エンパイアウォー⑧~救えぬのなら、終わらせて
●結末はきっと同じ
「たぁ、助けて、助けてくれぇ!!」
「くそ、倅を離せ! このっ……ぐあっ!?」
サムライエンパイア、山陰道。
信長軍の手に落ちた鳥取城から、そう遠く離れてない農村にて。
逃げ惑う農民たちを捕らえるのは、同じように粗末な衣服に身を包んだ異形の民。
骨と皮ばかりの身体、肩から突き出た水晶。
生々しく残る、何か、いや、『誰か』の歯形。
魔軍将の一人、安倍晴明により生み出される水晶屍人は、無力な民草を追い回し、その痩せた身体に牙を突き立てていく。
それでも、ふらつきながら歩む彼らは、多くの農民を取り逃がし、頑丈な建物への立てこもりを許してしまう。
ああ、よかった、あの化け物も、城門は破れない。
——耐えていれば、きっと活路を開ける。
江戸の殿様たちが此方に向かってくださっている、それまでの辛抱だ。
——米がない、粟がない。
あと少しだけ耐えればいい、もう少しだけ。
——この地獄はいつ終わるのか。
もう少しだけ、耐え抜けば。
——そして我らは屍人となった。
●惨劇再演
「……みんな、サムライエンパイアの戦争の、新しい予知よ。集まって頂戴」
猟兵たちが集うグリモアベースにて。
耳をへにゃりとたれ下げた人狼のグリモア猟兵が、どこか沈んだ表情で猟兵を集めていく。
「まずは、今までお疲れ様。最初に予知された苦難はすべて防げたし、魔軍将たちとの戦いもおおむね順調ね」
猟兵たちの奮戦はサムライエンパイアの各地で、オブリビオンの企みを防ぐことに成功している。
その上で、信長軍の脅威もまた、確かに健在であった。
「次の戦いは山陰道。信長軍の手に落ちた鳥取城、その近くの農村に飛んでもらうわ」
猟兵たちが現地に着く時には、ちょうどオブリビオンによる農民への攻撃が始まる直前。
此処で介入できれば、被害が出る前にオブリビオンを倒せるだろう。
そこまで説明して、敵の絵姿を見た猟兵が気づく。
奥羽で見た、死人と同じだ。
「うん、あの時と同じ、安倍晴明による水晶屍人よ。違いは、強さと素材ね」
以前とは比べ物にならない強力な屍人は、猟兵の力を持ってしても明確な脅威となりうる存在だ。
もちろん、そのような屍人を作らぬ理由など信長軍には無い。
ならば、何故今になって現れるのか。
単純に、素材が無かったのだ。
強化された屍人を作るための材料は、この地にしかなかったのだ。
「昔行われたっていう城攻めがあってね。食べ物が無い城に追い込んで、閉じ込めちゃうの。閉じ込められた人たちは何でも……本当に、何でも食べて生きようとしたけど、結局駄目だったんだって」
鳥取城の餓え殺し。
飢えと怨嗟と絶望の中で死んでいった彼らの魂こそが、悍ましい屍人に更なる力を与える鍵となる。
けれど、昔に死んだ者の数には限りがある。
それならば、もう一度同じ惨劇を。
蘇った屍人たちは、陰陽師の思惑通りに、同胞を増やそうと蠢いている。
「村人さんたちを守る必要性は、そこまで無いと思うわ……目的は、その場で噛み殺すことじゃないから」
その目的が達成された未来も見たのだろうか、一層表情を暗くした彼女がグリモアを輝かせれば、サムライエンパイアへの道は開かれる。
「水晶屍人の量産も、農民さんたちの犠牲も防いで。そして、お願いね、きっと……」
今なお続く、惨劇の幕引きを。
北辰
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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OPの閲覧ありがとうございます。
実は水晶屍人ずっと出したかったんです、北辰です。
餓え殺し、某ゆるキャラ等で聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
日本史上でもとりわけ凄惨な戦の犠牲者が、今回の皆様の敵となります。
舞台は鳥取城近くの農村。
そこから少し離れた平野での戦いとなります。
基本的に、敵と猟兵、逃げ惑う農民以外の要素は無いものとしております。
敵の知性は高くありませんし、理性もとうに失われております。
そのため、目の前に猟兵がいれば、それを無視して農民を襲うという事もしませんので、特別な工夫がなくとも、農民の救出は難しくないでしょう。
戦闘そのものも特別難しいものにはならないと思いますので、戦闘プレイングに自信のない方も、どうぞお気軽にご参加ください。
それでは、救える命の為に、救われなかった惨劇を終わらせる皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『水晶屍人』
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POW : 屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。
👑11
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シーザー・ゴールドマン
【POW】
ふむ、生きながら地獄を見て、死後もそれを利用される。
哀れなものだ。
オド(オーラ防御)を活性化して戦闘態勢へ。
オーラセイバーに破邪の魔力(破魔)を纏わせて振るいます。
(先制攻撃×怪力×鎧砕き)(フェイント×2回攻撃×鎧無視攻撃)など
最後は『ゴモラの禍殃』の魔神の炎を浄化の炎に属性変化(破魔×属性攻撃:聖)させて塵も残さず水晶屍人のみを燃やし尽くします。
●屍人爪牙→直感で回避からのカウンター
(第六感×見切り×カウンター)
アリス・レヴェリー
目的のためとはいえ、すぐに村人達に襲いかかる様子が無くてよかったわ
……とはいえ、村人達も巻き込む攻撃はできないし
仕方ないわね、切り結ぶのはあまり好きではないのだけど……【廻る三針】によって身に纏うドレスを別のものへ
手には秒針の細剣を持って、分針の片手剣と時針の短剣は雷を纏わせて飛翔により先行させるわ
それを追うようにわたしも走って目的地まで向かいましょう
村人に近づこうとする屍人から優先して細剣を含めた三針で攻撃
発光は「屍人を」【刻命の懐中時計】の結界で覆うことで封じましょう
結晶が砕け、時計が指し示す属性も雷から炎へ、炎からまた別の属性へ……針の纏う属性もまた、同じように
そうやすやすと、通さないわ
真守・有栖
ふぅん?まーた屍人がわらわらでがぶがぶなのね?
えぇ、任せなさいな。ぜーんぶずばっと、断ち斬ってあげる
おなかがぺこぺこ。ぐうぐう。ぎゅるるる。
はらぺこはとーっっっても、つらいの。くるしいわ。
屍人と対峙。
振るう爪も、喰らいつく牙も。在るが侭に、受け入れて。
避けるでも防ぐでもなく。己を以って“喰らう”。
いくら喰らえど、満たされず。
餓えは尽き果てることもなく。
流れる血も。裂ける肉も。痛む傷をも、噛み締めて
えぇ、分かるわ。分かるもの。
だって――
――月喰
刃に込めるは“絶”の一念
――光刃、烈閃
煌めく烈光にて
尽きぬ餓えを呑み。屍人を骸へと還す一太刀を
――おやすみなさい
此れにて終いよ
次はないわ。……させないわ
●哀れな怪物へ
「く、来るなぁ! 来ないでくれぇ!!」
水晶屍人に追われる農民たち。
多くは、フラフラとした足取りの屍人からどうにか逃れて――信長軍の思惑通りに――この辺りでも最も堅牢な場所、鳥取城へと向かう。
けれど、ごく僅かな不幸な者たち。
足腰の弱い年寄、女子供、あるいは、勇敢にもそれを助けようとした若者たちに、輝く水晶を背負う屍人の、光を宿さぬ視線が突き刺さる。
恐怖から足はもつれ、地面に転び泥まみれでどうにか這う男へ、オブリビオンの手が伸ばされる、その直前。
「——そうやすやすと、通さないわ」
その手を斬り裂き、農民を庇うように地面へ突き刺さるのは二振りの剣。
数瞬遅れて駆け付けたアリス・レヴェリー(真鍮の詩・f02153)の装いは、いつもの水色と白のエプロンドレスとは全く異なるもの。
手に持つ細剣、バチバチと雷を纏い、再び宙に浮かび上がる短剣と片手剣。
カチリコチリと時を刻む懐中時計は、常のそれより、大きく力強い音を立てる。
【廻る三針(トゥールビヨン)】、無用の破壊を避けるために彼女が纏う真鍮飾りの戦装束は、時を刻む武具たちに確かな力を与えていた。
それでも、どうにか立ち上がり逃げ出す村人を横目で見送るアリスの表情は険しい。
手応えが硬い。事前に聞いた通り、この屍人は猟兵に迫ろうかという力を得ているのは確かなのだろう。
それが、十に迫ろうという数で現れては、村人への被害を気にしながらの戦いは厳しいものとなる。
だが、逃げるわけにはいかない。
此処で逃げれば、あの村人たちは恐ろしい苦悶の後に命を落とすのだ。
そう、剣を強く握りしめるアリスの横から。
「ふむ、生きながら地獄を見て、死後もそれを利用される。哀れなものだ」
悠然とした、男の声。
アリスが見上げる視線の先、丁寧な仕立ての紅いスーツに身を包むシーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)の瞳は、いつも通りの穏やかな金色に染まる。
凄惨な戦。世界を渡り、多くを楽しむためにこそ生きるシーザーならば、驚くようなことでもない。
故に、不必要に怒りを燃やす理由はない。そして、こうして相対した猟兵として、その嘆きを終わらせてやることを厭う理由もない。
常夜の楽園を統べる赤の支配者が、ただそこに立つ強者として、己が魔力を滾らせる。
「地獄……かつえごろし、ですっけ」
一方で、幼い人形であるアリスにとって、飢えに苦しみ死んだ彼らに対する感情を定めることは、存外難しいものでもある。
村人を守るため、剣を振るう事に迷いはない。
けれども、自分では想像もできぬ苦しみから生まれた哀れな怪物へ、どのような覚悟で立つべきなのか。
自分たちへと向かってくる屍人は四人。考えている暇はないと、アリスは手に持った懐中時計を掲げる。
構築される結界、その半透明の魔力壁の向こうが、輝きで満たされ、時計にはめ込まれた結晶の一つが、光を失う。
既に攻撃は始まっている。
表情を引き締めなおしたアリスが、結界で複数の屍人を足止めした今が好機と、光剣を構えたシーザーが踏み込んでいく。
運よくアリスの結界から逃れた屍人の爪と、シーザーの剣が打ち合い、オブリビオンの腕が深々と斬り裂かれる。
振るう剣は剛力にして迅速。
邪悪を滅する神聖な魔力をも纏った剣は、屍人にとって天敵そのものだ。
そもそもが、怨念と飢えによってのみ突き動かされる屍人である。
確かな技術によって振るわれるシーザーの剣に、理性なきオブリビオンが大した抵抗ができるはずもなく、水晶には、どんどんひびが入っていく。
その様子に、アリスがわずかに安堵のため息を漏らす。
強力な前衛が一人ずつ倒していく状況を作れれば、負ける相手ではない。
今なお結界の中で瞬く閃光を、次々変わる属性の魔力で抑え込みながら、アリスがわずかに笑みを浮かべて。
ふと光が収まった時に見えた、二つの影に、その表情を凍らせた。
シーザーが一体を斬り裂き、自分が二体を足止めして。
最初に見た四人の屍人の、最後の一人は?
「おなかがぺこぺこ。ぐうぐう。ぎゅるるる。はらぺこはとーっっっても、つらいの。くるしいわ」
聞こえてきたのは、戦場に似つかぬ優しい声。
アリスが目を向ける先に立つのは、最後の屍人と、白髪の人狼、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)。
意味のないうめき声を上げる屍人に対して、親しい友を迎えるように広げる腕に、武器はない。
少女が悲鳴を上げる前に、有栖の柔らかな首筋に、飢えた死人の牙が突き立てられる。
「さっき、不思議そうな顔してたわね。いいのよ、それで。いくら喰らえど、満たされず。餓えは尽き果てることもなく……知らない方が、分からない方が、きっと幸せ」
「な、何を言っているの!? 早く振りほどいて!!」
何も大したことは起こっていない。
そう言うように、アリスへ穏やかに語り掛ける彼女の顔色はどんどん青白く。
不気味な咀嚼音と共に、有栖の命をつなぐ赤い血が、溢れるように流れ落ちていく。
「た、助けなきゃ……! でも、あんなに密着してたら……」
「ふむ、中々思い切った行動に出ているのだね」
狼狽えるアリスと対照的に、屍人の一人を斬り伏せたシーザーが、特に表情を変える事も無く有栖と屍人を見つめる。
けれど、その視線はすぐに外され、向ける先は残りの二体へ。
【ゴモラの禍殃(デウス・フランマ)】の紅蓮を燻らせる彼は、己がすべきこと、残りの屍人の対応へと、意識を切り替えていた。
「——どうしても心配なら、見守ってやることだ。あれも、一つの誇りの形だよ」
どうしよう、どうしようと繰り返す小さな少女へ、一声だけ言葉を投げかけたシーザーは、深紅の炎を、結界の向こうへと向けるのだ。
熱い。
痛い。
自分を作る命の熱がどんどん奪われていくのを、それでも、冷え切った屍人の身体にぬくもりが戻ることは無いのを、この上なく鮮明に感じる。
屍人が有栖の肉を喰らい、それでも尽きぬ嘆きの情を、有栖がその全身でひしひしと喰らう。
痛みを噛みしめるほどに、命を噛みしめるほどに。もはや戻らぬ彼らの命を、その最後を呑み込んだ、途方もない飢えを理解していく。
ただ、命を求めて噛みついてくる屍人の背を優しく撫でながら、有栖は腰に帯びた刀を抜き放つ。
刃に込めるは、意に非ず。
熱く、静かな“絶”の一念。
輝く【光閃】、月喰が。屍人の身体へ、するりと差し込まれ。
「――おやすみなさい」
「ふむ、近くの屍人はこの四体だけだったようだね」
「わふぅ……のこりは、ほかのひとの、とこね……」
「喋らないでっ! 傷はまだ塞がってないのよ!?」
残った屍人を燃やし尽くしたシーザーが、力なく横たわる有栖と、懸命にそれを介護するアリスの下へと戻る。
何故こんな事を。
幼く、それ以上に優しい人形は、困惑しながらも有栖の治療を進めていく。
「まあ、今回は君の意思を尊重したが、程々にだね。次もやれば、この小さな淑女は心労で倒れてしまうかもしれないよ」
「ごめん、ねぇ、心配かけちゃって……でも……」
首を振るのも辛いという様子の有栖は、申し訳なさそうに細めた視線でアリスへと謝り。
そして、もう一度力強い声で。
「次はないわ……させないわ」
骸の海へと還った死者たちにも聞かすように、誓うのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マリア・テミルカーノヴァ
……なんとも凄惨な戦いの被害者たちに、永い眠りを。
神様、この戦いの犠牲者の皆様をお救いください!!
今回の戦い方は島津名物、釣り野伏です。
エレクトロレギオンで召喚した小型の戦闘機械を後方に展開しておきつつ、自らが農民の群れから引き離し小型の戦闘機械の群れのところにおびき寄せるようにして戦います。水晶屍人にはかなわないという振りをして負けたように装いながら逃げる振りをします。知性の高くない水晶屍人なら、多分あっさり追ってくるでしょう。で、戦闘機械の射程に水晶屍人が入ってきたら全ての火力で以て飽和攻撃を行います。
戦闘終了後に、鳥取城の戦いの犠牲者に祈りを捧げつつ、農民たちのケアをします。
香月・赤兎
ふぇー、ゾンビがいっぱい…どうしてこんなとこ来ちゃったの私…
敵さんの容姿でちょっと怯んでしまったけど、出遅れてる場合じゃないね!
戦うことは苦手だけど晴明は嫌い!
あいつの思い通りにさせない為にも気合い入れ直して頑張るよ!
とりあえず、周りにいる農民のみんなにはちゃんと逃げてもらわないとね!
手持ちの弓で攻撃しつつ屍人の注意を農民から逸らさせるよ
他の猟兵さんと協力できそうなら援護射撃で応戦するね
私、おいしいもの食べることが大好きだから…
飢えて死んじゃうなんて本当に可哀想…
こんな酷いこと繰り返させちゃいけない…!
もう終わりにしよう!
鈴蘭の嵐で葬いを
せめてこれからは安らかに…
※共闘・アドリブ歓迎
鈴木・志乃
大丈夫
みんな、拾い上げるから
……(エンパイアウォー70戦越えで疲労がたたっている)
初手念動力で周囲の器物を巻き上げ屍人にぶつけ怯ませる
そのままタックルかまし転倒狙うよ
第六感で動きを見切り光の鎖を 食ませ縛り上げる(武器受け)
……多少のダメージは覚悟の上だ
抱き締めるよ(手をつなぐ)
祈り、破魔を乗せた全力魔法UCの衝撃波で安倍晴明の呪詛、邪法の一切合切をなぎ払い
踏み躙られた意志を一瞬でも……取り戻す
もう人を食べなくていい
誰かを呪わなくていい
無理矢理に動き回って
必死になってのたうち回らなくていいんだ
大丈夫、おやすみなさい
貴方も骸の海に還すから
……。
どうか、安らかに
●救えぬ者へ与える救いは
「ふぇー、ゾンビがいっぱい……どうしてこんなとこ来ちゃったの私……」
頭に生えるのは鮮やかな花、腰には鳥の羽根。
すなわちその姿はオラトリオ、香月・赤兎(赤い月・f03801)は水晶屍人のその恐ろしい姿にひるみながらも、果敢に弓を構える。
戦うことは苦手だ。恋にオシャレに可愛いものとおいしいもの、少なくとも、赤兎にとって、戦闘より素晴らしいものは山のようにある。
だけど、だけどだ。
戦うことは苦手でも、晴明は嫌いなのだ。
予兆に映ったその顔が多少イケメンだろうが、嫌いなものは嫌いなのだ。
だからこそは気合を入れなおし、弓にかけた指にも力を込める。
まずは、今なお追われる農民を救う為、屍人の注意を引くべきだろう。
「あいつの思い通りには、させないんだから!」
揺れる瞳で、それでも真っすぐに屍人を見つめる射手から、無辜の民を救う為の矢が放たれ始めた。
「……本当に、無理はなさらない方が。私たちも居ますから……」
「いや、大丈夫……大丈夫。みんな、拾い上げるから……」
マリア・テミルカーノヴァ(電子の海を彷徨う光・f00043)が気づかわし気な視線を送る先、鈴木・志乃(ブラック・f12101)は言葉を返しながらも、内心で苦笑する。
過労で青白くなった顔で、ふらふらとした足取りで、なんと説得力のないことだろう。
それでも、止まるよりは楽だ。
目の前で踏みにじられようとする彼らの生命を、既に邪悪の手に落ち、今まさに怪異として貶められている彼らの死を。
見なかったことにして止まるより、動き続ける方が、志乃にとっては楽なのだ。
「……ええ、わかりました。手筈は説明しましたよね? まずは、援護をお願いします」
その様子に、ふうとため息をついて。
志乃の説得を諦めたマリアは、赤兎の矢に穿たれ、農民から猟兵へと興味を移した3人の屍人を見やる。
色んな世界を渡って、色んな人と巡り合ってきたマリアは、見た目以上に深い経験と、それによる観察眼を兼ね備えていた。
この手の手合いは、言葉で止まるようなことは無いのだ。ならば、無駄に会話を続けるよりも、早く終わらせてしまった方が良い。
なによりも、マリアだって。
凄惨な死を遂げ、こうしてオブリビオンにその魂すら利用される彼らに対して、何も思わぬはずがない。
一刻も早く、彼らを眠らせてやることに、否やを唱える理由も無かった。
マリアの電脳魔術、宙を飛ぶ電子の弾丸が、屍人の水晶に弾かれる。
志乃が念動力で操る器物、多くは赤兎が放っていた矢とて、屍人は突き刺さったそれを意に介さずに、猟兵との距離を詰めていく。
骨と皮だけの身であれど、彼らは既に死者。
痛みも、恐怖も、彼らの足を止める理由になるはずもない。
攻撃を放ち、意に介さず追い立てられ、猟兵たちはじわじわと引き下がり、追い詰められていく。
その先に立つ赤兎は逃げることなく射撃を続けるが、だからこそ屍人との距離は縮まっていく。
そうして、3人の女猟兵は水晶屍人の脅威から逃れられずに。
「——今ですッ! 合わせて!」
「りょーかい、いっけぇー!」
目論見通りに、オブリビオンへと牙を剥く。
近くの茂み、猟兵と合わせ、屍人を挟撃するように現れるのはマリアの呼び出す【エレクトロレギオン】。
猟兵たちがこの戦争で目指す島原の更にその先、島津に伝わる釣り野伏。
マリアが2人に提案した囮で引きつけてからの包囲殲滅は、飢えで鈍った水晶屍人の知性で見抜けるはずもなく。
機械兵器の一斉射撃と、赤兎の【鈴蘭の嵐】の挟み撃ちで、その身体に多くの傷をつけられていく。
マリアの戦術もぴたりと嵌るが、同じく鮮やかに展開されるのは赤兎の花吹雪。
改めて語るが、彼女はおいしいものを食べるのが好きなのだ。
そして、晴明が嫌い。
飢えて死ぬなど、それだけでも悲惨な最期を遂げた彼らを再び起こし、都合のいい怪物として使役するその所業。
好けるはずもない、見過ごせるはずもない。
繰り返させていいわけがないその行いを終わらせるために、赤兎の操るユーベルコードが、強い意志の下に飛翔する。
満身創痍に崩れ落ちる水晶屍人。
既に、ユーベルコードを使わずとも、トドメをさせるだろう。
けれど、彼らはただの敵ではない。
農民たちの命を脅かす存在ではある。しかし、彼らもまた、信長軍にその死を弄ばれる無辜の民。
猟兵がそれに会ったのならば、それに相応しい倒し方、いいや、救い方があるはずだ。
屍人を縛り上げるのは志乃の光の鎖。
2人が弱らせてくれたおかげで、随分抵抗も少ない。
——そうでなければ、この身を多少喰らわせてでも、動きを止めるだけだったが。
それでも疲労からふらつく足取りで、志乃が屍人へと向かう。
止めるべきかと、一瞬赤兎がその背に手を伸ばすが、苦しむ彼らを救うのだと言われれば、それを引き留めるわけにもいかなかった。
「——もう、いいんだよ」
そして、志乃は抱きしめる。
屍人の身体を、絶望を、怨嗟を引き寄せ、その腕で強く抱き留める。
もちろん、危険極まりない行為だ。
事実、腕の中の屍人は、目の前の肉に喰らいつこうと、歯をがちがちと打ち鳴らす。
けれども、不意にその動きは弱弱しくなっていき。
もう人を食べなくていい、訪れる安らぎに飢えなど無い。
もう人を呪わなくていい、君たちの為の祈りが此処にある。
もう、苦しみながら動かなくていい、そうであれと望んだ者は、私たちが必ず。
「大丈夫、おやすみなさい」
志乃だけではない。
マリアも、赤兎も。
この場の誰もが願うのは、呼び起こされた哀れな彼らへの今一度、そして永遠の安らぎだ。
聖者としての志乃の聖光、【祈願成就之神子(オレンジ)】が伝えるその祈りが、飢えに突き動かされた屍人の呪いを、ゆっくりと解き解いていく。
そして、美しく、悍ましく輝いていた水晶に大きなひびが入って。
怪物ではなく、ただの死者に戻り、崩れていくその身体と共に、粉々に砕け散るのだった。
「遺体は、残らないんだね」
「彼らが亡くなったのは、あくまで骸の海の彼方、過去の事ですからね」
疲労により息も絶え絶えな志乃に肩を貸す赤兎と、マリアが語る。
屍人へと変じた彼らにしてやれることは、もうすべて終わった。
そして、今を生きる農民たちにも、刻まれた恐怖に対する心配りを。
できるのならば、屍人となった彼らが、ただの怪物で終わらせられないように。
それを果たして、初めて戦いが終わるのだ。
3人は、農民たちが逃げて行った方角へ、ゆっくり歩き始めた。
大成功
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幽草・くらら
飢え殺しについては知識としては知っています。
既に起きた事は仕方ありません、戦国の世である以上酷いとはいえ戦略の一つですし自分達が生き残る為にそういう事をしたという背景もあるでしょう。
ですけど、オブリビオンが……既に過去であるはずの存在がそれを利用して、剰え同じ事を引き起こそうとするのは許せません!
ブラシに【騎乗】し【ダッシュ】しながらの【空中戦】を挑みます。
空を飛び回りながら塗料による【範囲攻撃】や描いた炎による【援護射撃】を重ねます。
なんとなく屍であれば火を忌避するイメージがあるので、その通りであれば敵の動きを抑制できるかと。
隙があれば急降下し、直接炎の塗料を塗りつけます!
フォルク・リア
屍人が生者を襲い新たな屍人とする。か。
全く惨い事をする。
死が死を呼ぶのではなく、
死霊をも活かす死霊術を以って。生きるべき命を守って見せよう。
死霊縋纏を使用、霊は敵から隠れ
自身を中心に戦場を俯瞰、敵の動きや攻撃を観察しつつ。
自身は目立つ様に敵の前に立って引き付け
農民から注意を逸らす。
閃光や視界を奪う攻撃を受けたら
霊の視覚を用いて敵の動きを把握し
破魔の力を纏わせた
デモニックロッドでの魔弾(誘導弾で命中率を強化)や
影刃での残像を纏った斬撃で屍人を攻撃。
水晶の霊にも攻撃が有効であれば
屍人を攻撃するのに邪魔なものは攻撃して排除。
●荼毘に付す
餓え殺し、知識としては知っている。
既に終わった、歴史でしかないそれそのものについて、とやかく言う気はない。
酷い戦であっただろうが、あくまでも人と人との戦争で起こった話。殺さなければ殺される、自分たちが生き残るためには、手段を選ぶ余裕などなかったというのも、一つの事実ではあるのだろう。
「ですけど、オブリビオンが……既に過去であるはずの存在がそれを利用して、剰え同じ事を引き起こそうとするのは許せません!」
気弱な少女、幽草・くらら(現代のウィッチ・クラフター・f18256)はそれを譲れない。
生者同士の戦ならば、生き残った勝者から、また続くものあるだろう。しかし、骸の海から還ってきたオブリビオンにはそれすらもない。
絶望を、悲劇を作り出し、その後に残るものは、まさしく骸の山だけだ。
そんな恐ろしいものを、悲しいものを看過するなどできはしない。
怒りをも滲ませた悲痛な面持ちの魔女が、自身の相棒、大きなブラシへと跨り、空へと舞い上がる。
一方で、地を走る水晶屍人と、それに追い立てられる農民たち。
これまでの猟兵たちの活躍で屍人の数は減ってはいたが、それでも死と隣り合わせの逃走劇は、一般人でしかない農民たちの心身を大いに疲弊させていた。
足がもつれる、意識がぼうっと遠くなる。なにより、もはやこの恐怖に耐えきれない。
もう、げんかいだ。
「——全く惨い事をする」
だからこそ。
常人が抗えぬ恐怖にさえも、堂々と立ち向かう猟兵たちの姿は、この上なく勇敢な英雄として人々の目に映るのだ。
農民の逃走の邪魔にはならぬよう、それでも屍人たちの注意は引きつけられるよう不動に立ち尽くすのはフォルク・リア(黄泉への導・f05375)。
助けに現れた猟兵の姿を見て、僅かに気力を取り戻した農民たちが脇を抜けて逃げていくのを確認しながらも、フードに隠れた紫の瞳が、迫りくる屍人を静かに見据える。
フォルクは死霊術士、命なき者たちを自分の力として使役する術は、彼自身も扱う所ではある。
けれども、これはまた別だ。
死を持って死を呼ぶなどと、陰陽師の悪趣味な企みもここまでにしようじゃないか。
何故なら、自分が研究し、研鑽してきたこの力こそは。
「死霊をも活かす死霊術を以って。生きるべき命を守って見せよう」
静かに、そして術師としてのプライドを込めた言葉と共に、【死霊縋纏】は姿を現した。
空から流されるのは魔女の炎、黒杖からは冷たい死の魔力を纏った弾丸が。
2人の猟兵の操る魔術が、屍人を喰らい、その行く手を阻んでいく。
屍人ゆえの痛みを知らぬ身体は未だ健在だが、その意識を猟兵に引きつけるという意味では、十分に機能している攻撃だ。
おや、と。少しの誤算を修正しながら攻撃を続けるのはくらら。
鳥のように自在に空を舞うブラシを器用に乗りこなしながら炎を繰り出すにつれて、奇妙な発見に気づく。
死体は、生きた肉よりも乾いていて、燃えやすいもの。
だからこそ自分の炎は忌避するものと考えていたものの、実際にはその様子は見受けられない。
それどころか、若干ではあるが、炎の方へと近寄っていくフシすら見て取れた。
もちろん、それならばそれを利用して農民から遠ざけるだけなのではあるが、どういう事だろうと、くららは戦いながらも首を傾げていた。
その時だ。
「これは……! 上昇しろっ、目を逸らせっ!!」
「は、はい!」
先に気付いたのは、同じ地に立ち、呼び出した死霊との二重の視界でオブリビオンを見ていたフォルク。
その警告に、くららが反射的にブラシの先を天へと向け、駆け出した次の瞬間。
彼女の背後、地面から放たれるのは眩い閃光。
屍人の肩から生える水晶に住まう霊が、猟兵の視界を奪うべく放ったユーベルコードだ。
間一髪だ、空中で受けてしまったら、そのまま墜落していた危険すらあった。
フォルクの方は大丈夫だろうか、冷や汗をかきながら再び地表へ目を向けるくららの表情が、彼を見つけた瞬間に強張る。
フードをさらに目深に被り、その上から目の部分を抑える男の姿。
まさか、あの閃光を見てしまったのか。
フードの布地越しなら致命的なダメージは残らなくとも、あの光量を見てしまったら、しばらくは目が眩み、まともに物を見ることもできない筈。
そこまで思考したくららの視界の中で、よろめくフォルクに近づく1人の屍人。
まずい、此処からでは助けようにも炎に巻き込んでしまう。
屍人の鋭い爪が、男を引き裂かんと伸ばされて。
「……えっ?」
くららが見たのは、無残に倒れる仲間ではなく。
正確に、オブリビオンの腕をダガーで斬り裂き、難を逃れてみせたフォルクの姿だ。
理由としてはごく単純なもの。
生きた猟兵であるフォルクは、強い光を見てしまえばその視界は奪われる。
けれども、彼と五感を共有する霊は、既に肉体を失った霊に、そのような不都合な機能は備わっていない。
片方が潰されたのなら、もう片方で見ればよい話。
何日も、何年も。
ひたむきに魔術の研究を続けてきたフォルクであれば、自分の身体機能を霊に代行させるなど、呼吸をするように当たり前にできる事であった。
そして、霊の視界に集中することで。
過去を見通すその目によって、新たに見えてくる事実も存在する。
飢え、恐怖。
力尽きた同胞の肉を喰らい、自分もまたいずれそうなるのだろうという諦観。
霊の視界で見えるのは、屍人が生前に抱いた絶望の過去。
せめて、最期は人らしい食べ物を食べて死にたかった。
せめて、最期は未来を生きる誰かに看取られて死にたかった。
せめて、死ぬのなら、死んだ仲間を、自分を、せめて。
そこまでを見たフォルクは気づく。
瞬時に繰り出す魔弾で貫くのは水晶の霊。こいつが一番の、彼女が降りてくる上での、邪魔だ。
穿たれ、斬られ、それでも進む飢えた怪物の願いを。
この戦いを終わらせるための、眠らせてやるための、彼らの望みを。
未だ明暗する視界の中、空にいるだろう仲間へと、それを伝えなければならない。
「——来てくれ! 全部、燃やすんだっ!!」
「……そっか、この人たち、だから炎に! わかりましたっ!」
フォルクの援護射撃で生じる隙に、くららが一気に急降下して屍人へと接近する。
地に降り立ちながら、それまで乗っていたブラシを振るい、屍人たちに塗り付けるのは鮮やかな赤。
ユーベルコード、【爆炎の赤(イグニス・ルブルム)】により噴き出すのは深紅の業火。
魔女の呼び出す超高温の炎が屍人を覆い、その身体を焼きつくしていく。
されど、屍人はすぐには止まらない。
咄嗟に後ずさって距離を取った猟兵たちへ、燃え盛る彼らは、ふらふらと近づいていき。
「これ、は……」
「棺桶に入れて、お墓を作って、とまではいかないけどね」
まるで、尊い救いに出会ったかのように膝を折り、頭を下げた状態で蹲る。
そのまま、彼らすべてが骨と灰になるまでには、そう長い時間は必要ではなかった。
大成功
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