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アースクライシス2019⑲〜鉱石保管室の怪人

作者：雨音瑛

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●グリモアベースにて
　ついにジェネシス・エイトのひとり『ジェスター』の居場所が判明した。その場所は、なんとラグランジュポイントに浮かぶ『島』、それが巨大輸送船に改造されている場所だという。
　佐伯・キリカ（陽気に元気・f00963）は、やや興奮気味にそんな情報を猟兵たちへと伝える。
「巨大輸送船の中には様々な物品が運び込まれていることもわかったんだよ！　物品がどんなものかって？　えっとね、たとえば――」
　地球上のさまざまな動物や植物。そして鉱物などの自然物。さらには文明の成果としての書物や機械など。それらが種類ごとに分別され、輸送船に運び込まれているらしい。
「わたしが転送する先は、巨大輸送船の中の一角『鉱石保管室』。その名の通り、地球上のさまざまな鉱石が保管されている場所なんだよ」
　室内には、鉱石が入った標本箱が積まれていたり、原石を含む巨大な石が配置されていたりするようだ。戦闘の支障となるわけではないが、そういったものが部屋にあるということだけは念のため意識しておいてほしいとキリカが続ける。
「あっ、それと！　あまり考えたくはないことだけれど……もし１１月３０日までジェスターが生き延びた場合、ジェスターは『島』を切り離して輸送宇宙船として分離、ラグランジュポイントから外宇宙へと飛び去るみたいなんだよ。物品を積んだまま外宇宙に出るジェスターの目的はまったくわからないけど、そのまま放置するにはなんだか嫌な予感がするよね？」
　無論、それを防げるのは猟兵の手によってのみ。
　だからキリカは送り出す。此度の戦争を無事終わらせようと意気込む猟兵たちを。

第1章 ボス戦 『ジェスター』

POW   :    力押しもたまには悪くないデスね 単純で重い【魔法金属製のメイス】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。 SPD   :    古い馴染みの仲デシて レベル分の1秒で【意志持つ魔剣『レギオスブレイド』の群れ】を発射できる。 WIZ   :    別に見捨てても良いデスよ 戦闘力のない【名も知らぬ一般人の人質】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【呪詛により人質が傷つき、悲鳴や苦痛の声】によって武器や防具がパワーアップする。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「やあ、道化師君」
　運び屋のケットシー、グィー・フォーサイス（風のあしおと・f00789）は軽く帽子を持ち上げた。
「鉱石好きなのかい？　君に逢えた記念に、ちょっと貰ってもいい？」
　木製の標本箱には、翡翠や瑪瑙、オパールなどがラベル付きで仕舞われている。床に直置きされているのは、水晶の原石をはじめとした、標本箱には到底入らないサイズのもの。一番目を惹くのは、グィーが入れそうなほどのアメジストドームだろうか。
「お持ち帰りは遠慮していただけると嬉しいデスね。何せ、滅びる世界の文化を伝えるのが、自分の役目の一つデスから」
　嘘とも本当ともつかない口ぶりで、ジェスターはメイスを構えた。次いで金属質な床を蹴り、グィーとの距離を詰めてくる。
「そうか、それは残念だよ」
　上方へ持ち上がる、メイスの先端。力任せに振るわれる武器を回避すべく、グィーは軌道を見切ろうとする。
　直後、横方向へ駆け、さらに跳躍して一瞬で距離を稼ぐグィー。ジェスターが力を振るうというなら速さで対抗するだけだと言わんばかりに。
「なんと、素早いのデスね！　……それで、本当の目的は何デスか？　まさか本当に鉱石を貰いに来た訳ではないのでショウ？」
　振り下ろしたメイスで床を叩き割ったジェスターが、グィーを見遣る。
「もちろん。僕は郵便屋だからね、君に手紙を届けに来たのさ。ほら――お届け物、だよ」
　グィーの手元から放たれる、白封筒の手紙。それはまるで紙飛行機のように飛び、ジェスターの額にこつんと当たった。ひらり落ちた手紙は消印の光を残して消えてゆく。
「さあジェスター、ルールを課そう。そうだね、『立っていてはいけない』……とってもシンプルだろう？」
「ルールを破ったら……なんて聞くのは野暮デスね。嫌な予感がしマス、ここは大人しく膝を突かせてもらいましょう！」
　膝を突くジェスターを見て、グィーは肩に止まる鳥を万年筆型の杖に変えた。懸命な判断だと呟いて、詠唱を起点に魔法を起こす。巻き起こった風は、暴風となってジェスターを包み込んだのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　鉱石保管室に転送されたウィルヘルム・スマラクトヴァルト（緑の騎士・f15865）は、グリモアベースで聞いた『嫌な予感』を確かにその身に感じていた。
「なるほど、確かにこれは――」
　いや、思案するのは後回しだ。この区画にいるのは『殺戮道化師』ジェスター。予感の原因を優先してまで放置すべき存在ではない。
「オロロロロ……怖い顔してどうしたんデスか？　……もしかして、アナタも鉱石の一種デス？　それなら話は早い、細かく砕いて保存させていただくとしマショウ！」
　ジェスターが、金属製のメイスを手にウィルヘルムへと迫る。
「鉱石？　否、私は緑の騎士！　さあ、お相手願おうか！」
　ウィルヘルムも、ジェスターへ向けて駆け出す。それも、突撃するかのように真っ正面から。
「自ら来てくれるなんて、手間が省けて助かりマス。やっぱり鉱石の一種だったんデスね！」
　振り上げられたメイスは、容赦なくエメラルドのクリスタリアンに振り下ろされる。だがメイスに伝わった手応えはあまりにもあっけないものであったから、ジェスターは首を傾げた。
「……意外と柔らかい鉱物デスね？」
「それは残像だ！　私はここだ！」
　メイスが叩きつけられて、破壊された床。その破片を足場にしながら、ウィルヘルムは声を張り上げる。
「この世界も……そこに住まう人々も……私が護るんだ！」
　エメラルド色に輝くオーラが、ウィルヘルムの体を覆ってゆく。
　このヒーローズアースという世界も、そこに住まうヒーローもヴィランも一般人も、全て護る――確かな意思を胸に、ウィルヘルムは飛翔を開始した。
「……喰らえ！」
　敵が視認できない速度で飛翔した騎士は、緑の斧槍を水平に構える。今度の突撃は、正真正銘、攻撃のためのものだ。
　力を溜めて突き出した斧槍が、ジェスターの胸部を捉える。
　緑の武装、その切っ先はジェスターの胸元を貫き、背中まで通る風穴を開けたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　あちこちに点在する鉱石は、照明を受けて輝いている。光を透過し、あるいは反射して。
　コノハ・ライゼ（空々・f03130）は室内の様子を、そして部屋の主を見遣った。細められる薄氷の瞳は、ここを餌場にして狩場と認識した者の目だ。
「面倒くさいことは抜きヨ。さあ、化かしあいといこうじゃナイの、道化」
「化かしアイ？　狸や狐という動物がそういったことをスル、というのを聞いた覚えがありマスが……もしかして、そのどちらかにワタシが似ているのでショウか？」
「それは――狐にも狸にも失礼だと思うのよネ」
　直線軌道で振り下ろされるメイスの動きを見切り、その場に留まると見せかけて後方へと跳ぶコノハ。
「それはまともに食らいたくねぇ、のよネ」
「オロロロロ……ご要望があるのでしたラ、最初に言ってほしかったデスね！　もっとも叶えて差し上げられるかはワカラナイのデスが！」
　メイスの一撃を受けた床が大きく窪み、余波としての衝撃波を生む。衝撃波は着地したコノハへも及び、いっそうジェスターとの距離を開かせた。さらには飛び散る金属の破片が頬を切ってゆくが、妖狐の青年はむしろ笑んだ。
　とっさに体を覆ったオーラは傷を軽微なものにしてくれるし、痛みへの耐性なら十分すぎるほどに持ち合わせている。
　何より、致命傷でない傷はむしろコノハが歓迎するところだ。指先で傷口をなぞり、ゆっくりと瞬きする。
「おいで」
　傷口から現れるのは、変幻自在の影狐。
「力には力でしょう、たまにはネ。でも――」
　影狐の攻撃力を高め、ジェスターをけしかける。そうしてコノハは床に置かれた大きな原石、その合間に残像を配置しながらジェスターとの距離を詰めてゆく。
「力だけじゃ楽しくないじゃナイ？」
　と、コノハはジェスターの体を一瞥する。一理ありますね、というジェスターの言葉を聞き流し、影狐たちが食らい付いた場所へ容赦なく磨いだ鉱石の刃を刺し入れる。
「だから……その命、しっかりイタダクわ」
　そのままジェスターの体内で抉るように回転させると、コノハの頬にあった傷が消えて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「ハローハロー、藍ちゃんくんでっすよー！」
　鉱石保管室に、歌声と音楽が響く。
　くるくると踊りながら進み出る、女物の服を来た少年。ジェスターの前で立ち止まり、スポットライトを待ち侘びるようにポーズを決めたのはダンピールのプリンセス、紫・藍（覇戒へと至れ、愚か姫・f01052）だ。
　ゆるゆると拍手をするジェスターの背後に、剣の群れが出現する。
「素敵な歌と踊りを見せてくれてありがとうございマシタ、藍ちゃんくんさん。とても名残惜しいデスが……ここでお別れなのデス！」
　合図ひとつ、剣が射出されると同時に藍は歌って踊って演奏するのを再開した。
「お相手感謝なのでっす！　さあさあ藍ちゃんくんはこちらでっすよー！　なんて言いましたが、本当はここにはいないのでっす！　というのは嘘、残像でも石像でもない藍ちゃんくんは確かにここにいるのでっす！　さあ、どこからでもうっふん、でっすよー！」
　最初に突っ込んできた剣の軌道が、わずかに逸れる。相手は意思を持つ剣だ、何か思うところがあったのだろう。
　それでも十分に命中しうる軌道であったから、藍は素早く藍ドルオーラで弾く。
「それでは藍ちゃんくんの番なのでっす！　………………………………………………………………………………」
　次々と襲い来る剣を前に、藍は口をつぐんだ。そこから展開される藍のサイレントショーは、マジックショーもかくやというものであった。
　発生したブラックホールが、剣たちを次々と吸い込んで行くのだ。
「剣も鉱石も、ばんばん吸い込んじゃうのでっす！　お持ち帰りされちゃうくらいならお掃除ですよー？」
「おっと、いけませんね――」
　何か言いかけたジェスターすら吸い込むブラックホール。残る鉱石も全て吸い込まれたところで、ブラックホールが閉じた。
「掃除完了でっす！　……終わりよければ全てよし、でっす！」
　ジェスターも鉱石も消え去った鉱石保管室を見渡した藍は、びしりとポーズを決めたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年11月27日