6
完全なる緑

#UDCアース #【Q】

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#【Q】


0





 その空間は、広大というよりは莫大と、そう形容した方がよかった。
「――――」
 莫大な空間に存在するのは三つの要素だった。
 一つは、上下左右前後、全方位を覆い尽くす黒の色だ。絶えず流動している“それ”はあまりに巨大で、離れた位置を流れているのか、またはすぐ近くを流れているのか判別が難しかった。
 もう一つは、そんな黒の流れの上で燦然と輝く、無数の光だった。あちこちに点在するそれは大小様々で、球体であったり柱状であったりと形も様々だったが、全てに共通するのは流れに影響される事なく、空間全てに輝きを散らしていることだ。
 光り輝く銀河。捩じくれたこの空間はそのような様相だった。
「――――」
 そして、そんな“銀河”を形成する要素の最後の一つは、赤く、球体というには少し不均等で、一部に緑の色を置いていた。
「――――」
 トマトだ。それも無数の。
 異空間の中を、無数のトマトが漂っていた。


 猟兵たちの拠点、グリモアベースに一つの声が聞こえる。
「み、みみみ、皆さん、大変ですわっ」
 ベースに響く慌てた声は、グリモア猟兵であるフォルティナ・シエロによるものだ。
 声と共に発せられる身振り手振りは、何かを伝えるというよりは、焦燥の念を撒き散らすだけのような、そんな雰囲気だった。
「UDCアースで、異常事態ですの!!」
 一息。
 それだけの間を持って、フォルティナは言葉を告げた。
「邪神が完全に復活しましたわ……!!」


 正確にはすでに復活していた、ですわね。とフォルティナは付け足しながら、
「これまで皆様方は、数々の邪神復活を阻止してきましたわ。ですが実は、これまでには何体もの邪神が、既に完全復活を果たしていたことが解りましたの」
 一体ではなく複数。それだけの数の邪神がなぜ今まで観測されていなかったのか。それは、
「それら“完全なる邪神”達は、地球上のどこにも存在していなかったからですの」
 地球上ではない場所。それはどこか。
「――異空間ですわ」
 フォルティナは指を立てながら、言葉を続ける。
「猟兵たちによる儀式魔術【Q】によって、その異空間へ辿りつくための“鍵”の存在を暴き出しましたの」
 コレがそうですの、と言って掌に乗っているのは、
「――古ぼけた鉢植え、ですわね。
 あっ、ちなみに今回私が見た予知によって突き止めた“鍵”がコレというだけで、“鍵”自体は色々なようですわ」
 鉢植えを手で回しながら、言う。
「つまりはまぁ、グリモア猟兵の転送能力とこの“鍵”を用いて、完全なる邪神達が棲まう異空間、――“超次元の渦”へと、皆様を転送することが可能になり、今から皆様にはそこへ向かってもらいますの」


「――現場の現状を説明しますわ」
 猟兵一人一人の顔を見る。
「“超次元の渦”は、光り輝くエネルギーに満ちた空間ですわ。“光り輝く銀河の中心”。大体のイメージはソレでオッケーですわ。そんなビジュアルに従い、重力もありませんの」
 そして、そこにいる邪神は、
「“正気を奪う赤い果実”……。皆様の中にはすでに戦ったことがある方もいるかもしれませんわね。
 ――だけど注意が必要ですの」
 それはなにか。
「向こうではこの邪神が、――無数にいますの」


「戦ったことがある方は解っているかと思いますが、これまではああいった“一体でも強力なオブリビオン”を倒すのに、複数の猟兵の方や、幾度もの攻撃が必要でしたわ。
 けれど、今回はそんな相手が無数ですの」
 これが意味する事は何か。
「――つまりは“ボスラッシュ”。一度に複数を相手にするとまず勝てませんわ」
 鉢植えを持ち、眉をひそめながら伝える。
「大量の邪神を同時に相手をしないよう立ち回り……、かつなるべく多くの邪神を倒す……。皆様にはそんな戦闘をしていただきたいんですの」
 そこまで言って、フォルティナは鉢植えを持っていなかった方の手を宙に掲げ、光を生み出す。
 オレンジ色の光はグリモアだ。
「まとめますわ。私が解っている事はここまでですの」

 ・戦場は無重力な異空間。
 ・敵は“正気を奪う赤い果実”。
 ・敵は無数の数であり、複数相手取るとまず勝てない。
 ・――だけどまぁ、数も減らさないと駄目ですの。

 言葉が続く。
「私が見た予知では他にどんな邪神がいるか、この後どうなるかはまでは解りませんでしたの……」
 苦々しく言葉を吐き出しながら、猟兵たち一人ひとりの顔を確認する。
「つまり向こうは殆ど未知の戦場。何が起こるか解らず、何が起こってもおかしくありませんわ。
 あまりに危険な場所ですけれど、しかし完全復活した邪神達をこのまま放置する事も出来ませんの」
 でも、と。
 フォルティナは全員の顔を見渡し、眉を立てて最後の言葉を送る。
「でも、皆様ならこの無理難題も突破できると、そう信じていますの……!」


シミレ
 シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
 今OPで20作目です。UDCアースは3回目です。
 不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いいたします。

 ●目的
 ・完全復活した邪神の撃破。

 ●説明
 ・UDCアースで、邪神が完全復活していたことが解りました。彼らは地球上には存在せず、超空間である“超次元の渦”にいたのです。
 ・いったい誰が、何の目的で、完全に復活した邪神達をそこに隠匿していたのかは現状解りませんが、猟兵達はそれらの撃破に向かいます。
 ・一章はボス戦で、“正気を奪う赤い果実”が相手です。場所は無重力の異空間である“超次元の渦”で、“赤い果実”達は無数という数で存在しています(ボス敵の集団戦みたいなイメージです)。
 ・“果実”達は一体一体がボス戦相当の実力を持っており、複数相手取るとまず勝てません。
 ・『大量の邪神を同時に相手をしないよう立ち回り、かつなるべく多くの邪神を倒す』皆様にはそのような戦闘をしていただきたく思います。
 ・二章以降についての情報は不明です。

 ●他
 皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これ言ってますが、私からは相談見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
90




第1章 ボス戦 『正気を奪う赤い果実』

POW   :    硬化する赤い果実
全身を【硬質の物質】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    振動する赤い果実
【高速で振動することで衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    空腹を満たす赤い果実
【空腹】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【無数のトマトの塊】から、高命中力の【トマト弾】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠赤城・傀です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 転送が済んだ猟兵達が見たのは、黒い空間の中を漂う無数のトマト、“正気を奪う赤い果実”だった。
「そこら中にいる……!」
 猟兵の内の誰かが叫んだ通りだった。果てというものが無いように思える空間の中、エネルギー光を反射する赤い“果実”達は無数だ。
 無重力である空間の中、“果実”達も、猟兵達も、それぞれ身を置く座標は別々で、身体の向きもバラバラだ。
「何体いて、どこが上で、どこが下やら……」
 そんな未知の空間の中、猟兵達は完全に復活した邪神達を撃破するため、行動を開始していった。
レパル・リオン
やばい(無数のトマト邪神が異空間に浮かぶ光景を目の当たりにし、正気を削られる)

やばい、コレほんとヤバい。UDCアースがヤバいしあたし達もヤバい、ひょっとしたら他の世界もヤバい。
つまり…人類の危機!よし、頑張るわ!

こんな時は…出てきて、あたしの新衣装(フォーム)!
ユーベルコードで、『ソードフィッシュ』フォームに変身よ!
魚の泳力と剣の鋭さで戦うわ!異空間を華麗に泳ぎ、衝撃波が来る前にトマト怪人を掘り進む!そして中から切り刻むのよ!
振動されたって、今のあたしにとっては刻みやすいってだけよ!

何より、魚はトマトを…食べない!
だから、魚はトマトに強いわ!(ムチャクチャな理論)




 戦場に真っ先に辿りついた桃色の毛並みを持った姿は、レパルだった。
「――――」
 無重力によって上下や左右の感覚がおぼつかず、空間の奥で背景のように存在する、闇の渦が遠近をも狂わせる。そんな異常な現場において、しかしレパルの意識はそれ以外に向いていた。
「――やばい」
 呟いた言葉は、マズルを殆ど動かさない小さなものだった。
 異空間に浮かぶ無数のトマト達に目を奪われていたのだ。
 やばいやばいヤバい……。
 否、正確には目を奪われたというより、否応なしにその光景が目に入ってくるのだ。
 遠く離れた向こう側では、視界の端から端まで埋め尽くす赤の壁のような光景があり、それが自分の周囲全てに存在しているのだ。
 頭上では天上やドームどころか、それよりも高い位置でも星空のように存在し、足下では大地のように敷き詰められているが、波のように揺れ動いている。
 そんな超常的な光景を見ていると、
「――あ」
 ヤバい。そう思えたのは幸いだった。
 もはや思考が停止しそうになり、精神が軋みを挙げるのが実感できたからだ。
 正気を削られていっているのだ。


 アァ――……、やばいヤバいヤバいヤバいコレほんとヤバい……。
 目を閉じてその光景から逃れようとしようとしても、
 あっ……ヤバ、できない……。
 ここに到着してから一斉という勢いで見せられた光景は、すでにレパルの精神の奥深くまで影響していたのだ。
 見れば見る程ヤバいってやつね……!
 正しくその通りだ。今もこちらに気付いた“果実”達が接近しており、腕を伸ばせば触れられそうな位置まで来ようとしている。
「…………」
 こちらが動けない事を見抜き、必殺の距離までやって来ようとしているのだ。
 このまま“見せられ”続けたらどうなるか。
 まず第一にあたしがヤバいわよね……。
 そしてその次は。
 引いてはUDCアースがヤバいし……、ひょっとしたら他の世界もヤバい……。
「つまり人類の危機……! ――よし、頑張るわ!」
 そう叫んだ直後、
「――!!」
 レパルは呪縛を受けていた身体を弾けるようにし、虚空に向けて腕を振った。
「――出てきて、あたしの新衣装!」


 レパルが片腕一本で虚空から引きずり出したのは、一着の衣装だった。
「――――」
 青と白を基調とした衣装は、今レパルが着ている魔法服と通じる意匠もあったが、フリルやレースといったものは控えめで、全体的に、各所が引き絞られたような雰囲気を感じさせるデザインだ。
「――フォームチェンジ!」
 叫びと共に、衣装が己の身体に合わさるように浮かぶと、
「――――」
 今着ている魔法服が光り輝き、解けるように分解。身体から離れていった。
 そこを瞬時に埋め合わせるように、同じく光帯となった青白の魔法服が瞬時に身体に纏わりつき、その姿を確かにしていく。
 スパンコールをちりばめたスカートを翻し、告げる言葉は一つだ。
「ソードフィッシュモード! 変身完了……!」
 直後、レパルは一気に前に出た。


 壁でもあり、星空でもあり、大地でもある“果実”の大群の中を突き進む姿がある。
「ぁあ……!!」
 レパルだ。“ソードフィッシュ”に身を包み、スカートを背後に流すがまま、邪神の群れの中に頭から突っ込んでいく。
 己を切っ先とした少女が、無重力という環境をものともせずに赤の大海を自在に泳ぎ、
「――そこ!」
「……!?」
 切り進んでいく。
 “果実”達とすれ違った際に、手脚につけた“ルーンストライカー”によって打撃や蹴りを打ち込んでいくのだ。
 爪が“果実”の肌を切り裂き、足先が抉り飛ばす。それを繰り返していけば、やがて形を保てなくなった“果実”達が崩れるように果汁や果肉を周囲に零すが、
「遅いわよ!」
 それら残滓を背後に置き去りにし、レパルは突き進んでいく。
「……!」
 そんな進撃を止めようと、“果実”達が進路上に身を運び、高速で身体を震動させる事で衝撃波を放とうとする。が、
「むしろ刻みやすくて、好都合ね!」
 レパルが“果実”の震動に突き込むようにして爪を押し当てれば、
「……!?」
 “果実”が弾けるように砕けた。
 奇しくも自身の震動によって受ける力を増幅させてしまった“果実”が、粉砕していったのだ。
「おっと……!」
 そんな破砕の勢いのまま戦場を突き抜けることで、別方向からやってきた“果実”の衝撃波を浴びることなく離脱していく。
 魚のように泳ぎ、剣のように刺す。
 大海の中を縦横に泳ぎながらも、その柔軟性で一点に拘ることをせず、流れるようにして戦場を移していき、一撃離脱していくのだ。
「そして何より……!」
 もはや“果実”を切り裂くと言うより、大海を掘り進むようにしながら、レパルが邪神達に向かって口を開く。
 薄い霧のように蔓延してきた果汁の中、口を開けると入ってくるが、
「魚はトマトを食べないわ……」
 そう言って、叫ぶ。
「だから、魚はトマトに強いわ……!!」
 叫んだ直後、増幅した魔力が“ルーンストライカー”の出力を増し、
「……!!」
 敵をさらに粉砕していった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ナイ・デス
なかなか、衝撃的な空間、ですね
……いえ。視界はちょっと、変ですが
無重力空間。スペースシップワールドで行う宇宙での戦闘とでも思えば、いけるか、にゃ
……よし
やりましょう、か

宇宙服から光を放出、自身を飛ばして【空中戦】
【第六感】で感じるまま、死角からの果実も【見切り】
【念動力】を放って自身を【吹き飛ばし】短距離【ダッシュ】緊急回避
黒剣振るって【鎧無視攻撃】果実を斬っていき

【地形の利用】果実の【範囲攻撃】は無差別攻撃
仲間?の果実も巻き込ませる

私は視覚だけは【かばう】して
【覚悟、激痛耐性】ぼろぼろになっても、敵を視て
『今はあなたの後ろにいる』
果実を【暗殺】刃突き立て【生命力吸収】

疲れもせず、戦い続ける。




 ……なかなか、衝撃的な空間、ですね。
 転移を果たしたナイが、真っ先に抱いた感想はそれだった。
「――――」
 渦巻く奔流や、奇怪に輝く光達。そして何よりは空間を埋め尽くすほどのトマト型の邪神だ。
 いえ……。
 そこまで考えたところで首を振って、ナイは意識を新たにする。
 視界はちょっと、変ですが、無重力空間……。
 つまりは、スペースシップワールドで行う宇宙戦闘とでも思えば、
「いけるか、にゃ」
 言葉を超空間に零した直後、ナイは自身から光を放出した。
「――!」
 背面を中心に身体の各所から発せられた光は、身に纏った宇宙服からの放出光だ。
 幾度か吹かすことで無重力中での動作確認。
「……よし」
 思った通り、感覚はスペースシップワールドの宇宙空間と同じだ。
「――やりましょう、か」
 言って、ナイは出力を最大にした。


 加速に押されるように身を運べば、身体は大気の壁を突き破り、景色が前から後ろへ高速で流れていく。
 これは、“飛んでいる”……、ではなく……。
 どちらかと言うと、自身を光で“飛ばしている”。そんな感覚だ。そしてその感覚が正しいことは直に解った。
「……!」
 こちらの接近に気付いた“果実”達が、迎撃を果たそうと押し寄せて来る。壁のように迫ってくるそれらに、隙間など無いかのように見えたが、
「――――」
 ナイは構わず、その中へ身を飛ばしていった。身体の運びは意識的ではなく、ただ己が持つ第六感に従うだけだ。
「…………」
 迫りくる“果実”達の間にある僅かな隙間に刺し込むようにして、敵の攻撃を回避。回避される事を予想していなかったのか、慌てた様子でこちらを追ってきた追撃も死角からのものだったが、
「――そこ」
 振り返りもせず、ただ感じた感覚のままに進路を変えることで、全ての攻撃を回避する。そして、
「もう、追ってこないでくだ、さい……」
「……!?」
 それら回避運動の最中に振った黒鍵が“果実”を切り裂いた。弾け飛んだ中身が無重力という戦場の法則に従い、無秩序に拡散していく。
 基本は一体……です。
 相手は一体一体が強力な敵だ。一対一を念頭にして立ち回り、包囲を狙ってくる相手から逃れるためならば、
「っ……!」
 己が持つ念動力で邪神ではなく自身を打撃し、吹き飛ばすことで一気に距離を開ける。
 だが、
「……!!」
 敵の数は無数だ。念動力による緊急回避も、吹き飛んだ先で“果実”達がナイを待ち構えているようになってきていたのだ。
 包囲、ですね……。
 見れば、最初は遠くにいた“果実”達も距離を詰めてきており、ナイの戦法を潰しにかかってきている。
「くっ……!」
 やがて、ナイの全方位が“果実”で覆われ、僅かな隙間もない程の過密さを作りだした一体一体が、
「……!!」
 一斉にその果肉を高速で震動させた。ユーベルコードだ。
 球状の陣形で包囲したナイに向け、“果実”達から衝撃波が放たれた。
「――!!」
 数百体による衝撃波は、隣にいる“果実”達をも互いに砕いたが、波は消えない。
 ぶつかり合ったことで威力が増幅し、波濤となった衝撃が、中心座標にいたナイに全方位から浴びせかけられた。
「――――」
 霧のように広がった果汁と果肉によって、爆心地とも言える箇所の見通しは悪かったが、
「…………」
 そこに、身体を投げ出したような姿勢で、一人の人影がたゆたっているのが見えた。
 ナイだ。
「…………」
 顔を守るようにして構えた両腕をはじめ、身体の各所は衝撃波によって無残に抉られ、そこから赤黒い液体が浮き上がり、周囲の赤霧に混じっていく。
「……!」
 咳込むような動きを僅かにしたかと思えば、顔を覆っていた両腕を力無く垂れ下げる。
「…………」
 皺を寄せた眉の下、閉じていた瞼を開けると、ナイの瞳に映ったのは、未だ無数にいる“果実”達だ。
 それがナイが見た最後の景色だった。


 その直後だった。
「――!!」
 突如、戦場に破砕や斬撃の音が連続した。
 音はそのどれもが同一で、水の詰まった袋を砕いたような、そんな音だった。
「……!?」
 自分達が襲撃を受けている。そのことに気付いた“果実”達は、すぐさま周囲を警戒し、新手の姿を確認しようと、周囲に意識を向ける。
「――――」
 いた。爆心地から離れた位置、そこだ。だがそこにいたのは、存在する筈が無い相手だった。
「…………」
 ナイだ。
 突如“果実”達の死角に現れた彼女は、手袋と短剣の中間のような黒剣を振い、次々に撃破していく。
「……!?」
 “果実”達が見れば、“爆心地”には未だナイの身体が浮いている。ならば今、目の前にいる者は何かと、そう思考し、
「――――」
 次の瞬間には、刃が新たな果肉に突き込まれていた。
「――ぺっ……」
 口から血を吐き捨てたナイだったが、その姿に先ほどまでのような傷跡は無い。顔色も、多量に血液を失っていたとは思えないほど良好だ。
「……!」
 黒剣が、刺突した“果実”達から生命力を吸収しているのだ。
「さぁ、やりましょう、か……」
 完全なる不意打ちと生命力の吸収によって圧倒的なアドバンテージを得たナイは、“果実”達を次々と撃破していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

波狼・拓哉
…何でトマト?邪神復活は確かにやばいよ?でも何でトマト???
…まあ、考えてもしゃーないというか理由に気付いたら発狂死しそうだしいいや。沢山いて一体一体がお強いと。……死ぬまで焼けばいいか。じゃ、行って来いミミック。(箱型状態で掴んで投擲)化け焦がしな?…振動するたび炎の勢い強くなって周りにまき散らすから後は放置でいいか。ミミック消えたら再召喚して再び投擲して種火まいとこ。召喚制限ないしなミミック。
自分は衝撃波込めた弾でトマト弾とか本体トマト撃ちつつ逃げまわろう。…いやどう考えても正面から戦ったら死ぬし。第六感、戦闘知識、地形の利用で闇に紛れつつ目立たないように逃げ回ろう。
(アドリブ絡み歓迎)




 無重力空間である“超次元の渦”、そこでたゆたうようにしていた拓哉は、腕を組み、身体ごと首を傾げていた。
 ……何でトマト?
 敵だ。前方や頭上といったあらゆる場所に浮かぶトマト達。あの一つ一つが復活した邪神であることは解っているが、
「何でトマト……???」
 思わず口にも出してしまうが、考えても仕方ないということは拓哉も薄々解っているのだ。
 というか、コレ、あんまり考えすぎてもヤバイよな……。
 宙に浮かぶトマト達を見ていると、次第に自分の中がざわついていくのを感じる。精神汚染だ。
「理由に気付いたら発狂死だな……」
 なので対象についての思考はそこでストップし、代わりに考えるのは敵への対処法だ。
「どうするかな……」
 敵は一体一体が強力な邪神で、数は無数。生半可な攻撃では相手には通用しないことは明白だ。
「…………」
 どうしたものかと、一瞬考えたが、拓哉はすぐに答えを得た。
「……死ぬまで焼けばいいか。――こい、ミミック」
 呟きに合わせて頷き、ユーベルコードを発動する。
「――――」
 拓哉の傍ら、足元に突如出現した姿は、青く、宝箱に短い足が生えたような形状で、その表面を陽炎のように僅かに揺れ動かしていた。
 ミミック。拓哉が召喚した箱型生命体だ。
「よっと」
 自分の膝程度の高さのミミックを片手で拾い、顔の高さまで持ち上げると、空いた片手で前方を指差す。
「あっち。――化け焦がしな?」
「……!!」
 応じるように身体を震わせたミミックに拓哉は頷き、振りかぶると、
「――!」
 前方にいる敵の群れに向かって、投げ飛ばした。
 軌道は一直線。無重力空間故に慣性の法則は存分に発揮され、ミミックは減速することなく、群れに正面からぶつかっていく。
「……!!」
 衝突の序盤は、体当たりによって邪神達を蹴散らして道を開ける動きだった。
 自分達の中枢までやってこようとするミミックに対し、慌てた邪神達が選択したのは、迎撃の一手だ。
 すなわち、
「……!!」
 ユーベルコード。それによって生じさせた衝撃波による破壊だ。
 周囲にいる他の邪神も巻き込むが、相手の数は無数。僅かな損失を上等とし、邪神達が技の発動を叶えた。
「……!!」
 そのときだった。囲まれた位置にいたミミックが、衝撃波の発生に合わせてその姿を変化したのだ。
 直後。
「――!!」
 邪神の群れの中で、大きな火炎が巻き起こった。


 投擲した勢いによってその身体をゆるやかに回していた拓哉は、離れた位置でミミックの結果を見ていた。
「よしよし……。うまくいったな」
 視線の先、邪神の群れの中では大きな火炎が広がっている。
 ミミックが取った選択肢は単純だ。敵の群れの中に突撃し、そこで己を炎に化け、敵を焼いていく。
 “化け焦がし”だ。
 通常でも十分な威力を発する戦法だが、今回は条件が重なっていた。
「敵が衝撃波を出すからな……」
 火炎の発生源であるミミックに向け、周囲の邪神が高速の振動波を発したのだ。それら振動波同士は互いに増幅し合って威力を増すが、その増幅した勢いに乗って火炎もまたその範囲を広げていったのだ。
 全方位から波によって衝撃された火炎は最初、圧縮され、圧力の逃げ場を探すように暴れ回ったかと思えば、波と波の合間から弾け飛ばされるように、赤の色と高熱をぶち撒けていった。
 圧縮から逃れた後は、周囲の波に押されるようにして範囲を広げていくだけだ。
「……!?」
 拡大の道中にいた邪神達は、皆その身を焼かれ、燃料として拡大の一助となっていく。
「あとは燃え広がるから放置でいいか……」
 そう思った拓哉だったが、邪神達も対策を講じてきた。
「……!」
 ミミックから、距離を取ったのだ。火炎から急ぎ逃れることで、自分達を燃料にされないようにし、向かう先は一つ。
「こっちか……!」
 拓哉のいる位置だ。そこへ目掛け、無数の“果実”達が押し寄せてくる。
「流石に正面切っての戦闘は……」
 勝てない。ふざけた見た目だが、相手は一線級の邪神達だ。自分も距離を取ろうと、拓哉は二丁のモデルガン、“バレフ”と“ノット”を構え、
「……!」
 一斉に射撃した。
 モデルガン故、弾丸は実弾ではなく、衝撃波を込めたものだが、それぞれは確実に役割を果たしていった。
 接近してくる邪神達に向けた“バレフ”から放たれた弾丸は敵を砕き、虚空に向けた“ノット”は、至近で炸裂することで、無重力空間での姿勢の制御を叶える。
「っ……!」
 姿勢を整えた後は。装備したフック付きロープを周囲にある光り輝くエネルギー体に射出。それを支点にし、邪神達から急ぎ離脱していく。
「もう一回だミミック!」
「……!!」
 ロープで移動しながら、再度の召喚を果たしたミミックを片手で構えると、背後の“果実”達に向け投擲。
「――!!」
 またもや生じた爆発にも似た火炎を目くらましに、拓哉は闇に紛れつつ、ミミックと共に戦場を駆け巡っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リック・ランドルフ
【芋煮艇】で

完全復活か。…あれだけ儀式やら何やらやってたら一つや二つ成功しててもおかしくないと思ってたが…予感は当たっちまったか。…ま、復活しちまったものは仕方ない。…それじゃトマト刈りするか。

とりあえず作戦はこうだ。まずトマト達と銃で撃ってトマト達を集める。(誘き寄せ)
そしてトマトがUCで身を硬くしたら俺と黒城アモンの三人の攻撃で黒影のUCの方へと吹っ飛ばす。
そしてトマトが黒影のUCに引っ掛かったら恐らくだがUCを解除して他のUCでどうにかしようとするだろう。そう、それが俺達の狙いだ。
それで他のトマトに同士討ちさせる。
勿論トマトの攻撃を俺達は避けたり防いだりするぞ(激痛耐性、逃げ足)


黒城・魅夜
【芋煮艇】で参加です

無重力空間で動けない?
これはこれは、収穫し甲斐がありそうな野菜ですね
【範囲攻撃】【ロープワーク】【早業】で鎖を舞わせ、私自身の姿勢制御――AMBACとしつつ、動けない野菜どもを絡め取って一か所に集めてしまいましょう
そこへたたき込むのは我が優美なる牙の一撃――

無論、その超防御を完全に撃ち抜くことは難しいかもしれません
しかし、無重力かつ動けない状態で、この『大威力』の一撃を受けたらどうなるか……
さあ、まっしぐらに飛んでいきなさい、兵庫さんの虫さんが待ち受ける亜空間の罠へとね

ふふ、苦しまぎれの衝撃波など、【見切り】【残像】【激痛耐性】で対応できる程度ですよ


ディートヘルム・アモン
【芋煮艇】
(アドリブ歓迎)
あの無数に浮かぶ赤全てが邪神か…だがここで躓くようなら
故郷の異端を束ねる存在に相対するなどとてもできないだろうな。

攻撃に対して硬質化するのは厄介だが…その間はろくに動くこともできまい。
記憶操作銃で牽制し硬質化を誘発したら、【降魔一身】で両腕を変異させる。
変幻自在の黒剣の特性を得た腕で、鞭のように絡めとり、斧の如き力強さで叩き敵を兵庫の方へと飛ばしていく。

兵庫が仕掛けたら集めた敵が恐らく衝撃波を放ってくるだろう、衝撃波や攻撃はUCで全身を変異させて防ぐつもりだ。
如何なる目的を以て蘇ったかは知らないが…再び骸の海へ沈んでもらおうか


黒影・兵庫
【芋煮艇】で参戦します!
これは、とても危険な依頼ですね、せんせー
でも俺一人ではありません!力を合わせればきっと解決できるはずです!

(≪SPD≫で判定)

他の皆さんが集めた邪神たちが動ていないうちに{皇糸虫}を『念動力』で操作し
『ロープワーク』で一塊にします!
これで奴らが攻撃を開始しても大規模な同士討ちが発生するでしょう!
俺は奴らが攻撃を仕掛けてきたら『第六感』と『見切り』で『衝撃波』を放ち相殺しようと思います!
その際にUC【亜空の流砂】を発動し、引込兵さんに残った邪神の連中を亜空間に引きずり込んでもらいます!




 “超次元の渦”、そこへ新たに転移された姿がある。
「完全復活した邪神か……」
 半袖のTシャツ姿の巨漢はリックだ。彼は呟きながら、思う。
 あれだけ儀式やら何やらやってたら、一つや二つ成功しててもおかしくないと思ってたが……。
「予感は的中……、ですか?」
「黒城」
 リックの横からの声。それは共に転移してきた魅夜だ。そして共にやって来た仲間は、彼女だけではない。
「あの無数に浮かぶ赤全てが邪神、か……」
「力を合わせればきっと解決できるはずです!」
 リックと魅夜のそれぞれ左右、そこにいるのは、ディートヘルムと兵庫の二人だ。
 並び立つ皆の視線は、前方にいる数多の邪神に向けられていた。
「……ま、復活しちまったものは仕方ないよな」
 ホルスターから熱線銃を引き抜きながら、言葉を続ける。
「――トマト刈りといこうじゃないか」
 その言葉を合図に、四人の猟兵達は動き出した。
「……!」
 作戦を開始するのだ。


 まず最初に動いたのはディートヘルムだった。
「――――」
 無重力空間の中、呪詛が籠められた外套をはためかせることによって、身を前へと軽快に飛ばしていく。
「……!」
 接近してくる猟兵に気付いた“果実”達が、警戒の意識を強め、流されるような軌道でディートヘルムへ向かって来る。
 赤の色の動きは一斉で、銀河を思わせるこの場においてはまるで流星群のようだった。
「それが全方位から、か……」
 前方だけではない。周囲全てからやってくる流星は膨大な数だ。そしてその一つ一つが強力な邪神であることを彼は既に知っている。
 だが、
「ここで躓くようなら、異端を束ねる存在に相対するなどとてもできない」
 思い出すのは故郷のことと、自身のこと、そして、
『…………』
 右目の奥、そこから確かな気配を寄越してくるのは“兄弟”だ。
 闇に包まれた世界で生まれた“二人”は、今、戦場に立っている。
「……!!」
 流星の圧はもはや間近だ。だがディートヘルムは表情を変えることなく、言葉を告げる。
「――行こうか」
 直後。懐から抜き放った一丁の拳銃の引き金を引くと、
「――――」
 一筋の閃光が、“超次元の渦”の中をひた走った。


 “正気を奪う赤い果実”達が得た感覚は、懸念や嫌疑、驚愕といったものだったが、それらは感覚の中では次発だ。
 閃光を浴びてから真っ先に得たものは、それらのような複雑なものではなく、もっと単純だが、異質なものだった。
「――――」
 喪失だ。
 閃光を浴びた瞬間、自分達の中から一斉に失われた“ある物”によって、“果実”達はあらゆる動作を止めてしまっていた。
 それは何か。
「――記憶だ」
 前方、離れた位置から声が飛んできた。
「自分達が何故ここにいるのか、自分達は何者なのか……」
 声は前方にいる存在から、こちらに対して発せられていた。が、
「――――」
 それに対して反応できる個体は、自分達の中には一体もいなかった。
「人を陥れ、その正気を奪う存在が、もはや自分達にとっての餌すらも解さんか」
「――――」
 解らない。それが自分達の答えだ。
 この声の意味や、声の主について。
 ここが何処で、自分達は何者なのか。
 何もかもが理解の外だ。
 しかし、
「……!」
 自分達は、奥底から湧き上がった本能に突き動かされるように、ある一つの行動を決定した。
 何故、自分達にそのような事が出来るのか知らず、理解もできなったが、自分達はそれを実行した。
 それは何か。
「――自己の保全を最優先するための硬質化だ」
 前方からの声は、突き抜けるような音を伴っていた、
「――!?」
 直後。硬質化した自分達に衝撃が走ったかと思えば、身体が吹き飛ばされていった。


 ディートヘルムは敵への打撃を連続した。
「……!!」
 打撃を与える武器は、変異した彼の両腕そのものだ。
 “降魔一身”。肉体の一部を武具と合一させるこのユーベルコードによって、いまや両腕は黒剣と同一であり、
「それは、黒剣の特性も受け継いでいる……」
 今、両腕は長く伸び、しなりを帯びている。鞭状となった腕は空間を割るように突っ走り、果肉を打ち続けていく。
「――!」
 硬音が響く。敵に与えたダメージは無に等しいだろうが、
「硬質化した結果、ろくに動くこともできまい」
 打撃された“果実”達は、慣性に従い、そのまま超空間の中を吹き飛ばされていく。
 打撃の最中、時には“果実”を鞭の先端で絡め取るようにして捕らえる。そうして出来上がるのは簡易的なフレイルだ。
 それを両腕で行い、二本を一本に集合させればフレイルは巨大となり、
「ぉお……!」
 質量を増した強打は、さらに多くの“果実”達を吹き飛ばして行き、他の“果実”達と衝突。玉突きは連鎖し、時にディートヘルムへ突っ込んでくるものあるが、
「――!」
 彼は両腕の形態を鞭から斧状へと素早く変化させ、弾丸のように飛び込んできた“果実”達に対してスイングを叩き込む。
「如何なる目的を以て蘇ったかは知らないが……」
 斧から鞭へ、鞭から斧へ。動きは連続し、打撃は止まらない。
「――再び骸の海へ沈んでもらおうか」
 連打だ。
 だが、何も打撃は出鱈目に与えているわけではない。吹き飛ばしの方向は常に一定であり、その先へ目を向ければ、
「二人も動き出したか……」
 空間のある座標に向けて、戦場全体でそのような流れが生じている。


 リックは思う。作戦は順調だと。
「やっぱり予想通り、硬質化をしてきたな……」
 先ほどの閃光、あれはディートヘルムの放った記憶消去銃の光だ。それによって混乱をきたした敵達は硬質化を選択し、そこを変異した彼の両腕で打撃されている。
「距離が離れた俺や黒城、黒影は記憶の影響を受けなかったが……」
「……!!」
 それは敵も同じだ。リックの周囲でたゆたっていた“果実”達に混乱の様子はなく、ディートヘルムの元へ確かな軌道で向かっている。
 閃光を合図にして始まった戦闘は、現状猟兵側の優勢であり、それを覆そうと多くの“果実”達が、派手に暴れているディートヘルムの元へ向かおうとしているのだ。
「だが、行かせないぜ」
 言葉と共に、ディートヘルムの元を目指していた敵に向かって、リックは熱線銃の引き金を引く。
「――!」
 無重力と言えど大気のある空間だ。銃口から発せられた熱線は、大気を焼きながら突き進み、邪神の一体に衝突。
「!!」
 被害は果肉が僅かに抉れた程度だが、リックに対して警戒の優先度を高める。だがそれも数体だ。それでは足りない。
 このままではディートヘルムの方に多量の敵が押し寄せ、危険だ。
「もっとこっちに来てくれよ!」
 敵に向けて吼えながら、熱線銃とは別の手で引き抜くのは、もう一丁の拳銃だ。だがそれは熱線銃ではなく、刑事であるリックの相棒とも言えるオートマチック拳銃だ。
「この数だ、外すほうが難しいな……!」
 敵の群れに向かって両腕を突き出し、二連の射撃を与えていく。一方は焦熱音を高らかに鳴らし、一方は火薬の爆発音を周囲に響かせる。
 邪神達を襲う二重奏は絶えず、オートマチックの方では都度、マガジンを排出する工程が挟まるが、
「――――」
 長年使い込んだ一丁だ。リックの手捌きのみならず銃側も整備は万全であり、マガジンはリリースすれば滞りなくグリップの中から滑り落ち、新たな弾倉をスムーズに受け入れる。
「――――」
 噛み合わせの音と同時、スライドストップを引き下ろし、初弾を装填。
「――!」
 再度、力を吐き出していく。
 弾丸と熱線は多くの邪神達を穿ち、その注意をこちらに向ける。
「……!」
 やがて、リックの攻撃に業を煮やしたのか、敵が射線上に集まってきた。互いに身を寄せ合って密度を高くし、硬質化していく。
 壁だ。
 他の邪神達へ射撃を届かせず、加えてこちらの移動の障害となる、厚さを持った“果実”の壁が出来上がった。
「――だけど、こっちはそれを待ってたぜ」
 直後。側に残っていた幾体かの“果実”を蹴り飛ばすことで足場とし、リックは目の前に出来た邪神の壁へ、正面から突撃していった。
「おぉ……!」
 突撃の最先端は熱線銃の銃口だ。銃口を突きつけ、全身でぶち当たるようにして接近していく。
 このまま行けば壁との衝突は必至だが、
 まだだ……!
 リックは速度を緩めることなく、跳躍を継続。
 銃口と壁との距離が、やがて至近とも言えるほどになった瞬間、
「今……!!」
 トリガーを引き絞った。
 刹那。
「――――」
 リックと“果実”達の眼前に、特大の光が生まれた。
「……!!」
 遅れて、そこから轟音と熱波が押し寄せてきた。
 通常よりも大幅に出力を増幅した熱線銃から、ぶち撒けられるようにして熱線が放たれたのだ。
 しかしそれは、通常の射撃に比べれば熱“線”と言うよりは太く、まるで熱の放射や光による爆発と言った方が適切だった。
 距離にして銃口から三十センチメートル。大気を焼き焦がす熱量は、その範囲を極大圧の光で、一瞬の内に埋め尽くしていった。
「ぉぉお……!」
「……!」
 リックの叫びに加重するように響くのは、そんな熱線と邪神達が衝突したことによって生じた、硝子を割り砕くような音だ。
「……!?」
 こちらの射撃を通さぬようにと、密集した陣形を取っていた敵は、正面からぶち当たってきた圧力に為す術が無い。
 その身を高温で溶解させられながら、多くは圧力に押されるようにして、背後へと吹き飛ばされていく。
「この調子で行くぞ……!」
 放射が治まった熱線銃を再度構え直し、リックは未だ残る壁へと跳躍していった。


 “正気を奪う赤い果実”達は、現状の理解が出来なかった。
 今、自分達が相手取っている猟兵はわずか少数だが、こちらを圧倒してきているのだ。
 通常であれば、完全に復活したこちらが優位で、このようなことになるはずがない。不完全に復活した一体だったとしても、猟兵と渡り合えるほどの強さだからだ。
 だが猟兵は未だ健在だ。
 一体何故か。
「……!!」
 打撃や焦熱の大音の源、そこにいる二人の猟兵はどちらも撃破を考えていないのだ。
 側にいる“果実”達を吹き飛ばし、
「――――」
 追わない。
 追撃によるダメージなどを狙わず、ただ吹き飛ばしていっているだけだ。
 そんな動きは異様で、連中には何か狙いがあると、そう判断した自分達は、
「……!」
 急ぎ距離を取って、この戦場からの離脱を図った。
「!?」
 だが、それは叶わなかった。
「――逃しませんよ」
 逃走しようとした直後。自分達の身体が、鎖によって捕縛されたからだ。
 

 魅夜は“超次元の渦”の中で、舞うようにして戦っていた。
「――――」
 裾の広い黒衣の下、身体を這うようにして巻き付いているのは幾本もの鋼鎖だ。
 無重力という不安定な戦場において、動作を確実とするために自身を縛したのものだが、
「結構。調子は良好ですね……」
 己の身動きに合わせ、身体の各部位を支えた鎖が収縮や進退を繰り返している。魅夜の姿勢を補助しているのだ。
 それによって、彼女はこの空間において万全に力を振るうことが可能になり、またその通りにした。
「……!!」
 敵に、力を振るっていくのだ。
 視界の先、逃走しようとしていた“果実”達が、鎖によって捕らえられ、引き戻されるように、はたまた振り回されるように宙を飛んでいる。
「逃しません……」
 邪神達を捕縛する鎖は、姿勢の制御に用いたものと同質だが、別のものだ。
 魅夜が持つ鎖の数は百八。身体の縛に用いるには多すぎる数であり、つまりそれ以外の鎖はフリーとなる。
 衣服の袖裾から溢れるように姿を見せていたり、手中に握られていたりと様々だったが、彼女はそれらフリーの鎖を一斉に開放し、命じた。
「――行きなさい」
「――!」
 鎖の群れが、空間を突っ走っていく。
 それらを操作するのは、手指をはじめとした彼女の身体の動きだが、それは力任せな動きではない。
「無重力ですもの、それを利用しない手はありませんね」
 制御によって姿勢は確固と出来たが、魅夜はどちらかと言うと、踏みしめるような硬い動きではなく、力の流れに身体を沿わせるような、柔らかな動きに制御を用いた。
 すなわち、攻撃の動作の中に、ターンやステップといった舞うような動作を混ぜていったのだ。
 するとそんな動きによって一番影響を受けるのは、身体の先端部だ。
「――!」
 手指の先、そこから伸びた鎖は遠心力で振り回され、そこに捕らわれていた“果実”達は、ろくに身動きが取れない。
「……!!」
 一部は抜け出そうと藻掻きを見せているが、
「そちらは動き辛いようですね……」
 収穫し甲斐がある野菜ですねと、そう呟きながら、魅夜はさらに鎖を締め上げる。
 逃さないよう強固に締め上げた鎖は、未だ宙に漂っている他の“果実”達も狙い、空間を裂くようにして突き進んでいく。
 締め上げから脱出することが至難なことを悟った“果実”達は、他の邪神との衝突や圧迫を緩和しようと、やはりまた硬質化を選択していった。
 未だ捕まらずに宙を漂っていた“果実”達は、迫りくる鎖の進路から逃れようとするが、
「――逃さないと、そう言ったはずです」
 袖裾から新たに追加された鎖網によって、逃走経路を尽く潰していった。
「――――」
 左右の腕から伸びた百を超える数の鎖は、舞に合わせてケープのように揺れ動き、やがて周囲に漂っていた“果実”達を粗方捕まえ終えると、
「終わりです……!!」
 捕らえていた“果実”達を空間の一点に向けて、激しくぶつけ合わせた。
「――――!!」
 硬質化した無数の“果実”達。それらの多重衝突は、周囲の空間に雪崩のような轟音を響かせた。
「……!」
 鎖を通し、激震が伝わってくる。魅夜の掌に痺れたような感覚が走るが、
「構いません」
 集合し、大きな一塊となった“果実”達を再捕縛。彼女は自分の眼前まで引き寄せていくと、
「さぁ……」
 目と鼻の距離。そんな位置にまで引き寄せた“果実”の縛めを緩め、
「――まっしぐらに飛んでいきなさい」
 口付けるような距離で囁いた。
 直後。
「――!!」
 一塊となった “果実”が弾け飛ばされるように吹き飛んでいった。


 “超次元の渦”の中は、三つの奔流が一点に向けて収束している最中だった。
 一つは、流星のように押し寄せ、
 また一つは、壁のように押し寄せ、
 そして最後の一つは、一塊となって押し寄せて来ていた。
 そんな三方向からの奔流が、やがて辿り着く場所には一つの人影がある。
「――改めて、これはとても危険な依頼ですね、せんせー」
 迫りくる奔流の終着点、そこにいたのは兵庫だった。


 三方向から流れ込んでくる敵勢が、ここに辿り着くのもそう遠くない時間だと、兵庫はそう思いながら、自分の脳内に住まう“せんせー”へと、言葉を送っていく。
「敵の数は多数で、そのどれもが強力……」
 危険な依頼だと、やはりそう思う。
「だけど……」
 “誘導灯型合金破砕警棒”を回しながら、兵庫は叫んだ。
「さっきも言った通り、ここには俺一人ではありません!」
 見る。迫りくる奔流の後ろ側、そこにいるのは、残った“果実”達との相対を続けている三人の仲間の姿だ。
 皆さんが俺に、撃破を託してくれました……!
 ならば己がするべきことは何か。
「――期待を果たしに行きます!」
 何があっても。その一念で、“破砕警棒”を背後の空間に打ち付け、その先端から衝撃波を放つと、
「――!!」
 その波に押されるように、兵庫は前へと加速していった。


 双方の接敵は相対速度で一瞬だった。
「……!」
 三方向からの奔流が交差する座標、そこに目掛けて飛び込んだ兵庫が取り出したのは“破砕警棒”ではなかった。
「お願いします!」
 “皇糸虫”。兵庫は、手に巻きつけるように持っていた蠢くロープ状のそれを、三方から迫りくる敵塊に向かって勢い良く投げつけた。
「――――」
 兵庫の指先から離れた“皇糸虫”は、直後にその姿を広げ、宙を泳ぐようにして進むと、迫りくる“果実”の群れ全てを、一個の大きな塊にまとめ上げていった。
「……!」
 大量の邪神を包み上げた“皇糸虫”から軋むような音が聞こえてきたが、次第にその音に変化が生まれてきたことに兵庫は気付いた。
「硬質化を解除しているんですね……!」
 兵庫が放った言葉の通り、先ほどまでは強烈な締め付けや圧迫にも耐えていた“果実”達だったが、今では“皇糸虫”に縛られた表皮から、締め付けによって果肉と果汁が零れ、圧迫によるものか、塊の中枢からも同じくそれらが溢れ出ていた。
 無重力故に無秩序に広がる果汁達を見ながら、兵庫は急ぎ“破砕警棒”体の前に回していく。
 今、この瞬間で硬質化を解除したということは……!
 別のユーベルコードを発動する前段階にほかならない。今も、触覚として機能する兵庫の髪は、目の前の存在から微弱な振動を検知していた。
 初期微動。そんな単語を思考している間にも、目の前の揺れは大きくなっており、もはや視覚でも解るほどだ。
「――――」
 来る。
 発動の瞬間を察知した兵庫が、自分と、振動する“果実”の間に“破砕警棒”を素早く叩き込んだのと同時。
「――!!」
 巨塊が、爆発するように周囲へと衝撃波を撒き散らした。


 リック、ディートヘルム、魅夜。三人の猟兵は、“超次元の渦”全てが激動したことを知覚した。
「――――」
 何もかもに激突していき、破砕する。そんな雰囲気の衝撃波が、周囲へとひた走っていったのだ。
「っ……!!」
 三人の猟兵達それぞれは、自分達に襲いかかってくる暴風へとなんとか対処していった。
 リックは、衝撃波から逃れようと、周囲の“果実”を蹴り飛ばし、その身に回避を叩き込んだ。
 ディートヘルムは、その場から動くこと無く、全身を黒剣へと変異させると、衝撃波に対抗した。
 魅夜は、姿勢制御に用いていた鎖をフル稼働し、残像が生じるほどの速度で離脱を図ろうとした。
 しかし、
「ぐっ……!」
 衝撃波は三人の身体を打撃し、その身体にダメージを与えていった。
「っ……! 大丈夫か、皆!?」
 苦痛に顔を歪めながら、リックが他の仲間の安否を問う。
「あぁ……。俺は問題ない……」
「私もです……!」
 ディートヘルムと魅夜の二人が、リック同様、顔を歪めながらも、無事を知らせてくる。
「黒影は……!?」
 安堵したような顔をしたのも一瞬、リックは素早く首を降って、震源地を見た。
「――――」
 そこに残っていたのは、ぶち撒けられたような赤の色だ。すわ黒影の血かと、そう思ったが、違う。
 赤の色は巨塊が砕けた結果で、その奥に兵庫がいた。
「意識を失っているな……」
 ディートヘルムの言葉通り、宙に浮かぶ兵庫は脱力しており、顎を突き出すようにのけぞっていた。
「助けないと……!」
 意識を失った黒影に向けて、周囲の邪神達が急行しているのだ。魅夜が、兵庫の元へ鎖を突き出そうとした。そのときだった。
「……!」
 黒影の口元から血が吐き出された。そうかと思えば、やがて、
「――――」
 彼が徐々に起き上がっていき、自分の顔の前に停滞した血に気づくと、握ったままだった“破砕警棒”の衝撃波で吹き飛ばす。
 そこでようやく、兵庫は息を大きく吸うと、
「――今です! 引込兵さん……!」
 咆哮を轟かせた。


 “超次元の渦”という異常な空間の中が、さらに姿を変えたことを戦場にいた全員はその瞬間に知った。
「――――」
 空間が、割れたのだ。
 兵庫を中心として二キロメートル以上離れた位置、そこの景色が突如割れるように歪んだかと思うと、その歪みが徐々に広がっていく。
「――!」
 歪みの広がりは、幾何学的だった。発生点を中心に逆円錐状に形を変えていき、ある程度の直径になったところで拡大が停止すると、
「……!」
 逆円錐の最下層に現れた姿がある。体長五十メートルほどで、大きな二本の角のようなものを持ったその姿は、アリジゴクそのものだった。
「引込兵さん! 残った邪神達を、亜空間に引きずり込んで下さい!」
「……!」
 血が混じった兵庫の叫びを聞き遂げた引込兵は、その角にも見えた二本の大顎を振るい、空間の割り砕きを再開。周囲にたゆたっていた“果実”達を、尽く自分の潜む亜空間へと引き込んでいった。
「……!?」
 突然の大規模攻撃から逃れようと、“果実”達は進路を変え、離れようとするが、
「無駄です!」
「!?」
 進路を変えた先も、空間が破壊され始める。
「逃れようとしても、俺がその先へ引込兵さんを召喚させます……!」
 兵庫が叫んだ通り、“超次元の渦”のあちこちで空間が割り砕かれる音が響いていた。
 邪神が、亜空間へと駆逐されていっているのだ。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『水禍』

POW   :    タネマシンガン
レベル分の1秒で【スイカの種】を発射できる。
SPD   :    特注角材
【角材】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    西華
自身の装備武器を無数の【スイカ】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は満月・双葉です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵達の攻撃によって、その数を大きく減らした“正気を奪う赤い果実”達は、ある行動に出た。
 それは攻撃でも、防御でも、逃走でもなかった。
「――――」
 “超次元の渦”に散らばっていた各“果実”達が、一点に集結していくのだ。
 高速の飛翔で集まっていった“果実”達は、その一点で互いに衝突し合っていく。
「……!!」
 正しく果実が潰れるような音が多重に、連続に生じ、“果実”達の膨大な数も相まって、終わりのない現象のように思えたが、
「――――」
 やがて、最後の一体が潰れた音を境に、空間の中を静寂が包む。
 “果実”達が衝突しあった場所は、果肉や果汁がぶち撒けられたことによって霧状になり、その内部が判別しづらかった。
 だが、その霧もすぐに消し飛んだ。
「――!!」
 霧の内部、そこに巨大な黒い影が見えたかと思うと、霧を払うように、姿を現したからだ。
「……スイカ……、いや、あの邪神の名前は正しくは……」
 緑を基調とし、黒の縞模様がある球体の姿を見た猟兵の内の一人が、声を零した。
「……!!」
 邪神“水禍”。“果実”達の集合によって現れた新たな邪神は、十メートル以上はある体躯を揺らし、佇んでいる。
「随分大きいが……、恐らく本来はこれ以上だったんだろうな」
 周囲に浮かぶ、猟兵達が撃破した多数の“果実”達。それらすらもあの“水禍”に集合していたら、大きさをはじめ、攻撃や防御といった各戦闘力は今まで以上だっただろう。
「逆に言えば、残った全ての邪神が集まった存在でもある。一体でも強力な邪神の融合体……。油断は禁物だな」
 猟兵達は、第二の戦いに身を投じていった。
波狼・拓哉
果実系邪神群…?いやまあいたけどもよ。まあ、倒しやす…倒しやすいかな?心情的には大分楽だけども。
まー動きにくいのなら無駄に動いてやる必要もないか。ほらこっちー…まってデカいから角材の迫力やばいわこれ。とまあ、注意を引くように演技しつつ脱力状態を維持。流石にそのまま当たると死ぬと思うんで衝撃波込めた弾で角材の部位破壊や武器落としなんかを狙いつつ、戦闘知識、視力、第六感で攻撃を見切って衝撃波使って受け流しつつ無効化。
さて一撃は一撃を持って返しましょう。化け穿ちなミミック!真っ二つに叩き割ってやりましょうか!
(アドリブ絡み歓迎)




 拓哉は無重力空間の中、身体ごと首を傾けていた。二度目だ。
「……果実系邪神……?」
 傾いた視界の先にいるのは、巨大な、スイカの化物だ。
「いや、スイカじゃなくて“水禍”か……」
 “水禍”。拓哉はこのオブリビオンと過去に相対した事がある。
 UDCアースの南極。そこで発見した遺跡を調査する依頼で“水禍”とは遭遇したのだ。
 まあ、倒しやす……、倒し……、いや、どうかな……。
 見る。
「…………」
 今目の前にいる“水禍”は、南極で見た“水禍”と随分と大きさが違う。
「いやまあ、野菜だから心情的には大分楽だけども……」
 ともあれ、南極の個体と共通する点もあった。
 それは。
「……水着、まだ持ち主探してんの?」
「……!」
 “水禍”が右手に持っている水着、それ指差して問えば、向こうがしきりに頷きながら、拓哉に水着を差し出してくる。
「い、いやその、差し出されても……。そのサイズの水着が似合う人は、ちょっと見覚えないです……」
 “水禍”自体が十メートル超えのサイズで、“水禍”が持つ水着、それもトップスだけのものは、“水禍”自体と見劣りしないサイズだ。
「…………」
「うん……、身長が数十メートル級な人はちょっと、知り合いに、いない……」
 拓哉の報告に、明らかに肩を落として残念がる“水禍”は、
「…………」
 拓哉に頭を下げ、踵を返して行った。
 持ち主を捜しに行くのだ。


 ……一件落着?
 拓哉はそれを見て、一瞬そう思ってしまったが、この空間で持ち主見つかるんですかね……とか、いや、そもそも倒さないと駄目か……とか、色々な考えが脳裏に走る。
「というか、倒さなきゃって言っても、動き辛いからなぁ、ここ……」
 無重力な戦場だ。普段の戦場とはあまりに勝手が違う。
 まー、無駄に動いてやる必要もないか……。
 そう思い、
「――――」
 身体から、力を抜いた。
 無重力によって、不確かに揺れる身体をそのままに、拓哉は“水禍”に声を送る。
「おーい、こっちこっちー」
「!」
 すると、背中を向けていた“水禍”が、何かを思い出したかのように慌てて動きを止め、
「……!!」
 振り返りざまに、左手で持っていた角材をぶち込んできた。


 デカイな……。
 拓哉は、“水禍”と出会ってから幾度目かの感想を抱いた。
 一度目は“水禍”自身で、二度目は手に持つ水着、そして今回の三回目は迫り来る角材だ。
「――!」
 長さは“水禍”と同じ程度で、太さは数メートル程の獲物。それが無重力によって、高速で振り下ろされて来るのだ。
 圧迫感というか、迫力ヤバいわコレ……!
 脱力した状態を維持していた拓哉だが、そのまま食らったら死ぬ、頭上から振って来る脅威に対し流石にそう思い、直前まで引き寄せると
「――――」
 “ノット”を虚空に構えた。衝撃波による緊急回避狙いだ。
「……!」
 だが“水禍”は、“正気を奪う赤い果実”の集合体なのだ。過去の拓哉の戦法を把握していた敵は、回避先をも予測し、角材の軌道を修正していく。
 回避しきれない。そう思える一撃だったが、
「――でもまあ、演技なんだけどな」
「!?」
 刹那。虚空に向けていた銃口を角材に向け直す。“ノット”のみならず“バレッフ”もだ。そうして、
「――!!」
 振り下ろされるタイミングに合わせ、引き金を引き絞った。
 二丁の銃口から多重の衝撃波が放たれ。それは尽く角材に命中し、振り下ろしの軌道を歪めていった。
「……!」
「おっと」
 身体のすぐ近くを振り下ろされた角材に、僅かに首を傾けながらも、拓哉はトリガーを引く指を止めない。
「――!」
 連射だ。角材の表面を打撃し、抉り飛ばしていくのだ。
「……!!」
 特注の素材で出来た角材だったが、そうとは思えないほど迫る衝撃は強く、“水禍”は思わずを角材を取りこぼしてしまう。
 それを見逃す拓哉ではなかった。
「さて……、一撃は一撃を持って返しましょう」
 二丁を敵に向けたまま、拓哉は足元の存在へと言葉を送る。
「――化け穿ちなミミック!」
 叫びは一度。その後に生じたのは、
「――――」
 漆黒の広がりだった。


 大地が存在しない空間の中、“水禍”の立つ位置を地表と想定するならば、“それ”は正しくその座標に生じた。
「……!」
 “水禍”の足元、“地表”に平面的に広がった黒の色は、ミミックが化けた姿であり、次の瞬間には、その姿をさらに変化させた。
「――!」
 黒の広がりから突き立つように生じたのは、太く、鋭い槍の穂先だった。
「……!!」
 真下から高速で射出された穂先は、“水禍”の身体を貫き、外皮に生じた亀裂から、果肉と果汁を撒き散らしていった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

リック・ランドルフ
【芋煮艇】 で …トマトがスイカに。……こりゃ次は何になるんだ?…キャベツとかメロンか?…まあこれ以上は考えるのは止めとくか。それじゃ次は…スイカ狩り、始めるか。

次は兵庫と防御件サポート、ようは相手を引き付ける。二回連続アイツ一人に危ない橋を渡らせるのもあれだしな。

銃で敵の攻撃を撃ち落としたり、その辺に浮かんでいるトマトの残骸を利用しながら敵の攻撃を防ぎながら注意を引く(地形の利用、スナイパー、武器落とし、援護射撃)

…だがこれだけじゃ防ぎきるのは難しいだろうな、敵が攻撃の速度を上げてきたら正面に立ってUCで対抗する。このUCなら敵の攻撃を撃ち消せるだろう。


黒影・兵庫
【芋煮艇】で参戦します!

(激しくせき込んだ後、ゆっくり深呼吸する)
よし、何とか持ち直しましたよ。せんせー

相手は巨大ですが数はこちらが有利です!
俺たちは防御に徹して、攻撃のサポートに回ります!

(UC【教導姫の再動】発動)

せんせー!粘着性の{蠢く水}を体に纏ってください!
奴の種マシンガンが来たら、せんせーが皆さんの盾になり粘液に種を絡めとりながら
俺と一緒に『衝撃波』で種を吹き飛ばしましょう!
勢いがなくなった種を『念動力』で集めて塊にして種の盾を作り、そのまま敵に接近します!
後は攻撃担当の皆さんに任せましょう!


ディートヘルム・アモン
【芋煮艇】
(アドリブ歓迎)
息つく暇も無いとはこのことか…いや、相手がどうあれやる事は変わらない。

敵の攻撃は兵庫とリックが防いでくれる、俺は遮蔽の影に隠れて記憶操作銃で射撃を行ってあの表皮に穴を穿つ。
種の弾丸が払われ隙が出来たら接近し、切りつけた箇所から<生命力吸収>を行う黒剣で敵の力を削ぎつつ切り裂いていく。
幸いこの空間なら跳躍も容易い。跳びながら射撃と斬撃で巨体全体を攻撃して回る。

敵の身体全体に亀裂を作れたなら黒剣を楔として打ち込む。
巨大であり強大な相手を打ち砕くにはこれがいいだろう。
行くぞ兄弟。【幻姿顕現】、俺の腕を捧げる。その腕力を以て楔の黒剣に一撃を叩き込み、一気に砕くといい。


黒城・魅夜
【芋煮艇】で連携です。

兵庫さんとリック刑事の防御と牽制、無駄にはしません。
お二人のガードと共に、私自身も範囲攻撃・なぎ払い・ロープワーク・早業で鎖を舞わせ、攻勢防壁としつつ、第六感と見切り・残像で被弾を最小限にしながら接近しましょう。

ディートヘルムさんが広域攻撃ならば私は一点突破、互いが互いの囮となれるはず。
嵐のように叩きつける108本の鎖……しかしそれは陽動。
本命は鎖の雨の影に潜んで迫った私自身です。
肉体も魂も諸共に穿ち抜く牙、受けてごらんなさい。

さあ真紅の果汁を迸らせなさい、ダンピールに吸血されるにふさわしい血を。
西瓜の季節はもう終わり。
……もう永遠に来ないのですけれどね、あなたの旬は。




 戦場は様変わりしていた。
「――――」
 戦場の中心、そこにいるのは体高十メートル超えの邪神、“水禍”だ。融合しきれなかった“果実”達の残骸が漂う異空間の中、
「……!」
 激しく咳き込む音が聞こえてくる。兵庫だ。
 身を折り曲げ、咳き込む度に口の端から血を散らしていく。
「――――」
 やがて落ち着いたのか、深呼吸を数度。
「シッ……!」
 その後、鋭く息を吐くと、無重力の中で姿勢を整える。
「トマトがスイカに……。こりゃ次は何に、――と、おい、大丈夫か?」
 横から飛んできた声は、隣にやってきたリックだ。
 拳銃を“水禍”に向けた警戒姿勢のまま、視線だけを兵庫に向け、様子を窺っている。
「ええ、大丈夫です。何とか持ち直しました。 ――せんせーも、ご心配ありがとうございます!」
 リックと、そして脳内にいる“せんせー”へとそう答える兵庫だったが、その顔色は決して良くない。“果実”達の攻撃を正面から喰らったのだ。皮膚は裂け、その内部も相応のダメージを受けているはずだが、
 敵はまだ残っています……!
 兵庫が見るのは、前方の“水禍”だ。まだ敵は残っており、終わっていないのだ。
「相手は、巨大です」
 邪神は、無数から強大な一体へと己の姿を変えた。つまりは戦場の状況が様変わりし、猟兵達が取る戦法も一変するということだ。
 現状、自分達の利点は何か。
「数ではこちらが有利です!」
「ああ、そうだ」
 銃口を逸らさぬまま、リックはやって来たディートヘルムと魅夜に、自分の後ろに行くようアイコンタクトを送る。
「敵が大勢でも、デカブツでも、関係無い。俺達には仲間がいるんだ」


 来るな、とリックは思った。だがそれは前方にいる敵の事ではない。
「――せんせー!」
 味方だ。ディートヘルムと魅夜ではなく、五人目。
 それが、兵庫の叫びに合わせて、彼の側に現れる。
「――――」
 何度見ても大きいな……。
 新たに生じた影は、兵庫の身長の二倍はあろうかという巨体で、金の長髪をなびかせた女の姿だった。
 “せんせー”、そう呼ばれた女の正体は、兵庫の脳内に住まう教導虫スクイリアだ。
 自身の抜け殻とも言える存在を兵庫の脳内から操り、戦場に出現したのだ。
「黒影」
 心配そうに目を細めるスクイリアの言葉は短い。
「大丈夫です、せんせー!」
「…………」
 ひとしきり兵庫の身体の状態を外から見た後、スクイリアはリックにも視線を飛ばす。
 どう思うかと、そういう視線だ。
 アンタの方が容体は分かるだろうに……。
 だが、“そういうこと”ではないのは自分も解っている。
「ああ、大丈夫だ」
 顔をスクイリアへ向け、リックは言う。
「俺もいるし、アンタもいる」
 言ったろ、と。
「仲間がいるんだ。さっきは黒影一人だったが、今回は俺達で皆を、黒影を守る」
「……うん。そうだね」
 スクイリアは黒影の顔に残った血を指で拭い、それだけだ。
「…………」
 もう黒影を見ず、彼の前に立っている。
 さっきは、危ない橋を渡らせちまったな……。
 黒影のことであり、それはスクイリアのことでもある。
 彼女は彼の脳に住まい、恐らく今も、脳から容体を把握し、適宜対処している部分もあるのだろう。
 宿主と寄生の関係。だが、それは彼らの関係の一側面で、そんな単純な間柄ではない事もリックは知っている。
 師弟、家族……。
 共に戦場に立つのだから、戦友とも言えるか。ともあれ、“そのもの”をずばりと言い当てられるような言葉は、すぐには思いつかない。
 だが、
 俺だって愛する者はいる……。
 心配するのも当然だよなと、姪の顔を思い浮かべながら、リックは作戦開始を告げた。
「――さぁ、スイカ狩りの開始だ」


 “水禍”は、接近してくる影にすぐに気付いた。
「――――」
 猟兵だ。数は五で、一人を先頭にしてやや緩い縦列で直進してくる。
「――!」
 接近してくる五人の内、四人は先ほども見た顔だが、先頭の巨体は自分の記憶に無い。新手だ。
「――!」
 なので、己はすぐさま射撃した。
 口に当たる部位から、一斉という勢いで放たれていくのは、黒く、水滴型。
 スイカの種だ。
 体内に蓄えたそれらが空間を突っ走り、縦列の先頭へ襲いかかっていく。
 猟兵が何をするつもりなのか解らないが、牽制の意味も込めての先制射撃だった。
「……!」
 猟兵と種、双方は、に高速で近づいていき、猟兵側の回避は困難だと、そう“水禍”は予測しており、その予想はやはり正しかった。
「――!」
 直撃したのだ。先頭の巨体に、黒の雨が次々と着弾していく。
 打撃の高鳴りが空間を走り、その威力を周囲に知らせていく。猟兵達も、“水禍”への進撃を止めていた。
 しかし、
「……?」
 着弾の音が、予想していたものと違うことに“水禍”気付いた。
 肉や骨を打つような音が響くはずなのだが、それが無い。かわりに有るのは、まるで水を打ったかのような、粘性な音だった。
 次の瞬間だった。
「!?」
 先頭の巨体から弾けるような音と共に、着弾したはずの種が吹き飛ばされた。


「成功です!」
「だね……!」
 兵庫はスクイリアの真後ろで、自分達の作戦が上手くいっていることを感じていた。
 スクイリアの身体に着弾した筈の種が、今や逆に身体から吹き飛ばされているのだ。
「……!」
 それを見ていた“水禍”が慌てた様子で、再度の連射を敢行してくる。
「――!」
 迫りくる黒の雨はやはり直列でやってきて、その全てがスクイリア狙いだ。
 先ほど吹き飛ばし、宙に漂っている種と衝突しながらも、それらは彼女の身体の前面に次々着弾していく。
「っ……!」
 着弾の衝撃にスクイリアが僅かに息を漏らすが、それ以上のリアクションは無い。
「オッケー、いいよ黒影!」
「いきます!」
 そんな彼女の後ろで兵庫は“破砕警棒”を構え、彼女の身体へ、否、正確には、
「“蠢く水”へ……!」
 スクイリアが纏った粘性の液体に、その先端を触れさせた。
「――――」
 すると、“破砕警棒”から発せられた衝撃波が、“蠢く水”だけを震えさせ、震動はスクイリアの前面にある“蠢く水”に伝わり、そこに付着するように弾着していた種を、
「――!」
 震動で吹き飛ばした。
「……!」
 すると、二度の結果により、猟兵達の防御手段に気付いた“水禍”は、その防御を突破しようと、射撃のパターンを変えて来た。
「……!!」
 射撃の間隔や密度を上げて来たのだ。
「っ……!」
 迫り来る種の数や勢いが増した事を、スクイリアは音や、単純に数として察知する。
 先ほど以上に強烈な射撃に対して、全てを“蠢く水”で受け止められるかと、一瞬思ったが、
「――させるかよ!」
 兵庫の後ろから響いた射撃音によって、懸念が次々に撃ち落とされていった。
 リックだ。


 トリガーを引き続ける。リックが選択した行動はそれだけだった。
「……!」
 相手取るのは正面からやって来る種の雨だ。機関銃のような勢いで向かってくる攻撃を、熱線銃とオートマチック拳銃で迎撃していく。
 小さい分、さっきのトマトより当て辛いな……!
 迫り来る種は大きさもそうだが、その色味も相まってこの空間に溶け込むようであり、非常に狙いづらい。
「だからまず熱線銃を!」
 撃つ。
 すると、熱を持った光が射線上を照らし、迫りくる種達の位置を知らせてくれる。
 そこで解るのは、種の配置がそこまで分散しておらず、密集的だということだ。
 連射速度や間隔を上げて来たが、反動でブレるということ無く、射線が“太い”。そんな印象を得る。
「なら、こっちも真正面からだな」
 連射だ。
 引き金を何度も引き絞り、前に立つ兵庫やスクイリアと干渉しない位置から、銃撃をぶつけていく。
「――!」
 熱線によって蒸発する音と、銃弾によって砕かれる音が、数十メートル先の空間から聞こえて来る。
「よっ……と!」
 時折、射撃の合間を見て、周囲に浮かぶ“果実”の残骸を前方に蹴り飛ばし、
「――!」
 それを熱線銃で撃ち抜けば、衝撃と高熱で“果実”が、手榴弾のように弾ける。
 四散する。
 気化した果汁や弾けた果肉が、種にぶつかり、軌道を乱していくのだ。
 そろそろか……。
 見れば、リック達の前面には、防御や迎撃によって勢いを無くし、スイカの種達が大量に宙に浮かんでいた。
「いけそうか、黒影!」
 拳銃のリロードを行いながら、声を送れば、
「ええっ……!」
 返答の直後、兵庫が念動力を発動していく
 力の対象は、前面に散り浮かぶ種達だ。
「……!!」
 兵庫の念動力を受けた種達は、一瞬震えたかと思えば、すぐさまその身を飛ばし、スクイリアの前面に集まっていく。
 それはただの集合ではなかった。種達は縦や横といった位置において、規則性を持ってその身を寄せ合い、スクイリアの前でやがてある形を成していったのだ。
「――――」
 密度高く、厚みと高さを充分に有した一枚を盾と言う。
 スクイリアの前面に出現したのは、敵が放った種子で出来たそんな存在だった。
「よし! 行くよ――!」
 スクイリアの宣言と共に、盾は念動力によって加速して運ばれていく。
 行くのだ。


 “水禍”は猟兵の更なる接近を感じた。
「……!」
 もはや互いの距離は四十メートルを割り、“水禍”のサイズからすれば至近と言っていい距離だ。
 接近を阻止するために、射撃を続けているが、効果は薄い。
「――!」
 銃撃で阻害を喰らい、盾で防がれる。そして、
「――――」
 放って防がれた種が、敵の盾の一部とされていくのだ。
 その頃には距離は二十メートルを下回っている。
「!!」
 すると、猟兵の動きに変化が生まれた。
 盾の影から、二人の猟兵が飛び出したのだ。
「――――」
 向かって右が女で、左が男だ。どちらも黒衣に身を包み、しかし違う点がある。
 女の方は身を鎖で包み、防御の体勢を取っているが、男の方は違う。拳銃を手に持っている以外は、ほぼ無防備だ。
「――!」
 なので、己は身体全体を左に回し、種の射出源である口を男の方へ向けた。
 このタイミングで連中が飛び出したのは、自分への攻撃以外に他ならないことを“水禍”は解っている。
 そして男が手に持つものが、こちらの記憶を喪失させる武器である事を、その攻撃を受けていなかった“果実”の記憶から“水禍”は知っている。
 撃たせてはならない。
「……!」
 その思いで、三度目の種の連射を放った。
 しかし、
「――リック、頼んだ」
 黒衣の男の前に、飛び込んでくる影があった
「――アモンを狙うと思ったぜ」
 巨躯の男だ。
 横っ跳びの姿勢でインターセプトしてきた猟兵は、両手で熱線銃を構えており、
「――!!」
 次の瞬間には、光の飛沫が迸っていた。


 戦いは佳境に入ったと、ディートヘルムは思う。
 “水禍”を中心に突撃してきた猟兵達は散開している。
 正面は兵庫とスクイリア。左は魅夜で、そして右がリックとディートヘルムだ。
「助かった」
 光が迸る後ろで、ディートヘルムはそう言葉を告げ、手に持っていた拳銃を前方に向ける。
 その先は、たった今も生じている光の爆発で視認は困難だが、構わず、そのまま狙いをつけ、
「――!!」
 引き金を引いた。
 それはリックの熱線銃が生み出す光に比べれば小さく、細く、音も静かだったが、
「記憶を喪失する程の威力を、一点に集中すれば、どうなるだろうか」
 結果は、熱線の迸りが消えたと同時に露わになった。
「……!?」
 “水禍”の外皮に、深く、鋭利な穿ちが生じていたのだ。
 その傷は深く、無視できないダメージだが、驚愕し、戸惑う“水禍”の様子から、記憶の喪失も受けていることは明白だった。
 そのため、
「――――」
 一瞬、“水禍”はあらゆる動作を止めたが、自分の身に危険が迫っている事を理解し、ディートヘルムからのそれ以上の攻撃を牽制しようとしたが、
「私をお忘れではないですか?」
 飛んできた言葉は、ディートヘルム達がいる場所とは別の位置からだ。
 直後。
「――!」
 戦場に、暴風が吹き荒れた。
 怒涛という勢いで放たれ、“水禍”の外皮を叩きつける暴風。
 その正体は鎖で、数は百を超えている。その全ての先端にあるのは鉤だ。
 魅夜が放った鎖だった。
「……!? ……!?」
 鋼の嵐で包まれ、削られていく。
 しかし“水禍”を削っていくのは、それだけでは無かった。
「――!」
 嵐の中を、双の黒衣が翔け回っているのだ。


 ディートヘルムと魅夜は行った。
「……!」
 重力という概念が除外された空間の中、動きは初手から全力だ。
 ディートヘルムは外套をはためかせ、空間ごと蹴り飛ばしていく。
 魅夜は鎖を身に纏わせて姿勢を制御し、身体の動作を最適化。
 魅夜が上に行けば、ディートヘルムは下へ。
 ディートヘルムが右に行けば、魅夜は左へ。
 互いが敵の攻撃を引きつけて囮になることで、もう片方の移動を叶えていく。
 そして、移動を確かにしているのはそれだけでは無かった。
「二人とも! 足場を作りました! 利用して下さい!」
 兵庫の声に従って、二人が敵の周囲を見れば、浮き上がるものが見えた。
 “果実”の残骸やスイカの種を念動力で固めた、即席の足場だ。
「俺が念動力で“裏打ち”して、反力を与えます!」
 二人が懐に入ったことで敵の射撃の勢いが治まり、盾に用いていたリソースを分けたのだ。
「……!」
 気付いた“水禍”が兵庫に射撃を送るが、
「させないってば!」
「……!」
 スクイリアとリックに阻まれ、その頃にはディートヘルムが兵庫が作った足場に乗り、“水禍”の眼前まで迫っていた。
「そんな隙を見せるべきでは無かったな」
「……!」
 言った直後。手に持った黒剣を外皮に突き込んだ。
 そうしてディートヘルムが、決して黒剣から手を離さず、足場を蹴り飛ばせば、その後は全てが高速の出来事だ。
「……!?」
 空間の中をディートヘルムは自身の跳躍や、足場を蹴り飛ばすことによって高速で翔け回っていく。
「おぉ……!」
 時に“水禍”の真上にいたかと思えば、次の瞬間には外皮を斬り進みながら足元へと移動しており、また次の瞬間には前面、背面と、その姿を一瞬のうちに移動させていく。
「……!?」
 そんな動きに合わせて外皮は切り裂かれていき、斬撃痕は“水禍”の全体にまで及んでいく。
 外皮の上を走る亀裂にも似た痕は、常にその軌跡に紅の果汁を迸らせており、
「――ふふ」
 まるでその色に釣られるように、“水禍”の側へ接近していく影があった。
 魅夜だ。


 魅夜は“水禍”の背後にいた。
 ……兵庫さんとリック刑事の防御と牽制、無駄にはしません。
 彼らのおかげでここまで来る事が出来、それはつまり作戦が順調だということだ。
 つまり次は私達の番ですね……。
 そう思う魅夜の周囲にあるのは、豪雨のように降り注ぐ鎖と、疾風のように翔けるディートヘルムだ。
 それらによって“水禍”は全身によって傷を負い、その身体から溢れだすものがある。それは果汁や果肉、そして、
 あら……。
「……!」
 種だ。
 抉れ、内部の果肉が見える程の傷口を砲口として、“水禍”が幾度目かの種の射出を敢行してきたのだ。
「――!」
 ロクな狙いも付けず、周囲全体に向けて噴出された攻撃は、魅夜の元にも向かってきたが、
「――――」
 その色白の肌に触れる直前で、高速で過ぎ去った何かによって弾かれた。
 硬質で、擦り合わせるような音は、姿勢制御や雨として降らせているものとは別の鎖だ。
 身体の周囲を舞わせ、攻性の防壁とした数本。未だ噴出し続けている種の防御をそれらに任せながら、
「――――」
 魅夜は“水禍”への接近を続行していく。
「――!!」
 止まぬ鎖の豪雨に、ディートヘルムの斬撃。歩みを続けていく魅夜の周囲は激音だ。
「だけど、それらは陽動です……」
 鎖の雨は“水禍”の目を眩まし、ディートヘルムとは互いが陽動で、向こうは向こうで準備を進めている。
「――それは全てはこの時のためです、ね」
「――!?」
 “水禍”の真後ろに辿りつき、その背中に触れれば、その時になってやっと、敵は魅夜の存在に気付く。
「ああ、紅い……」
 背中にある傷をなぞり、紅の果汁が付着した指を唇に持っていく。
「ダンピールに吸血されるにふさわしい血です……」
「……!!」
 目の前の敵が、急ぎの動きで対応しようとしているが、魅夜は慌てない。指で唇を拭うと、
「――さあ」
 種が噴出する寸前の傷口。そこへ顔を近づけると、
「――その真紅の果汁を迸らせなさい」
「……!!」
 次の瞬間。“水禍”が全身の傷口から、勢いよく果汁を吹き出した。


 降り注ぐ鎖の雨の中を縫う様にして翔けていたディートヘルムは、それを見た。
 血が……。
 一瞬そう思ったが、違う。赤の果汁だ。
 それが“水禍”の全身から吹き溢れ、周囲に漂っている。
「魅夜がやったか」
 見れば、先ほどまで周囲に放たれていた種の噴出も収まっており、何より、
「…………」
 “水禍”自体が動きを止めていた。しかし、それは絶命したわけではない。
「心を砕かれたな……」
 魅夜の牙によって、肉体と精神の双方に重大な一撃を与えられた“水禍”は、今や無重力に流されるだけの巨体だ。
「――――」
「息つく暇も無いと……、そう思っていたが、しばしの安息、か」
 そう言いながらも、ディートヘルムは“水禍”の様子をつぶさに眺めている。
 その最たる目的は、傷だ。巨体の表面には大小様々な傷や、亀裂の跡がある。
 それを確認し終えると、ディートヘルムは“水禍”の頭上に身を運び、
「――!」
 その眉間に、黒剣を突き刺した。
「――行くぞ兄弟」
 空いた右腕を掲げ、そう言った次の瞬間。
「――――」
 指先から肩口まで、ディートヘルムの右腕がその姿を変えていった。
「……!」
 黒く、その大きさを増大させていく腕は、各所に棘や角を思わせる鋭利な突起が生まれ、掌は左手の数倍はあろうかという大きさになり、金の爪が姿を見せている。
「――“幻姿顕現”」
 ユーベルコードの発動完了を告げ終えると、右腕はディートヘルムとは別の意思が介在しているように蠢いている。
 その正体は彼の右目の奥に住まう兄弟、魔人の肉体を、一時的に受肉させているのだ。
「……!」
 魔人が手を握り締め、拳を作り上げた。
「砕き割るぞ」
「……!」
 ディートヘルムはそうとだけ告げると、魔人も拳を振り上げることで応えとし、
「――――!!」
 突き刺さった黒剣目がけて、一気にその拳を振り下ろしていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ナイ・デス
ソラ(f05892)と

トマト相手のように、一人でとは、いかないでしょう、ね
ここは……?
ソラの気配?(勇者パートナーの勘

口上聞いて、微笑んで

ふふ。まだピンチでは、ないです、よ?
……でも、厳しいとこ、でした
はい。二人で、割りましょう!

宇宙服から光と【念動力】放って自身【吹き飛ばしダッシュ】
【地形の利用】ソラと二人、無重力空間を縦横無尽に【空中戦】
【第六感】で感じるままに種を【見切り】避け
角材をソラに【かばう】して貰ってその隙に
スイカの皮を【鎧無視攻撃】斬って【2回攻撃】刺して【傷口を抉る】して【生命力吸収】
立ち眩みめいた隙を晒させたとこで敵蹴って【ジャンプ】離れ
ソラと一緒に

割りましょう!
『瞬断撃』


ソラスティベル・グラスラン
ナイくん(f05727)と

暁の翼を羽搏かせ、混沌蔓延る銀河に現るは一筋の流星…
その【勇気】は、勝利の御旗となりて!

貴方に危機が訪れる時、わたしは何処へだって駆けつけます
何故ならわたしは、『勇者』なのですからっ!!【鼓舞】

まあまあナイくん、細かいことは気にしないでっ
あの大きなスイカさんを割っちゃうんですね?まかせて!

【盾受け・オーラ防御】で守りを固め、ナイくんに続き【空中戦・ダッシュ】!
種の弾丸を【見切り】回避
ナイくんに迫る角材を受け止め、【怪力】と【気合】で弾き道を作ります
そうして攻撃を引きつけながら機を待ち…

今ですねナイくん!一緒にパッカーンといきましょう!
蒼雷の大斧よ!!【鎧砕き】




 ナイにとっては突然の連続だった。
 一つ目の突然は、邪神だ。
「トマトが……、スイカに……」
 “果実”達をその手甲状の黒剣で撃破していっていたら、突如、それらがナイから距離を取り、融合し始めたのだ。
 そうして生まれたのが目の前の巨大なスイカだった。
 大きい……。
 融合を果たした邪神、“水禍”は体高十メートルを超している。
「トマト相手のように、一人でとは、いかないでしょう、ね。……ここは――」
 と、言葉を続けようしたときだった。
「――――」
 二つ目の突然が来た。
 それは視覚や聴覚といった感覚で感じ取ったのではなく、気配だった。
 それもナイにとって、とてもよく知った気配だったのだ。
「……?」
 自分の中に走った感覚に従い、振り向いた先、
「――――」
 そこに“彼女”がいた。


「暁の翼を羽搏かせ、混沌蔓延る銀河に現るは一筋の流星……」
 “彼女”は碧色の服に身を包んで、オレンジの長髪を棚引かせていた。
「その勇気は、勝利の御旗となりて……!」
 “彼女”は大斧を自身の横に突き立てるように持って、自信満々に口上を述べていた。
 そんな姿を、ナイはよく知っていた。
「ソラ……!」
 ソラスティベル。ナイにとって唯一無二のパートナーだ。
 思わず、といった様子でナイの顔が綻ぶ。
 しかしそれは相手も同じなようで、ソラスティベルも破顔しながら、ナイの元へ歩みを進めて来る。
「ええ! わたしです! 貴方に危機が訪れる時、わたしは何処へだって駆けつけます」
 何故ならと、ナイの横に立って、ソラスティベルは言う。
「――何故ならわたしは、“勇者”なのですからっ!!」
 そんな彼女の様子に、ナイはさらに笑みを深くする。
「ふふ。危機って……。まだピンチでは、ないです、よ?」
「まあまあナイくん、細かいことは気にしないでっ」
 気楽に笑う彼女に、でも、とナイは言葉を送る。
「……でも、厳しいとこ、でした」
 ナイが振り返り、見る。
「――――」
 敵だ。姿を変え、強大となった邪神。一人ではどうしようかと、そう思っていた矢先だった。
「あの大きなスイカさんを割っちゃうんですね? まかせて!」
 隣で、額に手を掲げて邪神を見ていたソラスティベルがナイへ顔を向ける。
 流石、ソラ……。
 話が早い、とそう思いながら、ナイも頷く。
「はい。二人で、割りましょう!」


 ソラスティベルはナイと共に、身を前に飛ばした。
 ナイは身を包む宇宙服から光を放ち、そこに彼自身が持つ念動力を加え、身を吹き飛ばすようにして進んでいく。
 一方、ソラスティベルの方はというと、
「私は翼がありますからね……!」
 暁の翼と、先ほどの口上でそう述べたが、その通りだ。
 無重力と言えど大気のある空間。背にある暁色をしたドラゴニアンの翼を一度大きく振りかぶると、
「――!」
 背後に叩きつけることで大気を打撃し、前進。
 風を切っていく。
 翼の向きを変えることで、先に飛んでいるナイに追随するように位置取ったところで、
「……!」
 二人の接近に気付いた敵が、攻撃を送って来た。
 攻撃は射撃だった。“水禍”の口に当たる部分からスイカの種を弾丸として発射されてくるのだ。
「ナイくん!」
「はい……!」
 迫り来る攻撃に対して、二人は回避運動をとっていく。
 ナイは、宇宙服から放つ光や念動力の出力はしかしそのままに、
「――――」
 自身の第六感に従うように、迫り来る弾幕の中へ身体を運んでいった。
 一見してそれは危険な行動のように思えるが、彼の身体は間近を種が掠めるだけであり、無傷だ。
 ナイに射撃を与えようと、放たれる種の数は増していくが、
「――!」
 彼は前進していたかと思えば、次の瞬間には後退を行い、時には軸転といった機動も叩き込み、迫り来るそのどれをも回避していく。
 鮮やかですねー……!
 見ていたソラスティベルが思わずそう感想する。が、敵の攻撃はナイだけを狙ったものではない。
「あ、こっちにも来ましたね……!」
 ソラスティベルの方にも放たれた種の数も、またやはり膨大であり、弾幕と言える程の広がりを持っていたが、
「行きます……!」
 彼女は、大斧“サンダラー”を構えると、
「……!」
 今までより一層、力強く羽ばたいて大気を打つと、突進するような勢いで身を飛ばした。
「……!!」
 弾幕が追い縋るように迫ってくるが、高速で流れる視界の中、それを見切って回避。それでも回避しきれなかった分は、
「気合いと根性……」
 身にオーラを纏い、“サンダラー”を構える。
「そして、勇気です……!」
 それらを防御として凌ぐのだ。
「――!!」
 次の瞬間。追い付いた種が“サンダラー”に直撃し、堅音を多重に奏でるが、
「――こっちは大丈夫です、ナイくん!」
「こっちも、です……!」
 ソラスティベルは無傷で、それはナイも同様だ。弾幕を抜け、二人は再度合流。
「行きましょう……!」
 “水禍”の懐へと、飛び込んでいった。


 ナイ達が飛び込んだ直後。それが来た。
「――!!」
 角材の振り下ろしだった。
 至近とも言える距離に近づいてきた二人に対して、“水禍”がもう一つの迎撃方法を実行したのだ。
 手に持った角材の長さは十メートルを越し、言うに及ばずその質量は莫大だ。
「……!」
 大気を切り裂き、風鳴りの音を響かせて頭上に迫り来る。
 ナイを襲うそんな強烈な一撃はしかし、果たされなかった。
「はぁあああ……!」
 ソラスティベルが、角材とナイとの間に身を飛び込ませたからだ。
「……!」
 大気を震わせるほどの撃音が、“超空間の渦”に走る。
 それはソラスティベルを打撃した角材から発せられた音だが、彼女の肉体を打ったわけではなかった。
「――ナイくん、今の内に!」
 “サンダラー”だ。蒼空色をした大斧が、角材に食いこむようにして、その振り下ろしを押し留めていた。
「ありがとう、です、ソラ……!」
 ナイがその隙に、放つ光や念動力を最大にして、“水禍”の外皮へ向けてと接近していく。
「……!」
「おっと! させませんよ!」
 接近を阻止しようと、再度ナイに向けて角材を振おうとする“水禍”だが、ソラスティベルがそれを許さない。
「……!」
「おぉ……!」
 自身の数十倍はある大きさの角材に臆することなく、ソラスティベルは“サンダラー”を振い、ナイへの攻撃を阻止していく。
 だがそれも、数度のことだ。
「――!」
 それだけの時間があれば、ナイは“水禍”の外皮に辿りつき、
「削り、取ります……!」
 両手の甲から短剣状に伸びた黒剣を振りかぶり、
「……!!」
 連撃を叩き込んでいった。
 光と念動力に押されるようにして、“水禍”の周りを縦横無尽に駆け巡る。
 外皮の至るところでは、二連の斬撃痕が走っており、抉り取られるようにして外皮が外れ落ちた。
「…………」
 元々外皮が有った箇所にナイは立つと、
「――!!」
 そこに目がけて両の黒剣を抉り込むように突き込み、急激と言える勢いで“水禍”の生命力を吸収していった。


「……!?」
 生命力を一挙に失った“水禍”に生じたのは、脱力だ。
 ソラスティベルとの打撃の応酬どころか、立っていられる事が出来ず、膝を曲げ、
「――――」
 彼女に向けて、その頭を差し出すようにしてしまう。
「――ソラ!」
「ええ、今ですねナイくん! パッカーンと!」
 二人の会話はそれだけだ。次の瞬間には、ナイが“水禍”を蹴って跳躍し、
「――蒼雷の大斧よ!!」
 ソラスティベルが“サンダラー”を掲げ、
「――!!」
 そこに大雷が落ちた。
 轟音と閃光が、周囲の空間全てを圧倒していく。
「――――」
 大気を割るような、破るような音が響いたのも最初だけで、後は、音も光も人の感覚域を容易く超えた。
 “サンダラー”への落雷が大気を焼き、それによって生じる大音を先駆けとして、後から続き重なる別の大音で覆われていったのだ。
 光も同じだ。雷電による激しい閃光は莫大な蒼の色で、視界を一瞬で埋め尽くす。周囲の形あるものは表面は蒼白く反射し、それ以外の部分は光届かぬ漆黒の影となった。
 そんな、蒼白と漆黒以外の色が存在し得ない世界の中、しかし別の色があった。
「…………」
 “それ”は“水禍”の上空にいた。
 印象の大部分は、鋭利な印象を思わせる黒の身体と、首や腰を包む傷んだ長衣だったが、
「――――」
 身体の各部位から覗き見える黄色い閃光と、胸部中央で紅く輝く結晶だけは、この空間で異彩を放っていた。
「……!!」
 ナイだ。真の姿である“光”へと、その姿を変えたのだ。
 ナイがその鋭利な右手を振りかぶるのと同時、彼の眼下では、ソラスティベルが“サンダラー”を振りかぶり、
「――!」
 もはや自分の声すらも聞こえない空間の中、双方は声を挙げ、その全力を行使していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『翠翁』

POW   :    縺ソ繧薙↑縺ゥ縺薙∈?
【意識】を向けた対象に、【対象の内部を植物に変えること】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    蝸壼他縲∝履蜻シ縲∝履蜻シ窶補?輔?
自身からレベルm半径内の無機物を【土壌に、猟兵を問答無用で植物】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ   :    縲主卸荳悶?繧ィ繝シ繝?Ν繝ッ繧、繧ケ縲
全身を【エーデルワイス】で覆い、自身の【周囲にある植物の数】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フォルティナ・シエロです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 それは突然だった。
「――――」
 崩壊だ。
 猟兵達の多種多様な攻撃によって、致命的なダメージを負った“水禍”が、その身体を割っていく。
「――!!」
 亀裂の走った外皮が崩れ落ち、果肉と果汁を周囲へ撒き散らす。“水禍”を構成する何もかもが剥離していった。
 無重力という特性によって一連の動きは緩やかだったが、それ故、猟兵達は異変に気付いた。
「――――」
 外皮と果肉の奥。崩壊を起こす中心。そこに、影があったのだ。
「…………」
 影は四足で、体高十メートル程。馬のようなシルエットだが、全体は骨と植物で構成されている。
 邪神だ。新たな姿がそこにいた。


 “水禍”の身体が完全に崩壊し切った後、生じた現象は二つだった。
「重力が……!?」
 突如、“翠翁”のいる位置を基準に緑生い茂る大地が確立し、猟兵や“翠翁”、周囲の残骸達が着地していったのだ。
 自分達に欠落や、怪我人がいない事をすぐさま確認した猟兵達は、それを見た。
「…………」
 “翠翁”が僅かに首を振り、声を発する姿を、だ。
「――窶應ス輔°窶 は どこ?」


「――――」
 “翠翁”は、直後にその身動きを固めた。
 “翠翁”が発した言葉に、異変があったのだ。
 超空間に響いた“翠翁”の声には二種類の響きがあり、片方は“翠翁”にとって既知のもので、もう片方も既知ではあるが、“翠翁”には意味が解らず、無縁の言葉だった。
 “自分達”の言葉が、人類達の言葉として聞こえたのだ。
「……?」
 何故か、そう思い、
「――窶應ス輔°窶 は どちらに?」
 もう一度同じ言葉を言ったが、そこで気付く。
 言葉が混在しているのだ。
「――窶懷、ァ縺?↑繧句ュ伜惠窶 は いずこへ?」
 一部を言い換えてみるが、駄目だ。
「――窶懈弌霎ー縺ョ蠖シ譁ケ縺九i縺ョ蟄伜惠窶 は どこにいるの?」
 これも駄目。
「…………」
 しばしの思考の末、恐らくこの空間の影響だろうと、“翠翁”は結論付けた。


 “翠翁”は思う。自分や他の邪神を召喚、それも完全に復活召喚させ、この空間に隠匿した存在がいる。
「――――」
 “彼ら”だ。
 自分を産み落とした存在は、再度、その腕の中に己を抱き入れた。
 “腕の中”は現状、“彼ら”の領域だが、そうであれば目の前の猟兵達がいるはずがない。
 空間的な干渉は、概念的な部分でも影響し合ったということか。
「…………」
 “彼ら”に会いたいなと、そう思う感情はあるが、駄目だ。今はその時ではない。
 “彼ら”がここに、自分を復活させた理由を思い、そうして最後に二度、
「――窶懈弌霎ー縺ョ蠖シ譁ケ縺九i縺ョ蟄伜惠窶 は ごぞんじですか?」
「――窶懈弌霎ー謠?>縺励→縺坂? に はじまる 窶懷、ァ縺?↑繧区姶縺?? は?」
 猟兵達に尋ねた、というよりは、言葉を投げてみるが、
「…………」
 帰って来た反応は疑問や困惑といったもので、それ以上のものは無い。
 武器に手をかけ、こちらへの出方を窺っている。
 つまり答えは明白だ。
「……!」
 猟兵は戦闘を望んでおり、“翠翁”も“腕の中”から異物を削除する事を決定している。
「――!」
 猟兵達は複数であるが、“翠翁”はそれに臆さず、咆哮した。
 何故なら互いの力量差は歴然であり、“翠翁”は自分が必ず相手より先んじて、先制の一手を取れる事を理解していたからだ。
「――!」
 最後の戦闘が、始まろうとしていた。


 第三章のオブリビオンは必ず「ユーベルコードによる先制攻撃」を行ってきます。
 これに対する何らかの対処がプレイングになければ、プレイングは必ず「失敗」になります。
黒城・魅夜
【芋煮艇】で出撃です。

速い――。
初撃は見切り・第六感・残像を使って回避に専念。
それでももちろん完全には避けきれないでしょうが、この身を纏うように張り巡らせていた鎖の結界により、被弾を最小限度に抑えましょう。

さらに覚悟と激痛耐性で凌いだなら、私たちの番です。
あなたの能力は周囲の植物の数に依存するもの。
先ほど撃ち出していた鎖をそのまま攻撃に転用し、範囲攻撃となぎ払い・ロープワークで植物どもを片端からなぎ払っていきます。

ふふ、どうしました?すっかり先ほどの勢いが失せているようですね。
では疾く速やかに――悪夢の底へ沈みなさい。
あなたの能力を封じながら、その存在自体を喰らい尽くすこの鎖の群れによってね。


リック・ランドルフ
【芋煮艇】で

スイカから何か出てきたな。あれが日本で流行りのゆるキャラやつか?そんで、何言ってるんだアイツ、何か尋ねてきてるのは分かるが…ま、答える必要はないか…最後の狩り、始めるぞ

とりあえず奴の攻撃…突進とかか?…避けきれるのは難しいだろうが…【真の姿】を発動、そして構えながら避けて直撃は喰らわないように動き周りながら自然を利用し避けよう(激痛耐性、戦闘知識、逃げ足、地形の利用)

そして反撃だが…まずは拳銃の弾丸を分解して中から火薬を取って辺りにばら蒔く、そしてそれを熱戦銃を撃って引火して弱体化を狙う(早業、地形の利用)

そして植物が燃え始めたらUCを発動、その後は弾切れになるまで撃つだけだ


黒影・兵庫
【芋煮艇】で参戦します!

どうやらコイツが最終形態のようですが、威圧感が先ほどとは比べ物になりません...!

ですが俺には皆さんが、せんせーがいます!負けるはずがありません!

どうやら敵は自身を強化後、超高速で突撃をしてくるようなので

『第六感』で予測し『見切り』して『ダンス』のステップでギリ避け後、粘着性の{蠢く水}で

敵の足に引っ付き、{皇糸虫}を『念動力』で操作しながら

『ロープワーク』で敵の体まで登り攻撃から逃れます!

その後、振り落とされないよう<真の姿>で肉体強化後、UC【蠢く霊】を発動します!

強襲兵さん!周辺の植物を刈り取ってください!

俺は引っ付いたまま敵の首を『衝撃波』で攻撃し続けます!


ディートヘルム・アモン
【芋煮艇】
(アドリブ歓迎)
融合した邪神がさらに変質した…?
あの速度を以て攻撃してくるとすれば…考えられるのはこちらへの突進か?
なら攻撃が当たる瞬間を<見切り>、<オーラ防御>を強めて黒剣の<武器受け>で弾く。
傷は負うだろうが、致命傷にならなければそれでいい。
刻印を介して大地と植物から<生命力吸収>を行い、回復と共に周囲の植物を萎え枯れさせていく。

俺達の働きで植物が払われ、力が衰えていくことに邪神が疑問を抱いたなら【謎を喰らう触手の群れ】、
邪神の周囲に召喚した塊から触手を飛ばし、奴を覆う花ごと抉る。

生命の象徴たる草木が力の源というならそれごと尽き果てさせるまでだ。
散れ、外へと根と枝を伸ばす前に。




 融合した邪神が、さらに変質した……?
 ディートヘルムは、目の前で起きた事を冷静に観察していた。
 トマト状だった邪神達が融合したかと思えば、スイカ状になり、まるで脱皮するようにその中から生まれてきたのが、今、目の前にいる存在だ。
「……あれが日本で流行りのゆるキャラってやつか?」
「いや……あ、あれは、どうでしょう……?」
 リックの言葉に魅夜が首を傾げながら答えるが、皆、気付いている。
「どうやらコイツが最終形態のようですね……。威圧感が先ほどとは比べ物になりません……!」
 兵庫の言う通りだ。目の前にいる邪神、“翠翁”からの威圧感は、先ほどからこちらを飲み込むような雰囲気を持っている。
 しかし、とリックが再度口を開く。
「アイツはさっきから何言ってるんだ。何か尋ねてきてるのは分かるが……。ま、答える必要はないか……」
「――!」
 問答が無用であるという結論に至ったのは、“翠翁”も同じだったようだ。叫びを挙げ、威圧感がさらに増していく。
「――最後の狩り、始めるぞ」
 リックがそう言った直後、猟兵達が立つ場所を暴風が通過した。


 それは一瞬の出来事だった。
 咆哮が止み、体躯が白い花で覆われたかと思えば、“翠翁”が出来たばかりの地表を踏みしめるように身を沈め、
「……!」
 直後。大きな破裂音が戦場を走った。
 音速を超えた物体によって、大気が破裂したのだ。
 加速による水蒸気爆発を抜け、鼻先をはじめとした先端部から霧の帯を幾重も生みながら大気を切り裂くのは“翠翁”だ。
 大地を蹴り飛ばした勢いで、地表の上を飛翔して、行く。
 行った。
 飛翔の進路上にいた猟兵達はもはや“翠翁”の遥か背後だ。
「――――」
 “翠翁”は、猟兵達の撃破を確信した。音をも置き去りにする接触は一瞬であり、猟兵達に回避する余裕など無かったからだ。
 しかし、
「――なぜ?」
 空中でターンを決めた“翠翁”が見たものは、吹き飛ばされこそすれ、未だ健在の猟兵達だった。


 速い――。
 押し寄せる“翠翁”を見た魅夜の脳内は、その一語しか無かった。次の瞬間には、爆圧とも言える衝撃波が自分達の間を抜けていく。
 突進がこちらに辿りつき、しかし魅夜達はそれを凌いだのだ。
 衝撃を受け流すために魅夜が選択したのは、自身が持つ鋼鎖を用いた結界だった。身体に張り巡らせるようにして緩衝材とし、その衝撃を吸収する。
 だが相手は巨大で、その質量も言わずもがなだ。
「がっ……!」
 緩和して尚、その衝撃は強大であり、大質量で一気に打撃された身体は、肺から全ての空気を押し退けられ、もはや重力下となった空間を吹き飛んでいく。
「っ……、木々があるのが助かりましたね……!」
 吹き飛んだ勢いを殺さず、鎖の射出や巻取りで周囲に存在する木々に鉤を食らいつかせ、身を運んで行く。
 全身は打撲状態であり、巻きつく鎖に身体は痛むが、森となった空間を高速で巡っていく。そうすると、高い位置の視界によって、魅夜には他の仲間の様子が良く解った。
「よかった……。皆、大丈夫そうですね……」
 もしもの場合は鎖による回収も視野に入れねばと、そう思っていたのだ。
 無事を確認したことで安堵した魅夜は、百を超える鎖を悠々と操り、周囲の木々へと次々に鉤を突き立て、移動を再開していった。


 リックは枝葉と草花、そして土砂が降り注ぐ中を全力で駆けていた。
 今、リックは防弾ベストに身を包み、脚は丈の長いコンバットブーツを履いた姿へと変わっている。
 普段の軽装とはうって変わっての重装備は、リックにとっての“真の姿”だ。
 この姿になっても、避けきれるのは難しいと思っていたが……。
 “真の姿”になったことで今までの傷や疲労は全快したが、それも過去の事だ。
「チッ……、口の中、切れてやがる」
 溜まった血を吐き捨てながら、先ほどまでのことを思い出す。
 “翠翁”が身を沈めた直後、突進の予感を感じ、近くにあった大木の影に飛び込んだリックだったが、
「まさか、根っこから吹っ飛ばされるとはな……」
 “翠翁”の通過は爆風を伴っていた。背中から殴りつけられるような空気の圧に吹き飛ばされ、地面を数え切れないほど転がり、停止。そこですかさず身を起こして作戦を続行し、今に至るのだ。
 前方には“翠翁”の衝撃で倒れた木々が幾本も存在し、障害となっているが、
「っと!」
 南国、つまりは熱帯で刑事をやっているのだ。足を取られる事なく、ブーツで踏み越えて行く。
 すると、
「無事だったか、リック」
「アモンか。お前も、――って、めちゃくちゃ出血してるぞお前!?」
 並走するディートヘルムの額からは血が流れ出ており、顔面を血で濡らしていた。
「突進の瞬間を見切って黒剣で弾いたが、こちらも弾き飛ばされてな」
 だがまあ、とディートヘルムは言う。
「俺は大丈夫だ。それに、そっちも無傷ではないだろう?」
「全身の打撲に耳鳴りに骨の軋みに……、まぁ、確かに上等な方だな」
 うむ、と頷きながら、ディートヘルムは手で顔面の血を拭い、空いた手で黒剣を構え直す。
「それに……、一番強烈なのは兵庫だ」
「それは確かにそうだな!」
 ディートヘルムの言葉に同意しながら、リックはベストのポケットにある予備の弾丸を抜き取る。
 反撃の準備を、整えていくのだ。


 自分が生み出した森の中、そこへ隠れた猟兵達を追撃せんと、空中でターンを決めて再突撃を行おうとした“翠翁”は、異変に気付いた。
「もり が……」
 揺れている。否、“翠翁”自身が生み出した突風によって揺れや激震を得ているのは勿論だが、それとは別種で、まるで下に沈んでいくように振動しているのだ。
 何事かと、そう思った直後、来た。
「ちから が……!?」
 “翠翁”が、失速し始めたのだ。
 ユーベルコードによって超速度を得た“翠翁”だが、速度の源となるものはユーベルコードとは別だ。
「――――」
 “翠翁”の周囲に存在する植物の数に比例して、得られるはずの速度が、今、失われていっている。
 植物が茂る地表からは離れておらず、むしろ接近している最中なのに失速する理由は何か。
「……!?」
 再度の失速を得た視界の中、そこに答えはあった。
「――!!」
 木々や植物のみならず大地までもが、その色を緑から、茶や灰といった姿に変え、崩れていっているのだ。
「――――」
 枯燥。そんな現象が、“翠翁”の前方では広がっていた。


 黒剣を地面に突き刺したディートヘルムを中心に、周囲にある植物達が次々に姿を変えていった。
「――――」
 最初は、枝葉といった木の末端部から色が次第に失われていったのだ。
 それはやがて幹にまで至り、幹も、上部からだんだんと色褪せていき、それが根に至るころには、枝葉も幹も、もはや元の数分の一ほどの太さになっていた。
 根は、他の部位よりは持ちこたえたが、やはりすぐに生命力を失っていっていく。
 全ての生命力を奪われた木は、以前の太さで地に張っていた根の穴から抜け落ち、その身体を地表に倒れ伏していくが、その頃にはもう地表も完全に姿を変えている。
 一切の水分や、栄養が失われたような、形容しがたい色だ。そんな色に変わった大地が、空間の中に徐々にその面積を増やしていく。
 ディートヘルムが刻印を介し、“翠翁”が生み出した大地や、植物達から生命力を吸収しているのだ。
「……血が、止まったか」
 そう言って、ディートヘルムが掌で撫でるのは、先ほどまで血が止まらなかった額だ。今では出血が止まり、その傷口も塞がっていっている。
「――!」
 ディートヘルム自身とはうって変わって、成長や発展というものを感じられない、まるで時間が停止したような周囲空間だったが、離れた位置では激しい動きもあった。
「――あなたの能力は周囲の植物の数に依存する、ですね」
 未だ、ディートヘルムの吸収攻撃が辿りついていない位置にいた魅夜が、木々から木々へと飛び移っている。


 魅夜は鉤を突き立てた幹に、鎖を何重にも巻き付けると、
「……!!」
 自分が持てる全力で、力を振った。
 力の振う先は、彼女が持つ鎖であり、それが巻きつく木々だ。
 移動のために木々へ鉤を突き刺していた鎖を転用し、一本の木に複数本を巻きつかせ、一気に力を加えることで、木をへし折ったり、時には
「根元から……!」
「――!」
 へし折った木の重さと巻き付けた鎖を利用し、根元から引き抜いていく。
 轟音。そんな音を立てながら、引き抜かれた木が反動で空に浮き上がる。その隙に、邪魔な枝や根を鎖で断ち落せば、木は一本の丸太となって、
「取り回しが良くなりましたね……! ――それ!」
「――!!」
 鎖の動きに従い、その質量で森の中を暴れ回っていく。
 振り回してぶち当たらさせていけば、受けた木は、裂けるような音を立てながら幹をへし折っていき、
 端部を先頭に破城槌のようにして激突させれば、巨木ですらもも耐えられず、砕けるか、根を地表から露わにしながら地に伏していく。
 重量の乗った一撃が次々に木々を崩していく傍ら、他の鎖も遊ばせている訳ではない。
「草や花も、刈り取っていきましょう」
 地表の表面を浚うようにして走っていった鎖が、その先端に付いた鉤で生い茂る草花の幹を断ち切っていく。
 地表を走る鎖が過ぎ去った後に残るのは、切断によって舞い上がった葉と花弁だけだ。
 木々をへし折り、草花を刈り取っていく。そんな動きを繰り返していけば、出来あがるのは断たれた植物の集積物だ。
 積み上がる程の植物の山が各地で出来あがり、そして、そこに細工をする物の姿もあった。
「こんなもんかな……」
 リックだ。


 リックは、崩れていく森の中を駆け回りながら、積み上がった各地の山に対して手に持っていた何かを振りかけたかと思えば、
「――――」
 すれ違い様に熱線銃で撃ち抜いていく。すると次の瞬間。
「――!!」
 各所の集積物で、火炎が巻き起こった。
 だが、熱線銃で撃ち抜かれただけにしては、まるで爆発するような勢いで集積物達は火炎を挙げていく。
「火薬のおかげで良く燃えるな」
 勢い良く燃えるそれらに対して、リックは手に持っていた薬莢を投げ捨てる。
「なぁ、皆! これが終わったら飯でもどうだ? 俺が奢るぜ。――ただしメニューは肉料理だけだぞ。もう野菜は見たくない」
 軽口を叩きながら、残った山も狙い撃ち、周囲の炎上を完了させると、オートマチック拳銃も引き抜く。
 二丁を突きつけるのは、猟兵達に迫り来る“翠翁”だ。
「――黒影! 付け合わせでトマトが出たらお前に食べさせてやるよ」
「――――」
 叫びが響いた直後、“翠翁”の背の上に、立ち上がる姿がある。
 兵庫だ。
 未だ、姿が見えなかった仲間の一人が叫びを合図として、その姿を現した。


 兵庫は先ほどから、誰よりも敵と一番近い位置にいた。すなわち、
 “翠翁”自体です……!
 音速を超える“翠翁”の背中の上。そこに伏せるようにして兵庫は耐えていた。
 “翠翁”が猟兵達に向けて突進してきた瞬間、他の三人は回避を選択したが、兵庫は少し違った。
 激突をすんでのところで回避すると、“蠢く水”で“翠翁”の脚に引っ付くと、飛翔している“翠翁”にそのまま付いていったのだ。
 合わせて、装備していた“皇糸虫”を念動力で飛ばし、突風に揺られながらも進んでいった“皇糸虫”が、“翠翁”の背に取りつき、それを手繰りながらここまでやって来た。
 しかし、音速を超える特殊環境は、付随している兵庫の意識を容易に奪いかけたが、兵庫は自分の身体を変化させることで、それに耐えた。
「――――」
 姿は一瞬のうちに変化した。髪は長髪となり、それは先にいくにつれて金の色味を増す。そして手脚は先が甲殻で覆われ、背中からは二枚の翅が生えている。
 真の姿だ。
「――影――マト――や――!!」
 前方から届いた声を聞きながら、兵庫は“翠翁”の背の上で立つ。
 ……そうです! 俺には皆さんが、せんせーがいます……!
 まぁトマトは遠慮しておきますけどね、と、立ち上がった視界、そこに映った森はどんどんとその大きさを増していく。だが兵庫は恐れず、“破砕警棒”を構えた。
「だから負けるはずがありません……! ――お願いします、強襲兵の皆さん!」
「――――」
 叫びを呼び声として、兵庫の周囲に現れるのは、二百五十五体の虫の霊だ。
 強靭な顎を打ち鳴らすようにしながら、それらが“翠翁”の背から飛び立ったのを兵庫は確認すると、
「俺も行きます!」
「……!?」
 目の間にある“翠翁”の首に目がけて、“破砕警棒”の衝撃波を浴びせかけていった。


 “翠翁”は、二度目の突撃を敢行しようとした。
「……!!」
 吸い取られ、破壊され、炎上し、喰われていく森。そこに隠れ潜む敵を撃破しようと、再度、地表のすれすれを突き抜けようとしたのだ。が、
「させませんよ!」
「!?」
 いつの間にかこちらの首裏に取りついていた猟兵が、衝撃波によってこちらの意識を揺らし、そうしている間にも、森の破壊は進み、
「――!?」
 “翠翁”の失速が大きくなっていく。
「……!!」
 苛立ちを感じ、“翠翁”が咆哮を挙げる。“翠翁”は現状を理解できていなかった。
 彼我の戦力差は圧倒であり、強烈な一撃で先制したの自分だったはずなのに、敵は倒れず、こちらへの攻撃を続行している。
「これは ――」
「――続く言葉は、何故、か? それとも、どうして? 一体? ……まぁどれでも良いが」
 森の中から、“翠翁”の言葉を遮るように声が聞こえた直後、“翠翁”の隣に、謎の物体が現れた。
「これ は……!?」
「――――」
 絡みつく、紫色の塊のようなその物体だ。それは、内部から紫色の触手を放つと、
「生命の象徴たる草木が、力の源というならそれごと尽き果てさせるまでだ」
 “翠翁”の身体を覆う、エーデルワイスを引き剥がしていった。
 すると、
「あ……!」
 失速はこれまで以上に顕著になり、もはや飛翔が不可能な程の速度まで減少していった。
「――散れ、外へと根と枝を伸ばす前に。」
「……!!」
 直後。“翠翁”が轟音を立てながら、地表に墜落した。


「――ふふ」
 地面に激突した“翠翁”に向かって、歩み寄っていく姿は、魅夜だ。
 もはや木々を滅ぼすための鎖は振るわず、ほぼ無手の状態で、魅夜は距離を詰めていく。
「どうしました? すっかり先ほどの勢いが失せているようですね」
「……!!」
 墜落した地面からやっとの思いで起き上がった“翠翁”は、自分に接近してくる猟兵に対して、危機感を抱き、前足の振り下ろしで串刺しにしようとしたが、
「では疾く速やかに、――悪夢の底へ沈みなさい」
 魅夜がそう低く呟いた直後、彼女の周囲から生じたのは無数の鎖だった。
 魅夜が主武装とする鎖ではなく、召喚によって生じた鎖は一直線に“翠翁”の元へ向かうと、今にも前足を振り下ろさんとする邪神を縛し、
「――!?」
 その身を締めあげると同時、鎖に触れた“翠翁”の身体が、“喰われて”いった。
「……!!」
 締め上げ、絞るようにしていく度に、骨と草花で構成されたような“翠翁”の身体が、その体積を減らしていく。
 もがくだけでは、抜け出す事が容易ではない事を悟った“翠翁”が、魅夜に意識を向けることで植物にしようと、ユーベルコードを用いようとしたが、
「出来ませんよ」
「……!?」
 何も起こらない。
「あなたの能力を封じながら、その存在自体を喰らい尽くすのが、この鎖の群れです」
 魅夜は首を傾げながら、地に伏していく“翠翁”に、さぁ、と言葉を続ける。
「――このまま喰われ続けたあなたは、さてどうなっていくのでしょうか」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナイ・デス
ソラ(f05892)と

……どこか、話が通じそう?
いえ……倒すしかない、ですね

【地形の利用】地縛鎖を大地に繋げ
異空間。枯らさぬ程度と加減はせずに、植物達から【生命力吸収して力溜め】
緑を枯らし、消滅させ、知らず敵の強化を抑え
【第六感】で感じるまま【念動力】で自身を【吹き飛ばし】
攻撃を【見切り】避け。頭を【かばい】腕を犠牲に防ぎ受け
【覚悟、激痛耐性】耐えて『生まれながらの光』をひろげる

私の、ソラの、味方全員の傷を、植物になった内部を正常に
疲労は大きく、けれど植物から吸収して補って
もう一度、と
植物が減って、遅くなった攻撃を再び避け、防ぎ、耐え

【範囲攻撃】『生命力吸収光』

光で緑を完全に、消滅させましょう


ソラスティベル・グラスラン
ナイくん(f05727)と

邪悪さは一層強く、しかし美しさも重ね持ち
邪神の気配に呑まれかける

眼がこちらを向く瞬間【第六感】が反応
瞬時に盾で自身の身を隠し、ナイくんの前に出て【盾受け・かばう】
そして【見切り】で急所だけでも体をずらす!
体を植物に変えられても、まだ【気合】で動けるようにっ!

大丈夫、倒れさえしなければ…
ほら…!いつもみたいに、ナイくんが助けてくれますから!

さあ反撃です!
【空中戦・ダッシュ】で邪神の周囲を飛び回り只管に攪乱
飛び回りつつ『黄昏竜の息吹』を吐き続け、
邪神本体の植物を全て焼き払います!

邪神の戦闘力が下がったところを、全身全霊の【怪力】を籠めて
我が【勇気】の全てを、この大斧に!!




 ソラスティベルはナイと突如出来た地表に立っていた。
「……どこか、話が通じそう? ……いえ、倒すしかない、ですね」
 ナイが、視線の先にいる存在の印象を零すようにして漏らす。が、ソラスティベルはそれには答えず、否、答えることが出来なかった。
 大きい……。
「――――」
 敵だ。ソラスティベルが見上げるようにして顔を上げた先、そこにいる。
 体高は十メートルほどで、壁のような圧迫感を感じるが、それだけではない。
 大きさによる“圧”は勿論だが、相手が持つ神秘然とした美しい気配に呑まれるようにして、自分の意識が朧げになっていくのを、ソラスティベルは気付いてなかった。
「…………」
 どこか上の空のような、そんな雰囲気のソラスティベルに気付いた“翠翁”が、その青白く輝く瞳で彼女と、そしてナイを射抜くように見た。
 ……!! マズい……!
 先ほどまではどこか浮遊感をも感じる意識の中だったソラスティベルだったが、身体を駆け巡った信号に弾かれるようにして、身体を前に飛び出した。行く先は、一つだ。
「――ソラ?」
「……!」
 驚いた顔で振り返った相方には答えず、ソラスティベルは彼の前に飛び込むようにして身体を差し込んでいく。
 差し込んだ
「……!」
「――!」
 次の瞬間。ソラスティベルが盾のように“サンダラー”を構えたのと、“翠翁”のユーベルコードが発動したのは同時だった。


 間に合いましたか……ね……。
 “サンダラー”を両手で保持しながら、ソラスティベルがそう思っていると、
「……!」
 自分の喉から、か、とも、こ、とも聞こえる音が聞こえた。息を吐き絞るような声は、身体を走る激痛のアラートだ。
 体中から、汗が吹き出る。
「ソラ……!?」
 そんなソラスティベルの様子に気付いたのか、背後のナイが駆け寄ろうとするのが気配で解るが、
「……駄目です!」
 あっ、今、声上ずっちゃってましたね……、と、頭のどこかで思いながら、ソラスティベルはナイに振り返らず、言葉を続ける。
「……ナイくんは、行って下さい」
 言う。
「私、敵の攻撃を食らっちゃいましたから、つまりはここで、まあ踏ん張ります」
 身体を走る痛みの主な源は、“サンダラー”では防ぎ辛かった自分の足回りだ。
「――――」
 ブーツで包まれた足は、その内部にある筋肉や骨が植物となり、血液は樹液だ。
 ……あっ、マズいですねコレ。意識したらさらに、凄く、痛い……。
 反省。増えた玉のような汗を地表に落としながら、そう思っていると、
「……!!」
 “翠翁”が動いた気配が、盾代わりの斧越しに解る。
「させませんってば……!」
 “サンダラー”の裏側に隠れた二人を視界に収めようと首を振った“翠翁”の動きに合わせ、ソラスティベルは両手で持った大斧を頭上に掲げ、傘のようにして自分とナイを邪神からの視線から遮った。
「……!!」
 “サンダラー”の内部から草花が溢れる程咲き誇る。
 急所に当たらないように見切って身体をズラしたが、比較的軽傷だった方の足も、今ので内部の殆どが植物化してしまった。
「っ……!」
 両足にろくに力が入らないのだ。崩れ落ちそうになるが、しかし柄を持つ両手に力を込めて、耐える。
「――行って!」
「……!」
 ソラスティベルの叫びに押されるように、彼女の背後で飛び立つ音が聞こえる。
 ナイが飛翔していくのだ。
「よし……。後は……気合と……、根性、です……よ……っと!」
 両手に力を込め、足を無理やり動かし、立つ。
 頭を振って、汗を雫として振り払えば、髪先から甘い香りがした。金木犀だ。色味はそう変わってないが、防御しきれなかった髪先がそれに変わっていた。
 香りに目を細めながら、ソラスティベルは異空間の空を見上げる。
「倒れませんよ、私……!」
 流星が、翔けていた。


 “超次元の渦”での戦いは、大気を裂くような音から始まった。
 空間の大半は黒く、広がる色だが、そこに一条の光が走っている。
 突如出現した地表から数百メートルは上昇した位置、一直線に突っ走る光はナイだ。
 大気を切り裂くように進み、行く。身体から飛沫を立てて噴出する光は、彼にとっての加速器で、この戦いで最高の出力だ。
 時折、気流に揺れるような震えを見せるが、それもすぐに制御。
 前からやって来る大気の壁は、高速で切り裂いていけばもはや粘りを持ったような感覚があるが、光の加速に念動力を加えれば、粘りも背後に置き去りに出来る。
 だからそうした。
「――――」
 ただ速度を上げて行く。その一念で大空を自由に飛べば、しかしそれを阻止しようとするものが現れる。
「――!」
 地表、そこからの咆哮は“翠翁”だ。大地を踏みしめたかと思えば、全身がエーデルワイスで覆われ、直後に大気の破裂音がもう一つ加わった。
 “翠翁”も音の壁を破り、飛翔したのだ。
 だが、それと同時に、“翠翁”は叫びを挙げた。疑問の叫びだ。
「――何故、って?」
 空を切り裂きながら、ナイは眼下の敵の叫びを紐解く。
 “翠翁”の速度が出ていないのだ。少なくとも、“翠翁”の想定したものよりかは。
「あの時、私が、ソラの後ろで、まごついてるだけだとでも、思いましたか?」
 そう言って、振り抜いた右手が握っているのは、音も無く揺れる一本の鎖だ。
「“地縛鎖”……。枯らさぬ程度に、と、加減は、出来ませんでしたが」
 高度数百メートル、その高さからだと地表の様子がナイも、“翠翁”もよく解った。
「!?」
 緑で生い茂っていたはずの地表の何割かが、枯れ、その養分が失われていることを。
 速度の源である植物を絶たれた“翠翁”は、満足な速度を出せず、その飛翔は比較的緩やかだったが、次第にナイとの距離は縮まり、ナイを撃墜せんと、空中で振り上げた前脚が、振り下ろされていく。
「!!」
 咄嗟に腕で頭を庇ったナイだったが、その質量差から宙を吹き飛ばされていく。
 大気の壁にぶつかり、そこにある荒い気流に揉まれてもんどり打つような軌道で流れていくナイだったが、即座に身体へ念動力を叩き込み、光の噴射も合わせて姿勢を戻す。
 吹き飛ばされた衝撃も完全に静止させれば、呼吸は荒く乱れており、防御に用いた両腕に引きつるような傷が走って、そこから止めどなく血が流れていることが解る。
 そして、体全体が淡く発光していることも。
「――――」
 次の瞬間には、その淡い光が解き放たれ、周囲へと飛び立っていった。


 ナイから発せられた光がまず最初に接触したのは、やはりナイ自身だった。
 傷つき、骨にまで影響するほどの傷を負った両腕に光が灯ると、
「――――」
 瞬く間に傷が塞がり、骨の欠損も元通りにしていった。
 高速の治癒。それが生じたのは、ナイだけではなかった。
「――ありがとうございます、ナイくん」
 地表から、活力に満ちた声が聞こえてきた。


 ソラスティベルは身体を起こし、数度、足を振った後に頷く。
「――あなたも元通りですね、“サンダラー”」
 ナイの光を浴びた大斧もソラスティベルと同じく、もはやその内部を植物で侵されていない。
「いつもみたいに、ナイくんが助けてくれましたね!」
 そんな声に、もう地表近くまで降り立っていたナイが困ったような顔をしながら、
「もう……、大丈夫?」
「ええ! ありがとうございます。心配させてしまいましたね。……だけど立っていたままで良かった」
「? どうして?」
 だってそうですよ、と。
「ナイ君が助けてくれるのはやっぱり確定なんですから! 立っていることすら諦めたら、その後戦うことなんて到底出来ません」
 “サンダラー”を背負い、言う。
「ナイくん、さっきので大分疲れてますよね? ここで回復しておいて下さい」
 地表へ降り立ってきて、ソラスティベルを気遣うような言葉を送るナイだったが、そんなナイの言葉にこそ疲労が顕著なのは明らかだった。
「にゃーん……」
 ナイは眉尻を下げた笑みで、肩を竦めて一度鳴くと、一歩下がり、右手に持った“地縛鎖”を地表に繋げ、そこから次々に生命力を吸収していった。
「ええ。――今度は、わたしが戦ってきますからね」
 そんなナイを確認した後、ソラスティベルは羽ばたいた。
 目標は遥か上空、そこから落下突撃してくる“翠翁”だ。


 暁色の翼が大気を打つ度に、“翠翁”の身体の上に一つの色が増えていく。
 夕焼けにも似た色で、まっすぐ進んだかと思えば、左右に広がり、“翠翁”を覆うようにして茂るエーデルワイスにぶつかると、夕焼けはその勢いを一気に増していった。
 火炎だ。
 夕焼け色の火炎は、“翠翁”の周囲を飛ぶソラスティベルの口から、絶えず吹き出されている。
「――!!」
 エーデルワイスへ次々に燃え広がっていく燃焼は爆発的と言ってもよく、それと同時で身を焼かれてる翠翁の絶叫が周囲に響き渡っていく。
「ほらほら、こっちですよ!」
 “翠翁”の死角に回り込み、火炎で炙るようにして、既に炎上している箇所に向けて、火炎を増やしていく。
 そのようにして焦らすと、火を消すために“翠翁”が選択するのは、ソラスティベルが飛び回っている方向に突進することで、自分の体を炎上させてくる存在を早急に排除しようとという考えだ。
 つまりは体当たりからの撃墜。そういった戦法だが、しかしてソラスティベルの方が巧みだった。
 両翼を時に小刻みに操作し、時にダイナミックな動きで、身に制動と加速を絶えさせず、常に“翠翁”の側を離れないのだ。
 そして何より。
「随分と速度を落としましたね! ナイくんと空中戦をしていた時とは比べ物になりませんよ!」
 “翠翁”の突進が間に合わないのだ。
 それは“翠翁”にとって、加速の源の一つであるエーデルワイスが、ソラスティベルによって次々に焼かれていることも関係するが、それだけではなかった。
「――――」
 後方に控えたナイの“地縛鎖”が、地表に残った植物から生命力を吸い取り、“翠翁”の高速飛翔を妨害しているのだ。
 “翠翁”の突進はソラスティベルだけではなく、その奥にいたナイをも狙った一撃だったが、
「見えて、います……!」
 低速になったとは言え、轟音を伴う突進だったが、ナイは身を念動力で吹き飛ばすことで難なく回避する。
「――――」
 突進が空振った。
 その隙を逃さず、ソラスティベルが背後から火炎を畳み掛ければ、もはや“翠翁”の表面に残っているエーデルワイスは数えるほどだ。
「……!」
「動きが止まりましたよ……!」
 憤怒と痛苦の絶叫によって“翠翁”が動きを止め、それをナイに知らせた直後、戦場に光が走った。
「――――」
 ナイだ。しかし、彼自身ではない。
 彼が生み出した“生命力吸収光”が空間を走って、“翠翁”の元へたどり着いたのだ。
「!?」
 光が直撃したことによって、“翠翁”が飛翔を持続するだけの力をとうとう尽かせ、地表へと、その身を落下させていく。
「――――」
 そんな、“翠翁”とは真逆の軌道を選択したのはソラスティベルだ。姿勢を伸ばし、翼を真下に振り下ろしす。
 すると、上から下へ運ばれてきた空気に押されるようにして、ソラスティベルが上向きの加速を全身に入れていく。
「これで終わらせます……!」
 やがて、上昇がその頂点に達したところで、ソラスティベルは持っていた“サンダラー”を大きく振り回し、構える。
「我が勇気の全てを……!!」
 そうして、一気に下降していった。
 決着を付けるのだ。


 激突までは一瞬だった。
 地に降りた“翠翁”が、空を睨み、吠声のまま首をもたげ、
 翼を背後に流して、高速で下降してくるソラスティベルが、柄を握る手に力を込めた。
 そして、激突も一瞬だった。
「――――」
 十メートルを超す邪神が、上空からのひと振りによってその身を一瞬にして断ち割られたのだ。
 遅れてやってくるのは様々なものだ。
 突風、轟音、それに地響き。
 ナイは、それら全てが綯い交ぜになった形容し難いものを体全身で感じながら、やがて段々と凪いでいった大気に従い、閉じていた瞼を開けた。
「――――」
 そこに立っていたのは、ソラスティベルだ。
 “サンダラー”を地面に突き立てながら、激突で甘く絡んだ髪を頭を振ることで解いた。
 そうして、そのままナイのいる方へ振り向くと、照れくさそうに笑い、
「――帰りましょうか、ナイくん」
 そんな彼女の様子にナイも笑い、駆け寄っていった。
「はい! ソラ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月24日
宿敵 『水禍』 を撃破!


挿絵イラスト