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アルダワ魔王戦争9-D〜慈悲無き灼光を越えて

#アルダワ魔法学園 #戦争 #アルダワ魔王戦争


●光の石棺
 複雑に入り組んだ迷宮の先に、『それ』は待ち受けていた。
 一見すると、ナイフの刃も入らない程に精密に組まれた、石造りの一本道に過ぎない。
 だがそこは『光の石棺』と呼ばれる殲滅装置の、顎の真っ直中なのだ。
 その通路に一歩でも踏み込めば、密閉型蒸気反応炉からエネルギー供給を受けた『光の石棺』から放たれる超高出力レーザーによる洗礼を受け。尋常の存在であれば、有機物・無機物の区別無く、一瞬で蒸発してしまう。
 さしもの猟兵とて、必ずしも例外ではなく。無策で挑めば大火傷では済むまい。
 更にレーザーを受けて尚、息のある者には。ジェムビーストの群れが襲い掛かるという、二段構えの罠である。
 だがここを抜けなければ、迷宮の先に進む事は出来ない。力よりむしろ、知恵と機転を試されると言えるだろう。

●知恵と機転で『光』に挑め
「ファーストダンジョンの攻略も最下層に達し、大魔王へのチェックメイトも、間近に迫ったと申せましょう。猟兵の皆さんの、ご尽力の賜物です」
 ノエル・シルヴェストル(Speller Doll・f24838)は、深々と頭を下げ。猟兵達への敬意を示す。
「ですが……立ち塞がる罠もまた、凶悪さを増しております。最後まで気を抜く事無く、攻略して参りましょう」
 警句の後、改めて。今回の攻略フロアの詳細図を表示した。

「今回の攻略ポイントは『光の石棺』と呼ばれる、レーザー発振機が配置されたエリアです。一見、石造りの長く広めなだけの通路なのですが……」
 通路の最奥をノエルが示し、通路のギミックが稼動したイメージを図面で表示する。通路奥の壁面が展開し、通路いっぱいのサイズを持ったレーザー発振レンズが姿を現した。そこから放たれる凝集光が、通路全てをミッチリと満たす。
「ご覧の通り、通路の上下左右どちらを見ても、回避の為の余裕は存在しません。また、通路に踏み入れると同時に発射される為。通路に入ってからの対策も難しいでしょう」
 レーザー光とは大雑把に言うと『波長の揃った光』の事であり、その伝導速度は字義通りの『光速』である。いかな猟兵と言えど、光に『速さ』で対抗するのは不可能だ。仮にユーベルコードで対抗するにも、一工夫が必要となろう。
「更に嫌らしい事に……発振レンズがある事が分かっていても。事前に破壊する事も、発射を妨害する事も不可能です。『どう頑張っても、レーザーを一発食らう事は絶対確実』だという事を、念頭に置いておいて下さい」
 ささやかな救いは、この大出力レーザーは『通路に侵入した直後の一発のみ』だという事だ。逆に言うと、最初の一発を耐え抜けば、再度撃たれる心配は無い。
「但し、レーザーを耐え抜けても。災魔による追撃が待っております。彼等はレーザーが発射された後に出現しますので、無傷です。つまり、皆さんはレーザーで大ダメージを負った状態で、災魔と交戦する必要があります」
 ここで交戦する災魔は『ジェムビースト』だ。サファイアの様な身体を持った狼の姿をした災魔で、その姿の如く、集団で連携して襲ってくる。
 弱り目に祟り目、ここに極まりといった仕掛けだが……幸いこのフロア自体は、猟兵なら簡単に発見・解除できる隠し扉から突破できる。災魔を退けた後ならば、探索する余裕もできるだろう。

 いずれにしろ、ここを抜けなければ最奥まで辿り着けない。猟兵の知恵と機転を、この迷宮の創造者に見せつけてやって欲しい。
「ここまで戦い抜いて来た皆さんなら、この執拗なトラップも突破できる……と、信じております。どうか充分な対策を講じられました上、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
 ノエルは最後に、深々と一礼した後。猟兵達を送り出した。


雅庵幽谷
 この度は当シナリオOPを閲覧頂き、ありがとうございました。
 当シナリオを担当させて頂きます、雅庵幽谷と申します。
 これが初シナリオとなりますが、精一杯携わらせて頂きますので、宜しくお願いします。

 当シナリオは『アルダワ魔王戦争』専用で、1章のみで完結します。
 今回のギミックは『絶対回避不可能な大出力レーザーと、災魔による追撃』で、レーザーで大ダメージを受けた状態で、災魔との集団戦に突入する事になります。

 故に、このシナリオのプレイングボーナスは、以下の通りです。
『プレイングボーナス:大出力レーザーのダメージを軽減する工夫』

 繰り返しますが『レーザーは絶対に回避不可能』です。
 故に、あくまでプレイングボーナスとなるのは『レーザーのダメージを軽減する工夫』のみとなります。えげつないですが『レーザーを回避する工夫』は、何であろうと無条件で失敗すると思って下さい。
 勿論、ダメージを受けた後の災魔との戦闘にも、工夫が必要となるでしょう。

 難度普通の割に、ぶっ殺す感満載のシナリオですが……皆様のプレイング、お待ちしております。
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第1章 集団戦 『ジェムビースト』

POW   :    宝石一閃
【超高速で対象に接近した後、爪】が命中した対象を切断する。
SPD   :    ジェム・オーバーロード
【超高速で対象に接近した後、身体】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    スティレットレーザー改
【超高速で対象に接近した後、敵意を向ける事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【超光速で対象を追尾する誘導レーザーの弾幕】で攻撃する。
👑11
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トリテレイア・ゼロナイン
こうした戦場なら防御を得手とする者の出番
私も騎士として攻略の一助となりましょう

突入前に●防具改造
対レーザー処理のコーティングを施した大盾の四隅にUCの杭状発振器を取り付け防御重視で作動
電磁バリアと大盾での二段構えで攻撃に備えます

私の身体すら覆える大盾での●盾受け
誰かを●かばえる余地があればよいのですが…

防御後は大盾を投棄
機能が生きている頭部、肩部格納銃器での●なぎ払い掃射で牽制し接近を少しでも遅らせ、装甲内部に隠していたUC発振器を通路の壁へ複数●投擲

センサーによる●情報収集で接近のタイミングを●見切り通路内でUCを壁状に作動

壁に激突し動きを止めた敵に●スナイパー射撃や剣の一閃で止めを刺します



「こうした戦場なら、防御を得手とする者の出番。私も騎士として、攻略の一助となりましょう」
 致死性の高い罠の設置された、通路の直前。トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が、前に進み出た。
 トリテレイアは背負った大盾を手に取ると、その場で出来る限りの改造を始める。耐熱素材のパネルを重ね、その上に耐光学兵器用のミラーコーティングを施し。そして【攻勢電磁障壁発振器射出ユニット】の杭状発振器を、盾の四隅に設置。盾その物と、電磁バリアでの二段構えで、大出力レーザーを耐えようとする構えだ。
 可能なら、他の猟兵も纏めて庇えたら一石二鳥であったが……残念ながら今すぐに、彼に同行する準備が整った者は居なかった。この場は、トリテレイア単独で向かうしかない。
 左腕に大盾を装備し、保持具合を確認。自身にも装備にも、不具合が無い事を再確認し……改めて大盾を構えると、トリテレイアは『光の石棺』の待つ通路へと踏み出した。

 当該エリアに一歩踏み込んだ、その刹那。正面の壁が展開し、巨大なレーザー発振レンズが露出。間髪入れず、凄まじい迄のエネルギーの奔流がトリテレイアを襲う。この間、一瞬と表現するも冗長な程のラグしか存在しない。
 トリテレイアが構えた盾に、高い指向性と集光性を持つ高熱エネルギーが襲い掛かる。ミラーコーティングは徐々に溶解し、その下の耐熱パネルにも、あっという間に被害が及ぶ。盾その物の構造体も、あと数瞬保つだろうか……?
 しかし、トリテレイアに焦りは無い。全ては彼の計算の内にある。
 構造体による防御は、ある意味使い捨てだ。ユーベルコードが発動するまでの数瞬だけ、保てば良い――!
 大盾の四隅に設置された発振器は、盾がレーザーを受けた刹那の後に、稼動開始していた。それが帯電し、磁気を帯び。それぞれの磁気が発振器同士で共鳴し合い――大盾を覆い尽くす、電磁気のバリアシールドとなって。改めてトリテレイアの守護を開始した。
 レーザーも光であるから、伝導先の様々な物の影響を受ける。重力然り、大気然り、そして磁気も然りである。基本的に大気中に限定される現象だが、磁場もレーザーを偏向させる事が出来るのだ。
 無論、彼我の出力差が圧倒的である以上、完全に偏向させ、防ぐ事は不可能だ。だが磁場による幾らかの干渉により、盾に加わるエネルギー流の圧力は明らかに減じていた。
 後は盾その物と、トリテレイアの身体が。圧力に耐えきれるか……である。
 盾の構造物自体が、ギシギシと軋む。トリテレイア自身の左腕も、各関節が徐々に異音を発し始め、肘関節からは細い煙が上る。

 無限に思える数秒が経過し――悪魔的な暴虐を振るった凝集光は、発射時と同様、唐突にその姿を散じた。
 後には、黒焦げになった『盾であった構造物』と、左肩と肘から煙を上げるトリテレイアの姿があった。ややぎこちなく、しかし確かに意思力を感じる動作で、白騎士を思わせるウォーマシンが立ち上がる。
 彼は左腕に装備していた盾に、感謝の意を無言で告げると……同じく無言の内に、それを投げ捨てた。全身の損傷確認。握力を含めた、左腕の出力伝達系に不調があるが、それ以外に問題は無い。彼の作戦が、功を奏した証左である。しかし、戦闘出力は未だ落としはしない。
 まだ、戦いは終わっていないのだ。

 通路の壁は、特殊な施工がされているのか……レーザーで熱を帯びる事無く、冷たい佇まいを崩す事は無い。
 悪意あるモノは、何処かから呼び寄せられた様に、宙から滲み出る様に現れた。都合五頭。サファイアの様な質感を持った狼の様な災魔――ジェムビーストだ。
 しかしトリテレイアは、冷戦沈着に迎え撃つ。連携して飛び掛かって来る狼共を、頭部と肩部の内蔵銃器で薙ぎ払い、撃ち払うと。更に連射を加えて牽制。その隙に装甲内に隠していた【攻勢電磁障壁発振器射出ユニット】の杭状発振器を、左右の壁に向けて投擲した。
 斉射が止んで、しばし唸り声をあげるのみだったジェムビースト達は、間合いを計る様に、じりじりと動いている。トリテレイアはその間に、対物センサーを起動。各ジェムビーストの動きを捉え、連中が飛び掛かってくるタイミングを計る。
 幾つかの数瞬の後、左右から一頭ずつ、正面から二頭、更に地を這う様に一頭。全てのビースト共が、半包囲するかの様に一斉に、機械仕掛けの白騎士へ飛び掛かる。
 トリテレイアの、思惑通りの行動であった。
 狼共の跳躍の瞬間、壁面に噛んだ杭状発振器か起動。ビーストとトリテレイアの間に電磁バリアの壁を形成する。飛んで火に入るが如く、真正面からバリアに突っ込んだジェムビーストは、甲高い悲鳴を上げつつ。身体中に走る電磁気に縛られて動きを止めた。
 鋼鉄の白騎士は、その姿に相応しい白銀の騎士剣をスラリと抜くと。正確に五回、軌跡を作る。
 トリテレイアが騎士剣を鞘に収めると。五頭の災魔は骸となって、塵と化して散じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーデ・クインタール
アドリブ歓迎

回避不能のレーザーとは…攻略されたら困るというのは解るのですが…ダンジョンにデストラップを仕掛けないで下さいよ…
まぁ良いのです…対艦光学兵器と比べればそう酷いモノではないでしょう

【温もりを捨てて…】を耐熱・光学拡散装甲を重視して展開
他にも予備の装甲等を展開しておきましょう
レーザーを絶えた後は熱を持ってしまった装甲をパージして飛ばし狼共の接近を妨害しながらディスペアを構えて先ずは一撃(属性攻撃)
その後バレッドスコールを掃射して足止めしながら(制圧射撃)
砕塵をチャージ、チャージが終わったら前に出て消し飛ばします(怪力)



「回避不能のレーザーとは……」
 リーデ・クインタール(鋼鐵の狂機・f14086)が、思わずぼやく。
「攻略されたら困るというのは解るのですが……ダンジョンにデストラップを仕掛けないで下さいよ……」
 彼女のぼやきはまず間違いなく、このエリアに挑む猟兵達の最大公約数的な思いであるに違いない。ダンジョンの創造主には、また別の思いがあるだろうが、それは見解の相違という奴である。
 しかし、如何に共感する者の多い思いであっても、それ自体は現実に対して何の仕事もしない。先に進みたいなら、挑むしか無いのだ。『光の石棺』に。
「まぁ良いのです……対艦光学兵器と比べれば、そう酷いモノではないでしょう」
 予測とも願望とも取れる言葉を口にしつつ、リーデは準備にかかる。
 完全戦闘形態に変形。耐熱・耐光学兵器用拡散装甲と予備の高硬度装甲、耐衝撃装甲の三重積層装甲を更に三重に重ねた、超重層装甲を展開して纏う。光学兵器の収束性を乱し、耐熱性にも優れた耐光学兵器装甲を最上層に配して耐えつつ、高硬度装甲と耐衝撃装甲で高エネルギーの圧力を軽減する作戦だ。
 超重装甲の戦闘マシンと化したリーデは、攻撃用兵装の準備もつつがなく終えると、おもむろに『光の石棺』の待つ通路へ、足を踏み出した。

 圧倒的に重量を増した重々しい足音が、その通路に踏み入った証を響かせたかどうか。本人にすら判別不能な程の刹那の間で、大出力レーザーがリーデを襲った。
 その凄まじいエネルギーの圧力に逆らい、リーデは踏みとどまる為に出力を上げる。その身体の表層は、乱反射するレーザーの飛沫で虹色に彩られ、場違いな美しさを現出させる。実際に彼女がそう思ったかは定かでは無い。だがもし、その数秒の自身の状況を正確に認識していたら、きっとこう思ったろう。
「いける!」と。
 だが次の数秒で、状況は一変する事となる。

 その戦犯の名は『熱』であった。
 確かに耐熱素材の装甲を幾重にも身体に帯び、浴びせかけられる膨大な熱量に備えはした。実際、数秒はそれで耐えられた。
 だが、二つの誤算があったのだ。
 ひとつは、自身が稼動する事で発する内部熱。今ひとつは装甲と自身とが接しているが故の伝導熱が、それだった。
 盾、或いは防壁として、装甲を自身より離して運用していれば。少なくとも防護装甲自体の加熱の影響は些少で済んだのだが、自身で装甲を纏った故に、装甲が溜め込んだ熱までを、自身の加熱として処理せざるを得なくなってしまったのだ。超過熱に至った装甲を廃棄しても、それで押さえられる熱量には限度があるし、機体内部に蓄積した熱を逃がす手段とは成り得ない。
 しかも自身の周囲は、自身よりも高い熱エネルギーで包囲されてしまっている。強制廃熱するにしても、廃熱用のラジエーターが逆に外気で加熱されかねない。廃熱は現状、実質不可能だった。
 勿論、リーデはサイボーグ。しかも脳髄周辺以外を機械に置き換えた、ヘビー級である。耐久性は折り紙付きだ。だが機械であっても、或いは機械であればこそ。異常高熱に晒され続ければ、全体を構成するシステムその物がマルファンクションを起こす。そして、動作不良を起こしたシステムが、自分自身にストレスをかけ。更にダメージを悪化させてしまう。
 ある意味レーザーの直撃よりも、こちらの方が。ダメージとしては深刻かも知れなかった。機体=身体の各部位に設置されたセルフモニタからのコーション・コールが、それら全ての統括機構であるリーデの意識に、生体脳に。途切れる事無く流し込まれ続ける。機械的なプロセッサなら、過負荷によるシャットダウンに陥ってもおかしくない程のストレスであったが、ハードウェア的に『処理限界』が存在しない生体脳が、それらの処理を可能にした。無論、楽な作業では無かったが。

 機体=身体の超過熱が発生して以来。外界に対処するより、自身のセルフコンディションの維持に忙殺され続けたリーデであったが。彼女にそこまでの過負荷を強いた攻撃が、永遠に続く訳も無論無く。彼女がふと我に返った時、唐突に通路全体を満たしていた超高熱の光条が途切れた。通路はある意味不自然な程に静まり返り、赤熱した装甲を纏ってうずくまるリーデが居なければ、殺人的な罠は存在しなかったかと疑える程、それは突然だった。
 立ち上がる労も惜しむ勢いで、リーデは最後の装甲を除装する。最早『装甲らしい装甲』は残っておらず、関節部は剥き出しのフレームを覗かせており、中枢機関を申し訳程度のカバーパッドが覆っているのを視認できるという惨状である。
 だがそれでも、リーデは活動を停止してはいなかった。そして、戦意を喪ってもいなかった。
 まだこのフロアに張り巡らされた罠は、残っているのである。

 或いは、彼女が機能停止しているのか否か、誰か、何かしらが伺っていたのかも知れない。リーデが、ぎこちないながらも立ち上がったのを見届けたかの様な、絶妙のタイミングで。追撃の罠――ジェムビーストが、空間から滲み出る様に現れた。決まりごとの様に、またしても五頭。
 防護装甲は排除し、フレームすら露出した状態のリーデではあるが、背に懸架した武装は、懸架アームに支えられ無事であった。超過熱で弾薬誘爆の末に自爆という、某ボードゲームの人型機動兵器の様な最期を迎えずに済んだのは僥倖であったろう。
 アームを展開して肩に担いだ砲身は、Dモデル超兵装のひとつ、ディストピアの物だ。見た目はシンプルなバズーカ砲。兵装としてはレトロではあるが、オーソドックスな代物である。ただ砲身には短距離ミサイルやロケット弾ではなく、砲弾が装填されているというのは、今時の携行火器としては珍しいかも知れない。移動目標に使用するとなれば尚更だ。
 尤も、彼女も単なるロートル趣味で使用している訳では無い。装弾した砲弾は榴弾。ミサイルやロケット弾に比すれば初速や射程は劣るが、この様な狭隘な戦場では、ミサイル兵器とのアドバンテージはそれ程大きく無い。取り回しも考えれば、榴弾で充分である。欲を言えば、狭隘な空間では散弾銃があれば申し分ないが、無い物をねだっても仕方ない。
 襲い来るジェムビーストの出鼻を挫く様に、榴弾を発射。狙いは精密である必要は無い。爆発熱と破片効果の相乗で、この通路なら三発もぶっ放せば用は足りる。友軍が居ればフレンドリーファイア待ったなしの状況だが、リーデ単独である事が幸いした。火砲をぶっ放すに周囲への遠慮呵責の必要無しという点も、今の彼女にとっては有利な条件だったに違いない。

 爆炎を貫いて、三頭に数を減らした青い獣が、リーデ目掛けて牙を剥く。跳躍した二頭の牙がリーデに届くかと思われたが……彼女も既に、別の兵装を構えていた。
 Dモデル超兵装のひとつ、バレッドスコール。その名の通り、秒間三百発という高速度で発砲可能な重機関銃である。両腕で構えたそれを、飛び掛かってきた狼共に向けて撃ち放った。
 凄まじい迄の集弾性能が、一頭のジェムビーストを粉微塵に撃ち砕く。更にもう一頭が、弾幕に捕らえられて絶命。
 しかし、三頭目は無傷であった。理由は単純――弾切れである。
 連射性能が高いという事は、装弾の消耗速度が速いという事と等号で結ばれている。つまり弾切れを起こすタイミングが早くなるという事で、連射性能と装弾数のバランスは、どの銃器メーカーも頭を痛める難問なのだ。無闇に装弾数を増やしても、今度は銃身が保たない。動作不良で済めば僥倖で、最悪暴発事故が待っているとなれば、メーカーの信用にも関わってくる。
 その点、バレットスコールにはまだ、銃身の性能面では余裕があった。弾倉が早々に空になったのは、携行面の都合である。仮に闇雲に弾倉を大径にしても、そこに一発貰えば待っているのは、バトルメック宜しく間抜けな爆死だ。
 さて。弾切れを起こした銃の前に、襲い来る魔性の獣。普通に考えれば、絶体絶命のシチュエーションである。
 とある工兵は「弾切れの銃など単なる重い杖に過ぎない」と言った。一方で、ある女ガンマンは「銃の台尻は敵の頭をカチ割る部位だ」と豪語した。
 その二人が、リーデが取った行動を見たら、どう評価しただろうか。彼女は機関銃の銃身を掴むと、迫るジェムビーストを横薙ぎにぶん殴ったのである。
 ぶん殴られた魔性の方も、ある意味では仰天しただろう。銃という武器の特性を理解していた筈は無いが、無防備状態に陥ったと思えた直後の一撃である。即死級の一撃で無かったのは幸いだが、このまま襲撃を継続するには不利だと、うっかり思ってしまったのだろう。最後のジェムビーストは、一度下がって距離を取る。
 それが最大の仇となった。
 災魔が下がった分、リーデが前に出る。構えた右手には、何時の間にか装着されていたガントレット。これもDモデル超兵装のひとつ、破城拳・砕塵。護拳の為の装備では無く、ぶん殴り叩き潰す為の武器である。
 某ワイルドに吼えるヒーロー宜しく、展開して大型化する拳を目の前に。宝石の光沢を保つ獣が何を持ったかは誰も知らず。『粉砕』という言葉のイメージそのままに、叩き付けられた轟拳の前に無残に砕け散り果てたのであった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

春乃・結希
レーザーに抗うことなく、withを庇うように抱きしめてしゃがみ込む
…信じてるからねーー春乃結希

UC発動
自身が強く想う『最強の自身』を召喚
無傷で生み出された『私』にwithを託す
…あとはよろしくね。あなたなら、楽勝だよね

…あなたはいつも最強だけど
あなたが純粋な『強さへの想い』で生み出してくれた『私』は、あなたより強い
【怪力】で振るうwithはより強く
wandererの蹴りはより鋭く
痛みなんて感じない【激痛耐性】
固い絆で結ばれたwithと『私』の、勝利への意思は砕けない【勇気】
どんな手段を取っても、withと『私』が勝てればそれでいい
絶対に、潰す

…『私』は、あなたの想いに応えられたかな?



 絶対に回避不可能な大出力レーザー。これに対し、猟兵達は様々な対策を立て、挑んできた。

 それらに比すれば、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は余りにも無策・無防備なまま『光の石棺』の存在する通路へ、足を踏み入れた。胸に一振りの漆黒の大剣『with』を抱きかかえて。
 どの様な装備を纏っていようと、構えていようと。それら全てを焼き尽くさんと、またしても『光の石棺』より大出力の光条が撃ち放たれる。
 それに対し、結希は『何もしなかった』。字義通りの意味で。強いて言えば、更に大剣を強く抱き締め、レーザーに背を向けてしゃがみ込んだ。ただ、それだけである。『勇敢』とか『命知らず』という単語では、とても現状を言い表せない。無茶と無謀が手を取り合って、白刃の上で道化のダンスを踊っている。
 通路奥から伸びる極太の破壊光線は、そんな結希を遠慮呵責も無しに飲み込む。今、通路に踏み入れたモノは何もかも。レーザーによって焼き尽くされたかに思われた。

 ……信じてるからね――春乃結希。
 その思いもまた、光条の中に消えたかと思われた。

 やがて、放たれたレーザーが放出を終え。通路はまた静けさを取り戻す。死の静けさかと思われたそこに……『彼女』が居た。
 白銀の髪、赤い瞳。そして炎を纏ったかの様な一対の翼。それらを除けば、当の彼女に抱きかかえられている、結希自身に良く似ている。酷い火傷を負って昏睡し、生死の境を向こう側に転げ落ちようとしている結希を、気遣わしげに、痛ましげに見やる、その彼女は――ある意味では、結希自身。
 ただし、命を賭しての強烈な自己暗示によって生み出された、もう一人の結希。彼女が想い描いた『最強の自分』であった。
 『……後はよろしくね。あなたなら、楽勝だよね』
 その想いを届けられた『今ここに現出できる最強の結希』が、結希を一度床に寝かせ、その背に庇う。覚醒したwith、託されたwith『Close with Tales』を構え……空間から滲み出る、ジェムビーストに向かい合った。

「……あなたはいつも最強だけど」
 騎士が剣を捧げる様に。白銀の剣を眼前に構える、白い結希。
「あなたが純粋な『強さへの想い』で生み出してくれた『私』は、あなたより強い」
 端から見れば、敵を眼前に隙を晒し放題に見える。だが、五体の青い災魔どもは一頭足りとて、彼女に襲い掛かろうとはしない。獣なりに、オブリビオンなりに。『威』という物を、感じているのかも知れない。
「どんな手段を取ってでも……withと『私』とが勝てれば、それでいい」
 その言葉と共に、白い結希は白銀剣を構え直す。狼共も、それに応じ手構えを取る。
「……絶対に、潰す」
 白い結希の、その言が。開戦の合図となった。

 得物である白い結希を半包囲するが如く、ジェムビーストが唸り声を上げつつ半円状に散開。彼女に飛び掛かる機会を伺う。先手を取られた格好ではあるが、焔の翼を持つ結希は、一顧だにしない。それどころか自ら進み出て、おもむろに災魔の一頭に向かう。滑る様に滑らかで、一片の隙も無い見事な歩法。
 その凄まじさを理解は出来ないが、危険さは理解できたのだろう。狙われた一頭が後に下がり、左右に居た災魔が白髪の結希に飛び掛かった。
 白銀一閃。
 まさしく一太刀で、左右から襲うジェムビーストを、二頭纏めて薙ぎ払う。技倆は勿論、刀身が長く重くあればこそ、そして遣い手が得物の特性を知り尽くしていたからこそ。可能な神技である。斬り飛ばされた二頭は、悲鳴を上げる間もなく絶命。死体は床に転がると、塵となって散じる。
 災魔を薙ぎ払った剣の位置はそのままに、白い結希は更に前に出る。一度下がった最初の一頭を追う様に。逃げ切れぬと悟ったか、狙われたビーストは、反動を付けて大きく跳躍。天井を蹴ると、猛スピードで白い結希に迫った。
 大きく上方からの襲撃。見た目は華麗だったが、しかし効果は殆ど無かった。裂帛の気合いと共に、白銀の大剣は閃光の如く舞う。頭を刈り取られて、慣性のままに地に伏して、その災魔も活動を止め。塵と散じた。
 先の三頭と比べて、残った二頭は幾らか幸運であった。白い結希の左右背後を取った事で、一応の優位な位置を占める事が出来たからだ。だが、すぐに陥る陥穽の深さは、仲間の辿った物と大差は無かった。一頭は振り向きざまの横薙ぎの一閃で胴を割られ、飛び掛かり爪を振るった残りの一頭も、刀身で受け止められた挙げ句に蹴り上げられ、宙を舞いながら薙ぎ払われて。白い結希には傷らしい傷を与える事も叶わぬまま。災魔の群れは全て、塵となって消えたのだった。

 『Close with Tales』を宙に滞空させて、白い結希は『結希』を抱き上げ。未だ昏睡する彼女に、優しく問いかけた。
「……『私』は、あなたの想いに応えられたかな?」
 しかし、その問いに答えられる者は、今はどこにも居ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヒサメ・グラウパール
◎アドリブ連携歓迎
うわぁ、また殺意満々な仕掛けじゃないの……
敵も本気で抵抗してきてるって事なんだろうけど、ちょっと本気すぎない?

■行動
ここは通路に入る前に予め【UC】で巨大な氷の塊を創造
氷のソリも作り、それに乗せた後に押しながら通路に侵入

発射されるレーザー光を氷の塊や溶けた水、発生する水蒸気で
屈折・吸収・分散させる事で、少しでも威力の軽減を狙うわね
更に、氷の魔力で体を冷やし続けて火傷も抑えるようにするとして
後は氷が溶け切る前に止まると良いんだけど……

防いだ後は、敵が来る前に再び【UC】発動
今度は高速接近を警戒して氷のバリケードを設置
防柵の妨害で動きが鈍ったところを氷槍で【串刺し】にしていくわ!



「うわぁ、また殺意満々な仕掛けじゃないの……」
 恐らく、このフロアの仕掛けに挑む猟兵全ての心象を、ヒサメ・グラウパール(氷槍竜・f21294)は誰にとも無しに呟いた。
「敵も本気で抵抗してきてるって事なんだろうけど、ちょっと本気すぎない?」
 ぼやきながらも、思考を続けるヒサメ。このフロアの仕掛け『光の石棺』の特性や発動条件、タイミング。そして自身の得意能力……。
 おもむろに一つ頷くと、ヒサメは実行動に移った。両手を前に突き出し、意識を集中。
「う~ん、この場で最適な形は……と」
 呟いたその言葉は、思索を追う独り言であると同時に、ユーベルコード【氷塊創造】(クリエイト・アイス)の発動ワード。言葉と共に紡がれたイメージが、実体となって現出するのだ。このユーベルコードは、特に氷を生み出す事に特化している。
 今回ヒサメが創り出した物は、まさしく『氷塊』であった。横幅も高さも、通路のサイズにはやや足りないが、それは計算の内である。何せこの様な巨大な氷塊、彼女の膂力で運べる物ではとても無い。
 その氷塊が地に着く前に、ヒサメはもう一度念ずる。氷塊の直下に『氷のソリ』が現れて、氷塊はズシリと、ソリの上に腰を下ろす。一瞬、ギシリと厭な音が響いたが……ソリは無事に氷塊と、その重量を支える事に成功する。
 シンプルだが、それ故に確実な手段。ヒサメはこの氷塊を、レーザー用の楯とするつもりなのだ。
 少々苦労しながらも、ヒサメはソリと氷塊を押し。『光の石棺』の待つ通路へ向かう。

 氷塊が通路の中に侵入しても、通路は静まり返ったままであった。やや訝しげながら、更に氷塊を押し。ヒサメが続いて通路に侵入。
 ……静から動への転換は、メリハリが付きすぎな程に急激だった。
 ヒサメの足が通路の地を打つと、ほぼ同時。或いはその寸前に『光の石棺』が起動。凄まじい迄のエネルギーを、レーザー光に変換して撃ち放ったのだ。通路いっぱいの閃光が、心象的な圧迫を伴って、ヒサメと眼前の氷塊に迫る。
 接触した。
 実際には、氷塊が通路に侵入してから一秒すらも経ってはいない。が、当事者であるヒサメの目には、事態のタイムレンジが大幅に引き延ばされて感じられたのだ。

 せめぎ合う――と言うより、物理的な圧力すら感じる莫大な破壊エネルギーを前にして、氷塊は辛うじて自己を主張している様に思える。だが、ヒサメは僅かであっても、弱気に傾く訳にはいかない。
 ヒサメの創り出した氷塊は、見た目は疑う余地も無く『氷塊』であり、基本的な『物質としての有り様』もまた同様だ。だが実際は『ヒサメの意思力が現出した存在』であり、その強度は『ヒサメの意志の強さ』とイコールである。その意思が揺らげば、氷塊の強度は大幅に落ちる。故に、自分を信じて意思を強く持つ。それがヒサメが『今』を乗り越える唯一であり、絶対の条件だった。
 幸い、ヒサメの得意能力である『氷を生み出す力』は、存外『光の石棺』に対して相性が良かった。透明度の高い氷は光を屈曲させ、その熱エネルギーで蒸発する表面が『気化』という相転移によって、エネルギーを減衰させる。更に発生した水蒸気は、消滅するまでのごく僅かな間、通路に満ちてレーザーのエネルギーを僅かに殺す。少なくとも氷塊は現存している間なら、レーザーの防壁として充分に機能するだろう。
 僅かずつではあるが、確かな手応えを感じ。ヒサメはその意思を強く固めた。

 やがて、無限にも思える十数秒が経過し。暴力的なエネルギーの波濤は、現出した時と同じく、唐突に消失した。蒸発し損なった高温の水蒸気がヒサメと氷塊の周囲を満たし、壁面や床へ付着する水滴と化して姿を減じていく。
 大きな安堵を込めた、ため息をひとつ。精神的重圧から解放されたヒサメは、氷塊その物を消滅させた。だが、完全に気を抜いた訳では無い。
 戦いはまだ、終わってはいない故。

 空中から滲み出る様に、姿を現す五頭のジェムビースト。
 敵意を剥き出しにして襲い来る災魔の狼を前に、ヒサメは意識を集中すると、再度ユーベルコードを起動する。
 程なく現れたのは、氷で形成されたバリケード。唐突に出現したそれに、三頭の災魔が衝突して悲声をあげた。
 やや遅れて駆けていた故に、バリケードを避けられた二頭は、転がる同胞を一顧だにせず、むしろ彼らを踏み台にして跳躍。見ようによっては無情な行動だが、彼等には彼等なりの言い分が存在するのかも知れない。無論、ヒサメには関係の無い話である。
 背から引き抜いた氷槍『トリシアラ』を構え、ヒサメは軽く体を逸らしながら刺突を繰り出す。跳躍の軌道から躱された一頭が着地する一方、その相方はトリシアラで貫かれ。絶鳴も上げずに塵となって散じる。
 唸り声を漏らしながら、ヒサメと相対するジェムビーストだが、得物を前にして忍耐を試す気は無いらしかった。地を這う様に駆け、ヒサメの脚をまず狙う。悪くない選択肢ではあったが、仲間との連携を欠いた現状では、猟兵にとって対処が難しい攻撃では無い。ヒサメは槍の石突きを振るってフェイントをかけ、災魔が咄嗟に脚を緩めた隙を狙う。喉元を貫かれた二頭目のジェムビーストは、仲間を追う様に塵と散じた。
 残りの三頭の運命は、トリシアラの露となった者より呆気なかった。呻きながらも、ようやく立ち上がろうとした所を狙われ。バリケードから伸びた氷の槍に三頭ともに貫かれたのだ。イメージから発した存在が故に、場合によってはそういうアドリブが効くのは、密かな長所であったろう。それが不幸な災魔達の慰めになるかは、極めて疑わしい所ではあったが。

 五頭の災魔を片付けたヒサメは、グリモア猟兵の言葉通りに隠し扉を見つけると、それを抜けて先のフロアへ急ぐのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

不死兵弐壱型・真夜
●目的
『光の石棺』を突破して、ジェムビーストの群れを撃破する。

●心情
「レーザー光は穏やかな空気中で直進して、最大限の効果を発揮すると聞いたような……」
自分に出来ることは何だろう?
……サーマート手榴弾。数千度の高温で大気をかき乱せば、レーザーの焦点をずらせるだろうか?
同行者がいたら下がってもらう。
自身が焼かれるのには慣れているが、「味方」を自殺的行動には巻き込めない。

●行動
サーマート手榴弾を通路に投げ込み、自らをも焼く紅蓮の炎の中に突貫。
UCストーム・ランページで巨大化させた偽神兵器で3回攻撃を、ジェムビーストに【範囲攻撃・焼却】。
全身火だるまになりながら戦う。
「アアアア! ううあ~~ああ!」


ヴィゼア・パズル
通路に出る直前に角で立ち止まり、一本道の壁に触れる
大地の属性…無機物であるなら…或いは
【WIZ】使用
【暗視・スナイパー】技能を応用。視覚に集中し、レーザー発射の前に通路の岩を隆起させ盾に変化。レーザーの威力軽減を狙う
視覚の強化に加えて【カウンター】を応用し直撃を避けよう
……余波だけでもダメージは大きい、か
…動けなかろうが、構わない
「おいで、狩の始まりだ。」
通路の素材へ干渉し
【属性攻撃・全力魔法】にて壁を生成、視界を奪い
【範囲攻撃・二回攻撃】を加え大地の槍で貫く
目の前に近づく迄に
石の壁で閉じ込め内側の槍で【鎧砕き・串刺し】を狙う
……味見できるほどあの身体は…残ってくれるでしょうか。



 幾人もの猟兵が『光の石棺』に挑み、それを突破していく。その傍らで『光の石棺』ではなく、そのレーザーの通り道である石壁に。ヴィゼア・パズル(風詠う猟犬・f00024)は興味を持った。
(『光の石棺』は兎も角、その通路の構成物は石材……大地の属性、無機物であるなら。或いは……)
 黙考するヴィゼアに、不死兵弐壱型・真夜(アンデッダーtypeXX1・f24796)が、声をかける。
「上手く、いきそうでしょうか……? やっぱり、私が……」
 ゴスロリ服の、一見少女に見える女性の手には、筒状の缶の様な物が握られている。それを確かめて、ヴィゼアは苦笑未満の表情で首を振った。
「それは無しだ。目の前で遠回りな自殺をされたら堪らないからな」
 即座に返ってきた返答に、真夜は悲しげに、或いは気落ちした風に俯いた。似た様な問答は、短時間の間に幾度も繰り返されており。その度の真夜のリアクションもまた、同様であった。
「何度も言うけど……そんな手榴弾のいくつかで何とかできる罠じゃないからな。それの燃焼時間は、たかだか数秒。レーザーの照射時間は十数秒。どう考えたって、アテになんてならない」
 真夜が手にした、サーメート手榴弾を横目で見やりながら。ヴィゼアは更に言を継いだ。
 サーメート手榴弾とは、酸化金属とアルミニウム粉末とを燃焼させる、テルミット反応を利用した燃焼兵器である。最大瞬間温度は五千度以上という高温のケミカル・フレアを発し、鉄骨すらも溶解させる。更に燃焼の媒体に酸素を必要としない為、水中ですら『燃える』事ができる代物だ。
 但しその加害範囲は平均二メートル程度と、一般的な手榴弾に比べてかなり狭く、燃焼時間も精々二~三秒と短い為。殺傷兵器ではなく、障害物などを取り除く為の対物兵器として使用するのが一般的だ。
 真夜はその高温のケミカル・フレアに目を付けた。その高熱で大気を乱し、レーザーを屈曲ないし拡散させようとしていたのだ。が、その計画を場の流れで聞いたヴィゼアは、その無謀さに気付き。自分との共同作業によって、この場を切り抜けようと誘った……というのが、事のあらましであった。

「……うん。やってみる価値はありそうだ。まずは私に任せてくれ」
 自信に満ちた、とは言えないが。それでも意思に満ちた言葉に、真夜も自策を取り下げる決心が付いた。折角用意したサーメート手榴弾だが、別に想定通りの使い方しか、してはいけないという訳では無い。要は『使い時』と『使い方』次第という奴だ。
 ヴィゼアと真夜は『光の石棺』が虎視眈々と待ち受ける通路の間際にまで歩を進めると、一端そこで足を止める。そしてヴィゼアは件の通路の縁に手を突いて、精神を集中させた。その間、真夜は念の為に自身の偽神兵器・プラズマ火炎放射器を構えて周囲を見回し、警戒の態勢を取る。
 若干の時間が経過した後、異変は『光の石棺』が待つ通路内で起こった。片側の壁面と床材が隆起を始めたのだ。
 ヴィゼアのユーベルコード【星脈精霊術(ポゼス・アトラス)】の力である。『地の属性』と『地殻変動』という『自然現象』を抽出し、通路の壁面と床の石材を隆起させ。即席の盾……と言うより、即興の掩体壕を創り出す事に成功した。
「何処まで保つか分からないが……無いよりはきっとマシだろう」
 軽く謙遜しておいて、ヴィゼアが真夜を促す。彼女もひとつ頷いて、共に『光の石棺』の待つ通路へ、足を踏み入れた。

 果たして、二人が通路へ一歩を踏み入れたと同時に、凄まじい凝集光が通路を満たし。侵入者を消し去らんと迫る。二人は転がり込む様に即席の掩体壕の懐へ潜り込んだ。掩体壕の影に隠れる様に移動したが、些少の火傷は負う事になった。尤も、大出力のレーザーをマトモに浴びるよりは遙かにマシだろう。
 ひとまずの危機は去ったが、レーザーによる殲滅を逃れたら、次の罠が待っている。ややオドオドとしながらも、真夜はヴィゼアに向き直った。
「次に出てくる、ジェムビーストですが……私が先制攻撃を加えて、数を減らします。その援護……お願いできますか?」
 ヴィゼアは念の為、確認を取る。
「さっきの君の作戦の様な、過剰な無茶をしたりしないか?」
 真夜はその問いに、はっきりと頷く。その瞳に嘘の要素は見当たらず。ヴィゼアは彼女を信じる事に決めた。
「むしろ、仲間が居ると巻き込んでしまう攻撃となります。合図をしますので、それまではここに隠れていて下さい」
 それで、大体の意思疎通は完了した。見た目は二足歩行する猫と、麗しい少女だが……しかし彼らは、猟兵なのだ。

 次の手順を話し合う間に、掩体壕越しに感じていた熱量が減衰し。次の瞬間にはほぼ消失していた。代わりに、空間から滲み出る様に、ジェムビーストが姿を現す。数は、全部で十頭。一人あたり五頭、という事だろうか。尤も、災魔共は二手に分かれて同時に二人の猟兵を襲う……という行動を取るつもりは無さそうだ。掩体壕から出ておらず、彼らの視界の内に無いヴィゼアは対象外と言わんばかりに、全ての獣は真夜を見据え狙っていた。
 だが、十頭もの災魔に狙われても、真夜に恐れる風は微塵もない。むしろ泰然とした態度で、片手にプラズマ火炎放射器を、もう片手にサーメート手榴弾を保持して。無機物製の獣どもの襲来を、迎撃する構えだ。
 ジェムビーストのユーベルコードは総じて、高速で接敵する事が起点となっている。逆に言えば何をするにしても、まずこちらに突っ込んでくる事は確定なのである。その特性と行動原理を、利用しない手は無い。

 果たして、ジェムビーストの内の三頭が、一端ジリジリと下がると。反転、短い助走の後に跳躍。真夜を目指して飛び掛かってきた。
 絶好のカモである。
 真夜は片手に持ったサーメート手榴弾を激発状態にして、眼前に投擲。テルミット反応による、超高温のケミカル・フレアが発生する。そして、今更軌道の変更など叶うべくもない、跳躍した三頭の青い災魔が。真正面からテルミット反応の只中に、自ら飛び込む格好となった。
 最大瞬間温度、五千度を超えるケミカル・フレアの只中である。彼等は絶鳴を上げる猶予もなく、燃え尽きた――と言うより、蒸発した。
 只の一瞬で、仲間を三頭喪ったジェムビースト。戦意は衰える風には見えないが、流石に怯みはしたのだろう。真夜からやや間合いを離すと、彼女の挙動を伺う様に、ジリジリと左右に歩を繰り出す。
 尤も、連中が万全な攻撃態勢を整えるのを待つ義理は、真夜には無い。偽神兵器・プラズマ火炎放射器を構えると、おもむろにユーベルコード【ストーム・ランページ】を解き放った。
 巨大化した砲身に、ヴォルテックエンジンからプラズマ化したエネルギーを供給する、伝導パイプを接続。炎を纏ったかの様に見えるプラズマ噴流を、ほぼ無差別に放出した。それも、連続で三斉射。一発で六千度を超える熱量が、幾度も連続して撒かれたのである。叩き付けられる側は、堪った物では無い。真夜がヴィゼアに『合図するまで隠れていて欲しい』と言った真意は、この融通の利かせ辛いユーベルコードの特性にあった。
 斉射が終わった後、未だしぶとく残っていたジェムビーストは、僅か三頭。狩る側と駆られる側との立場は、完全に逆転していた。

 災魔の意地と言うべきか、或いは逆上混じりの闘争本能であったのか。無機物の光沢を放つ災魔は、この通路に現れた時の三分の一以下までその数を減らしても、侵入者を刈り取る意思を剥き出しに。唸り声を上げつつ、真夜を頂点とした扇形に陣形らしきものを整え、彼女を襲う態勢を整えようとしている。
 その意思と努力めいた物は、買いたい所であったが……残念ながら狼どもは、ある一点を完全に失念しきっていた。
「今です……!」
 不意に真夜が、声を張り上げ。それに応える様に、別の声が短い文言を静かに唱える。
「おいで、狩りの始まりだ」
 その言葉の余韻が消えきらぬ前に、劇的な現象が真夜の眼前に現出した。
 残る災魔どもの、丁度腹の下から。堅く誂えられた筈の石畳から。鋭い穂先が唐突に伸びて……三頭のジェムビーストの腹から背へと真直ぐに貫く。
「……味見できるほど、この身体は……残ってくれるでしょうか?」
 呟いたケットシーの青年の願望は虚しく。災魔の身体は遺骸も痕跡も残す事無く、塵となって散じていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年02月24日


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト