エンパイアウォー⑰~たゆたうセイメイ
●その男はただ只管に退屈であった
サムライエンパイアの戦も佳境に入りつつあった。
幕府軍はその戦力の大半を維持したまま関ケ原に集結し、島原は魔空安土城へと進軍しつつある。
迎え撃つは魑魅魍魎の跋扈する信長軍。そして伝説に名を残す魔軍将。
だがその中で彼は、冷めきった目でその戦況を俯瞰していた。
「小太郎も富子も逝きましたか……」
その言葉には何の感情も無い。ただ淡々と事実を反芻するだけ。
そも、彼にとって戦の推移など、さして興味のあるものではなかった。
「此度の私の目的は、ただ「持ち帰る」事のみ。この世界はよく「似て」おりますゆえ、「業(カルマ)」の蒐集も興が乗りませぬ」
……否。彼は緩く頭を振る。
そうではない。
ただ、飽いているだけだ。
不死で、繁殖もできて、生存の為のエナジーも必要としない。そのような存在になり果ててしまった己を、他ならぬ己自身が。
これでは、賽も振らずに勝つようなものではないか。
はてさて、この後どうしてくれようか。
戯れに、山陰を屍人で埋めてみるか。
それとも、コルテスが崇める神の偽物でもこしらえて、信長の後釜に据えてみるか。
「それらを全て行ったとして。猟兵とやらの怒りは、果たして、どれほど私の心を動かすものやら……」
成果に期待して良いものかはわからない。
ただ、彼――安倍清明にとって、この世はこれくらいしかやることが無いのもまた、事実であった。
●屍王拝顔
「皆さん、連日の戦闘お疲れ様です」
グリモアベース。卓上に広げられたサムライエンパイアの大地図には、幾つもの駒が現在の戦況を逐一表している。
その駒の一つを弄りながら、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)が猟兵の顔を見渡した。
「皆さんのサバイバルでの戦果により、陰陽師……安倍清明の所在が判明しました」
安倍清明。
その名に聞き覚えのある猟兵も多かろう。
奥羽に出現した……そして、今なお鳥取城近辺にて猛威を振るう、水晶の生えた屍人。
それらの脅威の元凶と目されている男の名だ。
「戦場は鳥取場内。『戦国時代に鳥取城で餓死した人々の怨念』が渦巻いている……という情報もあります。
まぁ、だからこそあのような屍人の作戦が決行されたのでしょうが……霊感の強い方は、少し居心地が悪いかもしれませんね」
話が逸れた。
コホンと一つ咳ばらいをしつつ、シャルは続ける。
「私が予知したのを見た限りでは、何を考えているかわからない、底知れない男のように感じます……。今回の進軍において、必ずしも撃破しなければならないとは限りませんが、後顧の憂いを断つためにここで仕留めておくことは、決して無駄にはならないと思います」
ただし、魔軍将に名を連ねる存在。
単純な実力としても相当なものであることは疑いようもない。
「奇襲はほぼ不可能……まず相手の先制攻撃を許すものと考えてください。何の対策も無しに乗り込めば返り討ちは否めません。
みなさん、くれぐれも入念な準備の上、突入をよろしくおねがいします」
では、ご武運を。
緊張の色を孕んだシャルの声と共に、グリモアが光を帯び始める……。
ふねこ
TW4からこの世界に入った身としては随分と懐かしいものがあります。ふねこです。
実は初のサムライエンパイアシナリオがこれと言うね。
今回は特にタイミング等は明記せず、書けるタイミングで書きます。
また、最低限もしくは少なめの人数で完結の予定となりますので、ご了承くださいませ。
以下、補足情報となります。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
とまぁ戦争ですのでこんな具合です。
皆様のご参加、お待ちしております!
第1章 ボス戦
『陰陽師『安倍晴明』』
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POW : 双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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ガルディエ・ワールレイド
自分自身に飽いてるんなら、そのまま退場しな
この世界を巻き込んでんじゃねぇよ!
◆戦闘
武装は《怪力/2回攻撃》を活かす魔槍斧ジレイザと魔剣レギアの二刀流
・対双神殺
武器に《破魔》の力を纏わせ、呪詛へ対抗
攻撃を《見切り》、《武器受け》で防御するのが基本
《念動力》で妨害し剣速を鈍らせる
二撃目発動を許してしまったなら即戦闘不能だけを避ける
瀕死なら許容範囲だ
武器受けで急所への攻撃だけは反らし《オーラ防御》で耐え《気合》で意識を保つ
・反撃
瀕死ならば【騎士の再臨】使用(瀕死で無い時は《捨て身の一撃》を挟む)
俺に余力が有れば、倒れる間近に一撃を入れて騎士を援護
現れる騎士は白銀の鎧と大剣を装備
本体と同じ技能で戦闘
スサノオ・アルマ
セイメイ、なんだかなつかしいひびきだ
でも、お互いはじめましてだから
あまり話すこともないよね
すこしだけ言葉をおくろう
長く生きたり、存在することにあきてしまったときは
しばらく眠るといいよ
きっと次は景色がかわってるさ
※ ※ ※
清明のチェーンソーに対し防御行動をとりません
無抵抗で攻撃を受けて、その後にユーベルコードを使用します
【転生】
切り裂かれた肉体を捨て、生まれ変わった体で清明へ噛みつきましょう
そして噛みついたまま破魔の炎で敵を焼きます
狼の口で人語を話すのが不慣れなので
あまり喋らず、ひらがな多めになります
アドリブ、連携などは大歓迎
採用が難しければ遠慮なく流してください
白斑・物九郎
●POW
・対先制
徒手空拳のナリで堂々進入
『砂嵐の王(ワイルドハント)』白斑物九郎、邪魔ァしますでよ
チェーンソー一太刀目が来たら、出し抜けに魔鍵を虚空から取り出す【早業】
実はデカくて固い得物を持ってたっていう【だまし討ち】ですわ
【野生の勘】全開で、魔鍵で【武器受け】
受けたらそのまま手首を返して、チェーンソー先っちょの上部、刃の順回転が「下り軌道」に入り出す辺りに鍵先端パターン部を噛ませて、チェーンソーが使用者に跳ね返るあぶねー現象「キックバック」を誘発してやりまさァ
・反撃
(理性による狩猟本能の【封印を解く】
【怪力】で振るう魔鍵で、常に動作せざるを得まいチェーンソーの出端を即迎撃し抜く魔人と化す)
「『砂嵐の王(ワイルドハント)』白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)、邪魔ァしますでよ」
「……ほぅ?」
本来は城主が座していたのであろう、広い畳張りの部屋。
そこに踏み入ってくる三人……いや、正確には二人と一匹か。それらを見た時、清明はひとつ、感嘆の吐息を漏らした。
「存外、早い御着きで、猟兵とやら」
意外と己は彼らに興味を持たれているらしい。ひとまずは喜ばしい……ということで良いのだろうか。
だが、問題はこの後だ。彼らは己の空虚を埋めるに足る存在や否や。
その今一つやる気に欠ける、胡乱げな態度は、猟兵の神経を逆撫でするには十分足るものであったことだろう。
「自分自身に飽いてるんなら、そのまま退場しな。この世界を巻き込んでんじゃねぇよ……!」
少なくとも、ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)にとってみれば、戯れに悲劇と混乱を望むその在り様は許せるものではなかったに違いない。
「可笑しなことを仰りますな。己に飽いているのであれば、悦楽を周りに求めるのは至極当然では?」
「てめぇ……!」
「まって」
ぎり、と槍斧を握る手に力を籠め歯噛みするガルディエを、残る一匹……スサノオ・アルマ(遍く照らせ・f16425)が小さく制する。
「獣……いえ、犬神の類ですか。これはまた……」
「セイメイ、なんだかなつかしいひびきだ。でも、お互いはじめましてだから、あまり話すこともないよね」
ある種、ヒトならざる者同士。もしかしたら、はあったのかもしれない。
だが、それもはっきりとはわからないし、何より今こうして相対している以上は、オブリビオンと猟兵という関係性でしかありはしない。
そして、そう言うことであるならば……。
「『狩る』だけでさ」
「……だな」
それ以外には何もない。
物九郎とガルディエの短いやり取りを境に、戦いの火ぶたが切って落とされる。
畳を蹴る猟兵、三。生気に欠けた瞳で清明はそれを流し見る。
一人は重装、一人は丸腰、そして残るは一匹の犬神。
「ならば、貴方から参りましょうか」
清明の双眸が、ガルディエを捉えた。振り下ろされるチェーンソー剣を、ガルディエが斧槍の柄で受け止める。
軌道は読めた。剣速も見切れぬほどではなかった。しかし。
「な、ん
……!?」
清明の体格はどちらかと言えば細身だ。優男、と言って差し支えなかろう。
だが、それに反して押し込まれる力が、想像以上に強い。思わず剣を握ったもう片方の腕をも、斧槍の柄の支えに使わされる。
ガルディエは両腕を塞がれた失態を悟るも、すでに遅い。
脇腹にもう一本の電動鋸が突き入れられる。高トルクで回転する鋸刃が板金鎧を削り砕き、肉を蹂躙し、鮮血が無秩序に散る。
――嗚呼、つまらない。このまま力を込めれば胴を別つことも容易いだろうが、それではつまらない。
さて、どうしてくれようか。そう考える清明の視界の端に、白いものが映る。
なんだと訝しむ必要すらない。ガルディエの脇腹から鋸を引けば、身を翻す一撃で『それ』を切り伏せる。
清明の頬を、また一つ朱が彩る。
視界の横を慣性のままに落ちるスサノオの身体。その横で崩れ落ちるガルディエの身体。
二つ。
嗚呼、何と呆気ない事か。
「期待外れでございましたか」
振り返った先には、突っ込んでくる丸腰の甚平姿。それを見やる清明の瞳には、明らかな失望の色が浮かんでいた。
間合いが遠い。いかに目の前の物九郎がどうしようと、彼の拳よりも、己の刃の方がどう考えても先に届く。
やれやれとため息をつき、物九郎の頭上目掛けてチェーンソーの剣先を振り下ろし、そして……。
「……っ!」
その剣先が、跳ね上がった。
キックバック現象。固いものとチェーンソーの刃先が噛んだ時、それが断ち切れなかった場合に反作用で逆方向への強烈な力がかかる。
……要因は二つ。
ひとつは、ガルディエとスサノオを沈めたことで清明の心に少なからぬ油断が生じたこと。
もうひとつは、物九郎を今の今まで丸腰と思い込んでいたこと。
どちらかでも欠ければ、この結果は起こらなかったであろう。
「ザ・レフトハンド――ON」
物九郎が手に握るのは、巨大な鍵。じわり、浅黒い皮膚に白く禍々しい紋様が走る。
魔人降臨……その力は、『発動を成立させ』『相手に後手を強いらせた』今となれば、決して清明相手にも後れを取るものではない。
思考のタイムラグを吹っ飛ばす。脊髄反射で身体が動く。
放たれる鋸刃を片っ端から迎撃する。
「これは、これは」
幾重にも放つ斬撃を弾かれながら嘆息を漏らす清明の身体が、突如大きく傾いだ。
その足元では、純白の犬神がその牙を突き立てており、そして。
ばきりと固いものが砕ける音。
清明の脇腹から、先の意趣返しのように伸びる大剣の刃。
驚きに目を見開いた清明がその先を見やれば、そこにいたのは白銀の騎士。
ガルディエも、スサノオも、先に切り伏せたその身体はそこに在るままで。
しかし、完全に砕き散らしたのでなければ、騎士はまた立ちあがるし、陽はまた登る。
ただ、それだけの話。それは、決して肉体に縛られた話ではないのだから。
「さがろう」
「ン。……スサノオ、あっちの身体は?」
「いい」
「オケ。にーさんは俺めが運びまさ」
大剣を引き抜かれた生命がたたらを踏むさまを見やり、スサノオも突き立てた牙を離す。
白銀の騎士もそのやり取りが聞こえたのだろうか、言葉は発さずとも清明と猟兵の間に割って入るように立ち、肩を借りたガルディエ本人も、掠れた声ながら小さく感謝の声をあげるのを物九郎の耳が捉えた。
被害は、ある。だが、一矢は報いた。十分と言えよう。
清明が切り伏せた銀騎士がふわりと霧散していく頃には、三人の姿は清明の視界からはすっかりと消え失せていた。
「……これは、存外」
後に続く言葉は無い。
ただ、脇に穿たれた傷を撫でる清明の瞳には、先には無かった幾許かの感情が宿っているようにも見えた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
パル・オールドシェル
死者を弄し戯れに生命を奪うもの。
野望もなく理想もなく、怨念すらも持たぬ虚無の悪意。
其はかつて我らが仇敵であった銀河帝国にすら劣る邪悪です。
なればこそ、人類生存圏の守護を任じられし人造神の偶像たる私と我が艦隊がこそ、その打破の先陣を切る人々を守護する役目を担うもの。
盾受けで味方を庇い、五芒符による攻撃から友軍を守ります。
我が身が朽ちようと、一人でも多くが先に進むことこそ我らが勝利。
そして私は祈りましょう。星々の下、空虚な悪意に涙を流すひとがありませんよう。
私の、いいえ徳川の世を愛する全ての人々の願いと祈りが、かの法師と彼が使役する怨念を封ずる礎となりましょう。
ユナ・アンダーソン
なんか不気味な奴ね
あの敵からはなんの熱意も感じないもの
空虚感すら感じる
……でも、死者を冒涜するのは聖人として看過できないわ
強敵なのは確かだし切り替えていかなきゃ
戦闘
第六感で攻撃を予知し範囲攻撃を応用して星者の光を範囲化
激痛耐性とオーラ防御、かばうで敵の先制攻撃から攻撃から皆や自分を守ります
私が皆を護ります
体勢を立て直して!
先制攻撃を凌いだら優しさ、祈り、精神攻撃、存在感、誘惑、範囲攻撃を用いてUCを発動
溢れ出てきた怨霊に救済と安らぎを与えて無力化
さぁ、その身を私に委ねて
大丈夫、あなた達の全てを救ってあげる
晴明に隙が出来たら大鎌で攻撃し断頭
これ以上、死者を冒涜しないで
アドリブで他の方との絡み歓迎
向坂・要
こりゃまた随分と名前に似合わねぇ歌舞いた格好で
なんて嘯きつつも油断せず
第六感も生かして俯瞰的に全体を捉えつつ相手の攻撃をUCで呼び出した溶岩の狐で見切り、迎撃を試みますぜ
成功してもしなくても破裂しあちらさんやその周囲の大地に降り注ぎ視界を少しでも塞げりゃ重畳
本当の狙いはこっち
炸裂した溶岩は降り注いだ部分からカウンターの要領でトゲと毒のルーンを宿し敵を貫かんと大地を巻き込み変化する
全力の属性攻撃で歓迎しますぜ
絡み アドリブ歓迎
油断は無かった。雑念が混ざったつもりも無かった。
死者を冒涜し、戯れに生命を奪い、弄ぶ者。
それでいて、不気味な奴だと思った。
熱意の感じられない、空虚な瞳。
野望もなく理想もなく、怨念すらも持たぬ虚無の悪意。
そんな奴に負けることは、許されない。
今を、徳川の世を生きるすべての人々のため。その心に、一片たりとも揺らぎはない。
パル・オールドシェル(古き戦友・f10995)とユナ・アンダーソン(星骸のスティグマテイカ―・f02647)。
五芒星が描かれた清明の札の矢面に立つ二人の意思は、決して弱いものではなかった。
こと、意志薄弱とも見て取れる清明とは比べるべくも無かったであろう。
しかし、それでもなお、二人は押されていた。
直接の攻撃こそ、自らの放つ光で、エナジーで、防ぎきってこそいたが、溢れ出て止まらない怨霊は、確実にその場全体を蝕みつつあった。
「く……っ!」
ユナが歯噛みする。
怨念を奪い、浄化することは聖者である彼女の得意とするところであるが、それでもなお、それは受け止めきれるものではなかった。
「当然の摂理でございます。恨みはらさで、平穏など受け入れられるものでもありますまい」
「これ以上……死者を冒涜しないで……!」
「冒涜など。そちらの自己満足の正義感でものを仰っているだけでしょうに」
やれやれと、出来の悪い教え子に物を教えるかのように肩を竦める清明の態度が、余計にユナを腹立たせる。
「聞く耳を持つ必要はありません」
そんなユナの内心に気付いたのか、軋みをあげる大盾の向こうでパルが声をかける。
我々の役目は、皆を守り、切り拓くための盾となること。
一人でも多くの猟兵が清明へ斬り込むための先陣。それこそが役割であり、呑まれては相手の思う壺なのだと。
かつて、理想と生存権をぶつけ合った仇敵。
かの銀河帝国にすら劣る邪悪である、信念無き悪意。そんなものに負けるわけにはいかない。
「嗚呼……心地よいエナジーの響きにございます」
そんな二人の様を、どこか満足気に清明は眺めていた。目の前のものを見れたことに対する満足感。
逆に言えば、それ以外の色はその瞳にはない。
――少しばかり、その業を集めておくのも悪くないでしょうか。
もう一枚、札を取り出し、二人目掛けて投げつける。今度こそ、その悪意を以て圧し潰すために。
……だが、次の瞬間。パルとユナの後ろから、その札目掛けて紅く燃える何かが跳んだ。
それは、マグマの身体を持った狐だった。
溢れ出る怨念と、燃え盛る灼熱がぶつかり合い、爆ぜる。
「こりゃまた随分と名前に似合わねぇ歌舞いた格好で。……お二人さん、無事ですかい?」
そうやって二人の後ろから歩み出てきたのは、向坂・要(黄昏通り雨・f08973)。
放たれた溶岩の狐も、彼の手によるものだった。
降り注いでくるいくつもの溶岩片を避け、距離を取る清明を見やりながら、要は二人に退くように促す。
「お前さん方も、これ以上の盾役は限界でしょうに」
「で、でも……!」
「受け持ってくれたおかげで、こっちも動けたんですよ。ほら、今のうちに」
事実、要単騎であれば、ユーベルコードを発動させる暇も無く、怨念の物量に押し込まれていたことだろう。
それを許さず、発動までこぎつけたのは間違いなく二人の戦果であり、それは今こうして、襲い掛かる溶岩が一時的にでも声明に防戦を強いるという結果として実を結んでいた。
「……退きましょう。目的は果たせました」
だからこそ、パルもそれに異論は挟まなかった。
戦列を離れていく三人。
遠のいていく清明を見やる視界の端で、要は他の猟兵が斬り込んでいくのを確かに見た。
「(それじゃ、後はお任せしますかね)」
有効打、という意味で言えば確かに与えることはできなかっただろう。
しかし、全体を俯瞰してみれば。
確かに彼らの働きは、戦局を動かす一手たり得たと、そう言っても偽りにはならないだろうと、要はそう確信していた。
苦戦
🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
オリヴィア・ローゼンタール
他のオブリビオンと違い、あなたには奇妙な違和感を覚えます
ですがそれは、我が槍を止めるに能わず
むしろその水晶の身体を砕きたくて仕方がない
強化された【視力】でチェーンソー剣の軌道を【見切る】
片方を【聖槍で受け】流し、もう片方の剣の腹をガントレットで殴って逸らす(グラップル・カウンター)
空いた胴をグリーブで蹴り飛ばす(踏みつけ・吹き飛ばし)
この世界に似つかわしくない武装……何者なのです!
【転身・炎冠宰相】で真の姿に変身
【属性攻撃】【破魔】で聖槍に聖なる炎を纏う
【怪力】を以って縦横無尽に斬り打ち穿つ
【投擲】【槍投げ】【鎧砕き】で防御ごと水晶の身体を穿つ
その邪悪な企みごと……打ち砕く!
唐草・魅華音
目標、安倍晴明。排除できずとも次へつなげる一手は紡ぐ。
相手の攻撃、全てを凌ぐのは極めて困難と判断。賭けだけれど、2撃目重視で凌ぐのを試みるよ。
【戦闘知識】で攻撃の軌道を予測。その後1撃目のダメージを抑えるため、【ダッシュ】して近づき間を外し、1撃目にあえてぶつかり振りぬかせないようにする。そして2撃目を【見切り】刀で【武器受け】、【ジャンプ】して自ら飛んでダメージを抑え込むよ。
(UC発動時でも同様に)反撃は【ロープワーク】して飛び回ったり【スライディング】【ジャンプ】と多彩に動き回ってヒット&アウェイを狙うよ。
(UC発動)「……隊長、先輩。教えてもらった事を生かせず…無念です」
アドリブ共闘OK
パーム・アンテルシオ
あなたの退屈も、失望も。喜びも、楽しみも。
私には、何もわからないけれど…
あなたが人に…この世界に、危害を加えるなら。
それは、人にとっての悪。だから、私はあなたと戦う。
…全身の気を、一つに集めて。宙に、留める。
私の誘惑の力を、全て預けて。
ただの気の塊じゃ、盾にも囮にもならないけど…
それが、彼を誘惑したら?
ユーベルコード…山丹火。
人は、警戒しているものには、惑わされない。
けど…その逆は。
大きな炎の槍。目立つ私の存在に、注意を向けてくれたら。
気から漂う力が、静かに彼を誘い、惑わせる。
その刃を、無意識を、誘い込む…!
…気を手放したら…私の守りは、ほぼ、ゼロになる。
一か八か。これが、戦場に立つ覚悟だよ。
違和感があった。
予兆の時から燻っていたそれは、今こうして実際に目の当たりにすれば、よりはっきりと感じる。
こいつは、他のオブリビオンとは『何か』が決定的に違う。
それは恐らく、心の在り様なのだと思う。
どこか諦観に似た、物足りなさ。
だが、それを理由にこの安倍清明という男を見逃すほど、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は甘くない。
「他のオブリビオンと違い、あなたには奇妙な違和感を覚えます。……ですがそれは、我が槍を止めるに能わず」
「ならば、如何なさいますか?」
「その水晶の身体、砕かせてもらう」
「貴方にできるのでしたら、どうぞ」
抵抗するにしても、その行為自体を止めるでも無しに、清明の顔は変わらない。
その何一つ変わらぬ、感情の読めぬ表情のまま……清明の上体が傾いだ。
来る。オリヴィアが槍に力を込め直すのと、唸りをあげるチェーンソー剣が付き出されるのはほぼ同時。
速い。が、かろうじて目で追えた。耳障りな音を立てて、槍の柄の上を鋸刃が流れていく。
逆の手から、もう一振りの鋸刃が振り落とされる。
初撃は外側に流した。応じられる。
左手。ガントレットに覆われた裏拳を刀身の腹に叩き込み、強引に弾き飛ばせば、清明の両腕は左右へと大きく開かれることとなる。
胴、空いた。
オリヴィアはがら空きとなった清明の腹目掛けてグリーヴを突き入れようとし……その脚が大きく弾き上げられた。
「なっ!?」
清明がそのわずかな間隙でオリヴィアの蹴り足を蹴り上げたのだ。ぐらりと傾ぐオリヴィアの視界の中で、残念でしたと言わんばかりの清明の顔が見えた。
「オリヴィアさんっ!」
追撃に振るわれる鋸刃は、しかしオリヴィアに落ちることは無かった。
側方から全速で突っ込んでくる唐草・魅華音(戦場の咲き響く華・f03360)刀の一撃が割り込んだのだ。
清明もそれが見えていたのであろう、即座に振るおうとした刃を返し、魅華音の刃と打ち合わせに行く。
弾く。響き渡る金属音。
オリヴィアがその間隙に間合いを離すのを見て取るや否や、もう一撃撃ち込みに行く。
走る。狙うは清明の間合いの内側。チェーンソーの一撃が肩を浅く抉っていくのにも構わず肉薄する。
一撃目は、次にくる本命への布石ということはわかっていた。真に防ぐべきはそちらだと魅華音は感じていた。
決して間違った判断ではなかったであろう。
……初撃のダメージを負った状態で受けきれるものか、その一点を除いて。
横薙ぎに払われる二撃目を刀で受ける。ぎゃりぎゃりと耳障りな音とともに火花が散る。
飛び退いて勢いは殺したはずだった。だがそれでもなお防ぎきれぬ剣圧が、誤魔化しようもない痛みになって魅華音の肩を襲う。
刀を握る手が、弱まった。
動力鋸の回転に弾き飛ばされた刀が宙を舞い、それでもなお止まらぬ刃が魅華音の胴を逆袈裟に引き裂く。
「か、は……っ!」
「魅華音さんっ!?」
鮮血を散らしながら畳を転がる魅華音にオリヴィアが駆けよる。
……大丈夫、息も脈もある。致命傷には至っていない筈だ。
安堵のため息を一つ漏らして、清明を見やる。
追撃の気配はない。ただチェーンソー剣の先端を突き付けて、こちらを見据えているだけだ。
「この世界に似つかわしくない武装……何者なのです……?」
「聞けば答えるとお思いとは、些か甘い考えと存じます」
サムライエンパイアという世界においては時代錯誤も甚だしい、二振りの動力鋸。
他世界から渡ってきた猟兵ならいざ知らず、高名な陰陽師が選ぶ武装としては、間違いなくおかしいと言い切れる代物である。
だが、それも謎は謎のままで終わらせるつもりらしい。問答は無意味、と言ったところか。
――ならばただ、討つべき敵として滅ぼすまでの事。
オリヴィアの身が、黄金の炎に包まれる。その中にあるのは、白き翼を備えた破邪の天使。
そしてもう一つ……紅の焔が、戦場に舞い降りる。
「あなたの退屈も、失望も。喜びも、楽しみも。私には、何もわからないけれど……」
あなたが人に…この世界に、危害を加えるなら。それは、人にとっての悪。
だから、私はあなたと戦う。
そう口にして、ふわりと豊かな九尾を揺らす、小さな妖狐。
その手に炎の槍を握りしめたパーム・アンテルシオ(写し世・f06758)が一歩一歩、しっかりとした足取りで畳を踏みしめる。
だが、その槍の構えは明らかに慣れていない者のそれ。
同じ槍使いのオリヴィアが見れば、それは一目瞭然であり、それでありながらここに立つのは無謀のようにも思えた。
しかし、その視線を受けてもなお「大丈夫」と返すパームの顔は、確かな決意を湛えており、そうなればオリヴィアにも止める理由は無い。
「……よいでしょう」
そして、清明もまた、改めての獲物をパームへと定めた。
足を肩幅に。穂先を前に。ただ形だけの、心もとない構えのパームに、唸りをあげるチェーンソーの刃が迫れば、防ぐにしても槍はあっけなく弾き飛ばされ、パームの姿勢は崩れるだけ。
守るもののなくなった彼女へと無慈悲な二撃目が落ちようとし
......しかしそれは、何もない空間を切り裂いていった。
ちらりと清明が視線を移したその空間。傍目には、なにも無いように見えたかもしれない。
だが、何か。その一瞬だけ、何かの強烈な存在感を察知していた。
気のせい?いいや、それで済むようなものではない。
その答えは、尻餅をつきながらも勝ちを確信したパームの表情が雄弁に語っていた。
――錬気。オーラ、フォース、エナジー。呼び方は人によって違えど、総じて『気』と呼ばれるもの。
強い誘惑の力を持つパームの気質を、練りに練って解き放ったものがそこに在った。
身を守る力すべてを放出して、他ならぬ自分自身を餌にした、清明の意識の外からの行動阻害。
一つ間違えれば無防備な自信が切り伏せられることも承知の上での、捨て身の覚悟のうえでの一策。
それでもなお、一撃。一撃を逸らすだけで精一杯。種さえ割れてしまえば今のパームには後はどうすることもできない。
だが、パーム以外にとっては、その一撃の隙さえあれば十分だった。
改めて振り上げられた清明の右腕に、強烈な衝撃が襲う。
その腕には、煌々と黄金の炎を湛えた槍が貫き、その上で畳に縫い付けていた。
オリヴィアだ。
清明が何を企んでいるかは存ぜぬが、そうであろうとそれごと打ち砕かんと放たれた渾身の投擲が、清明の腕を貫いたのである。
「……ガッ!?」
清明の苦悶の声が上がった。
槍のせいではない。また別の一撃。
無数の刀が、清明の腹を何本も貫いている。
それは、亡霊のようにも見えた。だが、この鳥取城に蠢く怨霊たちとは違う、もっと別の戦士たち。
「まだ……倒れられない……」
魅華音の掠れた声。
己の肉体は、かつて教えてもらったことを活かせずに膝をついた。
だが、その意思は決してまだ折れず。それが、彼女に寄り添うかつての戦友たちの魂を呼び起こし、彼女に代わる刃となる。
そして……ついに、それらが清明の身体に届いた。届かせてみせたのだった。
成功
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ナンシー・アラタメ
「よう、セイメイ、晴明、安倍晴明!
私はお前を倒しに来た……というのは嘘だ。
俺はお前に言いに来た。『愛してるぜ』と言いに来た。聞けェ!」
飛来した五芒に『深紅の薔薇』を投げつけ相殺すると、愛の炎を燃え上がらせる。
周囲に溢れる業の怨霊を愛によって受け入れるためだ。
「愛してるぜ、お前ら。一緒に行こう。悔しい過去も叶わなかった願いも、俺が代わりに叶えてやる。集まれ――!」
愛は全てを受け入れる。
怨霊たちの感情はナンシーの力になるだろう。
「晴明。生きてるだけでつまんねえと思ってるか?
だったら死ぬまで付き合ってやる。お前の退屈を受け入れてやる。
もう一度言うぞ」
「愛してるぜ、セイメイ!」
アウレリア・ウィスタリア
その五芒符、あえて受けましょう
ただまともに受けるのは不味いので
身体の周囲に血糸と包帯を結界のように纏っておきましょう
攻撃を受けたのなら【空想音盤:苦痛】を発動
受けた痛みをその身に纏い
魂の奥底にある想いを燃料にセイメイを滅ぼす
魔を討つ
それはボクの得意分野です
破魔の魔銃、邪なるものを撃ち抜け
魔銃を放って牽制しつつ接近
近距離に入り込めば鞭剣を振るって切り伏せる
なんならその首、私の鞭剣で切り裂いてしまいましょうか
この鞭剣さえも目眩まし
全身から流れ出る血
これがボクの最大手
鞭剣の影で血糸を張り巡らせ
クモの巣のようにセイメイを捕らえましょう
さぁ、この世から消えてなくなれ!
「満身創痍でありながら、これほどとは……!」
全身を業(カルマ)の呪詛に蝕まれながら、アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)は歯噛みする。
まったくの無防備で受けたわけではない。防御手段は用意していた。
血のにじんだ包帯が呆気なくはらりと畳に落ちる。致命傷にならなかっただけまし、と思うしかなかろう。
膝をつく己を冷ややかに見下ろす清明の水晶の身体には、幾重にも亀裂と風穴が刻まれている。
それなのに、その表情には苦痛も怒りも感じられない。
あぁ、この人は本当に何も感じていないのだろう。
自身の身体にさえこれほどに無頓着なのだから、この鳥取城に蠢く数々の怨念も、使役するという行為に何も感じないのだろう。
……だからこそ、こいつは叩く。
「!……ほぅ、そこまでの怨念を浴びながら、ここまで動けますか」
「慣れてますから」
清明が感嘆の息を漏らす。
傾げた首、頬を掠めて行った銃弾。言葉少なに応えるアウレリアの手にはしっかりと一挺の魔銃。
肌に刻まれた幾重もの拷問の痕。……そう、苦痛には慣れている。
理不尽を身に受け続けた痛みも苦しみも……そして恨みも、アウレリアはよく知っている。
だから、やれる。
苦しみの中で死してなお、こうして理不尽に使役される鳥取城の怨念も、一緒に連れて。
鞭剣がしなる。
清明の動力鋸を絡め取れば、清明はそれごと振り抜くようにアウレリアを投げ飛ばし、清明の五芒札が飛べば、血反吐を吐きながらもその呪詛を、更に血肉に乗せる。
「よくやるものですが……」
首を狙って放たれた鞭剣の刃に身を翻しながら呟く清明の言葉が途切れた。
その腕の、身体の動きが、止まった。
「これがボクの最大手
……。……ようやく、捕らえましたよ」
血。
幾重にも業によって刻まれた傷から流れ出した、アウレリアのそれを、魔力によって編み上げた紅い糸。
清明自身も、幾多の猟兵の返り血を浴びたせいで、今の今まで気づけなかったのだろう。
呪詛によって補強されたそれが、清明の身体を今、完全に捉えていた。
「ずいぶんとまぁ、身を削った芸当をなさるものです。一体何があなた方をこうまで突き動かすのやら」
「教えてやろうか?」
ざり、と畳の擦れる音が響く。
清明のその問いに声をかけたのはアウレリアではなく、もう一人の新たな猟兵であった。
白いスーツに、燃えるような特徴的な長髪を戦場の風になびかせて。
ナンシー・アラタメ(愛の革命家・f00736)が、困惑げな清明に指を突き付け、宣言する。
「『愛しているから』だ」
「愛ですと?」
あぁ、そうだと迷うことなくナンシーは首肯する。
自分はすべてを愛している。
誰を彼をも愛している。それに幾許の例外も無い。
猟兵?この世界の人々?そんなのは当然だ。
清明の符によって切り裂かれた傍から溢れだす幾多の怨念たちであろうと、それこそ清明自身であろうと、例外は無い。
今まさにナンシーを蝕んでいる筈の怨念たちも、彼女は総てを受け入れる。なぜなら皆を愛しているから。
悔しい過去も叶わなかった願いも、すべて受け入れる。代わりに他ならぬ自分が叶えてやるために。
「だから俺は、『私はお前を倒しに来た』なんてことは言わない」
代わりに言うのは『俺はお前を愛している』。
愛しているからこそ、思いをぶつけるし。愛しているからこそ、間違っていることは己の身を賭してでも止めてみせる。
「お前も結構キッツいだろ?安心しな、お前の気持ちも一緒に乗せてやる」
清明の身を封じるアウレリアにウインク一つ。
魔を討つべしという、彼女の想いも己の炎に取り込んで。
「晴明。生きてるだけでつまんねえと思ってるか?」
だったら死ぬまで付き合ってやる。
お前の退屈を受け入れてやる。
「もう一度言うぞ」
もう一度。
それで足りなければ、何度だって言おう。
「愛してるぜ、セイメイ!」
――嗚呼。
ナンシーの拳に腹を貫かれながら、清明は想う。
「猟兵とは、わたくしが思っていたよりも……」
――存外に、興味深いものであったようだ。
成功
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