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ロア

#ダークセイヴァー #同族殺し


●それぞれの交錯

 ダークセイヴァーの世界は今日も、暗闇に閉ざされた暗弱の世界であった。
 時間帯など関係もなく蝙蝠が飛び交い、凶悪な獣が闊歩する。
 村であっても危険がないとは言い切れない。森の中なら尚のことだ。
 それは今日も変わらずで、むしろ、より一層とさえ言って過言のない日だった。

「あは、は――」

 笑い声が響く。
 昏い森の中、草木の揺れる雑音に声が紛れることはない。1オクターブ以上高い音は颯爽と森を駆け抜ける。
 声の主――純白のドレスを身に纏った、高貴そうな女性はしかしドレスを真っ赤に染めて。森を歩くものだから草木をかけて布がほつれ、土汚れが付着している。
 だが、当の本人は特に気に掛ける様子もなく、笑う。
「はははッ」
 その笑みが例え、口元にのみ許されたものであったとしても。

 ……ふいに、風ではないものが草木を揺らす。
「はは――」
 すかさず鎌が奔る。女性を中心として、葉も幹もその悉くが、腰ほどの高さまで伐採される。
 しかし、寸でのところで逃れたのだろうか。潜んでいた何者かの死骸や、気配。それらはそこに残っていなかった。
 純白の女性――吸血姫はそうして再び、歩みを進める。気配は見失ったけれど、まだ――。
 地面に垂れた血が、”それ”の向かう先を指し示しているのだから。

 ……一方、森の奥深くにある館では男が一人、豪華な装丁の椅子に腰かけ俯いていた。
 この世界には似つかわしくない、煌めかしい腰掛け。それはつまり、この世界における上位者の存在を意味しており、そこにいる人間の品位を物語っている。
 深紅の瞳に憂いを乗せて、正面の大扉を見つめる。
 ――それを開く来客を待ち続けるように。
 しかしいざ、その扉を開けた者は――来客ではなく見知った顔だった。
「お館さまぁ!」
「情けない声をあげるな、男爵」
 声を荒げて転がり込んできた従者を諫め、お館様と呼ばれた男が瞑目する。
 従者の帰還は即ち、望まぬ来客を意味する。
「吸血姫は……その様子だと健在のようだな」
「はい……申し訳ないですねぇ……」
 ぬいぐるみのような容姿、その腕から血を垂らしながら男爵は申し訳なさそうにしている。声がわずかに震えているのは元来の癖である。
「何度か撒いたのですが、しつこく追ってきて……」

「……俺が赴くしかあるまいか」
 閉じた瞳を薄らに開いて、椅子から立ち上がる。
「……殺すのですか?」
「左様。……俺が何と呼ばれているか、知っているだろうワイリー男爵」
 ぱたぱた浮かぶ男爵に視線を流すと、それは口元を歪ませて答える。
「はい、勿論。……吸血鬼殺しのアルヴィ様」
 手を伸ばす。ぬいぐるみのような容姿に合う大きな手が、お館様――アルヴィの頭を包み込むように。
「であれば、早急に。すぐそこまで吸血姫は来ております故。事を大きくして政務に支障を来たしては、後々が面倒でしょうからねぇ?」
「あぁ、……分かっているとも」
 手のひらから、黒い靄が出る。それがそのまま、アルヴィの顔を覆うように広がって、瞳をさらに濁していく。
 にびび、と。嗤う従者の姿を見るものなど、その場に今はいなかった。

●グリモアベース

 さてグリモアベースはというと、気を失った大男が倒れていた。
 頬を叩けばはっ!と目を覚まし、ちょこっと髪と襟を整えれば何事もなかったように本件の解説に移る。
「ウン、まぁ……あれだね。すっごい血みどろ」
 グリモア猟兵、ベンジャミン・ドロシーの第一声はそれだった。大方、予知で苦手な血をたくさん見てしまったのだろう。よく見れば足が未だにがくがく震えている。
「まぁ~~~分かってたよ?いつかこういうこともあるだろうねってね!ウンウン、出来れば一生こんなスプラッター悪夢見たくなかったけどねぇ!!」
 しかし、見てしまったものは仕方ない。気絶までして頭も冷えたので、この際と割り切って説明を続ける。

「舞台はダークセイヴァー!昏い森の先にある領主の館へ、あるオブリビオンが襲撃を行う――おかしな話だろう?」
 普通、領主といえばオブリビオンだ。反旗を翻した人間が襲撃するならまだしも、野良のオブリビオンが襲撃するなど、確かに謎だ。
 そこでひとつ、とベンジャミンが人差し指を立てる。
「同族殺しの話、聞いたことはあるかい?ボクも最近聞いたんだけども。……なんでも何かの出来事を切っ掛けに狂ってしまうオブリビオンが出現するんだとさ。ツブヤイッターとかで似たようなのよく見るよね」
 与太話は置いておいて、そうなったオブリビオンがより一層に面倒な存在であることに変わりない。
「だが、これは好機とも言える。そこな領主は現状、寄せ集めの猟兵では些か挑むべきではない強さを誇るって話だが……今なら共倒れを狙えるかもしれない」
 要は、敵の敵は味方と言う話だ。もっとも同族殺しが狂っている以上、下手に手を出せばこちらも只では済まないだろう。敵と敵が肩を並べてしまう事態は避けたい。

「先ずは同族殺しが館を強襲する。ボクら猟兵はそこに紛れ込んで、館を守る従者どもを蹴散らす。後はまぁ、流れだね」
 危険な橋故に、それ以上の流れは全て猟兵たちの行動に委ねられるというわけだ。
「全く、こんな予知は柄じゃないんだけど……無事に、とはいかないだろうが、生きて帰っておいで」
 そうしたらまぁ、茶ぐらい奢ってやるさ。そう微笑む。
「……あ、スターベックスは高いからやめてね。サンマルクイナならいいよ」

 そんな与太話もほどほどに、猟兵たちはダークセイヴァーへ赴く。


空想蒸気鉄道
 この度は空想蒸気鉄道にご乗車いただき、ありがとうございます。

 狂気的に笑うキャラって、古傷が抉られることがありますよね。詳しくは言いませんけど。
 本編では触れられませんでしたが、一般人は館にいませんのでご心配なく。

●行動について
 連携や一緒の行動をご希望であればお申し付け下さい。
 戦闘シーンでは連携可能であれば書きやすいです。
 (仲間の~とかそれっぽいことがあれば、連携させることがあります)

●同族殺しについて
 本シナリオの同族殺しは「緩慢とした無情の吸血姫」になります。
 (外見は本シナリオのトップをご覧ください)
 基本的に会話は不可能。しかしもしかしたら、何か答えるかもしれません。
 1章、2章において同族殺しへの攻撃は《非推奨》です。
 館のオブリビオンを倒し尽くすまで、彼女の標的はオブリビオンに絞られます。

 それでは、良い旅を。
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第1章 集団戦 『ワイリー男爵』

POW   :    我輩に鮮血を捧げよ
【手下である蝙蝠の大群】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    我輩に愉悦を捧げよ
【手を叩く】事で【全身を緋色に染めた姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    我輩に絶望を捧げよ
【両掌】から【悪夢を見せる黒い霧】を放ち、【感情を強く揺さぶること】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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「にびび!」
 奇怪な笑い声をあげて、ワイリー男爵は笑みを深める。
 館の前にて、主を守るべく立ち塞がる従者。……と言えば聞こえはいいが、果たして本当にその通りかは分からない。
 本体はひとつにして、しかして分体の並ぶさまはぬいぐるみの並ぶエントランスというメルヘンな様相と化している。

 ……不意に、鉄扉が蹴破られた。

「あはは――」
「来ましたねぇ。ようこそ”私たち”の館へ!」
 蹴破られた拍子に、ワイリー男爵の分体がなぎ倒される。その中で、無事な個体が歓迎の言葉を告げる。
 ……しかし、歓迎の言葉を受け取ったのは、吸血姫だけではないことを、彼はまだ知らない。

 かくして――砂埃の舞い上がるエントランスに、時を同じくして猟兵も参戦するのであった。
イリーツァ・ウーツェ
【POW】
あのオブリビオンは、害してはならない。
このオブリビオンは、殺してよい。
よし。

鉄扉程度で、薙倒される程に脆いならば。
「竜宮」で、尾で、爪で、片端から平らげていく。
遠くにいるものはリボルバーを連射して殺す。
威力と反動が非常に強い銃だが、私の力であれば問題なく撃てる。
敵が蝙蝠の大群を呼び出したなら、UCを使用。
雷のブレスで一掃する。

害してはならぬ敵を害さない様にするのが、一番難しいが……。
気を付けよう。害してよい敵とだけぶつかって貰わねば。



 吸血姫が鎌を振り払う。

 殺気が形を得たような斬撃に、ワイリー男爵の分体が次々切り裂かれていく。
 しかし、無事な個体は尚も笑う。
 嘲けて、嗤う。
「にびび!そうそう、その瞳が見たかったんですよぉ!その、絶望に染まり切った目!もう自分が何をしてるかも分からないんじゃないですかねぇ?」
 ぬいぐるみのようなそれは、悪辣な笑みと言葉を並べて、吸血姫を囲う。当の吸血姫本人は無表情のまま、鎌を振るうのみ。
 ……不意に、斬撃を掻い潜った男爵が吸血姫の耳元で囁く。
「どうだった、仲間が死ぬときの最期の悲鳴は?」

 ――その時だった。

「っ!?!?」
 破裂音。それも特大の音圧が、ワイリー男爵を真横へ吹き飛ばす。
 それは銃声。
「成る程」
 瓦礫に重なる鉄扉の上でイリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)は、ひとつ瞑目の後に呟く。
 もともと宙に浮いていたワイリー男爵はされるがままに銃弾に吹き飛ばされ、その分体を消滅させる。
 銃弾の主はそれに一瞥もせず、代わりに彼女を見る。
 赤い瞳が交差する。
「あのオブリビオンは、害してはならない」
 機械的な口調とともに、吸血姫を指さして告げる。乱れた赤い髪の合間から覗かせる瞳は相変わらず感情を宿さないが、それでもどこか驚愕、不思議そうな感情を垣間見せる。
 指先は次に、分体群に向けられる。
「このオブリビオンは、殺してよい」
 指差し確認。
「よし」
「う゛」
 意図が伝わったのか、はたまたたまたまか。
 頷くような声が、吸血姫から聞こえた気がした。

「げ――援軍!?」
「否。しかし、利害の一致という意味では肯定しよう」
 動揺の男爵に、理知的に解答する。それが逆に相手を焦らせるのだが……狙ってやったつもりはないだろう。
 返答を待つより早く、二撃目の銃弾が容赦なく発射される。反動が強い代わりに、威力は小柄な男爵を吹き飛ばして余りあるほど。
 故に、群れた中に一撃を放つだけで何体もの分体が吹き飛んでいく。
「貴様からは悪辣の匂いがする。暗所で腐敗した血の匂いだ」
「にびび!お褒めに預かり光栄――ッ!」
 吐き捨てた言葉を拾うように、或いは銃の僅かなリロードを見計らってワイリー男爵が懐へと潜り込む。
 ……が。

「故に、平らげるつもりもない……惨たらしく居ね」

 空いた片手が爪を研ぎ、引き裂くように薙ぎ払われる。
「な――」
 見せた爪は竜種のもの。背には翼を広げ、尾を伸ばす。
 人外じみたその姿は竜に近く、故にこそ悪辣の悪魔を屠るに相応しい。
「く、この……ッ。――なら、これならどうですかぁ……!!」
 分体を交えたワイリー男爵が宙を旋回する。
「……む」
 それはやがて黒い飛沫を作り出す。目を凝らして見れば、それが無数の蝙蝠であると気づくだろう。
 イリーツァはそれを視認すると、ゆっくりと杖を手に取る。
「それで何が出来る?一匹一匹叩き落とすつもりですかぁ!?」
 笑みを歪ませた男爵が言う。大技に強気を見せる男爵だが、イリーツァのほうは冷静に呼吸を整える。
 それがかえって癇に障ったようで、イライラを募らせた声が響く。
「もういい、やっちまえ――!!」
 大きな手のひら、人差し指がイリーツァへ向けられ、蝙蝠の大群が彼の元へ迫りくる。

 水泡が浮かぶ。
「……?」
 否、それは微かな水飛沫。
 いつの間にか、エントランス中に浮かび上がるように水が存在していた。
 次にワイリー男爵が見たのは――イリーツァの口に迸る雷電の柱であった。


 雷が吹きすさぶ。魔杖から放った水の魔法が雷のブレスを強化し、蝙蝠の群れはおろか大量の分体を消し飛ばした。
「この、バケモノめ――!!」
 それでも、本体は未だ健在らしい。見ればすぐに、分体が数を増やしている。
「化け物ではない、猟兵だ。猟兵は化け物ではない」
 対してイリーツァは、相手の言葉を訂正する。
 それは彼の在り方を意味しているからだ。

「私は猟兵のイリーツァ・ウーツェ。それから……この場にいる”もう一人”を、努々忘れるな」
「あ……?」
 男爵が言葉の意味を考えるより先に、鎌が彼らの頸を刎ねた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゼン・ランドー
中々にレアケースな状況のようですね
こちらに害が無いなら吸血姫さんに協力するのも一興です。
試してみるとしましょう。

光刃による剣術とグレグレくんでの爆破で立ち回りつつ
指号術で猟兵へ鼓舞する言葉を投げかけ
共感を呼び込んで強化したり
有利な情報を伝えます。

【指定:吸血姫/うるさい蝙蝠共だ、さっさと殺して静かにしよう】
・・・こんな感じですかね、吸血姫の内面がわからないので
共感して貰えれば御の字ということで。

また、指号術の対象に「自分や吸血姫を狙っている」を指定し
とても共感できない罵倒の言葉を投げかけることで
その反応から敵の狙いを読み取って戦闘へ活かします。



「しかしこれはまた、随分とレアケースな状況ですね」

 荒れ狂うがまま、ドレスと髪の赤と白を舞い上がらせる吸血姫を遠くから見て、男が呟く。
 ふわり、斬撃が凪いだ風が小麦色の耳を揺らす。
「……これ、私の出る幕はありますかねぇ?」
 戦況を見るに凡そ、攻勢は揺るがないものであった。猟兵を抜きにしても吸血姫の戦闘力が高い。こと戦闘においては負ける要素が見当たらないが……。
「それでも、何が起きるか分からないのが戦場。ここはひとつ、要らぬ助太刀へ加わりましょうか」
 片モノクルのレンズ越しに、ゼン・ランドー(清純派SE<サムライエンパイア>商人・f05086)は細い瞳をドレスの麗人へと向ける。

「にびび!」
 倒しても倒しても、ワイリー男爵の分体は次々湧いて出てくる。
 如何に吸血姫が高い力を持っていても、それは有限のもの。
 先に限界が来るのがどちらかは分からず、その点で言えば笑みを浮かべてばかりのワイリー男爵のほうにやや分があるようにも感じる。
 ……例えそれがブラフであろうと、狂う同族殺しにそれを判断できる思考は残されていない。

 けれど。
『全く。うるさい蝙蝠共だ、さっさと殺して静かにしよう』
「…………?」
 脳裏にかける言葉に一瞬、鎌の軌道が停止する。

「そこです」

 次の瞬間、吸血姫の眼前の一群が炸裂する。
 一瞬の隙をつき、攻勢を明らかにする。それはつまり同様の敵を排除しにきたことを暗に告げていた。
「…………」
 それに対する吸血姫の真意こそ読み取れなかったが、指号術には共感を示したようで、ひとつ小さく頷いて見せた。
「結構。それでは一時的にではありますが、共同作業と参りましょう」
 返す表情は口元を緩めて。そうして吸血姫へと歩み寄り――。
「――――」
「…………」
 お互いがお互いの、首元めがけて刃を振りかざす。

「び、び…………」
「――おっと、失礼。レディの手を煩わせてしまうとは」
 吸血姫の背後を取った男爵の分体を、光刃の刃先が貫く。
 同じように、ゼンの背を狙う分体は吸血姫の鎌先が捉えていた。
 吸血姫は特に反応を示さず、再び敵の群れへと突っ込んでいく。やれやれと息をつくゼンだったが、しかし休んでばかりもいられない。
「さて……悪戯好きの悪魔のことです。こういうのは如何でしょう」
 状況に応じて、出来ることを為す。前衛を任せるのなら、やるべきことはその補助。
『何を企んでいるかは知りませんが――』
「にび?」

『生憎と。乳臭い子供騙しではままごとにもなりませんよ』

「こ、この――ッ」
 指号術を介して向けた言葉に、確かな手ごたえを感じる。
 少なくとも、その言葉に共感はしてこない。
「乳臭い子供騙しだとぅ?にびび、ならそれで死んでいったアイツの仲間は、赤子も同じだろう――!!」
 そう、反論する。子供が我が儘を言うかのように。
「全く、下衆なものだ」
 これが本当に子供であったなら、まだ可愛げがあっただろうか。
 悪辣に笑うワイリー男爵。
 まるでそれが合図だとでも言うように。言葉につられて姫が迫る。そして、腐った性根と首根を狩るように、一層の力が込められた鎌が振り下ろされる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギュンター・マウ
へぇ、同族殺しか
オブリビオンは本当に色んな奴がいるもんだ

…まぁ、俺にはどうでも良い事だがなァ

それにしてもわらわらと煩い顔が並んでいやがる
とりあえず目先の敵から片付けていきゃ良いんだろうう?
……俺を小さいからと、見誤るなよ

貴様も数で押して来るならば
俺も数で応戦してやるよ

敵の攻撃は飛翔により回避しつつ警戒しよう

【歌唱】のために深呼吸を一つ
ありったけの【呪詛】に一握りの毒を添えて
ある程度敵の数を視認した後に【孤獨の詩】を歌う

「毒に踊れよ、其の身の内を焦がしながら無様にな。」



「同族殺し、か。オブリビオンも色んな奴がいるもんだな」

 吐き捨てるように呟いたのはギュンター・マウ(淀む滂沱・f14608)だった。
「まぁ、俺にはどうでも良い事だがなァ」
 紫煙を吐き捨てる。他の猟兵と違い、彼は吸血姫に対するアクションを取る様子はない。
 ただ、やるべきこと。斃すべきものを見つめている点だけが彼女と共通しているだけだ。
 そのほうが効率がいい、ということもある。こと、彼の戦い方は表立って注目されては上手く立ち回れないこともある。
「それにしても」
 視線を向けた先へ、意識を向ける。
 一見すれば可愛いぬいぐるみのようなそれは、悪辣の形相を経て悪魔らしくそこにある。
「煩い面だ。いや、うざってェ笑いも十分耳に障る」
 幸い、行動を起こしておらず、吸血姫からも離れたところにいるギュンターを視認している者はいない。
 おあつらえ向きだ、と。
 口元に笑みを作った小さな暗殺者は、日陰の館に暗躍する。

 毒たる凶刃は、闇より出ずる。
「にびっ――!?」
「その笑い方にゃアもう飽きたよ」
 己が低い声に合わせて、ギュンターが片手に携えたオーブが妖しく光る。
 這い出た蜈蚣が、飛びつくようにして男爵に襲い掛かる。触れたところから、蠱毒がゆっくりその身を溶かしていく。
 蜈蚣の数や夥しく、その名が示す足の数を大きく上回るほど。
 突然の死角からの攻撃に、ワイリー男爵の分体が慌てふためきながらもギュンターに狙いを定める。
 だが――。

「甘ェよ」

 狙いが甘い。蠅を潰すように叩きつけられた掌はしかし、空中で旋回したギュンターを捉えることはなかった。
 返す手で蜈蚣を仕掛ければ一瞬にして水泡に帰す。
「目には目を。数には数を。……そして、羽虫には羽虫がお似合いだろうよ」
「こ、の……ッ!!」
 羽虫と馬鹿にされ、鼻で笑うギュンターに憤るワイリー男爵。
 しかし、小さな妖精を囲うようにして流動する蜈蚣の数珠つなぎが、行動を躊躇わせる。
「安心しろ、――1人淋しく逝かせはしないさ」
 寄り添う虫が傍にいれば、と。

「毒に踊れよ、其の身の内を焦がしながら無様にな」
 呪詛の毒を吐き出すように、彼らの手向けの死を告げた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真守・有栖
ふーん?なーるほど???

そのくちぶり。もふもふ。こうもり。

この名(迷)探狼たる私にはがぶり、とお見通しよっ

つーまーりー?
くるくるにしたのは貴方たちね!なんっっって外道な群れなのかしら!
これはおしおきでもふもふでわおーんが必要ね必要だわ!!!

ぷんすこ!わふん!と一体を確保
さぁ、観念なさい。私のもふぢからの前にどれだけ耐え――わぅう?

ぽふり、手袋に覆われて。
どろり、霧に包まれて。おめめとこころが次第に濁り――

夢を、視る

巨狼の夢

月を求め、月を喰らう

過去(しびと)で腹を満たし
月を喰らいて、闇に染め

喰らいて招くは破滅と終焉


其は――


望(つき)を絶たれた餓狼が狂う

己が戒めを解き放ち

吼えて振るうは光亡き刃なり



 腕を組んで、頷く猟兵の開口一番はいつも通り。
「ふーん?なるほどね??」
 頷いているくせに、分かっている風を微塵も感じない。空返事も生ぬるいぐらい、声が全てを物語っていた。
 館の踊り場。正面に掛けられた誰かの肖像画は既に同族殺しの手によって真っ二つにされていて、瓦礫とかした額縁の上に足をかけている。
「わふう、わふうぅ?」
 傾くのが楽しいらしい。
「……っとと。わふん」
 瓦礫のシーソーを漕ぎながら、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は宣言する。
「謎は全て解けたわ!」

 大声を出すものだから、ワイリー男爵がそちらを見る。なんなら、吸血姫も一瞬手を止める。
 そんな戦況の変化など知らぬ存ぜぬといった様子で有栖は言葉を、推理を話し始める。
「そのくちぶり。もふもふ。こうもり……」
「もふもふ?」
 あまり聞き慣れない単語に訝しむワイリー男爵だったが、分体を見回すと「あぁ、うん」と納得する。その観点でものを言われたことはないらしい。当然だよね。
「つまりっ、くるくるにしたのは貴方たちね!なんっっって外道な群れなのかしら!」
 当たってる!?と、吸血姫に目配せする。吸血姫は暫く悩んでいた(くるくるが理解できる理性が残っていなかった)が、後半の言葉はその通りと言うように頷く。
 当然、そんな内情を理解することなく自慢げに胸を張る有栖。
「にびびっ!」
 若干呆れた様子だったワイリー男爵だが、どこからかそんな笑みが零れる。
「……だーいせーいかーいっ!そう、あの女の仲間、配下に嘘を流して、内部からどろどろにぶっツブしたのは他でもない、私ですよ!にびびびびっ!!」
 端を発したように、男爵が語り出す。
「疑念渦巻く根城で仲間割れを起こしてさぁ!挙句支配している村も制御不能。緩慢としたコイツが気づいた時にはすでに全員死んだあとってんだからお笑いだよなァ!?」
 悪魔は、悪魔らしく嘲り嗤う。
 その後ろで、鎌を握る手に血をにじませる吸血姫がいた。
「なーるほーどね!」
 けれど、それらを振り払うように。
 ……或いは、単純に気づかないまま有栖が宣う。今度はちゃんと、分かったトーンで。
「これはおしおきでもふもふでわおーんが必要ね必要だわ!!」
 すらりと腰の打ち刀に手をかける。刀身を抜いたところで、昏い世界の薄暗な闇の中では光を弾くことはないが、それでも。
 彼女の明るさは、目に眩しい。
「さぁ!覚悟なさ、――」
 そう、刀を向けたときだった。

「……わふ?」
 足場にしていた額縁が滑り落ちた。

 悲鳴省略。
 ものの見事に滑っては、階段さえも滑り落ちる。
 まるでスケートボードのように駆け降りたさきで、石ころにつまづいて空中に投げ出される。
「い、いたた……なんなのかしら、もうっ!」
 と、顔を上げると……。

「にびび、馬鹿なヤツ。愉快な夢に浸ってしまえよ」

「――――」
 夢を見ていた。
 決してそれは幸せな夢ではない。
 愉快な夢ではない。
 夢は夢であるというけれど、果たして。ここまで血みどろの悪夢を見たことは、その生涯において何度あっただろうか。
「…………」
 おびただしい、死肉の山。
 夜の桜街道は白く眩しく明るいのに、足元はどうしてこんなにも赤黒いのだろう。
 木の下に埋めて余りある、罪の数多。
 月光に照らされた、破滅と終焉の光景。
 其れは――。

「首を、垂、れよ――」

「にび?」
「…………」
 夢に差し込まれた声に、咄嗟に従う。
 次の瞬間、横薙ぎの鎌の斬撃がワイリー男爵を切り裂く。
 絶命した男爵の分体が綿のように霧散して、消えてゆく。
「ようやく隙を見せたな、憐れな姫さまよぅ――!!」
 その背後を取るように、そして手のひらを伸ばす、次の個体。
 無理矢理に言葉を発した彼女に、咄嗟の回避に裂けるリソースは残されていない。
 靄が、残された理性を喰らいつくそうと伸びて――。

 ――再び、斬撃が舞う。
 今度の斬撃は、吸血姫のものではない。

「……吼えて振るうは、光(つき)亡き刃なり」
 瞳は閉じたまま。
 居合切りは丁寧に、ワイリー男爵だけを狙う。
 瞼の奥には今も、夢の中の月光が焼き付いて離れない。

 だから、こそ。
 望(つき)を絶たれた餓狼が狂うに相応しい夜が、始まる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
さて
一先ず館の主人と従者は殲滅で良いのだったな

纏う原理――顕理輝光を運用し交戦
『天光』で全てを逃さず捉え、『励起』『解放』で個体能力を人型の極限まで上昇
必要な魔力は『超克』で“外”から汲み上げ供給

敵性個体へは魔眼・封絶で拘束
同族殺しは対象から除外
『天光』で捉える全目標を同時に縛る
能力発露も封じる魔眼故、拘束と同時にユーベルコードも霧散する

縛った相手は近接戦で排除
『討滅』の死の原理を『再帰』で無限に循環させ打撃に乗せて叩き込み確実に
拘束を逃れた相手からの攻撃は『無現』と『虚影』で影響を回避

道化にしても芸が足りん
だからと言って出直す余地は与えないが

※アドリブ歓迎



 ダークセイヴァーにおいて、光さすことはごく稀のことである。

「び?」
 視界の端を、何かが通った気がした。
 例えるなら、とワイリー男爵は思考を巡らせるが……思いつかない。
 ”それ”を例えることが、どうしてもできない。

「原理とは即ち、そういうもの。……時間切れ、だ」

 回答を待たずして、原理の渦へと呑み込まれてゆく。
 その個体だけではない。死の原理を植え付けられた分体どもは、次々にその光へと消えてゆく。
 或いは、光となるか。
「出直す余地は与えないが、幕引き程度はくれてやる」
 その白は――アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は呟く。その言葉を向ける先は既にそこにはいないが、アナウンスは餞別とばかりに無機質に届けられる。
 彼の操る異能――原理の力は、こと個体の数が強みのワイリー男爵にとって致命的なほどに相性が悪かった。
 分体故の、存在の希薄さ。手数のみの弱い存在に、原理ごと調律(チューニング)を差し向けて来る敵に対する対抗手段は持ち合わせていなかった。
「くそ、ぅ――!!」
 それでも足掻くのは、何もできない赤子のように。
 ワイリー男爵が手を伸ばす。その大きな手袋に包まれた手から霧が――。

「びび……?」
「道化にしても芸が足りんな」

 出ない。思考を濁らせる霧は、霧散どころか発露もままならない。
「能力発露すら封じる魔眼だ。その上で戦えないのなら、話にならない」
 その言葉に、土俵は既に彼の支配下であることを悟る。
 能力も、一切の行動さえも封じられたワイリー男爵は、笑みを完全に凍てつかせる。
「……それでも本体はまだ先か。余程臆病な奴と見受ける」
 眼前の敵には、すっかり興味を失くした様子で呟く。そして、細い片腕を横に伸ばす。
 それだけで、まるで白花の花畑が散華するかのように分体が消滅してゆく。

 それは彼を祝福するかのように。
 ……されど、先なる闇は未だ深く。其処に在り続けている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キル・トグ
 蝙蝠!わたしとおなじ空飛ぶ半端なけものだ!空へ向かう道を邪魔するなら翅をもいで引きずり落としてやる!空を奪い返せ!
 だけどまだ宙を駆ける訳にはいかない、悟られる訳にはいかない、それにまだ先は長いんだ、血を吐くような無理は後にとっておかなければ。

「Riser Dock!」

 ハーネスをしっかりかけよう。二匹がはぐれることは無いけどわたしが振り落とされることはあるのさ。

 さあ、埃を巻き上げる風巻となり地べたを駆けろ。その脚は静。
 視界を緋色に染めながら穿て、その牙は音なく大地のもやをはしる地雷!
 地の鎖を思い出させてやる!醜く醜い翅を噛みちぎれ!こいつらがわたしたちを地に繋ぐ鎖だ!



「蝙蝠!こうもりだ!」

 そう、はしゃぐ声はおよそダークセイヴァーに似つかわしくなく。ましてや領主の館の中なら尚のことミスマッチであった。
「にびび。蝙蝠ではない、男爵だ!私にはワイリー男爵という立派な名前がある!」
「どちらだって同じことだ!わたしとおなじ空飛ぶ半端なけものだ!」
 中々に、というよりだいぶストレートに言葉の槍を投げつけるのは、キル・トグ(空の語り部・f20328)のトグのほう。もっとも、思考の混ざりあった彼女たちにとって、発した言葉がどちらのものかということもない。
 要は喉の具合によりけり。
「半端もの?半端もの!私たちをそう呼んだのですか!あなたたちは自分が半端ものと実感しているようですが、私はそうではない!」
 ワイリー男爵が、両手と翼を広げて語る。
「だって私は、目的を達成させられる!誰に縛られることもなく、やりたいようにやって、彼女たちを壊滅させた!そして笑った!不自由などない、半端なことなどひとつも――」

「もういい、喰ってしまおう!」
「び?」

 直後に、闇が迫る。

「Riser Dock!」
 しっかりハーネスを掴んで、キルにしがみつくようにトグがくっつく。
 二人で一つ。二人三脚とは、足腰の強さからして敵わないものの、一心同体ならば丁度よく。
 ワイリー男爵が蝙蝠の群れを放つ。群れはそれぞれが二つの邪魔をするように、匠な軌道を描いて迫る。
「突っ込め!」
 しかし、闇弱を駆け抜けるには強靭な脚が。紙吹雪を破くには獰猛な牙が。先を見据えるには輝く瞳が、その程度に敗れるはずはない。
 桜吹雪をかいくぐるように、頬に赤をにじませながらも駆け抜ける。
 駆け抜けて、男爵めがけて突撃する。
「いつまでもコケにされてばかりと思うなよ!誰だか知らないが、目に物見せてやる!」
 ふいに、ワイリー男爵の青い毛が赤く滲み始める。
「む?」
 トグが訝しんだ瞬間、キルが走りの軌道をぐるんと変える。
 直後に、元の進行方向に赤い何かが飛来して……床材を派手に炸裂させた。
「にびび。あまりこの技は使いたくなかったのですが……まぁいいでしょう。どうせ分体の寿命は本体に影響を与えません」
 胴を緋色に染めたワイリー男爵が笑う。
 笑って――、また即座に視界から消える。
「はは、面白い――!」
 対して二つも、臆することなく走り出す。
 回り込むように、エントランスの周囲を巡る。壁面の画材や装飾を食い散らかすかのようにワイリー男爵の追撃が迫るが、飛び跳ねて、もしくは体勢を低くして、間一髪の回避を見せる。
「!……あそこだ!」
 トグが指さしたのは、二階へ上がる二股の階段だ。正面に掲げられていたであろう肖像画は既に真っ二つに割れて、片割れは階段の下まで滑り落ちている。
 トグが指させば、キルが頷く。やることは分かった、と言わんばかりに。
 階段を駆け上がる。肖像画のかけられていた踊り場へ数段飛ばしで上り詰め……。

 壁を、駆け上がる。

「わたしたちは、キルとトグ」
 ワイリー男爵の驚愕した顔が、翻った空中からよく見える。
 追い詰めたと思っていたのが、逆に追い詰められていたというわけだ。
 翼をはためかせる。飛び跳ねて回避しようとするが、翼は上の軌道に向かわなければならない。
 否応にも、キルとトグに迫らなければならない。
 そして、その葛藤が命取りとなる。
「空の語り部さ――覚えていってくれ!」
 直後に飛来した黒が、赤を貪り尽くす――。

 踊り場に横になったトグは、頭にもさりとした感触を感じる。
「…………」
 大事な相棒で、自身とも言える。
 まだ、戦いは始まったばかり。それどころか、今も戦いは続いている最中。
 だから、起き上がらなければいけない。立ち上がらなければいけない。
 互角の戦いを強いられても、それでも。
 血を吐くような無理は、後にとっておかなければならない。

「……よし」
 もさもさを一撫でしてから、戦線へと戻っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナ・ヴァレンタイン
※アドリブ、絡み歓迎

過去が過去を殺す、か。なにやら愉快な事態になってきたが、それはそれ
――総員、構え。少々派手に蹴散らすぞ

全武装類をユーベルコードで複製し、操作開始
バイクはそれそのものを質量弾として突貫
ガトリングと機関銃は前方に布陣するすべての敵を面で削れ
マスケットとリボルバー、フック付きワイヤー、黒剣のナイフは【スナイパー】技能を合わせて敵の両手を吹っ飛ばすのに用いる
アームドフォートは接近してきた相手へのカウンター。散弾の範囲攻撃で削りれ

【援護射撃】と【第六感】技能を組み合わせ、猟兵及び「同族殺し」を誤射しないように注意しつつ、総軍一丸となって敵陣を圧し潰す
踊れ、フルオートのリズムでな



 口元に笑みだけ湛えた、人形が片手をあげる。

「総員、構え」
 それだけで、数多ある銃口があがる。引き金を引けば、火薬の香りが一杯に広がるのが想像出来て、今から鼻が痛くなる。
 軍隊個人・総員集結(ジャック・レギオン・フルバレルオープン)。念力によって術者の周囲を回遊する様はまさにひとつの軍隊と呼んで差し支えを感じない。
 ふん、と。レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)が鼻で笑えば、来たる合図の予感を匂わす。
「さあ、諸君――」

「踊れ、フルオートのリズムでな」

 館に突入してきたのは、複数台のバイクであった。
「び!?!?」
 その様子に目を丸くするワイリー男爵だったが、続いて飛び込んできた重火器が、丸いボタンの瞳を撃ち抜く。
「的があるのは有難い。流鏑馬も中々乙なものだ」
 空中で一回転したバイクを蹴り飛ばして、派手に爆発するそれとは裏腹にすとんと着地するレナ。
「隙あり!」
 その背後を、一斉攻撃から逃げ延びた個体が狙う。
 ……が。
「残念。隙はあるものではなく、作るものだ。それを怠って勝てる戦いはない」
 後ろ手に隠し持った黒剣のナイフを指で弾いて、鋭利な刃先が頸を刎ねた。

 弾幕音源のオーケストラは鳴り止まない。踊り続ける者がいる限り。
「ふ――ッ」
 ナイフで蝙蝠の突進を振り払って、視界が晴れればリボルバーを向ける。
 片腕を軸に、引き金を引く手の狙いを精密にして……弾いた弾丸は男爵の瞳を撃ち抜いた。
 くるり、と。三回転ほど手のひらで愛銃を弄んでから、迫る二体を打ち据える。
 動き自体はガンカタに近い。軽やかな動きに加え、視界外を暴れまわる49の銃口が相手を牽制し続けている。
 最たる強みは状況に応じて、宙を浮遊する銃のグリップを持ち変えることにある。
 多数に接近を許せば散弾銃が待ち構え、距離を置けば機関銃の弾丸がまき散らされる。
「びびッ、調子に乗るなぁぁ!!」
 ワイリー男爵が両手を広げる。予備動作の間に銃口がそちらへ向くが、分体が盾になる形で強引に行動を進める。
 手のひらから広がる靄が、普段はその周囲のみを濁らせる靄が、大きく膨らむ。
 そうしてエントランス一帯を覆うように、霧が広がって……。

「悪いが悪夢なら見果てた。Sold outさ、お引き取り願おう」

 炸裂した手榴弾が、悪夢を喰らい尽くす。
「…………」
 一瞬にして霧が吹き飛ぶ。最大威力の能力が呆気なく崩れ去る様子に、呆然と手を下ろす男爵。
 ひとえに、相性が悪かったという言葉に尽きる。
「Farewell.よい週末を」

 分体の増殖が遅くなってきたことに、徐々に猟兵たちが気づいていく。
 レナも一瞬首をかしげて、そして一度、吸血姫を見る。
「…………」
 銃口の対象外にしていたとはいえ、あの弾幕の中でも構わず分体を屠っていたことを、傍目には確認していた。弾道に割り込むものだから、いくらかダメージを追っているのも見て取れたが、それに関しては自己責任だ。
 吸血姫もそれでレナを敵視するつもりもないようで、虚ろな瞳は今も残ったワイリー男爵を見つめてやまなかった。
「……全く、執着とは恐ろしいものだな」
 吸血姫を一瞥して、レナは戦闘へと戻る。

 終わりが近いが、まだ、本体にはたどり着けてはいないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
オブリビオンたちの事情は、よくわからないけど…
せっかく目立って、暴れてくれるんだし。
できる限り、囮にしちゃってもいいんだよね。ふふふ。

九ツ不思議…鎌鼬。
ツギハギに見えたり、腕がなかったり、ぬいぐるみみたいな見た目だけど…
…とりあえず、頭を狙えば間違いない…かな?

私は、なるべく目立たないように。物陰があるのなら、隠れながら。
あのオブリビオン、鎌も持ってるんだし…
見えない斬撃なら、目立ってるオブリビオンの攻撃だって。勘違いしてくれないかな。
戦果は揚げながら、攻撃は引き受けてもらう。
ふふふ。完璧な作戦だよね。
…上手く行けば、の話だけど。

それにしても…同族殺し、かぁ…
あんまり…聞きたくはない名前だね。



 燭台の横、大きな壺からひょろり。
 桃色の狐耳が覗いて、続いて瞳がじろりと見回す。

「……身を隠すと言っても、壺に入ったのは、失敗だったかな」
 大きな狐耳をぴこぴこさせて、しかし他にいい場所が見当たらなかったのかパーム・アンテルシオ(写し世・f06758)は静かに壺に沈んでいく。
「それにしても……」
 グリモア猟兵の言葉を思い出す。
 同族殺し。
「……あんまり、聞きたくはない名前だね」
 もう一度瞳を覗かせて、彼女を見る。
 吸血姫。オブリビオンでありながら、今、オブリビオンと戦う彼女はまさに同族殺しと呼ぶにふさわしい。
「…………」
 少し、考える様な素振りをしてから瞳を伏せる。
 まずは目の前のこと。やることからだ。
「……もっとも、目の前は壺なんだけど」
 壺の中にいることにも、きちんと理由があるのだから。

「古より、汝は戯れる者」
 唱える声は、壺の中で反響する。
「び?」
 それに気付いた男爵がふらり、壺へと近づく。
 そして壺の中をのぞき込んで……。
「びィッ」
 頸を掻き斬る鎌鼬が、飛び出す。
「ふふ、ごめんね」
 壺の中でひとつ、人差し指を口元へ立てる。
「……じゃあ、この調子で」
 パームの狙いは、同じ鎌の攻撃を使うことで吸血姫の仕業と思わせること。
 見えない斬撃を扱うことで、戦果をあげつつ危険も回避しようという魂胆だった。

 実際、目論見は思った以上にうまく運んでいる。
 吸血姫の周りを鎌鼬が奔るのを認めたようで、鬱陶しそうにしながらもお互いの攻撃を邪魔せずに動いていた。
 パームはというと壺から耳を出していた。
 狂っていようとも洗練された立ち振る舞いを見るに、消耗した今でも及ばない強さを感じ取れる。
 一方パームは壺から耳を出していた。
 ふいに、一抹の不安が胸をよぎる。この戦線に勝利した後、果たして自分たちは彼女に勝てるのか。
 至近距離で見るからこそ分かる、その強さに疑念を抱かずにはいられなかった。
 しかし、耳が出ていることに疑念は抱かなかった――。

「いや、抱いてるけどね?」
 そろそろ場所を変えようと決意したのは、暫く後のこと。
 ワイリー男爵の分体も数が目に見えて減ってきて、もうそろそろ終盤の折。
 今一度こそこそ動くにはもってこいのタイミング。
 丁度いい位置に、倒れた支柱の影を見つける。あそこから顔を覗かせるなら横から、大きな狐耳を不必要に晒す心配がなくなる。
 ……もっとも、あの横幅では今度は尻尾が隠れるかが不安だが。
 何はともあれ、壺から出ようとする。

 ……が、しかし。
「あれ?」
 入る時は割とすんなりだったが、いざ出ようとすると尻尾が引っかかってなかなか抜けない。
 もともと小柄なパームだが、それでも少し窮屈なぐらい口のすぼめられた壺の出口は細かった。
「……これ、もしかしてとんでもなく、やばい?」
 冷や汗が額を垂れる。そのままずりずり、腰を深く壺の中へ下ろしていき……。

 突然に、壺の中心が切り裂かれる。

「!?!?」
 耳がぴーんと伸びる。奇跡的に、耳先まで無傷であった。
 輪切りになった壺の上部がぱらぱらと落ちていく。
 パームがやったことではない。鎌鼬を使って脱出すればよかったと感じたのは、今の一瞬が初めてだった。
 それでは果たして誰の手によって壺が斬られたのか。
 答えはすぐそこで、パームを見下ろしていた。
「ぁ……」
 吸血姫は無表情のまま、虚無の瞳をパームに向けていた。
 薄く口の空いた表情からは、何も察することはできない。
 できないからこそ、怖い。
 吸血姫の手が伸びる。
「ひっ…………」
 思わず瞳を閉じる。あんなことを思った直後にこれなのだから、当然のことだ。
 怒りを買ってしまったのか。これがきっかけで他の猟兵にも迷惑がかかってしまうのだろうか。
 わずか1秒にも満たない間に、様々な憶測が脳裏をよぎる。

 むんず。
「……え」
 むんず、と。耳を掴まれた。
 まるでうさぎを乱暴に掴んだときみたいに、耳を掴まれ持ち上げられる。
 当然痛いが、痛みよりも疑念が巡る。
 耳を掴んだまま、それ以上の攻撃的行動に出ない吸血姫。
 そのまま、何を思ったのか戦線へと帰っていく。
「え、え……?」
 訳も分からず連れていかれるパーム。

 それは吸血姫の、本来の呼び名を識っていれば分かったこと。
 緩慢なるお姫様は、自分以上に怠慢を働くものをゆるさないという。
 しばらくしたら適当にぽい捨てされるパームは今、片手間に運ばれながら、上手くいかない世の中というものをひしひしと痛感していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。少し出遅れたけど…“死んだ仲間”ね。
成程、彼女は弔いに来ている、あるいは復讐…?

…今、考えても詮無い事だろうけど。
少しだけ、頭に留めておきましょうか…。

第六感が捉えた敵の存在感や目立たない殺気を、
魔力を溜めた両眼に残像として暗視して攻撃を先読みし回避
精神攻撃の類いは呪詛耐性と気合いで受け流し、
【吸血鬼狩りの業】で吸血姫の行動を見切り援護する

…ああ、それにしても。
よもや私が吸血鬼の援護をする日が来るなんて…。

空中戦を行う男爵に“血の翼”を広げ迎撃する
生命力を吸収する大鎌を怪力任せになぎ払い、
地上に叩き落として傷口を抉る2回攻撃を行う

…蝙蝠は地に堕ちた。今度はお前が捧げる番よ男爵。生命をね。



 最後に館に降り立ったのは、黒装束の少女だった。

「少し出遅れたみたいだけど」
 ふわりと地に足をつけると、二種類のオブリビオンを交互に見る。
 吸血姫は依然として背筋を伸ばし、鬼気迫る気迫を出しているが、ワイリー男爵のほうは笑みに余裕のなさそうな様子だった。
 この時点で、どちらに戦況が傾いているかは言うまでもない。
「……………」
 もう一度、吸血姫を見る。
 彼女の戦う理由は、推測はあれど確たるものはない。
 どちらにせよ、今考えても栓無き事ならば、今はその問題は棚上げにしておくべきだろう。
 吸血姫の行動自体には、常に目を光らせるつもりでいる。可能性は低いにしろ、間違っても寝首をかかれる事態は避けなく てはならない。
「……それにしても、よもや私が吸血鬼の援護をする日が来るなんて」
 吸血鬼狩り――リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は溜め息ひとつ吐いて、鎌を手にとり今――倒すべき敵へと向かって走り出す。

 黒い霧を正面から抜けて、死角から振りかざした鎌をその首へと振り下ろす。
「びッ」
 その個体が最期に見せた表情は驚愕のものだった。
「残念。それは、私には効かない」
 吸血鬼狩りとして。一通りの手駒に対する対抗手段は持ち合わせている。……もっとも、それで補いきれなければ気合いで解決することもあるが。
 ともあれ、霧が効かないと分かるや否や、ワイリー男爵は別の手段を講じる。手下のコウモリがリーヴァルディ目がけて飛来する。
「ふ――っ」
 迎撃するように、身を捻って鎌を薙ぐ。腕を胴を軸にし、まるでフラフープのように回転する鎌が、襲い来る障害を文字通り薙ぎ払う。
 大立ち回りを見せようと、目深にかぶったフードが取れることはない。そこに余裕を感じて、男爵はたじろぐ。
「私に会ったことが運の尽きよ」
 武器を構え直したリーヴァルディが告げる。それは暗に、男爵の死を告げていた。
「……ッ!!」
 しかし、それを認めることなど、生き意地の汚いワイリー男爵には到底無理な話だった。
 体毛を赤く染めあげる。寿命を削るその行為も、分体とあればお構いなしだ。
 超速度の高速移動。視界にも、赤い輝線として残るばかり。
「にびび、追いつけるものなら追いついてみろ!」
「そうね……」
 リーヴァルディは瞑目して……。

「なら、お言葉に甘えて」

「……!?」
 翻って、直後に突撃してきたワイリー男爵を躱す。
 そのまま、血の翼を大きく広げて、エントランスを飛翔する。
「なっ、今……どうして躱せた……!?」
「……吸血鬼狩りの業を見せてあげる」
 必殺の一撃をすんなりと躱されたワイリー男爵。その隙を突くように、力任せに鎌を振るう。
 或いはそれは、空からやってきた死神のように。
「まず……ッ!?」
 上方向からの斬撃は男爵の軽い身体を吹き飛ばし、鉄扉が本来あった玄関口へと落下する。
 ここまで来れば容赦もない。追撃の刃が、砂埃の舞う落下地点へと振り下ろされる。
「……あら?」
 そこで、それまでと違う手ごたえを感じる。
 訝しむリーヴァルディが埃の晴れた手元を見ると……。
「……大当たり」
「う、ぐぅ……」
 玄関口の敷物の下に、僅かな空間があったらしい。
 そこに収納されていたぬいぐるみが、攻撃を受けてもなお消えずに残っていた。
「随分みすぼらしい場所に隠れていたのね。そこなら確かに、館が崩れてもすぐ逃げられる……従者の誇りはないの?」
「びび……そんなもの、あるわけないさ!」
 体裁さえ見繕わなくなったワイリー男爵が、吐き捨てるように言う。
 様子が変わったことに気づき、吸血姫も近づいてくる。
「あぁ、でも。今度の主人もなかなか面白かった……待てど現れない娘を待って、待って……操るには丁度いい……!」
「……屑ね」
 腹を割ってしまえば、こいつは従者でもなんでもない。ただ己の黒い欲望のために、主と慕うものさえ食い物にする怪物だ。
「蝙蝠は地に堕ちた。……今度はお前が捧げる番よ、男爵」
 宣告する。男爵は浅い呼吸を続け、それでもなお何かを言おうとする。
 それは命乞いだったのか。それとも恨み言だったのか。

「生命を、ね」

 ――頸を掻いた以上、それは誰の知る由もない。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『吸血鬼殺し・アルヴィ』

POW   :    啼刃
【斬撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【二撃目の斬撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    黒影
自身に【今までに殺してきた者の怨念】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    迅雷
【指先】を向けた対象に、【降り注ぐ雷】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「来たか」

 配下、ワイリー男爵を倒した猟兵を待ち受けていたのは、従軍装束の男だった。
 かつり、かつりと。靴底の音が半壊した館に響く。
 ……その音ひとつにさえ、重圧を感じる。殺気が、痛い程に空気を制圧していた。
 領主たる男は館の状態などは特に気にした様子もなく、ただ一点――吸血姫を見つめていた。
 その瞳は、誰が見ても分かるほどに濁っている。
「あぁ……違う。”お前ではない”」
 ワイリー男爵の霧を喰らったものであれば、その瞳の濁りに覚えがあるだろう。
 つまり、彼も男爵に惑わされ、今もまどろみに堕ち続けている者である。
 けれど、それでも。斃すべき敵であることに変わりはない。

 吸血姫が鎌を構える。
 元凶たる男爵を倒したとしても、その主である彼もまた復讐対象に変わりはない。実際のところその関係性が正しく主従であったとは言えずとも、それを理解する頭は残っていない。
 襤褸々のドレスを揺らす。ここまでの戦いでの消耗こそあれど、殺気を放つ相手に対して真っ向から向き合う姿勢は狂気故か、それとも。
 ……猟兵も負けてはいられない。
 相手は単純な戦闘力のみで猟兵相手に優位に立てる程、強力な力を持つ。
 勝つためには、吸血姫や他の猟兵と上手く立ち回る必要があるだろう。

「……来い」
 男――吸血鬼殺しのアルヴィは二振りの剣を引き抜き、翼を広げる。
 ……虚ろな視線は吸血姫を離れ、猟兵に向けられた。
アルトリウス・セレスタイト
こちらも狂っていたか
ま、やることは変わらんが

纏う原理――顕理輝光を運用し交戦
『天光』で全てを逃さず捉え、『励起』『解放』で個体能力を人型の極限まで上昇
必要な魔力は『超克』で“外”から汲み上げ供給

界離で時の原理の端末召喚。魔力を溜めた体内に召喚し自身の端末機能を強化
アルヴィの行う全ての行動に対し、「終わった後」に飛ばして、現在には何も起こさせない

そう言えば先の戦争で軍神もこんな事をやっていたな
刃、影、雷
何を振るっても何もできんぞ

消される前に討てば良い、とも言えるが
今の俺が時を紡ぐに必要なのは意志一つ
超え得るか否か、試してみるか


ギュンター・マウ
煩いのが居なくなったと思えば、今度はデケェ奴かよ

虚ろな奴を攻撃すんのは気が引けるがまぁ、
行く手を阻むのなら容赦はしねぇさ

的がデカけりゃ好都合だ、そうだろう?
少しでも足止め出来れば、後は他の猟兵が頑張ってくれるだろうよ

敵の指先の動きを注視しながら降り注ぐ電撃を回避できりゃ良い
隙きを見付けることが出来れば
【歌唱】のために深呼吸しありったけの【呪詛】を込めて【羈絆の詩】を歌ってやる

耳がついてりゃ、嫌でも聞こえるだろう?
「お前が足手纏になれよ。」



「纏う原理――顕理輝光」

 透き通るような、或いは突き刺すような凍てつく声が響く。
 アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は手を翳すと瞬間、歩み寄るアルヴィの動きが止まる。
「――――」
「…………」
 両者の間に、無音がやってくる。靴の音も、はためく衣服の音も、何もない。
 先に沈黙を破ったのは術者のほうだった。
「どうやら此方も狂っていると見える。しかし、やることに変わりはない」
 糸を手繰り寄せるように、こぶしを作る。それに合わせて、多少の身じろぎさえ許されないほどにアルヴィの行動が抑制される。
「お前の行動は原理ごと封じ込めた。……刃、影、雷。それら全てを『終わった後』に飛ばす。最早何を振るうこともできない」
「……そうか」
 お互い、笑うことはない。凍てつく無表情のまま、事の行き先を呆然と眺めるように立ち尽くす。
 今やアルトリウスが場の権限を握っているに等しい。
「お別れだ」

「ならば、俺は真向から”それら”を否定しよう」

「――――」
 断絶のオーラを向けたその刹那、アルヴィが”動き出した”。
 アルトリウスは驚愕を浮かべることはないが、訝しむように眉を顰める。
 黒い影のようなアルヴィの斬撃は、概念の枠組みまで落とし込まれた断絶と競り合い、相殺する。
「何をした?」
 アルトリウスが問いかける。
 その問いに対して、瞑目したアルヴィは淡々と告げる。
「簡単なことだ。貴様が原理とやらを司るのであれば――その枠組みにおいて矛盾を引き起こせばいい」
「……?」
「その原理とやらは我々骸の亡霊のような、存在薄弱の輩にはよく通る。それは男爵との闘いを見ていて学んだ。……が」
 瞳を開けば、アルトリウスを見る。……否、その瞳は彼を捉えておらず、むしろその後ろ――。

「いるではないか。俺との闘いを証明する存在は、貴様の後ろに」

 次なる手を打たんとする猟兵を見据えていた。
 ともすれば考え得る、最悪の手段。
 それを裏付けるように、アルヴィは宣告する。
「――”原理矛盾”(パラドクス)。貴様の後に戦う仇敵の存在が、俺の”現在”を裏付ける楔となる。楔がある以上、貴様のそれは履行されまい」
 猟兵の存在と、後に他の猟兵との闘いを控えているという意思を強く持つことによる、矛盾。
 その、ほんの僅かな歪みから原理を破る。
「吸血鬼殺しを侮るなよ。――この程度の戦場、幾度と潜り抜けている」

「成る程、超え得るか」
 それでもアルトリウスに動揺はない。
 ひとつ息を吐いて、アルヴィに向き合う。
「然しそれも長くは持たない筈。一瞬でもその意志を崩せば戦況はこちらに傾く」
 天光と界離を解かれても、彼には励起と解放がある。それらはアルヴィの行動に冠よするものではなく、アルトリウスという個体の能力を左右するもの。
 極限まで能力を上昇させながら、思考を巡らせる。
 相対する敵は狂っていても、かなり頭が回る事を先ほどのことから実感した。
 決め手があっても、後押しになるものが足りない。
 手詰まりの状況に、思案を重ねようとするアストリウス。

 ――その横を、小さな何かが飛翔した。

 ……数分前のこと。
「煩いのが居なくなったと思えば、今度はデケェ奴かよ」
 相対した直後、そう言い捨てたのはギュンター・マウ(淀む滂沱・f14608)であった。瓦礫の陰に腰掛けていた彼は、今回も死角を通して戦線へと現れる。
 それでも手が震えるのは、武者震いではないことを理解している。
 それでも立ち向かったのは、彼の中に染みついて離れない単純な理由のせいだ。
「行く手を阻むのなら、容赦はしねぇさ」
 啖呵を切って、大きい人を睨み返した。

 薄い翅が風を切る。小さな翅からは風切音もあまり鳴らないけれど、早さだけは真実を映す。
 アルトリウスの背後から、死角から飛び出して、吸血鬼殺しへと接敵する。
「む。なんだ」
「なんだとはなんだよ。お前を殺しに来たんだぞ」
 アルヴィが指先を差し向ける。嫌な予感を感じながらも、しかしギュンターが止まることはない。
「詰め寄ればこっちのモンだ」
 直後、雷鳴が轟く。
 それはギュンターに直撃せず、彼の進行方向に向けて稲光を上げる。
「……っ!!」
 稲光は一瞬といえど、その一瞬に飛び込むような速度。当然、急に止まることはできない。
 止まらないこともまた、読まれていた。だからこそ本体を狙わない。

「そのまま、進め」

 ただし。
 この局面においてその選択は誤りであることを、直後に証明するものがいた。
「ほう」
「この状況であれば、先ほどの理屈は通用しない。そうだろう?」
 討滅による死の原理が、雷を喰らい尽くす。
 拓かれた道を、ギュンターが飛びぬける。
「……ならば俺自ら、叩き斬るまで」
 突撃するギュンターに対し、剣を抜くアルヴィ。
 そして両者とその剣が交わる、その瞬間――。

「……なんてな。俺の手の内なんざ、遠目からは見えなかっただろう――奢ったな」

 ギュンターの狙いは最初から、足止め。
 故に接近の必要はなく、刃先の届く寸でのところで翻る。
 その空振りの隙を狙う為に。
「お前が足手纏になれよ。……耳がついてりゃ、嫌でも聞こえるだろう?」
 嘲るように嗤い、呪詛を揺蕩う。
「くっ……」
 全ては操る武器を誤魔化す為に。
 感覚を狂わせる歌声に、アルヴィは一瞬だけふらつく。
 その一瞬は文字通り、命取りとなる。
「顕理輝光――天光」
 今再び、光の粒子がアルヴィを捉える。
 歌声に焦った一瞬、針に糸を通すように原理を繋ぐ。
 その様子を見て、ギュンターが嗤う。

「理屈を罷り通すぐらい、俺でも出来るさ」
「そして、原理を履行するのが俺の役目だ」

 そうして。
 絶理の刃は確かな一撃として、文字通りアルヴィに刻み付けられる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
痛た…ほんとにもう、何なの…?
オブリビオンは、変になってる子達も多いけど…
それにしたって。そうだとしても。
…やり場のない怒り、っていうのは…こういうのの事なのかな。

…今は、考えるのはやめとこう。
まずは、あっちの黒い吸血鬼の方が先。

「お前ではない」…何の事かは、わからないけど…
何かを待っているのなら。探しているのなら。
皆の為の。隙を作り出す為の、手がかりには…なる。

ユーベルコード…火梨。
私は、あなたの事は…知らないけど。
この炎は、あなたの事を知っている。
あなたの過去を、知っている。

鏡の中に心を問おう。
あなたには、私がどんな姿に見えてるの?
あなたの探し求めたもの?
あなたの忌み嫌ったもの?
それとも…



 一方、パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)は頭をおさえていた。
 ……正確にはその薄桃色の大きな耳か。
「痛た……」
 直前に吸血姫にむんずと摘まれた耳は、未だ痛むも必要以上に乱雑に扱われたわけでもなく、徐々に痛みは引いていた。
 当の吸血姫本人に至っては、パームのことなど忘れた様子で館の主へと突撃していた。
「――――!!」
 叫ぶのは、悲鳴にもならない怒号。
 鎌と剣がせめぎ合い、薄暗い館に火花を散らす。
 狂乱状態の吸血姫ではあるが、元の戦闘スキルの高さからか、理知的に戦いを進めるアルヴィに一歩も引くことなく食らいついている。
「…………」
 しかし、それを見つめるパームの表情は晴れない。
 それは二人の面持ちに対して何か思うところがあるかもしれないが、それとは別に、状況が好転するようには思えないという予感もあってのことだった。
 荒れ狂うままに暴れる吸血姫だが、それゆえに攻撃が単調になっていく。それを見極められれば、戦局はアルヴィに傾いてしまう。
「……今は、考えている場合じゃないよね。うん。まずは、あっちの黒い吸血鬼の方が先」
 ぺたんと女の子座りで座り込んでいた足を動かす。
 立ち上がれば、立ち向かう。猟兵として、彼らと対峙する。

「お初にお目にかかり恐悦至極……とは、この場においては無粋か」
 二振りの剣が、変則的な鎌の軌道を正確に捉える。
 ワイリー男爵の置き土産に意識を混濁させているとは言え、アルヴィは実に理知的に話す。
 対して吸血姫は仲間の仇と言わんばかりに武器を振り回して止まない。そこに返す言葉など無く、獣のような唸り声だけが響く。
 三連撃の回転鎌を僅かに軌道を逸らして回避すると、続けて吸血姫は大きく翻る。
「む――」
 ドレスの裾がぶわりと広がり、アルヴィの視界を埋め尽くす。そこから刈り上げるように、吸血姫の鎌がアルヴィの顎を捉えんと迫る――。
「させんぞ」
「ヴ、――ッ!」
 それをこともあろうか、視認してから迎撃する。出の早い一撃目の中段切りに、追撃の二撃目が空中の吸血姫もろともを突き飛ばす。
「愚かな。寿命を削ってまでしてその程度か――底が知れる」
 吐き捨てる様な言葉に睨み返す吸血姫。
 ……が。

「ならばこちらも、相応の力を以て相対しよう」

 突き飛ばした相手の元まで一足で迫り、剣を叩きつける。
「ァ――」
 黒い怨念を纏った剣技は――吸血姫の鎌を叩き割る。それは彼女の技と同じく、己が寿命を削るもの。ただし、発動するのはたったの一瞬だけ。
 呆気にとられる彼女をよそに、見下ろすアルヴィは冷酷に告げる。
「終わりだ」

「そんなこと、ない」

 切っ先が吸血姫を捉える寸前、何者かがそこに介入する。
 普通であれば、そんな介入の言葉にアルヴィが刃を止めることはない。
 ただ、その”姿”は……その”声”は、彼の例外たらしめる。
「…………」
 見開いた瞳を、彼女へ向ける。
 瞳に応えるように、或いは彼女は問いかける。
 ――あなたには、私がどんな姿に見えてるの?と。
「……愛しき、我が妻」
 揺蕩う声でそう呟いて、アルヴィは彼女に手を伸ばす。

 この炎は、あなたの事を知っている。
 相手の求める姿に自身を惑わす能力で、パームは間近にアルヴィを見る。
 妻。それが彼の、求めて止まない姿。
「……そう」
 少しだけ柔和に微笑む。それは憐憫混じりのものであったが、手向けになればいいという年相応な傲慢も混じっていた。
 抱き寄せるように伸ばされる手。
 違和感を感じたのはその時だった。
「…………?」
 彼が、アルヴィが伸ばした手には今も、剣が握られたままだった。
 それでは、”抱きしめられたら切っ先が刺さってしまう”――。
「――――ッ!?」
「……だが、妻は既にこの世に非ず。優しい紛い物は、俺には必要ない」
 口調は揺蕩わせたまま、器用に指先で取り回した剣を逆手に握る。
 ……今から退いたとしても間に合わない。
「消えよ」

 そうして振り下ろされた剣撃に対し、金属音が響いた。
「……え?」
 思わず瞼を閉じたパームが瞳を開くと、そこには吸血姫がいた。
 訝しむように、アルヴィが口を開く。
「……何を」
「つ、……ぎこそ」

「まも、ル…………」

「ぁ……」
 片手でパームへの往く手を阻む吸血姫。鎌に刃はなくとも、柄だけになったそれを握りしめて。
「それで何が出来る?牙は折れた!」
 駆け出した吸血姫に対し、再び黒い怨念を剣に纏わせ振りかざす。
 けれど、吸血姫が臆することはない。それは今までの通りであったけれど、今この時だけはどこか真っ直ぐ。
 ……まるで、狂気が解けた様に真っ直ぐ。
 その様を見て、思わずパームが呟く。吸血姫の代わりに。
「……牙が折れても、骨は折れない」
 黒影を掻い潜り、柄で振り払い、そうして遂に懐へと潜り込む。

「心は、強く抱き続ける限り――決して折れない!!」

 刃のない鎌の柄が、強敵たる男の腹部に叩きこまれた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キル・トグ
 うん、強そうだ、正面から当たってもどうこうできそうにないのさ、まずは落ち着いて。

 しかし、剣が二本とは欲張りだ、一本減らしてやろう。
 まずは戦の喧騒に紛れて天井までその脚でクライミング、見えない月に遠吠えをあげたいけど我慢しないと。
 あがったらたらあとはおちるだけ。
 さあ、機会を待って⋯

「ヘッドダウン! 我ら黒雲をはしるいなびかり!」

 どうせ気付くんだろう!?ここの空は暗すぎる!我ら黒き雲風を裂くかみなり!その剣持つ左手にふるいかずち!
 下だ!前進だ!ジグザグに落下だ!愚かにも空を足蹴にするこのこころを貫く電撃すらその牙から伝えてやる!

 さて、剣を取り落とさせたら一時撤退だ、奪ってもいい。


イリーツァ・ウーツェ
【POW】
ああ、貴様を殺せば良いのか。
貴様等の過去に興味はない。関係性も同様に。
もっと言うならば恨みすらないのだ。
貴様はオブリビオンで、殺せと言われている。
戦うには十分な理由だろう。

UCを発動しながら突撃する。
斬撃は杖で受け流し、そのまま叩き、突く。
己が拳をもって腕を圧し折り、胸を殴り貫く。
膝を蹴り砕き、その翼を引き毟って、動きを鈍くしよう。
私は私のできることをする。
剣を手で握り砕いてやる。
他の者へ飛ぶ攻撃を翼で防ごう。

私は戦いしか出来ん。
だからこそ、この行いが世界の益となるのであれば。
其れを貫き通すだけのこと。
さあ、殺そう。



 開幕のその直前の出来事。
「どう思う?」
 それは誰に向けた言葉か。答えを待たずして、或いは答えを述べるように、同じ声が話し出す。
「うん、強そうだ。……これは正面から当たってもどうこうできそうにないのさ」
 そうして一人でに頷く。影に潜んで、黒に紛れて。
 だからこそ。
 彼女たちが笑ったことは、誰も知り得ない。

 杖が高く掲げられる。
「ふん――ッ」
 直後に落ちた落雷が、避雷針となった杖へ”予想通り”直撃する。
 当然、杖を掴んだ腕ごと、身体に灼ける様な痺れが流れ込む。それでも意識を失わないのは、同じく雷を使うことの出来る肉体ゆえか。
 それとも――身に纏う青い焔の所為か。
「今度は貴様が受け取る番だ――」
 そうして、稲光が未だ迸る杖をイリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)は吸血鬼殺し――アルヴィへと振り下ろす。
「――――!!」
 対してアルヴィが取った行動は、黒影の斬撃が放つ衝撃波によって自身を無理矢理吹き飛ばすというもの。
 当然、無傷では済まされない。それはお互いに言えることだった。
 打撃は回避できても、電撃はアルヴィの肌を灼く。イリーツァも、衝撃波を正面から喰らう。
「……ここまで臆せず挑んできた者は数少ない。蛮勇か、それとも……」
「御託はいい」
 言葉を遮る。
「貴様等の過去に興味はない。貴様はオブリビオンで、殺せと言われている。戦うには十分な理由だろう」
 箇条書きのように、淡々と言葉を連ねるイリーツァ。遮られたアルヴィはしかし、確かな戦う意思と相対し、無粋な真似を取ることもない。
 むしろ、剣を構え直す。
 相手を、一人の敵として見る。
「いいだろう――来い」
 討ってみせろ、と。
 気迫がそう、物語る。

「――――っ!!」
 翼をはためかせ、アルヴィの眼前まで瞬時に移動する。
 そこへ合わせるように振り上げられた剣の一撃目を、杖で受け流す。
「甘い――」
 しかし、受け流すということは命中はしているということに他ならない。
 そうなれば、強烈な追撃の二撃目が迫る――。
 が……。
「武器は武器に非ず。なれば真の武器は、己が肉体に他ならず」
「む――!」
 剣を握る手に、素早い拳が当てられる。
 攻撃の起点を潰され、無防備になった胴へと向けて、さらにもう一撃。
「ぐ、ふ――っ」
 叩き込んだのは鳩尾に当たる部分。いかに固い軍服に身を包んでいようと、内蔵まで響くような一撃は堪える。
 それでも、嗚咽を漏らしながらアルヴィの剣は新たな動きを見せる。
 強烈な怨嗟を纏う、黒いオーラ。斬撃と衝撃波を放つ高速の一撃。
 杖に徒手のイリーツァには些か不利な、二振りの斬撃。

「今だ、飛び込め!」

「――――っ!!」
 響いたのは、子供の声。溌剌としたソプラノの音。
 アルヴィは見向きもしない。この状況で隙を作るわけにはいかないという、強い意思でそれを無視する。
 しかし、それが仇となり、アルヴィの瞳を丸く驚かせる結果を導く。

 話は再び巻き戻り、イリーツァとアルヴィの戦闘の最中。
「わ」
 落雷がすぐ真横を奔り、思わず声が少しだけ漏れる。幸いにも、雷鳴が全てを消し去ってくれた。
 キル・トグ(空の語り部・f20328)がいるのは、あなぼこ空いた館の天井。そこになんと、しがみついていた。
 覗く月に遠吠えのひとつでも上げたい気持ちをぐっと堪えて、しっかり狙いを定める。
「まだだめだ、まだ。得物が意識を完全に別に向けた、そのタイミングはまだだ」
 幼い顔はしかし、真剣な瞳を携える。まさに、狩る側の生き物の瞳といって遜色ない。
 彼女たちの狙いは、最初からたったひとつ。
「――今だ!」
 そして、その時がやってくる。

 あがったらたらあとは、おちるだけ。
「ヘッドダウン!我ら黒雲をはしるいなびかり!」
 一人と一匹が、館内を大きく舞う。ハーネスを掴んで、まるでバンジージャンプをするように。
 そうして、アルヴィの持つ剣……その片方を、キルが噛む。
 驚いた頃にはもう遅い。スリの手口よろしく、するりと片手を離れていく。
 いくら強く握っていても、意識の外側からは思ったよりもすんなり盗れてしまうものなのだ。
「貴様――」
「さあ、撤収だ!」
 殺気を向けられる頃には、既に撤退に行動が移り始めていた。キルが噛んだ剣をトグへパス。既に纏わりついていた怨念がちくちく痛いが、やむなし。
 ハーネス伝いにキルへとまたがるトグ。そこへ、怒りをあらわにしたアルヴィが詰め寄る。
 剣が一振りになろうと、戦闘能力自体が著しくそがれるわけではない。依然として強い力を持つ強敵を背後に、キルが駆ける。
「前進だ、前進だ!ジグザグに避けろ、今!」
 トグの掛け声に合わせて、キルが走る。黒影の斬撃が、迅雷の落雷が逃避を許すまいと襲い来るのを、必死に避ける。
「全力で走ってるのに、ついてくるのか!?」
「盗人に掛ける情けなどない。覚悟しろ」
 逃げても逃げても、すぐ後ろをつけてくる。なかなか距離が離れないどころか、下手に走れば距離を詰められてしまうまである。
 かといって、先の男爵戦のように翻る手も通用する相手には見えない。
 万事休すか。そんな弱気が決定打になるように、ぐいとアルヴィが距離を詰める。
「まずっ……」
「その首、いただこう」

「……敵前で獲物を変えるとは、それこそ狩る側に相応しくないぞ――吸血鬼殺し」
 振るわれた斬撃を、鋼鉄の杖が受け止める。
 真正面からの攻撃を受けて、衝撃が骨まで響く。……が、それ止まり。
 イリーツァは彼らを守るようにして、再びアルヴィに向き直る。
「ゆけ」
「あぁ、そうするとも。私たちじゃあ役不足だ」
 トグが代表して頷く。力不足は理解していた、だからこそこの絡め手を選んだのだから。
 そして、この場に残り続けては足を引っ張るのもまた、実感していた。
「何せ、脚は合わせて6つもあるからね!」
「……?」
 彼女たちらしい冗談にイリーツァは首を傾げるが、すぐに意識を敵へと向け直す。

「じゃあ、任せた」
「任された。猟兵として、最大限尽力しよう」

 ……かくして、人外どもは別たれる。
 武器を略奪するものは暫し、そこを離れ。
 武器を構えるものは、今再びに相対する。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真守・有栖
ゆっくりと瞼を開く
月光の残像が次第に薄れ
虚ろに濁り、染まり、墜ちて――

傍らの姫と目配せ、一つ
先ずは此れから、と。猛き笑みを。牙を覗かせ

眼前に黒衣の強者(えもの)
言葉は不要。この餓えを満たすため。――喰らい尽くす、のみ

転身。疾駆。

黒き影を追って、銀狼が躍る
四肢以て駆け。白刃咥えて牙と為す
狼牙と双刃交わりて、火花舞い血華散る
殺気嗅ぎ分け、刃を視聞り
後先要らず。一切を喰らえ、と
本能のまま止まることなく、渾身を以て太刀振る舞う

鎌が狩り取り。刀が斬り裂く
互いに獲物は譲らぬ、と。姫が踊り、狼が舞う。刃が閃く

咆哮

瞬じて振るうは“壱”を数えて“漆”を連ね
双刃“捌”きて終なれば――嗚呼、此れぞ魔穿鐵牙の一刺、也



 ――うっすらと、瞼をあげる。
 瞳の奥に沈む月にお別れを告げれば、本物の月が姿を覗かせる。
 破壊された館の天井から差し込む月光は、おぼろな雲に阻まれながらも光を落とす。
 抜き身の打刀に光を施しながら、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は吸血鬼殺しに立ち向かう。

 対する吸血鬼殺しアルヴィは、片方だけになった剣を携え殺気を放つ。
 それは、有栖だけに向けられたものではない。
「…………」
 有栖の傍らにて沈黙する吸血姫。彼女もまた武器を、刃をもがれて深い傷をいくつも受けている。
 理性を失っていなければ膝をついて呻きのひとつもあげていたことだろう。理性なき獣だからこそ、弱った姿を晒さない。
「得物をひとつ減らした程度で優勢と見紛うのであれば――傲慢も甚だしいぞ」
 凍て付く低音が、穴だらけの館に木霊する。低い声のくせに、いやによく通る声だった。
 ひとつだけの剣を構える。
 向かい合って、刃の折れた鎌を携える。
 そして、魔を穿つ打刀に力を込める――。

 吸血姫に目配せひとつ、そのまま駆け出す。
 しなやかな脚筋が一足にて到達する間合いを大きく拡げる。
 先ずは、下段に下げた刀を斬り上げる。柄にもう片手のひらをあてがい、踏み込んだ脚をバネにする。
 銀の光が筋を描いて、闇を裂く。そして線の終着点に火花が咲く様は、季節遅れの花火のよう。
 留めた黒の刃はしかし、衝撃にも全く怯むことがない。もともと二振りの剣を十全に振るえるほどの筋力と技量が、一本の刃に集中していると考えれば当然と言えよう。
 しかし、有栖の方も一度弾かれた程度では勢いを止めない。振り上げた刀を今度は強く振り下ろし、続け様に三度、中段を狙う斬撃を放つ。
「く、――」
 力任せに振るわれるような連撃だが、ひとつひとつがまるで型に当て嵌めたような、洗練された剣技である。故に、アルヴィの方も乱雑に捌くことはできない。
 手首で糸を手繰るような剣先の跳ねも、突き飛ばすような強打の一撃も、相手にとってはこれ以上ないほど煩わしい。
 加えて、刺客は彼女だけに留まらない。
「ア、ァ――――!!」
 剣舞の舞台に、薄汚れた白いドレスが割り込む。刃という牙をもがれても、鎌の柄を棍のように振り回す。
 狂乱の棍術はしかし悪趣味な意匠が凶器となり、滑稽な見た目以上の凶悪な武器となる。
「小癪な――ッ」
 剣が二振り、本来の通りに存在すればアルヴィもここまで苦戦はしなかっただろう。
 武器受けのできる手数が減ったこと、度重なる猟兵と吸血姫の追撃は着実にアルヴィにダメージを蓄積させていた。
「その一切、悉く喰らい尽くす――」
 ふいに有栖が呟く。薄めた瞳を鋭くし、敵を睨む。
 斬撃がさらに速度を増す。舞い散る火花が確実に増えるのを見れば、それでも追いつくアルヴィの技量が伺える。
「何を――」
 上昇した速度を訝しむ。そこでようやく、あることに気付く。
 有栖が、片目を瞑っていることに。

 ワイリー男爵の置き土産が今だ残っているのは、他でもない吸血鬼殺しの様子から見て取れる。
 ……であれば、有栖にも同じように残っていてもおかしくはない。
 重ねて掛けられていないことから、恐らくこの戦闘を終える頃には脳裏の霧は晴れるだろう。
 それまでの、ささやか光るまぼろし。
「…………」
 お空の月と、瞼に焼き付くもう一つの月。
 重ねて捉えて――餓狼は狂い、猛る。

「この……ッ」
 連続で弾かれ、ついに壁際まで押込められたアルヴィ。
 それはひとえに有栖だけの力ではなく、要所に差し込まれる吸血姫の棍術も関係している。
 頸骨を狙い叩きつけられた棍棒を腰を落として回避すれば、その体勢に重打の剣戟が叩きこまれる。いかに強くあろうと、そういった隙は必ず存在する。
 今まで見せなかった隙を見せたことから、相手もかなり息が上がってきているらしい。
「……まだだ」
 初めて、強い語気を放つ。それと同時、剣に黒い怨念が纏わりつく。
「遊びは終わりだ――」
 振るうは二人を圧して余りある、高速移動と強烈な斬撃。そして衝撃波。
 普段は二振りの剣に宿すものを、一刀に託す。

 ――ちりん、と音がする。
 それはどこから放たれた音だろう。しかし、有栖から聞こえたのは確かであった。
強烈な一撃。
 ……相対するに、不足なし。

「嗚呼、此れぞ魔穿鐵牙の一刺」

 重撃する黒影に、銀の閃きが衝突する。
 その数や、壱を数えて漆を重ねる。
 目にも止まらぬ速さの剣舞。視界の安定しない吸血姫は勿論、アルヴィもまた、それを全て捉えるには至らず。
「な――ッ!?」
 つまり。

 ――”捌”きて終えれば、確たる負傷を与える一刺は、此処に完結する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナ・ヴァレンタイン
質の不利は数で覆せ、といったところだ
――さあ、駆け抜けるぞ

一撃目は銃で牽制。此方を向かせることと此方の得意な戦闘距離を誤認させる
あとは敵の攻撃に合わせてユーベルコードでカウンターだ
剣の衝撃波にしても、直接斬りつけるにしても、完全に不意打ちで至近距離に来られて瞬間的な間合いの調整は無理だろうからな
UCの超高電圧攻撃が直撃したなら間髪入れず【クイックドロウ】【2回攻撃】【スナイパー】技能を組み合わせて敵の手目掛けてアームドフォートの一撃をぶちかまして武器を奪いにかかる
一度退いて体制を整えようとするなら追撃もぶち込み、一気に畳みかける

何処へなりとも逃げてみろ
私はお前を逃がさない



「質の不利は、数で覆えすものさ」

 砂埃舞う館の中に、血の匂いが混じる。
 嗅いだことのあるような、ないような、不思議な血の匂い。数秒を経て、これが吸血鬼の、骸の海を彷徨ったものの血の匂いなんだろうと理解する。
「言うまでもなく身に染みたかい?」
 レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)が問いかける。左右色違いの瞳がアルヴィの顔をのぞき込むように傾く。それも、少し距離のある相手に向けたものであればただの仕草でしかない。
「あぁ……」
 掠れた声でアルヴィが呟く。疲労はもちろん、蓄積したダメージも相当だろう。
 それでも立ち上がる姿には関心せざるを得ない。吸血姫も同様である。
「そこまでして立ち上がるのは、相当な理由でもあるのか?それともただの領主の沽券か?」
 興味本位にレナが訊ねる。項垂れたアルヴィから答えが返ってきたのは、少し後のことだった。
「……娘がやってくるまで、俺を殺しにくるまでは、倒れるわけにはいかない。約束だからだ」
 瞳を上げて、力を込めた言葉を紡ぐ。
 しかし、求めるものは在りし日の妻の姿。ならば、娘の姿を拝むのはまだ少しだけ早いと、誰でもない彼本人が無意識に思い描いているのだろう。
「……それを私を見て言うか。よりにもよって」
 呟きをかき消すように、レナは続ける。
「生憎、逢瀬は果たせずだ。彦星でもなし、骸の海へと還るのがお似合いだろう」
 告げて、銃口を向ける。
 顔を向けたのはひとつだけ、その手で手繰るひとつだけ。
 けれど、それで十分だ。
「――さあ、駆け抜けるぞ」

 何よりも早く、火薬の炸裂する音が館に響く。
 続けざまに金属音。ひどく伸びた音は、黒い刃を伝って発せられる。
 きちんと目視せずとも、弾丸が斬られたことくらい容易に想像がつく。
「……銀か」
「その通り。通説だろう?」
 嘯くレナに対し、アルヴィは切断された銀弾に一瞥すらせず次の行動へと取り掛かる。
 やはり通用しないかと思考を回すうち、威嚇射撃も軽くいなされたちまちに距離を詰められる。
「貴様は、見ていた。派手に暴れていたようだが、遠距離を得手としているようだな」
 その言葉は即ち、男爵との闘いで使った手は通用しないことを意味している。
 しかし、レナの取る手は先ほどとは違う。その証拠に、あの弾丸の嵐がなりを潜めている。使っている銃火器は手元のひとつだけだ。
 それでも、遠距離の攻撃を扱うことに変わりはない。ならばアルヴィが取る行動はひとつ――接近だ。
 接近の勢いに乗せて、黒い刃の切っ先を向ける。
「隙があるぞ――」

「そりゃご親切にどうも。ではその親切に甘えるとしよう」

 瞬間、電光が迸る。
 それはアルヴィの放つものではない。身体に奔る電撃も相まって、彼は大きく目を見開く。
 驚くのはそれだけではない。
「何、故……?」
 その太刀筋は確かにレナを貫いた筈だった。軌道は真っ直ぐ、回避不可に狙いを定めていた。
 しかし、返し手のカウンターを放ったレナに損傷の様子は見れらない。
「……っ」
 痺れに思わずふらついた足取りを狙うように、二撃目が差し込まれる。
 レナの得物はいつの間にか、銃からナイフへと変わっていた。
「こちらが本命か――ッ」
「大正解」
 柄のスイッチを押せば、再び電撃が放たれる。

 痺れがあるとはいえ、二撃目をあっさりと許したことには理由があった。
「ごく至近距離の次元跳躍……狙いが逸れるのも無理はない。研ぎ澄ませば研ぎ澄ましただけ、的を見紛うことになる」
 連続的な跳躍が、アルヴィを翻弄する。
「さあ、何処へなりとも逃げてみろ。私はお前を逃がさない」
 帽子の下から覗く瞳は冷徹に。
 そして――後背部から覗かせた砲もまた冷ややかに。
「……逃げるものか」
 けれど。それをおして尚、アルヴィは立ち向かう。
 それは相手を讃えるように、戦を誉れとしたものとして、しっかりと。
 ……瞳は済んだ紅を取り戻していた。

「誇るがいい。貴様らの、勝ちだ」

 最期に、ダークセイヴァーには似つかない光の束が勝利を表した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『緩慢とした無情の吸血姫』

POW   :    つまらないわ
【大鎌による神速の回転斬り】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    壊れて死ぬか、吸い尽くされて死ぬか、選んで
技能名「【怪力】と【吸血】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
WIZ   :    傷の痛みすら愉しみましょう
【一時的に感情を取り戻す】事で【戦いを楽しむ戦闘狂】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 それは砂の城のように。
 朽ちていく吸血鬼殺しの姿を最期まで見送ると、猟兵たちの視線は々ところへ向けられた。

「ヴ、……」

 それはワイリー男爵と吸血鬼殺しアルヴィを倒す最中、すぐ傍で荒れ狂う様を見せつけていた吸血姫だった。
 が、標的たる二人を倒し、半壊した館の中で、半ば朦朧とした様子で柱にもたれかかっていた。
 全て事を片づけるためには、猟兵もそうだが彼女もまた無傷でとはいかなかった。
 むしろ、回避や防御に殆ど徹することなく攻め込んでいたせいで、白のドレスも彼女自身もボロボロだった。
 それでも、猟兵たちの視線に気づけばやがて、武器を取る。
 いくら弱ろうと、傷つこうと。共通の敵が消えた今、猟兵は彼女の敵であった。
 刃が折れた鎌、それが不自然に力を帯びる。
 瓦礫の中から毀れた刃が集約し、再び鎌と呼べる形を取る。……もっとも、それも一時的なものに過ぎない、脆く儚い物に見えるが。

 猟兵に出来ることは大きく分けて二つ。
 ひとつは戦うこと。弱っていようと、敵意があることに変わりはない。敵意の炎が潰えぬ限り、彼女は文字通り命を削って猟兵たちに挑むだろう。
 もうひとつは、”戦わない”という選択肢である。
 攻撃をいなす必要はあるかもしれないが、今の彼女は弱っている。つまり、狂気の度合いもまた低くなっている。
 それで彼女が元の精神を取り戻すことは不可能だが、猟兵の言葉に耳を貸すくらいはできるだろう。説得が上手くいけば、彼女が攻撃の手を止めてくれることもあるかもしれない。
 どうせ、手を下さずとももう助からない。緩やかに、彼女は自身の命を削り尽くすだろう。

 ……かくして最期の幕引きは、猟兵たちの手に委ねられた。
キル・トグ
 このこころが軋んで痛みに叫んでいるのさ。絵本のなかからでてきたお姫さまとさようならの時間だ。
 最後にそのドレス、その細うで、その赤、その刃、全てをわたしの血のあふれるこのこころに刻んでやる。
 だからここに来た。

「フォークロア!古き物語を語り継ごう!」

 その鎌は何を刈り取るためにある?
 わたしのこの脚は青空を目指すためにある!
 踊ろうお姫様!わたしは物語に終止符を打つ事ができないから。物語を継ぐことしか出来ないから。わたしに伝えておくれ、その古き物語の片りんを!


 空気を蹴ってお姫様とじゃれようじゃないか。血みどろになるまで。
 そして、負け犬の遠吠えをあげよう。
 くらい空へ向かって高らかに。


レナ・ヴァレンタイン
さて。その様子だと長く見積もっても一刻持つまい
そのまま終わるならそれでよし、向かってくるならそれもまた良し
好きに選べ。手加減する気はまるでないがね

ユーベルコード起動
50羽の鴉の群れを呼び寄せ、周辺に展開
物理反射で攻撃をそらし、時に敵そのものに鴉をぶつけて体勢を崩しにかかる
此方からは直接狙い撃つのもいいし、鴉を撃って弾丸を連続反射させて敵の背後や横合いから攻撃するのもいい
クイックドロウ、スナイパー、2回攻撃技能全開で撃たせてもらうとも

オブリビオンがオブリビオン狩りなどどうゆうつもりだったかは知らんが、これがラストダンスだ
最後まで付き合ってやるさ

ではさらばだ。地獄で会おう


パーム・アンテルシオ
目的を果たしても。倒すべき敵を倒しても。
…そんな体になっても。
まだ、戦うつもりなんだね。
私は…できる事なら、あなたとは戦いたくないんだけど、な。

…耳を掴まれた事は、まぁ。ちょっと怒ってるけど。
守ってくれたからね。さっきは。
…もちろん。幻を見せてたから、って事もあると思うけど。
それでも、ね。

借りを作るのは嫌だから…?ちょっと、違う気がする。
武士の情け…それも、少し違うかな。
…私も、よくわからないけど。

ただ…そうだね。そうかも。
私が、あなたの立場なら…
最後の時間ぐらいは。思い出に浸って過ごしたい。
そう思うから。きっと。

だから…余計な手出しはしないよ。
…まぁ。逃げる準備だけは、しておくけどね?ふふ。



「まだ、戦うつもりなんだね」

 緩慢とした無情の吸血姫に視線を合わせ、パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)が呟く。
 彼女の視線はしかし、戦意を向ける様なつよいものではなかった。ただ、憐れむようなものでもない。
 対する吸血姫は、今までの無表情とは少し変わって怒りの感情を浮かび上がらせた瞳をしている。
 先の術は解け、パームの姿はもう今は亡き仲間に見えることはないだろう。
 それに対する憤りか、それともただ敵対すべき標的が変わっただけか。
 無言を貫く吸血姫の真意は分からないが、それでももう、隣に立つことは叶わないということだけは確かだった。

「私は……できる事なら、あなたとは戦いたくないんだけど、な」
 そう告げて、手を差し伸べる。
 吸血姫はそれをじっと見つめ、暫くすると一歩、一歩と近づいていく。
「――――」
 しかし、吸血姫がその手を取ることはない。
 つぎはいだ歪の鎌を、最後の一歩に合わせて振るう。一撃目をパームは紙一重のところで避けるも、追撃の二周目の振り回しには対応できない。
「……それでも、私は」
 その直前、パームが何かを言いかける。……それも泡沫の夢と消える。
「…………?」
 手ごたえがない。霞を斬ったような違和感。
 パームの首を狩った筈なのに、その瞬間に彼女の姿が消えた。
 まるで、幻影だったかのように。
 それだけではない。
 煙に巻くという言葉のように、砂埃の上がる衝撃波がパームのいた地点から放たれる。
「――ッ!」
 三周する筈の鎌の軌道を強制的にずらし、衝撃波に身を任せ翻る。
 ドレスは舞台幕のようにゆったりと落下する。

「そこだ。隙の花は枯れぬ間に摘ませてもらうよ」

 砂埃から銃口が颯爽と顔を覗かせる。
 着地を狩るように、弾丸が跳ねる。
「グ、ゥ――っ」
 ヒールが折れたようによろけた吸血姫の足から血が噴き出す。
「余命幾許どころか、もう一刻も持つまいに。……それでも、襲ってくるのなら容赦はしない」
 銃口から垂れる硝煙を吹いて、砂埃をかき分け現れたレナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は帽子を片手で軽く抑える。つばから見え隠れする瞳は鋭く、口元には不敵な笑みを湛えている。
「さあ、覚悟はとうに済んでいるだろう?ようこそ、終わりの始まりへ」
 笑みには理由がある。
 やがて止む砂埃、その中から――黒い鴉の大群が飛び立つ。
 館の壊れた手すりや天井から、それらが瞳を覗かせる。
 月を黒を背負ったレナは、銃口を向けて一層ひどく笑みを歪ませた。
「啄め」
 その号令とともに、鴉の群れが渦を巻く。
 まるでひとつの生き物のように流動するそれが、吸血姫へと迫る。
「――ッ!!」
 当然、吸血姫もただでやられるわけにはいかない。
 鎌を構え直すと、指先の動きだけでくるくると回す。
 そのまま手首、腕と持ち回し、回転する刃が鴉を迎え撃つ。
「ゥ、――アァ!!」
「弱っていてもオブリビオンか――成る程」
 そのまま突撃してくる吸血姫に対し、牽制射撃を行うレナ。鴉の攻撃も絶え間なく続けているが、吸血姫が立ち止まる様子はない。
「だ、そうだが……止まるつもりはないんだな?」
 ……それは、吸血姫に向けられた言葉ではない。
「――あぁ!!」
 返答は、空から降ってくる。
 鴉の群れに紛れて、一際大きな何かが飛来する。
「フォークロア!古き物語を語り継ごう!」
 黒に紛れた少女の笑みは、ここに居る誰よりも、何より眩しい。

 キル・トグ(空の語り部・f20328)は鴉の群れが降り注ぐと同時、天井に潜んだその身を宙へと放った。
 紛れ込んだ黒い流星は、着弾の直前に赤い真実を見せることとなる。
「このこころは、軋んで痛みに叫んでいるのさ」
 行き場のない思いがそこにはあった。絵本の中のおひめさまのような彼女に向けて、思うことなど山ほどあった。
 けれど、その山をひとつひとつ切り崩していてはきりがない。
 だからこそ――。
「そうだ、だからここに来た」
 かくして、榴弾のように降り注ぐ二人。
 流石に、不意に降ってきたそのサイズの相手を無視できるほど、吸血姫の体力は残されていなかった。
 もともと乱雑に鴉と弾除け程度に振り回していた鎌に強烈な不意打ちが加われば、当然の如く体勢が崩れる。そのまま、突撃して走ってきた道を送り返されることとなる。
「わ……わ、わっ!!」
 キルとトグも、同じく転がる。キルがトグを守るが、先の飛び込みにおける負荷はトグにかかっている。結果としてお互いにダメージを追っていることとなるが、仕方なし。
 そんなダメージなんて気にしてる場合じゃないと、魂が叫ぶのだから。
「その鎌は何を刈り取るためにある?」
 転がった勢いのまま、不安定に立ち上がる。そしてそのまま、走る。
「わたしのこの脚は青空を目指すためにある!」
 答えを待たずして、トグが告げる。
 それは大空に向けてではなく、吸血姫に向けて、高らかに。
 吸血姫が瓦礫に寄りかかった身体を起こし、鎌を握る手に力を籠める。
「…………」
 が、どうしてだろうか。鎌に力が入らない。
 目的を失った手であると意識すると、何故だろう。力が篭っている気がしないのだ。
「わたしは物語に終止符を打つ事ができないから。物語を継ぐことしか出来ないから。わたしに伝えておくれ、その古き物語の片りんを!」
「ァ、ァア――――!!」
 それでも、彼女は鎌を振るう。一心不乱に。
 それに対抗すべく、トグはキルに跨る。キルの脚が、瓦礫の山を力強く蹴り上げる。
「だから踊ろう――お姫様!」
「ラストダンスとは中々いい。ならば、舞台を華やかに盛り上げてやろう――」
 トグ達の両脇を縫うように、精密な軌道を描いてレナの操る鴉が殺到する。
吸血姫も抵抗するが、鈍った鎌の挙動では全てを捌き切れない。
 その間にも、キルは奔る。床を蹴り、壁を蹴り、天井を飛び越える。
「ではさらばだ。地獄で会おう」
「これで、終わりだぁ――――ッ!!」
 ――そうして遂に、吸血姫はその膝を地につけた。

 消える。消える。
 骸の海へと還っていく。
 怒りも憎しみも、悲しみも。
「――ァ」
 月へと手を伸ばす。最初に掴みたかったものも、今となってはもう思い出せない。
 緩慢とした生活の中、時には人々を苦しめて過ごすこともあったが、それでも。いつも手元に幸せはあった筈なのに。
 気付いたら、全てが零れ落ちていた。
「…………?」
 そんな空虚な手を、誰かが取る。
 両手で包み込んだその手は、陽だまりのように暖かい。
 視線を向けたいのに、もう目も見えない。ぼやけて、今や真っ暗闇だ。
 寂しい。怖いとさえ思う。
 けれど。
「大丈夫」
 掠れた音しか聞き取れない耳が、確かにそう言っているのを捉えた。
「…………ぁ」
 最期に吸血姫が見たのは、暗闇の中にほのかに感じる――暖かい光だった。

 パームは、さらさらと消えていったその手を、消える最期の時まで握っていた。
「……耳を掴まれた事は、まぁ。ちょっと怒ってるけど。守ってくれたからね、さっきは」
 それが決して、自分に向けられたやさしさではないと分かっていても。
 そこに確かに、やさしさがあったことは確かなのだから。
 だから、取ってくれなかった手を、取った。
 最後の時間ぐらいは、思い出に浸って過ごしてほしい。彼女の勝手でささやかなお願いは、果たして叶えられただろうか。
 パームはその問いに対し、大きく頷くことができるだろう。

 なぜなら、消える寸前の吸血姫の顔は。
 ――とても柔らかく、頬を緩めて微笑んでいたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月30日
宿敵 『緩慢とした無情の吸血姫』 を撃破!


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#ダークセイヴァー
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#同族殺し


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はヴィリヤ・カヤラです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠肆陸・ミサキです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト