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アラシのちハレ缶

#アポカリプスヘル


●マイニチハレバレ!
「いい加減、オレたちに任せてすっこんでろってんだ!」
「そんなこと言って、アンタたちの取り分を多くしようって魂胆でしょ?」
 睨みあうバンダナ少年とフード少女。
 互いに突きつける銃口が第三の目のように、つめたい金属面へ景色を映り込ませていた――それは。
 潰れた機材、積み上げられた空箱。転がる楕円や四角の容器から、土じみた物体が散らばっている。蓋に描かれた舌なめずりするポップな太陽……"ハレ缶"たちの、残骸だ。
「オイ、リーダーに銃を向けてんじゃねぇ!」
「先に仕掛けてきたのはそっちだろ? どけ! お前らだけじゃ日が暮れる」
 二者それぞれの背後では、ヤジを飛ばしあう少年少女。
 腕に巻かれたリボンは揃いの縞模様だというのに、今は武器を構えて罵って。アポカリプスヘル、苛烈な生存競争が常であるこの世界では、絆など一晩の飯よりも軽いというのか。
「譲らないっていうのなら……」
「黙らせてやる!」
 鉄パイプが、ガリガリと壁を削った。
 いくら穴あきだとてその程度で崩れる筈もないフロアはしかし、瞬間、轟音とともに土煙に包まれる。――柱を圧し折り暗がりから飛び出した影が、四つ足の獣が、侵入者を銜え逆さに吊って唸るのだ。
「ヒッ」
「ばけも……」
 悲鳴。
 怒号、
 逃げろ! 散れ、無理だ――叫びと乱れる足音に、重なる銃声ひとつ。腹から血を噴かせ、倒れるバンダナ少年へ機械獣が飛び乗って。
「ちがっ……、本当に撃つつもりじゃ、」
「はやく!!」
 腕を引かれ後退するフード少女の手から零れた銃が、かしゃん、と。獰猛な咀嚼音に混ざり、空しく煙を吐いた。

●アラシのちハレ缶
 事の発端は、ちょっとした方向性のズレらしい。
 放棄された缶詰工場にたんまり食糧が残されている――そうした噂を聞きつけた、或いは"掴まされた"奪還者グループが、潜むオブリビオンを引き付け餌食となってしまう。
「こっそり忍び込んでいても、どの道バレていそうですが。言い争いや戦いの音が、きっかけのひとつとなったのは確かかと」
 ニュイ・ミヴ(新約・f02077)は起こり得る未来を掻い摘み説明すると、猟兵に向き直った。
「でも、心から憎んでいたり、命を奪いたいという様子はありませんでした。お腹が減っているだけ……助け合って来られたんでしょうに、この終わりはあんまりなのです」
 事実、機械獣が現れてからは一丸となり応戦する姿も見られたという。
 ただ、無駄に体力や装備を消耗したただの人間が勝利を掴めるはずもなく。――我々の、出番ということだ。
「今ならオブリビオンが姿を見せる前、奪還者同士の衝突に割り込めます。どうか、お願いしますね」
 ハレ缶。そんなにおいしいんでしょうか? 折れ曲がるタールがチカチカとして。
 失うだけの争いを止めさせ。
 たった一食、されど一食。苦境で生きる若者たちに人心地を思い出させてあげてほしいと、光は広がる。


zino
 ご覧いただきありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、ドキドキ工場見学……もとい、アポカリプスヘルへとご案内いたします。

●流れ
 第1章:冒険(内紛)
 第2章:集団戦(マシンビースト)
 第3章:日常(打ち上げ)

 到着時は朝。一階建ての缶詰工場。稼働していないようで埃っぽく薄暗いものの、崩壊箇所から自然光が入り戦闘に支障はありません。

●第1章について
 奪還者グループ内の争いを鎮めてください。方法はご自由に。
 グループは数十人の少年少女で、少数精鋭で迅速に攻略するか全員で慎重に攻略するかふたつの方針で仲間割れしました。現在は数エリアを跨ぎ小競り合い中。
 猟兵のことはまず『缶詰目当てのライバル』と敵視するでしょう。多少の武器を使用しますが熟練度は低く、傷付けば死ぬ一般的な人間です。

●第3章について
 戦利品でささやかな缶詰パーティーです。
 色々な『おいしい』が詰まっている模様。詳細は第3章の導入およびマスターページをご参照ください。

 お手数となりますが……。
 複数人でのご参加の場合、【お相手のIDと名前(普段の呼び方で結構です)】か【グループ名】をプレイングにご記入いただきたく。
 個人でのご参加の場合、確実な単独描写をご希望でしたら【単独】とご記入ください。
 ニュイ・ミヴ(新約・f02077)はお声掛けいただいた場合のみお邪魔します。

●その他
 各章とも導入公開後、プレイング受付開始。
 補足、詳細スケジュール等はマスターページにてお知らせいたします。お手数となりますが、ご確認いただけますと幸いです。
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。
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第1章 冒険 『内紛』

POW   :    戦線に介入し、力ずくで戦いを止めさせる。

SPD   :    妨害工作等を行い、間接的に戦いを止めさせる。

WIZ   :    説得や交渉を試み、和平で戦いを止めさせる。

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 破られた扉を潜り。建物内へ踏み入った猟兵を一番に出迎えるのは、奥の方で炸裂した眩しい閃光だ。
 ビィィィィィ、ィ、と鼓膜を震わせる大音量からして、もはや子ども同士の喧嘩と笑っていられる事態ではない。
「信じらんない! ピカピカ持ち出すとかっ!」
「このっ!」
 対抗し、スタングレネードのピンを引き抜こうともたつく少女。
 てのひらから転げた爆弾は地面を滑り、がつん! ジャラジャラ拳で殴りあう二人組に蹴飛ばされ跳ねた先、プレス機の陰でしゃがむ穏健派を震え上がらせた。
「これじゃあ、本末転倒だよ……っ」
 今までにもぶつかり合うことはあったけれど。久しぶりの大収穫チャンスを前に、多くのメンバーが冷静さを欠いている。
 すこし眠ってろ、なんてコンベヤに括りつけられるボコボコの友人を目にしたとき、気弱な、空腹が憎いだけの少年もまた角材を握りしめ駆け出してしまうのだ。

 誰かが銃を持ち出せば、それを見た誰かがトリガーに指をかける。
 はじまりはみんなのため。いつしか体面を保つためと温度を上げてしまった意地の張り合いも、力を持つ分、歯止めなど利かなくなって。
 この状況に待ったをかけることのできる存在がいるとすれば、それは。
エスパルダ・メア
【鈍器】
柄は悪ィが誰が伝説だ
てか何だそれどっちもでかい
話ってかただただ力ずくじゃねえか、この混沌姉妹…

思わず遠い目で見るが
動きが止まれば竦み上がってるガキを威圧するみたいに歩み寄って見下ろす
張り詰めた気配を緩めてしゃがみ、目線を合わせて
殴らねえし、別に有り難みのある話もしねえけどな
腹が減ってんだろ
そんなもん持ったままだと何も食えねえぞ
ここは戦場で、お前らは同じガキで生きてて、隣のやつも生きててオレらがいる
後は任せとけばいい
今日はいい日になるぜ、ほらついてけ
あっちの怖そうな姉さんと力持ちのちびが遊んでくれるってさ

はいあと宜しく、すこぶる不穏で穏健イディと良い子クラッシャーキディ!


キディ・ナシュ
【鈍器】
わたしは幼女ではないです!
おねえちゃんが子どもたちを固めたら
背負ったスパナさん(でかい)を
子どもたちの目の前に突き立てましょう
怪力に物言わせてどごーんと

大丈夫、当てませんよ
脅しです

喧嘩はいけません、争いは無意味ですからね!
ご飯はみんなで楽しく美味しく、です!
わかりましたね?
ではこちらの伝説のヤンキーさんからの有難いお言葉を聞いてください!
混沌…?穏健…?
ならわたしはとてもとても良い子とのキディと名乗りましょう!

あなたたちが仲良くしてくださるのなら
わたしたちもお手伝いをいたしましょう
こわいものが出てきてもばばーんとやっつけちゃいます
それに協力しあった方が早くご飯を見つけられますよ


イディ・ナシュ
【鈍器】

…何はともあれ、まずは話を聞いて頂く状況に持ち込みませんと
いたしかたありません、と魔導書を開いて
【石礫鶏の鼻薬】を
人より大きな鶏ですが、大丈夫、人肉は好みません
動けなくはなりますが命は奪いませんよ
私は、ですが
仲良くしないと仰るなら
そこの柄の悪いお兄様と幼女はどうするか分かりませんが
…混沌としていますか?穏健派のつもりでいますのに

腹に据えかねる事もおありでしょうが
今は飲み込んで下さいませ
武器を取って戦うべき敵は別に居ると、皆様はご存知の筈ですよ

さて、襲撃を受ける前に避難をして頂きませんとね
エスパルダ様、キディ、負傷者を安全な所までお連れしましょう
…自棄が滲んでおりますよ、お兄様




 それは。
 より強い者だ。

「いたしかたありません」
 ――とは、睨みあいの最中に降って湧いた第一声。
 そうして数えるならば、クエエェェェ、だとかなんとかけたたましい鳴き声が第二の。
 平時の奪還者らであったなら、突如として現れ出た"巨大鶏"へごちそうだ!! と瞳を輝かせたことだろう。いや、事実今だって、飛びつかんと意気込む者はいたのだ。
 ……膝から下が、石として、床とひとつになり動かぬだけで。
「うっ、うわあああ!?」
「ばけものがいやがった!」
 ユーベルコード・石礫鶏の鼻薬。毒ガスめいた怪鳥の吐息が広がる中、開いた魔導書の一頁をそうっと撫でて、元凶たるイディ・ナシュ(廻宵話・f00651)はその大騒ぎを眺めている。
「これでお話を聞いてくれますね。大丈夫、人肉は好みません」
 少なくとも、命までは奪わない。
「――私は、ですが」

 私は。
 言葉通りに、イディの傍らにはもうふたり。
「仲良くしないと仰るなら、そこの柄の悪いお兄様と幼女はどうするか分かりません」
「いや、もう軽くそれどころじゃなさげだが。相変わらずえげつねえ……」
「おねえちゃんの鳥さんたちは今日もかわいらしいですねぇ!」
 逞しい羽ばたきが起こす風に外套を煽られつつ、一方のエスパルダ・メア(ラピエル・f16282)はすこしだけ遠い目をする。
 なんだか追い回して、おまけに啄んで見えるのだが。きっと蚤退治だとかそんな感じのスキンシップに違いない、多分。
 ぴょんことはしゃいで跳ねたのは甘やかな暖色をしたキディ・ナシュ(未知・f00998)で、でもでも、と。
「わたしは幼女ではないです! えーいっ」
 大きく振りかぶり。混乱の只中へ、更なるデカブツを投入した。
 ぶおんっ。
 例えるとして事故車のパーツが吹っ飛んでいくかの、そうした重量伴う風切りの音。
 投げられたのはハレ印の眩しいスパナ――さん、否、貫禄からして様付けが相応しかろうか、ともかくまさしく凶器のそれが、奪還者らの足元スレスレへ突き立ったのだ。
「ヒャッ」
「あ、ぁわ……」
 進む石化により尻餅をつくことすら出来ず文字通り"固まる"少年少女。それと真っ直ぐ目を合わせ、落ちてきた瓦礫へ飛び乗って高さを稼ぎキディは手を叩いた。ちゅうもーく!
「喧嘩、していたでしょう?」
 ――喧嘩はいけません、争いは無意味ですからね!
 ――ご飯はみんなで楽しく美味しく、です!
 極めつけに「わかりましたね?」こてんと愛らしく首を傾げて。

「では。こちらの伝説のヤンキーさんからの有難いお言葉を聞いてください!」
「ここでオレに振んのかァ……。柄は悪ィが誰が伝説だ」
 余波で天井から落ちる砂埃も止まぬというに。ただの力ずくじゃないかこの混沌姉妹。
 がしがしと頭を掻いたエスパルダは、逃避のため細めていた瞳を瞬きののちに鋭くする。傍目にも最早縮み上がるスペースがなさそうな石像もどきの前へと大股に詰めて、上体を二十℃ほど折った。
 所謂、ヤンキーメンチ。
「兄貴!!」
「ぐっ……くっそ、腕さえ動けばテメェらなんか!」
「ほぉー。威勢だけは良いらしいが」
 奥歯ががちがち騒がしいのは、自分でも気付いていないのだろう。……その虚勢を鼻で笑うことはしないエスパルダ。兄弟であろうか、ちらと視線を巡らせた先で必死にもがく似た毛色の少年を見ては、今一度瞼を伏せた。 開いて、
「……殴りゃしねえよ。ま、別に有り難みのある話もしねえけどな」
 屈む男は、ぱ、とカラの手をひらつかせる。ちょうど同じ目線の高さとなり、噛みつかんばかりに唸る"兄"とやらへ茶化すでなく口端を上げ。
 腹が減ってんだろ。
 続けた言葉は、粗さの中にあたたかさを溶かす。

「そんなもん持ったままだと何も食えねえぞ。ここは戦場で、お前らは同じガキで生きてて、隣のやつも生きてて」
 ――そんで、オレらがいる。
 エスパルダのやや後方では端整な人形の如きつくりのふたりがにこりと微笑む。とても化物とスパナをぶちまけた張本人とは思えぬ穏やかさで。 ……奪還者らの目線がやや上振れしたのを遮りながら、まあつまりだ、と。
「後は任せとけばいい。今日はいい日になるぜ、ほらついてけ」
 あっちの怖そうな姉さんと力持ちのちびが遊んでくれるってさ。
 男が少年の肩を叩くのを合図としたかのように、石の魔法は綻びはじめて。
 途端に突き出された肉付きの悪い拳を難なくぱしっと受け流してから、何事もなかったかの身軽さでエスパルダは踵を返した。
「はいあと宜しく、すこぶる不穏で穏健イディと良い子クラッシャーキディ!」
「……?」
「お前らだよ!」
 なんてやり取りりのち。
「……混沌としていますか? 穏健派のつもりでいますのに」
「あら。ならわたしはとてもとても良い子とのキディと名乗りましょう!」
 ねぇ、と、囁くイディはバンビよろしく震えて立てぬ子へ手を貸してやる。暴れはしない。……敵うはずもない。過る色は疲れや諦めに似ていたが、それでよかった。 少なくとも、今は。
「腹に据えかねる事もおありでしょうが、今は飲み込んで下さいませ。武器を取って戦うべき敵は別に居ると、皆様はご存知の筈ですよ」
「こわいものが出てきても、わたしたちがばばーんとやっつけちゃいます。それに、協力しあった方が早くご飯を見つけられますよ」
 あなたたちが仲良くしてくださるのなら、お手伝いを。
 屈託なく破顔するキディへは躊躇いがちな「でも……」が返る。何も返せるものはない。唇が弱音を吐きかけたとき、しかし少女人形は僅かも翳らずまた待たず、傷付いたものの手をきゅっと繋ぎ歩きはじめた。
「ほらほら、前を向いて歩かないと。おいしいご飯、わたしが先に見つけちゃうかもです!」
「そ、それはだめっ」
 ……きっと、打ち解けるのも早いだろう。
 ひと先ずは負傷者を安全な場所へ。
 眺め眺め、気儘に後を追うエスパルダの袖を引くものもあった。 先の少年ふたり、だ。
「アンタらのこと、まだ信じちゃいねぇけど。兄貴を殴らなかったことだけは、……感謝してやる」
「ハッ。そうかい、きょうだいってのは大事にするもんだ」
 言って、エスパルダがぐわっと伸ばした手の行く先は見上げるぼさぼさ頭だったろうか。
 しかし。
「エスコートが必要でしょうか、エスパルダ様」
「あーはいはい、いま行くっつーの」
 年下の娘っ子、更にはイディに恭しく手を引かれる未来はノーセンキュー! 五指は引っ込みポケットへ。背を丸め足早に先行く男の姿に、顔を見合わせた少年らは頷き――、追いつかんと駆け出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
雛[こども]が総出で喧嘩か
落ち着かせるが先だが
口で言っても聞かなかろう

杖に自身の血を与え
魔素を大量に吸収させる
私の血は魔素が濃い
大量の水を生成し、
雛等全員に浴びせよう

人間で云う、"ヒヤミズヲアビセル"だ
否[いや]、"アタマヲヒヤス"か?

改めて
落ち着いてください、雛等
戦地で仲間割れをなさる
戦士とは呼べません
雛で充分です

貴方方の救助が、私の依頼
どうぞ落ち着いて頂けませんか
でなければ
実力行使に出なければなりません

御協力、有難う御座います


渦雷・ユキテル
堪えきれずに笑っちゃう
待って待って、息をするのも精一杯!

あーあ、派手にやりあっちゃって
他の敵がいる可能性と、気付かれてたとしてもいま止めれば
体力と弾の消費を避けられる旨を伝えます
今の状況と装備品の価値を把握して貰えたら嬉しいですね
気を惹きつつ反感は買わないような声音と微笑みで【言いくるめ】

騒ぎでハレ缶駄目になったら勿体ないってだけなんで
死んだら死んだなんですけどそこは隠しときまーす【演技】

自分からは仕掛けませんけど悪い子が向かってきたら
出力抑えたサイキックブラストで痺れてもらいます
武器なんかなくたって、ほら、こんな簡単に無力化できちゃう
それを分かってもらえれば充分ですよね?

※絡み・アドリブ歓迎


月守・咲凛
SPD使用、アドリブOK
人同士で殺しあうなんて、絶対にダメなのです!
止めるためであれば手段は選びません。
ユーベルコードを使用しながら、腕部ユニットのガトリングで一帯にいる人たちのおでこにペイント弾でデコピン程度のダメージを与えた後に
ふりーず。どんむーぶ、です。と声をかけます。
ペイント弾じゃなかったらどうなっていたかはわかりますよね?次はありません。
エリアの奪還者達を制圧したら、プンプン怒りながら仲間の命を大事にするようお説教して、一人一人に手持ちのキャンディや小さいチョコ等のお菓子を配って先ずは落ち着いて貰います。
それで落ち着いてくれない人にはチェーンソーを突き付けて落ち着いて貰うのです。




「人同士で殺しあうなんて、絶対にダメなのです!」
「なに言ってんだっ、アンタだってオレらを殺しに――」
 片や奪還者の少年。
 片や猟兵、月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)。長く伸ばしたブルーの髪がふんわりと無重力の様相。ユニットの出力を上げ、下げ、トリッキーに機動する娘は現実に空間を自在に駆け巡っていた。
 彼女が過った数秒後の壁に穴が開く。
 お返しに、差し出すものは殺傷性のある弾丸ではない。額へ着弾すると同時弾け、少年少女を染めてゆく――色とりどりのペイント弾だ。
「いっ、」
「殺しません。だって、痛いでしょう? ペイント弾じゃなかったらどうなっていたかはわかりますよね?」
 次はありません。
 構え直した腕部のガトリングがからからと音を吐く。お望みならばいつでも実弾をお届けできると、そう。
「ふりーず。どんむーぶ、です」

 ……遊んでいるように、見えぬこともないが。
(「雛(こども)が総出で喧嘩か。落ち着かせるが先だが、口で言っても聞かなかろう」)
 頃合いだろう。
 徐に手の甲へ牙を喰い込ませると、杖へ己の血を与うイリーツァ・ウーツェ(虚儀の竜・f14324)。そうして吸収させる魔素は、血統故に濃い。まぼろしめいて蒼く火の粉が舞ったかと思えば、呼び水となり不可思議を引き起こす。
 此度、水のかたちとして顕現したそれは。
 ばっしゃあああ、と、頭上高くよりエリア一帯へ降りかかった。
 穴あきの空に雨雲は――ない。今日だって大地は乾いている。それならば何故? 何処から。狐に抓まれた如くぽかんとする少年少女を前に、イリーツァは水圧で押し流されてきた銃を足蹴に止める。
 人間で云う、"ヒヤミズヲアビセル"。否、"アタマヲヒヤス"か?
 ――改めて。
「落ち着いてください、雛等」
「なッ……ひなぁ!? ふっざけ、」
「戦地で仲間割れをなさる、戦士とは呼べません。雛で充分です」
 掴みかからんと血気盛んに拳を握った直情少年は、一瞬ののち、水に足を取られ滑りこけた。長らく水地など歩いていないのやもしれない。その頭が床のでっぱりで強打する前に腕だけ掴み上げ、それから平らな面へ落とすイリーツァの行為はきっと奇天烈に映るだろう。
 それでも、戦って、勝ち取らなくては――武器を掴もうとした手が空振ることにハッとして"雛"が振り返った先では、華麗なターンで水からの回避を成功させていた咲凛が持てるだけの武器を取り上げ抱いている。
「この子たちだって、こんなことに使われたくないはずです」
 ゆっくりと首を振って。
 敵? ……味方?
 背には謎の高性能少女。加えて寡黙にして隙のない竜人に見下ろされ、奪還者の間にピンと張り詰めた動揺が広がってゆく。

 ――そのとき。

 ふふっ、ふふふ、あはははは!
 廃墟に反響した女の陽気な笑いは、UDCアースならば確実に都市伝説のひとつとして数えられるそれで――。人影が、ひとつ。ゆらりと増えた。
「むり、息できない……あーあ、派手にやりあっちゃって」
 白い指がひしゃげたハレ缶のブリキをくるりと回している。へぇ、ふぅん、なるほどなるほど。呟きとともに落とされた残骸は、罅の入った床で跳ねて転がって。
 たんこぶを貰いのびた少年を跨ぎ、薄暗闇にも鮮やかな金糸を掻き上げる。笑い声の主、渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)のお出ましだ。
(「ま、死んだら死んだなんですけど」)
 あの缶詰、駄目になったら勿体ないし?
 こつこつとヒールを鳴らせば友だちの気軽さで輪の中へ。咲凛によってカラフルに、イリーツァによって濡れ鼠と化した数人が、次はなんだと拳を向ける先を惑う様すら微笑ましく。
「こんにちは、あたしからも大事なお話があるんです」
 計算され尽くした貌と声音で、ユキテルは要件を切り出した。

 じきに現れるオブリビオンの存在。
 今ならば取返しがつくこと、体力、弾薬の消費を避けられること。水に浸されたものなど特別早めに処置しなければ拙いのではないか。 ……ユキテルが淀みなく言葉を紡ぐ間、奪還者らは口を挟むことはなかった。
 オブリビオンの脅威はよく知っている。うまい話にはリスクが伴いがちであることも。知っていた、はずだったのだ。
「そちらの方も仰るとおり。貴方方の救助が、私の依頼。どうぞ落ち着いて頂けませんか」
「……つうか、もう、さみぃしな」
「ああ。とっととメシ回収して帰んねぇと、それこそ共倒れだ」
 イリーツァの後押しも効いた。すっかり頭の芯まで冷えたらしい面々は、互いに手を貸し合い身を起こす。
 熱を出しても闇医者頼りなのだろう。苛酷さが知れるところではあるが、「ちゃんと仲直りできましたね」と明るい笑顔で菓子類を手渡してまわる咲凛へ戸惑う様は、他の世の子らと相違ない。
 一部を除けば。
 事情説明の前後で変わりなく、猟兵へと鋭い視線を注ぐ二人組がいた。
 背を向けた拍子に飛び掛かってくるであろう刺々しさ。肌身に感じていても、イリーツァはもとより咲凛、ユキテルが自ずから力で押さえつけることはない。
「お二人も、よろしいですか? でなければ、実力行使に出なければなりません」
「……っ、」
 "必要ならば"。これもまたパフォーマンスとなる。
 故に、乱暴に投擲された鉄屑を真っ二つに叩き切るモーター音は、寸分の狂いもなく響いた。
「よろしいですよね? ねっ」
 動いたのは長大なチェーンソーと、それを握る少女だ。咲凛。身に纏う武装ユニットはただの装束に非ず、この通り。お野菜スパスパどころではない切れ味を誇り、廃材の切断面から黒々とした煙を燻らせた。
 す、と、迷いなくその粒子の刃を突きつけられれば、両手を地面へついた少年が白旗を上げるのはすぐ。怪我してませんか、石は飛んでませんか、一転して――否、強さも優しさも地続きで、等しく友好的な声掛けをし咲凛は項垂れる傍らへ寄り添うのだった。
「――アタシだけは騙されないぞ! なにが望みか知らないが、アンタらの手なんか借りなくてもっ」
「わぁお」
 兵器で武装した咲凛、屈強なイリーツァと比べまだ手が届くように見えたのだろうか。
 ナイフ片手に自分側へと踏み込んでくる少女の、その覚悟と緊張と恐怖と興奮を引っ詰めたひと呼吸が、なんだか――。 片手をつと伸ばして。ユキテルが申し訳なさげにも眉を顰める。
「でもねぇ、できちゃうんです」
 あたしも。
 おかしくって。フッと微かに笑いが零れた。広げたてのひら伝いの電流がスパークして、沈黙していた蛍光灯を束の間蘇らせる。貰い物のサイキックブラスト。
 ちか、 ちか。
 ちか、と三度明滅したとき、ナイフの転がり落ちる音。ユキテルの眼前にはあまりの驚きに目を丸くする年相応の子どもがいるだけ。十と少しだろうか、――かわいい顔しちゃって。
「セーブしたので焦げてないですよね。武器なんかなくたって、ほら、こんな簡単に無力化できちゃう」
 分かってもらえました? "こんな"我々でもないなら、どんな未来が待っているか。
 ……声もなく、生唾を呑む気配に。
 相も変わらず人好きのする笑みで「よかったぁ」、ユキテルは少女然と微かに光る指同士をぺったり合わせるのだ。

 御協力、有難う御座います。
 ――すっかり大人しくなった子どもたちへ、折り目正しく竜人の頭が下げられたなら進むとしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トスカ・ベリル
ハレ缶、ハレ缶
おいしいの、それ
じゃあ分けよ
みんなで美味しく、ね

無敵の鎧を喚び出して
まずはみんなの攻撃を遮る
怪我させない、それが第一
わたしの鎧さんは無敵なの
勝てないよ
だから諦めて

わたしへの攻撃も鎧さんに任せて防げたらいいけど
乱戦の中だもん、怪我くらいはいいよ
血を見たら慄いてくれる子もいるんじゃないかな

ほら、もうやめよ
おなか空いてるといらいらする、わかる
ほんのちょっとしかないけど、はいチョコあげる
きみも、きみも
って、戦場の中を鎧さんと歩いて回る

無敵なんて有り得ない?
ううん、有り得るよ
ほら見て、つよそうでしょ

絶対攻撃はしない
武器も、……ロッド(媒体道具)だけは許してね
鎧さんを喚ぶのに必要なんだ


キトリ・フローエ
たくさんの絶望と悲しみに満ちたこの世界でも
ひとは生きる強さを持てるのね
なんてセンチメンタルになってる場合じゃなくて
早く喧嘩を止めなくっちゃ!

ストーーーップ!落ち着きなさい!
拡声器使い大声で叫びつつ両者の間に割って入る
あたしもライバルだって認識されるかしら?
でも、このあたしに缶詰の蓋が開けられると思う?

こんなことで争っていたら
黒い竜巻に立ち向かうなんて到底出来やしないわ
すぐに信じてほしいとは言わないけれど
宝物の前にオブリビオンがいるの
あたし達、力になりたくてここまで来たのよ

後で頃合いを見計らって
フェアリーランドの壺から個包装のチョコレートを取り出し配る
これで少しでも落ち着いてくれればいいけれど…




 強さ。
 それはなにも、捻じ伏せるための力とは限らない。

 薄暗い屋内をふよんふよんと漂う燐光は、心霊スポットお馴染みのオーブ……なんてことはなくて。ちいさくたって目一杯に翅を動かす、フェアリーのキトリ・フローエ(星導・f02354)だ。
 近付いてくる諍いの音は痛ましくとも、必死に生きたい想いの裏返し。
(「たくさんの絶望と悲しみに満ちたこの世界でも、ひとは生きる強さを持てるのね」)
 だから耳は塞がない。……。
「――早く喧嘩を止めなくっちゃ!」
 センチメンタルになりかけた心を励ますみたくぶんと頭を振って、壁の綻びから吹き込む乾いた風を上手に捉え、背を押されながら妖精は突き進む。

「……?」
 ぱち。
 柱たちの合間、まだ遠く向こうになにか光るものを見つけた気がして。
 すこし首を傾けるトスカ・ベリル(潮彩カランド・f20443)はぼんやり視線を巡らせるけれど、太陽がポーズを取る山積みの空箱を経由して、やがて傍で繰り広げられている戦いへと焦点を合わせた。
「ハレ缶、ハレ缶。おいしいの、それ」
「はあっ? ウマいに決まってるじゃん、なんたって懐かしの――」
 !!
 目が合った同じくらいの背丈の少女が慌てて飛び退くのに、ごそりとマントを揺らし、ロッドを前へ。これは媒介道具。傷付けるためではなく、守るため。ナイフを引き抜き警戒を露わにする相手にほんの微か申し訳なさげに眉を下げるも、トスカは分かっている。
「じゃあ分けよ。みんなで美味しく、ね」
 すべきこと。方法を。
 とんと軽く石突が床をノックすれば、平だった灰色が本の頁をめくるようにパラパラ盛り上がって。

 それは、想像の創造。
 アリスナイト・イマジネイション。
「鎧さん」
 ぽつり――呼ばわれた塊が飛び出してゆく。一歩目で踏み砕かれた瓦礫が跳ね、目晦ましの役を買った。拳を交えんとす二人を左右へ別ち、銃弾を厚い装甲に引き受け、炸裂間近の閃光弾を圧し潰す。
 ものの数瞬で、だ。
 自分たちの真横を過っていった存在が何であるのか、奪還者に理解は難しい。ただ――ただ、渡してなるものかと手にした武器を振るいがむしゃらに追い縋る。
「てめぇ、突然湧いてきて素通りできると思うなよ!!」
「勝てないよ」
 ギィン、と、奥歯まで震わす音がして。謎の鎧を痛めつけるどころか、伝う痺れにたまらず鉄パイプを取り落とした少年の、すぐ隣へはトスカが歩み寄っていた。
「わたしの鎧さんは無敵なの」
 だから諦めて。
 さらりと、そう。

 ふわふわの垂れ耳にチリリと熱い痛み。跳んだ壁材のかけら。
 それだって特段、娘の歩みを止めさせる要因となりはしなかった。その獣耳がちょっとだけぱたんと跳ねたのは、直後、前触れもなく大きな声が落雷じみて転がり込んできたからで――。
「ストーーーップ! 落ち着きなさい!」
「……ん」
 ――けれどもその音を正しく"大きい"と捉えることができたのは、トスカだけの様子。
 はてな……と天を仰ぐ奪還者らの眼前へと滑り込んだ声の主、キトリは、彼らの頭の周囲をいつもより多めに飛びまわった。妖精サイズの拡声器を抱いて。
「~~っあたしよ、あたし! よく見てっ」
「は? うわっ」
 のけ反る少年の背にヒットしかけた流れ弾を、逞しい鎧が阻む。
 ちょうどいいや。ちいさく呟き、その陰から指を伸ばしたトスカに手を掴まれた少年の肝はそれはもう冷えたことだろうが、殴られるでも握り潰されるでもない、てのひらに残されたものに目を丸くする。
「ほら、もうやめよ」
 ほんのちょっとしかないけど、はいチョコあげる。きみも。
 きみも、  フェアリーの到来に困惑し動きあぐねていた手という手に、武器ではなくチョコを乗せてゆくトスカ。空腹は、苛々してしまうものだから。
「なんで、こんな……敵に塩を送るみたいな」
「ふふ。考えることは同じね――っと、いい? あたし達、ライバルなんかじゃないから」
 同様にフェアリーランドの壺の中に用意してきたチョコレートを思い表情を和らげたキトリも、ぴしり! 少年少女らへ今一度向き直るときは、先輩のお姉さんの顔を。缶詰など開けられるサイズ感ではないと翅を揺らせば、たしかにと囁き合う小声が聞こえてくる。
「こんなことで争っていたら、黒い竜巻に立ち向かうなんて到底出来やしないわ。……すぐに信じてほしいとは言わないけれど」
 "宝物"の前に、オブリビオンがいること。
 力になりたくてここまで来たこと。
 助け合い、仲間を増やしてきた一団だ。真摯にぶつけられる声色の真意を読み違うほど、子どもたちの根も腐ってはいない。だから静かに、しばし。視線を交わし合って。

 キトリの話が終わる頃、トスカがチョコレートを配り終える頃、新たに振りかざされる武器はひとつもなくなっていた。
 ざりり、砂粒を踏み歩み出た少女がトスカへ差し出したものは、真新しい包帯。
「ごめん。アタシたち、どうかしてた」
「痛くないよ。でも、ありがと」
「さ、ここからなんだから」
 空になったてのひらが引っ込む前に、ちょこんとキトリが乗せる愛らしい包装紙のチョコレート。両手、ふたつの粒をじっと見つめ――久しぶりに、見知らぬひとの優しさに触れたのだろう。
 涙の膜を隠すため腕が顔を覆うのを、誰も茶化しはしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
やれ缶詰で喧嘩が起こるとは
…否、この世界故か
腹も減れば思考も鈍ろうよ
兎にも角にも、先ずは頭を冷やさねばなるまい

込める魔力は怯ませる程度に制限
触媒たる宝石を童共に投げ、仲間割れを止めるべく行動
案ずるな、殺しはせん
但しこれ以上事を大きくしようと云うならば――分っておろうな?
言葉に圧を乗せ、威厳を以て無力化を図ろう
…何も鞭のみを与える心算ではない
魔方陣より召喚するは【おお、親愛なる隣人達よ】
小人達に童の応急処置を命じる
…傷が重い者は、私が手ずから治療を施そう
貴人方はこの荒野で生き残った希望なのです
…その命、斯様な場所で
而も、仲間同士で散らし合う等
神が許そうと、この私が許しません

*従者以外には基本敬語


ジャハル・アルムリフ
ふむ、追い詰められれば無理もない
飢えれば人も獣となろうよ
…だが、墜ちるにはまだ早い

…その、取り敢えず落ち着け
聞けというに
師ほど易々とはゆかぬか
争う若者らに割って入り
一息に怪力乗せた翼を広げて
物理的に壁を作る
羽毛にさほどの硬度こそ無いものの
勢いで数人は吹き飛ばしたり
転ばせたやも知れぬが、まあ許せ

…腕に覚えがあるのなら
選択を、遂げられるというなら
押し通してみるがいい
宣言の後、【星守】にて不動の壁となり
攻撃など通じぬものと直接分からせる
隙を見て解除
傷ひとつないさまを見せる

ああ…二度目だが、落ち着け
俺ひとり如き倒せぬものらが
この先を如何に越えるというのか
…誰が為に、その得物を手にしているのか思い出せ




 追い詰められれば無理もない。
 飢えれば人も獣となろう。……――だが、墜ちるにはまだ早い。

「……その、取り敢えず落ち着け」
 一応はそう声をかけて。
「聞けというに」
 段階を踏もうと試みは、したのだ。
 ――舞い降りた、否、突き抜けた無彩は閃光のように。
 結果としてはこうして此度も、言葉より身体の方が先走ったわけである。ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の、通路を塞がんばかり広がった勇壮なる竜翼に跳ね飛ばされた奪還者らがか細く呻く。
 この男が力ずくで割り込まねばより痛い目を見ていたとは、未だ理解できていないのだろう。恨めし気な眼差しを、ジャハルはただ見返して。
(「師ほど易々とはゆかぬか。……」)
 背へと駆け来る気配に片手を翳した。
 血気盛んな――命知らずの――少女を、腕のひと振りで払う。なれば、"己なりの誠心"で。
「……腕に覚えがあるのなら。選択を、遂げられるというなら――押し通してみるがいい」
「やったらぁ!!」
 黒の双眸は打ち出される発煙弾に瞑ったようで、その実、解放のため。
 ごおおおお、と、荒波同然に沸き立つ煙が瞬間ジャハルを掻き消してゆく。
「オイ、人間に向けるものじゃないだろ!?」
「アンタさっきアタシに投げようとしてたじゃん! 大体、コイツ……」
 しかし。 コイツは。そんなに柔いものじゃないと、はじめに呟いて後退ったのは誰だったか。
 煙幕が晴れ――そうしてはらり落ちた煤は、事実、鱗の一枚ですらない。
「ああ、人間に向けるものではないだろうな。……誰が為に、その得物を手にしているのか思い出せ」
 "星守"。昏い呪詛に至純の憧憬を混ぜ込んだ無双の竜鱗を纏いしジャハルは、身動ぎもせず依然、そこに立っていた。
 己ひとり如き倒せぬものらが、この先を如何に越えるというのか。
 彼らと己の気が済むまで、見定めるべく。

 繰り返し響く音の正体は、ナイフを棒きれを、ぶつかって弾き落とす宝石。
 抑えて込めた魔力とて、只人を怯ませるには十分だ。アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)が用いるならば。
(「やれ缶詰で喧嘩が起こるとは。……否、この世界故か」)
 腹も減れば思考も鈍る。兎にも角にも、先ずは頭を冷やさねばなるまい。
 お仲間から己へと向け直された敵意に、口角を上げる。男は開いた手を宙に滑らせた。
「案ずるな、殺しはせん。但しこれ以上事を大きくしようと云うならば――」
 分っておろうな?
 決して怒鳴りつけるわけでもないが、遮られず通る言葉を乗せて。

 怯えの滲む瞳。光の入らぬ瞳、命など惜しくないと飢えた瞳。
 ――斯様な目をするものではないと、空間へ魔法陣を描き出せば。

 ぽんと飛び出す大勢の小人が、それぞれに怪我人のそばへ。身を竦ませる奪還者が次の行動を取るよりも、治癒の薬液が降り撒かれる方が早かった。
「これは……?」
「あれ、痛くない」
 ぱち、ぱちと瞬き互いを窺い見る少女たちは、数分前まで繰り広げていた諍いなど既に過去のよう。
 働き者の"隣人"に一礼し、アルバは片脚を庇い蹲る少年の元へ歩み寄った。
「貴人方はこの荒野で生き残った希望なのです」
 膝を折り手を触れる声色は、父のような厳しさから一転して母のように穏やかなもの。
「……その命、斯様な場所で。而も、仲間同士で散らし合うなど、神が許そうと、この私が許しません」
 光が零れだす。
 傷口を覆い、ほろほろと揺れ舞うやさしい光が。
「っオレだって!」
「ええ」
「……オレたちだって、しにたくない」
 傷を塞ぎゆく淡い光が、まるで心のささくれへも及んでいるかのようだ。
 生きたいから。危険でも此処へ。こんなつもりじゃなかった。拠点で待っている、戦えない奴らもいる。
 零れだす言葉ひとつずつに相槌を打つアルバ。こう見えて幼子の相手は慣れたものだった。ゆえに遮らず、彼らが自ずと謝罪を口にするまで見届けて。
「分かっていただけたならよいのです。さぁ、お立ちなさい」
 手を引き共に身を起こす。 と、
(「……ん?」)
 ガラス一枚隔てた向こう。
 見覚えのあり過ぎる後姿が飛び込んできたものだから、半身だけ少年へ背を向けアルバは額を押さえる。

「――。まさかお前まで手当せねばならんものかと頭を抱えたが」
「師父にそのような手間はかけん」
 手のかかる童ほど可愛いとは云うが。
 合流後、何故だか奪還者たちとともに一周し確かめることとなったジャハルの身に、傷ひとつないことを確認したアルバは仕切り直しの咳払いを。
 この通り、頑丈な、と傍らの竜人の背を割と強めにはたく。
「頼り甲斐のある従者も連れています。食糧を奪還して帰るにも、きっと役立つことでしょう」
「そうだな。望むのならば力となろう」
 ふたりとの力量差を痛感させられたばかりの少年少女は、一言二言交わしたかと思えばすんなりと武器を下ろした。強者には逆らわない。生きるための術を知っている、ある種の賢さがそこにはある。
 第一へとへとだし。それに、助けてくれた。 用を済ませた小人が去るのを見送って、傷の癒えた自分たちの手を見つめ――次にアルバを見上げた。
「でも、アンタがこのゴツいのの師匠なわけ?」
「そうは見えねぇなぁ。実はすげぇ硬かったりすんの……?」
 心なしか煌く瞳。
 これは。お子様特有の質問責め――!
 アルバの目配せに頷いたジャハルがずずいと前へ出て、「話は道すがら」と子らを押してゆく。察しの良い弟子へ満足げに衣を翻し後を追うアルバであったが、如何に師が素晴らしいかを真顔のジャハルがつらつら唱えはじめた頃には二度目の咳払いが落ちることとなる。素晴らしい? そうでなくては!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

絢辻・幽子
お腹がすいたらみんな獣よねえ、冷静なんて迷子
幽ちゃんもお腹空くと暴れたくなるもの
でもそうねえ、仲良しこよしがいいわよねえ?

まあ、あれねえ、幽ちゃん(自称)幽霊だから
『目立たない』からの『恐怖を与える』で
ちょーっと脅かしてあげましょうか。
逃げようとしたり攻撃しようとする子は糸でロープで
仲良しこよしぐるぐる巻きにしてあげましょうね。

『目立たない』でこそこそ
暴れている子を『ロープワーク』とかで捕まえたいとこね
暴れる元気な子とか必要があれば咎力封じで捕まえちゃうけど
……怪我はしてないかしら?
ふふ、あばれると糸で擦れちゃうから気をつけてねぇ?

一応、武器は回収しましょうね。危ないわよーこんなの持ってちゃ。


コノハ・ライゼ
されど一食、ホントその通りネ
生かす為の食で争わないで欲しいわ

出来るだけ両者の間へ割り込みたいねぇ
多少の怪我はどってコトないし

で、原因は?
ソレ結果が同じだとしたら、そんなに重要?
逆にやり方が違う事で大きく結果が変わるってナンで思ったワケ?
ドッチにしろ危険な道を手も取り合わず進もうだなんてとんだ余裕だコト

空腹ってのは判断を狂わすモノだけど
その空腹を無駄に引き起こす原因の代表格って知ってるカシラ
――争い。怒り、嘆き、苦しむ
ソコにはとんでもないエネルギーを消費すンの
これから生きなきゃならないってぇのに、馬鹿げてるでしょう

それに食を争いの種にするってンなら、アタシがアンタらを食材にしちゃうよぉ?
なぁんて




 ぎゅっと瞑った瞼を開くきっかけは、痛みを齎さぬ打撲音と手応え。
 ついにやってしまった、と思った。ついに、仲間を傷つけてしまった――もう止まれない。少年の苦々しいひと呼吸は、ふたつと続かず呑み込まれる。目の前、腕一本で鉄パイプを受け止めているのが、知った顔ではない、長身の青年であったから。
「道具は正しく使わなきゃ、ネ」
 料理といっしょ。彩度の高い青に蛍光灯もなく流れる光。ゆっくり瞬いたコノハ・ライゼ(空々・f03130)はそう嘯き、片腕ずつで押しとどめていたパイプを掴み取り、ぐんと自分の側へ引いた。
「わっ、あ」
「ぁにすんだ!」
 引き摺られる少年ら。
 懸命に、武器を取り戻さんと力を込めているのがコノハにも伝わってくる。生への渇望。がむしゃらであることを愚かと断ずる気もないが。
(「生かす為の食で争わないで欲しいわ」)
 だからこそ。"されど一食"、だ。
 これ見よがしに溜息を吐いた狐男がパッと手を離したものだから、両者は尻もちをついて転ぶ。かろん、かろん。回転しながら転がる鉄パイプを別な子どもが掴み上げ、駆け来ようとはするも――。
「危ないわよーこんなの持ってちゃ。 はあい、コノちゃん。大漁ね」
「おかげさまで」
 ――その上体を、ぱくんと喰らう怪物が現れたのだ。
 或いは、打ち棄てられた廃工場に居着いた幽鬼?
 ころころご機嫌に喉を鳴らしながら、それはくらがりから現れ出る。怪物の正体は女、絢辻・幽子(幽々・f04449)の手元より伸びる糸束だった。赤く、幾重にも巻き取って、しまいには数人まとめて仲良く一塊にしてしまう。
 悲鳴を上げる間もなく強襲されてしまえばあとは、地面に落ちたミノムシと同じ。蠢く彼らの真ん前、屈みこんで目線の高さを近しくするコノハはちょいちょい口元の拘束を緩めてやって。
「で、原因は?」
 じーっくり、オハナシしましょと三日月に笑う。

 ……。
 …………。
「だから、強いヤツだけの方が安全だし早いに決まってんじゃん!」
「そう言って前に大怪我したのはどこの誰でしたっけぇ!」
 子どもの喧嘩だ。
 はーいはい。どうどうどう。それもコノハがひとたび手を叩けば、途端に静まり返る。こんな世界だからか彼らは強者に従順で、臆病で、利口だ。
「要はやり方が違うだけってコトでしょ。結果が同じだとしたら、ソレそんなに重要?」
 ドッチにしろ危険な道を手も取り合わず進もうだなんて、とんだ余裕だコト。
 己を強いと豪語したばかりの少年も、この一言にはぐうの音も出せなくなる。謎の男に負わせた傷といえば掠り傷程度。じ、と悔し気な視線を感じたからか、当のコノハは涼しい顔で腕をさすってみせた。
「傷付けばダレだって痛いわヨ。……いい?」
 空腹とは判断を狂わせるもの。その空腹を、無駄に引き起こす原因の代表格って知ってるカシラ。
 ――争い。怒り、嘆き、苦しむ。
 今まさに袋小路にいる面々ひとりずつの顔を見遣りながら、言って聞かせる声は鋭くも冷たくはない。
「ソコにはとんでもないエネルギーを消費すンの。これから生きなきゃならないってぇのに、馬鹿げてるでしょう」
「そう。お腹がすいたらみんな獣よねえ、幽ちゃんもお腹空くと暴れたくなるもの」
 冷静なんて迷子。続けて、幽子は視界の端で微かに動くものすら逃さずに手を……縄を伸ばした。蜘蛛が巡らせた網めいて、ピンと張るそれは獲物を絡めとり。
 つんのめり、傍までまろび出る少女に手を差し伸べる女狐。「――でもそうねえ、仲良しこよしがいいわよねえ?」そうしてやさしく、但し有無を言わさず引いた手をお仲間のとなりへとご案内、だ。
「うっ、うう……」
「ちくしょう、たしかにアンタらの言う通りだ。腹は減るばっかだし、転びゃ痛ぇし」
 団子状態にされて漸く、暴れるほどに逆効果と気付いたらしい。幽子による忠告という名の脅しもよく響いた。
 大人ふたりは顔を見合わせて、それから僅かに口角上げつつ見下ろして、もう喧嘩しない? と少年少女へ念押しを。
 じわっと縦に振られる首に「よろしい」頷くと戒めを解いたのだった。

「怪我はしてないかしら?」
「今更かよ!」
 しゅるり、糸を仕舞いつつ首を傾ぐ女へ唸る少年も、肘を擦りむいた程度。破格の授業料となったに違いない。
「こう見えておねえさん、傷のぬいぬいも得意なのよ。見せてみなさいな」
「……!! やっぱ怪我してないっ」
 いっそ楽し気に揺れる狐尾に身の危険を感じたか、しゅたっと身を隠す様など年相応で良いことだ。
 何故だかその隠れ先として利用されてしまったコノハが、一笑し落ちた武器を投げ渡してやる。今度こそ"戦う"のだろう、と。
「ああ。けど……」
「他のヤツらがまだ」
 そう、あちこちで鳴り響く音からして内輪揉めは継続中。
 突出した力を持つわけでもない奪還者一同が先を言い淀むのに、比べてみたなら大きな手がふたつ、ぽんと頭に置かれた。
「お手伝い、してあげる。知っての通り、幽ちゃんはやさしい狐さんだもの」
「ん」
 同調する妖狐がもうひとり。もとよりその予定で訪れたことを伝えれば、見上げる顔には明らかに安堵の色が広がる。
 もっとも直後、
「それに、見張ってなくちゃネ。次に食を争いの種にするってンなら、アタシがアンタらを食材にしちゃうよぉ?」
 なぁんて、と良く砥がれたナイフを意味深に口元へあててみせるコノハと。
「あらあら。それはとても――おいしそうね?」 
 甘美な思いだし笑いに耽るように。
 ゆるゆる相好崩す幽子の唇から覗く牙を見とめれば、後ずさりながら首を振ることになるのだけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
絆って奴は、繋ぎ合うのは大変で
ほんの僅かな捩れと不幸で捩れもする

飢えと環境が衝突を生んで、こころの余裕があれば
明日も彼らが共に生きれるなら
乱入しに行きましょうか

工場に侵入後機材に登り上から
諍いの始まり、口論を見ながら割り込む機を測り
武器に手をかけたあたりで、ぴょんと武器の射線割入り

まあまあまあー
皆、そんないきり立たずに
お静かに

綾繋で周囲の彼らの武器に繋ぎ
銃や鉄パイプを手から落とさせ無力化
撃ち合いを防ぎ、しーと指立て

喧嘩する前に、耳を澄ませてご覧
この近くにオブリビオンが、いる
僕らはそれを戦いに来たんだ

あのね
ご飯は、皆で食べた方が美味しいんだよ?
喧嘩して
失ってからそれに気付いちゃ取り返しつかないよ


境・花世
“普通の人間”はお腹がすくといらいらするんだって
職場の先輩に教わったことがあるよ

つまり、今、きみたちは冷静じゃない
自分でもわかるよね?

一触即発のところには早業で割り込んで、
向け合う武器を扇で弾いて
場違いなほどほがらかに笑いかけよう
一瞬でも気が抜けたら、ほら、
無駄に怒っちゃったなって気付けるはず

……脅しじゃないよ、平和的説得だよ?

なるべく正気を取り戻して欲しいけど、
わからずやがいたら奥の手を
花のような何かの甘い馨で包み込む
今はまだ夢のなか、満ちる心地をあげるから

飢えたら死ぬのかさえわからない身体だけど
お腹がいっぱいだと、うれしいね
右目の薄紅へそっとふれれば、笑うようにざわざわと揺れて




 工場の奥へと進むにつれ騒動は激化していた。
 誰かが壁を殴った拍子に折れたか、跳ね飛んでくる鉄材。頬の肉でもこそげそうなそれを前にして、冴島・類(公孫樹・f13398)は瞬きひとつせず、躱す所作もなくすれ違う。
 おそれを抱かぬはひとの身に非ざるから――だけではない。急ぎたい、理由があった。
(「絆って奴は、繋ぎ合うのは大変で。ほんの僅かな捩れと不幸で捩れもする」)
 飢えと環境が衝突を生んでいる。
 一刻も早くこころの余裕を呼び戻したい――人々が、彼らが明日も共に生きられるならば、それはこの身の幸と同義。
 突き出た配管を順に蹴りつけて、上へ。
 ひら、ひらり。穴あきの天を木綿の軽さで目指す様は異質に映ったのだろう、ぽかんと口を開けたいくつかの顔が類を追って上を向く。
 そのまま一層騒々しい隣室へ飛び降りる男と入れ替わりに、薄紅が。 荒野に枯れて久しいはなびら連れた風が、さあと地上を吹き抜けて。
「"普通の人間"はお腹がすくといらいらするんだって」
 声と同時に瑞々しい馨りが満ちる。
 気儘に咲かせ、散らす、扇は持たぬ翼の代わり既に羽ばたき、風を捉えていた。

 ギギャッ!

 凡そ柔らかではない摩擦音。それは使い手、境・花世(はなひとや・f11024)の何処だとて咲き誇る芯の強かさを示すかの。
「つまり、今、きみたちは冷静じゃない。自分でもわかるよね?」
 春の日和みたく朗らかな声だ。それに、笑み。
 "魅せられた"少年少女がはたと気付いた手の内からはナイフが姿を消している。すこし視線を落とす。と、衝撃で足元に突き立つ鋼にも花弁がひとひら降り落ちた。
「なん……――」
「ほら、気が抜けただろう。も一度みせようか」
 曰く。平和的説得。
 ならば成功だと場違いにぱあと明るく、手品は好きかと問う花世。容易く引き抜いてみせたナイフを指先で遊ばせ、まだ誰の血も吸っていないことに眦を緩める。
「……ウチのヤツじゃないな」
 横目にも答えに窮す様が見て取れて。それすら微笑ましい。直前まで睨みあっていた子どもたちは、飛び退き、今は自分を取り囲む風に陣形を取っていた。
 右目の八重牡丹に明け透け寄せられた奇異の視線をも抱き止めるよう向き直り、うん、と。
「だけども味方だ」
 蜜めいた瞳が、ゆっくり瞬いた頃。

「まあまあまあー。皆、そんないきり立たずに」
 お静かに。
 の、一声とともに隣室では金属音の雨が降る。
 鉄パイプ、鎖、銃が鉄板と奏で合う音ときたらそれはもう土砂降りだ。常識では説明できない回転を見せ、地面へ突きつけ"直された"銃口から発射された弾丸が床の隙間へ消えてゆく。
 突如として舞い降りた男、類はそのリサイタルの中心に怯むでもなく佇んでいる。
 ユーベルコード・綾繋。
 尤も、不可視のまま奪い去る糸はそれこそ奇術かまぼろしか。
「だ、誰だか知らねぇが邪魔するってんなら!」
「待て、こいつ普通じゃないっ」
 血気盛んに飛び出しかけた少年の肩を押さえるもうひとりをこそ評価するように、糸の先、指貫の馴染む手はちいさく拍手を。それから口元へと辿り着いた指が「しー」と、一本立てられた。
「それでいい。喧嘩する前に、耳を澄ませてご覧」
 この近くにオブリビオンが、いる。僕らはそれと戦いに来たんだ。

 ――猟兵二人が別々に見せつけたものは、華麗ながらも圧倒的な力であった。
 殺そうと思えば自分たちなど一瞬の間に殺せたであろう直感が、その確信が、理解を容易くさせ奪還者らの頭を冷やさせる。
「オブリビ、オン」
「よかった。そっちも"仲直り"したみたいだね」
 顔を見合わせる少年少女の背、崩れた壁の向こうから覗き込む紅が。
 花世だ。ひらり手を振る知った女の姿とその余裕に、微笑み返す類と対極にちいさきものたちは蛙が潰されたかの声を上げた。これはもう。逆立ちしたって敵いっこないし。
「おおおお前大丈夫かよ? しっかりしろぉ!」
「心配ないよ、じき醒める」
 ふらりふらふら、夢の中で漂っているらしき足取りをするチームきっての鉄砲玉は最早花世の手で"出来上がった"状態。今日ばかりはユーベルコード・侵葬も悪いユメは見せませんとも。
 ちょっと――割と? 怖がらせてしまったかもしれないが、そう頬を掻く類は柔和な声音をして。
「あのね。ご飯は、皆で食べた方が美味しいんだよ? 喧嘩して、失ってからそれに気付いちゃ取り返しつかないよ」
 諭しに、噛みつくものはいなかった。
 きのう共にした食卓でも思い出してくれていると、いい。 ――普通の人間と同様に餓えたなら死ぬのかさえ、分からぬ我が身であるものの。
(「お腹がいっぱいだと、うれしいね」)
 見つめる花世の手が右目の薄紅へそっと触れたなら、笑うような。ちいさなさざめきが返った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

善哉・鼓虎
あっ、やばいなコレは止めたらないかん。
貴重な食料取り合ってってなるんは分かるんやけど…意地の張り合いで命を落とすんわ割に合わんで。
子供同士のそれは余計にや。今のうちに頭を柔らかくしておかんと。
まぁ、そない言ううちもまだ子供やけどな。

うちからの提案!いっぺん落ち着いて見ぃへんか?
食料の数数えて分け合って
できるだけ話し合いで解決。
まぁ、最後に一対一で拳の勝負とかやったらええんちゃう?それはもう止めへんわ。

せやけどそれせんと無駄に命を落とすんはあかんで!
(エレキギターをかき鳴らして【パフォーマンス】)

アドリブ連携歓迎


ネライダ・サマーズ
この世界だと腹が減った時の余裕の減り具合は桁違いだろう
…そういう世界だとしても
子供達がハレ缶を得られないまま犠牲になるのは癪だ
挨拶抜きで割り込む

やり合ってる最中の子供は怪力で襟を掴み持ち上げる
代わりに攻撃されても反撃はしない

俺がライバル?
違うな
俺は神だ、腹は減らん!

勿論嘘だ普通に腹は減る
毎日きっちり三食以上だ
しかし神なのは事実だからな
信憑性を持たせる為に杖から水を出しては引っ込め
エナジークロークもオンオフしてと神っぽく
これで話が出来る空気になれば

迅速に行けば見落としの可能性
慎重に行くとタイムロス
両方にデメリットがあるなら一つにして攻略じゃ駄目か
“今まで”みたいに互いをカバー出来ると思うんだがな


狭筵・桜人
大抵の人間は欲には抗えないものですよ。空腹も然り。
ま、生存本能ってやつでしょうねえ。

しれっと間に割って入ります。
ヘイヘイ、ちょっと落ち着きましょうよ。
誰だお前ってなりますよね。
缶詰の妖精です。私のために争うのはやめてください。

まあこちらにヘイトを向けられれば良しです。

ここにいる知らない顔ぶれは全員缶詰の妖精なので
あなたたちの代わりに工場内の
危険因子を取り除いたのちに
平等に缶詰を振る舞って差し上げましょう。
疑問を持たれても缶詰の妖精なのででゴリ押します。

私は勤務態度花丸の男なので
武装した相手でも最後まで丸腰で頑張りますよ。
ただしUCは使います。だって缶詰の妖精なので。
撃たれて死んだらダメでしょ。




 産まれ落ちる宛てを、誰も選べはしない。
 それはこの、荒れた地にて育った善哉・鼓虎(ハッピータイガー・f24813)もよく知ってのこと。
 食糧の貴重さも分かる。ただ、意地の張り合いで命を落とすことがいかに割に合わないか――子ども同士など尚更に、今のうちに頭を柔らかくしておかねば生き抜けるものも生き抜けなくなる。
「まぁ、そない言ううちもまだ子どもやけどな」
 思うのだ。
 猟兵として世界の仕組みに触れ歩く現在ならば、昔よりうまく説けそうだとも。
(「止めたらないかん」)
 だれかの力になりたい。
 鮮やかな眼差しに流れる煌めきは、ソーシャルディーヴァとして駆け出した日からすこしも翳らない。
「――うちからの提案!」
 頭上をバールが行き来する空間で、鼓虎は声を張り上げる。
 夢中で罵り合っていた奪還者らはそこで部外者の存在に気が付いた。ぎらついた視線が突き刺さろうと、ものともせず振りかざした鼓虎の手には武器が……否、楽器が握られている。
「いっぺん落ち着いてみぃへんか? 缶詰まず見っけて数えて、それからでも遅くはないやろ」
 訴えを、ざわめきが遮ることなど予想済み。
 相棒の古びたエレキギターを構える。もっと遠くへ、銃声より鋭く届け。彼らのため、魂を乗せて――。

 苛酷な世界。
 だとしても。だからこそ。

 子供達がハレ缶を得られないまま犠牲になるのは、癪だ。
 壁ひとつ遮った場所では、一陣、あおが横切った。
 それは暴風のような。鉄砲水のような。いずれも自然界の厳しさを思い起こさせる力強さで、昨日の仲間へ殴りかからんとしていた奪還者を浮かせた。
 足が地面につかない。目を白黒させ漸く少年は、いま、大男が自分の襟を掴み上げているのだと知る。
「うっ、え?」
「――いけない。それは、いけないな」
 ネライダ・サマーズ(アイギス・f17011)。
 ぐうわり被さる影に、対面していた側の子どもが瓦礫片を取り落とす。床で砕け、音が鳴ったことで遅れて世界は再生されはじめた。一斉に、数多の武器がネライダを向く。
「余所のヤツか!?」
「ここは俺たちが先に見つけたんだ!」
 ふたつ上質な宝石を嵌め込んだかの瞳に遥か頭上から見下ろされ、ぐっと息を呑むも木の板を振り下ろす蛮勇がひとりふたり。しかし躱すどころか動じぬネライダ、更には割れるのが板の側とあっては、以降の攻撃は後退にとって代わられた。
 ――加えて。
 くっく、と、引き結ばれていた男の唇が笑いを零すではないか。俺が、ライバル?
「違うな。俺は神だ、腹は減らん!」
 高々と上がった声に。 非難とて、すこしの間があいた。

 勿論嘘だ。
 普通に腹は減るし、毎日きっちり三食以上。さりとて神であることは事実。
 逃げようぜ、と交わされた視線を見落とさずに翳した杖の先から沸き立つ水など、分かりやすい証拠だ。傷付けるためではなくぐるんと、少年らの足元を一周し手元へ戻す"神通力"。
「話をしようじゃあないか」
「はなし、って……急いでんだよこっちは!」
「そうだ! ただでさえコイツらに足引っ張られてんのに」
 なんだと! ――荒れて掴みかからんとした奪還者の腕であったが、それは何故だか合間に湧き出た別の桃色を殴る形に落ち着いてしまう。
 ジャラジャラによりべこっと鈍い音が。
「へー。メリケンサックみたいなもんですかね」
 赤く色付きはじめる頬を摩る狭筵・桜人(不実の標・f15055)が、そこにいた。
 普通ならばここで反撃するだろう。しかし「ヘイヘイ、ちょっと落ち着きましょうよ」と手ぶらの五指をひらつかせ、敵意のなさをアピールする桜人。
 …………。
 手を退かしたあとの頬は既に元の肌色へ逆戻りしている。レコード・エラー。まるで、別のいきものへ生まれ変わったかの如く。
「まぁだやってたんか。ま、うちは拳の勝負については止めへんけど」
 騒ぎを聞きつけた鼓虎が顔を出せば。その後ろからはとぼとぼと、そう歳も変わらぬ彼女に灸を据えられたのだろうか懲りた様子の知った顔が歩いてくる。
 三者三様の"襲ってはこないが強くて逃がしてくれないやつ"を前に、途方に暮れた溜め息がどこからか落ちた。
「なんなんだよ、コイツら……」

 ――しめた。
 すかさず桜人は一歩を詰め、後退る者たちによって生まれた輪の中心でくるりと一周してみせる。
「実は缶詰の妖精です。私のために争うのはやめてください」
「ハレ缶の妖精!?」
「あっちょっと似てるかも……」
 舌を出して能天気ピースを真似てみたことが功を奏したのか、有する色味のハッピーなセットが有効打となったのかは分からない。分からないが、一層まじまじと注がれる視線は小競り合いから気を逸らさせている証といってもいい。
 ちょろい。
 にこやかな振る舞いの桜人を前に、銃を抱えたままおずおず上げられる手もあった。
「いや、でもさっきそいつらは神とかって」
 訝しむ眼差しを向けられたネライダはきょとりと自分を指さす。そう、アンタです。頷きに満足げな首肯を返し、ドンと胸に拳を――。
「あー。こちらは缶詰の神」
 ――当てかけたとき、横合いから桜人の手と声が。
「ん? そうだな、缶詰も須らく俺の守るべき世のいとし子だ!」
 もひとつオマケで。
「そしてこちらは缶詰のミュージシャン」
「打楽器ちゅうことか!? いけんこともないやろな、なんたってうちやから!」
 缶詰の……。
 妖精と神とミュージシャン……。
 アルカイックスマイルを絶やさぬ桜人、明滅にも近いエナジークロークの高速オンオフネライダ、胸を張る鼓虎が空き缶で奏でる粗削りサウンド。
 いよいよカオスになってきた設定の荒波に巻かれ、「なんだかそういうものなのかも」と腑に落ちはじめる奪還者たち。そりゃあ口先だけならこの世界によくいる、気の触れた末路だと切り捨てることもできたが。
 現に眼前の彼ら彼女らは、超常の力を敵意無く披露してみせた。
「信じて……、いいのか?」
「ええ。あなたたちの代わりに工場内の危険因子を取り除いたのち、平等に缶詰を振る舞って差し上げましょう」
 ――もう、信じたくて仕方がないのでは?
 その心に従うだけでいいとやたらまろやかに響く缶詰妖精の声に、構えられていた最後の武器もついに降ろされたのだった。

 迅速に行けば見落としの可能性、慎重に行くとタイムロス。両方にデメリットがあるならば、ひとつにして攻略してはどうか。
「"今まで"みたいに互いをカバー出来ると思うんだがな」
 どうだ、との神の提案は、神要素を差し引いても奪還者の"絆"を揺さぶって。
 はじめとは見違えて変わった空気に、勝利のファンファーレよろしくエレキギターが高らかに掻き鳴らされる。
「丸く収まったならよし、や。無駄に命を落とすんはあかんからな!」
 鼻の下をこすって嬉しさを隠さぬ鼓虎の手によって。この世界で多くを見てきた分、彼らの心に去来したものが理解できる。 底抜けの明るさ(と音量)で缶詰設定への追究を一切合切押し流すと、それじゃあと鼓虎は一番年長と思しき奪還者少女の肩を叩いた。
「肝心の食糧はどっちの方にあるんやろ」
「ええと、この向こうだと思うけど……リーダーたちが先に行ってるはず」
 指し示す先は倉庫らしい。
(「それにしては静かだな。もう仕上がってるか、どちらかか」)
 自称・勤務態度花丸。だとて、仕事において楽ができるにこしたことはない。
 思えば足元には、ハレ缶の残骸が増えてきている。思案ついで一応は妖精ムーブを保って桜人が嘆かわし気にそれを見下ろす傍ら、ざくざく大股に進むネライダ。
「行くぞ。約束は必ず守る」
 もちろん、君たちのことも。
 振り返って浮かべる笑顔ときたらそれはもう、困窮の最中に巡り合った神――蓋に描かれたマスコットキャラクターと同じだけ輝いていたとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
アァ……賢い君、賢い君……お祭りダ。
ミンナ、ミンナ、ココでお祭りを楽しんでいる。
行こう。行くしかないンだよなァ……。

アァ……あーそーぼ。
ドッチが敵で何が味方か分からない、分からないケド
君と一緒に遊ぶ。遊ぼう。

薬指の傷を噛み切って、君を起こしたら一緒にお祭りに混ざろうカ。
賢い君、賢い君、最初はどーする?どーしよ。
うんうん、そうしよう。

君の糸を絡みつけて銃を奪おう。
ダメダメ、銃は反則でーす。
アァ……お祭りに反則も何も無いよなァ……。
ルールもなーんにもない!

懐かしい。
とーっても懐かしい空気。
あっちも、こっちも、そっちも
君の糸で括り付けて動きを封じよう。

コレには狼の足がある
簡単には捕まらないサ。


エドガー・ブライトマン
アポカリプスヘル。始めて来たよ
寒々しくて、荒れていて
まるで世界の果てみたいなトコロだね……

さて、内紛を止めないと
子供同士で争ってるのを見ると、きょうだいゲンカを思い出すよ
私には弟も妹も多かったから

まあ待ちたまえ、奪還者の諸君
こんなトコロで争っていては、キミらの宝が逃げちゃうよ

私?怪しい者じゃないよ!ただの通りすがりの王子様さ
通りすがったついでに、キミらの助けになりたいな

まず物騒なものから手を離したまえ
仲間に向けるようなモノじゃないぜ

方針は違えど、みんな目的は同じだろう?
ソレが一番大事さ
で、その目的を達成するためには
近くに居るかもしれない敵に気づかれてはいけない
私が何を言いたいか解る?

お静かに。


花剣・耀子
おなかがすくのは、あたしだって好きではないわ。
ここの世界のヒトたちにとっては、もっと切実なことなのでしょう。
どちらも悪くないならまるく収めたいところだけれど、
……考えるより、動いた方が早いわね。

武器を向け合っているヒトたちのところに割って入りましょう。
怪我をさせる気はないし、武器を壊す気もないけれど、
実弾が飛んできたら斬るわ。

人数が減ったら目的は達成出来ないわよ。
あたしは通りすがりの部外者だけれども。
部外者だから思い入れなんてないし、どちらにも肩入れしないわ。
ごはんにだって困っていないから、持ち逃げする心配もない。
……ねえ、幾らで雇う?
便利な人員を使って、目的を達成した方がお得だとは思わない?




 ぼろぼろの装い、地に足ついていないかの足取り。
 それがたんたんたんと愉快なリズムを刻んで漂う。懐かしい空気。
「アァ……賢い君、賢い君……お祭りダ」
 エンジ・カラカ(六月・f06959)はこの地獄にもまた酷く馴染んでいて、この"お祭り"を好んでいた。好んでいる? 好き嫌いの別なぞ薬指から噴き出す血が熱いのと同じくらい特別で、どうでもいいこと。
 噛み切って注ぐ先の相棒、拷問器具はてらりと光ってエンジのこころを盛り立てる。
 誰が敵で何が味方か、分からないけれど。
「一緒に遊ぼう」
 今日も、と、永く連れ添った夫婦同士のように微笑みかけて。

 ゴキゲンの狼とは壁一枚隔てて側を走っているけれど、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)の面持ちはちょっぴり晴れない。寒々しくて、荒れていて。ここは世界の果てのよう。
(「だからこそ、私がいるんだけれどね」)
 そうだとも、苦虫なんて丸呑みだ。 子ども同士の争いにはきょうだい喧嘩を思い出す。弟と、妹と……おや、あそこに見える少女なんかはすこし似ている。銃を突きつけ合うのはいただけないが。
 棚の上で埃を被るマスコット人形を掴めば、うんと振りかぶって放る――こつんっと軽い音がして、振り向く黒目とエドガーの眼差しがかち合った。
「まあ待ちたまえ、奪還者の諸君。こんなトコロで争っていては、キミらの宝が逃げちゃうよ」
「宝、って……くそ、もう嗅ぎつけてきやがったのか!」
 向かい合わせだった少年が、もたつきながらも銃をエドガーへ突きつけなおす。
 その一瞬が、まだまだ甘い。
「――ダメダメ、銃は反則でーす」
 赤い糸がぐわりと束で視界に増える。
 それは銃を瞬く間に縛り上げ、遥か高くへと吊るし上げた。抜いて捌くに秒も要さぬ細剣の柄から人知れず手を離し、お、と瞬くエドガーの背後に染み出すみたく現れ出るエンジ。ヤッホー。
「アァ……でも。お祭りに反則も何も無いよなァ……」
 ルールもなーんにもない!
 も一度使う? 使いたい? たぁーらりたらり、赤糸が宙で戯れるうちに幾つもの武器が剥がされて、ひとり芸術展を開催しはじめた。
「なんだコイツッ!」
「私? 怪しい者じゃないよ! ただの通りすがりの王子様さ。通りすがったついでに、キミらの助けになりたいな」
 光景に怯む奪還者へと、両手を広げエドガーは歩み寄る。
 無害の証明。或いは、強者の。
 ――。
「聞いておくことね。早く食事をしたいのなら」
 刹那。少年同士振り切ってしまってからは戻れずに、あとは互いの胴へめり込むだけだった鉄材を弾き上げたのは花剣・耀子(Tempest・f12822)。
 そうしてその手に綻びひとつなく握られた、一振りの刀だ。
(「おなかがすくのは、あたしだって好きではないわ。ここの世界のヒトたちにとっては、もっと切実なことなのでしょう」)
 ふわり、浮き上がった後ろ髪が肩へ降りる。
 倒れている人間は未だいない。流し見た耀子はウインクを飛ばすエドガーと対照的に、己を部外者であると前置いて。
「部外者だから思い入れなんてないし、どちらにも肩入れしないわ。ごはんにだって困っていないから、持ち逃げする心配もない」
 ――ねえ、幾らで雇う?
 硝子越しの瞳が"お遊びではない"と物語る。
「便利な人員を使って、目的を達成した方がお得だとは思わない?」
「フリーの傭兵……、ってこと? アタシらなんかに、なんで」
 エドガーに。
 エンジに、それから耀子に"救われて"顔を上げた少女の瞳には、不安とない交ぜ、揺らぎながらもたしかに希望が滲んでいて――。

 続きを遮る爆音が、ごうと轟いた。

 奥だ。
 機械へ流れ弾でも吸い込まれたか、はたまた廃油が棄て置かれていても可笑しくはない。
 いずれにせよ厚い扉を吹き飛ばす勢いの爆風に、本日の生き場所を見つけたことを歓喜したかの如くに、布の下で刀がチキリと鳴いた。耀子は、少女の頭を押し下げ逃がすと即座、たんと地を蹴る。
「たす――――助け……、奥に仲間がっ! 払えるものなら帰ってなんでも、」
「行くわ」
「おっと、本当に刺激的な世界だね。――出口はあっちだよ、また後で!」
 遅れることなくエドガーも飛び出した。
 呆然とする奪還者らへ任されたと手を翳す愛想はこんなときにも平常運転。そんな王子様をわざわざ窺い見るでもなく、羅刹の娘は黒を微か熱っぽい風に靡かせている。
「見慣れているんじゃないの?」
「いいや、この世界は初めてさ」
「そう。エドガーくんにも知らない場所があったのね」
「いずれは、無い! と胸を張ってみたいなぁ」
 楽しみにしてる。そんな程度の、世間話ついでにふたりは黒煙を切り裂いて一直線。僅かに先を駆ける耀子のつるぎは、豪速で出迎えに来る配管だか柱だかをまとめて撫で斬った。
「これだから楽しいよなァ……お祭りは!」
 細かな破片はエンジの賢い赤糸が嬉々として浚ってしまう。
 気付けば混ざり込んでいるが常。単独行動、気分任せで動いているようでいて、頭を庇い動けずいる少年少女らへ降りかかる諸々も都度払われた。意図したものか偶然か――それはエンジ本人にしか知れぬところであるが。
 当の本人は既に、"とてもいい目"で見つけたお宝に興味津々だ。
「ハレ缶? アレの中身がハレ缶だとサ、賢い君」
 例のマスコットキャラクターが描かれたコンテナは、幸いなことに煤を被っている程度。

「――それで、その……ピカピカ? と間違って投げちゃったんだ?」
 エドガーの問いかけに、おずおずと首が縦へ振られた。
 踏み込んだ先、炎は存外、燻ぶる程度で広がってはいない。
 お仲間から胸倉を掴み上げられる少年を窒息寸前解放してやったところで、事の真相が見えてくる。手榴弾を取り違えての暴発。どうにも彼らは軽率過ぎて、これでは命が幾つあったとて足りない。
「そもそもが仲間に向けるようなモノじゃないぜ。方針は違えど、みんな目的は同じだろう? ソレが一番大事さ」
 ほら、と促せば、さすがに懲りたのか力なく取り落とされる物騒なものたち。
 結果として本当に怪我させてしまったことを、さぞ後悔していると見える。「治療の腕が確かな仲間も来ているわ」と耀子が簡潔に声を落とせば、その顔は漸く上を向いて、駆け付けてくれた猟兵を見回した。
「つうか……アンタらは一体。まさかハレ缶、」
「ああ! 通りすがりの」
「狩人サマご一行だー。ワンワン」
 横からにゅっと顔を出してきたエンジが猫の手をつくりエドガーの名乗りを遮る――つまりは"我々が狩るべき獲物は他にいるのだ"と。
 さりとて解読困難な口振りに惑う奪還者へと、言葉を続けるのは耀子だ。
「さっき契約したもの。少なくとも、缶詰を持ち帰るまでは味方よ」
「契約……?」
「そういえば報酬を聞きそびれたわね。頭がいるのなら、終わるまでに伝えておいて」
 言って少年へ背を向け、すらりと刀を構える耀子。エンジの手元の赤い糸はそれこそ餓えた獣の舌じみて垂らされて、狼はにたりと笑うのみ。
 腕をしずかに横へ広げ、少年少女を出入り口側へと押しやるエドガーはそういうことさと歌うように囁いた。穏やかなふたつの青は虚空を見据えて。
「目的達成のためには、近くに居るかもしれない敵に気づかれてはいけない。私が何を言いたいか解る?」

 ゆら、  ぐにゃ。
 ごらん。
 風も止んだというのに、赤い炎が不自然なほど大きく揺れている。

「お静かに」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『マシンビースト』

POW   :    ワイルドビースト
【野生化モード】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    同型機との経験共有
【頭部に内蔵した高熱の刃】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【行動パターン】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    光学迷彩
自身と自身の装備、【自身と同型の】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
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 いずれの衝撃、予備電力によるもの、あるいは幻覚だというのか――稼働再開したコンベヤのベルトの上を、こつこつリズミカルな音を立てて、ハレ缶が流れてゆく。
 蓋の外れた殺菌機が、ぷしゅうと気の抜けた音を吐いて白い霧を吐き出した。
 その水滴を弾き上げて飛び来る何かが、たしかにそこに、いる。
「なんだ……?」
「さっきのヤツらに任せていったんずらかるぞ!」
「ああ、けど……本当にそれでいいのか? オレたちのメシのために、アイツら死ぬかもしれねぇんだぞ?」
「死なねぇだろ! 見ただろ、さっきの力?」
 逃げ出すもの、武器を構えるもの。信じるもの。
 奪還者たちが選択を迫られている頃。

 ベルトの終端、受けとめる段ボールから溢れ落ちたハレ缶が、コロコロと転がる先には横倒しにされたコンテナたちがいくつも並んでいる。
 投げ出された缶詰のひとつが不意に音を立ててひしゃげた――かと思えば、どうだろう。一瞬で"消えてしまう"ではないか!
 ざり、ざり。するどい何かが床を掻く音。
『Rrrr……』
 息遣い。
 唸り声。
 そうして次々に姿を見せコンテナへ降り立ったものは、機械……否、獅子と象の中間ほどはあろうか、ストームに呑まれた獣の成れの果て。
 機械と融合して尚、彼らを突き動かすものがあのちいさな缶詰にあるとでもいうのか?
『GRRRRRaaaa!!』
 ――オブリビオンはなにも語らない。
 電子音混じりの咆哮とともに、生ける者へと硬質な爪を振り下ろすだけだ。
エンジ・カラカ
アァ……賢い君、賢い君、ワン。
仲間がたーくさんいるなァ……。
コイツらは賢い?賢くない?
うんうん、そうだそうだ。試すのが一番。

薬指の傷を噛み切って、まずは君に食事を与えよう。
それから目の前のコイツらを試すンだ。
待て。だっけ?

アァ……待てが出来ないのカ。
賢くないなァ。
うんうん、賢くないからハレ缶はあーげない。
賢い君、賢い君……見せつけてやろう。

待ての出来ないヤツラに君からのお仕置き。
ぐるぐると糸を巻きつける。
賢くないなら生き残れない。
知ってる?知ってる?

それから属性攻撃の毒でじわじわ蝕む。
待てが出来ない。賢くない。
ココはコレの居た場所よりも賢くないダメな場所だなァ。

犬は仲間だと思っていたのになァ


エドガー・ブライトマン
人を襲うマシンビースト君を優先して止める
当たり前のコトさ。私は人を守る王子様だもの
この剣は、人を守るためにある

人とマシンビースト君の間に割って入り
逃げたいものは逃がしてあげる
戦おうとするものは止めやしないけれど
傷つきそうな際は《かばう》

私の前で怪我をされるのはいただけないな
私の方は《激痛耐性》があるから大丈夫だよ

ああいうのって、やっぱり頭部が要所なのかなあ
頭部の刃やレンズを中心に狙うよう
レイピアを手に立ち回るよ
機械のことはよく解らないけど、上手く作用したならラッキーさ

何を隠そう、私はいわゆる“機械音痴”
なにもしてないのに壊すことすらある

つまり、

機械を壊すのは、どうしようもなく得意なんだ――!!


花剣・耀子
優先するのはヒトの命。
人間を襲おうとする獣を斬ってゆくわ。
残っているヒトたちを背後に回すようにして、
皆が退避するまでの時間を守りましょう。
腕に覚えがある子がいるのなら、ひとりでは逃げられない子を安全な場所まで連れて行ってあげて。
此方の心配は無用よ。下がって頂戴。

――ほら、おまえたちの相手はあたしよ。
速く動くものの方へ寄せられるなら、都合が良いわ。
喰われる前に斬ればよいのでしょう。
なるべく早く。速く。獣の方へと踏み込んで、見える限りを斬りましょう。
もし姿を消しているようなら、地面の足跡や潰れる缶詰から位置を推測するように。

早々に片付けられれば結果的に缶詰も無事になるもの。
ごはんの怨みは怖いわよ。




 来る。

 三方向、だ。
 誰が声掛けをしたわけでもない。一斉に閃いた刀と、剣と、糸とがそれぞれに第一波と打ち合って止める。残骸剣に伝わる手応えは耀子の細腕を震わすほどに重く、しかし膝は折れずに一歩、前へと。
「腕に覚えがある子はいる?」
「あ、え、」
 鍔迫り合いに軋む音にも負けず、声ばかりは背で竦み上がる奪還者らへ。 存外、穏やかに。
「ひとりでは逃げられない子を、安全な場所まで連れて行ってあげて――此方の心配は無用よ」
「それがいい。この通り、私たちは"目"もいいんだ」
 当たり前のこと。エドガーは人を守る王子様だ。ひとえに矜持により鍛え上げられた剣は、人を守るためにある。
 こくりと頷いた少年少女は、手にしていた得物をせめてもの置き土産とばかり拮抗する"空間"へ投げつけて後退してゆく。空いた手には互いの手を。これで、いい。
 そこにいる何かは、僅かに仰け反ったのだろうか。
「ふっ」
 繋いだ一瞬に、掬い上げる角度で捻りを加えて接触面を滑らせた剣鬼の刃が"それ"に突き立った。硬さをもろともしない滑らかさで。 ずるり。軌跡に沿い景色が斜めにズレたかと思えば、ばちばちと火花を上げながら浮き出る機械獣の輪郭。
「アァ……犬? 賢い君、やっぱり犬だ」
 ワン、ワン。エンジの糸は鞭じみて、崩れかけ尚も爪をもたげる残骸を弾いて飛ばす。お次のオトモダチが順番待ちしていたから、それはもう親切に――吹っ飛ばした先で起きた爆発はナイナイ。
 目にも止まらぬ太刀風爆風急展開に煽られてふらつく後方の歩みを庇うようにも、定められし輝きを放ち、エドガーのマントが広がる。鍵穴に鍵を回すみたく、手首を返して横へ薙いだ切っ先が"次"を飛び退かせ、十分な余白を確保して。
「においなんてのはしないのかい、エンジ君」
「ココはにおいが多いンだ。コレとしては――」
 コッチの方が手っ取り早い、そう、狼男が血の乾きかけた薬指を噛み切る。そのどろりとした赤を受けて途端に毒糸を放出する賢き君こと拷問器具は今日だって奔放で、そこにいようといなかろうと、空間そのものを縛り上げてしまうから。
「なるほど。キミの相棒くんは本当に立派だ!」
 ちょっぴりエドガーの左腕がキリキリ痛んだのはないしょ。もちろんキミが一番さ、レディ――とは心のうちにて、今はレイピアを胸元へ引き戻す所作で刺突の構え、逃げを許さぬべく。
「助かるわ」
 英気迸る細剣が雁字搦めの獣を貫くとき、短く吐いて横へ跳ぶ耀子の頭上をぶおんと質量が過ってゆく。裂かれて落ちる黒一筋は枯れ花の終いのように、だとて女は「ここからだ」と目だけで告げた。 とん、手をつき沈めた姿勢より身体のバネを発揮して迅く飛び立つ羅刹。
「――ほら、おまえたちの相手はあたしよ」
 見えているものを斬る。見える限りを、我が嵐の触れ得る一切合切を。
「来なさい」
 来れるものなら。

 ――ダン!!
 着地……着弾、が相応しいか。背を向ける耀子のとおりみちにばらりと機械が解けて落ちる。転がったネジが宙で跳ね返った瞬間に、"跳ね返した"すべてへ吹き返しの風たる二の太刀が注がれた。
 テンペスト。 望むままに揮われた力が屑山を積み上げれば。
『GrrrrAaaa!!』
「すずしーい」
 怯まずに――止まれずに? 女へ飛び掛からんとした獣へ真っ赤な首輪がぐるぐる結ばれる。
 ぐ、と引き戻して足元に転がしたエンジが"仲間"をにんまり覗き込んだ。がりがりと爪が硬いものを掻く。逃げたくて、逃げられなくて、こんなにもなつかしい音がする!! ――だから、試してみたい。
「待て。 ハレ缶が欲しいなら待てが出来る、出来ない?」
 賢い(生きるべき)か否(死ぬべき)か。
 叩きつけられた衝撃で脚部を破壊されたのだ。足掻く機械獣がギョロ目じみたカメラレンズを露わに牙を剥くのを、じいと見下ろす狼男の表情はしばし窺えず。
「やっぱり――賢くないなァ」
 ぽつり落ちた声は、酷く純に響いたことだろう。残念でしかたない。ココは、コレの居た場所よりも賢くないダメな場所……犬は仲間だと思っていたのに!
 ハレ缶を食べる資格の無い口へと、猛毒の糸が飛び込むは直後。
 抵抗しようにも術を封じられた機械は、次第にその青目から光を失って――己の得た戦闘データを同型機へリンクさせんとした間際の足掻きすらも、鋭利な刃が刈り取った。
「ダメなのかあ。うーん。機械の類はね、正直まったくよく分からないな」

 エドガーだ。
 所謂"機械音痴"なんだ。こんな風に、容易くもげてしまう。しかたないので串刺した頭部を盾代わりに襲い来る獣爪へとかち合わせ、破片の散り落つ間を縫いつける神速の連撃。
 ユーベルコードが魅せる何処かの英雄の戦いぶりは、確かに宿り今ここに。
「つまり、」
 ぴ、と零れた燃料の水たまりを跳ね上げる度、王子様は糸にとらわれた二度目の終わりを待つものたちを解き放ってゆく。言い訳ナンバーワン「なにもしてないのに」を供に。 つまり?
「機械を壊すのは、どうしようもなく得意なんだ――!!」
「適任ね。それに、大抵のものは殴ればいいというわ」
「アァ……聞いたコトあるある。賢い君もそう言ってる」
 そうして止めるものも居はしない。クラッシュ! クラッシュ! クラッシュ!! ブレードへレンズへ。……よく尖った細剣の先は、ともすれば繊細にして大事なパーツを深く一刺しするのに大変向いていたのやもしれず。
 マシンビーストとて、一手を犠牲に糸を焼き切り攻撃に転じるものも少なくはない。とはいえ搭載された野生化モードとやらは知性を置き去り、互いの死角を補うように交錯しては刃を振るう剣士ふたりに翻弄されるばかり。
 所詮は捻じ曲げられし生の性能限界ということか。
「賢くないなら生き残れない。知ってる? 知ってる?」
 知らないのならきみにも、教えてあげよう。エンジのそれは親切心であった可能性すら――あったかどうか。侵食しきった致死毒によりとろとろ溶け落ちはじめた機体には最早、知る術などある筈もなく。
「そうだ。ヒトの間には、こんな言葉もあるのよ」
 "ごはんの怨みは怖い"。
 次に湧いてくるときは、プログラミングしておくといいんじゃないかしら。
 ――からん、と。
 突き立つ花散らしのつるぎが引き抜かれれば。穴だらけで黙するボディも等しく、吹き込む荒野の風が浚っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

エスパルダ・メア
【鈍器】
懐きそうにねえ獣だな
狼に鶏と並んで可愛い絵面に…
なりゃしねえ
可愛い担当でオレが出てみろ、泣くぞガキが
泣かした獣には躾が必要ってな

敵の足元に属性攻撃で薄氷を広げて足跡を視認できるように
固められたのを片端から殴り飛ばすか
キディのスパナが頭掠めた気がするんだが
強く生き…殺す気か!

血糊を的に、体勢崩した敵を【虚陽】で殴り飛ばす
盾を構えれば逃げ遅れたガキを背に庇って
目ェ逸らさずに見てろ
お前らは生き残る
イディの壁が崩れそうならその役は半分貰う
運搬係が怒ってるぜ
器物の身同士守りゃしねえが
ほんとえげつなくて――楽しいこった

おんぶエスコートはキディに任せてガキ共と
傷を治すのはできねえから傷口を氷で塞いで


キディ・ナシュ
【鈍器】

カッコ良い獣さんたちですね
ですが、わたしの狼さんの方がもっと強くて素敵です!
ご安心を、みんな可愛らしくて素敵なのでにこにこ笑顔になりますよ!

見えないとて、狼さんのお耳からは逃げられませんよ!
わたしも一緒にスパナでガツンといきます
あっ
大丈夫ですエスパルダさんなら避けれます強く生きてくださいね!

真っ赤な的ができたら悲鳴あげ
姉を背負って帰らねばいけないのは、わたしなのですよ!
怒りました、今ここで追加のおやつはあの獣たちですよ狼さん!
子どもたちを狙うものに最優先で喰らい付かせ殴り飛ばし
お二人の損傷が少なく済むよう手早く倒しましょう

姉を背負って子どもたちにVサイン
二人はとてもカッコイイでしょう?


イディ・ナシュ
【鈍器】

随分可愛げのない獣ですね
目で楽しめないではありませんか
キディの狼も厳ついばかり
こうなれば、エスパルダ様が可愛いを担当してくださいませね

大立ち回りは不得手ですので
殲滅は二人にお任せを
鶏を嗾ける対象は獣の四肢
存分に固めておあげなさい

不可視の敵は氷上の足跡と足音を頼りに追跡を
子供らに被害が及ばぬよう
肉壁ぐらいには成りおおせます
攻撃は急所を庇いつつ甘んじて受け
血糊を浴びせかけ"見えぬ敵"から"見える的"へ
痛みは慣れております
眉一つ動かしません
手分けをし、一匹も討ち漏らさぬように

ヤドリガミなぞ所謂「使ってなんぼ」
後の運搬や傷の処置は
憚りもなく二人に頼ります

あの子達の血の一滴ですら
獣には過ぎたもの




 その荒々しさときたら、エンジン全開の車かも。
 光線と化し駆け込んでくるマシンビースト。それに真っ向から対峙しながらキディが上げた悲鳴は、何故だか暖色系をしていた。隣で震え上がる少女より一歩出て、解き、カラとなった手から零れだすのは――。
「カッコ良い獣さんたちですね。ですが、わたしの狼さんの方がもっと強くて素敵です!」
 ――菓子?
 とんとんとん、こんにちは。踵はご機嫌呼び鈴代わり。
 床へと落ちたまあるいビスケットが跳ねた。割れた、砕けた、 ――消えた。
 "おじゃまします"。現れ出た大狼が欠片のひとつも零さず味わうべく、まっくらやみの大口を開けたのだ。ぱきんっ! べき、ごき、凡そ焼き菓子らしからぬノイズは勿論、諸共食まれた血気盛んなさきがけのもの。
『Rrrrr!』
「ああ――可愛げがなくて、厳つくて。どちらの獣も目で楽しめないではありませんか」
 同型機の被害を視認し急減速を試みる後続であったが、どうしたことか。脚が前にも後ろにも上手く進まない。
 効きそこなったブレーキが地面との摩擦で火花を散らす。そのちいさな光ごと、閉じ込めて縫い付ける禁書由来の黒。汚らわしい絨毯でも見つめるように、ほう、と溜め息を吐くイディにあわせ件の怪鳥が毒を撒く。
「あっ」
「ぅぐ……!」
 つい先刻同じ呪いを受けたばかりの少年らが戦々恐々と身を捩った。石化、だ。涙目で鼻をつまむ様を笑い飛ばしたのはエスパルダで、ムリもねえと注ぐ眼差しは機械獣へ。で、大狼と。大鶏と?
「可愛い絵面に……、なりゃしねえもんなあ」
「こうなれば、エスパルダ様が可愛いを担当してくださいませね」
「ご安心を、みんな可愛らしくて素敵なのでにこにこ笑顔になりますよ!」
 おやつの時間をがうがう堪能する狼の口からはもげたパーツがはみ出しているし、蛇尾を振り振り鶏は駆け回る。 話が通じないことは分かっている。いた。加えて可愛い担当でオレが出てみろ泣くぞガキが、やれやれ首を振ったエスパルダ。
 ――その右手、カリマを染め変える血潮の彩。
「さ、ガキ泣かした獣には躾が必要ってな」

 やつあたりでは!???

『GRrrrAa!』
「あー? わりィ、ナニ言ってっか分かんね」
 イグニス・グラキエス。凍てる拳が、飛ぶ。
 一息で詰められた距離を飛び退くこと叶わず、あわれ首から上とお別れするマシンビースト。ぐらりと大気を揺らす灼熱を秘めた氷塊は、溢れ出る燃料を蒸発させたかと思えば床に零れた瞬間、覆い広がる薄氷、白き罅を根のように伸ばした。
「たのしいねと言っている気がします!」
 霜を踏み歩くこどもみたく、元気いっぱい躍り出るのはキディ。
 獣の言葉を人は知れない。ならば人の言葉を獣は? ――論じたところで意味もない、機械化して尚演算を司るであろう頭部が、巨大スパナによりしめやかに潰されたのだから。
「あまりはしゃぐと転んでしまいますよ。キディ」
「ハハハ、やっぱ幼女じゃ――」
 ぶおん!!
 "ついつい""偶然"頭の横を掠めていったスパナさんに「殺す気か!」エスパルダの憤りは、やはり苛烈な破壊として機械獣へ叩き込まれるのだった。
 大丈夫ですエスパルダさんなら避けれます強く生きてくださいね! 強く生きて――つよく――。
 強いひとにだって、おそろしいものはあるらしい。
 エコーする軽快なやり取り、鈍く鳴り止むことのない金属音。戦い続ける猟兵の後方で身を固めていた奪還者がひとつの真理に辿り着いたときだ。
 カツ、
 微かな踏み込みの音とともに、その背へと不可視の爪が振るわれたのは。
「お下がりください」
 しかし、凶刃が子らへ届くことはない。ジジッと焼き焦がす音も、香ばしい香も風も、すべて抱きとめた器物の精。半身が袈裟掛けに裂けようと、佇むイディは呼吸ひとつ乱すことなく。
(「この子達の血の一滴ですら、獣には過ぎたもの」)
 表出せぬ心の、芯は。 飛び散った血糊はヒトのそれに、とてもよく似ていた。
「――まぁ!!」
「気張るじゃねえか、お姉様」
「エスパルダ様のお力添えあってのこと」
 先に張り巡らされた氷。足音を捉えやすくなった戦場で、近接戦を他へ任せられる分、神経を集中させていただけ。事も無げに告げるイディと反対にキディは怒り心頭! 口元を押さえた手は、すぐに血染めのマシンビーストへ。振りかぶり、
「……おねえちゃんを背負って帰らねばいけないのは、わたしなのですよ!」
 犬がよくするぶるんぶるんと水を飛ばすあれの、ぶるの辺りでしとど殴り飛ばすスパナ。床を色付けつつ転がされた巨体は、駆け付けた大狼の口へそのまま無様にご案内。
「怒りました、今ここで追加のおやつはあの獣たちですよ狼さん!」
「いやもう喰ってんぞ。ったく、お前らときたら」
「ご面倒をおかけいたします」
 腕の動かせなくなったすまし顔の同族へ、いいや、と。一切曇らぬ面持ちでエスパルダは言う。
 ほんとえげつなくて――楽しいこった。
 女が繋いだ色を頼りに、少女が突き上げた機械。それを崩す、分厚い鋼をも砕いて溶かす氷の音を、言葉尻に重ねながら。

「目ェ逸らさずに見てろ。お前らは生き残る」

 出会ってすぐの"他人"であれば信じきれる筈もなかった言の葉。
 だが、いま背に"仲間"として庇われた奪還者には、信じることしかできなかった。
 迫る爪撃。
 イディの肩を引き、代わりに突き出されたエスパルダの盾翳す腕を獣が薙ぐ。六花めいて風に散る色。――その風を逆巻きに吹き直させるのは、下方から殴り上げる大迫力のスパナの一閃。
「せぇいっ!」
「――」
 派手にへこみ倒れ込む獣はもう一体を圧し潰し。
 刹那をひとまとめ、石へと変えてしまえと妖しい薔薇色のまなこが瞬いた。次に瞑ったなら、おわり。防御と逆の手で繰り出された虚陽の一手が、石像の額へと本日イチうつくしく吸い込まれているのだから。
『Gyyy g』
「な、言ったろ」
 脅威は崩れ去る。
 はらはら落ちる欠片に手を払い、勝ち誇る笑みこそが眩しく。
「あ、ああ……」
「ッオイ! やべー血じゃん!」
 束の間、
 声を忘れていた少年少女はそこから一斉に慌てはじめた。
 持参していた包帯で補えそうもない負傷に青い顔をする彼らへ、すっと手を翳してイディはしずかに首を振る。ヤドリガミなぞ所謂"使ってなんぼ"――故に。
「お気持ちだけで結構です。痛みには慣れておりますので」
「そういう問題じゃっ……」
「ふふふ、でしたら代わりにわたしに巻いてくださいませんか? 手を擦りむいちゃいましてー!」
 なんて。 騒ぎの中へひょっこり顔を出した助け船の主・キディはよいせと、慣れた調子で姉を背負い歩き出す。自らへも薬を押し付けんとす低い位置の頭を軽く揺すっていなし、続くエスパルダが「そういうこった」と。
「第一よ、こんくらい氷で塞いどきゃ治る」
「は!? すげぇ……!!」
 治る――治りはしないのだが、大人にはカッコつけたいときもある。ひっそり、すこし目を細めたイディだが真似はおすすめいたしません、とだけ。順に齎される氷の力には口を挟むことはなく、義妹の背で揺られることとした。
 ぽかんと夢見心地の顔で立ちすくむ少女へ、数歩進んだところで手招くついで、キディがつくってみせるのはブイサイン。
「ね。二人はとてもカッコイイでしょう?」
 彼女はそう言うけれど。
 "守るため"。 勲章みたいなおそろいの傷は、きっと、三人とってもカッコイイ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

イリーツァ・ウーツェ
人間を守るは、約定の一
雛等の救出が、此度の任

防衛優先で行動する
雛を襲う敵を優先して排除
攻撃から身を盾にして庇う
自身の損傷は全て無視する

翼も腕も、尾も胴も
総てを使って守ろう
怯えて動けぬ物は、蛇腹剣で巻取り
手加減して出口に投込む
直接掴むと最低でも服を千切るか
最悪は掴んだ部位を握潰すからな
峰側で巻けば切れまい

遠方で襲われていれば銃で
中距離は杖術で 近距離は足や尾で
缶詰は他猟兵に任せる
其れが目的の物も居た様だからな
私は雛等を守るに務める


月守・咲凛
アドリブOK

オブリビオンもだいすき?
そんなに美味しいのでしょうか、はれかん。
興味が湧いてしまいますが、それより敵退治ですね。
空中からの戦闘に徹し、生存者達に攻撃が行かない事を最優先、場合によっては地上スレスレまで急降下して二刀流チェーンソーでの接近戦も行います。生存者を守るためなら自分のダメージは厭いません。
消えてしまうと厄介なので、この子達もさっきのペイント弾でカラフルになって貰うのです。
ペイント弾を撃ち尽くしたら改めてジャコン、と通常の魔力弾をリロード。
「今度は本気です」
と、ニッコリ笑ってユーベルコードで斉射します。
いちおう、晴れ缶を撃ち抜かないように缶詰めの近くにいる敵は味方に任せます。


渦雷・ユキテル
やだ、大事な缶詰がー!
食べ尽くされる前に片づけなきゃ

食べ物の恨みって怖いんですよ
消えてく缶の方へと駆けながら
エレメンタル・ファンタジアで生み出す雷の嵐
身体から溢れて、つまみ食いの犯人探してごうごうと辺りに弾け
正確な居場所が分からないなら
当てちゃ駄目なとこ以外ぜーんぶ潰しましょ
【属性攻撃】でコントロールして人と缶詰は避けるようにします

電流が体表を走れば丸見え同然
装甲の隙間にクランケヴァッフェを突き立てて旗の代わり
目印付けたら一度距離をとって拳銃構えまーす

本質は獣なんでしょうか
勝手に変えられた姿ならちょっとだけ可哀想、かも
でもいいですよね。最後に食事を楽しめたんですから

※絡み・アドリブ歓迎




 約定の一.人間を害するな。
 ゆえに。記憶を辿るまでもなく、そうとすることがごく自然のように――それこそ呼吸のように、イリーツァの腕は盾として伸ばされた。
 獰猛な牙が柔くはない肉を抉る。滴る血はさぞ美味かろう。
 しかし"結果的に"もぎ取ることに成功したのは、自らをエサに反対の手で獣の頭を掴み込んでみせた竜人の側だった。
「おいでのようです」
「ええ……! ひとまず、道を作りましょう!」
 力任せの芸がぶちぶちとコードも己の筋線維もなく引き千切る。ヒッと悲鳴を殺し損なう庇い先、飛べぬ雛を一瞥するイリーツァは「走れますね」とだけ問うた。必死に頭が縦へ振られる。 ウイングスラスターを音もなく広げ、咲凛が真横を飛び立ってゆく。血の香を孕む風が吹き下ろして、駆け出す少年少女の背を押した。
 オブリビオンになってまで、……だいすき?
「そんなに美味しいのでしょうか、はれかん」
「俄然やる気が湧くってものですよね、味見しちゃダメでしょうかー。 ってね、」
 かわいい冗談。缶詰は任せてほしいとユキテルが振る手には点滴台を模すクランケヴァッフェ。痛さなら太鼓判もの、ごはんの代わりにおすそ分けしてあげるため。

 一斉に、銘々の目的のもと散開した猟兵たちは努めて冷静だった。
 イリーツァが押しとどめた一体目が、巨体故に栓ともなる。後続が突入経路を調整するため身を低く後ろ足を曲げる刹那を好機と見逃さず、その脚を撃ち抜き機動力を奪うはビームライフルによる眩しい光。
「さぁ、振り返らずに!」
 咲凛のものだ。奪還者たちを導くべく、くるりと横軸回転しつつ頭上を過ぎる娘へ機械獣が顔を上げたとき、横薙ぎにめきょりとめり込むのは鞭――……否、尾?
「余所見とは」
 硬い竜鱗に覆われたイリーツァのそれが、精巧なつくりの頭部レンズを砕いて散らす。そうしてぐら、ぐら、たたらを踏んだならば完全に男のペース――槍の如き鋭利な前蹴りがオブリビオンを後方へと吹き飛ばした。
 まるで全身が武器。
 方向性こそ違えど、ふたりして兵器のよう。
「頼もしい限り。早上がりできそうなのは本当かも」
 もうすぐお昼の時間だもの。食べ物の恨みって怖いんですよ、知ってました? なにもない空間へとフレンドリーそのもの声を掛けるユキテルの様子は、先の子らが残っていれば一層おそろしく思えたろう――が。
 同時に、格好良くも。
「ね。つまみ食いしたの、だぁーれだ」
 金の髪をやさしく掬い上げるみたく、なめらかに巻き上げて。
 ユーベルコードにまで高められた雷の嵐はごうごうと轟きながら、華奢なからだを伝いゆく。じきに足元へと降りたなら絶えることなく床を奔り、ぱちり! "なにもない"を"なにかある"へ浮き上がらせるのだ。
 かくれんぼなんてなつかしい。
「――ふふっ」
 "彼"との共同作業のようで、ちょっとだけ嬉しいおとめごころ。音を立ててうっすら煙を上げる空間の境い目へと突き出したBloody&Brandistockは、血の代わりに焦げ臭い燃料を飛沫かせる。
『Zy syyyyy』
「やっ!」
 その黒々とした燃料を浴び光学迷彩機能を手放すこととなった個体へは、急降下した咲凛のムラサメが見舞われる。敵も必死なもので、ぐわりと振り上げたレーザーブレードは――しかし――無意味だ。間髪入れず四方へ放出されていたビームダガーが、相殺するかたちで削ぎ落とすから。
「同じ分野で負ける気は無いのですよ」
 地スレスレ、水面を歩くみたくふわりと身を翻す少女が再び機甲の翼で舞い上がるのと入れ替わりに、イリーツァは駆ける。眼差しの先へ、怯んだ獣らを強か打ち据えつつ蛇腹の剣を這い滑らせて。

 約定の二.オブリビオンは殺し、猟兵は補佐せよ。
 ――瓦礫の陰などと潰してほしいと言わんばかり。身を縮めて隠れていた少年が、黒き竜により見つけ出されたのは幸運といっていいだろう。伸ばされた手は刃の形をしていて、少々手荒ではあったが。
「え? わっ、ああぁぁぁぁ!」
「どなたか。手でも引いて差し上げてくださいますか」
 一応峰側という配慮はされていて。これでも己が手で直に掴むより安全だと語るのだから、底知れない。 巻きついて引き上げる骨を解かれた瞬間、ぐわんと投げ出されたこどもは一度、段ボールに突っ込むかたちで着地に失敗してから友に腕を引かれる。
「ばかっ、なにぼさっとしてんだ! 殺されるぞ!」
「ど、どっちに!?!?」
 もつれる足取りも騒がしく遠のく音を背に、イリーツァはひとつ息をついた。そこにいずれの意味を含んだものか、恐らくはただの区切りだったのだろう。次なる約定を、当たり前に果たすため。
 たん、たん、
 屋根なしの天より撃ち下ろされるペイント弾が空間を色付ける。赤、青、黄――花畑のよう。
「わぁ、かぁーわいい! それによく見えますよ」
「お着替えが出来ないというのも、大変ですね?」
 可憐な二人組の作戦を前に、もはや敵の位置は面白いほど筒抜けとなっていた。不可視であった筈の刃をひらり躱し、壁を蹴りつけてとっ、と巨体脇をすり抜ける最中にもユキテルの手繰る矛先は首と胴の隙間へ吸い込まれる。
 こうして伝わる手応えは、案外いのちを断つときと変わらない。
(「本質は獣なんでしょうか。勝手に変えられた姿ならちょっとだけ可哀想、かも」)
 でも。
 腕をぐるんと回しコード類を掻き荒らす所作に、躊躇いは滲まずに。そう、幾度も繰り返してきた正しい、馬鹿々々しい命の獲り合いだからこそ。
「いいですよね。最後に食事を楽しめたんですから」
 墓標の如く突き立つ"旗"のもと、こうべを垂れる敗者へ――勝者は粛々と、Cry&92の引き金を引いた。
「ええ。食後のおもちゃ遊びもおしまい」
 残響も鳴り止まぬうち続くは硬質な。ジャコン、と、撃ち尽くしてカラになったペイント弾に代わり装填された暴威こそが、月守の咲凛が最も得意とするところ。
「今度は本気です」
 幼気な笑いだった。
 武装ユニット全開放、コード・アクセラレーター。プログラムは即時実行され、一斉に吐き出された光輝の魔力が宙を躍る。着弾、着弾、飛び退いた獣の足場をも崩して"着弾"と塗り変え、過去へ押し戻す力の奔流――。
「いい天気ですねぇ」
「昼餉もさぞ美味くなることでしょう」
 ――ピカピカハレ模様のその終息を見届けて。
 ユキテルとイリーツァが放り出したマシンビースト改め即席の盾として働いた消し炭が、朽ちた缶詰の中身同様ぼろりと崩れ消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
おや、アッチも腹ペコのようネ
さあて少年達は仲良くしてる?なら結構
生きようと頑張るコ達は嫌いじゃナイ
だからしっかり隠れてなさいな、それが一番の加勢だ

見えない獣なら見えるようにしマショ
少年らを『かばう』よう立ち細く長い【彩雨】を降らすわ
『範囲攻撃』で自分らを囲むよう地へ突き刺したら氷の檻ってトコね
針に触れず、或は溶かさず動けはしねぇデショ
その動き『見切り』反撃は『オーラ防御』纏いこの身を盾にしましょ

『カウンター』で針で狙い撃ち凍らせさらに可視化
『2回攻撃』で「氷泪」から紫電奔らせ『傷口をえぐる』ヨ
機械は雷に弱いデショ?
飢えた獣は美味しそうではないケド、怪我した分は『生命力吸収』で補わせてもらうねぇ


ジャハル・アルムリフ
…肉の身体でなくとも腹は減るのだな

狩れる獲物ならば分けてやれたが
この限りある世では、な
缶を狙う連中を迎え撃つとしよう

さぞ狂おしかろうが、済まぬな
…飢えたもの同士、喰い合うがいいさ

【暴蝕】で喚び出した群魔たちを差し向け
透明化したものへは匂いや音で喰いつかせ
見えずとも群がるところ
或いは群れが何かにぶつかる箇所へと
黒剣で斬り付け、破壊を試みる

獣が缶に食いつこうとすれば
その口腔へと素早く剣や籠手ごとの腕を差し入れ阻止
部位破壊で首を刎ねれば疾く終わらせられるだろうか
さあ、もう空腹も感じまい

転がってしまった無事な缶が踏みつぶされる前に
尾や剣先で少年少女らの方へと放るなどもして
…大事なものであろう?


絢辻・幽子
あらあら、ワンちゃん?獣ちゃんがいるのねえ……?
お腹を空かせすぎちゃったのかしら、怖いわあ、怖い怖い。
あんな風になっちゃうから仲良くしなきゃねえ
なあんて。

あ!もう、その缶はみんなのモノなのに独り占めしちゃだめよ
自分はのんびりとゆうらりゆうらり素早く動く気などなしで
糸と狐火で応戦の構え
ふふ。悪い子は、『生命力吸収』と『傷口をえぐる』で
その関節からもぎ取ってあげましょうねぇ……?
あなたは食べても……食べる所なさそうだもの
食べ物の怨みはとーっても怖いんだから。

もし、逃げられない、動けなくなってしまったりした子がいたなら
糸で回収しましょうか。痛くない様にはするけれど
暴れるとちょーっと痛いかもね。




 かたん。 ぎ、ぎぎ、ことん。
 異音を含みつつ稼働を再開したベルトコンベヤを物珍し気に見遣りながら、それと並走するジャハル。材料や他の機器がこの調子では現在ベルト上を行き来しているものが最後ということだろう。周囲へと逐一注意を巡らせど、奥から響き続ける戦闘音が、迷うことのない道標となっていた。
 次第に視界へ増える残骸は、獣のかたちをした機械――オブリビオン。
(「……肉の身体でなくとも腹は減るのだな」)
 近く転がるブリキ缶には鋭い爪痕が刻まれている。
 狩れる獲物ならば分けてやれたが、この限りある世では。
 黙してひとつ、瞳を伏せたのち前へと視線を戻したジャハルの身から剥がれ落ちたかの黒が零れる。まさか先の負傷が? 奪還者が共にいたならば肝を冷やしただろうが、違う。そうして羽音を鳴らすは、使い手と似て非なる暴蝕の群魔。
「いいか。喰らっていいものは、ひとつだけだ」
 指示を受けた呪詛は一塊となり、解け、また集い。ごちそうを前にはしゃぐ風にざあああと飛び立って――。
「さぞ狂おしかろうが、済まぬな。……飢えたもの同士、喰い合うがいいさ」
 ――すぐに見つけ出す。
 微かな物音すら逃さぬ貪欲な餓鬼の欲が、潜むマシンビーストの光学迷彩をも看破した。一所に群がる小竜もろともジャハルが振り抜いた影なる剣は薄闇に溶け込んで、這い寄るほどしずかに空間を断つ。
 かつ、と、頸椎にも似た箇所を過ったあとは物音が立つことはない。触れ、途切れ、地面へ着くまでの束の間に、我先にと食い荒らしてしまう使いなのだ。
『Rrrr……』
 代わって漏れ聞こえた"生物"のモーター音は前方、コンベヤの分岐点。
 ことことと流れてゆくブリキ。加えて、その先で大口を開け待ち構えている脅威とを見とめれば、即座にすべきことを判断したジャハルは拳をベルトへ叩きつけた。波打ってめくれ上がる薄板の上から跳ね、転げる缶詰。機械獣の意識があちこちへ逸れた僅かな間に、飛び乗った台車を蹴りつけてひととび、くろがねの爪が迫る。
「渡さんと言った」
 猟兵の中には優秀なメカニックもいる。然るべき時がきたならば、この工場も――なにより。先の見えぬ未来のことよりも、今、目の前で生きて足掻くものたちの生を尊重したい。あの、くらい瞳をした少年少女らを。
 彼らの糧ひとつとて取り落とさず尾が巻き取ったとき、刎ねられていた機械の頭が入れ違いに、硬い床へと齧り付く。
「さあ。もう空腹も感じまい」
 か細く立ち昇る黒煙を、次へと飛び立つ羽ばたきが還るべき過去へ吹き消してゆく。
 
 ――お腹を空かせすぎちゃったのかしら、怖いわあ、怖い怖い。
 ――あんな風になっちゃうから仲良くしなきゃねえ。
 とは。ひとつのハレ缶に群がったところ一網打尽、バラバラな方向へ引いて千切られた機械獣と、奪還者とを交互に見つめ糸使いが吐いた台詞であり。
 ギィィ、ィ、
 斬り結んだ相手を更に蹴飛ばすことができるのは、人型様の特権だ。片足の浮いたところへ長い脚をお見舞いしてやったコノハの眼前でギャインと、案外犬っころらしい叫びを残しマシンビーストが飛び退く。背に庇われた少年少女の、どちらの立場へ投影したものか怪しい苦し気な吐息が零れて。
「やぁねぇ腹ペコ? こんなトコで会ったンじゃなきゃツマミくらい出してアゲルってのに」
「んもー、コノちゃんがそんなこと言うから幽ちゃんだってペコペコよー?」
 私を差し置いて、悪い子のワンちゃんにあげるなんて許せないくらい。――幽子という存在は、そもそもがうらみつらみと親和性の高い面があり。そうした昏ぁい念とともに手繰られた糸は、やたらと執拗に機械獣へ踊った。ブレードで焼き切られようと爪に裂かれようと、繰り返し繰り返し溢れ出て。
 髪がひとりでに増える呪いの人形。まさにあんな具合で。
「やっぱやべえんじゃ……」
「逃げ、」
「おおっと、迂闊にウロチョロすんンじゃナイよ。死にたかないんだろう?」
 手を取りこそそっと離れかけた少年、その腹に数秒後には突き立っていたであろう獣の前足を、掬い上げるかたちでコノハのナイフが弾いた。仲良きことは結構だけど、とウインクも忘れない。
 生きようと頑張るものは嫌いじゃない。
 ――加勢したいって子も、オレらのためにしっかり隠れてなさいな。応戦すべく照準を彷徨わせる少女の頭を。ぽんと撫でつけ共に伏せさせるコノハ。直上を機械獣と糸とが追いかけっこしていった。
 よって、我先にと飛び込んできていた獣の攻勢に空白が生まれることとなる。
「モノにしなきゃネ」
 このチャンス。呟くと当人以外にとっては唐突に、透き通った雨が天より降りはじめる。それは床に触れようと弾け散ることなく、こまかな針と化し所狭しと突き立っていくのだ。ユーベルコード製の檻、ただし、内に囲うものを守るための心強い檻が瞬く間に完成すれば。
 気配だけはずっと感じていた"たしかにそこにいるもの"が自ずと炙り出されることとなる。たとえば無警戒に針へ触れ、貫かれた隙間から噴き上げる燃料――、黒々とした高熱の液体が奪還者へ降りかかる前に、
「ビーンゴ」
「あらあら、まだこんなにも居たのねぇ。ごめんなさいね、気付かなくって」
 迸る紫電が。ぼうと灯る紫炎が、危うげなく喰らって消す。
 かくれんぼは上手なのだけれど。鬼の側だって、ね。 黒く飾り立てるドレスを色付け漂う狐火は、撫でつける幽子の手に嗾けられた風に舞いながらマシンビーストを踊りに誘い、ぐずぐずに溶かす。
 いくつステップを踏もうと決してひとつにならぬ様が、叶わぬ恋の距離みたい。なぁんて。もちろん腹に迎えてやる気もなくって女狐は、飛んできた破片をぺいと落とす。
「だって、あなた食べるところなさそうだもの。ね、食べ物の怨みはとーっても怖いんだから――それだけ知っていきなさい」
 くすくす笑いの手指がいつしか絡まり合った赤い鋼糸をくんと引けば、爆炎。もぎ取られた機械製の関節は、天井まで弾け飛んで行った。
「えげつな」
 笑うコノハは鏡など見ない主義。ぽっきり追って手のうち収めた彩雨の針を、拳がめり込むほど深く突き刺されたてのマシンビーストがまたも一体崩れ落ちた。レンズが砕けて、キラキラ。踏まれてバラバラ。
 己を顧みることのない立ち回りに傷は増えるも、器用に"いただいている"から体は軽い。右目に映す獣の像が近付くほどに大きくなる。もっと、もっと、この喉元までおいでと爛々見開かれたアオへ――黒影が。
 烈風を連れて、一陣吹き込んだ。
 ごおっ!
 踏ん張り切れず弾き飛ばされるマシンビーストと。ぽかんと見遣るコノハと、やたら機敏に缶詰を庇う幽子、それに――竜。
「邪魔をしたか?」
「――フ。 いーえいえ、待ってマシタ!」
「こちらもちょうど終わったところなの、ふふっ」
 それが山盛りハレ缶を軽々抱えてぱち、ぱち瞬く猟兵……ジャハルだと知れば、破壊の限りを尽くしていた雷と炎はしゅいっと掻き消えた。 化け狐がひとの前で、あやしくないよと賢く尾を隠すみたいに。

「集められるだけは集めてきた。……大事なものであろう?」
「うん、……うん!」
「すげえ、いま飛んでたよなっ」
 空を飛ぶ=格好良いの図式は時代が進めど変わらずか。
 適度にいなしつつ、回収してきたハレ缶をジャハルが手渡せば少年少女はわっと群がる。幸いにして頑丈らしい、この分ならば工場内に他に残されたものにも期待ができる。
「うっし。帰り着くまでが遠足だかンね、歩けねぇ子はー?」
「おねえさんが運んであげるわよー」
 ――ただ。
 妖狐たちのにこやかフレンドリーな呼びかけへ、嬉々として甘える派閥と必死に止める派閥とがここにきて割れたのはまた別の話。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トスカ・ベリル
こら。
お前たちにごはんは要らなくても、あの子達には要るの
これ以上、減らすのはやめて

(こども達へ)きみ達も。
迷わなくていい、戦わなくていい
逃げて
生きて
……ぜんぶ終わったら、ハレ缶、ちょっと食べさせて
やくそく、ね?

さあ、今日は誰が来てくれる?
応じてくれる英霊は気まぐれなの
――誰が来ても、わたしには判らないけど
(首のない、弓の名手の英霊を喚ぶ)
(見た目の描写はご自由に)
さあいこう、誰かさん

同じ型なら、
同じ性質で、弱点かな
英霊の陰からよく観察して
狙われたなら素早く跳んで避ける、うさぎだもん

今回は動けなくなったら意味がない
怪我は避けるよ
こら、耳はやめて
せっかく巻いた包帯が切れたら
かなしいから


キトリ・フローエ
魔物とも災魔とも違う、この世界のオブリビオン
見た目は機械なのに、感じる気配は飢えた獣
…嵐に呑まれると、そんな風になってしまうのね
あなた達の餌はここにはないわ
大人しく骸の海に還りなさい
命もハレ缶も、何ひとつ奪わせてなるものですか

あたしは人間を襲おうとする群れの対処に
まず牽制代わりに空色の花嵐を高速詠唱で放ち
奪還者の子達が動くための時間を稼ぐわ
心配は要らないわ。あたし達、結構強いんだから!
加勢してくれる子は勿論、他の猟兵の皆とも一緒に戦うわ
隠れた獣の透明な気配は第六感で探りつつ雷の属性魔法で狙って
怯えて動けない子がいるなら特に注意しながら
敵の気を引き付けられるように素早く飛び回って攻撃を続けるわね


冴島・類
死なないよ
生かす為の糧を獲りに行って帰らなかったら
君ら晴れやかにハレ缶を食べれないじゃないか

喧嘩をやめた子らが選択に躊躇していたら
即、下がってと告げて前へ

もし加勢しようとしていたら…
なら、援護射撃に留めて、と頼む
命あってのものだねだ

人を追わせぬよう、瓜江と前へ
引き付けるためにわざと大振りに、音鳴らし動き
攻撃は見切りで芯を避けつつ
爪で裂かれたなら、それで相棒の封を解く
速いものを、追うのかい?
なら、鬼ごとと行こうか

瓜江に纏わせる風の力を、追い風に利用し高速移動させ翻弄
自身は、そちらを追う姿の隙を狙って踏み込み
関節など他よりは弱い場を狙い斬る

頭を落とせば、もう食べれないね

周りの猟兵とは可能な限り協力


境・花世
にんげん用の缶詰は食べたらだめだよ
獣にはよくないからね、なんて笑いながら
彼らの姿と動きを“視”て考える

その獰猛な飢えはプログラム?
それとも生きてた記憶の名残?

すこしだけ考えてみるけど結論は出ないし、
どっちにしてもメモリを壊せばいいんだ
高熱の刃を恐れもせずに受け止めた銃口から、
そっくりそのまま返してあげよう

与えられた一分間とすこしの間に、
いったい何匹仕留められるかな
十匹より先はもう数えきれやしないけど
早業で連射する熱は正確無比な軌道で頭を撃ち抜く

弾切れしたら何度でもまた攻撃を受けて充填
できる限りハレ缶を食われないよう防いでいきたい
みんながお腹いっぱいになれる分だけ
ちゃんと残しておかないと、ね




「死なないよ」
 生かす為の糧を獲りに行って帰らなかったら、君ら晴れやかにハレ缶を食べれないじゃないか。
 睨みあうオブリビオンとヒトとの間を断って斬るように、短刀はゆっくり、しかし確かな意志を潜めて鞘から抜かれた。
 実りの季節を溶かし込んだ飾り紐が揺れる。靴音は大きく。歩み出る類の背をこわごわ見つめる少年少女の肩を、ぽんとやさしく叩くのはしなやかな花世の手。
「大丈夫。しっかり取り返してこよう、獣にはにんげん用の缶詰はよくないもの」
「……ん。お前たちにごはんは要らなくても、この子達には要るの。これ以上、減らすのはやめて」
 華やかに笑いおとなの余裕を見せる乙女の隣、とろり眠たげな瞳をしたトスカもまた、ざりと爪を鳴らすマシンビーストが頭を低く構えようものなら「こら」標握る手に力を伝える。
 貰った包帯が愛らしいリボン結びで耳を飾っている。触れたあのあたたかさは、遠退くことなく近付くばかり。それは距離の話ではなくて――頷き、キトリの振るうFleur belleの花杖が、覚悟を彩る煌めきを撒きはじまりを告げた。
「あなた達の餌はここにはないわ。大人しく骸の海に還りなさい」
 キッと語気を強め、言い放てばギョロギョロと動く"目"が妖精へ定まった。おおきな動物はともだちとして見慣れているから、こわくなんてない。……嵐により齎された異変と思えばすこし、さみしいけれど。
(「命もハレ缶も、何ひとつ奪わせてなるものですか」)
 獣爪が降り抜かれて起こる風に身を任せ、軽いキトリの身体が後方へと飛ぶ。
 生まれた空間に滑り込むは研ぎ澄まされた刃。きら、と雲間の幽かな光を返し、類が突きつけた枯れ尾花は刃毀れすることなく不届き者の爪を削ぎ落とした。
「と、言うわけだ」
『urrrrAaa!』
 そうしてつるりとした床を踏みしめ損ねる、ほんのちょっとの綻びすら命取り。
 しめやかに――鮮やかに、眉間を狙う緘黙の銃口の前では。
「ぱぁん」
 白き狩人が光を吐いたとき、灼かれた獣はなかみを零しながら動きを終える。
 ギィ、 ギギとオイルを足し忘れたかの機械の断末魔が響けば、共鳴するようにあたりで唸り声が上がった。
 魔物とも災魔とも違うオブリビオンの姿。組み換えられて尚も褪せぬ餓えた衝動は、ひりひりと肌を刺すほど。
 だとして。
 道中で合流を果たしたことによって守るべき存在は増えたが、守るための手も増えた。いずれも己の為すべきことを正しく捉え、いっそ荷をも力へ変えて、一歩と譲らぬ猟兵たちだ。
「アンタら……」
「どうしてそんなに」
 親切にしてくれる? どうしても分からぬといった奪還者の問いに、かんたんなこと。「たのしみだから」とトスカは、答えた。
 逃げて。 生きて。
「……ぜんぶ終わったら、ハレ缶、ちょっと食べさせて」
 やくそく、ね?
 線を引く陽光冠したロッド。ぐわんと世界をつないで揺らし、溢れ出す盟約の光が、駆け出す少年少女らの背を押した。

 やくそくだ!
 空耳じゃない。去り際、届いた声にほんのり浮かぶ笑みを知ることができたのは、彼女の気まぐれな隣人だけ。本日駆けつけてくれたのは――。
「さあいこう、誰かさん」
 乾いた大気を焦がして突き進む力強さ。散らす火の粉は勇気持つものへ、痛みより熱を贈ってくれる。
 ――翼持つ太陽の矢を射る、弓の名手。
 トスカの見つめる先へと幾本もの矢が光線のように放たれた。荘厳たる風景を更にと盛り立てるのはキトリが呼び起こすアズール・テンペスト。
「心配は要らないわ。あたし達、結構強いんだから!」
 さあさあ降り落ちる光輝のはなびらは緩急の緩を担い、回避をより困難なものとしてゆく。
 光景は、さながら天上の賑わいとでも。 走るものを追うだけの殺戮兵器へプログラムされたマシンビーストの"獣性"は、神話と同じく刈り取られるが定め。
 その装甲を、四肢を、核を数多のひかりが包み貫き綻ばせて。最中を駆け抜けた類は感知されることもなく、狂ったように頭を振る機械を次々沈黙させては前へ跳ぶ。 無駄のない挙動で振るわれた神速の刃は二重にも映ったろう。――否、事実、青年の傍らには同じく敵を屠る、ひとりの影が降り立っていた。
 からくり。同時に、相棒。
「さて――瓜江も気になるか?」
 ハレ缶の味。などと戯れを口にして風の中笑い、飛び交う破片が目へ飛び込む前に掴み取る類。僅かに走った痛みは歓迎すべきもの。風巻……ごうと装束をはためかせ嵐を纏う、こうして"彼"の封を解くために。
「それは後のお楽しみとして。ひとつ、鬼ごとと行こうか」
「すてきな案だ」
 歌うみたくに花世が。――習性を利用してやればいい。
 降ろした風が瓜江の動きを人並外れた機敏なものへと押し上げる。神仏が宿ったか、視えぬ刀傷を刻みつけながらするりと吹き荒ぶ黒へ目論見通りにマシンビーストの意識は注がれた。
 狩りの本能。
(「その獰猛な飢えはプログラム? それとも生きてた記憶の名残?」)
 大きく開かれた口内には舌だって残っていない。――すこしだけ考えてみるけれど、結論など出ないし。仕立ての良い仕事着の裾をはらはら翻し、花世は銃を構えた。どっちにしろ、メモリを壊せばおしまい。
「おいで」
 指のかたちに馴染んだトリガーを引くだけ。そうして崩れる同型機の屍を足蹴に飛び来る一体へ、射手は退くどころか片腕を差し伸べた。
 自棄ではない。
 がちりと、振るわれ銃身と噛み合ったレーザーブレードを"借りる"ことにしたのだ。淡くにこやかに「ありがとう」とまで囁くとき、銃口は同じいろした光刃を噴出する。
 ――ザンッ!
 袈裟掛けに、花茎より落とされたのは本日もオブリビオンの方だったようで。

 サルマネがホンモノを呑んでゆく。記憶ごと喰らってしまえば、なにが真実か分からないのと、同じ。
「芸巧者なことで」
「お互い様だね」
 どちらともなくちいさく笑い。花世と背中合わせで振るわれる類の刃がまた一体を斬り伏せたとき、迸るいかづちがふたりの周囲をぐるりと走った。既にマシンビーストの特性を理解していた面々はほんの刹那とて、不自然に浮かび上がる輪郭を見落としもしない――そこにいる。
 ちいさな猟兵が齎した雷撃のショックが機械の足取りを縺れさせ、大きく天秤を傾けるのだ。
 魔法を制御しキトリが「おねがい!」と声を上げると同時、左右それぞれの空間を秋と春、それぞれの名残を纏う力が断ち。踵返して妖精を喰らわんと荒々しく駆ける足音に、兎耳をぴくり。
「あっちも、うるさい」
 振り返るトスカがぽつりと乞えば、傍ら漂う英霊の矢は余すことなく叩き込まれた。
 ばちばち火花を上げ迷彩が消えた後には、三体の黙する骸が転がるのみ。じ、と見届けてから、己に迫っていた"見える方"の爪を杖で受け止めるトスカ。
『Ggggrr……』
「こら。耳はやめて」
 揺れるものがお好みとでも? やたらと狙われるものだから気持ちもっと垂れてしまう。痛みより――せっかく巻いた包帯が切れたら、かなしいから。
 華奢な少女のからだは突進の衝撃に浮いてしまいそうになるけれど、大丈夫。
「もらった恩は返さなきゃ、なんだか、こう……胸がもやもやするもの」
「そうだなぁ。わたしも同じ」
 それでいいのだ。
 ふわんと――それこそ野生のうさぎみたいに軽々跳んでトスカが託した後詰めを担う頼もしき仲間が、三人もいる。
 青と白、晴れ空を思い起こさせる幻惑の花嵐がマシンビーストの視界を潰し。これで十だか二十だか、その風景へ正確無比にまっすぐの飛行機雲を描いて閃光は、獣の芯を撃ち抜いた。

 大丈夫そう?
 大丈夫そう!
 嵐の去った周辺をふわふわ飛びまわり、缶詰の無事を確認するキトリが華やいだ声を上げる。尋ねる花世と類も安堵の吐息を零し、棚の上にもいっぱいあるんだけど……とすこしバツの悪い顔をしてみせる妖精に破顔した。重いものの持ち運びは適材適所、ということで。
「――みんながお腹いっぱいになれるといいな」
「うん」
 きっと、なれるよ。
 世界が荒れて変われど、ここで待っていたとでも語る風に。にこやかなハレ缶を見つめ返しながら、トスカもそっと手を伸ばす。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

善哉・鼓虎
ええ判断やでー。うちはともかく他の猟兵さんは歴戦の強者やからな任せときー。
てか、缶詰のミュージシャンでなんやねん。ボケ倒しで突っ込めんかったわ。
ふふ、でもこう言うのも楽しいなぁ。
さて、うちも頑張らなな!

UC【ハッピーエンドコール】
缶詰をゲットしてみんなでハッピーになる為にはあのオブリオン倒さんとあかんねん!
せやからみんなの力を貸してくれへんか?
あ、後で缶詰ミュージックの配信予定や。うちはただじゃ転ばんからな!
みんなのおかげで力が溜まったらソーシャルレーザーで攻撃や!

アドリブ歓迎。


ネライダ・サマーズ
ハレ缶を食べようとしていた奴にまずは物理的神罰を
怪力で掴んだコンテナを投げつけるか
それで殴って吹っ飛ばす
ハレ缶はちゃんと回収しておかないとな
姿を消されるのも面倒だ
見えている間に奴らをしっかり目で捉え、UCを

何をしている?
缶詰の神としてハレ缶への狼藉は見逃さん
そしてここのハレ缶は子供たちが明日を迎える為のもの
お前のものじゃない!

守ると約束したんだ
それを
子供たちを守れないまま帰る気はない
それに、約束を守ってこその神でヒーローだ

姿を消されたなら周りに意識を向け
作りからして特徴があるだろう足音がしないか耳を澄ます
食い付かれればそれもいい
叡智の杖から水属性攻撃を喰らわせてやる
今度のは神らしい神罰だろう?


狭筵・桜人
ああ、なんてことでしょう……。
缶詰めの妖精としてハレ缶の無惨な姿に心を痛めます。

まあアレですよ。ハレ缶の仇は別の缶詰めの○○さんにお任せして
妖精は少年少女の護衛に回りましょう。
妖精ってお助けマスコット枠でしょ。前に出て戦うのはなんか違うっていうか?
キャラじゃないんですよねえ。

エレクトロレギオンを展開。
そんなワケで果敢な居残り組を危ないので下がらせつつ
レギオンによる【制圧射撃】で応戦します。
透明になっても妖精の目は誤魔化せませんよ。
見える……見えます!何故なら缶詰めの妖精だから。

サイバーアイ(コンタクトレンズ)で
稼働中の熱源探知してるだけなんですけどね。
危うげなら庇います。妖精なので。




 牙同士がくっついて、離れて。またくっついて。
 味覚センサーは搭載されているのだろうか。不明ではあるが、電子音を鳴らしお食事タイムに勤しむマシンビースト。
「ああ、なんてことでしょう……」
 ちいさなハレ缶の無惨な姿に、缶詰の妖精さんはしんしんと心を痛めている。面の皮一枚分ばかり。次に彼を襲うであろう不幸へも。
 食事という行為は無防備を晒すことであると語られはするが、身を以て教えてくれる存在もそういなかろう。きっと教育にもいい。
「何をしている?」
 こうして。
 何故だか豪速で飛んできたコンテナにまるごと"轢かれる"ことがあっても、不思議ではないのだと。
「――缶詰の神としてハレ缶への狼藉は見逃さん」
 ごおおおおと壁を破りつつ転がり飛んでゆくオブリビオンを、射出機……ではない、ヒトのかたちをして砲手は睨めつけていた。澄んだブルーに燃え滾る憤怒。ネライダは更に一歩を踏み出す。
 カリカリと床を引っ掻く何かの音が、男の歩みに従って波紋めいて遠ざかる。警戒しているのだ。
「そして、ここのハレ缶は子供たちが明日を迎える為のもの。お前のものじゃない!」
 そのとき神が突き出した右拳は、到底何にも届かぬように映ったろう。
 だが、奇跡とは叶えてこそ。 誰かの涙をやさしく拭って集めた水流は枯れたこの地へも海を呼び、叫びを届ける狩場へと変える。
 マシンビーストが牙を突き立てんとしていた缶詰の幾つもが、超常の高波によって洗い流される。時を同じくして波間から顔を出したのは、彼らと近しいギラつく歯を持つ捕食者たち。
「守ると約束したんだ」
 それを、
 子供たちを守れないまま帰る気はない。
 ――それに、約束を守ってこその神でヒーローだ。
 ブルー・チェイサー。喚ばわれた無数の水鯱が、一斉に獲物と定めた敵へ喰らいつく。
「わぁ。浮き輪持ってきとけばよかったですね」
「つかまるか?」
 お気持ちだけ、とからり笑うのは桜人。和やかなやり取りの背後ではぼきごきとプレス機より惨い音が響いているのだが、まるで気にした様子なく水の引きゆく後を歩き出した。波打ち際で遊ぶ如くに。
 ゆうらり、ゆらり。
 ひんやりした風に膨らむ衣服の裾から何か――煌めき返す物体が転げ落ちたかと思えば、回転しながら散り散りに舞い上がる。ほんの日常の延長として展開されるエレクトロレギオン。
 殺気も前触れもなにもなく、そうして破壊は齎される。ありふれた事故なんかと同じで。
「まあ、ツいてなかったということで」
 缶詰の精に見放されたのだ。粛々と受け容れあきらめてほしい。

 幾百の"口"より一斉掃射が繰り出される。
 所詮は閉じられた空間だ、面で制圧する力は極めて有効といえよう。加えて先の水流が障害物を押し流していた。光学迷彩をオンにしていたものに加え、ネライダの水鯱と格闘していたものまでもが背後をつかれた一点集中で装甲も空しく蜂の巣にされてゆく。
「透明になっても妖精の目は誤魔化せませんよ。何故なら缶詰めの妖精だから」
「ああ。缶詰の神だから!」
 片や天然ものが話に乗っては「神罰だ」己へ飛びつくマシンビーストの口へ突き入れる叡智の杖が、そのままでも喉を裂いて突き抜けかねないそれが、噴き出す神秘の水を穂先として抉る。
 見える……見えます! 宙飛ぶ小型機械らへ指一本でざっくり号令を出す芸達者・桜人など自らをたかがお助けマスコットと宣ってはいたが、奪還者らの目には違うものに映りはじめていたことだろう。
「おとぎ話なんて嘘ばっかりと思ってたけど……」
「ほんとのほんとに、いたんだ」
 格好良くて、強くて、決して死なない――憧れて、夢見て諦め封じて久しい救世主。
 完全に猟兵側へと傾いた流れを受けてか、ぐるるるると無機質な唸り声が一層低く響く。ふたりが堅守する奪還者へは手を出せぬことを知り、間近の出入口――壁の風穴より一時離脱を図らんと跳ぶマシンビースト。
 同時に突進を仕掛けてきた新手を引き受けたことで、男たちの腕は塞がったかに見えた。 だが。
 背丈の近い少年少女の合間を掻い潜り、力強く飛び出した一筋の矢。正体は、借り物バールを目一杯に振りかぶるハレ色の毛並みをした虎娘であり。
「――うらぁっ! おひとりさま追加やっ!」
「おお、来ましたかきょうだい」
 がごんっっ!! それが分厚い鋼を打ち据えたとき、桃色妖精はしたり顔で頷いた。設定とは足されるもの。
 似てなくない……? と思ったのはきっとスローモーションで倒れゆく機械獣も同じだったろうが、その意識も追って降りかかる銃撃によりプツンと途切れれば終わり。
 続き真っ向から殴り合って弾き合って宙返り、ヒーローだけに許されたマントのはためきとともに傍らへ舞い降りきたネライダが、そこでにっと子どもみたくに無邪気に笑う。
「よし。役者がそろったということは?」
「いよいよご退場の時間。そういうことです」

 自力で逃げ出せぬものは、先ほど手を引いて送り出したもので最後だったらしい。
 素直に下がってゆく子どもたちを肩越し見送る鼓虎の顔にも笑みが浮かぶ。くだらぬプライドで判断を誤らないということは、生きやすいということ。
「ん。あとは任せとき」
 胸元を叩く。見渡す視界では例の妖精と神とが奮闘していて。
 ちょっと奪還者の死角になったからと淡々夢もへったくれもなく光線銃を撃ち放つ桜人。ジジジー。焦げつき、縦にぱっくり割れた胴へ飛び込む水鯱の好き勝手食い荒らす様も中々どうして。
「てか缶詰のミュージシャンやらきょうだいてなんやねん。ボケ倒しで突っ込めんかったわ、 でも……」
 とはいえだ。 彼らが依然、役目を放り出さずに立ち塞がっている、あの後ろ姿は缶詰ガーディアンとして末代まで語り継がれそうな――。
「ふふ、こう言うのも楽しいなぁ。さて、うちももいっちょ頑張らなな!」
 なんだか、いい曲が浮かびそうな心地がした。
 直感こそが正しい。鼓虎の魂は昂る想いに掻き鳴らされる!
 ハッピーエンドコール。掴み取りたい未来の像が、結ばれた途端にその指を動かせた。ソーシャルネットに接続する傍ら、相棒で爪弾くミュージックは今はまだたどたどしく一音ずつを確かめながらでも。
「缶詰をゲットしてみんなでハッピーになりたいねん。せやから、力を貸してくれへんか?」
 あ、後で缶詰ミュージックの配信予定や。うちはただじゃ転ばんからな!
 告げて懐っこく眦を緩めた少女へ、最前線で戦い続ける守り手へ、世界中の賛成票が次々投げ込まれる。二桁三桁軽々飛び越え、止まることを知らぬ計上が終わるまでお利口に待ってあげる必要も――。
「ないな!」
「なんたって、よいこと缶詰たちが待ってますし?」
 ――今のいままでオブリビオンを押さえ込んでいた男ふたりが、こどもを抱き上げしゅたっと左右へ飛び退けば。
「いっけええぇぇ!」
 ぎらりダイヤの光条瞬かせ。
 その真中を、白く眩しく灼き尽くす荷電粒子の束が駆け抜けていった。

 塵も残さない。
 これは荒廃の世に暮らす人々の、彼らを救わんと駆け付けた猟兵の――ついでに妖精や神やミュージシャンの――願いの力。
「ふう……帰ったら給料弾んでもらわないと」
 しかし不細工だな、このマスコットキャラ。靴先へこつんとあいさつしに来たハレ缶を拾い、桜人が顔を上げると。
 光は空まで貫き、嵐の前の雲を散らしたのだ。
 生き抜いたものたちをあたたかく祝福する、抜けるような青空が広がっている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『打ち上げ』

POW   :    料理を楽しむ

SPD   :    会話を楽しむ

WIZ   :    物思いに耽る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 零れ落ちそうになるほどの戦果を積んで。
 奪還者たち――集まりとしての名を持たぬというから、何と称すべきか――のオンボロバギーカーに先導され辿り着いた彼らの拠点は、古びた石壁の家屋が並ぶ集落だった。
 立ち込める砂煙に揺れる影は、近付くほどにぴょんぴょんと全身で喜びを露わにする。
「帰ってきたぞっ!!」
「おーい、みんな生きてんだろうなっ」
 大人の姿こそ見えないが、そこには、先に救われ信じて逃げ帰ってきたものの姿もあるだろう。はじめて見る顔のいくつかは工場へ赴いていた少年少女よりまたすこし幼く、兄姉の後ろに隠れながら見慣れぬ救世主らを眺めていた。

 考えたんだが、と。
 ひとしきりの挨拶と受け渡しとが終わり、ハレ缶を腕いっぱい抱え歩く仲間たちを横目にバンダナ少年が口を開いた。
「アンタらもここで食べていかないか?」
 そうして猟兵へと差し出されるちいさなブリキの缶詰は、命の恩人への"報酬"として提示するにはチープなもの。
 それは当人も理解しているらしく、かし、と耳の後ろを掻く様はすこし申し訳なさげで――だが「美味いんだよ、ほんとに」と押し付ける力には迷いがない。
「そっちが食うに困る腕なんかしてないってのは、もう十分分かったけど。オレたちが逆の立場で一番うれしいことはっていうと、やっぱ腹一杯で過ごせることだし……」
「~~ああもうまどろっこしいって! 素直に、カッコイイひとと会えた記念にいっしょのご飯楽しみたいって言えばいいじゃん」
「はぁ!? まだオレが喋ってんだろっ!」
 そこへ通りかかったフード少女が口を挟めば、たちまちデジャヴじみたやり取りのはじまりだ。
 とはいえヒートアップし過ぎることはない。
 いま、その手と手には武器ではなく、生きるための糧がぎゅっと強く握られているから。

「はじめて狩った鳥で作ったスープに似てる。ピリッと辛いんだ」
「みんなと食べたチョコケーキだよ? ほら、ふわふわで甘い」
「すごく噛み切り辛いジャーキー。よくうちの犬と取りあったんだっけ」
 それを"懐かしい味"と絶賛する少女がいたように。
 ……思い思いのレビューとともに、ハレ缶という宝箱の蓋が開けられてゆく。
 ねぇねぇ、おぼえてる? 母さんが得意だったオムライスの味!
 おぼえてるよ。豆の入れ過ぎでさ、こっそり抜き取ったらスカスカになっちゃって。
 そう――それで、それから、父さん自慢のプリンはカラメル乗っけてるくせに苦くって――……。
「やっぱり、おいしいね」
「……、うん」
 迎えの匙を待っているのは不思議なほどチグハグで、不思議なほどあたたかな"いつか"。
 さぁ、手のうちで微笑むひとつはどんな味をしているだろうか。
善哉・鼓虎
みんな無事で済んだしハレ缶も無事ゲット…ハッピーエンドとしては上等やない?

食料が貴重なん分かってるから貰うんはちょっと気が引けるんやけど…でもちゃんと気持ちはうけとらなやからな。ほないただくわ!

ハレ缶て名前は好きやな。お天気のことやろ?そやったらええなぁ。
味はどんなかわからんけどみんなで食べればきっと美味しい。

缶詰のミージシャンとしては缶詰ミュージックも習得するべきやろな。冗談から生まれた話やけど。実際缶詰ミュージックやったら缶詰があったらできるやん?手軽の音楽として広めてみたいかも…。ギターは好きやけどうちはそれだけには拘らんで『音楽』ができたらそれでええんや!

アドリブ歓迎




 ぱちんっ!
 小気味よい音で両手を合わせ「いただきます」を。食糧の貴重さは身に沁みて分かっているからこそ、貰うことは気が引けたけれど――それもまた、彼ら彼女らの願いなら。
(「ちゃんと気持ちは受け取ったらなな」)
「ほないただくわ!」
「どうぞ!」
 鼓虎の声にもキラキラと弾んだ声が返る。……よかった。
 みんな無事で済んで、ハレ缶も手に入って。ハッピーエンドとしては上等だと、自然ゆるんだ頬はお招きした一口目にぴたりと静止することに。
「どうかした?」
「ぅん? んや、ほへなんやろおもっへ」
 不思議そうに覗き込んできた同年代の少女らへ、これ、とハレ缶を差し出してみる鼓虎。甘くて、おいしい。けれどもパッと思い当たる食べ物がなかったのだ。顔を見合わせ恐る恐るシェアしてもらった少女は、パッと瞳を瞬かせて。
「はちみつスコーン!」
「うぅーん……マドレーヌじゃない?」
「ええっ、アップル風味ぽいと思ったんやけどなぁ」
 ひと匙ごとに変わっている、と?
 続いて一口試してみたならころりと変わって、ホワイトチョコとラスクの舌触り。――もしかしてもしかすると、ネットの向こう、ファンのみんなの好物だとか?
「あのー、ものは相談なんやけど。これこれこういうの好きな子っておるー?」
『すき! ことらん今食べてるのー? いいなー!』
 電子の海へと尋ねてみたならぴぴぴと高速で送られてきたメッセージは、仮説を定説へ近付ける。
 多くの人々とソーシャル・レーザーを介してひとつに繋がったことが、不思議な出会いを引き寄せたのだろうか。真相は知れずとも、舌に伝わる味はどれもこれも好みのもの。
「ほうかぁ。うちだけいい思いして、なんや申し訳ないけども」
『いいんだよ、ことらんがあたしの好きなものおいしいって知ってくれるのうれしいし!』
『今日も頑張ったご褒美じゃん。うまいもの食べて、どんどんイカしたミュージック聴かせてくれよな!』
 ――同じだけ、ファンの声は元気をくれる。
 青天と同じ名をした缶詰。此処にいる人々、いない人々。同じ空の下、みんなと食べると何倍にもおいしくて、ああ――。
(「やっぱこれ、ええ名前やな」)

 缶詰のミュージシャン、なんて冗談から生まれたお話だったけれど。
 楽器がなくとも奏でられる業は、ある意味この世界に適しているのではないか? ……いつか広めてみたい。大好きなギターのみならず、どこへだって"幸せ"と"音楽"を届けていきたいから。
 さて、何れにせよ今はこのパッションをぶつけなくては落ち着けない!
「約束の一曲ええか? それじゃ聴いてってや、みんなのごちそうもっと美味しくしたるから!」
 太陽にも似てにかっと勝気に笑い、かざすピック。
 掻き鳴らす新曲には少年少女の手で打楽器もとい缶詰による合いの手が入り、一層賑やかなサウンドがソーシャルネットを沸かせたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
行動:
食事は可能だが、食事せずとも生存可能
数少ない食料を無駄にする訳には、と缶詰消費を固辞する
拠点を歩き、力仕事や修理を手伝う
UCを使い、「損傷」を消す事で完全な修復を行う事が可能です
自身の記憶が穴抜けの為、質問には殆ど答えられず
誤魔化す事も出来ない為、黙り込む

味覚:
如何云う味かは判別可能だが、美味しいまずいは解らない
嫌いな味は無いが、好きな味も無い

缶詰:
彼が開けた缶詰を他者が食べた場合、無花果パイの味がする
プロと言うより家庭的な味、いつか誰かが彼の為に作った物
其れをどこで味わったか、誰が作ったのか
どちらも彼は覚えていません
進んで雛等[こどもたち]に譲るでしょう




 雨曝しで色を変えた瓦礫たちは、死して積み上げられた人間にも似ている。
 最早何の役にも立たぬもの。生者にとって、害としか為り得ぬもの。
 ハレ缶を楽しむ輪の中から早々抜け出してきたイリーツァは、今ひとり、そうした残骸たちを片付けていた。 感慨もなく。
 持ち前の力があれば大抵のことは解決できてしまう。
 道端へと飛び出した機械獣大の岩は、柱の一部か。それをなんの工夫もなく片手で抱え上げたとき、がさりと衣擦れの音がして背に声が掛かる。
「アンタ……」
 先刻の少年だ。どれが誰だったかは、いちいち識別していないが。
「さっきの傷はもういいのかよ? メシ食って力つけた方が、」
「ご心配には及びません」
 ハレ缶を差し出さんとする手を見とめても。
 話もそこそこに、持ち上げていた瓦礫をひょいと放ってひとまとめにするイリーツァ。つかつか、そのまま次へと素通りしていく竜の背後ではヒュンッと音を立てて屑山が"消えた"。
 直後。
 代わってそこに佇むのは、崩れ落ちる前、"生きていた"頃の家屋。
 天稟性・正号滅失。 これと決めた事象を――今回ならば"損傷"をなかったことにしてしまうユーベルコードの齎した不可思議に、少年は目を擦る他なく。
 思わず取り落としてしまった食糧はころころ転がって、先行くイリーツァの踵にこつんとぶつかって。歩みを止め、ざらつく砂を払い、缶を差し出す大きな手へ怪訝な面持ちで伸ばされる薄い手。
「どうなってんだ、一体その力」
「……」
 オレもアンタくらい強ければと悔しげに呟かれようと、教え説いてやれることなど何もなかった。イリーツァの記憶は穴抜けだ。そうして、適当に誤魔化しあしらうことができぬ理由があった。
 だんまりを決め込む大人を何と思ったか――色々な事情の者が集う拠点に生きてこそかもしれない、ありがとうとだけ続け自らの手の中を見つめた子どもが、やがてパッと顔を上げる。
「そうだ、じゃあ開けるだけ開けてみてよ。オレらより長く生きてる分、うまいもん知ってそうだし!」
「――。そういうことならば、」
 改めて押し付けられる缶詰。
 力加減には細心の注意を払いつつ、白手袋が開いてみせた蓋の下には黄金色の焼き目が見えた。

 甘い、におい。 よく熟れた無花果の。
 バターの香ばしさとほんのちょっぴりのラム、幾層にも重ねられたパイ生地。
 嗅覚は物体を正確に捉えたが、食した記憶と結びつくことはない。なにこれ? と前のめりになる少年の手へ再びハレ缶を置いて、どうぞと一声。
「菓子のようなものです。恐らく雛等の口にも合うかと」
「だからそのヒナってのやめろ! ……いただきます」
 なにやら暴れ出しそうな奪還者であったが、半信半疑で味わってみるとどうだろう。そこにあるのは、闘争塗れの竜人からは到底連想できぬ味。今はなき家を、誰かの平凡な手料理を思い起こさせるかの――やさしくあたたかな味わいが、ほろほろと溶けるのだ。
(「成程、悪いものではないらしい」)
 それでも自ら欲することなく。
 静かに味わいはじめた子へと背を向けたイリーツァは、ただ、そうあるべきと定められた器のように。次の残骸へと指を触れる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
ハレ缶、美味しい缶、どんな缶?
アァ……コレは甘いのは苦手なンだよなァ……。
甘くないヤツがイイ。

コレのは、アァ……ジャーキーの味。
ジャーキーみたいな味。
不思議だなァ、ジャーキーじゃ無いのにジャーキー。
食べてみる?みる?

ソッチのが甘くないなら分けてくれくれ。
ジャーキーはコレの好きな食べモノなンだ。
賢い君からもらった贅沢な食事。
君がくれた豪華な食事。

アァ……ソッチの缶も美味いなァ…。
ジャーキーには負けるケドねェ。
他の味も気になる気になる。

この缶を食べてたら本物のジャーキーが食べたくなったなァ……。
賢い君、賢い君、帰ったらジャーキーを食べよう。
美味しくて贅沢で豪華なジャーキー。
君がくれた肉。




 じぃ、……と見つめるブリキ缶の中にはサイコロみたいな四角。
 色は薄紅色っぽい。果肉みたいで、けれど、つついてみると存外硬い。もとより分からぬものの方が多いとしても、エンジにはこの物体が何だかさっぱり分からなかった。
 いつもの調子で鼻を近づけては無臭でさっぱり。
「甘い? 甘くない?」
「いや、ひとのまで分かんねぇし……食ってみたら?」
 甘いものは苦手なのだ。狼男の周りの瓦礫に腰掛けている少年らは、不意に問いかけられて困惑顔。 ふむ。"コレ"の思い出の味。――毒であってもおもしろたのしい、なぁんて即思い至ったエンジは四角をフォークで突き刺し、牙の待つ口内へ放り込む。
(「……、…………」)
 ひと噛み、溢れ出す肉汁。
 ふた噛み、新鮮な×の香。
 ――尾があったのなら千切れんばかりに振ったろう! これは、これは、賢い君からもらった贅沢な食事の味! 姿かたちこそ違うけれど……。
「たしか。そう、ジャーキー」
 ――君がくれた、豪華な。
 人語でも解するのか、たべたいたべたいオーラ全開で途端ばっさばさと寄ってくる連れの仔竜らを押しのけて、もう一口。臓腑まで染み渡る味わいは極上の美酒にも似て。
「ジャーキー? うわぁ、そうは見えねぇ」
 狼男が戦闘中の危うさから一転、あまりに幼気に瞳を輝かせはじめたからか生唾を飲む音が周りにて。 ――ちいさき者には優しく。大丈夫、憶えているとも。
「食べてみる? みる?」
「いいのかっ!?」
 そうしてつめたい石畳と違い陽に照らされた瓦礫の上、ささやかな食卓を囲もう。相棒の拷問具が、ころりと隣へ転がり出た。

 こっちはカレー!
 "物々交換"として差し出された丸は、いつか口にしたパイの味にも近い。それをもう少しピリ辛にしたような、好みから外れぬ味にエンジはにんまり。
(「ポタージュより口に合ったみたい……」)
(「案外、顔に出やすいのかもな……」)
 ひそひそ声を交わしあう子どもたちはぐりっと急角度で笑いかけられれば肩を揺らすのだが、口を開けば人懐こく同意を求める「美味いなァ」。 ――缶詰の中身が減るにつれ、物理的な距離は縮まってゆく。
「アァ……コッチもソッチも美味い。ジャーキーには負けるケドねェ」
「けどさ、ジャーキーって非常食みたいなもんじゃん? もっとごちそう食ったことねぇの?」
 猟兵ほど強いならばもっと立派な食糧にありつけている筈、との疑問が飛ぶ。
 けれども、エンジの視界には賢い君だけが映ったまま。
 赤く残ったスープの最後のひと掬いまで余さず腹へと招き入れて「ごちそうさま」と蓋を落とす。暴いた墓の穴を、隠して埋めてしまうみたいに。
 本物が、食べたくなった。 ふらりと立てば風まで"甘い"。
(「賢い君、賢い君、帰ったらジャーキーを食べよう」)
 美味しくて贅沢で豪華なジャーキー。
 君がくれた肉。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エスパルダ・メア
【鈍器】
なんだ、くれんのか?
お前らで食えって言いたいとこだが
みんなで食ったほうが美味いもんだ、良いこと知ってんじゃねえか

幸せな思い出の味…さて、食えるような体してから一年くらいしか経ってねえんだけど
何の味だろ。思い付くでもなく一口食えば
ははっ、なるほど
コンビニチキンの味だ
熱々さくさく、旨辛の
人の身で初めて食ったもんだっけ
あれから肉が好きでな

キディのも初めてか、もがッ
スプーン痛ェ…ああでも旨い、シチューか、素朴な味だけど落ち着く
ん、味しないならオレのもやろう
…お、味したじゃん
いいな、なんか旨そうだ
今度妹にその味でシチュー作ってやれよ

一口ずつ食べたら、後はガキ達に
食ってみろよ、取り合いなしでな?


キディ・ナシュ
【鈍器】
そ、そんなに美味しいものなんですか…!
貴重なものをありがとうございます
ありがたくおいしく頂きますね!

ドキドキしながら開ければ
よく知った懐かしい香り
パクリと食べれば目を見開いて
…おねえちゃんのシチューです!
それも、はじめて食べた時の味です!
たしかに今の方が美味しいですけど
生まれて初めてのごはん、とても幸せで美味しかったのです
おすそ分けとお二人の口にもえいえいと突っ込みます

エスパルダさんのは私も知ってるお味です!
旨辛ちきんは確かにお肉が好きになっちゃいそう

!! 是非作ってください!
そして、それも覚えて忘れませんよ!

近くにいた子どもたちにも
どうですか?と差し出して
幸せの交換をいたしましょう!


イディ・ナシュ
【鈍器】

成る程、これが共食信仰というものですか
広がる笑顔を見遣れば
眩しくて目が細まります
有難く頂戴しますね

あら、エスパルダ様は意外と生身初心者なのですね
肉食男子というあれですか?
キディ、のは
…聞こえませんでした
早く上書きされておしまいなさい
私の缶は、…???
よく、分からないですね
首を傾げていたら
二人ぶんの味が口の中
とても美味しいと素直に思えるもの

再度己の缶に手を付ければ
不思議と先とは違う味
鶏の入ったスパイシーなシチュー…?
混ざったようです
けれど悪くないですよと
匙を二人の口へ向け返します
そうですね、ではそのうち一緒に夕食でも

子供達とも共有をと思う気持ちは二人と同じく
折角なら皆でお腹一杯に、ですね




「そ、そんなに美味しいものなんですか……!」
 ててーーん!! と、宝物を授かったかの如くハレ缶を頭上に持ち上げるのはキディ。
 そのままくるり缶詰を相方にステップ踏んで、ひんやり感じた冷気にはた。何か言いたげな顔で見遣る双つの青とばっちり目が合えば、しゅっと姿勢を正して少年少女へ向き合った。
「貴重なものをありがとうございます。ありがたくおいしく頂きますね!」
「お前らで食えって言いたいとこだが……、みんなで食ったほうが美味いもんだ、良いこと知ってんじゃねえか」
 続けるエスパルダの声に褒めて認める温度を見出したか、だろ! と、得意げに笑い返す兄弟がオススメの場所があると手招く。続くことにした二人からすこし遅れて、イディはブリキの表を指先で軽く叩いた。
(「……何でしょう」)
 軽い音。 異世界の料理と、その技術に興味は尽きないが――。
 先行くキディの明るい呼び声にゆるり顔を上げ、後を追って歩み出す。誰も彼もが笑顔だ。共食信仰……、見渡す眩しさに細まってしまう瞳は、陽光のせいだけではないらしい。

 ――有難く、頂戴しましょう。
 案内されたのは、遠くの景色までよく見える屋根の上。
 イディ主導のもと皆で手を合わせてから、どちらが早いか競争をはじめる勢いでキディとエスパルダとが缶詰の蓋に指をかけた。
「さぁさ、おいでませ!」
「やめろよ慌てっと別のもん召喚しそうだから。しっかし、この手のやつは食うの初か」
「あら、エスパルダ様は意外と生身初心者なのですね」
 "受肉"して凡そ一年。缶切りを真っすぐ突き立てる様は戦闘中のそれだったとか、ともあれエスパルダには幸せな思い出の味、と謳われたとて思い当たる節がない。
 あー、まあな、と生返事をしつつ手を動かしていれば、ぱかりと外れてブリキの内が見えてくる。橙の、ころころとした――肉?
「むむっ、なんだか可愛いですねっ」
「卵のようにも見えますけれど……」
「……? 何の味だろ」
 缶詰とぎちぎち格闘するミレナリィドールへ無言で缶切りを差し出すヤドリガミを余所に、一粒匙に乗せて口にしてみるエスパルダ。 鼻に抜ける匂いは香ばしく、さくり確かな歯応え。それにこの、熱々とちょうど好い辛さ!
「――ははっ、なるほど」
「なるほど?」
 娘らの声が重なったとき、缶詰を傾けてみせながら「コンビニチキンだよ」と。人の身ではじめて食べたもの。ひとつの武器を、ひとらしく肉好きに堕としてくれた原因。
「いやぁ、やっぱこれだな」
「肉食男子というあれですか?」
「くっ――あっ、あっ開きました! 私のも開きましたよ!」
 ツッコミも忘れるご機嫌男に続けや続けと、ちょっと苦戦したものの缶詰開けに成功したキディは途端、湯気とともに溢れるいい香りに一も二もなく閃いた。これは――! ぱくっとすぐさま口へ運んで、見開く瞳。やっぱり!
「……おねえちゃんのシチューです! それも、はじめて食べた時の味です!」
「…………キディ?」
「へえーなんか違えわけ?」
「ええ! ふふふ、たしかに今の方が美味しいですけど。生まれて初めてのごはん、とても幸せで美味しかったのです」
 私には違いが分かるんですよ、と得意げに匙を揺らすキディの隣でぴたり動きを止めたイディが今、何を考えているか? ――女の顔色こそしんと変わらずとも、エスパルダには分かってしまい。
「だとよ、お姉様」
「……、聞こえませんでした。早く上書きされておしまいなさい」
 キディのも初めてか、そうにんまり眺めて笑うも束の間。
 イディにより素早く摘まみ上げられむぎゅっと押し込まれる暫定・鶏肉には、缶詰の主たる男と食べさせられた少女、二人から同時にわっと声が上がって。

「――せいっ! このおすそ分け勝負、買いました!」
 そうしてしっかり味わったのち「私も知ってるお味です! おいしいお肉!」と喜色満面となったキディは、めげるどころか全力で抗戦していた。とてもルンルンと。
「もがッ」
「ふっ」
 咄嗟に盾にされたエスパルダの口に叩き込まれるなつかしシチュー。熱い! しかし灼熱感の大半はスプーンの加減無き摩擦が齎した痛みで、味の方は……案ずることはない、素朴ながら落ち着くもの。
「ん。いや、旨いぞ? 普通におかわり食える」
「でしょう?」
 頷き合う二人をじとと見つめてからイディは、いただきますの直後にひっそりと開けて一口、一番に食べていた自らのハレ缶に視線を落とす。
 よく分からない味、だと思った。
(「私は……」)
 いつの。だれの。 首を傾げるまま、分厚い記憶の頁を捲ろうとしたとき。
「さっ、おねえちゃんも食べるんですよ」
「む」
 隙をついて繰り出されたシチュー攻撃に、次は応戦できず潜り込まれてしまう。不器用にカットされた野菜、溶け残ったルー、筋のある肉。けれども、何故だろう。
「美味しい、です」
 ぱち、と瞬くイディの姿に、エスパルダとキディもちいさく笑みを交わして。
 となると気になるのはイディ缶のお味。味がしなかった、その不思議な答えに「それならオレのもやろう」とエスパルダが渡してやった謎肉は、とても美味しいの評価を得ることに成功する。
 やはり、味覚がないというわけではないらしい。
「もっぺん食ってみろよ。さっきの鳥の麻痺が残ってたんじゃねえか?」
「見境の無いキディの獣とは違うのですよ」
「~~っお利口さんですもの!」
 やんやと途切れぬやり取りはいつも通りの三人組だ。背を押されるように改めてのもうひと掬い、イディの唇へ招かれたハレ缶が伝える味の程は――。
 ――鶏の入った、スパイシーなシチュー……?
「混ざったようです」
 ぱくり。
 二口目へは自然に伸ばされる、手。リアルタイムで上書きされた"おいしい"、"しあわせ"は甘やかな色味の飴色をして。
「けれど悪くないですよ」
「いいな、なんか旨そうだ。今度妹にその味でシチュー作ってやれよ」
「!! 是非作ってください!」
 そして、それも覚えて忘れませんよ!
 提案するエスパルダ、握り拳で前のめりになるキディ――。ちょっと跳ねたイディの指は「しー」のかたちを作るかと思いきや、両人ともへとんと銀の匙を差し向けた。この味を三人覚えて、また。
「そうですね、ではそのうち一緒に夕食でも」
 やわらかなひかりと同じ、冷たさではない、優しさ滲む声音を降らせながら。

 約束を結ぶのはいい。
 そして勿論、果たすのも。
 命を失うことなく食事を楽しめている奪還者兄弟他数人の傍らに、屈みこみ微笑むキディの手にはハレ缶。まだあたたかな湯気が運ぶ香りは、どうですかと声を掛けるより早く彼らを振り向かせて。
「まーぜーて、ですっ。幸せの交換をいたしましょう!」
「おっ、そっちもうまそーじゃん!」
 これはなに?
 これは私のおねえちゃんの……とのやり取りが目の前で繰り返されかけたとき、ずずいと割り入るイディは「こちらが進化形です。どうぞ」と缶を。
 見る限りよく似た二人の娘の"好物"に、仲良いんだなと奪還者の間には応じる動きと笑いが広がった。そんな彼らの好きなものだって実によく似ているようで。骨付き肉、ハンバーグ、サイコロステーキ。
「育ち盛りのガキ諸君に、お兄様からもプレゼントだ」
「ガキ!?」
 むっとして顔を上げた兄であったが、眼前差し出された肉缶の中身は色形も相まって眩い宝石にも映ったろう。
 口を噤み躊躇う様を目に、エスパルダは軽く笑ってもう一押し。
「冷めるだろ。食ってみろよ、取り合いなしでな?」
「おう。……だってそっちのが、"美味い"んだもんな」
 導く大人が消えてしまえども、子どもは育ち、変わってゆくことができる。
 たとえばこんな、幸運なひとつの出逢いに学ぶことによって。 ――猟兵と、奪還者。皆が皆お腹一杯になるまで、ハレ缶はキラキラと見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トスカ・ベリル
こども達が、……いっぱい
みんなよくがんばったね

一緒に戦った妖精さんや牡丹のひと、
人形遣いのおにいさんを見掛けたらお礼を告げて

やくそく
交わしてくれた子を探そう
一方的に護ったんじゃない
わたしはこの報酬で対等に請け負った
そういうことにしてしまうの

缶を開ける前に少し困る
……懐かしい味
なんだろう
こども達のがひと口欲しいな
これはどんな想い出があるの?
ニュイ(f02077)、きみのは?
良かったら教えて

昔のこと、憶えてないわけじゃない
過去なのか空想なのか
判らなくなってるだけ
ヘンだよね
意を決して開けると
あったかスープ
素朴なくず野菜の寄せ集めになにかの肉のかけら
……美味しい
誰かさんが作ってくれた味だ、――きっと


キトリ・フローエ
沢山のハレ缶の中から見つけた一つ
あたしにも開けられるかしら?
難しかったら誰かにお願いして
良かったらニュイも一緒に食べましょう!
(フェアリー用のナイフとフォークを取り出しつつ)
ひとりじゃ食べ切れないから、一緒に食べてくれると嬉しいのよ
幸せは誰かとわけっこしたらもっと幸せって言うでしょう?
ニュイの想い出はどんな味?
あたしは特に好き嫌いはないけれど
どちらかというと甘い物が好きだから
ハレ缶の味もきっと甘い気がするの
例えばフレンチトーストや蜂蜜たっぷりのカフェラテの味
心がぽかぽかする味ね

奪還者の子達の笑顔が眩しくて
この世界にも希望はあるんだって実感する
美味しいハレ缶を食べて、また明日から頑張りましょう!




 賑やかに行き来する奪還者は、工場で目にした刺々しい姿からがらりと異なり年相応。どこにでもいる、こどもばかりだ。
 トスカが"やくそく"交わした少女は、あちらから走ってやってきた。次第に小走りになって……ハレ缶ひとつ差し出す手はぶっきらぼうだし、顔はそっぽを向いているし。 だけれど。
「すてきな報酬の分だけ、働けてた?」
「……!! 当ったり前じゃん、ていうか相当恩人だし! 悔しいけど……」
 あのとき一方的に護ったのではなくて、この報酬で対等に請け負ったのだと。 気後れする彼女へ、トスカが示してみせたwin-winスタンスに尚の事うぐぐとなっては、感謝の言葉を重ねて去っていった。
 捨て台詞は、耳早く治しなさいよね! の包帯投げだ。
 その背を「ちゃんと渡せた?」「喜んでくれてた?」と仲間が迎える様を、暫くじっと眺めていて。
「みんなよくがんばったね」
 ぽつり零したトスカの視界に、覚えのある煌めく光が過る。陽の下でも輝きは強いまま、それはキトリの鱗粉。くるりと宙でブレーキ・ターンした妖精は挨拶代わり、翅を多めに揺らして。
「あなたもね! さっきはありがと。ところで、もうひとつ相談なんだけれど……」
「うん。うん? ……ニュイもいっしょに?」
 眉尻を下げるキトリの斜め下でふるふるしているニュイ・ミヴ(f02077)が、縦に伸び縮みすると缶詰を二つ頭上に翳した。
 開けていただけませんか……? と。

 ぱかんっ。
 缶切りできこきこしてトスカが途中まで開けてあげたハレ缶は、最後にうんしょとキトリが引っ張った途端、心躍る香りとともに中身を覗かせる。
「わっ――とっても助かっちゃった! フェアリーにはすこし……とっても……大きくって」
「今ほどこの身を悔やんだことはありません……」
「大丈夫。それより、ほら。おいしそう」
 同じくお手伝いしてもらった缶を抱くニュイの端っこをつつき、ふたりのハレ模様を比べ見るトスカ。片や甘い甘いバニラの香り、片や……柑橘系?
 その動きにつられて、なになに? とお互いの缶詰を覗く妖精とタールはちょっとごっつんこして、くすくす笑った。キトリの手には玩具みたいなマイナイフとフォークがキラリ。
「食べるのもお手伝いしてもらうわよ? あたしね、きっとフレンチトーストだと思うわ」
「フレンチトースト!」
「ふわふわしてる」
 ――幸せは誰かとわけっこしたら、もっと幸せって言うでしょう?
 そう語る視線の先には言葉通り幸せを形にしたように、ひよこじみてほわっとした、まあるく切り揃えられたパン。キトリがひとつ刺して、……その丸を自分の一口分用にせっせと切りはじめる傍ら、ニュイは自分のものをひょいぱく。
「ニュイの想い出はどんな味?」
 手を止めて尋ねるキトリと、きみのは? トスカの眼差しが問いかけるので何やら蠢いたタールは、触腕で丸印をつくってみせた。おいしい!
「ママお手製ゼリーのお味ですねっ。これだけ食べていれば元気元気って、太鼓判だったのです……あっお星様が入ってる」
「お星様?」
「今日もいっぱい頑張ったね、の印ですよ」
 はい! と傾けられた缶の中のぷるぷる。一日戦い抜いてくれた猟兵たちへぴったりの物体はしゅわっと炭酸にはじまり、アップルからストロベリー、グレープへ銀河めいてコロコロ様変わり。もっちり星はミルク風味で、
「ふしぎ」
「ひとつの冒険に出かけたみたい。うん、なんだか楽しいわ!」
 ゆっくり瞬くトスカとキトリにもおいしいをお届けできたなら、自らの手作りかのように胸(?)を張るニュイがいた、とか。
 そうして無事にキトリの口へお招きされたまんまるは、やっぱりフレンチトーストのお味。ところどころにカリッと垂らされたチョコレートがアクセントになって、ぱくぱくフォークが止まらない!
「はちみつのお味もほんのり……!」
「ふふっ、心当たりがいっぱい!」
「美味しいもの、たくさん知ってるんだ」
 ふるえるタールににっこりと食べ進めるキトリから、同様におすそ分けしてもらったトスカの声はどこか思案げな調子。
 手の中に収まるハレ缶はまだ蓋を閉じたまま。
「ね、あなたも開けてみたら? もう満腹?」
「うん。ちょっと」
 珍しく歯切れの悪い返しをして、トスカは自分の手元を見つめた。
 ――懐かしい味。
(「なんだろう」)
 記憶が味を形作るということ。
 昔のことを憶えていないわけではない。 ただ、過去なのか。空想なのか。
「……判らなくなってるだけ。ヘンだよね」

 いつから声として零れていたのだろう。
 触れる銀の感触に、はたとトスカが視線を上げれば缶切りを抱きかかえ、差し出してくるキトリがそこにいる。分からないこと、その怖さを知らぬ身ではないからこそ「楽しみじゃない」キラキラ微笑んで、
「どちらもあなたの中にあるものでしょう? きっとステキだと思うの」
「トスカさんのおいしい、ニュイもたのしみです!」
 握らされる缶切りを儘、手にした。
 トスカは、うん。と。 頷いて――意を決して――手を動かす。
 キィキィ、音は錆びた扉を押すようだ。だけれど重たくはなくて――すぐにほわんと白く香り立つ湯気が出迎えてくれる。
「これ……」
「スープ、ね?」
 くず野菜の寄せ集め。なにかの肉のかけらがぽつぽつと浮き沈みする、素朴なスープ。
 持ち替えた匙で一口、運べばじんわりと伝い落ちる熱に自然、唇が形取る「美味しい」の言の葉。
 顔(?)を見合わせたキトリとニュイが横から「ちょっと失礼」しても、同じ感想が人数分重なるばかり。
「あたし、好きよ。あたしのものと同じで心までぽかぽかする……誰かの、想いのこもった味だと思うもの」
「誰かの……」
 ――。
 誰かさんが、作ってくれた味。
 根拠なんてひとつもないけれど。きっと、そう。舌に残ってはぐれはしない仄かなぬくもりに、何故だか、トスカもそう思えて。

「まだ食べてたのっ? そんなんじゃーアタシらが貰っちゃうぞ」
 三人はじっくり味わいながら食事していたから、先の奪還者がちょっかいをかけてくることも。
「いいよ。でも、交換ね」
「うっ」
 トスカに、
「あたしのも食べていいわ、とっても美味しいんだから」
「やったぁ!」
 キトリ。ついでにニュイ。ようこそと歓迎する猟兵の周りにはたちまち人だかり。
 彼ら彼女らが持ち寄る缶は十人十色。お肉、お魚、スープにデザート……。トスカは獣耳を揺らして、淡く美しいマスカット色のまんまるを指さした。
「これはどんな想い出があるの?」
「これはね、――……」

 大切な思い出を、言葉にしながら間近に振り返るかんばせは眩しくて。
 この世界にも、希望はあるのだ。
 ――美味しいハレ缶を食べて、また明日から頑張りましょう!
 明るく響く妖精の声に、もちろんだし! と続く笑いが、ともに青空へと溶けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
冴島くん(f13398)と

少年少女に交ざってハレ缶スマイル
ちゃっかりと一口ずつ貰うお裾分けは、
想い出の欠片と一緒に食むごとに
胃の腑がやさしく温もるようで

お礼に差し出す缶詰は、
実はなんの味だか自分でも知らない
冴島くん、おいしい?
首を傾げてようやく一口

……ああ、これは、百合根、だ

仄かに甘い風味に
うつくしい面影が浮かぶ
まだ恋を知る前の春
隣に添うだけで幸せだった日の

戻らない想い出ほど甘いんだね、と
薄紅にさみしく染まるよな微笑みで
だけど多分、きみの言う通りだから

照れかくしみたいにえい、と
冴島くんのハレ缶もひと匙つまみ食い
シンプルだけど滋味深くて
はじまりの味にはぴったりだ
ふふ、今日の想い出ともよく合うねえ


冴島・類
花世さん(f11024)と

乱戦無事終えて
交わすおかえりやただいまに
喜びをお裾分けしてもらった心地
戦場で見知った彼女と
子供達に混じり、缶詰の宴とは不思議な縁だ

皆が違うなんて面白い
蓋を開けて周りと交換をしつつ
勧められた彼女のを一口
うん…美味しいですよ
優しい味がする
花世さんにとって何の味?

和らぎ思いを馳せる様に、尋ねて
淡い兆し始めた春の話なら…

知らぬ前には戻りたくないから
そんな顔をしてるんじゃ
戦場の華やかさしか知らぬひとの
違った笑みに、つい溢し

僕のもどうぞ?
渡してから自分も一口
かたちを得て初めて食べた握り飯に似てる
美味くて
少し塩気が染みる
けど、こうやって誰かと話をしながら食べるなら
味わい深い、ですよ




 妖精と兎耳娘の挨拶にゆるく掲げる手で応えたあとは、花世と類の大人組もハレ缶タイム。
 浮かべる笑顔も勿論ハレバレ。
 ――周囲で食事を楽しむ少年少女からちゃっかりと貰ったおすそ分けが、彼らの語る想い出の欠片といっしょに食むごとに、胃の腑をやさしく温める心地だから。
 本当に、よかった。
 改めてゆっくり見回した花世は「それでは!」芝居がかって気合の入った声を上げる。
「我々もじっ、しょく、と参ろうか? 冴島くん」
「ふふ、そうしましょう。缶詰の中身、花世さんは心当たりがおありで?」
 楽しげに喉を鳴らした類も、同様に缶切りへ手を伸ばして。
 拠点へ到着して以来、耳に目にした子どもたちのやり取りこそが"心"を弾ませるようだ。そんな彼らと、戦場で見知った花世と。こうして食卓を囲むというのはなんとも不思議な縁で、面白い。
 故に互いの日常を知る機会でもある。
 問われた花世は缶切りを進める曲線につられるようにもすこぅし首を傾けて、そうだなぁ、と一拍置いた。
 美味なるもの――春酣の夢を溶かし込んだ盃。香り立つ葡萄酒、奥深いチーズスフレ、色取り取りのマカロン。 ぽこぽこ浮かんでは消えてゆく思い出たちは、果てがないけれど。
 どうだろう? 思案している間にぱかんと開いてしまった蓋を横へと退ければ、白や薄紅、厚みのある花弁に似たものがそこに収まっていた。
「漬物、でしょうか?」
「かな――……あ、みんなもどうぞ。ごはんに合いそう?」
 手招きを受けた子どもたちと類がひとつずつお先にいただく。歯を立てればほろほろ崩れる食感、ほくほく、ほのかな甘味はほわりと微笑みの波を広げて。
「冴島くん、おいしい?」
「うん……美味しいですよ。優しい味がする」
 品の良い砂糖細工のようでいて、懐かしい風味。これには類も首を縦に。
 花世さんにとって何の味? 自らのハレ缶の蓋を外しながら、穏やかに重ねての問い。促され匙を唇へと運んでみたなら、花世にはすぐに――あの日が、思い返された。

(「ああ、……これは、」)
 百合根。
 うつくしい面影が触れられるほど鮮明に浮かぶ。傾けあった酒杯が立てる清涼な音も、ひとつとて褪せはせず。
 隣に添うだけで幸せだった日の、
 まだ恋を知る前の――春。

「花世さん?」
 引き戻す青年の声に繰り返し瞬いて、へらりと上手な心算でつくった花世の笑みは、薄紅に染まりどこかさみしい。
 戻らない想い出ほど、甘いんだね。
 ――呟きの震えに、今にも朝露が零れそうだ。
 それでも、それは厳しい冬の日のものではない。少なくとも類にはそう映ったから、静かに匙を手に取りながら微笑み返してみせた。
 淡い兆し始めた春の話なら……。
「知らぬ前には戻りたくないから、そんな顔をしてるんじゃ」
「っ」
 まさに虚を突かれたといった様子で肩を揺らす花世。
 強張った身は――だが、次の瞬間にはふっと力を抜いて、認めた。「きみの言う通りだ」すべて言葉にしてしまうのは、すこしだけ難しいから。
「あっ、冴島くんのもおいしそう」
 えい!
 類の缶詰へ匙を差し入れる照れ隠しで、火照る頬をすこし冷ます。おひとつどうぞと丁度差し出そうとしていた類は噴き出すみたく吐息を漏らしてしまって、ううっと詰まる花世に違うんです、と。
「美味そうに見えたなら嬉しいなって。どうですか?」
「……ん、」
 そうして食まれた黄金色の俵は何の変哲もない、米の味。
 多めに足された塩気が食欲をそそる。少し染みて……心をくすぐる、類にとっての、忘れ得ぬ想い出の味。
「かたちを得て初めて食べた握り飯、かな。おもいで補正なんて言葉もあるけども」
 美味い。 後を追って一口。噛み締めるように落ちた男の声に、うん、と味わった花世は同意した。シンプルだけれど、滋味深い。
 はじまりの味にはぴったりだと、そう。

「こうやって誰かと話をしながら食べるなら味わい深い、ですよ」
「ふふ、今日の想い出ともよく合うねえ」
 嘗て味わった地獄と天国。
 ――。 はじまりからつづきへ。二人のハレ缶は飾り気なくささやかで、だからこそ味がある。
 いっとき不思議な顔をしていた奪還者たちが、もっと腹に溜めるべきとやれベーコンエッグだ炒め物だとあれこれと持ち寄るので、ちいさなパーティ会場じみてしまうのも直ぐのこと。
「こらこら、喉を詰まらせないように」
 あまり米を食べた経験がないのか、物珍しげに組み合わせ試しはじめる様など実に微笑ましくて。類は、ふとひとつ息を吐いて空を仰いだ。
 ひとの身で、触れる世界が増えてゆくこと。救えた命が目の前に輝くこと。
 遮二無二駆け抜けてきた道が遠くかの地へ続いていることを願い、思いを馳せて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
おや、私にもくれるのかい?
キミたちの宝だろうに
でもくれるなら有難くいただくよ。腹も減ってきた頃合いさ

というか、最後に何か食べたのいつだっけ
いっつも忘れてしまうよ。食事
良くないって言われることもあるんだけどねえ……

ところでコレってどう開けるの?
硬い缶をコツコツと叩く
だって初めて見たんだもの。私の国にはなかったよ
この中に食べ物が詰まっているなんて不思議だねえ

近くに居た誰かに缶詰の開け方を教えてもらう
フフ、すまないね。助かったよ

私は記憶をなくしがちだ
“懐かしい”っていう感情があまり解らない
覚えてないから

でもこの缶はすごく美味しい!
温かみのある味で……アレに似ている
そう、サクラの国で食べたオムライス!


花剣・耀子
今日のあたしは傭兵だもの。
報酬はちゃあんと頂きましょう。

とくに苦手な味はないし、おいしいものはなんでもすきよ。
特に好きというなら甘いの、
……でも甘いのを食べるとしょっぱいのが食べたくなるわね。
なんでもすきよ。

周りの様子を見ながら、あたしもひとつ開けましょう。

ぱくりと口に含めば広がるケチャップの味。
薄い卵にほろっとしたケチャップライス。
ちんまりと主張してくる具材。
普遍的で失敗なく合格点を叩き出すこの味は、
まごうことなき冷食のオムライス。
……ああー。うちの食堂であっためてくれるやつだわ……。

いちばんすきなのは、誰かと食べるごはんなの。
だからきっと、そういうことなのでしょう。

交換だって歓迎なのよ。




 "一日傭兵"として。報酬として、ちゃあんと頂いたハレ缶。
 涼しい岩陰に腰かけてその蓋を弄る耀子に、人の影が落ちたのは直ぐのこと。
「お隣、いいかな?」
 フレンドリーに手を翳すエドガーの声に合わせるように、彼の肩で羽を休めるツバメがちいさく鳴いた。
 スプーンを咥えていたから、会釈だけでスペースを空けてやる耀子。隣に遠慮なく腰を下ろしてエドガーも自分の缶を揺らし、コツコツとノックする。中からは何の応えもない。下々の色々に興味を抱くのは、性分であり責務だった。 奪還者たちのとっての宝物。
「……ところでコレってどう開けるの?」

「なんとなくそんな気がしてたわ」
「だって初めて見たんだもの。私の国にはなかったよ」
 外した蓋の上にスプーンを置いて、途中まで実演してくれる女学生に王子様は頭が上がらない。こう? こう。こっちに? そっちに。やり取りが一通り繰り返された後は、スムーズに事は運んだ。
 きこ、きこ。試してみると、鈍く伝わる感触が案外楽しい。
(「というか、最後に何か食べたのいつだっけ」)
 きこ、きこ。御伽噺の中、宝箱の蓋を開くみたいで。
(「いっつも忘れてしまうよ。食事。良くないって言われることもあるんだけど……」)
「二周してるけれど」
「おっ、と……フフ、すまないね。助かったよ」
 またぼんやりしていた。おかげで綺麗に外れた蓋を手にしてはしゃぐエドガーを後目に、気を取り直す風に短く息を吐いて耀子は缶の中身を見つめる。とても覚えのある匂いがしていた。それも、自分のものと隣、両方から。
 耀子のものは三角。エドガーのものは花丸と形の違いこそあるものの。
 焦げ目のついた薄皮をつっつけば、 我先にと零れだすほろっとケチャップライス。ならば甘口ケチャップのワンポイントが賑やかな黄はもこもこたまご? 具材はちんまりながらも赤白緑いろ取り取り……何のアレンジもない。――所謂、昔懐かしのオムライス。
(「これはもしかして」)
 ぴたりと手を止めた耀子を横から覗き込み、似た香りだ! 明るく声を上げるエドガーは早速と一口目を口へ放り込んでゆく。
 むぐむぐ静かに咀嚼して、一拍遅れて浮かべるビックリマークは味覚が記憶を揺さぶったためか。"なくしがち"な王子様は懐かしいという感覚を上手に理解できずとも、都度新鮮に受け止めなおす楽しみを持つ。すごく美味しい! と。
「温かみのある味で。アレに似ている、アレ……」
「オムライスよ。意外ね。まさか被るなんて」
「そう! だろう、旅先でいただいたものさ。たしか……キミと?」
 それは確かにサクラミラージュで共に食べたもの。 だが。見据えて匙にひと掬い、
 普遍的で失敗なく合格点を叩き出す、耀子の方のお味は。
(「……ああー。うちの食堂であっためてくれるやつだわ……」)
 ――まごうことなき、冷食のオムライス。
 耀子がいちばんすきなのは、誰かと食べるごはん。だからきっと、そういうこと。
 とはいえお揃いにキラキラ瞳を輝かせる男に、こっちはうちで数分チンしただけのやつとの真実を伝えるべきか否か。いや待て、食べ比べてみたなら実は汽車で味わったものかもしれない。ずずいとハレ缶を傾け「交換しましょ」との耀子の提案に「同じなのに?」ときょとん顔をしたエドガーだったが、新しい扉を開けるのならば大歓迎!
 快諾のもと、ふたつの缶入りオムライスはトレードされて……。

 結局似通った味のほどに、つい笑ってしまうのはどちらからともなく。
 もしかしてうちの食堂に寄ったこと、ある? ――いやいや、それなら挨拶のひとつでも!
 実はこっちはと種明かしを経たところで、どちらも大切な味に変わりないのだ。良い思い出になっていたのなら嬉しいと女は眦を緩めて。
「――うん。やっばり、たまに食べると美味しいのよね」
「キミのお家? の、お店にも是非訪れたくなったよ。――あっ。似ていないかい?」
 むしろ嬉々としエドガーがあれとこれ、と交互に指すのは空、そして缶詰に描かれたハレ印、幸せな暖色のたべもの。オムライスは美味しいけれど、お日様は食べたことがない。二人してもう一口食べ進めてみても、ちょっと温かくなった気がするくらい。
 自分にはまるで無い感性、だけれど。
 青に輪郭を溶かしてしまっている太陽を真似て見上げる耀子は、とても眩しそうに目を細めて。
「甘じょっぱい。……こんな味なら、食べてみたいわ」
「そうだねえ、ああ、翼まで欲しくなっちゃった!」
 そうしたなら、空の上まで赴いて。味わうこともできるのに。
 ねぇオスカー、キミはどんなか知ってる? 尋ねられたツバメはちっちゃな嘴で"太陽"をちょんと突っついて、愛らしく首を傾げるばかり。代わりに置かれた緑の葉っぱが、夢いっぱいの旗めいて揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネライダ・サマーズ
絡みOK
好:濃いめ味

子供たちが口にするバラバラの感想
初めはわからなかったが…そうか
だから、ハレ缶なんだな


会話から解った事には触れず報酬を頂こう

ニュイ(f02077)、シェアしないか
何味かは俺も知らないんだがな!
笑って蓋に指を引っかける
記憶をどこかに落とした俺のハレが何味かっていう無料イベンt(ぱか
見ろ!肉だ!

スープに浸るサイコロ状の肉
ガーリックと胡椒のいい香り
肉なら大歓迎だと食べ、初ステーキを思い出す

知り合ったばかりの爺さんにな
この店のステーキが美味いんだぞって連れて行かれたんだ

思ったよりずっと心に残ってたのが何だか照れ臭い
残りはニュイや他の子供たちへ
いいんだ
俺は一つで満腹になったからな!


絢辻・幽子
SPD
ふふ。幽ちゃんおなかぺこぺこよー
どんな味がするのかしら?

きっと私の事だから他の子の味に興味しんしんで、
しっぽがぱたぱたしちゃうわねえ
ねえ、ねえ、ニュイちゃんのお味は何かしら?
ひとくちちょうだいな。
どーんと、もちもちに突撃?いえ、ぶつかりませんよ
私はだいたいなんでも美味しく食べちゃうから
なんでもドンと来いよ。食べ物なら。

私のハレ缶はきっと、なんの変哲もない
ちょっと酸っぱいりんご味
昔昔に、もらったのよ。お腹がすごく空いてた時に
あのときはすごく美味しく思ったけど……
普通ね。なあんて。

お腹が満たされるって、しあわせよねえ
あ、甘くて冷たい味を持ってる子がいたら
幽ちゃんにひとくち下さいな。


コノハ・ライゼ
人によって味が変わるナンて
もうみーんなの少しずつ貰うしかないンじゃなくて?
どうしようすっごく楽しみ!と
少年らの缶詰を一口ずつ貰いに回ったり
感想を聞いて回ったり

じゃあ自分で開けたハレ缶は、といえば
んーナンだろ
師匠に作って貰ったハンバーグとか?
自分で作って食べてる期間のが長いし、思い当たる節もなくイマイチピンとこない
首傾げたまま口にすれば……コレはごはん、いや、おにぎり?
具のない塩おむすび
自分の記憶じゃない筈の、話に聞いただけの筈の、「あの人」の思い出の味
なのに確かに知ってる気がしてーー

んん。ま、イイや
おいしーコトには変わりないし楽しまなくちゃ損
誰かおかずっぽいの頂戴な、分け合いマショ




 父、母。
 ひと匙ずつゆっくり味わう、まだ幼い横顔。
(「そうか……だから、ハレ缶なんだな」)
 奪還者たちの会話や素振りから解ったすべてごと、そっと、強く優しく抱き留めるようにハレ缶を受け取った。ネライダが、視線を巡らせれば隅で黒がうごうごしている。
「ニュイ、シェアしないか」
「ハッ! かみさま……!」
 どぅるんと振り返ったニュイは二つ返事でやってきた。ついでに缶詰を……、子どもたちにおかわりを頼まれたものの構造上開けることができない缶詰を、お手伝いしてほしいと引っ提げて。
 そんな難敵も、ネライダにかかればぺきんっと軽くひと捻り。
「さ、開くのは任せたぞ。俺も自分のものを――何味かは俺も知らないんだがな!」
 缶切りが要らないだと……? やっぱり神だ……! ざわつく周囲を余所に、ひとつ笑んで蓋を引き抜くネライダ。
 記憶をどこかに落とした俺のハレは何味か? 無料イベントの始まりだと、隠すどころか開けっ広げにネタとしてみせる姿勢は、数多の興味を引いたらしく。
「見ろ! 肉だ!」
「うわ声デカッ」
 間近へ寄ってきた少年少女に二重の意味で衝撃を与えたりもした。
 うにょーんと彼らの頭上から見物するニュイは、ぺちぺち失敗した拍手のような仕草を見せて。
「サイコロのお肉! それにこの香り、とってもおいしいやつです……!」
「知ってる、ガーリックと胡椒!」
「分かるか? そう、その昔知り合ったばかりの爺さんにな――」
 一口。
 記憶に染み付いた味は、確かに初めて口にしたステーキ。
 この店のステーキが美味いのだと通ぶって連れて行かれたこと、思ったよりもずっと心に残っていたとは。何だか、照れ臭いものの。
「美味い」
 今一度深く頷いてネライダは隣を見た。「美味いぞ!」勧めるべく、湯気立てるワイン色のスープを揺らしながら――。

 と、そのとき。
「ニュイちゃんどーーん」
「あーれー」

「ニュ――……ニュイーーッ!!」
 ヒーローの伸ばす手も虚しく。
 悪戯女狐こと幽子の寸止め体当たり=お茶目ご挨拶にオーバーに跳ね転がっていったタール。
 暫くしてぴょんぴょこ戻ってくると、何事もなかったかのようにこんにちはと折れた。いっそ楽しそう。
「あらあらうふふ、食後の運動しちゃった?」
「そうか……、健康的だな!」
 てへぺろと舌を出す幽子の他が、その姿勢、見習わねばと拳を握るネライダなので収拾はつかない。女の分だけ横へ退いてやる神へ向ける笑みこそ麗人のそれながら、狐の揺れる尾はぱたぱたぱたと無邪気なもの。
「ねえ、ねえ、お食事中でしょう。ニュイちゃんのお味は何かしら? ひとくちちょうだいな」
「もちろんです! 今ね、ネライダさんたちにも召し上がっていただくところだったのですよ。ママお手製のゼリー味なのですが……」
「まあ、甘くて冷たい子? それってとっても幽ちゃん好み」
 おなかぺこぺこだったの。いただきますと合わさる両手に応えるようにもニュイ缶のうち躍るぷるぷるは、炭酸ベースで様々なフルーツのフレーバーを涼やかに運んでくれることだろう。
「食べてもいいのか?」
「先に食ってみてよオジサン……」
 魔法の水のいきもののような物体に、ネライダと少年少女らがじ……と観察をはじめる脇で早速ぺろり。「おーいし」とうっとり頬に手を添える幽子はいて。
 実際問題、食べ物ならばなんだって美味しくいただけちゃう。
 ――いつかほど酷く餓えていなくたって、そう。

 遡れば。 既に開封済みの幽子のハレ缶の中身は、クラッシュされた大粒の果肉たち。金色に輝く、ちょっと酸っぱいりんご味だった。
「りんご。……ただの、りんご?」
 奪還者の少女の問いに、狐はゆうるりと尾を揺らして答えたものだ。
 昔々にもらったのよ。お腹がすごく空いていた時に。
「あのときはすごく美味しく思ったけど……普通ね」
 なあんて。
 くすり吐息めいた笑いを零すかたちの良い唇は、嘘と真実。どちらをどう騙っている? うら若き瞳には見抜ける筈もなかったろうが、分けてもらった思い出に「おいしいよ」と。小さく返せば撫でつけてくれる冷えた手のやさしさだけは、本物だと――思えたのだ。

 そして今。 ひとの心知ってか知らずか。幽子はのんべんだらりとごはんを楽しむだけ。
「お腹が満たされるって、しあわせよねえ」
 しみじみととろけ落ちた言葉には、幾つもの同意が返る他なく。

 アレもいい、ソレもいい。
 コレなんて、ウチのメニューに加えたいくらい!
「もっと聴かせてくれる? どんなお野菜使ってたカシラ」
 他方、奪還者たちから一口ずつ貰って歩くハレ缶の数々は、コノハの舌と耳を大いに楽しませてくれている。
 一個人として。同時に料理人としても前のめりに関心を示してみせるコノハの姿勢は歓迎されて、子どもの思い出話にも満開の花が咲くというもの。
 ……開く者によって味が変わる。
 缶詰の摩訶不思議は、果たして"自分"という存在にも適用されるのかどうか。
「で、アンタのは? オレらのとはなんか違う感じ?」
「どうだろ、こう見えてすごぉく舌は肥えてるンだもの。心当たりがあり過ぎるワ」
 普段なんて、むしろ美味しい料理を作って提供している側なのだ。自慢じゃないけれど、と得意げに笑う男の意外なまでの特技には「おぉ……」「ヒト喰いじゃなかったんだ……」となんとも言えぬ感嘆の波が広がって。
 野次馬に覗き込まれつつ、手慣れた様子で缶切りを進めるコノハ。
(「んー。師匠に作って貰ったハンバーグとか?」)
 ――心当たりばかり、と嘯いてはみたが実のところその逆。常日頃不味いものを振舞っている心算はないけれど……、一番の、幸せな思い出と謳われれば。
 答えに辿り着くよりも早くかこんっと軽い音が耳に飛び込んで。手と蓋を退ければ、そこにあるのはころころ犇めき合う空色の円錐。
「……お薬?」
「宝石?」
「ちゃんと食べモノオンリーなのよネ……?」
 くんと鼻を寄せても疑問符。ままよと一口放り込んだなら、思いの外食べ慣れたものの味と食感に瞬くのだ。これは、ごはん。いや、おにぎり?
 具のない塩おむすび、
(「"あの人"の……」)
 思い出の味。
 自分の記憶ではない筈の、話に聞いただけの筈の、――なのに確かに知っている気がして。
「オイ、吐き出すか!?」
「水いる?」
「――……ぷっ」
 だめだ、笑えてしまって考え込んでいられそうにもない。
 おしゃべり妖狐が黙り込む様に慌てて叩いてくる手を、やんわり取って「おいしーから食べてみて」缶を渡し笑えば、一息に場は和やかな空気に包まれる。
 そう。何事も――楽しまなくちゃ、損だもの。
「となるとおかずが欲しいわねぇ……おっ」
 ぴこん!
 ハンターの視線が定まった先には、何やらハレ缶片手に囲まれる大男……?

 いえいえ、決してたかられている訳ではなく。
 むしろ逆。 あれほど絶賛していた自身の缶詰を、ネライダは子どもたちでどうぞと改めて差し出したのだ。
「ネライダさんはもういいのですか? とってもおいしいのに!」
「いいんだ。俺は一つで満腹になったからな!」
 あの後ちゃっかりもぐもぐさせていただいたニュイへも等しく注がれる眩しい笑顔に、僅かも偽りはなくて。
 一口きりでも心地好い。ハレ缶の神の主食だって、きっと食事を楽しむ人々の笑顔である――ありのままで解ったこと。
「うまそう! オレ、はじめて見るや」
「ありがと、オッサ……ハレ神様!」
 粋な計らいにわっと湧く子どもたちに紛れひょっこり顔を出した狐がひとり。耳も尾もないけれど、青く細めた眼は人慣れしたそれ。
「ねぇねオジサマ、アタシにもおひとつくださらない」
 コノハだ。
 ネライダは幾らか低い高さにある知った顔に快諾しかけて、ふと。
「おっと、そういえばコノハはいくつなんだ?」
「幼気な子ぎつね――に、見えたりしない?」
「見えないな! ちっとも!」
「ちぇー」
 神権発動・お子様優先! 冗談半分だったのだが、元気だせよ……まだ若いぜと何故だか狐男の肩を叩く少年少女がいて。そんな彼らとの交換で、コノハもまた米に合う素敵なおかずにありつけたのだった。ステーキのスープもいただけました。
「デザートのご用意もあるわよーコノちゃん」
「そうだ、あっちの二つも美味かったぞ」
 ……ちなみに知己へ呼び掛けてゆるゆる手を振る幽子はといえば、その間ニュイの一部とともにまったり、丁度良い日向を探していた。
 やがて綺麗にカラになったハレ缶たちの底が、キラリと陽光を返す頃。
「なんていうか……」
「幽ちゃん、いつも以上にお腹いっぱいかも」
「ああ。俺もだ、1ポンドステーキも目じゃない……」
 です、と溶けるブラックタールにも似てとろとろ寝転ぶ三人。周りには、同じくご満悦な奪還者の輪。
 食べた量なんて関係ない。
 人数分、色んなおいしいがちょっとずつ。
 積み重ねられた幸せは、とてもたくさん。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
子らの腹を満たせるのだろうかと
不安になる程ちっぽけな缶
その味迄も不可思議と聞けば尚のこと

…貴重な糧、有り難く頂戴する

開いた口へ運べば一瞬時が止まるよう
…これは…
主が最初に作ってくれた「ミルク粥」
当時、己の食に気を遣っていなかった主が
精一杯の知識と材料で手掛けた
仄かな甘さの素朴な味わい
正しい手順ですら無かったのだろうそれは
飢えた子には天上の甘露とも思えるような

つい緩む眦
…あまりに懐かしかったのでな
気付いた子らにはそう誤魔化そうか

同じく困難の中なれど分け与えられたそれは
故に良く似た温もりで

そういえば飛ぶのを珍しがっていたのを思い出す
食事の礼に乗せて飛んでやれば喜ぶだろうか
子らの糧を、もうひとつ




 このちっぽけな缶詰のために、彼ら彼女らは命を懸けていた。
 陽の下で改めて手にしてみれば不安にもなる。腹を満たせるものか、明日からはどうするのか、明後日には――。
 今は遠き幸せを味わえる、真に、貴重な糧ではないのか。
「…………」
 開きかけた口。ジャハルが閉じたのは、ハレ缶を差し出す少年がすっかり与う側の嬉しさ誇らしさを知る顔をしていたから。
 遠慮が傷付けることもある。喜びが、成長に繋がることもある。 嘗て似た眼をした少年が、身を以て学び来た通り。
「有り難く頂戴する」
 強く歩めと願う念が、選ぶに難しい言葉より、ひとつの握手で伝わればいい。

 料理は出来ぬこともない。
 とはいえこうして"一番"として相見えるのならば、彼のひと由来のものであろうことは想像に容易かった。
「これは……」
 開いたブリキの中、とろりと乳白の輝く粒たち。
 口へ運べば時が止まったかに思えた――主が最初に作ってくれた、ミルク粥。
 当時、己の食に気を遣っていなかった男が、精一杯の知識と材料で手掛けたもの。仄かな甘さは素朴と評するなら丁度良く、やたらと細かに潰された米の一粒に見え隠れする思いやり。
 正しい手順ですら無かったのであろうそれは、餓えた子には天上の甘露とも思えるような――。
(「……上達、したものだな」)
 ふ、と、零れた息まであたたかい。共に過ごした時の流れを思いもして、二口目も忘れつい緩む眦は近くで食事する子らをギョッとさせることとなった。
「どっか痛いのか……?」
「火傷したんだろ? 水、水」
 勝手に話を盛り上げ進めてゆくスピードときたら、ジャハルには追いつけそうもない。
 だからずいと手で制して「つらくはない」と。
「……あまりに懐かしかったのでな」
 その声が、酷くやさしく響いたものとは当人にも知れぬこと。

 思い出の味に、親兄弟の影をみるものが多くいた。
 だからきっと、無理をした風に映ったのだ。この竜人は"大人"だから――泣いてもいいじゃんと励ますべく分け与えられたハレ缶たちは、焼き魚にたまごスープ、パンケーキ。
 何れも良く似たぬくもりをして。
「どうだ? 元気出た?」
「つえーのに、根っこはオレらといっしょなんだな」
 逆に親近感でも湧いたというのか、両脇に座り込む少年に懐かれつつジャハルは匙を進めていた。美味い。何か礼を――そういえば、彼らは空を飛ぶことを珍しがっていたか。
 即断即決。
 綺麗に平らげたハレ缶を置くと次に手を伸ばす先は左右。
「食後に空の旅はどうだ」
「はっ?」
「え、  っわ」
 礼だ。と。
 ぐ、と細い腕二本を引きながら広げたなら、ふた蹴りで空へ舞い上がる白亜の翼。
 存外に無邪気な性質を兼ね揃えた竜人による前置き無しのフライトに、絶叫だか歓声だか分からぬ声を上げるちいさき者を、落とさぬようにしっかりと抱きかかえる。
「と、  飛んで……」
「舌を噛むぞ――ほら。下も良いが前を見ておけ」
 好い青だ。

 息を呑む音、ふたつ。
 いつか己が、うつくしきものを知ったときのそれと同じ。

 思い出の味に新たに紐付けられた糧(記憶)は、きっと、鮮明にずっと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

渦雷・ユキテル
不思議なレビューですね
きっと食べたことないような――
……これ、知ってます

原型不明な食事の中
わりと形を保ってたビーフシチュー
冷めたルゥに本物か怪しいパサついたお肉

彼と分け合ったクッキーの味を忘れた事はなかったけど
みんなと食べたこの味も、懐かしい
誰も好き嫌いをしなかったなとか
食欲のない子を気遣う余裕があったことも思い出しちゃって
彼以外切り捨てたつもりだったのに
生き死になんてどうでもいいと思ってたのに
目の前のこの子たち、死ななくて良かったって思うの

晴れ晴れ笑って、お喋りしながら頂きましょ
銃とナタ持ったおじさんと追いかけっこした話とかします?

※絡み・アドリブ歓迎
人工的な味のほうが馴染む。甘いのが好き


狭筵・桜人
好意を無碍にするのは妖精としても避けたいところですが
からくりがわかるとちょっと躊躇っちゃいますね。
自分の知らない内に根差してた幸福って、開けるの怖いですよ。
何もないと思ったら何かありました、なんて知るだけ損損。

というワケで他人の缶詰を味見してまわることにします。
実は缶詰の妖精は自らハレ缶を開けることを固く禁じられているのです、とかなんとかそういうアレ。
スイーツの気分なので甘味が当たった人は教えてくださいね。

さて少年少女諸君。
これからはケンカせず仲良く支え合って生きて行くんですよ。
妖精との約束です。

(倒れる演出)

はっ……私の体に乗り移ってた缶詰の妖精が成仏しました。
さようなら妖精さん……。




 食べてみて、と渡された缶詰。
 好意を無碍にするのはハレ缶の妖精としても避けたいところ。――とはいえ、からくりがわかった今、それを開ける気はなかった。
(「自分の知らない内に根差してた幸福、って。怖いですよ」)
 桜人としては。
 藪の蛇は見送るし、寝た子なんて起こさない。
 何かないと思ったら何かありました、などと知るだけ損でしかないのだから。
「それでも楽しんで良いと言うのなら――そうだ、」
 もっと良い方法があるじゃないか。
 だって妖精だし?

 ――そうして、たくさんのハレ缶を味見させてもらったわけだ。おいしかった。
 妖精ポジをこれでもかと満喫してしまえば、残る仕事はひとつ。
 逆光の中(になる位置取りをわざわざ調整して)穏やかな声音で桜人は言った。
「さて、少年少女諸君。これからはケンカせず仲良く支え合って生きて行くんですよ」
 ――妖精との約束です。
 しんと顔を見合わせる奪還者たち。
「ああ。忘れねーよ、今日のこと」
「だからアンタもこれからも見守って――……」
 そして望んだ言葉が聴けたなら、桜人はまた微笑んだ。
 今日の私、本当に働いたな。
 すこし強い風が吹いたとき(ここぞとばかりに)貧血っぽくふらり、傾ぎ、倒れ込む桜人。砂埃を立てて……。
「ちょっ」
「オイ、しっかり」
 両脇を抱いて引き上げられかけるも、弱弱しく首を振って止めなんだかイイ感じの顔で空を見上げてみせた。
「……私の体に乗り移ってた缶詰の妖精が、成仏しました」
「今!?」
「そんな、まだ全員挨拶もできてないのに……! てか成仏!?」
 慌てふためく奪還者たちを、天気よろしく気まぐれなハレ缶の精は待ってはくれない。というか桜人はもう動く気がない。
 さようなら、妖精さん……。またいつか。

 あー。背中にごつごつ当たる小石が地味に痛い。
 奪還者が離れた隙にこっそりおさらばしようとでも考えていたのに、倒れ込んで見上げる桜人の晴天をふいに金糸が遮る。
「サービス精神旺盛な妖精さん。まぁたお仕事増やしたんです?」
「――ま、そんなとこです」
 はらりと落ちた束を耳に掛けつつ目を細める、ユキテルそのひと。
 顔見知りといえば顔見知り、初めましてといえば初めまして。戦場の縁、そんな程度の距離感で。
 それはお疲れ様でした。
 見下ろし、くすくす笑うユキテルは倒れたまま寛ぐ男へ手を貸すでもなく、自らの缶詰の蓋を開けた。ほんの雑談ついでのように。 期待なんてしたくなかったのだ。
 どうでもいい、食べたことがないようなものが……詰まっているだけと思ったのに。
(「これ……知ってる」)
 ふわり、風に薫る黒褐色。ぐずぐず煮込まれたトマトはあの頃、心臓みたいですこしだけ不気味で――原型不明な食事ばかりの中、割と形を保っていたビーフシチュー。
「お食事これからですか? 食欲をそそる匂い、ってやつですよね」
 いつの間にか身を起こした桜人が、顎を摩り隣で覗いている。
 あらゆる音が瞬間に現在へ追いついてきた感覚に「そんなでもないですよ」と微かに上擦ったユキテルの声を、指摘する者はいない。その意図された鈍感に少しだけ救われながら。
「今食べたって、美味しくないに決まってます」
 あたたかくもないし、本物かどうか怪しいお肉はパサパサ。だからと匙持つユキテルの手が宙をうろついた隙を縫い、差し込まれた桜人の匙はまるで気にした風なくひと掬い。
「へぇー。では試しに一口」
「あっ、お腹壊しても知らないんで」
 いただきますと忠告と実食はほぼ同時だ。
 ふむ……なるほど……これは……。識者然と頷くばかりの桜人が二口三口進めようとするので、
「もっと有難み持ってくださいよねー。こんなのでも、マシな方だったんですよ」
 スイッと取り上げて同じく口にするユキテル。
 急がないと、と、躰のどこかが感じたデジャヴは"みんな"とときに競い合いときに譲り合い、同じメニューを食べたから。
 彼と分け合ったクッキーの味だけは忘れた日はなかったけれど。
(「懐かしい」)
 とろりと染みるデミグラス。
 誰も好き嫌いをしなかったこと。食欲のない子を気遣う心の余裕があったこと。
(「私、」)
 彼以外、切り捨てたつもりだったのに。ひとの生き死になんてどうでもいいと思っていたのに。…………。
(「強くなったはずだったのに、な」)
 味が記憶を間近に呼び戻すほど、目の前の必死に生きる子どもたちが、今日死ななくて良かったと思えてしまうのだ。

「ごちそうさまです。しかしスイーツの気分だったんですよねぇ」
 ふつん。
 沈黙を裂いて語り出すのは、やっぱりマイペースな桜人。
「食べておいて何を……っていうかそっちのハレ缶はどこいったんです? あたしあげてばっかじゃないですか」
「ああー。どうも、妖精が去り際に持っていってしまったみたいでして。なんか妖精ルールのせいで開かなかったですし」
 そんなことある??
 食べ物の恨みの恐ろしさを知る者ばかりということか、ユキテルが何か言いかける前にその袖をくいくい、と引く手があった。振り返ればそこには奪還者数名が缶詰を手に並んでいて。
「妖精さんにもアンタらにも、世話になったからね。コレあげる。甘いけどいい?」
「わ。良いんです? ――この味、好きですよ」
「うんうん、その調子で善行を積めと妖精もどこかで喜んでますよ。多分」
 逆さの缶から一粒貰い受けたキャンディの、わざとらしい甘さはユキテルの舌によく馴染む。噛んでしまうのがちょっぴり惜しくて頬へ転がせば、遠巻きに眺めている少女をも手招いた。
 折角だし、おしゃべりしましょう。
 晴れ晴れ笑って。

 ――普段どこで暮らしてるの? 何歳の頃から戦ってるの?
 苦手なことってある? 妖精が死んでもハレ缶は大丈夫??

 質問攻めものらりくらりとなんのその。
 ユキテルと、ちゃっかり頂いた桃味を早々に噛み砕いた桜人。
 二人のキラキラ淡い色味と柔和な人当たりといえば、こども向け教育番組のおねえさんおにいさんのようだが、
「次は銃とナタ持ったおじさんと追いかけっこした話とかします?」
「いいですね。私からは新鮮なネタとしてぶよぶよ肉塊大魔王と対峙した話でも」
 ……あくまで気がするだけである。
 メシ食ってんだよ!! と戦慄する派と、やっぱすげえ~~! と大盛り上がりする派に二分する奪還者一同なのであった。
 とはいえ格好良い活躍を見せてくれた少し年上の二人を、言い合えるほど身近に感じることができ嬉しかったことだろう。缶詰囲んでのたわいもない――だからこそ貴重な――おしゃべりは、もうしばらく終わりそうにない。


 ころころ、ころ。
 ハレ缶は咲く笑顔たちの間を、心弾むみたく転がってゆく。
 食べてもらった分軽くなり、風に遊ばれ上を向いた底面には掠れた赤茶の走り書き。
 "晴れやかな日々を、忘れないで"。
 誰かの願い、
 祈り、希望――――明日も晴れよと。負けるなと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月11日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アポカリプスヘル


30




種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト