骸の海で見た夢は
●それは、いつかの
暗がりばかりが広がる世界の何処かで。
その獣は大きな体躯を引きずるようにして、それらの前に立っていた。
ぬいぐるみのような体に生えた羽根で、くるりくるりと獣の頭上を飛び回り、同じ容姿の仲間と共にケタケタと笑うオブリビオンの前に。
「捨てられた者か」
「避けられた者か」
叶いはしないのに。
敵いもしないのに。
「哀れな者だ」
「領主様に挑ませるまでもない」
「そもそも貴様は此方側であろう」
口々に降り注ぐ声に、言葉に、獣は何も応えない。ぐるり、確かめるように視線――何処に、目があるともわからないけれど――を巡らせて、そうして。
ォオオ―――!
言葉にならない声を、奔らせた。
●ささやかなものがたり
「同族殺しと呼ばれるオブリビオンの存在は、知っているね」
伺うように、確かめるように。グリモア猟兵エンティ・シェア(欠片・f00526)は切り出した。
ダークセイヴァーに出没するオブリビオンの中に、同族であるはずのオブリビオンを襲撃するといった行動を取る者が現れているという話。
その話自体ももう珍しいものではなくなってきている。利用価値があるということも、よく知られていることだろう。
「普段は警備が厳重な領主の居所へと導いてくれる貴重な存在でもある。無論、それもオブリビオンである以上、最終的には倒さねばならないわけだがね」
一先ずは、とメモを捲り、件の同族殺しが襲撃するという領主館の仔細を述べる。
警備にあたっているのは蝙蝠羽根の生えた、ぬいぐるみのような形状のオブリビオン。
まるで己が支配者であるかのように振る舞い、鮮血を、愉悦を、絶望を望む。
「普通に挑めば、数の多さもあって苦戦は必至だろうね。そこで『勇猛果敢な』同族殺し殿の出番だ。先陣きってオブリビオンの群れに挑んでくれる彼に乗じて、警備連中を蹴散らしてしまうといい」
ただ、ここで同族殺しに攻撃を仕掛けるのは頂けない。
彼がこの警備を突破し、領主である存在を消耗させることでこそ、猟兵に勝ちの目が生まれるのだから。
「積極的に共闘しろとも言わないよ。彼の邪魔をせずに、己の職務を全うしてくれれば、それでいい」
簡単だろう、と微笑んで、さぁ続きだとまたメモを捲る。
この領主館に待ち受けるオブリビオンは、強者からの挑戦を望んでおり、厳重な警備を突破した者ともなればそれはそれは歓迎してくれるだろう。
迷うような造りもない、真っ直ぐな廊下を進んで大きな広間で相対することになる。
そして、ここでも同族殺しを上手く領主にぶつける事が重要だ。
猟兵と領主、そして同族殺しの三つ巴であれば、個体としてより強い同族殺しに領主の意識は向きがちになる。
猟兵と同族殺しが仲間であると思わせる必要など無い。むしろ、敵対者ではあるが利害の一致がある、程度の方が立ち回りやすいだろう。
「そうそう、心配をせずとも、同族殺し殿の攻撃が君達に向けられることはないよ。オブリビオンがいる間は、ね」
敵対していることに変わりはないから、巻き込まれることぐらいはあるだろうけれど。
それでも、何の因果か、同族殺しはオブリビオンを屠ることを優先している。
その理由を知ろうと探ること自体は、問題ない。
知れるか否かは別として。
知った事で何が出来るかも、別として。
「全てのオブリビオンを滅すること。それが、君達の仕事だ」
忘れては、いけないよ。
微笑みを乗せた唇が紡いだのは、念を押すような一言。
それから、グリモアを展開させた先に見える世界を見つめた後、くるりと猟兵達を振り返って。
武運を。そう、告げた。
里音
お世話になっております、里音です。今回はダークセイヴァーでの冒険をお届けいたします。
第一章、第二章は同族殺しを交えての戦闘です。
OP中でも言っておりますが、同族殺しに直接攻撃を仕掛けることはあまり推奨しておりません。
多少の巻き込みなどは問題ありませんが意図的に攻撃を仕掛ける等のプレイングは場合によっては採用致しかねますので予めご了承ください。
第三章は同族殺しとの戦闘です。
オブリビオンとの連戦で消耗している状態です。消耗度合いは皆様のプレイング次第となります。
ここまでの間に同族殺し側の事情を知ることができる可能性があり、直接対峙した段階でなら説得などの行為も可能ではあります。
とても素晴らしい説得がなされた場合、戦闘せずに消滅することはありえます。
ですが同族殺しを説得して理性的なオブリビオンにするなどの行為は不可能です。
心情重視、戦闘重視、どちらでも問題ありません。比重によって、物語の形が少し、変わるかもしれません。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『ワイリー男爵』
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POW : 我輩に鮮血を捧げよ
【手下である蝙蝠の大群】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 我輩に愉悦を捧げよ
【手を叩く】事で【全身を緋色に染めた姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 我輩に絶望を捧げよ
【両掌】から【悪夢を見せる黒い霧】を放ち、【感情を強く揺さぶること】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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杼糸・絡新婦
同族殺しには手は出さないし、
そちらに向かう敵は放置
鋼糸で撃ち漏らしやこちらに向かってくる敵を攻撃。
絡め取るようにして攻撃し、
絡め取った【敵を盾にする】ことで、
敵の攻撃を防ぐ。
緋色に染まった敵ならば、
【挑発】しこちらへ誘導とともに、
力抜いて受け止めオペラツィオンマカブル発動。
排し返せ、サイギョウ。
さてはて、同族殺しも一応の理由があるはずなんやけど、
ワイリー男爵に何か覚えや知っている事があるか聞いてみよか。
あとは、同族殺しの様子をみつつ【情報収集】
●
言葉にならない声を上げて、その獣は領主が住まうという館の前で暴れていた。
それを、見つめて。杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は潜めていた息をそっと吐き出す。
獣の暴れている範囲から少しだけ離れた場所で、同族殺しと呼ばれるそのオブリビオンから逃れた個体へと、するり、鋼の糸を絡めて。
「――て、敵襲である!」
絡新婦の存在に気がついたワイリー男爵の一体が、そう叫べば。幾つかの視線が向けられる。
あれは猟兵か、厄介なことだ。そんな声が幾つも聞こえるが、その群れの中心で暴れる獣は、こちらに視線をくれもしない。
(オブリビオンしか見えてないんやろか……)
同族殺しの事情は、こちら側からは全く判別できないものだ。探ろうにも、当の本人は言葉らしい言葉を吐くことすらしていない。
ちらり、と。同族殺しへ向けていた視線を眼前へ戻せば、あちらよりもこちらを叩く方が楽と見たか、幾つかの個体が迫ってくるのが見える。
初めに鋼糸を絡めた一体をくいと引き上げ、蝙蝠だとか、黒い霧だとか、彼らが欲しがる鮮血や絶望を引き出すための技への盾として、ほんの少し、身を引いた。
「ぬぅ、逃げるでない、猟兵よ!」
決して攻撃に積極的ではなく、ゆらりと軽い身のこなしで立ち回る絡新婦に、苛立ったような声を上げたワイリー男爵は、ぬいぐるみのような体にはやや不釣り合いの大きな手を、パン、と叩く。
途端、体の色が緋色に変わり、唐突に移動速度が上昇した。反応速度も比例して上がっているようで、死角に糸を忍ばせても、躱されてしまう。
「ふぅん……」
「我輩に愉悦を捧げよ!」
翻弄されて、一方的に嬲られろ。そんな副音声が聞こえてきそうな哄笑に、絡新婦は鋼糸を絡めた指先を口元に添え、ゆるりと首を傾げてみせる。
「色が変わるお人形さんなんて、ただただかぁいらしいだけやねぇ」
ねぇ、サイギョウ。手元の人形をそっと撫でる絡新婦の台詞にも、自分の人形の方がよっぽど強い、という副音声が聞こえるよう。
口元に薄らと笑みを作って見せれば、緋色に染まったことで顔を真赤にしたかのようにも見える個体が、ぎゅん、と絡新婦へと接敵した。
その速度を目視で追うのは困難で。何の策も取らねば、ワイリー男爵の言葉通り、愉悦を捧げる事になってしまうだろう。
そう、何の策も取らねば。
「――排し返せ、サイギョウ」
緋色のワイリー男爵の大きな手が、絡新婦を叩き伏せんとして迫ったが、それがかすかに絡新婦を揺らした瞬間、彼にかかるはずだった衝撃は、丸ごと、手元の人形へと吸い込まれる。
そうして、そのまま、叩きつけられた勢いをお返しするように、ワイリー男爵へとぶつけられた。
「愚直やねぇ」
真っ直ぐ突っ込んでくるだけだなんて。
スピードと反応速度に任せてこちらを振り回そうとするだけならば、黙って仕掛けてくるのを待てば良い。
仕組みを見られれば多用できるものでもないけれど、仕掛け方を伺うように間を置いてくれるならば、少しのお喋りだってしようがある。
「さてはて、あの獣があんたさんらを襲う理由は、知ってるやろか」
糸を引き、人形を携え、隙を見せるようで油断のない眼差しを向ければ、ワイリー男爵達は幾度かそれぞれに顔を見合わせて。
けれど、その口が語るのは皆同じこと。
「知らぬ!」
「あれは異常だ、異端だ!」
聞いた所で有益な情報が出るわけでもないらしい。尋ねるならば、むしろ、領主の方が適切かもしれないと、館の方へと視線を向けて。
その視線を、再び同族殺しへと向ける。
振り回された尻尾が、周囲の地形諸共ワイリー男爵を粉砕していた。
執拗に、執拗に、形も残らぬほどに。
(恨まれる、理由が……?)
それともただ単に、オブリビオンでありながらオブリビオンが憎いのか。判然としないまま、絡新婦は未だ群れているワイリー男爵達へと、向き直るのであった。
大成功
🔵🔵🔵
リンネ・ロート
(人格・口調:リンネ)
この状況なら有利に戦えるかもしれない……少しは私の戦闘知識が活かせるかも……
それにしてもこの黒い霧は一体……
いや、やめて! 私は私でいたい、火恋や狂哉になんてなりたくない! 誰も傷付けたくなんてない!
狂気や感情に流されちゃダメ……勇気を、そう勇気を強く持たなくちゃ!
私は地味で目立たないから敵に狙われにくいと思う……
味方や同族殺しをシュタルカー・ヴィントで援護を
誤射だけには気を付けて
近付かれたら虚数領域のオーラで防ぎ切ってみせます
走って距離を取ってUC
そ……そんな……制御できない……暴走してる!?
魔導理論概論に制御の術式が書いてあったはず
このままだと周りを巻き込んじゃう!
●
オブリビオン同士が争っている。その状況を確かめながら、リンネ・ロート(RegenbogenfarbeFlügel・f00364)はそっと自身の拳を握る。
緊張や不安。少なくはないその感情を押し止めるように、強く。
(この状況なら有利に戦えるかもしれない……少しは私の戦闘知識が活かせるかも……)
他の人格に頼ってばかりは居られない。己が自分で選び、赴いた仕事。ならば解決するのも己の手で――。
戦場を見つめ、敵の数を把握し、同族殺しの動きを観察して。
そうして、目立たぬよう、標的にならぬように務めながら。銃剣を手に、少しずつ間合いを詰め攻撃の機を伺っていたリンネは、ふと、周囲に漂う霧の存在に意識を向ける。
(それにしてもこの黒い霧は一体……)
ぬいぐるみのような敵の大きな掌から溢れ出ているこの霧は、同族殺しへ向けて放たれているようだけれど、それそのものに攻撃性があるようには見えない。
援護射撃を主体と決めたリンネにとっては、視界の妨げになる厄介なもの。
けれど念のため身を低くして、吸い込むことのないようにと気をつけて。
いたの、だけれど。
「……ッ!」
唐突に、脳を強く揺さぶられるような衝撃を感じた気がした。
攻撃、ではない。辺りの敵は誰も、リンネの姿を見つけてはいない。
リンネを引き止めたのは、内側にあるもの。
凶暴で、凶悪で、けれど強力な、別の、「私」。
「いや、やめて!」
『リンネ』を押しのけて、彼らが表に出てこようとしている。
無数の敵を前にして、それを駆逐しようと身体を奪い取ろうとしてくる。
やめて、やめて、やめて――!
(私は私でいたい、火恋や狂哉になんてなりたくない!)
誰も傷つけたくなんて無い!
――てきを、たおすのに?
――ちからが、ひつようなのに?
それは誰かの問いかけか。それとも、ただの自問か。
心を押し潰してくるような感覚に晒されたリンネにはその判別は出来ない。だけれど、全部、拒絶をして。
「勇気を、そう勇気を強く持たなくちゃ!」
出てきてはダメ、下がっていて。
「私が、やるの……!」
きっぱりと言い切ったリンネが顔を上げれば、先程まであったはずの霧が晴れているように見えた。
視界が開けたならば、今が、機だ。
『烈風』と名付けたマスケット銃を素早く構え、撃つ。
同族殺しへと攻撃を仕掛けようとしていた敵へと命中させれば、同時に、リンネの存在に気がついた幾つかの個体が、彼女へと向き直る。
気配を殺し、周囲に溶け込むように立ち回っていたリンネだが、無数の目に晒されれば、完璧に隠れることも敵わず。
近づいてくる敵からの攻撃を防ぎ、たっ、と駆けて距離を取る。
反撃は、ユーベルコードにて。呪文を詠唱しながら視線を向ければ、リンネの周囲に虚数領域が発生する。
それは瞬く間に広がり、迫りくるワイリー男爵を捉え、ダメージを与えて。
「そ……そんな……制御できない……暴走してる!?」
敵を捉え、捉え、捉え、リンネが意図しない範囲へ、広がっていく。
「魔導理論概論に、制御の術式が書いてあったはず」
このままでは、周りを巻き込んでしまう。
手にした魔導書を捲り、探す。焦る感情を律し、震える指を抑え込み、術式を探す。
(私は、私……。私が、やらなきゃ!)
拒絶までした彼らと、同じにならないために。
恐ろしさに引きつりそうな喉から声を絞り出して、リンネは間一髪、その事態を収束させたのであった。
成功
🔵🔵🔴
リエラ・フロウウェン
同族殺し…気になる事は多いですが、まずは自分に出来る事を。
厳重注意:同族殺しには一切接触せず(手出しせず)戦闘行動を。
ワイリー男爵殲滅に集中します。あ、巻き込んじゃったら…ごめんなさい…。
同族殺しが倒し損ねた又はそちらに注意を向けている敵に特攻します。
【怪力】と【全力魔法】で両断。「白銀の極光(クラウ・ソラス)」(UC)で真っ二つにしていきます。
基本的に私は脳筋なので、力押しの戦法になる事が多いかと。
攻撃された際、避けれる攻撃は【見切り】で回避を。
回避不能と判断したらマントによる【オーラ防御】で防御行動を行います。
その他、アドリブや絡みなどオールOK
フォルク・リア
同族殺しと倒されていくワイリー男爵の姿を
遠目に観察しつつ。
「なるほど。これは好機には違いないけど。
同族殺しのあの強さと館の守りのあの数。
骨の折れそうだ。」
周囲の敵には
「此処よりもあっち(同族殺しの方)の仲間を手伝った方が
良いんじゃないか?
俺よりよっぽど危険だろう。」
敵の配置や動きには十分注意し。
自分周辺の敵に真羅天掌を使用し
【衝撃波】を伴った【破魔】属性の竜巻を発生させ
敵の放つ黒い霧を吹き飛ばしつつ敵を攻撃。
それでも防げなかった黒い霧には
【オーラ防御】【狂気耐性】【覚悟】で耐える。
【範囲攻撃】を使って真羅天掌の効果範囲を調整
多くの敵を巻き込みつつも同族殺しや
その周辺の敵には影響がない様にする。
●
領主感を守護するオブリビオン、ワイリー男爵を己の尻尾で執拗に叩き伏せる同族殺し。
時折、ワイリー男爵が発生させた黒い霧に飲み込まれたかと思えば、それを散らすかのような咆哮とともに、体を巨大化させ、小さなぬいぐるみの体躯を蹴散らしていく。
その咆哮には、ひどく重い、恨みが籠もっているように、聞こえた。
(なるほど……)
フォルク・リア(黄泉への導・f05375)は、遠巻きにそんな彼らの様子を眺めながら、思案を重ねる。
オブリビオンでありながら、オブリビオンが余程憎いと見える。いや、その咆哮が同族殺しのユーベルコードの現れであるならば、怨みの対象はもっと違う何かなのだろう。
だけれど、今の彼にとっては『同族』こそが憎む対象。
これは好機だと、フォルクは思う。守り手の多さが突破を困難にさせていた領主館への強襲が叶う、またとない好機だ。
しかし同時に、それほどの数のオブリビオンを相手にしている同族殺しの強さには、気をつけなければならない。
あれも、討伐対象であることには、変わらないのだから。
「骨の折れそうだ」
ポツリと小さく呟いたフォルクの視界に、不意に、オブリビオンとは全く違う影が横切る。
人型で、女性……いや、少女。黒い纏の下から覗いた、何処かあどけなく、けれど決定的に表情に乏しい横顔を視線だけで追っていけば、彼女は同族殺しに集中している敵を、屠っていくではないか。
あぁ、彼女も猟兵なのかと理解して。であるならばと、遠巻きの観察は辞めにして、フォルクもまた、戦場へと立ち入った。
オブリビオンの群れの中に突っ込んだ少女、リエラ・フロウウェン(残り火・f21781)は、ちらりと横目にだけ同族殺しの姿を確かめる。
今のリエラは、彼に接触するつもりが一切ない。ただ、彼が周囲の敵を散らしているのであれば、それに乗じ、守りてたるワイリー男爵の数を減らしていくだけ。
(巻き込まないように……気は、つけませんと)
握りしめた剣の柄。ワイリー男爵がリエラに気づく前に、素早く近寄ると、大きな剣を振り翳す。
「この命、燃え尽きるまで……輝け、クラウ・ソラス」
リエラの声に応じ、白銀の極光が奔る。それはリエラの細腕からは想像もつかないほどの怪力を伴って叩きつけられ、ワイリー男爵を真っ二つに両断した。
「き、貴様は……」
何者か、などと。問う間は与えない。一体一体確実に両断していく。
そうしながら、ちらり、リエラは足元に転がった、潰れた残骸を見やる。
同族殺しが仕留め損ねた敵がいれば、それも優先的に倒していこうと思ったけれど。どうやら半端な始末の仕方はする気がないらしい。
何処までも徹底的に叩き潰されている姿は、どことなく愛らしいぬいぐるみの見た目でなければ、さぞ、凄惨なことだっただろう。
(……気になる事は多いですが、まずは自分に出来る事を)
今は、それが最善。
力押しの戦法は、速さも重要だ。思考に割いた意識を眼前の敵へと集中させて、リエラは再び極光を振り翳した。
そんな彼女へ、突如大量のコウモリが襲いかかる。
「我輩に鮮血を捧げよ!」
高らかな声に応じるようにキィキィと甲高い声を挙げた蝙蝠の群れ。ぱっ、と距離を取るリエラを追ってくるそれらへ、ばさりとマントを広げれば、纏ったオーラに数匹が弾かれる。
だが、数が多い。最低限の被害に抑えねば、とかすかに眉根を寄せたリエラの傍らを、ごぅ、と強烈な風が、横切っていった。
「な……」
旋風……いいや、竜巻だ。リエラからはいくらか距離があったにもかかわらず、衝撃波を伴ったその竜巻は、羽ばたく蝙蝠を巻き込んで、巻き上げる。
「大海の渦。天空の槌。琥珀の轟き。平原の騒響。宵闇の灯。人の世に在りし万象尽く、十指に集いて道行きを拓く一杖となれ」
はたり、はためくフードの下でフォルクが朗々と紡ぎあげれば、彼の声と指先に導かれるように、竜巻が奔る。
蝙蝠をけしかけたワイリー男爵も、それ以外も、戦場を大きく巻き込んで吹き荒れた風は、けれど決して、同族殺しやリエラら猟兵を巻き込むことはなく。
俄に色めきだったワイリー男爵らが竜巻の操り手であるフォルクを狙うのに気がつけば、リエラがすかさず前に立ち、その露を払った。
「手助けは、不要だったかな」
「いいえ、助かりました」
それは何よりと微笑んで、いくらか数の増えた敵対者をくるりと視線で眺め見るフォルク。
「此処よりもあっちの仲間を手伝った方が良いんじゃないか?」
俺よりよっぽど危険だろう、と。同族殺しの方を伺いながら言えば、「抜かせ」と口々に声を荒げるワイリー男爵。
「あれは確かに強い」
「しかし貴様らも邪魔だ」
「弱い方から始末するだけのこと」
なるほどそれも手か。納得と感心を混ぜたような呟きを吐いてみせ、それはつまり侮っているということかと、首を傾いで。
再び呼び寄せた竜巻で、ワイリー男爵が放つ黒い霧ごと一体を掻き乱した。
ばたばたと布の暴れるのを押さえつけ、それでも力強く立ったリエラは、風と衝撃波に翻弄される敵の懐へと駆け込んで、極光を放つ。
やがて口喧しいばかりの守り手の群れは、消えていた。
最後の一体を倒したのが誰だかなんて、猟兵達にはわからない。
ただ、目の前の敵を失った同族殺しは、再び咆哮を挙げ、館の奥へ、新たな敵――憎しみをぶつける対象を求め、駆けていくのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『禍王オメガ・アポレイア』
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POW : 戦神斬
【黒いオーラを纏い、巨大化した刀の居合斬り】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 桜花の刀
敵を【黒い桜の花びらの粒子を出す刀の二刀流】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
WIZ : 戦神弾
レベル×5本の【氷】属性の【超高速かつ大威力の飛ぶ斬撃】を放つ。
👑11
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●一つの、きっかけ
「ついに来たか……!」
待ちわびた。そんな感情が溢れ出るような声。
領主館の扉という扉をぶち破り、狭い廊下をえぐりながら奥へと進んだ同族殺しは、大きな広間でそれと対峙していた。
それは『神』を名乗る女。そして禍の王足り得るオブリビオン。
「刮目して視よ! 我は戦神、叛逆の魔神なり!」
強者を求める高らかな声が、広間に響き渡る。
その声に、同族殺しの咆哮が重なる。忌々しげに、憎々しげに、感情を絞り出すような声が、響く。
びりびりと空気を震わせる声に、くつり、女――『禍王オメガ・アポレイア』が笑った。
「やはり良い。貴様は良い。早々に来ると思っていたぞ」
ちらりとも猟兵を見ない女は、両手を広げて同族殺しを迎える。
「殺した甲斐があった! 虐げた甲斐があった! 愚かな同胞よ、あれほど怯えた顔を見て、貴様を拒絶する様を見て、なおも人を守る気か!」
問いかけるような声に、答えなんて期待していない。会話なんて求めていない。
そんな理性を掻き消すほどの憎しみが満ち満ちているのだけが分かれば良い。
「ならば来いッ! 『ノクト・ヴァニタス』よ!」
――歓喜に満ちた声は、同族殺しを迎え撃つ。
オメガ・アポイレアの言葉から察するに、ノクト・ヴァニタスと呼ばれたオブリビオンとの間には、何らかの因縁が生じたのだろう。
それも、女の方が意図的に同族殺しを嗾けたのだろう。
だからと言って猟兵達がその因縁の行方を黙って見守る道理はない。
同族殺しは先の戦闘で既に疲弊しており、アポイレアとの戦力差は明らかな物となってしまっている。
彼女を少し楽しませて、おしまい。そうなってしまえば、猟兵達こそ、彼女を倒す機を逸してしまいかねない。
だから、存分に横やりを入れてやればいい。そうして、知らしめてやればいい。
この女が見向きもしなかった猟兵という存在の、実力を。
佐藤・非正規雇用(サポート)
「へぇ……どうやら、俺の助けが必要みたいだな」
トナカイの着ぐるみに身を包み、参加者を助けるべく
颯爽と現れる。
圧倒的な自信とマウンティングで
戦況を好転させるが、詰めが甘い。
(トドメを刺し損なったり、罠が不発だったり)
名前を聞いても、「俺は通りすがりのトナカイさ」と
正体を明かさない。
■スペック
戦闘は主に剣を使うが、負けそうな時は
卑怯にもツノやキバを使う。
女の子に弱い。
味方だろうが敵だろうが、口説かずにいられないが
センスは壊滅的。
言うまでもないが、口説いて成功したことはない。
マリン・ルベライト(サポート)
明るい性格で社交的。
目上の人に対しては敬語で接する。
基本目上の人は名前+さん、それ以外の場合は名前+ちゃん(くん)で呼ぶ。
剣も弓も扱うが単騎での強さはそこまででないのでサポートに回りがち。
魔法も扱えるが召喚や強化がほとんど。
戦闘以外の調査などは猫を召喚して一緒にだったり透明化を利用したりなど状況に応じて様々。
年齢的にもまだ未熟なところもありたまにドジを踏むがいざという時の集中力はかなりのもの。
可愛いものや綺麗なものが好き。
正義感がまあまあ強めですがそれで暴走したりはありません。
ちょっとお茶目な感じです。
歳が近ければ○○だね、○○なのかな?といった感じの口調です。
あとはお任せします。
●
少しの会話。いや、それは一方的な宣言であり、挑発でもあった。
聞き止めて、それだけを理解した佐藤・非正規雇用(ハイランダー・f04277)は、着込んたトナカイの着ぐるみの中で、不敵な笑みを浮かべる。
「へぇ……どうやら、俺の助けが必要みたいだな」
同族殺しが誰かの『助け』を求めているとは到底思えない。それでも、見据えた存在を敵と思うならば、非正規雇用との利害は一致している。
それは確かなのだけれど。
「――女がそう肌を晒すもんじゃないな。その文様は魅力的だし、動きやすいんだろうが……下心からの防御力は皆無だぜ」
この男、女性にとことん弱いのだ。それが敵であろうとも、口説くような台詞を吐かずにはいられない。
まぁ当然、己を『神』とすら称する存在が、人間基準の感情に何を感じるわけでもないのだけれど。
ちらりと非正規雇用を見て、鼻で笑って、それだけ。
魅力がどうだとか、下心がどうだとか、彼女にとっては全てがどうでもいい。
強者との戦いだけが、求めるものなのだから。
「眼中なしは流石に傷つくぜ。だが、そっちがその気ならこっちも遠慮なく――」
「私も、お手伝いします!」
半歩引いた足。握った剣の切っ先はすでにオメガ・アポレイアへと向けられていたけれど、ハキハキと響いた声に、非正規雇用の視線はキリッとしたままバッチリ振り返る。
構えた弓に矢を番えながら声を上げたのはマリン・ルベライト(禁忌に生み出されし姉妹・f08954)。
彼女もどう見ても猟兵だ。でもどう見ても少女だ。
そして繰り返すが、この男、女性にとことん弱いのだ。
非正規雇用の脳内に瞬間的に様々な口説き文句が浮かび上がった。
しかし、非正規雇用がその剣を手に斬りかかっていくのを今かと待ち構えるマリンの眼差しに、「全力でサポートします」とキラッキラの意思を見つけて、はっとしたように視線をアポレイアへと戻す。
「よろしく頼むぜ、お嬢さん!」
こういう時は、背中で語るものだろう!
再び真っ直ぐに身構えた彼らの眼前、同族殺しの巨体がアポレイアへと突撃する。
声にならない怨みの声を上げて、真正面から振りかざした尻尾を叩きつけようとする同族殺しへ、アポレイアは黒いオーラを身に纏、巨大化させた刀でもって同様に真正面から応じる。
それらがぶつかり合う威力に、マリンは思わず息を呑んだが、萎縮しそうな彼女の傍ら、非正規雇用は高らかに哄笑する。
「図が高いぜ! 我が力の前に平伏せよ!!」
宣言と共に掲げた剣。それに応じるように、彼の二倍はあろうかという鎧姿の巨人が虚空より現れ出た。
「さぁ、いくぜ!」
掲げた剣を振り下ろせば、巨人は非正規雇用と同じ動きでアポレイアへと斬りかかる。
非正規雇用の持つ剣を巨大化させたような剣は、同族殺しの尻尾と同様、単純に思い一撃を繰り出した。
それを見、飛び退るように躱したアポレイアへ、鋭い矢が飛来する。
「我らの邪魔をするか!」
「します! 私達は、あなたを倒すために来たんですから!」
視界はよく開けている。指先の震えもない。威圧するようなアポレイアの言葉に、真っ直ぐに切り替えしたマリンは、再びその瞳を眇め、集中する。
己の放つ一射は、決して威力の高いものではない。だけれど、命中させることで非正規雇用や同族殺しの攻撃へと繋がる機会を生めるはず。
実際に、突き刺さった矢を物ともしないアポレイアではあるけれど、刺さった瞬間に縫い留められたように動きが止まったのを、マリンの目はしかと捉えていたのだ。
共に、戦う者への助けとなれるなら。
怖いことなんて何一つ無い。
「く、はは……」
黒い桜の花びら。それによく似た粒子を纏わせた刃を二振り、手に帯びて。
アポレイアは小さく、笑う。
「倒す、そうか、我を倒すか!」
面白い――!
歓喜に満ちた顔をするアポレイアへ、同族殺しの尻尾が上から、非正規雇用の巨人の剣が横から、示し合わせたように攻撃を仕掛けていく。
それを、受け止めて。
それでもなお、彼女は刃を振り抜いた。
「鎧を砕いてくるか……」
ただ単純に、強靭なのだ。この敵は。
理解はすれども、それが引く理由にはなり得ないことは、非正規雇用も、マリンも、同族殺しだって、分かっていたけれど。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
杼糸・絡新婦
つまりは自分の欲求のために、
同族殺しの周りを壊したてことやろかいな。
悪趣味なこって。
他に気を取られているなら【忍び足】で行動し
【フェイント】をついて攻撃。
錬成カミヤドリにて鋼糸をレベル分召喚。
絡みつくように巻きつけ、
動きの阻害を狙いつつ攻撃する。
また、糸を織りなすようにして、
盾代わりにして敵の攻撃を防ぐ、
または威力を落とすことを狙う。
こちらの事は気にせんと
そちらさんと戦いな、
それがお望みやったんやろ、
なあ、神さん?
●
ふぅん、と。杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は胸中だけで呟いた。
具体的な事情はさておき、オメガ・アポレイアの言葉を素直に受け止めるならば。
彼女は自分の『強者と戦いたい』という欲求のために、同族殺しの周りを壊したということなのだろう。
「悪趣味なこって」
もしかしたら同族殺しはかつては善良な領主だったのかもしれない。
そんな憶測をちらりとよぎらせながら、絡新婦は気配を殺した足で、音も立てずに歩み寄る。
幸いなことに、アポレイアは駆けつけた猟兵達の横槍もあって、より一層、目の前の敵対者に夢中になっていた。
気付かれないまま、一歩、二歩。さりげないくらいの歩調で近寄ると、杼に巻きつけられた鋼糸を、解く。
手元で操っていた一本の糸は、ひとつ、ふたつと絡新婦の周囲に増えていく。
「鋼糸【絡新婦】いざ、参るてな」
瞬く間に、五十を超える糸達がきりりと鋼の擦れ合う音を立てて絡む。
糸の生むかすかな音に、高揚に研ぎ澄まされた状態のアポレイアは気付いたけれど、その段階では遅かった。
鋼の糸は色を変え、張り詰め、あるいはたわみながら、アポレイアへと巻き付いて、食い込むのだ。
「貴様……!」
「あぁ、流石に気づきはるわなぁ」
行動を阻害しながら、同時にダメージを与える鋼糸を巧みに操りながら、絡新婦はころりと笑ってみせる。
「こちらの事は気にせんとそちらさんと戦いな」
ほら、こちらを睨んでいる間に、あなたの求めた『強者』が迫ってきているよ。
無論その気配も気取っているアポレイアは、きつく食い込んでいるはずの糸を引きながら、剣を振るって迎え撃つ。
(鋼糸に絡まれて、それだけの力が出せるんか……)
気を抜けば引きずられてしまいそうだと思案していた絡新婦の視界に、黒い桜の花びらがちらつく。
血飛沫が上がるほど体に糸が食い込むのも構わずに引っ張ったことで、逆にかすかに緩んだ隙を狙って、振り翳した二刀でもって絡新婦を斬り伏せようと距離を詰めるアポレイア。
しかし、彼女の刃が絡新婦に直接届くことはなかった。
「こちらに構ってて、ええの?」
赤に、緑に、黄に、黒。様々な色を織り込むように重ね合わせた簡易な糸の盾が、ぎりぎりの所で彼に迫った凶刃を受け止めたのだ。
幾つかは断ち切られ、織物を裂いたようになってしまっているけれど、張り詰めるばかりでなくたわむことも出来る糸にいなされた刃は地を抉る。
「あれと、戦うのがお望みやったんやろ、なあ、神さん?」
巨大化した同族殺しが咆哮を放つ。その声が空気を震わせる様に肌を粟立たせながらも、絡新婦は真っ直ぐにアポレイアを見据えていた。
――と、はらり、女に巻き付いていた糸が緩み、解ける。
けれどそれによりアポレイアが飛び退るより早く、同族殺しの巨躯が女を轢き、吹き飛ばした。
「引きちぎられるんはかなわんからなぁ」
複製したものではあるけれど、この糸はヤドリガミである己そのものなのだから。
大成功
🔵🔵🔵
フォルク・リア
「神か。確かに神から見たら俺は取るに足りない
存在には違いない。」
それでも。神も悪魔も殺せるのが人間と言うものさ。
まずは、敵の戦いからは若干距離を取りつつ攻撃のタイミングを見計らう。
その間は敵に此方の動きを見切られない様にオメガの
視界から外れながら攻撃に警戒。
仲間やノクトの攻撃に合せる様に冥雷顕迅唱を使用し
オメガのみに雷撃を当てる様に【範囲攻撃】で制御。
纏った雷や地形に満たした雷に加えて冥雷顕迅唱での攻撃で
戦神弾の氷を相殺、蒸発させ。その蒸気に紛れつつ
雷を利用した【ダッシュ】や【残像】で的を散らし攻撃に対抗。
隙を突き地形や大気に満たされた雷を集中して
オメガと周辺を巻き込んだ電撃の飽和攻撃を行う。
●
「神か」
同族殺しや猟兵達の攻撃を受けて、徐々にその表情に余裕がなくなっていくオメガ・アポレイアの姿を見て、フォルク・リア(黄泉への導・f05375)はポツリと呟いた。
「確かに神から見たら俺は取るに足りない存在には違いない」
彼ら『神』は人の上位の存在として支配、統治をし、その気まぐれでいとも容易く命を奪うことだって出来る。
それでも、だ。
神たる存在が人の命を奪えるように。人間もまた、神だろうが悪魔だろうが、殺してしまうものなのだ。
そうやって、この世界の人間は生き延びてきた。
一先ずは、観察を。先に戦ったの守り手達の時と同様、フォルクは少し離れた位置を取り、攻撃のタイミングを見計らう。
現れた猟兵達が、個々の力は小さいながらも強力な同族殺しを利用したり細かな隙を狙って的確に攻撃を仕掛けてくる事は、もうアポレイアにも理解できたのだろう。
だからこそ、突入した瞬間よりはずっと、こちらへも意識を向けてきている。
だが、そうすることで今度は同族殺しへの対処が甘くなってしまうようで。やはり大きく意識を傾けるのは、一撃が重い同族殺しの方だった。
それならば、都合がいい。
アポレイアの視界から外れるように立ち回りながら、フォルクは静かに詠唱を進めていく。
「上天に在りし幽世の門。秘めたる力を雷と成し――」
ぱり、と。空気に微かな電流が奔る。始めは微かなその電流も、フォルクの詠唱が進むにつれて、徐々に強烈な雷へと成長していく。
フォルクの手元でばちばちと音を立てる雷弾が形成されれば、その気配にアポレイアの意識が向けられた。
「その荒ぶる閃光、我が意のままに獣の如く牙を剥け」
形成された雷弾が、爆ぜる。
刹那、アポレイアを狙うように雷が落ちた。
飛び退り躱そうとも、雷の落下地点から飛散するように雷弾が迸り、アポレイアの足を捕まえた。
びりびりと感電効果を伴うその弾に、苦悶の表情を浮かべたのは、一瞬。
「これしきで、我が地を這うとでも、思うたか!」
一喝すると同時に、女の周囲に氷の刃が浮かぶ。
それは夥しいまでの数の斬撃となり、フォルクへと放たれた。
圧倒的な物量を誇る氷の斬撃。それを一手に向けられたフォルクは、しかしその場から動くことはせず、代わりに周囲に飛散している雷を操作する。
盾のように展開された雷に、氷の斬撃がぶつかった瞬間、まるで爆発したかのように大量の蒸気が溢れた。強烈な雷が、大量の氷を溶かし、蒸発させたのだ。
まるで霧のように視界を覆う蒸気に、するり、フォルクはその姿を紛れさせる。
纏った雷の力を使って駆け、残像を残し、自身の位置を把握させないように足を運んだフォルクは、想定外に視界を奪われ足の止まったアポレイアへと、再び雷を穿った。
「ぐ、ぁああ! おのれ、おのれ――!」
彼女の余裕は、潰えていた。怒りに吠えるような声を目掛けるようにして、同族殺しの巨体が割り込んでくる。
周囲に未だ帯びている電撃なんて、構わないと言うかのように。
なりふり構わぬそのさまの、危うさと言ったら。
「そうまでして討った後には、どう、するのでしょうね」
返される言葉のないフォルクの呟きは、小さな小さな独り言として、だだ広いばかりの広間にかき消えた。
大成功
🔵🔵🔵
フィッダ・ヨクセム
神もこうなると哀れに見えるんだな
ボロボロとか、ゴ愁傷サマ
……あー独り言だ、どうぞお構いなく?
こちらに攻撃が向くなら、俺様の本体と限定召喚したもう一対とで
張り合うがね、妨害行為以上の愉快な事はしねェなァ?
キッカケ作り程度は手伝ッてやるよ
なんやかんやで停めるは得意だが、それだけだ
炎の魔術で覆った自分の歪んだ本体なら槍投げ投擲で撹乱の手助けに使うが
借りもんは投げないぜ、ひでェ目に合わせたら後がこわい
むしろ、借りもんの持ち主由来の風の魔術で盛大に薙ぎ払ッてやらァ!
そりャあもう全力でな!
魔術の詠唱?知るか、そんなのアンタらの有り様と同じだ
刹那的で、それこそ……意味なんてねェんだ
…燻る想いは置き去りに、な
●
幾度攻撃を受けただろう。そして、幾度攻撃を与えただろう。
その比率が、思っていたものと真逆になっている現実は、認めたくなかったけれど。
「神もこうなると哀れに見えるんだな。ボロボロとか、ゴ愁傷サマ」
軽薄に響く声が、オメガ・アポレイアの耳につく。
ぎろりといまだ鋭さの衰えの目で睨み据えれば、ひょいと肩を竦めてみせるマスク姿の男……と、謎の、オブジェ。
「……あー独り言だ、どうぞお構いなく?」
フィッダ・ヨクセム(停スル夢・f18408)はそう言うと、そのオブジェを引きずるようにしながら同族殺しの影に隠れる。
積極的に攻撃をする気は、今はない。だってそうだろう。彼女の望みは同族殺しと戦うこと。
そして、同族殺しの今の目標は彼女を殺すことで、猟兵達の忘れてはならない目的は、オブリビオンの全ての討伐。
それならば、フィッダが手掛けることは単純明快。アポレイアの妨害であり、楽しい愉しいキッカケ作りだ。
謎のオブジェ――ダークセイヴァーでは知れるはずもない存在、バス停は、行き交うバスを停めるもの。そうして、待ち並ぶ人々と巡り合わせるもの。
望む者同士を引き合わせるのは、それはもう、得意分野なのである。
そんなフィッダの動向に注意は向けつつ、想定外に勢いをそげていないままの同族殺しが放つ黒い霧や怨念から逃れるアポレイア。
そんな彼女へと、フィッダは炎の魔術で覆ったバス停をぶん投げる。
主に鉄とコンクリートで出来た重量のある物体が炎を纏って飛ぶのだ。そんじょそこらの武器よりも存在感を放つそれを、見逃すわけなんて無いし、避けない選択肢だって取れるわけがない。
舌打ち一つ、血の滴る足元を蹴り、飛び退れば、ゴドン、と重い音を立てて、バス停が飛来する。
「おッと、残念! 簡単には当たらねェか」
手をひらひらさせ、まるで気まぐれで投げてみたかのような態度を見せつつ、ちらり確かめた同族殺しの動きに合わせ、アポレイアの回避を阻むかのように投擲されるバス停。
その意図は一度で悟れる。もう一度舌打ちをして、アポレイアは同族殺しを躱すように動きながら、フィッダへと攻撃を向けた。
「こっちにくるか。そォかい」
そちらの気がそんな風に変わったのなら、仕方がない。
「待つだけじャつまらん。俺様は、俺様の道を行くぜ!」
武器が……否、己の『本体』がバス停だからと、律儀に待つばかりではない。来るなら迎え撃つ。自ら進める二本の足があるのだから。
踏み切ったフィッダの手には、炎を纏ったバス停と、もう一つ、風の力を漂わせたバス停が握られている。
まるで二本の刃を備えたかのように、軽々と振り回したバス停が、アポレイアの黒い桜を舞わせる剣とぶつかり合う。
「ッ、なんだ、その奇っ怪な鈍器は!」
「ただのバス停だ。こッちは借りもんだけどなァ!」
運命の意図が結ばれた、別の誰かの大事なもの。自身の本体のように投げるなんてぞんざいな扱い方は出来ないけれど、持ち主由来の風の力は、盛大に薙ぎ払うにはうってつけ。
ごう、と音を立てて振り抜かれたバス停は、受け止められたとて、その風圧に押し負ける。
全力の殴打を繰り返すフィッダは器用に炎と風の魔術を使い分けるが、そこに詠唱らしいものは伴わない。
意味なんて無いと、本人は言う。
それは、オブリビオンである彼らの有様と同じで、刹那的なもの。
長い長い時をかけて、人としての肉を得たヤドリガミにとっては、特に。
何処かの狭間に置き去りにしてきた想いのように、燻って、燻って。
満たされないまま。
やがて燃え尽きるのを知るかのように、同族殺しは無念の籠もった声を上げていた。
大成功
🔵🔵🔵
リエラ・フロウウェン
ノクト・ヴァニタス、それが貴方のお名前なのですね…。
戦神ですか…私の記憶する限り、自ら「神」を名乗る者には…まともな方はいなかったと思いますが…。
こちらに興味はないのですね。好都合です。ならば徹底的に邪魔させていただきます。
今回は一定の距離を取り、徹底的に「神」様の邪魔をします。
【全力魔法】【援護射撃】【スナイパー】を使用し、UCの「魔弾」を撃ちまくって妨害行動を。
同族殺しの攻撃の邪魔にならないように、タイミングなどもちゃんと見て動こうと思います。
アポレイアとノクトの攻撃を(流れ弾?)くらわないように注意しつつ、危険と感じたら【ロープワーク】でその場から非難を。
その他お任せOKです。
●
もう一息だ。そう感じるほどに、アポレイアは疲弊していた。
そんな女の姿を見、リエラ・フロウウェン(残り火・f21781)は訝るように瞳を細めた。
「私の記憶する限り、自ら「神」を名乗る者には……まともな方はいなかったと思いますが……」
戦神と名乗ったあれも、同じ類のものだろうことは、すぐに見て取れた。
それよりも、リエラが気になったのは、アポレイアが言い放ったもう一つの名。
同族殺し――『ノクト・ヴァニタス』。
(それが貴方のお名前なのですね……)
彼と彼女の間にある何かしらの因縁は、その一端しか垣間見ることが出来ていない。
ただ、このまともでない『神』が、同族殺しの尊厳に関わるものを奪ったのだということだけしか。
けれど、今のリエラにとってはそのような事情や都合はあまり必要ではない。
小さく弱い者と見ている内に、徹底的に邪魔をするだけ。
大きな攻撃は同族殺しが勝手にしてくれる。そうでなくとも、もう勝敗は決したような状態だ。
リエラは指先に魔力を込めながら、図るように距離を取り、機を狙う。
同族殺しが黒い霧を放てば、アポレイアは飛び退る。そうして、黒い桜のオーラを飛ばす二刀を構えて同族殺しへと斬りかかる。
(ここ、ですね)
込めた魔力を、弾丸のように放つ。アポレイアの攻撃の機を完全に削ぐ一射は、否が応でもリエラの存在をアポレイアに気付かせるが、さっと同族殺しの影に入り、女の視界から逃れることで、攻撃対象となることを上手く避けていた。
「は……ちょこまかと……」
羽虫の相手をしている場合ではないと言うに。そんな小さな呟きも、聞こえているけれど、素知らぬ振り。
それが例えば挑発だとしても、リエラには乗ってやる義理もない。
「貴方が羽虫と侮るならば、どうぞそのまま、私のことはお構いなく」
聞かせる気のない、独り言。再び指先に魔力を込めながら、リエラは十分に距離を取り、アポレイアの攻撃の瞬間、回避の瞬間、防御の瞬間を狙って、撃ち出していく。
止められた足は踏み込みが足りず、そらされた剣は深く切り込めず。
体勢を崩されれば攻撃を避けきれず、武器を弾かれれば攻撃を受け止めきれず。
的確な妨害に、アポレイアの苛立ちが募るのは自然で。その矛先がリエラへ向けられるのもまた、自然なことだった。
同族殺しへと攻撃を仕掛けると見せて、リエラの放った魔弾を弾くと、一気に距離を詰めてくる。
反撃に、けれどリエラに驚きも動揺もない。そのくらいは、想定内なのだ。
十分にとった距離と、常に同族殺しの攻撃を妨げない、彼の背後に当たる位置に居たことで、大きく距離を詰められる前に、同族殺しの影へと避難することが出来て。
そうして、彼の動きをよくよく見ていれば、その尻尾が振り上げられるのだって、すぐに分かったのだ。
「――ッ!!」
苛立ちで狭くなった視界でリエラを追ったアポレイアは、その尻尾の強烈な一撃をまともに食らう。
守り手達の時と同様、同族殺しは何度も、何度も、動かなくなるまで、動かなくなっても、執拗に尻尾を叩きつけていた。
床を抉るだけ抉った後には、オメガ・アポレイアだったものの残骸だけが、残っていた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ノクト・ヴァニタス』
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POW : (世界に選ばれた者?そうなんだ、すごいねえ)
単純で重い【尾】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : (ボクの前で好きに動けると思ったんだ?)
【視界を奪う黒い霧】【呼吸を阻害する白い風】【抑えきれない怨念】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : (キミ達なんか、だいっきらい!)
【凝り固まった人類への不信感】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
👑8
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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●かなわなかったねがい
同族殺しにとっての復讐は果たされた。
それでも、彼は止まらない。悲しげで、憎々しげで、聞く者の心を乱すような咆哮を上げながら、今度は、その場に居た猟兵へと視線を向けたのだ。
初めから、分かっていた。この存在は最早理性あるものではない。
憎しみの対象が居なくなれば、矛先はその場に生きる存在へと変わるのだ。
それが、オブリビオンとして生まれてしまった、同族殺しの――ノクト・ヴァニタスの本能なのだ。
猟兵達は何度も見ただろう。尻尾の一撃はひどく重く、強烈であることを。
黒い霧、白い風、抑えきれない怨念は、彼の体から迸り、視界を覆い、呼吸を妨げ、心を苛むものであることも。
一つの感情が爆発して、彼自身の体が巨大化すれば、その戦闘力が増すことも。
彼が扱える言葉はなく、こちらの声が届いても、あちらの声は、返らないことだって。
何度も、何度も、見てきたはずだ。
ならば対策は取れるだろう。
既に敵からの攻撃を受け、かなり疲弊している様子の彼を討ち果たすことは、難しくないだろう。
彼を、止めてやれるだろう。
杼糸・絡新婦
相当恨みがこもってたんやろうけど、
倒しても晴らされへんのやったら怖がられたままやで。
戻るつもりないんやったら、進む道はここまでや。
鋼糸で攻撃しつつ、
【フェイント】をいれ相手の視線、行動を誘導、
今までの動きから【情報収集】し【見切り】
で出来るだけ敵の動きを観察し、
攻撃を回避しながらタイミングを図り、
脱力して受け止め、オペラツィオンマカブル発動。
もうどこにも行き場のない恨みなら、受け止めるほど優しゅうないんよ、
あんたさんにお返ししようか。
蛇塚・レモン
助っ人に駆けつけてみたけど……うん、こういう展開は何度向き合っても悲しいね……
ごめんね、君に恨みはないけれど、あたいは君を斬るよ
とてつもない不信感に胸が締め付けられそうになる
そこまでの負の感情を背負う存在になってしまった目の前のオブリビオンに同情しながらも、あたいは勾玉を介して蛇神様を召喚&UC発動
蛇神様の眼力でオブリビオンの動きとUCを封殺しちゃうよ
(念動力+視力+マヒ攻撃+呪詛+恐怖を与える)
生まれた世界が違えば、君はきっと許されたはずだったよ……
残酷だけど、宣言通りにあたいは蛇腹剣クサナギで全身を切り刻んでゆくよっ!
ダメ押しでオーラガンから火属性攻撃の呪殺弾を零距離射撃
相手の体を燃やすよ
ラジュラム・ナグ
おじさん参上だ。
お前さん自らの意思では最早止まる事も叶わず・・・か?
せめて苦しまぬ様に骸の海へと送ってやろうか。
大剣を左手に持ち替え右手で装備アイテム<全てを奪う闇>を剣の形状で握るぞ。
大剣は持ち前の[怪力]で[武器受け]用にも活用だ。
UC《強奪時間》を発動し暴れてやろうか!
敵さんの攻撃は闇を利用し技の威力を「奪って」やろう。
ただ直撃は受けぬ様に力点をずらして捌いて対応だ。
敵さんの急所、防御が薄そうな箇所、死角を狙うぞ。
大剣を振りぬく勢いを利用した連撃で[生命力吸収]しつつ一気に畳みかける!
お前さんもお疲れ様、だな。
・・・だがこの世界の未来の為、すまんが討ち取らせて頂くぞ!
リエラ・フロウウェン
悲しきオブリビオン…ノクト・ヴァニタス…。
貴方の復讐は、終わったのです。止まることが出来ないのならば…せめて最後は私達の手で、眠らせてあげましょう…。
最初から全力で行かせていただきます。
【怪力】【全力魔法】【範囲攻撃】を駆使してUCの「古き神話の聖剣(クラウ・ソラス)」を叩きこみます。
彼に少しでもいい…どうか救いがありますように…。
【尾】の攻撃が来た場合は【見切り】を使い、尾の動きに集中し回避を。
回避が難しい場合は剣で軌道をずらせればと。
【霧・風・怨念】攻撃はマントによる【オーラ防御】で防御行動を。
その他、アドリブや絡みなどオールOK
佐藤・非正規雇用
ほう……所詮はオブリビオンか。
もはや理性も残っていないと見える。
トナカイの着ぐるみを脱ぎ捨て、
身軽になった佐藤がノクト・ヴァニタスに対峙する。
(着ぐるみにはウェイトが付いており、
地面に置くと「ずどっ」という重い音がする)
利用するだけ利用して、価値が無くなったら
切り捨てるのはこちらも同じ……。
貴様の戦い方はもう見切ったッ!!
ユーベルコード「いのち短し恋せよ少女」で分身を召喚。
分身を囮にして、尻尾を攻撃する。
フッ、尻尾を斬るのが俺の役目だからな。
この攻撃、かわせるかーーーっ!!
分身を集結させ、一点への集中攻撃を行う。
●
対峙したその存在の瞳は何処にあるのだろう。見上げても、見つめても、それはわからない。
けれど、どこかにある視覚器官が、猟兵達を確かに捉えていることだけは、伝わっていた。
見つめて、睨めつけて、今正に排除しようとしていることが。
「ほう……所詮はオブリビオンか。もはや理性も残っていないと見える」
領主への『復讐』を果たせば止まるなどと甘いことはなかった。疲弊し、消耗し、それでも目の前の存在へと牙をむこうとする姿に、佐藤・非正規雇用(ハイランダー・f04277)は着用していたトナカイの着ぐるみを脱ぎ捨てる。
ずどっ、と重い音を立てて地面に沈んだ着ぐるみ。それを脱いだということは、非正規雇用もまた本気で対峙をするつもりだということだ。
「利用するだけ利用して、価値が無くなったら切り捨てるのはこちらも同じ……。貴様の戦い方はもう見切ったッ!!」
声高に告げた非正規雇用に、同族殺し、ノクト・ヴァニタスは大きく吠える。
彼の言葉を肯定するように。
ヒトが……あるいはオブリビオンさえ含んだ全ての存在が、そう言うものだと知っているのだと。主張するように。
悲しみにも似た声に、蛇塚・レモン(黄金に輝く白き蛇神オロチヒメの愛娘・f05152)は胸の内をつきりと痛める棘のようなものを感じていた。
(助っ人に駆けつけてみたけど……)
こういう展開は何度向き合っても悲しい。
対峙したばかりのレモンには、特に。彼の事情の何ひとつを知ることは出来ないけれど、同族殺しとは、何かを奪われたがゆえに同族を屠るに至る存在だということは、知っている。
この存在を、元に戻すことが出来ないことも。
「ごめんね、君に恨みはないけれど、あたいは君を斬るよ」
せめて、苦しまないように。
そんな思いをいだきながら、ラジュラム・ナグ(略奪の黒獅子・f20315)は何もかもを奪う闇そのものを剣の形に変えて、握りしめる。
「お前さん自らの意思では最早止まる事も叶わず……か?」
確かめるような問いかけは、届かない。届かないことが、答えであった。
あぁ、そうであるならば、最早致し方ない。
「貴方の復讐は、終わったのです。止まることが出来ないのならば……せめて最後は私達の手で、眠らせてあげましょう……」
リエラ・フロウウェン(残り火・f21781)は、大剣を振りかざし、誰よりも早く、地を蹴った。
――我が神秘よ、目覚めの時だ。
――古き闇よ、光の果てで無に還れ。
「顕現せよ、「クラウ・ソラス」!!」
輝く剣の意味を持つ白銀の聖剣を、リエラは真っ直ぐに叩きつける。
最初から全力だ。大きな体のどこでもいいと、単純で重いその一撃は、ノクトを強かに打ち付けた。
「おっと、反撃はさせないぜ。――お前さんの全てを糧にしよう」
ラジュラムは力で押すリエラの攻撃に、同じように尻尾の一撃を返そうとしたノクトの尻尾めがけて剣を薙ぐ。
その剣は奪う力そのもの。ほんの少し掠めただけでも、ノクトの尻尾の一部を抉り取っていく。
だが、その程度でこの怨みが押し止められるはずもないと、言わんばかりに。根本を抉られ力が落ちている状態にも関わらず、ノクトは尻尾を叩きつけてくるのだ。
「思い残したことはないか? 俺はある」
幾人もの己がいれば、思い残しや取りこぼしなく生きられるかも、知れない。
まるでそんな思いの表れのように、非正規雇用の分身が幾人も現れ、ノクトの視界を翻弄する。
だが、囮として放った分身よりも、やはり、非正規雇用の些細な一言に、まるで同調に似た咆哮が返される。
思い残したことが、彼にもあるのだろうか。
理性すら残されていない彼の、本能的な部分が、何かを、求めているのだろうか。
『復讐』すらも、その一部、なのだとしたら。
「相当恨みがこもってたんやろうけど」
小さな小さな杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)の呟きは、己の耳にだけ。
鋼の糸を繰りながら、非正規雇用と同様に、ノクトの視線や行動を誘導するようにフェイントを交えて攻撃していく。
「倒しても晴らされへんのやったら怖がられたままやで」
そんな中で紡がれた、優しく、語りかけるような絡新婦の声に、ほんの微かに、ノクトの体が強張ったような反応を示したような……気が、した。
そんな一瞬の違和感は、溢れかえった黒い霧に、白い風に、禍々しいほどの怨念に、掻き消されてしまったけれど。
ふわりと飛び退き躱しながら、一つ、息を吐く。
「戻るつもりないんやったら、進む道はここまでや」
「うん、うん……そう、そうだね……」
ノクトが吐き出すのは恨み言のような念ばかり。だけれど、レモンの肌をひりひりと粟立たせるのは、もっと暗く淀んだ、凝り固まった不信感。
それはノクトの戦闘能力を高める内なる感情そのものだけれど、滲み出るようなそれに、レモンは胸が締め付けられる思いで勾玉を握りしめる。
己の一族が代々その身に宿してきたという蛇神オロチヒメ。共に逃げ出したその姿を召喚し、ノクトの動きを封ずるべく、邪眼の力を行使する。
念動力そのものの威力はさることながら、マヒ攻撃としての役割を果たす攻撃に、ノクトはびりと痺れたように動きを鈍らせる。
その隙を突き、非正規雇用は囮として動かしていた分身も集結させ、一点を――尻尾を、集中攻撃した。
「フッ、尻尾を斬るのが俺の役目だからな。この攻撃、かわせるかーーーっ!!」
ラジュラムに抉り取られていた事もあってか、複数による衝撃に、ずしん、と音を立ててついにノクトの尻尾が落ちた。
びちゃりと飛び散った血を、リエラは回避しない。
もう、その攻撃が振るわれることのない尻尾を横目に見つめて、改めて、不信感により膨張した巨躯を見上げて。
すぅ、と息を吸い、最上段に振り上げた剣を、渾身の力を込めて叩きつけた。
リエラは、気付いていた。ノクトが猟兵達の攻撃を一切躱そうとしていなかったことに。
それはラジュラムも同様で。だからこそ、彼はノクトの体からその力を次々と奪い取り、己を容易く強化するに至っていた。
防御の薄いところを狙うまでもない。巨躯が突撃しようとするのを妨げるように、大きな足を大剣で斬りつければ、威力の高められた刃はその足をへし折り切り落とす。
「殺してくれとでも、言っているようだな」
「ッ、それなら、彼に少しでもいい……どうか救いがありますように……」
ラジュラムの推測は、真実か。定かではないが、攻撃を躱さないノクトは、けれど攻撃をやめることもしない。
そうすることが己であると言うかのように。
それこそが己の存在意義であるかのように。
「お前さんもお疲れ様、だな。……だがこの世界の未来の為、すまんが討ち取らせて頂くぞ!」
猟兵達の猛攻を受けて、受け続けて、ノクトの足元にはレモンのオロチヒメが放った念動力が形成した結界を塗りつぶすほどの血がこぼれ落ちていた。
それでもまだ立ち続ける姿を見つめ、レモンは唇を噛む。
「生まれた世界が違えば、君はきっと許されたはずだったよ……」
残酷なことだと、思うけれど。彼を斬ると宣言したその通りに、レモンは蛇腹剣でその前進を切り刻んでいく。
倒してやることが救いの手段だなどと綺麗事は言わない。
だけれど終わらせることしか出来ないのならば、無駄に長引かせることなどするものかと、火属性の呪殺弾でダメ押しを。
その体が激しく燃え上がり、絶叫が、響き渡る。
最早虫の息であることは見て取れた。それでも、足をなくして崩折れた体を無理やり持ち上げ、眼下に見下ろした絡新婦と目が合うや、這いずるように近寄って、大きな体で圧し潰そうとするように、そのまま倒れ込んだ。
「あぁ……」
気付いてしまった。
ノクト・ヴァニタスは、己が何をやっても殺される存在なのだということを、知ってしまっているのだと。
何を怨み、何を屠り、何を嘆こうと、その感情が誰にも、誰一人にも、理解されないことを、知ってしまっているのだと。
「もうどこにも行き場のない恨みなら、受け止めるほど優しゅうないんよ」
差し伸べるような手を一度だけ向けて、けれどおろして。
す、と力を抜いた絡新婦に、ノクトの巨躯が踊りかかった。
だが、それが絡新婦を押しつぶすことはなく、彼の手元でかたりと音を立てたからくり人形が、全てを受け止めた。
――抱え込むことを、自らで選んでしまっているのなら。
「あんたさんにお返ししようか」
サイギョウ。静かに呼んだ声に応えるように、からくり人形はノクトの『攻撃』を吐き出した。
既にぼろぼろだったノクトは、自らの力を変換されたその一撃で、ついに、崩れ落ちた。
それは、いつかの。
ささやかなものがたり。
『戦神』が齎したのは一つの切っ掛け。
叶わなかった、願いは。
何度だって、叶わないまま。
ああ、ボクはただ――。
おやすみなさいと、誰かが言った。
灰のように変じた体がさらさらと風に吹かれて消えていく刹那、応える声が聞こえたような気がした。
大成功
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