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プ ロ レ ス や ろ う ぜ ?

#アックス&ウィザーズ


●ブルヲレイズ、開催!
 昼日中でありながら、暗雲漂う薄暗い空。しとしとと降る雨の中で肌を晒し、その女は居た。
 身の丈二メートルは超す体躯に余すことなく積み込まれた筋肉の体。
 右の青い目に縦に裂けた赤い瞳孔が闘志に漲った笑みを見せる。降り注ぐ雨粒も肌に触れれば煙へと変じ、その熱気が伝わるようだ。
 対して正面に立つ男は顔も若く身体中に傷を負い、もはや息も絶え絶えか。
 しかし。
「負けるなーっ、ジザベル~っ!」
「やれ、ぶちかませ!」
『ジ、ザ、ベル! ジ、ザ、ベル!』
 取り巻く者たちのコールにジザベル・グリズリーは俯きかけた自らの体を正す。
「来いやオラァ!」
 激しいジザベルの叫びに、対する女は牙を剥いて咆哮した。
 大地を揺らすように足音すら猛々しく、蹴り足で地面を粉砕し、飛びかかる女の腕を自らの両腕で上手く絡めとる。
「なにっ!?」
 そのままの勢いを殺さず、引き込むように回転して女を正反対の方向へ投げる。
 その先には巨木があり、女は正面からの叩きつけを恐れすんでのところで反転、背中を強か打ち付けた。
「がはっ!」
 自分の勢いをそのまま上乗せされ、受けた衝撃に苦鳴が漏れる。
「ウェエエエイ!」
『うぅううぇええええいいいい!!』
 ジザベルの咆哮。高々と掲げた右手に狐のサイン。
 熱狂する周囲の人間に後押しされて、ジザベルが撃鉄の如く右腕をがちりと固め、巨木に縫い止められた女へ走る。
 これで終わりだ。
 拳ではなく、その腕を叩きつけようとしたまさにその瞬間、女はジザベルの腕を掻い潜り、その巨体で見事に回転しながらジザベルの背面へと回り込む。
 だが、回転は止まらない。
 背後からジザベルの顎を左手で撃ち抜き、泳ぐ体へ巻き付けるように自らの巨体を当て、地面に押し倒す。その際、鳩尾への一撃も忘れない。
「うぐぅ!」
 血を吐く男、消えた歓声。女は肩で荒く息をしながら半身を起こすと、ゆっくりと立ち上がって周囲を見渡す。
「…………っ!」
 直後に地面へ叩きつけた両の拳。
 大地を砕き緑を引き裂き、岩盤すらもめくれ返したその一撃。
 女は両腕を天高く伸ばし、人差し指で空を突く。
「いくぞオラァア!!」
『うをおおおおおおおおおおッ!!』
 女の叫びに観衆の興奮は最高潮に達し――これまだツッコんだら駄目なの?
 ともかく女は獣の如き身のこなしで巨木を駆け上がり、背面跳びからの見事な一回転を決める。
 着地点――、狙うは虫の息となったジザベル・グリズリー!
「 断 頭 重 殺 ! 」
 彼の首へ、座り込むような体勢で体ごと垂直に落下する女、その足がまるでギロチンの如くジザベルに振り下ろされた。
 大地を粉砕し、砂塵を上げ、もうもうと煙吹く場に人々が騒然とする。
 やがて吹くは熱き風が、砂埃を運び去り。
「…………! ノモス・アモフだっ、立っているのはノモス・アモフだぞーっ!」
「師匠を破り、遂に彼女が【第一回ブルヲレイズ初代チャンピオン】になったのよ!」
「ステキ~! お姉さま抱いてーっ!」
 ノモス・アモフと呼ばれた女は、黄色い声と駆け寄る人々に太い笑みを浮かべて答えた。
「このアタイがトップに立った以上、やることはひとぉつ!
 ここに異世界無差別究極バトル・【第二回ブルヲレイズ・チャンピオンシップ】を開くことを宣言するッ!」
 気が早すぎるだろ。
 かくして、オブリビオン【人造伐竜神ノモス・アモフ】によるブルヲレイズなる戦いの舞台が開催されることとなったのである。

●ブルヲレイズっていうかさぁ。
『と、言う訳だ』
 集まった猟兵たちに件のあらましを筆談で伝えたのはバオ・バーンソリッド(戦慄のワイルドタフネス!!・f19773)、実にノモス・アモフと戦って頂きたい体躯の野性的な女である。
 喉の怪我からあまり声を出したくないようで、猟兵ともよく筆談でやり取りするようだ。
 そんな彼女の予知したものが、例のアレになるわけで。
『予知したのは五日前、アックス&ウィザーズの世界ではオブリビオンと冒険者が会場設営をしている。転送するのは今が丁度いい頃合いだろう』
 あんた予知した相手をみすみす見殺しにしたのか。
 猟兵たちの非難の視線を受けて、バオは裂けた口の描かれたバンダナの上から鼻を掻く。新しい紙にさらさらと文字を連ねた。
『別に奴は死んでないし、このブルヲレイズという儀式の普及を始めたのも彼だ。なら会場作り、際具の設置を終えてから向かうのが楽だろう』
 ごめん意味わかんない。
 詳しい説明を求める猟兵に、それはそうだとバオは頷き細かな説明を行った。
 そもそもこのブルヲレイズという儀式は、ジザベルが異世界からやってきた猟兵より習ったものらしい。ブルヲレイズにより、異世界では太陽の意味を持つラーとなり、世界を照らし人々をまとめ上げる存在、【ブルヲレイズ・ラー】となる。
 彼はこれこそが勇者と勘違いしているようだ。
『オブリビオンが、勇者になるはずはないが、勇者の出現する可能性が僅かでもあるなら、この儀式を完遂させるべきだろう』
 蛮族みたいな格好なのに真面目だなぁ。
 ところでバオさん、プロレスって知ってます?
『知らんな。プリンの親戚か?』
 僅かに目を輝かせたバオさんにやんわりと違うことを伝えると少し落ち込んでしまった。ゴリラのくせに可愛いやんけ。
 それで結局、猟兵のすべきことは儀式中のオブリビオンを倒す、ということなのか。
『みんなには儀式に参加してもらおう。まずは冒険者ジザベルの行う選別の義を勝ちあがり、先に選ばれたオブリビオン集団を倒すんだ。
 そうすれば、ブルヲレイズ・ラーになろうとしているオブリビオンとも、儀式を中断させずに戦えるだろう』
 つまりは、現地のやり方に則り儀式へ参加、邪魔物を排除し勇者出現の可能性を摘まないようにしろということか。
 バオさん、たぶん勇者はでないと思うな~。
 などというぼやきは胸中にしまいつつ、生真面目なバオの作戦に乗る猟兵たち。
 しかしジザベル・グリズリー。許せないのはその存在。
 ラリアットの掛け声もポーズも違う! オブリビオン討伐のついでにプロレスのプの字すら知らない彼へ本当のラリアットを叩き込んでやるのだ!


頭ちきん
 シナリオ拝見くださりありがとうございます、頭ちきんです。
 見ての通りネタシナリオです。
 一章では自らのアピールを行い、現地冒険者のジザベル・グリズリーに儀式参加権を勝ち取りに行きましょう。
 二章ではすでにオーディションを勝ち抜けたオブリビオンが観客席を乗っ取ろうとしています。
 排除して勇者復活(建前)のための他参加者・見学者の席を確保しましょう。
 三章ではブルヲレイズ初代チャンピオン、人造伐竜神ノモス・アモフとリングで決闘、もとい、プロレスを行います。
 リングネーム、キャッチフレーズあれば書き込んでくださると使用致します。
 ない場合はステータスシートのものを使用させていただきます。
 参加者は飛び入りしても構いませんし、ユーベルコードでの攻撃やプロレス技の使用、敵の応援、実況者や解説役のジザベルへの凶器攻撃に会場破壊とほぼなんでもありになります。
 ただし、猟兵同士でのプロレスはお互いに許可を得てプレイングして下さい。
 勝敗についてはプロレスをやることが結果として勝利となります。
 また、ジザベルは全章で登場するので、あなたの熱いプロレス魂を何度でも教えてやって下さい。

 注意事項。
 頭ちきんはプロレスに詳しくありませんが、可能な限り技などをしっかり反映させていただきます。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合が多くあります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵と参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
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第1章 冒険 『オーディション!』

POW   :    何も言うな。見惚れろ、我が肉体にぃいっ!!

SPD   :    ダンスで魅了するよ。私の魅力に魅力に酔い痴れなさい、おーっほっほっほ!

WIZ   :    我がチョーいけてる魔術によるデーハーな光景にに心奪われるが良い!

👑11
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●こーの勘違い野郎!
 バオ・バーンソリッドの予想通り、会場の設営もそろそろ終わるかというところ。
 最後の備品配置にあちらだこちらだと命令する男が一人。
「どんなもんだい、準備のほうは」
「ジザベルか? ちょっと待ってろ。まあ、見ればわかる通りほとんど完成――、おいおいおやっさん、そりゃ右向きだぜ!
 しかし、あんた大怪我だって聞いたがもう動けるのか?」
 正直めっちゃしんどい。
 男の振り向いた先で、首やら腕やらを添え木に包帯とぐるぐる巻きにされたジザベルは、まるで埴輪のようだ。寝てろよ。
 男は眉間を押さえたが、彼の気性を分かる身としては諦めるだけだ。
「ノモス・アモフはどうだ?」
「離れたところで準備運動やってるよ。しかしジザベル、これで本当に勇者になるのか?」
 男の指摘ももっとだ。というか不安的中間違いなし。
 が、ジザベルは不敵に笑い、勇者になるのだと強く語る。その自信はどこから沸いてくるのか、男も戸惑いながら理由を聞いた。
「俺と奴の試合を観ただろう。あの瞬間、人々の想いはひとつになったじゃねーか」
「確かに、魂を揺るがす凄まじいまでの熱気と高揚感があったぜ」
「勇者ってのが、俺はどこまでのモンを指すのかわからねえ。ただ、人々をまとめ上げたあの熱気、活力は竜への怯えを消し去る確かな手段だ。それはこの、不安が漫然と漂う世界を浄化してくれる。
 そして、それを率いる力があるならよ、そりゃあもう勇者と呼んでいいんじゃねーか?」
「……ジザベル……」
 ちゃんと世界のこと考えてんじゃん。でもあんたの賭けてる相手って世界の敵のオブリビオンなのよね。
 まあそんなことは露知らず、ジザベルの言葉に感動した男は会場の完成を急がせた。
「あら、ジザベル。具合はもういいの?」
「見ての通り上々だ」
 見ての通り下々だよ。肩を竦められずに苦労しながら、やってきた女に答える。皮肉好きの彼女は魔法の扱いに長けた、冒険者ジザベルの頼りになる仲間だ。
「さっきノモス・アモフのところに応援に行ったわ。どれだけの人が参加するか分からないけど、あんなのに体だけで勝てる相手なんていないわよ」
 言外に、彼女を化物扱いしつつ、それと戦ったジザベルを馬鹿にする。
 しかし彼はその皮肉にもにやりと笑う。
「その通り、勝てる奴なんざいねー。俺はあいつに賭けてんだからな。
 今回の大会、優勝すりゃあなんでも願いを叶えてやるって言ってるが、そっちについてなにか言ってたか?」
「なんにも?」
 そうか。
 女の言葉に少々、寂しそうに頷く。どちらにせよ、彼女の勝ちは揺るがないとジザベルは絶対の自信を見せた。
「さて、そろそろ選抜会の時間だ。ノモス・アモフにはよろしく伝えてくれ」
「はいはい」
 ぎこちなく歩く埴輪もどきを見送って、女は会場を見やる。
「えーっと、最後にこの四角の祭壇を囲う刺つきロープに電流と爆発魔法をかけるって話だったわね。
 勇者を降臨するだけあって、ブルヲレイズの儀式は過酷なのねー」
 マジかよデスマッチじゃん。やったぜ。
 勇者を生み出すため(建前)の運命のゴングが鳴るまで、まだしばし――。
浅杜守・虚露
【POW判定】こういう世界観でレスリングと聞いてきたから古式レスリングかと思っていたんじゃがのう。どっちかというと『ルチャリブレ』っちゅうヤツなんか、雰囲気的には。
しかし最初は選考会とはの、とりあえず力を見せればええんじゃろ。
じゃったら僧衣を諸肌脱ぎに上半身を曝け出し、筋肉と脂肪で大きく広がった身体を見せていこうかの。
そういえば巨木があったのう。丁度ええから持ち前の『怪力』を魅せる『パフォーマンス』として相撲の鉄砲でもやってみせようかのう。相撲会場の廊下ではその振動で周囲に被害が出る事から鉄砲厳禁の張り紙がされるくらいじゃからのう。ええアピールにはなるじゃろ。

プロレスを見せるのはまだ後じゃの。



●テッポウ厳禁! 二番手ファイターの強烈張り手!
 完成間近の祭場前。
 列を成す男たちの中でも一際にでかく、歩けば山が移動したかと思わせる男がいた。
 僧衣に身を包み笠を上げて注ぐ太陽を見上げる。
(早く来すぎたかのう)
 始まらぬ選考会に胸中で呟くも、彼は二番手。大人しく合図が来るのを待った。
 そこから幾らも離れぬ場所で、巨木を挟み一人目の立候補ファイターを、ジザベルは簡素な椅子に座りながらげんなりと見つめていた。
「――というわけで、ですね。所詮は女、男の筋力には敵わないという方程式が立証されたわけでしてね」
「おーう、わかったわかった。あんたはその口八丁で挑むワケだ?」
「ぬっほほ、そんなわけありますまい。見よ、無駄を極限にまで刷り卸したこのボデー!」
 口八丁からパンツ一丁、へいっ、と力瘤を見せる男の体は棒のように細かった。
 それ無駄を落としたんじゃなくて、無駄に落としたって言うんだぞ。
「さあさあ見なさい、筋肉の舞を!」
「……あー……それ、後どんぐらいかかる?」
「軽く十分ほどっ!」
「わーかった、端に寄ってろ。次の方どうぞー!」
 へいっ、とポーズを決めながら素直に退く前座。落選って言ってやれよ。
 ジザベルは、のそりと巨木の影から出てきた男を見て少しはマシな者がいるかと安堵する。
 元々は彼の見込んだ女の餌、踏み台とばかりの選考会だ。もちろん、番狂わせを考えていないでもないが、そんなことはあり得ないと考えるほどにジザベルはノモス・アモフに入れ込んでいた。
 今、登場した男もそこらの者よりは恰幅が良い程度にしか考えいなかった。
 一見では。
「二番、でいいかのう」
 口から落ちる太い声、本人にその気はないだろうが、感じる凄味にジザベルの目の色が変わる。
 中背程度。そうジザベルが考えたのは男の体躯を見ただけ故に。
 離れたところでへいっ、へいっ、と筋肉の舞をしている男と比べても遥かに高い。
 それに高身長をを感じさせないほどの体の厚み。それだけの筋肉を体に備えているのだ。笠を取った男の顔に気迫はないが、ジザベルは全身が粟立つ獣の如き気配を男から感じていた。
「浅杜守・虚露(浅間雲山居士・f06081)じゃ」
 ずっしりと腹に来る声に、ジザベルの頬が思わず引き吊る。
 彼はこの若さでも多くの実戦を経験し、死を掻い潜ってきた男だ。いや現在進行形でそういうナリしてるけど。
 そんな彼が虚露から圧倒的な死の気配を感じ取ったのだ。
 一方、虚露はさきほど見かけたリング、もとい祭壇だか祭場だかと、鎧を着こんだ者やその他の服装を見やる。
(この世界でレスリングと聞いてきたから、古式レスリングかと思っていたんじゃがのう。
 どっちかというと【チャリブレ】っちゅうヤツなんか、雰囲気的には)
 しかし最初は選考会。とりあえずはこの力を見せれば良いだろうと、未だに反応のないジザベルへ目を向ける。
「…………、と、すまねえ。あんたも筋肉アピールかい?」
「そうじゃ」
 ジザベルの問いに大きく頷いて、僧衣を諸肌脱ぎに上半身を曝け出す。
 筋肉と脂肪で大きく広がった身体は見れば見るほど立派なもので、岩肌のようなそれに圧倒された男は思わず生唾を飲んだ。
(ふうむ。これだけ、というのものう)
 一心不乱に筋肉の舞をする男へ目を向けて、こちらもパフォーマンスが必要かと、意識を向けたのは眼前の巨木。
(丁度ええから持ち前の怪力を魅せるパフォーマンスじゃ。相撲の鉄砲でもやってみせようかのう。プロレスを見せるのは、まだ後じゃな)
 鉄砲とは、相撲における突っ張りの稽古だ。鉄砲柱と呼ばれるものに、左右の突っ張りを繰り返す。
 相撲会場の廊下ではその振動で周囲に被害が出るため、テッポウ厳禁の張り紙がされるほどである。虚露がアピールに良いと考えるのも当然だった。
「選考の人、すまんが少し離れてもらえんかのう」
「あ、ああ」
 ずしりと近づく圧力を避けるように、後退るジザベル。虚露は巨木を前に長く息吹くと、手を当てて距離を確認し、足を開いて腰を大きく落とす。
 目的は選考会を勝ち上がること。虚露は両眼を、かっ、と開くと右手を大きく後ろへ引き上げて、頬を膨らませ、その分厚い掌を巨木に叩きつけた。
「んどらぁ!」
 地響きを起こす振動が巨木の根から大地へ伝わり、ジザベルが尻餅をつく。直接の威力を叩き込まれた木の皮は波紋が広がるように波打ち、耐えきれずにびりびりと裂かれた。
 悲鳴をあげて震えた樹上からは滝のように小枝や葉が注ぐ。
 残る掌の痕に向けて、続く左の掌を後方へ引き上げる虚露。
「ストップだ、ストーップ!」
 次撃を察して慌てて止めの声を上げたジザベル。虚露は素直にその言葉を聞いて見開いた鬼の如き顔を潜め、左手を下ろす。
 ぱんぱんと手を払い、倒れた彼へ手を差し伸べた。
「すまねーな。よっ、と」
 虚露の好意を素直に受けて、ジザベル。
 彼はその一撃の痕跡へ顔を近づけ、感心して唸りっぱなしだ。
「虚露さん、だったか。あんたすげーな」
「まあのぅ」
 まだまだ本気の一撃には程遠いが、凄い奴をアピールできたかと頷く。
 ジザベルは、自分は若輩者だがと前置きして巨木を指差した。
「名乗りが遅れたな。俺の名はジザベル・グリズリー。
 止めちまってすまなかったよ。ただ、年長者は敬わらなきゃいけねえ。あんたより俺は年若くても、この木よりあんたが年いってるってことはねーだろ?
 こいつはここでつっ立ってるだけだが、これを霊木なんて呼んで、敬わる年寄りもいるんでな。説明してない俺が悪いがよ、ぶち折らすワケにもいかねえ」
 ジザベルの言葉に改めて巨木を見上げれば、その枝には結ばれた紙や、落ちた枝の中には供え物もあった。
 折るつもりもなかったとは言え、面目ないと頭を下げる虚露の人の良さにジザベルは笑う。
「余所者のあんたに、説明してない俺が悪かったんだって。そんなことより俺は、あんたとチャンピオンのぶつかる姿が見てえ。
 文句なしの合格だ。一番手からこの様子じゃ、今日の祭事は期待しかねーぜ」
 一番手。
 虚露がちらと目を向けると、さきほどまで筋肉の舞をしていた男がひっくり返り泡を吹いていた。
「虚露さん、さすがにありゃーねーよ。ナシだナシ」
「年長者を敬う精神があるようには見えんのう」
「そりゃ、俺が冒険者だからさ。現場実力主義、戦力外に労力使って、目的を果たせなきゃ意味はねえ」
 言わんとしていることはわかるが、さきほどと並べて言う言葉ではない。
 どうやらこのジザベル、口を回すのは得意らしい。さきほどの話も、年長者がどうと言うより、虚露の罪悪感を煽って場を制御するのが目的だったのだろう?
 戦況を観る目もあるようだ。戦士としての実力は高そうだと虚露は評価する。
 もっとも、猟兵と並び立つ力はないだろうが。
「選ばれたからって、必ず参加しろって話にはならねえ。だが、あんたに惚れたまったからよ、是非とも参加してくれよな」
「無論、そのつもりじゃ」
 ジザベルの言葉に、虚露はにやりと笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​


※緊急につき。

頭ちきんです。
大変申し訳ありません、現在、何らかの不具合によりリプレイの投稿が不可能となっております。
トミーウォーカー様に報告し、対策できないかお問い合わせしているところです。
マスター紹介ページの自己紹介コメントやプレイングを投稿した方へのメールももエラーが発生している状態のため、こちらに書き込ませていただきます。
大変申し訳ありません。
対策できた際、またご報告致します。
※追記。
トミーウォーカー様からご助言いただき、動作も問題なくエラーも発生しなくなりました。
トミーウォーカー様、またプレイングを投稿していただいたプレイヤー様へのご迷惑、大変申し訳ありませんでした。
引き続き、マスター業務に励みたいと思います。
アノルルイ・ブラエニオン
キマフューかと思ったら私の世界でしかも勇者がらみである可能性もある案件だと?!

A&Wの皆さん!
目を覚まして下さい!

しかし……歌の題材には事欠かなさそうだな
それに……万が一勇者が生まれたら……この期を逃す手はない

私も参加するぞ!

覆面レスラー、エル・ロンドとなって!

これを付けるのは二度目だな……

黒と金の二色の覆面
星空のごときラメを散りばめた黒のマントで選考会に入場だ

痩身だからと甘く見るな?
持ち前の【SPD】と華麗な空中殺法、そしてエルフの知恵で、強者共と渡り合うぞ!

私の実力を見たいのなら
打ちかかってくるがいい
何人で攻めてきても【見切り】すべて避けて見せよう!



●覆面レスラー、エル・ロンド現る!
 グリモア猟兵からその話を聞いたとき、彼は自らとは何の関係もないことだと思った。
 しかし、自らの出身地でもあるアックス&ウィザーズであると知ると、何を馬鹿なことに時間を割いているんだとばかりに住人たちへ訴えかけようとも考えた。
 しかしことは世界に関わる勇者の誕生だ。
 万が一、もしも本当に、勇者の出現となれば、その場に居合わせれば。否、例え出現しなくとも。
(歌の題材にはこと欠かなさそうだな)
 顎に指を添えて、ふむ、と考える。
「ならば、直接参加するとしよう。……これを付けるのは二度目だな……」
 そう呟き、彼は何かを手にしたのだった。
 それから時はしばしを流れ。
「に、二十一番、保留」
「あんらァ~、保留だなんてェん。ジザベルちゃんがウチの飲み代をお預けしてるのとおんなじなのかしらァん?」
 厳ついおねえ言葉の五分刈り男に、勘弁してくれとばかりにジザベルは引きつった笑みを見せた。
 この男は選考会に興味があるわけではなく、彼がまだ払っていない自分の店の酒代を催促に来ただけなのだ。
 男が大股で帰っていくのを見送り、安堵の息を漏らして次の人間を呼ぶ。
(しかし、ピンとくる奴ってのがそうそういねーな。まあ、あの男レベルってのは、期待できるもんじゃねーか)
 小さく笑いながら、呼び掛けに答えてやって来た者へ目を向けた。
 そこに立つのは黒と金の二色の覆面、星空のごとき輝きが散りばめられた黒マント。
 一見して細い印象ねがら鍛えられた体に、戦いの経験もあるだろうと予想させるには容易い。容易いのだが。
(ピンときたどころじゃないぞ、こいつドラゴン狂信者とか名乗り出しそうな怪しさじゃねーか!)
 驚愕の思いは言葉に出さず、ジザベルは男の名を問う。
「あ、……の……お名前は?」
 めっちゃくちゃ出てるな。
「覆面レスラー、エル・ロンドだ!」
 と、アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)は答えた。
 覆面レスラー。覆面レスラーとはなんなのか。仲間たちはなぜこれほどまでに怪しい奴を放っておいたのか。覆面レスラーってなんだ?
 頭の中をぐるりと回る疑問にジザベルは、ひとまずそれらの謎を捨てることにした。
 難しい問題に長々と囚われない切り替えの早さも彼の長所だろう。いい加減とも言える。
「それではエルさん」
「覆面レスラー、エル・ロンドだ!」
「はい、すんません。覆面レスラー、エル・ロンドさん、その、アピール的なものがなにかあるんでしたらどうぞ」
 アピールだと。
 覆面の下でにやりと笑う。その笑みを見れないジザベルからすれば、怒りを買ったかと心を構えさせるに十分な雰囲気であった。
「痩身だからと甘く見るな?
 この無駄を削ぎ落とした体によるスピードと華麗な空中殺法、そしてエルフの知恵で、強者どもと渡り合うぞ!」
 むんっ、と腰に手を当て胸を張る。
 幻の一番となった男と違い、きちんと鍛えられたのは先の初見通りだが、自信を見せられるほどの実力かはまだ判断出来ないだろう。
 しかし、あまりにも怪しいのでさっさと帰っていただきたいのがジザベルの本音だった。
(……待てよ……?)
 不意に、彼にこの儀式を教えてくれた流れ者の言葉が甦る。
 ブルヲレイズにはしばしばマスクをつけた男が祭壇に上がり、儀式に参加したという。このマスクは素顔を見られれば死を選ぶという絶対的な掟を持ち、故に決して負けない強い想いが込められた決意表明なのだ。
 違うんだよなぁ。いやある意味では合ってるけど。
(この男、命を賭してまで……ブルヲレイズに参加するということか……!)
 全然違うぞジザベル君。
 アノルルイ、もといエル・ロンドは勝手に一人で感銘し黙りこんだジザベルを、こちらの言葉が信じられないのだろうと解釈して鼻で笑う。
「まずはウォーミングアップといこうか」
 霊木さん、出番ですよ。
 エル・ロンドが陽の下に夜を引き連れるように、夜空のマントを従えて巨木を駆け上がる。
「たぁーっ!」
「おおっ!?」
 手を使わず、足だけで木を一息に登ったエル・ロンド。そのままの勢いで背面に一回転、見事な着地を決めた。
 それはジザベルにノモス・アモフが食らわせた『断頭重殺』こと必殺のレッグドロップにも似た動きで、身の軽さは彼女以上だ。
「さあ、私の実力を見たいのなら打ちかかってくるがいい。
 何人で攻めてきてもこの見切りで、すべて避けて見せよう!」
「いやこの体見ろよ。無理じゃん?」
「…………。それもそうだね」
 ストレートな言葉にやる気を漲らせたエル・ロンドの体が小さくなる。
 さすがに他の参加者をぶつけるわけにもいくまいが、手も使わずに木を駆け上る力があるのだ、その身体能力を認めないはずもない。
「合格だ。そのボディじゃタフネスが足らないだろうが、身のこなしでどこまで戦えるか期待してるぜ」
「風神の如く舞い、歌にも残る活躍を約束しよう」
「ずいぶんな自信だな」
 背を向けたエル・ロンドに苦笑すると、彼は当然だと語る。
「だって私は吟遊詩人なのだから!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

草剪・ひかり
POW判定
お色気、即興連携、キャラ崩し描写歓迎

入場、試合展開、結末、そしてマイクアピール……
全てが観客を魅了し、会場を興奮のるつぼと化す
それを成す者が“勇者”なら

この私“次元を超えるプロレス絶対女王”M.P.W.Cの草剪ひかりこそ
その称号に相応しいよね!

愛用のゼブラ模様のリングコスチュームに
地球人女性としては破格に豊かすぎるダイナマイトボディを押し込み
豪奢な黄金の毛皮をまとって入場

トップロープに手を掛けてエプロンを力強く蹴れば
その豊かすぎる肢体が宙を舞う、華麗なリングインに胸の谷間が激しく揺れる!

ブルヲレイズの2代目、そして“最後”の女王はこの私!
皆、このリングから目を離しちゃダメだよっ!



●次元を超えしプロレスクイーン!
 眩い陽の光を浴びて、不敵な笑みを浮かべる女が一人。
 歩く姿に目を奪われ、手元を疎かにハンマーを体に打ち付ける人間も出る始末。それもしょうがないと言えるのは、女のプロポーションにその衣装。
 上から百九、七十一、百八と、もはや武器と言って差し支えない凶悪なプロポーションは男の理性を狂わし、女にすら溜め息を吐かせる。
 彼女の愛用するゼブラ模様の衣装は、その地球人女性として破格の、豊かすぎるダイナマイトボディが押し込まれはち切れんばかりの露出度の高さを誇る。
 その上に豪奢な黄金の毛皮が纏われ、否が応にも全ての者の視線を魅きつけた。
 異世界人の視線を集め、威風堂々と歩く彼女の名は草剪・ひかり(次元を超えた絶対女王・f00837)。
(入場、試合展開、結末、……そしてマイクアピール……。
 全てが観客を魅了し、会場を興奮のるつぼと化す。それを成す者が『勇者』なら!)
 四角の祭壇へ向かって一直線。さすがに止めに入る者の手をするりとかわし、ひかりは足を早め、エプロン、もとい祭壇の端部へ足を乗せた。
 そのままの勢いで柵の如く張られた三本のロープ、その上段からひとつ跳びで力強く宙を舞えば、激しく揺れるその体。
 男子女子が思わず目を血走らせて、溢れろと念じたもののそのような卑猥なことは一切起きずに、ひかりの体は祭壇上へ着地する。
 そんなに頑張らなくていいんだぞリングコスチューム。ぱっと破ければいいんだ、ぱっと。
 そんな健康的男女の想いも虚しく過ぎる中、ひかりは流れるような黒髪をかきあげて、周囲に妖しい視線を送る。
「ふっ――、この私『次元を超えるプロレス絶対女王』M.P.W.Cの草剪ひかりこそ、その称号に相応しいよね!」
 宣言するひかり。そう、それは間違いなく宣戦布告。
 彼女の指す称号とは勇者と、そして。
「ブルヲレイズの2代目、そして『最後』の女王はこの私!
 皆、このリングから目を離しちゃダメだよっ!」
「シビレるぅ!」
「カッコいいわぁ!」
「あのチャンピオン相手に啖呵を切るなんて、おっぱいがでけぇだけじゃねえぞっ!」
「とりあえず脱げーっ!」
 もう少し欲望は潜ませてください。
 プロレスとはなんぞや、という小市民の疑問を吹き飛ばす爆弾ボディとスーパービッグマウスの炸裂に、観客や会場設営班は大興奮だ。
「ちょっとあなた、なにをしているの?」
 そこへ目を怒らせてやってきたのは、祭壇の仕上げを任された魔法使いの女性だった。
 ひかりと比べると大抵の女性が平坦に感じられるが、とりわけこの女性は平坦なようだ。
 遠くから、引っ込めぺたんこー、と心ない野次が飛ぶ。
「アイスボール。ていっ」
 掌に生み出した拳大の氷の塊を、魔法の杖でぽこんと打ち出せば野次を飛ばした男の頭部に直撃する。崩れ落ちる野次馬。
 氷塊が砕けてるあたり、普通に人が死ぬ威力。
「目立ちたいだけのでしゃばり屋じゃ、邪魔なのよ」
「私はプロレスラー。リングの上で目立って、でしゃばって、そこに命を賭けてこその私たちよ!」
 ねめつける女を反らした大きな胸ではね除けて、挑発する。
 かなり好戦的な態度であるが、プロレスラー、リングという聞きなれない言葉に女は眉を潜めるだけだった。
「リングって、ここ四角じゃないの。ともかく、ここは選別の場じゃないわ。ほら、向こうに待ってる人がいるから」
 面倒はごめんだとばかりに女は溜め息を吐き、後ろを指す。
 そこには、寂しそうな顔で佇むジザベルの姿があった。
「いいよ、宣戦布告はすんだから」
 軽やかに祭壇から降り立ち、やはり堂々とした佇まいでその爆発的な体を晒している。
「ふん、その色気で腕前を誤魔化そうってか。考えが甘いんだよな~」
「誤魔化しているかどうか、試してみる?」 
 崩れることないその自信。威勢だけはいいなとジザベルは唇を歪めた。
「それなら上等。もう一回、祭壇に登ってくれ。そしたら合格だ。
 だって俺まだ乳揺れを見てねーんだぞ!」
「ていっ」
 誤魔化されるどころか色気に狂った男の頭部へ氷の塊が直撃する。
 こうなってしまえば言うことを聞かないものだと、女は嘆息して倒れたジザベルを引きずった。
「ジザベルがこうなったら、合格で大丈夫よ。昨日もそんな奴らがあたし。
 祭壇の上でノモス・アモフ相手にどこまでやれるか、楽しみにしてるから」
「むしろ、そのノモス・アモフが私を相手にどこまでやれるか、が見物かな」
 意地の悪い笑みを浮かべる女に、ひかりはまた挑発的な笑みを見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナギツ・イツマイ
 我スモ=ウの伝道者ナギ=ツ、いざシコ=フミ。

 スモ=ウは最強の格闘技アンダスタン?
 元々は神義だからね、オンミョー・シャーマン(自称)である私がスモ=ウを修めているのは必然。美しいシコ=フミを披露しよう。

 しかし、取り敢えず神聖なるマワ=シが必要だ…ん?あるじゃないか、お手入れ布、これだ!(天啓)でもなんかすごく汚…いやこれはこういうものだから、血の滲むシュギョ=ウの果てにうんたらかんたら。

 ok、スモ=ウ=スタイルは完璧だ。腰を落とし片足に体重を預けて軸を傾け、落とす。ビューテホー…【灼熱のそよ風】を感じてくれ。

 足を落とした所にコッソリ極小の【炎の地割れ】を残しておけば実力は伝わるかな?


アニカ・エドフェルト
たのもー、です!

あ、今完全に、変な空気に、なりました、よね?
でも、見た目通りとは、いきません、ですっ
〈怪力9〉くらい、あれば、わたしでも、ジザベルさん(もしくは大きな石や設備など)を、優しく持ち上げて、降ろすことくらい、出来る、でしょうか…?(パフォーマンス内容)
確かに、耐久力は、ちょっと不安、かもしれませんが、小さい体で、懐に潜り込んで、この力で、闘ってみたり、出来ると、思います。
このような、変わり種が、一人くらい、いてもいいと、思いますっ

あ、そういえば…。
完全には、治らなくても、少しは、楽になってくれると、うれしい、です。
(《生まれながらの光》を使用)



●流派、スモ=ウ・レイズよりの挑戦者!
 無事、頭に包帯の追加されたジザベル・グリズリーは、それでも健気に選抜の義を続けていた。
「つ、次の方、……どうぞ~……」
 呼ばれてやってきた者の姿を見て、ジザベルは眉を潜めた。
 小さい。小さいのだ。小柄な挑戦者は確かにいたが、それにしてもこの者は小さい。頭に被る笠を重ねているのは身長を高く見せるためかと彼が迷うほどだ。
 体が横に広い訳でもなく、とてもあのノモス・アモフと戦うに耐えられる体には見えない。
「すまんなぁ、坊主。さすがにお子さまはお断りだ」
 やる気もなさそうなジザベルであるが、その言葉を受けて挑戦者の目はきらりと光る。
「我スモ=ウの伝道者ナギ=ツ、いざシコ=フミ」
 ナギツ・イツマイ(オンミョー・シャーマン・ヒーロー・ウィズ・ラッパー・f19292)の物々しい言葉に、さしものジザベルも反応する。
(言ってることの大半は理解できないが、スモウと言ったのか。……どこかで聞き覚えが……)
 あんまり分かってないね。
 しかしスモウの単語には聞き覚えがあったようで、はたと気づいた彼はナギツへ驚愕の視線を向けた。
「そうだ、スモ=ウだ! 聞いたことがあるぞ、遠い世界ではスモ=ウ・レイズというブルヲレイズの別形態の儀式があると!
 それも高位のタテヅナーになると、自然を操り超自然を召喚するという……まさか……お前が……!?」
 スモウレスラー的な?
 勝手に一人で盛り上がっているジザベルに、ナギツは取り敢えず乗っかれば良さそうだと彼の言葉を肯定する。
「スモ=ウは最強の格闘技アンダスタン?」
「最強の格闘技だと? な、ならばノモス・アモフがそれを習得すれば?」
 いい加減に目を覚ましたまえ。
 しかし夢見がちなぎりぎりお兄さんのジザベルも、そのような力をナギツが所有しているとは思えないようだ。
「元々は神義、オンミョー・シャーマン(自称)である私がスモ=ウを修めているのは必然。
 さあ、美しいシコ=フミを披露しよう。そうすれば、理解できるはずだ。
 ドントシンク、ジャストフィール。オーケイ?」
 六歳とは思えぬ高い自信を覗かせるナギツ。思わず首を縦に振るジザベル、
 しかし、ここで動きに迷いが出たのはまさかのナギツである。
 シコ=フミを行う上で、否、スモ=ウをする上で必要な物がないのだ。
 それはマワ=シ、身体とともに精神を引き締める道具である。
(……神聖なるマワ=シが必要だ……!
 ん? あるじゃないか、お手入れ布、これだ!)
 天啓を受けたかの如く持ち上げた布は、さすがにお手入れ布と言うべきか、すごく汚……いやでもこれはこういうものだから……。
 腰に回すナギツへ、明らかに引いた視線を送るジザベル。血の滲むシュギョ=ウの果ての成果をそういう目で見るって失礼にも程がある案件なのでは?
 しかし見た目に反し強靭な精神を持つナギツはマワ=シを装着した自らの完璧なスモ=ウ=スタイルに溜め息を漏らすのみ。
「ok、スモ=ウ=スタイルは完璧だ」
「お、おう」
 腰を落とし右足に体重を預けて軸を傾け、高々と振り上げた左足。
 同時に発動させるのは【双皿秤の詩演(ソーサラーバカリノシエン)】。制御が難しいものの、自然現象に属性を合わせた力を引き起こすユーベルコードだ。
「高々と、足を上げれば、ビューテホー」
 東洋の島国に伝わるハーイク・ポエムを詠み上げて、ナギツは足を振り下ろす。
 力強く行われたシコ=フミにより巻き起こされた灼熱のそよ風、と呼ぶには強力な砂埃を巻き上げる旋風。
「……こ、これは……、!」
 ナギツが足を振り下ろした場所は地が割け、炎が噴き出した。
「これがシコ=フミ、これがスモ=ウ=スタイルの力か!」
 驚愕するジザベルは、ややもすると見開いた目をじっとりとしたものに変えてナギツを睨む。
「祭壇を壊すなよ?」
「オーケイベイベー」
「誰がベイベーだっ。ようし、合格だ。オンミョーシャーマンとやらの力、祭壇の上でも見せてくれよ」
 非常に辛そうに歩み握手を求めるジザベルを酷く思ってか、ナギツも駆け寄ってその手を握った。


●リングに天使が舞い降りる? 小さな闘士!
「たのもー、です!」
 呼ばれる前からこんにちは、とばかりに現れたのはアニカ・エドフェルト(小さな小さな拳闘士見習い・f04762)だ。
 ナギツと握手を交わしていたアニカに向けた目を再びナギツへ戻して別れの言葉を口にする。
 ナギツが二人に手を振りながら帰っていき、アニカもまた笑顔でそれに答える。
 そして。
「たのもー、です!」
「いや聞こえてるから、おチビちゃん」
 ナギツを更に上回る、それとも下回ると言うべきか、更に更に小柄な体の小さな女の子の登場に、ジザベルはすでに不合格を検討しているようだった。
 それフラグって言うんだぞジザベルさん。さっきも同じことしてたじゃないか。
「あ、今完全に、変な空気に、なりました、よね? でも、実力、は。見た目通りとは、いきません、ですっ」
 ちょこちょこと走り寄るアニカがジザベルの体にしがみつく。
 俺にそんな趣味はないぞ、などと言いつつも子供に懐かれて悪い気のする者は少ない。思わず笑顔を見せたジザベルだが、予想を遥かに超える力で体を締め付けられて悶絶する。
「んんぐぅ!?」
「よい、しょっ!」
 ジザベルの容態を気遣い、優しく持ち上げるアニカ。
 が、彼の体を持ち上げるためには、彼の体重に負けない力で掴むことが要求される。
 つまり、めっちゃ痛い。
「ど、どう、ですか? これなら、他の人たちとも、力負け、しません!」
「お、おう、ぐぐぅ!」
 えい、えい、と上げ下げする姿に悪気はなく、更に言えばこのような少女に弱味を見せられるはずもなく、泣き言を漏らすこともできず。
 よって、痛みを堪えて声すら上げられずに上げ下げされ続ける哀れな男の姿が完成されたわけである。
 彼が解放されたのは、少女が息を切らしてようやくである。
 ただ立つだけがやっとの状態で、喋ることもできない彼の姿をアピール不足が原因かと勘違いし、説得にかかった。
「確かに、耐久力は、ちょっと不安、かもしれませんが、小さい体で、懐に潜り込んで、この力で、闘ってみたり、出来ると、思います。
 このような、変わり種が、一人くらい、いてもいいと、思いますっ」
 なるほど、それは確かな言葉である。
 無差別級とも呼べるプルヲレイズの儀式において、体格差は大きなハンディキャップとなるが、同時にそれを引っくり返す実力を見せられる場でもあるのだ。
 アニカの熱い言葉に同意したいのは山々であったが、如何せん痛い。
 沈黙のままのジザベルに、しょうがないともう一度上げ下げしようと迫る少女。さすがに目に涙を溜めてやめるようジェスチャーされてはアニカも無理にそれをしようとはしない。
「そ、そうですか。不合格、ですか」
 それ勘違いね。
 しょんぼり背中を見せる乗除の姿はもの悲しく、見ている方も辛くなる。ジザベルてめえ許さんぞ。
「……あ、そういえば……」
 なにを思い付いたのか、顔をあげて振り返ったアニカが、再びジザベルに走り寄る。身の危険を感じるも痛みのために動けない彼へ、アニカは微笑んだ。
「完全には、治らなくても、少しは、楽になってくれると、嬉しい、です」
「…………!」
 【生まれながらの光】。ぐっ、と拳を握ったアニカの体から放たれる柔らかな聖なる光が、ジザベルの傷を癒していく。
 さすがにこの大怪我を治すには体力が足りない。自らの体力と引き換えに疲弊しつつも、出来うる限りとジザベルの怪我を治していく。
「痛みが……消えた……? あ、やっぱいてーや」
 体を捻り、各部を確認する男の姿に、かなりマシになったかとアニカは疲れた顔に笑顔を浮かべて立ち去ろうとする。
 だが、ジザベルはその肩を掴んで引き止めた。包帯まみれの男が帰ろうとする幼子を引き止める姿は心象に悪い。自警団の皆さん、こっちです。
 不思議そうにこちらを見上げるアニカへ、ジザベルは親指を立てた。
「合格だ、おチビちゃん。まあ、俺みたいな怪我しないよう、無茶な戦いはするなよ?」
「…………! はいっ!」
 ブルヲレイズの儀式の場に、この日一番の笑顔が咲いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ブリザード』

POW   :    ブリザードクロー
【周囲の気温】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【ダイヤモンドダストを放つ超硬質の氷爪】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    ブリザードブレス
【レベル×5本の氷柱を伴う吹雪のブレス】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を氷漬けにして】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    人質策
【氷漬けにした被害者】と共に、同じ世界にいる任意の味方の元に出現(テレポート)する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●会場を温めろ! 試合開始前の場外戦!
「早く早く、こっちよジュウヴォンジさん!」
「そんなに急がないで、ダナーカさん!」
 いよいよ儀式の準備も大詰めといったところで、儀式を見守るためのベンチが用意された場へ二人の少女が現れた。
 二人とも前日に選別の儀で不合格となっている。
「まだ始まってもいないのに凄い熱気ね。さ、場所を取られる前に早く座りましょ」
「うん!」
 祭壇の見易い場所を探して座るジュウヴォンジさん。しかし、そのお尻に激痛が走る。
「痛いっ!」
「ど、どうしたのジュウヴォンジさん? …………! こ、これはっ!?」
 そこにはなんと、逆さ氷柱が針の如く並ぶベンチの姿が!
 座る前に気づけ。
「をほほほは、な~にをなさってくれてんのかしら、ジュウヴォンジさん?」
「あなたは!?」
 突如、高笑いとともに現れた少女たち。手足に鱗を生やし、長く強靭な尾を持つオブリビオン、ブリザードだ。
 先頭に立つのは個体名サンヅェンインさん。
「あなた方、才能のない凡人にこのブルヲレイズの儀式を見る資格などありませんわ。今すぐ出ておいき!」
「なんですって!」
「や、やめなよダナーカさん。サンヅェンインさんの言う通りよ。私なんて、……才能ないし……」
「お馬鹿!」
 くすん、と目に涙を浮かべたジュウヴォンジさん。ダナーカさんは彼女の態度に一喝して頬を張る。
 乾いた音を響かせて崩れ落ちたジュウヴォンジさんは、思わずダナーカさんを見上げた。彼女はジュウヴォンジさんの肩を掴むと、叩いてごめんと謝る。しかし、わかって欲しいのだと。
「ジュウヴォンジさん、私、あなたがいつも気合と根性でその場しのぎに乗り切る姿が好きだったの。一夜漬けで選別の儀を勝ち抜くために、おっぱいを揉んで大きくしようと頑張ったでしょう?
 あなたは努力の天才よ、才能がないだとか、他人の評価に自分を惑わされないで!」
「……ダ、ダナーカさん……!」
 ダナーカさん実はジュウヴォンジさんのこと見下してない?
 ともかく彼女の言葉で瞳に闘志を燃やした熱血少女・ジュウヴォンジさんは立ち上がる。
「あ~らららららーら。なにをやる気になってございますの?
 ジュウヴォンジさん、あなたのような凡人以下の凡人は、この熱い会場から尻尾を巻いて熱中症にならないよう涼しい霊木の日陰から覗くのがお似合いですことよ!」
「なにが凡人よ、とりまきと同じ顔のくせに!」
「お黙りやがってくださいまし!」
 割りと気遣いのできるサンヅェンインさん。だがその言葉に怒ったジュウヴォンジさんの世界の禁忌に触れる挑発に怒りを爆発させる。
 そっちがその気ならば、と取り巻きらとともに口から冷気を漏らすサンヅェンインさん。
「このベンチを全て氷漬けにして、一般ぴーぽーが座って見れないようにして差し上げますわ!」
「そんなことしたら、足がむくんじゃう!」
「を~っほっほっほっほっほ! このサンヅェンインさんに逆らったことを後悔なさるのね!」
 冷えていく会場と反比例して熱くなる場外乱闘の気配。
 傍若無人な態度を見せるブリザードたちは、儀式に必要な観客というギミックを潰してしまうことになりかねない。猟兵たちよ、全力で彼女らを排除するのだ。
 弱ったブリザードは怒れる観客に投げ込むと彼らがしっかり罰を与えるぞ。逆に元気なブリザードが投げ込まれると猟兵の代わりに彼らが罰を受けることになるから注意だ。
「よーし、完成っと」
 その頃、祭壇上のロープに電流と爆破魔法がかけられる。
 ロープに投げ込んだら魔法をかけ直す必要が出てくるので、魔法使いのお姉さんが怒ってしまうぞ。
 代わりにブリザードたちを一撃で倒すことができる。利用する場合は仲間や観客が近くにいないときにしよう。
 さあ、マナーの悪い方々にはさっくりと退場いただき、会場を温めよう。
浅杜守・虚露
いかんのう…相撲、プロレス、…形は違えど、リング、土俵を見る観客があればこそ選手は奮い立ち、そして選手の雄姿を見せる事で観客は明日への活力を得る。選手は選ばれども観客に基線無しじゃ。じゃが、マナーを守れん者はいただけんのう。

目を見開き、冷気を纏うオブリビオンの前に『恫喝』するように立ちはだかりその目を見据える。周囲の気温は下がってくるが、まぁわし人よりは毛深いキマイラじゃし、防げない分は『気合い』でカバーじゃ。

爪を振りかざしてくるならば、『覚悟』決めた力士のぶちかましとどちらが強いか、真っ向勝負といこうかのう。

お主のダイヤモンドダストとやらはわしの『怪力』を止められるかの?

※アドリブ・連携歓迎



●勃発! 怒りの場外乱闘!
「を~っほっほっほっほっ!
 全ての椅子を氷漬けにしやがってくださいませ! 椅子に座れず足をむくませ、醜い大根足となるがよいですわ~!」
 それ君たちは大丈夫なのかい?
 調子に乗って観客席を続々と氷漬けにしていくブリザードたちに、集まった人々はなんて奴らだと憤慨する。
 とりあえず脱げとか引っ込んでろとか言ってたおっちゃんは怒る資格ないぞ。
「どうするのよ、ジザベル。あなたが顔だけで選んだ奴らが暴れてるじゃ――、あれ、怪我治った?」
「まだ全快じゃねーからなぁ。止めるには厳しい相手に見えるぜ。ノモス・アモフに頼んでみるか?」
 さほどの時間もかけずに、左腕を包帯で固定しただけの姿となったジザベル・グリズリーを彼の仲間である女魔法使いは気味悪そうに見つめていた。
 それはさておき、観客や自分たちでは対処が難しいと即座に判断したジザベルは、全く隠れていない隠し球の人造伐竜神ノモス・アモフによるブリザードたちの排除を提案する。
 彼としては彼女に余計な体力を使わせたくないのだが、状況が状況だと考えたのだろう。
 と、そこれ現れたのは巨大な影ひとつ。
「いかんのう」
「うおっ!?」
 浅杜守・虚露(浅間雲山居士・f06081)の登場に思わず仰け反るジザベル。だが、彼の発するブリザードたちへの不満に気付き、やる気かと笑う。
「丁度いいぜぇ、あいつら、やっちまってくれねーか?」
「受けよう、物のついでじゃしのう」
 ジザベルの言葉に乗った虚露は、彼の出した手に笠を渡す。彼は冷えていく祭場で僧衣を諸肌に脱ぐと胸元を打ち、気合を見せる。
 そのまま何も気づかず幸せそうに氷を撒き散らすサンヅェンインさんの元へ歩み寄った。
 ずしり。
 その大きさ、重さ、威圧感。さしものオブリビオンらもこれに気付き、慌てて視線を向ける。
「いかんぞ、これはいかん」
「な、なな、何者ですのっ?」
 立ちはだかる山のような男に動揺するサンヅェンインさん。虚露が目を開くと放たれる野性的な眼光に体を震わせた。
「……相撲、プロレス……形は違えど、リング、土俵を見る観客があればこそ選手は奮い立ち、そして選手の雄姿を見せる事で観客は明日への活力を得る。
 選手は選ばれども観客に貴賤無しじゃ。じゃが、マナーを守れん者はいただけんのう」
 言葉を重ね、恫喝するようにその目を見据える。彼女らに近づいた分、体温も低下するが、それは先程の気合入れでカバーできるだろう。
 虚露の眼光に圧され、身構えるサンヅェンインさんであるが、その足はようとして前に出ようとしない。
(お、お馬鹿な……この私が、お圧されあそばせられてるとでも……!?)
「サ、サンヅェンインさんお姉様っ、相手はお寂しくも独り身ですわ! けちょんけちょんにゲロっぱしてくださいましっ!」
「どうしてお向かいにならないのです、サンヅェンインさんお姉様!」
 一々胡散臭いお嬢様言葉を使うブリザードたち。というかさんまでつけなきゃならんのですかお姉様。
 しかし、お姉様の後ろから好き勝手に言う三下ブリザードたちと違い、退く素振りを見せないサンヅェンインさんはさすがと言えるかも知れない。
 尚も睨む虚露の重圧に動けずにいると、更に後方から私が相手をすると声が上がった。
「ああっ、あのお方は!」
「カマーセ、カマーセお姉様よ!」
「我らブリザード名門ブルヲレイズ女子学校で永遠の二番手!」
「才能だけならサンヅェンインさんお姉様を超えると言われ、数々の校内記録を塗り替えてきたカマーセお姉様よ!」
「それでも勝てず、目の敵にして座学のお成績から出席日数、登校時間まで競い始めたというのに一度もサンヅェンインさんお姉様に勝てなかったしゃらくせえカマーセお姉様が、どうしてこんなところに?」
 もう止めたげてよ! と言いたくなるような内容で紹介されたカマーセお姉様。お前はさんないのね。
 正に名は体を表すとばかりに超人的な精神性で余裕の笑みを全く崩さないカマーセお姉様は、噛ませ犬の未来しか見えない。
 にも関わらずサンヅェンインさんより前に進み出ると、訝しげな虚露の視線を真っ向から受け止めた。
「お下がりなさいな、サンヅェンインさん。このような雄ひとりぶちのめせねえと言うのでしたら、ワタクシがこの雄をぶちのめして、改めて名門、ブ女子の威厳を知らしめてやりますわ」
 そしてその時はもちろん、この私が一番となるのだ。
 高笑いするカマーセお姉様に対して素直に退くサンヅェンインさん。
「よっぽどの自信がありやがるようですわね。なら、このお方はお任せあそばしますわ!」
「や、やけにあっさりと引き下がりましたわね」
 これはチャンスとばかり、犬のように尻尾を巻いて別の椅子が並ぶ場所に駆け出すサンヅェンインさん。危機管理能力高いな。
 一方、名前のせいか危機管理能力の欠落したカマーセは、虚露への強気な姿勢を崩さない。
「そこの雄! このワタクシ、カマーセが、サンヅェンインさんに代わりお相手してさしあげますわ!」
「お主じゃ無理じゃと思うがのう」
 なんですって。
 カッ、と目を見開いたカマーセに、虚露は腕を組みため息ひとつ。サンヅェンインさんほど圧を当てた訳ではないが、それにしてもこのカマーセは相手を下に見過ぎるきらいがある。
 自分の力を過信し、相手の力を過小評価する。『彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず危うし』である。
「あなた、我らブ女子を知らないようね」
「自らをブス女子など、言うものではないぞ」
「醜いと書いてのブじゃないわよ!」
 きーっ、と地団駄を踏むカマーセさん。
「我らが名門のブルヲレイズ女子学校は、古くは四千年の歴史を持つと言われるブルヲレイズ史に感動した学長が建ちあげたブルヲレイズ専門の名門校!
 入学してからこの一月で頭角を表した天才のワタクシが、あなたのようなポッと出の雄に負けるなんてあり得ないのよ!」
「この一月……ポッと出じゃのう……」
 カマーセの言葉に思わず素直に漏らしてしまうと、彼女の顔色が真っ赤に染まる。
 虚露はちらりと後方に控えるジザベルに視線を送ると、もしかしなくてもその学校、それこそ建設されたのは一月前なのではないかと問う。
 カマーセはたじろぐと、まさか我らの学校を知っているのかと衝撃を受けたようだ。むしろ、存在が知られていることにやはり名門と喜んでいるようにも見える。
「学校すらポッと出とはのぅ」
 さすがに可哀想と思ったのか、憐れむ視線を送る虚露に赤を通り越し青ざめるカマーセお姉様。怒っちゃいやん。
「……こっ、このっ……お便所に置かれたタン壺野郎がっ……!
 ……このブ女子の天才っ、カマーセ様に勝てるおつもりかしら……っ!?」
「じゃから、女子が自分をブスと言うなと、言っておるじゃろう」
「――このっ……!!」
 カマーセお姉様、おこである。
「猟兵になァア、オブリビオンの打倒などォ、できるわきゃねえだろーっでございますわァア!」
 カマーセお姉様、激おこぷんぷん丸でした。
 彼女の周囲の温度が急速に失われていき、空中に生じた細氷がカマーセの周囲を煌めかせた。
 その冷度は気合を込めた虚露ですら身震いする程だ。
「ブリザァァドッ、クロォォウ!」
 煌めきと極寒の気を収束させ、超硬度の氷爪を顕現させたカマーセ。これが彼女のユーベルコード、【ブリザードクロー】である。
 天才の名は伊達ではないか。攻撃的な姿勢を取るカマーセに、やはりオブリビオンとしての気配を感じて虚露は獰猛な笑みを見せた。
「不退、不倒! わしを止めたくば死力を尽くせぃ!
 お主のブリザードクローとやらは、わしの怪力を止められるかの?」
 開いた大口から覗く牙。サンヅェンインさんに見せたものよりも明らかに高めた威圧をしかし、全く圧される気配のない彼女の力量とはいかに。
「爪を振りかざしてくるならば、覚悟を決めた力士のぶちかましとどちらが強いか、真っ向勝負といこうかのう!」
「無論! このワタクシが強いに決まってますわぁ!」
 四足の獣の如く、地を這う姿勢に移ると額に青筋を浮かべて怒り猛るカマーセに対し、両の足を大きく左右に開いて深く腰を沈めた虚露は右拳を地に当てる。
 彼女に対して静かな構えだが、内に猛る闘志はカマーセと同じく。
「じゃああああっ!」
「――はっけよい……」
 全身をバネに標的へ飛び掛かるカマーセ。
 更に身を低く、重心を前にかけて拳で体を支える虚露。
 振りかぶったカマーセの氷爪、その切っ先が僅かに虚露の肩を抉る。冷気がその身を侵食するが、熱く滾る血潮を凍てつくには至らない。
 ならば、その猛撃を止めるにも至らない。
 高速で放たれたぶちかましは中空のカマーセを捕らえ、動きの止まった彼女へ更に超高速の張り手が放たれる。
 それも一発や二発ではない。
 秒間四百三十発。ユーベルコード【熱行・突出相撲之極(ヒートアクション・ツキダシズモウノキワミ)】。まさに張り手を極めし猛攻擊。
 機関砲すら肩を並べるに値しない巨大な掌の超高速連打の前にカマーセの前身は余すことなく叩き潰され、声すらあげる暇もなく弾き飛ばされた。
『ほげぇええ~っ!?』
 後方のブリザードたち、そして怒れる聴衆を巻き込んで、カマーセは空の星へと消えた。
「……これは……いかんのう……」
 規格外の低温にすら焦りを見せなかった虚露であったが、さすがに一般市民を巻き込んでは冷や汗を禁じ得ない。
 しかし、そこへ跳び出す者が一人、空を舞い塊となった人々へ突進した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アノルルイ・ブラエニオン
プロレスがショーであるということが伝わっていないようだ
私達で伝えたいな(目的が変わっている)

それはそうと…
観客席の独占はこのエル・ロンドが許さんぞ!

リュートを弾きながら敵の前に現れる
弾いているのはUCだ
動きを止めさせ
人質がいるなら解放し
こちらの意志を伝える

我々の戦いを皆で見て楽しめ!
だが、観客席を独占するなら痛い目に遭ってもらう

UCを解除、敵の攻撃をあえて受ける
ただし狙いを【見切り】直撃を避けるように
危機を程々に演出し
華麗な空中殺法で反撃だ
そして投げ技──私流エメラルドフロウジョン、名付けて
「ブルイネン・フロウジョンーーーーッ!!!」
フィニッシュを決めるぞ!
そして観客席にポイだ



●舞い上がれ、覆面の戦士!
「とぉおうっ!」
 陽の光をその背に浴びて、空に舞い上がるは星を従えた夜空の残滓。
 ブリザードたちに巻き込まれて吹き飛ばされた人々を回収、颯爽と救いだし地面に送り届ける。
 遠目に映る虚露が手を挙げてお礼と頭を下げる姿に、こちらも手を挙げて応える。
 アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)こと覆面レスラー、エル・ロンド。
 黒と金の覆面は怪しさピカイチ、しかし心根優しく救われた者たちは引きつった笑みでお礼を述べた。
 良いことをするのは実に気持ちの良いことだ。
(しかし、プロレスがショーであるということが伝わっていないようだ。是非とも私たちで伝えたいな)
 それ、まずは元凶のジザベルさんの脳髄に叩き込んでやってくださいまし。
 それはそうと。
 エル・ロンドは未だに暴れ回るブリザードたちへ目を向けた。傍若無人、理不尽極まりない。ショープロレスの精神を持つエル・ロンドとしては、観客を追い払うブリザードらの悪行は言語道断だ。
「観客席の独占はこのエル・ロンドが許さんぞ!
 とああーっ!」
 再び宙を舞う影の使徒。
「を~っほっほっほっほっ! さあさあ、どんどん凍らせてさしあげなさい!」
 調子に乗ってるサンヅェンインさん。そんな彼女の前に当然とばかりに降り立つ一人の男!
 まあエル・ロンドさんしかいないよね。
「――何奴ッ……、…………!?」
「~♪ ♪♪♪ ……♪♪……」
 リュートを弾きながら目の前に降って現れた男の姿に、ブリザードたちの動きが止まる。
 【サウンド・オブ・エンタイスマント】。リュートから流れる美しい音は、聴く者全てを清流に落とし込むように涼やかで、誰もが抵抗できずに心奪われ、その動きを止めてしまう。
「サササ、サンヅェンインさんお姉様! なんなんですの、アレは!?」
「禍々しいオーラが出ていますわ!」
「見るからにヤベェー奴って感じですわぁ!」
 誰も聞いてないや。でも恐怖を演出し動きを止められたのなら問題ないな。
 エル・ロンドはユーベルコードを解除すると、サンヅェンインさんらへびしりと指を突きつけた。
「我々の戦いは、皆で見て楽しむものだ!
 それを観客席独占などすると言うなら、痛い目に遭ってもらう」
「なんですって。お口の躾がなってござーませんようね!」
 ぶっちゃけ関わりたくないが、お姉様助けてと言われれば前に出るしかないのがサンヅェンインさん。エル・ロンドの挑発を受けて、ずずいと前に出た。
「ふっ」
 相手を堂々と見据えて胸を張る彼の背中に巻き上がるマント。
 サンヅェンインさんはその立ち姿や先の身のこなしに、隙の無さを覚えて攻めあぐねているようだ。
(さっきのデカい雄ほどのプレッシャーはないですわ。でもこの余裕、明らかにこちらの攻撃を誘っていやがりますことね?)
 エル・ロンドの佇まいからそう分析したサンヅェンインさん。そこへ、声方から声がかかる。
「サンヅェンインさんお姉様、このお方のお相手、どうか私にお願いできませんか!」
「なんですって。本気なのかしら、アテゥマーさん?」
 おい名前。
 アテゥマーはサンヅェンインさんの言葉に、拳を胸元で構えて任せてくださいとばかりだ。
 自らを慕う者をいかにも怪しげな男に差し出すのは気が引ける。だが、そもそも関わりたくないなと考えていたサンヅェンインさんはこれを快く承諾した。
「なら私は別のベンチに行ってくるわ。ここは任せたわよ!」
 やったぜとばかりに走り去るサンヅェンインさんを見送り、アテゥマーは両手を顔の高さまで上げた。
 真っ向勝負。そう言うのだろう。ポニーテールのブリザードにエル・ロンドは構えを取らず。
「お舐め腐ってんじゃねーですわよ、ジャリ坊がーッ、ですわ~!」
 基本的に君らお口の躾がなってなくない?
 動かぬ男にダッシュと合わせた強烈な張り手をお見舞いする。
 ばちん、と大きな音が鳴り、よろける体に追撃の体当たりが決まった。
「口先だけでてんで大したことないでございますわねっ!
 群竜大陸のその果てまで、飛んでいくがいいですわーっ!」
 エル・ロンドの腕を掴むと自身を軸に回転、勢いをつけて祭壇へ投げ飛ばすアテゥマー。
 火花を散らすロープにあわや激突というところでエル・ロンドは体を開き、空中で軌道を変えるとロープを繋ぐ柱――いわゆるコーナーポストへ着地した。
「げげぇっ、なんという軽業ですの!」
「やってくれたな。次はこちらの番だ!
 この私の、鳥よりも華麗なる空中殺法をお見せしよう!」
 身を低く構えて、強靭な足で柱を蹴り、迫るエル・ロンドは顔前で腕を交差、フライングクロスアタックを敢行する。
 高速で飛来するそれに為す術なく胴を打ち抜かれたアテゥマーは地面を転がった。
「こ、この――、はっ!?」
 上半身を起こした時にはすでにその場にエル・ロンドはいない。凍っていないベンチを足場に再び跳んだ彼は、アテゥマーの直上からムーンサルトボディプレスを放つ。
 軽やかな動きにダメージは見られない。それは彼が、ちゃっかりとアテゥマーの技を見切り打撃点を反らしていたからだ。
 しかし。
「うぐほっ!」
 溶けるようにアテゥマーの姿が消え、自爆したエル・ロンドは地面に強か打ち付けた腹を押さえてもんどりうった。
 少し離れた場に出現した彼女は、危機的状況を脱してにやりと笑う。
「油断しましたわね。そして、これを見るがよかろうなのですわッ!」
 大袈裟な身ぶり手振りで指し示したそこには、ベンチの上でスケベな笑みを浮かべたまま氷付けになった男の姿。
 この人、絶対に例のダイナマイトバデーで妄想してたでしょ。
「いわゆる人質と呼ばれるものですわ! この方がお煎餅のようにバリンと割れるのを見たくなければ、大人しくぎったんぎったんにされるがよろしいですわ!」
「ひ、卑怯な!」
「ほーっほっほっほっほっほっほ! 何とでもほざいてちょんまげでございますわよ~!」
 変に庶民性をアピールするアテゥマーの後ろで、笠を五重塔にした、エル・ロンドと並べても怪しげな小さな影が人質の氷を溶かしていた。
 生み出した炎でじっくり炙り、ベンチからまだ凍りついた体を剥がすと、そのまま野次馬の中へと消えていく。
「さあ、早く降伏しておくんなまし! 私が本気でないと思っているのならとりあえず腕の一本でも――、あらっ?」
 振り向いたそこに人質はなく、冷や汗を浮かべるアテゥマー。
 その前にすたりと降り立つエル・ロンド。
「下劣な手を使うとは。語るに落ちたな、名門ブルヲレイズ女子学校!」
「お、お待ちになって! 今のはただの夏休みの自由研究ですわ! 人間を解凍したらどうなるかっていうコールドスリープに対するアンチテーゼ的なっ」
「 問 答 無 用 ! 」
 エル・ロンドはアテゥマーに組み付くと、上から体を抑え込み、引いた足を振り子の如く勢いに変えて一気にその体を持ち上げ、肩に担いだ。
「あの技は!?」
「知っているのジザベル?」
 人質を取られたと聞いて今さらやって来た冒険者ご一行。
 ジザベルは少女を担ぎ上げたエル・ロンドの技に着目する。
「ああ。大陸四千年にも及ぶ歴史の中で偉大なる男が用いた技、それを見て尊氏と呼ばれる男が戦術に応用し、兵力もない小さな農村ひとつで敵対国の軍勢を打ち破った。
 後に名付けられた技の名は……エルドラドの奇跡……!」
「よくわからないけど凄そうね。どんな技なの?」
「ぶっちゃけよくわからん!」
「は?」
 は? お前もう黙ってろよ。
 妙な横槍に負けることなく、エル・ロンドは投げ技、私流エメラルドフロウジョンを炸裂させる。
 その名も名付けて。
「ブルイネン・フロウジョンッ! フィニーッシュ!!」
「へぎゃあっ!」
 地面に叩き落とされて、アテゥマーの悲鳴が響く。
「す、すげえ、なんだ今の技は?」
「あんなの見たことないわ!」
「そもそもブルヲレイズって一回しか見たことないんだけど」
 口々に騒ぐ人々を前に、ぐったりとした彼女を抱え、お仕置きも終わったとエル・ロンドは爽やかな笑みを見せた。覆面で見えないけど。
「そ~れ、ポイッ!」
「きゃっ」
 少女を観客席に投げると、受け止めたのはダナーカさんだ。エル・ロンドは罪を憎んで人を憎まずの言葉を残して、観客らに背を向けた。
 罰はもう、終わったのだ。後は許しの時間だ。
 ダナーカは微笑み、頷く。
「つまり、許せるその時までボコれってことね!」
 欠片もそんな話されてなくね?
 ダナーカさんはアテゥマーの手を取り、まるで踊るように彼女をくるりと回した。両者の腕が互いに伸びた距離で、笑みを絶やさぬダナーカさんと、未だに目を回しているアテゥマー。
「ウェエエエイ!」
『うぅううぇええええいいいい!!』
「んえっ? な、なになになに!?」
 ダナーカさんの咆哮。高々と掲げた右手に狐のサイン。
 熱狂する周囲の声に気絶していたアテゥマーも目を覚まして周りの状況に慌てている。
 ダナーカさんはそれに構わず、右腕を擊鉄のようにがちりと固め、アテゥマーを引き寄せた。
 これで終わりだ。
 放たれた一閃は死神の鎌の如く、アテゥマーの首に直撃。その体を回転させ地面に叩き伏せる。
 響く歓声、興奮する人々。
 薄れいく意識の中でアテゥマーは思った。
(え、えげつねえですわ……猟兵……)
 全ての罪をエル・ロンドにおっかぶせて、彼女は意識を手放したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナギツ・イツマイ
 スモウ=レスラーいわゆるリキ=シは聖水チカ=ラミズを飲みシオフリで邪を払わなくては聖なるリング、ドヒョ=ウに上がることは出来ない。
 まあ今回は略式でokだぜ。お水please。⋯(ぬるいのは勘弁な)

 ⋯!おっと観覧席に狼藉者が、これはいけない。氷もらわなきゃ。
 じゃなくて、スモウ=レイズ的に観客の暴力行為はザブトン=マイ以外に許されるものではナッシング。
 悪滅!ここはファフロッキーズ現象にてシオフリ対応させていただこう。
 降臨せよ水っぽい塩の雨!奴らの目を潰せェェェ!!

 あ⋯なんかあのロープバチバチいってるんだけど⋯【夏休みの自由研究・食塩水は電気を通すのかな?】の始まりだ!逃げろォォ!!



●正当防衛だ! 俺は悪くない!!
「いぃ~っきし!」
 氷付けにされていたおっちゃんがくしゃみをしつつがたがた震えていると、五重塔、もとい、ナギツ・イツマイ(オンミョー・シャーマン・ヒーロー・ウィズ・ラッパー・f19292)は空のコップとともに現れた。
「さささ、さぶい! あああ、あん、あんだ、ああり、ありが、ありがとう、な」
 震えながらの必死の礼に言葉は要らないとばかりにコップをつきだした。
「スモウ=レスラーいわゆるリキ=シは聖水チカ=ラミズを飲みシオフリで邪を払わなくては聖なるリング、ドヒョ=ウに上がることは出来ない」
「なななんなん、て、言ってるか。全然っ、わかんない、ぜ」
 相変わらず意思疏通ができてないご様子。
 ナギツは構わず、今回は略式で構わないとお水をプ=リーズする。小さい声でぬるいのは勘弁だと、キン=キンに冷えた水を所望する。
 しかしここは村の外れ。しかも雪山ですらないこの地域は、雪が積もったこともなければ川が凍り付くこともない。
 あるのは飲み水とは言え、熱い日差しに暖められたものだけだ。
「あーっ、いましたわ! アテゥマーさんの邪魔をし腐りやがったガキんちょですわーっ!」
「…………!」
 ナギツに続き現れたのは複数のブリザードたち。
 こっちこっちとぴょんぴょこ跳ねる可愛い動作で仲間を呼ぶというヤンキーと特に変わらない行動を取る。
(おっと観覧席に狼藉者が、これはいけない。氷もらわなきゃ)
 ぬるいながらもコップにいただいた水をテイスティングしていたナギツは、ブリザードの特性から思わず水を冷してもらおうと喜ぶがすぐに否定する。
(じゃなくて、スモウ=レイズ的に観客の暴力行為はザブトン=マイ以外に許されるものではナッシング)
 先程まで氷付けにされていた男性も怯えている。別に彼とて正義の味方を気取っているわけではないが、由緒正しきリキ=シの一人として、ドヒョ=ウ周りで暴れる輩を見過ごすわけにはいかない。
 ――ここはファフロッキーズ現象にてシオフリ対応させていただこう。
 ナギツの目がぎらりと光る。
 シオフリ対応とは?
 即ち、塩を振るが如き塩対応によるずぶずぶの塩浸け、時代を問わず辛くて辛い塩対応。そんなことされては現代っ子に限らず野生児すらも夜は枕に塩をまぶすこととなってしまう。
 恐ろしき対応! 恐ろしき技!
「降臨せよ水っぽい塩の雨! 奴らの目を潰せェェェ!!
 きえええいっ!」
 目を血走らせて両手を挙げて、奇声とともに袋からぶちまけたような塩水の塊がばっちゃんとブリザードたちの上に落とされた。
 まんまやんけ。
 ちなみにファフロッキーズ現象とはその地域にあるはずのないものが降ってくる現象のことを言うぞ。勉強になったな!
「な、なんなんですのっ?」
「んきゃーっ、目に沁みやがりますわぁー!」
「ぺっ、ぺっ、これはソルト……ま、まさかワタクシたちを……美味しくいただくという暗喩……!?」
「性的に? あらあらどうしましょう!」
 勝手に盛り上がり始めた。最初からわかってたけどお前らの思考回路おかしいゾ。
 上手く足止めに成功したと額の汗を拭うと、今の内とばかりにブルヲレイズ観客を笛を鳴らしながら整理していく。
 ブリザードたちの登場でごった返していた会場も猟兵の活躍で元凶も少なくなり、ベンチも各員解凍中で混乱も収まりつつある。
 でもまずはブリザードさんたちを排除してからでいいと思うぞ。大根足になりたくない人たちは嬉しそうだけど。
「はーい右ぃ、ははーい左~。ぐるっと回ってピッピッピッ!」
 人を動かして遊んでいるように見えるが、いや実際に遊んでいるが、ナギツの号令を受けていることで動揺もすっかり収まった。
「ふう。これでワンス・ハート・ザ・チープ、即ち一安心」
 それ翻訳あってる?
 五重塔は一仕事終わったぜとダイナモ感覚に盛り上がるブリザードへ振り返る。
 と、その更に後方で祭壇を囲うロープが帯電しているのに気がつく。
(……あ……なんかあのロープバチバチいってるんだけど……)
「『夏休みの自由研究・食塩水は電気を通すのかな?』の始まりだ! 逃げろォォ!! ピピピィィイ!!」
 叫ぶナギツのベルの合図は、すっかり調教された人々を迅速に誘導する。
「しまった、夏休みの自由研究まだ終わってませんわ!」
「なに言ってあそばせてございますの。このブルヲレイズを自由研究になさればいいでござーませんこと?」
「その手がありましたわ!」
「アテクシ、このブルヲレイズが終わりましたら自由研究を完成させますの~!」
 さて、フラグの建築は終わったかな?
 回収の時間だ。
 塩水に浸され機械でもないのに漏電の反応を見せるロープは、燃える液体を滴らせながら発光する。
 同じく塩水を被り側にいるブリザードたちを高圧電流が通り、触れていないがそれと同じ反応を見せたことで爆発魔法すら発動してしまう。
 凄まじい音とともにブルヲレイズ祭壇が爆炎を上げ、ブリザードたちをまとめて吹き飛ばした。
「あああっ! 私の魔法ーっ!?」
 女魔法使いの悲痛な叫びが祭場に響くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

草剪・ひかり
キャラ崩し&お色気描写、即興連携等歓迎

入場で注目を集めたし、真打登場の前にしっかり
「プロレスラーとしての」実力の片鱗を魅せつけよう

プロレスラーは「ただ強ければいい」ものじゃなくて
どんな相手でもその魅力を引き出し
「それ以上の魅力」で上回るのが「一流のプロレスラー」

ただ私は宇宙でも一摘みの「超一流」なので、ただ相手を引き出すだけじゃ終わらないよ

多対一の闘いで打ち倒され抑え込まれれば、その連携の巧みさを称え
それを返しての反撃で、「決して超えられない絶対女王」という畏れを刻む

倒された相手に「草剪ひかりとまた闘いたい」という憧憬か信仰に近い想いすら抱かせる
それこそ私が「絶対女王」たる所以なんだよ!


アニカ・エドフェルト
さて…。本番前に、もう少し、体をあっためておきたい、ところですね。
…あんなところに、観客席を、荒らしている、人が居ますね。
ちょうど、実戦形式で、体をあっためるのに、いいかも、しれません…?

…とはいえ、冷たすぎると、あんまり、触りたくは、ないですね…。
でも、仕方ありません、〈グラップル〉〈怪力〉《転投天使》を使って…
掴んだままの、連続投げなんかも、いいかもですね。
…あ、祭壇や、観客席の方には、投げないように、しないとですね。
(掴んだまま外へ飛んでいく)

周りを、冷やされるなんて、怪我が増えて、大変、なんですよ?
無駄に、冷やす人たちなんて、この場から、消え去って、くださいっ



●そろそろ決着といこうぜ? 場外乱闘最終戦!
 アホみたいな威力で祭壇の周囲を吹き飛ばした電流爆発魔法。
 災禍から免れたサンヅェンインさんは必死に生き残りを探していた。
「だ、誰かいませんこと? ……生き残りは……誰かーっ!」
「……サ、サンヅェンインさんお姉様……」
「ワタクシたちが、……おりますわ……」
 サンヅェンインさんの呼び掛けに答えた声はふたつ。
「ああ、ヤラレさんにフラッグさん。お双子のあなたたち以外は、助からなかったのね」
 思わず涙を拭うサンヅェンインさん。仲間を見捨てた奴とは思えませんな。
 安定の雑魚ネームを披露したブリザード二人を引き連れるサンヅェンインさんの前に、二人の壁が現れた。
 一人はゼブラ模様の衣装にそのダイナマイト・バディを押し込んだ草剪・ひかり(次元を超えた絶対女王・f00837)。
 一人は青と黄の爽やかな衣装に身を包んだ可憐な少女、アニカ・エドフェルト(小さな小さな拳闘士見習い・f04762)。
「入場で注目を集めたし、後は真打登場の前にしっかり、『プロレスラーとしての』実力の片鱗を魅せつけるだけだね!」
「私も、本番前に、もう少し、体をあっためておきたい、ところですね」
「くっ!」
 迫る二人に構えるサンヅェンインさんとそのお付き。
 二対三、ハンディキャップ・タッグマッチといったところか。
「ならばここは、ヤラレさん! フラッグさん! あの大女をおやりやがってくださいまし!」
「ええ!?」
「アテクシたちで、ですかぁ!?」
 明らかに強者のオーラの漂う相手を押し付けられて浮き足立つ二人。
「何をヒヨってますの? あのおっぱいとお尻が、ぶいんぶいんでばいんばいんな破廉恥女など、まともに動けるわけござーませんことよ! あなた方お得意のお双子コンビネーションでいちころですわ。
 一方、あの小さな子を見なさい! あれではコンビネーションを仕掛けようものなら、あなた方がぶつかってしまいますわよ!」
 なるほど、一理ない。
 明らかに口から出任せのストロングスタイルなお姉様の言葉に、さしものブリザード娘たちも非難の嵐は必至だ。
「まさか、そんな理由が!?」
「さっすがはお姉様ですわ!」
『さっすおね! さっすおね!』
 ……丸め込まれちゃったよ……。
 あるべき場所に脳の収まっていないであろう二人のコールを得意満面で静めて、サンヅェンインお姉様は二人へ向き直る。
「と、いうわけで、おチビちゃんのお相手はこのサンヅェンインさんに大決定ですわーっ!」
「あ、はい、よろしく、お願いします!」
「なら私の相手は――」
「ワタクシと!」
「アテクシの!」
『コンビネーションで倒して差し上げますわーっ!』
 ノリノリである。
 ひかりとアニカは視線を絡めると、同時に別方向へ跳躍する。
「をーっほっほっほっほっ! 逃がしませんことよ~!」
「これは勝ったも同然ですわね!」
「フラッグさん、油断しちゃ駄目ですわよ!」


●超一流のプロレスラー!
 祭場から少し離れた霊木には全ての人間が避難していた。
「それでは場外乱闘最終戦、実況はこの私、実・況子が行います!」
「いや誰だよ」
「みのり! きょうこです!」
 名前を聞いてるわけじゃないんだよなぁ。
 勢いに押されてひきつった愛想笑いを見せたジザベル。女魔法使いは祭壇の魔法復活に向かっている。
 爆発の威力下げとけ。
「解説にジザベルさんを加えて番組をお送り致します」
「バングミってなんだ?」
「ジザベルさん、まず見所のカードはどちらでしょう?」
「カード?」
「なるほど、まずは草剪・ひかりさんとヤラレ・フラッグのコンビが注目と!
 ひかりさんは筋金入りのプロレスラー、『絶対女王』の通り名で知られ、現在は団体もひきいてシャッチョさんと呼ばれていますね」
「ああ、はい」
「対するヤラレ・フラッグは双子の姉妹! 強力なコンビネーションの数々はブ女子のハリケーンと呼ばれ恐れられています!」
「はあ、なるほど?」
「この二人を倒すにはどう連携を崩すかが鍵となっております」
「へー」
「それではカメラを選手へ戻します。実況は私、実・況子と、解説は!」
「…………、あぇ? あ、ジザベル・グリズリーです」
「で、お送り致しました!」
「……なんだこれ……」
 なんだこれ。

 ブルヲレイズ祭場の被害を押さえるために離れたひかりの元へ、少し遅れて現れるブリザード二人。
「どうやら観念したようね!」
「観念? ふふふっ」
 ヤラレの言葉に思わず笑い、ひかりは肩に回した黄金の毛皮を天高く投げ捨てて、ヤラレへ左の指を突きつける。
 右手に握るは銀色のマイク。
「この『絶対女王』と呼ばれた草剪・ひかり、一線を引いたとはいえ、まだまだあんたたちみたいな小娘に負けたりしないよ!」
『おおっと草剪・ひかり、ここで先制のマイクパフォーマンスぅ!
 絶対女王断罪宣言ッ!! 新進気鋭のオブリビオン相手にまだまだ次代は回さないと強気の台詞だぁ~!』
 ひかりの言葉に合わせて実・況子が思わず猛る。その盛り上がりに引っ張られるように熱狂する野次馬の声にヤラレとフラッグは圧され、及び腰だ。
「な、なんなんですの? なんなんですの!?」
「ヤラレさん、雰囲気に飲まれては駄目ですわよ! 行きましょう!」
 気力を振り絞って駆け出す二人。構えるひかりの前で同時にわかれて、左右から交差するように上段蹴りが放たれる。
 しかし女王、ノーガード。
 ばちりと激しい音をたてて顔を挟んだ足を耐えて、両の腕を振り上げる。
「ダブル・アックスボンバー!」
「わぶっ!」
「へぐぅ!」
 足を払い、駆けるひかりの一撃が二人の顔面に炸裂した。
『一刀両断~! こ、これは早速、決まってしまうのかぁあ!?』
「ま、むぅあだですわ!」
「そうです、アテクシたちが、そうそう倒れるわけござーませんわ!」
 語気を強めるものの初体験の一撃、体力をごっそりと持っていかれたようで顔を赤く染めている。
 しかし目に宿る闘志は炎と燃え、戦う前の弱気が消えている。
 そう、プロレスラーは『ただ強ければいい』ものではない。どんな相手でもその魅力を引き出し、『それ以上の魅力』で上回るのが『一流のプロレスラー』、そしてひかりの矜持はその上を目指す。
「いきますわよ、フラッグさん!」
「もちろんですわ、ヤラレさん!」
 円を描くように回るヤラレとフラッグ。
 どこからでも来いと仁王立つひかりは動かず。視線を合図に、螺旋を描き迫るはフラッグ。
 低くく地を走り、背後から体を回して放つは超低空のドロップキック!
「ツ=ラーラキック!」
 ドロップキックじゃないね、ツララキックだそうですね。
 対してヤラレは注意を引き付けるべく側転、更にフラッグの攻撃に合わせてバック転からのオーバーヘッドキックを狙う!
「ツ=ラーラキック!」
 違うね、ツララキックだそうですね。お前らもうそれだけかよ。
 しかし上下のコンビネーションかつ死角からの攻撃である。対応するのは厳しい攻撃。
 が、そこは絶対女王と呼ばれたひかり、その経験。
 ヤラレの動きに死角から迫るフラッグを予想し高々と開脚跳躍。
「な、なにぃーっ!?」
「いたーいっ!!」
 ひかりがかわしたことでヤラレの技がフラッグに炸裂、同士討ちとなってしまう。
「あなたたち、コンビネーション技はしっかり練習しているみたいだけど実戦経験が少なすぎるわ。リカバリーが足りてない!」
 次があれば、確実な成長となるだろう。そう告げて身を捻り、空中で加速するひかりの体。
「スカイ・ツイスター・プレェエスッ!!」
 高速回転しながら落下するその破壊力。
 叩きつけられたヤラレ、フラッグは立ち上がる力を持たず、全体重をかけて放った一撃はひかりの体力をも奪う。
 誰が見てもわかる捨て身の技に対して、しかしひかりはふらりと立ち上がり、しかし右腕は力強く天を衝く。
『き、き、決まったぁ~! 草剪・ひかり、圧勝だぁあ!!』
「ひーかーり! ひーかーり!」
「お姉様、ステキーっ!」
「なんかも、あの、ほれ、すごかったぞーっ!」
「すげえぞひかりーっ!」
 声援を受ける女を下から見上げて、二人は次戦の成長を告げたひかりの姿を思い浮かべる。
 この人には勝てないと、それだけを身と心に刻んで意識を手放した。
 これが草剪・ひかり、『超一流』の目指すところ。ただ相手を引き出すだけでなく、『決して超えられない絶対女王』という畏れを刻む。
 そこから立ち上がれた者が、再び戦いたいという憧憬や信仰に誓い想いを抱かせる、それが絶対女王なのだ。
 倒れた二人を見下ろして、ひかりは微笑んだ。


●決戦! サンヅェンインさん!
「えー、見事な戦いを終え、カメラはこちら、実況席です。実況はもちろんこの私、実・況子と!」
「ひかりーっ! もっと揺らせ~!」
「興奮しておりますなにも解説していない解説役、ジザベル・グリズリーです。
 さあ、激しい戦いの中で実力差を見せつけた草剪・ひかり、続くのは小さな小さな拳闘士見習い、アニカ・エドフェルトとブリザードたちのお姉様、サンヅェンインさんです」
「こっち向いてくれ~、ひかりーっ!」
「えー、やはり見所はおそらくブリザードら一の実力者、サンヅェンインさんをどうやってその小さな体で仕留めるかというところですが!
 前情報により高い力を持っていることがわかっております。パワー、グラップル、機敏に動く小さな体、中々のファイター!
 それでは行きましょう、ラストー、バトルゥー!」
「ひかりーっ! 結婚してくれ~っ!」

「さて、鬼ごっこは終わりかしら? おチビさん!」
 強気に出るサンヅェンインさんに、アニカも構えを取る。
 腕を組む彼女に向かい、小さく構えるアニカ。
「お食らいなさい、ブリザード・ブレス!」
 サンヅェンインさんの口から放たれる冷気の嵐が周囲を凍てつかせる。
 ウォーミングアップもかねての戦いであるが、体温を奪う敵というのは厄介だ。
 サンヅェンインさんの攻撃をかわしつつも、周囲の気温をどんどん下げられてしまい、僅かずつだが体力も削り取られる。
 決着をつけるならば接近戦しかないわけだが。
(……とはいえ、冷たすぎると、あんまり、触りたくは、ないですね……)
 しかし、そうも言ってはいられない。先程の爆発で周囲が暖められたせいか動きに鈍りのあったサンヅェンインさんも、はや回復したようで元気一杯、嬉しそうにブレスを振り撒いてある。
「あっそ~れふぅ! こっちもふぅう! をほっ、をほほほほほほ!」
 仕方ないとばかり、アニカは迫るサンヅェンインさんの隙を突き、前に出るタイミングに合わせてこちらも前に出る。
「むむっ、ですわ!」
 即座に冷気を凝固させ、ダイヤモンド・ダストを纏う氷爪が発生、隙を突いたにも関わらず鋭く反応した彼女の一撃を前転でかわし、密着する。
「そこで、寝ていて、くださいっ!」
 【転投天使(スロゥイングエンジェル)】、素早い投げ技が炸裂し、急激な体の負荷に耐えられず転倒したサンヅェンインさんは目を回す。
 しかし。
「復活ですわぁぁ!」
「ええっ!?」
 追撃に向かうアニカに対し、高速復帰したサンヅェンインさんが立ち上がり尾を振るう。
 あわやというところで身を反らしてこれをかわし、そのまま後転してサンヅェンインの放つブリザードクローの連撃をかわす。
 力が有り余っている。アニカはサンヅェンインさんのパワーアップの理由をやはり温度の低下と彼女による攻撃が理由だと分析する。
(ここから、離さないと……お日様の、下、にっ……!)
「まーだまだいきますわよっ、それそれそ~ぅれ!」
 小柄なアニカを追い立てるサンヅェンインさんは、油断の余り力任せの攻撃となり、その隙を突いて足を払う。
「あらまー!?」
「キャッチ!」
 体勢を崩したサンヅェンインさんを抱え、アニカは翼を広げて空を翔ぶ。
「お離しやがりくださいまし! お離し――あ、いや、お離しにならないでくださいまし!」 
 さすがに地面に叩きつけられては叶わんとするが、もはや遅い。
 陽光に晒され、体温を上げたサンヅェンインさんに、アニカはくるりと回って体勢を入れ換えると急降下する。
「いき、ます! カタストロフィック・クラッシュ・ボム!!」
「ひやああああっ!?」
 大暴落の名の如く、超上空から駆け降りた一撃はサンヅェンインさんから、抵抗する気力を奪う。
 そして。
「連続・転投天使!」
「はぎゃんっ、わふんっ、あべしっ!!」
 連続で放たれた必殺の投げにより、繰り返し地面に叩きつけられるサンヅェンインさん。
「周りを、冷やされるなんて、怪我が増えて、大変、なんですよ?
 無駄に、冷やす人たちなんて、この場から、消え去って、くださいっ」
「うぐぅうぅう!」
 何度も叩きつけられ、遂には声さえもあげられなくなったサンヅェンインさん。
 ばたんきゅー、とばかりの様子にアニカは勝利を実感し、両手を挙げた。
「勝ったぞーっ!!」
 猟兵らの活躍により、ついに狼藉者ブリザード集団の排除に成功したのだ。
 残すは初代ブルヲレイズ・チャンピオン、人造伐竜神ノモス・アモフ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『人造伐竜神ノモス・アモフ』

POW   :    闘気纏傲
自身に【燃え盛る闘気】をまとい、高速移動と【攻撃的な闘気】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    刻まれた闘争の記憶
【記憶と体に刻まれた様々な武術】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    悪神覚醒
【人の心を無くす事で悪神】に覚醒して【人の肉体を脱ぎ捨てた獣】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ブルヲレイズ・ルール
・ルールはチャンピオン打倒のための1ラウンド交代制のノモス・アモフ対猟兵となります。
・順番はプレイングにより前後する可能性があります。
・ノモス・アモフ先制入場のため、入場に奇襲をかけることはできません。
・他の猟兵とともに入場、あるいは試合中に乱入可能(乱入・共闘を禁じる方とのプレイングは不可能です)
・敵の応援はもちろん、試合前に味方の応援もできます。
・リングネームやキャッチコピーなどがプレイングにあれば使用しますが、ない場合やステータスシートのものを利用してほしい場合はそちらのキャッチコピーなどを使用いたします。
・入場は派手にがんばります。
・勝敗を考慮せず、プロレスしてくれても大丈夫です。

・プロレスやろうぜ!
●誰もがみんなを待っていた。
 祭場の修理が終わり、陽が落ちて。夜の静けさが辺りを包んだ頃。
 再び祭場にやって来た人々のざわめきが周囲を騒がせる。
 闇の中、祭壇を囲う幾つかの焚き火の間を縫い、現れた一人の女性がロープに触れないよう苦心しながら中へと入る。
 ざわめきが大きくなり、彼女は片手を挙げて静かにするようジェスチャーを送ると、再び静けさを取り戻した祭場に満足気な笑みを浮かべて白い紙を取り出す。
 片手にはどこかで見た銀色のマイク。
「お集まりの皆様、長い間お待たせいたしました。幾つかのトラブルに見舞われましたが、この場を以て、無事に開始できることを、私、実・況子は皆様とともに嬉しく思っております」
 開会の挨拶とでも言うのであろうか。神妙な様子を外から見ながら、なぜ自分ではないのかと不満そうな顔のジザベル・グリズリー。
 吹かした芋のような食物を頬張りながら、そりゃそうだと彼の胸中に共感しない女魔法使いは祭壇を見つめる。
「……、と、言うわけで、私がこれ以上喋っても意味がないので早めに切り上げましょう」
 彼女がちらりと視線を向けた先には民族楽器を構えた村人や協力者である冒険者一同が控える。
 準備万端。
 逸る気持ちを押さえての、内に滾る熱気が伝わる。
「それでは始めましょう――、第二回、ブルヲレイズ・チャンピオンシップ、開始いたします!!」
 言い終わりにマイクを祭壇に叩きつけると、四本の柱から炎が上がる。
 辺境の地に、夜空を割らんばかりの大歓声が響き渡り、拍手の嵐が巻き起こった。
 続いて行われるのは村人・冒険者混合の演奏だ。鼓の音を中心に軽快かつシンプルな音楽が響く。
 その間に祭壇から降りた況子は第一の入場者の到来を告げる。
 マイク拾ったんか。
「さあ、今宵一番の強者は誰だッ、そんなのはもちろん決まってる!
 鍛え抜かれた体は男から見ても規格外! 闘志の権化ッ!
 ブルヲレイズ現チャンピオン、最強を示す為、誰一人として自分の前を歩かせない為ッ!
 先陣を切っての入場です! その名もォォーッ!!」
 夜の帳を引き裂くように、魔法の証明が巨大な霊木を照らす。
 巨木に背を預けていたその者は、白に様々な模様の描かれた布を纏い、待ちかねたとばかりに左拳ををゆっくりと天に掲げる。
 その存在を知らしめると同時に祭壇を目指して一直線。巨体を感じさせぬ軽やかな跳躍からコーナーポストを片手にくるりと身を回し、祭壇を激しく揺らして着地する。
 その重さから揺れるロープが彼女の力強さを物語った。
「――ノモォォォオス……ッ! アモオォフウウウウッ!!」
「おおおおおおおおおっ!!」
 身に纏う布を引き裂き現れたその姿。
 黒髪は熱気に逆立ち、溢れる闘志が可視化されたような体躯。雄叫びと同時に炎をその身に渦巻いて、ノモス・アモフは両腕を天高く伸ばし、人差し指で空を突く。
 膨れ上がった炎が夜空を照らして空へ舞い上がれば、影の空に佇む城が観客の目に映った。
 否が応にも盛り上がる人々を前に、彼女は余裕の笑みで対戦者の入場を待つのだった。
ナギツ・イツマイ
 リキ=シの入場はオハナ=ロードを静々と歩むものだよ。
 しかしあの筋肉、まさに女流タテズナーの風格、バンヅケで言うところのオム=スビである私がどれほど戦えるか⋯シジュ=ハッテを超えるジツを繰り出さなくてはいけないかもしれない。

 まあいい。ノモス、アユノーモッシュベイベ?
 初手挑発は基本、そして繰り出すのはスモ=ウがベーシックスタイル『テッポ=ウ』
 キェェェィ!!風の鉄砲水を喰らうがよい!筋肉ダルマに首を捻られとうない!

 そして、私はこれを元に新たなる奥義を生み出している。テッポ=ウに次ぐテッポ=ウ、連打に次ぐ連打、そう、この禁呪の名は⋯

『グミ=ウチ』

「やったか!?」

 後は任せたぜブラザ⋯



●ジャイアントキリング!? 小結の花道は漢道。
「デカい? それがどうした。古今東西、小さきが大きを食らう逸話は腐るほどあるっ。
 ノモス・アモフよ、勝つのは俺だ! 挑戦者、入場です!!」
 夏の日和の蝉時雨。そう思わせる打楽器の音の並びから、和風な弦の音が響く。
 祭壇から霊木の根元まで灯る炎が花道を明るく照らし出す。
 冒険者たちが風に乗せた花びらに彩られ、炎の道を歩むのは小さな漢。
「チャンピオンの激しい演出に対して、オハナ=ロードを静々と歩むのはリキ=シの男!
 他を威嚇するようなそのファッション! 俺を食えるものなら食ってみなと言いたげな警戒色を思わせる! 
 そう、これが、リキ=シの漢道!!」
 興奮冷めやらぬ空間に異質な雰囲気を運んだ挑戦者は、祭壇を前に一度止まり、待ち構えるノモス・アモフを睨み付けて駆け上がる。
 並び立てば余計に思い知らされるその体躯の違い。しかし彼の目に宿る闘志に迷いはない。
「ご紹介しましょう、チャンピオンへの第一の挑戦者――、立てば陰陽師、座ればシャーマン! 喋る姿は天才ラッパー!
 我こそがオンミョー・シャーマン・ヒーロー・ウィズ・ラッパー、んナギぃツゥゥウ、イツぅマイイイイッ!!
 身長百二十七センチの小さな猛獣が、触れれば即死の檻籠へリングイィイン!」
 滝の注ぐような歓声が祭場を満たす。
 しかし。
「……小さすぎねえか……?」
「まだ子供じゃないか」
「なんだあの帽子」
「きったねえ布が腰に巻かれてるんだけど?」
「おいおい、死ぬぞあの子!」
「ジザベルの野郎、ノモス・アモフが勝てるように仕組みやがった!」
「なんだあの帽子」
「だからあの汚い布はなんなんだよ!」
 口々に囁かれる懸念は不満となり、不穏な空気を生み出した。
 どうするのだとばかりの仲間の視線を、しかしジザベルは余裕の表情である。
「ふん。言いたい奴には言わせておけばいい。
 最強の格闘技であるスモ=ウ=スタイルを修めしそのパワー、奴らは現実を疑う事実ってのを目にすることになるぜ」
「強いかも知れないけど、体格に差があるのは事実なんだから怪我したら粉砕骨折確定よ」
「ふっ――、ナギツゥ~! そこに立った時点でお前の勇気は本物だ、いつでも降りていいんだぞーぅ!」
 最初の余裕はどこへやら、必死の表情で叫ぶジザベル。
 祭壇の上からそれを哀れむように見下ろしていたノモス・アモフは、やがてナギツへ目を向けると見下した笑みを浮かべる。
「師匠、いや、あの男はいい奴だが心配性だな。こんな生け贄を出してくるなんてさ」
 挑発、というよりも彼女にとって事実だろう。その強さは明々白々な彼女と、呪い師とは言えこのように小さな彼とでは差が余りにも大きい。
 その差を一番理解しているのはナギツ本人であろう。
(あの筋肉、まさに女流タテズナーの風格。バンヅケで言うところのオム=スビである私がどれほど戦えるか)
 シジュ=ハッテを超えるジツを繰り出さなくてはいけないかもしれない。
 それは禁じ手、出すべきではない技、というよりも呪いに近い。だがそれでも出さざるを得まいとしたのはやはり、この女の実力故なのだ。
「ノモス、アユノーモッシュベイベ?」
「なに?」
 初手挑発は基本。ノモス・アモフの言葉に返すナギツに赤く燃える瞳を見せる彼女は白く息吹く。
 野次を飛ばしていた観客も思わず押し黙る緊張感を生み出して、ノモス・アモフはリングの端に向かうと況子へ向かい声を潜めた。
「あの、今のって……どういう……?」
「はい、説明しますとですね。東にある国にはアユと呼ばれる川魚が生息しており現地住民の主食となっております。モッシュは縮めずに言うとモッシュモッシュ、アユを食べた時の擬音でありベイベは感嘆符を意味するところです。
 つまり、現地のコトワザで『てめぇーは取るに足らねぇ俺のゴハンに過ぎねぇーんだよォオ! ハッハー!』という必勝宣言の意味を持ちます」
 ぜってーちげえぞ。
 況子の説明に納得したノモス・アモフは祭壇――もうリングでいいね。リング中央に戻ると身体中に太い血管の筋を浮かび上がらせた。
「この私を餌扱いか。言ってくれるぜ」
 噛み締めた歯の隙間から白い息を漏らし、怒りに肌を赤く染めていく女。
 これぞ赤鬼である。コワイ。
「ナギツ、まだ間に合う! 降りて来い!」
「いいえ間に合いません! 叫んでいる敗北者は放置の極み、非情のデスマッチ、今、ゴングです!」
 ゴングとは名ばかりの激しい銅鑼の音が響くと、会場に歓声が上がる。
 しかし、応援する声はどれもノモス・アモフを讃えるものだ。
「聞こえるかよ、皆の声が。誰もお前が勝てるなんて思っちゃいないのさ」
 肉体面だけではなく、精神面でも相手を圧倒しようというのか。
 会場を味方につけたことで怒りを鎮めこそしないものの、試合が開始されても攻撃には移らないノモス・アモフに、ナギツは目を光らせた。
「周囲の雑音、シュートしてザップザップ! 俺は今日、越える脅威、だから経、を唱えて震えてな、ヤー!」
「……え、あ、あの――」
「聞こえるか、俺の魂の咆哮、聞こえない、お前は見失う方向! 自分に自信、ないのは自身、だから他人に縋る意気地無し!」
「フゥウ~! ナギツ・イツマイさんの伝家の宝刀、フリースタイル・ラップだァーッ!!」
 予想を遥かに超える、かつ理解できない言葉の波に思わずたじろぐノモス・アモフ。
 精神的な優位性を取るはずが即座にマウントを取られ、況子の言葉も相まって異様な光景。しかし観客らもナギツの韻を踏んだ独特の音に体を横に揺らし始めた。
「俺は違うぜオンミョーシャーマン! お前に無いもの俺にはあるぜ! 勇気と根性、自信と意気地、お前にあるのはタッパだけ、イェア!」
『イィイエアアアァーッ!!』
「ウォウ、ウォウ、フゥ!」
「ナギツさんかっけーっ!」
 繰り返される怒濤の挑発。空へ向けたダブルピース。
 観客を取られ、後半はさしもの彼女も聞き取れるもので、最初の挑発も合わせて怒りを更に高めた。 
「ナギツ・イツマイ、覚悟はいいなッ!」
 踏み出す片足、吠える獣のその迫力。
 ナギツとて余裕はない。挑発合戦に応じたのも、場の空気を変えるため。戦うための布石に過ぎないのだ。
 組み合えば一瞬で首を捻られる姿を夢想して、だからこそナギツもまた足を前に踏み出した。
 その体は遥かに遠く、まだノモス・アモフの間合いすら届かぬ遠間にて構えを見せたナギツ。
 繰り出すのは最強格闘技スモ=ウがベーシックスタイル、テッポ=ウ。
「キェェェィ!! 風の鉄砲水を喰らうがよい!」
「!?」
 空振りに見えた一撃が風の拳ならぬ風の張り手としてノモス・アモフに直撃、昼の騒動で溜まっていたリング上の埃が舞い上がり、女の巨体を飲み込んだ。
 筋肉ダルマに首を捻られとうない、その必死の思いが呼び込んだような超パワーに会場の雰囲気が一気にナギツへと傾いた。
 しかし。
「……なんだ今のは……? 下らんな、ただ埃を巻き上げるだけとは」
「ああっとー! ナギツ選手渾身、先手必勝の一撃を、しかししかし圧倒的筋肉ダルマ! 現チャンピオンに傷ひとつ無しぃぃっ!」
 非情の現実に思わず頭を抱える一同。
「……オウ、マイ……」
 テッポ=ウを放った姿勢のまま固まるナギツの頭部、もとい笠を掴んでそのまま持ち上げるノモス・アモフ。
 みょいんみょいんと伸びる五重塔の如き五段重ねの笠にぶら下がる小さな体は、あまりにもショッキングな映像で思わず目をそらす者や神に祈りの声を
捧ぐ者まで現れた。
「どうしたさっきの威勢は? その様でほざいてみせられんのか。
 まあ、安心しろ。嬲る趣味はない。一撃で楽にしてやる!」
 空いた手に作る握り拳。
 笠を離すと同時にかち上げるその動作に対して、ナギツのテッポ=ウが炸裂する。
 まだ諦めていなかったのか。否、この瞬間を待っていたのだ。
 至近距離から放出されたテッポ=ウがノモス・アモフの攻撃を押し留めたのは、距離の問題だけではない。見違える程に威力が上昇していた。
 先の一撃は誘い。ノモス・アモフを誘き出し、必殺を見舞うための。
「があぁあ!」
 一杯食わされたという事実を認めない彼女は無理に拳を振るうが、すでにそこに小さき影はない。
 回り込んだナギツのテッポ=ウががら空きのノモス・アモフの脇腹に突き刺さる。
 一発、二発、加速する。
 五発、十発、まだまだ加速する!
 五十発、百発と、目にも留まらぬ超高速のストローク運動。余りの攻撃の激しさに反撃できず、踏ん張る女の巨体は徐々に後方、電流爆発の魔法がかけられたロープへと押し込まれていく。
 調和は天秤の上に、これこそがユーベルコード、【双皿秤の詩演(ソーサラーバカリノシエン)】を由来とするテッポ=ウを奥義にまで引き上げたもの。
 テッポ=ウに次ぐテッポ=ウ、連打に次ぐ連打。そう、この禁じ手、禁呪の名は。
「――『グミ=ウチ』……! キェェェェェェ!!」
「ど、怒涛! 怒涛の猛乱打ァーッ!! あのナギツ選手が、チャンピオンを押しているぅうぅう!!」
「マジで!?」
 況子の言葉に顔を塞いでいた手をどかすジザベル。お前はちゃんと見てろよ。
 奇声を上げての超連打はリング上の埃だけでなく、巻き起こる風は旋風となって会場の埃小物すら巻き上げて砂塵を引き寄せた。
「だぁあああおォ!!」
 一際大きな叫びと共に、両掌で放たれた特別大きなテッポ=ウがリングを揺るがし、力を炸裂させた。
 先程と同じく――、そう、先程と同じく砂塵によりノモス・アモフの姿がミエナイ中でナギツは肩で荒い息を落とし、会心の一撃に手応えを感じて拳を握る。
「はあっ、はあっ。やったか!?」
「おおっとナギツ選手、ここでフラグを建てる完璧な流れを披露!」
 さしもの況子も正に完璧な流れに思わず声をあげる。
 そして、砂塵が薄まる頃、その奥に灯る青い鬼火がナギツを射止めた。
「ふっふっふ、少しは効いたよ。痣になるかも知れないね」
 舞う埃を払い、進み出た巨体は依然として。
 女は腕を上げてナギツの猛攻の痕跡を見せつけた。彼女の言葉通り、そこには何百と撃ち込まれた風の痕が生々しく残っている。
 この攻撃により、彼女はあと数センチのところでロープに触れるところだった。だが、その僅か数センチを埋めることは出来なかったのだ。
「ば、化け物めっ!」
「私が化け物? ……違うな……!
 私は闘争の神! ノモス・アモフだ! そしてナギツ・イツマイ! 認めよう、その一瞬にかけた胆力、知恵、勇気!
 体の小ささをものともせず、挑戦者に相応しい漢であったと!」
 しかし、だからこそ。
 一撃で終わらせることを宣言するノモス・アモフ。
 高々と掲げた右腕のその頂点に座す狐を象ったサインに、会場の全てが固唾を飲んだ。
「ウェエエエエエエエイ!!」
 女の雄叫びに、会場に集まる人々の声が続き、地を揺るがし大気を震わせた。
 それはノモス・アモフの勝利宣言への賛同ではない。彼女と同じく、小さき挑戦者を認めた肯定の声なのだ。
 肌に当たる注ぐ声の嵐に、ノモス・アモフは掲げた右腕をゆっくりと折り曲げる。
 がっちりと固めた右腕を携えて、疾風と走る彼女から霊木へと視線を向ける。
 やりきった、出し尽くしたのだと、ナギツの心は穏やかだった。
「後は任せたぜブラ――」
「 重 斬 砕 破 ! 」
 直撃。
 誰もが右腕の直撃したその体が吹き飛び、ロープに身を焦がす未来を予想した。が、幸か不幸かこの体格差である。
 無理に体を沈めたノモス・アモフの一撃は力の方向に変化が現れ、また柔らかなナギツの体もあって、放り投げられるようにその体は宙を舞い、魔法のロープを飛び越えた。
 思わず胸を撫で下ろす一同。
「じゃねえ! 誰か抱き止めろ、ありゃー人が死ぬ高さだ!」
 叫ぶジザベル。
 訂正しよう、阿呆みたいな高さでリングアウトしたナギツの体は常人であれば即死確実の高さにまで打ち上げられていた。
 駆け寄る人々の足ではナギツに追い付かず、あわや最悪の事態かと思われたその時、夜空に咲く星々を背に浮かぶ一人の影。
 覆面レスラー、エル・ロンドこと、アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)。本日二度目のナイスキャッチでナギツの体を抱き止めたのだ。
「諸君、安心してほしい。ナギツ選手は無事だ!」
「あっ、あれは昼間に俺たちを助けてくれた人!」
「名前、えっ? 名前なんだっけ?」
「名前なんてどうでもいい、俺たちを救ったんだからヒーローだ!」
 その事実は大事だけど、名前はどうでもよくないと思う。
 巻き上がるヒーローコールに熱気を上げる会場。となればこの流れ、次の対戦相手はヒーローかと手に汗握る者が幾人も立ち上がる。
 リングの上では腕を組み、余裕を見せるノモス・アモフ、
 エル・ロンドはにやりと――、覆面の下なのでわからないがおそらく笑い、真っ白に燃え尽きたナギツを抱え直して力強く告げる。
「そう、次の挑戦者はこの私。
 では、ないッ!」
 違うのかよ。
 握った拳も思わず下がる一同の間を、木枯らしのように冷たい風が一陣吹き抜ける。
 まだ暑い季節にも関わらず感じた冷気は巨木から放たれたもの。それは対戦者であるノモス・アモフへ向けられた、強固な敵意。
 冷たき風の後にはじりじりと腹を焦がすような熱を感じて、誰もが不安そうに顔を見合せる。
 自身に向けられた訳ではない。にも関わらずここまで人々の不安を煽るその力。
「……こいつは……まずいな……」
 この空気に対しても余裕を崩さぬノモス・アモフを見上げて、ジザベルは額に浮いた脂汗をぬぐった。

成功 🔵​🔵​🔴​

浅杜守・虚露
『獣山力士』のキャッチコピーで『プロレスリングM.P.W.C』の旅団に所属しておるわしじゃ。力比べで負ける訳にはいかんのう。

魅せるはストロングスタイル。相手の攻め手を正面から受け、そして力で返す。シンプル且つ王道のスタイルじゃな。
手四つからのチェーンレスリング、正面からの張り手・チョップの打ち合い、ロックアップからの押し相撲。『ロープワーク』からのラリアット。持てる技術で『怪力』を『パフォーマンス』できればのう。

闘気の放射、大いに結構、ならば『気合い』と『覚悟』を持って返し、わしのUCをお見舞いしてやろう!

今こそ龍虎相打つ時じゃ。……腕だけ虎っちゅうトコは御愛嬌じゃ。

※アドリブ・連携歓迎。



●剛力対剛力! 激突のリング!!
 第一試合を終えて、内容を見ればオブリビオン・ノモス・アモフの圧勝と見えた。
 誰もが次戦に心を馳せる中、ジザベル・グリズリーだけは神妙な表情であった。
「おや、どうしたんですかジザベルさん。そう言えばお仲間の魔法使いさんはどうしたんですか?」
「いやー、さっきの試合、下手すりゃ二回爆発のチャンスあったから、いつでもかけ直せるようにするってリングのそばに行っちまったよ」
 とんだサディストである。
 それはさておき、ここはなんだとジザベルが呟くと、隣に座す況子は実況席だと事も無げに告げた。
 白い簡素な机に小さな椅子で、二人が座ればそれで一杯だ、
「この私、実・況子が実況し、ジザベル・グリズリーさんが解説を行う。そしてこのマイク型広域拡散発声魔法装置を使えば、プロレスのプの字も知らないド素人にもプの字を教えられるというわけです」
「プロレス? ってなんだ?」
「それでは皆さんお待ちかねぇーっ! 第二回戦、いきましょう!」
 況子の言葉と同時に灯りの落とされた会場。
 暗闇の中、鈍く響く重い音。ゆっくりと流れる笛の音は雅でありながら、戦いの前ということからじりつく猛りを聴く者に植え付ける。
「聞いて強い、見て強い、戦って強いチャンピオン、ノモス・アモフ!
 ならばなれこそ腕が鳴る! チャンピオン、それは最強の称号じゃあない、それは俺の餌の名だ!
 挑戦者、入ぅ~、場ゥゥオオオ!!」
 ゆっくりと、薪がくべられ明るくなっていく霊木の根元。現れるのは山の如き大男。
 浅杜守・虚露(浅間雲山居士・f06081)の衣と頭髪が盛り揺らぐのは、決して風のせいではない。自らの体より放たれる熱気がそれをさせるのだ。
 開いた眼が睨み上げるのはリング上、闇に煌めく青き眼。
「グウゥウゥオオオオオッ!!」
 咆哮一撃。
 雄叫びにリングそのものが揺さぶられ、それはノモス・アモフの闘争本能をも刺激する。
 その昂りを同じくするのか。歯を剥き出しに、リングへ向かい獰猛な笑みを見せた挑戦者にチャンピオンもまた笑みで返す。肉食獣の笑みを。
 リングに備えられた階段を上り、コーナーポストに飛び乗ると衣を脱ぎ、堂々たる筋肉を惜しげもなく晒す。
「天よ、星よ、よく見ておけとばかりなプロポーション!
 『プロレスリングM.P.W.C』所属ッ、その獣臭は野生の王者ッ! 獣山力士ッ!!
 あぁぁぁさともりぃいっ、うぅぅつぅぅろぉぉお!!」
『おおおぉぉおおおっ!!』
 待ちに待ったぞとばかりの大歓声。脱いだ衣を客席へ投げ捨てて、リングへ降り立つのは、挑戦者と呼ぶには威風を漂わせる佇まい。
 同時に四つのコーナーポストから炎の塊が天へと抜ける。
 ゴングが鳴る前から歩み寄り火花を散らす両者に、会場の熱気はすでに最高潮だ。
「両雄並び立たずとはよく言ったもの。チャンピオンは女とは言え挑戦者、虚露選手より頭ひとつ大きいですね」
「だろ、正に規格外、人間とは思えねえ」
「はい、ドヤ顔いただきました! しかし虚露選手も負けてはいませんよ、この体の厚みは」
「ま、まぁ、それも採用理由ってー訳だけど。身長で負けても乗っけた筋肉が同等程度ってことは馬力は上かも知れないってこった」
 しかし。
 離れる二人を見つめてジザベルは険しい顔を見せた。
 コーナーポストで足を開き身を沈め、ストレッチを行う虚露と体は十分と腕を組んで仁王立ちするノモス・アモフ。
「それでは始めましょうか。第二回戦、んゴングです!」
 銅鑼の音が響き渡り、再び会場を歓声が満たす。
 動き始めた空気に虚露は、よっしゃと一声上げて両腕を交差させて肩をばしりと叩く。
 戦闘の前には食事を取るという自己ルールの下、動きの邪魔にならないよう時間には気をつけており、気合は十二分だ。
 じっくりと間合いを測るようにリングを回る虚露に合わせ、ノモス・アモフもまた隙を見せまいとするようにリングを回る。
(ふぅむ。やはりすぐに隙を見せる訳ではないか。……いや……)
 体の構えを右に左に変えながら女の様子を観察し、その一点に気づいて喉を鳴らす。
 ここで虚露は足を大きく開くと、じりじりとノモス・アモフへ近づく。
 顔の高さまで上げた手。虚露は左手をノモス・アモフへ向けた。鋭い爪をで引き裂く動作ではなく、掴もうとする動作に彼女は怪訝な顔をしたが、すぐにやらんとすることに気付いて興味深げに口許を歪めた。
 手四つの姿勢に誘っているのだ。プロレスであればこれを起点にフェイント、様々な攻撃へ派生するものだが、ノモス・アモフの性格を考えれば力比べを行うのみだろうか。
「獣山力士のキャッチコピーでプロレスリングM.P.W.C旅団に所属しておるわしじゃ。力比べで負ける訳にはいかんのう」
「言うじゃないか。ならばこの伐竜神、神と名付けられた以上は山と成る獣如き軽く捩じ伏せてくれる!」
 絡み合う指と指。万力と引き絞られた手と手の力に上から体重
かけるノモス・アモフに、虚露は額に汗を浮かべてそれを耐える。
 己の怪力をもってしても御せないのか。
 否。こちらと同じく額に汗する女の姿に彼女もまた必死なのだも思い起こす。
「――! ぬぅん!」
「っ! ……ぐうう……」
 隙を見て手を回し、有利を勝ち取る虚露。
 呻き、体が上がったノモス・アモフに虚露はそのまま左手を取りリストロックへ移行する。
「おおっと虚露選手、ここで素早く間接技へ! 経験の差が早くも露見か!?」
「いや、ノモス・アモフは間違いなく天才だ。そうそう終わりはしねえ。しねえが……やはりこの様子は……」
 歯切れの悪いジザベルを尻目に虚露はノモス・アモフの背後へ回り、リストロックからハンマーロックへ移り、更に締め上げる。
「ぬうっ、くっ!」
 極る直前、ノモス・アモフはその場で体を前転させると間接を絡め取ろうとする虚露の腕から逃れた。
 そのまま虚露の角を掴み引き寄せると、身長差を活かして反撃のサイドヘッドロックを仕掛ける。
 低く漏れる苦痛の呻き声。
「……うぐぐぐ……!」
 苦し紛れの肘鉄がノモス・アモフの脇腹に突き刺さり、拘束が緩んだ隙に腰に力を込めてリフティング、一気に引っこ抜くようなバックドロップで女を投げ飛ばす虚露。
 豪快なパワーによる返しに対しても、空中でくるりと回り着地したノモス・アモフは、即座に右腕を振り上げる。
「重斬砕破!」
「!」
 振り向き様に遅い来る女に片足を後ろに引き、腰元に拳を構えて気合を込めた虚露の喉元に戦斧と見まごう一撃が炸裂した。
 肉を肉が打つ音にリングが揺れるも、一歩も引かぬ虚露の雄姿。
「ふうっ。やるな、この野郎」
「……ふしゅーっ……。言葉を返すぞ。お前さんも中々じゃのう」
 交わす視線ににやりと笑う。
 仕切り直すように睨み合う二人。虚露はノモス・アモフから立ち上る熱気と舞う火の粉にその闘志を感じ取り、彼もまた、決して倒れぬ決意と共に現れた決意が【不倒の発気】として可視化する。
「闘気の放射、大いに結構、ならば気合いと覚悟を持って返し、わしの大技をお見舞いしてやろう!」
「ハ、お前にそこまでの実力があるのか?」
 嘲笑。
 だがそれは見下しと言うより、軽口といった所か。互いに実力を認めた相手だ。
 虚露はノモス・アモフの言葉に不適な笑みを止めるでなく、両手で自らを扇ぐ。
「さあ、来んかい!」
「おおっ!」
 その言葉を待っていたとばかりに大きく体を引いて、ノモス・アモフの逆水平チョップが厚い胸板に炸裂した。
 会場に響き渡るスラップ音に観客が戦慄する中、歯を食い縛り一撃を耐えた虚露が、胸を張って次撃を促す女へ、こちらも大きく体を引いた。
「んどらあっ!」
 体の中心に太い杭の如く打ち付けられた掌撃は、リングを大きく揺らすもノモス・アモフは崩れない。
「さあ、来んかい!」
「くっくっくっ、大好きだぜ。お前みたいな奴はなぁ!」
 促す男に笑う女。
「こ、これは!」
「ノ、ノモス・アモフ離れろっ! 付き合う必要はないんだぞ!」
 異様な光景にざわつく会場、叫ぶジザベルの言葉も虚しく、虚露とノモス・アモフの、一切の回避を封じた打撃の欧州が始まった。
 互いの胸に渾身の一撃ずつを打ち合う姿は愚かしくもあり、しかし何よりも公平な、美しく競い合う姿に会場の人々を引き込んでいく。
 虚露が一撃を打てば歓声が上がり、ノモス・アモフが耐えればまた大きな歓声が上がる。
 気合と理屈抜きの戦いはしかし、終わりが近づく。どちらも一歩も退かぬ撃ち合いと見えたが、その実、僅かずつノモス・アモフの打撃の重さに押し出されていたのだ。
 その背に近づく電流爆発魔法の込められたロープ。だが、二人にそんなものは眼中になく、ただ意地の張り合いを、肉を打つのみ。
 何時何時、その肌が破け血が噴出せるのかと打撃痕が黒ずみ。
「どらぁあ!」
「――ぐうう! ……はぁあ……っ。
 シイイイッ!」
「ぐおう!」
 互いの打に呻き声が混じり始めた頃。
「はっ、はっ、…………、来んかい!」
「ふぅう。オォオオオ!!」
 気合一閃。
 放たれた逆水平チョップが虚露の胸に炸裂、同時に最後の一線を越えてロープに触れた彼の背で稲妻が走る。
 強烈な閃光が迸り苦悶に虚露の顔が歪む。直後に爆発したその様は壮絶で、マットに崩れ落ちる巨人の姿に、ついに決着だと観客から惜しみながらの感嘆の声と、勝利を確信したノモス・アモフが腕を天へと突き上げる。
「き、決まったぁっ、長きに渡る剛対剛の――」
「まだだノモス・アモフ!!」
 況子のマイクを奪い取ったジザベルの言葉に誰もが耳を、そして目を疑った。
 誰もがマットに沈むという山のような体は、一歩、足を踏み出すことでそれに耐えていた。
「――んんどらァあああ!!」
 更に踏み出した渾身の張り手がノモス・アモフに突き刺さり、限界を突破した一撃は女の体をその一発で弾き飛ばした。
 否、そこにたどり着くまでの何十発こそが、この瞬間をもたらしたのだろう。
「がああああああっ!!」
 ロープに触れて炸裂する魔法に背中を焼かれ、悲鳴があがる。
 ロープと、魔法によって、前に戻ってくるその体に虚露はぎらりと目を光らせた。
 不沈の戦艦の如き体を持つオブリビオンへの、千載一遇の機会。
 魔法の効力が切れたロープに、背を預け、ぐいと力を込める虚露にジザベルは目を丸くした。
「ロープをバネに? まさか!?」
「こ、これはーっ、虚露選手の追撃ーっ!」
 無防備なノモス・アモフの喉元へ、虚露の豪腕が爆裂する。
 伝家の宝刀、剛力無双のラリアット。
 反動により体を一回転近く回し、マットに叩きつけられたその巨体。ジザベルが思わず席を立ち、まさかの光景に観客からも歓声と悲鳴が別れた次の瞬間。
「お、おぉおあああっ!!」
 獣の咆哮と同時に立ち上がる。予想を超える復帰の早さに虚露も驚異を覚えるが、血走った目を向けるそれに拳を握る。
 ならば、今こそ龍虎相打つ時。
 手を開いて独特な構えで見栄を切った虚露へ、ノモス・アモフは身を低く構えて突進する。
 あぎとの如く開いた腕はその体をキャッチするための、相手を地に伏せるためのタックルであると予想するに易い。
「落ち着けノモス、お前はまだ……万全じゃ……!」
 ジザベルの声は届かず、ノモス・アモフのタックルを正面から受け止めた虚露。
「と、止めたァ! これはまさかのまさかが来るのか、第二回ブルヲレイズぅぅ!」
「ぬぅん!」
 組み付いた女を上から押さえ込むように両腕で抱き止めて、虚露の膝が脇腹へ突き刺さる。
 そう、脇腹だ。
「や、……やはりか……!」
「どういうことですか、ジザベルさん?」
「ノモス・アモフは初戦でダメージを受けていた。おそらくは肋骨に良くてヒビ程度の深刻な怪我があるに違いない」
 試合開始前から明らかに動かぬ女の姿に疑問を感じていた。そして試合の流れとその様子に確信を得たジザベル。
 これが他の者であればまだ良かったのかも知れないが、何よりも、虚露という相手が当たるに早すぎた。あまりにも噛み合う相手に傷に障る戦い方を繰り返してしまった。
「グゥォォオオォオォオォオオオ!!
 コイツで決めるぞォ!」
『うおおおおおおおおおおおおっ!!』
 何度もマットを踏み鳴らし、会場の空気の総てをかっさらう。
 観客の意識の総てを乗せて、ノモス・アモフをぐるりと回し、肩の高さまで上げた虚露は駆け足を見せた。
 勢いをつけたそのままに跳躍、シットダウン式で叩きつけるジャンピングパワーボム、その名も。
「 キ マ イ ラ ボ ム ! ! 」
 あまりの衝撃にリングが激しく揺れ動き、ずれを生じる。
 それほどの威力、人では耐えられるものでは決してない、ボムの名に相応しい恐るべき必殺技だ。
「き、ききき、きまったーっ!?」
 逆転に次ぐ逆転、長きに渡る決闘を制したのは。
 だが、続く言葉は況子の喉から続くことはない。間違いなく会心の一撃、一番驚いたのはその手応えを感じ取った虚露本人だろう。
 腰に回された虚露の手を剥ぎ、後転して起き上がるノモス・アモフ。だがその体にはふらつきが見て取れた。
「ま、まだ――!」
 即座に立ち上がる虚露の肩を、ノモス・アモフが踏みつけて動きを止める。
 虚露とて体力を大きく消費している、ノモス・アモフもまた、それを知っているのだ。
「勉強させてもらったぜ、浅杜守・虚露」
 動きを止めた男の腕を取ると、自らの体を中心に渦巻く炎が巻き起こる。
 リングを覆い尽くす灼熱の闘気を身に纏い、ノモス・アモフは虚露の腕を掴んだまま振り回すように投げ飛ばす。
「ぐああああっ!」
 駆け抜ける衝撃と、二度目の爆発をその身に刻み、跳ね返される虚露。ノモス・アモフはコーナーポストを駆け上がり跳躍。身を反転させて狙うはがら空きになった虚露の首筋。
「 断 頭 重 殺 ! 」
 叩きつけられたのはレッグドロップか。
 炎を噴き上げ加速した必殺の一撃が、虚露をマットに沈め、同時にリングを破壊する。
 凄まじい音をたてて引き裂かれたマット、悲鳴をあげるように千切れと飛んだロープと折れた支柱。
 凄惨な光景の中、舞い上がった埃を全て焼き上げて、ノモス・アモフが立ち上がる。その肩には目に焦点は合わずとも、未だに意識を手放さない虚露の姿があった。
 肩を組まれた男の姿、そして破壊されたリングに観客から本日一番の興奮した声が上がる。
「す、す、凄まじい、なんという激闘! 凄絶なる死闘! この戦いを制したのはノモス・アモフ、やはり強い! これがチャンピオンだー!」
「だが、祭壇を壊すまでやっても虚露は気絶しなかった。これがルール無用の決闘だったら、どうなるかわからないな」
 必殺のユーベルコードを返されたことで、更に上の一撃を受けて敗けを認めたのだろうが、ジザベルの語るように試合形式でなければ、まだ戦いは続いていただろう。
 恐ろしい男だと思わず身震いする。
「ところで、リングが壊れてしまいましたが?」
「ああ、問題ない。この為に予備の部品の製作や、大事な骨が折れないように先に別の場所が壊れる工夫がしてあるんだ。
 すぐに直るさ」
 ジザベルの言葉通り、リングの修理は急ピッチで行われた。
 しかし、とジザベルはリングの修理を待つノモス・アモフを見つめる。
 第一、第二と予想を遥かに超える消耗っぷりだ。ジザベルはこのチャンピオンシップの参加者のレベルの高さに驚き、同時に勝ち抜くことのムズカシサニ焦りを覚えていた。
(…―ノモス・アモフを本当のチャンピオンにしてやれるのは、難しいかもしれねえな……)
 胸中で呟く言葉に、答える者などいるはずもなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アノルルイ・ブラエニオン
肉体で語る吟遊詩人!
エル・ロンド!

見せるファイトを意識
スピードを生かした【ダッシュ】【ジャンプ】併用の華麗な空中殺法が持ち味

敵の攻撃は【見切り】つつ受け、敵の強さを際だたせつつ急所は外す

ピンチになったらUCを歌いながら立ち上がる
そのままリング中央で熱唱
気迫と声量、【歌唱】【パフォーマンス】でこの場にいる全員を【鼓舞】
場を盛り上げるぞ!

仕切り直しから猛反撃
必殺技を狙うぞ

「これより語るは……異なる世界に刻んだ激闘の記録!」

「十二のスープレックスの一つ、ハーフハッチ……改め!
ダゴール・ブラゴルラハ!!!」

かつてエル・ロンドが受け倒れた技
吟遊詩人が言葉で出来事を再現するがごとく
肉体と技で再現しよう!



●ボディランゲージで吟う者、マスク・ド・レスラー!
 リングの修理というインターバルを挟んでも、会場の熱気は冷めやらなかった。誰もが口々に激闘を語り、また反撃の糸口となった者も褒め称えられる。
 絶対王者(女の子ですけど!)と思われたノモス・アモフに食い下がる、むしろ追い詰めた選手の存在は、彼らの胸に刻まれその雄姿はこの変わり行く世界を生きる力となるだろう。
 ジザベルの思い描いた、闘争に次ぐ闘争にその生存本能を刺激された民衆。その目は子供のように光り輝き、未来を見つめる姿は希望に満ち溢れたと言って相違ない。
 帝竜への道が開こうとしている今、新たな戦いと脅威を前に不安に染まる彼らの胸を救ったのは、間違いなくこのブルヲレイズなのだ。
 そして、プロレスとはショーである。
 覆面レスラー、エル・ロンドことアノルルイ・ブラエニオンは思う。
 このブルヲレイズという人々に希望を与える催し物を、どう後世に伝え残すのかと。
「……いや……そう難しいことを考える必要はないな」
 ただ、思うままに吟い回ればそれでいい。だって私は吟遊詩人なのだから。
 会場からの声に導かれて、エル・ロンドは闘いの場へ向かった。

「優しさ炸裂、怪しさ爆裂! 異世界人から見ればオカルト信者。お前は一体誰なんだ!
 通りすがりのヒーローさ! 選手、入場ぅぅぅぅ!」
 軽快な鼓の音にフルートを乗せて、思わず体が踊り出すリズムと共に巨木の影から現れたエル・ロンドへ歓声が降り注ぐ。
 それに答えて右手を上げた男は助走で勢いをつけて側転、体に回転力を加えるとリングまで見事な連続後方転回を披露する。
「驚異の身のこなし! 驚愕のスター性! 肉体で語る吟遊詩人ッ、え、吟遊詩人だったの!?
 一挙手一投足の全てにおいて『驚』がつく覆面レスラー!
 エェゥル、ルルルルォォォォンドォォォォォォ!!」
 拍手喝采の会場に再び手を上げてコーナーポストを駆け上がり、跳躍とともに数度の体の回転を見せて見事な着地を披露した。
「続く試合にオーディエンスの興奮冷めやらず! 興奮しすぎ、血圧にご注意ください。
 絶叫熱狂の第三試合、ゴングです!!」
 鳴り響く銅鑼の音に、体を揺らしてフットワークを確認するエル・ロンド。それを見つめるノモス・アモフ。
 見るからに体のカルサヲ活かしたスピードファイター。
「ふん、武器はスピードひとつかい? そんなものでこの私をどうにかできるのか?」
「武器がひとつしかない、だと? ノモス・アモフ、貴様はプロレスを何一つ分かっちゃいない!」
「…………、あ、えと、ごめんプロレスって?」
 それを今から教えてやる。
 覆面の下から獣のような眼光をぎらつかせて、リングの上を走り出すエル・ロンド。
 混乱はあったものの戦いとなれば笑みを浮かべて対応するノモス・アモフ。
 両者の動きに況子は疑問を投げ掛けた。
「いきなり敵の撹乱に出たようですエル・ロンド選手。しかし、規格外のタフネスを誇るチャンピオンを相手にこれは愚策では?」
「いや、これでいい。時間をかければかけるほどノモス・アモフの有利になる。インターバルを挟んだとは言え、ダメージの抜けきっていない今こそ攻め時なんだ」
 見ろ、とジザベルの指し示した先には青黒く腫れ上がった彼女の脇腹。他にも背中から首にかけても多大なダメージを受けているはずだと指摘する。
 前戦では関節も攻められたため、各所の被害から動きに制限のかかる恐れすらあった。
 とは言え、ならば回復するまで耐えるのかと言えばそうではない。
 小細工を弄さず、常に真正面から叩き潰す。愚かとも呼べる己への圧倒的な自信、それがノモス・アモフのファイトスタイルだ。
 ジザベルの言葉を証明するように、駆けるエル・ロンドにタイミングを合わせて襲いかかるノモス・アモフ。
「! とーう!」
 鋭く反応したエル・ロンドは跳躍、空中で身を捻りつつ近場のコーナーポストを足場に更に跳躍し、対面のコーナーポスト上に見事な着地を決める。
「す、すげえ!」
「なんて軽業だ!」
 ざわつく会場に、逃げるだけかと挑発する女をにやりと笑う。相変わらず覆面で見えないけど。
「ロープワークの使用とは言えないが、見せてやろう、空中殺法というものを!」
「やかましい!」
 コーナーポストへ飛び蹴りを放つ女。
 リングの揺れる衝撃に対してすでに空中へ退避していたエル・ロンドは体を回転、ノモス・アモフの隙だらけの後ろ姿、その頭部へ落下しつつ振り子のように回転させた膝蹴りを食らわせる。
「があっ!」
「はーっ!」
 後頭部を蹴撃されながらも即座に裏拳で返されて、エル・ロンドは驚きつつも身を反らし、華麗な回避を見せた。
 あわや頭からの激突というところで手を伸ばし、後転で落下の衝撃を逃しつつ、ノモス・アモフの踏みつけをかわす。
(なんという相手だ! まるでこちらの攻撃が効かん!)
 効いていない訳ではない。しかし、痛みも全て闘争心で捩じ伏せて立ち向かう姿は恐ろしい。
 迫るノモス・アモフにエル・ロンドはカウンター。足元目掛けてスライディングする。
「うおっ!?」
 がっちりと蹴り足を挟みこんで捻り、女を転ばせると立ち上がったエル・ロンドはその場で跳躍、回転しながらのエルボードロップを首筋に叩き込む。
 的確な急所攻撃だ。体格差があるとは言え連戦の身で更に何度も急所を狙われては堪ったものではない。
 深追いはせずに離れて起き上がる女を睨み付けていると、その顔は不適にも笑っていた。
「これがクーチウサッポーか。おもしれえ」
 惜しい。空中殺法である。
 などと、指摘する暇もなく首を回すノモス・アモフは直後に突進する。
 側転して直線上を離れるも放たれるのはラリアット!
「重斬砕破!」
「――当たらんっ!」
 紙一重でかわしたエル・ロンドがコーナーポストへ跳ぶのを確認し、ノモス・アモフの笑みがより一層深くなる。
 突進の勢いは止まらず、狙うはコーナーポスト。
「どりゃああっ!!」
 コーナーポストへ体当たりをぶちかましたノモス・アモフ。その一撃は支柱を歪め、リングを揺らす。
 僅か数センチ。彼女の攻撃により、リングが動いた。そのズレは着地を決めようとしていたエル・ロンドに大きく影響する。
「な、なんとっ、――ぐぅあああっ!!」
 ロープに触れて走る電撃、炸裂する魔法。
 あえなく墜落した男へ余裕を持って歩み寄る。
「た、立てーっ、エル・ルルロンド!」
「まだ一回やられただけじゃないか、立てるよルルルルルロンド!」
 況子の巻き舌のせいで名前間違えられてるじゃん。
 しかし、その活躍が観衆を動かしたのも事実。しかし悲しいことか、すでに敵は彼の前に立つ。
「スピードだけじゃあ、どうしたって私には勝てねえよ」
 エル・ロンドの頭を掴み、引き立たせる。マントは爆風で破け散り、体は駆け抜けた電流により震え、あの一撃ですでにぼろぼろだ。
 すぐに楽にしてやる。振りかぶるノモス・アモフに、しかしエル・ロンドはその一撃をかわした。
 まさかの動きに目を見開く女へ、同じミスをしたなと笑うエル・ロンド。破けた覆面から露出した口元が、その笑みをノモス・アモフへ見せつけた。
「超至近高速ドロップキック!」
「――……っ!」
 散々と痛め付けられた脇腹にドロップキックが直撃し、ノモス・アモフの動きが止まる。
 しかし、それも一瞬のこと。
「がああおっ!」
 叩きつけられた一撃がまだ宙に浮いていたエル・ロンドを捉える。
 身を僅かに反らし、上手く見切りクリーンヒットはさけたものの、それでも先程のダメージもある。マットに叩きつけられ背中を痛打し、息を吸うにも苦労した。
 目の前では痛みに耐えきれず、遂に片膝をついたノモス・アモフの姿がある。
「立てっ、立ってくれヒーロー!」
「もう一度、跳んでくれ!」
「止めを刺せノモス・アモフぅぅ!」
「負けるなチャンピオンーっ!」
 沸き上がる声援。
 呼吸を整え、ゆっくりとではあるが先に立ち上がったのは、なんとエル・ロンドであった。
「刃を持たずして、語る言語はこの肉体。非殺傷の求めたる闘争のなんと美しきことか!
 聞こえるか、聞こえるだろう我らを呼ぶこの声が。この声こそ、至宝の極致!」
 ユーベルコード、【サウンド・オブ・パワー】。語りかけるような歌声は彼の体に、そして共感する者へ力を与える。
 闘争と平和、一見して相反するこの二つをブルヲレイズが架け橋となり人々をまとめてくれている。
 その想い、事実こそこの声援に現れているのだ。プロレスラーは一人ではない。常に人々をと共にある。
 エル・ロンドの、いや、このリングに立つ者の武器とは己の肉体のみではない。観衆の想いもここにあるのだ。
「そうだわ、私たちも戦いましょうジュウヴォンジさん!」
「ええ、私たちの想いもひとつに!」
「そうだ、応えてくれ俺たちの想いに!」
「だから負けないでくれ、チャンプ~!」
『ノ・モ・ス! ア・モ・フ!』
『エルッ、ロンド! エルッ、ロンド!』
 人々の声に導かれて立ち上がるノモス・アモフ。
 少しは分かった気がすると、エル・ロンドに先程の発言を訂正した。
「分かってくれたか、ショープロレスを!」
「いやそれは知らんけど」
「ならば、やるべきはひとつ!」
「私は、ブルヲレイズ・ラーになるためにこの大会を開催したんだ! 絶対に負けねえ!!」
 吠えて振るわれた豪腕。その側面に手をあててくるりと回るエルロンドの蹴撃がノモス・アモフの顎を捉えた。
 負けじと放つ頭突きも当たらず、回避の勢いを利用して回転する肘鉄が彼女の脇腹を急襲し動きを止める。
 下がる頭に、エル・ロンドは腕を回し、残る腕もノモス・アモフの背中に回して固定する。
「こ、この構えは!」
 思わず浮き足立つ況子に目もくれず、必死の形相のノモス・アモフを締め上げた。
「これより語るは……異なる世界に刻んだ激闘の記録……!」
 体重を後ろにかけて、その巨体を持ち上げる。
「十二のスープレックスの一つ、……ハーフハッチ……改め!
 ダゴール・ブラゴルラハ!!」
 それは、かつてエル・ロンドが受け倒れた技。吟遊詩人が言葉で歴史を再現するが如く、肉体と技でもって再現したのだ。
 背中から豪快にマットに叩きつけられたノモス・アモフ。
 その口から血泡が飛ぶ。
「ス、スープレックス炸裂ぅー! 前試合の怪獣(キマイラ)ボムと合わせこれは凄まじいダメージだ~!」
「立てよノモス・アモフ、立てるよな!? お前はこの世界を導く星に、ブルヲレイズ・ラーになる女なんだぞ!!」
 語りかけるもノモス・アモフには届かず――否、大の字で転がり、動かないと思われた巨体に再び活力が漲っていく。
「ふ、……不死身か……!」
「はあっ、はあっ、使わせて貰ったぜ、プロレスの武器……ってやつをな……!」
 ゆっくりと息吹き、立ち上がるその姿に思わず気圧されて生唾を飲む。だが、これで引き下がれるほど彼も甘くはない。
「こ、これは、出るのか最後の一撃?」
 エル・ロンドとて余裕はない。最後の一撃。
 走る彼を迎え撃つと、拳を放つノモス・アモフ。しかしエル・ロンドはダメージを見せぬ軽やかな動きでノモス・アモフを飛び越え、先程、魔法が炸裂したロープに飛び込むと反動を加えて加速する。
 ハンドスプリングによる跳躍。夜空に浮かぶ天空の白を背景に、渾身のニードロップが熱き空を裂く。
 だがノモス・アモフはここで身を下げた。
 かわすのではない、迎撃のために。
(――まさか……っ!)
 驚愕するエル・ロンドの直下からまさに打ち上げられたミサイルドロップ。
 炎を身に纏い、加速する巨大な両の足がエル・ロンドの膝をすり抜けてその顔面に炸裂した。
 自らの大技とともに勢いがカウンターとなり、首が悲鳴をあげてエル・ロンドをリングの外へと弾き飛ばす。
「さ、さささ、炸裂ぅう!! その様相は地対空ミサイルぅ~!
 エル・ロンドを夜空のお星様にしてしまえとばかりの一撃だぁー!」
 しかしエル・ロンドその速度の中でも受け身を取るようにふわりと体を回転させ、頭から地面にまっ逆さまの一直線。
 やべえ。
「ほい、キャッチじゃ」
 かなりの高度から落下するエル・ロンドの体を受け止めて、浅杜守・虚露はナイスファイトだったとエル・ロンドの戦いぶりを褒め称えた。
「そうだ、あんたはすげえよヒーロー!」
「よく戦ってたぞ!」
「歌良かった、歌」
「かっこよかったぜルルルルォンドさん!」
 その血潮を熱く昂らせたことに皆が叫ぶ。エル・ロンドは虚露に抱えられたまま、もはや言葉を口にてきる状態ではなかったが、声援に応えるよう天高く右腕を掲げたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

レーナ・ムーンレス(サポート)
『今日も元気に萌え萌え弩キューン』
バーチャルキャラクターのバトルゲーマー × サウンドソルジャー
年齢 32歳 女
外見 153.8cm 金の瞳 藍色の髪 色白の肌
特徴 胸が大きい スタイルが良い 奇抜な服装 ウェーブヘア ハイテンション!
口調 バ美肉ソプラノ(私、あなた、~さん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)
時々 イケボ(私、~君、~さん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)



ベッジ・トラッシュ(サポート)
◆戦闘時
戦うのは怖い!
なのでボス戦ではだいたい逃げ回っている。
(無意識に味方の手助けになる行動や、囮になるなどの功績を得ることはある)
「こ、ここ…怖いのではないゾ!ベッジさんは様子をうかがってイタのだ!!」

手の届かない相手にはパチンコで苦し紛れに絵の具弾を飛ばすこともある。

◆冒険時
基本的に好奇心が強く、アイディア値は低くない。

敵味方関係なく、言われたことには素直に従う。
怪しいような気がしても多少なら気にしない。
後先考えずに近づいて痛い目を見るタイプ。

◆他
口癖「ぎゃぴー?!」
お気に入りの帽子は絶対にとらない。
食べ物は目を離した隙に消えている系。
(口は存在しない)
性能に問題はないが濡れるのは嫌い。



●ヒィィィィルゥウ!!
 戦い続きのチャンピオン、ノモス・アモフの消耗は凄まじいものでコーナーポスト付近で目を閉じ、俯く彼女の姿はジザベルの不安を煽る。
 誰を前にしても鉄壁の要塞だと考えていたノモス・アモフがここまで追い詰められているという事実が、彼には信じられなかった。
(つっても、後は二人、なるようになるだけだ。見せてくれよ、ノモス・アモフ。お前の力を!)
「さぁー、さすがに限界が見えてきたかチャンピオン!
 しかし勝負に待ったはない、次の挑戦者は――」
『――ちょっと待ったァァ!』
 突如響く二人組の声。なんだどうしたとざわつく会場に、司会を邪魔された況子もわくわくを隠しきれないように辺りを見回す。
 すると、霊木からも離れた場所で桃色の煙と派手な発泡音が鳴り響く。
 視線と明かりが向けられた先では黒い衣装を身に纏う二人組。
「じゃじゃ~んっ! 今日も元気に萌え萌え弩キューン☆
 レーナ・ムーンレス(電子の美少女アイドル・f09403)、悪役レスラー衣装だよ~!」
「そしてオレがベッジ・トラッシュ(深淵を覗く瞳・f18666)さんだ!
 ……ベッジさんでいいデスよ……?」
 レーナは言葉通り、ヒールレスラーをイメージしたのか黒の魔女らしいコスチュームに身を包んでいる。
 胸元の開いたレオタードのような服装にふんわりと広がったミニスカート。衣装に合わせた黒のロングブーツには蝙蝠のアップリケが飾られている。
 ベッジはその使い魔をイメージしたのか狼のコスチュームで、手足には先の丸められた爪がつけられ、ふりふりと揺れる尻尾に狼頭の被り物は開いた口からテレビウムの顔が覗いている。
「ああっと、なんだこいつらは!? まさかのまさか、乱入者だと言うのか~っ!」
「……ら……乱入だと……!」
 なんだこいつらとばかり鼻の下を伸ばしていたジザベルも、その状況はいただけない。
 痛む体を押してレーナの元へ駆け寄った。
「おいあんたら、何のつもりか知らないが、勝手なことはさせねーぞ!」
「個人的には超高度ドロップキック!」
「うおっ?」
 靴より大きい程度といった、その小柄な体を活かしてレーナに意識を向けたジザベルに回り込み、四十センチ未満の身長としては確かに超高度であろうドロップキックでジザベルの膝裏を撃ち抜く。
 堪らず体勢を崩したジザベルに、レーナの眼光が獣の如き光を発した。
「エルボードロップゥーッ、ですわ~!」
「ひげっ!」
 崩れた体に覆い被さるようにレーナの肘がジザベルの顔を狙うのだが、それより何よりまず先に、そのたわわに実ったナイスなお胸が直撃しているため肘の効果は薄い。
 そこ代われジザベル。
 幸せそうに倒れた男であるが、相手は怪我人だ。それに対する非情な攻撃に会場内からも批判が続出する。
「怪我人相手になにやってんだー!」
「二人がかりなんて最低だぞ!」
「俺の顔にも乳乗せろ~!」
 などといった数々の言葉にも余裕の笑みで迎え撃つレーナは、立ち上がると同時に長い髪をばさりと翻す。
 これでも自らの作成したバーチャル存在へ精神が乗り移ってから、バーチャル美少女受肉のおっさんとして世間の冷たい目に晒されてきたのだ。この程度で根を上げることはない。
 一方のベッジはそこまで言われている訳ではないが、会場の熱気に圧され小さな体をますます小さく縮めていた。
「せっかくのお祭りですし、まさか私たちの挑戦をはね除けるようなマネいたしませんわね?」
「ふん。誰が相手だろうと関係ねえ。祭壇にあがって来な、相手をしてやるさ」
 追い詰められている状況ながら、その目の闘志は揺るぎなく。
 あまりの男らしさに思わずドキリとしてしまうレーナとベッジだったが、相手はオブリビオン、そのような感情を持つ訳にもいかない。
「やってやるぜーっ!」
 その男気に当てられて、気圧されていた姿はどこへやらやる気満々のベッジ。リングのエプロンにぴょんこと手を乗せよじ登る姿は可愛らしく、レーナや観衆は溜め息をつく、
 よじよじと登ったベッジが先攻、ではない。
「さあ、やってやりますわよオブリビオン! 私たち二人の力をご覧あれですのーっ!」
 なんと、二対一での戦闘だ。
 突如の乱入だけでなく、余りの傍若無人ぶりに外野からも更に声が上がるものの、チャンピオンは片腕を挙げてこれを治める。
 誰が来ようと、何人来ようとも構わないとするその考えは正に王者の風格。
 ただ「ヒールやってみたかったんだー」と衣装合わせをしてはしゃいでいた二人からすれば、あまりの正道に鼻白む。
(けど、やってみたかったせっかくの悪役! 腕が鳴りますわ!)
 気合を入れ直し、リング入場のためにロープに手をかける。
 えっ。
「!? しびしびしびびびびっ!」
「ぎゃぴー!?」
 閃く光、迸る稲妻。
 続いて起きた大爆発がレーナを吹き飛ばし、ベッジを吹き飛ばす。
 どうやら遅れての転送にグリモア傭兵がリングの仕様を説明していなかったようだ。何やってんだババーン。
 べたり、と厚い胸板、もといお胸に飛び込んできたベッジに、と言うよりはその大惨事にさすがのノモス・アモフも冷や汗を浮かべて胸元のベッジの服をつまんで持ち上げる。
 突然の大爆発に直撃こそなかったようだが目を回しているようだ。
「こういう場合、どうなるんだ?」
「えー、と、まあ、不戦勝ですかね」
 唖然とする観客らの中にいるジュウヴォンジさんへベッジを投げて渡すノモス・アモフ。
 余興としては楽しめたとは余裕の口振りであるが、実際には次戦への体力回復に大いに役立ったというのが本音だろう。
 本人たちの意思に反して、結果的にオブリビオン、ノモス・アモフのサポートとなってしまった。
 僅かな時間にも思わず感謝してしまうのは、次の相手を思えばこそ。
 何しろその相手は。
「私と同じ、……チャンピオンらしいからね……!」
 霊木の裏に渦巻く闘志を鋭敏に感じ取り、ノモス・アモフは体に流れた冷たい汗を、その猛る血潮でゆっくりと煙へと変じていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

草剪・ひかり
キャラ崩し、お色気描写歓迎
今回に限り他PCさんとの連携は極力避けたい

“チャレンジャー”として青コーナー(?)に立つのは久しぶり……
受けて立つ側に慣れた私には、この緊張感、高揚感も新鮮だね!

そして……この私でも、こんな過酷な“防衛戦”は体験したことないよ
「誰か」の思惑を感じちゃうよね、ジザベル?

でも、リングに上がったらそんなことはお構いなし
どんなに消耗していても、「彼女」の実力、底力は折り紙付き
真っ向勝負、叩き潰す覚悟でぶつからなきゃ勝ち目はないね!

あれだけの連戦の後でも、信じられないパワーとタフネスを誇るノモス
次元を超えて数多のベルトを巻いてきたこの私

真の“チャンピオン”は何方か……いざ勝負!


アニカ・エドフェルト
さて…どれほど、通用するか、わかりませんが、
出来る限り、やってみますっ

入場するときは、会場上空を一通り、〈空中浮遊〉で、飛び回って、
祭壇上に、ふんわりと着地、します。
そのあとは、相手に向かって、一礼、ですね。

戦い方は、〈ジャンプ〉〈空中戦〉〈グラップル〉〈怪力〉等を使って…
ドロップキックだったり、潜り込んで水面蹴り、してみたり、後は掴んで投げたり極めたり、してみますっ

でも、体が軽い、ですから、ロープに投げ飛ばされて、電撃爆発、何度も受けちゃいそう、ですね…。
悲鳴を上げて、崩れ落ちて…それでも、なんとか立ち上がって、限界まで、戦い抜きますっ

(アドリブ歓迎)



●女王、並び立たず。チャレンジャーVSチャンピオン!
「痛いですわー。うう、……せっかくのヒールが……」
「何がどうなったのかサッパリだよ」
 リング際で村人から傷の手当てを受けるレーナとベッジの二人は、悪役なんて似合わないことは止めておけと村人から言い含められてしょんぼりとしていた。
 とは言え、不戦敗になってしまってもやるべき大きな仕事がある。
 それは声援だ。プロレスラーは声援を受けてこそ立ち上がり、限界以上のパフォーマンスを発揮する。
 ノモス・アモフの人気も高い以上、いざという時は両者のファンが勝負を決めかねない要因となるのだ。
 だからこそ、残る彼らにも大きな仕事となる。
「えー、お待たせしました。夜も更けてチャンピオンの鋼鉄ボディにも疲れが見えまして。しかし挑戦者もあと二人。
 このままチャンピオンが連勝してしまうのか、はたまた遂に彼女の快進撃が止まるのか?
 セミ・ファイナルになるかファイナルになるのかのこの一戦!
 ……それでは始めましょう……今回は一味も二味も違うチャレンジャー、入場です!!」
 況子の言葉とともに、リングから霊木までの道のりを彩るように小さな爆発と明るい光が順に炸裂する。
 霊木までたどり着き、一際大きな光を見せ、それが収まったとき草剪・ひかり(次元を超えた絶対女王・f00837)が残光の中に立ち腕を上げる。
 同時に鋭い弦の音が響き、ひかりの歩みに合わせて落ち着いた曲調へと変わっていく。
 リング上のノモス・アモフを真っ直ぐに見つめて不敵な笑み。受け止めるノモス・アモフに笑みはなく、沸々と闘志を沸き立たせている。
 チャンピオンが見せたように、コーナーポストから華麗かつ大胆にその挑発的な肢体を揺らしてリングに降り立つひかり。
 静かな月明かりの中、万雷の拍手とともに灯された魔法の灯りをスポットライトに、その名の如く力強く光り輝く。
「姿を表すと同時にやったのは宣戦布告ッ、その超人的ナイスバデ~で選考役のジザベルをたらしこみッ、実力未知数のままに試合の開始は目前です!
 その内容から虚露選手と同じくM.P.W.C所属でしょう、チャンピオンを一切恐れぬ絶対女王! その名も、その名も、その名もォォォ!
 ……くさぁぁなぎぃぃぃぃ……ひかぁありぃぃーっ!!」
 金のガウンを脱ぎ観客席へと投げ捨てて、スポットライトがそのまま拡大してリングを照らす明かりの中、まるでその空間を焼かんとする熱気を渦巻くノモス・アモフへと相対する。
(『チャレンジャー』として青コーナー……で、いいのかな……?
 ここに立つのは久しぶり。受けて立つ側に慣れた私には、この緊張感、高揚感も新鮮だね!)
 試合を楽しむ、その笑み。
(でも、リングに上がったらそんなことはお構いなし。
 どんなに消耗していても『彼女』の実力や底力は折り紙付き。真っ向勝負、叩き潰す覚悟でぶつからなきゃ勝ち目はないね!)
 強敵との戦い、その笑み。
 数々の試合や戦いを経験してきたひかりにしても、このような試合方式で戦うという場面は早々とない。しかし、未経験という訳でもない。
 多種多様かつ光り輝く戦歴を持つ『絶対女王』である彼女にとって、初体験にまごつくということはないのだ。
「祭壇周辺の空気はすでに臨海点突破! 両者の間の空気はオーバーヒート!
 言葉は不要、ゴングを鳴らせーっ!」
 況子の叫びが銅鑼を鳴らす。
 腕組みを解いたノモス・アモフが火の粉を漂わせる中で、発する熱気の上昇に舌を巻く。
 恐らく彼女がこの力を押さえていたのは選手の状態を思ってのことだと想像に難くない。それが押さえる余裕も無くなり、それでも格闘戦が可能な程度に出力を絞っている。
 純粋に戦いを求めているだけではない、オブリビオンの意思がそこにはあった。
(この私でもこんな過酷な『防衛戦』は体験したことがないよ。
 『誰か』の思惑を感じちゃうよね、ジザベル?)
 ちらりと視線を向ければ先程までと違い、緩んだ顔も引き締めて唇を横一文字に結ぶ男の姿。もはや、見守るしかないと言うような彼の思いが伝わってくる。
「随分、余裕が無さそうだね」
「まあな。お前たち猟兵の力には驚かされるよ。そして、学ぶこともある」
 余りにも人間臭い感情を持っているようだが、オブリビオンであることに変わりなく。
 同時にひかりを猟兵と断じたことに人としての壁を作ったノモス・アモフに、伊達や酔狂でジザベルとこの催し物をしている訳ではないとも。
 両の拳を顔近くの高さまで上げたチャンピオンのファイティングスタイルに、ひかりは腰を下げて手を前に出しタックルに移行し易い構えを見せる。
 数々の連戦の後でも燃える闘志を損なわず驚天動地のパワーとタフネスを見せたノモス・アモフ。その顔に余裕がないのは、選手たちの限界を超えた力を体験したからこそだろう。
 追い込まれた彼女と退治するのは次元を超えて数多のベルトを巻いてきた正に絶対女王・ひかり。
 摺り足で、近づくひかりに対してノモス・アモフもまた同様にして近づく。
 静かな立ち上がりにひりつく緊張感、重苦しい空気の中で近づく二人。ひかりからすれば巨大な肉の壁が迫ってくるようなもので、その圧力は観客席にすら届く。
 しかし。
「こ、これは、大丈夫なのか? 近くないか両選手ーっ!?」
 すでに打撃範囲内だがそれでもなお、じりじりと近づく二人が動きを止めたのは今から抱き合うのかという超至近距離。
 重圧と熱気に耐えて脂汗を額に浮かべ、それでもなお笑みを崩さないひかりに、ノモス・アモフも笑みを浮かべた。
「お前ら猟兵ってのは、皆こうなのか?」
「さあね?」
 ひかりの態度に応えてか、拳を開き、がっちりと組みつくノモス・アモフ。
 力で押すひかりの心意気に魅せられ、単純な力で押し返す。体力を消耗していても依然とパワーに陰りは見えず、まるで重機に押されるように押し返されて行くひかり。
(やっぱりパワーは向こうが上、……か……! けど、『抵抗』出来るだ差であることが分かれば十分だよ!)
「おおっ?」
 体を思いきり下げてノモス・アモフの拘束から逃れると、電光石火の動きで回り込む。
 ひかりを捕らえようと回した腕を潜り抜けて、時計回りでぐるりとノモス・アモフの左側面に回り込んだひかりは、彼女の脇の下から腕を差し込み首に当てる。
 そのままの姿勢でノモス・アモフの足をキックで刈り、後頭部からマットへ叩きつける。
「ぐっ!」
「ええっ!?」
 左腕を極められ受け身困難と思われていた一撃に対して右手でしっかりと頭部を保護するノモス・アモフ。
 なんという反応速度だと驚愕するひかりを横目に後転、そのまま立ち上がる。ひかりは前転でもって同じく起き上がり、両者が睨み合う。
「は、はええ!」
「あの姉ちゃん、口だけじゃないぞ!」
「姉ちゃん? おばさん?」
「しっ、そういうの口にしちゃなんねぇ!」
 野次はしっかりひかりの耳に届いていたが、眼前の猛獣から意識を逸らせるはずもない。
 対してノモス・アモフもこちらを乗せつつ最短で高いダメージを狙うひかりに警戒を強めたようだ。
「警戒してるね」
「当然さ」
「それでいいよ、ノモス・アモフ! 最高のプロレスにしよう!」
 相手が警戒心を引き上げたことでひかりは更なる力を込めてノモス・アモフに突撃する。
 その体にはユーベルコードによるパワーが漲っていた。
 真正面からのフライング・スピン・エルボー。多種多様な戦歴を持つ彼女も動きに対応できず、思わず両腕でのブロック。
 それでも、視界を塞いでしまえばただの的だ。即座に体勢を建て直したひかりはブロックの上から押さえ込み、押し倒しての後頭部へのダメージを再び狙う。
 今回は余裕をもって後頭部をブロック、そのまま後転して起き上がる。
 右腕を振り上げて反撃の姿勢を取ったノモス・アモフ。しかし、その体は何かにぶつかり、動きを止めた。
「何っ!?」
 振り返った先にあるのはコーナーポスト。
 反撃の為に起き上がったにも関わらず、きちんと体勢が整う前に動きを止められてしまったのだ。
(追い込まれたのか、この私が!)
 再び前方に視点を戻せば、観客に右腕を挙げてアピールしたひかりが側転、背中向きで跳躍し、肘鉄をがら空きのノモス・アモフの顔に炸裂させた。
「まだ終わりじゃないよ!」
 顔面に肘の一撃を受けて体が上がった彼女の頭を掴み、脇に抱えて走り出すと同時に地面に叩きつける。
 体重を乗せた顔面への二連打。消耗している者へは必殺もあり得るコンビネーション。
「ダ、ダ~ウン! 疾風のコンビネーション、これは決まったか!」
(でも、立つ。まだ諦めない。分かるよ、チャンピオンだもんね)
 リング中央で見つめるひかりの視線には期待すらこめられて、ノモス・アモフはマットから重い体をひきずり離し、血に染まる顔を上げる。
 爛々と燃える瞳がひかりを見つめ、立ち上がるチャンピオン。いつまでもチャレンジャーに見下ろされるという構図を受け入れるはすがなく、ノモス・アモフの黒い髪が風に揺れて逆立つ。
 その顔にくっきりと刻まれているのは笑みの形。
「良い一発だ、お陰で目が覚めたぜ。勝ち負けは一先ず置いとく。ブルヲレイズを、楽しまないとな」
「……ノモス・アモフ……!」
 チャンピオンの言葉に思わずその名を呼ぶジザベル。
 予想外の反応に面食らうひかりであったが、ノモス・アモフは鼻を片側から押さえて大量の鼻血を噴くと、笑みをそのままに両腕を広げた。
「さあ、来やがれ!」
 それは虚露にされたように、打撃を誘うチャンピオン。
 ひかりは、ならば今度はこちらが応える番だとノモス・アモフの前に立つ。
「…………、行くよっ!」
 呼吸を整え、繰り出されるのはローリングソバット、狙うはノモス・アモフの怪我をした脇腹一点ただひとつ。
 その一撃、チャンピオンに届かず。
「――ンなこと言っても勝ちは貰うに決ってンだろ!」
「……っ……!」
 ひかりの攻撃に合わせて放たれたのは胴回し回転蹴りだ。
 彼女の一撃を空へと回避しつつ、無防備な体へノモス・アモフの全体重な乗せられた一撃が炸裂したのだ。マットに叩きつけられ、そのままプレスされるようにチャンピオンの無慈悲な追撃が加えられた。
「がはっ」
「な、なんとぉ、ローリングソバットに胴回しを合わせたのかぁ!?
 チャンピオンのあの破壊力をまともに受けてしまったひかり選手、一気にピンチか!」
 ふん。
 ノモス・アモフは倒れ込んだひかりを鼻で笑い、その頭を左手でしっかりと握り持ち上げる。
「うぐぐっ、ぐ!」
「さっきの試合じゃ二回とも失敗しちまったからな。降参しないなら、鉄拳を食らわせてやるぜ?」
「だ、誰が……うぐっ……!」
 片手で持ち上げるノモス・アモフ、その腕を握り歯を食い縛るひかりに、そうでなくてはとノモス・アモフはその鉄拳をひかりの腹に打ち込む。
「うぐぅう!」
 ナギツ戦、エル・ロンド戦とその手を離しかわされたが、今回は警戒心も強くひかりの頭を万力の如く締め上げる手が離れそうにもない。
「ひかりさん、手を振り解きになって!」
 会場に良く通る男の声。
「えっ」
 一生懸命応援しようとしていたベッジも思わず見上げた先で、ボイストレーニングにより良く通る地声を発揮したレーナ。
 その声はひかりまでしっかりと届いていた。
「そうだぜ、女王様! まだ終わってねえだろ!」
「ノモス・アモフだって苦しいはずだ、いけるぜ!」
「勝ってくれひかりぃ、ヒーローの仇を取ってくれぇ!」
「あの、えと、が、頑張れーっ!」
 レーナに続き口々に叫ぶ面々に、その期待に応えるべくひかりの手がノモス・アモフの左手に重なる。
 指を剥がそうとする動きに舌打ちしつつ、ならばこれで終わりだと次撃を打ち込むノモス・アモフ。
 が、その拳は逞しくも美しく鍛えられたひかりの両の太股に挟み込まれて動きを封じられた。
「受けたのか、私の鉄拳を!」
 加速前の打撃、封じ込めるには易く。
「はーっ!」
 ノモス・アモフの左手を剥がしたひかりはそのまま彼女の右腕を軸に回転、勢いをつけて、まるで風車が回るような動きで体に巻き付いたひかりの勢いと体重をかけた動きに引き倒された。
 脇固め。
「うぉぉおぉぉ!」
「あの状況を返したぞ!?」
「ひかり選手、起死回生の脇固めが爆発ぅっ! これは極るぞ!!」
 況子の言葉と腕に走り痛みに、ようやく状況を理解する。
 入りが全く分からなかった。
 マットに組伏せられたノモス・アモフに、お返しとばかりに降参しないのかとひかりが声をかける。ぎりぎりと締め上げられると悲鳴をあげる関節にしかし、猛る血潮のチャンプがそれを認めるはずもなく。
「……上等だぜ、草剪・ひかり……! 私の腕はくれてやる。お前が折れるものならな!」
「…………!? ま、まさかっ」
 全身に漲る力、締め付けられる筋肉。
 鋼のように硬直させた右腕一本でひかりの間接技に対抗し、そのまま持ち上げる。
 立ち上がった姿はまさに怪獣、腕に巻き付くひかりを睨み付け、咆哮一発振りかぶる。
 慌てて拘束を解き空中に逃げたひかり。拳をマットに叩きつけたノモス・アモフと視線が交差する。
 そのまま体をひねりコーナーポストへ飛び乗ったひかりへ、ノモス・アモフは右腕を振り上げた。がっちりと曲げて固めたその腕に、突進の気配を察してマットへ降り立つチャレンジャー。
「……食らいな……!」
 歯を剥き出しにして食い縛り、大きく踏み出す王たる獣。それを真正面からの見据えて、圧倒的重圧に冷や汗すらも出ない中、ひかりは僅かなミスも許されぬ高速の進撃に対して腕を絡ませ、足を払い、体を回す。
「!?」
 ぐるりと方向を変えられたノモス・アモフはロープに突っ込み、その体を迸る雷に灼かれた。
 だが、その直前に身を返したことで爆発のダメージを推進力へと変え、投げ放ったひかりへ獣の眼光を点す。
 この攻撃、読めない絶対女王ではない。
 奇しくもその構えはチャンピオンと対を成すチャレンジャー。
「 重 斬 砕 破 ! ! 」
「 ア テ ナ ・ パ ニ ッ シ ャ ー ! ! 」
 互いに放つ主砲の一閃。
 その右ラリアットは完璧なタイミングで、一撃を潜るように放たれたひかりの技が紙一重の差で、チャンピオン、ノモス・アモフの喉元に炸裂した。
 かけた体重、カウンターの一閃、まさに、まさに完璧なタイミング。
 全ての事象は威力となってその一点に集中し、ノモス・アモフの体が半回転してマットへ大の字に転がった。
「き、ききき、決まったァァア!! 絶対女王、草剪・ひかりのラリアット、その名も『女神の戦斧』、断罪の一閃、アテナ・パニッシャー!
 今宵、女王に牙剥く恐れ知らずへ死刑執行ーっ!!」
「…………、…………」
 目を見開き、歯を食い縛るジザベル。歓喜に沸く観衆、叫ぶ況子。
 だが、肩で息をするひかりは警戒を緩めなかった。
 あの一瞬、交差した右腕は互いにぶつかり、ひかりの右腕の関節を破壊寸前までに追い込んでいる。それ程の威力。
 同時にそれは、それだけの威力を受けては例えオブリビオンであっても死すら考えるべき力を持つ。
 しかし彼女はプロレスラーである。それもそこらの二束三文の有象無象でもなければ、夜空に輝く星でもない。
 全てを超え、そして押さえつける超一流なのだ。それは彼女の認めたノモス・アモフにも当てはまる。
「立ちなさい、ノモス・アモフ! あなたがこれで終わらないことは私が良くわかってるよ!
 それとも、このまま私がチャンピオンに――ブルヲレイズ・ラーになってもいいの!?」
「えっ、ま、まさかっ? 立てると言うのかチャンピオン!?」
 驚く況子にジザベルもまた同じ思いである。しかし、傷つき倒れた彼女を思えばこれ以上の戦いなど。
「そうだチャンプ、あんた言ってたじゃないか。ブルヲレイズ・ラーになるって!」
「ノモス・アモフゥゥゥ! あんたは玉はないけど間違いなく英雄だ!」
「そうだよ、さっきの祭事みたいにまた立ち上がってくれよ!」
「チャンプ、チャンピオン!」
「俺たちのノモス・アモフ!!」
 自分を求める声。それはマットへ沈んだ多くのプロレスラーを引き立たせてくれた。
 そして、超一流である彼女たちにはこの『先』がある。
 全てを出し尽くした完全決着。
「立ちなさい、ノモス・アモフ!」
 ライバルの言葉を受けて。
「…………、けっ、とんだ、……お節介焼きも……いたもんだ……!」
 遂に立ち上がったノモス・アモフに、不死鳥の如き姿に会場が割れんばかりの喝采が巻き起こった。
 そこにはひかりのファン、ノモス・アモフのファンという境はなかった。全ての人がこのブルヲレイズを、そして死力を尽くすファイターたちに熱狂していた。
「礼を言うぜ草剪・ひかり。プログラムってのが何なのか、もうひとつ分かった気がするよ。
 ――そして」
 こいつでケリにしてやる。
 ぶるぶると震える右腕を、それでも天へと突き上げる。
 がっちりと曲げて固めたその体勢にはさすがのひかりも笑ってしまう。自らの一撃に疑う要素はなく、度重なる攻撃でノモス・アモフはひかりと同じくその腕に限界が生じたはず。
 そのはずなのに、彼女は再び右腕に構えを見せたのだ。
 それはつまり、今しがた倒れた自分のリベンジマッチ。敗北したと思うからこその再戦の合図。
「そこまでの熱烈ラブコール、受けない訳にはいかないよ!」
 額に浮かべた汗は大粒となり、頬を伝い顎の先を滴り落ちる。
 震える右腕を、それでもひかりは天へと掲げた後にラリアットの姿勢を取る。
 交差するのは熱く静かに燃える瞳に沈黙する会場。
 チャンピオンから溢れる闘志が炎となって時折、その体から漏れ出る。マットは焼けた熱砂の如くブーツ底を焦がしていく中、呼吸すら忘れていた況子が大きく喉を鳴らす。
 同時に目を見開く二人。
 駆け出したのは誰が先であったか。同時に繰り出されたように見えた一対のラリアット。
 駆け抜けられたのはただ一人。
「うぅおぉおぉおおおっ!!」
 コーナーポストで獣の咆哮、勝利の雄叫びを上げるノモス・アモフは、マットに沈んだひかりへと振り返る。
「一勝一敗だ、草剪・ひかり。お前とは、いつか必ず、全ての決着にまた戦わせて貰うぜ」
 会場中の熱気を一身に集め、残る勝ち星はひとつ。
「行かせて貰うぜ。あとひとつの勝利を掴み、私はブルヲレイズ・ラーになる!!」


●さあ、決着だ! リトル・メテオライト・フォール!!
「皆さん、いよいよこの時間がやって参りました。
 長き一夜、全てに決着する瞬間がやってきます。この会場に集まった皆さんは間違いなく、歴史の生き証人となるのです。
 名残惜しくも鮮烈で、名残惜しくも清浄なる決闘に終わりが来るのです。
 最早、この実・況子、試合前に語るべきことはございません。なので高らかに叫びましょう。
 それでは皆さんご一緒にィ! ラストォ、バトルゥゥゥ!
 チャレンジャー!」
『入ぅぅう場ぅぅうううう!!』
 雄叫びにも似た、会場中の声。
 柔らかな笛の音とともに喝采が巻き起こり、コーナーポストから打ち上がる火の玉が空に光の華を咲かせる。
 その間を飛ぶのは小さな闘士。
「君たちは見たか、彼女の戦いを。小さな体に太陽のように大きな闘志を番えてやって来たその実力。
 最初は誰もが思うのだろう。挑戦者に値しないと。しかし彼女は間違いなく挑戦者としての資格を勝ち取りここにいる!
 体格の差がどうした、そんな差をひっくり返して真っ先にこの難攻不落のチャンピオンへダメージを与えたのは誰だったか、私たちは知っている!
 ならば問おう、体格の差に意味はあるのか!?」
『意味はない!!』
「そう、それこそがプロレス、そしてリングに立つ以上、彼女はもうプロレスラー!
 ラストを飾るのはこのお方ぁ! 小さな小さな拳闘士見習い!
 アニィカ! エェェェェェェドッ、フェルゥウトォオオォ!!」
 会場をくるりと周り、投げ掛けられた声援に手を振って応え。
 ふわりとリング上に着地したアニカ・エドフェルト(小さな小さな拳闘士見習い・f04762)。
 客席へお辞儀をしつつ、最後は相も変わらず腕組みして立つチャンピオンへお辞儀を見せた。
(……どれほど、通用するか……、わかりませんが)
「出来る限り、やってみますっ」
 覚悟を口にするアニカに、胆は据わっているなとノモス・アモフは笑う。
 並び立てばその身長は顕著で、アニカがアニカを肩車した程度で間に合うことのないその差は歴然だが、もはやそれを理由に野次を飛ばす者などいない。
「並び立つ両者、闘うは二人、栄光を掴むのはただひとぉり!
  ラ ス ト ・ ゴ ン グ ! 」
 今宵、最後の銅鑼が鳴る。
 開始とともに組んだ腕を解き、睨みを利かせたノモス・アモフ。黒髪が渦巻くように逆立ち、攻撃的に口角を引き上げた彼女の体が炎を纏う。
 渦となってリング上を駆け抜ける熱風に、アニカは思わず身構えて焼けた風から顔を守る。
 露出した顔面は目に鼻や口と弱い粘膜を守ろうとしたのだ。それは僅かな時間であったが、視界を塞げばそれで十分。
「――ふぐうッ!」
 一瞬にして間合いを詰めたノモス・アモフによる強烈なドロップキックが放たれ、腹部に直撃したアニカはマットを転がることすらなくコーナーポストにぶつかってバウンド。
 あまりの威力に揺れるリング、反応すら出来ない小さな体を、まるでボールのように片手で受けて、そのままマットへ叩きつける。
「容赦はしねえ、全開で行くぜ!」
 マットに縫い止められたが如く、動けずにいるアニカに止めを刺すべくコーナーポストを駆け上がり、そのままの勢いで宙返り。
「食らいなァ!!」
 それは覆面レスラー、エル・ロンドと同じ技。ダイビング・ニードロップ。
 殺す気か。誰もが息を飲み、次の光景に戦慄する中でアニカは体を丸めて横転、すんでの所で回避に成功する。
「ちぃ!」
「がはっ、かはっ、ごほ!」
 舌打ちするノモス・アモフと、咳き込みながらも何とか立ち上がるアニカ。
 その勢いの前にチャンピオンから逃げるように離れた少女の判断は正しい。気になるのはむしろ、ノモス・アモフのその勢いだ。
 勝負を急ぎすぎている。焦っていると言っても良いだろう。
(ノモス・アモフ、お前、もう……限界なのか……)
 度重なる激戦。痛め付けられた体。
 限界を突破する対戦相手たちの姿に、非力と見えるアニカを急いで倒そうとするほどにノモス・アモフの体はすでに限界を迎えていたのだ。
 足技が中心になっているのも、主力である右腕が使えないからではないのか。
「明らかに様子がおかしいぞチャンピオン。これはひょっとしなくても、限界が近いのでは!?」
 だが、だからこそ。
「息を吸え、ノモス・アモフ! 後たったの一回なんだぞ、我を見失うな!」
 実況席からのジザベルの叫びに、肩越しの笑顔で応えるチャンピオン。
 見たことのない反応に驚くジザベルの前で、ノモス・アモフの蹴りが空を切る。
 アニカは回避を行った様子であるが、明らかに少女の動くタイミングよりも速く繰り出された足撃であった。
(…………!? め、目もイカれやがったのか!)
 その瞬間を、アニカは見逃さない。少女とて身近にある生死を賭けた戦いを見てきていたのだ。
 僅かな機会をモノに出来ない者がどうなるのか、痛いほど知っている。
 空振りの足に飛び付き、体をぐるりと回す。変形のドラゴンスクリューだ。
「ぬぐっ」
 これもまた、彼女にとって初めて見る攻撃だ。しかし足にかかる負担から踏ん張るのではなく、一緒に回るべきだと判断した。
 しかし、受け身を取るために咄嗟に出した右腕は上手く使えずにそのまま倒れてしまう。
 つまり、まだアニカの反撃の時間は終わっていない。
「いき、ますっ!」
「! くおっ!」
 ノモス・アモフの爪先を抱え込んで一気に裏返す。
 小さな体に見会わぬ怪力で、一気にアンクル・ホールドを極めた。可動域の小ささから極めるにも早く、また簡単に折りかねない危険な技である。
 力を込めて締め上げるアニカの動きに反応して、更なる力で押さえつけるのはさすがか。
「しゃらくせえ!」
「きゃあっ」
 そのまま足の力で跳ね上げられたアニカが空中で翼を広げて静止すると、獣同然に跳びかかるノモス・アモフ。
 少女はこれをするりとかわし、ノモス・アモフの足を絡め取って上下逆にマットへ叩き落とす。
「強ぅ烈ぅう! コーナートップからの一撃が雪崩式ならばこちらは言わば滝落とし式か、凄まじい一撃だー!」
「ダメだ、勢いが死んでる。ノれてねえ。ノモス・アモフ! 距離を取るんだ!」
 叫び、指示を出すもそれに従わないであろうことはジザベル自身が良くわかっていた。
 ノモス・アモフのファイトスタイルではないし、何よりジザベルはそんな彼女に惚れ込んだのだから。
「誰が予想したか、一方的な展開になって参りました最終決戦!
 やはり、ノモス・アモフはすでに限界なのかっ!?」
「たぁーっ!」
 水面蹴りがノモス・アモフの足を切り崩し、即座に舞い上がる白い翼は急降下、何度もダメージを受けた彼女の背に攻撃を加える。
 体躯の差、自身の特徴を最大限に活かした自由自在のコンビネーションはノモス・アモフを追い詰めていく。
 攻撃に出る手が全く無くなり、畳み掛けに迫るアニカ。
「だありゃあっ!」
 小さな体が接近したその瞬間、炎を噴き上げて加速したローリングソバットが少女を襲う。
「あああああッ!!」
 跳ね飛ばされた体にロープが触れ、激しい閃光と爆発が生じる。
 これを待っていたのか。
 思わず言葉を失う況子。手を出さないことでアニカの手数を増やさせ、対処できる高度になるのを待ち、闘気の放射で速度をカバー。
 体の各所に故障が発生しながらも、ただひたすらに耐え抜き必殺の機会を伺っていたのだ。
 驚異的なタフネスだけではない、勝利の執念がこの一撃の機会を勝ち取ったのだ。
「立て、アニカ・エドフェルト!
 立ち上がって抵抗して見せろ、私の前に立った戦士たちのように。
 貴様も、貴様もこの場に立つ者ならば、心に勇を持つ者ならば立てるはずだ。立ち上がれ、イェーガーッ!!」
 何者よりも突き刺さるチャンピオンからチャレンジャーへの、否、オブリビオンからイェーガーへの叫び。
 それは少女の闘争心に火を点け、体に力を漲らせる。
「…………! はあ、はあっ!」
「立ち上がったぞアニカ・エドフェルト! しかし爆発を受けたその身、特に翼のダメージは甚大か!」
 これでは空中を自在に飛び回る機動戦が出来ない。タフネスとパワーに大きな隔たりがある以上、捕まれば終わりだ。
 そんな状況にも関わらず、追い詰められたはずのアニカは息を荒げながらも笑みを見せた。
 ノモス・アモフもまたにやりと笑うと、上方から覆い被さるようにして手を広げる。
 手四つの姿勢だ。
 虚露との戦いを思い起こし、少女を徹底的に嬲るつもりかと観客席からチャンピオンへ否定的な言葉が飛ぶ。
 だがアニカは笑みのままこれを真っ向から受け入れた。
「ああぐ、うっ、うああああっ!」
「ぬう、ぐがっ、がああああっ!」
「は、張り合っているっ? チャレンジャー、あのチャンピオンに張り合っている、一歩も引かない、互角です!」
「そんな馬鹿な!?」
「アニカちゃんが巻き返しているぞ!」
「嘘だろチャンプぅ!」
 悲鳴と混乱の巻き起こる外野。それもそのはず、ノモス・アモフのダメージは足腰にも響いており、膝に上手く力が入っておらず踏ん張りが利かないのだ。
 しかし、それでも。
「ふん!」
「ああっ!」
 体重を乗せたノモス・アモフに崩されたアニカ。彼女は少女の小さな体にがっちりと腕を回すと、そのまま一気に持ち上げる。
「もう一度、痺れておきなっ!」
 ロープにぶん投げられて、小さな体が痛みに弾ける。
 爆音と閃光に再び沈んだ少女はしかし、今度は誰からの言葉を受けることもなく立ち上がった。
 小さな体に燃える瞳は些かの衰えも感じない。
「この小さな体に一体、どれだけの力があるというのかアニカ選手、まるで不死身か痛みを感じていないようだ!」
 況子の叫びに、顔から滴る汗に混じった血を、ぐいと手で拭う。
 痛くない訳がない、ましてや不死身なはずも。
(悲鳴を上げて、崩れ落ちて……それでも、なんとか立ち上がって……わたしは……!)
「限界まで、戦い抜きますっ」
 決意の宣言。
 ぼろぼろの体で誰もが息を飲む中、ノモス・アモフだけは笑みを濃くした。
「私は、お前たち全員をぶちのめしてブルヲレイズ・ラーになる。
 止めて見せろ、出来るものならな!」
 纏う闘気が火柱となって夜の闇を引き裂く。踏み鳴らした足音に咆哮する声はさも恐ろしく、人と相対していると感じられない。
 最早、四肢はぼろぼろだ。だからこそ、獣の如く上体を倒し、体当たりの姿勢となるノモス・アモフ。
 最後まで攻めの一手を緩めぬ彼女へ敬意を表して、アニカは構えを取る。
 迎え撃つというのだ。
 互いに満身創痍。恐らくは最後の一撃。この祭りの終わりを告げるその一瞬。
 ノモス・アモフは、何も考えずにただ走った。この一撃に全てを込めると、それだけの走り。
 迫る肉壁に、アニカはその瞬間を待つ。自らが反撃を行える僅かな間合い。
(――ここ!)
 肉薄するまでの僅かな間合い。
 体を低く、間を外し、駆け抜ける女の足を絡め取りその勢いを利用した投げ技。
 少女の十八番である【転投天使(スロゥイングエンジェル)】が見事に決まる。
 体勢を崩し、未だに魔法の燻るロープへ突っ込むであろう巨体に勝利を確信するアニカ。
 そんな少女の体を、ノモス・アモフの『右手』が掴む。最早ないと思っていた、限界の限界を超えた瞬間。
 アニカをぶん投げてロープへの軌道を変えたノモス・アモフ。
 今度は彼女が勝利を確信する番であった。だが、勝利の女神は、彼女に微笑まなかった。
 使えないはずの右腕を使えたのなら。
 それは相手の、使えないはずの部位が使える切欠にも成りうるのだ。
 傷ついた翼を広げて、ロープとの接触間近で夜空へと飛ぶアニカ。満天の月へ真っ直ぐに飛ぶ残光は、まるで龍のようで。
「……こ、……これが……わたしの……限界っ……です……!」
 翼は力を失い、しかし闘志の炎に陰りはない。仰向けとなったノモス・アモフへ一直線に落下する小さな隕石は、チャンピオンの大きな体をその小さな体で叩きつけた。
「……ち、ちく、しょ……払い除ける……力も……の、残って……ねえや……!」
 様の無い。
 小さく漏らすと、ノモス・アモフは初めて柔らかな笑みを浮かべて全身の力を抜いた。
 投げ出した手足に抵抗の意思は無く。
 リングへ駆け上がった況子のスリーカウントの声が高らかと響き渡り、その後、全力を出し尽くした両者の中で、否、今宵最も讃えられるべき人間が彼女に腕を引かれて立ち上がる。
 その者の名はアニカ・エドフェルト。
 【第二回ブルヲレイズ・チャンピオン】であり、誰もが認める偉大なる【ブルヲレイズ・ラー】の称号を持つ少女である。


●終劇の空。
 全ての戦いが終わり、幾時と経たずして。
 村から離れた場所にオブリビオンの姿はあった。
 全身ぼろぼろの彼女が見上げる空には、幾つもの城が浮かんでいる。
「…………、なんだい、もう来たのかい」
 彼女の回りにぽつぽつと現れた猟兵たちの姿に笑みを浮かべる。やはりオブリビオンとしての本能なのだろう、笑みの中、猟兵へ確かな敵意を向けていた。
「これから、どうするんじゃ」
「どうもしないさ。幕を引く」
「私たちと、戦うとでも?」
「まさか。幕引きは自分の手で。あの空飛ぶ城を知ってからそう考えていたんだ」
「ノモス・アモフ、あなたの目的は一体なんだったの?」
「ふん、簡単な話さ。私は、帝竜を倒す為に生み出されたのさ。
 だが、奴へ続く道が空にあるなら、私にそこを行く術はない。私は目的を果たせない。そんなときに、ジザベルに出会ったのさ」
「勇者を生み出すブルヲレイズ、ノモス・アモフは勇者になろうとした?」
「それもある。ただ、誰にも負けず、最後に負けた奴に私の目的を託してもいいって、それかこのブルヲレイズを見た人間たちが闘争への灯火を消さなけりゃ、それでいいと考えたのさ」
「だから、って、何も、死ぬ必要、……なんて……」
「オブリビオンの習性というのは私が一番、よくわかっている。帝竜討伐の芽を、私自身が摘むワケにはいかねえんだよ、チャンプ」
 小さな少女の頭を撫でて、ノモス・アモフは立ち上がる。
 これで最期だ。
 溢す背中に寂しさはなく、どこかすっきりとした様子で体の傷を引き摺り歩く様は痛々しい。
 だがそこに助けを入れることは、彼女の闘争への答えに水を差すようで、誰もがその背を見送るだけだ。
 誇り高き戦士、オブリビオン。朝陽に向かって去る彼女の最期を、猟兵たちは目に焼きつけた。


●終劇の地。
 夜が明けても興奮覚めやらぬ村の様子に、ジザベルは満足そうに頷いていた。
「どうだ、ベッジさんの絵の腕は!」
「スゲエじゃねえか、この祭壇の絵、昨日の激闘がすぐに思い出せるぜ!」
「ブルヲレイズのメインテーマを作ってみましたわ、聴いてくださいな」
「素敵! なんかこう、体の底から戦うぞーって力が沸いてくるね!」
「うん。本当に凄いよ、レーナさん!」
 会場を新たに整備する村人たちから離れ、ジザベルは楽器を演奏してくれた冒険者仲間に別れを告げる。
 誰もがまた呼んでくれとするその顔は、彼のよく知る擦れた大人の顔ではなく、子供のように輝いていた。
「ようジザベル。目標達成かい?」
「まあな。勇者が出現したかどうかは知らないが、間違いなくこの世界の明日への活力になったはずだ」
 ジザベルの言葉に会場設営をしていた男も同意する。
 少し離れた所では彼の仲間である女魔法使いが参加者の一人である女を探していたが、どうも見つからないと唸っている。
 どうやら彼女のファンになったらしい。
「ところで、みんなどこに行ったんだ? 乱入してきたのは色々と手伝ってもらって、ありがたいが」
「さーな。ま、次のブルヲレイズにはまた会えるだろう。ノモス・アモフだって負けっ放しじゃねーし、再戦を誓った相手もいるんだ。
 別の場所でやるときは、また頼むぜ」
 馴れ馴れしく肩に手を置くジザベルの頭をトンカチで軽く打ちつけ、そういうことは金を払ってから言えと半眼で唸る。
 登り始めた陽に、空に浮かぶ城の数々は世界の終わりを予期させる光景である。
 しかし、この世界の住人たちはそれを乗り越えるだろう。勝利を勝ち取る、夢、希望の為に人は戦えることを、彼らは知っているからだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年09月16日


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#アックス&ウィザーズ


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ハララァ・ヘッタベッサです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト