22
毒杯の澱

#ダークセイヴァー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー


0




●毒杯の澱
 毒を飲めと、命じられる。その毒が一体何なのか説明はなかった。
 これから与える毒杯を煽り、我が下に来たのならば――お前たちの願いも考えてやらぬこともないと戯れのようにヴァンパイアは紡ぐ。
 痛み、苦しみ。耐えられぬほどのそれらを抱いて。それでもなお進むことでその想いを示してみろと高い場所から、笑いながら言い放つ。
 この先にある広間で待っていると、そこまでこれたなら解毒薬もやろうと告げて、ヴァンパイアは身をひるがえした。
 そののち、この場に集められた村の代表たちの耳に扉の開く音が聞こえた。そこから精気の抜けた者がワゴンを押し現れて、「毒杯でございます」と告げる。
 ワゴンの上、置かれた杯。銀色が鈍さをもって毒を孕んでいた。
 震える手で杯を手にする者も、やはり無理だという者も様々。
 杯に満たされたそれはほんの一口だけのもの。
 色は何色か、そんなのわかる心地ではない。
 飲み干さなければ、あおらなければ。そうしなければ、村が終わってしまう。
 口元に運ぶ。舌の上にとろりと流れ、喉を落ちていく。
 胃の中が熱くざわめいていくような感覚だった。毒を煽れば、ぎぃとまた新たな扉が開く。
 その扉の先へ進めと言うことなのだろう。ヴァンパイアの示した道筋を、歩み始めるしかない。
 胃の中のおかしな熱さはじわじわと体中に広がっていく。
 ごふりと胃の底からせりあがったものは鉄の味。それを吐き散らしながら膝をつく。
 変な痺れが四肢の自由を奪い、視界はくらくらと雑に混ぜられていくような感覚に苛まれ――その場所に倒れ伏していく者たち。
 それでも前へ進まなければならない。足掻いてどうにか、進んで――その先に待つのは決して、幸いではなかった。

●予知
 終夜・嵐吾(灰青・f05366)はひとつ息を吐いて、頼まれてくれんかのと猟兵たちへと切り出した。
 行先は――ダークセイヴァーだ。
 あるヴァンパイアの領主を挫いてきてくれんかと続けて。
「ただ、その為に皆には毒杯をあおってもらわねばならん」
 それがヴァンパイアのもとへ行くための条件。
 このヴァンパイアは領民に願いがあるなら来ると良いという。ただし、己が課したものを耐えることができたならなのだ。
 館に入れば毒の満たされた杯でもてなされる。それを身の内に入れ、示された方向へと向かうらしい。
「このヴァンパイアは苦しみながらも進むという姿を楽しんでいるようで、そういったものがおらんと姿を見せん」
 つまり、毒や痛み、麻痺、ほかにもさまざまな症状がおこるだろうが、あえてそれを受けなければいけない。
 動き阻害するものへの耐性があると知れる事、効かぬというそぶりを見せるものがいれば警戒をし姿を現さない可能性もある。
 故にこの頼みを受けるなら持ちうる耐性を一時的に使わないようにするか、もしくは真に迫る演技をしなければならない。
 嵐吾は、だいたいの者は口端から血を零し麻痺や幻覚、痛みなどを感じていた姿だったと予知の中で見た光景を告げる。血を吐く、というのは一番目に見えて明らかな、毒が効いている印となるだろう。
「苦痛を負っての戦いを任せることになってもうしわけないんじゃが……」
 視得てしまったからにはこのまま放っておくこともできない。
 頼む、と嵐吾は手の内のグリモアを輝かせた。


志羽
 お目通しありがとうございます、志羽です。
 プレイング締め切りなどのタイミングはお手数ですがマスターページの【簡易連絡】をご確認ください。

●シナリオについて
 第一章:冒険『ひとつの試練』
 第二章:集団戦『???』
 第三章:ボス戦『???』
 以上の流れとなっております。

●毒杯について
 受ける毒ででる症状についてはご自由にどうぞ。
 血を吐く、内臓が溶けるような感覚、変な痺れ、めまい、よくわからない痛み。
 お任せになると確実に血は吐きます。
 毒でうけた症状は時間がたつにつれ悪化していき、受けた状態のまま最後のボス戦まで戦っていただくこととなります。
 この毒により、プレイングで指定しない限り攻撃が当たらない、威力が弱くなるといったような、判定が不利になるようなことはありません。
 フレーバー的なものであり、枷をはめられた状態での戦闘をお楽しみいただくものとなります。
 また耐性があるので効かないとうのもOKですが最低限苦しんでいるフリ、というものは必要となります。
 そのフリにヴァンパイアが怪しさを感じた場合、警戒して近づいてこない、現れないこともあるかもしれません。(つまり、失敗です)

●お願い
 ご一緒する方がわかるように【グループ名】や【ID】を記入していただけると助かります。また、失効日が同じになるように調整していただけると非常に助かります。(続けて二章、三章参加の場合、IDについては必要ありません)
 プレイング受付についてはマスターページの【簡易連絡】にて案内いたします。
 受付期間外に到着したプレイングはお返しします。ご協力よろしくお願いします。受付期間中であれば再送については問題ありません。

 以上です。
 ご参加お待ちしております。
279




第1章 冒険 『ひとつの試練』

POW   :    タフな精神でこなす

SPD   :    躊躇わず素早くこなす

WIZ   :    頭を使い慎重にこなす

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ヴァンパイアの居城――その入り口にて毒杯ののったワゴンが放置されていく。
 いくつもある毒杯。その毒は一口分くらいのものだ。
 それを飲み、どのようにな症状になるかは――わからない。
 ただ一概に言えるのは、決して正常な状態ではいられなくなるということだ。
 杯の中身を飲み干せば、進むべき扉が開かれる。開かれた扉の先は長い通路が続いていた。
 薄暗い、十分な明かりのない通路だ。ただ――死臭はひどい。この通路で今まで絶えていったものたちのものだろうか。
 おそらく、この通路はヴァンパイアの下に通じているのだろう。しかし、ヴァンパイアにたどり着くまでにその身にいれた毒が苛むのはいったいどれほどなのか。
 それは、進んでいかねばわからない。
クロト・ラトキエ
最初は酒。次に毒。
口にする物への耐性、どう見分け、どう処すか…
仕込まれたのはもう随分と昔。
とはいえ影響は出ますし、痛いし苦しいし辛いんですけどね!
…その己が毒なんて呼ばれる様なったのは、まぁ皮肉な話。

オーダーならば、熟しますとも。
領主への願いは心中深く設えて。
あたかも弱きひとらしく、躊躇い怯えた素振りで毒杯を呷り。
身を引き摺ってでもヴァンパイアの顔を拝んで、
その命を苛む毒と成りましょう。

己がもつのは命のみ。
ただ奪われまいと意地を張った生
…でしたけど。
あのひかりを、まだ見ていたいと思った。
…帰りたい理由が出来てしまったから。
命懸けの八つ当たり、篤とご照覧あれ

(毒症状お任せ。ひどいめバッチコイです



 その毒杯を、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は見つめていた。
 最初は酒。次に毒。
 口にする物への耐性、どう見わけ、どう処すか……とクロトは思考巡らせていた。
 仕込まれたのはもう随分と昔の事だ。どう仕込まれたのかをクロトは思い返して――くすりと小さな笑み零した。
 毒を孕めば、影響もでる。そう、それを身の内に入れたならば――ああと。
「痛いし苦しいし辛いんですけどね!」
 小声で紡ぎ、その己が毒なんて呼ばれる様なったのは、まぁ皮肉な話とクロトが浮かべるのは自嘲か苦笑か。
「オーダーならば、熟しますとも」
 と、あかたも弱きひとらしく、躊躇い怯えた素振りをもって杯の一つを手に取った。
 その毒は一口分。香りはわずかに、甘いような。それを呷り、クロトは杯をワゴンの上へと戻した。
 身を引き摺ってでもヴァンパイアの顔を拝んで、その命を苛む毒と成りましょう――クロトはゆっくりと、その歩みを進め始めた。
 毒を喉に落とす瞬間は焼けるような熱さがあった。気持ち悪いという不快感がある。
 続く通路は薄暗く、この進む先が決して良いものではないと思わせる。
 じわりじわり、体の内から不快感が広がっていく。クロトは喉を、次に腹の上を撫でた。
 違和感は――突然、抉る様な痛みへと変わる。
「っ!」
 腹の内を暴れまわる痛みは抑えることができない。
 けれどこの痛みは――命があるということでも。
 己がもつのは命のみ。ただ奪われまいと意地を張った生――であったことを、ひやりとした変な汗を背に感じながらクロトは思い起こしていた。
(「あのひかりを、まだ見ていたいと思った」)
 ふと、細く零れた笑み。その瞬間、胃の中をせり上がり、喉を駆け上がる酷く凡庸な不快感。それが口の中に達すると鉄の味が響く。
 抑え込めば喉が引き連れようでクロトは薄く、その唇開いた。
 つぅ、と口端から零れたのは濃い赤だ。それがぱたたと足元へと落ちていくのが滲む視界の中で見えた。
 あは、と思わず笑い零れる。苦しい、気持ち悪い、頭が回る。視界の明滅に眼の奥までが痛い。
 血管が逆巻いていくような感覚を得ながら――一歩、進める。
(「…帰りたい理由が出来てしまったから」)
 命懸けの八つ当たり、篤とご照覧あれと我が身を削りながら男は進む。
 ここで倒れるなどしない、だって勿体ないじゃないかと。
 こんな痛みを得たのならば、それ以上にお返ししなければと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水標・悠里
毒くらいいくらでも飲んであげましょう
普段から悪霊の類いを身に降ろし苛まれる事には慣れておりますので

一つの杯を手に取り、躊躇いなく飲み干す
後は放り投げて通路へと足を向ける
黒鴉、先導を頼みますよ
彼の目を使って先を探りながら進みましょう
死んでいった者たちの声を聞きながら、死臭に咽せて、血を吐いて
醜態を晒しますが何卒ご容赦を
これがお楽しみとは、随分悪趣味ですね
咳き込んで足を止めたら、口元を拭って怠い体を動かします

いいえ、でも
多少痛みがある方が気が楽なのかも知れません
この身には消させぬ罰がある
それが痛みで和らいでいるような、安堵したような感覚
痛みくらいしか救いが無いので
これを言ったら怒られてしまいますね



 毒くらいいくらでも飲んであげましょう――水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)の細い指が杯のひとつに触れる。
 普段から悪霊の類いを身に降ろし苛まれる事には慣れておりますのでと、緩やかに紡がれた言葉。
 この毒は一体どんな、とその青い瞳に映したのは僅かの間。躊躇いなく、それは飲み干された。
 その空になった廃を悠里は放り投げた。床へと落ちればそれは固い音を立てて跳ねていく。
 それを背にし、悠里の足は通路へと向いた。
 悠里は影の黒い鴉を傍らに。先導を頼みますよと紡ぐ。その瞬間わずかに、何か違和感が走った気がした。
 けれど首を緩く振り、悠里は黒鴉の目を使って、先を探りながら一歩ずつ。
 その一歩ずつが、少しずつ重くなってくる。それは足が、でもあるが体が重くなって動きが鈍くなっていくような。
 そして周囲から聞こえてくるのは――死者たちの声だろうか。
 その声と共に鼻につく匂い。甘いような、けれど突然酸っぱいようなものがせりあがってくる。
 咽せる、と思った瞬間には口の中に血の味までもがあった。
 口元を抑え、堪えようとするがたまらず、僅かに身をかがめそれを吐瀉する。
 ふと――かつてここで倒れたのだろうか。真っ暗な眼孔の骸骨と目があった気がして、悠里は小さく、困ったような笑み向けた。
「何卒ご容赦を」
 そういって、顔を上げる。
「これがお楽しみとは、随分悪趣味ですね」
 言葉吐けば、それだけでひゅっと喉が鳴る。進もうとしたが咳込んで、その足はとまったままだ。
 また、胃の内から駆けあがってくる不快感。口端からつぅと零れたのは血と胃液の混ざったような。それを雑に拭って、怠い体を動かし始める。
 動けば、体の内側が揺れてぴりぴりと痛みが走り始めた。
 痛い――いいえ、でも。
 多少痛みがある方が、気が楽なのかも知れませんと悠里は思う。
 痛みがある方が――あった方がと意識のどこかが喚く。
 この身には消させぬ罰があると、悠里は胸元をぎゅうと握った。握ったけれど、あまり力が入らない。
 それは痛みのせいかもしれないが、痛みは赦しを与えてくれているようでもあった。
 この身の罰が、それが痛みで和らいでいるような、安堵したような感覚を与えているのは己の素直な気持ちなのか。
 それとも、毒の与えたものか、その副産物か。
「痛みくらいしか」
 ぽつりと悠里は呟いた。
 痛みくらいしか救いがない――けれど、と口端は僅かに上がる。
 これを言ったら怒られてしまいますねと、零れて。それと同時にあふれた落ちた血を悠里は再び拭う。
 重い足取り、それでも一歩ずつ悠里は進んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュアン・シア
サディストって面倒ねぇ(ため息)
毒、ね。別に構わないわよ、飲むわ。毒耐性は特にないから、普通に効きそうね。
シアの身体に毒物を入れるのは申し訳ないけど、その影響でニセモノ(私)の自我が薄れて彼女が目覚めることもあるかもしれないし。……、ないかしらね。
彼女につらい思いをさせるのも戦わせるのも何だから、耐えられるよう全力で頑張るわ。最終的には解毒薬が得られるようだし。
ああ、毒を呷る前に領民達の叶えたい「願い」を聞いておこうかしら。

吐血喀血の紅も、ドレスや髪の黒に映えるでしょう。気管狭窄したような息苦しさに歪む表情もちゃんと見てる? 綺麗だと言ってね、ヴァンパイアさん。
さあ、通路の先へ行きましょう。



 はぁ、と女は吐息を零す。それは甘いものではなく、あきれたというようなものだった。
 サディストって面倒ねぇとリュアン・シア(哀情の代執行者・f24683)は零す。
 そして毒杯の乗ったワゴンをちらりとみて。
 ゆるりと、そのうちの杯のひとつを手にとった。
「毒、ね。別に構わないわよ、飲むわ」
 リュアンは毒への耐性を持たない。普通に効きそうねとため息をひとつ。
 シアの身体に毒物を入れるのは申し訳ないけど、とリュアンは思う。
 シア――それは主人格であるものだ。滅亡した小国の皇女は、心の拠であった者たちの裏切りに遭い死地に追い遣られ、そしてリュアンが生じた。
 この毒を飲めば、身体は苦しい思いをする。
 けれど、その影響で――ニセモノである私の自我が薄れて彼女が目覚めることもあるかもしれない。
 手にした杯の毒からわずかに甘い香りがして、リュアンは柔く、笑った。
「……、ないかしらね」
 自嘲めいたものを浮かべ、けれどとリュアンは思う。
 彼女につらい思いをさせるのも戦わせるのも何だから、耐えられるよう全力で頑張るわと心の中で紡ぐ。最終的には解毒薬が得られるというのだから大丈夫だろう。
 その毒を呷る――その前に。
「……ねぇ、そこのあなた」
 毒など飲めないと言って動けぬ領民へと、リュアンは声をかける。
 叶えたい『願い』を聞いてあげると。
 リュアンにはヴァンパイアへ向ける願いはないのだ。だから彼らの分をと。
 それは――これ以上、税を取り立てないでほしいということ。それを聞いて、わかったわとリュアンは頷き毒を呷った。
 とろり。
 喉を落ちていく――それは息を詰まらせるような熱さをもって見の内へと落ちていった。
 開かれた通路へと歩みを向ける。その歩みは次第に重く、そしてゆっくりとなり。
「っ!」
 ごふりとせりあがってくる熱にリュアンは口元を抑えた。げほげほとむせて、その手を見れば――赤い。
 再度咳込んだ瞬間に零れた赤はぱたたドレスの上に落ちていく。
 気管からひゅっと音がする。狭い、詰まっている。いつもはこんなことなんてないのにとリュアンは息苦しさに歯噛みし表情歪ませる。
「……ちゃんと見てる?」
 きっと、この表情も、苦しんでいる姿も楽しんでいるのでしょうとリュアンは小さく零す。
 綺麗だと言ってね、ヴァンパイアさん――そう、微笑んで口端をぬぐう。
 このドレスに、そして黒い髪にも血の紅が映えるでしょうと微笑んで。
 ふらつく足になんとか力をいれ、リュアンはまた一歩踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空見・彼方
ワゴンの上にある杯をとり一気に呷る
…口が焼け爛れるとか、そういう感じだと思ったから
割と普通に飲み干せて拍子抜けだなぁ…

等と思いながら通路を歩きだし、急激に喉の奥から上がる感覚。
……ッ!
崩れるように蹲り、ごぼっと血反吐を吐き出す。
ああ油断させといてってやつかぁ…!
猟兵としてもうそこそこ…【覚悟】はしてたつもりだけど、
身体がおかしくなっていく痛み、苦しみは死ぬよりつれぇよ…!

思わず懐の手榴弾に手が伸びそうになるのを堪える【狂気耐性】
UCは使わない。ヴァンパイアは苦しんで進むのを楽しむ。
この状態を維持して先に進まなきゃなんねぇ。

片手で口を抑え、血を呑みこんで立ちあがり、
壁に手を着いて先に進む。



 空見・彼方(デッドエンドリバイバル・f13603)は何の迷いもなくワゴンの上にある杯を一つ取り、その中身をまじまじで見るでもなく一気に呷った。
 ごくり、と喉が鳴る。そこをするりと毒は落ちて、身の内に収まっていく。
 それはとろりと蕩けていくような心地だった。
「割と普通に飲み干せて拍子抜けだなぁ……」
 なんともない。
 もっと、口が焼け爛れるとか、もっと臭った匂いだとか。そういったものがあるのかと思っていたのだが何もない。
 こんなものなのかと思いながら彼方は通路へと足を向ける。
 一歩、二歩――それは三歩目に、襲ってきた。
「……ッ!」
 突然襲い来る。急激に、喉の奥から上がってくる感覚は言葉にすること等できない痛みと不快感。
 崩れるように蹲る彼方。身を追って数度咳込む度、ごぼっと。
 そんな音が、した。
 ぼたたと口から零れ落ちた血。吐き出す、という行為は体力を使う。そして喉は削られるような痛みを得ていた。
「ああ油断させといてってやつかぁ……!」
 はは、と彼方は薄ら笑って、深く息を吸い込んだ。
(「猟兵としてもうそこそこ……覚悟はしてたつもりだけど、」)
 一瞬、視界がぶれたような気がする。それでも、彼方は絞り出すように――それは細い声だったけれどもしっかりと言葉にした。
「身体がおかしくなっていく痛み、苦しみは死ぬよりつれぇよ……!」
 思わず、懐に己の手が伸びかけた。その手をもう一方の手が抑える。
 抑え込まれた手は、かすかにふるえていた。
 懐――そこにあるのは手榴弾だ。
 気が狂いそうだ、でもこのままでいなければいけない。
 早く終わりたい。一度死ねば新しい自分に変身できる――その気持ちを抑え込んで彼方は進まねばならなかった。
 この状態を維持して先に進む――いや、状態は悪化していくばかりだ。
 片手で口を抑え、またせりあがってきた血を呑み込んで彼方は立ち上がる。
 よろめいて、真っ直ぐに歩くのは難しそうだ。
 壁に手をついて、一歩ずつ、一歩ずつ。彼方もまた先へと進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
こんな予知をして、彼も辛かったに決まっている
誰かが苦しむくらいなら自分が、と名乗りをあげたかったかもしれない
でもそれが叶わないことは知っているから

自分にできることはなんだと考えた時、浮かんだ答えはひとつだ
せめてきちんと終わらせて
大丈夫だった、なんてことなかった
そう笑って戻ればいい

領民達は助けたい、胸糞悪い話だ
でも、それよりもと言ったら、酷いと言われるかもしれないが
――俺は大切な人を苦しませるもんが何より許せねぇ

毒の味は覚えていない
酷い頭痛と目眩に、早く…と重くなり始めた足を進め

次第に回る毒
口を覆い、崩れ落ち苦しむ様子は隠さずとも
情けない呻きはなるべく耐え

黒鍵刀を杖代わりに刺し、少しずつでも前に



 先に毒杯を口にしたもの達の姿を目に、浮世・綾華(千日紅・f01194)は苦し気に表情歪めた。
 こんな――こんな、誰かが苦しむのがわかっている予知をして彼も辛かったに決まっていると。
(「きっと、誰かが苦しむくらいならわしが行くって、」)
 名乗りあげたかったかもなと綾華は思う。
 でもそれが叶わない事は知っている。それはグリモアを持ち、視得たことを伝えるものの役目だからだ。
 そんな心中を思い、自分にできることはと綾華が考えた時、浮かんだ答えはひとつだった。
 この場へ来ること。
 せめてきちんと終わらせて、大丈夫だった、なんてことなかったと――そう笑って戻ればいいと。
 ヴァンパイアの城へ招かれたもの達はどうしようかとまだ惑いの中にいる。
 領民達は助けたいと、綾華がその心に思うのは確かだ。
 胸糞悪い話だと、思う。
 でも、それよりも――そう言ったら、酷いと言われるかもしれないが。
「――俺は大切な人を苦しませるもんが何より許せねぇ」
 だから毒杯を手に取った。
 これを呷ることなどなんでもないことだ。
 手に取ったそれを飲み落とす。喉を落ちていく感覚は思いの外さらりとしていた。
 飲んで、すぐにはなんの症状もでない。
 けれど歩むうちに――足元がおぼつかない。がんがんと殴るようでもあり、目の裏を抉っていくようなひどい頭痛。くらりくらり、頭の中をかき回されて視界がまともに定まらない。
「っ、早く……」
 ここを抜けたい、抜けようと思うのに足が重く進まないのだ。
 くらくらする、膝が笑う。
 毒の味は一体どんなものだったのか、すぐさっきの事なのにもうわからない。
 綾華は口をその手で覆う。その手は――氷のように冷たいことに酷く驚いた。
 ここで崩れ落ちることは簡単だ。けれど完全に崩れ落ちたらもう立ち上がれないような気もする。
 叩き伏せるような頭痛にバランス崩して蹲れば、鈍く喉から痛みを吐き出す声が零れ、かけた。
(「情けなく呻くのは」)
 いやだと耐える。口端から零れるのは唸り声のようなものだった。
 腹の中、熱い。血が沸騰するような熱さが暴れまわるのに手は冷たい。
 黒鍵刀を杖代わりに、ずるりずるりと足引きずる様にでも、綾華は進んでいく。
 少しずつでも、前に――

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
(毒症状これより酷くてもOKです

なんか、『懐かしい』な
この身が怪奇に蝕まれた時の、
肉や骨が"影"に溶けていった感覚に似ている
身体中が熱くて
内蔵グチャグチャにされて
あらゆる"目"が回っていくから視界が訳わかんなくて
あらゆる"口"で呼吸するからどんどん過呼吸になって

――これでよく、歩けるな

……あ、嘘だろ
"怪奇"の口からも血反吐だ
貧血で倒れる予感がしてきました
いや身体中から血反吐って貧血で済んだら奇跡では?

あぁ最悪だ
死臭が酷いからガスマスク被りたいのに
血反吐で顔が血塗れになるから無理だし

血反吐これで「身体全体」で何回目だろう
クソ、喉に支障が残ったら恨んでやる
……なんて考える元気、この先残ってますかね



 ごくり、と飲み干す。
 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は飲み干した瞬間からやってきた気持ち悪さに薄ら笑った。
「なんか、『懐かしい』な」
 この身が怪奇に蝕まれた時の、肉や骨が"影"に溶けていった感覚に似ている――スキアファールは腹を撫でた。
 そこからじわじわと熱がともり身体中を巡り始める。
 熱い、熱い。じりじりと血流にのって変な心地が巡り始めた。
 体の内側、その内臓をグチャグチャにかき混ぜられていく感覚には既視感があった。
 あらゆる"目"が回っていくから視界が訳わかんなくて。
 あらゆる"口"で呼吸するからどんどん過呼吸になって。
 体が不具合を起こしていく。
 思いのままに体が動かなくなって自分のものでなくなっていくような感覚。
「――これでよく、歩けるな」
 まだ、言葉を吐き出す余裕がスキアファールにはあった。
 あったのだがそれも、すぐ失われる。つぅ、と変な熱が零れ落ちた。
「……あ、嘘だろ」
 その零れ落ちたものを受け止めて、見つめる。
 "怪奇"の口からも血反吐だ、と認識した瞬間、ぐらりと意識もかき混ぜられた。
 貧血で倒れる予感がしてきましたとぼんやり思う。
「いや身体中から血反吐って貧血で済んだら奇跡では?」
 なんて思う合間にも悪化する。
 げふり、ごふりと赤が吐き出され撒き散らされた。変な痺れも少しでてきた。指はまだ動くが鈍くてたまらない。
 あぁ最悪だとスキアファールは悪態突く。
 今までここで重ねられてきた躯の、その死臭の酷さにガスマスクを被りたいのに。この口端からあふれる血がそうさせてくれない。
 このまま被れば、血反吐で顔が血塗れになる。
 ごふり、げふり。
 体の内から吐き出される。
 血反吐がまた吐き出される――これで『身体全体』で何回目だろうとスキアファールはぼんやりと思うのだ。
「クソ、喉に支障が残ったら恨んでやる……なんて考える元気、この先残ってますかね」
 スキアファールは、ああまたと口を抑える。けれど、血反吐吐き出したのは別の口だ。
 死臭がまとわりつき、またそれでも気分が悪くなる。
 一体どこが、自分の口なのか――分からなくなるような。
 その次は視界が回転し始めた。真っ直ぐ歩けているのか、いないのかももう定かではない。
 変な感覚に苛まれながらまた一歩、スキアファールは進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。吸血鬼の悪趣味はいつもの事だけど、
わざわざ複数の毒を用立てるなんてご苦労な事ね。

…本当に解毒薬を用意しているか分からない以上、
馬鹿正直に吸血鬼の杯を干す気なんて無いわ。

事前に“黎明礼装”に呪詛を付与して防具改造
衣の四肢を人形のように操れるようにして、
更に口内の目立たない部位にUCの魔法陣を付与

杯を飲むふりをして毒を早業でUC内に転移した後、
時間をおいて同じUCからトマトジュースを血のように吐きだす

過去の戦闘知識から限界を突破した時の経験を思い出し、
傷口を抉るような激痛を気合いで耐える振りをして四肢を操作して前進する

…っ、ごほ!ごほ…!
まだ、よ。まえに…すすまないと…。

…わたしは、まだ…。



 ヴァンパイアを狩る――その為に、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)はここへきた。
「……ん。吸血鬼の悪趣味はいつもの事だけど、」
 わざわざ複数の毒を用立てるなんてご苦労な事ねと、幾つも並べられた毒杯を見つめていた。
 同じ毒なのか、それともそれぞれ違う毒なのか――それは飲んでみなければわからないのだろう。
 ヴァンパイアは、解毒薬を用意していると言ってはいたが。
(「……本当に解毒薬を用意しているか分からない以上、馬鹿正直に吸血鬼の杯を干す気なんて無いわ」)
 リーヴァルディは夜と闇を終わらせる誓いが刻まれた礼装に、呪詛を付与してきた。
 衣に四肢を人形のように操れるように。そして口内の目立たない部位に魔法陣を付与してきた。
 リーヴァルディは、ヴァンパイアに対する策をしっかりと準備してきていたのだ。
 惑うふりをしながら毒杯を一つ選ぶ。
 それを飲む――ふりをして、それを魔法陣より常夜の世界の古城へと転移させた。
 毒杯は空っぽだ。リーヴァルディはゆっくりと歩み始め、そしてその口から赤い物を滴らせた。
 それはトマトジュース。血のように吐き零し、リーヴァルディは思い出す。
 過去、限界を突破した時の経験――傷口を抉るような激痛はどんな痛みだったか。
 それを思い出し、その場所を抑えるように、己の身を抱えるように歪に動く。
 気合で耐えるふりをし、四肢を自分の意思で動かすのではなく操って前進を続けた。
 震えているように、耐えているように。
 時折足を止めては、呼吸を整えているフリをして、それらしく。
「……っ、ごほ! ごほ……!」
 また、と口を抑えてぽたりぽたりと赤い色を零す。は、と吐き出す吐息は熱を帯びているように。
「まだ、よ。まえに……すすまないと……。……わたしは、まだ……」
 望みがあるのだと、ヴァンパイアのもとへ向かう娘。
 そんな風を装って、リーヴァルディも進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
「毒に苦しむ姿を楽しむとは。悪趣味な事この上ないな。」
だが、(猟兵と言う毒を招き入れた事で)
最後に毒を飲むことになるのはどちらか分らせてやるさ。

毒杯を観察しながら意を決して口を付ける。
「どうやら、直ぐに死ぬ様な毒ではなさそうだけど。
何か起きるのか。」
毒の効果は視力が徐々に低下と聴力の異常。
呼吸の乱れ等。
最初は眩暈と耳鳴りがする程度。
(症状のアレンジはお任せします)

こめかみを抑えたり、手を見て視力の確認をしながら
「今この調子だとヴァンパイアの元に辿り着いた時に
まともに戦えるのか。」
深呼吸をして落ち着いたり適宜休憩を取って
体力を消耗しない様に注意し
あまり時間をかけずに(毒が回らない内に)先に進む。



「毒に苦しむ姿を楽しむとは。悪趣味な事この上ないな」
 だが、とフォルク・リア(黄泉への導・f05375)は紫色の瞳を細める。
 毒を招き入れたのは――ヴァンパイアの方なのだから。
 猟兵という、毒を。それを果たして、理解しているのかどうか。きっとヴァンパイアは、まだ知らないだろう。
 今日は訪れたものが多いな、と楽しんでいるくらいかもしれない。
 さて、最後に毒を飲むことになるのはどちらか、分からせてやるさとフォルクはまじまじといくつもの毒杯を観察していた。
 何人もの猟兵がすでにその毒杯を手に取り、身体に招き入れ。そして通路を進んでいった。
 さてこれはどんな毒なのかと一つを手にし観察する。
 色は、赤黒い。香りは甘いような気がする。どれでも、毒なのだから身にいれたら同じかと一番近くにあったものだ。
 意を決して、フォルクはそれに口を付けた。
「どうやら、直ぐに死ぬ様な毒ではなさそうだけど。何か起きるのか」
 ごくり、と飲み干した。
 飲んですぐに、変な感覚などはない。いつもの自分と全く変わらない。
 もしかして毒が入っていなかった? などと思ったがそんなことはない。
 足元がわずかにおぼつかない。キィン――と、高く細い音が耳の中を通り抜け視界が重い。
 最初は軽い物であったのに、それは徐々に変化していく。
 視界がちかちかと明滅し、端々から削られていくような感覚だ。
 そして音が――大きい。いや、遠いのだ。その身がきしむ音、身の内を流れる血の音。そういったものがいつもは聞こえないはずなのに聞こえてくる。
 こめかみを抑える。じくじくとした脈打つような痛みが走り抜けた。
 そそいて手を見れば、僅かにかすんでいるような気がする。
「今この調子だとヴァンパイアの元に辿り着いた時に
まともに戦えるのか」
 目は、見えている。しかし見つめている手は僅かに震えているような気がした。
 ぎゅっと握り込むが思うように力がはいらない。
 深く、息を吸って――落ち着こうとする。ひやりと変な汗もかいているような心地だ。
 できるだけ、体力を消耗しないようにしつつ、この毒が完全に回りきる前に――時間をかけずにと思いながらゆっくりと、フォルクは歩む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナータ・バルダーヌ
お願いを聞いてくださるのですか……。
まあ実際はそんなつもりないのでしょうけど、どちらでも同じことです。
わたしのお願い、ヴァンパイアさんの思惑がどうかはあまり関係がないので。
さて、あの領主様の代わりに相応しい方だといいのですけど……。

わたしの体は苦痛を受けるほど生体防御力が高まるので、何の毒かわからなくても飲むのに躊躇いはありません。
といっても死ぬ心配がないというだけで、苦しいものは苦しいです。
それでも耐えるのには慣れているので、動くのに支障はないでしょう。
むしろ、そのせいで警戒されないように、もう1杯くらい飲んでおいた方がいいでしょうか?
2杯飲んだらお願いも2つになりませんか、などと訊いて。



「お願いを聞いてくださるのですか……」
 ぽつりとレナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)は零す。
 まあ――実際はそんなつもりないのでしょうけど、どちらでも同じことですと、心の中で続きを紡いで。
 そしてレナータはわたしのお願いは、と思う。
(「わたしのお願い、ヴァンパイアさんの思惑がどうかはあまり関係がないので」)
 さて、あの領主様の代わりに相応しい方だといいのですけど……とレナータはふふと微かに笑い零す。
 そして、並べられた杯の一つを手にとった。
 レナータの体は苦痛を受けるほど生体防御力が高まるというもの。
 何の毒かわからなくても、飲む事に躊躇いはない。
 といっても――死ぬ心配がないだけで、苦しいものは苦しいのだ。
 それでも耐えることには慣れている。きっと動くのに支障はないだろう。
 むしろ、そのせいで警戒されないようにもう一杯くらい、飲んでおいた方がいいでしょうか? とレナータは首傾げる。
 2杯飲んだらお願いも2つになりませんか、と――訊ねようとした間際だ。
 レナータは不快感を覚える。じくじくとした変な不快感。それはぼんやりとしたものであったのに、徐々に輪郭を得ていく。
 腹の中で渦巻く熱は一体何なのか。それが一気に、逆流して駆けあがってくる。
 レナータは口元を抑えた。あふれ出てきたのは血。つぅ、と口端から零れようとするものを抑えるのに限界がある。
 しゃがみ込み、うぇっとひしゃげた声と共にせりあがるものを吐き出した。
 どうやら、毒杯一つでも十分なようだ。もう一つ飲んだならば、もっとひどいことになるだろう。
 よろめきながら、レナータもまた示された通路へと歩む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
他人の痛みを糧にするモノが存在するとは把握しているよ
ふふふ、困ったねえ…こういう輩は私が最も嫌悪する対象なのだよね
救い主としてあるまじき態度をしないように努めないとね

毒使いの私がこの程度で臆するとでも思ったかい
表面上はあくまでも穏やかに
紳士的な態度を崩さず柔らかい笑みを浮かべ
されど、一切の躊躇いを見せず盃を煽り

…く、
堪え難い痛みに意識が遠のき、足が震える
視界は狭まり、自分がどこへ向かっているのかも分からなくなりながらも歩みは止めない

痛みを知覚するということは
私が生きていることを示す証明

…感謝するよ
私はこんなにも『生きたい』と願っていることを知ることができたのだからね



 セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は零れかけた笑みを吐息へと変えて、かわす。
 それはどうにも、抑えられぬもの。
 他人の痛みを糧にするモノが存在するとは把握している。だからこそ、零れる言葉に、笑みに意味があった。
 だからわずかに俯いて、零してしまう。
「ふふふ、困ったねえ……こういう輩は私が最も嫌悪する対象なのだよね」
 救い主としてあるまじき態度をしないように努めないとねと、セツナは薄っすらと笑み浮かべていた。
 毒杯を、手に取る。セツナもまた毒使いだ。
 毒使いの私がこの程度で臆するとでも思ったかい、と笑う。
 それはあくまでも、穏やかにだ。
 紳士的な態度を崩さず柔らかい笑みを浮かべ、されど――一切の躊躇いを見せず呷る。
 喉を落ちていく、灼熱のような痛み。それはとても明確で激しい主張だった。
「……く、」
 その毒は、身体の中に入ると同時に暴れはじめる。セツナの体内へと落ちたことで、水を得た魚のように生き生きと。
 堪え難い痛みだ。ずくずくと皮膚の下一枚を這いまわるような痛みもあれば、身体の内側、その深い場所を引き絞るような痛みもある。
 その痛みに意識が遠のきかけ、足は震えていた。
 視界が徐々に狭まり、セツナは自身がどこへ向かっているのかも分からなくなる。
 それでも、どうにか足を交互に動かして前へと進んでいた。
(「痛みを近くするということは」)
 私が生きていることを示す証明。
 そう、思えば。
「……感謝するよ」
 ひやりと、冷たい汗が落ちる。
 絞り出した言葉にしみいる言葉には重さがあった。
(「私はこんなにも『生きたい』と願っていることを知ることができたのだからね」)
 死んではいない。息をしている。痛みはいきていると、今を感じている事だ。
 生きている、だから――小さな歩みであっても、前へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◆SPD
ヴァンパイア自ら手を出すわけでも、眷属に襲わせるわけでもなく、わざわざこんな物を使うとは…
呆れつつ杯を手に取り、中身を一気に飲み干す
覚悟はできている…が、直後に表れる毒の症状に思わず杯を取り落とす

最初に感じた体の熱さが次第に激しい痛みに変化していく
足元の杯を拾う事もできないほど、めまいが酷い
手足は少し痺れを感じるものの、今はまだふらつく程度
(※その他お任せ、アドリブ歓迎)

…これは、拙い
想像以上に辛い体の異変に、内心に焦りが生じる
今はまだ動けるが時間をかければそれだけ症状は悪化する
歩けなくなる前に、ヴァンパイアの元へ辿り着かなければならない
鈍る動きはもどかしいが、出来る限り早く足を進める



 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は毒杯を一つ手に取っていた。
「ヴァンパイア自ら手を出すわけでも、眷属に襲わせるわけでもなく、わざわざこんな物を使うとは……」
 呆れつつ零す。
 中を見つめれば僅かばかりにとろりとしているのか。それは赤のようで紫のような。そんな不思議な色合いをしていた。
 シキは一気にそれを飲み干す。毒を飲む――その覚悟はできていた。
 しかし、直後にすぐ現れた変な怖気に思わず杯を取り落とす。
 地に落ちた杯はからんからんと乾いた音をたてながら転がっていった。
 そして、その怖気は瞬く間に熱となり身体中を荒れ狂う。
 熱い。血が沸騰して逆流しそうだ。
 熱い、熱い――痛い。抉られていく。
 熱は痛みへと変わる。突き刺すような体が内側から外へ抜けていくような感覚に、足元に落とした杯を拾うこともできない。
 きっと屈めば、その瞬間にふらついて倒れると思えるほどのめまい。
 それに手足に感じる痺れ。それはまだわずかだがこれから酷くなれば――と、シキは思うのだ。
「……これは、拙い」
 想像以上に辛い体の変化。次は頭痛だ。ずきずきと怖ろしいほどの痛みが襲い掛かる。
 内心、焦りが生じていた。
 今はまだ動けるが時間をかければそれだけ症状は悪化する。
 歩けなくなる前に、ヴァンパイアの元へ辿りつかなければ――そう思い、シキはまず一歩進めた。
 いつも、もっと早く歩けるというのにのろのろと遅い。
 動きは鈍っている。それでもできる限り早く足を進めていくシキ。
 ふらついて、倒れそうになってもどうにか踏みとどまる。
 目の裏をごりごりと削られるような痛みも始まり視界がちらついてきた。
 シキはそれでも、前に進まねばと進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花邨・八千代
【徒然】
毒かー…悪趣味な敵だn…(隣を見る)
なんで服毒前なのにすでに正常な状態じゃなくなってんの?
早くね?初っ端から飛ばしすぎじゃね?

えぇ…唐突に彼氏のやべー一面見せられてる気がする…。
わかったわかった、ぬーさん楽しいのわかったから仕事しような?

一息に毒杯を煽れば内蔵を焼かれるような感覚。
めまい、吐き気、込み上げる血が口に溢れかえる。
噎せて俯いていればいきなり顎を掴まれ仰向かされた。

ひぇ……瞳孔バリ開き…。

とりあえず血で汚れた口元を拭ってやって、ひょいと布静を肩に担ぐ。
だめだこのテンション、苦しんでるフリもクソもねぇ。

口に溢れる血を吐き捨てて歩き出す。
つまらん余興だが付き合ってやるよ、クソが。


薬袋・布静
【徒然】
コレを飲めと?中身は毒ときた
っは、喜んで服毒したろうやないかい!

俄然に心躍る演出をしてくれるかんけ、クソが
どんな作用があるんやろうな!八千代!
あかん、久々にどちゃくっそテンション上がってきたわ…
嗚呼、心配せんでも今飲む

ぐ一気に毒を体内へ収めていく
喉を通る瞬間に刺すような焼ける刺激
全身を犯していく痺れ迫り上がる嘔吐感に
口元を手で覆うと吐血の痕

グッ…カハッ…はぁ、はぁ……
おうおう、中々にキマる代物やんけ
ホォー……軽い目眩もあるようやな、面白い
外見変化は無さそうやな…

八千代の顎を掴み状況を確認する瞳は
完全に瞳孔が開ききっている

頭の中はどう調合し解毒するかのみ
手帳に書き殴り思考を巡らせ続ける



 杯を、人差し指と親指でつまみ上げ、花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)は己の目の高さまで持ち上げていた。
「毒かー……悪趣味な敵だn……」
 と、傍らを見ると。
「コレを飲めと? 中身は毒ときた。っは、喜んで服毒したろうやないかい!」
 薬袋・布静(毒喰み・f04350)は非常に楽しそうな面持ちをしていた。こんなテンション、今まで見たことがあっただろうか。膝を叩いて大喜びといった感じだ。
「なんで服毒前なのにすでに正常な状態じゃなくなってんの?」
「俄然に心躍る演出をしてくれるかんけ、クソが。どんな作用があるんやろうな! 八千代!」
 話を聞いちゃいない。布静の様子を八千代は半眼で見つめて。
「早くね? 初っ端から飛ばしすぎじゃね?」
「あかん、久々にどちゃくっそテンション上がってきたわ……」
 どの杯にしようか、できるなら全部飲んでみたい。そんな勢いの布静の姿に八千代は僅かに呆れ、困惑――複雑な感情乗せた表情を向けていた。
「えぇ……唐突に彼氏のやべー一面見せられてる気がする……」
 やっぱり、こんなの今まで見たことはない。大丈夫かこれ、と思うがその言葉を呑み込む。
 楽しそうなのは、まぁ――悪いことではない、はず。
 なんだかいつもと、立場が逆転しているようだ。
「わかったわかった、ぬーさん楽しいのわかったから仕事しような?」
「嗚呼、心配せんでも今飲む」
 よし、これにしよと布静は毒杯の一つを手に取った。
 ぐーっと一気に毒を体内へ納めていく。
 喉を通る瞬間に刺すような焼ける刺激。布静はその感覚を追い込む様に感じて、全身を犯していく痺れ、迫り上がる嘔吐感に口元を手で覆った。げふっ、と吐き出さずにはいられないものがあった。
 ぬるり、と。口元覆った手から感じるもの。口から手を離せば、そこには吐血の痕だ。
「グッ……カハッ……はぁ、はぁ……おうおう、中々にキマる代物やんけ」
 その傍らで八千代も、一息に毒杯を。
 瞬間、内臓を焼かれるような感覚がぬるりと這い上がる。
 めまい、吐き気、込み上げる血が口に溢れかえり、抑え込む間もなく外側へ、外側へとあふれ出る。
 げふげふと噎せて俯いていればいきなり顎を掴まれ仰向かされる。
「ホォー……軽い目眩もあるようやな、面白い。外見変化は無さそうやな……」
 視線が合う。その瞬間にひゅっと八千代の喉奥から空気が漏れる音。
「ひぇ……瞳孔バリ開き……」
 八千代の状況を確認するその、布静の瞳。その瞳孔は完全に開ききっていた。ということは己も開いているのだろうかと思うが布静の瞳の中の自分は、変わらない。
 正面からぶつけられたその視線はなかなかに、刺激が強い。
 そして口端から零れた血をそのままに嬉しそうにしているもので。
 八千代は手を伸ばしひとまず、口元を拭ってやった。
 そしてひょいと布静を肩に担ぐ。このままでは布静はこの先に、いけない体。
「突き刺さるような痛みに、この変な熱と、めまいと……アレか? いや」
「ぬーさーんもどって……これないよなぁ。だめだこのテンション、苦しんでるフリもクソもねぇ」
 やっぱこれでいこ、と八千代は抱え上げてそのまま歩き始める。
 抱えた分重い、バランスがとりづらい。ふらつくのを堪えて、また感じた血の気配。
 溢れてくるそれを、べっとそのあたりに吐き捨てた。それもやっぱり、赤い。
「つまらん余興だが付き合ってやるよ、クソが」
 手帳に書きなぐり、思考を巡らせ続ける布静。それはどう調合し解毒するかをだ。
 八千代もそれはわかっている。
 身の内の毒が回りきるのと、布静がその答えを導くのは――一体どちらが早いのか。
「……お姫様抱っこの方がよかったか?」
 と、八千代はふと思ったのだが。その言葉も耳に届かぬほどに夢中。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
症状はお任せ、存分にどうぞ

ま、普通に一気に飲む。元からたいしてないが、耐性は使わないようにして。

……。少しばかり好奇心があるのは確か。
誰だって好き好んで毒なんか飲まない。
猟兵となった事で、ヤドリガミは多少の肉体的な無茶は融通がきくと知ったから余計にな。

正直、身体だけを蝕む毒なんてたかが知れてると思う。
心ごと身体ごと蝕む感情や想い、それを知ってるから。それに比べればきっとたいしたことない。
這ってでも先に進む。



 毒杯を手に取り、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は見つめて。
「ま、普通に一気に飲むか」
 元からたいしてないが、耐性は使わないようにして瑞樹はそれを体の中に招き入れた。
 毒を飲む事。
 それに――少しばかり、好奇心があるのは確かだった。
 誰だって好んで、毒なんか飲まない。飲むものではない。
 猟兵となり、ヤドリガミは多少の肉体的な無茶は融通が利くと知ったから余計にだ。
 喉を通り、胃に達する。じわりと灯る熱は突然、燃え上がる様に激しく、身体の内を暴れまわり始めた。
 じくじくと焼くような痛みがある。それは腹から手足へと向かっていった。
 瑞樹の体の内で暴れるそれは――次に、その身の内から這い出ようとしてくる。
 喉が引き攣れた。そしてごふっと噎せると同時にぼたぼたと血が落ちていく。
 突然目の裏に爪をたて、抉られるような痛みまでもきて視界がぐちゃぐちゃにかき混ぜられた。
 身体だけを蝕む毒なんてたかが知れてる――そう、思っていた。
 心ごと身体ごと蝕む感情や想い、それを知ってるからだ。
 それに比べればきっとたいしたことないと思っていたのだが、荒れ狂うそれは激しい。
 毒のもたらす痛みは容赦なく瑞樹を叩き伏せようとしている。早く、倒れてしまえというように。
 膝が笑う、思わず膝をつきそうになるのをこらえて瑞樹は一歩を踏み出す。
 這ってでも、先に進むと強い意思を抱きながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

瀬名・カデル
この毒の杯を飲めば目的のヴァンパイアは出てくるんだね。
どのくらい辛い状態になるかわからないけど…ボクたちはそいつを倒さなきゃ。
アーシェと一緒に居城に向かって毒杯を飲むよ。

…!なんだか変な、気分…気持ちが悪いや。
でもこれで前に進めるんだね、行かなきゃ…
動きが鈍いけど、前に。

苦しくて辛いけど、これがあいつの望みだからこの状態は維持しなきゃね
じゃないと、逃げられちゃうから。
村を救うためにもそれは回避しなきゃ。

気を付けていたけど、流れる血でアーシェが少し汚しちゃったよ
ごめんね…

あまりにも辛い状況やボク以外にも酷い症状の人がいたら「生まれながらの光」で気休めかもしれないけど痛みを少しでもとれたらいいな。



「この毒の杯を飲めば目的のヴァンパイアは出てくるんだね」
 ひとつ、瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)もまた毒杯を手にとっていた。
 とぷりとゆれる、毒。
 これが与えるものがどれくらいのものなのか。
 どのくらい、辛い状態になるのかはわからない。それでも、とカデルはきゅっと杯を握る。
「……ボクたちはそいつを倒さなきゃ」
 カデルはアーシェと一緒に、毒杯を飲む。
 飲み干して、ふと息を吐いた。
「……! なんだか変な、気分……気持ちが悪いや」
 うぇ、と込み上げる嫌悪感。
 でもこれで前に進めるとカデルはゆっくりと歩み始めた。
 動きが鈍い。それでも、前にと言う気持ちは変わらない。
 歩くだけで息が上がると、ぎゅっとアーシェを抱き込む。
 苦しくてつらい。でもこれがあいつの――ヴァンパイアの望みだからこの状態を維持しなければいけないのだ。
「じゃないと、逃げられちゃうから」
 村を救うためにもそれは回避しなきゃ、とカデルは紡ぐ。
 じっとりとした汗が額を流れ落ちる。苦しい、苦しい。
 呼吸がうまく紡げない。痛みも体中を走り始めていた。
 けふけふと、カデルは噎せる。その手に、濡れた感触を感じてみれば。
「あ……」
 ぽたりと血が零れ落ちた。
 それはアーシェの頬の上にぽつりと落ちる。
「ごめんね……」
 気を付けていたけれど少し汚してしまった。
 カデルはアーシェの汚れを拭ってあたりを見回す。
 むかむかとこみあがってくる吐き気。僅かに視界がふわふわとしてきている。
 他にも――同じ方向に向かう猟兵の姿は見られる。
 彼らもまた苦しみながらも前に進もうとしていた。
 カデルもまた、彼らと共に前へ進むのみだ。
 癒しの力をふるえば――助けになるだろうか。けれど、自分もまた疲弊する。
 この場でそれをすると動けなくなるような気がするのは、カデルもまた毒で体力を奪われているからだ。
 前へ進もうと、カデルは重い足を、また動かし始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイ・バグショット
…理不尽さは相変わらずだな、この世界は。
ヴァンパイアのことはよく知っている。
俺にも、半分はその血が流れているからな…。

毒杯、か…。
杯を手に揺れる毒を一瞥
飲むことへの恐怖などない
恐怖や苦痛を受け入れることは慣れてしまった

…俺にとって苦痛は日常なんだよ。
誰かに痛みを与えることも、自身が与えられることすらも

毒杯を飲み干す理由は人の為じゃない
これヴァンパイアへの反抗であり自らに課した覚悟だ

……う、ぐは…ッ…
全身を襲う痛みと熱。喉を焼く感覚と広がる鉄の味
元から悪い顔色を更に蒼白にして
吐いた血に濡れ満身創痍でも歩を進める

……簡単に、…殺せると思うなよ…。
絶対に殺されてたまるか。むしろ殺してやる。と薄ら笑う



「……理不尽さは相変わらずだな、この世界は」
 ため息にも似た、言葉をジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は落とす。
 ヴァンパイアのことはよく知っている。それはジェイにも、半分はその血が流れているからだ。
 これもまた――ヴァンパイアのやりそうなことではある。
「毒杯、か……」
 ワゴンの上から、毒杯ひとつを手に取った。
 手の中にある毒は、ゆらりと踊る様に波打った。
 それをジェイは静かに見つめている。
 この毒を、身の内に入れる――そのことへの恐怖などはない。
 恐怖や苦痛を受け入れることは慣れてしまったと、その事実をただ受け止めていたのだ。
「……俺にとって苦痛は日常なんだよ」
 誰かに痛みを与えることも、自身が与えられることすらも。
 だからこれは日常の――僅かばかりの延長線上にすぎないのだ。
 この毒杯を飲み干す理由は人の為じゃない。
「これはヴァンパイアへの反抗であり自らに課した覚悟だ」
 ジェイは紡ぎ、手にしていた杯を喉へと落とす。
 瞬間――焼けるような痛みが走る。
「……う、ぐは……ッ……」
 その痛みはすぐに全身を襲うものへと生まれ変わる。ずきずきと柔い痛みもあれば抉るように容赦なくその身を引き裂こうとする痛みが体の節々を襲う。
 喉を焼く感覚にジェイはその場所を抑えた。そして広がる鉄の味。
 毒が深々と、その手をジェイの身に伸ばしていた。
 元から悪い顔色は更に蒼白になっている。
 ごぼっと口からあふれ出て。吐いた血塗れの顔で満身創痍なのは目に見えて明らかだ。
 それでも、歩みは進めなければならない。
「……簡単に、……殺せると思うなよ……」
 その声は、弱弱しく。けれどその瞳には、強く深い光が宿っている。
 絶対に殺されてたまるか。むしろ殺してやる――薄ら笑う男はどんな痛みに、苦しみに苛まれようと進むことを決して、やめない。
 一層、顔色は悪くなっていくものの、笑みの凄みは増していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レザリア・アドニス
また、悪趣味なヴァンパイアですね…
というか、悪趣味のないヴァンパイアって、いるのでしょうか…

躊躇わずに毒杯を仰ぐ
さて、これで満足…?と、通路に進む
湧き上がる熱いものと、内臓を焼かれる感覚を我慢して
警戒しながら慎重に歩く
死臭はヴェールで隔離

分かっている、けど…やっぱり、そう簡単に、意に従いたくない…
最初はできるだけ平然に振る舞うけど
だんだん我慢が難しくなり、湧き上がる熱を阻止できなくなる
時間が経過すると、呻き声を漏らし、足がふらつき、目の前が暗くなる
それでも杖で震える体を支え、全力で足掻いても前へ進む
そんなものに、負けるなんて…っ、う…!!
そうして地面に赤い花の道を作り、先へ導く扉まで続ける



「また、悪趣味なヴァンパイアですね……」
 ふ、とため息をつく。
 レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は瞳を伏せ呟いた。
「というか、悪趣味のないヴァンパイアって、いるのでしょうか……」
 そんなヴァンパイア、私はまだ知らないわと零し、手にとった毒杯を見つめることもなく。
 レザリアは手に取ったまま、躊躇うこともなく毒杯を身の内へと落とした。
「さて、これで満足……?」
 そう、紡いだ瞬間。
 くるりと視界が一回転した。ぐらり、と容赦なく襲ってくる感覚。
 それから湧き上がってくるのは熱いもの。内臓を焼かれるような感覚が暴れ始めた。
 は、と零れる吐息は違和感しかない。吐き戻しそうとなるものを抑えてレザリアは進み始める。
 通路に入れば――変に甘く、けれど鼻をつつく死臭がレザリアをまた苛む。
 その臭いを己の身から隔離してレザリアはやり過ごしていた。
 くらり、とまた世界が回る。
「分かっている、けど……やっぱり、そう簡単に、意に従いたくない……」
 体は、辛い。
 できるだけ平然と、レザリアは振舞っていた。
 けれどだんだんと我慢が難しくなる。湧き上がる熱を制御できない、阻止できない。
 それは体の内側を焼く様に暴れている。
「う……ぐっ……」
 呻き声が零れた。足はふらついて、目の前の光が失われ真っ暗になる感覚。
 それでも、進む方向は分かっている。
 震える身体をぎゅっと抱え、そして杖を使いバランスを取りながらレザリアは足掻く。
 足掻いて、前へ、前へと進むだけだ。
「そんなものに、負けるなんて……っ、う……!!」
 込み上げてきたものを、レザリアは吐き出した。
 吐き出したものは赤。それは地面に赤い花の道を作っていく。
 ああ、また。
 おぼろげな視界だが、それが血だということはわかる。
 レザリアはそれでも前へと進んでいく。
 焼くけるような痛みと、戦いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイネ・ミリオーン
……毒とはいえ、外の世界の空気よりはマシじゃないかと思うんです、よ
だって、生命維持装置と酸素マスクがないと死にます、から
不思議です、よね
この世界は暗くて澱んでいるように見える、のに……それでも、僕の世界よりは空気が清浄なんです、ね

声、毒を飲んでもちゃんと出ると良いんです、けれど
……飲んでみましょう、か(マスクをずらして飲み干した)
っ、く……(眩暈。腹の中がどろりと溶けるように熱くて、ぐらぐらする。喉に迫り上がる血に噎せて、口許を抑える手の隙間から血が滴った)
……っ、ぁ……い、った……(良く分からないけれど、痛い。でも、声は出る。荒い呼吸を整えて、慌ててマスクを口元へ)

……先に、進まない、と



 これが、毒。
 アイネ・ミリオーン(人造エヴァンゲリウム・f24391)は毒杯を手にとり、ふと笑み零した。
「……毒とはいえ、外の世界の空気よりはマシじゃないかと思うんです、よ」
 だって、生命維持装置と酸素マスクがないと死にます、から――と、アイネは瞳細める。
「不思議です、よね」
 この世界は暗くて澱んでいるように見える。
 見える、のに……それでも。
「僕の世界よりは空気が清浄なんです、ね」
 その世界ごとに、オブリビオンの影はある。この世界はそれが濃い世界だろう。
 それでも、息をするための空気は――アイネの過ごしていた世界よりもまともだ。
 そして、アイネはするりと喉のあたりを撫でた。
 毒。これを飲んでどうなるか――抱える不安は一つ。
「声、毒を飲んでもちゃんと出ると良いんです、けれど……飲んでみましょう、か」
 マスクをずらして、毒杯を飲み干す。口にした瞬間、鼻を抜けていったのは僅かに甘みを帯びた香。
「っ、く……」
 飲み干して、ふと息を吐いた瞬間。
 くらりと容赦なく眩暈が落ちてきた。そして腹の中がどろりと、溶けるように熱く。
 ぐらぐらと頭を誰かがつかんで掻き回している。そして喉に迫り上がるのは――血。
 ごほ、がふっと血に噎せて、口元を抑えればその手の隙間からは血が滴り、ぽたりと落ちていく。
「……っ、ぁ……い、った……」
 一体どういう状況に、己の体がなっているのか――それが呑み込めない。
 呑み込めない、良く分からないけれど痛い。
 でも、声は出る。声は、出た。
 しかし噎せる。そのせいで喉が狭まり呼吸が荒れた。
 荒い呼吸を整えて――アイネは慌ててマスクを口元へ。
 ぐらつく、酷い眩暈は変わらない。腹の中でも様々なものが暴れまわっている。
「……先に、進まない、と」
 声は出る。歩ける。
 手足もまだ、アイネの意のままに動く。
 毒を身の内に招いた瞬間、襲ってきた激しさは、今は少しばかり大人しくなっていた。
 けれど、それはじわじわと――アイネの身を内側から、焼いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

絢辻・幽子
毒ねえ、毒。躊躇ったら余計に怖いのよ。

喉から腹へと落ちるそれはきっと
度数の高い酒のような、液体が触れた場所が全て焼かれるような
酒と違うのは、血が口から零れる事だろうか
死の一画が、頭の隅へ墨を落としたなら
酷い高揚感に染まる、きっと多分これは狂う前なのかもしれない
……なあんて

元々、どちらかといえば狂人だったわ。

ふふふ。あはは。
いやあねぇ、やあねえ、悪趣味。
貴族ってそういう趣味がある変態さんが多いっていうわあ
ひとつ、のってあげるわよ
美人の顔が歪む姿でもごらんなさいな
膝なんて付いてやんないわよ
幽ちゃんの綺麗な尻尾がモップになるじゃない。

『毒耐性』は、死なない程度に使用
少し体験してみたいのよね、毒って



 これね、と絢辻・幽子(幽々・f04449)は毒杯を摘まみ上げる。
「毒ねえ、毒。躊躇ったら余計に怖いのよ」
 色はまるで血のようだ。匂いは甘い気がする。
 幽子は笑って、その毒を身の内へと招いた。
 一気に、喉から腹へと落ちる――度数の高い酒のような、落ちていく場所を全て焼いていくような心地。
 味は、その焼いていく心地が強すぎてよくわからなかった。
 けれどすぐに――つぅ、と。
 口端から血が零れていた。
(「嗚呼」)
 死の一画が、頭の隅へ墨を落とす。
 ぽつりと落ちたそれがじわりと、意識を侵食するように広がっていった。
 それも、また煽る。
 酷い高揚感に、意識が染められている。きっと多分、これは――狂う前なのかもしれない。
「……なあんて」
 ふふ、と笑って幽子は口端を拭う。指先を彩る赤は、まぎれもなく自分の血だ。
 それを瞳細め、見つめる。
「元々、どちらかといえば狂人だったわ」
 そう零し、ふふふ、とその唇から零れた。
 それは徐々に大きなものに。
「あはは。いやあねぇ、やあねえ、悪趣味」
 そういって笑えば、喉を再びせりあがるもの。ごふ、と血を吐き出して、それでも幽子は笑い続ける。
「貴族ってそういう趣味がある変態さんが多いっていうわあ」
 ひとつ、のってあげるわよ――そう言って浮かべる笑みはどこか、妖艶なのだ。
 けれど、毒によって疲弊を重ねられているのは言葉にはしないがその身をもって感じていた。
「美人の顔が歪む姿でもごらんなさいな」
 膝なんて付いてやんないわよと、幽子は何処かで見ているであろうヴァンパイアへと言葉向ける。
 そしてふわり、と。己の尾を揺らめかし。
「幽ちゃんの綺麗な尻尾がモップになるじゃない」
 それは、嫌と――ゆうらりゆらり、たゆたい歩むその歩みは、いつもよりも遅く。
 強烈なものを、一度与え。そしてゆるゆると首を絞めていくような心地の毒。
 毒が完全に回りきらぬように、耐性が巡る。けれど、それは完全に打ち消すものではない。
 少しばかり、毒の心地を――女は楽しんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バジル・サラザール
ただ苦しませるために毒を使って、村の人をあざ笑うなんて
……でも少し毒には興味があるかな

興味深いし、飲む前に『毒使い』『医術』で少し観察
とりあえず即死するものではなさそうね
演技の自信はないし、どうしても死ぬとかでもなければ『毒耐性』は使わないでおきましょう
飲んでからも症状などから毒を分析しましょう
体の痺れに体が溶けるような痛み、めまいもして……これだけかしら、もっと他にないの?てな感じで苦しみつつ強がりましょう、まあ、強がり100%でもないのだけれど
いつになく興奮してるのもきっと毒の症状よ

症状お任せ、アドリブ、連携歓迎



 毒杯はまだ、目の前にたくさんある。
「ただ苦しませるために毒を使って、村の人をあざ笑うなんて」
 バジル・サラザール(猛毒系女史・f01544)はそれを見て瞳細めていた。
 そうは言うがこの、目の前の毒には――少し、興味がある。
 毒杯のひとつを手に取り、バジルはじぃっと見つめていた。
 飲む前に、少し観察をする。
 見た目、匂い――それらと、己が持つ毒を扱う手と医術の術をもてば分かることはあるのだ。
 匂いは、かすかにしている。毒は、水のようにさらりとしているようだ。
「とりあえず即死するものではなさそうね」
 演技の自信はない。どうしても死ぬ、というものでもないのだからバジルは耐性を使わずにそれを口にした。
 口にして、喉を落ちていく。さらりと、それは甘い果実酒を飲んでいるような感覚に近かっただろうか。
 するりと飲めてしまった。苦労することもなく、だ。
 なんだか拍子抜けのような――そんな感覚をバジルは得ていた。
 けれどじわりと、腹の底で溶けるように熱くなる感覚があった。
 それを感じ始めてから、指先にまず違和感が生まれる。じわりじわり、その違和感は広がってきた。
 鈍い感覚。それから、痺れが生まれ――身体にも溶けるような痛みが走り始めた。
 それに、めまいもだ。
「……これだけかしら、もっと他にないの?」
 そう紡ぎながらもふらりと、足はおぼつかない。
 苦しさは――ある。バジルは胸元を抑えて深く、息を吸った。
 平気なふりをしようとする。強がってみようとするが――ずっとそれを続けられるとは思えなかった。
 ふと、その表情に笑いが零れる。いつになく興奮している。
 それを最も深く感じているのはバジル自身だ。
 腹の底から駆けあがってくる不快感がある。これをやり過ごすのはなかなか難しそうだ。
 倒れたりは、しない。ふらつく足で前へと、バジルもまた進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

未不二・蛟羽
SPD
この匂い、薬みたいで嫌いっすけど…飲まなきゃ駄目っすよね
薬物を飲まされる、という行為自体に寒気を感じつつ進み

見られてる、感じがするっす…
薬のんで、どうなるか見られて
なんでか分からないけど…それ、すごくさむい
頭ががんがんするのは、薬のせいっすか、それとも…

口の中に広がる鉄臭さと周りの臭気に触発されるは獣の本能
生命の危機に反応した飢えを必死に押し殺して、這う様に進み

観察する塗り潰された顔。細い針。
腐っていく獣の目。喰らったのは、だれ
幻覚の意味すら侵された思考では認識できないまま

さむい、いたい、くらい
きらきら、どこにもない
でも……行かなきゃっす。もっと見失わない為、にも

症状含めてアドリブ歓迎



 未不二・蛟羽(花散らで・f04322)が手に取った毒杯。
 それを鼻に近づけて、蛟羽はすんとその香りを嗅ぐ。そして、うわぁというように表情歪めた。
「この匂い、薬みたいで嫌いっすけど……飲まなきゃ駄目っすよね」
 そもそも、薬物を飲まされる――その行為自体に蛟羽は寒気を感じていた。
 それでも、飲まねば先に進めないのだ。
 蛟羽は毒杯を、口に運び飲み干した。とろりと、喉を落ちていく。
 飲み干して、蛟羽はふと息を吐いた。
 そして、見られている。視線を、蛟羽は感じていた。
 薬を飲んで、どうなるのかだろうか。
 なんだか分からないけれど――それは、すごくさむい。
 そしてじわじわと、頭痛が始まっていた。その痛みは徐々に増していき、今はもうがんがんと頭の中を打ち鳴らすほどのものだ。
「っ……、薬のせいっすか、それとも……」
 もっと別の理由があるのか。
 ぐらりとふらついた蛟羽は、胃の中からせりあがってくるものを感じた。
 鉄だ。鉄臭い――それに周囲の臭気。それが煽るのは蛟羽の獣の本能だ。
 喉を圧してくる、胃からせりあがるもの。それは溢れて、は吐き出した。
 そのまま、その場に崩れ落ちる。
 生命の危機だと、それに反応して飢えが満ち溢れるのを必死に押し殺し蛟羽は這う様に進み始めた。
 ゆっくりと、少しずつ進む蛟羽の視界が揺らめく。
 進む、進む。その前がどうなっているのか顔を上げると――そこに塗りつぶされた顔がある。
 それは蛟羽をじぃ、と見つめていた。
「っ!? ぐ、ぁ゛」
 細い針、落ちてくる。腐っていく獣の目。それを拾い上げ、誰かが口に運ぶ。
 喰らったのは――だれ。
 蛟羽の見ているものは、蛟羽にしか見えぬもの
 幻覚だった。
 体の節々が痛い。何かが噴出しそうだ。
 それと共にひどく、さむい。
 さむい、いたい、くらい。
 きらきら、どこにもない――でも、と蛟羽の瞳は僅かに光を取り戻す。
「でも……行かなきゃっ、す……」
 もっと見失わない為、にも――伏して、地を掻く。
 ずるりと身を引きずる様にして、蛟羽は進んでいくしかなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
まあ、死にませんし
痛かろうが、苦しかろうが、血を吐こうが、死なねぇってのはそれだけで大きいですよねぇ
……別にマゾじゃねぇんで、苦しい痛いってだけで御免被りてぇんですが、ね

何れを選んでも変わりませんよ、どうせ毒です
杯を取って飲み干せば、くらりと視界が回って腹の奥からじわじわと痛みと熱
こほりと咳き込むと錆の味
……は、なるほど……腹の底から溶かされてるみてぇです、ね……
とはいえ、歩けなくはねぇですから、行きましょう

全く、苦しみながら進む人の子の姿を見て悦に浸りてぇなんて、悪趣味な輩ですこと
……あんたたちの今際の負の感情も、全て貰って行きますよ
喰った負はあんたたちの敵に投げ付けて来ますから、安心なさい



 まあ、死にませんし――雲烟・叶(呪物・f07442)はゆるりと微笑む。
 痛かろうが、苦しかろうが、血を吐こうが、死なねぇってのはそれだけで大きいですよねぇと独り言ちる。
 そういって、叶ははたと気づく。いやいやと緩く、苦笑交じりに。
「……別にマゾじゃねぇんで、苦しい痛いってだけで御免被りてぇんですが、ね」
 さぁどれにしようかと、毒杯の上を指が滑る。
 何を選んでも毒は毒。変わりませんよと叶は杯のひとつを手に取った。
 ふわりと叶の鼻孔擽ったのは華やかな。
 それを叶は飲み干した。その瞬間酩酊のようなゆらぎ。くらりと視界が回って、毒が落ちた先。腹の奥からじわじわと痛みと熱が、起き上がる。
 それは体の内側を這いあがり――こほりと叶を咳込ませた。
 すると口の中に広がる、錆の味。鈍い味だ。
 叶はそれを反芻し薄く笑う。
「……は、なるほど……腹の底から溶かされてるみてぇです、ね……」
 とはいえ、歩けなくはない。
 痛みはある。腹の中で暴れたがっているような感覚だ。
 四肢はまだ自由だ。渦巻くそれだけが厄介な気配を感じさせる。
「全く、苦しみながら進む人の子の姿を見て悦に浸りてぇなんて、悪趣味な輩ですこと」
 一歩、二歩とゆっくりと進む。
 叶はまた、こほりと咳込んだ。錆の味は酷くなるばかり。
 体の内、どこかを削られているような感覚――叶が息吐けば、ふと目が合ってしまった。
 真っ暗な――絶望に沈んでしまった。この通路で耐えてしまったもの達の躯。
 落ちくぼんだ暗がりの瞳がその無念を訴えてくるのだ。
「……あんたたちの今際の負の感情も、全て貰って行きますよ」
 喰った負はあんたたちの敵に投げ付けて来ますから、安心なさい――叶は柔らかに紡ぐ。
 彼らの無念、負の気持ちを叶は受ける。
 その瞬間――まるで彼らの追った痛みを向けられるように、痛みが駆けあがった。
 腹の中、背筋、その身すべてを駆け巡るもの。
 一瞬つまる呼吸を吐き出せば、つぅと口端から赤い色が落ちた。
 それを拭って、叶もまた歩む。
 この先にいるヴァンパイアと会うために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・侑士
【菫橙】

娘の苦しむ姿は俺が耐えられないので
毒耐性のお守りをつけて参加するよう義務付ける
いざという時
片方が迅速に動けた方がいいだろ?
お前の演技力を買ってるのさ
頼むよ、冬青

毒の杯を飲み干す
即効性の毒ではないようだが
少し目眩がする
おいおい冬青
演技を忘れてるぞ?
近づいてきた娘に寄りかかる振りをして小声で耳打ちする

…そうだ
上手いぞ
女優になれるんじゃないか
息が上がってきたが
娘を心配させない様に笑ってみせる

奴等からすれば毒で苦しみながらも互いを気遣う親子なんていい酒の肴だろうさ
父が死んで泣き叫ぶ娘
娘が死んで絶望する父親
何方が先か嗤っているに違いない
…いまに見てろよ
そのスカしたツラに弾丸を叩き込んでやるからな


城島・冬青
【菫橙】

毒で苦しんでる姿を見て愉しむなんて趣味悪すぎ!最低
そんなヴァンパイアをぶっ飛ばす為に参加したのだけれど…
まさか私の方は毒耐性で苦しむ演技だなんて!
毒くらい耐えてみせるのに
お父さんの言うことは尤もだけどさ…うぅ

毒を飲んでも耐性が効いてるのかあまり苦しくない
お父さんは…効いてきてるのか少し苦しそう
駆け寄って身体を支える
しっかりして!
父に促され慌てて私も苦しむ演技をする
ハァハァ…私も苦しいよ、お父さん…
心の中では父が心配で演技どころじゃないけれど
ヴァンパイアに疑われるわけにはいない
今は耐えないと!
首から下げた翡翠のお守りを握りしめ自分自身に喝を入れる
大丈夫
大丈夫…!
きっと乗り越えてみせるから



 毒で苦しんでる姿を見て愉しむなんて趣味悪すぎ! 最低、と話を聞いて城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)はまず思ったのだ。
 そんなヴァンパイアをぶっ飛ばす為に、来たのだけれど――その傍らには父がいた。
 娘の毒で苦しむ姿は俺が耐えられない。行くなら毒耐性のお守りを付けて参加すること、と城島・侑士(怪談文士・f18993)は冬青へと義務付けた。
 そしてもちろん自分も行くと。
「毒くらい耐えてみせるのに」
「いざという時、片方が迅速に動けた方がいいだろ?」
「お父さんの言うことは尤もだけどさ……うぅ」
「お前の演技力を買ってるのさ。頼むよ、冬青」
 そういわれて、最後には頼むと言われてしまえば、頷くしかなかった。
 今、その父は毒の杯をぐっと飲み干している。その様を見つつ、冬青も毒を口へ含んだ。
 それは酷く、甘い味がした。
 毒を飲んでも、あまり苦しくない。耐性が聞いているのかな、と冬青は首を傾げる。
 そしてお父さんは、と視線向けると案外平気そうに見える。
 侑士は即効性の、すぐに回りきる毒ではないようだと己の状態を確認する。
 けれどじわじわと違和感は這い上っていた。
 くらり、と。少しばかり視界が回る感覚はあるがまだ大丈夫。けれどそれは、冬青から見れば毒が効いているのか少し苦しそうに見えて。
「しっかりして!」
 駆け寄って、身体を支えるようにする。お守りが効いているのだろう。冬青の大丈夫そうな様子に安堵しつつも侑士はその耳元に、小声で。
「おいおい冬青、演技を忘れてるぞ?」
 その言葉にはっとして、冬青もあわてて演技する。
 荒い息。ハァハァ、とそれを乱して苦しそうにしている表情を作る。
「ハァハァ……私も苦しいよ、お父さん……」
 そうしながらも、冬青の心中は父が心配で。本当は演技どころではないのだ。
 だがヴァンパイアに疑われるわけにはいかない。
(「今は耐えないと!」)
 その様子に瞳細め、侑士は僅かに微笑んで見せた。
(「……そうだ、上手いぞ。女優になれるんじゃないか」)
 息を、無理やりあげられていくような感覚に侑士は苛まれていた。
 それでも心配させないように笑うことが、まだできた。
 奴等からすれば毒で苦しみながらも互いを気遣う親子なんていい酒の肴だろうさと、侑士は思うのだ。
 ぐらぐらと頭が揺らされる。体の節々に痛みが走る。ぐつぐつと煮えたぎる様な変な熱さが体の中を渦巻いていた。
 自分が感じているものを、冬青は感じているだろうか。そんな様子はない。そのことを何度も侑士は確認していた。
 己の痛みは、辛さは増している。それでも耐えて見せるのは――冬青の前だからだ。
 そして矜持があるから。
(「父が死んで泣き叫ぶ娘、娘が死んで絶望する父親――何方が先か嗤っているに違いない」)
 残念だが、どちらにもならないと侑士は心の中で落とす。
 そして大丈夫だと、冬青に再度伝えるのだ。その額から汗が人鈴零れ落ちるものの。
「……いまに見てろよ」
 そのスカしたツラに弾丸を叩き込んでやるからな、と侑士は紡ぐ。
 痛みや辛さを抑え込んで、耐えているのは冬青の目にも明らかだ。
 ぎゅう、と首から下げた翡翠のお守りを握りしめ、冬青は自分自身に喝を入れる。
(「大丈夫、大丈夫……!」)
 きっと乗り越えてみせるからと、強い気持ちをもって。
 父も、この毒を乗り越える。
 だから、私も――この父の隣で、その姿を見ることを。
 ゆっくりと、ふたりで足並みをそろえて進み始める。
 ヴァンパイアのいる場所へとたどり着くために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
毒耐性は全くないが、命を救えるのなら挑もう
症状お任せ
【気合い】で進む

毒を煽り扉が開いたら走る
毒が廻る前に少しでも距離を稼ぐ算段
何でも啜る悪食ゆえ、異物に蝕まれるのは日常茶飯事
苦痛耐性は無いから普通に死にかけるが
黒百合の影朧を啜ったときも三日三晩魘されたな

吸血鬼の見世物という現状に
過去の記憶が、此方を見下す吸血鬼共の悪辣な顔が甦る
毒の幻覚だと必死に振り払うも
果てがないような錯覚を覚えるほどの長い廊下
辿り着く前に命尽きそうで

しかし吐血して床を染める赤に、煮える思いが湧きたつ
この血は大事なものを啜って作られたもの
一滴たりと無駄にしたくない
…此処で吐き出した分、その血で贖ってもらう
心に昏い焔を宿し進む



 誰かの命を救えるのなら、挑もうと。
 佐那・千之助(火輪・f00454)は毒杯を手にとった。耐性はないが――それでもと。
 毒を煽ることに躊躇いもない。勢いよく一口で流し込み、千之助は杯を放ると開いている扉へと駆けた。
 毒が廻る前に少しでも距離を稼ぐ為に。
 飲み干した瞬間、喉が焼けるような痛みがあった。それは今、内臓を駆け巡り、千之助を打ち崩そうと躍起になっている。
「っ……!」
 その毒が伸ばす手を気合でねじ伏せ、千之助は進む。
 だがその足は次第に、速度を落としていった。
 何でも啜る悪食ゆえ、異物に蝕まれるのは日常茶飯事。けれど、苦痛への耐性はない。
 普通に、死にかける。どうにか、踏みとどまる。
「は……黒百合の影朧を啜ったときも三日三晩魘されたな……」
 と、あの時の苦しみとどちらがかわいらしいか。
 千之助は痛みを、この感覚を紛らわせるために考えてみるが意識はやはり、今身の内で暴れているものに引きずられる。
 痛みは明確だ。
 時折、喉を駆けあがってくるのは血の味がした。
 それを抑え込める時もあれば、吐き出さねば苦しい時もある。
 吐き出して、その口を手の甲で拭いながら千之助は耳鳴りを感じていた。
 今、己の身は吸血鬼の見世物だ。
 それは――千之助の、過去の記憶を揺り起こす。
 此方を見下す吸血鬼共の悪辣な顔が甦り視線を感じるような――けれどそれを幻覚だと必死に振り払う。
 振り払うも、また現れる。ここにいるからそんなものをみるのだと一歩一歩、進む。
 だが、この廊下も果てが無いように思えて千之助の心を削る。
 辿り着く前に命尽きるのではないかと、そんな思考がよぎってしまった。
 その瞬間、身体中を痛烈な痛みが駆け抜けた。
 千之助は身を折り、膝をつく。そしてげふげふと噎せて、びしゃりと吐血した。
 赤い色が、目の前にある。
 床を染める赤が、煮える思いを湧き立たせた。
 この色は、赤は――この血は大事なものを啜って作られたもの。
 一滴たりとも無駄にしたくないものだ。それを、失わされた。
「……此処で吐き出した分、その血で贖ってもらう」
 ぽつりと零す。心にぽっと、昏い焔を宿した千之助はまた進みはじめた。
 一歩進むことによって、その心の焔を育てながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
杯満たす物は好奇心そのもの
何て笑う口に注ぐは良いけれど、
願い紡ぐ口を塞ぐは良くない事だ

悪趣味な遊戯終えるべく
次いで、毒への好奇心満たすべく
杯を口許へ寄せれば、
舌上で味わう毒を飲み下す

零れる血を受ける掌で、
赤色がぐるりと歪んで眩いて
耐性で痛みは鈍くとも
目眩と痺れで堪らず壁へ身預け

気持ち悪い、気持ち悪い
病で蝕まれるのも似た心地かと
浮かぶのは、臥せる亡き人で
滲む視界が何に依る物か判断出来ず
ずるずる、ぐるぐる、ずるずる、
壁に身擦る音だけが妙に明瞭だ
いや、いや、或いは、此は、此は
融けて零れた臓を引き摺る音?

──いや違う、確りしろ
廻る想像を留めたなら
先へと歩進めて、毒吐き笑う

本当に僕の好奇心は碌でもないね



 とぷり。
 持ち上げた瞬間に揺れた毒。それはライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)にとって好奇心そのものだった。
 笑う口に注ぐは良いけれど、今までこれは願い紡ぐ口を塞いできた。
「それは良くない事だね」
 さぁ僕の口は塞げるのだろうか。その前に、こちらが塞いでしまうかもしれない。
 悪趣味な遊戯終えるべく――次いで、毒への好奇心を満たすべく。
 口許へと杯寄せれば甘い香りがした。
 舌の上に招けば華やか心地。けれど甘い。角砂糖を何個も口に詰め込まれたらこんな感じになるだろうかと考えてみるほどに。
 けれど甘いだけでなく何か、複雑なものもあった。それを味わって、飲み下す。
 さてどんな症状を与えてくれるのか――ライラックの次の興味はそれだ。
 そしてそれはすぐに満たされることになる。
 体の中に落ちた毒が目覚める。突然の痛み。それは腹全体にかかるものだ。それはやがて喉を襲いながら駆けあがる。
 駆けあがり――咄嗟にライラックは口を抑えた。
 ごふ、と鈍い音と共に血が吐き出される。
 零れる血を受ける掌――その、赤が。
 ぐるりと歪んで眩いて。
 痛みは鈍くとも、眩暈はライラックの世界を支配する。
 視界をかき混ぜて、真っ直ぐ立っていられない。それに寄り添うように痺れが主張を始め、たまらず壁へと身を預けた。身の内も、頭の中も掻き回され続けるような感覚。
 気持ち悪い、気持ち悪い――言葉にする間もなくその感情が駆け巡る。
 病で蝕まれるのも似た心地か。そう思うと、思い浮かぶのは臥せる亡き人だった。
 その姿を思えば、視界が滲んだ。それが何に依る物か――ライラックには分からない。判断などできなかった。
 ずるずる、ぐるぐる、ずるずる、壁に背を預けたが沈んでいく心地だ。
 その、壁に身擦る音だけが妙に明瞭。
 いや、いや、或いは、此は、此は――融けて零れた臓を引き摺る音?
 そんな、妙な高揚感が沸き起こる。
 これがそれならば、今この身は一体どうなっているのかと目覚める好奇心はどんな状態にあっても変わらない。
 けれど。
「──いや違う、確りしろ」
 廻る想像を、留める。痛みも気だるさも全て抱えたまま、ライラックはどうにか立ち上がった。
 その足を、進まねばならぬ方へと向けて――毒吐き笑うのだ。
「本当に、僕の好奇心は――」
 碌でもないねと続いた言葉は静けさの中に溶け落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
毒と同じだけ
希望をちらつかせて?
この先の主の杯に満ちた絶望は
どれ程の数だったかと
匂いだけでも、伝わる

何だろが…いただきますよ
そうすれば願いを叶えるんでしょう?
満ちる液体の香わ嗅いで、あおる

味は、案外不味くはないな…
なんて呑気に思うより早く
臓腑が焼けるように痛む
派手に噴く血の、味

耐性はないから覿面かな
吐けど、頭に、もやがかかり歪もうと
それを、冷静に分析する己がいる

受けた際の感覚、能力低下度合い
把握し、経験を生かさないと戦えない
痛みを…解る為にも

ひとは、これに耐えられない
甘言に一縷の願いをかけて
失われてしまう
それは、嫌だ

罅から血が滲む、嗚呼刀持つ手に不利だ
でも、死ななきゃ、安い
討ちに行けるんだから



 毒と同じだけ、と冴島・類(公孫樹・f13398)は瞳細める。
 毒と同じだけ――希望をちらつかせて?
 この先の主の杯に満ちた絶望はどれ程の数だったか。
 手にした杯を見つめ、類は視線を厳しくする。
 己の鼻を擽る嫌に甘い匂い。それだけでも、伝わってくるものがあるのだ。
「何だろが……いただきますよ」
 そうすれば願いを叶えるんでしょう? と、喉に落とす。
 体の内に落ちてく、その間に――その香が満ちてくるような感覚があった。
「味は、案外不味くはないな……っ!!」
 なんて、呑気に思うより早くそれはやってくる。
 臓腑が焼けるように痛む。それと同時にせりあがる嫌悪感に口を抑えるが、それを御しきれない。
 ごほっと派手に、その手で受け取れぬほどの血が吐き出された。
 ぼたり、ぼたり。
 手からあふれる――赤い色。口端からも落ちている。そしてそれは、またやってくるのだ。
 二度目の吐瀉。それは血だけではなかった。
 は、と深く息を吐く。
 耐性はないから覿面かなと類は滲む汗をぬぐう。
 吐けど、頭にもやがかかり歪んでいるような。
 己の状態を、一歩離れた場所で冷静に分析する己もまたいるのだ。
 ぐらぐらと頭を揺らされている。これをどうすればいいのかと思う合間に血流が沸騰するような熱さがあった。
 思考能力が一歩遅れてしまっている。体の節々もいたい。能力低下はしているのは間違いない。
 それがどれほどのものか、考えるのも億劫にもなってくるが――把握し、経験を生かさないと戦えない。
 類の意識の端にはそれがあった。
(「痛みを……解る為にも」)
 ぎゅうと、臓腑をきりきりと締めあげるような痛みがあった。そして眩暈に頭痛。
 頭痛は目の裏を撫でる――いや、舐められているような嫌なものしかない。
 痛み、痛い。
 ひとは、これに耐えられない――耐えながら、類は思うのだ。
 甘言に一縷の願いをかけて、毒を呷り。
 そして、失われてしまう。
 ――それは、嫌だ。
 じわり、と何かが零れていることに類は気づいた。
 罅から血が滲んでいる。
「嗚呼刀持つ手に不利だ」
 握る力が鈍い。滑り落ちないようにしておかなければと思う。
 でも。
「死ななきゃ、安い」
 体はまだ動く。死んでいない。
 死んでいなければこの先にいるヴァンパイアを、討ちに行けるのだから。
 類はその気持ちをもって、前へ、前へと進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

飛白・刻
……、毒も。痛みも。
慣れている、と云うは可笑しいが
其れは己の傷が物語る過去の残骸をなぞるようで

其の色にも香にも躊躇いすらなく杯を煽る
これは”知っている"行為だ
過去の己が識るを今更何を恐れるか
見縊るなと挑発にも似て

刻々と廻る毒は
朧気になっていたその感覚を
引き摺り出すかのように己を蝕んでいく

感覚も、激痛も、表情も、感情も、記憶も、
忘れていたあらゆるを、引っ掻き回されるようなーー
否、忘れていたからこその、苦痛なのだと

この状況が少しばかり懐かしいなど気も狂うたか
血と共に吐き捨てたのは何だったか
何れ見えるであろう領主へ何を重ねたか

歪む視界に幽か見えた扉へと
只管、にーー、

※激痛、毒耐性使用せず
※症状お任せ



 ふと、飛白・刻(if・f06028)は笑みを浮かべていた。
 それは楽しみであるとか、この場に高揚しているからとかではなく――僅かに抱いた可笑しさに対してだ。
(「……、毒も。痛みも」)
 慣れている、と云うは可笑しいが――其れは、己の傷が物語る過去の残骸をなぞるようで。
 それで、ふと零れてしまったのだ。
 手にした杯。其の色にも香にも躊躇いはない。
 刻はそのまま、杯を煽る。
 これは――”知っている"行為だ。
 過去の己が識るを今更何を恐れるかと。見縊るなと挑発にも似て、身体の内に入れたそれを受け入れる。
 飲み干した刻は、杯をその場に置いて歩み始めた。
 まだ、何も変りはない――けれどじわりと、それは鎌首もたげて現れる。
 まず不快感だ。それは微かに首をかしげる程度の優しいもの。違和感は姿を隠しながらやってくるのだ。
 それが全身に染むように――刻々と廻っていく。
 じわり、じわり――朧気になっていたその感覚を、刻から引き摺り出すかのように蝕んでいく。
 そして突然、それはやってきたのだ。
 身の内から突き破る様な痛み。その衝撃にがくりと身は崩れたがどうにか踏みとどまった。
 口を抑えて咳込めば、血が内側から巻き上がるように噴きあがるもの。
 感覚も、激痛も、表情も、感情も、記憶も、すべてを。
 忘れていたあらゆるを、引っ掻き回されるような――
(「否、忘れていたからこその、」)
 逆撫でされているような感覚だ。
 苦痛なのだと、浅い息を吐いて刻は思う。その答えにたどり着く。
 少しばかり懐かしいな、なんて思うなどと。
 気も狂うたかと独り言ち苦い笑みをこぼし、口の中に残る残滓を吐き捨てる。
 そして、嗚呼と声零した。
 血と共に吐き捨てたのは何だったか――そして、刻は何かを思い浮かべた。
 それは、何れ見えるであろう領主だろうか。その領主へと何を重ねたか。
 くらりくらりと揺れる頭をどうにか支え、刻は進むしかない。
 突然、頭を思いきり殴られたような感覚に視界が鈍る、歪む。
 その中で幽か見えた扉へと只管、に――ゆっくりとでも。
 苦痛がどれほど襲ってこようとも、まだ動く身体を動かして進んでいく。感覚は鈍くなっていくが、それでも足はまだ動く。
 進むという意思がある限り、刻は止まらないのだろう。
 きっと這いずってでも、向かう。この先で待つものに、会うためにも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宵鍔・千鶴
耐性の存在は捨ててあるがままに
だって、演技に自信なんか無いから
毒杯を指先で乾杯の合図のように弾いて
残さず、煽る

――、っう、
体内に入れた途端に駆け巡る熱と動悸、痛みと吐き気
知ってる、この感覚、この痛み
まだ覚えている
泣いて喚いても身体が覚えるまで何度も何度も
入れられた感覚

ヴァンパイアって奴は、本当に、悪趣味
重い躰を引きずり長い通路へ一歩づつ進めば
廻っていく毒にくらくらする
…、あ、…?
地面に赫が広がる、ごぽりと口元から吹き出たもの
滴る血は止まらなくて
いやだ、痛い、くるしい
違う、こんなの苦しくない、大丈夫、何とも無い
蹲り血濡れた掌を握り締めて笑う

…毒と共にこの身の汚さ甦らせたこと
絶対に、後悔させてやる



 演技になんて自信はない。
 だから己が持っている耐性は捨ててあるがままにと宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は思う。
 これにしようとひとつ、毒杯を手にし掲げた。それを乾杯の合図のように指先で弾き――残さず、煽る。
 千鶴は一気に、それを身の内へと招き入れた。
「――、っう、」
 吐き戻しそうになる。
 体内に入れた途端に駆け巡る熱と動悸、痛みと吐き気が千鶴の中を駆け巡った。
 痛みはすぐさまに暴れ始め、千鶴の中を征服しょうとする。それはまず挨拶だというように痛烈な一撃をもたらした。
(「知ってる、この感覚、この痛み」)
 まだ覚えているとわずかに体が震えた。それを、痛みと共に抑えこむ。
 泣いて喚いても身体が覚えるまで何度も何度も――入れられた感覚。
 生々しく駆け巡る感覚は千鶴の記憶を撫で、揺り起こしていくのだ。
 きつい。いたい。それを一山超えたところで千鶴は瞬き気持ちも整える。
 最初の、毒の波に耐えて――荒い息も、落ち着かせた。
「ヴァンパイアって奴は、本当に、悪趣味」
 ぽつりと、千鶴の唇から零れる。
 重い躰を引きずり長い通路へ一歩づつ進めば、毒がその身を駆け巡る速度が速まっているような。
 くらくらと、視界が一瞬廻った。廻って、変わりないものになったからこそ、そうなったことに気付くのが遅れる。
「……、あ、……?」
 そして――ごぽりと吹き出した。
 何の予兆もなく、いや視界が廻ったのがそれだったのかもしれない。
 ぼたぼたと血が落ちる。地面に赫が広がる様が、あとから追いかけてくる。
 口を抑えてもそれは止まらない。
(「いやだ、痛い、くるしい」)
 ぎゅうと瞳閉じて己の身を抱え込み蹲る。けれど――違う、と。
 違うと、今の千鶴は声をあげることができた。
 そう思えたから、血塗れた掌を見つめることができた。そしてそれを握り締めて、笑う。
(「違う、こんなの苦しくない、大丈夫、何とも無い」)
 ぎゅうと、さらに強く握り締めるがいつもより力は入らない。
 けれど、ゆっくりとでも立ち上がることができる。
(「……毒と共にこの身の汚さ甦らせたこと」)
 絶対に、後悔させてやる――瞳の昏さが、深みを増して。
 千鶴はゆっくりと顔を上げる。またぼたりと血を吐いた口端を拭いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神埜・常盤
エンジ君(f06959)と

此の世界で大手を振って歩く連中は
本当に相変わらずだなァ……
あァ、征こう征こう
何方が連中を多く狩れるか、競争と行こうじゃないか

ふーん、コレを呑むのか
如何なるんだろうねェ
きっと蟲のように這いずることに成るんだろう

あァ、乾杯しよう!
常闇の憂鬱と、我等の道行に乾杯
毒杯を掲げれば一息に飲み干そう
せめて血の色なら良いんだが

ンン、世界がぐるぐる回っているなァ
ははは、コレは愉快愉快
愉快なンだが咳が止まらない
この毒は不味いし苦い、ピーマンの方がマシかね

口から溢れる赤を手袋で抑えながら
痛みに堪らず地面へと蹲れば
こっそりにやける狼君へ一瞥を
あァ、僕も毒に慣れておけば良かった


エンジ・カラカ
トキワ(f04783)

アァ……頭が高いヤツラがまーた調子に乗っているようダ。
トキワ、行こう。殺ろう。
アイツらとたーっくさん遊ばないとなァ……。

イイ趣味してるよなァ……。
コレを飲むンだって。
飲んで進んだらどうなるンだろうねェ。

乾杯しよ。乾杯。
毒杯を掲げて乾杯ー。
毒は一気に飲み干さないと怪しまれる。

アァ……相棒の拷問器具、賢い君が怒っている。
君の毒みたいに刺激的じゃあ無いヨー
この身は既に君に蝕まれているからなァ。
毒耐性。他の毒は物ともしない。

トキワの様子をチラ見して
コレは演技をしておこう。
蝕む感覚、そうだ痺れる。それから動悸。
ぜえぜえと苦しむふり。

にやける口元は片手で隠さないとバレちゃうなァ……。



「此の世界で大手を振って歩く連中は、本当に相変わらずだなァ……」
 神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は、そう思わないかというようにエンジ・カラカ(六月・f06959)へと視線を向けた。
「アァ……頭が高いヤツラがまーた調子に乗っているようダ」
  にんまり。エンジの金の瞳は楽し気に。
「トキワ、行こう。殺ろう。アイツらとたーっくさん遊ばないとなァ……」
「あァ、征こう征こう。何方が連中を多く狩れるか、競争と行こうじゃないか」
 言葉交し、常盤とエンジはワゴンの前に。
 その上にはまだ毒杯がいくつか残っている。
「イイ趣味してるよなァ……」
 コレを飲むンだって、とエンジは一番近い所にあるものを手にした。
 常盤はどれにしようかと指先遊ばせ、摘まみ上げる。
 毒の色は――上質な、ワインのような色だ。濃い色は血のようでもある。
「ふーん、コレを呑むのか」
「飲んで進んだらどうなるンだろうねェ」
「如何なるんだろうねェ」
 言葉重ねてまるで遊びのように。
 常盤は、きっと蟲のように這いずることに成るんだろうと笑って見せた。
「トキワ、乾杯しよ。乾杯」
「あァ、乾杯しよう!」
 常闇の憂鬱と、我等の道行に乾杯と常盤は紡ぐ。
 毒杯掲げて、そして一気に飲み干す。
 血の色のようなそれは変な、えげつない色をしているよりも飲みやすい。
 こくり、と常盤の喉を落ちていく――それが胃の中にたどり着いて、じわりじわりと響く――かと思えば。
「ンン、世界がぐるぐる回っているなァ」
 くらくら、ぐらぐら、ぐるぐる。
 常盤の世界は揺れて、一回転して、そしてまた揺れている。
「ははは、コレは愉快愉快」
 はははと笑う。その笑い声に喉が詰まる感じがして常盤はげほげほと咳込んだ。
 愉快なンだが咳が止まらない、これはなんだとまた可笑しくなってくる。
 毒の味。色は綺麗だったくせに味は不味いし苦かった。ピーマンの方がマシかね、と思った瞬間――それは、あふれ出た。
 ごほ、とむせて。口からあふれる赤がある。それを手袋で抑えながら身体中を走る痛みに堪らず、地面へと蹲った。
 ぽたり、目の前に血が一滴落ちる様が見えた。
 そしてエンジは――一気に飲みしたのは、そうしないと怪しまれるからだ。
 とろり、喉を駆けおちていった毒の気配。
(「アァ……相棒の、賢い君が怒っている」)
 毒、毒。毒を身の内にいれた。己の毒、意外を。それは嫉妬なのかもしれない。
「君の毒みたいに刺激的じゃあ無いヨー」
 と、小声で独り言ちる。
 この身は既に君に蝕まれているからなァと、自分の喉から腹をそろりと撫でる。
 通っていった毒はぴりぴりとしたものを残してはいるのだが、それもじんわり消えていく。
 他の毒は物ともしない。賢い君のもとでは何にもならないのだ。
 けれど、今それはちょっとまずい。
 ちらり、とエンジは常盤を見て――コレは演技をしておこう、と小さく頷いた。
 蝕む感覚、そうだ痺れる。それから動悸も荒くなる。他にはどんな症状がいい? と思いながら。
 常盤を真似て口元抑えて、エンジは呻く。ぜえぜえと苦しむふりをしつつ、その口端がわずかに引きあがっていた。
 にやけてしまう、片手を当ててかくれるから丁度良い。隠さなければバレちゃうなァ……と、思うエンジと常盤の視線が合う。
 こっそりにやけて、と常盤は思いながら血を吐き出したその口拭った。拭ってもまた零れるから雑に。
「あァ、僕も毒に慣れておけば良かった」
 真似してるの、バレバレだよと常盤は額に滲む脂汗を噴きながら告げる。
 アァ、もっとちゃんと隠さなくっちゃとエンジは弓引く様に引き上げられたその口を、わずかに常盤にだけ見せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

双代・雅一
毒も薬の内、だ。
相手の肉体に、精神に変化を与えるもの。
投薬した相手の変化を見る楽しみ、理解出来なくはないな。
方向性は真逆だけど。

苦しむのが愉しみ、ならば致死量には至らないだろう。
杯に揺らぐ液体の色と匂いでそれを確信に変えた上で一気に煽る。

胃の腑より感じるのは、灼熱。
この凍れる身と心を灼き尽くすかの炎。
…一番相性の悪い類いだ。
全員が煮えたぎる感覚に膝を付く。
熱に脳が沸騰して感情と記憶が掻き乱される。
片割れを失いかけて気が狂いかけたあの感じ…。
脳裏で響く惟人の声も薄れ――境界線が溶けて、消えた。

床に染みを作る程滴り落ちた汗が額から目に落ちる。
あれ……解らない。俺は「雅一」か、それとも「惟人」か?



 毒も薬の内、だ――と、双代・雅一(氷鏡・f19412)は思う。
 毒。それは相手の肉体に、精神に変化を与えるもの。
「投薬した相手の変化を見る楽しみ、理解出来なくはないな」
 雅一はそう零し、ふと口端を緩める。
「方向性は真逆だけど」
 理解出来なくはないが、ヴァンパイアのそれと雅一のそれは違う。
 そう言いながら毒杯の一つを雅一は手にとった。
 苦しむのが愉しみ――ならば、致死量には至らないだろう。
 薬学を修めた医者でもある雅一は、相手の考えも見据えていた。
 杯に揺らぐ液体の色と匂い。それは雅一にとって十分な情報だ。この毒では死に至らないと、確信に変えた上で一気に煽る。
 どろりとした感覚が喉を落ち――胃に落ちた。
 胃の腑より感じるのは、灼熱。どろどろに溶かしてやろうかというような熱を放ち始めていた。
 この凍れる身と心を灼き尽くすかの炎――それを身の内に仕込んでしまった。
「……一番相性の悪い類いだ」
 ち、と舌打ちをし損ねるほどに辛辣な、ぐつぐつと煮えたぎる感覚に雅一は膝をつく。
 熱が腹の中から駆けあがり、足に、手に。そして脳へと廻る。籠るその熱さが動きを、そして思考も鈍らせていた。
 脳が沸騰する。感情と記憶が掻き乱され雅一は苦しめられる。
 けれどこの感覚にはわずかに覚えがあった。これは――ああ、と思い至るのはひとつ。
(「片割れを失いかけて気が狂いかけたあの感じ……」)
 雅一を襲うのは熱の奔流だ。胃の中は焼け爛れている。きっとその中で血が滲んでいるだろうに、傷が開くと同時に焼いて閉じられてを繰り返して熱を生んでいるような心地だ。
 雅一の脳裏で響いている――惟人の声も薄れ。
 この状況をなんというのだろうか。何がどうなっているのだろうか。
 ふたつでひとつか、ひとつでふたつか。意識の、境界線が溶けて、消えた。
 体を駆け巡る熱が溶かしていくのは、何なのか。
 痛みに膝をつき、ぐちゃぐちゃになる意識をぽたり、と。
 一滴、汗が落ちたことでわずかに引き戻した。いや、すでに床に染みを作る程汗は滴り落ちていたのだが、その時何故だか目を惹いたのだ。
「あれ……」
 解らない、と雅一は呟いた。
 俺は「雅一」か、それとも「惟人」か?
 熱で意識は綯い交ぜだ。今、ここにあるのがどちらなのか。
 雅一なのか惟人なのか。それとも――ふたり、まざりあっているのか、いないのか。
 傍に、片割れがいるのか、いないのか。
 それも、今は解らない。解らないままに、雅一は身を引きずりながらでも進むことを選んだ。
 ここで蹲っていても、どうにもならぬのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
どちらかと言えば、平気なふりの方が得意なのですが……
果たして観客にご満足頂けるかどうか
ひとつ、ふたつと杯を揺らして躊躇うような間をつくり
ともあれ毒を呷らねば現れぬというならば、ひと思いに

予想に違わぬ身の内側からの痛みにも
凍りついたように儘ならぬ呼吸にも
顔色は目に見えて蒼褪めようとも、頬を冷たい汗が伝おうとも
つい、何時もの癖で
震える口元に無理矢理にでも笑みを貼り付けてしまう
けれど

喉の奥より溢れた血の匂い
口内を充たす紅い鉄の味に目を見開く

殆ど忘れ掛けていたというのに

親であるヴァンパイアの居城
満たされた血杯
拒めど流し込まれた

その味は


……つめたく痺れ
震えた指から杯が落ちた音で我に返る
奥へ、進まなくては



 ふ、と息を吐く。
 ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)は紫色の瞳をそっと細めた。
 目の前にあるのは、毒だ。
「どちらかと言えば、平気なふりの方が得意なのですが……」
 果たして観客にご満足頂けるかどうか。
 手にした毒杯をひとつ、ふたつと揺らして。躊躇うような間をファルシェは作る。
 ともあれ毒を呷らねば現れぬというのならば――一思いにとファルシェは毒を身の内に招いた。
 とろりと喉を落ちていく熱がある。それが底にたどり着くと雷が走るような。
 予想に違わぬ身の内側からの痛みがファルシェを襲う。
 息が、凍り付く。呼吸が儘ならない。ひゅ、と冷たい空気が喉を通り抜けようとして拒まれていく感覚。
 ファルシェの顔色は目に見えて蒼褪めていく。頬を伝う汗は熱を失って酷く冷たい。
 明らかな不調――それでも、ファルシェの口元は震えていようとも、無理矢理にでも笑みを貼り付けてしまう。
 それは何時もの癖だ。
 つい、そうしてしまう。けれど震えまでは隠しきれないもの。
 そして、喉の奥より溢れた血の匂いが――そして次に、赤い鉄の味が口内を満たした。
 その感覚にファルシェは目を見開き口元を抑える。
 殆ど忘れ掛けていたというのに――それは簡単にファルシェの記憶を手繰り寄せる。
 親であるヴァンパイアの居城――その威容を。
 満たされた血杯――その色を。
 そして、拒めど流し込まれた――その味は。
 奔流のように駆け巡る。
 ファルシェの指先は血の気を失う。冷たい、感覚がない。
 けれど痺れているのだけはわかる。
 僅かに、指先が震えた。そして杯が落ちる音がやけによく響いた。
 その音でファルシェは我に返る。
 腹の中でぐずる痛み、血の匂い。それは絶えず襲い来るがそれでも、僅かに笑みを口端に貼り付けて。
(「奥へ、進まなくては」)
 一歩進むと、痺れが痛みになる瞬間がある。
 ファルシェはゆっくりと歩み始める。こふり、と咳込んだ瞬間に込み上げるものを抑え込みながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
お任せ/イイ趣味してるわ
手にした杯はそのまま乾して
ま、味に期待はしちゃいないが

くたばる前にさっさと抜けたいね
あれだなァ、拾い食いした心地、したことないケド
どう足掻いたって毒で刃は欠けないだろうと
高を括っちゃいたんだけどさァ
紛らわしついでに戯けてもなるほどなかなか、
そんでも思い浮かべる前に呑み込みたい
悪臭相俟って楽しくはねェな
なンて存外笑えてくる
自棄に壁蹴飛ばしてみたところであれだし

真直ぐだか真直ぐじゃなねェんだかで行きながら
儘なかろうと前だけは見据えて
高みの見物引き摺り下ろしてやるから、待ってて



 手にした杯を、そのまま口に運び。そのまま乾かして。
「ま、味に期待はしちゃいないが……すごい味」
 苦さを極めたような味だとユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)はきゅっと一瞬だけ顔しかめた。
 そして――さて、と通路の方へと視線投げた。
「くたばる前にさっさと抜けたいね」
 あれだなァ、拾い食いした心地、したことないケドとからりと小さな笑い零す。
 腹のあたりをさすればわずかに熱が灯る様な気配があった。それは嫌なもの。
 どう足掻いたって毒で刃は欠けないだろうとユルグは思っていた。
 確かに毒で刃は欠けはしない。けれど人の身には、毒は響く。
 じわりと灯った熱が――その身を焼く様に駆け巡りはじめた。
 その熱は意識も焼く様に頭の中を湧き立てさせた。そしてふわり、ぐらりと緩急つけて意識を奪いにくる。
 熱さはその内、痛みに変わって。その痛みを言葉にするなら一番何が近いか――そんなことを考えてもみるが、答えはでない。
 ナルホド、これは手強いと思うばかり。
「高を括っちゃいたんだけどさァ」
 ユルグは笑い零す。その熱、痛さ――そして先ほどから嫌なものがせりあがってくる。
 紛らわしついでに戯けてもなるほどなかなか、誤魔化しきれるものではない。
 そんでも思い浮かべる前に呑み込みたい。出てきちゃダメだよというようにそれを抑え込んで呑み込んで。
 気づいている、気づかぬふりではない。
 ただそれをうまく、のらりくらりとかわして堪えて。滲む汗ははらむ熱と相まってすぐに冷える。
 それに――進むたびに酷くなる。いつもより敏感になるのは毒のせいなのか。
「悪臭相俟って楽しくはねェな」
 その鼻孔を突く死臭――それはこの先から感じられる。
 存外笑えてくる、と。自棄に壁蹴飛ばしてみたところであれだしと試しに足を振り上げて――みたのだが。
「おっ、と……」
 ふらりとバランスが崩れた。その身を傾がせ、よたたと足はおぼつかない。
 それがなんだか少し面白くて、ふは、と息吐いてユルグは笑った。
 その瞬間だ。
「あ、鼻血」
 つぅ、と落ちる感覚は分かりやすく、指先で拭えば血の色だ。
 毒の周りは、酷くゆっくりだ。ユルグの歩む速度は最初とあまり変わらない。
 けれど、真っ直ぐ歩けているのか、いないのか。
 ふらつきが大きくなってくる。壁に手をついて進むこともできるがそれよりも真っ直ぐ。
 真っ直ぐ進めていなくとも、気持ちはそれなのだ。
 儘なかろうと前だけは見据えて――足取り軽く、とはもういかないのだが。
「高みの見物引き摺り下ろしてやるから、待ってて」
 ヴァンパイアはどんな顔してるんだろね。
 その顔見るのも楽しみとユルグは笑う。熱に浮かされた心地が感覚を鈍らせている。
 けれど男はどこか楽し気に進んでいくのだ。確実に蝕まれているというのに、その身に毒を受けてなどいないかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

芥辺・有
苦しむとこ見て何が楽しいんだかね
別に知りたかないけどさ

トクベツ製ってわけじゃないから 演技の必要もないのはありがたいって言っていいんだか
そういうのは向いてないって身にしみてる

適当な杯で毒をあおって、開いた扉へ
だんだんと痺れる指先にぐにゃりと歪む視界
酔ったときでもこんなん、ならないな、なかなか
腹ん中、掻き回されたみたいだし
ほんと、気分、悪い

感覚の薄れた指でつまんだ煙草に火を付ける
禁煙かどうか知らないけど、これぐらい見逃してほしいもんだ

唇に触れる煙草の感覚も薄くて
一息吸い込むと大きく咽る
溢れる血にますます眉を顰めて
……は、鉄くさ
べえ、と口に溜まった血を吐き出すと、重い足をずるずると引きずって



 猟兵達の姿も、すでにまばらだ。
「苦しむとこ見て何が楽しいんだかね」
 別に知りたかないけどさ、と紡ぐながら芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は杯を手にする。
 それはここに残っていた最後の毒杯。ほんの一口分しかない毒。
 これでどんな症状がでるのか。飲んでみなけりゃわからないかと有は思う。
「トクベツ製ってわけじゃないから 演技の必要もないのはありがたいって言っていいんだか」
 そういうのは向いてないって身にしみてると独り言ち、有は毒をあおった。
 味は、酷く甘い。それは喉を焼くような甘さだった。甘さも過ぎれば、美味くはない。それでもマズイよりはマシと毒をあおった有は歩み始める。
 だんだんと痺れる感覚は指先から始まった。そして視界がぐにゃりと歪む。
 世界を一回転させられたような感覚に、有はふらついて踏みとどまる。
「酔ったときでもこんなん、ならないな、なかなか」
 くらくらする。それと共にもう一つ、不快感があった。
 腹の中をかき回されているように、変な痛みと熱がある。
「ほんと、気分、悪い」
 不快感は増していくばかり。
 それを紛らわせるように、感覚の薄れた指で煙草を摘まんだ。その指先には力が入りにくく震えている。それでも、火を付けることはできた。
 紫煙の心地が鈍った感覚を僅かに鋭敏にする。
 禁煙かどうか知らないけど、これぐらい見逃してほしいもんだと言ってみる。それをヴァンパイアが聞いているのかどうかはわからない。
 唇に触れる煙草の感覚も薄く、一息吸い込むと有は大きく咽た。
 喉を締め付けられるような、感覚。思わず、口を覆ったその手には血の色だ。
 喉奥からせりあがり、溢れるその血に有はますます眉を顰める。
「……は、鉄くさ」
 べえ、と口に溜まった血を有は吐き出す。吸い込んだ紫煙は、今回は上手に肺へとたどり着き、ふぅと吐き出される。
 けれど、身体は重い。走る痛みに動くことも億劫になる。
 それでも有は重い足をずるずると引きずって進むしかない。
 紫煙の香は、血の匂いを鈍らせてくれる。有は気だるげに吐息零し、先へと向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『暴虐の青風』カエルラマヌス』

POW   :    蹂躙する騎竜
戦闘中に食べた【犠牲者の血肉】の量と質に応じて【身を覆う青紫色の鱗が禍々しく輝き】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    飛躍する騎竜
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    邪悪な騎竜
自身の装備武器に【哀れな犠牲者の一部】を搭載し、破壊力を増加する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 通路を抜けた先――そこはダンスホールのように開けた空間となっていた。
 ただし、煌びやかな空間などではない。
 そこに散逸していたのはひとの屍。
 それは食い荒らされて――いや、今もまたそうされていた。
 ぐぎゃぎゃぎゃぎゃと楽しそうな声を上げて死肉を食んでいたのは『暴虐の青風』カエルラマヌス。
 くちゃりくちゃり、咀嚼する音がただただ響く。
 それが食んでいるのは人の死肉。そして同族の死肉。
 毒を飲んだ人々の――その身を喰らうということは毒を食うということだ。
 毒を喰らい、耐えたものもいる。それはひともカエルラマヌスも変わらない。
 それに毒の苦しみに勝ち、耐えたカエルラマヌスだけがこの場に立っている。
 より強い、毒をもって、強さをもって。
 ヴァンパイアは、毒に苦しむ人々が進んだ先にこの暴虐を置いていた。
 これらを倒さねば道は開かれぬのだろう。
 毒を食み続けたカエルラマヌスは、その身でさらに強い毒を飼っている。
 その爪に切り裂かれれば、その牙にかみつかれれば、さらなる毒をその身に貰うことになる。
 猟兵達は今、毒によってそれぞれの動きの精度も落とされている。そして時間がたつにつれ――症状は重くなるばかりだ。
 それでも猟兵達は、己が身を削ることも厭わず、さらなる餌が来たのだと喜色滲ませるカエルラマヌスたちと対峙する。
 今度はどんな毒を味わえるのかと、涎滴らすものたちと。
シキ・ジルモント
敵に銃口を向け、しかし狙いが定まらない
それを何度も繰り返し、そのうちに息が上がっていく
普段なら苦労せず捉えられる相手だというのに
脚と腕の痺れが、全身を襲う激痛が、狙いを狂わせる

その上、元の毒の症状が悪化したか敵から受けた毒の影響か、目が酷く霞んでくる
…これ以上の時間はかけられない
宙を跳ぶ敵を落とす事は諦め、敵の攻撃を回避して直後の隙を狙う
視界に頼れない分は音や気配を探って攻撃を潜り抜け、ユーベルコードで反撃する

元凶を倒さなければ、この苦痛を他の誰かが受ける事になる
先へ進む為に、敵を倒しきるまで交戦を続ける
手足は重いがまだ動く、戦える
痛む頭と体に呻き、浅くなる呼吸を抑えながら、なんとか銃を構える



 ぐらぐらと視界が揺れる。
 とびかかってくるカエルラマヌスへと銃口を向けるシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)。
 けれどその狙いが定まらないのは視界が揺れているだけでなくその手も震えていたからだ。
 力が入らない、定まらない。それを何度も繰り返していると激痛が走る。
 構えるだけでもかなりの負荷だ。シキの腕と脚は痺れ、狙いは狂わされる。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」
「っ!!」
 振り下ろされる、その爪先が見えた。
 反応が遅れたのは毒のせいだろう。そして毒によって膝から一瞬力が失われ態勢が崩れた。
 それにより、カエルラマヌスの爪がわずかに掠っていく程度に抑えられる。
 くらりくらりと視界は揺れる。それもぼやけて霞んできた。
 毒の症状が悪化したか、それとも先ほど掠った一撃でうけた毒によるものか。
(「……これ以上の時間はかけられない」)
 じわじわ、苦痛が増す。カエルラマヌスはそれもあざ笑うかのように軽やかに跳躍し狙いを定めさせない。
 毒に苦しめられるお前と、毒を糧とした己と。カエルラマヌスは優位を感じているのだ。
 一足、大きく飛び上がりカエルラマヌスがその口開いてくる。
 それを落とす事は諦め、どうにか転がってシキはかわす。視界に頼れるところ、頼れない所。
 それは音や気配を探ってシキは狙いを定めた。
 霞む視界の中で真っ直ぐ向かってくる影。そしてぐぎゃぎゃぎゃと潰れた声が響く。
 シキはそれを目安に、定めた。
 元凶を倒さなければ、この苦痛を他の誰かが受ける事になる――先へ進むためであれば、手足は重いがまだ動く、まだ叩ける。
 ずきずきと、頭が締め付けられるように痛む。目の裏もぎしぎしときしむ様に痛い。
 痛みがまともな思考を奪っていくような感覚だ。
 呼吸も浅くなり、地面に伏せるようにして、銃を構えた。
 地に伏せれば、銃を支えるのもたやすくなる。あとは狙いを定め、引き金を引くだけ。
 一瞬、シキは痛みを抑え込む様に息を詰めて。震える指に力を込め二発の弾丸を放った。
「ぐぎゃ!?」
 それはカエルラマヌスの額を撃ち抜く。一発、そして二発目がさらに奥深くにそれを捻じ込んだ。
 ぐらり。
 カエルラマヌスの身は傾いてその場所に崩れ落ち口から泡を吐いてびくびくと痙攣している。
 その姿をシキは霞む視界の端でとらえて、浅い息を整えることに今は集中するのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォルク・リア
「毒杯の次は人喰いのケダモノ。
如何にも吸血鬼らしい醜悪なもてなしじゃないか。」
弱った姿を見せると先に襲われると本能的に察し
倒れそうになるのを堪え何とか立ち態勢を整える。
(耳鳴りが酷い。奴らの鳴き声も良く聞こえない。
視界がぼやける。敵の正確な数も認識できない。)

壁を背に敵の来る方向を限定。
視界が翳むのを補い死々散霊滅符を発動。
毒の一撃が致命傷になりかねないという事を念頭に
自身の動きを最低限に符を操り【範囲攻撃】で
弾幕を張り敵を近づけない。

毒を含むだろう返り血に注意し
月光のローブで身を守る。
「人々の血肉を喰らった罪。
贖って貰う。お前達の主共々に。」

部位欠損等でなければ負傷や毒の症状はお任せします。



 ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃと軽快に響く鳴き声。
 けれどそれはフォルク・リア(黄泉への導・f05375)の意識を逆撫でするものだった。
「毒杯の次は人喰いのケダモノ。如何にも吸血鬼らしい醜悪なもてなしじゃないか」
 ふ、と息を吐けばずきりと痛みが走る。
 弱った姿を見せると先に襲われる――そう、察したのはフォルクの本能だ。
 痛みに足元がおぼつかない。けれどそれを抑え込む様に、なんとか堪えてフォルクは立つのだ。
 頭の中、腹の中、身体の中全てをかき回されるような感覚が突如襲ってくる。
 それは痛みを伴うものだ。気持ち悪さも込み上げ、フォルクは口元を抑えそれを押しとどめた。
 口の中に感じるのは鉄の味。体の内側、そのどこかがこじ開けられたような感覚に眉潜める。
 鳴きながら距離をじりじり詰めるカエルラマヌス。
 その声はうるさい筈なのに、フォルクの耳にはほかの音が絶えず響いていた。
 それは耳鳴り。高い音がずっと続いてその鼓膜を揺らす。気持ちも削いでいく。
 不快な鳴き声は僅かに聞こえてくるが視界もぼやけていて敵の正確な数も、位置もフォルクは認識できないままだった。
 ふらふら、足元がおぼつかない。フォルクは壁を背中にして立ち、敵が来る方向を限定する。
 わずかに、臭いものが意識を誘う。ぼやける視界を巡らせれば、青い色が見えた。
 それはカエルラマヌスの色。尾を振り、鳴き声が近づいてくるのは、わかる。
 視界が翳む、その中でフォルクの唇は動いていた。
「死より出でて死を招く、呪いを携えしもの。中空に散じ、我が敵を闇に葬れ」
 ひらりひらり、呪符が舞う。それを自身の前へと連ねる。
 そんな髪がなんだ――そんな高い笑い声をカエルラマヌスは零し、フォルクへととびかかる。
 その攻撃の挙動は、視界が霞んでも捕らえることができた。動きが大きいのだ。それを追いかけて呪符を操る。
 そしてそれはカエルラマヌスの目の前で爆発を起こした。
「ぎゃぎゃぎゃ!!」
 その、痛みに驚く鳴き声を目安に、フォルクはほかの呪符も操る。
 こふこふ、と咳込んだ。痛みが喉を貫いて、その掌には赤い色――血だ。
 その様に僅かに息をのみ、フォルクは呪符で弾幕を張りつつカエルラマヌスを近づけさせない。
 けれど一際甲高い鳴き声が上がり、とっさに月光のローブの下に己の身を隠した。
 びしゃり――ローブ越しに何かが、いや。血が掛かる。毒をはらんだカエルラマヌスなのだから、その血を浴びれば一層ひどくなるだろう。
 ローブ越しでもその腐れた匂いがいやに鼻を突く。
「人々の血肉を喰らった罪。贖って貰う。お前達の主共々に」
 フォルクは静かに、言い放つ。
 しかし足に力が入らなくなっている。どこまで戦えるだろうかと、壁に背を預けフォルクは深く、息を吐いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セツナ・クラルス
毒の痛みに喘ぎながらも
目の前の凄惨な光景に一層深く表情を歪め

彼らの歩む道は希望だった筈
このように絶望に染めるなんて…

すまないね
加減はできそうにない
でもそれはお互い様かな
喰うならば喰われる覚悟もしていないと…ね?

ふふ、私はね?
心から感謝しているのだよ
死に瀕したこの状況のおかげで
私の感覚は限界まで研ぎ澄まされた

破魔+毒使い+医療知識で即席の鎮痛剤を錬成し自身に注入
第六感を駆使し、最小の動作で手近な敵を大鎌で攻撃
一撃で倒せたらよし
倒せなくとも以降は精度の上がった攻撃ができる筈

ああ、本当に感謝しているよ
あなた方の罪を喰って、尚、私はまだ『生きたい』と願っているのだから!


…ほんとうに、わたしは
おぞましい



「っ、ぐ……」
 ぎゅうと己の胸元を掴む。そこにある痛みを掴む様にだ。
 セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は、たどり着いたそこでの光景に一層深く、表情を歪める。
 毒をもらい死したのか、それともカエルラマヌスの手によって死したのか。
 どちらにせよ、その肉を喰らい毒性を高めたカエルラマヌスは楽しそうにぎゃぎゃぎゃと嗤っている。
「彼らの歩む道は希望だった筈、このように絶望に染めるなんて……」
 死したもの達はいったいどんな表情をしていたのか。どんな想いを抱いていたのか。
 セツナはすまないね、とカエルラマヌスへと言葉向ける。
「加減はできそうにない」
 でもそれはお互い様かな、とセツナは薄っすらと笑う。
「喰うならば喰われる覚悟もしていないと……ね?」
 身の内で逆巻く痛みがある。けれどそれも、セツナにとっては生きている証のようなもの。
 感じることができるのだから、己はまだここにあると。
 ふふ、とセツナの口から笑い零れる。ぐぎゃぎゃぎゃとカエルラマヌスはなんだろうかと首をかしげていた。
 その様を視界にとどめ、セツナは紡ぐ。
「ふふ、私はね? 心から感謝しているのだよ」
 死に瀕したこの状況のおかげで――私の感覚は限界まで研ぎ澄まされた。
 このような状況、なかなか追い込まれるようなものでもない。この感覚に愛しさをも感じてしまうような、そんな状況だ。
 けれどこの暴れ狂う痛みは僅かに邪魔になってくる。最低限、この痛みで震える手は問題がある。
 震えていては力が入りきらない。この大鎌を、宵を握るに惑いがでる。
 己の知識を持って、セツナは鎮痛剤を錬成し己に注入した。
 身体の中で荒れ狂うものがわずかになりを顰める。
 カエルラマヌスが飛び掛かってくるのを最小の動作でかわすことができた。
 狙いたいのはその首だ。それを落とせばどんなものとて動いてはいられなくなるだろう。
 一撃で倒せたら――と思うものの、カエルラマヌスの機敏な動きにまたセツナがついていくことはできない。
 倒せなくても、鎮痛剤が徐々に効いてくれば精度は上げていける。
 ひゅっと、その爪先が掠っていく。それでもセツナは微笑みを浮かべて。
「ああ、本当に感謝しているよ」
 あなた方の罪を喰って、尚、私はまだ『生きたい』と願っているのだから!
 その思いを言葉にはせず。
 そう紡ぐほどの、呼吸が落ち着かず。
 嗚呼、とセツナはまた零すのだ。吐息はため息のようであり、また違うものである。
 そこに乗せられた感情は、セツナ自身にしかわからぬもの。
(「……ほんとうに、わたしは」)
 ――おぞましい、と。
 愛用の鎌『宵』を振り上げながらセツナは思う。それでもこの刃は振り下ろす。
 握る手の感覚は戻ってきた。これならば目の前のカエルラマヌスも。
 そしてこの後ろにいるすべての根源にも対することはできるだろうと、思いながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

佐那・千之助
クロト/f00472

毒に侵され一瞬途絶えた意識
唇への感触に瞼を上げ
なぜ此処に…これも、幻覚?
…あぁ、そう。…いよいよ重症よ

…こんなものの、餌に
助けられずすまぬ
陰惨な激情に加速する魔力を雑ぜ
懐に忍ばせていた短刀(黒剣)一閃
伸ばした刃から飛び散る火霧を華へ変え
乱れ咲かすUC
死に損ないと侮られる内に足枷を

躰の悲鳴も何処吹く風
既に深手の身。常より致命傷すら覚悟の上
要は死ぬ前に命を喰らえば(生命力吸収)良いのだから
そうして繋いできた命の線
…喰われた者達は、毒竜の一部となり、この上私に奪われるなど惨いと思うが
屠る力を貸してほしい

負傷も彼の一撃へ繋ぐ好機となるなら望む所
そなた幻覚じゃろ
無謀な戦いも今は見逃せ


クロト・ラトキエ
千之助(f00454)

…そう。
君なら、そうしますよね。

はい、幻覚ですよー。何て。
勿体無い。とその唇の赤を拭って。
立つ為の手を。

…八つ当たりの理由、一つ増。

操糸術…苛む痺れ。
竜の挙動…視力低下。
使えぬならせめて、
その爪、その頭の動きだけでも見切り、次に繋げ。

嘗て誰かが呼んだ名、毒。
溶け込み破滅を撒くモノ。
やがて近しき者をも弑した時、
それはTTXと呼ばれを変えた。

知らぬ毒が欲しいなら、
呑んで逝け。

柄に7割――出力可能魔力全てをぶち込み
UC
起きろ、『朔月』

しなり追う蛇腹剣の2回攻撃。
横に振るえば広範を断ち。
遠近も伸縮も手首一つ。

命が安息をと叫ぼうと無視。
彼の前に立つ
…ならば凛と。
無様は、己が赦さない



 毒に、意識が持っていかれる、途絶える。
 佐那・千之助(火輪・f00454)の瞼は深く閉じられようとしていた。
「……そう。君なら、そうしますよね」
 けれど、その唇に触れる感触に、その瞼が震える。
 瞳開ければそこにはクロト・ラトキエ(TTX・f00472)がいた。
「なぜ此処に……これも、幻覚?」
 その言葉にクロトは瞬いて、ふと笑み浮かべてひらりと手を振った。
「はい、幻覚ですよー」
「……あぁ、そう。……いよいよ重症よ」
 何て、とクロトは笑う。笑うがその身も毒に浸され、苦しいことは変わらない。
 けふり、と千之助が咳込めば口端から赤が零れる。それを勿体ない、とクロトの指が拭った。そして、立つためにその手を貸す。
 ゆるりと、千之助も立ち上がる。こんなところで会うとはなと笑うが、痛みを堪えた表情は歪む。
 そして視線を向けた先には、躯とそれを食むカエルラマヌスの姿。
「……こんなものの、餌に」
「……八つ当たりの理由、一つ増」
 千之助に続きクロトも、また零す。
 助けられずすまぬ、と千之助は陰惨な激情を抱き、それに加速する魔力を雑ぜ、ふらつきながらもカエルラマヌスへとその意識を、身体を向ける。
 カエルラマヌスはそれに気づきぎゃぎゃぎゃぎゃと鳴き声上げて向かってくる。
 そのまま、飛び掛かってくる――懐へと千之助は手を伸ばし忍ばせていた黒剣で一閃する。
「――っ、闇にこそ咲きまされ」
 絞り出すような声だった。
 千之助の言の葉の共に伸ばした刃から飛び散る火霧。それは華へと変わり、カエルラマヌスへとまとわりつく。
 乱れ咲く、その炎の華。 
 死に損ないと侮られる内に足枷をと千之助は笑って見せた。
 けれどぎしぎしと躰は痛む。痛んでいた。
 だが躰の悲鳴も何処吹く風といった様子の千之助だ。
 既に深手の身。常より致命傷すら覚悟の上――毒がその身の内で暴れようともそれは変わらない。変わることはない。
  要は死ぬ前に命を喰らえば――その生命力を吸収してしまえば良いのだから。
 千之助はそうして、繋いできた命の線の上に立っている。
 だから目の前でぎゃぎゃぎゃと威嚇をするカエルラマヌスも同じだ。
「……喰われた者達は、毒竜の一部となり、」
 この上私に奪われるなど惨いと思うが屠る力を貸してほしいと千之助は紡ぐ。
 向かってくるカエルラマヌス。千之助の向けた炎のままに牙向いて噛みついてくる。
 痛い。これは新たに与えられた痛みか、それとも毒によってか。
 息をのむ、けれどこの傷も――クロトが一撃繋ぐ好機となるならと千之助は薄っすらと笑う。
「そなた幻覚じゃろ、無謀な戦いも今は見逃せ」
 息を詰めて、笑う。冷や汗か、脂汗か。額から落ちる汗を感じながら、千之助はカエルラマヌスを抑え込む。
 その身を、クロトの鋼糸が縛り上げた。
 苛む痺れは――指先にも及ぶ。当然の如くカエルラマヌスは暴れる。その挙動が大まかにしかわからぬのは、視力の低下だ。
 まだ使える。けれど使えなくなるのも時間の問題かもしれない。
 今はまだ、その動きを捕らえることはできていた。
 嘗て誰かが呼んだ名、毒。
 溶け込み破滅を撒くモノ。
 やがて近しき者をも弑した時、それはTTXと呼ばれを変えた。
 クロトはそのことにふと笑って見せる。それが何かを、一番知っているのは己だ。
「知らぬ毒が欲しいなら、呑んで逝け」
 柄に七割――出力可能魔力全てをぶち込む。それを注がれ、目覚めるものはクロトの手の内でしなるのだ。
 起きろ、『朔月』とクロトは紡ぐ。蛇腹剣はしなり、カエルラマヌスの身を斬るべく動く。
 横に払えば、その身の上を駆ける様に。手首一つ返せば、カエルラマヌスの上で身を翻し踊る。
「っ、」
 つぅ、と鼻からも違和感。乱暴に拭えばそこには血の跡だ。血管が切れちゃいましたかと、やけに冷静に他人事のように思える。
 頭の中も沸騰するように熱い。たまった熱を抜くようにそれは流れたのだろう。
 それは止まれと、命が安息をと叫んでいるのかもしれない。だがクロトはそれを無視する。
 彼の前に立つ――ならば凛と、ありたい。
 無様は、己が何よりも赦さないのだ。
 幻覚とて、幻覚だからか、よく戦うと千之助は瞳細める。
 毒の周りにはてさて、これが現実か夢のなかか。おぼつかぬ心地。
 クロトはカエルラマヌスの首を跳ね飛ばし、千之助のもとへとよろめきながら近づいた。その視界は一回転、二回転。くるりと回り続けるような心地で気持ち悪くもなってくる。
 けれど、まだ戦う手足も、その意思もある。
 ヴァンパイアと見えるまでは、二人は倒れることを認めない、赦しはしないのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

浮世・綾華
霞む視界に移る血肉
込み上げる嘔吐感に口元を覆う

…彼奴ならきっとこの光景をみても大丈夫なのだろう
そうなりたいと思ったことはなかった
でも、その精神が羨ましいと思うくらいには思考が鈍っている
それほどの痛み、苦しさを感じる

素早く駆けることは困難だ
対象に合わせて武器を操ることも
身体がいうことを聞かない

ならばと一定の動きで制御するしかない
黒刀鍵を複製し自身の周りでぐるぐると移動させ
向かい来る相手にただ刃を集中させる
一匹一匹、確実に

意識が遠のきそうになれば扇の炎で脚を焼く熱さで覚醒

余計なことを考える余裕はもうない
ひとつの目的だけだいて
殺せ、倒せ
すべて終わるまで

たおれるわけにはいかない
かならずかえるから――



 視界が歪む、霞む。
 血肉の色だけは鮮やかに、浮世・綾華(千日紅・f01194)の目に飛び込んできた。
 そして漂う血と肉、そしてそれが果てた末の臭いは否応が無しに、身の内からせり上がる物を引き出すように招く。
 こみ上げる嘔吐感に、綾華は口元を覆う。抑え込んでも何度もせりあがってくるものにもじわりと慣れてきた。
 は、と吐いた息は重い。瞳は僅かに昏さを帯びて、目の前の光景を映していた。
(「……彼奴ならきっと」)
 この光景をみても大丈夫なのだろう――そうなりたいと思った事はなかった。
 けれど今は、今この時はその精神が羨ましいと思うくらいには、綾華は鈍っていた。
 痛い、苦しい。それが己の何かを揺るがすほどに深く襲いかかってきているのだ。
 思考もぼんやり、輪郭を失ってぼやけてきている。己の内、一本通った想いも今は揺らいでいるのか、確りとまだあるのかも不透明だ。
 素早く駆ける事は、黒鍵刀に支えを助けられている今、困難。
 向かってくるカエルラマヌスにそれを向け、操ることも身体がままならぬ今、扱いきれるかと考えるができるとも思えない。
 なら、一定の動きで制御するしかない。
 杖代わりにしていた黒鍵刀をひとつ、ふたつ、みっつ。
 いくつも複製し綾華は己の周囲でぐるぐると移動させる。
 それに見続ければ目が回る――そう思ったが、もうすでに世界は何度もひっくり返されたような心地。
 今更、と僅かに口端を上げてただ、飛びかかる相手へ向けて刃を集中させる。
「一匹ずつ……」
 確実に。
 ぎゃぎゃぎゃぎゃとカエルラマヌスの鳴き声が嫌に響く。
 飛びかかってくる、それを黒鍵刀が防ぐ様が見え、その身が傾ぐ。
 意識が飛びそうだ――そう思った瞬間、扇に炎纏わせて、脚に充てればその熱さに目が醒める。
「ッ!!」
 零れそうになった声を飲み込んで、綾華は敵へと視線向ける。
 余計なことを考える余裕はもうない。
 己のすべきことは――目の前の敵を。あの青い竜を見定めて。
 体の痛みなど叩き伏せるように立ち上がる。
 殺せ、壊せと叩き伏せた痛みに呼応して何かが告げる。
 すべて終わるまで、まだ終わらない。終わらないから、立ち続けなければと。
「たおれるわけにはいかない」
 かならずかえるから――薄く開いた唇で紡ぐ。どこにかえるのだったか――それがぼんやりとおぼつかなく、なりながら。
 綾華はよろめく身体をどうにか立たせて、カエルラマヌスと対峙していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

花邨・八千代
【徒然】
うぐぅ……きもちわる…
ほんっと良い趣味してやがるぜ、ここの敵……

いやだからそういう依頼なんだって!
誰が好きでうまくもねー毒飲むかよ!

◆戦闘
に、入る前に首根っこ掴まれてぬーさんに捕獲される
大きな体に隠され、長い指を口に突っ込まれ流しこまれる血と解毒剤

噎せこみながらも飲みこめば少しばかりマシになる痛苦
うぇえ……いきなり何すんだよぅ…!

それでもぼやけていた視界が幾分クリアになった。
ぬーさんの手元から離れ、一気に戦線へ飛び出すぞ。

口から零れる血を南天にたっぷり飲ませて【ブラッドガイスト】だ。
南天を金棒に変えて全力で振り回す。
目についた端から叩いて潰してなぎ倒すぞ!

死にてェのからかかってこい!


薬袋・布静
【徒然】
よっしゃ、出来た
はーっ久々にええ毒喰らったわ

………なんで、お前まで毒喰ろうてん
もっと色々やりようあったやろうが…常々阿呆や思ってたが毒でやられたか???

◆戦闘
説教はコイツどうにかしてからやな…
唯一の火力が削られるのも困るので八千代の首根っこ掴み
先程まで書き殴ってた解毒剤を腰のポーチの薬品(医術)で
調合した小瓶を手に隠し持ち八千代の口に指を突っ込み
己の血と共に流し込む

これで多少なりやろうが、今よりマシやろ
少しは考えて行動しぃや

さぁて…奇遇な事に似たモン同士
お前さんの毒と俺の毒どっちが強いやろうな?

【蛟竜毒蛇】展開
ただの毒と猛毒を主食に喰らい続けた同胞
捕食と毒の喰らいあいといこうか



「よっしゃ、出来た。はーっ久々にええ毒喰らったわ」
 生き生きと、薬袋・布静(毒喰み・f04350)は楽し気に笑っていた。その口端からごぽりと血の端を流していてもだ。
 その傍らで口元抑え、花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)はしゃがみ込んでいた。
「うぐぅ……きもちわる……」
 うぇ、とせりあがったものを吐き出し、八千代は口元拭う。
「ほんっと良い趣味してやがるぜ、ここの敵……」
 もう何度吐いたか。毒よりもそれで体力を持っていかれているような心地さえある。
「………なんで、お前まで毒喰ろうてん」
 その八千代の様子に布静は不思議そうな顔をして首を傾げる。
「いやだからそういう依頼なんだって! 誰が好きでうまくもねー毒飲むかよ!」
 と、声上げた瞬間に八千代の世界がくらりと廻る。そしてついでと言わんばかりに咳込んで、血が零れぺっと吐き出した。
「もっと色々やりようあったやろうが……常々阿呆や思ってたが毒でやられたか???」
 呆れる、といった様子。そんなこと言ったってという八千代はまたけふけふと咳込む。布静はああ、と零しその手を伸ばした。
「説教はコイツどうにかしてからやな……」
 布静は八千代の首根っこ掴んで己の方を向かせる。
 唯一の火力が削られるのも困る、と先ほどまで書き殴っていた解毒剤――布静の答えを、腰のポーチに集う薬品で調合する。
 その小瓶は手に隠し持ち、布静は口端を上げて笑った。
 八千代はなーんかヤな予感、とじんわり思う。そして、言葉紡ごうとした矢先。
「んぐっ!?」
 八千代の口の中へと布静の長い指が突っ込まれる。己の血と共に薬が、その口へと流し込まれた。
「うぇえ……いきなり何すんだよぅ……!」
 その指が引き抜かれて、八千代は噎せ込みながらも飲み込んだ。
 鉄の味とほかの良く分からない味。どちらも混ざりあって決して美味しいとは言えないお味。
 けれど――確かに、痛みは僅かに引いている。視界もクリアで頭の中はグルグル回らなくなっている。
「これで多少なりやろうが、今よりマシやろ。少しは考えて行動しぃや」
「さすがぬーさん……!」
 布静の手元から八千代は離れる。これなら十分戦えそうだと意気揚々飛び出した。
 が、まだ完全に毒を御しきれているわけではなく。調子にのりすぎんとってなーと後ろからかかる声。
 しかしその声も聞こえているのかいないのか。飛び出した勢いの分、また咳込んで血を吐く。けれどそれも、丁度いい。
 南天紋の描かれた印籠へと、その血を飲ませてやるのみだ。するとそれは――金棒へと姿を変える。
 八千代はそれを握るのだが、いつもと感覚が違う。なんだか鈍いような。けれどそれも金棒振り回していれば徐々に消えていく。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「死にてェのからかかってこい!」
 八千代をおちょくる様に鳴き声あげるカエルラマヌス。挑発するように飛び掛かってくるのを、八千代は金棒でなぎ払い叩き伏せる。
 けれど、まだカエルラマヌスは生きている。いつもなら一撃で倒せそうな相手も、今日はそうはいかないようだ。
 それでも、潰しがいがありそうだと羅刹の女は笑っている。
 そんな先ほどまでの様子を思わせぬ動きに布静は笑って、己の前でその首せわしなく動かし威嚇するカエルラマヌスへと向き直る。
「さぁて……奇遇な事に似たモン同士、お前さんの毒と俺の毒どっちが強いやろうな?」
 毒の身に毒を浸し。
 アオミノウミウシを布静は傍らに呼ぶのだ。愛想の良い笑み、その口端には血の痕。
 痛い目見せられた毒は、今は布静の身の糧となりつつある。
「ただの毒と猛毒を主食に喰らい続けた同胞、捕食と毒の喰らいあいといこうか」
 カエルラマヌスが飛び掛かれば、アオミノウミウシは布静の前へとゆるりと出て猛毒の棘を伸ばす。
 その棘の出現にカエルラマヌスの反応は遅れ、飛び掛かったままに貫かれ傷から毒が注ぎ込まれる。
 そしてその身を喰らうべくカエルラマヌスへと覆いかぶさっていく。
 どちらが強いか。どちらが先に身を滅ぼすか――その様を布静は見つめている。
 ぎゃぎゃぎゃと呻く声はやがて弱くなり、アオミノウミウシは次の獲物を探して動き出す。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レナータ・バルダーヌ
罠の2つ3つくらいはあるかもと思っていたら、ドラゴンさんとは……。
こういうのは手ずからお願いしたいのですけど、どうやら会ってくださるつもりすらなさそうですね。
とはいえ、ここまできて帰るわけにもいきません。

今のところ痺れの症状はなさそうなのが幸いですけど、思ったよりも毒が強力です。
力が暴走してしまうのは避けたいですし、なるべく消耗を抑えられるように戦いましょう。
念動力で自身の両腕両脚とも自縛し、【A.E.トラメル】で敵の四肢を操って自身の盾になるように立ち回らせつつ、同士討ちを仕掛けます。
わたし自身は手足が使えなくても炎の翼を形成して飛べるので、開けた空間なら最低限の回避もできると思います。



「罠の2つ3つくらいはあるかもと思っていたら、ドラゴンさんとは……」
 レナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)は呟いてこふこふとむせる。
「こういうのは手ずからお願いしたいのですけど、どうやら会ってくださるつもりすらなさそうですね」
 とはいえ、ここまできて帰るわけにもいきませんと、口端拭いながらレナータはカエルラマヌスへと視線向ける。
 今のところ――ぎゅっと拳握る。力の入り様はいつも通りだ。
 痺れの症状がないのは幸い。けれど思っていたよりも毒は強力だった。
 力が暴走してしまうのだけは避けたいと、レナータは思う。なるべく消耗を抑えられるようにと思うが、カエルラマヌスはレナータに狙いを定めじりじりと距離を詰めてくる。
 距離を詰められないようにするか、それとも詰めてしまうか――その判断はカエルラマヌスの動き次第だ。
 レナータは念動力をもって、己の四肢を自縛する。それを代償としてレナータが得るものは。
「ぐぎゃ!?」
 己に向かってきていたカエルラマヌス一体の四肢の権利。
 それを操り、己の前で盾となる様にする。
 別のカエルラマヌスが襲わないのならというように迫る。それを迎え撃たせるのだ。
 同士討ちのように、強い毒を盛ったものが勝つのだろう。
 レナータの操るカエルラマヌスが倒れるが、残ったカエルラマヌスをまた操ればいい。
 敵がその傍ら抜けてこようとも、レナータは炎の翼を形成して飛べる。
 開けた空間では逃げることも容易だ。
 一体ずつ、確実にレナータもまた敵を倒していく。毒で体が思うように動かなくとも、できることはあるのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

雲烟・叶
蠱毒ですか
流石ヴァンパイア、くだらねぇことしますねぇ

……体内の呪詛に負の感情を加え、より深く暗く、なんて蠱毒はこっちもなんですけどね
まあ良いでしょう、さっきの感情はヴァンパイアに使うと決めていますから今回は別のもので

……おいで、お前たち
あんまり動きたくねぇんですよ、頼みました
【呪詛】で管狐たちを強化し、【誘惑、恐怖を与える、吸血】を付与
引き裂き、燃やしてしまいなさい
どうせ、残した所でろくなことになりませんから
……嗚呼、此方に来ますか
なら、【カウンター、生命力吸収】で少しでも回復しておきましょうかね

終われば、また同じように今際の負を連れて行く
人の子の気がそれで済むのなら、穢れ落ちる前に昇華なさい



 その様を目に、蠱毒ですかと雲烟・叶(呪物・f07442)は呆れたというような笑みを薄く浮かべていた。
「流石ヴァンパイア、くだらねぇことしますねぇ」
 言葉紡げばこふこふと小さく咳込んでしまう。手を見れば、赤い色。
 ああまたかと叶は思うのだ。
(「……体内の呪詛に負の感情を加え、より深く暗く、なんて蠱毒はこっちもなんですけどね」)
 ずきりずきり、身の内で波打つ痛みはより酷くなっていくばかりだ。
 そこへ、ぐぎゃぎゃぎゃぎゃとカエルラマヌスが己の歯を噛み鳴らしながら近づいてくる。まるで今から、喰らってやるぞというように。
 そのカエルラマヌスへと対するには先程得たものでは割に合わない。
「まあ良いでしょう、さっきの感情はヴァンパイアに使うと決めていますから今回は別のもので」
 だからすっと、叶は煙管を持ち出し、ふと煙を吐く。
「……おいで、お前たち」
 その煙が形をとる。叶が契約した管狐たちが煙をもってその身を生み出し、実体化し周囲を楽し気に飛び回る。
「あんまり動きたくねぇんですよ、頼みました」
 これもあげましょうかと呪詛を贈る。それは管狐たちにとってはありがたいもの。
 引き裂き、燃やしてしまいなさいと叶は紡ぐ。
 その言葉の通り、カエルラマヌスを誘惑し、そして恐怖を与え――その爪牙でもってカエルラマヌスの身を削る。
 それから管狐たちは呪炎を作り出し、カエルラマヌスの身を焼いていく。放たれた呪詛はその呼吸を奪い、やがて鈍くなったところ、急所を掻き斬っていくのだ。
 管狐たちの間を抜けて、カエルラマヌスが一体駆けてくる。
 けれどその身も、攻撃を受けて絶え絶えだ。
「……嗚呼、此方に来ますか」
 それなら、丁度良い。少しでも回復しておきましょうかねと管狐が一匹、叶の前へとやってくる。
 向かってくる、その攻撃を返し――叶はそのカエルラマヌスをも糧とするのだ。
 食べられて、苦しかったか。ここから先に進めぬ事が悔しいのか。
 カエルラマヌスの中にも毒となり降り積もっている。そして周囲の躯にも――この場にも、様々な今際の負が集っている。
 それをおいで、おいでと叶はまた連れていくのだ。
 人の子の気がそれで済むのなら、穢れ落ちる前に昇華なさいと柔らかに紡いで。
 この手伝いくらいなら、できるからと。

成功 🔵​🔵​🔴​

アイネ・ミリオーン
……痛い
マスクがないと呼吸が出来ない、のに、息苦しくなるなん、て、……厄介、です、ね
…………死にたくないと願う事に、懸けて、は、……僕の世界だって、負けてません、から
歩けます
声も出ます
なら、やる事は決まっています
僕は、あの世界の希望として、造られたんです、から

UC004を起動
【視力、暗視、情報収集】で効果を広範囲に広げて、内蔵スピーカーで、音の波をぶつけます、よ
ゴーグルを装着、ガラクタにケーブルを繋いで【操縦】、例え足元がふらついていても血を吐いても、【戦闘知識】で精密さだけは狂わないよう、に
……機械は毒じゃ狂いません、から【制圧射撃、クイックドロウ、部位破壊、零距離射撃、2回攻撃、なぎ払い】



(「……痛い」)
 アイネ・ミリオーン(人造エヴァンゲリウム・f24391)は己の喉のあたりを抑える。
 いがいがとしたものが喉にある。まだ声は出せるだろうかと小さく、吐息まぜて音にすればその音は耳に届いてた。
 そのことに少し、安心する。
(「マスクがないと呼吸が出来ない、のに、息苦しくなるなん、て、……厄介、です、ね」)
 マスクをしているから息苦しいのか。いや、違う。これは毒のせい。
 アイネはこれは外さないと、そっとマスクにも触れる。
「…………死にたくないと願う事に、懸けて、は、……僕の世界だって、負けてません、から」
 くぐもった声だ。けれどそれはアイネの意思でもある。
 歩けます、声も出ます――なら、とアイネは前を見据える。
「やる事は決まっています」
 僕は、あの世界の希望として、造られたんです、から――故郷の様を思う。
 ここで倒れていたら、希望とはなれない。ここでは倒れないと、ふらつく足を奮わせてアイネはぎゃぎゃぎゃぎゃとしゃがれた声で嗤うカエルラマヌスを見据えた。
 視界はまだ曇りきってはいない。カエルラマヌスの姿をアイネは補足できた。
 ゴーグルをつけ、ガラクタに、己の手足と同じように動きケーブルをつなぎ操縦する。
 足元がふらついても、血を吐いても――精密さだけは狂わないように。
「……機械は毒じゃ狂いません、から」
 認証Code:million. 004起動、とそのマスクの下で紡ぐ。
 音は目覚めを迎えて、波となる。
 その根源はアイネの唇から――甘く掠れたウィスパーボイスが音の波となってカエルラマヌスを襲う。
 その鳴き声では、良い波にはならなさそうとぽつり、零して。
 身の内を焼いている熱は今は燻って潜んでいるようだ。腹の中を回りまわって、いつ目覚めようかと考えているような。
 アイネはその感覚を得ながらも、カエルラマヌスを音の波で狂わせ、その場に伏せる。
 は、と深く吐いた息からは血の匂いがしていた。
 マスクの中でそれが燻り、アイネは自分の身の重さをまた感じるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジェイ・バグショット
…はぁ…はぁ…、

毒と吐血のせいで整わない呼吸は不調の身体をさらに痛めつけた
霞む視界をゴシゴシと腕で擦る

…チッ…、なんか足速そうなヤツが居んな…。
鈍ったコチラが圧倒的に不利と理解
出し惜しみしてもしょうがねぇか…

拷問具
『荊棘王ワポゼ』棘の鉄輪を複数空中に召喚。多方面から輪を強襲させる
『首刎ねマリー』断頭台と拘束具が個別に飛来。拘束具で囚われた対象を断頭台の刃で切断する
各武器は自動で敵を追尾し攻撃

UCキリングナイト
制約である寿命が縮む事に関して特に気にしてないが周囲に無敵化してる猟兵がいたらついでに攻撃する

自身の守りは影のUDC『テフルネプ』による迎撃とカウンター
どこからでも出現でき広範囲に対応可能



 一層、血の気の失せた顔色になっていることだろうと、ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は己の頬を撫でる。
 ひやり、変な汗はかいているのに頬にはまったく熱はない。
「……はぁ……はぁ……、」
 荒い息だ。また込みあがる血の気配に呼吸がさらに乱れる。
 不調に不調を重ねた身体。呼吸さえも己を痛めつけるものになっている。
 視界が霞む。それをゴシゴシと腕ですって見るも、クリアになることはなく舌打ち一つ落ちた。
「……チッ……、なんか足速そうなヤツが居んな……」
 視界の中、青い体が走って素早く動いている。
 ジェイの様子を伺いながら、ぎゃぎゃぎゃぎゃと鳴き声あげて、得物たるかを見定めている様子。
 毒に耐性を得て、なんの障害もなく走り回るカエルラマヌス。
 鈍ったコチラが圧倒的に不利だと、ジェイは理解していた。
「出し惜しみしてもしょうがねぇか……」
 棘の鉄輪――荊棘王ワポゼをジェイは複数、召喚する。
 それはカエルラマヌスを囲む様にくるくると踊り、一斉に踊りかかった。
 回る鉄輪はその茨で鱗を削っていく。複数からの攻撃にカエルラマヌスは逃げ場を塞がれそれに蹂躙された。
 よろめく、そこへ断頭台と拘束具が飛来してカエルラマヌスの身を戒める。それはジェイが操る首刎ねマリー。
 振り下ろされる刃がその身の一部を削り刎ねた。
 そして、おやすみの時間だとジェイは薄っすらと笑う。
 寿命を削ることをジェイは気にしてはいない。上空に出現する紅い月、その輝きをもってジェイの操る拷問器具の動きは一層、冴える。
 と、息をひそめ、近づいてきたカエルラマヌス――影からとびかかり、その首を噛み千切ろうをがちがちと歯を鳴らす。
 けれど、ジェイの影からぬるりと現れたものが、テフルネプがカエルラマヌスを圧倒する。
 テフルネプの動きを視界の端に見止めながら、ジェイはこふりと咳込んだ。
 寿命を削ったからか、毒が身の内を焼いている感覚が増した。
 僅かに呻いたが、ただそれだけの事。ジェイは重い息を吐いて、次はあれかと向かってくるカエルラマヌスへと対するのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エンジ・カラカ
トキワ(f04783)

ハロゥ、ハロゥ
食事?美味しい?わーけーて

それにしてもトキワがふらふらしている
毒カ?
アァ……バレないように演技をするンだ

相棒の拷問器具。賢い君。
それで支援を行おうそうしよう
薬指の傷を噛み切って君に食事を

怪しまれないようにわざと攻撃を外す
外してぐちゃぐちゃになった糸だけが敵サンに絡めばイイ
毒を食らって動けないふり
それから口内を噛んで血を吐き出す
でも動かないと怪しまれるなァ……。

アァ……でも流石に今回の毒はキツイ
君が怒ってる……コイツの毒が徐々に回り始めた
トキワ、トキワ
血ならあるサ。賢い君が後で分けてくれるって

ソレが毒入りの血だと判別も出来なくなってしまった。


神埜・常盤
エンジ君(f06959)と

晩餐会の最中に邪魔してしまったようだ
僕たちも混ぜて貰おうか

それにしても、あァ――
相変わらず世界はぐるぐる回っている
炎を纏わせた護符を投擲したとしても
果たしてちゃんと当たるかどうか
まァ外れても、餌の死体を焼けたら其れで

エンジ君と僕の前へ
盾状に護符を展開して武器受けしつつ
口端から止め処なく溢れる血を
影縫に捧げれば前へ出よう
ステップは千鳥足、されど一体ずつ
絲の絡んだ敵から串刺しに

嗚呼、血が足りなくてくらくらする
毒を喰らば皿までと謂う――いっそ竜の血を啜るか
あァ……君の相棒が分けて呉れるなら、ソレを戴こう
どんな味がするか楽しみだなァ
ぐるぐる回る意識のなかで嗤う



 そこは死臭に、満ちていた。
「晩餐会の最中に邪魔してしまったようだ」
 僕たちも混ぜて貰おうかと、ふらつきながら神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は紡ぐ。その口内には錆びた味が広がっていて、常盤はふと息を吐く。
「ハロゥ、ハロゥ」
 と、エンジ・カラカ(六月・f06959)がひらり手を振ってカエルラマヌスたちへと声かける。
「食事? 美味しい? わーけーて」
 ふふと口端上げて笑う。カエルラマヌスはその声に顔を上げ、くちゃりと肉を食む音響かせた。
 己のものを渡すわけにはとぐるぐる喉を鳴らしながら威嚇してくる。
 近づいてくるカエルラマヌスが、くるりと逆様を向いてまた戻ってくる。それは常盤の視界でのみ起こったことだ。
「それにしても、あァ――」
 相変わらず世界はぐるぐる回っている。頭を緩く振ってみるが、それが治るわけではなく酷くなる。
 足元も地についているのかいないのか、あいまいだ。
 ふらりとその身が揺らぐ。その様子にエンジは瞬いて。
「トキワ、ふらふらして……遊んでる?」
 口端あげて、同じように遊ぼうかなんて言うエンジに毒と一言、常盤は返す。
 それを聞いて、そうだったとエンジも思い起こすのだ。
「アァ……バレないように演技をするンだ」
 そうだった、そうだったとエンジは紡ぎ、ふらつくその足を真似する。
 エンジもふらついている、今更毒が効いてきたのかなんてことを常盤も思うが、やはり自分の事で精いっぱいだ。
 カエルラマヌスが威嚇しながらじりじりと近づいてくる。
 炎を纏わせた護符を構えるが――投擲して、果たしてちゃんと当たるかどうか。
「まァ外れても、餌の死体を焼けたら其れで」
 常盤とエンジ、二人の前に盾のように護符を連ねる。その瞬間にこふりと、咽たその口から血が零れ落ちた。
 止め処なく溢れるそれを、婉麗たる曲線を描く黒き鉄のクロックハンドへと常盤は捧げる。
 毒を含むその血は常よりも熱を帯びていたかもしれない。
 それでも、影縫は常と同じく振るわれるのだ。常盤の足はふらふらと、千鳥足。
 そのふらつきでうまくカエルラマヌスをかわして、一体ずつ攻撃を。
 そしてエンジは相棒の拷問器具――賢い君へと、その薬指の傷をがじがじ、噛み切って食事と差し出した。
 エンジの血を糧に賢い君も目覚めを迎える。
 支援を行おうそうしようといつもの調子。けれど怪しまれないようにと攻撃はわざと外した。
 鱗片、毒性の宝石、赤い糸――そのどれもカエルラマヌスは当たらない。けれどぐちゃぐちゃに絡まった赤い糸は、カエルラマヌスの足を捕らえ、動けば一層絡みつく。
 そこを常盤が貫いて、くし刺しに。
 口内を噛んで広がる血の味。それを吐き出しながらエンジは思うのだ。
「でも動かないと怪しまれるなァ……」
 常盤の真似をまたしておこうと彼の踏むステップを辿る。
「アァ……でも流石に今回の毒はキツイ」
 くらりと、目の前の色が明滅するような。
 この毒は、知っている。あの毒杯の毒ではなくてエンジは笑い零した。
「君が怒ってる……」
 コイツの毒が徐々に回り始めた。やっぱり賢い君の毒が一番だと。
 常盤は、目の前が真っ暗になるような感覚に一瞬襲われた。
 これは貧血。
「嗚呼、血が足りなくてくらくらする……」
 一体仕留めて、その足元に溜まる血を常盤は見つめる。
「毒を喰らば皿までと謂う――いっそ竜の血を啜るか」
 けれど、この血も今まで毒を食んだ身に流れていたもの。きっと酷いものなのだろう。
 それを身の内に入れるのもなァと思っているとだ。
「トキワ、トキワ。血ならあるサ。賢い君が後で分けてくれるって」
 エンジはそれで足りるカナと笑う。
「あァ……君の相棒が分けて呉れるなら、ソレを戴こう」
 その提案はありがたいことと常盤は思う。どんな味がするか楽しみだなァと嗤って。
 意識はかき混ぜられてゆるゆると正常さを失っているのだろう。
 毒に毒を重ねて、常盤は一層、酷くなるのか。それとも毒と毒が食い合ってマシになるのか。
 それは身の内に入れてみなければわからないのだけれども――エンジは今、忘れているのだろう。
 エンジも嗤う。賢い君の与えるそれは毒入りだということをするりと、頭のどこかに置き去って。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

バジル・サラザール
もはや毒を食べるのが楽しみになってる、って感じかしら
いいわ。お望み通りたっぷり喰らわせてあげる
数には数。極力相手の攻撃の射程外から『毒使い』『属性攻撃』を生かした『ポイズン・スピア』で攻撃するわ
距離を取って相手をよく見て、状況を把握しましょう  
毒耐性がありそうだけど、気にしない、どちらの毒が強いか勝負しましょう
犠牲者の人達が装備されたら極力接合部を狙って攻撃しましょう、その人たちを弄ばないでくれるかしら
『野生の勘』 も使って命中精度を上げましょう
敵の攻撃も『野生の勘』で回避や防御しましょう

視界も狭くなってきたし、ふらつくし……
でも、悪くない感覚だわふふ、ふふふふ……
アドリブ、連携歓迎



 くちゃり、と。それは嫌な音だった。カエルラマヌスが毒を得た腐肉を食む。
 その様を目にしたバジル・サラザール(猛毒系女史・f01544)は瞳眇めていた。
「もはや毒を食べるのが楽しみになってる、って感じかしら」
 呟きは、カエルラマヌスにも聞こえていたようだ。
 食い漁るそれから顔をあげ、くちゃくちゃと咀嚼しながらその瞳はバジルへと向いていた。それは次の獲物を見定めたような、視線。
「いいわ。お望み通りたっぷり喰らわせてあげる」
 くらくらと視界が揺れる。それでもバジルは相手を見据えて、飛び掛かってこられる距離の外に槍を生み出した。それは、毒の槍だ。
「薬も過ぎれば毒となる。元々毒だけど、たっぷりと味わいなさい」
 数には数。毒耐性はありそうだが、気にしない。
 はたしてどちらの毒が強いのか――勝負をするだけだ。
 バジルが連ねた矢をカエルラマヌスが正面から受ける。矢が体に突き刺さればカエルラマヌスの身はくらりと傾いだ。しかし不思議そうな面持ちをしたのちに、再びバジルへと向かうのだ。
 そして、傍にいた躯より骨を食み咥えて。
「その人たちを弄ばないでくれるかしら」
 カエルラマヌスの口元を狙う。その狙いがずれたのは、バジルの身にもゆるりと毒が廻り続けているからだ。
 己が毒を扱うと言っても、受けた毒は簡単には取り払うことはできない。
 カエルラマヌスの爪がわずかにバジルの身を掠めていけば、痛みと共に熱が灯る。
「視界も狭くなってきたし、ふらつくし……」
 でも、とバジルは笑み浮かべる。くらくらと意識が揺れる。
 意識ははっきりとここにあるのに世界が揺らいで、自分がどこにいるのかわからなくなる心地だ。
「悪くない感覚だわふふ、ふふふふ……」
 回避も狙いも、己の持ちうる感覚の全てで行う。
 どちらが先に果てるのかと薄ら笑いながら毒の酩酊感にバジルは浸されていく。
 矢を幾つも重ねて、突き刺して。そして地に伏せたのはカエルラマヌスだった。
 けれどバジルも身の内を巡った毒に一層の痛みを負わされる。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
症状はお任せ、存分にどうぞ

狙ったかどうかわからんけど、蟲毒が出来上がってんのな。
あれ、ラプトルって系統の恐竜に似てるな…。
(思考を明後日に向けることでしんどさを何とかしようとしている)

【存在感】を消し【目立たない】ように行動、可能な限り奇襲をかけ【マヒ攻撃】【暗殺】のUC五月雨で攻撃。同時に柳葉飛刀もできるだけ投擲して攻撃。
マヒは入れば上等。多少でも動き阻害できれば御の字だ。
基本相手の攻撃は【第六感】で感知【見切り】で回避。回避しきれない物で可能なら黒鵺で【武器受け】での受け流しからの【カウンター】。
どうしても喰らうものは【オーラ防御】と【激痛耐性】【毒耐性】でしのぐ。



 むせかえる様な、甘い匂いに血の匂い。
 それにわずかに表情は変わる。
「狙ったかどうかわからんけど、蟲毒が出来上がってんのな」
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)はカエルラマヌスが死したもの達を食む姿に零す。
 ずきり、ずきり。
 頭が痛い。瑞樹はその場所を抑えながらカエルラマヌスの姿を見つめていた。
 どこかでみたことがあるような、ないような。そんな姿かたちをしていると。
「あれ、ラプトルって系統の恐竜に似てるな……」
 零した言葉は、この場所で今紡がなくてもよい言葉だっただろう。
 けれど痛みを、気だるさを、しんどさを違うことでかわそうとして零れたのだ。
 存在感を消し、目立たないように瑞樹は行動する。
 腐肉を食い漁ることに懸命になっているカエルラマヌスを見つければそちらへ。
 その間も、瑞樹の身に毒は回り続ける。頭痛と共に吐き気も襲ってきた。
 口を抑えそれをこらえながら、瑞樹は死角をとった。
「喰らえ!」
 刃が黒い大振りなナイフ――それは瑞樹の本体でもある。
 それを幾つも複製し、カエルラマヌスへと操り向けた。
 その攻撃は奇襲であり、一体のカエルラマヌスはその場に伏せる。しかしその身を、近くにいたカエルラマヌスが食い漁り、そして次の目標はと瑞樹へと視線向けた。
 とびかかってくるカエルラマヌス。その動きは早く、一瞬力抜けた足ではかわし切ることはできない。
 黒鵺を引き抜いてその爪と牙の直撃をかわしたが瑞樹の身をその爪は一部、持っていく。
 痛みが響く。それも、毒も相まってまた重たいものだ。
 それでも。再び向かってくるカエルラマヌスへと瑞樹は攻撃かけた。
 凌ぎながら攻撃を繰り出し。毒の周りに抗いながらどうにか倒せば、その息はあがっていた。
 そしてまた、世界が一回転するように視界の中がかき混ぜられる。毒によって平行感がじわりと奪われていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。毒対策をする猟兵、思ったより少ない?
まぁ、死ぬ事は無いでしょうけど…。
可能であれば少し援護するとしましょうか。

毒に気合いで耐えるふりをして目立たないように膝を付き、UCを発動
存在感の無い血刃を床に潜航させて、
過去の戦闘知識から全体の行動を暗視して見切る

…盗み見るだけでは、この刃を捉える事はできない。

…ごほ、ごほ。銃ならば、まだ…戦える、わ…。

敵の毒属性攻撃は毒耐性で耐えトマトジュースを随所で吐き、
爪牙は防具改造した礼装下に展開した呪詛のオーラで防御
傷口を抉る銃の2回攻撃で仕留める

第六感が自身や味方の危険を捉えたら、
敵の足元を血刃で貫き生命力を吸収する早業で隙を作る

…足元注意。なんてね…。



 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は周囲の様子を見て零す。
「……ん。毒対策をする猟兵、思ったより少ない?」
 まぁ、死ぬ事は無いでしょうけど……と思うのは己もその猟兵たる強さを知っているからだ。
 可能であれば少し援護を思いながら、よろめきつつリーヴァルディは膝をつく。
 毒には気合で耐えるふり。咳込み口元を抑え、蹲るように。
 動かぬ獲物にカエルラマヌスは興味を示すのか。
「……限定解放。我が敵を切り裂け、血の飛刃……!」
 存在感を消した血刃を床へと潜航させる。
 リーヴァルディは今まで己が重ねてきた戦いの知識をも用いて、全体の行動を静かに見つめていた。
(「……盗み見るだけでは、この刃を捉える事はできない」)
 リーヴァルディは体を震わせながら息を吐く。
「……ごほ、ごほ。銃ならば、まだ……戦える、わ……」
 毒にやられてしまっているふりだ。
 するとカエルラマヌスが一体、新しい肉だと警戒も何もなく寄ってくる。
 まだ遠い、あともう少し――十分に引き付けて。
 けれどカエルラマヌスも何かを感じたのか、軽く一足分飛びのいた。察しがいいのだろう。
 一層、体調の悪い振りを続けるリーヴァルディ。
 がはっとトマトジュースを吐いて苦しそうにしてみれば、カエルラマヌスは警戒を緩めて近づいてきた。
 そして、その爪と牙が振り下ろされる。
 呪詛のオーラで防ぎ、銃を向けて一撃、そして二撃。その二撃目をかわそうと動くカエルラマヌスだが足元より血刃が現れその足を貫いた。
 その隙に傷口を抉るように攻撃を放つリーヴァルディ。
「……足元注意。なんてね……」
 その攻撃にカエルラマヌスの身は地に落ちて伏せる。
 崩れ落ちたその身体見下ろして、リーヴァルディはこの手はもう使えないと周囲を見渡した。
 戦う様を見ていたカエルラマヌスが複数体、じりじりと距離を詰めてきていたから。

成功 🔵​🔵​🔴​

スキアファール・イリャルギ
――耳すら可笑しくなってきた
あんな奴言葉なんて使えないだろうに
人の言葉で喋ってるように聞こえる

わかってる
全部幻聴だ
薄ら寒い慈悲も
虚ろな賞賛も
喧しい罵倒も
貶す小声も
わかってるけど――

うるさい
やめてくれ
……ッ嗚呼!!
おまえらのせいで!
どれだけ苦しんで傷ついたか!
こんなに心に傷痕残したくせに、
何も知らずのうのうと生きやがって!

――狂死させてやろうか!!


回り続ける視界で
血反吐を吐き続ける身体で
早く黙らせてくれと願う私の、
……"人間"の、本来の目口はどれだっけ
頭がぼんやりして
人間の身体が、わからなくなって
保てなくなっていく
呪瘡包帯も緩んでいく

ダメだろ、何やってんだ
人間を忘れちゃ――謳歌、できないだろ



 己のどの口から血をはいたか。
 そして次に不具合をきたしたのは耳だ。
「――耳すら可笑しくなってきた」
 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は絶対にこれは可笑しいと思いながらも、それを受け入れている。
 ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃと、カエルラマヌスが鳴き声を上げているはずだというのにその声が。
 まるで人の言葉で喋っているように聞こえるのだ。
 人の言葉なんて決して使えないであろうものがだ。
「わかってる、わかってる」
 全部幻聴だと、独り言ちる。
『つらそう、つらそう。楽になりたいならしてあげる』
 上っ面だけの薄ら寒い慈悲も。
『そんなにふらついて苦しんで、それでも誰かを助けようとはなんと気高い!』
 嘘臭さしか感じない虚ろな賞賛も。
『そんな体で何ができるんだ! やれると思ってるのか!? 身の程知らず!』
 乱暴な喧しい罵倒も。
『ふふ、ふふ、なんて――な』
 聞こえないからこその、貶す小声も。
 どれもこれも幻聴だと、スキアファールはわかって、わかってるけれども――それを流しきることはできなかった。
 うるさい、と小さく零す。そしてやめてくれ、と。
「……ッ嗚呼!! おまえらのせいで!」
 耳を塞げば聞こえなくなるだろうか。その手で隠すがその幻聴は響き渡る。
 どれだけ苦しんで傷ついたか!
 何も知らずのうのうと生きやがって!
 その叫びを聞いているのはカエルラマヌスだけだ。カエルラマヌスは何をわめいているのかはわからない。
 けれどその場から動かぬものは、餌だとじりじり近づいてとびかかった。
「――狂死させてやろうか!!」
 その瞬間、はじける様に叫んだ瞬間、スキアファールの身からあふれだす。
 死の欲動を引き摺り出す"怪奇"がその形を成して――スキアファールの周囲に集うカエルラマヌスを敵と認めて攻撃をかけ始めた。
 ぐるり、ぐらりとスキアファールの視界は回り続ける。
 そしてどの口からも血反吐を吐き続けながら――思うのだ。
 どれだったか、と。
(「早く黙らせてくれと願う私の、……"人間"の、本来の目口はどれだっけ」)
 ぼんやりとする。正常な思考がままならない。
 この身は人のものか、それとも別のものなのか――怪奇であるのか。
 人間の体が、わからなくなっていく。
 保てなくなっていく。
 呪瘡包帯も緩んで――それは、ダメだとスキアファールの心のどこかでひっかかった。
 そしてぎゅっと、緩みかけた呪瘡包帯を締めた。
 ダメだろ、何やってんだとスキアファールは零す。
「人間を忘れちゃ――謳歌、できないだろ」
 その言葉を零せば、己がここにあることが、たとえ痛みの最中であろうともはっきりとする。
 血に塗れているけれども、己の身はここにしっかりとあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

空見・彼方
………あ?
嘔吐感を耐えてたら反応が遅れ、
敵が噛みついてくるのを見―
『トートボーン』【早業】【傷口をえぐる】【念動力】二乗
鈍い身体を念動力が動かし、早業で片手に持ったフォースセイバーを敵の口に突っ込み【属性攻撃、頭を貫く。
――くひッ!上空を跳んで上からもう一体の敵に、
もう片方の手に持った電動丸鋸を叩きつけて回転。
傷口を抉り、フォースセイバーを腹あたりに突き入れて殺す。

……あ、わりぃ。ラスタ、ジェイコブ。
朦朧とした意識の中、代わりに別人格が動く。
跳びかかってきた敵を念動力で地面に抑えつけてから
電動丸鋸と持ち替えた熱線拳銃の【乱れ撃ち。

ああ、まだ死なない。死ねない
まだ、死んだらダメだ。油断させないと



 ふと。
 己の上に影が差し込んだ。空が揺らいだ。違和感を感じたのだ。
「………あ?」
 その違和感に空見・彼方(デッドエンドリバイバル・f13603)が気づいたときには、その牙がすでに迫る。
 嘔吐感に堪えていたら、反応が遅れた。
 噛みついてくる――鈍い体を、念動力で動かした。
 がきん! と音がしたがそれに捕まったわけではない。しかしカエルラマヌスは再び口開いて追いかけてくる。
 臭い。腐肉を食んでいたその口からは変な甘さが感じられた。そしてそこには、喰らうという意思が感じられる。
 けれど、それに応じてやるつもりはない。
 彼方は片手に持ったフォースセイバーをその口へと突っ込んで頭まで、貫いた。
「――くひッ!」
 そして上空に跳んで、また別の敵に。もう片方の手に持った電動ノコ丸鋸を叩きつけて回転する。
 傷口を抉り、カエルラマヌスの腹のあたりへと突き入れた。
 そこまで、動いて――彼方は状況を呑み込みつつ噎せ込んだ。
 激しい動きに毒が一気に回ったのか。血だまりを足元に作り出してしまう。
「……あ、わりぃ。ラスタ、ジェイコブ」
 朦朧とした意識の中、彼方の意識よりも先に代わりの別人格が動いたのだ。
 彼方はふらつきながら歩み進める。
 カエルラマヌスにとっては狙いやすそうな獲物に見えるのだろうか。
 こちらへ駆けて、一足で飛び掛かろうとする。
 それにもまた、彼方が反応するよりも先に別の人格が反応していた。
 念動力でその動きは留められ、地面へと抑えつけられる。
 そして電動丸鋸と持ち替えた熱線拳銃の銃口を向けるが、定まらない。
 それなら、とにかく当たればよいと乱れ撃つのみだ。
「ああ、まだ死なない。死ねない」
 まだ、死んだらダメだ。油断させないと――死ぬにはまだ早いと己に言い聞かせるように、彼方は零し続けていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

レザリア・アドニス
こんなの、まるで蠱毒の壺…
だったら…お前たちも、殺されても、文句ないんですよね…?

少し離れた所の壁にもたれて死霊を召喚
騎士には近くに守ってもらい、蛇竜には少し遠くへ攻撃に回せる
影に潜んで、隙を掴めば奇襲を仕掛ける
犠牲者に近づかせないように注意
血肉を食べる、搭載するのを全力で妨害
可能なら足を噛んで機動力を下げたり、喉笛を噛んで仕留めたりする
それでも蛇竜の防衛線を突破して近づいてくる毒竜を、騎士が相手する
盾で受け止めながら攻撃
ジャンプを警戒し、発動しようとしたら盾で叩き返そうとする

時間が経過するとだんだん滑り落ち、壁に寄りかかって座る
虚ろな目でほぼ本能だけで眷属を戦わせる
どうやら…私の、勝ち…ね…



 その緑の瞳が歪むのは、決してその身に受けている痛みのせいだけではないのだろう。
 レザリア・アドニス(死者の花・f00096)はとんと、背中を壁に預けた。
「こんなの、まるで蠱毒の壺……」
 ぽつりとレザリアはつぶやきを零す。
 カエルラマヌスはレザリアが弱っていると気づき、餌だとばかりに距離を詰めてきた。
 その姿を目に、レザリアは。
「だったら……お前たちも、殺されても、文句ないんですよね……?」
 レザリア自身は、このカエルラマヌスを直接その手で倒すことは難しいだろう。
 けれど――死霊たちならば。
 騎士はレザリアの近くに立って、その身を守る。そして蛇竜は影に潜み――隙を伺う。
 カエルラマヌスがレザリアへと気を向けている、その間に蛇竜は影から飛び出し奇襲をかけた。
 そして、蛇竜は死したもの達の躯とカエルラマヌスの間に入るがある。口をすることを邪魔すれば、カエルラマヌスはもうそれを口にすることはできないのだ。
 それは、人の尊厳を守ることと。そしてカエルラマヌスの力を奪うことになるのだ。
 蛇竜は威嚇し、カエルラマヌスの足を、そして喉笛を狙ってその牙を向ける。蛇竜の壁を抜けてきたカエルラマヌスには騎士がその盾で受け止めて弾いた。
 飛び上がる瞬間、盾で叩き返せばカエルラマヌスの牙と爪はレザリアには届かない。
 その戦いの間にも――レザリアの身の内で毒はゆるゆると巡り続けていた。
 ずるり、と壁に預けたレザリアのその背中が滑り落ち、くたりと座り込むことになる。
 息はあがり、身体は酷く熱を怯えている。
 その視界のクリアさは失われ、瞳の端に集った涙で滲んでいるのか。
 それとも毒によって、滲まされているのか。
 レザリアの瞳は虚ろさを帯びて、まともに前も見えてないのかもしれない。
 けれど本能だけで、己の眷属を戦わせる。
 戦いの音が静まれば、レザリアはふと口端を上げて微笑んだ。
「どうやら……私の、勝ち……ね……」
 今は、立ち上がれない。もう少しだけ、このままとレザリアは瞳を伏せたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

瀬名・カデル
アドリブ連携歓迎

ここで立ち止まるわけにはいかないよ
頑張って少しずつでも足を動かすけど、目のまえに現れたそいつを見て。

酷い、食べているのはここまでたどり着いた人たちの…
ああ、そうだったんだ、あの毒はこいつの為の。
ボクたち猟兵でもこんな風になるなら、領民のみんなにはなんて酷な事だろう。

絶対に、許せない!
アーシェ、ボクたちはここで負けられない
だから君にボクの力を!

UC【君がための光】を発動させてアーシェでカエルラマヌスを攻撃する。

強い怒りを感じるけど、我を忘れるくらいじゃない。
こいつの後には領主が待ち構えている。
ボクの調子は悪いけど、この怒りで痛みは忘れられそうだね。

さぁ、行くよ。
アーシェ、踊って!



 ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃと、楽し気な鳴き声を零すカエルラマヌスへと瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)は向き合っていた。
 ここで立ち止まるわけにはいかないと、鈍くなる足を頑張って少しずつでも動かしていく。
 そのカエルラマヌスの口にはねっとりと血と、肉の痕が見て取れてカデルは痛まし気に表情を歪めた。
 酷い、と思わず零れた。カエルラマヌスはそのつぶやきに何がというように鳴き声を上げて、首を上げ下げしてじりじりと近づいてくる。
 カエルラマヌスが食べていたのは――ここまでたどり着いたもの達の成れの果てだ。
 そしてカデルはああ、と気づいてしまったのだ。
「ああ、そうだったんだ、あの毒はこいつの為の」
 きゅっと、眉を寄せる。
 こふ、と咳込めば痛みが体の中を走り抜け、カデルは荒れかけた息を整えた。
 苦しい。猟兵である自分でも、自分たちでも苦しさはあるのだ。
 それはこの場にいる猟兵達の姿見れば、わかる。
(「領民のみんなにはなんて酷な事だろう」)
 絶対に、許せない! ――カデルは痛み、辛さを抑え込むかのようにキッとカエルラマヌスを睨みつけた。
「アーシェ、ボクたちはここで負けられない。だから君にボクの力を!」
 祈りを込めた聖なる光を、その腕でぎゅうと抱きしめていた黒髪に青い目の戦闘用人形、アーシェへと託す。
 強い怒りをカデルは抱いていた。けれどそれは、我を忘れるくらいのものではない。
 カエルラマヌスの後にはまだ領主たるヴァンパイアがいるのだ。
 本当に怒りを向ける先は、こちらだと知っている。
 カデルの体調は悪くなるばかりだが、この怒りで痛みは頭の隅に追いやられて忘れていられた。
 気持ち悪さがこみあげてくる。それも、その想いで蓋をして。
「さぁ、行くよ。アーシェ、踊って!」
 その十指に、アーシェと繋がる糸を巡らせて。
 踊る様に、カデルは操る。カエルラマヌスはそのアーシェの踊りに応じるかのように牙と爪を向けて飛び掛かってきた。
 ふらつきかける足をどうにかたもち、カデルはその一撃をかわし次はこっちの番とアーシェを操り攻撃かけるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

城島・冬青
【菫橙】

やはり耐性のおかげで毒の影響は無い
父は…凄く顔色が悪い
こんな状態で戦わせられないよ

お父さんは何もしないで
向かってくる敵は全て私が倒すからね
そう小声で伝え父から離れる

毒でフラフラしてる振りをして騎竜の注意を私に向けます
何匹も寄ってきたら狙い通り
食いつかれる前に隠し持ってた刀で突刺し衝撃波で纏めて弾き飛ばす
少しくらい元気に動いても騎竜の体に隠れてヴァンパイアには見えてないはず

父の方を見ると
吐血してる姿が見えて頭が真っ白になる
お父さん!
お父さん!
お父さん!
お母さんを未亡人にしないでよ!
死んじゃやだぁ…!
うっ…ううっ…
抱きつき泣きじゃくる

心の中でヴァンパイアに対する憎しみが増す
絶対に許さない…


城島・侑士
【菫橙】

冬青と身体を支え合いながら(実際には俺が支えて貰ってるんだが)歩く
(ホールの光景を見て)こいつら全部相手にすることはない
此方に向かってくるやつだけを相手しろ
あと演技を忘れるなよ

いつものように狙撃で援護をしたいのに手が震えてうまく狙いが付けられない
くそっ…この程度の毒で…!
しっかりしろ、俺
そうこうしている間に娘が何体ものカエルラマヌスに群がられているのを見て血の気が引く
冬青!
名前を呼んだつもりが口から出たのは声ではなく大量の血



気がついたら傍で娘が泣いてる
俺は…気を失っていたのか…
…大丈夫だ
眠くて寝ちゃってたよ
頭を優しく撫でて落ち着かせる
少し…肩を貸してもらえるか…?

苦しいが耐え歩き出す



 城島・侑士(怪談文士・f18993)と城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)の歩みはゆっくりだった。
 互いに支えあっているように見えるが実際は、冬青が侑士を支えているのだ。
 体制のおかげで冬青に毒の影響はない。
 けれど冬青が見上げた先、侑士の顔色は酷く悪い。
 それはホールの光景をみたからゆえに、ということはなく毒の影響だ。
(「こんな状態で戦わせられないよ」)
 冬青はそっと、侑士を盗み見てそう思う。
 侑士は、たどり着いたホールでの行いに眉を顰め、冬青へとゆっくりと視線向け小さな声で囁く。
「こいつら全部相手にすることはない。此方に向かってくるやつだけを相手しろ」
 あと、演技を忘れるなよと付け足して。
 それは心配そうな面持ちばかりが見て取れて、自分の辛さを演じるのを忘れている娘への苦笑も混ぜて。
 その言葉に冬青はわかってるよとツンと返す。けれど、その声色には侑士を思う気持ちが滲んでいた。
「お父さんは何もしないで。向かってくる敵は全て私が倒すからね」
 小声で伝えて、冬青は侑士から少し離れる。
 侑士はいつものように、狙撃で冬青の援護をと思うが――その手は、震えていた。
 冬青はフラフラしている振りをしてカエルラマヌスの注意を惹きつける。
 ふらふら、よろめいて今にも倒れそうな――餌のふり。
 一匹、二匹と冬青に興味を抱き、だれが最初に食むか威嚇をしあっている。
 けれどそのうちの一匹が抜け駆けして冬青に飛び掛かった。
 ぎらりと、涎滴る牙が見える。食いつかれる前に、冬青は隠し持っていた刀で突刺し、そのまま衝撃波放ってまとめて、弾き飛ばした。
 少しくらい元気に動いても、カエルラマヌスの体に隠れてヴァンパイアには見えていないはず。
 吹き飛ばされたカエルラマヌスたちは、冬青に一斉にまた飛び掛かる。
 その様に援護をと侑士は狙撃を行おうとするのだが。
「くそっ……この程度の毒で……!」
 手が震える、思うままに動かない。
 しっかりしろ、俺と言いながらその手から冬青に視線を向ける。
 冬青に、何体ものカエルラマヌスが群がる。その様に一気に血の気は引いた。
 冬青! ――と、侑士は名を呼んだはずだった。けれど声ではなく大量の血が零れ落ち、膝をついてしまう。
 ここで意識を途切れさせてはいけないと思うのに、朧気だ。
 そして冬青が侑士の方を見ると、血を吐いて膝をついている姿が目に映り、頭は真っ白になる。
「お父さん!」
 お父さん! お父さん! と、身を翻す。
 邪魔をするカエルラマヌスのその爪を受けても、牙が掠っても気にせずに打ち倒し走り寄った。
「お母さんを未亡人にしないでよ!」
 手を伸ばして、崩れ落ちる一瞬を冬青は受け止めた。
「死んじゃやだぁ……!」
 ぎゅうと力の限り抱きしめる。零れる嗚咽は止まらないままだ。
 抱き着いて泣きじゃくる冬青。
 お父さんをこんな目に合わせているもの――それは毒。
 それを飲ませたのは――ヴァンパイアだ。
 ふつりと冬青の心の中に憎しみが灯り、それが広がっていく。
 ぎゅうと抱き着いて泣いて――その声が、侑士の意識を引き戻した。
(「俺は……気を失っていたのか……」)
 瞳を開ければ、泣いている。冬青へと、侑士は手を伸ばし優しくその頭を撫でた。
「……大丈夫だ」
 眠くて寝ちゃってたよと苦笑を零し、冬青を落ち着かせる。
「少し……肩を貸してもらえるか……?」
 冬青は頷いて、侑士へと手を貸す。
(「絶対に許さない……」)
 けれど、苦しそうに耐えるその姿に、心の中に募る想いは燻るばかり。まだ姿見えぬヴァンパイアへと、冬青はすでに敵意を向けていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ライラック・エアルオウルズ
ああ、血の味しかしない
毒の甘さがいっそ恋しい、何て
そんな戯言も言ってられないか

立て、吐くな、貪る物を良く見ろ

じわり蝕む毒で揺らぐ意識を
屍肉食む悍ましさへの、
嫌悪と憤慨で繋ぎ止めて
願い縋る人々を、暴虐に貪る口を
僕が先にと、塞いでやるさ

鈍る身守るは《オーラ防御》
赤い指先で魔導書の頁捲り、
《属性攻撃:氷》を放てば
宣言通りの口に、手足凍らせ
行動を妨害し時間を稼ぐ

膝付く前に終える為に隙は逃さず
筆握る限りは、と意思も込め
万年筆で空に線引き――首を断とう

毒を食らわば、と云う事かい
餌遣る主も悪いけれど、
その悪食は実に頂けないよ
見ているだけで気分が悪い

紡ぐ間にも、血の味深めて辟易と
僕には毒を好めそうにもないな



 口の中で感じる味は、一つ。
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は小さく笑い零しその口元を覆う。
「ああ、血の味しかしない」
 喉を落ちていく錆の感覚は、心地よいとは決して言えないものだ。
 毒の甘さがいっそ恋しい、何て――とライラックは紡ぎ、そんな戯言も言ってられないかと前を見据えるしかなかった。
 ぐぎゃぎゃぎゃ、ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃと喧しい声が響く。
 ライラックにじわじわと距離を詰める者たちの姿。
 立て、吐くな、貪る物を良く見ろ――揺れる視界をライラックは正そうとする。
 けれど、どうにもならないままだ。視界だけでなく意識も揺らいでいる。
 いつ、ふつりと緊張の糸が途切れて意識が耐えてもおかしくない。
 それを繋ぎとめているのは、カエルラマヌスたちが屍肉食む悍ましさへの、嫌悪と憤慨。
 ひしゃがれた鳴き声零す口から、ぼたりと落ちたのは食んでいた肉の欠片だ。
 願い縋る人々の、成れの果て。
 ライラックはそれへと視線落としていた。
 暴虐に貪る口より、零されたそれは物言わぬものではあるのだがライラックの表情は曇る。
 楽し気に開かれるその口を――僕が先にと、塞いでやるさと鈍る思考を奮わせてライラックはカエルラマヌスへと向かう。
 オーラで身を守りながら、革表紙の魔導書を捲る。
 その指先は、赤に染まっておりぴたりとある一頁で動きを止めた。
 それより放たれたのは氷。その口を、そしてカエルラマヌスの手足を凍らせればうごきは止まる。
 それと同時にライラックの体が傾ぐ。立っていなければと、膝をつかずどうにか堪えた。
 凍ったその足を、無理矢理引き千切るようにカエルラマヌスは動く。
 そしてライラックへと飛び掛かる。その様だけは、酷く明確に視界の中に入った。
 それは反射的にだったのかもしれない。
 ライラックの中で痛みが暴れまわる。抑え込めないそれに屈する前に、膝をつく前に終える為にもだ。
 剣より容易く、剣より危うく――万年筆を握る。その力だけは、毒が廻る今も変わらない。
 筆握る限りは、と己の意思を込めライラックは空に線を引く。
 それは、滑らかにカエルラマヌスの首の上を走り――断った。
 びしゃりと血が跳ねる。ぱたたとライラックの足もとまでそれは飛んだ。
 一歩二歩、勢いのままに進むその身体が崩れ落ち、後追うように地に落ちた首。
 その口は、まだばくばくと動いていた。
「毒を食らわば、と云う事かい」
 餌遣る主も悪いけれど、その悪食は実に頂けないよと、ライラックは静かに見つめる。
 死してもまだ喰らおうとしているのか。
 見ているだけで気分が悪いと思うと同時に、ライラックは膝をついた。
 ごほごほと咳込めば、己の口端からもつぅと一筋、血が零れる。
「嗚呼……」
 血の味もだが――僕には毒を好めそうにもないなとライラックは薄ら笑う。

成功 🔵​🔵​🔴​

未不二・蛟羽
WIZ

頭痛は変わらず、幻覚で曖昧な思考の中で

…ずるい
俺だって痛くて、しんどくて
失くした分喰わなきゃって、ずっとおなかすいてて
だから、今度はアンタが、喰われる番っす……!

敵からの攻撃は野生の勘で見切り
お返しに笹鉄の爪で犠牲者の一部を弾き落とし、ワイヤーのロープワークで拘束して動きを止めるっす
その隙に墜喰の化け物を一斉に飛ばし、空中からけしかけ、大食いで生命力吸収

毒を飲んだ人を食った敵を食べたら、また毒を喰ったことになるんっすかね
でも…いっか。わるいものは、喰べないといけないから
だって、全部喰べたらさむいことは終わるっす、から
終わってはじまる為に、いただきますっす


毒の症状含めアドリブ大歓迎



 頭痛は相変わらず変わらない
 未不二・蛟羽(花散らで・f04322)は頭の中で嵐が荒れ狂っているようだと思う。
 そして、目の前に広がる世界は現実なのか、それとも幻覚なのか。
 曖昧な思考の中で、けれどその青い色の――カエルラマヌスが何かを食んで、くちゃくちゃと音をたてながら美味そうにしているのが目に飛び込んだ。
「……ずるい」
 蛟羽の口から、感情滲む声がおちた。
 俺だって痛くて、しんどくて。
 失くした分喰わなきゃって、ずっとおなかすいてて。
「だから、今度はアンタが、喰われる番っす……!」
 そうだろう、そうに違いない。そうしなければならないと蛟羽はカエルラマヌスの方へと走り込んだ。
 毒の痛みで体は儘ならぬはずなのに、走れた。
 カエルラマヌスは蛟羽の姿に驚き、そしてすぐさま餌だとその爪を振り下ろし、牙をむく。
 蛟羽は薄皮一枚その爪で引っ掻かれた。
 お返しとばかりに蛟羽は笹鉄の爪で、カエルラマヌスの顎をはじいた。すると食んでいた肉片が弾きとぶ。
 しゅるりと走らせるワイヤーでカエルラマヌスを拘束しその動きを阻んだ。
「おなか、すいた」
 空腹は毒をよく体の中に巡らせる。
 それも極地、翼ある口だけの化け物を蛟羽は召喚し周囲へと放った。
 そしてそれは、空中から一斉にカエルラマヌスを食みにかかる。
 毒を飲んだものを食べて、毒をさらに深めたカエルラマヌス。
 ではそれを食べたなら、また毒を食べたことになるのだろうかと、くるくる回る思考の中で蛟羽は微かに思う。
 けれど、そんなことはどうだっていい。食べられればなんでもいい、些細なことだ。
「でも……いっか。わるいものは、喰べないといけないから」
 ぼんやりとした声色で蛟羽は紡ぐ。
 意識はここにあるのかないのか。
 そして何を見ているのかは――蛟羽にしかわからぬまま。
「だって、全部喰べたらさむいことは終わるっす、から」
 とろりと、足元に流れてくる色は赤だ。その赤は蛟羽の空腹をさらに擽る。
「終わってはじまる為に、いただきますっす」
 ぐるぐると腹の中が熱い。満たされていくような感覚が生まれ始めた。
 味を感じるのか、感じないのか。それすらも毒のせいなのだろうか。
 それだってもうどうでもいいかと思うのだ。
 蛟羽はぐらぐら世界が揺れるのも構わずに進む。
 こほ、と息を吐く――口端から血が零れるのも気づかぬままに。
 それほどまでに意識は、ふわふわと揺らいでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

双代・雅一
毒の熱で視界と人格が定まらないまま通路抜け
蒼竜の姿認め、流石に不味いと感じる

頭と身を冷やさねば
だがラサルハグェ――お前は俺をどちらと認識する?
白衣より飛び出す氷蛇を槍へと変じて己に突き刺す
凍気が沸騰した熱を冷まし、UDCの蛇の力が身に満ちる
俺は…この身は雅一、なんだな?
だが、惟人は…アイツは何処に…?

そう、か…お前が奪ったんだな?
返せ……惟人を、返せっ……!!

精神を熱で蝕んだ毒は未だ消えず
一時的に増強された力任せに槍を手に敵に向かい吶喊
敵の攻撃を避けようともせず、暴走した感情に任せて攻撃続け
更なる毒で動けなくなる寸前まで


片割れを見失って錯乱状態
境目消えてるので弟の持つ感情部分が強く出た結果



 溶ける。溶けた。溶けあって、いるのかもしれない。
 双代・雅一(氷鏡・f19412)はくらくらとする頭を抑えながら通路を抜ける。
 毒の熱で視界も、その人格も定まらない。
 けれどカエルラマヌスが目に映った瞬間、流石に不味いとその心は感じていた。
 僅かに体を動かす、熱がこもる。酷い居心地の悪さ。
 この熱は終わることがない灼熱。身の内を溶かし、その熱でまた身を焦がすような感覚。
 頭と身を冷やさねばと雅一は思うのだが。
 しかし――今、どちらなのか、自身がどうなっているか、誰なのかさえわからないままだ。
「だがラサルハグェ――お前は俺をどちらと認識する?」
 白衣の端より飛び出した氷蛇へと雅一は問いかける。
 そして、槍へと変じたそれを己へと突き刺した。
 身の内の支配者が変わる。熱さから冷たさへ。
 凍気が沸騰した熱を冷まし、UDCの蛇の力が雅一の身に満ちる。
 冷えて、冷えて――意識も冴える。
「俺は……この身は雅一、なんだな?」
 そう呟くも、違和感がある。
「だが、惟人は……アイツは何処に……?」
 続けて零れた声は己のものではあるが、本当にそうなのか。
 何故こうなっている、どうして。
 どうなっているのか――体の熱は冷えたものの、理解がついていかない。
 そこへ、ぎゃぎゃぎゃとつぶれた声色が響く。
 カエルラマヌスだ。その姿を目にし、はっとする。
「そう、か……お前が奪ったんだな? 返せ……惟人を、返せっ……!!」
 抱いたのは、敵意だろうか。
 精神を、心を――熱で蝕んだ毒はまだその身の内でくすぶっている。
 いつ、どのタイミングでまた熱病を灯せばいいのかと。
 力任せに槍を奮う。青い鱗を削りながら、叫ぶ。
 振り下ろされる爪をかわすのも、防ぐのも暴走した感情のままに攻撃を続けていく。
 突いて、払って。槍での攻撃は理性も何もない。ただ目の前にいる敵を倒さなければと何かにせかされるような攻撃だった。
 カエルラマヌスがその場に崩れ落ちても、雅一はそれを奮い続ける。
 まだ動いているようにみえているからだ。けれど、その動きもやがて止まる。
 ひたりと、毒が再び巡り始めて屈する。
 ゆるゆると上がる熱に、その動きを奪われて雅一は膝をついたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

水標・悠里
毒を食らわば皿までとは申せど、肉まで食らうのは初めてお見かけしました
貴方は私をご所望ですか
残念です、私はこの先に用がありますので
そこを退いてくださいな

開けた扇と裾を翻し、蝶と共に舞い疾風をよぶ
足が縺れても指先が震えても構わない
ここは舞台なのでしょう。なら前座は盛り上がらなければ

元よりこの舞台は血と肉、毒で塗れておりますから
少うし派手にしても見栄えがするでしょう

息が詰まる。苦しさで視界が明滅する
そんな痛みすらただ愛おしい
倒れても吐いても止まらない

貴方が息絶えるまで共に踊りましょう
さあこちらを御覧になって
貴方の最期を看取ったのは誰か
よおく覚えていてくださいね

さあ、骸の海へと送って差し上げましょう



 毒を食らわば皿までとは申せど、肉まで食らうのは初めてお見かけしましたと、水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)は静かにカエルラマヌスを見つめた。
 くちゃりくちゃり、屍肉を食んでいたカエルラマヌスは顔を上げ、悠里の姿を捉えた。
 じわり、とその足が悠里へと向く。
「貴方は私をご所望ですか」
 問いかければぎゃぎゃぎゃと鳴き声が。
「残念です、私はこの先に用がありますので、そこを退いてくださいな」
 ふわりと、扇を開ける。動きと共に袖が翻り、蝶もひらりと舞い飛ぶ。
 そして疾風が駆け抜ける。
 扇を持つその手がわずかに震えていた。
 それでも構わない。足が縺れても、だ。
「ここは舞台なのでしょう」
 なら前座は盛り上がらなければ――悠里は、蝶と共に舞い踊る。ひらりと翻る扇の動きにカエルラマヌスの視線が引っ張られた。
 元よりこの舞台は血と肉、毒で塗れておりますから、少うし派手にしても見栄えがするでしょうと優雅なふるまい。
 毒の痛みも苦しさも、悠里の身にまだある。
 それを感じさせぬような動きだ。
 息が詰まる、苦しさで視界が明滅する。
 体を走る痛みは柔らかに擽る様なときもあれば、雷光に打たれたように激しい痛みもある。
 けれど、そんな痛みさえも――ただ愛おしい。
 カエルラマヌスの爪と牙をよけるために動き速めれば呼吸が詰まり、口端から血が零れた。
 内臓がかき混ぜられる。その引き千切られそうな痛みに僅かに眉顰められる。
 それでも、だ。
 貴方が息絶えるまで共に踊りましょう――さあこちらを御覧になってと、悠里は誘う。
 命を削りながら放たれる攻撃はカエルラマヌスの命を絶っていく。
 びしゃりと跳ねた血が悠里の身を汚す。そのねっとりとした熱さにふと笑みがこぼれたのはすでに理性を欠いているからなのか。
 鋭い痛みはあるのだろうが、それも児戯に等しく可愛らしく感じるほど。
「貴方の最期を看取ったのは誰か、よおく覚えていてくださいね」
 さあ、骸の海へと送って差し上げましょうと、艶やかに蝶が飛ぶ。
 血に塗れても、倒れられぬと。

成功 🔵​🔵​🔴​

ファルシェ・ユヴェール
――嗚呼
やはり、ですか

陰惨な光景には僅かに目を眇めたのみ
蝕む毒に鮮紅に染まった口許に
無理矢理整えたものとは異なる冷笑が宿る

全く、この世界の支配者達は何処へ行っても変わらない
こんなものは今更で
予想だってついていた範疇で

幾らでも見憶えがあるものと、そう吐き捨てては
数え切れぬ犠牲を前に
そう出来てしまう自身が
そうやって己の心を守ってしまう自身が
きっと、一番呪わしい

ゆらり呼び起こすは血統の力
瞳の奥から朱に染まれば、この身を苛む痛みは少し遠のいて
代わり
香る血に僅か、甘やかなものを感じてしまう
それは毒よりも己を苛むけれど
騎竜の喉元に仕込み杖の刃を向け

呼吸が浅い
其れでもまだ
笑っている
笑えている
だから
だから――



「――嗚呼。やはり、ですか」
 ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)は広がる陰惨な光景に僅かに目を眇めた。
 こふり。
 小さく零した吐息と共に口端にある違和感。
 ファルシェを蝕む毒は、無理矢理整えたものとは異なる冷笑を、その口許をさらに彩っていだ。
 全く、この世界の支配者達は何処へ行っても変わらない――ファルシェは零す。
 こんなものは今更なのだ。予想だってついていた範疇。
 そう、思えるほどにファルシェが似たようなことを経てきたのもまた事実だ。
 幾らでも見憶えはあるものと――吐き捨てては。
 数え切れぬ犠牲を前に、そう思えてしまう、思ってしまう。そう、出来てしまう自身が。
 そうやって己の心を守ってしまうファルシェ自身が――きっと、一番呪わしいと思えるのだ。
 吐息を零す。そこでまた血の味がする。
 ファルシェが身の内からゆらりと呼び起こすは血統の力だ。
 瞳の奥から朱に染まる。目覚めは少しばかり、ファルシェの身を苛んでいた痛みを浚っていった。
 しかし――この場に香る、血の匂い。先ほどまで厭うていたそれに僅かに甘やかなものを感じてしまう。
 それは毒よりも、ファルシェを苛むものだ。
 なんて煩わしいものを抱えているのかと、瞳伏せる。そこへ聞こえてくるのはカエルラマヌスのしゃがれた鳴き声だ。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
 その声が近づき、飛び掛かってくる。ファルシェは朱の瞳ひらき、仕込み杖を二振り――その鋭利な刃をカエルラマヌスの喉元へ向けた。
 とびかかる勢いで荷重がかかる。刃に重さが掛かるのだけは嫌に感じ取れた。
 ファルシェはカエルラマヌスの肉を断つ、その感触を明確に受け取っていた。
 ひゅ、と喉が鳴ったのはカエルラマヌスか、それともファルシェか。
 呼吸が浅い。
 其れでもまだ――笑っている。
 笑えている。
 だから。
 だから――まだ、と。
 毒の周りは身を内側から削る。そして心も少しずつ削っていく。
 ファルシェは、吐息零す。それは血という甘さ帯びたものとなっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユルグ・オルド
ここでくたばったらこの中に置いてけぼりか
そりゃアちょいっといただけないな
笑ったんだか引き攣れたんだか
拭ったところで落ちたのが何だったやら
逃そうにも膿むばっかりで
蹲ったら立ちたくなくなるやつじゃん

お迎えにはいつもの応戦といこうか
取り落としたら笑い話にもなんないし
握り込んだ柄だけは離さずに
ほら、腹減ってンでしょ
間合いまで招いて喰らいにおいで
受け止めるんにも切って返すにも
どうにも思い通りにならなくて
読める筈の距離も反る筈の動きも
糸が切れたように鈍麻してて
舌打ち一つと他人事が不快に変わる

元気が良いのを捉えるのは一瞬で良い
歪む視界も茹だる痛みも
振り抜くその一瞬だけは綺麗に忘れるだろうから



 くらりくらり。
 ぎゃぎゃぎゃぎゃと鳴き声だけはよく耳に響く。
 カエルラマヌスのその声に、賑やかなもんだねとユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)は零す。
 屍肉を喰らうカエルラマヌス――その食欲は旺盛。屍を食みながら零す声色は喜悦に満ちていた。
「ここでくたばったらこの中に置いてけぼりか」
 そりゃアちょいっといただけないなとユルグは零す。ああは成るつもりは毛頭ないのだしと。
 それは、笑ったのか――それとも、引き攣れたのか。
 頭を殴られるような痛みの連続。体の内側を削られるような、痛み。
 あ、違和感と思えば鼻からか、口からか。どろりと、零れ出たものを拭う。
 もう血だけなのか、ほかのものも混じっているのかわからぬもの。
 それを瞳に映せば、次はその場所を痛みが襲う。目の裏を引っ掻かれる痛みは奇異なののだ。
 それらを、逃がそうにも膿むばかり――立っているのもやっとだ。
 ならばこの場に蹲れば、とも思うのだが。
「……立ちたくなくなるやつじゃん」
 そうなればいい獲物よなと距離つめてくるカエルラマヌスの姿に思うのだ。
 いつもの応戦といこうか、と手に握るは己だ。
 僅かに、握る力が逃げている。取り落としたら笑い話にもなんないし、とユルグは握り込んだ柄だけは離さぬように意識向ける。
 その分、足が一瞬ふらついて。けれど視線はふらつかず、見据えたままだ。
「ほら、腹減ってンでしょ」
 ぐあ、と開いた口。並んだ牙が遠慮なくユルグに向けらrた。
 十分に動けないのだから、間合いまで招いて。
 喰らい匂いでと誘い込む。その牙を、受け止めるも――受け流しきれない。
 押し込まれる感覚に膝が笑った。噛みつかれたわけではないのに、カエルラマヌスが駆けてくる体重に屈しそうになる。
 いつもと具合が違う。思い通りにならない。
 いつもなら、読めるはずの距離だ。それなのにその爪が掠って、さらに鈍くなる。掠った程度で痛みなど、と思うが熱を帯び茹だるような感覚が走る。
 まるで糸が切れたように、鈍麻して――舌打ち一つ、他人事が不快に変わる。
 思い通りにままならぬ、この身の重さはユルグにとって枷のようだ。
 けれど、一瞬で良かったのだと思い出す。
 視界が廻る。歪んで平衡感覚はぐちゃまぜだ。けれど、カエルラマヌスの像はそこにある。
 歪む視界も茹だる痛みも――研ぎ澄まされた一瞬だけの間は綺麗に忘れられる。
 爪も牙も怖ろしいものではない。ユルグは僅かに笑って、一瞬忘れた痛みをまた感じる。
 体の内で新たに何かが暴れ始めようとしているような感覚をみつけながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

冴島・類
悪食だな
その上まだ舌舐めずりとは、大食漢かい?

血肉を与えただけ、強化されるし
こちらの分が悪くなる
なら、刃や牙になるだけ空を食ませれたら

吐き流れる血を拭うより
それを刀に伝わせて振うことで撒き餌に
こっちにおいでと
充分に引き寄せ、薙ぎ払いの牽制で挑発できれば
噛みつかれる前に、喚んだ鏡で
群がる彼らの目の自由を奪い、かき乱す
ずらした像で、身を隠し
生まれた隙が僅かでも
外さぬよう至近に踏み込み
体重乗せ喉を貫く

これ以上一片も、人は食わせない
空気でも、食んでな

次へ、進めるよう
周囲へも目を走らせ他猟兵さんがいれば
力振るう助力や、攻撃の狙いずらすため
鏡の光で援護を

瓜江を手繰り、駆け庇うには
指が痺れすぎたが…僅かでも



 悪食だなと、冴島・類(公孫樹・f13398)は表情歪める。
「その上まだ舌舐めずりとは、大食漢かい?」
 問いかければカエルラマヌスは笑うかのように鳴き声あげるのだ。それは、肯定。
 血肉を与えただけ、強化され己の部が悪くなる。
 それならあの牙、爪――あれらに空を食ませられたらいい。
 そう考え至った瞬間、類の身の内を思うままにさせないというのか、毒の煽りが駆けあがる。
 ごほ、と吐き出される――それを受け止めた掌はぬるりとしていた。
 類はそれを刃に伝わせ振るう。それは撒き餌だ。
 血の匂いにか、それとも色にか誘われる。
「こっちにおいでと」
 この血のほうがもっと美味いと引き寄せ――そして薙ぎ払う。
 その一瞬の間に餌から、敵へと姿変える。カエルラマヌスも素早く、敵意を見せその牙を向け噛みつこうとした。
 けれど、魔鏡の欠片が反射する。
 カエルラマヌスの間を巡る光がその視界を、自由を奪い掻き乱すのだ。
 類自身の姿が、現実と乖離してずれる。そこへ身を隠し、生まれた隙がわずかでも逃さず。
 いかに身を巡る痛みがひどいものであろうとも外さぬように踏み込みには加減をしない。
 体重をかけた瞬間、己の身体支えられなくなる――そんな予感を踏み砕いて、堪えて。
 類は体重載せ喉を突いた。突く、その瞬間だけはその手の感覚が鋭く感じられる。
 どろりと、刃引き抜けば血が零れた。その臭いに咳込みながらも、類の瞳から光は失われない。
「これ以上一片も、人は食わせない。空気でも、食んでな」
 深く息を吐いて落とした言葉は、かすれていた。吐いた息に滲む血の匂いに僅かに眉が寄る。
 周囲にも目を向け、援護をと思う。
 そしてふと、指の重さに気が付いた。瓜江と己を繋ぐ指。
 瓜江手繰り、駆け庇うにはと類は思う。
「指が痺れすぎたが……僅かでも」
 今は繊細な戦いなどできそうにない。けれどまだできることはあるのだと類は魔鏡の中に像を結ぶ。
 カエルラマヌスの数は減っているというのに、まだ終わらない。そんな時間の長さを感じながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

宵鍔・千鶴
何度目か、もう覚えていない程
この身から無理矢理引きずり出された赫、鉄錆の味、匂いは飽いたというに

たどり着いた先の無惨な光景に
顔を顰める
暴虐の下卑た笑いが耳を劈く
待つのは希望でも救いでもなく
こんな惨い結末か、と
転がる屍を眺め沸々と怒りが湧く

儘ならぬ躰だけれど、
愛刀に身を任せれば少しだけ軽く動ける気がする
桜の刀身を指でなぞって、祈りを込め一一其の蓄えた毒、断ち切り浄化しよう
……けれど、視界が先程からぼやけて霞む
毒の影響か流血のせいか、否、どちらもか、暴虐の攻撃は回避が間に合わない

……っ、噫、頼む
動け、動けよ、
刀を振るえ、集中しろ

早鐘打つ千切れそうな心の臓を
ぎゅうと握り締め
背だけは向けるものかと



 何度目か、もうわからない。
 近くにそう――知った誰かがいるような気もするのだけれど視界は朧気。
 意識も嘘つきだと思えるほどにかき混ぜられているから己の眼でとらえたとしても信じられない。
 宵鍔・千鶴(nyx・f00683)はまたと口元抑える。
 無理やり引きずり出された赫、鉄錆の味、匂いには――もう飽いたというのに。
 そして、そのすべてが濃い場所で顔を顰める。
 ぎゃぎゃぎゃと、下卑た笑いが耳を劈く。
 ここにあるものは一体、何なのか――ここに待つのは、希望でも救いでもない。
 千鶴は、惨い結末か、と小さく零しながら無念の内に倒れたもの達の、転がる屍を眺め沸々と怒りが沸くのを感じていた。
 ここでやらねばいけないことがあるのに、身体がいうことをきかない。儘ならぬ。
 それでも、愛刀に身を任せれば少しだけ軽く動けるような心地。まるで己の身の内の遮りをわずかに引き受けてくれているような気さえする。
 桜の刀身を指でなぞって、祈りを込める。
「――其の蓄えた毒、断ち切り浄化しよう」
 青い色が、動いていた。千鶴は自分の方へ向かってくるそれを視界から逃がさぬようにする。
 先程から、視界はぼやけて霞んでいた。だから目を凝らし、それを逃がさぬように集中する。
 酷く頼りない視界は、毒の影響か。それとも流血の――と思ったが、千鶴はどちらもか、ともう。
 ずきずきと頭が痛み始める。それに気を取られた一瞬のうちに爪が迫った。
 回避は間に合わず、その身を詰めが引き裂いて、熱灯る痛みが千鶴を駆ける。
「……っ、噫、頼む」
 動け、動けよ、刀を振るえ、集中しろ――小さく紡ぎながら血の気が失せていく。
 早鐘打つ、千切れそうな心の臓をぎゅうと握りしめた。
 倒れるのか、それともまだ立っているのか。様子伺いのカエルラマヌスを千鶴は睨みつける。
 背だけは向けるものかと、強い意思をもって。
 零れ落ちる汗が冷えて不快感だけが募る。カエルラマヌスの爪の閃きを、次はどうにか受け止めて千鶴は倒れかけるのを堪えた。
 刃を引く、その一瞬で虚を突いてカエルラマヌスの首元を裂くために。

成功 🔵​🔵​🔴​

飛白・刻
視界を歪めたのが先か嗅覚を歪めたのが先か
聴覚を疑ったのが先か嫌悪を覚えたのが先か
もはや順さえも掻き回される

己が持つ手段がひとつは毒を含むもの
尚の事、行動が制限される
手数にならぬとは相性の悪さも悪さだと

それでも刃ならば振るうことが出来る
朦朧とする意識と鈍りゆく身体でなりふりも構わずに
傷が増えたか毒が増えたか、もはや思考の端にもいない

人が人として扱われぬ光景も
何も出来ず立ち尽くすだけの己も

…うんざり…なん、だよ……

殺し切れなかった感情までも吐き捨てて
今昔さえも曖昧になるままに
うらはらに冷え切った切先をただただ振るう
元凶に届かぬ場で朽ちるわけにはいかぬのだと

※耐性不使用、症状任せ



 暗転を何度かくらった。すでに感覚は鈍く、何も感じてはいない。
 きっとこの場所は、血の匂いがうずくまっているだろうにそれがわからないのだ。
 視界を歪めたのが先か、嗅覚を歪めたのが先か。
 聴覚を疑ったのが先か、嫌悪を覚えたのが先か。
 カエルラマヌスががちがちと歯を噛み鳴らす音があるはずだが飛白・刻(if・f06028)にそれは分からない。
 もはや順さえも掻き回され、刻は何も当てにならないのだと知る。
 己が持つ手段がひとつは毒を含むもの。
 尚の事、行動が制限されると思考は冷静。酷く冴えているような心地があった。
 手数にもならぬとは相性の悪さも悪さだと笑って、それでもと手に握った刃はここにある事実と受け止められた。
 この刃なら、振るうことができる。
 意識は朦朧している。どう動けば効率的か。カエルラマヌスの牙や爪、攻撃を受けないかなんてことを考える力はない。
 身体も、そんな思考についてこれないほどに鈍っているのだ――なりふりも構わずに向かうしかない。
 刻が踏み込む。カエルラマヌスが笑う。傷を与えているのか、増えているのか――毒をさらに貰った気もするがもはや思考の端にもないのだ。
 そんな中で視界の端に――重なる骸が見えた。その光景だけは否応なしに刻の意識に植え付けられる。
 屍は、人の成りをとどめておらず食い荒らされ。その光景をかつて見た、なんてことはないはずなのに何かが刺激される。
 何かが、逆撫でされていく心地。
 人が人として扱われぬ光景も――何も出来ず立ち尽くすだけの己も――
「……うんざり……なん、だよ……」
 それは殺しきれなかった感情。吐き捨てるそれは、今感じたものか、それとも過去のものか。
 今昔さえも、刻にとっては曖昧なものになっていた。
 抱いている感情は簡単には言い表せぬ、ぐちゃぐちゃで濃密なもの。
 うらはらに、冷え切った切先をただただ振るう。振るい続けた。
 カエルラマヌスの身を斬る、血が飛び散る。それを浴びることも厭わずに。
 それが育てた毒を受けた場所は肌がただれるような感覚が鈍く這いまわる。それでも刻は立ち続ける。
 元凶に届かぬ場で朽ちるわけにはいかぬのだと――刃を閃かせて。

成功 🔵​🔵​🔴​

芥辺・有
不躾だね

傾ぐ体をそのままに、足を振るって青いのへ蹴りを落とす
まわる視界に舌打ちひとつ

自分から飲んだとはいえ、毒を食らえば文句のひとつも言いたくなるだろ
……まあ、こいつらはそうでもないのかな
随分楽しそうだけど
こっちも気分が良くないんだ、そうそう構ってらんないよ
だから、さあ、出といで
お前が相手してやりな

白蛇を喚び出してその背の後ろへ
大きな尾を振るって薙ぎ払い、大きな牙を立てて噛みつく様を眺めて
すり抜けて寄る奴があれば蹴飛ばす
傷を負うことへ関心はなくとも
ああ、でも、毒もってんだろうな、こいつらも
面倒なやつら
随分毒に強いみたいだけど
そんなに毒が好きだってなら、好きなだけ食らいなよ



 不躾だね、と芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は零した。
 視界が斜めの様な気がする。ああ、身体が傾いでいるからか。
 そんなことを考えながら、飛び掛かってきたカエルラマヌスの。その身の青を逃がさずその足を振るって、有は蹴りを落とした。
 カエルラマヌスの身体を蹴る、その衝撃が響く――まわる視界。それは毒の影響が多分にあり、舌打ち一つに込められた想いは深い。
 自分から飲んだとはいえ、毒を食らえば文句のひとつも言いたくなるだろと有は零す。
 有はそう思うのだけでど――ああ、と胡乱気な視線をカエルラマヌスへと向けて。
「……まあ、こいつらはそうでもないのかな」
 ぎゃぎゃぎゃぎゃと跳ねるような鳴き声だ。それは有の心を逆撫でていく心地のもの。
「随分楽しそうだけどこっちも気分が良くないんだ、そうそう構ってらんないよ」
 だから、さあ、出といでと――有は喚ぶ。
 巨大な白蛇、それは有の傍に静かに表れて首を持ち上げた。しゅるりと、舌を遊ばせながらカエルラマヌスを見定めて。
「お前が相手してやりな」
 白蛇の、その背の後ろへと一歩引く。
 とびかかってくるカエルラマヌスへ向けて、白い巨体の、その大きな尾をしならせ薙ぎ払った。
 カエルラマヌスへと次に向けるのは大きな牙だ。
 噛みつく、噛み砕く。その様を有は眺めていた。
 白蛇の傍らを抜けてくるものがいれば、容赦なく蹴り飛ばしながら。
 その際に、僅かに掠った爪先がある。痺れるような熱を感じ、有はその場所をしばし見つめていた。
 そして合点がいく。
「ああ、でも、毒もってんだろうな、こいつらも」
 傷を負うことへ関心はなくとも、感じたものにはわずかに思いめぐらせる。
 しかし気怠さは増すばかり。身体の内に熱も込み上げ始め、有はひとつ息吐いた。
 面倒なやつら、と視線巡らせれば傷を負いながらもまだ立っているカエルラマヌスはいる。
「随分毒に強いみたいだけど――そんなに毒が好きだってなら、好きなだけ食らいなよ」
 もっとご馳走してあげなよと白蛇へと言葉向ける。
 噛みつき、注ぎ込む。それはカエルラマヌスたちだけに許されていることではないのだと、いうように。

成功 🔵​🔵​🔴​

絢辻・幽子
あぁ、これがあれかしら蠱毒というやつかしら?

でも、毒がぐるぐるとめぐり、めぐっては
きっと、しんどいでしょうねえ
私、悪趣味な貴族の首をこの糸で撥ねなきゃ気が済まないし
あなたの相手をしている暇はないのよねえ……。

繭絲で少しでも『傷口をえぐる』ことと
『生命力吸収』は大事
ちくちくじわじわ蝕むのは好きよ
……蝕まれるのも好きよ、腹が立つくらいにね
爪やら牙は壱の子を盾にしましょうか
あぁ、かわいそう。私のかわいい子。

犠牲者を組み込もうとするならば
フォックスファイアで燃やしてみましょう
他の亡骸もさあ、ご一緒に
駄目よ、亡骸で遊んでは。悪い子ね。

……幽ちゃんが幽霊になったら呪いに呪うわよ。領主。



「あぁ、これがあれかしら蠱毒というやつかしら?」
 ふふ、と笑い零す絢辻・幽子(幽々・f04449)は、でもと継ぐ。
「毒がぐるぐるとめぐり、めぐっては」
 きっと、しんどいでしょうねえ――己も毒をうけているというにその言葉にはまだ軽やかさがあった。
 カエルラマヌスたちの数は減っている。といっても、これの相手をまともにするのもと幽子は思うのだ。
「私、悪趣味な貴族の首をこの糸で撥ねなきゃ気が済まないし。あなたの相手をしている暇はないのよねえ……」
 さて、どうしましょうか。どうしたらいいかしら――まるで戯れのように紡ぎながら細指から滴るのは赤い糸。
 繭絲を巡らせ、カエルラマヌスの青い身体をひっかけてじわじわと、蝕んでいく。
 ぎゅう、と細糸一本なれば断ち斬れそうではあるが、それが重なれば違う。その糸より生命力を得れば――僅かに、荒れ狂う毒を抑え込む力となった。
「……蝕まれるのも好きよ、腹が立つくらいにね」
 その、赤い糸の中を無理やりに突き進んでくるカエルラマヌスがいる。
 糸を断ち斬りながら向けてくる爪。それを防いだのは球体関節人形の、壱の子だ。
 爪が、その身を刺すように砕いていく。
「あぁ、かわいそう。私のかわいい子」
 困ったような眉が一層下がり、瞳にある揺らぎは大きくなる。
 糸に絡めてじわじわといたぶって、削って。
 それは己の身を内側から滅ぼさんとする毒にも似たものがある。
 こふ、とむせた瞬間血の味がした。身の内はどうなっているのかしらと幽子は笑い零していた。
 カエルラマヌスは屍肉を食んで、幽子の巡らせる糸を抜けようとする。
 けれど、それより先にぽつぽつと炎が灯る。幽子はそれを足元から走らせて、カエルラマヌスの食もうとしていたものを焼き払った。
「駄目よ、亡骸で遊んでは。悪い子ね」
 それは食べるものではないのよと諭すように優しく。けれど、手繰る糸の力は増す。
 ふつ、と一本――カエルラマヌスの身に食い込んだ。硬い鱗を削り、そして肉に達したのだ。
 そこまでたどり着けばあとは早く。勢いよくその首が跳ね飛ばされ、雨のように地が降り注ぐ。
 その血の香は甘く――毒気を帯びていた。
 匂いとして、それは幽子を苛む。僅かに眉顰め、これ以上受けるわけにはと口元を隠す。
 そして己の唇に触れたその指先の冷たさに、幽子は僅か驚くのだ。
「……幽ちゃんが幽霊になったら呪いに呪うわよ。領主」
 感覚が、毒で鈍らされている。
 あともう少しで領主の顔が見られそうな局面だというのに、これ以上鈍くなるのはいただけないわと――言葉と裏腹に、笑み浮かべて幽子は紡いだ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『黒鋼公シュヴァルツ』

POW   :    存分に愉しませてくれ
自身の【戦闘を楽しみたい欲求】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    貴様の力を見せてみよ
【猟兵の攻撃を受け止め続けた】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
WIZ   :    この程度、児戯に等しい
【自身の細剣】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、自身の細剣から何度でも発動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はセシリア・サヴェージです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 カエルラマヌスの躯が積み重なる。今までこの場で絶えたもの達の上にだ。
 毒を飲み、毒を飲んだものを食み。そして毒を蓄えたものを打ち倒し――ぱちぱちと、乾いた拍手が一つ響く。
「此度は人が残ったのか」
 いつもはカエルラマヌスどもが喰らってしまうのにと、黒鋼公シュヴァルツがホールの上より見下ろしていた。
 不遇に置かれても前に進む姿は美しく。けれど――それを叩き折られる瞬間は何よりも甘美なものとシュヴァルツは笑って、愛でるのだ。
 けれど、此度は愛でるで終わらなかった。
 カエルラマヌスが屍となり、そこに民が――いや、猟兵が立っているのだから。
「私の手で、それを成すのもたまには良い」
 けれど、お前たちも満身創痍である。このままでは私が一方的に愛でて終わってしまうだろう。
 そう零すのは、ヴァンパイアゆえの余裕なのか。
 それであればとシュヴァルツは小瓶をひとつ、手にする。その小瓶の中で踊っているのは毒だった。
「私も毒を飲んで苦しみながら戦ってみるとしようか」
 私が自分で育てた毒ははたしていかなものか――けれど、己を不利にするということはこのヴァンパイアにとって己の力を高めるということでもある。
 戦いの高揚のために、シュヴァルツは毒を嗜み。ひらりと、猟兵達のいるホールへと降り立った。
 さて戦いを、始めようと。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。そう言っても毒が回るまで時間がかかるでしょう?
その間、私が相手をしてあげるわ、黒鋼公。

今までの戦闘知識から殺気を残像として暗視して見切り、
怪力の踏み込みから大鎌をなぎ払い敵の攻撃を迎撃する

…猿芝居はもう終わり。これから先は狩りの時間よ。

焦れたふりをして前の闘いで用いた【血の飛刃】を操り、
存在感の無い血刃で足元を狙い敵のカウンターを誘導し
敵の第六感や注意を逸らして早業のUCを発動

…っ、しまっ…!

闇に紛れた周囲の毒血に呪力を溜めて武器改造
無数の血杭で敵を貫き傷口を抉り伸縮させて、
体内に無数の毒血を送る毒属性の2回攻撃を放つ

…浴びるほど飲み干しなさい、吸血鬼。
今までお前が与えてきた毒を…ね。



 さぁ誰から戯れに遊んでやろうかと、男は――黒鋼公シュヴァルツは笑う。
 そこの娘からにするかと笑いながら視線を向けたのはリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)にだった。
「……ん。そう言っても毒が回るまで時間がかかるでしょう? その間、私が相手をしてあげるわ、黒鋼公」
 リーヴァルディは毒を得ていない。
 軽やかに、黒い大鎌をくるりと回す。リーヴァルディは怪力をもって踏み込み黒鋼公の懐へと入り込む。
「……猿芝居はもう終わり。これから先は狩りの時間よ」
 リーヴァルディの攻撃を、黒鋼公はよろめきながらもその細剣で受け流す。
 そしてふと攻撃をかけてくれば――その殺気を残像として見切り、リーヴァルディは一層苛烈に仕掛ける。
 その中で焦れたふりをして――血の飛刃を操った。
「飛び道具は叩き落すに手間がかかる」
 ひとつ、ふたつ。足元を狙ってリーヴァルディは放つ。それをかわして隙を見せればきっと仕掛けてくるはず。
 飛刃を払いのけ、黒鋼公が細剣の先を向け、笑う。
 貫いてやる――その意思と殺意をリーヴァルディは受け取って、動きを一瞬鈍らせてみせた。
「……っ、しまっ……!」
 けれど、瞬間的にリーヴァルディは吸血鬼化し周囲の血を集わせ無数の血杭を作り、黒鋼公へと見舞う。
 くすんだ赤い色が踊る。黒鋼公はそれを身に受け、呻くとともにぼたりと、己の身から血を零した。
 そしてその血杭は――傷口を抉り、伸縮させて。そして黒鋼公の体内に無数の毒血を送り込む。
「……浴びるほど飲み干しなさい、吸血鬼。今までお前が与えてきた毒を……ね」
 リーヴァルディの攻撃に黒鋼公はにたりと嗤う。
 痛みはある。己がいれた毒に、受けた毒とその身は疲弊していくばかり。
 けれどそれは、己の力を高めることにもなるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
毒の症状はお任せ、存分に。基本、自分はどうなっても精神が強い

(ドン引き)
たまに本当に貴族らしい奴がいるってのは聞いたことあるけど…えぇ…(困惑)
解毒剤持ってるだろうけど、逆に持ってないんじゃないの?って気もしてくるな。

真の姿、かつUC鳴神で攻撃力強化。
【存在感】を消し【目立たない】ように行動、可能な限り奇襲をかけ【マヒ攻撃】乗せた【暗殺】攻撃。マヒが入れば上等。多少でも動き阻害できれば御の字だ。
相手の攻撃は【第六感】で感知【見切り】で回避。回避しきれない物で可能なら黒鵺で【武器受け】での受け流しからの【カウンター】。どうしても喰らうものは【オーラ防御】と【激痛耐性】でしのぐ。



 げふ、と血反吐を吐きながら――霞む視界の先で黒鋼公が笑っているのを、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は感じた。
「たまに本当に貴族らしい奴がいるってのは聞いたことあるけど……えぇ……」
 ドン引きだ、という声色で。そして瑞樹は困惑するばかりだ。
 ぎりぎりと締めるような、そして突き刺してくるような頭痛がするのは――毒のせいなのか。それとも、他の要因もあるのか。
 一歩、踏み出せばぐらつく。瑞樹は身の内を駆け巡る痛みを呑み込む様に堪えて黒鋼公を見つめていた。
「解毒剤持ってるだろうけど、逆に持ってないんじゃないの? って気もしてくるな」
 そう思うが、まぁいいかと思うのだ。
「境の先へ……!」
 己の姿を真のものへと近づけ――自身の攻撃力を強化する。
 存在感を消し、目立たないようにし。
 可能な限り気づかれないように黒鋼公へと飛び掛かった。
 マヒを乗せた暗殺の一撃――マヒは、かかれば上等。多少でも動きが阻害できれば御の字程度にだ。
 その一撃を黒鋼公は細剣で受け止めた。そして弾かれると、瑞樹は見切った。
 かわすには少し難しい。黒鵺で受けたその攻撃。受け流そうとするが押し切られる。
 攻撃を受け、自分を追い詰めることで黒鋼公は己の力を高めていたのだ。
 振り払われたその一撃は強く、毒も相まって力はいりきらぬ瑞樹は吹き飛ばされる。
 オーラで身を守りつつも受けた衝撃は大きく。走る痛みもどうにか耐えていたのだが、身体は思うままに動かずその場に倒れるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナータ・バルダーヌ
回りきった毒による【痛みに耐え】つつ、ヴァンパイアさんの攻撃をサイキック【オーラで防御】して幾太刀か受けてみます。
多分に漏れず、太刀筋からは虐げることへの悦びを感じるかもしれません。
ですけど、純粋にそれだけを愉しんでいるわけでもなさそうです。

やはりわたしが求めるお相手とはちょっと違うみたいです。
せっかく色々と準備して優位に立っているのに、自ら毒を飲むというのもよくわかりません。
長居をするは理由はなくなりましたけど……。

毒の痛みも受けた傷の痛みもすべてまとめて、【A.B.エンパシー】で敵に放ちます。
物理的な攻撃ではないので、剣では受けられないでしょう。

……やられた分はお返ししないといけませんね。



 痛いと呻く様にレナータ・バルダーヌ(復讐の輪廻・f13031)は零した。
 毒が回って痛みが走る。それを耐えつつ、レナータもまた黒鋼公の前に立った。
 ヴァンパイアさん、とか細く呼ぶ。レナータへと黒鋼公は視線を向ける。
 黒鋼公も傷を負っているがそれを気にしてはいないようだ。
 ひゅっと踊る細剣がレナータを捕らえる。
 その傷は浅いものがいくつも増えていくばかりだ。
 レナータはその太刀筋から、虐げることへの悦びを感じていた。
(「ですけど、純粋にそれだけを愉しんでいるわけでもなさそうです」)
 そして、それにと思うのだ。
(「やはりわたしが求めるお相手とはちょっと違うみたいです」)
 せっかく色々と準備して優位に立っているのに、自ら毒を飲むというのもよくわかりませんと、黒鋼公の行いを振り返る。
 それはレナータにとって理解できないものだったのだ。
「長居をするは理由はなくなりましたけど……」
 毒の痛みも、受けた傷の痛みもレナータは抱えておく気はなかった。
「この身に受けた痛み、すべてあなたにお返しします!」
 レナータが追っている傷。それが持つ痛みの感覚を黒鋼公へと転写する。
 それは物理的な攻撃ではない。剣では、受け止められぬものだ。
「……やられた分はお返ししないといけませんね」
 レナータは痛みを黒鋼公へと向けて、放った。
 突然、襲い来る痛みに黒鋼公は己の身を抱きしめる様に身を折り、耐える。
 一気に向けられたそれは想像を絶するものなのだろう。けれど、ふらつく足でまだ黒鋼公はそこにいる。
 細剣の先をレナータに向け、振り下ろすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
……あ、れ
…………吸血鬼そこにいる?

もうどれが現実なのか
目と耳からの情報は幻だらけ
攻撃されてるのかどうかさえ

声が出ない
口からは相変わらず血反吐
意識が朦朧とする
辛うじて包帯を緩ませるなと思うだけ
身体のどこにも力が入らない
ただ生きようと呼吸してるだけ

――もう、いいか

最後の一押しだ
呪瘡包帯で自分を一層締め上げる
まともに動けないなら動かなきゃいい
呼吸を塞き止めて窒息して気絶すればいい
そうしたら暫くは毒に苦しまずに済む

気が狂ったかって?
元々狂ってんだよ
勝手に愉しんでてください私は寝ます
……気絶は睡眠に入るのか? 知りません

遊んでやって、"クイックシルバー"
あんな奴燃やしとけ
終わったら、起こ、し、て



「……あ、れ」 
 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)はふと気づいた。
「…………吸血鬼そこにいる?」
 今までと感じる空気が、変わっている。戦いの喧騒が変化していることに。
 もうどれが現実なのか――スキアファールには判断がつかなかった。
 目と耳からの情報は幻だらけ。
 吸血鬼、黒鋼公が楽し気に嗤っている声は、なんとなく拾えた。
 けれど――声が出ない。
 声の代わりに零れるのは血反吐だ。意識は朦朧とし呻くしかない。
 その呻きも、自分自身から零れているのか定かではなく。けれど、その中でも――辛うじて包帯を緩ませるなと思う気持ちだけはあった。
 それでも、身体のどこにも力が入らない。
 ただ呼吸をしている。生きようと呼吸しているだけだ。
(「――もう、いいか」)
 上下左右、世界が巡るのは自由気ままでスキアファールを転がし弄ぶ。
 最後の一押しだ。呪瘡包帯で自分を一層締め上げる。
 どうせまともに動けないのだ。それなら動かなきゃいいと、ひゅっとスキアファールは空気をどうにか、吸い込んだ。
 呼吸を塞き止めて、窒息して気絶して――そうすればしばらくは毒に苦しまずに済む。
 我ながらいい考え、とスキアファールは笑い零していた。
 身体中から血を吐いて、毒は延々と身の内をのたうち回り痛みを与え続けるのだ。
「気が狂ったかって? 元々狂ってんだよ」
 自嘲めいた言葉を残し、もぞりと動く。
 ああ、目の前に――誰かいる。それは黒鋼公だった。
「お前は人か、何か……このようなものは、初めて見る」
 面白いなと笑いながら、ああとふらつくのを黒鋼公は楽しんでいた。
 それは最初に身の内に入れた毒が回り始めたのだろう。
(「勝手に愉しんでてください私は寝ます」)
 それは言葉にはすることはなく。
 ぼたりとそばに落ちた血の気配に身じろいだ。
(「……気絶は睡眠に入るのか? 知りません」)
 命を削られているような感覚だ。
 そしてその末に、現れるものがいることをスキアファールは知っている。
「遊んでやって、"クイックシルバー"」
 あんな奴燃やしとけ、とどの口が零したか。
「終わったら、」
「起こ、」
「し、」
「て」
 紡ぐのは一つの口ではなく。
 音が落ちたのちに、影人間が立ち上がり黒鋼公へと挑みかかる。
 黒鋼公は向けられた攻撃をあえて、受けたのかもしれない。
 己も毒に苛まれている。それを力に変えスキアファールの影人間を斬り伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

双代・雅一
ファルシェ(f21045)と。

領主とやらも閑すぎてイカれてるな。
こいつを倒せば、アイツは…。

蝕まれた毒で朦朧としつつ立てた槍で身を支え。
視界に見えた知人の劣勢に考えるより先に身が動く。
退け!と雄叫び上げて横槍の一撃。
感じる内なる熱に反し、己の放つ冷気は変わらず。
礼を言われるも自分を保つのが精一杯で蹌踉めき、落とした物にも気付けない。

名を呼ばれる。惟人…だと…?
彼は今の俺に惟人を見出した。つまり。
…いるじゃないか、ここに、俺は。

眼鏡を受け取るは惟人の手。
並んで立つ雅一の姿。
本調子じゃないが、と申出に頷き。

敵へは同時に攻撃を。
受け止める隙さえ与えない。
全力の冷気を振り絞り串刺しにして凍らせてやる。


ファルシェ・ユヴェール
雅一さん(f19412)と

血統の力無くしては立っていられぬだろう事が忌わしい
それでもなお打ち合えば劣勢は否めず

杖の鋒を弾かれ闇の細剣が喉元に届く寸前――

冷たく冴えた空気が濃い血の香を祓い
ぐらつく意識は酔いが醒めるように輪郭を取り戻す
そうだ
私は、

憑き物が落ちた表情で救いの主を見遣れば知った顔
助かりましたと感謝を述べつつも
私は一介の商人ですから血腥い匂いは苦手なのです
などと嘯き
彼が落とした物に気付いて拾い上げる

蹌踉けた彼を咄嗟に支え
名を呼ぼうとして、そういえば彼は「どちら」だろうかと
勢いの乗った一撃に、感情も顕な声
…惟人さん?
確かめるように声を掛け、拾った眼鏡を差し出して
この場は共闘と参りましょう



 くらりと、いつ倒れてもおかしくはない。
 そんな状態で双代・雅一(氷鏡・f19412)は、立てた槍で己の身を支え立っていた。
 ああ、誰かが戦っている。その姿は視界が歪んで、はっきりとは見て取れない。
 領主とやらも閑すぎてイカれてるな、と雅一は零し一歩、ゆっくりと踏み出した。
「こいつを倒せば、アイツは……」
 そう思うと、僅かに思考が冴えてきた。
 雅一の視線の先、戦っているのはファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)だった。
 どろりと、体内が融かされるような感覚。口端から血が零れるのを呑み込み、振るう仕込み杖の刃。
 ああ、煩わしいとファルシェは思う。
 血統の力無くしては立っていられぬだろう事が忌わしい。
 打ち合い続け、黒鋼公には余裕がまだあるようだ。
 今までファルシェの攻撃を受け切って――そして押し返され劣勢へと変わっていく。
 杖の鋒を、高い音盾弾かれた。
 歪む視界の中で黒鋼公の口端が釣りあがったのがわかる。その、細剣が喉元に達することを、歪められた感覚の中でファルシェは覚悟した。
 けれど、その切っ先は届かない。
「退け!」
 ああ、あれは――知っている。ファルシェだと雅一は認識した。その瞬間、考えるより先に身が動く。
 雄叫びを上げ横やりの一撃。雅一は動くとともに、己の中で熱が上がった気がしていた。
 それに反して、放つ冷気は変わらず。
 その冷たく冴えた空気が、ファルシェを煩わせていた濃い血の香を祓う。
「そうだ。私は、」
 何者だったか――憑き物が落ちた表情で救いの主見れば、見知った顔だ。
 助かりました、と短く一言。
「私は一介の商人ですから血腥い匂いは苦手なのです」
 などと嘯くファルシェ。けれど、雅一にそれに言葉返す余裕はない。
 己を保つのに精一杯で蹌踉めき、落とした物にも気づくことがない。
 ファルシェは蹌踉めく雅一を咄嗟に支え、落とした物に気付いて拾い上げた。
 そして、名を呼ぼうとして――そういえば『どちら』だろうかとふと思う。
 先程の、勢いの乗った一撃に、感情も顕な声。
 であれば、とわずかに探る様な声色で。
「……惟人さん?」
 確かめるように声をかけ、ファルシェは拾った物――眼鏡を差し出した。
「惟人……だと……?」
 雅一は、瞬き落とす。
 ファルシェは今、雅一の中に惟人を見出した。
 つまり――と、雅一はふと笑い零した。
「……いるじゃないか、ここに、俺は」
 そう、いる。決していなくなったわけではない。己一人ではぐちゃぐちゃにかき混ぜられ導き出されることのなかった答えだ。
 ここで友に出会ったからこそ、もたらされたもの。
 ファルシェの手から眼鏡を受け取ったのは惟人の手だった。その傍らに雅一も並んで立つ。
 毒を受け、彼もまた何かあったのだろうと、ファルシェは思うが何も深くは聞かない。
「この場は共闘と参りましょう」
「本調子じゃないが」
 と、申出に頷き返す。
 他のものが戦いのフォローに入っている時間はわずかだ。
 全力の冷気を、今己が振り絞れる限りを雅一は槍に乗せる。
 それより感じる冷たき空気は、ファルシェの周囲から血の香をまた払っていく。
 二人同時に踏み切る、その瞬間は今までよりも強さがみなぎっていた。
 雅一の向けた槍が黒鋼公を貫き、凍らせその場に縫い留める一瞬がある。ファルシェはもたつく足を律し、仕込み杖を抜き放った。
 受け止める隙さえ与えぬというように多方から同時に向けられた攻撃を――黒鋼公はその身体に受け嗤っていた。
 まだこれは戦い始めたばかりで児戯のうちと、いうように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
毒のせいなのか
見えない、聞こえない
痛い
怖い
だれか…たすけて

…は、
はははっ!
舌が縺れてしまわないように顎を上げ、
自分の恐怖心を祓うように殊更可笑しそうに笑って
どんな恐ろしい敵が待っているのかと思ったら
…なぁんだ、たいしたことないのだね
その程度(小瓶に目を向けて)の毒で苦しい?
ふふ、無理しなくていい
私は毒使いだ、何なら解毒してあげようか

使い物にならない視覚には頼らず、第六感を活用
挑発をし、敵の殺気で位置を感知しようと試みる
敵の位置が分かったら躊躇しない
思い切り鎌を振りぬく
UCの特性上一度当てれば精度は上がる
次に続く猟兵の為に、此方が力尽きるまでダメージを与え続けよう

…大丈夫、私の死は今ではない筈だ



 毒のせいなのか――セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)の視覚と聴覚は奪われていた。
 見えない、聞こえない。その中で感覚だけは研ぎ澄まされて痛さが突き刺さる。
 痛い、怖い――だれか……たすけて。
 セツナの口からは知らずと、零れていた。
 けれど、ああこれは、そうではないという想いが生まれる。
「……は」
 それは吐息の如く。
「はははっ!」
 セツナは舌が縺れてしまわぬよう顎上げて笑う。
 自分の恐怖心を祓うように殊更可笑しそうに。
「ふふ、あはは……は、どんな恐ろしい敵が待っているのかと思ったら」
 セツナは今まで心に抱いていたものは何だったのかと思う。
「……なぁんだ、たいしたことないのだね」
 その程度の――小さな小瓶程度で。それに目を向けたセツナは毒で苦しい? と笑う。
 ふふ、と笑い零し無理しなくていいと紡ぐ。
 己の身に燻るものは弱まったとはいえまだ、セツナの身の内を這いまわり痛みを確実にもたらしていた。
「私は毒使いだ、何なら解毒してあげようか」
 なんて、笑いかける。黒鋼公がそれに取り合うことはもちろんない。
 そこにいる、とセツナは感じ取る。使い物にならない視覚には頼らず見つけたのは黒鋼公の気配。
 それがわかれば、もう躊躇などはないのだ。
 セツナは手にしたその大鎌を、思い切りセツナは振りぬいた。
 刃が、そうではないと黒鋼公の身を斬り咲いて。けれど次に振ればそれは――敵の身から遠ざかる。
 けれど後に続くものがいるのをセツナは知っている。
(「……大丈夫、私の死は今ではない筈だ」)
 力尽きるまで、セツナはその懐めがけて踏み込むのみ。
 けれど嫌な気配がした。ひゅっと風切る音は黒鋼公の細剣が振るわれた音。
 それを最後にセツナの意識は途切れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レザリア・アドニス
うわぁ…自分で毒を飲むなんて、わけのわからない人…
その毒はいずれ…いや、今日に、お前を滅ぼすんですね…

毒に苦しんで、照準は難しいと判断して
なるべく広域ゆべこを使用
鈴蘭の花吹雪で、死角のない攻撃をしたり、
マジックミサイルの炎の矢を四方から飛ばしたり、
数で、受け止めにくい場面を作ってみる

そして推理やコピーを避けるように、
同じゆべこは連続に使用しない
近くの猟兵の動きも常に注意、
誰かのゆべこをコピーされたら迅速にどんなものかを把握し、使われたら対策を取る

なるほどね…自分の特性は一つもなく、人の真似しなきゃどうしようもない…
そんなお前に愛でられるなんて、気持ち悪すぎるから断るわ…

アドリブ歓迎



「うわぁ……自分で毒を飲むなんて、わけのわからない人……」
 私には理解できないとレザリア・アドニス(死者の花・f00096)は瞳細める。
 ヴァンパイアのすることなど、先ず理解しようとも、思わないのだけれども。
「その毒はいずれ……いや、今日に、お前を滅ぼすんですね……」
 レザリアはとくとくと、早まる鼓動感じて胸元抑える。苦しみがせりあがってくる。
 この中では狙い定めるのは難しい。その姿もふわりと見えている程度なのだ。
 だから広く、間合いを取る。ふわりと鈴蘭の花吹雪を躍らせ、黒鋼公の上へと振らせた。
 その攻撃を受け――鈴蘭ではないが、己の血を代替として黒鋼公はレザリアに返す。
 それは酷く甘い香りをさせたものだった。
 レザリアは己の方に降りかかるそれを、鈴蘭の花吹雪で受け止めて推し戻す。
 誰かの術もコピーするかもしれない。だから、他の猟兵の動きも見て、とらえて。
 数で、受け止めにくい場面をとレザリアは思うのだが黒鋼公は受け止めるというよりもそれを身に受けている。
 傷は、ダメージは確実に募っているようだ。
「なるほどね……自分の特性は一つもなく、人の真似しなきゃどうしようもない……」
 そんなことを冷静に思う頭に熱が集い、意識がふわふわとしてくる。
 レザリアは長くはもたないとふらつく身体をどうにか支えている状況。
 ずきずきと痛みは酷い。それでもしっかりとその姿を見据えて。
「そんなお前に愛でられるなんて、気持ち悪すぎるから断るわ……」
 次はこれと放つのは炎の矢。レザリアの向けた矢を、黒鋼公はあえて受ける。
 そういうところもなんだかいや、とレザリアが思う。
 そして逃げなきゃ、かわさなきゃと己の本能が警鐘鳴らす。それは己の力を高めて、黒鋼公の細剣の切っ先が迫っていたからだ。
 けれど、それはレザリアには届かない。何故なら他の猟兵が請け負ったからだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
愛でると言ったか
偏執と一方通行甚だしい子だな
片思い、がお好みです?

君が毒杯をいくらあおろうと
彼らと同じものは得られぬし、見えないかと
必死さが、まるでなく
興じているだけでは

毒の影響は色濃く残り、昂ぶる彼相手には部が悪い
なら、縛った手に握る刀に破魔の力乗せ
他猟兵への攻撃の軌道に割り入り
かばいと二回攻撃による薙ぎ払いで相殺を試みる

反撃には…真の姿へと変わる

地獄や怨み、希望から見た絶望の味が好みなら
毒など飲まずとも、君が道を絶たればよい
身体から溢れる過呪の火を放ち
逃がさぬと身を縛る

地獄や絶望なんて、そんな甘いものじゃないのに
君らは、どうしてひとをそこにやり
笑えるか、僕にはどうしてもわからない

さようなら



 口端からこぼれた血をぬぐい、冴島・類(公孫樹・f13398)は一呼吸。
 その瞳は黒鋼公をまっすぐ、捉えていた。
 愛でると言ったか――偏執と一方通行甚だしい子だなと、類は零した。
 ふらり、おぼつかぬ足を叱咤し前に立つ。黒鋼公は楽しげに瞳を歪ませていた。
 熱い。身の内で熱が狂い軋むような痛みを感じながらも類は動じず。
「君が毒杯をいくらあおろうと。彼らと同じものは得られぬし、見えないかと」
 必死さが、まるでなく。興じているだけではと、類は瞳眇めた。
 手に握る刃は、縛って繋いで、取り落とさぬように。
 毒にもたらしたものは色濃く、昂ぶる黒鋼公には分が悪い。
 ちりちりと思考の端も焼けるような感覚さえある。
 黒鋼公は鈴蘭の花吹雪、そして炎の矢とほかの猟兵からの攻撃を受けていた。けれどその後、黒鋼公は攻撃を向ける。
 その瞬間、類は間に割り入り破魔の力乗せた薙ぎ払いを持って細剣をはじいた。
「! 次の相手は、お前か」
 黒鋼公はこふり、わずかに急き込んで類を見定める。
 そうだ、と緑眼を向ける類はそのまま踏み込んだ。
 類の姿はひとのものから、己の真のものへと変じ。その力の膨らみに黒鋼公は優雅に両腕広げ、攻撃を受けるつもりの様子。
 その余裕、と類は思う。
 刻まれた罅より噴出するは呪炎だ。踊るそれの美しさに黒鋼公はほう、と瞳細める。
「地獄や怨み、希望から見た絶望の味が好みなら――毒など飲まずとも、君が道を絶たればよい」
 その道行の案内とばかりに放たれた呪炎が逃がさぬと黒鋼公の身を縛る。
 呪炎は黒鋼公の身の上を走り、その神経を蝕むように焼き尽くす。その熱と痛みに、黒鋼公は呻きながらも、これは良いと笑っていた。
 どうしてそこで笑うのか。痛みに愉悦を感じているのだろう。
 そのさまに類は眉顰め、嗚呼と零した。
 この男は分からぬし、理解する気もないのだろうと。
 地獄や絶望なんて、そんな甘いものじゃないのに――と、類は小さく落とした。
「君らは、どうしてひとをそこにやり、笑えるか、僕にはどうしてもわからない」
 わかろうとも、思えないのだ。きっとそこは理解してはいけないところなのだろうから。
 さようなら、と一つ零す。いっそう燃え上がる呪炎の中で黒鋼公は己が焼け爛れるをよしとして、そして細剣をふるう。
 それは類の喉元を狙う一撃。とっさのことにそれをかわし、足の力が抜け膝をつく。
 毒のめぐりは素直で、類は黒鋼公ではなくそちらに今、臥されようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
トキワ(f04783)

アァ……気に入らない。アイツは気に入らない。
トキワもそう思わないカ?
どうせなら時間稼いであいつを殺そう殺そう。
コッチが死ぬのが先か、アッチが死ぬのが先か。

薬指をもう一度噛んで新しい血を賢い君にもう一度与えよう。
時間を稼ぐなら炎の迷宮ダ。出口は一つしかないンだ。
蝕む毒と燃える炎でじわじわと体力が奪われるだろうそうだろう。
コレもトキワも閉じ込められたケド
コレは出口を知っている。

思う存分やればイイヨー。
頭の高いヤツには属性攻撃。
賢い君の毒サ。毒が更に回って、イイ。

ふらふらするケドまーだ大丈夫。
トキワが倒れそうなら糸を使って支えよう。そうしよう。
操り人形は糸で動くもンなァ……。


神埜・常盤
エンジ君/f06959と

――悪趣味だな、あれは
気に入らないと頷くけれど
掠れた喉から聲は出るかな

赤い炎で囲まれた世界が回り、思考も言葉も覚束ない
ここは何処だろう、まあいいか
それでも前に出て影縫を振い
――この身を更に傷つけよう

何せ彼岸に近づかなければ、逢えないもので
縫、ぬい、おいで――
魂が此岸から離れる前に、どうか

あとは縫姫に攻撃させよう
破魔の光を纏いつつ敵を貫いてくれる筈だ
隙が出来たら、絲の力を借りながら敵へ肉薄
まるで操り人形みたいで愉しいねえ

ああ、喉がかわいた
はやく喰わせろ、おまえのいのちを

影縫で串刺しにして、生命力を吸収しよう
――ふふ、また毒を喰らってしまったなあ
絲に寄り添い寝惚けながら笑う



 ぐらぐらと揺れる視界の中で見つけた黒鋼公は身の上に炎燻らせながら猟兵を足元に転がしていた。
 あの男はなんといっていたか――それを手繰り、エンジ・カラカ(六月・f06959)は吐息のように自然と零す。
「アァ……気に入らない。アイツは気に入らない」
 トキワもそう思わないカ? と、エンジは神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)へと視線を向けた。
「――悪趣味だな、あれは」
 気に入らないと常盤は頷く。けれどそれは言葉にならぬ程掠れて音にはならなかった。
 ぐらりと視界が空回る。そんな感覚受けながらエンジは笑って提案するのだ。
「どうせなら時間稼いであいつを殺そう殺そう」
 コッチが死ぬのが先か、アッチが死ぬのが先か――さぁどっちとエンジは口端を上げる。
 薬指をもう一度噛む。新しい血を賢い君にもう一度。
 さぁどうしてやろうかと考えて、これがいいとエンジは思いつく。
 時間を稼ぐなら炎の迷宮ダ。出口は一つしかないンだ。
 賢い君、賢い君と名を呼べば、燃える赤い糸がすべてをさらって迷宮作り出す。
 蝕む毒と燃える炎でじわじわと体力が奪われるだろうそうだろう――エンジは言って、嗚呼と零す。
「コレもトキワも閉じ込められたケド」
 コレは出口を知っている。さぁ行こうとふらつく足で一歩、二歩。
 常盤は、赤い炎で囲まれた世界の中心に転がされたような気分だ。
 思考も言葉も覚束ない。これはエンジの、賢い君の作り上げたものだと理解できているのか、いないのか。
「ここは何処だろう、まあいいか」
 婉麗たる曲線を描く黒き鉄のクロックハンドを振るう先は、己の身の上。
 もっと傷ついて――彼岸に近づかなければ。
 一歩ずつ、確実に。
 近づかなければ、逢えないのだから。
「縫、ぬい、おいで――魂が此岸から離れる前に、どうか」
 とろりとろりと、命を零し常盤はおいでと――鴉面を纏った神楽巫女≪縫姫≫を招く。
 そしてあとは任せたと託す。
 炎が巡る、その中を進み見つけたと笑うのだ。
 縫が踊る。破魔の光を纏いながら仕掛ける攻撃は黒鋼公の身を貫いて持っていく。
 その様を思う存分やればイイヨーとエンジは笑う。
 そして這いまわる痛みにふはと笑い零す。
「頭の高いヤツには」
 これ上げる、と賢い君の毒を見舞う。
 動けば己にも、毒が更に回って、イイ――蕩ける心地のような甘さはその内、痛みと苦しみにかわるのだけれども。
「と……まーだ大丈夫」
 ふらふら、エンジの足はおぼつかず。
 けれどまだ這いつくばる様なものではない。笑って、常盤へと手を伸ばし糸を向ける。
 それは自分以上に毒にやられている常盤を支えるため。その力を借りて、常盤は縫と共に向かうのだ。
 ふふ、とその唇から血と共に笑い零れる。
「まるで操り人形みたいで愉しいねえ」
「操り人形は糸で動くもンなァ……」
 きっと、トキワはこう動きたい。エンジの糸の導きに、そうそうと常盤は空飛ぶ心地をも得る。
「ああ、喉がかわいた。はやく喰わせろ、おまえのいのちを」
 それを喰らうのは、この影縫いから。
 黒鋼公にそれを突き刺せば――甘い、鼓動の命の味。
 けれどそれはすでに毒に浸されていた。
「――ふふ、また毒を喰らってしまったなあ」
 絲に寄り添い、夢見心地。このままとろりと眠りに落ちればはてさて目覚める先はあるのかどうか。
 常盤は笑いながら、貫いたその先を引き抜いた。
 毒によってかまともな思考はできるはずもなく。前のめりに向かえば敵も打ち返してくる。
 そして巡る毒も牙をむき、常盤の意識はゆるりと途切れかける。それを糸の重さでエンジも感じていた。
 そしてエンジも――賢い君からの贈り物に口端上げて微笑むも、やがて意識はゆっくりと落ちていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
悪趣味、過ぎる
毒飲ませるも、毒飲み込むも
娯楽でしかないのか
こんなにも、苦しいのに

血腥さに鼻が慣れたか
或いは、利かなくなったか
至るまでに、血溢し過ぎて
立つ事さえも、侭ならず
呻く様に、言葉吐く

僕はね、毒に少し興味があった
だが、今では好奇心は何とやら
流石に懲りた、けれど
未だ貴方には興味があるな

懐から出すメモは、赤い
ペン先には黒と赤が混じり
文字など、綴れた物ではないが

悪逆を綴る時の参考に問いたい
――何故、こんな事をする?

どんな答えにも、満たされず
好奇心の黒獣が駆けゆく
見届け、《オーラ防御》で凌ぎ
次ぐ問いで、不意打ちの二匹目
腕喰らい《武器落とし》狙い、
次行動を妨害出来る様に

願い叶える気、無かっただろう?



 炎に絡まりながら、黒鋼公はその身をただれさせつつも機嫌が良い。
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)の向ける視線には嫌悪の色があった。
「悪趣味、過ぎる」
 毒飲ませるも、毒飲み込むも。それはあの黒鋼公に取って娯楽でしかないのかと。
 こんなにも、苦しいのに――己の身の内に入れた毒が今も暴れている。
 ああ、とライラックはぽたりと落ちた雫を拭った。それは鼻の奥から落ちたものだ。
 血の匂いが鼻の中からもする。血腥さに鼻が慣れたか――あるいは、利かなくなったか。
 そう思っていたのだが、己の流したそれは錆びた香が直接響く。
 何もかもが、侭ならない。立つことさえも侭ならず。
 それはきっと、血溢し過ぎたせいだろう。
 ライラックは呻く様に、言葉を吐く。その声も、絞り出すほどに今は苦しい。
「僕はね、毒に少し興味があった」
 だが、今では好奇心は何とやら。流石に懲りた、けれど――と、苦笑交じり。
 けれど、未だ貴方には興味があるなと懐からメモを取り出す。
 それはもう赤に染まっている。ペン先には黒と赤が混じり、その手は震えていた。文字など、綴れた物ではない。
「悪逆を綴る時の参考に問いたい――何故、こんな事をする?」
「ふふ、問われるか。ああ、そもそもこれは悪逆であるというのかね?」
 私はまったくそう思わないのだがと黒鋼公は応える。
 しかし仮にこれを悪逆としても、己の身を削れば高揚する。高揚を得るのは楽しくはないかねと、笑うのだ。
 その答えは――ライラックの興味を、心を満たすのかといえばそうではない。
 まったくもって、満たされない。好奇心の黒獣がそれでは満たされぬと駆けて、牙向ける。
 黒鋼公はその牙を受け入れる。ついで、二匹目は、腕を喰らって細剣取り落とそうとするが、それはいまだしっかり握られたままだった。
「願い叶える気、無かっただろう?」
 ライラックは、また問いかける。
 叶えてやったさ、生きていればと返すのは――生きて自分の元へくると思っていないからだろう。
 だからそれが、叶える気がないということだとライラックは紡ぐ。
 ぐにゃりと視界が大きく揺れた。毒がひたひたと、内側から食い破ろうとするような痛みを与え意識を奪おうとする。
 けれどその掠れる視界の中で、黒鋼公を撃ち抜く弾丸。その一筋をライラックは捉えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
霞む視界に敵を収め、剣の間合いの外から腕の震えを押さえつつ射撃で攻撃
受け止められても再度攻撃を試みるが、激痛で動きが鈍る
腕も足も、痺れて感覚が無くなってきた

…まだだ、ユーベルコードを発動する
麻痺した足で敵の剣は避けられないが、せめて増大した反応速度で急所だけは外す
傷を受けた代わりに、今の瞬間なら敵は目の前
思い通りにならない体でもこの距離なら外さない
目の前の敵に銃口を向け零距離で引き金を引く
油断したな、ヴァンパイア

痺れが広がって体に力が入らず呼吸すら苦しい
痛みと熱で朦朧とする意識を、辛うじて気力で繋ぐ
俺がここで倒れても他の猟兵が奴を倒すだろうが
このヴァンパイアの愉しみの為に叩き折られるのは御免だ



 他の猟兵の攻撃で、黒鋼公は今動きを抑えられていた。
 動かぬのならば少しばかり難度は下がる。
 当たった、とシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は詰めていた息を吐いた。
 視界はとうに霞んでいる。その中で、あの細剣の間合いの外から撃ち抜く。
 腕の震えを抑えつつ放ったそれは、黒鋼公の肩を撃ち抜いていた。
 もう一射、と思うが激痛が走る。その痛みが痺れを煽り、感覚を一層鈍くさせていた。
 腕に続いて足にも痺れだ。立っている事がもうすぐ難しくなるだろう。
 先程の銃弾はお前かと、黒鋼公が近寄ってくる。では礼だというように向けられた細剣は、シキの心臓狙って突き出された。
「……まだだ」
 けれど、シキの心はまだ折れてはいない。
 麻痺した足で攻撃は避けられない。けれど、急所を外すくらいならば。
 普段は抑えている人狼の獣性――その中にある反応速度でそれをかわす。腹の横を切り裂かれるが貫かれるほうが致命傷だ。
 傷を受けた。けれど、今ならば敵は目の前だ。
 思い通りにならない体でも僅か動かすくらいであればいうこともきくだろう。
 銃口を向け、引き金を引くだけなのだから。
 油断したな、ヴァンパイア――声を出すのもすでに億劫。向けた視線でそう告げる。
 痺れは身体全体に広がり呼吸すら苦しい。
 痛みと苦しさは明確だ。酷く熱も募り意識は朦朧とし倒れてもおかしくないのを辛うじて気力で繋いでいる。
 己の放った銃弾は、再び黒鋼公を撃ち抜いている。
(「俺がここで倒れても他の猟兵が奴を倒すだろうが」)
 このヴァンパイアの愉しみの為に叩き折られるのは御免だ――意識あるうちはとシキの心は、身が持たず地に伏されても折れることはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイネ・ミリオーン
どれだけ必死になって、奇跡のような確率で辿り着いても、結局願いなんて、叶える気、ないんですよ、ね
…………性格悪、い
そういう、ね
支配者のつもりになってる奴、大っ嫌いなんです、よ、僕

認証Code:million. 004起動
──音の波よ、人の声よ
あの勘違い野郎をぶん殴れ
喉に繋いだケーブルで、内蔵スピーカーの出力を全開にして音楽を流し、【歌唱】も加える
咳き込んだって、血を吐いたって、メインは内蔵スピーカーから流れる音楽です、から
機械は、毒じゃ止まりません、よ

ケーブルを繋いだガラクタで【制圧射撃、クイックドロウ、2回攻撃、部位破壊】、可能な限り牽制を
近付かれれば【零距離射撃】とケーブルでの【なぎ払い】



 青と金の瞳が抱える想いは――何なのか。
 アイネ・ミリオーン(人造エヴァンゲリウム・f24391)は思うのだ。
(「どれだけ必死になって、奇跡のような確率で辿り着いても、結局願いなんて、叶える気、ないんですよ、ね」)
 それは先ほど聞こえてきた、猟兵との問答で知った。
「…………性格悪、い」
 アイネの周囲でゆるりとコードが踊る。それは、アイネの気持ちに応じてなのかもしれない。
「そういう、ね。支配者のつもりになってる奴、大っ嫌いなんです、よ、僕」
 痛い、苦しい。血反吐をまた吐かされた。それでもアイネはここに立っている。紡いだ言葉の響きは、アイネの心が乗るままに。
 そしてここでできることがあるのだから。
「認証Code:million. 004起動──音の波よ、人の声よ」
 あの勘違い野郎をぶん殴れ――アイネは示す。それはケーブル自身で、そして音で。
 喉に繋いだケーブルで、内蔵スピーカーの出力を全開にする。
 音楽を流し、アイネは喉をも震わせた。
 その瞬間、咳込む。喉を震わせただけでそこには痛みが走っていた。ごほ、と血も吐き出すがその音は拾われない。
 内臓スピーカーから流れる音楽が要だからだ。
「機械は、毒じゃ止まりません、よ」
 音の波が黒鋼公を幾重にも打つ。そしてケーブル繋いだガラクタでも、射撃行い可能な限り牽制を行うのだ。
 けれどアイネの膝は震えはじめた。立っているのもやっとの状況。けれど音の波は止まらない。
 黒鋼公がやってくるのをケーブルで薙ぎ払うが細剣に巻き取られ千切られていく。
 それでも、黒鋼公の身にその音は響いているのだろう。
 僅かに表情歪めるのが見て取れ、アイネは理解する。間違いなく重ねられた攻撃は効いていると。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
「自ら毒を飲むとは理解に苦しむ。
だが、奴らは元々そういう存在。
それに此方も相手の状態を気にする余裕はない。」
目殆ど光を失い耳鳴りも相変わらず。
足元はおぼつかず口の中には血が滲んでくる。

ナイトクロウを使用。己に死霊を憑依させて
更に生命力を犠牲にする代わりに戦闘力を向上させる。
黒狼と大烏に攻撃させると共に
死霊の力を使った黒の霊着を【呪殺弾】の効果を持たせた
【誘導弾】で飛ばし攻撃。
コピーされたら
「俺の術を使ってくれるとはね。
だが、戯れでも悪手だな。
俺の術を使った時点でお前は俺の手の内だ。」
龍翼の翔靴を使い【ダッシュ】
敵に接近したら残りの魔力、生命力を振り絞った
【破魔】の力をぶつけ敵の死霊を振り払う。



「自ら毒を飲むとは理解に苦しむ。だが、奴らは元々そういう存在」
 それに此方も相手の状態を気にする余裕はないとフォルク・リア(黄泉への導・f05375)は己の状況を冷静に見つめていた。
 目は殆ど光を失い、耳鳴りも相変わらず続いている。そのせいか平衡感覚は狂いに狂って、足元はおぼつかず。
 そして、口の中には血が滲み息をするだけでもその味が感じられた。
 この状況で、黒鋼公に向かえばすぐに叩き折られてしまうだろう。
「冥空を覆う黒翼、煉獄を駆る呪われし爪。斬り裂き咬み砕け。常世の闇を纏い、振う我に従い望むままに蹂躙せよ。その飢えた牙を満たす迄」
 フォルクは己に死霊を憑依させ、そして生命力を犠牲に戦闘力を引き上げた。
 そして、傍らにある黒の霊――纏う黒い霊気と死を告げる大烏、冥府の黒狼とを攻撃に向かわせる。
 黒鋼公はその二つの攻撃をかわしながら足をふらつかせる。そこへ、誘導弾をフォルクは飛ばしていた。
 それに込められた呪殺の力。だがそれを黒鋼公は軽くいなしたのだろう。
「……先ほどのは、こうか?」
 と、同じように黒鋼公は攻撃を打ち返す。
「俺の術を使ってくれるとはね。だが、戯れでも悪手だな」
 俺の術を使った時点でお前は俺の手の内だと、フォルクは龍翼の翔靴の力をもって走り込む。
 その反動で体が軋むように痛むが気にしてはいられない。
 破魔の力をぶつけ、死霊を振り払いながらフォルクは黒鋼公へと突っ込んでいく。
 それを黒鋼公は見越していたのだろう。細剣を振るい、フォルクのそれを制してしまう。
 フォルクもまた倒れ込む。真似された己の技は上手くかわしたのだが続いた手に打ちのめされて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
やれやれ、……結局は自分が楽しみたいだけの屑なんですよね、この手の手合いって
やですねぇ、バトルジャンキーのドMです?

動くのもそろそろ億劫なんですよ、本当に
でも、ねぇ……投げ付けて来てやると約束しちまいましたんで、やるだけやりますか
どうせ死にゃあしねぇ身なんで、あんたらの恐怖も無念も分かりやしませんがね
あんたらの今際の負の感情がどれだけ強いかは分かりますよ

【誘惑、恐怖を与える】で敵を己に引き寄せます、恐ろしいものほど見たくなるもんでしょう
狙われれば、蠱の効果を上乗せした【カウンター、呪詛、生命力吸収、吸血】
ヴァンパイアが人の子の無念に喰われるなんて、彼らの冥土の土産に良い笑い話になるでしょう?



 黒鋼公の攻撃に猟兵がひとり、倒れる――その様に雲烟・叶(呪物・f07442)は見つめていた。
「やれやれ、……結局は自分が楽しみたいだけの屑なんですよね、この手の手合いって」
 長煙管を手元で遊ばせて、向ける言葉は挑発だ。
「やですねぇ、バトルジャンキーのドMです?」
 そういって余裕のある様に笑って見せるが叶の身の内もまた散々だ。
 動くのもそろそろ億劫。気だるげに言うがそれは本当だ。
「でも、ねぇ……投げ付けて来てやると約束しちまいましたんで、やるだけやりますか」
 それは黒鋼公に会うまでに身の内に招いたものたちだ。
 それらが抱えた気持ちを叶が今すぐに全て理解することはない。
「どうせ死にゃあしねぇ身なんで、あんたらの恐怖も無念も分かりやしませんがね」
 それでも――理解できなくとも、わかることはあるのだ。
「あんたらの今際の負の感情がどれだけ強いかは分かりますよ」
 身の内で、それは育って、そして膨らんだ。
 黒鋼公の意識を叶は己の向ける。恐怖を、黒鋼公は感じたのだろうか。
 視線を受け止め、叶は笑ってやる。つー、と口端から血が零れるのを拭いもせずに。
「恐ろしいものほど見たくなるもんでしょう?」
 そういう気持ちはないんですかねと問えば、怖ろしいものなどと吐き捨てるように黒鋼公は返す。
「だが目に入ったなら、少しばかり切り裂いてみようかと思うことはあるな」
 戯れに、その血を吸えば面白いやもしれぬと笑って細剣を手にやってくる。
 そう、動くのも億劫なのだから、来てくれるのを叶は待っていた。
 細剣の先が向けられる。あと少し、もう少し――蠱の効果を上乗せして、今までここで得た負の感情があふれ出る。それは凶悪な、蠢くものの姿で黒鋼公を呑み込んだ。
「ヴァンパイアが人の子の無念に喰われるなんて、彼らの冥土の土産に良い笑い話になるでしょう?」
 ああ、でも喰らいつくす前に――この毒が、と叶は零す。
 意識を刈り取るかのように頭痛が暴れはじめた。腹の中を掻きまわされるような感覚にもういいかとさえ思い始める。
 ここで倒れたら楽になるが見届けるのもまた仕事。
 けれど、その蠢くものの身を切り裂いて、黒鋼公は機嫌よく笑いながら出てくる。怨念を纏い、飲まれてみるのも、また面白いと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薬袋・布静
【徒然】
せやなー、毒しんどいなー、アイツも腹立つなー
やけど落ち着こうな

威嚇し始めた八千代の頭を撫で回す
ついでに2回目の解毒剤飲ませ落ち着かせる
自身も飲む

帰ったらなー
さぁて、俺は後方で何いつもの援護といこか

◆戦闘
自分が猟る側やと思っとるようやけど
ソイツも俺もお前を猟りに来た猟兵なん忘れとるやろ

鬱憤を晴らさせてやるべく
八千代に【生まれながらの光】で癒し
煙に仕込む毒耐性を自身と八千代に腰のポーチから処方し向かわせる
【潮煙】の青煙に仕込ませた毒の海を泳ぐホオジロザメ
その牙にも毒をを仕込んである牙で煙に紛れ恐怖心煽るように奇襲


捕食される側になればわかるやろ
それさえも喜びそうな根性してそうやけどな、お前


花邨・八千代
【徒然】
もう!毒は!!いいんだよ!!!
どんだけ毒大好きマンだテメーは!
こっちは血ぃゲロゲロ吐いて美しいもクソもねーんだよ!

騒いでいれば撫でられ追加の解毒剤を飲まされ一端落ち着く
解毒剤やだー、にがい…
家帰ったら甘いホットケーキ食いたい…

◆戦闘
よし落ち着いたところでめっちゃぶちのめす
具体的には怪力で、思いっきり

武器なんぞいらねェ!一気に踏み込んで【破拳】をぶちこむ!
敵の攻撃は勘で避けつつ、懐に潜り込むぞ
お綺麗な顔に血でも吹き付けて目つぶしだ

どうだ、ご自慢の毒の味はよォ
さいっこーにクソ不味いだろ!

一撃ねじり混んだら間髪入れずもう一発だ!
2回攻撃で傷口をえぐるぜ

笑ってる余裕もなくしてやんよ、ドM公め



 動いてまたせりあがってきた血の味。己の内にある痛みに、花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)は苛立っていた。
「もう! 毒は!! いいんだよ!!!」
 なんでそれを自分でも飲んだ、とわけがわからない。勢いよく文句つけていればごふ、と八千代の口端から血が溢れ、ぺっと吐き出された。
「どんだけ毒大好きマンだテメーは! こっちは血ぃゲロゲロ吐いて美しいもクソもねーんだよ!」
「せやなー、毒しんどいなー、アイツも腹立つなー」
 やけど落ち着こうな、と薬袋・布静(毒喰み・f04350)は手を伸ばし、威嚇し始めた八千代の頭を撫で回す。
 そしてお口をお開けと今度はちょっと優し目に2回目の解毒剤を流し込む。そして布静も、解毒剤を身の内に。
「解毒剤やだー、にがい……家帰ったら甘いホットケーキ食いたい……
「帰ったらなー」
 ぺぺぺ、と舌を出す八千代によく飲めました、布静は笑って――さぁてと視線を向ける。
 八千代もそれにつられて、よしと頷いた。
「……めっちゃぶちのめす」
 その言葉に俺は後方でと布静は笑う。いつもの援護といこか、と。
「自分が猟る側やと思っとるようやけど、ソイツも俺もお前を猟りに来た猟兵なん忘れとるやろ」
 鬱憤を晴らさせてやるべく、八千代へと向けて布静は聖なる光を向けその傷を塞いでいく。
 そして、腰のポーチから処方するのは煙に仕込む毒耐性。それを己と、八千代にも処方し送り出す。
「ぬーさん、さんきゅ」
 いってくる! と飛び出す八千代に手をひらりと振って――それは煙管を次に遊ばせる。
 その煙を吐き出せばゆるりと毒の海泳ぐホオジロザメ。その牙にももちろん毒が仕込まれていた。 煙がゆるりと広がって、八千代を追い越し黒鋼公の周囲を包む。
 さてどこからくるのか――それを感じさせず、ホオジロザメはその牙もって深くかみついた。
「捕食される側になればわかるやろ。それさえも喜びそうな根性してそうやけどな、お前」
 それは呆れ交じりの声。思った通りと続いて零すも仕方ない。黒鋼公は笑っているのだから。
「……邪魔! 武器なんぞいらねェ!」
 と、手に持っていたものを放り出す八千代。そしてぐっと、拳を握りこむ。一気に踏み込んで、懐へ。
 興奮したのかたらりと血の味が鼻から喉に落ちた。八千代は己の鼻を乱暴に拭って、口の中の血の味を溜め込んだ。
 そして黒鋼公と――至近距離。その口の中に溜めたものをその目へと吐きつける。
「どうだ、ご自慢の毒の味はよォ、さいっこーにクソ不味いだろ!」
 それにもうひとつ、と怪力のままにその腹へと拳を捻じ込んだ。
 ぐ、とくぐもった声が黒鋼公の口から零れる。そこへ間髪入れず。もう一方の手を握り込み、八千代は遠慮なく叩き込んだ。
「笑ってる余裕もなくしてやんよ、ドM公め」
 ふん、と息巻く。八千代の拳は黒鋼公の骨を何本か持って行った感触を得ていた。八千代の中でくすぶっていた鬱憤のほとんどは、今の二撃で消えていく。
 けれどまだ立っているのだ。通常ならば倒れていてもおかしくはない筈。
 八千代はもう一発、と踏み込もうとしたが――ふらついた。それを支えたのは布静。
 まだ無理せんとき、と向ける言葉に八千代はまだいけるとぐっと拳握って見せる。
 解毒剤は効いているが、それでもすぐに払えるものではない。体力も回復はしているがまだ徐々に削られていっているのだ。
 ぶーぶーと文句を言う八千代に、布静は笑って。
「やり過ぎて好かれたらどうするん?」
 あのドM公に、と示すと。
「それは」
 やだ、と。大人しく拳を下げた八千代に、かわりにやっといたげると布静は言う。
 くるりと影を落とすホオジロザメはどこからか姿を現して、黒鋼公へと再び牙を向け噛みつき、己の毒を注いでいく。
 己の生んだ毒以外を浴びるなど、と――上機嫌で薄ら寒いものを感じる。俺の方が好かれたらどうしよ、と布静は思わず零していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

絢辻・幽子
っふふ、やっと、やっと遭えましたねえ
あなたの首を撥ねてやりたいと思っていたのよ。
愉しく遊びましょう?

おかげで、毒の楽しさを知ったわ
幽ちゃん申し訳程度に『毒使い』なの
鋼糸に毒を浸したのよ
じわじわと奪い合いましょう、お互いに
それが一番愉しいわあ。

狐火ぽんぽん呼び出して
狐って狩猟するのよ、逃げられたら追いかけちゃうし
幽ちゃん賢いから罠だって張っちゃうから
『地形の利用』と『ロープワーク』で鋼糸の罠を
狐火が命中し、糸を繋げる事ができたなら
『傷口をえぐる』そうして『生命力吸収』を
ねぇ、私のご飯になって?
なあんて。

追い詰められた獣ほど、怖いものはないのよ。

(真の姿はもふもふの狐尻尾4本とぴんと立派な狐耳)



 他のものから受ける毒――それは黒鋼公にとってそれは、未知のものだ。
 ごふ、と血を吐く。それを眺めてなるほどと楽しそうだ。
「っふふ、やっと、やっと遭えましたねえ」
 そこへ、絢辻・幽子(幽々・f04449)は声をかける。ぴんと、立派な狐耳は上を向いて。そしてゆらり――幽子の背後でゆらりと揺れる尻尾は、四本だ。
「あなたの首を撥ねてやりたいと思っていたのよ。愉しく遊びましょう?」
 お礼も言いたいのよ、と幽子はたおやかに笑って見せる。
 毒を飲んで、苦しいのも、痛いのも――楽しい。
 おかげで、毒の楽しさを知ったわと幽子は向ける。
「幽ちゃん申し訳程度に『毒使い』なの」
 ほら、どうと見せるのは鋼糸。これに毒を浸したのよと、振るう。
「じわじわと奪い合いましょう、お互いに」
 それが一番愉しいわあと、ライラックの瞳をきらきら輝かせ、幽子はぽんぽんと狐火を呼び出していく。
 ゆらゆら、ゆらゆら。狐火が揺れる様を黒鋼公は視界の中にとらえていた。
「狐って狩猟するのよ、逃げられたら追いかけちゃうし」
 幽ちゃん賢いから罠だって張っちゃうから、と狐火はその一端だった。
 くるりと加工用に踊るソレに鋼糸が巡る。
 黒鋼公の細剣がそれを斬ろうとするが簡単に切れるものではない。
 えーい、と楽しそうな声と共に幽子は狐火と操った。それが命中すれば、鋼糸が絡んできりきりと身を締め傷つけるとともに毒を浸していく。
「ねぇ、私のご飯になって?」
 なあんてと幽子はくすくす、笑い零す。喉を擽ればその反動でけふりと咳込み、まだその掌には血の色だ。
 その色を目に僅かに瞳を細めて。
「――追い詰められた獣ほど、怖いものはないのよ」
 ゆうらりと、四本の尻尾が揺らめいて。
 きりきりと締める鋼糸は幽子へと黒鋼公の生命力を奪い渡す。
 最後まで絞りきるのと、受けていた毒により倒れるのとはどちらが早いか――最後まで付き合ってくださいなと幽子はふふりと口許隠して笑み向けた。
 黒鋼公は笑って、いいだろうと鷹揚に頷く。じわじわと猟兵が重ねた攻撃。
 そのダメージは募っているのだがまだ余裕があるのか、それとも毒を受けるを楽しんでいるのか。
 その余裕も一緒に、全部食べちゃうわよと幽子はきりりと鋼糸操り傷口を抉った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バジル・サラザール
なぜかしら、毒で苦しいはずなのに、村の人達を苦しめた相手に怒りを覚えているはずなのに、自滅するかのように毒を飲んだ相手に呆れているのに、私まで少し高揚してるわ、毒のせい、よね?

『毒使い』『属性攻撃』を生かした『バジリスク・ブラッド』で強化した『ウィザードロッド』や『バジリスク・ポーション』で戦うわ
『野生の勘』 も使って攻撃精度を上げましょう
多少のダメージは気にせず、流血や吐血したら直接血をかけてみましょうか
ヴァンパイアでしょ?私の血もいかがかしら?

戦いを愉しむなんて柄じゃないけど……ああ、本能的なものなのかもしれないわね

アドリブ、連携歓迎



 バジル・サラザール(猛毒系女史・f01544)は荒れる呼吸の苦しさに表情歪めていた。
「なぜかしら、毒で苦しいはずなのに、」
 村の人達を苦しめた相手に怒りを覚えているはずなのに――
 自滅するかのように毒を飲んだ相手に呆れているのに――
(「私まで少し高揚してるわ、毒のせい、よね?」)
 そう思いながらふらつく足を動かして、バジルも黒鋼公の方へと近づいた。
 バジルは毒使いだ。
 黒鋼公が己で毒を飲み。そしてまたほかの猟兵からも毒をもらっていたのは知っている。
 ならそこに――私の毒もと思うのだ。
 己の血液を、強化する。げふ、と吐き出したそれをウィザードロッドにつぅと流して。
 身体中が痛い。きしむような感覚を押し殺して、ロッドを振るう。
 それと同時に、黒鋼公が細剣を振るう。それが己の身を貫くも気にせず、バジルはその血を、黒鋼公へと放った。
「ヴァンパイアでしょ? 私の血もいかがかしら?」
 毒に浸された血は美味しいのではなくてとバジルは煽る。
 黒鋼公は放たれた血を己の指で救い口に運び、悪くはないなと言うのだ。
 バジルは小さく、笑い零す。
「戦いを愉しむなんて柄じゃないけど……ああ、本能的なものなのかもしれないわね」
 黒鋼公から与えられる傷を気にせず、バジルは仕掛ける。
 次は、バジリスク・ポーションと黒鋼公へと向けてそれを投げ放てば、細剣がそれを砕いた。
 けれどその毒は空を踊って黒鋼公へと向かう。
 私の毒はどうかしらと、バジルは訊ねる。その毒を受け、黒鋼公は呻くが――それを糧としてまた、己の力を底上げしている。
 細剣を振るう力は、ふらふらとしているのに力強く。バジルはそれに穿たれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

未不二・蛟羽
獣の本能に呑まれつつもも必死に理性を保ち

…こんなの楽しくないっす
楽しいってのはもっときらきらで、あったかいものっす
毒なんて、いたいだけ、さむいだけ
だから俺は、アンタを倒す!

毒に侵され身心共に満身創痍
敵の攻撃を野生の勘で見切り、致命傷になることだけは防ぎ、捨て身の一撃を狙うっす
…口から溢れる苦い血も、傷から流れる血も全部、好きなだけくれてやるっす
だからアイツを――喰え、シオ!
UCにて【No.40≒chiot】を悪食で大食いの狼の顎へ変化させ、至近距離から食いつき

…アンタの血もまた毒っていえばそうかもだけど
上等。それでもう、毒を飲まされる人がいなくなるなら
残さず呑み込んでご馳走様っす

アドリブ歓迎



 意識が自分で制御できずに、荒れ狂う。
 獣の本能に呑まれつつもも必死に理性を保ち、未不二・蛟羽(花散らで・f04322)は深く息を吐いた。
「……こんなの楽しくないっす」
 楽しいっていうのは――これではない。蛟羽にとってそれは。
(「楽しいってのはもっときらきらで、あったかいものっす」)
 毒なんて、いたいだけ、さむいだけ。
 今もそれが身体中を痛めつけ、蛟羽は呻くばかりなのだ。
 この痛みを、苦しさをけしさるにはどうしたらいいのか――その答えは一つだ。
「だから俺は、アンタを倒す!」
 毒に侵され身体も、心も。共に満身創痍だ。
 蛟羽は足に力を入れて、勢い付けて踏み込む。
 他にも戦う猟兵がおり、そこへ他方から仕掛けたのだ。
 蛟羽の気配を感じて黒鋼公は細剣の切っ先を向ける。
 あれが、貫くのはどこだろうかとぼんやりと意識の端で考える。致命傷にならなければいいかとそのまま、真っ直ぐ突っ込む。
 それは捨て身の一撃だ。げふ、と身体にかかる負荷に口のから苦く錆びたものが溢れた。
「苦……口から溢れる苦い血も、傷から流れる血も全部、好きなだけくれてやるっす」
 だから、と紡いだ瞬間それは震えたのだ。
「だからアイツを――喰え、シオ!」
 紫苑が飾られた、犬耳の黒いパーカーが。痩せこけた影の仔犬――飢餓の獣が、蛟羽の溢す血を吸い上げて目覚めるのだ。
 悪食で大食いの狼の顎となり、黒鋼公へと喰らいついた。
「……アンタの血もまた毒っていえばそうかもだけど」
 上等、と蛟羽は細い声で零す。けれど、瞳には光が宿っている。
 ここで倒して、飲み込めば――それでもう、毒を飲まされる人がいなくなるなら。
「残さず呑み込んでご馳走様っす」
 そう紡げば、だらだらと食まれた場所から血を流しつつ黒鋼公は笑うのだ。
「ははは、そう。私の身もまた毒と言えば毒」
 さて、それに耐えうるだろうかと黒鋼公は紡ぐのだ。
 蛟羽は食んで、途端に感じ始めた酩酊をどうにか抑え込む。
 黒鋼公から零れる血は、その毒はすぐさま襲い掛かるような、そんなものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
クロト/f00472

死ぬ
もってあと数分
…絶望程度で折れぬ

真の姿化(銀髪紅眼の吸血鬼
私は血で力を得る淺ましい怪物
それでも人を選んだ
今は戦う力を

(敵は見世物好きな性分。捨て置かれるか…
クロトの外套を掴み首元を開け
吸血による力の補充を乞う
迷わず受け入れる彼へ、苦い躊躇いは刹那
――クロト。…私の、心臓となれ
頸動脈へ牙を
心臓に近い動脈から啜る血は甘美で
直接力と、命と化す
(密かに彼に余力は残す
仲間を喰らう畜生と思うか
二人で死ぬより、一人でも貴様を討つ

此れが最期の死力
獄炎の剣戟による捨て身の一撃と、生命力吸収で攻撃を凌ぎ
敵(か床)に剣を突き立て炎の嵐を。
敵が負傷し逃げ場を探す隙を生めば
心置きなく
紅の閃に嗤う


クロト・ラトキエ
千之助(f00454)

立てているか…錯覚か
痛みか…熱か…
血、案外尽きんのな…とか
視界が霞む
耳鳴りがする
思考も…呼吸も、億劫

こんな毒
自分もとか、変態か
一応聞くけど、解毒薬は?
自分用?
…ま、どっちでもいい

千之助、まだ幻覚と思ってる様な?
いいよ
奴と戦う為なら
血くらい、持ってって
崩れれば敵の油断も誘えようか

…僕を保てなくなる程
俺は、絶つ為だけの機構へ返る
君に見せたく無かった…けど
意地より、思いが
そのひかりが、己を今に繫ぎ止める

魔力尽き
全力叶うは精々一度
けれど
剣は手に
技は身の内に
知識、経験…生還の自負
生きてる限り

彼を信じてる
隙は作られる
力高めた敵の一撃は宛ら死神の鎌
だが迷わず…断て
――参式


(瀕死、負傷○



 ふらふらと足元の感覚が鈍い。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は深く、呼吸を一度落とす。
(「立てているか……錯覚か」)
 激しい頭痛と、熱が暴れまわっていた。
(「痛みか……熱か……」)
 そして、それが痛みなのか熱なのか、どちらなのか分からぬところ。
 けれど、ぼたりと。
 顔の中心に感じた熱。鼻の中から零れた血に跡から気づいてクロトは乱暴に拭い、その色を見た。
「血、案外尽きんのな……」
 ぼやける視界の中でその色だけは鮮やかだ。霞む視界、耳鳴りも酷い。
 思考も、呼吸も――億劫だ。
「こんな毒、自分もとか、変態か」
 好き好んで、こんなものを身に受けようとは思わない。
 クロトはふらりと、足を向ける。
「一応聞くけど、解毒薬は? 自分用?」
 問いかけに、あると思うのかと黒鋼公は笑う。
 黒鋼公も、満身創痍だ。けれど猟兵達とは違い、まだ余裕が見て取れる。
「……ま、どっちでもいい」
 そう零したところ、肩に重みが生まれた。
 それは毒によって感じるものではなく、手だ。
 毒の苛むものに佐那・千之助(火輪・f00454)の意識は数度飛んで、そして何度も引き戻される。
「死ぬ」
 千之助は己の身の状態に、薄く笑ってもってあと数分と思うのだ。
 けれど、ここで倒れてやるのも癪というもの。
「……絶望程度で折れぬ」
 ぞわり、と陽光に似たその髪色が変じる。温かみを失うそれは、銀を纏い藍と紅の、二藍の瞳は――紅となり吸血鬼へと近づくのだ。
 私は血で力を得る淺ましい怪物と――千之助は薄ら笑う。
 それでも人を選んだのだ。今は戦う力が欲しい。
 今傍らにいるのはクロトだ。
(「敵は見世物好きな性分。捨て置かれるか……」)
 クロトの外套を掴み、首元を開ける。
「――クロト。……私の、心臓となれ」
「いいよ」
 血を得れば、千之助は力を得る。それを迷わず受け入れるクロトへ、苦い躊躇いは刹那。
「奴と戦う為なら。血くらい、持ってって」
 まだ幻覚と思っている? と思ったがそれも僅か。クロトも戸惑いも何もなく、千之助を受け入れている。
 千之助は誘われままに頸動脈へ牙をたてた。得る命の流れは――血は、酷く甘美だ。
 クロトの意識は失われるものに薄くなり、感覚は逆に研ぎ澄まされるような心地。
 全ては、貰わず。けれどほとんどを、貰って。
 千之助は直接力と、命と化す。
「はは、同輩か? いや半分か。良い趣味だ」
 そんな、楽し気な声に千之助は静かに瞳を向け、その場に崩れ落ちるクロトを支えた。
「仲間を喰らう畜生と思うか」
 けれど――これでいいのだ。
「二人で死ぬより、一人でも貴様を討つ」
 クロトはその言葉にうっすらと笑って、それでいいと思うのだ。
 けれどまだここに意識あるなら、身体動かずともできることはあるのだ。
 その時のために、クロトは動く。そしてその時を作るために千之助は一歩、黒鋼公へと近づいた。
 此れが最後の死力だろう。
 獄炎を纏う黒剣をもって踏み込んだ。ずきりと走る痛み。それを叩き伏せて、黒鋼公へと肉薄する。
 細剣がその剣戟を受け止めて、僅かに跳ねた。
 ああ、ここかと――千之助は剣を黒鋼公へと突き立てた。それと同時に生み出された炎の嵐が、黒鋼公を抱く。
 ぐ、と黒鋼公は呻いて突き立てられた剣より逃げようとした。
 その、戦いの光景をクロトは全力叶うは精々一度とからからに乾いた魔力を感じて思う。
 体の中からせりあがる熱を吐き出した。まだ血が残っていたかとクロトは思う。
 この身体も、割とギリギリ。
 けれど、剣は手に。技は身の内に。
(「知識、経験……生還の自負。生きてる限り」)
 生きてる限り、何でもできるのだ。
 彼を信じてる。隙は作られる。
 炎の嵐を振り払うように敵の細剣が振られる。その輝きが、見て取れた。
 その一撃は宛ら死神の鎌なのだろう。
 だが、それよりも一歩早く。立ち上がり、クロトはそれを黒鋼公へと向ける。
「迷わず……断て――参式」
 最後の力を振り絞った最速の一閃。
 傍らを駆けた風に銀髪が踊り、千之助は嗤う。
 紅の閃が美しい。黒鋼公の身の上を駆けたそれは深い傷を落とした。
 けれど、その一撃の負荷は重い。常なら耐えたのだろうが毒に身を浸されているクロトはその場に倒れ伏した。呼吸は薄く続いているが意識は途切れる。
 黒鋼公は表情を歪め、厳しい表情で千之助を睨んでいた。
 そのような顔もできるではないかと嗤って、振う黒剣を握る力は浅い。
 千之助もまた己を削り戦っているのだ。クロトから得た力を、命を無駄にはせぬと戦える限りはその刃を向けるが先ほどの炎の嵐は死力を尽くした物。
 身の内を巡る毒が、その身を痛めつけ視界の端からも赤が零れる。動きの激しさに眼も悲鳴をあげ、血の涙が落ちた。
 しかし身体が動く限りはと千之助が振るう刃を、黒鋼公の細剣が弾いて叩き伏せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬名・カデル
この人が領主なんだね…

体はとても苦しい、けれどどうしても倒したい敵が目の前にいる。
ここで負けてなんかいられないんだ
じゃないと
今までの苦しみも
ここにたどり着くまでに倒れていった人たちの想いが
すべて無に消えてしまう

他の猟兵たちの動きや相手の攻撃を見ながら
とても厄介な相手だと感じて
けれど協力しながらだったら、何とかなるのかな
…このユーベルコードはボクがよく知ってる
攻撃と見せかけてこれを打って
逆に相手を疲弊させられないかを狙ってみよう

ボクもその分苦しいけど、おあいこになるならやった甲斐があるんじゃないかな



「この人が領主なんだね……」
 けほ、と瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)は咳込む。
 はぁ、と一つ息をするのだけでも身体に負担がかかっていた。きゅ、とその胸の前で手を握り込んでカデルは揺れる視界の中でその姿を捉えていた。
 体はとても苦しい。けれどどうしても倒したい敵が目の前にいる。
「……ここで、負けてなんかいられないんだ」
 じゃないと、とカデルは苦しみながらも真っ直ぐ、黒鋼公を見つめる。
 じゃないと――今までの苦しみも、ここにたどり着くまでに倒れていった人たちの想いも。
 すべて無に消えてしまう。
 そんなことにはしたくない。そしてさせたくないのだ。
 身体を休め、息を整える。
 他の猟兵たちが戦う間、その動きを見つめていた。
 攻撃を受け、力を増し――そして仕掛ける。
(「とても、厄介……」)
 けれど協力しながらだったら、何とかなるのかなとぼんやりとカデルは思う。
 毒の回る感覚に思考ははっきりしないが、それでもまだ意識は巡る。
 それに、あれはと思う。
 ユーベルコードを真似て、打って。それならとカデルは考えたのだ。
「……このユーベルコードはボクがよく知ってる」
 攻撃と見せかけてこれを打って、逆に相手を疲弊させられないか――狙ってみようとカデルは立ち上がる。
 ふらふら、と歩んでカデルは黒鋼公の視界へと入った。
「ボクもその分苦しいけど、」
 おあいこになるならやった甲斐があるんじゃないかなと、カデルは聖なる光を放った。
 疲れる。毒が回る身体に自身を削りながらの回復をするというのは重い。
 カデルは咳込み、そして膝を突く。意識がぼんやりと散っていくような感覚だ。
 細剣でその光を受け止めた黒鋼公は、丁度いいというかのように己にその光を与える。
 その様をカデルは途切れかける意識の端で見ていた。
 傷は治る。けれど、体力は削れてあとが持たなくなるだろう。今までも十分ダメージを受けているだろうに。
 与えられた傷は塞がれたが――目に見えぬ傷をカデルは与えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

飛白・刻
……何処までも気に喰わねぇな
テメェに使う毒は持ち合わせてねぇんだよ
そう、これは蜜だ
今の相手には勿体無いと言うものだろう

過去を思い出す事も重ねる事も苦痛でしかない
けれど今は過去ではなく、己の手足が使えるのだから
重ねてしまったモノごと切り裂いてしまえばいいのだと

気付けば
深く、考えることすら止めた
眼前の気に入らない物を斬ればいいだけだと
それならば思考回路は単純と化す

帯に差したままの扇から
僅か鈴の音が届く
それは今は共にいない二対の連れからの
小さな鼓舞だったのかもしれない

相手が相手なら小細工も何も無しに
最後まで刃一つで向かおうか
この切先が何処まで通ずるものか
引きずり出されたこの記憶がまた朧気になるまでに



「……何処までも気に喰わねぇな」
 荒い息だ。世界がぐるぐると廻る、その中で飛白・刻(if・f06028)は歯噛みする。
「テメェに使う毒は持ち合わせてねぇんだよ」
 そう、これは蜜だ――今の相手には勿体無いと言うものだろうと刻は凍てつくような視線を投げた。
 毒をその身にいれて、刻が得たのは。いや、抉られたものは深い。
 過去を思い出す事も、重ねる事も苦痛でしかない。
 けれど――今は。
 ぎゅっと、鈍くしか力入らぬ手を握る。
 今は過去ではなく、己の手足が使えるのだ。
(「重ねてしまったモノごと切り裂いてしまえばいい」)
 それに気づいて、深く瞳を閉じる。
 深く、考えることすら止めた。
 そう、あの――眼前の、気に入らない物を斬ればいいだけだと刻の思考回路はただひとつだけを定めた。
 りん、と。
 帯に差したままの扇から僅かに鈴の音が届いた。
 それは、今は共にいない二対の連れからの小さな鼓舞なのかもしれないと、刻は僅かに口端を緩めた。
 体の内側を巡る毒は、嫌な熱を灯らせてじっとりと汗をかかせる。
 その気持ち悪さも相まってか、ゆっくりと身体を動かした。
 相手が相手なら小細工も何も無しに、最後まで刃一つで向かおうとその手に持つのだ。
 この切先が何処まで通ずるものか。
 敵は傷をいやし――けれど、己が身の変調を悟っている。
 傷を癒し体力を失った黒鋼公は早く勝負を決めてしまいたいのだとわずかに急いていた。
 引きずり出されたこの記憶がまた朧気になるまでに――重い足を動かして刻は向かう。
 黒鋼公の細剣の閃きをはじき踏み込み突き立てる。
 ぐらりと、己の力と全てを乗せて刻は攻撃をかけた。
 刻の刃と、黒鋼公の細剣がぶつかる。ぶつかって、音を立てる。
 弾くのはどちらが早いか。どちらが鋭いか、重いか。
 毒を得ている刻の刃はいつもよりも幾段も劣るものだろう。けれど感覚は研ぎ澄まされて、ここぞという場所は捉えて黒鋼公を削る。
 黒鋼公の動きも――疲れているように見える。それは猟兵達が今まで重ねてきた攻撃の結果だ。
 仕留められないのは、残念。けれど、こいつはもう終わると刻は察する。
 黒鋼公によってもたらされたものを払うように、刻の刃はその時まで苛烈さを極めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
視界が霞んで良く見えねえ
でも、それでいい
胸糞悪い男の顔なんて見えないくらいが

いーしゅみしてんね
…いーよ、相手してやる

想いは変わらない
酷い、で構わない
簡単じゃなくても俺は捨てていくよ
何かを切り捨てて、望むものだけを――

(お前は俺の大切な人にくだらないものを見せた
だから、苦しんで逝け)

よろけても敵に向かい
血を吐いても、そのまま鍵刀を突き立て、抉る

っ……は、はは
やってくれ鬼火、やっぱり

――熱さは、冴える

自らがのまれようとも、近距離で
その細剣を身に受け、握る
死にそうなくらいだけれど
深緋を眸に、嗤う
本体が鍵なんて相手には分かるまい
攻撃も、自由に放てないだろ

――ね、
おれも…いーしゅみ、してんでしょ

もえろよ



「視界が霞んで良く見えねえ」
 どれだ、どれだろうか。多分、あれだと浮世・綾華(千日紅・f01194)は敵を見定めた。
 多分、アレ。誰かが戦っている。
 なんとなくでしか分からないが――でも、それでいい。
 胸糞悪い男の顔なんて見えないくらいが、ちょうどいい。
 先に戦っていた男が一撃、二撃。斬撃を向け、けれど倒れたのは黒鋼公の攻撃のせいか、それとも毒のせいか。
 どちらかは分からないが、綾華はゆっくりと足向ける。
「いーしゅみしてんね……いーよ、相手してやる」
 杖代わりにしていた黒鍵刀の切っ先をゆっくりと持ち上げる。
 綾華の想いは変わらない。
 酷い、で構わないのだ。ここにいる理由は人の為ではあるが――その他大勢の為よりも、大きな理由がある。
 それは自分が一番よく、わかっている。
「簡単じゃなくても俺は捨てていくよ」
 その言葉は自身に向けても紡いだような。
 何かを切り捨てて、望むものだけを――体中痛くて、苛立ちもある。
 これが人の身というものかと。でもその身よりも、心のほうが荒れ狂う。
(「お前は俺の大切な人にくだらないものを見せた。だから、苦しんで逝け」)
 よろけながらも、向かう。動けば体の中をかき混ぜられる感覚にまた血を吐いた。
 けれど、綾華はそのまま黒鍵刀を突きたて、抉る。
 いつもならもっと鋭く抉れたろうに、感覚が鈍い。
「っ……は、はは」
 やってくれ鬼火、やっぱり――熱さは、冴える。
 いくつもの鬼火を躍らせて、狙いは至近距離というのに定まり辛く。
 自分にもそれがあたるのはお構いなしだ。
「この!」
 その鬼火のわずらわしさに細剣が向けられた。その閃きがやけに遅く、見えて。
 手を伸ばし、それを受け止める。握り込めばその刃が掌を裂いてぼたぼたと血が落ちた。
 死にそうなくらい、というのは今だろうか。
 けれど――深緋を眸に、嗤う。
(「これくらいじゃ、しなねーし」)
 綾華の本体は鍵だ。それは相手には分かるまい。
 攻撃仕掛けるその細剣を抑えてしまえば、攻撃も自由に放てない。
「――ね、おれも……いーしゅみ、してんでしょ」
 嗤って、けれど流れた血に細剣が滑る。その手に一層深い傷を落とし込みながら引き抜かれたそれが、再び振り下ろされる。
 あ、これは正面から受ける羽目になる。本体壊れなきゃいいか、と思ったのだがひとつ、影が割って入った。
 血を流し過ぎたか、薄れる意識の端で――誰か理解する。
「もえろよ」
 綾華は最後の最後にもうひとつと、鬼火を黒鋼公へと向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
熱い冷たい、痛い、痛くない
触れた、触れない、途切れかけて
どこが動いて、どこが、考える間も傾ぐようで、ああ
切って捌いて棄てられたら幾分楽じゃアない
全く笑えてくるからやんなっちゃうね、クソッたれ

与太は程々に用途も果たせ無さそうな包帯で
柄と利き手だけ気付程度に離さないよう括って
お仕舞まで倒れてやるわけにゃいかないから

自分まで毒を飲むたァ酔狂ね
一人でよろしくしてて欲しい、て笑ってる余裕もないんだわ
楽しそうなトコ悪いがさっさと終わりにしよう
呼ぶのは錬成カミヤドリ
数十降らすのは檻の代わりに
数ありゃいくつかは目論見通りいくかな
塞いだんなら最後あんたへ刃を送ろう
毒に侵される心地は如何、なンて聞くまでもない



「あ、また」
 ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)は薄く笑いながら鼻血を払う。
 笑ってはいるが、笑ってはいない。
 熱い冷たい、痛い、痛くない。
 思考はぐちゃぐちゃ、けれど錆びついた血の匂いは否応なしに強烈だ。
 足は地についているのかと目を向ける。
 己の足は地についていたがその感覚が淡く。けれど膝が笑うと否応なしに感覚が戻ってきた。
 触れた、触れない、途切れかけて――どうにか保って。
 どこが動いて、どこが、考える間も傾ぐようで――ああ、と。
 ユルグは嘆息のように、零した。
 頭も痛い、耳鳴りもする。世界が容赦なく回って、血の鈍い味だけが主張する。
 体の内からせりあがるものを吐いて。その色の鮮やかさに嫌に目が引かれた。
 ゆるゆると輪郭を失いそうな世界でその色は明確。
「切って捌いて棄てられたら幾分楽じゃアない」
 全く笑えてくるからやんなっちゃうね、クソッたれと悪態吐き捨てる。
 じんじんと手の感覚は鈍い。これで握れるかね、と柔い感覚に舌打ちして。
 用途も果たせ無さそうな包帯で柄と聞き手だけ気付程度に、離さないように括った。
 見れば、黒鋼公も――ああ、倒せそうなそんな距離感。
「お仕舞まで倒れてやるわけにゃ」
 いかないからと、戦う場へとユルグは踏み込んだ。
 先に戦っていた猟兵がふらつく。それが知った男と知るが今は気を回す余裕がない。
 その彼が倒れながら、もえろよと小さく紡げば鬼火が黒鋼公を包み込んだ。
 黒鋼公が、彼へと細剣振り下ろす所をもうひとつ弾いて、ユルグはこっちと笑う。
 燃えれば、霞む視界の中でもどれを狙えばいいのかわかりやすい。
 その炎は収まっても焼ける匂いが血の匂いに勝る。
「自分まで毒を飲むたァ酔狂ね」
 細剣と、己が身が高い音たてて。
 攻撃弾かれた黒鋼公はち、と舌打ちする。
 舌打ちしたいのはこっち、とユルグは言って。
「一人でよろしくしてて欲しい、て笑ってる余裕もないんだわ」
 楽しそうなトコ悪いがさっさと終わりにしよう――一歩、離れて。
 いつの間にか、数十構えたのは己の写し身。
 あげる、と笑って檻の代わりに黒鋼公へと撃ち落とす。
(「数ありゃいくつかは目論見通りいくかな」)
 行く手を塞いで、一本道。
 最後は――あんたへ刃を送ろうとユルグは踏み込む。
 毒に侵される心地は如何、なンて聞くまでもない。
「ほんと、サイアク」
 深く、抉るように叩きつけて――ユルグは暴れまわる体の内の鈍い痛みに膝をついた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【菫橙】

毒を飲んだ?!
わざわざ毒を飲んで弱ってくれるなんて…ハンデありがとうございます
では遠慮なく殺しますね
血統覚醒しダッシュで一気に間合いを詰め花髑髏での高速突きを喰らわせにいく
黒鋼公に対する怒りで今は彼を殺すことしか頭にない

貴方は絶対許さない
罪なき人々の命を虫ケラの様に弄んだ
お父さんを毒で苦しませた
四肢を斬り落とし芋虫のように地べたを這いつくばらせてやる
奪った生命全てに懺悔しろ!

遠くで誰かの声が…お父さん?
父のUCが炸裂したところでようやく声がハッキリ聞こえる

ごめんお父さん
あとで小言は聞くから
血統覚醒は解除せずそのまま戦闘続行
残像で奴の視界を惑わせ
死角から斬りつけていく
大丈夫
絶対負けない!


城島・侑士
【菫橙】

ようやく本命がお出ましか
気分は相変わらず最悪だが
早くそのスカしたツラに鉛玉をぶち込みたくてたまらない
残り僅かな力で銃口を向ける…前に娘が飛び出した
おい!
名前を叫ぶ前にその姿を見て絶句する
娘がヴァンパイアと化していたから

その反動から使用を禁止している血統覚醒を用いてヴァンパイアと戦う娘を見て
力の限り叫ぶ
冬青!力にのめり込むな!
父さんの声を聞け!!
毒の苦痛なんてどっかに忘れた
仕方ない
まずはUCで黒鋼公の動きを止めてもう一度はっきり娘に呼びかける
火事場の馬鹿力というのは本当なんだな

声は届いたが親の心子知らず
娘は戦闘続行
あのUCは使用禁止の約束なのに…
終わったらお説教だな…と思いつつ
今は援護を



「毒を飲んだ?!」
 驚きも僅かの間だ。
 この場所に赴いた猟兵達が戦い、傷を負い――そんな様を城島・侑士(怪談文士・f18993)を支えながら城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)は見つめていた。
 ようやく本命がお出ましか、と侑士はふらつきながらも呟いた。
 気分は相変わらず最悪――けれど。
(「早くそのスカしたツラに鉛玉をぶち込みたくてたまらない」)
 残り僅かな力で銃口を向ける――その、前に。
「わざわざ毒を飲んで弱ってくれるなんて……ハンデありがとうございます」
 では遠慮なく殺しますねと、前に飛び出したのは冬青だった。
 最後に残っているのは冬青達だけ。だから仕留めるのは役目だ。
 黒鋼公も、満身創痍でもうあと一押しというところ。
「おい!」
 その名前を、呼ぼうとして侑士は絶句する。
 人の枠からはみ出して、ヴァンパイアへとその姿を変えていたからだ。
 一気に走り込んで間合いを詰める。虹の輝石で作られた愛刀での高速の突きを喰らわせるために。
 怒りだ。冬青の心を今、占めているのはそれしかない。黒鋼公を殺す――ただその一色だけに染まっていた。
「貴方は許さない」
 罪なき人々の命を虫ケラの様に弄んだ。
 でもそれよりも、お父さんを毒で苦しませた――そのことが冬青の心に重くのしかかるのだ。
(「四肢を斬り落とし芋虫のように地べたを這いつくばらせてやる」)
 深く、一歩を踏み込んで。
「奪った生命全てに懺悔しろ!」
 激しい、すべての気持ちを込めた叫びを向ける。
 侑士は冬青! と呼ぶ。けれどその声は届かない。
「冬青! 力にのめり込むな!」
 血統覚醒は、禁じていたのだ。反動が良くない。それを破って戦うほどの何かを冬青は抱えてしまったのだと歯噛みして。
 それが何か、わからぬままに。
「冬青! 父さんの声を聞け!」
 毒の苦痛など忘れてしまう。今まで己を苦しめていた痛みなど些細なものと思うほどに、侑士の心は冬青に向いているのだから。
 仕方ない、とまずは冬青の気を引きつけている黒鋼公へと侑士は攻撃向ける。
 放った手枷、猿轡と拘束ロープ。そのすべてがその身を捕らえることはなかったが、けれど十分だ。
「冬青!」
「! ……お父さん?」
 遠くで誰かの声が聞こえている――そんな気は、していたのだ。
 けれど、ようやくハッキリと冬青の耳にその声は届いた。
「火事場の馬鹿力というのは本当なんだな」
 やっと気づいたと侑士は薄く笑いかけた。
 けれど冬青はごめんお父さんと言って。
「あとで小言は聞くから」
 そのまま、拘束され身動きとれぬままの黒鋼公へと再び刃を向けた。
 親の心子知らず――その様に侑士はほっとしたのもつかの間だ。
「あのUCは使用禁止の約束なのに……」
 終わったらお説教だな……と思いつつ、今は援護だ。
 残像で視界を惑わせる冬青。死角から斬りつけながら、冬青は紡ぐ。
「大丈夫、絶対負けない!」
 これで、終わると――深く踏み込んだ。
 黒鋼公は血反吐を撒き散らす。それはここに来たもの達の重ねの結果だ。
 毒の酩酊を楽しみ、傷を受け。それを確かに力としたのだろうが、それよりも猟兵達の力が勝っただけのこと。
 攻撃を跳ねのけようと、振るわれた細剣を抑え込まれた。
 後退し、逃げようとする。その瞬間振るわれた刃はその首を撫で跳ね上げた。
 深く、抉るように切り裂いて――黒鋼公の命が狩られる。
 人々の命を弄んだ吸血鬼は、紡がれた痛みの果てに猟兵達の手によって滅ぼされた。
「こんな……」
 首を飛ばされその身は灰となり消えていく。
 最後の言葉も残せぬままに。



 黒鋼公が絶えて、毒を受け戦った猟兵達も満身創痍だ。
 解毒薬はないものの、黒鋼公が消えるとともに症状は軽くなっていくようでもある。
 それは毒に、慣れてしまっただけなのかもしれない。
 毒は黒鋼公によって用意されたものだ。毒が、何で作られていたのかは――すでに分からぬこと。
 けれどこの地を治めていた暴虐は消え去って、僅かの時かもしれないが平穏は訪れるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月11日


挿絵イラスト