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壊れた心で狂って笑う

#ダークセイヴァー #同族殺し


●強襲は狂笑と共に
 仄暗い空の下、黒い粉が舞う。笑い声が響く。
 夥しい数の少女のオブリビオンを、尋常ならざる暴力が駆逐していく。
 品位もなく、目的もなく、衝動もなく、殺戮が続く。
 笑い声と肉を切る音が高く、遠く響く。
「…なんなのよこれ」
 洋館の窓ガラス越しにそれを眺め、舌打ちをする。
 領主は予想だにしていなかった。
 武装蜂起した領民の襲撃は想定していた。
 猟兵とかいう邪魔な連中も想定していた。
 どちらもどうということはない。が、しかし。
「いかれ女め…!」
 同族の強襲は、一切考えていなかったのだ。

●仮初めの共闘
「ダークセイヴァーでおかしな事が起きているの」
 パナシェは集まった猟兵に御機嫌よう、とお辞儀を一つ送るとそう言った。
 ふわふわと浮かぶグリモアが、机の上に映像を描く。映るのは豪奢な洋館。
 その周りに、異常な数の少女のオブリビオン。
「この子達は館の警備さんなの。数がとにかく多いのよ」
 強大な力こそ持たないものの、猟兵とはいえ易々と手を出せない程の肉の壁。
 しかし、おかしいというほどのことはないように思えるが。
「ううん、おかしいの。だってこの館は、既に攻め込まれているの。
 それも、領民さんや猟兵にじゃない。
 とっても強いオブリビオン一人に攻め込まれているわ」
 なるほど妙だ、と頷く猟兵の顔を見て、パナシェはにこりと微笑んだ。
「でも、これはチャンスなの」
 猟兵でも易々と手を出せない領主の根城を、単身襲うオブリビオン。
 その強襲に乗じれば、館に住まう領主まで刃が届く公算は高くなる。
 敵の敵は味方、という訳か。
 誰かがそんな事を言うと、パナシェは首を横に振る。
「彼女は自分を無くしちゃってる。
 会話も出来ないわ。連携もできないわ。
 邪魔な物を切って、切って、進むだけ」
 理由はわからないが、領主を滅ぼすという意志だけで動く壊れたオブリビオン。
 彼女は完全に狂っているのだとパナシェは言う。
 目的を果たした後、彼女がなにをするのか、何も読めない。見えない。分からない。
「だから、怖いの。とても怖いわ」

「猟兵。パナシェのお願いは2つよ」
 1つは、領主のオブリビオンの討伐。
 1つは、狂えるオブリビオンの討伐。
 二本の指を立てて、パナシェは猟兵たちの顔を見渡して、にこりとまた微笑む。
「あの怖いオブリビオンたちを、どうかやっつけて」


長井休
 初めまして。新人の長井休と申します。
 記念すべき一作目はダークセイヴァーの物語です。

 第1章は、物凄い数相手の集団戦になります。
 通常ならば相手することが不可能なほどの数です。
 しかし今回は1人の狂えるオブリビオンが、その数を異常な速度で潰していきます。
 邪魔さえしなければ、攻撃もしてこないでしょう。邪魔をすること、特に戦闘を仕掛けることは推奨されません。

 第2章は、領主のオブリビオンとのボス戦です。
 からくり人形の少女の姿をしています。
 一筋縄ではいかない扇動の魔力を持ったオブリビオンです。
 第1章と同様に、狂えるオブリビオンは邪魔さえしなければ無害です。
 どう使うか、あるいは使わないか、猟兵の判断に委ねられます。

 第3章は、狂えるオブリビオンと対峙する事になります。
 規格外に強敵なオブリビオンですが、それまでの道程次第では弱体化している可能性もあります。

 暗闇に覆われたダークセイヴァーに、ひとすじの光を。
 どうかお願いいたします。
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第1章 集団戦 『混血の落とし子』

POW   :    落とし子の牙
【自らの血液で作られた矢】が命中した対象に対し、高威力高命中の【牙による噛み付き攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    血の盟約
【主人である吸血鬼に自らの血を捧げる】事で【黒き祝福を受けた決戦モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    落とし子への祝福
【邪悪な黒き光】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
👑11
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●血煙と、殺戮と、狂笑と
「もーいーかい?」
それは落雷のように見えた。
恐ろしいほどの速度で、少女達を灰に変えていく。
「まーだだよ?」
それは猛炎のように見えた。
認識を捨て、差別なく、あらゆる命を飲み込む。

ざくり、ざくり。
「ウフ、ウフフフ」
少女のオブリビオン達は、絶命の声を上げる
ぶすり、ぶすり。
「ウフフ、アハァ」
壊れたオブリビオンは、むせ返るほどの血を浴び、笑う。
耳鳴りのように高く、高く笑う。
「ハハ、ハハハ、ハーッハッハ!」

血煙が上る殺戮と狂笑が響く戦場に、猟兵が降り立つ。
蘆名・徹斎
単騎で敵陣に乗りこむとはなかなかやりおる……が、正気でないことは確かだな。
ちと妙な状況ではあるが、全員斬るという目的は単純で良い。腕が鳴るな。

狂人に近づくと碌な目にあわんからな。距離を置きつつ、あやつの手が回らない敵を斬るとしよう。
やられる前にやるのが我が信条でな……【先制攻撃】で先の先をとる。【秘剣・無影閃】でまとめて斬り伏せようぞ。
矢を射られても【武器受け】で弾けばよい。矢くらい落とせなくては剣客の名が廃るというものよ。


ルード・シリウス
コイツはまた随分とぶっ飛んだ奴だな
…まぁいいさ、パーティーは派手な方が楽しいし盛り上がる
それに…お楽しみは最後まで取っておくものだろ?

狂った奴から離れた場所で戦う…というより、コイツが派手に動くなら、それを利用して不意を突きながら戦わせて貰うか
外套と靴の能力を駆使して音と気配を殺し、存在を消して紅刃で背後から首を掻っ切っては次の獲物へ移る様に動いていく。また、距離が離れてるなら簒奪銃で頭を狙って射撃
その際、狂った奴の動きを見切りながら範囲に入らない様に留意

固まっているなら、【黒獣爪牙】で周囲の獲物を暴食する様に攻撃。姿を捕捉されたら残像を囮にして意識を逸らし姿を消す
使えるものは何でも活用するさ



●開幕の砲音
 笑う狂戦士の戦いを見て、降り立った猟兵達は素直な感想を口々に吐露する。
「単騎にて乗り込むとは…なかなかやりおる」
 四刀を背負い、己が身の在り方を武と定める剣豪、蘆名・徹斎(兵法天下一・f21815)は顎に手をやり頷く。
 強者を追い求め、武の境地に至らんとする徹斎にとって、オブリビオンの単騎駆けは感心に価した。
「あぁ、随分とぶっ飛んだ奴みたいだな、アイツは」
 横に並び立つルード・シリウス(暴食せし黒の凶戦士・f12362)も同様に興味を示す。
 最も、目を見張る程の武力を見受けてはいても、二人の至る答えは同じになる。
「…が、正気ではないのは確かだ」
 狂気。
 戦場に響き渡る笑い声がなによりもそれを示していた。
 二人の目の前で続く殺戮。悲鳴と笑い声がないまぜになる不快な音に、耳を塞ぎたくもなる。
「まぁいいさ。パーティーは派手な方が面白い」
 この戦況にあってなお、ルードには余裕も見て取れる。
 いささか血の匂いが濃くても、彼にとってはパーティーに繰り出すのと同じようなもの。
 少々の手の柔軟の後、簒奪銃「呪骸」のボルトを引き、構える。
「うむ、それに全員斬るという目標は単純で良い」
 ルードが銃を構えた様を見て、くくっ、と喉を鳴らし徹斎も背負う刀に手を伸ばす。
 これからあれ等と切り結ぶと思うと、嫌でも気分が高揚するというもの。腕が鳴る。
 『無銘』。手に馴染む感触は正に愛刀と呼ぶに相応しい。
「わしは先の先を取りに行く」
「なら俺はお前とあいつを上手く使うさ」
 目線を合わすことなく、最小限のミーティングを終えると二人は獣のような笑みを浮かべた。
 直後。徹斎は殺戮の嵐の進路より外の少女の集団へと、餌を求める獅子の如く駆けだす。
 それはルードが少女のオブリビオンの頭に照準を合わせ引き金を絞るのとほぼ同時。
「さぁ、パーティーに混ぜてもらおうか」
 狂笑と悲鳴の最中に、乾いた開幕の砲音が鳴った。

●天下一の兵
 突然、仲間の頭が吹き飛んだ。あの笑い声の主じゃない。
 ターン、と遅れて音が響く。その間にもう一人、また一人。
 何事かと周囲を見渡す。右、左、仲間がいる。もう一度。右、左。仲間が、いた。
 首が落ちる者。血の花咲かす者。足を失い倒れ伏す者。
 なんだ。なぜだ。まだあの恐ろしい笑い声はずっと向こう。
 これはあいつの攻撃なのか。違う。先ほどの頭が吹き飛ばされた仲間。そして今。
 別の敵だ。
 警戒しなければ。血を流し矢を作る。手を掲げ、周囲に目を凝らす。
 右、左、後ろ、上。なお響く、あのけたたましい笑い声。あぁ、五月蠅い。うるさい!
 どこだ、どこにいる。見えざる敵は、どこに。
 この間にも、仲間たちが次々と死んでいく。あぁ、くそ。くそ!
 ふと、少女は見覚えのあるものに気づく。服。体。掲げた腕。そして、あるべきところに、ない。
 気づいてしまった事で、まるで高速で夜が降りてくるように。少女の意識は途絶えて消えた。

「やられる前にやるのが我が信条でな」
 徹斎は、最早数えきれない数のオブリビオンを屠っていた。
 その様は狂笑のオブリビオンにも引けを取らない程の速度で、死の風となって戦場を駆ける。
 愛刀にねっとりとこびりついた血を払い、今一度戦場を見渡す。
「しかし、多いな。お主らは」
 口の端を釣り上げる。徹斎を認めた少女たちが放った矢の雨を前にしても、彼は獣のように笑う。
 何十、何百と降り注ぐ血の矢の雨に、番傘ならぬ『無銘』を掲げて露を払う。
 剣閃が煌めく度に血の矢は瓦解し元の姿になり、もう一度煌めけば、周囲一切の少女が斃れ、黒い粉へと姿を変えて霧消する。
「悪いが手加減はできない。しかし…この数はやはり多い」
 今一度、『無銘』にこびりついた血を払い納刀する。妖剣の類なら血も吸ってくれるだろうか、などと思いつつ。
「多いが、多いだけなら」
 ドンッ、と地に響くほどの踏み足を抜いて、少女の集団の中を抜ける。
「わしの剣は止められん」
 キンッと鍔が鳴れば、零れるように少女たちの首が落ちる。
 秘剣・無影閃。
 影も残さぬ剣の閃きは、狂笑響く戦場であってなお一切の乱れもしない。
 天下一の兵ここにありと、誰でもない徹斎の笑みが謳っているようだった。

●凶つ戦士の黒き暴食
 狂笑のオブリビオンの非人間的で暴力的な殺戮と天下一の兵の硬軟織り交ざるような死の旋風に、少女たちのオブリビオンは困惑していた。
 その困惑の中を駆けるルードは、どこまでも冷静に仕事をこなしていく。
 遠距離からの「呪骸」による狙撃では、敵の殲滅を目標としてる今の状態にはそぐわない。
 狙撃は正に初弾。効果を確認できた彼が次にとった手段は、存在感を極限まで落とすことだった。
 幻影の外套。彼の身に纏うコートには隠密の術式が込められている。
 加えて、音無しの靴は一切の足音が立たない。狂笑が常に響く戦場においては、最も効果を発揮していた。
「(あれだけでかい声出してりゃ普通の靴でもどうにかなりそうだな)」
 一人。また一人と、少女のオブリビオンの首を確実にかき切る。少女は何が起こったのか理解できず、ルードの姿すら認められないまま黒い粉になる。
 気が付けば、ルードの周りにいる少女たちは彼が思うよりもその数を減らしていた。
 頼りになる猟兵の一助もあるが、影から影への移動には難がある。
 そう思った矢先、少女の集団がルードに気付き仲間を呼び寄せて血の矢を作り、一斉に放つ。
 何十という血の矢の雨は、一斉にルードのその身を刺し貫いた。かに思えた。
 確かにそこにいる筈なのに、全ての血の矢は彼をすり抜け、大地に刺さると元の血へと姿を変えた。
「お前、運が悪いな……」
 声がした。だがどこからか、その出所がわからない。まるで頭に直接語り掛けられているようで。
「そこは俺の領域だ」
 ドスッ、と何かを突き立てるような音が短く響くと、認識出来ない速度で風が少女たちの間を駆け抜ける。
 わずか見えたそれは、黒い風のようだった。まるで舐めるように、風は彼女たちを幾度も叩く。
 これは一体何、そう考えるより先に、少女たちは絶命する。
 風に吹かれ、少女たちだった黒い粉が晴れるとそこには突き立てた剣を引き抜くルードが立っていた。
「悪いな、俺も、俺の剣も、暴食で悪食なんだよ」
 少女の集団がかき消え、周囲の戦力を落とすことに成功した。
 今一度、存在感を消して別の集団を―――と、思考を始めた直後に、気づく。
 遠くない。あの声が。あのけたたましい笑い声が、近い。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●狂い、笑う
「範囲には入らねぇようにしてたんだがな…」
 総毛立つようなおぞましい殺気を受け、暴食剣「神喰」を構える。どこだ、どこまできた。
 後ろじゃない。横じゃない。前じゃない。ならば、と。顔を上げようとしたその時にはもう、目の前に現れていた。

 ――とても静かだった。まるで最初からそこにいたかのように、それは空から降りてきた。
 ルードの心臓が大きく跳ねる。それは恐怖とは全く異なる感情。
 ――血に塗れてその身は真っ赤だった。見開いた瞳の白が、不気味に浮かんでいるようだった。
 恐怖とは、回避出来る状況にのみ生まれる。危険を示す信号。
 ――両手に持つ剣と槍は、血がこびり付いていた。それらをゆっくりと、彼女は構える。
 死の予感。死ぬことが分かった。今目の前のこれは、極上の死刑宣告だった。
 ――真っ赤な顔に、真っ赤な三日月が浮かぶ。笑顔。そう呼ぶには、あまりにも。

「ルード!後ろだ!」
 徹斎の声でルードは我を取り戻す。オブリビオンの少女が、牙を立てんとルードの真後ろまで迫っていた。
 舌打ちをし、振り返り剣を構えようとした瞬間に、少女の顔に槍が突き立っていた。
 見えなかった。見えない程の速さで、槍を振るっていた。
「クククゥ、ウフフ、ウフハハ」
 振り返ることができない。それは、段々と大きな声で笑い始める。
「アーッハッハッハ!まーだだよー!」
 一際大きく笑い声をあげると、一瞬のうちに声が遠のく。
 そしてまた、戦場には狂笑と悲鳴が響き渡る。
 駆けつけた徹斎は、奴がいたことには気づいていなかった。斬り合いの最中、たまたま目に入った為声をかけたのだ。
 ぼたり。重い汗が一筋、ルードの頬を伝い落ちる。
「……まぁいいさ。お楽しみは最後に取っておくものだ」
呟きは狂笑に消え、同時に、ルードの姿もまた戦場に消えていった。
キキ・ニイミ
『てぶくろ』で連携。

幾らオブリビオンとは言っても、仲間同士で争っているのを見るのは嫌だな…
なんて言ってる場合じゃない。
とにかく今は目の前の敵に集中しないと!

遥さんが「心の一方」で敵の動きを封じたところを、「アニプラズマショット」でどんどん攻撃していくよ!
卑怯な気もするけど、これだけ数が多いと形振り構ってられないし…
「アニプラズマショット」一つ一つに【オーラ防御】でオーラを纏わせて攻撃力を、更に【念動力】で【操縦】する事で速さと精密性も上げておくね。

それにしてもあの狂ったオブリビオンは何で仲間を…?
理由は知っておきたいな。
戦うしか道が無いのなら…せめて相手の全てを受け止めてあげたいから!


如月・遥
『てぶくろ』で連携。

敵とはいえ、仲間同士で殺し合ってるところを見るのは余り気分の良いものじゃないね。
さっさと終わらせないと。

「心の一方」による【催眠術】で敵の動きをどんどん止めて、キキの「アニプラズマショット」で攻撃してもらおう。
卑怯っちゃ卑怯だけど、これだけの数が相手だと手段は選んでられないからね。
あの狂ったオブリビオンも気になる事だし。

もし可能であるなら、「幽体離脱」で『生霊』を出して、あの狂ったオブリビオンに一瞬だけ憑依させて記憶を読み取らせてみようかな。
なぜ仲間である領主を攻撃するのか分かれば、この先有利になるかもしれないからね。
ただ少しでも彼女を刺激しそうなら、すぐに中止するよ。


木常野・都月
オブリビオンも仲間割れするのか。
猟兵になって日が浅いからか…初めてみた。

彼らに何があったか分からないけれど、オブリビオンにも複雑な事情があるんだな。

両方とも倒すのなら、楽をして双方の消耗を待つ…

というのが、賢い狐のやり方…だと思う。

俺は、自分に降りかかる火の粉を払う程度で、基本は傍観したい。

[野生の感]で、敵に見つかりにくい場所を探して、そこに隠れて眺めていてもいいと思う。

向かってきた相手に対しては、[高速詠唱]を使った火の[属性攻撃]で対応する。

数が多いようならUC【狐火】を使うけれど…出来ればあまり派手に立ち回りたくない。

数が多くて対処しきれない時だけ、最低量のUCに頼るようにしたい。


フォルク・リア
「確かに。これは狂気と言うのに相応しい
戦い、いや殺戮か。」
理由は分らないが(理由等ないのかもしれないが)
この好機、十分利用させて貰うとしよう。

侵入者のオブリビオンとは距離を取って
戦い方を観察しつつその付近には攻撃しない。

敵集団、出来るだけ密集している箇所に
【範囲攻撃】を併用した真羅天掌を発動し、
吹き飛ばし属性の突風を発生させる。
そして、敵を侵入者の方向へ吹き飛ばして戦わせる。

位置取りには注意して出来るだけ効率的に
吹き飛ばせてかつ、侵入者の侵攻を妨害せず
侵入者と付かず離れずの場所を確保。

敵の攻撃には【残像】で攪乱したり
【オーラ防御】で軽減して対応。
敵に囲まれたら一方の敵を吹き飛ばして脱出。



●賢狐は戦場を観察す
「(オブリビオンも仲間割れするのか)」
 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は、目の前の戦場を見て思う。
 猟兵になってから日が浅い都月には初めての光景だった。
 オブリビオンを殺すオブリビオン、その理由を知る術はない。
「まぁ、オブリビオンにも複雑な事情があるんだな」
 さて、と一息を吐いて。都月は戦場の観察を始める。
 都月は最終的に全てのオブリビオンを倒すのなら効率的に、と考えていた。
 お互いが潰し合うのであれば、消耗するまで待てばいい。
 これが賢い狐のやり方。多分、きっと。
 故郷の森で生きてきた上で身に付いた勘を頼りに木々が茂る小高い丘を見つけ、そこに身を潜めていた。
 傍観。それが都月の選択した行動だった。
 しかしこれは功を奏すことになる。
 狂笑が響き血煙が上るこの戦場を俯瞰した都月だからこそ、分かる。
 無秩序に只管まっすぐ館へと殺戮の道を進んでいるように思っていた壊れたオブリビオン。
 実際は違う。彼女は、戦場に在る全ての少女のオブリビオンを駆逐して回っている。
 その動き方はまるで、なにか探しものをしているような姿にも見えた。
 不意に動きを止めた彼女は、笑うことを止めて、一足飛びに空を駆けた。
 降り立った先には、少女のオブリビオンの襲撃に気付かぬ猟兵がいた。
 驚くべきことに狂ったオブリビオンは、その猟兵を助け、そして笑い声を上げてまた飛び去った。
 奇妙な行動だ。しかしそれは、目に付く全てを殺戮している訳ではないという事の証左でもある。
「……同族殺しか、狂った理由か、なにか関係があるのかな」
 それが分かったところで、現状ではあれに近付くことは危険でしかない。
 賢狐はそれを重々理解し、観察を続ける。
「(戦闘は降りかかる火の粉を払う程度と考えていたけど、この分ならその必要も無さそうだ)」
 と思った矢先の事だった。
 先ほどの猟兵とは違う二人組が、狂気に近付く。
 揺れていた尻尾の毛先まで、悪寒が走る。
「…やれやれ、勘が働いた」
 野生の勘が告げた、死の予感。
 傍観を決めていた都月は、エレメンタルロッドを携え戦場へ飛び込んだ。

●その優しさは狂気に届くか
「敵とはいえ、仲間同士で殺し合ってるところをみるのはあまり気分のいい物じゃないわね」
「そうだね…うん、ボクもそう思う」
 狂笑響き渡る戦場に降り立った二人の女性は眉を顰める。
 如月・遥(『女神の涙』を追う者・f12408)とキキ・ニイミ(人間に恋した元キタキツネ・f12329)は、強い信頼で繋がっている。
 種族という枠を越え結ばれたその絆は強い。
 だからこそ、同族同士で殺し合う様を見ているのは、不快な気分にもなる。
 とはいえいつまでも、眺めているわけにはいかない。
 少女のオブリビオンたちの数は、最早脅威と呼ぶほどの数ではなくなった。
 ならば一気呵成にここで片付けるべきだろう。
「とにかく!今は目の前の敵に集中しないと!」
「えぇ、さっさと終わらせないとね」
 パタパタと尻尾を揺らしながらキキに声をかけられて、遥は微笑みを一つ返す。
 緩めた口元を結び直し、襲い掛かってくる少女達に目を向ける。
 少女達は、自らの血を領主のものである大地へと捧げ、その身をおぞましい怪物へと変容させる。
 在るべき姿が変わる。その様子を見ると、キキは少しだけ辛そうにキュウと喉を鳴らす。
 その姿は似ても似つかないが、自分と重なるものがあったのだろうか。
 遥は、そんなキキの頭にぽんと手をやり、また微笑む。
「さぁ、始めるわよ、キキ」
「…うん!やろう、遥さん!」
 信頼しあう二人は短いやり取りを終えると、即座に戦闘態勢へと切り替える。
 怪物じみた速度で襲いかかる少女達。対するは、遥。少女達の牙が、爪が、いま正に届かんと迫る。
 パキン。
 指と指とが跳ねる短い音。それは遥のフィンガースナップ。
 その短い音が響いた途端、少女達は固まる。
 精密な蝋人形がそこに現れたかと思う程の、完全な硬直。
 それは遥のユーベルコード。二階堂平方・心の一方。
「またの名をすくみの術。いわゆる瞬間催眠だよ」
 それはどんな相手であろうと金縛りにかける事が出来る超常の技。
 ただの一挙動で、遥は周囲にいる少女達全ての時を切り抜いた。
「流石遥さん!あとはボクに任せて!アニプラズマショット、いくよ!」
 ピンと耳を立てると、キキはその精神力を研ぎ澄まし、手を伸ばす。
 パリパリと音を立て、稲妻を帯びた球体がキキの周囲に浮かびだす。名をアニプラズマという。
 それはアニプラズマの操作の基礎。しかし、研ぎ澄まされた基礎は、必殺にまで昇華される。
 放たれたアニプラズマは稲光は炎の尾を引き、少女達を次々と貫いていく。
 炎は燃え盛り、黒い粉が舞うその様は、響く狂笑もあいまりさながら地獄の様相を呈していた。
「もう大分片付いたかな?」
「うん、そうだね。となると…」
 延焼していたアニプラズマの炎を鎮火させるキキの呟きに、遥は答える。
 その目が追うのは、もう僅かになった少女達をいまだに屠り続ける、あの少女。
 何故、どうして。気にかけてしまうのは、生来の人の良さからか。
 この笑い声に、あの殺戮に、意味を求めて遥は精神を研ぎ澄ませる。
「遥さん!?」
 驚いたキキの目の前に、ぼんやりとしたもう一人の遥が出現した。それは、生霊。
 遥であって、遥ではない。五感を共有するそれは、あの壊れたオブリビオンへと向かう。
 彼女のことを少しでも知ることが出来れば。そんな想いから。
 遥の優しさは、狂気に届くか。

●少女達は、黄泉へと導かれる
「確かに…あれは狂気と呼ぶに相応しい戦い…いや、殺戮か」
 目深に被ったフードの奥から、狂笑を上げるオブリビオンを見つめる一人。
 フォルク・リア(黄泉への導・f05375)は、この戦場をそう評価した。
 何故あれほどの狂気と暴力を振るうのか、興味は尽きないが答えはないかもしれない。
 考えたところで詮無きこと。ならば、状況を利用させてもらう。
 フォルクは狂えるオブリビオンと一定の距離を保ち、干渉を避けて、されど離れず戦場を駆ける。
 この戦場の最も効率的な立ち回りは、彼女に少女達を屠ってもらうことだろう。
 尋常ならざる人数だった少女達がこの短時間で殲滅しかけているのは、彼女の、彼の功績が大きかった。
 少女達の集団を、フォルクは自身の魔力と自然の力を作用させ誘導をさせ続けた。
 狂えるオブリビオンの進路にいなかった少女達に、フォルクは詠唱を伴うユーベルコード、真羅天掌を放つ。
「大海の渦。天空の槌。琥珀の轟き。平原の騒響。宵闇の灯。
 人の世に在りし万象尽く、十指に集いて道行きを拓く一杖となれ」
 詠唱は、突風となり顕現し、殺戮の舞台へと少女達を導く。
 自らが屠るのではなく、迫り来る攻撃には魔力による防御を張り、直接の戦闘を避けていた。
 数多の戦場を駆け、冷静に現状を分析した上でのその行動は、大成功と呼ぶに相応しい戦果を挙げていた。
 気が付けば、狂笑は止んでいた。
 少女達は、あと一集団を残し、全滅していた。
 最後の時だからか、狂えるオブリビオンは狂笑をやめたのか。
 一定の距離を保ち続けていたフォルクは、ここで初めて距離を取る。
 彼女は剣を振り上げ、一薙ぎの元に少女達を屠る。
 この瞬間、難攻不落と思われた戦場に静寂が訪れた。
 少女達の完全殲滅がここに成った。
「(…この後、こちらへ攻撃なんて展開はごめんだが…)」
 警戒をしながらも、フォルクはその目深に被ったフードの奥の視線を逸らさない。
 共通の敵と戦っていたとはいえ、あれは味方ではない。ましてや、まともではないのだ。
 そして警戒していたフォルクだからこそ、気付けた。
 それは羽衣のように存在が希薄な力。
 飼育員服に身を包んだ姿をしたその力の塊が、狂えるオブリビオンへと迫っていた。
「な…っ!」
 不味い。
 あれとの戦闘は今するべきではない。
 そう思った時にフォルクは駆け出していた。
 今ここで起きたあの殺戮を、あの凶行を、あの狂騒を、引き起こしてはいけない。
 間に合え、間に合ってくれ。そう願いながら、フォルクは再び黒杖を構えた。

●壊れた心
 静止したオブリビオン。今までの狂笑が嘘のように、彼女は動きを止めた。
 館を見上げ、口を開き、まるで金縛りにあったかのように。
 遥は、その様を好機と見て己が生霊を彼女へ重ねる。
 その狂気の深淵を、理由を、原因を知りたかった。
 生霊が彼女へ、身を重ね憑依した瞬間、雷に打たれたように遥の脳裏に映像が走る。
 それは断片的で、情報としてはまとまりがない。

 領主。自分。領民。宝。守る。誰を。領民を。
 領土争い。危険。だが、負けない。私は強い。
 領民。無力。守る。私は、あの子達の、領主。
 燃える村。泣く子供。死せる人々。何故。何故。何故。
 かくれんぼ。何故。どうして。不意打ち。何故。何故。
 いやだ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
 ―――死。否。殺す。

「遥さん!!」
 瞬間、遥の意識がその身に戻る。遥は、キキの腕に抱かれ大地に伏していた。
 自分が立っていたその場所には、槍が、突き立っている。彼女は、私を見ていなかった。
 ぶわっ、と全身から汗が吹き出る。死にかけたからではない。
 次の挙動が全く読めないから。だから、怖い。それに今見えたあの映像は。
「燃えてしまえ」
 狂えるオブリビオンとの間に壁を築くように、炎の柱が上がる。
 その正体は狐火。
 悪しき予感を察知した都月が、咄嗟に気付いた苦肉の壁だった。
「なにしてんの君たち、早く逃げるよ」
 唐突に現れた都月はキキと遥の手を引いて立ち上がらせる。
 攻撃さえしなければ、邪魔をしなければ攻撃をしてこない。
 これを攻撃と認められなければ、きっと。
 瞬間。凄まじい突風が三人の身体をオブリビオンから遥か遠くへと吹き飛ばす。
 その先にいたのは目深にフードを被った青年、フォルクだ。
「大丈夫か、三人とも」
 間に合った。フォルクは咄嗟の判断で誘導に使っていた真羅天掌を仲間の救助に使用したのだ。
 すかさず視線を彼女へ向ける。炎の柱が壁となりその姿を伺う事が出来ない。
 警戒を解かず、四人は炎の柱を見つめる。すると、再び、あの声が響いた。
「ウフフ。ウフフフ、ウフハハアハハァ」
 その声は段々と大きく、高く。
「アハハァ!アハハハハ!もーいーかーい!?」
 ドンッと大地を揺らす程の衝撃を伴い、その身体が飛び上がる。
「もういいよ!もういいよ!もういいよ!アハハハハハ!」
 狂えるオブリビオンは、より狂気の滲んだ声を上げ、洋館へと飛び込んでいった。
 そして、静寂が訪れた。
 少女達も全て消え、まるで何事もなかったかのように、空には月が煌いていた。
 肺に溜めていた空気を吐き出し、猟兵達は武装を解いた。
 だがしかし、まだ終わっていない。
 戦うのだ。あれと。あれが目指す、オブリビオンと。
 これから始まる激しい戦いの予感に、二人の狐の尾は、ゆらゆらと風に揺れていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。随分と混乱しているようね。
このまま乱戦に紛れて狩っていくのも良いけど、
それだと共食いしている敵が視えなくなる…か。

“血の翼”を広げ空中戦を行い“写し身の呪詛”を展開
存在感のある残像を囮に第六感が殺気を捉えたら離脱するよう心がけ、
吸血鬼化した自身の生命力を吸収してUCを二重発動(2回攻撃)

…方針は一撃離脱。この一撃に全力を込めるわ。

火属性の魔力を溜めた両手を繋ぎ“炎の結晶”を形成
傷口を抉る炎の暴走は火炎耐性のオーラで防御
結晶内部で爆縮を繰り返した“炎の核融合”による爆発を放ち、
地上を火属性攻撃でなぎ払い敵軍を一掃する

…刮目して見よ。新しい星の光を…。

広域殲滅呪法。天地を焦がせ、赫焉の星…!



●赫焉
 時は少し前に遡る。
 それは四人の猟兵が直面した死を退けるより前。
 二人の猟兵が、開幕の砲音鳴らすよりも少し前。
「…ん。随分と混乱しているようね」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、予知を受けて誰よりも早くこの地へ降り立っていた。
 それは狂笑が響き渡り、少女達の悲鳴が上がり始めた時だ。
 戦況はまさしく混乱の一言に尽きる。
 まるで一つの国とも思えるほどの少女達を相手に、狂えるオブリビオンは刃を振るっていた。
 その強さは数多の世界を戦い歩いてきたリーヴァルディにとっても唸るほどのものだった。
「まるで嵐ね」
 血煙が立ち上り、黒い粉が舞う。
 ともすれば絵画に描かれるような風景だが、その実は殺戮の地獄。
 乱戦に紛れるのも悪くないかと考えたが、視界を失いあのオブリビオンを見失うリスクは見逃せない。
 ならば、と。
 リーヴァルディが両手を広げると、その背中に血の翼が展開する。
 空中戦による範囲攻撃。
 対軍団戦において最も効果を発揮する戦略をリーヴァルディは取った。
 大地には自らの分身とも言える残像、写し身の呪詛を放ち、少女達の囮とすることで、狂えるオブリビオンの戦闘領域から外す。
 その両手は赤々と輝き、鉄をも溶かすほどの高熱を帯びていた。
「……限定解放。テンカウント」
 両の手を繋ぎゆっくりと、その手を開く。その手には、まるで宝石のような炎の結晶が生まれていた。
 高熱にして危険。その小さな欠片は内部で幾度もの爆縮を繰り返す。
 痛々しくその手を炎に焼かれながら、リーヴァルディは魔力を研ぎ澄ます。
「吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに」
 詠唱を終えると、炎の結晶はより一層赤く、熱く、輝く。
 炎による核融合。禁忌とされるほどの魔力を操り、今術式は完成に至る。
 それはまるで、日の光が闇に射したとも錯覚するほどで。
「…刮目して見よ。新しい星の光を…」
 両の手に収まりきらぬ程の神々しさすら帯びるその炎の結晶を、大地へ。
 それは小さな欠片だが。
「広域殲滅呪法」
 大地に放たれる事で、天をも地をも焼き尽くす炎となる。
「天地を焦がせ、赫焉の星!」
 キン、と。結晶が跳ねる小さな音。
 連なり、轟熱と爆音、逆巻きに落ちる滝のように、炎の柱が天へと登る。
 周囲一帯の少女達の一切を、骨も塵も残さぬほどの熱波が奔る。
 やがて土煙も晴れ、大地を見下ろせば、国一つほどの数がいた少女達はその数を半分にまで減らしていた。
 赫焉。
 赤はやがて闇の帳を再び降ろし、程なくして戦況は再びの混乱を見せる。
「……一撃離脱。何度もは出来ないわね」
 耐性があるとはいえ、その手の傷を抉るような炎の傷跡は痛々しい。
 後は他の猟兵に委ねよう。
 次は、本丸。領主のオブリビオンに、狂えるオブリビオン。
 一切の過去を、彼女は断つ。
 狂える理由も、殺戮の理由も、全て。知る必要すら、リーヴァルディには無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『災禍の操り手マルタメリエ』

POW   :    異神臨繰・結末ハ神ノ手ニ(デウスエクスマキナ)
対象の攻撃を軽減する【姿なき異端の神に操られるからくり人形】に変身しつつ、【敵さえ操りかける呪詛の声】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    『嫉妬は泉の如く』……ほら、敵がでたわよ……?
【扇動された民衆の増援】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    『憎悪は焔のように』…悔しいよね!?憎いよね!?
【弱者の怒りをはやし立てる声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 ※

 誠に勝手ながら、プレイングは第2章OP公表の後にお願いします。

 ※
●災禍と狂気
 少女達の集団を殲滅し終え、洋館へと飛び込んだ狂えるオブリビオン。
 猟兵達はその様を見送り、一先ずの合流を果たしていた。
 これから戦うのは、この地を治める領主のオブリビオン。
 扇動の力を持つと聞くが、果たして。
 すると洋館を見つめていた猟兵達の目の前で、驚くべき事態が起きる。
「アーッハッハッハ!もういいよ!もういいよー!」
「うるさいうるさいうるっさいなこのいかれ女がー!」
 轟音を伴い、洋館が爆発し、その一部が吹き飛ぶ。
 そして飛び出す、二つの影。戦場に再び、狂笑が響き渡る。
 狂えるオブリビオン、そしてもう一人。
 それはまるで、ただの少女のようにも見えて。
「はぁ、はぁ…あぁ?あんた達なに?」
 漆黒の美しい髪を一度かきあげ、凶悪な目つきで睨めつける。
「…あぁ、猟兵。あんたらが。そう、そうなのね」
 片手に握り締めたうさぎのぬいぐるみが、不気味なほどひしゃげる。
 怒り、憎悪、敵意。様々な悪感情がない交ぜになった、殺気。
 ガリガリ。ガリガリガリ。
「…はぁ、あー、腹が立つ。私が何したって言うのよ。何なの、あんた達も、あれも」
 ガリガリ。ガリガリガリ。
 髪をかきあげていた指はいつの間にか、頭を掻く仕草へと変わる。
 苛立ちを匂わせるソレは、次第に大仰になり、異常なほどの仕草に変わる。
 離すその華奢な指には、髪と、頭部の肉片がこびり付くほどで。
「…もう、死んでちょうだい。お願いよ。本当の本当にお願いよ」
 心の芯に響くような、重い声。
 暫くすると、猟兵達は周囲の異変に気付く。人。人だ。
 静寂の訪れた戦場に、一般人が、一つの村の規模の人数ほどが駆けてきた。
 彼らは少女を守るように囲み、敵対の意思を見せる。
「…ほら、敵ができたわよ」
 かぶりを振り、黒髪をたなびかせて少女は。
「…こいつらは命がけで私を守る、私はこいつらが死んでも構わない」
 ふと見れば、狂えるオブリビオンは狂笑をやめていた。
 村人達を見て、その表情はくしゃくしゃに、ぐしゃぐしゃに、明らかに。
 動揺をしていた。
「…正義の味方さん達は、どうするのかしらね?」
 少女――災禍の操り手マルタメリエは、妖艶に微笑んで見せた。

 ※※※
 特殊ルール
 マルメタリエは、村人達を肉の壁にして攻撃を阻みます。
 村人は一般人なので、問題なく排除できるでしょう。生死は成否に関係ありません。
 しかし、村人を殺害すると狂えるオブリビオンの攻撃対象になります。
 その場合、マルメタリエと狂えるオブリビオン両者を相手にする事を前提になります。
 当然、難易度は上昇します。
 村人に出る被害の数が少なければ、次戦の狂えるオブリビオンの弱体化に繋がります。
 猟兵の皆様、どうぞ賢明な判断を。
蘆名・徹斎
民を人質に取るとは考えおったな。あの狂える者も手出しは出来ぬ様子……訳ありか。
わしとて罪のない者を斬るのは抵抗がある……いや本当だぞ?

この状況を打開する策がないわけでもない。わしの【秘剣・黄泉送り】を少女に当てることができれば、民たちを解放することもあるいは……。問題はいかにして人垣を越えて少女に刃を浴びせるか。

ふむ、周りを民で囲んだとて頭上の守りは完全ではあるまい。
人垣の前まで来たら民の攻撃を【残像】を残して回避。攻撃が当たったと油断しているうちに【ジャンプ】で人垣を飛び越え少女を斬る、【だまし討ち】作戦と参ろうか。


ルード・シリウス
外套と靴の能力を用いて音と気配を殺し、存在を影に景色に溶け込ませる
同時に、同族殺しの動向を見極めつつ、村人を掻い潜る様に這い寄る様に進みながら、死角となる位置取りを取り標的へ接近
過小評価するつもりは無いが、能力で扇動されてるとはいえ一般人、認識出来なきゃ意味が無い。それに…直接張り付いてしまえば守りも無意味だ
標的の能力に対し、紅刃用いた【暴食呪刃】の一撃を首筋に突き立て阻害。
一撃叩き込めたら、すぐさま残像を囮に置いて、溶け込む様に離脱

(狂笑と共に)もう良いかい?まーだだよ…ってな
正義の味方だと思ったのなら、おめでたい頭してるぜお前
あと、“俺達”にとっての『獲物』はお前だけだ


木常野・都月
正義を名乗る気はないが…これは…

見た限り…村人を無力化すれば、当初の目論見通り敵双方の消耗戦に繋がりそうだ。

しかし…それは村人の無力化が大前提。
出来れば無傷で。
村人は何人いる?
俺に出来るのか?

でも…発狂側の強さは見た通り。敵同士の消耗戦は必須に思える。

なら…守る必要ない村人を守るしかない。
最善は尽くす。半ば神頼みだけど。

村人を可能な限り眠らせ無傷無力化したい。
全員無力化すれば猟兵側が致し方なく殺す事はないはず。

風の精霊様の力で[範囲攻撃+全力攻撃+気絶攻撃+催眠術]を。

寝ない村人はUC【雷の足止め】で対処。

敵からの攻撃は…村人からの攻撃が無い前提で[カウンター+野生の勘+オーラ防御]で凌ぐ。


フォルク・リア
随分と惨い事をしてくれる。

村人の安全を最優先で行動。
村人達の前に立ち
「大人しく引いてくれるなら
危害を加える事はない。
…が、その積りもなさそうだな。
少し痛い思いをするかもしれないが。
我慢してくれよ。」

重い傷を負わない様に手加減した【衝撃波】で
【気絶攻撃】を仕掛け
抵抗できなくなった人から
香夜胡蝶乱舞で中の空間に保護。
残った村人には【範囲攻撃】の【催眠術】で
抵抗しない方が。
安全である。幸せである。楽である。
等と暗示をかけて、香夜胡蝶乱舞で中に保護し
【気絶攻撃】と【催眠術】を使い分け
村人の安全を図る、
戦闘は基本的に侵入者のオブリビオンや仲間に任せるが
マルタメリエを良く観察し
村人に危害が及ぶなら庇う。


リーヴァルディ・カーライル
…ん。数を減らす為とはいえ、無理をし過ぎた。
この手だと武器を握れないし…致し方ない。
今の私でも、彼らの相手なら務まるはず…。

敵の精神攻撃は呪詛耐性と気合いで耐えて、
第六感が捉えた存在感や殺気を残像として暗視する事で、
敵の行動を先読みして回避しつつ【血の魔線】を発動
生命力を吸収する呪詛を宿した目立たない無数の魔糸で民衆を拘束する

手を使う必要が無いの。魔力で編んだこの糸は…。

殺しはしないわ。ただ、生命力をいただくだけ…。

…後は無力化した民衆や他の猟兵の傷を見切り、
吸収した生命力を溜めた【血の聖杯】をなぎ払い、
自身や彼らの傷を治療する

…これで終わり。貴女がどんな存在であれ、私のすべき事は変わらない。


キキ・ニイミ
『てぶくろ』で連携。

まずは操られている村の人達を何とかしないと。
正直使いたくはないけど、ボクにも洗脳や魅了が出来るUCがある!

「チャーミングアタック」による【誘惑】【挑発】で村の人達を魅了し、そのまま【操縦】で操って【救助活動】で避難させるよ。
これだけの人数を一気に魅了するのは難しいけど…遥さんの「サモニングティアーズ」のバフがあれば何とか!
それと同時に領主が避難する村の人達を攻撃しないよう、遥さんの「心の一方」とボクの【念動力】で領主の動きを封じておくね。

それにしても狂ったオブリビオンは何であんなに動揺を…
何にしても一つ分かった事がある。
オブリビオンにも…守りたい大切なものがあるんだ…


如月・遥
『てぶくろ』で連携。

あ、危なかった…
人の心を覗き見ようとした罰が当たった訳か…
キキ、都月君、フォルク君には、後でちゃんとお礼しないと。

それはともかく、今はあの村人達を何とかしないとね。
キキの「チャーミングアタック」で村人を魅了して避難させたいけど、流石にあの人数を一気に魅了するのは厳しいか…
なら「サモニング・ティアーズ」を、この場にいるキキにそのまま使ってパワーアップさせるよ。
後は領主が避難する村人を攻撃しないよう、キキの【念動力】と私の「心の一方」で領主の動きを封じるね。

あの記憶の断片…
あの狂ったオブリビオンこそが、本当の領主だった…?
もしそうなら、尚更あんな奴(現領主)には負けられないね!



●悪辣なる醜態
 奇妙な構図だった。
 少女の姿をしたオブリビオン、それを守るように囲む村人達。
 対峙するのは七人の猟兵。そして、一人の狂えるオブリビオン。
「正義を名乗る気はないが…これは…」
 都月は、マルタメリエの築いた肉の壁を見て言葉を漏らす。
 正義と自ら名乗る気はない。とはいえ、この状況。
 効率的に戦況を判断すれば、自ずと選択肢は絞られる。
「民を人質に取るとは考えたな。が、しかし…」
 皮肉の滲む感心。徹斎が眉根を寄せて嫌悪を零す。
 武の一文字を心に抱く者として、弱き者を盾にする様は不快に映る。
 ちらりと狂笑のオブリビオンを見遣れば、変わらずの直立不動。
 村人達を見てからの彼女は明らかに今までと違う。
「訳ありか」
「そうだな」
 徹斎の呟きに、都月が言葉を続ける。
「(見た限り…村人を無力化すれば両者の消耗に繋がりそうだ)」
 賢い狐は冷静に状況を分析していた。
 今でこそ大人しくなった彼女だが、先ほどまでの殺戮の記憶は濃い。
 当初の目論見通り、オブリビオン同士の消耗戦は必要だろう。
「随分と惨い事をしてくれる」
 フォルクの心に灯る火は、怒りを火種に燃えていた。
 力無き人々を導いてこその領主。
 領主の名の下に民草の命を壁に使う事など許される道理はない。
 その一方で、リーヴァルディは湿った溜め息をつく。
 非道の防壁を見た呆れと、両手のじくじくとした痛みを吐き出すように。
「(これでは武器を握れない…けど、彼らの相手なら今の私でも)」
 あの愚かな領主への道を拓く術を心に描き、リーヴァルディは魔力を放つ。
 それは次第に糸の形を象っていく。
「遥さん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、キキ」
 唯一狂えるオブリビオンの心底を覗いた遥を、キキは心配そうに覗く。
 微笑みを返す遥は、狂える彼女の中にこの狂乱の原因を見ていた。
 あの記憶の断片は、きっと。
「なら尚更、あんな奴には負けられないね!」
「うん!ボクも…使いたくはないけど、対抗する手段があるよ!」
 新時代サーカス団「てぶくろ」。掌の温もりを守る名を冠した二人は、改めて闘志をここに燃やす。
「正義の味方ねぇ」
 コキリと首を一つ鳴らして呟くのは、ルード。
「そう考えてるんだったら、おめでたい頭してるぜお前」
 肉の壁越しに、災禍の少女を挑発する。
「…そう。そうなの。お前達も悪く言うのね、この私を」
 ガリガリ。ガリガリガリ。
 少女はぶつぶつと、怒りを吐露する。
「…もういい。もういいわ。お前らも、あいつも、みんな」
 ガリガリ。ガリガリガリガリガリガリ。
 重たい隈をぶら下げた瞳を伏せながら、頭を掻く。掻き毟る。
「…殺す。殺すわ。殺してあげる」
 ブツッ、ブツッ。
「だから死んで。死んでよ」
 ブチブチと音を立て、なにかが引き毟られる。
「死ねよ!!殺せ!!お前ら!!」
 月の光に紫の照りを返す髪を握り締め、手近にいた村人をマルタメリエは蹴り倒す。
 それを引き金に狂笑が再び響き、狂える少女は肉の壁へと飛び込んでいった。
 猟兵と領主と狂笑、三つ巴の滅ぼし合いの火蓋が切って落とされた。

●魔術師のアンサンブル
「(やるなら村人の無傷は大前提、俺にやれるのか?)」
 エレメンタルロッドを握る手に熱と、少しの湿り気が篭る。
 合理を好む思考を持っている都月は逡巡する。
 縁も所縁もない村人を救う必要は、本件に大きな関わりはない。
 だが、あの狂った殺戮の化身の動揺を見るに、軽視は出来ない。
 合理的ではないが、野生の勘がそう告げた。
 だから救う。本意か合理かは自分でも分からないが、救わねばならない理由が在る。
「同じ考えのようだな」
 都月の様子を見て、フォルクが声をかける。
 フォルクもまた村人達の安全を最優先にこの防壁を攻略せんと考えていた。
 その芯にあるものは都月とはまた異なるが、行き着く先は同じ。
「どうかな。俺は最善を尽くすだけ、神頼みだよ」
「頼む神がいるのなら、それは幸福な事だろうね」
「ハッ!」
 軽口を互いに叩き合う猟兵をアルタメリエは一笑に付す。
「…お優しい事ね、猟兵。救う気なの?これを?無意味なのに?」
 一言一言が呪詛のような、響く声。ともすればカリスマ性とも取れるだろう。
 力なき民衆が、猟兵を嘲る領主の声に凶暴性を瞳に滲ませていく様を見れば、異能と呼べる悪態であることが直ぐに分かる。
 フォルクは、そんな村人達の前へ歩を進め、観察する。
 見るに、村人達には明確な意識はなく、催眠状態である事が見受けられた。
「大人しく引いてくれるなら危害を加えるつもりはなかったが…」
 話して通じる状態ではない。ならば、やはり。
「少し痛い思いをするかもしれないが我慢してくれよ…リーヴァルディ」
「えぇ、分かったわ」
 スゥ、と闇から染み出してくるように、リーヴァルディの双眸が村人へと向けられる。
 コキン。コキン。
 小気味の良い音は、村人の両手首が急速にかちあった音。
 続けて目の前の数人の村人が、つんのめるようにして転がる。
 月の光が僅かに照らすのは、村人を縛る魔力で出来た、赤い糸。
「手を使う必要がないのよ、これはね」
 魔糸。自身の魔力で編まれた糸を彼女は意のままに操る。
 都月とフォルクのやり取りの間に、既に仕込みは果たされていたのだ。
「殺しはしないわ。ただ、生命力を戴くだけ…」
 淡々と告げると、リーヴァルディは糸を介して村人達の生命力を奪っていく。
「…それは攻撃なんじゃないのか?」
「ちゃんと返すから大丈夫よ」
 都月の言葉に、表情を変えず答える。
 それと同時に村人達は一斉に三人に襲い掛かる。仲間をやられた、と思っているのか。
「なら次は、俺だ」
 エレメンタルロッドを構え、都月は精神を研ぎ澄ます。
 中でも足の速い村人が人波を抜けて迫り来る事に対し、掌を構え、願う。
「雷の精霊様、足止めを!」
 疾ッ、と短い稲光が大地を走り、抜きん出た村人達に電撃が走る。
 痛みを感じない速度の接触ではあるが、村人達の動きを止めるにはその一瞬で充分だった。
 ユーベルコード:雷の足止め。文字通り、都月は足止めに成功する。
「その翅に虚ろなる瞬きを宿せし夢幻の蝶」
 ふわり、ふわりと緑が舞う。よく目を凝らせば、翡翠色の蝶であることはすぐに分かった。
「その燐光に触れし者を常夜へ導け」
 蝶は、倒れ伏した村人や足止めを受けた村人に次々ととまっていく。
 すると、蝶の触れた村人の姿が一瞬で吸い込まれるように消えてなくなる。
「【香夜胡蝶乱舞】、彼らは今最も安全な場所へ導いた」
 フォルクは、ユーベルコードの空間へと村人達を運んだ。これで戦いが終わるまで彼らは、安全に過ごせる。
 人を目の前で消したという行為が奴にどう映ったかというのが、懸念点だが。
 ちらりと狂えるオブリビオンの方に目を遣る。
 あぁ、あれはなんだ。なんということだ。
 あれほどの殺戮を行った者が、圧倒的な強さを見せていた者が、無抵抗に暴力に晒されていた。
 決して強敵ではない、むしろ、非力な村人に殴られ、得物で裂かれ、血を流し、涙を流していた。
 それは敵であると分かっていても、捨て置けない光景だった。
「やめておけ。あれはあれで、俺達の望む結果に繋がる」
 助太刀を入れようと杖を構えたフォルクを、都月が諌める。
 結局は討伐する。であれば、今彼女を救う理由は義憤でしかない。
「…分かってる。避難させるだけだ」
 ぽう、と翠の蝶が再び現れ、壊れた彼女を襲う村人達を胡蝶の夢へと誘う。
 強力な催眠状態に陥った彼らは、一人また一人と安全な空間へと吸い込まれていく。
「お優しいことね。まぁ、いいけど…限定解放」
 リーヴァルディは、興味なさげに呟き、詠唱を始める。
 気が付けば手には、赤で満たされた杯が握られていた。
「傷ついた者に救いを…血の聖杯」
 詠唱を終えると、杯に満たされた赤は脈動を感じさせる生気を放つ。
 それを自身と仲間、身動きの取れなくなった村人へと一息に浴びせる。
 それは生命力の雫。たちどころに仲間や村人の傷は癒え、自身の両手をも再生を果たす。
「…はぁ?なにそれ。偽善?偽善なの?」
 汚い嘲笑を乗せた重い言葉が、再び響く。
「…多少は傷つけるけど、治したからチャラってこと?ハッ。マッチポンプって言うのよ、それ。下劣な正義だこと」
 マルタメリエは、酷くつまらなそうに吐き捨てた。
 人質を盾に、苦悩する猟兵を見れる愉悦を損なった領主は、大いに機嫌を傾けた。
「…さっきも言ったが」
 その一言に、一歩踏み出す。揺れる尾の先、耳の先。その感情を伺い知るのは難しい。
「正義を名乗る気はない」
 ゆっくりとエレメンタルロッドを構え、マルタメリエに向ける。
 何かが来る。その予感に、マルタメリエは身構え、一層肉の壁を厚くする。
「…俺はね」
 ずぶり。
 それは意識を逸らせる為の計。
 エレメンタルロッドに注視した領主は、肉の壁より届いた刀の一刺しを受ける。
 領主が声に鳴らない悲鳴を上げるれば刀は引き抜かれ、ピュンとその血を振り払う。
「不意打ちは、やはり浅いか」
 兵が、領主を捉えていた。

●二心一体、白蛇が鳴る
「アアアァアア!!!」
 マルタメリエは咆哮を上げる。
 痛み、屈辱、怒り、嫉妬。声からにじみ出るその黒は、声だけでこの戦場を塗り潰さんとするほどで。
「殺す!どいつだ!お前か!?お前かよ!?」
 周囲の村人を見境なく、叩き、蹴り、踏む。
 気に入らない玩具を壊すように。上等な料理を台無しにするように。
 感情的に、無作為に。暴れる彼女を誰が領主と敬おうか。
「酷い!あの人たちを操ってその上痛めつけるなんて!」
 キキは、その耳と尻尾をピンと立ててその振る舞いを糾弾する。
 隣に立つ遥も、その意見に肯定の頷きを返す。
「そうだね、キキ。あんな行為は見過ごせない」
 それに、と。
 洗脳された村人達に襲われ、抵抗もせず、血と涙を流す彼女。
 命の危機ではあった。でも、あの光景。あれは、もしかして。
「…尚更あんな領主に負けてられないね!」
 パンッと拳を掌で叩き、気合を入れなおす。
「オブリビオンにも…大切なものがある」
 それは、同情というには傲慢だった。けれどキキの優しい心は放っておくことが出来ない。
 なら、今やるべき事は決まっている。
「遥さん!先ずはあの村人さん達を助けてあげなくちゃ!」
「その通りだよ、キキ!」
 トン、タン、とリズムを刻むように、二人は意志を統一していく。
 それは二人がここまで築いてきた信頼の厚さの証左になる。
「じゃあ村人さん達を助けるために、何をすればいいか、キキならわかるよね?」
「うん!…え?」
「キキのあれを使えば、村人さん達の洗脳も解けるはず!」
「え?え?遥さん?もしかして…あれ?」
「そう、あれ」
 あれ。それはつまり。
「えぇー!あれ恥ずかしいからあんまりやりたくないんだけど!」
「そうなの?可愛いと思うけど」
「えへへ…いやいや!それにこの人数は流石に無理だよ!」
「大丈夫、私もあれを使うから」
「えぇ、あれ!?」
 あれ、それはつまり。

 リン、と鈴の音が戦場で跳ねる。
 駆ける徹斎は、浅く入った剣ではその効果を充分に発揮できなかったと短く反省をした。
 霊剣『白蛇』。邪気を払い、怨念すらも鎮める鎮護の剣。
 しかと刃が届くなら、マルタメリエの洗脳も払い村人を無力化できると踏んでいた。
 だが、死を恐れぬ手出しの出来ない村人は、想像以上の無敵の壁と化していた。
「わしとて罪のない者を斬るのは抵抗がある…」
 本来ならば。人の壁など切って払って進むのが最も単純。
 しかし、オブリビオンでなければ敵意があるわけでもない相手。
 手前の都合で斬って捨てては、剣も鈍るというものだ。
 どう攻めるか、思案を巡らせていた時。
 徹斎は。いや、他の猟兵も、村人も、マルタメリエも。
 狂笑のオブリビオンは沈黙していたが、その場の全てが驚嘆する。
「…はっは!面白い。わしには出来ぬ業前だな!」
 狂笑の代わり、徹斎が呵呵と笑い声を上げた。

 戦場の誰もが注目している。細々としていても、はっきりと分かる。
 これから行う事は、村人達を救うために必要なこと。だけど。
「キキ!早くみんなを助けましょう!」
 肩に乗せた遥が、叱咤するように声を張る。分かっている。分かっているが。
 キキは、その身の丈を洋館を遥か凌ぐほどに巨大な少女となっていた。
 それは遥の異能。サモニング・ティアーズ。
 ティアーズと呼ばれる変異生命体を巨大化し召喚するその力を、ティアーズであるキキへ。
 あれ、それはつまり。これ。
「恥ずかしがってる場合じゃないでしょう!さぁ、早く!」
 好き勝手なことを、と思いはするが、村人を助けたいという気持ちはキキの中に確かにあり、燃えていた。
 だからこそ。彼らの為に、みんなの為に。
「みなさーん!戦いなんて、危ないことやめましょー!」
 腰を屈め、手の甲を頬にやり、胸元を強調するように。
「そんなことやめて、ボクと一緒に、楽しいこと」
 目元は薄く、声は甘く。可憐さの中に一滴、悪戯心を滲ませて。
「し・ま・せ・ん・か?」
 決まった。キキの能力、チャーミングアタック。あれ、それはつまり。これ。
 アニプラズマの明滅とキキの扇情的なポーズにより、相手を魅了させる異能の技。
 遥の能力と合わさり、その効果範囲は物理的に戦場全域へと渡る。
 三人の魔術師を襲っていた者も、マルタメリエを守る者も、狂える少女を襲うのもやめ、その殆どが巨大な可憐さに心奪われた。
「気になる人は、ボクの足元までお願いしまーす!」
 それはまるで、産まれたばかりの亀が母なる海へと還るように。
 迷いなく、まっすぐに。村人達は、キキの下へと走っていった。

「な…なんなのよ…なんなのあいつは!ふざけてるの!?私を馬鹿にしているの!?」
 マルタメリエは一瞬呆気に取られたが、すぐ我に返り激昂する。
 自分の領民達の殆どを奪われた事実。周囲を守る人間も、心許ない程になった。
「むかつくむかつくむかつく!どいつもこいつも本当に!あぁ!腹が立つ」
 地団駄を踏み、髪を掻き毟る。どうして、どうしてこうなる。
 私の思い通りなら無い。何故、何故。だから人は本当に。
「それはお主の器が足らんということよ」
 怒れる領主の前に立つのは、鈴鳴りを纏わせた剣を構える武人。
 徹斎は、つまらない物を見るように、仏頂面で続ける。
「仮にも主ならば民を虐げるではなく、育むべきであったな」
 プツッ、と切れる音。それは、マルタメリエの怒りの理性の糸。
「あぁ!?もう一度言ってみろ!言え!人間如きがさぁ!この私にさぁ!」
 魅了に囚われず、悪しき領主に従っていた残り少ない村人が武器を手に一斉に徹斎へと襲い掛かる。
 対する徹斎は、欠伸を一つ。退屈そうにそれを迎える。
「死ね!殺せ!」
 ガシャン、ドスッ、ドスドスッ。
 確実に徹斎を討った。マルタメリエは少しだけ、怒りが晴れる思いがした。
 ――リィン。
 鈴が鳴る。肩口から腰骨まで、真っ直ぐな閃きがマルタメリエの体を通る。
 全身から爆発せんとばかりにあった怒りも怨念も、全てが鈴音の下、晴れたように光る。
「一刃で葬ってやろう、と思ったが」
 納刀し、踵を返す。斬るべきは斬った、という宣言。
 秘剣・黄泉送りは本来、オブリビオンのユーベルコードを封じる力を持つ破邪の剣技。
 しかし、この時。白蛇は領主の体を奔り、その悪しき念を断つ。
 鈴の音は、彼女の中に僅か残った、心の染み呼び覚ます。
 溢れる。零れる。それは涙。
 次第に刀傷より滲み出る血よりも早く。ポタリ、ポタリと。
 それは後悔の念なのだろうか。彼女が彼女になるより前の、記憶の洪水なのだろうか。
「ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい…!」
 誰へとでもなく、少女は額を地に付け、謝罪の言葉を繰り返す。
 顔を上げれば、おぼろげに見える領民達の姿。
 既に洗脳は解け、恐ろしいものを見るように、マルタメリエを見ている。
 あぁ。あぁ。手を伸ばし、その手は誰に取られるでもなく。
 あぁ。あぁ。ここで終わる。してきた罪の重さに、潰されながら。
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
「もう良いかい?」
 不意に聞こえた声。
 冷たい、首筋の痛み。
「まーだだよ、ってなぁ?」
 そして今まででいっそう高く、大きく、怖い。
 笑い声。

●罪は情では購えない
 ルードは、一人戦場で領主マルタメリアに一刃を狙い動いていた。
 無音と認識を沈める彼の備えは、確実にマルタメリアへと近付いていた。
 しかし、彼女の周りを固める肉壁は厚く、それこそ隙間を縫うことすらも困難であった。
 舌打ちし、それでも。機会を逃すまいと走る。
 無意識な村人の影から影へ、認識されるより早く、背をあわせるほどに近く。
 だが、それでも好機は訪れない。
 仲間である猟兵達の活躍は目覚しく、村人も次第にその数を減らしていった。
 ならば、どうする。このまま見ているというのは、彼の望む所ではない。
 影から影へと走る中、ドッ、と何かに蹴躓く。
 転びこそしないが、ルードほどの者が気付くことの出来なかったそれは、最早生気を感じなかった。
「……おい、狂笑の」
 返り血で真っ赤だったあの姿。
 恐怖を越え、死を先に感じさせたあの姿。
 戦場にけたたましく狂った笑いを響かせた、あの姿。
 いずれの姿も今の彼女にはない。
 砕かれたのか。片腕は不自然な方向へと曲がり。
 千切られたのか。片足は、歩くことすらままなるまい。
 洗脳され自我がなく。加減の出来ない暴力は、彼女の顔を、腹を、胸を、打ち、斬り、裂いていた。
「お前それでいいのか」
 同情ではない。プライドでもない。なのに捨て置けない。
 しかし道理も理屈もない、許せないことは誰にもある。
 それは、猟兵とて同じこと。
「お前の事情は知らねぇ。だが、そこで寝転がって死ぬのがお前の果てなのか?」
 答えない。
「仮にも戦士のお前は、無抵抗のまま死ぬのが矜持なのか?」
 答えない。
「……何も言いたくないなら、もう聞かねぇ。だがな」
 死を待つ少女に、ルードは背中を向けて告げた。
 その言葉は、虚ろだった少女の瞳に、再び狂える火を灯す。
「そのまま寝てたら、あいつは猟兵が食っちまうぜ?」
 キヒッ。
 産声のような、小さな声を。ルードは背中で受けていた。

 蹲る領主の首に。突然謝罪を始めた領主の首に。
 ルードは真紅の刃を突き立てた。それを咎める者はいない。
 マルタメリエは、意識なくして再び扇動の魔力を発していた。
 同情。憐憫。それは人の心を打つ、儚い強制の言の葉。
 マルタメリア自身、心の底からの謝罪をしていたのは間違いない。
 しかし、そうであったとしても。在り方が歪んでいる。
 だからこそのオブリビオン。骸の海より出でし残滓なのだ。
 突き立てた刃を抜き、扇動の魔術を封じたルードは刃の血を払う。
「正義の味方なんかじゃあなかっただろ」
 ――それは初めから、マルタメリエの前に立っていたかのように思えた。
「あぁ、言い忘れてた」
 ――血塗られた顔面に張り付く三日月は、獰猛にその鋭さを深く刻む。
「『獲物』なんだよ、お前は」
 ――段々と、高く、大きく、恐ろしく、その声が再び響き始める。
「“俺達”にとってはな」

 悪しき罪は、情けで購えず、死を以ってなお、償えない。
 一人の領主の死を、喜ぶように、悲しむように、笑い声が響く。
 狂笑は、いかなる罪を背負って響くのか。
 知る術はない。必要ない。
 悪しき領主は滅ぼされた。そして。
 オブリビオンと猟兵が残った。

 それが、今ここにある事実だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『狂笑戦姫ダエナ』

POW   :    不死者殺しのクルースニクと絶死槍バルドル
【どちらか片方の武器による必殺の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【もう片方の武器による致命の一撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    追想の果て
戦闘用の、自身と同じ強さの【嘗て共に戦った灼滅者】と【嘗て戦ったダークネス】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    夢の狭間
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【無数の光の鎖】が出現してそれを180秒封じる。
👑8
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誠に勝手ながら、プレイングは第3章OP公表の後にお願いします。
●心
 その領主はオブリビオンでありながら、領民を愛していた。
 その領主はオブリビオンでありながら、領民から愛されていた。
 その領主はオブリビオンでありながら、善き領主であった。
 その領主はオブリビオンであったから、その在り方は過ちであった。
 その領主はオブリビオンであったから、守るべき領民が弱みと見抜かれた。
 その領主はオブリビオンであったから、だから、その全てを、失った。
 笑うことで、狂うことで、殺すことで、満たされようとした。
 愛する領民を奪った存在、オブリビオンを殺そう。沢山殺そう。
 殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺せば、満たされる。
 しかし、幾度の殺戮を重ねても、幾度の塵殺を重ねても、満たされない。
 殺しても、渇き。殺しても、飢え。殺しても、殺しても、止まらない。
 その心はとうの昔に壊れていた。

●その狂笑は、まるで
 マルタメリエが黒き塵と化した。
 洗脳されていた村人は、一人、また一人とその洗脳が解かれていく。
「ここは…」
「私達は、一体…」
 目覚めた村人たちは事情が分からず、呆けるばかり。
 そこに、響く。
「アハハハハ!アハハハ!アーッハッハッハー!」
 一層高く、大きく、恐ろしい、笑い声。
 その声の主は、血まみれで、恐ろしく、三日月のような笑顔を貼り付けていた。
 猟兵でさえ、身が竦むほどの狂い笑い。
 か弱き村人達は身が竦むより早く、恐れ戦き散り散りと逃げていく。
 暗夜の空の下、その狂笑は一切の村人がいなくなるまで響いた。
 戦場には、猟兵と狂えるオブリビオン――狂笑戦姫・ダエナだけ残された。
「……キヒ」
 折れた腕で、剣と槍とを携えて。
「キヒヒ、ハハ、アハハ」
 失われた痛々しい足で、しっかと大地を踏みしめて。
「アハハハ!アッハッハ!もういいよ!もういいよ!アハハハハ!」
 狂える笑いを響かせ、感情もなく、無作為に。
 殺戮の刃を猟兵へと向ける。
 滴る血は、狂笑の只中にあってなお、涙のようにも見えた気がした。
木常野・都月
領民を慕い、慕われる。
それは良い事だと思う。

このヒトは「誰かを守るために戦える」オブリビオンだった。

領民に叩かれ、涙を流す。
狂った今も、領民が大切で。
凄く良いヒトだと思う。

そんな想いを、俺は終始利用した。
結果、彼女はこんな姿になった。

猟兵としては、多分間違っていないと思う。
でも、俺自身の在り方としては、絶対間違ってる。

俺はこのヒトに酷い事をした。
そして、その事に気付てるのに、今からもっと酷い事をする。

だから、俺は報復されて当然だし、逆に謝罪なんて、絶対にダメだ。

俺は、猟兵だから、猟兵として、彼女を倒さないと。

[全力魔法]と火の[属性魔法]に加えUC【狐火】を。
ダエナさん討伐に全力を尽くしたい。


蘆名・徹斎
うむ、笑え笑え!楽しくなくとも悲しくとも、無理矢理笑うと楽しくなるものよ。
正直一目見たときからやり合いたいと思うていた。万全でないのは残念だが……尤も、お主は意に介しておらぬようだな。

手負いの獣ほど恐ろしいものはないと言う。おまけに狂うておる。この上なく厄介よな。
【見切り】と【武器受け】であやつの攻撃を捌きながら機を伺うとするか。その時がきたら【早業】で納刀して【秘剣・無影閃】を見舞ってやろう。

あやつの境遇はなんとなく察せるが、だからと言って手加減はできぬ。悲しいかな、どんな理由があってもオブリビオンであることには違いないからな……。



●月下の剣戟
 月明かりの下、赤き血が飛び散り、銀が閃く。
 狂えるオブリビオン・ダエナは万全の状態とは言い難い状態であった。
 にも関わらず。
 折れた腕で振るう剣の一撃は重く、槍は致命を狙う。
 無き足を大地に踏みしめ、絶死の一撃を放つ。
 そして響く。狂える笑い声。
「アッハッハッハ!アハハハ!もういいよ!もういいよ!」
 猟兵と、己しかいない戦場においてその声は高く、大きく響いた。
「うむ、笑え笑え!」
 ギンッ、と剣戟を交わす徹斎は剣と声で答える。
 襲い掛かってきたダエナの攻撃を一番に受けたのは、天下一の兵。
 この地に降り立ち、一目見たときから思っていた。
 それ武に生きる者の罹患する病。強き者と手合わせたい、と。
 惜しむらくは彼女が万全の状態ではない事。だが。
「それだけの傷も意に介しておらぬようだな、お主は」
 強い。
 手負いの獣は、死を跳ね返すようにその獰猛さを増す。
 増してや心の壊れた狂える暴力、厄介なことこの上ない。
 数多の妖異を共に切り伏せてきた『無銘』も、受けの一手をよぎなくされる。
 両の手に持つ剣と槍、剣を弾けば槍が走る、槍を捌けば剣が閃く。
 防御を一切考えていない猛攻。加えてけたたましい笑い声。
 否が応にもその集中が乱される。それに。
「(…隙が全くない)」
 徹斎の武を以ってしても切り開けない、剣の嵐、槍の雨。
 もどかしさは焦りへと変わり、焦りはやがて隙を生む。
 それは常軌なる者の必然。目の前のこれは、狂える異常の剣。
 ピタリ、と狂笑が止む。
 その事に対する刹那の反応。それは戦に身を置いていたがゆえ。
 次に来る手が、選択肢が消える。そして増える。判断が揺らぐ。
「ッ!」
 その一瞬の隙にダエナの剣が滑り込む。
 首の薄皮一枚、つぅと一文字の傷。そこから血が滲むより早く、ダエナは笑う。
 必殺。ゆえに致命。
 追撃が、絶死の名を持つ槍が、死が、徹斎へ。
「燃えてしまえ」
 届かんとする刹那、轟と燃え立つ炎。
 致命の一撃は炎に分かたれ、徹斎は一筋垂れた汗を拭い、槍の間合いから飛び退く。
 ダエナは、その狂える瞳を一度天に遣り、ぐるりと首を回す。
 ゴキリ、と音がするような不自然な位置で、捉えた。
 己を観察し続ける、術士の姿を。

●告解、そして、決意
 片腕が折れ、足を失い、血に塗れ、今の炎で火傷も負った。
 にも関わらず、剣と槍を取り、狂気の笑みを絶やさず、刃を向ける。
 酷い姿だ。本当に酷い、見るに堪えない。そして。
「そんな姿にしたのは、俺だ」
 オブリビオンを二体討伐する。その二体は争っている。
 ならば、両者が消耗してもらえば、話は早いと都月は考えた。
 事実その戦略は領主マルタメリエの討伐に活きた。
 今も、同族殺しの狂えるダエナの尋常ならざる戦力を削ぐという目的を果たした。
 間違っていない。猟兵として、何一つ過ちはそこにない。
 でも。だけど。
 エレメンタルロッドを握る手に力が篭る。
「(俺自身の在り方としては、絶対に間違ってる)」
 オブリビオンだけにしか攻撃をしていないこと。
 村人が蹴り倒された時、真っ先に動いたこと。
 簡単に殺せるのに、なにもせず、血と涙を流し村人に攻撃されたこと。
 戦場に、猟兵と自分以外がいなくなるよう、狂笑を響かせたこと。
 それはつまり。このオブリビオンは。このヒトは。
「(「誰かを守るために戦える」オブリビオンだった)」
 過去を知る術はない。だけど、見ていれば分かる。
 人を慕い、人に慕われてきた。良い人だった。
 心が壊れても、狂っても。人が大切なんだ。
 その想いを、心を、利用した。とてもとても、酷い事をした。
 それを分かっていながら、これから彼女を倒す。
 狂笑が響き、都月を狙う。
 都月は、全霊の力を込めた炎の術式をダエナの足に放つ。
 傷つこうとも、彼女は止まらない。
 力を削いだといえどその剣は達人の領域。都月は両手で攻撃を防ぐように、剣を受ける。
 炎の熱で揺らいだ姿は距離を見誤らせる。幸い、都月の傷は大事に至らない。
「これくらいじゃあ許されることじゃない」
 滴る血と走る痛みに顔を歪める。痛い。彼女もきっと痛かった。ならば、これくらい。
 報復を受けるに当然のことをした。それで許されるものでは、ないとしても。
「無茶をするな」
 徹斎が、傷を負った都月の前に立つ。
 その背中は大きく、猟兵として、戦士として、多くの戦場に在った事を物語る。
「無茶なんかしない」
 額に浮いた脂汗を拭い、都月はエレメンタルロッドを構える。
 その周囲に数多の狐火が浮かび、その赤は、都月の表情を隠す。
「彼女の討伐に、全力を尽くすだけだ」
「そうか」
 振り返らず答える徹斎はダエナを真っ直ぐに捉える。
 目の前の敵は、過去はどうあれ、手負いであれ。斬らねばならない。
 今一度、剣を構える。
「徹斎、俺が隙を作る」
「合わせろということか、いいだろう」
 一言のやりとり、それで充分だった。目的は同じ。
 兵と賢狐は、その狂笑に終焉を齎すべく、それぞれに走り出した。

●炎は燃え、狂笑は止まず、剣は閃く
 二方向に走り出した猟兵をダエナはギョロリと両の目で見た。
 その殺戮の矛先に選ばれたのは、都月。
 大地が揺れる程の衝撃を伴い、一足に都月を殺戮の刃が捉える。
 その刃が届くより早く、周囲に漂う狐火が一つの火球となり狂える彼女の身を包む。
「アッハッハ!アーッハッハハ!」
 その身を焼かれながらも、彼女は笑うことを止めない。
 笑うことで、何かを保っているのか。それとも、壊しているのか。
 討伐すると決めた。だから、後悔はない。ただの一撃も、一瞬も、手加減はしない。
 深すぎる愛も壊れた心も狂える思いも、何もかも。
「燃えてしまえ」
 更なる狐火を放つ。火球は炎の柱となり、より強くダエナの身を焦がす。
 炎の只中にあってもなお、目の前の敵を殺さんとダエナは剣を振りかぶる。
 壊れているからなのか。身を守るという事が欠落しているのか。彼女は攻撃を止めない。

 ――殺す、殺そう、殺したい、殺して、殺して、殺して、殺すだけ。
 ――何故?何故?何故?何故殺す?どうして殺す?分からない。
 ――分からないけど殺そう。殺して、殺して、殺せば、きっと。私は。やっと。
「悪いが手加減はできん。本気で行かせてもらう」

 キンッ、と澄んだ音が鳴る。狂える笑いが止む。
 炎の柱が消え、剣を振りかぶった姿でダエナは目を見開いた。
「境遇は察せるが、お主はオブリビオン」
 ズルリ。
 振り上げた剣が、腕が、身体からゆっくりと、ずり下がる。
「我が秘剣、その閃きは影も無くその身を断つ」
 ドサリ。
 音も光も越える速度で放たれた一閃は、一拍を置いてダエナの腕が地に落ち、黒い粉と化す。
「お主との剣戟は心躍ったが悲しいかな、お主はオブリビオンゆえな」
 夥しいほどの出血が、失われた腕があった場所から吹き出る。
 狂笑の戦姫はその様子を呆けたような、安堵したような目で眺める。
 ――あぁ、ようやく。ようやく。 る。
 ダエナを観察し続ける都月は、彼女の唇が動いた気がした。
 だめだ。謝る事は許されない。強く握り締める拳からは、血が滲む。
「…ウフフ。フフ。フヒ」
 血を噴出しながら、ダエナは残された腕で槍を構える。
「フヒフアハァ。アハハ。アハハハ!」
 天を仰ぎ、再び狂える笑いを響かせる。
 その笑い声は恐ろしく、けたたましく、心底楽しそうで。でも、都月だけには。
「アーッハハハ!もういいよ!もういいよ!アッハッハッハ!」
 泣き声に聞こえた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
「その体でまだやろうというのか。」
「お前の過去に何があったのかも
今何を思うのかも
これからどこに向かうのかも知らない。」
「その狂刃を振うのがお前の罪なら
その理由を知らずに討つのは
俺の罪、かもな。」

ナイトクロウを使用。
自分は両腕から延びる霊気の刃で攻撃し
上空からは大烏の羽刃、
地上からは黒狼に牙や爪で攻撃させる。
敵の状態に十分注意して無闇に踏み込まず
足や腕等敵の負傷を利用して
攻撃を受けない様に立ち回る。

ナイトクロウの弱点は
強力な戦闘力の代わりに生命力(寿命)を削り
自身が打たれ弱くなる事。

光の鎖は極力躱すが
躱しきれないと思えば吸収した死霊に呪詛を込めて
敵に向けて開放し敵の心臓を出来る限りの呪詛で攻撃。


リーヴァルディ・カーライル
…ん。私達は猟兵だもの。
事ここに至れば、もはや言葉は不要。
貴女を討ち果たし、全てを終わらせる。

敵の殺気や気合いを残像として暗視して攻撃を紙一重で見切り、
カウンターで対象の目立たない影に呪力を溜めた銃撃を行い、
精神を攻撃して一時的に金縛りにする“影縫の呪詛”を発動

第六感が好機を捉えたら【血の魔装】を二重発動(2回攻撃)
“過去を世界の外側に排出する闇”の双翼で空中戦を行い、
全身をオブリビオン特攻のオーラで防御しつつ突撃

生命力が吸収され、傷口を抉るような反動に呪詛耐性で耐え、
闇を収束した大鎌を怪力任せになぎ払う闇属性攻撃を行うわ

…この一撃を手向けとする。
もう苦しむ必要は無い。眠りなさい、安らかに…。



●狂宴は止まず
「その体でまだやろうというのか」
 片腕から吹き出て止まない血もそのままに、ダエナは狂笑を響かせ槍を構えた。
 戦士の矜持ではない。目的のある殺戮ではない。
 真なる狂気の様をフードの奥の眼差しで見て、フォルクは言葉を零した。
 彼女の過去に何があったのか、今何を思うのか、これからどこに向かうのか。
 知る術はなく、知ったところで、斃さねばならない。
 杖を構え、フォルクは静かに詠唱する。
「冥空を覆う黒翼、煉獄を駆る呪われし爪。斬り裂き咬み砕け」
 地から這い登るように、フォルクの体に黒い靄が纏いつく。
 それはこの地に眠る、数多の死霊。
 それらはやがて、死を告げる大烏と冥府の黒狼の姿を象る。
「常世の闇を纏い、振う我に従い望むままに蹂躙せよ。その飢えた牙を満たす迄」
 残る黒い靄は全て霊気となり、フォルクの身を包む。
 心臓が早鳴る。命の負荷、死の足音が己の中で近付いてくるのをフォルクは感じた。
「…ん。私達は猟兵だもの。事ここに至れば、もはや言葉は不要」
 闇から溶け出すように、リーヴァルディがその横に立ち並ぶ。
 ちらりとフォルクを見遣る。死霊をその身に宿す危険な術と、一目で分かる。
 続けて、ダエナ。
 放置しておけば間もなく滅びゆくであろうことは子供でも分かる。
 だというのに、強烈に感じるのは「死の予感」。
 あのオブリビオンは、どれだけ己の身が傷ついていても、殺意を消さない。
 壊れているから。狂っているから。ただそれだけ。
 フゥ、と一息を吐いてリーヴァルディはダエナを改めてその双眸で捉える。
「貴女を討ち果たし、全てを終わらせる」
 その宣言は、彼女にどう届いたのか。
 返答は狂笑と、死を齎す風となり、二人に襲いかかってきた。

●死を越えて、狂気は笑う
「アハハ!アハハハ!もういいよ!もういいよ!もういいよ!」
 絶死の二つ名を持つ槍の一撃を、フォルクの黒狼がその爪で阻む。
 槍を弾かれ、ダエナはより一層その口角を釣り上げ声高く笑う。
 フォルクは、その両手に霊気の刃を纏いつつ、ダエナの様子を注意深く観察する。
 片腕が落ちている。ならば二つの武器による攻撃は出来ない。
 足を失っている。ならばその速度も先ほどとは比べられるものではない筈。
 その戦力は先ほどまでの圧倒的なものではない。
 だというのに感じるこの殺意、圧力。
 油断すれば、あの槍が心臓を貫くことは想像に難くない。
 ならば、現況を利用する。
「その体じゃ、三方同時に相手は大変だろう」
 空を奔る大烏には、空中からの羽刃。
 地を駆ける黒狼には、その牙と爪。
 二体の使いに命令を下し、ダエナの注意をその地と空の二点に向かわせる。
 その隙をついて霊気の刃で彼女を。
 そう考えていた。しかし。
「アーッハッハッハ!アハハハハ!」
 ダエナの槍は瞬きの間に黒狼を貫く。
 背後に迫る大烏には、瞬時に首を向けその翼に喰らいつく。
 貫いた槍を捻ると、一声を上げて黒狼は霧散し、翼を噛み千切られた大烏は地に落ちた。
 フードの奥の瞳を見開くフォルクの背中を、冷たい汗が伝う。
「(これほどか)」
 霊気の刃を構え、一度距離を取ろうと一歩後ずさった。その時。
 狂笑が止み、槍をフォルクへと向ける。そして初めて、ダエナは意味ある言葉を発した。

 ――命だ。

 囁くような一言は、誰でもないフォルクの耳に届く。
 届いたと思った瞬間、肩が燃えた。そう錯覚する程の熱を感じた。
 次いで、痛み。そして、槍が突き立った事を自覚する。
 睦言を囁く程の距離に、真っ赤な三日月と狂える瞳が在った。
 ギヒィ。
 息を漏らすような笑い声。途端にその身に宿る死霊が離れ行く気配を感じた。
 槍が突き立つ肩に淡い光の鎖のようなものが繋がっている。
 ダエナの持つ能力。夢の狭間に立つように、相手のユーベルコードを封じる。
「まだだッ!」
 咄嗟にフォルクはダエナの胸へとその手を当てる。
 当てた手を支えるように逆の手で腕を支え、呪詛を唱える。
 肩の痛みはジンジンと次第に強くなり、その熱もより熱くなる。
 だが、この危機は、好機。
 吸収した死霊がその身から離れ行くより早く、フォルクは死霊に呪詛を込め。
「…その狂刃を振るうのがお前の罪なら、その理由を知らずに討つのは」
 ダエナの体が大きく跳ねる。
 槍を引き抜くと、光る鎖は消えていた。
 傷を押さえ、フォルクは膝をつく。それでもその瞳は、ダエナから離さない。
 ぶるぶるとその身を震わせ、胸を抑え、ダエナはごぽりと血の塊を吐き出した。
「俺の罪、かもな」
 呪詛を込めた死霊を、ダエナの心臓目掛けて放った。
 死霊の呪詛は心臓を止め、循環を止めた血液は毒素を放ち、その鼓動を止めた。
 狂える戦姫は、ここにその生命活動を停止した。
 にも、関わらず。
 ――ウフゥ。
 ダエナは、再び笑い始める。
 心臓は止まった。生命活動は停止した。
 ――ウフフ、アハハハ。
 にも、関わらず。
 戦姫は笑う。狂える意思は、既に命に縛られず。
 目的もなく、品位もなく、矜持もなく、ただ。ただただ。
「アハハハハ!アッハッハッハ!まーだだよ!まーだだよ!」
 壊れて笑い、槍を振るう。
 フォルクはフードの奥から、その狂気の様を見た。
 その姿を、雲間から覗いた月が、長い影を伸ばし、照らしていた。

 タン。

 渇いた音が狂笑をさえぎる。
 びくりと身体を震わせると、ダエナの動きが止まる。
「…ん。死を越える狂気ね、理解に苦しむわ」
 伸びた影から、硝煙の煙が立ち上る。
 リーヴァルディは、その様子を見ながら一言、吐き捨てた。
 ダエナの動きが止まった隙にフォルクは立ち上がり、距離を取る。
「すまない、助かった」
「別に。私は私のやる事をやるだけ」
 深く息を吸い、そして。
「フォルク、離れていなさい」
 リーヴァルディは詠唱する。
「……限定解放。テンカウント……ッ」
 膨大な生命力と魔力、呪詛を伴う魔術を。
「……魔力、練成……」
 耐え難い程の呪詛の苦痛。
 傷口を抉るようなその痛みを、自らの持つ呪詛の耐性で堪える。
 次第に、闇で象られる翼が片翼ずつリーヴァルディの背中へと生える。
 禍々しくも美しいその姿は、月明かりに照らされ、天使とも、悪魔とも見え。
「10秒以内に決着を付ける……ッ」
 呟き、一度羽をはためかせると、リーヴァルディは一瞬で空へと登った。

●貴女へ手向ける10秒
 1秒。リーヴァルディは信じ難い速度で上昇する。
 鳥を凌ぎ、並ならぬ魔力で作られた翼は、高速で漆黒を貫く。
 2秒。術式の反動を抑える為、己の理性を保つ事に集中する。
 暴走せんとする魔力を、失われんとする自我を、耐性力だけで捻じ伏せる。
 3秒。速度を増す度、自らの生命力が急速に薄れていくのを感じる。
 高所のせいか、息も浅くなる。心臓が、まるで耳にあるように、喧しく響く。
 4秒。高度を増す度、無い傷口を抉られるような激痛の呪詛が身体を蝕む。

 空にかかる灰色の雲を抜け、漆黒の世界の中にあっても光眩い月の元へとたどり着く。
 漆黒の帳に覆われた世界であっても、月は美しい。
 この光が、いや。他の世界のように、陽光がこの世界を照らす日はいつか、来るだろうか。
 違う。待つのではない。
 齎すのだ。猟兵の手で。私の手で。
 だから、今はあの狂えるオブリビオンを斃そう。
 過去より出でたる残滓に、かける情けはリーヴァルディは持ち合わせていない。
 これまでも、きっと、これからも。
 だというのに。
「……こんなことを思うのはきっと、月のせいかしらね」

 5秒。虚空の夜に手を伸ばし、雲を引くように手を握れば、闇がその手に握られる。
 闇を収束した大鎌を構え、その双眸が雲霞の下のダエナを捉える。
 それは過去を刻む者。
 皮肉にも、死や絶望と隣り合わせのこの世界では、最も効果を発揮する。
 6秒。魔術の反動が激しくなる。理性を保っていられるのもあと数秒。
 重たい汗が頬を伝う。いっそ、衝動に身を任せたくもなる。
 だが、それは許されない。
 それでは彼女と変わらない。彼女はオブリビオン、私は猟兵。
 過去を刻み、過去の未来を閉ざす。それが使命。
 だからこれは、情けではない。情けではないが、宣言する。

「……この一撃を手向けとする」
 
 7秒。大鎌を構え、加速して地表へと落下する。
 登る時の倍。重力の力も借りて、燃えるような摩擦を生む速度でリーヴァルディは飛ぶ。
 その身が焼かれないよう、魔力を表皮に展開し防御と成す。
 8秒。動きを止めていた筈のダエナが、こちらを見ていた。
 莫迦な。影縫いの呪詛は効いていた。否、効いている。
 その証拠に彼女は顔をこちらに向けている以外、なにも変わっていない。
「(…罠?いえ、まさか。でも、構わない)」
 大鎌を握る手をより一層強く握り締める。
 罠だとしても、屠りきるように、払えばいい。
 9秒。大鎌を振りかぶる。この一撃で、彼女を確実に斃す。強い意志を込めて。
 瞬間、リーヴァルディは見た。それは言葉にもなっていなかったかもしれない。

 ――ま だだ よ
 10秒。

 過去を刻む大鎌は、ダエナに届く。
 大地を穿つ程の衝撃を伴い、ダエナ諸共その大地を大きく割った。
 躊躇はしていない。確実に彼女の身を断つ一撃を入れた。入れたはずだった。
 しかし実際は、片腕。
 槍を持っていた腕が衝撃で吹き飛び、黒い粉へと姿を変え、衝撃のまま霧散した。
 信じ難いことにダエナは、影縫いの呪詛を破っていた。
 にも拘らず、リーヴァルディの刃を避けなかった。
 否。正確には、片腕だけ落とすように動いたのだ。
 ギヒ。ウヒ。ウフハハ。アハハハハ。
 渾身の一撃を放ったリーヴァルディは、極度の疲労感からその地に落ちる。
 直ぐ傍で、武器を失った戦姫の狂える笑いを聞きながら。
「リーヴァルディ!」
 先ほどの傷から回復したフォルクは、黒狼を使い即座にリーヴァルディを自分の下へと運ぶ。
 そのまま黒狼に跨り、ダエナから再び距離を取る。
 武器を失ったとはいえ、あの狂気の前に自分達の状態では何が起こるかわからない。
 辛うじて残った意識の中、リーヴァルディはダエナを見る。
 両手を失い、狂える笑いを響かせる、彼女。
 安らかに眠らせる、そう思っていたのだが。
「…そう。まだ、苦しむのね、貴女は」
 そう呟くと、黒狼の背に揺られ、リーヴァルディの意識は途切れる。
 悲しみとも、歓喜とも聞こえる狂える笑いを聞きながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キキ・ニイミ
『てぶくろ』で連携。

もう…同情はしない…!
同情なんてしちゃいけないんだ、このオブリビオンには!
ボクの全力を以って…ぶつからないと!

乱暴で申し訳ないけど、【念動力】と【衝撃波】を使って、このオブリビオン以外の他の皆をボクの半径32M以内から出てもらうよ。
そして周囲にオブリビオンしか居ないのを確認したら、そこで「エキノコックス・パンデミック」を発動!
これが…今のボクの一番強力な技だ!

本音を言うとボク…あなたには少しだけ怒ってるんだよ?
もういいよもういいよって…ちっとも良くなんかないだろ!
言いたい事があるなら、ちゃんと言いなよ!
そうしなきゃ誰も…あなたの心なんて分からないじゃないか…


如月・遥
『てぶくろ』で連携。

もう、やる事は一つしかない。
全力で容赦なく完膚なきまでに…このオブリビオンを叩き潰す。
それが…せめてもの礼儀だ。

さっき(第一章)同様、「幽体離脱」の『生霊』をオブリビオンに憑依させる。
ただし今度は【マヒ攻撃】と合わせて完全に動きを封じるよ。
『生霊』と五感を共有する私も、オブリビオンの受ける痛みを味わう訳だけど…そこは【気合い】と【激痛耐性】で堪えるよ。
人の心と体に土足で踏み込むんだ、その位の代償は払わないとね。

もし可能なら…【コミュ力】で彼女の魂に直接話し掛けてみたいね。
何でオブリビオンなのに人を愛するようになったのか、とか。
あながち私も…他人事じゃないかもしれないからね。


ルード・シリウス
暴食剣・呪詛剣携え【鮮血暴食の魔剣】発動しながら接近。二刀による連撃を以て、真っ向からの斬り合いへと持ち込む

相手の攻撃は致命傷となる一撃のみに意識を傾け、繰り出される瞬間を見切り二刀で受け流し、或いは斬り払う。それ以外は無理に捌かず受ける方向で。攻撃を受けても、自身の攻撃による捕食能力(吸血&生命力吸収)で血肉を喰らい傷を癒し、継戦能力維持


嗚呼、他者の情だのを理解出来ない俺だが、お前が村人相手に抵抗しなかったのか…分かった
お前は“優しすぎた”んだよ。俺が知る大事なものと同じで、愚直なまでにお人好し過ぎた…
だから狂った…いや、狂わないと保てなかったんだろ

…本当に救い難い馬鹿だな。俺も、お前も



●その意志は、強く重く
 煌々と、月は戦場を静かに照らす。
 両の腕は黒き粉と消え、もはや武器は持てず、けれども。
 少女は天に向かって吼えるように、狂笑を響かせる。
 その心臓は既に止まっているのに。
 その目的を果たす腕は既にないのに。
 放たれる圧は未だ衰えず、むしろ、より強くなっていく。
 何故そこまでする。何故まだ立つ。何故まだ戦おうとする。
 理解の及ばぬのは、狂気ゆえか。
 キキは、襤褸布のようになった姿を見て、決意する。
 今の彼女に必要なのは、同情ではない。
 情けをかける事で救えるものも、世界にはある。
 けれど既に、彼女はその埒外にある。だから。
「もう、同情はしない。同情なんてしちゃいけないんだ、このオブリビオンには!」
 情で救える段階にない彼女を救うために、やる事は一つ。
「全力で容赦なく完膚なきまでに…このオブリビオンを叩き潰す」
 キャップのツバに手をやり、クイと直す。
 キキの横に立つ遥も、同じ想いを口にした。
 唯一ダエナの心の砂を掬い取った彼女だけが出来る、礼儀。
 響き渡る狂笑を止めなければ。彼女を苦痛から救わなければ。
 その為に、キキと遥二人は決意する。
 キュッと一度手を繋ぎ、離す。彼女を。ダエナを。必ず斃すと。
 その二人を見て、ダエナへと視線を移す。
 ルードには他者の情というものが理解出来ない。
 鈍感と呼ぶよりは、そういう生き方をしていたのかもしれない。
 ただ、ダエナの笑い声を聞き、強さを感じ、そして今に至るまでを見てきた。
 だから、情を理解出来ない自分でも、分かる。
 何故、村人に手を出さなかったのか。何故、されるがままになったのか。
「…お前は“優しすぎた”んだよ」
 神喰と無愧を両手に携え、ルードは呟く。
 圧倒的な強さを持ちながら、弱き者を愛し、その為に身を呈する。
 それはルードにとっての大切なものと、同じ。
 愚直なまでのお人好し。だが、彼女はオブリビオン。それが、それだけが、彼女を壊した。
 いや、違う。
「狂わないと保てなかったんだろ」
 何かが彼女の心を壊したのではない。
 彼女の何かを誰かが壊し、その現実を受け入れられなかった彼女は、自ら壊れ、狂った。
 それは緩やかな自死だったのかもしれない。
 自嘲するように一度口角を上げ、ルードは再び戦士の顔になる。
 今から屠る相手の事を慮るとは、皮肉なものだと、そう思ったから。
 だから、斃す。
 凶つの二つ名を持つ戦士は、いつもよりも重く感じる剣を構えた。

●どうして
「ルード君!遥さん!少しだけ離れていて!」
 キキは両手をダエナへと掲げ、衝撃波を伴う念動力のドームを展開する。
 何人も立ち入れない想いの障壁。
 ダエナはそのことを理解しているのか、ズルズルと、身を引きずるようにキキへ向かう。
 返り血と自身の血で真紅に染まったその顔は、まだ、笑顔のまま。
 目は見開き、三日月のような笑みを貼り付けた、狂気の笑顔。
 声を出すのももう苦しいのか、笑い声を上げることはなく。
 ずるり、ずるりと、歩み寄る。
 その姿に、笑顔に、キキは心の底から熱い感情が沸くことを感じる。その感情は。
「本音を言うとボク…本当に怒ってるんだよ…」
 ぽつり、ぽつりと言葉を零す。
「もういいよもういいよって…ちっとも良くなんかないだろ!!」
 キキの尾が、耳が、逆立つ。
「言いたい事があるなら、ちゃんと言いなよ!!」
 激昂の声は、いつしかキキの頬に熱い雫となり伝う。
「そうしなきゃ誰も…あなたの心なんて…分からないじゃないか!!!」
 キッと瞳をダエナに向けて、自身の最も強力な攻撃を放つ。
 それは幾千もの虫卵。その虫はエキノコックス。
 狐を終宿主とするその寄生虫は、人体に感染した途端凶悪な感染症を引き起こす。
 避けることもままならないダエナは、降り注ぐその虫卵群を避けず、浴びる。
 キキの力により強化されたエキノコックスは、口から、傷から、体内に潜入。
 瞬時に孵化し、夥しい勢いでその有害性を発揮する。
 ごぽり。
 エキノコックスは瞬時に肺までをも蝕み、ダエナは異常な量の血の塊を吐き出す。
 戦闘の痛みとは異なる、内からの激痛、辛苦。その只中でさえ。
 息も絶え絶えに、その表情はまだ、笑ったままで。
「…ッ」
 立っていることも耐え難い苦痛であろうことは、キキ自身が分かっている。
 それでも立つ。それでも笑う。そんな彼女を見て、ポロポロと、涙が止まらない。
「なんで、なんでさ」
 ぐしぐし涙を拭うキキの頭に手をやり、遥が前に立つ。
「後は、任せて」
 遥は再び、自身の生霊を顕現し、ダエナへ向けて走り出す。
 先ほど零した、彼女の心。その欠片。
 出来る事なら、その心底に触れたい。それは優しさではなく。
「(あながち私も…他人事じゃないかもしれないからね)」
 血を吐きながら笑うダエナに、遥の生霊が重なる。

●狂気との語らい
 痛い!痛い!痛い!苦しい!苦しい!苦しい!
 ダエナに憑依し、その五感を共有した遥は僅かな後悔を覚える。
 腕がないということは、内臓を蝕まれるということは、こんなにも辛い事なのか。
 両腕のあった場所に絶える事のない鈍痛が重低音のように響く。
 心臓の止まった体は、一切の意思を跳ね除けるように動かない。
 内臓の痛みが鋭く、胸がつかえる。血が、次から次へと口まで上ってくる。
 意識を持っていかれそうになりながら、遥は気合でその激痛と拮抗する。
 これほどの痛苦を得て、なお彼女は立ち、笑う。
 その狂える心を支えているのは、なんなのか。
 なぜ、滅ぼすべきと定められた人を、オブリビオンが愛したのか。
 それは人ならざる存在、ティアーズと心通わす遥には他人事には思えなかった。
 だから、尋ねる。
「ねぇ、ダエナ。あなたは何故、オブリビオンなのに同族を殺したの?」
 答えはない。
「ねぇ、ダエナ。あなたは何故、こんな体になってもまだ、立つの?」
 答えはない。
「…ねぇ、ダエナ。あなたは」
 心を壊してまで、狂ってしまってまで、無抵抗に傷付けられてまで、何故。
「人を愛していたの?」

 ――理由がいるの?

 初めて返って来た言葉は、ノイズ交じりのラジオのように、不鮮明で。
 その声を聞いた途端、痛みが、痛苦が、怒涛のように押し寄せる。
「(ッ!だめ!耐え切れない!)」
 血の塊を一度大きく吐き出して、遥はダエナの身体から離れ、自我を取り戻す。
 それまでの激痛はないが、脂汗が全身を湿らせていた。ひどく不快感の残る目覚め。
 しかし頭部の後ろに温もりを感じるのは、キキが、抱きとめてくれていたからだ。
「遥さん!遥さん!大丈夫!?」
 ポロポロ、ポロポロ。大粒の涙が、暖かい優しさが、遥の顔を打つ。
 あぁ、そうか。
 なにかを愛しいと想う気持ちに、大切にしたいという気持ちに、理由はない。
 ただ、愛しいと、大切だと、想う。それだけなのだ。
 ひどく濡れたキキの頬に手を遣り、涙を拭い、微笑を返す。
「うん、大丈夫。ごめんね、キキ」
 人と、人ならざる者。その手を繋ぐのに、理由はいらない。
 きっと彼女もそうだったのだと、遥は納得をした。
「さて、それじゃあ幕引きと行こうか」
「…えぇ、お願いするわ。彼女を…終わらせてあげて」
 地に伏し、顔だけを笑顔に歪め、此方を睨む、壊れた彼女。
「…言われるまでもない」
 暴食と呪詛の剣が、月の光を浴びながら、死を携えて。
 彼女に終わりを告げに往く。
 
●そして彼は、終わり告げた
 初めて相対した瞬間、恐怖を越えて死を突きつけられた。
 尋常ならざる殺戮を繰り広げる様は、正しく狂気の沙汰だった。
 にも拘らず。彼女は無力な村人に、無抵抗のまま体を差し出した。
 それも狂気の一端だろうか。違う。それはきっと、優しさだ。
 愚直すぎる優しさだが、向かう方向は捻り、歪んでいたようにも思える。
 ルードは一歩踏み出す毎に、ダエナに対して思案を巡らせる。
 瀕死になっていた彼女に声をかけたのは、気まぐれだったかもしれない。
 情をかけるというのは、あの時のようなことをいうのかもしれない。
 それがルードには分からない。
 だけど、だからこそ。彼女の終わりを告げるのは、己の刃が相応しいと思う。
 ルードの足が止まる。足元には、息も絶え絶えに、笑みを貼り付けるダエナ。
 その顔はルードを睨みつけ、カヒューカヒューと、喉で笑う。
 哀れとも思わない。強いとも思わない。わがままとも、思えなかった。
 ただただ、今からこれは自身の刃で終わるのだと、それだけ考えていた。
「…後悔はねぇか」
 ぽつり、零した一言。
 手向けなどと気の利いたものではなく、ただ、気が付けば口から転がり出た。
 その一言に、より一層笑みを深く刻み、ダエナは這い蹲り、ルードの足元に顔を寄せる。
 ズキリ、とルードの足に痛みが響く。
 動くだけでも激痛だろうに、ダエナはルードの足に喰らい付き、その肉を食い千切る。
 食い千切った肉をその血ごと、神喰に向けて吐き捨てる。
「…そうか」
 ルードの血を浴びた神喰は、漆黒の刀身を真紅に染める。
 その刀身は艶めき、ボタボタと血の滴りで、より一層赤が深く輝く。
 鮮血暴君の魔剣、それはルードの剣の封印を解いた、邪悪な姿。
 月に照らされるその刀身の赤は、血よりも赤く、黒よりも深い闇だった。
 その剣を見て、真っ赤に染まった口元に三日月を再び貼り付け、ダエナは笑う。
 カヒュー、カヒュー。
 心を壊し、気を狂わせ、笑い続け、同族を殺したオブリビオン。
 殺戮の中で、死ぬ事は適わず。
 人の手でも、死ぬ事は適わず。
 心臓が止まっても、両腕を失っても、臓腑を毒されても、死ぬ事は適わない。
 だからこそ。これが彼女の求める最後なのだろう。
「…本当に救い難い馬鹿だな」
 ゆっくりと、ルードは禍々しい紅を振りかぶる。
 月と重なる。死を齎す剣。
 ぽたぽたと滴る血の雫を顔に浴びながら、ダエナは最後の最後に。
 大きな声で。とても。とてもとても大きな声で。
「…俺も、お前も」
 狂える笑いを響かせて、そして、短い斬撃の音と共に。
 狂い壊れたその命は、漸く終わりを迎えられるのであった。

●エピローグ
「フォルクくん、都月くん、キキ、あの時は助けてくれてありがとう」
 キキの肩を借りて立ちながら、遥は助けてくれた三人に礼を述べる。
「ボクからも!遥さんを助けてくれて、二人ともありがとう!」
 遥の言葉に続けて、キキも二人に頭を下げる。
「別に、お礼を言われるようなことでもない」
「あぁ、しなければならない事をしただけだよ」
 フォルクも都月も、素っ気無く答えた。
 猟兵として、共の戦場に在ったのならば皆同じ事をするだろうと。
「ふむ、しかしあのオブリビオンとはやはり万全で剣を交えたかったところだな」
「はは、そいつはいい。交える前に首が飛んでたかもしれねぇぜ」
 武人としての悔いを語る徹斎に、軽口で返すのはルードだ。
 とはいえ、万全の状態で相対したルードが言うのであれば、重みが違うといえるだろう。
「…彼女は、最後になにか言っていなかった?」
 遥が、ルードに尋ねる。ルードは、掌をひらひらと振り答える。
「さてね、どうだったか、覚えてねぇさ」
「…そう」
 マルタメリエの最期は、ひどく人間味のある最期だった。
 直前までダエナの魂と語り合った遥は、少しの期待を持っていたが。
「…私達は猟兵、あれらは、オブリビオン」
 話の輪の外にいたリーヴァルディが、独りごちる。
「情けをかけるなとは、言わない。けど、人とあれらは相容れない」
 無情にも思えるが、歴然とした事実。
 その言葉を改めて猟兵達は胸に刻み込み、グリモアベースへと還って行く。
 一度だけ、誰かは戦場を振り返る。
 荒涼とした戦場の後、数多流れた血も、その痕跡を残さない。
 気が付けば、胸元の服を握り締めて呟いていた。
「…もういいよ、か」

 ――もういいかい?まーだだよ。まだ殺さなきゃ、還れない。
 ――もういいかい?まーだだよ。還ってしまえば、忘れてしまう。
 ――もういいかい?まーだだよ。還らなければ、壊れてしまう。
 ――もう、いいよ。もう、還ろう。さようなら。さようなら。

 歪な三つ巴、ダークセイヴァーの同族殺しの件。
 これにて、閉幕。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月17日


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🔒
#ダークセイヴァー
🔒
#同族殺し


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠マックス・アーキボルトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠白石・明日香です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト