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深き天へと至る

#UDCアース


●光のある方へ
「婚礼よ。これは婚礼なの」
 彼女の声が聞こえた。無邪気な声は幼さに似ていた。見目には似合わぬ無邪気な声で、彼女は血に濡れたナイフを放り投げる。あぁ、それだけは安心だった。「今」の彼女には危なすぎるから。ーーいや、彼女にとって「此処」はもう平穏な場所じゃない。
「大丈夫。大丈夫よ。みんな一緒よ。楽園は此処にあるのだから。あの子もそう言っているもの」
 あの子、と甘く彼女は呼ぶ。柔らかな声の行き先、見える「それ」はあまりに恐ろしい。可愛い子だと彼女はいう、麗しい方だと彼らはいう。救いのきざはしだと彼は言う。
「大丈夫よ。あぁほら、もうみんな一緒だもの!」
「……リー、エ……」
 伸ばした筈の腕は落ちて。血濡れのそれを彼女が拾い上げる。婚礼だと告げる彼女はーー捧げようとされる指輪は、本当は誰に渡そうとした者か覚えてーー……。

●天に至る
「隔絶された世界を、楽園と告げる文化はあれど楽園を自称するものがろくなものであった試しは無い」
 詩の一節を読み上げるようにそう言うと、銀の髪を揺らした白づくめの司祭は微笑んだ。
「楽園は、此処にあるのだから」
 一度、瞳を伏せてそう告げた司祭ーースティレット・クロワール(ディミオス・f19491)は吐息を溢すようにして笑った。
「ーーと、言う話があってね」
 まぁ、凡そは胡散臭い話で、残り一つは古い国の言葉であるのだけれど。と告げたスティレットは集まった猟兵たちに微笑んだ。
「隔絶されたとある村で、邪神の復活儀式が行われようとしています」
 現場となったのは孤島ーー船で渡った先にある、とある村だ。邪教集団は村に潜み、彼らとしては都合の良いことに本土から遠い関係からか、島には元から少しばかり変わった風習があったという。
「彼らは死者を尊ぶのです」
 その門出を祝い、死者の為に正月を祝い、失った者たちの誕生日を祝う。
「その始まりは、嘗てこの島で多くの人々が感染症や流行病で亡くなったことにあるようですが……これ自体は文化ですね」
 隔絶された文化は、この時に生まれーー時代が故か、村から出ることは許されず、されど流れてくる者はいたという。
「今でも、村は外から来た人を受け入れる習慣があるようです」
 それが流れて来た者であれば。
 村の独特な死生観は、宗教と言う形となり楽園教と呼ばれるようになった。
「最近は人の出入りもあるようだから、と、調査にUDC職員が向かったのですが、これが消息を断ちました」
 潜入調査そのものは、穏便且つ順調に進んでいたーーという話ではあったが、かの調査員は帰ってくることは無かった。
「何があったか詳細は不明ですが現地に協力者はいたようです」
 だが今となってはそれが誰であったかも分からない。
「彼の叫びと憂いが、儀式の存在を私たちに教えてくれました」
 楽園へと至る為ーーその為に、かの島は儀式に使われようとしているのだ。

●鈍色の審判
「君たちには、その村に入って貰いたいのです」
 潜入、では無く、入る、と告げたスティレットは猟兵たちを見て微笑んだ。
「うん、不思議だよね。でも、真正面から君たちには入ってもらいたいんだ。お仕事ーー悪魔祓い、として」
 ころり、と口調を変えて司祭は告げる。
 悪魔祓い。エクソシズム。
「かの村には、外に悪魔祓いを頼むという不思議な風習があるようでね」
 医者を頼むように、だ。
 事実向かったのは医者であったこともあるという。物言いが奇妙になることがあるとか、記憶が混濁することがあるだとかーー今回はこの要請をうまく使えば問題無く島に入れるだろう。
「事実要請は一度はあったのですから。君たちにはそれらしく振る舞いながら、村の人々から儀式に関する情報を得てもらいたいのです」
 島に村はひとつ。集落はあまり離れてはいない。
 捧げられる生贄は、行方不明となっている調査員であるのは確実だろう。彼一人か、それ以上であるのか。ーー邪神が絡んでいる以上、楽観視はできない。
「彼の悲鳴から聞き得たのは、楽園に至る。という言葉です」
 静かに告げて、スティレットは猟兵たちを見た。
「儀式場を襲撃し、復活の儀式を止めていただきます。不完全な邪神は召喚されるでしょうが……、完全な邪神よりは手が届く筈ですから」
 にこりと微笑み、邪神殺しを告げた司祭は猟兵たちを見た。
「まぁ、少し変わったお仕事、だと思って貰えば良いよ。悪魔祓いごっこも含めて、ね」
 しゅるり、と袖から姿を見せた白蛇が淡い光を灯す。
「さぁ、運命の至る場所へ」
 転移の光を零す中、いってらっしゃい、と司祭は告げた。


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。
だいたい、いつもの雰囲気がします。気分の良い終わりにならない可能性もございます。

▼各章について
 各章、冒頭追加後、日付を指定してのプレイング募集となります。
 第一章のみ、12月11日8:31〜
 プレイング受付期間は、マスターページ、ツイッターで告知致します。
 また、状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。

 第二章、第三章もマスターページ、告知ツイッターでご案内させていただきます。
 また、募集前のプレイングにつきましては、全て流させていただきます。

 第一章:村に伝わる伝説を暴け!
 第二章:集団戦(詳細は不明)
 第三章:ボス戦。詳細は不明

▼第一章について
 村に辿り着いたシーンからスタートします。
 悪魔祓いを請負った者として入ります。衣装はご自由にどうぞ。
 第一章はPOW、SPD、WIZは参考までに。

▼行き先「島」について
 本土から離れた島。孤島、と言われるのが交流が少ないからだという。
 遥か昔に流行病などが出たことから、独特な死生観を持つ。
 外からやってくる悪魔祓い士には、基本は協力的。

▼UDC職員(調査員について)
 男性。島に潜入調査に来ていた。
 現在行方不明。島の何処かにはいる。

▼お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人〜の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
 二章以降続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。
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第1章 冒険 『村に伝わる伝説を暴け!』

POW   :    瓦礫を掘り起こし埋まっている手がかりを見つける

SPD   :    村人から伝説を聞き出し手がかりを見つける

WIZ   :    魔術的なアプローチで手がかりを見つける

👑11
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●送り人が語るには

 死は起き上がるもので、体を通り越してゆくもの魂を拐うものなのです。

 それが、あの島の習いなのだと告げたのは島への道をつけた船長であった。件の調査員のことは知らない彼は、君たちを悪魔払いに来た者として送っていた。
 昔話は、話が無い状況に耐えられなかったからか。
 島は古くからありーーだが、寄り付くものは多くは無かった、と。
「流行病も、感染症も……今にして思えば、蚊やら何やらが出たってもんだったんだろうけどな」
 嘗てはその意味も分からず、彼らは島から出ることを禁じられーー島は送られる地になったという。
「悪魔だがなんだが知らないが……ってあんたらに言うのは失礼かもしれませんがね、当時の人らも悪いと思ったのか……、あちらさんの要請に出来る限り応じようとしたんじゃないかね」
 詳しくは知らぬ。村人であれば知っているかもしれないがーー今は、あの地の習いも楽園教として人の興味を引くようになっている。
「今回の要請は、一度は取り消されたみたいな話もありましたが……結局、でしょう。今までずるずる続いたのだって、結局、訳の分からんもんにはどうしたって、近づきたくなくなる奴が出るのさ」
 あとは、馬鹿みたいに魅かれちまうかですね。

●厳命によって追い出すことーーと。
 辿り着いた島は、静かな村であった。小さな港に、あまり大きくは無い漁船。市場が立つようなことは無いが、海と山を持つ島は食べ物に苦労しているような様子は無い。街中を思えば閑散としている、とも言えたがーー時刻を思えば港に人も少ないだろう。今はもう、昼過ぎだ。
 港から行けば、最初の集落に辿り着くだろう。港の近くにひとつ、そこから山間にのびていく。小さいが、ビーチもあるのだという。どれも歩いては行ける距離だ。
 島には村がひとつだけだ。
 役場はひとつ。療養所は昔はあったらしい。
 入り口に立っただけでは、楽園教と呼ばれる宗教らしいーー分かりやすい雰囲気は感じられない。
 村人たちは珍しそうにこちらを見たり、待っていたというように顔を見せたりーー時に警戒を見せてはいるが、君たちが悪魔祓いに来たと言えば反応を変えるだろう。
 村は悪魔祓いを要請する文化を持っているのだから。
 ーーさぁ、どう動こうか。
蓮条・凪紗
ミルラ(f01082)と。

悪魔祓いなら陰陽師の出番!
オレの世界じゃ病にはまず祈祷やし。
それらしく狩衣に袴姿。久々やな正式な格好するの。
…胡散臭いのは元からや。ミルラに言われとぉないわ。
煙草の臭いちゃんと誤魔化しぃよ。

ほな、まずは悪魔祓いのお仕事せな。
祓うって事は憑かれたって事やろ。病魔か怨霊か。
状況解らんと術式も組めんしな。
対象人物と接触出来るかいな。

島の人に話聞ければ。
わざわざ外から呼ぶくらいやし、神社も寺も無いんやろか。
死を尊ぶとなると、他に死に近い生業は医者やけど…。
療養所のあった場所を聞いて見に行って周囲から探ってみよ。
オレ等よりもずっと前に呼ばれた「医者」の痕跡でもあればエエけど。


ミルラ・フラン
凪紗(f12887)と

悪魔祓いなら聖職者の出番だね
あたしとしちゃあ、見逃しちゃおけないね
ウィンプルで髪まで隠した正式な尼僧装束でいくよ
あたしも人のことは言えないけど、凪紗もちょっと怪しく見えるねぇ…
尼の服に乳香と没薬の香を焚きしめたよ、ぬかりはないって

なんで悪魔祓いを呼んだのかを調べなくちゃね
聖句を唱えるのか、教会から摘んできた薬草を煎じるのか、どーしたらいいか分かんないよ
うまく会えるかねぇ

島の人に話を聞かないとねぇ
【誘惑】も活用してちょっと聞き込もうか
「昔あったという療養所……跡地などはありまして?」
(丁寧な言葉とアルカイックスマイル)

あとは日頃の祈りの場……民家に仏壇や神棚はないのかねぇ?



●立標
 猟兵たちを送り届けると、船はそそくさと去っていった。波しぶきを上げながら去る船は、村人たちにとって然程珍しいものでも無いのか。ぼんやりとそれを見送った人々の視線が、こちらに向かう。
「……かしら」
「……のようね。あぁ、本土に声が届いたのね」
「いやだが、違うかもしれないだろう。送られてきただけかもしれない」
 口々に上がる声は、漣に似ていた。囁き合う声は、上陸した『悪魔祓い士』たちを警戒してのものか、それとも島の外を警戒してのものであったか。
「なんや、見慣れてる訳でも見慣れてない訳でもないんか」
 小さく、蓮条・凪紗(魂喰の翡翠・f12887)は声を落とす。久々やな正式な格好に身を包んだ男は、小さく瞳を細めてーー連れへと目をやった。
「みたいだね」
 折角きっちり正式な尼僧装束で来たってのに。
 小さく息を吐いて、ウィンプルで髪まで隠したミルラ・フラン(薔薇と刃・f01082)は赤の瞳を細めた。
「あたしも人のことは言えないけど、凪紗もちょっと怪しく見えるねぇ……」
 狩衣に袴姿。
 悪魔祓いなら陰陽師の出番、と正装に身を包んだ凪紗は、投げかけられた言葉に眉を寄せた。
「……胡散臭いのは元からや。ミルラに言われとぉないわ」
 そも、清廉潔白な陰陽師様は柄では無い。
 煌く髪を揺らし、人懐っこい表情に僅か訝しむ色を乗せて連れを見る。
「煙草の臭いちゃんと誤魔化しぃよ」
「尼の服に乳香と没薬の香を焚きしめたよ、ぬかりはないって」
 ひらり、と衣を揺らし、ふふん、とミルラは口の端を上げて笑ってみせた。
「……吸わへん選択肢は無いの」
「あると思う?」
「知らへん。ま、あらへんやろな……」
 ま、それにしても。
 そっと、凪紗は息をつく。怪しいーー基、目立つ格好である自覚はある。だが同時にこれは、本職であればする姿だ。だというのに、村人たちは遠巻きに伺うだけだ。
(「こっちが本物か分からへん顔して」)
 偽物が来たことがあるのだろうか。それとも、彼らの中で、悪魔祓い士と言えば「これ」というイメージが無いのか。
「疑われるよりは良いんじゃない?」
 黙り込んだ凪紗に、ミルラが声を返す。勘がええことで、と落とした言葉が爪先に触れ、ふ、と笑った薔薇の娘が、ふいに顔をあげる。
「会えるかしら」
 声を投げた先、ミルラの瞳に写っていたのは線の細い、女であった。母親だという彼女は、顔に隈を残したまま「息子」なんです、と告げた。

「聖句を唱えるのか、教会から摘んできた薬草を煎じるのか、どーしたらいいか分かんないから、早めに会えて良かったよ」
「そうやな。状況解らんと術式も組めんしな」
 ミルラと凪紗の言葉に、母親ーートキノワは、ややあって頷いた。
「わたしも、できれば早く皆さんにお会いしたかったんですが……、その信じられなくて。村に、悪魔祓いが来ただなんて」
 信じられない? という言葉に、ミルラは緩く首を傾げた。
「何か、そう思う理由でも……?」
 淡く言葉を選ぶのは、今の自分たちが掴めていない情報があまりに多いからだ。一通り仕入れてから、選ぶという手もあるがーー流石に、闇雲にとは行かない。実家で培ったスキルを活用するように、告解を聞く尼僧はトキノワにそっと声をかけた。
「今回の要請は、一度取り消されたという話もあったので。山間の方が、はやって出してしまっただけで、まだ頃合いでは無いと。でも……」
「息子さんが大変なことになってるんやな」
 凪紗の言葉に、こくり、とトキノワはうなずく。
「あの子は、最近本当に何か……おかしくて」
「祓うって事は憑かれたって事やろ。病魔か怨霊か。状況解らんと術式も組めんしな。会わせてくれるやろか」
「はい……はい、是非!」
 凪紗やミルラの使う言葉に、専門家らしさを見たのだろう。やっぱり、悪魔祓い様だわ、と頬を染めた母親は、力強く頷いた。

●トキノワ・リョウ
 薄暗い家の中、少年の部屋は二階にあった。息子は光を嫌うのです、と母親は呟いた。その声にあるのは憂いよりは、言い切りだ。
「……ぁ、あ」
 ベッドに横たわった少年は、浅い呼吸を繰り返していた。呼びかけへの反応はあるようでーー同時に、無いとも言える。まともな会話は成立しないだろう、と二人は思った。
「ぁ……、あ、あ。ひかり、が」
「あぁ、リョウ。大丈夫よ。悪魔祓い様たちが来てくださったの。お水も飲んで、ゆっくりしましょう。もう、貴方も大丈夫だから……!」
「ぁあ、ぁああああ……!」
 ふいに、声が跳ねた。静寂に包まれていた部屋に来訪者が来たからだろうか。汗に濡れた黒髪をぱたぱたと揺らして、少年は頭を振るう。尋常では無い様子に、釣られるように慌て出す母親にミルラは手を伸ばした。
「お母さん。こちらに任せてもらってよろしくて?」
 遮るよりはそ、っと添えて。赤の瞳は蠱惑的な色を載せる。あ、と落ちた声は、二度、三度と揺れてーーはい、と頷きに変わった。
「この島に今、医者はいないのですね……。昔あったという療養所……跡地などはありまして?」
「……はい。島の、真ん中にあります。悪魔祓い様の言う通りに、もう焼けて、跡地となってしまっているのですが……」
 残ってはいます、という母親にミルラは微笑んで礼を告げた。
「ーーそっちはどう?」
「なんつーか……まぁ、風邪やろな」
 単純に考えれば、と凪紗は告げる。嘗て、医師を頼むように悪魔祓いを頼んでいたという村だ。何が起きても悪魔祓いを頼む、という感覚が未だに残っているのかもしれない。少年本人から、何らかの魔の気配はしない。それでも、此処をすぐに去る決断を二人がしなかったのは、違和感があったからだ。
 何かが、ある、と。
 癒しの術があれば、かけてみて反応を見ても良かったかもしれないがーー……。
「ただ、さっきの反応やな……。母親に反応したんか、俺らか」
「ま、心配の仕方がちょっと変わっていた感じはあったかね。ここじゃそれが普通、って可能性もあるけど」
 ひとまず、とミルラは教会から持って来た薬草を煎じる。その準備を側で見ながら、凪紗は考えるように息をついた。
「わざわざ外から呼ぶくらいやし、神社も寺も無いんやろか。死を尊ぶとなると、他に死に近い生業は医者やけど……」
「療養所は、焼けてなくなったらしいけどね」
「焼けたんかい」
 ミルラの言葉に思わず眉を寄せる。周囲を探るにも、医者の痕跡を探すのは難しそうだ。
「いや、焼けたんなら肝心の医者はどこに……」
「お医者様でしたら」
 ふいに、声が届く。心配になった母親が、顔を見せていた。水差しと、カップに注がれた水は二人の為に用意されたのだろう。
「その時に、一緒にお亡くなりになったんです。あまりにいたましいことでした。あれでは、楽園に行くことは出来なかったでしょうに」
 悪いものを払って、行かれたのではないのですから。
 その言葉の意味はどこにあるのか。楽園に行けないというのはーー死に方にあるとでも言うのか。
 考えるように眉を寄せた二人は、ふと、顔を上げた。
「ぁ、ぁあ……」
 漏れたのは少年の声。呻くような、だが同時に助けを求めるようなそれと共に、二人は気がついた。
 ーー来る、と。
「ーー」
 瞬間、痛みが走った。抉るような、だが刺すような痛みに斬撃は無い。術式の発動も無い。ただ、水音がした。
「……水」
「そうやな」
 ぱしゃん、と跳ねるような気配。同時に強く、陰陽師と尼僧が感じ取ったのはオブリビオンの気配だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マリス・ステラ
「主よ、憐れみたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
まずは自己紹介です

「悪魔祓いをしています。神祇官(かんなぎ)のマリス・ステラと申します」

私の祭祀服姿は如何にも目立つ
容姿でいうなら修道服こそ似合うのでしょうが……
浮世離れした『存在感』を示します

「寺院、あるいは墓地に案内して頂けませんか?」

役場でお願いします
死者を悼むのは当然です
彼らに礼を失するは、あなた達にも非礼を働くこと

案内先でも死者を『慰め』るように祈りを捧げる

「村に怪我や病に苦しむ人達はいませんか?」

私はそれらを癒すことができます

【不思議な星】を使用

証明しましょう

事実、怪我や病気なら良いのです
けれど、それらが悪魔憑きならば──



●静寂に祈りを寄せて
 村は、静寂に包まれていた。
 悪魔払いを要請したーー一度は要請をした、というのに、港での反応は歓待でもなければ、忌避でも無い。それが、流れ着いてきた者を受け入れるというこの地の習いかは分からない。ーーただ。
「主よ、憐れみたまえ」
 潮風に、金色の髪が揺れる。靡く衣を気にする事なく、降り立った娘は星辰の片目へと光を灯す。白く、ほっそりとした指先が解かれれば息を飲む村人たちへとマリス・ステラ(星を宿す者・f03202)は静かに告げた。
「悪魔祓いをしています。神祇官(かんなぎ)のマリス・ステラと申します」
 祭祀服姿のマリスに驚いたというよりは、そのあり方に彼らは驚いたのだろう。容姿で言えば修道服こそ似合うだろうがーーはた、と衣を揺らした娘の浮世離れした雰囲気に、ややあって応じたのは村の青年だった。
「は、はい。悪魔祓い様でしたか」
「役場に伺って宜しいですか?」
 口元に微笑を浮かべ、小さく首を傾げるだけで問うたマリスに、こくこく、と青年は頷いた。
 港で出会った青年は、役場の人間であった。海の方が、どうにも騒がしいようでしたので。と告げた彼は、様子を見に来ていたのだという。随分と静かなように思えたがーーこの地に住う彼に取っては今日の港は『騒がしかった』のだろう。
(「確かに、見に来ていた人はいるようでしたが……」)
 彼らの中で、悪魔祓い士に対する確固たるイメージは無い様だ。悪魔祓い士、と言わず悪魔祓い様と告げる辺り奇妙ではある。港で出会った人々も、マリスの衣装にだけ特別驚いた様子は無かった。悪魔祓いと名乗れば、そうなのだろう、と納得していたようだった。
(「それに……」)
 あれが悪魔祓い様か、と彼らは言っていた。
『初めてみたな。やっぱり、特別な雰囲気がするんだな……』
『今日は、随分と来られるそうだが』
『最後に来たのは、俺が生まれる前か……子供の頃だろ』
 悪魔祓いと名乗る者は長く来てはいなかった。港で見た青年たちは、二十歳前後。彼らが子供の頃であっても来ていなかったとなればーー長く、悪魔払いは申請されていなかったのか。
(「慎重に動く必要がありそうですね」)
 小さく、息を吸うようにして視線を上げればちょうど役場へと辿り着いたところだった。
「……そう言えば、何故、悪魔祓い様は役場に? ご挨拶でしたら、今、皆が揃っている訳では無くてですね……」
 言い淀む青年に、いえ、とマリスは静かに告げた。
「寺院、あるいは墓地に案内して頂けませんか?」
「墓地……ですか?」
 言い淀んでいた青年の反応がぴくり、と変わった。分かりやすい変化に、表情を崩すことなくマリスはただ、静かに頷いて見せた。 
「死者を悼むのは当然です。彼らに礼を失するは、あなた達にも非礼を働くこと」
「あぁ……あぁ! そうでしたか! いえ、すみません。そうに決まっていますよね。悪魔祓い様にそう言って頂けると、村長も喜びます」
 今日は代理は来れていないのですが、と告げる青年ーートウマの案内で連れられてきたのは、山間の地であった。色とりどりの布で木々を飾られ、小さな墓標が立ち並ぶ。墓標の多くは木で作られていた。
「昔は……、いえ、今もあまり裕福ではありませんが。本当に島は貧しくて。墓石なんて、良いものは無かったんです。代わりにこうして木々に布を飾って……。卒塔婆だけでは、いずれ分からなくなってしまいますから」
 その卒塔婆も、この地で作られていたのだろう。辿々しく書かれていたのは、文字だろうがーーもはや読める形でもない。
「……」
 その地で、マリスは死者を慰めるように祈りを捧げた。膝を折った神祇官に、トウマはひどく感動した様子で涙ぐむ。歳若いーーそれこそ、港で見た彼らより少しばかり年上に見えるだけの青年は「ほんとうに」と声を震わせた。
「悪魔祓い様が来てくださって良かった。えぇ、色々なお方がいるのは分かっています。ですが、この地のことを深く理解してくださる方は本当に久しぶりです」
 この前流れてきた方は、興味は持っていたが敬いの心は無かったですから。
 ため息をつくようにしてトウマは告げる。彼の言う『この前』は調査員のことか。
「村長代理に話を聞いたりもしていたみたいですが、まったく罰当たりですよ。最近は、新しいことを考える者もいるみたいで。簡単に楽園に向かう方法や、そもそも楽園に行く意味を無いなどと言う者もいて……いやはや、村長もお喜びになります」
 微笑んだトウマが、そのまま墓を見る。村長はこちらに? と問うたマリスに、体だけは、とトウマは告げた。
「魂は楽園へと向かわれたので」

●ミシェル・アリヤマ
「村に怪我や病に苦しむ人達はいませんか?」
 私はそれらを癒すことができます。
 悠然と告げた神祇官に、トウマは小さく瞬いた。
「彼らはまだ、時が来ていないと? 悪魔祓い様がそう仰るのであれば、そうなのかもしれませんね……。確か、職員の一人に休みを取っている者がおります」
 寒くなる頃ですから、告げるトウマは特別不思議には思っていないようだった。地図を受け取り、訪ねたその部屋は鍵が空いていた。無用心では無くーー独り身の職員に、水や食糧を近所の人が持ってきていたのだという。
「悪魔祓い様とは言え、良い水も飲んでいますし。このままで大丈夫だと思いますけどね?」
 訝しむ女は、明らかに悪魔祓いとして来たマリスを警戒しているようだった。時折、呻くような声をあげる職員ーーミシェルは、元々寝言が多い方なのだ、と彼女は言う。
「そのうち、ちゃんとしますよ」
 そう、言い募るというのに女は部屋を出ていく。扉は相変わらず開け放たれたままだ。外から見ておく、ということか。
「証明しましょう」
 祈るようにマリスは瞳を伏せる。
「私のためではなく、あなたのためではなく、私たちのために」
 翳す指先に光が灯る。全身から放たれる星の輝きがミシェルを癒していく。きらきらと、零れる光は星のように呻くひとへと触れていく。
(「事実、怪我や病気なら良いのです。けれど、それらが悪魔憑きならば──」)
 これ以上のことが、起きてしまう。
「ーーぁ」
 ぼんやりとミシェルが瞳を開く。分かりますか、と問いかけた先で、焦点の定まらない瞳が揺れる。そっと触れた額は、まだ熱を持っていた。
「風邪も引かれていたようですね」
「あな、た……は。光……、あぁ違う。あの光じゃない」
「違いましたか?」
 そっと、マリスは問う。違う、と言うからには何かをミシェルは見たのだろう。だが、問いかけへの答えは無く、震えるような声が落ちる。体は癒した筈だ。疲れが残るとはいえーー……。
(「何かが、ある……。けれど、何が……?」)
 ふと、マリスは気がつく。訝しんでいた女が姿を消していた。良い水を持って来た、と言っていた彼女が姿を消しーー水差しもいつの間にか消えている。
「持っていった……、いいえ。そのような気配は……ならば」
 思い当たるのはひとつ、あの時、マリスの光にーー星の輝きに押し出されたのであれば。
「……そうですか」
 水差しのあった場所に手を翳す。瞬間、ぴり、と指が切れた。何もない場所。その名残に感じたのはーー……。
「オブリビオン」
 災いの、気配であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

隔絶された島か
何があるか解らぬ故、用心は常に怠らん様にせんとな…と
そう声を漏らすも何処か楽し気な宵を見ればその手を握らんと手を伸ばそう
その、なんだ。何があるか解らぬ故、離れるなよ?

島に上陸後は宵と共に先ずは集落へ移動
出会った村人に『礼儀作法』を使い警戒を与えぬ様悪魔祓いをしに来たので話を聞きたい旨伝え『情報収集』を
此処でいう悪魔とは何か、村人がどの様な悪魔祓いの行為望んでいるのかを不審に思われぬ様言葉を選びつつ聞き出せればと思う
後は島の地図等があれば入手を試みよう
その後は宵と共に島を回りUDC職員の物らしき痕跡がないか『失せ物探し』で探れればと思う
…何か見つかれば良いのだが、な


逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

隔絶された孤島、と聞くとなんだかワクワクしてしまいますね
ええ、用心は常に怠りませんとも
きみの傍を離れるなどもってのほかですから

上陸後、集落にて情報を集めていきましょう
「優しさ」「コミュ力」「礼儀作法」にて人当たり柔らかくを心掛けて
ザッフィーロ君とともに悪魔といわれるものについての調査と
悪魔祓いの内容を聞き込みます
彼らの死生観についてもお話を窺えればよいのですが
島で何か変わったことなど起きていないかも問うてみましょう

その後はザッフィーロ君とともにUDC職員の痕跡を探し
一見島の人にとっては違和感がないものの
僕たちにとっては奇妙に思う痕跡などを探していきたいところです



●孤独、あるいは蠱毒
 港に集まっていた人々は、上陸した猟兵たちーー基、悪魔祓いたちを一頻り見ると解散していった。積極的に声をかけた者は、悪魔祓いを求めているのだろう。他の猟兵たちが話を聞いているのを視界に、二人は通りを抜けていく。港の近くの集落までは、すぐ辿り着けるだろう。
「隔絶された島か。何があるか解らぬ故、用心は常に怠らん様にせんとな……」
「隔絶された孤島、と聞くとなんだかワクワクしてしまいますね」
「……」
 溢したそれは、警戒であった筈だ。だが、傍から聞こえたのは弾むような柔い声で。何処か楽しげな様子の彼に、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は、手を伸ばした。
「その、なんだ。何があるか解らぬ故、離れるなよ?」
 その手を取るようにーー逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)の手を取るように、指先で触れる。とん、と出会えば、小さく首を傾げた宵は微笑んで頷いた。
「ええ、用心は常に怠りませんとも。きみの傍を離れるなどもってのほかですから」
 握り返して、小さく視線を交わす。微笑を浮かべた宵の声は相変わらず楽しげでーーだが、しっかりと取った手が、此処にいるのだと伝えて来ていた。
 集落には、古びた漁船が仕舞われていた。どれも、もう随分と長く海には出ていないのだろう。座した長さは自分たちには遠く及ばないがーーかの船も長く「其処」にいたのだろう、と二人のヤドリガミは思った。
「嘗ては漁に出ていたのかもしれないな」
「……えぇ。今は、定期船でも来ているんでしょうか」
 ザッフィーロの言葉に、宵は考えるように瞳を細めた。定期船が来ているとなれば、商店のようなものがあっても良い気がするがーー見当たらない。この辺りには無いのか。ゆるり、と見渡すようにして集落へと視線をやれば、ちょうど家から出て来た村人の姿が見えた。
「こんにちは」
 にこり、と村人ーー年若い娘に宵は柔らかく声をかけた。驚いた様子の娘が足を止め、ぱたたた、と家に引っ込む。
「……驚かせてしまったでしょうか」
「いや、増えたぞ」
 くつくつと喉奥で笑ったザッフィーロは、娘が手を引くようにして連れて来た兄弟らしき長身の青年に、一礼と共に告げた。
「悪魔祓いに来た。話を聞かせてもらえるか」
 その言葉に驚いた様子を見せたのは、娘の方だった。
「悪魔祓いは、ぱーんってどうにかしてくれるものじゃないの?」
 そこにいれば、どうにかしてくれるみたいな。
 不思議な感じの、という娘に青年が苦笑する。
「それじゃぁ、楽園にいる神様みたいだろう。そうじゃないさ。悪いものを祓うのが悪魔祓さん……、様だ」
 言い淀んだのは、どう敬語を使うべきか悩んだのだろう。艶やかな黒髪を揺らす宵と、褐色の肌に銀の瞳を見せるザッフィーロの年齢に悩んだのもあるのだろう。もう少し、と慌てて青年は声を上げる。
「こう、年寄り……、お、お年寄りみたいな方が来るんじゃ無いかって思っていて」
「ーー……いや、気にする必要な無い」
 取ってつけた敬語は、結局うまくは機能しないようだ。ふ、と息を溢し、視線を上げたザッフィーロに、ほっとした様子を見せると青年は言った。
「良かった。お二人は、悪魔祓いの師匠と弟子みたいなやつなんですか?」
「は?」
 師匠と、弟子。
 またなんでそんな発想になるのかと聞いていれば、何かが似ていて何かが違うから? と告げた青年に、ザッフィーロは思わず眉を寄せた。
「別に、俺は……」
「なるほど……。どちらがどちらだと思いますか?」
「宵」
 クスクスと笑って、青年の話の輪に加わった彼に思わず息をつけば、にっこりと笑った宵は知らぬ間に青年の妹とも仲良くなっていた。
 ーー曰く、この島の人々に取って、悪魔祓いは楽園に行く為に『悪いものを払ってもらう』為のものだという。話を聞いている限り、兄妹は初めて悪魔祓いに出会ったのだろう。これ、という形も彼らの認識には無くーーその役割は大凡、医者に近い。
「悪いものを払ってもらって、それでも残っていれば時ではないからだし、だったら早く分かった方が良いのに。要請を簡単に撤回しちゃうんだから」
「ルイ。……すみません、妹はおしゃべりで。どうにも最近、せっかちなんですよ」
「別にせっかちじゃないもん。分かりやすいだけですよーだ」
「可愛らしいですね」
 微笑ましいやりとりに笑みを溢しーーだが、笑ってばかりでもいられない。話を合わせるように、やっぱり、と宵は視線を上げた。
「要請は一度撤回されていたんですね」
「何か、手違いでもあったのかと思っていたんだが」
 ザッフィーロがそう言葉を重ねれば、青年は緩く首を振った。
「要請をした山間の集落の方が、楽園に向かわれたんです。はやって要請を出したみたいですが、向かうべき時だったんですね」
 魂はちゃんと、楽園へと向かわれましたから。
 告げる青年は、ひどくほっとした様子でいたというのに、彼の妹は随分と不服そうだった。兄の話が長かったからかーー兄の言う通りせっかちであるからか。
「ーーさくっと分かって、楽園に行ければ良いのに、か」
「気になりましたか? やはり」
 ザッフィーロの呟きに、宵が足を止めた。兄弟に聞いた悪魔祓いが必要な相手の家までは、まだ少しある。互いにだけ聞こえるような声で告げれば、村人たちに聞き取られることもないだろう。
「少女らしい話というものなのかも、しれないがな。兄の性格に対して、妹がああだとも言えるかもしれないが……」
 むぅ、と頬をふくらませて、あの妹は言ったのだ。
『さくっと分かって、楽園に行ければ良いのに。そうしたらハッピーでしょ』
 ハッピー。幸福。
 そうじゃないと、兄は教えようとしていたがーーそう、兄が教えようとしていたのを思えば、彼女の考え方はこの地古来の考えからは変わっていることになる。
「悪魔祓いそのものは、治療に近そうですから。現場に行くことになってもどうにかなりそうですね。水を飲ませているという話を聞く限り、熱風邪のような気もしますが」
 高熱があればうわ言も聞く。不可解な行動をする者もいるだろうがーー。
「熱と言われれば説明がつく。彼らの文化では、熱や風邪、病にまつわるものを悪魔と言って憑くもの、としていたようですね」
 死は起き上がるもので、体を通り越してゆくもの魂を拐うもの。
 この話は、青年の他に集落で出会った老人も言っていた。
「病は、不意に起き上がり、体を残して魂を拐っていく……か。この地は土葬の文化が残っているとも言っていたからな」
 地図を片手にザッフィーロは眉を寄せる。件の要請を最初にした山間の地は、墓場に近い。土葬の文化は、火葬に使う炎を許されなかったからだ、と老人からは聞いた。だが、今の今まで残るものなのか。
「それこそが楽園教のあり方なのかもしれませんね」
 彼らは死しても外には出れない。島に火葬場が無いからだ。故に土葬の文化が生まれ、残りーーだが、それも変わろうとしているという。
『楽園教を蔑ろにするものが増えて困る。しっかりと、悪いものを祓ってからじゃないと楽園には行けぬというのに』
 時を待たぬのだ、と老人は言っていた。慎重に、真面目に二人が話を聞いていたお陰か、老人は言ったのだ。
『あの、流れて来た若造も島の習慣には興味があった。興味だけだなんて言うやつもいたがね。あの男は、楽園教を蔑ろにするようなことだけは無かったさ』
 だから探していたっていうのに、と老人は言った。
「療養所の跡地、でしたか」
 情報を整理するように宵は薄く口を開く。行方不明の調査員は、療養所の跡地を調べていたという。火事によって焼失し、建物は残っていないというのが老人の話だ。
「医者は自ら火をつけたんじゃないかという話を、調査員は心配していた。……心配は、おじいさんの考え方かもしれませんが、気になりますね」
 呟いて、宵はザッフィーロへと視線をやる。
「あぁ。自ら火をつけたとなれば、火を付ける程の何に出会ったのか、だな」
 そこに何かを見出したのか。何より、あの老人は調査員とは「最近会ってない」と言った程度なのだ。行方不明になってそう時間は経っていない。だからこその生存の可能性ではあるだろうがーー……。
 頷いた男は、緩く続く坂道の先へと視線を投げた。海を見下ろす土地。焼失した療養所へと二人は向かった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

冴木・蜜
隔絶された村に根付く宗教ですか
さて 何が出てくるでしょう

悪魔祓い一行の医師という体で入りましょう
悪魔祓いの儀式は何というか
消耗するでしょう?

悪魔祓いを行う猟兵の後に付き
処置後の対象の容態を診て回りましょう

そういえば
療養所があったようですが
この島には医師はいらっしゃるのでしょうか
…なんて話を振りながら紛れ込めたらと

話の合間に
そっと指先を液状化し『剥離』
毒液を島内に解き放ち
UDC職員の行方を捜させます

何処かに監禁されているかもしれませんが
毒液ならば隙間も抜けられる筈
見つけたら彼の状態もよく確認しておきましょう

そのまま毒液を彼に付かせておきます
場所を移されてしまうかもしれませんし


コノハ・ライゼ
悪魔祓いねぇ
あながち間違いじゃナイか

髪上げ眼鏡にスーツ姿で
真面目素直人間(私・ですます口調)を演じる
警戒してそうな人に近付こか、ナンか知ってそうだし

悪魔祓いに見えない?よく言われます
では実証しますよ、と
差し出す真白なカードにじわり滲むように見せかけ【黒管】呼び出す
祓うなら「使える」ものです
カードを翻し仔狐を消す振りで相手に忍ばせ情報収集
他に接触した人へも同様に

所で楽園教なる教えを語れる方はいますか、と聞いてみる
仕事柄死の先にあるものとは切っても切れない関係でして
大変興味深いのですよと関心を示し
話ができたら聞いてみたい
死を尊ぶと言うが
例えば自死、あるいは他殺
どんな死であっても等しいものなのか、と



●指先から伝わるもの
 島には、車という移動手段は無いようだった。家々を見る限りはそれなりに存在はしていそうだが、客人をそこに乗せるという文化は無いらしい。外界を警戒してのものかと思っていたが各集落の行き来は、自転車や徒歩が多いのだと言う。
「結局のところ、それでことが足りますからな」
 自然であると最もらしく理由をつけた村人は、役場に程近い集落に住う者であった。白髪混じりの髪に、一見人の良さそうな笑みを浮かべ「それで」と村人はこちらを向いた。
「悪魔祓い様と……」
「医師です」
 静かに、そう告げたのは冴木・蜜(天賦の薬・f15222)であった。医者ですか、と告げる言葉には悪魔祓いから問うた時と同じような警戒心があった。
(「この方は、悪魔祓いも医者も歓迎はしていないようですね」)
 思い当たる節が無いのだろう。
 港や、道中の集落で見たのは多かれ少なかれ悪魔祓いを求める姿だ。今起きている「何か」を解消してくれるに違いない、という淡い期待めいた何か。それがこの村人には無いようだった。
「悪魔祓いの儀式は何というか、消耗するでしょう?」
「そういうものなのかね」
 眉を寄せた村人の視線が、ひたりともう一人に向く。スーツ姿の男に、だ。紫雲に染めた髪を上げ、品の良いスーツに身を包んだ青年はにこりと微笑んで告げた。
「はい」
 曰く、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は嘘吐き気紛れお調子者である。
 きっちりとした姿に身を包みーーだが、悪魔祓いと言うには些か、一般人めいた姿はそれっぽいものを期待していた様子のある村人には訝しく映ったらしい。
(「というカ、悪魔祓いって言えばコレって言うのが無いのネ」)
 こう言う姿をした人間が来るものだ、という認識は彼らの中には無いのか。コノハよりは年上のーー初老に差し掛かろうとしている男は、足先から頭までじっと、コノハを見た。
「最近の悪魔祓い様は変わっているもんだね。山間の連中が、はやって出したからそうなったのか……」
 はやって、と言うからには、村人は「まだ」と思っていたのか。少なくともその時点で呼ぶ気は無かったのだろう。コノハは蜜を訝しんで、と言うよりはそっちの方が強いのかもしれない。
(「悪魔祓いねぇ。あながち間違いじゃナイか」)
 逸るほどの何が起きていたのか。
 今すぐ聞くよりは、と思いながらコノハは微笑を浮かべた。
「悪魔祓いに見えない? よく言われます。では実証しますよ」
「実証だ?」
 えぇ、と微笑んでコノハは真っ白なカードを差し出す。面も裏も、白い美しいカードが、ふいにその「色」を変える。じわり、と滲むように、波紋を描くようにして指先程の黒い管狐が姿を見せたのだ。
「な、これは……!」
「祓うなら「使える」ものです」
 カードを翻し、コノハは笑みを浮かべて見せる。指先でくるり、と回ったカードは真っ白な色彩に戻り、黒は消える。
「おぉ……。ふん、これが悪魔祓いの証か。なるほどな。役立ちそうじゃないか」
「何よりです」
 にこりと浮かべる笑みは変わらずに。カードを翻した瞬間、相手へと忍ばせた仔狐をコノハはそっと見送った。
 男は、その集落の長なのだという。代理ではあるが、と言う男の話によれば、その集落は元々は村長が長を務めていたのだという。
「村長は、楽園に向かわれたからな。村長の家の者が務めるべきだというのに、全く、哀しみが深いのかもしれないが……」
 寂しさ自体は、否定はしないのか。ぶつぶつと言う長の代理は、この集落で数人、悪魔祓いが必要かもしれないのだと告げた。
「最もまだ、頃合いでは無いかもしれませんがね」
「頃合、ですか」
 小さく、首を傾げたのは蜜だ。医師だと最初から名乗っていた彼の問いかけを、長の代理が不思議がることもないのか。えぇ、と最初よりは随分と警戒も溶けていた長の代理は言った。
「死は起き上がるもので、体を通り越し、魂を拐うものんですからね。もっとしっかりと見えなきゃ区別がつかないでしょう」
 祓うべき悪いもんが。
「楽園に行くには、悪いもんを払ってからじゃないと死ねないって言いますけどね。もしかしたら、普通に行くだけかもしれないでしょう」
 この集落では悪いもんなんて何ひとつ、出てないかもしれないんですから。

●ルリカ・オオミヤ
「ぁ……ぁあ」
 案内されたのは、二階に用意された少女の部屋だった。子供らしい部屋に、だがカーテンはしめきられている。光を嫌うのだと告げたのは、少女の母親だった。
「要請は、山間の方が亡くなって消えたって聞いていたんですが……あぁ、良かった。外から悪魔祓い様が来てくださったのですね」
「ーーえぇ、お任せください」
 彼らは一様に「悪魔祓い様」と告げる。悪魔祓い士ではなく、だ。それを行う人よりは、それを行って貰った事実が重要視されるのだろうか。
(「ま、それよりは今はこっちかしラ」)
 ぐったりとした様子の少女に、小さく目を見張ったのは蜜だった。高熱です、と短く告げた彼に頷いて、母親に向き直る。必要な儀式があるのだと、同じようにカードを翻して見せればこくり、と母親は頷いた。
「お任せいたします。ルリカは、本当に普通に元気だったというのに、この前遊びに出たらいきなり……。風邪だと思っていたのに、悪魔が出て行かないのです」
「それは大変ですね。お任せください」
 そっと、信頼を得るようにコノハは視線を合わせるように告げた。看病に使っていた品だろう。水桶に、タオルなどが部屋には置かれていた。
「風邪では心配ですね。そういえば療養所があったようですが、この島には医師はいらっしゃるのでしょうか」
 必要であればご挨拶を、と告げた蜜に、母親は緩く首を振った。
「療養所は随分と前に無くなったんです。先生もその時の火事で一緒に……。あれは本当にいたましいことでした」
「そうでしたか」
 いたましいこと、と母親は告げた。亡くなった医者は、彼らの言うところの楽園に向かった訳では無いのか。感じた違和を手放さぬよう、蜜はそっと頷いた。
「あ……ぁあ、あ。ひか、りが」
「あぁ、ごめんなさいね。ルリカ。今、しめるから。悪魔祓い様、それでは後は……」
「えぇ、お任せください」
 あとは少し準備に、と部屋を出たコノハに頷いて、蜜はそっと少女へと近いた。息が浅い。発熱しているのは分かる。触れることは出来ないが、状況は十分理解できた。
「母親の言う通り、風邪と言えますね。代理殿は風邪であって悪魔の仕業では無いと言いたげでしたが……」
 古来、目に見えぬ病は悪魔の名を持った。島の歴史を思えばそんな言い方が残ったのも不思議はない。だが、それならば何故、医師がいつかないのか。孤島を嫌うと言うことは不思議ではない。それとも理由は楽園教か。
「隔絶された村に根付く宗教ですか。さて 何が出てくるでしょう」
 すい、と伸ばした指先からぱたり、ぱたりと「黒」が落ちていた。怪我をした訳では無い。指先を少し液状化しただけのこと。溢した毒液は、家の隙間から滑るように外へと出た。向かうべきは、調査員の居場所、だ。
「何処かに監禁されているかもしれませんが、毒液ならば隙間も抜けられる筈」
 だが、探すだけでは時間もかかってしまうだろう。ある程度、あたりがつけられれば良いのだがーー……。
「おかえりなさい」
「ドーモ」
 考え込んでいれば、部屋の扉が開いた。薄く入った光に、少女が声を上げる前にコノハは素早く扉を閉める。
「面白いこと聞いたヨ」
 曰く楽園教について。
 所で楽園教なる教えを語れる方はいますかーーと声をかけたコノハに、母親は驚いた様子だった。ご興味が、と問いかける姿は、純粋な驚きと僅かな警戒を滲ませる。
『仕事柄死の先にあるものとは切っても切れない関係でして。大変興味深いのですよ』
『まぁ、そうでしたか。失礼致しました。私も信徒ではありますが……近所に姉がおりますの。呼んでおきますわ。その間に私でも答えられることがありましたら』
 母親の姉は、祭司を務める地位にあるという。最近は忙しくて会えずにいるのだと言う母親に、そうでしたか。とコノハは頷いた。
『死を尊ぶと言いますが、例えば自死、あるいは他殺、どんな死であっても等しいものなのでしょうか』
『あぁ、いいえ。自死は許されません。それでは、悪を祓い楽園に向かうことができないからです。魂を拐われてしまいますから』
 体はこの地に置いていくとしても、魂は楽園に向かう。悪魔に拐われることなど無く。
「だから、医者の死はいたましいことなんだっテ」
 自ら療養所に火をつけ、焼け死んだから。随分と熱心な先生だったから、悪魔が唆したのでしょう、と母親は言っていたがーー……。
「なァんか、見つけちゃったのかもネ?」
「あぁ、それで。医者についてはいたましい、と言うのですね」
 蜜の言葉に、コノハは軽く肩を竦めて見せた。
「ソ。それと、最近は、興味があると言いながら教義を曲げる者がいて、楽園教は大変みたいだヨ」
 宗教における教義の解釈により分離は、然程珍しくは無い。この地では、緩慢に死を迎えるーーと新派たちには言われているーー到来の派閥と、真新しい楽園に向かうことそれそのものを目的とした派閥が生まれているのだという。
「素早く楽園に行こう、ってネ。今、この世界よりは楽園に、ってまぁ怪しい話デ……」
 デショ、と続けようとしたコノハがふと、眉を寄せる。
「この部屋のもの、やっぱり減ってよネ?」
「えぇ。先のリビングで見た時も思いましたが、こちらがユーベルコードを使用したタイミングで水差しが消えています」
 手品みたいに。と呟いて、蜜は水差しに置いてあった場所へと手を伸ばす。瞬間、焼けるような痛みと共に傷が走った。
「術式かな? 直接の攻撃にしては、甘いけれど。母親の話だと良い水らしいけどねぇ」
 島であれば水に憂うこともあるだろう。
 その意味合いでの良い水かとも思ったが、普通の水がユーベルコードを使ったタイミングですぱんと入れ物ごと逃げて堪るかという話だ。リビングには普通のミネラルウォーターとして置かれていたはずだ。すぱん、と一緒に消えていたが。
「ーーあぁ、こっちも、少し動きがあったみたいネ。話を聞き出した辺りから、接触した村人の動きが綺麗に半分」
 黒い管狐と共有した感覚から、手に入れた情報を告げる。
 家々に戻り篭るものと、一点を目指して動き出すものに分かれている。
「山間の方に、かしラ。を持って移動しているように見えるけれど。彼らが新派かしらネ」
「山間……、道中に療養所の跡地もありましたね。あぁ、だから……」
 島中を探るように走らせていた毒液を、一点に集中をさせる。何もない更地となった空間ではあるが毒液であれば隙間も迎える。ぱた、ぱたと落ちた先、不可解な空間で見つけた「ひと」の居場所が感覚として掴み切れていなかったのだが漸く分かった。
「療養所の地下、場所は移されるでしょうが調査員らしい姿は捕まえました」
 毒液を彼に付かせておいた。弱毒性の液体だ。彼自身に何かが起きることは無い。静かに告げて、あと。と蜜は視線をあげる。
「この子に注がれていたものに、覚えがあります。中身に、というよりはあり方にですが」
「あの水が理由ってこト?」
 コノハの言葉に、蜜は静かに頷いた。
「はい。始まりは軽い風邪だったのでしょうが、今は、病を注いでいたのではないでしょうか」
 水を媒介として運んだ。その名残ですら、猟兵たる蜜を傷つけたというのに、少女がいまだ無事なのはーー……。
「狙われたのはこっち、なのかナ?」
 コノハは笑う。指向性を持つ病。邪教集団にとってそれが「準備」であるのか「実験」であるのかは分からない。だが、そうしてこちらを狩り出す気であればーーそう、それならと薄く開いた唇はゆるやかに弧を描いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

喜羽・紗羅
(死者を尊ぶ――でも過去に縛られ過ぎってのは良く無え
一死者として、俺はそう思うがな)

そういうモノなの? まあ、着けば分かるでしょ

はーい悪魔祓いでーすって、普段の格好で行くね
先ずは一人で楽園教の話とかどんな悪魔を祓うのか等
コミュ力を生かして情報収集よ

で、隠れられそうな地形を利用して俺も出る
聞いた話から怪しい場所を探索するぜ
目と耳と身体能力をフルに使って見つからない様に
儀式の場所を探らなきゃな
半径二キロ半から逸れねえ様に注意しつつ片っ端から当たるか

私は引き続きスマホで証言を記録したり色んな場所の写真を撮るよ
ちゃんと他の人とも共有して早く探さなきゃ
調査員の人、お医者さんなら診療所とかに何かあるかな?



●ひとり/ふたり
「はーい悪魔祓いでーす」
 たん、と軽やかに船から飛び降りて名乗ったのは、結い上げた茶の髪を揺らす娘だった。常と変わらぬ服装で、だが、堂々とそう告げた少女の明るい姿に、伺うように港に来ていた人々がぽかん、と口を開ける。
『……おい』
 頭の中、ため息と諦めとーーその他いろいろなものが混ざり合った鬼婆娑羅のツッコミが聞こえたが、うん、放置だ。その辺りは15歳の心を保っていたいお年頃なのだ。多分。
「えと……あ、はい?」
「いや、はいじゃないだろ。お前。悪魔祓い様が来たんだから……、どっか案内すべき、なのか?」
 我に帰った村人たちは、島に久しぶりに来るという悪魔祓いを一度くらいは見てみよう、と集まっただけのものらしい。喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)よりは年嵩の青年たちは、互いに顔を見合わせた後ーー少しばかり悩んだ後に言った。
「多分、この辺りより役場が山間の集落の方が必要としているんじゃないかと思いますよ」
 たぶん、と二度目の言葉は、悪魔祓いという言葉を必要とした島の人間にしては、妙にあっけらかんと響いた。

『死者を尊ぶ――でも過去に縛られ過ぎってのは良く無え。一死者として、俺はそう思うがな』
(「そういうモノなの? まあ、着けば分かるでしょ」)
 役場にほど近い集落と、山間であれば役場の方が「比較的栄えている」のだという。彼らの言葉で言えば、ちょっとだけシティ、だ。世間話のように悪魔祓いを必要とする地域を口にする青年たちは、紗羅を集落の入り口まで案内すると家に戻っていった。
「港の方の人っぽい感じか。それにしても、悪魔を祓うのは悪いものを祓う、かー……」
 なんと言うか、そのまんまだよね。と紗羅は思う。それを分かるのが仕事っしょ、と言われて仕舞えば、悪魔祓いを名乗りながらどんな悪魔を祓うのか村人に聞くのは奇異に映ったのかもしれない。
(「悪魔祓いは、こう言う感じ、って言う見た目のイメージは無いみたいだけど。何かしてくれる人ってイメージはあるみたいよね」)
『らしさじゃないのか?』
(「うーん、そうかもしれないけど」)
 ちょっと、違和感があるんだよね。と息を溢す。ざわつくような感覚は、集落で出会った人々によって答えを得ることとなった。
「いやぁ、驚きましたよ。悪魔祓い様が、あの若いのたちと一緒にいたんですから。そりゃぁ楽園教についても確認したくなるでしょうねぇ」
 あの若造たちは、と饒舌な村人は告げた。
「昔の考えにはついていけないって連中ですから」
「昔の? でも楽園教は伝統があるものでしょ」
「えぇ。勿論ですよ。死は起き上がるもの。、体を通り越して行って、魂を拐うものですからね。私たちは、魂だけは拐われちゃならないんです」
 楽園に向かう為に、と告げる村人は楽園教の熱心な信徒なのだという。彼に関わらず、村人の殆どが楽園教の信徒だ。信徒でない者は、外から流れてきたものなのだという。
「この土地の人間じゃないと、どうにもって話みたいでね。まぁ、土葬が珍しいって言われればそう見たいな気もしますがね」
 この島には火葬場もありませんから。
 島の文化は、外から流れてきた人には分かりにくいのでしょう。という言葉自体は、ひどく、静かに響いた。そのことを村人も不思議には思っていないのだろう。
 だが、若者たちについては違う。
 彼らは島の人間で、島の文化に育ちーー今、楽園教の昔の考えにはついていけない、と話をしているのだという。それ自体は、もしかしたらよくあることかもしれない。村人も、若者たちを「あの若造たちは」と怒るように言いはするが、そのこと自体を特別罰しようとしている風には紗羅には思えなかった。
(「どうだろ」)
『怪しいだろうな。起きている状況……、事情を知っているこちらとしちゃぁな』
 小さく紗羅は己の中にいるもう一人に問う。にこにこと村人の話を聞きながら、通りを曲がるタイミングで、とん、と影を踏むように「ひとり」が出た。
「……」
 鬼婆娑羅だ。
 路地裏を隠蓑にするように、出た鬼婆娑羅を視線だけで見送って紗羅は話を聞いていく。聞いた場所ーー療養所と、山間を探索してもらうのだ。とはいえ、半径二キロ半という制約を思えば行けるのは山間までか。
「ーー……で、おや。何か?」
「ううん。本当に大変だなーって思って。悪魔祓いに来れて良かった」
「私たちも悪魔祓い様に来ていただいて助かりました。これで、叔父も行くべきかどうか分かります」
 聞く限り、悪魔祓いを必要とする人々の症状は「風邪」に近かった。高熱。うわ言を繰り返す。記憶の混濁は熱の所為とも言えるがーーこの辺りは本業の医者がいれば詳細を掴んでいることだろう。
(「悪魔祓いをされて、直ればまだ楽園に向かうべき時じゃなくて、治らなくとも悪を祓ってもらったからハッピーに楽園に行ける……っていうのもなぁ」)
 その為の準備を、日々行う。
 死者の誕生日、死者の為の正月を祝うのは楽園へと向かった魂たちが楽しく暮らしているように願うものでありーー次に楽園へと自分たちが無事に迎えるように願うものだという。この地において、生死は地続きなのだろう。
 楽園は行く場所であり、向かう場所であり。
 死は逝くことではない。
「山間のばあさまのも、今年の終わりにはやるんでしょう。まったく、ばあさまも一度は、はやって要請を出すから、来てもらうとかもらわんとか揉めることになったんですよ」
 外から流れてきた人がいたから、ばあさまも良いとこ見せようとしたんじゃないかって気もしますけどね。と村人は息をついた。若い人でしたから、と言うのは調査員のことか。医者では無かったのは、話を聞いて分かっている。診療所は村には存在せず、療養所だけが「あった」という。火事があって今は更地だという。
「そうだったんだ」
 人好きをする笑みを浮かべながら紗羅は頷いて見せた。村人は写真を撮られるのを好まない。流れてきたものもいるからだ。やめたほうが良い、と村人に言われてしまえば、出しっぱなしにはできない。
(「でも、記録に残るのを嫌がる……っていうのが当たり前で、調査員のひとは調査に来てたわけだし」)
 うまくやっていたが、失敗したのか。
 証言の記録だけはそっとスマホでしながら、紗羅は鬼婆娑羅の帰りを待つことにした。

 ーーやがて、帰り着いた娘の半身は告げる。山間には墓が複数。見慣れぬ言葉で描かれた卒塔婆が立ち並び、変わってはいたが普通の墓ではあったと。ーーだが。
『さっき会った若造たち。あいつらが、他の連中らと妙な話をしてた。墓の中身も使える頃だから、ってな』
 みんなでさくっと、楽園に行く為に。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジュマ・シュライク
死者を重んじるにせよ、色々とひっくり返ったようなところですわね。
服装はいつもの儘で大丈夫でしょう。

呼ばれたからには憑かれた方がいるのでしょう。
何人の悪魔祓いが向かうか解らないから、周辺の情報を探るべきかしら。
聴く対象は若い女性に。
内容は悪魔憑きの情報と、ついでに婚礼について。

お話を聞かせてくださいな、その人の元の人となり、記憶の混濁はいつからなのか。
悪魔祓いには多角的な視点が必要だから、手分けをして聴いていますの。

ああ、そうですわ。
死後の婚礼こそが至福とか、そういう逸話があったりしますの?
これはアタシの個人的な興味ですけれどと断わりつつ。

楽園にこそ運命があるのか。
運命があるから楽園なのかしら?



●生死のあわい
 港についた船が、そそくさと去っていくことに村人たちはなんら違和感を感じてはいないようだった。忌避されることには慣れているのかーーそも、そういうものであるのか。かといって、悪魔祓いを見送る船頭にこちらを止める様子は無かった。
 何もかも、そういうものだと言うように。
「死者を重んじるにせよ、色々とひっくり返ったようなところですわね」
 ほう、と長身の男は息をついた。潮風に長い髪が揺れる。鬱陶しさは、山間から流れてくる風で少しばかりマシになる。木々の匂い。水揚げもとうに終わっているのか魚の匂いは無かった。
(「動きやすい、と言えば動きやすいですけれど。変わったところですわね」)
 村は、静寂に包まれている。
 見る限り、静かな村だと言えるのに奇妙な違和感がジュマ・シュライク(傍観者・f13211)にはあった。
 ーー呼ばれたからには憑かれた方がいるのでしょう。
 だが、船に乗り込んだ猟兵の中で、どれだけの悪魔祓いが向かうかは分からない。港に集まった人々を見る限り、こっちだと手を引いていく雰囲気でも無い。となれば、皆、それぞれに足で情報を稼ぐこととなったのだろう。誰がどこに行った、と分かる程、村人たちは噂好きでも無いようだ。
(「それなら……」)
 山間の集落へと差し掛かった所で、少女たちの姿に気がつく。ジュマを見て、ぽかん、とした少女たちはぱたぱたと家に戻ってしまった。
「怖がらせてしまったかしら。……あぁ、いえ」
 家に駆け込んだ少女たちの「ねぇねぇ」と明るい声が響く。あれは、姉や母親を呼びに行った声か。賑やかさに一度だけ、そっと息をつくと、ジュマは顔を出した女性たちにそっと、胸に手を当てるようにして一礼をした。

●ローザ・ローレッジの婚礼
「お話を聞かせてくださいな、その人の元の人となり、記憶の混濁はいつからなのか」
「いつからか、ですか?」
 小さく瞬いた女性ーー少女たちの母親は、妹だという女性と顔を見合わせた。
「悪魔祓い様は、悪魔を祓うのでは……」
「悪魔祓いには多角的な視点が必要だから、手分けをして聴いていますの」
 疑問を抱かれる可能性は理解していた。だからこそ、静かな笑みを浮かべたままジュマはそう言葉を添えてみせた。
「あぁ、ごめんなさい。そうですよね。私ったら、悪魔祓い様を不思議に思うだなんて」
「まったく。ユイちゃんはいつまで経っても、疑いがちなんだから……」
 最初に見た少女たちからすれば叔母にあたる女性ーーユイは、申し訳なさそうに眉を下げた。
「すみません。悪魔祓い様。えっと、私の知っている限りだと……あれかしら。みんな熱は高いし、譫言も言い出して。港の方のトキノワさん家の長男も、変な絵を描いたりしたって」
「あれは、トキノワさんも心配されていたわ。悪魔祓いが必要だって。みんな、元気に遊びに行っていた子だったから。きっと悪魔に魅入られてしまったのね」
 悪魔。
 魅入られる。
 聞いた言葉を単純に解釈すれば、高熱による症状だ。風邪とも言えるだろう。外に遊びに行って、時として一緒に遊んだ子も、遊んでいた子にも移る。村の言葉で言えば『魅入られる』だろうか。
「ーーあぁ、それと。記憶が曖昧になるのはあれよね。悪魔に魂を拐われる前にしか起きないって言われていたけれど、最近の子たちは、光を嫌うのよね」
「光、ですか? 日の光かしら?」
 母親は、ジュマの言葉に緩く首を振った。
「日の光も嫌うけれど、確か部屋の灯りも嫌うものだから、部屋を真っ暗にしないといけなくて大変だって話なんですよ。夜でも暗い部屋ばっかり増えてねぇ」
 家に人がいるんだか、いないんだが分からないんですよ、と母親は苦笑した。島の文化だ。隣人は近く、島以外の人間がいれば流れてきた人だとよく分かるのに、と。
「でも、姉さん。最近は良い水も手に入るようになった、って話でしょう? 熱が出ている子たちによく効く良い水だって。硬水だか、軟水だかの」
「あぁ、そうそう。みんな心身深い楽園教の子だもの。悪魔祓い様に見ていただければ、悪を払っていただけるわ」
「お話を聞きましたもの。お任せいただけると」
 口元に微笑を浮かべ、瞳の奥をそっとジュマは細める。良い水。邪神絡みで無くとも、札付きの怪しいビジネスが顔を擡げる。
「ああ、そうですわ。死後の婚礼こそが至福とか、そういう逸話があったりしますの?」
 ひとまず水のことは置いて、ジュマは二人を見た。
「これはアタシの個人的な興味ですけれど」
 ひとつ、断っておけば少女たちの母親と叔母は、まぁ、と驚いたように手を打った。
「驚いたわ。興味を持たれていただけなんて」
「本当ね、姉さん。外でも、楽園教のような考え方があるのかと思ったわ」
 くすくすと囁き、笑いあう二人は微笑んでジュマへと向き直った。
「えぇ、楽園にて行われる婚礼こそが最も幸せなんです。肉体を捨て、魂だけであれば離れることは無いですから」
 離れ離れになるのはとても悲しいことですから。
 そう言って、ユイと呼ばれた女は微笑んだ。
「運命の二人。永遠に離れることが無いのは幸せですから。楽園であれば真に結ばれるもの」
「本当に。楽園教の司教様にお願いすれば、試練を経て行えるのですが……試練を突破できるのかはやっぱり心配になってしまうのよね。ちゃんと飲み干せるかどうか」
 そういえば、と母親が顔を上げる。
「村長の娘さん、ローザちゃん。確かいい人がいたって話ではなかったかしら。流れてきた方だったけれど」
「あぁ、でも。流れてきた人だと、お父様が良い顔をして無かったって話よ。先に楽園へ行かれてしまったけれど」
 結局、山間で式はできなかったのよね。とユイは息をついた。
「ローザ、他の村人と添い遂げさせられてしまうのではないかしら? 年頃だもの」
「ユイちゃんはドラマの見過ぎねぇ」
 クスクスと笑い合う二人にとっては、姉妹の会話にすぎないのだろう。だが、邪神絡みの事件が起きている、と知っているジュマから見ればーー話は違う。
 流れてきた方、というのは恐らく調査員だ。村長の娘は彼の協力者であったのか。
 村長の娘は何かを行う気であったのかーー行なわされることとなったのか。
 暗がりの増えた家。
 奇妙な水。
 それまでには無い「記憶の混濁」は何かを見たからか。
(「楽園にこそ運命があるのか。運命があるから楽園なのかしら?」)
 恐らくは、とジュマはそっと息をつく。二人には決して悟られることもないままに。
 楽園は今や歪められてある。
 運命があるから楽園と。村人たちでさえ知らぬ間に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
●連携アドリブ歓迎

楽園と死、か。
宗教とは生きる為の法則に、神と言う権威付けを行った物。いずれ死に至る生者への警句なら兎も角、死者へ重きを置くのは珍しい。

では、調査と行こうか。先行して動いている猟兵との情報共有は密に行うよ。

ボクは療養所へ足を向けようか。今はもう廃墟だろうけど、その手の場所は潜伏に使われる事も多いからね。
常時UCを起動させて広範を見渡して【情報収集】。気になった箇所は『水月の識眼』で注視し『叡月の欠片』で分析を。

また、島民が居れば【コミュ力、礼儀作法】で警戒されない様話し掛ける。『アミュレット』を見せれば【威厳】も出て信用され易いかな?

神と信仰、その一端を掴めると良いのだけれど。



●遙か高きより
「楽園と死、か」
 背の低い家々の並ぶ通りを抜け、ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)は小さく、息を溢した。
「宗教とは生きる為の法則に、神と言う権威付けを行った物。いずれ死に至る生者への警句なら兎も角、死者へ重きを置くのは珍しい」
 静かに紡ぎ落とされる言葉は、少女にしては饒舌であったか。事実を分解し、理解するように重ねられた言葉はユエインの中にだけ、静かに落ちる。集落を歩き回る人々は、多くは無かった。
「療養所は……、あぁ、うん。この辺りなんだろうね」
 漆黒の瞳を瞬かせ、ユエインは頷く。眼鏡装着型デバイス・水月の識眼から展開させた情報には建物の痕跡が表示されていた。
「見事なまでに、消失したんだな」
 療養所はもう、無くなっているんですよ。
 場所を聞いた時に村人はユエインにそう言った。火事があったのだと言ったのは、次に出会った村人で誰もが痛ましい話だと言っていた。確かに、ここまで何も残らないほどの火事となればーー余程、だ。
「建物の痕跡から見る限り、火事があったのはそう昔って訳ではなさそうだね。潜伏に使うには……あまり向かないかな」
 何せ更地だ。
 それなりの大きさがあったのか、顕になったコンクリートからは、家で見れば三軒程の広さが伺える。少しだけ残っている壁も、随分と傾いてしまっていた。裏庭らしき木々に、焦げた様子が見えないのは焼けるものは焼け切ってしまったからだろうか。地上から見る限りでは、まっさらな土地に、ユエインは少しだけ考えるようにして息をついた。
「広範囲を見渡せば、何か見えるかもしれないね」
 此処から見て分からなくとも、視点を変えればこの辺り一帯の状況を確認することができるだろう。
「我は遥かな塔の頂きより、世を眺むる者……」
 はたはたと、少女の礼装が揺れる。漆黒の衣が揺れ、白き月が踊る。
「さぁ、その素晴らしさを見せてくれ」
 ユエインの周囲に現れたのは幻影の塔であった。漆黒の瞳をゆるり、と開いた少女の言葉に誘われるようにそびえ立つ塔の頂上より、塔主が世界を見渡して行く。
「……」
 中庭の木々と、更地となったこの場所。痕跡は見て取れたが、このコンクリートは火事の後に行われた工事だ。焼け残った土台ではない。
「……」
 ゆっくりと、ユエインは歩き出す。漆黒の瞳が小さく瞬く。瞬間、起動した叡月の欠片が年代の測定を行う。眼球装着型のデバイスは、少女の瞳に大量の情報を浮かび上がらせーーそれを、人形の少女は処理して行く。
 迷うことなく、惑うことなく。
「火事があった後に作られた……、あぁ、だから他より此処は少し高いのか。何故……は、今はいらないね。まるで蓋をしたみたいに分厚いのに、埋めたと言う感じじゃない」
 何か、と考えたその時にするり、と滑り込む「もの」が見えた。コンクリートの下にーーひび割れるようにしてあった隙間に滑り込んでいくのは、他の猟兵のユーベルコードか。
(「この下に何かを見つけたのかな……? もう一度、此処を詳しく調べたほうが良さそうだね」)
 すい、と塔主へと視線をやる。瞬間、広がった視界でーーふと、ユエインは気がついた。
「あの木、やっぱりおかしいな」
 木々には、生え方というのがある。光をより多く取ろうとするのが木々のあり方だ。歩く木の話を物語のように描いた本を思い出しながら、ユエインは中庭へと向かう。
「やっぱり、太陽とは違う向きに向いているな。他の木があって、焼けたのかな……」
 それなら、と考えながら視線を向けた先、漆黒の瞳が瞬く。
(「……これは」)
 木の見え方が違うのだ。塔主を通して見た時と、ただ普通に見た時では。
「ユーベルコードに反応して……? 魔術的な封印か何かかな」
 若しくはそれに似た何かか、と少女が呟いたその時「あれ」と声がした。
「悪魔祓い様ですか? 療養所の跡地で何か?」
 村人だ。
 若い青年たちの姿が不思議そうにこちらを見ているのは、悪魔祓いであれば『悪魔祓いをしにいく』だろう、と思っているからだろう。
 対象がいない療養所を見ているのは彼らには不思議に映ったのだ。
「ーー、祈りを」
 ややあって、アミュレットを見せるようにユエインは告げる。手の中、収めたブルーストーンが淡く輝きを零せば、ぱち、ぱちと青年たちは瞳を瞬かせた。
「すみません。悪魔祓い様に会うの俺たちも初めてで」
 青年たちの謝罪に、ユエインは静かに首だけを振る。表情の変わり難い姿が今は役立ったようだ。
「先生のことはほんと、残念な話だったんで。あれじゃぁ、楽園に行けないですからね」
「そうか」
 安易には問わず、頷きに似た声を漏らす。えぇ、と青年たちは顔を上げた。
「自分で死んじゃぁ楽園には行けないですからね。悪魔が連れ去ったかもしれないじゃ、扉は開かないですかね」
「やっぱり、妙なことになるよりさっさと楽園に行く方が良いですよね」
 こう、さくっと、と青年たちは笑う。軽い言葉と笑顔と共に紡がれる言葉が、中身とはまるで合ってはいなかった。

●神の御国の来たらんことを
 ーー楽園を来たらせたまえ。

 青年たちが去ったのを確認して、ユエインは見つけたものに手を伸ばす。そこにあったのは古びたノートだった。大部分が汚れ、読むことはできないがーーその多くが祈りであることが分かる。
『……、が、分からなくは無いのだ。彼らが、楽園を求める理由も。嘗てこの地は多くが死に過ぎた。流行病を理由に閉じ込められた』
『自死を禁じたのは、ただただ骸を増やさぬ為だろうと彼は言っていた。歴史学者だと告げた彼が、本当なそんなものではないことは薄々感づいていた。あぁ、だが感づいてしまったのだから……やっぱりあれは、そうなのか私の患者は』
『……悲しい。あまりに悲しいからだ。生きた生き抜いた人々の最後が、消えてしまうだけでは悲しいから楽園を求めたのだ。死ぬまで生きた人々のために。死者のために。だというのにだというのに!』
『失敗だ。失敗した。誰も逃げられない。逃げられたものさえ逃げなかった。焼き尽くさなければ。私も、嘗ての医者たちと同じになるのか。いや、だがこれは、これだけは、必ず決して、決して……!』

「外に出しては行けない。封じなければ……。終わりにしなければ。此処で……? 火事は何かを滅するためにあったのかな」
 火で消せるものは何だろうか。焼失させるつもりであったのに、此処にノートが残っているのは誰かにそれを知らせる為だろうか。
「……これ」
 バラバラになりかけたノートを軽く纏める。そこに妙なくぼみがあった。何かを書いた跡地か。叡月の欠片を使い、再現する。そこに見えたのは多重で描かれた円と奇妙な文字。それの一角に書かれたばつ印。
「これって、この辺りの地図かな……。じゃぁこれは、魔法陣か召喚の……?」
 その一角を削るように、療養所は焼失していた。まるで、自らその陣を砕くように。

 やがて、静寂に包まれていた村が動き出す。ひとり、ひとり思い出したかのように動き出せば近づく足音と共にユエインは妙な空気を感じた。生暖かい感覚。違和感よりは強い危機感。
「これは……」
 何が、と告げるより先に指先に痛みが走る。展開していた塔の幻影が警戒を告げるように揺れた。
 ーー何かが来る、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『対猟兵用生物兵器』フォーラーオブレリア』

POW   :    【常時発動型UC】オブリビアン・パンデミック
【空気中を浮遊した後、接触した対象に感染】【する。同時に、接触した対象の体内に侵入、】【増殖するのに最適な肉体構造に変化する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    【常時発動型UC】バイタル・ゼロ
【感染した対象の肉体(有機物以外も対象)】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【感染した対象を破壊するのに最適な肉体構造】に変化させ、殺傷力を増す。
WIZ   :    【常時発動型UC】デビル・エボリューション
戦闘中に食べた【感染した対象の肉体(有機物以外も対象)】の量と質に応じて【自己増殖、自己進化、自己再生する事で】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●神の御国の来たらんことを
「ーー楽園を来たらせたまえ」
 歌うように告げる声があった。柔らかな声音は子守唄でも歌うように響く。
「楽園を来たらせたまえ」
 それはこの地に伝わる祈りの言葉。死の淵にある者を、楽園へと向かわせる為の聖句。
「……れは、昔、違うものだったんじゃ、ないのか」
 擦れる声があった。運び出された自分の体が、どうなっているかは分からない。ただ、楽園に至る為の道が出来たとか、これでみんな一緒だとか、そんな声がしたのは覚えている。
「儀式が……始まるのか? 楽園教はそんなものじゃ、無かった筈なのに」
 苦しかったから、きっと。
 柔く紡いだ彼女は、だから楽園を求めたのだろうと言った。一生懸命生きて、苦しくても生きたみんなの終わりがーー……。
「苦しいだけなんてあんまりだからって、君は言っていただろう。リーリエ」
 ごほ、と酷くむせる。理由は分かっている。先生が言っていた「病原菌」だろう。ただの病原菌じゃない。そういう意味では、邪神が関わっていると疑った上は間違ってはいなかったのだ。なにひとつ。
「……なのに、俺は……、ん?」
 指先が汚れていることに気がつく。普段の彼であれば決して気がつくことのできないそれは、この地に自分以外の来訪者があった事を告げていた。
「まさかーー……」
「あぁ、目を覚ましたのね。愛しいあなた。もう直ぐ婚礼の時よ!」
「……リーリエ」
 周囲に何があるか分からない。暗いと感じるのと同時にひどく眩しい、とも思った。あぁ、あれを「眩しい」だなんて思ったら最後だというのに。
「ローザ、よ。私はローザ・リーリエ・ローレッジ。楽園教の司教! みんなを楽園へと導くの!」
「違うだろう、君は……!」
 続く言葉は、光に制される。そう、光だ。ただひとつ光っただけなのに、蹴り倒されたような感覚があった。ごぼり、と血を吐き出す。
「ふふ、ふふふふ。大丈夫、大丈夫よ。あの子が教てくれたの。楽園はやってくるわ。つらくて哀しい今なんて、生きなくて良いの」
「リーリエ……、これは、あの日、君を無理やりにでも島から連れ出さなかった俺の罰なのか」
 まだ普通だった君を、巻き込んだ俺へ。神からのーー……。
●フォーラーオブレリア
 ーー曰く、自死は楽園に至れぬという。
 故に島の人々は、療養所の医者の死をいたましいこと、と告げた。
 かの医師は、自ら療養所に火をつけたのだから、と。その意味を島の人々は知らない。
『焼き尽くさなければ。私も、嘗ての医者たちと同じになるのか。いや、だがこれは、これだけは、必ず決して、決して……!』
 ーーだが、一人の猟兵が見つけた療養所の医師の後悔と祈りがあった。
『外に出しては行けない。封じなければ……。終わりにしなければ。此処で……』
 医師は何かに気が付き、そして今、この島では「悪魔祓い」が必要となる状況が発生している。医者を呼ぶように、悪魔祓いを求めたこの島で患者がかかっていたのが風邪に似た症状であるということは猟兵たちも気がついている。同時にーー……。
「それだけではない」
 猟兵が呟く。
 猟兵たちが接触した「患者」たちは皆、一様に光を恐れていた。眩しさを嫌っているのか、と思っていたがそれも違うことがある猟兵からの報告で分かっている。
『あな、た……は。光……、あぁ違う。あの光じゃない』
 違う、というからには恐れるべき何かを知っているのだ。治療時、与えていたと言われる「良い水」は猟兵たちとの接触で姿を消しーー同時に、傷をつけた。
 猟兵たちに対して、だ。
 それができるモノなど、限られている。
 患者は皆、熱心な楽園教の信者か、その縁者であった。現存する島の宗教。その古くからを大事にする者は、誰にとって邪魔となり得るのかーー。

●楽園へと導かれるために
「……えぇ、ひどく単純に邪教集団にとってでしょうね」
 それぞれに手に入れた情報と共に、猟兵たちは療養所の前へと辿り着いていた。更地になったその場所に辿り着けば、四方から歩いてくる村人に気がつくだろう。
「うんうん、いたいた」
「やっほー悪魔祓い様! あれ、でも違うっけ」
「そう、こういう時は……」
 青年たちだ。村の、若い青年や女性たち。猟兵たちの中には、接触したことがある者もいるかもしれない。
「猟兵」
「そうだ、猟兵猟兵! いやぁ悪魔祓い様はなんでもできるってさすがですよね」
 からり、と青年は笑う。その顔が異様に白い。病的に白い顔に、青白い手を揺らしながら「でも」と彼は言う。
「邪魔はダメですって。俺たちはさくっと楽園に行くんですから」
「そうそう。どうせ楽園に行けるなら、今なんか捨てちゃっていーじゃん」
 青年が笑うと同時に、島のスピーカーから鐘の音が響く。
「みーなさーん、準備の時間ですよー!」
 場違いな程に明るい声。
 楽しげな音楽と共に響くその声に「あの子だ」と青年たちが笑い、ペットボトルの水を含む。それが、何であるか猟兵たちはもう知っている。
「オブリビオン……!」
 登録名をフォーラーオブレリア。
 別名を対猟兵用生物兵器。
 過去に人類に根絶された病原菌が邪神の力を借りて復活したと言われるオブリビオン。
 療養所の医者は、これに気が付き封じようとしたのだ。
「今までの楽園教は古いっすよ。新しく、すぱっと行きましょう! 何不自由ない、幸せな楽園に!」
「安らかな死こそ、楽園へと導いてくれるんですから。これならそれを叶えられる。全部終わったら、ローザさんの婚礼ですから」
 みんなみんな一緒に、楽園へと行く為に!

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●マスターより
 秋月諒です。ご参加ありがとうございます。
 二章補足です。
 二章は、フォーラーオブレリアに感染した楽園教新派の青少年、女性、少女が相手となります。POWは発動している状態です。
 POWを選択の場合は、新規の感染者を探すことはなく、再度の強化が発生します。
 感染者たちは、会話は可能ですが正常な判断をできる状態にはありません。知っている情報を、そのまま言うことはできます。
 一定のダメージを与えることにより、フォーラーオブレリアを排除破壊することができます。

新派のメンバーたち
 島の若者たち。漠然と未来への不安があったらしい。楽園教の熱心な信者では無かった。現在は安らかな死が楽園へと導くと信じる狂信者であり感染者

ローザ・リーリエ・ローレッジ
 村長の娘。楽園教の現司教。
 何らかの理由で邪神の干渉を受け正常では無い状態となっている。調査員の協力者であった女性。調査員とは恋仲であったらしいが、村長からは反対されていた。

療養所の医者
 故人。以前に島にいた医者。病原菌に気が付き、封じるために火災を起こすが失敗したらしい。調査員の存在に気がついていた。

*一章の結果により、悪魔祓いのが必要とされた患者たちは新派に取り込まれていません。また、墓場から遺体が起き上がって来たりもしていません。新派のメンバーのみです。

*冒頭、調査員の状況については共有してOKです。一章の結果からの追加情報です。
 調査員の現在地は移動中です。
*第二章開始時には、情報の共有は完了している、と言う形でOKです。
マリス・ステラ
「主よ、憐れみたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯り全身に輝きを纏う
光が星枢の青いペンデュラムに宿れば鎖が静かに揺れ始めた

「このままでは調査員の生命が危険です」

星枢のダウジングで彼の捜索を優先
『第六感』を働かせて追跡します

「彼を解放してください」

発見したら【不思議な星】
調査員の保護を最優先
周囲の味方も負傷時には使用

全身から放つ輝きを強めて『存在感』で『おびき寄せ』る

弓で『援護射撃』放つ矢は流星の如く
調査員の逃走や保護を助けます

「灰は灰に、塵は塵に」

オブリビオンは骸の海に還します
隙を見てローザに肉薄
攻撃は『オーラ防御』の輝きで防ぎ彼女を抱き締める

「魂の救済を」

愛の『属性攻撃』で浄化します



●楽園に至る
 一人、また一人と療養所に集まった人々は笑みを浮かべていた。へらへらと笑っているのであればまだーー良かったのか。病的に白い肌、青い顔をしながらも彼らはにこにこと笑っていたのだ。
「さ、俺たちの準備を邪魔しないでくださいって話ですよ」
「そ、さくっとさくっと行くんでいーんですからね。めんどくさい、今に付き合うよりは」
 青年たちの言葉、それだけであればある種、悩める若者の言葉であったのかもしれない。島で生きる彼らにとって、これから先、未来への憂いが不思議では無い。ーーだが、今の『彼ら』は違いすぎた。まっすぐに歩いてくるというのに、揺らぐようにその奥にオブリビオンの気配が見えていたのだ。
 対猟兵用生物兵器・フォーラーオブレリア。
 体内にそれを得た彼らがーー苗床とされた彼ら楽園教の新派たちは猟兵と渡り合うだけの力を持つ。彼らが日々の中、抱いた不安を何処までも利用される形のまま。
(「あの水は、部屋でみたものと同じ……」)
 あの時、とマリス・ステラはほっそりとした白い指先に残る傷跡を見た。ーーそう、残っているのだ。
「この傷は、あの水が……そこに潜むものがつけたもの」
 あれを邪教集団が利用した、と見て良いのだろう。利用された、かもしれないが。事実、この島にあった楽園教の中に潜み、毒するようにして新派を形成した邪教の信徒たちは、その姿を匂わせはすれども姿は未だ見せていない。いるとすればーー捕らえられた者の方にか。
「主よ、憐れみたまえ」
 祈りを捧げると星辰の片目に光が灯り、マリスは全身に輝きを纏う。ふわり、と金色の髪が揺れ、指先から零れるように光は星枢の青いペンデュラムに宿った。鎖が、静かに揺れ始める。
「このままでは調査員の生命が危険です」
 星の力を宿した鎖が、ゆら、ゆらと揺れーー僅かに持ち上がったそこで、キン、と甲高い音がした。
『だっめだよー!』
「ーー……!」
 響いた声は、直接頭に届いたのか。瞬間、不可視の力がステラに届く。肩口から裂けるような痛みが全身に走った。
「……っ」
 小さく息を飲む。だがそれだけだ。膝を折りはしない。引いた足で体を支え、た、と体を右に飛ばした。
「あっれー、おっしいな。こいつで終わりかと思ったのに」
 フォーラーオブレリアに感染した青年だ。新派の彼が、眉を寄せ、まぁ、と軽く肩を竦めた。
「もうちょいっしょ。すぐに、邪魔者はどかして終わりにしないとなんで。探すとか、ダメですよ」
「……探されると、困るということですか?」
 血に濡れた手で弓を掴む。先のあれは、フォーラーオブレリアの奥に潜む者ーーこの地に救う強大なオブリビオンからの干渉だ。青年たちを振り切り、捜索に向かったところで見つけることができなかっただろう。フォーラーオブレリアの感染者たちがいる状況では、まだ、こちらの方が分が悪い。
「探すなというのであれば、探されるべき方はまだ居るということ」
 ステラは息を吸う。まずは動き出すために、己の傷を癒す。彼らを倒さなければーーその身に巣食うオブリビオンたちを倒さねば進めないのであれば。
「灰は灰に、塵は塵に」
 倒す、だけだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

これが楽園を信じた者たちの末路とは
ですが調査員の方も見捨てておけませんので
安らかで善き夜を、美しい星を見せて差し上げましょう

恐ろしい生物オブリビオンですが、それならばこちらにも策があるというものです
ザッフィーロ君、背中はお任せを
前は頼みました

【コード・モルゲンロート】にて敵に最適な形をとった魔法生物を
「2回攻撃」「範囲攻撃」にて展開しつつ「マヒ攻撃」で対象の動きを封じていきましょう

彼や僕に敵の狙いが向かうなら「オーラ防御」で防ぎつつ
「恐怖を与える」「精神攻撃」で「カウンター」を行いましょう

戦闘後は無事な方に対し介抱しつつ、現司教に対する情報収集ができれば


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

被害は最小に抑えたいが調査員の安否が優先なのでな
多少彼らは肉を蝕まれるやもしれんが…己が信じた道故後悔はなかろう

戦闘と共に地を蹴り『早業』にて近くの信者へ『怪力』を乗せたメイスを振るい『気絶攻撃』を
背は宵が護ってくれているからな…全力で行かせて貰おう
俺・宵へ攻撃が向けられたなら『盾受』にて『かば』い『カウンター』にて再度意識を失わせんと『気絶攻撃』を
気絶後は【赦しの秘跡】にて信仰の上書き、他の敵の動きを止めるよう指示を
その後もメイスで『気絶攻撃』【赦しの秘跡】にて操り戦力を減らして行こうと思う

戦闘時・戦後折を見て調査員や現司教の居場所、情報を可能な限り質問し引き出そうと思う



●それが願いであれば
「いやいや、避けられちゃ困りますって。俺たちさくっとやりたいんで」
「そうそう。だって、楽園に行けるなら今なんてもう必要ないでしょう?」
 それはもう、只人の動きでは無かった。踏み込みは素早く、加速と共に叩きつけられた拳は一拍の後に地面を割る。明るく、ひどく明るいままに告げられる言葉がひどく異様であった。
「これが楽園を信じた者たちの末路とは」
 打ち出された拳を軽く避けて逢坂・宵は距離を取る。いやいや、と声を上げる青年の顔色はひどく、悪い。軽快な語りだけが浮いていた。
「ですが調査員の方も見捨てておけませんので」
「あぁ。被害は最小に抑えたいが調査員の安否が優先なのでな」
 とん、宵に触れたのはザッフィーロ・アドラツィオーネの背であった。背中併せの状況。対猟兵用生物兵器・フォーラーオブレリアに感染した人々の層で言えばーー宵の方が少しばかり薄いか。説得して止まるような状況でないことは二人にもよく分かっている。彼らに感染したオブリビオンは、その人の性質を歪ませるものだ。
 人から、人ではないものへ。
 心の有り様が歪んだのは邪教の手によるものでーーだが、踏み込んでしまったのも彼らなのだろう。
「多少彼らは肉を蝕まれるやもしれんが……己が信じた道故後悔はなかろう」
「えぇ。安らかで善き夜を、美しい星を見せて差し上げましょう」
 静かに微笑んだ宵の瞳に、瞬きひとつしない感染者の青年が、ひくり、と頬を引きつらせた。
「は、安らかなんて違うっしょ。俺たちは楽しい楽園に行くんすから……!」
 だん、と踏み込む音が加速した。だらり、と垂れた青年の腕がぐにゃり、と歪むように変化していく。
「ひ、はは、はははははは……! ほら、こいつで全部ぶった切るんですよ!」
 悲鳴と狂気が混じり合ったような声と共に、青年が一気に飛び込んできた。狙いは真正面、宵だ。だがその射線にザッフィーロが踏み込む。
「は、いいですよ。あんたからって言うならぁ……!?」
 ひゅ、と放つ振り上げは早くーーだが、ギン、と鈍い音がした。鋼と鋼がぶつかり合う音。火花が散り、息を飲んだ青年の前、ザッフィーロが振り上げたのはメイスだった。
「眠れ」
 ガウン、と打ち据えた一撃に、ぐらりと青年が気絶する。倒れ込む瞬間、零れ落ちた煙のような白い影が彼の中に滑り込む。ひ、はは、と笑う声と共に、体だけ先に起き上がりかけた青年にメイスを向けようとした瞬間。
「ザッフィーロ君」
「ーー!」
 声が、した。
 静かなそれに、半ば反射的に身を飛ばす。手にしたメイスを振るったのは飛び込む影を見たからだ。殴るよりは、ただ払う為だけに振るった一撃は、飛び込んできた女に空を切らせる。
「助かった」
「いえ。僕がわざわざ言わずとも大丈夫だったかもしれないので」
 小さく笑った宵が、とん、と爪先で床を叩く。瞬間、足元に展開された魔法陣が淡い光を描いた。
「恐ろしい生物オブリビオンですが、それならばこちらにも策があるというものです」
 きら、きらと零れる光と共に宵の髪が揺れる。それは召喚の陣。誘いの言葉たち。
「僕とて、星に頼るばかりではないのですよ」
 囁くように笑い告げた宵の下、召喚されたのは一体の魔法生命体であった。
「ザッフィーロ君、背中はお任せを。前は頼みました」
「ーーあぁ。背は宵が護ってくれているからな…全力で行かせて貰おう」
 笑うようにして頷いて、宵は己が呼び出した獣へと告げた。
「行ってください」
 低く、魔法の獣は駆けた。滑るように戦場へと飛び込んだ獣がザッフィーロの背に迫る青年を蹴り飛ばす。吹き飛ばされた青年はそれでも、ぐらりと身を起こして笑っていた。
「はは、はははは! いやいや、俺たちの邪魔して終わらせるなんてダメっしょ!」
「ーー何が、ダメだと?」
 跳ねるように身を起こした相手へと、ザッフィーロが一気に踏み込む。ぐにゃり、と再び歪んだ腕が鋭い槍に変わった。ぐん、と差し出された腕を、だがザッフィーロは避ける。回避は最低限。伸ばされた腕を掴みーー引き寄せるようにして、一気にメイスを打ち下ろした。
「……っぐ、ぁああ」
 声が、跳ねた。
 呻くようにして崩れ落ちた青年は、一撃で気絶しただけだ。血は流れてはいるがーー血溜まりではない。命に別状は無いだろう。その体からゆらり、ゆらりと煙が立ち上る。先に見た時よりは幾分か弱いそれに、は、と笑ったのは他の感染者たちだった。
「気絶させた程度で、俺たちを止められるなんて思ってんすかぁ? 大丈夫っすよ、この程度で俺たちにはローザさんもあの子もついてんですから」
「ーーそうか」
 爛々と青年の目が光る。異様な光を見せると同時に、青白い頬が痩けてゆく。内側から、フォーラーオブレリアに蝕まれているのか。だが、その状態にあって笑って見せる男の前、ザッフィーロはただ、告げた。
「……さあ、瞳を開けよ。汝の罪は赦された」
 その言葉は、合図であり誘いであった。
 ザッフィーロと宵の召喚した魔法生物による攻撃で、気を失っていた新派の者たちがゆらり、ゆらりと立ち上がる。操られるように身を起こしていく彼らの背で、キィイイイン、と甲高い音を立てながら白い煙がかき消されていく。
「な、これって……!? 嘘だろこれからだって時に」
 じり、じりと足を引く。下がろうとする青年へと滑るように飛び込んだ魔法生物が立ち塞がる。
「これから、とは今の司教の方が何かされるのかな?」
 問いかけたのは宵であった。ひゅ、と息を飲んだ青年が逃げるように身を飛ばしーーだが、その腕をザッフィーロによって信仰を上書きされた楽園教の新派たちが掴む。
「くそ……っ離せ、離せよ……! 俺は、俺だけはちゃんと伝えないと山に……!」
「それは、司教にか? 大層な行事があるようだな」
 ザッフィーロの言葉に、青年がひゅ、と息を飲む。同時に来た踏み込みに気が付いたからだ。避けられはしない。盲信的な狂信者へと変わった女が、青年の腕を掴みながら告げた。
「結婚式があるのよ。ローザさんとあの人の」
「……っく、そうっすよ。それが終われば、みんな一緒に楽園に行けるんですから……!」
 だから、と踏み込む青年の瞳が赤く染まり、振り払うようにして拳が来た。一撃を片腕で受け止める。軋むような感覚に、皮膚の弾けた感覚に構わずザッフィーロはメイスを叩き込んだ。

「結婚式、ですか。その割には、お祝いらしい雰囲気には思えませんでしたが……」
 ひと波、退けたところで宵がほう、と息をつく。彼らが言った山はーーこの地に一つだけだ。彼処が儀式場となるのだろう。
「彼らの言う『みんな』が何処まで巻き込むつもりなのか、気になりますね」
「……あの水、フォーラーオブレリアの動きを見る限り巻き込むのはこの島そのもの、ということか」
 ザッフィーロはそう言って、眉を寄せた。島民が全滅すれば邪神へと捧ぐ生贄としては十分だろう。もしも生き残ったとしても、多くの生贄を捧げられた邪神を前に彼らが逆えるわけもない。
 島は閉ざされている。
 変わった風習がある、と誰もが知っている。
 だからこそ、今日この日、猟兵たちが向かわなければその風習を盾に邪教集団は大きくなっていったことだろう。
「山中の儀式場だな。向かうべきか」
「えぇ。彼らの相手を終えてから、向かいましょうか」
 戦場にあって変わりなく、信頼を乗せて二人は駆けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
●アドリブ、連携歓迎

意思を知った、遺志を識った。ボクは見る物で、眺むる者だ。である以上、塔守リュンコイスの名に於いて看過する事は出来ないよ。

医師は焔を選んだ。ならばボクもそれに習おうか。機人と共に前へ。『ファウスト・エンジン』から魔力を汲み上げ【限界突破】。機人は昇華機構を起動、ボクは『焔刃煉獄』を手に、焔の【属性攻撃で焼却】しよう。【範囲攻撃】で纏めて灼く、病原菌は一株足りとて逃しはしないよ。

肉体構造を変更?悪いがそれは無しだ。この場には医師の【祈り】が、燃え尽きた残骸が有る。それは決して無力ではない。彼の願いが変異を封じよう。

殺しはしないよ。代わりに情報は有るだけ吐いて貰おうか【情報収集】



●祈りの在り処
 一人、また一人と倒れても彼らは気にする様子を見せなかった。笑うように楽園を告げ、さくっと行こうと軽く告げる。
「だから、邪魔しないでくださいって。今までの楽園教は古いですよ」
 気絶した仲間がいれば飛び越えて、時に踏んだとしても気にする様子もなくーー笑う。
「ひ、ははは。新しく、すぱっと行きましょう! 何不自由ない、幸せな楽園に!」
「……」
 そこに理性など見えなかった。深い狂気の底、落とし込まれたのか、自ら堕ちたのかは分からない。最初は、未来への漠然とした不安であったのかもしれない。島で過ごす彼らにとって、行先の不安は不思議なくーーだが『これ』は違う。窪んだ瞳に狂気を乗せ、歪に笑う彼らの奥深くにはオブリビオンの気配があった。
 対猟兵用生物兵器・フォーラーオブレリア。
 邪教集団が使ったか、使われたかは分からない。だが、邪神の力を使い蘇った病原菌のオブリビオンは猟兵を殺すことに特化している。それほどの力があったとすればーー島ひとつ、沈めるのは容易いことだ。
「意思を知った、遺志を識った」
 甘く淀む空気を放ち出す戦場に、焼け落ちた療養所の跡地にユエイン・リュンコイスは静かに息を吸った。
「ボクは見る物で、眺むる者だ。である以上、塔守リュンコイスの名に於いて看過する事は出来ないよ」
 医師は命をかけた。全て封じるようにコンクリートに潰されても、その心が残っていたのだから。
「は、何か知らないっすけど、挑むんなら、さっさと私たちの邪魔しないで潰れちゃってくださいよ!」
 声を、上げたのは女だった。黒髪を揺らし、ぐん、と踏み込んでくる速度はーー速い。瞬発の加速か。感染者の為せる技か。一直線に来る相手に、ユエインは機人を起動させる。すい、と伸ばした手と共に十本の絹糸と魔力で繋がれた機甲人形が瞳に光を宿した。
「医師は焔を選んだ。ならばボクもそれに習おうか」
「何を言って……!」
 だん、と踏み込みと共に、身を沈めた感染者の一撃を機人が受け止める。ガウン、と重く鈍い音と共に広げられた両手が、女の拳を払い上げた。
「は、頑丈なのね!」
「そうだな。そちらも」
 静かに告げる娘の手元がふいに揺らいだ。空間が歪んだのだ。
「ファウスト・エンジン起動」
 大型魔力炉。
 継戦能力確保の為鍛造したそれが、無尽に魔力を組み上げ出す。全てはこの戦いの為。ユエインの手元、揺らいだのはーー手にした刀が故。
 七代永海筆頭八本刀が六。
 焔刃煉獄。
 ごぉおお、と唸る炎が、抜刀と共に舞い散る葉を散らした。
「いこう」
「ーー」
 告げる言の葉は機人に向けて。警戒と共に感染者の女は飛んだ。だが、そこはまだユエインの間合いだ。なぎ払う一撃が炎を走らせる。天をも焦す焔に、女の体が震えた。
「ぁあああ、……ッキィイイアアアアア……!?」
 悲鳴に、獣のような絶叫が混じった。ぶわり、と女の体から立ち上がった煙が焼き付きされる。ぐらり、と倒れ込んだ女を視界に、ユエインは一気に前に出た。
「みつけた」
 飛び込んでくる一人を、見たからだ。
「ひ、はは、ははははは。いや、邪魔はダメっしょ!」
 狂ったように笑う青年の腕がぐにゃり、と歪む。こぼれ落ちる血に、ひ、ひはは、と悲鳴混じりの声が響く。
「肉体構造を変更? 悪いがそれは無しだ。この場には医師の祈りが、燃え尽きた残骸が有る」
 世を憎まず、他者を恨まず。
 祈るように、伝えるようにユエインは紡ぐ。
「これは、ただ然るべき報いだけを願った者達の祈りだ」
 祈りが、此処にはあった。
 医師の祈り。医師の願い。
 この島で、患者をーー感染したからと言って問答無用で焚べることなどできないと、最後まで悩み、悔いながらも選択した医師の懺悔が、祈りが。
「ーーぁ」
「それは決して無力ではない」
 歪んだ腕が、人を見失おうとしていた青年の体が白い腕に変える。小さな瞬きがひとつ、ひゅ、と息を飲んだ痩身をユエインは焔と共にーー斬った。


「なんで、先生の声、が……炎が」
 何故、生きているのかと。青年が問うたのは一頻り、彼が「先生」という医師の話を聞いてからのことだった。
「医師が選んだだろう」
 ユエインの言葉に青年は二度、三度と瞬いて、そっか、と震える声で紡いだ。フォーラーオブレリアの影響下からは逃れられたのか。時折まだ、不可解な笑いを溢しながら、そっか、と青年は紡ぐ。
「亡くなって……全部真っ白かと思ってたのに、なぁんだ残ってたんだ……。飲んじゃダメだって言われてたのに、俺、あの水。でも、楽になるからって言われて」
 ほんとに楽になったから、と青年は紡いだ。だから、と続く言葉は泣くように揺れていた。医師とは知り合いであったのだろう。問わずとも、ぽつぽつと青年は語り出す。
「楽園に行ければ、最後は楽園に行くなら。ぐだぐだ悩まずにサクッと行ければ幸せだって俺も思って……」
「だから、儀式を行うと?」
「……あの子も言ってたんです。安らかな死が楽園に導くって。だからみんなで」
 楽園に行くべきなんだって、あの山から。
「あの子って……」
 誰、と聞きかけたところで、新手の気配がした。ゆらり、ゆらり立ち上がった残りの感染者たちにユエインは刃を強く握った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

喜羽・紗羅
いいな、斬るぜ
(そうするしか……無いんでしょ)
ああ。奴らにゃお仕置きが必要だ
感染対策に外套から酸素マスクを取り出し装着
接触に気を付け一撃で仕留めるぞ

あのな、安らかな死なんて無えよ
一度死んでる俺が言うんだから間違い無え
最後は全身を訳の分からん痛みが襲って
息が止まって、血が止まって、意識が止まるんだ

挑発しながら間合いを図って隙を伺う
一足一刀から踏み込めば一撃だ
それを悟らせない様にな

その苦しみの中、皆死ぬんだよ
俺ならスパッとやれるぜ、小僧?
だから死にたい奴から順番に掛かって来いや!

立ち回りながら話を、気分が高揚してれば口も軽い筈
おい、あの子って誰だよ。ローザって奴か?
違うってんなら誰だよ――答えろ!



●戦場の鬼はかく語りき
「いいな、斬るぜ」
 一度伏せた娘の瞳が真紅に染まった。
 低く響いた声は確かに喜羽・紗羅のものではあるのだが、違う。戦いの始まりに、人格が切り替わったのだ。
(「そうするしか……無いんでしょ」)
 鬼婆娑羅の言葉は、許可を取るようでいて実際、事実を確認するようでもあった。ふひ、ははは、と笑い声を溢す青年たちは最早正常ではない。始まりに抱いた不安は、確かに未来への不安であったとしても、楽園教の解釈は『この姿』では無かった筈だ。
 辿り着く筈の楽園を、自ら招くようなものではーー決して。
「一撃で仕留めるぞ」
 感染対策に外套から酸素マスクを取り出して、鬼婆娑羅がつける。静かに響いた言葉は、押し黙った紗羅へと向けられていた。
「へー、なに。お姉さんも、邪魔するんだ。いやいやだめっしょ。俺たちさくっと楽園に行くんで」
「無駄に怪我するのも面倒っすけど、やっぱ邪魔は駄目っしょ」
 軽快な語り口に対して、告げる青年たちの顔は青白い。手の甲は茶色く変じ、淀んだ瞳がひたり、と紗羅をーー鬼婆娑羅を見た。
「あのな、安らかな死なんて無えよ」
 その瞳に、殺意を隠すことの無い彼らに、鬼婆娑羅は告げた。
「一度死んでる俺が言うんだから間違い無え」
 とん、と踏み込む。
 口の端、載せた言葉が、その口調が見目からかけ離れていることに彼らは気がつかない。否それよりもずっと、告げられた言葉の方が重要なのだろう。
 安らかな死など、ないと。
「は? 何言ってんだよ、あんた。俺たちは楽園に……」
「最後は全身を訳の分からん痛みが襲って、息が止まって、血が止まって、意識が止まるんだ」
 言葉尻を喰らうように言い切って、腰に手を当てた。は、と落とした息と共に口の端に笑みを敷く。一歩、一歩と緩やかに歩く様は、戦いに挑むというよりは単純な挑発だ。
「それは、単純にあんたの話でしょうが!」
「俺たちは楽園に行くんすよ。あんたとは違う!」
 だが、単純であるからこそ力はある。
 怒号と共に感染者たちが、だん、と地を蹴った。踏み込みと同時に、両足に鈍い光が灯る。フォーラーオブレリアによる強化だ。
「は、ひ、はは……!」
 瞳を赤く染めて、青白い顔を晒しながら踏み込んだ青年の体勢は低い。獣のような身を倒し、ぐん、と一足の内に迫る。
「ーー」
 加速は早いがーーだが、来ると分かっていれば対応できる。繰り出された蹴りを振り上げた鞘で受け止める。ガウン、と腕に変える感触は鉄と打ち合った時のそれだ。
「ひ、はは」
「話の続きだ。なあ、その苦しみの中、皆死ぬんだよ。俺ならスパッとやれるぜ、小僧?」
 鞘で受け止めた足を、そもまま跳ね上げる。体勢を崩した相手がそのまますっ転んでくれるとは思わない。だからこそ、鬼婆娑羅は踏み込んだ。鞘から刀を引き抜く。だらりと落とした腕から、薙ぐように斬り上げた。
「く、ぁあ、あ……!」
「だから死にたい奴から順番に掛かって来いや!」
 腹から胸へと、一気に斬り上げられた青年が血飛沫を上げながら崩れ落ちる。零れ落ちた血は淀みーーだが、その中に煙めいたものを見つけ、続け様に鬼婆娑羅は斬り込んだ。
「キァアアア!」
「今のは……」
(「うん、さっきの人から出て来た感じだったし、あれがフォーラーオブレリア。あいつさえ出ていけば、まだ助かるかもしれない」)
 紗羅の言葉に、鬼婆娑羅は息をつく。いっそ、首を落としてやった方が楽な気もするがーー実際、先の一刀だけでは青年は死んではいない。
(「ねえ、今なら」)
「……加減して斬るなんぞできないからな」
 口の中、そう言葉を落とす。悠長に会話をしている暇は流石に無いか。
「邪魔っすよ。あんた、最高に邪魔っすよ!」
 怒号と共に二人目が来た。今度は拳か。庇う腕に叩きつけられた一撃に、体が痺れる。感染ではない。単純なダメージか。
「おい、あの子って誰だよ。ローザって奴か?
違うってんなら誰だよ――答えろ!」
「はひ、はは ローザさんじゃないっすよ。あの子はあの子、水売りさんたちと一緒に来た代弁者なんすから!」
 それでいて、あの子が神様になって連れてってくれるんだ!
 笑うように青年は告げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

冴木・蜜
水は生物の根幹
それを媒介に感染者を増やすのは効率が良いでしょう

その水は以前からこの島にあったのか
それとも誰かに持ち込まれたのか
気になる所ですが

体内毒を調製
体内から取り出した医療器具で
感染者を『介錯』
その血液を攻撃します

感染症は血液を媒介に体内を循環する
強化するなら尚更のこと
ならば血液を攻撃し病原体を直接叩きます

オブリビオンなのですから
正規の医療では殺せぬのでしょう
私の死毒で殺して差し上げます

死後を楽園を信仰するのは構わない
ですが
自ら楽園に足を踏み入れるのは
自死と変わらないのでは

安らかな死?
病による熱に浮かされ苦しむことの
何処が安らかだと言うのですか

私はその病原を赦さない
病は私が殺します



●楽園
 嘗て、この地には多くの死があった。
 流行病を理由に島は閉じられ、多くの死があった。生きて、生き抜いた人々の最後が消えてしまうだけでは悲しいから楽園を求めた。死ぬまで生きた人々の為に。死者の為に。
 これ以上、苦しいことは無いのだとせめてもの見送りが楽園教の始まりであった。
「ほら、いーじゃないっすか。下手に、俺たちの邪魔するのも面倒っしょ」
「そうそう。だって怪我しちゃうのも無駄だし、でもやっぱ楽園に行くの邪魔するのは、おかしーし?」
 からからと青年と女は笑う。怪我を口にした彼らは、今の自分の見た目に気がついているのか。青白い顔、痩けた頬。戦い初めてから明らかに変じた彼らの姿は、病人よりいっそ骸の方が近い。
「すぱっと、行きましょうよ!」
「……」
 喉を潤すように水を飲む。あの部屋で見たのと同じペットボトルに入った水は、女が手を伸ばした瞬間、現れた。無からではない。空間の歪むような何かを冴木・蜜は見た。
 対猟兵用生物兵器・フォーラーオブレリア。
 病原菌が邪神の力を借りて復活したというそれ。不可視の菌は、だが、オブリビオンとして復活した以上、猟兵たちの感覚に引っかかる。
「水は生物の根幹。それを媒介に感染者を増やすのは効率が良いでしょう」
 水を飲まない人はいない。生活の一部だ。
「その水は以前からこの島にあったのか。それとも誰かに持ち込まれたのか、気になる所ですが」
 呟いた蜜の指先がとろり、と溶けた。すい、と伸ばした指先、ぱた、ぱたと落ちる黒の中から、医療器具が姿を見せる。錆び付いたそれは、黒血に融け込む形で収納されているからこそ、腐食が進んでいた。
「……」
 指先がざらつくのを構わず、蜜はメスを取る。からからと笑う青年たちが、こちらを向き、にやり、と笑った。
「今の俺たちは、無敵っすよ!」
 ほら、と笑う青年が身を倒し、ぐん、と顔だけを上げた。次の瞬間、獣のように駆ける。地に足をつき、撃ち込まれた跳躍と共に上段から蹴りが来た。
「ーー」
 その足先に蜜は身を横に飛ばす。回避は最小限だ。はた、と衣が揺れ、続け様に来た蹴りをメスで受け止める。ギィイイイ、と鋼めいた音がした。打ち合ったそこから火花が散る。
「は、ひひ、ひは!」
 瞳孔を開いたまま、奇怪な声を上げる青年の足は鈍い光を帯びていた。フォーラーオブレリアによる強化だ。それが、体に無茶な動きさえできるようにしている。
「ほらほら、ぺったんこに潰して終わりにするんで、邪魔なんかしないでくださ……ぁ」
 声が不意に歪んだ。喉をひくつかせた青年が、蜜から飛び退く。
「何を、何して……っ」
 げほ、げほ、と吐き出す血が黒く淀んでいた。泥のようにびしゃり、と落ちたそれから、煙が立ち上る。宿主へと帰ろうとしたそれはーーだが蒸発していく血によって引き戻される。
「キィイアアアアアアア!」
 それは人の声とも獣の声とも聞こえる叫びであった。ぐらり、とそのまま、意識を失うようにして倒れた青年の後ろ、今の今まで誰が倒れても表情を崩すことの無かった新派の若者たちが息を飲む。
「何をしたのよ!」
「オブリビオンなのですから、正規の医療では殺せぬのでしょう」
 感染症は血液を媒介に体内を循環する。強化するのなら尚更。あの時、メスで一撃を受け止めた時に、刃は青年の体に触れていたのだ。だが、傷はつけていない。己の毒蜜を籠めたメスは血液だけを攻撃したのだ。
「私の死毒で殺して差し上げます」
 柔肌を黒く染めて、死んだ血が奴を捕らえてゆく。逃げ場などあるまい。奴が彼らに感染している以上。
「こんな、こんなのありえない。そう、そうよ、水がもっとあれば。あの子からもらった水が……!」
「そうだ。それで、俺たちは楽園に行くんだ!」
 あの子ーーと告げる彼らが手を伸ばす。ならば、と追加で来た水は、だが、蜜の踏み込みに怯むように揺れた。姿を消すより先に、メスを放つ。医療器具は別に一つでは無い。次に振るった手で、奇声を上げながら突っ込んできた女の腕を切った。
「ぁ、ああ、ひ、ぁあ……っ」
 蜜毒が体に巡るか。違う、いやだ。こんなの、嘘だ、と叫ぶ声が女のそれと獣めいた声が混ざっていく。
「死後を楽園を信仰するのは構わない。ですが、自ら楽園に足を踏み入れるのは、自死と変わらないのでは」
 どれほど深く、病は根付いているのか。
 呻く女を視界に、蜜はメスを持ち直す。追加で二本。下げたままの手に構えれば、は、と笑う声が耳に届いた。
「いいや、いいや。あの子は俺たちが楽園に行く為のものをくれんすよ! こいつがあれば、こいつがちゃんとみんな楽園に連れてってくれる!」
 あの子、と続け様に彼らが言うのは、件の邪神か。くれたという事は、この水はやはり邪教集団によって持ち込まれたのか。
 信者を増やすつもりであったかーー否、どちらでも良かったのだろう、と蜜は思った。水により感染しても死んでも、最後は邪神復活の為の生贄として使える。感染したまま彼らが生き続ける事はできない。研究員でもある蜜にはそれがよく分かった。
 楽園を望む彼らは、結局使い潰しだ。
「だから本当は悪魔祓いなんかいらなかったんだ。ちゃんと要請は消したってのに」
 山間のじーさま達だって、ちゃんと。と青年は笑った。
「楽園に行けるようになるってのに」
「ご老人は苦しんだのでは」
 静かに、蜜は問う。
「楽園に行けるっすから。今後の心配も何もいらないし」
 だから、と告げる青年の声が歪む。その体を蝕んでいる何かが奥底から告げる。
「幸せだ」
「ーー」
 声は笑うようであったか。からからと明るく笑うそれとは違う。嘲笑うように響いた声は、病原から響いたか。
「ふひ、はは、ははは!」
 は、と息を溢して青年が来る。獣じみた踏み込みに、指が裂ける。一撃を躱せば、荒く振るった拳が看板を叩く。
「だめっすよ。だめ。避けたら、楽園だって遠ざかっちゃいますよ!」
 青白い頬が痩けてゆく。骨と皮ばかりとなった腕が、それでも強化されて鋼めいた音を鳴らす。
「安らかな死? 病による熱に浮かされ苦しむことの何処が安らかだと言うのですか」
 それは嘗て、この地に住う人々が「苦しんだ」ものだ。それが安らかでは無かったから、苦しみ続けたからこそーー楽園を求めた。
「私はその病原を赦さない」
 言い切って、蜜はメスを構えた。
「病は私が殺します」
 それは、死毒たる青年のーーそれでも誰かを救いたい想いを手放せぬ蜜の、覚悟であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミルラ・フラン
凪紗(f12887)と

尼の服を脱ぎ捨てていつもの服に
ハァ!?パンデミックも真っ青じゃねーか!!

ああ、そうだね!悪魔祓いを始めようじゃないかい!
そうだね、死後には救いがある。千年王国が訪れると説くのがウチの家業さ
だかね、現世の試練と苦難なくして楽園なんざ訪れねえよ!!

Attraente Cremisi……【誘惑】と【存在感】で目線をこっちに集めて、薔薇の花弁で一気に攻撃
効きがイマイチなら【2回攻撃】でもう一度
死なない程度には抑えるけど、ミスったらすまんね
ただ、ここでなんとかしないとあいつらの能力が上がっちまう
倒せないなんてことだけは阻止しないとね

戦わずして救いの楽園なぞ、訪れるものじゃないよ!


蓮条・凪紗
ミルラ(f01082)と

二人で衣装を脱ぎ捨てて、いつもの格好に。
ほんまに病魔やったか。しかもこんな仰山取り憑いてはるし。
ガチの悪魔祓い開始やな!
憑かれてる方を殺さずに……結構キツいな。
死後の幸せを説く宗教はそっちもそうやろかミルラ。
ああ、今を必死に生きん奴に極楽は迎えに来ぃへん!

式神顕現「審判(ジャッジメント)」。
ラッパを持った天使の幻影が出現し、その音色を響かせる。
音色は回復と蘇生の力、生命力そのもの。
慈悲の音波は邪悪な病魔のみを攻撃する。
その人達の中から去ね!
溜まらずに病魔が飛び出してくるようなら、札の投擲にて着実に仕留める。

現在(いま)から目を逸らして逝ける程、楽園は甘くあらへんよ。



●その名を高らかに告げよ
 一人、また一人と感染者たちが倒れていく。楽園教の新派ーーこの地に古くからあった『教え』を古いと告げた彼らは、青白い顔を晒し、淀んだ瞳で笑みを見せていた。
「いやいやおかしいっしょ、邪魔したらだめっすよ」
「そうそう、さくっと楽園に行くんすから」
 その姿は楽園を告げるにはあまりに歪んでいた。骨と皮ばかりの腕をひらり、と振り、仲間を呼んだ一人が猟兵の一撃で気を失う。崩れ落ちたそれを、ひょい、と飛び越して、困ったなぁ、と笑う。
「邪魔はだめでしょ?」
 踏み抜いて行くのであれば、まだ良かったのか。先にお寝んね? と倒れた一人を見送る姿は理性があるように見えるというのにーー圧倒的に歪んでいる。
「俺たちはみーんなで楽園に行くんすから!」
 瞳を広げ、歯を出すほどに笑った青年がーー来た。踏み込みから一気に、一般人とは思えぬ瞬発の加速に、ミルラ・フランは地を蹴った。
「凪紗!」
「分こうとる」
 左右に飛び退き、一撃を躱す。撃ち込まれた拳に絡まったのはーー衣だ。
「ハァ!? パンデミックも真っ青じゃねーか!!」
 尼の服を脱ぎ捨てて、着地したミルラのヒールが地面を叩く。コンクリートに走った罅は拳の余波か。連れの言葉に、ばさり、と狩衣を脱ぎ捨てた蓮条・凪紗は眉を寄せた。
「ほんまに病魔やったか。しかもこんな仰山取り憑いてはるし」
 祓うという事は憑かれたということ。
 病魔の可能性は考えてはいたがーー誰が何十人と用意しろと言ったのか。
「ガチの悪魔祓い開始やな!」
「ああ、そうだね! 悪魔祓いを始めようじゃないかい!」
 秘符札を手に、凪紗は短く息を吸った。ざ、と足を引いたのは真横から突っ込んできた青年がいたからだ。
「ひ、はは!」
 淀んだ瞳の奥、見えるのは憑いている『もの』の気配。何より動きがやたらと早い。人、というよりは獣じみた動きで、踏み込みが外れればその手を地に滑らせる。鈍い音と共に爪が剥げても彼らは笑うだけだ。
「無理しはって。憑かれてる方を殺さずに……結構キツいな」
 青年の拳が、浅く凪紗の腕を切っていた。そこから感染してくる様子は無いがーー青年の方がどう見ても悪い。
「あのままやと、長くも無い、か。死後の幸せを説く宗教はそっちもそうやろかミルラ」
「そうだね、死後には救いがある。千年王国が訪れると説くのがウチの家業さ」
 水を向けられた先、タン、とミルラは地を蹴っていた。闇雲に突っ込んできた男の手をとって、上を取る。空で身を回し、流れるように着地した先で、カン、とヒールで地を叩いた。
「だかね、現世の試練と苦難なくして楽園なんざ訪れねえよ!!」
 楽園が訪れる。楽園がやってくる。
 そう信じるのは良いだろう。そこに救いを見出すのも良いだろう。ーーだが、彼らの「楽園への願い」は違う。
「ひ、はは、ははは。大丈夫、大丈夫っすよ。あの子も言ってたっすから。さくっと俺たちは楽園に行けるって!」
「そうそう。島のみんなで! こんな苦しい今じゃなくて!」
 笑いながら告げてーーだが、彼らの意識はミルラに向いていた。
(「楽園、か」)
 そんなに欲しいって言うなら、と息を吐く。
「そんなに行きたいのかい?」
 口元浮かべた笑みひとつ、艶やかな唇は蠱惑的な笑みを浮かべたーーだが、薔薇は召喚されない。力の発動が一度、抜けたのを感じながら、だがミルラは笑った。
「ま、そんななりじゃ見る目も無いだろうけどね」
 新派の青年たちは、オブリビオンに感染している。その身に埋め込まれた状態では、誘惑の効果が出ないのも不思議は無い。
「いやいや俺たちをそんなんで止める気とか無いっしょ?」
 笑う青年が拳を握る。その手に淡い光を灯しーー同時に、肉が落ちていく。痩せこけていく。
(「意識の主導はアッチにあるってことかね」)
 だとしても、向こうがそう誤解するのであれば、その一瞬を使うだけ、だ。
「あたしに惚れたら怪我するよ!!」
「な……!?」
 ふわり、髪が舞う。顕になった瞳が鈍く、艶やかに光る。青年と瞳があった瞬間ーー薔薇が、舞った。
「死なない程度には抑えるけど、ミスったらすまんね」
 咲き誇るは巨大な薔薇。指先が空を滑るのを誘いとするように真紅の花弁が戦場にーー舞った。
「ぐ、ぁああ……っひ、やめろ、奪うな……っ」
 あ、と落ちる声を聞く。さっきまでとはまるで違うーーただの、青年の声。
「花、が」
 花弁が腕に沈む。体に沈む。衝撃に、ぐらり、と身を倒す体を見送って、真横から来た一人を受け止める。
「ひ、はは。は、はははは! やるじゃんお姉さん!」
「随分、キマッてんじゃねーか。倒せないなんてことだけは阻止しないとね」
 片腕で拳を受け止め、たん、とミルラは一度距離を取る。
 奪うな、とさっき青年は言った。あれは、青年というよりは、中身の方だ。
「オブリビオンから奪い取った、か」
 真っ直ぐに下がって見せたのは、相手が愚直に来ると気がついていたから。それと同時にーー後方、発動する力をその手に集めていた凪紗に気がついていたから。
「戦わずして救いの楽園なぞ、訪れるものじゃないよ!」
「ああ、今を必死に生きん奴に極楽は迎えに来ぃへん!」
 秘符札を放つ。凪紗を中心に展開された二十二の大アルカナが光を帯びる。
「我が名において来たれ、神秘の札に宿りし識よ!」
 指先を滑らせ、一際強い光を放つ一枚を凪紗は手に取った。
「式神顕現ーー審判!」
 そしてーー高らかに天使のラッパは響き渡った。
「ひ、ああ、あ……っ」
「なん、なんだよあれ!」
 ラッパを持つ天使の幻影に、響き渡る音色に感染者たちが騒めきだす。いやだ、やだ、と響く声の向こう、獣の咆哮めいた音を凪紗は聞く。
「止めろ!」
 それは、青年たちの奥に潜むオブリビオンの声か。絶叫と共に駆け込んでくる青年を真正面に見据え、凪紗は言った。
「音色は回復と蘇生の力、生命力そのもの」 
 慈悲の音波は邪悪な病魔にのみ響き渡る。
「その人達の中から去ね!」
「ひ、はは、キィイイイイアアアア!」
 絶叫の向こう、人とも獣ともつかぬ声が響き渡りーーぐらり、と青年が倒れ込む。零れ落ちた煙のような何かが、地を這えば迷わず札を放った。
「現在(いま)から目を逸らして逝ける程、楽園は甘くあらへんよ」
 四散する煙を確認して、残る感染者たちを二人は見据えた。
 ーーあと、少しだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジュマ・シュライク
死を代償にしたドクターの願い、叶えませんとね。

何を信じるにつけ、信仰というのはこういう時に厄介ですわね。
さくっと楽園、いけたらいいでしょうけれど。
――ところで、島暮らしの世間知らずな方々。
健康にいいという触れ込みの水は、九割方詐欺でしてよ?

黒狼を喚んで戦わせますわ。
肉体は必要以上に傷つけないように、病原菌だけを駆除できたらと思うけれど。

とはいえ、アタシは聞き分けの悪い相手にはそれなりの報復を与えることにしていますの。
呪詛の魔力を放って誘導し、シュライクに変わってメイスで殴りますわ。
(峰打ち、やな。殴打やけど)

自分を囮に、黒狼の追跡が本命。
眠って起きれば、元通り。悪い夢だったと思うのではなくて?



●死者の岸にて
 それは、果たして生者の群れであったか。
 感染者という言葉は事実ではあったが、現状を表すにはあまりに足らなかった。青白い肌、痩けた頬。茶色く変じた腕を、彼らは構わず振るう。
「何を信じるにつけ、信仰というのはこういう時に厄介ですわね」
 疑問に思わぬのだ。彼らは信じているから。
 その姿に、ジュマ・シュライクは息をついた。目の前にあるのは動く骸に近いのか。生気は薄く、されど死者には至らず。彼らの奥深くに根付くオブリビオンが、肢体を食いながら彼らを人から逸脱させている。
「さくっと楽園、いけたらいいでしょうけれど」
 肉の腐った匂いも、古い骨の匂いも無い。
 弔いにはまだ遠くーーだが、尾を引くような死の気配を感じてジュマは視線を上げた。
「楽園」
「楽園には行けますって」
 反響のように響く声に、息をつく。細く、骨張った腕が強く握られるのを見ながらジュマはメイスを手にした。
「――ところで、島暮らしの世間知らずな方々。
健康にいいという触れ込みの水は、九割方詐欺でしてよ?」
 健康に良い水に聖なる水。
 邪教絡みで無くとも、どうしたって怪しいそれへとジュマはメイスを向けた。
 ダン、と足音が強く響いた。ひ、はは、と踏み込みに笑う声が混じる。真正面、愚直なまでの接近にジュマはとん、と身を一度後ろに飛ばした。何も、早々に接近を選ぶ必要も無い。幸い、この辺りは青年たちは転がってはいない。
「いやいや、逃げちゃダメっしょ。それに水は良いもんですって。あの子と、水売りさんが持ってきてくれたんですから」
 これがあれば、青年は笑った。
「みんな一緒に、楽園に行けるんすから!」
 笑い、笑い、笑い尽くして。
 一歩、大きく踏み込む。獣のように駆ける。体勢を崩せば、手をつく。指が赤く染まろうが気にすることもないままに。
「随分と、怪しくなりましたけれど。信じているのでしょうね、それを」
 けれど、とも。ならば、とも言わずに、弔い人はオーブを手にする。
「アタシは死を招く者。死を手繰る者――」
 とぷり、と闇が落ちた。掌から零れ落ちるようにして、迫る男の前、構わずジュマはその手を返した。黒の骸骨は、地に落ちることなく消えた。虚な眼窩は閉じられたか。波打つ地面から、死の顕現たる黒狼が姿を見せた。
「は、犬っころ程度で、邪魔できるとか思ってんすか!」
 た、と駆け出した黒狼が真正面から青年を迎え撃つ。腕へと喰らい付けば、ひ、はは、と笑いながら青年は眼球を澱ませた。
「いやいや、それくらいで俺のこと止められりゃしないっしょ!」
 ぶん、と腕を振るう。払うように身を飛ばす。だが、黒狼は迷わず感染者を追った。
「ッチ、んだよこの犬っころ!」
「狼、ですけれどね」
 静かにひとつ、ジュマは息をつく。最も、ただの狼でもない。黒狼は、ジュマが不快感を感じた相手を追いかける。そこに姿による偽装も、誰を盾としようとも関係は無い。
 追うべきは、弁えている。
(「肉体は必要以上に傷つけないように、病原菌だけを駆除できたらと思うけれど」)
 とはいえ、とジュマは視線をあげる。歪んだ笑い声と、軽快な声が響く戦場にため息をつくようにしてーー言った。
「アタシは聞き分けの悪い相手にはそれなりの報復を与えることにしていますの」
 とん、とメイスが地を叩く。瞬間、展開されたのは呪詛の魔力。薙ぎ払うように振るった腕を合図とするように、影の力がーー走った。
「くそ……っこんな、の」
「そう、そうよ。先にあっちの人を潰せば!」
 何が「そう」であるのか、彼らは分かっていない。そこに至ってしまった理由など何ひとつ。術者を狙えば良いという単純な考えに『気がついた』のだと思い込んだまま、誘導された二人が一気に、来た。
「ひ、はは、はははは!」
「ふは、はは、さあ貴方を潰してそれで……!」
 終わりよ、と倒れた仲間を飛び越え、ぐん、とバネのように体を起こした女が飛び込んできた。獣のように低く、身を沈めた女の腕が来る。素早く、穿つ拳にーーだが、ジュマは今度は避けなかった。
「な……!?」
 代わりに振り上げたメイスが受ける。それまで距離を男の明確な応戦に女が目を剥く。
「何よ、貴方……!?」
「峰打ち、やな」
 受け止めた腕を、払いあげるようにメイスを上げた。た、と踏み込んだジュマーー否、シュライクが笑うように息をついた。
「殴打やけど」
 薙ぎ払うメイスの一撃。正面の女に、大振りで返したのはもう一体、来ていたからだ。浮いた女の体を、ひゅん、と回したメイスで地に伏せて、もう一体ーー男へとメイスを打ち落とす。
「ぐ、ぁああ……っく、これくらい……!?」
 これくらいで、と告げる筈の言葉は、駆ける黒狼が潰す。腹に喰らい付けば、ギァアア、と獣じみた声を上げながら青年が崩れ落ちる。体から湧き上がった煙を尾で散らした黒狼が残る女へと爪を立てた。
「眠って起きれば、元通り。悪い夢だったと思うのではなくて?」
 シュライクから受け取ったメイスを、地につける。美しい装飾が、シャン、と音を鳴らす。その音が耳に届く。感染者たちは、残りもう数人となっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
おやおや参ったナァ
こーゆーのはあまり得意じゃないンだケド
ま、悪魔祓いデスから?
それらしく行きましょか

右人差し指の指輪に口付け剣を象らせ【天齎】発動
相手の動きは『見切り』避けながらしっかり攻撃叩き込んでくヨ
君らに悪意があったワケじゃねぇだろケド
甘ぇのよ、ちょいと怖い目くらい見ときなさいな
躊躇わず攻撃向けて『恐怖を与え』てこうか

傷を負うのは平気だケド病原体はちょっと御免被りたいわよね
相手の攻撃はオーラ防御で逸らしてきたいトコ

古けりゃイイなんて言うつもりナイけど
今を切り捨てるやり方は気にくわねぇの
オシゴト遂行させてもらうわネ
アンタらの悪魔を祓って



●楽園を来たらせたまえ
 死者の如く青白い肌を晒し、骸の如く骨と皮ばかりの腕を晒す。それでも一度強く拳を握れば、地を震わせる程の一撃が来た。
「ひ、はは。ははは」
「ふ、はは。ひ、はは。ほら、やっぱ邪魔はだめっすよ。俺たち楽園に行くんすから、今日、やっと」
 面倒な今なんて捨てて。
 笑うように告げて、一撃を躱したコノハ・ライゼへと蹴りを放つ。足を引き、相手の動きに合わせて、軽く身を逸らす。とん、ととん、と軽やかに避け切ったところで、コノハは息をついた。
「おやおや参ったナァ。こーゆーのはあまり得意じゃないンだケド」
 気配は、人だ。その奥に感じる「何か」は確実に人の姿などしてはいないが。気配は人。意識もーー比較的人よりか。表面に浮き上がってくるように、感覚はあるが容易に引きずり出せるような姿もしてはいないか。
 フォーラーオブレリア。
 対猟兵用生物兵器。
 対猟兵用を謳う以上、今の状況は彼らにとっては僥倖であるのか。
「ま、悪魔祓いデスから? それらしく行きましょか」
 再びの接近に、顔だけを軽く逸らす。そのまま、青年の真横へとコノハは踏み込んだ。
「な……!」
「祝杯を――」
 右の人差し指。そこにある指輪へと口付けて、剣を象らせる。とん、と手の中、落ちた一振りと共に腕をーー振るう。
「ぐ、ぁ、あああ……っは、ひ、はは、これくらいで、別に……俺は、れ、は」
 え、と声が落ちた。腹に沈めた刃を引きけど血は流れずーーだが、青年は握った拳を震えずにいた。
「君らに悪意があったワケじゃねぇだろケド。甘ぇのよ、ちょいと怖い目くらい見ときなさいな」
 与えたのは恐怖。震える手が、青年から攻撃という手段を失わせる。
「やだ、いやだ、いやだ……っひ、こんな、の、これは、ちが、い、キァアアア!」
 恐怖の中、足を止めた青年から奇怪な声が響いた。獣とも人とも言えぬ声。崩れ落ちた体から煙のようなものが飛び出る。
「逃げるのは無いデショ」
 それが、次の感染者を探すより先に一撃を放つ。刃を沈めた感覚が手に返りーーそのまま、コノハは前に出た。
「ひ、はは」
「ふひ、はは、ははは!」
 狂ったように笑う青年たちの腕がぐにゃり、と変化する。青白い肌を、茶色く変じさせながらも笑う彼らの拳が来る。
「楽園に行くんすよ! 今日はやっとその日なんすから! 邪魔はさせないんで」
 ぐん、と撃ち込まれた右。続け様に来た左は、腕で受け止めた。キン、と甲高い音と共に展開したオーラが光を帯びた腕を受け止める。
「随分と変わったコト。それじゃ、普通の腕じゃいられないのにネ」
 鋼の音がした。ぐにゃり、と肉体構造から変化させられた感染者たちは、瞳さえ赤黒く染めながらーーだが笑う。
「だめ、だめっすよ。これ以上ほんと邪魔は無いって」
「そうそう。安らかな死こそ、楽園へと導いてくれるんですから。それを叶えたらみんなハッピーっしょ」
 楽園があるなら、どうせ行くなら「後」である必要など無い。
「みんな一緒にすぱっと行きましょうよ! その為の新しい楽園教に生まれ変わるんすから!」
 声と共に飛び込んできた男の腕は、刀へと変質していた。鋭い突きに、コノハは剣を振り下ろす。ガウンと重い音と共に、火花が散る。受け止めていた拳を、足払いで散らす。
「古けりゃイイなんて言うつもりナイけど」
 勢いよく転んだ青年を置いて、先に男の剣を踏む。足場にして、とん、と背に回ったコノハの剣が深くーー沈んだ。
「く、ぁあ、あ……!」
「今を切り捨てるやり方は気にくわねぇの」
 キィイァアア、と絶叫が響く。崩れゆく男の中から、溢れ出た煙を散らす。
「オシゴト遂行させてもらうわネ」
 ひたり、と最後に残った青年をコノハは見た。
「アンタらの悪魔を祓って」
「ーーぁ」
 息を飲んだ青年を、剣が切る。肉体を傷つけることなく、その身に宿る邪な力を、妄執を散らしていく。
「キィアアアアアア!」
 獣とも、人の声とも言えるその音は、対猟兵用生物兵器・フォーラーオブレリアの絶叫であったか。崩れ落ちた青年から溢れた煙は、再び浮き上がることもできずに消滅し、水を起点とした病は消え去っていく。
「あれれ、困ったな困ったなー」
 それに気がついたのは猟兵たちだけでは無い。再び入った島内放送。
「これじゃぁ、さくっと急がないとだね! 楽園へと導く為に!」
 スピーカーから響き渡るその声に、コノハは眉を息をついた。妙に明るい、少女の声。これこそが復活を狙うーー邪神だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『楽園への招待者』

POW   :    安寧なる楽園への案内状
【頭上にある天使のような輪の高速回転】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    健やかなる楽園の住民の召喚
対象のユーベルコードに対し【『楽園』へ導かれた『幸福』な一般人達の霊】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ   :    美しき楽園の象徴画
【両袖の中から噴き出す色とりどりのインク】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【には不気味な抽象絵画の様な物が描かれ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●深き天に至る
 最後の感染者が倒れた時、その声は響いたのだ。
「困ったなー。急がないとだね! 楽園へと導く為に!」
 突然響き渡る町内放送。妙に明るいその声は、しっかりと聞こえるのに他の島民達は姿を見せない。一種の催眠か。
 声を以て派生する力を響かせた者こそ、完全復活を望む邪神であった。

●とある男とローザ・リーリエの話
 きっと、と男は思った。
 自分は失敗したのだろうと。
 島は組織の懸念通り歪んでいた。嘗ての楽園教の姿は無く「楽園に至る」という言葉だけが蔓延していた。
『未来は不安に思うものよ。ずっと島にはいられない子も、島にしかいられない子もいるかもしれないけれど』
 その選択肢を、楽園教が奪うなら。
 更なる繁栄をとお父様は言ったけれど。
『安易に楽園に逃げるのは違うの。背を押すのも違うの』
 協力者として選んだのは楽園教に司教一族の娘だった。あの出会いが偶然であったのかは分からない。いつだって前向きな彼女に厳しいことを言ったこともある。
『いずれ楽園教は崩壊するぞ。この島も』
 そう言った時の答えが、あれだったのだ。
 未来への選択肢を奪うなら、変わらなければいけない、と。
『だから、貴方は行ってね。どうかーー』
 とどめをさして、と彼女は美しく笑った。

 結局、自分だけ島から逃げ出すことはできなかった。変わり果てた彼女は、あの子と呼ぶ存在に言われるがまま婚礼を行うという。
「リーリエ、君は……」
 この地に潜む邪神に自らが取り込まれることに気がついていたんじゃないのか。とどめは楽園教じゃなくーー……。
「君に、とどめをさせってことだったのか」
「えー、島から出てって来れてれば良かったんですよー」
 喘ぐような声は『あの子』に拾われる。祭壇の上に腰掛けていた少女めいた『それ』は足をぱたぱたとさせると、頬を膨らませてみせた。
「ま、帰ってきちゃったんだからそこは、ローザちゃんにご褒美あげないとですよね。カミサマと結婚するのはまた今度ってことで」
 喋り続ける少女は、時折透けて見えた。顕在化はしている。殴れば届くと言うのに体は動かない。
「……まえ、は」
「暴れちゃダメだよ。ローザちゃんは向こう側からの門になって、みんな安らかな死を迎えて楽園でハッピーなんですから」
 楽園へようこそー! と少女が手を振り上げる。虹色の紙吹雪が舞う。舞い落ちるそれが、ふいに、消えた。駆けつける足音。
「もうちょっとゆっくりだって良かったんですよー」
 悪魔祓いのみんな? と少女は笑った。

●楽園への招待者
 山頂にほど近い場所に、古びた社があった。屋根を失い、柱ばかりになったそこは祭壇としてある。ぐったりとした男ーー調査員が血を流し、その傍では白い着物を着た娘が笑みを浮かべていた。聞こえていた話からするに、彼女がローザだろう。
「むー、このまま帰ってくれたって良かったんだよー」
 頬を膨らませて見せたのは、少女のような姿をしていた。頭には虹色の輪。天使にも似て違うそれこそが、とうに滅んだ教団が勧誘用に作り上げた少女型のバーチャルキャラーー楽園への招待者であった。
 感染者たちが言っていた「あの子」の正体。
 教団は滅びーーだが、電子の海を漂う邪神はその「データ」に憑依した。明るい少女の声で歌うように告げるのだ。
「安らかな死が楽園に導くんだよ? この島はこれからみーんなでまるっと楽園に旅立つ予定だったのに邪魔しちゃうんだからなー」
 ぷぅ、と頬を膨らませて楽園の招待者は猟兵たちを見た。
「邪魔はダメだよ。なにせ、みんなが旅立った僕とカミサマが復活するんだから」
 だからここで大サービス!
「安寧なる楽園へ、君たちも案内しちゃうぞ。猟兵のみんなー!」
 僕がハッピーにしてあげるよ!
--------------------------

●マスターより
ご参加ありがとうございます。
秋月諒です。

以下、第三章補足となります。

▼ボス戦
楽園への招待者
既に滅んだとある教団が勧誘ように作成した少女型バーチャルキャラ。
邪神がデータに憑依し、UDCとして顕在化した。


島の人々
町内放送で昏睡状態にあります。楽園への招待者撃破により解除されます。
戦闘には巻き込まれません。

ローザ・リーリエ・ローレッジ
 村長の娘。楽園教の現司教。
 邪神の信徒とされ、正気を失っている。
 調査員の協力者であり恋人。楽園教は変わるべきと思っていたが、父親に悟られ、調査員を逃がそうとした結果、邪神の信徒とされた。
 声をかけるなどして一定の条件を満たすと、楽園への招待者撃破後に正気に戻ります。

調査員の男
 組織の調査員。儀式の生贄にされかかっている。重傷。
 ローザを置いては逃げられず、結果囚われの身となった。
 ローザが正気に戻らなくても支えて行くか、共に約束を果たすつもりでいる。
 
新派のメンバーたち
 寝てます。

▼プレイング受付期間
1月17日(金)8:31〜1月20日(月)

*ローザと関わるプレイングの場合は、受付期間後半〜最終日に送ってください。
前半の場合、締め切りの関係でローザ関係を採用できない場合がございます。
冴木・蜜
病を持ち込み
人々を苦しませた挙句に楽園ですか
貴女の楽園は許容できない

楽園の扉を閉じましょう

ローザさんを正気に戻すには
きっと調査員の力も必要でしょう

ならば私は彼を治し護りましょう

身体を液状化
物陰に紛れ床を這い
調査員の傍へ

二人の安全を第一に彼らを『盲愛』
傷付かぬように
液状化した体を捻じ込ませてでも庇います
多少の負傷は構いません

放たれた攻撃や霊は
黒血で打ち消してやりましょう

このまま諦めたくは無いでしょう

まだ間に合います
彼女は我々が取り戻します
だから貴方の力を貸してください

彼女を支え続けると
共にいきたいと
願ったのでしょう

ならばどうか
その想いに従って下さい


喜羽・紗羅
(――叩き切るぞ)

うん、準備はOK
私のまま偽装バッグを撃ちまくって地形を利用し距離を詰める
ダッシュしてジャンプして隠れてゴー! よ
一般人の霊――地多爾得無でここに眠る人達の力を借りれないかな?
(ああそう言や巫女的な何か、出来たんだっけか?)
触りはね、ただの真似っこよ。でも……声は届く筈
こんな所だものね、やってみるわ

敵には先に攻撃させるわ。バーチャルキャラ?
スマホで様子を探りつつ聞き耳を立てて出所を探すわ
色とか温度とか、何かそういうのが違うでしょ多分

そしたら攻守交替、物陰に隠れるふりをして俺参上
紗羅を囮に奴の懐に入るぜ
薙刀にした太刀で奴と出所を二段攻撃だ!
この一刀は鎧ごと貫くぞ――行くぜ化け物!


ジュマ・シュライク
残念ながら、放って帰るわけにはいきませんわ。
ただひとつの島の自滅なら、それでも構いませんけれど。
よからぬものを呼ぶ存在がいる限りは。

銀狼を召喚し、駆けて貰いますわ。
両腕の動きに注意、躱すように指示を。
アタシもその軌道に残らないよう目を向けておきますわ。

色彩豊かで暢気なハッピーなんて、お断りですわ。
死の魔力をお返しに。
獰猛な死の力は、データでも喰らいましてよ。

死後の婚礼。
古今東西、聴かぬ話でもありませんけれど……。
それが此処まで拗れてしまうのは、因果かしら。
ローザに声を。
島を導くにせよ、出るにせよ、もう自由なのだから、今生で結ばれるため、確りとなさい。
……ふふ、アタシに祝福など似合いませんわね。



●楽園に至る儀式
 静まりかえった山中。スピーカーから響いた「声」が理由ではあるだろうがーーそれにしても、酷く静かだ。
(「……あぁ、そうか。鳥の声も、何も無い」)
 島に生きる人々だけでは無い。鳥の声も、虫の気配もそこには無かった。とうに逃げたか、逃げられずに食い尽くされたのか。
「病を持ち込み、人々を苦しませた挙句に楽園ですか」
 冴木・蜜の声が響く。低く、静かに響く青年の声と共に白衣が揺れる。
「貴女の楽園は許容できない」
 それは、ひとつの宣言であった。ぴょん、と軽やかに作りあげられた祭壇から降りてきた楽園への招待者は、えー、と頬を膨らませて見せる。少女らしい姿で、だが作られた瞳に乗る色彩は言葉とは裏腹の情を見せた。
「だめだよ。だめだめ。不安になっても心配になっても楽園に行っちゃえば全部ハッピー大丈夫なんだから」
 ばた、と長い袖を招待者は揺らす。誘いを口にしながら、そこに有無など存在しない。明るい少女の声の向こうで、滲む何かは蜜の「否」を見据えていた。
「大丈夫。君もちゃんと案内しちゃうぞ!」
 ぴしり、と手を向けてきた招待者に蜜は視線だけを向ける。見据える程度で、あちらに囚われるような体はしていない。
「二度は言いません」
 艶やかな黒髪が靡く。その端から、ぱたぱたと滲んで落ちる。雨粒のように、体が。死毒たる青年を横に、まぁ、と長身は声を落とす。
「まぁ、長話には向かない相手でしてよ」
 話す価値という意味で言えばまず無く、話し相手にするには染み渡るような毒を持つのだろう。ぱたぱたと手を揺らし、そうかなそうかなー、と言って見せる招待者にジュマ・シュライクは息をつく。騒がしいですわね、と言えば、またあれこれと騒ぎ出すのだろう。
 あの「声」で。
 ーー最も、力が完全に戻っていれば、早々に皆「楽園」に招かれていたのだろう。
 楽園への招待者が望む形で。
「残念ながら、放って帰るわけにはいきませんわ」
 ほう、とひとつジュマは息を落とす。山中に吹き抜ける風は死を匂わせ、この地は弔いの気配を残す。
「ただひとつの島の自滅なら、それでも構いませんけれど。よからぬものを呼ぶ存在がいる限りは」
「楽園の扉を閉じましょう」
 一歩、蜜が前に出る。紫の双眸は、祭壇を見据えていた。
「ローザさんを正気に戻すには、きっと調査員の力も必要でしょう」
 社へと辿り着いた時、声を溢した彼はもう指先一つ動かさない。それでも、生きてはいる筈だ。ローザも、まだ生きている以上。
「ならば私は彼を治し護りましょう」
「狙われましてよ?」
 忠告では無くーーただ、事実を告げるように届いたジュマの声に、蜜は小さく肩を竦めた。
「今更です」
「ーーそう。では、私は援護を」
 それじゃぁ、と二人より少し前に喜羽・紗羅は立つ。
「前は任せて。力一杯やってくるから」
 目立つ感じで、と内緒話ひとつするようにしていれば、楽園への招待者が動き出す。悠長に待っていたのは、己が優勢だと思っているからか。
(「あいつは余裕だぞ」)
「まぁ、確かに。時間をかければかけるほど、危ない方向にだってやれちゃうのかもしれないし」
 己の裡にいるもう一人の声に、よし、と紗羅は顔を上げる。
「そちらから来てくれないと。僕から三人様、楽園に案内しちゃうよー!」
 れっつ、と妙に明るい声が響く。しゃららん、とどこからとも無く聞こえた効果音と共に、山がざわめく。
 ーー来る。
 直感的にそう「思った」紗羅に、鬼婆娑羅の声が届いた。
(「――叩き切るぞ」)
「うん、準備はOK」
 行くよ、と告げる声と共に、たん、と紗羅は地面を蹴った。ぐん、と振り上げたのはスクールバックだ。学生の必須アイテムは、駆ける少女と共に銃弾を撒き散らす。
「むむむむ! 暴れん坊じゃないですかー!」
「あなたが言うことでも無いでしょ!」
 銃弾に招待者の肩が吹き飛ぶ。一瞬、モザイクがかったかと思えば、次の瞬間には、もー、と声を上げる招待者が腕を振るう。
「えー、ここは言うやつなんですよー。暴れん坊なんかしないで、楽園に行くべきなんですから!」
 瞬間、キィイイン、と甲高い音が響き渡った。音波か。浅く、腕に入った傷にーーだが、構わず紗羅は銃弾を叩き込む。祭壇となった場所まで、そう距離が離れていない以上無茶にばら撒けば調査員やローザに被害が行く。ローザはまだしも、調査員に当たればーー恐らく、命が危ない。
(「だから、こっち……!」)
 倒れた岩を飛び越す。跳躍の間に、偽装バックを招待者へと向ける。派手な立ち回りは距離を詰める為。
「もーもー、困っちゃったので。ちょっとお手伝いしてもらおうと思いますー! さぁ、みんなー時間だよー」
 バサバサと銃弾で傷ついた体を払いながら、招待者の光輪が光を帯びていく。
「そこのおにーさんもみんな、素直になっちゃえ!」
「穿て我が剣……意志無きしもべ」
 その光が、力の形を得るより先に声が、届いた。玲瓏たる響きを以って、かの狼は現世への門をくぐる。
「ルォオオオオオオオ!」
 ジュマの足元、多重に展開された魔法陣から銀の大狼は飛び出した。銀の爪が、地を蹴り出す。高い跳躍と共に獣は一気に戦場を駆けた。
「両腕の動きに注意なさい」
 短く告げた指示と共に、わぁ、と声を上げた招待者を見る。食らいつく一撃を躱し、たん、と身を浮かした姿は少女のそれだがーー目が、違う。
「狼」
 射るような視線。見下すようなそれに、だが銀狼は構わず行く。木の幹を蹴り上げ、鋭い銀の爪を叩き落とした。
「ガルゥウウウ!」
 ギィイイン、と鋼めいた音が響き渡った。ワァァア、と声を上げた楽園の招待者が地面に落ちる。叩きつけるほどの勢いに、だが、着地をして見せるのはやはり邪神が憑いているからか。
「もう。大サービスで楽園の肖像画だって見せちゃうよー!」
 くるり、と身を回して楽園の招待者は両袖を振り上げた。
「さぁ、幸せになるのは安らかな死を!」
 高らかに響き渡る声と共に、色とりどりのインクが吹き出した。雨のように降り注ぐ色彩に、銀狼が一気に距離を取る。さすがに浅く、毛に触れたか。グルゥウウウ、と威嚇するような声を上げる銀狼を視界に、ジュマは瞳を細めた。
「随分と、悪趣味な絵ですのね」
「えー、最高にハッピーだよ!」
 ジュマを狙った一撃分、外れたインクはず、ず、と身を引きずるようにして地上に不気味な抽象絵画を描き出していた。招待者が両手を広げる。キィイイン、とさっきよりも強く、高く音が響いた。
「色彩豊かで暢気なハッピーなんて、お断りですわ」
 音は、腕を切り裂いたか。パタパタと落ちる血は、濡れた指先を空に滑らせることで終わりを迎える。傷は傷として。痛みは痛みとしたままに描き上げるは死の魔力。
「獰猛な死の力は、データでも喰らいましてよ」
 さわさわと、靡く髪と共に力はーー駆けた。
 それは果たして影の如き闇であったか、なお深い深淵であったか。抉るような力に、楽園への招待者が傾ぐ。白く、長い袖の一部完全に戻らない。
「もう、もう怒っちゃったんだから! ローザちゃん、一緒に楽園に……!」
 さぁ、と誘うように響いた少女の声が歪み、空間を切り裂くような力が走った。音波はーーだが、ぱしゅん、と何かに吸い込まれるようにして消える。
「届かない? なにがいるの?」
 そこに、と問う声に、ぱしゃりと水音が返った。水では無い。雨は降っていない。ただ、影のように見えた何かが揺れ、身を起こすようにして「形」を得ていく。
「……は」
 白い指先。痩身を得た黒は、白衣を汚していた。先の一撃、二人を庇ったからだ。
「無事、ですね」
 ほ、と息を吐く。あの一瞬まで、二人への攻撃はジュマや紗羅が防いでくれていた。だから、二人にあるのはこれまでの傷だけ。
「あらゆる傷病を治し、貴方を助けましょう」
 自分の傷は構いやしないのだ。
 二人の安全を第一に。蜜は知りうる限りを尽くす。この身はあらゆる生命を融かす致死の蜜毒である。
(「でも私は――」)
 ただ、救いたい。
 指先で調査員の白い指先を見る。傷口を、持ってきていた医療道具で消毒する。腕よりは足か。片足にひどく残った傷は逃さない為か。
「……ぁ、お、……れより、もう」
 彼女を、と擦れる声がした。ローザを、とようやく形を得た言葉は、またふつりと沈むように消える。邪神の影響か。今日まで捕われていた所為か。
「このまま諦めたくは無いでしょう」
 血の気の失せた頬に触れる。首筋、脈はある。手を取りながら声をかける。薄く言葉を紡いだきりの唇が震えるように動く。
「えー、ダメだよダメダメ! そう言う邪魔はだめなんだから!」
 だからほらみんなー! と招待者が声を上げる。光輪が輝き、冷気を招く。白い霧の向こうから姿を見せたのは青白い顔をした人々であった。
「健やかなる楽園の住民の皆様たちよ。楽園に誘おう」
 生きてはいまい。死者であり彼らは霊だ。
 楽園へと導かれた。
「ァアア……ァア」
「楽園ヘ。ァア、ア……クエン、ニ」
 それは嘗ての島民たちであったか。歩き出しは緩やかに。だが、獣のような素早さで一気に蜜に向かって駆け出した。飛びかかる一体に、青年は手を伸ばす。食らいつくより早く、爆ぜた死毒が霊を崩す。
「これ以上」
「ーー邪魔は、させない!」
 言葉を受け取ったのは紗羅であった。一般人の霊の、その力を借りることはできなかった。ここに眠る人々の力を借りるには、ユーベルコードの準備が必要となるのだろう。
「声さえ届かないのは、あいつがいるからね」
 大地や空間の記憶さえ、単純に吸い上げることはできない。その声さえも、邪神は阻むのか。
「ーーなら」
 銃弾をばら撒きながら、紗羅は一気に前に出た。霊を散らす。飛び越せば、えー、と楽園への招待者は笑みを浮かべた。
「銃弾じゃ、無茶できないもんですねー」
「そうね」
 だから、と口の中だけで言葉を作る。襲いかかってきた霊の群れに、軽く足だけを引いたのは、たん、と踏み込む姿を見たからだ。
「……!? もう一人」
 誰、と呼ぶ声に鬼婆娑羅は笑った。今の自分は紗羅の別人格に過ぎずーーだが、こうして動き回ることもできる。
 ひゅ、と招待者が息を飲んだ時にはもう遅い。薙刀へと変じさせた太刀と共に鬼婆娑羅は、懐深くへと飛び込んでいた。
「この一刀は鎧ごと貫くぞ――行くぜ化け物!」
「……!」
 ザァアア、と刃が走った。振り下ろす一撃に、色彩が飛び散る。色鮮やかな光と共に、少女の姿が欠ける。色彩はーー戻らない。
「もう、もうもう! 邪魔ばっかりなんだから! ローザちゃん、手伝っ……!」
「島を導くにせよ、出るにせよ、もう自由なのだから、今生で結ばれるため、確りとなさい」
 声を、届けたのはジュマであった。
 戦場にあって笑みを変えず、どこか揺蕩うように身を揺らしていたローザが、ぴたり、と動きを止める。緩やかに視線がこちらを向く。
「……」
 声は無い。けれど意識が僅かに、こちらに向いたか。
(「死後の婚礼。古今東西、聴かぬ話でもありませんけれど……」)
 それが此処まで拗れてしまうのは、因果かしら。
「……ふふ、アタシに祝福など似合いませんわね」
 死こそ、傍らにあった。死者の囁きが伴であった。
 静かに息を落としたジュマの視界、迷わず蜜は治療を続けていた。
「まだ間に合います。彼女は我々が取り戻します。だから貴方の力を貸してください」
 調査員は「己」を失いきりはしなかった。この地に猟兵たちが辿り着いた時それと気がついていた。悲壮な覚悟があるとしてもーーその「前」があった筈だ。
「彼女を支え続けると、共にいきたいと願ったのでしょう」
「……ぁ……、あ、お、れ……は」
 目蓋が震える。ゆっくりと瞳が開く。傷の残った顔はそれでも彼の瞳を奪いきってはいなかった。
「彼女を、ローザ、を……連れて」
 一緒に、と声が落ちる。震えていただけの指先が地を掴む。白い顔はそのままに、それでも確かに戻ってきた意識に蜜は頷いた。
「ならばどうか、その想いに従って下さい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蓮条・凪紗
ミルラ(f01082)と

そそ、本来は生きてる今を充実させる為にあるんやわ。
拝む事で安心出来るなら、信じる事で死や病への畏怖を取り除けるならエエと思う。
楽園に行けると説くのは心の平穏への手段であって、目的じゃなかった筈や。

そないなサイバー天使より此方の巨乳シスターのが百倍信じられそうや、うん。

手加減とか出来るオレらや無いやろ?
両手の碧爪伸ばしてミルラの鞭攻撃の隙間縫って近接攻撃。
抉る様な攻撃は呪詛籠めつつ。島民の分お返ししちゃるわ。
飛んでくる攻撃は見極めて回避試みるけど基本捨て身やし。

式神顕現「塔」――全力全霊、空に向けた指先を敵に向け。
楽園を目指した愚か者に下る、天の裁きの雷をその身に受けよ!


ミルラ・フラン
凪紗(f12887)と

あのさぁ……宗教って、ヒトの心を安定させるためのもんなわけ
楽園は人生をまっとうに頑張った結果、として位置付けられるはずなんだけど
それ自体を目的にするのは人生への冒涜だよ
(腕組みし胸を張って真っ向から反論し)

……いい、手加減無し。本気で行くわ
(髪がより明るい紅に、爪が真っ赤に伸びて)

Signorina Torturaを棘の生えた鞭に変えて【先制攻撃】【2回攻撃】で攻める
袖から噴き出すインクが厄介だから、袖を絡めて封じるように動くよ

凪紗の繰り出す塔の札と同時に【蹂躙】【串刺し】を乗せたジャッジメント・クルセイド
審判の時間だ!光の杭があんたを刺し抜くよ!あの世で後悔しな!!



●天は遠く
「もう、もう!」
 困っちゃうんですよー! と少女の声が響いていた。頬を膨らませて怒る姿は可愛らしく『見える』正しく、そう作られた存在。少女型バーチャルキャラは、長い袖をバタバタと揺らして猟兵たちを見た。
「邪魔ばっかりだと、安寧なる楽園に連れてってあげないんだから」
 知らないぞー、とすちゃり、とポーズを取ってみれば、しゃらん、と妙な効果音がセットで響く。このバーチャルキャラを作った教団は、どういう勧誘をやらかすつもりであったのか。
「そこに行くべきだって話は何処いったのよ」
 安らかな死が楽園に導くのだと誘いながら、戦いになれば邪魔をしたと言って置いていくという。
「安寧なる楽園ってやつに」
 は、とミルラ・フランは息をつく。なぞり落とした言葉に、えぇ、と楽園への招待者は笑って頷く。
「行きますよ」
「……」
 声は、少女のそれだというのにその奥に何かがいる。邪神、なんて呼ばれる大層なモノ。真紅の瞳を細めれば、まぁ、と隣から声はやわく落ちた。
「おてて繋いで、連れてって貰う気もあらへんけどな」
「……あの見た目連れて歩いたらねぇ」
「息つく間に犯罪者にする気か」
 からり、と笑った蓮条・凪紗に、視線ひとつだけ向けてミルラは楽園への招待者を見据えた。
「あのさぁ……宗教って、ヒトの心を安定させるためのもんなわけ」
 教会という地を、ミルラは知っている。そこで信じられる言葉も、そこに祈り、願う人々のことも。
「楽園は人生をまっとうに頑張った結果、として位置付けられるはずなんだけどそれ自体を目的にするのは人生への冒涜だよ」
 冒涜、と楽園への招待者が紡ぐ。なぞり落とすような言葉に、邪神の気配が滲む。射るような視線、瞳を合わせればそれだけで引きずり込まれるような気配を感じながらーーだが、ミルラは真っ向からそう言った。腕を組み、胸を張って。
「そそ、本来は生きてる今を充実させる為にあるんやわ。拝む事で安心出来るなら、信じる事で死や病への畏怖を取り除けるならエエと思う」
 人は、今を生きるためにそれを探す。
 今を生きる中で、それを見る。
 願いと共に神社にやって来る人々を、祈るような言葉を凪紗は知っている。
「楽園に行けると説くのは心の平穏への手段であって、目的じゃなかった筈や」
 この地に、本来あった楽園教の姿。蔓延した病と向き合うしか無かった彼らが生きるために見出したもの。願いや、祈りに似たもの。
「そないなサイバー天使より此方の巨乳シスターのが百倍信じられそうや、うん」
「……いい、手加減無し」
 巨乳のあたりに鉄拳制裁をかますかどうかはひとまず後で考えることにして。
 ざ、とミルラは髪をかきあげた。風に靡く美しい髪が色彩を変えていく。より明るい紅へと、戦場に紅をひくように。紅髪を指先から滑り落とす指先が、その爪が真っ赤に伸びる。
「本気で行くわ」
 た、とミルラは地を蹴った。飛ぶように一気に前に出た連れに凪紗は笑う。
「手加減とか出来るオレらや無いやろ?」
「ーーまぁね」
 背に、届いた声に小さく息だけを溢す。来ちゃうんですかー? と明るい声を上げた招待者に、態々応えてやる義理もない。す、と手を伸ばす。拷問具が鞭へと姿を変えた。
「邪魔邪魔はだめなんですよー!」
 たん、と招待者が後ろに飛ぶ。軽やかな跳躍。だが、その分をミルラは一気に踏み込んだ。間合いの全て、潰す必要は無い。この手にあるのは鞭なのだから。
「ーー」
 だから、今の間合いで。踏み込みに合わせて腕を振るう。棘の生えた鞭が招待者にーー届いた。
「わぁ!」
 揺れる長い袖から、鞭は胴へと届く。燦きに似た光が飛び散り、傾ぐ体に続けて振り下ろした鞭は避けられたか。
「二度も当たりませんよーだ!」
「そ。それなら……」
 良かった、とミルラは薄く笑う。間合い深く、派手に踏み込んだのは何も攻撃の為だけではない。た、と足音が耳に届く。踏み込みよりは身を振った音。正面、打ち込んでいたミルラの姿だけを捉えていた招待者が、は、と息を飲んだ。
「もう一人の邪魔っこ!」
「島民の分お返ししちゃるわ」
 地を、滑るミルラの鞭を視界に。その隙間を縫うように一気に凪紗は招待者へと身を飛ばした。踏み込みで地を捉え、握る拳には刃は無くーーだが、碧爪が薙ぎ払う腕と共に伸びた。
「わぁああ!」
 手刀の要領か。なぎ払った凪紗が、そのままくる、と身を回せば、真横に飛んだミルラが鞭を振るう。
「もう、もう怒ったんだからー! 精一杯めいっぱい届けちゃうんだから。安寧なる楽園へ! 美しき肖像画よ、ここに!」
 楽園への招待者の頭上、天使のような輪が高速に回転する。キィイインン、と甲高い音と共に不可視の刃が、来た。
「ーー首、狙うか」
 腕を振り上げたのは半ば、反射だ。腕に傷が走り、血がし吹けば、にぃ、と笑った招待者が腕を振るった。
「さぁ、幸せになるには安らかな死を!」
「させないよ」
 ひゅん、とミルラの鞭が袖を絡めとる。だが、封じるには流石に足らないか。ボロボロと零れ落ちたインクは、地を汚し文様にも似た絵を描いていく。
「ふふ、ふふふふふ。さぁ、めいっぱい描いていくよ!」
 その絵は、楽園への招待者を強化する。
 不気味な抽象絵画が淡く光を溢し、たん、と地を靴で叩くと少女の姿を借りた邪神は笑った。
「それでみんなを、楽園にご案内しちゃうぞ」
 袖に絡めていた鞭が空を切る。擦り抜けたか。た、と地を蹴った招待者が一気に踏み込んでくる。ぶん、と振るわれた袖と共に不可視の力が来る。
「そこの二人はノックダウンで引きずっちゃうんだから!」
「好きにされてたまるかっての!」
 衝撃に鞭を振るう。一撃を散らせずに肩口に届く。熱のような痛みに、だがミルラは表情ひとつ変えずに、たん、と足を止め、顔を上げた。
「我が名において来たれ、神秘の札に宿りし識よ!」
 力の集約に気がついていたからだ。
 凪紗が手にしたのはタロットの「塔」指先に構えたそれが、キン、と甲高い音と共に力に変わる。空へと向けた指先と共に髪が揺れる。衣が揺れる。その光を視界に、ミルラも天からの光を招く。
「審判の時間だ! 光の杭があんたを刺し抜くよ! あの世で後悔しな!!」
「楽園を目指した愚か者に下る、天の裁きの雷をその身に受けよ!」
 二人、指先を向けた瞬間光がーー弾けた。
「……ッァアア!?」
 駆け抜けた光は、空より落ちる。蹂躙する力が、裁きの雷が楽園を誘う者を貫く。
「もう、もう……こんな、の!」
 血の代わりに飛び散るのは光だった。体を構成するのは未だバーチャルキャラクターとしてのそれか。ぷぅ、と頬を膨らませるのは少女らしく、だが瞳は射るような強さで二人を見据えーー言った。
「絶対絶対、許さないんだかから!」
 楽園に至らずに、散るが良い、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

調査員の方は生きていれば何とかなります
何とかします
兎にも角にも邪神を撃破しましょう

ザッフィーロ君の援護を行いつつ、調査員の彼を守るように傍らに立てられれば
人の心に擁く楽園はそれぞれですが、犠牲の上に成り立つしかない楽園は邪教です
「全力魔法」「属性攻撃」「高速詠唱」にて【天響アストロノミカル】にて攻撃を行います

戦闘の合間に様子を見て調査員の彼に対して「医術」で措置を試みてみましょう
ローザさん、愛というものはともに時間をかけて育んでいくものです
互いの想いを尊重し生き、幸せにしてこそ愛が育つのです
思想のために愛する人を傷つけるのは
それは本当に正しいことなのでしょうか?


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

調査員の男は生きている様だな
少々傷が心配だが…
…先ずは敵の撃破、か

左手に光の盾を展開させメイスを手に敵へ間合いを詰めんと地を蹴ろう
己への攻撃は『盾受け』にて受け流しながら行動
又、調査員の男に攻撃が行きそうな場合も『盾受け』にて『かば』いながら行動を
常通り背は宵が護ってくれているからな。安心して戦える
間合いに入れば【鍛錬の賜物】にて敵の身を掴み地へと叩きつけんと試みよう
又、戦闘の合間を縫いローザへは説得を
楽園へ…と言うがお前は本当にそれでよいのか?
好いた男を殺す事になるのだぞ
…俺は少なくとも愛しい相手とは共に生きて行きたいがなと、そう声を
正気に少しでも戻ってくれれば良いのだがな…



●天と地にありて
 地面には、奇怪な紋様が描かれていた。虹の色彩を散らし、その上でくる、と回って見せた楽園への招待者が唇を尖らせる。
「もう、みんな邪魔っこなんだから。困っちゃうんだよー! これからみんなでさくっと楽園に行って、ちゃんと幸せになるっていうのに」
「楽園、ですか」
 招待者の言葉に逢坂・宵は薄く唇を開く。そうなのです! としゃららん、と妙な効果音と一緒に手を上げた少女型バーチャルキャラクターは笑みを見せた。
「ローザちゃんも、そこのおにーさんもみーんな一緒に楽園に行けるんですよ。安らかな死が、楽園に導くんので!」
 なので、と招待者は笑う。にっこりと少女の顔でーーだが、その瞳は笑うことなく。ひたり、と二人を見据えた。
「邪魔はしちゃだめですよ」
 ひどく静かに響いた声と共に空間が、軋んだ。少女の姿に潜んだ邪神の力か。せーの、と両手を上げた招待者にザッフィーロ・アドラツィオーネは顎をひく。
 あれは、調査員たちを先に引き込む気だ。
 猟兵たち相手にわざわざ戦い続けるよりは、あの二人を手中に納めてしまった方が早い。ふわりふわり、と未だ、夢の中にいるローザに対し、調査員の方は少しずつだが意識を保てる時間が増えてきている。先に、猟兵が治療を施したからだろう。
「調査員の男は生きている様だな。少々傷が心配だが……」
 ザッフィーロの呟きに、宵は視線を上げる。
「調査員の方は生きていれば何とかなります」
 何とかします。
 静かに響いた宵の言葉に、ザッフィーロは前を見る。瞳を交わさねば伝わらぬような仲ではない。
「兎にも角にも邪神を撃破しましょう」
「……先ずは敵の撃破、か」
 ならば、とザッフィーロは地を蹴った。手袋の上から指先をなぞるようにすれば、キン、と光の盾が展開される。
「庇っちゃう気ですかー!」
「別に、それだけのつもりでもないがな」
 ひゅん、と振るわれた長い袖と共に、不可視の力が来る。キン、と盾で払い、そのまま一気にザッフィーロは招待者の間合いへと踏み込んだ。ダン、と踏み込みは重く。撃ち落とすメイスが楽園への招待者の首をーー狙う。
「わぁ!」
 ひゅ、と一撃が音を立てる。空を切ってはいない。打ち据えた感覚は残りーー視界に散った光が血の代わりか。欠け落ちた破片に似た光は、だが美しいものではまずない。
「もう、もう困っちゃうんだぞ。そういうのは!」
 招待者の声と共に、欠け落ちた光が色彩を変える。虹に変じたそれが熱を持つ。ーーだが。
「ザッフィーロ君」
 声が、先にあった。その声が届いたのならば、此処を動く理由はない。踏み込まない理由も無い。
「流星群を、この空に」
 間合いを、自分から取りに行く。山間の戦場に影が落ちる。
「星……? 違う、え、ここに……」
「……」
 ひゅ、と息を飲む音を宵は聞く。誘いに伸ばす指先は魔法陣を描き、多重に展開したそれは星を描く。天図盤。星の巡りと共に光は溢れ、天空より隕石がーー落ちた。
「アァアアアアア!?」
 飛来する力は、寸分の狂い無く楽園への招待者を穿つ。
 逢坂宵は、旧き天図盤のヤドリガミであるが故に。
「人の心に擁く楽園はそれぞれですが、犠牲の上に成り立つしかない楽園は邪教です」
 真っ直ぐに招待者を見据え、宵は言い切った。降り注ぐ力は、ザッフィーロを焼き尽くそうとした光を打ち落とす。落ちる星の力の中、構わず駆ける姿を見ながら、守りながら宵は今度こそ確実にその身を散らした楽園への招待者を見る。
「邪教、だなんて。ひどいなぁー、勿体ないんだぞー」
 声は間延びして響く。少女の声音で。だが、見据える瞳には邪神の力を色濃くのせて。怒りを、苛立ちを瞳にだけは顕に楽園への招待者はたん、と一度距離を取るように飛んだ。
「だから、僕はみんなを呼んじゃうよ。幸せなみんなー!」
 呼びかけと共に周辺の空気が軋む。急速に気温が下がる。
「ァアア……」
「ァアアアアア!」
 青白い霧の向こうから、姿を見せたのは嘗ての住民たちであった。青白い顔に痩せこけた頬を晒しながら、だが、笑う。呻き声を上げながら、その体はひどく細く、半透明な霊であるというのに跳躍はーー早い。
「ァアアアアアア!」
 飛びかかる気か。
 ひゅ、と穿つように伸ばされた腕はーーだが、踏み込んだザッフィーロが払っていた。吹き飛ばすようにして一体を払う。
「宵」
「君の背中は、僕が守ります」
 短い声の意味を拾う。応える。続く霊が、横を抜けようとすれば、身を滑り込ませる。盾で足らぬ分が浅く、体に届くがーーだが。それだけだ。
「むー、ちゃんと受け止めてくれないとだめですよー! みんな、健やかな楽園に行ったんですからねー!」
「あれが、楽園に出向いた者の顔か」
 幸いの在り処はそれぞれだとしても。
 異形めいた声を上げるあの姿が、健やかな楽園に住う者であるというのか。
 だん、と踏み込む。接近に招待者が光輪に光を寄せる。
「邪魔っこ!」
「ーーふむ」
 たん、と身を上に飛ばしたのは先のメイスを見ていたからだろう。だが「これ」は違う。
「普段鍛えて居るからな。……この程度ならば持てると思うのだが……な?」
 ぐん、とザッフィーロは腕を伸ばす。楽園への招待者の体をーー掴むと、一気に地面へと叩きつけた。
「わぁああ!?」
 ガシャン、と派手な音する。破砕めいた音と同時に、光が弾ける。虹色の光は零れ落ちたまま力とならずに泥となって消えていく。
「ローザちゃん、……ッローザ、ローザ!」
 少女の声が、ひどく歪む。重ねて呼びかけるそれを遮るようにザッフィーロは言った。
「楽園へ……と言うがお前は本当にそれでよいのか? 好いた男を殺す事になるのだぞ」
「……ろ、す?」
 ぼんやりとした瞳がゆるり、とこちらを向く。色彩を失ったままのローザに、ザッフィーロは己の心を重ねるように告げた。
「……俺は少なくとも愛しい相手とは共に生きて行きたいがな」
「ローザさん、愛というものはともに時間をかけて育んでいくものです」
 いきる、と声が落ちた。不思議そうなその声に、宵は言葉を重ねる。
「互いの想いを尊重し生き、幸せにしてこそ愛が育つのです。思想のために愛する人を傷つけるのはそれは本当に正しいことなのでしょうか?」
「……いきる、しあ、わ……わたしが、きず、つけ」
 あぁあ、ぁあああ、とローザが声を上げる。狂ったように頭を振るう娘に、招待者が手を伸ばす。
「だめだめ、だめなんだからもう! ローザは楽園に行くんだから! 声かけるのも聞こえるのもだめなんだから!」
 それを払うように、守るように二人は立った。
「それに」
「従う理由も無いでしょう?」
 二人告げた言葉と共に、戦場を見据える。調査員の意識はゆっくりだが回復してきている。なら後はーーローザだ。その為にも楽園への招待者は倒さなければならない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
●連携アドリブ歓迎
こんなものを楽園と嘯くか…良いだろう。ならばこの身は楽園を焼く焔となろう。

機人を纏い、『焔刃煉獄』を抜き放ち、UCを起動。本来は真の姿用だけど強引に【限界突破】。『F・エンジン』より魔力を汲み上げ、焔の【属性攻撃】で【焼却】しながら切り結ぼう。

『菩提樹の奥底より焔の煌めきが輝く。理想郷が為に、古き世界は煉獄の底へと呑まれるのだ』…新しい物を望むのは結構。されど、それには痛みが伴うものだ。婚礼は祝福するけれど、それは到達点である同時に出発点でもある。そこから目を背けるのは単なる停滞だ。キミが欲したのは本当にそんなものかい?

邪神が茶々を入れて来たら斬る。お呼びじゃ無いよ、お前は。


マリス・ステラ
「幸せは、それぞれが自分で決めることです」

そう言って『祈り』を捧げると私は輝きを纏う

【不思議な星】を調査員に使用

彼への攻撃を『かばう』

「あなたにしかできないことがあります」

攻撃は六禁で『武器受け』
『オーラ防御』の輝きで弾き返す

「死が幸福だと証明されたことはありません」

しかし、生きていて良かったと思う事は、幾度かはあるでしょう
どれほどの困難があっても
苦痛を伴うとしても
楽園は自らが作り上げるものです

「それを幸せと呼んではいけませんか?」

真の姿を解放

刹那、世界が花霞に染まる
頭に白櫻の花冠
纏うは聖者の衣
背から聚楽第の白い翼がぎこちなく広がる

「愛は無限です」

愛の『属性攻撃』は柔らかな抱擁
浄化し解放します


コノハ・ライゼ
ハッピーの押し売りは遠慮したいネェ

調査員とローザ(一般人)を背に『かばう』立ち位置維持
ローザの動きも警戒し調査員やコッチに手ぇ出すなら止めるねぇ

攻撃の動き読み『見切り』『オーラ防御』展開
致命傷を避け敢えて受けてくヨ
あーあ、クリーニング代請求しても?

(ローザに)
好きあった相手に自分を殺させるのは
相手の未来の選択肢を奪うのと同じナンじゃなくて?
変えたかったんでしょ
楽園に、勝ちなさいな

次の攻撃に合わせ【黒喰】放ち術を封じ
『2回攻撃』で仲間が刻んだ傷狙い「氷泪」奔らせ
『傷口をえぐり』『生命力吸収』で支払ってもらいマショ

ローザが戻るのに苦しむなら【天齎】で斬るわ
無理矢理課せられたモノで苦しむ事はナイもの



●楽園に至る
「もう、もう! 邪魔っこばっかだなー! 楽園に連れてってあげないぞ! 安寧たる世界が、見たくないの?」
 安らかな死こそ、楽園に導かれるのに。
 幸せになれるのに。
「だから僕が、パーンってやってみんな一緒に連れてって上げるつもりだったのに!」
 楽園への招待者の言葉に、ユエイン・リュンコイスは唇を引き結んだ。
 幸せになれる、というのか。青白い顔で、痩せこけた頬で転がるように襲いかかってきた新派の青年たちは、まず生きているのも不思議なくらいな姿にまで推し進められていたというのに。そうして歪んだ先、己が復活の贄とする為に彼らを楽園という釜に放り込もうとしているだけだというのに。
「こんなものを楽園と嘯くか……良いだろう。ならばこの身は楽園を焼く焔となろう」
 ひゅん、とユエインは腕を払った。空間を薙ぐ指先は機人を誘う。その身に纏われた黒鉄機人が僅かにーー軋む。
「ーー」
 分かっている。これは真の姿を晒した時のみ、使える術。決戦形態。
「白き指先、繋がる絹糸」
 今はそれを、強引に開放する。この身を、限界を突破させる。魔力を汲み上げ、体に落とす。沈ませる。黒鉄の装甲は灼熱し、さぁああと靡く髪が火花と共に舞う。
「振るわれるのは昇華の鉄拳」
 真っ直ぐに、ユエインは前をーー見た。む、と眉を寄せた招待者へと一気にーー踏み込む。
「これが正真正銘最後の切り札ーー絶焔の一刀だ」
 瞬発の加速。た、と音は短く、踏み込む少女の後を熱が追う。接近に、招待者が腕を振るう。長い袖が揺れ、空間が軋む。瞬間、放たれた不可視の刃にーーだが、ユエインは気にせず行った。
「な……!?」
「ーー」
 頬に傷がひとつ。だが、少女人形は気にせず、楽園への招待者の前、身を沈め一刀を放った。
「ワァア、ァアアア!? やめ、んな……火、は!」
 煉獄の刃は天を焦がす。
 炎を嫌がるように楽園への招待者が身を振るう。白く長い袖が崩れる。焼け落ちる体は、光のように。虹の色彩を一度得てーーだが、泥のように崩れ落ちる。邪神の気配を濃く見せていた瞳が、ぐん、とユエインを見た。
「きみは、おまえは、すりつぶしてから楽園の糧にしてあげる!」
 キィイインン、と甲高い音を立てながら、招待者の光輪が回転した。回転と共に空気が震える。両断する力に、ユエインは振り抜いた刀を滑らせる。ギン、と一度受け止め、だが、勢いで押し込む招待者の一撃が肩に沈む。
「邪魔っこなんだから!」
「君の手伝いをする気は、最初から無いしね」
 押し込む力に、敢えて身を添わせる。先に沈み込めば、力を向ける先を失った招待者が傾ぐ。その間に間合いを取り直す。ザァア、と足を滑らせれば、熱が戦場に舞った。
「……ぁ、ほ、のお」
 喘ぐような声が、耳に届く。調査員だ。猟兵たちによる治療も随分と進んだのだろう。会話できるほどに意識は戻りつつある。足に残った傷の方は、後少しかかるかもしれないが。
(「……守れる」)
 す、とユエインが息を吸えば、ふぅん、と招待者が声を落とす。
「みんなみんな、その人取って置こうとしますよねー。ローザちゃんの良い人なので、戻ってきちゃったし取っとこうかなーって思っていたんですが」
 勿体ないなーって感じだったんですよー、とコロコロと口調を変えながら、その身を焦がしながら楽園への招待者は笑った。でも、と。
「ローザちゃんが言うこと聞かないみたいなので、お片付けしちゃいますよ!」
 せーの! という招待者の声と共に、光輪が光を溢した。瞬間、放たれた不可視の力は、キィインと甲高い音と共に調査員の首を撥ねる。
「ハッピーの押し売りは遠慮したいネェ」
 ーーはずだった。
「な……!?」
 斜線に、飛び込んだ長身があった。庇うように立ったコノハ・ライゼの腕が赤く染まる。肩口から腕へと。落ちた斬撃は痛みか熱か。
「……ち……、血が……!?」
 赤く滴り落ちるそれに、意識を取り戻したか。背から焦ったような声が届く。
「俺を、庇うよりは。あいつを、それに、リーリエを、彼女……」
 彼女を、と言いかけた調査員が咳き込む。血が混じった咳は、拘束されていた時に受けた傷か。
「気にするほどのことじゃないヨ」
 こっちは、とコノハは告げる。こっちじゃないでショ、と続けようとしてーー今は、止めておく。どう見ても、招待者の機嫌は斜めだ。
「えー、どうして拾ってきちゃうんですかー! だめですよ、だめだめです! みんなまとめてぱーって楽園に行くんですから!」
 幸せになるんですよ、と告げる声に、静かな声が返る。
「幸せは、それぞれが自分で決めることです」
 否をひとつ、マリス・ステラは紡ぐ。祈りを捧げた娘の体が輝きを纏う。全身から放たれる星の輝きは、やがてふわり、と咳き込んでいた調査員の体に届く。
「……れ、は……?」
「あなたにしかできないことがあります」
 静かに、そう告げて扇を構える。マリスの輝きに触れ、調査員の傷が癒えていく。傷ついていた足が、流した血だけを残して治っていく。
「俺に、しか……」
 小さく目を見開いた彼に微笑みだけを返して、
マリスはたん、と身を飛ばした。
「えー、残念ー! 邪魔な頭をすぱんってしてから、楽園に行ってもらおうと思ったのに!」
 幸せにしてあげるんだよー、と告げる楽園への招待者が、手を振り上げる。焼け焦げた白い腕を振りかぶれた無数のインクが降り注いだ。
「ーー」
 色彩の雨を、六禁で弾く。展開したオーラの防御は、だが、どろり、と重みを得たインクがーー落ちて来る。
「ふーんだ。いっぱいいっぱい、今まで描いた絵があるもんねー。美しき楽園の肖像画に、君もお招きしちゃうぞ!」
「あなたの描く楽園にですか」
 受けた傷は火傷のように熱を持った。爛れるような痛みに、だがマリスは前を見る。真っ直ぐに、招待者を見据える。
「死が幸福だと証明されたことはありません」
 この程度の痛みで、この程度の傷で倒れるつもりも膝を折るつもりも無い。守る為に立つと決めた以上。
「しかし、生きていて良かったと思う事は、幾度かはあるでしょう」
 どれほどの困難があっても、苦痛を伴うとしても。
「楽園は自らが作り上げるものです」
 真っ直ぐに見据えた先は、楽園への招待者でありーー声を届ける先は、招待者たる邪神に侵食されたローザにだった。
「それを幸せと呼んではいけませんか?」
「なにを言って……!?」
 言っているのかと、楽園への招待者が声を上げようとした瞬間ーー世界が、花霞に染まった。
「これ……、まさか、君……!」
「……」
 頭に白櫻の花冠。纏うは聖者の衣。
 ふわりと靡く髪と共に、背から聚楽第の白い翼がぎこちなく広がる。
「愛は無限です」
 紡ぎ上げるは愛の力。光は柔らかな抱擁となってーー届く。
「ワァア、ァアアアア……!?」
 ぐら、と楽園への招待者が身を揺らす。あ、と小さな声がユエインの耳に届いた。
「こ……え……?」
 ぼんやりとしたローザの声が揺れている。ローザ、と調査員の声が響く。声は確かに響いているというのに、娘は振り返らない。
 それは、邪神に侵食されすぎたのが理由か。それともーーこの島で起きた被害を、理解してのことか。
「『菩提樹の奥底より焔の煌めきが輝く。理想郷が為に、古き世界は煉獄の底へと呑まれるのだ』……新しい物を望むのは結構」
 ローザは楽園教を変えようとしていたという。未来を選べるように、と。
「されど、それには痛みが伴うものだ。婚礼は祝福するけれど、それは到達点である同時に出発点でもある」
 こんな、祭壇の婚礼じゃない。
 血に濡れたものじゃない。
「そこから目を背けるのは単なる停滞だ。キミが欲したのは本当にそんなものかい?」
「わ……たしが、欲し……た」
 浅く、淡く。ローザの声が戻って来る。あ、あぁ、と震える声音に楽園への招待者が慌てるように声を上げた。
「だめだよ。だめだよローザ! そこに幸せな楽園なんてないんだから。きみだって言っていたじゃないか、死後の婚礼が一番……」
「お呼びじゃ無いよ、お前は」
 小さく、眉を寄せたユエインが招待者へと踏み込む。ひゅん、と振り下ろした刃で、一度黙らせる。剣戟の音が響き渡り、紡ぐ愛の光と虹の色彩が舞う。
「あ、わた、し……わたしが、欲するの、は、わたしが、わたしは、ダメなのに」
 ゆらり、ゆらりとローザが揺れる。瞳が揺れる。ローザ、と呼ぶ調査員の声に頭を振る。見えていないのか。それが邪神の術なのか。
「わたしが、わたしは、だめなの。わたしは、これ以上……」
「好きあった相手に自分を殺させるのは。相手の未来の選択肢を奪うのと同じナンじゃなくて?」
「ーー」
 ひゅ、とローザが息を飲む。
 コノハの言葉に、ぼんやりとしていた娘の瞳が色彩を取り戻していく。ああ、あ、と声が落ちる。震えるような、泣きそうな声。
「わたし、私は……」
 とどめをさして、とローザは言ったという。楽園教に、と一度は思った調査員は島を出ようとしてーーだが結局、彼女を置いては行けなかった。行けなかったからこそ、知った。
『わたしに、とどめをさしてね』
 それこそが、ローザが残した言葉の意味だ、と。
「そんな、……だって、わたしは、わたしが、かれ、に、かれ、を……っぁあああああ……!」
 絶叫は、その身に深く沈められた邪神の影響か。あぁあ、ああ、と声を溢すローザの瞳がしっかりとコノハを捉える。目があったそこで、コノハは言った。
「変えたかったんでしょ。楽園に、勝ちなさいな」
 すぐそばで、名前を呼んでいる相手のこと気がつく為にも。
「わたし、……わたし、は。かれと、一緒にいきたかった……。でも、だから……!」
「そう。だから楽園に行こうと思ったんですよね知ってますよー! ローザちゃ……」
 ちゃん、と弾む声は、た、と加速をたたき込んだコノハに砕かれる。氷の牙が白い袖を切り裂き、むう、と頬を膨らませた楽園への招待者が腕を振った。
「邪魔っこ!」
 瞬間、色とりどりのインクが飛び散る。肩に、腕に、色彩は熱と痛みを持ってコノハの体を焼く。
「あーあ、クリーニング代請求しても?」
「楽園に行っちゃえば、ぜーんぶ必要ありませんよー!」
「踏み倒すって言うんだけどネ」
 それ、と告げる。にぃ、と笑った招待者が、踏み込んでくる。真横から来たのはユエインとマリスだ。炎と星の光が弾ける中、むむむ! と楽園への招待者が腕を振るう。
「みんなまとめてぱーんって肖像画に収めちゃうんですからねー!」
「ーーソウ。でも」
 勢いよく腕を振り上げた招待者へと、封呪の雷が落ちる。弾けるはずのインクたちは撃ち抜かれ、一瞬にして姿を消す。轟音と共に、残る色が楽園への招待者に落ちた。
「な……!?」
 それは黒い影。全てを飲み込む黒き狐の影。
「オイシイ?」
 囁くように告げるコノハの言葉に、応えるように影は、その牙を招待者へと突き立てた。
「こんな、こんなこと。楽園に至って、楽園で、みんな、僕の、カミサマの為に使うはずだったの、にッアアアアギャァアアアアア……!」
 光が、弾けた。七色の色彩が砕け散り、幻の光のように楽園への招待者が消えていく。獣のように歪んだ声を長く響かせ、どしゃり、と最後、光は泥へと変わりーーそして消えていった。
「ーーぁ」
「リーリエ!」
 ゆらり、とローザが身を揺らす。意識を失うようにして倒れた彼女に、調査員が慌て手を伸ばす。抱きかかえた彼女の、呼吸を確認してコノハは静かに告げた。
「ーー大丈夫。生きてる」
 声がしたの、と気を失う前、ローザは言っていた。声は、楽園への招待者ではなく調査員の声だろう。
『……の、声が』
「……彼女は、今は気を失っているだけです。じきに目を覚ますでしょう」
 幼子ように笑う姿は、一瞬不安にはなったがーー大丈夫だ、とマリスは思う。邪神の影響も抜けている。彼女の精神も保った。
「目を、覚ます……」
「そう。だから、君も深呼吸をして」
 青い顔をしたままの調査員に、ユエインはそう言った。彼女と一緒に、ひとまず此処を出よう、と。
「そ。ま、二人の明日の為に、ネ」
 コノハは静かにそう言って、笑った。

●二人の婚礼
「……目を覚ます、と言われて。最初に、何を言おうかずっと悩んでいたんだ。島のことも、此処を出るかどうかも」
 遠からず組織の人間が、調査と後処理にやってくるだろう。この島は変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。
 ーーけれどきっと、楽園教は変わっていくのだろう。いずれ滅びるとしても。
「君が言っていたように。自ら、何かを選べるように」
 楽園への招待者が猟兵たちに討伐されたことにより、島の人々に流行っていた謎の病も消えた。あれが邪教絡みであったことを知っているのは自分と、あの猟兵たちだけなのだろう。
『ーー大丈夫、生きている』
 気を失ったローザに、血の気がひけた。ぱたりと落ちた手が、地面を叩くより先に拾ってーー抱きしめたまま離せずにいた自分に彼らは安心させるように言ったのだ。
『えぇ。今は気を失っているだけですが、じきに目を覚すでしょう』
『だから、君も深呼吸をして』 
 難しいかもしれないけれど、と告げた彼らは先に島を出た。この部屋から彼らを見送って、何時間経っただろうか。
 ふいに、眠ったままだった彼女の睫毛が震える。
「ーーおはよう、リーリエ。君に、ずっと伝えたい言葉があったんだ」
「……アヲ、イ……?」
 白い頬に触れる。ほっそりとした手を取ってーー左手の薬指に触れる。
 生きている君に触れる。
「愛している。これから先を、共に生きて行こう」
 君とこれから先をーー未来を過ごしたいんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月23日


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アルム・サフィレットです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト