雪山に戴く悪逆無道の君臨者。
●雪山に集う恐怖。
身も凍えるような山村に、身を隠しながら徘徊する幼子が一人。
もこもことした防寒具を着込み、きょろきょろと辺りを見回す警戒した様子。静寂が包む村に時折、鳥の羽ばたきが聴こえると子供は身を竦めて物陰に隠れた。
やがて、氷柱が出鱈目に生えたような家のひとつに入り、ようやく息をつく。しかし。
「……もう、ご飯がない……」
家の中の食べ物は、干した肉が一切れ程度だ。
食べ物を手に入れられる場所は知っている。しかし外には。
「…………」
割れた窓から外を見れば、もふっ、とした丸い異形が囀ずりながら、何羽と集まり村の様子を探っている。
村には所々に氷の刺が生えており、幼子の動きを見ればそれが彼らの仕業だと考えて相違ないだろう。
やがて、彼らは同じ方向へ顔を向けると、一斉に飛び立った。
戸口から顔を出し、周囲を窺う。
「……い、今しかない……!」
幼子は意を決して外へ飛び出した。
●夏だし避暑地に行こうぜ?
「と、言うわけで今回の戦いの場はアックス&ウィザーズの雪山だ」
夏真っ盛りのこの季節。しかし標高の高い目標の山は麓から離れれば雪化粧をしている状態だ。
タケミ・トードー(鉄拳粉砕レッドハンド・f18484)はやって来た猟兵らに、夏の暑さにやられたのかぐったりとした様子。そのガタイは見かけ倒しか。
「この山では山村に住まう人々の失踪が相次いでいる。まあ失踪どころか村そのものが壊滅している場所もちらほらあるが。
しかし、だ。人がいなくなるにしても、村を襲っている【シマエナさま】という鳥形のオブリビオンは人を食らう様子も見えないし、自然と共存する山人が彼らの棲みかを追った、なんてUDCアースにありそうな問題もない。
おそらく、このオブリビオンを支配下に置いた別のオブリビオンが居るはずだ」
人食らいか、あるいは労力として集めているのか。
情報源としてこのシマエナさま自身もあるが、ひとつの村では生き残りの幼子がいると言う。
「山の麓には魚の採れる川がある。食料を求めてこの子もそこを目指しているようだし、シマエナさまを誘き寄せるためにもそこで餌、子供の確保がまずすべきことだろうな」
シマエナさまは元々、山を司るオブリビオンであったらしく、異変に対し敏感だ。魚でも焼けばすぐにやって来るのではないかとはタケミの言だ。
「裏に潜む奴がいるかいないか、どちらにしろこの暑さだ。雪山でレジャーとばかりに、新鮮な魚を食べて楽しむのもいいかも知れないな。
…………、いや、奴らを誘う分は残しておけよ?」
釣った魚は新鮮そのもの、雪山の清らかな川で育ったそれらはとても美味であろうと、思わずタケミも腹を鳴らした。
食べれば士気も上がるだろうし、子供に分ければ警戒心を解いて情報をくれるかも知れない。
それから、とタケミは猟兵らに自らの右拳を掲げる。
「相手は幾つもの村を潰している。生かすにしろ殺すにしろ、人を人と思っていないことは確かだ。
そんな敵なら、情けも容赦も対話も要らねえ、鉄拳を食らわしてやれ。私らの前に立つ奴がどうなるか、思い知らせてやれよ」
野性的で、攻撃的な笑みを浮かべてタケミは猟兵らを見送った。
頭ちきん
頭ちきんです。
今回は雪山での難敵討伐となります。猟兵たちは持ち前の能力で寒さへの対策は必要ありませんが、各々のプレイングにお任せいたします。
●シナリオ概要。
一章ではシナエマさまを誘き寄せるため魚を集めます。冒頭で村に一人取り残された幼子も川の近くにやって来ているので、すぐにお互い気づくでしょう。
二章では情報をくれるシマエナさまとの戦闘になるので、情報入手後は感謝の念を込めて焼き鳥にしましょう。
また、余った魚(シマエナさまも)は一章、二章ともに猟兵や幼子が食べて士気を上げられますが、魚を食べられるのは一章参加者のみ、プレイングで分け与えることは可能です。
三章はボス戦となります。
雪山に住まう者だけでなく、全ての存在に悪意を向けるオブリビオンです。世界を未来へ進めるためにも確実に仕留めましょう。
注意事項。
アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなります。
その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
これらが嫌な場合は明記をお願いします。
グリモア猟兵と参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
第1章 冒険
『魚を確保しろ!』
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POW : 逃げられたって気合いだ!とにかく数撃ちゃ当たる!
SPD : 魚が居そうな橋の下や木の陰を狙って重点的に釣る
WIZ : 虫や水草、淡水エビなど、魚の好きなものをエサにして釣り上げる
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ツェツィーリエ・アーデルハイト
ははぁ、なるほど……。つまりは出てくるオブリビオンを神の御許へ送ればよろしいのですね。了解いたしました。それでは先ずはお魚を集めるところからいきましょうか。
さ、皆様。集え、我が御旗の下にッ!
それでは皆様、魚取りをお願いいたしますね。私はこちらで火を起こしてお待ちしておりますので。いやですねぇ、こんな寒い場所で水に入ったら風邪をひいてしまうでしょう。ですから、お任せしますね
こんなところで子供が一人でいては危ないですよ?
ほら、こちらで温まってくださいな。なにか飲み物でも淹れましょうか?
ゆっくりお話でもしましょう
鳶沢・成美
とりあえず魚釣りですか
でも雪山か”氷結耐性”でどうにかなるかな?
竿とかは故郷(UDCアース)からでも持ち込めばいいか
ねらう場所は”第六感”を駆使して”目立たない”様に釣りましょうか
釣った魚は【日曜大工ノ術】で桶でも作って入れときましょう
一応”料理”も出来るし下処理も並行して進めときますか
内臓取って血抜きして……燻製にしちゃいますかね
「焼き魚よりは多少日持ちするかなあ」
幼子が来たら”コミュ力”でコミュニケーションとってみますか
「火の番するなら分けますよ」みたいに
見ず知らずの人にぱっと施されるよりはらしい感じかなと
アドリブ・絡み・可 ””内技能
西条・霧華
「不謹慎なのでしょうけれど…、こう言った一時は楽しいのかもしれませんね。」
【SPD】を使用します
釣りの心得そのものは持ち得ませんが、知識としてなら持っています
岩陰、岸辺の流れが緩やかな場所等を中心に釣り糸を垂れます
確保するだけなら他にもっと効率が良い術もあるみたいですが…
それによってこの川の魚を取り尽くしては、今回のオブリビオンと同じですから…
それにしても、釣りとは剣の道に相通ずるものがあるのですね
釣れたら下拵えをして調理しましょう
子供が現れたら食べさせるつもりなので、川魚で出汁を取ってウハー(魚のスープ)を作りましょう
これなら体も温まりますし、お腹にも優しい筈ですから
美味しいと良いのですが…
ワーブ・シートン
POW
魚取りなら任せてもらうんですよぅ。
おいら達クマの魚取りってのはァ、両手(両前足)で掬って取るもんなんですよぅ。
まぁ、大きい方がいいと思ってるんですけどねぇ…あれ??
あの鳥さん、大きい魚、食べるのかなぁ??
そうでないんならぁ、おいらの昼飯ですけどねぇ。(お魚大好物な灰色熊)
…お魚、食べるぅ?>幼子
竜ヶ崎・をろち
うおーーっ!ここは頭を使って魚を獲りますよ!
水中に強い振動を与えれば魚が気絶して獲り放題って聞いたことあります!
ですから、持ち前の怪力で川底に頭突きをぶつけてみます!
きっとたくさん捕まえられますよ!
●君たち、釣りの用意はしたのかい?
雪山の麓へと集まった猟兵は五名。
「それではまず、お魚を集めるところからいきましょうか」
背後に広がる山を見上げ、にっこりと微笑むのは法衣に身を包んだツェツィーリエ・アーデルハイト(皆殺しの聖女・f21413)。
彼女の言葉通り、グリモア猟兵の指示を受けて彼らが行うのは、【シマエナさま】を誘き寄せるための餌集めだ。
「よーし、頑張るぞ~!」
「こんな時に少し不謹慎なのでしょうけど、こういった一時は楽しいのかもしれませんね」
元気いっぱい、やる気を見せたのは竜ヶ崎・をろち(聖剣に選ばさせし者・f19784)と、多少の罪悪感を覚えつつも楽しみを禁じ得ない西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)だ。
麓とはいえまだ雪の積もる場に、私立膂力学園の校風ゆえか筋肉を魅せるために背中と二の腕部分を大きく開いたセーラー服姿。をろちの姿には寒さを感じさせない。
対して並ぶ霧華は焼き出された場から掘り出したようなボロとはいえ、黒いロングコートを羽織りをろちよりは場にあった服装と言えるだろう。
「魚取りなら任せてもらうんですよぅ」
のんびりとした声でツェツィーリエに答えたのはワーブ・シートン(森の主・f18597)、二メートルを優に超える巨体を持つ灰色熊だ。
この中では一番、らしい風貌ではあるが。野性を感じさせる鋭い顔ではなく、雰囲気からゆったりした様子に可愛らしいとすら思える。
「皆さん、魚を入れる物がないなら僕が作りますよ」
ぼっさりとした頭の鳶沢・成美(探索者の陰陽師・f03142)はタオルで髪をまとめつつ、他の面子を見る。
炎や氷に対して耐性を持つ彼は普段着でも平気そうだが、別の世界から持ってきた釣竿や大工道具を傍らに置きつつの台詞で、はたと誰も釣具を持っていないことに気づいた。
「あ、あれ? 誰も釣竿とか持ってきてないんですか?」
「これでいいかなって」
「……私も……」
をろちと霧華は自らの獲物を見下ろす。つまりは武器に糸でも括りつけて竿の代わりとするつもりなのだろうが、釣り餌を投げるにも魚を引き上げるにも向かない形だ。
特にをろちの聖剣【シャリテ】は縦百八十、幅七十、厚さ二十センチの大鉄塊。こんなものが水面を揺れ動けば魚も近づかないだろう。
「おいらたちクマの魚取りってのはァ、両手で掬って取るもんなんですよぅ。
釣竿はなくても大丈夫だよぅ」
「そうですねぇ、それなら私に憑いてくださる心優しい皆様も、ワーブさんと同じくすれば問題ないでしょう」
「いやいや、ワーブ君はわかるけど、『釣り』をするのに竿がないってのは『ツリい』でしょう!」
正論力説しながら親父ギャグをぶちこむんじゃない。
思わず握り拳を見せた成美に、をろちはきょとんとしている。ワーブはそもそも気づいてないようだ。
(なんで得意気な顔をしているんでしょう?
…………!)
「そうか、山にはいっぱい木があるから、釣りと木の『ツリー』をかけたんですね!」
「いや『ツラい』とかけたんだけど」
「ぷっ!」
全く理解されていないことに恥ずかしそうに頭を掻いたところで、堪えられないと霧華は思わず噴き出した。
一人笑っていたことに自信を取り戻す成美であったが、口許に笑みを宿しつつも目が全く笑っていないツェツィーリエに気づきにわか自信は咳とともに払い捨てる。
「とにかく、効率よく魚を集めるためにも竿は必要です。竿は僕が作りますんで、皆さんにはその辺の倒木でも木材を集めて貰っていいですか?」
「では、私とワーブさんは先に魚を取ってきますね」
「ワーブさんみたいに魚を取れるんですか?」
をろちのもっともな疑問にツェツィーリエは口許を手で隠してくすりと笑い、冷たい目を少女に向けた。
「いやですねぇ、こんな寒い場所で水に入ったら風邪をひいてしまうでしょう。ですから、そういったことは私に憑いてくださる皆様にお任せします」
をろちはなるほどと頷いたが、なにかもやもやとした気持ちがあるのか釈然としない顔をする。
これには霧華も同じ想いで、どこか人を見下したような態度と死霊とは言え、彼らの尊厳を認めないような扱いが言葉の節々から感じられる。
否、所詮は骸の海から導き出した者、壁はあるべきなのだと思いはするが。
グリモア猟兵から今回の件の内容を聞いた際、つまりは現れるオブリビオンを全て神の身許に送れば良いのかとする彼女の言葉になにかずれた意識、あるいは信仰を感じていたがそれは個人の自由としていたところだ。
それが、今、彼女から出た言葉にはっきりとした想いが浮かぶ。この女は善悪の認識そのものがずれてしまった人間なのではないかと。
もしくは、隠したくても隠しきれないほどの憎悪を善人の仮面で蓋をしているのか。
「そうは言うけど、ツェツィーリエさんも死霊術を使うなら彼らに釣竿を持たせてあげたほうが効率もいいでしょう。
ほら、ワーブ君と僕らじゃ体がそもそも違いますし」
「…………、そうですね。それでは成美さんの迷惑でなければお願いしましょうか」
微笑むツェツィーリエに、成美も絵顔で返す。猟兵間に流れた雰囲気をさっくりと流した成美のコミュ力もさすがと言ったところか。
とにもかくにも釣りの準備をと、全員で手分けしての材木集めとなる。
「我、大工也、我、名工也――、【日曜大工ノ術(サンデーカーペンター)】!」
皆が材料を揃えるまでに、精神統一と自己暗示を自らにかけ、ユーベルコードを始動。今の成美ならば部屋ひとつ丸ごと模造するのも容易いほどの実力を発揮する。
木製とは言え釣り上げるのは川魚、彼の持ってきた釣竿の模造品で十分だろう。
「お待ちどう様だよぅ!」
「いっぱい持ってきましたよーっ!」
「おお、早い――おわあっ!?」
ワーブとをろちが嬉しそうに持ってきた数本丸ごとの巨木が投げ落とされて、成美は慌ててそれらをかわす。
さすがの彼もギャグは捨てて説教した。
●フィッシングタイム!
「我らに私心なく、また私身なし。
さ、皆様。【集え、我が御旗の下に(アンダー・ディヴァインフラグ)】ッ!」
ツェツィーリエの金の瞳が煌めき、頭上で翻す旗に力が生じる。
ずるりと、旗が遮る陽の光から産み落とされるようにして現れたのは神殿騎士と聖職者。じっとりとした粘着質な視線をツェツィーリエへ向けるが、彼女は意に介さず成美へ頭を下げる。
「は、はい、これ」
彼女らの間に漂う、明らかに信頼のない主従関係に気圧されつつ、作成した魚を入れるための木桶と釣竿を渡す。木製だがリールも付属し、機能は万全だ。
無言でそれを受け取り、すぐ近くの水面に向かうオブリビオンを見送り胸を撫で下ろす。
それにしても。
「ツェツィーリエさん、その旗は?」
「ああ、この旗ですか? 私のいた教会から、旅立つ前にいただいた物です。思い出の品ですよ」
「……そう、ですか……」
訝しげな霧華に、それ以上でも以下でもないという様子のツェツィーリエ。しかし、魔導に通ずる成美や死と肉薄した経験のある霧華はその旗からおぞましき某かの気配を感じ取っていた。
が、相手が語る気もないのであれば、それを無理して聞き出すこともない。少なくとも彼女は味方なのだと自答して、霧華は成美から釣竿と桶を受け取る。
その後ろに続いて釣竿を受け取るをろちは、成美が使用した材木の余りを集めるツェツィーリエに気づいた。
「私は火を起こしておきます。お飲み物も用意してありますので、体が冷える前にいらしてください」
「本当ですか!? やったーっ!」
彼女の言葉に無邪気に喜び、成美もその様子を見てワーブと霧華へ声をかける。
「桶がいっぱいになる前でもいいんで、無理せずこっちへ戻って来てください。集中力を減らしても結果は出ないと思いますし、休んでからまた釣りにいきましょう」
数は大量に必要なのだから、無理をしても仕方がない。
成美は彼らが戻って来たときに桶の魚を入れるための大きな木桶の作成を始めた。彼の言葉を受けて、小まめな休憩を心がけるかと霧華も同意する。
(…………、彼らを差別する訳ではないですが、お互いに離れて釣りをしておいたほうが良さそうですね)
死霊として召喚された神殿騎士と聖職者。彼らが水面で釣糸を垂らしているのも奇っ怪な光景であるが、漂う拒絶の雰囲気に無駄に刺激をすることはないと上流を目指す。
その前方では先に歩くワーブがのそのそと川を遡る。動作に対してその巨体だ、歩くのも速く感じられた。
巨体に続く霧華の更に後ろから、セーラー服姿が続く。少女は早足で霧華の隣に並ぶと屈託のない笑みを見せた。
「私、釣りは初めてです。霧華さんはやったことあるんですか?」
「いえ、私も経験はありません。釣りの心得もありませんし、知識としてなら持っている程度ですよ。
魚釣りは頭を使うものですから」
柔らかな笑みで言葉を返す。
二人は別の事件でも行動を共にしたことがあり、見事な連携を演じて見せた。その縁あって、歳も近く今回の共闘でも互いに親しみがあるのだろう。並び立つ後ろ姿は姉妹にも見える。
をろちへ、岩陰や岸辺の流れが緩やかな場所に川魚が集まり易いことを伝えて、これ以上の上流では流れも早く、魚釣りには向かないのではないかと懸念する。
「なるほど。じゃあ、ワーブさんにもそのことを伝えてきます!」
「あ、をろちさん、ワーブさんとはやり方が違いますから!」
ててて、と軽い足取りで先行く巨体へ追いつくと、霧華から受けた情報をそのまま伝える。
ワーブは頷きつつも、自分が捕りたいのは大きな魚なのだとをろちへ返した。
「大きい魚はァ、もっと上にいたりするんですよぅ。だから登っているんだよぅ」
「おっきい魚!?」
ワーブの言葉に目の色を変えるをろち。どうせなら大物を釣り上げたいのは誰でも思うことだ。
をろちは霧華へ振り返り、ワーブと共に魚釣りを行うことを告げて意気揚々と上流を目指す。
霧華は霧華で、ならばここで釣りをするかと辺りを見回した。
(ワーブさんからちゃんと離れて置かないと、上手く釣れないと思いますが)
言い逃した言葉を飲み込んで、ここらが良いかと木の枝が水面にかかって陰となった場所に歩む。
成美の製作した釣竿は実に出来が良く、虫を模した釣具に針と、それを沈める重りに沈み過ぎないよう木の実で出来た浮きもある。
リールの止めを外すと釣竿を両手で握り、指先に重りをかけて軽く振るう。よくしなり風を切る音に手応えを感じて、霧華は更に弱めに竿を振りつつ、指先の重りを離した。
小気味良い音とともに釣り餌が飛び、狙い済ました場所へ着水する。
後は魚が食いつくまでのんびり待ちと、竿を揺らして誘いを行うだけだ。魚が食らいつけば機を見逃さず、一息に釣り上げる。
(釣りとは剣の道に相通ずるものがあるのですね)
知識だけのものが、実際に経験したことで新たな知恵となり、己の血肉と化す。
数を集めるだけなら他にも方法があるかもしれないが、今回のオブリビオンのように何も考えず一切合切を強奪するようなやり方を霧華は良しとしなかった。
自然にある流れから必要な分を拝借するのだ。天地人の理を組み入れつつ、霧華は当たりを静かに待った。
それぞれが釣り場を見つける一方、道具を作った本人たる成美もまた、釣り場を決めたところだった。
ツェツィーリエの喚び出したオブリビオンよりも下流に位置する日向だ。定石で言えば別のポイントであろうが、相手も生き物、日によって潜む場所は変わるものだ。
特に死霊術により喚び出されたオブリビオンという存在に、野生に生きる者も異変を感じて通常とは違う動きをしてもおかしくはない。
だからこそ成美は自分の直感から導き出したポイントへ竿を構えたのだ。
目立たないよう、水面に影が映らないよう気をつけながらの釣りは功を奏したようで、すぐに当たりを引く。彼がUDCアースから持ってきた竿も快調だ。
「これは、爆釣りの予感!」
まだ見ぬ大漁に成美はほくそ笑んだ。
●小さき逃避者に救いの手を。
結論から言ってしまえば、成美の当たりは可もなく不可もなくといったところだった。
手製の桶がいっぱいになる前に戻れば、先に戻って来た霧華がツェツィーリエの淹れた紅茶を飲んでいる。回収用の巨大桶には多くの川魚が入っており、霧華だけでは間に合わない量と見て例のオブリビオンが釣り上げたのかと思わず唸る。
「成美さんもどうぞ」
振り返った先では休んだ様子もなく魚釣りに興じる死霊の姿。ツェツィーリエは気にするでもなく、成美へ自分の淹れた紅茶をすすめた。
ありがたくそれを頂戴すると、柔らかな香りとすっきりした味で飲み易く、これは美味しいと体の芯から温まる感覚に自然と笑みが零れる。
「さて、そろそろですかね」
腰を上げた霧華が、火に温められた小型の鉄鍋に触れた。蓋を開けるとたちまち広がる鼻孔をくすぐる香りに、思わず喉を鳴らしてしまうツェツィーリエと成美。
川魚を調理したスープ、ウハーだ。湯気を立てたそれは雪山で非常に魅力的な光景で、その様子を覗き見る者も我慢が出来なかったのか、小さな音を立てた。
直後に向けられた三人の猟兵の目に射竦められた幼子は、茂みから身を出す格好のまま固まってしまった。
「……君は……」
「こ、来ないで!」
両手を胸の前で握り、警戒した様子にこの子こそ惨劇の生き残りなのだろうと猟兵らも確信する。
ツェツィーリエは笑みを浮かべ成美お手製のベンチに座る、自らの隣をぽんぽんと叩いた。
「こんなところで子供が一人でいては危ないですよ? ほら、こちらで温まってくださいな。
お飲み物をお淹れしますよ。ゆっくりお話でもしましょう」
「嫌! お前たち、あいつの仲間なんでしょ!」
あいつ。
顔を見合わせる成美と霧華。ツェツィーリエは警戒どころか敵を見る目の幼子に困ったものだと頬に手を当てた。
特にツェツィーリエを強く意識しているようで、ならばと今度は霧華が口を開く。
「私たちはこの山で起きた異変の調査と、危険な存在を倒してここに住む人たちを助けるためにやって来たんです。
あなたを危険な目に合わせたりしませんから、安心してください」
「嘘だもん。あ、あたし見たもん。そこのお姉さんが、あいつみたいに兵隊を出してるところ!」
どうやら、ツェツィーリエの死霊術を見て警戒を強めたようだ。同時にそれは、兵を召喚する何者かが存在していることになる。
それが今回の黒幕なのだろうか。成美は幼子へ落ち着くように言葉を投げた。
「もし僕らが本当にそいつの仲間なら、もっと兵隊を喚び出して君のことを捕まえているよ。でもそんなことは絶対にしない。
僕たちは皆を助けに来たんだから」
「……で、でも……」
「よし、じゃあこうしよう。このツェツィーリエお姉さんと一緒に火の番をするんだ。近くで見ていれば敵じゃないってすぐに分かるし、怪しい動きがあれば逃げ出せばいい。
火の番をしてくれたお礼に、こっちも温かい飲み物やスープをあげるからさ」
そう言って、二人の用意した物を指す。敵だと思いながらもこの地を離れなかったのは、食料に困窮していたからに他ならない。
成美はその心の隙を突いたのだ。大人であれば危険に近づくことになると気づいただろうが、相手はまだ子供。それも、スープと見れば思わず身を乗り出すほどに腹を空かせているのだから、まんまと誘いに乗る。
警戒しつつ、そろそろと近づく幼子は、ツェツィーリエの隣に座る。ツェツィーリエはコップに紅茶を注いで幼子に渡し、続いて霧華が同じくコップにウハーを注いで渡す。
幼子はコップふたつと猟兵の顔を交互に見ていたが、優しい笑みに警戒が解けたのか、やがてコップの縁に口をつけた。
「…………!」
「美味しいですか?」
霧華の問いにこくこくと頷きながら、慌ててスープを飲み干す。続いては紅茶だ。一気にコップの中身を空にして、呆けたように空いたコップを見つめる。
お代わりならまだあると空のコップを受け取るツェツィーリエに、幼子はお礼を言うと涙を溢した。
「……美味しかった……うう、美味しかったよう……!
うわーん!」
火を使うことも出来なかったのか、久々の温かなものを口にして、幼子は安堵から大声で泣く。ツェツィーリエはそっと、その頭を抱き寄せた。
もうこの子はこちらを敵とは思わないだろう。成美は子供の扱いを女性二人に任せて、自らも調理の準備を始めた。
川魚の燻製を作るのだ。
(時間もないし、呼び餌と考えると日持ちはそこまで考えなくてもいい。熱燻で仕上げよう)
大量にある材木を組み合わせて簡単な窯を作り、火が直接触れないように工夫する。高温で燻製にするため調理時間は早いが保存食には向かない。
しかし、魚につけられた香りが呼び餌としては最適なのだ。
「私も手伝います」
「ありがたい、どんどん捌きますから、霧華さんは魚のスープに使ってください。他は全部、燻製にしちゃいます」
幼子の面倒をツェツィーリエに任せた霧華に、成美は言う。燻製も用意できるのかと霧華は目を丸くした。
今回、皆をまとめ実力を発揮したのはまず間違いなく彼であろう。幼子がすぐに警戒を解いたのも、少々騙しの手口はあったが彼のコミュニケーション力の高さゆえだ。
「ただいまァ、帰ってきましたよぅ」
「お魚いっぱいだよー!」
しばしの後、ワーブとともに帰ってきたをろちの姿に、霧華は驚いて手を止めた。
バイオモンスターである彼と仲良く嬉しそうに笑う少女はずぶ濡れで、とてもじゃないが無事とは思えない。
「どうしたんですか、その格好は!」
「ワーブさんと一緒に魚取ってたんだけど、上手くいかなくて。それで頭を使ったんですよ」
「いきなり川に飛び込んだからびっくりィ」
「私の頭突きで川を揺らして、魚を気絶させてこの通り大漁に! …………っ、へくちっ!」
「もう!」
くしゃみをしているではないか。
頭を使うとは言ったがこういう意味ではなかったぞと、用意したタオルで少女の髪を拭く。
これでは服を乾かすまで裸に近い格好をしなければならないだろう。途中で視線を感じて振り向けば、滴る水気に鼻の下を伸ばす成美の姿があった。
「…………。あっちを向いててください」
「あっ、はい、すみません」
健康的な年頃の男児としてはしようのない反応だ。
二人とは別の方向に体を向けて調理を進める。
「…………」
「ひっ?」
一方、大量の川魚を持ち、のそのそと火の元へやって来たワーブに幼子は怯えて身を震わせた。
しかし猟兵とはその世界に溶け込むよう人々の認識を歪める者たちだ。いくら二メートルを超え三メートルに迫ろうかという、雪山で恐怖の対象である熊であろうと、それを直視してもなぜ自分が怯えたのか幼子には理解すらできていないのだ。
「……ん~……。お魚、食べるぅ?」
「あ、いや、えっと」
本当に川魚かと疑う巨大なそれに、面食らった幼子が助けを求めてツェツィーリエに視線を送る。彼女はそれを受けて、調理してからいただきますとワーブに答えた。
せっかく大きな獲物を大量に取ったのだから、皆で食べたいと思うのがワーブの心優しきところだ。しかし、これも餌に使うもの。こんな大きな魚をオブリビオンが食べられるのかと疑問に、魚を捌く成美へ問いかける。
「切り身にすれば大丈夫じゃないですかね。これだけあれば、また釣りに行かなくてもすみそうですよ
ありがとう、ワーブ君。をろちさんも!」
「えへへへ~」
振り返らずに声を送ると、嬉しそうな笑い声が聞こえた。
と、ここでワーブが川魚をじ、と見つめているのに気がついて思わず苦笑する。
「霧華さんが作ってくれたスープがあるから、空腹直しにそれをいただいてください。魚もあったかいのを持っていきますよ」
「わ~い」
嬉しそうに火元へ向かう巨影を見送り、視界に収めてしまった下着姿で暖まる少女から慌てて目をそらすのだった。
大成功
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第2章 集団戦
『シマエナさま』
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POW : ひえひえアロー
レベル×5本の【氷】属性の【魔法の矢】を放つ。
SPD : こおりガード
対象のユーベルコードに対し【氷の盾】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ : シマエナガ・まきしまむ
【沢山のシマエナガ】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
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●罠を張り、情報を抜き、迎え討て。
【シマエナさま】は、元よりこの山にすんでいたオブリビオンだ。川魚を食べ、まれに住み処へ足を運んでしまった村人や余所者が攻撃されることはあっても、互いに上手く生活していたはずだった。
そのシマエナさまが牙を剥き、次々と村を襲い始めたのは何の前触れもなかったのだ。
そして、襲われた村には奴らがやって来た。
「シマエナさまに襲われて動けなくなった村の人たちは、みんなあいつが連れて行っちゃったの……あたしを守ってくれたママも……。
お願い、ママを、村の皆を助けて!」
切実に救いを求める幼子に、猟兵らは力強く頷いた。
まずは突然と態度を変えてしまったシマエナさまの対処だ。他のオブリビオンの尖兵となった彼らから、村人を連れ去ったオブリビオンの住み処を聞き出すのだ。
集めた川魚で作った燻製を、焚き火と一緒に各所に設置する。
鳴子も用意しておけば、彼らの接近にすぐ気づくだろう。
「シマエナさまは、危険があると仲間を呼ぶの。囲まれないように気をつけてね!」
幼子の言葉。逆に言えば、わざわざ全てを押さえなくても一ヶ所で戦いを始めれば彼らも集まってくるということだ。
戦力を割く必要はない。
戦闘能力も数さえ除けば猟兵の恐れるに足らない相手だろう。しかし、猟兵らは知らない。シマエナさまの恐ろしさは、その風貌にこそあることを。
「シマエナさまは人間の言葉がわかるし、喋れるんだよ。だから、本当は戦って……欲しくないけど……」
涙を浮かべる幼子の頭を猟兵の一人が撫でる。オブリビオンである以上、いつかは戦わなければならない相手だ。そして、そのことにこの子が罪悪感を覚える必要はない。
やがて雪山に響く鳴子の音に、猟兵たちは思い思いの武器を手にして雪山での戦いに臨む。
・をろち様が今章に参加される場合、体がまだ冷えているので先制を取れません。戦えばすぐに体は温まるので、それ以外にペナルティはありません。
・他前章参加者様は食べ物により士気が上がっています。
・シマエナさまは正直者なので聞けば知っていることを全て話してくれます。
・可愛らしい見かけですが、村を破壊した相手です。猟兵ともなれば殺意を持つので油断しないよう注意しましょう。
・シマエナさま可愛い。
※緊急につき。
頭ちきんです。
大変申し訳ありません、現在、何らかの不具合によりリプレイの投稿が不可能となっております。
トミーウォーカー様に報告し、対策できないかお問い合わせしているところです。
マスター紹介ページの自己紹介コメントやプレイングを投稿した方へのメールももエラーが発生している状態のため、こちらに書き込ませていただきます。
大変申し訳ありません。
対策できた際、またご報告致します。
※追記。
トミーウォーカー様からご助言いただき、動作も問題なくエラーも発生しなくなりました。
トミーウォーカー様、またプレイングを投稿していただいたプレイヤー様へのご迷惑、大変申し訳ありませんでした。
引き続き、マスター業務に励みたいと思います。
鳶沢・成美
ああ、『アキクサさま』なんかと同系統っぽい、丸っこくて可愛い感じの鳥オブリビオンですね
情報も仕入れなくちゃいけないし、まずはシマエナさまの動きを止めましょう
”全力魔法”の”範囲攻撃”で【風神旋風縛】
「しばらく止まっといてください」
止まったら”コミュ力”で聞いて”情報収集”してみましょうか
「で、なんで村を襲ったの?」
「指示した輩がいるとして、そいつは何処に?」
ま、聴き終わったら”2回攻撃”ですね、新たに呼ばれたシマエナさまも止められれば
この後もやりやすくなるでしょう
アドリブ・絡み・可 ””内技能
竜ヶ崎・をろち
寒いーっ!ので、焚火に当たりながら燻製をつまんじゃいます!
そのうちオブリビオンも来るでしょう!
オブリビオンが来たらユーベルコード「山彦殺し」で撃退します!
なんか喋るらしくて、倒しにくいなーって気持ちもあるので、
大声で相手の声をかき消して何言ってるか解らないようにして倒すようにがんばります!
大声もついでなんで質問をぶつけたい(物理)と思います!なんでこんな事をするのかとか、誰かにお願いされたとか聞いてみますね!
その時はお返事がちゃんと聞こえるように抑えて声を出しますよ!
●奴らの名前はシマエナさま。
鳴子の示す場所に駆けつけた猟兵らと幼子。
幼子がそのまま走るでは猟兵らと差が開きすぎるため、内の一頭であるワーブ・シートン(森の主・f18597)のふかふかの背中にしがみついていた。
そんな中、彼らと一歩遅れているのは竜ヶ崎・をろち(聖剣に選ばさせし者・f19784)。呼び餌集めには多大な貢献をしたものの、濡れた服が完全に乾いておらず、寒さに動きも固くなっている。
「…………! いた、【シマエナさま】だっ」
鳴子の鳴り響く前方に、幼子の言葉通りそれらはいた。
まるっこい体。大きくつぶらな瞳、目元に落ちた優しげな桃色、お猪口を合わせたように角の取れた嘴。
一目見て可愛い、一言で言って可愛いと呼べる姿のそれが三羽、嬉しそうに魚の燻製を啄んでいた。
息を潜めた猟兵たちの元へ、鈴の音を転がすような愛らしい声が届く。
「てやんでぃ、ばーろーめっ。もっと熱く焼けってんだこんちきしょうッ」
「おそらくこれは燻製と呼ばれる製法ですね。通常の焼魚と違いまるで罠に誘い出すような香りが致します」
「ヘイヨゥ、ヨゥ、俺たちゃ腹ペコモンスター。燻製なんて一口二口、そのスピード勲章ものさ。まさに稀代のモンスター、フォウ!」
言ってることは可愛くない。
好き勝手に喋り回すシマエナさまに、可愛いは置いてもこれは戦い辛いと鳶沢・成美(探索者の陰陽師・f03142)は顔を歪めた。
「会話の通じる相手か……しかし……ああ、思い出しました。【アキクサさま】なんかと近い種族っぽい、丸っこくて可愛い感じの鳥オブリビオンですね」
その独特なフォルムに見覚えがあるのか、成美はすっきりしたとばかりだ。
「けっこー、大きい鳥なんですねぇ」
「どれだけ愛らしくとも、災いを齎すのであれば斬るのみです」
のんびりとした口調で幼子を降ろすワーブ。西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は腰の刀【籠釣瓶妙法村正】を確認しつつ、覚悟を見せた。
遠巻きにする猟兵たちだったが、その気配に気づいたシマエナさまが顔を向ける。
「下がっていてください。大丈夫です、必ず護ります」
「う、うんっ」
霧華の言葉にすぐさま後方へ下がる幼子。シマエナさまはそれを認めて体をこちらへと向け直した。
まだ生き残りがいたのかと、猟兵や幼子へ敵意が迫る。
「ううっ、もう限界です。寒いーっ!」
そこで、遂に寒さの限界を超えたをろちが、シマエナさまへ突撃していく。
『!?』
突然の動きにオブリビオンはもちろん、猟兵すらも反応がとれない中で少女は焚き火の前に転がりこみ、魚の燻製を口に運ぶ。
たっぷりとした魚肉から滴る脂とふんわりと漂う香り。熱々の肉を火傷に気をつけてはふはふと食べれば、胃に転がり落ちるとともに体の芯を温めていく。
「美味しいですっ、あったまります!」
「な、なんでぃこの娘っ子は! ひえひえアローッ!」
突撃をかまされて、慌て空に逃げたシマエナさまの一羽が虚空より産み出した、無数の氷の塊ををろちへ放つ。
しかしそれらは壁の如く現れた神殿騎士によって阻まれた。
「こ、これはまさか死霊術!? 何者です!」
「村の生き残りは樵、立ち向かうなら猟兵了解? イェア!」
「ばーろぃ、猟兵ってんならぶちのめしちまわぁ!」
上空から睨みを利かせるシマエナさまたちに、ツェツィーリエ・アーデルハイト(皆殺しの聖女・f21413)は不適な笑みを浮かべた。
「さ、お遊びはそれまでに致しましょう? あなた方の本懐を果たすのです。
神の名において、あの哀れな者たちを神の御許へと送って差し上げてください」
これまでのように。
ツェツィーリエの言葉を受けて構える騎士と聖職者。
(おいら的にはぁ、黒幕を何とかするだけでいいと思うのでねぇ)
所持していた燻製を確認するワーブ。これを使い、シマエナ様から情報をいただこうというところだ。
他の猟兵も同じ考えのようだが、ツェツィーリエだけは攻撃を優先している。
(まずは足止め、それから情報入手ってところですか)
騒ぎを聞き付けて遠くから新たにやって来る二羽のシマエナさまを見つめつつ、成美はユーベルコードを組み上げていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ツェツィーリエ・アーデルハイト
さ、お遊びはそれまでに致しましょう?あなた方の本懐を果たすのです
神の名において、あの哀れなものを神の御許へと送って差し上げてください。これまでのように、ね?(呪詛、鼓舞)
聞きたいことは山とありますが、このような時、私は先ず何を聞くか決めているのです。哀悼の悲鳴を、苦痛に喘ぐ叫びを。私は本気です。
それから、それから質問はさせていただきますね。誰の差し金か、どんな力を持っているのか、一つずつ。
賢い方は神の御許へ送って差し上げます。ふふ、恐怖で学習できないわるいこは、教育してから送って差し上げますね?
私が直接?そんな、とんでもない。胸が痛みますわ。
信徒を導くのも騎士や聖職者の務め、励んでくださいな
西条・霧華
「どれだけ愛らしくとも、災いを齎すのであれば斬るのみです。」
下がっていて下さい
大丈夫です
必ず護ります
シマエナさま、戦う前にお聞きします
村の皆さんはどこにいるのですか?
そして、何の為にこんな事を?
ありがとうございます
出来れば斬りたくありません
戦わぬというのなら此処までですが…
戦うのなら、刃に手加減はありません
『無名・後の先』で誘った攻撃を【見切り】つつ【武器受け】
纏う【残像】で敵を乱し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて【カウンター】
【見切り】の時点で反撃が困難だと判断した場合
【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます
せめてオブリビオンでなければ、違う道も…
ワーブ・シートン
けっこー、大きい鳥なんですねぇ。
まぁ、本来はぁ、あまり好戦的ではないのかもしれないんですけどぉ、こうなってしまったがためにぃ、まぁ、ある程度は減らしておくのもいいかもしれないんですけどねぇ。
まぁ、今回、おいらもぉ、暴れておくんですよぅ。
という事で、シマエナさま(略:鳥)に対してはそのまま突っ込む形で突入。
単独の場合はUD未使用で魚を渡して交渉、黒幕オブリビオンの居場所を聞く。「おいら的にはぁ、あいつを何とかするだけでいいと思うのでねぇ」
複数いた場合は、スーパー・ジャスティス使用で、接近戦を試みていく。
「とにかくぅ、行くんですよゥっ!!」
◎
●激突、シマエナさま御結衆!
「おうおうおうおう、なんでいなんでい! やるってんなら相手になってやろーじゃねえか!」
喧嘩の口火を切るように、シマエナさまの一羽が翼を広げて威嚇する。可愛い。
しかし、まずやるべきは情報収集だ。彼らのお喋りの間に全力で展開する広範囲魔法攻撃、【風神旋風縛(フージーン)】を発動する。
「風の神様よろしくです」
急に現れたつむじ風がシマエナさまご一行を捕らえ、くるくると空に固定する。
「ひょわぁあぁ!」
「なんなんですかこれは~!」
「回る俺たち目がスピン! 気分も悪くてゲロスマン! おうぇえっ」
やかましいなこいつら。
特にダメージを与えるユーベルコードではないが、すでにダメージを受けている様子の鳥オブリビオン。
しばらく止まってくださいと放たれたものだが、発動中は毎秒その寿命を縮めてしまう。攻撃に移ろうとするツェツィーリエを諌めつつ、彼らの目的を聞き出すべく言葉を探す。
「ここは私に任せてください!」
手を上げて元気良く、をろちがそう宣言すると、思い切り息を吸い始めた。
「すぅうううううううううううう」
「えっ、まだ吸うの?」
体を思い切り反らして吸い込んだ空気を腹に溜め、それを力へと変える。
「なんでこんなことするんですかああぁ~っ!?」
『ほげぇえええっ!!』
物理的な威力を生じたをろちの叫びは指向性をもって三羽のオブリビオンを弾き飛ばした。
地面に散らばってぴくぴくと痙攣するそれらに、手加減したのだがとをろちはばつも悪く頭を掻く。
彼女の放ったユーベルコード、【山彦殺し】は山をも揺るがす大声で攻撃するものだ。手加減してこれでは、間違えて殺しかねないと幼子の耳を塞いでいた霧華は顔を歪めた。
ある意味では相当にやりづらい相手だ。
「面倒ですね。先に痛めつけてしまってはどうでしょう」
「しかし、それでは目的を聞き出す前に喋れなくなってしまう可能性もありますよ」
逸るツェツィーリエに諭す霧華。しかし彼女は、もう限界だとばかりにその双眸に嗜虐的な光を灯していた。
「聞きたいことは山とありますが、このような時、私は先ず何を聞くか決めているのです。哀悼の悲鳴を、苦痛に喘ぐ叫びを。
それから、それから質問はさせていただきますね。誰の差し金か、どんな力を持っているのか、一つずつ」
「なにを言っているんです? そんなこと、認められません!」
「私は本気です」
怯えて霧華の背に隠れてしまった幼子を守るように、体を前に出す。同じ猟兵、武器を構えることはないがツェツィーリエから禍々しい気配を感じて警戒を強めた。
「まあまあ、落ち着いてください二人とも。新しいお客さんですよ」
宥める成美へツェツィーリエは一瞬、鋭い目を向けたが、その目は続く二羽のシマエナさまに向けられた。
「なにやら騒がしいと見にくれば。醜態を晒しおって!」
吐き捨てるように言うのは、他のシマエナさまと比べ一回り体の大きい個体だ。目付きが若干鋭いが可愛いのに相違ない。喋り方も尊大であるが、やはり鈴の音を転がすような声で可愛いのに相違ない。
もう一羽は目元の桃色を強くし、簪のようなものを差し、見るからに雌といった様子だ。
「全く、人間なんかにやられちゃったの? 早く起きなさいよっ」
「う、う~ん。あれはどう見ても熊」
「揚げ足とってんじゃないわよ!」
丸い嘴ですここん、と頭をやられて起き上がるシマエナさまたち。
まあ、やることは変わらない。
「――風神旋風……」
「ちょちょちょ、待てぃ!」
両手を向けた成美に大きなシマエナさまが慌てて翼を広げた。可愛い。
一先ず動きを止めた成美にこほん、と咳払いしつつ。
「貴様らは猟兵だな? 村の生き残りと一緒なのを見ると、我らと、そして我らを遣わせた『あの者』の情報が欲しいのであろう?」
「教えてくれるんですかぁ?」
ワーブである。のそり、と動く巨大な影にシマエナさまは思わず飛び退いたが、再び咳払いをして自らを落ち着けるように言葉を放つ。
「だが早々に教えることは相成らん! 戦いの中で聞くがいい」
「それじゃ、風神旋風――」
「だだだ、だから待てぃ言うておろうがッ!」
これだから人間は嫌いなのだと、大きなお尻を振ってぷりぷりと怒る。
もはや憎むべき相手に思えず、をろちなどは戦意も減少している様子で弱り果てた目線を霧華へ向けた。彼女はそれをあえて無視することで、戦意を保って欲しいと無言の主張だ。
「今から戦う相手、まずは自己紹介といこう」
「え? はい」
わざわざそれかと成美は目を丸くしたが、心境はをろちに近いのか素直にそれを受け入れた。
三度目の咳払い後、紹介しようとシマエナさまは声を張り上げる。
「我らシマエナ系オブリビオン其ノ一、江戸っ子マエナガさん!」
「てやんでぃ、ばーろーめっ。雪山のおおうつけとはおいらのことでい!」
「其ノ二、知識の湖エマ博士!」
「私が分からないことは世の中にズバリたくさんあるでしょう!」
「其ノ三、その美声は山の麓にも轟くSIMA!」
「俺の歌声敬えリスナー、俺こそ稀代のミュージックマスター、フォウ!」
「其ノ四、我らがシマエナ紅一点、ナエちゃん!」
「坊やたち、雌だからって甘く見ると火傷するわよ?」
「そして其ノ五、雪山の長シマエナガ! 我ら五羽揃って鳥呼んで!」
『シマエナさま御結衆!!』
「……なんだこれ……」
なんだこれ。
いつの間にやらシマエナガの両脇に控え、呼ばれるごとにくるくるとポーズを決める御結衆に、成美は思わず呟いた。
他の面子も同じ思いで、隙を晒したのは猟兵こそ。氷の壁が爆発の演出のように御結衆の足下から生えると、その姿を隠す。
同時に現れたのは大量の氷の矢。
「!」
飛来するそれらを抜刀とともに切り払い、幼子を守る霧華。それらはシマエナさま御結衆も見えない故か精度が低く、しかし大量であるからには猟兵へ向かうものもある。
まさに数打てば当たるとばかりの戦法だ。
「鬱陶しいですよぅ」
ワーブはいささかむっ、としてをろちを守るよえにして矢を手で払う。直撃でなければ猟兵であれば防ぐに易い威力のようだ。
ツェツィーリエはその場から動かずとも神殿騎士と聖職者が盾となるが。
「……あ、あんたら……!」
【嵐と慈雨の神の加護を持つもの】、見た目にはただのバールのような物を振り回し、氷の矢を払う成美。
その目の前で、氷の壁から五つの方向に飛翔するシマエナさまたち。
視界を確保したことでより、正確な攻撃が雨の如く降り注ぐ。激しさを増す攻撃の間を縫って、一直線に並んだシマエナさまが霧華を目指す。
「シマエナガ・まきしまむ!」
ユーベルコードにより全方位へ放たれた野鳥・シマエナガが空に満開し、自らの体を再び隠す。
「ゆくぞ必殺! シマエナ・ドラグライン・アタァーック!」
急上昇すると同時にそれぞれの頭を掴み、大きな振り子となって霧華へ迫る。大量の氷の矢を払っていた彼女にとって、後ろに控える幼子を守るためにも避ける選択肢はなく。
「うっく!?」
ぽふん、と柔らかもふもふな感触が霧華の体を包む。覚悟をもって受け止めたものの、威力は全くない。
しかし彼ら五羽分の質量が振り子の要領で集約されているのだ。弾き飛ばされた霧華の体、そして無防備な幼子が晒け出される。
「ばーろぃ、ひえひえアローッ!」
「させません!」
ワーブに守られていたことで周りの状況をいち早く察したをろちが、聖剣シャリテでマエナガさんの氷の矢を打ち砕いた。
「すみません、をろちさん!」
「いいえ! そんなことより、……この子たち……!」
威力は低い。体も弱い。まともに戦えば突破も容易である。が、彼らは自らの特性を発揮し、連携することでその効果を高めている。
「ずいぶんと戦い慣れてるみたいだね。『誰か』に訓練されたのかな?」
睨む成美。狙いをつけさせまいと乱れ飛びつつ、適宜攻撃するシマエナさま御結衆の動きは野生のそれではない。
だが、それも連携力あってこそ。上手く連携を外せばそれまでだ。
「まぁ、本来はぁ、あまり好戦的ではないのかもしれないんですけどぉ、こうなってしまったがためにぃ、まぁ、ある程度は減らしておくのもいいかもしれないんですけどねぇ」
シマエナガをぽい、とそのへんに投げ捨てつつワーブ。彼はこんなときこそ、とばかりに腹に括りつけていた大きな魚の切り身を取り出す。これもまた燻製となって香ばしい匂いを放っていた。
「あら、どうするおつもりですか?」
「まぁ、今回、おいらもぉ、暴れておくんですよぅ」
がおん、と咆哮ひとつ。
集う視線に得意気に魚の燻製を見せれば、浮き足立つシマエナさまたち。
「な、なんだあの見るからに旨そうなものは!」
「ばーろーめっ、旨いなんてもんじゃないぜこんちきしょう!」
「あれは魚の燻製、大変香ばしく、かつ美味!」
「美味にビビッと舌走る刺激、脳炎轟けその名は燻製! ヨォー」
「な、なによあんたたちっ、私たちに内緒であんな美味しそうなもの食べてたの!?」
餌に釣られる鳥どもである。
予想通りとワーブは胸を張り、ユーベルコードを始動する。全身を黄金のオーラが包み込み、その巨体を飛翔させてシマエナさま御結衆と高さを揃える。
【スーパー・ジャスティス】。意思の力に比例して戦闘能力を高め、飛翔能力を与えるユーベルコードだ。
「これが欲しかったらァ、ついてくるんですよぅ」
煌めく金の粒子を残して飛び去る熊の姿に、エマ博士は余裕の笑みを見せた。
「分かりやすいですね。これは私たちの連携を無くすための罠!」
「全く、こんなものに引っ掛かると思われるとは。どれ、ちょっと怒ってくるぞ!」
涎をすすり、嬉しそうに光を追うシマエナガ。
「……な、なるほど……所詮は鳥ってことかな」
猟兵らの視線が絡み、非常食にと持ち合わせていた燻製をそれぞれ手にする。
「おーい、こっちにも燻製あるぞー」
「んまっ、美味しそう! 強そうな雄に美味しそうな餌、雌なら行くしかないわね!」
「ほらほら、こっちですよ~!」
「オーケイリスナー、オーライトラップ、レッツゴーメェーン!」
「あなたはここにいてくださいね。さあ、こちらに来なさい!」
「べらんめぇ、そんな旨そうなもん見せられてちゃ黙ってらんねーぜぃ!」
と、言うわけで。
あっさりと餌に釣られてしまったシマエナさま御結衆は解散状態、それに気づかず罠を看破した自分に酔って周りに気づいていないエマ博士。
「あらあら、すっかり寂しくなってしまわれて」
「えっ?」
ツェツィーリエの言葉にはたと気付いたエマ博士。周りに仲間はおらず孤立した彼を見上げるのは、まるで鳥籠を見上げる猫のように目を煌めかせた少女の姿。
「ふふふっ、もう誰も、邪魔なさる方はいませんね」
「……えっ……」
エマ博士は眼下の仇敵、猟兵から、彼らを従えた者と同じ気配を感じていた。
●決着、シマエナさま御結衆!
「旨いぜ、べらんめぇ!」
「それは良かった」
美味しそうに燻製を啄む姿に思わず霧華が苦笑していると、やがて食べ終わったマエナガさんが、満足そうに少女へ視線を投げた。
聞きたいことがあるんだろう。
戦いの前に答えてやるぞ、という彼の態度は美味しい燻製を分けてくれたからなのだろう。
「なんのためにこんなことを?」
「命令されたからさ」
「命令というのは、あの、シマエナガさん? からではなくて、ですか?」
「ああ。恐ろしい奴さ。皆そいつに殺されて、残ったのはおいらたちだけだ」
そんな状態だとは。
予想外の答えを受けて目を丸くする霧華。それでは村の仇であると同時に、彼らシマエナさまの敵ではないのか。
問う言葉にマエナガさんは勝てる相手ではないと即答した。そしてもちろん、敵である猟兵と手を組むつもりはないと、その視線に殺気をこもらせる。
(説得は無理、ですか)
「では、最後に。村の皆さんはどこに?」
「お山の天辺だぜぃ。頂上近くに大きく、谷間みたいに崩れたところがあるから、その辺に連れてかれてるはずってなもんよ」
ありがとうございます。
隠しだてする様子のないマエナガさんは、仲間を殺されたせめてもの抵抗なのだろうか。
その心中は察するしかない。
「できれば斬りたくありません。……戦わぬというのならここまでですが……戦うのなら、刃に手加減はありません」
それでも問うのは優しさ故か。マエナガさんはこれに答えず、羽を広げて攻撃の態勢を取る。
霧華もまた、籠釣瓶妙法村正を鞘のままに腰元から引き上げる。
「食らいねぇ、ひえひえアローッ!」
羽ばたきと同時に飛来する氷の矢を、それぞれ被弾箇所にオーラを集中させて威力を削ぎ落とす。
動かぬと見て突撃をかけたマエナガさん。しかしそれは、霧華の誘いだった。
【無名・後の先】。嘴を向けたマエナガさんの一撃に鞘のまま武器を当てて僅かに反らし、神速の居合抜刀術がすれ違い様、マエナガさんをざっくりと斬り裂いた。
力を失い、地を滑る体を見て彼女は思わず目を伏せる。
(せめて、オブリビオンでなければ……違う道も……)
「で、その命令した輩はどこに?」
「あら、戦う気? 止めときなさいよ、勝てっこないわ」
ナエちゃんは可愛らしく小首を傾げた。餌をくれる成美に懐いた様子に見える。
彼女なりに心配しての言葉だろうが、だからと引き下がる訳にもいかない。
「これでも男だし、丸め込まれるわけにもいかない」
「そう、残念だわ
。…………、あいつの名前を私たちは知らないわ。ただ、未来に生きる者も、私たち過去から現れた者も等しく憎んでるようだった。
あの雌は山の頂上あたりよ。谷間になった場所があって、その奥を住みかにしているわ」
雌。相手の情報を聞いてなるほどと頷く。
ナエちゃんはまるでロミオとジュリエットの悲劇のようだと、オブリビオンと猟兵とに別れた立場へ恨み言を漏らすが、雰囲気作りのものだろう。
ナエちゃんから立ち上る殺気は強まるばかりだ。
「風神旋風縛!」
「氷のガード!」
先手必勝、先の失敗を踏まえての攻撃はナエちゃんの生み出した氷の盾に迎撃される。氷塊の脇から低空を飛行するナエちゃんに対し、嵐と慈雨の神の加護を持つものを振り下ろす成美。
すい、とそれをかわして急襲するが、返す刀のように引き上げられたバールのような切っ先が、ナエちゃんの丸っこい体につきたった。
「ぐふっ!」
一撃目を囮とした二回攻撃だ。油断したナエちゃんは自らの受けた致命傷に小さく笑う。
「…………、美味しかったわよ。あの、……お魚……っ」
あの雌を倒したら、皆の分をお願い。
ナエちゃんはぽつりとそれだけ溢して動きを止めた。成美はそれに答えず、そっとその目蓋を閉じさせるのだった。
地に降り立ったワーブは、シマエナガと対峙する。その間に置かれているのは大きな魚の切り身の燻製だ。
「黒幕の正体、か」
「シマエナさまたちも、好きで戦ってるとは思えませんからぁ、教えてくれればこのお魚をあげますよぅ」
ワーブの言葉にシマエナガは思わず生唾をごくり。素直な奴め。
しかし素直過ぎるのも珠に傷だ。シマエナガはワーブを睨み付けて、黒幕の正体を語るのは構わないが、戦いは避けられないとする。
彼らオブリビオンにとって猟兵とは天敵。個体の程度に差はあれど、彼らはワーブらを完全に敵だと認識していた。
「そんならそれでもいいですよぅ。黒幕のことを教えて欲しいんですよぅ」
「私もそれほど、知っている訳ではないが。奴はこの山の頂上付近の渓谷にいるだろう。奴は一人だが、数多くの兵を喚び出す力を持っている。
そう易々と近づけはしないぞ。あれは軍団を率いる者だ」
ワーブはうすぼんやりと、幼子が死霊術を使うツェツィーリエに怯えていたという話や、その死霊術に慌てふためくエマ博士の姿を思い出していた。
黒幕オブリビオンと重なったからなのだろう。ワーブがシマエナガに燻製を渡すと、嬉しそうにぺろりと平らげた。
ご馳走さま、と行儀良く頭を下げて、きらりと光る目を鋭く細める。
「では、始めようか」
「気は進まないんですけどォ、仕方ないですねぇ」
ばさり、と翼を大きく広げたシマエナガに対し、ワーブは四足になると全身に金色の光を纏う。
同時に空を舞うワーブとシマエナガは互いに交差しながら睨みを利かせる。
高速移動中の近接攻撃は必殺に成りうる。互いの爪を振りかざしながらもかわしあう一頭と一羽の様子は、さながら雪山の空に行われるドッグファイトだ。
時折地上付近を飛べば雪を弾き飛ばし、互いの爪が触れあえば火花が咲く。
「とにかくぅ、行くんですよゥっ!!」
「むうっ!?」
突如、強引に巨体を捩じ込む動きに変わり、動作の変化に対応できずシマエナガが弾き飛ばされて空で態勢を崩す。
その隙を逃すほど、ワーブの牙は衰えていない。
折り返し迫る彼の牙がシマエナガの腹を食い千切った。
「――み、みご、と……」
空に赤い軌跡を描いて墜落するシマエナガを見送り、ワーブもまた、その非力な体でよく戦えたものだと胸中で称賛した。
「そ、それじゃあ、シマエナさまたちはそんなに悪くないんじゃないですかっ!?」
同胞を殺されて、村を襲うよう命令された。
この凍てつく山に突如として現れたオブリビオンによって、村人だけでなく、シマエナさまたちもその毒牙にかけられていたのだ。
戦意の衰えていたをろちにこの事実は辛く、もはやシマエナさまを同情の対象としてしか見れていなかった。
「ヘイヨゥセニョリータ、俺たちゃオブリビオンお天道様もブルリな悪さ。そんな俺たち同情いらねぇ、哀れみいらねぇ、いるのは猟兵、お前の命、フゥ!」
「そ、そんなこと言われても!」
思わずたじろぐをろちに、SIMAは翼を広げて威嚇の構えを取る。
「よく聞けガキんちょ、俺の名前はSIMA! ガキんちょお前の名前はなんだ、オーィ?」
「……竜ヶ崎・をろちです……」
「ヨゥ、ヨゥ、DJをろち、俺にはある、燃えるソウル、舞えよヴォイス、お前にあるのはなんだ? 猟兵ならプライド見せな、ないなら帰んな!
お前のヴォイスは火を点ける、凍った心に火を点ける、だから俺はこうして戦う、それが、俺様SIMAの生きざま、ヤー!」
SIMAの周りに発生した氷の矢が群れると、少女の体に襲いかかった。聖剣を盾にしたをろちは、次はお前の番だと言葉のバトンを投げるSIMAを見つめる。
否、これは言葉ではなく、想いだ。先に進んで欲しいという彼の想い。それはつまり、彼らの仇を討って欲しいという熱き願い。
をろちは自分自身に誇りと呼べるものがあるとは思っていなかった。負けず嫌いではあるが、普通の学生として暮らしてきたのだから当然だろう。
しかし、今は違う。猟兵としてすべき義務があり、世界を救ってきたという誇りがある。
「……SIMAさん……」
強い意思の光をその瞳に宿し、をろちは深く、深く息を吸い込んだ。
「――ありがとうううううっ!!」
炸裂する力は全力だ。
荒れ狂う竜巻のような波動が雪山を削り砕き、表層の一切合切を空へと巻き上げた。
直撃を受けたSIMAが耐えられるはずもなく、一瞬にしてばらばらになった体は次の瞬間には風に運ばれ消え去っていた。
ありがとう。
再びぽつりと溢して、をろちは皆と合流すべく急いだ。
「なるほど、つまり全ての元凶はそのオブリビオンで、自分たちは悪くないと。
いけませんねぇ、自らの罪を転嫁するだなんて」
「そ、そんなこと言ってな……ひいっ……!」
羽毛をぷちりと抜かれて、エマ博士は悲鳴を上げる。神殿騎士の剣で両の翼を地面に縫い止められたエマ博士は恐怖と苦痛に震えている。
「ふふふ、賢い方は神の御許へ送って差し上げます。でも、あなたのように恐怖で学習できない悪い子は、教育してから送って差し上げます」
「知っていることは全て喋りましたっ、少女の姿のオブリビオンに命じられたことも、あなたのように死霊術を扱うことも全部っ!
他になにが知りたいというのです!」
取り乱すエマ博士に、やはり悪い子だとツェツィーリエが命令を下すと、その体を押さえる聖職者が、ゆっくりと細い足を捻り始めた。
響く悲鳴に、幼子が目に涙を湛えてツェツィーリエにしがみつく。
「も、もう止めてよう、可哀想だよう!」
「あら、いけませんわ、そんなこと。教育もされずに神の御許に送るなど、あってはならないことですよ」
「じゃあ、どうして自分で直接やらないの? 卑怯だよ!」
「卑怯? 私が直接? そんな、とんでもない。胸が痛みますわ。
信徒を導くのも騎士や聖職者の務め。彼らに励んで貰わねばそれこそ神の御許しを受けるに値しませんから」
にっこりと笑って幼子の頭を撫でると、有無を言わさずに抱き寄せて、自らの隣に座らせる。
黙してこの光景を目に焼き付けよ。そう言わんばかりの態度に言葉を失う。幼子はツェツィーリエに、この雪山に君臨する者と同じ恐怖を抱いていた。
全ての情報を渡したエマ博士が解放されたのは、同胞が戻る頃になってようやくであった。
・各猟兵の入手した情報は共有されます。
・非常に手数が多く、本体までの層が厚い難敵ですが、地形などを利用すれば強襲できるかもしれません。
・幼子を連れていくのは危険です。しかし、生き残りの人々にその姿は励みになるかも知れません。
成功
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茶釜・風太郎
命令されてむりやり戦わされてるってワケか、かわいそうに。
ユーベルコード『サウンド・オブ・パワー』で黒幕オブリビオンの支配が解かれるように戦意を高めさせるぜ。
子供は絶対に守ってやる。連れ去られた人たちを元気づけるためにも連れて行こう。
もしものときはパフォーマンスで相手の気を惹いて子供を逃がす!
鳶沢・成美
僕の経験から言わせてもらうと、あんまり嬲ったりすると肉が不味くなるのですがね
残りのシマエナさまに”誘導弾”の【火雷神道真】で攻撃
”2回攻撃”で偏差で撃って”範囲攻撃”に
オブリビオンとはいえ、そこそこ周りとうまくやっていたシマエナさまを殲滅してよかったのかどうか
所詮僕らはよそ者ですからね
まあしかたない、オブリビオンだけど食べられるのなら倒したシマエナさまをいただくのも功徳かな
こちらの都合で倒したならばせめて血肉にしなければね
UDCアースで普通に売ってるハーブ入りソルトを使って”料理”して
臭みはハーブで抑えられるかな?
アドリブ・絡み・可 ””内技能
●最期の抵抗。
シマエナ様との戦いは終わったものの、先のシマエナさま御結衆の召喚したシマエナガが残っている。
彼らは通常のシマエナガよりも大型で、長たるシマエナさまを失ってか敵意を募らせているようだ。
「命令されてむりやり戦わされてたってワケか、かわいそうに」
同情の色を見せるのは茶釜・風太郎(サイボーグの戦場傭兵・f21664)、チャンプの愛称で親しまれる。他の猟兵らとは遅れて転送されたようだ。
色黒の肌に顔の右半分を装甲で覆った彼の見た目は恐ろしいが、心根は優しいようだ。
「オブリビオンとはいえ、そこそこ周りとうまくやっていたシマエナさまを殲滅して、……よかったのかどうか……」
所詮、自分たちは余所者なのだと成美は溢す。
確かに思うところはあるだろう。しかしオブリビオンは、存在そのものが世界に影響を与える者たちだ。世界を未来に進める為にも彼らとの戦いは避けられない。
それが殲滅すべきものだったのか、そこに疑問は産まれるかもしれないが。
「なら、説得してみるのも手だな!」
風太郎は不敵な笑みを浮かべるが、このシマエナガたちはシマエナさまと違い言葉の通じる様子はない。
そこで彼が取り出したのはマイク状のサウンドウェポンだ。
「なるほど、歌で説得するわけですね」
音とは、生物の理念を越えて想いを届け、魂を揺さぶるものだ。戦うべき敵は自分たちではないと、共存する道があるはずだと、平和への願いを込めた歌を聴かせる。
【サウンド・オブ・パワー】。風太郎の歌声を聴き、共感した全ての者の戦闘能力を引き上げる力を持つ。戦意を上げることで支配からの解放を狙ってのものだ。
風太郎の機械だらけの無骨な見た目とは違う易しい声がその喉から発せられるが、他のオブリビオンに支配されていたシマエナさまと違い、シマエナさまを失ったことでこちらを敵視するシマエナガたちに効果はなかった。
「仕方ありません、チャンプさん、やりましょう!」
「かかる火の粉はなんとやら、か!」
成美の言葉に従い、無念さを滲ませながらもアサルトウェポンに持ち替えた風太郎。
一斉に、空を真白に染め上げて迫り来るシマエナガの大群に狙いを定める。
「道真さん、よろしく! ユーベルコード始動、【火雷神道真(ライジーン)】!」
菅原道真は学問の神として奉られているが、怨霊となり雷を降らせたとの伝説もある。その側面を用いて彼を召喚し敵を灼く、といった設定により構成されている。
成美から放たれた無数の礫は雷だ。想いを同じくする風太郎の歌声により戦闘能力を引き上げられた雷は激しさを増し、直撃した箇所から複数のシマエナガへ致命の光腕を伸ばす。
その様子に慌てて飛行ルートを変える集団も、成美の次弾が焼き焦がしていく。偏差射撃から漏らしたシマエナガは、サイバーアイで補足した風太郎により撃ち落とされた。
瞬く間にシマエナガの群れは、猟兵の力の前に捩じ伏せられたのだ。
当然の結果とはいえ、件のオブリビオンの介入がなければここまで極端な手法に頼ることにもならなかったのかもしれない。やりきれない思いが胸中を賭ける中、成美は倒れたシマエナガたちを集め始めた。
「どうするつもりだ?」
「オブリビオンですが、食べられるのなら倒したシマエナさまをいただくのも功徳かな、と思いまして」
こちらの都合で倒したならば、せめて血肉にしなくては。成美の言葉に風太郎も頷いた。
集められるシマエナガを集め、ばらばらになってしまった者などは地に埋めてやる。日本の感覚的に二人揃って合掌し、黙祷を捧げた。
その後、風太郎は手際よくシマエナガの毛を抜き、成美はそれを捌くとUDCアースで一般的なハーブ入りソルトを振りかけて味付けを行う。ハーブで臭みを抑える狙いもあるようだ。
それらと彼の倒したシマエナさま、ナエちゃんの下処理を済ませて木桶に入れ、合流地点へ向かう。
他の猟兵もシマエナさまの死体を入手していれば、料理に使うことができるだろう。
(僕の経験から言わせてもらうと、あんまり嬲ったりすると肉が不味くなるのですがね)
おそらくは苦しめて殺すであろう者を一人思い浮かべて、成美は人知れず嘆息した。
●美味しくいただけシマエナガ!
合流した猟兵らは、成美の提案に賛成し早速調理を開始した。
シマエナさまを入手したのはをろちを除く全員である。をろちの場合、山の地表ごと削り飛ばしたのだから仕方のない話だ。
柔らかく大きな肉の塊を、霧華を筆頭に聖職者と神殿騎士、風太郎が捌き、肉の調理には成美、ツェツィーリエが担当。肉を運んだり皿を持ち出したりするのはをろちとワーブ、そして幼子だ。
シマエナガは通常より大きいといっても使える肉は少ない。しかし、その数を見れば中々の量だ。
肉の焼ける音が雪山中に響き、食欲をそそる肉の香りに野生動物も興味津々で顔を覗かせる。
フライパンの上で焼かれた肉は脂を垂らし、見る者に唾液を啜らせる。
「白米が欲しくなるぜ」
「食べたくなりますねぇ」
「欲しくなりますね」
「右に同じく」
風太郎、をろち、霧華、成美と皿に盛り付けられる肉の山に思わず呟く。
凍てつく山に食欲の熱気を起こす肉の群れは特に、シマエナさまの牛肉ステーキの如きそれに目を奪われるだろう。
シマエナガの肉の山を中央に、シマエナさまのステーキをそれぞれの皿に乗せて取り囲む。
「いただきますっ」
『いただきます!』
をろちに続いて手を合わせる面々。ツェツィーリエやワーブ、幼子は見よう見まねでそれを行うと、早速とシマエナさまのステーキにかぶりついた。
「……す、すげえ、箸で割ける……!」
「! 口の中で蕩けるように肉がほどけますね」
肉の柔らかさに感動する風太郎とツェツィーリエ。舌鼓を打つ彼らに混じりワーブは皿の上の肉をぺろりと平らげた。
好物は魚であっても、旨いものは旨いのだ。をろちや幼子も続くように一気に食している。
「やっぱり、料理を作る人の腕がいいんですよ!」
「そうですね。私も教えて貰いたいです」
「いやー、ははは」
女子二人に褒められて照れ笑いする成美。しかし彼が意外だったのは、ツェツィーリエが予想以上に料理に詳しかったことか。
肉の山も片付き始め、猟兵らの胃袋にも満足感が出た頃に幼子から肉を持っていってもいいかと告げられた。
その言葉に彼らが顔を見合わせたのは、ついて来ようとしているからだ。
敵は軍団を率いるオブリビオン。連れて行くには危険が伴う。だが風太郎は歓迎のようで、幼子の頭を撫でた。
「いいじゃないか、連れて行っても。それ、連れ去られた人たちにあげるつもりなんだろう? その人らを勇気づけることにもなりそうだし、何かあっても絶対に守ってやるさ」
もしもの時には、注意を惹き付けるパフォーマンスで逃がしてやる。
そう語る風太郎に危機感を覚えない訳ではないが、連れ去られた人々を勇気づけるには確かに有効な手だ。
「いいんじゃないでしょうか。いつでも逃がせるようにしておけば」
ツェツィーリエも同意するが、ワーブやをろちは心配そうだ。霧華と成美に至っては不安そうですらあったが、結局、風太郎に押し切られる形で了承した。
「ありがとう! あたし、危なくなりそうならすぐに逃げるよ。お肉は村の皆に分けて、すぐ逃げれるように元気になってもらえね!」
許可を得られたことで嬉しそうに笑う。
一人きりで食糧も底を尽き、絶望に囚われそうになっていた幼子が、猟兵らに出会ったことで自分が、そして母親や村の皆を助けられるという希望に輝いていた。
この笑顔を守るために、猟兵たちは改めてこの凍てつく山に潜むオブリビオンの打倒を誓うだろう。
・食糧を得ました。活力は恐怖や絶望に対抗する根源となります。
・囚われの村人に幼子の食糧を与え逃がすことができます。
・幼子や村人たちの生死は、本シナリオの成否と関係ありません。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 ボス戦
『悪逆無道の君臨者』
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POW : モーレ・ド・エンヴィリオ
自身の【今まで喰らった魂】を代償に、【吐瀉した肉を依代とするフレッシュゴーレム】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【怨嗟で炎の如く盛る魂を纏った手足】で戦う。
SPD : ソンゾボルト・ユーゴッド
【意識】を向けた対象に、【召喚した亡者の軍団による包囲攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : ソフランテ・ユーゴッド
戦闘用の、自身と同じ強さの【黒き甲冑騎士】と【不死の大魔導士】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
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●雪山に戴く悪逆無道の君臨者。
頂上に向かうほど天候の悪くなる雪山では、時折吹雪くほどに視界も悪く、歩くにも難しいだろう。
しかしその向かう先に、地震で割れたか生み出された渓谷がある。そこには、入り口を飾るレリーフのように、串刺しにされた人間が道標の如く並ぶ。
その苦悶の表情を見れば生きながらに行われた残虐な行為と、予想するしかない。
彼らが両側に立ち並ぶ道を抜け、谷間のような山肌の裂け目に入れば、そこでは鎖に繋がれ調理人として働かされる村人たち。
働きたくはなくとも、体を動かさねば凍えてしまう過酷な環境の中で、一人、また一人と目覚めぬ微睡みに消えていく。
彼らの作った料理は、更に奥に進んだ先で、暖を絶やさないよう常に薪の入れられる玉座へ運ばれていた。
その下で座り込む女性に、すがるように甘える少女が一人。
「母上ー、美味しいお肉が来たのじゃ。食べさせて欲しいのじゃ~」
金の毛髪は暗がりにも美しく映え、子供らしくも健康的な体は多少なりと肉がついて可愛らしい。しかし、甘えられる女は寒気を覚えて顔を強張らせるばかりだ。
「なんじゃ、食わせてくれんのか?」
甘えるのを止めて、膝の上から濁った目を向ける少女に、女は慌てて鍋に顔を向けた。
この少女の機嫌を損ねて、こんな所で死ぬ訳にはいかない。女の想いは切実だった。彼女こそ、村に残された幼子の母親だったのだ。
我が子のために自らの命を投げ打つ姿が気に入られ、この少女に母親ごっこをさせられている。
命を失なえば、村に残る我が子を救う手立てもなくなってしまう。しかし、鍋の中でじっくりと煮込まれて蕩けた肉の正体を知る女は手を伸ばす勇気が湧かない。
「んー、あの肉がいいのじゃ。あの肉、まるで母上が雪山に捨てた童と同じ歳の頃かのう」
「うぐっ」
少女の言葉に耐えきれず、吐き気を催した女の姿を嘲笑う。
血で汚れた白い衣服を引きずり、少女はその体に似つかわしくない大きな玉座へ座る黒き頭冠を戴き、全てを見下す笑みを浮かべた。
「殺し合う度胸もない父親は、命を賭けても女一人、子一人救えぬ。母上の為を想えばこそ、あの童を助けてやったのじゃぞ。
もう少し、妾に感謝してもらいたいのぅ。カカカカッ!」
残虐な笑みを浮かべる少女の座す玉座には、食べたであろう人骨が散らばっていた。
ツェツィーリエ・アーデルハイト
はじめまして、哀れな子。貴方は飢えているのですね。
満たそうとしても満たそうとしても満ち足りない飢え。
貴方には満ち足りた食事というモノがない。だから飢え続ける。私はそう思います。ですから、そんなもの感じなくて済むように、二度と浮き上がってこないように海に沈めて差し上げますね。
【UCを起動】(呪詛、鼓舞)
あぁ、私に人質は意味がありませんよ。人質とは命に価値があるから意味があるのです。そもそも貴方の行いも鳥瞰すれば生存競争に過ぎませんしね。私が此処にこうしているのも私の都合ですし……。でも、一つだけ。座って人の話を聞くのは行儀が悪いですよ?
ワーブ・シートン
アドリブ・連携歓迎
「なんなんですかぁっ、あんたたちはぁっ!!」
色々と事があるのであろうが、まずは何と言っても、シマエナさんに村を襲わせた連中に対してむかっとくる。
これまた、自分自身は何もやらないで、周りに任せている奴のやり方が気に喰わない。
こうなれば、バイオミック・オーバーロードとスーパー・ジャスティスを同時使用して突っ込んでくる。
襲いかかる連中は灰燼拳でまるごと薙ぎ倒す。
空間が空いたら、仲間たちを先に進ませて、自分は周りを抑える。
「グルォアァアアアアアっ!!」
竜ヶ崎・をろち
こらーっ! 人を食べちゃいけませんよ!
しかも、椅子にふんぞりかえっちゃって、もう!
ちゃんと下りて戦いなさい!
なので、召喚してくるゴーレムとか亡者とかをUC「びったんびったん」で掴んでオブリビオンに向かって投げ返します!
●怒りの矛先を喰らう者。
その光景を見た時、西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は幼子の顔に手を回し、その視界を塞いだ。
「……なんてこった……」
「こんなのって、あんまりです!」
茶釜・風太郎(サイボーグの戦場傭兵・f21664)は思わず嘆き、竜ヶ崎・をろち(聖剣に選ばさせし者・f19784)もそれに続く。
ツェツィーリエ・アーデルハイト(皆殺しの聖女・f21413)は顔色ひとつ変えなかったが無言のまま合掌し、隣ではワーブ・シートン(森の主・f18597)が小さくも、威圧的に喉を鳴らした。
「…………。
さあ、もうひと踏ん張りいきましょうか」
緑色生地に白いストライプの入ったジャージ姿。このオブリビオンの棲みかを目指す前に着替えた鳶沢・成美(探索者の陰陽師・f03142)は先を促す。
猟兵として強い精神を誇る彼だが、それでも何も思わない訳ではない。胸に針を突き刺されるような気持ちを抑えての行動だ。
おそらく幼子も、状況を把握してはいるのだろう。押し黙ったまま、霧華に導かれて進んでいく。
先頭に立つ風太郎がサイバーアイで周囲を確認しつつ、件の渓谷の入り口へとたどり着いた。軍団を率いるオブリビオンということであったが、谷間から漏れる光にちらつく影が人の気配を見せても、敵意ある存在がいるようには見えなかった。
「敵じゃねえな。多分、連れ去られた村人たちだ。どうする?」
「た、助けようよ!」
風太郎の言葉に即座に反応したのは幼子だった。それは他の者も同じ気持ちだが、場所は敵の本拠地。取るべき手段はないかと策を講じる。
渓谷の入り口を見つめていた成美は、奇襲をかける為に別行動を取ることを選択する。
「ついて行こうか?」
「いえ、この人数ですし、あの地形で無理に人を割いても逆効果です。この子も守らないといけませんから、僕だけで行かせてもらいますね」
成美の言葉に風太郎は仲間を見回す。接近戦に秀でた者が多く、壁を作れるツェツィーリエや、援護能力に長けるであろう自分たちが離れるのも確かにまずい。
をろちは正面の敵は任せてくださいと力こぶを見せ、霧華は無言だが、力強く頷いた。
「おいらもこの体だしなァ、正面から行かせてもらうんですよぅ。……それに……」
「? それに?」
含みを持たせたワーブにをろちは小首を傾げたが、何でもないと彼は小さく呟いた。
「じゃあ、成美は気をつけてくれよ。ツェツィーリエ、この子を頼む。皆で二人を囲うようにして進むんだ。
どっから敵が湧くかんからねえからな」
長く戦場に立った経験だろう。てきぱきと隊列を固めると、風太郎は前進を指示して渓谷へと入り込む。
途中、心配そうに振り返ったをろちを安心させるように手を振って、成美は頭にタオルでハチマキを巻いた。
「さーて、行くとしようか」
ささくれだった岩肌に手を当てて、彼は慎重に渓谷を昇る。
渓谷の中へと進んだ猟兵たちは、更に粗雑に扱われた人々の末路を目にすることとなる。
乱雑に積み重なった人々の体。すでに命のない彼らの体は様々な箇所が欠損しており、それが存命中のものかはわからないが、彼らを材料とする人々の姿がこの場のおぞましさを引き立たせる。
誰も彼もが能面のように生気がなく、心を殺してこのような所業を行わされていると想像するに難くない。
焚き火にかけられた大鍋から漂う香りが、やたらと食欲を誘うのが恐ろしい。それほどまでに、必死で調理したのだろう。恐怖に縛られてか、絶望に縛られてか。
「グルルルルル」
怒りの声が、隣から発せられて霧華の感情を撫ぜる。
だが、それこそ怒りに飲み込まれてしまえば、太刀筋を鈍らせるたけだ。感情を圧し殺し、小さく息を漏らして幼子の顔に当てていた手を剥がす。
後方の死体の山が目に入らないように壁となる霧華。
「……み、みんな……あっ、おいちゃん!」
同じ村の出なのだろう、豹変した知人の姿に動揺する幼子は、特に親しい者の姿を認めて駆け寄った。
ぼんやりと佇む男はその様子に薄笑いを浮かべた。
「よお。どうした、こんな所に」
「どうしたじゃないよ、おいちゃんっ。おいちゃんたちこそこんな所でなにしてるの? 早く逃げよう!」
「そうはいかねえ。あの方がお腹を空かせてるんだ。早く、ご飯を準備しなきゃ、今度はお前が食べられちまう」
「……お、おいちゃん……?」
待っていろよと、ふらりと歩き出した男は数歩と進む間もなく、力を失って倒れた。
慌てた様子で成美らの調理した肉を食べさせようとするが、衰弱しきった体がそれを受け付けることもない。
幼子の呼び掛けに笑みを強めたが、それっきりだった。笑顔のままに動かなくなった男に一生懸命呼び掛ける。
「おいちゃん、起きてよう、こんなのヤだよう」
ぐずる様子にいたたまれず、をろちは幼子を抱き寄せた。
どうしてこんなことになったのか。どうして、自分たちがこんな目に遭わなければならないのか。
これほどの罰を受けなければいけないほどの何かをしでかしたのだうか。
すすり泣く幼子の問いに答える者はいない。
『!』
そくり。
不意に背筋を駆ける悪寒に猟兵たちは一点を見据える。渓谷の奥、多くの焚き火が施された場所から感じる視線。
「いやがったな、でっかい害虫がよ」
恐怖はない。こびりつくような視線が体に残す不快感は、彼らにとって闘志を漲らせる糧となる。
たが風太郎はちらりと幼子へ視線を変える。
親しい間柄だったのだろう、男の死にショックから立ち直れずにいる幼子を決戦の場に連れて行く訳にはいかない。
何より、猟兵に対して無反応な人々が唯一、反応したのはこの幼子に対してだけだ。彼らを救うためにもこの幼子の協力が必要だ。
「先に行っててくれ。連れ去られた人たちを助けるって、それにこいつを守るって言ったしな」
「よろしくお願いします」
悲痛に目を閉じて霧華。任せておけとばかりに風太郎は親指を立てる。
二人のやりとりを横目で見ていたツェツィーリエは、強まる前方からの視線に目を戻し、小さく呟く。
不快だと。
「絶対に勝ちましょう!」
拳を握るをろち。少女と霧華がツェツィーリエの脇を固め、正面には四足で歩くワーブの姿。
徐々に大きくなる火の手を背後に、玉座が映える。
傍らには疲れきった顔の女が座り込み、霧華は
「来おったな、猟兵ども」
現れた猟兵に対して頬杖をつき尊大な態度を見せるのは少女の姿。大きな玉座には不釣り合いであるが、座したままに顔を醜く歪めてこちらを見下す様は暴君と呼ぶに相応しい。
「初めまして、哀れな子」
「なんじゃと?」
にっこりと微笑むツェツィーリエに対し、少女の目付きが鋭く変じた。
「貴方は飢えているのですね。満たそうとしても満たそうとしても満ち足りない飢え。
貴方には満ち足りた食事というモノがない。だから飢え続ける。私はそう思います」
哀れむように嘆くように、囁く言葉には見下す心が感じられて。頬杖を止めて睨む目は更に鋭く、頬をひきつらせる。
「ですから、そんなもの感じなくて済むように、二度と浮き上がってこないように海に沈めて差し上げますね」
還るがいい、骸の海へ。吐き出される言葉は呪詛。紡ぐ感情は絶望への布石。
彼女の哀れむ心がオブリビオンを捕らえ、同時に召喚されるのは彼女の後方へずらりと並ぶ黒の衣服に様々なマスクを着けた者たち。
帽子を被り、油布で素肌を見せずにいる真っ黒な人々は、呼吸音ひとつ経てずに沈黙している。
「ほう?」
面白がる少女が指を鳴らすと、玉座の傍らの女に鎧を着込んだ男たちが現れた。
抵抗する気力もない彼女を脇に抱えて移動するそれらを、ツェツィーリエは嘲笑う。
「あぁ、私に人質は意味がありませんよ。人質とは命に価値があるから意味があるのです。
しかし異教徒に殺された魂は主に導かれ、その御許へと向かうことができます。救済は平等に与えられます。えぇ。……ですから……人質などは無意味なのです」
「ふん、妾にそんな小賢しい口をほざく下郎は初めてじゃぞ」
「満つるを知らず、故に傲慢であり続ける愚かな子よ。主よ、あの哀れな者をお救いください。
さあ、問え、その罪過を!」
ツェツィーリエの言葉に合わせて、それぞれの武器を携えた影が一斉に前へ出る。彼らの手に持つのは禍々しい、武器と呼べるものではない道具だった。
拷問官、それが彼らの正体だ。
迫るそれらを鼻で笑うと、玉座の下から這い出るように次々と鎧姿が召喚される。骨と皮ばかりの亡者の姿で、拷問官と対峙する彼らはツェツィーリエが召喚した者より数に勝る。
「始めるとするかのう、楽しい楽しい児戯をのぅ!」
嬉々として手を振り上げ、行進を命ずる。盾を構えて迫り来る壁の如き姿だが、霧華は拷問官の影に紛れてツェツィーリエから離れ、ワーブは牙を剥いて低く唸りながら、拷問官の後に続く。
対してをろちは、びしりと少女に指を突きつけてやおら声を張り上げた。
「こらーっ! 人を食べちゃいけませんよ!」
「な、なんじゃと?」
唐突な言葉に目を丸くするオブリビオンへ、尚も激昂するをろちは言葉を重ねた。
「しかも、椅子にふんぞりかえっちゃって偉そうに、もう!
ちゃんと下りて戦いなさい!」
「……何を言うかと思えば……! 妾は君臨する者! 貴様ら下賤者と並ぶことなどあり得ぬ。
我が言葉に従うことしか出来ぬ木偶どもと戯れるのが、相応というものじゃ」
「なんなんですかぁっ、あんたはぁっ!!」
次に吠えたのはワーブであった。普段の温厚でのんびりとした雰囲気はすでになく、野生に生きる獣のとばかりの恐ろしい表情を見せた。
ワーブが怒りを覚えたのはこのオブリビオンの態度だけではない。まずは何と言っても、シマエナさまに村を襲わせたこと。
そして自分自身は何もやらないで、周りに任せているそのやり方。
にも関わらず、それらを省みない不遜な姿。
全てが腹立たしい。
「言ったであろう。妾は君臨する者、貴様ら下郎は妾の下で踠く虫けらでしかないのじゃ、たっぷりと楽しませるがよいぞ。
カーッカッカッカッカッ!」
高笑いするその声が気に障る。
ワーブは自らの激情に任せて、怒りの咆哮をあげた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
鳶沢・成美
さあ、もうひと踏ん張りいきましょうか
しかしなんとも胸が悪くなる光景ですね、でも”狂気耐性””呪詛耐性”ありますので
まあ、ちょっと嫌だなって感じですか
”目立たない”様に移動し”戦闘知識”と”第六感”で奇襲ポイントを探る
”全力魔法”【火雷神道真】の”誘導弾”で敵だけ攻撃です
ついでに雷の電撃で”マヒ攻撃”
「雷ハメはロマンですね、案外BOSSにも効いたりするんですよ」
:真の姿:
サイドに白いラインの入った緑色ダサジャージ
頭にタオルハチマキ
アドリブ・絡み・可 ””内技能
西条・霧華
「絶対に護って見せます」
私は守護者の【覚悟】を以て皆の盾となります
<真の姿を開放>し右腕と武器に蒼炎を纏います
まずは母親と『悪逆無道の君臨者』の間に割って入るべく【ダッシュ】
『無名・後の先』で誘った攻撃を【見切り】つつ【武器受け】
纏う【残像】で敵を乱し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて【カウンター】
【見切り】の時点で反撃が困難だと判断した場合
【武器受け】しつつ【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます
哀しい人
母親ごっこを演じさせようとも、あなたは独りぼっちです
親子の慈しみを求めずに居られない様な「何か」があったのでしょう
でも、それは今の悪逆無道を肯定する理由にはなりません
●悪意を撒く者。
「グルォアァアアアアアっ!!」
猛々しい咆哮は大気を揺らし、瞳に怒りの炎を宿したワーブがひた走る。
ケダモノ風情が。
嘲笑する少女が号令をかければ、盾を構えた亡者どもが走り始める。ワーブを押し込めるつもりだ。
いくら熊の腕力とは言え、押さえつけられてしまってはその力を活かす空間を作れない。
しかしワーブには、その至近距離ですら威力を発揮する技を持つ。ユーベルコード【灰燼拳】で兵士の盾を穿つように、高速の一撃が兵士を薙ぎ倒す。
振りかぶる距離を稼げればこちらのものだ。返す腕の一撃が彼らを薙ぎ払い、歩むワーブは少女へ牙を向けた。
「下賤な、その歯牙に妾を収めようというのか。身の程を知るのじゃ下郎!」
苛立ちを隠し切れずに声を張り上げた傲慢なる者へ、ワーブの怒りは収まらない。
高まる激情がワーブの毛を逆立てた時、彼の側に駆け寄っていたをろちが亡者の一体の足をひっ掴み、力のままに振り回す。
【びったんびったん】と地にその体を叩きつけ、群がる亡者を薙ぎ払い、大回転する少女は玉座にふんぞり返る姿へめがけて投げ放った。
「小賢しいわ! ――むおっ!?」
片手でそれを受けた少女は余裕の笑みを見せたが、眼前で牙を剥く黄金のオーラを纏いし巨大な口腔にさすがのオブリビオンも驚きの声をあげた。
オーラとともに、意志の力に応じた戦闘能力の増強と飛行能力をもたらす【スーパー・ジャスティス】、爆発する怒りの感情に高められる戦闘能力と、膨れ上がるその体――【バイオミック・オーバーロード】の合わせ技だ。
唾液を散らす巨大化したワーブのアギトをすんでのところでかわすも、続くワーブの攻撃はかわせない。
その柔らかな腹部を貫く荒々しい爪の塊は、玉座を木っ端と砕き、少女の小さな体が空を舞う。
暗がりに映る赤い華は空に咲き、豪腕に吹き飛ばされた少女の体が地面を滑走する。
「ぐおお!」
白い服は血に染まり、鮮血を吹く少女の瞳に溜まる涙は、端から見れば同情を禁じ得ない。
だが、猟兵は知っている。オブリビオンという存在を。
「……ぐっ……く、カカカ、カァーッカッカッカッカッカッ!
痛む、痛むぞぉ、ハラワタが縺れて悲鳴を上げる! 妾の体が助けを求めているのがわかるわ、カッカッカッカッ!」
耳障りな声で笑う少女は、頬をひきつらせて涙を溢すが、その目に宿る嗜虐的な光は一向に衰えない。
が、不意に呻くと少女は小さな体を折り曲げて赤い吐瀉物を撒き散らした。
それはもぞりと蠢く肉の塊。
「ううむ、せっかくの食事が勿体ないのう。どれ、ケダモノ。責任を取れい」
汚れた口元を拭うと、地に転がる肉の塊が泡立つように震えて巨大化する。
白い炎をその身に宿し、巨大化したワーブと並ぶ巨体を得た肉人形、フレッシュゴーレムと化した。
手足に燃える白い炎は、怨嗟の念を漏らす人魂の嘆き。
「またぁ、こんなことをするんですかぁ!」
ワーブの鋭い爪をその拳で受けて、フレッシュゴーレムの反撃の拳がその顎を捕らえた。だが、鋭い目を向けるワーブの身は傾ぎもしない。
「そうれーっ!」
肉人形の加勢をしようと迫る亡者ををろちの大鉄塊、聖剣シャリテが吹き飛ばす。
「ふふふ、まだまだ、問題はなさそうですね」
武器らしい武器を持たねば武装した兵士たる亡者には及ばず。だが、ワーブやをろちの活躍で歩を進める拷問官の陰惨な拷問具は、亡者の肉を抉り骨を蝕み、戦線を押し上げていく。
「ふん。所詮は下衆――、むっ!」
視界の端に動く影を認めてオブリビオンが振り向けば、拷問官の影に紛れて幼子の母親の下へと駆ける霧華の姿があった。
おのれ。
足下の骨の欠片を拾うと彼女へ向けて振りかぶる。
「あら、おいたはいけませんよ」
ツェツィーリエの言葉を受けて、拷問官の一人が放つ針が少女の手を刺し貫く。
「下衆がぁあーっ!」
『うぅうううぅうぅう!!』
怒りの形相を見せた少女の声に反応し、身体中に口を作り出して唸る肉人形。
自らの腕を食い千切り、ツェツィーリエ目掛けて白く燃え上がる肉塊が射ち出された。
「【火雷神道真(ライジーン
)】!!」
直後、空から降り注ぐ雷の礫が敵軍へと降り注ぐ。
炸裂する光は敵だけに下り、体を貪る電流が兵士の動きを止める。
「ええい、今度はなんじゃ!」
攻撃から守るように、自らの体を折り重ね、雷に焼かれて黒く焦げた亡者を蹴り転がし、声のする方向を仰ぎ見れば渓谷の上からこちらを見下ろす成美の姿。
渓谷の入り口から登り、ここまでやって来たのだ。
「雷ハメはロマンですね、案外、ボスにも効いたりするんですよ」
にやりと笑うのは被弾を防いだことから、無効化できないと成美が予想したからだろう。
「下郎、妾を見下ろすな!」
「哀しい人」
「……なにを
……!?」
血走った眼を向ければ、亡者を斬り倒し、幼子の母親を救った霧華の姿。
「母親ごっこを演じさせようとも、あなたは独りぼっちです。
親子の慈しみを求めずに居られない様な『何か』があったのでしょう。でも、それは今の悪逆無道を肯定する理由にはなりません」
「……妾が……そんな人間如きに、依存しているとでも言うつもりか!」
その通りだろう。吼えるオブリビオンに霧華は肯定する。
だからこそ戦闘が始まる前に女を逃がし、そして女の下へ向かう少女の姿に焦りを見せたのだ。
指摘するその言葉のひとつひとつに怒りを見せたオブリビオンであったが、やがて力を抜くと小さく笑った。
「お主もあすこの猟兵と同じく、妾を哀れむのか。良かろう!」
口角を引き上げると両の掌に光を宿し、地面に叩きつける。
禍々しくも溢れ返る白い光量が眩く猟兵の視界を染め上げて、出ずる光の柱から新たな敵が現れる。
黒い甲冑に身を包んだ大型の騎士と、冷風に金色の髪を棚引かせ幾重にもなる白いローブに身を包んだ魔術師。
「貴様らの肉を啜ってやろう。亡者となり果てた貴様らを、我が軍門に加えてやるのじゃ。そして尖兵として永遠に、大事に使い潰してやろう。
同胞たる猟兵に身を切り刻まれ続けるよい!」
「怖いこと言うなぁ」
攻撃的な笑みを浮かべる少女に思わず冷や汗を浮かべる成美。
それに目を向けるでもなく、不快と断じる少女。その言葉を受けて新たに召喚された魔導士のオブリビオンの放った光の矢が成美の足場に突き刺さり地形を崩す。
「うわわわっ!」
「!」
落下する成美を、即座に飛翔したワーブがその背に乗せて事なきを得る。
助かったとばかりに息吹き、ワーブに礼を言う成美。
「……き、霧華さん……あの人って……」
「……まさか……」
無言で佇む大男の、赤黒く怪光を発するその視線が突き刺さる。
少女二人に見覚えのあるその姿、そして威圧感に背中を冷たい汗が伝う。
亡者の軍団は成美の奇襲が功を奏し大打撃を受けたものの、新たに召喚されたオブリビオンらはそれらよりも遥かに強大な力を感じさせる。
フレッシュゴーレムが唸り声をあげると、騎士は隣に並び立ち、魔導士は少女の傍らに控える。
魔導士が杖を掲げれば大地が隆起し新たな玉座を象る。少女は玉座に腰を下ろし、ぞんざいに頬杖をついた。
「妾を悪逆無道だと言いおったな?
そうじゃ、妾こそは君臨する者、悪逆無道の君臨者。オブリビオンも、イェーガーも、等しく妾に踏みしだかれて果てるのじゃ!」
ただただ苦痛と恐怖と絶望を献上せよ。
強力な兵を引き連れて、生ある者へ破滅的な憎悪を向ける少女のオブリビオンに猟兵たちの本能が警鐘を鳴らす。
強い弱いの話ではない、ひたすらに災厄を振り撒くことを願うこの存在を認めてはならない。
「…………っ。絶対に、護ってみせます!」
吹き荒ぶ悪意を前に守護者として自らを定義する霧華は真の姿を解放し、蒼炎を右腕と籠釣瓶妙法村正に纏った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
茶釜・風太郎
なんて奴だ、ガキのナリしてるが悪魔だな!
敵が多いならヴァリアブル・ウェポンで蹴散らすぜ。上着を脱いでサイボーグの真の姿を開放、体に内臓された機関砲を攻撃回数重視で大群を叩く!
サウンドウェポンを使って子供が狙われないように、こちらに注意をひくパフォーマンスもやっておこう。
お高く止まっちゃいるがゲテモノ食いの悪趣味なガキめ!上品を気取ってるんじゃねえ!
味方の援護を最優先で戦うぜ。可能なら母親のほうも助けられるように援護したいな。
●絶望を食らう者。
「皆さん、気をつけて下さい! あの人は強いです!」
足音を響かせて前に出た鎧姿に注意を促すをろち。
遅れてこちらへと向かってくるフレッシュゴーレムは片腕を失ったままではあるが戦意に衰えはない。もっとも、彼にそのような決定権があるようには思えないが。
成美は妖怪を封じた設定のマイナートレーディングカードゲーム、という設定で作られた【妖魂符】を懐から取り出した。
「こっちもこっちで厄介そうだけど。をろちさんと霧華さん、ツェツィーリエさんは、鎧の奴をお願いできます?
僕とワーブ君であの『グロ画像』と戦います」
「私の知っている相手なら、私たち三人だと厳しいと思います」
珍しく弱音を漏らした霧華。それは想いだけではなく現実を直視した上での言葉だ。だがそれは私たちだけでは、という言葉通り、他の猟兵も含めて力を合わせれば可能という自信の裏返しでもある。
霧華は体を弱らせた女を後ろに守っているため、満足に動けないということもあるが。
とは言え、もう一体と、更には後方に控える魔導士がいる状態で戦力を集中させてしまうのは良い的となる。
「後から召喚された者たちは、少女のユーベルコードによる死霊術と思われます」
ここで口を開いたのはツェツィーリエだ。危機的状況であるが微笑みを絶やさず、少女のオブリビオンを分析する。
「をろちさんたちが見覚えがあるように、恐らくは骸の海からあの少女が召喚した存在。強力な、それも二体同時となると制約は免れません。
あの少女に動きがないのは、術を制御するために動けないからではないでしょうか」
「なるほどぉ、つまりあの子を攻撃すれば、この二人もいなくなるってことですかねぇ」
その通り。
ワーブの言葉に頷くツェツィーリエ。実際、死霊術に長けた彼女の言葉には説得力があった。
ワーブの一撃でも倒れなかった少女の隣にわざわざ魔導士をつけるのは、防御が必要でその役目を担っているからと見れる。
「なら早速!」
構えた符を鎧へ放つと、予想より機敏に反応した肉人形の腕がそれを防ぐ。しかしこれは囮だ。
続けて放つ火雷神道真が急上昇、急降下し敵の前線を越えて本体へ急襲。しかしこれは、杖を掲げた魔導士の張る結界により防がれてしまう。
攻撃に転じない魔導士の姿、その反応は猟兵らの想定を確信させるものであり、それだけに不敵な笑みを見せた少女の姿が不穏であった。
「ですよねー」
予想通りの反応であれば事態が好転するというわけでもない。
攻めあぐねる成美に対し、要はあの結界を破壊すればよいのだとしたのはツェツィーリエだ。
「私が行きます。ただ、私に憑いてくださる皆様も残りは五名。あの肉人形と鎧の方の対処は、あなた方にお任せする形となりますが」
「いんや、五人さ」
後方からの声に振り向けば、遅くなったと片手を上げる風太郎の姿があった。その後ろには幼子がついてきている。
入り口付近の村人たちの救出は済んだようだ。立ち直った幼子は、霧華の守る母親の姿に笑顔を見せた。
「ふん。虫けらめ、まだ増えおるか。薙ぎ払えい!」
オブリビオンの言葉に反応したのは地に伏していた亡者の兵。電流による麻痺の解けた彼らだが、剣や盾を持てるほどに回復しておらず、それでも少女の命により戦うために歩き出した。
使い捨てとばかりの手荒な指揮官だ。戦場に立っていた身としては愚かすぎる上官だとオブリビオンを睨む風太郎。
彼は上着を脱ぎ捨てると機械化された真の姿を解放し、内蔵された機関砲【ヴァリアブル・ウェポン】を展開、歩む亡者を一掃した。
「このまま弾幕で押さえる! 霧華、その人を俺の後ろへ連れて来てくれ! ツェツィーリエはあのガキを頼む!」
鎧姿を守り立ち塞がる肉人形へ容赦なく鉛玉を浴びせるが、一向に参る気配がない。
それどころか黒騎士はまさに肉の壁として、フレッシュゴーレムを押しこちらへと進み始めた。
「……厄介な奴らだぜ……!」
「チャンプさん、お願いします!」
連れてこられた母親は、涙を流して幼子を抱き締めた。子もまた、鼻を真っ赤にして泣いている。この何日かの間、どれほど恐ろしい目に遇ったのか、互いに確認しあいながらも力付けるような強い抱擁だった。
「ありがとうございます、チャンプさん。……あなたが来てくれなかったら……」
「何を言ってるんだ。仕事は今からだぜ。そろそろ弾も切れる。
援護はするが、しっかり俺たちを護ってくれよ?」
「――、はい!」
風太郎の言葉に力強く返して霧華は敵を振り返る。隣に並ぶをろちは、壁となる肉人形を見て、それから攻撃の時を待つワーブへ視線を向けた。
「あのグロい巨人、ワーブさんは戦ってみてどうでした?」
「……う~ん……スピードがないけどォ、力とタフさがスゴいんですよぅ」
むう、と唸る。遅いのであればスピードでかき回す作戦もありだが、時間稼ぎをするにも戦闘が長引けば負担も増える。
ワーブも高いタフネスを持つが、それだけに頼る訳にもいかないだろう。
「成美さん、あの巨人は私とワーブさんで押さえるので、あの鎧の人の相手を霧華さんとお願いできませんか?」
「僕と霧華さんで?」
をろちの言葉に思案する。
戦闘の経験のある二人ならば押さえに向くと思ったが、わざわざ進言するということは黒騎士を押さえるのに必要なのは自分ではないと、経験者であるをろちが判断したということだ。
ならばそれに従おう。成美は頷き、無言でこちらを見つめる霧華に笑顔を向けた。
拷問官を率いて離れるように動くツェツィーリエをオブリビオンが気づいていないはずがないが、いざとなれば魔導士も攻勢に加えて一気に叩こうと考えているのだろう。動きは見えない。
「そろそろ来るぞ!」
風太郎の言葉に一同は頷く。
「弾幕が途切れたらワーブ君、まずは目一杯、あの巨人を殴り飛ばして距離を離してください。
残る鎧は僕たちで押さえます!」
「任せてほしいんだよぅ!」
「お願いしますよ、をろちさん」
「霧華さんも、絶対に気をつけてね!」
互いに気を引き締め合う言葉と同時に、風太郎の弾幕が途切れた。
――今だ。
同時に黄金のオーラを纏い巨大化したワーブが、それこそ砲弾の如くフレッシュゴーレムに突撃してその体を弾き飛ばした。
全速でそれを追うをろちへ刃を向けた黒騎士を、高速で迫る霧華の刃が蒼炎を散らして迎撃する。
赤黒い眼光が少女を捕らえると、全身に力を加えられたような威圧感を受けた。
(……この、感じ……! やはりあの時の黒騎士!)
だが、もはや少女はその強敵たる存在に負けるような、生半可な覚悟など纏ってはいない。
黒騎士は半歩身を引いて霧華の太刀をいなし、同時にその刃の背へ一撃を加える。
それを読んだ霧華は刃を下ろして衝撃を減らし、即座に身を引くことで相手の次撃を誘う。巨駆から放たれる一太刀はまともに受けられるものではないが、ゆえにそこに隙を探す。
残像に惑わされる敵でもない。ならば実力の真っ向勝負――、無名・後の先。
突き出された朽ちし重片手半剣の切っ先を見切り、紙一重でかわした霧華の戦意を鋭敏に察した黒騎士は、塚を握る手を離し振り向き様の裏拳が少女を狙う。
カウンターのカウンター。完全に合わせられたタイミングであったが、霧華の覚悟に一点の曇りもない。
鼻先に触れるかどうかの所で、成美の投げた符を受けて硬直した僅かな隙間を抜け、妖しく光る一条の剣閃が黒騎士の鎧の隙間を狙う。
「――おぉおおおっ!」
咆哮。
振り抜かれた刃は蒼き炎の軌跡を残し、黒騎士の胴を抜く。
しかし。
「くっ!」
即座に投げた複数の符により張られた結界を、斬られたはずの黒騎士の拳が難なく突破し、オーラを集中させた己が武器で受けた少女の体が弾き飛ばされた。
空中で身を反転し、着地するも重心が安定していない。直撃は免れたものの相当の衝撃がその体を貫いたのだろう。
霧華の様子に現状を察しつつ、その身を庇うべく前に立つ成美。
(なるほど。パワー、スピード、テクニック、タフネス。力押しだけで止められる敵じゃないね)
予想を遥かに越えた強敵に、をろちの判断の正しさに敬服する。
「でもぶっちゃけ、二人だと時間も稼げるか怪しいなあ、もう!」
その巨体で地を蹴り、飛び込む黒騎士を相手に嵐と慈雨の神の加護を持つものとフック付きワイヤーを構えて成美は叫んだ。
一方、体当たりで弾き飛ばされたフレッシュゴーレムへ追撃をかけるワーブ。空中での一撃はしかし、まともに受けたようで効果が見えない。
空中戦の経験もさほどないゆえに、効果的な攻撃を見つけ出せなかったのだ。
地に激突した肉人形が起き上がった所で、必死に地上を走り猛追していたをろちが跳躍、真正面から聖剣シャリテを振りかぶる。
縦一閃。
だが、その鈍き刃は怨嗟の盛る魂を宿した分厚い手に受け止められた。
「そんな!」
『うううううっ!』
剣を握り一回転。巨剣ごとぶん投げられた少女を慌ててワーブが受け止める。
その隙を逃さず、今度は跳躍したフレッシュゴーレムの飛び蹴りが、をろちを庇うワーブの背に直撃した。
「あぐう!」
全体重を一点に集約した一撃にはさすがのワーブもよろめいた。チャンスとばかりに肉人形が更に大きく振りかぶる拳を放つが、隙だらけの一撃を受けるほど参っているわけでもない。
「グルルルォウ!」
屈みこみ、拳をかわし振り向き様のワーブは雄叫びを上げて拳をかち上げる。
巨大な拳はフレッシュゴーレムの顎を打ち抜き、衝撃が大気を揺らしてその巨体を大きく後退させた。
両雄の戦いぶりを見つめていたオブリビオンはやがて、その目をやって来る敵へと向けた。
「それで、お主はそれっぽっちの戦力でどうするつもりじゃ?」
「あら、酷いことを言わないでください」
笑みのまま返すツェツィーリエに少女は憮然とするが、すぐに笑みに変えて顔を向ける。
少女は、ツェツィーリエに自らと同じく淀んだ気配を感じ取っていたのだ。
「どうじゃ。妾の下に跪かんか? 命もそれなりの自由も保証してやろう。あの鳥どもを失ったからのう、我が力の及ばぬ存在も、軍団を維持するためには必要なのじゃ」
「あなたの非道な行いに手を貸せと? そのようなことは我が道に反します」
「近寄るなよ下郎」
合掌し、祈る仕草を見せながら歩むツェツィーリエに鋭く言う。だが彼女の足は止まらない。
オブリビオンは表情を険しくすると片手を挙げた。同時に控える女魔導士の長い金髪から覗く大きな目から、赤い火花が走った。
そこでツェツィーリエは、小さく退き、拷問官の一人を盾とする。火花の触れたその体に、地面からでたらめに生えた凶刃がその体をばらばらに引き裂いた。
「まあ怖い」
さして同情の念もなく、一言だけ告げて歩みを進める。
この女魔導士も強力な戦力なのだろうが、自らを守らせることとその攻撃に巻き込まれないようにしているせいか、攻める手段が乏しいようで好都合だ。
「妾はのう、猟兵が嫌いなのじゃ」
冷たい目でこちらを睨む少女の言葉を聞き留めつつ、言葉を返す真似はしない。
残る壁は四枚だが、減らすのは望ましくない。敵の攻撃に対応できるように神経を尖らせる。
「人も妾の同胞も、絶望に飲み込まれる、恐怖に苛まれる、怒りに狂う。
じゃが、貴様ら猟兵はそれらを食らい、例え倒れても再起する力とするのじゃ」
そんな存在が許容出来ない。
怒る目に従うように、魔導士の掲げた杖が炎の魔槍と化した。
魔法により打ち出されたそれが拷問官二人を貫き、その体を焼き尽くす。
やろうと思えば残る二人程度、簡単に払うこともできただろう。しかし、そうしなかったのは。
「それで、無能を晒すつもりかのう?」
余裕の笑みで魔導士に結界を張らせるオブリビオン。見下した笑みを見せる少女は、仲間が打ち砕かれるまで無意味な抵抗をするがよいと嘲笑した。
結界に取りつきその身を焦がす彼らの非力に愉悦するオブリビオンに、魔女も笑う。
「あの方々はたまたま、行動を共にしているだけ。仲間と呼べるほど私にとっても、あの方々にとっても高尚な存在ではありませんよ。
あなたがたまたま、私たちの敵になっていることと同じく、ね」
「今度はなんじゃ、とんちの類いか?」
煩わしいとばかりの様子に笑みを深めるツェツィーリエ。
「あなたの行い、理由など知りませんし興味もありませんが、その強い想いは鳥瞰すれば生存競争に過ぎません。
私がここにこうしているのも私の都合ですし、そこに違いなどないのです」
まるで、天からの視点を代弁するかのような、端的に全てを見下す言動。
――でも、ひとつだけ。
反論しようと口を開いた少女にそれを許さず、ツェツィーリエはそれこそ、そのオブリビオンと良く似た笑みを浮かべて結界に手を触れた。
「座って人の話を聞くのは行儀が悪いですよ?」
ツェツィーリエの触れた掌から光が生じ、背負う聖柩からは禍々しい気配が立ち上る。
封じられたものは解くためにこそある。封印を解く力を以て、拷問官の魂を代償に結界を強制的に打ち破ったツェツィーリエ。
力で押し破るのは不可能と見下していた少女の顔が驚愕に歪み、益々と魔女は笑みを深めた。
「おっ、おのれ! だが残るはお主一人でこの妾を――」
「――ジャックポットだ」
魔導士を前に立たせたオブリビオンの胸に、ライフルを構えた風太郎による狙撃。
正確無比な弾丸は、玉座から動かぬ標的を撃ち抜くのは容易かった。
『…………っ!』
『ああぁぁ!』
少女と同じ場所に傷を受け、光を放つ二体のオブリビオンが虚空に溶け消えていく。
現世に定められた術を失い、骸の海へと還ったのだ。
「よし!」
思わずガッツポーズを取った風太郎。敵の戦力の大幅な減少に、成美も胸を撫で下ろした。
残るは――。
「……き、きぃさぁまぁらぁあ……!」
赤く染まる服を引き摺り、立ち上がった少女は怒りに目を真っ赤に染め上げた。
その目の向ける先にいるのは猟兵ではない。母に抱かれて怯える幼子、ただ一人。
「その童を殺せっ、木偶ぅーっ!」
「なんだとお?」
唐突の叫びに風太郎はフレッシュゴーレムへ目を向けて武器を取り替える。
「そやつはあの村の生き残りじゃぞ! 貴様らは妾に責め抜かれて嬲られて果てたのに、あの童は母と会えて喜んでおるじゃろう。
貴様らの目は節穴か! 今すぐあの童をお前らの下にまで引き摺り下ろせ! 幸せを掴ませるな、自分と同じ目に遭わせるのじゃ!」
その叫びは肉人形の召喚に遣われた人魂への煽りか、それとも言い聞かせる思いがあったのか。
膨れ上がるどす黒い感情を放ち、白く燃え上がる肉人形は幼子を目指す。
「なんて奴だ、ガキのナリしてるが悪魔だな!」
両手に銃を構えて連射するが、吼える肉の塊に効果なく。
「あんたはぁぁあッ!!」
怒りに叫ぶワーブの追い縋る一撃が胴を大きく抉るも止まらず。
「行かせません!」
「だぁありゃあああっ!!」
霧華、をろちの双壁がフレッシュゴーレムの手足をそれぞれ斬り落とす。
それを失えばさしもの巨人も勢いを止めることしか出来ず。
「グオオオオッ!」
巨大な獣と化したワーブがその体を踏み潰し、ようやく肉人形は動きを止めた。
「はあ、何とか、なりましたね」
成美が視線を向けた先で、玉座に縋るように倒れこむ少女。
「……うう……おのれ……おのれぇ……!」
「やはりあなたに、満ちるということは、ないようですね」
呪詛を吐く少女へ、ツェツィーリエは笑みを送る。
ならば告げるだけだ。永遠の眠りへ逝く者に、別れの言葉を。
背中から聖人の旗を突き立てられて、少女の口から鮮血が溢れた。弱々しく呻き、救いを求めるように伸びた手と、向けられた瞳は幼子の母に向けられていた。
「…………!」
だが母親は、命を狙われた我が子を抱き締め、強い敵意の視線を返すだけだった。
「…………、ク、……クッ……、カカカ……カカカカカカ……!
カァーッカッカッカッカッカッカッ!!」
少女はけたたましく、狂ったように残る命を絞り尽くすように笑い声を上げた。
甲高いその声は、その命が消えても木霊となって、長い間を渓谷の中に駆け回っていた。
●希望に燃える者たち。
「本当に、本当にありがとうございました」
激しい戦いの後。
陽が沈みかけた雪山から降りる訳にも行かずにいた猟兵たちは、彼らの救った村人たちの家に泊められた。
シマエナさまの被害により所々に穴があき、隙間風を塞ぐことこそ叶わなかったが暖を取ることは出来る上、雪を防ぐ分には外より遥かにマシである。
体力も限界に近い村人たちとともに身を寄せあい、長い夜を越えて朝日を迎えた彼らの顔色は酷いものだったが、その目には力強い光が灯っていた。
「あなた方のこと、このご恩、忘れません! 決して」
「いいんですよぅ」
「あの、本当に山を降りないんですかっ?」
感謝を重ねる村人に恐縮するワーブと疑問を投げるをろち。
酷い目に遭ったとはいえ、彼らの生まれ育った場所から離れるという選択肢は無かったようだ。
「お母さんのこと、大切にしてね」
「うんっ」
「……何とお礼をすればいいのか……」
「気にしないで下さい、あれと戦うのは僕らの目的でしたから」
すっかり元気になった幼子と、落ち着きを取り戻した母親の頭を上げさせながら、霧華と成美は件の母親と言葉をかわす。
「それじゃあ元気でな!」
「また、歌を聴かせてください」
「救いの手はいつでもあなた方とともにあることを、忘れないでください」
「ええ、その言葉が見に染みます。拾った命、無駄にはしません!」
風太郎とツェツィーリエも彼らと別れを告げて、先に外で待つ猟兵へ続く。
朝陽に向かって歩く彼らを見つめる村人の中から幼子が飛び出し、一際大きな声でさようならと叫ぶ。
「さて、早速、家を直さなきゃな」
「ああ。仕事道具は後回しだ、まずは皆でやらにゃ」
「まあ待て、人手を分けて狩りにも出さんと飢えちまうぞ」
口々に話し合いながら忙しなく歩き始めた村人に混じり、幼子は母親に腕を引かれるまで猟兵たちの去った道を見つめていた。
これからもこの雪山には幾度となく苦難が訪れるだろう。そこに住まう人々にも強い影響を与えるだろう。
しかし、希望に燃える人々の心が死ぬことは、もう決してない。幾度と陽が落ちようと、この朝陽のように彼らは必ず、再起するのだから。
成功
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