7
極楽景

#アックス&ウィザーズ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ


0




●えっ?
「皆さん、大変です。アックス&ウィザーズのある街に住まうお婆様が不運にも腰を痛めてしまいました!」

●つまりどういうことなのか
 刻乃・白帆(多重人格者のマジックナイト・f01783)がそう叫んで猟兵達に助けを求める。が、正直な話、一世界の一老婆の腰が悪くなったところで猟兵の介入が必要になるとは思えないが……。
「それが必要なのですよ。実はそのお婆様、酒場に寄せられる冒険者への他種多様な依頼を一人で管理し、絶妙な具合に斡旋していた凄腕の婆様なのです」
 そんな婆様が寝込んでしまった物だから、本来消化されるべき依頼が滞ってしまってさあ大変、という事らしい。
「それまでいくらぐうたらしてようが最終的には尻を蹴っ飛ばされて依頼へ送り出されていた地元の冒険者達はこの状況に大歓喜。ついに訪れた束の間の平穏をじっくりと噛みしめているようです。より具体的に言うと、彼らがいつもたむろしてる酒場の売り上げが倍以上に伸びました」
 その婆様魔王か何かだろうか。余程エネルギッシュな人物だったと見える。
「ピンチヒッターとして、お婆様の孫娘が代りに酒場を手伝っていますが……」
 美人で、清らかで、年若く。酒場の看板娘としては申し分ないが、海千山千の冒険者達を捌くには圧倒的に経験が不足している。依頼が滞っているのは彼女のせいと、そう責めるのも酷な話だろう。
「こまごまとした依頼はさておいて。とりわけ、周辺の安全確保の為、近々その街主導で大規模な魔物狩りを行う予定なのですが……現状志願者ゼロなんです」
 そう言う事情だから、婆様と娘の代わりに腕の立つ冒険者を集めて欲しいと白帆は言う。
 その街は海に面し、雄大な山々に近く、風光明媚な景勝のお陰で依頼や探検を抜きにしても逗留している冒険者は多くいる。幸い、街が用意した予算も潤沢。大勢人を募っても、報酬が枯渇することは無いと考えていい。
「街の大きさは中規模程度。武器屋なり、道具屋なり、ファンタジー世界の街、と聞いて連想する施設は大抵あるでしょう。但し、お城や賭場を除いて、です。酒場も複数軒ありますが、その街で依頼を斡旋しているのは先に話した婆様と娘さんが働く酒場だけですね」
 一目見て猟兵の眼鏡に適ったのならそれは腕の立つ冒険者だ。自分と相性の良さそうな冒険者を勧誘しても、ビジネスライクに手際よく志願者を集めても問題無い。泣き落としや色仕掛けを仕掛けてみるのも有効だ。
 猟兵を差し引いても、最低20数名以上の人手が欲しいところだと白帆は語る。
「志願者の数は多ければ多いほど良いです。何、手分けして探せば意外とすぐですよ」
 元々、魔物を倒して報酬を得るのが冒険者。数に任せて攻めてくる類の敵なら彼らでも渡り合えるし、頼りにして良い。ただ、想定以上に敵の数が多いとか、彼らの実力では如何ともし難い強敵に遭遇してしまう等、何かの弾みで不測の事態に陥る可能性はあるかもしれない。
「なので、あなた達も『凄腕の冒険者』として、魔物狩りに参加していただきたく」
 白帆がグリモアに触れ、景色が変わる。映し出されたのは、酒気と活気に満ち満ちた酒場の光景だ。
「発端は仕様も無いですが、ある人がいなくなればたちまち仕事回らなくなる、なんてどこの国、どこの世界でも普遍的に見かけるものです。人集めと魔物狩り……結構、忙しくなるかもしれませんよ」


長谷部兼光
 2作目の相手も竜になりました。

●目的
 冒険者を集め、
 集団戦を潜り抜け、
 強敵を打ち倒す。

●街
 海に面し雄大な山々の近くに位置する中規模程度の街。王城や賭場は無い。

●冒険者
 アクス&ウィザーズの世界設定に準じた種族×ジョブの冒険者が居ます。
 猟兵が目を付けた冒険者は漏れなく全員腕が立ちますが、猟兵ほど強くはありません。
89




第1章 冒険 『【急募!】腕の立つ冒険者!』

POW   :    我こそはと思うものは集え! 真正面から堂々と志願者を募る。

SPD   :    儲かるお話がありまして……。金払いの良さをアピールする。

WIZ   :    色仕掛けや泣き落としで訴えてみる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●鬼の居ぬ間に
「ぐはははぁ! 酒だ! 酒持ってこぉい!」
「あの、その……」
「肉じゃ! 肉が足らーん!」
「そろそろ依頼とか……受けられては?」
「おうおう、心配せんでも儂ら明日にはちゃんとやる。だから今日はほら、もう一杯!」
「昨日も一昨日もそんな調子だったじゃないですかぁ!」
「まぁそう言ってくれるなよお嬢ちゃん。うるさい婆さんがくたばっちまって、これは俺達なりの弔いよぉ!」
「あの婆さんを送るのに、湿っぽい雰囲気は似合わねぇ。嬢ちゃんだってそう思うだろ?」
「いや別に死んでないです生きてます」
「あれ? そうだっけ? まぁどっちでもいいや! とにかく酒だよ酒!」
「お肉もだ!」
「……はぁ」

 成程。地元の冒険者が、唯一依頼を扱っている酒場で無礼講の乱痴気騒ぎを連日繰り返すものだから、街の外から来た一見の冒険者も態々ここへ近寄る気にはならないし、依頼が全く消化されないのも道理と言うものだ。
 ふと、娘が猟兵を見る。事前に話はついているのだろう、人集めをお願いしますと小さく頭を下げた後、再び冒険者達に酒や料理を運ぶ。
 酒場内に居る冒険者はざっと30数名。人間もしくはドワーフの男性で、恐らく全員がバーバリアンだ。程ほどに酔っぱらっては居るが良識と聞き分けはあるらしく、娘に絡み酒以上の迷惑をかける様子は無い。

 ――ここで志願者を募ってもいいし、外に出て別の冒険者を探しても良い。全ては猟兵の行動次第だ。
多々羅・赤銅
よぉーーーし賭けだ、賭けをしようぜ野朗ども!!
手を叩き注目を集め、目ぼしい巨漢の前にドッカリ。腕相撲でどうだ?酒の注文も飛ばす。
「テメエが勝ったら願い事なんでも1つ聞いてやる。金、酒、身体でも良いぜ?私は気前がいいんだ。私が勝ったら、仕事ひとつ引き受けて貰う。悪い話じゃねえだろう?」
「てめえが気に入ったんだよ。付き合えよ。……おーおー乗り気な男は好きだぜ!さぁてそれじゃあ、」

赤銅鬼を相手にできた事、光栄に思うんだな。

「いやあいい腕してんなぁお前、ちょっと惚れそうだったぜ!さ、他に私と腕自慢したい奴ぁいねえか!我こそはと思う奴、みんなまとめて私の言う事聞かせてやらあ!」
笑顔で楽しく高らかに!!


襲祢・八咫
……ふむ。
なあ、おれはよく知らぬのだが、冒険者というのはただの無駄飯ぐらいの総称なのか?
なんだ、違うのか。
家族の怪我に心を痛めながら、慣れぬことをひとり必死に行っている若い娘御がおり、その娘御が大層困っておると言うのに、気持ちを汲んでやれる者もおらんのだろう。
依頼が滞り、周辺住民が困っておると言うのに、誰ひとりろくに動こうともしないのだろう。
これを無駄飯ぐらいと呼ばずに一体何と呼ぶ。
なあ、おれに教えてくれぬか。
だらけて冒険を忘れた者を、何と呼べは良いのか。

……きちんと娘御の顔を見るが良いよ。きみたちが何と思われているのか、よくわかる。
奮い立つでなく、おれを排除しようと言うなら、相手になろう。


千桜・エリシャ
WIZ
こういう手合はおだてて言うことを聞かせるのが有効ですわね

「まあ!あなた方があの名高い冒険者様たちですのね!
お噂はかねがね聞き及んでおりますわ
さすが、装備もご立派なものを用いておりますのね
素敵ですわ…
それにこの鍛え上げられた身体…少し触ってもよろしくて?」

と、急接近してボディタッチ
ここで胸を押し当てるもすぐに離れましょう
――こういうのはさり気なく、自然に、やり過ぎないことが大切ですわ

「この武器、この身体で繰り出される技はさぞかし素晴らしいものなのでしょうね…
私、この目で実際に拝見してみたいですわ!
私も冒険者の端くれですもの
お手本を見せてくださいまし?」

と、上目遣いでおねだりしましょう


三岐・未夜
るり遥、ジンガ同行

最下位はご飯奢りねー。

他人は苦手だけど、精集める時の要領で。慣れてるよ。
髪整えて顔出して、【催眠術】【誘惑】【おびき寄せ】で引っ掛けやすそうな女性冒険者に話し掛ける。
ちゃんと自分の見た目に合わせて喋るよ。僕は僕のまんまじゃ、奇異でしかないからね。

「稼ぐ為なのは当然だけど、困ってる人の願いを叶える仕事だろう」
「君たちの仕事は、すごいことだと思う」

自尊心を擽って褒めておだてて。【催眠術】【誘惑】で思考誘導。
「僕も今、困りごとがあるんだ。でも、君たちみたいな冒険者がいてくれるなら安心かな」と笑って。受けてくれたら「ありがとう、頼りにしてるよ」。
なるべく自尊心で自ら動いてくれるよう。


松本・るり遥
【ジンガ、未夜同行】

……一番冒険者捕まえて来た奴が勝ち。
最下位は今晩の飯を奢り。

よーいっ、ドン。

オルタナティブダブル。
荒くれ者の相手は優しくない俺に任せる!夕飯が掛かってるぞ!文句は言うが、勝負事は好きだろう俺が人を集めに向かった。多分大丈夫。

んで俺よりビビリなのが未夜。ちょっと様子見て来る!あっ上手くやってる……。なんかショックだ……。見ててドキドキするから戻ろ……。

回復出来そうな奴を探して声かけよう。戦うなら回復は大事だし、きっと俺でも話ができる。
俺と同じような、酒場に顔出せなくて困ってるけど、強くて、優しそうなーー
「戦う英雄の無事を祈る目をしてる。なあ、俺たちを救ってくれないか」

勝敗一任


ジンガ・ジンガ
※未夜ちゃん、るり遥ちゃん同行

★SPD
ヤダわ、負けられねェ戦いじゃんよ

街の話を【聞き耳】して【情報収集】
金で動く系のヤツらを嗅ぎ分け

ねェ、イイおハナシがあんだけど
報酬チラつかせ、必要なら数枚握らせて
街からのシゴトだからクリーンじゃんよ

あと、俺様ちゃん手癖悪ィからさ
【盗み】とか朝飯前なのね
酒場でいいカンジに酔っ払ったヤツの財布を
【目立たない】よう【忍び足】でスったら
頃合見て話しかけ

景気イイじゃん、でも懐ダイジョーブ?
あン? 財布がない?
そりゃ大変じゃん
じゃあ、ココは俺様ちゃんが出したげるからさ
その代わり、このシゴト受けてくんない?
さりげなく報酬から返してもらう約束も取り付け

あ、財布はイタダキマス


ベルゼドラ・アインシュタイン
俺だって狩りなんか行かずに酒が飲みたいんだ!酒もってこい!!

……ってやりたいのも山々だが、ひ弱な女を装っている手前
早々に素を晒すわけにもいかなのがもどかしい…

此方から態々声を掛けて周るのもダルいしどうしたものか…と暫し考え
…向こうから声を掛けてくるよう、色仕掛けをしてみるか


酒を片手に一人淋しくグラスを見ながら
(もっと酒を飲みたいのを我慢してるだけ)カウンターに座る女が一人
時折髪を気怠げに掻き上げ、耳に掛けながら憂い気な流し目で意味深感を演出

この謎の色仕掛けもどきで引っ掛かる男共がいれば
此処ぞとばかりに落としに行く

「ねぇ、お兄さん。私一人で魔物退治は怖いの。ご一緒して下さらない?」


六島・椋
【SPD】
……全体的にだらだらしている、気骨がない
骨があるやつはいないのだろうか……(しょんぼり)
まあ、けしからんのかはわからないが、気を取り直してだ

(f01818)友人のエスタシュと
エスタと共にまずは酒飲み
甘くない酒がいい……
エスタが煽った人らに続けて依頼の金の話だ

この依頼に関する予算は潤沢らしい
これが成功して金が入ったら、
それに、そうだな、今より良い酒も飲めようさ
君たちは気にならないかい、自分の知らない「美味いもの」を
ここで気骨なくぼんやりするよりは、
より美味いもののために動いてみるのもいいと思わないか
返さなければいけないものも返せてさっぱりだ

もう一押しってやつには二回攻撃ならぬ二回説得だ


エスタシュ・ロックドア
「バーバリアンのくせに宴ばっかで戦いにいかねぇだと……?」
「けしからんな! 行くぜ椋!」

ダチの椋(f01816)と飲んだくれ共を説得(煽り)に行くぜ。
「おうおう、椋も飲めよ!」
まずは適当なテーブルについてしれっと酒盛りに加わるわ。
程よく馴染んだ所で話を切り出す。
「お前らよぉ、見たとこ腕に覚えがありそうだが仕事にゃ行かねぇのか?」
「そうかぁ、行かねぇかぁ……ところでお前ら財布は大丈夫か?
酒場が儲かってウハウハってこたぁ結構使い込んだろ?」
「ツケかぁ……婆さん戻ってきたらよ、ヤバくね?
今までよりヤベェ仕事にぶっこまれんじゃね、大丈夫か?」
「一応俺らにゃ仕事のアテはあるが」
って依頼の話に持ち込むぜ。



●街中にて
 騒がしく、暑苦しかった酒場から一歩外に出てみると、風光明媚な街並みは一面雪に彩られ、真昼の陽を浴び煌いていた。時折吹き抜ける北風が、猟兵達の体に纏わりついた酒気を払ってくれる。この寒気も地元の冒険者達を酒場に入り浸りにさせている原因の一つだろう。
 ただ徒に駆け回るばかりでは身も心もかじかんで、冒険者達の二の舞だ。志願者集めを成功させるためにも何かしら、防寒着より、懐炉より、身も心も熱くさせる要素(もの)が欲しい。故に、
「……一番冒険者捕まえて来た奴が勝ち」
「最下位はご飯奢りねー」
「ヤダわ、負けられねェ戦いじゃんよ」
 松本・るり遥(不正解問答・f00727)、三岐・未夜(かさぶた・f00134)とジンガ・ジンガ(塵牙燼我・f06126)の三人は、平和的にも仁義なき競争(バトル)を繰り広げる事にした。
「……ところでジンガ。さっきから玩んでるその趣味の悪い布袋は何なのかな」
 スタートを切る前に、未夜はジンガの掌中に収まっているモノを指差し訊ねた。黒い饅頭のような、薄汚れた毬藻のような。外観を一目見ただけではソレが何なのかよく判らない。辛うじて解るのが、ソレのデザインがこの世界の基本的な美的感覚に照らし合わせてみても、満場一致で趣味の悪い代物であろうという事だけだ。
「コレ? コレはねぇ……お手玉? じゃん?」
「お手玉?」
 答えたジンガ本人が何故疑問形なのか。
「そう。偵察がてらちょっと道具屋を覗いて見たらコレが置いてあって、俺様ちゃん郷愁に駆られて即買いしちゃったワケよ」
「お手玉?」
「お手玉」
「中身は?」
 じゃらじゃらと、布袋の内側で金属的な何かが擦れあう音がした。気がした。
「小豆じゃん?」
 どうあってもお手玉らしい。
「疑問が氷解したところで、るり遥ちゃんスタートの合図ヨロシク!」
「微妙に腑に落ちないけど……解った。いくぞ――よーいっ、ドン!」
 未夜との問答をやおら打ち切ったジンガは、るり遥の合図とともに、脱兎の如く駆け出した。


(「危ない危ない。親しき中にも礼儀ありって奴じゃん」)
『お手玉』に関してはジンガが独りでやった秘密の仕事。それで万一自分が蹴躓くなら仕方も無いが、二人に泥を被せるつもりはない。最も、蹴躓いたとしても逃げきる自信はあるが。
 ともあれ事前に道具屋を偵察したのは本当で、その時こっそり聞き耳を立てて得た情報から、金をちらつかせれば食いついてきそうな冒険者の目星はつけている。
「ねェ、イイおハナシがあんだけど」
 ジンガは再び道具屋の扉を開けて、未だ其処に留まっていた3人のフェアリーに声をかけた。
「なになに~?」
「お仕事の話だって~」
「え~どうしよっか~?」
「街からのシゴトだからクリーンじゃんよ」
 見目可憐な妖精たち。いっそ金銭とは無縁の世界の住人にも思えるが、なんとなく、シーフである自分と同業の気配がした。必要ならばと取り出した貨幣にそそがれる視線が熱い。
「丁度よかった~。私達暫くこの街を拠点に活動しようと思ってたの~」
「へー」
「元々依頼を受ける前に周辺の地形を自費で調べるつもりだったし、お金が貰えるなら言うことないわ~」
「ふーん」
 彼女達が『旅の導き手』と称される裏にはそう言った入念な下調べや現地調査があるのかもしれない。可憐な上になんて努力家の妖精達なのだろう。同業かも知れないと勘繰ったのは間違いだった、
「良かったね~。これで安心して他の冒険者や旅人からいっぱいお金を巻き上げられるね~!」
「うわぁ! それ妖精っていうか小悪魔の所業じゃんか!」
 なんてことは無かった。ノリで思わず突っ込んでしまった。
「そうよ。こっちだって命がけで道案内なり冒険の手伝いなりするんだから、むしろ当然の対価じゃない? 最近じゃ代金値切ったり踏み倒そうとするやつが居たり、馬鹿なの死ぬの? って客も増えてこっちも大変なのよ」
 間延びした口調も営業の一環か。なんだか夢の国の裏側を見た気分だ。
「あー……でも、成程ね。そう言うリクツなら俺様ちゃんも良く解るわ」
「そう? 話が早くて助かるわ」
 理解を示すジンガの一言に気を良くしたのか、その後の交渉もスムーズに進み、妖精たちは討伐隊参加に快諾した。
 ……最初にちらつかせた金を抜け目なく前金として取って行ったのは流石同業と言った所か。

「まずは3人。これでおシゴト終わりでも良いけれど……ディナーがかかってるんなら俺様もう一頑張りしちゃうじゃん?」
 言って、ジンガは布袋を『お手玉』の如く、宙へ放った。


「……オルタナティブダブル」
 椅子に積もっていた雪を払い落し、深く腰掛け、るり遥はユーベルコードの名と共に、『優しくない』自分を召喚する。
「安楽椅子探偵気取りかよ」
 現われた『優しくない』自分が皮肉を言うが、此処で反論すれば思う壺だろう。『勇気のない』自分的には文句の一つも返してやりたいが、今はあえてそうしない。
「夕飯が掛かってるぞ! 状況は一刻を争うんだ。だから荒くれ者の相手は優しくない俺に任せる!」
「……まぁいい。今回は口車に乗ってやる。しかしお前、意外と抜け目がないよな?」
「……それって褒めてるのか? 貶してるのか?」
「『自分』の事だろ。自分で考えろよ」
 ふたりで口論したのはその程度。
 勝負事が好きな気質がいい方向に働いたのか、優しくない自分は驚くほど素直に人探しへと足を向けた。
「おい。そこの根無し草共。呑気に道草食ってる暇があるなら、さっさこっちの話に乗れよ」
 言葉に慈しみの心が無さすぎる。人選を誤ったかもしれない。
「なんだと? やるのか野郎。今の俺達ゃ素寒貧だ。道草だって食えやしねぇよ」
『優しくない』自分が声をかけたのは、エルフの男三人組だ。装備から察するにアーチャーだろう。高価そうな装飾品を手に質屋の扉を叩こうとしていたあたり、素寒貧なのは事実のようだ。
「大の大人が情けない。いくら何でも身軽が過ぎるだろう」
「うるせぇや。こちとら宵越しの金は持たない主義なんだよ」
「江戸っ子かよ」
「エドって何処だよ!」
 ……話を短くまとめるに。彼らは遊び過ぎて路銀が尽きたらしい。いつもならこのタイミングで依頼を請け負うが、今回は依頼を扱っている酒場が『ああ』だから、必然にっちもさっちもいかなくなったのだ。『優しくない』るり遥が喧嘩腰で依頼を紹介すると、エルフたちは喧嘩腰で討伐隊参加を受諾した。相性が良かったのだろう。『勇気のない』るり遥が交渉していたら、失敗していたかもしれない。
「前金は今日の夕飯でどうだ? 空腹が理由でこっちの足を引っ張られたんじゃ堪らない。食い放題に呑み放題もつけてやる」
「へぇ! そいつは随分優しいじゃないか」
 全く以って優しくない。『優しくない』るり遥は本当に優しくなかった。まさか最下位の人間に彼らの夕食代まで払わせるつもりとは。何と言う非情さだろう。
(「兎に角、これで三人。ジンガと未夜の調子が気になるな……」
 ジンガはこの手の仕事が得意そうだが、未夜はどうだろう。彼は『勇気のない』自分よりも臆病な部分がある。
「……ちょっと様子見て来る!」
 『勇気のない』るり遥は物陰からひっそりと、未夜の仕事ぶりを窺うことにした。


 三岐・未夜。往時は一人暮らしの引き籠り。他人は苦手だが、しかし彼とて独りきりでは生きられず、どうしても他人と交わらざるを得ない時もある。
 だからそうだ。この手のシチュエーションは、『嫌だが』『慣れている』。
 手鏡を頼りに髪を整え顔を出し、試しにそっと笑んでみる。
 精神(もと)の年齢より、大分進んだ自分の外見(かお)ああ。嫌だ。この顔も好きじゃない。
 けれども今一番頼れるのもこの顔だ。未夜は暫しの間割り切って、酷く深刻そうな表情で街中を彷徨した。
「そこの人。顔色が優れぬようだが、何か悩みでも?」
 程無くして。まんまとおびき寄せられたパラディンの女性が5人。
 さて、ここからが本番だ。外見からして見るからに堅物そうだが、未夜は彼女らを催眠術にかけるように言葉巧みに誘惑し、その心に忍び込む。
「……」
「どうした? 人には言えぬ悩みなのか? それとも体調が……」
「いや。凄いものだと見蕩れていた」
 外見に合わせた、歯の浮く様な喋り方。今はこれが正解だ。元のままで喋ったら、それは奇異でしかないのだから。
「すれ違っただけに過ぎない人間をここまで心配してくれるとは、流石は人々の依頼を請け負う冒険者」
「いや……人として当然の行いをしているまでだ」
「それが素晴らしいと言っているんだ。稼ぐ為なのは当然だけど、本質は困ってる人の願いを叶える仕事だろう」
「う、うむ。そうなのかもしれないが……面と向かって言われるとこう……こそばゆいな」
「君たちの仕事は、すごいことだと思う」
 誹謗中傷をものともしない人間は数いるが、感謝と称賛に耐性のある人間はそういない。だから自尊心を褒めておだてて擽って――彼女たちはもう、未夜の術中だ。
「僕も今、困りごとがあるんだ。でも、君たちみたいな冒険者がいてくれるなら安心かな」
 最後の仕上げに儚く笑い、強がって見せた。
「参ったな。そんな風に言われてしまえば、無視はできない。この街は道すがら、通り過ぎるつもりだったのだが……」
 取った。未夜は依頼の仔細を彼女たちに話す。
「良いだろう。ここで暮らす人々の安寧の為、微力ながら我らも力を貸そう」

「ありがとう、頼りにしてるよ」
 守勢に長けたパラディンが、これで五人。


(「あっ。上手くやってる……なんかショックだ……」)
 意外と見ていてドキドキする。中々心臓に悪い。るり遥はそっとその場を後にした。
 遠目からでも関心出来る未夜の活躍。これでは自分ももう一人の自分任せとはいかないだろう。
「――回復出来そうな奴を探して声かけてみよう。戦うなら回復は大事だし、何より……」
 きっと勇気のない自分でも話ができる。
 そう。例えばあそこに居る、自分と同じように酒場に顔出せなくて困ってるけど、強くて、優しそうな――。

「戦う英雄の無事を祈る目をしてる。なあ、俺たちを救ってくれないか」
『勇気のない』るり遥は、それでも言葉を尽くして……クレリックの少女二人を勧誘した。

●酒場にて
「おい、見てるか椋。しばらく観察しちゃみたが、あいつらマジで酒かっ食らって肉貪って歌って踊ってるだけで闘いに行く気配が微塵もねぇ……バーバリアンのくせにだ! けしからん!」
 酒場の端からエスタシュ・ロックドア(ブレイジングオービット・f01818)は怒鳴る様にそう叫んだが、怒号は笑い声と歌声に阻まれて冒険者たちに届いていない様子。全くもって嘆かわしい。
「まあ、けしからんのかはわからないが……全体的にだらだらしている。気骨がない。骨があるやつはいないのだろうか」
 エスタシュ同様、酒場の現状を一瞥した六島・椋(ナチュラルボーンラヴァー・f01816)は消沈する。体格だけを見れば誰も彼も申し分なく筋骨隆々だが、誰一人として肝心要の気骨が無い。
「こうなったら……よし! 行くぜ椋」
「……気を取り直して、何処に?」
「飲みにだ!」
 エスタシュは椋の手を引っ張ると、呑んべえだらけのぐだついた空間を突き進み、床で寝こける冒険者を蹴っ飛ばし、しれっと酒盛りに参加する。
「おうおう、椋も飲めよ!」
 椋が目を離したいつの間に、エスタシュの手には杯、口には干し肉が生えていた。
「飲むなら甘くない酒がいい……」
「だってよ! 折角だ。とびっきり良い酒(の)を頼む!」
「おう! 誰だか知らんがこれなんてどうだい? その銘も竜殺し!」
 UDCアースかサムライエンパイア辺りにもありそうな銘だ。
 椋は試しに一口飲んでみる。人に勧めるだけあって口当たりのいい酒だった。
「いいぜいいぜ! なんなら外で寂しく待ってるシンディーちゃんも連れて来ようぜ!!」
 ちなみにシンディーちゃんとは、エスタシュ愛用の大型自動二輪型宇宙バイクの事である。
「……それはちょっと待った方が良いと思うよ」
 エスタシュと椋は暫くそのまま冒険者達と酒盛りを続け、程良く彼らと馴染んだ頃合いに、いよいよ本題を切り出した。
「お前らよぉ、見たとこ腕に覚えがありそうだが仕事にゃ行かねぇのか?」
 いかにも不思議そうな調子でエスタシュが訊く。どんな答えが返ってくるかは九分九厘想像がつくが。
「行かね~よ。今は外も寒いし婆ァもいねぇ。婆ぁが戻ってきたらどう足掻いても出かける事になるんだ。寛ぐなら今のうちさ」
 気持ちが良いほど想定通りの回答だった。
「そうかぁ、行かねぇかぁ……ところでお前ら財布は大丈夫か? 酒場が儲かってウハウハってこたぁ結構使い込んだろ?」
「ばっかおめぇ。財布ならここに……ここに……? ……ねぇ!」
 ドワーフの冒険者がいくら衣服を探そうと、財布は一向に出てこない。どこかで落としたか、手癖の悪いシーフにでも盗まれたのだろう。
「俺の財布が! ねぇ! うおおおおおー!!!!」
「泣くなよ叫ぶなよ泣き上戸かよ。あのちょっとどうかと思うレベルでくそダサい財布だろ? ほら、俺も酔い覚ましに探してやるからよ」
 友人らしき冒険者に連れられて、財布を無くした男は酒盛りを中座する。その様子を見ていた冒険者は、ツケが効くんだから慌てることも無かろうにと杯を煽った。
「ツケかぁ……婆さん戻ってきたらよ、ヤバくね? 今までよりヤベェ仕事にぶっこまれんじゃね、大丈夫か?」
 エスタシュは話を続ける。『婆さん』の人となりを聞く限り、そう言うことは十分有り得そうだ。
「いやぁ、お前、恐ろしいこと言うなよ。そんなこと……」
 それまで陽気だった冒険者達は、一転沈痛な面持ちで口を噤む。そんな事、有るのだろう。或いはもうツケの溜った身なのかもしれない。
「なんなら自分達が良い働き口を紹介するよ」
 冒険者達の動揺を読み取って、椋はすかさず件の依頼を持ちかける。
「この依頼に関する予算は潤沢らしい。これが成功して金が入ったら……そうだな、今より良い酒も飲めようさ」
 椋は杯を口から放し、素っ気なく揺らす。中に残っていた酒が、二度三度と波打った。
「君たちは気にならないかい、自分の知らない未知なる『美味いもの』を。ここで気骨なくぼんやりするよりは、より美味いもののために動いてみるのもいいと思わないか。もしも返さなければいけないものがあるのなら、それも返せてさっぱりだ」
 勿論無理にとは言わないよ。椋は駄目押しに、さも勿体ぶった口ぶりでエスタシュを見た。良い話なんだけどなぁ、と吐息混じりに残念がる。
 そうすれば冒険者達の視線は自然とエスタシュに注がれて、

「一応、俺らにゃ仕事のアテはあるが」
 エスタシュはにやりと笑った。


「……あン? 財布がない? 落としちゃった? そりゃ大変じゃん」
 財布を探す二人の前に、現われたのは諸悪の根源(きゅうせいしゅ)。
「じゃあ、ココは俺様ちゃんが出したげるからさ。その代わり、このシゴト受けてくんない? その報酬から返してくれればいいし、利子とか全然つけないから」
「おお! うけるとも、あんた良い人だなぁ!!」
 何と心温まる美談だろう。美談なのだ。夢の国の裏側を覗くような真似をしてはいけない。
 財布を探していたドワーフ2人を勧誘し、これでジンガが集めた数は5人。
「……所で、そのオサイフってなんか手放せない来歴とかあったりするヤツ?」
「ああ……近所の道具屋で銅貨5枚叩いて買った奴だ」
「あ、うん。そっかー」


「結局、全員5人か。これじゃあ夕食は全員で割り勘だ」
 一番無難な結果だろう。るり遥がぽつりそう呟くと、
「まったまたー。るり遥ちゃんてばとぼけちゃってー」
「ん?」
「夕飯ありがとねー、るり遥」
「未夜?」
「ああ。そうだな。皆遠慮なく『腑抜けた』俺にたかるといい」
「『優しくない』俺!? 一体どういう事だよ!?」
「どうもこうも。最下位は飯奢りだろ? 未夜が5。ピンク髪が5。『俺』が3。『勇気のない』お前が2……ほら、お前が最下位だ」
「……お前……! どうも今回は妙に聞き分けが良いと思ったら……!」
 なんて優しくない奴だろう。
 ――自分に、負けた。


「よぉーーーし賭けだ、賭けをしようぜ野朗ども!!」
 酒場の丁度中央で、手を大きく何度も叩いて注目を集めるのは多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)だ。即席の娯楽快楽何でもござれが信条の赤銅は、酒場で一番の巨漢の前にどかりと座るやいなや、テーブルを思い切り肘で撃ち鳴らす。
「腕相撲でどうだ?」
 啖呵を切って、巨漢を見据える。赤銅の身長は172と少し。女性としては長身だ。それでもテーブルを挟んで巨漢と比べれば、随分と小さく見えた。
「テメエが勝ったら願い事なんでも1つ聞いてやる。金、酒、身体でも良いぜ? 私は気前がいいんだ。ただし私が勝ったら、仕事ひとつ引き受けて貰う。どうだ、悪い話じゃねえだろう?」」
「ほぉ、それはまた随分と破格だ」
「てめえが気に入ったんだよ。付き合えよ」
「いいだろう。面白い。乗った。だが後悔するなよ。ここに居る皆が証人だ。先に言っておくが、負けた後でしおらしく泣きべそかくのは反則だぞ?」
「……おーおーいいねぇ、乗り気な男は好きだぜ!」
 赤銅は啖呵に次いで酒の注文を飛ばし、届いた酒を即座一気に飲み干した。
「ああ。中々旨いし効くなこの酒。もう一杯! と行きたいところだが……勝利の美酒を先に呑み干しちゃ縁起が悪ぃな」
「いい飲みっぷりだ。だが良いのか? わざわざ酒を呑み干して、素面だったんだろう?」
「へっ。これ酔っぱらってたから負けましたなんて言い訳は、お互い立たねぇだろ?」
「ふん。なるほど。なら……そろそろ始めるか」
「ああ。さぁてそれじゃあ、」

 赤銅鬼を相手にできた事、光栄に思うんだな。

 長い永い、しかし数秒の拮抗の後、勝負は刹那。テーブルを真二つお釈迦にし、ねじ伏せられた巨漢は勢い余って地に仰臥。暫くぼうっと酒場の梁を眺める羽目に陥った。
 その間も外野は油断をしただの願い事に目が眩んだだの野次を飛ばすが、全ての要因をひっくるめ、出てくる解はただ一つ。即ち巨漢は、単純な実力差で赤銅に負けたのだ。
「いやあいい腕してんなぁお前、ちょっと惚れそうだったぜ!」
「ああ、全く……敗けたな。完敗だ。わかった。お前の言う依頼とやらを受けよう」
 鍛え直すか。巨漢は酒気の抜けた顔で苦笑し呟いた。
「さ、他に私と腕自慢したい奴ぁいねえか!我こそはと思う奴、みんなまとめて私の言う事聞かせてやらあ!」
 笑顔で楽しく高らかに。赤銅が腕相撲に勝って勝利の美酒を煽るたび、冒険者達は我も我もと手を上げた。


「あらいやだ。あちらばかりを見るなんて、私妬いてしまいます。羅刹の娘は、此処にも居りますよ?」
 柔らかく、甘やかに。千桜・エリシャ(春宵・f02565)腕相撲を遠巻きに眺める冒険者達をしなりと蠱惑して、その視線を自らに釘付けた。
「もし。よろしければお名前を……お聞かせ願えますか?」
 花に酔う冒険者達はエリシャに言われるがまま、自らの名を名乗る。
「まあ! あなた方があの名高い冒険者様たちですのね! お噂はかねがね聞き及んでおりますわ。さすが、装備もご立派なものを用いておりますのね。素敵ですわ………」
「ウェへへ……俺達なんか有名になるようなことしたっけ?」
「へへへ。なんもしてねぇ」
 事実、名乗られたところでエリシャには彼らの名など全く知らない。
 ただ。こういう手合いはおだてて言うことを聞かせるのが最も効果的だという事は良く知っている。
「まぁいいじゃねぇか。これから有名になれば良いし、何よりこんなかわいい娘にそう言われちゃ……あれ夢かこれ?」
「夢だなんてそんな……ああ、この鍛え上げられた身体……少し触ってもよろしくて?」
 男たちの答えを待たず、エリシャは淡く消えゆく霞の如き身のこなしでするりと冒険者へ近づいて、その体に触れる。
「まぁ、とてもがっしりとして。特にこの……」
「あああぁ……ム・ネ・が!」
「そう。特にこの厚い胸板なんて――きっとどんな攻撃も跳ね返すのでしょうね」
 ――さり気なく、自然に、やり過ぎず。最小の接触で得られた効果は最大限。霞が離れ、それでも男達は過ぎ去った接触の、残滓に微睡む。
 エリシャの一挙手一投足で、冒険者達はふやけにふやけて茹蛸だ。あとはただ、童のようにねだれば良い。

「この武器、この身体で繰り出される技はさぞかし素晴らしいものなのでしょうね……私、この目で実際に拝見してみたいですわ!」
 上目遣いの桜花の瞳。映し出すのは男の性。
「私も冒険者の端くれですもの。お手本を見せてくださいまし?」
「ああ。ああ! 良いとも、君のような娘が望むなら、何回だって見せてやろう!」
 それに魅入られ逃れる術を、どうして男達が持ち得よう。


「――二人とも、方向性は違えど大した『たらし』だぜ」
 グラスを片手にそう呟いたベルゼドラ・アインシュタイン(錆びた夜に・f00604)の心情は、誰より冒険者達に近しい。
 未夜達の様に酒場の外へ繰り出す覇気も無く、ひ弱な女を装っている手前エスタシュ達の様に酒盛りへ乱入することも出来ず、赤銅の様に根明でも無いし、エリシャの様に能動的に動くのも面倒くさい。
 要するにだらけていたい。狩りなど行かずに酒が飲みたい。現に此処まで酒しか飲んでないが、さてどうしたものだろう。本音を赤裸々に語ってしまえば、陣取ったカウンター席から一切動きたくない。しかし酒だけ飲んで帰りましたではただの飲んだくれ。ここは意を決して席を立つしかないのか。
(「……いいや」)
 いっそ開き直ってしまおう。
 ベルゼドラは火照った風を演出しながら胸元を少しばかり解放し、それまで使っていたグラスを一回り小さなものに持ち替えて、ちびちびと舐めるように酒を飲み始める。
 もっと思い切り酒を流し込見たい。そんな欲求を抑えつけながらグラスを眺める横顔はどこか寂し気で、
「やぁ、お姉さん。今……独りかい?」
 寄ってきたのは男が複数人。やってみるものだ。
「ええ。そう……ね」
 釣った魚を逃がしはしない。ベルゼドラは艶やかな黒髪を気怠げに掻き上げ、耳にかけ、
「お姉さん、もしかして訳ありかい? 言わなくても分かる。何か深く悲しい出来事があったんだろう……いや、野暮な話はよすとしよう」
 断っておくが、ベルゼドラの一連の行動に深い意味は無い。
「煙草、吸うかい?」
「いいえ。今はちょっと……ね」
 とても吸いたい。そんな気持ちを憂いに変えて、流し目で意味深に男達を一瞥した。
「はぁ……」
 わざとらしく、小さな溜息を一つ。
「実はね、私も冒険者なんだけど……」
「ああ。そうか。きっと難度の高い依頼を受けて、往生しているんだろう、大丈夫。僕らを頼ってくれればそれで解決だ」
 大した話はしていないのに、とんとん拍子で話が進む。
 善人か。助平か。
 いずれにせよ。
 カモだ。

「ねぇ、お兄さん。私一人で魔物退治は怖いの。ご一緒して下さらない?」
 言いながら、ベルゼドラは甲斐甲斐しく男たちの杯に酌をした。


「なんだと!? てめぇ! もう一遍行ってみやがれ!」
 活気に満ちた酒場の喧騒を切り裂いたの男の怒声。
 皆が声の聞こえた方へと目を向けると、一人の冒険者が拳を振り翳し、襲祢・八咫(導烏・f09103)の胸倉をつかんでいた。
「おれはよく知らぬのだが、冒険者というのはただの無駄飯ぐらいの総称なのか? とそう聞いたのだが。しかし。ふぅむ」
 そう激怒するという事は、違うのだろうな、と八咫は一人納得する。
「この野郎。飄々と……!」
 冒険者握りしめた拳を怒りのままに振り下ろすとする。が、
「おれを殴るか。君達の誇りを知らずのうちに傷つけてしまっていたのなら、それも仕方の無い事なのだろう。しかし――」
 言って、八咫が澄んだ眼差しで見据えたのは孫娘。
「家族の怪我に心を痛めながら、慣れぬことをひとり必死に行っている若い娘御がおり、その娘御が大層困っておると言うのに、気持ちを汲んでやれる者もおらんのだろう」
 八咫の顔面に迫っていた拳がぴたりと途中で静止した。
「依頼が滞り、周辺住民が困っておると言うのに、誰ひとりろくに動こうともしないのだろう。これを無駄飯ぐらいと呼ばずに一体何と呼ぶ」
 八咫の胸倉を掴んでいた手が緩む。
「なあ、おれに教えてくれぬか。だらけて冒険を忘れた者を、何と呼べは良いのか」
 歪んだ襟元を直し、八咫は言葉を続けるが、冒険者達の反論は無い。八咫の正論に異議を唱えるほど、彼らは腐っていないのだ。
「夢から覚めたか……ならば開いた両眼できちんと娘御の顔を見るが良いよ。きみたちが何と思われているのか、よくわかる」
 どうか皆の依頼をお願いします。孫娘は懇願するように、冒険者達へ頭を下げた。それは間違い無く、この街の全ての住人たちの総意であっただろう。
 
「おいでおいで。疾く、翔けろ」
 最後に八咫がそう喚び鳴けば、三本脚の大烏が顕現し、倦んだ冒険者達を睨めつける。
「それでも尚奮い立つでなく、おれを排除しようと言うなら、相手になろう」


「わかった。わかってるよ! 婆ァの腰痛にかこつけて、俺達だってちょいと長めのバカンスが欲しかっただけさ。まぁ賭場も無いし、結局酒場で騒いでたただけだけどな。あーあ。酒も切れちまった。金もねぇ。体も鈍ってツケがある」
 酒場に入り浸ってた冒険者達の纏め役(リーダー)らしき男が大きく伸びをして、終に乱痴気騒ぎが終息する。
 迷惑かけたなお嬢ちゃん。リーダーは孫娘に謝罪して急ぎ討伐隊のあれこれを、スクロールに書き記す。
 シーフが3。アーチャーが3。パラディンが5。クレリックが2。そしてバーバリアンが32にプラス猟兵……。
「……これが多いか少ないかは、ぶっちゃけ良く解んねぇ。以前はこの数でも余裕があったが、知っての通り最近はどういう訳だか魔物の動きが活発でなぁ。それで、いつ出るんだい?」
 明日。
「は!? 近々って明日かよ! 近々過ぎるだろ!?」
 誰が悪いのかと問えば、酒場でぐうたらしていたやつらが悪いのだ。
 冒険者達は明日に備えて慌ただしくも解散し、静まり返った酒場には、猟兵と看板娘だけが残された。

「あの、本当に……ありがとうございました!」
 依頼を巡る騒動を解決したとても、まだまだ猟兵達が果たすべき仕事は残っている。出発の時間もすぐに来る。
 しかし。暫しの間ゆっくりと看板娘の真心に浸るのも……そう、悪くはないだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『荒ぶる山神』

POW   :    握り潰す
【人ひとり覆い隠すほどの掌】が命中した対象に対し、高威力高命中の【握り潰し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    踏み潰す
単純で重い【地団駄】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
WIZ   :    叩き潰す
【大きく振りかぶった拳】から【地震】を放ち、【その振動】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※二章冒頭文章日曜更新予定
●山狩り
 街を発って5日。
 街道、海岸、遺跡(ダンジョン)と、討伐隊は各地を巡り魔物達を退治する。
「うーん……困りましたねぇ。皆さまお強く特に大きな怪我もなさらない。それは善い事なのですが、別の意味で私たちは祈るくらいしか仕事ありません」
「クレリックのお嬢ちゃんたちは常備薬とか転ばぬ先の杖って奴だ。俺らバーバリアンにとっちゃ居てくれるだけで心強い」
「じょ……? うーん……えーと……。あ……! はい! とてもおいしかったです!」
「いやその返答は大分おかしいんじゃねぇのかな……腕は確かだからいいけどさ」
 奇襲、襲撃を受ける場面も若干あったが、それでもここまでの道行きに特筆すべきものは無く、猟兵を含む腕の立つ冒険者達からしてみれば、精々連泊の旅行程度の難易度だった。

「ねぇ……ちょっと。この山の植生……おかしくない?」
 近くの山脈から切り離された位置にある、標高1500メートル程度の孤山。
 冬場は誰も寄り付かぬ、雪に閉ざされたその山に、討伐隊が足を踏み入れて暫く。
 旅の導き手たるフェアリー達が誰より先に山の異変に気付いた。
 彼女達は魔物狩りの傍ら、この地域周辺を隅々観察したから解るのだ。山に聳え立つ木々の種類も、寒さに負けじと咲き誇る花の数々も、この地域では絶対にありえない。
「ははは! おかしいって言ったって、今あるものをそのままあると認めなければ仕様も無かろうぜ!」
「……悲しいなぁ、地元のおっさん共よ。格好いいこと言ってるつもりだろうが、そりゃ加齢による思考硬直って奴だ」
「うるせぇ若作りのエルフ共。お前ら絶対俺達より年上だろ!」
「静かに! どうやら、じゃれあっている場合では無いらしい」
 パラディン達が大盾を構え、四方を警戒する。
 ……山の植生が異質なものに変わっている。天然自然の現象ではないだろう。
 某かの魔法の仕業か、そうでなければ……。
 山が震えた。
 無風状態にもかかわらず、木々達が独り蠢くと、巻き起こった雪煙が討伐隊の視界を塞ぐ。
 雪が晴れ、そして眼前にあったのは、無数の怪木が敵意を持ってこちらへ迫る地獄景。

 冒険者達を盾として使っても、陽動に利用しても、共に足並みを揃えて戦っても良い。とにかくこの状況を打破しなければ進む事も戻る事も出来ない。
 猟兵達を除いた冒険者の数は45。
 ――対して荒ぶる神々の総数は……山のまるごと一つ分。
ベルゼドラ・アインシュタイン
山全体が敵さんだとはこれまた面倒くせぇなおい

まぁ、此処一面の木々が全部魔物なら
遠慮なく炎ぶっ放しても、問題無ぇよな?
山火事ぐらい起こせばさくっと片付くだろ

迫り来る奴らに対しては【殺気】と【恐怖を与える】で軽く怯ませながら
愛用の拷問具で斬り刻んでいくか
この道具の動力源は、自分の指の血だ
さぞ働いてくれるだろうさ

ある程度敵の数が把握できた所で【ベルゼブブの鉄槌】をぶっ放す
周りにいる猟兵や冒険者は、まぁこれくらい避けれるだろ?頑張れや

山での地震が、ちょっと厄介そうだな、警戒しておこう
いざとなったらガタイの良い冒険者のあんちゃんに
縋るフリしてクッションにでもなってもらえばいいか


エスタシュ・ロックドア
「いいや椋(f01816)、そいつぁ無理だ。
全部、燃やしちまうからよ」

【騎乗】でシンディーちゃんを乗り回し、高機動でブレイズフレイムだ
広範囲に業火を振り撒いて、燃えてるところをフリントでぶった斬るぜ
【吹き飛ばし】できるようなら【怪力】で豪快にするかぁね
ブレイズフレイムは敵だけ燃やす様には気ぃつけとくわ
「ははっ、良い、良いぜ。俺の地獄が煮え滾る、燃えろ、焼けろ、灰になれぇ!」
今の俺ぁ敵をぶちのめす事しか頭にねぇ、細けぇ事ぁ椋に任す

「おいこら椋!
人を足蹴にすんなって教わらなかったか!」
(別のシナリオで豪快に足蹴にしている自分は棚上げ)

攻撃喰らったらこれ幸いと至近距離で燃やしてやらぁ


六島・椋
エスタ(f01818)、君のところのモーテルに新しく木造建築の部屋はどうだい
材料には困らなそうだけど

自分はエスタが焼き漏らしたやつを片付けにいく
「フェイント」も混ぜた「目立たない」動きで攻撃を警戒しながら接近
人形のオボロとダガーで「二回攻撃」を仕掛ける
どうだい、自分の人形、美しいだろ
できそうなら、オボロとそれぞれ別の奴を狙って効率化をはかる
一緒に飲んだ冒険者は好みの酒をくれたし、その分くらいは彼らの負担を減らしたい

高所への跳躍はエスタの肩を借りる
丁度よかったからつい

攻撃の標的にされたら、絶望の福音で回避を
あとは別の荒ぶる山神に乗る等して攻撃先誘導→回避で同士討ちとかできないだろうか

一人称:自分




 先程まで静謐を保っていた孤山は最早無く。
 斧が唸り、盾が軋み、放たれた矢が大木を射抜いた。しかし、一柱、二柱が倒れようとも神々の攻勢は衰えず、途切れない。この世界にその言葉が存在するのかどうか定かでは無いが、『八百万』とはまさにこの有様を示すのだろう。
「エスタ、君のところのモーテルに新しく木造建築の部屋はどうだい? 材料には困らなそうだけど。ご神木なら、ご利益もあるかもしれないよ」
 冒険者達の咆哮と、神々の鳴動が相殺し合って生まれた僅かな間隙、椋はエスタシュに訊く。
「いいや椋。イカした提案だが、そいつぁ無理だ。全部、燃やしちまうからよ!」
 エスタシュはシンディーちゃんのグリップを思い切り回し、ジェットエンジンを全開に大木の群れへ突っ込んだ。
 加速する景色。風を裂き、風に裂かれ、エスタシュの全身から溢れ出た紅蓮の炎は彼と彼の愛車を眩く輝く流星へと変える。
 奔るエスタシュの前方に立ちはだかるは大きな掌。一柱の山神が流星を受け止めようと大地にずしり根を下ろす。疾走の果てに待っているのは五体が砕けるほどの抱擁か。
「――面白れぇ!」
 大笑したエスタシュは一切の速度を緩めず、避けず、自ら掌目掛けぶつかった。
 果たして流星は掌ごと山神の胴を貫いて燃やし、その疾走は止まることを知らない。巨木達にタイヤの痕を刻むたび、火の粉が六花の如く舞い散って降り注ぎ、山神のみを焼き払う。地獄の炎は決して冒険者達を傷つけない。
「ははっ、良い、良いぜ! 俺の地獄が煮え滾る、燃えろ、焼けろ、灰になれぇ!」
 彼らを打ち倒すのにブレーキを掛ける必要は無いだろう。エスタシュはシンディーちゃんを駆ったまま、燧石の銘持つ鉄塊剣を山神へ叩きつけ、自慢の怪力で豪快に吹き飛ばす。
 これで10は払ったか、それとも20は燃やしたか。否。敵の数が尽きぬなら、どちらにせよ同じこと。エスタシュ自身のエンジンも、丁度掛かってきたところだ。
「椋! 細けぇ事ぁ諸々任す!」
「了解。任されたよ」
 古びたダガーを携えて、椋は目立たぬように神緑の中を行く。
 狙いは火から逃れた『焼き漏らし』。エスタシュが派手に暴れてくれるので、椋は然して苦もなく山神達の死角に潜り込み、まずは一柱に刃を突き立てる。丁寧に磨かれたその刃はするりと山神の外皮を開き、続いて人体骨格人形・オボロの白い腕がその命を獲った。
「どうだい、自分の人形、美しいだろ」
 黒の上着と目を覆う包帯、特徴的な頭の紋様。オボロの余りの巧緻さに、槌を振るっていたドワーフは思わず手を止め本物なのかと尋ねたが、
「さて、どうかな。本物だと思うかい?」
 椋は片手でオボロを操り、もう片方の掌中にナイフを握る。オボロの一挙手一投足。その全ての感触は、糸を伝ってたった五本の指先に。文字通り手分けしてやらないと、恐らくいつまでたっても終わらないだろう。
 何より、一緒に飲んだ冒険者は好みの酒をくれたし、その分くらいは彼らの負担を減らしたい。
 雪の舞台で舞い踊るオボロと駆け抜ける椋。縦横無尽に伐採を続ければ、必然山神達の注目をさらい、根とも拳ともつかぬ塊が椋に殺到する。
 しかしそれらは椋にとって10秒先の『過去』の話。何処に位置取れば何処に攻撃が来るかなど既に見えている。
 とある山神の首の上に椋が立つと、別個体の山神が躊躇なく其処へ手を伸ばす。寸前まで引き付け飛び退けば、勢い余った巨木の掌は同族を掴んでそのまま握り潰して同士討ち。呆と残った山神は、
「酒のお返しにしちゃ随分と……高価だな!」
 背後から冒険者達に奇襲され、酷く簡単に地へ沈んだ。
 幾柱倒そうとも『細かい事』は絶え間なく。
 ふとエスタシュの方を見遣った椋は……走り出す。

「……ん?」
 不意に、エスタシュの周囲が陰る。天を仰ぐと、其処にあったのは空跳ぶ山神。重力を味方につけてこちらを踏み潰す心算か。だが遅い。エスタシュがフリントで山神を迎え撃とうとした刹那――。
「肩、借りるよ」
「うおっと!?」
 蔭を察知し駆けつけた椋はエスタシュを踏み台に跳躍すると、すれ違いざまオボロを放ち、一瞬の空中戦で山神を撃墜する。
「おいこら椋! 人を足蹴にすんなって教わらなかったか!」
「ごめんね。丁度よかったからつい」
「全くよぉ……」
 嘆息するエスタシュに再び影が落ちる。一柱を落とそうとも、山神の足は未だ四方八方無数にあるのだ。
「どいつもこいつも足癖が悪すぎるぜ! なぁ!」
 地団駄を受け止めたエスタシュの脚が赤々と燃え盛り、延焼し、巨木を有無も言わさず灰にする。
「……本当だね」
 椋が目を細めてそう言うと、オボロもまた――がたがたと笑うように顎骨を鳴らした。


「山全体が敵さんだとは……これまた面倒くせぇなおい」
 指先から流れる血液が長鎖を伝い、ぽたり、ぽたりと滴って、雪原を朱に染める。
 ベルゼドラが山神達へ遠慮なく殺気を放ち恐怖を植え付ければ、彼らは一歩、自身でも知らずの内に後退る。
「神様ってのも因業だな。ただの大木なら、気圧されることも無かったろうに」
 瞬間。二つの三日月が閃いて、山神達を斬り刻む。
 美しくも冷たく鋭利なその三日月達の正体は、敵対するものを全て屠り去る無慈悲な処刑道具(やいば)だ。動力源たる血液の供給が成される限り、決して刑の執行は止まらない。
 ……山神一柱を倒すのに必要な代償(コスト)はおおよそ血液一雫。それでも幾度真昼に三日月が輝いただろう、グローブを外し、露わになったベルゼドラの手先は色白を通り越して蒼褪め、しかし山神達は未だ無数。
「……だろうな。むしろ数が足りねぇ。もっとだ。もっと寄せ集まれ」
 蹴散らすつもりは毛頭ない。散ってしまえば不都合だ。三日月たちは、緑の色が雪の白を覆い隠す程にある一点に山神たちを追い詰め、そして……一網打尽の時が来る。
「まぁ、此処一面の木々が全部魔物なら、遠慮なく炎ぶっ放しても、問題無ぇよな? 山火事ぐらい起こせばさくっと片付くだろ?」
 ベルゼドラは蝿の王を召喚し、無数の山神を無数の業火球で焼き尽くす。これこそが地獄景に相応しいベルゼブブの鉄槌だ。
 エスタシュの炎とは違い、降り注ぐ鉄槌に敵味方の識別などありはしない。ルールは一つ。触れたものを焼滅させる。それだけだ。
「この場に居るのは全員腕利きだ。だったらまぁ……これくらい避けれるだろ? 頑張れや」
 業火球の性質を察知した討伐隊の面々は、怖気ることなく業火球を躱し、或いは弾きながらも神を討つ。此処で怯めば山神の様に燃え尽きるだけだと皆熟知しているのだ。
 身体の7割が炎に侵食された燃え尽きかけの一柱は最期のあがきに地を殴り、地震を引き起こす。
「あら……?」
 などど地に揺られたベルゼドラは気弱な声を発するが、とうの昔に警戒済みだ。『僕らを頼ってくれればそれで解決』、酒場でそんな事を言っていた冒険者の中でも一番体躯の良い男へ縋りつく……ふりをして、緩衝材代わりに地震をやり過ごす。
「ごめんなさい。つい……利用してしまったわ」
 嘘は言ってない。地震を逃れた自由な指先で三日月を繰り、燃え尽きかけの一柱に止めを刺した。
「平気さ。それより気を付けて。どうやら敵味方お構いなしって魔術師が紛れ込んでいるらしい」
「そんな人がいるなんて……怖いわ。あなた達は平気なの?」
「大丈夫。僕らは頑丈さだけが取り柄だからね」
 
 ……成程。どうやらもう一回鉄槌を降らせても良さそうだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

グウェンドリン・グレンジャー
木、かぁ……あんまり、栄養なさげ。野菜……嫌い……
(腰から翼状ブレードを展開し)
おじ、さん、達、下がって……危ない、から
あんまり、近いと……間違えて、たべちゃう、かも

Mode:Mórríganと空中戦技能で、攻撃を回避。
地面方向に繰り出す物は、避けられる、はず。
握り潰しも、ギリギリまで引き付けて空中へ移動して逃げる。
回避成功の場合、初撃を外した隙を狙って、暗殺技能と捨て身の一撃で攻撃。

見た目的に上が死角に見えるから、頭(?)を狙って捨て身の一撃をぶちかまして、生命力吸収
一体一体を確実に潰すように動く

荒、ぶる神……に、似た何か、なら、こっち、だって……負けて、ない


千桜・エリシャ
あら、やっと思う存分遊べそうですのね?
でもこの神様方…首がないではありませんの!
嗚呼、なんてこと…これより先の御首に期待するしかありませんわね
早いところ駆け抜けてしまいましょう

さあ、冒険者様方!かっこいいところを見せてくださるのでしょう?
私、期待しておりますから…ね?
とウィンクして鼓舞することを忘れずに
大切な戦力ですもの

でも数が多いのならば一人ずつ相手取るのは骨が折れますわね…
雪深いならば雪崩を狙って一掃できないかしら?
これだけ地響きがしているなら起きやすいはずですし
雪崩が起きそうな坂道へ誘導しながら戦いましょう
雪崩が起きたら皆様に声を掛けて見切りで避難しますわ


三岐・未夜
るり遥、ジンガ同行

こいつらの相手は僕たちがしなきゃね。山が丸ごとひとつ?わー、景気良く燃えそ。
……や、僕だって普通にこわいけど。……でも、だって、るり遥もジンガもいるし……僕だけ尻尾丸める訳にいかないでしょ。(耳はぺたんとする)
……それに、パラディンのお姉さんたち連れて来たの、僕だから。
(ジンガに撫でられてぱたぱた元気になる尻尾)

矢は火属性、【属性攻撃】で強化。【操縦】【誘導弾】【援護射撃】【範囲攻撃】で、みんなに危険がないよう精密操作して狙撃して行くよ。
誰かに危険がありそうなら【誘惑】【催眠術】【時間稼ぎ】【おびき寄せ】で敵を惑わせて隙を作るくらいは出来る。

……るり遥、また後でのど飴かなあ。


松本・るり遥
【ジンガ、未夜同行】
怖えんだけど、
あれ、
優しくない俺に切り替わらない

(ああ
友達がいて安心してるからか俺)
ーーあんま良くねえなあ!!?

後衛に下がる。自然クレリックらの側に来ることになるか?
敵の数が多すぎる。全体をひたすらよく見、地道に危ない仲間を支援。ナンセンスをひた紡ぎ攻撃の手を【スナイプ】見落とさない。
『そんな一手で傷つけられると思うなよ』『大人しく酸素吐け!』『伐採されたかないだろ!!』
敵を誘き寄せた未夜にも、手は出させない!

ああもしも、攻撃手がなお足りないなら『独白』だ、聞いてくれ
戦えるよ、頼むぜほんと
息を吸って、声高くーー
『本当は誰も、傷付かなくて良いはずだろ!!!!』


ジンガおかえり


ジンガ・ジンガ
るり遥、未夜同行

はァーん?
さすがに壮観すぎて、俺様ちゃんもガタブルじゃんよ
……あら、カワいい反応しちゃってまァ(未夜ちゃんわしゃわしゃ)
まァ、こんだけ居りゃなんとかなるっしょ!

★POW
準備運動がてら武器を振り回し羅刹旋風
敵陣に突っ込み【逃げ足】を活かし【ダッシュ】で撹乱
【地形の利用】で敵の身体をも利用し、隙を見て【2回攻撃】
ヤマガミだかチリガミだかしんねーけど
つまり木だろ、木!
ってことはテメェらも地形だ、地形!

敵からの攻撃は軌道を【見切り】
なるべく【敵を盾にする】ことで同士討ち狙い

あー、るり遥ちゃんの声、よォく聞こえるわァ
こりゃ、俺様ちゃんも怖いとか言ってらンねーわ

だって、友達が一緒だもんなァ


襲祢・八咫
ふむ。多いな。
人の子に無理はさせられんのでな。おれも可能な限り受け持とう。

手数を増やすか。
三本脚の大烏を再召喚し、【属性攻撃】で強化。好きに灼いて燃やして回れと空へ。身の危険がある者がいれば、空から強襲し逃がすだろう。
おれは、扇子に神通力を流して鉄扇へ。自ら向かうとしよう。
【目立たない】【忍び足】を利用して敵の隙を突き、【衝撃波】【破魔】【属性攻撃】【範囲攻撃】【2回攻撃】を乗せて。
おれは日輪の神の物ゆえな。陽に灼かれて果てるが良い。
おれに狙いが来れば【第六感】を働かせて避けられるものは避け、難しいものは【オーラ防御】で弾こう。
なに、人の子の身の方が大切だろう。おれは本体さえ無事なら死なぬよ。




「ふむ。興味深い。火の属性一つとっても、使い手が異なるだけでこうも様変わりするとは」
 八咫は二度目の鉄槌を眺めながら、おいで、おいでと喚び鳴いて、再び三本脚の大烏を自身の腕上へ招く。討てども終わらぬこの状況、椋がそうしているように、手数は多い方が良い。
「人の子に無理はさせられんのでな。おれも可能な限り受け持とう」
 腕を軽く揺らして指図すると、大烏は二度三度と羽搏いて、真冬の蒼穹へ飛び出した。
「好きに灼いて燃やして回れ。おれの代わりに天翔けよ」
 地に生きる山神達が持ち得ぬ天の視座。阻むものが無い空を自在に飛び回る大烏は、陽光を以て人を襲う緑を灼き払い、さらに大地を掠めるほどの超低空飛行から、鋭利な爪嘴で容易く山神の幹(からだ)を穿つ。
 周辺の山神たちを粗方滅した大烏は空へと戻り地を照らす。魔神を滅し、人を助けるために。
「そこの君よ、怪我は無いか?」
 八咫が尻餅をついた冒険者に訊く。
「ああ、しかし……あんたもお人よしだな。自分をぶん殴りかけたやつまで助けるなんて」
 その冒険者は、酒場で八咫の胸倉を掴んだ男だった。
「なに、気にしてなどは居らぬよ。酔っ払って前後不覚になるなど誰とてある話。君の目が覚めたのなら、それで重畳。そして共に魔物を討つ仲間なら、助けない理由など微塵もないだろう」
「はは。あんたにゃどうにも敵わないな」
 深い雪から立ち上がった冒険者はばちんと頬を叩き、斧を片手に気合を入れ直す。これ以上の助けはいらないだろう。後はこの、生きる森を拓くのみ。
 八咫が扇子・爪嘴に神通力を流すと、精緻な装飾の入った扇子は瞬く間に鉄扇へ変じる。
 八咫の意図を察した冒険者は奮い立ち、山神たちの注目を集めた。八咫はその、怪木達の隙をつき、技量の極致とも言える鉄扇捌きを披露する。
「おれは日輪の神の物ゆえな。陽に灼かれて果てるが良い」
 一度鉄扇を扇げば山神たちは悉く吹き飛んで、二度扇げば葉も根も洞も、人に害を成す全てが灼かれ、滅した。
 しかし滅した端から新たな山神達が補充され、八咫が拓いた雪景は即座緑に覆われる。それでも初めに比べれば大分、その密度は低くなったろうか。
 八咫は鉄扇を薙刀に変化させ、堂々と新たな緑へ歩を運ぶ。
 無理はするなと冒険者は八咫を止めるが、
「なに、人の子の身の方が大切だろう。おれは本体さえ無事なら死なぬよ」
 怒涛の如く押し寄せる攻撃を第六感で避け、或いはオーラで往なしながら、八咫は荒ぶる山神達を陽の力で払い清め続けた。


「はァーん? さすがに壮観すぎて、俺様ちゃんもガタブルじゃんよ」
 ひの、ふの、沢山。
 最後衛で戦場の様子を窺っていていたジンガは大仰に『お手上げ』のジェスチャーをした。
「山が丸ごとひとつ? わー、景気良く燃えそ。というかもう既に結構燃えてるし……うん。こいつらの相手は僕たちがしなきゃね」
 考えることは皆同じかと燃える山を見て未夜は頷く。緑が6に赤が4。これでもまだまだ火の手は足りなさそうだ。
「実は俺様ちゃんガチのマジでチキンだから、本当にもう足の震えは止まらないし、歯の根もガチガチ言ってるし、お気にのコートは絶対手放せないし」
「それもしかして普通に寒がってるだけだよね?」
「いやいやいやそんなことないじゃんガチビビりじゃん? と言うか、そういう未夜ちゃんはどうなのよ」
 質問からの逆質問。
「……や、僕だって普通にこわいけど……でも、だって、るり遥もジンガもいるし……僕だけ尻尾丸める訳にいかないでしょ……それに、パラディンのお姉さんたち連れて来たの、僕だから」
 ぺたんと狐耳を寝かせ、気持ち小さく背を丸める未夜。ジンガがそんな未夜の黒髪をわっしゃわっしゃと遠慮無く撫でれば、
「……あら、カワいい反応しちゃってまァ」
「……ノーコメント」
 未夜の尻尾は元気良く、右へ左へふわりと揺れた。
「俺も怖えんだけど、あれ、おかしいな。優しくない俺に切り替わらない」
 ワイヤレスイヤフォンを強く耳に押し当て、るり遥は『優しくない自分』が好きなジャンルをシャッフルする。音楽はるり遥の人格が変わるトリガーだ。しかしいくら音楽を変えてみても、何故か『優しくない自分』は出てこない。
 何故だろう。眼を瞑り、腕を組み、じっくり考えようとしてみても、イヤフォンを貫通して届く未夜とジンガのやり取りが――。
(「ああ。そうか」)
 きっと。友人達が近くに居て安心しているからなのだろう。これは『勇気のない』自分にとっての小さな兆しなのかもしれない。
 ――と、話的には奇麗に纏められても、今この状況で『優しくない自分』が出てこないのは、
「あんま良くねえなあ!!?」
「おっ! るり遥ちゃんもめちゃ気合入ってるじゃん。まァ、こんだけ居りゃなんとかなるっしょ!」
 ジンガは息を吐き出し体を解し、準備運動がてら二刀一対のダガーを両掌中でスピンさせ、短時間で戦闘態勢を整えると、まるで近所のコンビニに行くかのような気軽さで敵陣へ突撃する。
「ジンガ殿が征くか。俺達も負けてはおれんな!」
「ああ。今こそ一宿一飯の恩義に報いる時!」
 いきなり誰だ。いや。ジンガが酒場で奢った連中か。ジンガすら知らないところで何故だか武侠的展開が進んでいた。まぁ、気合があるのは良い事なので放っておこう。
「さあ。僕たちもそろそろ動き出さないとね」
 火生土。狐は土、黒は水。玄狐ノ性今回が魅せるのは、火が燈る、百の破魔矢。
 未夜は矢にさらなる力を込める。火を炎に、破魔の効果を増幅し、より精密に狙いを絞り、援護射撃として広範囲に打ち出された炎の雨は、それぞれが物理的な法則を無視した軌道を描き蒼穹を染め、、山神達を焦熱へと誘う。
 燃える大木。乾く雪。それでも山神は同胞の骸を踏み越え、火矢の弧の起点を探り出すと、未夜への進撃を開始する。
 未夜にとって、それは望む所だ。誘惑、催眠、あらゆる手段を使って此方に引き付けることが出来たなら、他者に対する攻めの隙が良まれる――時間稼ぎも成せるだろう。
 もっと。もっと。数多く。こちらに殺意を向ければいい。
「だが、それを独りでやろうとするのはつれないな」
「パラディンのお姉さんたち……」
 パラディン達は陣を組み、その身そのものを盾として、山神達の魔手から未夜を護る。
「心配無用だ。君たちほどの力は無かろうと、これ位は凌いで見せる……実を言うと結構ギリギリだが、それでもだ。君の仕事を、少しだけ手伝わせてくれ」
「……わかった」
 山神から身を躱す必要がなくなった数手分の余裕。その間に未夜は数百本の矢を量産し、空へと撃ち出した。

「強いなぁ、あんたら。俺達もちっとは名うてのつもりだったが。まぁ……上には上がいるもんだ。正直ヘコむぜ」
 放蕩家のアーチャー達が矢を射かけながらそう言うが、その評価を、胸を張って受け取る『勇気』は『今』のるり遥には無い。けれども勇気がないなりに、称賛に浸るより、自己を誇るより、まずは成さねばならぬ事がある。
 敵をクレリックたちには近づけさせない。戦場全域をひたすらよく観察し。追い込まれた仲間を的確に支援する。
「木が勝手に動き回るなよ! 伐採されたかないだろ!!」
 がなり声で嘲笑侮蔑を言語化し続ける事により、視線で相手を射竦めて、殺す。『勇気のない』自分が誰かに眼(ガン)を飛ばすなどそれこそ『ナンセンス』甚だしいのかもしれないが、手段を選んでいる暇はない。
 山神が迫る。地形を破壊するほどの力を秘めた地団駄が、目鼻のすぐ先に落ちてきた。ひしゃげる大地、見下ろす山神。それでも眼と口は閉じてやらない。
「こののろま! そんな一手で傷つけられると思うなよ!」
 侮蔑と視線に射抜かれた山神は心砕かれたようにその場へ倒れ伏す。
 唾液を呑み込んだ。ひどく喉が渇く。それでも声の限りひたすら叫び紡ぎ、周囲の巨木全てを精神的にへし折った後、未夜達に集る山神達を一体一体丁寧な罵倒と侮蔑で剥がしていく。
「木が神を気取るなよ! 壊すしか能がないなら、大人しく酸素だけ吐いてろ!」
 友には手を出させない。最大級の言霊を篭めた視線は山神の心を破滅させ、さらに未夜が矢の在庫を一気に撃ち尽くし、物理的な意味でも完全焼滅させる。
 最後衛の敵は片付いた。それでもまだ緑は絶えず、ジンガは未だ帰らない。だから最後の仕上げに息を吸って、声高く、るり遥は大きな大きな『独白』をぶち上げた。
「本当は誰も、傷付かなくて良いはずだろ!!!!」
 世界への不満を言葉とする事で、強制的に猟兵へそれを打破する力を与えるその独白。 
 代償に、叫び終えたるり遥の体は猛毒に冒される筈だったが、
「そうですね。全くその通りだと思います。だから貴方の体を蝕む毒は、せめて私達に任せてください」
 クレリック達が二人がかりで解毒して、消し去った。続けて喉の治癒に入ろうとした彼女らは、るり遥の元へ歩く未夜の手元を見、
「私達の手は必要なさそうですね。一番よく効く『特効薬』を持っているようですから」
「……やっぱり君たちちょっとずれてるね。あれは単なるのど飴だ。」
 でも。そうだな。確かに。
「……喉にはあれが、一番よく効きそうだ」

「あー、るり遥ちゃんの声、よォく聞こえるわァ。確かに受け取ったぜ。こりゃ、俺様ちゃんも怖いとか言ってらンねーわ。だって……」
 ひ、ひ、ひ。ジンガは零れ出る笑みを噛み殺し、山神達を切り裂いた。
『ガタブル』なんて本音を冗談交じりとは言え良く告白したものだと思う。もし一月前の自分に現在の状況をネタバレしたら何と言うだろうか。
 前方から大質量の木塊拳が迫る。ジンガは丁度背後に居た山神を盾にして同士討ちさせると、ばらけた巨木によじ登り、
「そう言う事だから、俺様ちゃんこんなところで油を売ってるわけにはいかないワケよ。だからまぁ、全力ダッシュでオサラバするじゃん?」
 頂点から跳躍してその場を離れる。取り敢えず、先程ちらと孤立しているフェアリーを見かけた。まずは彼女達を拾う。
「……かくし芸大会的に俺様ちゃん空中でナイフ投げを披露して!」
 ジンガの投擲した2本のナイフがフェアリーを掌握しようと蠢いていた山神に命中し、
「適当に引き抜いた後返す刀でもう一匹の両腕をぶった斬り!」
 ついでに脚も両方切り裂いて、
「すると女のコのピンチを颯爽カッコよく救った俺様ちゃんに黄色い歓声が巻き起こ」
「いえカッコよくても同業はちょっと」
「らないワケよ! 俺様マジで大ショック!」
 吐き出した言葉とは裏腹に、然して気にした様子も無く、まァいいか、と雑に取り出したソードオフ・ショットガンの銃口を山神に向ける。
「妖精ちゃんたち、撃ち落されたくなければ俺様ちゃんの後ろに隠れてなァ。今のこいつの引き金は、俺様ちゃんの口より軽いし、何より――」
 こいつらの命の万倍軽い。
「ヤマガミだかチリガミだかしんねーけど、つまり木だろ、木! 俺様ちゃんの断りなしに俺様ちゃんの前塞いだ時点で情状酌量の余地なしじゃん?」
 ショットガンを乱射して、ジンガとフェアリーたちは敵陣の背後から奇襲を掛けつつ、未夜達との合流を目指す。一片たりとも負ける気がしない。
(「だって、友達が一緒だもんなァ……!」)
 雪を除け、森を蹴散らし、斜面を滑り、そしてジンガは友人達と合流する。

「ん。ジンガ、おかえり」
「おかえりー」
「――。……あァ。ただいま!」


「木。木、かぁ……あんまり、栄養なさげ。野菜……嫌い……」
 グウェンドリン・グレンジャー(NEVERMORE・f00712)は山神を見上げ、大きく嘆息する。一目見る限り、果実の類も無いらしい。
「おじ、さん、達、下がって……危ない、から。あんまり、近いと……間違えて、たべちゃう、かも」
「そいつはいけねぇ……さっさと下がるぜ。お嬢ちゃんみたいな子に酒と不養生に浸った体、食わせる訳には行かねぇもんな!」
 どこまで本気なのか判別がつかないが、退いてくれるならそれでいい。
 グウェンドリンは腰部から、濡れ羽の色のウィングブレードを展開すると、山神達の無骨な掌をするり通り抜け、空へ跳ぶ。
「……刻印限定解除……今から私は凶鳥になる」
 伸ばした拳も、地形を変える地団駄も、地を揺らす地震も、全て空までは届かない。
 彼らが空を自在に駆けるには、余りにも鈍重。。
「あら、先客、さん……良け、れば、一緒に……どう?」
 大空にあってもう一つの陽、グウェンドリンは八咫の大烏に声をかけた。大烏はグウェンドリンの周囲を旋回し、そして地上を睨めつける。了承のサインだろう。
「それ、じゃあ、いく、よ……!」
 グウェンドリンは大烏の放つ眩い陽光を背に急降下する。今この瞬間より、蒼穹全ては純白の死角に変じる。
「全部、喰って、あげる……」
 それは黒鳥たちの饗宴だ。山神達の頂に、グウェンドリンは超高速で捨て身のブレードを刻み付けると、金の瞳を爛々に輝かせ、割り開いた洞から生命力を奪い取った。
 葉が枯れやせ衰えた山神が、大烏の陽光に抗う術を持ち得るはずもなく。灰となって地に還る。
 ただ一度の収穫では終わらない。空が白に輝く限り饗宴は続き、グウェンドリンは山神を思うさま捕食する。
「荒、ぶる神……に、似た何か、なら、こっち、だって……負けて、ない」
 終に空が青の色を取り戻した時。山神の姿は消失し、その存在を示す痕跡は、彼らが雪原につけた足跡だけだった。


「嗚呼、なんてこと……やっと思う存分遊べそうと、そう思っておりましたのに……」
 大太刀・墨染、それを携えそろそろと、エリシャは落胆しつつも風雅に山神の森を散策する。
 未だ空は青けれど、大烏――二つ目の陽が沈み、此処から先は宵の領域。
 迷い子の如き彷徨が、うっすら狂を引き連れて山神達へ接触すると、刹那。
「この神様方、」
 紅い花が咲き乱れ、
「首が、」
 闇が走り、
「ないではありませんの!」
 九十の剣閃が瞬く。
 咲いた紅花が冬の風にさらわれ散ると同時、山神達の命もまた潰え、最早故の無い木塊だけが雪原に転がった。
「これより先の御首に期待するしかありませんわね……早いところ駆け抜けてしまいましょう」
 エリシャは首を斬ることなく、しかし黒(いろ)だけがより深くなった墨染を見遣った。

「みたか? あの娘滅茶苦茶凄腕じゃないか……」
「と言うか冷静に考えたら俺達手本になる様なもん一切持ってねぇ……駄目な大人だ……」
「ああ。むしろこっちが教えて欲しいくらいだ……」
 彼我の実力差に消沈する男たち。これでは再び酒浸りの日々にカムバックしてしまうのもむべなるかな。と思いきや、
「さあ、冒険者様方! かっこいいところを見せてくださるのでしょう? 私、期待しておりますから……ね?」
 エリシャがぱちんとウィンクして、一言いい感じに鼓舞すれば、
「いや! いいや! まて! あんな若い子に戦わせるだけ戦わせてみているだけなんて何が冒険者だ!」
「ああ!」
「一花咲かせようぜ俺達も!」
 何やら気力が満ち満ちて、勢いのまま山神を倒しにかかるのだから、エールって大事なものである。
 ……酷く単純だが、彼らも腕利きの冒険者。そう簡単にやられたりはしないだろう。

 散華繚乱煌かせ、エリシャは雪の海原を行く。
 初遭遇時を考えれば、山神の数はかなり減じたが、それでも一柱ずつ相手にするのは骨が折れる。何かうまい手は無いだろうか。
(「そうね……雪崩を狙って一掃できないかしら?」)
 皆の陽光や炎によって温められた地表。大木たちが引き起こす地震。戦闘により激変した地形。
 ――行けるかもしれない。
 エリシャは山の中でも特に急な傾斜となっている地帯へ山神達を撃破しつつ誘導し、
 犇めく掌を斬り払い、地団駄を躱し、ただ只管にその時を待ち、そして――。
「今ですわ! 皆さん退避を!」
 時は来る。山神達が地を震わせたその瞬間、雪崩が迫るその刹那、エリシャは『宙に跳び退いて』、それらすべてをやり過ごす。山神達は真白の波濤に飲み込まれ、その大半が二度と起き上がっては来なかった。
「ありがとうございます。本当に、間一髪でしたわ……」
「お安い、御用。空を、とぶのは、得意だから……」
 空をとび、エリシャを助けたグウェンドリンはそのまま上空から雪崩跡を眺め、まだ息のある……雪原から顔を出した山神達に漆黒の羽を容赦なく打ち込み、幽か有った彼らの息の根を完全に止める。


 討伐隊の奮闘で、山一つを埋め尽くしていた山神達は、そのおよそ8割が朽ち果てた。
 もうあと少しで殲滅できる。冒険者達が勝利を確信した瞬刻。
 
 ふわり。と。
 竜胆の花びらが。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『息吹の竜『グラスアボラス』』

POW   :    フラワリングブレス
【吐き出された息吹 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【咲き乱れるフラワーカッター】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ガーデン・オブ・ゲンティアナ
自身の装備武器を無数の【竜胆 】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    フラワーフィールド
【吐き出された息吹 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を花畑で埋め】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ナイツ・ディンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※三章冒頭文章日曜更新予定
●総力戦
 無数の竜胆が戦場に吹雪く。季節外れの花嵐。幻想的な光景はしかしどこまでも残酷で、花びら一つ散る度に、冒険者達の血飛沫が舞う。
 やがて花びらたちは一所に結集し、強靭無類の『武器』を創る。その貌(かたち)こそが息吹の竜――グラスアボラス。
 雪原が融けた。春風の如き温かさを孕んだ息吹は、真白の戦場を命満ち溢れる花畑に塗り替える。
 咲き誇る花々。
 雲一つない澄んだ蒼穹。
 人の営みから隔絶された静謐。
 ああ――これこそまさに極楽景。
 花竜が吼え、冒険者達はそれに刃で応える。だが、先制に弓兵達の放った矢は息吹が巻き起こす刃花に落とされ、バーバリアンとシーフ達が四方を取り囲み振り下ろした斧・槌・ナイフは、花竜の鱗に接触する事無く空を切る。花竜が寸前、再びその身を無数の花びらに変じたのだ。花びらはパラディン達の大盾を易々打ち破り、クレリック達は負傷者を癒し如何にか戦線を立て直す。しかし、花竜相手に何時までそれが続けられるか。山神達とて、未だ二割が健在だ。
「……へっ。天国の景色を作る竜に、それを護る神様かい。これじゃどっちが悪者なんだか知れたもんじゃねぇや」
 冒険者達のリーダーがそう零す。
 竜と神々から討伐隊に向けられる殺意。この極楽景に、生きている人間の存在は許されない。そしてこの天国を放置すれば、いずれ街を飲み込むだろう。
 だから退けない。街を、其処に生きる人々を守るためには、この天国を踏み躙り破壊するしかないのだ。
「……何より、ツケが溜まったまま死んじまったら婆ァに殺される。こいつらも怖いが、そっちの方が万倍恐ろしいぜ」
 改めて、冒険者達は武器を取る。
「猟兵! 役割分担だ。邪魔な大木どもは残らず全部冒険者(こっち)で引き受ける。心配すんな。やつらの攻撃一手たりともお前達には届かせねえ!」
 例え竜に及ばずとも、やるべき事はあるのだから。

「だから……竜を頼んだ。押し付けちまって悪いが、お前達の実力なら多分、いいや絶対勝てるだろうさ! お互い生きて帰ろうぜ!」
ベルゼドラ・アインシュタイン
はんっ、人の世を脅かす天国なんていらねぇんだよ
竜胆の花言葉は確か「苦しむあなたが好き」だったか
けったいな話だな

地面に広がる花畑やフラワーカッター等は
【ベルゼブブの鉄槌】で片っ端から燃やしていく
まぁブレスを躱しきるのはダルいから多少の怪我は気にしなきゃいい

本体に近付く為に拷問具を振り回し盾代わりにしながら押し進もうか

近付くことができればダガーに持ち替えて
【怪力】を乗せながら【2回攻撃】しつつ【傷口をえぐる】

皆のダメージが蓄積された頃に【暗殺】が決めれれば良いが、まぁそう上手くは行かないだろうさ

ひとまず怯ませる位には攻撃を与えれりゃ良いかね

これが終わったら、酒場に戻って浴びるほど酒飲んでおきてぇな


グウェンドリン・グレンジャー
……綺麗
こんな、に、綺麗な……もの、壊す、私……きっと、きたない
きれいはきたない、きたないはきれい

私は、あのきれいな竜と、山の神様、の掃討。
竜に近寄って、竜を中心にするように、Feather Rainで19m以内の、神様を、攻撃。
Black Tailを巻きつかせるように竜の出っ張りを掴んで接近。
捨て身の一撃で、MórríganとBlack Tailを突き刺して、生命力吸収と属性攻撃……炎を乗せる。
ダメージは、激痛耐性で対処。

花畑、炎属性……乗せた、Feather Rainで、燃やす。
おねがい、魔力を、頂戴、HEAVEN'S DRIVE……この世界に、火を、つけて。

※アドリブ、絡み歓迎


千桜・エリシャ
あらあら、出会った頃のやる気の無さが嘘のように気概に満ち溢れて……
では、そちらは冒険者様方へお任せしますわね
ええ、お互い生きてまた会いましょう
約束ですわよ?
破ったら私泣いちゃいますから……

それにしてもなんて美しいところなのかしら!
爛漫の花畑に首がある可愛らしいドラゴンさん――
舞台は十分に整ったというわけですわね
では遠慮なく……
御首をいただきに参りましょうか

先制攻撃でこちらへ攻撃する隙は与えず
相手に隙を見つけたら2回攻撃で畳み掛けましょう
敵の攻撃は花時雨を開いでオーラ防御か見切りで回避しますわ

私、美しいものを壊すのも好きですの
だって桜は散り際も美しいでしょう?
だからこの景色もきっと――格別ですわ




 地を震わせる冒険者達の気迫(こえ)。大木を狩る武器の一撃(おと)。静寂を湛えていた極楽景に吹き荒ぶのは、侵掠の黒風。
「あらあら、出会った頃のやる気の無さが嘘のように気概に満ち溢れて……では、そちらは冒険者様方へお任せしますわね」
 人と山神が激しくぶつかり合う鉄火場の真っ只中で、エリシャが朗らかそう会釈をすると、冒険者達は血と汗と泥と苦境に塗れながらも暑苦しい笑みで応えた。若干彼らの笑顔が引き攣っている気もしたが、
「――ええ、お互い生きてまた会いましょう。約束ですわよ? 破ったら私泣いちゃいますから……」

「……おい。まさか彼女の泣き顔見たさに、此処でくたばっちまおうなんて馬鹿は居ないよな?」
「大丈夫だ。さっき少しばかり死んだおふくろが手ぇ振ってる姿が見えたが、なぁに大したことはねぇ」
「ああ。要は最後に立っていた方の勝ちだろ。痩せ我慢なら動く木よりよりもこっちの方に分があるってもんだ!」
 強がりを言って見せるだけの余裕はあるようだ。
 ならばこれ以上彼らの優勢劣勢は気にすまい。エリシャは大太刀・墨染の鯉口を切り、一歩と二歩と天国に己の足跡を刻む。

「ああ――それにしてもなんて美しいところなのかしら!」
 季節というくびきから解かれた爛漫の花畑。寒気一つ混ざらない心地良き微風。そして何より、確りと『首』を持つとても愛らしい花竜。舞台は充分整った。
 故にエリシャは抜き放った刃に狂を乗せて遠慮なく……。
「その御首、いただきに参りました」
 紅の花舞う散華繚乱。墨染が繰り出す一閃目から九十五閃目が放たれるはずだった竜の息吹(ブレス)に先んじて瞬き、九十六から百九十閃目の斬撃は竜胆に変じようとする敵の挙動を封じ込める。
 三手目にしてようやく動き出すことのできた花竜は、目鼻の先から刃花吹雪く息吹をエリシャへ見舞う。が、エリシャは和傘・花時雨を開き、事も無げにオーラを奔らせ弾いて見せた。
「私、美しいものを壊すのも好きですの。だって桜は散り際も美しいでしょう?」
 くるくる回る花時雨のその奥で、墨染の形が無数の桜花へとほどけゆく。

「だからこの景色もきっと――格別ですわ」
 蕩けて、溺れて、夢の涯。
 墨染に咲く蠱惑の桜花が竜胆の化身を包み、乱れ咲いた。


「……綺麗」
 花竜が作り上げた世界に、グウェンドリンは思わず感嘆の声を漏らす。この楽園を穢さなければ人の営みは守れない。そう理解しているが、それでも酷く――冒涜的な感情が心の裡で渦を巻く。
「こんな、に、綺麗な……もの、壊す、私……きっと、きたない……きれいはきたない、きたないは、きれい」
 目を瞑り、開き、意を決したグウェンドリンは黒翼を広げ羽搏いた。地を彩る花々の色彩も、天を染める蒼の色も、夢魔の翼は全てを覆い空を駆ける。
 目指すはエリシャが作り上げた桜花嵐の中心部。グウェンドリンはウィングブレード下部、長い尾羽根にもよく似た黒い生体ウィップを伸ばし、竜の背にそびえる突起へ巻き付けて、尾先に導かれるまま肉薄した。
 竜の巨躯に取りついたグウェンドリンがそのまま鱗を黒翼黒尾で刺し貫いた。竜は苦悶の吐息と共にのたうち、如何にかグウェンドリンを振り落とそうと暴れ出す。
 だが、暴れるたびにグウェンドリンの尾と翼は竜の躰を深く抉り、彼女の捨て身を悟った花竜は、自前の翼を竜胆の花びらに変え、竜胆はは全方位からグウェンドリンを苛んだ。
 竜胆がもたらす激痛に、吸収した相手の生命力で自身を癒しつつ耐え凌ぎ、グウェンドリンは一時翼を竜の躰から離陸させ、漆黒の羽を周囲に撃ち出した。驟雨の如き羽達は花畑へ降り注ぎ、射程内に存在する山神達の胴部へめり込む。
「おねがい、魔力を、頂戴、HEAVEN'S DRIVE……この世界に、火を、つけて」
 殺意持つ竜胆に曝されて、早鐘打つ心臓が巡らせるのは迸る赤の色。
 降り注いだ羽が、竜の躰に突き立てた尾が、竜の命を啜る翼が――一斉に炎を纏い、全てを焼き尽くす。
 山神は炭となり、天国は灰に還り、そして花竜は火の海に佇む。
 花竜が息吹を吐き出せば、この炎すら即座花に成るのだろう。
 燎原へ舞い散る残花が桜一つである内に……グウェンドリンは零距離からありったけの黒羽を竜へ叩き込んだ。


「はんっ、人の世を脅かす天国なんていらねぇんだよ」
 元より咎を背負った咎殺し。今更天国一つ潰そうが、大した箔も付きはすまい。
 そんな言葉に反応したか、花竜は柔らかな息吹に乗せた刃花をベルゼドラへ差し向ける。
「悪いが、仮に人間が不要な存在だとか上から目線で説教されても、はいそうですかと諾々懺悔するほど聞き分けの出来た人間じゃなくてな」
 ベルゼドラは指を鳴らして蝿の王を召喚すると、刃花含め視界に写る全てを片端から業火球で焼却し始める。
 しかしこのままではベルゼブブが作った焼野原を花竜のブレスが癒し、刃花を孕む花竜のブレスをベルゼブブの鉄槌が粛清する終わりなき千日手。
 業火を逃れた刃花の一枚が、ベルゼドラの頬を掠めた。
「竜胆の花言葉は確か……『苦しむあなたが好き』、だったか。けったいな話だな」
 頬の血を拭った指先で、処刑道具の長鎖に触れる。微睡む三日月たちを叩き起こすにはそれで十分だった。
 盾の代わりに処刑道具を振り回し、ベルゼドラは花竜へと押し進む。刃花の軌道は全て見切った。三日月達で斬り払えるものは切り払い、そうでないものはどうもしない。たかが数枚の花弁を避ける為に大仰に動き回るのも億劫だ。ある程度のダメージを敢えて覚悟し、ベルゼドラは最短経路で花竜に迫る。
 飛び掛かればダガーのリーチでも十分殺れる距離まで近付いた刹那。ベルゼドラは気配を消してグウェンドリンの強襲とエリシャの閃撃に紛れ込む。竜の両眼が二人に奪われているその隙に背後へ回り込み、携えたダガーに最大級の怪力を乗せて抉り斬った。
 間髪入れず初撃で出来た傷口を、第二撃目で更に抉り、心の臓腑まで切り裂いて一息に暗殺するつもりだったが――竜は絶叫を上げて怯みはしたものの、『予想通り』、そこまで上手くはいかなかった。
「あら……抜け駆けはずるいですわ」
「私も、まだまだ……たべ、たり、ない」
 エリシャとグウェンドリンの小さな抗議にごめんなさいと表の顔で謝罪して、ベルゼドラは花竜を観る。
 暗殺には失敗したが、ダメージの蓄積を隠し切れなくなったのだろう、猟兵(なかま)うちで竜を相手にしながら二言三言で交わせる程度の傷(よゆう)は開いた。後は精々、後続がうまく利用してくれればいい。
 
(「……これが終わったら、酒場に戻って浴びるほど酒飲んでおきてぇな」)
 ベルゼドラは嘆息する。そろそろ酒と酒場が恋しくなってきた。
 竜が作る天国は……どうにも静かで清廉すぎる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六島・椋
こういうのを一般に「綺麗」というんだろうね
多くの色が景色の中にある。自分からすればそれだけだけど
それよりドラゴンの骨格を調査したい
終わったら骨を連れていきたい……駄目かな

引き続きオボロとダガーで応戦
降りてきたところを狙ったり、オボロを投げて攻撃してもらったり

エスタ(f01818)が言い終わる前に既に【騎乗】
あーいきゃーんふらーい
迎撃されそうになったらオペラツィオン・マカブル
オボロが共にいてくれるんだ、恐れも何もない
投げられた勢いに【怪力】を加えて、オボロとの【二回攻撃】
狙えるなら翼を、更に行けそうなら目も

落ちる時はオボロを抱えて
極楽鳥の気分がわかったかもしれない
まだ相手が飛んでたら再度頼むかな


エスタシュ・ロックドア
はっ、焼いて灰になるくれぇなら天国でもなんでもねぇ
すぐ地獄絵図にしてやらぁ
行くぜ、椋(f01816)
……やめとけ、竜骨は競争率やべぇわ

ブレイズフレイムで燃えたままフリントで斬りかかるぜ
けど相手は飛び回ってんだよなぁ

「くっそ軽々跳び回りやがって
よし、乗れ椋!
あの野郎に吠え面かかせてやれ!」
椋をシンディーちゃんに乗せて一旦距離を稼ぐ
そしたらゴッドスピードライド発動
敵に向かって一直線だ
最高速に達した所で椋をフリントに乗せて、
【怪力】を使って敵に向けて【吹き飛ばし】だ
椋が空中戦終えて落下し始めたら着地点に急行して受け止めるわ

「うっし、オボロちゃんも無事か。
空を飛ぶ気分はどうだぁ椋、もっかい行くか?」




「こういうのを一般に『綺麗』というんだろうね。多くの色が景色の中にある……自分からすればそれだけだけど」
 幾度消失しようとも、尚咲き誇る花畑。誰もが満ちる生(いのち)に思いを馳せるその場所で、骨格人形・オボロは踊る。
 何処が舞台であったとて、オボロを繰る椋の五指は鈍らない。伸びる繰り糸が陽の光を浴びきらと輝くと、色の無いオボロの蹴撃が花竜の胴を揺さぶった。
「はっ、焼いて灰になるくれぇなら天国でもなんでもねぇ。すぐ地獄絵図にしてやらぁ! 行くぜ、椋!」
 全身を紅蓮の炎で武装したエスタシュは、灼熱する鉄塊剣・フリントを大振りに、周辺の花々諸共花竜を薙ぐ。
 燃え尽きた花弁が地に落ちるより早く、花竜の息吹が焼け野を癒す。が、黒羽の炎、業火の鉄槌、そしてエスタシュの地獄に焼かれ続けた天国は、じりじりと狭まりつつあった。
「――自分的にはドラゴンの骨格を調査したい。終わったら骨を連れていきたいんだけど……駄目かな」
 言って、椋はほんの数秒前まで自身が振るっていた刃を見る。
 エスタシュの炎剣に続いて竜の鱗を裂いたダガー。丁寧な手入れのお陰でその刀身には刃毀れ無く、そして小さな竜胆の花弁が数枚へばり付いているものの、『不思議なことに血液は一滴たりとも付着していない』。恐らく、エリシャの持つ墨染の刀身もそうだろう。
「……やめとけ、竜骨は競争率やべぇわ」
 エスタシュが花竜へ炎剣を振り下ろす。しかし斬穫出来たのは花畑と大地のみ。花竜はその身を花弁に転じ拡散し、二人を攻撃しつつ空へ逃れた。
「くっそ、軽々跳び回りやがって!」
 元の形に戻った竜を睨みつけ、エスタシュは指笛を吹く。すると戦場外に待機していた宇宙バイク・シンディーちゃんが起動して轟とジェットエンジンを噴かせると、排気孔から炎を巻き上げエスタシュの元へと駆けつけた。
「よし、乗れ椋! あの野郎に」
 走るシンディーちゃんに飛び乗って、エスタシュは椋の姿を探すが、
「もう乗ってるよ」
「早ぇよ!? こういうのは段取りってもんがだな……」
「まぁまぁ。シンディーちゃん程じゃないよ。それにもっとスピード……出せるんだろう?」
「……ああ。行くぞ。ビビッて落っこちんなよ!」
 エスタシュは一旦天国を背に離脱する。シンディーちゃんの足ならばこのまま逃げ切れるだろうが、そんなつもりは毛頭ない。
 花畑から十分な距離を稼いだエスタシュは、シンディーちゃんをターンさせると同時、一直線に加速する。
 人がマシンに応えるのか、マシンが人に応えるのか。いずれにせよ『人機一体』は揺ぎ無く。シンディーちゃんを変形させたエスタシュは、全速を超えた全速で花畑を疾走し、青の双眸に花竜を捉える。
 シンディーちゃんの最高速度を維持しつつ、エスタシュはフリントを水平に広げ、二度三度と小さく上下させた。
 その合図を察した椋がオボロと共にフリントの分厚い剣身へ移動するや否や、エスタシュは、
「行くぞ椋! これからお前をぶっ飛ばす! あの野郎に吠え面かかせてやれ!」
 膂力の思い切りフリントスイングし、カタパルトよろしく椋を花竜目掛けて『射出』した。
「あーいきゃーんふらーい」
 射ちだされた椋は空を飛び、オボロと一緒にエスタシュの超高速を引き継いで竜へと迫れば、花竜は飛来する椋を迎撃しようと息吹を吐き出し花弁の弾幕を形成した。
「オボロが共にいてくれるんだ、恐れも何もない」
 脱力状態で弾幕に突っ込んだ椋は、まるで透過するように受けた息吹の全てをオボロから排出し、無傷で突破する。後はただ、ぶつかるだけだ。
 花竜に衝突した椋とオボロはそのまま怪力を頼りに両翼を挟撃する。速度の加護があったのはそこまでだ。
 速度を喪った椋はオボロを抱え自由落下するも、それを目視したエスタシュはいち早くシンディーちゃんを駆り、危なげなく椋を受け止める。
「うっし、オボロちゃんも無事か。空を飛ぶ気分はどうだぁ、椋」
「……極楽鳥の気分がわかったかもしれない」
 オボロの白い掌には、竜胆の大きな花弁一枚。
 ……もしかするとこれが竜を構成する『骨』の一片なのだろうか。何処か不思議な力を感じる。
「そいつぁ結構! だが野郎はまだ空を飛んでるぜ? もっかい行く……」
「もう一回行こう。エスタ。ほら、アクセル全開だ」
「だから早ぇって!」
 有無も言わさずシンディーちゃんへ乗り込んだ椋に、エスタシュは悪態を付きながらも豪快に笑い……再びアクセルを回した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
【ジンガ、るり遥】

空気がビリビリ震えるような威圧感がこわい
でも、友達が怪我する方がもっともっとこわい
それに、お姉さんたち、無事に帰さなきゃ

みんな燃えちゃえ!
火矢を【属性攻撃】で強化
【誘惑】【催眠術】で避けられ辛く、
【誘導弾】【操縦】【援護射撃】【範囲攻撃】で様々な軌道を
息吹は【第六感】で感知して退避
2人に危険があれば弾幕で少しでも緩和を【祈り】

僕にとっては、大事なひとがいる場所が楽園だ
帰る場所が、楽園だ
だから、お前の作る世界なんか要らないよ
僕の世界には、僕の大事な人たちがいて欲しい
僕だけの世界じゃなくていいから、友達にいて欲しい
だから、これが終わったら

「団地においでよ」

って、ジンガに言うんだ


松本・るり遥
ジンガ、未夜】

ああ
視ろ俺
怯える時間だ

流すサウンドは、『俺』に固定するためのパワーコードと疾走感
空気が澄んでる
喉に良いな
目立たぬよう隠れ、静かに待つ

世界に拒絶されているのが解る
俺はいてはいけない
けど

『斬られろ』
震える
掠れる
怖い
出せる限り叫んだ
繰り返し吼える
『斬られろ、燃えろ、ここは人間様の領域だ!!!』
こんなに綺麗なのにな
『お前を阻む俺たちは害悪な人間だろうなあ!!人間の傲慢さに切り刻まれろ花束野郎!!!』
花への霧散を食い止め続けるBAN
俺が怯える限り、逃がさねえ

息切れしてる場合じゃ
怪我してる場合じゃねえぞ
傷を癒せImmortal
『生きて!!!帰るぞ!!!!!』

おかえり程度で
嬉しそうにしやがって


ジンガ・ジンガ
※るり遥、未夜

おかえり、も
ただいま、も
どンぐらいぶりよ、マジ
根無し草には過ぎた言葉だわ

【目立たない】よう他の猟兵を利用し【だまし討ち】
【フェイント】をかけ
花弁に身を転じたら元に戻った瞬間に【2回攻撃】
息吹は前兆を【見切り】【ダッシュ】で【逃げ足】
急所は死守

己の身体から生命が流れ出る度
世界の音が聞こえなくなる
心を埋めるは、生への渇望ただ一つ
この叫びは醜いか
汚いか
卑しいか
楽園にはそぐわないか

ンなモン知るかよ、クソッタレ
天国なんていらねェんだよ
俺様ちゃんが生きられない場所が極楽なワケねェだろ
アタマん中までお花畑かよ、クソドラゴン

このシゴトがまだ続けばいいのに、とか
柄にもないこと思ったなんて
絶対ヒミツ


多々羅・赤銅
はーん。困ったもんだなこりゃ。
ま。準備運動がてら、よくよく刀を回したならば。

斬ってみせよう 戦花

【激痛耐性】【かばう】で先陣。前に出、注ぐ花びらを、《羅刹旋風》の戦闘力増強と【怪力】も重ねた風圧で吹き飛ばす。刻まれた血も、それは私の《祈酒》。辺りに散って、他者の傷を癒せば儲けもんだ。
あの巨体を斬るにゃあ早かろう。やつがその身を花弁に変えた時、その花弁を斬って、斬って、ぢりぢりよ。これがお前の肉体の一部なら、痛えだろ?そうだろう?私も痛えな、この辺は我慢比べだなぁ!!!

時が満ちれば見えるだろう
私の命を斬る者としての感が告げるだろう
あそこを斬れば殺せると

悪いな
この縄張り争い、人間様の勝ちなんだわ


ジン・エラー
誰が言ったよ『天国竜』!!
何やってンだよ『護神木』!!
あァ、あァ、
其は綺麗だ
其は理想だ
其は天国だ
違いねェ
違いねェ〜〜けどよ〜〜〜ォ

ンなのはあり得ねェーンだ
天国ってのは、この世にねェーから天国なのさ

つゥーワケで救いに来たぜ冒険者諸君よォ〜〜〜〜
へばってンのか?ンなワケねェなァ!!
【光】をくれてやるよ
お前らの次は、あのクソ竜だ

おうおうおうおう
随分綺麗なモンを魅せてくれてンなァ?オイ
現実離れしてるぜ
そォーさ、"現実じゃねェ"
だが【オレの救い】は現実だ

幻想の天国に、現実の救い
どっちが真実か?

決まってるよなァ




 竜が落ちる。椋とエスタシュの連携で、翼を破られ左眼を無くし、空に留まっていられなくなったのだ。
 しかし跳ぶことは出来るだろう、花を生み出すことも出来るだろう。傷だらけの花竜は、それでも未だ健在だった。
「はーん。困ったもんだなこりゃ」
 赤銅は吸いかけの煙草を携帯灰皿に押し込めると、抜き身の刀を準備運動がてらくるくると玩ぶ。
「潰れた眼から零すのは、涙の如き竜胆の花弁、か。何処までも幻想(ファンタジー)だな。まぁいいさ。お前が幻想の産物であれ何であれ――斬ってみせよう、戦花」
 一ツ目同士が交差して、息吹に流され花弁は舞う。赤銅は玩んでいた刀を更に強く勢いづけて振り回し、巻き起こした風圧で花弁達を吹き飛ばす。
 その様を見て息吹では埒が明かぬと悟ったか、竜はその身全てを花弁に分かち、赤銅を取り囲んで乱舞する。
「巨体を斬るにゃあまだ早かろう。だから、ああ、それを待ってた」
 刀の柄をしかと握りしめ、赤銅は自分を刻む竜胆を、負けじと斬って、斬って、斬り散らす。
「この花弁は牙なのか? その花弁は爪なのか? 私にゃ一切見分けがつかねぇが……これがお前の肉体の一部なら、痛えだろ? そうだろう? 私も痛えな、この辺は我慢比べだなぁ!!!」
 竜胆が体に触れる度、嫌と言うほど鮮血が狂い咲くが、元より皆を庇う腹積もりでここに来た。竜の意識が自身へ向くなら激痛に耐える甲斐もあるというものだ。
 幾ら血塗れになろうとも。『時』が満ちるまで決して斃れはしない。

「安心しろよ。そんなお前に朗報だ。オレが来たからには、例え精魂尽き果てても絶対倒れさせてやんねェ!」
 荒々しい声音と同時に、それとは全く正反対の聖なる光が突如楽園を遍く照らし、赤銅の傷を塞いだ。
「誰が言ったよ『天国竜』!! 何やってンだよ『護神木』!! あァ、あァ、其は綺麗だ。其は理想だ。其は天国だ。違いねェ……違いねェ~~けどよ~~~ォ!」
 大きな救済箱(ひつぎ)を引きずって、楽園に降り立ったのはジン・エラー(救いあり・f08098)。
「ンなのはあり得ねェーンだ。天国ってのは、この世にねェーから天国なのさ」
 物騒な声と清らかな光、相反する二つの事象を纏め上げ、共存させている主は誰あろう彼に他ならない。
「つゥーワケで救いに来たぜ冒険者諸君よォ~~~~! へばってンのか?ンなワケねェなァ!! 漏れなく『光』をくれてやるよ!」
 ジンは山神と戦い続ける冒険者達を問答無用に光で癒す。直前、赤銅を治し程良く疲労したお陰で、光の効果は覿面だ。
「如何だ怪我は治ったか治ったなそれは善い! さァ……お前らの次は、あのクソ竜だ」
 ドン、と強引に救済箱を地に突き立て、ジンは花竜と相対する。
「おうおうおうおう。随分綺麗なモンを魅せてくれてンなァ? オイ。現実離れしてるぜ」
 ……全てを余さず救おうという傲慢・驕傲・不遜。
「そォーさ、"現実じゃねェ"。だが『オレの救い』は現実だ」
 傲慢は攻撃力を引き上げ、
 驕傲は耐久力に与し、
 不遜は精神力を鉄(くろがね)に変える。
 強欲に総てを掴み取り、それらを眩い聖者の輝きとして昇華させ、ジンは己の体から惜しみなく放出する。

「覚悟しろよ幻想。現実って奴を嫌って程叩き込んでやらァ!」


 腰を少々落とした程度では、背の低い花畑で隠れ果せることは出来ない。るり遥は体を花々よりもさらに低く腹這いに、息を殺し、花竜と猟兵達の闘いを視守る。
 耳に詰めたイヤフォンから聞こえるパワーコードはこれでもかと疾走感のあるミュージックを弾き語るが、それに反して小刻みに軋む指先達は裸の芋虫か。だが今はそれで良い。今はまだ視(おびえ)る時間だ。
 空気が澄んでいる。喉に取っては絶好の環境だが、ただ呼吸をするだけで空気を汚してしまうような気がした。ならばきっと、この楽園にとっては人が息を吐くことすら大罪なのだろう。
 天国に拒絶されているのが解る。自分達は此処に居てはいけない存在なのだ。
(「――けど」)
 
 目に見えるものだけが全てではない。穏やかな絶景を支配しているのは、それだけで空気を、容易く震わせようとするほどの威圧感。
 こわい。未夜の全身が総毛立つ。
(「――でも、友達が怪我する方がもっともっとこわい」)
 それに、と、未夜は山神と格闘するパラディン達をちらと見遣る。彼女らが一人も欠けていないことに、密か安堵した。
(「お姉さんたち、無事に帰さなきゃ」)
 友を、冒険者達を護るために未夜がやるべきことはただ一つ。楽園への反抗だ。
 それを知っているからこそ……未夜は百の破魔矢を創り出す。
 炎の破魔矢を更に熱し、橙色の瞳が竜の独眼を覗けば、眼を通じて催眠・誘惑の罠に填め、竜自身すら知らずのうちにその動きを鈍らせる。
「みんな燃えちゃえ!」
 放たれた百の矢はそれぞれが全て異なる軌道で蒼穹を火の色に染め、楽園の広範囲を侵し、花竜を焼き貫いた。

「おかえり、も、ただいま、も。どンぐらいぶりよ、マジ。根無し草には過ぎた言葉だわ」
 記憶の底を浚ってみても、中々思い当たらない。なのでジンガはあっさり回想を諦めた。
「まァいいや。思い出はこれから積み重ねていけばいい、なんて、気取った台詞を俺様ちゃん口にするワケよ。そんで、楽しい記憶をいつでもどこでも思い出す為には、小洒落た栞の一つでも挟み込んでおきたいじゃん?」
 特に、そう、リンドウの奴とか。
 ジンガは竜の死角を突き、二本のダガーで撫で斬ろうとしたものの、不意に竜が長い首をジンガに向け、間髪入れずブレスを放って来たのならそうもいかない。
「!」
 竜へ肉薄していたジンガは反射的に飛び退くが、しかし全てを躱しきることは叶わず、花弁の脅威に曝される。
 息吹に飛ばされたジンガは大の字で花畑に倒れ込んだ。
「あー……」
 どこまでも澄み渡る青い空はどうでもいい。心地の良い微風は結局竜の口から出たものではないか。重要なのは体に開いた傷口達が伝える、その痛み。
「……本音を漏らすと俺様ちゃん、最近ちょっと楽しいことがありすぎて、実はこれ夢なんじゃねって数ミリ程度疑ってたじゃん?」
 笑いながら、血塗れのジンガは立ち上がる。このシゴトがまだ続けばいいのに、なんて、柄にもない。
 急所は死守した。瀕死の一歩手前だが、手足を動かす余裕はある。
「感謝するぜ、お花ちゃん。程良く嬲ってくれたお陰で、俺様ちゃんの目も覚めた」
 ここが間違いなく現実なら、生きたい。死にたくない。生きていたい。死ねない。ジンガの生への執念は、その渇望は遂に形となって現実世界に具現化する。
 軽薄な表情(かお)をかなぐり捨てて、ジンガは咆哮した。
 己の身体から生命が流れ出る度、世界の音が聞こえなくなる。彼の心を埋めるは、生への渇望ただ一つ。
 その叫びは醜いか? 汚いか? 卑しいか?
 ――楽園にはそぐわないか?
「ンなモン知るかよ、クソッタレ」
 確固たる殺意を携えて、ジンガはただ……駆け抜ける。

「……僕にとっては、大事なひとがいる場所が楽園だ。帰る場所が、楽園だ。だから、お前の作る世界なんか要らないよ」
 未夜は極々短い間隔で百の火矢を射ち出し、楽園と花竜を破魔の炎にくべ続ける。
 しかし、駄目だ。これだけではジンガとるり遥を守るに手数が足りない。
「……レギオン」
 未夜は増援として百体のエレクトロレギオンを招集し、続けて、
「照らせ。燃やせ。全てを」
 夜に傾き始めた黄昏のような、寂しい色の炎――総計二十の玄火(ハジメノヒ)を放つ。
「僕の世界には、僕の大事な人たちがいて欲しい。僕だけの世界じゃなくていいから、友達にいて欲しい。だから、これが終わったら」
 言いかけて、未夜は微笑み口を噤む。お前には内緒だよ、と。
 未夜が構築した大軍勢。花竜がそれを容認するはずもなく、即座息吹を差し向ける。
「出て来い儚火、仕事だよ!」
 竜の攻撃を第六感で察知した未夜は、儚火――尾先だけが儚く白い大きな黒狐を呼び出して騎乗し、刃花を寸前、回避した。
 レギオン、儚火、玄火。そして玄狐ノ性――炎の破魔矢。出せるものは全部出した。
 後は弾幕を維持し、二人の無事を『祈る』のみ。

 ジンガの斬撃が閃いた。
 未夜の炎が迸った。
「『斬られろ』」
 震える体で、掠れる声で、怖気づきながら。それでもるり遥は嘲笑侮蔑を吟じ、死線で竜を射抜き続ける。
 出せうる限りありったけ。何度も。何度でも吼えて見せる。
 這ってでも生きようとするその様を、花弁に転じる直前、果たして竜は嗤ったか。
「『斬られろ、燃えろ、ここは人間様の領域だ!!!』」
 こんなに綺麗なのに。こんなに澄んでいるのに。怒りを抱き、哀れに思い、
 疾走感とは程遠い、罅割れ枯れたがなり声。全ての感情(いろ)をぶちまけて、最早何とも判然のつかぬどす黒の絶叫は、無数の竜胆を麻痺させた。

 最早幾度繰り返した挙動だろうか。花弁達は緊急避難とばかりに竜の貌へ寄せ集まる。しかし竜となっても四肢を痙攣させ、麻痺が引いた様子はない。好機だ。
「天国なんていらねェんだよ」
 ジンガは深紅に染まった上着を脱ぎ捨て加速すると、
「俺様ちゃんが生きられない場所が極楽なワケねェだろ」
 二刀のダガーを両掌で嵐の如くスピンさせ、
「アタマん中までお花畑かよ、クソドラゴン!」
 フェイントも、だまし討ちも、未夜の軍勢の蔭で、使える技術は全て絞り出し、具現化した執念と共に竜を滅多斬る。
 花竜はその竜胆(からだ)を超速で剥がされながらも先程同様、ジンガにブレスを吹き掛ける。けれどもジンガは先程と打って変って一切の回避をしない。
「……だってもう散々視たろ。るり遥ちゃん?」
 後ろを振り返ることなく、旧友のトリガーを引いた。

「『お前を阻む俺たちは害悪な人間だろうなあ!! 人間の傲慢さに切り刻まれろ花束野郎!!!』」
 るり遥は怯える感情を全て乗せ、全力の悪態を吐き出した。負の念を帯びた言霊は刃花を悉く相殺し、そうして開けた射線に未夜の操る誘導式破魔矢が殺到する。
「俺が怯える限り、逃がさねえ……!」
 まだ喉は保つ。息切れしている場合じゃない。怪我をしている場合でも勿論ない。
「『生きて!!!帰るぞ!!!!!』」
 故にるり遥も渇望の限り叫びを上げ、その叫びに共感したジンガの傷は瞬く間に癒えていく。
 そうだとも。未夜もジンガもるり遥も、ここで死ぬつもりなど微塵も無い。

「……おかえり程度で嬉しそうにしやがって。チョロすぎるんだよ」
 最後、るり遥がポロリと零した独白に、なにやらジンガが抗議のめいた身振りをするが、イヤフォンの音量が大きくて良く聞こえない。と言う体でるり遥は抗議を振り切ることにした。
「ねぇ、ジンガ。ジンガも団地においでよ」
 だから未夜のその勧誘に、ジンガが何と答えたのかは……。
 ――さて。


「……あン?」
 付けられた全身の傷を顧みず、絶好調で棺桶を振り回すジンへ飛んできたのは、赤銅の鮮血。万物を癒す祈酒。
「さっきの光のお返しだ。善行って奴ぁ、どうあれ巡り巡って自分に返ってくるもんだろう?」
「さアてどうだか。そんな理屈が何処の世界でもきちんと機能してるなら、世の中もうちょい平和なモンさ」
「そいつぁ全く違いない」
 くっくっく、と二人は笑う。
「それでどうだい聖者様ァ。そろそろ時は満ちたか?」
 ジンが赤銅へそう尋ねると、
「勿論だとも聖者様。命を斬る者としての勘が告げている。あそこを斬れば殺せると」
 赤銅は刀の切っ先で、竜の心臓を指し示す。
「話が速ェ。だったらそろそろ行くか。このクソ奇麗な似非天国をぶっ壊しによォ!」
「ああ」
 ジンは棺桶の底で地を抉りながら一気に竜へ距離を詰めると、一片の躊躇なくそれを振り翳し花竜の頭部を殴打した。
「幻想の天国に、現実の救い」
 花竜は溜らず竜胆に変じてジンの間合いから逃れようとするが、救済箱から飛び出した手枷と、猿轡と、ロープに絡め取られ、完全に封殺される。
「どっちが真実か? ……決まってるよなァ」
 竜胆になる手段を断たれたのだ。
「悪いな」
 赤銅はもう一度、刀をくるりと玩び、
「この縄張り争い、人間様の勝ちなんだわ」
 竜の心臓へ突き立てた。


 命を失った竜の躰は花弁となって崩れ去る。
 極楽景もいずれ雪へ埋もれ消え失せよう。
 風に分かたれた花弁たちは二度と集まらず、きっと……朽ちるまで世界を巡るのだろう。

●現実へ
 猟兵が花竜を倒したとほぼ同時、冒険者達も、息を切らしつつ最後の山神を倒し切る。
「……おう。元気か猟兵。元気過ぎないか猟兵? こっちも何とか全員生きてるぞ。お前達が居なけりゃまず間違いなく全員天国の肥しだったろうけどな」
 体力の限界を迎えたリーダーが力尽きるように倒れ込む。他の冒険者達も似たような状態だ。
「天国の住人だからかね、こっちは血塗れ泥塗れなのに、山神も竜も一滴たりとも血を流しゃしなかった。全く以って清らかなもんさ」
 まぁ、天国に縁があろうとなかろうと、俺達は我欲塗れで今日を生きるだけさとリーダーは嘯く。
「解ってるな猟兵。帰ったら何は無くとも宴会だ。婆ぁが復活してる可能性がかなり高いが……お前達なら何とかなるだろう」
 それに関しては知ったこっちゃないので諦めて欲しい。

 ふと、誰ともなく天を仰ぐ。
 陽は既に半分沈み、命燃えるように真っ赤な空には名も知らぬ一番星が瞬いていた。
 長い魔物狩りが……漸く終わったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月26日


挿絵イラスト