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Heaven's door

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 夜が明けたら、広場にまっさきに走ろう。
 あたらしい歌を、詩を、いちばん最初に聞きたい。若者はベッドにもぐりこんで、夢を見るより先にもう明日のことを考えている。
 若者は歌を歌うことも詩を吟じることもできないけれど、耳にすることは出来る。調べを聞いて、物語を識って、心を震わせることは出来る。
 ――ここは円型都市エターニア。3重の壁に囲まれた都市。ダークセイヴァーにありながら、ここではひとは明日を夢見ることができる。

 やっと眠りについた赤子を、母と父は互いに眠い目をこすりながらも疲れた笑みで見下ろしている。雨風を防ぐ屋根の下、ふたりはようやく疲れた体を横たえ、同じ安穏に浸ろうとしていた。
 つらい旅路の果てに辿り着いた街は、3重の壁に守られて、助けを求めた一家には、あたたかな家が用意されていた。
 ――ここは円型都市エターニア。3つの壁に囲まれた都市。ダークセイヴァーにありながら、ここではひとは人を信じることができる。

 ゆっくりと薬瓶をかたむけて、少女は息さえ止めて、真剣な目でコップに注がれる液体をみている。ちょうどコップに半分。おかあさんの病気に効く用量きっちりに注いで、少女はようやく息を吐いた。
 寝室のおかあさんはゆっくりと胸を上下させて眠っている。その寝息のリズムが、少女に眠気をもたらして、その口からちいさなあくびが「……ふぁ」と漏れた。
 ――ここは円型都市エターニア。3つの壁に囲まれた都市。ダークセイヴァーにありながら、ひとは人を思いやることが出来る。

 うすい朝日がのぼる。
 夜が明ける。
 それが、円型都市エターニア最後の日の始まりだった。


「ダークセイヴァーの案件だ」
 グリモアベースの一室。そう切り出してから、ローズ・バイアリス(アリスが半分色を塗った薔薇・f02848)は、
「ダークセイヴァーの案件です」
 と、大事な事のように二度言った。
「エターニアという都市があった。3つの大きな壁に取り囲まれていた。この壁が外敵を防ぎ、人々を守っていた」
 すべて過去形だった。
 そしてローズは「実にうさんくさい話ですよ」と言い添えた。
 ダークセイヴァーにおいて、そんなものが成立するはずはない。そう信じきっている口調だった。
「……この壁は今、檻の役割を果たしている。内部で人々はすべて死につつある。
 閉じられた門を突破して、その原因であるオブリビオンを倒してほしい」
 胸に手を当て、眼を閉じて、ローズは祈りの文句のように続ける。
「都市の人々を助けたいと思われるでしょうが、おそらく効果はあまり期待できません。
 ……都市の人々は自らの苦痛の巨大さゆえに、苦痛しか感知できず、他人の存在に気が付かない。その余裕がない。治癒などの手を尽くして、もし生き延びたとしても、やがて自死を選びます。そういう風に死につつあるので……」
 そしてローズは再び目を開ける。
「だが、元凶のオブリビオンを倒せば、……自死を選ばない人間が……1000人に1人くらいは……出てくるかもしれない。おぼつかない予知で悪いが……」
 よろしく頼む。
 そう言ってローズは軽く頭を下げた。


コブシ
 OPを読んでくださってありがとうございます。コブシです。
 以下は補足となります。

●フラグメントについて
 第1章【冒険】、
 第2章【冒険】、
 第3章【ボス戦】、
 の予定です。

●行動の指針のようなもの
 ・都市の壁は丈夫な鋼鉄製で、高く、隙間なく都市をぐるりと取り囲んでいます。
 高さは人間の大人を縦に5人ほど並べたくらいです。
 ・門は東西南北にひとつずつあります。
 ・門番はいません。
 ・門扉に鍵は掛かっていません。開けようという意思さえあれば開きます。
 ・壁よりも、内部でもがき苦しむ人間たちが問題かもしれません。
 ・悲惨な光景が出てくる予定です。
 ・「助けたかったけれど助けられなかった記憶」や、「大事なものを失った記憶」などをプレイングに書いていただけると、類似の状況が都市内部で繰り広げられます。
 ・第一の壁を突破すると、広場に辿り付きます。まだ正気を保ったままの生存者がいるかもしれません。

 第1章の、今の時点では以上です。
 皆様のプレイング、楽しみにお待ちしております!
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第1章 冒険 『門を突破せよ!』

POW   :    騒ぎを起こしてどさくさ紛れに通り抜ける。

SPD   :    門番に気付かれないように隠れて通り抜ける。

WIZ   :    関係者になりすまして通り抜ける。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ユーリ・ヴォルフ
アドリブ共闘大歓迎

巨大な檻の中で飼い殺しされているというのか?
まずは何が起こっているのか確かめてみなければ
戦力が偏りすぎぬよう門を選ぼう

助けたかったもの―それはとある村の子供達だ
外敵に村の大人たちが殺され、凄惨たる生活を送っていた
派閥に別れいがみ合い、果てには殺し合いにまで発展していた
生き残るため必死に足掻いた故の結果だったのかもしれない
当時は既に手遅れで、誰も救うことができなかった

目の前で弱者が、子供が殺されそうになっていたら
今度こそ身を挺して止める
私は幼き頃死にかけていた所を領主様に助けて頂いた
形は違えど、その恩返しだ
幼き子の命を守り、未来へと繋ぎたい
希望の糸を掴んだならば、必ず守り切る!


イア・エエングラ
鍵もないのに開けようとも、しないの
――しんでしまうほど、苦しいのに

だって此処は、墜ちる艇では、ないでしょう
抜け出た先で、何にもない真空ではないのに
手を伸べれば、僕は取れるのに
どうして欲しいかだって、聞けるのに
なあ、何がそんなに、苦しいかしら
何時から、塗り替えられてしまっただろな
だって此処は、水の底では、ない筈なのに
溺れて水面も遠くって、沈むばかりではなくて

膝ついて声を拾おうか、ねぇ、届いてはいないかな
やっぱり僕の、声は、肝心な時には、届かないかな
ね、どうしても生きていけないというのなら、
――銀の短剣の最期は、ご入用?
気の確かな方なら止めるかな

この地獄の発祥を
止められたならひとつくらいは、


矢来・夕立
抜き足差し足『忍び足』です。門番がいないなら普通に入りますが。

平穏な日々から唐突な絶望。効果的ですね。オレはこういうのをやる側でした。やらざるを得なかったと言うか見慣れてるというか。

……。これは推測ですけれど、「明日の飯に困るからやっていること」ではないですよね。娯楽ですよね。畜舎の家畜を丁寧に育ててから痛打って殺してますよね。それはムカつきます。

助からないなら、それを見て笑ってるヤツがいるなら。オレが先に住民たちを殺します。
『紙技・彩宝』。ダガーを作って『だまし討ち』から即死を狙います。苦しませる気はありません。
まあ褒められたものではないですけど。少なくとも外道よりはマシだと思いますよ。



●西の門
 そそり立つ金属の壁は黒々と冷たい光を放ち、見るだけでとてつもない重量を感じさせた。
 歪んだ真珠の艶さえ思わせるその壁が、いったん途絶え、そこに細かな鋳鉄の飾りが施された門が現れる。
 矢来・夕立はしらじらとした視線を頭上に向けた。

『すべての希望を携えて
 この門をくぐりなさい
 そうすれば救済は貴方の前に――』

 門の上に架けられた銘鈑に、そんな一文が記されている。結びの言葉はこの位置からは見えない。
 門は固く閉ざされている。蟻の子一匹這い出そうにない。
 ―――否。
 においや音が出てこられなくとも、直観的に感じる気配がある。
 矢来・夕立にとっても馴染みのもの。生き物ならばそれに敏感にならざるを得ない。『死』の気配だ。
 門番はいない。鍵もない。
 なら、抜き足、差し足、『忍び足』で、普通に入る。
 厳然とした死の気配を前にしてもいつもと変わらず、夕立はそういう少年だった。
 重い扉、鋼鉄の固さと冷たさ。門扉に飾られたガーゴイルだけが見る中、夕立は円型都市・エターニアへと足を踏み入れた。
 そこにあったのは数刻前までの悲嘆の名残りだった。

 街のいたるところ。屋内でも屋外でも。
 てんでばらばらに、死んでいる。
 おもちゃ箱が放り出されたようだ。さんざん散らかされた子供部屋を夕立は想像した。
 そしてすぐ想像を放棄した。
 子供部屋には縁がなかった。これはただの妄想。投げやりさや理のなさからの連想に過ぎない。
 街路樹には首に縄をかけた死体が下がっている。並んだ街路樹にひとつ、ふたつ、アクセントのように首つり死体が現れる。
 高い建物のそばには必ず身を投げたらしき死骸が転がっている。散らばっているのは路面や壁面の欠片、骨片や筋肉、内臓など、さまざまだ。
 ……きれいな街だったのだろう。
 ダークセイヴァーにありながら、掃除も行き届いて、だから地面に刷かれた赤色がこんなにも目に鮮やかだ。
 平穏な日々から唐突に絶望に突き落とされる、この鮮やかな対比。
「効果的ですね」
 淡々と夕立は呟く。彼はこういったことを「やる側」だった。やらざるを得なかった。ゆえに、見慣れているといえばその通り。
「………」
 沈黙のまま、街を行く。
(「これは推測ですけれど、」)
 心の中、自分自身にだけ聞こえる声で状況を判断する。
(「『明日の飯に困るからやっていること』ではないですよね」)
 皆、自ら死んでいる。
 都市の中の人間だけが、死に向かっている。
 どのようにしてかはわからない。だが、誰かがいる。誰かが、意図的に、この都市の人間に狙いを定めたのだ。
(「楽しんでますよね。畜舎の家畜を丁寧に育ててから痛打って殺してますよね。それはムカつきます」)
 ふと、動くものが目に映った気がして、夕立は足をとめた。
 煉瓦造りの可愛らしい店の前。「く」の字型に体を折った人間が転がっていた。腰を前にではなく、後ろに曲げている。……人体は、そのように出来ていない。
 おそらく身投げしたのだ。そして失敗した。
 びくりびくりと四肢が痙攣しているが、意識的な動きではないだろう。
 夕立は淡々と近づいた。ヒトと目を合わせる性質ではないが、これは別だ。もうすぐこれはモノになる。
「………」
 夕立の手に、薄い紙のダガーが握られている。『紙技・彩宝』。
 苦しませるつもりは毛頭ない。
(「悪人でいいですよ。外道よりはマシです」)
 す、と、本にしおりを差し挟むように抵抗なく、薄い刃は痙攣する人体の急所に吸い込まれていった。
 それはようやく、モノになることができた。
「オレはこれが正しいと思っています」
 モノから離れ、再び夕立は死の街を行く。
 ……誰かが、いる。
 この死を意図して、この死を喜ぶ誰かが。

 ユーリ・ヴォルフは走っていた。
 都市の壁が巨大な檻と化した今、「まずは何が起こっているのか確かめてみなければ」と、用心しながら都市に入った。
 西の門から入ったのはたまたまで、だからその出会いもたまたまだった。
 死体の山より先に、まだ動いている人影が目に入ったのだ。
 西の門からすこし離れた壁近く、物見の塔がある。その窓にちらりと、階段を駆け上がっていく人影があった。
 それはまだ小さく、子供のように思えた。
 ユーリの脳裏に鮮明に蘇る光景があった。
 ――それはとある村の子供達だ。
 大人たちはすべて『外敵』によって殺された。残された子供たちの生活は凄惨たるものだった。
 子供たちは派閥に別れ、いがみ合い、諍いの果てに、殺し合うまでになっていた。
 生き残るため必死に足掻き、足掻いた果ての、当然の結果だったのかもしれない
 当時は既に手遅れで、ユーリは誰も救うことができなかった。だからこそユーリは固く決めている。
「目の前で弱者が、子供が殺されそうになっていたら、今度こそ身を挺して止める」と。
(「自分は幼い頃、死にかけていたところを、領主様に助けて頂いた。形は違えど、その恩返しを……!」)
 塔の階段前で、ばさりと大きく翼を広げる。吹き抜けの階段を一気に上がって、ちいさな人影の前に踊りでる。
「大丈夫だ、私は君を助けに来たんだ」
 害意のないことを教えようと、何も持っていない両手を拡げた。
 そしてユーリは気が付く。ちいさな人影は子どもではない。
 疲れたような表情に、確かな理性を目にとどめた、小柄な……ドワーフよりなお小さな……大人の男性だ。
「助けに?」
「そうだ。一体この都市で何が……」
 ユーリの問いに、男性は大きく表情を崩した。
 こんなにもはっきりとした悲しみが、大人の顔に浮かぶのかとユーリは驚いた。
「……俺が、馬鹿だった。望みなんて持つんじゃなかった」
 食いしばった歯から押し出すように言葉を発して、男性は目から涙をぼろぼろとこぼした。見上げてくる視線は、ユーリの全身を検分するようだった。
「誰だか知らんが、あんたにお願いしたいことはひとつだ」
 邪魔しないでくれ。
 そう言って、彼は塔の窓から身を投げた。

 ゆるやかな、緩慢な死が、その男性に訪れつつあった。
 死に場所に西の塔を選んだのはたまたまで、理由はそこが家から一番近いから。
 だから先ほど、妙に真っ直ぐな瞳の、折り目正しい青年に会ったのも、今この宝石の瞳に――イア・エエングラに見つめられているのも、たまたまだった。
「鍵もないのに開けようとも、しないの」
 ――しんでしまうほど、苦しいのに。
 意識の水面の上で、その声が語りかけてくる。
 ――だって此処は、墜ちる艇では、ないでしょう。抜け出た先で、何にもない真空ではないのに。
 ――手を伸べれば、僕は取れるのに。どうして欲しいかだって、聞けるのに。
「なあ、何がそんなに、苦しいかしら」
 突然声がクリアに聞こえ、男性は死がもうすぐそばに来ていることを悟る。
 先程の青年も背後にいて、ほとんど見えなくなっている視界の中、炎のような翼だけが輝いている。
 イアはそっと嘆息する。
(「何時から、塗り替えられてしまっただろな」)
 だって此処は、水の底では、ない筈なのに。
 膝をついたイアは、より声を拾おうと、そして声を届けようと顔を近づけた。
「ねぇ、届いてはいないかな」
(「やっぱり僕の、声は、肝心な時には、届かないかな」)
「ね、どうしても生きていけないというのなら、――銀の短剣の最期は、ご入用?」
 ああ、よかった、と男性は思った。最後に綺麗なものを見て死ねる。
 男性が笑顔を作ることができたのは、おそらく死をつかさどる何者かの慈悲だろう。
 完全に男性が動きを止めて、数瞬。
 ユーリは踵を返した。
「まだ……希望の糸の繋がるうちは……!」
 イアは、小柄な男性の骸の居住まいを正した。完全に死にきるには、西の塔は低すぎたのだ。
 歪な骸に、死に顔だけがくっきりと笑顔だ。
 この地獄への、意趣返しのよう。
 立ち上がり、イアも次の地獄へと足を向けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

出水宮・カガリ
【ヤド箱】
※アドリブ歓迎、タグ内の連携難しければ連携無しOK

門を開いて、惨状を見る

…なぜ
理解できない
壁で囲ってしまえば、外敵から完全に遮断すれば、
中には争いもなく、壁の外へ出る必要も無く、安寧に満ちて…
なのに! なぜ!

カガリの都が滅んだ日
砲撃で、カガリ(城門)が打ち破られた日と同じだ
侵入を押しとどめようとした兵から、敵に嬲り殺され
力の無い住民にも、殺戮の手は伸びて
全て殺し尽くされるまで、見ているしかできず

自死を選ぶものを強引に押し止める
念の為気絶させた上で【亡都の紋章】に触れさせ【夢想城壁】へ送る
…戦うな、希望も絶望も、何も考えるな!
意志を閉じて、考えなければ、苦痛もない…違うのか…!


ユキ・スノーバー
内部に沢山人を集めて、食べちゃうとか…?
それとも遊ぶためのおもちゃにでもするつもりなのかな?
入ってみないと分からない事が多いけど、救えるかもしれない人助けたいな。
限られた事しか出来ない世界の中で、僅かな自由に縋り付く人達にぼくは何が出来るんだろう…
門番がいない上に、開けようとすれば開く入り口があっても
外に出る事をしないのは、それだけ人が暮らせる状態じゃないって事だから
とてもとても、嫌な予感しかしないんだ。早く中に向かうね

…沢山死体が転がってたら、布で顔を隠して隅っこに避難させるよ。
助けれそうな人が居たら、生まれながらの光で回復を試みるけど
間に合わない位に無理だと感じたら、ごめんなさいってするね


桜雨・カイ
【ヤド箱】アドリブ連携歓迎

※人形だった頃、主の妻と幼い息子を亡くした。
目の前で大量の血が流れてるのに、幼い声で、痛い助けてと自分の名を呼んでいるのに、動けない手が伸ばせない…助けられない
……主がいなければ、自分は何もできないただの人形なんだ

人が苦しむ姿はもう見たくないです。
門を開けて中へ。
怪我か毒か病か都市の人達の様子を調べ、原因となるものを調べつつ【聖痕】で回復をはかる、それが無理なら少しでも苦痛を取り除く方へ。
他の人が助けようとしているなら協力。

今の状況も人形だった頃と近いのかもしれない、でもまだ止められます。早く元凶を止めに行きましょう


彩花・涼
平穏に死にゆく檻か……彼らがそれで幸せならそれもいいかも知れんな
ただ、それが知らず強制されたものなら…その檻壊してみせよう

【目立たない】ように隠れて門を通り抜ける

共にオブリビオンと戦ったかつての仲間たち…そして救えなかった故郷と……大事な弟
弟に似た青年が、ヴァンパイアに顔を剥がされる光景は少し心にくるだろうな

だが、私はこれ以上犠牲を出さない為に猟兵としてここに居る
まだ正気を保っている者を捜す事を優先する
周囲の人々と様子が違う者に声をかけ、助け出す事を誠意を持って伝え【鼓舞】する
私の手をとってくれるなら、私は君の願いに全力で答える
この悪夢を終わらせよう


ロー・オーヴェル
死ぬことは容易いが
死んだ後の世界から出てくることはできない

入るのは容易い街のようだ
だがここから出ることは……


太陽の昇る方角の門から入る
沈む方角から入るよりは縁起がいいだろう

門番不在なら心配もなさそうだが
用心として扉の周囲に街の者がいないか伺い
【目立たない】も活用し入る


俺の実家は教会でな
貧しいトコだったから救護院みたいなことも兼ねていた

だいたいの場合において
『治療の質』というものはカネが好物だ

そして専門的な技術も持たない者がマネゴトをしたところで
いったいどれだけのことができる?

懸命な親の手伝いを
俺も子供ながらにやった

それでも世話になった人や友人の最期の姿は
子供心に恐怖と絶望を教え込んださ……


トリテレイア・ゼロナイン
内部でいったい何が?
いえ、考えていても仕方ありません。中が地獄であろうとも騎士として一人でも多くの人々を救わなくては

必要があれば「怪力」で門を開き、機械馬に「騎乗」して内部に侵入、UCの妖精ロボを放ち周辺の情報を収集します
私は治療系の技術やUCを持っていないので、所持している方の行動を積極的に支援、足や腕力を提供します。必要ならセンサーで要救助者の脈や体温を「見切り」トリアージも実行

…諦めるわけにはいきません

「助けたかったけれど助けられなかった記憶」
Sエンパイアでの任務、大火から人々を救うため多くの人々をトリアージ、炎から幼子をかばい自分に託して力尽きた母親
不可能と理解していても皆救いたかった


ペイン・フィン
【ヤド箱】で参加。

……例え奇跡のような可能性でも、
それを見捨てるのは、自らの信念には、無い……か。

幻想するのは、自分の物じゃ無い記憶。
自分が、自分じゃ無かった頃の記憶……。

(なるべく改変せずに、意味深な感じでの執筆を希望)

1つ、そこは戦場、人と人との争い、互いに正義はあり、どちらも正しくなかった。それを止めたかった。
1つ、そこは惨劇、裏切りが、仲間割れが、或いはもっと恐ろしい何かが、互いを傷つける。それでも、諦めたくなかった。
1つ、そこは絶望、もはや守ると誓ったものは無く、誓いは無意味になり、ただ啼くことしか許されない。そして自分は、くず鉄になった。

……知らずに流れてた血涙を拭い、先を急ぐよ。


ステラ・アルゲン
【ヤド箱】のチームで参加
……死にゆく人々を助けられないか
でも少しでも、希望の星となれるなら私は元凶を倒しに行こう
この門の向こうに何があったとしても

助けられなかった人……
あぁ彼女の声が耳に聞こえてくる

――止められなかった
私も阻止できなかった

――なんでこんなことになってしまったの……!
私も、私も、私だってそう思う! 主の死に対しては!

――どうして私だけ、生きているの?

目の前で泣いていた彼女を
死を選んでしまった彼女を
私は止められなかった
剣の身だった私では

どうして私だけ、今も存在しているんだろう?
酷く、過去に置き去りにされた気分だ

そうだ。今は私一人じゃなかったな
光にて目を覚ましてくれた月光槍を見て思う


雨糸・咲
そそり立つ金属の壁は冷たく、重く
見上げれば背筋に冷たいものを感じます

鍵も無く、門番もいない入り口――
中へ入るのに特別な細工は必要無さそうな気もしますが
念の為、手にした籠に薬品の瓶や包みを幾つか入れ
旅の薬師を装って門をくぐりましょう

少しずつ身体の自由を奪われる病を患い
それを呪いだと忌避され
村の墓地に入ることも許されなかった女性

彼女を喪ったことで少しずつ心を蝕まれ
遂には自ら命を絶った女性の夫

助けたかった
助けられなかった
大切な二人の主を喪った記憶に急かされるように足を速めて

何ができるかはわからないけれど
今の私には、伸ばせる手がある
どうか、
どうか一つでも掬わせて…

※アドリブ・他の方との絡み歓迎です



●南の門
 その銘文は、普通に見上げるだけではすべてを読むことは出来なかった。

『すべての希望を携えて
 この門をくぐりなさい
 そうすれば救済は貴方の前に――』

 ふる、と雨糸・咲は身を震わせた。
 触れてもいないのに、金属の冷たさが背筋に忍び寄ってきたようだった。
 視線を下に戻す。
 円型都市の南門は、内部のことなど気にもせず、変わらず、揺るがず建っていた。
 鍵もかかっておらず、門番さえいない。ヒトも含めて、生き物の気配がない。
 見ているのは、門扉の飾りとして据えられた黒鉄のガーゴイルだけ……。
 咲はきゅっと籠を抱きしめた。
 中へ入るのに特別な細工は必要無いように思えるが、念の為だ。籠には薬品の瓶や包みが幾つか入っていて、何か問われれば咲は「私は『旅の薬師』です」、と答えるつもりでいた。
 高い高い壁に沿って歩きながら、ユキ・スノーバーは、ちいさな頭の中で恐ろしい想像をぐるぐる巡らせてしまっていた。
(「内部に沢山人を集めて、食べちゃうとか……? それとも遊ぶためのおもちゃにでもするつもりなのかな?」)
 ぶるる、と体を震わせ、ユキもまたその門を目にする。
 想像しても何もわからない。入ってみないことには何も出来ない。
(「限られた事しか出来ない世界の中で、僅かな自由に縋り付く人達に、ぼくは何が出来るんだろう……」)
 門番がいない上に、開けようとすれば開く入り口だ。それは、厳重に警備された門よりもユキを不安にさせた。誰も外に出てこないということは……それだけ、中は人がまともでいられる状態ではないという事だから。
「とてもとても、嫌な予感しかしないんだ」
 言い聞かせるように言って、ユキは進む。
 桜雨・カイは『街』であるのに生き物の気配のしない壁の向こうに思いを馳せた。人が苦しむ姿はもう見たくなかった。
 ……カイがまだ人形だった頃。主の妻と幼い息子を亡くした。
 カイの目の前で、大量の血が流れていく。幼い声が、「痛い」「助けて」と自分の名を呼ぶ。しかし人形でしかなかったカイの手はぴくりとも動かず、差し延ばされる手に応えることができなかった。
(「……助けられ、なかった」)
 ……主がいなければ、自分は何もできないただの人形なのだ、と。その時のカイは思い知ったのだ。
(「人が苦しむ姿は、もう見たくないです」)
 門扉に手をかける。重み以外に抵抗はない。そのことに不吉さを覚えつつ、カイは扉を開けて街の中へと入っていく。
 門は静かにそれを見下ろしていた。


 「街の人々はすべて死につつある」とカイは聞いていた。
 それは怪我か、毒か、それとも病によるものか?
 結論から言えば、カイが見たのはその全てだった。
 怪我にて死せる者。毒を用いて死を選んだ者。……『絶望』という、死に至る病を以て死した者。
 それらの骸が、道端に点々と散らばっていた。
 と。
 ゴッ。ゴッ。
 鈍く低い音が断続的に聞こえてくる。
 門をくぐり都市に踏み入った猟兵たちは、早々に、高い建物の上から飛び降りる人の列を目にすることになる。
 咄嗟にこちらが動き出すより早く列の最後の1人が飛び降りて、地面に激突した。
 ……まだ、動いている。蠢いている。
 ステラ・アルゲンは走り出した。
 まだ、息があるなら。助けられる。
 ステラの脳裏には、助けられなかった人の姿がある。
(「あぁ……」)
 彼女の声が耳に甦る。今まさに、耳元で囁かれているようだ。
 ――止められなかった
 『私も阻止できなかった』と幻聴は続いた。本当は叫ばれることのなかった言葉、自らの想念だとステラは知っている。
 ――なんでこんなことになってしまったの……!
 『私も、私も、私だってそう思う! 主の死に対しては!』
 ――どうして私だけ、生きているの?
 そう言って目の前で泣いていた彼女を、死を選んでしまった彼女を、ステラは止められなかった。
 剣の身であったから。
 これは、まだ器物であった頃に刻まれた記憶だ。その記憶が今、意思を持って動くステラを苦しめている。
 『どうして私だけ、今も存在しているんだろう?』と。
 ……酷く、過去に置き去りにされた気分だった。
 目の前には、死にきれずうごめく体がある。
 自ら死を選んだその存在に――出水宮・カガリが絞り出すように呻くのを、ステラは聞いた。
「……なぜ」
 理解できない、とカガリは言う。
「壁で囲ってしまえば、外敵から完全に遮断すれば、中には争いもなく、壁の外へ出る必要も無く、安寧に満ちて……なのに! なぜ!」
 その叫びは、カガリだからこそ。
 城門のヤドリガミたる、カガリだからこそ。
 カガリの都が滅んだ日は、砲撃でカガリが、城門が打ち破られた日だ。
 敵の侵入を押しとどめようとした兵から順に、敵に嬲り殺されていった。兵が力尽きた後は、敵の殺戮の手は力の無い住民たちにも伸び、そして彼ら全てが殺し尽くされるまで、カガリはただ見ていることしかできなかった。
 悲痛な声に、ステラは自分を取り戻す。今の、意思ある自分を。
(「そうだ。今は私一人じゃなかったな」)
 ステラが手にした槍が湛えるのは、やさしい月の光。その光に、癒しの力を乞う。
『夜の闇を照らし導く満月よ。どうか手を貸してくれ』
 うごめく肉塊にやさしい金の光が降って、かたちもよくわからなかったものが人の姿を取り戻していく。女性だ。ぼんやりとした顔つきで、自分の顔を撫でる。そして大きく表情を歪めた。
「まだ……死んでないの」
 また飛ばなければならないの、と、呟くその暗い瞳には何の光もなかった。
「なぜ! 敵はいない、誰からも護ってみせる!」
 金と銀、まばゆい色をまとった2人を見て、女性は疲れたように肩を落とす。
「……護らなくていいの、わたしは。そんな価値があるものではないの」
 女性がふと思いついた、とばかりに自らの腰ひもに手をやるのを、ステラが……治癒の力を用いた直後の急激な疲労に耐えながら……急いで止めた。普段なら苦も無く取り押さえられるだろうに、もみ合う形になってしまった。
「……戦うな、希望も絶望も、何も考えるな!」
 もがく女性の背後に回り、カガリは急所を軽く打った。
 気絶し、くたりと倒れる彼女を支え、カガリは己の小さな【亡都の紋章】に触れさせる。
『守るべきものを我が内へ。往くべきものを我が外へ』
 気を失った彼女は、ここではないところへ、黄金の城壁に囲まれた、安全で豊かな都市へと吸い込まれていく。
 カガリのユーベルコード、夢想城壁(ミニエスケープウォール)。本人が出たいと望めば、いつなりと出てこられる場所だ。
 時間稼ぎに過ぎないかもしれないが、時間が解決する問題も確かにあるのだ。
「意志を閉じて、考えなければ、苦痛もない……違うのか……!」
 カガリの苦しげな声に、慰めるように肩に手を置いて、ステラは感謝の表情を浮かべた。
 そして己の手にある月光槍を見る。今はもう、目が覚めた。
「カガリ、こちらの方も、お願いします」
 カイが、【聖痕】で回復させ、そして意識を失わせることに成功した少年を抱きかかえてやってくる。
 そのままにしていたら、また首をくくりかねない……。
(「今の状況も人形だった頃と近いのかもしれない……でも」)
「まだ止められます。早く元凶を止めに行きましょう」
 死に向かう人々を前に麻痺していた感覚が、ひとつの効果ある道が示されたことで一気に動きを取り戻す。
 そんな彼らを、ペイン・フィンはどこか遠くのものを眺めるように見ていた。
(「……例え奇跡のような可能性でも、それを見捨てるのは、自らの信念には、無い……か」)
 ペインは街をぐるりと見回す。
 ぽつぽつと、寂しげに死体が転がっている。向こうにも、その道の向こうにも。建物の窓は開け放たれて、誰かがそこから飛び降りた後、外にはみ出たカーテンだけがむなしくはためいている……。
 似ている筈がないのに、何重にも重なって甦る光景があった。幻想があった。
 それは自分の物では無い記憶だ。ペインが、未だペインでは無かった頃の記憶……。
 ――甦る。
 1つ、そこは戦場。人と人との争い、互いに正義はあり、どちらも正しくなかった。――ペインはそれを止めたかった。
 ――重なる。
 1つ、そこは惨劇。裏切りが、仲間割れが、或いはもっと恐ろしい何かが、互いを傷つける。――ペインはそれでも、諦めたくなかった。
 ――重なって、さらに重なって。
 1つ、そこは絶望。もはや守ると誓ったものは無く、誓いは無意味になり、ただ啼くことしか許されない。そしてペインは、くず鉄になった。
 ――重なりすぎて、もう真っ黒だ。
 ペインは自分の目元を隠す白地の面に手をあてた。触れた指先が赤く染まっている。知らぬうちに、目から真っ赤なものが流れていたのだ。涙か、血か。その両方か。
 どちらでも同じ、と流れてきたものを拭い、ペインは先を急ぐ。
 絶望の源へ。


 トリテレイア・ゼロナインは機械の馬に騎乗し、死が分厚く覆いかぶさる街を疾駆していた。
 何度も明滅する思念はひとつだ。
 『いったい何が?』
(「いえ、考えていても仕方ありません。中が地獄であろうとも騎士として一人でも多くの人々を救わなくては」)
 飛び越えた死体をカウントし記録したとしても、思い煩うのは後でいい。
 機械馬のすぐそばに、近づく小さなものがあった。
 自律式妖精型ロボだ(偽物とはいえ、御伽噺の騎士に導き手の妖精はつきものではないか?)。
 この金属光沢をもつ妖精たちは、先行して街中に散らばり、トリテレイアにさまざまな情報を届けてくる。
 今、それはカガリらの行動のある程度の成果を教えてくれた。
 ならば、とトリテレイアは妖精らにさらなる情報収集を指示する。他の猟兵らにもこのことを告げ、カガリらのもとに導くのだ。
 希望の光のようなものを得た気がしたトリテレイアは、高い住宅の密集地を抜けたところで2つの死体を目にする。
 赤ん坊のむつきを抱いて、互いを短剣で刺して死んだ男女の死体を。
 ――エラー!
 大火の幻が広がる。
 それはサムライエンパイアでの任務・トリテレイアは大火から多くの人々を救うためトリアージを遂行・成功・成功・トリテレイアは幼子を保護・炎から幼子をかばい力尽きた母親・トリテレイアの前で力尽きた母親・全員救出は不可能・不可能・理解していても・皆・救いたかった……。
 ――エラー修復完了。
 トリテレイアは機械馬の足を止め、夫婦の死骸を確認した。防御創がない。殺し合ったというよりは、やはり互いを使って自殺したのだ。痛ましい思いで赤子の姿を確認しようとむつきを開いて……トリテレイアは一瞬動きを止める。
 赤子は、黒く干乾びていた。
 もうずっと、ずっと前に、死んでいたのだ。


 雨糸・咲は懸命に足に力を入れた。
 命。喪われた命。
 進んでも、進んでも、目の前にあらわれるのは自ら投げ出され潰えた命の残骸ばかり……。
 嫌でも思い出してしまう。咲の大切なふたり。
 ひとりは女性。
 少しずつ身体の自由を奪われる病を患った。
 それを呪いだと忌避されて……村の墓地に入ることも許されなかった。
 ひとりは男性。
 病を患った彼女の夫。彼女を喪ったことで少しずつ心を蝕まれて……遂には自ら命を絶った。
 咲は助けたかった。咲は助けられなかった。
 咲の大切なふたりの主。彼らを喪った記憶が、「急げ、急げ」と咲の足を叱咤する。
(「何ができるかはわからないけれど、今の私には、伸ばせる手がある……」)
 咲は曲がった角の向こう、まだ動いている人影を見つける。
(「どうか、」)
「どうか一つでも掬わせて……」
 それはちいさなユキ・スノーバーと、ユキが治癒したばかりの少女がとっくみあっているところだった。
「死んじゃだめー、なんだよー!」
 ユキは少女より力はあるはずだが、治癒後なので上手く体が動かない。
 少女は焼肉用の串を手にして、自らの喉元を突こうとしていた。
 咲は急いで駆け寄る。少女の手を軽く打ち、串を物騒な用途から解放してやった。
「ぶ、ぶえええっ」
 少女は泣きじゃくっていた。泣きじゃくりながら、睨むように周囲に視線をやる。今度は飛び降りるつもりだろうか。
 ユキと咲は2人して少女を羽交い絞めにする。
 これからどうしよう……と言うところに現れたのが機械の馬に乗った機械の騎士・トリテレイアだった。
 すべて了解したように頷き、下馬した彼と3人がかりで、なんとか少女の気を失わせることに成功した。
「安全なところへ連れて行きましょう」
 快復させたら気を失わせてカガリのところへ。
 示された道に、咲とユキはそれぞれ頷く。こんなにも死に満ちた街で、それでも出てくるのだ……希望というものは。
 ユキは少女の傍にあった死体の山に近づいた。
 顔が判別できるものには、布をかぶせる。せめて道の隅に避難させる。
 少女と違って、彼らは間に合わなかったのだ。
「ごめんなさい……」
 しょんぼりと頭を下げて……そしてユキは次の誰かを助けるために顔をあげて、咲といっしょに街中へと駆け出していく。


 何人目かの救助者を別の場所へと送り込み……ふと、カイは気になる死体を発見した。
 若者だ。詩文を握りしめている。その手首に深い切り傷があり、大量の血がそこから流れ出した跡がある。死因は明らか。
 明らかなのだが……。
「これは……?」
 若者には、首のところに古い刀傷があった。これでは喋ることは難しかっただろう。
 閃いた事柄を確かめるべく、カイはいくつかの死体を検分する。
 古傷をもった死体や、もともと体が不自由だったとおぼしき死体が多い。
(「何か関係があるのでしょうか……?」)
 考えつつ視線を移動させると、入ってきた南の門が見えた。
 銘文を思いだし……カイは妙にざわついた気分になった。

●東の門

『すべての希望を携えて
 この門をくぐりなさい
 そうすれば救済は貴方の前に――』

 その碑文を斜めに見て、ロー・オーヴェルは軽く息を吐いた。
「死ぬことは容易いが、死んだ後の世界から出てくることはできない。入るのは容易い街のようだ」
(「だがここから出ることは……」)
 ひとつ、首を振る。
 ローが東の門を選んだのは、それが太陽の昇る方角だからだ。「沈む方角から入るよりは縁起がいいだろう」という、他愛のない理由。
 念のための用心として門扉の周囲に街の者がいないか伺い……生き物の気配はまるでない……目立たぬよう心を配って、ローはその門をくぐる。
 彩花・涼は自分なりに、もたらされた情報を咀嚼しようとしていた。
「平穏に死にゆく檻か……彼らがそれで幸せならそれもいいかも知れんな」
 死につつあるのに誰も出てこようとしない。それを選ぶ理由を涼は幾つか想定してみた。戦場暮らしが長い涼にも、幾通りか思いつくものがあった。ただ。
「ただ、それが知らず強制されたものなら……」
 その檻、壊してみせよう。
 目立たぬよう、扉に棲むガーゴイルにさえ気づかれぬよう、涼は隠密に門を通り抜けた。


 死者のみが待つ街は、呻き声も絶えて久しいのだろう。
 風が立てる物音が一番耳についた。
 ……涼の行く先々で死体が山と転がっている。
 死体は老若男女さまざまで、それは涼の知る幾つもの顔を思いださせた。
 涼と共にオブリビオンと戦ったかつての仲間たち。救えなかった故郷と……大事な弟。
 俯いて死んでいるあの青年の顔は、剥がされてはいないだろうか? 突っ伏している青年は?
 誰もが弟に似ている。誰もがヴァンパイアに顔を剥がされた弟と同じ、死人だから。
 だが、と涼はよみがえる想念を振りほどき、しっかりと惨状を見据える。
(「私はこれ以上犠牲を出さない為に、猟兵としてここに居る」)
 まだ正気を保っている者を捜すのだ。
 死体の山を、ローはまた別の感慨を持って見ていた。
 たとえまだ息のある人間がいたとしても、自分に出来ることは限りがある。ローは割り切っていた。
 だいたいの場合において『治療の質』というものは対価が必要で……ローいわく「カネが好物」なのだ。
(「専門的な技術も持たない者がマネゴトをしたところで、いったいどれだけのことができる?」)
 足早に街を行くローがその少女を目にしたのは、水場の傍だった。
 水死を狙っているのか、と駆け寄ると、少女がコップを手にしているのが見えた。コップの中身はひどく濁っているように見えた。
「よせ、やめろ!」
 ローには見覚えがあった。
 ローの実家は貧しい教会で、救護院も兼ねていた。だからわかった。これは劇薬。薬であり、毒でもある。
 少女がコップの中身をあおろうとするのを、力づくで止める。
 まだ健康で傷一つない少女の抵抗する力は強いが、猟兵にとって、ローにとっては何ほどのことはない。
 暴れる少女が蹴ったバケツが転がって、その音が涼の耳にも届いた。
 駆けつければ、わかりやすい毒死志願の少女と、それを止める猟兵の姿。
 初めて目にする生者に、涼の口から言葉は勝手に迸り出た。
「何があったのか知らない。だが、聴いて欲しい」
 手を差し出す。
「私の手をとってくれるなら、私は君の願いに全力で答える。この悪夢を終わらせよう……共に」
 悪夢、と少女は呟いた。
「悪夢、悪夢、悪夢! おかあさんが死んでしまったのに、わたしのせいなのに、わたしがまだ生きていることが悪夢よ!」
 滂沱の涙が少女の頬を伝わっていく。
「あんなに苦労して手に入れたお薬だったのに、量を間違えないようあんなに言われていたのに、間違えたの! わたしが間違えて、わたしのせいで、おかあさんは!」
 嘆く少女が自らを殴ろうとする拳を、涼は受け留める。
 涙を流したまま、少女は口をつぐみ――。
「!!」
 察したローは、自分の舌を噛み切ろうとした少女の口に、自分の手を突き入れた。
 それは実家で見知った方法だ。苦痛のあまり無意識に舌を噛み切ってしまう患者を止めるための……単純で、乱暴で、なにより効果のある……。
 ローの拳に、鋭い痛みが走る。肉を、骨を断つ勢いで噛みつく少女の歯。噛み切られる前に、少女の口をこじあけるようにナイフの柄を差し込む。
 少女がこれ以上誰も傷つけぬよう、涼は首筋を一撃した。
「それでも、君に生きて欲しい」
 少女を地面に横たえて、涼は呟いた。
 ……高く澄んだ機械音がした。トリテレイアの自律式妖精型ロボだ。その後を、機械馬の蹄の音が追ってくる。
 ひらりと下馬し、少女を抱えて機械の騎士は告げる。
「助けます」
「……ああ」
 駆けていく背中をローは見送る。
 涼は門の文言を思い出していた。
「救済……」
 それは、いったい何を指すのだろうか?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
超えればいいのか

回廊で壁の上から侵入
邪魔されない位置から転移し、さらに転移で内部へ

視認できる位置まで接近できなければ界識を先行させ、五感共有で既知としてから直に内部へ転移
建造物の陰など目立たない場所へ


※過去の記憶などは無し
猟兵となる前のことを覚えていないため
自身に過去がないことを再確認はするかも
無いなら無いで良い、と自分内で決着はしている


リーヴァルディ・カーライル
…ん。皆、もがき苦しんで…酷い。
彼らを見ると、嫌でもあの人達の最期を思い出してしまう…。

私を救い、私を導き、私を護り…。
…そして神の生贄にされた、彼女達…ラグナとプレアを…。

…感傷は後。今は元凶を突き止めよう。
敵が吸血鬼であろうと無かろうと容赦はしない。
この暴虐の報いは必ず…。

事前に防具を改造し存在感を消す“忍び足の呪詛”を付与。
気配を遮断し、第六感と暗視を頼りに街の異変を探る。

苦しむ人々を見て【限定解放・血の教義】を二重発動(2回攻撃)
吸血鬼化した自身の生命力を吸収して魔力を溜め、
眠りに誘う呪詛を宿す“闇の霧”を可能な限り広域に放つ。

…闇の精霊、眠りの精。
苦しみ喘ぐ彼らに一時の安息を…。


亞東・霧亥
居ないはずの門番が居る?
まあ、情報に誤りがあるのは仕方無い事だな。

※常時『目立たない』使用

【SPD】
門番の目を欺く外套を纏い、特殊な歩法で足音を立てず、スルスルと門に近付く。

首狩武者を出来るだけ離して召喚し、騒ぎを起こして、門番の注意を引き付ける。
その隙にさっさと通り抜ける。

首狩武者には3重の壁(門?)を抜けるまで、俺の後方300mを追従させ、目立たせ続ける。

『首、置いてけぇぇぇ!』
(楽しそうだな、アイツ。)


ユエ・イブリス
●プレイング
『胡散臭い』、その認識は正しいだろう
幾つもの世界を渡ったが、ここは一際救われぬ
たかだか壁の三枚で、百年の平穏が保たれるはずも無い

門をくぐる必要などない、私には翅がある
壁の上に座ったままで中の様子を眺めてみようか
【薄氷の蝶】動くものを追跡
「行っておいで」

想像はつく
幼い我が子をその手で縊る両親か
恋い慕う相手に深々と刃を突き刺す光景か
病み衰え捨てられた者たちか
それとも、それらすべてに加えた更なる凄惨か

中々に酷な様子だね、健全な精神にはきつかろう
――こういうときは、己に『情』が欠けていて良かったと思うよ
嘆き怒ることができる人間らしい心を失くしたのは
果たしていつだったろうね

※優雅にアレンジ可


レガルタ・シャトーモーグ
まやかしもいいとこだな
住人は皆薬でもキメてるのか?
まあいい
オブリビオンは殺す、それだけだ

門番も居ないなら楽でいいな
念の為、できるだけ身を隠しながら門扉に接近
扉を【鍵開け】して潜入

誰かが誰かを殺すなんて日常茶飯事だ
例えそれが家族であったとしても
嘆く声が枯れ果てる前に俺が引導を渡してやろうか?
この世界で安寧を求めるなら、それは死しか無いだろう
息の根を止めて安息を得るか、心を殺して這いつくばって生きるか
生きたいという意志がある者が残っていれば助けよう
…それが良い事なのか、悪い事なのか、俺には分からないが…

会話ができそうなら、オブリビオンの情報や街の情報を聞き出す
難しければ【迷彩】で隠れつつ周囲を捜索



●北の門
 目立たず、足音も立てず門に近づいて……亞東・霧亥はその人影に気が付いた。
 居ないはずの門番が居る?
(「まあ、情報に誤りがあるのは仕方無い事だな」)
 目をくらませるため、首狩武者を呼び出す。もちろん、自分から大きく離れた場所にだ。
(「よし、存分に注目されてこい」)
 街中で、突如現れた武者はガチャリと鎧を鳴らし、吼えるように声をあげる。
『首、置いてけぇぇぇ!』
 沈黙の街に、そこだけ奇妙な騒擾が生まれる。
(楽しそうだな、アイツ。)
 御機嫌な首狩武者を遠目に、するりと門番の脇を通り抜けようとして……霧亥は気が付いた。
 門番は、立ったまま死んでいた。
 喉元から突き出ているのは、門扉に飾られた黒鉄の天使の持つ剣の切っ先だ。これに向かって全体重を乗せて倒れかかったのだろう。
 霧亥は門番の横を見やる。街の見取り図があった。
「……なるほど。これは目出度い円十字」
 三重円の壁に、十字の道。紋所を思わせるその図をちらりと見て、霧亥は進む。
 レガルタ・シャトーモーグは、「壁に守られた街の人々」という話を聞いた時点でもう信用がならないと思っていた。
 まやかしもいいところだ。
(「……まあいい。オブリビオンは殺す、それだけだ」)
 レガルタの生きる世界では、誰かが誰かを殺すのは日常茶飯事だ……例えそれが、家族であったとしても。
 もし街の中でそのような光景が繰り広げられているなら。そのせいで自死を選ぶというのなら。
(「嘆く声が枯れ果てる前に俺が引導を渡してやろうか?」)
 そんなことをレガルタは思っていた。
 周囲に動くもののない門だったが、念の為、できるだけ身を隠しながら門扉に接近する。鍵のかかっていない扉を開け、物影を縫うようにひっそりとくぐりぬける。レガルタの漆黒の翼は影に溶け、例え門番がいたとしても容易には見抜けなかっただろう。
 ……目にしたのは、安寧を求めた人々の骸の山だった。
 レガルタは思う。ここはダークセイヴァー、夜と闇に覆われた世界。この世界で安寧を求めるなら、それは死しか無いだろう。
 息の根を止めて安息を得るか。それとも心を殺して這いつくばって生きるか。どちらかしかないのだ。
 この街の人々は、安息を選んだ。そういうことなのかもしれなかった。
(「生きたいという意志がある者が残っていれば、助けよう」)
 ん、とレガルタは少し眉を顰めた。
 助けたとして……。
 それは良い事なのか、悪い事なのか?
 レガルタには分からない。分からないが……。
 未だ動くものの姿を求め、レガルタは進んだ。


 高みから見下ろすと、街の円十字の構成がよく見て取れた。
 門の銘文は見えないのではなく、欠落しているのだ。思わせぶりな文言だ、とユエ・イブリスは思った。内容も胡散臭い。
 『胡散臭い』といえば、そもそも街のあらましからしてそうだ。
 ユエは幾つもの世界を渡った。救いようのない世界は幾つも見てきた。
 だが、ここダークセイヴァーは一際「救いがない」。
 人の美徳など脆いものの最たるもので、だからたかだか壁の三枚で、平穏が保たれるはずも無いのだ。
 ユエは今、壁の上に座っている。
 門をくぐる必要などない。ユエには翅があった。
 壁の上に座ったままで中の様子を眺める。次の壁はこの壁より高く、屋根に覆われて、そこまでの視界を確保するのは無理そうだった。
 だが、外縁の街の様子ならば。
 ユエは喚ぶ。自分の翅を思わせる、氷の翅をもつ小さな蝶の群れを。【薄氷の蝶】の名にふさわしい蝶を。これらはユエと五感を共有し、ユエの目となり耳となる。
「行っておいで」
 蝶は、何を見るだろう?
 ユエが想像したのは。
 幼い我が子を縊る親。
 恋い慕う相手に深々と刃を突き刺す恋人たち。
 病み衰えて捨てられた者たち。
 すべて、ダークセイヴァーで見た光景だ。
 これらすべてに加えた更なる凄惨が、この壁の中にあるのだろうか?
 実際には、ひどくささやかな惨状だ。
 悲痛と苦痛と絶望に満ちている。わずかに生き残った者たちも……正しくは死にそびれた者たちも……急き立てられるように死に向かおうとする。生きているのが苦痛なのだ、と叫ぶ。
 ユエは、五指を以て己の頭蓋に触れた。
「ここが、牢獄。頭蓋骨の中の地獄。己からは逃れる術がない。……そういうことかな?」
 中々に酷な様子だね、とユエは何度か頷いた。健全な精神にはきつかろう、と中の猟兵たちを慮ったりもした。
「――こういうときは、己に『情』が欠けていて良かったと思うよ」
 嘆き怒ることができる人間らしい心を失くしたのは、果たしていつだったか。優雅に翅を震わせて、ユエは蝶たちをさらに先へと向かわせる。


 アルトリウス・セレスタイトもまた、門をくぐらなかった1人だ。
 壁を越えればいいのなら、アルトリウスのユーベルコード『回廊』で事足りる。
 まず、壁の上を「視る」。
 視たのなら、もうアルトリウスが知っている場所になる。
 『回廊』はサイキックで生み出した小さな【淡青色に輝く粒子】を飛ばし、触れた抵抗しない対象を吸い込む。吸い込んで、術者が知る全ての場所へ繋がる異空間へと送り届ける。
 回廊で壁の上へと転移、さらに街中を「視る」。邪魔されない位置へ転移し、さらに転移で内部へ。
 こうやって、アルトリウスは着々と街の中心へと移動してきた。
 地面に散らばる死体も、特に何の感興も呼び起こさない。
 アルトリウスには、過去の記憶がない。
 猟兵となる以前のことを覚えていない。だから、死体を目にして思い起こす顔もない。
 ああやはり自分には過去がないんだな、と再確認はしても「無いなら無いで良い」と割り切っている。
 もう、アルトリウスの中で決着がついているのだ。
 そして転移の果てに、アルトリウスは広場へと辿り着いた。
 そこにはレガルタがいて、まだ生きている中年男性の襟元を掴んでいた。


「おいアンタ。薬でもキメてるのか?」
 ずっとまばたきもせず、呆けて口を開けていたのか、その中年男性は顔全体が干乾びて見えた。 
 レガルタはようやく見つけた生存者相手に、容赦しなかった。
「口が利けるなら答えろ。この街のこと、この街のオブリビオンのこと」
 ぱり、と音がして、男性の目がレガルタの方を向く。先ほどの音は、貼り付いていた目玉が、引き剥がされる音だった。
「……エターニア……救済を求める者の……都市……」
 胡散臭さにいらついて、レガルタは男性を揺すった。
「救済の結果が、コレか?」
 手を広げて指し示す。死体、死体、死体、死。
 男性はひゅーひゅーと喉から声にならない声をあげた。
「……こんな筈ではなかった…………嘘だ……信じていたのに……」
 ぐ、とくぐもった音がして、男性の目が裏返る。
 彼は、舌を噛み切ることに成功したのだ。
 レガルタは男性の襟元を放した。介抱しようという気は起こらない。
 男性は、安寧を選んだのだから。
 アルトリウスは男性の最後の言葉に引っ掛かりを覚える。
「『信じていた』……。誰を?」
 元凶を。
 同じものを脳裏に思い浮かべながら、レガルタとアルトリウスは広場を抜け、次の門への道を進む。


 リーヴァルディ・カーライルが通りがかった建物は、死ぬには少し高さが足りなかったようだ。
 存在感を消す“忍び足の呪詛”を付与した防具を身に纏い、気配を遮断して、第六感と暗視を頼りに街の異変を探っていた最中だった。
 飛び降りたのは、つい先ほどなのだろう。
 みな人の形を残したまま、途切れぬ痛みに呻いていた。
「……ん。皆、もがき苦しんで……酷い」
 嫌でも思い出してしまう。
 ほんの一瞬きの間に、リーヴァルディの脳裏を駆け巡る光景がある。
 あの人達の最期の姿。
(「私を救い、私を導き、私を護り……」)
(「……そして神の生贄にされた、彼女達……ラグナとプレア……」)
 その名前まで辿り付いて、リーヴァルディは想念を振り払う。
「……感傷は後。今は元凶を突き止めよう」
 敵がリーヴァルディの仇敵、吸血鬼であろうと無かろうと。容赦はしない。この暴虐の報いは必ず受けさせるのだ、と。
 リーヴァルディは己の血の力を発動させた。
 【限定解放・血の教義】。
『……限定解放。テンカウント。吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!』
 一度、二度。ざわりとリーヴァルディの髪の毛が動く。力の余波で脈打つ。
 吸血鬼化した自身の生命力を吸収し……魔力を溜め、眠りに誘う呪詛を宿す“闇の霧”を、苦しみあえぐ彼らにもたらそうとする。
「……闇の精霊、眠りの精。苦しみ喘ぐ彼らに一時の安息を……」
 ……死と眠りは兄弟のようによく似ている。
 安らかで、動かない。一心に死に向かおうとする人々に、眠りはやさしく、己の兄弟に場所をゆずる。
 霧に触れた人々は、安堵の表情さえ浮かべて動きを止め……そして二度と目覚めなかった。
 安らかに眠る人々を黙然と見下ろし……そして顔をあげたリーヴァルディの目の端に、北の門に掲げられた銘鈑の文字が入ってくる。

『すべての希望を携えて
 この門をくぐりなさい
 そうすれば救済は貴方の前に――』

 閃くような予感が、リーヴァルディの身体を貫いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
堅固な壁は檻にも為り得る――か
この世界の平穏等、瞞しに過ぎぬのやも知れぬ
…お前こそ何が起きようと逸れるでないぞ?
怖気付きでもしたら置いて往く故

不測の事態にも直ぐ対応出来るよう警戒は怠らず
地獄絵図とも呼べる都市に足を踏み入れる
広場へと向かう道中――小さな影を見つけた
四肢が、首が、千切れた幼子
砕かれた灰色の輝石と重なって
激しさを増す鼓動
然し不意に視界を遮られ我に返る
…そうさな、先を急がねば

…ジジ?
一点を食入る様に見詰める従者の瞳
恐る恐る視線を動かせば
映る光景に眉を顰めた
ジジ――ジジ!
後ろ髪を引張り、額へ勢い良く己のそれをぶつける
良く見ろ、ジジ
お前の目の前に映っているのは何だ?


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と共に

幾度か見てきたこの世界に
安全な街など存在できるのか

門番すら不在とは
…何が起こっているのか解らぬ
逸れるなよ、師父

門を抜け壁の中へ
ふと師父の呼吸が乱れたのを感じ取れば
その視線の先を同じく辿り
言葉を失いながらも、外套で師の視界を遮る
――あまり長く見るものではない
先は長い、急ごう

広場を目指す路地裏には
兄弟だろうか、幼い子供二人の影
…少し大きな一人は明らかに動かない
残り俯く子の顔は見えない
しかし目も逸らせずに
繋いだ手の先で冷えてゆく身体の、おぼろげな記憶

師の声と衝撃で引き戻されれば
…文字通りの石頭め、解っている

師を支え、逸れぬよう
それでも掬えるもの
救える者があるのなら、前へ



●広場へ
 鋼鉄は鉱物にあらず。
 人の手により精錬され、形成されたもの。ゆえに、眼前にあるこのゆるぎ無い形は、作り手の意思そのものである。
 ならば、と、都市の壁を見上げてアルバ・アルフライラは思う。
 『壁』に付与されたのはこの堅固さのみだ。快適さは与えられなかった。鋳鉄の飾りも先端が刺さりそうに鋭角で、触れがたい印象でこちらに迫ってくる。
 その特徴は、『檻』がもつものでもあった。
 スターサファイア、燃える星の輝きを宿す瞳でアルバは壁と、それに続く門を見る。門の上の、銘文を目にする。

『すべての希望を携えて
 この門をくぐりなさい
 そうすれば救済は貴方の前に――』

 ふ、と溜め息のような声を出し、ジャハル・アルムリフは俯いた拍子に落ちてきた前髪を払った。
 「幾度か見てきたこの世界に、安全な街など存在できるのか」……ジャハルが独り言のように呟いていたのを、アルバは聞いている。
(「そう……この世界の平穏等、瞞しに過ぎぬのやも知れぬ」)
 門扉の周囲を見回して、ジャハルは師父たるアルバに警告する。
「門番すら不在とは……。何が起こっているのか解らぬ。逸れるなよ、師父」
「……お前こそ何が起きようと逸れるでないぞ? 怖気付きでもしたら置いて往く故」
 頼もしげな従者に軽く笑んで答え、アルバは視線を門の下に、意識を門扉の向こう側に向ける。
 不測の事態にも直ぐ対応出来るよう、警戒は怠らず、師弟は門をくぐり都市に足を踏み入れる。
 文字通りの……地獄絵図に。


 道には点々と死体が落ちている。
 街路樹には不思議な果実が垂れ下がっている。
 妙に細長いシルエット、それが幾つも、ぶらぶら、くるくるとゆれている。
 その街を、無言で師弟は進んだ。
 まっすぐな大通りに沿って……もうすぐ広場だろう、というところで。
 アルバはその小さな影を見つけてしまった。
 壊れた人形のように、まだ人の形をささやかながら留めている。
 四肢が、首が、千切れた幼子。
 ……それがアルバの記憶の中の砕かれた灰色の輝石と重なった。砕ける輝石は、その一瞬にどれだけの光を煌めかせたか……。
 どくん、と激しさを増す鼓動。
 息が止まる。
 ……しかし共に進むジャハルが、師父の呼吸の乱れに気が付かない筈はない。
 様子のおかしい師父の視線の先をたどり……思わず言葉を失う。
 言葉がなくとも、体は勝手に動いた。さっと外套で師の視界を遮る。
 アルバは我に返った。
 外套越しのジャハルの声は低く、どこかこちらを慮るようだ。
「――あまり長く見るものではない」
「……そうさな、先を急がねば」
 アルバの返事があったのを受け、「急ごう」と従者は何事もなかったように言う。
 外套をあげて、アルバは普段通りの顔を見せ、死の街に踏み出す。
 広場には、たくさんの死の跡があった。
 路面に赤で描かれた大きな紋様は、生者だったものの足跡だろう。
 ふと、ジャハルの目が広場に通じる路地の、さらに暗がりに留まる。
 かつては広場へと駆けてくる子供たちがいたであろう路地裏で。
 兄弟だろうか? 幼い子供が2人、うずくまっていた。
 ……少し大きなほうの子供はぴくりとも動かず、明らかに事切れている。
 残る一方の、大きな子に寄り添い、俯く子の、顔は見えない。
 視えないのに、しかしジャハルは目が逸らせない。
 己の記憶と酷似する、繋いだ手の先で冷えてゆく身体の、おぼろげな記憶……。
「……ジジ?」
 動きのとまった従者の様子を、アルバは怪訝そうに窺う。
 一点を食入る様に見詰めるその瞳。
 恐る恐る視線を動かして……目に映る光景に、アルバは眉を顰めた。
「ジジ――ジジ!」
 従者の黒い後ろ髪を引張り、頭を下げさせて――勢い良く額を己のそれとぶつける。
 ガツ、と割と洒落にならない衝撃がジャハルの頭部に走った。
 だが、おかげでジャハルは己を取り戻す。
 目の前の、師の声が耳に入ってくる。
 宝石の瞳、燃える星が己を見ている。
「良く見ろ、ジジ。お前の目の前に映っているのは何だ?」
 ジャハルは深く、長い息を吐く。
「……文字通りの石頭め、解っている」
 師を支え、逸れぬようにとジャハルは己に言い聞かせる。
 逸れず、離れず……掬えるもの、救える者の存在を求めて、二人は前へと歩を進めていく。
 互いを互いの杖として。
 そして師弟は広場を抜け、そびえる壁と第2の門を見る。
 第2の門の前で立ちすくむ1人の男の背中を見る……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 冒険 『屍血流路』

POW   :    再び動き出さないよう、ひたすら破壊し燃やせばいいだろう。。

SPD   :    最奥にいる元凶を倒せばあるいはすべて解決できるだろう。

WIZ   :    再生の仕組みを解明すれば怪物を生み出せなくできるだろう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 第2の門は、第1の門と同じ造りで、違いと言えばわずか三つ。

 一つめは、上空も覆う屋根があること。
 いくらダークセイヴァーとはいえ、昼間の明かりさえ遮られては、視界良好とはとてもいかないだろう。

 二つめは、その前に立つ男が(自死を試みない生存者が!)いること。
 何かの想念に捕らわれていたようだったが、猟兵に気が付き、我に返ったようだ。
 中年の、ごく普通の男に見えた。
 会釈しそうな親密さで、やってきた猟兵を見つめている。ふつうに門の前に立っている。

 三つめは。
 ―――ゴゥウン……!
 ―――ドゴゥウン……!
 鋼鉄の門の向こう側、内側から、強い衝撃音が轟いていること。
 門がへこまないのが不思議なくらいだ。衝撃の、音の余波はこちらまで伝わって、肌身に感じるくらいなのに、門も壁もまっすぐそそり立っている。
 内側で何が起こっているか、男には見当がついているようだった。
「ああ……分をわきまえない、身に余る願いだったんだな。願いが濁ってしまった。邪念を持つと、ああなっちゃうんだ」
 低い呟きは独り言のようだ。
 願い、というキーワードに聞き覚えがある猟兵もいた。
 こちらの疑問を察したのか、男は立て板に水で説明する。
「この街では、やってきた人間にまず望みを尋ねるんです。それが適格なら、受け入れる。……わたしはですね、全部覚えてるんです。この街に辿り着いた人々の願いを。聖堂にお伝えするために」
 聖堂?
 この街に関しては、初めて聞く単語だった。
 男は指で門を飛び越すような軌道を描いた。
「第2の門を越えると、第3の門があります。それは、聖堂の扉なんですね。文字通り街の中心です」
 男は猟兵に対しぺらぺらとよく喋った。
 のっぺりとした表情は、死に覆われたこの街にふさわしくないような、冒涜的すぎて逆に似つかわしいような、不思議な感じだった。
 微妙な雰囲気を察したのか(対峙する相手の感情、気配に敏感なようだ)、男は腰を低くした。
「すみません、勝手に色々喋っちゃって。みんな居なくなっちゃったもんでね。まあ仕方ないか。この街が……わたしたちが…………」
 口をつぐむ。数秒して、気を取り直したように話し出す。
「わたしは結構、この街の世話役というか、顔役というか。いや、人格が優れているというわけではなくてね。
 ただ、この街を最初に見つけた一団の、まあ、指導者のような立場だったので……その流れですね」
 つるり、とあたまを撫で、男は薄っぺらな笑顔を見せた。
「ここでは『祭司長』……と呼ばれていましたよ……」

====================
 ここまで読んでくださってありがとうございます、コブシです。
 以下は第2章に関しての捕捉となります。

 ・第2の門も鍵はなく、門番もおらず、開けようという意思さえあれば【外側からなら】苦も無く開きます。
 ・内側からは開きません。
 ・中に入ると、球体状にまとめられてしまった人々がいます。痛覚が残っています。
 ・転がって、侵入者に向かってきます。
 ・人体球は幾つもいます。
 ・猟兵が門から内側に入ると、何故か『祭司長』もついてきます。
 ・祭司長はお喋りで、尋ねたことには調子よく答えますが、核心部分「何故街の人々は死にたがるのか」「街で何が起こったのか」などを尋ねられると口をつぐみます。
 ・他愛ない質問や、無関係に思える質問の答えには、最終戦のヒントがあるかもしれません。
 ・人体球が祭司長を見つけると、突撃してきます。触れた瞬間、祭司長はばらばらにされて人体球の一部になります。質問することはできません。

 以上です。
 皆様のプレイング、楽しみにお待ちしております!
====================
矢来・夕立
※アドリブ/連携可
オレから祭司長さんに1つ提案。
『紙技・橿葉庫』。
ここに、あなたを保護する用意がある。
もし望むなら“すべて恙無く終わるまで”匿うことができます。

…ブラフ混じりですけど、ウソではないですよ。
乗ってくれるなら、重要参考人物の身の安全を確保できる。
断るのなら、それなりの理由が出てくるはず。
この街の背景も少しは分かりそうですが。

どう転ぶにしろ『暗視』で視界を確保しながら、『忍び足』で行動します。
人間球は避けるしかないですね。オレ、大きいのを上から磨り潰すのって苦手なんで。
死ぬまで頑張ってくださいね。応援してます。

“全ての希望を携えて”、やってきた先でコレかあ…詐欺じゃないですか?


彩花・涼
祭司長か…最初にこの街を見つけたなら、色々いままで起こったことは知っていそうだな
扉に入る前にいくつか質問しておこう

人々の願いか…例えばどんな願いなら受け入れられて、どんな願いだと濁ってしまうんだ?
あなたは何か願わなかったのか?
聖堂というのはどこにあるんだ?そこには何があるもしくは誰かいるのか?
聞きたいのはこのあたりだろうか…

質問が終わったあたりで中に入ろう
暗そうだから【暗視】で注意深くみて【目立たない】で人球体になるべく見つからないよう行動する、球体が自分の方に転がってきた場合は【見切り】で回避、もし祭司長が見つかったら【怪力】で祭司長を担いでUCで人体球を回避しながら聖堂の扉を目指す


ユーリ・ヴォルフ
アドリブ共闘大歓迎です

「願い」か…『祭司長』である貴方は、これまで多くの人々の願いを耳にしたのだろう。どのような願いだったのだろうか?
また貴方自身の願いも、胸に秘めているのだろうか。
良ければ教えてもらえないだろうか?

私の願いは…
今はこの街の人々の、心からの笑顔が見たい
私は守護者だから…この街の現状があまりに重苦しい
貴方の笑顔は…ただの作り笑いだ…!

祭司長を守るべく前に立ち
【メギドフレイム】で迫る人体球を串刺しにする
痛覚があるのか…悲鳴に胸が痛むが仕方ない
迫られたら『属性攻撃』『範囲攻撃』で炎の壁を作りガード
最悪の場合は祭司長を『かばう』で守り続ける
目の前の命を守れずして、何が守護者か!


雨糸・咲
祭司長への質問は、
暗ければ暗視を用い表情を観察
声の調子や話す速度に聞き耳を立て
第六感を駆使して相手の心情を汲み取る努力
他の方と被らないよう
また過度なプレッシャーを与えないよう落ち着いた口調で
話の内容と周囲の状況から情報収集を試みます

あなたはいつもここに立っているのですか?
先ほどは何か考え事をされていたようですが、何を?
あなたは今は「祭司長」ではないのですか?
街へ来た人へ望みを尋ねるのは「どこで」「誰が」です?
あなたの望みは何でしたか?
この街を見つけたきっかけは?
この街を見つけたことを、後悔していますか?

門を開けた後は
祭司長に突撃する人体球を蔓で引き止め
或いは
救助活動で接触前に保護する試みを


ユエ・イブリス
神ならぬ者がこの世界で
神の如き救いの御技が使えるはずもない

――気の毒といえば気の毒か
救われぬ世界しか知らぬこの者らは、
この世界が『際だって救われぬ世界』とは知らぬのだ
夢も希望も持てぬ世界とは、知らぬのだ

さて問おうか、『祭司長』どの
「この数日で口にした、最たる美味は何であった?」
先日手に入れた香り高い薔薇の酒がある
吸血鬼に献上するために造られた上物が手に入ってね
吸血鬼が『いなくなった』祝いの酒だ

どのみちあの門も越えねばならぬのだろう
扉が開いたなら【光の霧】を召喚し
屋根ある壁の内側を充たしてやろう
猟兵の目であれば、視界はこれで事足りる
さあ、どんな『絶望』と『死』が視える?

※優雅にアドリブ絡み可


レガルタ・シャトーモーグ
お喋りな奴は信用できないな…
胡散臭い都市に胡散臭い司祭長…まったくお似合いすぎて欠伸が出る

俺が聞きたいことは2つだ
・あんたが従う神は何だ
…どうせオブリビオンだろうが情報はあるに越したことはない
・あんたがここへ来た時の願いは何だった
…平穏や安寧だけなら資格を問うには薄すぎる気がする
まさか誰かと一緒に居たいだけでここまでいくとか無いよな…

話が終わったら門の中へ
人体球は【見切り】で躱し【カウンター】で「鈴蘭の嵐」
さっさと殺してやるのが温情ってやつだろ
撃ち漏らした奴は【2回攻撃】で【暗殺】

願いを集めた聖堂とやらに黒幕がいるんだな
さっさと破壊しに行こう


トリテレイア・ゼロナイン
彼らはいったい何を願ってあのような惨い姿に……
疑問も憐憫も大事ですがまずはこの地獄を形成した元凶にたどり着かなくては

祭司長を護衛し、扉の中に侵入

転がってくる人体球から祭司長を「盾受け」「武器受け」で「かばい」、「怪力」で弾き飛ばします。出来れば機械馬に祭司長を「騎乗」させて安全を確保したいが拒否されたら遠隔「操縦」で護衛に当たらせます

弾き飛ばした人体球が再び向かってきて、もとの正常な人体に分離修復できないと判断できればUCの焼夷弾で完全焼却を試みます。

祭司長、この街は望み・願いが的確なら人々を受け入れると仰いましたね。最初にこの街を訪れた貴方達を受け入れた存在はいたのですか?
その際の願いとは?


アルトリウス・セレスタイト
近くにいたリシェリア(f01197)と共に

まず把握しておきたいが、さて

透化で姿を消し祭司長に触れておき、手早く物陰で真影で呼び出し知る限りを聞いておく


己が人であるかも定かでないもの
状況を気の毒には思うが燃やす情熱はない
リシェリアは心を痛めているか

彼女の方が明確に人間味を持っているな、などと他人事のような感想を抱きつつ
見るのが辛いか尋ねてみる
返る問には、気の毒だ、とは
形ばかり人である己を彼女は如何に見做すか、少しだけ気にはなる

内部侵入後は魔眼・封絶で人体球を拘束
周囲の人体球が全て止まっていれば魔眼・円環で人間に復元可能か試行
出来れば片端から止めては復元

出来ねば魔眼・掃滅で消去
少なくとも痛みはない


リシェリア・エスフィリア
【アルトリウス(f01410)が近くに】

……私は人間になりたい
武器とは戦うためのものでしかないから
だが武器は作るだろうか
こんな苦しみしかない悪意に満ちた存在を
この状況に、人間の意志が介在するなら人間とは……

「辛くはない。……ただ哀しい。ここには、終わりすらないから」
掛けられる言葉に返す
「……あなたは、何を思うの」

状況を動かさないと
……祭司長もまた、状況に取り込まれてる。真実を知るには、奥を目指すしかない

彼に聞くのは一つだけ、今は幸福なのかと
答えはどうあれ、これ以上命が乏しめられるのを見過ごせない
人体球は【魔剣の縛鎖】で動きを封じ、祭司長に避難を促す

「……悲しいけど、終わらせるのに躊躇はしない」


出水宮・カガリ
【ヤド箱】ステラと、ペインと、カイと
※アドリブ絡み歓迎

…カガリにはわかる
これは、閉じ込める為の門だ
祭司長、この門は『守るため』か?『苦しめるため』か?
あるいは両方か

入る前に【鉄門扉の盾】を【不落の傷跡】【拒絶の隔壁】で強化
破魔の力を付与した【命の篝火】を抜き、門の中へ
祭司長とペインを優先して守りながら、
人体球を救おうと試みる間持ち堪える

…祭司長、あの門は、何を、何から、守っていたのだ
何を願ったら、こうなる
拷問ではないのか、これは

もし、身に余る願いが「誰かの役に立つこと」といった類なら
ひとを無力なまま等しく守るためならば、それも已む無しと、
…理解できてしまう、化生の自分がいる
そうでない事を、願う


リーヴァルディ・カーライル
…『救済は貴方の前に――』…。
ラグナと同じように、貴女も代行者になってこの地に居るの…?
だったら、この街の状況は……。

…ん。祭司長だっけ?
あの門に刻んであった文言はどういう意味?
…救済は、貴方の前に現れた?

事前に改造した防具の呪いを反転、
存在感を強化する“誘惑の呪詛”を付与
人体球の第六感に訴えて視線を自身に引き付け祭司長を護る

…ついて来ても良いけど、見つからないで

…随分と夜目が効くのね、貴方は

両目に魔力を溜めて暗視を強化
魔力の流れを感知して人体球の核を探索した後、
【限定解放・血の波濤】で核を破壊できないか試みる

…私に流れる吸血鬼の血。
その力の使い方と責任を教えてくれたのは、貴女だったね…プレア


ユキ・スノーバー
何か不思議な人過ぎて疑問だらけ。
安全確保出来る所で、可能な範囲で質問してみるっ。
祭司長さんってあだ名がついたのは何で?
他にもあだ名がつくような人は居たの?
…危ないのについてきたのは、内側へ向かったことが無いからなのかな?
守り切れない際は、お喋り出来て自殺しようとしない人が居る所に心当たりが有るかどうか聞き出せれば、かな。
第2の門を通った後は、外側からしか開けれないのが何故なのか把握しつつ、華吹雪で応戦するよ
……寒さで痛みが鈍くなれば、辛くなり過ぎずにおやすみなさいって出来ると思うから。
未だ助けれそうな人が居るなら、狙われない様頑丈な所に囲えるようにして華吹雪で氷の壁を作るね。

アドリブ&連携歓迎


イア・エエングラ
祭司長さんはもう、お外に出る気が、ないかしら
扉が内から開かないの、ご存じでしょう
奥へ行く道も出口もご存じなのかしら
行く路には青い火を灯して目指すは聖堂、かな
凄惨な情景に溜息吐けど
場にそぐわず話題を繰って
あなたの日課は、楽しみは、なんだった?
今となってはなんにも、残ってはいなさそうだけど

……嘆く声の、かわいそうにな、もう離れもしないだろうに
手立てがないなら、硝皚で、全部さいてさよならするよ
生きている方は手を引いて、僕らの絶えるまでお守りしよか
なあ、あの人らは何時頃住んでた、方かしら
痛かろうに苦しいだろに、せめて一緒におやすみなさい
ともに落ちたら深い海の底きっとさいわいのあるように


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
おい、確か祭司長と云ったな
…中で転がる者達の仲間になりたくなくば
我々の質問に答えて貰うぞ

貴様はこの街を見つけた一団に加わっていたそうだが
此処に在った三つの壁は元々在ったのか
第三の門の先に在る『聖堂』も元々存在していたのか
そして第二の門――元々、この先には何が在ったのであろうな
今は内側から開ける事は叶わぬ様だが以前は異なったか否か
知りたい事は山程ある

…とは云え油断するな、ジジ
さもなくば我々も彼奴等の同胞として迎えられる事となろう
人体球が向って来るならば【女王の臣僕】で氷漬けに
動きを封じると共に痛覚を麻痺させ
少しでも楽に逝けるよう――『慈悲』なぞ語る心算もないが

…やれ、ジジ!


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と共に

師から離れぬよう<暗視>を常時活用

ああ、祭司長とやら
…斯様な街で御前はなにを願う?
地位か、モノか、安寧か?
人々に問うてきたそれを、御前は何としたのか興味がある

それとも、願う事などない程に
この街は平和で在れたのか
壁の中は、窮屈ではなかったか?


*門の中、人体球が向かってくるならば
<怪力>で祭司長と師を抱え
翼で飛行し一旦高所へ逃れる

人体球が最早ひとには戻れぬ身で
倒さねば進めぬ場合においては
師が凍らせたそれを【竜墜】で
確実に、一撃の下に葬れるよう
<怪力>と<捨て身の一撃>で以て討つ

――己では叶えがたい事である程に
それを願わぬ者など
願った事のない者など、此の世に居るのだろうか


ステラ・アルゲン
【ヤド箱】カガリ、ペイン、カイ殿と参加(アドリブOK)

一体この街で何が起きている?
願いを持ってやってきた人たちはなぜあんなことに
流星という願いを聞き届ける剣だった故に人の願いは気になる
彼らの願いは星に願われるような願いだったのだろうか

司祭長とペインを守りつつ、歩きながら彼に質問する
この街の住人たちの他の願い、人体球の願い、そして祭司長自身の願いはどんなものだったか、コミュ力と優しさを持ってそれとなく聞き出す

人体球、助けられるなら私はそちらを優先する
助かる術がないなら痛みを与えないように赤星の剣を使い、全力魔法で祈りを込めて一瞬で火葬する
人を葬るのは初めてではないがやはり良い気分ではないな……


ペイン・フィン
【ヤド箱】で参加

(心の中で語るのみで、言葉にしません)

無意識のうちにコードを使用。
周囲の怨念を、
悲哀を、
憤怒を、
強い負の感情を、喰らって吸い取って宿す。

でも、宿すだけ。
人体球には攻撃しないし、できない。
彼らが、元に戻ることは無いのかもしれないけど……。
だからこそ、自分には、攻撃できない。
自分はもう、そんな理由で誰かを殺したくない……。
仲間が、とどめを刺すようなら、
自分は、黙ってそれを見ているよ。

一応、周囲の警戒とか、
何か、ヒントは無いか、探しはするけど、
でも、基本的には棒立ちになって、怨念の吸収の方に集中するだろうね。
或いは、そこから何か、読み取れるかもしれないけど……。ね。


桜雨・カイ
【ヤド箱】アドリブ連携歓迎

錬成カミヤドリ発動、錬成体で人体球の突撃を食い止める
人球体の構造(球の奥や、まとまり方等)を確認
球体の解除方法を調べる※方法分かれば周囲に共有

屋根があるので光に弱いかも
痛覚を抑える為【聖痕】の光をそっとあてる。大丈夫ですか?
どうしてこのような姿になったか、誰に教えられたかを問う

(先ほどの死体を思い出し)
…あなた達も門の外では生き辛かった人ですか?
普通に日常を送りたくてここへ来たんですか?
だとしたらあなた達は…ただの普通の人です
人に人を襲わせはしません…私がここで止めます

救えるならギリギリまで模索。
不可能ならせめて苦しませない手段を選択
…大丈夫です、私は「人形」ですから


ロー・オーヴェル
度が過ぎる願いは身を滅ぼす
昔話の定番だ

……それに親の看病まで含まれるとか理解不能だがね

●扉
『開けない』

●祭司長への質問
「この街に来る前はどこに住んでたんだ?」
「聖堂とやらには何か祀られているのか?」
「『願い』を持たずに生きることは賢い方法だと思うか?」


猟兵が扉を開けるとついている
中に入る意思はあるが自分で扉は開けない

喩えをしよう
崖の上に立つ一人の男
自分で崖から飛び降りることはできないが
誰かに背中を押してもらえば『飛び降りられる』

この男は
自分の運命を他人の行動に委ねているのかもしれない


正しい選択(この街にそんなものないのかも!)とはなんだ?
ただ正誤も善悪もわからないなら
自分の好悪に従うまでさ



●門
 空が、赤い。
 夕暮れ時、この世界の空には血の色が広がる。
 広場は空の色を映して赤みを帯びていた。
 石畳も、死体も、影も、門も、人も。
 同じ色に染められながら、猟兵たちは似通った感慨を抱いていた。
 第二の門を前にして立つこの男。生存者。
 空虚な明るさの、この男を信用していいものか?
 ……否、だろう。
 普通の、生気に満ち溢れた街中では『死』が忌みごとであるように、死が充満するこの街の『生者』はどこか不自然で、信用がならない。

 彩花・涼は醒めた目で男を一瞥した。
「『祭司長』か……」
 それでも、手掛かりであることには違いない。
「最初にこの街を見つけた、と言ったな。なら色々、いままで起こったことについて……知っている筈だな?」
 「ええ、」と祭司長は気安く答えた。道を尋ねられたら、そう答えたであろう気安さ。
 ほかの猟兵の呼吸も見計らいつつ、雨糸・咲は切り出した。相手にプレッシャーを与えないよう、やわらかく落ち着いた口調で、ゆっくりと。
「あなたはいつもここに立っているのですか?」
 ここ、という指示代名詞にすこし考えてから、祭司長は「いつもではないですよ」と言った。
「毎朝、どこかの門の前の広場には行くことにしています……いや、していました。聖堂からお声が聞こえることもありましたから」
 咲は一つ、言葉を呑みこんだ。……尋ねたそばからさらに疑問は増えていくが、順序立てて、決めていた問いを投げていく。
「先ほどは何か考え事をされていたようですが、何を?」
「……これからどうなるのかな、と。他にもいろいろです」
 男に動揺は見られない。うつむき加減の、茫洋とした笑顔だ。
 ……「くぁ」、と意外な愛らしさの、小さな欠伸の音がした。
 レガルタ・シャトーモーグは欠伸の余韻を噛み殺し、祭司長の笑顔を鋭い視線で刺した。
「お喋りな奴は信用できないな………」
 胡散臭い都市に胡散臭い祭司長。まったくお似合いすぎて、文字通り「欠伸が出る」。そう言いたげだった。
 苦笑する祭司長は、足元ちかくからかかった声に首を傾げた。
 同じように首を傾げた状態で、ユキ・スノーバーが見上げている。
「『祭司長』さんって、あだ名がついたのはなんで?」
 ユキにとって、彼は何か不思議な人過ぎて、頭の中は疑問だらけだ。小康状態を保っている今のうちに質問しようとすると、まずそんなところからになる。
 祭司長はにこにこと答えた。
「あだ名ではないでしょうねえ。役職のようなものですから。あだ名というなら、わたしは裏で『だんまりさん』と呼ばれていたのですよ」
「だんまり?」
「喋りませんでしたからね……。まあ当然です、人の願いをすべて聞く立場ですから。秘密の思いも願いもすべて聞いて、なにひとつ漏らさず、聖堂だけにお伝えする。お喋りでは務まりません」
 ……「なら、なんで今はお喋りなの?」とは、ユキは尋ねなかった。なんとなくわかってしまった。無口な筈の人間がよく喋る、喋り続けなければいけない、そうしないと自分を保てない……そんなことが起こったのだ。
「他にもあだ名がつくような人は居たの?」
「居ない……居なかったように思います」
 また、過去形に直した。彼は、何が起こったのかをきちんと理解しているのだ。
 咲はカードゲームの手札を開くように質問していく。
「あなたは今は『祭司長』ではないのですか?」
「………………違い、ますね」
 沈黙は長かった。「わたしを必要とする人はもういなくなってしまった」という呟きは、こちらへの返答というよりは、自身に確認するような響きがあった。
 『願い』という語について、涼は先ほど祭司長が誰にともなく呟いたことが気になっていた。
 『それが適格なら、受け入れる』……。『願いが濁ってしまった』……。
「願いか……例えばどんな願いなら受け入れられて、どんな願いだと濁ってしまうんだ?」
 涼が目にした街の人間は、どちらだったのだろうか。祭司長は特にてらいもなく答えた。
「『失ったものを取り戻したい』という願いです。ほとんどの願いは受け入れられましたよ。この世は、何かを失った人間だらけですから」
「……例えば、死んだ誰かを?」
 ロー・オーヴェルはそこを確かめずにはいられない。
「そりゃ度が過ぎる。そして『度が過ぎる願いは身を滅ぼす』。昔話の定番だ」
 自分が助けた少女を思いだし、ローは舌打ちしたい気分になる。
(「……それに『親の看病』まで含まれるとか理解不能だがね」)
 ローの言葉に、祭司長は微かに頷いた。
「たしかに、度が過ぎますよね。……でも、人はそれを願ってしまう。その願いを聖堂は受け入れてくれた。そして……失ったものは、帰ってきた」
 空虚な熱意というものがあるなら、今の祭司長の言葉がそれだった。
 涼の方を向いて、立て続けに説明する。
「濁ってしまったのは、たぶん、失ったものについて、『盛っていた』んだと思います。ほら、あるじゃないですか……『自分はこんな酷い目にあったんだ』と人に言うとき、大げさに言ってしまうこと。悪気なく、無意識に、やってしまうことです。それがきっと……聖堂にとってとても良くないことだった……」
 願いの内容についての質問はどうも祭司長を興奮させるようだった。
「おい、祭司長とやら」
 追い立てられるような祭司長の言葉の奔流を、アルバはびしりと遮った。
「貴様はこの街を見つけた一団に加わっていたそうだが、此処に在った3つの壁は元々在ったのか」
「……はい」
 祭司長は目を瞬いた。うたた寝の、白昼夢から我に返ったようだった。アルバは相手の理性を値踏みしながら続けた。
「第3の門の先に在る『聖堂』も元々存在していたのか」
「はい。すべて元から在りました。人は誰もいませんでしたが、都市は……壁も門も、都市の最奥、中枢、真中にある聖堂も、すべて、今さっき建ったばかりのように……」
「聖堂とは」
 涼はようやくこの問いを投げる番が来た、と思った。「最奥、中枢、真中」と祭司長は言った。立地はわかった。機能も幾らかは。そこから予想されるものを、祭司長はこの場で明言するだろうか。
「聖堂というのは……聖堂には何がある? もしくは、誰かいるのか?」
 ローも言い添えた。
「聖堂とやらには、何か祀られているのか?」
 返ってくる答えは一語。
「神が」
 一瞬、空白が生まれた。
 皆、なんとなく見当はついていた。「聖堂」、「祭司長」、「願い」とくれば、後に続くものは決まっている。
「俺が聞きたいことは2つだ」
 空白をぶった切ったのはレガルタだった。
「あんたが従う神は何だ」
 どうせオブリビオンだ、もうわかっているようなものだ。だが情報はあるに越したことはなかった。
「神の、聖堂に御住まいの方のお名前は存じ上げません。ただ、とても綺麗な方です」
 答える祭司長の声に陶酔はなく、怨嗟もなく。事実を述べる口調だった。
「毎朝、広場でお声が聞けました。歌を歌うように、詩を吟じるように美しいお声でした。それを聞くために、毎朝広場へ通う若者もいました……」
 歌うのは、吟じるのは、「人々が彼女に託した願いが成就されるために何が必要か」ということ。
 完全なる救済には行程があり、今はその第一段階なのだと。
「『失ったものは取り戻されたではないか』『救済は既に為されたのではないか』と思うものがほとんどでした。それでも聖堂のお声は変わらず……まだこれからなのだ、と……わたしたちは、考えるべきだった……聖堂は、彼女は嘘をついてはいなかったのだから……」
 ローは大きく息を吐く。
(「嘘をつかない、か。それも昔話の定番だ。昔話の『悪魔』のな」)
 リーヴァルディは全身に走る予感に、一瞬だけ身を震わせる。
 『救済』、と祭司長は言う。
 そして門上の銘鈑にあった言葉……『救済は貴方の前に――』……。
(「ラグナと同じように、貴女も代行者になってこの地に居るの……? だったら、この街の状況は……」)
 リーヴァルディは考えを止める。このまま考えを進めたら、足が止まってしまう。
「神」
 ユエ・イブリスは舞台役者の声色でその語を発し、意味を味わった。考えるまでもなく、ここに神は存在しない。
「神ならぬ身がこの世界で、全ての救済など、神の如き御技が使えるはずもない」
 ちら、と祭司長を見やる。周囲に散らばる骸も眼の端に入る。赤い空の照り返しに赤く染まるダークセイヴァーの住人達。
(「――気の毒といえば気の毒か。救われぬ世界しか知らぬ、この者らは」)
(「この世界が『際だって救われぬ世界』とは知らぬのだ。夢も希望も持てぬ世界とは、知らぬのだ」)
 次に口を開こうとした咲とレガルタの言葉は重なった。
「あなたの望みは何でしたか?」
「あんたがここへ来た時の願いは何だった」
 重なって、目を見合わせる。咲が(「どうぞ」)と譲って、すこしの気まずさを仕切りなおすようにレガルタが再び問うた。
「あんたの願いは何だった? ……平穏や安寧だけなら資格を問うには薄すぎる気がする。まさか誰かと一緒に居たいだけでここまでいくとか無いよな……」
 レガルタの疑う顔つきに祭司長は薄く笑った。意外にも、答えが返ってこない。
 涼は意外に思った。
「あなたは何か願わなかったのか?」
「…………願いました」
 苦痛に耐える表情が、初めて祭司長の顔の上に浮かぶ。
 ジャハルはその苦痛の種類を見定めようとした。
「祭司長とやら。……斯様な街で御前はなにを願う? 地位か、モノか、安寧か?
人々に問うてきたそれを、御前は何としたのか興味がある」
「…………」
「願う事などない程に、この街は平和で在れたのか。壁の中は、窮屈ではなかったか?」
 苦痛の中から、くすり、と笑みが零れてきた。
「ええ、この街は、平和でした。皆満たされて……誰も、ここから出ていこうとはしなかった……当然でしょう、ここだからこそ、失われたものは戻ってきてくれたんです……」
 アルバは呟く。
「第2の門――元々、この先には何が在ったのであろうな」
 街が平和だったころ。あるいは、祭司長がこの街に辿り着いたとき。
「屋根は、ありませんでしたね。ここと同じように、壁と門だけでした」
「今は内側から開ける事は叶わぬ様だが、以前は異なった訳か」
 肯定の頷き。
 知りたい事は山程あった。
 これだけ問うても、わからないことが多い。だが問わずとも、わかることがあった。
「……カガリにはわかる。これは、閉じ込める為の門だ」
 第2の門、内側からの衝撃を封じ込める、強固な門。出水宮・カガリはともすれば吸い寄せられそうになる視線を門から引き剥がし、祭司長を見据えた。
「祭司長、この門は『守るため』か? 『苦しめるため』か? あるいは両方か」
「……おそらくは、『見られたくないものを隠すため』でしょう」
 祭司長は一歩、門へと近づいた。
 猟兵たちはその背を見ている。祭司長は振り向いて、猟兵たちに笑みかける。
「必要なら、わたしがご案内しますよ」
「……危ないかもしれないのに。内側へ向かったことがあるの?」
 ユキの素直な疑問に、祭司長は無言の笑顔のままだ。
 ただ先導するように、誘うように門の脇に立つ。
 ローは彼のその言動をじっと見ていた。中に入る意思はある、が、自分で扉は開けない……。
「喩え話をしよう」
 祭司長の問うような視線を真っ向から受け、ローは語る。
「……崖の上に一人の男が立っている。男は、自分ひとりでは崖から飛び降りることができない。だが誰かに背中を押してもらえば『飛び降りられる』」
「いい話ですね」
 祭司長の答えは朗らかだ。
「特に、背中を押してくれる『誰か』がいるところが。最後の時に、ひとりじゃないのは素敵なことです」
(「この男は、自分の運命を他人の行動に委ねているのかもしれない」)
 ローは察した。この男は、覚悟なら多分、とっくの昔に出来ているのだ。
 門へと踏み出したのはリーヴァルディだった。
「……ついて来ても良いけど、見つからないで」
 何に、とは言わずともわかっているのだろう。祭司長は頷いた。
 猟兵たちはそれぞれに、中にいるナニカの気配を探る。ゆっくり、ゆっくりと門が開いていく……。

●問
 ……闇の中、間隔を置いて、いくつか上から降り注ぐ光があった。
 屋根には隙間があるのだろうか。あったとしても、それは侵入口とはならないくらいに小さなものに違いない。漏れる光は僅かで、地面まで届いていない。普通なら伸ばした自分の指先さえ見えない。
 暗視の効く咲には、ぼんやりと見える。
 他にも見える者はいるだろう。街に屋根をかぶせたというより、屋内であるかのようだった。ただし、屋根にも壁にも門の飾りと同じような凹凸がある。
 一本道だった。直線の大通りに、曲がりくねった脇道がちらほらあるようだ。だが祭司長は脇には逸れなかった。目もくれない。
 リーヴァルディが「……随分と夜目が効くのね、貴方は」と鎌をかけたが、祭司長は事もなげに答えた。
「聖堂は最奥、中枢、真中にありますから。この街は円型で、大きな道が十字を刻むように通っています。真っ直ぐ行けば、迷わず聖堂まで辿り着けますよ」
 咲は祭司長の表情を観察した。
 笑顔は、この暗がりの中でもまだ健在だ。咲は質問を再開した。
「街へ来た人へ望みを尋ねるのは『どこで』『誰が』でした?」
「第1の門の前でまずわたしが尋ねました。強盗の類や、物見遊山では困ります。
 それから第2の門の広場の前でもう一度、聖堂御自らが。そこが一番開けていますし。適格と認められれば聖堂まですぐですし」
 ローはふと、気になったことを尋ねてみた。
「この街に来る前はどこに住んでたんだ?」
「……今はもうない村です」
 祭司長の言葉がよどむ。このあたりは急所らしい。
 そこを突っ込んでよいものかためらいつつ、咲は似通った問いを投げる。
「この街を見つけたきっかけは?」
「…………逃げ込んだんです。魔獣の群れに追われて……」
 どんどん返事が遅くなる。
 トリテレイアは矛先を変えた質問をしてみた。
「祭司長、この街は望み・願いが的確なら人々を受け入れると仰いましたね。最初にこの街を訪れた貴方達を受け入れた存在はいたのですか?」
「聖堂に御住まいの方の他には、誰も。わたしたちが街に入ってきたのを見つけ、聖堂が願いをお尋ねになりました」
「その際の願いとは?」
 トリテレイアのこの質問には、長い長い沈黙が返って来て、咲は次の質問で沈黙を終わらせた。
「この街を見つけたことを、後悔していますか?」
 後悔、と祭司長は繰り返した。
「いつの時点から後悔すればよいのでしょう……いつ、何をどうすればよかったのでしょう? 何が正しい選択だったのでしょうね。わたしは間違った選択ばかりをしたから、だからこうなったのでしょうか」
 祭司長の堂々巡りの自問自答に、ローは心の中で問う。
(「正しい選択――(この街にそんなものはないのかも!)――とはなんだ?」)
 最後の終わりの時まで、結局何が正しくて何が誤りなのか、何が善で何が悪かもわかりはしないだろう。ただ。
(「わからないなら自分の好悪に従うまでさ」)
 この現状が気に食わないから、ローは元凶を目指すのだ。
 終わりのない祭司長の自問自答に、ユーリ・ヴォルフは聞きたいこと・聞きたかった事を割り込ませた。
「祭司長。『祭司長』である貴方は、これまで多くの人々の願いを耳にしたのだろう。どのような願いだったのだろうか?」
 祭司長は悪酔いから醒めたように顔をあげた……おそらく。闇は濃く、周囲に満ちる気配は濃厚だ。
「……願いの多くは、自分が失ったものと、自分から失われたものに関してです……でした」
 そして祭司長は幾人かの願いを、失ったものについて語った。
「ある若者は、聴力を願いました。彼は幼い頃野盗に喉を切り裂かれ、話すことが出来ませんでした。でも、声を出せるようにとは願いませんでした。
 彼は歌や詩を聞くことが好きで、声は出なくとも他人のそれを聞くことで、心が満たされたからです。……それなのに、流行病の熱で彼は聴力を失いました。だから彼はここに来て、聖堂に願った。
 『聴力を取り戻したい』と」
「ある夫婦は、亡くした赤子を願いました。これはよくあることですね。でも夫婦そろって、とても強く願ったのです。体が弱くて、でも良く笑う赤子だったとか。具合がよくなってきたと2人が見守る中、ひとつふたつ息をして、次の瞬間に亡くなっていたそうです。
 夫婦は赤子の死が信じられなかった。何かの間違いだと思った。だから聖堂に願いました。
 『生きた赤子を取り戻したい』と」
「ある男は……亡くした兄の笑顔を願いました。たくさん願いを聞きましたが、これはとても変わっていました。彼は子どもの頃、岩場で遊んでいて、そこから落ちて背中を打ち、その怪我がもとで子供の背丈のまま成人することになりました。
 彼には自分に良く似た兄がいました。丈高い立派な風体の青年で、周囲の信望も厚かったそうです。しかし兄はあるとき心を病み、手首を切って自ら命を絶とうとした。
 ……兄の心を苛んだのは、弟でした。弟を岩場から突き落としたのは兄だったからです。苦しい、赦しを乞いたいと、血だまりの中で泣いていたそうです。
 弟は『兄に笑顔を取り戻したい』と願いました」
 祭司長の、人々の願いの話は延々と続いた。話すごとに、失われたものが積み上がっていく。
 相手が答えないと知っていても、ユーリは聞かずにはいられない。
「貴方自身も、願いを胸に秘めているのだろう? 良ければ教えてもらえないだろうか?」
「…………」
 返事を諦めかけたとき、小さい声が返ってきた。
「……秘めてはいません。今になって、こんなになってしまっても、まだ……願いを捨てられない」
 ローが言う。
「『願い』を持たずに生きることは賢い方法だと思うか?」
「わたしは、生きているのでしょうか。生きているなら……」
 どんどん抽象的になっていく問答に、リシェリア・エスフィリアは軽く首を振った。銀の髪が揺れる。
(「状況を動かさないと。……祭司長もまた、状況に取り込まれてる。真実を知るには、奥を目指すしかない」)
 リシェリアが彼に聞きたいのは一つだけだった。「今は幸福なのか」と。
 答えは簡潔だった。
「いいえ。これは決してわたしたちの幸福ではない」
 強く言い切る。その力強さがあるのなら、とリシェリアは思う。
 (「これ以上命が乏しめられるのを見過ごせはしない」)と。

●闇
 暗闇の中、猛然と近づいてくる音があった。
 物騒な音だ。速さと重さと勢いとを伝える音だ。
 涼にはまるで10秒先の未来の出来事のように、脇道から飛び出してくるものが見えた。
 手を伸ばし、涼は祭司長の襟首をぐいと掴んで下がらせる。怪力に、祭司長の身体が一瞬宙に浮いて、締まる首筋に祭司長は呻いた。
 その呻きが囁きに聞こえるほど、やってきたものたちの声は凄まじかった。
 わずかな光が呪わしくも声の主をぼんやりと浮かび上がらせる。
 球体だ。人体だ。何人分だろうか、切れ目なくくっついてしまっている。
 人体球が大きいせいで、下になってしまった者は重みを受けて悲鳴をあげていた。
 痛いのだ。潰れる内臓が、折れる骨が、流れる血がある。激しい痛みがあるのだ。
 それから逃れたくて下の者は位置を変えようと激しく蠢く。次に下になった者も逃げようとする。それがずっと続く。推進力はそれだった。人体球は転がって、永遠に止まらない。
 転がる人体球を見切って躱し、レガルタは手元のアサシンダガーを握りしめた。手の中で刃物は無数の鈴蘭の花びらに変わる。
「……さっさと殺してやるのが温情ってやつだろ」
 花びらは人体球を押し包み、終わりのない暴走を止める。
 人体球は幾つも転がってきた。例え夜目が効かなくとも、悲鳴が居場所を教えるに違いない。耳を塞いでも入ってくるだろう、引き伸ばされつづける断末魔。
 咲は狂ったようにうねる人体球を、両の腕から放った葡萄の蔓で捕縛した。どこにいても人体球は迷いなく祭司長めがけて突進してくるのだ。
 咲の手に、蔓が何かに引っ掛かったような抵抗を伝えてくる。耳か、それとも鼻だろうか。
 ステラ・アルゲンは信じられない思いだった。
 これは、確かに人だったのだという。
「一体この街で何が起きている? 願いを持ってやってきた人たちは、なぜあんなことに、」
 ステラはかつて、『流星』という願いを聞き届ける剣だった。故に人の願いが……「濁ってしまった」という彼らの願いでも……どうしても気にかかる。
「彼らの願いは、星に願われるような願いだったのだろうか……」
 転びそうな司祭長を支え、傍らのペイン・フィンを守りつつ、ステラは祭司長に質問してしまう。
 「彼らの願いは、どんなものだった?」と。
 咲が捕縛したものと、続けてやってくるものに対して、桜雨・カイは距離を測った。
 己自身であるヤドリガミの本体、「人形」を20体以上顕現させて、後からやってきた人体球の突撃を食い止める。掴む肉体は確かに人体で……絶望的に一体化していた。
(「どこにも継ぎ目がない……」)
 カイの人形が構造を調べようと人体球に腕を挿しいれようとしても、どこかの骨にぶつかってしまう。破れた皮膚から血が噴き出して、呻き声があがる。まだ生きているのだ。外部に露出した幾つかの目が、責めるように人形を見た。
 カイは、咄嗟に人体球の痛みを抑える為、【聖痕】の光をそっとあてていた。
「大丈夫ですか? どうしてこのような姿になったか、誰にこうされたのか、わかりますか」
 問いかけながら、カイにもわかってしまった。
 彼らは、先程までの身体の痛みが無くなれば、今度は外の人間たちと同じ心の苦しみに襲われることになるのだ。
「あの死体と同じ……あなた達も門の外では生き辛かった人ですか? 普通に日常を送りたくてここへ来たんですか?」
 答える口は、舌は、どこについているのだろう?
 責める視線を送っていた目は、厚い涙の膜に覆われている。カイは苦しげに呟いた。
「だとしたらあなた達は……ただの普通の人です。人に人を襲わせはしません……私がここで止めます」
 せめて、苦しませない方法で。
「カイ」
「……大丈夫です、私は『人形』ですから」
 ステラの心配する呼びかけに対し、カイの返答はどこか内側を向いている。
 やるせない思いで、ステラは咲が捕縛した人体球を見つめる。――その表情がす、と凛々しいものに変わる。
 ステラは剣を構えていた。
『赤く燃えろ、我が星よ』
 剣身は炎を纏い、ステラの一振りで炎は空に散った。紅蓮の炎は人体球2つを取り巻き、覆い尽くして――。
 そして制止の力がなくなっても、人体球は動くことはなかった。
「わ……わたしは、すべて、覚えているんです……」
 震えながら祭司長は答えていた。
「覚えているんです、彼らが何を願ったか。あの球体は18人、こちらの球体は12人でした。こ、こんなになっても、声で分かる……皆……何かを失って……願い……取り戻して……なのにこんな……」
 震える彼を抱き起し、ステラは自分の問いを押し留めた。今、祭司長自身の願いを尋ねるのは酷だ。しかし祭司長は答えようとしていた。
「わたしの願いは……」
 祭司長の告白は苦しげに床を這う。
「……まわりの人に……感謝されること、でした……です。今でも、そうです……」
 自分以外の、『誰か』がいなければ叶わない願いだった。
 ユーリは彼を助け起こす。
「教えてくれてありがとう。私の願いは……」
 一瞬ユーリは目を瞑った。決意したように目を開く。
「今はこの街の人々の、貴方の、心からの笑顔が見たい。私は守護者だから……この街の現状があまりに重苦しい」
 また、苦痛に呻く声がやってくる。
 ユーリは祭司長の前に立ち塞がった。背後の彼の表情が、何故か見なくてもわかった。
「今の貴方の笑顔は……ただの作り笑いだ……!」
 人体球が叫んでいる。痛覚がある……悲鳴にユーリの胸は痛む。だが仕方なかった。
『内に眠りし竜の焔よ。我が剣となりて、敵を穿ち焼き尽くせ!』
 具現化した炎の剣は上下から人体球を串刺しにし、その場に縫いとめる。
 炎は人体球を焼き、その苦しみを終わらせる。
 しゅん、という鎮火の音だけが残った。
 真っ直ぐな道は終わり、やがて開けた場所に出たようだった。
 闇のせいで果ては朧げだが、つくりからいって第3の門の前の広場に違いない。
 ――矢来・夕立は軽く手を挙げた。攻撃のためではない。
「はい。オレから祭司長さんに1つ提案」
 闇の中でも、祭司長が怪訝そうにこちらを見たのが夕立にはわかった。
 彼の手元に、そっと差し出す。小さな【千代紙の立方体】。
 『紙技・橿葉庫』を。
 祭司長が触れるか触れないかのところで掲げて、夕立は説明する。
「ここに、あなたを保護する用意がある。もし望むなら“すべて恙無く終わるまで”ここに匿うことができます。中は安全で、あなたが望めばいつでも外に出られる」
(「……ブラフ混じりですけど。ウソではないですよ」)
 昔話の悪魔と同じ論法で、夕立は迫っていた。
 猟兵たちも成り行きを見守っている。これに祭司長が乗ってくれるなら、重要参考人物の身の安全を確保できる。
 断るのなら……。
 祭司長は首を振って辞退した。
「わたしは……皆の願いを聞きました。それを聖堂に届けて、皆に感謝されたかったから。今、彼らがわたしを憎んでいるなら……それをわたしは受けるべきなんでしょう」
 そう来るか、と夕立は箱を仕舞う。
 溜め息が幾つか落ちた。
「さて」
 ユエは闇の中をふわりと泳いでいた。
「さて問おう、『祭司長』どの。……最近口にした美味は何であった?」
 突然の問いに、祭司長は混乱したように咳き込む。
「……び、え、美味?」
「ちなみに、私の記憶にあるものは、香り高い薔薇の酒。私に遠い場所ではないが、ここからは遠い村で造られた、ヴァンパイアに献上する上物が手に入ってね」
 色も香りも薔薇のそれを、ユエは微に入り細に入り形容する。
 そして両手を拡げ……その翅から全身から、光るものが広がった。
 【光の霧】だ。見通せない闇、屋根ある壁の内側に、門に広場に、光を充たしていく。
 猟兵の目は、はっきりとした視界を捉えていた。
「さあ、どんな『絶望』と『死』が視える?」
 指揮者の如き確かさでユエは先を指し示す。
 ……光と闇は運命の恋人同士のように、あるいは不倶戴天の仇敵のように分かち難い。
 柔らかな光は朧な闇と戯れて、凹凸を浮き立たせた。
 夕立は感心した。口笛を吹くなら今かもしれない。
「“全ての希望を携えて”、やってきた先でコレかあ……詐欺じゃないですか?」
 壁。門。屋根。
 すべてを猟兵たちは見た。無数の目に、『見られている』のを見た。
 肌の個性もそのままに、人体の部位のなごりが其処彼処に存在していた。
 ローは人体で作られた壁面に、小さな白い真珠の粒のように埋められているものに気が付いた。歯だ。虫歯の気配すらうかがえる、ちいさな歯。
 屋根には髪も混じっていた。長い髪が、巻いて、紐のように垂れ下がっている。
 悲鳴はなかった。発声器官は既に失われている。
 痛みは……どうだったろう。
 人体広場で……これも想像していたことだったのだろうか?……祭司長は俯き加減で立っていた。
 それは第2の門の前で立っていた彼と、寸分たがわず同じだった。

●光
 ペインに発する問は、言葉はない。
 語られるのは心の中でのみ。外には出てこない。
 それは何も感じていないからではないのだ。その証拠に、今ペインは無意識のうちにコードを使用してしまっている。
 周囲の怨念を、
 悲哀を、
 憤怒を、
 強い負の感情を、喰らって吸い取って宿す。彼のユーベルコード。
 でも、宿すだけだ。
 人体球には攻撃しないし、できなかった。この広場にも、できない。
(「彼らが、元に戻ることは無いのかもしれないけど……。だからこそ、自分には、攻撃できない。自分はもう、そんな理由で誰かを殺したくない……」)
 うぞうぞと、壁から屋根から剥がれ落ちる肉片が、また球体にまとまっていく。
 先程の人体球ほどの運動性能はないが、だからこそ。
 カガリは剣を抜いた。
 剣には炎が宿り、篝火のように明るく周囲を照らす。……篝火は、いつも城門と在った。
「……祭司長、あの門は、何を、何から、守っていたのだ」
 球体未満の肉片を断つ。欠片は炎で焼かれ、浄化された灰が地面に落ちる。
「何を願ったら、こうなる! 拷問ではないのか、これは」
 言葉を失う。
「もし、身に余る願いが『誰かの役に立つこと』といった類なら……ひとを無力なまま等しく守るためならば、それも已む無しと、」
 ……理解できてしまう、化生の自分がいる。カガリはそうでない事を強く願った。
 人の欠片に安らぎを与えていくカガリらの姿を、ペインは黙って見つめている。
 何も考えていない訳ではないのだ。周囲の警戒、手掛かりの模索、できることは無いか、探してみてはいる。
 しかし、傍目には単なる棒立ちだった。
 そして吸収されるのは怨念、憤怒、悲哀……それらをはるかに凌駕するのは、苦痛だった。
 何か読み取ることは出来そうにない。苦痛は、ただの苦痛。
 ぶん、と何かが振り下ろされる音がした。
 鈍い動きの肉塊に、ユキが氷のように冷えたアイスピックを打ちつける音だ。吹雪と共に受けた一撃に、一瞬で肉塊は凍りついて、ぱりんとあっけなく砕け散った。
「……どうして門が内側から開けれないのか、わかったよ」
(「こうやって、まとまって、固まっちゃうんだ」)
 アイスピックで大き目の破片を細かく砕いて、「おやすみなさい」とユキは少し頭を下げた。寒さで、痛みが鈍くなればいいと思った。
 祭司長はぼんやりと屋根を見上げた。
「そうか……きっと、わたしが初めてやってきたとき、誰もいなかったのは……今と同じで、全員が死んだあとだったんだな」
 納得の色が面を覆う。
「あの壁も、人体球で作られて……何重にもなって……そうか。繰り返されてきたんだ」
 発見に震える彼に、イア・エエングラはやさしく問うた。
「祭司長さんはもう、お外に出る気が、ないかしら。扉が内から開かないの、ご存じでしょう」
 ゆっくり振り向いて……祭司長は頷く。出る気はないのだ。
(「もう、決めてしまわれたのね」)
 奥へ行く道も、出口も、きっと祭司長は知っている。
(「決意の青い火を目に灯して、目指すは聖堂、かな」)
 終わりのない凄惨な情景に、イアは溜息を吐く。そして場にそぐわない話題を、あえて繰り出してみた。
「あなたの日課は、楽しみは、なんだった?」
 今となってはなんにも、残ってはいなさそうだけど……と慮るイアに、少しだけ、無理矢理笑ってみせて、祭司長は言った。
「毎朝、広場で聖堂の声を聞くことでした。本当に美しい声で……きっと、中味はなんでもよかった」
 祭司長の顔は晴れ晴れとしていた。
 アルトリウス・セレスタイトは、横目でリシェリアの様子を窺った。
 今の状況を、アルトリウスとて気の毒には思う。
 思うが、しかし……。
(「己が人であるかも定かでないもの。燃やす情熱はない。……リシェリアは心を痛めているようだ。彼女の方が明確に人間味を持っているな……」)
 他人事のように祭司長を一瞥し、アルトリウスはまたリシェリアに視線を戻す。
 リシェリアは食い入るように祭司長を、燃えて凍える肉塊を見ていた。
「……私は人間になりたい。武器とは戦うためのものでしかないから」
 不意に顔をアルトリウスに向ける。
「――だが武器は作るだろうか。あんな、苦しみしかない悪意に満ちた存在を。この状況に、人間の意志が介在するなら人間とは……」
「見るのが辛いか」
 アルトリウスは尋ねてみる。
「辛くはない。……ただ哀しい。ここには、終わりすらないから」
 掛けられる言葉に応えて、リシェリアは相手に言葉を返す。
「……あなたは、何を思うの」
 アルトリウスはなんとか「気の毒だ」、とは答えることが出来た。……形ばかりの答えなのが、彼女にはわかってしまっただろうか。
 形ばかり人である己を、彼女は如何に見做すだろうか。そのことが、アルトリウスは少しだけ気になった。
 ずぞぞぞ、と、聞きなれない音がした。
 壁から剥離した肉塊が、波打っている。もう声を発することはないそれの、骨や肉の立てる音だ。
 ジャハルは怪力でもって祭司長と、師たるアルバを抱え上げた。ばさり、と翼をはばたかせ、一旦高所に逃れ、片方をトリテレイアに預ける。
 祭司長を受け取り、トリテレイアは彼を機械馬にまたがらせる。
「願っただけで……彼らはあのような惨い姿に……」
 疑問も憐憫も、この街に来てからは無限に湧く。まずは、この地獄を形成した元凶にたどり着かなくてはならなかった。
 打ち寄せてくる肉の波を避け、まとわりつくものをトリテレイアは超高温化学燃焼弾頭盾で焼く。目指すは、第3の門。聖堂。
「騎士が火攻めとは……笑い話にもなりませんね……」
 アルバはそれを笑おうとは思わない。火は、確かに城攻めに効果がある。
 とはいえ迫ってくる肉の波の圧倒的な物量に対抗するには、別種の力も必要だろう。
「……油断するな、ジジ」
 舞うのは無数の青き蝶。その霊だ。儚い鱗粉に触れた肉波は、痺れたように動きを乱す。動きと共に痛みも麻痺すればいい、とアルバは思った。
(「少しでも楽に逝けるよう――『慈悲』なぞ語る心算もないが」)
 アルバは叫ぶ。
「……やれ、ジジ!」
 応じて、ジャハルはその怪力で以て拳を打つ。単純で重く、竜化し呪詛を纏った一撃だ。肉の波は大きく弾けた。もう一撃。まだだ。切れ目なく続く肉の波を消し去ってしまうまで、打ち続ける。
 思いを馳せるのは、彼らの願いだ。
(「――己では叶えがたい事である程に、願わぬ者など……願った事のない者など、此の世に居るのだろうか」)
『墜ちろ』
 敵へ告げる声色はなく。願うようにジャハルは拳を打ちつける。
 機械馬に押し寄せる肉の波を、リシェリアは魔剣で薙ぎ払った。
 放たれる魔力は無数の短剣に似ていた。それが肉の波のまだ残っていた神経を塞ぎ、動きを封じる。
「……悲しいけど、終わらせるのに躊躇はしない」
 リシェリアの傍らで……アルトリウスは彼女の言葉を聞いている。
 悲しいのか、と思う。やはり彼女の方がよほど人間だ。
 アルトリウスは足元を見る。リシェリアによって封じられた、元人間。
 魔眼・掃滅(マガン・ソウメツ)を以て見る。
 魔眼は、それらを異空へと放逐する。
「少なくとも痛みはない」
 言い訳に聞こえてしまうだろうか? アルトリウスはそれが少し気になった。
 ステラは、隣のカイが「大丈夫です」、と繰り返すのが心配だった。
 辛いのは同じ、しかし見てきた死体は少しずつ違う。
 考えても仕方がない。ステラは目の前に集中する。
 押し寄せる肉の波。人体球と同じで、助かる術がないなら痛みを与えないように葬ってやりたい。
 赤星の剣を突き立てる。全力魔法だ。祈りを込めて、一瞬で火葬する。
(「人を葬るのは初めてではないが……やはり良い気分ではないな……」)
 火が、衝撃が、波をさらっていく。
「……嘆く声の、かわいそうにな」
 イアには聞こえるようだった。かぼそい骨が割れる嘆き。筋の焼けてちぎれる哀願。
(「手立てがないなら、硝皚で、全部さいてさよならするよ」)
 銀の短剣は、無数の【涯てに咲く星】の花びらに。花びらは波に紛れ、押し包み、細かい欠片にしてしまう。
 イアは機械馬を見上げた。馬上の祭司長に、問うとはなしに問う。
「なあ、あの人らは何時頃住んでた、方かしら」
「……まだ人の名残りがあるのなら、今朝です。きっと。わたしが知る人たちでしょう」
「痛かろうに。苦しいだろに」
 せめて一緒におやすみなさい、と、イアは送る。深い海の底。きっと、共に行けたなら、そこにさいわいはあるだろう。
 しん、と広場に沈黙が降りた。
 もう、動くものはない。
 レガルタは一拍もおかず、第3の門を示す。
「あの先に、聖堂とやらに黒幕がいるんだな。さっさと破壊しに行こう」
 もうこりごりだった。
 リーヴァルディは機械の馬からトリテレイアに下してもらっている祭司長に、最後の質問をした。
「……ん。祭司長。あの門に刻んであった文言はどういう意味?」
「あれは……」
「……救済は、貴方の前に現れた?」
 祭司長はリーヴァルディの紫の瞳をまじまじと見た。
「あなたは……『彼女』を知っているんですね?」
 口を開ける。
 ゆるゆると理解の色が広がって……祭司長は、猟兵たち全員を見渡した。
「お話します。今朝、何があったのか。
 今朝、聖堂のお声は告げました。『救済は為された』、と。
 そしてわたしたちは気づきました。わたしたちが取り戻したはずのものは、一切合財、なにもかも無くなっていたことを」
 リーヴァルディは目を瞑る。第3の門を前に、心で語りかける。
(「……私に流れる吸血鬼の血。その力の使い方と責任を教えてくれたのは、貴女だったね……」)
(「プレア」)
 祭司長の言葉は続く。
「わたしたちは抗議に殺到しました。聖堂へ。そこで見ました。
 失ったもの、取り戻されたはずのものと……一緒にいる、わたしたち自身を」
 美しい声は告げた。
 これが救済。完全なる救済。
 貴方たちは偽物。本物の彼らが願った瞬間に、私が生み出したにせもの。記憶と願いをそのまま与えられた、本当の救済が為されるための踏み台。
「銅像を作る方法を知っていますか?」
 祭司長の言葉は止まらない。理解を置き去りに進んでいく。
「あれと同じです。どうでもいい素材で、型をつくる。泥や卑金属が適しているそうです。
 つくった型に、枠をはめて。
 次に、型を壊すんです。壊したあとのからっぽな空間に、大事な素材を……金などの貴金属を、流し込む。そうすれば願いどおりの形が出来上がる」
 わたしたちは、偽物だったと聖堂は言った。
 わたしたちは、偽物だったから、不出来なものからどんどん形が崩れていった。
 わたしたちは、偽物だと認めたくないから、でもこのままだと崩れていってしまうかもしれなくて、怖くて、人間のままで死のうとした。
「そこまで思い至らなくても……死はとても魅力的でした。だって願いは失われたのですから。失ったものは、再び失われて、もう戻ってこないのだから」
 祭司長は第3の門に手を掛けた。
 手を掛けたまま振り向いて……強く言い切った。
「でも。ねえ、あなた方。忘れちゃだめですよ」
 アルバやジャハルに。アルトリウスに。ユエに。レガルタに。夕立に。
「わたしは偽物なんかじゃない」
 ユーリに。ユキに。ローに。涼に。トリテレイアに。イアに。
「わたしや、街の皆は、ひとり残らず本当に苦しんで、願って……ひとつも嘘じゃない。偽物であってたまるもんですか」
 ペインやカイ、カガリ、ステラに。咲に。リシェリアに。
「わたしたちはモノじゃない。だって、心があるんですから」
 リーヴァルディに頷いて、祭司長は自ら扉を開ける。
 その先が聖堂――そこで、祭司長は死んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『救済の代行者・プレアグレイス』

POW   :    黒死天使
【漆黒の翼】に覚醒して【黒死天使】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    鏡像の魔剣・反射
対象のユーベルコードを防御すると、それを【魔剣の刃に映しとり】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    鏡像の魔剣・投影
【魔剣の刃に姿が映った対象の偽物】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はリーヴァルディ・カーライルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●共通事項
 後々そのコピーが『祭司長』と呼ばれることになる彼が、なぜ「人に感謝されたい」と思うようになったのか。それは彼の人生まるごとを語ることになってしまうので省略する。
 ただ大家族出身の彼は、村人たちから脱出行の先導を頼まれた時には、既にひとりだった。ヴァンパイアの領主が、己の人足として周辺から根こそぎ人を連れ去っていた頃だ。
 ばれれば即処刑されることになるだろう役目を、彼は無言で引き受け……真面目に、黙々とそれを果たそうとし……ダークセイヴァーではよくあることに、性質の悪い魔獣に襲われた。
 ひとり、またひとりと脱出行の参加者は列からいなくなっていって、気が付けば自分の周囲には5人だけ。偶然発見した門の中に逃げ込んで、力任せに閉じたとき、ちょうど5人目が息を引き取っていた。目の前には4人だけ。4人に、彼を含めた5人。
 これが、『今回の』円型都市エターニアの最初の住人。最初に聖堂に願いを届けた5人だ。
 彼はくたびれはてて座り込んだ4人を後に、街を探索し……ここが魔獣の巣であれば全滅だ……ある建物を発見した。
 聖堂だ。
 円形の聖堂、昼なお暗きダークセイヴァーにあって、虹の煌めきを放つ万華鏡のような天蓋、呆然と彼が見上げるその場所に、『彼女』がいた。
 美しい声で誰何した。
 そして願いを――聞いた。

●分岐・コピー
「これは救済の第一段階」
 帰ってきた娘を抱く母、両親に抱きしめられる息子。とりもどした恋人の胸に飛び込む女に、失ったはずの片足を撫でさする男。……そして、全員から「ありがとう」と感謝される彼。
 彼らを前に、彼女は美しい声で告げた。
「多くの救済を為すには、多くの願いが必要です」
 きっと人の願いが彼女の力の源泉なのだろう、と彼は推察した。
 それならば、と彼は思った。もっと多くの人々に、この恩恵を受けてもらいたい。彼女に、もっと多くの人々へ、救済を授けてもらいたい。
 そのために彼に何が出来るだろう。

●分岐・オリジナル
 まどろみのような不思議な時間は終わり、今彼は確かな五感を得ていた。
「これが救済の最終段階」
 失ったものが返ってくる。
 帰ってきた娘を抱く母、両親に抱きしめられる息子。とりもどした恋人の胸に飛び込む女に、失ったはずの片足を撫でさする男。
 ……そして、全員から「ありがとう」と感謝される彼。
 完全だ。完璧だ。他にはもう何もいらないくらい、完成された幸がここにある。
 何もいらない。何もしなくていい。皆幸福で、満たされた。
 安らかに、安息に、――――永遠にそのまま。彼らの時は止まる。

●分岐の終端
 くらり、と眩暈を覚えて、祭司長は眉間を押さえた。
 まだだ。ちゃんと背後の彼らを、猟兵たちを最奥まで案内しなくては。
 祭司長の口数はどんどん減っていた。その分、心の中ではものすごい勢いでこれまでの記憶が……与えられ、植え付けられたという記憶と、この街であたらしく得た記憶が駆け巡っている。
(「……ああ、あれだ」)
 思い出したのは、つい昨日(なんて遠い昨日だ!)、自分に差し出された肉や野菜の刺さった串だ。
 唇を尖らせた少女が、「だんまりさん、秘密にしてくれたご褒美よ」と言って、自分の昼食の席からひとつ隠して持ってきたのだ。街の餓鬼大将も鼻白むような悪戯をやった張本人は、祭司長に見つかって「話せばお前をとって食う」と捨て台詞を吐いて逃げ出したのだった。
(「美味と言うなら、あれだったな。ちゃんと答えればよかった」)
 ぐるぐると考える。縋り付くのは、まだ自分が自分だと信じていたころのことばかり。
(「でも……違うんだな」)
 光が見えてくる。虹の煌めき、中枢たる聖堂の、中枢に近づいている。
 彼の「本物」もそこにいるだろう。
 祭司長はある決意を胸の内に秘め、光の先を凝視する……。

====================
 ここまで読んでくださってありがとうございます、コブシです。
 以下は最終章に関しての捕捉となります。

●戦場について
 ・円形の、ドーム天井の聖堂です。
 ・聖堂内部には、救済された人々がいますが、動かず、感じず、考えずです。死んでいるのと変わりはありません。
 ・敵は天井近くに浮遊しています。降りてきません。
 ・天井近くまで地続きで行こうとすると、アーチ状の壁から上ることになります。強度は充分です。猟兵ならさほど苦労しないでしょう。
 ・敵は強いです。回復や防御、回避の手段などに気を配り、攻撃にもある程度工夫があったほうがよいでしょう。

●行動の指針のようなもの
 ・戦いの展開、猟兵の言動次第で、「自死を選ばない生存者」の数が変わります。
 ・祭司長はここで死にます。死ぬ前に何かをしようとしています。
 ・その成否によって、第1章で確保した生存者の行末が微妙に変わります。

 以上です。
 皆様のプレイング、楽しみにお待ちしております!
====================
イア・エエングラ
ほんとうの幸せは、なんだろな
僕の出会ったあなたは
まだあなただけだけど
――祭司長さん、お名前聞いてなかったねえ

つくられたものが生きてはいけない理由を
お前はご存知かしら、ねえ、かみさま
いと高きところには、
……堂の中ではあんまり世界が、狭いかしら
滄喪のあおい、火を招いたら、奔りましょう
駆けましょう届くまで、柱頭を跳んで
凍てる火でその翼を腕を、可動域を阻むよに
地形を利用して高速移動でもって
狙われたなら避けましょな
瓦礫や余波が、ここにいる方に当たらないよに
狙いをおびき寄せられたなら
僕のフェイントで他の方から目を逸らせればと

作られたのだか、抜け殻なのだか
僕は存じないけれど
失くして良い理由には、ならないもの


ロー・オーヴェル
俺は家出をした
『全てが救えない』現実からの逃避

『現実』は再び目の前
だが今度は逃げん
何を救えるかは判らないが逃げたら何も救えない


祭司長が何か成すまでは彼の護衛可能な位置で戦闘

原則投げナイフで攻撃
同時に敵攻撃時の挙動や仲間の攻撃順・手段にも配意
仲間の攻撃を避けた先にナイフを投げたり
敵攻撃の間隙を突き投げナイフを放つ様行動

戦闘終盤で敵相当弱体化後はユーベルコード使用
敵間隙を突く様死角となる経路で壁を駆け上がり攻撃


祭司長の言う通りだ
何一つ嘘じゃない
嘘かモノとか決めるのは誰かじゃない

もしも神が嘘だと言っても
それを貫き最期まで歩き通せば真になる

歩みの中で別の『救済』があるかもしれない
だからあの子には…


リシェリア・エスフィリア
【アルトリウス(f01410)が近くに】

心があるから、偽物じゃない
確かに祭司長だった存在の言葉が、耳に残る
誰が救われた?誰が幸せになれた?どこに意味があった?

救った気になって悦に浸る奴が、ここにいる
だからと言って私に何ができるだろう。それでも

「……殺すしかできない武器のほうが、まだ慈悲がある」
それが私のできる事。そして殺すべきは、ここにいる

「これ以上、心で遊ぶのは止めて」
【蒼の鏡】を使用。魔剣に移った影は、魔剣である私が消す
周囲と連携し、相手のユーベルコードの妨害に専念する

相手の攻撃を妨害しながら、防御と回避に重点を置いて行動。共に戦う仲間が敵を落とす機を見定める
攻撃に出るのはその時だ


アルトリウス・セレスタイト
リシェリア(f01197)の傍らに立ち、浮遊するモノを見定める
客を迎えるならせめて降りてこい

臘月で分体を出し交戦
魔剣に写されたものは隣の彼女が消してくれそうなので目標に集中
近接戦を挑む味方がいない、若しくは時間がかかっているタイミングで破天で爆撃
ブラインド目的込みなので目標周囲を派手に
それに隠れて三体ほどは放たず、腕に装填する様に力を溜め、本体が回廊で目標背後に転送
接触打撃と共に装填した魔弾を叩き込み翼を奪いに

仕損じる、又は十分でなければ他の分体が総掛かりで魔眼・封絶を仕掛け多重拘束して引きずり下ろす


目標へは、趣味が悪そうだ、程度の感想
リシェリアが憤っている様子なので、逃さず始末しようとは思う


ユエ・イブリス
胸の奥の熾火、この心地は何だろう
久しく感じていなかった『感情』か

祭司長どの、美味は思い出せたかい
……それは素敵だ
実を言えば、私は味覚が欠けて久しいんだ
香りが強いものしか美味と感じない
薔薇の酒のようにね

ありがとう
私は君に感謝している
そう、『君に』感謝しているんだ
忘れかけていた人らしさを、ひとつ思い出せた
これは、怒りだ

人は人らしく生き、喜び、哀しみ、怒り、楽しみ
そうした末に死ぬべきだ
何処の世界であっても変わらない営みだ
魂ごと玩具にしてよいものではない
あれは紛うことなき、冒涜だ

●攻撃
敵の攻撃は【見切り】【第六感】で回避
悉く斬り刻んでやろう
ついでに凍結の【呪詛】もくれてやる

※優雅に連携絡みOK


レガルタ・シャトーモーグ
こいつが黒幕か…
随分と派手にやったものだ…

翼で飛んで【空中戦】といくか
正面からバカ正直に突撃するのは趣味じゃない
奴の周囲を飛び回りながら飛針を投げて牽制し、攻撃パターンを解析する

攻撃直後の隙に死角から飛び込み【暗殺】とみせかけ、防がれたら【残像】と入れ替わり背後へ回り込んで背面強襲に毒をのせてお見舞いしてやる

敵の攻撃は【見切り】で回避し、牽制と暗殺を繰り返し疲弊させよう
魔剣には写らない様に【迷彩】マントで擬態しながら飛ぶ

生存者…と言っても、ただ息をしてるだけの代物に価値は無い
偽りの幸福に殉じて死にたきゃ好きにしろ
…それが本当に自分の願いだってんなら、誰にも否定はできないからな


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と共に

師に頷き
…幾ら考えても
お前たちの望みは人が願う自然なものだと思う

求め、望むのが人ならば
確かにお前達は『偽物』ではない
『本物』を通すは己で叶えろ
救済を騙る偽神など疾く反旗を翻せ
神殺しなら請け負ってやる

祭司に時が必要なら道を、隙を
駆け、翼にて空中戦へ
剣に触れさせた手から【怨鎖】を放つ
外しても鎖は天井から地へ、壁へ
檻の様に張り巡らせて、飛べぬ猟兵らの足掛かりともする
閉じ篭もるのが好きなのだろう?

鏡像には傷や血で目印を
覚醒されれば自ら盾となり耐えながら
生き残っている人々への被害を防ぎ
他猟兵や師の魔法の為の隙を作る


…望みの為生きるも
生きる為望むも間違いではない
権利はお前のものだ


矢来・夕立
【紙技・化鎮】【忍び足】
祭司長さんの傍に潜んでいましょうか。
護衛も忍の務めの一つですよ。
この人はオレの問いかけから逃げなかった。
そして代表としての筋を通しました。
最期の願いくらい叶っていい。邪魔はさせない。

▼戦闘
【鏡像の魔剣・投影】を警戒。
姿を消すUCを使った理由はコレです。
発動のリスクを減らしたいので、
どなたかにも式神を押しつけておきます。
あなたクラスの敵が増えると困るんですよ。
迷彩は攻防ともに有効に働きますから、上手く使ってください。
オレは【だまし討ち】【暗殺】の要領で、式紙を飛ばして攻撃します。

畜舎でも遊び場でもなく臓器工場でしたね。
何にしろ救済とか言ってる時点でムカつきますけど。


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
偽物か本物か
斯様な問題なぞ些事に過ぎぬ
お前達が確かに此処で、人としての営みを享受したならば
それは人として生きた証明だ
それを偽物故と踏み躙るのがお前の『神』ならば
私は躊躇う事なく奴を殺そう

真の神罰とばかりに【雷神の瞋恚】を召喚
我が全力、篤と味わうが良い
耐え切れず罅入れど手を休める心算は毛頭ない
高速詠唱で次々と、攻撃の暇すら与えぬよう魔術を行使
現れた鏡像すら脅威となり得る
真偽を見極め、麻痺で行動制限も視野に
人々に流れ弾が向かわぬよう考慮
無論、猟兵達への支援も忘れはせぬ

祭司長、為すべき事があるならば押し通せ
それを為し遂げた暁には私自ら感謝を贈ろう
時間稼ぎはしてやる――頼んだぞ?


彩花・涼
アレがすべての元凶か……
確かに絶望の淵で見たなら彼らにとって救いの神…といった所か
苦痛がない事は確かに幸せだろう…だが、人とは…生きるとは、痛みを伴うものだ

他の猟兵が壁を登っている間、【殺気】をもたせ黒鳥で敵を【スナイパー】し注意を引きつける
牽制目的なので、狙いは重視せず攻撃が来たら【見切り】【残像】で回避ながら【カウンター】で撃ち敵のヘイトを集める
味方が敵の側まで行き、敵の意識がそちらに行ったら【目立たない】で姿を消しつつ狙撃出来るポイントに移動する

祭司長に攻撃が行くならUCで祭司長を連れともに回避、回避出来なければ【かばう】で【武器受け】する
彼のしたい事の邪魔はさせん……


トリテレイア・ゼロナイン
※リーヴァルディ様(f01841)の援護を希望

内部の壁面にUCの発振器を射出、電磁障壁を天井まで続くように螺旋階段上に構築しつつ、機械馬に●騎乗し敵の元へ
祭司長が望むなら同乗、●かばいつつ敵の近くへ

紛い物だろうとその意志は貴方の物です

●怪力●武器受け●盾受けで祭司長をお守りしつつ、その行動を見届けます

リーヴァルディ様、私はあの少女との因縁を詳しく承知しているわけではありません。ですが、騎士として助太刀いたします
ラグナソピアと同じように、その因縁に決着を!

※敵からリーヴァルディへの攻撃を●かばい、地上へ落とされつつワイヤーアンカーを●だまし討ちで射出、●ロープワークで拘束、攻撃チャンスを作り退場


雨糸・咲
内部にいる人々が戦闘に巻き込まれる、
または害される恐れがあれば救助活動
無抵抗の人が傷付けられるのは見過ごせませんから…

祭司長さんの様子に注意しておきます
自棄を起こしたり
他の方を傷付けるようなことでなければ
見守り、或いは助力も

戦闘では補助的な役割を
第六感で敵の攻撃を予測し
見切りやフェイントを交え可能な限り回避
避け切れない場合はオーラ防御
負傷した方がいれば馥葉吹で回復
薄荷の香りを運びましょう
自身の疲労には頓着無く
こちらの攻撃の要となる方は特に優先で回復

あの剣は厄介ですね…

他の方と連携して隙を狙い、愛憐蔓
剣を絡め取り武器落としを試みます
それが叶わずとも、せめて足止めになれればと

※アドリブ、絡み歓迎


リーヴァルディ・カーライル
…ん。貴方の覚悟は受け取った。
私も、悔いだけは残したくないから…覚悟を決めよう。

…貴女を討ち、全てを終わらせる。

事前に第六感を強化する見切りの呪詛を防具に付与
殺気の存在感を可視化(暗視)する形態に防具を改造(変装)

攻撃を武器で受け流して気合いで回避し敵に接近
大鎌をなぎ払うカウンター主体で闘い隙を伺う

…貴女が教えてくれた力と技。
今こそ、再現してみせる…!

【限定解放・血の魔装】を二重発動(2回攻撃)
吸血鬼化した自身の生命力を吸収させ精霊を誘惑し、
“過去を世界の外側に排出する力”を溜めた“闇の炎”と融合
怪力の踏み込みから黒炎を纏う【血の聖槍】を放つ

…この一撃に、私の全てを…!

…さようなら、プレア。


ステラ・アルゲン
【ヤド箱】で参加
私も主を失った
彼が生きている夢に手を伸ばした
でも叶わない願いもこの世にはある
諦めて前に進まなければならない時もある
そして次こそは叶えられる願いを探すんだ
偽りの幸福じゃない本物の幸福のために

防御と回復は他の者に任せ
全力魔法、力溜めを行いここぞという時を見切り流星雨を放つ
さらに高速詠唱で2回攻撃、徹底的に叩く

その偽りで満足なのか?
本物の幸福を手に入れたくないのか!

星に存在感と祈りを込めて本物も偽物も関係なく人々に
次の願いを誘惑し次に進む勇気を与える

最後に鎮魂の剣舞をしたい
剣の巫女のように髪を解き、未練を絶つ剣と天に導く星として
死者にも本物も偽物もない
きちんと送り出してやりたいんだ


ペイン・フィン
【ヤド箱】で参加

……例え、このやり方で救済された人がいようとも、
自分は、犠牲を是と認めたくは無い。
ましてや、こんなやり方なんて、ね。
コピー、まがい物だとしても、命と希望を奪い去った時点で……、自分の敵、だよ。

コードを使用。
200を超える拷問具を展開。
うち半数は味方の防御に回し、
残り半数で攻撃するよ。


……もし、オリジナルの人が、起きるなら、
自分を、恨むように言っておこう。
元より、人を傷つけるもの。
恨まれるのには、慣れているよ。
それに、それで前に進めるのなら、……それで、いい。


出水宮・カガリ
【ヤド箱】
…許してほしい
…いや、許さなくていい
祭祀長の嘆きと、「偽物」となってしまった住人の絶望を知ってなお
…この聖堂の彼らがもう、永遠に何も感じないのなら
確かに、安寧と救済はここにある、と
カガリは心の底から、そう思って

…いや。否!
この【夢想城壁】にはまだ、生きている「にせもの」がいる
例え本物のためでも、その生が、絶望と苦痛で終わらされていい理由にはならない!
祭祀長、祭祀長
為すべきことがあるのなら、カガリはそれを見届けよう
ただ、最期に
行き場を無くした彼らが、今の己と向き合えるように
だんまりさんの口を、開いてはくれないか
(祭祀長を【夢想城壁】へ、その後戻ってきて事を為すまで盾で彼を守る)


桜雨・カイ
【ヤド箱】
第一と第二の門にいたのはモノではありません、普通の生活を望んだだけの「人」です…あんな絶望を味わう必要はなかったはずです。もう同じ事を二度と繰り返させません

敵の攻撃に対して【柳桜】発動
敵が皆を傷つけようとするなら、その前に立ち皆を癒やします。何度でも
ステラさんが流星雨を放つ前に【念動力】【念糸】で敵を拘束して動きを止めます。

「オリジナル」の人から責められるのは覚悟の上です。
むしろ心が絶望に向かうよりは、そちらの方がいい
…その幸せな記憶は、もう一人のあなた達の絶望と悲鳴から作られたものです

辛いですよね…でもあなた達がつかめるのは絶望だけではありません、幸せもつかめます、生きているのなら


ユキ・スノーバー
人としてのを放棄してしまって、理想の夢だけを見るのはきっと楽な事なんだよね。
でも、自分から動く事も出来ないのは依存することだし、破綻した時にどうするつもりなのかな、って心配だよ?
ぼくは難しい事全然分かんないけど、願ってはいけない事とか、ほんの少しの嬉しい事で喜んだりする事はちゃんと分かるよ。

…敵が降りてこないのはずるいけど、救済した人々に攻撃してこないなら丁度いいかな。何か落下して危なそうなら、それ壊したりとかで守り役になるよー。
必要なら長椅子とかでバリケードを作ったり、壁を破壊して隠れつつ
敵の剣に映らない死角から、なるべく怪我の酷い人を優先して他猟兵さんへ生まれながらの光で回復を担当するね。


亞東・霧亥
(アドリブ・便乗歓迎)

「貴様に弄ばれた者達の無念を晴らす。」

【SPD】

【分身の術】
全身から沸き立つ殺意を纏わせた分身で、プレアグレイスを包囲する。
生命力のギリギリまで分身を作るため、その数、無数。

自分の攻撃に合わせて分身も襲い掛かるが、『実体の無い攻撃を防御する』事は出来ない。
彼等は殺意を伴う残像。
触れば霞が如く消えるが道理。

『目立たない』を使用。
俺自身は気配を殺し、殺意を抑え、分身に紛れて、必要最低限の攻撃で、プレアグレイスの身体を穿ち続ける。
継続してプレアグレイスの集中力を削ぎ、他の猟兵が攻撃する隙を作る事に専念する。

「終わりの見えない恐怖を、存分に味わうがいい。」



●彼女の聖堂
 床には白い石がぴっちりと敷き詰められ、継ぎ目が見えない。磨き上げられた石は反射を繰り返し、光源が生んだ影を漂白する。
 ……どこにも逃げ場はない。安らぎは無い。
 苦悩も、傷も、嘆きも認めない。

 聖堂には、光が満ち溢れていた。

 長椅子が、中央に向かって四方向から並べられている。着席している人が多い。誰も動かない。満たされ、救われ、何も望まなくなった人たち。
 立っている人もいた。ほぼ全員が中央上空を見上げ、微笑んでいる。
 視線の先に『彼女』がいた。
 その背にある白い翼が羽ばたいていなくても、不可視の力が彼女の華奢な身体を宙に浮かせているのがわかった。
 艶のある黒髪は先に行くにつれ巻いて、可憐な渦で見る者の視線を煙に巻く。
 足下の裾から覗く花弁は、頭上の伽藍と同じ虹の彩りを帯びていた。
 黒い大きな剣を持ち、柄を手枕のように顔に寄せ、彼女は静かに足元を見つめている。
 動かない。
 こちらの存在に気付いていない訳がなかった。オブリビオンは、猟兵というものの存在が直観的に『わかる』。
 そして猟兵たちには相手がオブリビオンであることが本能でわかる。
 ――彩花・涼は眩しさに惑わされることなく、敵の全身を一望した。
(「アレがすべての元凶、か……」)
 確かに絶望の淵にいた彼らには、救いの神に見えたに違いない。
 涼は視線をそのまま下げる。静止した人々が目に入る。
 そこで徹底的な拒絶とぶつかるのだ。
 断絶だ。彼らには、猟兵たちの誰一人として見えていない。
 ――その人々を目にして、レガルタ・シャトーモーグはままごと遊びの人形たちのようだと思った。
 童女が手慰みにして、そのままその場に忘れていってしまった人形たち。
 居並ぶ頭数の多さに、もしこれまで見てきた光景が無ければレガルタは(「随分と派手にやったものだ……」)と感心したかもしれなかった。
 ――ユエは、箱庭を連想した。白く仕切られた箱の中に、自分の理想を再現するミニチュアの庭。苦しみに満ちた世に再現した天国のコピー。そこに、人の形をしたコマを置いて、『救済された世界』と名付けている。
 アルトリウスは何も想像しなかった。止まったままだな、と、見たままを思った。
 そう。彼らの時は止まっている。
「人としての現実を放棄してしまって、理想の夢だけを見るのはきっと楽な事なんだよね」
 突き放すでもなく、冷めている訳でもない。ユキ・スノーバーの声は寂しそうだった。……ここに来るまで見てきた光景が、他人事にさせてくれない。
「……でも、自分から動く事も出来ないのは依存することだし、破綻した時にどうするつもりなのかな、って心配だよ?」
 ああ、と微かに応じて、涼は何かを思い出すように呟く。
「苦痛がない事は確かに幸せだろう……だが、人とは……生きるとは、痛みを伴うものだ」
 苦痛のない、永遠の安らぎの中にいる人々。
 出水宮・カガリは痺れたようにその人々を見ていた。
 想念が脳裏を駆け巡る。
(「……許してほしい。……いや、許さなくていい」)
 謝罪を、赦しを乞うのは誰に対してだろう? 相反する感情が彼の喉元を締め付ける。
(「祭司長の嘆きと、『偽物』となってしまった住人の絶望を知ってなお……この聖堂の彼らがもう、永遠に何も感じないのなら、確かに、安寧と救済はここにある、と」)
(「カガリは心の底から、そう思って」)
 ぐ、と胸元を掴む。
「……いや。否!」
 カガリのユーベルコード、カガリの【夢想城壁】にはまだ、生きている『にせもの』がいる。その事実が、彼に逡巡を断ち切らせる。
「例え本物のためでも、その生が、絶望と苦痛で終わらされていい理由にはならない!」
 振り返る。思ったより冷静に、検分する眼差しで人々を見ている祭司長を。
「祭司長、祭司長。カガリの【夢想城壁】には、生きている街の住人たちがいる。彼らのためにも、為すべきことがあるのなら、カガリはそれを見届けよう」
 祭司長はにっこり笑った。
「とても良いことを聞きました。とても」
 その笑顔を目にして、雨糸・咲はようやく緊張を解いた。ずっと祭司長の様子を窺っていた。
 この場に来て、自暴自棄になってもおかしくない。『本物』とされる人々を傷付けるような振る舞いに出ても……理解できなくは、ないから。
 祭司長はそんな咲に向かって苦笑してみせた。
「やはり、心配しますよね。大丈夫です」
 咲の見つめる前で、祭司長は居並ぶ人々を見回し……言葉を漏らした。
「……少なすぎるんですよ」
(「少なすぎる?」)
 何のことだろう、と問う前に、祭司長は『彼女』を振り仰ぎ、歩き出していた。
 聖堂の中央へ向かう祭司長の影は、人々の間をかきわけて行く。
 彼女に問う。
「聖堂よ。ひとつ、お尋ねしたいことがあります」
 彼女は微かに身じろぎした。しかし答える声は無い。
 それでも、祭司長の言葉に耳を澄ませていることが猟兵たちにはわかった。
「ここにはたくさんの救済された人々がいる。わたしが願いを伝えた人ばかりです。わたしは全て覚えている……」
 ひとつ息を吐いて、祭司長はゆっくりと質問した。
「足りないではありませんか?」
 崩れていってしまった者たちのことでなく。祭司長は言葉を続ける。その声に、矢来・夕立はひやりとした刃物の温度を思った。好きか嫌いか、どちらかといえば大好きなほうの温度。
「わたしがここに逃げ込んだ時にはもう、壁がありました。3重の壁、今回のわたしたちのことを考えると、『救済』は数回、おそらく3回繰り返されたのでしょう……。そのときに『救済』されたはずの人々はどこへ?」
 彼女は答えない。
「わたしたちより以前に『救済』された人々はどこにいるのですか」
 彼女が目を瞑るのが、猟兵たちにも見えた。
「……『ほんもの』であっても、永くは、保たない。そうなのですね?」
 ユキはそれを不思議だとは思わなかった。ずっと止まったまま。それじゃあ、食べたり眠ったり、しないの?
 食事も睡眠も、すべて生きていくのに不可欠なのに。「もう何も願わない」なんて無理だ。生きていくなら、ずっと新しい何かを願い続けなければならない。
 ロー・オーヴェルはフードを被りなおしながら、明らかになる事実に自分が全く驚きを覚えていないことに気付く。当然だ、これは昔話ではないのだ。「めでたし、めでたし」を実現しようとすれば、登場人物は全員幸福の絶頂で死ぬしかない。
 ……す、と彼女は目を開けて、視線を動かした。
 初めて、足元の祭司長を見た。
「救済は為されました」
 美しい声。
 この都市で毎朝聞こえていたという美しい声。
 リーヴァルディ・カーライルは一瞬、強く目を閉じた。どうしようもなく、抗いようもなく美しく……懐かしい声だった。
「これが、貴方の仰っていた『救済』だと?」
「作り物だから理解できないのでしょう」
 私が作ったにせものだから。
 その言が何人の、そしてどれだけの感情を波立たせたか、彼女は知らない。
「偽物か本物か。斯様な問題なぞ些事に過ぎぬ」
 ぴしり、と、アルバ・アルフライラの一喝は鞭の響きを帯びている。燃える瞳が降りてこようとはしない敵を射抜く。言葉は祭司長に向かった。
「お前達が確かに此処で、人としての営みを享受したならば、それは人として生きた証明だ。それを偽物故と踏み躙るのがお前の『神』ならば、私は躊躇う事なく奴を殺そう」
 ジャハル・アルムリフは頷く。これぞ我が師父。自身の想いも同じだった。
「……幾ら考えても、お前たちの望みは人が願う自然なものだと思う」
 求め、望むのが人ならば、確かにお前達は『偽物』ではないのだ、と。ジャハルは祭司長に請け負ってみせる。
「『本物』を通すは己で叶えろ。救済を騙る偽神など疾く反旗を翻せ。神殺しなら請け負ってやる」
 頭上の彼女はまた、視線だけを下す。祭司長を物憂げに見る。
「それは間違いなく私が作ったもの。私が『そう成れ』と形作ったものです。私が『戻れ』と命じればあえなく崩れ落ちるでしょう。……理を知らない、分をわきまえない猟兵らが『神』や『真偽』を語るなど、愚かしいことです」
 素っ気ない言葉に、ユエ・イブリスは自分自身でもわからない、滅多にない心の動きを感じた。
(「胸の奥の熾火のような、この心地は何だろう」)
(「これが、久しく感じていなかった『感情』か」)
 心沸き立つままに、ユエは祭司長に呼びかけていた。
「祭司長どの、美味は思い出せたかい」
 前回と同じく突然の問い掛けだったが、今度は「ええ」と、少し笑みを含んだ声で祭司長は答えた。ユエのペースに慣れてしまったようだ。そんな自分がおかしい、といった風だった。
「……それは素敵だ。実を言えば、私は味覚が欠けて久しい。香りが強いものしか美味いと感じない。薔薇の酒のようにね」
「お気の毒に。でも、薔薇のお酒とは、とても貴方にお似合いですね」
 祭司長はごく自然に応じる。まるで朝の挨拶のよう。その流れに、ユエは真情をするりと乗せる。賛辞も当然と受けとめておく。
「私は君に感謝している。そう、『君に』感謝しているんだ」
 祭司長は少し首を傾げた。どうにも心当たりがない。ユエは片手を軽く胸に当てた。
「忘れかけていた人らしさを、ひとつ思い出せた。……これは、怒りだ」
 声が低くなる。見つめる先には、静止した人々。
「人は人らしく生き、喜び、哀しみ、怒り、楽しみ、……そうした末に死ぬべきだ。何処の世界であっても変わらない営みだ。魂ごと玩具にされていいものではない」
 視線を上げる。元凶がいる。 
「……あれは紛うことなき、冒涜者だ」
 矢来・夕立も肩をすくめた。相手が何と嘯こうが、夕立にしてみれば目にしてきた事柄が全てだ。
「畜舎でも遊び場でもなく、臓器工場でしたね」
 何にしろ救済とか言ってる時点でムカつきますけど。呟いて、夕立はごく自然に祭司長を守るように傍らに立った。
 祭司長は宣言する。
「……わたしは、皆を、貴方の言う『ほんもの』たちを連れてここから出ていきます」
 空気の圧が変化した。
 ゆっくりと、しかし大きく彼女が翼を動かしたのだ。猟兵たちはその時が来たことを知る。祭司長は怯まない。一層声を大きくする。
「恨まれるかもしれませんね。でもわたしたちは最初、門を開けてここに逃げ込んだのですから。今度は、門を開けてここを出ていく」
 訣別の言葉は、「ありがとうございました」と続きそうなほど穏やかだった。
 リーヴァルディはこくんと頷いた。
「……ん。貴方の覚悟は受け取った。私も、悔いだけは残したくないから……覚悟を決めよう」
 思い出を、一時封じる。
「……貴女を討ち、全てを終わらせる」
 リーヴァルディの防具は臨戦態勢に整えてある。感覚の全てが『敵』に集約されていく。知らず髪が逆立つようだった。相手のわずかな動きも逃さない。
 敵がどのような言葉を弄しようと、亞東・霧亥は街で見てきた光景を忘れない。
「貴様に弄ばれた者達の無念を晴らす」
 沸き立つ殺意を、霧亥は着慣れた外套のように全身に纏っていた。その姿が何重にもぶれる。
 否。ぶれたのではなく、増えた。本物の殺意を宿した幾つもの残像を作り出す、霧亥の技。
 駆け出す霧亥の残像。それを手始めに、伽藍の空中に多種多様に猟兵たちの技が展開していった。

●エンジェル・ラダー
 先陣を切って空中に躍り出たのは翼を広げたジャハルだった。
 白い軌跡が虹色の伽藍に切れ目を描く。空を駆け、敵の視線を遮る。
 祭司長に必要なものは時であり、それを稼ぐのが猟兵らの役割だった。
 じゃらっ!とジャハルの手から黒い鎖が投擲される。剣の切っ先が作った血の滴は、黒く染まった血の鎖と化している。
 【怨鎖】。
 彼女の白い翼がふわりと広がり、意外な荒々しさでそれを弾き飛ばす。
 だが攻撃は意図したことの一つに過ぎない。
 弾かれた怨鎖はその勢いのまま伽藍の梁に突き刺さる。もう片方の先端は石床に。聖堂の上下をつないだ鎖は、まるで檻。鳥籠。
「閉じ篭もるのが好きなのだろう?」
 ジャハルの鎖は、飛行手段を持たない猟兵らの足掛かりに。
 霧亥の分身が次々それを伝って上へ、上へと駆ける。
 殺到する気配を察して、彼女は翼を畳む。身を包む盾とする。その翼の隙間から、チカッ・チカッと、黒い大剣が閃いた。角度を変えた鏡が、光を反射させるように。 霧亥の分身が、一斉に散開した。
 鏡面の如き黒の刀身に映りかけた霧亥の分身の、何体かの姿が掻き消える。
「……?」
 彼女の表情に、わずかに不思議そうな色が浮かぶ。
 その疑問に解を与えぬよう、レガルタはわざとのように周囲を飛び回る。投げる飛針は不快な蜂のように彼女に群がり、眉を顰めさせた。
 分身の中にいる本体、霧亥は常に動き回り位置を気取らせない。
 彼ら分身は殺意を伴う残像。敵の手が及べば霞が如く消える。
 不審げな彼女は再び翼を開き、広げて数体の霧亥を掻き消した。
 ――ここだ。
 防御態勢を止め、敵が急所を晒すタイミング。
 レガルタは牽制での飛行速度を止め、足元から最速で急襲する。
「!!」
 ……薔薇だ。裾から吐きだされた薔薇の塊がレガルタの行く手を遮る。ただの薔薇ではない、物理的に危機を及ぼすものだと彼は察した。
 ひらりと空中で上手く身を躱す。躱した視線の先に、黒い大剣の刀身が見え――。
 間一髪、残像と入れ替わる。
 位置を変えたレガルタを捉えようとする動きを、霧亥の分身が遮った。
 また、幾つかが消える。
「…………!」
 彼女は知る。猟兵らは、自分の技を知っていると。
 そう、わかっている。思い知っている。
 『この敵は【複製を作る】』!!
 猟兵全員の脳裏に、重い事実と併せて刻みこまれている。
 空気の重さが変わった。アルバの仕込み杖を中心に、場が歪むほどの力が渦を巻いている。
 帯電した空気が、ほのかに青白い光を放つ。まるでこれが神罰だと言うようだ。
「我が全力、篤と味わうが良い……!」
 アルバのユーベルコード。雷神の瞋恚。
 名そのままに、アルバが向けた仕込み杖の先、頭上の敵に向かって特大の雷が落ちる!
 敵の閉じた翼が大きくたわむ。雷の直撃を受けた表面が波打ち、弾ける。
 別方向の翼がぼこり、と音を立ててへこんだ。
 霧亥の本体が、短剣で穿ったものだ。分身がいくつも群がって本体を隠す。散開する。一瞬後にはもう区別がつかなくなっている。
「終わりの見えない恐怖を、存分に味わうがいい」
 翼を固く閉じ、防御態勢を解かぬ敵の背後に、レガルタのナイフの刺突が突き刺さる。刀身はぬらりと毒に濡れている。振り払おうとした敵の翼の、動きの先にもうレガルタはいない。
「遅い……!」
 壁面すれすれを滑空して、レガルタは再び隙を窺う。
 猟兵の攻撃は途切れることがなかった。
 涼は障害物の間を走り抜け、適所でわざと敵にわかるよう【殺気】をこめて黒鳥で狙撃した。真っ黒な銃身のスナイパーライフルは涼の手に馴染んで、銃弾は狙いを外さない。敵に注意を逸らすことを許さない。より防御に専念せざるを得ない。
 祭司長を護衛しながら敵の様子を窺っていたロー・オーヴェルが、そのときそれを目にしたのは偶然だった。
 繭のように閉じた翼はゆっくりと回転していた。
 ゆっくりと、そして閉じた翼のほんのわずかの隙間から、彼女の口元が覗く。
 形のよい唇の、両端は微かに上がっていた。
 黒い大剣の刃が白い翼の隙間からそっと差し出される。……刃の鏡面に稲光が映っている。映しだされた稲光が刀身からはみ出して、渦巻く力の放出先を求めているのが見える……!
 ズドン!と。
 先ほどの轟音が再生された。
「……ッ!」
 ジャハルは表皮を襲う熱と衝撃に一瞬息を詰まらせる。
 その二つは、しかし直ぐに失われていった。一瞬の停滞で墜落しかけた身をジャハルは立て直す。
 香気を放つ青葉が、ジャハルに薄荷の香りと、癒しの力をもたらしたのだ。
 咲は【馥葉吹】の効果を自身の疲労具合で知った。だがそれには頓着しない。飛行あるいは接敵して戦う彼らはこちらの攻撃の要なのだ。
「あの剣は厄介ですね……」
 咲の呟きに、アルバは頷くのも忘れて舌打ちしたい気分だった。
 そこに上から声が降ってくる。
「続けろ、師父!」
 ジャハルが叫ぶ。空を飛び、目線は敵を捕らえたままだ。
「――効いている!」
 効果があったからこそ、こちらの攻撃を怯ませる目的であえてアルバの攻撃を用いているのだ、と。
「無論、だ……!」
 アルバは杖を再び敵に向ける。力が、青白い光が再び生じる……!
 ぴし、とアルバの手元で儚い音がした。罅割れの音。鉱物にとって不吉なそれを、クリスタリアンのアルバはあえて無視した。手を休める心算は毛頭ない。高速詠唱、相手が攻撃してくる隙間を潰すのだ。
 轟音。衝撃。
 武器、攻撃、分身。それらが交差し、空を埋め尽くす。
 伽藍の内部は明滅する光に包まれ、動かぬ人々の影が床にチカチカと焼きつくようだった。
 リシェリア・エスフィリアは『ほんもの』であるはずのそれを目にして息苦しくなった。
 『心があるから、偽物じゃない』。確かに「祭司長」であった存在の言葉が、耳から離れない。もう動かぬ人々。誰が救われた? 誰が幸せになれた? どこに意味があった?
 リシェリアの心は激しく叫んでいる。
(「救った気になって悦に浸る奴が、ここにいる」)
(「だからと言って私に何ができるだろう」)
 彼らは自ら動きを止めたのだ。
 それでも。
「……殺すしかできない武器のほうが、まだ慈悲がある」
 それが私のできる事。そして殺すべきは、ここにいる!
 振りかざすのは蒼い長剣。深い蒼の、両刃の長剣。リシェリアの本体。
「これ以上、心で遊ぶのは止めて」
 アルトリウスは彼女の傍らに立つ。浮遊するモノを見定める。
「客を迎えるならせめて降りてこい」
 その身体が何重にもぶれ、分かれていく。
 【臘月】、アルトリウスを写した分体、アルトリウスそれらと共に、直に敵の身体を狙う。
 桜雨・カイは不断の攻撃を見定めながら、どうしても目に入ってくる『ほんもの』たちの姿に、第一と第二の門の内側にいた人々を思い出す。
(「彼らはモノではありません、普通の生活を望んだだけの「人」です……あんな絶望を味わう必要はなかったはずです」)
 その絶望は繰り返されてきたという。カイは一度奥歯を強く噛みしめる。
「もう二度と、同じ事を繰り返させません」
 また、雷が降ってくる……。誰も動かない。ステラ・アルゲンは叫びたかった。
「その偽りで満足なのか? 本物の幸福を手に入れたくないのか!」
 声はまだ、届かない。

●願いをここに
 無数の攻撃の余波は、足元に雨のように降り注いでいた。
 それは幸福に満たされ、動かぬ人々にも無情に降る。
 危うく怪我をしそうなところを、ユキは力任せに彼らを移動させる。荒っぽくなってしまうのは仕方がなかった。ここに来るまで自死しようとする人々にやったことを思えば、かなり優しく扱っているほうだ。
 それにしても、危険に何一つ反応できないというのは、どういう状態なんだろう? これが完全なる救済?
(「ぼくは難しい事全然分かんないけど。願ってはいけない事とか、ほんの少しの嬉しい事で喜んだりする事はちゃんと分かるよ」)
 ずりずりと、ユキは祭司長といっしょに彼らを安全な場所へと運ぶ。
 夕立はその手の疑問とは無縁だった。
 願いを叶えたとされる人々がどうなっても・どうなっていても別に気にならない。ただ祭司長が望むことなら、叶えてやりたいと思う。夕立は無言で、懸命に降り注ぐ建材の破片から人々を守ろうとしている祭司長を見つめ、彼の頭上に落ちくる木片を弾き飛ばした。
(「この人はオレの問いかけから逃げなかった」)
 そして、充分に街の代表としての筋を通した。
(「最期の願いくらい叶っていい。邪魔はさせない」)
 祭司長は顔を上げ、カガリに懇願する。
「その城壁の中に、皆を移動させて下さい」
 それこそカガリの願いだった。
 『守るべきものを我が内へ。往くべきものを我が外へ』。
 小さな【亡都の紋章】に触れさせて、カガリは次々と人々を収容していく。
 その際、あえて「気を失わせる処置」を施すのは何が起こるかわからないから。
 彼らは「ここを去る」と自分で決めた訳ではないからだ。
 ペイン・フィンは手伝いながらも、『ほんもの』たちに親身になってやる気は全くなかった。
「……例え、このやり方で救済された人がいようとも、自分は、犠牲を是と認めたくは無い」
 祭司長を見る。そして何かから逃げるように自死に及ぼうとしていた人々を思い起こす。
(「ましてや、こんなやり方なんて、ね」)
 首筋の、一瞬で人の気を失わせる場所を、人体の急所に詳しいペインはよく知っている。逆に、痛みなどで気を失った人間を起こすことも、簡単だ。
(「……もし、オリジナルの人が、起きるなら」)
 自分を恨むように言おう。そうペインは思った。自分は元より、人を傷つけるもの。拷問具。恨まれるのには、慣れているから。
(「それに、それで前に進めるのなら、……それで、いい」)
 人形のような人々を運んで、気絶させて。
 単純作業の合間に、ロー・オーヴェルの想念は過去に飛んだ。
(「俺は家出をした」)
 誰かに呟くように、自身に言い聞かせるように。
(「今なら言える。それは『全てが救えない』現実からの逃避だった」)
 だが『現実』は再び目の前に迫っている。
(「今度は逃げん。何を救えるかは判らないが、逃げたら何も救えない」)
 祭司長が為すことを、願いを叶えることを、見届ける。
 そして敵に対しては……ローはある方策を試している。
 ガッ、と何かが穿たれる音がした。
 ローは祭司長の護りにつく。飛んできた小さな瓦礫から、念のためかばってやる。
 彼女の目に、それはとても不思議なことのようだった。
「無駄なことを……。どうしてそれをかばうのです?」
 閉じた翼、白い繭から美しい声が問うている。
「救済された者たちが長くはもたないから、ここから連れ出すと言う。そう言ったそれこそ、もう長くはもたない。所詮は偽物。紛い物です」
 ガッ、ガガガガッ!
 傷つけるには至らない小さな瓦礫。それは壁面から飛んできていた。
 トリテレイア・ゼロナインが壁面に向かって発振器を射出したのだ。そこから生じた電磁障壁は、天井近くまで続く螺旋階段を構築しつつあった。
 トリテレイアが騎乗した機械馬は、その螺旋の一段目に乗る。トリテレイアは振り向いて、祭司長に告げた。
「紛い物と言われようと。その意志は貴方の物です」
 その行動は彼自身のもの。それを見届けるためにも。
 駆け上がる。機械の馬は機械の騎士を乗せ、聖堂に建てられた螺旋の階を駆けていく。
 黒い刀身が閃こうとするのを、涼は直下からスナイプする。自分自身を晒してもかまわない。牽制なのだ、こちらに敵の注意が来てもらわないと話にならない。
 敵が写し取った雷が落ちる。
 涼の周囲に細かな砂礫が立ち上がり……涼は、傷一つない姿でそこに立っている。彼女を取り巻くのは、何十個もの拷問具だ。今この時に、人を傷つけず、守る目的で在る道具。
 ペインは自身のユーベルコードを展開させ、半数を仲間の護りに、半数を高みから見下ろす敵に向かわせる。
「彼らがコピー、まがい物だとしても、命と希望を奪い去った時点で……」
 自分の敵、だよ。
 ペインの声は低くなる。涼は謝意を示しつつ目立たぬよう次の狙撃ポイントに向かって走る。
 螺旋の足場を踏んだのはトリテレイアだけではなかった。
 リーヴァルディは決闘に挑むように螺旋階段を駆け上がる。
「リーヴァルディ様!」
 先を行くトリテレイアが階下のリーヴァルディに声を掛ける。
「私はリーヴァルディ様と敵との因縁を詳しく承知しているわけではありません。ですが、騎士として助太刀いたします」
 ん、と微かにリーヴァルディは頷く。誰に話さなくとも、わかるものらしい。
 上へと駆ける猟兵らと、けして降りてこようとはしない敵を見上げ、ユキは彼らの直下にいた人々を収容し終えたことに安堵した。
「……敵が降りてこないのはずるいけど、『救済した人々』に攻撃してこないなら丁度いいかな」
 人々は、彼女にとっても大事なものだったろうか?
 落ちてくる針の破片をアイスピックの一撃で壊して、ユキは下の人々の護り役に徹する。
 祭司長は戦いを避け、端の方に佇む人々の収容に取り掛かろうとしていた。
 その時だ。
 ちら、と彼女が祭司長を見た。
 『見た』だけだ。微かな瞳の動き以外、何の動作もなかった。
 猟兵らの幾人かの背筋に冷たいものが走る。これだけの攻撃・陽動・牽制がありながら、何故ただの一瞥を祭司長に下すのだ?
 彼女の視線。
 それを受けただけで祭司長の輪郭は崩れた。

●救いをここに
 聖堂の外で見たものを猟兵らは思い出す。
 崩れていく人体。それは誰も望んでいない。誰の願いからもかけ離れている。
 ユキが駆け寄る。
「祭司長さん……!」
 ユキの呼び掛けは、叱咤のように彼を打つ。
 呼び掛けが、たわんだ糸をぴんと張りなおすように、祭司長は元の輪郭を取り戻す。……ぐにゃり、とまた足元から崩れそうになる。
 夕立と咲が駆け寄って、彼の身体を支えた。
「大丈夫ですか!? 怪我は、痛いところは」
「……痛くない、です。怖ろしいことに」
 祭司長は俯きがちに、それでも自力で立ち上がった。一瞬歪んだ身体は、足は、ちゃんと形と機能を取り戻している。具合を見ようとする猟兵らを押し留め、祭司長は囁き声で告白した。
「……本当は。『ほんもの』の自分を殺す、ということも、ちょっと考えてました」
 咲を見て、困ったように笑う。
「自棄になってましたね。ひとりなら、そうしていたかもしれません」
 夕立は「別に、それでもよかったですよ」と言い、少し間を置いて「これはウソじゃないです」と付け加えた。祭司長は「それは珍しいですね」と笑った。
「……でも。ひとりじゃなかった。貴方がたが見てくれていました。みっともないところは見せたくない」
 頭上を振り仰ぐ。救い主を見る目でも、創造主を見る目でもなかった。
 突然、『落ちてくる敵の雷の余波が祭司長に及ぶ』ことを涼は察した。あと数秒、その予想したアドバンテージを生かして涼は滑り込む。倒れ込みながら祭司長をかばう。爪先すれすれを衝撃と熱が走り抜けていった。
「彼のしたい事の……邪魔はさせん……!」
 涼は頭上を睨み付ける。
 彼女はよくよく偽物の反抗がお気に召さないらしい。
 トリテレイアが放ったワイヤーアンカーを翼で払う。彼女は薙ぐ動きで霧亥の分体を幾つか消して、黒い大剣を己の身を隠すように正面にかざした。
 そこに映った鏡像、写し取られた人影に、アルバの眉が一瞬大きく跳ね上がる。
 ……見覚えがある。
 それと全く同じ人影が飛来して激しく刃を打ち交わす。敵は、ジャハルを複製したのだ。
 それを間近でユエは見ていた。妖精の翅は優雅に彼を天井近くまで運んでいた。
 いよいよ敵は性質の悪さを全開にしてきたようだ、とユエは思った。
 救済を嘯こうが、【複製を作る】のがこの敵の本質だ。自分が複製しか作れないからこそ『ほんもの』にこだわり、『にせもの』を卑しむのだ。
 ユエは【第六感】で激しく位置を入れ替え、こちらを惑わせるジャハルと複製の違いを見切っていた。
「なに、注意すればきっと誰にでもわかることだよ」
 言って、空を滑るユエの身体は極北の風を纏う氷の精霊と化している。速度は妖精のときとは比べものにならない。鋭い飛行は真空の刃を生み出し、複製の体表に幾つもの傷をつけた。滲む血は白く凍えていく。
「ついでだよ」
 凍結の【呪詛】。一瞬で真偽を判別できる目印だ。
 ジャハルが複製されたのは、彼が最前線で戦っていたが故のことで、ある程度想定されたことだった。しかし自分がこれほどの怒りを感じると、アルバは予期していただろうか?
 特大の雷が、複製に落ちた。
 複製の目印ごと黒く焼ける。消し炭のようなその身体は、まだまだ動こうとしていた。当然だ、ジャハルならまだ動く。まだ戦う。
 (「あの人クラスが敵に回ると本当厄介だな」)と夕立は思った。
 ただ、これは敵にとっても大技の筈だ。
 動かぬ彼女は、翼を開いたまま。力を使った影響か、すぐには防御態勢を取れていない。
「つくられたものが生きてはいけない理由を お前はご存知かしら、ねえ、かみさま」
 本物のジャハルの鎖を伝って、イアの姿はいつの間にか天蓋近くにあった。
「いと高きところには、……堂の中ではあんまり世界が、狭いかしら」
 イアの身は碧く揺らぐ火に包まれている。ぼう、光る姿は、次の瞬間には消えている。
 滄喪――リロコナイト。
 敵の護りは間に合わない。放射された炎は、触れれば凍てる碧だ。
 イア本人は目にもとまらぬ速さで駆けている。鎖を蹴って、凍てる火を纏ったまま敵を翼ごと拘束する。
「作られたのだか、抜け殻なのだか、僕は存じないけれど」
 同じ場所から見下ろした人々は、砂粒のように小さい。
「失くして良い理由には、ならないもの」
 ――衝撃!
 よほど使い勝手が良いのだろう。自分を縛り付けるイアを撃ったのはまたアルバから掠め取った雷だった。
 くらりと揺れて落ちそうになるイアは、すぐに体勢を立て直す。
 下のほうで、ユキがぶんぶんとアイスピックを振っていた。
「治すのはお任せなんだよ!」
 癒しの光は使えば疲労する。だが今のユキはとても調子が良かった。いくらでも治癒できそうな気がした。
 その声に向かって稲光が走る。追いかける。
 あわや、というところでふいっとユキの身体は宙にさらわれる。床面すれすれを飛んだレガルタはちいさなユキの身体を抱えて、何度も角度を変えて滑空する。追いかける雷の隙間を縫って飛ぶ。手の中に抱え込んだユキのアイスピックは、今だけ避雷針のようだった。
「まだ大丈夫です」
 咲の癒しの青葉も尽きない。最前線のジャハルを適宜癒していく。
 敵はまだ、翼を閉じていなかった。
 そして鎖の上にはアルトリウスがいた。分体を引き連れていても、無防備にすら思える動きで、敵を狙っていた。
 す、と彼女は黒い大剣をかざす。
 ――その黒い鏡面がこちらを向く前に、アルトリウスは魔弾で爆撃する。青く輝く魔弾の弾幕は天蓋の中央付近に広がり、一瞬、敵の姿も味方の姿も見えなくした。
 弾幕が去れば、彼女は再び大剣をアルトリウスに向け――。
 直後、【回廊】で転移したアルトリウスは、背後から装填した魔弾を叩きこむ!
 小さな悲鳴が上がった。
 羽根が散る。翼の片方が、根元から千切り落とされていた。
 彼女の救援に向かうように、複製されたジャハルが飛来してアルトリウスを背後から襲う。……それを、リシェリアが許すはずがない。
「魔剣に移った影は、魔剣である私が消す!」
 それは【蒼の鏡】――リフレクション。
 敵の技によって生み出された複製に、【運命を食らう魔剣の一撃】を放つ、相殺の技。
 たくさん見てきた。複製された人々を。祭司長を。
 もうこれ以上、この技が使われるのを許さない。リシェリアの強い思いは複製を抹消した。
 アルバはふ、と息を吐いた。やはり、目障りなものが消えたのはありがたい。
 敵は。
 ひとりになった敵は、彼女は、片方だけになった羽根を広げた。
 その風圧で天蓋が割れ、破片が降った。
 虹色の煌めきは、美しいと言ってよかった。だが破片は破片。鋭い切っ先を持ち、下にいる者を傷つける。命を脅かす。
 祭司長が見たのは、大きな破片の下にいた女性だ。微笑みを湛えて、動かないままだ。祭司長はその女性に駆け寄ろうとした。
 踏み出した一歩目で、ぐにゃり、と祭司長は足元から崩れ落ちた。膝のあたりまで崩れて……何も間に合わない。
 次の瞬間、女性は引き倒されていた。一歩ほど離れた場所で、破片が大きな音を立てて砕ける。
 女性を助けて、起き上がる人影を見上げて……床に倒れ込んだ祭司長は呆然と呟いた。
「そりゃあ……当然だ……」
 同じ顔と顔が、向かい合わせになる。
「わたしの願いは、人に感謝されること。誰かを助けて……誰かに感謝されたいから……」
 そこにいるのは祭司長と呼ばれたことのない男だ。
 どこまで事態を把握できているのか、無言で周囲を窺っている。
 と。
 「とん、」と『ほんもの』の首筋に手刀が下された。
 その的確な一撃で男は意識を失う。力が抜け、頭部から床に倒れ込むのを、ユキがあわてて支えに行く。咲は祭司長を抱きかかえた。膝から下は形を失っても、まだ骨の名残りや血の温かさがあった。
 手刀を下したのは夕立だった。
「大人しくさせた方がいいかな、と」
 勿論ウソだ。「チャンスがあったら、一回くらい『ほんもの』を殴っておくのもいいかな」と思っていたのだ。普通はチャンスがあっても実行することはないのだが……その行動は、意外と正解に近いものだったらしい。
「え……?」
「何だ? これは一体……」
 『救済された』人々が徐々に動き出していた。

●エンジェル・フォール
 それが逆鱗だった。彼女の急所。弱点だ。
 敵は救済を諦めない。
 そこから去ることを許さない。
 リーヴァルディは一歩、また一歩と近づきながら……同時に、吸血鬼化した自身の生命力を精霊に吸収させ、誘惑する。オブリビオンに対して有効と思われる“過去を世界の外側に排出する力”を溜めていく。
 ……まだ終わりではない、まだ。それを“闇の炎”と融合させる……。
 螺旋の階段を上りながら、徐々にリーヴァルディの姿は変容していく。
 リーヴァルディの到着を彼女は待たない。
 翼は盾の役割を放棄した。その色は白から黒に転じている。
 片翼の黒死天使は黒の大剣をそのままの用途で用いる。
 一振りで、ジャハルを圧倒した。だがジャハルは退かない。今の己の役割は盾だ。足元を見なくても、動き出した人々のざわめきがわかる。彼らも含めて守らなければならない!
 ざわめきは混乱となり、惑乱から狂乱へと変じかけていた。
 取り戻したはずのものが、いないから。
 救済された筈なのに、願ったものが消えてしまっていたから。
 それが彼女の、オブリビオンの限界だ。『にせもの』はそちらだったようだね、とユエは目を細めた。街で繰り広げられた狂態と類似のものが発生しかけ……それをひとつひとつ、猟兵らは潰していった。
 手慣れたものだった。今までとやることは同じだ。気を失わせてカガリのもとへ。
 動けない祭司長をかばうのは夕立だった。息を吐き、敵を見上げる彼は、妙に疲労している様子だった。
 彼女は自らの手で黒い剣を振るう。
 霧亥の分身がごっそりと持って行かれる。目くらましに必要な数も、そろそろ足りなくなってきていた。
 彼女は続けて大剣を騎乗のトリテレイアに向けた。叩きつけられる大剣を、トリテレイアは儀礼用の長剣で受けた。がっきと刃が音を立てる。機械馬の力と己の怪力で押し戻そうとする。
 ――弾かれる!
 ガードが開いた脇腹に、敵の大剣が迫り……。
 そこに、螺旋階段を駆け上がったカイが身を滑り込ませていた。
 武器は構えていない。からくり人形も動かない。完全に無防備に、無抵抗に身を晒していた。
 大剣が振り下ろされる。
 間近にいたトリテレイアが両断されるカイを幻視したとしても不思議ではない。
 だがその光景が現実になることはなかった。
「この力……みんなを癒やす力とさせてもらいます」
 細かな光がぱあっと散った。光はカイの懐、念糸で編んだ護符から零れ落ちていた。
 これがカイのユーベルコード。柳桜(ヤナギサクラ)。
 敵の攻撃を、自分や仲間を癒す力へと変換する。
 効果は目覚ましかった。霧亥はにやっと笑った。その笑みは続々と数を増していく。
「終わりの見えない恐怖を、存分に味わうがいい」
 ステラは、防御も回復も他の皆に任せていた。自分ができることをやる。自分が得意とすること、全力魔法だ。今がその使い時だとステラは理解した。
 周囲の人々は動きだし、ようやく様々な物事に目を向け始めていた。
 本物も偽物も関係ない。ひとびとに次の願いを、次に進む勇気をもたらすため。
 ステラは剣を掲げる。大剣を振り下ろした体勢の敵に向けて、流星雨を降らせる!
「降り注げ、流星たちよ!」
 がらあきの胴体に、降る全ての流星が叩きこまれた。
 高速詠唱、立て続けに同じことが繰り返される。螺旋の階の上を、ゆっくりと彼女はすべり落ちていく。

●エンジェル・フォール
 落ちてくる。
 彼女が、ゆっくりと落ちてくる。
 まるで運命のようだとリーヴァルディは思った。不思議と納得できた。
「……貴女が教えてくれた力と技。今こそ、再現してみせる……!」
 踏み出す一歩には怪力が込められている。容貌は、ダークセイヴァーで忌み恐れられるヴァンパイアそのものだ。
 落ちてくる彼女は、落ちながらもまだ彼女だった。黒い大剣をかざし、誰かを写し取ろうとしていた。
 少し離れた鎖の上から、アルトリウスはそれを阻止する。
『淀め』
 魔眼・封絶(マガン・フウゼツ)。
 心眼を防ぐものはなかった。能力発露を封じるアルトリウスの技は、彼女の動きを一時的に封じる。
 最後の力で彼女が大剣をかざした相手は、霧亥の分身。
 本体のにやりとした笑みだけ残し消えていく。
 この時。
 ――敵の攻撃の手は止んだと思っても不思議はなかった。
 黒い大剣の表面に、生み出されつつあった雷光に気付かなくてもおかしくはなかった。
 だが、実際には。
 とん、と。
 彼女の脇腹に、ダガーの刃が根元まで突き刺さっていた。
 ダガーの持ち手の先に人影はない。
 誰もいない。いなかった筈だ。彼女は一瞬の間に幾つもの可能性を脳裏に浮かべ、すべて消す。
 分身、残像、偽物と、際限なく生み出される目くらましも、そこには無かった筈だった。
 ――否。いたのだ。見えぬ者がいた。
「あ……」
 彼女の表情に理解の色が浮かぶ。
 夕立が微かに頷く。何度目かの試みが、ようやく上手くいったようだ。
 ローは思い出している。この式神を夕立に押し付けられた時、念を押すように言われたことを。
『迷彩は攻防ともに有効に働きますから、上手く使ってください』
 効果は単純、「姿を消す」。解除まで毎秒疲労する仕様だが、こうも策が上手くはまってくれるなら、やる価値は充分にあった。
 式神は物音や体温は消せない。だがローは物音も立てずジャハルの鎖を駆け上がり、彼女を追って螺旋階段へと飛び移っていた。
 眼下に見える人々のざわめきは、咲やユキ、カガリらのおかげで着実に減少して、残りはもう数人だ。
 その姿は、ここに来るまでに目にしたものと全く変わらない。
(「祭司長の言う通りだ。何一つ嘘じゃない」)
 嘘かモノとか決めるのは誰かじゃない。もしも神が嘘だと言っても、それを貫き最期まで歩き通せば真になる。彼女の胴を深々と突き刺して、ローは思った。
(「歩みの中で別の『救済』があるかもしれない。だからあの子には……」)
 ローは再び鎖に飛び移った。片手で鎖を握りすべり落ちる。
 追い打ちを狙う大剣は、レガルタがはじいた。
 手元だけで角度を変えた黒い大剣に映ったのはアルトリウス――の、分体。影は消える。
 数を増した霧亥の分身が一斉に笑った。
 何が真で何が贋なのか。
 同じ姿かたちがいくつもあるなかで、何を見定めればいいのか。
 ガチリ。
 彼女の手元で小さな器具が音を立てた。無骨で、単純、恐ろしい機能を持つペインの拷問具。親指潰し『ペイン・フィン』。
 黒い剣が落ちていく。
 拾おうと伸ばした彼女の手を、トリテレイアが射出したワイヤーアンカーが拘束した。
 忌々しげな彼女に引き戻され、トリテレイアはバランスを崩す。機械馬から落ちゆく瞬間、トリテレイアはリーヴァルディに向けて叫んでいた。
「ラグナソピアと同じように、その因縁に決着を!」
 その名もリーヴァルディに縁深きものだった。
 ラグナソピア。……ラグナ。
 目の前の彼女に名前を聞けば、どんな答えが返ってくるだろう?
 リーヴァルディの手には、黒炎を纏う【血の聖槍】が在った。
「……この一撃に、私の全てを……!」
 落ちゆく彼女。
 名乗りはしなかった。ずっとひとりだったから。
 彼女はやさしく両腕を広げていた。まるでリーヴァルディを迎えるかのように。
(「……ん。待たせて、ごめんね」)
「……さようなら、プレア」
 聖槍が彼女の胸を貫き、その力を喪わせた――。

●扉を開けて
 崩れゆく祭司長にカガリはとっさに布で覆いをかけた。
 膝から腰、腰から肩へかけて、ゆっくりと崩れていく。もう祭司長は自力で立ち上がることは無いだろう。
 ……この布は、衣服は、かつてカガリが見た都の人々が纏っていたものだ。確かこのような形だった。失われた都の装束に、なにか不吉な謂れなどある筈はない。だが彼の姿を包むのに、これはふさわしいものだったろうか。
「祭司長、祭司長」
 カガリは訴える。
「最期に、行き場を無くした彼らが、今の己と向き合えるように。だんまりさんの口を、開いてはくれないか」
 もう布は、人体の輪郭をとっていない。
「お願いがあります」
 それでも祭司長の言葉は明瞭だった。
「伝えてほしいんです。後のことは任せた、と……。わたしの、『ほんもの』に。わたしが言うのも何なんですけど……ちょっと恥ずかしいんですけど……彼、信用できると思うんですよ」
 イアは最後の時まで自分を手放さない彼を見つめる。
(「ほんとうの幸せは、なんだろな」)
 後のことを託せる存在がいるのは、幸せと言える、かしら?
 イアは布に顔を寄せ、子供に話すように言う。
「僕の出会ったあなたは、まだあなただけだけど」
「すぐに会うと思います。すぐ。彼は……わたしたちのこととか、彼女のこととか……喪ったものとか、願いの結末とか……たぶん、忘れないと思うんです」
 リーヴァルディは頷いた。
「……ん。私も、忘れない」
 何一つ。願いも嘆きも、ほんものだから。
 布がたわむ。咲は息を呑んだ。
 イアはそっと囁く。
「――祭司長さん、お名前聞いてなかったねえ」
 少し、間があった。猟兵たちは耳をそばだてる。何一つ、聞き漏らさぬよう。
「ランパート……」
 気取ってるでしょう?
 それが最後だった。
 布は立体の形を失い、静かに床に落ちて平面をかたどる。
 誰かが吸う息の音だけが妙にはっきりと聞こえた。
 溶け崩れるのかと思っていたすべては、においも音もなく、塵さえ残さず、透き通って空気に解けていく。
 聖堂はもう無かった。壁も、門も、徐々にゆらいで、透き通っていく。
 ユエは頭上を振り仰いだ。
 広がるのは月も星もない、闇の世界の夜空だ。……この世界は、ずっとこうなのだろうか。
 リシェリアは床に落ちた布を見つめた。そこに確かに居たはずのひとを想った。
「心は……何処へいくんだろう」
 いつか、私もどこかへ行くのだろうか? 祭司長と呼ばれた彼とは別の場所だろうか。そして、アルトリウスとは?
 そう問いかけようとしたリシェリアは、見下ろす彼の視線に気がついた。
「行こう」
 発せられたのは短い言葉だ。アルトリウスのことだから、特に意味のない呼びかけかもしれない。そうかもしれないが、今このときに、リシェリアは万感の思いを込めて頷いた。
「――うん」
 「どこであっても、一緒に行こう」、と。
 アルバは、施された治癒の跡を確かめるようにジャハルを抱き起した。ジャハルはある程度好きにさせて、気がすんだらしいアルバに言った。
「流石師父、傷に気付いてくれたのだな」
「何のことだ」
 ジャハルは目を瞬かせる。複製には目印の傷をつける算段だと、自分は言いはしなかったか。何度か口を開きかけたところで、アルバに眉間を突かれた。
「……傷などなくとも、自分の従者のことくらいわかる」
 事実だった。
 事後処理に移ろうとした時、かぼそい悲鳴が響いた。
 まだ残っていた『ほんもの』の誰かだ。
 今気づいたのだろう。取り戻したはずの『誰か』が傍にいないことに。泣いて、周囲を見回す。
 どうして? 何があったの。そう叫んでいた。
 カイは拳を握りしめた。
 彼女の顔に、見覚えがあったのだ。
「『オリジナル』の人から責められるのは覚悟の上です。むしろ心が絶望に向かうよりは、そちらの方がいい」
 脳裏には、街中で見た光景が甦っていた。
(「……その幸せな記憶は、もう一人のあなた達の絶望と悲鳴から作られたものです」)
(「辛いですよね……。でもあなた達がつかめるのは絶望だけではありません、幸せもつかめます、生きているのなら」)
 カイは彼女に向かって歩きだす。もう一人の彼女のことを、目覚めた後の彼女にどのように語るかを思案しつつ。 
 嘆く人々の狂乱を取り押さえ、気を失わせる。二度目なので猟兵たちも手慣れたものだ。咲は助けたあの少女のことを思い出していた。まるで死に似つかわしくない子だった。いのち、生活、そんなものこそ、あの子に似合うはず。
 レガルタのやり方は少々乱暴だった。
「偽りの幸福に殉じて死にたきゃ好きにしろ。……それが本当に自分の願いだってんなら、誰にも否定はできないからな」
 ユキは頭から床に倒れ込んだ男性の傷を撫でてやった。たんこぶが出来ている。ずくずく熱を持っている。それが生きている証のようだった。
 トリテレイアはまた悩ましい声を出していた。
「騎士として、この行動はどうなのでしょうか」
「それが人の命を救うことなら、『誉ある行動』なんじゃないか」
 涼は生きている人々を思った。死んでしまってはお終いだ。生と死の間には厳然たる境界があって……向こう側に行ってしまった人に、会うことは無い。会ってはいけない。会ったとしたらそれは……過去の漏出、オブリビオン、だから。
 ステラはまだ気を失う前の人々と、直接言葉を交わしていた。
 落ち着かせるまでには至っていなかったが、泣きながら耳を傾けるその様を忘れないていよう、とステラは思った。
「私も主を失った。彼が生きている夢に手を伸ばした。……でも叶わない願いもこの世にはある。諦めて前に進まなければならない時もある」
「そして次こそは叶えられる願いを探すんだ。偽りの幸福じゃない本物の幸福のために」
 亡くしたからこそ、再び歩き出したからこそ言えた言葉だった。
 その喪失を感じ取ったからこそ、届いた言葉だった。
 床に落ちた布をカガリが拾っている。まるで遺骸を抱き上げるようだ。ステラはその肩にそっと触れた。
 ランペール、と祭司長は名乗った。それはどこかの言葉で『城壁』を意味するものだと聞いたことがある。
 ステラは剣の巫女のように髪を解いた。
 そっと、型どおりに足を運ぶ。静かなこの舞は、鎮魂の舞。
 未練を絶つ剣として、天に導く星として、ステラは彼らをきちんと送り出す。死者には本物も偽物もないのだから。
 円型都市エターニアは空気にとけていく。
 3重の壁は、糸が解けるようにばらばらになって、これも空気と同化していく。
 壁も門もない。
 誰もいない、暗闇の中で。
 一番最初に目覚めた男が、カガリの【夢想城壁】の門を開けてやってくる……。

●朱い空の下で
 少女は暗闇にいた。
(「わたしは死んだのだろうか」)
 形も崩れて、心も解かれて。人でなくなったのだろうか。
 あやふやに移ろう存在でいた少女は、しかし突然沸き起こった刺激に叩き起こされる。
 ――強烈な血の味。
 それが少女に自分の口と舌、歯の存在を思い出させた。
 自分の舌を噛み切った? いや、この味は……より鉄に近い、誰か他の人の血だ……。
 次に少女は耳を思い出す。耳が、一度聞いた言葉を再生したから。
『それでも、君に生きて欲しい』
(「……誰かが、わたしにそう言った」)
 ざぶん!と水底から浮きあがるように、少女は瞼を開く。
 うっすら朱い空。この色の具合は、夜明けか。ずるずると身を起こす。地面に寝転がっていたようだ。
 隣を見ると、見覚えのある年下の少女がいた。きょとんとした顔で、正座している。
 どこかで打ったのか、赤くなった手を摩りながら、「死んじゃだめー、って……」と呟いていた。
 2人は助け合うように立ち上がった。あたりには彼女たちと同じように地面に座り込んでいる者が十数名ほどいた。あとは……。
「あああ!」
 悲鳴をあげて泣き崩れる人々の群れがいた。
 ああ、あれは『ほんもの』だ。たった今、何もかも取り戻したという幸せな夢から醒めてしまったところなんだ。そう少女たちは思った。ひょっとしたら、自分たちの『ほんもの』もいるかもしれない。……意外と恐怖はなかった。
 『ほんもの』もおかあさんを亡くしたばかりなのだ。
 自分も泣いてよかった。死に急いでもよかった。でももう、感情の激しい昂ぶりは去ってしまって、掴みどころのない虚脱感だけが残っている。
 と。ひとりの男が彼女らの脇を通り過ぎた。
「だんまりさん?」
 見覚えのある容貌に、きょとんとしたままの隣の少女が声を掛ける。……いや、よく似た別の人なんだろうか。彼は振り返り、彼女たちを安心させるように頷いて、そして泣き叫ぶ人の群れに向かって無言で歩いていく。
(「……これからどうなるんだろう」)
 少女は不思議に思う。何故『にせもの』のわたしたちはまだ生きているんだろう。まだ人の形をしているんだろう。
 おかあさんはもういないのに。
 くう、とお腹が鳴る音が、すぐ傍でした。隣の少女が「……お昼ごはん、少なかったの」と呟いていた。
 少女は少しおかしくなった。お昼ごはんは少なくても、夜ごはんはちゃんと食べたんじゃ? 笑い声が喉から出て、随分ひさしぶりのことで少し咳き込んでしまった。
 ……にせものでも、お腹がすくようだし、笑ったりするようだ。
 視線の先では、先程の彼が、嘆く人々に次々と声を掛け、同じ境遇の人間が沢山いるせいだろうか、『ほんもの』の人々は惑乱してはいるが集団としてまとまりつつあった。
 『にせもの』たちはそれを見つめる。
 それを承知しているようで、先程の彼は振り向いて、少女たちや、まだまごついている『にせもの』に向かって手を振っている。こちらへ来いと、そう言っている。
 ……にせものでも、生きていけるようだ。この朱色の空の下では。
 この世界は恐ろしいもの歪んだものでいっぱいだから。わたしたちでも生きようと思えば生きていける。
 少女たちは彼の方に向かって小走りに駆けていく。
 涙はもう乾いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月08日
宿敵 『救済の代行者・プレアグレイス』 を撃破!


挿絵イラスト