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帝都浪漫春疾風~君忘れじと、壇上に歌えば

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●夢のつづき
「約束よ、きっと生きて帰るって」
「ええ、約束。だって私達は帝都を護る兵士の前に――」
 幻朧桜が散る中、指きり交わすは兵服を身にまとう二人の乙女。
 されど、舞い踊る花弁は黒く塵と化す。すぐ近くに迫り来る、サクラミラージュの宿敵たる影朧だ。
 剣を構え、各々は戦場へと散り散りになっていく。
「ねえ、きっと。きっと逢いましょう! 今度は戦友じゃなく、友として――!」
 乙女が叫んだ言葉は、はたして届いたのだろうか。兵士の少女の姿は、影に呑まれ掻き消えていった。

 ――――それから、どれほどの年月が経っただろうか。
 帝都に聳える劇場の楽屋にて、女は気だるげにキセルを吹かす。
「まーたエキストラが逃げたの。これで何度目なんだい?」
「ええ、それが……当日から一切の連絡が取れず……」
「嗚呼、莫迦げた話だねぇ、折角の貴重な晴れ舞台だってのに」
 女にいびられる裏方をよそに、演者達はこそこそと噂話を囁き始める。
 ――パン! と、女……もとい、大女優の『春塵・うたかた(はるぢり・-)』は大きく手を鳴らす。
 トップスタアたる彼女へと、一斉に視線が注がれる。

「いい? これはうちの所有する劇場でのたった一度の特別公演。失敗は許されないよ――決して、ね」
 その声音は寂しげで、気丈な女にしては珍しい――まるで『少女の憂い』のようだった。

●帝都浪漫春疾風
「『帝都浪漫春疾風』――サクラミラージュの『帝都桜學府』の活躍をテーマにした舞台が、帝都の或る劇場で開かれるようなの」
 と、小夜凪・ナギサ(人間のUDCエージェント・f00842)は、今回の事件にまつわる舞台のパンフレットを猟兵達へと配布する。

 舞台のあらましは、こうだ。

 學徒兵の少女二人が友の契りを交わす。
 しかし、帝都を襲う影朧の脅威に呑まれ、學徒兵の少女は親友と離れ離れになり――親友は、命を落としてしまう。
 戦いは終焉した。
 だが親友を失った學徒兵は剣を棄て、戦争を畏れ、『輝くような女としての幸せ』を辿るという――。

 そのパンフレットの主演の文字は――空白。
 写真すらも、刷られていない。
「そう、この舞台。主演が記されていないの。匿い続けていた影朧を、この舞台に出演しようとしているからよ」
 このまま舞台が中止になれば事件も解決する――訳ではない。
 寧ろ、悪化の一途を辿るばかりだ。
「あなた達には、この劇場内に匿われている影朧を突き止めて欲しいの。どうにも、舞台に出演するアンサンブルが何人も出演を辞退してしまったのよ。その急募の中に、あなた達猟兵が参加することで劇場内に潜入できるわ」
 勿論、この任務には影朧救済機関『帝都桜學府』も陰ながら支援している。一般人への被害は及ばないだろう。
 しかし、匿われている影朧を対処できるのは、猟兵の力なくしては在り得ない。
「あなた達に向かってもらうのは舞台当日、帝都に聳える劇場よ。その楽屋に、影朧を匿っていると思われるトップスタア――大女優の『春塵・うたかた』が休憩している筈。新たなアンサンブルとして挨拶に伺うのなら、その時がチャンスね」
 楽屋で女優と接触をせずとも、他の演者や裏方などの噂話からを得るという選択も可能だ。勿論、それ以外にやりたい行動があれば自由に行動できるだろう。

 きらり、掌にグリモアを輝かせたナギサは猟兵達を見送る。
「悲劇の舞台をどう塗り替えるか――それは、あなた達次第よ。どうか、頼んだわ」


夢前アンナ
 サクラでミラージュしたかった。
 夢前アンナです。戦争も大切ですが、こちらものんびり運営できればと。

●募集について
【プレイング受付開始:11/20 AM8:31~】
 採用は先着順ではありません。
 内容によっては、再送を何度かお願いする場合がございます。

●プレイング書式について
【タッグ描写・グループ描写の場合】
 タッグの場合は相手の名前・ID、
 グループの場合はカギカッコ付で全員共通の『グループ名』
 をプレイング先頭にお願いします。

【アドリブ歓迎の場合】
 プレイング先頭、または末尾に◎

【アドリブ不可の場合】
 プレイング先頭、または末尾に×

 特に書かれて居ない場合は『アドリブ歓迎』として処理して書かせて頂くか、判断に迷う場合は流してしまいます。両極端です。
 ご了承のほど、お願い申し上げます。

●フラグメントについて
・第一章
「急募されたアンサンブル(その他裏方も有り)」として、春塵・うたかたが所有する帝都の劇場に潜入しましょう。
 劇場内にはトップスタア『春塵・うたかた』、演者、裏方などがおります。
 あれこれ沢山訊ねるよりは、「どの対象に」「何を訊ねるのか」をピンポイントに記述すると、有用な情報が手に入りやすいです。

・第二章

・第三章

 猟兵の皆様の活躍によって、展開が変化します。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
 どうぞ佳き夢を。
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第1章 日常 『我儘なスタア』

POW   :    これを向こうに持っていって下さる?(山のように届いた差し入れを運ぶ)

SPD   :    ああ、あれとあれとあれが欲しい……。(大量に頼まれたものを買ってくる)

WIZ   :    ――何か面白い話はありますか?(滑らない話)

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●壱

「――嗚呼、厭だこと。アンサンブルもバックれて、折角の舞台に泥を塗るだなんて」
 劇場の楽屋内で、キセルを吹かして溜息ひとつ。
 トップスタアの為にと誂えたソファに腰掛け、大女優――春塵・うたかたは真っ赤な唇から煙を漏らす。
 皺やシミを隠すように覆った白粉、人形の如く長く伸ばした黒い睫。
 そして――幾たびの修羅場を視て、時には泥水すらも目玉ごと啜ったような濁った瞳。
 うたかたはアンニュイな雰囲気を醸し出したまま、長い足を組みかえる。
「今日は……今日だからこそ、成功させたいのにね。ねえ――、」

 ――そのときだ。
 新たなアンサンブルが見つかったという知らせが届いたのは。
 帝都に聳えるというその劇場へ、猟兵達は潜入する。
 トップスタアが所有する建築物ともあり、都内にしては中規模ではあれど、外観・内観ともに非常に豪奢な造りであった。
 大理石の床に、桜色のカーペット。売店や休憩スペースなどにも桜の彩りを添えられている。
 劇場に入る扉の取っ手口まで、桜を模されているほどだ。

 まるで、劇場内そのものが幻朧桜に染められているかのよう――。
千束・桜花

早紗殿(f22938)と共に参りますよ!

トップスタァであるあの春塵・うたかたと会えるだなんて…私緊張してきました!
えっ、私が主役だったら?
いやいや、それは流石に無理ですよえへへ(満更でもない顔)
早紗殿はほら…脚本とか書いて舞台挨拶でバシッと決めてください!

さてさて、今回はアンサンブルとして参加ということでしたねっ!
まずはうたかた殿に直接…あっ、共演者の方への挨拶ですか!
ふふ、わかっていましたとも(わかってない)
うたかた殿が一人になりたがることとかないか、聞いてみましょう!
その場所・時間で影朧へ接触しているかもしれませんから!

直接会うのは緊張するので…周りの人に聞いてよかったかもしれません


華都・早紗
千束・桜花(f22716)はんと一緒に参加させていただきます~。


いや~ん、帝都桜學府の舞台やって桜花はん。
こんなん桜花はんが主役やったら一番似合う奴やん。
わー見てみたいわ~。桜花はんが歌って踊る所。
私いつでも桜の花吹かす役やってあげるからね。

うちらはアンサンブルとして参加すると言う事で
色んな人に挨拶していく中
春塵・うたかたはんの共演者(仲のいい人とかおらんかなぁ)に
練習後、舞台後、ふとした時等、
彼女が1人になろうと何処に向かっている事等が無いかを質問しますー。

探ってる理由聞かれたら
そういうミステリアスな一面を持ってるのが
大女優になる一歩かな思いまして。
と、てきとーにごまかすで。



●第壱幕
「トップスタァ、春塵・うたかた――帝都の街で何度もポスターで見ましたよ! あんな大女優と出会えるだなんて……私、緊張してきました!」
 劇場に入るや否や、千束・桜花(浪漫櫻の咲く頃に・f22716)は目を輝かせる。ふわりと外套を翻しながら、ロビーをきょろきょろ。
「桜花はん、楽しんではりますなあ。此度の目的が観劇やないのが残念やねぇ」
 好奇心に満ち満ちたうら若き學生将校の様子に、くすり笑みを漏らすは華都・早紗(幻朧桜を見送る者・f22938)。
 モノクロフィルムに桜の彩を滲ませたようなその娘は、長い睫で縁取られた右目をゆるり細めた。
「早紗殿! ご覧ください! ブロマイドがこんなに沢山! 春塵・うたかたのお写真もありますよ!」
「あら~ほんまや。けど此処は売店やねぇ。でもこのショウケヱスの中に桜花はんのブロマイドが並んでてもええんとちゃいます?」
「えっ、私ですか? いやいや、それは流石に無理ですよえへへ……でも、トップスタアかあ」
 両手を組んで、桜花は夢見心地で想像してみる。壇上できらびやかな衣装をまとい、喝采を浴びる私――。
 満更でもなさそうな様子に、早紗はくすりと笑んで、
「私はいつでも桜の花吹かす役やってあげるからね。ほな、参りましょ」
 桜の精の証たる花弁をひらり散らして、売店を通り過ぎてゆく。
「ええっ、早紗殿はほら……脚本とか書いて、舞台挨拶でバシッと決めてくださいよ!」
 待って下さいー! と桜花は慌ててパタパタと追いかけていった。

 二人が通された楽屋には此度の舞台に出演する役者達が各々休憩をとっていた。
 凛とした女指揮官役、若き青年學徒兵役、歴戦の老兵役――役者の年齢層は様々だ。
「お初にお目にかかります~。アンサンブルとしてお手伝いしに来させてもらいました。どうぞよろしゅう」
「あっ……そうでした。共演者の方々へもご挨拶を! 多事多難あれど、無事に舞台を成功させましょう!」
 個性的なアンサンブル二人からの挨拶に、何処か和やかな空気が生まれたのかくすりと笑う役者が数名。
 しかしながら、この楽屋の中には春塵・うたかたの姿は居ない。
「あの、うたかた殿はどちらにいらっしゃられるのでしょうか?」
 桜花がそう訊ねると、役者の一人は顔を曇らせて気まずそうに口を開いた。
「ああ、あの人は通し稽古やリハーサル以外には顔を出さないよ。舞台の進行すら監督や演出家、脚本家に任せきりだ」
「それは不思議やねぇ。こんなご立派な劇場で、しかも一日きりの大舞台で――」
 さらに話を広げるべく、割って入ったのは早紗だ。
「お一人でいったい、何処へ向かってはるんやろねぇ。何か心当たりあります?」
「そ、そういう君達は、どうしてそこまでうたかた嬢を訊ねるんだ?」
「なんと云いますやろ――探偵ごっこ? ほら、流行ってますやんか。怪奇探偵を主役にした舞台やキネマ。そういったミステリアスで底の知れへん役作りもまた、大女優の一歩とちゃいます?」
 色が抜け落ちたような長い長い髪を揺らし、じぃ、と覗くは桜の片眸。
 参った、とばかりに役者は肩を竦めると、自分の知る限りの話を吐露し始める。

「此処がうたかた嬢の所有する劇場だということは君達も知っているだろう?
 内観のデザインも、建築のデザインにも、凡て彼女が携わっているんだ。どこもかしこも桜だらけ。思い入れがあるんだろうね。
 それほどまでに拘るからこそ――噂のうちのひとつが囁かれているんだ。

 役者も裏方すらも知らない、『隠し部屋』が何処かにあるかもしれないってね」

 その話を聞いて、桜花は大きな目をぱちくり。
 周囲に悟られぬよう、人差し指で口を添えて。
「なるほど――まさに複雑怪奇。ですが情報が足り得ませんので、他の方々への協力も必要でしょうですね」
 そ、それに……大女優御本人にお伺いするのは緊張しますし、なんて本音は飲み込んで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

国栖ヶ谷・鈴鹿
◎SPD

【出前おもちしましたー!】
ぼくは『演者さん』を主に、聞き込みするね!聞きたいことは、『うたかたさんの最近の言動と、幽霊(ファントム)の噂』。

あと、オール・ワークス!で奉仕力を高めておこうっと!

今日は事前に、演者さんのお好みも調査して、用意したのは特製ブレンド珈琲とガトーモンブラン!(アドリブ大盛りで大丈夫です)

お菓子の出前という事で!ふわっと中に案内してもらえたら、給仕しながら、噂や聞きたいことの聞き込みをはじめよう!

「ぼく、お話聞いたんですけど、主演の人ってうたかたさんのお知り合いの人?」
「実はぼく、噂で聞いてたんですけど、劇場のどこかから歌が聞こえるって、天使の歌声だとかって!」


南雲・海莉
アンサンブルとして参加

春塵さんにもご挨拶するけれど、
情報収集の相手は他の出演者さんね
劇場での古参の方にご挨拶を

休憩時間などで少しずつ会話を重ね
「大舞台に立つのは緊張と同時に胸躍ります
物語の一部となって、内側から見ているような」

サクラミラージュの劇場を裏側まで体験できるんだもの
愉しんでいる気持ちも本物
義兄さんを見つけたらお土産話にしなきゃ
不自然な点を探すのも兼ねてしっかり観察するわ

ある程度親しくなってから本題に
「でも、私の前任の方はなぜお辞めになったんでしょう?」

人が辞めた理由に、影隴の現状や隠れ場所へのヒントがあるのかしら
少なくとも影隴に出会うまで辞める訳にいかないもの
心構えはしておきたいわ





 ――劇場の外からブルンブルン、とけたたましいエンジン音が鳴り響く。
 一体何事か、と楽屋内の役者達が目を瞬かせたり、席を立とうとすれば――、

 ――ばたーん! と扉が開く!

「お待たせしましたー! 本番前の腹ごしらえに、出前をお持ちしに来たよ!」
 愛嬌たっぷりの天真爛漫な笑顔を輝かせ、国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)はパーラーメイドのフリルをふわふわひらりと翻す。
 突如あらわれたハイカラ娘に役者達もたじたじ。されどそんな微妙な空気すらも何処吹く風、否、そんな風すら後光で掻き消しちゃうのがハイカラさん。
 オール・ワークス! の効力も発揮したからこそ、すぐに楽屋へと辿り着けたのだろう。
「そちらの演者さん、殺陣で体力をいっぱい使ってお疲れでは?」
「え、ええ……これでも學徒兵を演じていますから」
「そんな時にはこれ! 林檎や桃でビタミンを養いましょう! 苦手な野菜は?」
「特には……ないかなあ」
「ならにんじんとラディッシュも混ぜて、すっきり甘い特製のレッドスムージーのできあがり!」
 飲んでみたい方もどうぞどうぞ、と鈴鹿は呼びかけて、新たなスイーツやドリンクを用意し始める。
 そんな彼女へと、冷徹な声で注文がかかる。振り向けば、仏頂面ながらも美形の女優が鈴鹿を見下ろしていた。
「私は甘いのは苦手だから――別のを頂けるかしら?」
「では、特製ブレンド珈琲をどうぞ! 無糖なので甘味もないかと!」
「そう、では頂くわ」
 と、マグカップに注がれた熱々の珈琲を一口。
 妙齢の女――指揮官役の演者は、表情をほころばせた。まるで氷がほろりと解ける瞬間のようだ。
 悪い人ではないと直感した鈴鹿は、甘すぎないガトーモンブランも一切れ差し出しながら訊ねる。
「珈琲のお供にどうぞ! そういえば、ぼくお話聞いたんですけど、主演の人ってうたかたさんのお知り合いの人?」
 主演、というワードに反応し、演者の女はフォークを持つ手を止める。
「……知らないわ。私達は、何も知らない。何も教えてはくれないの」
「そうなんですか? ぼく、噂で聞いてたんですけど、劇場のどこかから歌が聞こえるって――天使の歌声だとかって!」
「? そんなの、ありえないわ。だって――」
 演者の女は訝しむように顔を歪めたまま、席を立とうとする。
 しかしそのとき、鈴鹿の傍らへと立った一人の娘が居た。
「お疲れ様。私もそのガトーモンブラン、いただいても宜しいかしら」
 さきほどアンサンブルの合わせ稽古から帰ってきたばかりの、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)がタオルで汗を拭いながら愛想よく微笑んだ。

 休憩の合間、海莉のフォローや鈴鹿特製のガトーモンブランの相まって演者の女との会話は弾む。
「大舞台に立つのは、緊張と同時に胸躍ります。物語の一部となって、内側から見ているような――けれど、舞台側から広がる観客席の光景も新鮮で」
「そうでしょう。本番はスポットライトもまぶしいから、更に新鮮な世界が広がる筈よ」
 嬉々として頷く演者の女に合わせた会話を続けながらも、海莉自身が得られた高揚は紛れもない本物だ。
 あのUDCアースでの舞台劇とは、スポットライトが焙り出す埃や檜舞台の匂いもまた違う。
 珈琲を啜り、ほっと目を伏せた。義兄さんを見つけたとき、また思い出話が増える。
「舞台はあんなにまばゆい空間なのに、勿体無い……私の前任の方はなぜお辞めになったんでしょう?」
 その問いかけに、演者の女は重々しく口を開いた。
「『見た』のだと、思うわ。あくまで噂話だと、思っていたけれど」
「――――『見た』? それっていったい」
「この劇場には、春塵さんが密かに作った隠し部屋があることは『帝都浪漫春疾風』に携わるみなの中では既に知られていること。知らんぷりしておけば良いものを――好奇心に駆られた若い役者は、春塵さんの隠し部屋を探ろうとした。そして――、」

 ――――見てはいけないものを、見たのでしょうね。

 ごくり、と固唾を呑んで鈴鹿が訊ねる。
「それって、天使の歌ではなく――」
「ええ、天使でも、ましてや悪魔でもない筈よ。――何と形容すれば良いかしら。分からないわ。私達演者は、春塵さんに踊らされているだけだから」
 トップスタアが大々的に宣伝する舞台への出演。喩え利用されているだけだとしても、自分の利益になるならば目を瞑るしかあるまい。
 そう言って、マグカップと皿を綺麗に平らげた演者の女は席を立った。
 最後に振り返り、二人へ告げる。

「あなた達は、踊らされないようにね。彼女の春疾風に」

「それって……」
 呼び止めようとした鈴鹿の小さな肩へ、海莉は手を置いて制した。
「十分な成果は得られたわ。隠し部屋に潜む、『一般人が見てはいけないモノの存在』――おそらく、影朧に間違いない筈。それと、さっきの珈琲とケーキ。とても美味しかったわ」
 ご馳走様。と海莉は微笑んでみせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルトリウス・セレスタイト

何を思いそれを行うにせよ
歪んでしまったものに向ければ、嘗て目指したものすら歪んでしまうぞ

界離で全知の原理の端末召喚。魔力を溜めた体内に召喚し自身の端末機能を強化
情報を走査し影朧の正体、居場所、行動を把握する

そのまま劇場関係者に話を聞く
「主演が記されていないのは何故か」「主演を知っているか」について尋ね、受け答えから影朧を匿う協力者などいるかどうか判別を図る

己は心も模倣に過ぎぬが、他の者はそうでもあるまい
原理を辿れば判別は容易でも踏み入ることは躊躇われる
手間くらいは掛けよう


雲鉢・芽在

まあまあ、なんとも華やかな舞台ですわね
悲恋の物語、私も一女学生としては気になる公演ではありますの
しかし今回は観客としてではなく仕事として関わらせていただきましょうか

【WIZ】
……ふむ
私、演者として潜り込むには無愛想なことは自身が一番よく分かっていますの
まずは裏方にお話をお聞きしましょうか

もし、そこな作業をされているお方
私は少し離れた地域からこの公演の話を聞き訪れた毒……いえ、薬剤師の卵なのですが
風の噂でえきすとらの方が減っていると流れてきましたので、私の先生からもしや流行り病などでもあるのであればお手伝い出来るやもと情報収集を頼まれまして
何か御存知でしたら、少しお話をお聞きしてもよろしくて?


日向・史奈


…士道兄さん(f23322)はどうしているでしょうか…?
礼儀正しい人ですから、心配はしていませんが…
ともかく、私は私の仕事をやり遂げなければ

アンサンブルの一員として裏方の方にご挨拶がてら接触を
聞きたいことは、「この劇場に七不思議のようなものはあるか」…でしょうか

劇場に匿われているなら、もしかしたら不審な物音だとかを聞いた人もいるかもしれませんし…

兄さんはうたかたさんと直接会っているようですし、煽ってくれたお陰でうたかたさんが何か行動を起こしてくれて…
裏方の方々から聞いたことの裏付けが取れたら御の字ということで


ファスナ・ファクタ


悲劇を防ぐのも、スタア、の仕事だな!
森辺のスタア、である、オレに、に任せておけ!

ふむふむ、まずは、影朧を隠している場所を調べれば、よいのだな!
それなら、大丈夫、だ。

オレの、factor's hearは、心を読む。
相手の目線や鼓動、汗などの情報から、わかるのだ。

隠し場所を聞くには本人ではない。
オレの姿だと、警戒されるかもしれないから、な!

だから、アンサンブルとして、「古株の裏方」に「近づいては行けない場所」について、聞こうではないか。

きっと、そこに、影朧はいるはずだ。

嘘をつかれたら、こう、言おう。

---お前、つまらない嘘をつくのだな。
オレの、ユーベルコードがそう、言っているゾ。と。


文珠寺・由紀乃
“匿う”……つまりなにかを“隠す”なら、どうしても不自然が生まれるよね。警戒や不安によるものかもしれないし、食料とかを工面するためかもしれない。

何にしても、“匿い続ける”なら、気にしなきゃならないことは多い。
その場しのぎじゃ、いずれボロがでちゃう。だから逆に、今まで隠しおおせてきたのなら、なにか“パターン”があるはず……。

そんな感じで、情報を集めるよ。
舞台に立つなんてできないから、裏方のスタッフとして紛れ込もう。

あいさつ回りとか、新人らしく使いっぱしりとか、うろつける口実を利用して、裏方さんたちの話を聞き出す。
トップスタアさんの振る舞いの癖がわかれば、探しものにつながるかもしれないから。


狭筵・桜人

念願の晴れ舞台なら叶えてやりたい気もしますけどね。
こっちもお仕事なので【情報収集】に勤しみますよ。

声をかけるのは連絡係――裏方の人ですね。
アクシデントを直接伝える役割なら
不満も真っ先にぶつけられる立場でしょう。
つまり機嫌を窺う機会が多く変化にも気付きやすい。
大女優への正直な意見を頂戴しようと思います。

お疲れ様です。お仕事大変じゃないです?
春塵・うたかた――まさか大女優をこんな間近で見られるなんて光栄ですよ。

でも彼女、最近変わりましたよね?
以前より精彩を欠いたというか……
彼女の周りで何か変わったことありました?
たとえばそう、誰かが現れてから様子が変だとか。

手に入れた情報は仲間と共有します。


マレーク・グランシャール
◎【神竜】篝(f20484)と

歌唱と演奏、演技力を売りに男性アンサンブルとして求人に応募
履歴書には元軍人と書き、凜々しさをアピール
篝と手分けして調査に当たろう

これが歌劇なら歌も演技も出来る俺は役者として十分舞台に立てる
主役の少女二人が所属する帝都桜學府の上司役になれないか、監督と脚本家に掛け合おう

……と言うのは調査の名目
物語が現実の出来事を元に作られているのなら、脚本家が影朧の正体や救済に必要となる鍵を知っているはず
まずは監督に当たって脚本家が誰かを聞く
次に本命の脚本家に会い、過去に起きた出来事や関与した人物などについて聞き込むぞ

調査を終えたら篝と情報共有
どんな女優よりも篝が一番美しいな


ティオレンシア・シーディア


…あたし、歌も演技も得意な部類ではあるんだけど。
この声だし、他人と合わせられないのよねぇ…
大人しく別方向から当たりましょ。

いくら中規模の劇場って言っても、役者はもちろん衣装音響大道具小道具その他諸々のスタッフまで合わせたら相当な人数になるわよねぇ。
となると、仕出しのお弁当なりケヱタリングなりが必要になるはず。
そっち方向で攻めれば違和感を持たせずに話を聞いて回れるかしらぁ?
脇役とかスタッフを中心に不自然にならないように世間話のテイで●絞殺で○情報収集するわぁ。
こういう時こそ噂って陰で広まるものなのよねぇ。

…え?お味?
これでも飲食店経営してる身だもの。○料理に手を抜いたりなんてしないわよぉ?


蒼焔・赫煌


こーんにーちわー!
あんさんぶる、一丁お持ちしました!!
とゆーわけで、アンサンブルとして参加ー! します!
まずは関係各所、皆さんに挨拶回り!
元気よくいきましょー、よろしくおねがいしまーす!!

とゆーのは世を偲ぶ仮の姿!
猟兵にして正義の味方な可愛いボクはこっそり調査を開始するのです!

うーん、やっぱり見られて困るものなのだし、場所とか手がかりも分かりにくいところにあるんじゃないかなっ!
と、ゆーわけで!
役者さんが行かないようなとこにもあっちこっち行きそうな裏方の人にお話とか聞いちゃいましょー!
うーん、最近何か不思議な噂話とかないかな?
前の人が辞めたことと関わってそうな感じのがさ!


贅沢・美燈


『帝都浪漫春疾風』…。
うち、あまりこういう舞台劇場?ってのよくわからないけど
―――舞台女優って素敵よね。晴れ舞台で輝けるのだから。

少女二人が友の契りを交わすなんて素敵だわ!
ストーリーが悲しそうなお話だけど…。

ストーリーも気になるとこだし次々と辞退しちゃう原因を探さないとね

「裏方に聞き取り」
そうね、大女優本人に訊くよりまずは裏方のほうから訊ねてみようかしら―――
きっとこういうのって大女優が他の演出者とか裏方に厳しいって相場が決まるものだわ!本やドラマでみたことあるもの!

「もし、お忙しいところごめんなさい、ちょっとお訊ねしたいことありまして『うたかたさん』について何か最近変わったことないです?


御桜・八重

「うわわ、ごめんなさーい!」
物珍しさにキョロキョロしてたら、
掃除婦のおばさんにぶつかっちゃいました。
…ほんとはわざとなんだけれど。
ゴメンと心の裡で手を合わせ、散らばったゴミ拾いを手伝います。

「うん、うたかたさんと舞台に立てるって言うんで、
一も二もなくアンサンブルに応募したんだ!」
「噂には聞いていたけど、すっごい劇場だよね。
秘密の部屋の一つや二つ、本当にありそう」
「幽霊少女とか潜んでたりして…」

劇場の隅から隅まで知ってそうな人と見込んで話を振ってみます。
雲行きが怪しくなって来たら、練習に戻らなきゃと退散。

わたしの親友が行方知れずになってから、いつも胸にある不安。
だから、放っておけないんだよね。


頁桜院・花墨
◎お母様(f22614)と参加でございます。

お父様のようなめいすいり……お父様の分までかすみ、がんばりますね、お母様。

かすみは、その、えと。たくさん人と話すのは、とくいではございませんので。お母様がお話するのを、いっしょに見てございます。
お母様ともども、きゃくほんかを目指す新人あんさんぶるというていでまいりましょう。かすみは、こやくでございます。
『帝都浪漫春疾風』……有名なおはなしなのでございましょうか。はるぢり様、このおはなしじたいにおもいいれがあるのか、それとも……。
きゃくほんを読み込んだり聞き込みをしたりして、はるぢり様ときゃくほんの関係や、物語の内容をしらべてみたいと思います。


頁桜院・萌楼
◎娘の花墨(f22615)と共に参加します
花塵・うたかた……あぁ、元主人がファンの大女優ではありませんか
あの人なら、きっと探偵としてすぐに解決したでしょうに
今回は私達で解決しましょう

脚本家を目指す新人アンサンブル、私は子連れの母親役として振る舞いましょう

ふふ、もう自然体で充分ですね、作家の蒼空・桜子というのは内緒ですよ、花墨

『帝都浪漫春疾風』、必ず成功させたいと願ううたかたはここにどんな想いを込めたのでしょうか
実はあまり舞台には詳しくないので物語をよくはしりませんが、この物語にうたかたがこだわる理由があるはず

彼女と仲がよい演者にそれとなく聞いてみましょう
脚本家になるための修行と理由をつけて



●第二幕

 きらびやかなロビーや楽屋とは打って変わり、舞台裏は裏方達の汗や機材の熱や埃、そして意思疎通の声々がこだます活気に満ちた場であった。
 足元に延びるコードを一歩踏んでしまった新人へ、ベテランらしき裏方から叱咤が飛ぶ。
(「まあまあ、なんとも華やかな舞台ですわね。華やかでいて――血気も盛んで」)
 一般ならば足を踏み入れることすら貴重な舞台裏――瞳を緩め、雲鉢・芽在(毒女・f18550)は観察し続ける。
 幾重にもコードが伸びる足場から、張りぼて、天蓋まで。
 見た限りでは“普通の”舞台裏に過ぎないが、舞台機構はサクラミラージュの世界ではやや古い技術で稼動しているようだ。
 舞台下の通路――通称『奈落』と呼ばれる床下空間も何処か心もとない。
 運ばれる垂れ幕をチラと盗み見る。友情、或いは悲恋か。メロドラマには、一女学生として芽在としても気になる公演ではある。
 さりとて、此度は観客としてではなく仕事――それも、劇場に住まう『毒』が相手だ。
「……」
 近くの鏡と見つめあい、ぷに、と人差し指で唇の端を持ち上げてみせる。
 似合わない。無愛想なのは自分自身が一番よくわかっている。
「もし、そこな作業をされているお方」
 芽在はひらりと手招きして、鉄骨を運び終えたばかりの若い作業員へと声をかけた。
「はい、僕が何か……あなたも関係者の方ですか?」
「ええ、私は少し離れた地域からこの公演の話を聞き訪れた毒……」
「毒?」
「――いえ、薬剤師の卵です」
 つい私ったら、と掌で口元添えて繕ってみせる。相手も気に留めなかった様子だ。
「風の噂でえきすとらの方が減っていると流れてきましたので、私の先生からもしや流行り病などでもあるのであれば、お手伝い出来おうのるやもと情報収集を頼まれまして」
「流行り病……なあ」
「何か御存知でしたら、少しお話をお聞きしてもよろしくて?」
 うーん、と作業員が腕を組む。何かを思い出しているようだ。
「……ああ、そうだそうだ!」
「なにか心当たりが?」と訊ねて、芽在は新たな発言を促す。
「いやな。流行り病――というにはおかしな状況だ。エキストラを辞めていった奴等は、どいつもこいつも血相変えて、錯乱状態に陥ってやがるって聞いててな」
 錯乱状態。毒か、何かか。それとも精神にまつわる何かか。毒女たる令嬢は想像に夢中になりながらも、黙して相槌を打つ。
「今じゃ治療のほかに、合法阿片を頓服としてかろうじて日常生活を送れているらしいが――とうぶん役者としての復帰は難しいだろうな」

 一方、遠くから聞こえてくる足音。それも二人だ。
 そのうちの一人は先輩らしき作業員――トランシーバーやメモ帳を常備している風貌から、連絡係といったところだろう。
 連絡係の隣には、狭筵・桜人(不実の標・f15055)。ふわりと柔らな桜色の髪を払い、「自分も猟兵である」とアイコンタクトで芽在に伝える。
「お疲れ様です。お仕事大変じゃないです? 私も此度の舞台のお手伝いができるようにと、こうして赴いた次第です」
 そうしてすれ違い様、桜人は連絡係へと親切な態度を崩さず訊ねる。その笑みは柔和なようでいて――逆に不自然にも捉えられる。但し、初対面の一般人相手にはただ「愛想の良い少年」だと印象を受けるだろう。
「ああ、そうだな……アンサンブルは何人もバックレちまうし、裏方はてんやわんやだよ」
「なんだか勿体無いですよね。春塵・うたかた――あんな大女優を間近で見られて、共演できる機会を逃すなんて」
 と、うたかたの名が出た途端に、連絡係の足が止まった。
「それどころじゃねえ、身の危険を感じたから逃げたんだろうよ。春塵さんは、なんつーかこう……」
 言葉に迷う連絡係。僅かに瞳が泳いでいるのを、“元”正規のUDCエージェントたるその観察眼は鋭く見逃すことは無かった。
「でも彼女、最近変わりましたよね? 以前より精彩を欠いたというか……」
「そうさなあ、昔はポスターに修正をかける必要もねえくれえの美人だったよ。ただ最近……気になることがあってな」
 内緒にしてくれよ、と連絡係はトランシーバーの電源を一瞬だけ切って静かに囁く。
「あのウタカタ嬢、普段はキセルの煙とキツい香水をまとってるが……ほんのときたま、甘い匂いがするんだよ。まるで年頃の娘っこが好みそうな――桜コスメってヤツか?」
 なんでかは、俺もわからねえ。すまねえなあ、と連絡係は新たな受信に応答し、桜人にひらひら手を振り去っていく。
(「“彼女の元に誰かが現れた”――それを訊ねるつもりでしたが、もしやその『存在』は、現在働いている劇場内の関係者は深く知り得ていない?」)
「“匿う”……つまりなにかを“隠す”なら、どうしても不自然が生まれるよね」
 思索に暮れる桜人へ近寄り、小声で意見を述べるは文珠寺・由紀乃(封緘文書・f23896)。紅い目はりで縁取られた瞳は、暗い色を宿したまま。少女にしては抑揚に乏しいフラットな口調で、由紀乃もまた考察する。
 人には見せられぬ影朧という存在への警戒か、不安か。影朧といえど食料の工面も必要であるかもしれない。考えうる要素は多数。
「何にしても、“匿い続ける”なら、気にしなきゃならないことは多い。その場しのぎじゃ、いずれボロがでちゃう……」
「計画的に、影朧を匿い続けていた行動パターンが見つかるかもしれない、ということでしょうか」
「そう。“彼女の見目が変わっていった”ことも手掛かりの一つになりそうだよ」
 かつり、ぱたぱた。ブーツを鳴らして舞台裏へ。
 作業を仕切っているであろう作業員などへ挨拶回りをしながら、由紀乃は聞き込みを始める。
「いやあ、大変なトコ悪いね。こうしてメイク道具まで運んでくれるなんてさ」
「いえ、気にしないで。人手が足りないと聞いたものだから」
 由紀乃はそう答えながら、メイク道具の収納ケースを持ち運ぶ。
 初老の女性メイク担当もまた、よっこらせと道具の数々を持ち運ぶ。しかし歳もあるのか、ぐらりと転びそうになったところへ――差し伸べる新たな少女の手が、またひとつ。
 さらりと肩口に流れた白銀の髪を耳にかければ、黒の耳飾りがちらりと覗く。
「だ、だいじょうぶですか!? お荷物、うちもお持ちしますよ」
 贅沢・美燈(Type.B・f18257)は廊下に落ちてしまった収納ケースをよっこいしょ、と持ち上げた。
 沢山の役者に合う様々な道具が揃っているのだろう。重量感に圧倒されそうになるも、両手でぎゅっと握り締める。
 ああ、ありがとう。とお礼を述べるメイク担当は二人の支えでなんとか立ち上がり、三人で共に楽屋へと向かって行く。
(「此処が舞台劇場――よくわかんないけど、舞台女優って素敵。見せてもらったパンフレットも、役者さんがキラキラ輝いていたから」)
 メイク道具が詰め込まれたこの収納ケースは、謂わば舞台を彩る絵の具のようなものだ。大切に、大切に持ち歩こうと美燈は意気込むようにぎゅぎゅっと抱えなおす。
 美燈が本やドラマで観た物語より、裏方はなんだか活き活きとして見えた。それだけ生き甲斐を感じている仕事人がこの劇場に残っているからだろう。
「お嬢ちゃんたち、綺麗なお顔してるわねぇ。化粧の仕方でまた印象が変わりそう」
 そっちの椿のお嬢ちゃんは赤と一緒にブラウンでメリハリつけたりして、色違いの目のお嬢ちゃんはぱっちり睫毛を上げて瞼をキラキラさせてみたら?」
 なんて、本業のメイク担当からのアドバイスに、美燈は驚いた様子で目をぱちくり。
(「ぱっちりしたキラキラメイクかー……どんな風になるだろ」)
 屋敷の中で引き籠りがちだった美燈にとって、外の世界で得られるお洒落は無縁。けれど、憧れでもある――。
「……そう。ぼくはともかく、トップスタアさんはどうなの? あの人こそ化粧の映える大女優なのだから」
 対する由紀乃は表情が変わらぬまま、小さな声で話を切り出す。そう、本題は大女優や劇場に秘められた謎であるのだから。
 メイク担当は「そうさねぇ……」と昔を思い出すように語り始めた。
「……あたしは長年、演者さんのメイクを担当してんだけど、時々うたかた嬢の手直しにも携わるんだ。けれど今回の舞台、あの人の肌に触れるとね――昔と弾力が違うんだ。云っちゃ悪いけれど、老人の肌みたいにね。掌と指先で人を見分け、仕事するメイク担当のあたしらは、うたかた嬢の衰えに気づいちまってるのさ。……きっと、本人も一番分かってるのかもしれないねえ」

 ――ときどき身につけてる、若者向けの桜コスメの香水のコトも考えると、ねえ。

(「歳の衰え、若者向けの桜コスメ――何か、関係があるのかな。『うたかたさん』は、何を望んでいるんだろ」)
 楽屋へ収納ケースを運び終えた美燈は、異彩の瞳を何処か寂しげに細めて物思いに耽った。

 常に閉じられた細い細い瞳――ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は、中規模の劇場内の人員や音響、大道具小道具まで、舞台にまつわる様々な要素を把握した。
 演者として舞台に立つのも満更ではない。歌も演技も得意な部類ではある――が、
「……この声だと、ねぇ」
 はぁ、と小さく毀れた溜息すらも嫣然としていて、裏方の作業が泊まってティオレンシアの方へと視線が注がれる。
 あら、いけない。とばかりに駆け出して、裏方の休憩所の方へとティオレンシアは駆け出す。
(「エキストラが減った中規模な劇場って言っても、役者やスタッフまで合わせたら相当な人数になるわよねぇ」)
 ――となると、此処はBar『黒曜宮』出張サービスといったところ? もちろんお酒はNGだけれど。
 と、ティオレンシアは手早く弁当を十数ほど作り出す。飲食店を経営する身であるからこそ、見た目も味にも手は抜かない。
 そうして包装し終えた弁当の束を運び、休憩中のスタッフの一人へと弁当を差し出した。
「本番前でお疲れでしょう? 腹ごしらえも必要でしたら、どうぞ」
「あ、ああ。ご丁寧にどうも……! 丁度あちこち走り回って休憩が取れてたところなんです!」
 美女からにこやかに渡された弁当に、スタッフはありがたく両手で受け取って割り箸をパキリっ。
「お食事中ごめんなさいねぇ、ちょっとお話聴かせてもらってもいいかしらぁ?」
「! 美味しい! このチキン南蛮だとか味付が美味で! え、お話ってなんでしょう!」
「そうねぇ――この劇場で広がってる、噂話だとかぁ?」
「噂……というと?」
 うーん、と白飯を頬張りながらスタッフは考えあぐねた。どれほど好印象を得られても、具体的な何かを示さなければ情報の取っ掛かりとしては些か厳しい。

 と、そのときだ――!!

「こーんにーちわー! あんさんぶる、一丁お持ちしました!!」
 まるで出前でも頼んだかのように、というか自分を売りに出してきたのは蒼焔・赫煌(ブレイズオブヒロイック・f00749)だ。
 ババン、と裏方からあらわれ、両手を腰にあてて胸を張る。豊かな“それ”を張るったら、張る。
「挨拶回りにきましたー! あ、お弁当? 美味しそー! ボクも食べていい?」
「あら、元気ねぇ。もっと元気与えちゃってもいいのかしらぁ……」
 まだまだ沢山あるしどうぞ、とティオレンシアが差し出せば、赫煌は嬉しそうに受け取って「いただきまーす!」と両手を合わせて頬張ってゆく。様々なおかずが詰まっているのは、まさに演者に支給される弁当――否、それよりも贅沢な!
「ごちそーさまでした! では元気よくいきましょー、よろしくおねがいしまーす!!」
 ――なんて、新人らしく頭を下げるも世を偲ぶ仮の姿。
 説明しよう! 蒼焔・赫煌は猟兵にして正義の味方!
 ゆえにこっそり、調査を開始するのです!
(「ちょ、ちょっと! 『可愛い』が抜けてる!」)
 あ、これまた失敬。

 ぐるり、赫煌は劇場内を見渡してみる。
 本番当日であるからか掃除も行き届き、舞台裏も慌しく裏方のスタッフ達が走り回っている。
 ならば、ひとつの行動に出てみよう。
「ね、ね、そのお弁当美味しかったよね! そういえば最近何か不思議な噂話とかないかな?
 前の人が辞めたことと、関わってそうな感じのがさ!」
 弁当を綺麗に平らげたばかりの恰幅の良い裏方へ、元気よく訊ねてみせる。
 けぷ、と息を吹いた裏方は、「うーん」と間延びした調子で話し始めた。
「そういえばぁ……みんながうわさしてる『隠し部屋』なんだなあ」
「『隠し部屋』? それって、辞めていった人が見ちゃったっていう?」
「お、おれは、知らないさ……知るのも。こわいさ。で、でも、『隠し部屋』を覗いたやつは、言ってたんだ――」

 ――「あんな台詞、どの台本にも書いてねぇぞ! あのババア、何を匿ってやがんだ!! あいつが『主役』だってのか!?」 

 その裏方は、話をする限り非常に気弱な性格のようだった。故に、“匿っていた存在について”誰にも打ち明けていなかったのだろう。
 そして、隠し部屋を覗いたというエキストラの末路は――最早、後には聞くまい。

「……知ってる? 正義の味方や神様はね、ご飯粒一つ残さず食べてくれた人を見捨てたりなんてしないよ」
 ね? と振り返れば、弁当の作り手であるティオレンシアがひらりと手を振る。
「そんなに美味しかった? ありがとねぇ。本番も、よろしくね」
「お、おれ……あんたたちをしんじても、いいのか? おれ、こわい。こわいけど――もう仲間がいなくなるの、いやなんだ……!!」
 大丈夫、と言わんばかりに赫煌とティオレンシアは頷いてみせた。
「心配しないで! 必ずこの不思議な事件を解決してみせるから!」
「お弁当、美味しく食べてくれてありがとうねぇ。この後はどうか任せて」
 そんな和やかな会話が弾む劇場内から離れた、廊下の道中。
 ばたん! と派手に尻餅をついたのは御桜・八重(桜巫女・f23090)だ。丈の短い巫女装束が、桜が舞い落ちるようにふわりと広がる。
「うわわ、ごめんなさーい! お怪我はありませんか?」
 と、ぶつかった掃除婦の老女へ手を差し伸べ、エプロンも汚れていませんか? などと心配そうにきょろきょろ。
「いやいや、アタシはだいじょうぶだよ。お嬢さんこそ平気かい?」
 ごめんねぇ、と皺を深めて柔和に笑ってみせる。
 そんな掃除婦に「ご心配なく!」と胸を張ってみせるも――内心、ごめんなさい。
 実はこうしてぶつかったのは、情報を聞く為のきっかけであり、わざとだったから。
 申し訳ない気持ちでいっぱいになりつつも、掃除婦はにこやかに八重と会話を交わす。
「こうしてゴミまで拾ってくれて……ありがとうねぇ。お嬢さんも、あの募集に?」
「うん、うたかたさんと舞台に立てるって言うんで、一も二もなくアンサンブルに応募したんだ!」
 大きなポリバケツにひとつひとつゴミを入れながら、小さな桜巫女は笑顔で頷く。
 そんな無邪気な姿に、そうかいと微笑ましげに掃除婦は微笑み返して。
「うたかたちゃんも、立派になったもんだねぇ。こんな劇場まで建てて、何処もかしこも桜だらけさ」
 と八重は掃除婦と一緒になって廊下を見渡す。
 桜のカーペット、桜をかたどった扉の取っ手――擦りガラスの模様すらも、桜でいっぱい。
 ぱちり、ぱちり、と青い瞳を瞬かせて。八重はそっとひとつ訊ねる。
「ねえ、おばさん。もしかして、この劇場って――」
「お嬢ちゃん、いけないよ」
 先程まで優しげだった掃除婦の声がぴしゃりと厳かになった。
「興味本位でうたかたちゃんを探っていった若い子が、みんなみんな壊れて、劇場から離れていっちゃったんだ。――おばさんは暫く、うたかたちゃんとは逢ってないけれどねえ。『秘密の部屋』とやらに篭りきりなんだろうさ」

 ――でも、壊れないで居て欲しいんだよ。手遅れかも、しれなくてもさ。

 悲痛な掃除婦の声に、八重の中で重なったのは行方知れずの親友の姿だった。
 幻朧桜の親友は、忽然と姿を消した。それでも、それでも――、
「わたしが――わたしが、探し出します! うたかたさんを、救ってみせます!」
 ぺこり、と深々と頭を下げて、幼き桜巫女は黒の髪を翻して楽屋へと走り去っていった。

 すれ違う桜巫女へ視線を向け、すぐさま常の虚ろの貌へと糺すはアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)。
(「何を思い、それを行うにせよ。歪んでしまったものに向ければ、嘗て目指したものすら歪んでしまうぞ」)
 ――嗚呼、その思いすらも歪んでしまっていたならば手遅れであろうけれども。
 アルトリウスが淡青の光を漂わせようとしたが……すぐに、止めた。
 ユーベルコード『界離』は戦闘対象にこそ有用であるが、現在の目的は調査であり探索。使い方を解しているアルトリウスであるからこそ、この力を抑制することも容易であった。
 で、あれば。直接、劇場関係者に訊ねる他あるまい。
「失礼。このパンフレットだが、何故主演が記されていないのだろう」
 通りがかったスタッフへと声をかけたなら、アルトリウスの長身にやや驚いた様子で見上げながら応対する。
「え、ええ。それはうたかた嬢曰く、『舞台当日のサプラヰズ』だと――」
「その主演が誰なのかは、知らないのか?」
「それは勿論。我々スタッフですら知らされておりません。今日の為の、うたかた嬢の『とっておき』らしいですから」
 とだけ口軽く話して、スタッフは後を去ろうとした、そのときだった。

「……士道兄さんはどうしているでしょうか……? 礼儀正しい人ですから、心配はしていませんが……」
 別行動となった兄を少しばかり案じながらも、日向・史奈(ホワイトナイト・f21991)は両手をぎゅっと握って意気込んで楽屋前の廊下を通り過ぎようとする。
「――あっ。ご挨拶は、ええと……お疲れ様です。で、正しかったしょうか?」
 その際、すれ違ったスタッフへおそるおそる頭を下げる。
 史奈のその初々しさに思わずはにかみ訊ねた。
「ああ、お疲れ様です。新しく呼ばれたアンサンブルさんかな?」
「そうです。兄さんと共に裏方やアンサンブルとして呼ばれて参りました」
 と、話も弾んだ最中、「ところで……」と史奈はひとつ控えめに訊ねてみせた。
「この劇場に、何か奇妙なことはありませんか? 喩えば、七不思議のようなもの……だとか」
 劇場内に匿われている。それならば、不審な物音を聞いたスタッフも居るかもしれない。
 その問いかけに、スタッフは冷や汗を掻いて口ごもる。
「な、七不思議? 本番前に物騒なことを訊ねるね。第一、この劇場はうたかた嬢が直々に――」

「いいや! 直々に、携わったからこそ。怪しいんだ!」
 堂々と、廊下のど真ん中で仁王立ちして宣するのは――全長ほぼ3メートル級の丸っこいウサギだった!
 ふんすふんすっと鼻を動かし、スタッフはおろか史奈もポカン状態。
「ええと……あなたもアンサンブル希望の方で……?」
「アンサンブル? 違うな! オレは、森辺の、スタアだ!」

 ……………

「……だ、そうです!」 
「だ、そうですっじゃなくてぇ!?」
 ツッコんじゃうスタッフ。古株だしその辺の無茶振りも慣れっこのようだ。
「ここは、オレに、任せとけ!」
「任されました!」
「勝手に任されないでくれますかぁ!?!」
 意思疎通しあうファスナと史奈についていけず、スタッフも声を荒げる。ってゆーか初対面から七不思議を尋ねてくる不思議ちゃんはともかく、デッカいウサギを相手にすることなど人生で早々ないしどうすりゃいいのだ。
 とはいえ史奈にとって、兄から得られる情報を待つには好機であった。

 ずずい、ずずい。
 ウサギが迫る。
 スタッフはたじろぐ。しりもちをつく。
 森辺のテナーたるファスナは、相手の心を読み取る能力を備えている。
 というか、デッカいウサギに凄まれたらひとたまりもない。正直超こわい。
「近づいては、いけない、場所。裏方に、あるはずだな?」
「な、なんのことでしょ――」
 ぎろり。まっかなおめめが、ギラついた。
「―――お前、つまらない嘘をつくのだな。オレの、ユーベルコードがそう、言っているゾ」
「ひ、ひええええ! 言います! 言いますから!!」

「あ、先ほど士道兄さんの神人形が到着しました。このままご案内して下さると」
「そうか、なら、よかった!」
 神人形を追って、史奈とファスナはスタッフを置いて走り去ってゆく。
 此処でスタッフを置いていくのは、危険地帯である場所に一般人を連れて行かないという温情でもあるのだろう。
 二人の姿が見えなくなったとき、スタッフはぽつり呟いたという。


「…………おれ、しばらくぺっとしょっぷいけそうにないや」



「花塵・うたかた……あぁ、元主人がファンの大女優ではありませんか」
「お父様も、ごぞんじだったのですか?」
 母たる頁桜院・萌楼(子連れ女狼・f22614)へと、こてんと首を傾げて訊ねるは頁桜院・花墨(桜表紙の巾箱本・f22615)。
 愛し子へ微笑む母は、蒼い桜枝をゆらり揺らして頷いてみせた。
 その笑みは何処か哀愁をはらんではいれど――蘇る思い出は今も、色褪せることはなく。
 いつだったか、あの大女優が出演する舞台にもデヱトで連れて行ってもらえたことだって。
 舞台終わりに立ち寄ったカフェーで、あの人は語るの。「やはり真犯人は推理どおりだった」だなんて得意げに――。

「お母様、お母様?」
「……ああ、ごめんなさいね花墨。今回は、私達で解決しましょう」
 花墨が何度も呼んでくれたなら、女のかんばせは母の微笑へと還る。
 そんな萌楼の表情を案じてか、花墨はそれ以上なにも訊ねずに頷くばかりだった。
(「……お父様の分までかすみ、がんばりますね」)
 ――お父様のような、めいすいりを。

 楽屋の戸をノックして、親子共々立ち入り一緒になって礼をひとつ。
「お疲れ様です。此方が『帝都浪漫春疾風』の楽屋でお間違い御座いませんか?」
 萌楼のそのしとやかな振る舞いから、子連れのアンサンブル役であると周囲は判断したのだろう。
 そうであると促し、時間まで休憩していて欲しいと裏方のひとりから促される。
「ここが、がくや……やくしゃさんが、いっぱい、ですね」
「……ああ、そうそう。私の本来のお仕事は内緒ですよ、花墨?」
 と、淡い唇に人差し指を母に、花墨もまた真似っこ。
 大勢との会話が苦手な花墨に代わり、萌楼は楽屋で休憩する演者達へ愛想よく微笑みかけた。
「おや、君たちもアンサンブルとして来たのかい? まだ何人か訪れるようだよ」
 と、親切に声をかけたのは、學徒兵役の役者だ。
 履歴書には、人を射抜くような切れ長の目をした黒髪の青年と、金の長い髪を結わいた絵画の如き美貌の女性の写真がそれぞれ並んでいる。
「この人達もそうだけど、アンサンブル希望の人達は揃いも揃って美人揃いだよなあ……」
「――だが、アンサンブルなくして舞台は形作ることはできないだろう?」
 と、噂をすれば声をかけてきたのは、履歴書に届いていたうちの一人、マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)だ。
 おおっと!? と驚いた様子で椅子から転げ落ちかけた役者だったが、「すぐ監督や演出家を呼んでくるから!」と慌てて楽屋から走り去っていった。
 歌劇や演奏に長けたマレークの経歴を見て、新たな役どころとして掛け合おうとしようとするらしい。
 しかし、彼の目的は演者としての活躍ではない。
 マレークは共に舞台を彩る演者達へ恭しく頭を下げながら、楽屋内を見渡す――すると、楽屋の隅に腰掛け、台本と万年筆を手にする眼鏡の女性が居るではないか。
 地味な見目なようでいて、舞台衣装を身にまとう役者達が集うこの空間ではひと際、目を惹いた。
 マレークは彼女の元へと歩み寄り、丁寧な物腰で声をかける。
「お初にお目にかかります。あなたが、この舞台に携わる脚本家の方でしょうか」
「……ええ、わたしが舞台『帝都浪漫春疾風』の脚本家を担っております。名を憶えずとも、結構です」
 まるで感情を抑えるかのような低い声に、様子を見守っていた萌楼は「あらまあ」と調子を崩さずに目を瞬かせる。
 彼女の傍らの花墨は、どう話せば良いかわからず母の袖にきゅっと縋るばかりだ。
「私もこの子も、実は脚本家を目指しているのです。こんな晴れ舞台ですのに脚本家の名を役者に名乗らない――どうしてでしょう、不思議ですね。私なら自慢したくなる程ですのに」
「脚本家を目指す……? そ、それなら、早々に諦めた方が身の為ですよ。特にこの春塵・うたかたの舞台に関わるのなら」
 我が子の髪を撫でながら訊ねる萌楼とは打って変わり、脚本家の女はひどく皮肉げに告げた。楽屋内に一般の役者達が居ることも厭わずに、だ。
(「『春塵・うたかたの舞台』――であることに固執する? 妙だ。まるで脚本家としてのプライドもないように見える」)

 言い合いが始まる中、花墨は裏方用に準備された台本の見開きの頁を、見た。見てしまった。

 ――――それは、中盤のシーン。

 ――學徒兵の少女が、親友の死を目の当たりにする。
 その一文が赤字で線を引かれ、新たな地の文が刻まれていた。

 ――しかし決死の思いで、親友を庇う。
 少女は――女優、春塵・うたかたは、死ぬ。

「…………ぱんふれっとと、ちがいますよね」
 ぽつり、白紙に一滴の墨を滲ませたような静かに染み入る花墨の一言。
「やめて、言わないで。言わないで……!!」 
 脚本家は眼鏡を外して、悲痛な声を漏らして顔を覆う。
「――――いったい、どういうことだ。傀儡だと、いうのか。舞台を彩る役者も、創造する裏方も、全てが」
「私は……私は何も知らない! 今まで彼女の云う通りに脚本を書き換えて、この書き換えられた文章もさっき知ったんです。最初は悪戯だと思った。けれど、もしかしたらあの人、本当に今日死んでしまうんじゃないかって――」
 マレークの問いに、脚本家は涙ながらに訴える。
 まさか、と思い彼は次いで告げた。「この舞台は現実の出来事を模しているのでは」と。
 その言葉に、号泣する脚本家は頷くばかりだった。
 脚本家の丸い背を、萌楼はやさしく撫でる。何も言わず、ただ静かに。

 ――――春塵・うたかたは、この『帝都浪漫春疾風』を以って、死ぬ。
 人としての生を終え、この悲劇を目の当たりにした新生のヒロインたる影朧が女優として生きるのだ。
 年老いて、若さを失った、うたかたの夢の代わりに。

「……けれど、不明な点も数多いです。何故この脚本家の台本に、訂正を施したのか。そして、『どういう形で死ぬつもり』なのか」
「脚本としても、余りにも荒唐無稽だ。こればかりは篝……他の猟兵達の情報を持ち寄り、考察する必要があるだろう」
 そう冷静に答えるマレークの脳裏に過ぎるは、誰よりも美しく愛しい彼女姿。
 彼女は今頃、此度の事件の要たる大女優に接触している筈だ。

 ――愛する人の、死。

 それはこの場に集う猟兵三人ならば、想像するだけでも胸がはちきれそうなほどに心苦しいものだろう。
「……お母様、はるぢり様を、とめましょう。かすみも、その、えと……」
「ええ、二人で約束したものね。解決しましょう、と」

 ――――舞台裏にて活躍した猟兵達を以って、先ずは幕間をひとつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日向・士道

史奈(f21991)と共に
小生は春鹿・うたかたの元へ直接出向こう

失礼、裏方として参った。學徒兵の日向・士道という者
此度は劇の成功の為に力を尽くさせていただこう
困りごとがあったら何なりと
……七不思議之壱、【紙人形劇】
十体ほどをうたかたの目の前で踊らせよう

細かな雑用なら彼らが承ろう
色々と便利な者達でね――そう、特に失せ物を探す時などには重宝する。
ひらりと狭い隙間から、扉の向こうへどもどこへでも行けるもので

……うたかたを煽り、何かしら行動を起こさぬか、小さな紙人形を付けて監視させよう

紙人形をいくつか史奈に委ね、小生はあえて警戒されるように動く。
……しかし、だ
史奈が舞台に上がれば良い劇になるのでは?


切崎・舞姫

主演が分からないのでは…役者も怪しむ…よね
…喋らなくて良いエキストラなら……私にもできる、かな
この足だと…目立つ、かもだけど……
布でも巻いて、隠しておきましょ

この世界らしい…ロマンチックな物語
……まぁ、嫌いじゃ…ないよ

あまり聞き回るのは…目立ってしまうから…女優さんに、ひとつだけ聞こう、かな

…とても素敵な台本だけど、これは…フィクション?ノンフィクション?

それだけ…聞いて、舞台の準備に行くよ

生の舞台……ちょっと、だけ…ドキドキする…ね?


千桜・エリシャ

綺羅びやかな照明に華やかな役者たち
演じるはまやかしの物語――
ふふふ、舞台って夢があって素敵ね
でもこのお話は本当にまやかしなのかしら?
…なんて

では私は春塵さんに会いに行きましょうか
ごきげんよう
トップスタァにこうしてお会いできるなんて
まるで夢のようですわ
私、春塵さんの舞台が大好きで
役者を志すようになりましたの
なんて、事前に予習しておいた彼女の出演作のお話を交えながら
それとなく本題へ
此度の舞台のお話
もしかして実話だったりしません?
いえ、とても現実味のある筋書きでしたから
もしかして春塵さんの経験談だったりして…
この内容ですと
主演との演技合わせも密になっていきそうですわ
主演はどういった方なのかしらね…


照宮・篝
◎【神竜】まる(f09171)と

劇場、の…あんさん、ぶる
今まで触れたことが無かったが、とても楽しそうだ

私は、物作りには些かの自信があるから
小道具とか、大道具?の準備には、役立てると思う(アート)
補修作業とかも大丈夫、だと思うぞ
その一環で、主役の衣装や道具を一度確認しておこう

その上で、敢えてうたかたに尋ねたい
主役は、どんな人物が、どんな役を演じるのだろうと
あらましは聞いているとも
ただ…私は台詞も、主役の顔も知らない
この服が、どんな風に着られるのか
それを語るうたかたの顔が、知りたいのだ
動きが激しいなら、袖を合わせたりはできると思う

話を聞けたら礼を言って、まるに伝えるぞ
まるはいつでも格好良いぞ!


リル・ルリ
🐟櫻と人魚


とぷすたぁ、だって
すごいね、櫻
どこもかしこも桜色
この建物丸ごと、桜みたい

僕、桜がすきだから嬉しいな
舞台の、あんさぶる、になるよ
僕は歌うのが得意だからね
櫻はめいくさん?お化粧上手だもんね
とぷすたぁ、の舞台を彩れるなら光栄だ
……うん
僕のいた舞台はグランギニョル
良い思い出はないけれど
それでも舞台で歌うのは好きだった

まず
すたぁにご挨拶だよ
緊張するけどお土産に櫻宵のちょこを持っていく
匿う程の大切な人だろう
影朧については直接尋ねずに舞台に対する彼女の思いやこだわりを知りたいな
この舞台は多分
彼女自身の物語だと感じたから
歌で彩るのだから相応しい歌を歌いたい

影朧の事も話から想像出来るかもしれないよ


誘名・櫻宵
🌸櫻と人魚


あたし好みの綺麗な劇場ね
もしかしたら幻朧桜がつかわれてたりして
「呪華」の黒蝶舞わせ周囲の噂なんかも集めてみるわ

あたし?桜の精のメイクアップアーティスト!…向いてると思うの
リルは最高の歌姫様だもの
うふふ
好きなのね?舞台で歌うの

あたしのショコラをお土産にしてくれるなんて嬉しいわ
礼儀正しく笑顔で適度に褒めて
舞台を成功させるため誠心誠意頑張るわと伝えましょ
この舞台にかける想いと拘りやこの脚本にしたきっかけなんかも知りたいわ
怪しまれないようあくまで舞台成功の為に想いを込めできることをしたいから を強調して

影朧を舞台に出す気なら物語自体も関係あるものだと思うの
話す間の様子や仕草も観察しとくわ


嵯峨野・白秋

アタシを差し置いて面白いことやってんじゃないよ

アンサンブルとして参加しようかね
書いた小説が舞台になることはあったけど、自分が舞台に立つのは初めてさ
愉快なことになりそうだ
うん、何処も彼処も良い男に良い女の粒揃い
どれ、少し口説いてみるのも良いかも……冗談さ、半分くらい
口説きながら大女優様のことを知ってそうな連中に情報収集

尋ねるのは大女優様の苦労とか挫折とか…この業界ならではのことかな?

いや、アタシ本業は物書きだからさ
なんかそう言う話があったら今度ネタにしたいと思って
ついでに彼女の匿ってるモノを調べられたらいいねえ

適度に話しを盛り上げながらネタ帳にメモを取っていくよ

こりゃ、暫く退屈しなさそうだねえ



●第三幕
 ノックを一度、二度。
 相手からの一声を聞いたのち、日向・士道(パープルシェイド・f23322)は春塵・うたかたの楽屋へと赴いた。
 ――その長身も相まって、やや屈んで立ち入るのが少々億劫ではあったが。
「失礼、裏方として参った。學徒兵の日向・士道という者」
「ひな・しどう、ねえ。へえ、立派な身体してるわねぇ。身なりも今回の舞台にぴったりだわ」
 ソファに寝そべったまま、うたかたは士道の姿をじぃ、と吟味する。
 軍帽、軍服、そして外套。腰に携えた退魔刀――絵に描いたような、學徒兵。その姿が、うたかたにとって興味深いらしい。
「劇の成功の為、力を尽くさせていただこう。まずは此れをご覧頂きたい」
 と、士道が両の手を広げ――静かに、唱える。

 ――七不思議之壱、【紙人形劇】。

 大理石の床をくるりくるり、十体ほどの紙人形達が器用に踊ってみせる。
「おやおや、可愛らしいものだねぇ! ――この楽屋まで入って来れるということもあるし、學徒兵ってことはあんたもユーベルコヲド使い?」
「如何にも。細かな雑用なら、彼らが承ろう。色々と便利な者達でね――そう、特に失せ物を探す時などには重宝する」
「……へえ、失せ物探し、ね」
 うたかたが寝そべるソファのスプリングが、ぎしりと深く軋んだ。
「けれど生憎、探し物は頼らず見つけるタチなの。それよりあたしと踊らない? なぁんて」
 冗談よ、と嗤って、紙人形の一つを指先でつっついてうたかたは遊び始める。
 その隙に、士道は紙人形の幾つかを楽屋の扉の隙間から逃がしておく。
 向かう先は、妹たる史奈の元。この楽屋内から隠し部屋へと通じる通路が見つかれば、それも追って彼女へ伝える手筈も整える。
「それにしても――此度の劇は悲劇だと聞く。しかも學徒兵の少女同士のだ。珍しい題材だな」
「そう? うちが表現したいものを形にしてるだけよ。なあに、気になるの?」
 と、訊ねる大女優に、軍帽を目深に被ってふと思うは妹の姿。
(「……史奈が舞台に上がれば、良い劇になるのでは」)
 あんなに愛らしいから、だけではない。
 彼女は人を照らす日の光を目指す、まばゆい子だからこそ――。
 今頃、使役した紙人形も妹の元へと届いている筈だ。

 一方、ロビーへと赴いた櫻と人魚――リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)と誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は、劇場内を見渡す。
 もうじき舞台が開幕間近であるからか、彼等のその美貌に見惚れる一般人も数多い。
「ねえ、あの人たち女優さん?」
「ううん、男とか女とか関係ないよ……ただただ麗しいんですもの!」
 観劇の為にとおめかしした筈の女性陣が、櫻と人魚へ次々に黄色い声を投げかける。
 されどそんな声々も何処吹く風。リルは劇場内を見上げ、白の夢はらむヴェールをふわり翻す。
「すごいね、櫻。どこもかしこも桜色。この建物丸ごと、桜みたい――ほら、この絨毯だって」
「リルったら、そんなにはしゃいじゃって……でも、そう。あたし好みの綺麗な劇場ね。
 もしかしたら幻朧桜がつかわれてたりして」
 ひらり、櫻宵の細長い手が招くは呪華の黒蝶。それは影に溶け込み、静かに、音もなく関係者以外立ち入り禁止の区域へと舞ってゆく、
「さあ、リル。ご挨拶に参りましょうか。あなたはどうする?」
「僕? 舞台の、あんさぶる、になるよ。僕は歌うのが得意だからね」
 そう嬉しげに肯くリルの言葉に、櫻宵も微笑み返す。
「リルの歌なら、いっそう舞台も彩られることでしょうね。あたしは、桜の精のメイクアップアーティスト! ……向いてると思うの」
 ――リルは誰よりも何よりも、最高の歌姫様だもの。あたしも彩ってあげられるわ。
「……うん」
 嘗ての人魚はグランギニョル、見世物劇場の歌姫だった。けれど、今は違う。
 だって目の前に、僕の歌を、凡てを好いてくれる愛おしい人がいるから。

 新たに訪れたアンサンブル二人に、「あら」と大女優は目を向けた。
 御機嫌よう、と礼儀正しく挨拶を述べながら、櫻宵は古風にも膝を折り――差し出したのは華やかな小箱。
 蓋を開けば、そこにはまるで花束で彩られたかのような華々しいチョコレェトが。
 この見事な菓子には、大女優たるうたかたも嬉しげにため息を漏らす。
「これを、うちの舞台の成功の為にわざわざ?」
「ええ。誠心誠意、この子と一緒に頑張るわ。――そういえばこの劇場は桜が散りばめてあったけれど、あなたは桜がお好きなの?」
「桜といえばこの國、サクラミラージュを代表する花でしょう? やっぱり好きよ。どれだけ険しい雲行きであれど、気高く咲くのが桜でしょう」
「……さくら。気高いって、おもってるんだね。僕も桜は気高いって、そう思う」
 と、リルは櫻宵へ視線を寄せながらそう相槌を打った。
 すると丁度そこへ、新たなアンサンブルが――ふわり、桜の香りには二人にとって覚えがあった。
「ごきげんよう、トップスタアにお逢いできるなんて――あら、御二人もいらっしゃっただなんて」
 知り合いたる二人へも会釈するのは千桜・エリシャ(春宵・f02565)だ。
 繊細な美貌の存在をはべらせ、うたかたも「あらあら」と笑みを漏らしてみせる。
「今回のアンサンブルは、本当にどの子もステキだこと。ひとりひとりを焦点に宛てて舞台に仕立て上げたいくらい」
「でもこの舞台は、『春疾風』のものだから。僕ができることなら――なんだって、助けるよ」
 そう、リルはぽつりぽつりと、泡をこぼすような優しい声音で囁いた。
 大丈夫ね、と櫻宵はリルの肩を支えるようにして立ち上がり、色が違えど同じ桜の瞳で意思を伝え合う。
「これからお二人はゲネプロへ向かうそうですわ。わたくしとお二人も、旧知の間柄ですの」
「あら、そうなの」
 と、フォローへまわりながらエリシャはうたかたの向かいのソファへと腰掛けることができた。
 ぱきり、うたかたは精巧なちょこの花を食む。
 甘い味が口いっぱいに広がれど、大女優は険しい顔のまま。
「勿体無いわねぇ。あなたや、さっきの人魚みたいな子や、桜の精みたいな子も――たったひとりピンスポに立てば誰もが注目を浴びるほど綺麗なのに」
「まあ、お褒めの言葉ありがとうございます。春塵さんとお逢いできて、嬉しいですわ」
「……それは、どうして?」

「どうしてって――そうして“若い美人を見る目があるから”ですわ」

 エリシャが細めたその桜の双眸は、冷たい風に晒した花に似ていた。
 ただただ冷え切り、花見客もいない。達観したような、眼差し。

「私、春塵さんの舞台が大好きで役者を志すようになりましたの。憶えております? キネマに残された、桜の精と影朧の悲恋の物語――」
 事前にと予習していた筈が、つい見入ってしまった物語をエリシャは語る。
 桜の精は、影朧を転生させる能力を持つと云う。
 されど、あのキネマの結末では桜の精は恋した影朧を転生することはしなかった。
「転生してしまえば、その人はその人でなくなってしまいますもの。だから、殺めて、桜の樹の養分として食した――それが、あのキネマの結末でしたわよね」
 嬉々としてエリシャは語る。だって、共感したから。愛する人を手放さず、手中に収めるだけじゃなく、自分のものとするなんて。
 嗚呼、嗚呼、なんてステキな物語!
「あのキネマを観て、わたくしはふと思いましたの。『事実は小説より奇なり』――いえ、この場合ですとキネマより、が正しいかしら」
「……あなたは、いったい、」
 揺さぶられ、声を震わせるうたかたに対し、エリシャは涼しい顔で「ごきげんよう」と長い爪で彩られた手をひらりと振る。
「楽しみにしておりますわ。主演の方との演劇合わせも」
 そう言い残した鬼の娘は、桜の香りを残して楽屋を去ってゆく。
 訳が分からない、と苛立つようにうたかたはちょこを噛み砕く。哀しいくらいに、甘くて優しい味が広がった。
 震えすら治まらなくても、平静でいなくては。
 と、そのうち新たなアンサンブルが挨拶へやってきた。こんこん、と響くノックのあと、現れたのはまたも麗しい美貌を備えた娘――照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)だ。
 さきほどやってきた三人とはまた違う、人知を超えたような美貌であるのは篝自身が神であるからだろう。
「はじめ、まして。この劇場の小道具や衣装や、舞台装置をあらかた勉強していて、挨拶が遅れてしまった」
 申し訳ない、と深々と篝は頭を下げる。
 美しい女が、自分に向かって頭を下げる。

 ――――――。
 ――――。

「いいえ、勉強熱心なのね。ありがとう。挨拶以外で、うちに何か用事?」
「舞台の、あんさん、ぶる……というものが初めてで、主役について訊ねたくて伺ったんだ」
「……主役を? あなたは、演じる上で関わることもないのに?」
「私は台詞も、主役の顔も知らない。――用意されたこの服が、どんな風に着られるのか」
 と、篝は衣装を広げてみせた。うたかたは何も言わず、ただ、ただ、篝のその美貌にばかり目を向けた。
 ――――そして。
「あなたは立って、動いているだけで絵になるから。そうしていて頂戴」
「けれど、私は、」
「いいから!! もうすぐ本番よ」
 と、楽屋から締め出され、篝は目を瞬かせる。
 彼女は衣装を見ていなかった。自分の顔ばかりを、見ていた。
 ――若さに、美に、固執していた?
「……まる。彼女は美しくとも、ただ哀しい人だ」
 すぐに再会するであろう愛しい人の名を、呼ぶ。

 その様子を、楽屋の壁際から盗み聞いていたのは切崎・舞姫(妖機刀:舞姫・f21912)だ。
 口元を隠したその幼げな見目では、感情を悟るには両目しかない。
 されどその両目すらもツンと無機質で、服装はおろか心すらも拘束しているようだ。
(「こうして布を巻いていれば……バレない、かな」)
 と、念の為にと両脚に包帯を巻いた。訊ねられたなら「負傷した街娘役」だと答えれば、スタッフは疑うことなく寧ろ励ましてくれた。
 それほどまでに、役者とはアンサンブルであれど大変な役柄なのであろう。
 ――そうして、たどり着いたのが大女優たる春塵・うたかたの楽屋だ。
 あまり歩き回ってしまえば返ってこの格好は目立つ。ゆえに、ターゲットとなる対象の場へと舞姫は先に向かったのだ。
 新たに扉が開いたとき、舞姫はじぃ、とうたかたをみつめた。
 ドーランをはたいても尚、消えぬシミや皺。折角のメイクもノリが悪く、本番間近であるというのにただただヨレている。
 それでも、舞姫は瞳の色を変えずに訊ねる。
「ねえ」
「……なあに、もうすぐ本番よ。アンタも行きなさいな」
「……とても素敵な台本だけど、これは……フィクション? ノンフィクション?」
 娘の問いに、大女優のたる女は真っ赤な唇を歪めて告げた。

「さあ、これからノンフィンクションになれば――とんだナンセンスよねぇ」

 あんたも舞台裏に急ぎなさいよ、と舞姫へ言い捨てて、うたかたは舞台へと歩いていった。
(「……あんなに切羽詰った状態でも、私みたいな見ず知らずの存在を気遣うんだ」)
 それがどうであるかなど、知る由もないけれど。
 舞姫は包帯を巻いた脚で器用に歩き、舞台裏へと向かっていった――。

 ――――此れにて、再び幕間。

「嗚呼いやいや、アタシを差し置いて面白いことやってんじゃないよ」
 と、地の文を押し退けるようにあらわれたのは嵯峨野・白秋(享楽作家・f23033)。
 誰もが居なくなった楽屋傍の廊下で、女は独り語る。
「さぁて、書いた小説が舞台になることはあったけど、自分が舞台に立つのは初めてさ。愉快なことになりそう――だとは思えど、話を聞く限り不穏だね」
 くるり、愛用の筆を廻しながら舞台裏へと忍び込んでみる。
 あちらこちらも男女問わず美人揃い!
「どれ、少し口説いてみるのも良いかも……冗談さ、半分くらい」
 ならそのもう半分は? なんて訊ねたくなってみせるものの、ひと踏ん張り。
 奔放たる享楽作家はゆらりと袖を揺らし、自由に周囲を見渡していた。
「ねえ、ちょいと――おや、偶然。誰かと思えば春塵・うたかたご本人かい?」
「……なあに、マスコミ? なら次に機会があるときにして頂戴」
「まあひとつ訊ねさせておくれよ。いや、アタシ本業は物書き。どこかのデマカセでおまんまを食う奴等と一緒じゃないさ。“アンタそのものを偽って、泥を塗らない”ことは約束したげるよ」
 と、白秋が饒舌に引き止めれば、うたかたはキセルを再び手にしてふぅと煙を吹いてみせた。
「ねえ、大女優様。この地位を得るまでに苦労なんてものはあったのかい?」
「そうねえ……影朧の群れと戦った後は、大変だったかしらね。昔は學徒兵だったのよ」
「學徒兵! そりゃあご立派なことだねぇ」
 と、大袈裟な声で相槌打ちながらも筆を走らせる。
 白秋は彼女の目も、キセルの頻度も見逃さなかった。それがあらわになる感情に繋がるから。
「――それでも、挫折や苦労だってあったことだろう? 長年こうして続けてきたならさ」
「昔は、ね。チヤホヤされてきたわ。『若いから』『可愛いから』って。歳を重ねてもこうして劇場を建てられたのが不思議なくらい」
「それは苦労あってのことでしょう? ――何か、思うことでもあるのかい」
 ひとつ、筆を止めて試すように白秋が問えば。
 大女優は――否、ただの女は彼女の耳元で、囁いた。

「神様って残酷よね。『若さ』や『可愛さ』を女に与えるクセに、時が経てば奪い去っていく」



 ――ならもう、そんな人生なんて有意義に使える誰かに委ねてしまえばいい。


「……おやまあ、拗れてるねえ」
 呆れて肩すら竦めない。
 白秋はきらびやかな舞台へ向かう大女優の背をを見送った――。

 だがそれだけでは終わらない。
 猟兵は、影朧の居場所を突き止め、対処できればそれで仕事は終わる。
 しかし、あの女は、春塵・うたかたは、死ぬ。
 自分を観劇する為に席に座った、ファン達の目の前で命を絶つ――――。

「――『帝都浪漫春疾風』。吹き荒れるは文字通りの浪漫の風か、果たして涙を枯らす風か」

 些か稚拙か、などと白秋は愉快げに筆を廻してみせた。
 もうじき、猟兵達が集う。
 そうして、この舞台も終幕へと向かうだろう。

 ――その結末は、猟兵達に委ねられている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『舞台を止めないで』

POW   :    身体を張った立ち回りで、妨害を食い止める

SPD   :    素早く器用な立て直しで、妨害を無効化する

WIZ   :    あらかじめ妨害を予測し、対策を仕掛けておく

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【導入を執筆後、プレイング募集致します。今しばらくお待ち下さい。】
●弐
「春塵・うたかたの舞台で、彼女自身が死を選ぶ――? こんなもの遺書ではないか! 彼女は何処へ行った!?」
「それが、既に観客席で挨拶と共に舞台案内や注意を述べたそうです……」
「なんだと!? くっ、それでは急な予定変更もできないではないか!」
 楽屋に遅れて到着した監督が、裏方の一声に頭を抱える。
 この劇場の創始者であり且つ、舞台の華とも云えるスタァを引っ込めてしまえば、ファンから相当のクレームを買うことは間違いない。
 一人の命には換えられなくとも、一夜限りの舞台を予定変更ないし中止にすることは、携わるキャストやスタッフの経歴に傷がつきかねない。
 この日の為に、何ヶ月も、時間を掛けて創り上げてきた舞台劇。
 それを創始者とはいえ、ただ独りのエゴで崩されるわけにはいかない。

「――猟兵の、皆さん。お願いします。春塵・うたかたさんを、救ってくださいませんか?
 私の脚本は、いくらでも塗り替えてかまいません」
 脚本家の彼女が、自分の意思で猟兵達に向き直り、頭を下げた。
 何を言い出すんだ、とばかりにどよめく監督を始めとしたスタッフに対し、脚本家は声を震わせながらも続ける。
「わ、私は……自分の携わる舞台で、誰かが死ぬなんて厭です!
 自分でどうにもできないならプライドを一度棄ててでも、この舞台を、大切なキャストを護りたいんです。
 オリジナルの役柄も台詞も、お任せします。迷えば私自身がお手伝いもします。結末を変えてもかまいません。
 ただ――」

 舞台において大切な女優を、命を、救って下さると幸いです。

 脚本家はそう懇願し、ふたたび深々と頭を下げた。

「……仕方が無いな。おい、スタッフ全員を掻き集めろ! なぁに、少しばかりテヰストを変える程度だ!」
 監督が次々にスタッフへ声をかける。
 スタッフ達もまた、猟兵達に協力してくれるという。
 彼等はプロだ。舞台の演出やライト、BGMもアドリブで、相応しいものに変えていくことだろう。
 そうして、終結した大勢のスタッフを背に、監督は告げる。
「俺達がこれだけ動いてるんだ。いっそ主役を食っちまってもいい。うたかた嬢しか顔も知らねえからな――頼んだぜ」

 ――誰が、その名を呈しただろう。
 国民的トップスタアは、みなその名を識ると云う。

 ショー・マスト・ゴー・オン――一度開いた幕は、決して降りることはないと。


●帝都浪漫春疾風『特別パンフレット』

 ――此の度は、帝都浪漫春疾風の舞台にご出演頂き、誠にありがとうございます。
 以下は、猟兵の皆様がまとめたあらすじとなります。
(※此度のスタッフは脚本家たる私以外、猟兵の皆様が得た情報は識りません。
 尚、此のパンフレット、猟兵の皆様以外の閲覧を禁じており、スタッフにはまた別の台本を用意しております。)

★調査後の不明点
・春塵・うたかた嬢が作った隠し部屋の存在。
・その隠し部屋を知り、興味本位で覗いたエキストラはみな錯乱状態に陥った。

・春塵・うたかた嬢は、ときおり少女が好むような甘い香水を身に纏う。
・春塵・うたかた嬢は、肌の張りを失い、美に固執している様子であった。
・春塵・うたかた嬢は、學徒兵。

・帝都浪漫春疾風の舞台は、春塵・うたかた嬢の実話に基づいている。
・故に、春塵・うたかた嬢は、此度、舞台中に死ぬつもりである。

★調査後にも残っている主な謎
・隠し部屋の居場所
・死ぬつもりで居るとして、どういう形で死を選ぶのか
・匿っていたというオブリビオンが、どういった存在か

★猟兵の皆様への案内

【1】役者として参加
【2】裏方として調査
【3】その他

 の3択をご用意しております。
『プレイング冒頭』(合わせのお相手がいらっしゃればその次)にお書き添えください。
 役者・裏方の行動ともにハズレはなく、最後に至る重要な鍵が眠っております。
 もし【2】を選ばれる場合、「隠し部屋を探して調査する」のもアリかと思います。ご参考までに。

 そして【1】での花形たる役者につきましては、役柄、台詞、立ち回り、全てお任せします。
(『帝都浪漫春疾風』のあらすじは、OPが全てです。)
 彩るのは皆様ですし、もちろん此方へのアドリブや丸投げも大歓迎です。
 ただ、『役柄』はハッキリ決めてあると採用率が上がると思います。

 最後に、【3】はどちらにも当て嵌まらない奇抜なプレイをダメ元でしてみたい! という方に。
 ご自由になんでもやって頂いて大丈夫ですが、奇抜であるぶん採用率は落ちるかと思われます。
 でもどうしてもやっておきたい、何かしてやりたい! という面白いことがあれば是非!!


★プレイング募集日★
 11月29日0:00~

 以降は程々の人数になりましたら〆る予定です。完全フィーリングで申し訳御座いません。
 色々沢山書いてしまいましたが、ご自由に行動して頂けると幸いです。
【追記】

 このたびは当シナリオにご参加頂き、また素敵なプレイングを頂き、誠にありがとうございます。
 リプレイの納品が滞っており、大変申し訳御座いません。
 第二章が「舞台形式」という特性上、他の猟兵の皆様の行動の兼ね合いもあり、プレイングを頂いた順に納品できない状態となってしまいました。

最終受付は【12月10日の朝8時前】とさせて頂きます。

 お手数をお掛けすることになってしまい、大変申し訳ございません。
 もしお心変わりが無ければ、再送をご一考頂けますと幸いです。
日向・史奈
【1】
【WIZ】
…士道兄さん。しっかりやり遂げて見せますから、客席から見守っていて下さい…!

帝都を襲う影朧を演じましょう

美に執着していたというなら、美しくない死に方は選ばないのではないかと
美しい…体を傷つけない…毒で自死を図るとか、ですかね
そう思うと、うたかたさんが纏っていた甘い香りが気になります

主役を喰わんばかりの【演技】と、殺陣をするような派手な動きでうたかたさんに近づいたり、その折に観察してみましょう

…当人にとっての救いになるのかは分かりませんが…誰かの命を救えるというのなら、悪役になっても構いません

【役としての台詞等諸々お任せします】




アルトリウス・セレスタイト
演じるよりは探るべきか

影朧が潜み、隠すのは學徒兵
ユーベルコードなりを用いての隠蔽も場合によってはあり得ると視野に入れるべきか

人目を避け行動
界離で全知の原理の端末召喚。淡青色の光の、二重螺旋の針金細工
「戦う」相手はこの劇場
『天光』とあわせ、劇場の建物に存在する「隠蔽されたもの」を残らず暴き情報として得る

首尾よく特定できないなら『天光』を用い、自身の五感での実地調査に切り替え
劇場内を歩き、視覚聴覚に加え空気の動きも触覚で把握し特定を図る

発見したら同様に調査を行う皆に共有
余裕あれば影朧を確認
『刻真』で障害のない時間を通じ扉を開かず侵入
『無現』で自身の気配・痕跡を否定し気取られず様子を探る



●第四幕

 ――約束よ、きっと生きて帰るって。
 
 ――ええ、約束。だって私達は帝都を護る兵士の前に……。

 舞台の開幕前、録音したとされる二人の声が舞台に響く。
 一方は春塵・うたかた、そして、もう一方は主演たる誰も知らぬ少女の――。


 舞台が始まる前に、動き出した猟兵達も数多い。
 舞台裏、人目を避けて行動するアルトリウスはブザーが鳴ったと同時、ユーベルコードを発動する。
 ――しかし、戦っている対象を視認できない現状では、能力もまた干渉には至れない。
 二重螺旋の針金細工は、淡い光を弱く鈍らせ、そのまま宿主へと還っていった。
 されど、アルトリウスは顔色ひとつ変えず、新たな手段たるユーベルコードを解き放つ。
 五感を感じ取りながら、静かに、静かに、対象を見つけるべく歩み寄る。

(「……逃げた、か?」)

 主演といえど、未だ出番は後先であったらしい。
 アルトリウスはすぐさま感じ取った。主演たる“影朧”が逃走したことを。
 されど開いた先の個別楽屋は、もぬけの殻だ。

 楽屋内には、まるで人間性が感じられない。
 備えられたテーブルや、雑誌など、何もかもが動かされずそのまま。
 されど、アルトリウスは真っ先に転がった椅子を見つけた。楽屋の鏡の前に設置された筈のそれはごろりと横たわっている。本来ならば在り得ない。まるで、「何かに急いでいたかのよう」――アルトリウスは、そう感じた。
 ――故に、彼は確信する。ターゲットは『演者』として逃げたのだと。

 ――――一方の、舞台にて。

 既に幕は上がっていた。
 舞台の上に立つは、少女を演じる春塵・うたかた。
 みすぼらしい和服のまま、娘は呟く。
 うたかたは、舞台上で和服を脱ぎ捨てながら、軍服を身に纏い始めたのだ。誰もが注目する、舞台上で、だ。
 肌着だけのまま、新たに軍服を重ねるそのかんばせは、『戦場へと命を投げ打つ戦士』に他ならなかった。
「嗚呼、また戦いは続くのね。影朧兵器――なんて、なんて忌々しい」
 吐き捨てるように、うたかたは云う。
 彼女もまた、戦争の生存者――もとい被害者でも在ったのだ。
 軍服を纏い、軍帽を目深に被ったなら、舞台の正面へと向き直る。
 其処に立つのは、帝都の平和を願う、純粋なユーベルコヲド使いの少女であった。

「私は、戦う。この世界を――愛する友を救う為に」


「――果たして、そうでしょうか?」


 舞台上で、響いた声にうたかたは一瞬を目を瞬かせた。
 これもサプライズか何かか、プロ意識を保ちながら、軍服纏う少女は刃を構える。
(「……士道兄さん。しっかりやり遂げて見せますから、客席から見守っていて下さい……!」)
 史奈はその想いを抱きながら、舞台へと降り立った。
 その乱入を止める者はいない。スタッフは全て、猟兵が現れることを了承していたのだから。
「美しい姿の貴方、その甘い香りは我々影朧すらも惑わすようですね」
「……何を、云って、」
「――くす」
 小さく笑い、史奈は眼鏡越しの瞳をまっすぐに向けて告げる。
「そうして口ごもるのは三流芝居というものですよ。
 ――ところで、こうして悠長に話しているようですけれど、」

 ――――私が何者か、気づいておられます?
 じぃ、と近づいて、まあるい金の瞳でうたかたを見つめる史奈。
 不気味であり、ただただ、畏怖を隠し切れない。
 そんな様子を『●REC』で撮影する兄がいることを、妹はすぐに察知した。
 嗚呼、視ている――兄は、客席から見守っているのだと、史奈は安堵を覚えた。
「あなたの他に潜むヒロイン――一体、どなたです? どうして、隠し続けるのでしょう」
 ――口ぶりがまるで悪役のようだとしても、構わない。
 史奈は決意した。人の生命を救う為なら、己が悪役になっても構わないと。

 ――舞台へ二人がはける前、史奈は新たに舞台へ向かう猟兵達へ囁いた。

(「美に執着する――身体を傷つけたくない。でしたら、死因のひとつは――、」)

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


【お知らせ】
 長らくお留守にしてしまい、誠に申し訳御座いません。
 これより活動を再開し、12月22日までにはプレイング募集を〆させて頂く予定です。
 お気持ち変わりなければ、再送の程よろしくお願い申し上げます。
マレーク・グランシャール

【神竜】篝(f20484)と

●設定
少女たち學徒兵を束ねる上官役
鬼の上官として日頃厳しく接しているが、正義感、使命感に駆られて無茶しがちな彼女らを案じている

●脚本
「帝都に徒なす影朧を討伐せよ」と号令するものの、「必ず生きて帰れ。それも任務のうちだ」と言って送り出す
親友を庇い少女が死にかけたとき、歌いながら颯爽とコヲトを翻し駆けつける

●意図
死にそうになったら止めに入る(ダッシュ、忍び足、庇う)
万が一に備え【竜聲嫋嫋】で一命を取り留めたい
歌詞は「死んではいけない。死ねば影朧となり友と戦うことになる。だから生きるんだ」といった内容

●その他
舞台化粧は篝にやって貰う
鼠を見かけたらそこが影朧出現ポイント


照宮・篝
【神竜】まる(f09171)と 【2】

本番前に、まるの舞台化粧の手伝いを
舞台上の男前を見られないのは残念だが
女神のお守り、だ(キスして)

うたかたには、ああ言われたから、舞台の賑やかしにいた方がいいかとも思ったが…
神とは本来、見えない場所で見守るものだ
私は裏方から、隠し部屋を探そう

【楽園の土】で作れるだけ小さなネズミを作って(アート)、
【ゴッド・クリエイション】で知性を与える
花道を含めた舞台下や、劇場の天井裏にネズミを放つぞ
ネズミ達が何か見つけたり、先に住み着いたネズミから何か聞き出したりしたら、こちらへ教えるようにしておく
隠し部屋を見たひとが、発狂してしまうのは…影朧の能力、なのだろうか


南雲・海莉
【1】

役が死んでも役者は舞台の上で死なせない
この舞台に掛ける皆さんの想いの分も護衛、承るわ

役は『影隴』
顔を隠しつつ、必要ならUCで衣装を変えて何役でも

舞台上での影隴の攻撃もあり得る
通常の舞台効果ではありえないエフェクト――UCの気配に注意
いざという時は流れ弾で被弾した振りをして庇って倒れ、役を変更

「時は止まらない、例え死を選んでも」
「見た目は止まったままの過去も、留めたままに生きれば歪み続ける」
「時を動かすは生者のみの特権」

自分の人生をあげたところで
影隴にも本当の救いは無いのよ

「お前の生で贖おうと、あの日の過去は、心は戻らぬ」

「学徒兵、生きて命を巡らせよ
死に呑まれた者の分も」
だから死なないで





 ――出番前。
 人気のない舞台袖にて、向かう合うは美しき美貌を擁す二人。
 マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)の衣装たるネクタイをきゅっと締めて、照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)は満足げに彼を見上げる。
「――うん、完璧だ。舞台上の男前を見られないのは残念だが……」
「篝」
 彼女の名を呼ぶ。彼女の常の瞳に寂しさが滲んだのを、マレークはすぐに察した。
 篝は肩を竦めながらも、恋人にしか見せぬ柔らな微笑で見つめる。
「分かっている。戦場は違えど、互いに成すべきことを――」
 そうして、重なる二人の影。
 観客も、演者も、誰もしらない――――ふたりだけで分かち合う、女神のお守り。

 そうして、交差しあう二人。
 マレークは光り輝く舞台へ、篝は未知なる舞台裏へ。
 愛する彼女の背をふと振り返り、マレークは想う。
(「……篝。信じているぞ」)
 彼女ならば、真実を照らす“篝火”になるのだと。

 ――一方、舞台上にてスポットライトが照らし出すのは、荒廃したサクラミラージュの街。
「争いなんて、これ以上起こす訳にはいかない。私が止める……止めてみせる……!」
 帝都桜學府らしき軍服をまとう女――春塵・うたかたは、刀を構え、そう宣する。
 その見目は、少女という役柄にはやはり似つかわしくない、歳相応に衰えた美貌であった。
 されど、彼女は“娘”という役柄に徹し、初々しくも勇ましい輝きを舞台上に魅せる。敢えて粗のある立ち振る舞いも、不器用な感情の露出も、当時の娘に相応しいものだ。

「いいや、止まらない」

「――!?」
 突然、響いた声に目を瞬かせる。
 こんなこと、台本に聞いていない。誰か止める者は居ないか目配せしても、スタッフは誰も動こうとしない。
 それもその筈、彼等は既に帝都桜學府および猟兵の味方であるからだ。
 うたかたは内心困惑しながらも、刀を構える。

 かつり、かつり。
 舞台袖から現れたのは、黒き外套をまとう、見知らぬ乱入者。
 その顔すらもフードで隠され、表情は窺い知れない。されど言葉は続く。

「見た目は止まったままの過去も、留めたままに生きれば歪み続ける」
「ど、どういうこと……平和を、美しさを留めることがいけないというの!?」
 声を荒げながらも、うたかたは刀の切っ先を向ける。
 されど、乱入者は畏れなく続ける。かつり、かつりとうたかたへと近づく。
 恐怖など、もうない。嗚呼、まさか敵(オブリビオン)に扮して舞台に立つことになるだなんて――過去に縛られた自分には、ある意味相応しい役なのかもしれない。
 フードの中で、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)はふと唇の端を緩めた。自嘲を込めて、だ。
「――――時を動かすは、生者のみの特権。過去は見棄てられ、いつしか忘却される。そう、その前に」
「まさか、影朧――ッ!!」
 うたかたは危機感迫る顔で即興の台詞を紡ぐ。

 そんな時、敵襲を知らせるサイレンがけたたましく鳴り響いた。

 影朧を演じるアンサンブルの演者たちが反対側の幕から出現する。
 幽霊のような足取り、近寄れば捕食してしまいそうな危うい所作など、観客席の中でも固唾を呑む音が聞こえるほど――それらはサクラミラージュに蔓延る影朧に近しい役であった。
「!? これは……」
「何を呆けている! 帝都に徒なす影朧を討伐せよ!」
 そうしてうたかたの背後に堂々と立つは、上官たる役を担うマレークだ。
 勿論、うたかたは彼が此の場に立つなど聞いていない。しかし、その驚愕の表情が舞台をさらに彩らせた。
「――必ず生きて帰れ。それも任務のうちだ」
「……必ず、生きて」
 まっすぐに伝えられたマレークの言葉に、うたかたは復唱しながら視線を落とす。
 されどそれも一瞬のこと。すぐに前を向き、うたかたは刀を抜いて刃を構えた。
「ぁ、ああ、ああああああ!!」
 焦るような声を上げ、うたかたは刀を振るう。
 横薙ぎ一閃、しかし残党がマレークの元へ向かえば、
「! 上官!!」
 誰かも分からない役職でも、その場に応じてマレークの役の名を呼んだ。
 されど彼は涼しい顔で、外套をひらり翻す。
「國の為、愛するものの為、己の為――生きて、帰るのだ」
 言葉少な、されど歌にのせてマレークは告げる。
「それは、どうして」
「死ねば影朧となり、友と戦うことになる」
「……友と?」
 その問いに答えることはなく、マレークは踵を返した。
 彼の登場に、観客席からは拍手が響いた。彼の熱演の他に、美形や声、熱意が届いたのだろう。
 影朧演ずる海莉は、その持ち前の身体能力を活かして淀みなくうたかたの元へと襲い掛かる。
 襲撃を刀で受け止めながらも、海莉は冷え切った瞳で彼女を見据えながら呪いのように言葉を紡いだ。
「お前の生で贖おうと、あの日の過去は、心は戻らぬ」
 ――――そう、私が、そうだったように。

「……っ、…………それでも、あの子がこれから救われるなら、」
「――それは、果たしてそうなのか? 救われたいのは、“自分自身”だと何故認めない?」
「違う……違う、違う違う違う、違う!!」
 刀を更に振り被り、海莉めがけてうたかたは肉薄する。
 一般人でありながらも元學徒兵であるうたかたと、現役の猟兵たる海莉――二人を主軸とした殺陣は非常に美しい身のこなしで、観客達を虜にし続けた。

「――マレーク」
 成功したのだな、と安堵した篝は舞台裏からでも響く歓声を耳にする。
 トップスタアからの褒め言葉も光栄ではあれど、篝は敢えて裏方を選んだ。
 それに、愛するマレークの美や演技を賞賛する声には、なんだかちょっぴり鼻が高い。
「……ふふん」
 と、得意げに笑う間に、篝は春塵・うたかたの楽屋へと辿り着いた。
 急いで出たからか、鍵は開いていない。侵入も容易だ。
 そのまま扉を開く。勿論、舞台にて出演している彼女は居らず、もぬけの殻だ。

「――さあ、少し遊んでみてくれ。危なくなれば私の元へ戻って伝えるんだぞ」
 そう、母のように優しく語りかけながら、篝は召喚したネズミ達を方々へと解き放つ。
 さらなるユーベルコードで知識を与えたネズミ達ならば、演者たるマレークにも危機や情報を伝えることができる。
 それを信じて、ネズミが真っ先に「チュウ!」と声を上げたのは――、

「やはり、桜コスメか」

 桜コスメ。
 サクラミラージュで販売されている、幻朧桜にまつわる成分で造られた化粧品。
 それも、ネズミが見つけたのは『香水』だ。甘い、甘い、若い世代の娘が好む香り。
「やはり、この個室にも在ったのか。しかし、隠し部屋を見たひとが発狂するのは……いったい?」

 ――影朧の能力、なのだろうか。
 今尚知らぬ影朧の存在に、篝は引っかかりを憶えた。
 されど、此処で止まる訳にはいかない。ふわり漂う香水の匂いを連れて、女神は舞台へと急いだ。

「どうして、どうして……あの子は出て来ないの……!?」
 殺陣をこなしながら、春塵・うたかたは小さく吐き捨てた。
 本来ならば、親友の危機を前に影朧を蹴散らし、主役であることを示す役柄。
 それなのに、それなのにどうして――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

文珠寺・由紀乃
◎【2】

演劇って、大変なんだね。影朧の一件がなかったとしても、とても。
舞台を止めるなって、監督さんが言ってた。でも、そっちは、壇上のみんなに任せるよ。

ぼくは外堀を埋めておこう。家探しの類は、得意そうなひとがいたから……春塵さんの心理にアプローチするかな。

実体験を元にしつつ、死の前後を改変しようとしている……のは、間違いないよね。
わざわざ舞台を通して表現したがっているなら、多くの目撃者が必要な理由もあるはず。贖罪か、宣伝か、引き継ぎか……。

いずれにしても。この事件は舞台を軸にしたものだから……きっと、隠し部屋は、舞台にごく近い、理想的には直通の経路がある場所じゃないかな。奈落とか、舞台裏とか。


霧生・柊冬
◎【2】
うたかたさんが作ったという隠し部屋…皆さんがこうして舞台を整えて演じている間に、なんとしても探し当てないといけませんね
まずは先に調査した皆さんから話を伺って、【疑似不可思議解謎帳】を使ってメモ帳に情報をまとめていきましょう

うたかたさんは香水を嗜んでいた…桜コスメの香りを追えば隠し部屋の場所までは近づけるでしょうか
プラウスの嗅覚を頼りに怪しげな香りの元を探ってみましょう

この舞台は彼女の実話を元に動いている…つまり本来は彼女だけが、この舞台の本当の話を知っているともいえる
親友を庇って春塵・うたかたは死ぬ、この一文を決めるだろう何かがどこかに秘められているはずなんだ
なんとしても、見つけなきゃ




 表舞台から漏れ出る歓声や物音に、文珠寺・由紀乃(封緘文書・f23896)はふと振り返る。
(「演劇って、大変なんだね。影朧の一件がなかったとしても、とても」)
 胸中ではそう零しても尚、由紀乃は表情ひとつ変えず、静かに舞台裏の通路を歩む。
 彼女が探すのは消えた主演女優――名も知らぬ影朧の潜伏先たる『隠し部屋』だ。
「舞台は……順調に進んでいるようだね。ぼくは外堀を埋めておこう――おや」
 由紀乃が進んだ先には、手帳の頁にすらすらと情報を書き留めてゆく少年がひとり。
 少年、霧生・柊冬(frail・f04111)は由紀乃と目が合うと、相棒たる黒兎と梟と一緒に恭しく一礼する。
「あなたも、隠し部屋を?」
「そういった所かな。春塵さんの心理的な観点から探ろうと思ってね」
「なるほど――僕も丁度、情報を整理して考えていたところです」
 柊冬が文字を書き終えたなら、頁のあるひとつの情報に目が留まる。
 ――桜コスメ。
 老いを畏れた春塵・うたかたが好んで使っていたという、若者向けの香水。
「そうか、香水……桜コスメの香りを追えば隠し部屋の場所までは近づけるでしょうか」
 プラウス、と柊冬が呼べば、黒兎はくんくんと小さく鼻を鳴らし、通路を駆けていく。
 導いてくれるプラウスを追いかけながら、通路に掲げられた部屋札を見て柊冬は目を瞬かせる。
「! あっちは、舞台装置のある方向ですよ」
「舞台装置……そういえば、この劇場のカラクリは現代のサクラミラージュにしてはやや古いものだね。隠し部屋は舞台直通の通路――舞台裏か、もしくは」
 由紀乃の予感は的中した。

 ――この先は、“奈落”。
 舞台の床下スペースに直接通じる地下だ。

 黒兎のプラウスは鉄扉の前で止まり、警報を知らせるように後ろ足をタンタンっと鳴らす。
 柊冬は活躍した相棒の頭をそっと撫でる。意を決し、彼らは鉄扉を開いて地下へと向かった。
 非常に、非常に狭く、暗い空間だ。されど桜コスメの香水の匂いがほのかに香る。
 先程まで、“誰か”が――言わずもがなだが、春塵・うたかたが居たのだろう。
 しかし、二人はすぐに違和感に気づいた。
「――おかしいです。もう、誰もいないのでしょうか。まるでもぬけの殻というか」
 柊冬はあくまで冷静に、口を開いた。
 天井から、わずかながら舞台照明の光が漏れる。空間の隅に畳まれた布団、折りたたみ式のテーブルに椅子等。すべてうたかたが用意したのだろうか。
 周囲をゆるりと見渡す由紀乃は、床に落ちた一冊を拾い上げる。
「……『帝都浪漫春疾風』。影朧用のものかな。あまり読まれてはいないようだけれど」
 ほぼ新品同然の台本をぱらぱら、と捲る。内容は関係者に配られているものとそう代わりはない。
 ――最後のページに挟まれた、二人の少女が写る古びた写真を除いて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千束・桜花

早紗殿(f22938)と共に参りますよ!

【1】
これは……これはもしかして帝都桜學府所属の學徒兵である私の出番なのでは!
演技というものはできませんが、ありのままの私なら學徒兵として見えるでしょう!
ゆえに私は『戦友の學徒兵』の役として舞台に上がります!
演出は早紗殿におまかせします!

脚本は変わってしまうかもしれませんが……戦いに赴く際に助けに入りましょう!
「ふふ、一人で行こうとは水臭いですね」
「私たちが戦友ではなく、友として出会う未来のためならば、如何なる危険の中にでも飛び込んで見せましょうとも!」
「我が退魔刀に祓えぬ過去などありません!」


華都・早紗

桜花はん(f22716)と一緒に参加するで。
【2】
桜花はんに主役をやってとか言ってたけど
まさかもうその機会がやって来るなんてね~。
私も黒子役で参加や、演技する桜花はんや、皆をがっちりサポート
舞台上で何かが起こった時にもばっちり対応するで。
ん??私の演技?無理無理、出来て巻き込まれた町娘Cとかやろ。

桜花はんが何かセリフを言うたび、1枚、また1枚
少しずつ、桜の花びらを振らせよう。
はい、キメ台詞どーん!
ここで桜の花びら満開や!
私の能力はこの為にあった・・
やーん、舞台裏やなくて客席で見たかったわ。

もしうたかたはんが死の演出を強行する様なら
ユーベルコード桜の癒やしで
そのタイミングに合わせて寝てもらお。


頁桜院・花墨

【1】お母様(f22116)といっしょにぶたいへ上がります。
……かすみのやくがらは、「おさなき日のはるぢり様」。はるぢり様の心の声をえんじるお母様がゆさぶりをかけたのと入れかわりに現れて、問いかけましょう。

話しかける内容は、はるぢり様の様子を見て、てきぎ言葉をかえつつ、お友達とのお話を中心にたずねてみようかと思います。かすみの力……心に強くひびく言葉がわかるのは、こういう時ばかりは、便利でございますね。
「“わたし”が全てをあげようと思っているのは……あの子のためですか?それとも、わたし自身のため?」
ユーベルコヲドを、使用します。

さいごのしつもんは、お母様と一緒に。
「その想いは、誰のために?」


頁桜院・萌楼
【1】花墨(f22615)と共に舞台に上がります

私の役柄は「今のうたかたの心の声」。
うたかたの前に現れて問いかけ、うたかたの心を揺さぶります

「うたかた、私はあなたの心。その声です。
あなたは、まだ、友人のことを思っていますね
契りを、果たそうと。」

ここまで言うと、そっと花墨と入れ替わります
幼き日のうたかたの役を受け持った彼女に
うたかたが反論を行った場合に娘をさりげなくフォローします

そして、最後の質問は花墨に合わせて、一緒に
まるで、過去と現在が交織するように
「その命は誰のために?」


蒼焔・赫煌

【1】

ふんふんふんふん!
びびっとキちゃいました!
可愛い正義の味方の直感が!

ずばり!
うたかたさんは學徒兵の親友として死んじゃうつもりと見ました!
パンフレットにも乗ってる場面、死ぬつもりでもスタァの人がこっそりいつの間にか死んだりはしないはず!
一人で戦いに挑んで若かった頃の學徒兵として死ぬ! みたいな!

つーまーりー!
一人にさせない、ぴったりマーク!
ということで、後輩の學徒兵役に扮して突撃、とつげきー!

せんぱーい!
そんな泥臭いこと言わないで欲しいのであります!
可愛いボクだって地獄の底までお供しますよ! 鍋の底だってきっちり残さず食べちゃうのが自慢なんですよ、ボク!
いざとなれば、先輩の盾になる所存!


千桜・エリシャ

舞台は虚構だからこそ夢があるの
それは彼女自身が一番わかっている筈
取り返しがつかなくなる前に
彼女にはまだ舞台で輝いて欲しいですもの

では私は役者として参加しましょう
演技は得意ですのよ
彼女が死なない役回り

『未来の彼女の娘役』を演じましょう

この物語は娘が聴いた母の昔話
それを回想しているという筋書き
彼女が亡くなったら私は生まれない

「悲しい思い出ね…
けれど生きててくれて良かった
だってこうしてお母さんの娘になれたんだもの」

彼女の加齢を肯定するように
…舞台で死ねば
きっとあなたは伝説になる
それは役者としてではなく
スキャンダルとして…
それで本当にいいのかしら?
観客の心に存在を残すのが
本物のトップスタアでしょう?


御桜・八重
◎【1】

わたしの行方知れずの親友が、
もしも影朧になっていたら。
考えたくは無いけれど、
これはその可能性の一つなんだ。

わたしの役柄はうたかたさんと共に戦う少女學徒兵。
戦いの最中に離れ離れになった親友が、
影朧と化してわたしたちの前に立ちはだかります。

わたしは帝都を守る學徒兵。
あれが影朧ならば、討たねばならぬ。
でも。
あれがわたしの親友なら、
命に代えても守りたい。

誰か、誰か教えて。
アレは、わたしの親友なの?
あの子とわたしの絆は繋がっているの?

敵となった親友への葛藤を吐露し、
主役を指してうたかたさんに問いかけます。
人に仇なすアレは、本当にあなたの親友なの?

舞台でうたかたさんが襲われたら身を挺して庇います。




 そぉーっと舞台袖から顔を覗かせる娘がひとり。
 舞台上で展開される芝居に魅せられ、娘――千束・桜花(浪漫櫻の咲く頃に・f22716)は声を弾ませる。
「これは……これはもしかして帝都桜學府所属の學徒兵である私の出番なのでは!」
「せやねぇ。桜花はんに主役をやってとか言ってたけど、まさかもうその機会がやって来るなんてね~」
 これは活躍するには絶好の場やねぇ、なんて食えない笑みを見せるは華都・早紗(幻朧桜を見送る者・f22938)。
 私は黒子役で桜花はん等をサポートしましょか、とはんなり告げると、桜花は目をぱちぱち瞬かせ、
「早紗殿! 早紗殿はお芝居しないのですか!?」
「ん?? 私の演技? 無理無理、出来て巻き込まれた町娘Cとかやろ。ほらほら、出番やで桜花はん」
「わわーーーーーーーっ!!!!?!!」
 とんっと背中を押された拍子に、桜花は舞台上へ足を踏み入れた。
 大勢の観客達が、突如現れた學徒兵の存在に目を奪われる。
(「――まさか皆さん、私を見ている? でしたら、期待に応えて魅せるのが此度の學徒兵の役目!」)
 桜色の瞳を輝かせ、桜花は刀を抜く。呆然とするうたかたを庇うように傍らへと出でて。
「……ふふ、一人で行こうとは水臭いですね」
「えっ……あ、あなたは――そんな、こんな危険な戦いに来ないと思っていたのに」
 突然の乱入でも、アドリブを効かせて台詞を合わせるうたかた。
 彼女の台詞の補足も相まり、桜花とうたかたは同じ學徒兵同士であることが伺えた。
 桜花の活躍に合わせ、はらり、はらりと桜の花弁が舞台上に舞う。
 これらは黒子役として参加している、早紗が降らせているものだ。
「私たちが戦友ではなく、友として出会う未来のためならば、如何なる危険の中にでも飛び込んで見せましょうとも!」
 そうして踏み込み、モブたる役者を峰打ちで一閃。されど重い一撃だったらしく、倒れ伏した役者にはごめんなさい! と小さく謝る。命には別状はないだろう。
「さあ、ここで決め台詞やで、桜花はん! どーん!!」
「――我が退魔刀に、祓えぬ過去などありません!」
 振り返りざまに告げたその台詞に、観客席からの歓声が響き渡る。
 黒子たる早紗が桜の花弁を大いに降らしているのも、桜花が目立っている証拠であろう。
「私の能力はこの為にあった……やーん、舞台裏やなくて客席で見たかったわ!」
 早紗はぐっと手を握り、感極まってみせる。
 現に舞台上に立つ桜花はまさに主演を食うほどの存在感を魅せている。
 トップスタァたるうたかたすらも目を瞬かせ、息を呑むほどだ。
 されど、それだけでは終わらない。
 
「ふんふんふんふん! びびっとキちゃいました! 可愛い正義の味方の直感が!」
 舞台袖から新たにぴょーんっと登場したのは、蒼焔・赫煌(ブレイズオブヒロイック・f00749)。
 飛び跳ねるように現れた赫煌は、うたかたを庇うように位置取り告げる。
 このままではうたかたが舞台上で死ぬと確信した彼女は、ぴったりとガードするように彼女の傍へと駆け寄ったのだ。
「せんぱーい! そんな泥臭いこと言わないで欲しいのであります!」
「せん……ぱい……厭だわ、後輩たるあなたを早くにこんな戦に巻き込むだなんて。というか、泥臭いじゃなくて水臭いじゃなくって?」
「おや、そうでしたっけ! まあいいや、可愛いボクは地獄の底までお供しますよ! 鍋の底だってきっちり残さず食べちゃうのが自慢なんですよ、ボク!」
「…………」
 赫煌の勢いに気圧され、さすがのうたかたも絶句してしまう。
 しかしながら、舞台に突如あらわれた猟兵達は格段に殺陣も巧く、一般人相手の加減もこなしている。
 その見事なアクションに、拍手がたびたび起こっているのも無理はない。観客達は知らないであろうが、この舞台に立つ者達は注目されるほどの実力を持ったユーベルコヲド使いなのだから。
 ――されど、それを知らぬうたかたはぎり、と歯を軋ませた。
 このままでは、計画を遂行できない。
 本来ならこの場にて現れるはずだったあの子は、何処へ――?
 そんな焦燥感ばかりが、彼女を襲う。


 ――――そのときだ。


 突如、舞台は暗転する。
 息を合わせたかのように演者たちは舞台から姿を消し、取り残されたのはうたかた只ひとり。
「な……に……? なによ、なによ一体」
 思わず素の状態で、言葉を漏らす。
 新たにスポットが当たったのは、下手の奥。

「――誰?」
「あなたは――“わたし”」
 そう答えたのは、非常に小さな娘たる頁桜院・花墨(桜表紙の巾箱本・f22615)だ。
 困惑するうたかたに対し、幼いうたかたを演じる花墨は、ぽつりぽつりと平静な様子で訊ねる。
「“わたし”が全てをあげようと思っているのは……あの子のためですか? それとも、わたし自身のため?」
「いったい、何を言ってるの。私は――――ッ!!」
 はらり、はらり。
 桜の花弁――否、切り紙が次々と舞うようにうたかたの身体を襲う。
 衣装すらも気にせず、胴から腕、脚まで。鈍く走る痛みや流れ出す血に負けじと、うたかたは傷口を抑えることなく立ち続けた。
「“わたし”は、どうして身を滅ぼしてまでこの舞台に賭けているのですか?」
 花墨の言葉に、息を呑む。何にも反論する余地がないからだ。
 自分の思惑すらも、彼女等には既に察知されていたのか。故に、舞台でも異変が起こっていたのか――ここでようやく、うたかたはそれを察した。
 諦めたように肩を下ろし、ふふっと小さくうたかたは笑う。
「そうねぇ……この舞台でこそ、私は人生すらも幕を降ろすつもりだったのに。舞台上でフィナーレと共に死を迎えるだなんて、美しいと思わない?」
 ねえ、わたし。
 と、花墨へと訊ねる。一方の娘を演じる彼女は、何も反論せず、ただじっと“今の彼女”を見つめるばかり。

「――もう、苦しまなくて良いのですよ。うたかた」

 新たな声が降りかかる。戦争に似つかわしくない、暖かな女の声だ。

「うたかた、私はあなたの心。その声です。
 あなたは、まだ、友人のことを思っていますね。
 契りを、果たそうと」
 そう語りかけるのは、頁桜院・萌楼(子連れ女狼・f22614)。
 娘たる花墨と入れ替わり、彼女はスポットライトに照らされながらうたかたの心を揺さぶりかける。
 同時に、桜の切り紙の中に混ざり合う蒼い桜。神秘的な色のそれは、萌楼を象徴する花だ。
 まるで絵画のような彩りをもたらす舞台に、観客はしんと静まり返る。
「契り……契りですって? 知った風に言わないで!
 私は賭けていたの、終わりを探していたの! 老いる前に、醜くなる前に、美しい終焉を――」

「「本当に?」」

 重なり合う、親子の声。忌々しい声だった。
 くしゃ、と頭をかきむしる。萌楼は表情ひとつ変えず、彼女を見守りながら――――最後の問いを、告げる。

「その命は誰のために?」
「その想いは、誰のために?」

「命……想い……? 誰の為だなんて、決まっているわ。あの子の――あの子の為よ!!」

(「あら――もう、こんなに噺が進んでいるだなんて」)
 かつり、とブーツの音を鳴らし、舞台袖から覗くは桜色の瞳。
 千桜・エリシャ(春宵・f02565)は興味深そうにゆるりとその双眸を細め、同時に滲むのは、憂いだ。
 言葉を交わした際の、うたかたの何ともいえない嫉妬で煮えた貌が蘇る。
(「舞台は虚構だからこそ夢があるの。それは彼女自身が一番わかっている筈」)
 ――取り返しがつかなくなる前に。

 さらなる暗転。

 ふたたび困惑し、周囲を見回すうたかた。
 次は舞台の上手に、少女――エリシャが本を閉じ、佇んでいる。
 これらは全て、哀しい夢物語に過ぎない。
 娘が聴いた母の昔話。それを回想しているという、筋書き。
 彼女が亡くなったら、私は生まれないのだから。
「悲しい思い出ね……けれど、生きててくれて良かった。だって、こうしてお母さんの娘になれたんだもの」
 ねえ、お母さん。
 と、母へと訊ねるように、エリシャはうたかたへ声を投げかける。
 その台詞へ重ねるように響いたのは、“今”を演じる萌楼の声だった。
「そう、これがあなたの未来。もう一つの、可能性。これでよかったと、思える日をきっと迎えられるはず」
「そんな、そんなこと――そんなこと、ない!! 私の命は……あの子の――」

「「「本当に?」」」

 過去を演じる花墨が、今を演じる萌楼が、未来を生きる娘を演じるエリシャが、声を揃えて訊ねた。
 縋るべき過去、決別すべき今、捨てるはずの未来。
 人生における全ての声々が、うたかたを襲う。
「う……うぅ……あ、ぁ……」
 頭を抱え、うずくまるうたかた。そんな中、新たに響いたのは――、

「そんな……あの子と、彼女と戦えと言うの。彼女は、私の親友なのよ? ねえ、どうして――」
 遠く、遠く、か細く聞こえる声。
 それは學徒兵として共に戦う少女、御桜・八重(桜巫女・f23090)のものだ。
 舞台はいつのまにか、戦争の最中に戻っている。
 それも、そのはず。うたかたは猟兵達の催眠のユーベルコードで眠らされ、その間の僅かな暗転で舞台の様子を揃えたのだ。
 桜吹雪などの演出も相まり、観客達は今も退屈せず――寧ろ楽しそうに――舞台の行く末を見守っている。
「……、…………」
 そして当のうたかたは、刀を持つ手を八重に何も声を掛けられずに居た。
 親友を、討伐する。
 目の前で、失う。
 それは自分の想定していた舞台の筋書きと重なり、一気に背筋が凍ったのだ。
「わたしは帝都を守る學徒兵。
 あれが影朧ならば、討たねばならぬ。
 でも、あれがわたしの親友なら、命に代えても守りたい」
 されど、八重は訊ねる。追及する。
 あの日に掻き消えた親友が、もし敵として立ちはだかったなら――そんな焦燥感も込めて。
「ねえ、誰か。誰か教えて。アレは、わたしの親友なの?
 あの子とわたしの絆は繋がっているの? ねえ、あなたなら、分かる?」
 そう、必死にうたかたへと訊ねてみせる。
 揺らぐ瞳、荒い息、震えてうわずった声――演技であれど、これは八重のひとつの可能性だ。
 親友が命を喪い、過去の残滓たる影朧となった。その現実と、恐怖。
「――ッ!! この命は……私のじゃない。いつだって可愛いあの子が、戦うべきじゃないあの子が生き続ける筈だったのに――!!」

 ――だから、出逢えたときにこの舞台の筋書きを思いついたの。
 私の死と引き換えに、あの子が生きるのを。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟泡沫櫻
◎【1】

歌うならばはっぴぃえんどがいい
これはグランギニョルではないのだから
大切な人を喪って遺され生きる日々は辛かろう
僕なら耐えられない
けれど君は輝いたんだ
その輝きを曇らせてはいけない

僕は歌だ
歌唱と演技活かして歌うように演じよう―背を預け守り合い戦う恋人を
戦場駆ける歌を
愛しきを守る歌を
敵を滅する歌を響かせる
君が僕より先に散ったなら
凍てつく棺に閉じ込め水底で
永遠に愛でてやるから覚悟しろ

何がわかとうともそばに居る
巡り巡って君の隣に
ずっと一緒だ
貫く刃に彼は桜に変じ
再び手をとり影を破るんだ
絆握って愛を魅せる

僕もうたかたを死なせない
2人が救われる物語を創るんだ
花は散ってもまた咲く
いや
咲かせるんだ


誘名・櫻宵
🌸泡沫櫻

「1」

時を重ねても美しさは損なわれるものでは無いわ
刻まれる皺すらも美の証
白粉塗って紅をひく
前を向いて輝いて
それが女優でしょ
桜は散れどまた咲く
儚く脆く強い
だから美しい

舞い散る桜花
リルと演じるのは戦場舞う恋人同士
響く歌に背を任せ剣舞を舞う
互いを信じて敵を屠る
いつもの私達
リルが私より先に散ったら
血の一雫も残さず喰らい尽して私だけのものにするから覚悟して

分かつものは何も無い
共にある約束守るわ
ずっと一緒よ

貫く刃に桜に変じまた咲いて
愛の歌と共に影を破る

救われる物語を

死ぬなら己の戦場(舞台)でという気持ちはわかる
私はあなたを死なせない
逃がさない
女優なら己の舞台で
現の結末すら塗り替える演技がいいわ


ティオレンシア・シーディア

【2】

これだけ大仰に準備して、やることが「大掛かりな自殺」なんて。
スタァの考えることはよくわかんないわねぇ。

あたしは自殺の方法について調べてみようかしら。
本人の楽屋とか荷物とかを●扼殺で探してみるわねぇ。
本人はもう舞台の上だもの、邪魔する人はいないでしょぉ?
…家探しするみたいでちょっと気が引けないでもないけど…緊急避難、ってことで。

銃殺斬殺圧殺轢殺…一言で「死ぬ」と言っても色々あるけれど。
…毒、の気がするわねぇ。なんとなく。
銃なら流れ弾が。剣なら巻き添えが。圧死轢死は言うに及ばず、「舞台・縁者・観客を汚す」のよねぇ。
彼女が「スタァ」であるからこそ、そういう手は取らない…と、思いたいんだけど。



 戦いの最中、響き渡ったのは水面を揺るがすような澄んだ歌声だった。
 その歌声の持ち主は――、

「――君の勝利を歌おうか」

 月下美人の彩りまとう人魚たる、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)だ。
 触れたら最後、崩れてしまいそうなほど繊細な歌を響かせる。
 その歌声に応じるように、桜の花弁から生まれるように出でたのは誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)。
 響く歌声の心地よさに目を細めながらも、取り囲むように迫ってくる影朧役の面々を見渡して――リルに背中を預ける。
「信じれてるわよ、リル」
「櫻宵――」
 背から囁かれる愛しい声に、ふと目を伏す。
 ――僕には、大切な人がいる。されど、彼女ならどうだろう。

 大切な人を喪って、遺され生きる日々は辛かろう。
 僕なら耐えられない。
 けれど、君は輝きたいんだ。
 その輝きを、曇らせてはいけない。
 
 リル・ルリは見世物小屋(グランギニョル)の人魚だ。
 見世物として展示された見目でも、その美貌も、歌声も、本物であった。
「何がわかとうともそばに居る。巡り巡って君の隣に――ずっと一緒だ」
 刺々しい程に訴えかけるその歌声が、うたかたの心に突き刺さる。
 泡のようにぽつりぽつり、こだます歌は確かに櫻宵にも届いたことだろう。

「……リル」
 歌声の中の悲痛さをすぐさま感じ取ったのは、櫻宵がリルと最も身近な存在であるからであろう。
 桜の花弁を散らす中、リルを護るように屠桜を振るう。
 その紅い刀は峰打ちで役者達を屈服させた。
「屠る……のはまずいわね。そういう勢いで、リルを護ってみせるわ。
 約束をずっと抱いて、生き続けるのよ」

 するり、刀を振るって櫻宵は微笑んでみせた。
 舞台上に立ち尽くすトップスタア――春塵・うたかたへは、訝しげな視線を向けて。
「――ねえ、貴女」
 遠慮なく、櫻宵は彼女へと迫っていった。
 その麗しい見目や長い睫毛、誘うような瞳にドキリとするも、うたかたは櫻宵の問いを待ち構える。
「あら、どうされたのですか。今はこうして、戦いの最中なのですよ」
「ごめんあそばせ。ひとつ、貴女に伝えておきたいことがあったの」
 と、うたかたの耳元へ櫻宵は言葉を紡ぐ。
「あなた――重なり老けていく歳を畏れているようだけれど。
 時を重ねても、美しさは損なわれるものでは無いわ」
「!? そんな、知ったようなことを……」
 動揺するうたかたに、櫻宵は歌い続けるリルに視線を促してみせる。
「あの子――リルもね、色んな悲しみや苦しみを背負って歌い続けているのよ。
 あの子は見たとおり美しいけれど……綺麗だけじゃ、拭いきれないものだってあるの」
 それでも、彼女は必死に生き続けているのだと櫻宵は語る。
 その話にうたかたは無言のまま固まるしかなかった。
「刻まれる皺すらも美の証。白粉塗って紅をひく。前を向いて輝いて――それが女優でしょ」
 更に、改めて出でた人魚は――舞台女優にも引けに取らない姿で現れたのだ。
 櫻宵は愛しい彼をそう語らってみせる。
 当人たるリルは何処か気恥ずかしげに俯くが、そういった仕草もまた愛らしく、注目を更に浴びることとなる。
「桜は散れどまた咲く。
 儚く脆く強い。だから、美しいのよ」
「――僕がこうして舞台に立つのは、勿論理由がある。
 彼女を……うたかたを、死なせない為」
 リルは、毅然と告げた。
 花は散ってもまた咲く。いや、咲かせるんだ。
 ――希望をのせたその想いは、果たして彼に届くか、否か。

「そう、リル――あなたも望んでいたのね」
 彼の言葉を待ち望んでいたように、櫻宵もまた微笑んでみせる。
「――――さくら、さくら、花ざかり」
 歌うようなその声が木霊したと同時、舞台上に沸きあがる桜の花びら達。
 巻き上がる桜の花弁は、観客席からこの舞台を隠すように大量に舞い散ってゆく。
 真犯人たる影朧を炙り出すならば今が好機だ。

 女――またの名をティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は、柔和な笑みを崩さぬまま問いを投げかけた。
「これだけ大仰に準備して、やることが『大掛かりな自殺』なんて。
 スタァの考えることはよくわかんないわねぇ」
 それがトップスタァの自己顕示欲なのかしら、なんて笑ってみせた。
 舞台の仕組みを注視したティオレンシアは、主演女優の大方の死因パターンを予想し尽していた。
 喩えば、銃殺。喩えば、斬殺。喩えば、圧殺。喩えば、轢殺――。
 それほどまでのパターンを揃えど、最も有力なのは、
(「――毒、の気がするわねぇ。なんとなく」)
 彼女自身のスタァたるプライドを見れば、舞台を汚すことなく選ぶ死など相当に限られている。
 故に、毒を盛れば御伽噺の姫のようにドラマチックに死ぬことができるだろう、というティオレンシアなりの推理だ。

「私は――私は、もう、もうこの舞台にはいられない!」

 そう声を荒げたうたかたが取り出したのは、鮮やかな色をした小さな瓶だ。
 その瓶を飲もうとすれど――投げかけられた言葉達を思い出し、うたかたは瓶をその手から落とした。
 かしゃん、と響くガラスの破損音。
 まだ、終わらない、まだ、終われない。
 ティオレンシアを始めとした猟兵達はほっと安堵するも、それは、束の間。

 主演は、まだもう一人存在するのだ。

 ――――舞台上に、新たに突き刺さる刀がひとつ。
 桜の花を咲かせたそれを投げた張本人は、天井から飛降りた。

 彼女は、戦争を生き抜いたらしき學徒兵の姿を模したオブリビオンであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『阿傍學徒兵』

POW   :    サクラ散ル
【軍刀が転生を拒む意思が具現化した桜の魔性】に変形し、自身の【使命感と転生を拒む意思以外のすべて】を代償に、自身の【攻撃範囲と射程距離、高速再生能力】を強化する。
SPD   :    サクラ咲ク
【日々の訓練で鍛え抜かれた四式軍刀の斬撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【軍刀から伸びる桜の枝々による拘束と刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    サクラ舞ウ
【帝都桜學府式光線銃乙号の銃口】を向けた対象に、【目にも止まらぬ早撃ちから放つ高出力の霊力】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は煙草・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【導入を執筆後、プレイング募集致します。今しばらくお待ち下さい。】
●参

『…………』
 ――壇上に降り立った影朧の娘は、花冷えの夜のように凍えた瞳をしていた。
 厳かな兵服一式を身に纏い、凛と佇むその姿はまさしく學徒兵に違いない。
『……“こんな世界、おかしいよ。私は、あのときの平和の為に、戦う”』
 娘は、何処か気持ちの篭らない台詞を口ずさむ。子供が教科書を音読するような口調に等しいが、観客達はそれも演出なのではと見入っているようだ。
「おおっ、あれが今回の主役かあ!」
「随分と焦らされたし台詞も棒読みだけど、案外可愛らしいかも……?」
 ざわめく観客席から耳に届くのは、どれもこれも暢気な感想ばかり。
 春塵・うたかたの自害計画も、猟兵達の暗躍も、影朧の存在も――あまりにも全てが脚本の筋書きのように“できすぎていた”。故に誰も、この違和感に気づいていないのだ。

 そのとき、けたたましい警報音が劇場内にこだまする。

「! 警報の原因を調べますので、皆様は警備員の案内に従って避難を!!」
「まずは観客の皆様を優先で外へ!!」
 スタッフとして忍び込んでいた帝都桜學府の面々が声を上げる。
『…………』
 避難誘導のあいだ、影朧の娘はただじっと――嘗ての親友たる春塵・うたかたを見据えた。
 年を重ね、老いを畏れるうたかたと、過去の姿をかたどることで永遠の若さを得られる影朧の娘。
 猟兵達に庇われながらも、うたかたは、声を震わせながら訴えかけた。

「もう――もう、こんな争いも、苦しみも沢山。
 おわりにしましょう。お願い、どうか」

『…………“約束よ、きっと生きて帰るって”』
 影朧の娘からの言葉に、はっとうたかたは我に返る。
「その台詞……そう、そうよ。約束。だって私達は――」

『“私は、生きる。私は生きる。あなたを殺して、私がこの先を生きる――それが、あなたが望んだ約束だから”』

 桜の刀が、淡く輝く。刀からゆらりと蠢くは、名状しがたき桜の魔性。
 運悪くこの影朧を隠し部屋で発見したエキストラは、この魔性によって精神に異常をきたしたのだろう。
 影朧の娘は、壇上から刀を引き抜き肉薄する。
 ひらり、はらり、舞い散る花弁は涙にも似て。
 全ては、過去の後悔という残滓と、影朧として還った後に刻み込まれた“春塵・うたかた自害計画の為”に。

 この影朧は、真っ先に春塵・うたかたを狙うことだろう。
 この場には既に観客もスタッフも居ない。“何か不慮の事故”として死亡してしまっても問題はないだろう。

 ――――影朧であれど、親友を巻き込んだ後悔からか。
 春塵・うたかたは目を閉じた。
 親友の生を、想いを冒涜したが故に、死んでも仕方ないと受け容れていたのだ。

 このままでは、ただのバッドエンド。
 それを変えることができるかもしれない――そう、あなたが壇上に降り立つならば。

●帝都浪漫春疾風『アンコール』

 ――此の度は、帝都浪漫春疾風の舞台にご出演頂き、誠にありがとうございます。
 急遽、アンコールを行うこととなりました。宜しくお願いいたします。
 以下の情報は、全猟兵の共通認識として取り扱って頂けると幸いです。

・戦場について
 劇場内での戦闘となります。
 影朧が攻撃を仕掛ける時点で既に避難は完了しており、劇場内には猟兵&春塵・うたかたが居る状態です。
 劇場内に関しまして戦闘に支障はありません。

・影朧について
 春塵・うたかたの少女時代の親友。學徒兵です。
 大戦で離れ離れとなり戦死し、影朧として現れ、うたかたが経営する劇場の隠し部屋(奈落)に匿っていました。
 与えられていた台本やうたかたの影響で、“うたかたを殺すこと”を目的としています。

・春塵・うたかたについて
 猟兵の皆さんの説得で自害せずに生存。
 罪悪感からか、影朧による暴走を受け容れるつもりでいます。

 ※どなたかお一人様でも対策・説得が無ければ死にます。


★プレイング募集日★
 1月16日8:31~
千束・桜花

早紗殿(f22938)と共に参りますよ!

遂に姿を現しましたね、影朧!
貴女が悪だとは思いません!
けれど私の守るべきものを傷つけるというのなら、容赦はしません!

大道突貫・ピンキヰパレヱドでうたかた殿へと迫る影朧を弾き飛ばします!
早紗殿の援護があれば百人力です!
それにこの影朧は……できれば無理矢理斬りたくはありませんし

うたかた殿も、いつまで夢現の中にいるつもりですか!
貴女が友とした約束は、生きて帰ることではなかったのですか!
約束を破るのですか、今度は貴女が、この戦場で!
己の筋を通すのです、うたかた殿!
生きて、生きて、約束は守ったと!
その命の灯火が燃え尽きる時に、友に誇れるように!


華都・早紗

桜花はん(f22716)と一緒にフィナーレや。

今日の舞台は桜が多いねぇ。
あっち見てもこっち見ても桜が咲いてる。
こんなに桜が綺麗なんやから
こんな悲しー戦いとははよバイバイして、
楽しく花見でもしようや。

向こうさんの主役も出てきたし
そろそろ(肩コキコキ)
私も舞台の表に立ちましょかぁ。

なんてね、黒子ムーブは継続や。

ほな桜花はん!いきましょかぁ!
今日の日の物語を一筆書きましょ、幻朧桜曼荼羅!
桜の花びらを舞わせて敵を攻撃。
桜花はんの大道突貫・ピンキヰパレヱドに合わせて全力で援護するで。

さぁさぁそろそろ幕引きなんちゃう?
もう一度巡り合うチャンスにかけて
桜の精に任せてみいひん?
ゆっくりお休みよ。



「今日の舞台は桜が多いねぇ。あっち見てもこっち見ても桜が咲いてる」
 壇上に降り立った華都・早紗(幻朧桜を見送る者・f22938)は、ゆうるりと周囲を見渡しながらそう口ずさむ。
 されど――この場において最も立派に咲き誇っているのは、“彼女”以外にありえない。
 こつん、と鳴る厚底のブーツの音。かかとに結ぶリボンが可憐に揺れる。
 現代に生きる學徒兵、千束・桜花(浪漫櫻の咲く頃に・f22716)は壇上に根を張るように美しく立ちはだかっていた。
「遂に姿を現しましたね、影朧!」
 幻朧退魔刀『サクラブレェド』をひゅんと軽やかに振るい、帽子のつばを上げる。
 桜花は幻朧桜にも似た鮮やかな瞳で、じっと影朧を見据えた。
「貴女を悪だとは思いません。だって、この國を護った貴女は私の先輩ですから!
 けれど私の守るべきものを傷つけるというのなら、容赦はしません!」
 観客のいないホールに、桜花の口上が響く。
 はた、と顔を上げ、うたかたも早紗等の方へ視線を向けた。
 そんな静かな劇場内でも尚、早紗は桜花の背後にて唇を緩ませる。
(「ほうら、立派な桜、花盛りや。こんなに桜が綺麗なんやから。
 こんな悲しー戦いとははよバイバイして、楽しく花見でもしようや」)

 ――そうして、舞台は静かに幕開ける。

「お願い……お願い、助けて! この子は、もう私の声を聴き届けてくれない……」
「“この國は間違ってる。正さなくっちゃ。私達がまた元の生活に戻る為にも――”」
 春塵・うたかたが必死に声を上げるも、迫り来る影朧から返るのは無機質な台詞だけ。
 それと同時、影朧が構える軍刀がぎらりと桜色の光を帯びた。
 おそらくあれこそが刃に秘められた魔性であろう。
「ははあ、なるほどなぁ。なんらかの代償を差し出してあの刀を光らせとるんやね」
 ゆるり、興味深そうに片目を細め、早紗は影朧を見定めた。
 外見上の違いはさほど無い。代償として何を差し出しているのか――おそらく正気や記憶、知識などの内面的なものであろう。
「向こうさんの主役も出てきたし、そろそろ……」
「!! 早紗殿ももしや表舞台へ!」
 こきこき、と肩を鳴らしながら前へ歩み出る早紗に、桜花は目を輝かせるも――、
「私も舞台の表に――なんてね、黒子ムーブは継続や」
「ずこーっ! 期待してしまったではないですかっ!!」
 もうっ、と頬を桜餅のようにまるまる膨らまして、桜花はサクラブレェドを頭上に掲げる。
 サクラブレェドを中心に桜花が纏うは桜吹雪――それも、持ち主たる彼女の果敢な義勇心に応えた、色鮮やかな花弁たちだ。

「――千束・桜花、参ります! 大道突貫・ピンキヰパレヱド!!」

 桜を纏う刃による突進。それを受け止めるは、魔性を秘めた影朧の軍刀。
 花弁と火花が激しく舞い散る中、新たに混ざり合うは桜のオーラ。

「桜花はん、いきましょかぁ! 今日の日の物語を一筆書きましょ、幻朧桜曼荼羅!」

 舞台を彩るは、黒子を名乗り出る早紗の役目。
 書物を広げれば、次々と桜のオーラが舞い散る。
 それらは果たして蝶か、花弁か。無数の花嵐もまた夢うつつ。
 そう、夢うつつ――喩え、その花嵐の中で声が響いたとしても。

「うたかた殿……うたかた殿! 聴こえているでしょう!
 いつまで夢現の中にいるつもりですか!」
 そう、夢うつつ。
「貴女が友とした約束は、生きて帰ることではなかったのですか!
 約束を破るのですか、今度は貴女が、この戦場で!」
 全ては花と散る、夢の中。
「己の筋を通すのです、うたかた殿!」
 誰かが、見える。
 嵐の中、ゆっくりと近づいてくる人影が。
「――――っ!!」

 桜花はうたかたの肩を、強く掴んだ。
 うたかたを介抱する桜花は、幻朧桜の花弁に似た色の瞳をしていたと云う。
「うたかた殿、どうか生きて! 生きて、約束は守ったと!」
「約……束……?」
「そうです。その命の灯火が燃え尽きる時に、友に誇れるように!」
 桜花はそう告げた。呆気に取られ、うたかたの心は揺らぐ。
 されど此方を狙う花弁達を、刃で一つ一つ切り捨ててゆく。
 次々に切り伏せる彼女を見守り、裏方を名乗り出ていた早紗はようやく口を開いた。
「さぁさぁ――なぁ? そろそろ幕引きなんちゃう?」
「え……?」
「もう一度巡り合うチャンスにかけて、桜の精に任せてみいひん?」
 無双してゆく桜の乙女を尻目に、早紗は唇に指を宛がい微笑んでみせる。

「――ゆっくりお休みよ。向こうさんも、あんさんも」
 桜満開百花繚乱。
 華やぐ頁たちは次々と、學徒兵の懺悔気を包み込んでゆく――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア


さぁて、いよいよ主演さんのご登板ねぇ。
…ま、すぐに降板してもらうわけなんだけど。

この期に及んでスタァさん殺されたんじゃちょっと寝覚め悪いし。あたしは護衛に回ろうかしらねぇ。
攻撃の起こりを〇見切って〇クイックドロウからの〇先制攻撃で●的殺を差し込んで〇援護射撃するわぁ。

ねぇ、スタァさん。
あなたのお友達って、どんな子だったのかしらぁ?
身の上や殉職した状況なんかは調べればたぶん出てくるでしょうけれど、それはただの「情報」。「人物」を語り残せるのは、きっともうあなただけよぉ?
「人の死は二度ある。一度目は鼓動を止めた時。二度目は記憶から消えた時」…だっけ?
…あなたは、お友達を本当に「殺す」つもり?



「さぁて、いよいよ主演さんのご登板ねぇ」
 常に瞑られたティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の瞳が、ゆるりと細く開かれる。
 彼女が見据える先には、斬撃を受けてもなお桜の刃を構える影朧の少女。
 あくまでも役に徹する――否、“役そのものが自分”なのであろう。その佇まいが今日という日までに刷り込まれた役割なのだとティオレンシアは瞬時に察した。
(「……ま、すぐに降板してもらうわけなんだけど」)
 故に、彼女の対処は至って冷静だった。
 ティオレンシアは舞台端で震える春塵・うたかたの前へ出でる。
 対する影朧は、軍刀に絡む桜の枝を次々と伸ばしてゆく。舞台装置を貫き、照明を砕き、そして狙いはうたかたへ――。
「きゃっ……!」
 うたかたがうずくまった途端、瞬時に響き渡るは幾度もの銃声。
 ティオレンシアの愛銃が枝の根元を次々に狙撃したのだ。
「ねぇ、スタァさん」
 狙いはまっすぐ、敵へと向けたまま。ティオレンシアは静かな声音で背後の『スタァ』へ訊ねる。
「え……?」
「あなたのお友達って、どんな子だったのかしらぁ?
 身の上や殉職した状況なんかは調べればたぶん出てくるでしょうけれど――」
 ティオレンシアは問いを邪魔するように再び這い出る邪魔な枝を一つ、二つ穿ち。蠢く枝を足でぎりりと踏みつける。
「それはただの『情報』。『人物』を語り残せるのは、きっともうあなただけよぉ?」
「――! それは……」
 そうであると、うたかた自身も納得せざるを得なかった。
 情報だけが残されたとしても、年が重なるにつれ風化する。史実の偉人など然り。
 ティオレンシアは、最後に忍び寄る大きな枝を何度も、何度も、何度も。オブシディアンで撃ち貫く。

「『人の死は二度ある。一度目は鼓動を止めた時。二度目は記憶から消えた時』――だっけ。あなたも、そうしようとしていたみたいだけれど」

 ――ねえ。

 ゆるり、女は向き直る。
 一度目の死を望みかけた彼女へ。うっすら開いていたはずのその片目は、常のように穏やかに閉ざされていた。

「……あなたは、お友達を本当に「殺す」つもり?」

成功 🔵​🔵​🔴​

リル・ルリ
🐟櫻沫
アドリブ歓迎

哀しい歌だ
哀しい桜だ
思いあっていたのに、歪んでしまったなんて
「きっと、生きて帰る」それが願いのはずなのに

苦しみも哀しみも終わらせよう
うたかたは守るよ
君が死んで幕引きになんてさせないよ
そうしたら――本当に「終わり」になってしまうから

僕にできるのは歌うこと
鼓舞を込めた歌声響かせて愛しき櫻の背中をおすよ
歌唱の力はこのために
水泡のオーラ漂わせ、僕の櫻とうたかたを守る
泡沫、になんてさせないために
そう、重ねる哀しみも苦しみも《何も無かった》――歌う「薇の歌」を
そんな桜は咲いてなかったんだ

物語はいつだって
はっぴぃえんどがいい
桜の舞台は晴れやかに咲かせて
ここにグランギニョールは必要ないんだ


誘名・櫻宵
🌸 櫻沫
アドリブ歓迎

約束というものは一種の呪いのようなもの
呪いは絆にも希望にも成り得るもの
でも
あなたにとっては毒になってしまったようね

散るべき桜
これは影
死んだものが生きるものと入れ替わるなんてできないの

リルに柔く微笑みかけ
刀には破魔を咲かせ
人魚の歌を追い風に駆けて放つ衝撃波
そのままなぎ払い、生命力吸収の呪詛宿す斬撃重ねて斬り裂くわ
恨み?憎しみ?それとも、哀しい?
あなたの想い(愛)は美味しいかしら
桜吹雪は攻撃いなし散らすオーラの防御
踏み込んだなら「絶華」放ち
苦しみ結ぶ約束ごとあなたを斬る
あなたにうたかたは斬らせない
桜は散れどまた咲く
すれ違い歪んでもまた
幕引きには友愛の桜が咲くように
願っているの



「さぁて、いよいよ主演さんのご登板ねぇ」
 常に瞑られたティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の瞳が、ゆるりと細く開かれる。
 彼女が見据える先には、斬撃を受けてもなお桜の刃を構える影朧の少女。
 あくまでも役に徹する――否、“役そのものが自分”なのであろう。その佇まいが今日という日までに刷り込まれた役割なのだとティオレンシアは瞬時に察した。
(「……ま、すぐに降板してもらうわけなんだけど」)
 故に、彼女の対処は至って冷静だった。
 ティオレンシアは舞台端で震える春塵・うたかたの前へ出でる。
 対する影朧は、軍刀に絡む桜の枝を次々と伸ばしてゆく。舞台装置を貫き、照明を砕き、そして狙いはうたかたへ――。
「きゃっ……!」
 うたかたがうずくまった途端、瞬時に響き渡るは幾度もの銃声。
 ティオレンシアの愛銃が枝の根元を次々に狙撃したのだ。
「ねぇ、スタァさん」
 狙いはまっすぐ、敵へと向けたまま。ティオレンシアは静かな声音で背後の『スタァ』へ訊ねる。
「え……?」
「あなたのお友達って、どんな子だったのかしらぁ?
 身の上や殉職した状況なんかは調べればたぶん出てくるでしょうけれど――」
 ティオレンシアは問いを邪魔するように再び這い出る邪魔な枝を一つ、二つ穿ち。蠢く枝を足でぎりりと踏みつける。
「それはただの『情報』。『人物』を語り残せるのは、きっともうあなただけよぉ?」
「――! それは……」
 そうであると、うたかた自身も納得せざるを得なかった。
 情報だけが残されたとしても、年が重なるにつれ風化する。史実の偉人など然り。
 ティオレンシアは、最後に忍び寄る大きな枝を何度も、何度も、何度も。オブシディアンで撃ち貫く。

「『人の死は二度ある。一度目は鼓動を止めた時。二度目は記憶から消えた時』――だっけ。あなたも、そうしようとしていたみたいだけれど」

 ――ねえ。

 ゆるり、女は向き直る。
 一度目の死を望みかけた彼女へ。うっすら開いていたはずのその片目は、常のように穏やかに閉ざされていた。

「……あなたは、お友達を本当に「殺す」つもり?」


 その問いに、うたかたは「それは……」と言葉を濁して目を揺らがせるばかりだ。
 己の死を、ユーベルコヲド使い達に救われた。
 ならば、こうして影朧としてこの世にあらわれた亡き友は?
 自分だけがのうのうと生きて、良いのか。それとも死を選ぶべきか。
 ユーベルコヲド使い――猟兵達の救いの手により、少しずつであれどうたかたの心は揺れ動いている。
 されど、今もなお顕現する影朧の娘が、軍刀を閃かせ“約束”を斬り裂さかんとする。
「“戦いを、悲しみを、終えるため。この重い剣を振るうの”」
「――――嗚呼」
 小さく、あぶくのような溜息が毀れた。リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)は花瞼を伏せる。
 刷り込まれた口上は、嘗ての血塗られた哀しい歌だ。
 少女にとって重い刀は、平和を願ったはずの哀しい桜だ。
 それら全てが、骸の海に葬られ――今、大切な友を屠らんとしているなどと。
「『きっと、生きて帰る』――それが願いのはずなのに」
 ぎゅっと、祈るように手を組んだリルの手に重なったのは、艶めく桜龍――誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)の手。
 約束。
 それはまじないでもあり、のろいでもある。
 生きる糧、望み。独りでは喩え泡沫の幻のようでいても、固い契りがある限り何処までだって歩んでいける。
 絆にも、希望にも成り得るもの。
 されど――、
「あなたにとっては毒になってしまったようね」
 それは老いへの恐怖が、望みが、業に呑まれた欲へと還ったのだろう。
 影朧の獲物から舞い散る桜に、櫻宵は己の愛刀にも似た鋭いまなざしを向けた。
 愛しい人を守るべく、櫻宵はリルへ柔らな笑みを向けた。
「……!」
「私の好きな歌をお願いね、リル」
 そう短く伝えたと同時、前へと音もなく歩んでいく。
 対するリルもまた、何もできないうたかたを守るように傍へ。
 苦しみも、悲しみも、終わらせたい。それこそが願いであるからこそ。
「櫻――」
 すぅ、と静かな吐息は願いをその身に孕むようで。両手を組んで祈りながら、リルは歌う。
 しんと静かに、場内へ響く歌声はまるで水槽にこだます泡沫のよう。
 神秘に満ちたその歌に、うたかたは声を失ってただ聞き惚れるばかりだ。
「なんて静かな歌。なんて、やさしい歌」
 哀しみを旋律にのせて、慈愛となって奏でられる歌に櫻宵は桜の双眸を細めた。
 血の色に染まる太刀に咲くは禍々しき破魔の彩。
 キン、と刃同士が火花を立ててかち合った。鍔迫り合いだ。
「“どうして邪魔をするの。私は、この國を救う為に――”」
「國? そうね、私は護りたいたった一人の為にこの刃を振るうの。
 喪わない。喪わせなんてしない」
 ガキン。鈍い音が響く。破魔の力も相まって影朧が後ずされば、頸元に差し出されるは血桜の太刀。
「――そうして、台本通りにしか言葉を紡げないのでしょう。
 ならば、苦しみ結ぶ約束ごとあなたを斬る――あなたにうたかたは斬らせない」
 それは、宣告。
 儚くも美しき幕引きの為にと櫻宵は血の刃を振るった。
 彼が願うは友愛。幕引きに咲く桜が美しく在るようにと。

 ――嗚呼、けれど。

「……わた、し。わたしは――」

 肉を断ち切った音が感じない。寧ろ、ぷつり、ぷつりと血管が千切れる音が刃ごしに届く。
「私はあの子には、なれない。代わりなんて、なれない。でも――嗚呼!!」

 刀を振りほどき、血塗れた身体と掌のまま、影朧の娘は立ち上がった。
 未だこれは前哨戦。猟兵達の呼びかけで、ついに紡がれた言葉は本意であろう。
 されど、相手は骸の海に呑まれた存在に過ぎない。
 ゆらり、佇む影朧は血だらけの手で刀を握り締めて嘯いた。

「”あなたを殺して、私がこの先を生きる――それが、あなたが望んだ約束だから”」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


「――!」
 櫻。
 愛しい人の名をリルは喚ぶ。
 影朧の娘の言葉と同時、先ほどまで猟兵達へ這い寄っていた桜の枝達が次々に再生してゆく。
「どうして、こんなに、君は“嘗ての桜”に蝕まれるの」
 まるでそれは、真綿で首を絞めるようにもリルは見えた。
 既に猟兵たちが、あの場に居た現代に生きる観客達が――他でもない、改心しかけているうたかた本人が現状を望んでいないにも関わらず、彼女は無機質に戦い続けるのだ。
 それでも尚、リルは歌い続ける。『薇の歌』を。
 哀しい桜は、咲いていなかったのだと。
 その切なげな旋律にのせて、壱、弐、参。淑やかに、櫻宵は肉薄する。

 ――――はっぴぃえんど。

 きっと、あの子は望んでいるのだと。そう、血を吸った刃に想ひを染めながら。
文珠寺・由紀乃


大詰め、だね。
影朧の制圧は、得意なひとたちに任せよう。

一般のひとたちの避難が済んでいるなら……喚んで、いいかな。
〈封緘文書〉を媒介して、《大いなる闇》を実体化させる。
これを見ると、身体が石になって、意志(こころ)は折れる……猟兵や、オブリビオンならともかく。人間の春塵さんなら、抵抗は難しいはず。
どんな手段の自害にしても、石化しちゃったら、思い通りにはいかないよね。

影朧が、銃(……?)で攻撃してきても、《闇》が盾になると思う。だめそうなら、誰かにお願いするしかないかな?

ねぇ、春塵さん。
過去を見るのではなく。
いまを生きるひとたちの、光にはなれないかな。

だって、あなたはスタァなんだから。


御桜・八重

【POW】

うたかたさんを背に庇いながら、彼女に問いかけます。

影朧になってもあの人が戻って来たのは
きっとあなたと絆が繋がっていたから。
なのに、あなたはその絆を断とうとしている。
それは、あの人の望んだこと?

もう十分わかってるよね、違うって。
自分の身勝手だって。

うたかたさん、約束を果たすんでしょ?
生きて帰って、今度は戦友としてじゃなくて、友として逢うって。
出来るよ、いつか転生してくるあの人と。
今度は、きっと。

迫りくる刃を陽刀・桜花爛漫で受け、【花嵐】を発動。
変形した軍刀に八連撃を叩き込み、あの人を縛る魔性を断ち切る!
「うたかたさんっ、あの人の名前を呼んで! もう一度、絆を繋いで!」


頁桜院・萌楼

娘の花墨(f22615)と共に

影朧との戦闘は他の皆さんにお任せしましょう
あまり得意ではない戦闘より、もっと私たちにできることがあります
うたかたの説得
彼女を救いに来たのですから

友のために死を選ぶ、それは果たして友のためですか?
影朧である彼女の代わりに死を選んでも、彼女はいつか討ち果たされ、あなたの想いも届かぬままでしょう

なら、生きましょう
生きていれば、いつかまた彼女に会えます
必ず、影朧の彼女を転生させ、救う
そのために私たちがここにいるのですから

それに、うたかた
声援を聞きましたか?
貴女を求む声
貴女の人生の幕はまだ終わらない

旦那と私も、あなたの舞台が大好きでしたから
ショーマストゴーオン、でしょう?


頁桜院・花墨

お母様(f22614)とともにまいります。

はるぢり様、あなたが命をささげても、それはあの方にとっての救いではございません。
影朧を救うこと……それが、お母様と、かすみのねがいですので。

今日、あるいはきっといつか、彼女の転生がはたされるでしょう。
でも、ここであなたを殺してしまっては、それはきっと、転生しても消えない疵になってしまうのです。

ですから……生きてください。あなたの命は彼女のために、というのでしたら。彼女のために、生きてください。

(“書籍人間”によって、体からペヱジがこぼれ落ちる。そこには、拙くも真摯な筆致で、安らかに語らう二人の學徒兵の物語が描かれている)


嵯峨野・白秋

大女優様はとんでもないことをしてくれたようだ
アタシは好きだよ悲劇は…物語の中だけならばね
けど其れが現実というのは戴けない

悲劇の結末は新たな結末で塗り替えさせて貰うよ
幸い嘘八百を即興で物語るのは慣れているんだ
むしろそれが帝都を賑わす女流作家嵯峨野白秋の本分、ってね

万年筆を手に紡ぎ物語るのは新たな結末
喩えば“その未来、約束はふたり揃わねば意味がない”なんてね
UCで約束の桜吹雪を舞わせる

永らえるだけの命に恵まれて
態々若さの為に其れを棄てようとするうたかた嬢には色々思うことある
アタシが口を出すことじゃないのかもしれない
けど一言云わせていただこうか

彼女が生まれ変わるその日まで
アンタがこの先を生きるんだ



 桜の花弁と鮮血舞い散る舞台劇は、まるで彩を塗り重ねられた油絵のように鮮烈に映える。
 静かな瞳でその光景を見据え、文珠寺・由紀乃(封緘文書・f23896)はぽつり呟いた。
「大詰め、だね」
 今もなお刃がかち合い、桜の火花が壇上に散る。
 影朧と猟兵達の攻防戦に、由紀乃は手元の書物を開く。
 ――封緘文書。
 頁だけならば凡て白紙に過ぎない書物であるが、所有者たる由紀乃の知識に応じて禁書を再現すると云う。
 そうして彼女が実体化するのは――――Ghatanothoa、大いなる闇。
 浮かぶ、喚ぶ、巨大なる神の姿。
「――っ!!」
 その名状し難い存在に、うたかたは息を呑んで目を瞬かせるばかり。
 それは宛ら、蛇に睨まれた蛙に等しい。されどそれは一時的な能力で、うたかた自身への害はない。
「これは……どういう、こと……? 手が、足が、石に……」
「…………」
 手荒い真似であったかと、由紀乃は微かに険しい顔を浮かばせた。
 ユーベルコヲドでの足止めといえど、一般人たるうたかたに更なる動揺を重ねては自分の声を聞き届けてもらえるかどうか。
「おや、お困りのようだねぇ。こんなに聡明な娘さんをも手間取らせるなんて、困った大女優様だ」
 本当、とんでもないことをしてくれたよ。そう肩を竦めてからからと笑うは嵯峨野・白秋(享楽作家・f23033)。
 本来ならば舞台に踊り出るなど性に合わないのだが、今回ばかりは致し方あるまい。モガらしい洋装をひらり翻しては、由紀乃の封緘文書を興味深そうに眺めつつ。
「お嬢さん、お困りのようだねぇ。嗚呼、とはいえ安心しておくれ。あのご立派なボディガアドが護ってくれているからね」
 まじまじ本を見つめられ、由紀乃は本を閉じて大事そうに抱きかかえる。されど白秋の云う通り、《闇》は自分達の盾として機能していた。
 されどこの胡散臭い享楽作家への疑念は晴れず、娘はじぃ、と表情変えずに見つめ返すばかり。
「……彼女が話を聞いてくれる策はあるのかな?」
「よくぞ聞いてくれた! ふふまさに、アタシ達だからこその策があるのだよ。
 ――そう、“塗り替える”んだ」

 白紙の頁から、あの巨大な存在を喚んだようにね。

 白秋は愛用の万年筆を滑らせる。踊るように、跳ねるように。
「アタシは好きだよ悲劇は…物語の中だけならばね。けど其れが現実というのは戴けない。荒唐無稽で粗い結末なんて、塗り替えればいいのさ!」
 嗚呼、愉快であるからこそ物語、狂っていてもなお其れもまた人生!
 歪あればこそ美しいのだから!
 白秋の綴る物語は――あるたった一つの未来だ。
 それは由紀乃だけでない、猟兵達にも映ったことだろう。

 ――――それは戦争の無い現代で、二人が仲良く手と手を取って笑い合う。
 そんな、結末を。

「――あ、嗚呼」
 その未来を視た春塵・うたかたが、小さく溜息を漏らした。
 今にも泣きそうなその姿に、由紀乃は静かに訊ねる。
「ねぇ、春塵さん。過去を見るのではなく。いまを生きるひとたちの、光にはなれないかな」
「ひか、り……?」

「そうですよ、はるぢり様」
 新たに声を投げかけたのは、うたかたよりも非常に小柄な頁桜院・花墨(桜表紙の巾箱本・f22615)だ。
 彼女は怪奇人間――それも全身が物語そのもので在る“書物人間”だ。
 花霞の身体からはらり、はらりと、ペヱジが舞い散る。
 彼女はその小さい身体でも、うたかたを護るように前へ出でてゆく。
「今日、あるいはきっといつか、彼女の転生がはたされるでしょう。
 でも、ここであなたを殺してしまっては、それはきっと、転生しても消えない疵になってしまうのです」
「ええ、だからどうか――生きましょう。ね、花墨」
 愛しい娘を支えるように手を重ね、頁桜院・萌楼(子連れ女狼・f22614)は慈しむように微笑んだ。
 そして護るべき対象たるうたかたへも視線を向けて。
「友のために死を選ぶ、それは果たして友のためですか?」
「……! それは――、」
「影朧である彼女の代わりに死を選んでも、彼女はいつか討ち果たされ、あなたの想いも届かぬままでしょう」
 彼女ら頁桜院母子は、春塵・うたかたの親友たる影朧の転生を望んで戦っていた。
 それをうたかたは感じ取ったのだろう。死への望みが段々と薄れていき、声が弱まっていく。

 しかし、そのときだ。

「――! はるぢり様……!」
 桜の魔性に拠って力を更に得た影朧が、禍々しき軍刀を構えてうたかた目掛け肉薄してゆく。
 響いたのは花墨の決死の声であった。されど力を持たぬ一般人たる女優は逃げる術もない――。

「――いざ吹き荒れん、花嵐!」

 そのときだ。鮮血も、憂いさえも弾き飛ばす花嵐が吹き荒れたのは。

 巨大な花嵐を巻き起こしたのは、非常に小柄な齢12の巫女の娘だ。
 御桜・八重(桜巫女・f23090)は、陽刀・桜花爛漫に絡む花弁をひと振りで払い、背後のうたかたへと問いかける。
「影朧になってもあの人が戻って来たのは――きっとあなたと絆が繋がっていたから」
「絆、が……?」
「うん。なのに、あなたはその絆を断とうとしている。それは、あの人の望んだこと? 人を傷つけて戦う姿のあの人を、あなたは見たかったの?」
 きっとそうじゃなかったはずだと断言するように、八重は訊ね続ける。
 今も尚、こちらへと向かってくる影朧は傷だらけでも闘争心を喪わないまま。
「それは、それは……」
「もう十分わかってるよね、違うって。自分の身勝手だって」
 肩を落とし、俯くうたかたへ八重は歩み寄る。刀を納め、手を握り。
 でも、とひとつ声を続けた。
 彼女の瞳は、何処までも澄み渡るような青空に似た色をしていた。
「うたかたさん、約束を果たすんでしょ? あなたとあの人が結んだ約束を護りたいって、遺したいって人がこの舞台に集まってるんだよ」
 ほら、見て。
 手を広げた先には、今も尚戦い、そして此方へ微笑みかける猟兵達ばかりだ。
「うたかた、声援を聞きましたか?」
「声援……あのときの、舞台の?」
「そう、貴女を求む声。貴女の人生の幕はまだ終わらない。
 ねえ、ご存知? あなたがまだ若いときの舞台、旦那と一緒に観ていたのですよ?」
 え、と驚きの声がうたかたが漏れると同時。
「しょーますとごーおん、でしたよね。お母様」
「ふふ、そうね花墨」
 娘たる花墨が傍らへ、母から聞いた言葉を告げて微笑み合った。
 花墨の足元に毀れたペヱジを、うたかたは一枚拾い上げる。
 そこには文章として、自分とあの影朧の親友が安らかに語らうシーンが描かれていた。
 何気ない会話。美味しいお茶菓子。そして笑い合い、手を繋いで――。
「……っ」
 抱きしめた。この紙が皺になってしまわないように、大事に、それでも、強く。
「うたかたさん、約束を果たすんでしょ? 生きて帰って、今度は戦友としてじゃなくて、友として逢うって」
 八重がひざまずき、視線を合わせて微笑む。今にも泣きそうな彼女を見て、自分も思わず涙ぐみそうになっても。
「“約束――” “約束よ、きっと生きて帰るって”」
 しかし、影朧は台本どおりの台詞のままに斬撃を放つ。
「おっと、此処で邪魔をするのは演出としても野暮だ――そうだろう? 白紙の君?」
「それってぼくのこと? 少し癪だけれど……」
 白秋の言葉に、でもと由紀乃は一拍置いて。

「きみが舞い散らす桜吹雪は、綺麗だと思うよ」

 はら舞い散る、桜の花弁を拾い上げる白秋。
 もちろん、思うことはある。永らえるだけの命に恵まれながら、若いうちに棄てようなど。
 ――生きていて欲しいと存在が、居たからこそ。

 されど、今。口を開くとするならば。

「彼女が生まれ変わるその日まで、アンタがこの先を生きるんだ」
「だって、あなたはスタァなんだから」

 スポットライトは消えた。
 されど、壇上には立っている。
 彼女はトップスタアであり、生きて欲しいと願っている人がいる。
 それが、今もなお命を賭して戦う猟兵達であるからこそ。

 ――――春塵・うたかたは、

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧生・柊冬

うたかたさんは親友さんへの罪滅ぼしのためにこの舞台を…
でも、そんな悲しい結末をここの皆は望んでいないはず
たとえうたかたさんがこの場で死にたがっていたとしても…彼女がステージ上で演じる華やかな姿を、まだ観たがっている人はいるはずだから。

影朧の放つ攻撃に対して注意深く観察して、【探偵助手の嗜み】で援護射撃しましょう。
相手の攻撃のタイミングに合わせて、武器を持つ腕周りや肩を狙い打ちます。それで隙を作ってみましょう。

このまま自殺してこの舞台が終わるのならば、観客にとってはこの上なく心に残るバッドエンド
そんな終わり方は望んでいません
うたかたさんも影朧の親友さんも一緒に救う…それが僕達、猟兵なのですから



 ――嗚呼、暫しの逡巡の間にも、猟兵達はその身を賭して戦劇に身を投じる。
 狼狽し、手足も動かぬトップスタアへ暖かな言葉を、叱咤をかける者も数多く。
 或る者は前線に立ち、或る者はサポートを。そうして各々の猟兵達は桜の花弁を散らし、影朧を追い詰めてゆく。
 攻防の中、壇上彩るは桜と血の花道。
 そうして影朧はまた、その身が今にも崩れかけようとも戦い続ける。
(「これが、『帝都浪漫春疾風』の結末――? うたかたさんは親友さんへの罪滅ぼしのためにこの舞台を……」)
 果たして彼女はそれを望んでいたのか。地下から脱出し、舞台袖にて身を潜めていた霧生・柊冬(frail・f04111)はその幼げなかんばせを曇らせる。
 ――でも、そんな悲しい結末をここの皆は望んでいないはず。
 今も尚戦い続ける猟兵達の姿を見据え、少年は顔を上げる。
 舞台袖の、その向こう。舞台上の影朧は桜の刃を閃かせ、猟兵達をいなし前へ、前へ――。
「っ、やめて――!!」
 そう声を上げ、うたかたは立ち上がった。
 自分を狙って命を狩ろうとする、親友へ。
 誰もが駆けつけ、次々に過去を穿つユーベルコヲドを放つ。消耗していく學徒兵の身体。
 桜の刃は、今を生きるトップスタアの首を刎ねようと振り下ろされた。

「させません……こんな終わりなんて!」

 そんな柊冬の必死の叫びと共に、銃弾は放たれた。
 柊冬は探偵助手――本来であれば表舞台の花形ではない存在だ。おそらく彼自身も、そう自負することであろう。
 されど、援護射撃として担った筈の彼の一撃は確かに、影朧の心臓を穿ったのだ。
 寸でのところで止まる刃。からん、と鋼の得物が落とされる音。
 はた、と気づいて柊冬は立ち上がる。舞台袖から、表舞台へと。
 うたかたや、彼だけではない。この悲劇の舞台を止める為に立ち上がった猟兵達が、駆け寄ってゆく。
 横たわる影朧――學徒兵はぼんやりと、虚ろな瞳のまま首だけを傾けた。
「……ごめんなさい。あなたを利用して。私は、私は――」
 涙を流してたどたどしく打ち明けるうたかたへ、學徒兵は静かに微笑んで、そして、告げた。
「――――あたたかい、たたかいだった。想われて、いたのね。
 ねえ、猟兵のあなたたち。最期に、お願いがあるの」
 ふわり、舞い散る桜の花弁。
 血塗られても尚、過去の生と言の葉を遺して。
 或る巡り合わせで喚ばれた運命の舞台女優候補は幻朧桜へと還っていった。

●後日談

 ――――。

『特報! トップスタア・春塵うたかた所有の劇場で明かされた悲劇の過去!
 突如中止となった舞台劇のその真相とは!?』

 カタカタ。或る部屋にてワープロを打って柊冬は小さく肩を竦める。
「あの親友さんもうたかたさんも、新聞記事を広めて欲しいだなんてのを要望するなんて……お二人とも目立ちたがりだったのでしょうか」
 はは、と小さく苦笑してみせながら、姉との仕事の合間を縫って細々と記事を綴ってゆく。この記事はうたかたと提携している新聞社に譲られ、そのまま刷られるようだ。
 多少の事実はぼかしても、あらかたは要望通り、『うたかたが女優を勇退すること』『過去を吐露すること』そして『劇場のオーナーの仕事に専念する』などという、猟兵であるからこそ得られた情報ばかり。一般の新聞屋ならば喉から手が出るほど欲しい情報であろう。

 されど、この作業の中で或る吉報が舞い込む。
 幻朧桜が満開に咲く或る日、女の赤子が産まれたのだと云う。
 偶然であろうか、ただその赤子はいつも――窓辺から舞い込む桜の花弁で遊んでいたらしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月01日


挿絵イラスト