ゆくへも知らぬ 恋の道
●
かたり。
わざと。戸を揺らし、小さな音を立てる。それからゆっくりと引き戸を開ける。それが彼女との約束だ。
その約束を以て開いた戸の先には、人ひとりが暮らせる程度の小さな庵。その座敷の中央に。彼女は居る。
「嗚呼、鈴彦、汝か」
安堵を滲ませた声をあげて、小走りに自分の元へ駆け寄ってきた彼女は。
「いかな者とて此処には辿り着かぬ。そう言った汝の言葉に嘘は無いとはいえ……」
つと、足を止めて、そう呟く。ほんの少しの沈黙、再び絡み合う視線。彼女が想いを綴るように言の葉をゆっくりと紡ぎ出す。
「やはり、ひとりは心細い……」
「悪いな、いつも遅くなって」
そう言って自分は彼女を抱き寄せる。強く、優しく、しっかりと。
彼女の容姿はおよそ自分が知る『人のそれ』とは異なる。されど、感じる息吹も鼓動もなんら自分と変わりない。そこで『生きている』。
全身に伝わってくる彼女の存在。
――嗚呼、俺は此の為に生きているのだ、と。
強く実感する。
ふわりと彼女を抱き上げると、鼻腔をくすぐる甘い匂いがする。それは彼女が纏う魔性の香り。この美貌、魔性の香り。それらゆえに見る者の悉くを惹きつける……それは間違うことなき魔性の女。
――最初見た時は俺もそう感じたものだ。
自分の運が良かったのは、仕事柄、不可思議な経験が在ったこと。そして、今の彼女は殊更妖力が弱かったこと。
彼女は言う。この美貌ゆえに、人を無闇に惹きつけ、その為に争いが起き、国が傾いた、と。しかし、彼女はそんなことを望んでいないのだ、と。
だから、自分はここに彼女を閉じ込めたのだ。此処には誰もいない。誰も訪れない。
彼女の言葉に嘘があれば、きっと此処から出ようとするはず。また自分を誑かして悪事に染めようというのなら、何らかの示唆があろう。
しかし。
何もなかった。日がな一日、彼女は此処で過ごし、自分を待ち、合意の上、自分の精力を食らう。少しばかり体がだるくなるが、問題ない。何より彼女との逢瀬は、ただただ忙しない日々の中で、自分にとってもひと時の清涼であったのだ。
ゆえに。
彼女の存在を両手で感じながら、ゆっくりと庵の奥にある寝床へ赴く。そして優しく、彼女を褥に横たわらせる。
横たわった彼女が両手を広げて、自分を誘う。
「このような日々が、ずっと続いて欲しい……」
吐息のように彼女が呟く。それに応えるように。俺は彼女を抱きしめ、彼女の唇へ唇を重ねるのであった。
●
「きっと。いえ、紛れもなく、純愛なのでしょうね」
緋薙・冬香(針入り水晶・f05538)は吐息のようにそう零す。
予知の場所は、サクラミラージュのとある街。
それは見た目にすれば、妖狐が男を誑かしたというもの。
しかし、だ。
妖狐は生前、人間の身勝手さに翻弄され続け、それすらどうにもできない己の無力さを嘆く者で。男は権力も財力も無く、ただ世間に対してペンで訴えることしかできない者。両者ともに世間の大きな波に流されるだけの存在ゆえに、真の意味で絡み合い、そして支える関係に成り得た。
それは恋と言えよう。愛と言えよう。
「私は見ただけだから。二人の間にある想いの真偽まではわからないわ」
もしかしたら、妖狐の恋は演技なのかもしれない。男の愛はただの自己満足なのかもしれない。全ては舞台の演目のように計算された何かなのかもしれない。
「でも……嘘偽りない、真実かもしれないわ」
だから、ここからは事実だけを述べよう。
男は妖狐を匿い、匿われた妖狐もまた人に惑わされぬその世界を良しとした。死が二人を分かつまで、この関係は続く。不安定な存在たる影朧の妖狐もずっとずっと生きていける。
「結論的には、放っておいても、きっと問題ないわ」
妖狐の力は弱く、大きな事件を起こすほどの力は無い。男にとっても被害はせいぜい精気を吸われる程度だ。そして健康にも害がないレベルときている。
とてもとても小さくて、儚くて、その中に人の想いが息づいている、密かな逢瀬。
それでも、と冬香は告げる。
「彼女はオブリビオンなのよ」
彼女の存在は本来在ってはならぬもの。そんな存在が現実に滲み出したならば、わずかでも少しでも、確実に現実を蝕んでいく。そして、気の遠くなるほど遠い未来かもしれない、この世を、世界を壊すのだ。
だからこそ、猟兵は。
●
妖狐の元へ辿り着き、彼女を倒す。これは猟兵としての責務でもあり、上手くすれば影朧の転生という妖狐にとっての救済にもなる。
そのためには、妖狐が匿われている庵まで辿り着かなければならない。
その為には情報が必要だ。それを持っているのは……。
「男の名前は、木村・鈴彦。帝都で新聞記者をしているわ」
主な記事の担当は、影朧に関する事件。此度、妖狐と出会ったのもまたそんな奇縁だったのだろう。また妖狐を匿っていることは周囲には秘密にしているらしい。
「普段の行動にも細心の注意を払っているみたいね」
その為、容易に口を割ることは無いだろう。あるとすれば、断片的な情報について口を滑らせるか、あるいは行くところを目撃するか。
「どちらにしても鈴彦に接触する必要があるわ」
幸いにして、ここ最近、サクラミラージュに訪れる猟兵が増えたためか、新聞記者たちの注目が猟兵に向いている。鈴彦に接触するのは簡単にいけるはずだ。
「そこで、取材の手伝いをして欲しいの」
鈴彦について助手のような形で手伝ってもいいし、逆にインタビューの相手になってもいい。とにかく、鈴彦との心理的な距離を詰めてほしい。
「そこまで出来たら、何か聞いてみて。ぼろは出なくても何かしらの反応はあるはず」
その反応を集めていけば、必ず庵の場所がわかるはずだ。
庵の場所が判明したら、そこへ向かって欲しい。
「でもきっと、庵にも辿り着けないような、何か仕掛けがあるでしょうね」
当初は妖狐を隔離することを目的としていたのだから。簡単に出入りできては意味が無い。それが今回障害となってくるだろう。
そして妖狐と相対したら、彼女を倒してほしい。
「妖狐にしてみたら殺されるわけだから、当然抵抗して来るわ」
それを退けて、そのまま倒してしまって何の問題もない。ただ、転生という影朧にとっての救済へ導くとするならば。
「荒ぶる魂と肉体を鎮めるために、彼女の意識を変える……簡単に言うと説得?」
それが必要になってくる。つまり、倒されることを良しと思ってもらう必要があるというわけだ。
「でもそこまでは求めないわ。皆にもそれぞれ考えがあるでしょう?」
鈴彦に対しても、妖狐に対しても。どのように接して、どのような言葉をかけるかは、それぞれの猟兵に委ねられるべき部分だ。それは想いという力なのだから。
だから。
「この恋の物語の行方、最後の頁をどう彩るかは……皆に任せたから。よろしくね」
そう言って、冬香は猟兵たちを送り出すのであった。
るちる
はじめまして、あるいはこんにちは、るちるです。なーんか思い付いちゃったんだよなぁ。
3つ運営はいつも死にかけですが、サクラミラージュのシリアスパート、お届けします。
シナリオの補足です。
構成としては、情報収集→庵に赴くために仕掛けを突破→妖狐と戦闘、となります。日常→冒険→ボス戦といった感じです。
第1章では鈴彦との心理的な距離を詰めて、情報を引き出してください。ここで大切なのは、鈴彦と表向き敵対しないこと。目的はあくまで『影朧の救済』となるので、優しく接する方が良いかと思います。そして何かヒントになる情報を得る為に聞いて下さい。直球でも変化球でも間接的でも迂遠な方法でも問題ありません。大切なのは、考え方、信念、伝える想いの強さといった感情の力です。
第2章は仕掛けや罠を突破して庵に向かうシーンになります。ここはギミックをどう回避するかというテクニカル重視のシーンです。
第3章はオープニングに在る通り妖狐との戦闘です。戦闘で妖狐を倒すことがもちろん大事なのですが、それに加えて説得を行うことができます。つまり転生を促す、倒されることを良しとさせるために、心境へ訴えかける行為です。
説得が多ければ、倒された妖狐は「無数の桜の花びら」となり、これに桜の精が「癒やし」を与えれば、いつの日か転生できるようです(その場に桜の精さんがいれば、そこで癒しを与えることもできます)。
いずれにしても。影朧の救済が目的とはいえ、猟兵は二人の仲を裂く立場にあります。
このことを重要視する必要はありません。しかし、プレイングを書く際に、ほんの少し心に留めておいていただければ。その、出てきた言葉を綴っていただければ。
あとはるちるにお任せください。
それでは皆さんのプレイングをお待ちしています。
第1章 日常
『帝都記者と一緒』
|
POW : 体力の求められる張り込みや機材運搬を手伝う
SPD : 器用さの求められる撮影を手伝う
WIZ : 話術の求められるインタビューを手伝う
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
●桜舞う帝都の路で
――今日も変わらず、幻朧桜が咲いて、舞って、散っている。
それはこの帝都で暮らす者には至極当然の光景で、今は目にすることが無くともその影に『影朧』という存在がいることも誰もが知っている事実だ。
当然、自分も。
ふと、彼女のことを思い出しかけたが、日中は仕事に集中することにしている。気をかけすぎて、どちらも中途半端になることだけは避けねば。
「おい、聞いたか。隣の区画で、『猟兵』って噂の奴らがたくさん来ているそうだ」
――ほう。
噂話も飯のタネだ。俺は早速その区画へ足を運ぶことにした。影朧であれ、猟兵であれ、記事に出来るなら、行かないという手は無いのだ。
御霊・タタリ
「サクラミラージュ……何だか、過ぎし世を、巻き戻した様な、そんな、世界です、ね」
「まぁ…やんちゃ、してた時ですから、昔過ぎなのかも、知れません、が」
神がいる世界ではありませんが、概念はあるようですし、お話で乗り切ります
真の姿(元の姿)の口調で、威厳あるスラスラした喋りを見せて頑張って答えます
その時にカマをかけられたら幸いです
「はい、私は元は祟りに冠する神でありましたが、何が起きるか分かりません、今では崇められています」
「悪だと思っていた存在が、善きに映れば存在の認識は変わるかもしれませんが、身に宿す業は変わらないモノ。そう、私も変わらない……そんなモノを貴方は、それと判断できると思いますか?」
●
とん、と。
転送からサクラミラージュの世界に降り立った御霊・タタリ(タタリと称されたノロイ・f17805)は周囲を見渡した。幻朧桜が舞い散る、という独特の雰囲気。されど、その裏側にある街並みや光景はどこかしら懐かしさを覚えて。
「……何だか、過ぎし世を、巻き戻した様な、そんな、世界です、ね」
それは単なる感想のようで、おそらくは齢100歳という彼女が通ってきた過去の話。そんな感覚に襲われるも。
「まぁ……やんちゃ、してた時ですから、昔過ぎなのかも、知れません、が」
と意識を『現在(いま)』に戻す。
この世界では、タタリのような『種族として神』は存在しないようだ。しかし、いずれの世界にも『神という概念』は存在するもの。
「お話で、乗り切ります」
そう、小さく呟いたのは、タタリを見つけて走ってくる鈴彦の存在を確認したからである。
鈴彦がタタリに求めたのはインタビューであった。この世界に無い存在。その事について問われると。
「はい、私は元は祟りに冠する神でありましたが、今では崇められています」
タタリ、普段の口調と異なるのは、威厳あるスラスラした喋りを頑張っているため。『何が起きるか分からない』と添えたのは、彼女にとっても本当に予想外の経験だったようで。生まれた世界にて、全てを無差別に呪う存在であったタタリは今では縁切りの信仰を集めている。
「悪だと思っていた存在が、善きに映れば存在の認識は変わるかもしれませんが、身に宿す業は変わらないモノ」
それはインタビューに答えると見せかけて、タタリが仕掛けたカマかけ。一瞬、鈴彦のペンがぴくっと止まったのをタタリは見逃さない。
「そう、私も変わらない……」
見た目や役割が変わったとしてもその本質までいきなり変わるものではないのだ、と。それは心当たりがあるものなら明確に『ソレ』を思い浮かべるであろう。
しばし、鈴彦を見つめていると、顔を上げた彼と視線が合う。
「……そんなモノを貴方は、『それ』と判断できると思いますか?」
「それ、は……どうでしょう? きっと『現在(いま)』が大切なんじゃないですかね?」
口ごもった鈴彦は、答えを誤魔化す。それでも動揺した心は隠しきれない。目が泳いだ方角をタタリはしっかりと確認したのであった。
大成功
🔵🔵🔵
大崎・玉恵
……まるで都におった頃のわしの話を聞いているような予知じゃった。
まだわしは世界の敵とは変じておらぬな?(つねったり鏡見たりして生存確認)
経験上、恋路に割り込みとうないというのが率直な思いじゃが……あまりに、わしらに似すぎておる。わしは失敗した故、そうならぬようにそっとしてやりたい。
じゃが、同時に。
わしは尾沙木の神となり、猟兵となった。世界を保つ役割を持つ者じゃ。
……仕事と割りきるしかないのう。
妖狐と気取られれば怪しまれよう、耳と尾を隠し【変装】して同業者になりすます。
【演技】するは年端もいかぬ少女の新米同業者。記者としての手解きを乞うのじゃ。
無論心得はない故、見聞を広めるに丁度よくもあるのう。
●
鈴彦が仲間の猟兵に問いかけている姿を見て。
大崎・玉恵(白面金毛・艶美空狐・f18343)の脳裏にフラッシュバックするのは、グリモア猟兵から聞いた予知……否。
(……まるで都におった頃のわしの話を聞いているような予知じゃった)
それは玉恵の過去のようで。封じたわけでもなく、さりとて誰にも彼にも話す内容でもなく。玉恵という存在の、奥底にひっそり『在った』記憶。その想いと目の前の現実がちかちかと衝突を繰り返し、玉恵は目を瞑る。
(あまりに、わしらに似すぎておる。わしは失敗した故、そうならぬようにそっとしてやりたい……)
そして、経験上、恋路に割り込みたくない、というのも玉恵の率直な思い。
だが、同時に、だ。
玉恵がゆっくりと目を開く。再び降り注がれる太陽の光を感じながら玉恵は心の内に告げる。
(わしは尾沙木の神となり、猟兵となった。世界を保つ役割を持つ者じゃ)
それは目の前の事件を看過しない、ということに繋がる。
(……仕事と割りきるしかないのう)
胸の内の複雑な思いを押し込めるように、玉恵は頭の耳を帽子で覆い隠すのであった。
見た目が妖狐という点で玉恵は警戒されやすいだろう。そう考えた彼女は、耳と尾を隠して同業者に成りすます。変装して演じるは、年端もいかぬ少女の新米同業者。鈴彦に記者としての手解きを乞う作戦。
「『あ、あの……!』 ふむ、こんな感じかの?」
声の調子や仕草を確認して、いざ鈴彦の元へ。
(心得はない故、見聞を広めるに丁度よくもあるのう)
と前向きに玉恵は、鈴彦に声をかけるのであった。
そんな感じで鈴彦と接触した玉恵。相手も同業者というならば、と『記者のいろは』を丁寧に教えてくれた。鈴彦の取材を手伝う形で彼に同行する玉恵。
「よし、次はあっちの猟兵に……」
「はい! あっ……」
その時、桜舞う風に玉恵の帽子が飛ばされる。ふわりと舞う帽子が地面に落ちて、姿を現わすのは狐の耳。
「……! 君、は……?」
その姿に鈴彦が目を見開くが。
「ああ、あんたも猟兵だったのか。驚かさないでくれよ」
じっとその姿を観察して、ほっと息を吐く。
鈴彦の驚いた表情。それは単にど肝を抜かれただけであったのだが、見方によればその一瞬、『玉恵を拒否した』とも言えるだろう。
再びフラッシュバックする記憶。あの人ではない、悪意のある人間が彼女を……。いや、それは今では無い。
鈴彦がほっと胸を撫で下ろしたその吐息に、思わず玉恵は呟いた。
「まだ、わしは世界の敵とは変じておらぬな?」
そう言って玉恵は。頬をつねったり手鏡を覗いてみたり。己がまだ『猟兵である』ことを、世界を守る側であることをなんとか確認する。
「……っ、それ、は……」
『妖狐である』玉恵の言葉と仕草に動揺する鈴彦。胸を苦しそうにつかみながら、鈴彦が思わず見遣った先を玉恵もまた見遣るのであった。
成功
🔵🔵🔴
勘解由小路・津雲
影朧の転生は、記憶は残らぬと聞いた。そうであるならば、妖孤にとっては救いでも、木村とやらにとってはどうなのだろうな。この青年に、相手の本当の幸せのため、一番大切なものを失う覚悟があるだろうか……。
【調査】
ここはひとつ、別件の調査で帝国記者の力を借りに来た風を装うか。
「あんたが影朧の事件に詳しいと聞いてね。話を聞かせてもらいたい」
質問はまず影朧救済を取材したことはあるか、という内容で、救済ということに意識を向かわせる。
さらに、取材してきた中で、影朧が隠れられそうな場所は? と尋ねる。おそらく本命は外して答えるだろう。その後、木村青年の取材記録などを調べ、不自然に触れられてない場所を探してみよう。
●
他の猟兵たちが鈴彦の元を訪れる様子を確認しながら、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は、ふっと思い出す。
(確か……影朧の転生は、記憶は残らぬと聞いた)
それは猟兵たちがサクラミラージュという世界を巡り歩くうえで共有した知識。もし、そうであるならば。
(妖孤にとっては救いでも、木村とやらにとってはどうなのだろうな)
影朧の救済は、この世界の常識。ゆえにそれは一般的に『救い』とされている。だが、この事件の場合は……? そして津雲が思うことがもうひとつ。
(この青年に、相手の本当の幸せのため、一番大切なものを失う覚悟があるだろうか……)
それは……おそらく確認でもしてみないとわからないだろう。
その手掛かりを掴むためにも、津雲は鈴彦に接触することにした。
猟兵とて、すべてを知り得ているわけではない。別件の影朧事件、その調査に帝都記者の力を借りに来た、と津雲は鈴彦に告げる。
「あんたが影朧の事件に詳しいと聞いてね。話を聞かせてもらいたい」
「もちろんだとも。さあ、何でも聞いてくれ」
知っていることしか答えられないが、と告げて、鈴彦は津雲の質問に答えていく。
「まず、影朧救済を取材したことはあるか?」
「それは片手で足りるほどだな。やはり現場は危険で近付けさせてくれないからな」
経緯を追ったことはある、という鈴彦に頷きを返す津雲。
(これで、影朧の『救済』ということに意識が少なからず向いたはずだが)
と津雲は質問を続ける。
「取材してきた中で、影朧が隠れられそうな場所は?
「そう、だなぁ。それは難しい質問だ。奴らはどこにでも隠れるからな」
「……?」
予想外の答えだったのか、津雲は思わず首を傾げる。その様子を見た鈴彦は慌てて手を振って捕捉する。
「いやいや。誤魔化しているわけじゃあないんだ。奴らは本当にどこにでも隠れる。形が決まってないからな。それに……人の影や想いに隠れることすらあるんだから」
「それは、どういう意味だ?」
「そのまんまの意味さ」
その後、数度の質問をやり取りして津雲は鈴彦に別れを告げる。
「ふむ……」
少し離れた場所で鈴彦の様子を思い返す津雲。質問に対して明朗に答える彼の様子はまるで他人事のようで。あれはもしかしたら。
(自分は『影朧を匿っている』という意識はほぼ無いのかもしれない)
であるならば、逆に、だ。
普段の行動の中で必然的に綻びが出ているかもしれない。
そう感じた津雲は鈴彦の関係者をあたる。取材記録や普段の行動、その中の違和感などを調べたあげた津雲。
「ここいら辺が怪しい、か」
記者という性質上、現地には幾度となく訪れる彼の足をもってしても、取材という名目では訪れていない場所を数か所、発見したのであった。
成功
🔵🔵🔴
文月・統哉
今という時が幸せであればそれもいいのかもしれない
でもいつか鈴彦の命尽きる時
一人残された妖狐の悲しみは
より深く重いものになりそうで
分かってる、彼らにとっては余計なお世話だ
それでも俺は願ってしまうから
彼らのゆく道が輪廻の先の未来へと繋がる事を
鈴彦に接触し手伝いを
機械系は得意分野だしね
カメラマンとして役に立てたらなと
人懐っこい後輩としてコミュ力使い情報収集
撮影の小道具で使った花を切っ掛けに話を
「鈴彦さん、良かったらこの花要りませんか?捨てちゃうの勿体ないし、彼女さんにでもあげたら喜びますよ、きっと」
他愛無い話の中にも彼女への想いを感じ取れたらと思う
仕事が終わった後
庵へ行く鈴彦をUC黒猫の影で追跡する
●
調査はお手の物、と。サクラミラージュ現地の服装に着替え、持ち前のコミュ力で周囲の人と談笑しながら。されど、文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)は心の内に思う。
(今という時が幸せであればそれもいいのかもしれない)
それは鈴彦と妖狐の逢瀬のこと。
しかし、しかしだ。いつか鈴彦の命が尽きたならば。
(……一人残された妖狐の悲しみはより深く重いものになりそうで)
その光景に、その慟哭に。想像とはいえ、その重さに胸を押し潰されそうになる統哉。ただ、それはグリモア猟兵の予知のように、見えた未来の話ではない。そして。
(……分かってる、彼らにとっては余計なお世話だ)
そう、統哉が干渉することではないのかもしれない。
それでも。彼は願ってしまうのだ。
――彼らのゆく道が輪廻の先の未来へと繋がる事を。
●
帽子を被ってカメラを持って。機械系は得意分野な統哉が扮したのはカメラマンであった。
「鈴彦さん、俺を使ってくれませんか?」
と、帽子の縁を上げながら人懐っこい後輩のような笑顔を見せて。統哉は鈴彦に接触する。手伝いは何人いてもいい、と鈴彦も快諾して、二人は即席コンビで東奔西走、鈴彦の指示で次々とポートレートを獲っていく統哉。
とある撮影の時に、撮影の小道具として数輪の百日草を使い、被写体の女性を撮り終えた後のことであった。
「鈴彦さん、良かったらこの花要りませんか? 捨てちゃうの勿体ないし……」
回収した百日草を手に、統哉がくるりと振り返る。その先にいるのは取材の後片付けをしている鈴彦。
「彼女さんにでもあげたら喜びますよ、きっと」
「ばか。そんなのいねぇよ」
言外に『恋人などいない』と。そう告げる鈴彦に、統哉は内心びっくりする。
――ではあの妖狐はどういう存在なのか。
そのことをどう問うか、考えあぐねている間に、鈴彦の表情が和らいだ。
「でも、そう……だな。花をあげたい相手は、いるな」
そう言って、百日草を手にする鈴彦。
「いただいていくよ。どんな顔をするか見てみたいしな」
一輪、百日草を手に取って。鈴彦はふわりと笑うのであった。
仕事を終えて鈴彦と別れた統哉は今日あったことを整理する。
(恋人は『いない』。花をあげたい相手は『いる』)
そしてグリモア猟兵から聞いた予知の内容。
(何か、何か噛み合っていない……)
だけど、鈴彦の言葉から感じた『妖狐に対する想い』は本物だった。
もしかしたら。気持ちは、想いは本物でも。やはり影朧と会っている影響が鈴彦に出ているのかもしれない。
遠ざかっていく鈴彦の背中をみつめつつ、統哉が呟く。
「…………影よ、走れ」
小さく、それでいて鋭く。統哉のユーベルコード『黒猫の影』が発動する。統哉の影からするっと抜け出るように生まれた黒猫の影の追跡者。それはひと鳴きするように口を開いた後に。夕闇に紛れて黒猫が鈴彦を追跡し始めた。
成功
🔵🔵🔴
サラ・メリータティ(サポート)
「はわわ」「献身的」「友好的」「前向き」「サポート気質」
NG項目なし、回復、補助タイプです
これにより同行者が酷い目に合うのは申し訳ないので気軽に流して大丈夫です
回復の事や補助、精神的ケアなら任せてくださいな妖狐です
困っている人のお役に立ちたいです
力仕事や走ることは苦手ですが、細かいことは結構得意
頼まれたら断れないタイプ
とりあえず「はわわ~」や「はわわっ」をよく言います
はわわですが「ドジっ子ではない」
真面目な時はちゃんとやり、楽しむ時はしっかり楽しみます
人を助けるという覚悟が決まっていてたとえ捨て身であろうとも救助にあたります
不思議な鞄にはお菓子や冒険に役立つ素敵なものが沢山詰まっています
●
鼻歌交じりに一輪の百日草を手にして。1日の仕事を終えた鈴彦はどこかへ向かっているようであった。それをこっそり追いかけるのは、サラ・メリータティ(はわわヒーラー・f00184)。
「はわわっ」
何故かちょっと困り気味なのは、お手伝いのタイミングを外したからだ。何が悪いって転送に手間取ったグリモア猟兵の手際です。
「はわわ~」
そんなわけでどのタイミングで声かけるべきかをはわわってるサラだったのだが、不意に鈴彦が立ち止まり、しゃがみこむ。
どうやら何かトラブルが?
――困っている人のお役に立ちたい。
それは猟兵の任務と関係なく、サラの信念である。その内なる心に従って、サラが鈴彦に駆け寄る。
「何かお困りですか~?」
「えっ。あ、ああ、ちょっと靴底が取れてしまってね……」
鈴彦の言葉に足元を見れば、彼の西洋靴の底が見事に外れている。このままでは何をするにも不便そうだ。
「はわっ、それは大変です!」
鈴彦の困った顔に、サラは肩からかけている『便利で不思議な鞄』の中身をがさごそ。『お菓子や冒険に役立つ素敵なものが沢山詰まっている』というその鞄の中から取り出したのは、なんと接着剤である。鈴彦の靴を借り受けて、器用に修復していくサラ。力仕事は苦手でも、細かいことは結構得意なのだ。
それを見て鈴彦が呟く。
「あんた、狐耳なのに器用なんだな」
「……はわっ?」
「いや違うな。あいつが不器用なのは俺に似たからか。難儀なことだ」
そう、ひとりごちる鈴彦。それをサラがじっと見つめていると、その視線に気付いた鈴彦が慌てて両手を振る。
「ああいや、戯れ言だ。気にしないでくれ」
応急処置の終わった靴を受け取り、鈴彦はサラに向かい直る。
「助かったよ、狐耳のお嬢さん。ありがとう」
そう言って鈴彦は再び帰路……否、例の庵への道へと戻る。その後ろ姿を見送るサラ。
サラもまた鈴彦の言動にかすかな違和感を抱いて、仲間の猟兵と合流するのであった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 冒険
『幻影ガス灯通り』
|
POW : 誘惑にも負けずに直進む。
SPD : 現れた幻影に理性的に分析、突破。
WIZ : 幻影に対抗する術式を用いて突破。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
●
影朧はオブリビオン。その行動の全てはいずれ、世界の崩壊へと繋がる。
――Crazy for you.
貴方に狂っても構わないと呟く言葉が、愛しているという意味ならば。そして妖狐の世界が鈴彦で出来ているのならば。
人ならざる者との恋の末に、彼が狂うのは自然の摂理なのだろう。
だから。
世界は、鈴彦は……少しずつ歪んでいっているのだ。
●
猟兵たちが感じた違和感は、その歪み。鈴彦と相対した猟兵たちが各々感じたことを共有して整理する。
鈴彦は妖狐を愛している。その想いは紛れもなく本物で。
だけど、一方でその想いは恋や愛のように『他者に向けられたもの』とは感じられない。
まるで『そこに在るのが当然』『そうするのが当然』という鈴彦の言動には。
――妖狐を隠しているのに/匿っておらず。
――妖狐は愛しい人なのに/それは他者ではなく。
――妖狐の身に宿す業は変わらぬと思いながら/世界の敵となることを恐れている。
そんな想いが見え隠れしている。
彼はもしかしたら……妖狐を分たれた自分自身のように、想っているのかもしれない。
●
鈴彦を追跡していたユーベルコードの効果は、とある幻影ガス灯通りの前で途切れていた。
鈴彦の記した取材記録によると、ここは元々活気あふれる夜の街であったが、影朧による事件があった後、一気に寂れてしまった。直後、このガス灯通りは『迷い辻』となってしまった。
迷い辻。それは通る者を惑わし、迷わせるという。その理由は判明していない。不意に現れる幻影のせいとも言われているし、あるいは人ならざるモノが棲みついているともいう。それが誘惑し、あるいは連れ去っていくのだとも。
そんな面倒な場所に住まう者も訪れる者もなく。影朧とてこんな場所では何もすることなく立ち去るであろう。そんな、最早在るだけの、価値のないこの町の一角、この辻を通り抜けなければ辿り着けない庵が、鈴彦の隠れ家だ。
この地には何も無い。それが周囲の共通認識。影朧を追う鈴彦ならばこの地に訪れても、取材と誤魔化すことができる。今、彼だけがこの地の価値を知っている。
――この地に妖狐を隠したならば。
そして、妖狐がここから出なければ。鈴彦がこの場所を告げなければ。何も無い場所に誰かが訪れることはない。
それこそ。
(神通力や千里眼でもない限り、影朧が潜んでいるとはわかるまい)
と。
鈴彦のその作戦は功を奏していた。……猟兵が訪れるまでは。
●
猟兵たちもまた、鈴彦が消えていった幻影ガス灯通りへ足を踏み入れる。
ガス灯の光が揺らめいて、猟兵たちに降り注ぐ。それは幻影となって……猟兵たちを惑わす。
――もうやめてしまえ。楽に生きよ。
――お前は自分の行動に自信を持って行っているのか。
――この先に進むのは何のためなのか。
――この恋愛は……許されざるものなのか。
ここを通り抜けるのに必要なのは、誘惑に負けぬ『揺らがぬ信念』。あるいは惑わされぬ『冷静な心』。もしくは幻影に対抗する『強い想い』。
いずれかがこの迷い辻を突破する鍵となる。
正しいか否かは問題ではない。あなたが猟兵として『ここに在る』、その想いをぶつけてほしい。
大崎・玉恵
……わしも、「この者の為ならば世界などどうなってもよい」というほどに惚れ込んだことがある。
結局、世界とは大きく。わし一人ではどうしようもない力に引き裂かれてしまったが……。
分かたれた己、という言い方は適当ではなかろう。もとより、番が揃うことにより完成するのが人であり、夫婦であり、生き物なのじゃよ。
恋路の神と言われたわしとしては、そっとしてやろうとも思うがの。
妖魔による病で亡くした氏子衆に誓ったのじゃ、お主らのような悲劇はわしの目の届く限りでは起こさせぬ、その為に世界の障害は除くとのう。
この世界では影朧の死は即ち全ての終わりではないのじゃろう?ならば迷うことはない、正しい形に直すだけじゃからな。
●
迷い辻を前にして。大崎・玉恵(白面金毛・艶美空狐・f18343)は身に纏った神威の裾をふわりとはためかせて、足を止める。佇み、見つめる先は……。
(……わしも、『この者の為ならば世界などどうなってもよい』というほどに惚れ込んだことがある)
思い返すは遠い記憶。玉恵自身の過去。
されど、世界とは大きく。玉恵ひとりではどうしようもない力に、その想いは引き裂かれてしまった……。
――視線の先にあるモノたちは、これからどうなるのか。
(恋路の神と言われたわしとしては……そっとしてやろうとも思うがの)
よぎる想い。
それでも、玉恵は足をとどめ続けるつもりはなく。迷い辻に一歩踏み出す。
直後、囁かれる誘惑。
『その通りだ、そっとしておいてあげてよ』『過去を思い出してまで進む必要なんてないさ』『さあ、こっちにおいで』
様々な誘いが玉恵を惑わそうとする。
しかし。
玉恵は『尾沙木の神で、猟兵』である。
「……わしは氏子衆に誓ったのじゃ」
妖魔による病で亡くした、彼女の氏子衆。そのような悲劇が二度と起こらぬように……否、玉恵の目の届く限りでは『起こさせぬ』と。
――その為に世界の障害は除く。
ゆえに。その誘惑に玉恵の足並みは、信念は揺るがない。一歩一歩確実に前へ、目標へと突き進む。もしかしたら。玉恵に対して『誘惑』をしようとしている幻影の方が、おこがましい存在のかもしれない。
――この世界では影朧の死は即ち全ての終わりではない。
足を止めずに思考を巡らせる玉恵。もちろん『終わってしまう』可能性だってあるが、それでも『終わらない可能性』は十二分に開かれている。
(ならば迷うことはない、正しい形に直すだけじゃからな)
しっかりと地を踏みしめて、玉恵が歩く。
(分かたれた己、という言い方は適当ではなかろう)
それは神である玉恵だからこそ言える言葉。
「もとより、番が揃うことにより完成するのが人であり、夫婦であり、生き物なのじゃよ」
その形に直すべく、玉恵は迷い辻を歩いていく。
大成功
🔵🔵🔵
勘解由小路・津雲
ふむ、これはどういう仕組みになっているのだろうな? 術者として興味は尽きないが、今は鈴彦を追うことを優先せねば。
【行動】SPDを想定
幻影が真に厄介になるときというのは、本物と見分けがつかないときだ。初めから幻影と分っているならば、その威力は半減するといっても過言ではない。
ここで語りかけてくる言葉がどれほどもっともらしいものであっても、幻影である以上傾聴するに値せず。それがおれの分析の結果だ。幻を律儀に相手にするつもりはない、という信念を持ってここを通り抜けるとしようか。
しかし鈴彦は、影朧の影響を受けているとはいえ一般人のはず。それがここを易々と通り抜けたか。その思い、よほど強いらしいな……。
●
勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)もまた、迷い辻の前で一度足を止めて。辻の先を見つめるその視線は興味に満ちていた。
「ふむ、これはどういう仕組みになっているのだろうな?」
陰陽師である津雲にとって、そちらも重要な要素であった。時間があれば研究などしてみても面白いのかもしれない。そんな興味の尽きない対象ではあるが、今は。
「鈴彦を追うことを優先せねば、な」
津雲の視線は、興味に注がれるソレから対象を探る情報収集のモノへと変化していく。
幻影が現れる迷い辻。しかし、だ。
(幻影が真に厄介になる時というのは、本物と見分けがつかないときだ)
例えば。
寝ている時に空を飛ぶ夢を見るとする。『これは夢だ』と分かれば、その飛翔を楽しむことすらできる。しかし、その区別がつかない時は、『落下した時にどうなるのか』などといった思いから恐怖を感じるだろう。その恐怖ゆえ、飛び起きることだってあるかもしれない。
今回の幻影も同じケースだと想定、分析できる。とするならば。
(初めから幻影と分っているならば、その威力は半減するといっても過言ではない)
今、津雲が『知っている』ということはかなりのアドバンテージになる。
情報収集、分析を止めることなく、しかし津雲は迷い辻へ足を踏み入れる。
直後、現れる幻影。『この先には何も無いよ』『あなたの進む意味は無いよ』『さあさあ、元ある場所へお帰り?』と語りかけられる言葉。
その言葉に津雲は目を閉じる。
――ここで語りかけてくる言葉がどれほど真に迫ったものであったとしても。
その言葉を発しているのが幻影である以上、それは傾聴するに値しない。それはどこまで行っても『幻が放つもの』だからだ。
――幻を律儀に相手にするつもりはない。
それが津雲の分析結果。そして惑わされぬ信念。とすれば、全ては大同小異な、既に予想された展開。以て、津雲の冷静な心を乱すことなど幻影たちにできるはずもなく。目を見開き、幻影をするりと通り抜けて、津雲は迷い辻を先へと進む。
(しかし……)
津雲の心によぎるのは鈴彦のこと。彼は影朧の影響を受けているとはいえ、このような超常の存在に対して力を持たない一般人のはずだ。
(それがここを易々と通り抜けたか……)
鈴彦が意図せず、この迷い辻を通り抜けるほどの『心』を持っているのだとしたら。
「その思い、よほど強いらしいな……」
それは津雲の口から思わず言葉が漏れるほどに。彼の状態を的確に示していた。
大成功
🔵🔵🔵
ギャレット・ディマージオ(サポート)
「これならば、私でも少しは手助けになれるだろう」
「これでどうだ!」
●性格
ダークセイヴァー出身の冷静沈着な黒騎士です。
かつてオブリビオンに滅ぼされた都市で自分一人だけ生き残ってしまった過去を悔いており、人々を守り、被害を防止することを重視して行動します。
●冒険・日常
状況に動じず、自分に可能な範囲で適切に事態の解決を試みます。
傷つく危険がある等、危険な状況には進んで踏み込みます。
●戦闘
防御的なユーベルコードを主に使います。
・敵の攻撃から他の猟兵や一般人を守る(ついでに敵の強さを解説)
・敵の攻撃を回避してカウンター
等の行動を取らせてください。
メイン武器は「黒剣」です。
以上、よろしくお願い致します。
●
迷い辻を前に。ギャレット・ディマージオ(人間の黒騎士・f02429)は佇む。
「……さて」
ダークセイヴァー出身の冷静沈着な黒騎士はわずかに息を吐いて、迷い辻に足を踏み入れる。
サクラミラージュという、これまでの世界とはわずかばかり勝手の違う世界。影朧という、世界への影響力がまだ弱いオブリビオン。されど、オブリビオンであるならば。放置すれば世界を破滅へと導くのがオブリビオンだ。
ならば、足をとどめる理由など無く。
迷い辻に入った直後、ギャレットの周囲に現れる幻影。『ああ、そちらではない。こっちが正解だ』『いやいや、あっちが正解だ』『もうやめてしまえ。楽に生きよ』
これが幻影による自分を、迷わせようとする言葉ならば。冷静沈着なギャレットは再び足を止めて、目を閉じる。思い起こすは……彼の過去。そして。
――人々を守り、被害を防止すること。
それこそがギャレットの動機。かつてオブリビオンに滅ぼされた都市で自分一人だけが生き残ってしまった過去。
過去は等しく、現在に影響を与える。それはオブリビオンという形ではなくとも、だ。ゆえに、ギャレットは。目を開けて再び足を踏み出す。
それは信念とも言えるだろう。彼を猟兵として突き動かす、燃料。それが尽きない限り、ギャレットは、状況に動じることはなく。
幻影を打ち払い、ギャレットは迷い辻を踏破する。目的の場所はもうすぐそこだ。
成功
🔵🔵🔴
御霊・タタリ
ふぅ、厄介な力場……歪み?よく分からないけど、放置はしたくないなぁ……あるだけで不安が、うまれるから、上書きできないかな……後日かな?
まぁ、難しく、考えるから、駄目?
この地が迷わすならば、私も迷わす……精神に作用するなら、私は物理で行くよ?
出口は、1つ……私の、御影を歪められる?
私は、私の歩く道を、決める……横槍は、許さない、この回廊が迷路であり活路だから
でもね?迷うこと、それは、考えを止めていない証……盲信で、思い込みで、それを放棄するなら、たやすき道になるかもしれない、ね?
あ…恋路の?……えっと、今回は縁切りさんが、出張ってもいいよね?切ってしまえば、今はお終い……次が、うまれるから、ね
●
「ふぅ、厄介な力場……歪み?」
迷い辻の前で、御霊・タタリ(タタリと称されたノロイ・f17805)は少し首を傾げた。どうもこの地から何か不思議な力を感じ取っているようだ。
「よく分からないけど、放置はしたくないなぁ……上書きできないかな……」
この地は『在るだけで不安がうまれる』とタタリは感じる。しかし、今は。
「……後日かな?」
そう、今は、この先に進まねばならない。
迷い辻に足を踏み入れるタタリ。
直後、タタリを取り囲むように現れる幻影。『ああいけない。この先には行ってはいけない』『どうして、この先に進んだい?』『お前も、こちらに、おいで』
しかし、タタリは動じず。
(まぁ、難しく、考えるから、駄目?)
と。最初から幻影の言葉には一切耳を貸すつもりがないようだ。ゆえに、次の一手も考えていた通りに。
「この地が迷わすならば、私も迷わす……精神に作用するなら、私は物理で行くよ?」
タタリが宣う。以て、顕現するはユーベルコード『御影回廊』。タタリの声に応じて、迷い辻の中に御影石で出来た迷路が作られる。
「出口は、1つ……私の、御影を歪められる?」
この迷路はいわばタタリ自身。外からの干渉である幻影を、タタリ自身である迷路の壁が拒絶する。
「私は、私の歩く道を、決める……横槍は、許さない」
御影を歪められる力無くば、迷路は壊れない。この回廊は迷路でありながら活路なのだ。その中をタタリは悠然と進んでいく。
――でもね?
迷うこと。それ自体は問題ないとタタリは思う。それは、考えを止めていない証。盲信で、あるいは思い込みで。思考を放棄するならば、進む道にたやすくなるかもしれない、とも思うけれども。
そこまで考えて、タタリははたっと足を止める。その考えは真理。しかし今回は恋路の話だった、と思い返したからだ。
うーん、とタタリはひとしきり悩む。
「……えっと、今回は縁切りさんが、出張ってもいいよね?」
ぽそっとタタリが呟く。それはタタリの本業(?)でもある『縁切りの信仰』。縁を切ってしまえば、『今はお終い』。でも……。
「……次が、うまれるから、ね」
大成功
🔵🔵🔵
文月・統哉
ガス灯通りを進む
迷い辻
嘗て影朧事件があったというが
鈴彦と妖狐が出会う前からこの状態だったのだろうか
妖狐の存在もまた影響を与えているのだろうか
人心を惑わす妖狐の…いや、影朧の力
成程それを鈴彦は一人で受け続けている訳だ
争いは起きずとも崩壊は進んでいく
生前の嘆きを元に生まれた影朧だからこそ
悲劇を繰り返してしまうのもまた運命なのかもしれないな
例え妖狐自身が望んでいないのだとしても
ならばその悲劇の連鎖を断ち切るのは
俺達猟兵の役目に違いない
だからこそ
辿り着く必要がある、2人の元へ
確かめる必要がある、真実をこの目で
そして見極めよう
2人の為に何が出来るかを
幻影を大鎌で斬り払いながら
迷いなく、進む
※アドリブ歓迎
●
自身が使ったユーベルコード、鈴彦を追跡していた黒猫をもふもふっと労ってから影に戻した文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)は顔を上げる。
――迷い辻。
(嘗て影朧事件があったというが、鈴彦と妖狐が出会う前からこの状態だったのだろうか)
それとも。妖狐の存在もまた影響を与えているのだろうか。統哉はゆっくりと思考を巡らせる。
人心を惑わす妖狐……いや、影朧の力といえばいいのか。やはり、彼女たちには周囲の世界にどうしても影響を与えてしまうようだ。
(成程、それを鈴彦は一人で受け続けている訳だ)
ゆえに鈴彦は歪み始めている、壊れ始めている。
統哉が迷い辻に足を踏み入れる。来訪者に対して出迎えるように、幻影が統哉の前に現れた。『君が行って何になる』『行っても意味が無いさ』『ふたりの在り方は……許されざるものなのかい』
その言葉に統哉は空を仰ぎ見る。
――例え妖狐自身が望んでいないのだとしても。
妖狐が影朧である以上、争いは起きずとも崩壊は進んでいく。悲劇を繰り返してしまうのは、生前の嘆きを元に生まれた影朧だからこその運命……いや、宿命なのかもしれない。
「だからこそ、だ」
視線を前に戻し、統哉はおもむろに黒き大鎌を手にする。
だからこそ。辿り着く必要がある、2人の元へ。確かめる必要がある、真実をこの目で。そして見極めるのだ、2人の為に何が出来るかを。
悲劇の連鎖を断ち切るのは、猟兵の役目に違いない、と。統哉は信じている。
幻影がそれを阻むのであれば。
黒い柄を通じて、統哉の魔力が大鎌の刃を淡く輝かせる。不意にその輝きが揺らいで。薄暗い迷い辻の中に美しい軌跡を残しながら、幻影を斬り払っていく。
「迷わず、進むだけさ」
統哉は自身の信じる道を違えることなく、まっすぐに進む。
●
猟兵たちが迷い辻を踏破する。その先にあるのは、鈴彦と妖狐の、小さな小さな世界であった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『スカーレット・グリーフ』
|
POW : 緋の嘆き
レベル×1個の【火の粉程度の狐火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
SPD : 傾国の妖姫
対象への質問と共に、【骸の海】から【亡国の兵士】を召喚する。満足な答えを得るまで、亡国の兵士は対象を【様々な武器】で攻撃する。
WIZ : 君主の遊戯
【姿】を披露した指定の全対象に【彼女を所有したい】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●
影朧はオブリビオン。その行動の全てはいずれ、世界の崩壊へと繋がる。
――我愛你。
私の愛はあなたとささやく言葉が、愛しているという意味ならば。そしてこの言葉が妖狐から発せられたものならば。
人ならざる者の恋の末に、人を愛する小さな小さな世界(ユメ)が出来ていたのだ。
されど、ユメの境い目は、中にいてはわからず、指摘するのは常に外にいる者だ。
いつか、世界は崩壊する。
だけど。
妖狐はここで鈴彦を待つ日々を過ごしているのだ。
●
猟兵たちの心、信念、在り方。それらを以て、迷い辻は踏破された。辻の先をわずかに進めば、見えてくるのは、鈴彦の書斎たる庵。遠目に鈴彦が庵の中に入っていくのが見えた。
――そこに妖狐がいる。
猟兵たちはゆっくりと歩を進めた。
●
いつもの。
いつもの戸が開く音。いつもの鈴彦を認めて安堵する気持ち。いつもの安心する鈴彦の声。いつものように戸まで駆け寄り、鈴彦と触れ合う妖狐。
しかし、この日ばかりは、いつもと違う『モノ』が続いた。
「……!」
それは本能。庵の外にわずかに感じた気配。それを知覚した瞬間、妖狐は咄嗟に鈴彦を背に庇いつつ、伊織の外に出る。
「な、どうしたんだ?」
「出てまいれ! 隠れたとて無駄じゃ!」
鈴彦の言葉には答えず、妖狐は声を張り上げる。声に応じて姿を現わすのは、もちろん猟兵たち。世界が定めた天敵。それを妖狐が感じ取ったというのならば、彼女は紛れもなくオブリビオンなのだ。
妖狐にあったのは敵意だろうか、殺意だろうか。否、おそらくは本能がもたらす恐怖。このまま引き裂かれるという絶望。
妖狐が火の粉程度の淡い狐火をまき散らし、そして激情のまま叫ぶ。
「何故だ! 何故、邪魔をする! 妾が人ならざる者だからか! この世ならざる存在だからか!」
妖狐とて、自身が人でないことはわかっている。わかっているが、それがどうしたというのだ。それでもそれでもこの恋(おもい)は間違いではない。
――何故なら。今、この現在においてすら。自分たちは他の誰にも迷惑をかけていないではないか。
仮に、仮に遠い未来、妖狐が遠因でこの世界(サクラミラージュ)が壊れるのだとしても。
「鈴彦亡き後の世界のことなど知ったことか!」
それが妖狐の本音だった。それが妖狐がここに佇む理由だった。
「鈴彦との逢瀬だけは何者にも邪魔させぬ。壊させぬ! 鈴彦が天から与えられしその命を全うするその日まで、妾は側を離れぬ!」
その後ならば。いかようにでもするがいい、と。望まれるならばその場で討たれてやろう、と。妖狐は激情を吐露する。
今、この時、この場所が、妖狐の愛(ユメ)なのだから。
そのユメを守るために。非力なれども力振るわずということはあり得ない。それは影朧でもなく、猟兵でもなく。『生きている者』の本能。
「それでも物申すというのならば……言ってみよ猟兵ども!」
狐火を、亡国の兵士を呼び出し、妖狐は庵と鈴彦を護るように、猟兵たちの前に立ち塞がる。
「妾が、この愛が、この場に在るべきではないと、知らしめてみせよ!」
――いつか、世界は崩壊する。
それは、この場にいる者で鈴彦以外の全員が察知している事実。
しかし。
その『世界』とは、何と『呼ぶ(よむ)モノ』を指しているのか。それが、それこそがもしかしたら……。
大崎・玉恵
お主とわしはよく似ておる。妖狐だからということではなくの。
じゃからこそ言おう。今、この瞬間にお主らの逢瀬は世界を乱すものとして認識されておる。わしらがここにいることが証左じゃ。
ひとたびそうなれば、悲劇的な別離は避けられぬぞ。……その道を通ってきた者の言じゃ。
この世界では、影朧は転生するのじゃろう?お主らはまだ、世界に祝福される姿として二人でやり直せる。全てを失った、わしと違ってのう……。
それともわしらと争い世界より襲い来る全てを力で排するか?力を失ったお主に、この尾沙木の神を殺せるか?……頼む。転生の道を選んでおくれ。(UCはあくまで争う姿勢をとられた時、【威厳】を以て神の力を示すように使用)
●
妖狐と相対した大崎・玉恵(白面金毛・艶美空狐・f18343)はゆるりと首を横に振る。それは否定ではなく、諦めでもなく、おそらくは先達としての、咄嗟に零れた過去の残照。
「お主とわしはよく似ておる。……妖狐だから、ということではなくの」
音も無く、一歩前に出た玉恵はそう告げる。狐の耳と尻尾を持つ『艶美空狐』を名乗る姿で以て。見覚えのある顔に鈴彦もまた目を見開くが。
「くっ!」
妖狐が近付いてくる玉恵に狐火を放つ。火の粉程度であっても、力ある火。それが大量に玉恵に降りかかるが、玉恵は舞扇でゆるやかに払い落としていく。
「じゃからこそ言おう」
妨害をものとせず、玉恵は妖狐に向かって歩みを止めない。その様子に現れているのは敵意ではなく、むしろ……。
「今、この瞬間にお主らの逢瀬は世界を乱すものとして認識されておる」
玉恵が告げる。この場に、猟兵である玉恵たちがいることがその証左だ、と。
「うる……さい!」
その言葉を聞き入れず、なおも狐火を操る妖狐。しかし、今度は玉恵の霊符によって相殺される。玉恵の歩みは止まらない。
「ひとたび世界の敵となれば……悲劇的な別離は避けられぬぞ?」
「……っ!」
その言葉に妖狐の手が止まる。その結末だけは迎えたくない、と……思わず手が止まってしまった妖狐に、玉恵がさらに告げる言の葉は。
「……その道を通ってきた者の言じゃ」
その言葉の意味、重み。それらが妖狐の手に纏わりつき、手枷をつける。妖狐の動きが、心が揺らいでくる。
なおも玉恵の言葉は留まること無く。
「影朧は転生するのじゃろう?」
それは単純にこの世界の理(ことわり)で、一般的な考え方。ゆえに、だ。
「お主らはまだ、世界に祝福される姿として二人でやり直せる」
そこでいったん、間があったのはきっと玉恵もまた言葉にするのを恐れたから。
「全てを失った、わしと違ってのう……」
物憂げに視線を伏せる玉恵。そこにあった感情は、傍目から推し量れるものは……きっと目の前の妖狐くらいのものだろう。
言葉も無く、沈黙する両者。だけど、答えはまだ出ない。視線を上げた玉恵はさらに告げる。
「それともわしらと争い、世界より襲い来る全てを力で排するか? 力を失ったお主に、この尾沙木の神を殺せるか?」
それは恫喝などでは無く、単なる事実。玉恵に対して……否。この場にいる猟兵たちに対して、妖狐は決定的な力を持たない。
……そう、本来であれば。玉恵が妖狐の姿を認めた見た瞬間、妖狐を所有したいと思わせるのが彼女の能力。されど、この状況下では。妖狐が玉恵の心を強く震わせることなどできるわけもなく、その感情は一瞬で霧散して。これが今の妖狐と玉恵の実力差だ。
「……頼む。転生の道を選んでおくれ」
玉恵が妖狐に語りかける。
「……」
それでも妖狐の心は、まだ。返す言葉を持てずにいた。転生がもたらす未来。その先が、まだ、みえない。
大成功
🔵🔵🔵
勘解由小路・津雲
影朧のままでは他の生物に悪影響を与える。あんたが望もうと望むまいとな。今のままでは世界の崩壊を導く。それは知っているな? だが、我々もまた世界の一部なのだ。いわゆる「世界」が滅ぶまで、お前の大切な人が持つとは限らんぞ。
【戦闘】
【鏡術・反射鏡】を使用。相手が「君主の遊戯」を使おうとするなら、「おっと、鈴彦の前でその力を他人に使うつもりかい?」基本は交渉で、UCは保険。ついでに鏡に鈴彦の弱っていく様を映し出し、揺さぶりをかける。
「自分の想いのために、相手がどうなってもかまわないというのなら、それはそれでかまわないさ(そのときは倒すのみ)。……だが、あんたはいったい、どうしたいんだ?」
●
玉恵の問いに妖狐は答えることができない、否。今の妖狐にはその答えは見つからない。ゆえにとっさに鈴彦の手を掴んだのは衝動だろう。それは駆け落ちの如く、この場から駆け出そうとする妖狐。されど、その前に。つっと進み出たのは勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)であった。
「影朧のままでは他の生物に悪影響を与える。あんたが望もうと望むまいとな」
津雲は片手を広げ、狩衣の袖で妖狐の進路を防ぐ。見逃がすわけにはいかないのだ、と。
「うるさい!」
しかし、『他』のことなどどうでもいい、と告げた妖狐に、津雲の言葉は、真意は届かない。津雲の隙、逃げ出す隙を作ろうと本能的に力を使う。怒気とともにふわりと漂う香の匂い、それは起死回生のユーベルコード……。
「おっと、鈴彦の前でその力を他人に使うつもりかい?」
「……っ」
津雲の言葉に、今度は思いとどまる妖狐。作用すれば逃げる隙くらい作れるかもしれない、しかしこれは妖狐が疎んでいた力でもある。この力が彼女を翻弄してきたのだから。それを鈴彦に見られる、そんなわけには……。
逡巡して動きの止まった妖狐に、再び津雲が話しかける。
「今のままでは世界の崩壊を導く。それは知ってるな? だが、我々もまた世界の一部なのだ」
津雲の言葉の真意、それを測りかねてか、妖狐が眉を潜める。その様子を見て津雲は、次の言葉を決め。ひと呼吸おいてから告げた。
「いわゆる『世界』が滅ぶまで、お前の大切な人がもつとは限らんぞ」
「……っ!」
息を飲む妖狐。それは盲点だったのか、あるいは意識的に気付かないようにしていたのか。いずれにしても、その『言葉=事実』は妖狐に突き付けられた。
そして津雲は狩衣の袖の間か鏡を取り出す。それは千里を映すという鏡。その鏡を見てさらに妖狐が目を見開く、思わず鈴彦を振り返る。
「ど、どうしたんだ……?」
妖狐の形相に鈴彦が思わず問いかけるほどに。
鏡に映されていたのは……鈴彦の弱っていく様であった。それは魔力で創り出した映像かもしれない。しかし……真実、あるいは遠くない未来の姿かもしれない。
「自分の想いのために、相手がどうなってもかまわないというのなら、それはそれでかまわないさ」
鈴彦の視線が鏡に移る前に、それを仕舞い込み。もう一度妖狐の前に立って語りかける津雲。その声音は責めるものではなく。
「……だが、あんたはいったい、どうしたいんだ?」
「妾は……、妾は……」
自分の存在が愛しい人に与える影響を認識してしまった妖狐は……それでも答えが出せない。『現在(いま)この時だけが』『現在(いま)を捨てないと』……今の幸せが妖狐を苦しめ始めていた。
大成功
🔵🔵🔵
文月・統哉
他に迷惑をかけてない?
なら互いへの影響は自覚しているのかい?
君が壊しているのは見知らぬ誰かの事じゃない
鈴彦さんの今、そして未来を、ゆっくりと確実に
そんな事、君は本当に望んでいるのかい?
それが君の愛だと?
鈴彦さん貴方もだ
彼女を残し貴方が逝けば
彼女に一層深い苦しみを刻む事になる
過去を悲しむ彼女の優しさを知りながら
更なる絶望へと突き落とす
そんな未来を望むのかい?
二人の邪魔をしたい訳じゃない
でも想い合うなら尚の事
目を逸らさずに考えて欲しいんだ
刹那の今のその先に
本当は何を望んでいるのかを
二人が願うなら夢はきっと繋げられるから
輪廻の先の未来へと
祈りの刃で妖狐を斬る
悲しみ招く宿命を断つ
願いが未来へと届く様に
●
妖狐と鈴彦が見つめ合う。現状にとまどう鈴彦に対し、妖狐は心の中の葛藤と戦っている。
――この幸せを手放したくない。
しかし、妖狐は、津雲の問いかけによって『世界』が何を指すのか、何を含むのかを認識(し)ってしまった。その妖狐に対して、文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)は言う。
「『他に迷惑をかけてない』って今でも言えるかい?」
『互いへの影響は自覚しているのか?』、それが統哉のしたかった問いかけであったが、もはやその問いは目の前の妖狐にとって意味が無く。ゆえに統哉は事実を語る。
「君が壊しているのは見知らぬ誰かの事じゃない。鈴彦さんの今、そして未来を、ゆっくりと確実に……」
あえて統哉は言葉を濁す。それは妖狐に対する言外の問いかけとなる。
――そんな事、君は本当に望んでいるのかい?
「……っ」
息を飲む妖狐。
「それが君の愛だと?」
統哉の言葉が事実と重なって。それは今まで意識していなかった『重み』と化す。その『重み』は妖狐を躊躇わせるには充分なもので……。
「鈴彦さん貴方もだ」
不意に統哉の言葉は鈴彦に向けられた。
「彼女を残し貴方が逝けば、彼女に一層深い苦しみを刻む事になる」
それは妖狐を更なる絶望へと突き落とすことになる、と、統哉は鈴彦に告げる。
――そんな未来を望むのかい?
「それ、は……」
鈴彦にとっては考えてもいなかった、否、考えないようにしていたのかもしれない。そんな『自分がいなくなった時』の話など。人は本能的に避けてしまって当然なのだから。しかし、だ。今は、そうであってはいけない。
「過去を悲しむ彼女の優しさを知りながら、貴方はそれをするのかい?」
統哉の問いかけに鈴彦は即答できない。
そんな二人に、ゆっくりと。統哉が近付く、漆黒の刃を持つ大鎌を手にして。その統哉を前にして、妖狐も鈴彦も取り乱さなかったのは、その刃に込められた想いが『敵意』ではないと、本能的に悟っていたから。
(二人の邪魔をしたい訳じゃない……)
それは統哉の嘘偽りない想い。しかし、だからこそ。想い合うのならなおの事。
「目を逸らさずに、考えてほしいんだ」
心底からの言葉を二人に届ける統哉。それは願いのような祈りのような、想いを乗せた言の葉。
「刹那の今のその先に、本当は何を望んでいるんだい?」
くるり、と回転した大鎌の刃が空に止まって。月光のごとく、すらりと振り下ろされる。放たれるのはユーベルコード『祈りの刃』。肉体を傷つけずに、妖狐の邪心を斬り裂く業。
――二人が願うなら夢はきっと繋げられる。輪廻の先の未来へと。
その願いが未来へと届くように、と、悲しみ招く宿命を断たんと。『祈りの刃』が妖狐を捉えた。
大成功
🔵🔵🔵
木元・刀
貴女の好きにするといいですよ。
貴方は影隴……オブリビオンで。
鈴彦さんは、ヒトです。
二人だけの小さな世界に閉じ籠っていてもいい。
誰も困らない、そのとおりです。
貴女が、鈴彦さんの未来をそう決めるなら。
彼は、それに沿って生きて、そして年老いて死ぬでしょう。
彼の自由意志を尊重することは、貴女の籠の中の鳥にすることだ。
貴女には、見送ることしかできない。
自分の上を通り過ぎていくひとを、看取るしかできない。
同じ刻を過ごしていても、その生き様が異なるのです。
今の貴女たちは、とても幸せそうだ。
だから、今なら。
貴女の心を未来に開いて。
いま一度だけ、同じ刻を過ごせる希望を信じてみませんか?
ふわりと鈴蘭の花霞が舞う。
●
統哉の祈りが妖狐を貫く。その一撃は妖狐の心身を大きく揺らがせる。
「あ……ぁ……すず、ひこ……」
崩れ落ちそうになる身体で必死に堪えて、手を伸ばす妖狐。
「貴女の好きにするといいですよ」
そう語りかけたのは、木元・刀(端の多い障害・f24104)であった。その声には敵意もなく、慈悲もなく。そこにあったのは彼なりの誠意。
「貴方は影隴……オブリビオンで。鈴彦さんは、ヒトです」
それは『ただの事実』だ。それが何かを阻むことは無い。……しかし。それは決定的な差でもある。その差ゆえに、二人は同じ刻を過ごしていても、その生き様が異なってしまう。
――だから、好きにすればいい。
――二人だけの小さな世界に閉じ籠っていてもいい。
「誰も困らない、そのとおりです。貴女が、鈴彦さんの未来をそう決めるなら」
きっと鈴彦はそれに沿って生きて、そして年老いて死ぬ。それは彼にとって間違いなく幸せで、ただ……彼の自由意志を尊重するということは。
「……貴女の籠の中の鳥にすることだ」
「……っ!」
それは知っていたことだ。気付いていない振りをしていただけだ。だが、今。事実を並びたてられた後に告げられた真実は。
「貴女には、見送ることしかできない。自分の上を通り過ぎていくひとを、看取るしかできない」
刀の言葉は鋭い棘のように妖狐の心を抉る。それは妖狐が未来を見つめ始めたということの裏返し。これまでに積み上げられた他の猟兵たちの言葉は、今、刀の言葉によってその意味と重みを大きく増す。
苦悶する妖狐。しかし、刀が次に浮かべたのは優しい笑み。
「今の貴女たちは、とても幸せそうだ」
それもまた事実だった。影朧とヒトと。そんなことは関係なく、本当に幸せそうで。
ゆえに刀は手を伸ばす。その手に握られていたのは明らかに武器だが、そこに敵意などは微塵も無く。
――だから、今なら。
ユーベルコード『鈴蘭の嵐』。ふわりと舞うは鈴蘭の花霞。それが妖狐を包み込んで。
「いま一度だけ、同じ刻を過ごせる希望を信じてみませんか?」
貴女の心を未来に開いて。
●
鈴蘭の花びらが嵐を終え。
そこに立っていた妖狐は、もはや。
「すず……ひこ……」
一歩踏み出すことすら危うい妖狐はゆっくりと手を、鈴彦に向けて差し出す。しかし、その指先から輪郭が崩れていく。
「待て、待つんだ!」
その様子を見て、鈴彦が急ぎ駆け寄るが、崩れる輪郭を留める術はなく。鈴彦の手が妖狐の手を掴む前に……妖狐が微笑んだ。
「今度、会ったら……妾の名を……呼んで」
それは妖狐の願いにして、未来への誓い。直後。
ざぁぁぁっ。
妖狐の身体が無数の桜の花びらと化す。空を切る鈴彦の手。そして桜の花びらたちは風に乗って飛んでいく。
「あ……あ……あぁぁぁぁぁ
!!!!」
その場に崩れ落ち、慟哭する鈴彦。風の音だけがその場に響いていた。
その後。猟兵たちは鈴彦を連れて、普段の街へ戻ってきた。
鈴彦の様子は憔悴しきっていて一人で歩けない状態。影朧の影響を受けていたことを差し引いても、妖狐を失った心の傷は当分癒せそうにない。
今しばらくの休養が必要だと考えられるが、ここより先は猟兵が迂闊に踏み入れて良い領域では無く。
猟兵たちに出来るのは願うことのみ。
――必ず、出会えるはず。
――そんな未来を信じて。
猟兵たちは事件を解決して、サクラミラージュの世界を後にする。
彼らに再び幸福が訪れんことを。
大成功
🔵🔵🔵
●此処より先は、猟兵の任務に記録されぬ少し未来の物語
ちゅんちゅん。
雀の鳴き声で目が覚めた。覆い被っていた布団の隙間から窓を見る。差し込んでくる陽射しが朝を告げている。
――ああ、だるい。
寝床の上に横たわった体は鉛のように重く、それを起き上がらせる心すら鉄の塊のように動こうとしない。
あれ以来。そう、あの、猟兵たちが彼女を討って以来、だ。
どうにも体が……否、心が動かない。いや、違う。心の中に何も溜まらないのだ。
俺の心は、誰が何と言おうと、彼女で埋まっていて。そして幸福だったのだから。
猟兵たちは言っていた。『彼女はいずれ転生する』と。しかし、そのいずれはいつなのか。俺の生きている間のことなのか。
桜の花びらとなった彼女が信じた未来に、俺は会えるのか?
目覚ましがけたたましい音を響かせた。
「……ちっ」
舌打ちをして、どうにか体を動かす。そう、今日だけは仕事に来い、と言われているのだ。どうやら会社をあげて何かするらしい。それに仕事をせねば金が尽きる。
支度を整えて、指定場所である帝都桜學府へ向かう。
●
眩しすぎる陽射しの中、人の邪魔にならぬよう、道の端っこをゆっくり歩いていた、その最中。
どんっ、と。誰かと肩がぶつかった。
「……ぁ……すまない、ぼーっとし……」
その時。ふわりと鼻腔をくすぐる匂いがした。静止する思考。視界の中を『その誰か』のシャッポが落ちていく。
ゆっくりと、視線をあげる。頭の上、そこにあったのは2つの狐耳。匂いも狐耳も、何をどうやっても忘れぬことのできぬ……魂に刻まれた記憶。
「……りん……こ?」
思わず呟いていた。呟いた自分の声を聞いて、初めて自分が声を出していたことに気付く。
そしてそれは……俺にとって初めて……。
「なっ、何故、妾の名前を知っているのです!?」
お返しは、これもまた忘れもしない声で、しかし驚愕で以て返された。
●
今日が『初めての街』、それに浮かれていたのは事実。不注意だったのも認めよう。
『耳と尻尾は隠しておくように。不要な争いを生むといけないからね』
と帝都桜學府の者に言われたものの、人に見られたからとて何か起こるはずはない、とたかをくくっていた。何故ならこの世界では『妾』のように『転生した者』は不自然な存在ではないと聞いていたからだ。
されど。
注意されていた手前、慌ててシャッポを拾い上げようとした時に、降って来た声は妾の名前だった。
「なっ、何故、妾の名前を知っているのです!?」
それは『ありえない』事態。
何故なら。妾は、つい5日前にこの世に転生したばかり。帝都桜學府のど真ん中に転生した妾は、そのまま帝都桜學府に保護され、つい先ほどまで外に出ることは叶わなかったのだ。妾を知っているのは帝都桜學府の者のみ。そして知っているのも姿のみ。
名は誰にも伝えていない。妾の名は転生の時、唯一持ち越した記憶。これだけは安易に伝えてはならぬ、と本能が、魂が告げていたのだから。
ゆえに、『今日初めて会った』この者が妾の名を知っていることなどありえぬ。
――ああ、なるほど?
よく似た狐娘の名前が『りんこ』なのか? それなら納得だ……いや、この者の視線、絶対違うな。妾のことを、妾として、『りんこ』と呼んだのだ。
何故……?
●
驚愕で動きが止まった目の前の狐娘は。
狐耳も驚いて飛び出た尻尾も、顔の輪郭も声音も、全て俺が知っている妖狐であった。そしてその仕草も。
――そうだ、初めて声をかけた時も、こんな感じだった。
俺を見定めるかのように視線を巡らす姿は、俺にとって一度は見た光景。
――そうか。彼女が転生したのなら。
転生した影朧は記憶を失う。つまり、俺と妖狐は『今、初めて会った者』になる、のか。
「もう一度問う。何故、妾を『りんこ』と呼びました? 他の誰にも伝えてない妾の名前を、なぜ……?」
なるほど。確かに初めて会った者に誰にも伝えていない名前を呼ばれたら、不審な目で見られても仕方ない。仕方ない……が、そうか。
――最後の誓いだけは覚えていてくれたのか。
つーっ、と。不覚にも涙がこぼれ出た。
「な、何故泣くのです!? 泣きたいのは妾の方では……」
「あ、ああ、すまない。失礼した」
そうだった、彼女は想定外の事態に弱い。だからこそ、俺なんかに絆されたのだろうし、不意に現れた猟兵たちに説得されてしまったのだ。
それでも猟兵たちに立ち向かった、逃げないのが彼女の強さだ。きっと、この世界では俺だけが覚えている、彼女の過去。
――それが今に繋がった。ならば、泣いている場合ではない。
妖狐は最後に言った。『名前を呼んでほしい』と。
あれから考えたのだ。名前を呼ぶという行為を。
名前を呼ぶということは、相手に呼びかけるだけではなく、相手に個を与えるのだ、と。ずっと妖狐としか呼んでなかった俺が、彼女に『りん狐』という個を与える。それこそが、俺の役目なのだと……悟ったのだ。
………………しかし、なんと言ったものか。
今現在、俺は彼女にとって不審者だ。
ゆえに、次だ、次の言葉が一番大切だ。
なんだ、どう言えばいい? なんと言えば、彼女の心に響く?
直球でいくか、それか搦め手か。何か演出を……いやいや、ここは少し気取って……。
しばし考えた後、意を決して、言の葉を紡ぐ。
「すまない。突然で失礼した」
今度はまっすぐ、彼女の、りん狐の目を見つめて。視線を絡ませながら告げる。
「俺、いや自分は木村・鈴彦。記者をやっている。りん狐……さん、自分は、貴女の……」
――ゆくへも知らぬ、恋の道は。
猟兵という篝火に照らされて、ひとつの終着点へとたどり着いた。
ひとつ道のの終わりは、新たな恋の道の始まり。
りん、と鈴の鳴る……此れより先の道のゆくへは……また別の物語――