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Good-bye, Mother Goose

#UDCアース #感染型UDC


 ――白い病棟を染め上げていくのは、ぎらぎらと眩しい真っ赤な夕陽で。その酷く色鮮やかな光景に、目の奥がじくじくと痛み出すなかで、何処からか奇妙な歌が聴こえてくるのが分かった。
(「……リジー・ボーデン、斧を手にして」)
 鳥の囀りに紛れて、歌っているのは幼い子どもなのだろうか。無邪気なようでいて――そのこえは儚く、今にも黄昏に溶けていきそうだったけれど。
(「×××を、四十回めった打ち――……」)
 ――続けて聞こえて来た音は、余りにも生々しくて凄惨なものだった。ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ。水の詰まった袋を叩き潰すような、耳を覆いたくなるような音と共に、白い壁に真っ赤な絵の具が飛び散っていく。
(「……我に返って、こんどは×××」)
 夕陽と混ざり合う赤いいろが、目に焼きついて消えてくれない。歌が止まない。病棟の窓の外からは、瑠璃色の鳥がこっちをじぃっと見つめていた。
「……めて、や、めて……!」
 ――ころさないで、と。喉までせり上がってきた懇願を、聞き届けてくれたのだろうか。黄昏の逆光のなかに立ち尽くす『それ』は、血に塗れた斧をゆっくりと降ろすと、踵を返して病棟の奥へと戻っていく。
「たす、かった……?」
 震える足をどうにか動かして、建物の外へと逃げ出す少女はしかし、目に焼きついた赤を拭い去ることが出来なかった。
「黄昏、の……リジー・ボーデン」
 ――まるで、消えないしるしを刻まれたように。もう『それ』の記憶は、少女のこころに深く根を下ろしていたのだ。

 感染型UDC――と呼ばれる存在がある。人間の『噂』で増殖していくと言う新種のUDCは、古くから語られる伝承や都市伝説そのもののようだ、とアストリット・クロイゼルング(幻想ローレライ・f11071)は言った。
「恐ろしいことに、本当にそれは『噂』を介して広まってしまうのです。それを見た人間、その情報を広めた人間、それを知った人間……全ての精神エネルギーを餌として、感染型UDCは配下を生み出していくのです」
 意伝子や、ミームと呼ばれるもの。それは、文化的な情報を流布させていくことが出来る人間だからこそ、起こりうる怪異なのかも知れない――とアストリットは続けつつ、そっと目を伏せた。
「敵は、第一発見者をわざと生かして噂を広めさせることで、配下を生み出そうとしています。……だから、まずは此方の対処をお願いしたいのです」
 ぞの第一発見者の少女――女子高校生らしい――は、下校途中にふらりと、廃病院に迷い込んだらしい。奇妙な歌が聴こえるなかで、斧を手にした殺人鬼が現れた、その噂は既に『黄昏のリジー・ボーデン』という都市伝説となって広まりつつあるようだ。
「放課後の校庭……其処に、配下のUDCが大量に出現します。ルリハと言うその青い鳥は、病を運ぶ鳥とされていますが……今回は正しく怪異、呪詛で汚染を引き起こそうとしています」
 ――リジー・ボーデン。それもまた伝承歌、童謡として広く伝わるものだ。マザー・グースの歌と言えば聞いたことのあるものも居るだろう。
「何気なくうたわれているものが、何かの切っ掛けで怪異と化す……それは、とても恐ろしいことですが」
 怪異を広めるのもひとならば、それを鎮めることが出来るのもまた、ひとなのだと――猟兵の皆ならばそれが可能であると頷いたアストリットは、やがて黄昏の校舎へと繋がる門を開いてから、ふわりと微笑んだ。
「どうか、お願いします。……マザー・グースの悲劇を、ここで終わらせてください」


柚烏
 柚烏と申します。ちょっと怖い感じのわらべ歌なんかが大好きです。そんな感じで、今回はUDCアースにてちょっぴりホラーちっくな依頼となります。

●シナリオの流れ
 ひとびとの『噂』を介して広がっていく、感染型UDCに対処していきます。第1章は集団戦で配下を倒し、第2章で感染型UDCの目撃場所へと向かい、そして第3章にてボスとの対決となります。

●第1章について
 第一発見者の周辺に、感染型UDCの配下が大量発生してしまいましたので、先ずはそれを倒してください。時刻は放課後、舞台は戦いやすい校庭となります。生徒や発見者の少女は、UDC組織が上手く対処してくれていますので、特に気にしなくても大丈夫です(プレイングで触れる分には全く問題ありません)

●プレイング受付につきまして
 お手数かけますが、マスターページやツイッターで告知を行いますので、そちらを一度ご確認の上、送って頂けますと助かります。此方のスケジュールの都合などで、新しい章に進んだ場合でも、プレイング受付までにお時間を頂く場合があります。

 静かでいつつ猟奇的な雰囲気が出せればいいな、と思っております。理不尽な恐怖に晒されるような、じっとりした感じで進行していく予定ですので、そういうノリが大丈夫でしたら、ぜひぜひよろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『ルリハ』

POW   :    セカンダリー・インフェクション
自身に【病源体】をまとい、高速移動と【病源体】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    アウトブレイク
【伝染力の高い病源体】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    スーパー・スプレッダー
【病源体】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【にばら撒くことで】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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朱酉・逢真
噂で広まり現実に変わる、ねぇ……リジー・ボーデン裁判の後に起きたのとおんなじ事が起きてるわけだ。歴史は繰り返すねぇ。
『利己的な遺伝子』は読んでねぇが、要は『ペンは剣よりも強し』ってこった。

しっかし、かわいい鳥だなぁ、ええ? 病気を媒介するってんなら、俺の眷属と同業だ。きっといい友達になれらぁ。
説得できねぇか? 俺らと一緒に来ねえかってよ。なぁに、十羽二十羽増えたところで生きものでもねえんだ、関係ねえさ。
だめだってンなら仕方ねぇ。ルリハが撒き散らした病原体を取り込んで神威を高め、傘を開いて一帯に毒の雨を降らせんぜ。
毒鳥ちゃんがくたばるような毒雨をなぁ。小鳥に雨は大敵だろぃ?


リンタロウ・ホネハミ
傷だらけ泥だらけの敵をわざと帰らせて病で敵軍を潰すっつー手はあるっすよねぇ、オレっちも憶えがあるっす
ただ、やっても気分よくねぇっすし、それを敵にやられるとなるとなおさらなんすよね
だからちょいと、気合入れて戦うっすよ

コブラの骨を食って【二〇六番之暗殺者】を発動!
それで生み出した神経毒を矢に塗って弓で射まくってやるっす!
病毒を撒き散らすっつーならその範囲外から仕留めりゃ良いっつー話っすよ
戦場と食い詰めたときの狩りとで鍛えた弓の腕をナメるんじゃねぇっすよ!
(毒使い・スナイパー)


フラム・フロラシオン
POW/アドリブ合流◎

マザーグースは好きだよ
子供の頃お母様が教えてくれたっけ
ヒメには怖い歌って言われちゃったけど
それでも、あの不条理さと残酷さは好きだな

さて、あなたは…幸せの青い鳥…って訳じゃなさそうだね
あなたもわたしと同じ、血の匂いに誘われて来たのかな?
なら、遊び相手に丁度いいよね!

UC【トリニティ・エンハンス】で剣に炎を纏わせて
攻撃力重視の【属性攻撃】を叩きこむね
どんなに速く飛んだって、火に巻き込んで逃がさないよ
お誂え向きに広い場所、火事の心配もないもの

ハンプティ・ダンプティみたいに叩き割って
パイに閉じ込めるみたいに焼いてあげる!
あなたはクロツグミじゃないけど、綺麗な声で歌ってみせてね!


加々見・久慈彦
マザー・グースか。懐かしいですなぁ。幼少の頃、ばあやが枕元でよく聴かせてくれました。(百パー作り話)

誰が荼毘に付すのだろう?
それは私とツグミ(Thrush)が言った
骨と灰(ash)に変わるまで
私が焼いてあげましょう

……ん? ツグミは火葬じゃなくて賛美歌の係でしたっけ?
では、代わりに私が焼きましょう。コマドリならぬオブリビオンを。
(包帯を外してUC発動)
炎になれば、病原体など恐るるに足らず。触れた先から火炎消毒。高スピードで広範囲を移動して病原体を焼き、他の方々へのダメージを防ぎます。
ついでに鳥たちに蹴りや手刀を浴びせて焼きましょう。
骨も灰も残しませんよ。


※煮るな焼くなとご自由に扱ってください。



 ――からり、からり。乾いたされこうべを供にして、瑠璃色の鳥が黄昏に舞う。ああ、その愛らしい眼や、透き通るような囀りの裡に、恐ろしい病を抱えているのだと誰が思うだろうか。
「しっかし、かわいい鳥だなぁ、ええ?」
 それでも――その事実を知ってなお、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の相貌には、慈愛を湛えた笑みが浮かんでいて。漆黒の三つ編みを揺らす異界の神は、尚も膨れ上がっていく鳥たちに向けて、そっと手招きをしながらこう囁く。
「病気を媒介するってんなら、俺の眷属と同業だ。……きっといい友達になれらぁ」
 ――病毒に遊ぶ神。虫や鳥獣を使い魔とする彼の神は、忌むべきものとされながらも、生命を巡らせる為には無くてはならない存在なのだから。
「なぁ、俺らと一緒に来ねえか」
 十羽二十羽増えたところで、生きものでもなし――けれど、そんな逢真の伸ばした手を跳ねのけて、呪詛を纏ったルリハ達は次々に獲物を貪ろうと急降下してきた。
(「……だめだってンなら仕方ねぇ」)
 すっ、と表情を消した逢真は、其処で直ぐに気持ちを切り替えたらしい。溢れ出す災禍を取り込むべく、彼が権能を行使する隣では――加々見・久慈彦(クレイジーエイト・f23516)が、噴き上がる炎を手で払いのけながら、悠然と微笑んでいる。
「マザー・グースか……懐かしいですなぁ。幼少の頃、ばあやが枕元でよく聴かせてくれました」
「ふふ、わたしも好き。お母様が教えてくれたっけ」
 苺みたいな瞳を瞬きさせた、フラム・フロラシオン(the locked heaven・f25875)は恐らく、子どもの頃を思い出していたのだろうが――久慈彦の方は、何処までが本当なのか怪しいところだ。
「……さて、それであなたは――幸せの青い鳥、って訳じゃなさそうだね」
 そのまま、無差別に病を撒き散らすルリハを捉えたフラムは、手にした魔法剣へと炎を纏わせる。彼女の魔力が形となったそれは、誰かを傷つけたいと高鳴るこころに呼応するかのように、激しく燃え盛っていた。
(「――……誰が荼毘に付すのだろう?」)
 小鳥たちの囀りに紛れて、聴こえてきたのはマザー・グースのメロディで。その声の方を見遣れば、気取った仕草で包帯を取り払った久慈彦の全身が、異形の頭部から溢れ出る炎に呑み込まれていくのが窺えた。
(「それは私と、ツグミ(Thrush)が言った」)
 怪奇人間の力を用いて人型の炎と化した彼は、驚異的な速度でルリハの悪疫に対抗し、感染が進むよりも先に病原体を焼却していく。
(「骨と灰(ash)に変わるまで――」)
 心地良い韻を踏みながら、ナンセンスな詩を楽しむように。そうして久慈彦の指先から伸びた炎が、瞬く間に瑠璃色の羽根を焦がしていく一方で――フラムの振りかざした剣もまた、空に逃げていこうとする鳥たちに追い縋り、炎の渦が辺り一帯に吹き荒れていった。
「私が焼いてあげましょう……って、ツグミは火葬の係ではない?」
「ツグミは讃美歌だよ、紳士さん」
 殺されたコマドリの歌を口ずさむフラムは、血のにおいに誘われた配下たちと戯れるように、軽やかな足取りで放課後の校庭を駆けていく。
(「怖い歌、だって言われちゃったりしたけど」)
 姫、と呼んで慕う少女のことを想い出したフラムは、それでも歌の持つ不条理さと、残酷さが好きなのだ――だって、好きなひとは大事にしたいけど、泣き叫ぶ姿だって同じくらい愛おしいと思うもの。
「だから……ねぇ、ハンプティ・ダンプティみたいに叩き割って、パイに閉じ込めるみたいに焼いてあげる!」
 ――お誂え向きに此処は広い場所であり、火事の心配だって無いのだから。そんな劫火の剣を操るフラムの勢いに、呑まれつつあるルリハの集団だったが、それでも態勢を立て直そうと旋回を始めたようだ。
 しかし――その僅かな隙すらも、遍歴の騎士たるリンタロウ・ホネハミ(骨喰の傭兵・f00854)は、見逃したりなどしなかった。
「傷だらけ泥だらけの敵をわざと帰らせて、病で敵軍を潰す……そんな手はあるっすよねぇ」
 がりと骨を噛み砕くのと同時、リンタロウはその手に構えた短弓の矢じりに、ぺっと唾を吐きかけて舌打ちをする。オレっちも憶えがあるっす、と呟く彼の脳裏には、かつての戦場で目にした凄惨な光景が、まざまざと蘇っていたのだろうか。
「ただ――やっても気分よくねぇっすし、それを敵にやられるとなると、なおさらなんすよね」
 糸のように細められた瞳からは、リンタロウの感情を窺い知ることは出来なかったけれど――弓曳く手に籠った力の強さは、盛り上がった彼の二の腕が示している。
(「だからちょいと、気合入れて戦うっすよ」)
 大規模な呪詛汚染を引き起こそうとする感染型UDC、その配下の群れ目掛けて、リンタロウは片っ端から手にした矢を撃ち込んでいった。
「病毒を撒き散らすっつーなら……」
 直後――ピュイ、と甲高い鳴き声をあげて、胸を貫かれたルリハがそのまま硬直し、身動きが取れないまま次々に落下していく。
「その範囲外から、仕留めりゃ良いっつー話っすよ」
 ――二〇六番之暗殺者。それは、骨喰の呪いを受けたリンタロウが持つ、毒と言う名の贈り物だ。先ほど喰らったコブラの骨は、神経を冒す猛毒を彼に与えてくれたらしい。
「戦場と、食い詰めたときの狩りとで鍛えた弓の腕を……ナメるんじゃねぇっすよ!」
 此方に接近するよりも速く、毒液に浸した矢を放ち――一撃で仕留める。哀れなコマドリのように墜ちていくルリハの群れ、その難を逃れたものへもすかさず、久慈彦が手刀を浴びせて瞬時に塵へと変えていった。
「骨と灰に変わるまで――否、骨も灰も残しませんよ」
「ええ――あなたはクロツグミじゃないけど、綺麗な声で歌ってみせてね!」
 ルリハの奏でる悲痛な讃美歌を聴きながら、フラムの刃が勢いよく空を薙ぐと。毒と病を喰らい続けて神威を高めていった逢真は、ぱさりと番傘を開いて雨を呼んだ。
「噂で広まり現実に変わる、ねぇ……」
 ――利己的な遺伝子、なんて本もあっただろうか。ひとからひとへ、現実と空想の境目すら曖昧になっても、確かに『それ』は存在するのだと『共有』されるもの。
(「或いは、神も。そうなのか」)
 ――降りしきる毒の雨に打たれて消滅していく、病の運び手を見つめながら、逢真は無意識のうちに歌を口ずさんでいた。
「Rain, rain, go to Spain――……」
 雨よ、雨よ――触れてはいけない。越えてはいけない。だから――もう二度と戻ってくるな。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
病を運ぶ鳥、とは
……我々の天敵のような存在ですね
貴方は

病も感染型UDCも
蔓延させるわけにはいかない

ベクターの少女や生徒たちが気になりますが
今は鳥達に集中しましょう

体内毒を濃縮
敢えて目立つよう立ち回り
小鳥たちを自分の周囲に集めます

ある程度集まってきたら
伝染する病原体を死毒で相殺しつつ
身体を液状化

そのまま小鳥さん達には
『微睡』んで頂きましょう

私は触れるもの全てを蕩かす死毒ですから
病原体とて例外ではない
私の毒で苦しみ無く
眠るように逝けたなら

薔薇の花環は無理でも
小さな花束くらいは咥えられるでしょう

さあ
皆地に墜ち
転んで眠ると宜しい


ジャスパー・ドゥルジー
よう――駒鳥じゃねえのかい?
まあいいや、遊ぼうぜ

ナイフで肉を抉り【ジャバウォックの歌】
相棒の魔炎龍を喚んで騎乗する
ちょっと「ジャンル」が違ェけど許してくれよ、なんて
病原体ごと相棒の吐く『混沌の焔』で焼き払う
突破してくる奴がいたら俺のナイフで滅多刺しだ

前から気になってたんだよな
どうしてケーサツやらに助けを求めるでもなく只々噂を拡げちまうのかなって
怪奇を知らねえ一般人相手にも埒外の存在だと確信させるだけの何かがあるのか
逢ってみてえよな
で、なんだっけ、四十回――……

流石の俺も、斧で四十回も打たれたら死ぬかね?
呟く聲は期待と欣喜に歪んでいたに違いない


月守・ユア
アドリブ大歓迎

リジー…その歌は
元は親殺しの歌だったっけ…?

マザー・グースは詳しくないけど…
その歌は最後は41もめった打ちにしたんだっけ
ふふっ
ゾッとする歌だよねぇ

その歌につられて、殺人鬼が一匹参上したよ?
ねぇねぇ
君らは何をめった打ちにして回ってるの?
少女の歌声で…40ものの斬撃で!
殺し合いながら教えてよ

先制攻撃、激痛耐性
敵の群れに愉快に躍り出る
月鬼で敵を地に堕とそう

ははっ♪上手に囀っておくれよ?悲劇の歌
この刃がしっかり最後の41を刻めるくらい

生命力を吸収する呪詛を歌うように紡ぎ
”命喰鬼”でルリハを切り刻もう

…”我に返って、こんどは…×××を打ちに行くよ”
空を仰ぎ、まだ見ぬ悲劇の源に向けるて囁く



 放課後の校庭はどこか寂しく、ひともまばらで――きっと噂が広まっていくのは、こんな刻なのだろうと冴木・蜜(天賦の薬・f15222)は思う。
(「病を運ぶ鳥、とは」)
 うつくしき瑠璃色の鳥が、ゆっくりと黄昏の空を旋回している光景は、幻想的でありながらも不吉だった。獲物が衰弱していく様をじっと見つめて、その死肉を貪ろうと一斉に群がるような――群体の持つ恐怖は、病の感染にも似ているかも知れない。
「……我々の天敵のような存在ですね、貴方は」
 白衣をふわりと翻して配下に向き合う青年は、黒液の滲む指先を握りしめながら、きつく己の心に誓うのだ。
(「病も感染型UDCも、蔓延させるわけにはいかない」)
 ――自分は、誰かを救うことを選んだから。否、救いたかった、救えると信じたかったから。病の先触れとなる囀りが辺りに響くなかで、蜜はルリハ達の注意を自分に向けるべく、無防備な身体を晒して群れの只中に飛び込んで行った。
「リジー……だっけ、その歌は」
 そんな小鳥の歌声が紡いでいく、残酷なわらべ歌を一緒に口ずさみながら、何かを指折り数えているのは月守・ユア(月夜ノ死告者・f19326)で。
「元は親殺しの歌だったっけ……? ええと何回、」
「なんだっけな、四十回――……」
「そう、四十一回もめった打ちにしたんだっけ」
 小首を傾げる彼女の隣で、からりと陽気にジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)が口を添えると、ユアは満足げに微笑んで夕陽に刃を翳した。
「ふふっ、ゾッとする歌だよねぇ」
「ははッ……流石の俺も、斧で四十回も打たれたら死ぬかね?」
 ――そんな何でもないような素振りで、くすくすと笑い合うふたりの元へも、病原体を纏ったルリハ達が次々に飛来してきたけれど。月の如き瞳をうっとりと細めたユアは、彼岸の衣を優雅にはためかせながら、群れのなかに躍り出て刃物を振り下ろしていた。
「さぁ、その歌につられて、殺人鬼が一匹参上したよ?」
 ぶわりと膨れ上がった病の塊ごと、月鬼の刃はルリハの生命を喰らい――そのまま一気に大地へ墜としていく。
「ねぇねぇ、君らは何をめった打ちにして回ってるの?」
 噂を触媒にして、呪詛を感染させていく凶鳥を次々に斬り刻みながら、悲劇の歌に包まれたユアが笑う。
「上手に囀っておくれよ? ……この、刃が」
 ――そうして夕闇で踊るうつくしき鬼が、魂を啜ろうと舌なめずりをして、鮮血に染まった刃が幾度となく獲物の肉を裂けば。
「しっかり最後の、四十一を刻めるくらい!」
「よう――今度は、俺と遊ぼうぜ」
 被虐のナイフを自身に突き立てたジャスパーが、ふつふつと滾る血潮のなかで肉を抉り取って、相棒の魔炎龍を召喚していった。
「両のまなこを、炯々と燃やしたるジャバウォック――ってな。ちょっと『ジャンル』が違ェけど許してくれよ」
 混沌の焔を操る怪物に軽々と跨ったジャスパーは、そのまま病原体を焼き払い、群がる小鳥たちに向かって刃の雨を降らせる。
「……前から気になってたんだよな。どうしてケーサツやらに助けを求めるでもなく、只々噂を拡げちまうのかなって」
 契約の肉は1ポンド、一滴の血さえ流してはならぬ――と、これも『ジャンル』違いか。ジャバウォックの焔が吹き荒れるなかを、悠々と進んでいくジャスパーのその言葉へ、曖昧に微笑んだのは蜜だった。
「ひとは、理解出来ないものを目にした時……それは現実ではないのだ、と思い込もうとする。そうやって、自分の心を守ろうとするのでしょう」
 こぽりと吐き出した己のタールが、じわりと校庭の土に染みを作っていくのを見ながら――きっと、こんな風に『侵食』は進んでいくのかも知れないと、蜜は思う。
「……けれど、その心に根を下ろした不安を、誰かに伝えることで楽になりたい、と。そんな心理が作用して、奇妙な噂は広がっていく」
 ――言葉を形にする間にも、蜜の体内は濃縮された毒で満たされていき、仄かな甘いにおいさえ漂わせてルリハ達を誘っていた。
(「……そう、そのまま。小鳥さん達には」)
 瞳を閉じて、意識を空に溶かすように――己の身体までも液状化させた蜜は、その身に宿した死毒を揮発させて、一気に大気中へと拡散させていく。
(「『微睡』んで、頂きましょう」)
 ――触れるもの全てを、その命すら蕩かしてしまう蜜の毒。けれど苦しみ無く、眠るように逝けると言うならば、それも慈悲に変わるのかも知れない。
「薔薇の花環は無理でも、小さな花束くらいは咥えられるでしょうから」
 伝染する呪詛を相殺しつつ迫る毒は、やがて――ぽとり、ぽとりとルリハ達を地に墜としていったが、息絶えた彼らの表情は、不思議と穏やかなものに見えた。
「……転んで、眠ると宜しい」
 束の間の平穏を取り戻した空を仰いで、甘い声で囁いたのはユアかジャスパーか。未だ見ぬ悲劇の源へ捧げる詩は、皮肉交じりのリジー・ボーデン。
「我に返って、こんどは……×××を、打ちに行くよ」
「ああ、……逢ってみてえよな」
 ――呟く聲は、期待と欣喜で歪んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
英(f22898)と

昼と夜のあわい、此岸と彼岸の境
なにもかもが曖昧に融け合う刻だもの
架空の物語が舞い降りるには相応しい

ほら、今、青い羽をしてやってくる
掴まえにいかなくちゃ

かろやかに黄昏の頁を駆け抜けて、
ひらひらと病んだ羽を花びらで包みこむ
背中を守ってくれるきみは、
どうやったって格好良い登場人物なものだから
いざとなれば身を挺して庇ってあげよう

呪詛には慣れっこだけれども
触れればちくりと棘が刺さるだろうか
こわいなにかがやってくる、
夕陽があの色に見えてくる、

――ああ、血まみれ!

笑いとともに吹き荒れる花嵐が
鳥たちを黄昏の向こうへと連れて逝く
くすくすと止まぬままの背中合わせ
続きはもっと面白いと、いいね?


榎本・英
花世(f11024)

放課後、学び舎を背に挑む話とは
君ならわくわくする舞台なのではないかな?
如何にもこれから何か起こりますと言わんばかりの風景だ。
私たちは恐ろしい物語の世界へ旅立つのかもしれないね。

さて。余談はこの辺にして、目の前の敵を倒そう。
それこそ、よからぬ噂に取り込まれてしまう前に。
この時間帯は思っているよりもずっと、恐ろしいからね。

数多の病を獣の指がとらえて薙ぎ払う。
君の後方から襲い来る病は私に任せ給え。
前方は頼んだよ。

身を護る術は持ち合わせていないが
この目と口で君に合図を送ろう。

嗚呼。いつも頼もしい。
しかし、油断は禁物だ。
ほら、上から。鳥を数える声が聞こえて来るかもしれない



 それは昼と夜のあわい、此岸と彼岸の境――なにもかもが、曖昧に融け合う刻なれば。
「ほら、今」
 虚構と現実が入り混じるその世界で、境・花世(はなひとや・f11024)の宿す牡丹の花が、ゆらゆらと焔のように揺らめいて花びらを散らす。
「……青い羽をして、やってくる」
 架空の物語の切れ端――病を運ぶ瑠璃色の鳥が、瘴気を辺りに撒き散らそうと舞い降りるなか、榎本・英(人である・f22898)の声は、詩を諳んじるようにしてじわりと黄昏に染み込んでいった。
「放課後、学び舎を背に挑む話とは……君なら、わくわくする舞台なのではないかな?」
 微かなインクのにおいを漂わせて――物語の綴り手は、丸眼鏡をそっと押し上げつつ、相棒に向かって意味ありげに微笑む。嗚呼、如何にもこれから何か起こりますと言わんばかりの風景。故に――。
「私たちは、恐ろしい物語の世界へ旅立つのかもしれないね」
 不吉な鳥たちの羽ばたきに混じって、からからと嗤っているのはされこうべだろうか。虚ろな眼窩が訴えているのは、無念かそれとも――否、余談はこの辺にして、速やかに目の前の敵を倒すとしよう。
(「それこそ、よからぬ噂に取り込まれてしまう前に」)
 ――この時間帯は思っているよりもずっと、恐ろしいから。そうして乾いた音を立てて書物を閉じれば、英の綴った情念が、獣の指と化して溢れ出した。
「後方から襲い来る病は、私に任せ給え」
 ふたりに向かって押し寄せる病の塊を、業深き指がとらえて抱きしめて――そのまま一気に薙ぎ払うと、それを合図に花世が駆け出していく。
「前方は頼んだよ」
「了解、……ふふ、掴まえにいかなくちゃ」
 辺りを汚染しようと呪詛を呼ぶルリハの元へ、かろやかな身のこなしで肉薄する花世。その姿が、黄昏の頁を捲るみたいに徐々に近づいていくと――ひらひらと舞う病んだ羽にもいつしか、薄紅の花びらが降り注いで彼方の海へと送り出していった。
(「ああ、背中を守ってくれるきみは」)
 ――後方の憂いを、一手に引き受けてくれている英。自身を護る術を持ち合わせていない彼を、いざとなったら身を挺して庇うことを誓っていた花世は、高速で飛来するルリハの呪詛目掛けて手を伸ばした。
(「どうやったって格好良い登場人物、なものだから」)
 呪いの類には慣れっこだけれども、触れた先からちくりと棘が刺さったみたいに『何か』が注ぎ込まれて、彼女のこころを蝕んでいく。
(「こわいなにかがやってくる、夕陽があの色に見えてくる、」)
 右目がかっと熱くなって、其処に巣食う怪物がけたけたと笑ったような気がした。赤い、あかい――あれは花びら、では無くて。
「――ああ、血まみれ!」
 直後、一際強く吹き荒れた花嵐が、辺りの小鳥たちを黄昏の向こうへと連れて逝くなかで――背中合わせのふたりは、くすくすと笑声を響かせたまま空を仰いだ。
「嗚呼。いつも頼もしい。……しかし、油断は禁物だ」
 ――ほら、上から。鳥を数える声が聞こえてくるかも知れないから。
「続きはもっと面白いと、いいね?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オスカー・ローレスト
【アドリブ歓迎】

……種類は違うけど、同じ、小鳥だから……ちょっと射抜くのには抵抗が湧く、けど……放っておいて、何処かに飛び立ってしまったら……大変なことになると、思う、から……やるよ。

お、俺は後衛、で……敵の攻撃範囲外から他の猟兵がうち漏らしたのを狙って、【切実なる願いの矢】で……ルリハ達を射抜く、よ……校庭外に出ないように、しっかり動きを【見切り】ながら、持ち前の【視力】で見逃さないように、する……

(射られ、血を流す小鳥は駒鳥を想起させ……それを射抜くのは雀で)
……でも俺が、殺したのは、鳥じゃ、ない……俺、は……

(誰が駒鳥(アリス)を殺したの?)
(彼に問うならきっと、これが相応しいのだろう)



 不気味な噂が囁かれる放課後の学び舎は、まるで舞台が一転するようにして、その姿を変えていた。
「あ、……小鳥、が……」
 けたたましく囀る瑠璃色の鳥たちが呼び込むのは、ひとの心を蝕む呪い――うつくしくも残酷なその光景は、オスカー・ローレスト(小さくとも奮う者・f19434)の知る地獄に、哀しいほど似通っていた。
(「……ちょっと、抵抗が湧く、けど……」)
 友である小鳥たちのことを思い出して、洋弓銃に添えた指は微かに震えていたけれど。それでも――このまま放っておいて何処かに飛び立たれてしまったら、大変なことになってしまうのだと、オスカーはちゃんと理解していたのだから。
「……やるよ」
 ――すっと深呼吸をして、まじないを唱えて。仲間の猟兵たちに当たらぬよう、ルリハ達の射程から離れた場所から、撃ち漏らした個体を狙って矢を放つ。
(「……見逃さない」)
 一切の感情を捨てて、己は舞台装置のひとつなのだと言い聞かせながら、オスカーは腕に仕込まれたクロスボウの引き金を引いていった。
 ピュイ――笛のようなその音は、小鳥たちの最期の叫びだったのか。射られ、血を流すルリハを見つめるオスカーは、まるで哀しく震える小雀のよう。
「あ……」
 その時、黄昏に尾を引いていく鮮やかな紅へ、名も無き駒鳥の骸が幾つも重なっていった。誰が駒鳥、殺したの――無邪気な歌が響き渡るなか、オスカーはぶんぶんとかぶりを振り、尚も迷いを振り切るようにして矢を放つ。
(「……でも、俺が、殺したのは……」)
 小雀を苛む声は未だ止むことが無い。嘗ての罪を暴き立てるように、羽音みたいなノイズが押し寄せる。ああ――駒鳥が死ぬのを見たのは、確か蝿だったか。
『誰が駒鳥(アリス)を殺したの?』
 ――きっと。彼に問うならば、こんな言葉が相応しいのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
【堅志】
ああ……名前程度ではあるが
寓話には様々な余地が多い分、要らぬものも紛れ込み易いのだろう
良いだろう、矢張り病は元から絶たねばな

かの気性其の侭に、意志たる炎が飲み込んで行く様は正に蹂躙といった所だな
事如くを焼き尽くす迄、あれが止まる――止められる事なぞ在り得はしまい
では此方も用意を整えるとしよう
――剣怒重来
炎の内へ敢えて残り、此の身を晒す
齎される痛苦の総て、決して潰えぬ意志の元に糧と変えてくれる

此処からは私が引き受けよう
1羽たりとも逃がしはせん
怪力乗せたなぎ払いで以って斬り払う
生憎だが40回程度で済ませてやる気は無い
否、数える事なぞ無意味というもの
敵を斃す迄、此の刃は振るわれるのだからな


鎧坂・灯理
【堅志】
鷲生殿、マザーグースはご存じですか?
最近よく依頼で見かけるのですが、はやってるのでしょうかね
ともあれ、一般人は避難済みとのことですし。作戦通りに滅菌と行きましょう

では、お先に失礼
『白澤』をしっかり装着してルリハの群れに飛び込み、【獄落】を展開
周囲の敵も病原体もすべて焼尽焼滅する――鷲生殿も巻き込んでな
「作戦通り」だ。誰だって、あの炎の中で人間が生きているとは思わんだろ?
だがその男は「意志」の狂信者。この程度じゃ「意地でも」死なんさ
――『烈志』を味わえ、青い鳥

あっはっは!どうぞ暴れてください鷲生殿
病んだ土は私が焼きましょう。どれだけ離れようと遅れは取りませんよ!



 ――鷲生殿、と。己を呼ぶ声に顔を上げれば、面白そうに瞬く紫の瞳が此方を見つめていた。
「マザー・グースはご存じですか?」
「ああ……名前程度ではあるが」
 そんな鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の答えに、ふむと相槌を打った鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)は、流行っているのでしょうかね――と呟きながら、こつこつ音を鳴らして防毒装面を叩いている。
「最近、よく依頼で見かけるのですけれど」
「……寓話には様々な余地が多い分、要らぬものも紛れ込み易いのだろう」
 そう、嵯泉の言う通りなのかも知れない。大勢のひとが知っていて、その存在を共有出来るもの――彼のリジー・ボーデンだって、元を辿れば近代史の事件のひとつであるが、その存在は半ば伝説化している。
「ともあれ――作戦通りに、滅菌と行きましょう」
 既にUDC組織によって、辺りの生徒たちの避難は終わっているようだ。そのことを確認した灯理は「お先に失礼」とばかりに手にしたガスマスクを装着すると、黄昏を侵食するルリハの群れに飛び込んでいった。
「そう、周囲の敵も病原体もすべて焼尽焼滅する――鷲生殿も巻き込んでな」
 ――白澤の面越しに、何やら物騒な発言がされたような気もしたが。彼女のくぐもった声は、噴き上がる黒炎に呑まれて直ぐに掻き消えていく。
「……まあ、良いだろう。矢張り病は元から絶たねばな」
 無差別に撒き散らされる、ルリハの悪疫に対抗するかのように――灯理の気性そのままに燃え盛る獄落の炎は、忽ち辺りを覆い尽くして、此の世ならざる光景を作り上げていったのだ。
(「事如くを焼き尽くす迄、あれが止まる――止められる事なぞ、在り得はしまい」)
 意志たる炎がルリハの群れを飲み込んでいく様は、正に蹂躙――瞬きの間に、己の足元にまで迫ってきた炎を一瞥した嵯泉は、敢えてその身を晒したまま『氣』を纏った。
「――剣怒重来」
 熱く滾る炎に焼かれて、齎される痛苦の総て。決して潰えぬ意志の元に、其れを自身の糧と変えてくれる。手にした刀そのままに、嵯泉の意志は折れず曲がらず――否、灯理の炎を以て、更に強く鍛えられていく。
「……『作戦通り』だ」
 ――浄化の炎が吹き荒れた大地に、立ち尽くす影はふたつ。誰だって、あの炎の中で生きているとは思わないだろうと、呟く灯理の隣で剣鬼が吼えた。
「だが、その男は『意志』の狂信者。この程度じゃ『意地でも』死なんさ」
 きらきらと夕陽を弾く金の髪が、剛腕の生み出す風圧に勢いよく揺れると――研ぎ澄まされた嵯泉の刃が、空に舞う小鳥たちを一息に薙ぎ払ってその生命を啜る。
「……此処からは私が引き受けよう。1羽たりとも逃がしはせん」
 生憎だが、40回程度で済ませてやる気は無いのだと告げる嵯泉に、あっはっはと重なったのは灯理の声。ああ、やはり彼は自分と同じ――同類なのだ。
「どうぞ暴れてください鷲生殿、病んだ土は私が焼きましょう。どれだけ離れようと遅れは取りませんよ!」
 ――もう、数える事なぞ無意味と言うものだろう。目の前の敵を斃すまで彼の刃は振るわれ続け、意志の炎もまた消えることは無いのだから。
「さあ――『烈志』を味わえ、青い鳥」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【探偵達】
リジー・ボーデン?
結局最後は万引きで捕まった――って終わりじゃないの
古い悲劇を楽しい歌にしちゃう一般人のほうがずっと怖いわぁ

じゃあ再演しない?ねえ、お兄様。きょーくん、二人とも唄を知ってる?
私が歌ってあげましょ。【深海より愛を込めて】にお任せあれってカンジ
病原体は追い立ててあげましょうね、さあ、竜たち――導いて?
マリー・モリアーティは竜を駆り立て
・・・・・・・
まずはお兄様で四十回
真っ青な体から出てくる赤が美しくて
・・・・・・
さらに兵士で四十一回
あは、替え歌。著作権?にうるさいんでしょ?最近って
これって、縄跳び唄なんですってぇ
ーー小鳥って、跳ねて動いてかわいいわ
ぶっ殺しちゃえ♡


鳴宮・匡
【探偵達】
リジー・ボーデン……響きは人名だけど、なんだろ
俺は良く知らないけど……

……へえ、そうなんだ
よく知ってるな、マリー
それが巡り巡って、怪異を振りまく……なんてのも
いかにも、って感じだよな

再演? ……唄は知らないけど
まあ、そう言うならその通りに
先にニルが……四十回? だってさ、任せたぜ

ニルの攻撃に反応する鳥の動きを観察しながら
敵の行動の癖を見ておくよ
……あ、俺の方が一回多いの?
器用にぴったり落とせるかな――殺しすぎても許してくれよ

縄跳び唄、ねえ
……そりゃ、人間は“知らないもの”には冷たいからな
他人の悲劇なんて、ただの“物語”なんだろうさ
ひとごろしの記録を、そんな歌にしちまうんだから


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【探偵達】
りじーぼーでんって何だ?
歌……へえ……そんなのあるんだ
匡は知ってた?
まあ、悲劇なんて当事者以外はそんなもんだよなあ

再演、っても内容知らねえ――
マリーが歌ってくれるなら、それに合わせるだけでもいっか
妹に従う同胞ら、共に行こうではないか

まずは私が――四十回?
取り敢えず鳥どもを四十羽ほど撃ち落とすか
起動術式、【氷霜】
飛行する最中の眼前へ、氷柱を召喚してやろう
さて小回りが利くのは良いことだが、果たしてその速度で避けられるかな

で、次に匡が四十一――
……こんな物騒な歌が縄跳び歌?
……私さあ、匡
亡霊だのオブリビオンだの病だのより、人間の方がずっと怖いと思うんだけど……



 ――黄昏に囁かれる、その噂の主はリジー・ボーデン。人名だろうか、と鳴宮・匡(凪の海・f01612)がこうべを巡らせて尋ねれば、ヘンリエッタ・モリアーティ(円還竜・f07026)がわらべ歌を口ずさむ。
「歌……へえ……そんなのあるんだ」
「で、結局最後は万引きで捕まった――って終わりじゃないの」
 りじーぼーでん、とたどたどしく指先で綴りを書くニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)に、くすくす微笑むヘンリエッタは、頭上で羽ばたく小鳥たちを見つめてさらりと告げた。
「古い悲劇を楽しい歌にしちゃう一般人のほうが、ずっと怖いわぁ」
 怖い怖いと口にしつつも――その実彼女は、ひとの心と言うものを、興味深く観察しているのだろう。悲劇を美談として語り継ぐのも、悪趣味で猟奇的な物語性に惹かれるのも、どちらも『ひと』として正しい姿だから。
「まあ……悲劇なんて、当事者以外はそんなもんだよなあ」
「ああ、それが巡り巡って、怪異を振りまく……」
 ――そうだ。あらゆる悲劇を自分のことのように感じてしまえば、直ぐに心が押しつぶされてしまう。そのことをニルズヘッグは理解していた。
「いかにも……って、感じだよな」
 そしてそれは、匡にも覚えがあることだった。生きる為に、心を殺さなくてはならなかった過去――隣に立つ親友はと言えば、逆にひとであろうと努力しているようだったが、凍えるような表情を見せる今は、少しは心が休まっているのだと思えるだろうか。
「……ねえ、お兄様。きょーくん、だったら再演してみない?」
「再演、っても内容知らねえ――」
「……俺も唄は知らないけど、まあ、そう言うならその通りに」
 と――此方へ向かって、悪疫をばら撒こうとしているルリハ達を捉えたヘンリエッタが、瞳を輝かせてふたりを誘った。私が歌うから、と息を吸い込んだ彼女は、深海より響く聲で愛をうたう。
「病原体は追い立ててあげましょうね、さあ、竜たち――導いて?」
 ――空に羽ばたく小鳥目掛けて、押し寄せていくのは数多の竜。どこかの神話では、淡水と海水が混じり合う原初の世界で、怪物たちの親とされたもの。
(「マリー・モリアーティは竜を駆り立て……」)
 そんなヘンリエッタの別人格がうたう旋律に合わせて、ニルズヘッグが術式を起動すれば――辺りが急速に霜で覆われていき、忍び寄る病の塊までも凍っていった。
(「……まずは、お兄様で四十回」)
「先にニルが……四十回? だってさ、任せたぜ」
 ルリハの動きを観察していた匡が、軽く背中を叩くようにして声を掛けると。ニルズヘッグは義妹に従う竜たちと共に、召喚した氷柱を叩きつけて鳥の群れを撃ち落としていく。
「小回りが利くのは良いことだが……果たして、その速度で避けられるかな」
(「……真っ青な体から出てくる赤が美しくて……さらに、兵士で四十一回」)
 ――兵士、と呼んだ匡に向かって「あは」と笑うのはヘンリエッタ。最近は著作権にうるさいんでしょう、と呟いた彼女は、替え歌混じりのメロディを響かせながら尚も竜を呼んだ。
「これって、縄跳び唄なんですってぇ……小鳥って、跳ねて動いてかわいいわ」
「縄跳び唄、ねえ」
 器用にぴったり落とせるかな――殺しすぎても許してくれよ、そんな呟きに混じって千篇万禍の銃撃が標的を次々に貫いていくなかで、匡の心は凪の海を漂い続けていた。
(「……そりゃ、人間は『知らないもの』には冷たいからな」)
「……私さあ、匡。亡霊だのオブリビオンだの病だのより、人間の方がずっと怖いと思うんだけど……」
 ぽつりと、そんなことを呟いたニルズヘッグに向けて、匡は「ああ」と静かに頷くことで同意しておいた。
「他人の悲劇なんて、ただの『物語』なんだろうさ」
 ――他者を他者として斬り捨てる、それも生きていく上で必要なこと。それはきっと善悪を越えた、本能と呼ぶに近いものなのだ。
「……ひとごろしの記録を、そんな歌にしちまうんだから」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
【神竜】篝(f20484)と

恐怖というものは一滴垂らすと、それは心の奥底に広がって、拭えない染みとなっていく
そこから怪異は生まれ、人から人へ、尾鰭を付けながら広まっていく

リジー・ボーデンの話なら知っている
唄の方じゃなく、その元となった未解決事件の方だ
わざと目撃者を生かし、恐怖を語らせることで怪異を本物に変えようというのなら、俺達猟兵が終わらせるまで

大地に撒き散らされた病原体は篝の『水門』に乗って回避
俺の女神は悪しき物をも受け入れる受容の女神
『美樹』が浄化して足場が確保されたら反撃開始
空を飛ぶ死の蒼き鳥共を【蒼炎氷樹】で片っ端から焼き、身動き取れぬうちに魔槍雷帝で串刺し
同時に迸る雷で範囲攻撃する


照宮・篝
【神竜】まる(f09171)と

黄昏の、リジー、ボーデン……
まるは知っているのか
私はどちらかと言えば、伝承に伝えられる側だからな
信じる者のない、願われない神は、いないのと同じだから
まるが私を願ってくれるから、ここにいられるように
その感染型というのも、信じる者がいるから力を持つのだろう
力を得るために、信じさせるのだろうな…病のように

人を冒す病ならば、私の内で清めよう
『水門』、私達を乗せて飛んでくれ
ルリハが飛ばす病原体、避けられるか?
避けられなくとも、『美樹』がそれを糧に根を張るだろう
さあ、たくさん食べて、茂って、大きくおなり
病原体を取り込んだら、【黒竜鈴慕】で私の竜を呼んで雷で攻撃してもらおう



 夕闇のなか羽ばたく鳥たちは、たびたび不吉の象徴として語られる。そんな、黒く膨れ上がっていく群体を見上げたマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は、彼らが齎すであろう災禍を想い、そっと息を吐いていた。
(「恐怖というものは一滴垂らすと、心の奥底に広がって、拭えない染みとなっていく」)
 ――其処から怪異は生まれ、人から人へ、尾鰭を付けながら広まっていく。何が正しくて何が間違っているのか、それさえ定かではなくなって、やがて何か得体の知れない怪物に変貌していくのだ。
「黄昏の、リジー・ボーデン、か……。まるは知っているのか」
 忍び寄る闇を照らすかのように、照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)が魂籠の焔を揺らして静かに問えば、ああとマレークは紫の瞳を伏せて頷いた。
「その話なら知っている。……唄の方じゃなく、その元となった未解決事件の方だ」
「事件、とな」
 と、なれば――それは作り話などではなく、実際にそんな名前の人間が居たのだろう。それが、物語の殺人鬼として語られるようになったのなら、その在り様は篝にも何となく理解できる。
「私は……私も、か。どちらかと言えば、伝承に伝えられる側だからな」
 ――異世界に実在する『神』、泉照の女神として語られるのが篝だ。受容と希望を司り、善悪を越えてすべてを受け容れる彼女であっても、信じ願う者がなければ存在しないのも同じだから。
「……だから、まるが私を願ってくれるから、私がここにいられるように」
 そっと自身が伸ばした手を、確かなぬくもりで受け止めてくれるマレークに頷くと、篝は偽神兵器――『水門』を召喚して、共に空へと舞い上がる。
「その感染型というのも……信じる者がいるから、力を持つのだろうな」
 そして力を得る為に、信じさせようとするのだろう――わざと目撃者を生かし、その恐怖を語らせることで。しかし、そうやって怪異を本物に変えようと言うのであれば、自分たち猟兵が終わらせるまでだ。
「……篝、行けるか?」
「任せろ、まる!」
 ふたりの元へ群がるルリハ達は、病原体を撒き散らして辺りを汚染しようと襲い掛かるが、浮遊する白壁がすかさず盾になってくれた。
「人を冒す病ならば、私の内で清めよう――」
 そして――女神の創造によって生み出された美樹が、思うままに枝葉を広げて病魔を吸い込み、大地の浄化を行っていく。
「さあ、たくさん食べて、茂って、大きくおなり」
 ああ、嫣然とした笑みを浮かべ、両手を広げる篝は正しく、悪しき物をも受け容れる受容の女神で。そして彼女は、マレークの傍に寄り添いその道行を照らす、『彼』の女神でもあったのだ。
「……さて、反撃開始と行こうか」
 美樹の伸ばした枝を器用に伝って追い縋る、マレークの指先から迸ったのは蒼き炎。その凍てついた炎に呑まれ、次々に翼を失っていくルリハ達の元へは、篝が召喚した黒曜飢竜が襲い掛かり――黄昏の空に激しい稲妻が降り注いでいく。
「空を飛ぶ、死の蒼き鳥どもよ――」
 荒ぶる咆哮をあげながら、マレークの構えた魔槍雷帝の一撃が、尚も空を震わせると。ふたりの頭上にはいつしか、奇跡のような虹が架かっていたのだった。
「……虹霓……雌雄の竜、か」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

東雲・咲夜
🌸戦法アレンジ可

マザーグースの縄跳び詩
躾唄には血腥く
怪異の媒体に適しとるんも納得

傘華開けば鏤み羽搏く輝石達
呪詛の囀りが蔓延る前に神謡を響かせまひょ
ひらりひぃらり、春の薫りに櫻雨
うちの眸前では誰の膝も突かせへん

言の葉に、多分な霊力を濃縮し、放つ
『此方に御出で――』
言霊に寄集った蒼群
虚空を揺蕩う指先より出づる冬の息吹
不視の白魔に抱かれよし

小さき命魂の根底から尾羽の末迄
凍てつき、感覚さえも剥離し…

さあ、生まれて御還り
倖せの青い鳥へ

痛みも苦しみも総てを砕き
さらさらと天へ昇る氷粒の燦めきに
至上を、祈望を、籠めざるを得ず…

ふと、水神霊が成した神鳥が肩に留まる
ん…だいじょうぶ
うちに出来る事をしぃひんと、ね


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

感染型って時点で相当に面倒だってのに、ホントに病気バラ撒くなんてねぇ。
リング・アラウンド・ザ・ロージーの再現なんてされたらたまったもんじゃないもの。逃さずきっちり潰しきりましょ。

逃さず狩りきるのは大前提としても。地形を汚染する、ってのが厄介ねぇ。
戦力増強もそうだけど、そうでなくても絶対ロクなことにならないでしょ。
…なら、塗り潰し返しちゃいましょうか。
●鴆殺を〇範囲攻撃で撃ちまくるわぁ。目には目を、ってね。
刻むルーンはソーン・エオロー・ラグ。「退魔」の「結界」で「浄化」しちゃいましょ。
ただバラまいてる向こうより、基点のあるこっちのが残りやすいんじゃないかしらぁ?



(「……リジー・ボーデン」)
 ――それは、マザー・グースの縄跳び詩。子ども達は斧を振り下ろした数を口にしながら、元気よく飛び跳ねて黄昏に遊ぶ。
「躾唄にするには、余りに血腥くて……なら」
 怖い殺人鬼が現れるのだと囁くその詩は、怪異の媒体として適しているのだろう――ぱさりと番傘を開く東雲・咲夜(詠沫の桜巫女・f00865)の頭上では、夕陽を弾いてきらきらと輝石が踊り、辺りを清澄な気配で満たしていく。
「ええ……感染型って時点で、相当に面倒だってのに」
 次々に辺りへ放たれるルリハの呪詛を、ちらりと細めた目で確認しながら――ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)も懐をまさぐって、この場に適した弾薬を取り出し口の端を上げた。
「ホントに、病気バラ撒くなんてねぇ……リング・アラウンド・ザ・ロージーの再現なんてされたら、たまったもんじゃないわ」
「……薔薇の花環。それも、怖い詩やったね」
 ――手を繋いで輪になって、そして最後にみぃんな転んで。流行り病をうたったものとされるその詩を諳んじた咲夜は、直後に表情をきりりと引き締めて神謡をうたい上げていく。
(「うちの眸前では……誰の膝も突かせへん」)
 呪詛の囀りにも負けぬ、嫋やかなその歌声は木花之佐久夜毘売に捧げるもの。花神が舞うようにひらりひぃらり、春の薫りに降りしきるのは櫻雨――更に言の葉へと霊力を凝縮させて空に放てば、寄集った不吉な鳥たちが蒼群となって、咲夜の元へと押し寄せてきた。
『此方に御出で――』
 ――虚空を揺蕩う彼女の指先が、続けて繰り出したのは冬の息吹だ。その氷華の刃の一振りで、小さき鳥の羽根は凍てつき、感覚さえも失うと――其処へティオレンシアの銃弾が無慈悲に撃ち込まれて、彼らの儚い命魂を刈り取っていく。
「さて、逃さずきっちり潰しきりましょ」
 非情な射手となったティオレンシアは、残るルリハ達も狩り尽くそうと攻勢に出たが、彼らの汚染した地形も見逃しはしなかった。呪詛の病原体がばら撒かれ、戦力増強に繋がるのもそうだが――それ以外にも、絶対ロクなことにはならないと分かるのだ。
「……なら、塗り潰し返しちゃいましょうか」
 ――取り出した手榴弾に、そっと刻んだルーンはソーン・エオロー・ラグ。魔術は本職では無いけれど、その知識ならばティオレンシアも持ち合わせている。このフサルク・ルーンの持つ意味は――。
「『退魔』の『結界』で『浄化』しちゃいましょ……!」
 安全装置のピンを外した後――放物線を描いてルリハ達の元へと吸い込まれていった鴆殺の一撃は、ルーンの加護の元、其処へ充填された聖水を撒き散らしつつ柘榴のように爆ぜた。
 そう、あちらの病原体と同じ――否、それ以上の勢いで、ティオレンシアの爆撃は辺り一帯の汚染を浄化していったのだ。
「さあ、生まれて御還り。倖せの青い鳥へ……」
 魔に属する領域を塗り潰して、痛みも苦しみも総てを砕き――さらさらと天へ昇っていく氷粒の燦めきに、散りゆく小鳥たちの羽根が瑠璃色の彩を添える。そんな彼らの安寧を祈る咲夜の肩にふと、優しく舞い降りたのは水がかたちを成した神鳥で。
「ん……だいじょうぶ」
 ――怪異の元凶は、未だ見ぬ先で待ち受けているだろうから。
「うちに出来る事をしぃひんと、ね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『怪奇・誰彼病院』

POW   :    扉やロッカーをこじ開ける

SPD   :    こっそりと病院内を調査する

WIZ   :    院内の人影に聞き込みを行う

👑11
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 ――黄昏の校庭に湧き出したルリハの群れを片付けた猟兵たちは、UDC組織に保護されていた第一発見者の少女から、『噂』についての詳細を聞き出していた。
「曰く……誰彼病院」
 その噂は、実際に怪異を体験した彼女ですら理解出来ないくらいに、歪に――更におぞましく変質していたのだ。
 午後4時44分にのみ、扉が開くという誰彼病院(たそがれびょういん)、其処では怪物を匿っているとか邪神の生贄を集めているとか、はたまた迷い込むと体を改造されるとか――兎に角、正体不明の病院として語られているのだと言う。
「見た目は、廃墟となった病院なのですが……その時刻にのみ扉が開いて中に入れば、」
 ――院内は一変し、黄昏のひかりが射し込む真っ白な廊下が、何処までも続いていて。
「……二度と、出られなくなるそうです」
 そうしている内に遠くから、マザー・グースの歌が聞こえてくると――斧を手にした子ども達が現れて、病院のそこかしこで『何か』を叩き割りながら、泣き叫んでいる姿が見えてくるのだとか。
「殺したくない、と子ども達は繰り返し口にしますが、彼らが我に返って……そして目を合わせてしまえば」
 ――今度めった打ちにされるのは、此方かも知れないと言う訳だ。安全を考えて避けるのも手だが、襲われるリスクを考慮しつつ彼らに接触してみることで、何か事件に関係する手掛かりを掴めるのかも知れない。
「そして……もしあなたが、大切なひとを失うことに怯えているのなら」
 あなたの目の前に現れる子どもは、あなたそっくりで――あなたの大切なひとに、斧を叩きつけている光景を目にしてしまうかも知れないと、その噂は囁いていた。

 ああ、そろそろ、誰彼病院の扉が開く刻限だ。
 此度のリジー・ボーデンは、一体誰を殺すことになるのだろうか――。


🦍🦍🍌🦍🦍🍌🦍🦍🍌🦍🦍🍌

●第2章補足
・感染型UDCの目撃された廃病院へと向かい、調査を行います。しかし、そこは既に怪異に呑まれて『怪奇・誰彼病院』へ変貌を遂げています。
・院内には『何かを斧でめった打ちにする子ども達』の影が漂っています。こちらから接触しない限りは大丈夫ですが、一度目が合ってしまうと襲い掛かってきます。

・なお、『大切なひとを失うことに恐怖している』猟兵さんは、その子どもが自分の小さい頃の姿をして、大切なひとをめった打ちにする光景を見てしまうかも知れません(正気度が削れ、ちょっと苦しい想いを味わいます)
こちらの展開が大丈夫でしたら、プレイング冒頭に『☆』をつけ、それが具体的にどんな相手で、自分がどう苦しみを乗り越えるのかを書いてください。
※こちらの描写の場合ソロ描写か、指定した相手PCさんのみ登場のリプレイとなります。

第2章プレイング受付は『3月18日 朝8:31~』からの受付と致します。成功数に達した辺りで締切日の告知をしますので、ゆっくりプレイングを考えてみて下さいね。

🦍🦍🍌🦍🦍(ウホホッ)🦍🦍🍌🦍🦍
フラム・フロラシオン
☆アドリブ歓迎
こういう探検、大好き
特に怖がることもなく、楽しく探索するよ
廊下を進めば噂通り『それ』がきっと現れる
小さいころのわたし
そしてそれによく似たもう一人の女の子

あれはわたし、そしてヒメ
目にしたのは、苦痛と歓喜のまぼろし
だって、わたしはヒメを傷つけたいのだから
だからあれは、しあわせなまぼろし
だって、わたしはヒメを喪うのがこわいから
だからあれは、みたくないまぼろし

ならば、どっちも斬ってしまおう
だってこれは幻
そう何度も言い聞かせて

『死んでしまえばこうなる定め』…そんな歌詞の唄もあったっけ
幻とは言えど、ヒメと、自分の亡骸を見るのは口の中が苦い気分になるよ
それとも、一緒に死ねるなら、それも――



 午後4時44分――デジタル時計に浮かぶ数字が、不吉な時刻を示したと同時に、異界へ繋がる扉がゆっくりと開いていく。
「……誰彼病院、ふふ」
 鏡合わせの世界へ飛び込むようにして、フラム・フロラシオン(the locked heaven・f25875)が錆の浮いた扉をくぐっていけば――直後、切ないまでの眩しい夕陽が少女の瞼を溶かしていたのだった。
「こういう探険は、大好きだよ」
 ――不意に脳裏を過ぎったのは、神隠しに遭った昔のこと。不思議の国に迷い込んで、右も左も分からなかった頃を思い出しながら、フラムは軽やかな足取りで白い廊下を駆けていく。
(「怖くなんてない、すごく楽しい――だって」)
 あの時だって、あの子に会えたから――フラムを見つけてくれた、愛しいアリス。もし噂が本当なら、彼女によく似た『それ』が目の前に現れる筈だから。
「ああ、ヒメ……、それと、わたし」
 何処までも続く廊下の途中で、肉の塊を叩き潰すような音が、何度もなんども聞こえてくる。ぐしゃ、ぶしゃ、ぐしゅ――その音に合わせて、壁に赤い絵の具が勢いよく飛び散っていく様子に、いつしかフラムは魅入られていたのだろう。
(「……だって」)
 ――足が、止まる。小さいころのフラムが振り下ろす斧に合わせて、彼女が口ずさむのはマザー・グース。
(「わたしはヒメを、傷つけたいのだから」)
 苦痛と歓喜が混ざったそのまぼろしは、少女にとってしあわせなものだったのか。がちがちと歯を鳴らして、殺したくないのだとかぶりを振る幼いフラムは――それでも、隠し切れない喜びを滲ませているように、見えて。
(「わたしはヒメを喪うのも、こわいから」)
 それと同時に、ただの肉片と化していくヒメを見つめていれば、耐えがたい喪失感がフラムの胸を軋ませるのだ。しあわせだけれど、みたくない――相反したこころは彼女にかけられた悪鬼の呪い、その所為なのかも知れないけれど。
「ならば……そう、どっちも斬ってしまおう」
 矛盾する自身のこころに翻弄されるフラムは、剣に炎の魔力を纏わせて、もうひとりの幼い自分に切っ先を突き付けていた。
(「だって、これは幻」)
 ――何度も、そう言い聞かせる。『死んでしまえばこうなる定め』なのだと。肉体が腐り落ちて、蛆が群がるよりも先に、こうして一息に命を絶った方が綺麗に死ねるからと、何度も自分に言い聞かせる。
 でも――あたたかな返り血を浴びて、立ち尽くすフラムの口のなかには、何だか苦いものが漂っているような気がして。無意識に彼女は、足元に転がるふたつの死体から目を逸らしていた。
(「それとも、一緒に死ねるなら、それも――」)

成功 🔵​🔵​🔴​

冴木・蜜


大切な人、か

深海を這う艶やかな蛸脚
私を罪悪の海から何度も引き揚げてくれる
誇り高くうつくしい海の人

私はあの人が居なければ――、

分かっていたのです
だから
考えない様にしようと思っていたのですが

いけませんね
やはり私はこの類の干渉には弱いらしい
これがゆめまぼろしだと理解っていても
真紅が飛び散る様はおそろしい

あまり見ていたくない
一時的に目の擬態を解きましょうか

……、わたしは
あの人を失いたくない
絶対に

殺したら其処で終わりになってしまう
あの声を聞くことも叶わない

そんな未来
私には耐えられない
到底認められない

だから私は
あの人の為ならば
害するものが居るのなら
私は喜んで毒になりましょう


(――嗚呼、なんて独り善がり)



 不自然なほどの清潔感を纏う白い廊下は、冴木・蜜(天賦の薬・f15222)にとって見慣れたものだった。穢れを寄せ付けようとしない――けれど、ひとたび侵食が進んでしまえば、瞬く間に黒ずんでいく白い世界。
(「……大切な人、か」)
 誰彼病院にまつわる噂へ、何とはなしに想いを巡らせてみれば――蜜の視界の端でゆらりと、蛸の脚が誘うように揺れた。
(「ああ、分かって……いたのです、けれど」)
 ――黄昏に染まる世界のなか、其処だけが深海みたいに揺らめいているようだった。罪悪の海に溺れる自分を、何度だって引き揚げてくれる海の人。
(「私はあの人が居なければ――、」)
 怪物めいたその触手はその実、艶やかでいて優しい。誇り高くうつくしい彼の存在こそが、蜜にとっての『大切な、失いたくないと思うひと』なのだと。分かっていた――だから、考えない様と思っていたのに。
「……いけませんね」
 そう思うことが既に、大切と言っているようなものなのだ、と。自嘲気味に唇を震わせた蜜の前では、未だ上手くヒトに擬態しきれていない小さなタールが、怯えるようにしてぷるぷる震えていた。
「やはり私は、この類の干渉には弱いらしい」
 その大切な、失いたくないひとへ向けて――「ごめんなさい」と聲無き叫びを響かせながら、それでも黒く幼いまぼろしは、何度も斧を振り下ろしている。
(「あまり、見ていたくない」)
 これはゆめなのだと理解しつつも、一時的に目の擬態を解こうとした蜜だったが、怪異は『それ』から目を背けることを許してくれなかった。
(「ああ……、わたしは」)
 閉じた筈の視界にあかあかと、深紅の飛沫が飛び散って黄昏と混ざり合う。千切れて飛ぶ蛸の脚に、尚も叩きつけられる斧。我に返って――否、返らないでいい。
(「あの人を失いたくない」)
 ――あの人を殺したのが自分だ、なんて。気付かないままでいい。狂ったままでいい。
(「絶対に――」)
 吐き出した黒いタールが病院の床に零れて、厭な染みを作っていくのをぼんやり眺めながら、蜜は大切な人のことをただ思い続けていた。そうだ、こんな風に殺してしまったら、其処で終わりになってしまう。あの声を聞くことも叶わなくなる。
(「そんな未来、私には耐えられない」)
 ――生まれ見た世界の色を知っているか。そう不遜に問いかける声が無い未来など、到底認められはしないのだと。ゆっくりと幼い自分に伸ばした蜜の指先からは、ぽとりぽとりと甘い毒が滴って辺りに漂っていった。
(「だから私は、あの人の為ならば……害するものが居るのなら、」)
 眼鏡の奥で歪めた瞳に映るのは、ゆっくりと力尽きていくもうひとりの自分。――嗚呼、なんて独り善がりだと嗤いながらも、蜜は大切なひとをこれ以上傷つけなくて済んだことへ、確かに安堵していたのだ。
「……私は、喜んで毒になりましょう」

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
あァらら、てぇへんだなこりゃ……俺にぁ大切な相手なんざ居ねえがよぅ。フリーな身の上でね。そぅいうヤツにゃどーなんかね。ヒトの姿か、そィとも唯の黒ォい影かい?

ま、どっちでも構いやしねぇさ。来なぁアポフィス。斧くらったら死んじまうだろぉが……そっちが。俺ぁ体なんざ仮の宿でしかねぇし、この身は髪の一筋血の一滴に至るまで死毒死病の塊だ。
アポフィス、そいつを拘束だ。牙から毒入れてラリさせてやんな。リジーボーデンについて聞いてみようぜ。
くく、全部終わったら『バラの花輪(Ring-a-Ring-o'Roses)』でもプレゼントしてやろうかぃ? くしゃみしてみんなで転びましょ、だ。……ガセらしいがね。ひひっ



「あァらら、てぇへんだなこりゃ……」
 誰彼病院に足を踏み入れた朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)が、すぐさま察知したのは――此の地に漂う呪詛の濃密さと、その根深さとでも呼ぶべきものだ。
「俺にぁ、大切な相手なんざ居ねえがよぅ」
 フリーな身の上でねと呟きつつ、からから下駄を鳴らして白い廊下を進む彼の行く手には、斧を手にした子どもの影がちらついている。
(「どーなんかね、ヒト……いや、顔が良く見えねぇか」)
 ――それは存在感が希薄な、影法師みたいな子ども達で。どこにでも居るような、無数のリジー・ボーデンとも呼ぶべき彼らは、逢真の気配に気づくこと無く斧を振り下ろして『何か』をめった打ちにしていた。
(「ま、どっちでも構いやしねぇさ」)
 来な――と眷属の名を呼べば、ぐにゃりと逢真の影が伸びて赤き星が瞬く。そうして病める秩序の化身たる蛇を召喚した彼は、此方に気付いた子ども目掛け、アポフィスの尾を巻き付けると一気に拘束していった。
「おいおい、斧くらったら死んじまうだろぉが……そっちが」
 身動きの取れなくなった黒い影へ向けて、そっと口の端を上げた逢真だったが――元よりこの身体は、仮の宿でしかないと言う認識でいる。その本性は毒であり、髪の一筋血の一滴に至るまで、死毒死病の塊なのだと。
「さて、と……ちょいと痛くするが」
 精神を蝕むアポフィスの毒を注ぎ込みながら、逢真はリジー・ボーデンについて影に問う。満足な答えを得るまで、何度でも毒が襲い掛かる仕組みなのだが――元々錯乱している子ども達が叫ぶのは、支離滅裂なことばかりだった。
(「殺したくない殺したくない」)
(「ごめ、ごめんなさい許してゆるして助けてたす」)
 ――ふむ、本人たちは嫌がっているが、無理矢理殺しを強制されているらしい。誰彼病院の噂が正しいなら、この殺しが生贄の儀式か、はたまた彼らが殺人鬼に改造されている――そんな真実が隠されているのかも知れない。
「くく、全部終わったら『バラの花輪』でもプレゼントしてやろうかぃ?」
 くしゃみしてみんなで転びましょ、だ――諸説入り混じる歌を口ずさみつつ逢真が問えば、周囲の子ども達が絶叫を響かせながら次々に掻き消えていった。
(「たすけて、お父さん」)(「お母さん、ごめ――」)
 そんな言葉を最期に残して――『そして、誰もいなくなった』のだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

鷲生・嵯泉
【堅志】☆
此の手の怪異としてはよく有る話だな
逢魔が時……誰そ彼とも言うか
何れにせよ何者か解らん相手に出遭う時を指す訳だが……

視界の先の淡い琥珀色の小柄な影、斧の下に居る、の、は……
灰色の、色違いの瞳の――
認識した瞬間、理解するよりも考えるよりも速く身体が動く
何の躊躇も無く首を刎ね、返す刀で身体を断つ

――っ、すまん
荒くなった息を深呼吸1つ落ち着かせ、首を強く振って残滓を払う
……構わん、好きに呼べ
手だけで良いのか。逃げられん様にした方が良かろう
隣にある顔に良く似たソレの手足を斬り飛ばす
其方は意外と落ち着いている様だが、そうでもないのか

成る程。では手並みを拝見としよう
洗い浚い吐き出させて遣るといい


鎧坂・灯理
【堅志】☆
なるほど。一変するとは本当らしい 外見の廃墟っぷりからは想像も付かんな
黄昏……黄昏、黄昏、ね こういうことが起きるのは大体夕暮れだ
「逢魔が時」って奴でしょうか。どう思われますか、鷲生殿?

ああ、あれが……っ、鷲生ッ!?
失礼、呼び捨てました 見事な両断ですね
ついでに、そっちの影の手首も切って頂けませんか?
愛するつがいたちを斧で殴りつける私の影のを
「落ち着いている」? ふふ――我慢を、覚えたもので

鞄からひもを出して縛り付け【交渉】開始
事件に関することを教えてもらおう
安心しろ、話すまでは死なせない
――はらわた煮えくり返ってるんだ
地獄を見せてやる 苦しんで死ね



 なるほど――確かにその廃病院は、怪異の噂が語られるに相応しい場所のようだった。ひび割れたコンクリートに絡まる蔦、窓硝子はあちこちで割られて見る影もない。
「……それが、こうも一変するとは。外見の廃墟っぷりからは想像も付かんな」
 午後4時44分になるのと同時、扉を開いて院内に潜り込んだ鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)は、視界を埋め尽くす夕陽の眩しさに目を眇めつつ、そっと息を吐く。
「逢魔が時……誰そ彼とも言うか」
 病的なまでに白い廊下を染め上げていく、その陽射しに照らされる中で――鷲生・嵯泉(烈志・f05845)も改めて辺りを見回しているようだったが、眩しくも何処か儚い黄昏のひかりは、忍び寄る影を更に色濃くしていくばかりのようだ。
「黄昏……黄昏、黄昏、ね。こういうことが起きるのは大体夕暮れだ」
 ――輪郭は見えるのに。嵯泉の貌に影が射して、その表情がよく分からない。誰そ彼かと灯理が呟き、怜悧なまなざしを彼方へ向ける。
「……『逢魔が時』って奴でしょうか。どう思われますか、鷲生、殿……ッ?」
 問う声は、疑念ののちに驚愕へと変わった。此の手の怪異ならばよく有る話だと、嵯泉も言っていたではないか。何れにせよ、何者か解らぬ相手に出遭う時だと――。
「ああ、あれが……っ、」
 行く手で震えている小さな影。夕陽を受けてぎらぎら輝くのは、彼の持つ斧の刃だろうか。その子の淡い琥珀の髪に飛び散った朱が、複雑な斑模様を描いていって――ゆるゆると足元へ視線を巡らせれば、同じくらいの年の子どもが、血だまりに沈んでこと切れていた。
 ――ああ、灰色の。色違いの瞳をした。
「鷲生ッ!?」
 呼び捨てにして叫んでしまったのは、彼が余りにも速く――そして全く躊躇も無く、手にした刀で子どもの首を刎ねていたからだった。『それ』を認識した瞬間、理解するよりも考えるよりも先に身体が動いたのだと言う嵯泉は、そのまま返す刀で子どもの肉体を断った後、荒々しく深呼吸をして心を落ち着かせる。
「――っ、すまん」
「失礼、呼び捨てました。……見事な両断ですね」
 くぐもった音とともに白壁に飛び散っていく朱を見つめながら、それでも首を強く振って残滓を払うようにして。構わん、と生真面目に応えた嵯泉に向けて、灯理はついでに己の影も斬って欲しいのだと乞いつつ、拘束用の紐を取り出していた。
「そっちの、……手首を切って頂けると」
「手だけで良いのか。逃げられん様にした方が良かろう」
 ――そう、まだ影は居る。愛するつがいたちを斧で殴りつけている、幼い灯理の影が。そんな、隣にある顔によく似た『それ』の手足を一気に斬り飛ばした嵯泉は、顔色ひとつ変えずに彼女へ問う。
「其方は意外と落ち着いている様だが、そうでもないのか」
「『落ち着いている』? ふふ――我慢を、覚えたもので」
 直後、意志の力を用いて精一杯の笑みを浮かべた灯理は、身動きの取れなくなった自分そっくりの影を縛り付けて、力づくの『交渉』を開始した。
「安心しろ、話すまでは死なせない――はらわた煮えくり返ってるんだ」
 この事件、この怪異を作り出した元凶である、感染型UDCについて。どうやら嵯泉は、手並みを拝見とばかりに此方に任せる姿勢のようだ――好きにやらせて貰うとしよう。
「……地獄を見せてやる。苦しんで死ね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

照宮・篝
☆【神竜】まる(f09171)と

どこまでも伸びる、一本道の廊下
こういうものは大体、振り返ってはいけないのだけれど
…後ろから声がする
…私は大丈夫、私が焔なのだから
己に言い聞かせて、後ろを見る

生まれた時からこの形であった私が、少女の姿になって
返り血に塗れながら、あれは、…まる…!
斧を振り下ろしているのは己なのに、死んでは嫌だと、眠っては嫌だと声をかけたり、頬を叩くのは
…意識を、保たせるためか
腹を裂くのは、心の内を見るためか
なんと惨い、なんと…それを、幼い私の手で…!
やめろ、やめるのだ、まるが死んでしまう!
まるは…この私のものだ!!

抱き締めてくれる腕に、正気を取り戻す
まるは…誰にもやらない…


マレーク・グランシャール
☆【神竜】篝(f20484)と

長く白い病院の廊下の向こうに見えるのは子供の自分
いっそ殺して食べてしまえばいつまでも一緒にいられる……
そう思ったことを罰するように、愛する女の前で自分の頭を割っている
想いの行き場を無くしたのなら、自分へと振り下ろすしか無いのだから

「かがりは決して傷つけない」
何時かした誓いは今はもう呪いでしかなくなって、その光景は恐怖よりも悲しみとして心に広がるのだろう

だけど悲鳴が聞こえて隣を見れば、愛する女が怯えている
戦いで流す俺の血が、彼女の中に恐怖の一滴となって染みこんでいるのだろう
俺はここにいるぞと抱きしめて彼女を怪異から呼び戻す
そうすると不思議と俺もまた悲しみを忘れるのだ



 ――等間隔に開かれた窓から、静かに射し込んでくるのは黄昏のひかり。ゆらゆらと白い世界を染め上げていくそれは、黄泉の国に漂う灯りのよう。
(「……どこまでも、伸びていく」)
 誰彼病院に足を踏み入れた、照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)の前には、一本道の廊下が延々と続いていた。どれくらい歩いたのか、時間の感覚さえ分からなくなるなかで、隣に居るマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)の存在だけが確かなものであり――彼が一緒だから、己を見失わずにいられるような気がした。
(「こういうものは大体、振り返ってはいけないのだけれど」)
 黄泉路を越えて地上へと向かう恋人たちの神話を、其処でふと思い出した篝の手の中で、魂籠の錫杖がからりと揺れる。死者の誘う声に耳を傾けてしまえば、魂が囚われて二度と戻れなくなる――そんなことに想いを巡らせる内に、本当に彼女の後ろから声が聞こえてきたのだった。
(「いいや……私は大丈夫、私が焔なのだから」)
 ――如何なるものも光に受け容れるのが、泉照の神だ。己にそう言い聞かせて後ろを振り向いた篝はその時、マレークの傍に置いていた手を、ほんの一時離してしまったのかも知れない。
「あれは、」
 マザー・グースの童謡が聞こえてくるなかで、篝は見てしまった。神である彼女にとって、生まれた時から姿を違えぬ筈の肉体が――幼い少女の姿を取って、返り血に塗れていたのを。
(「死んでは嫌だ、眠っては嫌だ」)
「……まる……!」
 ――そう叫んで斧を振り下ろす相手が、失いたくないと願うマレークであったのを。そんな彼に声を掛けて、頬を叩いて。何とか意識を保たせようとしている幼い篝は、少しでも苦痛を長引かせようと駄々をこねているみたいにも、見えてしまって。
「なんと惨い、なんと……それを、幼い私の手で……!」
 震える手を握りしめ、必死にかぶりを振る篝の向こうでは、マレークもまた幼い自分の幻影に囚われていたのだった。
(「いっそ殺して食べてしまえば、いつまでも一緒にいられる……」)
 無限に続く白い廊下で、愛する女性を前にした子どものマレークも、そんなことを願ったのだろう。喪失と孤独――満たされない想いは、空腹にも似ていたから。だから喰らって、己の血肉と化してひとつに溶けあえば、この想いは満たされるのだと。
(「……違う」)
 ――それは決して抱いてはいけない考えで、ならば自分を罰するしかないとマレークは思っていた。想いの行き場を無くしたのなら、自分へと振り下ろすしか無い。愛するひとの前で、己の頭を叩き割るくらいの覚悟を『本当の』マレークは持っていたのだから。
「……かがりは決して傷つけない」
 尚も斧を振り下ろそうとする幼い自分を斬り伏せ、これ以上彼女の肉体を辱めることが無いように、何度も何度も叩き潰す。呪いと呼ぶに相応しい誓いを口にしつつ、マレークが顔を上げたその時――突如、篝の悲鳴が聞こえてきて後ろを振り向いた。
「やめろ、やめるのだ、まるが死んでしまう!」
 腹を引き裂き、心の内を見ようとする幼い自分の姿にぼろぼろと涙を流しながら、それでも篝は悪夢のような幻影と向き合い、大切なひとの名前を叫ぶ。
「まるは……この私のものだ!!」
「――……っ」
 ふわり、と。強く彼女を抱きしめてくれた腕は、まぼろしなんかじゃない。戦いのなかで流した血の一滴さえも、今は恐怖よりも先に、ふたりがここに居ることをはっきり教えてくれた。
「俺はここに、いるぞ……」
 そう言葉にすることで、マレークの心に積もっていた哀しみも淡雪のように溶けていくと――正気を取り戻した篝の指先が、慈しむように何度も彼の輪郭をなぞってひたむきな想いを伝えてくる。
「ああ、まるは……誰にもやらない……」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

月守・ユア

大切な人…か
僕だと妹だろうな
美しい歌を紡ぐ僕の双子
生まれた世界に忌まれる僕を唯一愛してくれた神様

1人の子供と目が合う
アレは…と理解した時
子の斧を打ってた
今しがた考えていた愛しき姿を

子を見ると
ソレは嗤ってた
頬に涙を流して

ほら
これで安心
殺してしまえば
何も怖くないよ

それは僕が隠してきた願いだ
失うのが怖い
なら
殺せば恐怖なんて…
…心臓が煩く響くのを感じた

子が再度斧を振り上げた刹那
呪花を突き刺す

恐怖はなくなるだろう
でも
僕は臆病なんだ
失う方が怖くて
彼女だけは殺せない

否、殺せるわけない
この罪深い命を赦してくれた僕の神を
殺戮以上に愛しているから

リジー
素敵な物をありがとう
お礼に
今、君を打ちに行くよ
待っていて…?



(「大切な人……か」)
 ――昼と夜のはざまに漂う、儚い時刻。夕闇に浮かぶ白い月みたいな髪をさらさらと揺らして、月守・ユア(月夜ノ死告者・f19326)が病院の廊下を歩いていく。
(「僕だと妹だろうな」)
 月守の名のもと神を祀り、美しい歌を紡ぐ双子のかたわれ。忌人とされて、生まれた世界に疎まれるユアを――唯一愛してくれた、神様だ。
「アレは……」
 そんなことを考えていたから、その子どもと目が合ってしまったのだろう。夕陽にてらてらと輝く紅い絵の具を辿っていった先で、斧を構えていたその子。
「ほら」
 ――嗤っている子の頬には、涙の筋が幾つもあって。今しがた考えていた愛しき姿が、紅に染まって見えなくなるなかで、ユアは唇を吊り上げうっとりと微笑んでいた。
「これで安心。……殺してしまえば、何も怖くないよ」
 そう――それは、彼女がずっと隠してきた願いのかたち。失うのが怖い。それは自分の知らないところで、突如として誰かの命が絶たれてしまう恐怖だ。
(「なら、殺せば」)
 ――自分の手で命を絶つのだと、最初から分かっていれば。どくどくと心臓が、煩いくらい耳元で響くのを感じながら、ユアは子どもが再び斧を振り上げるのをじっと見つめていた。
(「――ああ、恐怖はなくなるだろう。でも」)
 刹那、もう一人の自分の胸にするりと吸い込まれていった呪花の刃が、まぼろしの命を喰らって銀色の薔薇に変わる。
「僕は、臆病なんだ……失う方が怖くて」
 更に深く疵口を抉り、溢れ出す血飛沫を指でなぞりながらユアは呟く――彼女だけは殺せない、と。
「否、殺せるわけない」
 微笑みのなかで己の心に刃を突き立てるユアは、改めて感じたのだ。自分はこの罪深い命を赦してくれた僕の神を、殺戮以上に愛している――。
「リジー、素敵な物をありがとう」
 やがて、霧が消えていくように見えなくなったまぼろしの向こう――長い廊下の先に浮かび上がった、無機質な扉を認めたユアは、血の染みひとつ無くなった刃を鞘に納めて歩みを再開する。
「お礼に、今、君を打ちに行くよ」
 ――待っていて……?

成功 🔵​🔵​🔴​

榎本・英
花世(f11024)



何が出ても可笑しくない場所だね。
実に綴りがいのある空気
――花世?

君の視線の先に何かがいた。
嗚呼。あれは幼い私の姿。
相変わらず可愛げのない。
君には違うものが見えているのだろう。
何も言わない君から再び幼き日の私を見た。

見慣れた獲物。その刃の先にいるのは
あかの似合う君。ぬくもりを灯した君。
牡丹一華がぽたりと落ちて、此方を見る。

心の奥にある衝動のままに切り刻む幼い私
疼く。殺人鬼としての衝動を抑え、抗う。
これは、何の冗談だろうね。
いくら私でも、嗚呼。駄目だよ。


花世、奇遇だね
私も君の拳が欲しかった所さ
さて、君の拳と私の刃を交換しようか
腹にとびっきりの一撃を頼むよ

こんな悪夢は終いだ。


境・花世

英(f22898)と

紅い髪した見知らぬ子どもが、
がしゃりと割ったあれはなんだろう
世界でいちばん輝かしい彩をした、
あのひとの破片、首が落ちた

ああ、そんなに穏やかな顔をして
とうとう叶えてしまったの
わたしより先に逝きたいだなんて我儘を

――だめだよ、

転げた首を恋うるように撫でて、
手にした裁曄で己の喉も突き刺そう
傍にいたい、一緒にいきたい、
絶対にきみをひとりにしない

けれど血まみれでも死ねない躰
傷口を蔓が塞ぐ感触が気持ち悪くて、
意識は現へと引き戻されていく

英、もっと切れる刃物を持ってない?

きっと情けない顔で笑ってみせて
お礼にとびきり痛くしてあげる
だからこれは悪いゆめに過ぎないと
お願いだから、教えてよ



 物語はまだ続く。黄昏の校舎から誰彼の病院へ。ああ此処も、何が出ても可笑しくない場所だと――文字を綴るみたいな衣擦れの音を立てて、榎本・英(人である・f22898)のストールが夕闇に踊る。
「――花世?」
 夕陽が射し込む窓と窓の間、白い廊下の暗がりに立ち尽くしたままの、境・花世(はなひとや・f11024)。そんな様子のおかしい彼女に向けて、ふと声を掛けた英も其処で異変に気付き、眉根を寄せた。
(「視線の、先……何かが」)
 ――紅い髪した、見知らぬ子どもが。花世の唇が形づくるのは、そんな言葉のようだったけれど。
(「嗚呼。あれは――……」)
 英の瞳に映るのは、幼い頃の自分の姿だったのだ。相変わらず可愛げのない――思わず口をついた言葉も、隣の彼女には果たして、聞こえていたのかどうか。
 ――がしゃり。
 まぼろしにしては余りに鮮やかな音を立てて、白い壁に飛び散る赤い絵の具。椿の花がぽとりと落ちるみたいに転がっていくのは、世界でいちばん輝かしい彩をした――あのひとの、破片。
(「ああ、そんなに穏やかな顔をして」)
 斧を手にして、首を落として。手毬みたいにころころと転がる首は、花世の足元までやって来たところで漸く動かなくなった。
(「とうとう叶えてしまったの」)
 愛しいそれを拾い上げて、恋うるように撫でながら――わたしより先に逝きたい、そんな我儘を叶えてしまったかけらを見つめながら、裁曄の刃を握りしめる。
「――だめだよ、」
 続く言葉が不意に途切れたのは――躊躇うこと無くその刃で、己の喉を突き刺したから。あたたかい血が溢れて首の紅と混ざり合って、遠ざかっていく意識のなかで花世はただ願い続ける。
(「傍にいたい、一緒にいきたい、……絶対にきみをひとりにしない」)
 ああ、きっと――彼女には違うものが見えているのだろう。幼き日の自分と対峙する英もまた、『それ』が大切な存在を、自らの手で殺していく光景を目にしていた。見慣れた得物を手に、刃の先にいるのは、
(「あかの似合う君。ぬくもりを灯した君」)
 どんな文字で綴ろうか、そんなことに想いを巡らせてしまうのも、心の奥に巣食うどす黒い衝動と同じくらい罪深いことだ。そんな殺人鬼としての衝動を抑えて、必死に抗っている英を嘲笑うように、子どもの幻影は大切なひとを切り刻んでくすくすと笑っていた。
「……これは、何の冗談だろうね。いくら私でも、嗚呼」
 ――ぽたり、と落ちた牡丹一華が此方を見て、何か言いたげに唇を震わせる。
「駄目だよ」
「……英、」
 その時、鼻をくすぐった血のにおいは、まぼろしなどでは無くて。ふと英が声の方を振り向いてみれば、血塗れで立ち尽くす花世が、何でもないような素振りで手を伸ばしていた。
「もっと切れる刃物を持ってない?」
「奇遇だね、……私も、君の拳が欲しかった所さ」
 生命の埒外にある存在ゆえに、この位では死ねないから。今も疵口を塞いでいこうとする、蔓の感触が気持ち悪かったけれど――それでも、意識が現へ引き戻されていくのは救いだった。
「腹にとびっきりの一撃を頼むよ」
「なら、お礼にとびきり痛くしてあげる。だから」
 情けない顔で、それでも笑ってみせるから。だから、これは悪いゆめに過ぎないのだと。
「お願いだから、教えてよ……」
 ――拳と刃を交換して、こんな悪夢は終いにしよう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

オスカー・ローレスト
【SPD】
【アドリブ歓迎】

……【目立たない】ように気配を殺して……【忍び足】で、子供達に近寄って【聞き耳】を立てる……彼らの言葉から、なにか、分かるかも、しれない、し……

万が一目が合ってしまったら……【逃げ足】と【雀躍】で、逃げる、よ……

……あの時も、こんな風に、気配を殺し、て……
(殺したくないと泣きながらめったうちにする彼らを見て、過去の光景がフラッシュバック

俺だって、殺したくなかった……逃げて欲しくて、わざと外して、誘導して……けど、オウガに見つかって、今度は、羽を捥ぐだけじゃ、すまないって……怖くて、痛くて……俺、は

ごめんよ、ごめんよ……俺が、全部、悪いん、だ……ごめんよ、アリス……!



 何処までも続く白い廊下は、お伽噺に出てくる教会に似ていた。王子様とお姫様が結婚式を挙げる、ハッピーエンドの舞台――否、此処は、誰かの死を悼む悲劇の舞台のほうが相応しい。
(「……考えないように、しないと」)
 ぶるぶるとかぶりを振ったオスカー・ローレスト(小さくとも奮う者・f19434)は其処で、喪服の裾を引きずるようにして物陰に身を隠した。
 ――目立たないように、気配を殺す。暗い森のなかで息をひそめるように、あくまでも背景のひとつとして、何食わぬ顔で紛れなくてはならない。
「……っ、ぴ!?」
 それでも、急に聞こえてくる歌や子ども達の声は心臓に悪く、オスカーは小鳥みたいに震えながらそろそろと影の傍へと近寄っていった。誰彼病院の噂通りに、何かをめった打ちにしている子どもの幻影――機械的に斧を振り下ろすその姿は、決して望んでのものでは無くて、何者かに強制されているようにも見える。
(「なにか……話、してる……?」)
 そうして、切れ切れに聞こえてくる声に耳をそば立てたオスカーだったが――次第に、その薄布越しの表情がいろを失っていった。
(「殺したくない、ころしたくないのに!」)
(「ゆるして、もう助けてよ」)
(「いつになったら終わるの。なんかいころせばいいの」)
 おかあさんおとうさん――ああ、なんでなんでごめんゆるしてころすころす殺す殺し殺殺殺ころこここ――!
「……!!」
 ――寸前で悲鳴を呑み込み、目を合わせることだけは避けたオスカーの眼前で、景色が歪む。殺したくないと叫びながら殺しを強いられる彼らと、過去の自分が重なって頭が真っ白になっていった。
(「……あの時も、こんな風に、気配を殺し、て……」)
 ずきずきと痛み出した背中の痕に手を当てたオスカーは、一刻も早く子ども達の影から離れようと、震える足を必死に動かす。
(「俺だって、殺したくなかった……逃げて欲しくて、わざと外して、誘導して……」)
 ――過去の自分を支配していた、恐ろしいオウガみたいな存在が、あの子ども達にも居たのだろう。そうして、上手く出来なかったら罰を与えられるのだ。今度は羽をもぐだけじゃすまないと脅されて、繰り返し恐怖と痛みが襲ってきて。
「ごめんよ、ごめんよ……俺が、全部、悪いん、だ……」
(「ごめんなさい、ゆるしてたすけて」)
 そんなオスカーと子ども達の声がわんわん反響して、黄昏の病院を何処までも震わせていった。リジー・ボーデンみたいに斧を持たされて、望まぬ親殺しを強いられた子ども達。そんな狂気が、何かを齎してくれるのだと――そう信じたものが、怪異を生んだ。
「ごめんよ、アリス……!」
 ――ごめんなさい、お父さん。お母さん。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャスパー・ドゥルジー

影の群れに見る幻想は
魔竜の角も羽も尻尾も持たない無力なガキ
ガキが滅多打ちにしているのは
誰よりもしあわせにしたい、俺の"Angelus"

ああ、莫迦なガキだ
零す笑みは失望に歪んでいた事だろう
何十回打ってもそいつは死なねえよ
殺せるなら良かったのにな
――そしたら一緒に逝けたのに

天使の青い血が辺りを満たしてる
振り向いた『影』は俺が燃やしてやるよ
ゲヘナを滾らせながらふと思う
俺は誰に怒っているんだ
あのガキか?この状況を造り出したUDCか?
それともガキに少しでも感情移入した自分にか?

心のどっかで望んでる
奴の死を
先に逝く俺が、奴をひとりぼっちにさせないように
酷い"悪魔"がいたもんだよな、本当によ



 ――傾く陽射しを受けてゆっくり伸びていくのは、おどろおどろしい輪郭をしたジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)の影。お伽噺に出てくる悪物じみた、邪悪な竜みたいな角と羽を伸ばして、黄昏の病院を我が物顔で進んでいく。
「……ああ」
 そうして行く手に現れた小さな影は、彼のシルエットとはまるで違う、ほんとうに無力な姿をしていた。角も羽も尻尾も持たない、ただの子ども。
「莫迦なガキだ」
 そんな幼い頃の幻想と向き合うジャスパーが、歪んだ笑みを零してみせたのは、ただ純粋な失望からだった。彼が滅多打ちにしている相手は、誰よりもしあわせにしたいと願う――。
「『Angelus』……何十回打っても、そいつは死なねえよ」
 赤、ではなく青い血が、壁一面に飛び散って。それなのに泣きべそをかいたままのガキに――己を滅多打ちにしている相手に、そいつが愛嬌たっぷりに笑って見せる姿が、ありありと想像できた。
「……殺せるなら、良かったのにな」
 きっと、本気で殺そうと思っても、ほんとうの意味で殺すことなど出来やしないのだ。天使が鳴らした祝福の鐘みたいに、ジャスパーに大切な『なにか』を齎してくれた存在。
(「――そしたら一緒に逝けたのに」)
 鬼だ悪魔だと嘯く自分が、些細だけれども余りに困難な、ただの人間みたいな夢を抱いてしまえるほどに。青白い皮膚の下で煮えたぎる、ゲヘナの紅を解放したジャスパーは、他人ごとのような痛みを感じながらとりとめのないことを思う。
(「……俺は誰に怒っているんだ」)
 ――あのガキのまぼろしにか。この状況を作り出した怪異にか。それとも。
(「ガキに少しでも感情移入した、自分にか」)
 焼き尽くされた幼い影が、白い壁に煤を残して見えなくなっていった頃、ジャスパーは漸くゲヘナを鎮めて歩みを再開した。
(「心のどっかで望んでる、……奴の死を」)
 それは、先に逝く自分が――奴をひとりぼっちにさせたくないと願う、余りにも利己的な感情から来るものだったから。
「……酷い『悪魔』がいたもんだよな、本当によ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
☆【探偵達】
……おいおい大丈夫かよ
苦笑しながら匡の背を強く叩き
マリーの頭を優しく撫でる
私はここにいるよ
こんなとこ、さっさと出ようぜ

私にも見えるけどさ
血に沈む眼帯、臥した琥珀色
まだ泣ける時分の私が
いっとう大事な私の光――盟友を殺すさま
でも慣れてる
呪詛の悪夢を毎晩見るもんで
幻に動かしてやる心は擦り切れた

喪うのは怖いさ
だから家族も友達も私が守る
二人が見てる光景も、この惨状も
私が灰になってでも、現実にはさせない
……あいつの赤は、生きてる目の綺麗な色が良い
ま、あいつが私なんかに殺されるとも思わねえけど

今は二人の心を守ろう
名前を呼んで笑って
手招きをしてやる
真犯人に、悪趣味な幻の礼を叩きつけてやらねえと


ヘンリエッタ・モリアーティ

【探偵達】
――なにしてるの
大切なひとはいっぱいあったわ
でもみんな死んでしまう
「君を愛しすぎて死んでしまったよ、マリー」なんてマダムは言ったけど
私は――これっぽっちも愛されている気がしなかった
王子様はみんな、知らないうちに殺してしまって

でも、やっと
――死なないでいてくれるひとが、できたって
思って て

ああ、あ、

ティーンの頃の私の顔
そうそう、すごく気持ちいいのよね
私がずっと愛してたのは「悲劇のヒロインである私」だもんね
でもダメ、もう、だめよ
――クセになっちゃったら、困るの
真っ赤な「あなた」も綺麗で大好きよ
私の旦那様、「わたしたち」の奥さん
兄様はどこ?きょーくん、は?
私、今はちゃんと「黒い」?


鳴宮・匡
☆【探偵達】


幼い自分の足下には、血に沈む藤色
見開かれた紅いひとみには、虚ろだけが宿る
思わず引き金に指をかけようとして
背を叩かれた衝撃で我に返る

――ごめん、大丈夫

もう動かない“彼女”へ、それでも執拗に斧を叩きつける
それはまるで、何もかもを“なかったこと”にしていた自分みたいだ

“彼女”や、隣にいる親友、その弟妹たち
ここにはいない相棒や、友人たち
自分を変えてくれた多くのものに出会えなかったら
きっと、自分はこうなっていたんだろう

もう、訣別した可能性だ
二度と自分は“そうはならない”
今また、それを自分の中に銘記する

悪かった、ニル。もう問題ない
……大丈夫だよマリー、ここにいる
お前も、ちゃんといつもの通りだよ



 推理小説なんかでは、よくある展開だと思っていた。真相に近づき過ぎて、殺される探偵役。ホラーでも同じか――調べれば調べるだけ、より絶望を思い知らされて狂気に落ちていく。
(「……あれは」)
 凪のなかに居ることを選んだ筈の、鳴宮・匡(凪の海・f01612)の目の前では、幼いもうひとりの自分が斧をぶら下げて佇んでいた。
(「見ては、駄目だ」)
 その、足元――血に沈む藤色の髪には、見覚えがある。見開かれたひとみの紅も。けれどくるくると愛らしく動く筈のそれには、今は虚ろだけが宿っていて。『彼女』をこんな目に遭わせたものの正体を知った匡は、咄嗟に銃の引き金に手を掛けていた。
「……おいおい、大丈夫かよ」
 ――苦笑交じりに投げかけられる声と同時、背中を叩いた強い力に、匡は何度か瞬きをしてから漸く我に返る。
「――ごめん、大丈夫」
 酷く冷たい銃の感触を確かめながら、ゆるゆると匡が顔を上げた傍では、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が、ヘンリエッタ・モリアーティ(円還竜・f07026)の頭を優しく撫でているところだった。
「――なにしてるの、大切なひとはいっぱいあったわ」
 焦点の合わない瞳で、白い廊下の向こう側を見つめ続けている彼女も、匡が見たようなまぼろしに捕らわれているのだろう。
「でもみんな死んでしまう。……『君を愛しすぎて死んでしまったよ、マリー』なんて、マダムは言ったけど」
 きっとヘンリエッタだって、自分が引き裂かれてしまいそうな苦しみを味わっている。ひとつの身体に複数の人格を宿しているぶん――其々の喜びや、痛みがある。
「私は――これっぽっちも愛されている気がしなかった。王子様はみんな、知らないうちに殺してしまって」
 マリーと言う名のきょうだいは、ヘンリエッタの人格のなかでもより女らしく、情の深い性格をしているらしい。己の過去を語る彼女の姿は、悲劇的でありながらも――まるで上質なお芝居を見ているような、うつくしさと心地良さも感じられて。
「でも、やっと――死なないでいてくれるひとが、できたって、思って、て」
 あ、ああ、あ――泣き崩れるヘンリエッタの、ふわりと跳ねた黒髪を撫で続けながら、ニルズヘッグは何度だって大切ないもうとへ声を掛ける。
「私はここにいるよ、……まぁ私にも見えるけどさ」
 ふ、と遠い目をして病院の廊下を見つめる彼もまた、先ほどから『リジー・ボーデン』の幻影に苛まれているらしかった。血に沈む眼帯と、臥した琥珀色――まだ泣ける時分の幼いニルズヘッグが、いっとう大事な己の光を、盟友を殺すさまを見せられているのだと。
(「でも、慣れてる」)
 生者と死者の呪詛を操る身であり、毎晩のように悪夢だって見る。まぼろしに動かしてやる心は、とうに擦り切れたのだとニルズヘッグは言った。
 ――慣れている、でも喪うのは怖い。だから家族も友達も、自分が守る。
(「二人が見てる光景も、この惨状も。私が灰になってでも……現実にはさせない」)
 それに――『あいつ』の赤は生あるまなざしの、綺麗な赤のほうが良いから。そもそも、自分なんかに殺されるような奴ではないのだ。
「……マリー、匡」
 だから、今は二人の心を守ろう。名前を呼んで笑って――そうして手招きをしてやる。
「こんなとこ、さっさと出ようぜ。真犯人に、悪趣味な幻の礼を叩きつけてやらねえと」
 自分の前に立つ、ティーンの頃の姿をしたもうひとりの『私』――愛するひとを自らの手で殺し続ける彼女に、ヘンリエッタは精一杯の別れを告げる。
 そうそう、すごく気持ちいいのよね。私がずっと愛してたのは『悲劇のヒロインである私』だもんね。ああ、真っ赤な『あなた』も綺麗で大好きよ。私の旦那様、『わたしたち』の奥さん――。
(「でもダメ、もう、だめよ――クセになっちゃったら、困るの」)
 その一方で匡のまぼろしは、今も執拗に斧を叩きつけているようだった。もう、動かないのに――それはまるで何もかもを『なかったこと』にしている自分、そのもののようで。
 ああ、『彼女』や、隣にいる親友――その弟妹たち。ここにはいない相棒や、友人たちも。そんな、自分を変えてくれた多くのものに出会えなかったら、きっと自分はこうなっていたのだろう。
(「だが、もう……決別した可能性だ」)
 ――二度と、自分は『そうはならない』から。今またそれを自分の中に銘記した匡は、誰彼の牢獄から黄昏の病院へと戻ってきたのだった。
「……悪かった、ニル。もう問題ない」
 親友に頷き、不安そうに辺りを見回すヘンリエッタの手を取って、自分が確かにここに居るのだと確かめてから深呼吸をする。
「兄様はどこ? きょーくん、は? ……私、今はちゃんと『黒い』?」
「……大丈夫だよマリー、ここにいる」
 ――お前も、ちゃんといつもの通りだよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

泣き叫ぶ子供が「何か」を斧で滅多打ち…想像するだに随分と悪趣味でスプラッタねぇ。
…触らぬ神に祟りなし、とは言うけれど。現状何も情報無いわけだし、ここは〇情報収集のリスクを負う局面かしらぁ?

…とはいえ、あたしも叩き割られたいわけじゃないし。話を聞くのは無力化してからのほうがいいわよねぇ。ソーン(茨)やニイド(束縛)で拘束すればいいかしらぁ?
あとは、ラグ・アンサズ・ユル――「浄化」の「聖言」で「悪縁を断」って、●絞殺で何か聞き出せたらいいんだけど。

(うーん…この状況、喜ぶべき、なのかしらぁ?どうなんだろ。
…「大切な人」なんてあたしにはいないってのは。)


加々見・久慈彦
虎穴に入らずんば虎子を得ず……いや、虎穴に入るために虎子を得ましょう。
シンプル・サイモンならば、尻尾に塩をかけようと試みるところですが、私はもう少し荒っぽいやり方でいきますよ。斧を持ってる子供が襲いかかってきたら、UCで動きを封じて当身で気絶させ、拘束します。
目を覚ましたら、怪異の根源(オブリビオン)が病院のどこにいるのか聞き出します。
なにも知らなかった場合もしくは錯乱して話せるような状態でなかった場合、また眠ってもらいます。今度は当身ではなく、耳元で静かに語りかけることで(【催眠術】)。
「……殺したくない? 大丈夫、大丈夫。もう誰も殺さなくていいですよ」


※煮るな焼くなとご自由に扱ってください



 それは巡る噂の、行きつく果て――マザー・グースの歌に誘われるように、誰彼病院のそこかしこで黒い影が生まれては泣き叫んでいる。
「……随分と悪趣味でスプラッタねぇ」
 影絵みたいに踊る影は、手にした斧を何度も振り下ろして、病院の壁に赤い染みを広げており――その想像通りの光景を確かめた、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は、細い目を益々細めて溜息を吐いた。
「触らぬ神に祟りなし、とは言うけれど」
「ふむ、虎穴に入らずんば虎子を得ず……いや、虎穴に入るために虎子を得ましょう」
 凄惨な殺人現場に似つかわしくない、ティオレンシアの酷く甘い声に応えたのは、何処か気取った様子の加々見・久慈彦(クレイジーエイト・f23516)である。
 ――包帯を巻いた頭の一部が、めらめらと燃えている彼の姿は、マザー・グースに出てきてもおかしくはないだろうと思いつつも。現状は何も分かっていないのだ、久慈彦の言う通り情報収集のリスクを負う局面だろうと、ティオレンシアは思考を切り替えた。
「……とはいえ、あたしも叩き割られたいわけじゃないし。話を聞くのは、無力化してからのほうがいいわよねぇ」
「ええ、虎子を得る……シンプル・サイモンならば、尻尾に塩をかけようと試みるところですが」
 シンプル・サイモン――それもまた、わらべ歌のひとつであった筈。間抜けな子どもの笑い話を例えに出した久慈彦だったが、荒事にも馴れたふたりの行動は早かった。
「はぁい、こんにちはぁ」
 ――虚ろな影と、目が合ったと思った直後。ルーンが刻まれた銃弾を、続けざまに撃ち出したティオレンシアの後ろでは、久慈彦がスーツの袖口から無数のトランプを放って、襲い掛かろうとする影の視界を遮っていた。
「ソーンやニイドで、拘束して……と」
 茨、そして束縛のルーンで念入りに子ども達の動きを封じてから、辺りに漂う瘴気も祓っておくことにする。
「ラグ・アンサズ・ユル――『浄化』の『聖言』で『悪縁を断』って」
 そうして、未だ斧を振り下ろす機会を窺っている子どもへは、久慈彦が当て身を食らわせる一方で――ティオレンシアは会話が成立しそうな子を探して、怪異の根源についての情報を聞き出そうと試みていた。
「……りじーぼーでん、この先で待ってるの」
「リジー? それって歌の?」
「歌、ずっとずっと聞かされてた。殺せっていうの。歌みたいに、お父さんとお母さん。なんかい殺せばいいのかな」
 ――うーん……と、何とも答えづらい質問をされたティオレンシアは、曖昧な笑みを浮かべて首を傾げる。この子にとっての父親と母親みたいに、もし『大切な人』が自分に居たら、その人を殺し続けるまぼろしに苛まれていたのだろうか。
(「喜ぶべき、なのかしらぁ?」)
 そんな人は、ティオレンシアには居ないけれど――純粋な愛情を注いでもらったであろう子ども達は、その相手に斧を叩きつけることを強いられて、ゆっくりと異形に変わっていったのだと言う。
「ぼくたち、わたしたち」「の、にくしみが」「りじーになった。りじーぼーでんに」「わらべうた、のひとつに」「わすれられた……リジー・ボーデンに」
 ――ねえ。気が付けば子ども達の影は、縋るようにふたりを囲んで訴えていた。殺したくないよ、もう、殺すのは終わりにさせてよ。
「……殺したくない? 大丈夫、大丈夫」
 眠るように優しく、彼らの耳元に語り掛けるのは久慈彦だった。催眠術みたいに暗示をかけて、でも――その言葉が真実へと変わるよう、精一杯の祈りをこめる。
「もう誰も、殺さなくていいですよ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『忘れられたリジー・ボーデン』

POW   :    親殺しの憎悪
単純で重い【血塗れの斧】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    41回のめった打ち
自身の【有刺鉄線の両翼】が輝く間、【血塗れの斧】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    思い出す
自身の装備武器に【血塗れの有刺鉄線】を搭載し、破壊力を増加する。
👑11
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 ――真っ白などこかの部屋で、ずっとずっと歌が聞こえていた。
(「……リジー・ボーデン、斧を手にして」)
 耳にこびりついて離れないわらべ歌。親を殺した女の子。リジーになるんだよ、と誰かが囁く。
(「×××を、四十回めった打ち――……」)
 泣き叫んで、嫌だと言っても無理矢理、大好きなお父さんとお母さんを斧で殺す。本当のリジーはどうだったんだろう、殺したいほど憎かったのかな。
(「……我に返って、こんどは×××」)
 ――気づきたくない、自分が何をしたかなんて。溢れる血を血で洗い流して、無我夢中で斧を振り下ろす。
(「四十と一回、めった打ち――」)
 憎い、憎い――こんなことをさせた奴らが、憎くて憎くてたまらなかった。

 誰彼病院に漂う子ども達の影と向き合い、彼らの抱える絶望に触れて。無限に続くかに思えた白い廊下の果てで、猟兵たちは有刺鉄線に覆われた扉を見つけていた。
「この先で、待ってる……ねぇ」
 ――恐らく邪神を崇める教団の、施設か何かだったのだろう。広くうたわれる、リジー・ボーデンの伝承を現代に蘇らせようとする儀式。その名目で行われた、子ども達による親殺し。一体、どれ程の子どもが犠牲になったのかは知る由も無い、けれど。
「……でも、みんな居なくなった」
 心が壊れたか、己の肉体を壊したか。とにかく彼らは『ひと』では無くなった。そんな、名も無き子らの抱えた憎しみだけが凝り固まって『黄昏のリジー・ボーデン』と言う名の怪異へと変わっていった。
(「……リジー・ボーデン、斧を手にして」)
 ――擦り切れたレコードみたいな掠れた声で、幼い殺人鬼が歌をうたっている。その首から生えた翼は、有刺鉄線で雁字搦めになっていて、何処へも羽ばたくことは出来ないようだった。
「君は、本当のリジーじゃない。リジー・ボーデンであることを強いられた、ただの子ども」
 殺したくないよ、もう、殺すのは終わりにさせてよ。誰彼病院を彷徨う子らの、引き裂かれそうな心と同調した猟兵たちには理解出来ただろう。
 ――あれは、あの子達と同じ苦しみ。他人事なんかじゃない痛みであり、それを乗り越えて此処まで来た彼らなら、さよならを言える。
「忘れられたリジー・ボーデン……もう、うたうのはお終いだ」
 ――Good-bye, Mother Goose.


●第3章補足
第2章で『☆』プレイングを行った猟兵さんは、大幅にプレイングボーナスがつきます(血塗れの斧の威力が、大幅に減少するイメージです)
マレーク・グランシャール
【神竜】篝(f20484)と

親殺しの《リジー・ボーデン》となった子供は、親から何らかの虐待をされていたのではないだろうか
一方で親から愛されたいと願う心も
逃げたい、でも愛されたい
がんじがらめになった想いから逃れる方法は、自ら親を殺して因縁を断つことだけだから

斧の攻撃は篝が受け止めてくれるだろう
母親のように何度でも優しく
攻撃力強化を受けながら、俺も父親になったつもりで語りかけよう

お前の本当の願いはなんだ
斧を振り下ろすことに、苦しい、辛いと言っているようだ

子供の心を引き出せたなら本当の親の元まで送ってやるだけ
天国でなら辛い思いをすることもなく親と居られるだろう

【流星蒼槍】で苦しませず一気に送るぞ


照宮・篝
【神竜】まる(f09171)と

可哀想に…
あの幻影を見た時は、私も恐ろしかったけれど
あの幼い私も、本当はまるを打ちたくなどなかったのかな

君(リジー)も、もう誰も殺さなくていい
私は大丈夫だから…おいで、光の内へ(【遍泉照】)
止められない斧を、光の中で受けよう
私は動けないから、抱き締めることはできないけれど…両手を広げて、受け入れるように笑む
床が破壊されても、『女神の羽衣』で浮かぶぞ

『標の焔』で、彼女たちの本心に訴える
苦しいな。悲しいな。悔しくて、憎いのか。
もう大丈夫。苦しいことは、おしまいだからな。
往きたいところへ、迷わず逝けるように…明るく、温かく、照らし続けよう
(光をまるの力へと変え)



 ――忘れられたリジー・ボーデン。その名が示す通りに、照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)の元へ現れた怪異には、あるべき筈の顔が無かった。
(「可哀想に……」)
 個を失い、親殺しの『リジー・ボーデン』となった数多の怨念は、有刺鉄線で雁字搦めになった翼を――それでも懸命に動かして、白い部屋から飛び出そうとしている。
(「だが、私は……彼らの気持ちを知ったのだ」)
 誰彼病院で目にした幻影は、篝にとっても恐ろしいものであったから。愛するマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)が――まるが死んでしまうと、何度も叫んで首を振って、それでも幼い子ども達は殺し続けることを強いられたのだ。
「幼い私の幻影も、本当はまるを打ちたくなどなかったのかな……」
「ああ、逃げたい――でも、愛されたい」
 そんな女神が呟く言葉に同意したのは、硬質な響きを伴った竜の声だった。普段と変わらぬ表情の下で、マレークは『リジー・ボーデン』となった子らについて考えを巡らせる。
「想いが何処へ向かうのか、自分でも分からぬままに」
 複雑な感情を抱えた彼らのなかには、親から何らかの虐待を受けていたものも居たかも知れない。自己否定を繰り返し、いつしか憎悪を募らせ――その一方で、親から愛されたいと願う心も確かにあって。
「……そんな、がんじがらめになった想いから逃れる方法は、自ら親を殺して因縁を断つことだけだから」
 その象徴であるかのような、頭部の翼にそっと視線を這わせつつも、ふたりは襲い掛かる怪異へと真っ向から立ち向かっていた。
「リジー……いや『君』も、もう誰も殺さなくていい」
 ――甲高い鳥が啼き叫ぶような聲と同時に、振り下ろされるのは血塗れの斧。親殺しの憎悪を纏うその一撃は単純であるが故に重く、まともに受けようとすれば地形ごと砕かれてしまっただろう。しかし――。
「私は大丈夫だから……おいで」
 その直前、慈母のような微笑みを浮かべた篝の光に照らされて、斧にこびりついていた憎悪の塊が、瞬く間に掻き消えていった。
(「……光の中へ」)
 それは受容の光、希望の篝火――遍泉照の光に包まれる篝は、加護の代償に身動きが取れなくなっていたけれど。それでも彼女は両手を広げたまま、子を受け容れるように笑んでいた。
(「抱きしめることは、できないけれど……」)
 駄々をこねるみたいに振り下ろされる斧によって、白い床が叩き割られて瓦礫が舞うなかで、蛍火を纏う篝の羽衣が梅花の薫りを運んでくれる。
「苦しいな。悲しいな。……悔しくて、憎いのか」
 ふわりと宙に浮かんだまま、リジーの斧を何度でも優しく受け止める篝の姿は、まるで本当の母親のようで――ならば己も、父親になったつもりで怪異に向き合おうとマレークは決心した。
「お前の本当の願いはなんだ。お前は――斧を振り下ろすことに、苦しい、辛いと言っているようだ」
 ――ゆらゆら揺れる、標の焔。万物の篝火たらんとする意志を滲ませて、篝は忘れられた子ども達の本心に「もう大丈夫」と訴え続けている。
「苦しいことは、おしまいだからな。往きたいところへ、迷わず逝けるように……」
 明るく、温かく――照らし続けるのが自分の役目だからと頷いて、篝は遍泉照の光をマレークの力へと変えていった。
「……そうか、還りたいのか」
 その時、ふと。マレークの耳に、子どもの祈りが微かに響いてくる。もうこんなことはやめたい、お父さんとお母さんと一緒のところへ行きたい――そう、本当の親の元へ送ってやることが、彼らの心からの願いだと言うならば。
「ならば……天国でなら辛い思いをすることもなく、親と居られるだろう」
 ――苦しませず、一気に。父親みたいに子どもを送り出してやろう。そんな星を穿つマレークの流星蒼槍が、双頭の竜を伴ってリジー・ボーデンを貫き、蒼い稲妻を彼方へ散らしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
親を殺す、なんて
子どもに与えた精神の傷はあまりにも大きかったでしょう
それも愛していた両親を

……、これ以上
めった打ちにする必要はない
殺すのは終わりにしましょう

身体を液状化したり
体内UDCの蔓や蔦を利用しつつ
なるべくリジーの攻撃を回避

斧を振り切った隙に
リジーの斧の刃や有刺鉄線を蕩かし
『偽薬』に変えましょう
そのまま融け落ちた毒で
リジーの身体を包み込みます

あれが子ども達の思念が凝り固まったものだというのなら
たとえそれが負の残滓だとしても
あまり苦しませたくはない

眠るように逝けたなら

大丈夫
貴方は
もうリジーである必要はない

さあ
私の毒に溺れて下さい

――おやすみなさい



 愛されたい、愛したいと言うのはきっと、子どもならば無意識に願うことだ。ただ、それだけ――そんな一途な願いがあることを、冴木・蜜(天賦の薬・f15222)は知っている。
(「……親を殺す、なんて」)
 邪神を信奉する団体の思惑など、理解出来ない方が良いのだろう。愛するものを己の手で壊させ、そうして負った苦しみを糧とするような、悪意ある存在など――。
「……、これ以上、めった打ちにする必要はない」
 噛み締めた唇から、どす黒いタールが零れ落ちるのも構わずに、蜜は忘れられたリジー・ボーデンへ向けて蔦を這わせた。
「殺すのは、終わりにしましょう」
「ァ……、あ、アア……!」
 有刺鉄線が巻き付いた翼がぎしぎしと擦れて、甲高い悲鳴みたいな音を立てるなか――甘美な眠りを齎すようにして禁断の果実がリジーに巻き付き、その身体を一気に締め上げていく。
「もう……思い出さなくて良いですから」
 ――そんな、身動きの取れなくなった己の肉体ごと、血濡れの斧で叩き割ろうとでも言うのだろうか。絡まり合った有刺鉄線が、斧の切れ味を増していく瞬間を狙って、蜜は液状化させた指先をリジーの刃に滑らせた。
(「大丈夫、貴方は、」)
 とぷり、と零れた声までもが黒い液体になって溶けていき、輪郭を失った蜜のからだは偽薬に変わる。
(「もう、リジーである必要はない」)
 それは――無機物を毒に変え、望まぬ副作用を生み出すノーシーボ。リジーの握りしめた斧や、其処に絡み付く有刺鉄線までも蕩かしていく偽薬は、ゆっくりと融け落ちてリジー・ボーデン本体を包み込んでいった。
(「だから、どうか眠るように」)
 ――その身体が、子ども達の思念が凝り固まったものだと言うのなら。例えそれが負の残滓だとしても、あまり苦しませたくないと蜜は思ったのだ。
(「さあ、私の毒に溺れて下さい」)
 ――体内で蠢く『彼女』はきっと、偽善だと嘲笑うのだろう。しかし、紛い物の善意だって信じ抜けば、何時かはそれが真実へと変わるかも知れないのだ。
「――おやすみなさい」

大成功 🔵​🔵​🔵​

鎧坂・灯理
【堅志】
なるほど、なるほど……貴様は押しつけられただけの被害者だと
それは、実に「かわいそう」だが……それはそれ、これはこれ
あんなものを見せられて、全てを水に流して許そうとはいかんよ
相手が悪かったな 優しくないんだ、私たちは
滅殺だよ、オブリビオン

【人の見えざる手】でもう一対、思念力の手を生やし、
斧を白刃取りして固定する 思ったより軽いな?(二章☆)
本体の関節を大口径に変形した『朱雀』で撃ち抜き行動を制限
本当はこのまま地面が砕けるまで殴り続けたいが……私も大人だ、我慢しよう
お譲りしましょう 存分に怒りを晴らされるがよろしい

構いませんよ
ご存じでしょうが私は友人に甘いので


鷲生・嵯泉
【堅志】
見たくも無いものを見せて寄越した礼はせねばな
……御蔭で改めて思い知らされた
記憶の片隅にこびり付く光景を、首を振って振り払う

大切な者を手に掛けた狂おしい程の痛みの再現
何時迄も囚われ続けるのも憐れではある……早々に終わりにしてくれよう
今度は抑える必要は無い――確実に断つ

幾度其の斧を振るおうとも、かの“意志”の手を躱す事は出来まい
では其方の怒りごと後は引き受けよう
――剣骸刹狩
翼に絡む有刺鉄線、飛べぬ其の意と存在諸共に
怪力を加えた斬撃を以って絶ち切ってくれる
もう歌わずとも良い、疾く潰えろ

……鎧坂。私の見た幻――出来れば口外しない様に頼めるか
何れ知れるやもしれんが其れ迄は秘して置きたい
……助かる



 電脳探偵たる、鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)曰く――怪異とは大概、不条理なものである。因縁が絡む場合も時にあるが、被害を受けるのは偶々その場に居合わせただけの、赤の他人であることが多い。
「なるほど、なるほど……貴様は押しつけられただけの、被害者だと」
 血塗れの斧を振りかぶる、忘れられたリジー・ボーデンに向けて鷹揚に頷いた彼女は、憎悪に負けぬ程の意志を滾らせつつ、吐き捨てるように呟く。
「それは、実に『かわいそう』だが……それはそれ、これはこれ」
 ――そう、被害者意識と言うのが実に厄介だ。自分の受けた苦しみを、相手に与えることを正当化してしまえる。溺れるものが手を伸ばすように、生者を引きずり込んで破滅させることに、罪悪感すら抱かない。
 だから――灯理は、はっきりと線を引く。せいぜい憐れんでやって、己は己の選んだ未来へ進む。
「あんなものを見せられて、全てを水に流して許そうとはいかんよ」
「ああ……見たくも無いものを見せて寄越した、礼はせねばな」
 彼女の隣で微かに溜息を吐く、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)もまた、抑えきれぬ闘気を滲ませて刀に手を掛けていた。
(「……御蔭で改めて思い知らされた」)
 眼帯で覆われた片目の奥、記憶の片隅に今もこびり付く光景――それを首を振ることで振り払った彼は、血生臭い感触が今も残る手を、きつく握りしめつつ深呼吸する。
「大切な者を手に掛けた、狂おしい程の痛みの再現……か。何時迄も囚われ続けるのも、憐れではある」
 ――早々に、終わりにしてくれよう。鯉口を切る音からも伝わってくる嵯泉の苛烈さに、口の端を上げた灯理が念を飛ばし、襲い掛かるリジーの斧を迎え撃った。
「そう、相手が悪かったな。……優しくないんだ、私たちは」
 思念の塊を操って、強化し変異させる異能――人の見えざる手。そうして更に一対、思念力で形づくった手を操る灯理は、不退転の覚悟でリジー・ボーデンの斧刃を受け止めると、同時に朱雀の拳銃を構えて本体を撃ち抜く離れ業をやってのけたのだ。
「……ふむ、思ったより軽いな?」
 ――憎悪が宿った血濡れの斧を、白刃取りの要領で抑えつつ、無防備な肉体にも鉛弾をめり込ませて動きを封じて。彼女の『意志』の手によって、退くことも進むことも出来なくなった斧はもう、誰かを殺すことも無い。
「本当はこのまま、地面が砕けるまで殴り続けたいが……私も大人だ」
 我慢しよう――そう呟きつつも、油断なく大口径の銃の引き金に手をかけたままの灯理は、ちらりと嵯泉の方に視線を向けて小さく頷いた。
「鷲生殿にお譲りしましょう、存分に怒りを晴らされるがよろしい」
「……では、其方の怒りごと後は引き受けよう」
 今度は抑える必要は無い――確実に断つ。幻影を斬り捨てた時のように、否、それ以上の迅さで刃を振るい、残る生命力総てを用いて攻め立てる。
「――剣骸刹狩。もう歌わずとも良い、疾く潰えろ」
 柘榴の如き瞳が捉えた、両翼に絡む有刺鉄線――飛べぬ其の意と存在諸共、不可視の斬撃で以って断ち切ってくれると。唸る剛腕がリジー・ボーデンの身体を貫き、千切れた翼が血錆に濡れていくなかで、嵯泉は相棒にだけ聞こえる位の、小さな囁きを零した。
「……鎧坂。私の見た幻――出来れば、口外しない様に頼めるか」
 何れ、この一件も知られる可能性があるが、それ迄は秘して置きたいのだと。そんな彼の頼みに「構いませんよ」と頷いた灯理は、くしゃりと羽根を潰して何でもないことのように続ける。
「ご存じでしょうが、私は……友人に甘いので」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷川・権兵衛(サポート)
名は氷川権兵衛。見た目通り人狼だ。職業はUDC組織に属する生物学者だ。主にUDC生物の解剖と解析を担当している。医術の心得もある為、事件現場で被害者の治療を任されることもあるが、よく顔を怖がられるな。現地民の認識にフィルターが掛かっているとはいえ、一体どんな風に映っていることやら。

戦闘面での実力を知りたいのか?基本的にタンクとして動く。自慢に聞こえるかもしれないが、私は素早い。攻撃される味方の前へ躍り出て、ショットガンで敵を吹き飛ばす。牽制に毒を含ませたメスを投擲したりもする。ドーピング薬を腕に刺せば、狂戦士に早変わりだ。燃える左腕を振り回し、敵に恐怖を植え付けてやろう。


三日月・蓮華(サポート)
 賢い動物のウィザード×クレリック、12歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、覚醒時は「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 天才を自称していますが知識は年相応。困った時は賢者の書(難解な字で書かれた分厚い絵付きの本)を取り出して読み解決法を探しますが、時により解決できたりできなかったり。
 敵には勿論自分に危害を加える相手には例えイェーガーでも容赦せず攻撃します。
 無垢ですぐ騙されます。
 頭を撫でられるのが大好きで撫でられるとほにゃほにゃと溶けます。
 甘い物が大好きですが最近は体型を気にするように(でも食べる)。


朱酉・逢真
俺にゃあてめぇらの痛みはわからん。凶神なんでな。殺したくないとか思ってたらやってられん。だから大切な相手も居ねえし、斧もよぉく刺さるだろうぜ。
俺がここに来たのは、てめえが殺しすぎたからだ。困るんだわ、寿命でもねえのに人口減らされンのは。バランスが崩れっちまう。
お歌の時間はしまいだ。「我に返って」もらうぜ、嬢ちゃん。

斧で来るってんなら向こうから近寄るだろ。俺は待つ。よぉく引きつけて、斧を振り上げたら懐へ踏み込む。そのまま抱きとめる形で接近し、《凶神の声》で祝福しよう。柄で打たれても離さんぜ。
祝いあれ、人の子。今までよく頑張ったな、ちびすけ。お疲れさんだ。あとは任せて還りな。親御さんが待ってらぁ。



 ――或る男の師は、『進化』について研究していたのだと言う。進化とは突き詰めれば、困難に対応するべく常に変化し続けること。その為ならば、どんな犠牲も厭わぬ覚悟が必要だった。
「……増え続ける過去に世界が押し潰されれば、未来は生産されず『時間』は止まる。だが」
「あ、蓮華も知ってます! 『その場にとどまる為には、全力で走り続けなきゃならない』って奴ですよね」
 煤汚れた白衣を翻しつつ、散弾銃を構えて牽制を行う氷川・権兵衛(生物学者・f20923)の隣では、三日月・蓮華(自称天才ウィザード・f25371)がふわふわの毛を揺らしてえへんと胸を張っている。
「ええと、絵本で呼んだことがあるのです。戦場では、ぼーっと突っ立っている兵士から撃たれて死んでいくのですよ!」
 難解な文字が躍る賢者の書を、ぱらぱらと捲って対策を考えている蓮華の姿は、愛らしいうさぎそのものであり――人狼である権兵衛と並んでいる様子からは、どうしても捕食者と被食者と言う単語がちらついてしまう。
「……む、どうかしましたか?」
「いや、何。俺の眷属を思い出してな」
 そんな、取り留めのない思考を彼方に追いやるように、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)はわっしゃわっしゃと蓮華の毛繕いをしていたのだけれど。ややあってから彼は手を退けると、忘れられたリジー・ボーデンの前へ一歩を踏み出した。
「俺にゃあ、てめぇらの痛みはわからん。……凶神なんでな」
 ――自ずから、斧持つ彼女は此方にやって来るだろう。ならば待てば良い。親殺しの憎悪を叩きつける相手を求めているのなら、打ってつけの存在が居るのだと知らしめて。
「殺したくないとか思ってたら、やってられん。それに俺がここに来たのは……てめえが殺しすぎたからだ」
 病毒に戯ぶ神――それが逢真だ。医学も修める権兵衛にとっては複雑な相手かも知れないが、自然界の均衡を願うと言う点では、ふたりは同志なのだろう。
「困るんだわ、寿命でもねえのに人口減らされンのは」
 ――そう。その言葉の通り、逢真の役目は帳尻合わせ。増え過ぎて困るのは増やす側のほう、しかし一方的に減らしていくオブリビオンほど、厄介な存在はないのだと苦笑する。
(「……よぉく引き付けて、そうだ」)
 重い血濡れの斧の一撃を見つめ、振り上げた瞬間を狙って懐へ。自分には大切な相手も居ない――だからこそ、その斧だってよぉく刺さるだろうから。
「お歌の時間は終いだ――『我に返って』もらうぜ、嬢ちゃん」
 そのままリジーを抱き留め、暴れる彼女の勢いに振り回されないように、強く。きつく。絡まる有刺鉄線が幾ら拒絶しようとも、強引に踏み込んでいってやる。
「っ……離さん、ぜ……!」
 力任せに柄で打たれようとも、逢真は怯まなかった。地形ごと破壊しようと暴れるリジーの元には、更に権兵衛も加勢すると、その恐ろしげな獣腕を振りかざして威嚇を行う。
(「オブリビオン……感染型UDC、か」)
 ――ひとびとの『噂』、その精神を餌として増殖していく怪異。そんな寄生者とも呼ぶべき存在に向けて、恐怖を植え付けた権兵衛はそのまま、影の怪物を呼び出すと一気に攻撃を仕掛けていった。
「強い感情を引き出せたなら……! オブリビオンなんて蓮華の敵ではないのです!」
 更に蓮華も巨大なうさぎを召喚し、その口から勢いよく破壊光線を発射させれば――リジー・ボーデンの斧に絡まった有刺鉄線が消し飛んで、辺りには凶神の声が満ちていく。
「……祝いあれ、人の子。今までよく頑張ったな、ちびすけ」
 呪、憎、死、苦……狂、怨、毒、病、厄――その声には、ありとあらゆる凶念が乗せられていたのに。朱色の羽根を散らせる逢真の音色は、泣きたくなるような響きを伴っていた。
「……お疲れさんだ。あとは任せて還りな。親御さんが待ってらぁ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

月守・ユア
アドリブ大歓迎

掠れた声を聞く
殺したくないと嘆く声を耳に
改めて目前の子供に向き合う

そう…
僕が見た苦痛の影は君達の嘆きだったのか

その首に広がる
自由なき翼の様に
心はどれだけ痛んだのだろう
どれだけの悲しみが君達を苛んだろう

君達の願い確かに受け取ったよ
斧を下せるように、今度は僕が歌を唄ってあげる
その歌を君達の中から消せるように…

僕は命に終焉齎す死使い
君達の為に
その命を奪う死となろう

殺戮ノ呪歌
死の力を含む旋律を歌唱
呪花と月鬼に呪詛を乗せて
それは生命力吸収し、命を奪い取る刃
目の前の敵だけに振るう

さぁ、口を閉じて
身を委ねて
君達の悲しき歌は
これでお終いだ

戦闘後
鎮魂の祈り
優しく子守歌を捧げる

さようなら
おやすみ


フラム・フロラシオン
SPD/アドリブ歓迎

そう…か
そうだね、その気持ち、わたしにもよく分かるよ
わたしの心はわたしだけのもの
なのに
その想いが、誰かに、なにかに穢されていくのは――

リジー、あなたを救えればよかったのに
救えるほど早く辿りつけていれば
…ううん、悔いても遅いことだよね
だから、せめてあなたの苦しみを終わらせよう

斧で打ち倒されるより先に問おう
「ねえ、あなたはパパとママを愛していた?」
ねえ、教えて
愛していても、壊したくなることもあるの?
あなたたちは、どっちだったの?
少しぐらい傷を受けてもいい
その答えを、わたしに


オスカー・ローレスト
【アドリブ歓迎】

やっぱり、君は……君達、は……そう、なんだね。

望まない舞台に、縛られ、て……ずっと、ずっと、殺して、きたん、だね……

俺も、そう……被害者(ロビン)を殺す、雀……
やめたくて……でも、やめれなくて……終わらせて、欲しかった……猟兵に選ばれてなかったら、多分、俺は、俺自身を、終わらせてたと、思う……

だから……さよなら、しよう……もう、殺さなくて、いいように。

【暴風纏いし矢羽の乱舞】の【一斉発射】で、撃ち抜く、よ……

ぴぃ、強化された斧、こ、怖い、な……腕を狙って、UCで【武器落とし】とか……できない、かな。

……違う。
違う……俺は、これを、楽しい、なんて……! (殺人衝動を抑えながら



(「リジー・ボーデン……」)
 ――何度も耳にした歌は、未だ止まない。掠れ切ったその声は、喉が潰れるまで泣き叫んだからだろうか。
「そう……か」
 もう殺したくない、とさざ波のように押し寄せる想いを余すところ無く受け止めて、月守・ユア(月夜ノ死告者・f19326)は目前の子どもに向き合っていた。
「僕が見た苦痛の影は、君達の嘆きだったのか」
「ああ……やっぱり、君は……君達、は」
 じわじわと周囲に広がり、雁字搦めにしていく有刺鉄線――忘れられたリジー・ボーデンが思い出したのは、自分が何処へも行けないという現実であり。白い部屋で斧を振るい続ける彼女を、痛ましそうに見つめるオスカー・ローレスト(小さくとも奮う者・f19434)は其処に、過去の自分を重ねずにはいられなかったのだ。
「……そう、なんだね。望まない舞台に、縛られ、て……ずっと、ずっと、」
 ――弓曳く手を震わせて、こんな事はしたくないと幾ら拒んでも。背中の羽をもがれて、痛みと恐怖のなかでいつかは謝ることしか出来なくなって。
「殺して、きたん、だね……」
 それでもオスカーは、自身の痛々しい翼の痕を隠したりはせずに、泣きそうな顔のままゆっくりと風の魔力を解き放っていった。
「俺も、そう……被害者を、ロビンを殺す雀で……」
 ――その配役をやめたくて、でもやめられなかったから。終わらせて欲しいと、願っていたのだ。もし猟兵として選ばれることがなければ、心優しい不思議の国の住人であった彼は――彼自身の手で、その造られた生を終わらせていたかも知れない。
「だから……さよなら、しよう……」
 血濡れの有刺鉄線が斧に絡み付いていくなか、傷だらけの記憶に別れを告げるように――暴風を纏ったオスカーの矢羽は一斉に、リジーの生んだ棘を砕いて斧の勢いを失わせていった。
「ああ、君達の願い……確かに受け取ったよ」
 ――その首に広がる自由なき翼のように。彼らの心はどれだけ痛み、どれだけの悲しみが彼らを苛んだのだろう。身に覚えのない、背中の傷痕にそっと指を這わせたユアもまた、水底に揺れる記憶を振り払って月の刃を構える。
「だから今度は、僕が歌を唄ってあげる」
 オスカーの操る矢羽にも負けず、両翼を輝かせてめった打ちを仕掛けてくるリジー。その何十回と振り下ろされる斧を、呪花と月鬼の二刀で上手く捌いたユアは――痛ましいわらべ歌を塗り潰すように、殺戮ノ呪歌を口ずさんでいた。
(「その歌を、君達の中から消せるように……」)
 命に終焉を齎す死使いとして――そんな彼女が力を振るうのは、彼らの為。疎まれた力であっても、その命を奪う死になることこそが、今のユアの望みだった。
「そう……か、そうだね」
 ――わたしも、と。波紋を生む旋律に耳を澄ませて、ともしびのような囁きを零したのは、フラム・フロラシオン(the locked heaven・f25875)。
「わたしの心は、わたしだけのもの。……なのに」
 殺戮の暴風が吹き荒れる戦場を、妖精みたいに軽やかに駆けていくフラムの掌で、銀色の刃が夕陽を弾く。その想いが、誰かに、なにかに穢されていく――愛しい気持ちと傷付けたい気持ち、両方持っているのがフラムだけれど、子ども達はリジーになることを強いられて、遂には壊れてしまった。
「リジー、あなたを救えればよかったのに」
 ――救えるほど、早く辿りつけていれば。そんな想いを振り切ってフラムは憎悪の斧を見切り、一気に彼女の懐へと飛び込んでいく。
 忘れられた子ども達は、過去の残滓が染み出しただけのもので、それを悔いても遅いのだろう――でも、目の前に居る『リジー』の苦しみなら、フラム達が終わらせることが出来る。
「……っ、ぴぃ!」
 と――その時、両翼が輝く兆候を察知したオスカーが、めった打ちを仕掛けようとするリジーの腕を矢羽で撃ち抜いた。からん、と乾いた音を立てて転がる斧を蹴り飛ばして、すかさずユアが呪詛の刃を振るい続けるが――その間もオスカーは、己の身体を駆け巡っていく殺人衝動に、ひらすら抗い続けなければならなかった。
(「違う、違う……俺は、これを、楽しい、なんて……!」)
 ――死の力を含む旋律に乗って、幾度となく翻るユアの刃。さぁ口を閉じて、後はそのまま身を委ねればいい。君達の悲しき歌は、これでお終いだから。
「……ねえ、あなたはパパとママを愛していた?」
 そうして――斧で打ち倒されるよりも早く、フラムの唇から零れた問いかけは、賢者の影を引き連れてリジーに迫る。
 ――ねえ、教えて。愛していても、壊したくなることもあるの? あなたたちは、どっちだったの?
(「少しぐらい傷を受けてもいい、だから」)
 その答えが欲しくて、ぎゅっと怪異を抱きしめるフラムの耳元に、微かに響いた『リジー』の声は――。
「……そう」
 その答えがどんなものであったにせよ――ユアの捧げる鎮魂の祈りが、優しい子守歌となって響き渡るなかで、ただこれだけは伝えておきたかった。
「さようなら、……おやすみ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

教団の連中が何考えてこんな儀式やらかしたのかはどうでもいいし、正直興味もないけれど。
…あの子は、なんとかしてあげたいわねぇ…
あたし、キライなのよ。子供が泣くの。

単純に手数が増える、ってのは正直キツいわねぇ…
なら、攻撃自体の脅威度を下げちゃいましょ。
●縊殺で対処の選択肢を削って単調な攻撃を誘発させるわぁ。どれだけ手数が増えようと、当たらなければ無いのと一緒よねぇ。

刻むルーンはアンサズ・ラグ・イング。
「聖言」にて「幻想」を「完結」させる…壊れたレコードからは、ちゃんと針を下ろさないと。
ソロモン・グランディ、ハイそれまでよ…なぁんてね?


加々見・久慈彦
本物のリジー・ボーデンは無罪になったそうですが……誰もが罪から逃れられるとは限りません。
多くの子供を犠牲にした教団のクソどもはいつか必ず罰を受けるでしょう。
私たち猟兵の手によって。

とはいえ、今はどこにいるか判らないクソよりも目の前の少女(?)の相手をしなくてはいけませんよね。

Rub-a-dub-dub...♪
肉屋!
パン屋!
蝋燭屋!

叫びに合わせてカードを投擲。目的は敵の攻撃力を減じること&注意を引きつること。
攻撃回数が増えたのなら、私に構う時間も増えるはず。九倍増のめった打ちをなんとか【早業】と【見切り】で躱している間に他の猟兵に攻撃していただきましょう。


※煮るな焼くなとご自由に扱ってください。



 忘れられたリジー・ボーデンが生まれる、そもそもの切っ掛けになったもの。邪神絡みの教団連中が、一体何を考えてこんな事を仕出かしたのか――ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)にとってそれはどうでも良かったし、正直興味もなかったけれど。
「あの子は、なんとかしてあげたいわねぇ……」
 細い目の奥でちらちらと、深紅の輝きが見え隠れするなか、ティオレンシアは慣れた仕草でガンベルトから愛銃を引き抜く。
「……あたし、キライなのよ。子供が泣くの」
「おや、気が合いますねレディ。私もです」
 もう片方の掌でルーンの刻まれた弾丸が踊る様を、面白そうに眺めながら――白いスーツをぴしっと着こなした加々見・久慈彦(クレイジーエイト・f23516)も、器用にトランプをシャッフルして綺麗なアーチを作り出していた。
「本物のリジー・ボーデンは、無罪になったそうですが……誰もが罪から逃れられるとは限りません」
 ――其処から引き抜いたカードはジョーカー。嘲笑う道化師に仕込まれた、鋭い刃を隠しつつ久慈彦は頷く。多くの子どもを犠牲にした教団のクソども――彼らはいつか必ず罰を受けるだろう、と。
(「私たち、猟兵の手によってね」)
 紳士であるが、悪人には容赦の無い久慈彦のこと。やると言ったらやるのだろう。とは言え、今はどこにいるかも判らないクソよりも、目の前のリジーだ。
「ええっと……少女? で良いんですよね?」
 これまでの戦いによって傷つき、斧を握る手もねじ曲がっているように見えたけれど、未だリジー・ボーデンは憎悪を燃やして『めった打ち』の機会を狙っているようだった。
「でもまぁ、単純に手数が増える、ってのは正直キツいわねぇ……」
 ――両翼の輝きと同時、歌の通りに四十一回も斧を叩きつけてくるのなら、全て躱し切るのはさぞ骨が折れることだろう。溜息を吐いたティオレンシアだったが、その口元の笑みは普段と変わらず、甘い声もそのままだ。
「……どうやら、勝算はあるみたいですね」
「ええ……多分、あなたと同じ作戦だと思うわよ?」
 有刺鉄線の絡まった翼が輝いて、リジーが血濡れの斧での猛攻に移ろうとした刹那――辺りに響き渡ったのは、久慈彦の歌う陽気なマザー・グースだった。
「Rub-a-dub-dub...♪」
 ――肉屋! パン屋! 蝋燭屋!
 韻を踏むのに合わせて投擲したカードは、スペード・ハート・クラブのK。そんな三人の王様の力によってリジー・ボーデンの力を封じるのと同時、久慈彦は彼女の注意を此方に引きつけて、隙を作ろうと動いていた。
「私に構う時間を増やしてやって――」
「ついでに、攻撃自体の脅威度も下げちゃいましょ……!」
 そして――襲い掛かる九倍増のめった打ちを、早業と見切りを駆使して回避していく彼の後ろからは、ルーンの加護を得たティオレンシアが、縊殺を用いて追い詰めていく。
「アンサズ・ラグ・イング――『聖言』にて『幻想』を『完結』させる……」
 そのフサルクの文字はリジーの精神に作用し、心理的な対処の択を削る――つまり、限られた選択しか取れないようにして、単調な攻撃を誘発させていったのだ。
「つまり……どれだけ手数が増えようと、当たらなければ無いのと一緒よねぇ」
 ――そう。壊れたレコードからはちゃんと針を降ろして、マザー・グースの悲劇を終わらせなくては。
「ソロモン・グランディ、ハイそれまでよ……なぁんてね?」
 生まれて死んでいく一週間――しかし、過去に埋め尽くされた世界では、未来を生むことなど出来はしないから。ティオレンシアの銃弾によって逃げ場を失ったリジーの元へ、吸い込まれていった久慈彦のカードは切り札の――。
「……ジョーカー。死をも恐れぬ、愚か者です」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳴宮・匡
【探偵達】


……そうだな
殺したくなんてなかっただろうし
これ以上、続けたくもないだろうさ

生きる為に心を擦り減らしてきた自分は
今はもう、それを苦しいとも感じられないし
共感もしてやれないけど

初めて、命を奪った日のことを
――それを、苦しいと思ったことも
今は、ちゃんと思い出せるから

ああ、俺は大丈夫だよ
行こうぜ、ニル、マリー

やることは単純だ
【黒蝕の影】で、斧に纏わるそれを掃う
もう傷つけたくないんなら、そんな力は不要だろ
行き場のない憎しみごと、ここで剥がしていけばいい

攻撃は任せるぜ、ニル
マリーも、信じてるよ
……強い女だもんな、大丈夫だろ

嘆きも、痛みも、ちゃんと憶えておくから
もう眠っていいんだよ
……おやすみ


ヘンリエッタ・モリアーティ
【探偵達】
――殺したくなかった
そうね、普通はコロシなんか嫌よねぇ
戦うわ、お兄様。きょーくん。
――私も、戦うから

喧嘩も争いもこんな戦いも殺しも大嫌いよ
だって、女の子っぽくないし
かわいくもない
――でも、弱いままのお姫様はもっと嫌い
可哀想なリジー・ボーデン
斧であなたが滅多打ちにしたのは
頭蓋骨だけじゃなかったんでしょう?
何回あなたの心を壊したの?
誰もそれを――抱きしめてはくれなかったんでしょうけど

【刑が先、判決は後】
ふさわしい刑をあなたにあげるわ
両手を伸ばして、抱きしめるように、苦しまないように
一思いに。
おやすみなさい、リジー・ボーデン
次は、――歌われるような存在じゃないといいわね


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【探偵達】

もう殺したくない、か
ならば早々に幕引きとしよう
マリー、戦えるか?無理はするなよ
匡は――大丈夫だな。任せるぜ、親友

起動術式、【死の橋】
扱う呪詛はリジー・ボーデンとなった子供らのもの
私の方が頑丈だ。マリーを庇うように動こう
好きなだけ振り下ろすが良いさ
こちらも外すつもりはないからな
ありったけの呪詛を載せて、一撃で終わらせてやる
わざわざ苦しませることもあるまい

悲嘆は聞き慣れてしまっていてな
慈悲やら鎮魂やらをやれるほど、優しくもない
それでも――そうだな
絶望くらいは肩代わりして、持って行ってやろう
悪趣味な数え歌もこれで終わりだ
――さようならだ、リジー・ボーデン
私の親友と妹が、貴様を送ってくれるさ



(「――殺したくなかった」)
 白い部屋に降り積もるのは、行き場を無くした子ども達の無念。有刺鉄線が巻き付いた翼を不器用に動かしながら、その無念の結晶は血濡れの斧を抱いて歩いてくる。
「……そうだな」
 貌の無い子ども、忘れられたリジー・ボーデン――親殺しをさせられた『それ』を凪の瞳で見据えつつ、鳴宮・匡(凪の海・f01612)は油断なく銃を構えていた。
「これ以上、続けたくもないだろうさ」
 そう、普通ならば殺しなどご免だ。今までの道程で、そのことを嫌と言うほど味合わされたヘンリエッタ・モリアーティ(円還竜・f07026)も、何処か吹っ切れた様子で前髪を掻き上げて、落ち着いた笑みを浮かべる。
「戦うわ、お兄様。きょーくん。――私も、戦うから」
「無理はするなよ、マリー。匡は――大丈夫だな」
 そんな、いもうとの様子を確かめたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は、それでも労わる言葉を掛けずにはいられなかったようだが、親友である匡のほうは問題ないと判断したらしい。
「ああ……俺は大丈夫だよ」
「ならば、早々に幕引きとしよう……起動術式」
 直後、血濡れの有刺鉄線を生み出すリジーに向けて、ニルズヘッグの操る呪詛が吹き荒れると――それは忽ち、大鎌の一撃と化して襲い掛かった。
「そう、好きなだけ振り下ろすが良いさ」
 キィィィン――甲高い音を立てて弾かれた死の鎌であったが、纏う呪詛はそのまま此の地に眠る怨恨を呼び覚まし、ニルズヘッグの力に変えていく。
「……生憎、悲嘆は聞き慣れてしまっていてな」
 ――それは、リジー・ボーデンとなった子らのものであり。彼らの無念までも焔と変えて、ニルズヘッグは死の橋を生み、氷と死の国へと死者たちを導いていったのだった。
(「ああ、生きる為に心を擦り減らしてきた自分は」)
 そんな、魂が引き裂かれそうな子ども達の叫びを耳にしながらも、匡のこころはさざ波ひとつ立てはしない。過去は過去であり――今はもう、それを苦しいとも感じられないし、共感もしてやれないだろうけど。
(「でも。初めて、命を奪った日のことを――それを、苦しいと思ったことも」)
 託された祈りが、彼の手のなかで静かに脈打っていた。その愛銃の感触を確かめつつ、匡は前に出たニルズヘッグを援護するようにして、黒き影の魔弾でリジー・ボーデンの斧を狙い撃つ。
「……今は、ちゃんと思い出せるから」
 行こうぜ、と――放たれた銃声は、確かに生への渇望を叫びながら、斧に巻き付く有刺鉄線を粉々に砕いていて。尚も黒蝕の影を伸ばす匡は、親殺しの憎悪を次々に相殺していくなかで、斧を振り下ろす先に迷うリジーへと声を掛けていた。
「もう傷つけたくないんなら、そんな力は不要だろ。……行き場のない憎しみごと、ここで剥がしていけばいい」
 ――ああ、そんな彼らの後ろに居るヘンリエッタだって、ただ守られるだけの女ではない。今はマリーと言う名の人格を宿した彼女は、自分が此処に存在することを改めて確かめつつ、体内に巣食う異形をその身に纏う。
(「喧嘩も争いも、こんな戦いも殺しも大嫌いよ。だって、女の子っぽくないし……かわいくもない」)
 ――でも、弱いままのお姫様はもっと嫌い。そんな彼女の意志に呼応するかのように、UDCのワトソンが両手に宿って鎌に変じた。
「……可哀想なリジー・ボーデン。斧であなたが滅多打ちにしたのは、頭蓋骨だけじゃなかったんでしょう?」
 白い床を蹴って、一気に跳躍し――彼女の懐へと飛び込んでいく。刑が先、判決は後。そんなリジーに相応しい刑は、きっとこれなのだ。
「何回あなたの心を壊したの? 誰もそれを――抱きしめてはくれなかったんでしょうけど」
 ――両手を伸ばして、抱きしめるように、苦しまないように。大丈夫、上手くやれる。
「マリーも、信じてるよ。……強い女だもんな、大丈夫だろ」
「慈悲やら鎮魂やらをやれるほど、優しくもない。それでも――そうだな」
 遠くから聞こえてくる匡の励ましと、すぐ傍から聞こえてくるニルズヘッグの呟き。魔弾がリジーの翼を貫いて、四十一回のめった打ちが降り注ぐよりも早く――ありったけの呪詛を乗せたニルズヘッグの鎌が、苦しみを断つようにして一気に振り下ろされた。
「……絶望くらいは肩代わりして、持って行ってやろう。悪趣味な数え歌もこれで終わりだ」
 嘆きも、痛みも、ちゃんと憶えておくから――もう眠っていいんだよと、匡が言う。
「――さようならだ。私の妹が、貴様を送ってくれるさ」
 そんなニルズヘッグの声に押されるようにして、一思いに――ヘンリエッタの伸ばす両腕の鎌が、死の祝福をリジーに贈った。
「おやすみなさい、リジー・ボーデン。次は、――歌われるような存在じゃないといいわね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
手にしたナイフを棄て
両手を挙げ武器を持っていない事を示しながら
「子ども」に歩み寄る

――41回、試してみるかい

あの『同調』があれば或いは耐えきれるかも知れねえよなァ、なんて
思惑は口にはせず

振り下ろされる斧に上がる血飛沫は
UCで変異させた『多幸感を齎す猛毒』
それを至近距離で「子ども」に浴びせかけ

どうした?まだあと40回残ってるぜ

ガキは最後まで成し遂げるかね
それとも幸せに抗いきれず途中で動けなくなるかね
どっちでもいい
どっちにせよあんたは殺せなかった
――殺せなかったんだよ、大丈夫だ

手には隠していたもう一本のナイフ
子どもの胸に突き立てながら、大丈夫だともう一度



 ――からんと乾いた音を立てて、白い床に突き刺さったのは、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)の手にしていたナイフ。
 何の変哲もない――けれど、容易く人間の命を奪ってしまえるそれを棄てて。両手を挙げたままの彼は、何も持っていないことを示しつつ、忘れられたリジー・ボーデンに歩み寄っていく。
「よお、随分と傷だらけじゃねぇか」
 ずたずたに切り裂かれた身体と、ひしゃげた翼。それでも引きずるように斧を握りしめた『子ども』に、莫迦なガキの姿を重ねながら、ジャスパーは面白そうに肩を竦めてみせた。
「――四十一回、試してみるかい」
 ぶわり――膨れ上がっていくリジーの憎悪は、恐怖よりもむしろ哀しみを募らせる。殺せるなら良かったのにと、誰彼のなかで、彼らの想いに同調した所為だろうか。
(「……或いは、耐えきれるかも知れねえよなァ」)
 そんな思惑も、確かにジャスパーにはあったのだが――リジー・ボーデンとなった子らの刃を、その身で受け止めることに躊躇いは無かった。
「……ァ、アアァァァアアア!!」
 有刺鉄線の両翼を輝かせて、血濡れの斧が何度もなんどもジャスパー目掛けて振り下ろされる。ぐしゃ、ぐしゃりとくぐもった音を響かせて、噴き上がる鮮血が白い部屋を染め上げていく――けれど。
「どうした?」
 彼の血飛沫を真正面から浴びたリジーは、ふらつく足取りで数歩後ずさると、斧を手にしたままその場に崩れ落ちていた。
「まだ、あと何十回か残ってるぜ?」
 両の手に刻まれた十字傷をちらつかせ、うっとりと微笑むジャスパーは果たして、天使だったのか悪魔だったのか。先ほど上がった血飛沫は、彼が変異させた多幸感を齎す毒の塊――ユーフォリアの毒であり。それを至近距離で浴びたリジー・ボーデンは、溢れ出る幸せに翻弄されて、最早身動きも儘ならなくなっていた。
 ――さて。リジーは『めった打ち』を最後まで成し遂げるだろうか。それとも幸せに抗い切れず、動けないままだろうか。
「まァ、どっちでもいい。どっちにせよ、あんたは殺せなかった」
 震えるリジー・ボーデンに向けて、酷く優しい声で囁いたジャスパーの――その手にはいつしか、もう一本のナイフが現れて黄昏の光に踊る。
「――殺せなかったんだよ、大丈夫だ」
 子どもの胸目掛けて、突き立てられた銀の刃はまるで春の雨。優しくも冷たいその雫が弾けて、涙みたいに滲んで吸い込まれていくなか、繰り返されたのは小さな祈りだった。
「……大丈夫だ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
花世(f11024)

嗚呼。逢魔が時に連れて行かれる所の話でも
鳥が数を数えるなんて話でもなかった

この物語はとても恐ろしい
無邪気に口遊む歌が恐ろしい
悪夢はもう終わらせなければいけない
しかし、君の拳は中々良いものだった
腹部がまだ痛むようだよ

花世、悪夢はもう終いだよ
行けるかい?

こんな物語は私の得意とする物では無いが
今すぐにでも完結させなければ
結末はもちろん良い物にしよう
だから花世、君も手伝ってくれよ

この筆で、全てを終わらせる
斧が無ければ悲劇も生まれない
ならば腕ごと狙おう
有刺鉄線が邪魔なら筆で断ち切る
私が執筆を進める間、君は補助を頼むよ
鮮やかに、決めてくれ

物語の終わりを待つ子らのために、私は綴る


境・花世
英(f22898)と

残酷な童話は不思議と心を惹くけれど
だからこそ無邪気でなくてはいけないよ
歪められた哀しい物語なんて、
読者の誰も望んでなんかいないから

わたしの喉を綺麗に裂いたみたいに
ピリオドを打ってみせてよ、英

きみの死角を補うように隣へ立って
戦場に不似合いなほどやさしく歌う子守歌
花の匂いと一緒に彼らを眠りに誘おう
Hush-a-bye, baby――
自在に動く英の筆を邪魔しないように
あどけない瞼に映る夢が、もう二度と、
血に塗れることのないように

きみの傍に、いたい、
いっしょに、生きたい

作家の綴るエピローグに紛れてぽつり、
小さく泣いたのは紅い髪の見知らぬ子ども
だいじょうぶ、悪夢は、もうやってこない



(「……リジー・ボーデン、斧を手にして」)
 夕暮れの物語を辿り、集めた欠片を組み合わせていけば、榎本・英(人である・f22898)の目の前に広がっていたのは残酷な真実で。
「……嗚呼」
 ――辿り着いた部屋で何度も、なんども。壊れたみたいに延々と繰り返される歌は、無邪気であるが故に恐ろしかった。
(「この物語はとても恐ろしい」)
 それは、逢魔が時に連れて行かれる所の話でもなく。鳥が数を数えるなんて話でもなかった。親殺しを強いられ壊れていった、何人もの『リジー・ボーデン』――顔の無い『それ』を見つめる英の視界の端にふと、牡丹の花びらが揺らめき、踊る。
「それでも……悪夢はもう、終わらせなければいけない」
「そう、残酷な童話は不思議と心を惹くけれど」
 大輪の花が咲くみたいな、艶やかな笑みを浮かべている境・花世(はなひとや・f11024)の貌は、迷い路での涙を振り払って、毅然と前を向いていた。
「だからこそ、無邪気でなくてはいけないよ。……歪められた哀しい物語なんて、読者の誰も望んでなんかいないから」
 そう――この先の結末は、綴り手であるふたりに掛かっている。抱えた情念の強さによって、筆を折らない限り死ぬことの無い英は勿論、花世だって物語を途中で放り出すことはしないだろう。
「わたしの喉を綺麗に裂いたみたいに……ピリオドを打ってみせてよ、英」
 細い指先でついと白い喉をなぞった彼女に頷いて、英も夕陽に照らされた己の腹部に手を当てる。現実に引き戻してくれた痛みは、未だ其処で熱を持っていた。
「しかし、君の拳は中々良いものだった」
 ――そんな軽い言葉を交わしつつも、ふたりは覚悟を決めてリジーと向き合う。「行けるかい」と問いかける英のまなざしへ、花世は死角を補うようにその隣へ立つことで応えて。
「Hush-a-bye, baby――」
 そうして――血に塗れた戦場に不釣り合いなほど、やさしい子守歌が奏でられると、百花の馨が辺りに満ちてリジー・ボーデンの思考を侵食していった。
(「ゆめのまま、のぞむまま」)
 虚構と現実の境界を翳ませ、すべてをゆめうつつのまま侵葬していくように。悪夢はもう終いだと、憎悪ごと子ども達を抱きしめて還していくように――。
(「こんな物語は、私の得意とする物では無いが」)
 今すぐにでも完結させて、彼らの苦しみを終わらせなければならない。筆を握った英の指先が素早く宙に翻ると、リジーの斧に絡まった有刺鉄線が瞬く間に断ち切られていく。
「全てを終わらせる、結末はもちろん良い物にしよう。……だから花世、」
 ――君も、手伝ってくれよ。自在に動く英の筆を邪魔しないように、花世は彼の隣でリジーに向けて歌い続けていた。どうか、どうかあどけないその瞼に映る夢が、もう二度と血に塗れることのないようにと、願いながら。
(「きみの傍に、いたい、」)
 斧が無ければ悲劇も生まれない、ならば腕ごと――物語の終わりを待つ子らの為に、結末を綴っていく英の筆が、四十一回のめった打ちよりも早く腕を捉えて。
(「いっしょに、生きたい」)
 憎悪の塊と化していた斧が、粉々になって砕け散っていくなかで、花世の紡いだ歌と馨は確かに、消えゆくリジーのこころを救っていたのだろう。
「……ぁ」
 ――作家の綴るエピローグに紛れてぽつり、小さく泣いたのは紅い髪の見知らぬ子ども。けれど、瞬きのうちにそのまぼろしは、夕陽のなかに溶けていった。
「だいじょうぶ」
 ――悪夢は、もうやってこないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月01日
宿敵 『忘れられたリジー・ボーデン』 を撃破!


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
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 苦戦🔵🔴🔴
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 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は真馳・ちぎりです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト