平衡感覚があるものは思わず口を押さえたくなるかもしれない。あの巨躯が玩具のように何度も何度も地面に叩きつけられる様子は、先までの威厳など、まるでなかった。
 そしてその時は突如として訪れる。
「ぱちーーーーん!!」
 ヤングが、ゴム紐から手を離した。
 世界の摂理に従い、ゴムは急激に縮んで厄災に襲いかかる。
 ばっちーーーーーーーーん!!
 ゴムと侮っていられない程にその力は恐ろしく、厄災はその衝撃でギュンッ! と、時速150kmを超えるほどの勢いでぶっ飛ばされる。例えるならば、砲弾が龍の形を取ってしまっているかのようだった。
 その先には、暗黒騎士がいる。
「今やで嬢ちゃん!!」
「はい!」
 セシリアは、飛んでくる薔薇竜に対して、身体が横向きになるように待ち受けた。
 暗黒大剣を両手で持ち、利き手を上にし、手を手を近づけてるような、普段とは違う持ち方をして。
「これ以上悲しむ者を増やさぬ為に、彼らが胸を張って生きていけるように……厄災の竜はここで討つ!」
 スッと体重を移動し、剣が水平になるように気をつけながら。
 セシリアはその暗黒を思い切り振り抜いた。
「葬らぁあああああん!」
 ズバァアアッ!! と黒い軌跡を描きながら、彼女の見事な太刀筋が竜を断絶する。その瞬間にそこから上に確かに存在していた竜の上半身がばらりばらりと崩れ、地面に落ちた途端にサラサラと消えていった。
 小さな信者達の大きな歓声に、ヤングは黄色いジェット風船が飛び交う様子を幻視した。
「これが必殺“野球剣”……な〜んてな!!」

「ヒューッ!! 流石やで嬢ちゃん!!」
 ヤングはセシリアに駆け寄り、グッ! とサムズアップする。女騎士は戸惑いつつも、頭を下げた。
「ええと……お褒めに預かり光栄です」
 コメディアンは彼女の背をぱしぱし叩き、ぽてぽてと厄災の跡に近寄った。
「どや?? 今までちっちゃい子ら相手にイキっとったんが
こんなギャグみたいな技で倒されるとかどんな気持ち?」
 ヤングは画面を今にもプギャーと言い出しそうな絵文字に変え、綺麗に真っ二つになった竜の断面に向かって煽った。
 それを、セシリアは引き止める。
 嫌な予感がした。
「……いえ、まだです!!」

「フ、フフフフフ、ハハハハハハハ!!」

 地の底が、先程と同じかそれ以上に激しく縦揺れする。
「真逆、真逆この我が、こんなアホみたいな技で枯れかけるとは思っていなかったぞ……!!」
 何処からともなく聞こえる声は、ついさっき倒したはずの厄災の唸りだった。
「だが……未だ我は本気ではない……!! 今のは少々油断していただけだ……!!」
「すんごい負け惜しみ言うやん!!」
 そう思わずツッコむヤングの後頭部からベシッ!! っと強烈な衝撃が来て、彼はべふっ! と砂に叩きつけられた。
「大丈夫ですか!?」
 セシリアが起こそうとするが、ヤングは既にぽよんと起き上がっていた。
「ブハッ! なんやなんや!? ツッコミにしては強火過ぎるやろ!!」
 彼の頭を打ったのは、竜の蔦だった。
 しゅるり、しゅるうり。
 その蔦が蠢き、纏まり、竜の胴体が、頭部が、炎が再構築されていく。
「散々コケにしおって……許さん、どうやら本気を出すときが来たようだな……!!」
 新しく作り上げた身体を確かめるように、竜は大きく伸びをする。
「うわわわわ!! 薔薇のくせにコケって何やねんって言おうとしたのにそんな暇なく更に生えよった!!」
「……!!」
 厄災は、小世界の隅々まで聞こえるように激高した。その咆哮は音割れしているように耳障りで、がんがんと響く。
「もう御遊びは終いだ!! 貴様ら猟兵も!! 矮小な傀儡ごときも!! 全て過去に引きずり込んでやるわ!!」
 地獄は、終わらない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アリシア・マクリントック
私は自分がそこまで立派な存在だと思ったことはありませんが、一人の武人として、一人の貴族として……目の前で助けを求める者くらいは救ってみせます!悪しき竜よ!私の生き様、とくとその目に焼き付けなさい!

迅狼爪牙(じんろうそうが)を手に危険を承知で相手の懐に飛び込みます。たとえこの身が傷つこうとも構いません。私は私のノブレス・オブリージュを果たすまで!刀の銘のとおり、狼のように迅く!迅しく!
接近してしまえば爆発を伴う攻撃は封じられるはず……敵が格闘戦を仕掛けてくるよう誘ってブシドー奥義、五の太刀・蛇目菊で反撃です!


オルヒディ・アーデルハイド
そうだね。もう遊びは終わりにしようか
みんなの思いは受け取った
『華麗なる姫騎士』でプリンセスナイトに変身
〔勇気〕をパワーに〔魔力溜め〕て〔ランスチャージ〕
みんなの希望を背負って光の粒子を身に纏い飛翔能力で
自ら希望を照らす一条の光の槍になって
〔串刺し〕して相手の身体を突き抜ける〔貫通攻撃〕
フワリンを『槍騎兵ムシャリン』に覚醒させて
『幻想彗星突撃槍』で〔ランスチャージ〕による追加攻撃で〔継続ダメージ〕を与える
相手の再生速度を上回る勢いで攻撃を繰り広げる



●護るものとしての覚悟
「そうだね。もう遊びは終わりにしようか」
 地獄が形成されていく海底で、オルヒディ・アーデルハイド(アリス適合者のプリンセスナイト・f19667)は蒼い炎と赤い薔薇を見上げる。その隣には気品ある黄金の髪を湛え、一振りの退魔の刀を携えた女性、アリシア・マクリントック(旅するお嬢様・f01607)がいた。
「かみさまが、ふえた」
「かみさま」
「きてくれた」
「ありがとう」
 後ろから聞こえた小さな震え声に、アリシアは少し応えるのを躊躇する。
 己は貴族の娘であれど、決して“かみさま”などという大袈裟で立派な存在だと思ったことはなかった。だが。

「みんなの思いは受け取った?」

 隣の猟兵の幼く澄んだ声に、思わずそちらを見る。
「ボクは受け取ったよ」
 そうだ、迷える民を助けるのは、神だけの特権ではないはずだ。
 自分は一人の武人として、一人の貴族として。
「(……目の前で助けを求める者くらいは救ってみせる!)」
 アリシアはそう決意し、狂乱に喘ぐカタストローフェをキッと見据えた。
「悪しき竜よ! 私の生き様、とくとその目に焼き付けなさい!」
 それを聞いたオルヒディが翻したスカートから光の粒が舞い、包み込んでいく。
「愛と勇気と希望を抱きしめて」
 正義を貫く者達は、護るべき者の為に各々の手段を構えた。姫騎士はふわりと飛翔し、武人は鋭い牙の如き強さを秘めた太刀を確かめる。
「私は私の、ノブレス・オブリージュを果たすまで!」
「フェアクライドゥング」
 二人はそう言うと示し合わせたかのように厄災を目指した。

「ほう……光か……良かろう、諸共焼き尽くすまでよ!!」
 カタストローフェの周囲を舞う花びらが円を描いて加速し、猟兵に降り注ぐ。
 花びらはその加速により炎を上げる。アリシアは花びらを避けていくが、それは近づくほどに難易度は上がっていく。轟音を上げながらアリシアを追撃していく花びらは、とうとう彼女の頬をかすめた。
 だが、彼女の足は止まらない。光に紛れ、武人はひた走った。
「何、怯まぬというのか!?」
 カタストローフェは驚きの表情を浮かべる。己が傷つこうとも近づくそれはアリシアの覚悟。
 竜は焦りを見せる。命知らずなのか、それとも馬鹿なのかと考えていては、また刈られてしまうだろう。
 そこにあったのは、竜が感じた感情の中でも特段強いもの。
 紛れもない恐怖。
 それ故に、見誤った。竜は、アリシアを潰さんとするあまり、己に一番近く、太い蔦を向けてしまった。
 今だ。彼女は見極めた。
 決して刀の銘に恥じぬように、体現するのだ。
「貴方の相手をするのはこの私です!」
 爪牙が、カタストローフェの大きな蔦を断つ。
「ブシドー奥義、五の太刀・蛇目菊!」

 それに続くように希望の光がカタストローフェを腹を突き抜けた。
「ッカ、ハ」
 花弁が力なくはらりと落ちる。今のは、なんだ。
 竜を貫いた風穴の向こうから、自ら希望を照らす一条の光の槍になった姫騎士の声がした。
「無限の幻想より現実と夢を繋ぐ力をもって覚醒せよ」
 姫騎士の傍らにいた生物、フワリン達の額に、一本の鋭い角が生える。
「とつげき」
 なぁんと鳴いたその桃色の希望達は、カヒュ、カシュッ!! と一陣の光となり強き者を貫いていく。カタストローフェは何が何だかわからぬままにその攻撃の雨を受け続けていた。
 恨めしげなその唸り声も、猟兵たちには届かない。その厄災を過去に還し、弱き者の涙を拭う。それが彼らの使命なのだ。

 切断された蔦に、再生速度を上回る攻撃。これ以上は無い、と誰もが思った。
 なのに、破壊はしぶとく残っていた。
 そこにあるのは、ひとつの狂気。恐れ。
 それを遥かに凌駕する、怒り。
 もう厄災に声は無かった。ただ海底には地鳴りが絶え間なく響き、泣き出しそうに空が震えていた。
 執念が、未練が、闘争を求める災いが限界を超え、竜の形を三度とる。
 だが彼らは絶望しない。希望を捨てない。
 その背中を見てる者が居る限り。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルーク・テオフィルス
ジークムンド◆f19706
アドリブ◎

お前たちはしっかりかくれておいでね
大丈夫、すぐ終わるって言っただろう?
怖くない
僕のジークはとても強いから
絶対に、負けないから

炎を燃やして
全てのものを守ろう
【光を運ぶもの】は
記憶の端にあるいつかの炎とは違う
守る為の炎
ジークも小さいものたちも
この場所も全部

絶対に負けない
そう信じられる背中がそこにあるから
もっと燃やせ、心を強く

でも…それでも不安になるなら手を繋ごう
小さいものたちと一緒に
戦ってるみんなを応援するんだ
僕らの祈りが力になる
この信頼を裏切れるほど
お前は薄情な男じゃないだろう?

ちゃんと倒せたら
笑って言ってやるんだ
ほら、ね
大丈夫だっていっただろって


ジークムンド・コンラッド
ルーク◆f19717
アドリブ◎

そういう姫さんも
きっちり後ろに下がっててくださいよ
もちろん絶対守ってやりますけど
獲物がでかいぶん…加減が効かなさそうだ
はっ、と小さく息をひとつ吐き
得物を構える
踏み込んで、同時に殺気を飛ばして
これで怯むならよし、怯まねぇならそれはそれでやりがいがあるってもんだ
こういうでかぶつは同じ場所を何度も斬るのがセオリーだが…さぁて
傷ついた場所を見切り狙って2回攻撃
その箇所を重点的に狙って【唯の暴力】をぶつけていく

姫さんが守るってんなら
敵の炎は怖くねぇな
まあその分『絶対に大丈夫』って信じさせる戦いをしなきゃなんねぇんだけど
全く、従者使いの荒い主だ
けどまぁ、あの目は裏切れんでしょ


薄荷・千夜子
アドリブ・連携歓迎

えぇ、私たちは彼らを守りにきたのです
その姿見せておかねばなりませんね
炎の薔薇から皆を守るように【結界術】【破魔】【オーラ防御】を組み合わせてUC発動
誰も傷付けさせたりはしませんよ
これからもずっと一緒にいるわけにはいかないのですが、今できることを
そして皆さんが一歩踏み出すお手伝いになるように
これが導きの焔となりますよう
『花籠鬼灯』を掲げてこちらからも炎の【属性攻撃】【全力魔法】【浄化】で災厄ごと祓ってみせましょう
皆さんが安心して暮らせる場となるように…貴方はここで私たちが倒してみせましょう


五条・巴
僕の可愛い子たちを怯えさせる、悪い子はどこかな?

大事な皆を安全な所へ誘導したら
こちらへ目を向けるよう煽るよ

今の僕は気分が良くてね

心も身体も何故か軽やかで、
あの子たちのためにと決めたらいつもより速く動ける。

銃を装填
込める弾はホローポイント弾

その巨躯も、赤い薔薇も
この鉄の花をもって散らせてあげよう

僕より後ろに攻撃は行かせない

言っただろう?
僕の射程範囲内、あの子たちは僕のもので僕はあの子たちのものだよ。
僕の周り全部、不安な思いさせてあげない。

さあ、空をご覧
君を射抜く、彼女の姿を

肢体を視覚を奪ってその場で磔に

ここは僕に夢を見せてくれる場所だったんだ。
邪魔者は疾くとご退場願おう



●祈りを背に
 災害が声無く吠えている。手当り次第に全てを壊そうと息づいている。
 何もかもを薙ぎ払わんとする蔦が、物達に迫り、世界が暗くなる。竜の胴体が蒼く燃え上がり、無数の火炎を思わせる花も無秩序に落ちてくる。
 もう十分だ。もう沢山だ。
 はやく、はやく終息してくれ!!
 その願いが世界を包んだときだった。

 暗中に、朱く眩い輝きを放つ鬼灯が焔を揺らめかせて浮かんだ。

「守りの青星、花盾となれ!」
 “かみさま”が、救いを求めるものの目前に現れた。

 破壊が肌のない物達を襲うことは無かった。桔梗の花を模した青の盾がその衝撃を全て受け止めていたのだ。
 展開していたのは、一人の少女だ。小さな物達からしたら大きな背中が、縮こまった物達を庇うように立っていた。
 彼女は薄荷・千夜子(陽花・f17474)。花と炎の戦巫女である。
 千夜子が助けた物達を、また別の影がフォローする。赤い髪の少年、ルーク・テオフィルス(亡国のアリス・f19717)と藍色の眼の青年、五条・巴(照らす道の先へ・f02927)だ。彼等は驚いてる愉快な仲間たちを正気に戻し、または優しく言い含め、その拍子に慌てて躓くものを起こしていく。
 ルークは物達に真剣に言った。
「危ないからお前たちはしっかりかくれておいでね」
 そんなルークの行動に、時計ウサギの従者、ジークムンド・コンラッド(壊れた時計・f19706)が冷や汗をかく。
「そういう姫さんもきっちり後ろに下がっててくださいよ。もちろん絶対守ってやりますけど」
 ルークは彼の忠告に是を返す。自分が何かに攻撃を加える力が無いのはわかっていた。それもそうなのだが、この物達を避難させるためにも後ろに下がらなければ。
「でも、どこにいけばいいんだろう……?」
 周囲をきょろきょろと見渡すルークに、千夜子は言う。
「この術式が守っている範囲ならば、余波などは私が防ぎます……が、この地響きです。できるだけ遠くに行った方がいいでしょう」
 そこで動いたのは巴だった。
「誘導は僕に任せてくれるかな?」
「え……?」
「大事な皆を安全な場所に隠したら、直ぐに戻るよ」
 その言葉に、ジークムンドが真っ先に頷く。
「じゃあ姫さんもそっちで待っててくださいよ」
「わかった、ジーク。竜は頼んだ」
 主従の淀みないやり取りを見た巴は、千夜子に言った。
「あの子達が逃げるまでの時間を作ることを、君にお願いしたい。良いかな?」
 彼の要望に、千夜子は緑の瞳を使命感で満たす。
「……はい! わかりました!」
 ルークと巴が愉快な仲間たちを前線から遠ざけてくれる。それなら、自分がやるべき事ははっきりとしていた。
「誰も傷付けさせたりはしませんよ!」
 桔梗は彼らを守るために存在している“誠実”だ。その千夜子の姿は、物達の足取りを真っすぐにさせた。

「とは言え、僕は安全な場所知らないんだよね」
「えぇ!?」
 愉快な仲間たちを率いて二人の猟兵が早足で竜から遠ざかっているとき、巴がルークにしか聞こえないくらいの声でそう言った。
「じゃあ僕達どこに行けばいいのかわからないだろう……!」
「ふふ、ごめん。でも、おおよその目途は立てられるよ」
 茨が無い場所。巴はそうルークに言った。
「茨……?」
「そう。蔦が無い場所だよ。少ないだけじゃいけない」
 巴は、彼の信者と歩いた時に見かけた茨の蔓を思い出してそう告げた。あれは地に潜んでいた厄災竜の一部だと、今ならわかる。ならば、それを避けるべき目印にすればいいのだ。
 その上、彼等は思っていた。
 “多少危うい場所だったとしても、自分が全て守れば問題ない”と。
「君なら知ってるかな」
 少し思案し、ルークは閃いた。
 向かうのは、枯れ木だった森の奥。
 従者と、“てんし”と共に癒した森だ。

 森の奥に辿り着くと、巴はルークに「あの子達と一緒にいてあげて」と言ったっきり厄災の方に向かっていった。現在ここにいる猟兵はルークだけである。
 少し遠くにいたとしても、厄災から伝わる地響きは絶えない。ルークは大小様々な物達に励ますように声をかけた。
「大丈夫、すぐ終わるって言っただろう?」
 そう、愉快な仲間たちに優しく笑顔を届ける。
「怖くない」
「こわくない?」
「うん。僕のジークはとても強いから」
「とっても?」
「うん」
 するとルークは、糸のないマリオネットが震えていることに気が付いた。
「怖いか?」
 マリオネットは、コクリとうなずく。臆病な性格なのだろうか、“かみさま”を信じてはいるようだが、それでも怯えていた。
「手を……繋ごうか」
 ルークはそれに、そっと手を差し伸べた。
「大丈夫。僕らの応援が……祈りが力になる」
「いのり?」
「うん。皆の祈りは、きっと届くさ」
 するとマリオネットは、勇気を出してその手を掴む。
「絶対に、負けないから」
 その言葉は、これから起こる事が予め定められた物事のように感じさせる程に確信を持っていて、ルークに手を握られた出来損ないは、木でできた瞳から安堵の涙を零した。

●導きの焔はその先へ
「あっちのほうは大丈夫そうだな」
 竜と対峙しているジークムンドは重たく大きな槍を握りしめる。
「獲物がでかいぶん……加減が効かなさそうだ」
 ジークムンドは、はっ、と小さく息をひとつ吐いて、長い柄を握って穂先を少し下に向け、構えをとってダン! と一歩踏み出す。だが、これだけではカタストローフェは怯まない。否、そんな余裕などないのだ。他の猟兵の攻撃により傷つき、死から逃れようとする視線だけを向ける。
 ならばとジークムンドは懐に飛び込み、竜の胴体を駆け上がる。下段から切り上げるように、武器を単純にぶんと振るった。
 鋭い踏み込みと勢い。ただそれだけのものだったが、その切っ先は見事にカタストローフェの喉元をとらえる。
「まあ、これだけじゃ終わらないよな」
 カタストローフェは喉の傷を一応認識したのか、一瞬止まったあと、蒼い炎を出現させた。破滅を呼ぶその球体が、視界を奪わんとする。
 そんな触れればただじゃ済まない炎がジークムンドに降り注ぐが、彼の心には一欠けの恐れも無かった。

 脳裏に、大切な人の声が聞こえたから。

 お前は負けない! 絶対に!

 その刹那、ジークムンドに炎の力が授けられる。ジークムンドだけではない。近くで戦っていた猟兵達にも、愉快な仲間たちにも、海底に息づく泡の出る植物にも、その温度が感じられた。
 蒼い炎がジークムンドに接触しようとしたとき、その炎がそれを飲み込み、さらに燃え上がってジークムンドの武器に力が集約する。
 あぁ、主の言葉は想像がつく。それは己の想像のまま創造される。

 この信頼を裏切れるほど。

「(全く、従者使いの荒い主だ)」

 お前は薄情な男じゃないだろう?

「(けどまぁ、あの目は裏切れんでしょ)」

 ジークムンドはもう一度先程切りつけた個所めがけて、切っ先を向ける。狙いを済ませて今度は一気に振り下ろすと、そこから風圧による衝撃が、カタストローフェを突き抜けた。
 まだいける。ジークムンドは跳ねながら昇りつめ、遂に首元に足をかけた。
 赤い薔薇を宿した片目を潰す! 刃を引き抜いては、更に脳天に叩き込む!! 技などというものは何もない。これは鍛え上げられた暴力の果てにあるものだった。
 竜が地に伏しても、炎花を散らしても、ジークムンドは平気だった。主が己を守る炎の力が強くなっていくことが何よりの証明だったから。
 離れたところにいても、絆が繋がっている。
 彼は、主に何があっても大丈夫と思わせられるような戦いをしていると同時に、彼自身も主の無敵のちからを信じていた。
 盲信だろうか、過信だろうか。否、そんなちゃちなものではない。
「信じるものが信じている己を信じた」だけの、揺るぎなく純粋な決意なのだ。

 そうしていると、竜の足元を焼く赤焔の花畑が生まれた。ジークムンドは鬼灯の形の繊細でありつつも強い光を掲げた少女、千夜子の存在を地に確認し、これは彼女の力だと気が付いた。
「皆さんが安心して暮らせる場となるように……貴方はここで私たちが倒してみせましょう」
 爆風や蔦が、ルークや物達がいる場所に届かなくなったことを確認した千夜子が来たのだ。厄災を速やかに浄化するために。
「(これからもずっと一緒にいるわけにはいかないのですが、今できることを。そして皆さんが一歩踏み出すお手伝いになるように)」
 彼女の浄化の焔庭は、暴竜が蒼炎に包まれていてもなお、着実なダメージになっていっていく。
「これが導きの焔となりますよう」
 千夜子の焔は、地獄に花園を咲かせ、ルークの炎は海底に太陽を創る。
 それのどちらもが、ただの火だと言ってしまえばそこまでだが、その清らかな赤色は、蒼い世界においてひとつの希望となり、道標となる。
 それはすべてを燃やす厄災とは違う。
 また、ルークの記憶の端にあるいつかの炎とも違う。
 彼らの焔は、此岸を守り、彼岸から護られるための光なのだ。

 その時、一際破滅的な爆風が世界を壊しかけた。
 ルークの加護が無ければ、千夜子の浄化が無ければ、内臓が破れていたに違いない。
 ジークムンド自身は無傷だったものの、その予測していなかった動きは彼を地に叩きつけた。
「チッ」
 砂に塗れたジークムンドは直ぐにその場から跳躍し、距離を取る。
「大丈夫ですか!?」
 千夜子は近くに落ちたジークムンドに声をかけた。動いているのは分かっていたが、それでも一目見て確認しておきたかったのだ。
「あぁ、俺はな」
 ジークムンドはそう言って竜を見上げる。

 あと、もう一息だ。なのに、厄災はその名を表すかのように四肢を暴れさせている。
 それはまるで巨人の赤子が癇癪を起こしているかのよう。理不尽で手出しができない。
 地響きが世界を覆い、己の全部を放り投げ、自壊しながら暴走する獣。それが生み出す大地震に、物達と共にいるルークは天井が決壊するかもしれないと思ってしまった。
 ルークはふと疑問に思った。
「(この世界の泡の壁が消えたら、皆はどうなるんだ)」
 ジークムンドの力も、他の猟兵の力も信じている。だが、世界の強度について何も確証が無い事実に、ルークはハッとした。
 まずい、はやく、倒さなきゃ。
 彼は焦燥感のままに小さいもの達を見て、息をのんだ。

 弱きものらは身を寄せ合っていた。ぬくもりを胸に。
 一部の信者は縋っていた。きっと、あの方が救ってくれるのだと。

●罪に罰
「さて……ここからどう近付くかな」
「あとほんの、ほんのちょっとなんですけど……!」
 ジークムンドと千夜子は、そう獣を見据えて苦々しい表情を浮かべる。
 どうしたものかと思わず空を見た千夜子は、あっ! と声を上げた。
「……いけません! このままじゃ、天上が割れるのは時間の問題です!」
 それを聞き、ジークムンドも状況を理解する。
「なんだと!? なら、さっさと息の根を止めねえと!」
 ジークムンドが声を荒げた時だった。

「僕の可愛い子たちを怯えさせていた、悪い子はここかな?」

 彼らの目の前を魔性が通り過ぎた。
 森の奥から戻ってきた巴が、ジークムンドと千夜子の前に出てきたのだ。
 災害を前に見返ったその表情は、底知れぬ微笑。

「僕にやらせて」

 千夜子はそれを聞き、浄化の炎の矛先を竜の末端に向ける。このまま決定打が無いまま持久戦となってしまうなら、自分の全力を超えてもこの薔薇竜を燃やしきるしかないと思っていた。
 だが、遠距離から最後の大きな一発を食らわせられるならば話は別だ。もし巴がどんな戦術をとったとしても、厄災が還った後に残るものが害を及ぼさないとは限らない。二次災害を避けるため、千夜子は迷わなかった。
「おう、頼んだ」
「お願いします!」
 その猟兵達の言葉に感謝を示し、巴は竜の形をしたものに向き直った。

「さて、今の僕は気分が良くてね」
 巴は己の銃身に、静かにホローポイント弾を装填する。
 彼は護るべきもののためと思うと、普段よりもずっと心も身体も軽いと感じていた。

「もう、僕より後ろに攻撃は行かせない」

 巴は、言ったのだ。己の射程範囲内、信者達は彼のもので彼は信者達のものだ、と。

「僕の周り全部、不安な思いさせてあげない」

 愛おしいあの子達から信じられるに足る行いをしてみせる、と。

 地鳴りよりずっと小さな銃声が、何故か福音のように鳴り響いた。
 大型動物の狩猟を目的として作られたその銃弾は、闘争の獣を一直線に射抜く。もう既にそれはとどめとなり得るものだった。
 だが、彼は、“かみさま”は罪人を許していない。
 炎花の蕾に、更に鉄花が咲いた。ひとつ、ふたつ、みっつ。みるみるうちに体の端から千切れ飛び、あれだけあった巨躯が小さくなっていく。厄災だったそれは再生も出来ずに、断罪を待っている姿になった。
 そして、遂に、巴はその眉間に狙いを定める。
「ここは僕に夢を見せてくれる場所だったんだ」
 彼の頭上にいるのは「最も美しい」事を意味する名。哀しき母熊となった乙女、そして純潔の象徴の呼び名のひとつ。

 上空を仰げ、忌まわしき竜よ。
 お前を射抜く、“彼女”の姿を。

 最後にその竜の潰れていない片目が映したものは、赤い焔に照らされ、その光を受けてもなお輝く七つの星々。
「邪魔者は疾くとご退場願おう」
 そして、この世界の“かみさま”達の中で、一番信奉者を集め、一番信奉者の心の中にいた男の瞳に似た弾丸だった。


「ほら、ね」
 地響きが無くなった森の奥から、祈りしもの達が出てくる。
 遠くで砂の柱となる厄災を目にした愉快な仲間たちに、ルークは自慢げに笑った。
「大丈夫って言っただろ」

●信じ、仰ぐということ
 オブリビオンを倒したということは、この世界から離れるときが来てしまったということだ。
「かみさま……?」
「どこに行くの……?」
 信仰は簡単には消えない。巫女はそれを承知の上で、守ることが出来た物たちに語り掛ける。
「貴方たちならば」
 私たちが、“かみさま”がいなくても大丈夫。そう言おうかと一瞬悩み、やめた。
「支えあって生きていけます。私たちはこの地から離れますが、心は貴方たちと共にあります」
 千夜子は、太陽の笑みを彼らに向け、灯を掲げた。
「辛くなったら私たちの姿を、この焔を思い出してください。もしも貴方たちを危険に晒すものがいるなら、必ず助けが来ます」
 彼女の言葉を合図にしたように、白砂が遠ざかっていく感覚がする。猟兵達は多くの救うべき者達を救うために、彼等を残して往かなければならないのだ。
 小さな愉快な仲間たちは、寂しそうだった。心細そうだった。
 だが、もう何も信じられないほど弱くなかった。彼等が信仰を捨てぬ限り、心が折れることは無いのだろう。
 いっそ、救済をもたらすものが“猟兵”でも“神”でも、彼等には関係ないのだ。
 一番大切なのは、“支えになるものがあるかどうか”“救われたかどうか”。
 月を望む表現者は、亡きものに繋がれあう主従は、咲き誇る巫女は、そんな実感がぬくもりと共に心に浸み込んでいくのを感じる。それが善いか悪いかを判断するのは、“猟兵”だろう。
 それでも、見るといい、役目を終えた“かみさま”達よ。

「私たちを救ってくれて、ありがとうございます! かみさま!!」

 君たちが与えた信仰の果て、傀儡にいのちが宿った!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年01月17日


挿絵イラスト