船上羽根突き遊戯
●目指せ、八艘飛び
「羽根突きって知ってる?」
ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は集まった猟兵達に、そう話を切り出した。
羽根突き。
無患子(むくろじ)と呼ばれる木の実に鳥の羽根を付けたものを、羽子板という木の板で打ち合う、サムライエンパイアの遊びである。
無患子とはその字から『患いが無い』という、特に子供の無病息災を願った願掛けの意味合いもある。
「燧島(ひうちじま)というサムライエンパイアの島があるのだけど。そこでは大人も子供も楽しむ、一風変わった羽根突きが行われるそうなんだ」
通常、羽根突きとは陸上で行われるものだ。
だが燧島では、船に見立てた木の板――ひとつ三尺三寸、凡そ1メートル四方――を浅瀬に幾つも浮かべて、その上を飛んだり跳ねたりしながら打ち合うものになっていた。
その名も、船上羽根突き遊戯。
ルールは通常の羽根突き――追い羽根とほぼ同じ。
打ち損じて羽根を落とした方が負け。
だが燧島流は、そこに敗北条件が一つ加わる。
「板から海に落ちたら負け」
フィールドとなる海に浮かべた板は、四隅に重りを付けてひっくり返らない様にしてはいるが、それだけでは、当然揺れる。
そんな木の板から落ちてしまったら、それも負けとなる。
たとえ片足だけでも水に濡れてしまえば、即アウト。
板が浮かんでいるのは、水深の浅い海。落ちても溺れる心配は無いが、そこは冬の海である。当然、水はめっちゃ冷たい。
「まあ、温かい甘酒があるそうだけど」
それでも、落ちたら寒いじゃちょっとすまないかもしれない。
「あとはまあ、負けた方は顔に落書きされる罰もあるから」
濡れた上に顔に落書きとは中々シビアだが、濡れずに負ける事もあるから仕方ない。
それに現地の人達には船に慣れるための練習――そんな意味合いも、船上羽根突きには含まれているのだそうだ。
「覚えている人もいるかと思うけど、燧島とは過去に事件を解決したり、エンパイアウォーでも船を貸してくれたりと縁があってね。猟兵も是非と言う事だよ」
猟兵同士で相手を決めて、新年初勝負にするも良し。
別に1対1でなくても構わない。チーム戦や複数人でもOKだ。
現地の住人と交流として勝負するのも構わない。
結構、乗り気な人達もいるようだ。
「溺れる心配が無いなら、私もやってみようかな」
などと笑って、カナヅチのエルフは転移の準備を始めた。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
【Q】サムライエンパイアの冬を楽しもう」の結果発生した、1章のみで完結のシナリオとなります。
海の上に幾つも浮べられた木の板の上での羽根突きです。
木の板はひとつ約1m四方。
板と板の間隔は1m~2mくらい。
板は付けて海の底に沈めた重りで四隅を括ってあるので、激しく動いてもひっくり返る心配はありませんが、揺れはします。
海に落ちるか、打ち損じて羽根を落としたら負けです。
水深は1m未満なので、落ちても安心。多分。
対戦方法は、大きく分けて2つ。
・『猟兵同士で対戦する』
・『NPC(主に現地住人)と対戦する』
どちらかを選んで下さい。
猟兵同士の場合、相手を指定する方が多いと思います。
相手の名前とIDの記入をお忘れなく。
1対1でなくても、2対2のチーム戦、割り切れないからバトルロイヤル。OKです。
なお猟兵相手ならユーベルコードの使用もOKでが、武器はNGでお願いします。
羽子板使って下さい。そこは合わせましょう?
ソロ参加の方向けのNPCデータはこんな感じです。(★の数=強さ)
●朔八姫(★)
燧島のお姫様。乗り気だが、運動神経は悪くないが身体はあまり丈夫でない。
『POW× SPD△ WIZ◯』
●風早屋(★★)
燧島の廻船問屋の主。「何で私まで……」と不服げ。
『POW△ SPD× WIZ◎』
●漁師の海吉(★★★★)
若手で一番の漁師。ぽっと出とか言うな。
『POW◎ SPD◎ WIZ◯』
●漁師の海蔵(★★★)
同じく漁師。海吉の父。熟練だが年齢的に体力に難ありか。
『POW◯ SPD◯ WIZ◎』
●ルシル(★★★)(※こやつのみUC使用可)
何やってんの君。数合わせにでもどうぞ。
『POW△ SPD◯ WIZ◎』
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 日常
『サムライエンパイアの冬を楽しもう』
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POW : 体力の限りを尽くし、力いっぱい、サムライエンパイアの冬を楽しむ
SPD : 遊びに参加したり、料理や作品を作ったり、クリエイティブに冬を楽しむ
WIZ : 恋人や友達と一緒に、サムライエンパイアの冬を幸せに過ごす
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
華折・黒羽
【荒屋】
羽子板なら幼い頃に何度か
でも海上、というのは初めてです
…勝負事となるならば負けません
己に混じる猫の特性
反射、バランス感覚、しなやかさ
活かせるものは全て活かして
羽根を打ち返した後着地した不安定な板からは
すぐに跳び他の板へ移って体勢整え次へ行くよう
ジャハルさんの一発は羽根とは思えぬ程強いだろうから
きっと打ち返すだけで精一杯
類さんは器用だから、返し辛い所に羽根を飛ばしてくるだろうな
油断しない様にしないと
足が浸かってしまった時にだけ身体が濡れるのを嫌がり
翼使って回避してしまう
負けたなら表情は隠さずむすりと
落書きされた顔でもう一回、と言い出すだろう
…ジャハルさん用に赤い墨持っていこうかな
ジャハル・アルムリフ
【荒屋】
うむ、いざ
新年最初の仕合と気を引き締め
大丈夫だ冴島、落ちても引き上げてやるぞ
右へ左へ、軽やかに羽根追う黒い姿には
恐らく危ういところで反応するのが関の山
策士と見える冴島に死角を取られる訳にもゆかぬ
目で追いつけぬなら第六感
板が風切る音と羽根打つそれを頼りに
一時たりと手も気も抜けぬ
不安定に揺れる足場は大柄な己に不利と悟れば
地上の様に強く踏み込みそうになる足を押し止め
尾も使って平衡を保ちながら
そこが空中とて渾身の力で打ち返そう
…落ちたら落ちたで寒中水泳の鍛錬にもなろう
どれ、二人には猫の髭でも飾ってくれよう
まあ俺の顔なら墨など然程は目立つまいが
待て黒羽、その色は
お前…意外にも悪童であったのだな
冴島・類
【荒屋】
無病息災
願掛けにもなる試合
普通の羽子板なら最近体験したよ
仲間と乱戦も良いし、いざ!
ただ…う、海
船…小さくないかい?
海水も泳ぎも苦手でじわり苦笑
浅いし本体が触れるわけじゃない
引き上げて?
ありがとうございます…!
ついほっとし
よし、と言いかせて挑む
しなやかに跳ねる黒羽君に
勢いがすごいジャハルさん
隙を見せたら負けは必死だ
板に留まる時間を極力少なく
接する部分も最小に上を駆けて…
飛んで来た羽の軌道見切り
打ち返せぬよう狙うは…足や翼あたり
え、尻尾そんな使い方できるんです?
落ちたら…
甘酒飲んで身体温めよう
墨で2人に眼鏡でも描こうかな?
書かれたら擽ったいや
ふふ、赤とは黒羽君考えたね
笑い合った分、福が来る
●荒屋――仕合前
「黒羽と冴島は、羽根突きの経験はあるのだな?」
「幼い頃に何度か」
ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の問いに、華折・黒羽(掬折・f10471)が短く返す。二人とも、自分が選んだ羽子板の感触を確かめながら。
「普通の羽子板なら最近体験したよ」
『普通』――という部分を妙に強調した冴島・類(公孫樹・f13398)の声が、二人の後ろから続く。その口元には、知らず苦笑が浮かんでいた。
「ただ……船と言うには……小さくないかい?」
類のその表情の原因は、目の前に広がる光景。
海の上に幾つもの木の板が、波に合わせてゆらゆらと浮かんでいた。
(「う、海……浅いし本体が触れるわけじゃないけれど」)
海水。泳ぎ。どちらも、かつて小さな社に祀られていた鏡を本体とするヤドリガミである類には苦手なものであった。
「大丈夫だ冴島。浅い海だ。落ちても引き上げてやるぞ」
ぽん、と羽子板を握った腕を反対の手で軽く叩いて示し、ジャハルがほんの僅かな笑みを浮かべて告げる。
意訳。落とさないとは言わない。
「ありがとうございます……!」
だけど、類はその言葉にほっとした様子で表情を和らげる。
「もちろん、黒羽もな?」
「ん、大丈夫です」
しばらく黙って海を見ていた黒羽は、ジャハルに短く返し――岸から跳んだ。
「海上、というのは俺も初めてですけど――勝負事となるならば、負けません」
猫の特徴を持つ足でほとんど音も立てずに、一気に三枚の板を渡り切った黒羽は、四枚目の板の上でピタリと止まって、二人の方を振り向いてみせた。
落ちるものか、青い双眸が物語る。
「……よし!」
言葉以上に雄弁な黒羽の視線をまっすぐ見返して、類は意を決して海に向かって足を伸ばし、揺れる板の上へと乗った。
「これが、俺達の新年最初の仕合だな」
ジャハルも、類から離れた板の上に長い脚を伸ばして乗り込んだ。
●遊戯という名の真剣勝負
コーンッ!
コンッ!
カンッ!
羽根が打ち返される乾いた硬い音が、海の上に鳴り続ける。
【荒屋】の三人による船上羽根突き遊戯は、始まってからしばらくの間は、穏やかなものだった。
とは言え、そんな穏やかな羽根突きがいつまでも続く筈がない。
「成程。思いの外、不安定に揺れるものだな」
何度か羽根を打ってみて、ジャハルは海の上に浮かんだ板が見た目以上に不安定なものであると実感していた。
羽根を受け、打ち返す。
ただそれだけの動きでも、手に、足に、体に力が入れば少なからず板は揺れる。
そも、190cmというジャハルの大柄な体躯には、決して充分な足場でもなかった。
(「どちらかと言えば、俺が不利――なればこそ、後手には回れぬ」)
故に、ジャハルが真っ先に仕掛ける。
いつもの様に強く踏み出しそうになる足を意識して抑え込み、ジャハルは羽子板を構えながら竜の尾を伸ばした。
まるで第三の足の様に、尾でバランスを取る。
「え、尻尾そんな使い方できるんです?」
驚いた声を上げた類に、ふっと小さく笑みを浮かべて――ジャハルは力を込めて羽子板を振るった。
スパァンッ!!!
尾も駆使して下半身のみでうまくバランスを取ったジャハルの、上半身の撥条をフルに使った渾身の打ち込み。
(「重――さすがジャハルさん」)
そこから放たれた、まるで弾丸の様な勢いで飛んできた羽根と思えぬ一撃を、黒羽は内心驚嘆しながら膝を沈めることで何とか受け止める。
「っ!」
ぐらりと足元の板が僅かに傾いだ瞬間、黒羽が跳んだ。
カコーンッ!
跳ぶと同時に羽子板を振り上げ、羽根を打つ。
そのまま黒羽は空中でくるりと回転すると、ほとんど足元を見ずに三枚の板の上を転々と跳び回り、四枚目の板の上に静かに着地した。
頭部に耳という形で現れている、黒羽の種たるキマイラの中に混ざる猫の特性――すなわち、反射神経、バランス感覚、しなやかさ。
それらを活かしてこその、アクロバティックな動き。
(「ジャハルさんの羽根はすごい勢いで、黒羽君は動きがすごいしなやか」)
先に仕掛けた二人の技に類は内心舌を巻きながら、その足は海上の板の上を駆けるように渡っていた。
一つの板の上に留まる時間を短くし、決して手を付かぬように板から板へ、迷わず飛び移っていく。
(「隙を見せたら負けは必至――」)
力ではジャハルに。速さでは黒羽に及ばない。
だが、類にも二人より勝っている武器がある――目だ。
コーンッ!
類が振るった羽子板が打った羽根が弧を描くように曲がって、板に着地したばかりの黒羽の後方を突く。
羽根の軌道を完全に見切った上での、早いタイミングでの打ち返し。
さらに類が見切るは羽根の軌道のみに非ず。仲間の動きの癖と死角もだ。
「類さんは器用だから、返し辛い所に羽根を飛ばしてくるだろうと思ってました」
だが黒羽は淡々と言いながら反応して、羽根を今度はジャハルへと打ち込む。
「黒羽の軽やかは見事の一言だな。冴島はやはり、中々の策士と見える」
「打ち返されない為には、もっとギリギリ狙わないとダメか」
今度はジャハルが力を入れずに打ち上げた羽根を、やはり軌道を読んだ類が打つ。
力ではジャハル。
身のこなしでは黒羽。
読みでは類。
三者三葉に己の長所を活かした勝負。その均衡も、やがて崩れる。
「……っ! ……っ!」
三人の中で最も早く息が上がったのが、類だった。
一つの板に留まる時間を短くしつつ、羽根の軌道と仲間の動きを見切る。類が一番、体力も気力も使っていた。
「あ――」
のちに類は、こう語ったという。
この時、跳んだ瞬間『あ、これ落ちたな』と思ったよ――と。
高く打ち上げてしまった羽根を、黒羽に空中で打ち返され――それを拾おうと跳んだまでは良かったのだが。羽根には届いても、板には届かなかった。
ばしゃーんっ!
「つ、つつつ、冷たーい!!!」
派手な水音。直後に上がる、類の叫び。
「黒羽よ。しばし待て」
そう待ったをかけると、ジャハルは海に落ちた類に近づいて、約束通りその体を近くの板へ引き上げる。
「うう。甘酒飲んで身体温めて来よう」
――類、脱落。
勝負は、ジャハルと黒羽の一騎打ちへ。
「さあ。何処からでも来い」
「……負けません」
状況が変わっても、二人ともやることは変わらない。黒羽は板から板へと素早く飛び移って回り、ジャハルは渾身の力で羽根を打ち込む。
だが、すぐにジャハルが力強い音を中々立てられなくなっていた。
(「黒羽の動き。とても目でも追いきれぬ」)
危ういところで反応するのが関の山。
このままでは負けかねない――そう判断したジャハルは、勝負に出た。
目で追いきれないならば、視覚には頼らない。
「そこ――!!」
羽根を打つ音よりも一瞬早く聞こえた黒羽が羽子板が風を切る音を頼りに、ジャハルは後ろの板に飛び移っていて、構えた羽子板を振り下ろす。
スパァンッ!
響く力強い音。
その長身、不利な面もあれども、いざ打つとなれば長いリーチとなって、ジャハルに高い打点を取らせる事を可能としていた。
「っ!」
高い打点から打ち込まれた羽根が、黒羽の予想外の軌道で飛来する。
空中でそれを受けざるを得なかった黒羽が、その衝撃にバランスを崩して――。
その名と同じ黒い翼が、ばさりと広がった。
「あー! それずるい! 足ついてるよ、黒羽君!」
岸に上がっていた類が、思わず声を上げる。
黒羽の片足は、足首までが完全に海についていた。それ以上落ちるのが嫌で、思わず翼を広げてしまっていたのだった。
●勝負の末、願うもの
「どれ、二人には猫の髭でも飾ってくれよう」
勝者となったジャハルが、たっぷり墨を付けた筆を手に二人ににじり寄る。
「あははっ! 擽ったいや」
筆の感触に類は思わず笑い声をあげ、黒羽はむすっと黙り込む。
そして、二人の左右の頬に三本の線が描かれ――。
「もう一回」
むすりとした顔のまま、黒羽がそんな事を言い出した。
負けっぱなしでは、終われない。
「構わないぞ。落ちたら落ちたで、寒中水泳の鍛錬にもなろうし、俺の顔なら墨など二人程は目立つまい」
そんなジャハルの余裕は、再戦で勝者となった黒羽が持ち出したものを見て、あっさりと何処かへ消える事となる。
「待て黒羽。その色は」
「ジャハルさん用の、赤い墨」
それは朱色の赤い墨。色黒のジャハルの肌には、通常の墨よりも赤が映えよう。
「黒羽、お前……意外にも悪童であったのだな」
「ふふ、赤とは黒羽君考えたね」
二戦目は敗者となったジャハルの顔に、リベンジを果たした黒羽が赤い墨をつけた筆を入れるのを、類が楽しそうに笑って眺める。
――笑い合った分、きっと福が来る。
類は、そう願わずにはいられなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
砂羽風・きよ
【賭事】
さみぃ
これ絶対落ちたら凍え死ぬ
だからこそ、この戦い燃えるぜ!
絶対負けないからな(フラグ)
羽根突きとか久しくやってねぇな
そんじゃ、ほい
綾華!手加減してくれ!
交互に向けて羽根を打つ
これバランス保ちながら打つのムズッ
ディイ、マジか!くそ、俺の反射神経なめんなよ!
俺はUCなんて使わん!使えるの無いからな!
(勝敗はお任せ)
負けた時は盛大に海に落ちて
ぎゃああ!冷てえ!助けてくれ!
って置いていくなよ!
水飛沫を飛ばしながら陸へダッシュ!
ガタガタ
これ、負けた人辛くねぇ?
勝った時は負けた人の頬にバツ印を
ふは、すまんな。後でちゃんと消してやる
それとほい、甘酒。温まるぞ
3人分ちゃんと買って来てあるから
飲もうぜ
浮世・綾華
【賭事】
おお?って苦手なのか(言いつつ、自分も得意ではない
体幹と読みは自信あるかな
っつーかまず羽子板だろ
こん中じゃ俺が一番経験者なはずだ(多分
おいきよ
そんな気の抜けた掛け声出してんじゃねえ!(全力で打ち返す
ディイ…そう来たか
でもよく見りゃ分かるから…ってうわ
こっちじゃねーのか!?やべーと言いながら打ち返す
*勝敗お任せ
水に足先だけでも触れ負け確したら
UCで鳥籠を複製、結合させ乗っかる
ひえー、危なかった
俺水はマジでダメだから!
勝ったらおし!と全力で喜び
同じようにUCでディイ救出
よし、行くか(きよ無視
顔にはきよしって文字書く
ディイもきよしでいいか…(適当
いや、もう俺は普通にUC使う
UCも実力のうちだ
ディイ・ディー
【賭事】
教えてやろう
俺様は寒さも水も、妖刀なしの反射神経も全部が苦手!
だが、勝負時の逆境こそが俺様を輝かせる
行くぜ、きよ、綾華
問答無用!
――錬成! カミヤドリ!
俺様の本体である黒いダイスの複製品と羽根突きの黒い実
一瞬くらいは見間違うだろ。惑うがよい!
ずるい? ただの褒め言葉だな
あーっはっはは、はァ!? 水飛沫冷てえ!
しかし負けはしねぇ
俺の首にはあの子から貰ったマフラーがある
落ちてこれを濡らすわけには行かな……あ!?
(勝敗お任せ)
勝てば敗者の頬に格好良い入墨風の紋様を描く
負けたら大人しく正座して反省
結局、勝っても負けても寒いじゃねーか
甘酒を飲んだらもうひと勝負だ
次は正々堂々するからさ。マジで!
●賭事――始まり
「さみぃ」
吹き抜けた海風の冷たさに、砂羽風・きよ(屋台のお兄さん・f21482)が思わずぽつりと零していた。
「これ絶対、落ちたら凍え死ぬだろ」
ぱちゃんと飛んできた小さな飛沫の冷たさから海に落ちた時を想像してしまい、きよは身震いしそうになった。
だが――零す言葉と、心の中は裏腹だ。
「だからこそ、この戦い燃えるぜ!」
羽子板を手に、きよは先の「さみぃ」を自ら払拭するように力強く告げた。
「きよ。逆境に燃えているのが、お前だけだと思うなよ」
そんな声に返したのが、ディイ・ディー(Six Sides・f21861)である。
首に巻いたマフラーの裾を風になびかせ、不敵な笑みを浮かべ――。
「教えてやろう! 俺様は寒さも水も、妖刀なしの反射神経も全部が苦手!」
きよに負けない力強い声とは裏腹な内容を、ディイが海に響かせた。
「おお?」
そんな二人の様子に、浮世・綾華(千日紅・f01194)が思わず目を丸くする。
「って、きよはともかく、ディイは全部苦手なのか」
「苦手だ! だが、勝負時の逆境こそが俺様を輝かせる!」
すぐに気づいた綾華のツッコミに、ディイが間髪入れずに返す。
ディイはダイスのヤドリガミ。それもただのダイスではない。幸運の対価に不幸を与えると謂われた、曰く付きの呪物だ。
ダイスとは賭事にも使われる。
だからこそ、ディイは――笑うのだ。苦手な環境でも、不敵に。
「面白れぇ。絶対、負けないからな」
「きよはきよで、それってフラグじゃないかい?」
ディイと視線をぶつけて火花を散らすきよに、綾華が横からぽつり。
ともに綾華に突っ込まれ、ディイときよの火花を散らしていた視線が互いに瞬き、どちらからともなく、ゆっくりと綾華の方に向けられた。
「随分と、余裕ありそうじゃねーか」
「そうそう。綾華はどうなんだ」
「俺? 体幹と読みは自信あるかな」
二人に問い詰められるも、綾華はさらりと返す。
「っつーかまず羽子板だろ。こん中じゃ俺が一番経験者なはずだ」
「マジか。俺、羽根突きとか久しくやってねぇな」
綾華の返しに、きよがオレンジ色の頭髪の上から頭をかく。
「……」
ディイは無言で不敵な笑みを浮かべていた。
どっちだ。その笑みは経験があるのかないのか、どっちだ。
「まあ、いつまでもこうしててもさみぃだけだし。さっさと始めようぜ」
「いつでも構わねーぜ」
「俺もだ」
開始を促すきよに、ディイも綾華も頷いて。
「そんじゃ、ほい――」
きよの手が、羽根を放り上げ――。
「綾華! 手加減してくれ!」
コーンッ!
そんな一言と羽根を打つ音が、【賭事】の船上羽根突きの開始を告げた。
●増える黒
手加減ご指名の綾華の元へと、羽根が飛んでいく。
「おい、きよ! そんな気の抜けた掛け声出してんじゃねえ!」
しかし綾華はしっかりと握った羽子板を構えると、ツッコミとともに全力で羽根を打ち返した。
――ディイへと。
「そう来るか!」
突然の不意打ちにも慌てず、ディイは不慣れながらも羽根を高々と打ち返す。
これは、いきなりのチャンスボールならぬチャンス羽根か。
と思われたとき、ディイが何故か持っていた羽子板を足元に置いた。
「こっちも、問答無用! 行くぜ、きよ、綾華――錬成! カミヤドリ!」
次の瞬間、落下し始めた羽根の周りの空中に、黒い点が増殖した。
――羽根が増えたのじゃー!? 忍術か? 忍者なのか!?
――落ち着きなさい、姫。
そんな興奮した声と、淡々とした声が岸のギャラリーから聞こえる。
「ディイ……そう来たか」
「ディイ、マジか!」
観戦している現地民ほど動揺はしないが、開始早々のディイのユーベルコードに、綾華ときよも、感心と困惑が混ざったような声を上げる。
「俺様の本体である黒いダイスの複製品と、羽根突きの黒い実。一瞬くらいは見間違うだろ。惑うがよい!」
高らかにディイが告げた通り、増えた黒はディイの本体である黒いダイスだ。
確かに遠目には、同じような黒いもの、に見えてしまう。しかもその数、52個。
「ずるくね、それ」
「ずるい? ただの褒め言葉だな」
呻くようなきよの声に、ディイは開き直っているのか不敵なドヤ顔である。
そして黒い点はバラバラの速度で二人に向かって降り注ぎ――。
「……」
綾華は降ってくる黒に、羽子板を一度も降らずに黙って見送った。
「こうなったら――やってやる!」
カコカコカココココーンッ!
一方、きよは降ってきた黒を、一つ残らず打ち返して見せた。しかも、その中に当たりの羽根が混ざっていたりする。
「なァ!?」
ユーベルコードまで使った策があっさりと返され、ディイの方が驚かされていた。
「全部打ち返すとか、マジかよ」
「俺の反射神経なめんなよ!」
慌てて羽子板を拾って打ち返すディイに、今度はきよが不敵な笑みを返す。
「綾華は――いきなり何か見破られた気がする」
「んー……秘密」
まったく動かなかった綾華は、訝しむディイに曖昧な笑みを返していた。
実際、綾華は気づいていた。
(「ディイの本体と羽根とじゃ、色は似てても形が違う。よく見りゃ判るから」)
そう。羽根に使っている無患子の実は真球ではないにせよ、球体である。一方、ディイの本体はダイスだ。20面体とかではない。
ダイス。賽。骰子。
つまり――立方体。
「? なんだ? 何の話しだ?」
綾華がそれを口に出さなかったのは、きよが判ってなさそうだから。
(「頑張って、疲れてくれ」)
これは勝負なのだから。
●戦いは数だと誰かが言った
「あーっはっはは!」
ディイの高笑いとともに、黒いダイスが海の上を飛び交う。
「俺様の本体、ただ増やして終わりだと思うなよ!」
ディイの念力で、全ての黒ダイスがバラバラに縦横無尽に動き回っていた。さらにディイは念動力でダイスに混ざった羽根まで動かしてみせるものだがら、始末が悪い。
「まあ、そう来るよな――ってうわ! これは、やべーな」
動き回るダイスの群れ。その中に隠された羽根探しが一気に難易度を増した状況に、綾華の浮かべた笑みも、さすがに苦笑へと変わる。
「くそっ、ただでさえ、バランス保ちながら打つのムズいってのに!」
きよの表情には、焦りと疲れの色が見えていた。
それでも額を伝う汗をぬぐい、きよは目を凝らす。
ディイが先にユーベルコードを使ったのだ。きよが何かユーベルコードを使っても、文句はどこからも出ないだろう。
だが、きよにそんな気はなかった。
(「使えるの無いしな!」)
使えなかった、とも言う。
「――そこだぁっ!」
飛び交う黒の中から羽根を見極め、きよが跳ぶ。
振るった羽子板はカコンッと軽快な音を立てて、見事に羽根を打ち――。
「あ」
ばしゃーんっ!
足場に届かなかったきよが、冷たい海に落ちて盛大な水飛沫を立てる。
「ぎゃああ! やっぱ水冷てえ!?」
「って、水飛沫かけんな! 冷てえ!」
頭からずぶ濡れたきよの悲痛な声と、その水飛沫がかかったディイの慌てた声が、海の上に響き渡る。
「ま、まあいいぜ。これで後は――」
「コレをこうして、こうな?」
かかった水を拭って向き直ったディイが見たものは、綾華の手から離れた羽子板が増えていく光景だった。
――絡繰ル指。
綾華もまたヤドリガミであり、錬成の業を持つ。その業は本体の器物以外に、綾華の持ち物であれば増やすことが可能な域に達していた。
さらにその数――64個。
「はァ!?」
あっさりと数の優位を覆されて、ディイの声が思わず裏返る。
「俺、水はマジでダメだからな。ユーベルコードも、実力のうちだろ?」
最初の脱落者を回避できたのなら、綾華に出し惜しみする理由もない。
「負けはしねぇ」
再び訪れた逆境に、ディイの手が首元に巻かれたマフラーに伸びる。
黒とグレーのチェック模様が両面に描かれたリバーシブルマフラーは、暖かな冬を送れるようにと、とある少女からディイへの贈り物。
「落ちてこれを濡らすわけには行かないからな」
「ディイ……あんた……」
そんなディイの心中を察したかのように、綾華が目を細め――バラバラに操られた64個の羽子板が空中に散らばっていく。
「「勝負!」」
カコーンッ!
「あー!?」
「海には落とさねーでやるよ」
綾華の64個の羽子板が、ディイの52個の黒ダイスと羽根を悉く海へ叩き落した。
「おし!」
ぐっと拳を掲げて、綾華が喜びを露わにする。
「さーて、なんて落書きしてやろうか。きよには『きよし』でいいとして。ディイも『きよし』でいいか……」
笑顔で勝者の特権を考えながら、綾華は再び発動した絡繰ル指で、今度は鳥籠を増やして組み合わせていく。
「乗ってくか?」
「……乗ってく」
鳥籠の筏は綾華とディイを乗せて、ふわりと浮かび上がり――。
あれ? 誰か忘れてない?
「って置いていくなよぉぉぉ!」
不憫にも一人置いてかれたきよが、ダッシュで二人を追いかけていく。
「結局、勝っても負けても寒いじゃねーか」
「これ、負けた人辛くねぇ?」
「良かった、勝って。何度か、ひえーって、危なかったよ」
最後は三人で甘酒囲んで――(いきなりユーベルコードした反省の)正座したまま綾華に落書きされながら、もう一度勝負を、と懇願するディイの後ろで、きよがもう十分だと首を左右に振っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御剣・誉
京杜(f17071)と
ふむ…
羽根突きをやった記憶はないけど
バドミントンや卓球の親戚みたいなもんだろ
じゃ、京杜やってみる?
ん、ちょっとまって
え?エリンギもやってみたい?
別にいいけど、ルール知ってるか?
海に落ちないように気をつけてな
あ、ついでにルシルも入ってな
エリンギが楽しめるように本気は出さず
まったりお子様向けの接待羽根突き
京杜が少しでも本気を見せようものなら
容赦なく打ち返してブーイング
そんなのエリンギが打てないだろ
神様ならそれくらい気を遣えよ
エリンギも言ってやっていいぞ
え?顔に落書きしたい?
接待羽根突きに飽きたら甘酒飲もうっと
エリンギも満足したか?
良かったなー
勝負はMSにお任せ
姫城・京杜
誉(f11407)と
ふ、羽根付きか
俺の圧倒的パワーと器用(貧乏)さを見せてやるぞ!
おう、やってみよーぜ!
って、エリンギも参戦だと…(きゅん
その可愛さに勝てる気しないのは気のせいか
まぁ人多いほど楽しそうだからな
ルシルも一緒やろうぜ!
エリンギの可愛さに終始デレ
エリンギには超ふんわ~り打つ
でもな…誉には容赦しねェ!(本気で打ち込むも
あっ、エリンギ!?誉に近寄ったら危ねェから!
ご、誤解だ、エリンギ!ほら、ふんわ~り
なっ、俺だって一応神なんだぞ!
すげー神業で精巧な紅鮭フィギュア作っただろ!
てか、やっぱエリンギ超かわい…あっ(すかっ
エリンギに落書きされるなら本望
甘酒は俺も欲しい、エリンギと飲む!
勝敗お任せ
●紅の好奇心
「羽根突きをやった記憶はないけど、バドミントンや卓球の親戚みたいなもんか」
行われた羽根突きを眺めていた御剣・誉(焼肉王子・f11407)が、ふむと頷く。
「じゃ、オレらもやってみるか、京杜?」
「やってみよーぜ! 俺の圧倒的パワーと器用さを見せてやるぞ!」
勝負を振ってきた誉に、姫城・京杜(紅い焔神・f17071)が、顔の前でぐっと拳を握ってみせる。
「京杜の場合、器用貧乏、だろ」
「よし、容赦しねえ」
にまりと笑った誉の一言に、京杜の拳が燃え上がり――。
『ぎゃーう』
そんな空気を、鶴の一声ならぬエリンギの一声が霧散させた。
「え? エリンギも羽根突きやってみたい?」
『ぎゃう♪』
誉に聞き返されて、仔竜がコクコク頷く。首輪についた石と同じ紅い瞳は、好奇心でキラキラと輝いていた。
「エリンギも参戦だと……」
硬く握っていた京杜の拳から、緩々と力が抜けていく。
「別にいいけど、ルール知ってるか? これを使って――」
『ぎゃーぎゃっ』
「え、見て覚えた? そっか。なら海に落ちないように気をつけてな」
案ずる誉の目の前で、エリンギはまだ小さな翼でパタパタと浮かんでみせる。
(「エリンギ……! その可愛さに勝てる気しないのは、気のせいか?」)
それを口に出さないように抑えて、京杜は胸中で呟く。顔にめっちゃ出ていたのは、多分誰も気づいていない――筈。
こうして、二人と一匹は羽子板を手に海に浮かんだ板の上へと――。
「ついでにルシルも入ってな」
「ルシルは俺と一緒やろうぜ!」
「え? え?」
数合わせでエルフが一人、直前で引っ張り出されていた。
●接待というか、ただのエリンギを愛でる会では
「それじゃ、始めるぞー」
こぉんっ。
誉の手が羽根を放って、軽く振った羽子板がそれを打ち上げる。
「よーし、行くぞ、エリンギ」
かこん。
放物線を描いて飛んできた羽根を、京杜がほとんど力を入れずに打ち返す。
「来たぞ、エリンギ!」
『ぎゃーっ』
ひょろひょろ~と飛んできた羽根を、エリンギがしっかりと抱えた羽子板で、こつんっと打ち返した。
「くっ……やはりエリンギ可愛いな!」
羽子板抱えたエリンギにすっかりデレデレな京杜の頭上を、羽根が通り過ぎていく。
「あ、これは私が打つよ」
後ろに回ったルシルが、軽く羽子板を構え――。
「いいか、ルシル。エリンギが打てるように、そーっと、超ふんわ~りとだぞ」
力を入れるな、と力強く訴える京杜に苦笑しつつ、ルシルは言われた通りに最低限の力で、こーんと羽根を打ち上げた。
何かこう――すげえ平和な羽根突きである。
羽根突きって本来こう言うものだった気もする。
それもこれも、仔竜エリンギのお陰だった。
エリンギに合わせてまったりモードな、いわゆる接待羽根突きである。
「でもこれ、勝負が付かなくないかい?」
放っておいたらエンドレス。
それを危惧して、ルシルがぽつりと告げる。
「そうだな。だから――誉には容赦しねェ!!」
振り向かずに頷いて、京杜は羽子板を持つ手にぐっと力を込めた。
「くらえ、誉!」
コォォォンッ!
京杜が全力で振り下ろした羽子板が、これまでの接待とはまるで違う硬い音を立て、誉目掛けて羽根を打ち出す。
『ぎゃーっ』
急に勢いを増した羽根に猫のように引き寄せられて、エリンギが急降下。
「あっ、エリンギ!? 今、誉に近寄ったら危ねェ――」
「危ねーのは京杜だ!」
カーンッ!
慌てた京杜の声を、誉の声と羽根を打ち返した音が遮る。
「なんだよ、そんなのエリンギが打てないだろ。神様ならそれくらい気を遣えよ」
「待て。ならってなんだ。俺だって一応神なんだぞ! すげー神業で精巧な紅鮭フィギュア作っただろ!」
誉が上げた抗議の声に、京杜が言い返す。
『ぎゃー! ぎゃー!』
「おお。エリンギも言ってやれ」
「ご、誤解だ、エリンギ!」
だが、そこにエリンギも誉と一緒に抗議するかのように騒がしく鳴きだせば、京杜の中の辞書から一時、『戦意』の文字が消えるのに十分だった。
「ご、誤解だ、エリンギ! ほら、ふんわ~り。なっ?」
打ち返された羽根を、京杜が渾身の力の抜きっぷりで、緩やかーに打ち上げる。
『ぎゃわっぎゃー!』
しかしエリンギは何を学んだのか、うまく尻尾も使ってぐるんぐるんと回転し、勢いをつけて羽根を打ってみせた。
「おお、エリンギすごいぞ!」「エリンギすげぇ!」
それを見た誉と京杜が、ほとんど同時に、ほとんど同じ言葉を思わず口走る。
そんな二人の目の前で、羽根はまっすぐ飛んでいき――。
「あ、京杜。避け――」
気づいたルシルが避けろ、と言い終わる前に。羽根は京杜の額に、スコーンといい音を立てて打ち込まれていた。
京杜、アウトで2対1。
『ぎゃーっ♪ ぎゃーう♪』
そこで何やら楽しげに鳴きながら、エリンギが誉の肩に降りてくる。
「どうした、エリンギ。満足した? ……え? 京杜の顔に落書きしたい?」
『ぎゃう』
エリンギ。一発当てて、満足したらしい。
そしてこの時点で――誉は正直、接待羽根突きに、そろそろ飽きていたのだ。
「満足できて良かったなー、エリンギ。じゃあ落書きの前に、甘酒貰いに行こうぜ」
『ぎゃうっ』
誉の言葉に、エリンギがこくんと頷く。
「じゃあ、ルシル。オレ、エリンギと甘酒飲んでくっから。京杜は任せた!」
『ぎゃっ!』
言うが早いか。誉はエリンギを乗せたまま、ひょいひょいと板を渡って甘酒が待つ岸へ向かっていった。
「えーと」
後に残されたルシルは、少し困った顔で、額を抑えて蹲る京杜の肩を叩く。
「と言うことだけど、大丈夫? 京杜、聞こえてた?」
「――ンギ――」
うん?
「やっぱエリンギ超かわいいな!」
最後のエリンギの回転アタックが妙にツボったらしい京杜は、この後に顔に落書きされる運命が待っていようが、デレデレだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アンテロ・ヴィルスカ
フィッダ君(f18408)と
のんびり御参りやお祭りも悪くないが、体を動かさなくてはねぇ?鈍ってしまうよ。
羽子板を手に、一つ彼に放ってやればお誘いに言葉はいらないな。
彼からのXmasの贈り物、魔法のインクの万年筆を胸ポケットに忍ばせて…
俺が勝ったら君に『謹賀新年』と書こう、宣言に意味はないよ。ふふ。
勝負は正々堂々…これはお遊びだからね?なんて、もし落とされる事が有れば【念動力】を通した「銀鎖』で足を引っ掛けて道連れだ。
…落書きはまあ、甘んじて受け入れよう、いつも彼にやっているしな。
甘酒は君でも飲めるそうじゃないか、濡れるのもそう悪くはないさ。
(アドリブなどご自由に、勝敗はMS様にお任せします)
フィッダ・ヨクセム
アンテロ(f03396)と
…新年には変わッた遊戯があるモンなんだなァ?
羽子板を受け取れば、そりャあ意図を察する
…ああ、アンタ、俺様が無様に打ち損なう事を想像してるだろ
そこまで、想像通りの不健康じャねェよ俺様は!
こーいうの、……やッたこたァねェけど。
俺様が勝ッたらアンタに『あけおめ』ッて書いてやる
ペン貸せよ、持ってるだろ
宣言されたら張りあうとこだ、男に二言はねェよ
普段隣にいる『スナイパー』を舐めているな?
足場が悪いのはお互い様だが、盲点くらいすぐ見極めてやるぞ
勝ち気に攻めるが、…遊びは遊びだ
負け確定なら、アンテロの足に羽子板投擲で転倒を狙う
一人負けはつまらねェしな!
アンタは冬の海を舐め過ぎだよ…
●無言の誘い
「……新年には変わッた遊戯があるモンなんだなァ?」
海の上で三様に繰り広げられた羽根突きを眺めていた、フィッダ・ヨクセム(停スル夢・f18408)が眉間を寄せる。
「まあ、のんびり御参りやお祭りも悪くないが――」
聞き慣れたその声は、後ろから聞こえた。
「体を動かさなくてはねぇ? 鈍ってしまうよ」
振り向いたフィッダに、アンテロ・ヴィルスカ(黒錆・f03396)が二つ持っていた羽子板の片方を放り投げた。
この二人には、勝負の誘いはそれで充分。
アンテロとフィッダは、それぞれ羽子板を手に海に浮かんだ板の上へ出ていった。
●遊戯と勝負の境界
「正々堂々と行こうか」
告げた言葉が嘘ではないと示すかの様に、アンテロが軽く振った羽子板で打った羽根はまっすぐな軌道を描いて飛んで行った。
「ハッ、どの口で言ってんだ」
波に揺れる板の上で、フィッダは羽根を勢い良く打ち返す。
「勝負事とは言え、これはお遊びだからね?」
訝しむフィッダに、アンテロは穏やかな笑みを浮かべて羽根を打ち返した。
だが――フィッダは知っている。
アンテロの笑みは大抵、作った笑顔だ。その裏で、平然と不意打ちや悪戯を考えていたとしても、何らおかしくない。
「まァ、確かに遊びは遊びだァな!」
だからフィッダも口では同意するような事を言いながら、アンテロの動きの隙を見極めようと目を凝らす。
一見穏やかに打ち合っているように見えて、その実、腹の底の探り合い。
それでも緊迫した空気にならないのは――『遊び』と口にしたのも、二人の本心であると言うことだ。
所詮、遊びは遊び。
これは戦いではないのだと。
そうは言っても、勝負事。続ける内に熱が溜まる。
身体に溜まった熱と――良く知る相手だからこそ、素直に負けたくないと言う熱が。
「俺が勝ったら君に『謹賀新年』と書こう」
どこか悪戯っぽい笑みを浮かべたアンテロが、コーンッと小気味いい音を立てて羽根を高々と打ち上げる。
大きく弧を描いた羽根は、やがて重力に従い向きを変えた。
「……アンタさ。俺様が無様に打ち損なう事を想像してるだろ」
板から板へと跳んで、その落下点に回り込んだフィッダは、やや憮然とした表情で言いながら羽根を打ち返す。
「宣言に意味はないよ。ふふ」
その表情に気づいて、アンテロは曖昧に笑いながら、もう一度高い軌道を描くように羽根を打ち返した。だが、この物言いでは、否定も肯定もしていないようなもの。
「まァ確かに、こーいうの、……やッたこたァねェけど」
頭上を越えていきそうな羽根を追って下がりながら、フィッダがぼやく。
「そこまで、想像通りの不健康じャねェよ俺様は!」
先のアンテロの物言いは、否定も肯定もしていないようなもの。
だからフィッダは敢えて力を籠めて腕を振り、吐いた言葉以上に荒々しく羽根を打ち返してみせる。
「……不健康とまでは、言っていないのだけどね」
アンテロが苦笑を浮かべたのは、その言葉にか、打ち込まれた羽根の鋭さにか。
「るせェ! 俺様が勝ッたらアンタに『あけおめ』ッて書いてやる!」
いつしかフィッダの赤茶い瞳は、最も得意とする炎の術の様に爛々としていた。
こうして遊びは、遊びでありながら男の勝負になる。
右へ左へと、フィッダを走らせるように羽根を打つアンテロ。
逆にフィッダは、アンテロが動けないようにまっすぐに鋭く羽根を打ち込む。
「っ……これは」
アンテロが気付いた時には、足場の板が、他の板に飛び移りにくいほどに大きく揺れだしていた。
「普段……隣にいる『スナイパー』を……舐めてねェか?」
瞠目するアンテロに、肩を上下させながらフィッダが告げる。
そうは言っても、フィッダの体力も、アンテロの思惑通りに削られていた。
「足場が悪いのはお互い様だが、盲点見極めるくらい、走りながらでも出来んだ!」
だからこそ、フィッダは勝負をかける。
スコーンッと鋭く羽根を打ち込んだのは、揺れる板の上で踏ん張るアンテロの脚。
低い軌道は打ち返しにくく、避けるには揺れる板の上で片足立ちになるしかない。
(「甘んじて当たれば――まあそれなりに痛いだろうな。これは、やられたか」)
己が詰みになっていると、アンテロは胸中で自嘲する。
手段を選ばなければ手がない事もないが――これは遊びだ。
「甘酒は君でも飲めるそうじゃないか」
唐突にアンテロが呟いたその言葉に、フィッダが目を丸くする。
今にも板から落ちそうなところで何を?
「濡れるのもそう悪くはないさ」
ふっと笑ったアンテロの袖から、銀の鎖が放たれる。
「あのなァ……アンタは冬の海を舐め過ぎだよ」
フィッダが気付いた時には、銀鎖はアンテロの念動力で足に絡みついていて――。
ドボンッと人が落ちる水音が、二つ同時に響いた。
●変わらぬもの
「ペン貸せ。持ってるだろ」
「どうぞ」
睨むフィッダに、アンテロが内に忍ばせていたペンを渡す。
それは先のクリスマスにフィッダがアンテロに贈った魔法のペン。
道連れに落ちたとはいえ、先に詰まされたのは自分だと、そこはアンテロも素直に認めて落書きを受け入れていた。
(「まあ、いつも彼にやっているしな」)
そこだけは、胸中に飲み込んで。
「しかし、あんなに勝気に攻めてくるとはねぇ」
代わりに少し意外そうに、アンテロはフィッダを見やる。
「先に宣言したのはアンタだ。そこは張りあうとこだ、男に二言はねェよ」
きゅぽっとペンの蓋を取りながら、フィッダは当然の様に告げた。
――俺が勝ったら君に『謹賀新年』と書こう。
あの一言。本当にアンテロが言った通りに意味がなかったにせよ、フィッダにとっては張り合うに十分なものであった。
「それに、一人負けはつまらねェしな!」
先に負け確定に追い込まれたら、アンテロも海に落としてやろうと思っていたのはフィッダも同じ。
この二人、どちらが勝つにせよ――どちらも濡れる運命にあったようである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木元・杏
【かんさつにっき】
橙色の振袖姿で
海と共に生きる民らしい羽子板in海
りたーん・おぶ・燧島の皆
ん、これ……袖の下、ではなくお年玉(黄金のお菓子を姫さまに差し出し
ガーネットとタッグ組むという、わたしがクソザコでも勝ち筋を掴む高度な戦略(こく
チョロそうな姫さま&風早屋さんコンビ、いざ勝負!(びしっと羽子板向け)
…あ、揺れる(板ぐらぐら)
ガーネットとこくんと目配せ
鶏柄の羽子板で、ぽーんと飛んできた羽根をすぱーんと打つ!
…ガーネット、羽根、真上にいった
気を取り直して
すぱーん
……羽根、あっちこっちに飛んでいく
一瞬の隙を狙われたら即座に反…
ゆ、揺れ…
負けたらガーネットと顔に落書きし合う
ふふ、今年もよろしくね
ガーネット・グレイローズ
【かんさつにっき・WIZ】
燧島の皆さん、お久し振りです。鉄甲船サルベージ作戦では、お世話になりました(ぺこり)
羽根つきというのはエンパイア流のバドミントンのような遊びかな。杏とタッグを組んで、姫と風早屋さんに勝負を挑もう。
えっ、ミスしたら落書き?変なプレッシャーをかけるのはやめなさい
おそらく風早屋は、体力のない姫を庇おうとするだろう…
そしてこの中で一番体が重く、士気も低い彼を狙わない手はない。
…よし、いくぞ
「海の男のバランス感覚を見せてもらいましょう!」
〈コミュ力〉で杏と連携し、〈ジャンプ〉で軽快に飛び移る。
チームワークが大事。
「上か?よし、私に任せろ…うっ、眩しい!」
「…今のは練習だ」
木元・祭莉
【かんさつにっき】で。
紋付き袴で!(七五三風)
やほー、あけましておめでとー!
姫様、元気してた? 晴れ着、キレイだねー♪
風早屋さんも♪(ハイタッチ)
羽付き勝負?
よし、コダちゃん(f12224)勝負だっ!(びし)
燧島の今牛若(自称)、おいらの雄姿をご覧あれー、特に姫様♪
襷掛けして、温泉卓球な打ち合い!
ダッシュジャンプとバランス感覚には自信あるんだー♪
かんこんひらひら~☆
でも、コダちゃんに勝つにはネタが大事!(確信)
あ、海から長老が!?
今だ、と構えたトコに。
はぅ、姫様がっ!?(足元お留守)
ばっしゃーん。
むー、策士策に溺れたー。(無念)
そうだ、長老は?
寒いから来てない? そっかー、後で挨拶に行こっと♪
シリン・カービン
【かんさつにっき】
燧島も久しぶりですね。
皆お元気そうで何よりです。
着物姿で姫たちに丁寧に挨拶。
羽根突きは皆の応援をしながらのんびり観戦、のつもりだったのですが。
「こんなことになるとは思いませんでしたね…」
まさかの、『りょうし』対決。
海吉と今まで獲った獲物の話をしていたら
つい熱くなって勝負することに…呑んでませんよ?(ひっく)
さすがは、海の漢。
私は着物とは言え、猟兵の身体能力に引けを取らないとは。(ふら)
「…あなたは私の獲物」
軽やかに板を跳び、ずきゅーんと効果音付きのレーザースマッシュ。
ふふふ、彼には安全祈願のまじない紋を描いてあげましゃう。(よろり)
え、次はお父上(海蔵)がやる気になってる?
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
姫様久しぶり
土わらしもいるかな?
風早屋は相変わらずね
元気そうで何より
折角だし海の仲間も
蟹さん烏賊さんお魚さんに鯨さん
色々呼んで賑やかに
応援したりお手伝いしたり
私より役に立つって?煩いなぁ
今日は着物でお淑やかにする日なの(※無理です
ふふ、分かってるじゃない祭莉ん
その勝負受けて立つわ!(びし)
海なら私の方が慣れてるわ
波を見切り地形を利用
軽快なステップで打ち合いを
ふふ、やるじゃないの
ならこれはどうかしら?
波を利用し大きく跳躍振りかぶり…
え?長老のうさ耳??(祭莉んデマに空振り
しまった!?でも羽はまだ落ちてない
姫様そんな所で着替えちゃダメ!(デマ作戦その2
そう簡単には負けないからね!
琶咲・真琴
【かんさつにっき】
エンパイアの戦争の時に姉さん達が知り合った人達なんですね
ボクは真琴と言います
姉さん達がお世話になりました
今日はよろしくお願いしますね!
今日のボクは海で濡れた人のバックアップですよ
UCで焚き火をやりますよ
炎の畏れは抑えて
火傷に気を付けて
濡れた服もキッチリと乾かします
あ、姉さんとまつりん兄さんが対決してる
姉さん、頑張れー!
羽子板勝負と言うよりもネタ合戦?
あっちは杏姉さんとガーネットさんがタッグ勝負中ですね
ナイス連携です!
って、あれ?
いつの間にかシリンさんが海吉さんと対決してるー?!
え、何かフラついている?
お酒呑んでる
絶対呑んでる?!
お祖父ちゃん、お祖母ちゃん
お願ーい!
アドリブ歓迎
●かんさつにっき――広がる縁と世界
「やほー、あけましておめでとー!」
「おー、祭莉ではないか。あけましておめでとうじゃ」
正月は和服と紋付き袴でびしっと決めた木元・祭莉(オオカネコミミレッドメイド・f16554)に、晴れ着姿の朔八姫がゆるりと手を振る。
「杏も、おめでとう」
「ん。これ……袖の下、ではなくお年玉」
すぐ後ろにいた木元・杏(たれあん・f16565)は、手を振る朔八姫に橙色の振袖から、いつかの黄金のお菓子を取り出してみせた。
「……。ま、運動すればよいかの」
杏から受け取ったそれに一瞬、何かを逡巡する素振りを見せた朔八姫だが、黄金のお菓子の魅力に負けて、もふりと齧り付く。
「おや、皆様。お揃いで」
そんな朔八姫の後ろから、風早屋以下、島の漁師たちが近づいてくる。
「燧島の皆さん、お久し振りです。鉄甲船引き揚げでは、お世話になりました」
「いやいや、世話になってるのはこっちの方でさぁ」
いつものゴシック調の黒い衣装のガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)が軽く頭を下げれば、壮年の漁師が恐縮しきって深々と頭をさげる。
「姫様も、皆も、お元気そうで何よりです」
漁師たち同様に深々と挨拶をするシリン・カービン(緑の狩り人・f04146)は、白い着物姿。ガーネットと並ぶと、モノトーンで対照的だ。
「……」
「姫様、晴れ着、キレイだねー♪」
お辞儀の丁寧さにか、見惚れたようにシリンを見上げていた朔八姫に、祭莉がにぱっと笑って声をかける。
「そうであろう? 晴れ着は風早のが用立ててくれたのだ」
朔八姫はくるりとその場で回ってみせれば、その手にある黄金のお菓子にも似た淡い黄色を基調とした振袖がふわりと揺れた。
「へぇ……風早屋が、ねぇ」
「……何ですかな?」
こちらも着物姿の鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)が向けた、もの言いたげな視線から、風早屋が目を逸らす。
その素振りに「相変わらずね」と笑って、小太刀は後ろを振り向き手招き。
小太刀と同じ髪色の小さな人影が、ととと、と駆け寄ってきた。
「ボクは真琴と言います。姉さん達がお世話になりました」
琶咲・真琴(今は幼き力の継承者・f08611)が朔八姫たちに、ぺこりと頭を下げる。
真琴も全くの初対面ではないのだが、以前、この島を訪れた時は戦争の最中の事。こんな風にゆっくり挨拶をする暇がなかった。
「いやいや、世話になったのはこちらの方なのじゃ」
朔八姫も真琴にぺこりと頭を下げて――。
「小太刀に、こんな可愛らしい妹御がおったのじゃの」
顔を上げると、笑顔でそんなことを言ってきた。
「あー……やっぱり、そう見えるわよね」
良くある事とはいえ、小太刀が思わず苦笑する。
「姫さま。真琴は、小太刀の弟」
「おと……うと……?」
杏の口から告げられた事実に、朔八姫の――否、風早屋以下、燧島の住人達全員の目が大きく見開かれた。
さもありなん。
真琴の装いは、小太刀とお揃いの着物である。勿論、振袖。
どう見ても、ボクっ娘である。
「……世界は……広いのう……」
新たな世界を知って、朔八姫は遠い目になっていた。
「こうして皆、大人になっていくものですね」
「まあ、良くあることだ」
シリンとガーネットの年長者組は、訳知り顔で頷いている。
「ところで、土わらしたちはいないの? 長老は? 姿が見えないけど」
場の空気を変えようと、祭莉が姿の見えぬ土着の物の怪のことを尋ねる。
「ああ。彼らなら冬眠中ですよ」
風早屋がさらりと返した答えに、今度は猟兵たちが目を丸くする番だった。
本当に、世界は広い。
●ある意味、接戦
「姫さま、風早屋さん。いざ勝負!」
「海の男のバランス感覚を見せてもらいましょう!」
杏とガーネットがピタリと揃った動きで羽子板を突き付ける。
「おお。受けて立つぞ!」
「え、私ですか?」
勝負を挑まれた朔八姫と風早屋の反応は、実に対照的。
「姫様も、そんな安請け合いをするものでは――」
「何を言うか、風早。正月の食っちゃ寝でたるんだのではないか!」
気乗りしない様子の風早屋の背中を押して、朔八姫が海に浮かべた板へと向かう。
「食っちゃ寝……姫さまの事かな?」
「おそらく」
その後ろに続きながら、杏とガーネットが顔を見合わせる。
黄金のお菓子をちょっと逡巡した理由はそれかと、杏は思わず頷いていた。
改めて、4人が海の上の板に乗って向かい合う。
「姫さま……勝たせてもらう、ね」
「恩のある杏相手でも、勝負は勝負。容赦はせぬぞ」
杏と朔八姫が、静かに火花を散らし――。
「……あ、揺れる」
「ゆ、揺れるのう……」
そこにザブンと少し強い波が来て板がグラッと揺れると、二人とも膝をついて板に掴まってしまう。
「……」
「……」
ガーネットと風早屋が、思わず視線を交わしていた。大丈夫かな?
だが――杏も朔八姫も、勝つ気はあるのだ。
(「ガーネットとタッグなら、わたしがクソザコでも勝ち筋を掴める。高度な戦略」)
(「風早屋は何だかんだ言うても負けず嫌いだし、頭も良いからのう。この勝負、もらったのじゃ!」)
どちらも、パートナー頼りだったりだったりするけれど。
「仕方ありませんね」
気が抜けたような風早屋の声とともに、コーンッと羽根が飛んでいく。
(「ん、任せて」)
(「頼むぞ」)
杏とガーネットは互いの視線と首の動きだけで、無言の内に意思を交わす。
こくんと頷いた杏が鶏柄の羽子板を構える。飛んできた羽根をしっかりとみて、杏は羽子板を振り下ろし――。
すぱーん!
いい音を立てて杏が打った羽根は、ロケットの様に飛んでった。
上に。
「……ガーネット、羽根、真上にいった」
何故振り下ろしで、真上に飛んでいくのか。ミステリー。
「大丈夫だ。見えている。私に任せろ……」
杏が打ち上げた羽根をガーネットはしっかりと目で追いかけて――。
「うっ、眩しい!」
ガーネットの視界に、空に輝く太陽が目に入る。
その眩しさに思わず目をしかめてしまったガーネットの足元に、羽根が落ちてきてコツンと乾いた音を立てた。
「「「……」」」
「……今のは練習だ。ということに、しておいてくれないか?」
場に下りた沈黙にバツが悪そうにしながら、ガーネットが口を開く。
「ほう? 燧島一の商人であるこの私に貸しを作ると?」
「やめんか、風早の」
なんか妙に生き生きとしだした風早屋を、朔八姫が後ろから羽子板で小突く。
「構わぬよ。ただし、次もこちらから打たせて貰うのじゃ」
「ああ、それでいい。感謝する」
朔八姫の申し出に頷いて、ガーネットが羽根を放り投げる。
「っとと」
少々辿辿しい手つきでキャッチすると、朔八姫は羽子板を構えて――。
「ガーネット。羽根突き、負けたら、顔に落書きだから」
「えっ、落書き? 変なプレッシャーをかけるのはやめなさい」
杏の言葉に、ガーネットが思わず振り向く。杏の目を見れば、それがただプレッシャーをかけるためではなく、現実なのだと語っていた。
「そうか……それは負けられないな」
ガーネットが赤い瞳を細め、真っ赤な羽子板を握りなおす。
すこーんっ!
「風早の! 真上に行ったぞ!」
「なんで! その打ち方で! そっちに飛んでいくんですか!」
朔八姫の手を離れた羽根は、再び真上に飛んで行っていた。
結局――。
すぱーん!
かこーん!
「……羽根、あっちこっちに飛んでいく」
立てる軽快な音とは裏腹に、杏が打った羽根の9割は、杏が思いもしない方向に飛んで行っていて。
「も、もう動けんのじゃ……」
朔八姫は杏よりは幾らか打てていたが――なまじ打てた分、早々に疲れが出ていた。
「商人が……肉体労働……得意だと……思いましたか……」
そしてその分走り回された風早屋も、朔八姫に続いて息も絶え絶えに。
「……これでいいのだろうか」
結局、スタミナで勝ったガーネットの一人勝ちであった。
●真剣ネタ勝負
「よし、コダちゃん勝負だっ!」
「ふふ、分かってるじゃない祭莉ん――その勝負受けて立つわ!」
メタリックな鶏柄の羽子板と勝負を祭莉に突き付けられて、小太刀が二つ返事で頷き羽子板を突き付け返す。
「燧島の今牛若、おいらの雄姿をご覧あれー」
特に朔八姫に見てほしいと思い、祭莉は袖を襷でたくし上げながら、敢えて声を大にして告げる。
「海なら私の方が慣れてるわよ。かわいい海の仲間達もいるしね。皆、おいで!」
こちらも着物の袖に襷をかけてたくし上げながら、小太刀が海の仲間を喚び出す。
蟹、烏賊、トビウオ、鯨、etc。
大小も様々な海の仲間が、小太刀の後ろの海に表れた。
「え、コダちゃん、それはずるくない?」
「安心して祭莉ん。応援したりお手伝いしたり、賑やかにして貰うだけだから」
祭莉の指摘に返した小太刀の背後で、鯨の飛沫が上がっていた。
カンッ!
カコンッ! コンッ!
カンコンカンコンコンッ!
羽根を打つ音が、尋常ならざる速度で鳴り響き続ける。
祭莉と小太刀の羽根突きは、海の上だというにも関わらず、まるでテニスか卓球のような激しいラリーの応酬になっていった。
「ふふ、やるじゃないの」
小太刀は波の動きを見切って、板の揺れを利用し軽快なステップを踏みながら、打つときは素早く羽子板を振るう。
「コダちゃんもね!」
一方祭莉が駆使しているのが、勢いと体幹。ダッシュや跳躍の勢い、着地でぶれないバランス感覚。
小太刀と祭莉は、互いに互いの動きを称賛する。
だが、実力が拮抗している分、このままでは二人の決着は遠い――と、観戦していた現地の人々は思ったそうである。
「なら――これはどうかしら?」
波の動きを利用して、小太刀が板を蹴って大きく跳び上がる。
(「コダちゃんに勝つにはネタが大事!」)
その姿を見ながら、祭莉は確信を抱いて、勝負の流れを変える一手を打つ。
「あ、海からうさ耳の土わらしの長老が!?」
「え? 長老のうさ耳?」
祭莉が声を張り上げたホラでタイミングがずれた小太刀の羽子板が、空を切る。
「しまった!?」
それが祭莉の策だと気づいた時には、小太刀の身体は落下を始めていた。
(「でも羽根はまだ落ちてない」)
ぎりぎりの状況でも、小太刀はまだ勝負をあきらめていなかった。
板に降り立つや否や、すぐに隣の板へと飛び移る。さらにその隣りへ。波からの飛沫で多少濡れるのも、着物の裾が多少乱れるのもお構いなしに、小太刀は羽根が落ちてくるであろう所まで板の上を駆けていき――。
「姫様! 濡れたからって、そんな所で着替えちゃダメ!」
羽根を打つ直前、今度は小太刀がそんなホラを吹いた。
「はぅ、姫様がっ!?」
「そこっ!」
自分もやった手なのに引っ掛かって振り向いた祭莉の足元を狙って、小太刀が素早く打ち込んだ羽根が、祭莉の膝の裏を直撃し――。
ばっしゃーんと派手な水音を立てて、祭莉の姿が一瞬、海に消えた。
●岸にて
「―――神羅畏楼・白銀蜃焔」
真琴の掌から放たれた白い炎が、ボウッと燃え上がる。
「これで良し」
火力を調節した白焔を火種に轟と燃え上がった焚火を前に、真琴は満足そうな笑みを浮かべて一人頷いていた。
「これで皆が濡れても、きっと大丈夫です」
真琴は羽子板も持たず、仲間のために焚き火を熾すことに専念していた。
「あっちは、杏姉さんとガーネットさんがタッグ勝負中ですね。ナイス連携です!」
真琴には連携に見えていたようだが、杏が思ったのとは違う方向に飛ばした羽根を、ガーネットが頑張って繋げていた、というのが真相だったりする。
――カンコンカンコンコンッ!
「あ、向こうでは姉さんとまつりん兄さんが対決してる!」
立て続けに聞こえてきた硬い音に真琴が視線を向けると、祭莉と小太刀が激しいラリーを繰り広げているところだった。
「姉さん、頑張れー!」
なんとも温度差があるのだが、真琴はその辺さらりと流して、姉に声援を送る。
――あ、海からうさ耳の土わらしの長老が!?
――姫様! 濡れたからって、そんな所で着替えちゃダメ!
「……ネタ合戦?」
聞こえてくるホラに、真琴が首を傾げていると、高く跳んでいた小太刀が板の上に着地して――。
「って、姉さんー!?」
着物の裾が多少乱れるのもお構いなしに駆けだした小太刀の姿に、真琴が思わず大声を上げていた。
――今日は着物でお淑やかにする日だから。
着付けの最中に、そう言っていたのに。
「シリンさんからも、何か言ってくださ――あれ? シリンさん?」
何か言って貰おうと真琴が頼ろうとした大人の女性は――さっきまでそこにいた筈が、いつの間にかいなくなっていた。
●りょうしの意地と大人の世界
(「どうしてこうなったんでしたっけ」)
火照った頭で、シリンはぼんやりと考える。
羽根突きをするつもりは、なかったのだ。真琴の焚き火に当たりながら、燧島の人々と酒を飲み交わし、のんびり観戦――そのつもりだったのに。
「へえ、お嬢さんも『りょうし』なのかい。どんな獲物を獲ったんだ?」
「そうですねえ……最近だと、黒いドラゴンとか」
「どら、ごん?」
「まあ、翼が生えてて硬いうろこを持つ大きなトカゲですよ」
海と森。漁と猟。フィールドや使う道具に違いはあれども、ともに獲物を狩るものとして、シリンは海吉と獲物の話に花が咲き。
「へ、へぇ……だ、だがよう。獲物の数だったら、俺も負けねえぞ!」
「そうだそうだ! 海吉の投網の腕は一級品だぜ!」
ついつい張り合ってしまったのは、どちらからだったか。
「なら……(ひっく)……あれで、白黒つけますか?」
なんて海の上を指さしたのは、シリンだった気もする。
「こんなことになるとは思いませんでしたね……」
酔いで頬を赤くしたシリンは、ふわりと跳んで海吉へ羽根を打ち込んだ。
「あ、シリンさんいた。いつの間に……」
気づいたらいなくなっていたシリンを探していた真琴が、その姿を見つける。
「ん? んん? え、何かフラついている?」
板の上に立っているだけなのに、何故かシリンは前後左右に揺れている。
「そう言えば、シリンさん、お酒呑んでたような」
「あ、真琴。……呑んでませんよ?」
気づいたシリンが手を振るが、その途中でひっくと身体が揺れた。
「絶対呑んでるー!?」
驚きながら、真琴がシリンの相手の方を見ると――。
「うぃっく……や、やるじゃねえかぁ」
「あっちも呑んでるー!?」
海吉も、顔真っ赤だった。
「こ、これが大人の世界……」
朔八姫に新たな世界を知らしめた真琴が、今度は新たな世界を知る番であった。
(「さすがは、海の漢、ですね」)
ややふわふわした思考の中でも、シリンは相手をちゃんと見ていた。
(「私が着物とは言え、猟兵の身体能力に引けを取らないとは――」)
(多分きっと)波のせいでふらつく視界の中で、シリンは海吉に狙いを定める。
カコーンッと羽根が打ち込まれた直後、シリンは板を蹴って跳んでいた。
「……あなたは私の獲物」
認めたからこそ、容赦はしない。
シリンは羽子板で出せる全力で、空中で羽根を打ち込む。
ずぎゅんっ!
羽根突きにあるまじき音を立てて放たれた羽根は、さながら一条の光となって海吉の立っていた板を真っ二つに叩き割る。
どっぱぁんっ!
それほどの衝撃だ。これまでにない量の海水が打ち上げられ、雨と降り注ぐ。
「これで勝ちでいいんだろうか?」
「ん。作戦勝ち」
首を捻るガーネットも、勝ったと頷く杏も。
疲れ果ててまだ動けない朔八姫や風早屋も。
「真琴、勝ったわよ!」
「姉さん、裾! 裾直して!」
「むー、策士策に溺れたー」
岸から真琴に着物の乱れを注意される小太刀も、海の中で悔しがる祭莉も。
雨と降る海水が、この時まだ海の中にいた大勢を濡らしていた。
「こ、これが……陸の猟師か」
(「ふふふ、彼には安全祈願のまじない紋を描いてあげましゃう」)
海の中で呆然と立ち尽くしている海吉の様子に満足して、シリンは海に浮かべた板の上に降り立ち――濡れていた板の足元が、つるりと滑った。
「あら?」
気づいた時には、シリンの体勢は大きく崩れていて――。
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん。お願ーい!」
真琴が放った人形たちが、シリンが海に落ちないよう、その背中を支えていた。
大成功
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稿・綴子
【ニュイくん(f12029)】
ルシルくん含めて羽子板バトルロイヤル
勝敗お任せ
綴子『POW×SPD◯WIZ◎』
吾輩は原稿用紙、故に水は大敵嗚呼怖や
そんな訳で此奴がお相手つかまつろう
絡繰り人形に羽子板持たせ自身は船の中央の安全地帯でドヤァッ
ちゃんと操…ぼちゃーん★(【UCオペラ~】失敗
……
「ふははは、真打ち登場である!心してくるがよい」
頭脳派を気取り実は運動からっきし
着地点を計算して極力動かない
走ると寒いではないか
ほう、ルシルくんを集中攻撃で…だから揺らすでない!羽根つきで溺死とは迷宮入りミステリーではないか
ふむ…それは良いな
いつしか走ってぬくぬくジャンプしてぴしー!
今年の占いの一打はこれである!
霧島・ニュイ
【綴子ちゃん(f13141)と】
ルシルさんと3人/勝敗お任せ
『POW〇 SPD◎ WIZ×』
僕羽子板初めてー!
こんなにスリリングに満ちたゲームなんだねー!(*通常羽子板知らない)
綴子ちゃん、ルシルさん、負けないよー
あっ、綴子ちゃん狡……
………。
やっぱり本人に相手して貰わなきゃねー!本体をビニール袋に入れておけば大丈夫でしょ!
所謂コーヒーカップならぐるんぐるん回すタイプ
水を浴びない程度にぴょんぴょん跳ねて、ゆらゆら揺れるのを楽しんでいる
自信のあるスピードでカバー
ほらほら、ぐらぐらしちゃうよー?せいやっ!ルシルさんに、スマーッシュ!!
心と勢いを込めて羽根をお見舞い!
楽しすぎてはしゃぎが過ぎる状態
●見立て○○
海に浮かんだ、幾つもの板。
「一体全体、これはどうした事だ?」
船に見立てたそれらの上で、稿・綴子(奇譚蒐集・f13141)が柳眉をしかめていた。
「どうしたの? 船上羽根突きでしょ?」
「そこだよ、ニュイ君!」
隣の板の上で何事かと首を傾げた霧島・ニュイ(霧雲・f12029)に、綴子は自分の足元の板と、ニュイの足元の板を交互に指さした。
「これも、それも。他のも! 船に見立てるにゃ、小さくないかね?」
「あ、成程ね」
綴子の指摘に、ニュイも頷く。
確かに、浮かんだ板はざっと1m四方程度。
こんなに小さな船は――まあ少なくとも海に出る船には不足と言えよう。
(「でも、そんなに問題かなぁ?」)
ニュイが胸中で首を傾げたその疑問は、すぐに答えが示された。
「これでは船の中央ほどの安全地帯がないではないか!」
他ならぬ綴子が告げたのである。
「おかげで、此奴に羽子板持たせて船の中央の安全地帯から操る、という吾輩のプランが台無しであるぞ」
「「うわあ、狡い」」
絡繰り人形傍らに綴子が漏らした計画に、ニュイばかりかお呼ばれしたルシルの声も重なった。
「いやいや。吾が輩は原稿用紙。故に水は大敵だぞ?」
「そんなの、本体をビニール袋に入れておけば大丈夫でしょ!」
今度は心外そうに眉をひそめる綴子に、ニュイがさらりと返して板から板へ、ぴょんぴょんと跳んでいく。
「ほら、こうやっても揺れるくらいだし。やっぱり本人に相手してもらわないと」
「何故に足場が揺れるのに、そんなに楽しそうなのかね?」
揺れる板の上でぴょんと跳ねてみせたニュイに、綴子が信じられないと言いたげな視線を向ける。
「だって、羽根突きってスリリングに満ちたゲームでしょ?」
普通の羽子板を知らなかったニュイは、何かを誤解してしまったようだ。
「どうするのだね?」
「……私に言われてもねぇ」
じぃと横目で見上げる綴子に、ルシルは軽く肩を竦める。
二人とも、誤解を解く気はさらさらなさそうだった。
●ユーベルコードを使用していません
「やや計画は狂ったが、やはり此奴がお相手つかまつろう!」
自身の立つ一つ前の足場に、綴子が絡繰り人形『狂言回し』を立たせる。
綴子が使おうとしているのは【オペラツィオン・マカブル】だ。ユーベルコードを受け止め、絡繰り人形から返す業である。されど――。
「綴子ちゃん、ルシルさん、負けないよー」
「お手柔らかに頼むよ」
ニュイもルシルも、ユーベルコード使う気なかった。
「……」
返すユーベルコードが飛んでこないまま、絡繰り人形は波に揺られる。
「ほらほら、ぐらぐらしちゃうよー?」
絡繰り人形のいる板の上に、ニュイがわざと揺らすように飛び乗って、すぐにまた飛び出していく。
その揺れで、人形は板の上を滑っていき――ぼちゃーん!
「ふははは、真打ち登場である! 心してくるがよい」
空しく水没した絡繰り人形の代わりに、綴子は無駄に高笑いを上げていた。
●スリルとサスペンス(多分)
ところでこの勝負、3人制のいわゆるバトルロイヤルである。
最後の一人を決める勝負。
そしてニュイと綴子のスタイルは、実に対象的だった。
「おっと、際どいとこ狙うねー! でも追いついて見せるよ!」
ニュイは身軽さを活かし、板が揺れるのもお構いなしにぴょんぴょんと跳び回り、羽根を追いかけ打ち込んでいく。
「くくっ。その羽根がこっちに来るのは、吾輩お見通しである」
綴子は極力動かず、羽根の軌道を読んで待つスタイルだ。まあ、運動からきし苦手というのが真相なのだけれど。
「綴子ちゃんも、もっと走ればいいのに。揺れるの楽しいよ?」
「何を言っておる。走ると寒いではないか」
スリルに誘うニュイの言葉に、綴子が首を横に振ろうとした時だった。
ビュウと沖からの海風が吹き抜け、波飛沫も一緒に運んできたのは。
「……。動かなくても寒いではないかー!」
「走ればいいんだよ! 身体ポカポカしてくるって!」
冬の厳しさに思わず叫ぶ綴子のすぐ近くを、ニュイが駆け抜けていく。勿論ただ走り回っているだけではなく、追いついた羽根をすかさずルシルへと打ち込んだ。
「ええい、だから大きく揺らすでない!」
とは言え、綴子の指摘した通り、ニュイは多少わざと揺らしている節もある。
「だってぐらぐらも楽しいんだもん!」
ニュイは遊園地の所謂コーヒーカップに乗れば、ぐるんぐるん回すタイプである。吊り橋であれば、揺れた方が楽しいタイプでもあろう。
「こうも揺れていては、飛び移りにくいと言うのに。羽根つきで溺死しようもんなら、迷宮入りミステリーではないか」
ニュイに周りの板を揺らされてぼやいた綴子だが、自身が呟いたその言葉に、ふと目を丸くする。
「ふむ……それは良いな」
このネタ。忘れない内にしたためなければなるまい。
綴子の中に、思いもよらぬやる気が満ちた瞬間だった。
そして――。
「いくよ、ルシルさん! スマーッシュ!!」
「くっ!」
ニュイが打ち込んだ羽根を、ルシルが辛くも打ち返す。
だが、羽根は打ったというよりほとんど跳ね返った状態で高く上がって――。
「吾輩に任せるがよい」
いつしか身体も温まった綴子が、その羽根を追って跳び上がる。
「今年の占いの一打はこれである!」
ぴしっと打ち込んだ羽根は、ルシルに反応する暇を与えず、スコーンッといい音を立てて額に当たって、また空へ跳ね返る。
「ごめんね、綴子ちゃん」
そこに跳び上がったニュイが、板に着地したばかりの綴子に羽根を打ち込んだ。
「なんとぉ!?」
これまた反応する暇もなく、綴子の足元に落ちた羽根が、板の上をはねて海へと落ちていく。
「っし! 勝ったー!」
走り回って上気した顔に笑みを浮かべて、ニュイが羽子板を持つ手を掲げた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御堂・茜
ルシル様ァ!
昨年は大変お世話になりました!
今年も宜しくお願い致しドリァァァア!!!(怪力と気合いによる突然のサーブ)
正月から体を動かすとはまこと善い心掛け…!
毎日食っちゃ寝されている章様とは天と地の差ですわ!
何を隠そう御堂もかなづち…!
しかしルシル様が死をも恐れる覚悟とあらば!
御堂も武士として不退転の覚悟で挑みましょう…!
覚悟の証にいつぞやのばぁげんで購入した翡翠之小紋も着て参りましたわ!!
いざ尋常に…勝負ッ!!
(水深が浅いという話は聞いてなかったらしい)
家臣達は応援と温かいものの炊き出しに回らせ
会場を盛り上げて参りましょう!
わたくしは気合いと勘と怪力で単身真っ向勝負!
勝敗はお任せ致しますわ!
●明けまして、正義
「あれ?」
「なんだ、降りないのか?」
勝負を終えて岸に下りたハーフの少年と原稿用紙の少女は、何故か板の上に佇んだまま降りようとしないルシルに首を傾げる。
「ああ。もう一人、挑まれていてね。その辺に――ああ、いたいた」
二人の疑問に答えようとルシルは視線を巡らせ、岸の一点を目で示した。
「御堂家? あの?」
「はい。御堂は御堂でございますわ、朔八姫」
そこには朔八姫と挨拶を交わす、御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)の姿があった。
茜も初対面ではないが、やはり以前はゆっくり挨拶をする暇はなかった。
「なんと。あの時、船と合体されたのが、父上の文に書かれていた、かの御堂家の茜様であったとは」
朔八姫の父は、参勤交代で江戸にいる。
茜の噂とバイクの音を、聞いたことがあるのだろう。
「おーい、茜。こっちは終わったよ」
「今行きますわー!」
海からのルシルの声にそう返すと、茜は軽く手を叩く。御堂家家臣団の皆様が重箱や大鍋を手に、ぞろぞろ現れた。
「では、御堂も羽根突きをしてきます。こちら、お節とお雑煮。御堂からの新年の祝いの品でございます!」
茜とて武家の姫。つまり立場上、他藩の姫の訪問と言う事なるのだから、手土産の一つくらいは礼儀というものである。
「……二人とも、もう少し離れてた方がいいと思うよ?」
「あ、うん。トマトの時に刀と合体してた人だね」
促すルシルに合点がいった様子で少年は頷き、二人は海から離れる。
そして――。
「ルシル様ァ! 昨年は大変お世話になりました!」
海に向き直った茜は、年始の挨拶を叫びながら、羽子板片手に力強く血を蹴って跳び上がった。
「今年も宜しくお願い致しドリァァァア!!!」
挨拶を言い終えるのも着地も待たず、日輪を背に迸る茜の気合い。
サーブのフォームで怪力全開に打ち込まれた羽根は、屈んだルシルの頭上を通り過ぎて海に突き刺さり――。
ザッパァンッ!
海面が割れたように砕けた。
●かなづち対カナヅチ
海が割れるほどの衝撃に、激しく波が立つ。
「いざ尋常に……勝負ッ!!」
だが、激しく揺れる板の上にもシュタっと飛び降りた茜は、新しい羽根を平然と構えてスコーンッと打ち込んだ。
「こっちは連戦だから、お手柔らかに頼むよ」
口ではそうは言いつつ、言うほど疲れてなさそうに、ルシルも羽根を打ち返す。
「正月から体を動かすとは、まこと善い心掛け……!」
際どいコースを突いた羽根を、茜は翡翠の袖を翻して力強く打ち返した。
「炬燵でぬくぬくも悪くないけど、そう言う柄でもないからね」
「毎日食っちゃ寝されている章様とは天と地の差ですわ!」
ルシルの言葉に茜が力強く頷けば、くしゅんっ、と陸から聞こえるくしゃみ。引っ張り出されていたのか。
「しかもルシル様、死をも恐れぬ覚悟とは!」
「え?」
続く茜の言葉に、ルシルが思わず目を丸くする。
「えっと……どういう事だい? これ、遊戯だよ?」
「ルシル様はかなづちと聞いております」
驚いたルシルが甘いコースに返した羽根に余裕で追いつきながら、茜が続ける。
「そして、何を隠そう御堂もかなづち……!」
「船と合体できるのにかなづち……?」
茜のカミングアウトを海岸で聞いていた風早屋が、思わず首を傾げていたのは、まあ、さておくとして。
「ですが、ルシル様がそれほどの覚悟で臨まれるのなら、御堂も武士として不退転の覚悟で挑みま――しょうっ!」
振り返り様に、茜は力強く羽根を打ち返す。
「いや、不退転って――そんなに深い海じゃ」
打ち込まれた羽根を、ルシルは何とか打ち上げるのが関の山。
「覚悟の証に、いつぞやのばぁげんで購入した翡翠之小紋も着て参りましたわ!!」
放物線を描いて落ちてくる羽根を待ち受けながら、茜は広げた掌で纏う着物を示す。
「足のつかない海の上……落ちたら一巻の終わり。まさにスポ根でございます!!」
すっかりスポ根魂に火がついた茜が、ジャンプサーブの要領でズドンッと打ち込んだ羽根は、ルシルの立つ板を打ち砕いていた。
こうして。
とある世界の暦で2020年の、船上羽根突き遊戯は全ての勝負の決着がついた。
若干、海底の地形が変わった気もするが、猟兵たちがそれほどに力を振るったのだ。病の気など、打ち砕かれただろう。
そして――それぞれの場所に変える猟兵を送るエルフは顔が様々な落書きまみれで、額には『正義』の二文字が力強く書かれていたそうである。
大成功
🔵🔵🔵