アルダワ魔王戦争4-D〜転校生急募! 教授の護衛と研究
● おじーちゃん教授 迷宮に行く
広大なダンジョンの探索が進み、ついに迷宮大図書館への道が開かれた。
その報告にひときわ大きく喜びの声を上げた老研究者のイスレーは、研究していた魔導書に栞を挟むと勢いよく立ち上がった。
「なんと! 伝説の迷宮大図書館が見つかったとな! これは調査に行かねば。ほれ支度をせんか!」
「ち、ちょっと教授!」
助手達をせかして駆け出したイスレーは、急に動いた反動か激しく咳き込み始めた。心臓を掴んで顔を青くするイスレーに急いで薬を飲ませた助手のブラウは、落ち着いた教授に大きく首を横に振った。
「教授ダメですよ。その体でダンジョンの深層に潜ろうなんて……」
「黙れ! 儂はダンジョン研究に一生を捧げて来たんじゃ! 伝説の迷宮大図書館をどれほど探したことか! この機会に行かなければ、儂は死んでも死にきれんわ!」
「ダメなものはダメです!」
ものすごい剣幕で睨み合う二人に、赤毛の助手のレットが割って入った。
「いいだろブラウ! 教授が行きたいって言ってるんだ、行かせてやろうぜ!」
「ダメなものはダメです!」
一歩も引かない両者に、紫髪の女助手・パープルが割って入った。
「じゃあこうしましょう。転校生に護衛と手伝いを頼むの。そうすれば、無事に帰って来れるでしょう?」
「それがいい! さあ、早く支度するぞ!」
パープルの提案に大きく頷いたイスレーは、背筋をシャキッと伸ばすと足早に研究室を後にした。
● グリモアベースにて
「いやぁ、何かに一生を捧げる人って見ていて気持ちがいいよね!」
楽しそうに頷いたリオン・リエーブルは、集まった猟兵達に一枚のチラシを示した。そこには黒縁取りの黄色い文字で「転校生急募! 教授の護衛と研究助手のお仕事です」と書かれている。
研究に一生を捧げた、100歳を超えそうな名誉教授の護衛と研究の手伝いが主な仕事だ。
迷宮にはただでさえ短時間しかいられないのに、この教授は「一生の夢が叶った!」とばかりに下手をすれば図書館に入り浸ってしまう。
短時間で効率的に調査する必要があるだろう。
「大図書館での調査! イスレー教授の気持ちは分かるなぁ。彼や助手の護衛と手伝い、よろしく頼むよ」
リオンは羨ましそうに微笑むと、グリモアで猟兵達を導いた。
三ノ木咲紀
オープニングを読んでくださいまして、ありがとうございました。
今回はダンジョン研究に一生を捧げた老教授の護衛と調査のお手伝いシナリオです。
迷宮は短時間で効率的に探索する必要があります。
護衛対象は以下のとおりです。
持病持ちの教授 イスレー
教授のイエスマン レット
この探索に大反対 ブラウ
紅一点で野心家 パープル
彼らの背景や人間関係は特に設定していません。
プレイングのとっかかりになりそうならお声掛けください。
今回は以下の行動にプレイングボーナスが付きます。
プレイングボーナス……教師や生徒を気遣かう。
プレイングはオープニング承認後すぐにお受けいたします。
プレイング締切はツイッターとマスターページでお知らせします。
それでは、よろしくお願いします。
第1章 冒険
『迷宮大図書館の大探索』
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POW : 教職員や生徒を護衛したり、重い本を運んだりして手伝う
SPD : 広大な図書館をかけめぐって、必要そうな資料を集めるのを手伝う
WIZ : 専門家では無い視点からの意見を出すなどして、教職員や生徒の調査に協力する
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界立・図書館
「すっごく読みたい!」
「先に閲覧するべき蔵書がありますよ、ヤドリガミ」
図書館のヤドリガミだからこうゆうのは年甲斐なくはしゃいじゃうわね。私は器物から出られないから、自分に姿を似せた式神(司書)にUCでUDCアースから召喚してもらうわ。式神とは認識誤認の術をかけてあるからそっくりとは思われないし間違われる心配もない。
持ち歩いてる無線LANを少し弄りタブレット端末と組み合わせてレーダーとして使って周囲を警戒するわね。
依頼の後で入手した資料を閲覧したりコピーさせてもらえないか交渉もしておきたいわね。
素人ではあるけど、教授の持病についてあらかじめ調べてもおきましょう。
● 図書館は図書館を知るために
通路の両脇に並んだ本棚は、最上段が霞んで見えない。
前に伸びる通路も後ろを走る通路も突き当たりが見えず、薄暗がりに向けて伸びている。
ぽつり、ぽつりと灯された魔法のランプの明かりが頼りな古い図書館に、界立・図書館(読書と映画鑑賞と音楽鑑賞に追われるヤドリガミ・f16005)は目を輝かせた。
右を見ても本。左を見ても本。本が立ち並ぶ光景は、図書館のヤドリガミである図書館には馴染み深くまた珍しく、一冊手に取り読むタイトルに目を輝かせる。
「すっごく読みたい! 見てくださいこの本……」
「先に閲覧するべき蔵書がありますよ、ヤドリガミ」
「はあい」
たしなめるように言ったのは、図書館が自分の姿に似せて作った式神だ。建築物が器物という特性上、本体である図書館はこの場から出られない。そのため、式神である司書にUDCアースから召喚してもらったのだ。
本来ならば式神は図書館本人と瓜二つなのだが、認識誤認の術を掛けてあるためそっくりとは思われないし、間違われる心配もない。
軽く肩を竦めた図書館は、普段から持ち歩いている無線LANを弄るとタブレットと組み合わせた。レーダーとして使い、周囲を警戒する。地図上に示される光は全て猟兵、もしくは学者や生徒を示していて、敵の気配は今のところ無い。
安全圏を確認した図書館は、何やらブツブツ言いながら本を運ぶブラウに声を掛けた。
「ブラウさん。後で資料を閲覧したりコピーさせてもらえないかしら?」
「構いませんよ。ここで入手した資料は共有物ですから」
愛想よく応えるブラウに、図書館は頷いた。
「ありがとう。……ところで、教授の持病ってそんなに悪いの?」
「本当は入院してなきゃおかしいんです。ですが教授は死ぬまで研究するんじゃー! の一点張りです」
ため息をつくブラウに、図書館は一冊のレポート用紙の束を差し出した。
「そう。大変ね。……教授の持病についてだけど、私も素人ながらに調べておいたわ。良かったら役に立てて頂戴」
「ありがとうございます! 異界の知識は役に立つものが多いので助かります!」
心から感謝して資料を受け取るブラウを見送った図書館は、司書と共に周囲の警戒を再開した。
大成功
🔵🔵🔵
リューイン・ランサード
伝説の大図書館、その言葉は(本好きの)僕にとっても魅力的です。
イスレー教授や助手の皆さんのお気持ちも理解できますので、
お手伝いを申し出ます。
予めイスレー教授に、どの分野(歴史や世界知識や魔法学等)の書物を優先して調査したいかヒアリングします。
助手の皆さんにも同様です。
現場に着いたら、UCで式神達を放ち、【世界知識、情報収集】を活かして求められた分野の本を探させます。
式神を通じて得た情報は、教授、助手の皆さん、他の猟兵さんにも連携して、効率的に行動します。
中には封印された書物もあると思うので、式神が封印の魔力を感じた場所は【封印を解く、破魔、鍵開け】で解除します。
見つけた書物は【怪力】で運ぶ。
● 伝説の大図書館に封印されし謎の本
伝説の大図書館。
その響きに堪えがたい魅力やロマンを感じる人は少なからずいるだろう。
「大図書館」という単語にはただでさえ「大」と「図書」と「館(やかた)」といった心躍る単語が並んでいるのだ。それに「伝説の」などとついた日には、持病があろうがなかろうが飛んで行きたくなる気持ちはよく分かる。
同じ本好きとして教授に深く同意したリューイン・ランサード(竜の雛・f13950)は、改めて立つ大図書館の威容にワクワクしながらヒアリングシートに目を落とした。
「ええと、ダンジョン自体の成り立ちや歴史、背景を記した一級資料があれば絶対に手に入れたい。これだけのダンジョンを組み上げる魔法はどうやって組まれたのか、ダンジョン魔法に関する本が二番目、と……」
イスレー教授はどうやら、ダンジョンそのものの成り立ちを研究しているらしい。教授の要望を確認したリューインは、助手のヒアリングシートの内容とも照らし合わせながら書架の中を歩いた。
「この辺ですかね。ーーそれでは調査お願いします」
詠唱と同時に放たれた式神は、鳥の形をしている。空を飛び、上の方の蔵書から目当ての本を探していく。生まれ故郷という世界知識と、危険を察知するために鍛えられた情報収集力を活かして何冊かの本に当たりをつけたリューインは、その情報を他の猟兵たちと共有。効率よく情報を集めていった。
その時、書架の上の方に飛ばした式神の視界に、一冊の本が飛び込んでくるのを感じたリューインは、移動式の梯子を使い上へと登った。
大図書館は広さに比べて明かりが乏しく、式神に持たせた魔法のランプの明かりが頼りだ。そこかしこにできる影と不安定な足場に内心ビクビクしながら梯子を登ったリューインは、そこにあった一冊の魔導書を手に下に降りる。
「なんだろう、これ……」
鎖が掛けられた一抱えくらいの大きな書物を床に置いたリューインは、封印の術式をじっと見つめると紙に魔法陣を描いた。
「これなら、こうしてこうすれば……開いた!」
破魔の力で封印をこじ開けたリューインは、南京錠を鍵開けで開けると鎖を解く。開いたページには「アルダワ地下迷宮封印録」とあり、中はびっしりと文字が書かれている。地図や魔法陣もあり、封印を解いても劣化防止の魔力がうっすらと感じられる。
「これは、重要なんじゃないかな?」
発見したお宝にワクワクしたリューインは、早速教授の許へと駆け出した。
大成功
🔵🔵🔵
雪華・風月
迷宮での護衛ですね
承りました、全身全霊をもって彼らの身を守ってみせましょう
防御、護衛ということで守る用の型で周囲を警戒
場合によってはこの身をも盾にして
紅一点のパープルさんには同じ女性として親近感、気遣いを
イスレー教授の方も持病持ちということで心配を、なんとなく雰囲気が祖父に似てるので…
えぇ、一生をかけた研究、となれば興奮も人一倍かと
お気持ちお察しします
もしよろしければ研究の内容をお聞かせしてもらってよろしいでしょうか!(お話をねだる孫娘的な視線)
● 教授を座らせる、女の子だけの秘密の裏技
迷宮図書館に足を踏み入れた雪華・風月(若輩侍少女・f22820)は、そこに漂う独特の本の雰囲気に目を細めた。
グリモア猟兵は、ここに敵の気配は予知しなかった。だが、グリモアの予知は完璧ではない。護衛も任務の一つ、という依頼ならば、護衛に専念する猟兵がいてもいい。
油断なく周囲に気を配る風月は、ファイルを抱えて不安そうに周囲を見渡すパープルの姿に声を掛けた。
「パープルさん。……怖いですか?」
「こっ……怖くなんか、ない、わよ」
「そうですか。でも、震えていますよ」
紅一点で頑張るパープルは、風に舞うホコリにも過敏に反応してしまっている。慣れない環境に落ち着かない様子のパープルに、風月は安心するように微笑みかけた。
「大丈夫です。私はあなたから迷宮での護衛を承りました。ならば、全身全霊をもってあなたの身を守ってみせましょう」
「風月……さん」
力強くも優しく微笑む風月に、パープルはようやく大きく息を吐く。ベースに用意した椅子に座り込んだパープルの隣で立つ風月は、落ち着かない様子で周囲に檄を飛ばすイスレー教授に視線を送った。居ても立っても居られないのか、さっきから少しも座る様子がない。
「イスレー教授は大丈夫でしょうか。持病持ちと伺っていますが……」
「あんまり大丈夫じゃないと思う。イスレー教授は若い頃からダンジョンに潜っては、その成り立ちを研究してたの。その無理が祟って、身体を壊してしまって……」
「そうですか。それは心配ですね。でもならばなおさら、一生をかけた研究、となれば興奮も人一倍かと。お気持ちお察しします。私に何かできることがあったら、教えて下さい」
「何とか教授を座らせることができたらいいのだけれど……。ありがとう。優しいのね」
微笑みながら見上げるパープルの視線に、風月は不意打ちされたように目を見開く。少しだけ照れたように頬を掻いた風月は、頑張るイスレー教授の姿に祖父の姿を重ねた。
「なんとなく雰囲気が祖父に似てるので……」
「そう」
頷いたパープルは、コーヒーを淹れると風月にも勧めた。任務中だからと断る風月に、パープルはイスレー教授の背中に視線を投げ、何事か耳打ちする。
「パープル、何をしとるんじゃ! こっちを手伝わんか!」
ぷりぷりしながら怒鳴るイスレー教授に、パープルは風月に目配せする。一瞬たじろぐが何とか頷いた風月は、お話をねだる孫娘的な目でイスレー教授を見つめると甘い声を出した。
「イスレー教授! もしよろしければ、研究の内容をお聞かせしてもらってよろしいでしょうか!」
「お、おう、なら話してやらんこともないぞ」
慌てて頷くイスレー教授に、風月はパープルを振り返る。イスレー教授は孫娘に弱い。その情報通り、風月はイスレー教授をその場に座らせることに成功したのだった。
大成功
🔵🔵🔵
月宮・ユイ
なるほど
この手の方の情熱は素晴らしいと思いますが…
…止め様がありませんからね
むしろ始めからお手伝い出来る今の状態
最善かもしれません
教授のお歳の事もあります、歩き回るのは危ないでしょう。
手伝いを申し出つつ《人形劇団》起動
本を扱う事もあり[アバター]基に人そのものの姿で人形召喚
人形達に探索任せ<早業・情報収集>
各人形の視界や得た情報を<光属性>電脳魔術で空中投影
<知識:罠使い、念動力、怪力、破魔>
人型故に本の運搬から戦闘・罠への対処も可能
指示に従い動かし効率的な探索と安全確保を両立させる。
後は秘かに<呪式医術:生命属性>で皆の体力補っておきます
アドリブ絡み◎
呪<呪詛>操る誘惑呪詛器に宿すヤドリガミ
● 人形遣いの冴えたやり方
広域の調査へ向かった猟兵を見送った月宮・ユイ(月城紫音・f02933)は、助手達に指示を出しながら猛然と調査するイスレー教授の姿にこっそりため息をついた。
御年100歳を超えそうなイスレー教授には持病もある。ただでさえ長時間いられない大図書館だからか、まるで子供のように目を輝かせながら指示を出すイスレー教授は見ていて気持ちが良い。だが。
「あっちじゃ! この本の並びじゃと、あっちの方にダンジョンの成り立ちを示す本があるぞ! ほれ行くぞ!」
「待ってください、イスレー教授走らないで!」
慌てて追いかけるブラウが教授をたしなめるが、聞く耳を持っている様子はない。
(「なるほど。この手の方の情熱は素晴らしいと思いますが……止め様がありませんからね」)
「むしろ始めからお手伝い出来る今の状態、最善かもしれません。……教授。教授は本を取りに行かずにここで待機してください。教授のお歳の事もあります、歩き回るのは危ないでしょう」
「なんじゃと! 儂はまだ若いわ!」
興奮するイスレー教授に、ユイは【共鳴体生成術『人形劇団』(パペット・フォース)】の詠唱を開始した。
「(共鳴・保管庫接続正常、能力強化。無限連環生成術式起動……人形生成、共有同調)いざ、開演……」
人そのものの姿で召喚された68体の人形達は、詠唱を終えたユイにうやうやしくかしずく。
「ご指示を」
「この周囲の探索を。まずは……」
イスレー教授を振り返るユイの視線に、教授は図書館の一角を示す。頷いたユイは人形たちを書架に向かわせると、残った人形たちに周囲の罠の有無を確認させる。
指示された本は速やかに集められ、教授の許へと届けられる。目を丸くするする教授に、ユイは空中投影された各人形達の視界を示した。
「力仕事や探索は、あの子達が。教授は集めた資料の精査をお願いします」
「あ、あぁそうじゃな」
頼もしそうに頷いた教授は、レットを助手に集まった本の精査を始める。その様子を見守ったユイは、教授たちの様子を注意深く観察した。
老体の教授は、今は興奮状態で顔色もいいが長くは続かないだろう。若い助手達も、こんな深層の空気は初めてなはずだ。疲労が蓄積する前に、打てる手は少しでも打つべきだ。
作業を見守る風で近づいたユイは、こっそり<呪式医術:生命属性>を掛ける。これで少しでも、体力が保つはずだ。
集められるデータを扱いやすいように処理をしたユイは、油断なく見渡すと任務を終えた人形に新しい指示を与えた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクトリカ・ライブラリア
こういう上官、居たわね……元気にしてるのかしら。
さて、無理を押し通す上級司書のお世話係も二等司書のお仕事だったわ。
現役時代を思い出すつもりで、イスレー教授のサポートと行きましょう。
一生を捧げるテーマに近づく機会、無理に止めればこういう人は抜け殻みたいになっちゃうからね。長生きのためには無理も必要よ。
とはいえイスレー教授が無理しそうになったらブラウさんに対応を聞きながら治療優先ね。
教授に「必要だけど重要度が低い」本を指定してもらって、それを写本するわ。重要なのは自分で調べたいでしょ。
書き写した写本は持って帰ってもらう。資料さえ手に入ればあとは研究室で、ね。
……わたしの図書館にもこの本欲しいなあ。
鏡島・嵐
年寄りの冷や水……一言で言えばそういうやつなんだろうけど、なんつーかこういう爺ちゃん婆ちゃんは憎めねぇなあ、おれ。むしろ応援してえ。
とは言え、あんまり無茶はさせられねぇのも確かだ。難しいとこだな。
教授の爺ちゃん本人や、助手の人たちから「ここ数年特に追いかけてるテーマ」を聞き出し、どんな種類の書物がどう所蔵されてるんか〈情報収集〉してパターンを読み取って、最短で館内を巡れるルートを導き出す。
爺ちゃんが持病で辛そうならユーベルコードを使う。根治は出来ねえかもだけど、症状を抑えるくらいは出来るはずだ。
爺ちゃん的に、興味ある蔵書は持って帰りてえかな? それとも写すかな?
どっちでもちゃんと手伝うぞ。
● 図書館司書はかく語りき
迷宮図書館に来てからというもの、少しも休もうとせず歩き回ってはたしなめられるイスレー教授の姿に、ヴィクトリカ・ライブラリア(二等司書・f24575)は目を細めた。
(「こういう上官、居たわね……元気にしてるのかしら」)
かつて所属していた軍事組織Bunker of Knowledges、通称「BoK」の上官は、丁度こんな感じだった。「BoK」はアポカリプスヘルにある、過去の記録、知識の保全を掲げた軍事組織だ。自然とこういう熱狂的な人間が集まっていたのだなと、組織を離れた今だからこそ実感として思う。
「さて、無理を押し通す上級司書のお世話係も、二等司書のお仕事だったわ」
立ち上がったヴィクトリカは、歩きまわりながらああだこうだと口を出すイスレー教授の背中に声を掛けた。
「イスレー教授……」
「なんじゃ! お前も儂に年寄りは座ってろとか……」
「言いません」
きっぱり言い切るヴィクトリカに、イスレー教授は豆鉄砲を食らったように目を見開く。叫ぶのをやめたイスレー教授に、ヴィクトリカは続けた。
「一生を捧げるテーマに近づく機会、無理に止めれば、あなたのような人は抜け殻みたいになっちゃうからね。長生きのためには無理も必要よ」
「そ、そうじゃ! それなのにこのブラウときたら……」
「私が止めなければ、誰が止めるんですか!」
「ブラウさんも落ち着いて」
二人の間に割って入ったヴィクトリカは、猟兵達の尽力のお陰で集まってきた未分類の本の山を指差した。
「教授。この本の山を分類して、「必要だけど重要度が低い」本を指定してください。私が写本するわ。重要なのは自分で調べたいでしょ?」
「……そうじゃな」
「ブラウさんは、イスレー教授が無理しそうになったら治療優先で。私もサポートするから」
「わかりました」
頷く二人に、ヴィクトリカは紙とペンを手に取った。写本をするのも久しぶりだ。まさかかつての経験がこんなところで活きるだなんて、思ってもいなかった。人生何が幸いするのか分からないものだ。
「書き写した写本は持って帰ってもらうわね。資料さえ手に入ればあとは研究室で、ね。無理して身体を壊したら、せっかくのデータを研究できなくなるわ。それでもいいの?」
「そうじゃなぁ……」
頷くイスレー教授が分類を始めるのを見守ったヴィクトリカは、手にした本の内容を写し始める。偶然手に取った本だったが、その内容はなかなかに面白く興味深い。ここが正規の図書館なら真っ先に借りるし、何なら版元に連絡して手に入れてもいい。
「……わたしの図書館にもこの本欲しいなあ」
後で写本を貰えないか交渉しよう。そう決めたヴィクトリカは、写本作業に没頭した。
● 頑張るじーちゃん応援し隊
図書館探索も佳境に入り、残り時間もだんだんと削られていく。どんどん減っていく砂時計に焦りの色を浮かべたイスレー教授は、本の分類を終えるとまた立ち上がった。
「ほれ、急ぐんじゃ! あのエリアにはまだ行ってないじゃろう!」
「今から探索を広げるなんて無茶です!」
額に青筋を立てるブラウが、教授を半ばヤケのように押し止める。今までにも何回か繰り返される光景に、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)はため息をついた。
「年寄りの冷や水……一言で言えばそういうやつなんだろうけど、なんつーかこういう爺ちゃん婆ちゃんは憎めねぇなあ、おれ。むしろ応援してえ」
持病持ちの老人とは思えないバイタリティを発揮して若い者達を指揮するイスレー教授の後ろ姿は、元気なじーちゃんそのものだ。
「とは言え、あんまり無茶はさせられねぇのも確かだ。難しいとこだな。……イスレー教授! あっちのエリアには俺が行きますよ」
「本当かね!」
「もちろん! 爺ちゃん的に、興味ある蔵書は持って帰りてえかな? それとも写すかな?
どっちでもちゃんと手伝うぞ」
「もちろん、持ち帰りじゃ! ……と言いたいが、まずは写しじゃな。お主らがここを安全にしてくれたら、ちゃんとしたベースを構えてゆっくり調査するわい」
「そっか。了解!」
目を輝かせるイスレー教授から、改めて「ここ数年特に追いかけてるテーマ」を聞き出した嵐は、まだ誰も行っていないエリアへと駆け出した。
猟兵達の活躍で、探索したエリアの情報はかなり集まっている。隣の書架で分類の仕方がまるで違う、というのは考えにくいだろう。
今まで集めた情報を精査した嵐は、隣の書架ではどんな種類の書物がどう所蔵されてるのか〈情報収集〉してパターンを読み取る。最短で館内を巡れるルートを導き出した嵐は、重要そうな本に目星をつけると抜き出してベースに戻った。
隣の書架から戻った時、ベースは騒然としていた。
「イスレー教授!」
「薬です! 飲んでください!」
怒号と騒然とした雰囲気に、嵐は本を床に置くと猛然と駆け出した。
● 急変、そして司書と術士の癒やしの向こうで
人の波をかき分けたどり着いた時、イスレー教授を抱きかかえたヴィクトリカが苦言を呈していた。
「イスレー教授! 生きて戻って研究室で研究しないと意味がないって、あれほど言ったでしょう!」
「……悪いのぉ。ハッスルしすぎたわい……」
心臓を抑えながら荒い息を繰り返すイスレー教授は、ヴィクトリカの苦言に共感する。その共感を持ってイスレー教授を治療するヴィクトリカの【多少痛い応急処置(オシオキ・ファーストエイド)】により一命をとりとめ、呼吸が正常になっていく。ようやく落ち着いたがまだ起き上がることができないイスレー教授に、嵐は針を構えた。
イスレー教授の側に座った嵐は、長年使い込まれ持ち主が思いを籠めた針を振り上げる。慌てるブラウには構わず、嵐は詠唱を開始した。
「麦藁の鞘、古き縫い針、其は魔を退ける霊刀の如し、ってな!」
イスレー教授の心臓に深々と突き刺さった針に、周囲が一瞬息を呑む。顔色を良くしたイスレー教授が起き上がる姿に、全員が安堵の息を吐いた。
「これでよし。根治は出来ねえかもだけど、症状を抑えるくらいは出来るはずだ」
「あぁ、済まんな」
「済まんな、じゃありません!」
起き上がったイスレー教授に、ブラウの怒号が響いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月凪・ハルマ
コレまた随分と賑やかな。悪い意味で
……まぁ、ともかくお手伝いしにいきますか
◆SPD
さて、それじゃ早速図書館内の探索――の前に、
ちょっとブラウさんと話をしておくか
しかし……この探索を反対してたって話は聞いてますが、
また随分と不機嫌ですねぇ
教授が心配なのは分かりますけど、それなら尚更
この探索に集中するべきでは?
時間を掛ければ、それだけ教授の負担も増えます
けど既に此処(大迷宮図書館)に来てしまって、しかも
当の本人は目的を果たすまで帰る気が無い
なら教授を無事に帰す為には、彼の目的を達成するのが
手っ取り早いでしょ。口で言っても聞きそうにないし
俺も全力(【瞬身】)で手伝いますから、サクッと終わらせましょ
● ブラウの事情
真剣な目でイスレー教授の胸ぐらを掴まん勢いで迫るブラウが、真剣な目で一歩前に出た。
「イスレー教授! あなたはご自分の体のことをなんだと思ってるんですか!」
雷鳴のような剣幕に一瞬押されたが、負けじと胸を張ったイスレー教授は口角に泡を飛ばしながら反論した。
「なにを! 更に反対側まで探索を広げるのがそんなにいかんのか!」
「あなたが健康ならば、何も言いません! ですがあなたは持病があって、現に今倒れたじゃないですか!」
「まだ生きとるわい! 時間がもったいない、再開するぞレット!」
「はい教授!」
「教授!」
立ち上がり本の精査を再開しようとする教授に、ブラウは納得いかないように手を伸ばす。その手を掴んだ月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)は、呆れたようにブラウを引き離した。
「コレまた随分と賑やかな。悪い意味で。……ブラウさん」
他の猟兵と話をするイスレー教授と引き離したハルマは、興奮が収まらない様子のブラウに語りかけた。
「しかし……この探索を反対してたって話は聞いてますが、また随分と不機嫌ですねぇ」
「当たり前です! ただでさえ身体が悪いのに、現に今倒れたんですよ! すぐにでも中断して地上に戻るべきです!」
「教授が心配なのは分かりますけど、それなら尚更この探索に集中するべきでは?」
「あなたまで何を!」
頭に血が登ったブラウに、ハルマは教授の姿を指差した。落ち着きを取り戻した教授は、猟兵たちと何やら話をしている。落ち着き、顔色も良くなったようだが、倒れる前と比べると精彩を欠いているのは否めなかった。
「時間を掛ければ、それだけ教授の負担も増えます。けど既に此処(大迷宮図書館)に来てしまって、しかも当の本人は目的を果たすまで帰る気が無い」
「……」
「なら教授を無事に帰す為には、彼の目的を達成するのが手っ取り早いでしょ。口で言っても聞きそうにないし」
「……分かっています。ですが、俺は教授に生きていて欲しいんです! 教授は俺の、唯一の肉親で、父親で、曽祖父で、恩師なんです」
硬く握ったブラウの拳に、涙が落ちる。嗚咽を堪えるブラウの背中を軽く叩いたハルマは、肉親を想って涙するブラウの姿に目を細めた。
ある日ふらりと現れたハルマは、名前以外の過去の記憶がほとんどない。普段は気にもとめずに気ままな猟兵生活を送っているが、こういう時には胸に来るものがある。
自分にも、こんな風に気遣う肉親がいるのだろうか。気遣ってくれる肉親がいたのだろうか。記憶を探るが、一番古い記憶はふらりと現れたあの日で、それ以前の記憶は変わらず闇の中だ。
頭を一つ振って感傷を追い払ったハルマは、【瞬身(シュンシン)】を発動させるとブラウに笑いかけた。
「俺も全力(【瞬身】)で手伝いますから、サクッと終わらせましょ」
「……そうだな。早く終わらせて、病院に連れて行かないと」
涙を拭いて顔を上げるブラウを頼もしそうに頷いたハルマは、迷宮図書館に向けて駆け出した。
大成功
🔵🔵🔵
リティ・オールドヴァルト
でんせつなのですー
わくわくなのですー
イスレーじいさまのお気もちわかるのですー
道中はお話聞きつつ
どういうご本をおさがしなのです?
ぼくにもよめるご本あるのでしょうか?
よくお話を聞いてご希望の本を持ってくるのです
手分けしたら早く見つかるのです
リリィも手伝ってくださいねっ!
イスレーじいさまお気もちは分かるのですけども
むりはきんもつなのですよっ
探索にはお付き合いしつつ無理はさせない
第六感や聞き耳を使い危険な物には近づかないように
速やかに排除
適宜休憩をとる
疲れてませんか?助手さん達もどうぞ
甘い物配り
ぼくたちみんなで大魔王を倒して安全に探索できるようにします
今回は本当に大事なご本をげんせんしてほしいのですー
● 柔よく剛を制して癒やしをもたらす
ぶすっとした表情で調査を再開しようとするイスレー教授のお膝に、リティ・オールドヴァルト(天上の蒼・f11245)はちょこんと座った。
倒れて死にかけたというのに、休むことなく調査を続けようとするイスレー教授は、膝の上のケットシーを邪険にどかすこともできずに再び座り込んだ。
身長30センチのリティは本物の猫のようなもふもふなめらかな毛並みで、イスレー教授の顎の下から見上げる目は無邪気にキラキラ輝いている。
「でんせつなのですー! わくわくなのですー! イスレーじいさまのお気もちわかるのですー」
「お嬢ちゃん……。済まないが、どいてくれないかね……」
「イスレーじいさまは、どういうご本をおさがしなのです? ぼくにもよめるご本あるのでしょうか? よくお話を聞いて、ぼくがご希望の本を持ってくるのです」
真っ直ぐなリティの声に、イスレーは頬を緩めると語り始めた。
「そうじゃなぁ。お嬢ちゃんには少しむずかしいかも知れんな。……儂はな、嬢ちゃん。このダンジョンを無くしたいんじゃよ」
ぽつりと語り出すイスレー教授の言葉を、リティは興味津々に耳を傾ける。その様子に感動したイスレー教授は、遠い目をすると迷宮図書館を見渡した。
「儂の子供も、孫も、災魔に殺されてなぁ。ブラウが唯一残った肉親なんじゃよ。儂はあの子まで、この迷宮に殺されたくないんじゃ。この迷宮の成り立ちが知れれば、無くしてしまうこともできるじゃろうからなぁ」
「そうなんですね」
頷いたリティは、ぴょこんとイスレー教授の膝から飛び降りる。もう立ち上がることはできるはずだったが、過去の感傷に浸るイスレー教授は黙って遠くを見守るばかりだった。
やがて戻ってきたリティは、甘い飲み物をイスレー教授に手渡した。
「疲れてませんか? あまいあまいココアです。助手さん達もどうぞ」
持ち込んだココアを配って回ったリティは、再びイスレー教授の膝の上に座るとドラゴンランスのリリィをぎゅっと抱きしめた。
幼いリティには、イスレー教授が失ったものの大きさや重さを完全に理解することは難しい。だが、大事な人がいなくなった悲しみならリティにも分かる。
リティの大好きな兄は、主を得て村を出ていってしまった。毎日一緒に過ごしていたはずの兄がいなくなった時の寂しさや悲しさは、リティの胸に今も刻まれている。
「イスレーじいさまお気もちは分かるのですけども、むりはきんもつなのですよっ。イスレーじいさまがむりをすると、ブラウにいさんもむりしちゃうのです」
「ブラウが……」
ハッと気づいたように顔を上げる。視線の向こうでは、ブラウが嗚咽を堪えている。その姿に目を見開いたイスレー教授は、あったかいココアを一口飲むとリティを下ろして立ち上がった。
「そうじゃな。儂が無理をしてはいかんな」
「そうです。それに、ぼくたちみんなで大魔王を倒して、安全に探索できるようにします。今回は本当に大事なご本をげんせんしてほしいのですー」
「分かったよリティ」
落ち着いた光を宿したイスレー教授は、ココアを飲み干すと黙って書籍の精査に専念する。
落ち着きを取り戻したイスレー教授の指揮のもと、無理だと思われていた反対側の通路の探索も終えた猟兵達は、予想以上の成果を上げて地上へと戻っていった。
大成功
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