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フィレインの手紙

#アルダワ魔法学園


●Sophia Philein
 その迷宮の中では、記憶が手紙に記される。
 けれどただの記憶じゃない。もう逢えない人や言葉を交わせない人から届いたという形で真白な紙に言葉が綴られる。
 なんでも立ち入った者の深い記憶から『求めている言葉』が読み取られるそうだ。
 そう聞いてからいてもたってもいられず、僕は迷宮に出発した。
 母さんからの手紙が欲しかったからだ。
 僕が幼い頃に亡くなった母さん。はっきり思い出せないけれど母さんはよく僕に優しい言葉をかけてくれた。幻でも良い、その言葉を知りたい。

 そう思って訪れたフロアは図書館のような書架が立ち並ぶ場所だった。
 敵はいない。代わりに床には様々な封筒がいくつも落ちている。その中のどれかひとつに母さんの手紙があるらしい。封筒に宛名はなく、総当たりで一通ずつ開けて確かめてやっと僕宛てのものを見つけた。
 目を通そうとしたとき、文字が紙から抜け出た。
 サカナの形になって泳ぎはじめた文字は図書館中をふわりと泳いでいく。必死にそれを追いかけたけれど、サカナは動き回るうえに文字もぐちゃぐちゃだから読めやしない。
 捕まえるしかないのか。そう感じたとき、後ろから声が聞こえた。

 ――さあ、御主人様。お勉強のお時間です。

 そんな言葉と共に手を引かれ、連れられていくのは図書館の奥。
 ちいさな扉を潜れば、かちりと鍵がかけられた。真白な部屋、四方を囲む本棚。中央には丸い猫脚テーブル。その上には羊皮紙のノートに黒い羽根ペン、インク壜。
 勉強部屋だ、と思った時にはもう僕は座らされていた。
「お世話はソフィが致します。御主人様は存分に哲学をお学びください」
 僕を此処に連れてきたメイドさんはそう語る。
 違うんだ、僕は君の御主人様なんかじゃない。哲学だって今は学びたくはない。僕はアルダワ魔法学園の生徒なんだ。
 説明してもメイドさんは何も聞いてくれはしなかった。ただ僕に勉強をさせようとするだけ。時折、彼女はお茶を出してくれはするけれど部屋を出ようとすれば静かな怒りの視線を向けてくる。
 どうしよう。こんな歪な存在、災魔に決まっている。
 僕はこの部屋で一生を終えるのだろうか。ああ、あの手紙、読みたかったな……。

●Philosophy
「フィレインの文字迷宮。其処はそう呼ばれているようじゃ」
 アルダワ魔法学園の地下にある迷宮の或るフロアについて語り、鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)はグリモアを通して事件が視えたと語る。
 フィレイン。愛する、という意味を持つ単語を冠するその迷宮は、踏み入った者の精神に作用して不思議な手紙が生成される。
 それを求めて迷宮に潜った生徒が災魔に囚われたという。
「災魔は彼を御主人様だと思い込んで鍵がかかった部屋に閉じ込めておる。すぐに殺されることはないが、一生出られぬままでは不憫じゃからのう」
 何とか助けに行って欲しい。
 そう告げたエチカは詳しいことを説明してゆく。

「図書館めいたフロアに入れば、お主達の記憶にある言葉が手紙になって出現する。特例もあるようじゃが、大体は『親しい人からの手紙』の形式で記されているようでのう。まずはたくさんの手紙の中から自分宛てのものを探して欲しいのじゃ」
 特に自分では思い出せない遠い記憶から文字が拾われることが多いようだが、過去の自分からの手紙という形で現れるかもしれない。
 また、中には開くと弾け飛ぶハズレの手紙もあるので注意が必要だ。
「手紙は次のフロアに行くキーになっておっての。文字を見た瞬間、それらは魚の形に変身するのじゃ。なんとも不思議じゃのう」
 原理はわからないが、文字の魚達は図書館をふわふわと泳ぎ回る。
 それを捕まえなければ手紙の文字を読むことはおろか、囚われている学生の元に辿り着くこともできない。
 自分への手紙を探し、魚になったそれを捕まえる。
 まずはそういった手順が必要だと話し、エチカは敵について語った。
「災魔はひとりじゃが、メイドは何でも出来るとのこと。心してかかるのじゃ!」
 敵を倒せば学生を救出できる。
 そして、災魔を撃破すれば文字の魚も手紙に戻るらしい。手紙は魔法存在なので迷宮を出ると消えてしまうため、読むならばこのときしかない。
「もう逢えぬ人からの手紙か……チカも人形師であった主人からの手紙が欲しいのう……。おっと、何でもないのじゃ」
 ぽつりと呟いたエチカは首を振り、転送陣を展開していく。
 魔法陣を潜り抜ければもう其処はフィレインの文字迷宮内。過去の記憶と言葉を巡るひとときが今、はじまってゆく。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『アルダワ魔法学園』
 手紙と書架のフロアの奥で学生を閉じ込めている災魔を倒すことが目的となります。

●第一章
 冒険💌『お手紙トラップに気を付けて』
 記憶を探すため、もしくは昔を懐かしむためのギミックです。

 図書館めいたフロアの床は散らばった封書だらけ。
 フロアに入ると、あなたが過去に受けた愛しい人や親しかった人の言葉、もしくは過去の自分の言葉が綴られた魔法の手紙が何処かに生成されます。
 どの手紙も内容は二、三行のみのようです。
 手紙の送り主になってほしい人を思い浮かべながら、もしくは求めている記憶について考えながら探すと見つかりやすいそうです。また、二章の展開があるのでこの場でPCさんは手紙内容を読むことが出来ません。
 手紙の対象がいない方は宛名ナシの『鍵』と書かれた手紙が入っている封筒を探してください。それはそのまま鍵となります。

●第二章
 冒険🐟『文字探し』
 魚の形になった手紙の文字が図書館中を泳ぎ回るので追いかけてください。文字魚達は図書館の奥の扉を開く鍵にもなっているようです。『鍵』文字の魚も同様に逃げ回りますので捕まえてください。

●第三章
 ボス戦☕『『安寧』のフィロソフィア』
 図書館の奥の部屋をひらいたらボス戦です。囚われていた学生(ヨルドくん、17歳)は勉強疲れで倒れていますが無事です。フィロソフィアが彼を攻撃することはないので保護は不要です。

 また、一章や二章、もしくは三章においてプレイングで『手紙の内容』を書いてくれていた方には、三章終了後に手紙を読むシーンを付け加えます。迷宮を出ると消えてしまうのでPCさんが読めるのはこの場限りです。あえて読まないという選択肢もあるのでご自由にどうぞ。
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第1章 冒険 『お手紙トラップに気を付けて』

POW   :    手当たり次第、気合で探す

SPD   :    手元にたくさん集めてその中から探す

WIZ   :    見た目等をヒントに在処を予想しながら探す

👑11
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オズ・ケストナー
会えない人からのおてがみ
おとうさん
すぐに浮かんだ言葉に微笑んで
…うん、きっとそうだね

わあ、おてがみがたくさんあるっ

わたしがおぼえていないことでもわかるなら
はじめてあった頃の話がしりたいな
わたしの記憶は、とちゅうからなんだもの
気付いたらシュネーのとなりのケースにならんでいたから

みんなに毎日話しかけてくれる
やさしいおとうさん
わたしの動く姿は見せられなかったけど

ねえ、シュネーはおぼえてる?
わたし、シュネーにはじめてあったとき
どんな感じだったのかな

わたしあてのおてがみがあるなら
どんな封筒だろう
真っ白な封筒に青い薔薇の封蝋が見えた気がして手を伸ばす

『みんなご覧。
新しい家族が増えたんだ。仲良くしておくれ』



●青薔薇の徴
 ――おとうさん。
 もう、逢えない人。言葉を交わせない人。
 オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)の裡に浮かんだのは、彼の人のこと。フィレインの文字迷宮にて、探すのたったひとりしかいない。
「……うん、きっとそうだね」
 すぐに浮かんだ言葉に微笑んたオズは一歩を踏み出し、迷宮をぐるりと見渡した。
 並ぶ本の数々。
 天井まで伸びる書架。其処に掛かる木製の梯子。
 そして、床に広がる手紙、手紙、手紙。
「わあ、おてがみがたくさんあるっ」
 白い封書を中心として様々な形や色の手紙を眺め、オズは瞳を輝かせた。
 この何処かに自分への手紙がある。
 たった一通きりのものを探すのは大変そうだが、存在していることは確かだ。
「わたしがおぼえていないことでもわかるなら――」
 はじめてあった頃の話がしりたい。
 だって、わたしの記憶はとちゅうからなんだもの。
 オズは憶えているはじめの記憶を思い返す。
 気付いたらシュネーのとなりのケースにならんでいた自分。そして、みんなに毎日話しかけてくれる、やさしいおとうさん。
「わたしの動く姿は見せられなかったけど……なつかしい、な」
 あの頃が何だか遠いことのようにも思える。
 動くことができるようになってから、たくさんのいろんなことがあったから。
「ねえ、シュネーはおぼえてる?」
 オズは手紙を探しながら連れているシュネーに語りかけた。ふわりと雪のような白い髪が揺れ、オズは髪をそっと撫でる。
「わたしがシュネーにはじめてあったとき、どんな感じだったのかな」
 懐かしいけれど、覚えていないこともある。
 その時が知れたら、あのときに掛けて貰った言葉があるのなら、識りたい。
 シュネーと共に手紙迷宮を歩き、オズはひとつずつ封書をあけていく。その殆どどれもが白紙で、誰宛でもない手紙だった。
 そんな中でふとオズは思う。
「わたしあてのおてがみがあるなら、どんな封筒だろう」
 ちいさな言葉がオズから零れ落ちたとき、不意にシュネーの瞳が或る箇所に向いた。それはオズが動いたからだったのかもしれないが、何故だかシュネーが手紙を見つけてくれた気がした。
「これ?」
 真っ白な封筒に青い薔薇の封蝋。それが自分の探し求めている手紙であるような気がして、オズは手を伸ばす。そして封書をそっとひらくと――。
「わあっ」
 便箋に文字が綴られていると感じた時、その文字が宙に躍った。
 瞬く間にさかなの形になったそれはふわりと泳ぎ、天井近くの書架まであっという間に昇っていってしまう。
「あれが、おとうさんからのおてがみ……? いこうっ、シュネー!」
 手に残った封筒は大切に仕舞う。
 そして、オズはシュネーと共に駆け出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
親しい人からの手紙……、ね
生憎と僕にそんな相手はいないから
今日の目的は鍵を見つけることかな

手あたり次第あたっても良いのだけれど……
流石にこの数全てを手にするのは骨が折れるね

目につく物を手に取りつつ
手下の灰狼たちと共に何か痕跡が無いか探してみようか
野生の勘と嗅覚を働かせる時だよ
精々役に立ってよね

中にはトラップが仕込まれている物もあるようだから
せめてそれは引かないようにいもしない神にでも一応祈っておこうかな

前足で叩かれた一枚の封筒
封を切った瞬間泳いだ文字に、瞬いて

――、驚いた
文字が魚になった事も
“これ”を、手にした事も

思い当たる相手は――、ひとりだけ
……嗚呼、そう
お前が導いてくれるんだね



●書の波間
 たくさんの書架と本。紙の香り。
 踏み入った迷宮はまるで巨大な図書館のようだ。旭・まどか(MementoMori・f18469)は天井まで続く高い本棚を見上げてから床に視線を落とす。
 其処に見えるのは数多の手紙。
 聞く話によるとこの中の何れかが誰かから宛てられた自分への手紙らしい。
「親しい人からの手紙……、ね」
 まどかはちいさく呟いた後、そんな相手はいないと軽く頭を振った。
 ならば今日の目的は鍵を見つけること。手紙の中には直接的な鍵となるものもあると聞いている。それらを探すのが自分の役目だとして、まどかは手近な所に落ちている手紙へと歩み寄る。
 そのうちの一枚を拾い上げたまどかは照明に封書を透かしてみた。
「手あたり次第あたっても良いのだけれど……流石にこの数全てを手にするのは骨が折れるし、トラップもあるんだったかな」
 適当に開けるのは良くないだろう。それに透かした手紙には何も書かれていないようだ。ハズレの封書を軽く放り投げ、まどかは進む。
 見れば白い封筒の他にも色がついたものや、封蝋の種類が違うものがある。
 まどかは灰狼たちと共に何か痕跡が無いか探してゆく。
「ほら、野生の勘と嗅覚を働かせる時だよ。精々役に立ってよね」
 手下に命じると、暫くして一匹の灰狼が或る封書に鼻を近付けていた。何か匂いが気になるらしく、まどかは其方に歩み寄る。
「……これ?」
 それは封蝋が付けられていない手紙だった。
 少しだけ嫌な予感がする。爆発するものであるような気がしながらも、まどかはいもしない神に一応なりに祈ってみた。
 そして手紙をそっとひらく。瞬刻、ぽすんと音がして手紙が弾けた。
「…………」
 痛みはない。多少驚いただけだ。
 まどかが半眼で灰狼を見遣ると、ごめんなさいと謝るようにその尾が下がった。しかし此処で挫けるまどかではない。
 暫くしてから灰狼がてしてしと前足で一枚の封筒を叩いていた。
「今度は本当に何かあったんだろうね」
 次も外れだったらどうしてやろうかと訝しく思ったまどかだったが、先程とは違って手紙はしっかりと封蝋で閉じられている。
 印は月と星のデザインで色は銀。悪くない雰囲気だ。
 まどかは慎重に封を切る。
 その瞬間。便箋から飛び出して泳ぎはじめた文字。その動きに瞬いたまどか。
「――、驚いた」
 文字が魚になったことも、そして――“これ”を、手にしたことも。
 魚は海中を泳いでいくかのようにすいすいと書架の間を逃げていった。すぐに駆け出すことはせず、まどかはそれを目で追う。
 思い当たる相手は――、ひとりだけ。
「……嗚呼、そう。お前が導いてくれるんだね」
 静かな言葉を口にして、まどかはゆっくりと魚の後を追っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

伊織・あやめ
魔法の手紙…あたしの持ち主さまの言葉が読みたいな
あたしは玉簪のヤドリガミ
その玉簪をつけていた持ち主さまは
病弱で、でも夢見がちで正義感の強い方だった

とりあえず、手元にいっぱい封書を集めて
あれかな、これかな、と探すよ
字の上手な方だったのは知ってる
きっと字を見ればわかるはず

あ…この字
懐かしいこの字
きっとこれが持ち主さまの封書に違いない
封書は大事に手元に置いて
他の封書も眺めてみようかな
これだけたくさん、人の想いはあるんだね
想いが、みんなに伝わりますように

書かれている内容は
「たくさんの世界がみたい
たくさんの笑顔がみたい」
もちろん、あたしは内容を知らないけれど

絡み、アドリブ歓迎です



●懐かしい文字
 図書館めいた迷宮のフロアに踏み入る。
 入った瞬間に感じたのは紙の香り。多くの書架と床に落ちた手紙が織成す独特の雰囲気を確かめながら、伊織・あやめ(うつせみの・f15726)は一歩を踏み出した。
「魔法の手紙……あたしの持ち主さまの言葉が読みたいな」
 あやめは玉簪のヤドリガミだ。
 嘗ての持ち主は病弱で、けれども夢見がちで正義感の強い方だった。
 物だった頃の記憶はヤドリガミになった今と比べると朧げだ。大切にされてはいたが、多くのヤドリガミの宿命であるように持ち主はもうこの世にはいない。
 いつか、過去に掛けてもらった言葉や思いが記された手紙がこの迷宮の何処かにある。それは自分の記憶から読まれ、生成されたものだという。
 どれが自分への手紙かはまだ分からないが、あるのならば見つけてみたい。
「とりあえず、集めるしかないよね。あれかな……それも気になるし、これもかな」
 これだけたくさん落ちていると直感で探すのは難しい。あやめは手元にいっぱい封書を集めることにして、右へ左へと進んでいく。
 書架の間を通り、腕いっぱいの手紙を抱えたあやめ。
 それをひとまとめにして本棚の隅に置いたらいざ開封の儀。中にはひらくと弾けるトラップもあるそうなので要注意。
 けれど、自分への手紙の手掛かりはある。
 持ち主さまは字の上手な方だった。きっと字を見ればわかるはず。
 一通目は何も書かれていない白紙。二通目も白紙。三通目も――と手紙を開封していくあやめは根気で作業を進めていく。
 そして、あるとき。
「わ……!」
 ぽぽぽん、と可愛らしい音が聞こえたと同時に手紙が弾けた。
 少々驚いたが痛みはない。これが罠なのかと実感したあやめは、少し警戒を強めながらも次々と手紙をひらいていく。
 そんな中、ふと気になる封書を見つけた。
 それは紫色の封蝋で閉じられた手紙だった。その色は自分が宿す色とよく似ており、あやめは奇妙な親近感を覚える。そして、ゆっくりと封をあけた。
「あ……この字、懐かしいこの字」
 きっとこれが持ち主さまの封書に違いない。そう感じたそのとき、中身を読む前に便箋に綴られた文字が浮かび上がった。
 文字はあっという間に組み替えられ、魚の形になって飛んでいく。
「見えなくなっちゃった……」
 瞬く間に書架の海に紛れていった魚の行方はわからない。
 だが、最初からこうなると分かっていたので慌てることはなかった。まどかは手元に残った封書を大事に仕舞い込む。
 文字の魚がこの図書館めいたフロアから出ていくことはない。だから少しだけ他の封書も眺めてみようと思った。
「これだけたくさん、人の想いはあるんだね」
 想いが、みんなに伝わりますように。
 そっと願いったあやめは暫くしてから静かに歩を進めていく。
 ふわり、ふわりと本の海を泳ぐ手紙の魚を探して――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

樹神・桜雪
すごく沢山の手紙だね。
この中に、ボク宛ての手紙があるのかな。

ボクは自分の事を覚えてはいないけど、すべて忘れているわけでもないんだ。
何か忘れてはいけない大切な事があって、それをずっと探してる。
過去のボクからの手紙がここにあると言うなら、きっとさが探し物の事だと思う。
ボクは何を忘れているんだろう。
手紙で何か判ると良いなと考えながら探すよ。

これだ!って判る封筒がありそうな辺りを探してみるね。
記憶がないのに判るのって?記憶がなくても心のどこかで覚えているんだよ。きっと。


✳絡み・アドリブ歓迎です。
✳手紙の内容は過去の自分から『探し物はすぐ傍に』の一言だけ



●探し物はまだ遠く
 書架と本の海。
 其処はそのように表すのが相応しい場所だと思えた。
 樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)は天井まで続く本棚と木製の梯子を見上げながら、図書館めいた迷宮フロアのつくりを確かめる。
 そして、視線を床に向けた。
「すごく沢山の手紙だね」
 思わず零れ落ちたのはそんな感想。散らばる手紙の数は相当なもの。
 そして、そのどれかが迷宮内に入った者の記憶から生まれた言葉が記された手紙なのだというのだから不思議だ。
「この中に、ボク宛ての手紙があるのかな」
 どれがそうなんだろう、と桜雪は周囲を見渡した。
 桜雪は自分のことを覚えてはいない。けれど、すべて忘れているわけでもない。
 忘れてはいけない大切なこと。
 ずっと探しているものの断片が、此処にある気がする。
「この迷宮に過去のボクからの手紙があると言うなら、きっと探し物の事だよね」
 桜雪は歩を進め、手近な手紙を拾いあげた。
 ひらいてみても中には何も書かれていない。それでもまた次の手紙を拾って封を切ってみる。此処に文字が記されていたら、それこそが探し物のヒントになるはず。
 ――ボクは何を忘れているんだろう。
 何処かにある手紙で何かが判ると良い。そう考えながら探している最中、桜雪は少し気になる封書を見つけた。
「これ、何だか他と違うような……?」
 それは封蝋が施されていない素っ気ない手紙だった。
 もしかすれば、と少しばかり緊張しながら中の便箋を取り出す。すると――。
「……!」
 ぽん、と手紙が弾けてしまった。
 痛みはないがとても驚いてしまった。あまりにも予想外で声もでなかったほどだ。しかし桜雪はこれが手紙の中に混じっているというトラップなのだと気付く。
 気を付けなければならないのだと自分を律し、桜雪は更に進んでいった。
 そうして暫し後。
「あれって……もしかして――」
 ふと目に入ったのは銀色の封蝋で閉じられている封筒だ。
 今度はトラップとは違う不思議な雰囲気が感じられる。そっとその真白な封筒を拾った桜雪は慎重に封をあけていった。
 記憶がないのに、何故か判る。心のどこかで覚えているのかもしれない。
 さあ、過去の自分からの言葉はなんだろう。
 桜雪が期待と共に便箋をひらいた途端、文字が踊った。それは比喩でも何でもなく本当に文字がふわりと浮いたのだ。
 あっという間に魚の形になった本棚の影に隠れるように泳いでいった。
「――待って」
 もうすぐ。もう少しで探し物の一部が見つかるかもしれなかったのに。
 桜雪は手を伸ばし、文字の魚の後を追っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

三条・姿見
SPD/手掛かりをもとに効率よく、黙々と
※アドリブ可

流石にこの数は想定外だな。…調査は骨が折れそうだ。
任務のためと思い、ひたすら探し続けるより他はないだろう。

…しかし…遠い記憶、か。
俺の身はヒトのそれとは違う。自我を得たことも随分前の話だ。
一体どこまで遡れるものか…送り主までは掴めないな。

だが、手掛かりはある。…世話になった家は、たったひとつだ。
…俺が最期を見届けた主か、あるいはもっと先代まで遡るか…
いずれにせよ、予想が正しければ
サムライエンパイアの形式に即した文書となるはずだ。
学園で用いられているものとは仕様も異なる。
見た目の違いを手掛かりに、近いものから重点的に当たろう。



●写し取る物
 図書館めいたフロアに広がっているのは紙の香り。
 それもそのはず。この場所には書架に収まった大量の本に加え、床に数多の手紙が散らばって落ちているからだ。
 まさに此処は手紙と本の迷宮。
 光景を瞳に映し、溜息をついた三条・姿見(鏡面仕上げ・f07852)は肩を竦める。
「流石にこの数は想定外だな。……調査は骨が折れそうだ」
 一目見ただけでうんざりしてしまう。
 姿見は数歩だけ進み、足元に落ちていた白い封筒を手に取った。
 明らかに何の雰囲気も感じられないそれを徐にひらいてみる。中身は白紙。こういったものが殆どだというのだから、途方に暮れそうにもなった。
 だが、これも囚われている学園生徒を救う任務のため。そう思ってひたすら探し続けるしかないだろう。
「……しかし……遠い記憶、か」
 思い返すのは己の過去。
 姿見の身はヒトのそれとは違う。自我を得たことも随分と前の話になる。
 この姿を得てからか。
 それとも、鏡として在った頃か。
 一体どこまで遡れるものか。そして、その送り主までは掴めない。されど姿見には大まかな見当はついている。
「だが、手掛かりはある。……世話になった家は、たったひとつだ」
 確かめるように言葉を紡ぎ、姿見はかの一族を思う。
 其処に在る光景を映し続けた日々。
 自ら写し取ったこの身もまた、終わりの日の主の姿である。
「……俺が最期を見届けた主か、あるいはもっと先代まで遡るか……」
 いずれにせよ、予想が正しければ――。
 姿見は周囲を見渡していく。落ちている手紙は殆どが真白な封書だが、所々に違う色や別の封筒に収まったものもあるようだ。
 もし、この迷宮の力が自分の記憶を読んで手紙を生成したのならば、サムライエンパイアの形式に即した文書となるはず。
 きっとそれはアルダワで用いられているものとは仕様も見た目も異なるだろう。
 そう考えた姿見は注意深く手紙を見下ろす。
 すると、ある書架の端に他とは違う見た目の手紙――寧ろ書簡と呼ぶほうが相応しいものが見えた。あれに違いないと察した姿見は手を伸ばし、書簡を広げる。
 だが、次の瞬間。
 筆で記されたような文字が浮かび上がり、和の雰囲気を感じさせる魚に変じた。
「これが――」
 手を伸ばした姿見だったが、魚はその指先を擦り抜けて天井近くまで飛ぶ。
 この迷宮フロアの天井はやけに高い。これは捕まえることもまた骨が折れそうだと感じ、姿見はもう一度、軽く肩を竦めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

リティ・オールドヴァルト
【WIZ】

としょかんのようでいて…
ふしぎな場所なのです

ぼくはまだ7才
おてがみがもらえるとしたら
とうさまかかあさま
それともにいさま
…村の人というかのうせいも…
むむ、と首を傾げ

ですけども…
にいさまに聞かせてもらったけども
やっぱり小さいときのことはおぼえてないから
あらためて読みたいのです
ぼくが生まれたときのこと
にいさまは…何と言ってましたっけ…

ぶんっと首を左右に振り
リリィ、手伝ってくださいねっ
気合い入れつつあちこちきょろきょろ
あれは優しい色の封筒
あっちはきらきらのシール付き
ハートのシールも
リリィと一緒に見つけたのを手に取り

たくさんのてがみ
だれかの想い
みんなの元にとどくといいな

あっ
空色の封筒
もしかして



●昔のおはなし
「としょかんのようでいて……ふしぎな場所なのです」
 迷宮に踏み入ったリティ・オールドヴァルト(天上の蒼・f11245)が思わず零したのは、そんな一言だった。
 天井まである本棚に床に散らばった手紙。お片付けができてないのでしょうか、と口にしたリティの傍でリリィも不思議そうに首を傾げている。
 けれども此処はきっとこれが当たり前の場所。
 何でもこの場所では過去の言葉が手紙になって現れるらしい。
 リティはまだ七歳。
 もしおてがみがもらえるとしたら――とリティは考えを巡らせていく。
「とうさまか、かあさま。それとも、にいさま?」
 むむ、と悩みはじめるリティは真剣だ。
「もしかしたら……村の人というかのうせいも……」
 いつの記憶から手紙が生成されるかも分からないので可能性と想像は広がるばかり。けれどもリティにはもう一度、知りたい言葉があった。
 それはにいさまに聞かせてもらった、自分が生まれたときのお話。
「やっぱり小さいときのことはおぼえてないから、あらためて読みたいのです。にいさまは……何と言ってましたっけ……」
 そのことは思い出そうとしても思い出せない。
 考え込みそうになったリティはぶんっと首を左右に振って気を取り直した。
「リリィ、手伝ってくださいねっ」
 いつものように気合いを入れたリティはリリィと一緒に探索をはじめた。あちこちを見てまわる少女はきょろきょろと手紙を見渡す。
 優しい色の封筒。
 きらきらのシール付きの封筒。
 ハートのシールや臙脂色の封蝋。
 リリィと一緒に見つけた手紙を手に取ったリティは何だかわくわくしてきた。
 これもあれも、きっと誰かの思いが籠められたもの。きっと本人が取りに来ていない手紙もたくさんあるのだろう。
「だれかの想い、みんなの元にとどくといいな……」
 ふわりと微笑んだリティは、誰かが見つけやすいように空いている本棚の上にちょこんと封書を置いた。そのとき、リティがはっとする。
「あっ、空色の封筒です!」
 もしかして、とどきどきしながら手を伸ばすリティ。
 そっと封を切ると其処には『リティへ』と書かれた文字があり――それを読もうとした瞬間、手紙の文字が宙に躍った。
 瞬く間に魚の形になったそれはリティを擦り抜けて泳いでいってしまう。咄嗟にリリィがぴょんと飛んで追ったが魚の方が速い。
「まってください、おさかなのおてがみさん!」
 ――はやく、はやく、追わないとお手紙を見失ってしまう。
 そして、リティはリリィと一緒に駆け出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユウイ・アイルヴェーム
記憶。私が取り落としてしまった、大切なもの。誰かの生きた証
少しでも拾い戻せるのなら、あなたたちの生を思い出せるのなら
私は、行きます

沢山のお手紙…この中のどこかに、私たちへ向けた言葉があるのですね
お手紙を踏んではいけませんから、近いものを拾い上げながら探します
どなたの邪魔にもなりません、端の方から行きましょう

ここにも、そこにも、見当たらないのです
本当に「なくして」しまったのでしょうか
本当は「ない」ものだった、のでしょうか
いいえ、私が「あった」と信じなければ、なくなってしまうのです
そうでしょう、誰のものでもない、私のものなのです
そう信じたならば、きっと、来てくれるのです



●信じた先に
 記憶。
 それは自分が取り落としてしまった、大切なもの。
 ユウイ・アイルヴェーム(そらいろこびん・f08837)は図書館めいた広いフロアに踏み入り、天井まで高く伸びる書架を見上げた。
 記憶はきっと、誰かの生きた証。
 それを少しでも拾い戻せるのなら、あなたたちの生を思い出せるのなら――。
「私は、行きます」
 ちいさな決意を込めた言葉を紡ぎ、ユウイは歩を進めた。
 足元に広がる数々の手紙。
 其処から感じたのは紙の香り。詳しくいうならばインクの匂いでもあるだろうか。ほとんどが白紙だという手紙だが、確かに何処かに文字が綴られていることが解る。
「沢山のお手紙……この中のどこかに、私たちへ向けた言葉があるのですね」
 散らばっている数は多いが足の踏み場もないわけではなかった。
 けれどもそっと、手紙を踏んでしまわぬようにユウイは進む。手近な白い封筒を拾い上げたユウイはそれを照明に透かしてみる。
「何も書かれていませんね……」
 封筒が薄かったゆえに偶然にも中身が見えた。これはハズレの手紙だと判断したユウイは隅の方に手紙をおく。
 しかし、どの手紙も透かして確認できるわけではないようだ。
 分厚い封書、色がついた封筒、封蝋の色が違うもの。手紙は似ているようで細部が違い、それぞれに個性が見えた。
 そしてユウイは気になるものをひとつずつ調べていく。
 誰の邪魔にもならないように書架の端の方から手紙を集め、丁寧に封を切る。されど手紙は大量過ぎていつまで経っても自分宛ての物が見つからなかった。
 ここにも、そこにも、見当たらない。
 ユウイは諦めずに封筒を拾いながら、ふと或ることを思う。
 ――本当に『なくして』しまったのでしょうか。
 ――本当は『ない』ものだった、のでしょうか。
 探し物があるのだと思い込んでいただけだとしたら。そう考えてしまうと妙な気持ちが裡に巡っていった。
 だが、ユウイは静かに首を横に振る。
「……いいえ、私が『あった』と信じなければ、なくなってしまうのです」
 誰のものでもない、私のものなのだから。
 そう信じたならば、きっと、来てくれる。
 俯きそうになっていた顔をあげ、ユウイは手を伸ばした。其処にあったのは他の物よりも更に真白な、雪めいた色を宿した封筒。
「これは……?」
 ユウイは何かを感じ取り、封を切った。
 ひらいた便箋には文字が記されている。されどその文字の意味を目で追う前にそれは魚の形になって飛び出し、宙を泳ぎはじめた。
「待ってください。まだ、何も――」
 読めていない。腕を伸ばしたユウイだが、文字の魚はするりとその手を擦り抜けて書架の向こうに行ってしまう。
 あの言葉を、あの文字の正体を知りたい。
 裡に生まれた願いを抱き、ユウイは手紙の魚の後を追ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫丿宮・馨子
もう逢えない人からの文
そう聞いて一番始めに思い浮かべたのは
最後の主の顔

自分の存在が、彼女を死に至らしめた
断罪の言葉でもいい
…ああでも宮様は
ご自分の死因がわたくしに関わりがあることをご存じない
ではわたくしに
どんな言葉をかけるというのですか
祖母から母を経て受け継がれたとはいえ
ただのモノであったわたくしに

宮様からの言葉がほしい
けれども器物の姿しか知らぬ彼女が自分に言葉を残すなんて
そんな思いで手紙を探していると
覚えのある香りを放つ手紙に気づく
宮様がたの香りではなく
しかし記憶の奥にある香り

わたくしはこの香りを知っています
けれども誰のものなのか思い出せない
わたくしが、香りに関する記憶を忘れるなんて…そんな



●薫る残滓
 もう逢えない人。
 そして、その人から届くという文。
 紫丿宮・馨子(仄かにくゆる姫君・f00347)がそう聞いて一番始めに思い浮かべたのは、最後の主の顔。
 書架が立ち並ぶ迷宮を振り仰いだ馨子は嘗ての記憶を思い返す。
 自分の存在が、彼女を死に至らしめた。
 それを自覚しているからこそ主を思い出すと胸が痛むような感覚をおぼえる。
 だから、断罪の言葉でもいい。
 主の思いが欲しいと願い、馨子はこの迷宮に訪れた。
 しかし、散らばる手紙を見下ろした馨子はふと思い立つ。この迷宮に現れる手紙は過去の記憶からつくられるという。
「……ああでも、宮様は――」
 自分の死因が馨子に関わりがあることを知らないはずだ。それならば自らがそれでもいいと望む断罪の言葉など見つかるはずがないと気付いてしまった。
「ではわたくしにどんな言葉をかけるというのですか。祖母から母を経て受け継がれたとはいえ、ただのモノであったわたくしに……」
 器物であった自分への言葉。
 もしかすればそれは望めぬものなのかもしれない。
 それでも、宮様からの言葉がほしかった。自分でも覚えていない声や言葉があるのではないか。賭けるような思いを抱いた馨子は手紙を探していく。
 僅かな可能性に縋るように馨子は白い封筒をひとつずつ丁寧にひらいていった。
 どれも見た目は同じ。
 封を切ってみても真白で何も書かれていない便箋が出てくるだけ。
 もしや、自分宛ての手紙など存在しないのではないか。そう思い、漆黒の眸を哀しげに細めた馨子。その手から白紙の手紙がひらりと滑り落ちた。
「やはり、宮様の言葉など……」
 ほんの少しの諦めの心境が馨子の裡に巡ってゆく。
 だが、そのとき。
 落ちていった便箋の先に何か不思議なものを感じた。覚えのある香りを放つ書簡があることに気付いた馨子はどうしてもそれが気にかかって仕方がなくなる。
 宮様がたの香りではない。
 それでも、記憶の奥にある香りだと馨子は感じ取っていた。
「わたくしはこの香りを知っています。けれども……」
 誰のものなのか思い出せない。
 自分が香りに関する記憶を忘れるなんて。己でも思い起こせない香りの記憶があるのかと不思議になり、馨子はその手紙をひらいてみた。
「何でしょうか……?」
 しかし何かが記されていたらしき文面は瞬く間に魚の形になって飛び出していく。
 記憶にある、けれども思い出せない香りを残しながら魚は宙を泳いで逃げた。馨子は引き寄せられるようにその香を追い、迷宮の更に奥に踏み込んでゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
誰からの手紙なのか。
それによって宛名が変わってしまう、己なんかにとっては、
探す苦労は同じ事…
…でも無い、か。
記憶を忘れるわけじゃない、けれど過去は抱えぬ主義…
まさかこんな所で裏目に出るとは!
親しい人など、はて居たものか――

難題ばかり浮かぶ思考、けれど表情は裏腹。
どの名前宛か判らなくとも。
誰からか解らなくとも。
出逢えば自分宛だと分かるでしょう、多分!なんて。
結局いつものお気楽気分で手紙溢れる道を行く。
興味はあるのだ。
失くし続けた縁の中、親しいなどという想いを、
最期まで自分に懐き続けた者なんて果たして居たのか。

総浚いの捜索の果て、文字の魚が泳ぎ去ったなら――

一瞬垣間見えた気がする、あの名は…誰だ?



●不可思議な宛名
 文字迷宮に散らばる手紙の数々。
 殆どが白い封筒で埋め尽くされた床を見渡し、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)はちいさな溜息をついた。
 頭上を仰げば、天井まで伸びる書棚に木製の梯子がかかっているのが見える。
 どうやら手紙は書架にまでは散らばっていないらしく、膨大な手紙を探す今回の仕事のなかでそれだけが救いのように思えた。
 そして、クロトは足元に落ちていた一通の手紙を拾い上げる。
 表面に宛名はない。
 中をひらき、それが当たりだったなら便箋に自分の名が記されているのだろう。
 しかし、誰からの手紙なのか。
 それによって宛名が変わってしまうクロトだが、探す苦労は皆と同じ。
「……でも無い、か」
 頭を振ったクロトは手紙をひらく。当然、予想通りに中身は白紙。
 開いていた書棚に外れと分かるように手紙を置き、クロトは違う封書に手を伸ばした。それもまた何の変哲もない白い封筒だ。
 ――記憶を忘れるわけじゃない、けれど過去は抱えぬ主義。
 誰かを思い浮かべればそれらしい導になって封書の色や見た目に現れる傾向があるようだが、誰からの手紙が欲しいかなど見当も付かないので難しい。
「まさかこんな所で裏目に出るとは!」
 親しい人など、はて居たものか。考え込むクロトは次々と手紙をあけていく。
 されど、どれもが白紙だ。
 時折ひらいた途端に弾けるトラップレターがある程度で収穫はない。難題ばかり浮かぶ思考。けれどクロトの表情は思考とは裏腹に柔らかい。
 どの名前宛か判らなくとも、誰からか解らなくとも、きっとそれと出逢えば自分宛だと自然に理解できるものであるはずだ。
「ええ、分かるはずですよね。多分!」
 楽観的に見るしかないと感じたクロトは結局、いつもと変わりない姿勢で手紙が溢れる道を行く。分からないことばかりなのもまた今回の醍醐味だろう。
 それに興味があるのだ。
 失くし続けた縁の中、親しいなどという想いを最期まで自分に懐き続けた者なんて果たして居たのか。それを確かめに来たといっても過言ではない。
 そして、総浚いの捜索の果て。
 クロトは妙に引っかかる雰囲気を感じる手紙を見つけた。それまでよりも慎重に封を切ると、何かの文字が綴られているのが見える。
「もしかしてこれが――」
 だが、それを読む前に文字は魚になって泳ぎ去っていった。
 そうなることは分かっていたゆえにクロトに驚きはない。だが、気になるのは一瞬だけ垣間見えた気がする、宛名。
「あの名は……誰だ?」
 浮かんだ疑問の答えを今のクロトは持ち合わせていない。
 当初の予定通り、文字の魚を追うしかないのだと判断して彼はその後を追った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

暗峠・マナコ
私にも、誰かからの言葉が届くのでしょうか
過去なぞ未だ、思い出したり、思い出したがったりはしていないのですが…
そうですね、せっかくならば、記憶の始まりのキレイな宇宙、
私の知らない昔の宇宙の記憶から、お手紙が届けば良いのですが

きっと私のことです、本棚の隙間の意地の悪いところにでも隠れているのでしょう?
腕を変形させて棚の隙間や奥の方に伸ばして探していきます

手にしたのは真っ黒い封筒
私の顔の様に金色の線が引かれていたのですぐわかりました
同じく金色の文字で書かれた差出人は、私の知らない、けれど懐かしい名前



●金のさかな
 ――私にも、誰かからの言葉が届くのでしょうか。
 数多の手紙。
 堆く積まれた思いや言葉の数々。
 文字迷宮に広がる書架と手紙の光景を見つめ、暗峠・マナコ(トコヤミヒトツ・f04241)は一歩を踏み出してゆく。
 過去なぞ未だ、思い出したり、思い出したがったりはしていない。
 けれどもこの場所の何処かに自分への手紙が創り出されているという。マナコは近くに落ちていた白い封筒の手紙を拾い、そっとひらいてみた。
 中身は白紙。
 剥がれ落ちた封蝋は深い蒼と黒が混じったような色をしていて、何だか宇宙のいろのように思えた。
「そうですね、せっかくならば――」
 自分に手紙が届くなら、欲しいものがある。
 記憶の始まりのキレイな宇宙。
 自分が知らない昔の宇宙の記憶、まだ憶えていなかったときの手紙が届けば良いと願い、マナコは歩を進めていった。
 常闇めいた眼で床を見下ろし、自分宛ての手紙を探す。
 手紙にはほんの少しだけ自分の記憶や無意識化に現れた特徴がみえるという。マナコは考えを巡らせ、そっと書架の間に向かった。
「きっと私のことです、本棚の隙間の意地の悪いところにでも隠れているのでしょう?」
 もし自分が隠すとしたらと想像してマナコは腕を伸ばす。そして変形させた片腕を棚の隙間や奥の方に伸ばし、其処に落ちている手紙を拾った。
 数通の手紙。その多くが真白な封書だ。
 しかし、その中に一通だけ真っ黒い封筒があった。
 封はされている。だが、それは封蝋ではなく金色の線で『〆』と記されて糊付されているだけのようだった。
「まあ、これですね。すぐわかりました」
 黒と金。まるで自分のよう。つまりは自分宛てであるものだと感じたマナコは迷わずその封を切った。
 中身もまた黒い便箋。それを開くと金の文字が躍り出た。
 例えでも何でもない。元から聞いていたように手紙に記された文字が魚のかたちになって宙を泳ぎ始めたからだ。
 内容は読めなかった。けれども一瞬だけ見えた、金色の文字で書かれた差出人。その名は自分が知らない――けれど懐かしい名前だと思えた。
「追いかけっこのはじまりですね」
 そして、マナコは書架の間をすいすいと泳ぐ金文字の魚を追ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
過去からの手紙…
幻覚を見せられた時に現れる、あの男の人
柔らかな髪で、狼耳と尻尾が生えていた
前の依頼で、あの人のことは段々とわかってきた筈なんだ
あの人は俺のお兄さん…そして、俺の目の前で死んだ
でも、今はそれだけしかわからない

ずっと知らないと否定してきた、あの幻覚たちは本当にあったことで
向き合うことを恐れていたけれど
…もう逃げられないんだ
向き合わなくちゃ

知りたいんだ
あの人と自分は一体、どういう過去があったのか
……いや、俺のことを本当に愛してくれたのか
いないと思っていた家族の存在
それに触れてみたい

自分の兄だというあの人のことを強く思い浮かべて
何も知らないけれど、強く思えばきっと見つかる
そんな気がする



●氷色の手紙
 過去からの手紙。
 それはきっと三年前よりも以前の記憶から読み取られたもの。
 ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)は俯き、図書館めいた迷宮内に散らばる数多の手紙を見下ろした。
 思い浮かぶのは幻覚を見せられた時に現れる、あの男の人。
 柔らかな髪。狼の耳と尻尾が生えていた彼。
「あの人は……俺のお兄さん」
 ヴァーリャは掌を握り締め、前に視せられた光景をもう一度思い出した。
 記憶が失われていても段々とわかってきている。彼は兄で、そして――ヴァーリャの目の前で死んだ。でも、今はそれだけしかわからない。
 ずっと知らないと否定してきたあの幻覚たちは本当にあったこと。
 偽物などではない、現実だ。
 これまでは向き合うことを恐れていたが此処に訪れたことには意味がある。
「もう、逃げられないんだ」
 向き合わなくちゃ、と口にして顔をあげたヴァーリャは進む。
 過去の言葉が手紙になるというのならば知りたい。あの人と自分は一体、どういう過去があったのか。それから、もうひとつ疑問に思うこともある。
「あの人は……俺のことを、本当に愛してくれたのか」
 いないと思っていた家族の存在。
 それに触れてみたい。此処で断片でも良いから何かを掴み取りたい。
 ヴァーリャは幻覚の中で見た兄のことを強く思い浮かべた。何も憶えては居ないが強く思えばきっと彼からの言葉が、手紙が見つかるはず。
 真白で綺麗な封筒。
 くしゃくしゃの茶色の封書。
 しっかりと封蝋で閉じられた手紙。
 様々な形をしたそれらを拾い、ヴァーリャはひとつずつ調べていく。しかしそのどれもが白紙の手紙が入っているだけだった。
 もしかすれば、本当は自分宛ての手紙など此処にはないのかもしれない。
 探すのをやめれば過去などなかったことにもできる。ほんの少しだけ不安めいた思いが胸の裡に巡った。しかしそんなとき、ヴァーリャは妙に気になる色を宿す封筒を見つける。
「あれは……?」
 印象的な淡青。氷のような色をした封筒を拾いあげてみる。宛名も差出人の名前も記されていなかったが、それを綴じる封蝋は夜の彩のような深い紫だ。
 ヴァーリャは少し緊張しながらその封を切ってみる。
 すると――。
「わわっ!」
 便箋をひらいた瞬間、其処に綴られていた文字が飛び出した。驚いたヴァーリャが一歩下がると文字が組み替えられて魚の形になっていく。
 あっという間に天井まで飛び上がった魚。其処に書いてある文字は読めなかった。
 あれが自分宛ての言葉だというのなら、ただ捕まえるのみ。
 ヴァーリャは床を蹴り、ふわりふわりと宙を泳ぐ魚を追いかけはじめた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーヴェルシュイユ・ティアメイア
お手紙、お手紙
ふしぎ。どうしてかしら
お手紙、って考えるとね
のどの下がね、かあってするの
あったかくって、でも
からからに乾いたみたい

ルルでお手紙を掬ってためつすがめつ
送り主って、だれを想えばいいのかしら
わたくしってば、なんにも憶えてないんだもの
記憶がなくたってごはんはおいしいから、わたくし
なくしちゃった昔のこと、あんまり気にしてないけれど

でもね

わたくし、ずっとぺこぺこなの
記憶のはじめ、ルルといた夜の浜辺
あの日はあんなにしあわせで、満ちたりてたのにね
もしも思いだせたなら
わたくしは、もういちどまんぷくになれる?

鍵は、塩の晶が封じた古便箋
封をちろりと嘗めとけば、
きゅうってするほどしょっぱくて――、あまい



●空腹
 書架と本、そして手紙。
 文字迷宮と呼ばれる其処は落ち着いた雰囲気が満ちた場所だった。
 クーヴェルシュイユ・ティアメイア(沫浹・f01166)は床に散らばっているたくさんの封書を見下ろし、お手紙、お手紙、と口にしてみる。
「ふしぎ。どうしてかしら」
 クーヴェルシュイユは思わずそんな言葉を紡いだ。
 手紙について考えると何故か喉の下が、かあっとする。あったかくって、でも――からからに乾いたみたいな感覚。
 不可思議な気持ちを抱きながらクーヴェルシュイユは歩を進める。
 足元にはたくさんの手紙。
 手にしたデザートフォーク、ユテュリカ・ルルの片鱗で手紙を掬う。がさがさと掻き分けるほどに存在する手紙を溜め、クーヴェルシュイユは双眸を眇めた。
 この迷宮内の何処かに自分宛ての手紙が生成されているという。そして、此処で誰かを思いながら進めば見つかりやすくなるらしい。けれどクーヴェルシュイユは探す術を思いつけないでいた。
「送り主って、だれを想えばいいのかしら」
 ぽつりと零した言葉は誰にも聞かれぬまま迷宮内に響く。
 ――わたくしってば、なんにも憶えてないんだもの。
 胸の裡で思うのはまったく知らない過去のこと。それでも記憶がなくたってごはんはおいしいし、生きていくのだって今は困っていない。
 だからなくしてしまった昔のことはあんまり気にしてない。そう思っていたけれど、クーヴェルシュイユは此処に来た。
 識りたいと明確に思ったわけではないが、この裡に宿るものを少しだけどうにかしたかった。クーヴェルシュイユは胸を押さえ、ずっとぺこぺこな空腹めいた感覚に意識を向ける。
 そうして思い返すのは、はじめの記憶。
 ルルといた夜の浜辺。
 あの日はあんなにしあわせで、満ちたりていたのに。
「もしも思いだせたなら――わたくしは、もういちどまんぷくになれる?」
 零れ落ちた疑問に答えるものは、今はいない。
 クーヴェルシュイユは手紙を探して迷宮をゆく。たくさんの手紙をひらいて、たくさんの白紙の便箋を見ていった先、ふと気になる封筒をみつけた。
 そっと手に取ったそれは塩の晶に封じられたもの。
 封をちろりと嘗めとけば、きゅうっとするほどしょっぱくて――少し、あまかった。そうして中をひらけば古い便箋が出てくる。そして其処に綴られた言葉を目で追おうとしたとき、文字が浮かびあがった。
「……おさかな?」
 組み替えられた文字は瞬く間に魚の形になってふわりと浮く。
 思わず其処に手を伸ばす。指先を擦り抜けていった魚はまるで、自分を導いているかのように思え、クーヴェルシュイユは泳ぐ文字を追いかけはじめた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エレクメトール・ナザーリフ
過去の事はおぼろげですが拘ってはいません
過去はなくとも未来はあるので
とはいえ折角の機会です。探してみますか

《技能追憶》で情報収集しつつ手紙を集める
憶えている事は兵士としての自分
危険地帯、潜入、銃弾
手元にあった乙式装備、そして拳銃
手紙からは憶えがある硝煙の匂いがするかもしれません

手紙は2通、宛名は「エレク」
1通目の差出人は「イオ」
2通目の差出人は特になし

●1通目
あなたは後で怒るかも。でも、これが私のしたいこと
欲しがっていた拳銃をあげる。もう私には必要ないから

●2通目
西は寒いらしい、マフラーを入れて置く
撃つのはほどほどにしなくて良い、好きなだけ撃ちなさい
それと糖分摂取は欠かさないよう気を付けること



●探索兵への手紙
 天井近くまで聳え立つ書架。
 様々な本。そして、床にばらまかれたかのように広がる手紙。
 エレクメトール・ナザーリフ(エクストリガー・f04247)は迷宮内の様子を確かめ、この何処かにあるという自分への手紙を探しはじめた。
 しかし、エレクメトールは過去に縋りたくて此処に来たわけではない。
 憶えていないことも多く、昔のことはおぼろげだ。それでも今までこうして生きてこられたことを思うとそれほど拘る事項には思えなかった。
 過去はなくとも、未来はある。
 エレクメトールが抱いているのは現実的な思いだ。
「とはいえ……」
 周囲を見渡した彼女は片目を軽く眇める。
 記憶の底にあるという言葉を知れるというならば拒否する理由もない。
「折角の機会です。探してみますか」
 ――《技能追憶》、スキル・リコレクト。
 自らに宿る力を発動させたエレクメトールは探索を行っていく。完全に呼び起こせるかどうかはわからないが、やるだけやってみることは無駄ではないはず。
 わずかに憶えていることは兵士としての自分。
 危険地帯への潜入。
 飛び交う銃弾。手元にあった乙式装備。そして、拳銃。
 そんな記憶の中で誰かが自分へ言葉をかけてくれたことがあったのだろうか。おぼろげでしかない過去を思い、エレクメトールは進む。
 手紙の多くは真白な素っ気ない封筒に入っていた。拾い上げて何十通も開けてみたが、白紙の便箋しか見つからない。
 随分と外れが多いものだと感じながらエレクメトールはある封筒に手を伸ばした。
 その瞬間、ふと何かの匂いを感じる。
 これには憶えがあった。微かな硝煙の匂いを感じ取ったエレクメトールは手紙を二通分、静かに拾った。
 迷わず一通目の封を切れば、その手紙から文字が抜け落ちる。
「エレク……イオ?」
 一瞬で文字が魚の形になっていったが、宛名と差出人だけはかろうじて読めた。エレクメトールは書架の上部に泳いでいった魚から意識を外さぬままもう一通もひらいてみる。すると次の文字もまた同じようにするりと便箋から浮かび上がっていく。
 二通目からは差出人の文字は読み取れなかった。
 だが、何であれど先ずはあれらを捕まえるしかない。エレクメトールはふわふわと宙を泳ぐ魚達を見上げ、此処からはじまるであろう追走劇への思いを抱いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
🐰 千晴くん(f01295)
アドリブ歓迎

ボクは過去をしらない
正確には、幼すぎて覚えてない、だ
パパのこともママのこともぼんやり桜霞の向こう側
お姉ちゃん達に聞いた話ばかりさ
だから知りたかった
お姉ちゃん達が羨ましかった
パパとママは、ボクのこと
どう思ってたのかな
2人のこと覚えてないボクのこと
そういえばボク、昔の話は全然したこと無かったんだ!
野生の勘を働かせながら【似た者同士のボクとぼく】を使って一緒に探す

ボクは、パパとママからの手紙を探すよ!
千晴くんは?
誰からのお手紙探すの?

千晴くんの言葉ににこっと笑う
そうさ!
いつも元気にうさーって言うんだ



手紙の中身は父と母から娘に願う一言『しあわせにおなりなさい』


霧島・千晴
フレズローゼ(f01174)と
呼称:姫さん

俺と、自分の両親に面識があることを隣にいる少女は知らない
当時赤子だった彼女とも実は会っているのだが
彼女は当然覚えていない
だからその事実は秘めたまま

消えてしまった2人を探す手掛かりになれば
或いは、束の間でも文字だけでも
僅かに両親の記憶に触れさせてやれたら

「馬鹿だな」
「ご両親は姫さんのことを、心から愛していたよ。………きっと」

姫さんが覚えてなくても、俺が覚えてる

「まぁ、毎日うさー!って暴れまわるお転婆娘を心配してるかもしれねーけど」

「俺の手紙? はは、誰からだろうな?」

内緒だと笑えば連れていた傀儡が手紙を手にしていた
(中は彼女の母である歌姫の紡ぐ歌の一節)



●詩と言葉
 少女は過去を知らない。
 正確には、幼すぎて覚えていない。
 フレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)は手紙と書架が広がる文字迷宮内を見渡し、自分の過去に思いを馳せた。
 パパのこともママのことも、ぼんやりとした桜霞の向こう側にしかない。
 知っているのはすべて姉達に聞いた話ばかり。
 だから知りたかった。自分が幼い頃の記憶をはっきりと話せるお姉ちゃん達が羨ましくて仕方がないことだってあった。
(パパとママは、ボクのこと、どう思ってたのかな)
 二人のことを覚えてない自分を、両親はどのように感じるだろうか。
 そう考えて少しだけ俯いた彼女の背を見つめ、霧島・千晴(ブラッディ・レイヴ・f01295)はそっと問いかける。
「姫さん、大丈夫か?」
「……うん。平気だよ!」
 その声にはっとしたフレズローゼは明るい笑顔を見せた。
 千晴も笑みを返し、それならいい、と告げて歩き出す。彼女が両親のことを考えていたのは聞くまでもない。
 自分と両親に面識があることを隣にいる少女は知らないだろう。
 千晴も当時に赤子だった彼女と実は会っているのだが、当然覚えているはずはない。それゆえに過去の事実は秘めたまま、千晴はフレズローゼの探しものを手伝うつもりでいた。
 かの人達は消えてしまった。
 それゆえに下手に教えて寂しがらせてもいけない。
 だが、二人やその記憶を探す手掛かりになれば――或いは、束の間でも文字だけでも僅かに両親の記憶に触れさせてやれたら良い。それが千晴の抱く思いだ。
 そんな千晴の傍、フレズローゼは白い封筒を拾い上げてひらいていた。
 その中身は真っ白で何も書かれていない。残念、と肩を落としたフレズローゼだったが、まだ探索は始まったばかり。
「ボクは、パパとママからの手紙を探すよ! 千晴くんは?」
「俺の手紙? はは、誰からだろうな?」
 誰からのお手紙を探すのかと問われれば千晴は軽く笑って煙に巻く。内緒だと告げた彼に軽く首を傾げたフレズローゼだったが、それなら仕方ないと頷いた。
 そして少女は色違いの自分を呼び出して集めた手紙をひらいていく。どれもが白紙でハズレばかりだが、フレズローゼは諦めない。
「そういえばボク、昔の話は全然したこと無かったんだ! あのね、実はね……」
 千晴と共に一通ずつ手紙を確かめる中、フレズローゼは思いを零した。
 彼に告げたのは先程ふと脳裏をよぎったこと。
 パパとママが自分をどう思っているのかという言葉が紡がれていく中で千晴は首を横に振る。迷宮に来たばかりのときにそうだったように、何処か不安げなフレズローゼに向けて千晴はちいさな笑みを向けた。
「馬鹿だな」
「……え?」
 きょとんとしたフレズローゼに千晴は告げる。
「ご両親は姫さんのことを、心から愛していたよ。………きっと」
 ――姫さんが覚えてなくても、俺が覚えてる。
 最後の思いは敢えて伝えぬまま千晴は双眸を細めた。そうかな、と顔をあげたフレズローゼの瞳にはいつもの明るい光が戻ってきている。
「まぁ、毎日うさー! って暴れまわるお転婆娘を心配してるかもしれねーけど」
 冗談めかして千晴が話すと、フレズローゼはおかしそうに笑った。
「そうさ! いつも元気にうさーって言うんだ!」
「だな、それが姫さんらしい」
 そうして笑みと視線を交わした二人は手紙を探していった。暫く探索をした後、彼らはそれぞれに気になる手紙を見つける。
 フレズローゼは苺色の封蝋で閉じられた手紙。
 千晴は連れていた傀儡がいつのまにか手にしていた封書。
「あけてみる?」
「開けなきゃ始まらないだろうからな」
 せーの、で手紙の封を切った二人。すると話に聞いていたように便箋に綴られていた文字が浮かび上がり、魚のかたちになって飛んでいく。
 内容は読めなかったが、その宛名は間違いなくフレズローゼと千晴、それぞれに向けられたものだった。
「千晴くん、追いかけよう!」
「姫さんの仰せのままに」
 駆け出したフレズローゼの呼びかけに答えた千晴も、書架の間をすいすいと泳いでいく文字の魚を追っていく。
 其処に何が、どんな言葉が記されているのか。
 ――それは未だ、誰も知らない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
もう逢えない人からの…手紙

思い浮かんだのは炎に包まれ命尽きてしまった家族
本当の家族ではない
名も住むところも無くした─いや、捨てた俺を拾い
実の娘であるあの子と共に、我が子のように愛し育ててくれた父と母

時が経つにつれ薄れていく記憶の中の笑顔や声
反して俺とあの子を逃がそうと必死になって手を引いてくれた
最後の姿だけは未だに記憶にはっきりとこびりついて消えぬまま

あの時母は泣いていた
あの時父は…怖がり震える俺を叱咤し
あの子を託してくれた

…ああ、あの人達はどんな風に笑ってたろうか
迷い続ける俺に
あの人達ならどんな言葉を綴ってくれるのだろう

ぼやけた記憶と言葉を探し求めて
所狭しと敷き詰められた封書の海を進んで行く



●家族と記憶
 手紙。
 それも、もう逢えない人からの。
 迷宮を進む華折・黒羽(掬折・f10471)の裡に浮かぶのは家族の記憶。
 炎に包まれ、命尽きてしまった人達。
 彼らは黒羽にとっての本当の家族ではない。
 名も住むところも無くした――否、捨てた自分を拾い、実の娘であるあの子と共に我が子のように愛し育ててくれた父と母。
 血が繋がっておらずとも確かに家族と呼べる人達だった。
 だが、時は残酷だ。
 時が経つにつれ記憶の中の笑顔や声は薄れていく。
 反して、自分とあの子を逃がそうと必死になって手を引いてくれた最後の姿だけは未だに記憶にはっきりとこびりついて消えぬままだ。
 幸せな記憶もあったはずだ。だが、焼き付いて離れないのはそんな光景。
 あの時、母は泣いていた。
 あの時、父は怖がり震える黒羽を叱咤し、あの子を託してくれた。
「……ああ」
 黒羽は最後の記憶を辿りながら思わずちいさな声を零す。
 思い出したいのはあのときの記憶だけではないのに。彼らを思い返すとどうしてもあの泣き顔と真剣な表情しか浮かんでこない。
 あの人達はどんな風に笑っていただろう。あの日から――そして今も迷い続ける自分に、あの人達ならどんな言葉を綴ってくれるのだろうか。
 ぼやけた記憶はその答えを導いてはくれない。
 もう自分だけでは嘗ての幸せだった頃に手を伸ばすことはできない。それゆえに、己はこの迷宮に現れるという言葉に縋っているのかもしれない。
「……大切な人、愛する人からの手紙、か」
 それは一体、何処に在るのか。
 黒羽は言葉を探し求め、所狭しと敷き詰められた封書の海を進んで行く。
 そして、黒羽は或る一通の封筒を拾い上げた。ただひとつだけ気になったという、それだけのものだ。しかしその直感は正しかった。
「これは、俺宛の――」
 封を切って手紙を開けば宛名が見えた。それは確かに自分の名前だったが、肝心の言葉が便箋から擦り抜けて形を成し、ふわりと浮かぶ。
 伸ばした手から離れた文字の魚は黒羽から逃れ、書架の波間を泳いでいった。
 文字は組み替えられており元の意味は読めそうにない。
 捕まえて手紙に戻すしかないのだと感じた黒羽はその後を追いながら、家族への思いを胸にそっと秘めた。
 あの手紙には一体何が書いてあったのだろう。
 それを知るために踏み出す黒羽の眼差しには、複雑な思いが宿っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ケビ・ピオシュ
やあ、良い図書館だね
どの世界でも
例え迷宮の中でも図書館はワクワクするものさ

さて
昔を懐かしむだなんて、あまりぞっとしないけれどもね
それでも、見たい言葉はあるものさ
さあ探してみようか

過去に想いを馳せる
星くじら図書館の本当の館長の事さ

私が違う世界に飛ばされてしまった後
彼女は一人で図書館で待っていたのだろう
私がすぐ帰る事ができたのならば
きっと彼女なら笑ってお帰りと迎えてくれたかもしれないね
それとも寂しいと言っただろうか
今ではもう、何も分からない
だからこそ、私は手紙を探しているのかもしれないな

なんてぞっとしない話だろう

見つかるのは望んだ言葉であるわけも無いのに
彼女の好きな色
水色

ウム、ウム
これだと嬉しいな



●彼女からの手紙
「やあ、良い図書館だね」
 床についた杖をこつりと鳴らし、ケビ・ピオシュ(テレビウムのUDCメカニック・f00041)は周囲に広がる光景を振り仰ぐ。
 此処は魔法学園の地下に存在する迷宮内にある書架が並ぶフロア。
 どの世界でも、どんな場所であっても――そう、例え迷宮の中でも図書館と聞けばワクワクするものだ。
 そして、ケビは本棚から床へと視線を落とす。
 すぐ足元には手紙が落ちていた。それも一枚や二枚ではなく大量の手紙だ。
「さて、」
 まずは手始め、そのうちの一枚を拾ったケビはそっと封書をひらいてみる。
 この手紙の中の何処かに自分宛てのものがあるという。
「昔を懐かしむだなんて、あまりぞっとしないけれどもね。それでも――」
 此処に足を踏み入れる者が後を立たないように、誰にだって見たい言葉はあるものだ。そうして開いた封筒の中身は白紙の便箋。
 そう上手くすぐに自分宛ての手紙がみつかるはずはないとも分かっているゆえ、ケビに焦りはない。
「さあ探してみようか」
 何も書かれていなかった手紙を空いていた書架に置き、ケビは踏み出した。
 そして彼は過去に想いを馳せる。
 思い返すのはケビが館長を務める星くじら図書館。其処の本当の館長のこと。
 ケビは一度、違う世界に飛ばされている。
 神隠しか異世界転移か、その事象の呼び名など今となっては些細なこと。
 自分が飛ばされてしまった後、彼女はきっと一人で図書館で待っていたのだろう。もしケビがすぐに図書館に帰ることができたのならば、彼女なら笑ってお帰りと迎えてくれたかもしれない。それとも、寂しいと言っただろうか。
 遠い記憶を裡に巡らせるケビは彼女を想う。
 今ではもう、何も分からない。
「……だからこそ、私は手紙を探しているのかもしれないな」
 なんてぞっとしない話だろう。
 見つかるのは望んだ言葉であるわけも無いのに。
 裡に浮かんだ思いにケビは首を振る。そしてシルクハットを軽く被り直したケビは行く先に或るものが落ちていることに気がついた。
 水色の封筒。
 それは彼女が好きだった色。つまりはケビの中で彼女を表す色だ。
「ウム、ウム。これだと嬉しいな」
 丁寧に封筒を手に取ったケビはその封を切ってみた。
 すると開いた便箋から文字が飛び出し、あっという間に勇魚めいた形を成す。そのまま本棚の合間を泳いでいった文字の魚を目で追い、ケビは軽く肩を竦める。
「すこうしだけ読めたけれど、やはり捕まえなければいけないようだね」
 内容は読めなかったがかろうじて見えた宛名は間違いなくケビ宛てだった。
 自由に書架の間を泳ぐ勇魚。あれこそが自分が求める彼女の言葉なのだろうと考え、ケビは再び一歩を踏み出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
おー……これは不思議な 現象ですねー……。
ふむふむ、じゃあ、昔の師匠の手紙でも、探しましょかー………。
えーと、確かー……よく、手紙やメモでよこしてた紙は、こんな手触りでー……こんな、色でー……。
結構な、癖字でー……よく、隅っこに、署名代わりの、歯車付きの羽を書いててー……。
じっくり昔の記憶を振り返りましてー……封書の中から、癖時の表書きに、歯車のついた、羽のマーク入ってるような手紙を探してみましょー……。
ある程度上から眺めて、これっぽいと思った手紙を取って確認してー……。
当たりなら、ばんざーい。
ふわふわ文字の魚は、かわいんですがー……癖字なせいか、なんかこう。よたよた、びみょー……。



●師匠の印
 この迷宮では人の思いが手紙になる。
 深い深い記憶の底。其処から拾い上げられた過去の言葉。
 迷宮にかけられた魔法の効果とはいえ、誰が何のためにそういった仕組みを作ったのだろうか。寧宮・澪(澪標・f04690)は周囲の図書館めいたフロアの光景を見渡し、ゆっくりと瞼を瞬いた。
「おー……これは不思議な現象ですねー……」
 床には数多の手紙。
 このどれかが誰かの思いが綴られているものだと思うと更に疑問が巡る。
 しかし今すべきことは謎を解き明かすことではない。災魔が絡んでいるとあらば、手紙を探して奥のフロアに向かうことが目的だ。
 澪は床に視線を向け、落ちている手紙を見下ろす。
「ふむふむ、じゃあ、昔の師匠の手紙でも、探しましょかー………」
 澪は近くにあった手紙を拾ってみる。
 照明に透かしてみたそれはひと目で白紙だとわかった。だが、すべての手紙が透かして外れかどうか判るわけではない。
 ならば自分の記憶にある手掛かりを辿ればいいと考え、澪は思いを巡らせた。
「そう、確かー……」
 師匠がよく手紙やメモでよこしていた紙はああいった手触りだった。そして、色も似通っていたように記憶している。
「師匠は……結構な、癖字でー……よく、隅っこに、署名代わりの、歯車付きの羽を書いててー……」
 言葉にしながら、澪はじっくりと昔の記憶を振り返った。
 それならばこの数多の封書の中から探す紙質も限られてくる。癖時の表書きに歯車のついた羽のマーク。そんな手紙がきっと自分宛てのものだ。
「えーと……」
 ある程度、上から手紙を見下ろした澪は幾つかの候補を拾っていく。
 しかし似てはいてもどれもが白紙だった。されどこれだけ数があるのだからハズレも往々にして存在するはず。
 そうして暫し、あれだろうかと目星をつけたのは少し草臥れた紙質の封書だ。次もハズレかもしれないと一瞬思ったが、澪はすぐに不思議な懐かしさを感じた。封を切り、便箋をひらく。其処には思い浮かべた通りのマークが記されており――。
「当たりー………。あれ、おさかな……?」
 ばんざーい、と両手をあげて喜ぶ澪。
 しかし、便箋からふわりと抜け出した文字が魚のかたちを成した。まだマークしか見ていなかったので内容は読めぬまま。
 そして文字魚はふわふわと天井近くの本棚に向かって飛んでいった。その姿がなんだか可愛く思えて澪は双眸を緩める。だが、其処に思うところもあった。
「……もとが癖字なせいか、なんかこう。よたよた、びみょー……」
 その言葉通り、癖字魚の泳ぎ方は妙にふらふらしている。ある意味で師匠らしい雰囲気を纏っていると感じ、澪はその後をゆっくりと追っていった。
 
 🐟彡
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『文字探し』

POW   :    総当たりすれば、見つかるだろう。

SPD   :    こういう事にはコツがある、抜け道を探そう。

WIZ   :    慎重に考えて、効率良く探し出そう。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●📚🚪📚
 🐟~~~ 🐠~~ 🐟~~
   🦈⌒⌒  🐳~~  🐟彡

 手紙が散らばる図書館迷宮内は今、様々な文字の魚で溢れていた。
 淡い香りを放つ魚、勇魚めいた形のもの、金色の文字の魚もいれば、薄いインクで記された魚もいる。更には癖のある文字で構成されたへにゃりとした魚や、それぞれに不思議な彩を纏った文字の魚も見えた。
 
 すいすい。ふわふわ。ときにはのんびり、ときには速く。
 書架の波間や天井近く、空っぽの本棚の隅っこ、梯子の天辺。文字の魚は場所を変えながら自由に泳いでいた。
 そのどれもが文字がめちゃくちゃになっており、まともに読めたものではない。
 もう誰の手紙だったかのもわからない状態だ。
 文字の魚達が大量にいる今、自分だけの手紙を探すのはもうおしまい。
 誰がどの文字を捕まえても構わない。
 魚の動き方は様々。誰かと協力して挟み撃ちにするのもよし、梯子に登ったり本棚の影に隠れてたりして待ち伏せる作戦もよし。細かなことを考えずに勢いのままに追いかけて捉えることも可能だろう。はたまた別の作戦を取ってみるのも良い。
 図書館ではお静かに。
 今日はそんなルールはおもいきり無視して構わない。
 
 文字の魚は図書館の最奥に存在する扉の鍵になっているという。
 よく見れば、扉には便箋によく引かれている罫線のような模様があった。
 捕まえた文字魚を連れていき、其処に乗せれば魚が扉に吸い込まれる。そして一定数の文字が溜まると扉がひらくという仕掛けらしい。
 しかし捕まえられた文字の魚も必死に逃げようとするだろう。如何にして魚を手にして扉まで連れて行くかが勝負だ。
 そうして此処から、文字魚との館内追走劇が始まってゆく。
 
樹神・桜雪
【WIZで判定】※絡み・アドリブ歓迎

ま、待って…!やっと見つけたボクの記憶の手がかりなんだ
今はボクの記憶より、どれでも良いから魚を捕まえる方が大事かな

《頼りになる隣人》を使って相棒を召喚
魚を捕まえるのに良さそうな場所を探してきてもらうね。お願い、手伝って…!
ボクは『追跡』で魚を追いかけるよ
相棒が良い場所を見つけてくれたら、相棒と協力してそこに追い込んで魚確保したいね

魚を捕まえられたら扉まで持っていく
誰の文字かは知らないけど、大人しくしてなきゃダメだよ?
君も誰かに何かを伝えたい大切な思いなんだから、さ

魚が落ち着いたら『失せ物探し』でボクの文字を探してみよう
誰かが捕まえてくれてるなら良いのだけど…


旭・まどか
“お前”相手なら、誘いを掛ければ乗ったのだろうけれど
生憎、何処に行ってしまったのかももう、わからないんだね

正に――、なんて、続けようとした言葉は飲み込んで
どうしたものか

普通の魚であるならば泳ぐ為の水が必要だろうし
なんなら餌でおびき出すことも出来るだろうけれど
生憎これらはそうじゃない

それこそ文字を食べたりするのなら
手近な手紙を示すだけで済んだろうに
厄介だね

どれだけ効果があるのかはわからないけれど
邪竜の羽搏きが生む風圧で、行き先を変えられないか試してみようか

勿論手下たちを動かすことも忘れないよ
場合によっては他の猟兵の手伝いをさせても構わない

今度こそと息巻く灰狼に、挽回のチャンスをあげようじゃないか



●求めるもの
「ま、待って……!」
 桜雪は図書館内を飛び交う文字の魚に手を伸ばす。しかし、もうどれが自分への手紙だったのかわからなくなってしまった。
「やっと見つけたボクの記憶の手がかりなんだ」
 ささやかな言葉でさえ擦り抜けていってしまうのかと桜雪は肩を落としそうになる。だが、決して掴めないと決まったわけではない。
 桜雪は文字の魚を無闇に追うことはせず、天井付近を回遊するが如く泳ぐそれらを暫し見つめた。そして、桜雪はちいさく頷く。
「今はボクの記憶より、どれでも良いから魚を捕まえる方が大事かな」
 知らない誰かもまた自分と同じように手紙を探している。自分が誰かの手紙の魚を捕まえれば、きっと違う誰かが自分への文字を捕まえてくれるはず。
 桜雪は希望を託し、相棒を呼ぶ。
「お願い、手伝って……!」
 頼りになる隣人であるシマエナガに桜雪が願ったのは場所の情報収集。
 ぴぴ、と鳴いた愛らしい鳥達はそれぞれに飛び立ち、魚を捕まえるのにちょうど良さそうな場所を探しに向かう。
 その間に桜雪は魚を見失わないように頭上を見ながら追いかけた。
 途中、書架の角にぶつかりそうになりながらも桜雪は目星をつけた魚をしっかりと捉え続ける。やがて其処に一羽のシマエナガが戻ってきた。
「あっちの梯子の方?」
 シマエナガが示したのは天井まで伸びる梯子の上。どうやら桜雪が追っている魚は一定のルートを回っているようだ。桜雪もそのことに気付き、梯子を登っていく。騒がないように待っていればきっと魚が回り込んできたときに手が届くはず。
(――静かにね)
 しー、と人差し指を口許にあてた桜雪は梯子の上で魚が来るのを待つ。
 そして、次の瞬間。
「捕まえた……!」
 すい、と梯子の横を通った文字の魚を掴んだ桜雪。絶対離さないように片腕で強く魚を抱いた桜雪はそのまま梯子を降りていく。
 どうやら魚は捕まったことで観念したらしくもうほとんど動かない。
「誰の文字かは知らないけど、大人しくしてなきゃダメだよ?」
 桜雪がそう告げると魚はぴるぴると僅かに動いた。残念ながら自分への手紙ではないようだが、これもまた誰かが求めている言葉のひとつだ。
「君も誰かに何かを伝えたい大切な思いなんだから、さ」
 そして、桜雪は扉へと向かっていく。
 
●風の先
「“お前”相手なら、誘いを掛ければ乗ったのだろうけれど――」
 まどかは片目を瞑り、頭上を泳ぐ文字の魚を見上げた。
 それらは群れを成すように或る一定方向に纏まって進んだかと思えば、ばらばらになって四方八方に泳いでいく。文字も組み替えられており傍目にはどれがどれだったかなど判別がつかない。
「生憎、何処に行ってしまったのかももう、わからないんだね」
 正に――と続けようとした言葉は飲み込む。
 そして、まどかは軽く首を傾げた。
「どうしたものか」
 普通の魚であるならば泳ぐ為の水が必要であり、餌でおびき出すことも出来るだろうが、生憎とこれらはそうではない。それこそ文字を食べたりするのなら手近な手紙を示すだけで済んだろうが、生物と呼んで良いのかも分からないほどの存在だ。
「厄介だね」
 考えを巡らせたまどかは溜息をつく。
 しかしいつまでも考えあぐねてもいられないとして、傍に邪竜を喚んだ。
 どれだけ効果があるのかはわからないけれど、と前置きをしたまどかは邪竜の羽搏きで魚が泳ぐ先に風を起こさせた。
 その風圧で行き先を変えられるか否か、試しに行ったそれは見事に功を奏する。
 風に流されるように一匹の文字魚が書架の裏に滑り込んでいく。
「あっちの方か。……追って」
 まどかは手下の灰狼に命じ、魚が向かった方を指差した。
 先程はハズレの手紙を見つけてしまった灰狼だが、尾をぴんと立てて駆けたその姿は今度こそと息巻いているかのようだ。
「挽回のチャンスをあげようじゃないか」
 まどかは先行する手下の後を追い、書架の間を抜けて角を曲がる。
 するとその向こう側で灰狼が風に流された文字魚をしっかりと取り押さえていた。魚は最初こそびたびたと暴れていたが、まどかが近付いてきたところで力尽きたように動くのを止めてしまう。
「よくやったね。さて、これを扉に持っていけばいいんだったかな」
 灰狼が押さえていた文字魚を拾い上げたまどかは、迷宮の奥を見遣った。

●魚と扉
 そして、まどかは奥の扉に辿り着く。
 其処には既に文字魚を見つけて訪れていた桜雪の姿があった。自分と同じ猟兵が来たのだと気付いて顔を上げた桜雪がはっとし、まどかが持っている魚を指差す。
「あ……それって……!」
 直感ではあったが桜雪は彼が手にしているものが自分への手紙だと分かった。
「これ?」
 まどかは桜雪に向けて捕まえた文字魚を掲げてみせる。
 しかしそのとき、ふわりと浮いた魚が扉の方に吸い込まれていってしまった。
「やっぱりそうなっちゃうんだね」
 その光景を見た桜雪は肩を落とす。曰く、彼が此処に来たときも同じように文字の魚が勝手に扉に吸い込まれるように消えていったのだという。
「なるほど。鍵になったってことなのか」
 まどかが不思議な扉を見つめる中、桜雪はこくりと頷く。
 きっと多数の文字魚が集まればこの扉の向こうへ行くことが出来るのだろう。やはり手紙を読むのはそれまでお預けなのだと分かり、二人はそっと視線を交わした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
よーしいきましょー……探して、見つけてー、捕まえてー。
うふふ、宝探しみたい、ですねー……がんばりましょー。

【猫の召喚】で、猫さん達を呼びましょねー……さあ、文字のお魚さん、追いかけてくださいなー。
隙間に追い詰めたり、挟み込んでみたりー……上にいるお魚さんは、本棚の上から飛びかかりましょー。
捕まえたり、追い詰めたりしたお魚さんは、回収しましょねー……。
さっき、拾った封筒に、詰め込んでー……扉の罫線の上で、ひっくり返しましょー。
穴が空いてなければ、連れていけるんじゃないかなー……と。あとは、捕まえた猫さんに運んできてもらうか、ですねー……。
だめなら一匹ずつ、猫さんと一緒に回収しましょー……。


紫丿宮・馨子
ああっ…逃げないで下さいませ
貴方様はどなたの…

文字の魚を追い、見つけ次第UCを使用
眠らせた魚を便箋まで運びます
自分の追いかけてきた魚以外もいれば
同様に

やっと、捕まえました
壊れ物を抱くようにそっと

※手紙の差出人は肉体を得た馨子を愛した男性
※馨子は彼を覚えていない
●手紙の内容
どうあっても私を愛することはできないと
さめざめと泣く君を見ているのが好きだった
その時だけは、私のことだけを考えてくれただろう?
私の生は君より短い
だから君の記憶を封じて逝こう
私の記憶が君の奥底にこびりついて離れぬように

●反応
全く覚えのない自分の事で
恐ろしい
自分は何を忘れているのか
宮様だけでなく
他にも誰かを傷つけてしまったのか



●猫と藤の花
「よーしいきましょー……探して、見つけてー、捕まえてー」
 澪はふわふわと泳ぐ魚を見つめ、常に眠たげな瞳を頭上に向けてゆく。
 回遊するように図書館フロアの空中を進んでいく文字の魚。それらは不思議な水族館に来ているかのような心地を与えてくれた。
「うふふ、宝探しみたい、ですねー……がんばりましょー」
 澪もまたふわりとした感覚をおぼえながら、己の力をそっと紡いでいく。
 すると、ころころふあふあもふもふなちび猫たちが澪の周りに現れた。にゃあ、みゃあ、と愛らしい声で鳴く猫をぐるりと見渡し、澪は双眸を緩める。
「さあ、文字のお魚さん、追いかけてくださいなー」
 澪の願いに応えるように鳴いたちび猫は思い思いに駆けていった。その後姿を見送り、澪も自ら魚の後を追っていく。その姿はのんびり、ゆったり。追いかけていればいつかは捕まえられるはずだと信じる気持ちが其処にはあった。
 
 対称的に、馨子の表情には悲痛な思いが宿っていた。
「ああっ……逃げないで下さいませ」
 追いかけ、手を伸ばしても文字の魚はひらひらと泳いで擦り抜けていってしまう。馨子はあの香の主を知りたいと思ってしまった。
 それゆえに気持ちばかりが焦り、狙いが定まらないでいる。
 追いかけても身を翻し、書架の裏に隠れてしまう。次第に文字の魚は何処に行ってしまったのかわからなくなっていく。
「貴方様はどなたの……」
 馨子が胸元を押さえたそのとき、本棚の向こう側から声が聞こえた。
 人間の声ではない。
 愛らしい、にゃーにゃーと鳴く――そう、猫の鳴き声だ。
「……猫?」
「にゃ!」
 馨子が首を傾げると子猫がぽてぽてと走ってきた。その後から澪がひょこりと顔を出し、馨子を手招く。
「こっち、こっちー……。お魚さん、いっぱい……」
 澪が手伝って欲しいと告げると馨子はそっと頷き、彼女達が来た本棚の方に歩んでいった。すると其処には澪の子猫達によって追い詰めれた文字の魚が見える。
「まあ、こんなにも……」
「隙間に追い詰めたり、挟み込んでみたりー……上にいるお魚さんは、本棚の上から飛びかかったりー……でも、速くてちびちゃんたちじゃ……追いつけなくてー」
 馨子が口許を押さえて驚く中、澪は捕まえられない理由を話した。
 それゆえに協力が必要なのだと理解した馨子は文字魚達が潜んでいる場所を目で追っていく。本棚の遥か上。書架の隙間。椅子の陰。
 お任せください、と告げた馨子は片手を掲げ、自らが抱く力を発動してゆく。
 ――藤花誘眠の謡。
「静寂の狭間より微睡みの馨り纏いて、来しませ来しませ若紫の花弁。水面に揺蕩うよう、ゆるりゆるりと夢幻の狭間へ至らせり」
 詠う声と共に藤の花弁が周囲に舞い、文字の魚達を包み込んでいく。
「わー、きれいー……」
 その光景を眺めた澪はぱちぱちと瞼を瞬き、魚が静かに眠らされていく様を見つめていた。そうして、花がふわりと舞った後――ひらひらと力を失ったように文字魚が次々と床に落ちてきた。
「やっと、捕まえました」
 馨子は壊れ物を抱くようにそっと文字を抱く。
 同様に澪もちび猫達と一緒に文字魚に歩み寄っていった。子猫はてしてしと魚を前脚で押さえ、澪はさきほど拾った封筒に魚を詰め込む。
「これで……全部、でしょかー」
「そのようですね」
 澪が辺りを見渡すと馨子も周囲を確かめ、この辺りにいた対象はすべて回収できたようだと判断した。
 そして二人はこの文字魚が鍵になるという扉に向かっていく。
 手にした文字はまだ読めない。誰から誰に宛てられたものですら分からなくなっているが、あの扉の向こうに行けば知ることが出来るはず。
 不安か、期待か、それとも別の感情か。
 それぞれに違う思いを抱きながら馨子と澪はフロアの奥に辿り着いた。
「あ……」
「わあー……お魚さん、行っちゃいましたねー……」
 すると捕まえた文字の魚が封筒や腕の中からするりと抜け、便箋めいた罫線模様が入った扉へと吸い込まれていった。
 なんて不思議な仕掛けなのだろうと思い、澪は首を傾げる。
 しかし、まだ鍵は足りないようだ。馨子は開かぬ扉の向こうに消えていった手紙の文字を思い、静かに目を閉じた。
 今、他の猟兵達も文字魚を集めてくれている。
 きっとすぐに扉はひらかれるだろうと信じ、二人は扉の前でそのときを待つ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リティ・オールドヴァルト
【SPD】

えへへ、図書館なのに騒いでもいい
ちょっと、面白いのですっ
わくわくしながら気合い入れ
行くよっ、リリィ!
お魚、探しに行くのですっ

たくさんのお魚さん…
元はどんな字だったのでしょうか
想像するのもちょっと楽しい
ですけども
まずは捕まえないことには、ですねっ!

物陰や本棚の奥
カウンターの裏
死角になるようなところで隠れている子を探すのです

影に隠れている子を見つければ驚かせないように
リリィはそっち
ぼくはこっちから
一緒に抜き足差し足挟み撃ち
捕まえっ…!
するりと逃げられ慌ててジャンプでしっかりキャッチ
怖くないのですよっ
元通りになるだけなのです
宥めるように告げ
ふぅ、危なかったのです…
さあ、どんどん行きますよっ


エレクメトール・ナザーリフ
出ましたね
では予定通り捕獲といきましょう

コツという程でもないですが
上から攻める為に《空中庭園》で天井まで跳び上がり
その際前以て準備した魚捕獲器を幾つか本棚に取り付けます

本棚の影に隠れている魚は暗視で確認
サーマル暗視ゴーグルの熱探知も使って発見しましょう

魚発見後は作戦開始
肝心なのは魚捕獲器は実は囮ということ
捕獲器を警戒している魚を扉まで誘導すれば良い訳です
追い込み漁と同じですね

目立たないよう追跡しつつ
魚の進路方向の少し前で銃撃し扉まで先導します
遠く離れている魚は本棚で跳弾すれば誘導出来ますし
空高く泳いでいる魚は《空中庭園》で跳び上がり銃撃で追い込めます
私も銃が撃てて嬉しい、一石二鳥ですね!ニシシ



●銃撃と跳躍と追われる魚
「出ましたね、では予定通り捕獲といきましょう」
「えへへ、図書館なのに騒いでもいい。ちょっと、面白いのですっ」
 文字の魚を探しながら追いかけ、偶然に出会ったのはエレクメトールとリティの二人。わくわくしながら気合を入れたリティの傍には槍竜のリリィがおり、共に楽しげに瞳を輝かせている。
 二人は今、文字魚を見失ってしまっていた。
 しかし誰も焦ってはいない。何故ならこの図書館内に魚がいることは間違いなく、急ぎすぎてもいけないことを知っているからだ。
「行くよっ、リリィ! お魚、探しに行くのですっ」
「では私は上から参ります。そちらはお願いしますね」
 地上から進むらしいリティ達にそのまま探して欲しいと告げ、エレクメトールは力を発動させてゆく。
 《空中庭園》――エアリアル・ガーデン。
 床を蹴り、空中を蹴る。そうしてエレクメトールは一気に天井近くまで翔け登った。わあ、とその姿を見上げたリティはこくりと頷く。
 地上と空中。
 その両方から魚を探せば見つからないものなんてないはず。軽い身のこなしで上空を駆けるエレクメトールを目で追いながら、リティも魚の気配を探す。
「たくさんのお魚さん……元はどんな字だったのでしょうか」
 飛んでいった姿を思い返したリティは、それを想像するのもちょっと楽しいと感じていた。けれども、まずは捕まえないことに始まらない。
 カウンターの裏。
 本棚の影になっているところ。
 書架と書架の隙間。そして、反対側の通路。
 リティはリリィと一緒に細かなところまで覗いていく。対して、エレクメトールは到着前から準備した魚捕獲器を幾つか本棚に取り付けていく。
「これでいつでも捕らえられますね。さてと……そちらはどうですか?」
 エレクメトールは暗視ゴーグルで周囲を確かめながら、眼下の通路に居るリティに呼びかけた。すると、リティがぶんぶんと手を振ってくる。
「こっち、こっちにいますっ! でもでも狭い所にいるので……っ」
「なるほど。無理はせずに、です」
 地上で捕まえられるならばそれもいい。そう判断したエレクメトールは暫しリティの様子を伺うことにした。
 もちろん、いつでもフォローが出来るように見守る体勢だ。
 そしてリティは槍竜と共に本棚の両側に回り込む。影に隠れている魚を驚かせないようにそっと、そうっと近付いていくリティ。
「リリィはそっち、ぼくはこっちからです」
 一緒に抜き足、差し足で挟み撃ち。
 そして――。
「捕まえっ……あっ!」
 もうすぐで手が届く、というときに魚はするりと逃げてしまった。慌ててリリィがジャンプするも、文字の魚は天井近くに逃げて行ってしまう。
「うう、おねがいしますーっ!」
 リティはすぐにエレクメトールに合図を送った。
 そのために待機していたエレクメトールは即座に其方に視線を向ける。しかし魚も捕獲器が仕掛けられていることに気付いたような動きをしていた。
 されど、実はそれこそが囮だ。
「追い込み漁の始まりです」
 捕獲器を避けた魚に対し、エレクメトールは目立たぬよう追跡しつつ銃口を向けた。狙うのは魚の進路方向の少し前。
 銃撃。跳弾。
 進行方向にこのまま進んではいけないと察した文字の魚はどんどん奥の扉の方へと追い詰められていく。
「魚も追い込めて、私も銃が撃てて嬉しい、一石二鳥ですね!」
 ニシシと笑うエレクメトールの後を追いかけ、リティも魚の動向を探る。その見事な銃撃と手際に感心したリティは瞳をきらきらさせていた。
「すごいのですっ! でも怖くないのですよ、お魚さん。元通りになるだけなのです」
 宥めるように告げたリティ。
 だが、魚は必死で逃げていく。そしてエレクメトールの追い立てによって文字の魚がひらりと床の方に泳いできた。
 其処にジャンプしたリティがぱしっと魚を掴み、捕獲完了。
「ふぅ、何とかなりましたっ」
「さあさあ、扉に魚を入れてしまいましょう」
 リティが上手くやってくれたことを確かめたエレクメトールも扉の前に着地し、罫線めいた模様を示す。はいっ、と頷いたリティが文字の魚をそっと離した。
 すると扉に吸い込まれていくかのように魚がふわりと浮き、中に消えていく。
 されどまだ鍵が足りないようだ。
 そう察したリティはぐっと肉球の掌を握って更なる気合を入れた。
「鍵がたりないみたいなのです。よーし、どんどん見つけに行きますよっ」
「そうですね、行きましょうか」
 エレクメトールは首肯し、片目を軽く瞑ってみせる。
 そして、此処からまだまだ追走劇は巡っていく。この扉がひらき、次のフロアに進むことが出来るまで。きっと賑やかに、とても激しく――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
わあっ
シュネーみてみて、たくさんいる
海のなかみたいだねえ

まてまてーっ
わ、はやい
よーし、シュネーはさみうちだよっ
シュネーにこっちにおいたててもらって
せーのっ

つかまえたっ
けど、どうしよう
このままつれていけるかな?
つるんとまた手から逃げたら
えーっとえーっと
ガジェットショータイム
現れたのは釣竿と魚籠

あ、これしってる、つりでつかうやつだよね
前にさくらのきれいな川でつりしたもの
ね、シュネー
つれたことはないけどっ
きらきらのルアーをふよふよさせて
くいついたらひっぱる
わあっ、つれたつれた
だいじに魚籠のなかへ

だれかへのおてがみだもの
ちゃんととどきますようにって
そっと魚籠をなでて
それじゃあ、とびらまでつれていこうっ


ヴァーリャ・スネシュコヴァ
悠々と迷宮の中を泳ぐ文字の魚たちに目を瞬かせ
うわあ、図書館が海になったみたいだ……!

いや、目移りしてる場合ではないな!
ここでちゃんと捕まえなきゃ、あの手紙を読むことはできないんだから

お行儀悪くなってしまうが、【ジャンプ】で背の高い書架の上までひとっ飛び
そこで捕まえられそうな魚を見定めてロックオン

天井近くを泳ぐ魚まで『スカイステッパー』で迫り
天井の隅まで追い詰めて、キャッチするのだ!

よし、獲ったぞ!
って、わああああ!!

獲ったことに安心してしまったせいで油断して
慌てて受け身を取るもまっさかさま

まさか落ちるとは思ってなかったのだ…いてて…
でも、無事に獲れたぞ!
手の中でビチビチ暴れる魚を見てにぱっ



●おさかなフィッシング
 手の中から飛び立った文字の魚は集い、群れを成して泳いでいく。
「シュネーみてみて、たくさんいる」
 海のなかみたいだねえ、と言葉にして頭上を見上げたオズ。その眼差しはずっと空中に向けられている。
 書架に手を当てながら魚を追うオズ。
 その反対側からは同じく天井を眺めながら魚を見つめているヴァーリャが近付いてきていた。悠々と迷宮の中を泳ぐ文字の魚に目を瞬かせる彼女の心は躍っていた。
「うわあ、図書館が海になったみたいだ……!」
 きらきらした金文字の魚は綺麗で見惚れてしまう。
 だからヴァーリャもオズもまだ気付けていない。書架の向こう側からお互いが近付いており、今にもぶつかってしまいそうなことに――。
「わあっ」
「わっ!」
 こつん、と衝突したことで二人から其々に驚きの声があがる。しかしそれが見知った相手だと分かり、同時にほっとした気持ちが巡った。
「ヴァーリャ?」
「オズ?」
 ごめんね、ごめんな、と互いに謝った二人はすぐに笑みを浮かべる。
 そして同じ魚の群を追っているのだと知ったオズとヴァーリャは協力しあうことを決めた。こくりと頷き、二人はふよふよと泳ぐ魚の後を追いかけた。
「まてまてーっ わ、はやい」
「うむ、予想以上に素早いのだ!」
 ひらりと舞うように飛ぶ魚は目移りしてしまいそうなほど。しかし今は真剣になるべきとき。ここでちゃんと捕まえておかなければあの手紙を読むことはできない。
 ヴァーリャにも、そしてオズにも知りたい言葉がある。
 それについて聞くことはしないが同じ意志を宿した仲間であることは確かだ。
「よーし、シュネー、ヴァーリャ。はさみうちだよっ」
 オズは目配せを送り、シュネーに魚の真後ろから追うように願う。
 分かったのだ、と答えたヴァーリャは横合いから駆けていくオズの進路を見てから強く床を蹴った。
「少しお行儀悪くなってしまうが、俺は上から!」
 跳躍して背の高い書架の上までひとっ飛びしたヴァーリャはシュネーが追う魚に狙いを定めていく。
 二匹の文字魚は同一方向に逃げている。
 ならば手前はオズで少し上に飛んでいる魚はヴァーリャの担当だ。書架の上からヴァーリャが視線を送るとオズもこくんと頷く。
「せーのっ」
「せーの!」
 そして、シュネーが一気に追い立てた瞬間を狙って二人は魚に飛びかかった。
「つかまえたっ」
「よし、獲ったぞ! って、元気過ぎるのだ!」
 作戦は見事に成功。だが、ヴァーリャの手の中におさまった文字の魚がぴちぴちと元気よく跳ねはじめた。慌てて押さえるヴァーリャだがあまりの元気の良さに四苦八苦している。それはオズの捕まえた魚も同様で、何とか逃げ出そうともがいていた。
「どうしよう。このままつれていけるかな?」
「あっ、わああああ!!」
「ヴァーリャ、あぶないっ」
 オズが首を傾げた時、ヴァーリャが書架の上からバランスを崩してしまう。
 まっさかさまに落ちてくる彼女と魚を何とかしようと決め、オズは咄嗟にガジェットを掲げた。
「えーっとえーっと、えいっ!」
 その瞬間、現れたのは釣竿と魚籠の形をした不思議なガジェット。
 魚籠は大きい。すぐにそれを放り投げたオズの動きに気付き、ヴァーリャは猫のようにくるんと空中で身体を回転させた。すると魚籠がクッションの代わりとなってその身を上手く受け止めた。
 ついでにヴァーリャが抱えていた魚も一緒に籠の中へ。
「だいじょうぶ?」
「まさか落ちるとは思ってなかったのだ……いてて……。でも、無事に獲れたぞ!」
 文字の魚だけを籠に残したヴァーリャは満面の笑みを浮かべた。
 よかった、とほっとしたオズは魚籠をきゅっと閉める。しかしヴァーリャを助ける間に手の中から擦り抜けてしまった文字の魚もいた。
「オズ、それで釣りをするのか?」
「そうみたい。前にさくらのきれいな川でつりしたもの、使い方はわかるよ」
 ね、シュネー、と人形に笑いかけたオズは釣り竿を構えた。
 釣れたことはないけれど、今回は絶対に釣り上げなければいけないとき。何故ならあの文字の魚も誰かが求める言葉だからだ。
 きらきらのルアーをふわりと空中に投げ放てば、文字の魚が反応する。
「おお、頑張れオズ!」
「うんっ」
 ヴァーリャからの声援受けたオズは魚が食いついた瞬間を見計らって一気に釣り竿を引く。一瞬、強い抵抗があったがそのまま思いきり力を込めるオズ。それでも足りないと感じたヴァーリャはオズの手元に腕を伸ばして一緒に竿を引っ張った。
「俺も手伝うぞ。いっせーの、せ!」
「わあっ、つれたつれた」
 そのお陰で文字の魚は見事に釣れた。オズはそれを大切に魚籠の中に入れる。
 内部でふわふわと泳ぐ魚。其処に書かれた文字はまだ読めないけれど、二人で一緒に捕まえられたことを嬉しく思った。
「後は扉に行けばいいんだったな。行こう、オズ!」
「だれかへのおてがみだもの。ちゃんととどきますように――」
 ヴァーリャが駆け出した後に続き、そっと魚籠を撫でたオズは双眸を細める。
 大切な言葉。
 それを知る時がもうすぐ訪れるのだと信じて、二人は扉を目指した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

伊織・あやめ
お魚さん、捕まえるの悩んじゃう
手で握って扉まで連れて行くのも乱暴だし…

UCであたしの器物、玉簪を動かしてみることにするよ
こうね、お箸を使う要領で
お魚さんを捕まえるんだ
それならお魚さんも痛くないと思うんだけど…
な、なかなか難しいな、これ!

こら、逃げるなお魚さん!
するりと身を翻す魚を走っておいかけて
簪二本でなんとか挟むよ
痛くないかな、急いで連れて行くから逃げないでね!

扉の近くでようやく一匹捕まえて
そのままお魚さんを模様の上へ
これで鍵が開くはずだけど…どうかな?

絡み、アドリブ大歓迎です


暗峠・マナコ
出来ることなら自分のものを、あの金文字なら目立つのではと思いましたが、
更に目立つものや、似たようなものも多いようですね…。
ふふ、このまま魚を観察して眺めているのも面白そうなのですが、そうも言っていられませんし。
これらはすべて、誰かから誰かへの大切な手紙ですから。

致し方ありません、欲張りよりは大目標の達成です。
傷付ける様な手荒な真似は避けたいもので、
【レプリカクラフト】で網の仕掛け罠を作成しましょう。
道の突きあたりなどに[物を隠す][罠使い]で巧妙に隠し
タールの身体を大きく広げて文字の魚を追い立てて、
漁業よろしく仕掛けた網で一気に捕まえるのです。
網に入れたままでしたら、持ち運びも簡単ですよね



●簪と網
 浮かんで泳ぎ、回遊する文字の魚達。
 自由に図書館内をふらふらしている魚。それらを追ってきたあやめは考え込む。
「お魚さん、捕まえるの悩んじゃう」
 手で握って扉まで連れて行くのも乱暴だし、きっとあれは捕まえたらじたばたと暴れるタイプだ。捕まえておらずとも何となく分かってしまう。
 あやめが頭上の魚達を眺める中、マナコも群を成すそれらを見上げていた。
 捕まえるなら出来ることなら自分のものを――あの金文字なら目立つのではと思ったが、更に目立つものや似たようなものも多い。
 ひとまずは誰のものかを確認せず、集めてしまう方が良いだろう。
「ふふ、このまま魚を観察して眺めているのも面白そうなのですが、そうも言っていられませんね」
 これらはすべて、誰かから誰かへの大切な手紙。
 致し方ない。欲張りよりは大目標の達成。急がば回れという言葉も世にはある。
 マナコがそんな思いを零すと、その声を聞いたあやめも頷いた。そして二人は協力しあうことを決めてそれぞれに動き出す。
「あたしはこうね、お箸を使う要領でお魚さんを捕まえてみるね」
「では、こちらは仕掛け網を作ってみましょう」
 お互いに傷付けるような手荒な真似は避けたいと思っているのは同じ。あやめは自分の器物である玉簪を錬成して動かし、マナコはレプリカクラフトによって捕獲用の網を生成していった。
 ふわふわと泳ぐ魚を追いながらあやめは玉簪を操作していく。
「これならお魚さんも痛くないと思うんだけど……な、なかなか難しいな、これ!」
 えい、と気合を入れて掴もうとするが文字の魚はなかなかに素早くて捉えられない。その間にマナコは通路の突き当たりへと網を仕掛け、持ち前の技能でもって巧妙にそれを隠していった。
「これは追い立てていく必要もありそうですね」
 マナコは今こそ自分のタールの身体が役立つときだと感じ、身構える。そしてタイミングを計って一気に身体を大きく広げて魚の進行方向を塞いだ。
 同時にあやめが駆け、するりと身を翻す魚に狙いを定める。
「こら、逃げるなお魚さん!」
 そう言っても魚は止まらないが、こういう言葉は気分の問題。あやめが簪二本でなんとか挟もうと苦戦する中、マナコは徐々に魚を追い詰めていく。
「そちらに行きました。お願いできますか?」
「任せて!」
 そして、マナコがあやめに呼びかけた瞬間。
 ぱし、と軽快な音がしたかと思うと簪が文字の魚を一気に複数捕らえた。追い立てて掴む。協力のなせる技だとして二人は視線を交わしあった。
 しかし捕らえられた魚もぴちぴちと跳ねて逃れようとしている。
「わ、わ……網ってどこにあるの?」
「元気ですね。どんどん入れてしまいましょう」
 あやめが懸命に簪を操って逃さぬよう頑張っている姿を見遣り、マナコは網を手繰り寄せた。そして手早く魚を其処に放り込む。
「痛くないかな、急いで連れて行くから逃げないでね!」
「大丈夫です。少し動き辛いだけのはずですから」
 あやめは網の中でじたばたする魚達を見下ろし、マナコも問題はないはずだとして網の口をきゅっと縛った。
 これで誰かへの手紙は幾つか捕獲できた。
 あとはこれを鍵として使える扉に向かい、放流してやる手順が必要だ。
「行きましょう」
「うん、いつまでも閉じ込めておくのも可哀想だからね」
 頷きあった二人は件の扉へと進む。
 其処には便箋めいた罫線模様が描かれていた。不思議、とドアを見つめるあやめ。其処でマナコが網をひらくと文字の魚が扉に吸い込まれていった。
「これで鍵が開くはずだけど……どうかな?」
「まだ足りない、でしょうか」
 あやめは暫し扉を見つめていたが何も起こらない。こてりと首を傾げたマナコは魚が十分ではないのだと判断して後ろを振り返った。
 見ればまだ空中を泳いでいる文字の魚が何匹かいる。
 あれもまた誰かへの言葉。
 それならばすべて捕まえて集めるしかない。誰か一人にだけ言葉が届かないなんてことがあればきっと悲しくなってしまう。
「もう一回ってところかな」
「ええ、頑張りましょう」
 あやめは泳ぐ魚を見上げ、マナコももう一度漁業をしなければいけないと微かに笑ってみせた。そして、二人は駆け出す。
 大切な言葉の欠片を、この手にするために――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
書と手紙の海に、色とりどりの文字の魚!
災魔絡みで無ければ、きっと見ていて飽きない光景なんでしょうけど。
残念無念ー…
何て言ってる場合じゃ無いですね。

先ずは書架の中等、捕らえ易そうな子たちから。
徐々に、ゆったりな子、直線的に泳ぐ子…と、元気な子狙いへシフト。
ハンカチの隅を結んで網代わりに、
進路や動作の癖を“見切り”、時にどん詰まりへ追い詰めたり。
何方かと協力出来たら尚理想的。

扉へは小まめに。
そこらから本を数冊拝借、捕らえた魚は挟んで運搬。
元は文字、潰れはしないでしょう、と…
ダメな時は、素直に手袋にでも放り込んでくとして。

魚を追い掛け右往左往と破茶滅茶に。
童心に帰るって、こんな感じを言うんですかね?


三条・姿見
SPD/速やかに追い詰め、捕獲を狙う
※アドリブ可

…壮観だな。いや、感心している場合ではないか。
見た目こそ魚だが、相手は文字だ。粉々にしては始末が悪い。
ここは速やかに【情報収集】。
ある程度傷をつけずに捕獲するとなると…。
【地形の利用】を駆使し、魚を追い込む手段をとるとしよう

狙いを絞って魚を追う。
頭上へ逃げるようならば【フック付きワイヤー】で追跡を続行。
周辺情報を頼りに、狭い道へと追い詰める

書架の間、こちらの一手が十分に届く距離まで追い込んで、
泳ぐ魚を【撃剣】投擲で縫い留めたい。
【マヒ攻撃】の薬を刃に仕込んだものだ。
動きを封じれば、あとは捕らえるのみ。
一匹ずつ確実に捕獲し、仕掛けの解除に貢献しよう



●游ぐ文字と言の葉
 書と手紙の海に、色とりどりの文字の魚。
 幻想的だとも思える光景をクロトは暫し眺めていた。ふわりと軽やかに浮く魚というだけでも不可思議だというのに、それは文字で構成された存在。
「災魔絡みで無ければ、きっと見ていて飽きない光景なんでしょうけど」
「……壮観だな」
 クロトが落とした言葉に答えるように頷いたのは、魚を追いかけてきた姿見だ。彼らがこの光景に感じる思いはよく似ていた。
 しかし、ただこうして見つめているだけではいけないと感じるのも同じ。
「残念無念ー……何て言ってる場合じゃ無いですね」
「いや、感心している場合ではないか」
 殆ど同時にそう言葉にした二人は視線を交わし、文字魚捕獲作戦へと移る。
 彼らとてただ魚をぼんやりと眺めていたわけではない。その動きに規則性はあるか、どの程度まで速く泳げるのか、個々の動きに癖はあるか。そういった情報を細かに収集している面もあった。
 そして、協力しあうことを決めたクロトと姿見は動きはじめる。
 先ずは書架の中。
 捕らえ易そうな魚へと目を向けたクロトはそっと其方に歩み寄っていく。どうやら魚にも性格があるらしくゆっくりとした動きのものもいた。
「先ずはあの子などどうでしょうか?」
「見た目こそ魚だが、相手は文字だ。粉々にしては始末が悪いな」
「ええ、誰かへの手紙なら尚更です」
 魚を極力傷つけぬことを優先事項だとして確かめあった彼らは挟み撃ちの戦法を取ることにした。
 姿見が手前から攻め、クロトが死角から近付く。
 目配せを交わした二人は同時に魚へと向かう。その瞬間、魚が姿見の手の中に収まった。魚は暴れるかと思いきや、元より大人しい動きをしていたゆえにそのまま姿見の懐に潜り込んでしまった。
「おや、何だか可愛いですね」
「懐かれたのか……? いや、よくわからないな」
 何にせよこれで一匹。
 クロトは徐々に、ゆったりな子、直線的に泳ぐ子、そして元気な子を狙って行こうと提案する。相手の動きが違うならば戦法も一手では足りない。
 ハンカチの隅を結んで網代わりにしたクロト。書架の並びを把握して追い込み漁の如く魚を追い詰めようと狙う姿見。
 彼らは魚の動きを見極めるには時間は然程かからなかった。
 クロトは素早く泳ぐ魚を追い、敢えて頭上にしか逃げ道がないように立ち回る。
「そちらに向かいました。お願いします」
「任された。これで――」
 どうだ、とフック付きワイヤーを投げ放った姿見。その先端が魚の尾に引っ掛かり、くるくると巻き付くようにしてワイヤーが巡る。
 二匹目、三匹目と順調に魚が捕らえられていったが、中には激しく抵抗するものやクロト達の手を擦り抜けていってしまうものもいた。
「致し方ない。強行手段も考えるべきか」
「そうですね、少しくらいなら……」
 姿見はどうしても捕まらぬ素早い一匹を見上げ、クロトも捕まえた魚を書架にあった本で挟みながら頷く。元は文字、潰れはしないだろうと考えていた予想は当たっていた。現に魚は本に挟むと暴れなくなったからだ。
 魚の保護をクロトに任せた姿見は書架の間を駆けていく。
 そして、泳ぐ魚をこちらの一手が十分に届く距離まで追い込む。双眸を鋭く細めた姿見は一瞬で撃剣を投擲し、標的を一気に縫い留めた。
 動きを封じれば、あとは捕らえるのみ。
「すまないな」
 僅かではあるが傷つけてしまったことにそんな言葉を落としながら、姿見は見える範囲では最後になる魚を回収した。
「これで全部でしょうか」
「ああ、扉に向かうか」
 クロトが確かめるように周囲を見渡し、姿見は先を示しながら歩き出す。
 魚を追い掛け右往左往。
 比較的スムーズではあったが破茶滅茶に走った気もする。クロトは思わず薄く笑み、前を往く姿見に問いかけてみた。
「童心に帰るって、こんな感じを言うんですかね?」
「……どうだろうな」
 首を軽く傾げた姿見は振り返り、クロトを呼ぶ。見えてきたぞ、と告げた彼が指差した先にはフロアの最奥を示す扉があった。
 彼処にこの魚達を入れれば扉の鍵が開く。
 そうすればいよいよ災魔とも対面できるとして、二人は其々に気を引き締めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
🐰 千晴くん(f01295)
アドリブ歓迎

ひゃーー!お魚になって泳いでっちゃったよ!
待って!待つんだ!パパと、ママからのお手紙!
パパとママから、初めて貰う、ボクのお手紙だ!
ボク、絶対つかまえるんだから!
千晴くんのお手紙もだよっ

ぱたぱたぴょんぴょん、空中戦で飛び上がり上から下から魚を捕らえようとする
待って待ってと追ううちに少し涙目になってきた
だって、早く読みたいのに
千晴くんの姿を見て涙を拭って
そうさ、描くのさ!
「黄金色の昼下がり」
お魚の時間はボクがもらう!
止まった隙に捕まえる

千晴くん……心強いよ
ボクも全力で協力するんだ!
キミの大事なお手紙も、捕まえるよ
1人では難しくても2人なら

えいっ!ここだー!


霧島・千晴
フレズローゼ(f01174)と
呼称:姫さん

変形させた骸骨道化の傀儡で
手当たり次第近くの魚を捕らえる

姫さんにとっちゃ両親から受け取る初めての言葉だ
せめて一文字くらい、見つけてやりたい
家族と不自由なく暮らす自分には彼女の胸中を正確に図ることは叶わない
それでもきっと俺の好きだったあの人たちは、娘の涙を喜ばないだろうことは解る

「魚を捕るのは猫の専売特許だ、任せとけ」
大丈夫。と、泣きそうな顔へ代わりに笑う

俺の手紙もと言ってくれる彼女の為に
「だな、2人で頑張ろーぜ」

姫さんの力で止まった魚は
傀儡で作り出した竹毬のような巨大な檻へ



「おゆきなさい あなたの道を」
自分宛の手紙のその文字列を、俺はまだ知らない



●言葉の扉
「――待って! 待つんだ!」
 追っても追っても文字の魚は逃げていく。
 あれはパパとママからのお手紙。フレズローゼの苺月の瞳は今、いつもあるはずの無邪気な好奇心は宿っていない。代わりにその奥にあるのは切なる想い。
「行かないで! パパとママから、初めて貰う、ボクのお手紙だ! 必ずつかまえるんだから……絶対に!」
 勿論、千晴くんのお手紙も。
 ぎゅっと掌を握り締めたフレズローゼはぴょんぴょんと飛ぶ。
 いつしか文字魚は他の魚の群に合流してしまい、どれが自分への手紙だったかも分からなくなってしまう。
 ぱたぱたと懸命に翼を羽ばたかせるフレズローゼ。
 その後姿を見つめる千晴は頭を振り、思わず彼女を呼んだ。
「……姫さん」
 しかしその声が聞こえていなかったらしいフレズローゼは振り向かず、飛び上がって魚を捕らえようと手を伸ばす。待って、待ってと追う内に彼女が泣きそうになっていることが分かった。
 その横顔には憂いが、そして瞳にはきらりと光る涙の粒が見えたからだ。
 見ていられない。そんな感情も浮かんできたが千晴はフレズローゼから視線を外さなかった。彼女の助けになるために自分は今、此処に居る。
 ならばやることはただひとつ。
「姫さん、退いてな」
「千晴くん?」
 凛とした一声が響き、フレズローゼはやっと振り返った。
 早く読みたい。パパとママの言葉を、早く。
 それだけで頭の中がいっぱいになってしまっていたフレズローゼは千晴が傍にいてくれるということを思い出す。
 フレズローゼが身を引くと、千晴は先を泳ぐ文字魚を見据えた。
 そして骸骨道化の傀儡を変形させ、絡繰絲で操る。ひといきに文字魚へと奔った傀儡は骨の腕を伸ばし、一匹の魚を捕らえた。
 このまま手当たり次第に全部捕まえてやる。
 そう告げるように絲を手繰り寄せた千晴も、彼女が求める手紙がどれか見定めていく。未だ読めぬと知っていても手元にあるのとないのでは違うはずだ。
 フレズローゼにとって、それは両親から受け取る初めての言葉。
 せめて一文字だけでも。
 読めなくても傍に置いてやりたい。
 家族と不自由なく暮らす自分には彼女の胸中を正確に図ることは叶わない。それでも。きっと――千晴の好きだったあの人たちは、愛しい娘の涙を喜ばないだろうことは解った。
「魚を捕るのは猫の専売特許だ、任せとけ」
 大丈夫。
 泣きそうな少女の代わりに笑った千晴。
 その姿と声を聞いたフレズローゼはごしごしと涙を拭った。そして虹薔薇の絵筆を強く握り締める。
「そうさ、描くのさ! 泣いてる暇も、悲しんでる時間もないからね!」
 ――黄金色の昼下がり。
 お魚の時間はボクが貰う。そう決めたフレズローゼの力が図書館内に広がっていく。永遠のお茶会を描いたキャンバスから溢れ出るのはきらきら光る蝙蝠と紅茶と砂糖の乱舞。嵐は文字魚の時間を奪い、現在に磔にしていく。
 そして、魚が止まった隙に千晴が骸骨道化を操り、次々と捕まえていった。
「一丁上がりってな」
「千晴くん……心強いよ。キミの大事なお手紙も、捕まえるよ」
 笑みを浮かべた千晴に対し、フレズローゼも微笑みを返す。
 先程、千晴が告げてくれた言葉を思い返したフレズローゼは一気に床を蹴った。見える範囲で泳ぐ文字の魚は後一匹だけ。
「姫さん、今だ」
「えいっ! ここだー!」
 懸命に跳躍したフレズローゼは手を伸ばした。そしてその指先が魚に触れ、ぱしりとちいさな音を立てて魚が彼女の手の中に収まる。
 そして千晴は傀儡で作り出した竹毬めいた巨大な檻へそれらを囚えた。
 
 そうして千晴とフレズローゼは魚を集め、件の扉の前に訪れる。
 文字の魚達はこの扉を開く鍵になるという。
 せっかく捕まえたというのにまた手放すことになるのは少し苦しかったが、このままでは文字は永遠に読むことが出来ない。
「それじゃ行くぜ、姫さん」
「うん、覚悟は出来てるよ!」
 罫線めいたライン模様が浮かぶ扉へと文字の魚を解き放ったふたりは、それらが吸い込まれていく様を見守った。
 かちり、と錠前が回ったような不思議な音がする。
 しかしまだ扉は開かない。まだまだ文字魚が必要なのだろう。そう感じ取ったフレズローゼと千晴は更なる魚を捕まえるために頷きを交わした。
「一人では難しくても、二人なら大丈夫!」
「だな、二人で頑張ろーぜ」
 きっと、この思いを抱いていけば何だって乗り越えられるはずだから――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ケビ・ピオシュ
魚釣りは幾度か行ったことはあるが
文字の魚釣りは初めてだよ
といっても私は機敏な方でも無いのでね

しかし
自分の意志でなくプログラムならば―
自分にケーブルを繋いで脳のプログラムを書き換え
プログラムド・ジェノサイド

いいや
ジェノサイドはしないさ

背より伸びる大きな掌を使って魚を掴もう
これならば私だって
あっ
待って
回避されても中止出来ないね
成功すれば嬉しいのだけれど

ダメならダメで自分で動けばよいのさ
私は頑丈な方だからね
飛び降りて掴めば―

ウムウム
落ちても頑丈だから平気さ

掴めばこちらのものさ
この大きな掌ならば、きっと魚を取り逃がす事もないだろう
しっかりと掴んで離しはしないさ

そう言えば
…これは魚釣りでは無く
魚掴みだね


クーヴェルシュイユ・ティアメイア
わ、すごいね
ほんとにおさかなになっちゃった
ぺろりと舌なめずり
わたくしの翼、飛ぶよりもキュートなのがお仕事だもの
一生懸命はためいて追いかけるよ
捕まってくれるといいけど

でもね、わたくしは知ってるの
こんなときは、えものの気もちになればいいのよね
わたくしがおさかなだったら――捕まりたくなくて、逃げるわ
わたくしは泳ぎがじょうずだから、だれにも捕まりっこないの

……うん、と?

じっとして考え込んじゃうわ
そんなわたくしの帽子に、思わず引き寄せられちゃう子はいないかしら

(:]ミ (:]彡 (:]ミ (:]彡

*遠い昔、自分ではない誰かに宛てられた恋の言葉たち
*優しく綴られた字は、不思議と潮に滲むように読みとれない



●游ぐ文字と言葉
 頭上で泳ぐ文字の魚を見上げれば、不思議な心地が胸に巡る。
「わ、すごいね。ほんとにおさかなになっちゃった」
 思わずぺろりと舌なめずり。
 クーヴェルシュイユは暫し、迷宮内を回遊するように泳いでいく文字の魚を振り仰いでいた。そして腰のちいさな翼をはためかせ、書架の波間をゆく。
「ウム、ウム。とてもキュートだね」
 そんな後ろ姿と魚が泳ぐ様を目にしたケビはちいさく頷いた。
 その声にクーヴェルシュイユが振り向くと、ケビはぱたぱたと手を振る。
「いっしょに、つかまえる?」
「それは助かるね。私は機敏な方でも無いのでね」
 クーヴェルシュイユの提案にケビが頷き、前方を泳いでいく魚を目で追った。二人が追っている文字の魚は既に天井近くまで登っていっている。
 まるで図書館と水族館が一緒になったような光景は幻想的だ。
 けれどもこのまま見上げているわけにもいかない。あの魚も元は誰かが欲しいと願った言葉だ。誰にも届かぬまま揺蕩うだけの手紙にはさせたくない。
 どうしようかしら、とクーヴェルシュイユは首を傾げる。するとケビが近くの椅子に乗り、文字の魚が泳いでいく先を見つめた。
「魚釣りは幾度か行ったことはあるが、文字の魚釣りは初めてだよ。といっても、しかし、自分の意志でなくプログラムならば――」
 そしてケビは自分にケーブルを繋ぎ、自らの脳のプログラムを書き換えていく。
 わあ、と感心する声をあげたクーヴェルシュイユはケビの出方を見守った。
 ――プログラムド・ジェノサイド。
 発動したのはケビが持つ力。とはいっても大切な誰かへの言葉を破壊するつもりはない。そして背から伸びた大きな掌が瞬く間に魚に向けられていく。
「がんばって、もう少しよ」
「これならば私だって魚を捕まえ……」
 クーヴェルシュイユの応援を受けたケビは一気に文字の魚を掴む、と思いきや意外と素早い魚はその掌をするりと擦り抜けた。
「あっ」
「待って」
 二人が同時に声をあげる中、掌はその場でがしがしと虚空を掴むのみ。
 回避されても中止出来ない。それがこの力の欠点であるのだが、クーヴェルシュイユは何だかその光景も可愛らしいと感じていた。
「じゃあ次はわたくしの番ね」
 捕まえるにはどうすればいいのか、クーヴェルシュイユは考え込む。
 こんなときは、えものの気もちになればいいはず。
 もし自分がおさかなだったら――捕まりたくなくて、逃げる。そう、頭上をすいすいと泳ぎ回るあの文字の魚のように。
「おさかなの気もちになって……うん、と。わたくしは泳ぎがじょうずだから、だれにも捕まりっこないの」
 けれども魚もずうっと泳いでいるわけではない。
 ううん、ともう少し考えようとしたクーヴェルシュイユはじっとしていた。そのとき逃げていたはずの文字魚のうちの一匹が、すい、と彼女に泳ぎ寄ってくる。
 その様子に気付いたケビはそっと見守った。
 すると文字の魚はクーヴェルシュイユの海月めいたふんわりとした帽子の傍に寄り添う。泳ぎ疲れて休息するかのように文字魚は其処にちょこんと乗った。
「ウムウム、可愛いね」
「……? おさかな?」
 ケビがちょいちょいと頭を示し、まだ気付いていなかったクーヴェルシュイユに魚の到来を知らせる。はたとした彼女はそっと、魚が逃げないよう手を伸ばした。触れた文字は逃げず、その手の中に収まった。
「わたくしの帽子、居心地がよかったのかしら」
「そうかもしれないね。さて、」
 ちいさく微笑むクーヴェルシュイユにケビも頷き、まだ捕まえられていない魚を見つめる。先程のジェノサイド捕獲作戦は上手く巡らなかったが、あれ以外に手がないわけではない。ダメならダメで自分で動けばよいのだとケビは知っている。
「わたくし、あちらからおってみるわ」
「頼んだよ。私はあの梯子の上から飛び降りて掴んでみようと思うよ」
「おちてしまわないかしら。だいじょうぶ?」
「頑丈だから平気さ」
 クーヴェルシュイユが手伝うと申し出たことに快く頷き、ケビはよいしょよいしょと梯子の上部まで登っていった。魚はきっとクーヴェルシュイユの方に気を取られてちいさな自分から意識を外すだろう。
 まってまって、と羽をはばたかせて彼女が魚を追い立ててくれている中、ケビはタイミングを図る。そして、今だと感じた瞬間。
「捕まえたよ」
 えいっと跳躍したケビは背の掌を伸ばし、梯子の下を泳ぎ抜けようとした魚を掴む。捕らえた以上はしっかりと掴んで離しはしない。
 そうしてケビはころりと着地し、クーヴェルシュイユに成果を見せる。
「わ、二匹もつかまえたの?」
「どうやら仲良しの魚だったようだね。ウム、ウム」
 すごいと笑む彼女にモニター内の片目を瞑ってみせ、ケビは掌の中の文字魚を確認する。まだその文字の内容を読むことは出来ないが、これで誰かへの言葉が永遠に彷徨うことはなくなった。
 そして、ケビはクーヴェルシュイユを誘って件の扉の前に向かっていく。
「そう言えば……これは魚釣りでは無く魚掴みだね」
「そうかも。けれどちょっと、たのしかったわ」
 歩く最中、これまでの魚捕りタイムを思い返した二人はそっと視線を交わした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユウイ・アイルヴェーム
こんなにも沢山の、こんなにも様々な、こんなにも自由に
言葉というものが見えたなら、こんな世界が広がっているのでしょうか

今の私が、お魚を捕まえるためにできること
速さは、少し足りないかもしれません
なら、どこかへ隠れて捕まえることにしましょう
隠れる所はたくさんありますから、他の方がいらっしゃらない所へ
誰かの言葉かもしれませんから、一つたりとも乱暴に扱うことはできません
丁寧に、しっかりと、両手で捕まえたら扉へ急ぎます
転ばないように、落とさないように、大切に。言葉とは大切なものですから

文字を集めて、扉の中へ放します
少し窮屈かもしれません、ごめんなさい
それでも私は、私の記憶を知るために、前に進みたいのです


華折・黒羽
泳ぎ回る魚達
じっと見上げさてどうしたものかと

眺めていれば綺麗な光景だけれど
ずっとそのままというわけにはいかない
掴まえなければ手紙は読めないのだし

懐から取り出した篠笛を口元に
奏でるのは遠く家族を偲ぶ音色
導いたのは鳥達の影

音色に言伝と追跡の力託し響かせれば
影鳥達は泳ぐ魚を追いかける

さながらその姿は狩りの様に
一箇所に留まりまずは目を凝らして
定まったなら一気に飛び立ち

小川の魚を狙い捉えるかの如く
嘴に銜えこの手元へと運んでくれる
手の平に零れ落ちたそれは文字となった
─今はまだ、読めないようだけれど


──、

愛する事を躊躇うな、幸福である事を厭うな
どうか自分を信じて笑顔で生きて
愛しているよ黒羽、私達のいとしい子



●言葉は游ぐ
 こんなにも沢山の、こんなにも様々な、こんなにも自由な――言葉。
 もしも思いが見えたならば、きっとこういった世界が広がっているのかもしれない。ユウイは頭上を泳ぐ文字の魚を見上げながらそんなことを思う。
「……綺麗ですね」
 ぽつりとユウイの口から零れ落ちた声を聞き、黒羽も暫し泳ぎ回る魚達を見ていた。二人が其々に追っていた魚はふわふわと巡って合流し、回遊するが如く群れを成してしまっている。
「どうしたものか」
 天井近くを泳ぐそれらをじっと見上げた黒羽は口許に手を当てて考えた。
 眺めていれば綺麗な光景だ。
 けれどもずっとそのままというわけにはいかない。掴まえなければ手紙は読めず、災魔に捕らわれているという学生だって救えない。
「どうしましょうか……」
 ユウイも黒羽と共に天井を振り仰ぎ、様々な考えを巡らせていく。
 今の自分が魚を捕まえるためにできること。
 速さは少し足りない。あの魚のように飛ぶことも難しい。
 それならどこかへ隠れて捕まえるのがいい。幸いにも隣に立つ黒羽が魚の気を引いてくれる。それにこれほど書架があるのだから隠れる所もたくさんあった。
「では、私は向こうに隠れますね」
「分かりました。ご武運を」
 ユウイが隠密作戦を取ることを告げれば、黒羽が静かに頷く。そして黒羽は懐から取り出した篠笛を口元に運び、音色を奏ではじめた。
 響かせていったのは遠く家族を偲ぶ音。
 其処から導かれていく鳥達の影に音色に言伝と追跡の力を託す。そうすれば影鳥達は泳ぐ魚を追いかけはじめた。
 しかし鳥達は無理に魚を追いかけ回さずに一箇所に留まる。まずは目を凝らし、狙いが定まった瞬間に一気に飛び立っていった。
 さながらその姿は狩りのよう。
(――速い)
 その様子を物陰から窺っていたユウイは鳥達の影が見事に魚を捕らえる姿を見た。
 小川の魚を狙い捉えるかの如く嘴に銜えた鳥は黒羽の手元へと文字の魚を運んでいく。ありがとう、と彼らに礼を告げた黒羽は双眸を細める。
 だが、それをもってしても全ての文字魚を捕まえられたわけではない。
 人間から逃げるように天井近くに浮いていた魚は鳥に捕らえられては堪らないというように高度を下げ、書架の下の方まで降りてきた。
 それこそがユウイの狙いだ。
 黒羽は敢えて其方に向かった魚は鳥に追わせず、隠れているユウイとは反対側に立つ。こうしていれば自然に魚は黒羽を避けてユウイの方に向かうだろう。
 その間、ユウイは息を潜めてタイミングを図る。
 あの魚もきっと、誰かの言葉だ。
 だからひとつたりとも乱暴に扱うことはしないと決めていた。ユウイは徐々に近付く文字を見つめ、掌をそっと広げる。そして――。
「捕まえました……!」
 一番近くに魚が近付いた瞬間、ユウイはしっかりとそれを抱くように捕らえた。
 丁寧に、両手で言葉を抱くユウイは黒羽と視線を交わしあう。
 これで自分達が捉えていた魚は全部。腕や手の中でぴちぴちと暴れている魚が逃げ出してしまわないうちに扉へ急いだ方がいいだろう。
「行きましょうか」
「はい、扉は向こうのようです」
 転ばないように、落とさないように、大切に。言葉も想いも大切なものだと分かっているからこそ気は抜けない。
 そうして、二人はフロア奥のドアに辿り着いた。
「少し窮屈かもしれません、ごめんなさい」
 それでも私は――私の記憶を知るために、前に進みたい。そう願ったユウイが両腕を広げ、黒羽もそっと魚を離す。
「……此の中へ」
 すると手の平に零れ落ちたそれは文字となり、便箋めいた模様を宿す扉に吸い込まれてゆく。元になった言葉は読めないままだった。それでもこの奥に進めば何れは魚となった文字達も手紙に戻る。
 やがて魚達がすべて消えていった後――かちり、と鍵が開く音が響いた。

●扉の奥へ
 🚪 🐟🐳🐠~~
 
 こうして猟兵達の手によって魚になった文字が全て集められ、鍵は解放された。
 軋んだ音を立てながら扉がゆっくりと開いていく。
 そして、その向こう側には――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『安寧』のフィロソフィア』

POW   :    錬金メイドフィロソフィア
自身の【メイドとしての矜持】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    ソフィはメイドとして必要なことはなんでもできます
対象のユーベルコードを防御すると、それを【劣化版"賢者の石"に記録し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    ソフぃさんのお掃除タイム
いま戦っている対象に有効な【呪いが付与された弾丸を撃てる銃】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●御主人様、哲学のお時間です
 鍵を開いて辿り着いた場所は真白な部屋。
 其処は四方が本棚に囲まれている勉強部屋めいた場所だった。
 耳に届いたのは分厚い本の頁が捲られる音、感じるのは仄かなインクの香り。中央にあったのは丸い猫脚テーブル。その上には羊皮紙のノートに黒い羽根ペンがある。
 机には力なく突っ伏した少年。
 そして、その傍らにはそっと控えるひとりのメイドがいた。

「御主人様のお友達でしょうか? ですが今、御主人様は眠っておいでです」
 そのメイド――否、災魔である安寧のフィロソフィアは淡い微笑みを浮かべながら猟兵達に問いかける。
 だが、その笑みとは裏腹に此方を歓迎していない雰囲気も感じられた。
 カーテシーの形でお辞儀をしたフィロソフィアは続ける。
「御主人様が目を覚ましたらお勉強の続きをしなければなりません。ですので、貴方様方と遊ぶお時間はないのです」
 にこやかに、しかし道理の通らぬことをメイドは語った。
 猟兵達は知っている。少年が彼女の御主人様などではないことや、哲学の勉強をすることなど望んでいないこと。そして、フィロソフィアが災魔という存在である以上、相容れず倒すべきものだということを。
「邪魔をする気でしたらソフィが貴方様方を排除致します。ええ、メイドたるもの御主人様をお守りする術も日々磨いておりますので――」
 そう言ってフィロソフィアは銃を召喚して身構えた。
 世界を破滅に導く存在である彼女には、もう何を言っても通じないだろう。
 彼女と戦い、勝利するしかない。そう感じた猟兵達は其々に覚悟を決めた。
 
 そして君達はふと、白い部屋の高い天井を見上げる。
 其処には先程まで魚であり、手紙であった文字がふわふわと浮かんでいた。それらは混ざりあうように渦巻き、不思議な景色をつくりだしている。
 今は手を出すことも読むことも叶わないが、災魔を倒せばあの文字達は元の手紙に戻っていく。直観的にそう感じられた。
 全てが終わったとき。
 いつかの記憶が文字に成ったものを読んだ君は何を思うのか。
 懐かしさか、哀しみか、戸惑いか、それとも歓びや嬉しさだろうか。
 巡る戦いの先に待っているもの。それは、きっと――。
 
樹神・桜雪
【WIZで判定】※絡み、アドリブ歓迎

お勉強も大切だろうけど、そんなになるまでやらせるのは酷くない?
その子、お家に返してあげようよ。

呪いを付与しててくるUCに対しては、ボクもUCで相殺を試みるよ。
見よう見まねだけど、頑張ってみる。
相殺を狙いつつ、武器で『凪ぎ払い』をすべく接近するよ。
上手い具合に攻撃出来るなら『2回攻撃』で畳み掛ける。
多少の怪我ならなんて事はない。だってボクはモノだもの。

全部終わったら、生徒さんの安否を確認するね。
そうしたら、改めてボクの手紙を探そうかな。

過去のボク、具体的に何が大切だったか書こう?
探さなきゃいけない事、増えた気がする。
大切なモノって、なんだったんだろう。


旭・まどか
そう
別に勉強の邪魔をする気は無いよ
遊び友達――というか寧ろ、其の事を僕は知らないからね

けれど、“哲学の勉強”とやらは、其に必要な事か?
押しつけがましいだけの教育は、却って苦痛になるだけだよ

今度はさっき、背上で暇をしていた彼に、手伝って貰おうか
騎士たる剣捌きに感嘆しつつ、銃での不意打ちには最大限警戒を

手札が無くなるのは厄介だからね
どちらがより面倒か、――なんて、天秤に掛ける迄も無い


其が居なくなったらあの手紙を、読めるのかな
脳裏に響く筈も無い聲を想い、足元へ一瞥を

ヒトで在ったお前なんて、僕には必要無いよ
導きたい所があるのならば、お前がその四足で先導すれば良い

文字を追う事無く過去の残滓を破り捨てよう


紫丿宮・馨子
手紙の内容は気になりますが、今は目の前の敵に集中いたしましょう

UCで召喚した二将と自身に
破魔、呪詛耐性、氷結・火炎耐性、祈り籠めたオーラを纏い防御を固める
式神の朱雀に炎による補助を命じ
自身は『風月』の音を炎属性の衝撃波として放つ

識ることは己を護ることにも通じる大切なことにございます
けれども無理強いは、良い教育方法とは思えませぬ
哲学を学んでほしければ、まずは興味をもたせるところから初めてはいかがでしょうか?
教える側も相手に合わせて方法を変えねば、思うような成果を出すことは出来ぬでしょう

●手紙を読んで
かつて自身の器物に執着した相手を思い出し恐怖するが
それよりも自分が全く覚えていないということが怖い


リティ・オールドヴァルト
その人はおまえのご主人ではありませんっ
一緒に、手紙を読んで帰るのですっ!
気合い入れ

みんなと協力
敵倒す

ジャンプで懐に飛び込みフェイントでさらにダッシュ
高速詠唱からの属性攻撃で氷付与
足元をなぎ払いして動きを止めなぎ払い
当たれば
ドラゴニック・エンド
当たらなければさらにフェイントの上串刺し当ててから
リリィ、おねがいっ!

メイドとしての矜持…
とやらはよく分かりませんが
すぐ反応できるように
なるべく距離を取らないで戦うのですっ!
見切り第六感用い
あやしい動きを見せたらダッシュで更に間合い詰め串刺し

戦闘後
ジャンプでも届かなかったぼくの手紙…っ
手に取り
…にいさま…とうさま…かあさま
手紙大事そうに抱きしめ
…ありがとう



●メイドの矜持と哲学の部屋
 白い部屋。
 その天井で游ぐ数多の文字達。想いの宿った言葉の前に立ち塞がるのは安寧の名を冠するひとりのメイド。
 手紙の内容は気にはなるが、今は目の前の敵に集中するべきときだ。
 そう感じた馨子が身構えるとフィロソフィアも召喚した銃を此方に向けた。
「参ります」
「――誉れ高き左右の大将よ、我が名と馨りをもって命ず」
 疾く来たりて我に従うべし。
 双方の声が響いた刹那、相手から銃弾が解き放たれる。しかし馨子の傍に召喚された将が炎刀で以て弾丸を弾き返した。
 その瞬間を狙い、まどかは死霊を召喚していく。
「そう、別に勉強の邪魔をする気は無いよ。遊び友達――というか寧ろ、其の事を僕は知らないからね」
 同時に見遣ったのは机で突っ伏している魔法学園の学生。
 彼には興味がないといった口調で語ったまどかの傍、現れた騎士が剣を掲げる。騎士が敵に向かっていく中で桜雪とリティも打って出る。
「お勉強も大切だろうけど、そんなになるまでやらせるのは酷くない?」
「その人はおまえのご主人ではありませんっ」
 桜雪は更に放たれた弾丸に自らの力を重ねて相殺し、リティはリリィを竜槍に変えて駆け出した。振るう槍の一閃はフィロソフィアの身を貫かんと迫る。
 対するメイドは避けるために身を反らしたが、槍の切っ先が彼女の服を掠めた。
「その子、お家に返してあげようよ」
「一緒に、手紙を読んで帰るのですっ!」
 桜雪がフィロソフィアに呼びかけ、リティも学生を思いながら言葉を向ける。まどかも肩を竦めながら問いかけた。
「けれど、“哲学の勉強”とやらは、其に必要な事か?」
「はい。これは御主人様に必要なことなのです」
 するとメイドは静かに頷く。
 話が通じているように見えて、此方の言い分を聞き届ける心算などまったくないのだろう。馨子は左大将と右大将に願い、フィロソフィアへと光矢と炎閃を放ちに向かわせた。
「識ることは己を護ることにも通じる大切なことにございます。けれども無理強いは、良い教育方法とは思えませぬ」
「それは貴方様方の言い分です。ソフィはメイドとしての勤めを果たすだけです」
 するとフィロソフィアは二将の攻撃をひらりと躱した。
 スカートの裾を翻して距離を取る敵を、まどかが遣わせた騎士が追う。されどフィロソフィアは全く怯まず、銃撃で以て騎士を穿った。
 はあ、と溜息をついたまどかは片手で眉間を押さえながら首を振る。
「押しつけがましいだけの教育は、却って苦痛になるだけだよ」
「そのとおりなのですっ!」
 まどかの声に頷き、リティは更なる構成に出た。
 高速詠唱、其処から紡ぎ出した氷の属性を竜槍に宿して一気に薙ぎ払う。フィロソフィアは咄嗟に跳躍したが、放たれた氷撃はその片足を捉えた。
 しかし体勢を立て直した相手も反撃に入る。
「仕方がありませんね。……お掃除を致しましょう」
 フィロソフィアは銃口を天井に向けた。
 何をするのかと桜雪が身構えた刹那、上に向けて放たれた銃弾が飛散する。幾重にも分裂したそれは銃弾の雨となって戦場に降り注ごうとしていた。
 リティがはっとし、まどかと馨子も呪いの力が込められたそれを受けるしかないかもしれないと覚悟を決める。
 だが、咄嗟に桜雪が前に出て仲間達の前に立ち塞がった。
「ボクが止めるよ。見よう見まねだけど……」
 先程の銃弾だって何とか止めることができた。だから次も、とユーベルコードを編んだ桜雪は力を解き放つ。
 ――ミレナリオ・リフレクション。
 降り注ぐ呪いの銃弾に対し、紡がれた力がそれらを見事に相殺していく。
 だが、幾つかの呪いは取り零してしまった。銃弾を受けた桜雪の横をまどかが操る騎士が駆けていく。
 その刃はしかと標的を捉え、騎士はフィロソフィアと相対していった。
 馨子は桜雪の様子を気にしながら、更にその助力と成るように式神の朱雀に炎による補助を命じる。そして、メイドへと語りかけた。
「どうしても、と仰るのなら……哲学を学んでほしければ、まずは興味をもたせるところから始めてはいかがでしょうか?」
 教える側も相手に合わせて方法を変えねば思うような成果を出すことは出来ぬはず。そう告げた馨子だが、やはりフィロソフィアは話を聞いていない。
 倒すしかないのだと感じたリティは一気に駆ける。
「メイドとしての矜持……とやらはよく分かりませんが、リリィ、おねがいっ!」
 竜槍に願えば、突き放った一閃からリリィの力が巡った。
 確かな手応えの後、フィロソフィアが僅かによろめく。されどくるりとスカートを翻したメイドは銃撃で以てリティを貫こうと狙った。
 その瞬間、再び桜雪が前に出る。華桜の刃で銃弾を薙ぎ払った彼はもう一度刃を切り返して反撃に出た。その姿を見たリティが思わず問いかける。
「わあ、だいじょうぶですかっ?」
「多少の怪我ならなんて事はないよ。だって――」
 ボクはモノだもの、と告げそうになった言葉は胸の奥に仕舞い込む。その言葉から覚悟を感じ取った馨子は静かに頷いた。その中でフィロソフィアが銃を構える。
「またあの攻撃が――? 皆様、お気を付けくださいませ」
「なかなか素早いね。でも、負ける気なんて更々ないよ」
 馨子からの呼びかけに軽く答えたまどかは死霊に攻撃を命じた。
 騎士の剣閃が、そして左大将と右大将とによる破魔の矢や浄化の炎刀が振るわれていく。フィロソフィアからの攻撃も激しかったが、猟兵達は果敢に立ち回った。
 まどかは銃撃に最大限の警戒を強めつつ戦況を確かめる。下手を打って手札が無くなるのは厄介だ。どちらがより面倒かなんて、天秤に掛ける迄も無い。
 そして、リティも気合を入れていく。
「ぼくたちもいくのです。にいさまの言葉も、みんなの思いも……」
「うん、取り返そう。あれは元々ボク達のものだから」
 少女の言葉に同意を示し、天井の文字達を見遣った桜雪も身構え直す。
 そして、戦いは巡っていく。
 この先で取り戻せるはずの手紙と言葉に思いを馳せ、猟兵達は敵を見据えた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

三条・姿見
POW/アドリブ・連携可

できた従者だ。だが、その少年は学園の人間…お前の所有物ではない。
速やかに身柄を返してもらおう

抜刀し、白兵戦で応じよう。
攻撃は極力回避。【撃剣】投擲を交えて距離を詰め、接近戦を仕掛ける。
投擲する刃には今回も【マヒ攻撃】の薬を仕込んでいる。
…こちらのペースに引きずり込む

完璧であればこそ、慢心が油断に繋がるものだ。
敵の能力強化を確認後、威力の上がった攻撃を放つ隙こそ最大の好機。
【残像】を囮に死角へ踏み込み、【剣刃一閃】の一撃を放つ。

*手紙の内容:お前は唯一無二の品だ

この字は…それに、この言葉。やはり、最後の…
…感傷に浸り続けるわけにもいかないな。
俺の使命。必ず果たしてみせよう


伊織・あやめ
うん、生徒は無事、よかった
では、遊ぶ時間がないとのことですが
あたしと遊んでもらえませんか、ソフィさん

否を言う前に刀の切っ先を向けてUC発動
銃と刀ではどうしたって銃に分がある
【衝撃波】で【吹き飛ばし】て
まずは相手の態勢を崩すよ

呪いは麻痺系かな?
当たらないように弾丸を【武器受け】でそらし
脚を狙って【衝撃波】(【部位破壊】)
他の人への援護になればいいんだけど

天井から降りてきた文字が形を成せば
懐かしい文字を眺めて
こういうときは泣いていいのかな
笑っていいのかな

持ち主さま、あたしは今日も世界を巡っていますよ

絡み、アドリブ歓迎です


エレクメトール・ナザーリフ
銃を召喚?
撃ち合いですね、楽しくなってきました。ニシシ

敵の銃撃は物陰に隠れつつ跳弾で牽制
銃弾に銃弾を当てて防ぐ等やり過ごしながら徐々に接近

ある程度近付いたらダッシュで急速接近し《零弾地獄》発動
敵が《零弾地獄》を使用してきた場合
第六感で見切りカウンターで零距離射撃
回避されると止められないのが弱点です

手紙は両方読む
1通目はイオさんは私に怒られる様な事をしてこの拳銃を渡したと
2通目は親…ですかね?私の習性知り尽くしています

一人は身の危険を感じていた?もう一人は父母?…分かりません!
まぁまた会いそうな気はします…戦場とかで
私は一人じゃなかった事が知れただけでも御の字ですか
この拳銃とマフラーが繋がりです


華折・黒羽
この場所は「愛する」という意味の名を冠する場所
グリモア猟兵がそう言っていた
そこに哲学など…殊更野暮というもの

誰かがその生み出される手紙を読むひととき
何者にも邪魔をされないよう
…そしてあの、俺宛の手紙を読む為に

あなたを、倒します

氷花織にて敵の妨害を
地を斬り付ければそこからせり上がる氷の花群により弾丸は防がれ
真似をしようとも己が斬り付けられなければ支障は無い
加えて氷花の障害物が増える程敵自身の身すら動きづらくもする
あとの攻撃は仲間に、託せばいい


開いた手紙には父の字と、母の字
言葉と共に思い出す優しい笑顔
ああ、そうだ
あの人達はこんな風に笑うのだった

─父上、母上

声震わせれば
ぱたり伝い落ちた滴が便箋に滲む


クロト・ラトキエ
文字を、言葉を追い求める…
あの道程は哲学の実践でした?
なぁんて、戯れ言ですが。
身振りと軽口に紛れ、棚や調度へ張る鋼糸。
…それでは御主人様へ、真の安寧を。

指、銃口の向き等、視界に捉え攻撃は見切り。
UC起動。攻撃力へ替え鋼糸に通し、引き戻しての斬撃、或いは行動阻害。
増強された身体には効き辛くとも、
一で無理なら二、三と。

矜恃も学も知った事か。
僕は一介の傭兵、難しい事は分かりかねます。
寧ろ手紙の中身の方が興味深いのでね♪



『マイディア』
成る程。名前ですら無いとは予想外!
だがそれ以上に…
『今はお父さんと一緒ですか?
あなたはどうか、幸せに――』
意味の解らない事を記す、
『フローレンス・ホワイト』

あんたは、誰?



●疾走る刃と絲と銃弾
 ――此処は『愛する』という意味の名を冠する場所。
 フィレインの文字迷宮の意味を思い、黒羽は目の前に立ち塞がるメイドを見据えた。フィロソフィアは銃を構え、猟兵達を敵視している。
「そこに哲学など、殊更野暮というもの」
「文字を、言葉を追い求める……あの道程は哲学の実践でした?」
 黒羽がフィロソフィアに向けて首を振ると、肩を竦めたクロトも戯れ言めかして問いかける。そんな身振りと軽口に紛れさせながら、クロトは周囲の棚や調度品へと鋼糸を張り巡らせていった。
「勝手はなさらないでくださいませ」
 だが、メイドはそれを察して糸を銃撃で貫く。
 その見事な動きに感嘆の視線を向け、姿見は彼女と生徒を交互に見遣った。
「できた従者だ。だが、その少年は学園の人間……お前の所有物ではない」
 しかしメイドは何も聞いてはいない。ただ、主人と認めた少年に無理な勉強をさせるためだけに動く心算のようだ。
「御主人様をお守りします」
 そういって銃口を差し向けた彼女に対し、エレクメトールはニシシと笑う。
「撃ち合いですね、楽しくなってきました」
 エレクメトールが自分の銃に触れて身を隠す中、あやめは生徒の様子を確かめた。彼は意識を失っているように見えるがただ眠っているだけだ。無事ならそのままにしておくべきだと感じ、あやめはフィロソフィアに意識を向けた。
「では、遊ぶ時間がないとのことですが、あたしと遊んでもらえませんか」
 ソフィさん、と呼びかけたあやめは是非を聞く前に一気に踏み込む。紫嵐の名を冠する刀の切っ先を向け、解き放つのは呪術の一閃。
 銃と刀ではどうしたって銃に分がある。ならばこの衝撃波で吹き飛ばし、まずは相手の体勢を崩すのみ。
 刹那、フィロソフィアの身が僅かに揺らいだ。
 その隙を突いた姿見も抜刀して敵に斬りかかってゆく。されどその頃には体勢を立て直したフィロソフィアは床を蹴り、後方に下がった。
 深追いはしまいと刃を振るだけに留めた姿見。
 その後方で黒羽が縹の符を掲げる。瞬時に氷の魔力を屠の刃に纏わせた黒羽は氷点下の冷気を放っていく。
 生み出された手紙を誰かが読むひととき。その時間を何者にも邪魔をされないよう。そして――あの、自分宛の手紙を読む為に。
「あなたを、倒します」
 氷花織の群を戦場に咲かせた黒羽は凛と宣言した。
 災魔である以上、容赦も加減も不要だ。クロトも頷きを返し、フィロソフィアの出方をしかと窺っていく。
 そして、呪いの銃弾が天井に向けて撃ち放たれる。指、銃口の向き等を視界に捉えたクロトは仲間に呼びかけ、銃弾の雨が降ってくるようだと示した。更にクロトはユーベルコードを起動して鋼糸に力を通していく。
「先程のお返しです」
 鋼糸の一本を銃で貫かれたことに対し、クロトは銃弾を糸で弾くことで反撃とする。一で無理なら二、三と重ね、彼は的確に攻撃を捌いていった。
 其処に机の影から放たれたエレクメトールの銃弾が重なってゆく。
 戦場に飛び交う銃弾。跳弾からの標的への命中。
 隠れながらも的確に敵を貫いていくエレクメトールの様子を見遣り、あやめは静かに頷いた。一瞬、エレクメトールと重なった視線。
 彼女はこのまま敵の気を引いて欲しいという旨の意志を向けていた。
 それならば、とあやめは紫嵐を掲げて敵に向かう。禍々しい魔力を纏う呪いの銃弾を紫嵐の刃で弾き、あやめは再びその切っ先を相手に差し向けた。
「呪いは麻痺系かな。それなら、当たると拙いね」
 そして、脚を狙い衝撃波を解き放つ。するとフィロソフィアが僅かに声をあげた。
 されどくるりとスカートを翻したメイドは恭しく礼をする。おそらくメイドらしく振舞うことで己を強化したのだろう。
 姿見は敵の動きを見据え、次はどう出るかの予測を立てた。
「……こちらのペースに引きずり込む」
 静かな宣言と同時に姿見が投げたのは麻痺の薬を仕込んだ黒の手裏剣だ。黒羽が放つ氷の花に足を取られたフィロソフィアに向け、姿見は撃剣による攻撃を仕掛けた。
 それによってメイドの肌に傷がつく。
 見る間にその身体を巡る麻痺の力は相手の動きを鈍らせていった。
「不覚を取りました……ですが、まだです。ソフィはメイドの矜持を――」
 フィロソフィアは何とか立て直し、よろめきながらも銃を向ける。しかしクロトがそうはさせない。
 矜恃も学も知った事か。そう告げたクロトは更に鋼糸を迸らせた。
「僕は一介の傭兵、難しい事は分かりかねます。寧ろ、あの文字や手紙の中身の方が興味深いのでね♪」
 軽く笑ったクロトは双眸を細め、糸を引く。
「……それでは御主人様へ、真の安寧を」
 クロトによってもう一度よろめかされたフィロソフィア。其処に向けて黒羽が地を斬り付ける。すると其処からせり上がる氷の花群が弾丸を防ぐ遮蔽物となった。
 エレクメトールはそれを由として氷の花の後ろに素早く移動した。
 ――あとの攻撃は、託します。
 そう告げているような黒羽の視線を受けたエレクメトールは氷花の裏を抜けて一気に駆け抜ける。狙うは一点、フィロソフィアの背後。
 間合いを詰めたエレクメトールは二丁拳銃をその背に突き付け、銃爪を引いた。
「どこまで耐えられるか、試してみましょうか!」
 零弾地獄――イントゥー・ザ・ヘル。
「そんな、この距離で……!」
 刹那、超高速の連続零距離射撃がフィロソフィアを貫く。だが、痛みに耐えながらも彼女は跳躍した。
 その間も射撃は続いていたが、メイドはそれらを躱して猟兵達と距離をひらく。
 あやめはその後を追って紫嵐を一閃した。其処から紫の軌跡が描かれ、嵐を巻き起こしながら衝撃が迸る。
 千紫万紅、戦場で咲き誇るかのような一撃。
 其処に続いた姿見が封刃を振りあげた。フィロソフィアは確かにメイドとしてよく出来ているのかもしれない。だが、完璧であればこそ慢心が油断に繋がる。
 反撃を放つ隙こそ最大の好機。
 そう読んだ姿見はフィロソフィアがあやめに気を取られている一瞬を用い、素早くその側面に回り込んだ。
「喰らうと良い」
 剣刃一閃。振り下ろされた刃は的確に対象を斬り裂き、血を散らせた。
 だが、まだ戦いは終わらない。
 フィロソフィアはこれだけの人数を相手取っていても尚、今やっと僅かに息を切らせはじめただけ。黒羽とクロトは頷きを交わし、姿見も刃を構え直す。
 エレクメトールは銃口を敵に向け返し、あやめも呼吸を整えた。
 頭上には文字の渦がぐるぐると巡っている。
 あの言葉を、あの思いをこの手に戻すまで――決して攻撃は止めない。
 そう誓う猟兵達は其々の思いを敵に向けた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
オズ(f01136)と

やりたくない勉強ほど、苦痛なものはないからな
オズ、やっちゃうか!

真っ先に敵の元へスケートで突っ込み、先制攻撃!
剣と蹴りの2回攻撃コンボだ

攻撃が通ったら、慌ててオズの背後へ下り
オズ、流石だ!

わっ、オズも文字の魔法が使えてる!
俺もちょっと使わせてもらうな
オズの魚をタイミングジャンプし踏んで行って、敵の元へ
そのまま魚を踏み台にして、高くジャンプ
急直下で『亡き花嫁の嘆き』を繰り出す

これが手紙…
胸を高鳴らせながら封を開け

『大事な大事な妹 お前は僕の心の支えだった
前のお陰で僕は絶望せずここまで生きてこれた
どうかお前は…』

みんなに背を向けて涙を見せないように
こんなに悲しいけど、嬉しい


オズ・ケストナー
ヴァーリャ(f01757)と

その子はきみのごしゅじんさまじゃないよ
斧を構えて前へ
ヴァーリャの一撃が入ったら
武器受けとオーラ防御で銃を防ぐために彼女の前へ
攻撃はとおさないからねっ

一撃しのげば
わたしの番だよっ
ガジェットショータイム

出てきたのは大きなペン
なんだろう、と試しに宙に丸を描くと
絵が飛び跳ねてメイドの元へ
わあ

あまり上手ではないゆるいフォルムの魚を
魚雷のように突っ込ませて
同じ攻撃が来たら魚をぶつけて相殺するよ

魚を足場に跳ねる彼女に拍手
ヴァーリャすごいっ

戦闘後
お手紙を読むヴァーリャの邪魔をしないように
わたしも手紙を開いてみる
あったかくなってうれしくて
シュネーを抱き上げて頬寄せ
うん、かぞくだ
と微笑



●魚と細氷
 天井付近に巡る文字。
 机に突っ伏した少年と、彼を御主人様といって聞かないメイド。
 ヴァーリャとオズはそれぞれの置かれた状況と光景を慥かめ、銃口を向けてくるフィロソフィアに対抗していく。
「やりたくない勉強ほど、苦痛なものはないからな」
「その子はきみのごしゅじんさまじゃないよ」
 二人はメイドへの言葉を向け、飛び交う呪いの銃弾を避けた。
「オズ、やっちゃうか!」
「うんっ」
 そしてヴァーリャは一直線に床を滑るようにスケートで駆け、鋭い蹴りと氷剣による一閃を放つ。其処に続いたオズも斧を構えて前へ出た。
 ヴァーリャの一撃が入ったことをしかと見定め、敵と彼女の間に割り込むようにして斧を滑らせる。するとフィロソフィアが放った弾丸が刃によって防がれ、弾け飛んだ。
「オズ、流石だ!」
「連携攻撃ですか。やり手のようですね」
「攻撃はとおさないからねっ」
 フィロソフィアが落とした言葉に頷き、オズは斧を振り被る。
 次は自分の番だと示すように刃を切り返し、即座に後方に下がったオズは自らの力を巡らせていった。ショータイム、とばかりに光が満ち、其処にガジェットが召喚される。
 そして、出てきたのは大きなペン。
「わあ、なんだろう」
 試しに宙に丸を描くと、絵が飛び跳ねてメイドの元へと奔った。
「わっ、オズも文字の魔法が使えてる!」
「ふふ、それじゃあこれはどう?」
 ヴァーリャの驚きの声に得意気に笑んだオズはそのままペンを宙に走らせる。描かれたのはゆるいフォルムのおさかな。
 魚はあまり上手ではないが妙に味がある。そして、それは魚雷のように一気にフィロソフィアへと向かってゆく。
 だが、メイドはその攻撃をひらりと避けて双眸を細めた。
「ソフィはメイドとして必要なことはなんでもできます」
「気を付けろ、オズ!」
「だいじょうぶっ」
 フィロソフィアがオズを真似て全く同じ力を紡いで放つ。しかしオズも新たな魚を描くことで対抗し、ぶつけて相殺していった。
 其処に隙が出来たと察したヴァーリャは素早く跳ぶ。
「俺もちょっと使わせてもらうな」
 何匹も描かれた魚を足場にして軽々と跳躍していくヴァーリャ。そんな彼女に拍手を送ったオズだったが、はっとしてすぐにペンを走らせた。
「ヴァーリャすごいっ」
 其処から描かれたゆるゆる魚はヴァーリャを援護するように次々と宙を泳いでいく。その上を素早く動くヴァーリャを目で追おうとするフィロソフィアだが、その疾さについていくことが出来ていなかった。
 そして一気に敵の背後に回り込んだヴァーリャは急直下の勢いに乗せ、靴裏の氷刃による蹴りを見舞った。
 更に其処から冷気が巡り、周囲に細氷の煌きが広がっていく。
「ソフィは、この程度で……倒れるわけには行きません」
 よろめいたフィロソフィアは体勢を立て直したが大きな傷みが巡っていることは確かだ。オズとヴァーリャは視線を交わし、此処からが勝負だと感じる。
「もう一度行くぞ、オズ!」
「いけるよ、ヴァーリャ。まだまだいっぱい描くよっ」
 重なる声と思い。
 まだ手紙に戻らぬ文字を読む為に、抱いた決意は確かな力となってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クーヴェルシュイユ・ティアメイア
ケビちゃん、キュートだったの
【悪食】でもぐもぐお手伝い
いつかおさかなが
エチカちゃんにも添うといいね



…?
へんなの
文字が、ぬれたみたいに滲んでる

ちがうわ
わたくし…泣いてるの
どうして?
さっきよりずうっと熱くて、からからなの

――ああ、きっと
きっとおなかが、すいてるんだわ

さいわいの味を、教えて
わたくしはたぶん
これを読むことを、望んでなかったの
そっとお手紙をいただくわ
そしたら、ちょっとだけおもいだす

海の底の内緒の遊び場
そこで見つけたの
小箱にたいせつに秘められた、古いお手紙
それを読んで、わたくしは――

おなかがないて我に返る
ほろにがいのは、きっと涙
ふう
ほんとのお料理が食べたいわ
わたくし、ヤギさんじゃないのよ


暗峠・マナコ
外の世界を沢山みて回る方が良いお勉強になりそうです
まぁ、彼はともかく貴方が此処から出ることは無いのですが

このお部屋ももう必要ないですよね
身体をボールの様な球体に変え【バウンドボディ】で部屋の中をピンボールよろしく跳ね回ります
本棚や机を倒して壊して、間接的に相手の動きを制限していきましょう
うまく背後が取れそうならばそのままアタックもします

《忘れないで 覚えていて 思い出して》
これは…、私宛へのお手紙なんですよね、いやはや、…申し訳ないです
何処の何方か存じませんが、あなたの願いも虚しく、忘れてしまったようです、私は
そうですね、せめて思い出せるように、これからは少しばかり気にかける事に致しましょう


ケビ・ピオシュ
そろそろ君の主人も勉強疲れした事だろう
勉強に必要な事は
適度な休息
それに学びたいという好奇心さ

君もなかなか働き者のようだがそろそろ休憩はどうだい?
君の主人だって、君の働きには
休息がふさわしいと感じているに違いないよ
しかし
伝える者はまず手本を見せねばね

積極的に仲間達は庇おう
背より大きな掌を出して防御を

少しばかり呪いに貫かれようが構わないさ
今更だからね
いいやヤケでは無いよ
沢山の仲間がいれば負ける気がしないだけさ

でも私は走る事も追う事も苦手でね
すこうしその銃を貸しておくれ
モニタに映った銃は実弾と

手紙は
そうだね
…読む事はやはり止めておこう
きっと苦しくなるだけさ
懐かしい筆跡の宛名書きが見れただけで十分だよ


ユウイ・アイルヴェーム
あなたは、あなたも、守りたいのですか
その思いを、私は見たいのです
どのような形であっても、あなたを倒すことに変わりはなくても
その思いも、取りこぼさずに持っていきたいのです

【天からの光】を取り混ぜながら、剣で切り付けます
私の体で隠せるものを、少しでも増やせるように
もし、あなたが話してくれるのであれば聞き落とさないように、近く
動ける程度の損傷であれば、避ける必要はありません
大丈夫、私は人形なのです。恐れないで、怖がらないで

「なにひとつ、消えたりしない」とだけ書かれた手紙
この筆跡は、きっと昔の私のものなのでしょう
なにひとつ落とさずに、全てを抱えていられたころの、私の知らない私
いつか、戻らなければ


寧宮・澪
お仕事熱心は、普通ならいいことですがー……方向間違えてるのは、だめですよー……。
どんな、お仕事でもー……正しい方向がありますよー……?道理にも、主の意に沿わない仕事をするメイドさんはー……たぶん、怒られるだけ、ですねー……。
まあ、相容れないので、あくまで戯言ですが……。

というわけで、骸の海にお還りくださいー……。
皆さんをお手伝いしましょねー……。
【謳函】、さあ歌いましょー……。
少年も助けないと、いけませんしー……手紙を読むためにも、倒さないといけませんしー……。
頑張りましょねー。

●手紙
癖字の手紙には「面倒がらずに励め」、と。
……やー。あの人らしいですけど、もっと何かないんですかねー……。



●銃雨と安寧
 白い部屋の中で戦いは巡る。
 呪いの銃弾が幾重にも放たれ、猟兵達を襲ってゆく。その間も天井近くに浮かんだ文字はぐるぐると回り、机に倒れ込んだ学園生徒は気を失ったまま。
 マナコは生徒の安否を確認しながら、ブラックタールたる自らの身体を跳ねさせて銃弾を躱していく。
「外の世界を沢山みて回る方が良いお勉強になりそうです。まぁ、彼はともかく貴方が此処から出ることは無いのですが」
 生徒を見遣ってからフィロソフィアに意識を向けたマナコは静かに言い放つ。
 其処に続き、澪もふるふると首を横に振った。
「お仕事熱心は、普通ならいいことですがー……方向間違えてるのは、だめですよー……。どんな、お仕事でもー……正しい方向がありますよー……?」
「そろそろ君の主人も勉強疲れした事だろう」
 ケビも澪の言葉に同意を示し、大切なことがふたつあるのだと示した。
 勉強に必要な事は適度な休息。
 それに加えて、学びたいという好奇心。
 そのどちらも満たされていないならば何をしたって無駄な時間になる。その通りなの、と答えたクーヴェルシュイユはデザートフォークを暴食態へ変え、敵を狙う。
「ケビちゃん、さっきはキュートだったの。つぎもおねがいできる?」
「ウム、ウム。勿論だよ、やろうか」
 協力しあおうという意志を感じたケビは頷き、災魔に立ち向かっていくクーヴェルシュイユを守る盾になることを決めた。
 そして、ユウイもフィロソフィアへと一気に接敵していく。
「あなたは、あなたも、守りたいのですか」
 ユウイの問いかけに対し、メイドは何も答えない。ただ近付いてきた猟兵達を排除すべく銃口を向け、其処から呪いを解き放っただけだ。
「その思いを、私は見たいのです」
 ユウイは咄嗟に白蓮の刃を構えて呪弾を受け止める。其処に巡る衝撃は重かったが、耐えたユウイは身構え直す。
 どのような形であっても、彼女を倒すことに変わりはなくても、その思いも取りこぼさずに持っていきたい。そんな思いを抱くユウイは真剣だ。
 澪はユウイの背をふんわりと見つめ、謳函の力を解放していく。
「さあ歌いましょー……」
 途端に箱型ガジェットに組み込んだ歌声が戦場に響いていき、聞く者の力を増幅させる援護になっていった。クーヴェルシュイユは澪から受け取った力が漲っていくことを感じつつ、暴食のフォークを振るっていく。
「気をつけて、またあの銃弾が――」
 くるわ、とクーヴェルシュイユが告げる前にフィロソフィアが銃爪を引いた。
「まとめて片付けてさしあげます」
 其処から放たれた銃弾は幾重にも広がる。だが、即座に動いたマナコが身体をボールのような球体に変えて対抗した。
「このお部屋ももう必要ないですよね」
 部屋の中をピンボールよろしく跳ね回り、銃弾を柔らかな身体で受け止める。
 痛みはない。呪いによって起こされた痺れはあったが、この程度ならば耐えられると感じたマナコは仲間に向けられた銃弾も受けていく。
 大丈夫かい、と問いかけたケビには平気だと答え、マナコは敵に狙いを定めた。
 激しい体当たりで以て反撃としたマナコ。
 その動きに感心を覚えたケビは背から掌を解放し、フィロソフィアに呼びかける。
「君もなかなか働き者のようだがそろそろ休憩はどうだい? 君の主人だって、君の働きには休息がふさわしいと感じているに違いないよ」
「いいえ、ソフィは休むわけにはいきません」
 しかし彼女は首を縦に振ろうとはしない。そうかい、と溜息をつくような仕草をしたケビは次の攻撃に備えて掌を大きく広げた。
 そして、其処へユウイが迫る。
 フィロソフィアに指先を向けると、天からの光がその身を貫いた。其処に出来た隙を狙い、ユウイは剣で相手を切り付ける。
 ――私の体で隠せるものを、少しでも増やせるように。
 ――もし、あなたが話してくれるのであれば聞き落とさないように、近く。
 そう思って敵との距離を開けずに戦うユウイだが、フィロソフィアは「御主人様の為に」といった言葉しか紡がない。
 どうしてそれほどに勉学に拘り、強要するのか。
 その答えはきっと終まで聞けないだろう。ケビもマナコもそう感じていた。
 おそらくフィロソフィア自身も分かっていないのだ。災厄の魔となった彼女はただ、この世界を破滅に導くよう動くのみ。
 澪は謳函の力を広げ続けながらフィロソフィアを見つめる。
「道理にも、主の意に沿わない仕事をするメイドさんはー……たぶん、怒られるだけ、ですねー……。まあ、相容れないので、あくまで戯言ですが……」
 オブリビオンは骸の海へ返すべき存在だ。
 澪が抱く思いは変わらない。最後には全て水先案内する対象であり、このメイドもまた眠りに付いてもらう他ない。
「――排除させていただきます」
 そして、フィロソフィアは恭しく礼をすることで己の力を強めた。
 されどユウイがすぐさま白蓮で振るい、その腕を切りつける。例え災魔が強化されようとも動く前に攻撃すればいい。
 だが、鋭い視線を向けたフィロソフィアは痛みに耐えながら銃口を頭上に向けた。
 何をするのかとクーヴェルシュイユが首を傾げる。
 次の瞬間、天井に向けて放たれた銃弾が雨のように降り注ぎはじめる。
 ユウイの身を呪いの銃弾が抉り、激しい衝撃がその身に走った。しかしそれは敢えて受けただけのこと。
 動ける程度の損傷であれば避ける必要はない。
「大丈夫、私は人形なのです。恐れないで、怖がらないで」
 そう告げながらユウイは更なる一閃を解き放ちに駆けた。しかし、すぐさまクーヴェルシュイユが悪食の力を振るい、傷口から痛みを摘出してぱくりと食べる。
 降り注ぎ続ける銃弾の雨はケビが広げた掌で防がれた。
 それでも幾つかはケビの身を掠る。じわりと広がる呪いの不快感が巡っていったがケビは耐えた。そうして、次はマナコが彼の身を案じる。
「大丈夫ですか? 苦しいのでしたら無理はなさらずに」
「いいや、構わないさ。今更だからね。とはいってもヤケでは無いよ。沢山の仲間がいれば負ける気がしないだけさ」
「そうですか。それなら私も全力を揮い続けます」
 ケビに頼もしさを感じたマナコは本棚や机を倒し、フィロソフィアが動き辛くなるように仕掛けていった。
 敵の背後を取ったマナコが全霊を込めたアタックを見舞う中、ケビが力を紡ぐ。
「私は走る事も追う事も苦手でね。すこうしその銃を貸しておくれ」
 そういってフィロソフィアの銃をモニタに映し取ったケビは、手の中に銃と実弾を実体化させた。其処から撃ち放つのはこれまで受けた呪弾と同じ力。
「な……これは……!?」
 フィロソフィアが驚き、受けた銃弾から巡る呪いに苦しむ。
 澪は其処に大きな隙が出来たと読み、ユウイも更なる一撃を与えてゆく。澪はゆるゆるとした視線を敵に向け、そっと告げた。
「というわけで、骸の海にお還りくださいー……」
 懸命に主人を思うメイドは甲斐甲斐しい。
 けれどもあの少年を助けて、手紙を読むためにも彼女は倒さなければならない。憐れみを覚えないわけではないがこれが猟兵としての努め。
 あと少し。間もなくフィロソフィアは倒れ、骸の海に還すことができる。
 そう感じた猟兵達は、それぞれの力を最後まで振るっていくことを心に決めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
🐰 千晴くん/f01295
アドリブ歓迎

メイドさんだろうが何だろうが関係ないんだ!
返してもらうよ
ボクと千晴くんのお手紙を!!

パパとママからの手紙、千晴くんのほしい手紙をお掃除なんてさせないんだ
だって掃除されるのはキミ自身だから

空中戦で飛びながら野生の勘働かせ攻撃を躱して
千晴くんの攻撃の隙間をぬって呪殺弾を飛ばすよ
全力魔法で描くのは触れれば爆発して破壊工作する魚の絵さ!
キミごと爆破する
…お手紙は傷つけないようにする

キミが勉強しょうがしまいが関係ない――手紙を返せ
「女王陛下は赤が好き」で囲むように攻撃

さぁ千晴くん
首をはねておしまい!

手紙を読めば零れる涙
パパ、ママ…ボクはしあわせだよ
でも、あいたいよ


霧島・千晴
フレズローゼ(f01174)と
呼称→姫さん

メイドなら主人の意を正確に汲むこったな
愛の名の迷宮に巣食うアンタが、何故他人の気持ちを理解しようとしない

「薙ぎ払え『愚者』。人の心を解さぬ者に慈悲はない」

ブラッド・ガイストを使用し
様々な素材で出来た骨を持つ絡繰道化を組み替え
盾状に固めては敵の攻撃を防ぎ
刃状の腕骨で敵を斬る

……本当は少し感謝してるんだ
両親の言葉に触れる機会を姫さんに与えてくれたこと
だからこそ、遣る瀬無い

「女王陛下の命令だ。首を捧げな」


手紙の内容に目を見開いて数瞬後、無意識に小さくそのフレーズを口ずさむ
かつて母から娘に紡がれた無償の愛の歌
隣で涙する少女は、この歌を覚えているだろうか



●女王陛下と守護の騎士
 巡りゆく戦いの中、目眩く攻防が巡る。
 フレズローゼと千晴は仲間達と協力して立ち回り、フィロソフィアを追い詰めていく。机に突っ伏している生徒は時折、ううん、と呻いていた。
 無理な勉強が相当に身体に響いているのだろう。千晴は肩を竦め、呪いの銃弾を撃ち放つフィロソフィアを見遣る。
「メイドなら主人の意を正確に汲むこったな」
 愛の名の迷宮に巣食う彼女が何故、他人の気持ちを理解しようとしないのか。それはあの存在が災魔でありこの世界を滅亡に導くものであるからだ。
「いいえ、ソフィはメイドとして……」
「メイドさんだろうが何だろうが関係ないんだ!」
 よろめいた敵が何かを言おうと口をひらく中、フレズローゼは語気を強めて首を横に振った。頭上にはずっとぐるぐると廻り続けている文字の数々がある。あれが視界に入る度に、焦燥めいた思いが胸を刺す。
「返してもらうよ、ボクと千晴くんのお手紙を!!」
 パパとママからの手紙を。
 そして、千晴が欲しいと願った手紙を掃除なんてさせやしない。そう誓うフレズローゼに対し、フィロソフィアは淡々とした言葉を紡ぐ。
「邪魔な貴方達を排除致します」
「ううん、掃除されるのはキミ自身だよ」
 そう言い放ったフレズローゼは空中を舞い、跳弾した呪力の弾丸をひらりと避けた。流石は姫さん、とその動きを褒めた千晴は自らも打って出る。
「薙ぎ払え『愚者』。人の心を解さぬ者に慈悲はない」
 その言葉と共に血を絡繰道化に与えた千晴は骨を組み替えていく。フレズローゼへと迫る銃弾を防ぐ時はそれを盾状に固め、攻勢に移るときは刃状の腕骨を敵へ向けてひといきに斬り放った。
「千晴くん、お願い!」
「分かった、姫さんに合わせる」
 攻撃の隙間を塗って呪殺弾を飛ばすフレズローゼ。その呼びかけに答えた千晴はフィロソフィアからの攻撃を更に受け止めに向かった。
 その隙を用い、絵筆を掲げたフレズローゼが描いたのは触れれば爆発する魚の絵。
 キミごと爆破するよ、と宣言した彼女はフィロソフィアをしっかりと見つめた。それでも手紙の文字は傷つけないように、フレズローゼは器用に立ち回る。
 その中で千晴は改めて敵に目を向けた。
 本当は少し感謝している。
 両親の言葉に触れる機会を少女に与えてくれたことを。だが、だからこそ遣る瀬無い。既にフィロソフィアは荒い息を吐いており、倒れる寸前だ。
 フレズローゼは虹薔薇の絵筆を掲げ、其処に己の魔力を注いでいく。
「キミがどんな人でも関係ない――さあ、手紙を返せ」
 凛とした少女の声が響き、辺りに白と赤の薔薇が舞い散った。
 激しく弾けながら侵食する花弁が敵を囲う最中。千晴は冷ややかでありながらも、宛ら忠実なる女王の騎士を思わせるような口調で静かに言い放つ。
「女王陛下の命令だ。首を捧げな」
 そうして骨刃はフィロソフィアの喉元へと差し向けられ――。
 一瞬後。悲しき災魔へと、骸の海に還るという安寧が与えられた。


 ✒ 📩💌📨 ✒

 フィロソフィアは倒れ伏し、その身体が薄れて消えていく。
 やがて、白い部屋の天井に巡っていた文字がゆっくりと下りてきた。
 散らばっていたそれらは元ある場所に帰っていくように猟兵達が持つ封筒や便箋の元にふわふわと落ちていった。
 ばらばらだった文字は意味を成すものへと戻り、手紙になる。
 間もなく目を覚ますであろう学生の元にも文字は還っていっているようだ。
 戦いは終わり、フロアにも平穏が満ちる。
 さあ、後はきみが手にしている手紙をどうするかが問われる時だ。
 
●過去のボクから未来のボクへ

『探し物はすぐ傍に』

 桜雪がひらいた手紙にはたった一言、そう書かれていた。
 それはきっと過去の自分からのものなのだろう。すぐ傍に、と記されているものだから思わず自分の周りを見渡してしまった桜雪だが、此処は迷宮。思い当たるものもなく、本棚や壁が見えるだけ。
 これでやっと何かが分かると思っていたというのに言葉は抽象的だ。
「過去のボク、具体的に何が大切だったか書こう?」
 桜雪は肩を竦める。
 なんだか探さなきゃいけないことが増えた気がする。けれどもそれが自分らしい言葉なのだと思うとほんの少しだけおかしくも思えた。
「大切なモノって、なんだったんだろう」
 ぼんやりと手紙を眺める桜雪はそっと呟く。
 探しものが見つかるまでの道程は、まだまだ遠く長いようだ。
 
●過去の残滓
 迷宮と生徒の未来を脅かす者は骸の海に還り、辺りに静寂が満ちる。
 まどかはまるで雪のように天井から降ってくる文字を目で追いながら、ふとした思いを抱いていた。
 ――あの手紙を、読めるのかな
 脳裏に響く筈も無い聲を想い、まどかは視線を下ろす。足元を一瞥したまどかが見つめたのは灰狼の姿だ。
 何かを言いたげに見上げる灰狼とまどかの視線が重なる。
「ヒトで在ったお前なんて、僕には必要無いよ」
「……」
 そう告げると、その灰色の尾が静かに下がった。其処に宿る感情は推し量ることは出来なかったがまどかは気に留めない。
「導きたい所があるのならば、お前がその四足で先導すれば良い」
 まどかは文字を追う事無く過去の言葉が記された手紙を破り捨てる。そうして踵を返していく彼の後を、灰狼が静かに追いかけていった。
 過去はただの過去。
 今此処にあるものとはもう、違うものなのだから――。
 
●記憶と香

『どうあっても私を愛することはできないと、さめざめと泣く君を
 見ているのが好きだった。その時だけは、私のことだけを考えてくれただろう?
 私の生は君より短い。だから君の記憶を封じて逝こう。私の記憶が君の奥底にこびりついて離れぬように』
 
 馨子に宛てられた手紙の内容は、全く身に覚えがない言葉だった。
「……これは――」
 確かにこの文字はいつかの自分に向けられたものなのだろう。だが、記憶に残ってもいない香りと言葉に感じたのは恐ろしさ。
 自分は何を忘れているのか。
 宮様だけでなく、他にも誰かを傷つけてしまったのだろうか。
 不可思議な思いが馨子の裡で巡る。
 かつて自身の器物に執着した相手を思い出して恐怖する馨子だったが、それよりも自分が全く覚えていないということが怖くて堪らなかった。
 手紙の差出人である『私』とは――。
 言い知れぬ焦燥と不安の中で馨子はそうっと手紙から手を離した。ひらひらと床に落ちた手紙から記憶にない香りが幽かに漂ってくる。
 知らぬ過去に巡る謎。その答えは未だ、此処にはない。
 
●家族の言葉
「やっと終わったのです」
 ねえリリィ、と傍らの槍竜に呼びかけたリティは笑みを浮かべていた。
 ゆらりと舞う文字の雨。
 それらは今、それぞれが持つ便箋と封筒の中に舞い戻ってきている。
「みんなの手紙も戻ってきてよかったのです!」
 ジャンプでも届かなかったぼくの手紙。
 きっと大切な言葉が綴られた、大事な大事な手紙。
 慌てて破ってしまわないようにそっと空色の封筒をひらき、リティはそこに目を通していく。記されているのはあたたかな言葉で、じんわりと涙が出てくる。
 だいじょうぶ? と問うようにリリィが見上げてきたが、平気だと答えたリティは目尻に浮かんだ涙をごしごしと擦った。
「……にいさま……とうさま……かあさま」
 寄り添うリリィに微笑み、リティは家族を呼んでいく。
 手紙の内容は彼女だけが知ること。
 そして空色の手紙を大事そうに抱きしめたリティは目を閉じ、想いを言葉にする。
「……ありがとう」
 
●終わりから始まりへ

『お前は唯一無二の品だ』
 
 解放され、降り落ちる文字は手紙に還り、言葉となる。
 姿見が開いた紙面にはたった一言、硬質な印象を抱かせる文字が記されていた。
「この字は……」
 妙に見覚えがあるように感じるのはそれが懐かしいと思えたからだろうか。姿見はもう一度、手紙に目を通す。
「それに、この言葉。やはり、最後の……」
 抱いた予想が当たっていたことに頷き、姿見は僅かに双眸を細めた。
 終わりの日、戦装束に身を包み家宝の刀を持ち去った、かつての当主の――。その姿を映した己の手を見下ろし、姿見は軽く頭を振る。
「……感傷に浸り続けるわけにもいかないな」
 あれからどれほどの時が経ったのか。手紙を介して過去を省みるのも悪くはないが、今は裡に抱いた思いの方が強い。姿見は顔を上げると手紙を閉じた。
「俺の使命。必ず果たしてみせよう」
 そして、そっと落とした言葉には静かな決意と誓いが宿っていた。
 
●瞳に映す日々

『たくさんの世界がみたい
 たくさんの笑顔がみたい』

 天井から降りてきた文字が形を成し、元の持ち主からの言葉となった。
 手紙をひらいたあやめは懐かしい文字を眺め、残された想いを静かに噛み締めている。これはとても、とても持ち主さまらしい思いと言葉だ。
 あやめは暫し手紙を見つめていた。
「こういうときは泣いていいのかな。笑っていいのかな」
 懐かしくて、嬉しくて、少しだけ悲しい。
 胸に宿る感情をどうしていいかは分からなかったが、あやめの裡には持ち主に伝え返したい言葉が浮かんでいた。
 届かないとは分かっている。けれども、言葉にせずにはいられない。
「――持ち主さま、あたしは今日も世界を巡っていますよ」
 たくさんの世界に咲く、笑顔を見るために。
 
●残された物

『あなたは後で怒るかも。でも、これが私のしたいこと。
 欲しがっていた拳銃をあげる。もう私には必要ないから』

『西は寒いらしい、マフラーを入れて置く。
 撃つのはほどほどにしなくて良い、好きなだけ撃ちなさい。
 それと糖分摂取は欠かさないよう気を付けること』
 
 共に宛名がエレクと記された手紙。
 一通目の差出人はイオ。二通目の差出人は特になかった。
 両方に目を通したエレクメトールはふむふむと頷く。
「イオさんは私に怒られる様な事をしてこの拳銃を渡したと。二通目は親……ですかね? 私の習性を知り尽くしているのはなかなかですね」
 一人は身の危険を感じていたのか。もう一人は父なのか、母なのか。
「駄目ですね、分かりません!」
 考えても答えは出ないことが分かったのでエレクメトールは思考を放棄する。それにきっとまた会いそうな気はする。例えば戦場とかで、と零したエレクメトールは手紙を仕舞い込む。
「私は一人じゃなかった事が知れただけでも御の字ですか」
 手紙は迷宮を出ると消えてしまうらしいが、言葉はこの記憶に確かに残した。
 それに――。
「この拳銃とマフラーが繋がりです」
 元から身につけていた物達にそっと触れ、エレクメトールは静かに頷いた。
 
●愛し子へ

『愛する事を躊躇うな、幸福である事を厭うな。
 どうか自分を信じて笑顔で生きて。
 愛しているよ黒羽、私達のいとしい子』

 雪のように降ってきた文字が、黒羽の手の中の手紙に舞い戻った。
 開いた手紙には父の字と、母の字。
 その言葉と共に思い出したのは笑顔。あの日が訪れるまで存在していた、幸せに満ちた彼の微笑みと、優しい彼女の笑みだった。
「……ああ、そうだ」
 あの人達はこんな風に笑うのだった。
 黒羽は懐かしさを覚え、手紙を見つめ続ける。彼が見ているのは文面だけではなく、嘗ての幸福だった日々の思い出だ。
「――父上、母上」
 その名を呼び、声を震わせた黒羽は静かに俯いた。
 ぱたり。頬から伝い落ちた滴が便箋に滲む。
 けれどもそれは歓びの涙。そして、確かに在った日々を取り戻した証でもあった。
 
●幸福を願うもの

『マイディア。
 今はお父さんと一緒ですか?
 あなたはどうか、幸せに――』
 
「……成る程」
 先ずは手紙の宛名を眺め、クロトは感心する。
 名前ですらないとは予想外であり、意外性として抜群だ。だが、だがそれ以上に気になるのはクロトにとって文面の意味がわからないということ。
 お父さん。
 そう記されてるということは自分の父を知る人物だということだろうか。しかし幸せを願われる相手というのもよく解らないでいた。
 更に、最後に記された文字を見た彼は首を傾げる。
『フローレンス・ホワイト』
 知らない名だ。
 少なくとも、今のクロトにとっては。
「――あんたは、誰?」
 思わず零れ落ちた言葉は文字の波間に消えていく。そして彼の疑問に答えられる者も、今は何処にもいなかった。
 
●愛しき家族
「これが手紙……」
「お手紙、もどってきたねっ」
 文字が巡り、ヴァーリャが仕舞い込んでいた手紙に帰ってきた。
 オズと共に頷きあった少女は胸を高鳴らせながら封を開け、その文面に目を通す。

『大事な大事な妹
 お前は僕の心の支えだった。
 お前のお陰で僕は絶望せずここまで生きてこれた。
 どうかお前は……』

 その言葉を見た瞬間、脳裏に声が響いてきたかのように思えた。それは錯覚であることも分かっている。それでも、ヴァーリャの瞳には涙が溢れてきていた。
「お兄さん……」
 記憶は戻っていない。だが、懐かしくて愛しいと感じた気持ちはきっと嘘ではない。オズ達に背を向けたヴァーリャは涙を見せないよう俯き、手紙を抱き締めた。
 こんなに悲しいけど、嬉しい。
 こんなにも、ああ、こんなにも――。
 肩を震わせるヴァーリャの邪魔をしないよう、オズも手紙を開いてみる。
 
『みんなご覧。
 新しい家族が増えたんだ。仲良くしておくれ』

 オズの目に飛び込んできた言葉は確かに、やさしいおとうさんからの言葉だ。
 あったかくて、うれしくて、胸がふわふわする。
 オズはシュネーを抱き上げてから頬を寄せ、双眸を緩めて微笑んだ。
「うん、かぞくだ」
 だいじょうぶだよ、おとうさん。
 なかよく、たのしく、わたしはここで生きているよ。
 届かない言葉だと分かっていても、オズは手紙の返事を胸の中で紡いだ。
 やがて涙を拭いたヴァーリャも顔をあげてオズとシュネーに向けて明るい笑みを浮かべてみせる。どんな内容だったかなんてことはお互いに最後まで聞かなかったけれども、その言葉が嬉しいものだったということだけは分かった。
 欲しかった言葉は、この胸の中に。
 大切な想いと共に――。

●空腹のことば
(:]ミ (:]彡 (:]ミ (:]彡

「……? へんなの。文字が、ぬれたみたいに滲んでる」
 クーヴェルシュイユの手紙には文字が泳いでいた。
 それは言葉通りの意味ではない。優しく綴られた字が不思議と潮に滲むように読みとれなかったから、そう思えただけのこと。
 それは遠い昔、自分ではない誰かに宛てられた恋の言葉たち。けれどもクーヴェルシュイユには何であるかが解らない。
「ちがうわ」
 そして、クーヴェルシュイユは気が付いた。
 滲むのは自分が泣いているから。
「どうして? さっきよりずうっと熱くて、からからなの」
 頬を押さえたクーヴェルシュイユは自分で零した疑問に自ら答えを出す。
 ――ああ、きっと。きっとおなかが、すいてるんだわ。
 さいわいの味を、教えて。
 そしてきっと、たぶん。自分はこれを読むことを望んでいなかった。手紙に花唇を近付けたクーヴェルシュイユは口付けをするようにそっと食む。
 そうして、少しだけ思い出す。
 海の底の内緒の遊び場。
 そこで見つけたのは、小箱にたいせつに秘められた古い手紙。
「それを読んで、わたくしは――」
 きゅう。
 不意にお腹が鳴き、何かを紡ぎかけたクーヴェルシュイユは我に返った。
 ほろにがいのは、きっと涙。首を横に振ったクーヴェルシュイユはぽつりと零す。
「ほんとのお料理が食べたいわ。わたくし、ヤギさんじゃないのよ」
 おなかはまだ、すいていた。
 
●宇宙の記憶

『忘れないで 覚えていて 思い出して』

 マナコは暫しじっと金色の文字を見つめる。
 手にした便箋に綴られていたのは、記憶に残っていない言葉。
「これは……、私宛へのお手紙なんですよね」
 確かめるように口にしたマナコの声には疑問が混じっていた。
 忘れず、覚えて、思い出す。その三つの言葉は大切なことなのだろうか。しかし、肝心のマナコ自身が何の心当たりもないままだ。
「いやはや、……申し訳ないです」
 申し訳無さそうに少しだけ肩を落とし、マナコは手紙の主を思う。
 いつか何処かで、誰かに掛けられた言葉。
 それすらも解らないまま、文字だけがはっきりと此処に現れている。
「何処の何方か存じませんが、あなたの願いも虚しく、忘れてしまったようです」
 私は、と小さく零したマナコは黒い封筒に手紙を仕舞い込んだ。
 それでもこれは自分が求めていた言葉なのだろう。実感は湧かないが、マナコはきっとそうなのだと思うことにした。
「そうですね、せめて思い出せるように――これからは少しばかり気にかける事に致しましょう」
 マナコはちいさな思いを抱き、黒い封筒をそっと撫でた。
 
●星と勇魚
 降る、降る、文字が降る。
 雨のように、雪のように、天井から下りてくる数々の言葉。
 それらを眺めたケビは自らが懐に仕舞い込んでいた封筒を取り出す。皆の手紙がそうであるように、其処にも文字が流れ込んできていた。
 ケビは少しだけ考え込み、首を横に振る。
「そうだね、……読む事はやはり止めておこう」
 きっと苦しくなるだけさ。
 彼女を思い、言葉を裡に押し込めたケビはすこうしだけ便箋をずらしてみる。
 其処には懐かしい筆跡の宛名書きがあった。
 これが見られただけで十分だと自分を律し、ケビは封筒を頭上に掲げた。すると手紙の文字はふたたび魚の形になって迷宮内を泳ぎはじめる。
 ふわふわと浮かび、悠々と書架の波間を游ぐ魚を見送り、ケビはウムウムと頷いた。そして、戯れに思う。
 自由で気儘に見える文字の魚のように自分も少しだけ泳いでみようか。
 星くじらの名を抱く、あの場所で――。
 
●飴玉の記憶

『なにひとつ、消えたりしない』

 ユウイが手にしているのは、たったそれだけが書かれた手紙。
 その筆跡は、きっと昔の自分のものだ。
 散らばっていた文字から手紙に戻った言葉を暫し見つめ、ユウイは思う。
 これは過去の思い。
 なにひとつ落とさずに、全てを抱えていられたころの――私の知らない私。
 今は覚えていない、遠い過去のこと。
 けれどもひとつだけ分かったことがある。自分には過去や記憶と呼べるものがあったのだということ。言葉が文字として現れたのならば、きっとそうだ。
 あったと信じなければなくなってしまうもの。その欠片が今この手の中にある。手紙は迷宮を出れば消えてしまうけれど、今の自分が確かに記憶した。
 ――いつか、戻らなければ。
 ユウイは静かな思いを巡らせ、そっと顔をあげる。
 その瞳の奥には、彼女しか抱くことの出来ない過去への思いが宿っていた。
 
●歯車と羽

『面倒がらずに励め』

 澪が読む手紙に綴られた文字は、相変わらずの癖字が躍っている。
 便箋に何か色々書いてあるのかもしれないと思いきや、たった一言だけが記されているだけだった。だが、その人を知る澪にとって懐かしいものでしかない。
「……やー。あの人らしいですけど、もっと何かないんですかねー……」
 確かにそうですけど、と澪は瞼を瞬かせた。
 ふあ、と欠伸をひとつ。
 澪は読み終わった手紙をゆっくりと頭上に掲げる。すると其処から癖字の文字が飛び出して、ふたたび魚の形になっていった。
「やっぱり……かわいんですがー……よたよた、ふらふらしてますねー……」
 手紙を持ち出せば消えてしまうらしいが、こうして魚に戻すならばきっとこのまま言葉は泳ぎ続ける。
 署名代わりの歯車付きの羽。
 懐かしいあの印が見れたことが今回のちいさな収穫だろうか。きっとこれでいい。そんなことを考えながら、澪はこくりと頷く。
 そうして澪は図書館の方に泳いでいく文字の魚を見送り、ひらひらと手を振った。
 
●どうか、倖せな道を

『しあわせにおなりなさい』

 探して、飛んで跳ねて、戦って、やっと手に入れた手紙にはそう記されていた。
 決して長くはない短い言葉。
 けれど、フレズローゼにとって何よりも望んだ父と母からの言の葉だ。
 きっと生まれたばかりのときに掛けてくれた想いなのだろう。その声も、向けてくれていたはずの笑顔も思い出すことはできないが、嬉しくて堪らなかった。
 手紙の両端を握り締めたフレズローゼは肩を震わせる。
 自然に零れ落ちる涙。
 溢れていくのは嬉しさと――それから、寂しさ。
「パパ、ママ……ボクはしあわせだよ。でも、」
 あいたいよ。
 止まらない涙を拭うことも忘れて、フレズローゼは両親を想う。
 その背中をそっと見つめ、見守る千晴も手紙をゆっくりとひらいていく。
 視線を落とし、目で追う文字。其処に綴られていたのは懐かしくもあたたかい、少女の母である歌姫の紡ぐ歌の一節だった。
 
『おゆきなさい あなたの道を』

 内容に千晴が目を見開く。
 しかし数瞬後、彼は無意識に小さくそのフレーズを口ずさむ。その声を聞いて顔をあげたフレズローゼは振り向き、千晴を呼んだ。
「千晴くん?」
 歌は止まない。千晴は思い出せる限りの音に言葉を載せて歌う。
 フレズローゼはその声と歌に耳を澄ませて目を閉じた。記憶に残っているかと言えばよくわからないが、聴き覚えのあるメロディのような気がする。
 それはかつて母から娘に紡がれた無償の愛の歌。
 隣で涙する少女はこの歌を覚えているだろうか。千晴は何も聞かぬまま、涙を拭いながら自分の歌を聞く少女に優しい眼差しを向けた。
 この歌が大切なものだということ。
 そして、彼が自分を元気付けてくれていることはフレズローゼにも分かる。
「ねえ、千晴くん」
「何だ、姫さん」
 もう一度フレズローゼが千晴の名を口にすると、彼も少女を呼び返す。
 えへへ、と笑った彼女は涙を拭うと甘く蕩ける蜂蜜のように甘く微笑んだ。
「ありがとう」
「ああ。どういたしまして」
 交わされる礼と返答。短い言葉ではあるが互いの間に巡る感情は快い。
 そうして二人は手紙にもう一度目を落とし、過去から送られた大切な言葉と歌をしっかりと胸に刻んだ。
 
 ✒ 📩💌📨 ✒
 
 愛しき君へ、愛しき貴方へ。
 大切な言の葉が巡る文字迷宮のお話は、これでおしまい。
 いつかの過去から届いた言葉を未来に活かすのか、それとも古きものだと封じて記憶の奥底に秘めるのか。それとも――。
 その選択もまた、きみ次第。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月19日


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#アルダワ魔法学園


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
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 苦戦🔵🔴🔴
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 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は錬金天使・サバティエルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト