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手向けの白百合は刃に宿りて(作者 篁みゆ
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●安寧の願い歪みて
 人々の怒号が、悲鳴が、泣き声が――街の至るところから聞こえてくる。
 煙と炎が上がり、略奪や陵辱が行われている。
 しかしこれは、街の外から来た何者かが行っている暴挙ではない。
 否――完全にそうではない、とは言い切れぬのだが。
 争い合い、街の人達から奪い、襲っているのはすべて……『この街の人』なのである。
 酷い絶望や嘆きから他者を傷つけているのも。
 しているのもされているのも、街の人達。
 誰がそれを始めたかなんて、彼らは覚えていない。
 だってもう、彼らの中は負の感情で満ちているのだから――……。

「あなた方を救いに来ました」

 告げた黒髪の男は、左手の銃の先を人々に向けて。
 右手の白百合の芳香を操って。

「救いましょう、すべての生を」

 男が降り立った街の一角から、徐々に街中へと静寂が広がってゆくのは。

「――死こそ、救いです」

 彼がその思想のもとに行動しているからであった。

●グリモアベースにて
 そこに佇む彼女は、白い大きな翼と銀の髪に多重花弁の桃の花を持って。アックス&ウィザーズ風景を背に、口を開く。
「来てくれてありがとう。アックス&ウィザーズでの事件を予知したの」
 香水瓶型のグリモアを手に告げる彼女の名は、神童・雛姫(愛し子たる天の使い・f14514)。見かけの割にはどこか達観したような、大人びた雰囲気が感じられる。
「エーデルシュタインという街の人たちが、オブリビオンの介入を受けて負の感情に振り回された挙げ句、みんな殺されてしまうの……」
 彼女がいうには、ある日突然街の人達が怒りや憎しみ、欲望や悲しみなどの負の感情を顕にしはじめて、街の中で争い、暴行や略奪や陵辱が行われるという。
 そしてそれが街の人達を蝕み、傷つけた頃、ひとりの男が現れてこう告げるのだ。
「『あなた方を救いに来ました』――告げる男はもちろんオブリビオンであるのだけれど、その格好から、神父や司祭などの命を尊ぶ職についていたと私は推測するわ。でも……」

 ――彼のもたらす『救い』は、『死』だ。

「……エーデルシュタインの近隣の町や村で、住人たちが全滅するという事件が頻発しているらしいわ。遺体には、何者かに一方的に蹂躙されたというよりも、互いに争ったような形跡があって……近隣の街や村の人たちも警戒していたらしいのだけれど……」
 それでね、エーデルシュタインの街でも対策は行われているの。この街は、さまざまな宝石の原石が採れる不思議な鉱山のそばに作られた街で、原石の採掘と加工で主に成り立っているから『宝石』の名を冠しているのですって」
 雛姫によれば、この街にあるドワーフの工房では、今、何が襲い来ても対処できるようにと特別な武器を作成しているのだという。
「それが『宝石花』と呼ばれるシリーズで……そうね、例えば剣だとしたら、刃の部分がすべて宝石でできていて、そしてその宝石に花が埋め込まれているの。宝石の力と花の力を合わせた上に、魔力を乗せた魔法武器、というところかしら」
 けれどもこの街には、そんな武器を振るえるような者は常駐しておらず。自警団に持たせるのも心もとない。冒険者達を集めようとしても、いつその時が来るかわからない以上、期間不明で拘束することになってしまう。それでは冒険者も困るし、街も長い間彼らを雇い続けるとなると資金面での心配が出てくる。
「この街が襲撃される日はわかっているから、皆さんにこの街を救ってほしいの――」
 この街を守りに来たと、対価に『宝石花』の武器を指定すれば、街としては余計な出費をせずに戦力が手に入り、猟兵たちは珍しい武器が手に入るというわけだ。
 武器の種別や使用する宝石、花は自由に選ぶことが出来るという。もちろん、剣や槍、斧などの刃物以外の武器の作成も可能だらしい。ハンマーなどの鈍器や杖、望めばその他の戦闘媒体でも。ただこの世界の人々にとって特殊なものは、実物を見せて教える必要がある。けれども熟練の職人の集う工房であれば、実物に即して作るのも無理難題ではないだろう。
「死こそ救い――近隣の町や村を襲っているオブリビオンは、そんな思想で人々に『救い』を与えているの。でも」
 雛姫は瞑目するように一度瞳を閉じたのち、ゆっくりとその銀月の瞳を猟兵たちへと向ける。
「穏やかに過ごしている人たちを無理矢理死へと導くのは、違うと思うの。だから……」
 お願い、と彼女が告げると、香水瓶型のグリモアが光を蓄え始めた。





第3章 ボス戦 『リヒト・レイスフェルド』

POW ●白キ安寧
【白百合から毒素を含む甘い芳香】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD ●キミガ為ノ断願
【銃口】を向けた対象に、【願い、祈りを断つ魔弾】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ ●願イヲ越エタ先
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【死すら乗り越えた狂信者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はノトス・オルガノンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●転調
 男は生前、『音』に敏感であった。
 『音』と、通じ合っていた。
 そして『音』を、創り出した。
 そんな男だからこそ、『聞こえて』いた。

 『聲』の齎す響きが違う。彩(いろ)が違う。
 空気の中に広がる『音』の馨りが違う。

 高台からエーデルシュタインの街を見下ろしていた男がそれに気がつくのは、当然のことであった。

「――なんという、不協和音」

 男の手は、男の望んだ音で旋律を奏でた――昔も、今も。
 なのに今日の演奏ときたら酷いものだ。こんな演奏望んでいない。聞かせられたものじゃない。
 常日頃抑えている感情を解き放ち、ヒトとして在るが儘に行動することで紡ぎあげられし音――それが彼らへの葬送曲。彼らへの救い。
 それを奏でてきたはずが、今日の演奏は違う。

「何者かが――無理矢理変えた?」

 男は長い黒髪と長い上衣を翻し、高台から飛び下りた。


●白百合の
 猟兵たちはそれぞれ己の決めた場所で、数多降り注いだ邪霊たちと対峙した。
 被害に遭いそうになった住人たちを救い、保護していった。
 きりがないほどたくさん墜ちたように思えた邪霊たちだが、その数が確実に減っていくのを実感していた。

 誰かが最後の邪霊にとどめを刺した。けれども猟兵たちは誰も、気を抜いてはいない。
 この邪霊たちを率いていた者こそが、この街をの人々を真に滅する者であると、知っているから。

「――ああ、そういうことでしたか」

 教会周辺に『降って』来たのは、耳障りの良いバリトン。
 近くにいた猟兵たちが、周囲を見回す。けれども声の主の姿は見えない。

「この街の各所にいる、あなたがた『埃』が、私の演奏を妨げていたのですね」

 スッ――教会の屋根から、闇が一滴落ちて来た。
 音も立てずに地へとついたその闇は、男性の姿をしている。

「パイプに埃が積もれば、響きが悪くなるのも当然です」

 男が着地したのは、教会の礼拝堂へと繋がる大扉の前。
 彼が教会にて姿を現したのは、やはり生前、神に仕えていたからか。
 だが今、その教会内には……戦う力を持たぬ街の人たちが大勢避難している。
 下手に近づいて刺激してしまうのも――そう憂慮する猟兵たちの鼻孔をくすぐるのは、甘い花の香り。

「あなたがたと私は、相容れぬものなのでしょう? けれども私は、慈悲を以てあなたがたへと接しましょう。あなたがたへ救いを――……っ……!?」

 涼しい表情で口元に笑みさえ浮かべていた男は、そう言い放った。猟兵がひと目見ればそれがオブリビオンであると理解すると同様に、オブリビオンも本能で猟兵というものを察知する。
 しかし男は、白百合を手にした右手で突然、自分の胸ぐらを掴んだのだ。

「――違う、私は――死こそが救いです――やめてくれ、こんなこと――たくさんのヒトを死で以て救う、それこそが私に与えられた使め――」

 男の言動がおかしい。まるで意識が複数あるような、人格が表面化を争っているような、そんな言動。
 しかしそれは長くは続かなかった。
 男は再び涼しい表情で、猟兵たちを見つめて。

「申し遅れました。私はリヒト・レイスフェルド。あなたがたを『救う』為に、ここへ参りました」

 冷たい瞳。口元だけが笑みを象っていた。

 街中に広がる、花の甘い香り。

 ――救いたいのは、誰?
 ――救われたいのは、誰?



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※第3章捕捉※

・2章でいた場所や行った行動によって、教会までの距離が変化します。
・大体の目安を記載します。早く距離を詰めるための行動があれば、教会から離れた場所にいる人も早く到着できる確率が上がります。

★共通★
 ⇒甘い香りが充満し始めたことに気がつく。教会方面に異変を感じる。

●教会付近
 ⇒【至近】リヒトを目視できる・声が聞こえる

●住宅街、公園
 ⇒【近い】

●宿屋、自警団詰め所
 ⇒【やや近い】

●上級役人用の邸宅、街の外側、噴水広場
 ⇒【遠い】

※通常の人間が走って教会へと向かった場合、近い方から順に到着します。
※あくまでも大まかな目安なので、フレーバー程度に。必ずしもがっつりリプレイに反映されるわけではありません。

●特定の場所の表記がなかった、よくわからない、上記に当てはまらない方
 ⇒自分の位置を好きなように決めて良い、位置の指定なし、位置を考えずとも良い


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※プレイング受付は 5/27(水)8:31 ~ 5/31(日)23:59 です。
 一度プレイングをお返しして、締め切り後に再送日程をご連絡する場合がございますので、プレイングが流れてしまった場合、連絡をお待ちいただければと思います。

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現在は『これまでご参加いただいたことのある方』のためのロスタイムといたします。
予告なくプレイングを送れない状態になる可能性もございますので、その点はご了承ください。

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刑部・理寿乃

真の姿:竜人状態で

俺様の歌声に引き寄せられたか?
まさか総大将が直々に来るとは、探す手間が省けたな

『クロセアモール』まずはこいつの真名を開放しよう
魔力を注ぎ、真の姿に相応しい大剣に改造
『サフラン色の死』へと変化させる(武器改造)

奴のユーベルコードは数だな
ならばこちらもユーベルコードで数を揃えよう
しかし、現れた先が教会か
念の為、守り徹しておくか
鶴翼の陣を敷くとしよう
(集団戦術 戦闘知識 継続戦闘)


クラウン・アンダーウッド

興味深い相手だねぇ。過去の残滓のようなものが今でも残っているのかな?

無理に倒す必要も教会に近づく必要もないね。要は嫌がらせのような時間稼ぎをすればいい♪
何も猟兵はボクだけじゃないのだから!

ご挨拶どうもありがとう。ボクはクラウン・アンダーウッド。しがない道化師にして人形使いさ♪音楽が好きなのかい?ならとっておきの演奏をしなくちゃね!

カバンから追加の人形楽団を呼び出して扇形に展開。UCを使用したクラウンは相手に背を向けて楽団の指揮者として振る舞い、10体のからくり人形は互いに手を繋ぎ横陣となりクラウンの後ろに立って合唱隊として希望に溢れた歌を歌い出す。

終幕に相応しい演出さ。気に入ってくれるかな♪


ユウイ・アイルヴェーム
「救い」とは、人が決めて求めるものなのです
与えるものでも、与えられるものでもありません
心のない私には、救いなどありません

教会から、できるだけ遠ざけなければいけません
できないのなら、せめて意識をこちらに向けさせなければ
私にできること。ここにいる方全てを守るために、飛び込むこと
少しでも時間を稼げれば、それだけ打てる手は増えるはずです
刃の届く範囲が、手の届く範囲が、守れるひとが、増えるのです
この光は、皆様の為に
命の為に、使うのです

ひとつだけ、聞いてみたかったのです
「あなたは、なぜ『救い』たいのですか」
私は生きることが幸せだと、そう聞きました
でも、あなたにはそう思わない理由があったのでしょう


 礼拝堂へと繋がる大扉の前に立つ長身の男――リヒト・レイスフェルドは、教会近くで戦っていた三人を視界に映して名乗った。
 そしてそれは言葉を投げかけられた三人の猟兵――刑部・理寿乃(暴竜の血脈・f05426)にクラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)、ユウイ・アイルヴェーム(そらいろこびん・f08837)の耳に届いている。
 甘い花の香りが鼻孔をくすぐる――だがその香りは、工房『ヴァッフェ』において『宝石花』シリーズの製作に使われるために用意されていた花々のように、心地よいものではない。
 むしろ嫌悪感を増幅させるような、本能が警鐘を鳴らすような、厭わしい香り。嗚呼これが普通の花を歪曲させた香りであると知ったら、花を愛し、ゆえに花もつの姿や力を他の物質に宿す魔法を使うあのエルフの兄は、悲しむことだろう。
(「俺様の歌声に引き寄せられたか?」)
 心中でそう紡ぎつつもリヒトから視線を外すことのないまま、理寿乃は己の姿を変える。ドラゴニアンである彼女は、小柄な女性の姿から――屈強な体躯のドラゴンの姿へと。
(「教会の中は――まだ大丈夫だな」)
 そして先程教会の中へと待機させた白狼の五感を通じて、教会内の様子を確認した。
 教会内の人々は、理寿乃の歌と戦闘音が収まったことに気がついただろう。そして――リヒトの言葉も聞こえていた可能性は高い。
 だが、大扉の前に伏せていた白狼が立ち上がり、守るようにそこに立ちはだかるものだから――彼らは自然と状況を理解し、息を潜めているようだ。
 教会には、クラウンの人形たちを起点として、オーラによる防御結界が展開されている。一撃で簡単に破られることはないだろうが、例えば教会への攻撃が齎す音や衝撃に中にいる人々がパニックを起こしてしまったら――外へと出てきてしまったら――?
(「無理に倒す必要も教会に近づく必要もないね。要は嫌がらせのような時間稼ぎをすればいい♪」)
(「教会から、できるだけ遠ざけなければいけません」)
(「何も猟兵はボクだけじゃないのだから!」)
(「できないのなら、せめて意識をこちらに向けさせなければ」)
 クラウンとユウイの考えることは、目的とすることは、ほぼ同じ。
 そしてそれは、理寿乃もまた――。

「まさか総大将が直々に来るとは、探す手間が省けたな」

 隆々とした体躯が手にしているのは、宝石花の武器『クロセアモール』。女性の姿の時ならともかく、今の姿には少々小ぶりすぎるように映るそれを手に、理寿乃はリヒトへと言葉を投げた。

「『調律』の為なれば、いくらでも。それが大切な『楽器』であれば、なおさら自身の手で整備や調律を行いたいと思うものです」

 彼の言葉は何かの比喩だろうか。それの指す正しいところまでは理解できぬとも、その言葉の示す意味を推察することはできる。
 要するに、自分の計画の邪魔をしている猟兵たちを排除するか、猟兵たちの目を縫って住人たちを『救う』つもりなのだろう。
(「興味深い相手だねぇ。過去の残滓のようなものが今でも残っているのかな?」)
 クラウンは、リヒトの言葉の端々に浮かぶ『音楽』に紐づく内容を、彼の生前の何かによるものだと推察する。
 そして彼との距離はそのまま、ハットに手をかけ口を開いた。

「ご挨拶どうもありがとう。ボクはクラウン・アンダーウッド。しがない道化師にして人形使いさ♪」

 脱いだハットを胸元にあてて礼をとる。

「音楽が好きなのかい? ならとっておきの演奏をしなくちゃね!」

 そう告げてハットを空へと放ち――それがクラウンの頭上へと戻るより早く、カバンから追加の人形楽団を喚び出して。
 クラウン自身はリヒトに背を向けて、扇形に展開した人形たちの指揮者よろしく手を動かす。その手にある宝石花の武器『Hoffnung zurück』は、さながらタクトだ。

「ほう……このような賑やかな、大衆向けの旋律には馴染みがありませんから、少々目新しく感じますね」

 リヒトは己に背を向けたクラウンに、銃口を向ける。もちろんクラウンがただ無防備に背中を晒しているわけではないと、彼もわかっているはずだ。
 10体の人形たちが手を繋ぎ紡ぐ歌は、希望に溢れた歌。聖歌や賛美歌といった厳かで畏まったものよりも、もっと易しく気軽に視聴できる旋律。この旋律は教会内部の人々にも届いていることだろう。この歌声を聞いて、少しでも安心してもらえれば――……。
 その歌声を乱すように一閃、銃声が走り抜けた。けれどもリヒトの銃から放たれた魔弾は陣形を組んだ人形たちによって阻まれ、クラウンには届かない。

「なるほど」
「終幕に相応しい演出さ。気に入ってくれるかな♪」
「『終幕』をお望みですか?」

 口元の笑みを崩さぬまま、リヒトは銃から魔弾を連射する。銃声が響き渡り、人形たちの歌声を何度も何度も切り裂いていく。
 だが、魔弾はひとつたりともクラウンには当たらない。
 それでも連射が続けられる――奴の意図は?
(「教会か……念の為に守りに徹しておきたいが」)
 クラウンに放たれ続ける銃弾。そしてリヒトのいる位置を見て、理寿乃は思う。連射すると見せかけて、奴が一発でも教会に弾丸を当てれば、建物を壊すことは出来なくても中にいる人々の動揺を誘うことはできるだろう。ヒトの心は脆い。完全に恐怖を払拭することなど、生易しいことではない。なにかきっかけがあれば、それはすぐに姿を現し、増大してゆく。
 理寿乃には、守りに徹するための策はある。だが、奴が着地したのは『教会の礼拝堂へと繋がる大扉の前』。つまり、リヒトは教会の大扉を背にして立っているのだ。
 対する理寿乃たちは、何かあればすぐに戻れる距離ではあるが、邪霊退治のために教会からはやや離れた位置にいた。教会を守るために、守るべき教会を背後に庇うように位置取りたいところ。だがリヒトが大扉を背にしている以上、その背後に回り込むのは難しい。
 彼を教会から引き離すことができればいいのだが、今のところ銃を得物としている彼が、わざわざその場から移動する必要性を見出す可能性は低いだろう。

 ――ならば、どうする?

 理寿乃がひとりで奴と対峙しているのならば、それは大きな賭けになるかもしれない。けれども今は、ひとりではない。
 チラ、と視線を向けた先――ユウイが奴に気づかれないよう、一瞬だけ理寿乃と視線を絡めて頷いたから。
(「――ならば、行くか。真名解放――」)
 手にした『クロセアモール』へと、理寿乃は己の魔力を注ぎ込む。すると小柄な理寿乃でも取り回しやすいサイズだった西洋剣が、現在の体躯に相応しい大剣へと変化してゆくではないか。
 『サフラン色の死』――剣が完全に変化を遂げると同時に、奴の背にある大扉が開き――。

「ガウッ!!」
「っ!?」

 背後からリヒトへと襲いかかったのは、礼拝堂内で待機していた理寿乃の白狼だ。銃声が止む。元より察知され難いその存在に、リヒトは気づくことが出来なかったようで。襲いかかられる寸前で避けはしたが、横に飛び退いたことで彼の背は大扉から離れた。

「――星は地上にも咲きます、悲しみを終わらせるために!!」
「っ……!!」

 そしてその瞬間を見逃さずに地を蹴ったユウイは、一気にリヒトとの間合いを詰めて。威力だけでなく射程も増した宝石花の薙刀『Twinkling taivaalla』を手に切り込む彼女に対し、リヒトはその、星を宿す刃から逃れるように更に後ろへと飛ぶことを余儀なくされる。
(「私にできること。ここにいる方全てを守るために、飛び込むこと」)
 薙刀の間合いで奴を捉えるだけならば、これほど接近する必要はない。すでにユウイはその間合いを己がものとしているのだから。
 けれども今、ユウイがリヒトの元へと飛び込み続けるのは。
(「少しでも時間を稼げれば、それだけ打てる手は増えるはずです」)
 教会内の人々へと、その手を伸ばすためだった。
 教会と向かい合うようにしていたユウイたち。教会とユウイたちの間に、リヒトはいた。そう、念の為に守りを施していたとはいえ教会を背にされたままでは、教会内の人々を人質として取られているも同然なのだ。
 ただ奴との距離を詰めただけでは、それは解決しない。だから理寿乃と理寿乃の白狼と協力して、リヒトを教会から引き離すチャンスを創り出したのだ。
 リヒトの意識を引きつけておくことができれば、教会を守ることさえができていれば、それでいいのだ。奴へ本格的に傷を負わせるのは、自分たちでなくとも良い。けれども教会を、その中にいる住民たちを守ることができるのは、今ここにいる三人にほかならないのだから。
(「少しでも教会から引き離すことができれば、刃の届く範囲が、手の届く範囲が、守れるひとが、増えるのです」)
 目の前の男は、先程対峙した邪霊たちよりも明らかに格上の存在だ。けれども不思議と、あの時感じた手の震えはない。
 ユウイがあの時自分に言い聞かせるように紡いだ『呪文』は、今はいらない。
 だって彼女は今、独りで戦っているのではないのだから。
 無意識に生じる恐怖のようなものを滅するようにして心を奮い立たせてくれる人も、負った傷を気にかけて治してくれる人もいる。
 距離を詰めようと地を蹴りゆくユウイから距離を取ろうとしているリヒトの銃口が、ユウイへと狙いを定める。
 けれども心に湧いたのは、恐怖ではなく――。

「この光は、皆様の為に、命の為に、使うのです」

 彼女が怯まずに前へと進むことができるのは、己が『人形』であることを、『ヒト』に『つかわれる』存在であることを、呪(まじない)いのように己の中に刷り込んで、再確認したからではない。
 己が守ろうとしているその存在が、同時に自身を守ってくれているのだと、識ったからだ。

 * * *

 大扉から飛び出した白狼がリヒトに襲いかかり、奴がその場から動いた。
 その機を正しく捉えたユウイが奴へと切り込み、奴と教会との距離を広げてゆく。
 十メートルもいらない。ほんの数メートルで十分だ。奴が大扉から離れたのと入れ替わるようにして、大剣へと変化を遂げた『サフラン色の死』を手にした理寿乃は大扉の前へと位置取る。
 
 ――古より来たれ、我が同胞よ。有象無象を蹴散らすぞ!

 そしてその場で喚び出したのは、魔銃槍と魔剣で武装した竜人の幽霊たち。三五〇体近い竜人の幽霊たちは飛竜に乗って現れ、そして。

「陣形整え!!」

 理寿乃の指示で一斉に動き、竜人たちは教会を守る形で陣形を敷く。防衛に適するとされる鶴翼の陣だ。

「教会は我らが守り抜いてみせる!!」

 大剣を掲げて理寿乃が大音声で告げたのは、教会内の人々を安心させるため。白狼が外に出たことで不安を膨らませたかもしれない住人たちを、気遣ってのことだ。
 教会内へと戻るように命じた白狼が扉の間を抜けるそのタイミングに合わせて発せられた、その鬨の声とも言える言葉と、クラウンの指揮する人形たちが奏でる歌声は、白狼が通り抜けるために開いた扉の隙間からダイレクトに教会内へと伝わって、住人たちをも鼓舞する。
(「俺様たちがこうして教会の守りに徹すれば、このあと駆けつけてくる猟兵たちも戦いやすいだろう」)
 そう、この街中に散っている猟兵たちも、教会付近の異変を感じ取っていることだろう。加えて銃声や歌声や鬨の声――それらは猟兵仲間たちへの合図にもなる。
 そう、リヒトに傷を負わせることに専念するのは、彼らの役目ではない。
 三人は自分たちのやるべきこと、自分たちにしか出来ぬことを的確に理解し、そして行動に移したのだ。

 ――キィンッ!!

 人形たちの歌声の間を、甲高い音が走り抜けていった。
 リヒトの銃から放たれた魔弾が、ユウイの薙刀の刃で打たれた音だ。

「ひとつだけ、聞いてみたかったのです」

 背後を振り返ってはいない。けれどもユウイには、自身の背後にある教会がしっかりと守られていることがわかる。そうあることを、疑わない。
 だからそれ以上、リヒトとの距離を詰めるのをやめた。教会から引き離そうとするあまり、住人の避難している他の建物へと近づいては意味がないからだ。

「あなたは、なぜ『救い』たいのですか」
「……『なぜ』?」

 静かに紡がれたその問いに、リヒトは口元に笑みを浮かべたまま小さく首を傾げた。

「私は生きることが幸せだと、そう聞きました」

 誰から聞いたのだったか。ひとりからではなかった気もする。書物でも識った気がする。
 嗚呼、そういえば言葉としてでなくとも、この街に滞在している間にそれを肌で感じることもあった。
 だからこそ、守りたい――ユウイの中に宿るその想いが、強くなっていったのだ。
 でも。

「――でも、あなたにはそう思わない理由があったのでしょう」
「……、……」

 目の前のこの男は、『死』こそ『救い』であると宣う。常日頃抑制を余儀なくされている感情を解放させることをも『救い』とし、そして感情を暴走させる彼らを『死』でもって更に『救う』というのだ。

「『生きること』は『苦しみ』や『痛み』を伴います。あなた方も、そのような経験に覚えはありませんか?」

 嗚呼、まるで神の教えを説くかのように、リヒトは言葉を紡いでいく。

「肉体的なものだけではない、精神にも及ぶ苦痛は、害でしかないで――……」

 穏やかな笑顔を浮かべているように見える彼の瞳の奥は、その実、笑ってはいない。
 だがその瞳の色が揺らいだかと思うと、リヒトは言葉を切って――否、続きを紡ぐことが出来なかったのだ。
 白百合を手にした右手が、再び彼自身の胸ぐらを掴んだものだから。

「……違う、それが、あるからこそ――『生』は『命』をただ徒に苦しめるだけ――ヒトは、成ちょ……――『苦しみ』からの解放を――」

 彼が名乗る直前に見えたおかしな言動、それがまた発生していた。
 ユウイも理寿乃もリヒトの言動が予測できないからこそ、強い警戒を見せる。
(「うーん、あれは人格が複数あるというよりも……」)
 指揮を続けながら人形と共に適切な位置へと移動したクラウンが感じたのは、多重人格のソレというよりも。
(「『狂気』と『正気』、みたいだね」)

 リヒトの身に起こっている真実は未だ知れぬけれど、猟兵たちの為すべきことは、変わらない。
成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴

城島・侑士
【桃栗】


なんだこの匂いは?
この場には不釣り合いの甘ったるい…この香りは…百合か?

それに教会方面から嫌な気配がする
深青、行こう!
教会へ近づくにつれ音や声がハッキリしてくる
どうやら既に戦闘が始まっているようだな
敵を目視でき次第、仕掛けるぞ!深青

UC咎力封じを発動し
敵の行動を阻害する
UCを回避されたら避けた方向へと間髪入れずに乱れ撃ち
前衛の深青を援護射撃でサポートして敵を確実に追い詰めていく
魔弾は残像で回避するか被弾しそうな時はオーラ防御で凌ぐ

しかし死が救い…か
言ってることはカルト教団の終末論だな
貴様の歪んだ思想のために無辜の村人を巻き込むなよ
それに俺は無神論者でね
思想の受け売りは遠慮しておくぜ


壱季・深青
【桃栗】◎
匂い…向こうから?
あそこは…あの場所は…
うん、パパさん…行こう
ここから…近い場所
急げは…きっと…間に合う

あいつだ…見つけた
それと、同時に…UC発動

救いは…死じゃない
死は…救いにならない
なのに…死こそ救い…何故そう思うのか…知りたい

俺は…お前に殺されたら…悔いが残る
お前の救いとやら…俺たちに…試してみろ
できるものなら…ね

野生の勘…第六感とかを使って…回避を試みる
一般の人たちを…巻き込まないように…回りに注意しながら…戦う
パパさんの…援護を受けながら…黒曜の導「猩々緋」で…上げた攻撃力
敵の動きを見て…隙を探す
叩ける瞬間を見つけたら…問答無用で…全力で…叩く


 住宅街にて邪霊と相対した城島・侑士(怪談文士・f18993)と壱季・深青(無気力な道化モノ・f01300)は、目で見える範囲、気配を感じる範囲に邪霊の存在が無いことを感じつつも、気を抜くことはなかった。
 いつ、どの方向から他の邪霊が接近してきてもいいように、感覚を研ぎ澄ませる。
 だがふたりのそれに引っかかったのは、邪霊たちの気配ではなかった。
(「なんだ、この匂いは?」)
(「匂い……向こうから?」)
 強い風が街中を吹き渡っているわけではない。けれどもふたりの鼻腔をくすぐったのは、それまでは感じられなかった香り。
 風にのって運ばれてきたというよりも、街中の空気を侵食するようにふたりの元へとたどり着いたその香り。ふたりは自然とその香りが『来た』方向へと視線を向けた。
 明らかにこの場に不釣り合いの甘ったるい香り――それは。

「……この香りは……百合、か?」
「あそこは……あの場所は……」

 侑士の推察は間違っていない。この甘ったるい香りは常軌を逸した濃さがあるが、百合の香りだ。
 そしてそれがやってきた方向――深青の視線の先には、教会の鐘楼がある。

「教会のある方向だな。嫌な気配がする――深青、行こう!」
「うん、パパさん……行こう」

 同系色の瞳を持つふたりは、視線を絡ませてすぐに地を蹴った。
(「ここから……近い場所……急げば……きっと……間に合う……」)
 幸い、教会までは直線距離ですぐだ。住宅街の建物を避けて行かねばならぬ都合上、直線距離よりは多少距離は伸びるが、それでも近いといえる。
 深青は住宅街を抜ける前に、先ほど助けた少年の剣を植え込みの中へと隠した。この剣は、あとであの子に返さなくてはならないものだから。

 * * *

 住宅街を教会方面へ向かって走りゆくと、銃声と歌声が聞こてきた。それがどういう意味を持つかわからぬふたりではない。

「どうやら、既に戦闘が始まっているようだな」

 速度を緩めぬまま、隣を走る深青に告げる侑士。深青はそっと頷いて。

「敵を目視でき次第、仕掛けるぞ! 深青!」
「うん、パパさん……!」

 いつでも仕掛けられるよう、ふたりが得物を握り直したその時、聞こえてきたのは。

 ――教会は我らが守り抜いてみせる!!

 気合十分の大音声。
 それは、自分たちを含む他の猟兵たちへ、『教会を守るものがいること』と『教会付近に敵がいること』、そして『既に交戦している猟兵達がいること』を同時に知らせる声。彼らはおそらく、教会に避難している人々を守るために動いているのだろうと想像するのは易い。
 ならば、ふたりのすることはもう、決まっている。

 住宅街から抜けたふたりの視界に入ったのは、教会を守るように陣取る竜人たちと、歌を紡ぐ人形たちを指揮する猟兵、そして教会から少し離れた位置で黒い服を纏った男と対峙する少女――。
 侑士と深青が敵の姿を捉えることが出来たのは、人形を使う猟兵や竜人たちを指揮する猟兵を右前側に、敵と挟んだ位置。彼らよりももっと奥にいる男――リヒトに相対している少女越しに、その姿を捉えることが出来た。
 教会前へと通じる道の最後の角を曲がって、一番最初に見えたのがその光景だ。位置的に、ふたりはすぐにリヒトの視界に入るだろう――常ならば。
 もちろん、こちらだけが相手を目視できるという有利な状況であるに越したことはなかったが、そうではない前提でふたりは動いていた。それに加え、男はなぜか自分の胸ぐらを自分で握りしめ、意識を自分の中に向けている様子。その理由はわからないが、これを好機と捉えぬ愚か者はいまい。

「あいつだ……見つけた……」
「深青!」

 侑士が彼の名を呼ぶより早く、『猩々緋』で己の攻撃力を増した深青が速度を上げる。侑士は彼の名を紡ぐと同時に、男へと三種の拘束具を放っていた。

「っ……!?」

 飛来したうち二つの拘束具を身に受け、『正気』に戻ったのか、リヒトは視線を上げる。しかしその時すでに黒き刃を手にした深青が、間合いを詰めていた。

「くっ……新手、ですか……。あなた方も、『救い』を邪魔する、と……」
「……『救い』は『死』じゃない。『死』は……『救い』にならない……」

 その身に『黒曜羅刹』の刃を受けてなお、笑顔を貼り付けて言葉を紡ぐリヒト。白百合を掲げようとするその右腕に、アイアゲートの矢が刺さった――侑士の『ユービック』による、的確な狙撃だ。
(「……なのに……死こそ救い……何故そう思うのか……知りたい……」)
 矢を受けたことで取り落しそうになった白百合を、リヒトは持ち直す。その隙に若干距離を詰めた侑士が、男を睨めつける。

「しかし死が救い……か。言ってることはカルト教団の終末論だな」
「嗚呼、この思想を理解できぬあなたのような方々にこそ、私は救いを与えなくてはなりません」
「貴様の歪んだ思想のために、無辜の人々を巻き込むなよ」
「大丈夫ですよ、最初は皆さん、疑いのほうが強いものです」

 ふたりのやり取りは平行線だ。交わるところがない。否、どちらも、交わろうという意思がない。
 貼り付けた笑みのまま、リヒトは左手の銃を侑士へと向ける。だがその予備動作を感覚的に捉えた深青が、『黒曜羅刹』を振り上げて――銃口が弾丸を発した瞬間、その数センチ先で銃弾は真っ二つに斬り捨てられた。ふたつに割れた銃弾は、侑士へと届くことはない。
 しかし深青は、頬に何か液体のようなものがついた事に気がついた。それ、漂う香りよりも濃いもので。それがリヒトの持つ白百合から放たれた露だと理解するよりも先に、深青の頭の中がぐわんと揺れた。
 けれども。

「俺は……お前に殺されたら……悔いが残る。お前の救いとやら……俺たちに……試してみろ」

 両の足に力を入れて、深青は倒れるまいと男を見据える。

「……できるものなら、ね……」
「請われなくとも、私はあなた方を『救う』つもりですよ」

 刃を受け、矢を受けてもなお、男は悠然と笑みを作る。しかし彼が銃口を深青に向けるより早く、その腕をアイアゲートの矢が穿った。

「俺は無神論者でね」

 矢を放った侑士は、跳ぶようにしてリヒトとの距離を詰めた。けれどもそれは攻撃のためではない。

「思想の受け売りは遠慮しておくぜ」

 リヒトに接敵していた深青の腹部に腕を回し、彼を抱きかかえるようにして後方へと飛ぶ。
 逃げるわけではない。
 他の猟兵たちが駆けつける足音が聞こえたのだ。彼らの到着はまもなくだろう。ならば、自分たちが引くように見せることで奴の意識を引きつけると同時に、若干ではあるが深青を蝕み始めている毒の追撃を避ける――それが侑士が下した判断。

 猟兵たちは、独りで戦っているのではないのだから。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴