サクラミラージュのとあるカフェー、『バタフライ』。暖かな陽射しと柔らかな櫻の花が舞い降りる店内は静かな活気に満ちていた。
訪れた客らは、好んで看板メニューの「クリヰムソォダ」を注文する。激しく泡立つその半透明の綺麗な飲み物は、口内で弾け、得も言われぬ感覚をもたらすのだという。
その飲み物の味と泡の鮮烈を、甘く穏やかなアイスクリームの味が慰める。その物珍しさで客は増えた。カフェを営む老夫婦は客が増えたことに喜んでいるが、一方で増えすぎてほしくもないと語る。
「あまりお客さんがたくさんいると、隅々まで目が届かないんだ」
「それに、十分なおもてなしができないかもしれませんわ。それはできれば避けたいことですもの」
目尻に皺を寄せ微笑む夫婦。誰が見ても平和なその日常。
「はい、コーヒーお待ちどお……って、うわッ」
そんな日常の中、コーヒーを運ぶ夫が派手に転けてしまった。トレーもひっくり返り、湯気を放つコーヒーカップが反転。彼はそのままそれを頭から被ってしまった。
「お、おい旦那! 大丈夫かい!」
コーヒーを受け取るはずだった客もこれには仰天して駆け寄った。注文の品がどうこうという場合ではない。彼のような老人が熱湯を被っては一体どれだけの怪我が――!
「あたた……へへ、すみませんねお客さん。最近足が……どうかしましたか?」
しかし、彼は平然と、軽く埃を払い立ち上がった。顔面を伝う黒い液体に気付き、少しだけ拭う。
「いや、どうしたってアンタ……熱くねぇのかい?」
「熱く? あぁ……こりゃア、あはは……」
彼はコーヒーをパタパタと払うと、曖昧に笑って店の奥に入っていった。そして、何事もなかったように淹れ直した新しいコーヒーを客に給仕する。
「いやァ、失礼しました」
「おっ、おう……」
誰が見ても平和な日常。しかしそれは、薄皮一枚捲るだけで、異形の姿を覗かせるのだ。
グリモアベースにて。制服姿の女子高生、白神・杏華が猟兵たちを呼び止め、集めていた。
「みんな、お疲れ様。集まってくれてありがとう! 今回は、サクラミラージュでの依頼だよ」
新たな世界も発見からしばし経ち、依頼が増えてきた。そこに新たに舞い込むのは、ある不気味な様相を呈す事件である。
「サクラミラージュのあるカフェで、地下に影朧……つまり、オブリビオンが匿われてるみたい」
影朧は不安定なオブリビオンであり、即座に周囲に危害を加えるとは限らない。しかしながら、オブリビオンの行動はすべて世界の崩壊に繋がるものだ。捨ておくわけにはいかない。
「皆には、この匿われている影朧を撃破……または、説得して転生させてほしいの」
杏華は、そう言って数枚の引き伸ばした写真を広げた。現場となるサクラミラージュのカフェー、『バタフライ』の店内を撮影したものだ。
「まずは、店を経営してる夫婦を当たってみてほしいんだけど……この二人、どこかちょっと変なんだよね」
何の事情があろうと、影朧を匿うという行動は異様である。その異様な行動を起こす人物もまた特異性を抱えているものだ。
彼女が予知した夫婦の「特異性」は以下のようなものである。
高温のコーヒーを頭から被っても、熱がる素振りも見せない。
日曜大工の際誤って自らの指を木槌で叩いても、そのことに気付いてすらいない。
調理の際に包丁で指を傷つけても、血が一滴も流れない。
「この夫婦自体、普通の人間ではないみたい。かといって、この二人がオブリビオンってわけでもないんだけど……うーん……ちょっと、よくわからないんだよね」
ごめんね、と杏華は両手の指を合わす。ともかく、夫婦は人間ではなく、オブリビオンでもない『何か』だという。
まずはこのカフェーに潜入し、それとなく彼らのことを調べるといいかもしれない。また、彼らの動きを観察すれば影朧が匿われている地下への道がどこにあるのか、ということもわかるはずだ。
「不自然に思われないように、料理とか注文するといいかもね。オススメの商品はクリームソーダらしいよ!
それじゃ、影朧を倒すにせよ説得にせよ……皆、気をつけて行ってきてね!」
杏華はよろしくお願いします、と頭を下げ、転送を開始した。
玄野久三郎
玄野久三郎です。オープニングをご覧いただきありがとうございます。
今回はサクラミラージュでの依頼ということで、オブリビオン相手ですが説得などすることができます。もちろん、普通に倒すだけでも依頼は成功になります。
ミステリー、ホラーチックな雰囲気のお話ですので、そういうのがお好きな方にオススメです。
第一章はカフェー『バタフライ』に実際に向かい、謎の老夫婦と接触したり料理を食べたりしてください。
第二章ではカフェーの地下に作られた迷路を進み、匿われているという影朧を探すことになります。
第三章では匿われている影朧との戦闘です。すでに何かを行っているようですが、非常に複雑かつ奇怪な動機によって動いています。
説得をする場合はすべての謎を解いておく必要があるでしょう。
それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『彩る泡の傍らに』
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POW : 甘味も頼む
SPD : 軽食も頼む
WIZ : 今日のお勧めも頼む
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平良・荒野
謎めいていて、僕の力で解決できるのかは、少々不安な事件ですが。
評判の「クリヰムソォダ」を食べてみたいんです。はい。
店を訪れるときには、サクラミラージュでよく見かける袴の出で立ちに着替えておきます。
老夫婦には、あまり猟兵だと意識されたくないので…
注文の際には、クリヰムソォダと一緒に、今日のお勧めの品も頼んでみます。
こんなお店で食事をすることは珍しくて、少し緊張しています。と伝えて。
このお店は長く続けられているのか? 他のご家族が居られないのか? 等。世間話の風にして、お二人のことを聞いてみます。
話をしながら、杏華さんの予知したような、特異性。
他にも無いか、特に厨房にいる間に観察してみます。
カフェー『バタフライ』。事件の現場に降り立った平良・荒野(羅刹の修験者・f09467)は普段の和服とはやや違う袴姿に身を包んでいた。それはサクラミラージュの世界の中に彼をよく馴染ませる。
謎めいた、正体の掴めない事件。果たして自らの力で解決しきれるのか、と不安にもなる。だが、猟兵としての使命……そして、評判のクリヰムソォダとやらを食べてみたい、という思いが彼をここに立たせていた。
カラン、とドアについた鈴がなり、老父のいらっしゃいという言葉が飛んでくる。
彼が抱いた第一印象は「人の良さそうな男」といったところだ。何を隠しているかは不明だが、見た目はそう見える。
「一名様ですね。どうぞ、こちらへ」
続けて老婆が彼の傍らに歩み寄り、テーブル席に案内した。やはり、どこか違和感がある。人間ではなさそうだが……。
席に案内された荒野はメニューを開くと、軽く眺める。一般的な文字列とは逆から書かれたメニュー欄はやや検索性が悪い。
「こういうハイカラな店での食事はあまりなくて、少し緊張しています……ええと、クリヰムソォダ、とお勧めの料理で」
「おやおや。これは是非とも、カフェーの味を好きになってもらわないとね。かしこまりました」
老婆はうっすらと笑みを浮かべ厨房に入っていく。その姿を彼は目で追った。厨房の中も微かに確認できる位置に座ることができたのは幸運だった。見える限り、様子を窺う。
老婆は調理を始めた。フライパンに油を引き、慣れた様子で火を扱い始めた。料理それ自体に特異性は見受けられない。……だが。
(しかし、この違和感は……)
どこか違和感を覚えながらも、それを掴みきれない。そうこうしているうちに荒野のもとに完成した料理が運ばれてきた。
「お待ちどうさま。お勧めのオムライス。クリヰムソォダは食後に持ってきますからね」
「はい。ありがとうございます……?」
給仕するその老婆の手を間近で見て、違和感の正体が明らかになる。しばらく火を扱っていたというのに、その腕にも顔にも、どこにも汗がないのだ。
「どうかしました?」
「あ、いえ……」
荒野は慌ててオムライスにスプーンを入れ食べる。やや硬めに焼かれた薄い卵と炒められたチキンライスにケチャップが絡む。なかなかの美味だ。
「……このお店は長く続けられているのですか?」
荒野はオムライスを食べ進めつつ、老婆に聞いてみた。彼女は快く答える。
「ええ。もう三十か……四十年になるかしら。色々あったわ。二人で切り盛りするのも大変で」
「他のご家族などは……」
「あぁ……あはは。そんなことより、冷めないうちに召し上がったくださいな」
老婆は曖昧に笑みを浮かべると、そそくさと荒野から離れてしまった。それを見ていた隣の客がひそひそと話しかける。
「兄ちゃん、よくねぇぜそんなこと聞いちゃ。あのご夫婦、娘を亡くしてんだ」
「え……?」
「もう何十年も前かな……一時期はこの店にも勤めててなぁ。可愛い子で、仲も良さそうだった」
「その娘さんは、なぜ亡くなったんです?」
「さぁなぁ……それは知らんけどよ。二人は今もあの子のことを考えてるんだろなぁ」
死んだ娘。どこか嫌な予感を感じさせるそのワードが彼の胸に刺さる。といって、これはすぐに夫婦から聞き出せる話でもなさそうだ。オムライスを平らげると、すぐに老父はクリヰムソォダを持ってくる。
緑色の液体に白いソフトクリーム、その上に乗った赤いさくらんぼ。見た目に美しいそのグラスに刺さったストローから、まずは一口飲んでみた。
メロンの濃厚なフレーバーがまず鼻を通りぬけ、次に甘酸っぱい味わいが痺れと共に口内に広がった。シュワシュワと弾ける味わい。それをしばらく楽しんだあと、スプーンでソフトクリームを掬う。
なんの変哲もないバニラ味のアイスだが、それが炭酸の鮮烈さとよく合った。楽しみにしていたデザートの期待に反さない味に、荒野は静かな満足感を得ていた。
成功
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リューイン・ランサード
杏華さんの情報を聞くと、老夫婦はリビングデッドの可能性が高いですね。
影朧と老夫婦がどのような関係なのか、何故老夫婦が現在の状況になってしまったのか、調査開始します。
まずは客として『バタフライ』に入り、「クリヰムソォダ」を注文。
「クリヰムソォダ」が運ばれてきた時に「ありがとうございます」とグラスを受け取る様にして、お爺さんかお婆さんの手に触れます。
その時の体温や体の硬さで生者か死人か判る筈。
その後、気付かれないようUC:式神具現を使用。
透明化した式神達を介して、老夫婦の行動や言葉を把握。
勿論、「クリヰムソォダ」は美味しく頂きます♪
幸せそうな表情でアイスクリームを食べ、今日のお勧めにも挑戦します。
謎めいた老夫婦。その正体について、リューイン・ランサード(竜の雛・f13950)は「リビングデッド」ではないかと見当をつけていた。
本来死んでいるのに生かされているもの。死者を無理矢理に使役するもの。現在集まっている特徴から類推するとそんな所が近いはずだ。
それを確かめなくてはならない。リューインはバタフライに入り、手近なテーブルに座る。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「はい。クリヰムソォダを一つ、おねがいします!」
「はい。クリヰムソォダ一つね」
老父は注文をペンで紙に書き込み、厨房に入っていった。そして数分も経たずに帰ってくる。
「はい、お待ちどうさま。溶けないうちにどうぞ」
「ありがとうございます。……おっと、持ちますよ」
リューインはクリヰムソォダのグラスを置こうとする彼の手に触れ、支えるようにしてグラスを受け取る。これは接触によって彼の体温を測ろうとする試みだ。
「あぁどうも。親切な坊ちゃんだ」
「そ、そんなことないですよ。ははは……」
「――私の手が何か?」
それはリューインの狙いを知ってのものだったのか。老父はそう彼に問いかける。表情は笑顔で覆われ、真意を伺うことはできない。しかし、笑みで細められた眼の奥で、どこか粘つく視線を感じた。
「えっ、手ですか? いや、特に。あっ、大きな手だなあ、とは思いましたが!」
リューインは内心冷や汗をかきつつ、何もなかったように装った。老父はしばらく黙っていたが、やがてごゆっくり、と言葉を残し踵を返した。
(こ、怖かった〜……!)
彼は老父と重ねた己の右手を改めて見つめた。温度はない。やはり生きた人間の体温ではなかった。それより特筆すべきなのは、「骨の感覚がなかった」ことだ。
表面上は中手骨が出っ張っているように見えるし、実際に触って出っ張っているのだが……あくまでも表面がその形に膨らんでいるだけ、というような不自然な感触だった。
こうなると、もはや彼らがリビングデッドですらない何かなのではないかとリューインは思い始める。
(とりあえず……いただきましょうか)
ため息を吐いて彼はソフトクリームを一口食べる。とても甘い。しかし甘すぎない自然な甘みだ。自然と笑みが浮かび、幸せな思いが溢れてくる。
まろやかなその味が舌に広がったあとで、彼は青色のソーダを飲んだ。爽やかな酸っぱさが味覚を引き締め、パチパチとした炭酸の痛みが舌を刺してくる。
「美味しいなぁ……!」
こうなると、お勧めの料理というものも食べたくなる。注文しようと店内を見渡すが、どうやら夫婦はいないようだ。
(どこに行ったのでしょうか……?)
リューインは式札に力を込め、透明な式神を密かに召喚した。式神は自由に店内を巡り、厨房の奥に二人の姿を見つける。
二人は向き合いながら、何も言わず黙っている。笑顔はなく、無表情でただ向き合っているだけだ。微動だにしない。
(な、何やってるの
……!?)
背筋の冷えを覚えながらも、どうやら動きはないと察したリューインは店内に通るよう大きな声を出す。
「すみませーん! 注文よろしいですかー!」
その声が聞こえたらしく、夫婦がビクリと動く。すると彼らに表情が復活し、自然と解散する。まるでスイッチが入れられたロボットのように。
やって来た老婆に対し、彼は本日のお勧めを注文した。奇妙な様子を観察しつつも、彼はとりあえず出されたオムライスを楽しんだ。
成功
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ピオニー・アルムガルト
行動【WIZ】
非日常な老夫婦に日常の裏に隠れる影朧。どういう問題があるのかしら?
うーん…とりあえず難しい事は後にして使った頭に糖分補給!「クリヰムソォダ」を頂こうじゃないかしら!
甘い飲み物にアイスクリームなんて!甘美で背徳な物を最初に作ったのはどこのだれなのかしら!あ、お爺ちゃん今日のお勧めも下さいな!
老夫婦の見た目、常人との差異、行動、振る舞いなどを【野生の勘】に引っ掛からないか観察をし、【深緑の隠者】をお爺ちゃんに付けて目の届かない所も探ってみようと思うわ!得た情報は皆と共有しておきましょう!
美味しい物を作る人に悪い人はいないと思うから平和的に終わらせたいわね!
非日常の中身を持つ老夫婦に、日常の狭間に潜む影朧。彼らは表面上なんの問題もないように見え、事実誰に咎められることもなく生活を送ってきた。
しかし、それはあくまでも表面上の話だ。オブリビオンは世界を侵食し、異様な夫婦はそれを幇助する。その日常にはとどめを刺さなければならない。
ピオニー・アルムガルト(ランブリング・f07501)は思考を巡らせつつ店内に入る。夫婦はすぐに現れ、そんな彼女の注文を聞いた。
「うーん……とりあえずクリヰムソォダで! あ、あと今日のお勧めもくださいな!」
「はいはい。元気なお嬢ちゃんだ、ははは」
少ない情報で考えても仕方がない。まずは頭を働かせるためにも糖分が必要である。ピオニーはそう考え、店内をキョロキョロと見回してみた。
豪華なインテリアはなく、派手な備品もない。とにかく質素で目立たない店だ。鮮やかな色を放つのはそこここの客が飲むクリヰムソォダくらいのもの。
「はい、お待ちどうさま。オムラヰスとクリヰムソォダですよ」
「わぁお、待ってました!」
ピオニーはまず、赤色のソーダをストローから飲んだ。甘酸っぱい匂いと味わい。これはさくらんぼ味のソーダなのだろう。かーっ、と声を上げつつ、続いてアイスを一口。
「甘い飲み物にアイスクリームなんて! こんな甘美で背徳な物を最初に作ったのはどこのだれなのかしら!」
「ははは、確かに誰の発明なんだろうね。それじゃ、ごゆっくり」
「ありがとーお爺ちゃん!」
ひらひらと手を振り、ピオニーは老父が店の奥に行くのを見送った。笑顔が少し翳り、視線が鋭くなる。
(あれは人間ではないわね……)
一見完璧で、とてもよい人物であるようにも見える。しかし、あれは人間ではない。それは彼女の野生の勘が告げる明らかな事実だ。
であるならば、彼女が彼を深緑の隠者に追跡させたのは自然な話だ。彼が奥で何をしているのか。オムライスを食べながら視覚情報を辿る。
(んー……? 床を見つめてる……これは……隠し扉かしら)
よく見ると、老父がじっと見つめる床は色が違い、また四角い溝がある。どうにかずらせば開きそうで、おそらく地下に続いているのだろう。
もぐもぐと口を動かしながら、ピオニーは複雑な思いに駆られていた。
(こんなに美味しい物を作れる人だもの。悪い人じゃないと思うけど……)
それでも、やはり彼の振る舞いは奇っ怪に過ぎる。どうにか穏便に終わらせられればいいのだが、とピオニーはクリヰムソォダのストローをズゴゴと鳴らした。
成功
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百鬼・カオル
ここが、くだんの。影朧だけではなく、老夫婦まで特異となると、あまり無警戒に行くのもまずいでしょうか
……というわけでよろしく、瑠璃。(子犬サイズの悪魔を抱えて)
『めんどくせえな、押し入って喰っちまえばいいだろうに』
…そういえばここ、動物大丈夫なのかな。ダメでも大人しくさせるって約束すればいけるかな?
まずは情報ですよね。ここであえて外すのも何ですから、クリームソーダを。ええ、例え老夫婦が怪しくても、クリームソーダに罪はありませんから。…あ、この今日のおすすめも追加で。
……で、どうかな。(おやつをあげる振りをしながら、小声で)
君から見て、あの老夫婦は。臭いとか、動きとか、何かおかしなところ、わかる?
(ここが、くだんの――)
百鬼・カオル(人間の悪魔召喚士・f22516)胸に子犬を抱え、『バタフライ』の扉を鳴らした。体躯は確かに子犬であるにもかかわらず、非常に目つきが悪く、狡猾そうな面構えの犬である。
「いらっしゃい。おや……」
出迎えた老婆はその犬を見て言葉を詰まらせた。やはり喫茶店に毛のある生き物はあまり良くないだろうか?
「すみません、この犬は大人しくさせますので……少し目を離すとどこかに行ってしまうもので」
「あらまぁ……ふふ、構いませんよ。他のお客様の迷惑にさえなんなければねぇ」
思ったよりも寛大な措置にカオルはほっと息を吐いた。犬は非常に不満そうだ。
「それじゃ、クリームソーダと本日のお勧めを」
「はい。少々お待ちくださいね」
老婆が行くと、犬はカオルの膝の上で丸まりながらその口を開く。
『めんどくせぇな。押し入って喰っちまえばいいだろうに』
「そういうわけにもいかないだろ? 今回の件は影朧も夫婦も、どちらも謎があるって言ってたじゃないか」
そう、流暢な人間語で喋った犬の正体は、カオルが使役する悪魔「瑠璃」である。今でこそ小型になっているが、本来の姿は巨大な魔獣だ。だからこそ彼は不満を述べる。
『ダレが迷子犬だって?』
「そこまでは言ってないだろ……」
これはしばらくは機嫌が悪そうだ、とカオルはため息を吐く。そうこうしているうちにオムライスとクリームソーダが運ばれてきた。会話に気付かれぬよう視線を逸らしながら、彼は料理を受け取る。
「ごゆっくりどうぞ」
カオルは老婆が去ったのを確認して、小さなスプーンで掬ったアイスクリームを瑠璃に与える。瑠璃は鼻を鳴らし、未だ不満げにそれを食べた。
「……で、どうかな。君から見て、あの老夫婦は。臭いとか、動きとか、何かおかしなところ、わかる?」
『……ふん』
機嫌が悪くとも、仕事に支障をきたすような真似はしない。その信頼からカオルは黙して彼の言葉を待った。
『影朧の匂いが染み付いていやがる。それも、匿ってて毎日会ってるからとかそういう染み付き方じゃねぇ。根っこの部分が、影朧と同化したような匂いだ』
「それってつまり……?」
『知らん。所感を述べたまでだ』
それきり瑠璃は再び犬の役に徹した。根が影朧と同化したような存在。場合によってはあの老夫婦自体と戦う事にもなるだろうか?
警戒の目を向けながら、カオルは溶けかけたアイスクリームを瑠璃と共に食べた。
成功
🔵🔵🔴
荒谷・ひかる
人間でも、オブリビオンでもない……とすると。
もしかしたら、影朧のユーベルコードで作り出された存在なのかな?
ともあれ、現場に行ってみない事には始まらないよねっ。
服装は女学生風の袴姿に着替えて、お店に行くよっ。
お店の中の探索は【大地の精霊さん】にお願いして、こっそり見回ってもらうね。
その間は元気に挨拶したり、メニュー見てはしゃいだりして、わたし自身に意識を引き付けられるようにしてみるんだよ。
「こんにちわっ!わぁ、お洒落なお店ですねっ」
「噂の『クリヰムソォダ』、どんな飲み物なんだろ……すみませーん!これと、オススメのデザートひとつ、おねがいしまーす!」
「わ、わっ!すっごくきれいっ!いただきますっ!」
カランと鈴の音が鳴る。今回ドアを開いたのは荒谷・ひかる(精霊ふれんず癒し系・f07833)だ。普段の巫女服とは違う、女学生風の袴姿に身を包んでいる。
「こんにちわっ! わぁ、お洒落なお店ですねっ」
「いらっしゃい。あら、小さなお嬢さん。お一人かしら?」
「そうです! お店の噂を聞いて来ました!」
「あら、それは嬉しいねぇ。それじゃ、お席にどうぞ」
応対した老婆は顔を綻ばせながら彼女を座席に案内した。ひかるの持つ明るいオーラは老夫婦にとっても好意的に受け取られたようだ。
「わあぁ、いろんなお料理があるんですね……どれにしようかなぁ」
「ふふ、ゆっくり決めていいのよ」
ひかるはメニュー表に貼られた写真を見て大いに悩む。ピラフか、オムライスか、スパゲティか。いわゆる洋食の料理は彼女の出身世界的にも馴染み深い。
メニューをめくっていくとデザートが並ぶ。アイスクリーム、ショートケーキ。……さらに悩んでから、ひかるは決断した。
「すみませーん! これと、オススメのデザートひとつ、おねがいしまーす!」
話題のクリヰムソォダは飲むとして、もうひとつのデザートはおすすめだ。自分で決めるよりいいメニューが出てくることも多い。ワクワクした面持ちでひかるはメニューを閉じた。
「はい、それじゃちょっと待っててね」
去っていく老婆の肩口に、微かな色味を持つ何かが浮かぶ。それはひかるが契約する大地の精霊だ。
彼女はただの天真爛漫な少女ではなく、猟兵である。カフェを楽しみながらも自らの役目は忘れていない。夫婦の正体を探る、という役目は。
(オブリビオンの気配を持つけど、オブリビオンではない。もちろん人間でもないし、ユーベルコード使いでもない)
となると――と、ひかるは俄には考え難い予想を立てていた。すなわち、「老夫婦は影朧のユーベルコードによって作られた存在ではないか?」と。
それはおかしな話である。夫婦は影朧を匿う存在であるはずだ。それだけでなく、影朧を地下に押し込めてさえいる。もし夫婦が影朧のユーベルコードで作られたものならば、影朧は『自分で自分を閉じ込めている』ことになる。
(でも……ううん、間違いない……)
大地の精霊から共有される夫婦の纏う空気は、ユーベルコードで作られた生物のものだ。この夫婦の正体は、影朧がユーベルコードで作り出したもの――!
(なんでそんなことをする必要があるんだろう……?)
自分で自分を閉じ込め、作り出した老夫婦の像で変わらぬカフェ経営を行う。そこに隠された意図とは何なのだろう?
「はい、お待ちどうさま。ケーキとクリヰムソォダよ」
「わ、わっ! すっごくきれいっ! いただきますっ!」
キマイラフューチャー風に言うなら、映える見た目のケーキとソーダだ。もちろんその味もよくマッチしている。さっぱりと甘酸っぱいソーダに、まろやかなソフトクリーム、穏やかに甘いショートケーキ。
ひかるは一旦考察を中断し、一時の味覚の贅沢を堪能した。
大成功
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月影・このは
【金符】
優秀なボクの頭脳は解を導きました、この世界には怪奇人間という種族がいると聞きました。あの夫婦の正体はきっとそれに違いありま…
クリヰムソォダ美味しいですね…
ボクの役割は店員さんと話して情報収集&千里さんの管狐へ気づきにくいようこっちに意識を向けることです
このメニューはどんな味なのですか?
こっちのメニューは一体どういうものなのでしょう?
美味しそうですね、お兄、これ食べたいです(じゅるり)
ついでにボクも自身の目で会話しながら店員さんの状態を観測ですね
六道銭・千里
【金符】
とりあえず、このははこれ飲んどけ…
アホなこと言っとるこのはには頼んだ飲み物のストロー咥えさせて黙らせ
俺とこのはは客として潜入、見た目はこいつちっこいし兄弟に見せて
まぁ警戒心を抱かせんようにな…
因みに服装は二人共この世界に合わせて着替え済みや
俺は頼んだコーヒーを飲みながら姿を迷彩で消した管狐を厨房奥へこっそり放って情報収集
後はまぁ、このはのフォローと夫婦の様子の観察やな
それにしてもホンマ正体はなんやろうなぁ…
オブリビオンが生み出した幻…とかやろうか?
「優秀なボクの頭脳は解を導きました」
「ほぉ」
月影・このは(製造番号:RS-518-8-13-TUKIKAGE・f19303)と六道銭・千里(冥府への水先案内人・f05038)は何食わぬ顔で店内に入り込み、すでに二人分の飲み物を確保していた。
二人は似たような袴姿で、どこか似た雰囲気を身に纏っていた。傍目から見ればそれは兄弟のようにも見えただろう。
「この世界には怪奇人間という種族がいると聞きました。あの夫婦の正体はきっとそれに違いありま……」
「おう、ようわかった」
周りにまだ人がいるというのに普通に語りはじめようとするこのはの口にストローが突っ込まれる。千里は溜息を吐き、用意されたコーヒーを一口啜る。
「クリヰムソォダおいしいですね……」
「味とかわかるんか? ……まぁ、そらええ。ほんなら、手筈通りにな」
「お任せください、お兄。完璧に引きつけましょう」
そう言ってこのはは手を挙げ、老夫を呼んだ。やって来た男に対し、彼は畳み掛けるように次々と質問を投げていく。
「こっちのメニューはどんな食べ物なんですか?」
「これはね、ナポリタンと言って……」
「なるほど、美味しそうですね。お兄、これ食べたいです」
「……おぉ。じゃあそれと――」
「あと店員さん! こっちのメニューはどんな?」
「これはだね、ドリアというんだ。米にソースをかけて……」
「お兄! これも食べたいです!」
「……おぉ。注文したらええ」
ここぞとばかりに頼まれる注文に千里は眉をピクピクと動かした。いかん、集中しなければ。彼は目の前のこのはから意識を移し、自らが操る管狐に集中した。
管狐はすでに老夫婦の目を盗み、厨房に入り込んでいた。そしてその奥にある地下への入り口の床板を外す。
(地下への入り口……風が吹いとるな。やはりここがビンゴか)
千里が目で合図すると、このはは老夫を引きつけるのをやめ、注文を確定させた。合計五品の料理が注文されていく。
「お前、作戦にかこつけて食い貯めようとか考えとるやろ」
「そんなつもりは毛頭ありません」
明らかに料理を楽しみにした表情のこのはが弁明するが、帰ってくるのは千里の溜息ばかり。
「とにかく……今は一旦また床板を戻しとる。食い終わり次第、行くで」
「了解です。一体何者なんでしょうね、影朧は」
千里はその問いに答えることはできなかった。影朧の素性は謎に包まれている。他の猟兵からの情報によればあの夫婦は影朧がユーベルコードで生み出したものらしいが、そんなことをする理由はわからないまま。
妖怪――UDCを時に受け入れ、祓ってきた千里にとって影朧は比較的身近な相手だ。対処の仕方も妖怪に似ている。祓うためには、まず相手を知らなくてはならないのだ。
「お兄、これも美味しいですよ」
「あー、はいはい……」
考察を遮るように差し出されたスプーンを受け取り、千里はオムライスを食べる。謎満ちた事件に似つかわしくない、穏やかな味わいだった。
大成功
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第2章 冒険
『お屋敷迷路を踏破せよ』
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POW : 屋敷内を虱潰しに歩き回り、目的地を探す
SPD : 隠された通路を探し、ショートカットを狙う
WIZ : 屋敷の間取り図を入手し、現在位置を確認しながら進む
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厨房の奥にある床板を外すと、地下への入り口が現れた。階段のようなものはない。飛び降りると、一直線の廊下が見えた。壁面にはいくつか照明があり、普段からこの通路が使われていることを示唆している。
「おーい。お客さん」
しばらく進むと、背後から老父の声が反響した。振り返れば、或いは暗闇の中で光る包丁を確認できた者もいるだろう。
「入ってはダメですよ。ここは立ち入り禁止だ」
あくまで穏やかな声色で足音が近付いてくる。進む先の道は三つに別れ、更にその先も枝分かれしているようだ。
「さぁ、お客さん。戻りましょう」
この迷路のような道を熟知しているのは明らかに彼の方だ。猟兵たちは影朧の居場所をどうにか探りながら、老父の追跡を躱さなければならないだろう。
また、防衛のためならば彼を倒してしまうことも考慮しなければならない。地下迷路での命を懸けた鬼ごっこが始まった……!
平良・荒野
刃物を持ち出したとなると、尋常ではありませんが…
影朧の目的も気になります。無闇に彼を倒してしまうのは、悪い影響を与えるかもしれません。
迷宮の道は「失せもの探し」で正しい道を…
はい。正しい道に行き当たるまで歩きます(POW)
入り口の辺りは普段から使われているように見えました。同じように、行き来があったような道を進みます。
同道する人がいれば先を見通すのと老父を警戒するのと、役割分担したいところです
少し進んで時間を稼いだ辺りで、『他力本願』で、手がかりに気づけるように祈ります。
と言っても、長い時間は祈れないでしょうが…
老父に追いつかれた際には、錫杖での攻撃で「吹き飛ばし」、距離を稼いでまた逃走します
リューイン・ランサード
アドリブ・連携歓迎
お爺さんの追跡を逃れつつ迷路突破ですか、厳しいですね<汗>。
UC:式神具現で透明化した式神達を呼び出し、迷路を探索させたり、お爺さんの居場所を見張らせたりしつつ、リューイン自身も迷路の奥に向かって動く。
また、式神達が間取り図を発見すれば、それを見つめさせ、共有した視覚でもって迷路を踏破する。
可能な限り戦闘は避ける。
但し、仲間の猟兵さん達がピンチそうなら、ビームシールドを使った【盾受け】で【かばって】戦う。
戦闘になれば【氷の属性攻撃・全力魔法・高速詠唱】でお爺さんを凍らせる。
「クリヰムソォダ」と「オムライス」を頂きましたし、できれば倒さずに動きを止めるだけにとどめたいです。
(刃物を持ち出したとなると、すでに尋常ではありませんが……)
荒野は背後から近づいてくる足音に、自らの歩みを早めた。撃退することは難しくないが、できればまだ倒してしまうのは避けたかった。何しろ、影朧の目的がまだわからない。何を狙っているのか不明な以上、こちらからの刺激は避けたいというのが彼の見解であった。
「ひえぇ……あんなに優しそうだったお爺さんが急に豹変するなんて……」
荒野に同行するのはリューインだ。先行する荒野の周囲、そして背後を油断なくリューインの式神が固める。
「進むアテはあるんですか?」
「少しは……といったところですね」
荒野は口元に手を当てながら、分かれ道を吟味した。この迷宮の入り口は、普段から使われている形跡があった。つまり、普段使っている道にはそれ相応の使用感が残っているはずだ。
その推理に従い、彼は埃の少ない道を選んで歩いていく。幾度が道が曲がるが、法則に従った荒野の足取りは軽い。
「ん……これは?」
そうして歩いて行った先に、荒野は一つの小さな部屋を発見した。本棚が一つと机がひとつ、ガスランプがひとつ置かれている簡素な部屋だ。
「これ……間取り図ですよ! これがあれば影朧の場所もわかる!」
リューインは部屋の中に入るとすぐに地図を発見した。紙は古いが所々最近書き足したところがあり、何度か増築したらしいことが伺える。
一方の荒野は机の上に置かれた一冊のノートを手にとっていた。どうやら日記帳らしい。
「……一つ確認なんですが、あのお爺さんはまだ近くに来ていませんよね?」
「えっ? ……はい、そうみたいですね。それが何か?」
彼はリューインに確認すると、そのノートを開いた。影朧の正体、狙い。老父が接近するまではこの日記を読むこともできよう。何かの手がかりになればいいのだが。
『蝶子は今日もカフェーの手伝いを放ってどこかへ行っている。心配だ。なにか悪い男にでも捕まっていないだろうか? そろそろ彼女も大人だ、ここを継いで貰わなくてはならないのだが』
『ここ数ヶ月の外出を問い質す。何やら、蝶子は芝居をやるための稽古に出ていたらしい。カフェーの経営なんかで一生を過ごすのは嫌で、華やかな舞台に立つためによそへ行くとか言っていた。
悪い男に騙されるよりなお悪質だった。私たちが働いてきた家、娘の名前をつけたカフェーを見捨てて、よくわかりもしない芝居屋になるなどと……』
『私たちは地下の座敷牢に蝶子を閉じ込めた。どうしたらいいのかわからない。私たちの育て方は間違っていたのか? 私たちの愛情が足りなかったのか?』
『蝶子を閉じ込めて二週間が経過した。彼女の気は変わらず、私たちを口汚く罵る始末。折檻した』
『蝶子は衰弱してきている。二ヶ月前はこんな事になるなど思っても見なかった。あの日々に戻りたい』
『蝶子が死んだ』
『彼女の死は内密に扱い、どこにも明かさない事にした。私たちは愛する娘を殺してしまった。彼女の夢を認めてやるべきだったのかもしれない。もっと彼女と話すべきだったのかもしれない。私たちがどんな思いで日々店に立ち、蝶子に接していたのか聞いてもらうべきだったのかもしれない。
すべてはもう終わってしまった』
それは端的に言えば、夢を追う娘と家業を継がせたい親との対立の話であった。その末に娘は死んでしまい――荒野はそのページのかなり後ろに、比較的新しい書き込みを見つける。
『蝶子が帰ってきた』
「これはどういう意味でしょう……」
その意図に悩む荒野だったが、リューインがその肩を揺さぶる。事態が動いたようだ。
「どうしました?」
「お、お爺さんが……いなくなったんです!」
リューインは不可視の式神を使役し、老父の動向を把握するようにしていた。だが突如としてその姿が消えてしまったのだ。何が起きたのか、混乱が強まる。
「……一旦、ここを出ましょう。ここからは案内をお願いします」
現在地図を持っているのはリューインだ。今度は彼が先行し、荒野が警戒する陣形になる。了承したリューインはコクリと頷き、小部屋を一歩出た。
――その瞬間、彼めがけて長棒が振り下ろされた。
「えっ!?」
「危ない!」
飛び出した荒野はそれを錫杖で受け止める。長棒を持っているのは老父だ。その年齢にそぐわない怪力で、ギリギリと荒野の錫杖を押してくる。
「ここは立ち入り禁止ですよ、お客さん」
「くっ……!」
荒野は錫杖の支えをずらし老父の怪力を受け流すと、そのまま足をかけて体制を崩させる。膝をついた老父の胸を突き、その体を吹き飛ばした。
しかし堪えた様子はなく、すぐさま彼は体制を立て直し向かってくる。痛みや傷を無視する性質。それは戦闘においても特に厄介になりうるものだ。
再び突き出してきた長棒を、今度はリューインが受け止めた。彼の腕の傍らに滞空するフローティング・ビームシールドが拡大し、鉄壁の防御を見せる。
「できれば戦いたくはなかったですが……!」
美味しい料理を頂いた後だ。どうしても同情はある。だが猟兵として、戦うべき時は今だ。
荒野が再び彼を錫杖で突き飛ばし、リューインは刹那で詠唱を行う。周囲の温度が急激に冷えると、老父の体に霜が降り始めた。動きが鈍くなり、霜が氷の粒になる。
「お客……さ……立ち……」
やがて彼の体は完全に氷で固められた。命は奪っていないが、これで彼が解凍しない限り動くことはできないだろう。
「……行きましょう」
「ええ……」
胸の奥に苦味を覚えながら、二人は地図に従って座敷牢の中心に歩いて行った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百鬼・カオル
うん。やむにやまれぬ事情……という線も考えていたんだけど。あの様子じゃそれは薄そうだ……けど、だからって食べるのはダメだよ。
まだどういう関係かもわかってないんだ。
(子犬サイズから、騎乗できるサイズへ再召喚)
わざわざルートを三つに分けるくらいだし、更に隠し通路がある可能性も考えられるよね。
急いでる中でじっくりと細部を観察する余裕はないし、目じゃ難しいかもしれないけど……それなら別のやり方でやるだけさ。
三つあるルート、そのうち一番臭いの『濃い』ルートへ、スピードは遠慮なしで頼むよ。僕は落とされないようにしがみついてるから。
働かせすぎだって?さっきアイス食べたじゃないか。
「やむにやまれぬ事情……という線も考えていたんだけど。そういう訳じゃなさそうだ」
『だから言ったじゃねぇか。押し入って喰っちまえばいいってよ』
「ダメだよ。まだどういう関係なのかもわかってないんだ。影朧と、ユーベルコードの両親に一体何があったのか……」
カオルは抱えていた瑠璃を一旦離す。瑠璃は地面に落ちるより先に光となって消えていく。
「さて……改めて、出ておいで瑠璃」
ダイモンデバイスが光り輝く。その光は先程瑠璃が放ったものよりも遥かに大きく。そしてその光から現出した瑠璃もまた、先程の子犬のような姿とは比べられないほど大きくなっていた。
『やっぱりこっちの方が動きやすいぜ。で、どうするんだ?』
「戦いはしない。匂いを追ってくれ」
カオルは瑠璃に跨るとそう言った。その目的を察した瑠璃は器用に舌打ちめいた音を鳴らし、地面に鼻先を近付ける。
『フーン……相当入り組んでんな。そして血の匂いがあるぜ……あの老人どもからは血の匂いがしなかった。つまり別のなんかだ』
「わかった。行ってくれ。速度は気にしなくていい」
瑠璃は溜息を吐くと、カオルの言葉通り遠慮のない速度で走り出した。嗅覚によって空間を把握しているためか、その走りには迷いも淀みもない。
狭い迷宮の中を、まるで草原を駆けるように軽やかに悪魔は走った。そして、止まる。
『何だコリャ』
瑠璃が止まったのはある壁の前だ。その壁には幾つもの鞭や棒、火かき棒などが掛けられていた。カオルはそのうちの一つを手に取る。
「……赤黒くなってる……血だ」
『同じ奴の血だな。全部そうだ』
壁にかけられたそれらの武器は尽く赤黒い血でびっしりと覆われていた。語るまでもなく、凄惨な出来事がここで起きていたのだと察する。
「この血の持ち主を探して、そこに向かってくれ」
『あぁん? お前、働かせ過ぎなんじゃねぇか?』
「さっきアイス食べたじゃないか」
『そんなモンでお前……、ハァ。仕方ねぇな』
渋々納得した瑠璃は、再びカオルを乗せて走り出した。そして目的地に近づくにつれ、カオルは影朧の気配が濃くなるのを感じていた……。
成功
🔵🔵🔴
荒谷・ひかる
(包丁の光を確認して)
……どうかんがえても穏便に済みそうにないんだよっ!?
なんとかして撒かないと……!
ここが地下なら、大地の精霊さんのテリトリーのはず。
でも幻朧桜のせいかな、草木の精霊さんの力もすごい強く感じる。
……と、すれば。
大地の精霊さんにお願いして、進行方向の状況を探査してもらうね
地面に着いてる・埋まってるものの構造は、大地の精霊さんなら概ね把握できるし
並行して【草木の精霊さん】にお願いして、おじいさんの足止めをするよ
床や壁面から樹木を生やして通路を塞いだり
動く蔦やべたつく樹液で捕縛を試みたり
多分完全に止めるのは無理だと思うけど、時間稼ぎくらいにはなるはず……!
ピオニー・アルムガルト
お爺ちゃんはユーベルコードで作られた生物みたいだけど、影朧さんと五感は繋がっているのかしら?
とりあえず話し合いをしたい意思は伝えておきたいわね!
美味しいご飯を作れるって事は、美味しいご飯を食べれる環境を知っているって事。ダークセイヴァー育ちの私としては、それは幸せな事だと思うの。
お爺ちゃんも急に襲って来ないでまず声を掛けて来たし、影朧さんも争いたくない優しい人だと良いのだけど。
先ほど忍ばせておいた【深緑の隠者】そのままに、お爺ちゃんの位置を把握しながら【ダッシュ】で鬼ごっこスタート!
目的の場所に近づくほどに相手の焦りも出るでしょうから、そういうのも観察しながらズンズン直行よ!
「んー……」
ピオニーは深緑の隠者から得られるもうひとつの五感で老父を監視していた。
彼は包丁を手にズンズンと歩いていた……と思うと、角を曲がった瞬間に消えてしまったのだ。
目を離したわけではない。死角に入られたわけでもない。ただ、突然に消えた。包丁がチャリンと地面に落ちる音だって隠者は聞いている。
「ど、どうかしたの?」
同行することになったひかるは何事かと唸るピオニーに問いかけた。しかしその答えは彼女も知らないことだ。
「突然お爺ちゃんが消えちゃったわ」
「ええっ!? ど、どういうこと!?」
「ユーベルコートでできた生き物ならそういうこともあるのかもしれないわね。問題は、完全に相手を見失ったってことね」
ふう、と溜め息を吐きピオニーは深緑の隠者を自身のもとに引き寄せた。ひかるは不安げに彼女の先を歩く。
ここは地下である。すなわち、この迷宮は大地に囲まれている。その中でなら、ひかると共にある大地の精霊は最大限の力を発揮することができた。
迷路がどのように大地を押しのけているかがわかる。それはこの立体の迷路の形が完全に理解できるということだ。増築された形跡を見分け、元々存在したであろう道……中心への道を歩いていく。
だが、そんな地図にも弱点はあった。それは、迷宮内部に潜むものに気付けないことだ。彼女の進む先、曲がり角に、息を潜めて待つ者が――
「ひかるさん、ちょっとストップよ」
「えっ? ど、どうかしました?」
曲がり角に差し掛かる前に、ピオニーはひかるの肩を掴んで止める。彼女の野生の勘が先にある気配を嗅ぎつけたのだ。
「いるんでしょ、お爺ちゃん」
静かな石の廊下にそう投げかける。返ってくるものはない……ように思えた、次の瞬間。ピオニーは気配が一つ消え、一つ現れるのを感じた。
「やぁ、お客さんがた」
その声は背後から聞こえてきた。振り向くと、そこにはだらりと下げた右手に火かき棒を握った老父が立っていた。
「何処にでも出てこれるってわけ……」
「立ち入り禁止ですよ。ここはね」
暴力的に火かき棒が地面を打ち、けたたましい金属音を鳴らす。すぐにでも攻撃してくるだろう。やむを得ず、ひかるは次なる精霊に助力を求めた。
「草木の……精霊さんっ!」
天井、壁、床を突き破るようにして老父の眼前に樹木が現れた。太く鋭い木の枝から蔦が伸び、ロープのように彼を拘束する。
「今のうちに……!」
ひかるは老父を置いて中心部めがけて走っていく。……しかし、ピオニーがついてこない。
「ピオニーさん?」
「ねぇ、影朧さん。聞こえているかしら?」
ピオニーはその場に留まり、老父に語りかけていた。自分が使う深緑の隠者のように、ユーベルコードで生み出したものの感覚は生産者が共有している場合が多い。
ならば、この老父を通じて影朧と話すことができるかもしれないのだ。一縷の望みを胸に、彼女は拘束された老父に歩み寄った。
「あなたが作った料理、とても美味しかったの。料理が上手なのね」
ピオニーは笑みを浮かべる。それは屈託のないものというよりは、どこか寂しげで。
「知ってる? 美味しい料理を作るためには、美味しい料理を食べられる環境じゃなきゃいけない。……それは幸せなことだと思うの。まずいものを食べてる人は、まずいものしか作れないから」
彼女の故郷はそうだった。ダークセイヴァーにはまともな食文化などない。日々命を繋ぐために漫然と口に運ぶもの。それが食事だった。
「そんな環境にいて……そして、今でもお客さんにそれを提供している。あなたはきっと心の優しい人なのよね? こんな争いなんてやめましょう?」
それを聞いて、老父はブツブツと何か呟いている。静かな環境でも聞き取れないその声に、ピオニーは耳を近付けた。
「なんて言ってるの?」
「――オトウ サンノ 心ハ 氷ノ ヨウ二 冷タイワ」
拘束された老父の腕がわなわなと震える。一本、二本と蔦が千切れ始め、やがて拘束が破れる。
「ピオニーさん!」
「ちっ……!」
ひかるは再度草木による進路妨害を計るが、今度はいずれも火かき棒で払われていく。その膂力は凄まじく、拘束はできない。もはや逃げるほかなさそうだ。
「でも……無駄じゃなかったみたいね。お爺ちゃん――いや、影朧が焦っているのがわかるわ! もう先に進ませたくないみたいね!」
「てことは、この先に!?」
「影朧本体が近いわ!」
二人は確信とともに走った。道は広くなり始め、不気味な気配が漂い始めた……!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
六道銭・千里
【金符】
(このはの言に疑わしげな視線を向け)
まぁ、ええわ…ほんなら食った分の働きは期待させてもらおうか
このはの大腿部に足を手を肩に乗せて
なんや、電動の立ち乗り二輪車に乗ってる気分になるわ…
管狐を先行さし、先の道を確認
罠や行き止まりでないかをこのはに指示して先に進ませてもらおうか
一応後方に閃光弾(霊符)で目くらましを狙ってみるけど…
UCで作られた存在やったら効果はあるんかは…な…
ダメやったらまぁ普通に床に霊符を、足元を破壊して追いづらくしてみようか
悪いな、堪忍やで
月影・このは
【金符】
エネルギーは満タン
えぇ、先程食べたのもこういう自体を想定してです
というわけで全力稼働で行きましょうか
来ていた服を脱ぎ捨て普段の格好に…
膝立ちに近い体勢で千里さんを乗せて
脚のバトルホイールを使って【ダッシュ】です
途中撒くためにマイクロミサイルポッドより目くらましにスモークミサイル等を発射してみますが…あれ、UCより作られた存在なら視界とかあるんですかね?
駄目なら床を殴って破壊足元を悪くして追いかけにくくして撒きましょう
「――エネルギーは満タンです。先程たくさん食べましたからね。あれはこういう事態を想定しての事だったんです」
「ほーん……へぇー……そう……」
思いきり疑いの目を向ける千里を無視し、このはは変装用の服を脱ぎ捨てた。その下に現れるのは緑色の全身スーツ。その足元で熱が生まれる。
「というわけで、全力稼働で行きましょうか。乗ってください」
「……まぁ、ええわ。ほんなら食った分の働きは期待させてもらおうか」
千里はこのはの肩に手を、大腿に足を乗せた。足元からくる振動はほとんど電動の車のようだ。このはの足元のホイールが唸りを上げ走り出す。
「そこ右や」
その進路を指示するのは千里である。彼は管狐を先行させ、行き止まりを排除して進んでいく。
それでもナビゲートは完璧ではない。管狐が先行できる範囲には限度があり、このはの速度も相まってすぐに追いついてしまう。それ故、彼らは何度か道を引き返しグルグルと動いた。
「あー、ここも行き止まりやな。すまんこのは、引き――」
言いかけて千里の言葉が止まる。何事かとこのはは速度を緩めた。
「どうしました?」
「この先……妙な部屋が……」
千里はこのはから降りると早歩きで道を進む。その先にあるのは薄暗い小さな部屋だ。その中には机と――二つの腐乱死体があった。
「これは……」
手を重ねるようにして倒れているその死体は、グズグズに汚れた衣服を身に纏っていた。その服はまさに、『バタフライ』の制服。あの夫婦が着ているものと同じだった。
「本物の夫婦……ってとこか」
「成り代わられていたんでしょうか。んー……なんか落ちてますね」
このはは汚れた紙片を手にとった。手紙のようなもので、薄く文字が書かれている。
『あの子が影朧として現れたのはきっと何かの思し召しです。
私たちは確かに過ちを犯しました。償っても償いきれぬ事をしました。
しかし、だからこそ、現れたあの子に私たちの気持ちを伝えるべきだと思います。
私たちがどれだけ彼女のことを思い、愛していたのかを』
「……」
千里はその手紙を黙ってポケットの中に突っ込んだ。どう表現することも難しかった。強い悲劇の匂いのするそれを抱え、彼は部屋を出る。その瞬間、彼の眼前を包丁が通り抜けた。
「なっ――」
「お客さん。勝手に入ったらいけませんよ」
そこに現れたのは老婆だった。手に二本目の包丁を握り、千里に近付いてくる。その敵意を前にしても、彼は戦う気は起きなかった。
「……悪いな」
千里が床に霊符を叩きつけると、周囲は白い光に包まれた。視界が消える中、地面を擦るホイールの音が聞こえる。
「千里さん、掴まってください!」
このはは全速力で光の中から抜け出し、千里と共に離脱した。その頬を掠めるようにまた包丁が飛んでくる。
「さすがはユーベルコード製。視界とか関係ないみたいやな!」
千里はこのはと共に移動しつつ、背後に霊符を投げつけた。今度のそれが放つのは光ではなく衝撃。床が砕け、足場を崩す。
「ゴールは近いはずや。一気に飛ばすで!」
「はい。ちゃんと案内してくださいね……!」
速度を上げる彼らの後ろで、老婆は追う速度を緩めた。もはや追いつくことはできないと悟ったのだろう。
その姿が消える――夫婦は猟兵たちが影朧に迫ったのを察し、共に本体の元へと帰還した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『蝶子』
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POW : 蝶が群れ成し満員御礼
【真紅の蝶の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 悲劇舞台の始まり始まり
戦闘用の、自身と同じ強さの【主演男優】と【主演女優】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ : あゝ悲哀芝居
【悲哀に満ちた歌と踊り】を披露した指定の全対象に【過去手に入らなかった者等に対する悲しみの】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
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猟兵たちは迷宮の中心部に辿り着いた。そこにあったのは牢。牢の中にいたのは一人の少女。
「来て……しまった……のね。罪深い……私を……罰しに来た……のね」
その瞳は暗い色に沈み、少女の口角が吊り上がる。その時、猟兵たちの背後から店主の夫婦が歩いてきた。
「蝶子……! お前が呼んだんだな……こんな連中を! 罰を与える! 出てきなさい!」
「はい……お父さん……」
蝶子と呼ばれた少女は牢を自らの手で内側から開け、老夫の前まで歩いていく。すると老夫は、手にした火かき棒で彼女の頭を殴り付けた。血がボタボタと飛び落ちる。
「うふふ……お父さんは……こうでなければ……いけないわ……」
それでも蝶子は顔に笑みを貼り付けたままだ。床に落ちた血痕が蠢き、やがて形を成し、赤色の蝶が飛び立つ。
「さぁ……愚かな私に……罰を……与えて……」
血の蝶が舞う。蝶子は歪んだ敵意を猟兵たちにぶつけてきた――!
平良・荒野
…人は皆、愚かなものです。だが、愚かだからと、罰を受け続ける必要なんて、ありません…!
蝶子さんに説得を試みながら、「オーラ防御」で踏み止まって戦闘します。
言葉を受け入れる様子があれば攻撃の手は緩めます。
「あなたとご両親の間に何があったのか、僕には分かりません。きっと辛い思いもされたのでしょう。
でも…ご両親も、自分たちが愚かだったと認められたのではないですか?
だからあなたは、代わりのご両親を造らざるを得なかった。
ご両親はあなたを解き放とうとしたのに、あなたは自分で捕らえられている。
あなたも先へ往ける筈。ここで罰を受け続ける必要なんて、ないんです…!」
手に入らなかった者:実の両親。あまり震えません
「さぁ……愚かな私に……罰を……与えて……」
口元に笑みを貼り付けて、蝶子はフラフラとした立ち姿で立っている。傍らに立つ老婆と老父は怒りの形相で武器を構える。
荒野はそこにするりと近付くと、無防備に間合いに入り込む。そこに攻撃の意思は見受けられない。
「……人は皆、愚かなものです。だが、愚かだからと、罰を受け続ける必要なんてありません……!」
「……!?」
蝶子はその言葉を聞くと目を見開き俯く。彼女の代わりに怒りを発露させたのは隣の老父――を模したユーベルコードの人形であった。
「黙れ! 愚か者には罰が必要だ!」
躊躇なく振り下ろされる火かき棒を彼は左腕で受け止める。オーラとサイキックエナジーで八割の力は受け止めたものの、残る二割でも腕には強烈な痺れが伝わる。
「くっ……!」
喉から空気が漏れる。だが、今放つべきは痛みの苦悶でも悲鳴でもない。荒野には伝えるべき言葉があったのだ。
「あなたとご両親の間に何があったのか、僕には分かりません。きっと辛い思いもされたのでしょう。
でも…ご両親も、自分たちが愚かだったと認められたのではないですか?」
「アアアアアアアッ!」
叫び声が木霊した。それは老婆が発する金切り声だ。包丁を手に走り寄ろうとする老婆の首に荒野はサイコキネシスを放ち、辛うじてその動きを妨げる。
老婆の首が手の形に凹んでいく。しかし、迫ろうとするその勢いは緩まず、荒野はさらにサイキックエナジーの力を籠めねばならなかった。
「だからあなたは、代わりのご両親を造らざるを得なかった! ご両親はあなたを解き放とうとしたのに、あなたは自分で捕らえられている。
あなたも先へ往ける筈。ここで罰を受け続ける必要なんて、ないんです……!」
「……黙……れ」
人形に思いを代弁させ続けた蝶子が静かに呟く。辺りで無秩序に揺らめいていた赤色の蝶がざわめき立ち、一斉に荒野めがけて飛んでくる。
「何も知らないくせに……!」
猛然と飛び来る蝶は彼に激突――する直前で、空中で動きを止めた。翅ばかりがバタバタと動き、その体は進まない。
「何も知らないからこそ……! おかしいと思うからこそ、僕はあなたを止める……!」
動揺は引き出せた。彼女の奥底にある本当の思いを掘り当てた。だが、そこまでだ。この上攻撃するだけの余裕はもはや彼にはなかった。
サイコキネシスでかろうじて蝶を止め、そして弾き飛ばす。そうして彼は初撃を受け止め、荒くなった息を整えた。
大成功
🔵🔵🔵
ピオニー・アルムガルト
夢を持ち頑張る事は何ものにも代えがたいわ!結果は悲しい事にはなったけど、蝶子さんには未来を生きる選択肢がある。
過去から立ち止まったままで、これからも一人で暗い地下に閉じ籠り続けるのかしら?私は輝かしく大きな世界に名前の様に羽ばたく方が素敵だと思うけど!
と、出来るだけ『転生』を促したいわね。
説得が無理だった場合は危険因子をそのまま残す訳にもいかないので、『真の姿』全力で戦わせてもらうわ!
せめて自分の事を愚かだとは思わない様にさせたいけど、むうぅ…言葉で理解してもらうって難しいものね。私的に拳で語り合えたら楽なんだけど!
百鬼・カオル
監禁と折檻を原因とする衰弱死……そんなことをしておきながら、今さら愛していたなんて言われて許せなかったのか、それとも、もっと早くに話し合っておけばと後悔したのか。
……いずれにしても、君はそれを認められなかったんですね。
君の両親は、そういう風でなくてはならない。でなければ、君が耐えられないから。
悲しみに足を止めるのは簡単で、楽になれます。
けれど、得ることも失うことも無く停滞し続けるのは……きっと、死んでいるのと変わらない。
僕はまだ、死ぬには早いから。
……行こうか、瑠璃。
(監禁と折檻を原因とする衰弱死……そんなことをしておきながら、今さら愛していたなんて言われて許せなかったのか。
それとも、もっと早くに話し合っておけばと後悔したのか……)
カオルはかつてここで起きたであろう悲劇に思いを馳せた。蝶子は両親の望む跡継ぎを拒み夢を追ったが、激怒した両親に監禁され、最終的に殺されてしまった。
その後彼女は時を経て影朧として蘇る。両親は自らの犯した過ちを省み、今度こそと娘に愛を伝えたが……。
(……エゴだ)
その時の影朧の思いは、もはや察することはできない。それは両親であり、自分を殺した相手なのだ。
「……いずれにしても。君は両親の愛を認められなかったんですね」
怒りなのか後悔なのか。結果として蝶子は両親を殺害し、自らの望む両親を創りだした。自らを罰する、根からの悪人である両親を。そうでなくてはならなかったのだ。
本当に両親が彼女を愛していて、だというのに不幸なすれ違いで殺されてしまったなどあまりにも悲劇だ。
だからこそ彼女は演出したのだろう。登場人物全員が善人である本当の悲劇ではなく、悪がいて、善を踏みにじる「悲哀芝居」を。
「でも、こんな事を続けてもなんの意味もないわ!」
ピオニーは力強く影朧を否定した。本来ならば言葉の説得よりも拳による解決のほうが得意な彼女ではあるが、此度ばかりは言葉の拳を握りこまなくてはならないようだ。
「夢を持ち頑張る事は何ものにも代えがたいわ! 結果は悲しい事にはなったけど、蝶子さんには未来を生きる選択肢がある!」
「私に……そんなものは……ないわ! 私は罰を受け続けるの……これからも……!」
ピオニーの口を塞ぐべく、蝶子の周りの赤色の蝶が殺到する。それは薄い刃のような翅を羽ばたかせて突進し、彼女の皮膚に幾つかの切り傷を見舞っていく。
「つっ……!」
その切り傷から流れる血潮はやがて黒色に変わる。液体は固体となり、花びらになる。漆黒の花吹雪が彼女の体を覆った。
「はあぁ!」
真の姿解放とともに出現したレイピアが蝶を切り裂いていく。紅い蝶は二つに切られると液体となり、床に染みを量産した。
狙われたのはカオルも同様であった。まずはこの攻撃を止めなければ説得も何もない。ダイモンデバイスが輝く。
「行こうか、瑠璃」
『ようやくかよ』
現れた瑠璃は飛来する蝶を前足の一振りで十匹以上叩き落とした。しかし数が多い。落としきれない蝶は瑠璃自身が自らの体で受け止めるほかない。
『チィッ……! おいカオル! 長くは保たねぇぞ!』
「わかってる」
カオルは息を吸い、その場所から再び説得を開始する。影朧の心に届くようにと祈りを込めて。
「悲しみに足を止めるのは簡単で、楽になれます。けれど、得ることも失うことも無く停滞し続けるのは……きっと、死んでいるのと変わらない」
死。停滞。それらの言葉に蝶子は僅かに反応を見せる。
「それじゃ、一体何のために蘇ったのかわからないじゃないですか」
「うるさい……! 私が蘇ったのは……私の罪を……贖うために……!」
「過去から立ち止まったままで、これからも一人で暗い地下に閉じ籠り続けるのかしら? 私は輝かしく大きな世界に、『蝶子』っていう素敵な名前の様に羽ばたく方が素敵だと思うけど!」
「……!」
蝶子。両親が彼女に授けた名前。羽を持ち、自由に空を飛び移動する虫。きっと両親も、彼女に自由に生きてもらう願いを込めて名前をつけたのではなかったか。
赤色の蝶の突撃の速度が緩む。これ幸いと瑠璃は牙と両の腕で、周囲の蝶を落とし尽くした。
「だったら……なんで……」
だが、影朧の戦意はまだ消えていない。少女は両目から涙を流しながら怒りに歯を食いしばる。
「なんで私を……自由に……してくれなかったの……!」
悲しみの慟哭が響く。その声は聞くだけでピオニーとカオルの心に干渉する。直接叩き込まれる悲しみの感情に、彼女らの足は強制的に止められた。
「くっ……やっぱ拳で語り合うほうが良かったかしら……」
『カオル! 止まってんじゃねぇ!』
瑠璃はカオルに突進し、無理矢理彼を背に乗せて蝶子から距離を取った。
やはりやり辛い相手だ。そしてまだまだ油断できない。それは他の猟兵も同様に抱えた思いであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
六道銭・千里
【金符】
死ぬ間際におかしくなったんかもしれんなぁあの影朧
自分が悪いってな…
銭貫文棒に御縁玉で作った小盾サイズの結界で
攻撃は受けて流させてもらうで
罰…なぁ…
やりたいことがあったそれのどこが間違いや?
芝居をやりたい、ええ夢やんけ
あんたの夢は間違ってない
間違っとったんはあんたを閉じ込めて罰した両親やろ
もう自分を罰せんときあんたは悪うない悪んないんやからな
彼女に罪は無く罰する必要ないことを伝え
大量の六文銭を展開、六道銭流奥義、大判屠舞
転生して次は夢、叶えられたらええなぁ
ひとまずおやすみや
月影・このは
【金符】
娘さんが体罰で亡くなってそれでご両親は反省
普通にオブリビオンに接したけどそれは彼女の求めるものでなかったってことですかね?
説得は苦手ですのでその辺りは千里さんにお任せ
ボクはあの店主さんも仕掛けてくるならそっちの対処or千里さんの援護を
両肩のバトルホイール・ソーを両手に近接戦闘
本人でない彼に言っても仕方ないですが
監禁に傷害、殺人と見事に役満ですよね…
過去に手に入らなかった物…クリスマス商戦…新登場の大量のオプションアイテム…うっ、頭が…
最後は千里さんに合わせてブーストナックル!
そういえば上であのオブリビオンが操って作ってたんですね
とっても美味しかったですごちそうさまでした
「……死ぬ間際におかしくなったのかもしれんな、あの影朧」
自分が悪い。その発想はいささか珍しいものである。何しろ彼女は被害者だ。自らを正当化し、両親を憎むほうが遥かに自然だろう。
しかし彼女はそれをしなかった。自身を罰するというその歪みこそ、この影朧が抱えている最大のものだ。
「罰……なぁ……。やりたいことがあった。それのどこが間違いや? 芝居をやりたい、ええ夢やんけ」
それを聞くと蝶子はビクリと反応し、直後に両親の人形が武器を構える。
「いい夢だと? 馬鹿なことを! 私達の娘に何を吹き込むつもりだ!」
いきり立ち襲い掛かった老父の前にこのはが割って入る。肩部に配置されたバトルホイール・ソーの内部から鋸の歯が飛び出す。刃は回転しながらこのはの両手に近付いていく。
「説得は千里さんにおまかせです。その間、二人に邪魔はさせませんよ」
「邪魔だ小僧!」
振り下ろされた火かき棒をこのははホイールで受け止める。回転する刃と金属の棒がぶつかり火花が散る。同時に、棒にこびり付いた血糊が削れ落ち、血飛沫のように辺りを舞った。
「きえぇ!」
老婆はこのはの両手が塞がったと見るや、すぐさま包丁を手に駆け寄った。その足を千里が放った冥銭が直撃し、老婆はバランスを大きく崩し倒れる。
倒れた老婆を飛び越え、千里は一気に蝶子に肉薄する。彼は距離を取ろうとする彼女の顔の傍ら、その壁に向かって手をつき移動を牽制した。
「ええか、よく聞きぃ」
「聞きたく……ない……!」
「あんたの夢は間違ってない。間違っとったんはあんたを閉じ込めて罰した両親やろ!」
「ち……違う……!」
「そうだ違う! 間違っているのはお前だ蝶子! 私達を捨てて夢などを追うから死ぬ羽目になったんだ!」
老父が声を荒らげる。彼の火かき棒を抑えこむこのはの体が沈む。その膂力には目を見張るものがあった。
「監禁に傷害、殺人と見事に役満じゃないですか。そんな人間のどこに正当性があるっていうんです?」
「黙れぇぇ!」
このはの体が傾いた。火かき棒はますます回転する刃に押し付けられ、ガタガタと震え――そしてついに、切断される!
「なにっ……!」
カラン、と金属の棒が落ち、その戦場に一時の静寂が訪れた。その静けさの中で、千里は言葉とともに蝶子の心に歩み寄る。
「もう自分を罰せんとき。あんたは悪うない……悪うないんやからな」
「……違う……」
蝶子の髪が持ち上がる。異質な気配が漂ってくる――それは先ほども放たれた、感情を叩きつける技の前兆だ。
「このは、耳塞げ!」
「お父さんたちは悪くない……! 悪いのは私なんだ!」
千里の言葉通りこのはも耳を塞ぐが、それでも胸の奥に悲しみの感情が染みこんでくる。それは過去の。このはがまだヤドリガミになる前、モノであった頃の悲しみさえも呼び起こす。
(クリスマス商戦……新登場のオプションアイテム……お金さえあれば……)
そしてこの場において、そのユーベルコードの影響を受けないものがいた。両親である。彼らはゆっくりと体勢を立て直し、老婆は包丁を、老父は新たにポケットからナイフを取り出す。
「まずはこのオッサンらをしばいてからや」
「そうですね。合わせますよ、千里さん」
両親の形をした人形が彼らに駆け寄る。ナイフを、包丁を頭上に掲げる。
千里は大量の霊符を展開する。それは空中で円を描くと、螺旋を描きながら老婆の腹部を貫いた。
老婆が倒れるのを一瞥し、なおも老父は走る速度を緩めない。向き合うこのはの拳が光る。
「穿て正義の鉄拳! ブーストナックルッ!」
老父がナイフを振り下ろす前。武器の射程に入るより先に、このはの腕が射出された。それは弾丸のように鋭い速度で空中を進み、老父の鳩尾に突き刺さった。
「ぐあぁ……!」
両親の人形が消えていく。このはは腕を拾って付け直すと、ひとつ呟いた。
「そういえば、上ではあなたが操って料理を作っていたんですよね。とっても美味しかったです。ごちそうさまでした」
その言葉は蝶子に届いたのか否か。彼女は未だ、わなわなと震えていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
荒谷・ひかる
リューインおにいさん(f13950)と同行
なるほど、ようやくわかったんだよ。
あなたは『自分が愛されていないと証明したかった』んだね。
だって、愛されてるのに殺されたなんて、認めたくないもの。
だから『表向き平然と喫茶店を運営し、裏で理不尽な理由で虐待をする両親』を望んだ。
……たぶんだけど、本物のご両親にも虐待を強要して、拒否されたから偽物のご両親を作り出したんじゃないかな?
(【精霊さんのくつろぎ空間】発動し、少しでも落ち着かせつつお話続行)
いいかな?
『あなたは悪くない』
悪いのは、『愛する娘の言い分に耳を貸さなかった』ご両親なんだよ。
だから、こんなところで自罰しつづける必要なんて、ないんだよっ!
リューイン・ランサード
ひかるさん(f07833)と
蝶子さんには「誰か助けてほしい。芝居をしたい。」という願いがあったと思います。
なので老夫婦を【氷の属性攻撃・全力魔法・高速詠唱】で凍らせて無力化し、蝶子さんに「二人はもう貴女を傷つけません。ですから溜まった想いを吐き出して下さい。貴女はどんなお芝居に感動しましたか?」と話を促す。
ひかるさんの説得の上で、「ご両親は悔やんでましたし、貴女を愛していました。人生をやり直しましょう。僕は貴女の芝居が観たいです。」と転生を受け入れるよう説得する。
戦闘時は【盾受け、オーラ防御】でひかるさんを【かばい】つつ、UCで得た鎮魂能力&【破魔、光の属性攻撃、全力魔法】で、蝶子さんを成仏。
「まだ……まだよ……お父さんたちは……まだ……!」
一度は消えた両親の幻影。それが蝶子によって再び復元される。傷はなく、服装もそのままに、そして――彼らの抱える殺意もそのままに。
「こんな連中を……面倒事を……蝶子! 疫病神め……」
「ごめんなさい……ごめんなさい、お父さん」
蝶子は暗く、満足気な笑みで父の人形に応える。その陶酔に反して、ひかるはあくまで冷静であった。
「なるほど、ようやくわかったんだよ。あなたは『自分が愛されていないと証明したかった』んだね」
「……!?」
ひかるはこれまでの蝶子と偽物の両親の振る舞い、そして本物の両親が遺したものからおおよその真実を導き出していた。影朧の本当の目的。その歪みの底を。
「だって、愛されてるのに殺されたなんて、認めたくないもの。だから『表向き平然と喫茶店を運営し、裏で理不尽な理由で虐待をする両親』を望んだ……そんな所だよね」
本物の両親にもそれを望んで、拒まれたから殺したんじゃないかな。ひかるはさらに付け加えた。
蝶子はそれに沈黙で返す。それは隠しきれぬ肯定の沈黙であった。
代わりに吼えたのは両親である。度重なる猟兵からの撃退で体力も尽きかけていると見え、その動きは鈍っている。しかしいずれにしても、一般の人間であれば必殺の膂力に変わりはない。
リューインは意を決し、彼らの前に立ちはだかった。ひかるを守るようにフローティング・ビームシールドを掲げる。彼らは腕力に任せ、その盾に凶器を叩きつけた。
「ぐぅっ……!」
だが、彼は守るためだけに前に立ったわけではない。盾に隠した左手に強烈な冷気が集まっていく。
「凍ってもらいます!」
リューインが解き放つ魔力は空中に氷を走らせ、瞬く間に両親の体を拘束した。その氷は彼らの体を覆っていき、やがて完全に氷漬けにしてしまう。
「お父さん! お母さん!」
蝶子はリューインを睨むと、その体の周囲に赤色の蝶を浮かび上がらせる。まだ戦わなければならないか――リューインが再び盾を構える。
と、その瞬間、血生臭い空間の匂いが消える。自然溢れる森のような心を落ち着ける香りが満ちる。それはひかるの周りを飛ぶ風と草の精霊によるものだった。
「――……」
蝶子は塗り替えられた空気に呆気にとられている。話すならば今しかない。両親の人形が沈黙し、蝶子も冷静さを保っている今しか。
「蝶子さん。二人はもう貴女を傷つけません。ですから溜まった想いを吐き出して下さい」
「溜まった……思い……?」
「蘇ってからずっとここにいたんでしょ? だから、ホントはやりたいことがやれてなかったんだよね? 例えば――」
「例えば……お芝居、とか」
「……!」
リューインが指摘したそれは蝶子の最大の弱点であり傷口でもあった。彼女と両親の仲を引き裂き、その関係性を狂わせたものだ。だが……
「好きだった両親と仲違いしてまで、追いたい夢だったんですよね。貴女は……どんなお芝居に感動しましたか?」
「……私は……」
蝶子の表情は戸惑いと悲しみに満ちていた。脳裏に去来するのは華やかな夢のような舞台の世界、そしてそれをきっかけとした血と錆の座敷牢。彼女の思考は再び闇に沈もうとし――
「あなたは悪くない」
――寸前で、ひかるによって引き上げられた。ひかるは蝶子から目を離さない。蝶子はひかるから目を離せない。
「悪いのは、『愛する娘の言い分に耳を貸さなかった』ご両親なんだよ。だから、こんなところで自罰しつづける必要なんて、ないんだよっ!」
「……でも……でも! お父さんとお母さんは、本当はあんなことをするような人じゃなかった……! 私が狂わせたの! 私がおかしくしてしまったの……!」
ひかる達も地上で目撃した穏やかな老夫婦の姿。あれこそが彼女の見ていた、『普段の両親』なのだろう。
「貴女が夢を見たように、ご両親もきっと夢を見ていらしたんです。貴女が自分のお店を継いでくれる夢を。ただ、それが衝突してしまった……」
泣き崩れる蝶子の肩に、リューインはそっと手を触れる。不幸としか表現しようがない。そして、それ自体を慰めることは得策ではないだろう。
「ご両親は悔やんでましたし、貴女を愛していました。新しい人生をやり直しましょう。僕は貴女の芝居が観たいです」
「……私……そんなこと、許されるの……?」
「当たり前だよっ! あなたはもう……十分苦しんだと思うよ」
「私は……」
その時、蝶子の体から薄い桃色の花弁が零れ落ちた。影朧が消え、その命が巡る前兆である。
「わたしも、蝶子さんのお芝居が観たいな! たくさん練習したんでしょ?」
「ええ……とてもたくさん。演技も、歌も。……舞台には立てなかったけど」
「ここが、貴女の舞台ですよ。観客だっています」
リューインの言葉を受け、蝶子は涙を拭くとすっと立ち上がる。そして、よく通る声で歌を歌い始めた。
その歌には悲哀の声はなく。澄んだ歌声に乗って、彼女の体が桜の花びらとなって消えていく。伸びやかに、風はどこまでも桜を運んでいく。
やがて歌が止む頃――彼女の体も、そして生み出された偽物の両親も、その座敷牢から完全に消え果てていた。
最後の花弁が風に流れていくまで、ひかるとリューインは彼女の旅立ちを見送っていた。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年10月24日
宿敵
『蝶子』
を撃破!
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