【叙説異譚】君の見た夢、徒花と化す
●だれかの最期の独白
輝きたかった。自分は他の者とは違うんだということを思い知らせたかった。きらきらしたどろどろの世界でスポットライトを浴びて、輝く花道を駆け抜けたくて。
そのためならどんなことだってやったし血のにじむような努力もした。
それでも、それでも手に入らなくて、手を出してはまずいと分かっていながらもすがらずにはいられなくて。結局いま真っ暗で冷たい場所に横たわっているのだけど。
かすみゆく視界、世界がどんどん白くなっていく。
彼女は思った。
――そういうことじゃないんだよなあ。
●グリモアベースにて
「みなさま、イルミネーションはお好きですか?」
季節は冬、長い夜に光を求める人々は多い。UDCアースでも各所で様々なイベントが催されている。
「そのイルミネーションのイベントがきっかけで一ヶ所、邪神教団の隠れ場所が分かったものがあります。今回の依頼は、そちらへ急行し、やっつけていただくというものになります」
イルミネーションがきっかけで、というのはどういう事か。ひとりの猟兵が問うたのはもっともな質問だ。
「実は、とあるショッピングモールのイルミネーションが暴走していて。その原因が、教団が隠れ家で召喚しようとした邪神だった、ということが予知で分かったのです」
なるほど前後のつながりがよく分からない。
現場は運河に面した大型ショッピングモール。この冬の売りは運河沿いの広い中庭で行われているイルミネーションイベントだった。運河の向こうにはライトアップされた大きな橋もあるし、水と光の景観はとても美しいものである。
さてさて、そんなショッピングモールの地下に隠れ家を構えていた教団だが、ついに邪神の召喚を行ってしまった。
召喚されようとした邪神は人の欲望を喰らい存在を維持するのだが、喰ったものは消化するというプロセスが付随する。欲望は消化されると何になるか。かの邪神は『喰った欲望をかなえるために必要なもの』を生み出すという。
今回生贄としてささげられた哀れな犠牲者はどんな欲望を持っていたのだろうか?
「ええと、犠牲者の方の欲望が何だったか、までは分からないのですが……結局邪神に消化され生み出されたのは『大量の電飾と電気エネルギー』だった、ということです」
どうしてそうなった。
ともかく、それが彼らの隠れ家からあふれ出し、ちょうどそこで行われていたイルミネーションに合わさってしまい、風情のかけらもなくギラギラビカビカし、隠れ家の場所が露見してしまった。それは犠牲者の欲望ゆえか、それとも儀式で召喚された邪神が不完全な存在だったからか、そこまでは分からない。もしかしたら両方かもしれない。
つまるところ、とんだ召喚事故、ということだった。
「現地ではUDC組織の方がメンテナンス、というていで一般の方を退避させてくれていますので、思う存分戦って大丈夫ですよ」
隠れ家の場所はショッピングモールの中庭にあるマンホールの先。そこに不完全な邪神もいるという。猟兵たちが対峙すれば、今まで喰らった欲望や、それこそ猟兵達の欲望を喰って抵抗してくるだろう。下手に何かを考えていたら、それに有効な手段で対抗してくるかもしれない。
「ただその……現場、結構というかかなり眩しいことになっているので、それには気を付けてくださいね」
「では、今回の依頼の内容をまとめますね。UDCアースのショッピングモールの中庭に教団の隠れ家が見つかりましたので、そこをたたいて下さい。戦闘能力を有する構成員と召喚された不完全な邪神を殲滅することが目的です」
構成員は主に言葉を用いて現実を改変する能力を持つ。大勢いるので片っ端から蹴散らしてしまってほしい、とのことだ。
「あ、件のショッピングモールなのですが、運河に面していて景色がとてもきれいなんです。戦闘が終わるころにはUDC組織の職員さんがイルミネーションを正常に戻してくれていると思うので、それを楽しむのもいいかもしれませんね」
お仕事にはご褒美も必要ですから。そう言ってアゼリアは猟兵たちの転送を開始するのであった。
蜉蝣カナイ
こんにちは、蜉蝣カナイです。イルミネーションの季節になりましたね。私の推しイルミは東京メガイルミです。
このシナリオは、天雨酒MSと示し合わせて出したシナリオになりますが、内容は一切、全く、全然、繋がりはございません。ご安心ください。
大分雰囲気の違うシナリオとなっていますので、是非向こうのシナリオも参照ください。多分温度差で風邪をひきます。
第一章:集団戦
周りがものすごくぎらぎらしている中での戦闘です。まぶしい。
第二章:ボス戦
マンホールをくぐってボスを叩きます。地下なのにまぶしい。
第三章:日常
UDC組織の職員さんが頑張ってイルミネーションを直しておいてくれますので、楽しみましょう。
場所はショッピングモールですので、買い物するもよし、中庭が見えるレストラン(和食も洋食も中華もバイキングもフードコートも何でもあります)で食事するもよし、中庭を散歩するもよし。ご自由にお過ごしください。
という構成でお送りいたします。
第一章、第二章はとても、とても光が強い場所での戦闘になりますので、それを考慮したプレイングを頂けるとプレイングボーナスが発生します。
第三章について、グリモア猟兵のアゼリアもイルミネーションの点検に来ています。プレイングにてお誘い頂いたときのみ、描写させていただきます。
もちろん呼ばなくても全然問題ございません。
ではでは、皆様の素敵なプレイング、お待ちしております。
第1章 集団戦
『『レベル3現実改変能力者』王華崎・うさぎ』
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POW : 私は死なない、死にたくない!
自身が【命の危機】を感じると、レベル×1体の【王華崎・うさぎ】が召喚される。王華崎・うさぎは命の危機を与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD : 全部、ぜぇーんぶ! 私の好きにしちゃうもんね!
【現実改変による、物体の滅茶苦茶な形状操作】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 消えろ消えろ、消えろッ!
対象のユーベルコードに対し【悪態と否定の言葉】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
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●イルミネーションというよりもはや照明
猟兵たちがショッピングモールへ駆けつけると、すぐさまUDC組織の職員が中庭への扉を開けた。
目に飛び込んできたのは、色とりどりの光が乱舞する空間だった。
まず光量がおかしい。イルミネーションと言ったらもっと、それこそ雪のようにささやかにきらめく物ではないのか。夜を華やげるが夜の空気を失わせないような物ではないのか。個々の電飾が可能な限り輝いている。全力発光である。
そのうえ電飾の密度もおかしい。電飾で輝く立体物をつくる、というのはよく見る光景であるがそれがかわいく思える。つまるところ、一本一本の木が、葉が見えないくらい光り輝いているような。もう光の葉をつけた木と言われても疑わないだろう。だが現実は所狭しと巻きついている電飾だ。光に飾られたモニュメントもまぶしいくらいに積まれている。多分動物を模した物だと思われるが、眩しすぎて形が分からないほどだ。
さらにそれらはものすごいスピードで明滅を繰り返していた。いや、音楽に合わせて点滅するのは確かに演出として存在するがそんなレベルじゃない。一定の速度でちかちかしているものもあれば不規則に消える物もある。それがとても速いだけで。
そこは、太陽は水平線にすっかり姿を隠しているというのに、まるで昼間のような様相を醸し出していた。
「もう! なんなのよこれ! 早く片付けなさいよ!!」
「でもあの方の生み出した物よ!? 私たちが触れていいのかしら?」
「どちらにせよどうにかしないと我々の存在がばれて……」
「嫌よ! まだ死にたくない!! あの方の怒りに触れるのも嫌!!」
かしましい声に猟兵たちが視線を向けると、電飾に押し出されるように四角いマンホールから這い出て来た者達とばっちり目が合う。
「なっ、猟兵!?」
「もうバレてるじゃないの!!」
「仕方ないわ、あんたらもあの方に捧げてやるんだから!!」
「死にたくないってばぁ!!」
頭に絡み付いていたコード状の電飾を引きちぎりながら、構成員たちは即座に臨戦態勢を取ったのであった。
向坂・要
とりあえずこうもギンギラチカチカされちゃ身体にも良くなさそうですよねぇ
一昔前の光の明滅がどうとか言ってたテレビの案内とかディスコとかに良くあるミラーボールとかをなんとなく思い出したとかなんとか
とはいえ油断なく
案外邪神さんは派手好きなんですかねぇ
なんて嘯きつつ
エレメンタル・ファンタジアで呼び出すは不可視の陽炎による鴆
否定の言葉を吐く暇を与えず自身の武器による攻撃と獣の姿をとった夜華との連携を囮に「毒使い」の「属性攻撃」「範囲攻撃」
ついでにucで相手の言葉(空気)も奪えりゃ御の字ってね
連携アドリブ歓迎
ニオ・リュードベリ
わーっ!
何これ!
眩しい!
なのでサングラスをつけていきます!
これでちょっとは安心!
えっと、まずはうさぎさんを退治しないとだね
ギラギラして眩しい所にいっぱいのうさぎさん!
相手は『レベル3現実改変能力者』とか仰々しい肩書がついてる!
勿論怖いのでお願いバロックレギオン!
うさぎさん達が罵倒してきてレギオンが消えても、何度でも再召喚すればきっと大丈夫……だよね
レギオン達には攻撃より相手の引きつけをお願いしようかな
その間にあたしはアリスランスを片手にうさぎさん達に接近しよう
ある程度の距離まで接近出来たら一気に【ダッシュ】からの【ランスチャージ】!
相手を【串刺し】にして一体一体確実に撃破していくよ
「わーっ!」
ニオ・リュードベリ(空明の嬉遊曲・f19590)は目に映る光景に声を上げた。
「何これ!」
その顔には似つかわしくないサングラス。
「眩しい!」
光が弱まった視界には、たくさんのうさぎさん。
「とりあえずこうもギンギラチカチカされちゃ身体にも良くなさそうですよねぇ」
向坂・要(黄昏通り雨・f08973)も得物の短刀を弄りながら目をすぼめた。想起するのはテレビを見る前の注意文だとかディスコのミラーボールとかだ。健康被害を引き起こすこともあるのだから、光は侮れないのだ。
「案外邪神さんは派手好きなんですかねぇ」
何でもないように冗談を口走っているが、その目は鋭く王華崎・うさぎたちを見据えていた。
「やだ! 来ちゃった」
「やるしかないわ」
「死にたくない!」
猟兵の姿を認めるとかしましかっただけの声が殺気を孕み、さざなみのように迫る。
ニオは知っていた。見た目はうさぎでも彼女らの肩書は『レベル3現実改変能力者』だということを。
現実を改変できるって怖い。しかもレベル3らしい。レベル1ではないのだ。もちろん怖い。
しかも全員見た目が同じだ。最早不気味の域である。しかも周囲はぎんぎんぎらぎら、空間的にも異様。
明るく楽しくふるまうニオだが、その胸の内には反動のように大きな感情が渦巻いているのだ。つまり、怖くない訳がない。
「お願いバロックレギオン!」
見えない何かを振り払うように銀のランスを薙げば、いびつな兵隊たちが地面から盛り上がるように現れる。大きさも色も形も違うそれらは、無機質にうさぎへと突進してゆく。
「やだっ、不気味!」
ひとりのうさぎがバロックレギオンをねめつける。視線と言葉に射抜かれたその一体は、
びたりと動きを止めて光に溶けるように消えていく。
ひっ、と小さくニオが息を飲んだ。あれだけで召喚したバロックレギオンが消えるのだ。怖すぎる。しかしその感情に呼応するように、ふたたび足元からバロックレギオンが生えてくる。
そして、消されても生まれ波状攻撃をかますバロックレギオンの頭上を、要がとびこえてゆく。ルーンを起動させた短刀が淡く輝く――が、周囲のイルミネーションにかき消されていた。
「ちくしょう、来ないでよ!」
「それは無理な話ですねぇ」
悪態をつかれてもそこに打ち消されるユーベルコードは無いのだから。要の短刀が蛇腹剣に形を変え、急激に伸びた間合いにうさぎ達が後ずさる。だがそこには夜色をした狐が待ち構えていた。
要と、彼の従える狐、夜華、さらには押し寄せるニオのバロックレギオン達に気を取られていたうさぎの一人が、ついに横から銀のランスに貫かれる。
「ったあ!」
すぐさま槍を振り払いその躰を放ると、強く踏み込んで、突進。ニオの行動自体はとてもシンプルだが、その軌跡は凶悪なイルミネーションに照らされて彗星の如く、というかもう直視できない程度にきらめいていた。
それでも彼女にはしっかりと、次の相手が見えている。バロックレギオンに囲まれて動けない一人。
「ばっ、こな――」
「させませんぜ」
バロックレギオンを消そうと咄嗟に口を開いたそのうさぎは口をはくはくとさせて、ついに言葉が出ないままニオの槍の餌食となる。
何をしたのだろう、不思議そうな視線を投げたニオに応えるように要は何もない宙を指した。一見何もない空中が、大きな鳥の形に歪んでいる。それはサングラスをかけているニオにははっきりと視認できた。
それがバロックレギオンに押されているうさぎたちの周囲を囲むように飛べば、その範囲に居た者が苦しみ、血を吐きながら崩れ落ちてゆく。
「鴆、まぁ簡単に言うと毒のある鳥でさぁ――いやぁしかし、はたから見るとものすごく眩しいですぜ、それ」
「自分の武器も眩しくなるのは盲点だったよ!」
余裕のありそうな軽口と明るい口調。またひとりのうさぎが、ランスに屠られていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
(アドリブ・連携OK
……。
なんだこれ(素の反応
影には辛いですねこの光景
サングラス…かけても駄目だこりゃ
無断離脱していいですかいいですよねはいします
こんだけ眩しいと存在感がっつり消すのも難しいけど
背を向けてヘッドフォンで音楽聞いてます(ご丁寧にノイズキャンセル付
"勝手にやってて"くださいもう
そうすれば【シング・カーマ】で自分と味方の幻が出るから
適当にやってくれるでしょう
…って言っても自分の幻がやる事って
戦ってる皆さんの援護ですかね
敵の攻撃をオーラ防御で防ぎつつ
眩しすぎてなんかイライラしてくるんで(個人の感想)、
装飾過多すぎるイルミネーション引っ剥がす
あまりに敵が喧しかったら鈍器(※拡声器)で殴る
アドレイド・イグルフ
眩しい!!サングラス越しでもわかるぞ!?光だけが目立っていると!!
ンググ……視界が落ち着かない。サングラスなんて普段かけないから違和感が、すごい。でも……外すと…見えないからなア
しかし……狙いづらい。ドローンに補佐してもらってもこれか。弓で狙撃するよりは散弾銃で、敵がいそうなポイントを撃ってみる方がいい気がしてきたぞ……
…光源そのものを潰すことはできないのだろうか……電気を通すコードを破壊すれば、少しは大人しくなってくれると思いたい。感電には、気を付けよう。
現実改変!?なんだそれは。げ、幻覚なのか……狂気か!?わからん!だが物体があるなら打ち壊せる、はず!
「なんだこれ」
しばらくの沈黙ののち、ようやくスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)から出た言葉がそれだった。普段は芝居がかった言い回しと態度を好む彼だが、取り繕う隙もなく素。思わず言ってしまったと思った時には横に気配を感じてびくっとそちらを確認した。
「眩しい!! サングラス越しでもわかるぞ!? 光だけが目立っていると!!」
サングラスをしっかり用意していた美女、アドレイド・イグルフ(スペースノイドのシンフォニア・f19117)が居た。彼女はスキアファールの素の反応よりも、不慣れなサングラスの方が気になっているようで、何度もかけたり外したりしている。
「ンググ……視界が落ち着かない」
「ちょっとそれお借りしていいですか」
「ああ、今ならいいぞ」
スキアファールはそんなアドレイドからサングラスを借りてかけてみるも、やっぱり眩しい。
「サングラス……かけても駄目だこりゃ」
「でも……外すと…見えないからなア」
スポットライトを三百六十度から当てられているような気分になってくる。サングラスをかけても微妙に貫通してくる。
この光景は怪奇・影人間のスキアファールにはダメージが大きすぎたようだ。
「無断離脱していいですかいいですよねはいします」
主に精神面への。
速やかにアドレイドへサングラスを返却すると迷いなく輝いている木の隙間に入り込み中庭に背を向けてヘッドフォンを装着した。よく見るとノイズキャンセリングに定評のある最新型だ。
周りは明るいのにそこだけぽっかりと闇が集まっているような景色は逆にスキアファールを目立たせているようにも見えてアドレイドは愉快に笑い声をあげた。戦闘放棄にも見える行動をそれだけで済ませたのは、彼の周囲から黒い霧が湧き出し、人の形を模したからだ。
その異様な光景に、王華崎・うさぎもじりじりと彼らを包囲し始めていた。
「”勝手にやってて”くださいもう」
「ああ、ワタシに任せたまえ!」
アドレイドが背負っていた弓を構え、戦闘補助のドローンを呼び出す。素早く腰を落とし矢を放つ。
――が、それはうさぎたちをかすめることなく背景の樹に突き刺さった。巻き込まれた電飾のいくつかが儚く散ってゆく。
「む、狙いづらいな。ドローンに補佐してもらってもこれか」
暴力的なイルミネーションは敵への距離感を失わせるのだ。続けて数発放ったものの、ドローンのAIで軌道を調整しても上手く当らない。
「ちょっと危ないじゃないの!!」
反撃開始と、うさぎの一人が声を上げた。飾られていた光の塊、多分オブジェがぐにゃりと粘土を握りつぶしたかのように形を変え、矢を防ぐようにアドレイドの目の前に立ちふさがる。
「なんだそれは。げ、幻覚なのか……狂気か!?」
彼女はその形容しがたい物体へもう一つの得物である散弾銃を構え至近距離でぶち込む。蜂の巣状に穴を開けて、オブジェだったものが吹き飛んだ。
「何だかわからんが物体があるなら打ち壊せるな!」
光で敵の位置が見えないがそれっぽい所を狙って引き金を引けば当るだろう。ハンドグリップを前後させながら勢いよく体の向きを変えれば、なぜか、狙うべきうさぎたちの姿がはっきり見えた。
スキアファールが生み出した黒い霧の幻たちが何体かのうさぎにまとわりついて、その動きを阻んでいるのだ。しかも霧であるがゆえにイルミネーションの光もかなり緩和されている。
迷いなくアドレイドは接近すると、引き金を引いた。
一方その頃、戦闘を放棄していたスキアファールだが、音楽の世界に没頭しきれずにいた。
まず視界がうるさい。とにかく眩しいし色も全部が主張しかしていなくてもう混ざり合って白だ。不定期にちかちかしているのもうっとおしい。
そして音もだ。会場BGMの音楽にうさぎたちのかしましい声にアドレイドがぶっぱなす銃声がノイズキャンセリングを貫通してくるくらいやばい。
つまるところ、イライラしていた。
そして、彼は存在感を消し切れていなかった。黒霧で少しは紛れたものの、光が強い分影も濃く見える。ゆえにその不自然な空間にじりじりと何人かのうさぎが彼の背後へとにじり寄って
「ああもううるせえ!!」
スキアファールが振り向きざまに振りかぶった拡声器が不幸なうさぎの顔面にクリーンヒット。綺麗に弧を描いて飛んでゆくのを一瞥もせず、彼は肩で息をしていた。
「そうだ、こいつがいけないんだ……」
そして樹に巻き付いているイルミネーションを一心不乱にひっぺがしてゆく。多い分適当に掴んでもどうにかなるのだ。時々入る邪魔は拡声器で殴れば黙った。そう、拡声器は鈍器。本来の使い方を忘れないでほしい。
「なるほど、光源そのものを潰せばいいな」
暴れ始めたスキアファールの様子を認めたアドレイドがサッと視線を巡らせ、見つけた。地面に這う、明らかに光っていない太いコードを。
接近してきたうさぎを蹴り飛ばして銃口を向ける。
――数回の銃声の後、イルミネーションの一角が明らかに光量を落とした。
「ふむ、これなら狙いやすいな!」
「そうかコード狙いますか」
うさぎたちを確実に仕留めながらイルミネーションを破壊していく二人は、おそらく後で片付けを担うUDC組織の職員に感謝されることになるだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
波狼・拓哉
死にたくないなら襲ってくんな(オコ)上司怒りの方は御免ちょっと対処方法思いつかないや…
まあ、うん。襲ってくるなら襲われる覚悟もあるということで。
拍手や発砲音で意識を自分に向けさせる。見たね?じゃ化け咲きなミミック。全ての希望を絶やしましょう。…現実が分からない現実改変者とは笑い物ですね。嘲ってやりましょう。
自分は衝撃波込めた弾で飛んでくる物体を撃ち落としたり、狂気に染まったものに止め刺して回ったりしましょう。
後は地形を利用して動き回りつつ、何回も相手の五感を奪って回りましょうか。
(アドリブ絡み歓迎)
「やだぁ……死にたくないよぉ……」
ひとりの王華崎・うさぎの声に応えるように、電飾がとぐろを巻いた蛇へと変化していく。
自分へ向かってくる光の蛇を波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)へ冷たい視線を投げてモデルガンを向けた。眩しい視界を気にすることなくそいつを撃ちぬく、ついでにずっと頭を抱えているうさぎももう一丁で。
「死にたくないなら襲ってくんな」
ごもっともである。珍しく、その傍らにミミックの姿はまだ無かった。まあ、うん、と独り言ちて、おもむろに銃を上へ向ける。
「襲ってくるなら襲われる覚悟もあるということで」
一発、引金を引く。衝撃波がその銃声を一層大きく広げれば、
「ひゃあっ!?」
まだ拓哉に気付いていなかったうさぎたちも一斉に彼へと注意を向ける。彼女たちはすぐさま手近なイルミネーションを各々の都合がいい形に変えて拓哉へとけしかけた。
「見たね?」
拓哉の口元が歪む。彼の足元に、色とりどりの花が広がっていた。イルミネーションに負けない鮮やかさは、いきなりそこを異世界にしたかのようで。
「な、何……?」
「じゃ化け咲きなミミック。全ての希望を絶やしましょう」
すでに飛んできていた歪んだ光の球を撃ち落とし、拓哉は悠々とうさぎへと歩み寄る。
「聞こえ、え? 何? 手も、寒くない? ええ?」
うさぎは金縛りにでもあったかのように動かなかった。視線は異色の花々にくぎ付けのまま、表情だけが焦燥に染まってゆく。そんな様子に拓哉は鼻を鳴らして、花に負けないくらいの彩色をしたモデルガンを頭に突き付けた。
「現実が分からない現実改変者とは笑い物ですね」
そう、咲き乱れる花は拓哉のミミックが化けたものだ。それへと視線を惹きつけ、他の感覚を奪う狂気の花。うさぎたちはもう、イルミネーションも、流れる音楽も、冬の寒ささえ感じることが出来なかった。
「や、やだ、ちょっと、誰か、どうにか、し、てよ」
きっと、自分の声さえも聞こえない。
引金を引く彼の目に浮かぶのは、侮蔑と軽蔑と、それらが混ざりきった色だった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『欲食獣『アメイモンの大蜘蛛』』
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POW : 邪神は知覚に成功した生物の欲望を奪い捕食する
対象への質問と共に、【人形の収まった社】から【無機物を透過しつつ広がる陽炎状の物質】を召喚する。満足な答えを得るまで、無機物を透過しつつ広がる陽炎状の物質は対象を【包み、あらゆる記憶諸とも欲望を奪いとる事】で攻撃する。
SPD : 邪神は生物の体を様々な物品に変える力を行使する
【邪神の体を視認した対象か邪神が視線】を向けた対象に、【捕食した欲望の解消に最適な物品にする事】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : 邪神は生物を物品にする事で捕食した欲望を消化する
自身の【捕食した生物の欲望】を代償に、【無生物を透過しつつ拡がる陽炎状の物質】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【代償にした欲望の解消に有効な道具にする技】で戦う。
👑11
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●絶対どこかで見たことある
動く王華崎・うさぎがいなくなって、猟兵たちは伸びる電源ケーブルを辿った。その先にあるのは、うさぎたちが這い出てきたマンホールだ。
開きっぱなしの四角い口はそこだけぽっかり闇の色。この先に邪神がいるのだ、気を引き締めてその中へと飛び込んでゆく。
もとは貯水槽だったのだろう。教室なら二部屋は入るくらいの大きさの四角い空間のど真ん中に、それはいた。
小さな社が佇んでいる。その下に膨れるのは、巨大な蜘蛛の姿だ。複眼の狐の頭がとてもアンバランスに見える。
――いや、もっとアンバランスなのは、その体に巻き付いている電飾だ。
なんだか、十二月に住宅街でこんな家、見たことある気がする。しかも社の中にはご丁寧なことになんだかすごそうな発電機まで設置されているではないか。端に押しやられている人形の表情が曇って見えるのは気のせいだ、おそらく。
猟兵の姿を認めると邪神はうっとおし気に体を震わせて、唸った。
貯水槽の壁に飾り付けられた電飾が、一斉に光り輝いた。
波狼・拓哉
…まって???電飾はまあ一歩譲っていいとしよう。発電機入ってるのは流石に素に戻るわ。どうしてそうなった。
えー…うん、まあ。見なかったことにしとくね?それじゃ、化け喰らいなミミック。『かみ』殺しましょう。陽炎状だとしても空間には存在してるわけで…ま、ウチのミミックさんなら何とかなりますわ。多分。というかあの陽炎状の何かも光ってない?影が消えたり…光あるとこに影あり理論でいける?行けそうになければ本体狙っといて。
自分は衝撃波込めた弾で出てくる陽炎状のものや物品を撃ち貫いて、隙あらば相手の関節部狙って部位破壊狙っておこう。あの手足なくなりゃ動き辛くなるでしょう。
(アドリブ絡み歓迎)
スキアファール・イリャルギ
……。
(額を抑えてる)
エ イ ン セ ル ッ ! !
(※やけくその【Ainsel】発動)
もう我慢ならない周りの電飾を全部影に変換――あ。
あー、いや、待てよ……
まずは少しだけ変換して
敢えて影を食わせてみよう
いや、だって今の欲望が
『とにかく暗くなれ、電飾の光を抑えろ』なもんで……
変換した影って私の一部みたいなもんですし
食わせたらこの欲望が叶って
暗くならないかなぁって希望的観測なんですけど
無理ですか?
元が無機物だから無理かなぁ
無理ならいいや……
いずれにせよ
発 電 機 ぶ っ 壊 す
巻きついてる電飾も、社も、
人形は……えーと、無機物? わかんないな
とにかく換わる物は全部換われ、暴れろ、壊せ発電機を
無機物の冒涜的なキマイラめいたその姿を目の当たりにして、二人の猟兵は頭を抱えていた。
「……まって
????」
何がどうしてそうなった、と困惑を隠さないのは波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)。傍らのミミックもどことなく無い首を傾げているように思えてしまう。地上の状況から、邪神が電飾に飾られているのはまあ分からなくもない。そこは分からなくもないが何故、発電機まで用意されているのか。しかも邪神の中に入っているのか。どうしてそうなった。
とりあえず、彼は見なかったことにした。これ以上考えたらおそらくもとより無い正気がさらに減る、そんな気がする。
「エ イ ン セ ル ッ ! !」
そんな拓哉の周辺が、唐突に光量を落とした。電飾が砂のように形を失い、侵食するように暗く影に溶け込んでいく。
原因は元から青白い額に青筋を立てたスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)である。怪奇・影人間としての能力を発動させていたのだ。その姿からは想像できない程度の大声である。目が血走るのではないかというくらいかっぴらいている様から、この光景に脳の処理が追い付かないか、いやストレスが上限を突破してしまったのだろう。
「もう我慢ならない周りの電飾を全部影に変換――」
「えー……うん、俺らも行きますか?」
一部とはいえ電飾を侵された邪神がガラスを引っ掻くような咆哮を上げる。とたん、その身を中心に空間が歪んでいった。陽炎状の何かが塊となって蒸気のように吹き出しているような――
「え、あれ光ってない?」
ミミックをけしかけようとした拓哉が確かめるようにゴーグルを持ち上げた。
「あ――そうですね?」
その言葉にハッとしてスキアファールも揺らめきながら進んでくる陽炎をじっと観察した。
――確かに、全体的に明るい空間であるにもかかわらず、壁や床の不自然な場所に影が出来ている。それは空中に光源が無いとありえない位置であり、逆算して視線を動かせば揺れる空気がどことなく輝いていて。
「よし、だったら」
落ち着きを取り戻したように見えるスキアファールが黒い包帯に覆われた手を宙へ差し伸べると、ぐいっと握りこむ。その先に吊られている電飾が局所的に影へ化していった。そう思うが早いか、微妙に光る陽炎は餌に群がる動物のようにそこへと引き付けられてゆく。
「化け喰らいなミミック。『かみ』殺しましょう」
状況を認識した拓哉はすかさずモデルガンを構え、奇妙に響いた彼の声に反応してミミックが飛び出す。
影の中に揺れる光は、見えない姿を主張していた。空中で狼へと姿を変えたミミックが歪んだ顎を向け、飲み込むように喰らいつく。追い打ちのように、光を弾丸が撃ち散らしてゆく。
「行けますね。めっちゃ見やすいですわ」
「んでもって全体的に暗くなりましたね。よし……」
伝染れ。
電飾が失われた場所を中心に、影が広がってゆく。その静かな侵食は、音のない波のようで。
「いずれにせよ発電機ぶっ壊す」
ダメだ、未だこの影人間落ち着いてなかった。
膨れる闇に光ってしまう陽炎が群がる。一瞬その光景に拓哉は疑問を浮かべるが、この様子を見るにスキアファールの現状の欲求は『この場を暗くしたい』なのだろうと察する。欲求に惹かれるこの邪神はそれを喰おうとしているのだ。
「じゃあミミック、そっちは任せた」
それは敵の攻撃を無害な場所へと引き付け、さらには視認性を上げることと同義。これならばそちらの対応はミミックに任せても問題ないだろう。ミミックさんへの信頼は絶大なのだ。
影と光がぶつかる狭間で牙を振るうミミックを見送って、拓哉は狙いを邪神へと定める。執拗に発電機を狙うスキアファールの影から逃げ惑うそいつは、絡まる電飾のせいで心なしか動きにくそうだが。
「もっと動き辛くしてやりましょうね」
軽い発砲音が連続で鳴り響く。見た目華やかなモデルガンと言って侮ってはいけない。その弾丸には衝撃波がこもっているのだから。
けたたましい鳴き声と共に、重いものが落ちる音。一番太い蜘蛛の脚が、影に溶けていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ニオ・リュードベリ
なんだろう、可哀想な気がしてきた
だってあんなにぴかぴかきらきらで……
発電機も重そうで……人形さんも狭そうで……
UDCアースにはこんなお家もあるんだ。アグレッシブだね
えっと、でもこのピカピカ騒動は終わらせないと
頑張ろう!
ピカピカ空間ならあたしの影も濃くなっているはず
そこから作り出すのは悪魔デモゴルゴン!
デモゴルゴンは大きな影で出来た魔人だよ
それにひたすら邪神を叩かせよう
動けそうならあたしもランスでサポートするよ
もし陽炎状の物質の攻撃を喰らったら……電飾だらけにされちゃうのかな
それはイヤだし、あたしは【ダッシュ】で敵の攻撃を避けていこう
悪魔は……ごめん、諦めて
大丈夫、ピカピカしてるのも可愛いよ!
電飾が絡まり、脚も一部が吹き飛んだ邪神の姿を見て、ニオ・リュードベリ(空明の嬉遊曲・f19590)はその手の中のランスを握る力を強めた。
邪神という冒涜的な存在を疑わせるようなぴかぴかきらきらの姿、見るからに性能がよさそう故にとても重そうな発電機、そして、社の壁と発電機に挟まれとても狭い思いをしているお人形さん……
「なんだろう、可哀想な気がしてきた」
しょぼんと眉尻が下がってしまうのも仕方ない。UDCアースにおいては季節限定で時折見られる家の様式とは聞いたが、ちょっと想像以上だった。というか邪神は家ではない。むしろ邪神までぴかぴかにしてしまうなんて、とてもアグレッシブだ。
思考がそこまで行ったときには、ニオも落ち着きと気合を取り戻していた。どちらにしてもこの光害ともいえるピカピカ騒動は終わらせねばならないのだから。
彼女はよしっ、とランスをぐるり回した。
「入り口は頭、出口は影」
この空間に敷き詰められた電飾は一部壊れ始めているとはいえ爛々と輝いている。つまり、その分ニオの影は濃く。
「出てきて、デモゴルゴン!」
ニオの声に応えるように、彼女の足元がずぶりと盛り上がる。それは影で、大きな闇だった。
魔人であり悪魔、死と破壊を与える者、デモゴルゴン。ニオの想像から創造された存在。
影で形作られたシルエットは大柄で手足が長く、更に身体を大きく広げるように咆哮を上げた。
「いくよ!」
邪神もガラスを掻くような鳴き声を上げてその身を揺する。噴き出す陽炎はよく見ると淡く光っていて、なんとなく視認しやすいのが救いだろう。
しかしその時、デモゴルゴンの横に並びながら邪神へと駆け出していたニオは想像してしまった。
――もしかして、あれの攻撃を喰らったら自分も電飾だらけにされちゃうのかな?
頭から足の先までぴかぴかの電飾が巻き付き、白銀のランスもオシャレなクリスマスツリーのように――
「それはイヤだね!?」
結果九十度方向転換。靴底でコンクリートを擦り、その踏込で横から迫っていた陽炎をランスが薙ぎ払った。
進むはずだった方向ではデモゴルゴンが肩と思しき部位からタックルで邪神へ突っ込んでいた。ハンマーのような拳で電飾ごとぶん殴って、蹴りへのコンボ。
その邪魔をするように陽炎が群がるが、ニオが背中を守るように的確に槍で突いて追い払っていく。
バキリ、乾いた木が割れる。邪神の社の屋根がデモゴルゴンの手により電飾ごと吹き飛んだ!
有効打の気配にニオはさっとデモゴルゴンの様子を確認し――そしてすぐ目をそらした。
「大丈夫、ピカピカしてるのも可愛いよ!」
影の魔人が、お星さまの電飾に絡み付かれて戸惑いながらも拳を振う様子は、形容しがたいキュートさが、あった。
大成功
🔵🔵🔵
向坂・要
ぴかぴかがお好きなのかとは思っちゃいましたが、まさか発電機持参とは……(どうしよう面白すぎる。絡みつく電飾もだけど発電機持参とか……面白すぎるでしょうこれ)
呆れとか通り越してあまりのシュールさと珍妙さに腹筋が辛い…
いやいや
お仕事お仕事っと
油断はしませんぜ
爆笑通り越して声もなく肩震わせてはいるものの仕込みはきっちりと
視線がなぞる空間に生み出されていく炎球
手のひらサイズのそれらはプラズマを生むほどの高温で
それらを自在に操り敵を翻弄しつつまずは発電機やあちらさんの目玉を狙いますかね
たこ足配線は火事の元ってね
まぁこの場合は蜘蛛足ですが
なんて嘯きつつ
toguz tailsの攻撃も合わせ
アドリブ連携歓迎
アドレイド・イグルフ
ウワア"ーーッ!!威嚇だかなんだかわからないが光るな!輝くんじゃあない!!
眩しい。もうこれは、これも……一種の魅惑なんだろうなア。
ワタシの欲望は…複眼を全てぶち抜くことだ。つまりは狙撃による部位破壊。光り物が鬱陶しいんだろう?なら暗闇に誘ってやる……!
しかし欲の解消に最適な物品とは……なんなんだろう。眩しくなければいいと思っているから…周りが暗くなったり…するのだろうか?
あまり、明るくはならないだろうが、ランタンを気休めに点火しておく。暗闇を利用して、感覚を研ぎ澄ませ……当てる。一眼だけでも当ててやる
「ウワア゛ーーッ!!」
「んん゛っ」
「威嚇だかなんだかわからないが光るな! 輝くんじゃあない!!」
頭を押さえて上体を反らせたのち両手をぶんぶん振り回している様は取り乱していると表現しても過言ではない。そんなアドレイド・イグルフ(スペースノイドのシンフォニア・f19117)の様子と、邪神に添えられた電飾および発電機というクレイジーな状況を目の当たりにして口元を押さえているのは向坂・要(黄昏通り雨・f08973)。
「ぴかぴかがお好きなのかとは思っちゃいましたが、まさか発電機持参とは……」
声が震えているのは間違いなく腹筋へのダメージゆえだ。腹を抱えて爆笑していないだけまだましかもしれない。ちょいちょい息が震えてこぼれてしまうが気にしてはいけない。
まあ、相手が邪神だけあって、二人ともそこそこすぐに落ち着きは取り戻すのだが。
「もうこれは、これも……一種の魅惑なんだろうなア」
眩しさに細まるアドレイドの形のよい目は、ちょっとここではない遠くを見つめている。念のためのランタンを足元に灯し、弓に矢をつがえた。
「狙うなら目、ですかねぇ」
「そうだな、ワタシとしてはあの複眼全てぶち抜いてやりたい」
「承知しやしたよ、っと」
まだまだやる気だというように声を上げた邪神を一瞥してから、要が電飾まみれの空間を見回す。
邪神の身から陽炎が四方へとあふれ出てきた。やはりそれはほんのりと輝いていて、要はちょっと喉を鳴らしたが
「たこ足配線は火事の元ですぜ」
不意に陽炎が燃え上がる。お前可燃性だったのか。すかさず踏み込んだ要が鞭を振るい、炎上する陽炎を霧散させる。いつの間にか、いくつもの小ぶりな炎の球が衛星のように邪神の周辺を飛び回っていたのだ。高温ゆえにばちばちと電気のように弾けるそれは何個かがその役割を果たしても、彼が視線を動かす度に数を増やしてゆく。
「光り物が鬱陶しいんだろう?」
邪神が火の球へ意識を向けた大きな隙に、アドレイドが矢を放つ。それは陽炎に遮られることも無い。そして要も操る炎の軌道を射線からずらせば
ぎゃあああ、と耳障りな悲鳴が邪神から上がる。太い矢が綺麗に、複眼の一つを貫いていた。すぐさま次の矢を構えるアドレイドに、邪神は体をのけぞらせながら恨みがましい視線を向けた。
攻撃が来る。邪神の情報を鑑みつつ、しかしどんな攻撃が来るかはいくつか想定していた彼女だったが……
「な、なんだそれは!?」
邪神が口を開いて放ったのは、電飾の束だった。しかも地味に灯りはついていない。眩しくなければいい、と思っていたアドレイドだったが違うそうじゃない、せめて周りの電飾を消してほしかった。
目前に迫った電飾を見ていや、と彼女は閃く。
「だったらワタシが消してやろうじゃないか!」
即座に弓を下ろすとつがえていた矢を持ち直し、そこに電飾をからめとって放り投げる。二秒。壁めがけて放り投げられた矢は、いくつかの電飾を砕いた。
二発目を放とうとしていた邪神へ、陽炎の間を縫って要の炎が四方八方からカーブを描いて襲い掛かっていった。四秒。ついに社が燃え上がる。
「ああ、この場合は蜘蛛足配線ですねぇ」
続けざまに振られた鞭は、先端に行くほど速度を増してゆく。六秒。ぱぁん、という破裂音は鞭のものと、煙を上げ始めた発電機の音。
周辺の電飾が一気に光量を落とした。八秒。外の光が入りもしないこの場所に、弱弱しくなったイルミネーションと、アドレイドのランタンが影を濃くする。
アドレイドが、回転の勢いを乗せたまま、三本目の矢を構えた。十秒。邪神の悲鳴がなかなかにやかましいはずの空間でも、彼女の思考は静かなまま。
「終わりだ」
次の瞬間、一本の矢が邪神の額に突き刺さっていた。
最期の悲鳴は、無い。
砂のように邪神が形を失っていき、静かになった時にはただ、ランタンと浮かぶ炎が彼らの影を形作っていただけだった。
大成功
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第3章 日常
『イルミネーションを見に行こう』
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POW : ゆっくり歩いて回る
SPD : たまには羽を伸ばそう
WIZ : 時々は息抜きも必要だ
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●誰かが望めなかった明日
各々の想いを抱えてマンホールの穴から地上へ戻った猟兵たちを迎えたのは、先ほどよりも全然暗い中庭と、UDC組織の職員だった。
先ほどまでの明るさが嘘のように、すっかり陽が落ちたそこをイルミネーションが優しく彩っている。木には雪のように、広場には天使のモニュメントが、魚を模したものは運河にきらめきを反射させていた。
点検を行っているUDC組織の職員は数名見られるが、一般人の客もすでにイルミネーションを楽しんでいる姿があった。
ふう、と息をつく猟兵たちに、迎えた職員は声をかけた。
このショッピングモールは、本来このイルミネーションが売りなんですよ、と。それを楽しむことを進めつつ、食事や買い物にも使える商品券を全員に配っていく。
このまままっすぐ帰るのもいいが、せっかくだ、ちょっとくらい遊んで行ってもバチは当たらないだろう。
ニオ・リュードベリ
わぁ……さっきより全然暗い……(サングラスを外しつつ)
でもこれがちゃんとした明るさだよね
ちゃんとしたイルミネーションは本当に綺麗だし……
せっかくだから遊んで行っちゃおう!
見るならやっぱりイルミネーションだよね
アゼリアさんは点検のお仕事があるんだ……お疲れ様だよ
どのイルミネーションもすっごい綺麗だよね
アゼリアさんはどれが好き?
あたしはあのお魚みたいなやつ!可愛いよね!
どうせなら何か食べたいな……
フードコートで持ち帰りのたこ焼きとアイスを買っちゃおう
イルミネーションを見ながら食べたいな……アゼリアさんもどう?
ふふー、イルミネーションを見ながら食べるアイス
新しい冬の楽しみ方を見つけちゃった
嬉しいなぁ
「わぁ……さっきより全然暗い……」
ニオ・リュードベリ(空明の嬉遊曲・f19590)は今までとの明るさの差に目をしばたかせながら、かけていたサングラスを外した。先ほどまではこれなしではろくに周囲が見えなかったが、逆に今は何も見えなくなってしまう。だが、邪神が生み出した電飾が撤去されたこれが本来の明るさなのだ。
今いる場所から見える景色だけでも、イルミネーションはとても綺麗だ。でもこれが全部ではない。
「せっかくだから遊んで行っちゃおう!」
一度大きく伸びをすると、ニオは長い髪を揺らして中庭へと駆け出していった。
足取り軽く視線をあっちへこっちへ、色も形も様々なイルミネーションを楽しんでいると、ニオはライトアップされている木の下に見たことのある姿を見つけた。
「あっ、アゼリアさん」
「あら、ニオさん、お疲れ様です」
手にバインダーを持ったアゼリア・リーンフィールド(空に爆ぜた星の花弁・f19275)である。転送先の脅威がなくなったのを確認し、自身もこちらに赴いたらしい。
ニオはアゼリアのバインダーを覗き込む。イルミネーションのチェック表になっている。
「アゼリアさんは点検のお仕事があるんだ……お疲れ様だよ」
「邪神さんの電飾が残っていないかの確認くらいですよ。むしろこちらこそ、騒動の解決、ありがとうございました」
礼を伝えながらアゼリアはニオへと微笑んだ。加えて、点検といってもイルミネーションを楽しんでいるのと同然ですよ、と。
「そっかぁ、でもちゃんと元に戻ってよかったよ、どのイルミネーションもすっごい綺麗だよね」
ニオは納得したように頷いて、改めてきょろきょろと辺りを見回す。イルミネーションと一言で表しても、色や飾り方、そして場所でそれぞれニュアンスが違うのだ。光の芸術とよく聞くが、その言葉の意味を理解できるような感覚がある。
「アゼリアさんはどれが好き? あたしはあのお魚みたいなやつ!」
彼女の視線の先には、ランプとワイヤーと電飾で表現された光の魚たちがあった。
「可愛いよね!」
「分かります! まるで熱帯魚のようで、あと顔が愛嬌あるんですよね」
うんうん、と頷くアゼリア。私は、と続けて傍の木を見上げた。幹にはあまり電飾がなく、枝から白い電飾が垂れている。
「この、木のイルミネーションがお気に入りですよ。たぶん雪を表現しているのだとは思うのですが、木にお花が咲いているようにも見えて」
「わぁ、そういう見方も素敵だね! じゃああのお魚の周りは海の中とか――」
二人の間で、しばらくイルミネーション談義に花が咲くのであった。
と、そんな中ふとニオはちょっとした口寂しさのような感覚を覚えた。確かに邪神討伐という名の運動をした後なのだから、何か食べたくなるのも当然で。
「あっそうだ、ちょっと待ってて!」
せっかくならイルミネーションを見ながら何か食べたい、ちょうど建物に入ってすぐフードコートがあったはず、と思い立ったが吉日。彼女はフードコートへと一目散に向かって、そしてすぐに戻ってきた。
「えへへ、たこ焼きとアイス! アゼリアさんもどう?」
「あら、いいのですか? ではお言葉に甘えて」
ベンチに二人腰掛けて、コーンに乗ったまん丸のアイスを頬張る。膝に乗せたたこ焼きのトレーがぬくもりを分けてくれて、そんなに寒くない。
「ふふー、イルミネーションを見ながら食べるアイス……」
「これは……背徳の味がします……!」
飾られた光も、水の香りをのせた風も、そして口に含む甘いアイスクリームも、温度だけで見れば冷たいのになんだか心の中があったかくなってくる。
「新しい冬の楽しみ方を見つけちゃった」
見上げる冬の景色が、嬉しいなぁと綻んだ瞳にきらきら反射していた。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
……。
すっごい丁度いい(晴れやかな顔
……あっでもやばい
イルミネーションを見るとさっきの光の暴力が脳裏に
いやさっきのと比べなくていいんだよ今の光景を楽しめよ……!
ちょっとスキアファールさんダメージがでかすぎたようですね
まずは遠目からイルミネーションを見て徐々に傷を癒します……
会場のBGMを一通り楽しんだらヘッドフォン装着
さっき没頭できなかった分、存分に楽しみます
もう八つ当たりはしませんよ私は良識のある影なんですから
先の行動と矛盾してる? それはそれ、今は今です
あ、そういや商品券……
お腹空いてきたから何か食べに行きますか
(指折り数えつつ食べたい物を色々想像)
……全部食べよう(痩せの大食い)
暮れた冬の夜は暗い。しかしショッピングモールの中庭はきらめくイルミネーションで彩られ、空との対比はまるで闇と光の調和を取るようで。
「すっごい丁度いい」
少しの間その場から動かなかったスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は、今日一の清々しい表情を浮かべていた。こころなしか血色が良くなっているように見えるのはたぶん気のせいだ。
モニュメントの照らし方や道を示すように這う小ぶりな電飾など、細かい部分もちゃんと見えるのはなんと素晴らしい事なのだろう。
しかし、
「あ待って待ってやばい……」
木のシルエットを見るとどうしても最初のびかびか輝いていた光景がダブって見えてしまう。そう、あれはちょうど自分が電飾を千切った木だ、今はらせんに一本巻かれて幹を彩っているだけだがさっきは木の肌も見えないほど何重にも重なっていて――
「いやさっきのと比べなくていいんだよ今の光景を楽しめよ……!」
呻きながら頭を抱えるスキアファール。どれだけ止めようとしても思い出したくもない光景が連想ゲームのように想起されていってしまう。
「ちょっとスキアファールさんダメージがでかすぎたようですね」
……彼の心の傷は思っていたよりもかなり大きかったらしい。
結果、スキアファールは一旦中庭の隅に避難していた。ここはイルミネーションの密度も低いし、遠目とはいえ会場全体を見渡すことができるのだ。このくらいの距離がちょうどよかった。
管弦楽アレンジがなされたポップス系の音楽に合わせて、ゆったりとイルミネーションが明滅する。曲が一巡したところでまた愛用のヘッドホンをかぶった。
冷たい空気を大きく吸い込んでから耳に音楽を流し込めば、音楽で体を満たすような、世界の層をひとつ沈んでいくような感覚に陥っていく。
心を癒すように音楽に没頭するスキアファール。八つ当たりのように電飾を引きちぎっていたのが嘘のように、ぼんやりとイルミネーションを眺めた。
イルミネーションを楽しむ一般人が彼の前を通り過ぎてゆくが、スキアファールに気付いた者は誰一人、いなかった。
と、そんな没頭を邪魔するのは、図らずも自分自身の空腹感であった。それを認識した途端にふっと意識が現実に引き戻されていく。
「あ、そういや商品券……」
ポケットの中で先ほど受け取った商品券が存在を主張している。確か案内図によれば今話題の和食屋やステーキ店、中華食べ放題もあったはず。ああでもないこうでもないと少し悩んで彼が出した結論は、
「……全部食べよう」
数店ハシゴののち、フードコートで『ここからここまで』を行うスキアファールの姿が見られたのは、もうしばらく後の話である。
大成功
🔵🔵🔵
アドレイド・イグルフ
【雑居】で探偵(f04253)と。
なんだか目の奥が…シパシパする。ううむ……これではせっかくのイルミネーションをマジに楽しむことができない気がする。目薬でも探すか…?
ン……ンン?なんだか見覚えのある後ろ姿……
やっぱり探偵じゃあないか!そうだな、これからが買い物だ。先ほどまでは電飾邪神を討っていたのだが…もしかして、キミもか?
なにっなんだ奢ってもらえるのか!?……エッいいのか?…あれっ冗談!?ど、どっちだあ…?!
波狼・拓哉
【雑居】でイグルフさん(f19117)と。
…同じイルミネーションのはずなんだけどやっぱ違うもんなんだな。綺麗だ。
つっても1人で見ても…ん?あれイグルフさん?こんな所で奇遇ですね。買い物?
いやまあ冗談ですが。…悪かったですって。貰ったやつであれですけどなんか奢りますから、許してくださいって。
取り敢えず…目薬でも買いに行きましょうか。正直目がシパシパしてやばい。結構キツい。
その後はイグルフさんに付き合ってブラブラショッピングを楽しみますかね。
目の奥がシパシパする。
中庭に戻ってきたアドレイド・イグルフ(スペースノイドのシンフォニア・f19117)の所感はそれだった。ぎゅーっと目を閉じてから激しく瞬きしてみたり、目の周りを押してみたりしたが軽減の兆しはない。
サングラスを装備していたとはいえ、光の攻撃力というのはこうも強力なものなのか。
「ううむ……これではせっかくのイルミネーションをマジに楽しむことができない気がする……」
せっかく元に戻ったイルミネーションが目の前にあるというのに、これはゆゆしき問題である。
「ン……ンン? なんだか見覚えのある後ろ姿……」
何度目かの瞬きをして調子を確かめるようにぐるりと周囲を見渡したアドレイドは視界数メートル先に、伸びをする男性の姿を認めた。なんだかどこかで見たことがあるような。
「……同じイルミネーションのはずなんだけどやっぱ違うもんなんだな。綺麗だ。綺麗だっつっても一人で見てもなぁ……」
呟いている声もなんだか聞き覚えがあった。と、思っているうちに男性はんー、と思案しながら体の向きを変え――二人の視線がばっちりぶつかる。
そう、彼こそ波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)だ。すがめられていた目がアドレイドを認識してすぐに見開かれた。
「……ん? あれイグルフさん?」
「やっぱり探偵じゃあないか!」
何を隠そうこの二人、同じ喫茶店というかビルに出入りしている顔見知りであった。互いに歩み寄って会話の間合いに入る。
「こんな所で奇遇ですね。買い物?」
「そうだな、これからが買い物だ」
「これから、ですか」
「ああ、先ほどまでは電飾邪神を討っていたのだが」
「電飾邪神」
そこで彼女ははっとした。会話の流れと拓哉も猟兵である、ということを鑑みて、アドレイドはひとつの可能性を彼へとぶつける。
「……もしかして、キミもか?」
「はい、そうなりますね」
拓哉が曖昧な笑みを見せた。その様にアドレイドはちょっと顔を赤くして拓哉の肩を掴んで揺すって
「なっ、まさか分かって聞いたな!?」
「あはははは」
そんなに強くやられていないがちょっとぐらんぐらんして目が回る。すみませんと謝罪をつけながら拓哉は制止するようにアドレイドの腕をとんとんと軽く叩いた。
「いやまあすみません……悪かったですって」
揺するのは止めたがまだ釈然としない表情のアドレイドに苦笑して、
「貰ったやつであれですけどなんか奢りますから、許してくださいって」
「なにっなんだ奢ってもらえるのか!? ……エッいいのか?」
「いやまあ冗談ですが」
「冗談なのかっ!? エッあれっ冗談!?」
いい反応をしてくれるアドレイドでちょっと遊んでいると言ってもいいんじゃないだろうか。とうとう拓哉は声を上げて笑っていたのだった。
そして二人ともようやくどうにか落ち着きを取り戻した頃、拓哉がアドレイドをショッピングモールの中へと促す。とりあえず、と前置きをして彼は言った。
「取り敢えず……目薬でも買いに行きましょうか」
ドラッグストアも中にあることですし、と。
「気が合うじゃあないか、ワタシもちょうど欲しいと思っていたんだ」
「正直目がシパシパしてやばい。空気も乾燥してますし、結構キツい」
「ああ、イルミネーションどころじゃない」
無事ドラッグストアで目薬を入手しなんとか目のダメージを回復したあと、二人は気ままにショッピングモールを歩き回っては、
「お、探偵! このコートはワタシのためにあると言っても過言ではないんじゃないか!?」
「ああっ! これは雑誌で見たホットサンドメーカー! 実物を見るとやはりオシャレだな……」
「キミもたまには服の雰囲気を変えてもいいんじゃないか? ほら、イメチェンというやつだ、いいから着てみたまえ!」
「はーい、ちょっと待ってくださいね」
なんだかんだ買い物を楽しんでいたのであった。
大成功
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向坂・要
過ぎたるは、ってことですかねぇ
なんてさっきまでの光の洪水というか暴力というかを思い出してまっとうなイルミネーションにホッとしたりしつつ
アゼリアさんや職員さんたちの点検の様子を興味深げに眺めたりしつつ
楽しげなイルミネーションを楽しむ人々を眺めつつ自身もフードコートであったかいコーヒーあたりを調達してのんびりと楽しませてもらいますぜ
「過ぎたるは、ってことですかねぇ」
向坂・要(黄昏通り雨・f08973)はベンチに腰掛けて一息ついていた。手には背の高いカップに入ったホットコーヒー。肌寒い夜にほろ苦い温かさ体に沁みる。
ホッとするのはコーヒーだけのせいではなくて、眼前のイルミネーションのささやかとも思える光のおかげでもある。どうしても脳裏に浮かぶのは先ほどまでの光の洪水だ。思い出すだけで気が遠くなる。とにかくたくさん光らせればいいという訳ではないのだということを、身をもって知ったような感覚である。
一般の客が楽し気に記念撮影をしている横では、UDCの職員がさも当たり前のように、しかしさりげなく電飾を確認して手元のバインダーにチェックを入れている。数や配置がちゃんと合っているかを確認しているのだろうか。そんな予想をしながら眺めていれば、職員へ駆け寄っていく人影が見える。グリモアベースで見た猟兵のアゼリア・リーンフィールド(空に爆ぜた星の花弁・f19275)が、職員と言葉を交わしている様子だった。あっちは終わりましたよとか、そんな感じだろうか、想像でアテレコをしていれば、要の視線に気が付いたのか彼女と目が合った。にっこり笑顔で会釈をしてくるので、要も片手をひらひら振って応える。
のんびりとイルミネーションと人々を眺める要の前を、はしゃいだ子供が駆け抜けて行って、危ないわよと追いかける母親の声がした。ささやかにきらめく木の足元では大きなカメラを持った男性が熱心にファインダーを覗く。向こう側ではスマホで自撮りをする若者たち。
BGMは軽快な管弦曲。たぶんこの世界の冬ソングだ。それに合わせてちかちかとイルミネーションが明滅している。
「ん、何か食べれるものも買ってきましょうかねぇ」
討伐の後だ、少し何か食べた方がいいかもしれない。そう思い立って残り少しだったコーヒーを飲み干すと、要はベンチからゆっくり立ち上がる。
穏やかな時間は、思ったよりもずっとゆっくり過ぎていくのだった。
大成功
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