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⏰霧の街 ~霧中に夢中~

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 ――霧の向こうには楽園があるだとよ。
 ――そこは神様に守られた町で、ヴァンパイアなんて一人もいないのさ。
 ――住人たちは神様の庇護の下で豊かな暮らしを送ることができてるらしい。
 ――間違いないぜ。なぜって、霧の向こうから帰ってきたのは誰一人としていなかったんだ。
 ――だからきっと向こうでみんなよろしくやってるんだろうよ。

 男は霧の中を歩いていた。
 視界一面に広がった霧は濃密だ。目を落としても自分の足が見えるかどうか。まるで空の上、雲の中を歩いてくるような気さえしてくる。
 その疲れゆえにだろうか。男の目は虚ろで、その口元はだらしなく弛緩していた。
 霧が薄まり、物陰が見えてくる。すっかり霧が晴れたところまで来ると、目の前には町があった。
「やった、俺は楽園に辿り着いたんだ……!」
「はい。よく来ましたね、人の子よ」
 歓喜に打ち震える男の前に、いつの間にやら天使と見紛うばかりの女が立っていた。
「神様! おお、ありがたや……。どうぞこの俺をこの町に置いてくだせえ」
 男は拝み、頭を下げる。この女神様なら助けてくれる。ヴァンパイアどもの弾圧や圧制によって苦しめられ、絶望する毎日から解放してくれる。男はそう信じてやまなかった。だが――。
「……困りましたね。もうあなたはこの町にいます」
「え……?」
 男が疑問の声を上げながら顔を上げると、そこには黒い剣を手にした女神と――自分自身が立っていた。
「あなたは二人も必要ありませんね」
 なぜ、どうして。様々な困惑と疑問が頭の中を支配する内に、視界が傾ぐ。
 首を斬られたのだと理解したのは、その一瞬の後だった。



「ダークセイヴァー世界のある地域で、行方不明者が多発しているっつう報告があった」
 猟兵たちを前に、石動・劒が今回の事件について説明を始めた。
「曰く『女神の統治する霧の向こうの町へ行く』――大半がそんなことをのたまいながら、霧に覆われた町へと向かって行ったみたいだな」
 その辺り一帯を簡易的に描いた地図を卓上に広げて見せる。この辺りだな、と劒が指差した場所はそこだけぽっかりと何も描かれていない。かろうじて「森」とだけ注釈が付いていた。
「……とまあこんな感じで。町があると思われる周囲一帯は森で囲まれて、この森全体に濃霧が掛かっている」
 濃霧は非常に濃く、上空からの調査は難しい。ともすればどちらが空でどちらが地面なのかさえわからなくなってしまうだろう。
「ここまでが前提条件で、ここからが本題だ。――あんまりにも怪しいんで、その霧を入口の辺りで事前に調査したら面白いことがわかった」
 ――その霧は、幻覚や幻聴を見せる。
 それもただの幻惑ではない。どういう理屈なのか、霧は侵入者の過去や思い出を映し出し、その場に引き留め、あるいは道に迷わせようとするらしい。
「どちらにせよ、この霧は自然現象によるものじゃねえってことは確かだ。だもんだから、作戦は大きく分けて3段階」
 1段階目。森の中の探索。濃霧の原因の発見、村の発見を目的とする。これはあくまで推測だが、村自体に原因があるのではないかと思われる。
 2段階目。濃霧の原因の排除。濃霧の原因を排除し、猟兵たちに不利な要因を取り除く。
 3段階目。この事件の黒幕を討伐する。
「『極楽浄土は良いところだ。その証拠に一度行ったら誰も帰って来やしない』……なんて下手な冗談が現実の物になっちまってる。……この世にゃ極楽浄土だ桃源郷だなんて物は存在しねえ。現し世にあるのは現し世だけだ。クソみてえな娑婆だが、それでもまだこの浮世も捨てたもんじゃねえ。捨てさせなんかしねえ」
 猟兵たちを見渡し、劒は息を吸う。
「――捨てさせねえためにも、人の救いを求める心を利用するあの胡散臭え理想郷とやらを暴きに行くぞ!」


三味なずな
『2019新年オフ リアルタイム執筆用シナリオ』
 お世話になっております。三味なずなです。今回はまたぞろシリアス気味のシナリオです。
 今回は大意では「霧の中を探索するよ! 霧は幻覚を見せてくるよ!」という内容の第一章でございます。

 幻覚の内容は、
 ・「PCの求めてやまなかったもの」
 ・「PCのかつてなくした大切なもの」
 ・「PCの最も忌む、恐れるもの」
 などなど。概して「嫌でも興味を惹き付けるもの」が現れるようです。何が現れるか、そしてどうやってそれを打ち払い、霧の中を進んでいくかをお教え下さい。

『リアルタイム執筆について』
 この一章だけ東京オフ会場で書ける範囲でリアルタイム執筆を行います。
 現地に遊びに来ている皆さんも、そうでない方も。よろしければ奮ってご参加下さい。
 応募者多数の場合は努力はしますが、力尽きたら骨は拾って下さい(多分一章クリア分ぐらいで打ち止めです)。残ったプレイングは後日書ける物は頑張って書きます。
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第1章 冒険 『五里霧中』

POW   :    大胆に行動する

SPD   :    慎重に行動する

WIZ   :    冷静に行動する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ミコトメモリ・メイクメモリア
「ああ、兄様、久しぶりだね。きっと兄様は、笑いかけてくれると思ってた」

ボクが一番会いたいとすれば、それは最愛の兄様だ。
ボクを最後まで覚えててくれた、ボクの為に戦った、そしてボクの為に死んでしまった、マコトミモリ兄様。

この手をとって甘えられたら、どれだけ幸せだろう。
醒めない夢を見たくなる気持ちが、よくわかる。
でもね。
「兄様、ボクは……兄様達をずっと忘れないよ」

記憶の国の姫たるボクは、ありもしなかった記憶を見ることができない。
皆がもういない事も、消えてしまった事も。
ちゃんと覚えてるから。 

ユーベルコードで兄の幻影を視界の外に転移させて、堂々と前へ進むよ



 森があって、霧があった。
 緑すらも白く覆われているそこで、一人歩く少女がいた。
 長髪をたなびかせ、白いドレス姿で歩く姫君、ミコトメモリ・メイクメモリアだ。
「本当に何も見えないんだね……。まるで白い暗闇だ」
 やれやれと呆れたようにため息をついてしまうほどに、一寸先は白である。
 辛うじて見える足元の木の根などに注意を払いながら進んでいると、ふとしたタイミングで眼の前の霧が薄れていく。
「そんなに足元を見ていたら、危ないじゃないか」
 声が聞こえた。懐かしい声。ミコトメモリはそれを克明に覚えている。これは確か、まだ自分の幼い頃に自分の影で遊んでいた時に言われた言葉だ。
「……ああ、兄様。久しぶりだね」
 ミコトメモリが足元から視線を上げてると、上等な服に身を包んだ青年が立っていた。マコトメモリ・メイクメモリア。ミコトメモリの最愛の兄。
 彼女の予想通りの人が、彼女の予想した通りの表情でそこに立っていた。
「こんなところにいて、ミコトメモリは本当にお転婆だね」
 これはミコトメモリが木に登った時に言われた言葉。ミコトメモリが記憶している通りに微笑み、まったく同じ言葉を紡ぎ出す。
「これでもボクもだいぶお姫様らしくなったんだよ?」
「ははっ、そうだったね。もうミコトメモリは一人前のレディだった」
 これは社交界で子供扱いされてすねた時にかけられた言葉。
「やっぱり少しだけ、会話がズレるんだね」
「…………」
 答えはない。困ったようにミコトメモリは苦笑する。ミコトメモリと交わすマコトメモリの言葉はどれも彼女の記憶から引き出されたもので、幻の兄は決して記憶になかった言葉を紡ぐことはない。
「兄様、ボクは……兄様のことをずっと忘れないよ」
 ミコトメモリは記憶の国の姫君だ。
 それゆえに忘れない。覚えている。
 マコトメモリは最後まで自分のことを覚えてくれていて、自分のために戦い続け、そして――それがゆえに死んでしまったことを。
 みんながもういないことも、消えてしまったことも。
 すべて、覚えている。覚えてしまっているから、ありもしなかった幻を見ることはできなかった。
「醒めない夢を見たくなる気持ちが、今ならよくわかるよ」
 ミコトメモリは最愛の兄に歩み寄る。ああ、在りし日のようにこの手を取って彼に甘えることができたのならそれはどんなに幸福なことだろうか。けれどこれは幻で、手を差し出しても掴むことは叶わず。言葉を投げかけても返される言葉は欺瞞に過ぎない。
「愛していたよ、兄様」
 記憶を封じ込めた欠片を幻へ向ける。透明な欠片の向こう側に見える幻は、どこまでも記憶通りで、記憶通りでしかない。
「ボクの視線の先に――キミは必ず居てくれるよね?」
 トリガーを引くように、ユーベルコードを発動させる。《君を送る記憶の欠片》によって、幻の姿は掻き消えて――。
「――――――」
 消える間際に、兄の幻が口を動かしたように見えた。
 はっきりとなにを言われたのかまではわからなかったけれど、それでも兄の全てを記憶していたミコトメモリにはなんとなく察しがついた。
「……覚えているから、いつまでも」
 呟き、残して。
 彼女の視界に再び広がるのは、白い濃霧に包まれた森。
 一寸先も見えないような霧の中、彼女は一人、進んでいく――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジェニファー・ジェファーソン
幻覚を見るのはロックのインスピレーションに必要ではありますが……無理矢理見せるのは感心しませんわね。圧政ですわね!?ロックで反抗すべき圧政ですわねこの霧!?つまり打倒すべき!

とにかく霧を突き進んで探索いたしますわ。POWですわね。わたくしが見るとしたら……わたくしが夢の中で啓示を受けた神様でしょうか。ロックを広めなさいと仰った。
わたくし、あの神様に出会ったら言いたいことがありましたの。人生の道筋を与えてくれて感謝を。そして貴方のやったこともロックを強制する圧力なので感謝の鉛玉の贈答を。
霧の中でしょうがなんでしょうがわたくしがすることは一つ!ロックを持って突き進む!



「まるでロックですわね」
 ジェニファー・ジェファーソンは濃霧の中にあって、霧についてそう評した。
 一寸先も見えないほどの白霧は、曖昧模糊としていて、具体的な形を有さずに確たる色を持たず。しかしてその存在は目の前に歴然と在り続ける。
「この霧がわたくしたちに幻覚を見せるなんて……」
 にわかには信じがたい。そして許しがたいことだ。幻覚によってインスピレーションを得るというのはロック界では日常茶飯事ともいえること。そこは良い。だが、それはあくまで望んで幻覚を見ているに過ぎない。一方でこの霧は無理矢理に、強制的に幻覚を見せてくるのだ。それは紛れもなく彼女にとっては許しがたき圧制に違いない。そしてロックとはその圧制に反抗するものだ。
「この霧をどうにかするためにも、なんとか進まないと……」
「ジェニファー」
 進むうちに声が聞こえてきた。いつかどこかで聞いた声。そう、この声の主は――。
「この声、ロックの神様ですわね!?」
「然り」
 威厳のある声が答えを返してくる。声の主は、霧を集めて一つの白いもやの塊へと変じた。
 かつてジェニファーは神の声を聞いた。神はジェニファーに「ロックを広めなさい。そして世界をロックで満たしなさい」と啓示を与えた。
「その後、ロックは広まっているか?」
「ええ。ロックを奏で、ロックを体現する。そしてロックの魂は広がっていく」
「ならばよし、かくあれかし」
 白いもやの塊が、満足するようにその大きさを拡大する。
「……神様。わたくし、あなたに会ったら言いたいことがありましたの」
 白いもやを見据えて、ジェニファーは呟くように語りかける。彼女は自分の胸に手を置き、言葉を紡ぐ。
「わたくしはかつてはつまらない女でしたわ。そんなわたくしに、神様はロックという人生の道筋を与えて下さった。お陰様でわたくしはここまで変わることができました。なので、感謝を」
 既存観念に囚われて唯々諾々と従っていただけのつまらない人生を、神が与えてくれたロックが変えてくれた。全てを壊し、変革してくれた。
 胸においていた手をゆっくりと下ろす。
「ですが、あなたの啓示は定められたもの」
「……なんだと?」
 ジェニファーが下ろした手は腰へと下がり、銃火器を握る。
「あなたの下した啓示は圧力でありすなわち強制、圧制ですわ。ゆえにわたくしはこれに対してロックでもって応えます」
 銃口は神を名乗る霧の塊へ。トリガーに指をかけ、躊躇なく引き金を引く。
「――ゆえに感謝の鉛玉の贈答を。これがロックですわ」
 銃声。銃弾によって貫かれた白のもやにぽっかりと穴が空く。一瞬の後に、それは雲散霧消して、元の霧へと戻っていった。
「神は死にましたわ」
 啓示を下した神は幻の上であれ、銃弾の元に霧散した。
 ゆえにこれからジェニファーが歩く道筋は、彼女が選び彼女が進むと決めた道筋だ。
「霧の中でしょうがなんでしょうがわたくしがすることはただ一つ! ロックをもって突き進む!」
 サウンドウェポンを掻き鳴らしながら、彼女はロックの霧の中を進むのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルトリウス・セレスタイト
概ね霧の範囲の中央へ向かえばいいか
霧中での修正が必要になりそうだな

霧の中心の方へ向けて地面に線を記しつつ進行
出発直後には目印に×を記す
時折確認作業
界識で線を辿って目印まで戻らせ、大きく進路がずれていたらその点まで戻って修正
修正したらそのポイントに目印記入
間違っていなければ、確認を行ったポイントに目印
繰り返しで街まで

拘る過去はなく
自身が恐怖する対象は知らず
忘れ得ぬものはおらず
よって幻は恐らく、よくわからないなにか
わからないので一先ず放置
興味は惹かれても役にはたちそうになく
暇潰しは後でも問題ない

危害を加えてくるなら華嵐で排除
しつこければ焼尽で焼き払う



「……またズレているな」
 アルトリウス・セレスタイトは霧の中を振り返って呟く。
 地面に印を付けては進み、印へ向けてユーベルコード【界識】を使用して直線で結んで。そうしてどの程度直進して進めているのか確認しながら着実に、確実に森の霧の中を進んでいく。
 羅針盤は相変わらずくるくるとその針を空転させ続けていた。【界識】によれば今回は10度ほど右手にズレているらしい。
「進めば進むほど方向感覚がズレていっているのか」
 印を付けた地点まで戻りながら吐息する。少し確認する頻度を上げながら進まないと、容易に迷ってしまいそうだ。
 頭の中の地図上の距離と、実際にどの程度進んで来たかを照合しながら修正した進路へと歩いていく。

 ――ふと、何かの気配を感知した。

 足を止めて、アルトリウスはそれを観察する。
 それはおよそ形容しがたいものだった。不定形で曖昧模糊としていながら、しかしそこに確かに存在していた。
 思い返そうにも、それと同じ物を見たこともなければ聞いたこともない。
 それもそのはずだ。彼にはこだわるような過去もなく。また恐怖に値する存在を知らず。忘れ得ぬものもいない。
 この魔霧といえども、無い物を見せることはできない。
「ゆえに未知。そういうことか」
 未知は恐怖の対象とも、興味の対象ともなり得る。
「興味は惹かれないでもない。が――」
 歩けども歩けども付き纏う“未知”へとアルトリウスが手を振る。青い剣のような炎がいくつも霧の中に現れて、“未知”を裂く。濃霧の白の中に、青い炎が咲いた。
「役に立たない。去るが良い」
 まるでそれを暇潰し程度にしかならぬとばかりに、彼はユーベルコードでもって焼き尽くした。
 吐息を、一つ。そこに含まれた感情は呆れか、失望か。あるいはもっと別の何かか。
 興味もなく恐怖もなく、過去もなく忘れられないものもない。魔霧はアルトリウスから何も引き出せず、結局見せたのは曖昧模糊とした未知そのもののみ。
 その原因は彼に一部の隙もない完璧であるがゆえか。彼がまったくの空虚であるがゆえか。
 余人に推し測ることは難しく。この先無謬がほつれるか、空虚に何かが齎されるかも知る由もない。
 ただわかることは、今はただ一つ。
 アルトリウスは確実な歩みを止めず、ただ前へ進み続ける。それだけだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

秋稲・霖
【POW】

霧だらけとか、何も見えねえんだろうなあ…そん中で村探すとか超むずそう!

いかにも何か出そうって感じっしょ…って、ん、何かいる…?
…うわあああ!こういうの無理なんだってマジで!

オブリビオンでもねえだろうし…幻覚…って、そんな事気にしてられっかよ!
とりあえず走って逃げる!がむしゃらにでも逃げてたら、村に辿り着けるかもしんないし


・恐れるもの
陰陽師としての術を使っても排除できないような、得体の知れないもの。幽霊みたいな感じのイメージです
自分でどうにか出来ない事はひたすらに恐れる

※アドリブ歓迎です



「マジで!! 無理だから!! 無理だって!!」
 秋稲・霖は濃霧の中、叫びながら走っていた。木の根に足を取られそうになりながらも跳ねては駆けて、森の中をひた走る。
 恐る恐る走りながら彼は振り向く。そこにいたのは、スパゲティのような細い触手が絡み合った集合体にいくつもの目玉が付いた怪物だった。そう、敢えて名前にするならばフライングスパゲティーモンスターといったところだろうか。
「ひぃっ!?」
 霖の表情が恐怖に歪み、悲鳴が口の端から漏れ出る。懐から紙人形の式神を怪物めがけて放つと、青紫色の炎が噴き上がり怪物を燃やす。火によって浄化されるかのようにさらさらと怪物はその身を崩壊させ――。
「やったか!?」
『□□□――』
 一度は雲散霧消したように見えた怪物だが、すぐさま霧が集まってその姿を取り戻した。
「即再生はちょっとルール違反じゃねえかなぁ!?」
『□□□?? □□□……』
「『えっそうなの? ちょっと悪いことしたかな』みたいなツラされても困るんだけど!!」
『□□□……□□□!』
「開き直るんよ!! 『もうやっちゃったし……仕方ないよね!』みたいに明るく開き直んなよ!!!」
 謎の人間味を見せる怪物から逃げながらもなお突っ込みを忘れないのは、彼の性質がゆえにか。
「これ多分アレだよなぁ。『熱いと思うから熱い』理論だよなぁ……!!」
 要するに、恐れ続けているから恐怖の対象が復活し続ける。この手の幻影や魑魅魍魎の類にはよくある対象者依存の性質だ。そして大概、こういったものはその恐怖心に打ち克つことによって幻影もまた姿を消すものなのだが――。
「無理駄目不可能ありえねえ!! 怖いから怖いんだっての怖がるなってのが無理な話だって!!」
 ……人間、恐怖を克服するのはそう容易なことではなく。霖は対峙することなくダッシュで逃げ続ける。
 結局、彼が偶然にも霧の晴れた場所に辿り着くまでこの逃走劇は続いたのだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

トルメンタ・アンゲルス
円でフィールドを張ってる場合は、大体その中心部が怪しいですよねぇ。

さぁ、走りますよ相棒!
『MaximumEngine――HotHatch』(ベルトの機械音声)

アクセルユニゾンを発動し、宇宙バイクを防御力重視の装甲として変身合体。
そこからクラウチングスタートの体勢を取り、
『OverDrive――ShootingStar』
背中のブースターにパワーチャージ。
最大までチャージし、自身を流星の如く打ち出し、突っ切ろうと試みます。

見る幻覚は、かつて自分の四肢を奪った、帝国のAI搭載無人戦闘機。
かつて追いつけなかったが、所詮は本物を知らないものが見せる幻。
本物以下の速さの幻影を置き去りにして、突っ切ります。



 白の中に薄っすらと緑が見える霧の森を見据えながら、トルメンタ・アンゲルスは愛機Nochaiserに跨る。
「さあ、走りますよ相棒!」
『MaximumEngine――HotHatch』
 トルメンタが呼びかけ、それに応えるようにマシンベルトが機械音声を発する。
『OverDrive――』
 Nochaiserがその機体を防御型のものへと変形させ、トルメンタの体さえも取り込んで合体する。
 地に手を付き、尻を上げるクラウチングスタートの姿勢。
『――ShootingStar!』
 最大までチャージされたブースターが轟音を上げて、トルメンタは流星と化した。
 白の中を突き進み、木に当たろうともその速度でもって強引に押し通る。機体が軋むが裏を返せば軋むだけ。防御型に変形した愛機にとって、直線上に存在する木は障害物にすらならない。
 超スピードの中で時間間隔が間延びする。全てがスロウに流れ行く。
「――来ましたね」
 何もかもがスロウになる中、ふと後ろから追い上げてくるものを感じた。
 ――帝国のAI搭載無人戦闘機。
 かつてトルメンタが交戦し、生身の四肢を奪い去った存在だ。
 追いつき、並走する無人戦闘機のカメラがぎょろりとこちらを一瞥する。まるでそれは「お前はやはり遅いままか」と嘲笑するようで。戦闘機は更に加速してトルメンタを追い抜いて行く。
「かつてのままだと思われるのは心外です」
 幻覚の類であれ、それはトルメンタにとっては許しがたいことだ。彼女はブースターの出力を更に上げて更に加速する。無人戦闘機の真後ろに敢えて位置取ることで障害物や空気抵抗による減速を先行者となる無人戦闘機に肩代わりさせることで減らし、相対的な加速も得る。
 距離を詰め、後は追い越すのみ。そのタイミングを見計らうトルメンタだが、しかし当然戦闘機の方もそれを許すはずもなく。トルメンタが身体を振ってもそちらへ合わせて進路を妨害してくる。前へは行かせはしない。幻影がそう言っているかのようだった。
 これは幻影で、実害のある攻撃をしてこない。きっと性能だって本物よりも劣っているかもしれない。本物を知らぬ者が再現した偽物に過ぎない。
「それは――許せませんね」
 トルメンタの胸の奥が熱を帯びる。
 あの無人戦闘機はかつて自分が追いつけず、自分を撃墜した好敵手だったのだ。それを外面だけ整えて自分と競わせるのは、自分の過去を嘲弄し侮辱していることに他ならない。
 進路を大きく逸らす。当然のように幻影もまたそれに応じて進路を妨害してくるが――。
「掛かりましたね」
 笑うでもなく、トルメンタが呟く。
 轟音。幻影はトルメンタが進路を変えて誘導した先にあった巨木へと激突し、墜落した。
「所詮は本物を知らないものが見せる幻ですね」
 ブースターの出力を最大まで上げて、幻影よりも速い速度で突っ切る。

 ――その様はまるで、流星のようでもあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロク・ザイオン
(森番は森をよく知るが。これは奇妙な、霧だ)
(【野生の勘】【地形利用】で、目に頼らずに方向を定め。警戒しながら進む)

(霧の中には何人もの、女の影)
(揺れて、増えて、減り。五人に定まる。その背後には大きな、大きな、獣の影)
ととさま。
……あねご。

(手を伸ばす。女たちのその喉に手を。影は甘く囁いてくれるかも知れない)

(咎力封じで枷を、縄を叩き込む。あねごのかたちの霧は散るだろうか。
散る間際に、声を聞かせてくれるだろうか)

あねごの声じゃない。

(気分が悪い)
(とても、いけないことをしてしまった。重い気持ちで霧を抜ける)



 ――森番はその職能ゆえに森をよく知る。
 しかし、ここの森はロク・ザイオンが一度として見たことの無い、奇妙な霧がかっていた。
「…………」
 スンと鼻を鳴らし、慣れた身のこなしで木に登ると枝から枝へと飛び移っていく。視界が悪く、なおかつ森の中であっても正確に一つの方角へと進んでいけるのは野生児の勘ゆえにか。
 ――急に霧が薄くなった。
 飛び移った枝に留まり、警戒する。森の中にも秩序と日常がある。霧が薄まったのは、日常が乱された時に見せる森の表情だと、ロクは直感した。
「ととさま…………」
 声が漏れる。何人もの女の影が見えた。
 女たちは揺らいで、増えて、それから減って。――しばらくすると、五人になった。
 気付けばロクは、樹上から降りて。影たちの後ろに立っていた。
「……あねご」
 いつもよりもざらついた声で呼び掛ける。「あねご」と呼ばれた影の一つが振り向いた。
 手を伸ばす。「あねご」は甘く囁いてくれるだろうか。またあの美しい歌声を聞かせてくれるだろうか。
 手枷を掛けて、ロープで縛る。けれどいつものように猿轡まではしない。歌声を聞かせて欲しいと、その口元へ耳を寄せる。
『――――――』
 影は悶え苦しむ。その四肢の先は少しずつほころび始めて崩壊が始まっていた。
「…………ぁぁ」
 嫌だ。散ってしまうだなんて。まだあの歌声が聞けていない。あの美しい歌声を。
 喉に手をかける。歌声を聞かせて欲しいと。あの苦痛と苦悶に塗れながらも何よりも美しかった歌声を。
 細い喉へ爪が食い込み――ぱきゅ、と。骨が折れる音がした。
『――――――!』
 断末魔の叫びを上げる影。ロクはそれを、冷たく見下ろしていた。
「あねごの声じゃない」
 影から聞こえてきたのは、求めていた歌声ではなく。ただの獣が苦しむかのような音。あるいは、砂嵐の泣き声。
 すっかり事切れてしまった影の喉から手を離すと、ざぁ、と影は雲散霧消した。
「あねご……」
 ロクは自分の首から下げていた小さな箱を手に、鼻元へと近付ける。あねごの匂いがした。少しだけ落ち着いたけれど。それでもやはり、気分は悪いままだった。
 とてもいけないことをしてしまったような。
 重い罪悪感を抱きながら、彼は霧の向こうへと重い足取りで進んでいく――。

成功 🔵​🔵​🔴​

パーム・アンテルシオ
誰かに夢を見せるのなら、とびきり素敵な夢を見せてあげなきゃいけないのに。
夢を夢だと理解らせて、現実から離れすぎないように。でも、一時の幸せには浸れるように。
…この霧の元凶には、少し痛い目に遭ってもらわないと:

●WIZ
それにしても、幻覚…ね。
私が何かを見るとしたら、それは…
…お父さん。
お母さん。
お爺ちゃん、お婆ちゃん。
兄さん、姉さん、弟たち、妹たち。
そうだよね。幸せな記憶も、思い出したくない出来事も、全部みんなが一緒だった。
これは私の記憶が作り出した幻。踏み越えないといけない現実。
私は、あなた達を焼き払って進むよ。今を先へと進めてみせる。
だから…そんなに憎しみを込めた目で、私を見ないでほしいな。



 ――誰かに夢を見せるのならば、とびきり素敵な夢を見せるべきだ。
 パーム・アンテルシオはそう考えている。
 夢は夢のままで。夢だと理解させたまま、けれど現実から離れすぎずに。それでいて、一時の幸福感に浸れるものがとびきり素敵だ。
 だからパームは霧の元凶に痛い目を見て欲しいと思った。他人の感情や思い出を悪意でもって弄ぶのが、許せなかった。

 濃霧の森を進んでいく。
 霧立った森の中は少しだけ肌寒いぐらいで、なんとなくパームは故郷を思い出した。
「……あ」
 ふと、霧が薄くなって。霧の向こうに影が見えた。誰かだなんて、声に出して聞くまでもない。
 パームの父親、そして母親。祖父、祖母、兄、姉、何人もの弟たちと、妹たち。
 久し振りだなんて声はかけられなかった。なぜなら――。
「……そんなに恨みがましい目で、私を見ないでほしいな」
 みんな、みんな。影たちはパームを憎悪するように睨みつけていた。
 幸せな記憶も。思い出したくない出来事も。全て家族が一緒だった。だから家族が幻として出てくるのは当然のことで。こうして憎しみを向けられるのも当たり前のことだ。
 ざわり、ざわり。パームの尻尾たちに纏わせた気がざわめく。 
「わかってるよ」
 尻尾たちへと答えるように口に出す。
 これはパームの記憶が創り出した幻で。それと同時に、踏み越えなければならない現実だ。
 だから彼女は手を振った。桃色の炎が狐の形を成して飛びかかる。影たちはことごとく、その狐火に焼き払われて消えてしまった。
 パームは吐息し、歩を進める。停滞はしていられなかった。
「“今”を先へと、進めてみせるよ」
 そう宣言するように言葉にしたのは、影へか、尻尾へか。
 まったく嫌な気分だった。夢見としては最悪だ。
 夢だとわかりながらも。現実から離れ過ぎずとも。――まったくもって幸せになんて浸れやしない。
 パームの尻尾たちはざわざわと揺れていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
都合のいい楽園なんざ存在しねぇ。どこまで行っても現実は追いかけてきやがる。逃げたところでどうしようもねえ。

ここは地力が試される場面か。冷静に行動しよう。痕跡を辿る【追跡】を使いながら【情報収集】だ。何かが霧を発生させてるなら、奇妙な大気の流れがきっとあるはずだ。

・幻覚
クソのように汚れた灰色の空。ゴミのように死んで、誰にも、社会にも顧みられないストリートチルドレン達。嬲られ、いいように使われて、無意味に生きて無意味に死ぬ。
あの街の全てが嫌いだった。

・対処
なあクソ野郎。俺は逃げねえよ。どんな幻覚だろうと、正面からぶち抜いてやる。弱者を玩具にする強者どもは、残らずぶっ殺す。ずっと、そうしてきたんだ。



 都合の良い楽園なんて存在するわけがない。
 ヴィクティム・ウィンターミュートは冷笑する。四半世紀も生きていない彼だったが、今まで一度として見かけたことはなかった。この世の中に地獄のような場所は数多くあれど、楽園というものは存在しない。電脳空間上のサービスとして楽園を創り上げていた者たちもいたが、彼らだって肉体や環境や金銭的な理由でずっとそこにはいられずにクソッタレな現実へとたびたび引き戻される。電脳生活空間サービスの起業家が電脳空間に住まおうとして、現実に帰って来ないあまりに衰弱死したなどという馬鹿みたいな話が場末のバーで語り草になるぐらいだ。
 現実はどこまでもどこまでも追って来る。逃げたところでどうすることもできない。
 だからきっと、今回の“楽園”なんて呼ばれる場所もロクなものじゃない。
 ヴィクティムはサイバーアイ『バロール』を通じて、大気中に流したトレーサ(目印)となる微粒子を観察する。大気の流れはこちらに向かっていて、きっとこの霧を発生させている原因はこちら側で問題なさそうだった。
「まさかインジャン・カントリーのガーゴイルをやるハメになるなんてな」
 元よりレッグワーク(情報収集)は彼の本分だが、こうして電子機器がまるで役に立たないような敵地での斥候ともなると専門から少し外れる。この濃霧の中では偵察ドローンでさえも役には立たず、そうなってしまえばこうして足で稼ぐ他にない。
 まるで昔に戻ったかのようだと少し自嘲混じりに懐かしんだりもしようものだ。

 ――ふと、周囲の風景がぐにゃりと歪んだ。

 調査のために阿片窟の近くを通りがかった時の症状と似ている。軽い目眩を感じたかと思うと、周囲の景色は一変していた。
 真っ白な濃霧は打ちっぱなしの灰色コンクリートになっていて、あれだけ生い茂っていた木々は荒廃した廃墟に変貌し、空はどんよりとした灰色の雲に覆われていた。
 ここがどこなのかなどと聞くまでもない。ここはかつてヴィクティムがいた場所。ストリートだ。
「ドレック(クソ)……ッ」
 なぜこんな場所に戻って来なければならないんだと舌打ちする。
 路上に転がるボロ布や、グズグズになった箱、ゴミ捨て場の中に転がるのはストリートチルドレンたちだ。彼らは社会に顧みられることもなく、嬲られ、体よく利用されてその日を生きて、けれどある日耐え切れずに事切れる。
 無意味な生、無意味な死。それらが蔓延する場所がストリートだった。ヴィクティムはその街の全てが嫌いだった。
「なあ、ワックド・ウィルソン(イカれ野郎)」
 どこにいるとも知れぬこの霧の森の元凶へ、そして黒幕へと声を上げる。
「俺は逃げねえよ。どんな幻覚だって正面からブチ抜いてやる」
 立ち上がる気力も、生きる気力も、そして死ぬ気力さえも尽き果て、ただ灰色の中に沈み死を待ち続けるストリートチルドレンたちに生体ナイフを決別するように突き立てる。それらは白いもやとなって消えていった。
「弱ぇヤツらを玩具にする強者どもは、残らずぶっ殺す。ずっと、そうしてきたんだ」
 だから待っていろ。
 風景が元の濃霧と森のものへと戻っていく。生体ナイフの刃先は少しだけ、霧で濡れていた。
 ああ、たまにはウェットワークも悪くない。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジン・エラー
グバハハハハハ!!!!極楽浄土!!!!!
なるほどなァ確かにそりゃいいモンだ!!!!

馬鹿がよ

オレはオレが暇をする世界が欲しい
あァ欲してやまないとも

けどな
そりゃァ不可能だ
あり得ねェ
そンなン一番オレがわかってンだよ
残念だったなクソ霧
オレはそンなンじゃ霞まねェぞ

救いの【光】を
その村に



「あヒッ、グヘァハハハハハッ!!」
 濃霧の中で、ジン・エラーは狂ったように腹を抱えて笑ってしまう。
 眼の前。森の中には人々がいた。影のようにその外見のディテールは霧に覆われてしまって見えなかったが、確かにそれは存在した。
「なるほど、なるほど、なァァァるほどォォォ……。確かに! 確かにそりゃァ良いモンだ!!」
 彼の見せられた幻覚は、聖者が必要のない場所。誰も彼もが満たされていて、誰も彼もが幸せそうだった。みんな救う前から救われていた。
 極楽浄土! 天国! 楽園! 理想郷!
 求めていたもの。欲していたもの。ジンは自身が暇にしていられるような救われた世界が欲しかった。
「あァ、欲してやまねェよ」
 ジンは歩き続ける。棺桶のような巨大な箱をずるりずるりと運んで足を動かし続ける。まるでそこに、幸せそうな人々など最初からいないと言うように、彼らを無視して直進する。
「けどな、そりゃァ不可能だ。あり得ねェ」
 その言葉は、濃霧の主に掛けられたものか。自分に言い聞かせるものか。あるいは自分に内在するものへ向けたか、それともこの場にいない誰かへ宛てたか。
 笑みの形に歪むマスク越しにこぼれた言葉が、濃霧の中に溶けていく。
「そンなン一番オレがわかってンだよ」
 その言葉から滲む感情は不愉快、寂寥、自嘲。余人には彼の表情を窺い知ることはかなわない。彼の口元は、あの不気味なマスクに覆われている。
「――残念だったなクソ霧。オレはそンなンじゃ霞まねェぞ」
 幻の群衆を通り抜け。
 彼の身体が輝きを放つ。濃霧の中であってもその聖者の光は眩く輝き。残らず幻影たちを霧へと戻した。
 ジンは歩き続けた。棺桶のような巨大な箱をずるりずるりと運んで足を動かし続けた――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロベリア・エカルラート
【pow】
ただひたすら真っ直ぐに、霧を突っ切るよ

多分、幻は家族で過ごした頃の風景とかになるのかな
「まったく……姉さんもこんな形で現れるくらいなら、オブリビオンでも良いから出てきて欲しいくらいだってのに……」

双子の姉さんと遊んだ子供のころ
ダンピールだからって突っかかってきた近所の子ども

正直、こうして見せられると色々思う所はあるけど……

「ま、今はさっさと先に進まないとね」

霧があるからって誰が近くに居ないとも限らないし
こんな事で表情崩してるようじゃ、役者は務まらないからね
あくまで平常心のまま霧を抜けるよ

私が変な顔してちゃ、助けられる側も不安になるからね!



 まるで観劇しているかのようだった。
 濃霧の中に影が浮かび上がる。
 あれはかつて、まだ農村で家族たちと過ごしていた時の風景。その幻。
 あれは双子の姉さんと遊んだ子供の頃の記憶に違いなかった。
「まったく……姉さんもこんな形で現れるぐらいなら、オブリビオンでも良いから出てきて欲しいくらいだってのに……」
 幼少期の姉の幻影を見て、ロベリア・エカルラートは苦笑する。
 どこからともなく、小さな影が何人分か現れる。彼らは二人を指しながら、大声でこう言うのだ。
『ダンピール!』『ダンピール!』『呪われた血!』『オブリビオンの子!』
「………………」
 吐息する。正直、こうして客観視させられてしまうと、ただ傷付き憤るばかりだった子供の頃と比べて色々と思うところはあるのだが。
 いずれにしても三文芝居を見せられている気分か、さもなくば猿芝居でも見ている気分だ。
 ああ、キライだ。村の奴らがキライだ。ダンピールだとやかましい連中がキライだ。
「……ま、今はさっさと先に進まないとね」
 これがあるいは、自分の探しているお父様が映っていたならばともかく、昔のことで足を止めているような暇はない。
 表情は努めて平常を装って、血色の髪を流しながら彼女は霧の中を行く。
 こんなことで表情を崩していては役者は務まらない。
 こんなことで変な顔をしていたら、助けられた人たちもきっと不安になってしまう。
 過去の自分と姉を置いて、彼女は進む。霧の中を――。

成功 🔵​🔵​🔴​

メア・ソゥムヌュクスス
ふらりふらりと、ゆめうつつに、森の中を彷徨うよー。
近くの木にバッテンつけて、マーキングしながら歩いていれば、いつかたどり着くよね。
霧の中も夢の中も、おんなじ様なものだからー。

私はどんな悪夢を見るのだろう。
……。

あれ、貴女はだぁれ?

……ああ、「オブリビオンになっちゃった私」なんだね。

いつか来る終わり。
淘汰され排斥されて、棄てられちゃう私。

「でもね、今じゃないの。ごめんね、私は「人の為の聖者」だから、貴女は救えないの、だから、もうおやすみなさい。」

うん、平気。慣れてるもん、私はまだ大丈夫だから。

何度来ても、私の【覚悟】は揺らがないから。



 蝶にでもなったような気分だった。
 夢と現、さてどちらにいる自分が本当の自分なのかと問いかけた思想家がいるらしい。まるで空の上か、さもなくば海の中を夢見た時のように、そこが夢なのか現なのか、メア・ソゥムヌュクススには判断しづらかった。
 彼女はふらりふらりと森の中を彷徨い歩く。時折目を覚ましたように顔を上げては、鋭いナイフでもって通った道の近くの木に大きな目印を付けて行く。
「霧中も夢中も、似たようなものなんだねえー」
 夢の中を探索する時と同じだ。向こうは不条理に景色が歪んだりするから、むしろこちらの方が探索しやすいぐらいだろうか。
「さてさてー、そろそろだと思うのだけどー……」
 数多くの夢を見て来たメアは、そろそろ悪夢を見る頃合いだと直感して、ぐるりと周囲を見渡した。予想通りと言えば良いのか、霧の向こうから一人の少女のような影がやって来る。
「あなたはだぁれ?」
『私は――――』
 誰何の声と同じ声で答えが返る。
 ああ、とメアは理解した。彼女は自分の恐れるもの。いつか来る終わり。淘汰され排斥され、棄てられてしまった末にオブリビオンへと変貌した自分自身に違いない。
「ごめんね」
 眠たげな顔で、少しだけ困ったように眉尻を下げて謝る。
「そうなるのは、今じゃないの。私は『人のための聖者』だから」
 そうなるようにと造られた存在だから。
「あなたを救うことはできないの。だから、もうおやすみなさい」
 メアが夢見の鐘を打ち鳴らすと、かつて見た悪夢に出て来た霊が召喚される。霊は嘲笑うような声と共に、幻影へと悪夢をぶつけた。
 うなされるような苦悶の表情と声を上げながら、幻影は消えていく。
 ああ、あんな風に。自分も、あんな風に苦しみながらいつかは消えるのだろうか。
「……うん、でも、平気。慣れてるもん」
 慣れているから、私はまだ大丈夫だと。そう自分に言い聞かせるように呟く。
 あくびを一つ。胸の中に灯った不安感は、まどろみの中に沈んでいく。
 彼女は歩む。この夢の中のような霧の中をゆっくりと進んで――。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『ファンガス』

POW   :    胞子散布
予め【胞子を周囲に撒き散らす】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    闘虫禍争
自身の身長の2倍の【虫型の魔獣(形状は毎回変わります)】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    毒の胞子
【口や茸の傘】から【胞子】を放ち、【毒】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「まずは森の探索ご苦労だった。霧の中で大変だったと思うが、お陰で霧の発生原因が判明した」
 グリモアによるテレポートで呼び出した猟兵たちへ向けて、石動・劒が説明を始める。
「霧の原因はオブリビオン『ファンガス』の発生させる胞子とガスだった。長い時間をかけてあるとはいえ、この広い森林を全てカバーするほどの胞子となると、尋常ではない数のファンガスがこの森林と濃霧の中に群生しているだろう」
 今回は探索の必要が無い。大気の流れで胞子の漂ってくる場所を突き止め、群生するファンガスを仕留めるだけだ。時間が経てば、周辺一帯の濃霧も薄れて消えるだろう。
「問題はファンガスの胞子だな。探索の時点で知っての通り、これは人の精神に強く作用する。戦闘距離ともなるとその効果は絶大で、つまり……」
 少しばかり言いにくそうに、劒は眉間に手を当てた。

「……そいつの性格を一時的に捻じ曲げる」

 短気な性格の人をのんびり屋に変えたり、真面目な人を怠惰にしたり、へそ曲がりな人が素直になったり……。
 反転に限らず、様々な性格へと変化するという調査結果が出ている。
「また複数人で向かった場合は、そいつに対して抱いている感情だとかが変化するようだ。コンビで行く場合とかは特に注意してくれよ」
 何が起きても俺は責任を取れねえからな、と劒は目を逸らす。複数人で行った方が戦力として安全な上に、効率的ではあるのは確かだ。
 ……確かなのだが、ただの友だちが突然スリラーな共犯者みたいになったり、幼馴染のような距離感になったり、はたまた恋人のようになったり。そんな珍事に出くわす可能性がある。
「おっと、すまねえ。敵地と敵の情報についてだったな」
 時間は昼。場所は森の中。木々が生い茂り、足場が悪い。相変わらず霧に覆われているが、敵の姿が見える程度にはその色素は薄く、木々のことを考えなければ視界性としては悪くない。ただ、胞子やガスの濃度は濃いままなので油断は禁物だ。
 敵ファンガスの全長はおよそ人間の半分程度。口やキノコの傘の部分から胞子とガスを撒き散らす。
 胞子はすでに相当な量が戦場に漂っているので、ファンガスたちが強化されていることには注意したい。
 また、虫型の魔獣に騎乗する場合もあるため、機動力への対策が必要だろう。一度虫魔獣から落としさえすれば難しい相手ではない。
 最後に、ファンガスの放つ毒の胞子には十分注意するべきだ。強い毒性があり、直に当たってしまった時には高熱でうなされることになる。戦闘が長引けば長引くほど苦しいものとなるだろう。
「以上だ。このファンガスたちを倒して、敵にとって有利なフィールドを崩そう。任せたぜ、猟兵!」


◆◇◆◇◆お知らせ◇◆◇◆◇
【要約】
・ファンガスと戦闘する人は性格が変化します。どんな性格になるか教えて下さい。
・複数人でファンガスを相手する場合、関係性も変化させられます。どんな関係性になるか教えて下さい。

・迷子防止のため「お相手のキャラID」か「お相手のお名前」または「団体名」をご記載下さい
・基本はソロ参加の人はソロで描写するつもりです。サポート中心のプレイングが来た場合は、戦闘担当の子とは直接は会わずに(または結構距離があったり、とにかく関係性に言及しない形で)サポートをするような結果になります。
・たくさんのプレイングを採用して書けるように頑張ります。
ジョン・ブラウン
※洋画で主人公の背中にバスケットボールぶつけてくるいじめっ子みたいな性格になる

ああ!何だってんだこの陰気な森はよぉ!
クソが、服はダセェし腕には訳わかんねぇガラクタが巻き付いて
<警告、胞子の濃度が高くなっています><引き続き風上への移動を推奨します>
さっきからウルセェんだよ耳元でよぉ!ああ外れやしねぇ!
<進行方向を変更して下さい><胞子濃度、危険域です>
ああウッゼェ、知るかよアレぶっ殺しゃいいんだろ

<警告、装備の活用を推奨>
<現在の戦闘効率7%>
<非効率です>
ああ……んだってんだクソが……
<チュートリアルの参照を推奨します>
黙れ!このガラク、タ……

ユーベルコード発動
<装備を最大効率で運用します>



「Damn(クソっ)! 何だってんだこの陰気な森は!」
 白い霧に覆われた森の中を苛立たしげに進むのはジョン・ブラウンだ。
 普段は温厚な彼だが、霧の影響だろう。眠たげな目はどこかに攻撃できるような獲物がいやしないかと探すように鋭くなっている。
『呼んだむー?』
「呼んでねえよ何だよテメェは!」
 饅頭にも似ただむぐるみがジョンのリュックサックからのそりと顔を見せるが、ジョンはそのジッパーを閉じてしまう。
「クソが! 服はダセェし腕にはなんかよくわかんねえガラクタ巻き付いてるしぬいぐるみは話しかけるし、マジでわけわかんねえ!」
《警告》《大気中の胞子濃度が上昇》《風上への早急な移動を推奨》
「あーあーあーあー、さっきからウルセェんだよ耳元でよぉ! クソっ、どうやってこのガラクタ付いてんだ外れやしねえ!」
 腕に装着したハンドヘルドコンピューターをガチャガチャとイジるが、性格が変化して外し方がわからなくなったようだ。短気になった彼はすぐに諦めてしまう。
《警告》《風下へ向かっています》《進行方向の変更を推奨》
「ああウッゼェ、知るかよあのキノコぶっ潰せばいいんだろ!?」
《胞子濃度、危険域に達しました》
 ヘッドホンから聞こえて来る高度人工知能の音声を無視して、胞子を撒き散らすファンガスたちの元へと歩いて行く。リュックを乱暴に放り投げ、腕をまくる。
「そらよッ!」
 軽い助走からのファンガスへの蹴り。ファンガスはその体躯を折ってまるでサッカーボールのように空を舞うと、木の幹に叩きつけられて地べたにずり落ちた。
「ハッハーゴール! 1点ゲット!」
 打って変わって機嫌良さそうに指を鳴らし、蹴り上げたファンガスを見る。その表情は嗜虐的な笑みに染まっていた。暴力の快感、ストレスからの解放。普段のジョンがこの利己的な暴力を見たならば「コミックのヴィランだってここまでペラくないよ。ドラマのジョック気取りか何か?」と揶揄しただろうか。
 だが――。
「うおっ、なんだこいつら……!?」
 仲間がやられたのを見て怒ったのだろう。他のファンガスたちが胞子を吹き上げながら大挙して押し寄せてくる。さっき蹴り上げたファンガスも起き上がって、群れに加わる。
「チッ、雑魚が何匹押し寄せたところで変わんねえよッ!」
 蹴り上げ、掴み上げ、投げ付ける。ファンガスは単体の時は攻撃手段が少なく、そう厄介な敵でも無い。
 だがそれが群れともなれば話はまったく別だ。
 蹴り上げる内に横から体当たりをされ、掴み上げれば胞子を撒き散らし、投げ付けても群れがその身を挺してクッションになって受け止める。なかなかどうして単なる菌糸類と侮れない連携であった。
「畜生、キノコ野郎が生意気なんだよォ!」
 数の不利に晒されたジョンはすでに青アザだらけだった。散布されていた毒を吸ってしまったのか頭は発熱して頭痛がする上にうまく思考がまとまらずふらふらする。
《現在の戦闘効率 7%まで低下》《警告 装備の活用を推奨。非効率です》
「黙ってろガラクタッ!」
 じり、とファンガスの群れと対峙しながら怒声を上げる。武器などこの場に無い。あるのは小うるさいヘッドフォンと腕に巻き付いたガラクタと、それからリュックの中にあるいかにもギークが好みそうなよくわからない物、そして妙な人形だ。
《バイタル危険域》《戦闘続行が難しいです》《撤退を推奨》
「あァ!? ここに来て逃げろって!?」
 一度雑魚だと舐めた相手から背を向ける。そんな屈辱的な敗北があって良いのだろうか。横暴で利己的な性格になったジョンは奥歯を噛み締める。答えはNOだ。ダサ過ぎる。背を向けたならばみんなから笑われるだろうし、自分を自分で許せなくなる。
 そう、今までは偶然にもファンガスたちが少しばかり優位だっただけで、ここからは自分が逆転するターンだ。――そんな妄想がジョンの高熱でぼんやりとした頭の中を支配する。
 だが、妄想は所詮妄想だ。ファンガスの一匹を掴み上げようと手を伸ばしたところで、急に視界が霞んでぐらりと身体が傾ぐ。毒が本格的に回ってきたのだろう。当然その隙を逃すファンガスではなく。雑魚と侮ったファンガスの体当たりによって、ジョンは仰向けに倒れた。
《――装着者の意識の途絶を確認》《セーフティーモードで起動します》
《ユーベルコード、発動》
 最後のウィスパーの声は、果たして聞く者がいたかどうか。気付けばファンガスたちの前にもう一人、ジョンが現れていた。
「――こういう“闇堕ち”したキャラから分裂したら、普通は対決するのが常識なんだろうけど」
 彼は腕に装着していたワイヤーシューターからワイヤーを射出。ローラーシューズをも活用したその三次元的な起動によって群れを翻弄しながら各個撃破。更にはだむぐるみを増殖させて数の不利を覆す。
「たまには助けてやるような展開だって悪くはないよね」
 セーフティーモードによって現れたジョンは口元を歪める。
 ――倒れたジョンが目を覚ます頃には、ファンガスたちは全て倒れていて、セーフティーモードで召喚されたもう一人のジョンも消えていた。
 酷い高熱にうなされた時に見た悪夢のような、性格の変わった自分を少しだけ思い返して、ジョンは苦笑する。
「……キャラ、違いすぎ」

成功 🔵​🔵​🔴​

スクリプトゥルー・オーヴァン
はぁ……?性格が変わるデスか。奇妙なこともあるものデスね。

まぁ、とりあえず、速攻で消せばいいデスね。
ユーベルコードを使い形態変化
霧というより胞子らしいデスから火が使えれば一番楽なんデスけど……。
森が消失する可能性があるので無しデスね。
となると、空気清浄機的なシステムを作り出すのが一番デスかね……。

他の人のサポートは状況を見て行うデスよ。

【性格変化】
表面上は変わらず
”根はまじめなひねくれもの”が”根がひねくれてるまじめな人”になる可能性
空気清浄機的な機能になった場合胞子を大量に吸い込むため何が起こってもおかしくないと思われます。

※なんでも大歓迎



 霧の中では性格が変わる、と聞いた時。スクリプトゥルー・オーヴァンはなんとも奇妙な話があるものだと怪訝な顔をした。
 とはいえ霧の効果を受ける前に即座に倒してしまえば妙なことにもならないだろう。そう考えて、スクリプトゥルーは霧の中に足を踏み入れた。
「霧……というより胞子デスね、これは」
 上空から航空爆撃でもしてやれば、ともスクリプトゥルーは思ったが。霧に覆われていればピンポイント爆撃だって難しい。森の中にある街を破壊して一般人も巻き込んでしまったら大事だし、森の焼失の恐れだってある。後から何か言われるのだけは御免だった。
 となればやるべきことは接近戦で、空気の浄化だ。彼女はユーベルコード【自己進化】によってその身体に吸気口と排気口を創り出し、身体内部に空気清浄機としての機能を追加させる。
「それじゃ焼失しない程度に頑張るデスよ」
 スクリプトゥルーは電脳ゴーグルを操作して、小型の機械兵器たちを召喚する。吹き出された胞子が機械の隙間に入ってハードエラーを引き起こし、数を減らしながらもスクリプトゥルーによる空気清浄と追加召喚によって、確実にファンガスたちの数を減らしていく。
「確実に潰していくデスよ。単なる勝利だなんて面白くないデスからね。――勝つなら、徹底的にやるデス」
 胞子を吸い込み過ぎたからだろうか。スクリプトゥルーの形作る笑みは、何か含むかのような、ひねくれたものになっていた。
 彼女は機械たちよりも前へと前進する。当然ファンガスたちはそれへと攻撃を集中させる。胞子を吸い込み、大気を清浄化する彼女には毒の胞子は効果が薄い。よってその攻撃手段は体当たりに限られるのだが――。
「ファイアデス」
 スクリプトゥルーの号令一下、彼女の後ろに待機していた機械たちの火器が一斉に火を吹いた。
 スクリプトゥルーが胞子から機械を守り、機械がスクリプトゥルーをファンガスたちから守る。召喚者が囮になるという奇怪にして明確な役割分担がなされた機械的な、攻防に優れた連携が完成していた。
「アア、気分が良いデスね。完成された陣形で手も足も出ない相手を迎撃するというのは。タワーディフェンスゲームにも似た楽しさがあるデス」
 何匹もの仲間が機械のクロスファイアによって蜂の巣にされたのを目の当たりにしたファンガスたちは――その背を向けて蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げ出した。
「退屈デスね。予想してるデスよ、そんなこと」
 当然、それを予期せぬスクリプトゥルーではない。今の彼女は狡猾にして狡知。大量に展開された機械たちの退路へと向かわせて挟み撃ちにする。
「さあ、これで終わりにするデスよ」
 包囲されたファンガスたちを見下ろして。スクリプトゥルーは性格の悪い笑顔を浮かべる。
 火器による重奏が、森の中にこだました――。

成功 🔵​🔵​🔴​

フルール・トゥインクル
性格が変わるですか、ちょっと気になるような、困っちゃうような……ですね
……わぷっ!?
ちょっと、可憐で可愛い私にこんな胞子ぶつけるなんてどういうつもり!
(自信家で少々怠惰な性格へと変わります)

ライオン、行ってきなさい
虫を呼ぼうがなんだろうが食い千切っちゃいなさい
相手のが大きい?知らないわ、あなたライオンでしょ?頑張って

ほとんど召喚したライオンに任せておきます
もし自分に攻撃が向くようなら樹属性を込めた属性攻撃でめんどくさそうに打ち落とします



 森はフルール・トゥインクルにとって慣れ親しんだ場所だ。彼女の生まれもまた、森だった。
「性格が変わる霧、胞子ですか……」
 なんとも珍しいキノコだ。探せば故郷の森にもあったりするのだろうか。キノコなど種類がどんどん増えていくものだし、特に注目していたわけでもないためフルールにはわからなかったが。
「急に性格が変わっちゃったら、困っちゃうですね。……でも、ちょっとだけ変わっちゃった性格っていうのも興味あるかもです」
 どんな性格になってしまうんだろう。男の子みたいなやんちゃな性格に変わってしまうのだろうか。それともお嬢様みたいな性格に?
 ――わくわくしながら想像力を高めるフルールは気付かなかった。木々の合間に潜んでいたファンガスが、今まさにフルールへと胞子を噴きかける瞬間に。
「わぷっ?!」
 顔面に胞子が直撃し、ぷるぷると顔を振る。――そのこめかみには、普段の彼女らしからぬ青筋が立っていた。
「ちょっと、可憐で可愛いこの私にこんな胞子ぶっかけるだなんてどういうつもりなのかしら!?」
 きぃきぃと甲高い声を上げながら、フルールが木の陰に隠れていたファンガスを睨み付ける。可愛らしく可憐な彼女は、高慢で怠惰な性格へと変貌していた。
「良いわ、元よりあなたたちを倒すつもりでここまで来たんだもの。行きなさい、ライオン!」
 フルールが指を鳴らして合図すると、ファンガスよりも1、2回り小さな黄金のライオンが召喚される。遠吠え一つ上げると、ライオンはファンガスへと飛びかかって行った。
 慌ててファンガスたちは虫型魔獣を呼び出して応戦の体制を整え始める。
「騎獣を呼び出すなんて、生意気ね。ライオン、食い破ってやりなさい」
『……!?』
 フルールの方へと困惑したように振り向くライオン。巨大な虫型魔獣の大きさはほぼ普通の人間と同じで、ほぼ黄金ライオンの3倍ほどにもなる。あの巨大な虫に食らいつくのか、正気なのか? とライオンはその目で語りかけていた。無論フルールとて動物と会話する術も持つ妖精。彼女はにっこりと、まるで天使のように微笑みを返す。
「――知らないわ。あなたライオンでしょう? 頑張って」
 哀れライオンは主人の命令で巨大な虫型魔獣へと立ち向かって行くことになったのだった。
「はあ、眠くなっちゃうぐらい退屈ね……」
 ライオンが猛威を振るう一方で、さてその召喚者たるフルールはというと、大きなあくびをしながら退屈そうにその様を眺めていた。
 無論それを見逃すファンガスたちではない。ライオンと召喚者たるフルールはその生命力を共有している。いくら強力なライオンと言えども無防備な召喚者を攻撃してしまえばダメージを受ける。毒の胞子を噴射し、あるいは虫型魔獣とともに突撃するファンガスたち。だが――。
「ライオンと遊んでなさいよ。こっち来ないで、面倒くさい」
 厭わしげなフルールの手の一振りによって、地面から、樹木から鋭く枝が伸びてきて盾となったり、ファンガスと魔獣を打ち払って攻撃する。
 ――結果として、ライオンのまさしく獅子奮迅の活躍によってその一帯のファンガスたちは一掃された。

 胞子の影響から離れて正気に戻ったフルールは、その後ライオンに謝り倒したそうだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

マリアンネ・アーベントロート
数が多くて、虫魔獣に乗ってる素早い子もいる……ふむふむ。
これはサポートが大切そうだねっ。
というわけで『催眠・魅惑の心光』で周りの敵を私に夢中にさせて、身動きを取れなくしちゃおうっ。
技能の【誘導弾1】で素早い相手にも当てられるはずだし、【催眠術38】で魔物への効き目もばっちりっ。

「それにしても、性格が変わっちゃうなんて……ねぇ?
これでも催眠術師だし、そんなのにはそうそう引っかからないわ。
だって、この子たちもこの通り私に夢中で、私の手のひらの上だもの。
ふふ……そう、もっと私に溺れるといいわ」

性格変化:明るく天真爛漫→セクシーかつ妖艶、自意識過剰に
台詞部はざっくりとした例です。アドリブ大歓迎です


パーム・アンテルシオ
霧だと思ってたけど、霧じゃなかった…って事かぁ。
食べてもないのに幻覚を見せるキノコだなんて、冗談みたいな存在だね。

…性格が変わっても、敵を倒すっていう目的まで見失ったりはしないよね?
だったら、私は誰かと一緒に行動するのもアリかなぁ、って思うんだけど…
ふふ、同じような考えの物好きが居れば、だけどね?

見つけた、あれがファンガスだね。


それじゃあ…ふふ、ふふふ…ぜんぶ、溶かしちゃってもいいんだよね?
九ツ不思議・殺生石…
嗚呼、可哀想に。生きたままに溶かされて、意識だけは残されて。痛い、痛い、苦しい、苦しい。
ぜんぶ、ぜぇんぶ。みんなみたいに。ふふふふ。


…よりにもよって。
本当に。夢見としては、最悪すぎるよ。



「……見つけた、あれがファンガスだね」
 パーム・アンテルシオの赤い瞳が、群れて胞子を噴出させるファンガスたちを捉えた。遠目から見てわかるほどにその数は多く、海のフジツボのようでさえある。
「思ったよりも数が多いねっ。虫型魔獣も来るってなると、ちょっと大変そう」
 思い悩むようにうーん、とマリアンネ・アーベントロートが首を傾げる。まさか今見えている数が全てではないだろう。
「大丈夫。あなたのサポートさえあれば、私がきっと全部倒してみせる」
「オッケー、任せて! じゃあ、一足先に行ってくるねっ」
 パームとお互いの健闘を祈り合うように視線を交差させると、マリアンネは森の中を進んでいく。
 マリアンネは催眠術を得意とする能力者だ。特に自己暗示に至ってはそうそう他者に遅れを取らない自信があるほどである。性格の変化など、強力な自己暗示さえかけておけば変化しようはずもない。
 ――と、彼女は慢心していた。
「――それじゃあ、私の虜になりなさぁい」
 指で作った形どったハートマークの催眠光線が射出され、マリアンネの誘導に従いファンガスたちに命中していく。普段はポップでキュートな彼女だが、胞子の影響によって知らず知らずの内に性格は確実に変化していた。その表情はすでに、いつもの仔犬のように可愛らしい彼女ではなく、妖艶に笑むサキュバスのそれに近い。
「ああ、見てる、みんなが私のことを注目しているっ! 私のことをもっとよく見て。今日は一緒にイイコトしましょ?」
 艶美に微笑むマリアンネ。ファンガスたちはそれに釘付けになったまま、まるで金縛りに遭ったかのように身動きが取れなくなっていた。今、ファンガスたちの目にはグラマラスな姿になったマリアンネが幻視されているのだ。
「うふふっ、私に夢中で、カチカチに身動き取れなくなっちゃって……みぃんなみんな私の手の平の上。もっともぉっと、私に溺れなさぁい」
 こぉんな風に、と挑発的に少しスカートを持ち上げてみたり、美しい肢体を強調するかのようにモデルポージングをしてみせると、硬直したままファンガスたちはキノコの傘から興奮したように胞子を噴出させる。その様があまりにも面白くて、またマリアンネの艶やかな笑みを誘った。
「――古よりの災厄の証を此処へ」
 不意に、言葉とともに黒炎が落ちた。黒炎はファンガスたちを瞬く間に飲み込み、舐め取り、しかして燃やさず溶かす。
「――九ツ不思議・殺生石」
 あらら、と残念そうに眉尻を下げるマリアンネが振り返ると、そこには霊的な半透明と結晶体としての不透明が混じり合ったような姿に変身したパームが立っていた。
「嗚呼、可哀想に。魅了されたまま、意識の残った生きたまま溶かされていって……ふふっ、ふふふふっ」
 ファンガスたちが溶けていく様を眺めて、パームは口元に手を当てくすくすと笑う。胞子を吸って性格が変わってしまった彼女のその表情はまるで、残酷を是として残忍を快とする魑魅魍魎、化生の類のようですらあった。
「嗚呼、嗚呼、ファンガスたちに声は出せないけれど、耳を澄ませば聞こえてくるようだよ。痛い、痛い、苦しい、苦しい、熱い、熱い……。素敵な音色だ。嗚呼、溶けてしまう。ぜんぶ、ぜぇんぶ、みんなみたいに……」
 恍惚の表情でファンガスたちの溶ける音へと狐耳をそばだてるパームを見て、少しだけ面白くなさそうにマリアンネが肩を竦める。
「……あーぁ、せっかく魅了して、注目させてたのに。ざんねぇん」
「すまないね、元々私たちの目的はこれだったんだ。悪く思わないでくれ」
「わかってる。それに……まだ獲物はたぁくさんいるもの♪」
 歌うようにマリアンネが催眠光線を出すと、次なるファンガスの集団にそれらが直撃する。
「次は半分ずつでどうかしら?」
「名案だね。少しでも長く楽しもう」
 ――まるで悪役の女幹部のようになった二人は、そんなやり取りをしつつ周囲一帯のファンガスたちを全て溶かし尽くしたのだった。

「あぁうぅ……。自己暗示は完璧だったのに性格変わってるし、あんな大胆なことを何度も……!!」
「……よりにもよってあんなところを赤の他人に……。夢見としては最悪すぎる……」
 ――後になって。正気に戻った二人が揃ってグリモアベースで頭を抱えていたという。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジャガーノート・ジャック
*ロク・ザイオンと

【性格:凶暴化】
【己を律する兵士としてではなく、武器を手にしてしまった子供のように、暴力を振るう】
【SPD】

(ザザ、ザ――)
――殺してやる。
ああ!!全員だ!!お前ら全員殺してやる!!!
『僕』をこうして殺すだけでなく!『ハル』まで殺すって言うなら!!
お前ら一人残らず僕が殺し尽くしてやる!!

もう、弱い僕じゃない。
こんな化物の姿なら。お前ら全員に報復するのも、殺すのも、何の躊躇いだって要りはしない!!

――あぁ、ハル。君だけは絶対に守るから。

(この姿になった時を思い起こした様に)
(ロクに誰かの姿を重ねながら、暴れる獣の儘に、UCで暴れ尽くし敵を撃つ。怪我は省みない)

*アドリブ等歓迎


ロク・ザイオン
※ジャガーノート・ジャックと
【性格:笑い上戸の酔っぱらい】
【関係性:一方的な狂信】

(酩酊したような陽気さと危うさ。幸福と享楽と狂乱のままに、刀を振るう)

(ざりざりざりざりざりざりざり)
(がりがりがりがりがりがりがり)
(耳障りな鑢の哄笑を奏で続ける。高く。低く。歪にうたうように)

ととさま。
ととさま。
いかづちを。ほのおを。
あは(ざりざりざりざりざり)

ととさま。
おまもりくださるのですか。
ああ、ああ!
ひとになれぬみにくいけものを!!

ごらんください。
烙禍はここです。
ととさまの御旨が燃え広がります。

(【毒耐性】で胞子を耐え、誇らしげに烙禍で焼き潰す)



 その一帯は地獄の様相を呈していた。
 そこは森でありながら、ざりざりとまるで砂漠の砂嵐にも似た音が響き続いていた。
「――殺してやる」
 ブラスターを構え、その銃口をファンガスたちに向けるのはジャガーノート・ジャックだ。普段の非人間的でさえある冷酷無比な兵士としての振る舞いはどこへやら。まるで初めて武器を手に取り、初陣で戦友を目の前で殺された新兵のような憎悪と凶暴性に満ちた目でファンガスたちを敵視していた。その激情は彼の身に付ける黒豹型の機械鎧によって判別が付かずとも、彼の発する闘気から察して余りある。
「全部だ! 全部殺してやる! 殺し尽くしてやる!」
 砂嵐のようなノイズの走る声で叫び、完全武装状態のブラスターから熱線を乱射する。虫型魔獣ごとファンガスたちを撃ち抜き、貫き、殲滅する。それはまさしく、圧倒的破壊(ジャガーノート)の名に相応しい光景だ。――ただひとつ、その強大に過ぎる力を持つのが怒りのままに手にした武器を握る子供のような彼にさえ、なっていなければ。
 しかし森の地獄はそれだけではない。
「――っ! ――――! ――――――っ!!!!」
 ザリザリと。
 ガリガリと。
 まるでヤスリがけをするかのように高く。あるいはノコギリを引くかのように低い。耳障りな哄笑が森の中に響いていた。その声もまた、荒野の砂のように乾きひび割れている。
 哄笑の主は、ロク・ザイオン。森番である彼女の表情は、森の中にあって酩酊したかのように陽気でありながらもどこか危うさを伴っていた。酔っ払った巨獣がまるで幸福と享楽をたっぷりと味わうかのように、彼女は狂乱したまま烙印刀を振るう。
「ととさま。ととさま。いかづちを。ほのおを」
 ほぼ成熟した身体でいながら、ロクは不慣れで不器用な肉声でどこにいるとも、すでにいないとも知れない父へと呼びかける。その様はまるで、警笛のように吠え立てながら森の異分子を山刀で断ち、焼いて潰してきた森番の彼女らしからぬ、無邪気な子供のような様ですらあった。

 ――ファンガスの一匹が、虫型魔獣に騎乗したままロクへと突撃する。その勢いは鋭く、人間大の魔獣が高速で体当たりなどして来ようものならただでは済まない。
「あ――」
 眼の前の敵を山刀で屠る悦楽に浸っていたからだろう。ロクはそれに気付くのに遅れた。けたたましい虫の羽音が耳に届いて振り向いた頃には、もう魔獣は目の前にいて。
 熱線銃の銃声が鳴った。
「大丈夫か、“ハル”!」
「“ととさま”、おまもりくださるのですか!」
 ジャガーノートによる援護射撃だ。彼はロクへと迫っていた魔獣を撃ち落とすと、駆け寄っていく。それを見て、ロクは安堵と喜色を浮かべる。
 ああ、これが戦場の喜劇でなくしてなんであろうか。胞子の影響であろうか。彼らの狂乱した目には互いが別の人物に見えていた。
 ジャガーノートはロクを“ハル”と呼び、ロクはジャガーノートを“ととさま”と呼ぶ。けれどそれは、互いに別の誰かの姿を重ねているに過ぎない。
「うれしいです、“ととさま”。ひとになれぬみにくいけものを、おまもりくださるのですか!」
「――あぁ、“ハル”。君だけは絶対に守るから」
 片や喜色を浮かべ。片やファンガスたちに敵愾心を燃やす。二つの戦場の暴威が、今一つへと合わさった。
「『僕』をこうして殺すだけでなく! 『ハル』まで殺すって言うなら! ――お前ら一人残らず僕が殺し尽くしてやる!」
 ジャガーノートの赤い瞳に宿るのは死への恐怖、死をもたらす者への敵愾心。無論、今のジャガーノートを倒せるほどにファンガスたちは厄介であるにしても決して強くはない。
 一見して錯乱しているようにも聞こえる彼の言葉は、もっと目に見えない、精神的な部分。人格的な側面についてのもの。
 ファンガスの胞子によって捻じ曲げられた、『ジャック』の仮面も、そしてそれを演じる者の人格。それが危機に瀕していると彼は退行した精神で理解していた。
「もう、弱い僕じゃないッ!」
 ノイズの走る声で自らを奮い立たせるように、あるいは自らをそう定義するように、彼は叫ぶ。
「こんな化物の姿なんだったら、お前ら全員を殺すのにも、復讐するのにも何の躊躇だって要りはしない!」
 ジャガーノートは怪我を顧みず。ロクへと迫る魔獣を、ファンガスを、片っ端から撃ち抜き、撃ち落とす。
 そしてその援護を得て、まるで野生動物のように木々を使った立体機動でもってロクはファンガスたちを蹂躙する。噴出した胞子がロクを襲うが、毒に耐性を持つ彼女はそれに構うことなく山刀で斬り裂く。
「燃え、落ちろ」
 ロクが誇らしげに、握る山刀の焼印をファンガスに当てる。ファンガスは焼印によって炭化するほど燃え上がる。
「――ごらんください。烙禍はここです。ととさまの御旨が燃え広がります」
 すでにロクの目にジャガーノートは映っておらず。焼けるファンガスたちの姿とその先に幻視する人物しか見ていなかった。
 この戦場に最後に残ったのは、二人の暴獣だけだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トルメンタ・アンゲルス
スーツが多少は毒を軽減してくれますが、実際にこういう毒を体験するのは初めてですねぇ。
さて、どれ程のものですかねぇ?

なるほど、木が多い。
これだけ「足場」があるなら、動きやすいですねぇ!


地上だけでなく、樹の幹や枝を蹴り、稲妻の様に木々の隙間を駆け抜けていきます。
高い「視力」等による「情報収集」や、「第六感」で対象を捉え、勢い其のまま、襲撃のブリッツシュピーゲルで次々と蹴り穿っていきます。

性格に一見の大きな変化はないが、高笑いが増え、やや残忍に。
完膚なきまでに叩き潰そうとする。


すいませんねぇ。生憎と、この性格は初めから仮初だったんですよ。

(戻った後)
……本当に変えてくれたなら、有難かったんですがね。



「ははははははははははっ!!」
 森の中で、高笑いが鳴り響く。
 哄笑が聞こえてくる先は常に一定せず。四方八方、彼方に此方に響き渡る。
 木々の間を超高速の立体戦闘機動でもって飛び回るのは、トルメンタ・アンゲルスだ。
「なるほど、木が多い、“足場”が多い! これなら森の中であっても動きやすくて良いですねぇ!」
 彼女は木の幹を蹴り、枝を蹴り、まるで走る稲妻のように木々の間を機動して、高速の快感に身を浸す。
「――纏めていくぜぇ!」
 その腕から出現させたプラズマブレードによって、自らが狩場と認めた範囲の敵が無惨にも切り刻まれ、蹴り穿たれる。常人であれば目を回さんばかりの高速の世界にあって、スターライダーたる彼女の類まれなる動体視力と状況把握能力が敵の影を見逃さなかった。
 ファンガスたちの視点から見れば、何が起きているのかまるでわからない。ただ森の中で何かの影が動く気配が感じられて、まるで落書きのように幾重にも重なった光の筋が痕跡として見えるのみ。
 だが、それであったとしてもただやられるだけのファンガスたちではない。タイミングを合わせた胞子の斉射によって、面攻撃を行う。
 しかし。しかし――。
「ああ、遅いです!」
 落雷の先へと弓矢を当てられる者がどうしていようものか。疾走するトルメンタは、一斉攻撃であったとしても止めるどころか触れることさえ叶わない。
「速さとは実に良い物です! 遅いあなたたちは俺を目で追うことさえできず、俺は何一つとして被弾しない、何も失わないッ!」
 呼び出された虫型魔獣でさえも彼女には敵わず翻弄された上で蹴り貫かれ、ファンガスたちは切り刻まれる。後に残るのは死体と残光、そして哄笑。
「ああ、残念です」
 その一帯のファンガスを殺し尽くしたトルメンタは、胞子の薄らいだその場でファンガスの死体を見下ろして呟く。
「生憎と展開してあるフィルム上のアーマーが多少の毒は防いでくれるものでして。弱まった胞子の力では初めから仮初めの性格を変えることは叶わなかったのでしょうか。それとも、単に同じ方向に変化しただけか……いずれにせよ、あなたたちの利益になることはありませんでしたねぇ」
 皮肉げにトルメンタは頭を振って、踵を返した。この戦場はもう終わったのだ。
「――本当に変えてくれたなら、ありがたかったんですがね」

成功 🔵​🔵​🔴​

メア・ソゥムヌュクスス
(苦しむ者に安らぎを)(迷える者に救いを)(遍くを睡夢へ)
酷く痛む頭の中で何度も何度も繰り返し響く音
私に刻まれた偽の聖痕が人を救えと悲鳴をあげる

捻じ曲げられた人格は容赦無く力を振り撒く、
正しき世界を、絵空事で塗り潰す事に躊躇う事なく。
人の為では無く、ただ救いの機械として。

【真の姿を解放】

歌が響く、鐘が鳴る、夜が広がる。

其処にある全てを終わりなき夢へと誘う為に

全てを終の安息へ。
【アフターナイトメア】


……
………

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【悪夢の欠片】(私はまだ…)

システムをダウン
メインコアをリブート

※アドリブ、連結、改変可



 ――苦しむ者に安らぎを。
 ――迷える者に救いをもたらし。
 ――遍く全てを睡夢の中へ。

 メア・ソゥムヌュクススは森の中をおぼつかない足取りで歩いていた。
「痛い……」
 額に手を当てる。特定されたファンガスの群生地帯に近付けば近付くほど、胞子の空気中濃度が上がれば上がるほど、頭痛が酷くなる。
 身体に刻まれた偽造聖痕が、一刻も早く人々に救いをもたらせとメアに強く訴求するようにうずきを強くする。
 ――苦しむ者に安らぎを。迷える者に救いをもたらし。遍く全てを睡夢の中へ。
「うるさい……」
 ――苦しむ者に安らぎを。迷える者に救いをもたらし。遍く全てを睡夢の中へ。
「うるさいよぉ……!」
 ――苦しむ者に安らぎを。迷える者に救いをもたらし。遍く全てを睡夢の中へ。安らぎを、救いを、睡魔の中へ。安らぎを、救いを、睡魔の中へ。安らぎを、救いを、睡魔の中へ。安らぎ、救い、睡魔。安らぎ、救い、睡魔。安らぎ救い睡魔安らぎ救い睡魔安らぎ救い睡魔安らぎ救い睡魔安らぎ救い睡魔――。

「……ああ」
 
 立ち止まり。メアは頭痛も忘れて、目の前に現れたファンガスたちにも気付かずに。樹冠を見上げる。
「そっかぁ。世界は、こんなにも安息を必要としている……」
 誰にともなく、メアは呟く。ならば彼女がやることはただ一つ。
 彼女はその身を真の姿へと変えて、高らかに歌声を上げる。
 人に睡夢と安息の救いを与える偽造聖者ではなく。
 ただ救いをもたらす機械装置として。
「――――――――――――――――」
 場の様子が変わりゆく。まるでその様は魔法によって創られた結界のようだ。
 どこからともなく鐘が鳴る。もう寝る時間だと告げるように。
 闇が支配し夜が広がる。安心しなさいと毛布に包むかのように。
 機械装置から子守唄が響く。お眠りなさいと頭を撫ぜるように。
 そこにある全てを、終わりなき夢へと誘うために。
 全てを、終の安息へ引き込むために。

 ……
 …………
 ………………

 Unknown error occurred.
「だめ。だめ……」
 Error. Error. Error. Error. Error. Error. Error. Error. Error. Error. Error.
「私はまだ……」
 Browse the blackbox "Fragments of nightmare".
 The following factors expand. Fear. Pain. Scream.
「まだ――」
 Fatal error. System crash.
 Reboot the maincore.

 ……………… 
 …………
 ……

 後になってから戦場後が検分された時。メアの担当していたその戦域では、ファンガスの死体が眠るように死んでいたという。
 何があったのかと問われても、メアはただ曖昧に微笑み、何も答えなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルトリウス・セレスタイト
頭が高いぞ有象無象共
征服者は天に仰ぎ見るが当然であろう
身の程を弁え地に伏して散れ

破天で制圧
2回攻撃・範囲攻撃・高速詠唱、全力魔法など駆使し、破裂する魔弾の弾幕を叩き付ける飽和攻撃
細かく狙わず文字通り目に映る全てを、動くモノが消えるまで蹂躙
数の力を更なる物量で圧殺する
それでも纏わり付かれるなら断絶で始末

常は平坦。乱れず淀まず激さず流れる空気
霧中では帝王。天より万物を睥睨し征服する覇道
共に言葉は少なく視線は熱を持たず



 アルトリウス・セレスタイトという人物については、とかく謎が多い。
 原理と呼ばれる異能を武装として操るサイキッカーであること。まるで機械か人形であるかのように冷静であり無機質的ですらあること。
 出てくるのは表面的なプロフィールとカタログ・スペックばかりで、彼個人がどうこうという話はなかなか見えて来にくい。彼について調べる者がいたら、「まるで兵器の性能を紹介されているかのようだ」と評するだろうか。
 ゆえにこそ。「アルトリウスであればこの霧の森での殲滅任務も問題なくこなしてくれるだろう」という期待は半分正解で、半分不正解だった。

「頭が高いぞ、有象無象どもめが」
 青の弾幕を作り出し、アルトリウスはファンガスたちを一掃する。虫型魔獣を呼び出す間もなく、胞子で反撃する暇も与えられずに、ファンガスたちはその存在の根源に対して直に死の原理で撃ち抜けれて絶命した。
「身の程を弁え、地に伏して仰ぎ見よ。それが征服者たるこの俺に尽くす最低限の礼儀というものだ」
 手を上げるとまた青い弾幕がアルトリウスの周囲に生成され、彼が手を振り下ろすのと同時にそれらは射出される。
 狙いもへったくれもないような、まさに掃射や一斉射撃と言うにふさわしい弾幕の嵐。単純にして強力極まりない物量によって、ファンガスたちが次々に絶命していく。それは目に映る全てが動かなくなるまで続く蹂躙であるのと同時に、目に映る全てを個として認識せず、煩わしく取るに足らない有象無象であると断じる攻撃だった。
「奇襲をするのならば――」
 ざわり、と木々がざわめき、一瞬の後にアルトリウスの周囲を何か見えない刃のようなものが斬り裂いた音だけがした。それによって、木の陰から突撃しようとしていた虫型魔獣とファンガスが切り刻まれて地に墜ちる。
「物音を立てるべきではなかったな。羽虫の音ほど不愉快なものはない。死んで地獄で詫び続けよ」
 その戦場区域に立っていたのは、いつもの無機質なアルトリウスではなく。まるで森羅万象これら尽くが我が物であるかのように征服し、睥睨する覇王が立っていた。

 ――結果だけを見れば、戦闘力に秀でたアルトリウスを単独で殲滅任務に当たらせたのは正解だった。
 だが、無機質な彼であれば、性格変化の影響を受けないであろうという予測はまったくの見当違いだった。彼は無機質だが機械ではなく、人形でもなく。情熱的ではないにせよ感情があり、夢を抱くことはないが未来を志向する、紛れもない人間だったのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

千桜・エリシャ
【花の涯】
あら、ジンさん奇遇ですわね
一人ぼっちで寂しそうですし仕方ないから同行してあげますわ
今回はキノコ狩りで我慢して御首はお楽しみに取っておきましょう

ふわぁとなんだかいい気持ち
でも無性に寂しくて…
隣の彼の温もりを求めてぎゅっ
なんだか離れ難くてずっとこうしていたい…

あら、今日はやけに優しいのですわね
私、ジンさんが戦場に立つ姿も好きですわ
誰よりも光り輝いていますもの
まるで一等星みたいですわね
もちろん普段のあなたも好きですけれど

ああ…私は大丈夫ですわ
あなたが傍にいてくれれば…
だから私から離れないでくださいまし?
ふふ、この後なんですの?
まあ、あなたからのお誘いなら断るつもりなんてありませんけれど


ジン・エラー
【花の涯】
お?女将サンも来てたのか
ン〜〜じゃ、一緒にキノコ狩りと行こうぜ?
首はねェーけどな!カハッ!!

頭の中はお花畑
考えることは彼女のことばかり

おォっと……大丈夫かエリシャ?
あァ、お前が傷ついたら困るからな
女将だから?そうじゃねェ
オレが嫌なンだよ…

エリシャは戦ってる時が一番綺麗だよなァ……
あァいや、それ以外の時でも綺麗なンだけどよ
モチロン、普段の可愛いエリシャも好きだけどな

しっかりしろ!エリシャ!
クソ……アイツよくもオレのエリシャを………
今【光】で治してやるからな
まだ動けるか?

オレがついてる
二人なら余裕さ、だろ?

エリシャ、これが終わったらこの後──
いや、なンでもない



 まったくの偶然だった。
「おォ? なンだ女将サンもキノコ狩りか」
「あら、ジンさん。奇遇ですわね」
 霧の森へとファンガス退治へ赴く最中。千桜・エリシャとジン・エラーは出くわした。
「一人ぼっちでキノコ狩りとは、お寂しいこと。付いて行って差し上げましょうか?」
「そりゃァ願ったり叶ったりだな。二人で仲良ォ~くキノコ狩りと洒落込もうや。首はねェけどなァ!」
「まあ失礼な。私がいつも首狩りをしているとお思いで? 今回首級を挙げるのは後の楽しみに取ってありますのに」
「グヘァヒヒハハハハ! 結局首じゃねェかよ!」
 そんないつも旅館でしているような小突き合いのようなやり取りを二人で交わしながら、連れ立って森の奥地へと進んでいく。
 わざわざ二人で赴くのは、単なる縁か。それとも――互いに「性格の変わったこいつを見てみたい」という悪戯心にも似た欲を抱いていたからなのか。それは余人にはまったく見当もつかないことだ。
 なにはともあれ、二人は胞子の漂う森の奥地へと足を運び。そして当然のように胞子の影響を受けるハメになる。
「なんだか少し、いい気持ち……。それでいて、なんだか無性に人恋しい……」
 とろんとした表情でエリシャが呟き、はぁ、と溜め息を漏らす。
「おォっと……大丈夫かエリシャ? オレの胸はお前専用だ、いつでも貸すぜ」
「ありがとうございます、ジンさん……。ああ、一度こうして抱き合ってしまいますと、離れられなくなってしまいますね……」
 まんまと胞子に頭をやられてしまったエリシャとジンは、互いに身を寄せ合う。なお、ジンは胸を貸すと言っているが頭半分ほどエリシャの方が身長が高くなるため、大きめの抱きまくらのような扱いになっていることは彼の名誉のために語らないでおくこととする。
「離れる必要なンてないだろ? オレたちは比翼連理の仲、二人で一人だ」
「ああ、ジンさん……」
「エリシャ……」
 ひし、と抱き合う二人。その様子は仲睦まじい恋人同士のようですらあった。
 しかしここは仮にも敵地。二人の仲を引き裂くように、虫型魔獣に乗ったファンガスが突撃を仕掛けて来る。
「エリシャ、危ねェ!」
「きゃっ……」
 襲い来るファンガスの攻撃を、ジンが棺桶にも似た箱でもって庇って防ぐ。
「ああ、守ってくださるだなんて嬉しい……。とってもお優しいのですわね」
「怪我はねェな? お前の美貌に何かあったら大それた損失だぜ……」
「それは……私が女将だから?」
「馬鹿言えよ、お前が傷つくようなことがあったら、お前の負う痛みよりもオレの心が痛ンじまう。単にオレが嫌なンだ……」
「まあ、不器用なお方。けれど、そこがとっても素敵……」
 付き合いたてのバカップルのような睦言を繰り返す二人へと、いい加減にしろとばかりに毒胞子を出すファンガスたち。しかしそれに対してジンは光を発して毒を治療して無力化し、エリシャがすぐさまキノコの傘を狙い澄ましたかのようにその黒い大太刀によって刎ね飛ばす。
「エリシャは戦ってる時が一番綺麗だなァ」
「ジンさんだって、戦場に立つ姿も素敵ですわ。一等星みたいに、誰よりも光り輝いて見えますもの。……もちろん、普段のあなたも好きですけれど」
「照れるじゃねェか。オレもモチロン、普段の可愛いエリシャも好きだぜ」
 そうして、二人の世界に入り浸りながらもファンガスたちはついでのように倒されて――。
 全てが終わって胞子の効果が切れた後。二人がどんな顔をしたのかは、別の機会に語ろうと思う。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
…ったく、めんどくせえ連中だ。胸糞悪ィ霧に、性格変える胞子だぁ?人を舐め腐りやがって。まとめて消し飛ばしてやる。

どうせソロだ。あらかじめ行く方面を伝えときゃ巻き込まずに済む。
痕跡を辿る【追跡】で霧と胞子が特に密集した場所を探り当てて【早業】と【ダッシュ】で一気に近づき、ユーベルコードで吹き飛ばす。
霧も胞子も、丸ごとデータにしちまえば関係ねえ…

(性格は一転して素直な男の子になります。多分ストリートで育たずに真っ当な環境に身を置いたらこうなるみたいな。正義感も厚いです。一人称は僕になります)

※正気に戻ったら
「…うすら寒ィ。ジュヴナイルコミックの主役じゃあるめーし。俺は端役で、ピカレスクだっつーの」



「人ってモンをどこまでも舐め腐った連中だぜ……」
 煮え滾った怒りを胸に、森の中を歩くのはヴィクティム・ウィンターミュートだ。
 他人様の故郷の様子を映し出して来たあの無遠慮で胸糞の悪い霧に加えて、次は性格を変える胞子だ。ヴィクティムは決して人権家ではないが、人の過去を掘り返し、人格を一時的にしろ捻じ曲げる胞子については我慢ならないほどに許しがたいものだった。
「ワックド・ウィルソン(イカれ野郎)だとは思っていたが、ドレッキー(クソ)の称号も付け加えるべきみたいだな、こりゃあ……」
 何はともあれ、彼は痕跡を辿りながらもファンガスたちが特に密集している場所を探り当てる。多勢に無勢ではあるが、むしろ彼はそういった状況の方が気兼ねなく攻撃できるというものだ。
「早く駆除しちまわねえと……」
 そう、早く片付けなければならない。この霧の中で幻覚を見ないとも限らないし、遭遇戦という危険さえあるだろう。うまいこと早く片付けられれば、あるいは胞子の影響も最小限に済むかも知れない。
「――それに、早く退治しないと新しい犠牲者が出てしまう……。そうなる前に、一刻も早く僕がファンガスたちを倒さなきゃ!」
 などと思っている内にはもう遅く。まるで温室育ちのお坊ちゃんのような思考回路に変わっていく。
「それに霧が晴れたとしても、霧の街の方はまだ全然解決してない。みんなのためにも早く倒さなきゃ!」
 決意するように呟いて、彼は右腕のフェアライト・チャリオットを操作しながら駆けていた。そうしてしばらくも歩かない内に、彼はファンガスたちが所狭しと群生する地帯へと辿り着く。
 いつもの彼ならば身を潜めてから当然のように奇襲を掛けただろうか。しかし今の彼はそんなことなどしない。真正面から向かっていって、堂々と名乗りを上げる。
「やい、僕はヴィクティム・ウィンターミュート! この僕と勝負しろ、ファンガスども!」
 ファンガスたちへ向けて名乗りを上げるその姿は滑稽で、まるで風車に挑むロバ乗りの騎士だ。この姿を元のヴィクティムが見たら彼は一体何と言ったであろうか。
 当然のようにファンガスたちは虫型魔獣を呼び寄せ、毒胞子の放射でもって熱烈な歓迎を行う。
 しかし性格は変われどもヴィクティムがヴィクティムであることに一切の変わりはなく。彼は放射される毒胞子と突撃してくる虫型魔獣を見切って走り抜け、そして右腕のフェアライト・チャリオットで展開していたプログラムを起動する。
「恨んでくれて良いからね。――NO.008ヴォイド、フューミゲイション!」
 実行コマンドと同時に領域が広がる。その領域に取り込まれた胞子も、虫型魔獣も、そしてファンガスたちも。全てその身体を0と1の情報に置換されたかと思うと、それらは一瞬で光の粒子となって宙へと消えて行った。
「……呆気ないものですね」
 物質のデータ化による広域無差別消滅攻撃。それがヴィクティムの持つ切り札となる広域殲滅手段だった。仲間がいないときにしか使えないような、奥の手とも言うべきユーベルコードである。
 はぁ、と吐息する。空気中の胞子はユーベルコードの効果で一緒にデータ化の上で消滅されたため、実に空気が澄んでいる。
 それは同時に、胞子による性格への影響がなくなることも意味していて。
「うっすら寒ィ……。ジュヴナイルコミックの主役じゃねえんだ。俺は端役でピカレスクだっつうの……」
 元の性格に戻ったヴィクティムは、渋い顔つきでそうとだけ呟くのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『救済の代行者・プレアグレイス』

POW   :    黒死天使
【漆黒の翼】に覚醒して【黒死天使】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    鏡像の魔剣・反射
対象のユーベルコードを防御すると、それを【魔剣の刃に映しとり】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    鏡像の魔剣・投影
【魔剣の刃に姿が映った対象の偽物】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はリーヴァルディ・カーライルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「みんな、ファンガス退治ご苦労だった。おかげで森の霧は晴れて、奥地にあった街が発見できた」
 石動・劒が集まって、今回の作戦の決戦に備える猟兵たちを見渡す。
「斥候からの調査で今回の敵の首魁の正体が判明した。その名も“救済の代行者、プレアグレイス”」
 それを信仰する異端宗教では人々を救済するために降臨した異端の女神、あるいはその使いである天使として扱われているようだ。
 この異端宗教を奉じた町がこの森の中にあって、そこにこのプレアグレイスが舞い降りてきたのが今回の事件の発端ではないかと推測されている。
「プレアグレイスは魔剣を扱うようだな。この霧の街に辿り着いた人間をその魔剣の刃に写し取ることで偽物を作り出して、その偽物をこの町に住まわせていたようだ」
 さて、ここからが厄介なところだ、と劒は言う。
 プレアグレイスの使う鏡像の魔剣は人や物、そして現象を写し取る。それは猟兵や、猟兵が使うユーベルコードも例外ではない。
 連発できないものの、敵はこちらのユーベルコードを学習して来る上に、魔剣で写し取った町の人々や猟兵たちを盾として使って来るだろう。
「魔剣で写し取ったものとはいえ、偽物は偽物だ。自分が写し取られたとしても簡単に倒せる。――が、プレアグレイスを将として頂いた奴らは一筋縄じゃいかねえ。ほぼ戦争みたいなものだな」
 プレアグレイス自身の能力は、三つ。
 既に話された人物をコピーする能力。これは村全体をカバーしているため、有効射程範囲は弱点にはならないだろう。が、偽物が現れている間、二人目、三人目と偽物を量産することはできないようだ。
 そしてユーベルコードを防御してその刃に写し取り、それを自分用にアレンジして使ってくる能力。一度限りという制限はあるが、攻撃するユーベルコードを使う場合は必殺の意図で使わないと思わぬ反撃を食らうことになりかねない。
 最後に、黒い翼を展開して黒死天使に覚醒して、その戦闘力を大幅に向上させる能力だ。飛行能力による機動力や単純な腕力、防御力が向上する。しかし過去の文献で調査する限りでは、長時間は使用できないようで、体力的に追い込めば追い込むほどその時間は短くなるようだ。
「今回は偽物たちが取り巻きとしている。奴らはプレアグレイスを庇ったり、こちらの妨害をしてくるだろう。能力の性質上、増えようがないからこっちを先に排除してからってのも悪かねえと思うぜ」
 将を射止めるか、それとも兵を倒してからか。判断が難しいところだ。
「これ以上あの偽物だらけの楽園を放置してはおけない。最後の仕上げだ。――俺たちで必ずあの異端の女神を倒そう」
ジャガーノート・ジャック
*ロク・ザイオンと

(ザザッ)
殺す。塵も残さず死ね。

(ザザッ)
SPD選択。
来い、『Gepard』。

『スナイパー』で敵を正確に狙撃。
技を真似る?
なら、撃ち方を変えるまで。

敵に接近するロクを『援護射撃』で支援しつつ、自身も牽制の砲弾を発射しながら『ダッシュ』『フェイント』『早業』『操縦』を用い敵に肉薄。


真の姿解放、Gepard接続。
猛獣の如き大砲の砲撃は先の比ではない。
肉薄した状態での『零距離射撃』。外しはしない。

(ザザッ)
請け負った。暴力は本機の本分だ。

――最悪の気分だ。昔の気分を引きずる位に。
Fire.
(ザザッ)

(真の姿:より益々荒々しく、武器も含め獣じみた鋼の暴嵐の如き姿と化す)

*アドリブ歓迎


ロク・ザイオン
※ジャガーノート・ジャックと

(とてもいやな気持ちだ。こんな気持ちになるのは)
おまえのせいか!!!
(周りを気遣う余裕は無い。真の姿、長い鬣と尾を解き放ち、耳を潰すサイレンの声を撒き散らす)
●WIZ
(冷静さは欠いても力量は測る。ジャックの方が攻め手が多い、ならば。自分は友の射線を切り開く)
(目の前に自分の偽物が現れようものなら真っ先に烙禍で焼き潰す。許せない。あねごにあんなことを。ととさまにあんな口を。友の隣でみにくい声で喚き散らすなんて!)

(ジャックが敵に近付くなら、自分はその背に全力で「生まれながらの光」を)

キミの傷はおれが預かろう。
だから、

(任せた、ではなく
殺せ、と。
願うのははじめてだった)


ジョン・ブラウン

「ワオ、誰だいあのハンサムは。ハリウッドスターに彼みたいな人居たかな?」
「えっ、僕のコピー? なんだ地上に舞い降りた堕天使かと思ったよ」

「ま、でも僕が2人いたら世界中の女の子がどっちにチョコ渡せば良いか困っちゃうからね」
「よーし、あのハンサムを食ってや」
『いただきまーすだむー』
「れ……うぉぉぉぉ!!?」
『活きが良いむー?』
「あっち!あっちだよ!?」
『……軽いジョークだむー』<チッ

「うっわ、自分が喰われるのってキツ……またコピー!?」
「今度は……うわぁ……怪獣大決戦かな」
『食べ応えのあるデザートだむぅぅぅ!』
「お前流石に共食いは大丈……あ、全然問題無いんだ」
『お腹いっぱいだむー』<ゲェップ


パーム・アンテルシオ


…そっか、敵も大勢いるんだね。
元凶を直接叩けないのは、ちょっと残念ではあるけれど…
わかった。私は偽物の相手をしようかな。
それで、もっと戦いに向いたみんなが、万全に戦えるのなら。
私たちの勝ちになるのなら。それで、いい。

ユーベルコード…極楽鳥火。
目には目を、数には数を。
相手が数で戦おうっていうのなら、私も数で対抗するよ。
さぁ、鳥たち。相手はただの偽物、命あるものじゃない。
遠慮はいらない。自慢の爪で、炎の翼で、数を活かした波状攻撃で。
全部、狩り尽くせ!

…正直にいえば、私だけで、偽物全てをどうにかできるとは思えないけれど…
拮抗させればいい、時間を稼いでもいい。みんなが戦える空間を作る事が、私の使命。


フルール・トゥインクル
人をコピーするですか。あんまり自分の姿は……好きではないと言いますか苦手意識があると言いますか、あまり長くは見ていたくないのですよ

でも、私をコピーしても一緒にいる精霊までは無理なはずなのです
光と闇の精霊さんの力を借りて、いつもとは違う灰色のエレメンタルロッドを掲げて全力でエレメンタル・ファンタジアをぶつけるのですよ
コピーの姿をなるべく見たくないので「闇属性」の「竜巻」をコピーにぶつけて出来るだけ見えないようにするのです
さらに2回攻撃の要領でもう1回!今度は「光属性」の「洪水」をプレアグレイス目掛けて降らせて攻撃するのですよ

でもめいっぱい頑張るので疲れちゃうかもしれないのです……


ヴィクティム・ウィンターミュート
――ドレック。あぁ…ムカつくな。薄ら寒ィ救済を押し付けてくる、偽物の女神だぁ?自分を救えるのは自分だけだ。どっかの誰かに救ってもらう筋合いなんかねーよ。…よし決めた。テメエには最大の苦痛をぶつけてやる

酸のナノマシンを使う。だが、防御されちまうとまずい、だから…確実に、知覚の外から、フルヒットさせたい。例えば、攻撃を食らって「戦闘不能になったフリ」をして、【早業】と【破壊工作】でナノマシンを秘密裏に散布。奴が絶対に防げないタイミングで殺到させて【騙し討ち】とかな。
特に黒死天使発動してる状態なら、もたもた時間がかけれねえから…倒れたフリに追撃は来ない可能性は高い
食らう時は【見切り】で急所は外したい


アルトリウス・セレスタイト
神とやらの走狗如きが頭が高い

始動は密やかに隅の方から
魔眼・掃滅で視界内の取り巻きを纏めて残らず消し飛ばす
音も光もなければ早々所見で対応もできないだろう

以後発覚するまでは隠密したまま行動
取り巻きがいる間は同様に消し飛ばし味方の行動の自由を確保
いなければプレアグレイスを静止で拘束
行動の起こりを押さえ戦闘の機を此方が握れるように

露見したら魔眼でプレアグレイスの周囲を適当に消し飛ばし、不可解に映るだろう現象を見せ付けることで牽制
直には狙わず対応の選択肢を狭めておく
その後は機を見て静止で拘束
味方の攻撃の補助に

仮にコピーされても一度きりで一人しか止められない以上致命傷にはならないはず


ジン・エラー
【花の涯】
オレやエリシャの偽物だァ?
関係ねェなァ
全部救うことにはなァ
偽物のオレさえ救ってやるよ

オレの首やら自分の首を狩る気持ちはどォーだ女将サン!
偽物でも満足するもンなのか??
オレはいつでもエリシャに夢中だぜェ
まァだ頭おかしくなってるのかって?
当ててみな
本物の首はやらねェけど、カヒヒ!!


おォ〜〜親玉の天使サンよォ〜〜〜〜
ちょいと【オレの救い】を見てくれや
あァ、その身で食らう方がいいかい?オーケィ

ブヒャアヒヒヒヒ!!!!
それがオレの救いのコピーってェワケだ!!!
いやァ〜〜眩しいねェ〜〜〜〜クソッタレだねェ〜〜〜〜〜〜

ン〜〜〜〜じゃ
どっちが強ェか
決めようぜ


千桜・エリシャ
【花の涯】
あら、自分たちの偽物ですの?
へぇ……ということは自分やジンさんの御首をいただけるということですわね?
それは――とっても面白そうですわ!

さあ、私の桜吹雪をご覧になって
あなたが私に夢中(魅了)になっているところが見てみたいですもの
ふふふ。ねえ今どんな気持ちかしら……嗚呼、偽物でしたわねこれ
……残念
やはり偽物の御首では満足できませんわ
まあこれは予行練習、ということで
いつか本物を――冗談ですわよ?……多分ね

これは余興
大将首でなければ、この渇きは満たされませんわ
あら、私の桜吹雪を真似しますの?
綺麗……なんだかお互い夢見心地ですわね
だから御首をいただけたら、もっと気持ちがいいはずですわ


トルメンタ・アンゲルス


また偽りの幻影ですか、懲りませんねぇ。
一時を切り取り、立ち止まった貴方の幻影には、進み続ける俺を捉えることは出来ませんよ。
……あまり使いたくはありませんが、見せてあげますよ。


リミッター解除、装甲を展開。
コアマシン、出力最大。
Code:Seraphim、発動。
あふれ出るエネルギーの光が天使の翼の様に広がります。

リミッターの外れた、常識の埒外の速度で駆け抜け、対応が追いつかないような速さで接近。
偽物に庇われようともそれごと穿つ勢いで、追撃のブリッツランツェで蹴りぬかんと突っ込みます。
それでも終わらず生き残ったら、二回攻撃でもう一度、突っ込みます。

戦闘後、装甲は強制パージ。
サングラスは掛けたまま。



 森の中を進み、村へと辿り着いた猟兵たちを待ち受けていたのは、果たして異教の女神と彼女によって作られた偽物の村人たちだった。
「よく来ました、人の子らよ。私があなたがたを救済して差し上げましょう」
「――ドレック(クソッタレ)。救済だなんだって薄ら寒ぃんだよ」
 猟兵たちへと微笑みかけるプレアグレイスに対して一歩前へと出たのは、怒気を孕ませたサイボーグのヴィクティム・ウィンターミュートだった。
「ムカつく押し付けがましさだぜ、テメェ。よく知りもしねえヤツが上から目線で“救ってやる”なんて胡散臭くて仕方がねえ」
 彼の故郷であるストリートでは同情はあれど慈悲など無かった。救済を謳う新興宗教や資産家はどいつも電脳空間へ幽閉したり、自分の私服肥やすための労働力にするなど、掲げられたお題目からはどれも程遠いものばかり。
 そんな過酷な環境から這い上がって来た彼からしてみれば、プレアグレイスの救済は真っ先に猜疑の対象となるものだった。結局、自分を救えるのは自分だけなのだから。
「いいえ。既に救済は成し遂げられています」
 どういう意味だ。猟兵たちによる疑問の声よりも早く、眼の前に起きたことがプレアグレイスの言った意味を表していた。
 プレアグレイスが手にした禍々しい黒剣の角度を変えると、その刃身に猟兵たちの姿が映る。一瞬の後に、プレアグレイスの前に猟兵たちの姿が現れた。
 それを見て楽観的な声を上げたのはジョン・ブラウンと、彼の持つだむぐるみだ。
「ワオ、今日のマジックショーはこりゃまたすごいね。見てくれよあの赤毛のハンサム。ハリウッドスターにああいう人いたよね?」
「あれはジョンだむー?」
「ええっ、アレ僕のコピー? なぁんだ、地上に舞い降りた堕天使かとばっかり!」
 ハハハ、とジョークを口にして一頻り笑ったジョンが肩をそびやかす。
「――ま、ドラマのジョック気取りみたいなヤツじゃなくて安心したけど。それはそれとして僕が二人いたら困るんだよね」
「ソシャゲに使える課金額が二倍だむー?」
「ところがどっこい、女の子から貰えるチョコは二分の一になりそうなんだよね。さあ、不都合が起きる前にあのハンサムを食ってや――」
 まふん、と。柔らかい音がしてジョンの頭が白に包まれる。
「いただきまーすだむー」
「ねえ僕食べながら“頂きます”はお行儀が悪いって――いや違う、食べる対象違うよね!?」
「チッ……軽いジョークだむー」
 顔面を覆うだむぐるみをタップしながらジョンが抗議すると、だむぐるみは舌打ちをしながら拘束をやめて地面へ降りていく。だむぐるみヒーローマスクと言えば聞こえは良さそうだが、実際の見た目は完全にだむぐるみ怪人だった。



 一触即発の状況下で繰り広げられる、コントのようなやり取りを見て誰しもが呆れる中。その異変は起きた。
 本物と対峙する偽物たちが、忽然とその姿を消した。
「っ、な――!?」
 一体何が起きたのか。急な出来事に誰もが目を丸くする。戦場に立つただ一人、アルトリウス・セレスタイトを除いて。
 彼の魔眼の力によって、偽物どもは一瞬で全て異空へと追放されたのだ。
「あなたですか!」
「さすがに気付かれもするか」
 一人だけ平然としていたアルトリウスへと、プレアグレイスが視線を向ける。あわよくば気配を消したまま敵の雑魚を全て掃討し続けようと考えていたが、さすがにそこまでうまくはいかなかった。
 彼の魔眼は強力無比だが、その一方で乱戦となれば敵味方の区別が難しいこの戦場では、味方を誤って攻撃してしまう可能性を孕んだ危険な能力だ。ゆえにこそ、安全に使えるのは敵味方の区別がはっきりと付く乱戦前だけだ。最も効果的なタイミングでの敵戦力の大半を除去は完璧に遂行された。
「露見したならば致し方ない」
 アルトリウスの魔眼が妖しく光ると、プレアグレイスの周囲の物が消し飛ぶ。小さい物は石から、大きな物は街路樹まで。消滅させることでプレアグレイスへの牽制とする。
「私が救済した民たちを、よくも!」
 憤った様子のプレアグレイスがそれをも無視して魔剣を構える。刃身に写し出された猟兵たちが再び彼女の周囲へと現れ、即座に突撃した。
「来たよ、だむぐるみ」
「改めて、いただきまーすだむー」
 偽物のジョンを巨大化しただむぐるみが頭からまふんと包んで喰らい始める。
「うっわ、自分が食われるのはさすがにビジュアル的にキッツ……」
「食べ応えのある前菜だむぅぅぅ」
 引き気味のジョンを置いて、だむぐるみは次々に偽物の猟兵たちを喰らっていく。
「こっちも負けてられないね。――陽の下、火の下、燃える羽音を響かせよう」
 パーム・アンテルシオが詠唱すると、小さな鳥の形をした炎が現れる。その数は十や二十ではきかない。百を超える火の鳥たちが、パームの指示と同時に一斉に羽ばたき、偽物たちを攻撃し始めた。
「私だけじゃ、偽物全てを倒すことは難しいけど……みんなとなら!」
「はい! みんなでなら難しくはありませんです! オプスキュリテさん、お願いしますです!」
 パームの言葉を引き継ぐように、フルール・トゥインクルが叫ぶ。灰色に変色させた彼女のエレメンタルロッドから力を貸すのは闇の精霊オプスキュリテだ。闇の竜巻とも言うべきものが偽物の猟兵たちへと襲いかかった。
 ふと、フルールの視界に小さな妖精の姿が現れる。自分のコピーだ。
「……っ、ごめんなさいです」
 闇の嵐を偽者の自分へと差し向ける。自分の姿が嵐の黒へと消えていき、少しだけほっとした。まったく自分の姿と同じ偽者は、彼女にはとてもではないが長時間眺めていたいものではなかった。
 ふと、闇の竜巻に、ちらりほらりと桜の花弁が混じる。
「――蕩けて、溺れて、夢の涯。夜桜というのも乙なものでしてよ」
 桜の正体は、千桜・エリシャのユーベルコードだ。彼女の大太刀が鞘の先から桜と散って、嵐によって巻き上げられては幾度も偽者たちへと命中していく。彼女が手を翳せば、その手には桜の花弁が戻って元の大太刀の形を成していた。まるで夜の散歩へと向かうかのような足取りで闇色の竜巻の中へと進み出る。嵐に巻かれ、敵が近付けども舞い散る桜の花弁たちに見とれてしまったかのように、偽者たちは動かない。
「御首、頂戴致しますわ」
 大太刀を薙いで、自分の偽者とよく見知った顔の首が刎ねられる。首は天高くまで飛び上がり、火鳥たちに焼き尽くされた。
「ヒハハハハ! オレの首やら自分の首を狩る気持ちはどォーだ女将サン!」
 風変わりな笑い声を上げるのはジン・エラーだ。彼は少し残念そうな顔をしたエリシャへと問い掛ける。
「見ての通り、偽者ではまるで満たされませんわね。本物を前に“待て”をかけられたように、焦らされてしまいますわ」
「おっとォ、本物の首はやれねェなァ! カヒヒ!」
 笑いながら、ジンは長髪をなびかせながら偽者たちを斬り刻んで進むエリシャの後に続く。
「無駄です。いくら倒せども、魔剣の刃があなたがたを映す限り、私の眷属は蘇ります!」
 ジョンのだむぐるみが捕食し、パームの火鳥が焼き、フルールの闇の嵐が襲ってエリシャが首を刎ねても。次から次へと倒される端からプレアグレイスは偽者を投影し続けていく。
 だが、生み出せども生み出せども、倒されていく事実に変わりはなく。そして前線は押し上げられていく。目の前の偽者の猟兵が斬首されると同時に、返り血を浴びたエリシャの顔がそこにあった。
「ご機嫌よう?」
「お引取り願います!」
 即座にエリシャを刃身に映し取り、プレアグレイスは偽者をけしかけて自分は距離を取ろうとバックステップを踏む。
 その脇をするりと抜けて、ジンが逃げるプレアグレイスへと追い縋った。
「おォ~~親玉の天使サンよォ~~、ちょいとオレの救いを味わってけや!」
 その身を聖者として輝かせながら、ジンは突進の勢いを利用して背負った棺桶にも似た箱を横薙ぎに払う。その輝きを厭わしげに目を眇めながら、プレアグレイスは手にした魔剣で一撃を受け切る。その背の翼は、いつの間にやら天使の白い翼ではなく、黒死天使の漆黒の翼へと変貌していた。
「私の前で救いなどとよくも口にできましたね。私が手ずから斬って捨てて差し上げましょう!」
「ブヒャハハハハァ!! それがお前の救いってわけかァ! いやァ~~くっろいねェ~~~~オレの肌と良い勝負してるぜェッ!!」
 魔剣の斬撃を箱で受け、箱を軸に蹴りを繰り出し箱を薙ぐ。そうやって破天荒な戦いで相手を翻弄できていたのは序盤だけで、プレアグレイスはすぐに高まった戦闘能力を頼りに機動戦に持ち込み始めた。
「私の桜吹雪、お受けになって」
「吹雪と言うにはいささか勢いが足りませんね」
 羽ばたきと合わせて魔剣から生じるでもってエリシャが援護として出した桜吹雪が防がれてしまう。
「あなたの力、お借りします」
 魔剣が映し取ったエリシャのユーベルコードを真似て、その刃身を桜吹雪へと変えて周囲へと舞わせていく。
「させないよっ!」
「お任せくださいです!」
 それに対応して、パームの操る火鳥がプレアグレイスの桜吹雪を焼き、フルールの光の洪水を引き起こす魔法が波濤となって防壁代わりになる。
 炎と洪水による光の壁が解けた頃には、魔剣を携えた女神と偽者の猟兵たちがそこには立っていた。
「……さすがに一筋縄にはいかないようだね」
「わ……私も、もうへとへとです……」
 火鳥を侍らせるパームと杖を構えるフルール。いずれもその顔に戦意は残れども、疲労の影は濃い。無尽蔵に湧いて出て来る偽者たちの対処能力に限界が来ていた。
「ならばこちらの番ですね」
 漆黒の翼をはためかせて、プレアグレイスが偽者の猟兵たちを率いて突撃を敢行する。その先陣を切るのは巨大な白い物体――だむぐるみのコピーだ。
「ゲヒハハハ! さすがにありゃァ厳しいな!」
「刀身よりも長いとさすがに斬るのも苦労しそうですわね」
 偽だむぐるみの転がる軌道上から逃れようと誰もが三々五々、左右へと散っていく。その中で、一人動かず真正面から対峙する者がいた。
「――じっとしていろ」
 アルトリウスが命じるようにそう言い放つと、だむぐるみの回転突撃が何かに阻まれるようにして急停止した。彼のユーベルコードによって、不可視の鎖でだむぐるみの侵攻を防いだのだ。
「だむぐるみ! 本物の力を見せてやれ!」
「任せるむぅぅぅ!!」
 すかさずジョンが指示を出して、真だむぐるみが偽だむぐるみへと組み付く。巨体と巨体がぶつかり合うその様はまさしく怪獣大決戦。数度の体当たりによって偽だむぐるみが力尽きて、真だむぐるみによって捕食されていく。
 巨体がいなくなれば、残る壁となるものは偽の猟兵たちだけだ。
「――殺す。塵も残さず死ね」
 突撃する偽の猟兵たちへと、巨腕を砲身としてブラスターを浴びせかけるのはジャガーノート・ジャックだ。熱線による的確な狙撃によって、突撃する敵は一体、また一体と数を減らしていく。
 突然、ジャガーノートの後ろから赤毛の獣が飛び出した。立派なたてがみと長い尾を持った獅子にも似たその獣は、ロク・ザイオン。
「――――――――――――っ!!!!」
 彼女は山刀を手にして、耳を潰さんばかりの声量で、まるでサイレンのような甲高い叫び声を上げながら駆ける。
 向かう先は、投影された偽の自分。人の姿をしたそれへと、ロクは山刀を叩き込む。
「おまえのせいだ!!!」
 深く、深く、胸へと刃を突き刺して叫ぶ。
「おまえがあねごに、ととさまに、とものとなりで! ……ゆるせない! あんなくちを、わめきちらしたなんて!」
 放つ言葉は支離滅裂で辛うじて聞こえはするものの、ほとんど余人に聞こえる音は半狂乱の獣の咆哮にしか聞こえない。それでも構うものかとばかりにロクは山刀を振り下ろして、確実に偽者の命を断つ。
 しかし突出すれば集中攻撃の憂き目に遭うのが戦場の理。ロクへと敵の意識が向く。
 それは同時に、敵の隙を意味していた。
「偽者ばかりで斬り飽きた、なんて。わがままばかり言ってはいけませんわね」
「その割には偽者のオレをやけに楽しげに斬るじゃねェかよ」
「……ファンガス戦での一件は根に持っておりませんので。ええ」
「ヒハッ! そォーかい!」
 エリシャが大太刀を振って敵を斬り捨て、ジンがその身を輝かせながら巨大な救済箱で敵の攻撃を防ぐ。
「オランジェ! リュミエール! オプスキュリテ! お願いするのです!」
 自分だけ何もせずにはいられなかったのだろうか。フルールが精霊たちの力を借りて、疲労を押してでも援護を始める。
「極楽鳥火――これで打ち止め。さあ、遠慮はいらない。その鋭い爪で、くちばしで、炎の翼で。全部、狩り尽くせ!」
 力を出し尽くして尻尾を萎びさせながらも、パームが最後に出した火鳥たちが波状攻撃を仕掛ける。
 黒い羽根が舞った。
 漆黒の翼でもって低空を飛び、プレアグレイスが攻撃を仕掛ける先は――限界の近いフルールだ。
「まずは、一人目」
「そん、な……っ!?」
 フルールへと凶刃が向かう、まさにその瞬間だった。
 衝撃が来て、それから音がやって来た。
「――キルカウントは、確実撃墜が認定されてからするものですよ」
 熾天使が、もう一人の天使が、舞い降りた。
 トルメンタ・アンゲルスだ。
 装甲を展開した彼女は体内のコアマシンから溢れ出るエネルギー光をまるで天使の翼のように広げていた。
「ここに来て、新手ですか……!」
 超音速の速度から放たれた音の壁をも突き破った蹴りは確かにプレアグレイスへと命中し、フルールへと届くはずだった刃を遠ざけていた。したたかに飛び蹴りの奇襲を受けてしまったプレアグレイスは、よろめきながらも魔剣を構える。
「ですが、いくら増えようとも我が民たちは尽きることはありません……!」
「また偽りの幻影ですか、懲りませんねぇ。だからあなたはそんなに“遅い”んですよ」
 魔剣の刃身へと猟兵たちを映し込みながら、プレアグレイスは訝しげに目を眇める。
 遅い。一体何の話か。話の流れからして純粋な速度ではない。何か見落としがある。
「――まさか!?」
 投影した偽の猟兵たちの数を見る。だむぐるみを入れてもその数はおよそ九人と一体。
 一人だけ、足りていない。
「ああ。そのまさかさ、ワックド・ウィルソン(イカレ野郎)」
「――――ッ?!」
 気付くのが、あまりにも遅かった。気付いた頃には背後には既に忍び足で近寄ったヴィクティムがいた。凶悪な笑みを浮かべて、彼は言う。
「地獄に堕ちな」
 言葉と同時に、異変が起きた。魔剣が不可視の何物かによって見る間に溶けていくのだ。
 彼のユーベルコード。強酸を散布する無数のナノマシン群による武器の溶解だ。
「馬鹿な……っ!」
 防御は、できない。その攻撃はプレアグレイス本体を狙ったものではなく、魔剣自体を狙ったもの。魔剣が狙われていて、いかでか魔剣でもって防御ができようものか。
 酸で溶けて到底使い物にならなくなった魔剣をプレアグレイスが取り落とす。



 ――イチかバチかの賭けだった。
「来い、『Gepard』」
 黒死天使となったプレアグレイスにはその性質上継続可能な戦闘時間が限られている。それゆえ、その間に猟兵たちを殲滅できなければ自動的にプレアグレイスは戦闘不能になる。
「『Gepard』接続――完了」
 その焦りを利用した、トルメンタによる超音速での奇襲。そしてヴィクティムによる武器破壊。
 作戦は全てうまくいった。敵はすでに詰んでいる。

 ゆえに、後は殲滅するだけだ。

 浮遊戦車型兵装をその右腕へと接続して大砲へと変形させ、ジャガーノートは走り出す。
「ジャック!」
 途中、ロクが吼えるように彼の名を呼ぶ。その身体から聖者としての光を放ち、ジャガーノートが戦闘中に負った傷を、疾走の中で軋ませる破損を、全て癒やす。
「キミの傷はおれが預かる、だから――」
 だから任せたとは、彼女は続けなかった。
「――殺せ!」
 殺せと、誰かに願うのはこれが初めてだった。
「――請け負った。暴力((Juggernaut)は本機の本分だ」
 獣に願いを託された鋼の獣は暴嵐の如く疾走し、その右腕を振り被り。
 右腕の大砲をプレアグレイスの身体へと、半ば以上殴りつけるように押し当てる。
 どうしようもなく外しようがない、零距離射撃。
「――Fire.」
 砂嵐の混じる声と一瞬後に、右腕の大砲が砲声を轟かせた。
 村と、森とか抉り取られ。その傷跡には、もうあの黒死天使の姿は跡形もなくなっていた。
 はらりと、舞い落ちて来たプレアグレイスのものらしき黒い羽根を、ジャガーノートは手に取る。
「……最悪の気分だ。昔の気分を引きずるくらいに」



 霧の森での事件は、このプレアグレイスの撃破をもって解決した。
 欺瞞の救済を謳った偽りの噂から端を発し、偽者を作り出してまやかしの救いを与えた、この欺瞞と虚偽に塗れた村。
 すでに村には人もおらず、廃村と成り果てて今や楽園の噂の見る影もない。
 楽園はなかった。その事実は希望を希求する人々を落胆させただろう。
 しかし彼らが騙されて、欺瞞のうちに真の絶望へと突き落とされる異端の神を排することができたのは、間違いなく猟兵たちによる功績に違いなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月05日
宿敵 『救済の代行者・プレアグレイス』 を撃破!


挿絵イラスト