高等遊民訓練施設
「来てくれてありがとう。またオブリビオンが現れるわ」
猟兵達の拠点「グリモアベース」
そこに集った猟兵たちに、ボーリャ・コータス(極光の17番・f02027)は口を開いた。
「場所はサクラミラージュ。神秘の桜が咲き乱れる、不死の帝のお膝元よ」
影朧と呼ばれるこの世界のオブリビオンは他の世界と違い不安定で、桜の精の癒やしによって「転生」できる可能性がある。だから住民たちの反応も他の世界と毛色が違ってくる場合もある。
具体的には、なんらかの理由で影朧をかくまう人間もいるのだ。
「厳密な話は抜きで聞いてね。この時代だと高等遊民っていうのかしら。今のだとニートとか引きこもりって言われるけど、ある大富豪の三男が自分の部屋の隠し通路の先に影朧をかくまっているの」
その男、似鳥宝来は豪華な邸宅の豪華な自室に閉じこもり、ほとんど外に出てこない。彼の部屋のどこかからつながる秘密通路の先に影朧がかくまわれているが、宝来の魔改造のせいで家主や設計者も部屋のどこに入り口があるか分からない状況になっている。
「でも、その宝来くんなんだけど、彼の生活に口を出さない人間だったら簡単に部屋に入れるのよ。部屋にある本やボードゲームを貸してくれたり、出前を取ってくれたり、原稿を書くための机を貸してくれたり」
そういった仲間に見せかけて宝来との親密度を上げ、隠し通路の在り処を探って欲しい。そのためには心から楽しむ姿を見せるのが重要だろう。あるいは力ずくで吐かせる手もあるが、こちらは失敗した時にこじれる可能性がある。
そして、かくまわれ幽閉されているとはいえ、相手はオブリビオンだ。放置すると必ず世界を破滅の方向に導いていく。
「どんな手段を取るかは現場のみんなに任せるわ。転移の維持のために、現地での行動は貴方たちにすべて頼ってしまうことになる。でもお願い。どうか影朧を倒して、もし可能なら世界に希望があることを示して転生させてあげて」
そう言って、ボーリャは深く頭を下げた。
斑鴉
いつもお世話になっております。斑鴉です。
匿われている影朧を見つけ出し、撃破、もしくは説得しながら撃破して転生させてあげてください。
皆様のプレイングお待ちしております。
第1章 日常
『ダメ人間ブートキャンプ』
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POW : 様々な店の料理を出前してもらい、気合の限り食い尽くす
SPD : 部屋にあるゲームを遊び尽くす。ソロだろうと対人だろうと、キミに敗北は許されない
WIZ : ひたすら自費出版する本の原稿にとりかかる。わたしこそが創造主だ。ただし締め切りは待ってくれない
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夢ヶ枝・るこる
■方針
・【POW】使用
・アド/絡◎
■行動
高等遊民ですかぁ。
聞いたことは有りますし、体験してみるのも一興でしょう。
【豊艶界】を使用し、一通りの「装備」や普段の衣服等「怪しまれる可能性の有る品」を全て胸の谷間から『無限倉庫』に入れ、「着物/矢絣の袴/ブーツ/リボン」と、時代に合わせた服装に着替えて向かいますぅ。
後は、出来るだけ宝来さんの嗜好にお話を合わせつつ「出前」をお願いしましょうかぁ。
近くにどの様な御店が有るか解りませんし、メニューは宝来さんにお任せしてみましょう。
多少無茶な量でも、問題なくいただけますので。
後は、御食事を取りつつ聞き役になり「親密度の上昇」と「情報の引出」を行いたいですねぇ。
「口で排便する前と後に"閣下"と言え! 分かったか新兵!」
ルールさえ守れば誰でも気さくに部屋に入れてくれる。
そう聞いていた
夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)を出迎えたのは突然の罵倒だった。
「え、はい、閣下、え……」
思わずフリーズするるこるの前に立っているのは着崩した和服にメガネ姿の若い男。20歳と少しだろうか。この部屋の主、似鳥宝来だ。
ぼりぼり胸を掻きながら、宝来は面白くもなさそうに続けた。
「ふん。前に来た奴に流行りのキネマの名場面だから誰か来たら真似してみろと言われてやってみたが、どう面白いのか吾人(ぼく)にはさっぱり分からんな」
本当につまらなそうに言って、短い髪をかきながらその辺りの空いたスペースで横になって、適当に手の届く範囲の本を取って読み始める。
「なんだ、入るなら早くしてくれ」
背中越しに声をかけられ、固まっていたるこるはようやく我に返って空いているスペースに腰を下ろした。
高等遊民ですかぁ。
聞いたことは有りますし、体験してみるのも一興でしょう。
と、ばっちり決めてきたサクラミラージュ風の衣装どころか、るこる自身にもただ部屋に入れただけでまったく興味を示さない。宝来の話し相手になりながら距離を詰めようと狙っていたるこるだが、すぐに悟った。相手から話しかけてくるつもりはないし、用もないのに話しかけたら追い出されると。
しかしなにもしないでいれば疑われる。
意を決してるこるは話しかけた。
「あの、出前をお願いしていいですかぁ」
「そこの伝声管で使用人に頼め。品書きは散らばってるから適当に探せ」
「近くにどのような御店が有るか解りませんし、メニューは宝来さんにお任せしますぅ」
「……ほう」
その言葉に、周囲の空気が少し陰の気を帯びたような感じがした。
初めて興味を持ったような目で、目つきの悪い宝来の視線がるこるに向けられる。
決してるこるにそんなつもりはなかっただろう。
だが食通でもある宝来は、るこるの言葉をこう聞いた。
"お前の知識と舌がどの程度のものか、直々に試してやろうじゃないか"と。
「え、あ、あの……」
急変した雰囲気に戸惑うるこるの前で、聞き取れないほど小さい声で思案を続け、やがて宝来は伝声管に言葉を伝える。
美味い料理なら贅を尽くした高級品を出せばいい。そんなことは誰でも思いつく。
彼が頼んだのは長く庶民の味として親しまれている牛鍋。まぁ庶民と言っても宝来の目から見た庶民であって、かなり上層の庶民であるが。
そのありふれた牛鍋は、実は宝来の一言のアドバイスで見違えるような美食になっているのだが、味のわかるお得意様限定という約束になっている。それをリクエストした。
ただの牛鍋のようでいて、格段に質を上げているその料理を、目の前の女はどこまで理解できるのか。逆に確かめてやろうじゃないか。
そんな気分は運ばれてきた鍋をるこるがつつき始めた瞬間に霧散した。
「え、すごい、美味しい! 美味しいですぅ!!」
目を輝かせ、どこにそんなに入るんだという勢いで牛鍋を貪るるこるの姿につい息が漏れる。こんな幸せそうな顔で食べているのをみると、つい幸せが移りそうになるから困る。
どんな豪勢な食事も、庶民の毎日の食事でも、美味であれば等しく愛せる。それが本当の美食家だ。
宝来は再び伝声管に声をかけた。
「おい。さっきの牛鍋、もう一つ頼む」
「なにか不備でもありましたか?」
「いや、客の食いっぷりを見てたら吾人も腹が減ってきた。早めに頼む」
その背中にるこるが声をかける。
「すいません、他にも出前お願いしていいでしょうかぁ」
「は!? どれだけ食う気だ!?」
「だって、こんなに美味しいんですよぅ。もっと食べたいです」
ため息をついて、宝来は後ろの娘が喜びそうなメニューを思案する。誰にも見えないが、先ほどとは違い、どことなく嬉しそうな顔つきだった。
そして、長い食事タイムがそろそろ終わろうという頃。
さすがにるこるの大食に付き合いきれず、宝来はごろんと横になって舶来のボードゲームで胃をこなしている。
締めのあいすくりんを食べながら、今度こそ情報を引き出そうとして口を開きかけ、すぐに悟った。いま探るような言葉を吐いたら、きっとこの空気は消え去ってしまう。言葉とともに呑み込んだあいすくりんは少しだけ苦い気がした。
大成功
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比良野・靖行
なるほど説得か。
うむ! 任せておきたまえ!
と、言いたいところだがな……ここにな……
随分と白い原稿がだな……
……現実逃避をしてもいいかね。
猟兵になったからという理由で延ばし延ばしに延ばした締め切りがだな……
文豪たるもの……締め切りからは逃れられないというのかね……ぐうう……!
まあいい。
影朧君や宝来君のことは置いておくにしても、どうせ書かねばならん。
せいぜい書いてやるさ……!
しかし仕事は仕事。
此度の小説はちょうど「影朧と猟兵の戦いの話」。
書き上げたら、感想を貰おうか。
UC「名状しがたき謎の存在」を使いつつな。
さて、もしも君が懐かしい影朧に出会ったら、どうするかね?
続編の参考にお聞かせ願いたい。
「……現実逃避をしてもいいかね」
輝くオーラのような雰囲気をまとう色白の男が、宝来の部屋のドアを開けた。
比良野・靖行(Mysterious BAKA・f22479)だ。
手には万年筆など筆記用具一式と、雪のように真っ白な、あるいは牢獄の檻のような罫線以外は真っ白な原稿用紙。
そして平静を装っているが、限られた時間への焦燥がくすぶっている瞳。
ちらりと視線を向けて、宝来はすぐに事情を察したようだ。
「締め切りがいつかとか言わないでいい。辞書も文机も転がってるのを好きに使え。あと剽窃だけはやめておけよ」
靖行はいくつもの人気作をしたためてきた文豪であり、本人も国民的スタァとして知らぬ者がいないほど顔が売れている。宝来が反応を示さなかったのは部屋に閉じこもっていて情報収集力が低くはないが偏っているためか、あるいは分かっていても興味がないのか。
そんな靖行だが、ある不幸な事件をきっかけにめっきり筆が乗らなくなってしまっている。少し未来の言葉を使えば、進行形のスランプだ。
しかし締め切りは絶対。
絶賛停滞中の原稿を、この事件を利用して書き上げてしまおうという肚だ。
物書きにはいくつかタイプがある。刺激を完璧にシャットアウトして原稿だけに集中するほうが筆が進むタイプもいれば、音楽や他人の存在を肌で感じる環境のほうが筆が乗る者もいる。
この部屋にも噂を聞きつけた文士たちが何度も訪れているのだろう。少し場所を整理するだけで驚くほど快適な執筆環境ができあがる。そして周囲に他人の気配はあるが、興味もないのに進捗を尋ねるような無粋な者もいなければ、詰まった時にインスピレーションの元になりそうな知的に刺激的な本がごろごろ転がっているし、食事も出前がすぐ届く。
どうせ書かねばならん。せいぜい書いてやるさ……! という気持ちはいつの間にか分泌される脳内物質に押し流されていた。
こんなに筆が進んだのは、ここ最近では初めてかもしれない。
決して短い話ではなかったし、まだ推敲する余地はあるが、最後まで書ききった。
これで帰れれば文句はないのだが、まだ猟兵の仕事が残っている。
「ねぇ、宝来君」
「なんだ。書き終わったなら帰れ。印刷所を待たせてるんだろ」
「そう言わずに、感想を聞かせてくれないか。影朧と猟兵の戦いの話なんだ」
「素人のアドバイス。具体的な指南もない先達の感想。どっちも有害で無用なものだ。吾人(ぼく)に批評家の真似でもしろっていうのか」
そう言いながらも宝来は完成したばかりの原稿を受け取って目を通し始める。なんだかんだ言ったところで本というものが好きなのだろう。
そんな彼をじっと見ながら。
ユーベルコード:名状しがたき謎の存在(ヤスユキクンノユカイナサクヒンヅクリ)
自作を披露した人間に、作者や作品をもっと見ていたいという感情を植え付けるユーベルコードが音もなく発動する。
宝来が原稿から目を上げ、じろりと靖行を見上げる。
「ユーベルコヲド使い……いや、猟兵っていうやつか。そんなことしなくても、よほどの無能が関わらない限りこの本は売れるよ。出版社と題名をどこかに書いておけ。後で使用人に買いに行かせる。覚えてたらな」
気まずい空気が二人の間を通り過ぎていく。
しかし靖行はもう一手だけ食い下がった。
「続編の参考にお聞かせ願いたい」
宝来の目を正面から受け止めて。
「もしも君が懐かしい影朧に出会ったら、どうするかね?」
「ふん」
宝来は鼻を鳴らした。
「もともと影朧はずっと昔に滅んだ存在なんだろう? 懐かしいもなにもない。それに懐かしがるような過去は吾人にはない。酔生夢死。人生なんて死ぬまでの暇つぶし。そう悟れば昨日も明日も、過去も未来も同じものに成り下がるのさ」
しゃべりすぎたな、らしくもない。と短い髪を掻く宝来。靖行は、彼の頭皮がぐにゃっとしたありえない不思議な動き方をするのを確かに捉えていた。
大成功
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南青台・紙代
原稿をするには随分誘惑が多いが、なに、一人よりも人の気配があった方が
存外筆が進んだりするものである。
というわけで次の交流会(イベント)に出す原稿の……締切がであるな……
それにしても居心地のよい場所であるなこの館は。
いつまでも留まりとぐろを巻いていたくなる。
……ヘビ人間冗句である。
だがしかし、我輩が書かぬと我輩が考えた物語は形に成らぬのだよ。
我輩は未だ真なる文豪の足下にも及ばぬ文豪擬きではあるが、
自らの物語には責任を持ってやらねばならぬ。
いつまでもメモ書きにしまいこんだままでは、生かしてはやれぬ。
物語も、過去も、未来を与え生かしてやりたいものである。
……主語が大きくなってしまった。反省反省。
そしてまた宝来の部屋に入ってくる影が一つ。
裾の長い外套に身を包んだ女性。
南青台・紙代(言の葉綴りし青蛇女・f23355)だ。
「原稿をするには随分と誘惑が多いようだが」
初めて合う人間はなぜか大抵が爬虫類に睨まれるような謎の不安感を覚える瞳で部屋を見回し、紙代は口を開いた。
「なに、一人よりも人の気配があった方が存外筆が進んだりするものである」
そう言って、そっと壁に掛けてある暦に目を向ける。
年末まで残すところ、ひと月と少し。次の大規模交流会に出す原稿の締め切り日までは瞬きするような時間しか残っていない。頭を下げながら印刷所に割増料金を払うような事態になるのはできれば避けたい。
部屋の主はちらりと紙代に視線を向けて、何も言わずに手元の本に意識を戻した。
作家にも様々なタイプがいて、周囲に人の気配がある環境のほうが筆が進むという場合もいろいろなケースに分けられる。
例えば一人だと怠けてしまう自覚があるタイプ。周りに誰もいないとつい余計な調べ物に手を出したり、なかなか原稿へのスタートが切れない。あるいはすぐに集中力を切らしてしまう。だからあえて喫茶店など人の視線がある場所に出向いたり、友人に頼んで近くにいてもらったり、サクラミラージュでは不確定な未来の話だが、自分の作業内容を通信に流して他人の視線を意識しようとする。
他の例ではムラ気のあるタイプ。他人の視線など集中力を妨げるものが多い雰囲気にあえて飛び込み、まったくなにも意識に入らないほど没入することで能力を最大限に発揮するスタイルも多い。
(それにしても、居心地のよい場所であるなこの館は)
ふと筆を止めて、そんなことを思う。
外の世界のように、口うるさく大上段に理想や常識を押し付けてくる人間はいない。理不尽に当然のようになにかを要求されることのない場所。しかし決して孤独でもない。
他の人間もこの空気、この空間を壊したくない。だから自然と言葉少なく、他人に干渉するようなこともしない。もちろんたかだか異形であるというだけで奇異な目を向けたりもしない。
(いつまでも留まりとぐろを巻いていたくなる)
自分の思いつきがおかしくて、つい笑いが漏れる。しかしここは図書館ではない。そんなことを咎める人間はこの部屋に入る資格はない。
「……ヘビ人間冗句である」
咳払いの代わりに言い訳をして、また筆を動かしていく。
(我輩が書かぬと、我輩が考えた物語は形に成らぬのだよ)
文豪とは業の深いもので、書きたいものを書き終えもせずに死ぬことはできない。観念や覚悟の話ではなく、本当に死ぬことができない。しかし文豪たちが書くのは死なないためではない。書きたいものを書くためだ。
そして文豪擬きと謙遜し、物語を綴らねば生きてはいけぬと言いながらも、紙代もまた文豪の一人である。
自らの心の内に生まれた物語には責任を持ってやらねばならない。
いつまでもメモ書きに仕舞いこんだままでは、生かしてやれない。
(物語も、過去も、未来を与え生かしてやりたいものである)
それは紙代の本心であり、同時に宝来に伝えたいことでもあった。
しかしそれを口にすることなかった。
この部屋でそれを言葉にするのは、あまりにも無粋な気がした。
代わりに心を筆に乗せ、紙の上に物語を紡いでいく。
ふと、なにかが聞こえたような顔で宝来が紙代を見る。
それには気づかず、ひとまず筆を置いて紙代は書き上げたばかりの原稿を読み返す。言い訳のような言葉がなぜか口をついて出た。
「……ふむ。主語が大きくなってしまった。反省反省」
大成功
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モニカ・ブレット
私は部屋にあるゲームのトランプで大富豪をします。
大富豪だけにww 最大の目的は、この行動を成功させることです。
その為なら、ある程度の些細な失敗はやむを得ないものとします。
そして、私はトランプの大富豪をやるのが大好きです❤
「私は大富豪をしたいです。大富豪だけに!」
そう言い放った
モニカ・ブレット(オラトリオの聖者・f17149)の口を、居合わせたサクラミラージュの住人が後ろから慌てて塞ぐ。
そんな言葉が耳に入れば、"大富豪なのは親父殿であって、吾人(ぼく)ではない"と宝来が不機嫌になるのは目に見えているからだ。
今上の帝の治世、実に700年。政情は安定している。しかしそれは万民が等しく幸せになれるという意味ではない。貧富の差はいつだって存在している。むしろ安定した政情が続くほど富めるものは富み、貧しい者はさらに貧しくなり、中流に生まれた者も自らリスクを取って稼ぐ才気も覇気もないものは知らぬ間に搾取される側に回って少しずつ貧しくなっていく。
金持ちが集まれば貧乏人を蔑むし、貧乏人が集まれば金持ちを僻む。そして見方次第でどちらの立場になりうる宝来にとっては両方とも気分の悪い話であるし、様々な立場の者が訪れるこの部屋においても扱いに困る話題の筆頭だ。
「私はトランプの大富豪をやるのが大好きです」
しかし所詮金持ちや貧乏というのは、男性や女性、優しかったり力持ちだったり頭がよかったり、人間を構成するたくさんの属性の一つにすぎない。そんな些細なものに聖女は囚われたりしない。見るのは人間の本質だけだ。
「わかったから。わかったから。それで、その大富豪っていうのはどんなゲームなんだ」
後ろから口を塞ぐ男に尋ねられ、モニカはゲームのルールを説明していく。『革命』や『大貧民』『大富豪』などイデオロギー色が強い単語に戸惑う顔を見せながらも、周辺にいた数名がルールをざっくりと頭にいれる。
「宝来さん、トランプはどこだったかな」
「そこの棚の左の奥だ」
不機嫌そう目で本を読みながら宝来が応える。聞こえてはいたのだろうが、止めたり追い出したりするつもりもないようだ。
そして最初のゲームが始まる。手順を確認しながら、ゆっくりと。やがて勝者と敗者が決まる。ここからがこのゲームの面白いところだ。
リソース的に圧倒的な有利を誇る勝者をどう追い落としていくか。正攻法ではよほどの運に恵まれないと勝てない。だから駆け引きが生まれる。さらに参加している者の多くが普段から顔を合わせているゲーム仲間だ。
もともと大富豪に慣れているモニカと、お互いのクセを知っているサクラミラージュのゲーマーたち。熱くなっていく試合は、モニカが『8切り』『イレブンバック』などのローカルな追加ルールを提示することでさらに加速していく。そして参加者たちが思いついたその場限りのルールがさらにゲームを熱くしていく。
やがて、参加者の一人が札を置いて立ち上がる。
「済まない、約束の時間を忘れていた。宝来さん、代わりに入ってくれないか」
「吾人(ぼく)がか?」
面倒くさそうな顔をしながらも、札を受け取る。
「有難う、助かるよ。ルールは……」
「要らん。全て聞こえてた。声が大きいんだよ」
そして宝来も読書家でありディレッタントであると同時にゲーマーだ。すぐにコツと勘を掴んで先行組に追いついていく。
熱い試合は途中で軽食の出前などを取りながら、随分と長い時間続いた。
そしてゲームも一段落つき、猟兵以外の人間が部屋から去ったタイミングで、宝来が部屋の奥の本棚でなにか複雑な操作を始めた。
「奥で飼ってる虫の様子を見てくる。傷んだり無くなると困るものは元から別の部屋に置いてあるから、ここにあるものは自由に使え」
そういって、足元の畳が跳ね上がって現れた階段から地下に降りていく。おそらくこの先に、宝来がかくまっている影朧がいるのだろう。
大成功
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第2章 冒険
『大豪邸の地下へ』
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POW : 取りこぼしが無いように全部屋をチェックしていく。
SPD : フロアをマッピングしつつ入り口から一番遠い場所を目指す。
WIZ : 積もった埃や換気の風を追って影朧の痕跡を辿る。
👑11
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宝来が降りると、音を立てて入り口が閉ざされた。
四苦八苦しながら宝来の真似をして仕掛けを解こうとすること数十分。
再び地下への扉を開けることができたが、随分と距離を離されてしまったはずだ。急いで追いかけなければ。
そんな猟兵たちを迷宮のような地下室が出迎える。
モニカ・ブレット
「地下室が迷宮すぎて 宝来さんが何処にいるのか分んないよ……ここは 桃ちゃん、お願いします」
いつから居たのか 桃ちゃん(桃色の蛇)が
不機嫌な顔をしながら、舌を出し入れして捜してくれる ちゃんと 宝来さんが行った所に行けるかなぁ~
この事件に対してこんな感じで猟兵として参加します。
最大の目的は、この行動を成功させることです。
その為なら、ある程度の怪我や些細な失敗はやむを得ないものとします
比良野・靖行
虫……ねえ。
ユーベルコヲドの発動を感知していたし、彼自身もなにか怪しげな雰囲気を感じるが……
いや、ここで考えても意味はないな。
せいぜい注意しながら進むとしようか。
しかし、うむ……地下迷宮か。
僕はこういった迷路が大変苦手なのだが……
何故かって? そりゃあ、さんざん迷うからさ。
ふむ。まあ、此度は仕方ない。
UC「虚構英霊召喚」にて、我が著書【どうぶつ紀行録】から召喚させてもらおう。
少年なら運で、それ以外なら野生の勘で何とかして貰うとしよう。
……地図も一応書くが……期待はしないでもらおうか……!(名状しがたき地図らしきなにかを書きながら)
圧倒的な空間が広がっていた。
上の屋敷も結構な豪邸だったが、明らかに地下に広がる空間のほうが大きい。おそらく今の帝より前の時代に有力な大名か貴族が作ったものだろう。年代物の冷たい空気が肺を冷やしてくる。
「虫……ねえ」
宝来の言葉を思い返しながら、
比良野・靖行(Mysterious BAKA・f22479)がつぶやく。
普通の人間のように見えたが、靖行のユーベルコードに抗ってみせたり、頭皮の謎の動きだったり、底の見えない怪しげな雰囲気の男だった。
「いや、ここで考えても意味はないな」
と、かろうじて見える前方に目をこらす。せいぜい注意しながら進むとしようか。
「地下室が迷宮すぎて、宝来さんが何処にいるのか分かんないよ……」
靖行の隣には、闇の中でうっすらと光を放つ存在が一人。
モニカ・ブレット(オラトリオの聖者・f17149)だ。
日中はあまり気づかれないが、比喩ではなく、暗黒の世界において体内から光を放つ存在。それがモニカたち聖者だ。
特に示し合わせたわけでもないが、タイミングと選んだルートの結果、なんとなく二人で同行するような形になっている。
人々を救い癒やす光を松明代わりに、靖行は持ってきた暦の裏に筆を走らせる。入り口からここまでの道行きをずっと記してきた即興の地図だ。
そして立ち止まって確認すること数回。結論はすぐに出た。
ダメだこれは。完全に迷った。
頭を振って、見るだけで精神を削りそうな感じになった地図っぽいものをぐしゃっと丸めて袖にしまい込む。なんとなく、こんなことになるのではないかという予感はしていた。今まで迷路には嫌になるほど迷わされてきたのだ。
「ここは桃ちゃん、お願いします」
果たしていつからそこにいたのか。モニカの肩口から、彼女と心を通い合わせた桃色の蛇が服を伝ってするすると床に降り、舌を出し入れしながら分かる者には分かる不機嫌な顔で人間の感覚では感じ取れない痕跡を探し始める。
そして靖幸も勘や運に頼るのをやめる。
ユーベルコード:虚構英霊召喚(ヤスユキクンノユカイナショウカンジュツ)
自らが記してきた本の中から代表作である【どうぶつ紀行録】をセレクト。平凡な少年が度胸と運を頼りに動物たちの国を冒険していく物語から、ランダムで登場人物をこの世界に召喚する。
蝙蝠あたりを呼べればベストだったかもしれない。しかし出てきたのは少し大きめのネズミだった。
どうしたものかと素で真顔になる靖幸の前で、きょろきょろ周囲を見回していたネズミが突然なにかに気づいたように走り出す。そして恐らくネズミをエサだと思ったわけでもなかろうが、モニカの桃ちゃんが蛇身をくねらせてその後を追う。
二匹が見つけたものは、短い男性の髪だった。
確証はないが、恐らく宝来のものだろう。モニカがつまみ上げると、比喩ではなく光に溶けるようにさらさらと風化して消えていった。
不思議な現象に思わず顔を見合わせる二人を尻目に、ネズミと蛇が前方に新しい髪の毛を見つける。きっとその先にもあるだろう。
まだ謎は多い。
しかしこの地下の奥にいる宝来と影朧への足がかりを見つけ、猟兵たちは闇の中を進んでいった。
大成功
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紬雁・紅葉
はあ…追跡、すれば良いのですか
よくもまぁこんな絡繰りを…
そもそも【追跡】は心得がある
【拠点防御】の知識を応用…踏み入れたくない面倒臭い難所、そういう所に大事なものは匿うものです☆
時折【暗視】【聞き耳】を交えてUC使用
痕跡を様々な視点感覚から探る
何とまぁ風通しの悪いお話ですが…
せめて換気を…無理でしょうね(苦笑)
※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※
夢ヶ枝・るこる
■方針
・【POW】使用
・アド/絡◎
■行動
無事に入口が見つかりましたかぁ。
それでは、追い掛けましょう。
【饒僕】を使用、内部の[情報収集]の為に散開し先行させますぅ。
内部構造は不明ですが、宝来さんが或る程度の頻度で出入りし、且つ他の方々が入っていないのであれば「頻繁に使っている部屋」は限定される筈ですので、その痕跡を辿る様に探せば見つかるでしょう。
その際、念の為の「罠」の警戒や「足音」で宝来さんと「影朧」に気づかれない様、【饒僕】達は飛行した状態で捜索、私自身は『FBS』を四肢に着用し飛行して進みますねぇ。
それにしても、「殆ど外に出ていない方」が、どの様にして「影朧」と会ったのかが気になりますぅ。
南青台・紙代
【SPD】
ううむ、隠しものはおおよそ入り口より一番遠い場所に秘するが
定石であろう。となれば、そこを探り当てるがよかろうな。
マッピングは……うむ、平面図を電脳空間より具現化するとしよう。
(『電脳ゴーグル』をかけ、空中に光の方眼図を浮かばせる)
さて、後は己の足で辿るのみ、と。
……それにしても、一体どのような"虫"を飼っているものやら。
鬼が出るか蛇が出るか……といったところであるな。
おっと、蛇はここにいた。(自分の額をペシッ)
……コホン、ヘビ人間冗句である。
(周りに聞こえているかはわからないが咳払い)
時を同じくして。
3人の猟兵が別のルートで暗い地下迷宮を進んでいた。
「はあ……追跡、すれば良いのですか」
よくもまぁこんな絡繰りを……と感心したような恨めしいような目で入り口を潜り、どこからか漏れてくるかすかな明かりと、この迷宮を設計した者の意図を戦に親しい羅刹の知識で読みながら、
紬雁・紅葉(剣樹の貴女・f03588)が宝来の痕跡を追跡していく。
「殆ど外に出ていない方が、どの様にして影朧と会ったのかが気になりますぅ」
夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)はそんなことをつぶやきながら、ごく薄く埃の積もった廊下や床に目を凝らす。
宝来が頻繁にかくまっている影朧の元に足を運んでいるなら、必ずその痕跡があるはずだ。それらを探し、辿っていけば、目的の場所に続いているはずだ。
「隠しものはおおよそ入り口より一番遠い場所に秘するが定石であろう」
サクラミラージュでは見かけない物ものしいゴーグルをかけ、今まで歩いてきたルートを分析して予想図を強化現実に展開するのは
南青台・紙代(言の葉綴りし青蛇女・f23355)だ。
人類の叡智たるオートマッピング機能を全開に、帝都の地形なども考慮にした分析から導き出された可能性の高い道を示唆していく。
「……それにしても、一体どのような"虫"を飼っているものやら」
そんな言葉が紙代の口から漏れる。
虫とはすなわち影朧のことだろう。
宝来の部屋で感じた精神的な居心地のよさではなく、暗くじめじめとした環境が怪奇人間の体質に心地よさを訴えてくる。
「鬼が出るか蛇が出るか……といったところであるな。おっと、蛇はここにいた」
そう言って自分の額をぺしんと叩く。が、同行する二人は特に反応を見せない。
「……コホン、ヘビ人間冗句である」
咳払いは、意外なほど周囲の石壁に吸われて響かない。
つまり、もし待ち伏せでもされていたら、まず気づかないということだ。
ユーベルコード:豊乳女神の加護・饒僕(チチガミサマノカゴ・ユタカノシモベ)
道行きは順調だ。そろそろ罠や待ち伏せを警戒すべきころかもしれない。
るこるが様々な姿の小動物に似た女神の僕たちを世界の狭間から呼び寄せる。音もなく飛ぶ僕たちは薄闇の中で目を光らせて周囲を警戒する。
そしてもう一人。
ユーベルコード:御先神・ナキメ、ヤタ、スブホラ(ミサキガミ・ナキメ・ヤタ・スブホラ)
紅葉の召喚に応え、雉や鼠などの姿をした羅刹の御先神様たちが闇に紛れて静かに周囲を探り、鋭敏な五感で得た情報をフィードバックしていく。
いくつもの感覚を処理していく紅葉の頬を、古い地下室独特のぬるっとした空気の流れがなでていく。
「何とまぁ風通しの悪いお話ですが、せめて換気を……無理でしょうね」
心配していた待ち伏せや罠はなかった。
やがて、二人が呼び寄せた女神の僕や羅刹の御先神様たちが決定的な痕跡を見つける。
おそらく男のものだろう、短い頭髪。
しかもそれは誰かが拾うと、古い髪のようにぼろぼろと崩れて痕跡も残さず消えていく。
髪の毛を辿っていくこと数十分。
突然の明かりが三人の目に刺さる。
「やっぱり、目当てはこいつだったんだな。猟兵」
眩しさに慣れた視界の先にいたのは似鳥宝来。宝来は座敷牢のような部屋の扉を開け放つ。中にいるのは異形の存在。おそらく今回のターゲット、影朧。
「高等遊民ごっこは楽しかったか? 楽しくもなかったと言われると、あまりに吾人(ぼく)が莫迦のようなのだが」
開けた扉から影朧が這い出してくる。
「お前のおかげで、少しは普通の人間らしく生きられると思ったんだ。だが分かったのは、吾人の人生に未来などないということだけだった。だったらもうどうだっていい。後は好きにしろ、儚毛影朧。ウスゲハゲロウよ!」
大成功
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第3章 ボス戦
『儚毛影朧『ウスゲハゲロウ』』
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POW : 禿朧咆哮
【激しい体毛の針】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 此の世にフサフサなど有り得ない
【頭部を掻き毟る】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
WIZ : カツラナイト・イマジネイション
無敵の【フサフサの頭髪】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
👑11
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ユーベルコード:カツラナイト・イマジネイション
宝来の頭髪を構成していたユーベルコードが解除されると、激痛に頭を抑えてもがき苦しむ彼の頭髪が光に還って消えていく。
生きているのか、息絶えたのか。動かなくなった宝来に一瞬だけ視線を向けて、影朧が猟兵たちに向き直る。
頭髪で苦しんだ者たちの過去の恨みが凝縮した影朧。無に返すのも、未来に転生させるのも、選択は猟兵たちに委ねられた。
モニカ・ブレット
過去の恨み
......さぞ辛かったでしょうね……
ここは聖者の出番ですね!
とはいえ、苦しみを解放するには
どうすればいいのかな……
どんな苦しみだったか聞くのも良いかもしれないかな?
人?に話しただけでも気が少し楽になるかもしれないし……
ダメだったら、皆さんの援護にまわります!
比良野・靖行
……他人事ではないのだが!?
僕の父も少しばかり薄かった覚えが……ッ!
頭の薄いハイカラさんなど……
いや、後光が何となくありがたくなる以外は特に実害はないな。
さて。影朧君。
僕はね、あるものをただあるように使うだけなのはナンセンスだと思うよ。
万事を活かしてこそ、真のハイカラへと至るのだ。
猟兵となり、あらゆる世界を巡る内、聞いた髪型がある。
その名も……「スキンヘッド」。
頭髪がなくとも、実にハイカラになることができる……!
いや違う。「ないからこそ」、彼らはハイカラだったのだ!
……とまあ、そんな演説をUC「後光ビーム」を発動しながらしようかと。
僕は戦闘は得意でないからなあ。
攻撃は逃げるしかないとも……
「……他人事ではないのだが!?」
薄暗い地下室。影のようにゆらりと近づいてくるウスゲハゲロウに、
比良野・靖行(Mysterious BAKA・f22479)が狼狽の声を漏らす。
「僕の父も少しばかり薄かった覚えが……ッ!」
かつてあった過去の面影を思い返して、つい言葉が震える。
「頭の薄いハイカラさんなど……いや、後光が何となくありがたくなる以外は特に実害はないな、うん」
本当にそう納得したのか、必死で自分に言い聞かせているのか。それは靖行にしか分からない。
しかし彼はもう狼狽えず、しっかりと視線を目の前の影朧に向ける。
「さぞ辛かったでしょうね……」
そしてもう一人、ウスゲハゲロウに対峙する光がある。
モニカ・ブレット(オラトリオの聖者・f17149)。やや遅れたが、彼女たちも宝来が倒れる瞬間には立ち会っていた。
「ここは聖者の出番ですね!」
二人に向けて、苦しみと恨みに染まった影朧の瞳が昏く輝く。
ユーベルコード:此の世にフサフサなど有り得ない
頭部を掻き毟る時間に応じて次の行動の成功率を上げる技だ。そして髪の毛で苦しめられた生前から、頭を掻き毟ってきた時間はすでに数えるのも馬鹿らしいほど積み上がっている。
「どんな苦しみだったか、教えてくれませんか?」
あえて反撃はせず、鋭い攻撃をひたすらに躱しながら、モニカが訴えかける。
不当に理不尽に虐げられた者たちの過去から生まれ、荒ぶる魂に突き動かされるまま攻撃を繰り返してくる影朧に、しかしその言葉は届かない。
それでもモニカは訴え続け、避け続ける。少しでもこの魂に安らぎがあらんことを願って。
「さて。影朧君」
顎に指をあて、靖行がウスゲハゲロウを見据える。
「あるものを、ただあるように使うだけなのはナンセンスだよ。万事を活かしてこそ、真のハイカラへと至るのだ」
影朧の視線が靖行に移り、直後に鋭い爪閃が走る。
それを紙一重で避けながら、靖行は続ける。
「例えばスキンヘッド。頭髪がなくとも、いや、ないからこそ、彼らはハイカラだったのだ!」
限られた自らの人生の時間を、他人を蔑むことなどに費やす。そんな程度の連中に斟酌してやる義理はない。もしそんな輩の声がうっとうしいなら、いっそ開き直ってやればいい。外見の如何、頭髪の如何など、君の命と人生の価値を少しでも傷つけることはできないのだから。
ユーベルコード:後光ビーム(アラブルヤスユキクンポーズ)
そんな思いを込めた光が、靖行の背後から放たれる。
輝きはウスゲハゲロウの体表で乱反射しながらも、確実に荒ぶる肉体の奥に届いていく。靖行とモニカ、二人分の思いと共に。
大成功
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夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
確かに楽しくは有りましたねぇ。
「説得」「討伐」の何方にせよ、最後は「送る」必要が有りますので、其方を優先しましょう。
後、宝来さんの安否確認と、無事ならガードも必要ですぅ。
移動時から使っていた『FBS』に加え『FRS』『FSS』も展開しましょう。
最初は『FSS』を「盾」として使い攻撃を防ぎつつ、逃げ場を塞ぐよう『FRS』による[範囲攻撃]の[2回攻撃]を行いますねぇ。
その上で、相手の『針』に合わせ【耀衣舞】を使用、『光の結界』で『針』を防ぎつつ『光速の突撃』による[カウンター]を行いましょう。
可哀想な方とは思いますし、交戦で『怒り』を発散して転生してくれると良いのですが。
「確かに楽しくは有りましたねぇ」
夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)はつい先程までのあの部屋でのことを思い返しながら、倒れたままの宝来に視線を向ける。
一瞬前に味方の猟兵が放ったユーベルコード。あれは本来、周囲のものを無差別に巻き込んで攻撃する類のものだ。実際るこるも、ぎりぎりのところで巻き込まれるのを防いでいた。
そして見ていた。影朧が自らの体で宝来を光からかばっていたのを。確かにただの偶然かも知れないし、味方の猟兵も自分の技の特質を理解して無差別な殺戮にならないよう意識してのことだろう。
それでもかすかに上下している宝来の胸を確認し、るこるは意識をウスゲハゲロウに集中することに決めた。きっとこの影朧は、宝来を傷つけないだろう。
無に還すとしても、未来へ転生させるにしても、まずは影朧の荒ぶる肉体を力でもって鎮めなければならない。
思考を切り替え、戦闘形態へ移行する。すなわち、今まで移動に使用していた飛行用の12枚の浮遊する光輪『FBS』に加えて、腕に固定する8門の移動砲台『FRS』、同じく周囲を浮遊する4枚の光盾『FSS』を全て展開。るこるを中心に周囲の輝度が跳ね上がる。
ウスゲハゲロウの視線がるこるを捉える。
影の上を滑るような動きでるこるに肉薄し、可聴域を外れた音で吼えたける。
ユーベルコード:禿朧咆哮
想像から生み出された体毛が無差別に周囲の全てを襲う技だ。
突然の接近で倒れたままの宝来が攻撃範囲から外れているのを横目で確かめながら、るこるは光の盾に自らを守らせ、殴れば届くような至近距離から腕の砲台で砲撃を放つ。回避しようとする動きに合わせてもう一斉射。広範囲に放たれる攻撃に、ウスゲハゲロウの動きが止まった。
好機。いや、違う。フェイントだ。
足を止め、振り向きざまに心臓に狙いすました針の一撃を放つ。
だが、それより速く。
ユーベルコード:豊乳女神の加護・耀衣舞(チチガミサマノカゴ・カガヤクコロモノマイ)
るこるが光の結界をまとい、伸びてくる針に頬をかすらせながら、光速で影朧に突進を行う。
なすすべもなく吹き飛ばされる影朧を見て、るこるは追撃の手を控える。
無理をすればとどめを刺すことも可能だろう。だが、暴れることによって少しでもこの影朧が怒りと苦しみを吐き出せたなら。それが転生へと続く道となるならば。
視線はウスゲハゲロウに据えたまま、るこるは一歩、後ろに引いた。
大成功
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南青台・紙代
ううむ、幸いにして髪の量に悩んだことはないが
その苦痛はハゲしい恨みとなり影朧にも成り得るのであるか……一つ勉強になったのである。
さて、我輩は直接戦闘は未だ慣れぬのでな。彼らを使わせていただこう。
UC【エレクトロレギオン】を発動。
本当に髪が無敵であろうと、数で囲めばいずれは隙が生まれるはず。
あるいは、他の誰かが無敵の防御を突破する『時間稼ぎ』になればよいが。
ところでだが影朧よ。世には毛無しを貶すような愚か者ばかりではないと思うのだ。
事実、そこな宝来氏と共に過ごしたとき、空間の心地よさばかりを感じた。
彼は毛が無かろうと、善き人だよ。
次は、そういう生を得られるかもしれないが、どう思うかね?
「ううむ、幸いにして髪の量に悩んだことはないが」
深手を負いながら、ゆらりと立ち上がるウスゲハゲロウ。
その姿をじっと見つめながら
南青台・紙代(言の葉綴りし青蛇女・f23355)が低くつぶやく。
「一つ勉強になったのである。その苦痛はハゲしい恨みとなり、影朧にも成り得るのであるか」
ヘビ人間冗句である、と心のなかでそっと付け加えて。過去の苦しみの凝縮である影朧の前で、冗談であると実際に口にするのは愚弄が過ぎる。そんな思いが代わりに滲み出す。
「我輩は直接戦闘は未だ慣れぬのでな。彼らを使わせていただこう」
ユーベルコード:エレクトロレギオン
淡い光とともに空間から染み出すように、狭い地下室に100体を超える小型の戦闘機械を召喚する。ある機械は猛獣のような牙を剥き、別の機械は銃口やミサイルを向けて、半自律AIが紙代の命令を待つ。
ユーベルコード:カツラナイト・イマジネイション
最後の力を振り絞り、ウスゲハゲロウが想像上の毛髪を鞭のように振り乱して戦闘機械を攻撃していく。一機、また一機と鋼鉄の僕が破壊され、あるいは回避していく中で、まだ紙代は攻撃命令を下さない。
できれば、自分が時間を稼ぐ間に、他のだれかに手を下して欲しかった。自分がなにかしくじれば、この影朧は癒やされることも救われることもなく無に還っていく。自分のせいで。息苦しさが胸を締め付ける。
できない理由は、できない言い訳はいくらでも頭に浮かんでくる。
しかし、自分がやらなければならない。紙代は心を決めた。
「ところでだが影朧よ。世には、毛無しを貶すような愚か者ばかりではないと思うのだ」
すぅっと息を吸い込み、目を細め、紙代は荒れ狂う影朧に語りかける。
「事実、そこな宝来氏と共に過ごしたとき、空間の心地よさばかりを感じた。彼は毛が無かろうと、善き人だよ」
そして、伸ばした指先をウスゲハゲロウに向ける。
「次は、そういう生を得られるかもしれないが、どう思うかね?」
その言葉と同時に、戦闘機械たちが一斉に影朧に襲いかかった。抗うウスゲハゲロウは次第に動きが鈍くなっていき、やがて倒れ伏す。
その様子を見守っていた一人の桜の精が倒れた影朧の手を取り、祈るように目を閉じる。数秒の後、ウスゲハゲロウの体は桜の花が散るように光の粒となって世界に消えていった。おそらく転生は成功したのだろう。桜の精が猟兵たちに笑顔を向ける。やがて生まれてくる命は、いつか心無い中傷にさらされることがあろうと、どこかで聞いた励ましを胸に強く生きていくだろう。
そして、猟兵たちの説得は、同時に似鳥宝来の耳と心にも届いていた。無罪とはいかないかもしれない。共依存していた影朧は去り、今までの友人も離れていくかもしれない。しかし、それとは違う大事なものが心に触れたのも間違いない。
彼がこれからの人生に対してどのような決断を下し、どう生きていくのか。それはまた別の物語である。
大成功
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