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手向けの白百合は刃に宿りて

#アックス&ウィザーズ #宿敵撃破 #シリアス #切ない #心情系 #設定掘り下げ系 #オリジナルアイテム入手

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●安寧の願い歪みて
 人々の怒号が、悲鳴が、泣き声が――街の至るところから聞こえてくる。
 煙と炎が上がり、略奪や陵辱が行われている。
 しかしこれは、街の外から来た何者かが行っている暴挙ではない。
 否――完全にそうではない、とは言い切れぬのだが。
 争い合い、街の人達から奪い、襲っているのはすべて……『この街の人』なのである。
 酷い絶望や嘆きから他者を傷つけているのも。
 しているのもされているのも、街の人達。
 誰がそれを始めたかなんて、彼らは覚えていない。
 だってもう、彼らの中は負の感情で満ちているのだから――……。

「あなた方を救いに来ました」

 告げた黒髪の男は、左手の銃の先を人々に向けて。
 右手の白百合の芳香を操って。

「救いましょう、すべての生を」

 男が降り立った街の一角から、徐々に街中へと静寂が広がってゆくのは。

「――死こそ、救いです」

 彼がその思想のもとに行動しているからであった。

●グリモアベースにて
 そこに佇む彼女は、白い大きな翼と銀の髪に多重花弁の桃の花を持って。アックス&ウィザーズ風景を背に、口を開く。
「来てくれてありがとう。アックス&ウィザーズでの事件を予知したの」
 香水瓶型のグリモアを手に告げる彼女の名は、神童・雛姫(愛し子たる天の使い・f14514)。見かけの割にはどこか達観したような、大人びた雰囲気が感じられる。
「エーデルシュタインという街の人たちが、オブリビオンの介入を受けて負の感情に振り回された挙げ句、みんな殺されてしまうの……」
 彼女がいうには、ある日突然街の人達が怒りや憎しみ、欲望や悲しみなどの負の感情を顕にしはじめて、街の中で争い、暴行や略奪や陵辱が行われるという。
 そしてそれが街の人達を蝕み、傷つけた頃、ひとりの男が現れてこう告げるのだ。
「『あなた方を救いに来ました』――告げる男はもちろんオブリビオンであるのだけれど、その格好から、神父や司祭などの命を尊ぶ職についていたと私は推測するわ。でも……」

 ――彼のもたらす『救い』は、『死』だ。

「……エーデルシュタインの近隣の町や村で、住人たちが全滅するという事件が頻発しているらしいわ。遺体には、何者かに一方的に蹂躙されたというよりも、互いに争ったような形跡があって……近隣の街や村の人たちも警戒していたらしいのだけれど……」
 それでね、エーデルシュタインの街でも対策は行われているの。この街は、さまざまな宝石の原石が採れる不思議な鉱山のそばに作られた街で、原石の採掘と加工で主に成り立っているから『宝石』の名を冠しているのですって」
 雛姫によれば、この街にあるドワーフの工房では、今、何が襲い来ても対処できるようにと特別な武器を作成しているのだという。
「それが『宝石花』と呼ばれるシリーズで……そうね、例えば剣だとしたら、刃の部分がすべて宝石でできていて、そしてその宝石に花が埋め込まれているの。宝石の力と花の力を合わせた上に、魔力を乗せた魔法武器、というところかしら」
 けれどもこの街には、そんな武器を振るえるような者は常駐しておらず。自警団に持たせるのも心もとない。冒険者達を集めようとしても、いつその時が来るかわからない以上、期間不明で拘束することになってしまう。それでは冒険者も困るし、街も長い間彼らを雇い続けるとなると資金面での心配が出てくる。
「この街が襲撃される日はわかっているから、皆さんにこの街を救ってほしいの――」
 この街を守りに来たと、対価に『宝石花』の武器を指定すれば、街としては余計な出費をせずに戦力が手に入り、猟兵たちは珍しい武器が手に入るというわけだ。
 武器の種別や使用する宝石、花は自由に選ぶことが出来るという。もちろん、剣や槍、斧などの刃物以外の武器の作成も可能だらしい。ハンマーなどの鈍器や杖、望めばその他の戦闘媒体でも。ただこの世界の人々にとって特殊なものは、実物を見せて教える必要がある。けれども熟練の職人の集う工房であれば、実物に即して作るのも無理難題ではないだろう。
「死こそ救い――近隣の町や村を襲っているオブリビオンは、そんな思想で人々に『救い』を与えているの。でも」
 雛姫は瞑目するように一度瞳を閉じたのち、ゆっくりとその銀月の瞳を猟兵たちへと向ける。
「穏やかに過ごしている人たちを無理矢理死へと導くのは、違うと思うの。だから……」
 お願い、と彼女が告げると、香水瓶型のグリモアが光を蓄え始めた。


篁みゆ
 こんにちは、篁みゆ(たかむら・ー)と申します。
 はじめましての方も、すでにお世話になった方も、どうぞよろしくお願いいたします。

 このシナリオは『宝石花』と呼ばれる武器を得たり、自身の負の感情と対面した上で、ボスオブリビオンへと対峙する内容になります。

 第一章では、街の工房で『宝石花』の武具を作成してもらえます。使用する宝石や花、作ってもらう武器種の指定ができます。名前の指定もできます。篁におまかせも可。ただしシステム的なアイテム発行はございません。後日、ご自身で作成していただく分には問題ありません。

 第二章では、己の負の感情と対面する、心情重視の内容となります。

 第三章では、死こそ救いという思想のもとに行動しているボスオブリビオンとの対決になります。

●プレイング受付開始時間
 オープニング公開後、第一章の冒頭文&解説追加を行います。その時に受付開始日時もお知らせいたします。
 ご参加はどの章からでも、ひとつの章だけでも歓迎いたします。

●プレイング再送について
 こちらのスケジュールの関係で、プレイングの再送をお願いする可能性が高いです。御理解の上ご参加いただけましたら幸いです。
 再送をお願いする場合、マスターページなどで告知をさせていただきます。うっかり記載していない場合も、再送は歓迎です。

●お願い
 単独ではなく一緒に描写をして欲しい相手がいる場合は、お互いにIDやグループ名など識別できるようなものをプレイングの最初にご記入ください。
 また、ご希望されていない方も、他の方と一緒に描写される場合もございます。

 皆様のプレイングを楽しみにお待ちしております。
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第1章 冒険 『鋼を鍛えて宝石へ至る』

POW   :    ひたすらに鋼を打つ!叩いた数だけ硬くなるのだ。

SPD   :    回転を上げろ。工程をこなす速度こそ切れ味を増す秘訣なのだから。

WIZ   :    炎に魔力を注ぎ込め。究極の火力にこそ究極の特性変異の鍵がある。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『宝石花』シリーズの生まれるところ
 エーデルシュタインの街で一番大きな工房『ヴァッフェ』には、三十名前後の職人が在籍している。主にドワーフだが、他の種族もいるようだ。
 工房長のゴウニュは壮年のドワーフで、工房で一番の腕を持っているほか、鉱山で働く鉱夫の組合長とも幼馴染で仲が良い。
 そして今は、『宝石花』シリーズを作成するために、エルフの兄妹が臨時で在籍している。
 兄のウルリヒは二十代なかば。花に詳しく、花の力を増幅したり抽出したり、付加したりという術が使える。
 妹のフリーデリーケは十代後半。宝石に詳しく、宝石の力を引き出したり魔力を付与したりという術を使うことが出来る。
 ふたりのどちらが欠けても、『宝石花』シリーズは完成しない。

 武具を作ってもらうためには、自身の希望を伝えるだけでいい。
 あとはただ、待っていればいいのだが……作成過程を見学することも出来るだろう。
 また、職人たちのために手伝いを申し出ても、喜ばれるだろう。鍛冶や研磨の手伝いは腕が問われるが、お茶や食事の準備や掃除、鉱山からの原石の運搬などを手伝ってもよいだろう。他にもなにかしてみたいと思ったら、提案してみるのがよい。

 さてあなたが望むのは、どんな武具だろうか?

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※第一章捕捉※
・『宝石花』シリーズの武具を作ってもらうのが目的です。が、武具は不要だけれど見学や手伝いはしたいというのもOKです。

【武具作成に必要な情報】
・作成して欲しい武具の系統(例:西洋剣、サーベル、弓矢、杖、銃、弾丸などなど)
 ※この世界において珍しい武具の場合は、実物を見せて「こんな感じのを作ってくれ」と説明する必要があります。

・使用したい宝石の種類と、複数色ある宝石の場合は色
 ※宝石言葉など考えて選択しても素敵だと思います。

・埋め込む花と、複数色ある花の場合は色
 ※花言葉などを参考にしても素敵だと思います。
 ※他の世界にはない、この世界独特の花として、実在しない色や花言葉の花を選択しても構いません。

・武具の名前
 ※迷ったり思いつかなかった部分は、【武具の名前】に限り、『後で決める』か『マスターにおまかせ』ができます。後で決める場合は「今は思いつかない」など、おまかせでないことが分かるようにご記載ください。

 ※記載がない項目は、『マスターにおまかせ』と判断します。
 ※他にもこだわりがあれば、ご記載ください(すべて反映できるかどうかは内容次第です)
 ※基本的に一つの武器に一種類の宝石と花を使用しますが、モノによっては様々な宝石や花でバリエーションをもたせることも出来ます(例:弾丸や矢、投擲ナイフなど)

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※プレイング受付は12/4(水)8:31からです。締め切り日時は追って、マスターページ他にて告知させていただきます。

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●工房にて、はじめにすること。
「工房長、工房長~! たくさんの冒険者さんがきてくださいましたよぉ~!!」
 エーデルシュタインの街中にある一番大きな工房、『ヴァッフェ』の扉を叩いた猟兵たちを出迎えたのは、ドワーフの少女だった。種族柄か年齢の推察が難しいが、恐らく二十代前後といったところだろう。
 猟兵たちはグリモア猟兵に提案された通り、彼女に告げる。
 自分達はこの街を守りに来た。『宝石花』シリーズの武器を貰えるなら他に対価はいらない。だが、街を守るという約束は果たす、と。
 街としては、『宝石花』シリーズの武器を作成した上で、金を払って冒険者を雇うしかないと考えていたところだ。つまり、今訪れた冒険者たち――猟兵たちの提案は、街にとっては得にしかなりえない……が。
「なんだ、カチヤ。騒ぎやがって。冒険者が来たって?」
 ドワーフの少女をカチヤと呼んだのは、壮年のドワーフだ。彼は工房に集った猟兵たちへと視線を向けて、値踏みするように見据えていく。
「『宝石花』の武器以外の対価はいらない、街を守る約束は果たす、か。……確かにこの街は自衛の準備をしているが、いつ襲われるかもわからねぇ。襲われないかもしれねぇ。そんな街にずっと滞在してくれるっていうのか?」
 工房長――ゴウニュがカチヤほどすぐにそのうまい話に飛びつかないのは年の功に加え、大きな責任を背負っているからだろう。
 そう、彼は、猟兵たちがうまい話をちらつかせて、『宝石花』の武器だけ貰って逃げるつもりではないかと、疑っているのだ。
 無理もない。猟兵たちはグリモア猟兵の予知によって、この街が襲われる日を知っている。襲われることが確実であると知っている。けれどもゴウニュを始めとしたこの街の者たちにとっては、襲われる時期も本当に襲われるかどうかもわからないのだ。いつ襲われるかもわからない不安――それらが彼らを慎重足らしめているのは当然のことだった。
 最初に思わぬ壁ができた――普通だったらそう思うだろう。けれども猟兵たちは困惑することもなく。猟兵のうち一人が口を開いた。

 ――それではそちらが予定していた金額をいただきます。これならば、そちらの不安も薄らぐのではありませんか。

 続けて、別の猟兵も口を開く。

 ――貰った金を何処で使おうと、俺たちの自由だ。『この街』の店で買い物しようと、派手に飲み食いしようと、な。

 そう。街が用意したお金は受け取る。けれどもそのお金は、すべてこのエーデルシュタインに落とす――恐らくこの提案ならば、拒まれはせず、同時に街側の信頼を得ることも出来るだろうと。これはグリモア猟兵が出発前に告げたアドバイスだった。
 その提案に、ゴウニュは険しい顔をふっと緩め。
「わかった。そこまで言うならお前さんたちを信用しよう。カチヤ、聞き取りを頼む」
「あ、はいぃ~!」
 告げて工房奥へと向かうゴウニュは、職人たちに声をかけているよう。忙しくなるぞ――そんな声が聞こえた。

「それでは皆さん、皆さんのご希望の石と花、あとは武具の種類についてお聞かせ下さい~。あ、順番に、順番にです~」
 石や花の準備が在るからだろう。カチヤは綿や麻などの古布の繊維を使って作られたと思しき厚手の紙を手に、猟兵たちの希望を聞いて回っていった。
満月・双葉
(指定していない部分はお任せ致します)
ピンク色の石に、桜の花……というイメージはあるのですが。僕が勝手にイメージするカラーとその人の華がそうなので
『貴女の安全を祈る』と言う意味のある懐剣という日本刀にしたいのです。懐剣を知らなかった場合は懐剣と言うのはこんな刀です、と師匠に借りてきた懐剣を示す『持ってきておいて良かったです』
何かいい石は無いですかね、と職人さんに相談してみます

兄妹でやっているのですか、素敵ですね
と作業の邪魔にならない程度に話しかけつつ、作業を見学させて貰う

…いきなりクリスマスプレゼント送ったらビックリされますかね…?
まぁ、反応に関しては贈った時に気にするとしましょう。



 大きめのテーブルについた満月・双葉(神出鬼没な星のカケラ・f01681)の前には、二人のエルフが座っていた。
「ピンク色の石に、桜の花……というイメージはあるのですが」
 そう告げれば、カチヤが情報を記した紙に視線を落としていた男性――ウルリヒがゆっくりと口を開く。
「桜……か。桜といっても白に近い薄い色から軽やかな桃色、深い桃色まで様々だけど、希望はあるかい?」
「えーと……」
 問われて双葉は、とある人物を思い浮かべる。ピンクの色と桜というのは、双葉がその相手に対してイメージする色と花だからだ。
 彼の人は、どのような――……。
「石と、相性のいい色でお願いします」
 彼の人であれば、どんな色の桜でも己がものとしてしまうように思えた双葉は、そう告げた。
「石はピンク系を希望……とりあえず、見本を持ってきましたわ」
 フリーデリーケがテーブルの上に置いた木箱は、木でいくつにも仕切られており、まるで標本箱のようだ。ひとつひとつに綿が敷かれており、その上にピンク~赤系の石が入っている。
「ローズクォーツにピンクオパール、ピンクカルセドニー、クイーンコンクシェル……少し透明度を高くするとクンツァイトやモルガナイト。あとはストロベリークォーツとか……ね」
 仕切りの中を指すフリーデリーケの指とともに、双葉も順に視線を動かして。半透明のピンクやパステルカラーのピンク、透明に近い薄っすらとしたピンク、そしてピンクから赤に近い小さな内包物で満ちた石。それぞれの特徴や意味や言い伝えなどを聞いた双葉であるが、これといった決め手が見つからない。
「そう、ですね……」
 石たちに視線を落としたまま、口を閉ざした双葉。そんな彼女の前にそっと、別の木箱が差し出された。
「……?」
 その箱には仕切りがなく、敷かれた綿の上に座しているのは透明感のある薄いピンク色の石。その石は淡く発光しているようだ。
「この石は……?」
「これはとっておきですわ。このエーデルシュタインの鉱山でしか採れない石で、身につけていると身を守ってくれるという言い伝えがあるの。鉱夫たちは採掘中の事故から身を守るために昔から身につけていて、最近は噂を聞いた冒険者や、娘の嫁入り道具に持たせたいなんて問い合わせも増えているのよ」
 身を守ってくれると言われている石――その在り方は双葉が求めていた『懐剣』と同じ。懐剣も嫁入り道具として使われていた時代があった。現在のUDCでも、完全に廃れたわけではない。ならば。
「この石でお願いします。『貴女の安全を祈る』という意味の、『懐剣』という日本刀を作っていただきたかったので」
「あら、それなら丁度いいですわ。この石は『護桜石(ごおうせき)』または『護桜石『アイト』』と呼ばれているのよ」
 アイトというのは『誓約』という意味があるのだと、フリーデリーケが教えてくれた。

 * * *

「『懐剣』、か」
 ゴウニュは双葉の希望を聞いて、顎髭に手を当ててふむ、と考えるように口を閉じた。けれどもすぐに双葉を視界に捉えて。
「なにか見本になるものは持ってるか? 俺も数回打った事があるが、今回はその時にサポートに付いていた職人に任せたい」
 告げられて頷いた双葉は、荷物から一振りの懐剣を取り出してゴウニュに差し出す。念の為にと師匠に借りてきたものだった。
「持ってきておいて良かったです」
「おう、これがありゃ十分だ。暫く借りるぞ?」
「はい」
 ゴウニュは双葉から借りた懐剣を手に、職人を呼びに工房の奥へと入っていく。その隙に双葉はエルフの兄妹へと尋ねた。
「兄妹でやっているのですか、素敵ですね」
「僕たちがやっているのは一部に過ぎないよ。実際に武具を打ち鍛えるのはこの工房の鍛冶職人達で、僕たちは魔法付与が必要な場合や『宝石花』シリーズの作成の時に出張してくる形なんだ」
「それでも、素敵です」
 ウルリヒは自分達だけの力ではないと言い、実際鍛冶職人たちの手が入るのも事実だろう。けれども、それでも――兄妹揃ってなにかをするということが、双葉にはとても素敵に思えるのだ。

 嗚呼――姉と共に作業をしている今の自分の姿が、脳裏をよぎった。
 希望? 願望? ――ただの脆く儚く実現しない夢?

 * * *

 ゴウニュに懐剣の作成を命じられた中年のドワーフが、鋼を鍛え上げていく。その間に、鉱山から運ばれてきた『護桜石』の原石をフリーデリーケが確認し、懐剣製作に必要な量と質を兼ね備えたものを選びだした。
 そして懐剣の刀身が出来上がると、それは別室へと運ばれていく。兄妹も移動するようだったので、見学を申し出ていた双葉も同行した。
 行き先は工房奥にある個室だ。その個室に入ってみれば、はじめに目についたのは床描かれた魔法陣。その他にも石や灯りが魔法陣の周囲に配置されている。
「危ないので、魔法陣には近づかずに見ていてくださいませ」
 双葉が部屋の壁に背を預けるようにして魔法陣から離れたのを確認して、フリーデリーケは魔法陣の中央に置かれた刀身と『護桜石』の原石へと視線を向ける。そして。

「――――――、――――――」

 紡がれるのは、まるで歌のような呪文。双葉の肌をぴりぴりと刺激するのは、魔力だ。
 薄い桜色のオーラが刀身を包み込み、その鋼の刀身が徐々に透明度を持った薄い桜色へと変化していくのがわかる。
「硬度は鋼のまま、材質や魔力を宝石と置き換えたり、混ぜたりしているところだよ」
 今どのような状況なのか教えてくれたウルリヒも、そのあと魔法陣へと近づいて。片手に杖、片手に花を持って『歌』へと加わる。
 フリーデリーケのソプラノと、ウルリヒのバリトンが重なり合い、寄り添い合ってひとつの呪文を織り上げていく。
 花がオーラへと吸い込まれ、暫くの間ふたりの『歌』が続いて。そして。

 生まれ変わった『刀身』には、銀の金具を用いた柄と鞘が用意されていた。
「これが……」
 絹の布に包まれて差し出された懐剣。双葉はゆっくりと絹の褥をめくっていく。黒塗りの鞘と柄には控えめに銀の細工と桜の絵が施されていた。聞けば材質も桜の木だという。柄と鞘の加工の際にも、戦闘に耐えうるように魔法を施してくれたとか。

「っ……」

 するり……鞘から抜き放つと現れた刀身に、双葉は思わず息を呑んだ。先ほど見せてもらった『護桜石』よりも美しく、淡く光るその刀身は透き通った薄いピンク色。そしてその中には、白に近い桜の花が埋め込まれていて、石の色で綺麗な桜色へと染まっていた。
「……ありがとう、ございます……」
 暫く刀身を見つめていた双葉はようやく言葉を絞り出した。
「……いきなりクリスマスプレゼントに送ったら、ビックリされますかね……?」
 そして呟くように告げれば。
「そうねぇ、相手との関係にもよるけれど、想いを籠めた贈り物ですもの。そのビックリは嬉しい驚きになると思いますわ」
 フリーデリーケが笑顔で答えてくれたものだから。
(「まぁ、反応に関しては贈った時に気にするとしましょう」)
 彼の人の反応を予想しながら、双葉は小さく口の端を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
スティレットと短剣の合いの子が望みよ
求めるのは私の身の丈~30cmくらいまでの間の両刃で、刺突だけじゃなく少しは打ち合える物
鞘も欲しいわね
「ええ、私より大きくて構わないわ。最終的には人に贈るつもりなの」
「依頼の内容は聞いているし、ちゃんと果たすから心配しないで頂戴」
試し切りというか試運転くらいはしてもいいでしょうし
不安がられるなら見えざる輝きの手で近くの物を軽く動かして証明してみせるわ
「平素のレターオープナーから懐剣まで務めてくれるような物…お願いできるかしら?」
花は私の髪や瞳の色があるトリテレイア、石は透明度が高くて淡い色のアクアマリンがいいの
これは守護の意味合いが強い物になってほしいから



 大きめのテーブルの上に置かれた小さなクッションに腰を掛けているのは、氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)。フェアリーの彼女は透き通った美しい翅を休めながら、兄妹がカチヤの纏めた情報を読み込むのを待っていた。
「スティレットと短剣の合いの子が希望、か」
「あなたより大きくなるけど、いいのかしら?」
 兄妹の声に、レインは頷いて。
「ええ、私より大きくて構わないわ。最終的には人に贈るつもりなの」
 レインの希望は、自分の身の丈から30cm位までの間の両刃で、刺突だけではなく少しは打ち合えるもの、だ。
「強度に関しては心配要らないわ。一見実用的でなくてもきちんと実用にも耐えうる、それが『宝石花』シリーズのウリなのだから」
 魔法の付与で強度の補強もしてくれるのだという。
「依頼の内容は聞いているし、ちゃんと果たすから心配しないで頂戴」
 レインがそう付け加えたのは、兄弟に対してというよりも周囲で話を聞いていた職人たちに向けたもの。そんな小さな身体で身の丈より大きな武器をどうするのだ――不安と好機の視線を感じたものだから。
(「試し切りというか、試運転くらいはしてもいいでしょうし」)
 もちろんレインには、武器を作ってもらったのに街の危機に際して戦わない、という意思はない。けれども、職人たちが不安がる気持ちも理解できるから。
「これで証明になるかしら?」
 レインは『見えざる輝きの手』を発動させ、近くの壁にかけられていた剣を鞘から抜く。そしてその『手』を注意深く操作し、テーブルへと置いた。
「ほうほうほう、今のは嬢ちゃんがやったのか? この剣を動かせるんならスティレットは余裕だなぁ!」
 寄ってきたゴウニュが、わざとらしく大声で告げる。その真意がわかったから、レインも兄妹も何も言わず。代わりに不安や疑念を滲ませていた職人たちが「へいっ!」「その通りで!」などと返事をした。
「で、嬢ちゃん。他に希望はあるか?」
「平素のレターオープナーから懐剣まで務めてくれるような物……お願いできるかしら?」
「その上、刺突だけじゃなく、多少は打ち合えるもの、か。欲張りな嬢ちゃんだ。だがそこが気に入った!」
 ガハハと笑ったゴウニュは、その笑い声とは裏腹に、指先で優しくレインの頭を撫でる。
「石と花は決まってんのか? なら早速、職人のところに案内するが」
「ええ、よろしくお願いするわ」
 すでに石と花の希望を兄妹に伝えていたレインは、ゴウニュの肩まで飛んで腰を掛け、そのまま職人の元へと案内してもらった。

 * * *

 レインの希望の刃を鍛えるのは、まだ若く見えるドワーフの職人だ。聞けば若く見えるがこの工房では中堅レベルの腕を持っており、型にはまらない創意工夫が得意だとか。
 鋼を鍛える職人の近くで、フリーデリーケが石の原石を物色している。その肩に座らせてもらいながら、レインはふと疑問を口にした。
「原石なのに状態がわかるの?」
 彼女は原石に触れるだけで、これは違うあっちがいいかもなどと判断しているように見えたから。
「ふふ、確かに何を基準に選んでいるのか不思議に思いますわよね。私はね、不思議と、触れただけで原石の状態がわかるのよ。もちろん研磨によって最終状態は左右されるけれど、『宝石花』シリーズは魔法で加工するから、原石の段階で一番良いものを選べれば十分なの」
「なるほど。あなたの特殊能力みたいなものなのね。この仕事にうってつけの力だと思うわ」
 レインが素直に感じたことを口にすると、フリーデリーケは「ありがとう」と告げるも少し複雑そうに微笑んだ。
「ああ、これがいいわ。この原石なら、あなたの希望の色が出ると思うの」
 まるで自ら空気を変えるように彼女が原石を手に取ったから、レインは彼女の表情に言及することはなかった。

 * * *

 ウルリヒが、それを包んでいる絹をそっと開き、中身が見える状態でテーブルの上へと置いてくれた。
「素敵だわ」
 レインの願った武器は、柄の部分とお揃いの青銀色の鞘に納められている。青銀色の模様細工のアクセントに金色が使われていて、上品さを際立てていた。
 そっと、『手』を使って鞘から抜いたレインは、息を呑んだ。
 希望通りの、透明度の高い淡い色のアクアマリンで象られた刀身には、レインの髪の色と瞳の色――青と紫のトリテレイアが埋め込まれている。
 鋼で鍛え上げた刀身に、魔法で宝石を宿して作られたというそれは、両刃だが先が細く刺突に使える。硬度は鋼のそれに加えて魔法で補われているというから、打ち合いも可能だろう。
「試してみるかい?」
 差し出されたのは、二つ折りにされた紙。カチヤが聞き取りに使っていたそれよりも薄く白いそれは、この世界では高級な紙なのだろう。
「いいの?」
「もちろん」
 ウルリヒが頷くのを見て、レインは刃を紙の間に挟んで動かす。ちょうど、封筒を開ける時のように動かせば――あまり力を込めずとも紙が切れていく。切れ味も十分のようだ。
(「これが、守護の意を強く持ってくれますように」)
 願いと確信を込めて心中で紡ぎレインは兄妹と、刀身を鍛え上げてくれた職人へと笑顔を向ける。
「ありがとう。十分に満足のいく品だわ」
 それを聞いて、職人が一番胸をなでおろしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オニバス・ビロウ

宝石花か…無骨な己が振るうにはいささか華美だが、我が妻に贈るならばこの上ないモノであろう

女子の持つものと考えたら短刀となるが、こちらの流儀にあわせてないふを所望する
石は橄欖石…確かぺりどっとという名で、柔らかな若葉のような色合いの石だ
花は白い野ばらを使いたく思う
…石は夫婦和合、花は素朴な愛の意があると聞いた
武具の銘に関しては妻と一緒に考えたいので一先ず保留だ

この刃に望むのは硬くあること
決して壊れず、折れぬものを妻に捧げたい
我が愛の証明である故

……こういうことは本人に伝えるべき言葉だったな
うむ、少しばかり気恥ずかしい
出来上がるまでしばし席を外す

時に、原石を用いた装身具の扱いはあるのだろうか…



(「宝石花か……無骨な己が振るうにはいささか華美だが、我が妻に贈るならばこの上ないモノであろう」)
 グリモアベースでこの話を聞いた時に、オニバス・ビロウ(花冠・f19687)が真っ先に思い浮かべたのは妻の顔だった。
 その名に植物を冠するオニバスとしては、素通りできぬものでもあり。
「花は、白い野ばらを希望、だね?」
 ウルリヒの言葉にオニバスは恭しく頷いた。
 花びらが五枚の野ばらは、『薔薇』と言われてイメージされるような豪奢さはなく、むしろ素朴、純朴でありながら上品さも持ち合わせている花である。
「石は橄欖石……確かぺりどっとという名で、柔らかな若葉のような色合いの石だ」
「ペリドットですわね。かしこまりましたわ」
「……石は夫婦和合、花は素朴な愛の意があると聞いた」
 ぽつり、選んだ理由を紡げば。
「それでは一等綺麗なものを選ばないとなりませんわね」
 フリーデリーケが柔らかく笑んだ。
「それで、希望はナイフ、と」
 いつの間にかテーブルの傍に来ていたゴウニュが、オニバスの希望が記載された紙を覗き込んで。
 サムライエンパイアで女子の持つものと考えれば短刀に行き着くが、オニバスはこちらの流儀に合わせて希望を出していた。
「両刃か片刃……柄の有無なんか希望はあるか?」
「それは……可能ならば柄のない、片刃のものをお願いしたいが」
「そりゃあ『ニホントウ』の『懐剣』に似せていいのかね?」
 ゴウニュの言葉にオニバスは僅かに目を見開いて。出来るのか、と問えば。
「ああ。お仲間の中に見本を持ってきてくれた子がいたからな。それでよけりゃ経験者に任せよう。他に希望はあるか?」
「……この刃に望むのは硬くあること」
 問われ、オニバスは想いを紡ぐ。

「決して壊れず、折れぬものを妻に捧げたい――我が愛の証明である故」

 それは心からの想い。真っすぐで、決して変わらぬもの。
「イイねぇ。硬度はフリーデリーケに頼んでくれ。魔法で更に補強してくれる」
「お任せ下さい」
 ゴウニュもフリーデリーケもウルリヒも、オニバスの真っ直ぐで真摯な想いが伝わったからだろう、穏やかな表情をしている。が。
「……こういうことは本人に伝えるべき言葉だったな」
 それが逆に、少しばかり気恥ずかしくて。オニバスは椅子から立ち上がる。
「出来上がるまでしばし席を外す」
 告げて工房の外へ出れば、街の日常風景が広がっていた。
 無邪気に走り回る子どもたち、井戸端会議をしていると思しき女性たち、そして……仲睦まじげに寄り添って歩く男女。
 連れ去られた妻は、未だ連れ帰ることは叶わず。けれども必ず見つけ出し、連れ帰るという意思が揺らぐことはない。出来上がる短刀の銘も、妻と一緒に考えたいと思っていた。
 脳裏に滲むのは、妻と共に過ごした時間。それは今や『過去』であるけれど。
 必ず『未来』にもしてみせると、オニバスは静かに誓った。

 * * *

 テーブルの上に置かれた絹を開くと、白塗りの鞘に納められた短刀が顔を出した。
「……!」
 まだ刀身を見ていないというのに、オニバスは驚きで息を呑む。
「これ、は……」
 その鞘と柄には、野ばらとは違う花が咲いていたのだ。
「キミの名前は植物の『オニバス』かなって思って。違ったのなら鞘と柄は変えて――」
「いや」
 ウルリヒの言葉を遮り、オニバスは白に控えめに描かれた淡紫の花を見やる。ああ、鬼蓮の花だ。
 そっと短刀に触れて、ゆっくりと鞘から抜いてゆく。現れたのは、今にもその香りが感じられそうなほど鮮やかな、若葉色の刀身。そこに咲く白い野ばらが、その刀身を素朴な花畑足らしめていた。
 嗚呼、これを見たら妻はなんと言うだろうか。
 爽やかな風と草花を好む女性(ひと)だ。きっと気に入ってくれる――きっと。
 彼女の反応を思い浮かべると、目頭が熱くなりそうだ。けれどもそれを堪えて、オニバスは礼を告げた。

 短刀を包んでもらっている間、カチヤの姿を見つけたオニバスは声をかけた。聞きたいことがあったのだ。
「時に、原石を用いた装身具の扱いはあるのだろうか……」
「ん~冒険者さんのご希望にもよりますが、ありますよぅ~。サンプルならいくつかありますから、みてみます~?」
「お願いしたい」
 こて、と首を傾げたカチヤに頷いて、オニバスは装身具のサンプルの並ぶ棚を見せてもらうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・侑士
深青(f01300)と

宝石・花諸々お任せ
武器名は後で自分で決めます

若い頃に使用していた古いボウガンを持参
これを宝石花に組み込めないか聞いてみる
部品の一部はまだ使えるだろ?この辺の街で昔入手したもんなんだ

深青は何にするんだ?
刃物なら鞘は軽くて留め具が複数付いてるやつにしとけよ

職人の手伝いまでするのか
お前ほんとに真面目だな
…手持ち無沙汰だし俺も少しは手伝う

村人から深青と親子扱いされる
いや、俺とこいつは違…と言いかけるも
髪と瞳の色
そしてパパ呼び
これで他人同士に…というのは無理があるか
この場では一応保護者だしな
否定も面倒なので苦笑いで適当に流し…ってコラコラー!

…あぁ愛しい娘は今頃家で何をしてるかな


壱季・深青
パパさん(城島・侑士 f18993)と

(宝石は黒曜石/花はお任せ
武器は短刀で名前は後ほど決めます)

パパさんは…ボウガン?
何に…使ってたんだろう?
俺は…短刀に…する
パパさんのアドバス…ちゃんと…聞くよ
鞘軽めの…留め具…複数で
なんか…ラーメン…注文してる気分
あ、俺…真面目だから…お手伝い、する
なんでも…言って、ね

パパさんは…幼なじみの…お姉さんの父親
俺とは…関係ない…けど

パパ…ちゃんと…手伝って

少し…ふざけて…パパとか…呼んでみた
でも…ツノがなければ…色味は似て…はっ…!
もしかして…まさか…ホントは…
俺…パパの…隠し子…だったんだ
(もちろん冗談)

(「…」は適当で可)



 テーブルについたエルフの兄妹の向かいに座したのは、城島・侑士(怪談文士・f18993)と壱季・深青(無気力な道化モノ・f01300)。侑士が荷物から取り出して机の上へと置いたのは、ボウガン――正式名称をクロスボウという代物だ。
「これに宝石花を組み込めないだろうか?」
 それは侑士が若い頃に愛用していたもので。
「拝見いたしますわ」
 断ってクロスボウに手を伸ばしたフリーデリーケは、様々な角度からそれを検分してゆく。
「部品の一部はまだ使えるだろ? この辺の街で昔、入手したものなんだ」
「なるほど……」
 話を聞きつつ彼女は検分を続ける。侑士の横に座している深青は、彼女と侑士を交互に見比べて。
「パパさんは……クロスボウ……?」
 何に使っていたんだろうという思いを飲み込んで呟けば。
「深青は何にするんだ?」
「……俺は……短刀に……する」
「刃物なら、鞘は軽くて留め具が複数付いてるやつにしとけよ」
 侑士に問われて答えた深青に、まるで様々な武器の扱いから実践まで熟達した者のような言葉が返ってきて――実際に侑士は戦いのみに没頭していた時期があるのだが――少し不思議に思いつつも深青は素直に頷いた。
「そちらの……深青さんのご希望は、黒曜石の短刀で、花はお任せですね」
「……鞘軽めの……留め具……複数で……」
 ウルリヒの言葉に頷いて、侑士のアドバイス通りに追加注文をする深青。
(「なんか……ラーメン……注文している、気分……」)
 にんにく有りの野菜と油、多めで――うん、確かにラーメンの注文と似ている。
「あ、俺、お手伝い……あれば、なんでも……言って、ね」
「お前ほんとに真面目だな」
 職人の手伝いまでするのか、と感心したように深青を見る侑士。するとテーブルへと寄ってきたゴウニュが開口一番。
「よく出来た息子じゃねぇか。親のアドバイスをちゃんと聞くなんてな」
 その言葉にウルリヒやフリーデリーケも穏やかに頷くものだから、自分達が親子だと思われていたことが判明して。
「いや、俺とこいつは違……」
 言いかけて、深青に視線を向けた侑士は動きを止める。
 金の髪に、青と藍の違えばあれど同系色の瞳。
「パパも……ちゃんと……手伝って……」
 加えてパパ呼びだ。自分達のことをよく知らない者が、これで親子だと思わないというのは無理があるだろう。
「パパさんは……幼なじみの……お姉さんの、父親……俺とは……関係ない……けど……」
 真相を告げて、深青は改めて隣の侑士の容貌を見やる。そして、気づいてしまった。
「でも……ツノがなければ……色味は似て……はっ……!?」
 この場では一応保護者だしな――という侑士の言葉に被せるように紡がれたのは。
「もしかして……まさか……ホントは……」
 小さく震えるようにして見つめてくる深青を、侑士が怪訝そうに見たその瞬間。

「俺……パパの……隠し子……だったんだ……!!」
「ってコラコラ!?」

 否定も面倒だから苦笑いで適当に済まそうと思ったところに、深青が簡潔に誤解を解いてくれた――と思ったら、別の誤解を生むような爆弾が投下された!?
 もちろん、深青としても冗談で告げた事だ。侑士も周りの三人もそれをわかっている。
 優しい笑いが場を包み込む――その中で。
(「……あぁ、愛しい娘は、今頃家で何をしているかな……」)
 侑士は妻の次に最愛の(表現の矛盾は気にしない)、娘の姿を思い浮かべたのだった。

 * * *

 深青は乞われるままに、井戸で汲んだ水の入った桶をふたつ軽々運んで職人を驚かせた。細身の彼は見かけによらず力があり、それを見た他の職人からも石を運ぶのを手伝ってくれと頼まれて。
 武器の完成を待っていた侑士だったが、そんな深青の様子を見ていると手持ち無沙汰というか……何となく保護者である自分が何も手伝わないのはどうなんだろうかと、そんな風に思い始めて。結局立ち上がって深青とともに職人の手伝いに精を出したのだった。

 しばらくして、侑士が少し休ませてくれと音を上げた頃、ふたりは兄妹に呼ばれてテーブルへと戻り。
「まずは、こちらから」
 ウルリヒが深青の前へ置いた絹の包み。それを慎重に開くと現れたのは、黒塗りの鞘に収められた短刀。注文通り留め具は複数ついているが、柄と鍔も黒系統で統一されており、見た目はシンプルで落ち着いている。
 深青が手にすれば、思いのほか軽かった。聞けば鞘は木製だが、塗料に籠められた魔力とフリーデリーケの魔法で強度を増し、実践に十分耐えられるものになっているという。
 そして。
「……っ……」
 するり……不思議と手に馴染むその感触を味わいつつ引き抜けば、現れた刃はうっすら透き通りそうな黒。その刀身の切っ先ではなく半分より鍔に近い方に、黄色い花がいくつか宿っていた。
「……この花、は……?」
「それはレンゲツヅジという花だ」
 深青の問いに答えたのはウルリヒ。彼は続ける。
「希望の石が黒曜石。石言葉には集中力や潜在能力などがある。花はお任せというから、情熱や節制、向上心という花言葉のあるレンゲツヅジを選んだよ。どうかな?」
 こくこくと小さく頷いて、深青は刃を明かりにかざしてみる。刃に光が反射して、その切れ味の鋭さを誇示しているように見えた。
「こちらがお父さ……ではなく、城島さんのご依頼のものですわ」
 フリーデリーケが侑士の前へと絹布で包まれたそれを置く。正直、宝石花を組み込む部分も石も花もお任せにしたので、侑士にも出来上がりは想像できない。
 ゆっくりと絹布をめくっていくと――。
「……ほう……」
 姿を現したクロスボウは、だいぶ姿を変えていた。
 木製だった弓床には黒い石が使われており、その上最初とは少し形状が変わっている。そして付属されている複数の矢もまた、その全身を黒で染めていた。
「これは、黒曜石ではない……な」
「はい」
 侑士の言葉に頷いて、フリーデリーケが説明を始める。
「弓床に使用したのはブラックオニキス。成功や魔除けの意味がございます。矢に使用したのは天眼石――アイアゲートで、同じく成功や、目標達成という意味が」
 確かに矢をよく見てみれば、グラデーションのような模様が入っていた。
「工房長とも相談したのですが、連射式のクロスボウにさせていただきました。連射式にするには威力を犠牲にすることが多いのですが……それは石の力と花の力に私達の魔力を足して、威力が落ちぬようにしてあります」
「なるほど、それはありがたいな。……でも、なぜこの花を選んだんだ?」
 弓床には目立たぬ位置に、矢には鏃以外の部分に白い小さな花がバランス良く埋め込まれている。
 侑士が問うたのは、ただ理由が聞きたかったからではない。その花の名前を確かめたかったからだ。
 侑士はこの花を知っている。若かりし頃は、花などに一片の意識すら向けたことはなかった。
 その生活がある出会いで変化して――今まで見ないようにしてきた、見る余裕すらなかった様々なものを見て、識って。
 その中に、この花があった。
 忘れることなんてありえない。
「この花は、フクラシバの花で、花言葉は先見の明。射撃武器に良い花言葉だと思ったので」
 ゆっくりと答えるウルリヒは、ああ、と声を上げて付け加える。

「フクラシバよりも、『ソヨゴ』の花と言ったほうが通じるかな?」
「っ――……」
「……!!」

 その言葉に侑士は身体を震わせ、深青は驚いて侑士へと視線を向けた。
「お気に召しませんで――」
 心配そうに侑士の顔を覗き込むウルリヒの言葉を手で制し、侑士は言葉を絞り出す。
「……いや、十分すぎる……」
 口元を押さえた侑士がそれ以上言葉にできなかった理由。それを知るのは、この場で深青だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鶴澤・白雪
エスト(f16282)と

宝石花ってちょっと親近感湧くわ
花の精霊に力を借りられるけど折角だしお願いしようかしら

エストも頼むわよね
…って、アンタ花触れないんだった?

ふは!誘っておいて申し訳ないけど忘れてたわ
花くらい持ってあげるから行きましょ

武器じゃなくて焔華飾りを作ってほしいの
大きさはこの雪の結晶の飾りと同じくらいのサイズで
石はあたしのレッドスピネルで花は橙色のガザニアを合わせられるかしら?

出来上がったものを眺めたらそのまま横の男に渡すわ
名前は好きにどうぞ
いつかのお返しよ

ナイフなんてエスト使うの…ってあたしに?
ミラ?そんな風に言われて忘れられるわけないじゃない

よく分からないけどありがと、嬉しいわ


エスパルダ・メア
白雪(f09233)と

宝石花…確かにお前みたいだな
白雪は武器じゃねえけど
にしても、花か

…うるせえ、笑うな
お前が誘うから何も考えずにいたんだよ
ぷいと顔を逸らして
花は枯らしちまうんだよ、氷のせいで
お前が持っててくれ、その白のポインセチア

宝石はブルートパーズ
作って貰うのは…
言いかけて職人の技に見入ってしまう
オレを作ったのも職人だから、懐かしいって言うか

貰った焔華飾りにきょとんと
オレに?何で?
こういう物を貰うのは初めてで呆けて
…うん、ありがと
ぽかんとしたまま受け取って、素直に笑う
名前は後でつけるよ

ならオレのはナイフに
お前が使え、別にお返しじゃねえよ

そいつの名前はミラ
覚えといてやれよ
お前を愛する物の名前



「宝石花ってちょっと親近感湧くわ」
 グリモア猟兵の話を聞いた時に、そう思った。
 工房に来て改めてその思いを呟いたのは、鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)だ。彼女はクリスタリアンであり、花を操る者であれば、親近感を抱くのも無理はない。
「宝石花……確かにお前みたいだな」
 彼女の隣で呟いたのは、エスパルダ・メア(ラピエル・f16282)。白雪は武器じゃねえけどと付け加えた彼は、明らかに声のトーンを落として。
「にしても、花……か」
「あたしは花の精霊に力を借りられるけど、折角だしお願いしようかしら。エストも頼むわよね――」
 少しわくわくさを滲ませた声色で告げて彼に視線を向けた白雪は、彼の様子と声色から、ある事情を思い出した。
「……って、アンタ花、触れないんだった?」
 アイスレイピアのヤドリガミであるエスパルダは、ところどころに纏う氷のせいで花を枯らしてしまうのだ。
「ふは! 誘っておいて申し訳ないけど、忘れてたわ」
「……うるせえ、笑うな」
 思い切り吹き出して肩を揺らす白雪に、憮然として返すエスパルダ。

「お前が誘うから、何も考えずにいたんだよ」

 続けて告げてぷい、と顔を逸したのは、照れ隠しからかそれとも気まずさからか。
「お前が持っててくれ」
「はいはい。花くらい持ってあげるから行きましょ」
 工房の離れに用意された、魔法の力で宝石花用の花を保管しているという小屋から、ふたりは工房へと戻る。
 白雪の手には橙のガザニアと、白のポインセチアが咲いていた。

 * * *

「花はこれ。白のポインセチアで、宝石はブルートパーズ。作ってもらうのは――……」
 白雪がカウンターに置いてくれたポインセチアを指し、カチヤの聞き取りに答えるエスパルダ。けれども視線は彼女の向こう側――職人たちが武具を作り出している場へと自然と向いてしまい。つい、その光景に見入ってしまう。
 職人の動き、音、声――工房を包む空気自体がエスパルダの胸を掻き立てる。
「冒険者さぁ~ん?」
 突然言葉を切ったエスパルダの様子を心配したのであろうカチヤの声に、意識が引き戻されて。
「あ……つい、懐かしいっていうか」
 謝罪を口にして続けた言葉、それがエスパルダの胸を掻き立てた気持ちのひとつであることは確かだ。彼もまた、職人の手によって作られたのだから。
「工房に思い出があるのですね~」
 カチヤは深く追求はせずに、聞き取りを再開しようとしてくれる。なぜ懐かしいのかと問われて『自分も職人の手によって作られたから』と答えたとしても、彼女に混乱をもたらすだけだろう。いくらカチヤが冒険者慣れしているといっても、ヤドリガミに関する知識がどれほどかはわからないのだから。

 一方、白雪は。
 エスパルダより先に聞き取りを終え、すでに兄妹による仕上げを待っていた。
 暫くして。工房の奥の部屋から出てきたウルリヒにより、優しく手渡された絹布の包み。それを開いた白雪は、その中にくるまれていた焔華をじっと見つめた。
 大きさは、白雪の持つ雪の結晶飾りと同じくらいで、掌に乗る小さなモノ。けれども華の形をしたそれはレッドスピネルでできているからか、まるで焔で出来た華の様に見える。
 その小さな中にはしっかりと、橙色のガザニアが宿っていて。仮としてつけておいたと言われたチエーン部分もまた、レッドスピネルで出来ていた。
「ありがとう。こういうのが欲しかったの」
 礼を告げた白雪は、迷いのない歩みで工房内を進んでゆく。彼の居場所は、把握していたから。
 カウンターの前に立つ彼――エスパルダの隣まで来た白雪は、彼が自分に視線を向けたとほぼ同時――だが彼が言葉を紡ぐよりも早く、今できたばかりの焔華飾りを差し出した。
「えっ」
 差し出されたそれに反射的に手を出してしまったエスパルダは、受け取ってからきょとんとしたまま尋ねる。
「オレに? なんで?」
「いつかのお返しよ」
 エスパルダとしては、こういう物を貰うのは初めてで。こんな時にどんな反応をしたらいいのかも、彼女がなんで自分にそれをくれたのかわからなくて一瞬呆けたけれど。
「名前は好きにどうぞ」
 告げられた理由と付け加えられた言葉に、素直に笑う。
「……うん、ありがと」
 名前は後でつけるよ――そう告げて手の中の焔へと視線を向ける。
 レッドスピネルは、生命力の活性化や、やる気を引き出す石。古来から火を象徴する石とされてきたそれは、持つ意味もまるで焔のよう。
 ガザニアの花言葉は、潔白、きらびやか、身近な愛、そしてあなたを誇りに思う――。
 おそらくエスパルダは、使われている石や花の意味など知らないだろう。けれどもどことなく嬉しさを滲ませながら、焔華に向けていた視線をカチヤへと向けて。
「なら、オレのはナイフで」
「ナイフなんてエスト使うの――」
「お前が使え」
「……って、あたしに?」
 思わぬ彼の言葉に、白雪はその白い指先で自身を指した。
「別にお返しじゃねぇよ」
 穏やかに、けれどもどこかいたずらっぽく笑んで、エスパルダはそう告げた。

 * * *

 暫くののち、呼ばれて工房内へと入ったエスパルダは、絹布の包みを手にして工房外のベンチへと戻ってきた。
 白雪が腰を掛けている横へと再び腰を下ろし、彼はゆっくりと布を開く。
 その中に収まっていたのは、青銀色の鞘と柄を持つナイフだ。
「こいつの名前はミラ」
 その言葉とともに差し出されたナイフに、白雪は躊躇いがちに手を伸ばす。
「覚えといてやれよ――お前を愛する物の名前だぜ」
「ミラ?」
 彼の告げた名前を繰り返しながら、そっと鞘から抜き放てば、透き通るような青の刀身に白いポインセチアが厳かに宿っていた。
「――」
 少しの間、陽の光に輝くその美しさに言葉を奪われた白雪だったけれど。
「そんな風に言われて、忘れられるわけないじゃない」
 希望、知性、友情の言葉を持つブルートパーズに宿るのは、慕われる人、そして――祝福を祈るという意を持つ白のポインセチア。
(「……ミラ」)
 心の中で小さく呼びかけた白雪は。
「よく分からないけどありがと、嬉しいわ」
 エスパルダの青を見て、笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジニア・ドグダラ
音海・心結さん(ID:f04636)と一緒に

音海さん、ぶつからないように、お気をつけてくださいね?
それで、こちらの方に、でしょうか?
音海さんと考えたの、お願いしますね。(メモを渡す)

武器の種類としては、音海さんとの色違いのダガーを。使用する宝石にアイオライト。埋め込む花に山桜桃梅。色調は深い藍色。名をマグメルと、お願いします。

出来上がりまでは……そうですね。色々見させて、貰いましょうか。
それにしても、ここまで剣や鎧がたくさんあると、壮観ですね。

おや、音海さん、どうなさいましたか?……ん、そうですか。確かに、こうして一緒にすることは、あまりなかったですしね。
こちらこそ、よろしくお願いしますね。


音海・心結
ジニア(f01191)と
ここが『宝石花』シリーズを作っている工房なのですっ
さっそくみゆたちも頼むのです♪

これでお願いするのです
二人でいーっぱい考えたのですよ
ねっ、ジニア♪
自慢のかわゆい武器でお願いしますなのです
(メモを渡す)

**
武器の名前:逃がさない
作成してほしい武器:ダガー
使用したい宝石:ロードライトガーネット
埋め込む花:山桜桃梅
色:神秘的な深いピンク色
**

これであとは待つだけですねぇ
せっかくなので工房内を覗きましょうか

ん……、ふふ(ジニアを見ている)
何でもないのですよ?
ただ久しぶりに一緒にお出かけ出来て嬉しいだけなのです
しかも特別な武器まで作れて
えへ、えへへ
これからも仲良くしてください♪



 きょろきょろ。きょろきょろ。
 明るい茶色の髪の少女――音海・心結(ゆるりふわふわ・f04636)は金の瞳を輝かせて、工房内を見渡している。
「ここが『宝石花』シリーズを作っている工房なのですっ」
「音海さん、ぶつからないように、お気をつけてくださいね?」
 そう注意を促しながらも、隣を歩く彼女が転ばないようにと意識を割いているのはジニア・ドグダラ(白光の眠りを守る者・f01191)。
「さっそくみゆたちも頼むのです♪」
「ええ。こちらの方に、でしょうか?」
 視線を巡らせれば、猟兵と思しき人達がカウンター付近に大勢いて。そこで対応しているドワーフの少女の元へと、ふたりは軽い足取りで向かう。
「次の方どうぞですよぉ~」
 ドワーフの少女――カチヤに声をかけられてカウンターについたふたり。ジニアは手に持っていたメモをカウンターへと置いた。
「音海さんと考えたの、お願いしますね」
「これでお願いするのです。ふたりでいーっぱい考えたのですよ」
 心結もまた、メモを差し出して。「ねっ、ジニア♪」と瞳を合わせて笑みを交わす。
「かしこまりましたですよ~。きちんとお受けいたしましたぁ~」
「自慢のかわゆい武器でお願いしますなのです」
 メモを受け取ったカチヤもつられて笑顔になったのを見て、心結は愛らしい笑顔を浮かべてウィンクしてみせた。

 * * *

「これであとは待つだけですねぇ」
「出来上がりまでは……」
「せっかくなので、工房内を覗きましょうか」
 あとは待つだけ。といってもただ徒に時間を消費するのももったいない気がする。だってせっかく、普段あまり入ることのないような場所に来ているのだから。
「……そうですね。色々見させて、貰いましょうか」
 だからジニアには、心結の提案を断る理由はなく。カチヤに見学したいと断りを入れて、ふたりは工房内を歩き始める。
 工房に入ってすぐ、ふたりがカチヤにメモを渡したカウンターの奥の壁には、『宝石花』シリーズではないが普通の武器が壁に飾られている。
 実用重視のシンプルなものから装飾重視の豪奢なものまで並んでいるのは、そこが客が入って来て一番最初に目が行く場所だからだろう。この工房では希望に合わせて幅広く対応ができますよ、というアピールだ。
 職人たちの活動している方向へと進めば、室温が変化したことが如実にわかった。暖房にしては暑いそれは、鉱物を鍛える時に使用する炎。冬のこの時期で、しかも遠巻きに見ているだけでふたりには暑く感じるそれ。火の近くで作業している人の暑さはどれほどだろうか。
「これは、夏はもっと暑いってことなのですよね。みなさん平気なのでしょうか?」
「そうですね。きっと慣れもあるのでしょうけれど、もしかしたらこの世界なりの対処法があるのかもしれません」
 真剣に作業をしている職人の邪魔をするのは本意ではない。心結の疑問に予想で答えたジニア。ふたりは邪魔をせぬよう注意をはらいながら、工房内を探検してゆく。
「石がいっぱいなのですっ」
「この石が、武器や防具になるなんて、不思議ですね」
「あっ、あっちには小物があるのですっ」
「柄や、鞘や、飾りまで、手掛けているのですね」
「ジニア、あっちに大きなテーブルがあるのですっ!」
 興味津々の様子で工房内をゆくふたり。心結に手を引かれてジニアがたどり着いた場所は、工房の奥の空間。
 布の敷かれた大きなテーブルには、ずらりと大小様々な剣が並んでおり、壁際の武器立てには槍などの長物が立てかけられていて。壁には斧やハンマーが飾られている。反対側の壁際には、パターンの違う鎧が数領並べられていた。
「それにしても、ここまで剣や鎧がたくさんあると、壮観ですね」
「ん……、ふふ」
 工房ならではの光景に息をつくジニア。だが隣りにいる心結は、その光景よりも――。
「おや、音海さん、どうかなさいましたか?」
 ジニアは自分を見つめる彼女の視線に気が付き、柔らかく問う。
「何でもないのですよ?」
 そういたずらっぽく答えた心結だったが。
「ただ、久しぶりに一緒にお出かけできて、嬉しいだけなのです」
 しかも特別な武器まで作れて――告げる顔には、満面に嬉しさが満ちている。
「……ん、そうですか」
 その表情を受け止めて、ジニアは記憶を遡った。そして。
「確かに、こうして一緒にすることは、あまりなかったですしね」
 こくこくとジニアの言葉に頷いた心結は、照れくさそうに笑い。
「これからも仲良くしてください♪」
 そう告げれば。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
 ジニアらしい礼儀正しい答えが返ってきて。
 ふたりとも、心が温かくなるのだった。

 * * *

 軽い鞘――皮の鞘に銀色の柄。渡された絹布から出てきたものは、一見同じもののように見えた。けれどもそのダガーを鞘から抜いてみると。
「わぁ……」
「……綺麗ですね」
 形も大きさも揃いのダガー。だが心結の刀身はロードライトガーネット製の、透明感のあるワインレッド。そこに埋め込まれた山桜桃梅のピンクは深く、神秘的な色をしている。
 対するジニアのダガーの刀身は、深い藍色に近いアイオライト製。同じく山桜桃梅の花が、咲いている。
「ジニア、見てくださいなのです」
「ええ、こちらも」
 ふたりでダガーを並べてみれば、色違いのお揃いのそれは、正しく友愛の証のよう。
「おそろいなのです♪」
「お揃いですね」
 心躍る響きに、ふたりの心は同じ気持ちで満ちていった。

 ちなみに、ジニアはこのダガーを『マグメル』と名付け、心結は『逃さない』と名付けたのだという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

宝石花の武器ね。お揃いの武器を作ってもらうのもいいんじゃないか?ウルリヒとフリーデリーケはご苦労さんだね。一つ、設えて貰えないかい?

アタシはガーネット・・・赤がいいね。と赤い薔薇がいいね。豊穣と勝利を表すガーネットに愛を象徴する赤い薔薇。武器の形は短剣で。母親として大きな愛で子供達を導いてやりたいね。その気持ちを込めて。


真宮・奏
【真宮家】で参加

宝石花の武器ですか。素敵ですね。お揃いの武器、いいですね。飛び切りのものを作って貰いましょう。

私は真実と誠実を表すラピスラズリに、誠実な愛を表すスミレで。武器の形は短剣で。誠実な愛で大切な人を護って行きたいです。まあ、今愛する人がいるのもありますが・・・(瞬を見て真っ赤になりつつ)大変でしょうが、宜しくお願いします!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

宝石花の武器ですか。素晴らしい技術があるんですね。そうですね、折角ですのでお揃いの武器を作って貰うのもいいでしょう。

僕は成功と繁栄を表すトルコ石・・・ターコイズに良い便りという花言葉のアヤメの組み合わせで、形状は短剣で。大切な家族と道行きが確かなものとなるように導けることを願って。お揃いの短剣を三人で見せ合って、笑顔を見せます。



「宝石花の武器ですか。素敵ですね」
「ええ、素晴らしい技術があるんですね」
 グリモア猟兵に話を聞いた時よりも、実際に工房へと足を踏み入れて実物を見たあとの方が、当然ながらその気持ちは強くなった。
 娘である真宮・奏(絢爛の星・f03210)と、実の息子として育ててきた神城・瞬(清光の月・f06558)のその言葉を聞いて、真宮・響(赫灼の炎・f00434)は依頼の内容を聞いたときから考えていたことを口にする。
「三人お揃いの武器を作ってもらうのもいいんじゃないか?」
「お揃いの武器、いいですね。飛び切りのものを作ってもらいましょう!」
「そうですね、折角ですのでお揃いの武器を作ってもらうのもいいでしょう」
 奏と瞬の同意を得て、響はカウンターへと視線を向けて。
「あそこで申請するようだね」
「行きましょう!」
 響たちは三人連れ立って、カチヤのいるカウンターへと向かった。

「ご家族でお揃いですか~素敵ですね~!」
 三人で揃いの短剣をと聞いたカチヤがナチュラルに三人を家族扱いするものだから、響としてはもはや当然であったそれを、初対面の他人にも同じように捉えてもらえた事がなんだか嬉しく感じた。
「ご希望の石と花があればお申し付けくださいなのですよぉ~」
 カチヤの声にまず、響が口を開く。
「アタシはガーネット……赤がいいね。花は、赤い薔薇がいいね」
 豊穣と勝利を表すガーネットに、愛を象徴する赤い薔薇を選んだ響。
(「母親として大きな愛で子どもたちを導いてやりたいね」)
 その気持ちを込めて選んだ石と花だ。
「私は、真実と誠実を表すラピスラズリに、誠実な愛を表すスミレでお願いしたいです」
「石言葉や花言葉も調べてきたんですねぇ~。もしかしてお嬢様は恋する乙女さんですかぁ?」
 真剣に告げた奏に、カチヤはメモを取りつつそう告げて、奏の表情を窺う。
「せっ、誠実な愛で大切な人を護っていきたいと思って……まあ、今、愛する人がいるのもありますが……」
 若干の動揺を見せつつ、奏はチラッと瞬を見て、顔を真っ赤に染める。もちろんカチヤはその様子を見逃しはしない。
「なるほどなるほど~」
「たっ、大変でしょうが、宜しくお願いします!!」
 何かに気づいてしまった様子のカチヤの言葉を強引に遮って、奏は真っ赤な顔のままカウンターを離れたのだった。
「……、……」
 奏とすれ違うようにカウンターへついた瞬は、彼女が顔を赤らめた理由も自身に向けられた想いも知っている。けれども今はまだ、それは秘めておくと決めているから。
「僕は、成功と繁栄を表すトルコ石……ターコイズに、良い便りという花言葉のアヤメの組み合わせでお願いします」
「ふむふむ、かしこまりました~。出来上がりましたらお呼びしますねぇ~」
 三人分の希望を記した紙を、ちょうどカウンターに来たウルリヒとフリーデリーケに手渡すカチヤ。
「アンタ達が、宝石花の武器を作ってくれるウルリヒとフリーデリーケだね」
 響が兄妹に近づいて告げれば、ふたりは頷いて丁寧に自己紹介をした。
「いきなりたくさん注文が来て、大変だろうけど、ひとつ、よろしく頼むよ」
「僕たちは最後の仕上げを担当しているだけなので」
「職人たちが基礎となる武具を鍛え上げてくれなければ、私達も技術を活かせませんから。ねぎらいのお心は、職人たちにも分けておきますわ」
 穏やかな表情で響に告げた兄妹は、会釈をして工房の奥へと戻っていった。
 あとは完成を待つだけだ。

 * * *

 アタシはここで待ってるから、ふたりで街を見て回って来なよ――工房の外に設えられたテーブルセットに腰を掛け、響は奏と瞬に告げた。
「いつ呼ばれるかわからないから、アタシが待ってるよ」
 それは半分は口実。ふたりがゆっくりと穏やかな時間を過ごしてくれれば、そんな思いがあったからだ。
 ふたりが街へ繰り出したのち、椅子の背もたれに体重を預けた響は、そっと目を閉じる。瞼に浮かぶのは、まだ幼いふたり。
(「思えば遠くへ来たもんだ……」)
 女手一つで子どもたちを育て上げる――それは並大抵のことではない。辛い時も苦しい時も、誰かに寄りかかりたい時もあったけれど。
 今、こうして立派に育っているふたりを見れば、これまでの苦労が報われる気がする。
(「まだまだこれからも――」)
 子を導く役目は、まだまだ終わることはない。

 * * *

「ただいま!」
「戻りました」
 街中を散策して、奏と瞬が工房の前に戻った時には、響のいるテーブルの上には絹布の包みが3つ、置かれていた。
「おかえり。何か気になるものはあったかい?」
「梨のジュースがとても美味しかったから、母さんにも飲んでもらいたくて」
 響の問いに答える奏。だが木製のコップをテーブルへと置いたのは瞬だった。曰く、道中こぼしてしまわないようにと運搬を引き受けたのだとか。
「ありがと。……ん、確かに新鮮な梨を使っているのがわかる味だ」
 一口飲んでふたりを見やれば、奏が瞬と視線を合わせて頷きあっている。響に喜んでもらえてよかったというところだろう。が、響の視線はふたりのその様子よりも、奏の髪へと向いていた。
 娘の髪には、菫色の小さな石を連ねた髪飾りが座している。先ほどまではなかったそれはおそらく、街中を散策中に手に入れたものだろう。だが、響はそれを問わない。奏や瞬が自発的にその話題に触れたのならば、もちろんきちんと聞くつもりではいるけれど。
「さあ、仕上がりを確かめようか」
 だから話題を、テーブルの上の包みへと動かす。奏と瞬は、包みが置かれている響の向かいへと、並んで腰を下ろした。
 誰からともなく、そっと絹布をめくっていく。
 金古美の柄と鞘は三人とも同じ。けれども柄と鞘にはひと粒ずつ、それぞれが選んだ宝石がはめ込まれているからして、これを目印にすれば間違えることはなさそうだ。
 そして。
「わぁっ……」
 鞘から抜くと現れたその刀身に、本能に逆らわずに奏が声を漏らした。響も瞬も、息を呑んで自身の短剣の刀身を見つめている。
 奏の刀身は、青一色の澄んだラピスラズリ。複数の鉱物が混ざり合ってできるラピスラズリには、混ざっているものの含有量によって見た目に差が出る。
 この青に咲くのは、素朴なスミレの紫。背伸びしないその可愛らしさが、奏によく合っている。
 響の刀身は、濃厚な赤で魅せるるガーネット。透明度の低いものが多いとされているが、この刀身に使われているものは透明度が高く、品質の良いものを使用してくれたのだとわかる。そこに咲く赤い薔薇が、優雅さと女性らしさ、そして情熱を表しているようだ。
 瞬の刀身は、スカイブルーのターコイズ。所々に少しずつ見える黒い模様はマトリクスと呼ばれ、天然のターコイズには多かれ少なかれ混ざっているのだという。その空に、紫に小さな黄色をもったアヤメが咲いていた。
「私のも見てください! 並べてみましょう!」
 興奮冷めやらぬ奏の提案で、テーブルの上に絹布を広げてその上にそれぞれの短剣を置いた。
 形こそ同じだが、石と花が違うのでそれぞれ印象が異なる。
 ただひとついえるとすれば、どの短剣にもそれぞれの想いと願いが込められており、そして美しいということ。
「どれもすべて、美しいですね」
 大切な家族との道行きが確かなものとなるように――そう導けることを願う瞬が告げれば、ふたりは同意を示してくれて。
 そして、三人とも笑顔を浮かべたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

照宮・篝
【神竜】まる(f09171)と

私からもまるに贈りたい
女神の加護と思って、どうか受け取って欲しい

まるからの武具:
◆花:ヒナゲシ
できれば紅白両方使いたいが…この世界に、紅白揃ったヒナゲシはあるだろうか
慰めと眠りによる、オブリビオンの宿業からの解放を
◆名前:睡魔水晶
既に持っている【退魔水晶】の、対になるようにしたいのだ

まるへの武具:
◆系統:小型盾
防具は可能だろうか…槍に取りつける大きさで、扱いの邪魔にならず、護りにもなるものを
◆宝石:カナリートルマリン
◆花:彼岸花(白)
「人生の展開」「思うはあなた唯一人」
◆名前:泉照守
よみてらすのまもり
私の祈りが、まるの生きる希望となって守るように


マレーク・グランシャール
【神竜】篝(f20484)と

花と宝石か
それなら俺の物を作るより篝に持たせる物を作って貰うのが良かろう
必要なら俺が宝石を採掘するぞ

◆種類:短剣
護身用または儀式用のもの
他人と刃を交えることは想定せず、殺傷力や実用性より見目の良さや特殊効果を期待
女性が持ちやすい重さと形状を武人として助言しよう

◆宝石:黒水晶
今持っている水晶の剣が白なので対になるように
安らぎを与える夜の黒
死からの復活、破壊からの再生、内に秘められた種の芽生え

◆花:篝にお任せ
◆名称:篝にお任せ

俺にとって生きることは呪いのようなもの
だが死は救いかと聞かれれば答えられない
生命を絶つことと、魂が救われることは、必ずしもイコールではないのだから



(「俺にとって生きることは、呪いのようなもの」)
 夜のような黒を髪に宿す男――マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は、グリモア猟兵の話したオブリビオンの言動について思う。
 神父や司祭のような格好をした男は、死=救いと考え、その信念に則って人々の命を奪っていくというのだ。
(「だが、死は救いかと聞かれれば、答えられない」)
 生を呪いのようなものと断じるマレークであっても、その思いを反転した先が、死=救いだとは断定できない。
 だって、生命を断つことと魂が救われることは――必ずしもイコールではないのだから。
「……まる、まる?」
 柔らかく甘い声に意識を引き戻されて視線を向ければ、柘榴色の瞳がマレークを心配そうに見上げている。
「……ああ。どうした?」
 光を凝らせたかのような煌めく金糸を纏う彼女へと声をかければ。
「……あちらで申し込みをするようだ」
 彼女――照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)は、白い指を揃えた掌を上へ向け、丁寧にカウンターを示す。
「行くか」
 そちらへと足を踏み出した彼の横顔を見上げたまま、篝は半歩遅れてついて行く。
 尋ねてしまいそうになった――大丈夫か、と。けれどもその言葉を寸でのところで飲み込んだのだ。
 彼の置かれた状況やその胸中にある複雑な想いを、篝は可能な限り受け止め、理解しようとし、理解してきたつもりだ。だから、問わない。
「篝」
 先にカウンターへとついたマレークが、手招きをしている。その大きな手は、決して離さない――離したくないもの。どこまでも、自分が導いていくと――。
「篝――彼女に持たせる武器を頼みたい」
「まるはどうする?」
 隣に篝が来たのを確認して、マレークはカチヤへと告げる。そして、篝の問いには。
「花と宝石なら、俺の物を作るより、篝が持つものを作ってもらうほうが良かろう」
 それは彼の本心であると同時に、そういったものは彼女のほうが似合うという事実。
 でも……と篝が口を開くより早く。
「旦那様から奥様への贈り物ですかぁ~? 良いですねぇ~」
「ああ。必要なら採掘も、俺が手伝うぞ」
 カチヤとマレークの間で話が進んでいってしまった。
「ご希望の石や花があれば教えて下さい~」
「黒水晶で短剣を願いたい。花は彼女の希望に沿って」
「黒水晶ですか~。本当に採掘を手伝ってもらうことになるかもしれませんよぉ~」
 石の在庫の問題だろうか。思案するように首を傾げるカチヤに、マレークは問題ない、と告げる。
 暫くしてカウンター付近に姿を現したエルフの女性――フリーデリーケの話によると、やはり黒水晶の在庫が少ないので、良質のものを作るのならば採掘を待ったほうがいいとのこと。質が上がるのならば。そして何よりも彼女、篝に持たせるものだ。せっかくなら採掘を手伝いたい――マレークの申し出は快く受け入れられた。
「篝、俺が戻ってくるまでに、花と武器の名前を決めておいてくれ」
「まる……」
「心配しなくていい。俺はお前に守られている――」
 告げて、マレークは案内役のドワーフとともに工房を出ていく。その背をじっと、じっと見つめていた篝だったが。
「私からも……」
「奥さん、ご希望のお花、決まりましたかぁ~」
 小さく呟かれたそれは工房内の喧騒に攫われ、カチヤの耳には届かなかったのだろう。遠慮がちに問う彼女の声に、篝はカウンターへと手を置いて。
「私からも、まるに贈りたい」
 そう、告げた。
 自分が与えるばかりなのは気にならない。けれども彼から貰うだけというのは、気になってしまう。それが彼の自分に対する想いなのだとわかってはいても、自分も何かしてあげたい、返したい、同じように、それ以上に――そんな想いが溢れるのは、篝が女神だからではない。
 ――ただひとりを愛する、女だからだ。

 * * *

 数刻ほどして、マレークが黒水晶の乗った手押し車と共に工房へと戻ってくると、篝は安心したようにほっと息をついた。
「戻った。そんなに心配していたのか?」
「……おかえり、まる」
 マレークの問いには答えず、篝は彼を迎え入れる。手押し車を職人へと渡して篝の隣の椅子に座れば、鋼による短剣の刃部分はすでに出来上がっていたようで、テーブルの上に広げられた絹布に横たわっていた。短時間で作成できるのは、何らかの魔法を使っているからなのだろう。
 絹布越しに刃を手にし、マレークは真剣にその刃を見つめる。まだ宝石花としての姿ではないが、この鋼の刃を基礎とすると聞けば、念入りにチェックをしたくなるというもの。
「問題ないな」
 その重さや形状は、刃だけとはいえマレークが事前に武人として助言したとおりに作成されていた。
 この短剣は他人と刃を交えることを想定していない。護身用、または儀式用だ。
 殺傷力や実用性よりも女性が持ちやすい重さと形状を重視し、更に見目の良さや特殊効果を期待している。
「花は、ヒナゲシにした」
 篝がマレークの前へと移動させた木のトレイの上には、紅白のヒナゲシが並べられていて。
「名前も、もう決めた」
「そうか」
 告げて微笑めば、マレークは篝に優しい瞳を向ける。
 彼が刃をテーブルへと戻したのを確認して、篝は自身の白い指先を、骨ばっているが美しい彼の手へと伸ばし、包み込んだ。
「お疲れ様、まる」

 * * *

 絹布を開いてみれば、マレークの髪のような漆黒の柄と鞘の短剣が姿を現した。
 その漆黒には篝の金で精緻な細工が施されており、柘榴のような赤と深い紫の宝石で飾られていた。
「……! 篝、持ってみてくれ」
 それを手に持ったマレークは、驚きを飲み込んで篝へと短剣を差し出す。それを受け取るにあたって、篝はそれなりの重さを予測していた。けれど。
「――っ! 軽、い……」
 そう、それは鞘や柄の重さがあるというのに今まで手にしたどの短剣よりも軽く。その上手にした部分から、篝のちからが流れ込んでいく感覚があった。
 流れ込んでいく力は、やがて篝の手に戻って。そう、短剣の中で力が循環しているのだ。
 ゆっくりと鞘から引き抜けば、美しい黒の刀身が輝く。
 その黒は、安らぎを与える夜の色。
 死からの復活を。
 破壊からの再生を。
 内に秘められた種の芽生えを司るもの。
 そして刀身部分に咲くのは、篝の希望通り、紅白のヒナゲシ。
 慰めと眠りによる、オブリビオンの宿業からの解放を願うそれは――。
「……睡魔水晶……」
 自然と篝の口が紡いだのは、この短剣の名。すでに持っている『退魔水晶』の対になるようにしたいと考えてはいたが、その完成を見たら自然と名を呼んでいた。
「護身用や儀式用とのことでしたので、触媒にもなるよう、使用者の力を宿しやすく、循環してゆく術をかけておりますの」
 フリーデリーケが告げるには、力の増幅効果もあるという。
「よかったな、篝」
「まる……ありがとう」
 それは、短剣の形状についてアドバイスしてくれたことや、黒水晶を採掘してくれたことにだけではない。篝は短剣を鞘へと戻してテーブルへと置き、足元の革袋へと手をのばす。
「まる」
 彼の名を呼び革袋から取り出したのは、絹布の包み。形状としては、剣や槍といった縦長のものではない。
「これを。女神の加護と思って、どうか受け取って欲しい」
「……?」
 包みを差し出してきた篝の瞳は優しく細められていて。マレークはその瞳をしっかりと捉えてから包みを手にした。
 ゆっくりと絹布を開けば、中に見えるのは黄金にも似た鮮やかな黄色。
「これは……盾、か?」
 通常の盾と比べれば明らかに小さい。けれども形状は盾そのもので。
「槍に取り付けて使える盾だ。扱いの邪魔にならず、護りになるものをと思って」
 篝の言葉でそれを裏返せば、確かに槍に取り付けるための加工が施されている。マレークは、それを今一度表に返した。金の中に咲いているのは、白い彼岸花。
 花言葉は人生の展開、そして――思うはあなた唯一人。
「迷惑だと思わないで欲しい。名前は『泉照守(よみてらすのまもり)』という」
 この言葉に盾から視線を上げて柘榴色を見れば、不安からだろうか、微かに色が揺れていて。
「私の祈りが、まるの希望となって守るように、と――」
 マレークの反応を伺いながらもそう紡ぐ彼女。その頭を、その肩を、彼はそっと抱き寄せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘザー・デストリュクシオン
オブリビオンのせいで町がひどいことになるのに、それで助けるってわけわかんないの。
わかんないから壊す!

わたしの名前ヘザーっていうの。
同じ名前の花があるって知ってる?ヒースとかエリカとも言うみたいなの。
それの白い花がいいなって。
宝石はアメジスト。2月のたんじょうせき、なんでしょ?
それで武器なんだけど、自分の体で戦うからアクセサリーでもいい?身体能力を上げる効果がある、みたいな。
戦闘でじゃまにならないような…チョーカーとかで。
名前?…まかせるの!

ヒマだし、わたしもなんか手伝うの!
料理とかはちょっと…体動かすのならまかせて!
石運べばいいの?
胸もとのリボンを解いて速さを上げて、ぱぱっと終わらせちゃうの!


刑部・理寿乃

【心情】
宝石武器なんて心をくすぐるじゃないですか
対価につくってくれると言うならオブリビオンを倒すことにやぶさかではないですよ
まあ、死が救いなんて訳分かんないのは頼まずとも倒しますが

・作って貰いたい武器の系統 西洋剣

・使用したい宝石 アングレサイト (武器に不向きっぽいけど大丈夫かな?)
宝石言葉はわかりませんでした!
・埋め込む花 サフラン
花言葉は歓喜

・武具の名前
クロセアモール

つくってもらっている間は食事のお手伝いをしましょうか!(料理力18のメシマズ女は大人しくその怪力で運搬しててどうぞ)



(「宝石武器なんて、心をくすぐるじゃないですか」)
 グリモア猟兵の話を聞いて工房を訪れた刑部・理寿乃(暴竜の血脈・f05426)は、猟兵たちで混み合う工房内をぐるりと見渡した。
(「対価に作ってくれると言うなら、オブリビオンを倒すことにやぶさかではないですよ」)
 受付の順番を待とうとしている彼女の横には、理寿乃より数センチばかりの背の高い、白い髪の少女が同じように順番を待っていた。
「オブリビオンのせいで街が酷いことになるのに……」
 その少女は街の人々の日常や、工房の人々がこうして懸命に街を守ろうと動いているのを見て、思いが抑えられなくなってしまったようで。けれどもその呟きは、かろうじて理寿乃のように、ごく近くにいる人にしか聞こえないくらいのボリュームに絞られている。
「……それで助けるって、わけわかんないの」
「同感ね」
 聞こえてきた言葉が自分と同じ思いだったから、理寿乃はその少女へと視線を向けた。
「えっ……」
「まあ、死が救いなんて訳分かんないのは、頼まれずとも倒しますが」
「!! うん。わかんないから壊す!」
 最初こそ独り言に言葉が返ってきてびっくりしていた少女だったが、その内容がやはり自身の思いと同じだったからか、笑んで元気に告げて。
「わたし、ヘザーっていうの。あなたは?」
 白い髪に白いウサギの耳を持つ少女は、ヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)。
「ヘザーさん、ね。私は刑部・理寿乃というの」
 名乗りあったふたりは視線を合わせて、どちらからともなく微笑んだ。

 * * *

「あのね、わたしの名前、ヘザーっていうの」
 兄妹を前にして隣同士の席についたヘザーと理寿乃。まず問われて、ヘザーが口を開く。
「同じ名前の花があるって知ってる?」
「ああ。ヒースやエリカとも呼ばれるね」
「そう! それの白い花がいいなって」
 答えたのは、兄のウルリヒ。
「花言葉は『追求者』『博識』『幸福な愛』などだね。そちらの、刑部さんの希望は……サフランだね」
「ええ。花言葉は『歓喜』よ」
 問われて今度は理寿乃が答えた。そして続けるのは、不安と疑問。
「あの、石はアングレサイトを使ってほしいんだけど……その、強度的に武器には不向きって聞いて」
 確かにアングレサイトは脆く割れやすく、加工には向かないといわれる。が。
「そこはお任せ下さい。どの武器もですが、鋼を鍛え上げたものを基礎としますのである程度の強度は保証されます。その上、私が強度を高める魔法を付与いたしますので、問題ございませんわ」
「そうなの。なら、よかったわ」
 妹のフリーデリーケの言葉と笑顔に、理寿乃は胸を撫で下ろした。
「あ、わたしは、アメジストがいいの」
 待っていたかのようにヘザーが口を開く。
「2月のたんじょうせき、なんでしょ?」
「ヘザーさんは2月生まれなのですね?」
 こて、と傾げた首とともにうさ耳が揺れる。ヘザーがこくりと頷けば、フリーデリーケは「それではとびきり良いアメジストを使いましょう」と微笑した。
「それで武器なんだけど、わたし自分の体で戦うから、アクセサリーでもいい?」
 身体能力を上げる効果がある、みたいな――ヘザーは先ほどとは反対側へと首をかしげる。
「アクセサリー……戦闘の邪魔にならないものの方が良いですわね」
「うん。チョーカーとか……かな?」
 他にはあまり思いつかなかったと告げるヘザーであるが、兄妹は工房長であるゴウニュと相談してみると前向きな答えをくれた。

 * * *

「ヒマだし、わたしもなんか手伝うの!」
「作ってもらっている間は、食事のお手伝いをしましょうか!」
 完成待ちの間に何かできることがあれば、そう思い口を開いたヘザーに、理寿乃も同意して提案をする。だが。
「あの……わたし、料理とかはちょっと……体動かすのならまかせて!」
 料理という言葉に顔を曇らせたヘザー。

「なら、石の運搬を頼んでもいい?」

 そんなふたりを見ていたのだろう。声をかけてきたのは、エプロンを付けたドワーフの女性だ。
「ちょうどね、ここに運んでくる原石を鉱山で仕分け終えたらしいのだけれど、せっかく来てくれたたくさんの冒険者さん達の要望に早く応えたいから、人員を採掘に割きたいというの」
 上品な物腰のその女性は、けれどもやわらかな威厳を持っている。聞けば、工房長ゴウニュの奥さんであるらしい。それならば納得だ。
 要は、鉱山から工房まで原石を運ぶための応援が欲しいということらしく。
「石、運べばいいの? ならまかせて! 理寿乃ちゃんも一緒に行ってくれる?」
 ヘザーの言葉に理寿乃としては異論はない。手が足りないと、しかも可愛い少女がそちらに手をかすというならば、大人の女性として手伝わなくてはと思う。
「いいわよ、一緒に運びましょう」
「じゃあ、いってきます!」
 理寿乃の返答に笑顔を浮かべたヘザーは、ライラと名乗った工房長の奥さん手を振って。
 現地で胸もとのリボンを解いて身軽になれば、機動力も上がりたくさん運べるはずだ。

 ちなみにヘザーとライラは気がついてはいないが、彼女たちは工房で働く者たち――可能性としては鉱山で働く者たちや猟兵たちをも含む大勢を救ったのだ。
 理寿乃は、料理を作ることはできる。だが、彼女の作り上げる料理のその味は――本人に自覚は無いのだろうが――筆舌に尽くしがたいものなのだから。

 * * *

 絹布をひらりとめくると姿を現したのは、白鞘白柄の西洋剣。鞘や柄にところどころはめ込まれているのは、理寿乃が願ったサフランと同じ、薄紫の石。
 そっと手に取り鞘から引き抜けば、透明度の高い黄色が部屋の明かりを受けてキラキラと光った。
「……素敵、ね……」
 そのアングレサイトの刀身に宿るサフランの薄紫は、主張しすぎず、けれども存在感は失わず。花と宝石、どちらもそれぞれを引き立てあっているのが理寿乃にはわかった。
 試してくださいとフリーデリーケが置いたレンガに、恐る恐る剣を振り下ろしてみる。割れやすいがゆえに加工に向かないと言われるアングレサイトだ。そのままでは軽く振り下ろしてレンガにぶつけただけで刃こぼれ――最悪、刀身が折れてしまう可能性とて考えられる。そう思っては、全力で振り下ろすことなど出来なかったが。
「!」
 甲高い音を立てて、レンガは刃を受け止めた。レンガと刃のぶつかった衝撃は、理寿乃の手にも伝わってきている。
 だが――その身を欠けさせたのは、レンガの方だった。
「凄いわ。とても硬くしてくれたのね」
「ええ。鋼で作られたベースの刀身にアングレサイトを宿すように置き換えたので、そもそも鋼の強度はあるのですわ」
 フリーデリーケはその上で、強度を高める術をかけたのだと告げた。
「理寿乃ちゃんの剣、とてもすてき。名前は決まっているの?」
 隣に座るヘザーは、まるで自分の頼んだものを見ているかのようにわくわくしながら告げる。そんな彼女の表情を見て、理寿乃は笑みを浮かべて頷いた。
「『クロセアモール』と名付けるわ」
 自ら付けた名を紡ぎ、今一度その刀身を見つめる。すると、自分のためだけに作られた武器だという実感が、より一層強くなる気がした。

「では、こちらはヘザーさんのご注文の品です」
 ウルリヒが、白絹の包みの乗ったトレイを、ヘザーの前に置いた。ヘザーは「開けていいの?」と尋ねるかのように彼を見上げたが、彼が微笑んで頷いたから、そっとその美しい爪を宿す指で絹をつまんだ。
 見えたのは、黒いレース状のもの。絹布をすべてめくってみれば、その黒はチョーカーの首周りを飾るものであると知れた。
 触れてみればそれは、布製ではないことがわかる。そう、それはよくなめした黒革を、レースに見えるようにと加工したものだ。戦闘時につけるという目的から、布製よりも革製の方が良いと考えられたのだろう。だが皮をレースに見えるように加工するのは、とても繊細な作業であることはヘザーにも予想ができた。
 そしてそのチャーム部分には、光の加減で淡い桃色を纏っているようにも見える白金の枠。その中に、美しいアメジストが座していた。
「わぁ……」
 手にして眺めれば、白金の枠はアメジストを縁取りするように存在していて、その紫越しに反対側が見える。
 その中に宿るのは、ヘザーと同じ名を持つ白い花。釣鐘型の小花が、可愛らしく紫の中で咲いているのだ。
「ぜひ試着してみて」
「うんっ」
 フリーデリーケに勧められて、ヘザーは出来たばかりのチョーカーを身につける。サイズは金具で調整が効くらしいが、調整の必要はなかった。
 そしてチャーム部分のアメジストは、ヘザーの肌に直接触れる。その直接触れた部分から、何かが身体に流れ込んでくる感覚が――。
「これ、なに?」
 手を握ったり開いたりしつつ、ヘザーは尋ねる。自らの内側に流れ込んでくるそれは、決して嫌な感じのするものではない。むしろ、味方になってくれるような気さえする。
「アクセサリーでとのことでしたので、石と花の力を引き出して注ぎ込み、身につけた者の力を引き出してくれるような作用のある、アミュレットとして作成いたしましたの」
「うん、なんだかすごい、力がわいてくる気がするの!」
「とても似合っているわ。名前は決めてあるの?」
 嬉しそうにうさ耳を動かすヘザーを見て理寿乃が問うと、彼女は首を傾げてしばし黙して。
「名前……まかせるの!」
 兄妹に向かってそう告げた。
「私たちが決めてしまっていいのです?」
「うん!」
「……責任重大だね」
 ウルリヒはフリーデリーケと視線を交わしあい、笑って。それからしばし、ふたりは互いが宿した花と宝石のイメージや思いを伝えあい、ヘザーのチョーカーに相応しい名前を生み出そうとしていた。
 そして。
「『ディースィーのアミュレット』または『ディースィーのチョーカー』というのはどうだい?」
「『ディースィー』というのは、古い言葉で『覚醒』という意味なの」
 力を引き出してくれるこのチョーカーに合うと思って――兄妹の言葉に、ヘザーは何度も頷いて、そっとその名を紡いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

緑川・小夜
[WIZ]

宝石で出来た武器…想像しただけでなんて素敵なのかしら

…死を救いと宣うオブリビオンも気になるけど、今は「宝石花」に集中するわ

まず、エルフの兄妹の方達に、自分の希望の花と宝石を伝えておきましょう。
花は「彼岸花」を、宝石は「ダイヤモンド」を希望したいです。色はどちらも血のような赤色で
後は武器の形状はナイフでお願いしたいと伝える。

これでわたくしは待つだけになるけど、ただ待つだけも悪い気がするので、何かお手伝いをしようかしら

わたくしは工房のお掃除を、UCで召喚した黒豹のシローには荷物の運搬を手伝ってもらうわ。

ああ、待ち遠しい…

『名前はマスター様におまかせ』

[アドリブ連携歓迎です]


ヘルガ・リープフラウ
希望する武器は「短剣(ナイフ)」。守り刀と申しましょうか。
どちらかというと武器としての攻撃力より、魔力を増幅するためのものを。
使用する宝石は「水晶」
埋め込むのは「沙羅双樹」の花
名前は……「浄罪の懐剣」と名づけましょう。
どんな強敵にも等しく「終わり」は訪れる。天の裁きか、内なる良心の声か、いかな罪人も己の宿業から逃れることは叶わず。
この短剣は、全ての人の罪をあがなう為に聖別された剣。

鍛冶には詳しくないのですけど、見学させていただいてよろしいかしら?
休憩時にはお茶を入れたり、昔語りの歌など聞かせて差し上げましょう。
ご安心なさいませ。必ずや皆様をお助けいたしますわ。

※アドリブ歓迎



(「宝石でできた武器……想像しただけでなんて素敵なのかしら」)
 グリモアベースで『宝石花』の話を聞いたときにも思ったが、実際工房に足を踏み入れるとやはり心のときめきが違う。
 すでに出来上がったそれへ見惚れる者や、連れと見せ合う者たちの手にある『宝石花』の武具をちらりと視界に収めれば、自身のそれはどんなものになるやらとうっとりしてしまうのも無理はない。
「ふたりとも、希望する武器は短剣――ナイフだね」
 エルフの兄ウルリヒの声に、緑川・小夜(蝶であり蜘蛛であり・f23337)はすっと現実に引き戻されて。自分はエルフの兄妹の向かいに座していたのだと、思い出す。
(「……死を救いと宣うオブリビオンも気になるけど」)
 グリモア猟兵が予知したその襲撃までは、まだ時間がある。
(「今は『宝石花』に集中するわ」)
 心の中でそう決めて、小夜はこくりと頷いてみせた。緑の黒髪が彼女のこうべの動きに従って、さらりと音を立てる。
「はい。そうでございます。わたくしの場合は、守り刀と申しましょうか」
 小夜の隣でそう紡ぐのは、乳白色の美しい髪に蒼いミスミソウを咲かせる穏やかな女性。
「どちらかというと、武器としての攻撃力より、魔力を増幅するためのものをお願いいたしたく思います」
 彼女の名はヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)。柔に微笑むその佇まいからは、慈愛が滲み出るよう。
「魔力増幅ならお兄様の方が腕が上だわ」
「ウルリヒ様、どうぞよろしくお願いいたしますわね」
 フリーデリーケの言葉に、ヘルガはウルリヒへと視線を向けて。椅子に座したままではあるが深々と頭を下げた。

 * * *

 刀身のベースとなる部分は、職人が鋼で鍛え上げるという。その後に兄妹が宝石花へと加工をするのだと聞かされた。
(「これでわたくしは待つだけになったけど……」)
 出来上がるまで時間がかかるので、自由に過ごしてくれ――そう言われても、なんだかただ待つだけというのは悪い気がして。小夜は通りかかったドワーフの女性へと近づいた。
「あの、なにかお手伝いをさせてもらえないかしら?」
「あら、小さいのに感心だわ」
 そう告げて小夜の頭を撫でた女性は、身長で言えば小夜と同じくらいの高さではあるが。ライラと名乗った彼女は工房長の奥さんらしく、小夜くらいの歳の子どもがいるようだ。
 小夜自身、見た目は9歳の少女である。だが彼女が引き継いだモノが、彼女の中身を年相応から遠ざけていた。けれどもややこしくなるので、あえてそのへんは口にせずに子どもを装う。
「お掃除は好き?」
「はい、好きです。あと、外に待たせているシローは、荷物の運搬が出来ます」
 ライラの問いに年相応の演技で答えれば、疑う様子のないライラはありがたいわと微笑んだ。

「シロー、この人達の言うことをよく聞いてね」
 工房の外で黒豹のシローを召喚した小夜は、鉱山へ採掘済みの石を取りに行く者たちにシローを随伴させる。もちろん、賢い子だから害を加えることはありませんと安心させるように付け加えて。
 工房内に戻った小夜は、ライラに頼まれた食堂へと向かう。休憩時に職人たちがお茶を飲みに来るというのだが、手が足りなくてまだ食事後の片付けが終わっていないらしい。
「あなたがライラ様の娘さんですか?」
 教えてもらった広間へと行けば、小夜よりも背の小さな少女の姿があった。振り返った少女はライラと同じ髪の色をしていて。
「あなたが掃除の手伝いをしてくれるの? 助かるわ!」
 たたたっと駆け寄ってきた少女は、小夜の両手を握ってよろしくね、と快活に笑う。
「あたしエポナ! あたしが食器を厨房に運ぶから、テーブルを拭くのと床のモップがけをお願いしてもいい?」
 もちろん食器を運び終えたら手伝うわ――そう告げる彼女に頷いて、小夜は濡れ布巾を手に取った。

 * * *

「鍛冶には詳しくはないのですけど、見学させていただいてよろしいかしら?」
「もちろんだよ、お嬢さん! だけど、炉に近づきすぎちゃあいけないぜ」
 職人たちのテリトリーへと足を踏み入れる前に、そう許可を求めたヘルガに応えたのは、何処からか聞こえてきた男性の声。ヘルガが声の主を探して視線を巡らせると、微かな翅音が耳へと近づいて。
「ああ、フェアリーの方でしたのね」
 そう、その声の主は蒼い翅を持つフェアリーの男性のものだった。
 一般的に考えて、フェアリーが鋼を鍛えている姿を想像するのは難しい。ならば彼は、この工房でどういった役目を持っているのだろうか。
 そんな疑問に答えるように、彼はクルリと回転して、手にしているロッドの先で炉を示す。
「俺が導いた炎の精霊はちょっぴりワガママでね。綺麗なお嬢さんの肌に火傷の痕を残してしまったら、申し訳ないからな」
「まあっ……」
 なるほど、彼は炉の炎へと炎の精霊を遣わしているのだ。この工房で鍛え上げられる武具類は、普通の炎で鍛え上げるよりも完成に時間を要しないという。恐らく魔法や精霊の力を多く借り受けることで、鋼を鍛え上げる時間の短縮を実現しているのだろう。聞けば同時に質も上がるというのだから、一石二鳥である。ただしもちろん、精霊の導き手を必要とするのだが。
「この辺りから見ているといい」
 彼に案内されてヘルガが足を止めたのは、とある炉がよく見える場所。距離はあるがそれは職人の集中を乱さないためと、ヘルガに火の粉が飛ばないためだ。
 色が変わるほどに熱された鉱石は、鎚が振り下ろされると徐々にその姿を変えていく。工房内にリズミカルに響く鎚の音が、ヘルガには美しい旋律のように聞こえた。
「このように、生まれいでるのですね」
 命を作り出す音。祝福の旋律。神と精霊の加護を受けて、鉱石が新たに生まれ変わるのは何ぞや?
「――……」
 最初こそじっと、職人の動きとそれに合わせて変化する鉱石へと瞳を奪われていたヘルガだったが、自身に強く語りかけるような『それ』に気がついてからは、その蒼海の瞳を閉じて。
 嗚呼、鉱石を生まれ変わらせるその鎚の音。鉱石が鎚へと返す音(こえ)は、打ち手の産みの苦しみを感じ取ってなお、新しい生への希望を歌い上げているではないか――!
 それに気がついたヘルガは、心の中になんとも言い表せぬものが宿ったのを感じて。ゆっくりと片手で自身の胸を抑えた。
「お嬢さん、大丈夫か? これから交代で順に休憩だ。お嬢さんもどうだい?」
「それでしたら、ぜひお茶の準備のお手伝いをさせて下さいませ」
 フェアリーの彼に案内されて、ヘルガは食堂へと向かった。
 
 * * *

 小夜やエポナと共に、職人たちの休憩のためにお茶の用意をするヘルガ。
 ライラに厨房から声をかけられて、小夜とエポナは軽食と甘味の乗った皿を食堂へと運ぶ。
 交代で休憩を取りに来る職人たちの癒やしの一助になればと、ヘルガはその天に愛されし歌声を、遺憾なく披露してゆく。
 それは昔語りの歌に、先ほど自らが『聞いた』鉱石の再誕の音を交えた、連綿と続いてきた営みの旋律。
 職人たちが、万が一自分達の仕事への意義を見失い掛けた時に、思い出してほしいと願って。

 * * *

 シローを足元に従えた小夜の前へと差し出されたのは、上等な絹布に包まれたもの。テーブルを挟んだ向かいに座す兄妹へと視線を向ければ、柔らかい微笑みと首肯が返ってきて。小夜はそっとその布を開いていった。
 現れたのは、鞘と柄が光沢のない黒で統一されたナイフだ。シローのような、闇に溶け込むような黒一色だと思ってよく見れば、光を受けて淡く存在を示す、絹糸のような黒で模様が入れられている。
 手に持ってみれば、小ぶりで軽く、9歳の小夜の身体でも存分に扱うことができそうだ。
 すっと鞘から引き抜けば、血のような赤が姿を見せる。刀身に使用されているのは、血のような赤色のダイヤモンド。
 そしてそのブラッディーダイヤに埋め込まれているのもまた、血を吸い上げたかのように赤い彼岸花だった。
 それは花を宿した宝石であり、けれども鋭い刃を宿すナイフである。
 光にかざせば、小夜の視界をも赤く染め上げて――……。
「……素敵」
 自然と言葉が漏れていた。
「一応、名前の候補は決めておきましたけれど」
「聞かせて?」
 フリーデリーケの声に、小夜は刃に見入ったまま答える。
「『Blutiger Seufzer』――『血色のため息』というのはいかがでしょう?」
 それを聞いた小夜は、するりと金色の瞳を向けて、細め。
「とても素敵ね」
 ふふ、と幼子に似合わぬ笑みを向けた。

「こちらを」
 ヘルガの前に置かれたのも、小夜と同じ上等な絹布に包まれたものだった。そっと、その白く細い指先で布をめくりあげていく。
 姿を現したのは、白銀の鞘と柄を持つ短剣だ。よく見れば、鞘には銀糸を縫い付けたかのような精緻な模様が施されており、柄には水晶が埋め込まれている。
 短剣を検めるべくヘルガが柄に触れたその時、ピリッと、弱い静電気のような小さな痛みを感じた。
「痛みましたか?」
「少し」
 ウルリヒの声にヘルガは頷く。すると彼は、鞘の装飾は刀身に宿る魔力を逃さないためのもので、柄にはめ込まれた水晶は柄を握る者――この場合はヘルガである――の魔力を感知して、刀身に使用されている水晶へと伝える役割をするのだという。
「先にお伝えしておけばよかったですね。もう、痛みませんから、触れてあげて下さい」
 そう言われて再び柄を握れば、確かに先ほどのような痛みはなく。むしろ短剣を通してヘルガの中に、何かが流れ込む感覚があった。
「先ほどの痛みは、柄の水晶に正しい持ち主の魔力を覚えさせるためのものです」
 なるほど。ウルリヒによれば、短剣にかけられた魔力を増幅する効果は、柄の水晶が覚えた人物の魔力にしか効果がないということだ。複数人の魔力を覚えさせることは不可能ではないというが、今はヘルガの魔力のみが認識されている。
 すらりと鞘から引き抜けば、混じり気のない水晶の刀身が現れる。そしてそこに宿るのは、白い花弁と黄色の花芯で構成された沙羅双樹の花。
 じぃ、と。ヘルガはその刀身を見つめた。
 透き通ったその刀身は、すべてを受け入れ、すべてを拒絶するかのよう。
 宿る花は、優しく抱きとめて、けれども決して逃さぬかのよう。
「……『浄罪の懐剣』と名付けましょう」
 どんな強敵にも、等しく『終わり』は訪れる。
 天の裁きか、内なる良心の声か、いかな罪人も己の宿業から逃れることは叶わない。
「この短剣は、全ての人の罪をあがなう為に聖別された剣――……」
 ぽつり、呟いて。ヘルガは視線を上げる。
「ご安心なさいませ。必ずや皆様をお助けいたしますわ」
「もちろん、わたくしもよ」
 ヘルガと小夜の真っ直ぐな瞳と真摯な言葉に、兄妹は嬉しそうに、そして心から安堵したような笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水標・悠里
■リルさん/f10762
アドリブ歓迎

こんなに輝くところを見るのは初めてです
ええ、本当に綺麗ですね
お花畑、素敵ですね。私は月を見ているようだと思いました
角度を変えればまた違って見えるでしょう

迷いましたが、私も短刀を
見慣れぬ物でしたら【朔】を職人へ
セレスタイトの刀身に花海棠を
拵えは螺鈿で花弁が降り積もるようにして頂ければ

花海棠は姉の誕生花です
桜と迷いましたが花言葉もぴったりでしたので、こちらに

私が試しても良いのですか?
これは大役を仰せつかりましたね
離れた場所で試しましょう
ええ、良い物ですよ。きっと宝物を守ってくれますよ
その短刀の名前を?
――では『宵染』と
喜んで頂けて何よりです
どういたしまして


リル・ルリ
■悠里/f18274
アドリブ歓迎

きらきらしていて綺麗だね、悠里!
宝石の中にお花畑がひろがっているようだ
月の……?本当だ
宝石の海のお月様だ
君のおかげで新しい景色がみえた

君は何を作る?
僕は短刀を作りたい
満開の桜宿す…桜龍の瞳…モルガナイトの刃
春宵に綻ぶ桜を眠らせたシャンパンガーネットの鞘を添えて
実りの象徴に愛情の象徴を添えて―護りの小刀に
刃は僕も研いでみたいな
悠里の短刀も綺麗だね
花海棠は初めて見た!好きなお花なの?

悠里は短刀をつかうんだよね
試してみてほしいな
どう?ちゃんと身を守ってくれそう?
ふふ
この子は僕の宝物を守るんだ
名前…どんなのがいいかな
宵染……嗚呼とても!悠里、すごく素敵だよ!
ありがとう!



「悠里、君は何を作る?」
 隣の少年、水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)へと問いを投げたリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)は、答えを待たずにふわりと游いで言葉を紡ぐ。
「僕は短刀を作りたい」
 リルが望むのは、自身の大切な桜龍の瞳の色をしたモルガナイトの刃に、満開の桜を宿したもの。添えるシャンパンガーネットの鞘には、春宵に綻ぶ桜を眠らせて。
「迷いましたが、私も短刀にします」
 白き彼が高揚を隠さずに紡ぐ望みの形に小さく笑んで、悠里は持参した『朔』をカウンターへと置いた。もし短刀が見慣れぬものであれば、参考にしてほしいと。
「悠里はどんな宝石とお花にするの?」
「私はセレスタイトの刀身に花海棠を宿していただこうかと」
 拵えは螺鈿で、花弁が降り積もるようにしてもらいたいと告げれば、カウンターでふたりの希望を記録していたカチヤが口を開いた。
「おふたりとも、希望がしっかりしているのですねぇ~! とても良いと思います! 『ヴァッフェ』一同、おふたりの期待に添えるよう、全力で頑張らせていただきますよぉ~!!」
 にこりと彼女が笑ったから、つられるようにふたりの顔にも自然と笑顔が浮かんだ。

 * * *

「たくさん、おみやげ、買えたね」
「そうですね」
 数刻後に工房へと戻ってきたリルと悠里の手には、草を編んで作った手提げが。
「宝石のどろっぷ、おいしかった!」
「試食させてもらったもの以外の味も、楽しみですね」
「瓶のなかにひとつだけ『あたり』があるんだよね!」
 街を見て回ったふたりは、どうやらこの街でしか売られていない品を購入したようだ。中身が気になる、と手提げからリルが取り出したガラス瓶の中には、綺麗にカッティングされた宝石――に見えるドロップが詰まっている。色も味もカッティングもそれぞれ違い、見た目も美しいのでルームインテリアとしても十分役目を果たすだろう。
「一日ひとつ食べるとして、いつ『あたり』に出会えるでしょうか」
「みんなでたべて『あたり』を引いた人のおねがいをきくとか、楽しいかも」
 瓶の中のドロップには、ひとつだけ『あたり』があるという。『あたり』は口に含むとしゅわしゅわぱちぱちするのだとか。悠里とリルにはどんなものかまだ想像しづらいけれど、きっと口に入れてみたらすぐに分かるに違いない。
 他にも宝石を埋め込んだようなクッキー、磨き込まれた銀食器のようにきらきらと艶めくカトラリー型のチョコレートなど、珍しいと思ったものを買い求めていた。
「おふたりとも~! できてますよ~!」
 工房の入り口扉を締めたふたりの元へ駆け寄ってきたのは、カチヤだ。
「もう、できたの?」
「はいっ。あちらにー」
 驚いたようなリルの問いに、カチヤは頷いて奥のテーブルを示す。
「ありがとうございます。あの、これ、この街で買ったものですが、あとで皆さんで食べてください」
「わぁ、ありがとうなのですよぉ!」
 悠里は自分の手提げから、一つ多めに買ったドロップの瓶を取り出し、カチヤへと手渡した。この街の人達にこの街で売っているものを差し入れにするのはどうだろうと悩んだが、感謝の気持ちを表すのに値段や品の内容はあまり重要ではないと結論づけた。けれども。
「わたし、これ大好きなので嬉しいです~!」
 彼女が瓶を抱えてそう笑ったから、嬉しくなって、悠里とリルは瞳を合わせて微笑みあった。

 * * *

 テーブルの真上、天井付近の明かりとテーブル上に置かれたランプによって、鞘から抜かれた刃はきらきらと輝いている。
「きらきらしていて綺麗だね、悠里!」
 興奮気味にそう告げるリルの手には、満開の桜を宿したモルガナイトの仄かな桜色の刃が。柄と鞘は希望通り、シャンパンガーネットに桜を眠らせて。
 鋼を鍛え上げた刃を基本としているらしく、切れ味や硬度は申し分ないらしい。けれども光を受けて輝くそれは、ぽかぽかとした春の陽気を思わせるものだから。
「宝石の中にお花畑がひろがっているようだ」
 満開の笑顔で、リルは隣に座る悠里へと視線を向けた。
「ええ、本当に綺麗ですね。こんなに輝くところを見るのは初めてです」
 そう答えた悠里の手には、花弁が降り積もるような螺鈿細工の拵えに、明るい夜の空ようなセレスタイトの刃。そこに宿るのは、眠り覚めやらぬ美姫――花海棠。
「お花畑、素敵ですね。私は――月を見ているようだと思いました」
「月の……?」
 悠里の言葉に、リルは彼の刃を見つめる。
「本当だ。宝石の海のお月様だ」
「角度を変えれば、また違って見えるでしょう」
 物事のすべてがそうであるように、同じものを見ても他の人が同じように感じるとは限らない。
 それを見た時の状況、環境、体調や気分などで『見え方』は変わるのだから。
 けれども、それを伝え合って共感できることはとても貴重な縁で。
「君のおかげで、新しい景色がみえた」
 リルの言葉にくるり、悠里は刃を返してみせた。
「悠里の短刀も綺麗だね。花海棠は初めて見た! 好きなお花なの?」
 リルの問いに微かに逡巡して、悠里はゆっくりと唇を開く。
「花海棠は姉の誕生花です。……桜と迷いましたが、花言葉もぴったりでしたので、こちらに」
 花海棠の花言葉は、『温和』や『友情』、『艶麗』に『美人の眠り』。
「すてきな短刀ができてよかったね!」
「はい」
 彼は悠里の僅かな逡巡に気づかなかったのだろうか。けれども彼のその言葉が、嘘偽りない心からの称賛だとわかるから、悠里もまた素直に頷いたのだった。

 * * *

 悠里に短刀の刃の研ぎ方を教えてもらったリルは、繊細な作業に緊張していた身体から力を抜いてふぅ、と椅子へと座り込む。
「悠里は短刀を使うんだよね。僕のこの短刀も試してみてほしいな」
「私が試しても良いのですか?」
「うん、悠里がいい!」
 そんな風に無邪気に言われたら、断れない。元々断る理由など、なかったけれど。
「これは大役を仰せつかりましたね。工房の外で試しましょう」
 カチヤに聞けば、工房の裏手はひらけていて、その場で武器を試す者も多いという。
 工房の裏手に着いたリルは、壁へと背をつけるようにして佇む。悠里に存分に試してもらえるよう、彼の邪魔にならない位置を選んだのだ。
 リルのその意図を理解した悠里は、場の中心へと歩み出て。そして。
「――っ!」
 鞘から引き抜いた桜色の鋭刃を、身体全体を使って大きく振るう。続けてくるりと身を翻し、腕を伸ばしきらずに斬から突へ。
 まるで舞のようなその動き。けれども刃が切り裂いた空気が風となり、リルのところまで届いた。
「悠里、すごい!」
 ぱちぱちぱち……動きを止めた悠里に拍手を贈りながら、リルは問う。
「どう? ちゃんと身を守ってくれそう?」
「ええ、良い物ですよ」
「ふふ、この子は僕の宝物を守るんだ」
 そう告げたリルの瞳は慈愛の花を宿したようで。鞘へと戻した短刀を手に彼の元へと向かいながら、悠里は心から紡ぐ。
「きっと、宝物を守ってくれますよ」
「……うん!」
 悠里が差し出した短刀を、嬉しそうに両手で受けたリル。じっとその鞘に視線を落とした彼は。
「名前……どんなのがいいかな」
 ぽつりと呟いた。
「その短刀の名前を?」
 彼の呟きを拾い、悠里は小さく首を傾げて思案。のち。

「――『宵染』というのはいかがでしょうか?」

「『宵染』……嗚呼、とても! 『宵染』……悠里、すごく素敵だよ!」
 何度もその名を紡ぐ彼を、素直に感情を表すことのできる彼を、純粋に他人を称賛できる彼を、悠里は少しだけ羨ましく思う。
「喜んで頂けて何よりです」
「ありがとう!」
 彼はその佇まいだけでなく、心根も眩しく見える。
 悠里の見ている彼が、彼の限られた一面に過ぎぬとしても。
 それでも、少しばかり――……。
「どういたしまして」
 だから純粋に彼の役に立てたことが、なんだかとても嬉しく思えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロリーナ・シャティ
あ、あの、ね
「ハンマー…鎚?がいい、です」
イーナ、人とお話、苦手なの
うう、恥ずかしい、今すぐ帰っちゃいたいけど…
だめ、困ってる…っていうか怖がってる人が居るんだもん
オブリビオンの所為なら此処で帰れない、頑張らなくちゃ
「え、えと、打つ所がおっきいやつ…持つ所の長さ…イーナの体よりはちょっと短いくらい…」
「だ、大丈夫、イーナその…怪力、なの」
イーナ、すぐ記憶があやふやになっちゃうから必要なことメモに書いてきたの
宝石とお花の本も読んできたよ
「石はミントトルマリン、で、お花は、白いタンポポ(シロバナタンポポのこと)…」
「よ、よろしくお願いしますっ」


名前お任せ
木漏れ日の草原をアクアリウム風にしたイメージ


雛瑠璃・優歌
それほど特殊ではないと思うけれど…見せた方が早いだろうね
帯びている剣を鞘ごと外して職人に見せるよ
「レイピアさ、割と普通のね」
大枠はこれでいいんだ
「ただ、作ってほしいのは両刃のレイピアなんだ。直刀タイプのサーベルの細いバージョンとも言えるかな」
私は刺突をメインとはするけれど、それだけで立ち回れるほど猟兵の仕事は甘くない
多少の剣戟というか切り払いにも対応できる武器が欲しい
「ああ、石はブルーサファイア、花は鈴蘭水仙…ええと、スノーフレーク、か。それを希望するよ」
サファイアは私の誕生石なんだ
幸運・天命の石言葉を持つこの石は私の瞳の色と同じだと母も言ってくれたからね
好きなんだ


名前はMSさんにお任せします



「あ、あの、ね……」
 テーブルへと導かれて椅子に座したはいいが、周りは初対面の人だらけ。
 エルフの兄妹に猟兵、そして工房長のゴウニュまでもがロリーナ・シャティ(偽りのエルシー・f21339)の発言を待っている。
「ハンマー……鎚? がいい、です……」
(「うう、恥ずかしい……」)
 人と話をするのが苦手なロリーナは、その可愛らしい顔(かんばせ)を俯かせて、やっとのことで紡ぐ。できることならば、今すぐ帰ってしまいたい。けれど。
(「だめ、困ってる……っていうか、怖がっている人がいるんだもん……」)
 それがオブリビオンのせいならば、ここで帰れない。
「ハンマーか。具体的な希望はあるか? 嬢ちゃん――じゃねえな? ボウズの背丈に合わせた小ぶりなヤツのほうがいいか?」
 ゴウニュに問われ、ロリーナはビクリと肩を震わせる。女装をしているので女の子に間違われるのは問題ないが、本来の性別を見抜かれたことに少し驚いた。けれども頑張らなくちゃ、と自分を奮い立たせ、おずおずと口を開く。
「え、えと、打つところがおっきいやつ……。持つところの長さ……イーナの体よりはちょっと短いくらい……」
「ふむ? ボウズの体躯でその大きさだと、振り回すのに難が出るぞ?」
 確かにロリーナの希望通りのハンマーを作るとなると、彼の頭付近から少し上辺りにハンマーの頭部分が来る。そしてハンマーの頭部分が大きければ、それを持ち上げるための膂力、そして振り回すためにはしっかりとした体幹も必要になろう。ゴウニュは職人として、それを心配したのだ。
「だ、大丈夫、イーナ、その……怪力、なの」
 恥ずかしげに告げた彼は、白い髪を揺らしてきょろきょろと辺りを窺い、そろっと立ち上がる。彼が向かったのは、運ばれてきたばかりの原石の詰まった木箱。細身の男性ですら一箱持ち上げるのに苦心するそれを、華奢な子どもに見えるロリーナが持ち上げるのは土台無理――だとゴウニュも兄妹も思った。
 ――しかし。

「こ、これ、で……証明、なる……?」

 ロリーナは三箱重ねられたそんな木箱を軽々と持ち上げて、テーブルに付く面々へおずおずと視線を向けたのだった。

 * * *

「私の希望はそれほど特殊ではないと思うけれど……見せたほうが早いだろうね」
 そう告げて、帯びている剣を鞘ごと外したのは、雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)。それをテーブルへと置く振る舞いも洗練されていて、まさに男装の麗人だ。
「レイピアさ、割と普通のね」
「ふむ」
 鞘から引き抜かれた細身の剣をじぃ、と見たゴウニュは頷いてみせる。
「大枠はこれでいいんだ」
「こだわりがあるんだろ? 世界で唯一つのお前さんだけの武具だ。無理難題に思えることでもとりあえず言ってみろ。言うだけならタダだからな」
 ゴウニュの言葉に、今度は優歌が頷き、ありがとう、と口にしたのち。
「作ってほしいのは、両刃のレイピアなんだ。直刀タイプのサーベルの細いバージョンとも言えるかな」
「なるほどな」
 告げた希望に工房長は、顎髭に手を当ててなにか考えている様子。
「私は刺突をメインとして戦うけれど、それだけで立ち回れるほどこの仕事は甘くない」
 猟兵としての経験が深いわけではない優歌でも、先達の様子から猟兵という仕事の厳しさは伝わっててくるし、十分理解しているつもりだ。だから。
「多少の剣戟、というか切り払いにも対応できる武器が欲しい」
「そうか。ちょいと待ってな」
 優歌の希望に理解を示した様子のゴウニュは、近くの棚から取り出した大きめの紙に炭で何かを描いていく。テーブルに広げられたそれを見つめていれば、徐々に象られていくそれが、優歌の希望した剣の完成予想図だと知れた。
「細身の両刃……こんな感じでどうだ?」
 墨で指が黒く染まるのも気にせず、ゴウニュは優歌の青い瞳を見上げる。
「ああ、ぜひこれで頼む!」
 その完成予想図はまさに優歌の希望通りで。職人ならではの経験と技術から、さらりと相手の希望に合う物を作り出すすべを見出す彼は、長年培ったものを評価されて今の地位に着いただろうことは優歌にも想像に難くなかった。

 * * *

 絹布に包まれた武具が、ふたりの元へと届けられる。先に布をめくったのは、優歌だった。
 純白の鞘に、青い細糸で描いたような模様が控えめに入っている鞘。柄に手をあててするりと引き抜けば、不思議と優歌の手に馴染む。
「ほう……」
「わ、わ、綺麗、なの……」
 光を受けて輝く刀身は青。そこに宿る控えめな白い花が、青を映して染まる。優歌だけでなく隣に座しているロリーナも、その美しさに思わず声を上げた。
「こ、これは、なんの……石、とお花……?」
 美しいものを目の当たりにした高揚に背中を押されて、ロリーナは思い切って尋ねてみる。優歌は目の前の美しい刀身から目を離せずにいるが、ちゃんとロリーナの問いは耳に届いていて。
「ああ、石はブルーサファイアだ。花は鈴蘭水仙……ええと、スノーフレーク、だな」
「ブルー、サファイア……」
「ブルーサファイアは私の誕生石なんだ」
 優歌は3月5日生まれ。
「この石は、私の瞳の色と同じだと、母も言ってくれたからね」
 ――好きなんだ。
 そう告げた優歌の青は、刀身の向こうに母の笑顔を見ているかのよう。弱る母を支えるために国民的スタァを目指す彼女にとって、母は誰よりも、何よりも大切な存在だ。
 深い青は感情を鎮静させ、真実を見抜く力を与えてくれるという。
 石言葉は『幸運』『天命』――その言葉の宿ったこの剣は、優歌を高みに導いてくれる――否、高みへと至るための力を貸してくれるように思える。
 縋り、頼り切るのではなく、自分で道を選んで進んでゆきたい。だからその為の力を貸して欲しいと、優歌は願う。
「君の武器も出来上がったんだろう?」
「あ、う、うん……」
 優歌に視線を向けられて問われたロリーナは、慌てて自身が手にしているものへと視線を向ける。
 ロリーナが手にしているのは、ハンマーの柄の部分だ。頭の部分は大きさと重さがあるからして、絹布に包まれて床に置かれていた。
 椅子から立ち上がって、その布に触れる。花弁を開くように少しずつ布を解いてゆくと、姿を現したのは透き通った綺麗なグリーン。
「わ、わぁ……」
 白銀の柄を両手で握り、ロリーナはハンマーを持ち上げる。
「おお……」
 軽々と持ち上げられてそっとテーブルの上に置かれたハンマーの頭部分は、確かにロリーナの注文通りとても大きい。けれどもその透き通ったミントグリーンは、不思議と質量や圧迫感を感じさせなかった。
 そしてその緑に宿るのは、中心の黄色が鮮やかな白い花。
「この石と花は?」
「え、えと……」
 優歌に問われ、ロリーナは持ってきたメモを慌てて取り出した。すぐに記憶があやふやになってしまうので、必要なことをきちんとメモに記してきたのだ。
「石はミントトルマリン、で、お花は、白いタンポポ……です」
 ミントトルマリンは太陽の光を浴びた木漏れ日の草原のようで、そこにシロバナタンポポが自生している様子が容易に想像できる。
「まるで花咲く草原を、そのまま切り取ったかのようだね」
「そ、そんな、イメージ……でし、たっ」
 優歌の感想にロリーナは嬉しそうにメモから視線を上げる。
 木漏れ日の草原をアクアリウムにしたような――それが彼がいだいていたイメージだからだ。
「一応、それぞれに名前は決めておいたよ」
「気に入らなかったら、違う名前をつけてももちろん良いですわ」
 そう告げた兄妹は、優歌とロリーナにそれぞれ文字が書かれたカードを差し出した。

 優歌が受け取ったカードに書かれていたのは、『宵海蛍雪(よいうみけいせつ)』。
 夜の海を征くような苦難に耐え、微かな光を見失わず、目的へと辿り着けるように。

 ロリーナが受け取ったカードに書かれていたのは、『Scheinen Wiese(シャイネン・ヴィーゼ)』。
 輝きの草原を意味するそれは、彼の箱庭に、常に光が降り注いでいますように。

 それぞれそんな思いと祈りが込められている名前だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
落浜・語(f03558)さんと

死んでしまったら、救われたかどうかなんてわかりません。
死人にくちなし。ずいぶん自己満足な救いですね。

お願いしたい武器は弓、花はスノーフレーク、宝石は天青石を使って頂きたいです。
依頼によっては道の悪いところや狭いところを行くこともあるので、できれば持ち運びやすい形状にしていただけると助かるのですが…。
名前…名前は、うーん…。
…すみません、おまかせしてもいいでしょうか?

武器を作るところって見たことがなくて。
あの、見学させてもらってもいいですか?
もちろん、邪魔はしませんし手伝えることは喜んで手伝います!


落浜・語
☆狐珀(f17210)と

死が救いってのは、全面的に否定はしないけれども、無理にそれをやるのは、また違うだろって。

花と石を選ぶんだっけ。
花は梨の花で、石はペリドットを。
チャクラムを作って欲しいのだけれど、この世界にあるかな…?レプリカなら、多分手にはいるだろうし、ある程度は口頭でも説明ができるようにはしておこうかな。
何かしら、遠距離から使える武器はほしいなと思ってたし、使わないときは、バンクレットみたいにしておけば良いかなと。
武器の名前は…、あまりそういうセンスがないから、お任せしても良いかな。

力仕事は苦手だけれど、それ以外の手伝いなら出来そうなことは積極的に。



「死が救いってのは、全面的に否定はしないけれども」
「――……、……」
「無理にそれをやるのは、また違うだろって思う」
 受付カウンターが混雑しているのを見て、先に街中を見て回った落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)が呟いた。
 街中では子どもも老人も、男も女も特記するほどのことがない日常生活を送っていて。
 そりゃあ生き物同士だから、相性が良くない、気が合わない相手もいるだろうけれど。
 それでも命の奪い合いにはそうそう発展しない、そんな平穏な空気が流れていた。
 だからこそ、グリモア猟兵から聞いたオブリビオンの言葉に、より強くそう思ったのだった。
「……、……」
「……狐珀?」
 歩幅を合わせて歩いていたはずの彼女の姿が隣から消えたものだから、語は足を止めて振り返った。彼女――吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は、数歩後ろで足を止めていて。その深い藍色の瞳は、何かを告げたそうに語を見つめていた。
 語にもなんとなく、狐珀が言いたがっていることがわかる。けれども己の魂に深く根付いた考え方は、そう簡単に変えられるものではないから。
 けれども、『全部』は無理でも『一部』だけならば――。
「狐珀」
 語が差し出したのは、指輪のはまった左の手。そこにそっと重ねられた彼女の白い手を、ぎゅっと握って引いた。
「っ……!」
「大丈夫。何があっても、絶対に離さないよ」
 不意を突かれて手を強く引かれた狐珀は、バランスを崩し――だが、行き着く先は語の腕の中。
「……何があってもその約束だけは、破られることがないと……もう知っていますから……」
「ん、そうか」
 己を抱きとめる彼の腕が離れていく。けれどもその左手は、狐珀の右手と繋がれたまま。
(「死んでしまったら、救われたかどうかなんてわかりません」)
 手を繋いだまま向かうのは、工房『ヴァッフェ』。
(「死人にくちなしです……」)
 彼のぬくもりが、絡んだ指先から伝わってくる。彼との思想の違いは、あって当然のものだ。ヤドリガミとしての生い立ちや『生きて』きた環境が違うのだから。それらが違う思想を育むのも当然のこと。
 だから互いに否定はしない。けれど。
(「……ずいぶん自己満足な救いですね」)
 近隣の町や村を襲い、そして近いうちにこのエーデルシュタインを襲うオブリビオンの思想に共感できないのは同じ。
 だからふたりは、工房の扉を叩いた。

 * * *

「チャクラム、か」
「ああ。これはレプリカだけどな」
 テーブルにやってきたゴウニュが、語の持参したチャクラムのレプリカをつまみ上げてじっと見つめる。どうやらこの世界ではあまり馴染み深い武具ではないようだが、彼の様子では全く未知というわけではなさそうだ。
「お前さんの持ってきたこのレプリカのサイズを踏襲するなら、要するに、暗器的な使い方をしたいんだろ?」
 語が用意したレプリカは、チャクラムの外側の刃の部分は斬れぬようになっている。そして直径は10cmより大きいが15cmには満たぬ小型のもの。円盤型のその真ん中には、チャクラムの特徴というべき穴が開けられている。
「まあ、そうだな。使わないときは邪魔にならないようにしまっておけるに越したことはない」
 厳密に言えばチャクラムの大きさは様々で、暗器という分類には入らぬのだが、語の希望の大きさであれば暗器のように忍ばせることも可能であろう。
「ふむ……。それでそっちの嬢ちゃんは弓、と」
「はい」
 語の答えを受けて、そのチャクラムを確かめるように指で回しながら、ゴウニュの視線は隣の狐珀へと映る。
「弓、といっても色々あるが。大弓、小弓、短弓、機械弓――どれが希望だね?」
「えぇと……依頼によっては道の悪いところや狭いところを行くこともあるので、できれば持ち運びやすい形状にしていただけると助かるのですが……」
 持ち運びやすさを優先するため、弓の種類は任せようと思っていた狐珀であるが。
「嬢ちゃん、自分が機械弓を使ってる姿、想像できるか?」
「っ……、……」
 ゴウニュにそう問われ、彼の指した壁にかけられている機械弓達を見た狐珀は、しばし考える。けれど。
「いえ、あまり……」
「まあ、どんな弓でもある程度弦を引く力は必要だろうが、自分が使っている状態をイメージできるもんがいい」
「……はい」
 ゴウニュの言うことは尤もである。だが、和弓であれども洋弓であれども問題はその大きさと持ち運びの難、だ。
「安心しろ、その変はこのふたりが解決してくれるさ」
 そう告げたゴウニュは、狐珀と語の向かいに座っている兄妹を示した。

 * * *

「狐珀は見学させてもらうのか?」
「はい。武器を作るところって見たことがなくて」
「鉱石を鍛え上げて作ったものを基礎にするんだってな」
 作り方の概要を聞いたところ、宝石を使う部分はまず鉱石を鍛えて作り、のちにフリーデリーケとウルリヒの魔法で宝石と花を宿すのだという。
「弓……鉱石で作れるものでしょうか?」
「うーん……」
 狐珀の疑問に語が答えられなくとも無理はない。『弓』と言われて一番に思い出すのは、ふたりとも和弓である。アーチェリーで使用する弓は木製ではなく組み立ても必要だというが、そうそう簡単に短時間でできるものではない。分解して持ち運んでも、戦闘前に組み立てる時間が取れるとは限らない。
 木で作られる和弓の方が馴染みがあるのだから、どんな形で狐珀の望みに応えくれるのだろうか、想像もつかない。
「見学希望さん?」
 そんなふたりに突然掛けられた声は、可愛らしい少女のものだった。
「そうです……が……?」
 肯定しつつ声の主を探す狐珀だったが、見つからない。けれども声の主は、あちらから接近してきた。
「ここよ、ここ」
 ふわり、狐珀の左肩に何かが触れる。視線を動かしてみれば、小さな、本当に小さな少女が狐珀の肩に座していた。
「フェアリーか」
「そうよー。よろしくねー」
 語の言葉にひらひらと手を振る彼女は、そう、フェアリーである。赤い髪に透き通った赤い翅を持つ彼女は、純白のワンピースに身を包んでいた。
「さっそくご案内ーってしたいんだけど、ちょっとだけ手伝ってもらえる?」
「もちろんです。私に手伝えることなら、喜んで手伝います!」
「俺も。力仕事は苦手だけど、それ以外なら何でも言ってくれ」
 フェアリーの問いに、狐珀は彼女の可愛さを噛み締めながら何度も頷いて。語もまた、自分にできることならと、積極的に申し出た。

 ふたりはフェアリーに頼まれた通り、洗濯済みのタオルの入った籠を持って、作業中の職人たちを巡っていく。
 集中している職人には声をかけず、近くに置かれている使用済みのタオルを回収して洗濯済みのものと入れ替える。
 ふたりに気づいた職人には、お疲れさまの言葉とともにタオルを手渡して。
 炎のそばでの作業だ。流れ落ちる汗と煤を拭うためのタオルだと、すぐに分かった。
「……、……なんだかとても神秘的ですね」
 何人目かの職人の元へタオルを置いた狐珀が、ぽつりと呟く。彼女の視線は、炉の傍で作業をする職人の後ろ姿へと向いていた。
 赤く熱された鉱石へと、鎚が振り下ろされる。
 火花が散り、徐々に鉱石が変化してゆく。
 火の精霊の力を多く借りることで常よりも早く、そして上質に仕上げられるというこの工房の武具。
 自然の力と、精霊の力と、そして職人の力が合わさって初めて『モノ』は出来上がってゆく。
「そう、だな……」
 そうしてさらに百年の歳月、『モノ』が現存し続けて初めて、ヤドリガミが生ずる条件が整う。
「もしかしたら、いつか『宝石花』の武具のヤドリガミも生まれるかもな」
 語の言葉に、狐珀は頷いて。
 自分たちもまたこうして様々な力が合わさって形作られたのだ――なにかが『生まれる』という現象に、神秘的な想いを抱かずにはいられなかった。

 * * *

 絹布を開いてみれば、鮮やかな萌黄色が目についた。
 光を受けてなお輝くその緑は、透明度こそ違うものの語には身近な色だ。
 ペリドットの黄緑に宿るのは、梨の白い花。ともすれば白い桜の花にも見えるそれは、控えめで清楚。それでいて慈愛を含んで見える。
「ふたつ作ってくれたのか」
「ああ。触れるとちょっとパチっとするかもしれないから、気をつけて」
 その輪の中心へと手を伸ばした語に、ウルリヒが声をかけた。なぜ、とは思ったが問い返すことはせず、語はそのまま黄緑に手を伸ばし――。
「わっ!?」
 その一つに触れた瞬間、確かにパチッと弱い静電気のような痛みが走った。
「語さん!」
 狐珀が慌てて彼の手を取ろうと手首に触れたが、大丈夫、と告げて語は中心の空円に指を通した。
 鉱物特有のひんやりとした触感。適度に重く、けれども人差し指で回転させても指への負担は軽く感じた。
「今のうちに、もう片方にも触れておいて」
 またパチっとするけど――ウルリヒの言葉に語は従う。
「で、このパチッとするのにはどんな意味があるんだ?」
 さすがに静電気ではないだろう。けれども無意味に、この微妙な痛みを与えるのが仕掛けとは考えにくい。
 語の問いにウルリヒは、チャクラムを指で挟んで持つように指示して。
「さっきのは、この武器に君の魔力を覚えさせたんだ」
 この世界の住人である彼は『魔力』という言い方をしたが、『霊力』と言い換えてもよいだろう。要するに、語自身の持つ力――語を識別するためのものを登録したということ。
「騙されたと思って、その武器を、手首に当ててみてくれ。こう、手首に垂直に刃が触れるように」
「!?」
 ウルリヒの発言にガタンと椅子を揺らしたのは、狐珀だった。鋭い切れ味の刃を手首にあてたなら、どうなるかは想像に易い。いくら肉体を再構築することができる自分たちでも、痛みを感じないわけではないし――。
「ああ、こうでいいか?」
 けれども語は、言われるがままにチャクラムを己の手首に近づけていく。
 ああ、皮膚に触れる――狐珀のほうが、目をつむってしまいそうだった。

 だが。

「……これは」
 チャクラムの刃は、語を傷つけることはなかった。むしろ刃のほうが、語へ触れるのを避けるかのように形を変えて。
 そのまま最初に手首に近づいたがわの刃が、手首を通り抜けるくらいまで押し当てると――その黄緑は、手首に収まるように円形を取り戻した。
「刃部分がなくなって、ただのブレスレットみたいだ」
 そう。鋭かった外円部もその鋭さを潜め、何かが触れても切れるようなことはない。まるで、ちょっとおしゃれなブレスレットやバングルのようである。
「手首だけじゃなくて、足首でもできるよ。ほら、暗器みたいにカモフラージュした持ち運びについて話があっただろう?」
「なにか良い方法をと、お兄様と相談いたしましたの」
 その結果がこのチャクラムである。
 兄妹によれば、語の魔力を記憶したこのチャクラムの刃は、語を傷つけることがない。語本人が望めば、話は別だが。それに手順を踏めば、複数人の魔力を登録することもできるらしい。
 手や足を輪に通して持ち歩くとしたら、外側の刃部分が危険だ。それに咄嗟の取り出しやすさを考えれば、手や足を抜くという過程は省けるほうがいい。
 指示されて、腕に通したままのチャクラムを嵌めたときのように腕とは垂直に引けば、腕から外れたチャクラムは元の、刃をいだいたそれへと姿を戻した。
「なるほど。これは反対の手の指をチャクラムの内側の輪にかけて、引き抜いて投擲できる感じか。戻すときも輪に手足を入れる必要がなくていいな」
「気に入ってもらえたら嬉しいよ。こう、手錠のように輪を割って嵌める形式も考えたんだけどね、どうしても、輪を割りたくなかった」
 語の反応に笑みをこぼしつつウルリヒが差し出したのは、一枚のカード。
「その武器の名前を一応考えてみた。もちろん、君が新しい名前をつけてもいい」

 語が受け取ったカードに書かれていたのは、『深愛円環(しんあいえんかん)』という文字。
 生き物は生きてゆく過程で、様々な『愛』に触れる。それは良いものだけでなく、悪いものもあるけれど。
 愛、哀、遭い、飽い、逢い――けれどもその全てが糧となり、自身の中を巡り巡ってその一部となる。

「梨の花とペリドットの言葉を合わせたら、どうしてもこれは『円』のままでいてほしかった」
 円――縁。深、真、新、進――当てはまる字はいろいろとあるだろう。どれを当てはめてイメージするのも自由だ。
 けれどもウルリヒの告げる「輪を割りたくなかった理由」は、語にも伝わってきた。

 * * *

「こちらをどうぞですの」
 続いて狐珀の前へと差し出された絹布は、想像していたよりも明らかに小さくて。
「えっ……」
 戸惑いを覚えつつも、狐珀は絹布へと手を伸ばした。
 明らかに和弓のサイズではなく、かといって短弓や小弓よりも小さい。機械弓のような厚みがあるわけでもなく。
 だが、布に包まれていたのは、紛れもなく弓だった。
 白に近い薄青の天青石に、純白のスノーフレークが宿るそれは、純粋で汚れを寄せ付けぬ、破魔の力を宿しているようにも見える。
 その美しさに問題はない。大きさと、弦が張られていない事を除けば。
「あの……」
「とりあえず、まずは触れてみてくださいませ。少しパチッとしますわ」
 戸惑う狐珀にフリーデリーケが告げる。その言葉で狐珀は、この弓も語のチャクラムと同じような仕掛けがあるのだろうと理解して。
 全長としては30cm前後のそれに触れると、やはり弱い静電気が発生したときのようにピリッと痛みが走った。けれども狐珀はそのまま弓を手にする。すると。
「あっ……これは、弦……?」
 本来弦があるべき場所に、薄青い光の線のようなものが現れたのだ。
「ええ。あなたの魔力に呼応して、弦が現れる仕掛けなのよ。あなたの魔力でできた弦を引くと、魔力でできた矢を放つことができるわ」
 フリーデリーケの言葉に、狐珀は試しに光の弦に触れてみる。すると、弓に矢を番えた時のような状態で、矢が現れた。
「これならば、矢を持ち歩く必要がありませんね」
「ええ。サイズダウンしてあるけれど魔法で補強してあるから、威力は普通の弓以上と思ってくれて構わないわ。それにあなたの魔力に反応するから、あなた以外には弓としてすら用をなさないの」
 魔力――霊力と言い換えてもいい狐珀の持つ力に反応するからして、弦や矢もいらず、万が一にも悪用されにくい構造というわけだ。語のチャクラムと同じく、手順を踏めば複数人の魔力を登録することもできるらしい。
「威力は、籠める魔力の増減で調節できると思うよ。矢を取り出して番えるという動作を省けるから、連射性もいいと思う」
「試してみますっ」
 ウルリヒの言葉に何度も頷く狐珀。これならば、持ち運びも使い勝手も良さそうだ。戦略の幅が広がるかもしれない。
「彼氏さん……旦那様かしら? と同じく、あなたが新しく名付けてもよいものだけれど」
 そう告げたフリーデリーケは、狐珀へと一枚のカードを差し出した。

 狐珀が受け取ったカードに書かれていたのは、『破浄の明弓(はじょうのめいきゅう)』という文字。
 汚れなき純粋さと愛情により、魔を破り穢れを浄(きよ)め、明かりを取り戻す――。
 天青石の作用が明晰さを高め、戦況を判断する一助となるよう。

「ありがとうございますっ」
「ありがとう。大切に使わせてもらう」
 狐珀と語は揃って礼を言い、深く頭を下げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と

死こそが救い…人は時としてその結論に辿り着こうとするな。だがそれは誤りだと言い切ることは俺にはできぬが…生きたいと願うものの命を断つのははっきりと誤りだと言える。

あぁ、あの時は種から宝石が生まれて…今ではお互いの耳を飾るピアスになっている。

『宝石花』と言う武器を作ることができるのだが。
私とマクベスが作りたいのはナイフ…というよりも護身用の護り刀として作ってもらおう。私とマクベスを護る護り刀だ。
俺の護り刀は青い薔薇とパライパトルマリンを。
マクベスの瞳には敵わないが美しい青だからな。

『武器名はマスターにおまかせします』


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
前に種から咲く宝石の花は見たことあるけど
宝石に花が埋め込まれてる魔法の武器とかすげぇな!
グラナトさん、どんな武器作って貰おうか?

んー…せっかくだし武器の見た目は揃えたいよね
護身用ナイフの大きさで
赤薔薇のガーネットと、青薔薇のパライパトルマリンにしようか
グラナトさんの綺麗な炎には敵わないけれど
ガーネットも赤薔薇もオレは好きだよ
完成したら、グラナトさんにいつでも守られてるって感じるのかな?
まぁいつでもずっと一緒だけどね

※武器名お任せ、アドリブOK



(「死こそが救い……人は時としてその結論に辿り着こうとするな」)
 火炎と戦の神であるグラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)は、長い間、そして多くのヒトを見てきた。だからこそ、かつて同じ結論にたどり着いた人々を識っていた。
 しかしグラナトとしては、その結論が誤りであると言い切ることはできない。事実、死こそが救いと信じ、求める者達もいるのだから。
(「だが……生きたいと願うものの命を断つのははっきりと誤りだと言える」)

「グラナトさん!」

 心中で己の考えを固めたところにかけられたのは、跳ねるような明るい声。
 己の名を呼ぶ声の主に視線を向ければ、その空にも海にも見える勿忘草色の瞳がこちらを見つめていた。
「前に種から咲く宝石の花は見たことあるけど、宝石に花が埋め込まれてる魔法の武器とかすげぇな!」
 その瞳の主――マクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)は、興奮を隠さずに瞳を輝かせてグラナトの服を引く。
「あぁ、あの時は種から宝石が生まれて……」
 ふたりで見たその開花。生まれた宝石――赤薔薇水晶はピアスとなり、互いの耳を片方ずつ彩っている。
 それはまるで誓いのようであり、証のようでもあった。
「グラナトさん、どんな武器作って貰おうか?」
「ふむ。マクベス、お前の希望は?」
 グラナトが問いに問いで返したことを気にする様子もなく、マクベスはきょろきょろと視線を動かしては工房内に飾られている武器を観察して。
「んー……せっかくだし武器の見た目は揃えたいよね」
「そうだな」
 ふたりが揃いで持っていられるもの。けれどもただ『持っている』だけでは宝の持ち腐れだ。折角の品なのだから、活用できるに越したことはない。
「護身用の……ナイフ、というより護り刀はどうだ?」
「護り刀!」
 グラナトの提案に、マクベスは思わず声を上げた。
 護り刀ならば『持っていること』に意味がある。必ずしも『使用すること』に意味を見いださない。むしろ使わないで済むほうが良く、万が一使うような状況になったのならば、必ず所有者を護りぬくべきもの――。
「次のお方、どうぞですよー!」
 カウンターからカチヤに呼ばれ、ふたりは並んでそちらへと向かった。

 * * *

 ふたりの前に置かれた絹布の大きさは同じ。けれどもグラナトの方が大きな体躯のため、彼の前に置かれているそれがマクベスの前に置かれているそれよりも小さく見える気がするのは、錯覚である。
「どうぞ、中を検めて下さい」
 エルフの兄ウルリヒに促され、そおっと布をめくるふたり。
「護り刀ということで、妹が守護の魔法を施してあります」
 ウルリヒの声を受けて姿を現したのは、マクベスの髪のように、鮮やかではあるが落ち着きのある金色の柄と鞘。見た目も大きさも同じそれには、鞘の装飾の中に赤と青の石がそれぞれはめ込まれていて、識別できるようになっていた。
 マクベスが手にしたのは、赤い石がはめ込まれた護り刀。ゆっくり引き抜けば、落ち着いた深い赤が目に飛び込んできた。
「わっ……」
 全てを引き抜いてその刀身を視界に収めたときの、何かが心の中へと入り込んでくる感触。それは、隣に座する彼の想いを感じるときと似ている気がした。
 ガーネットの刀身に咲くのは赤い薔薇。赤同士ではあるが互いに殺し合わずに同居しているそれは、炎の中にも様々な赤が同居しているそれに似ている。
「グラナトさんの綺麗な炎には敵わないけれど、このガーネットと赤薔薇の組み合わせ、オレは好きだよ」
 明かりに刀身をかざせば、光を受けて更に輝く赤。
「あぁ、こちらも美しいな」
 グラナトがするりと鞘から抜いたのは、澄んだ水のような美しい青い刀身。純粋な青というよりはやや緑が混ざったような、水色に近いような輝くその石には、青い薔薇が宿っている。
「マクベスの瞳には敵わないが、美しい青だ」
 隣で刃を光にかざす彼に倣うように、マクベスも刀身をかざす。
 ふた色が光を受けて、そして放つ光が混ざり合う――。
「完成したら、グラナトさんにいつも守られてるって感じるのかなって考えてたんだけど」
 マクベスが視線を移せば、グラナトもその視線を受け止め、続きを促す。
「考えていたよりも、不思議な感じだ」
「私とマクベスを護る護り刀だ。ならば私も、常にマクベスの力を帯びる形となろう。ただ――」
 グラナトが、その先を告げるより早く。マクベスが口を開く。

「まぁ、いつでもずっと一緒だけどね」

「……そうだな」
 言葉にしようとしていたことは、すでに伝わっていた――グラナトは頷き、今一度その刃へと視線を向けた。

 * * *

 後ほどウルリヒから手渡されたカードには、それぞれ文字が記されていた。
 それは仮につけた武器の名前であり、もちろんそのまま採用するのも変えるのも自由だという。

 マクベスの手に渡った紙には『護刀ルイン』と記されていた。
 聞けば『ルイン』とは古い言葉で『赤い炎』を意味するという。

 グラナトの手に渡った紙には『護刀セレスト』と記されていた。
 聞くところによると『セレスト』とは神が存在するとされる、至上の空色を示すという。

 名付けたウルリヒがどこまでふたりのことを知っていたかはわからない。
 けれども赤い炎とは恐らくグラナトのこと。
 そしてマクベスの持つ瞳の青が、神が在るとされる空の色と結びつけられたのは、偶然だろうか。
 その名の示すものを、意味をじっくり考えてみれば、もっと興味深いことに気がつけそうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ココ・ルーフェンメーレ


……へぇ、ここが工房
ワタシの店の工房とはやっぱり違う
(きょろきょろ)ふむふむ……

そう、武器を作ってもらえるのよね!
ワタシ、まだ杖ぐらいしか扱えないから、杖でお願いしたいわ
……それから、ええと。あまり考えずに来てしまったから、具体的でなくて申し訳無いのだけれど……
花は青い花がいいの。くすんだ青じゃなくて、鮮やかな青の花。あるかしら?
宝石は……お任せするわ。ワタシ、宝石ならなんでも好きよ

ねぇ、作るところを見ていてもいいかしら?
ワタシ、こういうのに人一倍興味があるの
なかなか見学できるものじゃないから、是非見せてもらいたいわ

……まあ、これで出来上がり?
素敵ね、とっても綺麗……ありがとう。大切にするわ


姫条・那由多
「宝石と花の力が宿るという武具…わたしにも作って戴けないでしょうか」

【WIZ】で挑戦

・武具の種類…格闘用のグローブ
・宝石の種類…おまかせで
・埋め込む花…黒い薔薇(花言葉:決して滅びる事のない愛・恨み・永遠)
・名前……おまかせで

「わたしにもお手伝いさせてください。
これから苦楽を共にする相方の誕生の一助となり……
そして生まれてきてくれた『命』に誰よりも早く感謝と祝福を授けたいのです」

兄妹に手伝いを申し出て、限界まで…否、限界を超えて魔力を注ぎ込みます
この世界に産声を上げんとする存在に、自分という存在を教えていくかの様に

以前の依頼で垣間見て以来棘の如く刺さる、異世界の女性への複雑な心情を抱えながら



「……へぇ、ここが工房……ワタシの店の工房とは、やっぱり違う……」
 工房に入るなりきょろきょろと辺りを見回している彼女は、ココ・ルーフェンメーレ(宝石の魔法使い・f17126)。好奇心が抑えられない様子なのは、彼女がクリスタリアンである上、宝石コレクターでもあるからだ。その上、珍しいものならなんでも集めたがるというのだから、『宝石花』シリーズの話を耳にしたら赴かない理由はなくて。
「ふむふむ……」
 自身でも工房付きの店を構えていたというココは、この『ヴァッフェ』にも興味津々だ。鍛冶中心の工房だからして、やはりココの工房との違いが目立つ。

「宝石と花の力が宿るという武具……わたしにも作って戴けないでしょうか」

 そんな彼女の耳に届いたのは、女性の美しい声。視線を向ければその声は、カウンターの辺りから聞こえてきたようで。
「そう、武器を作ってもらえるのよね!」
 昼より夜のほうが得意という若干ダウナーなココは、ハリのある声で紡ぎ、カウンターへと小走りで駆け寄った。そして先ほどの声の主と思しき女性に視線を向ければ、背丈はあり変わらぬくらい。
 白い髪の彼女は隣に立ったココに丁寧に頭を下げる。するとその長い髪がさらりと音を立てて揺れた。
「えっとぉ、おふたりとも『宝石花』シリーズご希望の冒険者さんでよろしいですねぇ~?」
 カウンターを挟んだ向かいに立つカチヤの言葉に、ふたりとも頷いて。
「申し遅れました。わたし、姫条・那由多(黄昏の天蓋・f00759)と申します」
「ワタシはココよ。ココ・ルーフェンメーレ」
 名乗ればカチヤはすらすらと、紙にふたりの名前を記入していった。

 * * *

「もう一度言ってくれ」
「その……格闘用のグローブをお願いしたいのです」
 工房長ゴウニュの求めに、那由多は先ほどと同じ言葉を繰り返す。ゴウニュは聞き間違えじゃなかったかと小さく呟いて、何かを思案し始めたよう。
「あの、わたし、何か失礼なことを申し上げてしまいましたでしょうか?」
 那由多が慌ててエルフの兄妹に問うのも無理はない。この世界の、この街の人々にとって『失礼』となる言動をしても、それがそうだとは那由多にはわからないのだから。
「いや、大丈夫だ。君のような可憐なお嬢さんから格闘用のグローブを注文されるとは思わなかったんだと思う」
「そうですわね。私も少し驚きましたから」
 ウルリヒとフリーデリーケの言葉に、那由多は胸をなでおろす。
「格闘用のグローブか……基本は甲冑用のガントレットグローブでいけるか?」
「そうですわね……指先まで保護されていないタイプのガントレットグローブならば、あとは私達の魔法でなんとか……」
 ゴウニュがフリーデリーケに問いかける。どうやら先ほど彼が思案していたのは、基本となる形をどのように作るかだったようだ。
 聞けば、『宝石花』シリーズの基礎となる部分は、鉱石を鍛え上げたものを使うのだという。剣だったら宝石に置き換える刃の部分を鉱石で鍛え上げたのち、『宝石花』へと変えるのだとか。
「そっちの嬢ちゃんの希望は?」
「ワタシ?」
 突然言葉を向けられて、それまで再び工房内を興味深げに見回していたココは自分を指す。
「ワタシ、まだ杖ぐらいしか扱えないから、杖でお願いしたいわ」
「他に希望は?」
「……それから、ええと。あまり考えずに来てしまったから、具体的でなくて申し訳無いのだけれど……」
 ゴウニュの問いに申し訳無さそうにココが告げたのは、花は鮮やかな青がいいこと。宝石は何でも好きなので、お任せということ。
「わかりましたわ。おふたりのご希望に添えるよう、相談して素材を決めさせていただきますね」
 フリーデリーケが笑顔で告げる。丸投げに近くても嫌な顔ひとつ見せないのは、やはりプロだからか、やりがいを感じているからか。
「ねぇ、作るところを見ていてもいいかしら?」
 こういうのに人一倍興味があるの、とココ。
「なかなか見学できるものじゃないから、是非見せてもらいたいわ」
「ああ、構わない」
「わたしにも、お手伝いさせて下さい」
 ココの申し出を快諾したゴウニュへ、那由多も椅子から立ち上がって声を上げる。
「これから苦楽を共にする相方の誕生の一助となり……そして生まれてきてくれた『命』に誰よりも早く感謝と祝福を授けたいのです」
「その考え、職人としては嬉しくはあれ、迷惑なんてこたぁねぇ」
 新しく生み出されるそれを『命』と捉え、尊重する考え――それは自分の子どもにも等しい『作品』を生み出す職人にとっては、歓迎すべきものだった。

 * * *

 ふたりのグローブと杖の基本となる部分が鉱石によって作成されると、それらは工房奥にある別室へと運ばれていった。
 那由多とココは兄妹に導かれ、その部屋へと足を踏み入れる。
 その部屋の床には大きな魔法陣が描かれており、魔法の行使の為に配置されているのだろう石や灯りが目についた。
「まずは姫条さんのグローブから作業に入りますわ。ココさんは危ないので、魔法陣から離れたところで見ていてくださいませ」
「……ええ」
 フリーデリーケの言葉に頷いて、ココは壁に背をつけるようにして部屋の隅へと立った。
「姫条さんは、両手をお貸し下さい。私の手へ魔力を注ぎ込むイメージでお願いします」
「わかりました」
 作成時に自身の魔力を注ぎ込みたい、そう告げた那由多はフリーデリーケへと手を預け、指示された通りに魔力を注ぎ込む。
 目を閉じているフリーデリーケと手を繋いだ那由多。はたから見ればただ手を繋いでいるだけのように見えるかもしれない。
「白と――……赤……いえ、緋色でしょうか。あなたの魔力はその二色が強く視えます。そして、神職に縁付く神聖な気配を纏っているようです」
「――!?」
 目を開けたフリーデリーケの言葉に、那由多は不意を突かれた。彼女の言葉の指すものに、まったく覚えが無いわけではなかったからだ。
「あなたの魔力の質はわかりましたので、私が合わせます。私の詠唱の途中で兄が加わりますので、そのタイミングで姫条さんもこの鋼のグローブへ魔力を注いで下さい」
「はい」
 説明を終えたフリーデリーケは、魔法陣の上に置かれた鋼製のグローブの隣に、木箱から取り出した石を置いた。未加工の原石なのだろう、それが何の石か、那由多にもココにもまだわからない。
 そして始まったのは、詠唱。けれどもそれは、まるで優しい歌のようで。若干、肌をピリピリと魔力が刺激する。
 石から生じた薄茶色のオーラが鋼のグローブを包み込んでいくと、徐々に鋼の部分が透明度の高い薄茶色へと置き換わっていくのがわかった。
「鋼で作った形を基礎に、宝石へと置き換えながら魔力を宿しているところだよ」
 ウルリヒの説明に、ココは無意識のうちに魔法陣へと近づきそうになっていた身体を引き戻し。那由多は彼に促されて魔法陣へと近づいてゆく。
「これから僕が詠唱に加わる。そうしたら、グローブへと魔力を注ぎ込んで」
 そう告げたウルリヒの片手には杖、そしてもう片手には那由多が希望した黒い薔薇が。
 そのままフリーデリーケのソプラノに、ウルリヒのバリトンが加わる。那由多は大部分を宝石に変えつつあるグローブへと掌を向けて、魔力を放出しはじめた。
(「限界まで……否、限界を超えても……」)
 この世界に産声を上げんとする存在に、自分という存在を教えていくかのように魔力を注ぎ込む那由多。先ほどフリーデリーケから告げられた魔力の『色』と纏っている気配とやらで思い出したのは、以前の依頼で垣間見て以来、棘のごとく心と記憶に刺さる、異世界と思しき場所で暮らす女性。
 那由多が『見た』その女性は、制服以外では白系統の服や、緋色の入った服――緋袴など――を纏っていた気がする。
 複雑ではある、けれど。
 今は、己の魔力を注ぎ込むことに全力を――。

「まあっ……」
 ココは見た。
 ウルリヒの手にあった黒薔薇が、薄茶色のオーラへと吸い込まれていくのを。
 そしてその花は、いつのまにかグローブへと宿っていた。

 * * *

「……まあ、これで出来上がり?」
 詠唱という名の『歌』が止む。杖を包んでいたオーラと、肌を刺激する魔力が収束したのち、息をついた兄妹が陣の中心に置いていた杖を絹布で包んでいるのが見えた。
「ええ。出来上がりよ。姫条さんの元へ行きましょう」

「お疲れさまですわ」
 魔力を使い果たした那由多は、工房奥の長椅子で休ませてもらっていた。そこにやってきたのは、ココの杖へと施術を終えた兄妹と見学していたココだ。
「すみません、休ませていただいて」
「いえ、構いませんよ。それでは、これを」
 横になっていた身体を起き上がらせようとした那由多を制し、ウルリヒは彼女の前で跪いて包みを開いてゆく。
 絹布の中から現れたのは、透き通る薄茶色に黒薔薇が宿った、指先を出すタイプのグローブだ。
「はめてみてください」
 告げられて手に取れば、宝石でできているというのに関節部分がない。だが手を入れて動かしてみれば、まるで革や布でできたグローブのように自在に指の曲げ伸ばしができる。
「姫条さんの魔力がこもっているから、そのグローブはあなたの意思に応えるわ。たとえば固くなれと念じれば、硬度は鋼以上に、ね」
「あの、この宝石は……」
 宿された花は那由多の希望通り、『決して滅びることのない愛』『恨み』『永遠』などの言葉がある黒薔薇。だが、色々な服に合わせやすそうなこの、透明度の高い薄茶色は何という石だろうか?
「それは『スモーキークォーツ』よ。身体と大地のエネルギーを繋げてくれたりする石で、『不屈の精神』という言葉があるわ。女の子にはちょっと地味な色かと思ったのだけど……」
「いえっ、とても素敵です。ありがとうございます」
 那由多はグローブを嵌めた手を胸に当て、横になったまま礼を示した。

「で、こっちがココさんの杖よ」
 フリーデリーケの差し出した包みを抱えるようにして受け取ったココは、那由多の隣の長椅子に腰を掛けて絹布を広げてゆく。
 姿を現したのは、乳白色の杖。全長は約120cmほど。細身の杖身は乳白色に見えるが、角度を変えると不思議と虹色に輝いて見えた。
 杖の先端には同じく乳白色の、直径約30cmほどの三日月がついており、三日月の上部から小さな鳥籠が吊り下げられていて、三日月の中心で揺れるデザインだ。
 そしてその鳥籠の中には、乳白色の小さな珠がいくつか入っており、杖身だけでなくその珠にも鮮やかな青い花が宿っている。
「この宝石……オパールかしら?」
「正解よ。古い言葉で『宝石』という意味を持つ宝石。その中でも綺麗な乳白色のプレシャスオパールを選んだわ」
 ココの言葉にフリーデリーケは頷く。
 オパールは『幸運』や『希望』の石で、『創造』という言葉も持つ。才能を引き出す効果もあるらしい。
「花はご希望どおり、鮮やかな青の『ヤグルマギク』を使ったよ」
 ウルリヒによれば『優美』や『信頼』などの言葉があるという。
「素敵ね、とっても綺麗……ありがとう。大切にするわ」
 まるでラメで加工されたような煌めく杖を振れば、鳥籠と中の珠が揺れる。
 ココはうっとりとした様子で礼を述べた。

 * * *

 後ほどふたりに渡されたカードには、仮につけられたという名前が記されていた。
 このまま採用してもいいし、変えるのももちろん自由だという。

 那由多が受け取ったカードに記されていたのは、『地霊礼賛(ちれいらいさん)』。
 大地からの力をありがたく思い、その力を自分の力へと変えていけるようにと。

 ココが受け取ったカードに記されていたのは、『セラス・テラス』。
 古い言葉で『極光』と『奇跡』を意味するというそれは、オパールの輝きを極光のようだと表すと同時に、すべての巡り合いは極光が現れるような奇跡であると告げているようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

五条・巴
七結(f00421)と共に

宝石花、美しい名前のシリーズだね。

いつも遠距離の武器を愛用しているけれど、今回は短刀か、ナイフをお願いしたいな。
滅多に使うことがないよう
これは僕自身の願掛けと、御守り。

宝石は七結と同じくアレキサンドライトにしよう。
勿論、覚えているよ。
常闇の中の暖かな僕らの色彩(思い出)。
最近は沢山出かけているけれど、またあんな時間を過ごすのもいいね。
その時の茶葉は同じものを。

花は任せるよ。
僕はどんな花が似合うかな?

お願いしたあとは邪魔にならない程度に手伝いをしよう。


蘭・七結
トモエさん/f02927

宝石花
不思議で、ステキな響きね
この世界には常々驚かされているわ
幻想に満ちた世界が、とてもすきよ

美しい煌めきたちに目移りしそうだけれど
ナユが選ぶ宝石は、もう決まっているわ

金緑石――アレキサンドライト
照射された光に応じて変色する宝玉
あなたとのはじまりの宝石
トモエさんは覚えているかしら
あなたと共にしたお茶を
あなたと語らった出来事を
ナユは、鮮明に覚えているわ

あなたの選択したもの
ナユもそれと同じものを
愛用する双刀とは別の、守護刀
この刀に誓いを立てましょう

お花はどうしましょうね
ステキな職人さんに見繕っていただけるかしら

お手伝い
出来ることがあれば、なんだって
ご一緒をさせてちょうだいな



「『宝石花』、不思議で、ステキな響きね」
 そう口にした蘭・七結(戀紅・f00421)は、黒い宝石に赤い花が宿った竪琴を手に、椅子に座っている。
「ああ。美しい名前のシリーズだね」
 そう答えた五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)は、七結の座す椅子の斜め後ろに立ち、腰に下げた鞘から抜いた細身の剣を手にポーズをとっている。その剣は刃部分が青い宝石でできていて、黄色の花が宿っていた。
「お嬢さん、もう少し伏し目がちに竪琴に視線をお願いします。お兄さんはもう少し剣先を上に――疲れたら言って下さい」
 ふたりの正面に座する人物から声がかかる。
 彼らが何をしているのかというと――簡単に言えば絵のモデルだ。
 頼んだ武器を作ってもらっている間になにか手伝えることはないかと尋ねたところ、『宝石花』シリーズを手にした冒険者の絵を描いて貰う予定だったが、モデルが急病で倒れたので代役を探しているという。
 画家への連絡が入れ違いになってしまい、画家は到着しているがモデルはいない状態。そこで儚くも美しいふたりに白羽の矢が立ったのだ。
 普段モデルの仕事をしている巴は二つ返事で承諾しても良かったのだが、連れである七結はどうだろうか――ちらりと彼女の顔色を窺えば、「とても楽しそうだわ。ナユでお役に立てるのなら、是非」と微笑むものだから。
 そして、今に至るのである。
「この世界には常々驚かされているわ。幻想に満ちた世界が、とてもすきよ」
 画家に聞こえない程度の声量で紡がれた呟きは、巴にだけはきちんと届いている。
「絵のモデルって、ずっと同じ格好でいないといけないから大変ね。ナユは座っているからまだいいけれど、トモエさんは大丈夫かしら?」
「椅子の背もたれに寄りかかっていいと言われているからね。あまりに耐えられなければ言うよ」
 七結の問いに答える巴も、画家の注文通りのポーズをとったまま。写真や映像の撮影とは勝手が違えども、プロ意識が働いて。けれどもん迷惑をかけてしまうほどの限界に至る前には、きちんと自身の状態を告げるつもりだ。
 もちろん仕事では、ある程度我慢し耐えねばならないこともあるが、限界まで我慢した結果迷惑をかけてしまうよりは、その前に自身の状態を把握して伝達するほうがいい。
「うーん、ふたりとも美しすぎて、私の手でその美しさを描ききれるだろうか……」
 思わず漏れたのだろう画家の呟きに、七結はクスクスと笑って。
「メインは『宝石花』の武器なのでしょう? ナユたちよりこの子たちをキレイに描いてあげて」
 そっと竪琴を撫でる。
「まあ、お嬢さんの言うとおりではありますが、美しいものは正しく美しく描きたい、それが絵描きの心でもあって……」
 ううむ、と唸る画家の様子に、七結も巴も思わず笑みをこぼした。

 * * *

 椅子に座したふたりの前――テーブルの上に置かれたのは、ふたつの包み。絹布に包まれたそれを、それぞれゆるりとめくってゆく。
 黒い漆塗りの鞘と柄には、控えめに金色の模様が描かれていて。隣のそれをみれば、横に並べれば繋がる絵柄だと知れた。
 巴はいつも遠距離の武器を愛用しているが、今回は短刀を願った。滅多に使うことがないよう、けれども存在することで意味を成すそれは護り刀。
 これは僕自身の願掛けと、御守り――そう告げる巴の表情を見た七結は、自分も同じものをと願った。愛用している双刀とは別の、守護刀として。
 工房に入ると鮮やかな煌めく石たちが目を刺激する。けれども七結は目移りすること無く、石を指定した。
 それが――鞘から抜き放てば、緑にも赤にも見える石。金緑石――アレキサンドライト。
 照射される光によって、色を変える石。
「トモエさんは覚えているかしら」
 刃をランプの炎にかざす七結。
「あなたと共にしたお茶を。あなたと語らった出来事を」
 ナユは鮮明に覚えているわ――その言葉に、同じくアレキサンドライトの刃をかざし、巴は答える。
「勿論、覚えているよ。常闇の中の、暖かな僕らの色彩(思い出)」
 これは、ふたりのはじまりの宝石。忘れるなんて――。
「最近は沢山出かけているけれど、またあんな時間を過ごすのもいいね」
 その時の茶葉は同じものを――巴が告げれば、七結はそっと刀身を白い指先で撫でて。
「この刀に誓いを立てましょう」
 告げるそれが何のための誓いであるか、知るのはふたりのみ――……。

 * * *

「ところで、この花は何かな?」
 一通り出来を確かめた巴は、エルフの兄ウルリヒに問う。巴の短刀にも七結の短刀にも、使用されている花の色は白だが、花自体は違う。
 花はお任せにしていたから、何が来ても良いと思っていたけれど、ぱっと見て名前が出てこない。見たことはある気がするのだけれど。
「五条さんの刃に宿したのは、白のアルストロメリアです。花言葉には『持続』『未来への憧れ』『エキゾチック』『凛々しさ』などがあります」
 聞けば巴のイメージから選んだと同時に、良い状態が続くようにという思いも込められているとか。
「ナユの花、見たことがあるわ」
「蘭さんの刃に宿したのは、白のダリアです。花言葉には『華麗』『優雅』『気品』などがあります」
 七結の、儚げだが隠しきれない美しさや上品さから選ばれたのだという。
 色を変えるアレキサンドライトを使用しているからこそ、どちらの色で見える時にも邪魔にならず、調和して見える色の花が選ばれたのだ。
「ありがとう。大切にするわ」
「感謝するよ、ありがとう」
 ふたりが礼を告げれば、ウルリヒはこちらこそ、と優しく笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルード・シリウス
武器…か。折角だ、この先の戦いを見越して作って貰うも悪くないな
それに、どういう感じで作るのか興味もある

◆作成希望する武具内容
武器種:太刀(予め実物を買ってきてからそれを見せる)
使用する宝石:ブラックダイヤモンド
埋め込む花:黒百合
武具の名前:マスターにお任せ
コンセプト:強度と切れ味特化

折角だから、作業に支障がなければ作成する過程を見学させて貰えるか頼んでみるか。ただ待つというのも退屈だしな
あと、俺の血を付与魔法の触媒に使えないか聞いてみるか。血を分けた相棒の一人という意味でな…
理由は単に証みたいなものだ

作って貰う武器に関してだが、予めその武器を扱っている他の世界で実物を買い、そいつを見せて伝える



(「武器……か。折角だ、この先の戦いを見越して作って貰うも悪くないな」)
 それに『宝石花』シリーズと言われる武器がどうやって作られるのか、興味もあった。
 ゆえにルード・シリウス(暴食せし黒の凶戦士・f12362)は予め買い求めた太刀を手に、工房『ヴァッフェ』の扉を叩いたのだった。

「これを見本にして作ってくれ」
「ふむ、これは『ニホントウ』というやつだな」
「ああ。日本刀の中でも『太刀』という刀だ」
 ルードが持参した太刀を見て、工房長のゴウニュはそれが日本刀であることを見抜いた。ということは、この世界では珍しくはあるだろうが、ゴウニュには多少、日本刀の知識があるのだろう。
「……ほう。これはなかなか……」
 鞘から引き抜いて刃を検めるゴウニュ。
「できるか?」
「もちろん。これほどの大物は久々だがな」
 ルードの問いにゴウニュは力強く答える。聞けば『短刀』のオーダーは今回訪れている冒険者たちからもあったが、『太刀』のオーダーは普段からなかなかないとか。けれどもゴウニュには日本刀を鍛えた経験があり、さらにその時に補助についていた職人は今回、短刀製作のメインとなっているから人手は問題ないという。
「他に希望があるなら、今のうちに言っておいてくれ」
「可能なら、強度と切れ味に特化したものにしてほしいんだが」
 ゴウニュに促されてルードが告げれば、テーブルの向かいに座っていたエルフの兄妹のうち、妹のフリーデリーケが任せて、と声を上げる。
「刃部分は鉱石を鍛えて作るのです。その後に、私達の魔法で鉱石を宝石に置き換えたり、魔力を付与したりいたします。ですから鋼の強度はもちろんのこと、更に強度や切れ味を上げる魔法を付与することができますわ」
「なら、頼む。その過程で、俺の血を付与魔法の触媒に使えないか?」
 文字通り、血を分けた相棒の一人という意味と、あとは単に証みたいなものだと告げれば。
「事前に、血に宿る魔力を鑑定せて頂いてもよろしければ可能ですわ」
 フリーデリーケの条件に、否と答える理由はなかった。

 * * *

 事前に数滴血を差し出したルードは、工房の奥にある長椅子で待機していた。作成する過程を見学させて欲しいと頼んでみたら、ここで待つようにと言われたのだ。
 血はルード自身の持つ魔力――世界が変われば霊力とも言われるそれの性質を判別するのに使われるらしい。魔法を付与する兄妹の魔力との相性が悪ければ、暴走する恐れがあるからだと説明された。
 しかしある程度は術者である兄妹側がコントロールしてくれるようで、滅多に施術不可なほどの相性の悪さは存在しないらしい。
 鑑定後、ルードの血液も問題なく使用できると伝えられた。
「お待たせしました」
 兄のウルリヒが、黒百合を手に廊下を歩んでくる。その後ろにはフリーデリーケと、出来上がった刃部分を運んできた職人もいるようだ。
 兄妹と職人が入室した後に招き入れられた部屋の床には、魔法陣が描かれていて。石や灯りが陣の上に点在している。それらももちろん、意味があって置かれているのだろう。
 その魔法陣の真ん中に、鋼の刃が横たえられている。
「最初は魔法陣から離れていて下さい。僕が術を行使する際、合図を出しますので、刀身に血を注いで下さい」
「わかった」
 ウルリヒの指示に従うと、すぐにフリーデリーケが詠唱を始めた。
 歌うようなリズムのその詠唱に、刀身の近くに置かれた原石から、黒いオーラが立ち上る。そしてそのオーラは刀身を包み込み、次第に鋼から黒い宝石へとその刃を変化させていった。
「続いて下さい」
 ルードを促したウルリヒの手には、杖と黒百合が。魔法陣に近づいたウルリヒはフリーデリーケのソプラノに合わせるようにバリトンの詠唱を乗せてゆく。ルードはナイフで指の腹を切りつけ、溢れる鮮血を刀身へ注ぐ。
 すると、その黒に染まりつつある刃は、不思議と血をはじかなかった。染み込むように吸い込まれていく血液。
 ウルリヒの手にあった黒百合は、刃を包み込む黒いオーラに吸い込まれるようにして――やがて刀身へと宿りゆく。
(「不思議なものだな。簡単に真似できる技術じゃない」)
 だからこそ、作成工程の見学を許可しているのだろう。
 そんな事を考えているうちに、いつの間にか詠唱は止んでいて。
「もう、大丈夫ですわ」
 フリーデリーケがハンカチで、血の滴るルードの指を包んでいた。

 * * *

 工房の裏手、ひらけたその場に呼び出されたルードに渡されたのは、一つの包み。
 絹布に包まれたそれは、黒塗りの鞘を持つ太刀。柄部分も黒を基調に作られており、他には金古美の細工が施されている。
 柄を握れば、不思議と手に馴染む。それはルード自身の血を含ませたから、太刀自身がルードを所有者と認識しているのだと聞かされた。
 おもむろに、鞘から抜き放つ。キラリ、光を受けた刀身は、やや透け感のある黒。希望通り、ブラックダイヤモンドが使用されていた。
 ブラックダイヤモンドは、持ち主の潜在能力を強化するとも言われているらしい。
 そして刀身に宿るのは、黒百合。『恋』と『呪い』の花言葉を持つこの花。ルードが期待するのは後者のほうだろうか。
「こちらで試し切りをどうぞ」
 太刀を検分していたルードに声をかけたウルリヒは、甲冑をつけた上半身のみのマネキンのような人形を示している。この場所は、出来上がった武器を試す場所として使われているらしい。
「斬ってしまっていいのか?」
「もちろん」
 言質はとった。ルードは素早くマネキンとの距離を詰め、そして太刀を一閃――!
 ずるり……一拍遅れてマネキンの身体が甲冑ごとずれて、そのまま地面へと落下した。
「なかなかの切れ味だ。悪くない」
「お気に召して頂けたなら、工房一同本望です」
 笑んでそう告げたウルリヒは、一枚のカードを差し出して。
「その太刀の名前です。お気に召さなければ、もちろん違う名前をつけていただいても」

 そのカードには、『呪刀「闇斬」』と書かれていた。
 闇の中で闇をも斬る――普通は斬れぬものをも斬れる鋭刃さを現しているような名前だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宴・段三郎
【行動】
武器の系統は刀
使用する石は、翡翠
花は白木蓮。ディアナ殿がわしの為に選んでくれた花じゃ

類を見ない鍛冶の技、とくと見たいのじゃ

故に今回は刀を敢えて鍛刀していただく。刀の形はわしが所有してる妖刀、『化生炉』を見せる

刀を鍛刀するなら鉱石の折り返しが必要になる故、わしが相槌役を勤めさせて頂く。

あとは魔法というのに興味がある。

妖刀は刀と憎悪怨嗟で出来ておるが、宝石花シリーズは花と石と魔法で出来てる故、どうなるか楽しみじゃ
で、もしあれならわしの火炉も貸すのじゃ。火炉妖刀『化生炉』のユーベルコードを使っての。

ディアナ殿がせっかくわしの花を選んでくれたし頑張るのじゃ


ディアナ・ロドクルーン
宴ちゃん(f02241)と行動

武具の系統=小ぶりな片手剣(名はお任せ
使用する石=クリスタルオパール
花=月見草

―物作りに興味があるの
人の手を加え、物が別な形へと象られていくのを見るのが。

宴ちゃんは、他の工房のやり方とかに興味ある?

・行動
兄妹さんが作業している間、お掃除やお茶の準備をします
合間合間に作業を見たりもする

宝石や花がどんどん変化していくのを目を輝かせながら見つめて

すごい。魔法の手の様だ、と。そう呟いて。

宴ちゃんの刀もどう変化するのかしら…出来上がりが楽しみよ
(相槌役の彼を労いながら、休憩時に汗を拭く手拭いとお茶、お菓子を差し出す)



「――物作りに興味があるの」
 見学したいと申し出たディアナ・ロドクルーン(天満月の訃言師・f01023)が柔らかく告げる。
 人が手を加え、物を別の形へと象ってく……その工程を見るのが好きなのだ。
「宴ちゃんは、他の工房のやり方とかに興味ある?」
 ディアナはすい、と視線を下ろし、隣の少年を捉える。身体の大きさこそ年相応ではあるが、その少年が纏う空気は同年代の者達とは明らかに違う。
「わしとは、作っているものの系統が違うようじゃからのう……」
 彼は宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)。齢七つにして稀代の刀匠と呼ばれるほどの力を恣にしている彼は、工房の奥から聞こえる職人たちの立てる音に耳を傾ける。
 段三郎が鍛え上げるのは日本刀――中でも魂を持つ妖刀だ。世界の雰囲気からして洋風のアックス&ウィザーズにあるこの街の工房が作り出すのは、殆どが『洋風』とカテゴライズされる代物だろう。日本刀とは鍛え方の違いがあってもおかしくない。
 そして更に今回作成して貰うのは『宝石花』シリーズという特殊な武器。であれば、常以上に、どんな風に作り出されるのか気になるというもの。
「しかれども、類を見ない鍛冶の技、とくと見たいのじゃ」
 告げて段三郎が視線を向けたのは、彼の大太刀『化生炉』を手にして隅から隅まで検分するように見ている工房長のゴウニュ。
「お前さん、ただの子どもじゃねぇな? 同業者、か」
「すぐれた技術者であるゴウニュ殿は、人を見る目も確かと見える」
 ふふふと口元に笑みを浮かべる段三郎に対し、ゴウニュは少し唸りを上げて。
「『ニホントウ』を鍛えた経験はあるんだが、正直、ここまでの大物は……」
 聞けば数は他の武具に比べて格段に少なくはあるが、短刀から太刀までは鍛えた経験があるという。だが、大太刀は未経験らしい。
「大太刀が難しければ、太刀でも構わん。可能であれば、わしが相槌役を務めさせていただきたく思うのだが」
 この工房の職人の技術をこの目で見たい――ゆえに段三郎はあえて刀を作ってもらうことにしたのだ。
 経験がないと素直に言える、それは美徳だ。それで客を失うことになろうとも、不利益を告げずにごまかして客を取るよりは、ずっと。
「ほう。お前さんが手伝ってくれるなら、心強い。お前さんとはやり方が違う部分があるとは思うが……」
「なぁに、郷に入っては郷に従えというものじゃ。ここのやり方を無視するようなことはせんよ」
「そうかそうか!」
 段三郎の言葉を受けて、彼の頭を撫でようとしたゴウニュ。だが彼はその手を止めて、段三郎の前へと差し出した。
 段三郎はゴウニュの、洗っても落ちないほど煤が染み付いた黒い掌に自身の手を重ね、二人の職人は固く握手を交わした。
 子どもと大人ではなく、職人と職人としての対等のやりとり。それを見たディアナは、自然と笑顔を浮かべていた。

 * * *

 宝石花の武器は、基本的に宝石にしたい部分は鉱石を鍛えて作り上げるという。刀で言うならば、刀身を通常通りに鍛え上げた後に、宝石と花を宿す魔法儀式を行うのだ。
 ただしこの工房で使われている炉には、精霊を使役する者達によって炎の精霊が集められている。精霊と魔法の力もあって、通常武具を作り上げるのにかかる時間よりもだいぶ早く、そして質のいいものが出来上がるのだとか。
 速さと質を兼ね備えられるなら、どの工房も同じ方法を使えばよい。だが炎の精霊を導ける術者や特定の魔法を行使できる術者の確保などの問題もあり、どこでもできる方法ではない。大きな工房であるここ『ヴァッフェ』だからこそ、できる手法なのだろう。ここで働く職人は、一般的な炉を使用した経験の上に、この特殊な方法を学ぶのだとか。
(「妖刀は刀と憎悪怨嗟で出来ておるが、宝石花シリーズは花と石と魔法で出来てる故、どうなるか楽しみじゃ」)
 ゴウニュに案内された炉をまじまじと見つめる段三郎。やはり日本刀を鍛える炉とは、趣が違う。西洋風、だ。
 その炉の傍には、段三郎とディアナとゴウニュの他にフェアリーの男性がいた。彼がこの炉に炎の精霊を導く術士だという。
 彼が呪文らしきものを唱えると、炎の色が変わった。
 ほうほう、と興味深く術の行使を見ている段三郎。作業の邪魔にならないようにと、少し離れた場所でその炎の変化を見つめるディアナ。
「もしあれなら、わしの火炉も貸すのじゃ」
 告げた段三郎は返事を待たずに『化生炉』を顕現させる。
「は――わははははははっ……!!」
 その様子を見てゴウニュが豪快に笑い始めた。どうやら、驚きを通り越してしまったようだ。
「いやいや、冒険者っていうのは凄ぇな。よし、今回はその炉を使わせてもらう。正真正銘、俺とお前さんの合作といこうじゃないか!」
 突然見せられた炉を使用することに、微塵も惑いを見せないゴウニュ。それは彼の胆力ゆえもあるだろうが、同時に彼が段三郎の腕を全面的に信用したともいえよう。これから作るのは、段三郎専用の武器なのだから、できる限り彼の要望に沿って、彼に近しいものを作りたい――そんな思いも。
「宴ちゃん、頑張って。私はここで見せてもらうわ」
「ディアナ殿がせっかくわしの花を選んでくれたし、頑張るのじゃ」
 振り向いて手を振る段三郎に手を振り返し、ディアナはその工程を見守る。
 しかし、ただ見守っているだけではない。彼らが没頭している間に休息用の手ぬぐいやタオル、飲み物を工房の職員に聞いて用意をしていた。
 彼らが休息したい時に、すぐに休めるようにと。

 * * *

 それはまるで、歌のようだった。

 出来上がった段三郎の刀の刀身とディアナの小ぶりな片手剣用の剣身、それが運ばれたのは工房奥の魔法陣の描かれた部屋。
 そこにエルフの兄妹とともに入り、彼らの作業を見学させてもらおうとしたのだ。
 魔法陣の上に刃と原石を置き、まず詠唱を始めたのは妹のフリーデリーケ。彼女のそれは、歌うように紡ぎあげられて。
「すごい。魔法のよう……」
 事実、魔法が使用されているのではあるが。
 フリーデリーケが手を動かせば、原石から立ち上った白く輝くオーラが剣身を包み込む。そして鋼でできた剣身が徐々にその白い輝きに姿を変えていくさまをみて、ディアナは思わずそう呟いていた。
 剣身が、徐々にディアナの希望であるクリスタルオパールに変化してゆく。
 途中から、月見草と杖を手にした兄ウルリヒが詠唱に加わり、ソプラノにバリトンが重ねられることで『歌』に厚みが出た。
 そして彼の手にあった月見草が白いオーラに吸い込まれたかと思えば、その花はいつの間にか剣身へと宿っていた。
 鋼でできた剣身は、見事に煌めく宝石の刃へと生まれ変わったのだ。
「っ……」
 その変化の工程を一部始終見ていたディアナは、思わず胸元を押さえた。
 心からなにかが溢れそうな感じがする。けれども今のこの気持ちを的確に表すことのできる言葉が見つからない。
 誕生、再誕、変化……どれか一つの言葉でその現象を言い表せないほどの気持ちを抱き、ディアナはゆっくりと呼吸を整える。
(「宴ちゃんの刀もどう変化するのかしら……出来上がりが楽しみよ」)

 * * *

 宝石花への変化の術の後、柄や鞘などの必要な加工をおえてから、それらはふたりの前へ差し出された。
 白に金で飾り付けられた鞘。柄は黒を基調にしているそれを、段三郎は慣れた手つきで引き抜いた。
 すると目の前に現れたのは、向こう側が透けて見えるような鮮やかな緑。彼の希望通り翡翠で作られた刃は、光を受けてその色をより一層鮮やかにする。
 そしてその刀身に宿りほころぶのは、純白の花。その白木蓮は、ディアナが選んでくれたものだ。
「ディアナ殿が選んでくれた花、とても美しいのじゃ」
「本当。緑に宿る白木蓮がとても素敵ね」
「良い刀に仕上がったのじゃ」
 刀身だけでなく拵えなどもしげしげと見つめて段三郎が口元を綻ばせる。
「銘はお前さんがつけてくれよ」
「あいわかった」
 ゴウニュの言葉に素直に頷けるのは、同じ職人として互いを敬う心ゆえか。
「ディアナ殿の剣はどうなったのじゃ?」
 段三郎がディアナの手元を覗き込めば、彼女の白い指先がめくった絹布の中には銀色に針の先ほどの赤を落として混ぜたかのような、うっすらメタリックピンクに色づく鞘と柄。銀糸のような細かい模様の入ったそれは、ディアナの細腕でも十分に振れるサイズの片手剣。
 ゆっくりと引き抜いてみれば、自身のみで十分キラキラ輝くクリスタルオパールの白い刃。そこに宿る月見草は白だけでなく、鞘と同じようにうっすらピンク色に染まったものも混ざっていた。
 夕暮れに咲いた白い花は、朝方にピンク色に染まって萎む――月見草のそのごく短い時間を切り取って、刃に宿していた。
「本当に私に合わせて作ってあるのね。持ちやすいし、重すぎず振りやすいわ」
 ありがとう――礼を告げたディアナには、一枚のカードが差し出された。

 そこに書かれていたのは、『Halos Lila(ハロ・ライラ)』という文字。
 古い言葉で『夜の夢』を示すその言葉は、ディアナの剣の名前。
 受け取り手によって示す意味が変わってくるだろうその名前は、そのまま使うも変えるも自由である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノトス・オルガノン
アドリブ:☆
黒の髪、司祭のような服装、白百合…キミ、なんだろうな
オブリビオンとはいえ、私はまたキミを手に掛けなくてはいけないのか……
それでも、私がいかなければ

宝石と花で武器、か
きっと高度な技術なんだろうな
折角だから…これよりも、もう少し華奢な杖をお願いしようか
これだと小回りが効かなくてな

花なんだが…持ち込んだものでも良いだろうか?
この白百合を使って貰いたい…今度はちゃんと、花を添えてやりたくてね
宝石はあまり明るくないが…この、青色のアイオライトというのにして貰おうかな

武器の名前は、作ってくれたキミ達につけて貰いたい
きっとその方が、杖も喜ぶ気がするんだ
【マスターにおまかせ】


黒鵺・瑞樹
アドリブOK

刃の部分が宝石か。興味深いというか不思議というか。
鋼と同様に鍛えられるのか?小さい刃物だとUDCアースでデザインカッターとか言うのでルビーのは見た事あるけど。
花と宝石の武器か。これがヤドリガミとなったらさぞかし華やかな奴になりそうだな。

俺の時はどうだったんだろう?

作成工程が見れればいいんだが、折角報酬として貰えるならば。
来れなかった、でも欲しかった人の代わりに依頼してもいいだろうか。
というわけでグリモア猟兵で欲しい人が居れば代わりに武器の依頼を出そうかな。
こういうのは欲しい人が得た方がいいだろうし。(この辺りの匙加減はお任せします)



(「黒の髪、司祭のような服装、白百合……キミ、なんだろうな」)
 グリモア猟兵の話を聞いたとき、すぐに分かった。近隣の町や村へ死をもたらしているという聖職者風の男が、誰であるか。
(「オブリビオンとはいえ、私はまたキミを手に掛けなくてはいけないのか……」)
 だってその話に出てくる様々なパーツが、ノトス・オルガノン(白百合の鎮魂歌・f03612)の知っている人物と合致していたのだから。
 もう、『彼』以外の誰かだとは思えない。
 自分の勘違いであればいいと、どれほど思っただろうか。けれども同じくらいに本能が、『事実』を訴えかけてくる。
 この世界のとある教会のパイプオルガンから生じたヤドリガミであるノトスは、肉体を得てのち、それもたった数ヶ月ほど前に『彼』と対峙していた。
 オブリビオンとなった『彼』を、その手で救うことを選んだのはノトス自身だ。だが、再びこうして『彼』が死(すくい)をばらまくと言うならば。
(「――……私がいかなければ」)
 その腕に自身の在籍する教会で育てた白百合を束ねていだき、ノトスは工房『ヴァッフェ』へと向かった。

 * * *

(「刃の部分が宝石か。興味深いというか不思議というか」)
 自身の本体がナイフである黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)としては、宝石で刃を作るとはどんな感じなのか気になって仕方がない。
 鋼と同様に鍛えられるのか――宝石にそこまで詳しいわけではないが、宝石とて種類によって強度はまちまちだろう。モノによっては普通に加工するのにすら向かぬものもあるかもしれない。
(「小さい刃物なら、ルビーを使ったデザインカッターとやらをUDCアースで見たことあるけど」)
 武器自体は今の手持ちで足りるけれど、是非その作成工程は見てみたい。
 そんな思いで瑞樹が工房の扉を開けようとしたその時。

「――黒鵺?」
「ん?」

 名を呼ばれて振り返れば。
 目的地が同じと思しき声の主は、瑞樹の知った顔。
 白を基調にした聖職者のような衣を纏った長い黒髪の彼――白百合の束を抱いたノトスが立っていた。
「や、久しぶり」
 軽く片手を上げた瑞樹が扉を指せば、意を理解したノトスはゆっくりと頷いた。
 ふたりは連れ立って、工房内へと足を踏み入れる。
「人が多いな……殆どが猟兵だろうか」
「だろうな。お、もう作ってもらった猟兵もいるんだ」
 人混みをきょろりと見渡したノトスは、瑞樹が視線を止めた方へ自身の視線を向ける。一様に高揚した様子に見える人々は、それぞれ様々な宝石と花の組み合わせで作られた武具を手にしていた。
「宝石と花で武器、か……きっと高度な技術なんだろうな」
「これがヤドリガミとなったら、さぞかし華やかな奴になりそうだな」
「……確かに」
 瑞樹の言葉にちょっぴりその姿を想像したノトスの口元が、思わず緩む。それまで張り詰めていたものが、少しだけ、少しだけ柔らかくなった気がした。

 * * *

 カウンターで名と大体の希望を告げたのち、ふたりは偶然同時に呼ばれた。
 示されたのは大きな机の前に置かれた椅子。ふたりが並んで腰を掛ければ、その向かいにはエルフの兄妹が座した。
「折角だから……これよりも、もう少し華奢な杖をお願いしようか」
 希望を聞かれたノトスは、持参した杖を示す。
「これだと小回りが効かなくてな」
 確かに彼の愛用の、百合を象ったモチーフのついた杖は彼自身の背丈よりも大きい。
「デザインにご希望は?」
「いや……デザインではないが、ひとつだけ」
 兄のウルリヒの問いに軽く首を振りかけたノトスは、遠慮がちに告げる。
「花なんだが……持ち込んだものでも良いだろうか?」
「もちろんです。その白百合を?」
 彼の手にいだかれた白百合の束に視線を向けたウルリヒ。ノトスは頷いて、白百合たちをテーブルへと置いた。
「この白百合を使って貰いたい……今度はちゃんと、花を添えてやりたくてね」
 告げた後半は、工房の雑踏に紛れて。
「わかりました。この白百合を使わせていただきます」
「そちらの、黒鵺さんはどうなさいますか?」
 白百合を受け取ったウルリヒの横で、妹のフリーデリーケが瑞樹に問うた。
「あー……俺は……」
 さて、どう告げるか。けれども迷ったのは一瞬。
 誤魔化すのは性に合わない。瑞樹は、自身は作業工程を見学できれば十分だが、もし可能なら、どうしてもここに来ることができなかった人の代わりに依頼したいと素直に告げる。
 思い出されるのは、グリモアベースを立つ前の会話。

 ――もし自分で『宝石花』の武具を頼むとしたら、どんなのにするか聞いてもいいか?
 ――私?
 ――うん。
 ――そうね……武具に入るかわからないけれど、抱えられるサイズの竪琴、かしら。
 ――竪琴。
 ――ええ。石は――綺麗な青色のアウイナイト。花は、白い百合がいいわ。

 参考までに聞かせてほしいと願ったものではあるが、瑞樹は彼女の希望通りのものを頼むことができればと思う。
「もちろん。人に贈るために、と頼む冒険者も多くいたよ」
「ええ。私達は、冒険者さん達がこの街を守ってくださる――その約束を違えなければ、宝石花の武器の使用の有無は問いません」
「そうか、よかった」
 兄妹の言葉に胸をなでおろし、瑞樹は隣に座すノトスへと視線を向けた。
「もし不都合でなければなんだが……ノトスの持ってきた白い百合、分けてもらえないか?」
「ああ、構わないが……その人の希望の花が、白百合なのか?」
 快諾したノトスの問いに、瑞樹は告げる。
「ありがとな。ああ、『どうしてもここに来ることができない』彼女に聞いたんだ。参考までに、もし自分が『宝石花』の武器を頼むとしたら? って」
 どうしてもここに来ることができない――その言葉が指す相手はたくさんいるだろう。けれども、様々なことを調整して都合をつけたとしても、『この街』に来ることができない人物――ノトスの脳裏に白翼が浮かんだ。
「――なるほど」
 そう、『彼女』はオブリビオンの襲来が予知されているこの街には、近づくことができない――近づかないのだ。

 * * *

(「俺の時はどうだったんだろう?」)
 宝石花の武器は基本となる部分を鉱石で鍛えて形作るという。その過程は普通の鍛冶と似ていながらも、炎の精霊の力を借りているからか、作業の進みが早い。
 他の炉も見て回った瑞樹は、思いを馳せる。自分の本体は工房で打ち直されて今の形を――瑞樹となる核を得たのだから。
 同じように『目覚める』きっかけとなるモノが、ここにもいるかもしれなかった。

 瑞樹が頼んだ竪琴は、少女が抱けるようなサイズで作られた。鋼でできたそれが運ばれた奥の部屋には、地面に魔法陣が描かれていて。
 危ないから魔法陣から離れていてと、言われた通り壁際で作業を見守る。
 すると妹のフリーデリーケが、詠唱を始めた。魔法陣の上には弦の張られていない鋼の竪琴と、原石らしきもの。
 歌のような詠唱がしばらく続き、目に見える変化は原石の方に起こった。原石から鮮やかな青いオーラが立ち上り、鋼の竪琴を包んでいく。
 そして徐々に、徐々に鋼の部分が鮮やかな青い石へと変化して――。
(「はー、なるほど。不思議だ」)
 鋼で作られた形に術をかけ、鋼を置き換えるように宝石を宿してゆくと説明を聞いてはいたが、実際に見るとなんとも不思議な現象で。
(「塗り替えているような……いや、透け感があるから、やっぱり『置き換える』なのか?」)
 などと考えているうちに、白百合を手にしたウルリヒが、詠唱に加わった。
 すると、彼の手にしていた白百合は青いオーラに吸い込まれて――そして青の竪琴に宿る。
(「やっぱり、わからん」)
 特殊な魔術なのだろう。理解するのを諦めて、瑞樹は施術が終わるまで黙って見つめていた。

 * * *

 絹布に包まれたそれを開けば、施術の際に見た竪琴が包まれていて。けれどもそれには、やはり弦が張られていなかった。
「弦は、お使いになられる方の魔力に呼応して、魔力が弦として出現する形にしています。注ぎ込む魔力の調節で、音量も調節できるかと」
 なるべく直に触れないでお持ち帰り下さい、そう告げられる。どうやら最初に触れた者の魔力――霊力ともいうそれを感知して、竪琴自体に覚えさせるらしい。
 深く、だが鮮やかに煌めくアウイナイトの青に、百合の白がよく映える。
「わかった。気をつけて持ち帰るよ」
 慎重に絹布で竪琴を包み直す瑞樹。
「ノトスさんにはこちらを」
 その隣のノトスへと差し出されたのは、長物を包んでいるとわかる絹包み。
 開いてみれば、長さ的には今ノトスが愛用しているそれの三分の一ほどの杖が姿を現した。
 希望したアイオライトの落ち着いた青は『道を示す』という。そこに宿る白百合の意味は――。
「……うん、これなら小回りがききそうだ」
 十字のような杖の上部。その真ん中にも白百合が宿っていて。ノトスは満足げに頷いた。
「名前はどうされますか?」
 ふたりに投げかけられたフリーデリーケの問い。
「武器の名前は、作ってくれたキミ達につけて貰いたい。きっとその方が、杖も喜ぶ気がするんだ」
「俺の方も頼んでいいか?」
 ノトスと瑞樹の言葉に、兄妹はかしこまりましたと頷いて。しばらくのちにふたりにカードが届けられた。

 ノトスが受け取ったカードには『Λουλούδια καθοδήγησης』と記されていて。
 古い言葉で『導きの花』という意味だと添えられていた。

 瑞樹が受け取ったカードには『Ο ήχος της καθοδήγησης』と記されていて。
 古い言葉で『導きの音』という意味だと添えられていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シエル・メルトース
【ペア参加】
ノエル・スカーレット(f00954)

【武具】
形状:突撃槍
宝石:セレスタイト
花:スノードロップ
名称:おまかせ

暇な時間は作業場の見学をしているよ
アトリエと自称する工房の拡充の為にも、他者の技術は興味深い
其れに職人の中には、作業中にうろつかれるのを嫌う人も居るから僕は大人しくしていよう、と言う事で(ただ単にじっくり見たいだけ)
……武器の名前? 僕は其の手のセンスが無いから、彼らに任せる
自分で創る物ならまだしも、こうして人の手に託すのなら尚更、ね
選んだ宝石と花から、似合う物をお願いするよ


ノエル・スカーレット
【ペア/シエル・メルトース:f00231】【WIZ】(アドリブ歓迎)
「宝石と花で武器が作ってもらえるて素敵です♪」
「ルビーと薔薇と炎で美しい剣を作ってほしいです」

■作成して欲しい武具:刀身が細身な西洋剣
使用したい宝石:ルビー、埋め込む花:紅い薔薇
武具の名前:職人さんにお任せ♪
妹さんにはルビーに炎の魔力を付与してもらい、お兄さんには剣を振るうと炎で出来た薔薇の花びらが舞う効果を付加してもらう。

職人さんの手伝いは掃除とお茶を担当します。
何処らともなく紅茶の入ったティーセットとクッキーを出現させて職人さん達にご馳走し、武器の作成過程を見学しながら宝石の欠片や要らなくなった花を片づけたりする。



「ルビーと薔薇と炎で美しい剣を作ってほしいです」
 その真紅の瞳を輝かせて自身の希望を告げたノエル・スカーレット(チビッ子ダンピール・f00954)は、工房長の奥さんに手伝いを申し出て、作成の終わった炉の付近で掃除を手伝っていた。もちろん、触っていいものとダメなもの、捨てるものととっておくものの判別がつかない場合は、きちんと確認をとって処理をする。
 炉の付近の他にも何箇所かの掃除を手伝ったノエルは休憩していいと告げられて、とある人物の姿を探した。
 共に工房を訪れた彼女の姿は、すぐに見つかった。だって掃除中にノエルが彼女の姿を見かけた場所に、彼女はまだいたのだから。

(「ふむ、やはり他者の技術は興味深い」)
 アトリエと自称する工房の拡充の為にもと、職人の作業を静かに、だが見逃さないよう最新の注意を払って見ているのはシエル・メルトース(雪華天翔・f00231)。趣味と実益を兼ねて物作りをしている彼女としては、やはりモノが作られる過程というのは参考にもなるし、インスピレーションの源泉ともなるから見ておきたい。
 職人の中には作業中にうろつかれるのを嫌う人もいるから、僕は大人しくしているよ――そうノエルに告げたが、本心としてはただ単にじっくり見たいだけであった。

「シエルさん?」

 だから声をかけられた時、少しばかり現実に戻ってくるのに時間がかかった。
「――ああ、キミか」
 視線を向けずとも声の主はわかる。掃除を手伝っていたノエルだ。
「ずっとここで見学していたのですか?」
「ああ」
「職人さんたちは休憩をとらないのでしょうか?」
「いや、もうすぐ作業が一段落つくから、休憩を入れると話していたな」
 そうシエルが告げた直後、シエルが作業を見学していた職人たちは大きく息をついたり伸びをしたり。休憩だー! という声も聞こえてきた。
「宝石と花で武器が作ってもらえるって素敵です♪ お礼も兼ねて、みなさんにはこちらを」
 その声を聞いたノエルが職人たちに告げる。何事か、と彼女をみた彼らは――。

「はい、お茶とクッキーです。どうぞ♪」

 何もないところからティーセットとクッキーを出現させたノエルに目をしばたかせて。
 けれども彼女はそれがさも当然であるかのように、あいたテーブルの上でティーカップに紅茶を注ぎ始めるものだから。
「すごいっすね……その手品」
「あ、そっか、手品か……」
「俺、一瞬、疲れが限界超えたかと思った」
 沈黙ののち、ひとりの職人の言葉でそれを手品だと思い込んだ彼らは、素直にノエルの出した紅茶とクッキーに舌鼓を打ち始めた。
「シエルさんもどうぞ♪」
「ああ、ありがとう」
 差し出されたティーカップを受け取り、シエルもまた椅子の隣に座したノエルとともに紅茶を味わうのだった。

 * * *

「持ってみてもいいですか?」
 絹布の中から現れた、金の装飾の美しい剣。それを見たノエルは、目を輝かせてエルフの兄妹へと尋ねる。ふたりが頷いたものだから、そっとその柄に触れて――すると、柄を伝って力がノエルの中へと入り込んでくるようだ。
「これは……炎の魔力ですねっ」
 ノエルの希望した、炎の魔力の付与が行われた証。すらりと細身の刀身は、真っ赤なルビーでできており、そこに宿るのは紅い薔薇の花。
「振るって、みても?」
 もう一つ、ノエルの出した希望が叶えられているか確かめるには、剣を振るう必要があった。
「この扉の先でなら構わないよ」
 そう告げてウルリヒが扉を開けると、そこは外だった。工房の裏手らしい開けているその場所では、出来上がった武具を試す冒険者たちもいるのだとか。

「――舞い踊れ!」

 不思議と手に馴染むその細身の剣を振るえば、赤い花びらが舞い踊る。よく見ればその花びらは、炎でできていた。
「どうかしら?」
「希望通りです♪ ありがとうございます♪」
 ノエルがにっこり、笑めば、兄妹も嬉しそうだ。
「こっちがシエルさんの希望の品だよ」
 ウルリヒが差し出したのは、白銀の柄。宝石花部分には絹布が巻かれ、床に向けて置かれている。
「だいぶ大きいけれど」
「問題ないよ」
 シエルが依頼したのは、突撃槍である。柄の先の、縦長の円錐形のような部分が宝石花でできていた。
 白に近い青をもつ、セレスタイトに宿るのは、白のスノードロップ。実際に手に持ってみた槍は、不思議とシエルにとって重すぎもせず軽すぎることもなかった。
「ああ、美しいね」
 外の光を受けたそのさまに、シエルも満足げに頷いた。
「それで、名前だけれど」
 そう切り出したウルリヒの手には、二枚のカードが握られている。
 その手のセンスが無いからと名付けを頼んだシエル。自分で創るならまだしも、人の手に託すのなら、なおさら作り手に名付けてほしいと思ったのだ。その思いに同意を示したノエルも、名付けを頼んでいる。
「これを。気に入らなければ、違う名前をつけてくれて構わないからね」
 そう告げて、ウルリヒはふたりへそれぞれカードを差し出した。

 ノエルの受け取ったカードに書かれていたのは、『Роза Огня(パローザグニャ)』。
 古い言葉で『炎の薔薇』の意味だと添えられていた。

 シエルの受け取ったカードに書かれていたのは、『Надежда обниматься』。
 古い言葉で『寄り添いし希望』という意味だと添えられていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユウイ・アイルヴェーム
・武具系統:薙刀
・宝石:セレスタイト
・花:ヒペリカム
・武具の名前:お任せします

前へ進む力はこの手の中にあります
今必要なものは、背に在る方を守るための力なのです
後ろへ通さないために、ここで止めるために、長さが必要です
刃が長いと取り回ししにくいですし、杖の先に刃がある形を
いつか見た、薙刀というものに近い形がいいでしょう

晴れた空の色に、輝く星のような花
皆の休息のために、今ある悲しみを終わらせるために
私は戦うのです。一瞬でも、安らぐ時間を延ばすために
皆に、夜明けが来ますように

私は、人形ですから
もしよければ、このものにも名前を付けていただきたいのです
ひとに望まれ、ここに生まれたものにしてほしいのです



 エルフの兄妹と対面したユウイ・アイルヴェーム(そらいろこびん・f08837)は、その白い掌を胸に当てて告げた。
「前へ進む力はこの手の中にあります。今必要なものは、背に在る方を守るための力なのです」
 そんな彼女が望んだのは、後ろへ通さないために、彼女のところで止めるために、長さのある武器だ。ただ、刃が長いと取り回しにくい。
「杖の先に刃がある形の武器を――いつか見たことがある、薙刀というものに近い形を希望します」
「薙刀……工房長!」
「ん?」
 ユウイの言葉に呟きを落とし、フリーデリーケは近くを通りかかった工房長ゴウニュを呼び止める。
「薙刀? ああ、大丈夫だ。前に冒険者が持っていたものを修理した事があってな、その時に構造は頭に叩き込んだ」
 ゴウニュのその頼もしい発言に、ユウイは深く頭を下げた。
「それではどうぞ、よろしくおねがいいたします」

 * * *

 最初にエルフの兄妹と対面したテーブルへとついたユウイの前に、絹布に包まれたそれは置かれた。
 テーブルからはみ出すほど長いそれは、ユウイの記憶の中にある薙刀と同じくらいかやや小さいくらいで。
 そっと布を開いてゆけば、白金の柄の先にセレスタイトの空色の刃が姿を現した。
 その刃に宿るのは、ヒペリカムの黄色い花。
 実際に持ち上げてみれば、ユウイにも取り回しやすいサイズに仕上げられていることがわかった。
「実は、ヒペリカムの花でと言われた時に、ちょっと僕は感極まりそうになってしまったんだ」
 恥ずかしげに告げるのは、兄のウルリヒ。
「ヒペリカムの花言葉は『きらめき』と――『悲しみは続かない』だから」
 今この街の人たちは、近隣の町や村を滅ぼした敵がいつここに来るのかと、怯えている状態だ。
 だから、こそ。
「皆の休息のために、今ある悲しみを終わらせるために――私は戦うのです」
 晴れた空の色に宿る黄色は、輝く星のようなヒペリカムの花。
 それを手にした彼女は、そう、強く言い切った。
「一瞬でも、皆の安らぐ時間を延ばすために。皆に、夜明けが来ますように」
 そう告げた彼女の太陽のような瞳は揺らがない。それは、ユウイ自身の決心が揺らがぬことを示している。

 ――ほろり……。

 フリーデリーケの瞳から、雫がこぼれ落ちた。

 * * *

「私は、人形ですから。もしよければ、このものにも名前を付けていただきたいのです」
 ハンカチをフリーデリーケに差し出しながら、ユウイは柔らかく乞う。
「ひとに望まれ、ここに生まれたものにしてほしいのです」
 それはユウイ自身が、零れ落ちるものと混ざり合うもので出来上がっているから。
「……『Twinkling taivaalla』――『空に瞬く』という意味は、どうかしら?」
 空に瞬く星をゆっくりと見上げられるのは、きっと平穏な時間だから。
 この刃を振るうユウイの姿を見て、人々は空に瞬くそれを思い出し、それが戻ってくることを願うだろう。
「素敵な名前をありがとうございます」
 その名に込められたフリーデリーケの、街の人たちを代表した思いが伝わってきたから、ユウイは微笑んで丁寧にお辞儀をした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルマニア・シングリッド
カイさん(f05712)と

(終始、ハイテンションです)

鉄から宝石に
しかも花や宝石に宿る言葉の力も宿らせることができる、ですか
素晴らしいですね
私もぜひ、見学をしたいです

せっかくですから
今後の戦闘でも最大スペックが発揮できるように考えねば(UC発動

花はマンサク

宝石は
ブラックオパール
タンザナイト
ダンビュライトで

形状は…ルーズリーフはできますか?
このような物ですが(予備のルーズリーフ帳を見せる
厳しそうなら杖でも構いません

名称は…そうですね
『想舞輝華(そうぶきっか)』はどうでしょう

あ、勢いがありすぎましたね
申し訳ございません

……えっ
手伝ってもよろしいのですか!?
勿論、参加させていただきます!


アドリブ歓迎


桜雨・カイ
☆アルマニアさん(f03794)と
鉄扇/白詰草/フローライト(蛍石)/名前おまかせ

ふふっ楽しそうですね
でも花や宝石がどんな風に形を変えていくか私も興味あります
作っているところ見にいきませんか?

今ある扇に板や骨を補強する形で…鉄扇のようなものはできますか?(四つの精霊(水・火・風・地)が宿っている)

花は詳しくないですが
アルマニアさんが教えてくれた白詰草、花言葉は幸福や約束…
良いですね、それにします。

白詰草の花を四つまとめて【念糸】でそっとリボンのように結ぶ
精霊を縛るのでなく、四つ葉のようにまとまって幸せになるようにと願いを込めて

石は蛍石というのを。使用すると光りそうですね
作業を楽しげに見学します



 弾むような足取りで、彼女は衣服の袖と裾を風に揺らせながら進む。
「鉄から宝石に。しかも花や宝石に宿る言葉の力も宿らせることができる、ですか」
 普段の彼女は感情が希薄で、あまり表情から感情を読み取れぬ。けれども今の彼女はどうだろう。
 眼鏡の奥の夜色の瞳は星を宿したようにキラキラと輝いていて、その声色からも気分の高揚が感じとれる。
「素晴らしいですね。私もぜひ、見学をしたいです」
 漆黒の髪が、太陽の光を受けて輝きを宿す。
「ふふっ、楽しそうですね」
 こんなにも楽しそうな彼女はあまり見たことがなかったから、隣を歩く桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、微笑ましげにその様子を見つめつつ告げた。
「仕方がありません。こんなにも想像力と創造力を掻き立てるものに、魅力を感じるなというほうが無理ですから!」
 応えた彼女――アルマニア・シングリッド(世界≪全て≫の私≪アルマニア≫を継承せし空想召喚師・f03794)は、自身の知的好奇心が昂ぶる様子を恥じることはない。だって彼女自身、膨大な知識で、記録でできているといっても過言ではないのだから。
 もっともっと――知らないことを、更にそれが素敵なことなら、吸収したいと本能が告げている。
「でも花や宝石がどんな風に形を変えていくか、私も興味あります」
 カイにとっても、『宝石花』ができるまでというのはとても興味深いものだ。ほとんど想像がつかないからこそ、その不思議な現象を目にしてみたいと思う。
「作っているところ見せてもらえるといいですね」
「ええ、行きましう!」
 軽い足取りのまま工房『ヴァッフェ』を目指すアルマニアの背中を追いかけるように、カイは歩調を速めた。

 * * *

「この扇に板や骨を補強する形で……鉄扇のようなものはできますか?」
 示された椅子にアルマニアと隣り合って座ったカイは、テーブルに自身の『巡り扇』を置いた。向かいに座しているエルフの兄妹がその扇を見て、小さく声を上げる。
「触れても?」
「はい、もちろんです」
 兄ウルリヒの問いかけに快諾すると、彼はそっと、優しい手つきで扇を手に取った。そしてゆっくりと開き、妹のフリーデリーケにも見えるように持つ。
「あら、やっぱりこの扇……」
「うん、触れたらよく見えるよ」
「この扇、複数の精霊が宿っておりますわよね?」
 兄の手にした扇に優しく触れて、フリーデリーケが告げる。
「は、はいっ。水、火、風、地の四つの精霊が宿っています」
 まさかこちらから告げる前に言い当てられるとは。いや、魔法を使う彼らだからこそ、わかったのだろう。
 小さな精霊たちは兄妹から隠れるように扇の影へと入り、火の精霊が威嚇するように兄妹を睨みつけている。他の精霊たちはおずおずとカイの様子を窺うように視線を向けて、「すてる?」「あげる?」「なかよし、ない?」と不安そうに呟いた。
「あ、違いますよ。捨てませんしあげませんし、これからも仲良くしたいと思っていますからっ……」
 精霊たちの様子に、慌てたカイ。それを見ていた兄妹は、笑みを抑えられなくなったようである。
「『宝石花』シリーズの仕上げには、魔法陣を使った術の行使が必要不可欠なんだ。だから、少しばかりこの精霊たちと話をさせてもらっていいかな?」
 ウルリヒがいうには、扇に宿る精霊たちはある意味先住者で。そこに魔法で別の力を宿すには、先住者の性質をしっかり見極めてからでないと、アクシデントが起こる可能性が高いという。術が失敗するだけなまだらいい。最悪、元の扇に宿る精霊が消えてしまうこともあるというのだ。
「わかりました、お願いします」
 説明に納得したカイは、扇に宿る精霊たちに語りかける。これから何をするか、何が起こるかきちんと自分の口で説明したほうが彼らも安心するだろうと思ったからだ。
「そちらのアルマニアさんのご希望は……るーずりーふ? とのことですけど……」
 カウンターでカチヤが記した紙に視線を落としたフリーデリーケ。その発音のぎこちなさから、彼らにとってルーズリーフは馴染みがないことがわかる。
「はい。このような物ですが……」
「拝見いたします」
 アルマニアが差し出したのは、予備のルーズリーフ帳。表紙と裏表紙にリング状の留め具がついており、リングの間隔に合った穴の空いた紙を挟んで一冊に纏めることができるそれだ。好きな場所に挿入したり、好きなページだけ抜くといったことができる便利な品ではあるが。
「これは……紙、よね? この紙の部分? それとも本の外枠の部分かしら?」
 この世界のものよりもずっと上質でバリエーションに富んだ紙を丁寧にめくりながら、フリーデリーケは首をかしげる。
「紙の部分です。厳しそうなら杖でも構いませんが……」
 鉱石から宝石に。そして宝石で紙(に似たもの)を創る――物質的に異なるそれは、可能なのだろうか。
「可能であれば、この紙を一枚頂けませんか? 形状の見本にさせていただきたいのです」
 あとは、工房長と少し相談してみます――そう告げたフリーデリーケに、アルマニアはルーズリーフ帳から一枚のルーズリーフを取り出して頷いた。

 * * *

 カイはウルリヒが用意した白詰草の花から四つを選ぶ。
 花には詳しくないが、アルマニアが教えてくれた白詰草の花言葉、『幸福』や『約束』にとても惹かれてそれを選んだ。
 その四つを小さな花束のようにして、『念糸』でそっと優しく結んでいく。リボン結びにしたそれは、約束の証。
 もともと扇に強引に縛り付けられていた精霊たちを、縛るのではなく、四つの葉のようにまとまって幸せになるようにと願いを込めて繋ぐ。
 その結び目は、彼らが望むなら、いつでも簡単にほどけるようにしていた。
「私のそばにいてくださいね」
 告げれば精霊たちは、カイの肩や頭付近に寄って来る。
 ウルリヒ達が念入りに調査・検証した結果、魔法陣を使った施術時には精霊たちは扇から離れていてもらうことになった。彼らの住処を壊して『新しく造る』のではなく、あくまで『改装』であることを前提として、作業は行われる。
「お願いします」
 カイがウルリヒに束ねた白詰草を手渡すと、魔法陣の前に立っていたフリーデリーケが詠唱を始めた。
 魔法陣の上には、原石らしきものと鋼でできた部品らしきもの。歌うように紡がれる詠唱によって導き出されたのは、オーラだ。
 原石から発生したオーラは、一色ではなかった。
 透明感のある、水色に桃色、緑に黄色――四色のオーラが混ざり合うのではなく、寄り添い合うように鋼の部品を包み込む。
 カイの希望した宝石、蛍石――フローライトには様々な色がある。光によって発光するその石は、熱に弱いと言われているが、その部分に関しては魔法で補強してくれるというので問題はないだろう。
「わ……」
 思わず声を上げたのは、鋼の部品がそれぞれオーラと同じ色を纏っていったからだ。否、纏うというよりも、鋼だった部分が透き通ったオーラに置き換えられていくような。
 そしてウルリヒが白詰草と杖を手に詠唱に加わる。彼の手にあった白詰草はオーラへと吸い込まれ、気がつけばフローライト製となった部品に宿っていた。
「すばらしいです……!」
 カイの隣でその様子をじぃっと観察していたアルマニアが声を上げた。ユーベルコードにて強化した情報収集能力で、この制作の様子を余すところ無く自身に記録してゆく。
 宝石と花でできた部品が完成した後は、元の扇が陣に置かれた。そして元の扇を補強するように、兄妹は宝石花を宿していく。
 出来上がったのは四色の蛍石を使用した、強度だけでなく火や水という弱点も克服された扇。
 カイがそれを手にした途端、精霊たちが動き出した。
「あたらし、おうちー」「ここがいー」「こっちー」「きもちいー」などと述べながら、それぞれ各属性を象徴するような色の部分へと寄り添っていく。
 そしてその扇に咲くのは、四つ一緒の白詰草の白。
「気に入ってくれて、良かったです」
 カイは目を細め、精霊たちの様子を見守った。

 * * *

「……えっ……手伝ってもよろしいのですか!?」
 ガタッ、と壁際の棚を揺らす勢いで、アルマニアは兄妹へと近づく。
「ええ。私達も初めて扱うものだから、可能ならアルマニアさんの魔力を注ぎ込んでほしいの」
 工房長と相談した結果、ここの技術で可能な範囲でごくごく薄くした鋼でルーズリーフの型が作られた。そして念の為にと、皮でも同じものが作られている。
 彼女たちにとって、ルーズリーフの製作は未知だ。注文者のアルマニアの魔力を注ぐことで、彼女の希望に少しでも近づけようということだろう。
 これは英断と言える。彼らは知らないが、ルーズリーフ手帳を本体とするアルマニアは、誰よりもルーズリーフに詳しいのだから。
「もちろん、参加させていただきます!」
 そしてこんな体験は滅多にできることではない。もちろんアルマニアは二つ返事だ。
「僕が詠唱に加わるタイミングで、魔力を注いで欲しい。その時に、理想とするルーズリーフを思い浮かべて、魔力に乗せてもらえると助かるのだけれど……」
「お任せ下さい! 得意分野です!」
 ウルリヒの要請に、胸を叩く。想像から創造することを得意とする彼女には、それくらい朝飯前。
 魔法陣に置かれたルーズリーフの『型』は、鋼製がふたつと革製がひとつ。原石も、三種類が置かれている。
 フリーデリーケの詠唱に従って、原石からはそれぞれ煌めきを宿す黒、薄い青紫、透明に近い白のオーラが立ち上がった。それらはフリーデリーケの手の動きに従い、三つの『型』へと宿ってゆく。
 鋼と皮でできた『型』が、徐々に宝石へと変化していくさまは、やはり何度見ても不思議で、幻想的で。アルマニアの心を高揚させる。
「続いて」
 マンサクの黄色い花を手にしたウルリヒに促され、アルマニアも魔法陣の近くへと歩む。そしてマンサクが宿りゆくのを見ながら、三つの『型』へと魔力を注いだ。

 * * *

「さすがに宝石ですから、普通の紙よりは光沢がありますね」
 アルマニアの手に渡ったのは、三色のルーズリーフ。普通のルーズリーフよりも厚手のそれは、例えるならば水を弾くようコーティングされた厚手の紙――ペラペラとしたものではなく、UDCアース基準で例えるならば、紙の種類にもよるが140kg~180kgの範囲で厚さを示す数字が記される、官製はがきくらいの厚さだ。
「ごめんなさい、さすがに素材の関係もあって、本物のルーズリーフほどは薄くならなくて……」
「いえ。曲げようとすると割れてしまう板のようなものというわけではありませんし、問題ありません!」
 こうして実物を手にしたアルマニアならば、これを複製することが可能かもしれない。それにはこの宝石花のルーズリーフをもっと調べて知る必要があるだろうが。
「名称は……そうですね、『想舞輝華(そうぶきっか)』はどうでしょう!?」
 ぱああっと明るく輝くアルマニアの表情に、素敵な名前ねとフリーデリーケは微笑んだ。

「ありがとうございます」
 頭を下げて改めて礼を告げるカイに、ウルリヒが一枚のカードを差し出した。
「元々名のついた扇だから、必要なければ見なかったことに」
 そのカードに書かれていたのは、『四色精扇(ししきせいせん)』と記されていて。
 新しく生まれ変わった扇の名前であると気づいたカイは、今一度頭を下げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイグレー・ブルー
☆(指定のないところなどはお任せします)

わたくしが作ってほしいのは、護るという意志を貫く槍(グレイヴ)であります!いつかお友達になれるかもしれない誰かを、皆様をお守り出来ればと思います!(げ、現状お友達いないでありますが……)

図鑑でしか見たことありませんが、ホタルブクロの花が好きなのでそちらと…宝石は詳しくないのでフリーデリーケ様に是非選んでいただければと思いますっ!
恥ずかしながら武器らしい武器を持ったことがないので……楽しみであると同時に少し怖くもあります

あの、よろしければ工房のお手伝いさせてくださいっ
こう見えて
水汲みとか力仕事も頑張るのであります!むむっ!(サイキック運搬)


クラウン・アンダーウッド
興味深いね。是非とも武器の製作をお願いしよう♪
作成して欲しいのは投げナイフ。宝石はアレキサンドライト、花はスノードロップ。名はお任せ。

可能な限り大量に作って欲しいなぁ。参考までにボクが使っている投げナイフを預けよう。
後、出来れば武器の素材にこれを使ってくれないかな。

大きな袋をカバンから取り出し、相手に手渡す。中には抜き身のナタが袋一杯に入っている。

昔、収集した素材でね。特殊な魔力が備わってる金属で別の武器へ精製しても、異様な切れ味を誇るものが出来るんだ。ボクの投げナイフもこれを加工したものだよ。

そうだ。作業する時にはこれを身に付けておくといいよ♪

UC製の炎を指輪の形に圧縮・固定化させて手渡す。



(「興味深いね。是非とも武器の製作をお願いしよう♪」)
 笑顔を宿したまま工房『ヴァッフェ』の扉を叩いたクラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)は、同じく武器の製作を頼みに来たブラックタールの少女と同席することになった。
 示された椅子に少女と並んで座れば、テーブルを挟んだ向かいにはエルフの兄妹がついた。
「ボクの希望は投げナイフだよ。こんな感じのを可能な限り大量に作って欲しいんだ」
 そう告げてクラウンは、自身が愛用している投擲用のナイフをテーブルへと置いた。
「あと、できれば武器の素材にこれを使ってくれないかな?」
 続けてクラウンが取り出したのは、大きな袋。その袋は出てきたカバンよりも大きく見えるのだが、気のせいだろうか(気のせいではない)。
「これは?」
「昔、収集した素材でね」
 ウルリヒが袋の中を覗きこめば、そこには抜き身のナタがいっぱいに詰まっていた。
「特殊な魔力が備わってる金属で別の武器へ精製しても、異様な切れ味を誇るものが出来るんだ」
 クラウン自身の投げナイフもこのナタを加工して作ったものだと告げれば、兄妹は納得したように頷いた。
「そちらの、アイグレーさんのご希望を教えていただけますか?」
「はっ、はいっ!」
 フリーデリーケに声をかけられてびくっと身体を震わせたのは、ブラックタールの少女、アイグレー・ブルー(星の煌めきを身に宿す・f20814)。
「わたくしが作ってほしいのは、護るという意志を貫く槍であります!」
 ピンッと背筋を伸ばして、アイグレーは勢いづいたように続ける。
「いつかお友達になれるかもしれない誰かを、皆様をお守り出来ればと思います!」
 その口調や思考は、故郷の世界で家事ロボットたちを住人に見立て、自身が防衛隊長として守っていたがゆえ。
 しかし銀河帝国の襲撃が、アイグレーの意識を広げた。
 誰かを護ることができれば、何かの役に立てれば――そんな思いをいだき、彼女は外へ出ることを決意したのだ。
 ただ……現状、まだお友達はいない。
「槍……槍もいろいろな形状があるけれど、希望はあるかい?」
「はい! あのような形のものをお願いしたいと思います!」
 アイグレーが指したのは、工房に飾られている槍の中でも、グレイブと呼ばれる、槍の穂先に剣状の刃をつけた武器だ。突くだけでなく、切りつけたり振り回したりと様々な使い方ができる。
「グレイブはスピアとかに比べると、重量があるけれど……」
 ウルリヒがそう告げたのは、アイグレーが華奢な少女にしか見えないからである。だが、冒険者とは見かけによらないと、彼らも学んでいるから。
「問題ないであります!」
 発注者自身がそう告げるのだから、それ以上心配してくるようなことはなかった。
 サイキッカーであるアイグレーとしては、重い武器でもサイキックを併用して使用すればいいという思いがある。ただ……。
「恥ずかしながら武器らしい武器を持ったことがないので……楽しみであると同時に少し怖くもあります」
 伏し目がちに心配を吐露する彼女。その様子を見ていたクラウンは、名案を思いついたとばかりに口を開いた。
「初めての武器か。なら、彼女の武器にもボクの持参したナタを使ってくれないかな」
「えっ……!? そんな貴重な素材、わたくしにはもったいないであります!」
 予想外の提案に、アイグレーは恐縮しきりだ。
「初めての武器と、これから長く付き合っていくつもりなんだろう? 誰かを護るための武器なんだろう? だったらこれはご祝儀だよ。いい素材を使えば、それだけ良い品ができる。良い品は、長く使える」
「でも……」
「『冒険者』の先輩として、キミの門出に華を添えさせてくれないか?」
 そう言われてしまえば、これ以上固辞するほうが失礼かもしれない。そう考えたアイグレーは、頷いて深く頭を下げた。
 クラウンとしては、彼女が――誰かが喜ぶ顔が見れるなら、という思いもいだいている。

 * * *

「運んできたであります!」
「ありがとう。そこに置いていただける?」
 手伝いを申し出たアイグレーは、フリーデリーケの指示に従って原石の入った箱を奥の部屋へと運んでいた。サイキックを使用しているので、重い箱を運ぶのも苦にならない。
「次はどうしましよう!?」
 まだまだやる気十分のアイグレーを見て、フリーデリーケは微笑んだ。
「ここに座って頂けます?」
 示されたのは、フリーデリーケが座している長椅子の、隣。失礼するであります、と小声で告げて隣へと腰を下ろせば、フリーデリーケはアイグレーが運んできた箱からいくつか原石を取り出して、テーブルへと置いた。
「ひとつずつ、順番に触れてみてくださる? あなたの武器に使う石を選ぶ参考にしたいの」
 そうだ。アイグレーは、使う宝石をフリーデリーケにぜひ選んで欲しいと願ったのだ。
「触れるだけでいいのでありますか?」
 原石からはところどころ色が覗いている部分もあったが、それだけではアイグレーには何の石かはわからない。
 けれどもいくつかの原石に順に触れていくと、不思議と触れた部分がほんのり温かいような感じがした。
「……?」
 小さく首をかしげる彼女を見て、フリーデリーケは同じ原石に触れる。
「これ? 他のと違う感じがしたのかしら?」
「はいっ! 気のせいかもしれないですが、少し温かいような……」
「なるほど、この石ね。その温もりはね、あなたの身体に宿る力と相性がいいという合図なのよ」
「相性……」
 呟いて再び原石へと視線を落としたアイグレー。どんな宝石なのかはわからないけれど、相性がいいと言われて悪い気はしなかった。

 * * *

「クラウンさん、職人たちが感謝していました。ありがとうございます」
 再びテーブル席へと呼ばれたクラウンとアイグレーに、兄ウルリヒが告げた。
「役に立てたならよかった♪」
 クラウンはユーベルコード製の癒やしの炎を指輪型に圧縮・固定し、ナタの加工に携わる職人たちに身に着けてもらっていたのだ。
「不思議と疲れを感じにくくなって、効率が上がったということです」
「うん♪」
 職人たちにはお守りの的なものだと告げていたが、注文が増えると同時に作業が増えて疲労の溜まっていた職人たちを癒やすことができたのだ。喜んでもらえたなら良かったと思う。
「そしてこちらが、ご用命の投げナイフです」
 横長の薄い箱の蓋が開かれると、ベルベットの中布の上に固定された投げナイフが並んでいる。
 アレキサンドライト製のそれは、受ける光によって赤や緑へと色を変える。
 その一本一本に宿っているのは、スノードップの白い花。アレキサンドライトが赤く輝く時も緑に輝く時も、その白は映えるだろう。
「切れ味は、僕たちが魔法を付与するまでもなく、一流のものになりました」
 そっとその一本を手にとってみれば、鋭さが美しさを増しているように見えた。
「一箱に十本。六箱ありますので、六十本入っています」
「ありがとう」
「一本だけこちらにありますので、合計六十一本となります」
 十本入りの箱が六つと、箱に入れられていない一本がテーブルの上に置かれた。納品という形式上箱に入れられているが、どのように持ち歩くかは勿論クラウンの自由だ。
「こちらが、アイグレーさんのグレイブですわ」
 フリーデリーケが示したのは、テーブル横に置かれた長物立て。柄の部分は金色で、細工が施されている。
 刃の部分には絹布が巻かれていて。アイグレーがそれを開いていくと現れたのは、限りなく透明に近い刃。その刃には、紫と赤紫のホタルブクロの花が宿っていた。
「あ……」
 刃部分をそっとテーブルの上へ置いたアイグレーは、石と花の織りなす調和に言葉を失っていた。
「切れ味は、クラウンさんの持参なさったナタを元にいたしましたので、問題ありませんわ。強度を補強する術もかけてあります。そして使用した石は、カルサイトです」
「かる、さいと……?」
 フリーデリーケの言葉を繰り返すアイグレー。この石が、あの時の原石なのか。
「カルサイトには『希望と成功』という石言葉があり、同時にこの色のカルサイトは集中力や直感力を増幅させると言われていますから、お力になれるでしょう。あとは、人間関係を円滑にするという効果もあると言われています」
 いかがでしょう――問われたアイグレーは、釘付けにされていた視線を彼女へと向けて。
「フリーデリーケ様にも、ウルリヒ様にも、クラウン様にも感謝するであります! わたくしはこれからこの――……はっ、この武器はなんと呼べばいいでありますか!?」
 それから戦友として共に歩んでいく武器だ。せっかくだから名前で呼んであげたい。
「よければ僕のナイフの名前も任せたいな」
 クラウンも名付けを願う。
 すると兄妹はそれぞれ一枚ずつカードを取り出して、ふたりへと差し出した。
「気に入らなければ、好きな名前をつけていいからね」
 ウルリヒの言葉を受け、ふたりはそれぞれカードへと視線を落とす。

 クラウンが手にしたカードには、『Hoffnung zurück』と書かれている。聞けば、『希望は戻る』という意味だとか。
 投げナイフゆえに、再び手に戻ってくるように――そんな思いも込められているのだろう。

 アイグレーが手にしたカードには、『нечуплив ще』と書かれていた。
 古い言葉で『砕けぬ意思』を意味するそれは、アイグレーが語った想いは砕けない――そんな激励のような思いが込められているのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セラエ・プレイアデス

これは自慢だけど、ボクは宝石とか花にちょっとは詳しいよ!
博士がよく図鑑とかくれたからね、美味しい本だったし覚えてるんだ。

武器が作れるなら……ボクが使う用に一対のチャクラムがいいな、直径30cm……つまり顔くらいの大きさがあるやつ。
実物はないけど輪っかの外側が刃になって、投げて使う武器って言えば多分分かると思う。
まぁボクの場合二個とも【念動力】で操るんだけど。

宝石は「勇敢」とかの意味のある血星石、
花は「夢中」とかの意味があるヘリオトロープでお願い。
「勇気」を持って「熱望」するものへ一直線!とか武器としては縁起いいじゃん?
あ、名前はまだ決めないよ。

作成過程とかちょっと興味あるなぁ……見てていい?


ハロ・シエラ
戦うのは構わないし、武器を作って下さるのもありがたいのですが……
既にこの体には十分すぎるほどの武器を抱えているんですよね。
ただもしもう一つ追加するとするなら、そうですね。
何か投げナイフみたいな物がいいですね。
鋭く作って頂ければ一振りで構いません。
宝石はブラッドストーン。
私の首飾りにも埋まっているので何となく親近感が。
花は……黒いバラとかどうでしょう、武器なのであまり可愛らしいのも似合わないでしょうから。
花びらだけでも構いません。
名前ですか?
そちらはお任せします。
あまりネーミングセンスも無いもので。



「戦うのは構わないし、武器を作って下さるのもありがたいのですが……」
 兄妹の前の椅子へと座ったのちにハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は、素直な気持ちを紡ぐ。
「既にこの体には十分すぎるほどの武器を抱えているんですよね」
「なるほど」
 だからどうしたものかと悩んだというハロの声に、兄妹は頷いた。
「ただもしもう一つ追加するとするなら、そうですね。何か投げナイフみたいな物がいいですね」
「投げナイフか。数は多いほうがいいのかな?」
「いえ、鋭く作って頂ければ一振りで構いません」
 兄ウルリヒの言葉に小さく首を振り、ハロはそう告げた。
「ボクは、一対のチャクラムがいいな」
 話が終わったとみて口を開いたのは、ハロの隣に座すセラエ・プレイアデス(腹ペコヴォーパルブリンガー・f24425)。
「直径30cm……つまり顔くらいの大きさがあるやつ。実物はないんだけど――」
「大丈夫ですよ」
 チャクラムの形状を告げようとしたセラエの言葉を、ウルリヒがやんわりと遮った。聞くところによれば、希望するサイズは違うがチャクラムのレプリカを持ってきた者がすでにいるのだとか。
 投擲武器ではあるものの、セラエの場合は念動力で操るつもりである。だがそれは告げなくても支障のない情報だろうと判断した。
「希望の石と花がございましたらお知らせ下さい」
「これは自慢だけど、ボクは宝石とか花にちょっとは詳しいよ!」
 フリーデリーケの言葉に、セラエが反応し、明るく答える。
「博士がよく図鑑とかくれたからね、美味しい本だったし覚えてるんだ」
「まぁっ……それは頼もしいですわ」
 美味しい本、と聞こえた気がするが、多分空耳だろう。うん。
 中性的な美しさを持つ外見に反して、セラエは幼子のように無邪気だ。けれどもそれは負の意味を持たず、良い意味で彼女の言葉の裏を感じさせない。
「宝石は『勇敢』とかの意味のある血星石、花は『夢中』とかの意味があるヘリオトロープでお願い」
 告げる彼女の瞳が、更に輝いて。
「『勇気』を持って『熱望』するものへ一直線! とか武器としては縁起いいじゃん?」
 にっと笑った彼女につられ、兄妹も笑みを零す。
「『血星石』は『ヘリオトロープ』とも呼ばれますから、石も花も『ヘリオトロープ』ですわね」
「あの……」
 フリーデリーケの言葉に、遠慮がちに小さく手を上げたのはハロ。
「それって『ブラッドストーン』の別名よね? 私はブラッドストーンでお願いしたいと考えていたのだけれど、同じ石を使うのは問題ありますか?」
「いえ、まったく問題ないですわ」
 ハロの疑問に、彼女を安心させるように告げるフリーデリーケ。
 使う石は採掘量やタイミングにもよるが、よほど在庫が少ないものでなければ、同じものを使用しても大丈夫だという。現に今回訪れた冒険者たちの中にも、示し合わせたわけではないのに同じ石を希望する者達がいたとか。
「ならば、ブラッドストーンと黒い薔薇でお願いします。武器なので、あまり可愛らしいものも似合わないでしょうから」
 武器のサイズも考えて、花びらだけでも構いませんと付け加えると、花担当のウルリヒが了解、と頷いた。

 * * *

 事前に制作過程の大まかな説明は受けていたが、セラエは武器の基礎となる鉱石を鍛え上げる職人たちの作業を見学していた。
 鉱石を鍛え上げて宝石を宿す部分――剣でいうならば刃部分――を作り上げ、のちほど魔法で宝石と花を宿すのだという。
 出来上がった鋼のチャクラムが運ばれたのは、工房の奥にある部屋。床に魔法陣が描かれていて、石や灯りが配置されたその部屋で、セラエは言われたとおりに魔法陣から距離をとってその施術を見守っていた。
 魔法陣の上に置かれたのは、鋼のチャクラムふたつと、原石と思しきもの。
 フリーデリーケが陣の前に立ち、詠唱を始めると、原石から濃い緑のオーラが立ち上り始めた。そのオーラにはところどころ赤い斑点が見受けられて、なるほど原石から血星石の成分が出てきているのか、とセラエはひとり頷いた。
 そのオーラが鋼のチャクラムを包むと、徐々に鋼だったそれが赤い斑点を宿した深い緑へと変わっていく――。
 鋼でできた部分を宝石に『置き換える』のだとフリーデリーケは表現していたが、実際に見てみると不思議なものだった。
 ヘリオトロープの花と杖を手にしたウルリヒが、詠唱に加わる。すると彼の手にあった花が、いつの間にかオーラへと吸い込まれ……そして完全に血星石製となったチャクラムに宿ったのだった。

 * * *

 絹布を開いていけば、セラエがその誕生を見届けたチャクラムが一対、姿を現した。
 半透明の濃い緑に、不規則な赤い斑点。そしてそこに宿るのは、ヘリオトロープの小さな紫の花。
「へぇ! 切れ味良さそう!」
 手にとってその刃を見れば、明かりを受けたそれはキラリと光る。
「ありがとう! 早速試してみたいなあ」
「であれば、工房の裏手に、武器を試すことのできる広さがございますから後で案内いたしますね」
 フリーデリーケの申し出によろしく、と頷いて、セラエはチャクラムに再び視線を戻す。どうやって使おうか、考えれば考えるほどワクワクする気がした。
「こちらが、ハロさんの投げナイフです」
 横長の箱を受け取って、ハロはゆっくりとその蓋を開いた。
 その中には、透明度のある濃い緑に赤い斑点の浮かんだ刃を持つ、投げナイフが一振り。
 そこには黒い薔薇の花弁が何枚か宿っている。
「強度と鋭さを増す魔法をかけてあります」
「ありがとうございます」
 ウルリヒの言葉に頭を下げて、ハロは再びナイフへと視線を戻した。無意識のうちに片手が、首飾りへと伸びる。
 今身につけている首飾りにも、ブラッドストーンが埋まっているからして、なんだか親近感があった。
「名付けはどうなさいますか?」
「名前ですか? そちらはおまかせします」
 問われて「あまりネーミングセンスがないもので」と答えると、ハロの前に差し出されたのは一枚のカード。
「気に入らなければ、違う名前をつけても構いません」
 ウルリヒが差し出したそれには、『Solens blod(ソーレンスブロード)』と記されていて。
 どうやら『太陽の血』を意味するらしきその名は、ブラッドストーンの効果や由来から名付けられたようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『邪霊』イービルスピリット』

POW   :    怒りを誘う霊体
【憤怒・憎悪・衝動などの負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【怒りを増幅させる紅顔の霊体】から、高命中力の【憑依攻撃、及び感情の解放を誘う誘惑】を飛ばす。
SPD   :    欲望を促す霊体
【情欲・執着・嫉妬などの負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【欲望を刺激する黄顔の霊体】から、高命中力の【憑依攻撃、及び感情の解放を誘う誘惑】を飛ばす。
WIZ   :    悲しみを広げる霊体
【失望・悲哀・恐怖などの負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【心の傷を広げる蒼顔の霊体】から、高命中力の【憑依攻撃、及び感情の解放を誘う誘惑】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●招かれざるものは、前菜を仕上げるために
 高台に、男はいた。
 黒を基調にした神父服を着た男は、白百合を片手に眼下に広がる街を見つめている。
 昇りゆく太陽を背にした彼は、背中に光を背負っており、神々しくも見えて。

「ああ、さすがは大きな街ですね。救うべき人々も、多いようです」

 けれども男の周囲には、明らかに禍々しいオーラのようなものが漂っており、顔のようにも見えるその部分たちは、今にも街へと向かいたくてうずうずしているようだ。

「それでは、先にお行きなさい――存分に、彼らの感情を解放して『救って』差し上げてください」

 男が、行き先を指し示すように白百合の花を揺らす。
 禍々しいオーラたちはいわゆる人魂のような形となり、まっすぐにとエーデルシュタインへと向かった。

 まるでそれは数多の星が墜ちるがごとく、エーデルシュタインの街へと降り注ぐ――……。


●抑え込まれた感情を解放することは『救い』たるか?
 エーデルシュタインに在る工房『ヴァッフェ』では、数日間を要して冒険者――猟兵たちの希望の『宝石花』武具の作成を行った。
 元々この工房で行われている武具の作成方法の特殊性と、精霊に力を借りるという手法ゆえに通常の武具作成よりかなり早く出来上がるものの、短期間にたくさんの武具を制作したため工房はフル稼働状態。
 職人たちも街を守ってくれる冒険者たちのためにと、可能な限り力を尽くしてくれた。

 そして、グリモア猟兵の予知した、街が襲われるその日が近づいて――……。

 工房や鉱山の者達と手伝いなどで交流を深め、滞在中に街中で飲食や買い物をした猟兵たちは、これまでに住民たちからある程度の信頼を得ていた。
 だからオブリビオンの襲撃が在るその前日、『明日は決して家から出ないで欲しい』『可能であれば堅固な建物に避難していてほしい』という要請をして回っても、それを突っぱねるような住人はほとんどいなかった。
 鎧戸を閉めて自宅に籠もることを選択する者もいれば、教会に避難する身寄りのない者や小さな子ども抱える者、数件の宿屋に散らばっていた商人や旅行客をなるべく同じ宿屋に纏めるよう計画をたてる宿屋の主達。
 ゴウニュ工房長は自身も武具制作の疲れが溜まっているだろうにも関わらず、職人たちの家族を中心に、望む者たちを工房と鉱山の安全区域へと受け入れる決心をした。
 他にも公会堂や自警団詰め所、領主の命を受けて年に数度訪れるという上級役人用の邸宅なども開放された。
 猟兵という冒険者達が何かを感じ取ったのだ――それは住人たちに伝わっている。だから守るべき人たちを、ある程度決まった場所に集めることが出来たのだ。
 けれども人数が多ければ多いほど、素直に要請に従わない者達の数も多くなる。オブリビオンの襲来時に建物の外にいたり、自ら武器を手に出てきてしまう者がいないとも限らない。
 できるだけ、そのような者が被害に合わないようにしたい――猟兵たちの思いは同じだ。

 * * *

 朝日が昇り始める。夜が、あける。
 太陽が街を照らし始めると同時に、街に無数の何かが降り注いだ――。
 それはまるで、混沌が形を成した人魂のよう。顔のように見える部分の色が違う個体がいる。よく見れば、紅顔、黄顔、蒼顔の三種類だ。
 それらは猟兵や住民の姿を見つけると、嫌らしい笑顔を浮かべ、一気に距離を詰める――。


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※第2章捕捉※

・この章では【己の負の感情と戦う心情重視の行動】または【街の人々を守るためや、負の感情に囚われた人々や猟兵達を助けるための行動】のどちらかを選択してプレイングを書いてください。

A:己の負の感情と戦う心情重視の行動を取る場合
 1・憤怒・憎悪・衝動などの負の感情を増幅させられる→プレイング冒頭にA1とご記入ください。
 2・情欲・執着・嫉妬などの負の感情を増幅させられる→プレイング冒頭にA2とご記入ください。
 3・失望・悲哀・恐怖などの負の感情を増幅させられる→プレイング冒頭にA3とご記入ください。

 ⇒どのような感情なのか、PC様がどのような反応をなさるのかをご記入ください。
 ⇒負の感情に支配された状態をどのように乗り切る、あるいは助けてもらうなどご自由にご設定ください。

B:街の人々を守るためや、負の感情に囚われた人々や猟兵達を助けるための行動を取る場合
  ⇒プレイング冒頭にBとご記入ください。
  ⇒具体的にどのような場所のどのような人をどのように守るのか、どのような気持ちで行動するのかなどご記入ください。
  ⇒対象が猟兵の場合、お相手が決まっていればご記入ください。決まっていない場合、プレイング次第でどなたかと絡ませることもありますが、うまく噛み合わない場合は街の人を守る形になると思います。

 邪霊の影響は、猟兵よりも街の人達のほうが受けやすいようです。抵抗虚しく理性を喪って感情のままに動くのも早いです。
 例えば窓からこっそり覗いている住民を見つけると、邪霊はその窓や扉などを破壊して侵入する勢いで動きます。
 住民がいる場所は、だいたい2章冒頭文に記載の場所です。

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※プレイング受付は2/11(火)8:31 ~ 2/14(金)23:59です。
 一度プレイングをお返しして、締め切り後に再送日程をご連絡する場合がございますので、プレイングが流れてしまった場合、連絡をお待ちいただければと思います。

****************************
※プレイング締め切り変更のご連絡
 締め切りを2/15(土)23:59へと延長いたします。
 一度プレイングをお返しして、締め切り後に再送日程をご連絡いたしますので、プレイングが流れてしまった場合、連絡をお待ちいただければと思います。

****************************
2章プレイングありがとうございました。
これ以降はロスタイムとして、システム的にプレイングが送れなくなるまで【1章にご参加下さった方のみ】受付とさせていただきます。
その他の方は再送日程のご連絡まで、今しばらくお待ち下さい。

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ハロ・シエラ
B
私自身は、感情がどうあれ戦う事は出来ます。
そうでなければ生きてはいられない環境で育っただけですけどね。
【勇気】をもって、自分の心と街の人を守って戦う事にします。
恐怖などを増幅するこのオブリビオンからの助けを必要とするのは、私たちと一緒に戦おうとする様な方々でしょうか。
もしかしたら恐怖で飛び出してきた方かも知れません。
まずはその方々を【かばう】必要があるでしょう。
可能なら【先制攻撃】をかけ【破魔】の力を乗せた攻撃で祓ってしまいます。
既に手遅れなら、私のユーベルコードで憑依攻撃を断ち斬りましょう。
どこをどう斬るかは【第六感】が教えてくれる。
何があろうと、私にできるのは剣を振るう事のみです。



 エーデルシュタインの街へと降り注いだ混沌は、たちまち街中へと広がっていった。
 建物の外にいる猟兵達を見つけてそちらへと向かう個体、憑依する対象を探す個体、それぞれ思うように動いているのだろうが、奴らが最終的に目指していることは同じ。
 負の感情を解放させて取り憑き、解放による幸福感を与えたのちに理性を奪う――その先はもう、堕ちるしかない。

 * * *

 街へ入るための正式な入り口はいくつかある。その中でも一番大きな入口の近くに、ハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は身を潜めていた。
 敵が堂々と、一番大きな入り口からやってくると思ったからではない。何処から敵が現れてもいいように、警戒はしている。
 今、猟兵たちはそれぞれが最適だと思う場所へと散っていた。ハロがここを選んだのは、近くに自警団の詰め所があるからだ。
 ハロ自身は、感情がどうあれ戦うことができる。幼い頃から吸血鬼と戦うべく剣を学ばされていた彼女は、かつてダークセイヴァーの少年兵だった。
 己の感情に左右される――感情を抑え、操れなければ、一瞬が勝敗を左右する戦場では生き残れない。
 だから彼女は、己の感情にその動きを左右されることがない――そうでなければ生きられぬ環境で育ったのだ。
 齢十二の彼女は、降り注ぐ邪霊へと視線を向ける。
 あからさまに怯えることはない。けれども己の胸に宿る勇気に強く語りかけ、剣を手にあたりの様子を窺った。
(「私たちと一緒に戦おうとするような方々が、いるはずです」)
 いなければいないでそれでいい。けれども万が一そうした者がいた場合、ハロは彼らを守ると決めていた。
 自分たちの街は自分たちの手で守りたい――自分たちだけでは無理でも、手を貸してくれる冒険者と共になら――街を襲う敵が通常の『冒険者』ですら手を焼くレベルの『オブリビオン』であることを知らない者たちなら、そう思っても無理はないだろう。

「あれが敵……?」
「何を怯んでる! 自警団の出番だ!!」

 自警団詰め所の扉が乱暴に開かれ、武器を手にした屈強な男たちが飛び出すのが見えた。だがいくら屈強とはいえ、冒険者ですらない街の自警団員。もしかしたらかつて冒険者だった者もいるかもしれないが、今回は相手が悪い。
 そして邪霊たちは、人の声と気配に反応し、自警団員たちを見つけると、嫌らしい笑みを浮かべてその距離を詰めていく。
 それは、自警団員たちが邪霊に向かうよりも早い。しかし――ハロが邪霊たちの背後からその距離を詰めるほうが格段に早かった。

「ハァッ!!」

 距離を詰めたハロは、破魔の力を宿した『リトルフォックス』で邪霊へと斬りつける。流れるように逆の手で繰り出した『サーペントベイン』が、別の邪霊へと刃をうずめた。

『ギァァァァァァァ!』
『ヒョォォォォォォォォ!!』

 彼女の見事な先制攻撃を受けた邪霊たちが、耳障りな悲鳴を上げて振り向く。周りにいた他の邪霊たちも悲鳴を上げた個体に反応していたが、その視線の先にはすでにハロの姿はなかった。

「きみはっ……」
「冒険者の……っ」

 そう。攻撃を与えたハロは、残像を残してすでにそこから移動していた。彼女は小柄な体躯を生かし、浮いている邪霊の下をくぐり抜けて自警団員たちの前へとたどり着いている。

「あなたたちの、街を守る『剣(想い)』は私が預かります。ですから――」

 本当ならば、自警団員たち全員に詰め所に閉じこもってもらっていたほうが安全で、ハロも戦いやすい。けれどもそれでは彼らの気が収まらないだろうことは想像に難くない。冒険者だとはいえ、ハロの見た目は小柄な少女だ。自分の娘と同じ年頃の少女にだけ戦わせることに抵抗のある者たちもいるだろう。
 なまじただの住人たちよりも戦い方を知っている、守り方を知っている者たちだ。それが冒険者や猟兵に及ばないとはいえ、矜持もある。
 だから。

「――あなたたちの中で一番腕が立つ方に、力を貸していただきたいのです」

 そう告げたハロの真意を理解したのだろう。勢いよく飛び出して来ていた団員の後方から、ひとりの女性が姿を現した。
 屈強な男たちの中に、場違いに咲いた花のような女性は、レイピアを手に歩んでくる。軽鎧に身を包んだその姿は、よく見る冒険者のようだった。

「わたしが参ります」

 そう告げた女に対し、他の団員たちは一切の反論をしなかった。それは彼女が団の中で一番腕が立つ者だということに他ならない。

「皆、詰め所に戻り施錠を」

 短い指示に団員たちは素早く従う。女の歳の頃は三十台後半といったところだろうか。

「わたしはジークルーン。自警団の副団長です。結婚前は、冒険者でした」

 ハロに名乗りつつも彼女は、邪霊たちの動きに気を配っている。

「役者不足かもしれませんが、あなたの胸を借りるつもりで戦わせていただきます」
「はい、お願いします」

 ジークルーンがハロへと敬意を払っていることは、その口調や態度でわかった。娘と言ってもおかしくない年齢のハロへも敬語を崩さず、お嬢さんや娘さんなどと呼ぶこともない。そして自分が他の自警団員を詰め所に留まらせるために選び出されたこと、更には自分では力不足であること――敵と自分との力の差を理解しているのだ。
(「万が一の時の為に手は用意してあります」)
 彼女が憑依されたのならば、ハロにはそれを断ち切る策がある。
 ふたりをめがけて邪霊たちが距離を詰めてくる――けれどもどこをどう斬ればいいのかは、積み重ねた経験からくるものがハロに教えてくれた。ジークルーンはそんなハロの邪魔にならぬよう、可能な限り補佐するような動きをしてくれている。
(「思いのほか、戦いやすい――」)
 何があろうとハロにできるのは、剣を振るうことだけ。
 それに集中させてもらえるならば――負ける気はしなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルード・シリウス
A1
大切なもの含め総てを奪った世界への憎悪、その理を敷いたであろう神への殺意、その総てを喰らうという渇望
普段から身を焼く程に、それらの感情に苛まれているが、どうやら…コイツ等がそれ等の感情を更に昂らせているのか。嗚呼、どうりで…異様なまでに『腹が減って仕方がない』訳だ…

闇斬による【一閃】で視界に映る邪霊を斬り、喰らっていく。一体を喰らえば次の、また次の…憎悪や殺意等からくる飢餓感を少しでも満たすべく。視界に映る邪霊が居なくなるまで
どういうつもりで『俺達』のソレに触れたかは知らねぇ…。が、触れてきたという事は『喰らって』も良いって事だな?
それに…衝動を増幅させても、喰らう獲物は違えないぜ



 街へと混沌が降り注ぐのは確認していた。
 けれども気がつけば、ルード・シリウス(暴食せし黒の凶戦士・f12362)の中ではある感情が加速度的に膨れ上がってきていた。
 嗚呼、嗚呼――それは憎悪。それは殺意。それは渇望。

 人の情も愛も知らぬというルードにもかつて存在した、大切なものを含めた総てを奪い去った世界への憎悪。
 その元凶ともいえる、そうした理を敷いたであろう『神』への殺意。
 そして、その総てを喰らってやるという渇望。

 それらは普段からルードの中に宿っているものだ。しかし今、常に身を焦がすほどに彼を苛むそれらが、更に昂ぶっている。
 狂気と憎悪を宿す彼は、喰らい奪うということしか知らない。
 猟兵となったことでそれは加速し、それがルードの殆どを形成しているといっても過言ではなくなった。
 大切なものなど、ない。
 この手にあるのは、己の命のみ。
 だからこそ、命を賭けた遣り取りの中でしか、自分の価値を認識できないのだ。

 ルードは膨れ上がるそれらを抑え込もうとはしない。ただ、少しばかり目の前が揺らいだものだから、目を細めた。
(「どうやら……コイツ等が原因のようだな」)
 定まった視界に映るのは、嗤う紅い顔の邪霊。その笑顔が、忌々しい。
(「嗚呼、どうりで……」)
 増幅し続ける感情の中でルードが手を伸ばしたのは、金古美の細工が施された黒い柄。己の血を注いで作られた、『宝石花』の太刀。
(「……異様なまでに『腹が減って仕方がない』訳だ……」)
 目の前の嗤いに感じるのは、苛立ちや嫌悪感というよりも――激しい飢餓感。
 邪霊はルードの感情を増幅させ、それが解放されるのを待っているようだ。憑依する隙を窺っていると言ってもいいだろう。
 けれど。

「――!」

 音もなく、その笑顔が割れた。
 否、笑顔に走った線――ルードが抜刀と同時に放った一閃が、紅い顔をふたつに割ったのだ。
 そして叫びを上げるいとまも与えず、ルードは斬ったそれを『喰らう』。喰らいながら、黄色と蒼の顔も斬り。
 斬っては喰らい、斬っては喰らい――……一体喰らえばまた次の個体を、喰らうことで屠りゆく。

(「嗚呼、嗚呼――満たされねぇ」)

 増幅された憎悪や殺意などから湧き出る飢餓感を少しでも満たすべく、ルードは『闇斬』を振るう。
 一閃、また一閃。

「どういうつもりで『俺達』のソレに触れたかは知らねぇ……。が、触れてきたという事は『喰らって』も良いって事だな?」

 血のような赤の瞳で邪霊を捉え、見据えるようにして告げる。
 これは、問いではない。『確認』であり『宣告』だ。
 返答など、必要ないし待つつもりもない。ルードは目の前の邪霊へと、ブラックダイヤモンドの刃を走らせる。
 その動きには、迷いや惑いなど、一分も存在していない。

「……衝動を増幅させても、喰らう獲物は違えないぜ?」

 邪霊がその言葉をすべて聞くことが出来たかはわからない。
 斬られたそばからそれらは、喰らわれていくのだから――……。

成功 🔵​🔵​🔴​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
A2
っ、いかん取り憑かれたか
(【破魔】で抗うも執着の感情に支配され)
マクベス?そんなところに居ないでこちらに来てくれ。ずっと私の腕の中に居てくれ。
私以外の誰も見なくていいし他の誰の声も聞かなくていい。
その身が朽ちても…その身が朽ちてからもこのうでの中に…。
お前を奪いに来るものは誰であろうと許さない。

違う…!
私は自由なマクベスだって好きだし。
朽ちた身体などいらない。
その魂は永劫私のもので私だって永劫マクベスのものだ。

すまん、くだらん執着に捕われた。


マクベス・メインクーン
B
グラナトさん(f16720)と
わっ、と…【呪詛耐性】【破魔】で
とり憑かれるのは抵抗するぜ
グラナトさん、だいじょう……ぶ、わっ!
(腕の中に抱き寄せられ)
え、えーと、これは…
執着してるグラナトさん可愛いっ!!
じゃない、嬉しいけど!嬉しいんだけど…!!

グラナトさん、そんなに怖がらないでよ
オレはずっと永遠にグラナトさんのモノだから
たとえオレが死んだとしても
またオレのこと見つけてくれるんでしょ?
だから大丈夫…安心してよ

ふふっ、オレは嬉しかったけどなぁ
グラナトさんにたくさん執着されるの♪



 混沌が、降り注いだ。
 自分たちの近くにもそれが降って来たことを確認したグラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)とマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)は、互いに警戒態勢をとる。
 ふたりを発見した邪霊が、歪な嗤いで距離を詰めて――ああ、その黄色の顔が、精神を侵食しようと入り込んでくる。
「わっ、と……」
 魔を破る力を纏い警戒していたマクベスは、己の持つ耐性も相まって侵食をとどめることが出来た。
「グラナトさ――」
 そして隣りにいる大切な『赤』の様子を窺おうとした――が。
「っ……」
(「いかん、取り憑かれたかっ」)
 そう思った時にはもう遅かった。マクベスと同じように警戒をしていたグラナトだったが、その破魔の護りに針の先ほどの穴があったのか、精神が侵食されていくのが分かる。
 これではまずい、思考の奥深くでそう思うけれど。爆発的に増幅した感情が、理性という名のそれを塗りつぶしていった。

「マクベス?」

 嗚呼、心の中で膨れ上がるその感情は。

「そんなところに居ないでこちらに来てくれ」
「だいじょう……ぶ、わっ!?」

 グラナトは、自身の様子を窺おうとしている『青』を、その逞しい腕で強引に抱き寄せた。

「ずっと、私の腕の中に居てくれ」

 手の届く距離に居たというのに、その微々たる距離すら遙か遠くに思えて。
 自らの腕の中に閉じ込めておかねば、安心できない。

(「え、えーと、これは……」)
 強引に抱き寄せられ、その腕の中にすっぽりとおさまったマクベスは、現状を理解しようと頭を働かせる。
 けれどもそうしている間にも、グラナトは。

「私以外の誰も見なくていいし、他の誰の声も聞かなくていい」

 自身の厚い胸板に頬を寄せるように抱きしめたマクベスに、告げる。

「その身が朽ちても……その身が朽ちてからもこの腕の中に……」

 嗚呼、増幅させられたこの感情は『執着』だ。マクベスを誰にも渡したくないのはもちろん、外へ出るのも自分以外の者と接触するのも、声を聞くことすら許したくない。
 彼のすべてが、常に自分だけのものであればいい。
 彼のすべてを、自分だけで満たしたい。

「お前を奪いに来るものは、誰であろうと許さない――」

 これは愛ゆえのもの。けれども過ぎた執着は束縛へと繋がりゆく。
(「執着してるグラナトさん可愛いっ!!」)
 しかし強固にそのかいなに囚われているマクベスは、グラナトのその想いに不快感など微塵もいだいていなかった。
(「じゃない、嬉しいけど! 嬉しいんだけど……!!」)
 むしろそれは、彼の想いを裏付けしていると同義だと感じたものだから、嬉しさが溢れそうになる。
 けれども。
 マクベスは頭をもぞりと動かして、グラナトを見上げた。
 彼の腕の中――ああ、彼の匂いはとても安心できる。けれど。

「グラナトさん、そんなに怖がらないでよ」

 腕の中の青はグラナトの金をじぃ、と見つめる。

「オレはずっと永遠にグラナトさんのモノだから」

 不安げに揺らぐ金色を見つめて、マクベスは断言する。
 だってそれは、決して変わることのない事実なのだから。

「たとえオレが死んだとしても、またオレのこと見つけてくれるんでしょ?」

 だから大丈夫……安心してよ――ああ、真っ直ぐな青色とその言葉が、声が、グラナトの精神に満ちるソレを溶かしてゆく。
 膨れ上がった執着が、ゆっくりと、ゆっくりと浄化されていくよう。

「違う……違う……!」

 グラナトは激しくかぶりを振った。自らの精神(なか)を侵すそれを振り払うかのように。
 塗りつぶされてしまっていた想いを、救い出すかのように。

「私は自由なマクベスだって好きだし。朽ちた身体などいらない」

 ひとつひとつ確認するかのように紡いでいく。そうしていくと、徐々に思考がクリアになっていった。

「その魂は永劫私のもので、私だって永劫マクベスのものだ」

 それだけは、不変。
 マクベスは定命の者である。いずれそれがふたりを分かつだろう。けれどもふたりには、その誓いがある――。
 揺らぎの無くなった瞳で彼の青を見つめれば、彼が嬉しそうに笑んだものだから。
「すまん、くだらん執着に捕われた」
 少々バツが悪い。けれども。
「ふふっ、オレは嬉しかったけどなぁ。グラナトさんにたくさん執着されるの♪」
 陽の光を受けた金糸を揺らしたマクベスは、蕩けるような笑顔を見せた。
「今のは忘れてくれ――とは言わぬが」
 グラナトは、自らを侵した邪霊へと、鋭い視線を向ける。
「マクベス、行けるか?」
 そっと、彼を強く拘束していた腕を緩める。
「もちろんっ」
 その腕が解かれるのを少しばかり名残惜しく思うけれど、今優先すべきことはマクベスも十分わかっているから。
 取り出したのは『リンドブルム』。
 グラナトもまた、三百を超える炎の槍を、宙に喚び出して。

 もう、この混沌の思い通りにさせはしない――!!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘザー・デストリュクシオン
A2

何?これが敵?
敵なら壊す――?

ずるい。
この町の人たちは助けてもらえるの?どうして?わたしは助けてもらえなかったのに。
痛くて苦しくて気持ち悪くて悲しくて寂しくて。
愛されなくて。
ただ家族として愛されたかっただけなのに。
寂しい。さみしいさみしいさみしい。
あいして。

近くにいた男の人を押し倒して気持ちよくなろうとするけど、その人の顔を見て動きが止まるの。
…ちがう。あなたじゃないの。
好きな人が、好きだって言ってくれたの。
彼じゃないと、満足できないの。
だから、早く敵を壊して、ルトルファスくんのところに帰るの…!

敵をわたしの中から追い出して、押し倒しちゃった人にあやまるの。
ケガさせちゃったらUCで治すの。



 降り注いできたソレは、お世辞にも見目が良いとはいえないモノだった。
(「何? これが敵?」)
 ヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)は疑問を覚えたが、それは戸惑いではない。だって。
(「敵なら壊す――?」)
 そう、敵ならば、わけがわからなくても倒すのみ――のはずだった。
 けれども、ヘザーが地を蹴る前に、ソレとの距離を詰める前に、強く強く、大量に湧き上がってくるモノが彼女の動きを止めた。
 それはひとつの感情ではなかった。ぐちゃぐちゃに混ざりあった感情が、ヘザーの心中を、脳内を駆け巡る。

「――ずるい」

 自然と漏れた言葉。けれどもそれは、ヘザーが気が付かなかっただけで、心の何処かに住み着いていた小さな思い。

 この街の人たちは助けてもらえるの?
 どうして?
 わたしは助けてもらえなかったのに。

 頭ごなしに怒鳴られて。殴られて蹴られて。水をかけられて沈められそうになって。かと思えば放置されて。
 気まぐれなその人の意識が自分に向く時は、辛いことが起こる時だった。
 誰も、助けてはくれなかった。
 助けてと願っていたけれど、いつの頃からか願うのをやめた。だって、願うだけ無駄だから。

 痛くて苦しくて気持ち悪くて悲しくて寂しくて――愛されなくて。
 ただ、ただ、家族として愛されたかった……それだけなのに。
 どうして、どうして。
 寂しい。
 さみしいさみしいさみしいさみしいさみしいさみしい――!!

 嫉妬を起点としたヘザーの感情は、様々なものを内包して膨れ上がっていくばかり。
 なかば朦朧とした意識の中、ヘザーは近くの家から出てきた男性に目を留めた。
 男性は昨日指示された通りに家に籠もっていたのだろう。だが、窓の隙間からふらふらと足元のおぼつかない様子のヘザーを見て、心配で出てきたのだ。
 けれども今のヘザーには、そんなことわからない。どうでもいい。

「おねがい、あいして」

 縋るように呟いて跳んだヘザーは、男性に飛びかかってそのまま地面へと押し倒した。男性に馬乗りになってそのまま――。

「……ちがう」

 唇が触れそうな距離で男性の顔を見て、ヘザーは呟いた。

「……あなたじゃないの」

 そうだ。誰でもいいわけじゃない。
 脳裏に浮かぶのは、黒い瞳の彼の顔。

「好きな人が、好きだって言ってくれたの」

 そうだ、想いが通じたのだ。

「彼じゃないと、満足できないの」

 確かめるように、ひとつひとつ言葉にしてゆく。
 飢餓に近い寂しさと愛への渇望は、もう、誰にでも埋められるものではなくなったのだ。
 想いが通じた彼にしか、ヘザーのそれは埋められないのだ。
 嗚呼、嗚呼。彼の存在が、ヘザーの裡(なか)を無遠慮に侵食するモノを追い出してくれる。

「だから、早く敵を壊して、ルトルファスくんのところに帰るの……!」
 
 そう叫ぶと、朦朧としていた意識がはっきりとして。
 ヘザーは首元のアメジストへと触れる。エリカの花を埋め込んだ『ディースィーのアミュレット』は、ヘザーの力を引き出して覚醒させてくれるのだ。
 男性の上から素早く退いたヘザーは、一瞬で邪霊との距離を詰める。そして爪を振るい頑丈なブーツを履いた足で蹴りつけることで、目の前の邪霊を消し去った。

「あの……ごめんね。怪我、ない?」

 押し倒された衝撃と、その後のヘザーの行動にあっけにとられて動けない様子の男性に、手を差し出して謝罪する。

「君が無事なら良かったよ」
「うん、もう、大丈夫なの」

 起き上がった男性に「おうちのなかにいて、ね」と告げて、ヘザーは視線の先に見つけた別の邪霊の姿を追った。
 もう、大丈夫――。

成功 🔵​🔵​🔴​

アイグレー・ブルー
B
アドリブ:☆

向かうのは自警団の詰所。街の方も避難していると聞きますし、自警団の方も自分で街を護れないのもとても歯痒いでしょう。
人の感情は互いに通い合わせれば仲良くなれるはずなのに、それを無理矢理押し付けるように猛らせた事、許せないであります……!
わたくしも力なく護れなかった事がありました
鍛えていただいたこの槍、この街を護る為に奮うであります……!

得物を持った人は武器落としで力を削ぎ、出来るだけ怪我をさせぬよう気絶させます

正気の街の方はわたくしの【使用UC】で護るであります……!護るという意志がある限りこの殻は砕ける事はありません



 それは日が昇る少し前のこと。
 アイグレー・ブルー(星の煌めきを身に宿す・f20814)は、まだ薄暗い街中をある場所目指して駆けていた。その手に、金の柄を持つ槍――カルサイトに紫と赤紫のホタルブクロを宿した『宝石花』のグレイブ――『нечуплив ще』を握りしめて。
 彼女が向かってるのは、自警団の詰め所である。街の人々は殆どすでに避難している。それは、たとえ他の人々と比べて多少腕の立つ自警団とはいえ同じだ。けれども。
(「自警団の方々も、自分で街を護れないのがとてもとても歯痒いでしょう」)
 もしかしたら、彼らは外に出てきて戦おうとするかもしれない――自分の街を自分たちの手で護りたい、その気持ちはアイグレーにもわかる。たとえ朽ちかけた宇宙船で、相手が家事ロボットたちであったとしても、アイグレーとてその宇宙船の『住人たち』を護りたいと思っていたのだから。
(「人の感情は互いに通い合わせれば仲良くなれるはずなのに、それを無理矢理押し付けるように猛らせて傷つけ合わせたこと、許せないであります……!」)
 外の世界へと出て、ヒトと触れ合うことを知ったからこそ、エーデルシュタインの近隣の町や村を襲ったオブリビオンのやり方に怒りを覚えずにはいられない。
(「わたくしも、力なく護れなかった事がありました」)
 だからこそ――ぎゅっと強く柄を握りしめたその時。

 ヒュッ……!

「!?」
 アイグレーの目と鼻の先。建物と建物の間の横道から飛び出した影に、彼女は足を止めて武器を構える。しかし――。
「ええっ……!?」
 その人影はアイグレーへと僅かにすら視線を向けず――気づかなかったのだろう――彼女が向かっていたのと同じ方へと走っていってしまった。
「ちょ、ちょっと待つでありますっ!!」
 しかしその人物が駆けてゆくのを、見過ごすことなど出来なかった。
 だってその人影は、年の頃はアイグレーより少し若いくらいの少年で、そして鞘に入ったままの剣を持っていたからだ。
 アイグレーは足にサイキックを纏わせることで脚力を増し、一気にその少年へと追いつ――……。

「わぁぁぁっ!?」
「っ!!」

 それは日が昇り始めるのと同時。暁を映し始めた空から少年の前へと、降り注いだ。
 少年は『それ』の異形に驚きと怯えの混じった声を上げた。だがそれに伴い足も止まっている。
 だから。

「させないでありますっ!!」

 少年に追いつくとすぐ、アイグレーは彼を庇うように前へと出て。『нечуплив ще』を『それ』――忌々しい邪霊へと振り下ろした。
 同時に発動させた力で、星雲を宿した髪を広げる。その髪は、彼女の後方で足を止めた少年を包み込む殻となり――アイグレーの意思が砕けぬ限り、少年を守るのだ。

「護るという意志がある限り、この殻は砕ける事はありません!」

 ああ、忌々しい顔で嗤う邪霊が、アイグレーの心の隙間を狙ってくる。けれども邪霊ごときが入り込むような心の隙を、彼女は持ち合わせてはいない。
 初めての武器にしてこれから共に歩んでゆく相棒は、ここ数日日課にしていた鍛錬の成果も相まって、アイグレーの手にもう馴染んでいる。
 振って、斬りつけて、突いて――少年を護るという強い思いが、今のアイグレーの原動力だ。

 * * *

 邪霊を1体屠ってのち、アイグレーは少年と言葉をかわし、そして彼の自宅まで付き添って歩いていた。
 ユーベルハルトと名乗ったその少年は、自警団の副団長の息子だという。副団長である親が自警団に詰めているのだから、自分も力になりたいと家を飛び出したのだ。
 けれどもいくら日夜剣の鍛錬に励んでいたとしても、彼はまだ若(おさな)く、そして今回の敵は通常のモンスターなどとは一線を画すオブリビオンだ。自警団に所属する大人たちでも、歯が立つかどうかすら怪しい。
 彼を説得して家まで送ったアイグレーは、しっかり鍵を締めるようにと伝え、そして。

「わたくしは自警団の詰め所へと向かう途中でした。ですからお約束いたしましょう」

 ぴんっと背筋を伸ばす。

「ユーベルハルト殿の分も、彼らの力になってみせるであります!」

 胸に手を当てて宣誓した彼女の様子に少年が嬉しそうに頷いたから――扉に鍵がかけられたことを確認し、アイグレーは走り出した。

 * * *

 誰かが戦っている音が聞こえる。
 邪霊たちの、耳障りな唸り声が聞こえる。
 自警団の詰め所までは目と鼻の先だ――しかしアイグレーの視界は、詰め所に向かおうとする多くの邪霊たちで満ちている。
 ぎゅっ……『нечуплив ще』の柄を今一度強く握りしめたアイグレーは、邪霊たちに気づかれるより先に彼我の距離を詰めた。

「鍛えていただいたこの槍、この街を護る為に奮うであります……!」

 相棒の力を借りて邪霊を背後から斬り伏せてゆく。長い柄と大きな刃を武器に視界を開いたアイグレー。
 そこでは、工房で見かけた同い年くらいの黒髪の猟兵と、レイピアを手にした冒険者風の女性が詰め所を狙う邪霊たちと相対していた。

「わたくしにも、護らせてほしいであります!」

 告げて彼女たちとの距離を詰めたアイグレーは、ふたりの死角をカバーするように位置取って、邪霊たちへと視線を向けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹
A3
アドリブ連携OK

あーあれか。前に遭遇した時は…うんまぁいいや。
今は。今はあの時以上にいろんなものを知ったから。
知ったからこそ怒りは長続きしない物だと知ったし、それ以外もねじ伏せ殺す。
悲しさだけはそうもいかないけれど、これは俺自身の根源にかかわる事だから。
罪悪感だけは。
だって死出の共をすると思ってたのにここにいるから。

だから俺は誰かの為に動く。いつか誰かの礎となる。願わくば俺一人の…で世界を救えるほどに強くなりたいと、釣り合うほどになりたいと願う。
だからこそここで立ち止まれない。

UC月華で真の姿になり、刀となった本体で切り開く。
あの時見えたように、草薙ぐ剣を欠片でも模せたなら、できるはず。



 夜明けとともに降り注ぐ、流星と呼ぶには禍々しすぎるそれらに、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は見覚えがあった。
 それらは街全体へと行き渡るように、広範囲に多数降り注いで――瑞樹の立つ裏路地にも降り注ぐ。

(「あー、あれか。数が多いが……」)

 この街に集った猟兵たちも多い。獲物を探すその邪霊たちは、住人の姿が見えなければ街のいたる所に散った猟兵たちへと、自然と吸い寄せられていくだろう。

(「前に遭遇した時は……うん、まぁいいや」)

 以前に邪霊と出会った時のことを思い出そうとして、瑞樹は記憶を手繰る手を止める。手を伸ばせばすぐにその記憶には触れられて、頭の中で映像や言語として展開することも可能だろう。
 けれども彼はそれをしない。
 だって、それは、今――不要だから。
 もっと時を経た後に、『あんなこともあったな』と思い出すのはよいだろう。
 けれどもそれは、『今』ではない。

(「今は。今は、あの時以上にいろんなものを知ったから」)

 だからこそ、あのと時と同じ状況には成りえないと、瑞樹は知っている。
 体験を通して知ったソレから、瑞樹は学んだのだ。

(「怒りは長続きしない物だと知ったし――それ以外もねじ伏せ殺す」)

 蒼穹のようでいて、凪の海のようでもあるその青い瞳で、鋭く邪霊を睨めつける。
 ぐわん……視界が揺れた。
 急激に胸中に広がりゆくのは、苦いモノ。鉛を飲み込んだかのようにそれは圧迫感と重量感をもって瑞樹の胸に宿り、鉄を噛むような響きを広げていく。
 ソレをあえて言葉にするならば――悲哀、だろうか。

「っ……」

 視線の先、邪霊の青い顔が嗤ったのを見て、瑞樹は思わず胸元を押さえた。けれども、視線だけは外さない。
 その感情に飲まれずに、彼は邪霊を見据える。
 彼はその感情を、跳ね除けようとはしない。
 乗り越えようともしない。
 そして――飲まれることもない。
 だって、彼は。

(「悲しさだけは――……これは俺自身の根源にかかわる事だから」)

 その感情……悲しさや罪悪感と寄り添って歩んでいくことを、心に決めているのだから。

(「だって」)

 ああ、視線の先の邪霊が呼んだのか、瑞樹を見つめる青い顔の邪霊の数が増えていく。

(「死出の供をすると思っていたのに、ここにいるから――」)

 嗚呼、嗚呼――……いつの間にか胸元に当てた手は、服を強く強く握りしめていた。
 主とともに死出の旅路を往くはずだった自分が、なぜこうして人の身を得たのか。
 なぜ、あのまま共に往かせて貰えなかったのか。
 自分は、何の為に――?

(「そんな懊悩、とっくの昔に済ませた!」)

 今、同じことで悩むことはまったくない、と言ったら嘘になる。
 けれども瑞樹の心のなかではその答えともいうべき目指すべき場所が、決まっているから。

「だから俺は、誰かの為に動く。いつか誰かの礎となる」

 じわりじわりと距離を詰めてくる邪霊たちを見据えたまま、瑞樹は己の本体である黒刃のナイフ『黒鵺』の柄を握りしめる。

(「願わくば俺一人の……で世界を救えるほどに強くなりたいと、釣り合うほどになりたいと願う」)

「だからこそ、ここで立ち止まれない」

 はっきりと口にしたその言葉を合図に、瑞樹は姿を変える。 
 和の色の濃い衣装に金の瞳、そして切っ先が両刃作りの刀へと変わった己の本体。
 その姿のまま瑞樹は、邪霊たちへと背を向けた。逃げるつもりなど毛頭もないが、邪霊たちがそう誤解して追いかけてきてくれれば重畳。
 裏路地を身軽に駆け抜けて――けれども邪霊たちを振り切ってしまわない速度で――徐々に狭い道へと走り込む。
 そう、これは、『逃亡』ではなく『誘導』だ。
 今日の日に至るまでに、この街の道をすべて歩いてみた瑞樹の頭の中には、この街の地図が広がっている。そして普段は荷物が置かれているような、人ひとり通るのがやっとな路地裏を抜けた先には。

(「あの時見えたように、草薙ぐ剣を欠片でも模せたなら、できるはず」)

 細い路地から瑞樹が飛び出したのは、普段は子どもたちが遊んでいる公園のような広場。もちろん、今は瑞樹の他に誰もいない。
 路地の出口から数メートル離れたところで立ち止まった瑞樹は、身を翻し。

(「鉛を飲み込んだよう? 鉄を噛んだよう? 話にならないな」)

「生憎、こっちは百年(ももとせ)超えて刃やってるんでな」

 地を蹴った。
 向かう先は、先程己が飛び出した細い路地。
 己の本体で斬り伏せるは、細い路地で一列になっている邪霊たち。

『ヴヴヴア゛ア゛ア゛……!?』

 瑞樹が路地を逆走するごとに、その黒き刃で邪霊たちがすっぱりと斬り落とされ、醜い声を上げて消えていく。
 けれども瑞樹は消えていく邪霊たちを振り返らない。
 ただただ真っ直ぐに、路地を駆けてゆく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・侑士
【桃栗】
B


少しモヤッとする
邪霊の影響か
大丈夫だ
深青
影響を受ける程じゃない(武器を握り)

咎力封じで前衛の深青を援護して邪霊を仕留めていく
作った武器もよく馴染んで
問題なく街を守れそうだ
?!
街中に邪霊の影響を受けた少年を見つけギョッとする
住民は避難した筈じゃ…
よく見ると見覚えのある顔だった
滞在してる猟兵達にやたら絡んでたのを見た
大方、自らも武勇を〜と好奇心に駆り立てられて外に出たんだろう
やれやれ
傷付けずに抑えるぞ

武器を使わず背後に回り込み
抑え込む
大丈夫だ
しっかりしろ
これが大の男だったらぶん殴って正気に戻すところだが
子供が相手じゃそうはいかない

無事に正気へ戻したら安全な場所へ連れて行き
再度邪霊退治へ


壱季・深青
【桃栗】B◎
俺はメンタル…ちょー強い子だから…問題ないけど…パパさん、平気かな?
そっか…今はソヨゴがあるから…大丈夫、だね
もし…ダメだったら…ツッコミ(物理)入れようかと思ってたけど…安心した

あ、ホントだ…子供がいる…なんで?
あぁ…そういうこと、か
パパさんの説明に納得して…一度武器をしまう
傷つけるわけには…いかないから、ね
本物の猟兵…なりたかったら…自分に、勝ってごらん
キミなら…できる…頑張れ…負けるな

子供を抑えられたら…敵をぶっ飛ばしちゃおう
黒曜の導【猩々緋】で…・攻撃力…マシマシ
いくぞ…鋼のメンタル…壱季深青の、攻撃
パパさんの動き…毎回…視界に入れながら動く
(「…」「、」は適当で可)



 夜明けとともにそれらが降り注ぐ光景を、心底忌々しいと思った。

「……、……」
「……パパさん?」

 それら――邪霊が近くに墜ちた気配がする。その気配と同時に、まるで心臓を撫でられたかのような不快感が城島・侑士(怪談文士・f18993)を覆い尽くそうとした。
(「……少しモヤッとする。邪霊の影響か」)
 けれどもそれは侑士を覆い尽くすことは叶わず、彼の意志と彼の手の中の『護り』によって消されていく。

「大丈夫だ、深青」

 隣に立つ、娘と同じ年頃の少年、壱季・深青(無気力な道化モノ・f01300)の声に応え、侑士は『ユービック』を握り直した。

「影響を受ける程じゃない」
「そっか……今はソヨゴがあるから……大丈夫、だね」

 もしダメだったらツッコミ(物理)入れようと思っていたという彼に、小さく笑みを返す侑士。
 そう、深青の言う通り、今の侑士の手には彼を助け護りの力を与えてくれる『花』が宿っているから。
 ソヨゴ――フクラシバの花の宿るこの宝石花の連弩がなければ、侑士は邪霊の影響を受けていたかもしれない。それほどまでにこの弩は、彼にとっては大切で特別で、効果絶大なのである。

「深青は、聞くまでもないな」
「俺メンタル……ちょー強い子だから……問題ない、よ」
「じゃ、行くか」
「ん」

 視線を合わせたのは一瞬。
 それを合図として、深青が地を蹴る。その手に漆黒の『黒曜羅刹』を握り、こちらへ向かってこようとしている複数の邪霊たちの中へ身を躍らせる。
 深青が狙いを変えつつ複数の邪霊へと刃を振るえるのは、後方に侑士がいるからだ。彼を、信頼しているからだ。
 事実、侑士は深青を援護し、彼が戦いやすいようにと攻撃を放っている。年季の違い、と一言で言ってしまえばそれまでではあるが、若い頃に積み重ねた確かな戦闘経験が侑士の力になっているのは事実だ。
 若い頃の侑士は、深青のように前線を張っていた。否、彼のように誰かと共に戦うことなど……誰かの援護を計算に入れて戦ってなどいなかった。
 すべてひとりで屠ってみせる――ひとりで、独りですべてやってのけるつもりだった。
 そんな経験があるからこそ、侑士の矢は的確に、深青が全力を出しやすくなるように射られていた。

 * * *

 ふたりは住宅街を、邪霊を屠りつつ進んでいた。このあたりにの住人たちは、別の場所に避難しているか、鎧戸を閉めた家に籠もっているはずだ。
(「ああ――この武器も手によく馴染んで……これならば問題なく、街を守れ……」)

「!? 深青! 10時の方向!」
「あ」

 後方から、深青と邪霊たちだけではなく広い視野で戦場を見ていた侑士は、ギョッとすると同時に反射的に叫んだ。その声に反応した深青が、目の前の邪霊へと剣を突き刺して屠りながらそちらへと視線を向け、小さく声を上げた。

「住民は避難しているはずじゃ……」
「ホントだ……子どもがいる……なんで?」

 相手にしていた邪霊たちを屠った深青の視線の先には、少年がひとり。
 少年の後方、離れた位置にいやらしく嗤う邪霊達がいる。
 ふらり、ふらり、ふらり……ふたりへと近づいてくる少年の手には、一振りの剣。
 銘も逸話もない古ぼけた剣ではあるが、その柄を握る少年の手の部分が赤く染まっていることから、この少年が剣を握り始めて日が浅いことが知れた。
(「手の皮が剥けて、血が……」)
 少年の手元と、その顔を交互に見やる侑士。ギラギラと欲望に満ちたその瞳の持ち主に、見覚えがある。
 まだ、十(とお)に満たぬ年頃のその少年は、滞在している猟兵たちにしつこいくらいに絡んでいたのだ。

『冒険者達がたくさんだ! みんな街を守ってくれるんだよね!』
『ねぇねぇ、どうしたら強くなれるの?』
『僕も一緒に戦いたい!』
『僕だって、剣くらいっ……』

 けれどもその瞳に宿る光は、猟兵たちへの羨望で満ちたキラキラとした純粋なものだったはずだ。
 それが、ああなってしまったのは……残念ながら想像に難くない。

「大方、自らも武勇を~と、好奇心に駆り立てられて外に出たんだろう」
「あぁ……そういうこと、か」

 猟兵に――冒険者に憧れるのは悪いことではない。
 手の皮が剥けて血が出るほどに、剣を振ったのだろう。
 けれども力も技術も、誰もが一朝一夕で得られるものではなく。

「ねぇ……僕だって、戦えるよ? 剣、使えるよ? 認めてくれるよねぇ?」

 嗚呼、あの子の瞳はこんなに欲望で曇ってはいなかった。もっともっと純粋で綺麗なもので満ちていた。
 手の皮が剥けてもまだ、剣を振るうことを諦めなかったのだろう。
 一足飛びで即戦力にはなれないが、その痛みに怯まない心があれば、いつかたどり着くことはできるはずだ。
 幼い彼はまだ、可能性の塊だ。
 だからこそ。

「やれやれ。傷つけずに抑えるぞ」
「ん……」

 侑士の言葉に頷いて、深青は武器をしまう。傷つけるわけにはいかないから。
 今度は侑士が先に動いた。こちらへと向かってくる少年との距離を詰めたかと思えば、ダンスのステップを踏むように身を翻らせてその背後へと回り込む。

「っ……!?」

 そして少年の腕を背中側に捻り上げると、彼の手から剣が滑り落ちた。

「大丈夫だ、しっかりしろ!」

 これが大人の男だったらぶん殴って正気に戻すところであるが、さすがに小さな子ども相手ではそうはいかない。

「ねぇ、君……」

 両腕を捻り上げられてもがく少年と視線の高さを合わせるように、深青はしゃがんで。彼の瞳を見つめて語りかける。

「本物の猟兵……なりたかったら……自分に、勝ってごらん」
「離せ、離せ離せ離せ離せ離せ……!」
「キミなら……できる……」

 まるでイヤイヤをするように頭を振りながら、拘束から逃れようとする少年。
 その少年の顔を見上げるように覗き込んでいる深青の頬に、雫が降り注いだ。
 深青は諦めない。瞳を、逸らさない。だってこの子は、こんな綺麗な泪を流せるんだから――……。

「……頑張れ……負けるな」

「離せ離せ嫌だ怖い離せ離せ僕は僕は離せ離せ」

「努力し続ける力があるなら、これからいくらでも強くなれる」
「うん……応援するから」

 邪霊の影響で欲望が全面に出ているからといっても、相手は一般人の子どもだ。暴れられても侑士の拘束はびくともしないし、しゃがんで顔を覗き込んでいる深青に少年が危害を加えるすべはない。

「離せ離せ離せいつか」

 拘束から逃れようと暴れている合間に見えた、少年の気持ち。

「つよく……なるからっ!!」

 侑士と深青の言葉、そして態度が少年の心の奥へと響いたのだろう。そう叫んだ彼は、意識を失ったのか、全身から力が抜けて。

「深青、少しの間頼むぞ」
「任せ、て」

 素早く少年の体を抱き上げた侑士は、深青に告げて走り出した。視線を感じたのは、そう遠くない家の高窓。一部始終を見ていたのならば、少年を受け入れてもらえるだろう。

「さて……これは、あの子に……返さないと、いけない、から」

 少年の落とした剣を拾い上げた深青は、反対の手で再び『黒曜羅刹』を握りしめる。
 手駒にしていた少年が正気に戻ったことに気がついたのだろう。遠目にこちらを見ていた邪霊たちが、距離を詰めてきていた。

 ――我が身纏いし烏羽は、黒曜の導にて彩を放つ……。

 猩々緋で強化された深青の刃は、鋭さを増して。

「いくぞ……鋼のメンタル……壱季深青の、攻撃」

 はたから見れば抑揚と覇気の感じられぬ宣言であるかもしれぬが、深青の中の情熱は燃えている。
(「パパさんが、戻るまで……」)
 邪霊たちの中へと切り込んだ深青が再びアイアゲートの矢の援護を受けるまで、そう時間はかからない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
A3

絶望と恐怖……わたくしの家族と領民を惨殺し、故郷を焼いたあの吸血鬼

「これは君が招いた結果なんだよ」
「オレ以外の愚民の幸せを願ったから」
「オレを崇めろ。オレに服従しろ。オレだけに愛を捧げろ」

あの男の声と歪んだ冷笑で、邪霊はわたくしを責め立てる

懐に忍ばせた『浄罪の懐剣』が熱を帯びる
これがわたくしへの罰ならば……今こそ僕はその罪を贖おう
【白鳥の騎士】として、全身全霊かけて人々を守ろう

最愛の伴侶を得た。仲間との出会いがあった
絶望と狂気に耐える術も、立ち向かう勇気と覚悟も得た
僕はもう逃げない。「平和への願い」は捨てない
聖奏剣「ローエングリン」よ煌け
破魔の全力魔法を宿し、限界を超えて悪意を打ち砕け…!



 夜が明けると同時に降り注いだそれは、よく知った、そして忘れられない――忘れてはならないもので心を満たしてきた。

『これは、君が招いた結果なんだよ』

 この街に降り注いだ何かが自分の近くに墜ちたことを、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は認識したはずだった。
 一瞬見えたそれは、蒼い顔をしていた気がする。けれど。

『オレ以外の愚民の幸せを願ったから』

 この、声は。
 この、歪んだ冷笑は。

「っ……」

 ヘルガの目の前にいるのは、この世界にはいるはずのない男。
 頭ではそう分かっているはずなのに、全身が震える。声すら出ない。歯の根が合わず、男から視線を外すことすらできない。
 嗚呼、これは、かつて体験した絶望と恐怖。それが再び、ヘルガを襲っている。

『オレを崇めろ』

 その高圧的な物言いの男は、吸血鬼。ヘルガを絶望の底へと叩き落とした存在。

『オレに服従しろ』

 この男はヘルガの家族と領民を、『ヘ ル ガ に 見 せ つ け る た め』に惨殺した。
 それだけでは飽き足らず、生者のいなくなったヘルガの故郷を、領民の躯ごと焼き尽くしたのだ。

『オレだけに愛を捧げろ』

 天使の歌声を持つ歌姫として大切に育てられたヘルガに、この吸血鬼がどれほど本気だったのかはわからない。男にとってはただの暇つぶしでしかなかったのかもしれない。
 けれどもヘルガにとっては。
 今、尚、震えが止まらぬほど、目に見えぬ傷となっているのだ。

(「わたくしが……わたくしのせいで……」)

 その声が、歪んだ冷笑が、ヘルガを責め立てる。
 家族の死も、領民の死も、故郷が焼けたのも、すべて彼女のせいであると。

「ぁ……、……ぁ……」

 漏れいでるのは、小さな呻き。
 嗚呼、言葉が紡げたとて、如何なる言葉を紡げばいいのか。
 わからない、わからない。
 絶望が、恐怖が、ヘルガの頭の先から爪先まで塗りつぶしてゆく――けれど。

「っ……!?」

 そう、この男の言葉は、過去のヘルガにかけられたものだ。
 あの時と今のヘルガは、違う。
 懐に忍ばせていた『浄罪の懐剣』が帯びた熱に、ヘルガ自身がそれに気付かされて。

「……これが……」

 震えが収束してゆく。『音』が『言葉』になる。

「……これがわたくしへの罰ならば……」

 水晶に沙羅双樹を宿したその懐剣は、すべての人の罪を贖うために聖別されたもの。『すべての人』にはもちろん、ヘルガも含まれるのだ。
 熱が全身へと広がるのに合わせて、ヘルガの姿が変化してゆく。
 ドレスを纏った儚げな乙女から、騎士礼装を纏った凛々しい麗人へ。

「……今こそ僕は、その罪を贖おう」

 手にしたのは『聖奏剣「ローエングリン」』。天使の翼を持つ男装の王子は、強い意志を乗せた瞳で男を見据えた。

「『白鳥の騎士』として、全身全霊をかけて人々を守ろう!」

 さわり、と風が頬を撫でてゆく。風に撫でられた男の姿がかき消えて、そこに残されたのは忌々しい顔で嗤う邪霊。

 あの時とは違う。
 最愛の伴侶を得たのだ。
 仲間たちとの出会いがあったのだ。
 絶望と狂気に耐えるすべも、立ち向かう勇気と覚悟も得たのだ。
 もう、あの男の姿は見えない。
 もう、あの男の声は聞こえない。
 惑わされなど、しない。

 今の自分が、今の幸せが、かつての絶望と悲劇の上に成り立っていることも承知している。
 あの悲劇がなければ、最愛の伴侶である彼と出会うことはなかったかもしれない。
 嫁ぐ以外で領地から出ることなど、なかったかもしれない。
 けれどももう戻れないからこそ、なかったことにできないからこそ。
 この幸せが、多くの犠牲の上に成り立っているものだからこそ――。

「僕はもう逃げない。『平和への願い』は捨てない」

 凛と言い放ち、剣を構える。
 邪霊が動くよりも、早く――。

「『聖奏剣「ローエングリン」』よ煌け。破魔の力を帯びた全魔力を宿し、限界を超えて悪意を打ち砕け……!」

 その声に呼応するように、聖なる光が『魔』を浄化すべく、剣を中心として広がっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
A1

自分の勝手な矜恃で人を無差別に殺すなんてふざけた奴だ。こんな自分勝手な奴はむかつくね。許さない、許さない、許さない・・・(強い怒りと憎しみの衝動に飲み込まれ、槍の赤熱具合が強くなる)

何かうざったい黒いもやもやした奴を力任せに【二回攻撃】【串刺し】【範囲攻撃】で竜牙で薙ぎ払うよ。こんな状態では回避はしないと思うね。

ヒートアップしすぎてふと後ろに駆けつけて来た子供達の声を背に受けてハッと我に返るよ。ごめん、アタシは大丈夫だ。まだ戦闘は続いているね?手伝いにいくよ!!(3人で戦線に駆け込んでいく)


真宮・奏
A3

この群れは・・・街の皆さんの命が掛かってます。(髪飾りに手を触れて)何とか食い止めないとっ・・・

トリニティエンハンスで防御力を上げて、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で敵の攻撃を防いで・・・(まともに攻撃を喰らって)あ・・・私はこの黒い不気味な敵を防ぎきれるでしょうか・・・怖い、怖い、怖い・・・・(瞬に腕を掴まれて声を掛けられる)瞬にいさんっ!!(瞬の腕に飛び込んで落ち着いて)はい、大丈夫ですっ!!(【属性攻撃】【二回攻撃】【衝撃波】で敵を蹴散らして)奏母さんが前線に立ってるようなので加勢しにいきましょう!!


神城・瞬
B

街の人が危ない事はもちろんですが、この負の塊のような黒い影は・・・飛び出して行った母さんももちろん心配ですが、何より奏が心配です。純粋なあの子は何かと感じやすい。負の感情に染まりきる危険性が。急いで奏を追いかけます。

奏に追いついたら、思った通り、敵の群れの前で顔面蒼白になって震えて立ち尽くしている奏が。腕を掴んで、名前を呼びます。腕に飛び込んできた奏の頭を撫でて、安心させ、【全力魔法】【高速詠唱】【二回攻撃】で氷晶の矢を撃ち、相手を殲滅。母さんが心配です、すぐ加勢に行きましょう!!駆けつけたらすぐ母さんに声を全力で掛けます。



 夜が明け始めると同時に降り注いだそれらは、酷く禍々しかった。

「この、負の塊のような黒い影は……」

 神城・瞬(清光の月・f06558)が邪霊たちを認識した時、すでに真宮・響(赫灼の炎・f00434)は、邪霊のひときわ多く墜ちた場所へと向かっていた。
 瞬や真宮・奏(絢爛の星・f03210)のいる場所に墜ちた邪霊もそう多くないとはいえ、複数。
(「街の人の安全も、飛び出していった母さんももちろん心配ですが」)
 離れた位置で、自身の防御力を底上げして邪霊たちの攻撃を防いでいる奏へと、瞬は視線を向ける。
(「何より奏が心配です。あの子は何かと感じやすい」)
 負の感情に染まりきってしまう危険性を感じて、瞬は『月虹の杖』を片手に彼女の元へと駆け出した。

 * * *

(「街の皆さんの命が掛かってます……」)
 複数の邪霊が、奏へと舐めるような視線を向けながら近づいてくる。
(「この群れを……何とか食い止めないとっ……」)
 奏は菫色の小さな石を連ねた髪飾りへと手を触れて、自身を奮い立たせた。
 防御力を底上げした上で、オーラの力や武器防具の力、これまでの経験をフルに発揮して邪霊たちの攻撃を凌いでいく。
 けれども。

「きゃぁっ!?」

 まともに食らってしまったその一撃が、奏の心の均衡を崩した。
(「あ……私はこの黒い不気味な敵を、防ぎきれるでしょうか……」)
 それまで果敢に応戦していたはずなのに、途端に目の前の敵が大きく見えて。
(「……怖い、怖い、怖い……」)
 動けない。敵は今にも奏を、押しつぶしてしまいそうなのに――……。

「奏!」

 瞬が彼女の元にたどり着いた時、奏は瞬の想像通り、顔面蒼白で震えたまま立ち尽くしていた。彼女の腕を強く掴み、瞬はその名を呼ぶ。

「っ……! 瞬にいさんっ!!」

 ブワッ……瞬の声が、奏を覆い尽くそうとしていた恐怖を吹き飛ばし、腕の掴まれた部分から、奏を護るオーラが広がってゆく気がした。
 腕を引かれた力に逆らわずに、むしろ自分から瞬の腕の中へと飛び込んで。奏はそのぬくもりと存在を確かめる。

「大丈夫ですよ」

 彼女を抱きとめた瞬は、安心させるようにその頭を撫でて落ち着かせて。
 ふたりがそうしている間にも迫ってくる邪霊たちは、瞬によって高速で放たれた大量の氷晶の矢に貫かれ、すべて霧散していった。

「母さんが心配です、すぐ加勢に行きましょう!!」
「はいっ。母さんは前線に立っているようです!」

 ふたりは連れ立って、母のいる前線へと駆けてゆく。

 * * *

「自分の勝手な矜恃で人を無差別に殺すなんて、ふざけた奴だ」

 ひときわ多く邪霊の墜ちたその場所に、響はいた。

「こんな自分勝手な奴はむかつくね」

 彼女の手にした『ブレイズランス』の赤熱具合がとても強くなっていることに、彼女は気がついているのだろうか。

「許さない、許さない、許さない……」

 強い怒りと憎しみの衝動に飲み込まれている響は、手近な邪霊へと槍を突き立てていく。
 衝動のままに、力任せに。
 己が邪霊に影響されていることに、気がついていないのだろう。

 ――この一撃は竜の牙の如く!! 喰らいな!!

 何かうざったい、黒いもやもやした奴――邪霊を一気に薙ぎ払う一方、自身の身に降りかかる攻撃には全く頓着していない様子。
 衝撃も痛みも、すべて怒りと憎しみに塗りつぶされているのだ。

「母さんっ!!」
「母さん!」

 血を流しながら、鬼神の如き動きを見せる母を見つけた奏と瞬は、迷うことなく声を上げた。あの様子は、あんな戦い方は母らしくないと、彼女の元で育ったふたりは知っているから。

「!? っ……」

 頭に響いたふたつの声が、響を塗りつぶしていた感情を押し出してゆく。同時に痛みを感じたことで、自身が防御や回避を疎かにしてただ力任せに戦っていたのだと気がついた。

「大丈夫ですか?」
「無茶しすぎです!!」

 駆けつけてきたふたりに声をかけられて、響はバツが悪そうに口元を緩める。

「ごめん、ヒートアップしすぎたみたいだ。アタシは大丈夫だよ」

 大切な娘と息子の声だ。自身を塗りつぶしていた衝動を、吹き飛ばしてしまえるほどに。

「まだ戦闘は続いているね? 手伝いに行くよ!!」
「はい!」
「行きましょう!!」

 今度はひとりではなく、家族と一緒に。
 共に行くなら絶対に、心の隙間につけ込まれることはないと確信できるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音海・心結
ジニア・ドグダラ(f01191)と参加なのです
 
ジニアがゆくなら、もちろんみゆも
一人でなんかゆかせないのですよっ!
誰一人として、傷つかせないのです

ほんっとに頼りになりますねぇ
みゆは……動物さんを探しましょうか
【動物と話す】で何か情報になるものがないか聞くのです
『あのっ、教えてもらいたいことがあるのですっ!』

報告を受けたら、みゆの出番ですねぇ
任せるのです
任せるがよいのですっ!
『みゆが相手になるのですよ』

UC「地の果てまで」発動
みゆは流血を代償に超強化なのです
これでみゆを止められる人はいませんねぇ
その後はダガー片手に切りまくるのです
『ただの子供と舐めてもらっては困るのですよ』


ジニア・ドグダラ
B
音海・心結さん(ID:f04636)と一緒に

さて、邪霊、ですか。町の人も巻き込むならば、容赦はしない、です。

あの手の霊は、少数や弱者を確実に甚振るものが、確実にいます。
ですので、武器を持ち戦う勇敢な街の方の元へ、向かいます。

しかし、ただ行くだけでは道中で姿を隠した霊を、見落としがあるかもしれません。
なので、死霊の『目』を借りると、します。

奇霊を招集、己の精神と接続させて先行。邪霊が発生させる呪詛を追跡させ、居場所や憑依者を突き止めます。
その場所を音海さんに報告しながら、私自身は「マグメル」に破魔の効果を詠唱し、邪霊に投擲。
倒せずとも行動抑制はできる、でしょう。その隙を音海さん、お願いします。


ココ・ルーフェンメーレ
【B】

さて、せっかく武器も作ってもらったもの
猟兵としてのお仕事は、ちゃんとやらなきゃね

…今のわたしにできることといえば…
外に出てしまったり、外を覗きたがって邪霊に見つかる人たちを、邪霊に狙われないようにする
UCを使って彼らを抱きしめて、姿を見えなくする。そしたら、見失ってくれるかも
音や体温なんかは、近くで起こってる他の猟兵たちの戦闘で、カモフラージュできるんじゃないかしら

もっと一度に沢山助けられたら良かったのだけど

…見失った後は、街の人に戻ってもらわないと
邪霊自体の処理は、他の猟兵に任せてしまうことになるけれど…もちろん、ワタシを狙ってくるのであれば、街の人をかばいながら迎撃するしかないわね



 嫌な気配を感じて空を見上げたら、それが隕石のように街中に降り注いだ。

「邪霊、ですか」
「邪霊です?」
「ええ。あの手の霊は、少数や弱者を確実に甚振るものが、確実にいます」

 ジニア・ドグダラ(白光の眠りを守る者・f01191)の呟きに首を傾げた音海・心結(ゆるりふわふわ・f04636)の問いに、ジニアは丁寧に答える。

「武器を持ち戦おうとする街の方が被害に遭うかもしれません」

 邪霊が墜ちた方角へと向かいながら、被害に遭った人がいないか探すというジニア。

「町の人も巻き込むならば、容赦はしない、です」
「ジニアがゆくなら、もちろんみゆも。一人でなんかゆかせないのですよっ!」

 ジニアの手を取って可愛らしく笑んだ心結。

「誰一人として、傷つかせないのです」

 その言葉に頷き返し、ジニアはが指し示した方向へとふたりで歩き始める。

「道中、姿を隠した邪霊を見落とすわけにはいきません」

 そう告げてジニアが召喚したのは、黒い霧状の死霊。ジニアと五感を共有するその死霊の『目』を借りるのだ。
 己の体を霧散させることのできるこの死霊ならば、邪霊に発見され難いだろう。ジニアは己の精神と接続させた死霊を先行させる。
 死霊に追跡を命じたのは、邪霊が発生させる呪詛。そこに在るだけで呪詛を発生させているような邪霊だ。邪霊本体はもちろんのこと、感情を揺さぶられて我を失った者を見つけることができるだろう。

「ほんっとに頼りになりますねぇ」

 死霊からの情報を受けたジニアは、逐一それを心結と共有してくれる。
 不意が打てる時は心結が接近して宝石花のダガーを振るい、距離がある時はジニアが、破魔の力を込めた『マグメル』を投擲して心結が接近する余裕を作った。

 * * *

(「さて、せっかく武器も作ってもらったもの。猟兵としてのお仕事は、ちゃんとやらなきゃね」)

 空から降り注ぐ邪霊達を見て、ココ・ルーフェンメーレ(宝石の魔法使い・f17126)は『セラス・テラス』を握りしめる。
 けれども。

(「……今のわたしにできることといえば……」)

 そう考えた時、残念ながらパッと浮かぶものがないのも事実だ。
 それはココの実戦経験の少なさも一つの要因ではあるが、一部の住人たちの動きが読めないのも影響している。
 彼女が深く思案の海に沈んでいたその時。

「カミル! どこ? カミル!?」
「?」

 聞こえてきたのは、幼い少女の声と小さな足音。同時にココが感じ取ったのは、近づいてくる嫌な気配。

「っ……!」

 普段はあまり慌てたり走ったりすることの少ないのんびりやのココだが、さすがに今、のんびりしている場合でないことはわかる。
 弾かれたように声のした方向へと走り出し、そして。

「しっ……少しの間だけ、静かにしてて」
「んっ……」

 見つけた、自分よりやや年下くらいの少女の体を抱きしめる。同時に発動させたその力によって、ココと少女の姿が街並みから消えた。

(「音や体温は消せないけれど……誰かが近くで戦ってるわ。戦闘音がカモフラージュになってくれれば……」)

 口を手で抑えられた少女は、ジタバタと暴れるけれど。ココが耳元で『近くの戦闘が終わるまで我慢して』と囁くと、流石におとなしくなってくれた。

(「もっと一度にたくさんの人を助けられたら良かったのだけど……」)

 ココが抱きしめることで透明化できるのは、自身の他に1体だけ。それが歯がゆく思えるけれど、それでも一人は確実に助けられるのだ。考え方を変えれば、自身にもできることがある、それが嬉しく思えた。

 * * *

「あっ! 小鳥さんですっ!」

 この場の邪霊を討伐し終えたからだろうか、小鳥が軒下からひょっこりと顔を出していた。

「小鳥さん、小鳥さん!」

 動物と話すことのできる力を使い、心結は小鳥に呼びかける。すると、パタパタと羽ばたいた小鳥は、心結の肩へと留まった。

『ありがとう、お嬢さん。もう生きて帰れないかと思ったよ!』
「お役に立てて何よりですっ。あのっ、教えてもらいたいことがあるのですっ!」
『なんだい?』
「このあたりで、建物の外にでちゃうような人とかに心当たりはないですか?」

 心結の問いに小鳥は、少しの間考えるかのように沈黙して、のち。

『ああ!! 僕が驚いて外に飛び出しちゃったから、飼い主が心配して探しているかもしれない!』
「それは大変なのですっ!」

 聞けば街の異様な空気や外から聞こえてくる物音や声に、小鳥の飼い主は不安になって、気を紛らわせるために小鳥を籠から出したのだという。
 そしてそっと窓から外を見た時、知り合いの姿が見えたような気がして、窓を細く開け――窓の外から飛び込んできた剣戟の音に驚いて、パニックになった小鳥は部屋の中を飛び回った挙げ句、窓の隙間から外に出てしまったのだとか。

「どっちの方向から来たのか、その小鳥はわかりますか?」
「小鳥さん、おうちのある方向、わかります?」

 ジニアに問われ、心結が小鳥に話しかける。すると小鳥は首を傾げたのち。

『ああ、あの青い屋根の大きな家は、いつも籠の中から見えたよ!』
「あの家が窓から見えるってことは、こっちですね!」

 ゆくのです――心結はジニアにも告げて、小鳥とともに歩き始めた。

 * * *

「……小鳥が、逃げたの?」
「うん……私が窓を開けたせいで、カミルが……」

 近くで聞こえていた戦闘音が止んだのを確認して、それでも念の為に透明化したまま小さな声でココは少女から事情を聞いていた。
 大切な友達である小鳥を追いかけて出てきたのだというが、邪霊が生き物すべてに反応するのだとしたら、小鳥は無事だろうか。ココにはその判断ができない。
 なんて言葉をかけたらいいのだろう。『きっと大丈夫』なんて無責任なこと言っていいのだろうか――ココが迷い始めたその時。

(「誰か、来るわ」)

 近づいてくる足音と気配を感じて、ココは少女の口に手を当てる。ふたりで透明化したまま様子をうかがっていると。

「こっちです?」
『そうそう、こっちこっち』

 現れたのは、猟兵と思しき少女たち。

「カミル!」

 その肩に留まっている小鳥を見つけた少女が、ココの腕を振り切って駆け出した。

『お嬢!』
「えっ? もしかして飼い主さん?」
「どこから――ああ」

 突然現れた少女に心結が驚きの声を上げる。ジニアは疑問を口にしたものの、少女が姿を現した方向に猟兵と思しき少女――ココがいるのを見て、色々と理解したようだった。

「カミル、無事で良かった! ごめんね、私のせいで……」
『やっぱり探しに来てくれたんですね、お嬢! でも外は今、危なくて……』
「ふふ、カミルも嬉しい?」

 当然のことながら、少女は小鳥の言葉がわからない。その囀りが再会の喜びだと思っているようだ。

「あのっ」
「音海さん」

 心結が少女と小鳥の会話(?)に口を挟もうとしたその時、ジニアが短く声を上げた。

「私達が来た方から、複数来ます」
「それでは、みゆの出番ですねぇ」

 複数の邪霊が、こちらへ接近しているという。ジニアと心結ならば迎撃は容易い。だがここには、一般人の少女と小鳥がいて。

「彼女たちをお願いしてもいいですか? 敵は私達がなんとかしますから」

 ジニアが視線を向けたのは、近くまで歩んできていたココ。

「わかったわ。任せて。あとはお願いするわね」

 その要請に頷いて、ココは小鳥を肩に乗せた少女の手を引いた。向かうのは、ジニアと心結が最初に向かおうとしていた方向。少女の家、だ。
 邪霊たちは、ふたりが来た方向から来ているという。ならば彼女たちが邪霊に対応してくれている間に、少女を家まで送り届けるのが最善である。

 少女とココの足音が遠ざかってゆく。
 ジニアは死霊の『目』を通じて邪霊の数や、この場へと到着するタイミングを心結へと伝える。
 先頭の邪霊がふたりを見つけ、接近速度を上げた。

「みゆが相手になるのですよ」

 瞳にルビーを宿し、白い羽根と白いリボンを纏った心結。流血でその白は赤く染まってゆくけれど、その代わりに彼女の強さは飛躍的に上がっていく。

「これで、みゆを止められる人はいませんねぇ」

 可愛い顔(かんばせ)に猟奇的な笑みを浮かべた心結は、邪霊たちとの距離を一瞬で詰めて、ダガーを振り下ろす。
 ジニアは『マグメル』を使用して邪霊たちを、心結の周りから散開してしまわないように抑制していく。

「ただの子どもと舐めてもらっては困るのですよ」

 目にも留まらぬ速さで振られる刃の軌跡を確認することは許されず、邪霊たちは次々と霧散していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
語(f03558)さんと B☆

自分がお願いしたからそう思う気持ちはわかる
でもね
常磐色は最後まで噺家だった、それだけ
本当に死神なら
若紫色が語さんを許さない
常盤色を失った後も語さんを大切にしない
自分がいなくなった後のことも考えたりしない

UC【鎮魂の祓い】使用
祈りを込めて音色を届けるのは邪霊ではなく語さんに
全ての不安や恐怖を取り除くことは容易ではないけれど
軽くすることはできる

誰かが傷つくくらいなら自分が傷つくことを選ぶ人だから
私もそうすると思うから攻撃をしないことを責めたりはしない
寿命が延びるわけではないけど
せめて痛みが軽減するように激痛耐性のオーラで包んで

怖いなら今度は私が貴方の手をつなぐ


落浜・語
A3☆狐珀(f17210)と

怖い
大切な人が居なくなってしまう
それがとてつもなく怖い
でも、それを言っちゃいけない。傷つけてしまう。追い詰めてしまう
主様だってそうだった。少しでも使ってほしいといった、願った。だから、療養できなかった
死神は、俺自身だった。もう、誰かの死神にはなりたくない
でも、なくすもの、居なくなってしまうのも怖い

身に着ける指輪も、ループタイも、一緒に、って願いを込めた、込めてくれた
俺の若紫はセイさんの、『おれ』の常盤は主様の大切な色
わかってる。死神だと思ってるだけ、染みついた物に幻覚を見てるだけだと
それでもいい。力貸せ。UC【死神騙り】
狐珀や味方は攻撃しない
手の温もりで、安心できる



 それは街へと降り注ぎ、心を貫いて煽る弾丸となった。

「……!!」

 ぞわり。
 良からぬものが街へと降り注いでいて、それが自分たちが倒すべきオブリビオンであることもわかった。
 けれども全身を走り抜けた悪寒のようなものは、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)の心をかき乱す。

 おかしい。夜は明けたはずなのに。
 朝日が昇り始めているはずなのに。
 どうしてこんなにも、目の前が真っ暗なのだろう。
 独りじゃなかったはずなのに。
 どうしてこんなにも、怖いのだろう。
 どうしてこんなにも、何もかも失ってしまったような心地なのだろう。

「……怖い……」

 それを言葉として紡いだことに、語自身は気がついていない。
 あたりは天と地の境目も定かでないほどの闇で塗り込められていて、自分は――独り、だ。
(「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い――……」)
 嗚呼これは、大切な人がいなくなってしまった時の気持ち。
 それは語自身のものであるのか、『かたり』のものであるのか――嗚呼、今はそんな事どうでもいい。
 大切な人がいなくなってしまうこと。それがとてつもなく怖いのだ。
 いかないで、いかないで。喉元まで出かかった懇願の言葉。
 でも、それは言ってはいけない言葉。だって傷つけてしまうもの。追い詰めてしまうもの。
(「主様だってそうだった。少しでも使ってほしいといった、願った。だから、療養できなかった」)
 モノとして、使って欲しいと願うことは当然のこと。不自然でも分不相応でもなんでも無い。だって、使われるために生まれてきたのだから。その欲求は当然のものだ。
 けれども自身を使ったことで――使ったことが、持ち主の死に繋がっていたら?
 持ち主への思いが強ければ強いほど、自身の『欲』を責めるだろう。それも、自然なこと。

「嗚呼、死神は――俺自身だったんだ」

 あたりを占める闇が、語を責め立てる。

「もう、誰かの死神にはなりたくない……」

 闇の声から逃れるべく、語は自身の耳に掌を押し付けてそれを塞いだ。

「でも……」

 なくすのも、いなくなってしまうのも、怖い。

 嗚呼これは、自分の我儘だ。
 手に入れてしまったら、離れるのが怖くなるって分かっていたのに。
 だから、特定の誰かと特別に親しくならないようにしていたのに。
 もう、手遅れだ……。

 その腕の中に受け入れた彼女は、三色の石が嵌った指輪にも青い石と緑の石のループタイにも、末永く共にあろうと願いを込めてくれた。
(「俺の瞳と同じ若紫はセイさんの、『おれ』の瞳の常磐色は主様の、大切な色……」)
 嗚呼、彼女はこんな自分を理解し、励まし、寄り添い、愛してくれているのに。
 否、だからこそ。
 怖い、怖い怖い怖い怖い怖い――……。

 * * *

 隣に立っている語の様子がおかしい。
 吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は近くに墜ちた邪霊の動きを気にかけながらも、彼の様子を窺っていた。
 そして分かったことは、彼が酷く恐怖していること。
 自分が主と死の距離を縮めてしまったのだと、自分を責めていること。
(「大切な人と離れたくない、そばにいたい、そばにいて欲しい――そう願う気持ちは分かります」)
 だって、狐珀も、過去に同じことを願ったから。
 共に祀られていた対の狐像を兄と慕っていたから……兄の本体である狐像が壊れた時に、離れたくないと、いかないでと、置いていかないでと願ってしまった――その魂を、からくり人形の中に封じ込めてしまうほどに。
 だから、語の気持ちはわかる。

「でもね」

 語の若紫色の瞳はどこを見ているのか、焦点が合っていない。狐珀は向かい合うように語の前へ立ち、彼が自身の耳を塞いでいる手を強引に剥ぎ取って告げる。

「常盤色は最期まで噺家だった、それだけ」

 命の灯消えゆくまで高座に上がっていたい――何かを極めた人が、最期まで現役でいたいと願うのもまた、自然なこと。

「本当に死神なら、若紫色が語さんを許さない」

 死との距離を縮める要因なんて、いくらでもある。本当に『高座扇子』が『死神』だったのならば、語は肉体を持つことなどなかっただろう。

「常磐色を失ったあとも、語さんを大切にしたりなんかしない。自分がいなくなったあとのことも、考えたりしない」

 彼の瞳は狐珀を映していない。それでも狐珀は言葉を紡ぐ。
 彼の心の一番深いところへ届けと。
 幼子のように膝を抱えて怯えている彼自身へと、届くように。

「……、……」

 狐珀が手を離しても、語は再び自身の耳を覆うようなことはなかった。それを確認し、狐珀は『魂迎鳥』へと息を吹き込む。
 紡ぐ調べは安寧を望む。霊力を帯びた音色は、語の裡に満ちた負の感情を祓いゆく。
(「全ての不安や恐怖を取り除くことは、容易ではないけれど」)
 負の感情は、一時鳴りを潜めたとしても、些細なことで湧き出るものだ。根本から断つ事は難しい。
 でも。軽くすることならできる。

「――わかってる。死神だと思ってるだけ、染みついたものに幻覚を見ているだけだと」
「――!!」

 はっきりと言い切ったその声に、狐珀は『魂迎鳥』から口を離して目の前の彼の瞳を見つめる。
 その瞳は、しっかりと狐珀を捉えていた。

「怖いなら――今度は私が貴方の手を繋ぎます」

 差し出された手を取り、語は力強く頷いて。

「幻覚でもいい。力貸せ」

 語りかけるのは自らの裡。
 喚び出すのは自らの中に染みついた死神の力。若紫の右目が、黒へと変わる。
 ――闇は、晴れた。今なら周囲の状況を正しく認識できる。
 繋いでいない方の手で『深相円環』を引き抜いた語は、それを邪霊へと投擲した。
 邪霊だけを何度も何度も切りつけるその刃は、代償に寿命を持っていく。
(「誰かが傷つくくらいなら、自分が傷つくことを選ぶ人だから……」)
 もし自分が同じ立場でもそうするだろう。だから、彼が代償を背負うことを狐珀は責めたりはしない。
(「せめて、痛みが軽減しますように……」)
 寿命が伸びるわけではないことも、十分わかっているけれど。
 狐珀は繋いだ手から、霊力とオーラを彼へと注ぎ込む。

 朝日は確かにふたりを照らし、魔のものを拒絶せんとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

姫条・那由多
A2

「私のこれまでは…心のまま救いたいと願ってきた日々は…」

異世界の少女を見て以来心に刺さる棘。
「今まで自然に人々の救いになりたいと思った気持ちは、全てあの少女の
在り方を眩しいと…あの様になりたいと願った模倣でしかないのではないか?」
「だとしたらなんと浅ましき存在。苦しんでいる衆生を救ってきたのも
なんの事はない、全て己が為でしかなかったのだから」

執着と失望に打ちひしがれるが
生まれたばかりの地霊礼賛から流れる温かい波動、
そして無意識に人々を助ける為に動いてしまった自分に決意を新たにする

「我が魂が幾ら闇に穢れていようと…例え模倣であろうと願った理想は、
尊いモノだと感じた心は間違っていないと信じる」



 降り注ぐそれを見て、『始まった』ことを知った。

「っ……」

 姫条・那由多(黄昏の天蓋・f00759)は胸元を押さえ、よろめいた。鍛え上げた体幹のお陰で、倒れ伏さぬよう咄嗟に体勢を立て直した、が。
 それでも胸に広がるその感情までは、どうにも出来なかった。

 扉を細く開けて外の様子を窺っていた宿屋の主人に、邪霊たちが目をつけて。吸い寄せられるように扉へと向かう邪霊から護るべく、邪霊と扉の間に身を滑り込ませた那由多だった、けれど。
 その身に邪霊たちの攻撃を受けた途端、一気に心を侵食されてしまった。

「わたしのこれまでは……心のまま、救いたいと願ってきた日々は……」

 嗚呼これは、あの時から心に巣食っていた思い。
 異世界で自身が魂を共有していた、あの少女の姿を見た時から存在した思い。
 あの時見た光景は、あの世界で少女と魂を共有してきた時間は、今、ここにいる那由多の十九年の人生ではない。
 それは、わかっているけれど。
 わかっている、からこそ。

「……今まで、自然に人々の救いになりたいと思った気持ちは……」

 ――すべてあの少女の在り方を眩しいと、あのようになりたいと願ったから生じたものではないのか?
 あの少女のように――だから自分は彼女の持っていた気持ちを、彼女の行動を無意識に模倣していたに過ぎぬのではないか?
 この慈愛の心は自分の意志で、自分の心から湧いたものではなく、あの少女のようになりたいという思いから生まれた模倣だとしたら。

「……だとしたら、なんと浅ましき存在」

 胸元を押さえた手にはいつの間にか力が入り、濃い皺が出るほどに服を掴んでいた。
 絞り出された声。身体を折るように地面へと向けられた瞳の色は、朝日に輝く白く長い髪に遮られて窺うことが出来ない。

「苦しんでいる衆生を救ってきたのも……なんのことはない、すべて己が為でしかなかったのだから」

 全てを慈しみ、救いたいと願いながら、それをあの少女のようになるための『糧』としていたのならば。
 それは無償の愛ではなく。見返りを求めぬ慈愛でもなく。
 自分自身の目的を果たすための、自分自身を満たすための行為だとしたら。

 ――それは、エゴだ。偽善だ。

 自分のエゴのために、自己満足のためだったのならば、いくら積み重ねてもあの少女のようにはなれないどころか。
 それは粗悪な模倣品。エゴを正義や聖女の皮で隠しているだけ。

 人々を救いたいと、人々の救いになりたいと思った気持ちが、自身の裡から自然に湧き出たものではないとしたら。

「わたしが信じてきたもの、は……」

 棘のような猜疑心。拭えない執着。そして――失望。
 これまで積み上げてきたものが、ガラガラと崩れ落ちる音がする。
 自身の中身はからっぽで。
 全部真似事で。

 ――わたしは、わたしの思いは、どこ――?

 もう、わからない。
 全部自分の心から湧いた思いだと、断言然することが出来ない。
 自分自身が、信じられない……。

 ぽたりと、雫が地面を濡らした。
 けれども雫は、その一滴だけだった。

「っ……!?」

 胸元に当てた自身の手から――否、その手にはめた宝石花のグローブ『地霊礼賛』から――流れ込んでくるものに気がついた那由多は、大きく目を見開いた。
 それは、とても温かい波動。生まれたばかりの『地霊礼賛』が、那由多に訴えかけているのだ。
 流れ込んでくる波動が、体中に満ちた負の思いを和らげてくれる。
 その思いを消す必要は、ないのだ。
 だって、その思いは。

「我が魂が幾ら闇に穢れていようと……」

 消すのではなく。

「……たとえ模倣であろうと、願った理想は」

 受け入れて寄り添い、共に歩んでいくべきものだと。

「尊いモノだと感じた心は間違っていないと、信じる!!」

 生まれたばかりの相棒が、教えてくれた。
 その思いは持ったままでいいのだ、と。
 先程、考えるより早く、住民を助けるために動いた自分を思い出して、と。

「ハッ!!」

 地を蹴った那由多は、黄色い顔で嗤う邪霊へと一気に距離を詰めた。そして。

 ――聖痕よ煌めけ! 我が一撃は破妖の閃光ッ!!

 繰り出した掌打は『地霊礼賛』の力が加わったもの。
 黄色い顔が笑みを保てなくなったのを確認して、那由多は即座に二撃目を放った。

 もう、迷わない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オニバス・ビロウ
◎A3
妻が居なくなって半年、手掛かりはアリスラビリンスで見つかった彼女の守り鈴だけ
故郷を離れて探せど、未だにそれ以外の手掛かりが無い
…俺は恐ろしくて仕方ない
彼女に二度と会えなくなる事が恐ろしい

鈴の作り手が鳴れば彼女が生きてる証拠であると言っていた
その様な術を掛けたと…故に彼女が生きていると希望が抱けるのだ
だが…ふとした時にこの鈴が二度と鳴らないのではないかと思ってしまうのだ

…!
懐に入れてる鈴に触れようとしたら、普段聞くよりずっと大きな音で鳴った…どうやら俺は妻に叱られているようだ
…そうだな、ここは戦場だ
呆けている場合ではない

人々に害なす敵がいる限り、斬りに行かねばならぬ
…彼らを守る者である故に



 それが降り注ぐのを見て、白い野ばらに宿した誓いを思い出した。

「……恐ろしい」

 普段ならばこのような言葉、口にせぬのに。
 今、オニバス・ビロウ(花冠・f19687)の心のなかに満ちているのは、強い恐怖。

「……俺は、恐ろしくて仕方ない」

 会いたい人がいる。
 必死で探している。
 でも、半年経ってもまだ見つからない。
 オニバスの妻、楓はいずこかへと連れ去られてしまった。そんな彼女を探して、半年。
 手がかりといえば、アリスラビリンスで見つかった彼女の守り鈴だけ。
 故郷を離れて探せども、未だにそれ以外の手がかりは見つからない。

 ――このままもう二度と、会えぬのではないか。

 そう思ったことが一度もないといえば嘘になる。
 けれども彼女が常に身につけていた守り鈴は、軽く揺らせば音を立てる。
 この鈴が鳴るのは彼女が生きている証拠であると、そのような術がかけられていると、鈴の作り手が教えてくれた。
 だから、オニバスは希望を捨てない。彼女は生きていると、希望を抱き続ける。

 でも。けれども。

「……ふとした時に、この鈴が二度と鳴らないのではないかと思ってしまうのだ」

 それは永久(とわ)の別離を意味する。
 再会できぬまま、彼女の命が尽きてしまうなんて。
 二度と、会えぬなんて。
 どんな強敵を前にした時よりも、彼女と二度と会えぬほうが恐ろしい――!

 嗚呼、確かめなくては。
 鈴は、鳴るだろうか?
 もしも、鳴らなかったら――……。

「……!!」

 懐に入れている鈴へと触れようとした時、ひときわ大きな鈴の音がした。
 普段どれだけ強く揺らしても、これほど大きな音を立てることはないのに。
 触れてもいないのに、鳴ったのだ。

「ふっ……」

 その鈴の音が、オニバスの中に満ちる負の感情を祓ってくれたようだ。思わず口元が緩む。
(「どうやら俺は、妻に叱られているようだ」)
 それまで自身の思いに囚われていて見えなかったモノが見える。
 自身の近くで、蒼い顔の邪霊が嗤っていた。

「……そうだな、ここは戦場だ。呆けている場合ではない」

 確たる敵を見据え、『鬼蓮』の柄に手をかける。
 するりと抜き放った刀身に、朝日が降り注いで。

「人々に害なす敵がいる限り、斬りに行かねばならぬ……彼らを守る者である故に」

 己の役割を、存在意義を思い出せば、答えはひとつだ。
 ここで街の人達の守りを放棄などしたら、妻に合わせる顔がない。
 石畳の地を蹴る。
 切っ先を向けたまま、オニバスは邪霊との距離を詰めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛瑠璃・優歌
◎B(開始時既に男装状態)
多くの猟兵と工房長達の懸命な努力で多くの宝石武器が揃った
神様を信じるかはともかくこの状況には感謝するよ
これなら前線でなく個別の見回りに行ける
「こういう時は必ず怖いもの見たさに自ら戸を開ける人が居るものだ…!」
UCを発動して街中、地表どころか家の屋根でも何処でも駆ける
グリモア猟兵の未来視にあった、窓や戸を開けて災厄と対面してしまう人を守る為に
滑り込んで庇えれば私が傷を負うくらい構わない
「私達が守ってみせる!どうか少しでも奥に籠っていてくれ!」
言いくるめだが…頼む、効いてくれ
私が守りたいのはもう母だけじゃない
脅威に怯え、暗い顔をして塞ぎ込む人達にも笑って暮らせる明日を…!



 街に降り注ぐそれを見た時、すでに腕を広げることを決めていた。

(「多くの猟兵と工房長達の懸命な努力で、多くの宝石武器が揃った」)

 猟兵たちの助力は工房や鉱山だけにとどまらず、困っている人がいれば進んで手を貸し、乞われれば快く応える。
 それだけでも街の人達からの信頼を集めるのは十分であったが、中には食事や土産物にと、報酬以上の金額を街に落とす者たちもいて。
 滞在が長くなればなるほど、互いに顔を覚え、挨拶を交わし、世間話をする仲となる相手もできる。
 だからこそ、突然の避難の要請に殆どの住人が協力してくれているのだ。

(「神様を信じるかはともかく、この状況には感謝するよ」)

 騎士のような男装に身を包んだ雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)は、カツ、とつま先を石畳の地面へと打ち付けた。

(「これなら前線でなく個別の見回りに行ける」)

 そのまま踏み込むように力を入れた彼女の身体が、地面から離れる。
 滲むように広がる朝日に負けぬ黄金の輝きを身に纏った優歌は、そのまま二階建ての建物の屋根くらいの高さを飛んでゆく。

「こういう時は、必ず怖いもの見たさに自ら戸を開ける人が居るものだ……!」

 猟兵たちを信頼することと、突然の避難の要請に素直に従うことはイコールではない。
 元々まだ猟兵たちを信頼しきれていない人だけでなく、不可解な要請に不信感をいだく人もいれば、何が起こっているのか気になって様子を窺おうとする人もいる。

(「まあ、『明日敵が攻めてきます』なんて言ったら、それこそ敵と通じていると疑う人が出るだろうし。かといって住人たちに普通の生活を送らせたままでは、全員を守ることは難しい」)

 ある程度の信頼関係を築けていたとしても、襲撃に怯えている人たちの心は何が切っ掛けで揺れるかわからない。
 だから優歌は、高い位置を跳んで広い視野で街を見て回る。夜明けとともに降り注いだ邪霊たちと戦っている猟兵たちの姿も、目にしていた。

(「杞憂ならそれでいい。危険に晒される人がいないに越したことは――っ!?」)

 そう思い始めたその時。
 優歌のいる位置よりも高いところで、何かが光った。
 光は一瞬だったが朝日を反射した強いもので、優歌も反射的に目を閉じてしまった。けれども光が収まってすぐに目を開けて、光の出処をさがす。

(「自然発生した光ではないな。朝日が何かに反射した――」)

 つまり、そこに誰かがいる可能性が高い。
 光が発せられたと思しき方向で優歌の現在地より高い建物――幸いにもそれはひとつだけだった。

(「あの塔かっ……!!」)

 上級役人用の邸宅に付属する塔。優歌の推測が正しいことを示すかのように、邪霊たちが塔の最上階に向かっていくのが見える。

(「させてたまるかっ!!」)

 速度を上げた優歌は、邪霊たちよりも先に塔へとたどり着いた。東屋のように屋根は在るが、最上階は街が見渡せるようにバルコニーのような作りになっていて。優歌はすっと身を滑り込ませた。

「あっ……」
「……たす、けて……」

 そこに蹲っていたのは、優歌より少し年若いくらいの少年と少女。顔立ちが似ているので兄妹だろうか。少女の持っているぬいぐるみの首元についたメダリオンが、先程朝日を反射させたのだろう。

「動けるか? ならば早く下へ!」

 優歌が手を貸してふたりを立たせているうちに、邪霊たちは塔まで来ていてた。

「っ……!?」
「あっ!?」

 邪霊の動く気配を察知して、優歌はふたりを抱きしめるようにして邪霊に背中を向ける。
 その攻撃はすべて、背で受けて。

「私達が守ってみせる! どうか少しでも奥に籠っていてくれ!」

 優しい表情は崩さないが切羽詰まったその語気に、少年のほうが素早く梯子を降りた。そして。

「リーゼ、受け止めるから飛び降りろ!」
「う、うんっ……!!」

 少女が梯子を使わずに少年の元へと飛び降りてゆく。
 優歌は簡単にだがふたりの無事を確認し、梯子を蹴って外して階下への扉を閉めた。

(「私が守りたいのはもう、母だけじゃない」)

 背中に受けた傷が、痛まないわけじゃない。
 その痛みよりも彼女の意志が、強いだけだ。
 すらりと純白の鞘から抜いたのは、宝石花のレイピア『宵海蛍雪』。

「脅威に怯え、暗い顔をして塞ぎ込む人達にも、笑って暮らせる明日を……!」

 両刃造りの細身剣を構え、優歌は邪霊へ向かって飛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
◎A3
禍々しい敵と対峙して蘇ったのは自分が死にかけた時の事だった
痛苦はなくとも研究対象として石塔に幽閉され、外は延々冬景色
一面の白に心が滅びるより死んだ方がマシと飛び出して吹雪に殴られ、そしてグリモア猟兵のワープに偶然巻き込まれて目を覚ますまでの凍死寸前の記憶
怖くて痛くて体が勝手に竦む
眼前の敵の悍ましさすら霞むほど
「ぃや…」
嫌よ、私はもう永遠の冬には帰らない、帰りたくない、ねぇ誰か…!
だけどその時甘い温もりが香った
私の春がくれた桜鬼の護り、そのオーラ防御
そうだ、私は、私の帰る場所は
「あの子の許だけよ…!」
宝石武器は贈物だから使いたくない
花明かりを灯しましょう
この街の人々の希望、その導になる花を



 降り墜ちるそれを、心底悍ましいと思ったはずなのに。

 そんな思いを凌駕したものが、氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)の中にあった。
 展開される記憶に体が震える。
 思い出したくなんて無いのに。
 嗚呼この景色は、嫌になるほど見飽きた石塔のもの。
 稀に換気のために開けられる木窓の外に見える景色は、延々と冬のもので。
 降り積もった雪は、痛いほどの寒さを伴っていた。

 痛みも苦しみもなかった。感じなかった。感じていたけれど忘れてしまったのか、それすらもわからない。
 痛苦はなくとも研究対象として幽閉される日々は、楽しいものであるはずがなく。
 体の痛みはなくとも、心はヤスリで削り取られていくかのように痛く、摩耗していった。

(「嗚呼……」)

 そうだ。
 一面の白を見ていたら、すり減った心が動いたのだった。
 心が滅びるくらいなら、死んだほうがマシ――飛び出した白銀の世界は塔の中から見るよりも過酷で、吹雪は容赦なくレインの小さな体を殴りつけた。
 そのたおやかな翅で羽ばたくことなんて、できるはずもなく。
 何よりもまず、翅の先から熱を奪われて凍っていった。

「ぃや……」

 痛い痛い痛い。
 寒いなんて生ぬるいものじゃない。
 痛みと寒さに翻弄されて、自由にならぬ体。
 冷えた痛みと死の恐怖で、レインの体は勝手に竦み上がった。
 目の前の邪霊の悍ましさなんて、とっくに霞んでしまっている。

 吹雪に殴られて雪に落ちたレインは、グリモア猟兵のワープに偶然巻き込まれたことで凍死を免れた。
 だからこそ、今、レインはここにいる。
 けれど。

「嫌よ、私はもう永遠の冬には帰らない、帰りたくない、ねぇ誰か……!」

 痛みと恐怖に支配されてしまって、もうそれ以外考えられない。
 あの一面の白から生き延びたからこそ、それに対する恐怖と死に対する恐怖を感じるのだが、そんなこと冷静に分析する余裕もない。
 透き通るほどの青い糸を振り乱しながら、助けを乞う。けれど彼女の声に応じる者は――……。

「!!」

 ほわり……。
 その時レインの体を包み込んだのは。レインの鼻腔をくすぐったのは。甘い、温もり。
(「私の、春……」)
 その温もりがレインの身体を優しく包み込み。そして、冬に帰してなんてあげない、とでも言うように香る。
(「そうだ、私は、私の帰る場所は」)
 いつの間にか痛みも震えも無くなっていた。竦み上がった体も心も、春の雪解けのように無くなっていった。

「あの子の許だけよ……!」

 そう、帰る場所が在る。
 待っててくれる人がいる。
 たとえ待っててくれなくても、レインが帰る場所はあそこ以外、ない。
(「宝石花武器は贈り物だから……」)
 使いたくない。ならは。

 ポゥ……ポゥ……。

 レインの周囲に浮かび上がるのは、ヒツジグサの形をした白い炎。
 小さな彼女の周りに浮かんだ無数の花灯に、邪霊たちが揺れる。

「花明りを灯しましょう。この街の人々の希望、その導になる花を……!」

 眩い白花が、雨霰のように邪霊へと降り注ぐ。
 邪霊たちが醜い呻き声を上げても、レインは花明かりを灯し続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■悠里/f18274

悠里、悠里は必要だよ
僕の大事なお友達だよ
まだなったばかりだけど、いなくなって欲しくないんだ
君をしりたい
そんな夢なんかに、飲み込ませないよ

歌唱に鼓舞を込めて歌う「月の歌」
傷を癒して、秘めた力を解放して
君はとっても強いんだから
支えるよ
その背中を
寄り添うよ
その心と

揺蕩う水泡のオーラ防御で悠里を守る
僕の友達に手を出さないでよ
歌う歌う、君のため
歌は僕
少しでも力になりたいから
未来なんて見通せないからいいんだろう
水槽の外にでられた僕みたいに

笑ってるよ悠里
君の手はとても暖かだった
結べて嬉しかったんだ

だから
また手をつなごう
そうして笑ったら
きっと心もつながれる
大切なともだち
僕は君とそうありたい


水標・悠里
リルさん/f10762
アドリブ歓迎
A3

赤い血溜まりに姉が倒れている
そして親しい人たちが
現れては血を流して倒れていく

これはまやかし
ただの夢
視線をあげ【朔】を抜いて前を見る

そこに居たのは血塗れた⦅私⦆
⦅私⦆は跪くと姉の体そっと抱く

災いを呼ぶと言われた子は
姉を狂気に走らせ伝承通り村一つ消した
あの時は姉さんを殺した、なら今度は——

私はまた誰かの命を奪うというの
嫌だ失いたくない
震えを押さえようとした手が刃に触れ肌を裂く
傷つくのは私だけでいい
殺されるのも私だけでいい

歌が聞こえる
こんな私に歌を歌ってくださるのですね
私はまた失いたくない
彼らは彼らの命を生きねばならない
亡霊共よ
神威の雷の前に頭を垂れ、疾く失せよ



 朝日を浴びながら降り注ぐそれは、『罪』の色をしているように見えた。

「ぁ……」

 おかしい、こんなところにいるはずなんて――そう思ったのはほんの一瞬だった。
 水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)の視線の先に広がるのは、赫。
 赫く赫く赫い血溜まりに、誰か倒れている。

 嗚呼、知っている。あれは、姉だ。

 血溜まりから目を離すことの出来ぬ悠里の視界に、次々と人影が入ってくる。
 それはどれも見覚えのある親しい人で、そして例外なく赫を流して血溜まりへと倒れ伏していった。

「……、……」

 これはまやかし。ただの夢。分かっている。だから。
 悠里は『朔』の柄を握りしめ、抜いて。血溜まりから視線を上げた。

「――……!?」

 その視線の先に、誰かが立っている。
 そうだ、あれは。あの血まみれの男は。
(「私――……」)
 血まみれの悠里は血溜まりに跪き、とっくに事切れている姉の体をそっと抱いた。
 悠里はそれを、じっと見つめている。

 災いを呼ぶと言われた子は、閉鎖された世界で贄としてのみ存在を許された子は、姉を狂気に走らせ、伝承通りに村一つを消した。

(「あの時は姉さんを殺した、なら今度は――」)
 己の中に浮かんだその考えに、心が震える。
 その思考に心のどこかが、酷く抵抗を示していた。
(「私はまた、誰かの命を奪うというの?」)
 嫌だ嫌だ嫌だ、失いたくない奪いたくない――悲しみか恐怖か、起因はわからぬけれど酷く体が震える。

「ぁ……っ……」

 震えを押さえようと手を動かすと、『朔』の刃が肌を裂いた。
 『朔』を抜いたことを、忘れていたのだ。
 でも、これで分かった。
(「傷つくのは私だけでいい。殺されるのも私だけでいい……」)

 * * *

「……悠里?」

 共に邪霊が降り墜ちるのを見、一番近くに墜ちたそれの元へとたどり着いたはずなのに。
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)の隣を走っていたはずの悠里は、いつの間にか足を止めていた。
 その視線は固定されている。何かを見ているようではあるけれど。

「悠里、悠里?」

 リルが名を呼んでも、いらえがない。

「悠里っ……」

 短刀を抜いた彼が、自身の体を傷つけた。鮮血が彼の白い肌を流れてゆく。
 明らかにおかしいと、リルにも分かった。攻撃をしてくる様子のない邪霊を見れば、その蒼い顔はいやらしく嗤っている。

「傷つくのは私だけでいい。殺されるのも私だけでいい……」
「!!」

 ぼそりぼそりと悠里が紡いだ言葉に、リルは驚いて尾鰭を振った。

「悠里、悠里は必要だよ。僕の大事なお友達だよ」

 リルは悠里の周囲を游いで、必死に彼に呼びかける。

「まだなったばかりだけど、いなくなって欲しくないんだ」

 正直な気持ちをぶつける。彼を取り戻すために。

「君を知りたい。そんな夢なんかに、飲み込ませないよ」

 悠里が邪霊の精神干渉に囚われてしまったのならば、助け出してみせる。
 リルが紡ぐ旋律は、彼を鼓舞する思いを乗せたもの。
 幽玄の歌声が、傷を癒やすように。秘めた力が解放されるように。
(「君はとっても強いんだから」)
 知っているから。僕が力になる。

 ――支えるよ、その背中を。寄り添うよ、その心と。

 悠里の血が止まり、傷が癒えてゆく。泡沫のオーラが、守るように彼を包み込んだ。

「僕の友達に手を出さないでよ」

 リルが邪霊たちへと鋭い視線を向けた、その時。

「こんな私に、歌ってくださるのですね」
「悠里!」

 嗚呼、悠里の瞳はリルを映している。リルの瞳も、また。

 ――歌う歌う、君のため。歌は僕。少しでも力になりたいから。

 旋律に乗せられたその言葉に、悠里は『朔』の柄を強く握りしめて。
(「私は、また失いたくない。彼らは彼らの命を生きねばならない」)

 ――未来なんて、見通せないからいいんだろう。水槽の外にでられた僕みたいに。

「リルさん……」

 笑顔で歌う彼の姿に、悠里の胸に熱いものが宿る。

「笑ってるよ、悠里。君の手はとても暖かだった。結べて嬉しかったんだ。だから」

 花のように笑うリルにつられて、悠里の口元も緩んだ。

「また手をつなごう。そうして笑ったら、きっと心もつながれる」
「心も……」
「うん。大切なともだち。僕は君と、そうありたい」

 嗚呼、これほど心強い鼓舞はあるだろうか。
 過去に囚われそうになった悠里に対して、リルは未来を語った。
 独りでではなく、共に紡ぐ未来を。

「ありがとうございます、リルさん」

 笑んで頷いて、悠里は視線を邪霊へと向ける。

「亡霊共よ」

 その姿が黒い蝶を従える鬼へと変化して――。

「神威の雷の前に頭を垂れ、疾く失せよ!」

 激しい雷が、邪霊たちへと降り注いだ。

 落雷音と邪霊の呻きの合間に聞こえる清浄なる歌声は、邪霊を屠ってゆく悠里を支えている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・アンダーウッド
B☆
悲劇は喜劇へ!
いつも笑って観客を笑顔にする。それがボク、「クラウン」の在り方さ♪

教会にお集まりの皆々様。これより始まりますは愉快な道化と人形達による華麗な舞台。どうぞ、最後までお楽しみ下さいませ♪

複数の応援特化型人形からなる人形楽団を展開し楽器演奏で舞台を演出し、観客の正の感情を鼓舞する。又、展開した人形を起点としたオーラによる防護壁で教会の防御を強化する。

からくり人形達と共に宝石花剣を手に、癒しの業火でその身や刀身を包み煌々と輝きながら教会の周囲にいる邪霊を撃滅していく。


刑部・理寿乃
◎B
教会の前に立ち、そこにいる人々を護ります
ここから先は神聖な場所
不埒なお方にはお引き取り願いましょう

こういうネガティブの塊みたいなのはポジティブな感情をぶつければ弱体するはずです
つまり、作って貰ったクロセアモールで戦いながら勇気が出る歌を歌います(勇気 歌唱 精神攻撃 範囲攻撃)

教会にいる人々にも歌声が届けば、不安な気持ちも少しは和らぐのではないのでしょうか
万が一、侵入されてしまった場合に備えて教会の中に魔女の白狼を待機さておきます


ユウイ・アイルヴェーム
◎B

街の方を守るために、私は来たのです
私の刃が届く範囲は大きくはありませんから
動きは状況に合わせて、目標はゆるがずに、です

街の方が多くいらっしゃる、戦える方が少ないところ。教会、でしょうか
何かがあれば助けに行ける、ぎりぎりに立ちましょう

少しでも周りの方が狙われにくくするために、私ができること
私が、少しでも多く狙われること。大丈夫、私は人形なのです
どうしましょう、手でも振ってみましょうか

この街の方がくださった、この光で、悲しみを終わらせるのです
誰が知らなくても、朝日が差し込むのならそれでいいのです
不思議ですね、守られるための力に私も守られているのです
怖くはありません、全て【相殺】してみせましょう



 朝日が差し込むのと同時に降り注いだソレは、『希望』などとは程遠い存在であると、『祈り』を妨げる存在であると、識っていた。

 前日の夜から教会に集まった者たちの殆どは、普段は朝日が昇る時間にまだ眠りについていることが多いだろう。けれども今朝は……。
 突然の避難要請に、不安になるなという方が無理である。子どもたちはみんなでお泊りだと夜更けまではしゃいでいたが、大人たちはそうもいかない。一睡も出来なかった者、眠れずにいたが体力が尽きて微睡み始めたばかりの者、そして日付が変わった頃にようやく寝付いた子どもたち。

「もしもの時のために、オオカミさんを待機させておきます」
「ああ、了解。機を見てボクも動くよ」

 夜明けまであと少し。
 教会内で待機していた刑部・理寿乃(暴竜の血脈・f05426)は、礼拝堂の大扉の前で黄金の瞳を持つ白狼を喚び出した。理寿乃と五感を共有するその白狼は、おとなしく扉のそばに伏せる。

「私も刑部さんと共に出ます。あとは頼みます」
「――行ってしまうのかい!?」

 理寿乃の準備が終わるのを待って、クラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)へとそう告げたユウイ・アイルヴェーム(そらいろこびん・f08837)の服の裾が引かれる。その声に振り返れば、いつの間にか老婆が縋るような瞳で三人を見つめていた。
 礼拝堂内を見渡せば、老婆の声が大きかったからだろう、椅子を寝床にしていた人たちの視線が集まっている。
 理寿乃とユウイは、グリモア猟兵の予知通りに程なく現れるであろう敵に対抗するために、教会の外へと出ようとしていた。けれども避難している人達から見れば、自分たちを守ってくれる冒険者達がいなくなってしまう――そう見えたのだ。
 自身の服を掴む老婆の手を、ユウイは自身の白い手で包み込み。

「あなた方を守るために、私は来たのです。それは、変わりません」

 太陽の光を凝らせたようなその瞳でまっすぐに、そう紡いだ。
 その声は、天井の高い礼拝堂内に響き渡る。
 言葉は飾らず、要点だけのシンプルなもの。それは時間がないからだけではなく、余計な情報で飾らない方が真意が伝わるから。

「私達は、外でこの教会を――あなた達を守るわ」

 理寿乃が柔らかい笑みを浮かべてふた色の瞳を向けると、老婆はそっと手を離した。

「……孫のような年のお嬢さんがたを危険な目に合わせるのは、忍びないが……」

 けれども、ここで彼女たちを引き止めても仕方がないと察したのだろう。そんな老婆にクラウンは、そっと耳打ちをする。彼女たちをある言葉で送り出しましょう、と。

「刑部さん、ユウイさん、行ってらっしゃい!」
「……いってらっしゃい」
「「いってらっしゃい!!」」

 クラウンの声に続く老婆の声。そして礼拝堂にいる皆の声が、薄明かりを帯び始めた空間へと響き渡る。
 いってらっしゃい――それは、おかえりなさいを言うための準備。ふたりが無事に戻ってくると信じた、祈り。

「行ってくるわ」
「行ってきます」

 その声に頷いて、理寿乃とユウイは大扉の外へと出た。

 * * *

 それが『始まった』ことに、驚きはなかった。夜明けとともに始まることを、知っていたから。
 ふたりは教会に何かあればすぐに戻れる場所で、降り注ぐ邪霊たちを迎え撃つ。

「ここから先は神聖な場所。不埒なお方には、お引取り願いましょう」

 アングレサイトにサフランを宿した西洋剣――『クロセアモール』を手に、厭らしい嗤いを浮かべた邪霊たちへと告げる理寿乃。
 これはお願いでも警告でもない。宣言、だ。
 急激に距離を詰めてきた一体にも動じずに剣を振るえば、薄紙を斬ったかのような手応え。けれども真っ二つにされた邪霊は、醜い呻き声をあげた。
 この手応えは、相手が邪霊という不定形に近いものだからだけではない。軽くぶつけただけでレンガを欠けさせてしまうほどの硬度を持った『クロセアモール』だからこそのもの。
 ふたつに斬った邪霊が行動を起こすよりも早く、理寿乃は再び、素早く剣を振るう。
 細切れになった邪霊を見て、他の邪霊たちはいきり立っているようだ。

 * * *

(「私の刃が届く範囲は大きくはありませんから」)
 セレスタイトにヒペリカムの花を宿した薙刀――『Twinkling taivaalla』の柄を握りしめたユウイは、この薙刀を得てからこの日までの鍛錬で、自身の間合いをしっかりと学習していた。
 街中に多く降り注いだ邪霊。他の場所でも戦いが始まっているのだろう、様々な音や声が耳へと届く。
 ユウイの視界の中にも、多数の邪霊が降り注いでいた。その顔に色の差異はあれ、浮かべている嗤いは等しく厭わしい。
(「少しでも刑部さんが狙われにくくするために、私ができること……私が、少しでも多く、狙われること……」)
 その方法を模索する中で、微かに手の震えを察知したユウイは。

「大丈夫、私は人形なのです」

 自身に言い聞かせるように呟いて、邪霊の群れとの距離を詰めた。

 * * *

(「こういうネガティブの塊みたいなのは、ポジティブな感情をぶつければ弱体するはずです」)
 朝日を受けてなお甘く輝く髪を揺らしながら、理寿乃は邪霊たちを斬り続けていた。あちらこちらから聞こえるのは、平穏な街らしからぬ音や声。それは教会の中にも、聞こえてしまっているだろう。
(「教会にいる人々の不安な気持ちも、和らげることができれば」)
 剣を引くようにして邪霊を斬った理寿乃は、剣を振り上げると同時に大きく息を吸い込んで。

 ――♪~朝日が照らすのは、清き大地。魔を退け立ち続けるのは、信じる心を持つ者~♪

 紡ぐのは、歌だ。ユーベルコードではないが、歌声に乗せるのは勇気や思い、そして祈り。この歌声を耳にして、少しでも希望を持ってくれれば――そう願って。

(「歌声……」)
 理寿乃より自分に多くの邪霊を引きつけるために群れへと飛び込んだユウイは、舞うように回転して薙刀を振るった。
 深い傷を与えることが目的ではない。挑発、だ。
 ユウイの描いた円の外側に押し出された邪霊たちが彼女との距離を詰めるより早く、ユウイは後方へと跳んで距離を取る。
 我先にと邪霊たちが自分を目指してくる――成功だ。
 理寿乃の歌声は、ユウイの気力をも奮い立たせる。
 自分は人形だから――邪霊たちの攻撃を多く引き受けても大丈夫?
 否、ユウイ自身が気づかぬとしても、彼女の中の何かが摩耗していく。
 理寿乃の歌声は、ユウイが独りで戦っているのではないことを示すとともに、その摩耗を抑えてくれていた。

 * * *

 ざわざわざわ。
 朝日が差し込み始めると、明らかに街の空気が変わった。
 教会内にいる人達もそれに気が付き、不安がざわめくように膨らんで広がってゆく。
 目が冷めた幼子が泣き出すと、眠っていた他の子どもたちも連鎖して泣き始め、その声で大人たちも不安を捨てられなくなっていた。
(「悲劇は喜劇へ!」)
 礼拝堂の入口付近で外の様子を窺っていたクラウンは、己の座右の銘ともいえる言葉を心の中で紡ぐ。
(「いつも笑って観客を笑顔にする。それがボク、『クラウン』の在り方さ♪」)
 自身でそう再確認したクラウンが向かったのは、礼拝堂の祭壇。ちょうど、教会の外から聞こえる歌声に気がついた人々が、別の意味でざわめき始めていた。

「Ladies and gentlemen!」

 ざわめきの中でもよく通るその声。礼拝堂内の人々の視線が、祭壇に立つクラウンへと集まる。

「教会にお集まりの皆々様。これより始まりますは、愉快な道化と人形達による華麗な舞台」

 その言葉に合わせて姿を現したのは、数体の応援特化型人形だ。自動で動くその人形たちが手にしているのは、様々な楽器。

「どうぞ、最後までお楽しみくださいませ♪」

 ジャーン!!
 シンバルの音を合図として人形たちが奏でるのは、外から聞こえる理寿乃の歌声に合わせたリズムと旋律。歌声を補助し、そして早めのテンポで、聞き手を鼓舞するような明るく楽しい曲に仕上げていく。
 教会内の人たちから負の感情を減らし、正の感情を増幅させたい――クラウンの考えは理寿乃と違わない。
 演奏しながら人形たちが礼拝堂内を歩きまわれば、いつの間にか子どもたちの泣き声は歓声に変わっていて。
 そして、子どもたちから笑顔が漏れれば、大人たちの心にも安堵が広がってゆく。
(「うん、これでしばらくは大丈夫だね」)
 その様子を確認したクラウンは、人々が人形たちに注目している隙に祭壇から大扉まで移動した。実はあの人形たちを起点として、オーラによる防御壁を展開してある。万が一のことがあったとしても、三人のうちの誰かが戻ってくるまで保ってくれるだろう。

「あとは任せるよ」

 大扉の前に伏せている理寿乃の白狼に小声で告げて、クラウンはそっと扉の隙間から滑り出た。

 * * *

――♪~宝石と花の守護のもと、邪な存在は討ち倒され~♪

 歌いながら『クロセアモール』を振るう理寿乃の視界に、まばゆい光が映った。それが、癒やしの炎を纏ったクラウンだと気がつくまでに、そう時間はかからない。白狼の瞳を通じて、彼が教会から出てくるのを知っていたからだ。
 その身と、アレキサンドライトにスノードロップを宿したナイフを光る炎に包み込んだクラウンは、理寿乃が対峙している邪霊の死角から、からくり人形たちと共に邪霊の不意をついた。
 そしてクラウンが軽く手を振ると、炎は理寿乃の身体を包み込み、傷を治し疲労を回復させる。

「まだまだ、行きますよ」

 軽くなった身体で更に踏み込んで、理寿乃は剣を振るい続ける――。


 よく切れる『Hoffnung zurück』を手にしながら次にクラウンが向かうのは、ユウイの元だ。彼女のところへ向かう過程で邪魔な邪霊たちは、人形とともに連携して屠りながら。
 光が近づいてくる。光が放った光が自身を包み込んだ――ユウイにはそう思えたそれ。
 クラウンが到達するよりも早く、彼が放った炎がユウイを癒やす。
 嗚呼、朝日と彼の光を受けて、晴れ空に浮かぶ星がひときわ輝いて――。

「この街の方がくださった、この光で、悲しみを終わらせるのです」

 街に降り注いだ邪霊たちの正確な数はわからない。あと何体ここに来るのか、わからない。
 けれども、終わりが無いわけではないのだ。

「誰が知らなくても、朝日が差し込むのならそれでいいのです」

 感謝などされなくてもいい。対価などいらない。
 ただ、彼らに朝日が差し込むのなら。
 彼らが、安心して星を見上げる事ができる日がくるのなら。

(「不思議ですね、守るための力に私も守られているのです」)

 ユウイをこうして敵の前に立たせているのは、人々を守りたいと思う気持ち。
 そう、ユウイが守ろうとしている彼らが、同時にユウイを守ってくれているのだ。
 それを理解すると、なんだか目の前がすうっとひらけた気分だった。

「恐くはありません。すべて相殺してみせましょう」

 嗤った邪霊たちの放つ攻撃――すでに何度もそれを受けて学習していたユウイは、正確にそれを放つことで、邪霊たちの攻撃を相殺してみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロリーナ・シャティ
A3
【狂盟】
大丈夫だと思ってた
敵を見るまでは
でも向き合った時思い出したの
この間(シナリオID:20051)またやっちゃったこと
イーナの中の怪物、きちんと制御できないあれをまた出しちゃったら
もし敵は倒せても、きっとこの街も人も一緒に…
「だめ…っ」
頭を抱えて蹲る
こんな事しても抑えられなかったしこういう事考えるほど中から溢れようとするのに
怖くて涙が滲んだ時真っ白な声が降ってきた
「…?…、!」
一瞬、名前が出てこなくてゾッとした
多分こないだのパニックでまた少し元の記憶を失くしたんだ
「イー、ディス…?」
それでも何とか、忘れたくない名前を探し出す
行かなきゃ
この鎚は置物じゃない
またイーディスとお茶会する為にも


イーディス・ヒューズ
B
【狂盟】
私、お友達のイーナを探しにきたの。

「イーナ、どうしたの? そんなところに蹲って。
もしかして誰かにいじめられたのかしら?」

怯えるイーナの傍の邪霊を見定めると空色の瞳を細め。
曇りのない笑顔で白百合の槍を構える。
私、怒るとか許せないとか、よくわからないの。
でも、悪い子はお仕置きしなきゃダメって教わったわ。

「安心して、イーナ。私がいるわ。悪い子は早くお仕置きして、またお茶会をしましょう」

イーナを優しく【鼓舞】。
UCで戦闘鎧を身に纏うと邪霊に【ランスチャージ】で【串刺し】、笑顔のまま【傷口をえぐる】攻撃。

「ほら、ごめんなさいは?」

飛んでくる攻撃は【オーラ防御】したり、他の【敵を盾にする】わ。



 それが降り注いだ時は、まだ――……。

 大丈夫だと、思っていた。
 街へと降って墜ちてくるのが敵だと、倒さなければならないと、分かっていたのに。
 自身の近くに墜ちた蒼い顔が嗤ったのを見たら。

「ぁ……」

 ロリーナ・シャティ(偽りのエルシー・f21339)の感情が増幅される。時々記憶が欠けてしまうロリーナだったが、感情の増幅とともに蘇った記憶があった。

 ズキリズキリと痛む頭。遠くで、近くで、聞こえる声。震えだす体。

 あの時膨らんだのも、同じ感情だった。
 そうだ、この感情が膨れて膨れて暴れだしてしまうと――……あの時と同じことになってしまう。

「だめ……っ」

 膨らんでゆく感情を振り払うかのように、頭を振る。淡青緑の豊かな髪が、振り乱されるほどに。
 けれどもそれは、消えやしない。減ることすらなく、どんどん、どんどん……。
(「……イーナの中の怪物、きちんと制御できない『アレ』をまた、出しちゃったら……」)
 あの時ロリーナがいたのは、戦場。アルダワ魔法学園のダンジョンの中だった。
 けれども今、ここは。
 戦場となってはいるが、多くの人が住む街である。
 あの時『アレ』は、目の前の敵を狙い、倒したけれど。
(「敵は倒せても、きっとこの街の人も一緒に……」)
 制御できないのだ。『アレ』には敵味方の区別はない。
 脳裏に広がるのは、ここ数日で交流を持ったこの街の人達の顔。
 そして『アレ』が、その人達を――。

「っ……!!」

 自身の裡に広がるその光景に、ロリーナは頭を抱えて蹲った。
 こんなことをしても抑えられなかった。こういう事を考えれば考えるほど、中から溢れ出ようとする。
 知っている。知っているけれど、自分ではどうすることもできなくて。

 ――怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い――。

 ロリーナのなかを、恐怖が侵食してゆく。
 怖くて怖くて、その草原色の瞳に涙が滲んだ――その時。

「イーナ、どうしたの? そんなところに蹲って」
「……?」

 声が、降ってきた。
 真っ白な声だと、ロリーナは思った。

「もしかして、誰かにいじめられたのかしら?」
「……、!!」

 瞳に泪を湛えたまま、声の主を見上げる。少し滲んで見えたけれど、それは知っている顔、だと思った。
 でも、でも――名前が出てこない。
 ぞっとした。血の気が引くとはこういうことなのだろう。
 多分この間のパニックで、また少し元の記憶を失くしたのだ。
 けれどもロリーナを覗き込むように見下ろす白い服の少女は、その空色の瞳に心配の色を浮かべていて。
 さらりと音を立てる柔らかな金の髪とその空色の瞳は……。

「イー、ディス……?」
「ええ。あなたを探しに来たのよ」

 忘れたくない――その一心で探しだした名前。
 柔らかく笑んだ彼女が差し出したその手を取り、ロリーナは立ち上がる。

「ああ。イーナをいじめたのは、あれね」

 怯えの抜けぬロリーナの手を引いて立ち上がらせたイーディス・ヒューズ(シロイコトリ・f20222)は、近くにいる邪霊を見定めて、空色の瞳を細めた。
 浮かべるのは、曇りのない笑顔。構えるのは、白百合の槍。

「私、怒るとか許せないとか、よくわからないの」

 嗤っている邪霊に、笑いながら告げるイーディス。

「でも、悪い子はお仕置きしなきゃダメって教わったわ」

 にっこりとしたまま告げたイーディスは、ロリーナの背を優しくさすり。

「安心して、イーナ。私がいるわ。悪い子は早くお仕置きして、またお茶会をしましょう」

 告げて纏うのは、想像から創造した戦闘鎧。そして軽やかに地を蹴って、邪霊との距離を詰める。
 邪霊自身がイーディスの接近を察知した時にはもう、彼女の槍がその蒼い顔を貫いていた。
 串刺しにしただけでなく、抉るように槍を操る彼女は、笑顔のままだ。

「……行かなきゃ」

 彼女の言葉と優しい手に奮い立たされたロリーナは、白銀の柄をぎゅっと握りしめる。
 その柄は、彼の槌のもの。透き通ったミントトルマリンの草原に、シロバナタンポポが咲いている穏やかな箱庭。
 でも。

「この槌は、置物じゃない……」

 鑑賞するだけの箱庭ではない。ロリーナが道を往くための、大切な相棒だ。
(「また、イーディスとお茶会するためにも……力を、貸して……」)

「ほら、ごめんなさいは?」

 飛んでくる攻撃をオーラ防御で防ぎながら、邪霊の傷を抉り続けるイーディス。彼女が突然槍を引き抜き、横に飛んだのは。
 大切な友達が一歩踏み出し、自身の槌で、自身を苦しめた敵を屠る勇気を出したからだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

緑川・小夜
A1
[WIZ]

邪霊によって、わたくしと中のある感情が沸き上がる。それは憤怒。気がつくと、目の前に「わたし」がいた

「わたし」はわたくしを責めたてる。何故あの女に言われたとおりに盗賊をやっているのか、何故悪行を為して平然としているのか、何故…今すぐにでも両親の元へ帰らないのか?

黙っているわたくしに業を煮やしたのか、「わたし」は自分が表に出て、両親の元へ帰るのだと手を伸ばす。
わたくしはそれを鈴を向けて止める

驚く「わたし」に、もう身体は蝶の刺青を入れられて黒蝶そのものになり、心は悪を愉しむモノになってしまった事を告げ、鈴を鳴らす

瞬間、「わたし」は消えてしまった

[アドリブ連携歓迎です]



 それが降り注いだ時にはただ、アレを倒せばいいのね、と思っていた。

 距離を置いて自身の正面に墜ちた邪霊の顔は、赫かった。
 光沢のない漆黒の柄を握りしめていた緑川・小夜(蝶であり蜘蛛であり・f23337)は、自身の中にとある感情が広がっていく事に気がついた。
 けれどもそれは、一瞬。
 瞬く間に小夜を侵食した憤怒は、元から溢れ出んほどに在ったかのように堂々としていて。

『ねぇ、どうして?』
「……?」

 声が聞こえて視線を上げれば、視界は薄暗闇で覆われていて、街並みなど無くなっていた。
 そして眼前には、『小夜』が立っている。

『なんであの女に言われたとおりに盗賊をしているの?』
『どうして悪いことをしても平気なの?』

 目の前の『小夜』は小夜を責め立てる。砕けた口調なのは、自分に対してだからか。
 その『小夜』顔は、怒りで上気していた。
 嗚呼目の前の自分が、この酷い憤怒の化身なのだと、小夜はどこか遠くで理解する。

『なぜ……今すぐにでも、とうさまとかあさまの元へ帰らないのっ!?』
「……、……」

 激昂する『小夜』。しかし彼女が感情的になればなるほど、小夜自身は冷静になってゆく。
 目の前にいるのは自分自身のはずなのに、その感情は透明な壁を隔てて『見ている』だけように感じた。

 今の小夜を構成しているのは、『小夜』だけではない。
 盗賊である三代目黒蝶による幼少からの教育と、継承した刺青から流入した思念などが合わさり、元々の『小夜』と融合して今の小夜となっているのだ。
 けれども目の前で怒りを顕にしているのは、成分的にも性質的にも純粋な『小夜』。
 両親を思うがゆえに両親から離れなければならなかった幼い『小夜』が、四代目黒蝶となって行動の自由を得た小夜の言動に疑問を抱くのは無理からぬ事。
 もうあの女はいないのに。
 悪いことをしては絶対駄目だって、もししてしまったら反省するものだって教わったのに。

 ――とうさまとかあさまのところに帰れるのに。

 本来の『小夜』は、まだ九つの少女だ。まだ親の恋しい年頃……数年引き離されていたのなら、なおさら。両親の元に帰りたい、そう思うのも当然だろう。

『っ……わたしが「表」に出て、帰る!!』

 黙ったまま冷めた瞳で見据えてくる小夜にしびれを切らし、業を煮やしたのだろう。『小夜』は小夜へと手を伸ばした――しかし。

「……、……」
『っ!?』

 小夜は鈴を向けることでそれを制した。『小夜』は目を見開いたのち、唇を噛む。

「わたくしの身体はもう、黒蝶そのものなの。この刺青を入れられることで、わたくしは黒蝶として完成したのよ」

 淡々と告げるその声色は、およそ九つの少女らしからぬもの。

「そして心は、悪を愉しむモノになってしまったの」
『そん――』

 少女らしからぬ酷く妖艶な笑みを浮かべた小夜は、『小夜』の言葉を封じるように鈴を鳴らした。
 鈴の音が響き渡るより早く、目の前の『自分』は消え失せて。
 薄暗闇が晴れて、街並みが戻ってきた。
(「私のなかの『私』は、完全に消えたわけではないけれど」)
 小夜の中で本来の『小夜』が占める割合は、日に日に減っているのだ。

「さあ、美しくないあなたたちには、消えてもらうわ」

 手にした漆黒の柄の先には、鮮やかな赤。

「だってわたくし、美しいモノがだあいすきなんですもの」

 草履を履いた足に力を入れて。
 小夜は邪霊との距離を一気に詰めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
B
トモエさん/f02927

嗚呼、いやらしい貌をしてわらうのね
まるで近隣から生気を喰らっているかのよう
行きましょう、トモエさん
向かう先は宿の元
住民の皆さんを護ってみせるわ

嘆きや憂いの聲がきこえるようだわ
ひとりが哭いたなら、連鎖を招くのでしょう
トモエさんの声に耳を傾ける
金緑石の短刀に込めた願いは“護ること”
あなたたちから授かった短刀に誓いましょう
必ず、あなたたちを護り抜くと

此方へおいで、と悪霊を手招いて
街や住人に被害が及ばないようおびき寄せ
慾望。よい響きね
ナユには慾が満ち満ちているの
だから受け止めてちょうだい
“紅恋華”
此処にはあなたしかいない
溢れるばかりの彩を魅せましょう

――さあ、“あか”にひずめ


五条・巴
B/七結(f00421)

僕らはお世話になっている宿の元で防衛を
近隣住民も集まっているけれど、昨日までの明るさは無く
皆の顔色は良いとは言えない
誰か1人、声を上げたら釣られてしまう人もいるだろう
きっとその場全体の不安感が増す

そんな時だから、僕達の話、聞いて?

君達が作ってくれたこの短剣があるから、僕らも皆に守られている気がするんだ。
この国の為に戦おうと、覚悟を決めることが出来るんだ。

これは守り刀、そう在れと願い、作って貰ったもの。
僕が護ると決めたものを、護る刀。
これがあるから大丈夫。

君たちにも、僕達がいる。

後ろを任せられる心強い友達に目を遣り
もう一度君達にほほ笑みかけよう



 それは予想通り、此処へと降り注いだ。

「嗚呼、いやらしい貌をしてわらうのね」

 まるで近隣から生気を喰らっているかのよう――窓の外へと降り注いだ邪霊たちを見て、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は溜息をつくように言の葉を紡いだ。
 そして振り返ると、そこにいる人々の顔を見やる。
 ここは街にある宿屋の一つ。七結と五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)が滞在している宿だ。
 一階の、食堂も兼ねている広いホールには、他の宿の客や避難してきた住人たちもいた。
 まだ夜が明けたばかり。普段ならば朝食の仕込みをするおかみさん以外はまだ、眠っている頃だろう。
 けれども、今は――不安で一睡もできなかったその顔は曇り、そしてそれは敵が出現したことで張り詰めたものになっていた。
(「誰かひとり、声を上げたら釣られてしまう人もいるだろう。きっとその場全体の不安感が増す……」)
 小さな切っ掛けで、集団パニックが発生しかねない。巴は七結へと視線を向ける。
(「嘆きや憂いの聲がきこえるようだわ。ひとりが哭いたなら、連鎖を招くのでしょう」)
 彼の視線を受けた七結は、優雅に頷いてみせた。

「こんな時だから、僕たちの話、聞いて?」

 決して大きな声でも、強い語気でもない。けれども巴の声には、言葉には、自然と人を惹きつける力がある。
 ホールの人々の視線が、巴に集まった。芸能活動をしている巴は、多くの人に見られることに慣れているので動じはしない。
 七結はそんな彼の声に、耳を傾けた。

「君達が作ってくれたこの短刀剣があるから、僕らも皆に守られている気がするんだ」

 巴は手にしていた、黒い漆塗りの鞘に収まった短刀を掲げる。アレキサンドライトの刀身に白のアルストロメリアを宿した、宝石花の武器。

「この街の為に戦おうと、覚悟を決めることが出来るんだ」

 この宿には、ふたりをモデルとして依頼されれた絵を描いているあの画家も滞在している。視線が絡んだ画家に、巴は安心させるように頷いてみせた。

「金緑石の短刀に込めた願いは『護ること』」

 巴と同じ、黒い漆塗りの鞘に収まった短刀を取り出し、七結もまた、両手に乗せてそれが皆に見えるようにと示す。宿している花は違えど、揃いの護り刀。

「これは護り刀、そう在れと願い、作って貰ったもの」
「あなたたちから授かった短刀に誓いましょう――必ず、あなたたちを護り抜くと」
「僕が護ると決めたものを、護る刀。これがあるから大丈夫」

 宿の外には邪霊たちが徘徊していて、窓から見えるその姿が人々の不安を煽る。
 けれども、あまりにもこのふたりが堂々と、そして穏やかに微笑むものだから。

「忘れないで。君たちにも、僕達がいる」

 巴が瞳を細めて微笑めば、不思議とこの場の人々から、肩に入った不自然な力が抜けていった。
 行こう――巴の目配せに七結が頷いて、ふたりは外へと繋がる扉へと向かう。
 七結が先に外へ出て、続く巴は――扉が閉まる寸前に、今一度なかの皆へと微笑みかけた。

 * * *

「此方へいらっしゃい」

 邪霊を手招いて、七結はおびき寄せるように移動してゆく。
 窓から戦闘の様子が見えにくいに越したことはないだろう――けれども宿に何かあればすぐに駆けつけられる場所へと。
 ゆぅらりゆぅらりと、游ぐようにとらえどころのない動きで導けば、黄色の顔をした邪霊たちがついてきた。

「慾望。よい響きね」

 足を止めた七結は、そっと視線を動かして邪霊の位置を確認する。
 巴が宿の建物のそばに残ったのは、宿を直接狙おうとする邪霊や万が一宿から出ようとする人がいた場合に対処するためだけではない。
 このあと七結が、どのような手段を取るのか聞いていたからだ。

「ナユには慾が満ち満ちているの。だから受け止めてちょうだい」

 嗚呼、その笑みに宿る真意を――簡単に覗かせやしない。
(「此処にはあなたしかいない。溢れるばかりの彩を魅せましょう」)

「――さあ、『あか』にひずめ――」

 毒を孕んだ花時雨は、ひろくひろく降り注ぎ。
 邪霊たちを例外なく侵していった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
B【神竜】篝(f20484)と

愛する女神が側にいるのに、俺が邪霊ごときに惑わされるものか
だが街の人達は違う
負の感情を引き出されれば暴れ、喚き、自ら命を断つこともあろう
こんなもの救いでも何でもない

篝と供に街の外を周り、錯乱している人々を槍で打ち、昏倒させる
少々手荒いが俺の担当は暴れている者、殺意を滲ませた者だ
泣き喚いたり、落ち込んでいる者は篝に任せる

憑依を解けば邪霊が姿を現すだろう
篝に害が及ばぬよう常に気を配りながら【竜牙氷纏】の吹雪で凍らせ、魔槍雷帝で広範に電撃
山祇神槍で邪霊を穿ち浄化する

過去も未来もない俺にとっても死は救いかもしれない
だが篝が側にいる『今』が、楽しいと思い始めているのだ


照宮・篝
B
【神竜】まる(f09171)と

負の感情の爆発…これは、苦しそうな
私自身は標の焔だ、霊によって揺らぐものではないけれど
助けにいこう、まる

心乱されるものに安らぎを
【睡魔水晶】、彼らに黒き光を
雛芥子の労りと慰めの眠りを…
武器を持って暴れる者は、ちょっとだけまるに任せるな

宿主が動けなくなれば、憑依していた邪霊が現れるだろう
現れた邪霊に【遍泉照】を
救いを求め、荒む霊よ
私の光の内においで
暖かいところへ、迷わぬように導こう(祈り)

まる、まる
大丈夫だったか、怪我はないか?
まるが元気なら、私は嬉しい
私はまるに寄り添う泉照、まるの女神だからな



 それが街にどれだけ降り注いでも、揺らがぬ自信がある。

「助けにいこう、まる」
「ああ」

 照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)に頷き、マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は篝と連れ立って走り出す。
 街へと降り注いだ数多の邪霊。多くの者は建物の中に避難しているはずだが、大きな街の住人すべてが避難勧告に従っているとは限らない。
(「愛する女神が側にいるのだ。俺は邪霊ごときに惑わされるものか。だが街の人達は違う」)
 ときどき姿を現す邪霊たちに槍を振るい、篝に近づく隙を与えぬまま屠り、マレークが彼女とともに哨戒してゆくのは街の外側。街と外との境目に近い場所。
 街が狙われているのなら、外へ出てしまえば助かる――そう短絡的に考える者がいないとも言い切れない。そしてそういう者たちは得てして街を出る前に敵の餌食となるものだ。
(「負の感情を引き出されれば暴れ、喚き、自ら命を断つこともあろう」)
 そう思うからこそ最悪の事態を避けるため、ふたりは走る。杞憂であるならば、それでいいのだ――が。

 ――ずるいぞ、なんでお前ばかり!!
 ――殴ったな? そういうところが昔から気に入らなかったんだよ!!
 ――やめて! 怖い、怖い怖い怖い怖い……。

 聞こえてきたのは、怒声と怯えの声。

「負の感情の爆発……これは、苦しそうな」
「こんなもの、救いでも何でもない」

 声のする場所へと駆けつけたふたりが見たものは、互いを激しく罵り殴り合う青年たちと、少し離れた場所で蹲っている少年。
 そして――邪霊たち。
 青年たちは殴り殴られる痛みを感じていないのか、出血をも意に介さずに拳を振るっている。
 そして殴られて尻をついた男が手にしたのは――短剣。
 爆発させられた感情が怒りなのか嫉妬なのかもっと別のものなのか複合したものなのか、そんなこと些事だ。それよりも、このままではこの邪霊たちを従えている者の思い通りになってしまう。

「っ!」

 その刃がもうひとりの青年へと伸ばされるよりも、マレークが青年へと接近するほうが断然早かった。
 まず短剣を持った手を打って短剣を落とし、棒術のごとく槍を繰って流れるように首の後ろを殴打する。
 青年が昏倒するのを確認もせずにそのままもうひとりの青年へと槍の柄を突き出して、鳩尾へと叩き込んだ。

「……ふ」

 小さく息をついたものの、警戒を緩めるようなことはしない。篝の位置を目視で確認して倒れた青年たちへと視線を向けると、彼らに憑依していた邪霊たちが姿を現した。

「手加減はしないぞ」

 突然発生した横殴りの吹雪に、邪霊たちは一瞬で凍りついて。ゴトリゴトリと地面へと墜ちる。
 少し離れた位置でゴトゴトとなにかが墜ちる音がしたのは、こちらに来ようとしていた別の邪霊たちだ。

「纏めて浄化してやる」

 『魔槍雷帝』から発せられた雷撃が、凍った邪霊たちに降り注ぐ。
 そしてマレークは、『山祇神槍』で穿つことで粉々に砕けた邪霊を浄化させていった。

 * * *

 マレークが殴り合いをしていた青年たちへと向かったのとほぼ同時に、篝は蹲っている少年の元へと向かっていた。
 互いの得手を加味して事前に決めていた、役割分担だ。

「怖い怖い怖い……ボクがいなければ、ボクなんかいなくなれば兄さんたちは……」

 焦点の合わぬ目でぼそぼそと漏らす少年は、どこかで拾ったのだろう縄を自分の首にかけようとする。

「少年、それは、いけない」

 彼の手を掴んで自死を封じた篝は、『睡魔水晶』を手にして祈る。

「心乱されるものにやすらぎを。雛芥子の労りと、慰めの眠りを……」

 するとその黒水晶の刃が篝の持つ力を増幅し、少年を包み込んだ。
 がくり、頭を垂れて全身から力を失った少年は、しばし微睡みの中。眠りが荒んだ心を癒やしてくれるはず。
 そして宿主であった少年から絞り出されるように姿を現したのは――蒼い顔をした邪霊。

「救いを求め、荒む霊よ」

 まばゆい光を纏い――否、自身が光として灯った篝は、邪霊にまで救いの手を伸ばす。

「私の光の内においで。暖かいところへ、迷わぬように導こう」

 吸い込まれるように篝へと近づいた邪霊が、彼女の肌に触れる寸前で光に溶けてゆく。
 その祈りの通り、暖かいところへと――……。

 * * *

(「過去も未来もない俺にとっても、死は救いかもしれない」)
 発光し、祈りを以てして邪霊をいだこうとする篝を見て、マレークは邪霊たちを従えている首魁の掲げる理論を思い浮かべていた。
 グリモアベースでその理論を聞いた時から、ずっと考えていた。
 死が救いかと問われたら、答えられないと思っていたけれど。その答えを見つけた。
 ――でも。

「まる、まる、大丈夫だったか、怪我はないか?」

 ふわりふわりと駆け寄ってきた篝が、心配そうにマレークの顔を覗き込む。

「ああ。大丈夫だ」
「まるが元気なら、私は嬉しい」

 そう言ってこの女神は、マレークにだけ無邪気に笑うのだ。

「私はまるに寄り添う泉照、まるの女神だからな」

 その笑顔に、自然とマレークの口元も緩む。
(「だが篝が側にいる『今』が、楽しいと思い始めているのだ」)
 自身にとって死が救いであるとしても、今すぐにそれを選ぶことは出来ない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
B アルマニアさん(f03794)と連携

邪霊や襲いかかる人が建物に近づかないよう街の人を守る数日でも声や思いをかわせば、生きていて笑っていて欲しい、やっぱりそう思うんですだから私の方法で「救い」ます。襲い来る人たちも助けたいです

邪霊の影響は自分にもくる。四色精扇に触れ「私のそばにいてくださいね」と再び精霊に声を掛ける
(精霊たち大喜び)…お、落ち着いてっ威力も上がってるし慣れるまで支援に回りましょう…
足元に風を走らせ地面を軽くゆらして近づく人を足止め。攻撃を当たりやすくします
火の精霊は派手に…いやちょっとでいいので、動きまわって建物の中の人達に気付かないように邪霊を引きつけて下さい!


アルマニア・シングリッド
【B】
カイさん(f05712)と

「『死』こそが救い」とは
何とも解せない押し売りですね


問い掛けましょう
・何故、死が救いと思うのか
・何故、負の感情を媒体に感情の解放を狙うのか
・何故、感情の解放が救いに繋がるか

言っておきますが
小説などで言われている倫理観を語られても
私は納得はしませんよ?(情報収集・世界知識・戦闘知識・学習力

想舞輝華から顕れるのは村全体を覆い隠すような霊体にしか見えない濃霧

この濃霧は憑依や誘惑を断ち切る力があります
勿論、今回の邪霊のみに効く攻撃もありますよ

カイさんが足止めをしている間に
少しでも多く狩りますよ

宝石花のお陰でいつもよりは長く展開できる分
働かなければ


アドリブ
遊び歓迎



 それが降り注いだ時、心はもう決まっていた。

(「数日でも声や思いをかわせば、生きていて笑っていて欲しい、やっぱりそう思うんです」)
 夜明けとともに街中に降り注ぐ邪霊たちを見て、雨ようだなんて思ったりしない。
 雨は恵みにも害にも成りうるけれど、『水』であるからだ。水の精霊とも縁がある桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、それと水を並べるようなことをしたくはない。
 彼は、街の西側にある噴水広場でそれを迎えた。普段は人々の憩いの場であるそこに今、いるのは――多くの邪霊たち。
 カイは、滞在中にこの広場で子どもたちと遊んだことを思い出す。
 彼の本体であるからくり人形に目を輝かせる子、ちょっと怯えて遠巻きに見ている子。宝石花の鉄扇として再誕した『四色精扇』に宿る精霊たちと、仲良く遊ぶ子。泣き止まずに新米ママを困らせていた赤ん坊は、精霊たちが近づくと笑顔を見せた。
 商店街や旅商人たちの露店が近いことから、自然、保護者が買い物をしている間の子どもの相手をすることになって。
 けれどもカイはそれを面倒だとも煩わしいとも思わなかった。
 子どもたちの笑顔も反応も、子どもならではの発想も興味深ったし、僅かな間でも子どもたちと離れて落ち着いて買い物が出来た保護者の顔は、買い物前より穏やかになっていたから。
 彼らの笑顔を、日常を、彼らがこれからも生きていくこの街を、守りたいと思ったのだ。
 ――ただ、少しだけ。ほんの少しだけ……子どもと保護者たちに『面影』を見て、胸のあたりがチクッとしたけれど。
(「私の方法で『救い』ます。感情を暴発させられてしまった人が出てしまったとしても、助けたいです」)
 カイは強い意志を以て、着物の合わせ目へと手を入れた。

「『「死」こそが救い』とは、何とも解せない押し売りですね」

 降り注ぐ邪霊たちを視界に収めながら、アルマニア・シングリッド(世界≪全て≫の私≪アルマニア≫を継承せし空想召喚師・f03794)はグリモア猟兵から聞いた話を思い出していた。
 この近隣の町や村を『死』で救うと宣っている男は、この邪霊たちを従えている。
 そしてその男の考えは、思想は、アルマニアとしては受容できぬもの。
 死を救いだと感じる者が皆無でないことは、もちろん『識っている』。けれどもそれを無理矢理すべての人へ与えようとするのは、ただの押し売りでしかない。

「カイさん、お願いできますか」
「任せてください」

 これ以上、邪霊たちは降り注がぬようだ。ならば、今が始め時。
 アルマニアの声に応えたカイは、懐に入れていた『四色精扇』へと手を触れる。
 邪霊の三色の顔は、カイの心をかき乱そうとする――けれど。

「私のそばにいてくださいね」

 触れた扇に宿る精霊たちに掛けた言葉は、彼らの宿る扇を宝石花の扇へと変化させた時と同じ。

「いるよー」「たすけるー」「いっしょー」「がんばるー」

 ふわりふわりと姿を現した四属性の精霊たち。彼らの宿る扇に触れ、彼らと言葉をかわし、彼らの姿を見ていると、カイを侵食しようとしていたモノが消えていく。

「なに、するー?」「もやすー!」「びゅうびゅうするー!!」「ゆらすっ!!」
「……お、落ち着いてっ!」

 精霊たちは新しい『家』がとても気に入ったようで、上機嫌が続いていた。その上カイから願われたのだ。大喜びでカイの周りを飛びながら、自分たちのできることを(勝手に)しようと盛り上がっている。

「威力も上がっているし、慣れるまで支援に回りましょう……」

 扇を取り出し、広げ、カイは精霊たちの顔を順に見て。
 命令をするつもりはない。したくはない。するのは『お願い』だ。

「炎の精霊は派手に……」
「もやすー?」
「いや、ちょっとでいいので、動き回って邪霊を引きつけてください。なるべく建物から離れるように」
「ごーごー!!」
「水の精霊は……」

 愉しそうに飛んでいった炎の精霊に視線をやりつつ、カイが水の精霊への願いを紡ごうとしたその時。

「化け物め! やっつけてやる!」
「俺たちだって家族を守るんだ!」

 邪霊を挟んだ向かいの路地から広場へと飛び出してきたのは、角材や鉄パイプなどを持った男性の集団。
 先に飛び出した数人に近くにいた邪霊たちが嗤いかけると、彼らの動きが一瞬止まり、そしてその目つきが変わっていった。

「っ……!! 風の精霊、奥の人たちの足元に風を! 地の精霊は地面を軽く揺らして!!」
「びゅーびゅー!」「ぐらぐらぁー!!」

 カイはとっさの判断で、まだ邪霊の影響を受けていない人たちがこれ以上近づかないように、守るように、その足場を不安定にさせる。
 そして同時に自身も地を蹴って、邪霊に心乱された人たちと無事な人たちとの間へと滑り込んだ。

「水の精霊は、私の力を混ぜた水を、あの人達の頭へ振らせてください!」
「……ん」

 控えめに頷いた水の精霊には、『四色精扇』を通じて魔を破る力と祈りの力を送る。
 バシャーっとバケツの水をひっくり返したような水量を頭から浴びた人たちは、水に混ざったカイの力で動きと思考に鈍りが出た。
 彼らに影響を及ぼしている邪霊の力が、抑えられている証だ。
 炎の精霊は、小さな火の玉を放ちながら邪霊たちと追いかけっこをしている。


 カイと精霊たちがほとんどの邪霊を抑えてくれている間に、アルマニアは開いた『想舞輝華』を手にしたまま、一番近くにいた邪霊へと狙いを定めていた。

「何故、死が救いだと思うのですか」

 アルマニアは、感情の起伏の乏しいいつもの表情で、淡々と邪霊へ問いかける。

「何故、負の感情を触媒に感情の解放を狙うのですか」

 これは、答えを得られないものと想定しての質問だ。
 死を救いだと思っているのは邪霊たちを従えている男であり、邪霊たちにはどの程度意思があるのかわからない。

「何故、感情の解放が救いに繋がるのですか」

 けれどもこの質問群は、無駄ではない。必要な『手順』なのだ。
 問いかけと共に『想舞輝華』から発生するのは、濃霧。邪霊はその濃霧に込められた力を感じ取ったのだろう、アルマニアへと攻撃を放つ――しかしそれは、濃霧に遮られた。 

「言っておきますが、小説などで語られている倫理観を語られても、私は納得しませんよ?」

 膨大なる知識を擁するアルマニアに、手垢のついた理論は通用しない。
 発生し続ける濃霧は空へと昇っていき、周囲へと広がっていく。それでもカイや精霊たちの様子が変わらないのは、この濃霧は邪霊にしか見えないものだからだ。
 他の猟兵たちの視界を封じては元も子もない。だからこの濃霧で視界を遮られるのは、邪霊のみと設定してある。

『カイホウ、カイ、ホウ……』

 ぼそぼそと邪霊が発するのは、言葉とは判別し難い音。その間にも濃霧は、街全体を覆い隠すように広がってゆく。
 そう、この濃霧は、『アルマニアが満足な答えを得るまで』広がり続ける。
 答えが得られなければ永遠、というのはいささか言い過ぎかもしれないが、それでも。
(「宝石花のお陰でいつもよりは長く展開できる分、働かなければ」)
 手にした『想舞輝華』のお陰で、アルマニア自身の力も増幅されている。カイが足止めをしてくれている間に一体でも多くの邪霊を屠るのが、アルマニアの役目。
(「この濃霧には、憑依や誘惑を断ち切る力がありますから」)
 被害の拡大と抑制を助力できるだろう。
 だからアルマニアは、この邪霊たちへと効果的な魔術を空想から具現化し、それを放つのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノトス・オルガノン
アドリブ:☆
A3
なぜお前は生きている?
身体を得てまで会いたいと願った者はとうに死んでしまったのに
また失うことが怖くてなにも愛せないくせに
その出生が故に神も信じられぬのに
その口は人の為と言い訳して神へ捧ぐ歌を紡ぐ
偽善者め

声が聞こえる
心の奥底から

聞こえない振りをしてきた、自分の声だ

やめろ
やめてくれ
分かっているんだ、そんなことは

ごめんなさい
生まれてしまって、ごめんなさい

縋ったのは、いつもの杖ではなく
生まれたばかりの、か細い杖

…あぁ、何をしているんだ、私は
決めたじゃないか
迷わないと
弱くても、為すべきことを為すと
そして…彼を、救うと…!

導きの花…どうか、往く先を示しておくれ
UC:White Lily



 それが降り注ぐのを見た時、思い出したのは彼の――……。


『なぜお前は生きている?」

 問いかけたのは、厳格な司祭の発するが如き声。

『身体を得てまで会いたいと願った者は、とうに死んでしまったのに』

 事実を突きつけるのは、重い青年の声。

『また失うことが怖くて、なにも愛せないくせに』

 責め立てるのは、甘やかな乙女の声。

『その出生が故に神も信じられぬのに、その口は人の為と言い訳して神へ捧ぐ歌を紡ぐ』

 失望の色を滲ませるのは、階(きざはし)をのぼった、大人の女性の声。

『偽善者め』
『偽善者め』
『偽善者め』
『偽善者め』

 様々な音域の声が、同時に責め立ててくる。

「っ……ぁっ……」

 嗚呼、ノトス・オルガノン(白百合の鎮魂歌・f03612)の頭の中に響くその声は、自身の心の奥底から響いていた。
 今日この時まで聞こえないふりをしてきた――自分の声。
 パイプオルガンのヤドリガミであるノトスは、その本体の性質から幅広い音域の声を有する。
 ある時は乙女の。ある時は青年の。ある時は司祭の。ある時は――……。

『偽善者め』
『偽善者め』
「やめろ……」
『偽善者め』
『偽善者め』
「やめてくれ……」

 耳を塞いでも、声は止まない。偽善者と罵り続ける。、

「分かっているんだ、そんなことは!!」

 暗闇の中に、ぽつんと独り。
 嗚呼、声は止まない。
 この闇から解放される方法なんてわからない。
 考える余裕すら、ないのだから。

「……ごめんなさい……」

 はらりはらり、雫が落ちる。

「生まれてしまって……ごめんなさい……」

 生を寿ぐ聖職者が、己の出生を悔いるだなんて。
 嗚呼、身体に力が入らない。もう、立っていることも、生きることも辛い……。
 無意識に手を伸ばせば触れた何かを握りしめて、それに縋るように体重を預けた。
 その時。

 ――リン……。

 闇に、高音が響き渡った。それは、ほんの一瞬のことだったけれど。
 意識を鼓舞されたような気がして、ノトスは視線を上げる。そういえば、自分が縋っているのは一体……。

「あぁ……」

 視線を向けて気がついた。それが、愛用している杖ではないことに。
 いつもの杖よりも小ぶりで、上部が十字のようになっている、生まれたばかりのか細い杖であることに。
 その落ち着いた青と宿る白百合が、自身に必死に訴えかけているように思えてならない。

「……何をしているんだ、私は」

 そっと、優しく撫でるようにその杖身に触れて。

「決めたじゃないか、迷わないと」

 ゆるりと、自分の足で立つ。

「弱くても、為すべきことを為すと」

 思い出した。
 決めじゃないか。誓ったじゃないか。

「――そして……彼を、救うと……!!」

 縋らずに、『Λουλούδια καθοδήγησης』を両手で握りしめる。
 嗚呼、この杖は――……。
 ヤドリガミはモノに宿った想いの具現化のようなもの。けれどもこの杖は生まれたばかりで、確固たる意思など持ち得ていないだろう。
 でも。
 手塩にかけて育てた白百合の宿るこの杖から、確かに想いを感じるのだ。

「導きの花……どうか、往く先を示しておくれ」

 瞼を閉じて、ノトスは祈る。
 手にした『Λουλούδια καθοδήγησης』がそれに応えるように、白百合の花びらとなって周囲の闇を浄化していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『リヒト・レイスフェルド』

POW   :    白キ安寧
【白百合から毒素を含む甘い芳香】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    キミガ為ノ断願
【銃口】を向けた対象に、【願い、祈りを断つ魔弾】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    願イヲ越エタ先
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【死すら乗り越えた狂信者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はノトス・オルガノンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●転調
 男は生前、『音』に敏感であった。
 『音』と、通じ合っていた。
 そして『音』を、創り出した。
 そんな男だからこそ、『聞こえて』いた。

 『聲』の齎す響きが違う。彩(いろ)が違う。
 空気の中に広がる『音』の馨りが違う。

 高台からエーデルシュタインの街を見下ろしていた男がそれに気がつくのは、当然のことであった。

「――なんという、不協和音」

 男の手は、男の望んだ音で旋律を奏でた――昔も、今も。
 なのに今日の演奏ときたら酷いものだ。こんな演奏望んでいない。聞かせられたものじゃない。
 常日頃抑えている感情を解き放ち、ヒトとして在るが儘に行動することで紡ぎあげられし音――それが彼らへの葬送曲。彼らへの救い。
 それを奏でてきたはずが、今日の演奏は違う。

「何者かが――無理矢理変えた?」

 男は長い黒髪と長い上衣を翻し、高台から飛び下りた。


●白百合の
 猟兵たちはそれぞれ己の決めた場所で、数多降り注いだ邪霊たちと対峙した。
 被害に遭いそうになった住人たちを救い、保護していった。
 きりがないほどたくさん墜ちたように思えた邪霊たちだが、その数が確実に減っていくのを実感していた。

 誰かが最後の邪霊にとどめを刺した。けれども猟兵たちは誰も、気を抜いてはいない。
 この邪霊たちを率いていた者こそが、この街をの人々を真に滅する者であると、知っているから。

「――ああ、そういうことでしたか」

 教会周辺に『降って』来たのは、耳障りの良いバリトン。
 近くにいた猟兵たちが、周囲を見回す。けれども声の主の姿は見えない。

「この街の各所にいる、あなたがた『埃』が、私の演奏を妨げていたのですね」

 スッ――教会の屋根から、闇が一滴落ちて来た。
 音も立てずに地へとついたその闇は、男性の姿をしている。

「パイプに埃が積もれば、響きが悪くなるのも当然です」

 男が着地したのは、教会の礼拝堂へと繋がる大扉の前。
 彼が教会にて姿を現したのは、やはり生前、神に仕えていたからか。
 だが今、その教会内には……戦う力を持たぬ街の人たちが大勢避難している。
 下手に近づいて刺激してしまうのも――そう憂慮する猟兵たちの鼻孔をくすぐるのは、甘い花の香り。

「あなたがたと私は、相容れぬものなのでしょう? けれども私は、慈悲を以てあなたがたへと接しましょう。あなたがたへ救いを――……っ……!?」

 涼しい表情で口元に笑みさえ浮かべていた男は、そう言い放った。猟兵がひと目見ればそれがオブリビオンであると理解すると同様に、オブリビオンも本能で猟兵というものを察知する。
 しかし男は、白百合を手にした右手で突然、自分の胸ぐらを掴んだのだ。

「――違う、私は――死こそが救いです――やめてくれ、こんなこと――たくさんのヒトを死で以て救う、それこそが私に与えられた使め――」

 男の言動がおかしい。まるで意識が複数あるような、人格が表面化を争っているような、そんな言動。
 しかしそれは長くは続かなかった。
 男は再び涼しい表情で、猟兵たちを見つめて。

「申し遅れました。私はリヒト・レイスフェルド。あなたがたを『救う』為に、ここへ参りました」

 冷たい瞳。口元だけが笑みを象っていた。

 街中に広がる、花の甘い香り。

 ――救いたいのは、誰?
 ――救われたいのは、誰?



-------------------
※第3章捕捉※

・2章でいた場所や行った行動によって、教会までの距離が変化します。
・大体の目安を記載します。早く距離を詰めるための行動があれば、教会から離れた場所にいる人も早く到着できる確率が上がります。

★共通★
 ⇒甘い香りが充満し始めたことに気がつく。教会方面に異変を感じる。

●教会付近
 ⇒【至近】リヒトを目視できる・声が聞こえる

●住宅街、公園
 ⇒【近い】

●宿屋、自警団詰め所
 ⇒【やや近い】

●上級役人用の邸宅、街の外側、噴水広場
 ⇒【遠い】

※通常の人間が走って教会へと向かった場合、近い方から順に到着します。
※あくまでも大まかな目安なので、フレーバー程度に。必ずしもがっつりリプレイに反映されるわけではありません。

●特定の場所の表記がなかった、よくわからない、上記に当てはまらない方
 ⇒自分の位置を好きなように決めて良い、位置の指定なし、位置を考えずとも良い


****************************

※プレイング受付は 5/27(水)8:31 ~ 5/31(日)23:59 です。
 一度プレイングをお返しして、締め切り後に再送日程をご連絡する場合がございますので、プレイングが流れてしまった場合、連絡をお待ちいただければと思います。

****************************
現在は『これまでご参加いただいたことのある方』のためのロスタイムといたします。
予告なくプレイングを送れない状態になる可能性もございますので、その点はご了承ください。

****************************
刑部・理寿乃

真の姿:竜人状態で

俺様の歌声に引き寄せられたか?
まさか総大将が直々に来るとは、探す手間が省けたな

『クロセアモール』まずはこいつの真名を開放しよう
魔力を注ぎ、真の姿に相応しい大剣に改造
『サフラン色の死』へと変化させる(武器改造)

奴のユーベルコードは数だな
ならばこちらもユーベルコードで数を揃えよう
しかし、現れた先が教会か
念の為、守り徹しておくか
鶴翼の陣を敷くとしよう
(集団戦術 戦闘知識 継続戦闘)


クラウン・アンダーウッド

興味深い相手だねぇ。過去の残滓のようなものが今でも残っているのかな?

無理に倒す必要も教会に近づく必要もないね。要は嫌がらせのような時間稼ぎをすればいい♪
何も猟兵はボクだけじゃないのだから!

ご挨拶どうもありがとう。ボクはクラウン・アンダーウッド。しがない道化師にして人形使いさ♪音楽が好きなのかい?ならとっておきの演奏をしなくちゃね!

カバンから追加の人形楽団を呼び出して扇形に展開。UCを使用したクラウンは相手に背を向けて楽団の指揮者として振る舞い、10体のからくり人形は互いに手を繋ぎ横陣となりクラウンの後ろに立って合唱隊として希望に溢れた歌を歌い出す。

終幕に相応しい演出さ。気に入ってくれるかな♪


ユウイ・アイルヴェーム
「救い」とは、人が決めて求めるものなのです
与えるものでも、与えられるものでもありません
心のない私には、救いなどありません

教会から、できるだけ遠ざけなければいけません
できないのなら、せめて意識をこちらに向けさせなければ
私にできること。ここにいる方全てを守るために、飛び込むこと
少しでも時間を稼げれば、それだけ打てる手は増えるはずです
刃の届く範囲が、手の届く範囲が、守れるひとが、増えるのです
この光は、皆様の為に
命の為に、使うのです

ひとつだけ、聞いてみたかったのです
「あなたは、なぜ『救い』たいのですか」
私は生きることが幸せだと、そう聞きました
でも、あなたにはそう思わない理由があったのでしょう



 礼拝堂へと繋がる大扉の前に立つ長身の男――リヒト・レイスフェルドは、教会近くで戦っていた三人を視界に映して名乗った。
 そしてそれは言葉を投げかけられた三人の猟兵――刑部・理寿乃(暴竜の血脈・f05426)にクラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)、ユウイ・アイルヴェーム(そらいろこびん・f08837)の耳に届いている。
 甘い花の香りが鼻孔をくすぐる――だがその香りは、工房『ヴァッフェ』において『宝石花』シリーズの製作に使われるために用意されていた花々のように、心地よいものではない。
 むしろ嫌悪感を増幅させるような、本能が警鐘を鳴らすような、厭わしい香り。嗚呼これが普通の花を歪曲させた香りであると知ったら、花を愛し、ゆえに花もつの姿や力を他の物質に宿す魔法を使うあのエルフの兄は、悲しむことだろう。
(「俺様の歌声に引き寄せられたか?」)
 心中でそう紡ぎつつもリヒトから視線を外すことのないまま、理寿乃は己の姿を変える。ドラゴニアンである彼女は、小柄な女性の姿から――屈強な体躯のドラゴンの姿へと。
(「教会の中は――まだ大丈夫だな」)
 そして先程教会の中へと待機させた白狼の五感を通じて、教会内の様子を確認した。
 教会内の人々は、理寿乃の歌と戦闘音が収まったことに気がついただろう。そして――リヒトの言葉も聞こえていた可能性は高い。
 だが、大扉の前に伏せていた白狼が立ち上がり、守るようにそこに立ちはだかるものだから――彼らは自然と状況を理解し、息を潜めているようだ。
 教会には、クラウンの人形たちを起点として、オーラによる防御結界が展開されている。一撃で簡単に破られることはないだろうが、例えば教会への攻撃が齎す音や衝撃に中にいる人々がパニックを起こしてしまったら――外へと出てきてしまったら――?
(「無理に倒す必要も教会に近づく必要もないね。要は嫌がらせのような時間稼ぎをすればいい♪」)
(「教会から、できるだけ遠ざけなければいけません」)
(「何も猟兵はボクだけじゃないのだから!」)
(「できないのなら、せめて意識をこちらに向けさせなければ」)
 クラウンとユウイの考えることは、目的とすることは、ほぼ同じ。
 そしてそれは、理寿乃もまた――。

「まさか総大将が直々に来るとは、探す手間が省けたな」

 隆々とした体躯が手にしているのは、宝石花の武器『クロセアモール』。女性の姿の時ならともかく、今の姿には少々小ぶりすぎるように映るそれを手に、理寿乃はリヒトへと言葉を投げた。

「『調律』の為なれば、いくらでも。それが大切な『楽器』であれば、なおさら自身の手で整備や調律を行いたいと思うものです」

 彼の言葉は何かの比喩だろうか。それの指す正しいところまでは理解できぬとも、その言葉の示す意味を推察することはできる。
 要するに、自分の計画の邪魔をしている猟兵たちを排除するか、猟兵たちの目を縫って住人たちを『救う』つもりなのだろう。
(「興味深い相手だねぇ。過去の残滓のようなものが今でも残っているのかな?」)
 クラウンは、リヒトの言葉の端々に浮かぶ『音楽』に紐づく内容を、彼の生前の何かによるものだと推察する。
 そして彼との距離はそのまま、ハットに手をかけ口を開いた。

「ご挨拶どうもありがとう。ボクはクラウン・アンダーウッド。しがない道化師にして人形使いさ♪」

 脱いだハットを胸元にあてて礼をとる。

「音楽が好きなのかい? ならとっておきの演奏をしなくちゃね!」

 そう告げてハットを空へと放ち――それがクラウンの頭上へと戻るより早く、カバンから追加の人形楽団を喚び出して。
 クラウン自身はリヒトに背を向けて、扇形に展開した人形たちの指揮者よろしく手を動かす。その手にある宝石花の武器『Hoffnung zurück』は、さながらタクトだ。

「ほう……このような賑やかな、大衆向けの旋律には馴染みがありませんから、少々目新しく感じますね」

 リヒトは己に背を向けたクラウンに、銃口を向ける。もちろんクラウンがただ無防備に背中を晒しているわけではないと、彼もわかっているはずだ。
 10体の人形たちが手を繋ぎ紡ぐ歌は、希望に溢れた歌。聖歌や賛美歌といった厳かで畏まったものよりも、もっと易しく気軽に視聴できる旋律。この旋律は教会内部の人々にも届いていることだろう。この歌声を聞いて、少しでも安心してもらえれば――……。
 その歌声を乱すように一閃、銃声が走り抜けた。けれどもリヒトの銃から放たれた魔弾は陣形を組んだ人形たちによって阻まれ、クラウンには届かない。

「なるほど」
「終幕に相応しい演出さ。気に入ってくれるかな♪」
「『終幕』をお望みですか?」

 口元の笑みを崩さぬまま、リヒトは銃から魔弾を連射する。銃声が響き渡り、人形たちの歌声を何度も何度も切り裂いていく。
 だが、魔弾はひとつたりともクラウンには当たらない。
 それでも連射が続けられる――奴の意図は?
(「教会か……念の為に守りに徹しておきたいが」)
 クラウンに放たれ続ける銃弾。そしてリヒトのいる位置を見て、理寿乃は思う。連射すると見せかけて、奴が一発でも教会に弾丸を当てれば、建物を壊すことは出来なくても中にいる人々の動揺を誘うことはできるだろう。ヒトの心は脆い。完全に恐怖を払拭することなど、生易しいことではない。なにかきっかけがあれば、それはすぐに姿を現し、増大してゆく。
 理寿乃には、守りに徹するための策はある。だが、奴が着地したのは『教会の礼拝堂へと繋がる大扉の前』。つまり、リヒトは教会の大扉を背にして立っているのだ。
 対する理寿乃たちは、何かあればすぐに戻れる距離ではあるが、邪霊退治のために教会からはやや離れた位置にいた。教会を守るために、守るべき教会を背後に庇うように位置取りたいところ。だがリヒトが大扉を背にしている以上、その背後に回り込むのは難しい。
 彼を教会から引き離すことができればいいのだが、今のところ銃を得物としている彼が、わざわざその場から移動する必要性を見出す可能性は低いだろう。

 ――ならば、どうする?

 理寿乃がひとりで奴と対峙しているのならば、それは大きな賭けになるかもしれない。けれども今は、ひとりではない。
 チラ、と視線を向けた先――ユウイが奴に気づかれないよう、一瞬だけ理寿乃と視線を絡めて頷いたから。
(「――ならば、行くか。真名解放――」)
 手にした『クロセアモール』へと、理寿乃は己の魔力を注ぎ込む。すると小柄な理寿乃でも取り回しやすいサイズだった西洋剣が、現在の体躯に相応しい大剣へと変化してゆくではないか。
 『サフラン色の死』――剣が完全に変化を遂げると同時に、奴の背にある大扉が開き――。

「ガウッ!!」
「っ!?」

 背後からリヒトへと襲いかかったのは、礼拝堂内で待機していた理寿乃の白狼だ。銃声が止む。元より察知され難いその存在に、リヒトは気づくことが出来なかったようで。襲いかかられる寸前で避けはしたが、横に飛び退いたことで彼の背は大扉から離れた。

「――星は地上にも咲きます、悲しみを終わらせるために!!」
「っ……!!」

 そしてその瞬間を見逃さずに地を蹴ったユウイは、一気にリヒトとの間合いを詰めて。威力だけでなく射程も増した宝石花の薙刀『Twinkling taivaalla』を手に切り込む彼女に対し、リヒトはその、星を宿す刃から逃れるように更に後ろへと飛ぶことを余儀なくされる。
(「私にできること。ここにいる方全てを守るために、飛び込むこと」)
 薙刀の間合いで奴を捉えるだけならば、これほど接近する必要はない。すでにユウイはその間合いを己がものとしているのだから。
 けれども今、ユウイがリヒトの元へと飛び込み続けるのは。
(「少しでも時間を稼げれば、それだけ打てる手は増えるはずです」)
 教会内の人々へと、その手を伸ばすためだった。
 教会と向かい合うようにしていたユウイたち。教会とユウイたちの間に、リヒトはいた。そう、念の為に守りを施していたとはいえ教会を背にされたままでは、教会内の人々を人質として取られているも同然なのだ。
 ただ奴との距離を詰めただけでは、それは解決しない。だから理寿乃と理寿乃の白狼と協力して、リヒトを教会から引き離すチャンスを創り出したのだ。
 リヒトの意識を引きつけておくことができれば、教会を守ることさえができていれば、それでいいのだ。奴へ本格的に傷を負わせるのは、自分たちでなくとも良い。けれども教会を、その中にいる住民たちを守ることができるのは、今ここにいる三人にほかならないのだから。
(「少しでも教会から引き離すことができれば、刃の届く範囲が、手の届く範囲が、守れるひとが、増えるのです」)
 目の前の男は、先程対峙した邪霊たちよりも明らかに格上の存在だ。けれども不思議と、あの時感じた手の震えはない。
 ユウイがあの時自分に言い聞かせるように紡いだ『呪文』は、今はいらない。
 だって彼女は今、独りで戦っているのではないのだから。
 無意識に生じる恐怖のようなものを滅するようにして心を奮い立たせてくれる人も、負った傷を気にかけて治してくれる人もいる。
 距離を詰めようと地を蹴りゆくユウイから距離を取ろうとしているリヒトの銃口が、ユウイへと狙いを定める。
 けれども心に湧いたのは、恐怖ではなく――。

「この光は、皆様の為に、命の為に、使うのです」

 彼女が怯まずに前へと進むことができるのは、己が『人形』であることを、『ヒト』に『つかわれる』存在であることを、呪(まじない)いのように己の中に刷り込んで、再確認したからではない。
 己が守ろうとしているその存在が、同時に自身を守ってくれているのだと、識ったからだ。

 * * *

 大扉から飛び出した白狼がリヒトに襲いかかり、奴がその場から動いた。
 その機を正しく捉えたユウイが奴へと切り込み、奴と教会との距離を広げてゆく。
 十メートルもいらない。ほんの数メートルで十分だ。奴が大扉から離れたのと入れ替わるようにして、大剣へと変化を遂げた『サフラン色の死』を手にした理寿乃は大扉の前へと位置取る。
 
 ――古より来たれ、我が同胞よ。有象無象を蹴散らすぞ!

 そしてその場で喚び出したのは、魔銃槍と魔剣で武装した竜人の幽霊たち。三五〇体近い竜人の幽霊たちは飛竜に乗って現れ、そして。

「陣形整え!!」

 理寿乃の指示で一斉に動き、竜人たちは教会を守る形で陣形を敷く。防衛に適するとされる鶴翼の陣だ。

「教会は我らが守り抜いてみせる!!」

 大剣を掲げて理寿乃が大音声で告げたのは、教会内の人々を安心させるため。白狼が外に出たことで不安を膨らませたかもしれない住人たちを、気遣ってのことだ。
 教会内へと戻るように命じた白狼が扉の間を抜けるそのタイミングに合わせて発せられた、その鬨の声とも言える言葉と、クラウンの指揮する人形たちが奏でる歌声は、白狼が通り抜けるために開いた扉の隙間からダイレクトに教会内へと伝わって、住人たちをも鼓舞する。
(「俺様たちがこうして教会の守りに徹すれば、このあと駆けつけてくる猟兵たちも戦いやすいだろう」)
 そう、この街中に散っている猟兵たちも、教会付近の異変を感じ取っていることだろう。加えて銃声や歌声や鬨の声――それらは猟兵仲間たちへの合図にもなる。
 そう、リヒトに傷を負わせることに専念するのは、彼らの役目ではない。
 三人は自分たちのやるべきこと、自分たちにしか出来ぬことを的確に理解し、そして行動に移したのだ。

 ――キィンッ!!

 人形たちの歌声の間を、甲高い音が走り抜けていった。
 リヒトの銃から放たれた魔弾が、ユウイの薙刀の刃で打たれた音だ。

「ひとつだけ、聞いてみたかったのです」

 背後を振り返ってはいない。けれどもユウイには、自身の背後にある教会がしっかりと守られていることがわかる。そうあることを、疑わない。
 だからそれ以上、リヒトとの距離を詰めるのをやめた。教会から引き離そうとするあまり、住人の避難している他の建物へと近づいては意味がないからだ。

「あなたは、なぜ『救い』たいのですか」
「……『なぜ』?」

 静かに紡がれたその問いに、リヒトは口元に笑みを浮かべたまま小さく首を傾げた。

「私は生きることが幸せだと、そう聞きました」

 誰から聞いたのだったか。ひとりからではなかった気もする。書物でも識った気がする。
 嗚呼、そういえば言葉としてでなくとも、この街に滞在している間にそれを肌で感じることもあった。
 だからこそ、守りたい――ユウイの中に宿るその想いが、強くなっていったのだ。
 でも。

「――でも、あなたにはそう思わない理由があったのでしょう」
「……、……」

 目の前のこの男は、『死』こそ『救い』であると宣う。常日頃抑制を余儀なくされている感情を解放させることをも『救い』とし、そして感情を暴走させる彼らを『死』でもって更に『救う』というのだ。

「『生きること』は『苦しみ』や『痛み』を伴います。あなた方も、そのような経験に覚えはありませんか?」

 嗚呼、まるで神の教えを説くかのように、リヒトは言葉を紡いでいく。

「肉体的なものだけではない、精神にも及ぶ苦痛は、害でしかないで――……」

 穏やかな笑顔を浮かべているように見える彼の瞳の奥は、その実、笑ってはいない。
 だがその瞳の色が揺らいだかと思うと、リヒトは言葉を切って――否、続きを紡ぐことが出来なかったのだ。
 白百合を手にした右手が、再び彼自身の胸ぐらを掴んだものだから。

「……違う、それが、あるからこそ――『生』は『命』をただ徒に苦しめるだけ――ヒトは、成ちょ……――『苦しみ』からの解放を――」

 彼が名乗る直前に見えたおかしな言動、それがまた発生していた。
 ユウイも理寿乃もリヒトの言動が予測できないからこそ、強い警戒を見せる。
(「うーん、あれは人格が複数あるというよりも……」)
 指揮を続けながら人形と共に適切な位置へと移動したクラウンが感じたのは、多重人格のソレというよりも。
(「『狂気』と『正気』、みたいだね」)

 リヒトの身に起こっている真実は未だ知れぬけれど、猟兵たちの為すべきことは、変わらない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

城島・侑士
【桃栗】


なんだこの匂いは?
この場には不釣り合いの甘ったるい…この香りは…百合か?

それに教会方面から嫌な気配がする
深青、行こう!
教会へ近づくにつれ音や声がハッキリしてくる
どうやら既に戦闘が始まっているようだな
敵を目視でき次第、仕掛けるぞ!深青

UC咎力封じを発動し
敵の行動を阻害する
UCを回避されたら避けた方向へと間髪入れずに乱れ撃ち
前衛の深青を援護射撃でサポートして敵を確実に追い詰めていく
魔弾は残像で回避するか被弾しそうな時はオーラ防御で凌ぐ

しかし死が救い…か
言ってることはカルト教団の終末論だな
貴様の歪んだ思想のために無辜の村人を巻き込むなよ
それに俺は無神論者でね
思想の受け売りは遠慮しておくぜ


壱季・深青
【桃栗】◎
匂い…向こうから?
あそこは…あの場所は…
うん、パパさん…行こう
ここから…近い場所
急げは…きっと…間に合う

あいつだ…見つけた
それと、同時に…UC発動

救いは…死じゃない
死は…救いにならない
なのに…死こそ救い…何故そう思うのか…知りたい

俺は…お前に殺されたら…悔いが残る
お前の救いとやら…俺たちに…試してみろ
できるものなら…ね

野生の勘…第六感とかを使って…回避を試みる
一般の人たちを…巻き込まないように…回りに注意しながら…戦う
パパさんの…援護を受けながら…黒曜の導「猩々緋」で…上げた攻撃力
敵の動きを見て…隙を探す
叩ける瞬間を見つけたら…問答無用で…全力で…叩く



 住宅街にて邪霊と相対した城島・侑士(怪談文士・f18993)と壱季・深青(無気力な道化モノ・f01300)は、目で見える範囲、気配を感じる範囲に邪霊の存在が無いことを感じつつも、気を抜くことはなかった。
 いつ、どの方向から他の邪霊が接近してきてもいいように、感覚を研ぎ澄ませる。
 だがふたりのそれに引っかかったのは、邪霊たちの気配ではなかった。
(「なんだ、この匂いは?」)
(「匂い……向こうから?」)
 強い風が街中を吹き渡っているわけではない。けれどもふたりの鼻腔をくすぐったのは、それまでは感じられなかった香り。
 風にのって運ばれてきたというよりも、街中の空気を侵食するようにふたりの元へとたどり着いたその香り。ふたりは自然とその香りが『来た』方向へと視線を向けた。
 明らかにこの場に不釣り合いの甘ったるい香り――それは。

「……この香りは……百合、か?」
「あそこは……あの場所は……」

 侑士の推察は間違っていない。この甘ったるい香りは常軌を逸した濃さがあるが、百合の香りだ。
 そしてそれがやってきた方向――深青の視線の先には、教会の鐘楼がある。

「教会のある方向だな。嫌な気配がする――深青、行こう!」
「うん、パパさん……行こう」

 同系色の瞳を持つふたりは、視線を絡ませてすぐに地を蹴った。
(「ここから……近い場所……急げば……きっと……間に合う……」)
 幸い、教会までは直線距離ですぐだ。住宅街の建物を避けて行かねばならぬ都合上、直線距離よりは多少距離は伸びるが、それでも近いといえる。
 深青は住宅街を抜ける前に、先ほど助けた少年の剣を植え込みの中へと隠した。この剣は、あとであの子に返さなくてはならないものだから。

 * * *

 住宅街を教会方面へ向かって走りゆくと、銃声と歌声が聞こてきた。それがどういう意味を持つかわからぬふたりではない。

「どうやら、既に戦闘が始まっているようだな」

 速度を緩めぬまま、隣を走る深青に告げる侑士。深青はそっと頷いて。

「敵を目視でき次第、仕掛けるぞ! 深青!」
「うん、パパさん……!」

 いつでも仕掛けられるよう、ふたりが得物を握り直したその時、聞こえてきたのは。

 ――教会は我らが守り抜いてみせる!!

 気合十分の大音声。
 それは、自分たちを含む他の猟兵たちへ、『教会を守るものがいること』と『教会付近に敵がいること』、そして『既に交戦している猟兵達がいること』を同時に知らせる声。彼らはおそらく、教会に避難している人々を守るために動いているのだろうと想像するのは易い。
 ならば、ふたりのすることはもう、決まっている。

 住宅街から抜けたふたりの視界に入ったのは、教会を守るように陣取る竜人たちと、歌を紡ぐ人形たちを指揮する猟兵、そして教会から少し離れた位置で黒い服を纏った男と対峙する少女――。
 侑士と深青が敵の姿を捉えることが出来たのは、人形を使う猟兵や竜人たちを指揮する猟兵を右前側に、敵と挟んだ位置。彼らよりももっと奥にいる男――リヒトに相対している少女越しに、その姿を捉えることが出来た。
 教会前へと通じる道の最後の角を曲がって、一番最初に見えたのがその光景だ。位置的に、ふたりはすぐにリヒトの視界に入るだろう――常ならば。
 もちろん、こちらだけが相手を目視できるという有利な状況であるに越したことはなかったが、そうではない前提でふたりは動いていた。それに加え、男はなぜか自分の胸ぐらを自分で握りしめ、意識を自分の中に向けている様子。その理由はわからないが、これを好機と捉えぬ愚か者はいまい。

「あいつだ……見つけた……」
「深青!」

 侑士が彼の名を呼ぶより早く、『猩々緋』で己の攻撃力を増した深青が速度を上げる。侑士は彼の名を紡ぐと同時に、男へと三種の拘束具を放っていた。

「っ……!?」

 飛来したうち二つの拘束具を身に受け、『正気』に戻ったのか、リヒトは視線を上げる。しかしその時すでに黒き刃を手にした深青が、間合いを詰めていた。

「くっ……新手、ですか……。あなた方も、『救い』を邪魔する、と……」
「……『救い』は『死』じゃない。『死』は……『救い』にならない……」

 その身に『黒曜羅刹』の刃を受けてなお、笑顔を貼り付けて言葉を紡ぐリヒト。白百合を掲げようとするその右腕に、アイアゲートの矢が刺さった――侑士の『ユービック』による、的確な狙撃だ。
(「……なのに……死こそ救い……何故そう思うのか……知りたい……」)
 矢を受けたことで取り落しそうになった白百合を、リヒトは持ち直す。その隙に若干距離を詰めた侑士が、男を睨めつける。

「しかし死が救い……か。言ってることはカルト教団の終末論だな」
「嗚呼、この思想を理解できぬあなたのような方々にこそ、私は救いを与えなくてはなりません」
「貴様の歪んだ思想のために、無辜の人々を巻き込むなよ」
「大丈夫ですよ、最初は皆さん、疑いのほうが強いものです」

 ふたりのやり取りは平行線だ。交わるところがない。否、どちらも、交わろうという意思がない。
 貼り付けた笑みのまま、リヒトは左手の銃を侑士へと向ける。だがその予備動作を感覚的に捉えた深青が、『黒曜羅刹』を振り上げて――銃口が弾丸を発した瞬間、その数センチ先で銃弾は真っ二つに斬り捨てられた。ふたつに割れた銃弾は、侑士へと届くことはない。
 しかし深青は、頬に何か液体のようなものがついた事に気がついた。それ、漂う香りよりも濃いもので。それがリヒトの持つ白百合から放たれた露だと理解するよりも先に、深青の頭の中がぐわんと揺れた。
 けれども。

「俺は……お前に殺されたら……悔いが残る。お前の救いとやら……俺たちに……試してみろ」

 両の足に力を入れて、深青は倒れるまいと男を見据える。

「……できるものなら、ね……」
「請われなくとも、私はあなた方を『救う』つもりですよ」

 刃を受け、矢を受けてもなお、男は悠然と笑みを作る。しかし彼が銃口を深青に向けるより早く、その腕をアイアゲートの矢が穿った。

「俺は無神論者でね」

 矢を放った侑士は、跳ぶようにしてリヒトとの距離を詰めた。けれどもそれは攻撃のためではない。

「思想の受け売りは遠慮しておくぜ」

 リヒトに接敵していた深青の腹部に腕を回し、彼を抱きかかえるようにして後方へと飛ぶ。
 逃げるわけではない。
 他の猟兵たちが駆けつける足音が聞こえたのだ。彼らの到着はまもなくだろう。ならば、自分たちが引くように見せることで奴の意識を引きつけると同時に、若干ではあるが深青を蝕み始めている毒の追撃を避ける――それが侑士が下した判断。

 猟兵たちは、独りで戦っているのではないのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘザー・デストリュクシオン
住宅街

あまい匂い…?花?
それに変な感じもするの。
教会のほう?
行ってみるの。

リボンを解いて速さを上げてじゃまなものはジャンプで避けながらダッシュでまっすぐ行くの。
あなたがボスね。
(ふんいきがお父さんとにてる)
…前はわたしも死にたかった。妹が死んだと思ってたから。でも生きてて、また会えたの。
それに、大好きな人もできた。
だからそれは救いじゃない。生きて帰るの!

敵の攻撃はアミュレットからオーラ防御を出して防ぐの。
正面から敵に近づいてマヒ攻撃。
これで他の人も攻撃しやすいでしょ。
救われたいのはあなた?
だいじょうぶ、ちゃんと死なせてあげるの。
もうだれかを、この町のやさしい人たちをきずつけさせたりしないの!


ルード・シリウス
…空気が変わったな。しかも教会から不快な気配…か
成程…どうりで『逆撫で』された様な不快感を覚えた訳だ

住宅街から教会に向けて走る。その際、外套と靴の能力を使い、気配と音を殺していく。教会に近づき標的を捉えたら、口元を覆いながら死角となる位置を取る様に影に紛れる様に移動しながら接近。間合いへ踏み込むと同時に、闇斬による捕食の呪いを込めた【絶刀】の一撃を叩き込む

生憎とお前等の救済は必要ねぇ
それと…『救う』だと?『奪う』の間違いだろ
言葉でどれだけ取り繕おうが無意味だ。お前の目が、表情がそう告げてるぜ。自分の信じる神の贄となれと、糧となれと…な
吼えろ闇斬…愚昧な神の下僕を闇ごと絶ち斬るぞ



 ゾクリ……。
 それは恐怖というよりも、怒りを呼び覚ますような不快感。
(「……空気が変わったな。しかも教会から不快な気配……か」)
 住宅街で邪霊を『喰らい』尽くしたルード・シリウス(暴食せし黒の凶戦士・f12362)は、敏感にソレを感じ取っていた。
 視線を向けるのは、教会がある方向。建物の影から鐘楼が見える。
 広がり来る甘い香りが呼び起こしていくのは、安らぎや安心などの正の感情ではない。
(「成程……どうりで『逆撫で』されたような不快感を覚えたわけだ」)
 ルードは己を挑発するような香りの発生源へと、一瞬の躊躇いもなく走り出す。
 そこに倒すべき相手がいるならば、迷う理由なんて皆無だ。

 * * *

(「あまい匂い……? 花?」)
 同じく住宅街にてその香りを自覚したヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)は、今一度、首元のアメジストに触れた。
 甘い香りだけじゃない、変な感じもする……本能的にそれらが漂い来る方向を見れば、建物の向こうに鐘楼が見えた。
(「教会のほう?」)
 ヘザーにも、行かないという選択肢はなかった。そのウサギの耳が、微かに言葉のやり取りを聞き止めていたから。
 襟元の青いリボンをしゅるりとほどく。それをトリガーとして、ヘザーが駆ける速度は徐々に上がっていった。
 咆哮と歌と銃声と――ああ、既に誰かが戦っている。
 ならば、なおさら急がなければ。

 * * *

 住宅街から先に教会へと、既に到着している猟兵たちとは別の路地から、ヘザーは飛び出した。途中でルードと行き合ったが、目的地と目標が同じことはすぐに分かった。言葉を交わすいとまが惜しい。だがその必要はなかった。ルードもヘザーの目的地と目標を察していたからだ。

「あなたがボスね」

 路地から飛び出したヘザーは、男――リヒトに接敵していた猟兵を、別の猟兵が抱くようにして下がらせるのを視界の端に捉えて。
 彼らに意識を向けている黒髪の彼と距離を取って、足を止める。
(「ふんいきがお父さんとにてる」)
 そう思ってしまったから、ヘザーの心の奥の何かが揺れた。

「お嬢さんも、死(救い)を望まれますか? ――いえ、望まれずとも施すのが、私の役目」
「……、……」

 笑顔なのに、決して笑っていない瞳の奥。穏やかなのに、どこか安心できない語り口。
 そして何よりも、自分が正しいと信じて疑わない、その絶大なる自信の持ちようが、似ている。
 抗うことを許さなかった、抗うという思考さえ奪い取った、その人に。

「……前は、わたしも死にたかった」

 零すように紡がれるその言葉は、虚偽ではなく真実。かつてのヘザーがいだいた思い。
 妹が死んでしまった、そう思っていたヘザーには、生きる希望も活力もなかった。

「でも、妹は生きてて、また会えたの」

 奇跡というありふれた言葉で表すのはためらわれるけれど、この言葉が一番伝わりやすいと思うのも事実。

「それに、大好きな人もできた。だから」

 今のヘザーには、わかる。

「だからそれは救いじゃない。生きて帰るの!」

 今のヘザーにとってそれは、救いとなり得ない。
 かつてのヘザーと同じように、死という救いを求める人はいるかもしれないけれど。
 それを決めるのは本人だ。誰かが一方的に決めつけていいものではない。

「一度死(救い)を願ったあなたになら、わかるでしょう? 生きることは苦しみに満ちていると」

 ゆるりと告げたリヒトは、ヘザーへと銃口を向ける。だがヘザーは既にリヒトとの距離を詰め始めていた。
 それでも彼は、躊躇うそぶりすら見せずに引き金を引いた。
 銃声が響き渡る。しかしその弾丸がヘザーを傷つけることはなかった。
 この街の工房で作ってもらったアミュレットの力を借りて増幅させたオーラが、その弾丸を弾いたのだ。
 リヒトが小さく瞠目する。
 それを金の瞳で見据えたまま、至近距離で振るわれる彼女の爪には、麻痺の力が宿されていて。

「あぁ……必死の抵抗というわけですか。宜しい。ならば私は死(救い)を以てあなた方に本来の安らぎを――」

 神父服の胸元を切り裂かれたリヒトは、それでも穏やかに紡ぐ。まるで、救う手立てのない熱病にうかされた者を見るように。
 しかし――その言葉は続かなかった。

「生憎と、お前等の救済は必要ねぇ」

 突如視界の端に現れた男――ルードの斬撃が、その横腹を斬り裂いたからだ。

「それと……『救う』だと? 『奪う』の間違いだろ」

 自身の纏う外套と靴の力で気配や足音を消していたルードは、百合の香りを極力吸い込まぬよう口元を覆いながら、影に紛れるように移動していた。ヘザーがリヒトの意識を引きつけてくれていたことで、ルードの移動は更に容易になり。
 そして。
 死角から間合いを詰めると同時に捕食の呪いを込めた一撃を――。

「……奪うだなんて……これは――」
「言葉でどれだけ取り繕おうが無意味だ。お前の目が、表情がそう告げてるぜ。自分の信じる神の贄となれと、糧となれと……な」

 漆黒の刃についたリヒトの血液を振り落としながら、ルードは後方へ飛ぶ。しかしその視線を敵から離すことはない。

「救われたいのはあなた?」
「私は救われたくなんか――いいえ、私がこれ以上間違いを――間違いではないこれは万物万人への救いで――……」

 ヘザーの真っ直ぐな瞳に、リヒトの身体が小さく揺れる。嗚呼、横腹の傷から流れる赤をそのままに、彼は惑うように紡ぐ。

「だいじょうぶ、わたしたちがちゃんと死なせてあげるの」

 もうだれかを、この街の優しい人たちを傷つけさせたりしない――ヘザーが再び爪を向けるのと同時に、ルードも地を蹴る。

「吼えろ闇斬……愚昧な神の下僕を闇ごと絶ち斬るぞ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加。

家族がいる所:住宅地(やや近い)

色々複雑な事情がありそうだが、今の敵の状態が、人を害する方向に言ってるなら倒さねばね。まあ、人を埃扱いする奴は碌でもない奴だって決めている。人を舐めるのも大概にしな。そのふざけた面をボコボコにしてやるよ。

奏に護りを任せて【ダッシュ】で敵に近付く。【目立たない】【忍び足】で敵の背後に回り込み、銃の攻撃範囲から逃れる。反撃は【オーラ防御】【見切り】で凌いで、飛竜閃で攻撃し、【怪力】【グラップル】で蹴り飛ばす。こういう奴に容赦は無用だ。人を舐めた報いを受けな!!


真宮・奏
【真宮家】で参加。

家族の位置:住宅地(やや近い)

何か苦しんでいるようですが、他人を埃扱いするような人は悪党に決まってます。不協和音は貴方でしょう。こんな人に無辜の命を奪わせはしません。

母さんの後に続く感じで敵に接近。家族に来る攻撃はトリニティエンハンスで防御力を高めた上で【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【かばう】でなるべく引き受けます。【衝撃波】【二回攻撃】で牽制しつつ、接近したら【怪力】【グラップル】で容赦なく殴り飛ばします。事情があるようですが、人を丁重に扱わない態度、許せません!!怒りの拳を受けなさい!!


神城・瞬
【真宮家】で参加。

家族の位置:住宅地

音に敏感な敵ですが・・・近しいものを感じますが、彼の耳は不協和音が鳴り響いてるようですね。彼こそ不協和音だと思うんですが・・・人を埃扱いですか。人を軽く見た報い、存分に受けて貰いましょう。

奏の後に続いて飛んでくる攻撃を【オーラ防御】【見切り】で凌ぎながら月光の狩人で攻撃。敵の射撃の脅威を少しでも削ぐ為に【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】で攻撃。これが貴方が侮った猟兵の力です。存分に喰らって貰いましょうか!!



「――ああ、嗚呼――このままでは私の『救い』が――私、をすくっ――……いや、このまま終わることはできません。埃の降り積もる『音』がします」

 住宅地より教会前へと駆けつけた真宮・響(赫灼の炎・f00434)に真宮・奏(絢爛の星・f03210)、神城・瞬(清光の月・f06558)の一家は、猟兵たちの視線を一手に受けている男――リヒトの姿を捉えた。
(「音に敏感な敵ですか……近しいものを感じますが、彼の耳には不協和音が鳴り響いてるようですね」)
 瞬はそのふた色の瞳をすっと細める。
(「色々複雑な事情がありそうだが、今の敵の状態が、人を害する方向に行ってるなら倒さねばね」)
 響は重ねてきた経験を元にその場の状況を素早く読み取り、敵の様子がおかしいことにも気がついた。

「埃って、私たちのことですか!?」
「……ご存知ですか? パイプオルガンは、パイプに埃が降り積もると、音の響きが悪くなるのですよ。放っておくと不協和音を奏でるように――」
「不協和音は貴方でしょう!」

 黙っていられなかった奏の言葉に、リヒトは既に傷を負っているとは思えないほど落ち着いた視線を向けてきた。けれども奏は怯まない。そばに大切な家族がいてくれるのだから、これ以上に心強いことなどあろうか。

「彼にとっての邪魔者=パイプオルガンのパイプにたまる埃、ということですか。なるほど、理屈はわかります。ですが……人を埃扱いですか」
「まあ、人を埃扱いする奴は碌でもない奴だって決めている」
「そうです、他人を埃扱いするような人は、悪党に決まってます!」

 瞬に響、そして奏の意見は同じ。目の前のこの男が『善』であるはずは、ない。

「人を舐めるのも大概にしな。そのふざけた面をボコボコにしてやるよ」

 武器を手に、響が地を蹴りリヒトとの距離を詰める。それを奏が、瞬が追いかける。
 対するリヒトは接近してくる三人のうち響へと銃口を向け、そして引き金を引く――だが、その弾丸を受けたのは響ではなかった。
 守りの力を増加させた奏が、オーラを纏わせた『エレメンタル・シールド』を手に母の前へと出、その弾丸を盾で受けたのだ。その隙に響はリヒトの射線から外れて距離を詰める。
 しかしリヒトの銃からは、続けて何発も弾丸が発せられ続ける。それは響ではなく、後方の奏と瞬を狙っていた。響の接近を甘んじて受け入れ、二人を抑えるつもりなのだろう。
 立て続けに攻め立ててくる銃弾を、奏は盾で、瞬はオーラで受ける。しかし予想以上に弾丸が連射される速度が早く、そして同時に漂う百合の香りが強まり、二人を蝕んで――。

「瞬にいさん、これ以上は近づけそうに――」
「大丈夫ですよ」

 瞬は奏の隣に立ったまま、的となることを選んだ。自分がこうして奏のそばにいれば、響が安心して全力を出せることを知っているからだ。
 身を守りながら、瞬が杖を掲げる。すると姿を現したのは、空を覆い尽くしそうな数の狩猟鷲。

「これが貴方が侮った猟兵の力です。存分に喰らって貰いましょうか!!」

 戦闘力に長けた鷲たちが一斉にリヒトへと向かう。合体しながら力を増していく鷲たちが、彼に襲いかかることでその視界を埋め尽くした一瞬――。

「人を舐めた報いを受けな!!」

 鷲に覆い尽くされている彼の視界を破った響の渾身の一撃が、リヒトを襲った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

雛瑠璃・優歌
背中の傷は剣士の恥、か
「痛みは痛み、本当にただそれだけだな」
私はスタァの末席、客に尻を向けるは無礼という方が大事な言いつけだ
邪霊は客などではなかったし
誰かの命を、未来の笑顔を守れたのなら恥だなどとは思わない
「さて…一難去ったが」
まだ帰る訳には行かないさ
この程度の傷なら構う必要はない
元を絶たねば
如何せん敵までは距離がありそうだ
そこまではスーパー・ジャスティスを使おう
私がやると空を駆ける様な形になるんだが

成程、首魁はあれか
多対一は踏み込むのが難しい
ならば味方の補助になる横槍を入れるのがいいだろう
私の為に生まれ、私と共に生きることになったこの青き剣に一花咲かせてもらうとしようか
「さぁ、舞っておいで」


氷雫森・レイン
桜とは違う甘さの匂い
まるで死の匂い
「…知ったことじゃないわ。ラル!」
鳥型精霊を呼び出してその背に乗って今回の元凶の元へ
随分悪趣味なもの見せてくれちゃって
首謀者には一泡吹かせてやらないと気が済まない
…同じオブリビオンだとしてもこんな奴より滅ぼしたくなかった敵なら幾らでも居たわ
気高き存在だったのに無理やり甦らされた上に操られ、私達に滅ぼしてくれと願う事になるほどその尊厳を汚された人や竜たち、遊んでほしかっただけの無垢な淋しがりたち…
彼らは人の記憶の傷を抉り踏み躙るなんて無粋はしなかった
「それに比べてアンタなんて私の慈悲をくれてやる義理は無いわ!」
ラルにも手伝ってもらって全力の雷を落とす
これは怒りよ



(「背中の傷は剣士の恥、か」)
 背に負った傷は、敵に背を向けた臆病者の証として語られることが多い。今の雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)はレイピアを手にし、その背には傷を負っている――だが。

「痛みは痛み、本当にただそれだけだな」

 痛いとは思う。だがこの傷を、不名誉だとも情けないとも、己の未熟さが要因だとも思わない。だって優歌は、末席であったとしてもスタァだ。
(「客に尻を向けるは無礼、という方が大事な言いつけだ」)
 邪霊はもちろん客などではないし、己の背の傷と引き換えに誰かの命を、未来の笑顔を守れたのなら――恥だとなどとは、露ほども思わない。あの場ではあれが最善の行動だったと、優歌自身が疑わないのだから、誰がなんと言おうとこの背の傷は不名誉なものではないのだ。

「さて……一難去ったが」

 優歌の到達した、上級役人用の邸宅の塔に襲い来た邪霊たちは、全て倒した。けれども一息ほどの安堵の後に訪れた不穏な気配は、不自然な甘い匂いは、まだ幕が下りる時ではないことを示している。
 まだ帰るわけにはいかない。目の前の危険は排したが、これですべてが終わったわけではないのだ。
 不思議とこの甘い香りは、肌をピリピリと刺激する。
(「――元を断たねば」)
 この程度の傷なら構う必要はないと、優歌は中空から甘い匂いと不穏な空気の漂ってきた方向へと目を向ける。
(「だいぶ距離があるな」)
 だが、今の優歌は黄金のオーラに包まれ、滞空している。
(「これなら地を駆けるより早く着くことができるだろう」)
 迷いなどいだかずに、優歌は視線の先へと足を滑らせる。
 まるで空を駆けるようにして――鐘楼の見える方へと向かった。

 * * *

(「……甘い匂い?」)
 街の人々の希望の導となれ、と灯した花明り。消えていった邪霊たち。氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)がゆるりとあたりを見回して状況を伺おうとした時に、それは鼻腔をくすぐった。
 今のレインに馴染み深い桜とは、違う甘さの匂い。そう、それはまるで――死の、匂い。
 先程まで邪霊達によって思い出させられていた『死』が、レインの小さな体を再び侵食しようとする。
 けれども、レイン自身がそれを許さない。

「……知ったことじゃないわ。ラル!」
『キュ~ッ!!』

 レインの呼び声に応えて姿を現したのは、淡く美しい青緑の羽根を持つ鳥型精霊の『ラル』。レインを背へと乗せるのに丁度いい大きさの精霊は、彼女の指示に従って羽ばたいて。
(「随分悪趣味なもの見せてくれちゃって……首謀者には一泡吹かせてやらないと気が済まないわ」)
 レインの脳裏に蘇るのは、これまで相対したオブリビオンたちの記憶。思い出せば思い出すほど、この事件の首謀者に苛立ちにも似た怒りが募る。

『キュイッ!』
「……!」

 ラルの短い鳴き声に意識を引き戻され、レインは自分たちに接近しつつある気配に気づいて振り返る。
 近づいてくるのは、彗星のような黄金――しかしそれは彼女たちを害するものではなかった。

「君たちもあそこへ向かっているんだね?」
「ええ」

 黄金に包まれた麗人――優歌が速度を落として紡いだ問いに、レインは頷いて。では共に――その申し出を断る理由はなかった。

「すでに戦闘は始まっているようだ」

 教会付近の様子が見て取れるようになり、優歌は呟いてその様子から視線を動かさない。
 近づけば近づくほど、戦闘音は増してゆき、自分たちのように徐々に猟兵たちがあの場所に集結しつつあることは予想できていた。

「成程、首魁はあれか」
「……、……」

 滞空したままの彼女たちの視線の先には、黒を基調にした聖職者の装いの男がいた。手にした白百合はともかく、銃とはいささか物騒ではないか。いや、他者を傷つける感覚が、他者の命を奪う感覚がその手にダイレクトに伝わってくる刃物などよりは、聖職者としてまともな武器であるか?
 否、考えるだけ無駄だ。

「……同じオブリビオンだとしても」

 あの男は笑みを浮かべている。穏やかな表情をほとんど崩さない。けれどもレインの神経は、逆撫でられていく。嫌悪感の増幅が、止まらない。

「こんな奴より滅ぼしたくなかった敵なら幾らでもいたわ」

 唇を噛むように絞り出すレイン。
 男は死を救いだと、自分はそれを与えるのだと、まるで狂信者の如き妄言を紡いでいる。
 こいつがこの近辺の町や村で暮らしていた人々を殺したのか。
 罪のない人々を、死を望まぬ人々を、無理矢理死へと引き込んだのか。
 そしてこの街の人々をも、自分の歪んだ欲求のために手に掛けようと――。
 レインの脳裏に浮かび上がるのは、滅ぼさざるを得なかった者たちの姿。
 気高き存在だったのに、無理やり甦らされた上に操られ、猟兵たちに滅ぼしてくれと願う事になるほどその尊厳を汚された人や竜たち……。
 遊んで欲しかっただけの、無垢な淋しがりたち……。

「……彼らは、人の記憶の傷を抉り、踏み躙るなんて無粋はしなかった」
「……、……」

 絞り出すように無意識に紡がれたレインの言葉は、隣に滞空している優歌にだけ届く。チラリ、一瞬だけレインに視線を向けた優歌は、再び戦場へと視線を戻し。
(「多対一は踏み込むのが難しい。ならば」)
 味方の補助になるような横槍を入れるのがいいだろう――そう判断した優歌は、純白の鞘から『宵海蛍雪』を引き抜く。
(「私の為に生まれ、私と共に生きることになったこの青き剣に、一花咲かせてもらうとしようか」)
 優歌が念じれば、『宵海蛍雪』は柔らかなブルーデージーの花弁へと姿を変えて。

「……ラル」
『ピィッ!』

 レインの声色から彼女の意思を感じ取った精霊は、額の魔石から主へと魔力を送る。

「さぁ、舞っておいで」
「アンタなんて、私の慈悲をくれてやる義理は無いわ!」

 優歌の指示で青の花弁は、花嵐となって男を包み込んで刻み。
 レインの小さな指先に指し示された男へと墜ちたのは――彼女の怒りを象った雷霆だ。

 落雷の大きな音が、街中に響き渡る――……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
濃い花の匂い…百合の花のようだが…首謀者が現れたと言うことか。

死を救いと言う割には徹し切れていないようにみえるな…迷いがある?それとも少し違うか?
確かに救いになる死もあるだろうが。
今この場のものは望んではいないだろうよ。
もちろん私もな。
私にはまたマクベスと再会する約束があるのだから。

UC【神銃連弾】
【属性攻撃】炎と【破魔】をのせた弾丸で攻撃。
生憎俺は祈る側ではないからな。
だが約束だけはくだけさせんよ。

マクベスと共に連携しながら敵UCはできるだけ弾丸で相殺。


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
何が救いか、それは人それぞれだろ
お前が他人の事まで勝手に決めてんじゃねぇよ
少なくともオレが死に救いを求める時は
またグラナトさんと来世で再会する時だけだけどな
それでも、それもずっと未来の事だ

UCで身体能力を強化しながら先制攻撃で先手は頂くぜ
両手の小刀に風を纏わせ属性攻撃、鎧無視攻撃、2回攻撃
グラナトさんの攻撃に合わせてフェイントをかけながらダメージを与えていく

敵のUCにはオーラ防御と激痛耐性で耐える
あいにくとオレには願いも祈りもねぇよ
誰かに頼るより、そういうのは自分で叶えるもんだろっ!



 青の花弁が男を包み込み、花弁の中の男を正しく落雷が穿ったのを、ふたりは『機』だと判断した。

 花の香りと肌で感じる異変を導として教会付近にたどり着いていた、グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)とマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)。他の猟兵たちが次々に集い、攻撃を仕掛ける中でふたりはタイミングを伺っていた。
 だから訪れた『機』には、言葉を交わさずとも互いに動き始める。
 マクベスは水、雷、風の精霊を宿して超強化した身体能力を活かし、一気に距離を詰めて青の花弁の中へと躊躇いなく飛び込む。
 グラナトは七十を超える数、複製した自身の『神銃』の銃口を、青の花弁に包まれた男へと向け、マクベスが飛び込むことで花弁が散って、見えたその姿へと魔を破る力を宿した炎の弾丸を撃ち込んだ。

「っ……!?」

 猟兵たちの連撃は、男――リヒトに確かに傷を負わせている。花弁の来襲、落雷、そして突如開けた視界に飛び込んできたふた色の刃。
 瞠目したリヒトがそれを躱そうと身体をひねるのを縫い止めるかのように、グラナトの銃弾が絶え間なく男を襲い続ける。
 それでもまだ避けようともがく男を視界に入れて、マクベスは突如刃の向きを変えた。

「!?」

 フェイントを交えて、ふた色の刃が男の黒衣を切り裂く。終わりがないと思わせるほどの連弾に微かに震える手で、男は銃口をマクベスへと向ける。

「まずは、願いと、祈りを……」

 銃声にかき消されながら紡がれた言葉。連続で放たれた銃弾は、確かに至近距離にいるマクベスを穿ったはずなのに。
 マクベスは、表情を変えない。
 ダメージを受けていないわけではない。けれどもオーラによる防御と痛みへの耐性でそれを顔に出さないだけだ。

「あいにくとオレには願いも祈りもねぇよ」

 自信満々に口の端を吊り上げて言い放ち、マクベスは後方へと飛ぶ。

「誰かに頼るより、そういうのは自分で叶えるもんだろっ!」
「……誰も彼もがあなたのように、強いわけではありません。ですから私は、死を以て人々を救う使命が――」

 流れる血も、動くごとに開く傷も意に介さずに、リヒトはその整った顔に笑顔を貼り付ける。
 けれども。

「――違う……駄目、だ……これ以上……――駄目なこと、など……私は、死を、救いを――……救い? 本当にそれが救いですか……?」

 その場に長くいる猟兵たちにはわかる。負った傷が増えていけばいくほど、『死を救いと信じて疑わないリヒト』と『そのあり方を否定するリヒト』が揺れ動く頻度が、時間が増えている。

「死を救いと言う割には徹し切れていないようにみえるな……迷いがある? それとも少し違うか?」

 連弾を止めて、グラナトは距離をとったままリヒトの様子をうかがう。火炎と戦の神であるグラナトは、この世界の、リヒトの信じる神とは異なるだろうが、『神』としての根本の視点は通じるところがあっても不思議ではない。

「確かに救いになる死もあるだろうが。今この場のものは望んではいないだろうよ」

 もちろん私もな、と付け加えたグラナトを、リヒトは百合を手にした右手で自身の胸ぐらを掴んだまま、見据える。
 グラナトには、またマクベスと再会するという約束があるのだ。だから、死を望まない。

「何が救いか、それは人それぞれだろ。お前が他人の事まで勝手に決めてんじゃねぇよ」

 リヒトと距離をとったマクベス――けれども何かあれば一瞬で間合いを詰められる距離だ――は、その澄んだ青でリヒトを射抜く。
 もちろんマクベスもリヒトを警戒してはいるが、奴が動けば背後にいるグラナトがまず動いてくれるだろう。それは、絶大なる信頼がもたらす、絶大なる安堵。

「少なくともオレが死に救いを求める時は、またグラナトさんと来世で再会する時だけだけどな」

 それでも、それもずっと未来の事だ――その言葉に、リヒトは自身の胸ぐらを掴む手に更に力を入れる。それは意識的な行動なのか無意識のものなのか、こちらか側からは判別できないけれど。

「……私が――私を……――」

 リヒトが再び、銃を持つ手を上げようとしたから。

「生憎俺は祈る側ではないからな。だが約束だけはくだけさせんよ」

 グラナトの『神銃』が先に、再び弾丸を吐き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
トモエさん/f02927

甘く纏わりつく香りがする
嗚呼、これは。いけないものね
満ち得ぬココロを侵蝕されるよう
まるで、毒のようね

あなたの声に頷いてその背へと
ええ、往きましょうか
人を護ると、そう誓ったのだから

揃いの宝石刀に触れる
つめたい指さきに温度が滲むよう

いけないひとね
その行ないが救済である、と
本気で思っているのかしら

死は、死よ
おわりは、おわり
それ以外の何ものでもない
あなたは、カミサマではない

願いも祈りも、ナユはしらない
『あなた』への想いだけがあればいい
――ねえ、ナユの『かみさま』

とっておきの毒で蕩かせて魅せましょう
あまい毒に溺れて、ひずめ
あなたは、何から救われたいのかしらね
よい眠りとなりますよう


五条・巴
七結と共に(f00421)

雨の中の甘ったるい、危険な香り
宿は住人たちに任せて春風を呼ぶ
七結、乗って。

剣に触れる。冷たいはずのそれは、何故だか暖かい。

行こう。護るんだ。

強烈に香る場所、教会へ急いで
歪な男を見る

ねえ、この甘い匂いは本当にいいと思って使ってるの?

雨で少しは落としたらいいよ

無差別な攻撃には春風と一緒に飛び避けて
七結の仕掛けやすい場所へのフォローを

死は救い、とは僕には思えない。
死んだ先に、僕の願いはあるから。

それに、死ぬ前に僕のこと視てておいてほしいしね。

君は何から救われたいの?

迷える君に、死への路を案内することは出来るのかな

あかにひずむ君に、幸あれと、言葉ばかりだけど願っておこう



「嗚呼、これは。いけないものね」

 宿屋付近で邪霊たちを殲滅し終わったのちに漂ってきた香りに、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)はぽつりと、独白めいた呟きを落とす。
 肌にも染み込んでいくようなこの香りは。
(「満ち得ぬココロを侵蝕されるよう――まるで、毒のようね」)
 自らも毒を操る七結にはわかる。
 この世に満ちるすべてが毒にも薬にもなると知っているけれど、これは、この香りは、紛れもなく――。

「七結、乗って」

 己の名を呼んだその声に視線を向ければ、宿屋の前にいたはずの五条・巴(照らす道の先へ・f02927)がすぐそばまで来ていた。
 彼が騎乗しているのは、たてがみの美しい黄金のライオン。手を借りて彼の前方に乗れば、その柔らかい毛並みと伝わる体温が七結を支える。
 彼女が無事に『春風』へと騎乗したことを確認した巴は、そっとアレキサンドライトを使用した宝石花の剣へと触れた。
(「……暖かい」)
 冷たいはずのそれを何故だか暖かく感じ、巴の思いは増幅されてゆく。

「行こう。護るんだ」
「ええ、往きましょうか」

 走り出す春風の背中で応じた七結も、ふと自身のアレキサンドライトを使用した宝石花の刃へと触れれば、不思議とそのつめたい指さきに温度がにじむようで――。
 人を護ると、そう誓ったことが強く思い出された。

 * * *

 強烈に香るその場所へと向かう途中、明らかに猟兵が接敵しているであろう声や音が耳へと届いた。
 急いで駆けつけたその場所には、黒衣を血で赤黒く染め直したような男が、穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。
 ひと目見ただけで、その存在が歪であるとわかる――。

「ねぇ、この甘い匂いは本当にいいと思って使っているの?」

 銃口を向ける男――リヒトへと問いかけ、答えより先に発せられた弾丸を避けるべく春風に命ずる巴。

「死を……救いを――救い――救われ――救い――死を――死を――……」
「いけないひとね。その行いが救済である、と本気で思っているのかしら」

 壊れたレコードのように『死』と『救い』を繰り返すリヒトは、春風に騎乗したまま移動する七結と巴へと弾丸を放ち続ける。けれどもその命中精度は、お世辞にも良いとはいえない。恐らく先にたどり着いた猟兵たちのおかげ、だろう。

「死は救い、とは僕には思えない。死んだ先に、僕の願いはあるから――」
「ならば、死によって、願いへと近づく――すなわちそれは救いで――」
「それに、死ぬ前に僕のこと視てておいてほしいしね」

 リヒトの言葉を遮って紡いだ巴が浮かべる、その表情の下にあるものは、彼にしかわからない。
 それは、他人がおいそれと手を出すことのできぬ領域にある、モノ。

「死は、死よ。おわりは、おわり」

 淡々と、あかいいのちのしずくが零れ落ちる音で紡ぐのは、七結だ。

「それ以外の何物でもない。あなたは、カミサマではない――」

 嗚呼、彼女のそのくれなゐは、『誰』を想っているのだろうか。
(「願いも祈りも、ナユはしらない」)
 彼女はそれらを、真に必要としていないのだ。
(「『あなた』への想いだけがあればいい――ねえ、ナユの『かみさま』」)
 時が、運命の輪が、たとえ幾度廻り廻ろうとも、それは不変。その想いだけがあれば、それで、充分。
 嗚呼、いつの日か自身が齎した『死』も、あの日の再会が導いた『死』も、救いでもなんでもない。死は、死だ。

「キミは、何から救われたいの?」
「――……?」

 ぽつり、七結の頭越しに紡がれた巴の言葉に、リヒトの動きが止まる。

「あなたは、何から救われたいのかしらね」
「……どう、いう……?」

 重ねられた七結の言葉に、リヒトはゆるりと首を傾げた。
 けれどもその頬にはねた『あか』が、すうっと流れて消えたのを、ふたりは遠目からも見逃さない。
 もしかしたら、リヒト本人は気がついていないのかもしれない。
 自身の瞳から、雫がこぼれ、頬を伝っていることに。

「迷える君に、死への路を案内することは出来るのかな」
「とっておきの毒で蕩かせて魅せましょう」

 巴の呟きに、七結は『戀』を閉じ込めた『あか』を広げる。

「――あまい毒に溺れて、ひずめ――」

 あか、が、くろ、を、襲う。

 幸あれと、言葉ばかりだとわかっていても巴はそれを贈り。
 よい眠りとなりますよう――七結は願うでも祈るでもなく、ただ言の葉を、紡いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
私の位置は自警団詰所の前。
この辺のオブリビオンを倒し終わったら、ジークルーンさんには念の為に防衛をお願いし、私は教会へ【ダッシュ】します。
敵の人格が複数あれど、倒すしかありません。
しかし敵が狂信者に変えた人の中には生きている人もいるかも知れません。
なので剣は抜かずユーベルコードで動きを止めます。
敵も黙ってはいないでしょう。
撃ってくるでしょうか?
その攻撃の気配を【第六感】で察知し、先立って作ってもらったソーレンスブロードを【早業】で抜いて【投擲】、【スナイパー】の技で【先制攻撃】を狙います。
黒薔薇の花言葉は永遠の死、ブラッドストーンの宝石言葉は救済。
きっとオブリビオンのお気に召すでしょう。


緑川・小夜
[WIZ]

死は終わりよ。それ以上の価値はないわ。それを理解せずに余計な価値を見出だそうとするからイカれた結論にたどり着くのよ

まあ、そんなことはどうでもいいの
ただ…お前はわたくしの触れてはならないところに触れた…それだけで万死に値するわ…!

即座に選択UCを発動。16体の分身を生み出し、それらと一緒に【ダッシュ】でボスとの距離を詰める

敵のUCによる狂信者は無視よ。攻撃で分身が壊されてもわたくしの手ですぐに復活するし、わたくしへの攻撃は【オーラ防御】で弾くから

そして分身共々ボスが短剣の射程に入ったら、それぞれ【串刺し】にしていく

ほら、お前の大好きな救いよ
たっぷり味わいなさい

[アドリブ連携歓迎です]



 わたくしも同感――別の猟兵の言葉にそう呟いたのは、緑川・小夜(蝶であり蜘蛛であり・f23337)。

「死は終わりよ。それ以上の価値はないわ。それを理解せずに余計な価値を見出だそうとするから、イカれた結論にたどり着くのよ」

 別に男――リヒトに届いてなくてもいい。そんなことはどうでもいいのだ。ただ……。

「……お前はわたくしの触れてはならないところに触れた……それだけで万死に値するわ……!」

 あか、に侵されたリヒトへと小夜が向けるのは、周囲にあるベンチや花壇のレンガなどの無機物を変化させた、十六体に及ぶ分身だ。小夜自身も分身たちとともにリヒトとの距離を詰める。

「……!!」

 その様子を視界に捉えたハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は、剣を抜かずに手のひらに赤い冷気を出現させた。
 自警団詰め所周辺の防衛を念の為にジークルーンに頼んだハロは、急いでこの場へと駆けつけ、黒衣の男へと迫る小夜たちを目にした。
 だが同時に、そんな彼女たちに接近しようとする人影を見つけ――だがどう見てもこちらへと向かってくるその存在は、猟兵には見えなくて。
 どうみても、普段着の住人と思しき彼らは恐れもせずに戦場に飛び出そうとしているけれど、もしそれが敵へと挑もうとする人々であったらその安全を確保しなくてはいけない。万が一、敵に操られているようならば、なおさら無傷で無力化したい。
 そう考えてハロが出した結論が、己の放つ赤い冷気で足止めすることだった。
(「撃ってくるでしょうか?」)
 彼らを無力化して、ハロは視線をリヒトに向ける。けれども彼の姿は『小夜たち』に覆われていて、小夜の肉体よりも高い位置にある漆黒の頭髪くらいしか見て取ることはできなかった。

「っ……!!」

 接近してきた小夜たちを薙ぐように、リヒトが銃を振るった。その動作によって分身は何体か破壊されたけれど、幻覚作用のある粉末で作られた分身はただでは壊されない。己の身体を形作っていた粉末を撒き散らして――。
 粉末を吸い込んだリヒトの動きが一瞬止まる。
 その一瞬で、十分だった。

「ほら、お前の大好きな救いよ」

 たっぷり味わいなさい――妖艶かつ愉しげに嗤う小夜の表情は、肉体年齢にそぐわぬもので。
 小夜自身と残った分身は、それぞれがリヒトへと刃を突き立ててゆく。小夜が男の腹に突き立てたのは、ブラッディーダイヤモンドの刃だ。

「カハッ……」

 彼の口元が、血にまみれる。己の負傷を気にしていないのか、それとも粉による幻覚を見ているからか、リヒトは震える手で銃を持ち上げた。
 その銃口が彼に接近している小夜ではなく、ハロによって動きを止められた住人たちへと向こうとしていることにいち早く気がついたハロは、素早く抜いた宝石花の投げナイフ『Solens blod(ソーレンスブロード)』を投擲する。
 それは狙い過たずリヒトの左手を傷つけ、銃を取り落とさせた。
 彼の手を深く傷つけ落下した『Solens blod(ソーレンスブロード)』に使われているのは、黒薔薇とブラッドストーン。黒薔薇の花言葉は永遠の死、ブラッドストーンの宝石言葉は救済――。
(「きっとオブリビオンのお気に召すでしょう」)
 ハロは未だに警戒を解かない。けれども。
 銃を取り落としたリヒトは、空いた左手で自身の顔を半分覆った。白い手袋に鮮血が広がってゆく。

「ああ――私は、そんなこと、救いとは――救え、救う、死を、死を――違う……本当は、もうい――……」

 彼には何が見えているのだろう。それを猟兵たちが知ることはできぬけれど。
 彼の心は、なんとなく、見えてきた気が、した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
アドリブ歓迎
位置関係お任せ

歪められた欲望に操られ死に至る
そんなものが救いであるはずがない
事実わたくしは心を壊され、いじくられ、死に至る恐怖を、身をもって知っている

歌いましょう
【聖霊来たりたまえ】と

人は誰もが、それぞれに違う音色を持っている
たとえ違う音色がぶつかり合っても、互いを重ね、共鳴し、ひとつの交響曲となる
それが「世界」

罪を犯さぬ人間などいない
購いとは、ただ死を以って消し去るのではなく、絶望を越えて生まれ変わり生き直すことなのだと
それを教えてくれた「あの人」の愛を
優しくも力強く生きる人々を称え、悲しみを慰めて
奏でて、奏でて
想いを紡ぎ慈しむ歌を

リヒト……あなたの「ほんとうの幸せ」を聞かせて


姫条・那由多
距離:【やや近い】

「嘆かわしい。人々が抱え込んでいる負の感情を曝け出し、あまつさえ
死が救いとは。それでも聖職者ですか!」
「…でも、ちょっと感謝しているのよ。わたしが今わたしとして
ここにいられんのはアンタのお陰でもあるんだから」

偽りだろうと聖女を張る事を選んだのだ
目の前のこの男にも願わくば救いを…

「人が負の心で裏返る事があるんなら、逆に表返る事があったって良いでしょう。
『純粋』に救いたいと願った原初の想いを…『尊厳』を思い出しなさい!」

懐に飛び込んで近接戦
白キ安寧を【第六感】で察知し【オーラ防御】で耐えた直後、
リヒトの手を極めて白百合を手向けの様に胸に押し当て【破魔】の【祈り】を込めて
聖光破山掌



 歪められた欲望に操られ、死に至る――そんなものが救いであるはずがない。
 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)はそう、断言できる。
(「事実わたくしは心を壊され、いじくられ、死に至る恐怖を、身をもって知っている――……」)
 それは先程、邪霊達によって思い出させられ、増幅させられた恐怖の出来事を指しているのではない。
 あれ以外にも、ヘルガは尊厳を踏みにじられ、死に至るのと同様ともいえる恐怖を体験していた。
 だからこそ言える。リヒトの唱えるそれが、彼の一連の行動が、救いであるはずがないと――救いであってたまるものか。

 そんな彼も今、猟兵たちの度重なる攻撃で、身体は傷つき、そして心揺れ動いている。
 否、本当の彼を抑圧していた何かが、弱まっているようにも見えた。
 だから、ヘルガは歌うのだ。

 ――いと尊くも優しき聖霊よ。善き魂を庇護し導く聖なる光よ。御身を信じ祈る者に、災禍を祓い闇夜を照らす、七つの秘蹟を与えたまえ……。

 聖霊来たりたまえ――仲間や民衆を守りたい、その強い思いと祈りを込めて紡がれるのは、賛美歌。
 白翼を広げ、戦場にあってなお光を纏いながら紡がれるその音色は、猟兵たちにも、住民たちにも届く。

「救う――救って――死を――救いを――……」

 血に染まる白手袋をはめた手で顔半分を覆うリヒトにも、この歌は届いているはず。だからだろうか、彼の体がふらりふらりと揺れていた。

「嘆かわしい。人々が抱え込んでいる負の感情を曝け出し、あまつさえ、死が救いとは。それでも聖職者ですか!」

 賛美歌流れる戦場で檄を飛ばすようにしてリヒトへと近づいたのは、姫条・那由多(黄昏の天蓋・f00759)。
 以前の那由多なら、そう叫ぶとともに『地霊礼賛』をはめた拳で殴りかかっていただろう。
 けれども今の彼女がそうすることはない。

「……でも、ちょっと感謝しているのよ。わたしが今わたしとしてここにいられんのは、アンタのお陰でもあるんだから」
「……、……」

 那由多の言葉の示す意味は、リヒトには分からないだろう。けれどもそれでいいのだ。これは、那由多自身の問題なのだから。
 ただ彼の行動が、那由多が自身の存在を確かにするきっかけになったことは事実。
 そして偽りだろうと聖女を張る事を選んだ那由多は、思う。
 願わくば、目の前のこの男にも救いを、と。
 その思いが、ヘルガの紡ぐ旋律によって強められていくのを感じる。
(「人は誰もが、それぞれに違う音色を持っています」)
 たとえ違う音色がぶつかり合っても、互いを重ね、共鳴し、ひとつの交響曲となる――それが『世界』であると、ヘルガは思う。
 罪を犯さぬ人間などいない。購いとは、ただ死を以って消し去るのではなく、絶望を越えて生まれ変わり生き直すことなのだと教えてくれた人がいた。
 それを教えてくれた『あの人』への愛を。
 優しくも力強く生きる人々を称え、悲しみを慰めるようにと願いを込めて。
 ヘルガは歌う。
 自身を『楽器』として、奏でて、奏でて。
 想いを紡ぎ、慈しむ歌を。

「アンタだって、最初からこんなだったわけじゃないのでしょう?」

 ヘルガの想いと歌声は肌からも染み込んでくる。那由多は彼女の想いを携えて、リヒトへと近づいていった。

「人が負の心で裏返る事があるんなら、逆に表返る事があったって良いでしょう」

 告げて、那由多は一気にリヒトとの距離を詰め、白百合を握る彼の腕を掴んだ。
 それでもまだ、リヒトは呟き続けている。まだ、幻覚を見続けているのだろうか。
 彼が接近した那由多や、賛美歌を奏でるヘルガに危害を加える様子はない。けれども――否、だからこそ那由多は彼の右腕を、その手の白百合を、彼自身の胸に押し付けるようにして。

「『純粋』に救いたいと願った原初の想いを……『尊厳』を思い出しなさい!」

 魔を打ち破らんとする力と切なる祈りを秘めて、『地霊礼賛』をはめた掌底を叩きつける――。

「がっ……」

 衝撃を受けて、リヒトの身体が後方へと飛んだ。地に打ち付けられ、しばらくは呼吸もままならない様子の彼だったが、なんとか起き上がり、座り込んだまま前方へと手を伸ばした。
 左手は白手袋が赤く染まりきるほどに出血している。
 右手は掌底によって骨が砕かれていた。
 それでも、彼は、何かを求めるように手を伸ばしている。

「……リヒト、あなたの『ほんとうの幸せ』を聞かせて」

 歌うのをやめ、ヘルガが紡いだその願い。
 それが彼の耳に正確に届いたかどうかはわからない。
 でも。

「……嗚呼、賛美歌が聞こえない……私が、弾かなくては……人々に、音楽のある生活を……心を、人生を、より豊かに……」

 遠くを見たまま伸ばされた手は、まるで何かに乗せたかのように宙で固定されて。

「人々が、音楽を……そして君を、愛し、……私の曲と、君の音で……幸せ、に……」

 彼に見えているものが何なのか、ほとんどの猟兵にはわからない。けれども。

「私、は……もう、嫌、だ……人の命を、奪う、なんて……嗚呼、人の命を奪った、こんな手、では、君に触れられない、だろう……? ……■■■……」

 彼の『ほんとう』が、見えてくる。
 最後に彼が誰かの『名』を、紡いだように聞こえた――……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 * * *

 自身に迫り来る敵を薙ぎ払った――。

 そんな男の眼前に突如現れたのは、そこにあるはずのないものだった。
 それはかつて、男が神父として赴任した教会に設置されていた、豪奢なパイプオルガン。
 赴任した教会ができた頃に寄贈されたというそれは、半世紀もの間、教会の飾りとしてありがたがられていたという。
 教会の一部として馴染む用にデザインされたそれは、本来の用途を知らぬ者たちには確かに教会の瀟洒な飾りとして認識されてもおかしくない。
 それが飾りではなく楽器であるということは、記録にも残っていたが、なにせただでさえ操作方法の複雑なパイプオルガン。地方の街の住民たちに、その演奏方法を知る者はいなかったのだ。
 だがそのパイプオルガンはとても美しく、荘厳で。ただそこに在るだけで、教会の神聖性を増してくれるような存在だった。

 ――っ!? これは……まさか、パイプオルガン?
 ――えっ……音を聞いたことがない? 奏者がいない?
 ――ああ、幸いパイプの曲がりはないようです。これならば、パイプの中に積もった埃を掃除すれば良い音を奏でてくれるでしょう。
 ――この子は紛れもなく素晴らしい楽器ですよ。音を聞いたらきっと、皆さんも虜になる――……。

 嗚呼、賛美歌が聞こえる――男の中に渦巻いていた、男の本来の心を塗り替えてしまったような『思想』が晴れてゆく。
 ずっとずっと、そんな思想の元に動く自分を止めたかった。
 なぜ自分がそんなことをするようになったのか、わからなかった。
 誰かに、何かされたような感覚は朧気に在るけれど、塗り替えられた思想を押しのけて『本来の自分』が外に出ることすらできないのだから、それを思い出そうとすることなんて、できなかった。
 けれども、自分が無辜の人々を手に掛ければ掛けるほど、『外』へ出られそうな『隙間』を見つける頻度が増えてきた。
 しかし自身の行動を止めることはできず、本来の自分がいだいていた想いや重ねてきた行いと対局の行動をとる『自分』が許せなくて。
 いくら抵抗してもそれを止められぬ『自分』が不甲斐なくて。
 自分が『救い』だと宣いながら人の命を奪うたびに、自らの尊厳が削られていく思いだった。

 もう、やめたい――やめてほしい――やめさせてほしい――未だに完全に表に出ることができない男は、葛藤と抵抗の末にそれだけを希うようになっていた。

 嗚呼、こんな自分に、『彼』に触れる資格はあるのだろうか。
 賛美歌と共に流れ込んでくる声が、誰のものかはわからぬけれど。
 それが男へと、憎しみ以外の感情を以て発せられたものだということは伝わってくる。

 ――ほら、思ったとおりです。こんなにも素晴らしい音が――……。
 ――はは、皆さん、君があまりにも美しい音を奏でるものだから、驚いていらっしゃる。
 ――ええ、幾らでも。皆さんが望まれるのならば、私は奏でましょう。

 そうだ、自分は『ヒト』が大好きだった。『ヒト』のために神父として、自らの意思で奉仕してきた。
 男性も女性も老人も子供も、音楽があればその心を、人生をもっと豊かにすることができるから。
 望まれるままにパイプオルガンを奏で、このパイプオルガンのためだけの曲を作り。
 自らの意思で『彼』を奏で続けた――己の人生の残り全部で。
 男以外にこのパイプオルガンを奏でることができる者はいなかった。
 ならば自分が奏でてやらなければ、『彼』はまた、教会付属の装飾品へと成り下がってしまう。
 そんなの、悲しすぎる。
 ストップレバーを操作して手鍵盤に手を置けば、喜ぶように『彼』は声を上げるのに。
 その声を聞いた人々は、音楽の素晴らしさを体感することができるのに。
 だからこそ、その橋渡しをできるのがとても嬉しかった。
 それが自らに与えられた使命だと――……。

 がっ……。

 身体に衝撃が走った。
 そのせいか、うまく呼吸ができない。
 これは、神の思し召しかと思ったのに。
 もう一度、『彼』を奏でることが許されたと思ったのに。
 なんとか身体を起こして視線を向ければ、そこにはまだ純白を纏った『彼』の姿が見えて。
 男は無意識に両の手を伸ばした。
 だが。
 それまで聞こえていた、賛美歌が聞こえない。
 いくら伸ばしても、『彼』へと手が届かない。

「……嗚呼、賛美歌が聞こえない……私が、弾かなくては……人々に、音楽のある生活を……心を、人生を、より豊かに……」

 男が弾かなければ、誰が弾くというのか。

「人々が、音楽を……そして君を、愛し、……私の曲と、君の音で……幸せ、に……」

 誰が人々に、『彼』を通じて音楽の素晴らしさを伝えるというのか。
 手を、伸ばす。
 けれどもそれまで目の前にあった『彼』の姿が、薄くなっていく。
 嫌だ、嫌だ、私から『彼』を取り上げないでくれ。

 ――否、これは罰なのか。

 何者かの介入によって洗脳されていたとはいえ、自らの意思ではなかったとはいえ、男はその手で数多の命を奪った。
 それは、変えようもない事実。
 いくら男の本心がそれを拒んでいたとしても、誰がそれを信じてくれるだろうか。
 誰が男を、許してくれるだろうか。
 嗚呼、『彼』の姿がかき消える――……。

「私、は……もう、嫌、だ……人の命を、奪う、なんて……嗚呼、人の命を奪った、こんな手、では、君に触れられない、だろう……か……触れること、すら……許されない……のか……?」

 もう、その荘厳な姿が見えない。
 ああ、神が男から『彼』を取り上げたのだ。
 だって『彼』へと伸ばした手は、血に染まり、罪にまみれていて。

「……ノトス……」

 瞳を伏せて、小さく名を呼んだ。
 自身が『彼』につけた名を。
 もう二度と、会うことも奏でることも無いだろう『彼』の名を。
ノトス・オルガノン
アドリブ:☆
我が友よ いとしい人よ
聞こえたよ、キミの心の声
キミが真に望むこと
私が切に願うこと
…皮肉だ
同じことのはずなのに、こんなにも…辛い

でも…なぁ、リヒト
キミが望まぬ仮初の生を受け、誤った救いを振り撒くならば…
例えそれが何度繰り返されようとも、その度に、迷わずキミを「救って」見せるよ
そのために、私はここに立っているんだ
もう、キミに誰も傷つけさせない
他ならぬ、キミ自身も

UC:White Lily
きっと、周りの人々は離れていると信じて

決めていたんだ
今度は、歌と…キミが愛した白百合を添えて
そして…笑顔で、送ろうと
キミが今度こそ正しく、骸の海に導かれることを祈って

なぁ…私、ちゃんと笑えているだろうか



 見て、いた。
 聞いて、いた。
 彼の一挙手一投足を。
 彼の苦悩を。
 本当の望みを。
 見逃さないように、聞き逃さないように。
 恐らく彼の葛藤を、その葛藤の下敷きになっている本当の彼を知っているのは、自分だけだろうから。

 彼が悪行に手を染めたオブリビオンであることは、もちろんわかっている。
 以前『送り返した』彼とは、やり方こそ違うけれど。

 ノトス・オルガノン(白百合の鎮魂歌・f03612)は、猟兵たちと戦うリヒトの姿を、ずっと眺めていた。
 彼が傷つき、傷つけていくごとに心が軋んだけれど。
 それを見届けるのが、自身の役目だと思ったからだ。
 彼は、オブリビオンとなるような存在でなかった。ノトスは誰よりもそれを知っている。
 けれども、彼がオブリビオンとなって手を血に染めてしまったのは事実。
 だからノトスは、他の猟兵たちがリヒトに怒りの感情をいだくことを、リヒトを傷つけることを、止めたいとは思わない。
 まことの彼を知っているのは自分だけだ。
 たとえ彼らを説得しようとしたとしても、オブリビオンとして悪に手を染めた彼を、猟兵たちの触れられたくない心へと触れた彼を、許すことができない者のほうが多いはず。
 なら――まことの彼は、自分の心の中だけにしまっておきたいと、ノトスは思う。

 嗚呼、戦場に賛美歌が流れる。
 歌に乗せられた想いと彼へと向けられる言葉が、憎しみや敵愾心を含んだものではないと分かる。

「あっ……」

 彼の体が飛んだ。
 思わず、声を漏らしてしまった。
 地に横たわった彼は、動きを止めてはいない。
 ゆっくりとではあるが身体を起き上がらせて、両の手を伸ばしている。
 彼には、何が見えているのだろうか――それは、賛美歌が止むとともに紡がれた、告解を促す天の御遣いの声で明らかになった。

「私、か……?」

 にわかには信じられなかったけれど。

「キミには、私の姿が見えているのか……?」

 もちろんリヒトに見えているのは、ノトスの器物であるパイプオルガンの姿だろう。
 長い間置物として在ったノトスは、リヒトの手によって命を吹き込まれたと言っても過言ではない。
 リヒトという奏者がいたからこそ、ノトスは本来の役目を果たすことができたのだ。
 彼はパイプオルガンに、友へと語りかけるような口調で話しかけ、そして名をつけた。
(「嗚呼、そうだ……キミが私を友として扱ってくれたから――」)
 パイプオルガンもまた、唯一の奏者である彼のことを『友』として思うようになったのだ。
 今でも、彼を偲んで追悼の唄を紡ぎ続けるほどに。

「やはり、キミは……」

 本心では、このような形で人の命を奪うことを望んでいなかったのだ。
 無意識のうちに、ノトスは一歩一歩、彼の元へと近づいていく。
 今のノトスの姿は、彼の知るそれではないけれど。
 あの時は、間に合わなかったから――そう、彼の命の灯が尽きるのを目にしていたというのに、ノトスには何もできなかったのだ。
 ノトスが人の身を得たのは、皮肉にも、彼が没した翌日。
 でも、今は少しだけ違った考え方ができている。
 自分は『間に合わなかった』のではなく、『彼の命を引き継いだ』のではないかと。

「……ノトス……」

 囁くように紡がれた自身の名に、ノトスは純白の衣のまま彼の前に膝をついた。
 衣が汚れるなんて、そんな事どうでもいい。考える余地すら無い。
 ただ、手鍵盤に乗せるように差し出されたままのその両の手を、自身の両の手で受け止めて。

「私に触れるのに、私を奏でるのに、キミ以上に資格を持つ者なんていない」
「……っ……」

 血に染まった左手を、百合の香りの残る砕けた右手を、そっと受け止めて告げれば、彼は嘆くように伏せた瞳を上げて。
 自身の手を取る青年の姿を見据えた。

「私は、キミが思っているほど高潔な存在ではないよ」
「……、……」
「私情に走って、君を許したいと思ってしまう」
「ぁ……、ぁ……」
「それほどまでに、君に関しては俗物だ」
「……ノト、ス……」

 満身創痍でボロボロのリヒトは、神父として清廉潔白で整った、かつての姿を保ってはいない。
 ノトスもまた、リヒトの知るパイプオルガンとしての姿ではない。
 けれど、それでも、リヒトは目の前の青年を、自らが名付けた『彼』であると認識した。

「我が友よ、いとしい人よ。聞こえたよ、キミの心の声」

 柔に告げるその青の瞳を見つめるリヒトの、手の震えが伝わる。

「キミが真に望むこと。私が切に願うこと――」

 皮肉だ。同じことのはずなのに、こんなにも……辛い。

「私は君に――いや、それ、は……」
「でも……なぁ、リヒト」

 彼が紡ごうとした言葉の先がわかるから。
 彼が自分に救いを求めようとして、同時に自分の手を汚させたくない、煩わせたくないと思ったのだと、ノトスには分かるから。

「キミが望まぬ仮初の生を受け、誤った救いを振り撒くならば……例えそれが何度繰り返されようとも、その度に、迷わずキミを『救って』見せるよ」
「ノト、ス……神が、君を、ここ、に遣わせた……のか……?」

 震える声で紡がれたリヒトの問いに、ノトスはゆっくりとかぶりを振る。

「私がここにいるのは、私の意思だよ。キミを救うために、私はここにいるんだ」

 ぐらり、リヒトの身体が傾ぐ。ノトスは咄嗟に彼の手を引いて、彼の頭を自らの胸元で抱きしめた。

「もう、キミに誰も傷つけさせない――他ならぬ、キミ自身にも」
「っ……くっ……ノ、トス……」

 嗚呼、腕の中で小さくしゃくりあげるキミは、まるで幼子のよう。
 けれども、その姿を見ることができるのが私だけだというならば、それは何物にも代えがたい幸いだ。

 腕の中の友は教会で接していたときよりも、こんなにも大きくて小さい。

「――決めていたんだ」

 ノトスは、彼の前に膝をついた時にそばに置いていた『Λουλούδια καθοδήγησης』へと触れる。
 道を示すというアイオライトに、自身の教会で育てた白百合を宿した宝石花の杖は、無数の白い花びらへと変じて。

「今度は、歌と……キミが愛した白百合を添えて……」

 白百合の花弁が、リヒトを抱きとめるノトスの周囲に広がる。

「……そして……笑顔で、送ろうと」

 大きく息を吸い込んで、ノトスが紡ぐのは、彼の為だけの歌。
 いつの日か、彼がノトスで演奏するためだけに作ってくれた、ふたりにとって大切な旋律。
 旋律に導かれるようにして、花弁がふたりを包んでいく。
 他の猟兵からは、彼らの姿が花弁の向こうに消えてしまったけれど。
 その、ヒトがひとりで奏でることのできぬ幅広い音域を使った旋律は、耳へと届いていた。
 これが正しく葬送の曲であると、誰もが認識しているから。
 だから、他の猟兵たちは離れた位置でふたりを見守っている。

(「キミが今度こそ正しく、骸の海に導かれることを祈って――……」)

 徐々に、ふたりを包んでいた花弁が、ノトスの腕の中にいるリヒトだけを包み込むように変化していった。
 そうして曲が終わりを迎えるのと同時に――花弁が、弾けるように散って。
 黒を白に塗り変える、聖なる白が、街中へと降り注ぐ――。
 その腕の中にはもう、音を愛する男の姿はなかった。

「私は君の命を引き継いで、往くよ――」

 花弁舞う空を見上げ、ノトスは改めて誓う。
 太陽の光はすでに遍く街を照らし、闇の残滓を浄化してゆく。

 ――なぁ……私、ちゃんと笑えているだろうか。
 ――……君の笑顔に送って、もらえる……なんて……こんな、幸いを享受することが、赦される、なんて……。

 ふたりだけ、白き花弁の中、言の葉にせずとも交わした想い。

 ――ありがとう、我が、友よ……。

 彼が最期に見せたのが、記憶にある彼の、心からの笑顔と違わなかったから。
 ノトスはこれからも、進んで往くことができる――。


 * * *


 安全が確認されたと手分けして街の人々に伝えれば、猟兵たちへの感謝の言葉が紡がれる。
 建物の外に出て改めて陽の光を浴びれば、日常とは不意に壊れるもの、かけがえのないものであると、住人たちは実感したことだろう。
 張り詰めていた気が抜けて座り込む者、あくびをする者、そして。

「かーちゃん、腹減った!!」

 その声に、人々は自身の空腹を自覚する。
 命の危険にさらされたとしても、お腹は減るのだ。
 それは、彼らが紛れもなく、生きているということを意味していた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月01日
宿敵 『リヒト・レイスフェルド』 を撃破!


挿絵イラスト