●大悪災の嘆き
女郎花に桔梗、朝顔。
夏の花が咲き乱れる絢爛な花の御所にて、彼女は怒りの言葉を紡ぎ続けていた。
金、金、アタシの金……!
徳川の財の大半は、元々アタシの集めた金なんだ……!
何をあいつら、クソッ、素知らぬ顔をして……!
昔っからそうだ! どいつもこいつも、アタシに逆らいやがって……!
アタシが金を吸い上げたから国が乱れた?
乱れたんなら、金を持ってるアタシが正義だろうが! 黙ってヘイコラ従えよ!
ああムカツク! ああああムカツク!
どいつもコイツも、アタシが殺してやる!
徳川を殺して、猟兵を殺して、もちろん信長の野郎も、ぶっ殺す!!!
風を受けて揺れる花々だけが、その怨嗟を聞いていた。
●四季折の殿
京都は『花の御所』に斃すべき敵がいる。
「その名は日野富子。大悪災とも呼ばれる女性のようじゃ」
グリモア猟兵のひとり、鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は戦況を告げる。
彼女は今、富子の有り余る私財を投入して新設された豪華絢爛な花の御所で呪詛めいた感情と意思を吐き続けているようだ。
其処は足利将軍家の邸宅だった場所であり、現在は富子の拠点となっている。
「日野富子は魔軍将のひとりであり、強大な力を持っておる。しかしサムライエンパイアの平和を目指すためには避けては通れぬ敵じゃ。やるしかあるまい」
相手は憎悪や苛立ちを力の源として振るって来る。
そして、強敵ゆえに必ず先制攻撃を行ってくるだろう。
「対抗策を考え、そして其処からどう繋げてゆくかが重要な戦いじゃ。心してかからねば敗北もあるゆえ気をつけるのじゃ!」
猟兵に注意を告げ、エチカは其処で説明を終える。
しかし、その瞳には揺るぎない信頼が宿っていた。何故ならば皆で力を合わせればこの先の未来を勝ち取れると信じているからだ。
「悪しき存在など打ちのめしてやるのじゃ! では、テレポートをはじめるぞ」
そして少女は転送の力を紡ぐ。
向かうは花の御所。其処に待つ大悪災を屠り、次の路を拓くために――。
犬塚ひなこ
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
ひとつのフラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●戦闘について
大悪災『日野富子』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。彼女を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
※猟兵のUCよりも先に相手がUCを使うため、敵の先制攻撃を『防御系のユーベルコードで受けるというだけ』のプレイングの場合、判定は失敗となりますのでご注意ください。(その防御系UCをどうやって使うかの工夫があれば大丈夫です)
まずどのように避けるか、または受け切るかの行動が大事です。
また、技能を使う場合は技能名を並べるだけではなく、『自分はどのようにその技能を活かすか』という点がプレイングにあるとより成功に近付きます。
第1章 ボス戦
『大悪災『日野富子』』
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POW : アタシの前に立つんじゃねぇ!
【憎悪の籠った視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【爆発する紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : アタシのジャマをするな!
自身の【爪】が輝く間、【長く伸びる強固な爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 誰かアイツをぶっ殺せよ!
自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊】が召喚される。応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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逢坂・理彦
あぁ、せっかく綺麗な花が沢山咲いた御所なのに主があれでは勿体無いね。
こうやって花を植えたのは見栄えの為でしか無いのかもしれないけれど…花は愛でないと。
先制攻撃を受けるのが分かっているのだから少し落ち着いていこうか。
【戦闘知識】で戦場を把握。焦らず【聞き耳】で火矢の音を聞き【第六感】を研ぎ澄ませ。その火矢を【早業】で【なぎ払】う。
上手く払うことができたのなら反撃と行こうか。
せっかくだ俺からも何か花を送らせてもらうよUC【狐火・穿ち曼珠沙華】
よーく似合うと思うよ。
アドリブ連携歓迎。
●焔に咲く
――花の御所。
その邸に付けられた名の通り、其処には季節の花が咲き誇っていた。
だが、この地の中心にいるのは花の可憐さとは程遠い人物。怨嗟と憎しみを裡に宿す女傑、大悪災・日野富子。
「ああムカツク! ああああムカツク!」
激しい怒りの言葉が聞こえ、逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)は肩を竦める。
「あぁ、せっかく綺麗な花が沢山咲いた御所なのに主があれでは勿体無いね」
「ああ!?」
彼が零した声を聞きつけ、富子は荒ぶる声をあげた。
花に囲まれているというのに彼女の目にはその美しさは映っていない。ぶつぶつと呟いている彼女は闖入者の存在に苛立ちを覚えたらしい。
こうやって花を植えたのは見栄えの為でしか無いのかもしれない。けれど、と身構えた理彦は今一度、思いを言葉にした。
「……花は愛でないと」
「つまらねぇことをほざきやがって! ほら、誰かアイツをぶっ殺せよ!」
富子が叫ぶと、その周囲に火矢の怨霊が現れる。
それは応仁の乱で飛び交ったという存在。苛立っているというのに、否、苛立ちが強いからこそ富子の攻撃には隙がない。
どうあがいても先制することはできない程に素早く疾く、火矢は理彦に向かって解き放たれた。だが、理彦は決して慌てない。
(――来る)
咄嗟にどの方位から矢が飛んでくるかを察知し、その音を聞く。
幾本もの怨霊を全て避けることは不可能だ。だが、神経を研ぎ澄ませることで何本かは薙ぎ払うことが出来るはず。
正面、左方、右方。その中でも左からの攻撃がやや多いと感じた理彦は朱月丸の柄に手を掛け、一気に刃を引き抜いた。
同時に朱い月を宿したような刀身が閃き、左方の火矢が薙ぎ払われた。それだけではない、正面からのものまで巻き込みながら刀は振り上げられる。
防げたのは二面のみ。当然、右方からの矢は容赦なく彼の身を穿った。
されど理彦は痛みを堪え、反撃に移る。
「チッ、耐えやがったか。それならおっ死ぬまでやるだけだ!」
富子は聞こえるように舌打ちをして新たな火矢を放とうとしていた。しかし、理彦は即座に己の力を発動させる。
「せっかくだ俺からも何か花を送らせてもらうよ」
飛来する火の矢のお返しだと示すように、理彦は狐火を紡ぐ。
揺らぐ炎は曼珠沙華の花を形作り、一面を紅い色で彩っていった。
「く……熱い……!」
絡みつくように咲き乱れる炎の花を振り払う富子はぎりぎりと唇を噛む。
「よーく似合うと思うよ」
「ほざけ! こんなもの――」
理彦が薄く笑ってみせたことで富子は逆上した。そして解放された火矢は理彦へと容赦なく襲いかかり、更なる痛みを与えてくる。
血が散り、地面を濡らした。それでも理彦は痛みに耐え、敵を見据えた。
敵の力は強大だ。しかし、未だ戦える。
怒りと呪いに塗れた女傑をその瞳に捉えたまま、理彦はしかと刀を握り締めた。
成功
🔵🔵🔴
ユース・アルビトラートル
富があれば信頼や幸福が手に入るとは限らない。それに気づけば、こうはならなかったのではないか……なんて考えても仕方ない。ボクには彼女を骸の海に還すことしか出来ない。――事前に言っておくよ。「悪行には報いがある」。
まず先制攻撃の対処だけど……ボクのユーベルコードを成立させるために、痛いけどここは勇気と覚悟を以て喰らう他ない。戦闘知識を利用して致命打だけは絶対避ける。あと、確信するための情報収集が必要。「火矢の怨霊は富子の指示があって攻撃しているのか」という点だね。「ぶっ殺せ」とかの発言を基に動けば、発動の要件をすべて満たす。慎重に観察しよう。勿論、同害とは体格に比例した傷の大きさになるからね。
●報いの形
富があれば信頼や幸福が手に入るとは限らない。
それに気づけば、こうはならなかったのではないか――。
ユース・アルビトラートル(見据えるもの・f03058)は目の前の女傑、日野富子を見つめて考える。
富という文字を名前に冠している彼女は、確かに財を成した。
それでも今の彼女が手にしているものは、一体何なのだろう。とても幸せを得られたとは思えず、ユースは首を横に振る。
なんてことを考えても仕方がないとユースは知っていた。自分に出来ることはただ、彼女を骸の海に還すことだけ。
「下賤な虫がまたちょろちょろと……!」
ユースの存在に気付いた富子はぞっとするほど冷たい眼差しを向けた。
しかしユースは怯まず、彼女に告げる。
「――事前に言っておくよ。『悪行には報いがある』」
「何をごちゃごちゃと言ってんだか」
誰かあれをぶっ殺せ、と富子が告げると火矢の怨霊が召喚されてゆく。
その矛先がすべて自分に向いていることは分かっていた。
だが、誰もあの火矢より速く動くことは出来ない。それにユース自身の力を成立させるためにはあれを甘んじて受けなければいけない。
痛いが、ここは勇気と覚悟を以て喰らう他ないのだ。
「……死ねよ、死ねッ!」
富子の絶叫めいた声が響いた刹那、火矢がユースを襲う。
「――!」
声にならない声がユースから零れ落ちた。ちいさな身体を貫かんとして迫る一矢ずつが熱を孕み、少年を焼き尽くそうと迸る。
痛みを感じながらもユースは身を翻し、致命傷だけは避けようと立ち回った。
ある程度なら矢の軌道は読める。
それはこれまで積み重ねてきた戦闘知識ゆえの動き。それでも突き刺さり、肌を掠っていく矢の痛みは無視できるものではない。
だが――ぶっ殺せ、と火矢に告げた富子の発言。そしてその声を受けて放たれた火矢の動きは確信を持つに至るものだ。
ユーベルコード、同害刑。
今まさにユースの力は発動し、同じ痛みを持ってして相手への報復へと変わる。
その瞬間、其処に生み出された炎の矢が富子に向かって飛翔していく。
「何だってんだ、これは。来るな、来るんじゃねぇ!」
「それがボクの受けた痛みだよ」
自分が放った怨霊の力に似たものが襲いかかってきたことで富子が憤慨する中、ユースは極めて冷静に告げた。
同害。それは自分が受けた痛みと同じものを相手に返すもの。
傷口から滴る血が白い髪を濡らしていく中、ユースは息をつく。其処から体勢を整えたユースはしっかりと敵を見据えた。
妖しく揺らぐ怨嗟がどれほど凶悪であろうとも、決して屈指はしない。
少年の中の意志は強く、静かに燃えていた。
成功
🔵🔵🔴
雅楽代・真珠
僕を殺すと言うの?
お前には出来ないよ
如月の腕から降りて宙を泳ぐ
火矢の怨霊は皐月が鋼糸で絡め取り
近付くものは如月が撃ち落とし
間に合わなければ僕を抱えて庇うよ
良い子だね、お前たち
僕を見つめるのならば
もっと蕩けるような目で見つめてくれなくちゃ
僕は魚だけれどお前の炎は怖くない
僕を融かすなら硝子をも融かす炎じゃなくちゃ
なぁんだ、その程度?
お前の怨嗟も大したことがないね
お前の心は醜くて
ああ、そう、悲しい
『人魚の涙』で動きを封じよう
封じている間に、僕の刃たちがお前の首を獲ることだろう
皐月は暗殺に長けて
如月は体術に長けている
お前もエンパイアの子
お前が怨嗟の鎖から解き放たれる事を祈っている
全ての子等に幸あれかし
●怨嗟の鎖
熱を孕んだ風が尾鰭を撫でていく。
御所に咲く花々が激しく揺れる中、雅楽代・真珠(水中花・f12752)は絡繰人形の如月の腕から降りる。
ふわりと宙を泳げば、御所の中央に佇む女の声が聞こえた。
「どいつもコイツもムカツクったらありゃしねぇ! アタシが殺してやる!」
おそらく花の御所に現れた猟兵たちへの怨嗟の言葉を吐いているのだろう。もしくは猟兵だけではなくこの世界すべてを呪っているのかもしれない。
「僕を殺すと言うの?」
――お前には出来ないよ。
そう告げた真珠の視線に気付き、富子は眉を顰めた。
「ああ!? 魚如きが何を偉そうに!」
此方を見下す勢いで暴言を吐いた敵は感じた苛立ちのままに火矢の怨霊を召喚する。此方が動く間もなく襲い来る矢を見据え、真珠は絡繰人形の皐月を呼んだ。
飛来する火矢の何本かを皐月が鋼糸で絡め取る。
されど、富子の放つ矢の数は膨大だ。呼ぶまでもなく動いた如月が主に刺さらんとしていた矢を蹴り上げて撃ち落とし、更に数を減らす。
それでも火矢は収まらず、波状攻撃めいた勢いで真珠たちに向かった。
刹那、如月が身を翻して真珠を抱えて庇う。それだけではなく皐月も身を挺して真珠たちの前に立ち塞がり、火矢をすべて受けた。
「良い子だね、お前たち」
従者たちに声をかけた真珠はするりと腕の中から出て宙を泳ぐ。
如月の背に、そして皐月の四肢に幾本も刺さった矢は更に燃え上がろうとしていた。真珠の身体に傷はない。だが、その代償であるかのように従者たちの損傷は大きく、すぐに動けそうにはない。
しかし真珠は焦りなど見せない。
「なぁんだ、その程度? お前の怨嗟も大したことがないね」
「アンタも外道だよなぁ。人形の傷なんて知ったことかってか?」
あはは、と従者たちの損傷を見た富子が嘲笑う。
すると真珠は首を振ってみせた。
「僕を見つめるのならばもっと蕩けるような目で見つめてくれなくちゃ」
「はっ、莫迦らしい」
「お前の炎は怖くない。僕を融かすなら硝子をも融かす炎じゃなくちゃね」
「じゃあもう一度試してみるかい? 焼き魚にしてやるよ!」
「そんなことさせないよ」
富子と対等に口で渡り合えるほどに気丈に、真珠は凛と告げていった。そして火矢が再び放たれる前に打って出ようと決める。
刹那。白皙の頬を涙が伝い、宝石に変わってゆく。
彼の悲しむ顔を見れば常人ならば魂を絡め取られ、身動きが取れなくなる。通常ならば――だが、富子は何も動じていなかった。
彼女に罪悪感を覚える精神などなかったのか。それよりも以前に純粋にユーベルコードが失敗したのだと感じられた。
「泣き落としでも始めたのかと思ったが、効かねぇよ!」
殺せ。
そう命じた声と共に二度目の火矢が真珠に向けて飛来してくる。まだ皐月は立ち上がれておらず、如月の背に矢も刺さったまま。
宙を泳いで避けようとも次はまともに矢を喰らってしまう。そう感じた真珠は思わず目を閉じる。そのときだった。
動けぬはずの絡繰人形が今一度、真珠の身を庇うように立ち塞がった。
「如月……」
真珠の腕にも矢は突き刺さったが、彼が護ったことで致命傷にはなっていない。従者の名を呼んだ真珠は敵を見据え、頭を振る。
「お前の心は……醜くて、ああ、そう、悲しい」
美しい僕が――そして、僕の刃たちが怨嗟に塗れた者に屈することは絶対にない。
そう告げるかのような眼差しが富子に向けられた。
苦戦
🔵🔴🔴
鎹・たから
彼女の視線をまっすぐ見据え語りかけ
此方へ向ける紫炎を避けることなくオーラで耐えぬきます
つよい覚悟と勇気がなければ
この憎悪の焔に立ち向かえないから
自分で集めた財を奪われたのが憎いのですか
自分に従わない人々が嫌いなのですか
決して折れることなく富子の前に立ち
あくまで意識を此方へ惹きつけます
あなたがどのような宝をもっていようと
いのちに勝る価値などありません
それがわからないのならば
あなたは正義を語ってはいけません
【オーラ防御、覚悟、勇気、恫喝】
【残像】を残したまま【ダッシュ】し接近
融けぬ氷の拳を懐へ素早く鋭く
【暗殺、グラップル、鎧砕き、衝撃波、気絶攻撃】
こども達の未来を奪うあなたを
たからはほろぼします
●悪災
――呪詛。
そうと呼ぶほかない声と怒号が花の御所に響き続けている。
転送陣から御所に降り立った鎹・たから(雪氣硝・f01148)は日野富子の視線が此方に向いたことに気付き、まっすぐに見据え返した。
「邪魔者がまた一人増えたか。チッ……」
舌打ちをした富子は魔力を紡ぎ、今にも力を発動させそうだ。
次の瞬間、憎悪の籠った視線がたからを貫いた。
巻き起こる爆発と燃える紫炎が彼女の身に痛みを与え、おおきな衝撃となって巡る。しかし敢えてそれを避けなかったたからは果敢に耐えていた。
防護陣は破られ、突き抜けるかのようなダメージは到底無視できるものではない。しかし、つよい覚悟と勇気がたからが此処に立つ原動力となっている。
そして、たからは問う。
「自分で集めた財を奪われたのが憎いのですか。自分に従わない人々が嫌いなのですか」
「はぁ? 全部だよ、全部!」
すると富子は忌々しげにたからを睨み付けた。
憎悪の焔に立ち向かうと決めたゆえ、たからは決して怯まない。そして痛みで重く感じる身体を何とか動かした彼女は残像を纏い、駆ける。
「アタシの不利益になる物も、アタシに従わない奴らもムカツク! ああああ!」
そう続けた富子はたからにも憎悪を向けていた。
ぞっとするような冷たい眼差しに怒りだけしか伴わぬ叫び。その声を聞きながら、たからは思いきり拳を握る。
氷を纏い、冷凍化された拳を届かせるために強く地面を蹴る。
そして残像に気を取られていた富子の懐へと潜り込んだたからはひといきに鋭い一閃を打ち込んだ。
「あなたがどのような宝をもっていようと、いのちに勝る価値などありません」
それがわからないのならば。
「あなたは正義を語ってはいけません」
融けぬ氷の拳で敵を穿つと同時に、たからは告げる。
巻き起こる衝撃波に押された富子は僅かによろめいたが、きつくたからを睨みつけることで二度目の爆発を見舞った。
「うるせぇ! 黙ってヘイコラ従えよ!」
怒りに満ちた攻撃はたからの身に抉るような痛みを齎す。
後方に下がったたからは思わずその場に倒れ込みそうになった。だが、地面を踏み締めて耐える。
決して折れることなく、富子の前に立ち続ける。
そして意識を此方へ惹きつければきっと、誰かが攻撃を行う機を掴めるはず。
此処で戦っているのは自分だけではない。
乱戦となりつつある御所の戦いにおいて、たからが目指すのは大悪災の滅び。
「こども達の未来を奪うあなたを、たからはほろぼします」
続く未来を、そしてそれを怨嗟で塗り潰そうとしている敵から目を逸らさず、たからは強く宣言した。
身体に残る痛みは未だ消えてくれない。
それでも思いは揺るがず――強く、深く、戦う力となって廻っていった。
成功
🔵🔵🔴
笹鳴・硝子
通くん(f03680)と
夜中のコンビニの前に屯したDQNみたいな物言いですが、ちょっと下品じゃないですか年甲斐もない
悪女ってのはもっとこう、余裕持ってて欲しいものですが、すっかり小物じゃないですか
あ、眉間の皴、深くなりますよ
BBAなんですから、もう手遅れかもしれませんね
【WIZ】
上記の通り、煽る(ただし口調は平坦)言葉を放って苛立たせてユーベルコード【頻伽】(技能【歌唱】)で、富子が放ったすべての火矢の怨霊を相殺
それに
「私にはまだ、これもありますからね」
精霊銃(技能【属性攻撃・援護射撃・スナイパー】)から水属性を付与した弾丸で通くんへの攻撃を狙い打ち
彼の拳に、私の思いを託しましょう
雷陣・通
【硝子姉ちゃん(f01239)と一緒だ】
姉ちゃんがUCを打ち消しに行った、ならばその隙を見て距離を詰めよう
勿論、気づかれるであろう
けれど殺気を込めた残像をフェイントにスライディングで距離を詰める!
「硝子姉ちゃんナイス!」
援護に感謝しつつ、これ以上の攻撃を封じるために顔面に正拳からの
『正中線五段突き』
人中!
水月!
喉笛!
臍!
そして顎先!
勿論、撃っている最中にも攻撃は来るだろう
だが、そこは激痛耐性を持って耐え
攻撃に全てを費やす!
「作ってくれた時間だ、無駄に出来るわけがねえ!」
●繋げる一手
音もなく転送陣が消え、花の御所の景色が周囲に広がる。
同時に戦場に降り立った笹鳴・硝子(帰り花・f01239)と雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)は目配せを交わしあう。
すぐ近くからは日野富子が紡ぐ怒号が聞こえてきている。
おそらく先に此処に着いた猟兵との戦いが繰り広げられているのだろう。ふたりが居る場所は大きな樹の木陰。名前はわからないが其処にも花が咲いており、夏の風を受けて花弁が揺れていた。
だが――。
「そこに隠れてるのは誰だ。こそこそしてんじゃねぇ!」
此方の気配に気付いた富子が声を上げる。
はっとした通を制した硝子は敢えて自分だけ木陰から飛び出していった。
「こそこそなんてしていませんよ。夜中のコンビニの前に屯したDQNみたいな物言いですが、ちょっと下品じゃないですか」
年甲斐もない、と告げて煽るような――否、実際に煽りしか感じられない視線を向けた硝子は逃げも隠れもしないと宣言した。
すると富子は眉間に皺を寄せてぶち切れる。
「何をワケのわからないことを……おい、誰かあいつを殺せ!」
苛立った声と共に火矢の怨霊が周囲に現れた。しかし硝子は怖気付いたりなどはせず、冷ややかな眼差しを返す。
「あ、眉間の皴、深くなりますよ」
「てめぇがそうさせてんだろうが!」
罵声が響く中、硝子はやれやれとオーバーアクション気味に両手を広げた。
BBAなんですからもう手遅れかもしれませんね、などと思いつく限りの挑発を述べる硝子の声は平坦だ。
だが、だからこそ富子の怒りも募るというもの。
「悪女ってのはもっとこう、余裕を持ってて欲しいものですが、すっかり小物じゃないですか。嘆かわしいですね」
「黙れ! 死ね!」
そういう硝子に向けて、すべての火矢が放たれた。
硝子はそれをしかと見据え、自らのユーベルコードを発動させる。
――頻伽。
逆位相の魔力を伴う歌声を響かせようと口をひらいた硝子。だが、それよりも疾く迸った火矢が彼女の胸を貫いた。
「……っ」
だが、硝子は謳うのを止めない。火矢はまだ幾重も飛来してきている。相殺できたものもあるが、出来なかったものも多い。
されど、この背の後ろには彼が――通がいる。
何処か苦しげな歌声に耳を澄ませ、通は拳をきつく握った。
(硝子姉ちゃん……!)
本当はすぐにでも飛び出したいくらいだ。けれど彼女は自分が敵に一手を打ち込む時間を作るためにひとりで出ていったのだ。
通はタイミングを計る。
硝子の身体には容赦なく火矢が降り注いでいた。その中のたった一瞬の隙を見出すため、目を凝らした通は刹那の好機を掴む。
地を蹴り、木陰から飛び出した通は富子へと駆け出した。
無論、それに気付かない富子ではないが予想外の猟兵の登場に僅かに反応が遅れた。この一瞬は硝子がくれた、たったひとり分の、通だけのための時間だ。
「クソガキが……!」
富子が叫ぶ。だが、その視線は殺気を込めた通の残像に向けられていた。
即座にスライディングを決めた少年は一気に敵との距離を詰め、これ以上の硝子への攻撃を封じるために拳を振り上げた。
「正中……見えた!」
「ぐっ!?」
まずは顔面に正拳。其処から人中、水月、喉笛。
的確に急所を捉えた連打が打ち込まれていく中、呻いた富子も反撃に入る。睨めつける視線が巻き起こす爆発が通の身を穿った。
それでも彼は止まらず、残る二連撃を打ち込もうと振りかぶる。
「姉ちゃんが作ってくれた時間だ、無駄に出来るわけがねえ!」
臍、そして――顎先。
「……がッ!」
醜い声があがり、富子の体勢が大きく揺らいだ。
そのときには硝子も立て直しを図っており、精霊銃を構えていた。
自分の思いを託した少年の拳は確かに敵を穿ち、確かなダメージを与えてくれた。
「私にはまだ、これもありますからね。行きますよ、通くん」
痛む身体に鞭を打ち、硝子は水属性を付与した弾丸を撃ち放ってゆく。通が更に行おうとしている攻撃に合わせ、援護とする形で銃弾が戦場を舞う。
火矢、そして憎悪の紫炎。
それらを受けたふたりの疲弊もかなり大きい。だが、硝子の水弾は炎を打ち消すように弾けていった。
その援護の中、激痛にも耐えてみせると決めた通は渾身の力を揮う。
これはひとりでは成し得なかった状況。ふたりでならば、きっと勝機を掴める。
「まだまだ……覚悟しろ!」
ただひたすら、通は攻撃に全てを費やす。
強く握り締められた少年の拳のように、裡なる意志は強く固く――戦いの勝利を見据えたふたつの眼差しが、大悪災たる女に向けられていた。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
花咲・まい
【POW】
とても強い呪詛を感じます。
でも、ずっと何かに怒り続けるのって疲れるのですよ。
だからきっと彼女にも、いつかは隙が生まれますです。
そのためにもまずは一撃を乗り越えましょう。
加々知丸くんなら、視線とやらも断つことができるかもしれませんです。
視線を見切り、憎悪ごと薙ぎ払うことで断ち切れるか試してみますです!
斬った時点で爆発することも考えて、一撃を防げてもまずは退避。ヒットアンドアウェイで行きましょう。
ある程度戦い方が掴めたら、あとはそれを頼りに思いっきり打ち込むのみですよ!
大丈夫です。
あなたの恨み辛み、妬み嫉みもぜーんぶ、加々知丸くんが斬っちゃいますですから!
*連携、アドリブはご自由にどうぞ
●紫彩の衝突
響く声に、とても強い呪詛を感じた。
大悪災、日野富子が放つ言葉も焔も怨嗟にまみれていて、花咲・まい(紅いちご・f00465)は眉根を寄せる。
彼女はこの世界のすべてに怒っているのだろう。その憤りがああして言葉と態度にあらわれているのかもしれない。
「でも、ずっと何かに怒り続けるのって疲れるのですよ」
まいは哀しげな声でそっと呟いた。
しかし、だからこそきっと彼女にもいつかは隙が生まれるはず。まいが加々知丸を構えると富子の視線が此方に向いた。
攻撃の矛先が自分に定められている。
そう感じたまいは、ぞっとするような富子の眼差しを敢えて受け止めた。
刹那、憎悪の籠った視線から放たれた紫炎がまいを襲う。加々知丸なら視線も断つことができるかもしれないと考えていたが、間髪入れずに起こった爆発は容赦なくまいの身体を傷付けた。
だが、まいはせめて纏わりつく炎を断ち切ろうと動く。
「斬ってみますです……!」
反撃ためにもまずは一撃を振り払い、乗り越えなければ始まらない。
受けた憎悪ごと薙ぎ払う勢いでまいは加々知丸を横薙ぎに振るった。渦巻く紫炎はまるで蛇のようだ。ならばきっと、旧き大蛇を切ったという説話のあるこの刀なら斬り伏せることが出来るはず。
殆どこじつけに近くともまいは信じた。
そして刃が振るわれた直後、炎の威力は弱くなり掻き消える。
「参りますですよ!」
反撃です、と告げたまいは地面を強く蹴った。
「まだ動けるのかよ。クソッ、忌々しい!」
舌打ちをした富子はまいを睨み付けたが、次の爆発する炎が放たれる前にふたりの距離が大きく狭まった。
相手が紫炎を放つなら、此方は紫電一閃。
富子へと真正面から迫ったまいは刀を正眼に構え、一気に振り上げる。
憎しみしか映していない富子の瞳にまいの姿が映った。
次の瞬間、富子の身体が穿たれる。彼女のまわりに蠢く炎が刃を包み込んで押し返したが、確実に痛みを与えられたことは確かだ。
まいは次の一撃に備えて即座に身を翻し、富子との距離をあける。
「どいつもコイツもああムカツク! この野郎!」
鬼気迫る表情で悪態を吐いた富子はまいを睨み付け続けた。
更なる爆発の炎が舞い踊ったが、まいは加々知丸で炎ごと憎悪を叩き斬った。掠った炎の痛みが身体に走ったが、まだ耐えられる。
まいは真っ直ぐに富子を見つめて、告げてゆく。
「大丈夫です」
「ああ!? 何が大丈夫だってんだ!」
強い言葉が返されたが、まいはそのまま言葉を続けた。
「あなたの恨み辛み、妬み嫉みもぜーんぶ、私とこの加々知丸くんが斬っちゃいますですから!」
心から告げられた言の葉は残念ながら富子には届かない。
それでも必ず斬ってみせると決め、少女は強く刃の柄を握り締めた。
成功
🔵🔵🔴
フェルト・フィルファーデン
……憐れね。お金に取り憑かれて、執着し、過去となってもなお……ええ、アナタの命、終わらせてあげるわ。
先制攻撃には騎士(絡繰人形)の盾で【盾受け】して受け流しつつ【第六感、野生の勘】も使いギリギリで躱し、痛みは【激痛耐性】で耐えて【カウンターに早業の先制攻撃】で懐に飛び込み【力溜めつつシールドバッシュ】で敵の体勢を崩すわ。
その隙にUCを使い騎士達に力を与えましょう。ここからは全力でいかせてもらう……!
騎士の武器で敵を斬り刻み、砕き、討ち倒しましょう。狙うのは敵の爪よ。【武器落とし】で綺麗に切り落としてあげる!
……仲間は誰も傷つけてはダメ。寿命はいくらでもあげるから。
――さよなら、可哀想な人。
●憐憫と宣言
夏の花が戦いの余波を受けて激しく揺れる。
花弁が千切れて飛んでいく様を哀しげに見つめ、フェルト・フィルファーデン(糸遣いの妖精姫・f01031)はちいさく呟いた。
「……憐れね」
その言葉を向けた対象は大悪災、日野富子。
「お金に取り憑かれて、執着し、過去となってもなお……」
この世に醜く留まる女の姿は見ていると哀れみしか浮かんで来ない。フェルトの存在に気付いた富子は腕を振り上げた。
「アタシのジャマをするなら八つ裂きにしてやる!」
すると途端に女の爪が輝き、長く伸びたそれが凶器へと変貌していく。
どうあってもあれは避けられない。即座に判断を下したフェルトは騎士の絡繰人形を呼び出し、その盾で爪撃を受け止めた。
だが、富子の爪は鋭い。次に繰り出された一撃は盾で受け流すことができず、フェルト自身に襲いかかった。
「……!」
翅を羽撃かせて身を翻したフェレスはぎりぎりの所で躱す。
しかし今と同じ攻撃が幾度も襲い来ることが分かってしまった。騎士も果敢に爪の一撃を受けていったが、富子の攻撃は止まらず――激しい痛みがフェルトの身体を駆け巡る。
「落ちろ、無様に落ちて死ね!」
「……いいえ、アナタの命、終わらせてあげるわ」
だが、激痛に耐えたフェルトは騎士に願う。そのまま富子の懐に飛び込んだ騎士はシールドバッシュで敵の体勢を崩そうと狙った。
おっと、と富子が身を反らすことで盾撃は躱されたが、一瞬の隙は作れた。
その間にフェルトは力を紡ぐ。
自身の命を糧にアーマーリングを輝かせれば、騎士たちの力が増幅されていった。
「ここからは全力でいかせてもらう……!」
フェルトは富子を見据える。
騎士の武器で敵を斬り刻み、砕き、討ち倒すためにフェルトは気を引き締めた。
「狙うのは敵の爪よ。綺麗に切り落としてあげる!」
騎士への指示と、富子への宣戦布告を同時に行ったフェルトは本気そのものだ。
この世界の平穏を取り戻すためなら、寿命はいくらでもあげるから――。
祈るような願いと共に騎士は武器を振るう。
あの刃の切っ先が未来を切り拓くものになるように。フェルトの願いを代弁するかのように、絡繰人形たちは力を揮い続けた。
そして、戦いは続いてゆく。
苦戦
🔵🔴🔴
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
「ふふーん、そんなにイライラしながら攻撃したって当たらないよ!」
背中の翅で「空中浮遊」して空中から襲い掛かるよ!
いくら爪が伸びても伸びすぎたらきっと大降りになって避けやすくなるよね!
上空にいるボクへの攻撃はきっと単調になるし「見切り」や「空中戦」でずばって避けるよ!
それに、あんなにいっぱい服着てたら動きにくそうだしスピードで翻弄しちゃえ♪
相手がイライラして攻撃がより単調になったら反撃のチャンス!
今までの避けるだけの行動から「フェイント」を掛けて「カウンター」!
「捨て身の一撃」の【妖精の一刺し】で反撃だー☆
※アドリブや他の方との連携も大歓迎です
●風に躍る
翅を羽ばたかせ、宙に舞う。
夏の花々を眼下に捉えたティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)は、花の御所を見下ろした。
戦場となった御所の中心にいるのは日野富子だ。
彼女は呪詛の言葉や悪態を吐きながら猟兵たちへと力を振るっている。その威力は恐ろしく鋭い。
だが、ティエルはちっとも怖気付いてなどいなかった。
ティエルは響いてくる声を聞きながら、ひらりと空中を飛び回る。邪魔な妖精だと感じたのか富子は爪を伸ばし、ティエルを叩き落とそうと狙った。
「さっさと何処かに行っちまえ!」
「ふふーん、そんなにイライラしながら攻撃したって当たらないよ!」
その言葉は挑発でもなんでもなくティエルの純粋なる思いだ。しかしそれに憤慨した様子の富子は素早く爪を振るいあげた。
ティエルは其処から距離をひらくために全速力で飛ぶ。
いくら爪が伸びても、きっと伸びすぎたら大降りになって避けやすくなるはず。その狙いは実に的確で、五本の爪の感覚は伸びる度に広くなっていっていた。
そのうえ上空にいるティエルへの攻撃は単調になる。
「やっぱり、あんなにいっぱい服着てたら動きにくそうだもんね」
着物姿の富子を見下ろしたティエルは素早く爪を避け、相手をスピードで翻弄しようと決めた。ティエルの考えは見事だった。
もし火矢を飛ばされていれば避けきれなかっただろう。
しかし富子が振るったのはただ伸びる爪。妖精であり、更に身軽なティエルとの相性は悪かったようだ。
即ち、本来ならば脅威であるはずの富子の爪撃はティエルにとって恐ろしいものではない。これなら大丈夫だと感じたティエルはそのまま爪を躱し続ける。
一瞬でも気を抜けないため精神は疲弊するが、身体の方はまだ大丈夫だ。
「この、煩い羽虫が!」
富子は更に苛立ちを覚えはじめる。さすれば攻撃はより単調になる――と思いきや、敵は先程よりも精確にティエルを捉え始めていた。
ティエルを早く打ち落としたいという怒りによって精度が増したのだろう。
わ、と思わず慌てた声をあげたティエルだが、爪が掠っただけで大打撃にはならなかった。それに加え、他の猟兵が放った一撃が敵を穿つ。
「よーし、反撃のチャンスだ!」
その隙に体勢を立て直したティエルは今までの避けるだけの攻撃から一転、相手の近くを目指して急降下した。このまま突撃する、と思わせておいて一度上昇。
フェイントを交えた一閃で以てティエルは突撃する。
「これがボクの全力全開だよ☆」
くらえーっ、と風鳴りのレイピアを差し向けたティエル。その一閃は鋭く、ちいさな傷でありながらも確かに富子を貫いた。
それでも、まだまだこれから。
ティエルは最後まで戦い続ける意思を抱き、レイピアを構え直した。
成功
🔵🔵🔴
泉宮・瑠碧
…怨霊はもう休める様に
せめて浄化出来れば良いが
…富子も
僕は杖を手に
反撃時は精霊祈眼
火の矢は
直線で飛来するなら真横へ
四方から曲がるなら後方へ
跳んで一旦回避
追跡で進路変更してくる間に
浄化の破魔の水と風で己を覆う様に防壁を作り火炎耐性と呪詛耐性
防壁で火の矢の威力を削ぎつつオーラ防御
受け切れなくなれば
続く矢の途切れ目を見切り
防壁を火の矢へ向けて放つ形で一時解除
第六感で射線が無い方向へ飛び退る
まだ矢が残るなら再びオーラ防御
放った防壁の破魔の水と風を周囲へ漂わせ
更に破魔の水を追加しておく
火対策と…
富子の服は重ね着の筈、水気が多ければ重くなり…凍り易い
富子へは全力魔法で
氷の精霊へ願い
破魔の水による氷漬けを
●凍れる魔力
戦場に満ちるのは怨念と呪詛めいた意思。
転送陣から降り立った泉宮・瑠碧(月白・f04280)は飛び交う火の怨念を目にし、心が痛むような感覚をおぼえた。
「……怨霊はもう休める様に、せめて浄化出来れば良いが」
出来れば、富子も。
そう考えた瑠碧は杖を手にして大悪災を見つめた。その眼差しを悟ったのか、富子は苛立った声をあげた。
「誰だか知らないがアタシは今機嫌が悪いんだ。ぶっ殺すぞ、あぁ!?」
彼女の物言いは実に乱暴で殺気に満ちている。
その声によって新たな火矢の怨霊が現れ、瑠碧に向かって攻撃が放たれた。火の矢は三方から飛来し、瑠碧を逃さぬとばかりに襲い来る。
直線ならば真横に回避するつもりだったが、それでは自ら側面から来る矢に当たりにいくようなものだ。瑠碧は即座に後方に跳び、少しでも回避できるよう動いた。
だが、矢は追尾するかのように飛んでくる。
仕方がないと覚悟を決めた瑠碧は杖を掲げ、何本かを弾き飛ばした。そして弾ききれなかったものは腕で以て受ける。
鋭い痛みが走っていったが、瑠碧はそれと同時に火の矢の威力を防護陣で削いでいた。まだ大丈夫だと自分に言い聞かせた彼女は痛みを堪え、反撃に移る。
「――どうか、力を貸して」
心中で精霊へ願い、瑠碧は富子に視線を向け返した。その意思を汲んだ水の精霊の力が一気に迸り、敵の身体を穿った。
そして風と水の精霊を周囲に漂わせ、破魔の力を紡ぐ。
どのような状況に対しても対策を立てていた瑠碧だからこそ、こうしてすぐに行動に移ることができていた。
水を被ったような形になった富子は更に怒り狂う。
「アタシを濡れ鼠にするなんて、いい度胸じゃねぇか!」
苛立ちは募り、火矢が燃えあがった。
しかし瑠碧は少しも怯まずに富子を見据える。
今、相手の服は濡れている。水気が多ければ重くなり動き辛くなるだろう。それに水を含んだ衣服は凍り易くなるのが自然の摂理だ。
「……その暴虐、止めさせて貰う」
瑠碧は防御壁を張り巡らせながら大きな魔力を紡ぎ始めた。
自分ひとりではいつかあの大量の火矢に貫かれて倒れてしまうだろう。しかし、この戦場に集った者が多くいる。
その仲間たちの力になることもまた、勝利への道を繋げるものとなるはず。
瑠碧は全力で紡いだ魔法の力を用いて氷の精霊へと願う。
解き放つ魔弾には破魔を込めて――そして、富子を直撃した氷の力は濡れた服を見る間に凍らせていった。
「なっ……冷たい……何だってんだ、これは!?」
今の瑠碧の力では富子自身を氷漬けにすることは出来ない。
されど衣服は固まってしまっている。今こそが攻勢に出るときだとして、瑠碧は仲間たちに合図を送った。
何れは訪れるであろう、戦いの終わりを信じて――。
成功
🔵🔵🔴
火狸・さつま
敵の攻撃『見切り』避けるを第一に
躱しきれぬのは『早業』全身に『オーラ防御』纏い防ぎ
『火炎耐性・激痛耐性』で凌ぎきる
動けりゃ十分
炎には炎
妖狐が炎の扱いで、負ける訳が無い
『カウンター・全力魔法』【燐火】炎の仔狐達に『破魔』纏わせ嗾ける
すかさず『早業・2回攻撃』<雷火>の雷撃放ち
稲光の強烈な閃光で視力を『部位破壊』出来りゃ僥倖
人呪わば穴二つ……己の怨嗟に自ら焼かれ骸の海へかえれ
『呪詛』乗せた【燐火】で『傷口をえぐる』
敵の動き『見切り』躱し
『オーラ防御』纏い防ぐ
『火炎耐性』『激痛耐性』で凌げば
動ける限り反撃『カウンター』狙う
何もかも、誰もかれもを敵視して
憎悪苛立ちばかり…
なんと虚しい…つまらない人生か
●雷火と爆炎
「アタシの前に立つんじゃねぇ!」
喉を枯らしてしまうかと感じる程の怒号が響いた。
その声の主は大悪災とも呼ばれる女傑、日野富子のもの。火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は耳にきんと響いた音に首をふるふると振り、敵を見据えた。
相手も此方を睨み付けており、憎悪が感じられる。
さつまは自分に攻撃の矛先が向いていると察し、富子の動きを逃さぬよう双眸を鋭く細めた。その瞬間、鋭い視線がさつまを射抜く。
そう感じたのも一瞬。
燃え盛る炎がさつまの身を包み込んだ。しかしさつまは炎に巻かれまいと地面を強く蹴った。それでも避けられたのたった一歩分だけ。
纏わりついてきた炎が爆発し、さつまの身体を容赦なく穿った。
――痛い。
脳裏に浮かんだのは生物として純粋な反応。しかし、咄嗟にオーラで防護していたさつまに伝わった痛みは幾分か軽減されている。
されど衝撃が身体中を駆け巡ったことは変わらず、さつまは堪えた。
幸いにも火炎への耐性も痛みを押し込める力もある。動けりゃ十分だとして、さつまは反撃に入ろうと決めた。
「ふん、畜生風情が」
ちょうどそのとき、富子はさつまから視線を外した。
おそらく新たに転送されてきた猟兵に意識を奪われたのだろう。後で殺してやる、と告げるような富子の口ぶりからして、さつまは取るに足りないものとして認識されたのかもしれない。
だが、それはそれで好都合だ。
炎には炎を。
妖狐が炎の扱いで負ける訳が無いとしてさつまは力を紡ぐ。
指先を敵に差し向ければ、仔狐の形を成した狐火が跳ね回った。そしてさつまは炎の仔狐たちに破魔の力を纏わせて嗾ける。
それと同時に雷火からの黒の雷撃を放ち、富子を狙い撃った。
見られるのが脅威になるなら目をどうにかすればいい。稲光の強烈な閃光で僅かでも視界を眩ませられれば僥倖。
「人呪わば穴二つ……己の怨嗟に自ら焼かれ骸の海へかえれ」
そして、呪詛には呪詛を。
力を与えられた燐火の狐は富子に襲いかかり、其処に生まれた傷口が抉られる。
「ぐっ……おまえ、ジャマをするんじゃねぇ!」
富子は眩しさに思わず目を瞑ったが、視線を途切れさせるほどの威力にはならなかったようだ。ふたたびさつまに憎悪の眼差しが向けられ、炎が弾け飛んだ。
防護を突き抜ける衝撃がその身を襲う。
それでも、さつまは膝をつかなかった。怒りや対抗心よりも哀れみのような感情が裡に浮かんでいたが、それを口にすることもない。
大悪災はただ滅ぼすのみ。
じわじわと近付く終わりを感じ取りながら、さつまは尾を逆立てた。
苦戦
🔵🔴🔴
冴島・類
怨みも殺意も
ここまで積み上げきったなら
己まで焼きそうな業火だ
貴女にとって
信長も僕らも違いなく
邪魔した時点で
知ったこっちゃ無いのかな
苛立ちの感情と火の怨霊
先手の攻撃を僅かでも喰い軽減し
放たれた追尾を避ける為
耐火の外套に破魔の魔力込め投げ
攻撃の斜線を一瞬だけでも塞ぎ
塞ぎきれず
それを越え来たものは
加えて残像交えたステップで狙いをぶれさせ、見切り
直撃だけは避けたい
初撃直撃だけ避けることができれば
焚上にて怨念と攻撃の分
刀に乗せる破魔の力を高める糧にし
まとう炎で浄化と生命力吸収狙う
恨み辛みを時をかけて
聞いてはおれぬが
触れた火の怨嗟は
決して忘れず覚えていく
奪われたくないから
断ちにきた
確かに、勝手には違いない
●怨念は深く
「勝手に人の土地にずかずかと入り込みやがって……!」
怨嗟の声が花の御所に響く。
忌々しげな富子の言葉を聞き、冴島・類(公孫樹・f13398)は眉を僅かに下げた。
怨み、そして殺意。
負の感情をここまで積み上げきった彼女が抱くのは己まで焼きそうな業火だ。現に富子が纏う炎がそう見える。
類はすべてを滅ぼそうとする彼女を見つめ、静かに呟いた。
「貴女にとって、信長も僕らも違いなく邪魔した時点で知ったこっちゃ無いのかな」
富子は怒るのに忙しいのかまともに答えようとはしない。そして、新たな闖入者である類へと苛立ちの感情を向けた。
「誰かアイツをぶっ殺せよ!」
次の瞬間、命じる声に呼応した火矢の怨霊が現れる。
その根源は負の情。ならば喰えるかもしれないと腕を掲げた類だが、力を発動させる前に火矢が身体に突き刺さった。
鋭い痛みと衝撃。だが、火矢は一本だけではない。
燃え盛る火を受け止めるように一歩踏み出した類は今度こそ本当に己の力を顕現させた。身体は浄化の炎に包まれ、受けた矢の火が喰らわれていく。
放たれた追尾を避けるために身を翻した類は耐火の外套に破魔の魔力を込めて投げ放ち、攻撃の斜線を一瞬だけ塞いだ。
外套が貫かれ、火が空中で大きく燃え上がる。
それ自体が焼かれることはなく矢は防がれ、類自身に刺さったのは最初の数本だけ。だが、それでもかなりの力を削られたことは確かだった。
よろめきながら、類は何とか体勢を整えていく。
体力は奪われたが反撃の分はまだ残っている。それに、僅かではあるが怨念の力は喰らっていた。
それを刀に乗せる破魔の力を高める糧にした類は、纏う炎を更に燃やす。
火矢の嵐が収まった瞬間を狙い、駆けた彼はこの一閃で浄化と生命力の吸収を狙おうとしていた。富子までの距離は難なく詰められたが、問題は此処から。
「気安く近付いてくるんじゃねぇ。アタシを誰だと思ってんだ!」
富子の言葉には気品が感じられない。過去から蘇った骸であるからなのか、それとも生前からそのような気質だったのか。
本当のことは今は知ることが出来ない。だから、出来ることはただひとつ。
類自身、彼女の恨み辛みを時をかけて聞いてはいられない。だが、触れた火の怨嗟は決して忘れず覚えていく。
それがせめてものことだとして、類は枯れ尾花を振るった。
ち、と富子が舌打ちをする音が聞こえるくらいの距離で類は刃を突き放つ。
「奪われたくないから、断ちにきた」
確かに、そうだ。彼女が言った通り、誰も彼も勝手には違いない。
それでも押し通して進む。
陽を受けて煌めいた刃は大悪災の身を切り裂き、赤い血をその場に散らせた。
苦戦
🔵🔴🔴
菱川・彌三八
やい、が鳴るんじゃねェや
耳が腐っちまわァ
こいつァ鬼だな
ああ、悪災だったか、そいつあいいや
悪妻とかけるなんて、誰か知らねぇがうまいこといいやがる
それに、ようよう見りゃあ随分草子映えしそうな見目だ
次ァ妖怪画だな
…なァに、独り言サ
恨み言にゃ呪詛耐性
そっから視線を切る目潰しに砂礫
一瞬切るのもそうだが、その後も見切りやすくなりゃあ上々だ
火だけでなく爆風も避けにゃならん
後は身軽に動いて大事な大事な御所を焦がさせちやるゼ
周りの味方への細けェ攻撃は千鳥で受ける
何でも持ちすぎるから良くねェのサ
そら、お前ェの炎と恨みごと全部、俺の波濤で流しちやる
黄泉に金は持って行けやしねえんだ
手前ェの為に使っちまやあ良かったんだ
●焔に大浪
痛みに息喘ぐ悲鳴が辺りに響き渡った。
戦場に駆けつけた菱川・彌三八(彌栄・f12195)はそれが痛みを受けた日野富子の声だと察し、煩い御婦人だと肩を竦めた。
「ああああムカツク! アタシの御所を荒らすどころか、こんな傷まで!」
「やい、が鳴るんじゃねェや。耳が腐っちまわァ」
「あぁ!?」
彌三八の声に振り向いた富子の形相は険しく、女性らしさとは程遠い。
こいつァ鬼だな、と呟いた彌三八は溜息をつく。そして、此方に憎悪の入り混じった視線を向けてくる富子に言葉をかけた。
「ああ、悪災だったか、そいつあいいや」
悪妻とかけるだなんて、誰か最初に呼んだかは知らないが実にうまいことを言ったものだと納得してしまう。
しかし次の瞬間、富子の視線は魔力を孕み炎となって迸った。
それは抗えぬ一閃。到底、避けられるようなものではないのだと察した彌三八は身構え、爆発する炎を受け止めた。
倒れそうになるほどの衝撃があったが、彌三八は何とか耐えきる。
紫の炎の残滓が散る中で彼は口の端を軽く吊り上げた。
「それに、ようよう見りゃあ随分草子映えしそうな見目だ。次ァ妖怪画だな」
「ふん、何を言ってんだ。こざかしいんだよ!」
怒鳴る富子は一撃で彌三八を倒せなかったことに更なる苛立ちを覚えたようだ。
「……なァに、独り言サ」
痛みを堪え、彌三八は足下の砂を蹴り上げる。それは目潰し代わりの砂礫――だったのだが、腕を振るった富子に振り払われてしまった。
視線を切るには足りない。おそらくどのように受けるかの対策の方が必要なのだろう。されど既にかなりの体力が奪われている。
つまり、次の一手をまともに受ければ自分はどうなるかわからない。
彌三八は新たな攻撃が来る前に、と筆で宙をなぞっていった。其処に描かれた大浪は威力を持った現実のものとなって富子へと迸ってゆく。
「何でも持ちすぎるから良くねェのサ」
「金は幾らあっても正義だ。つまりはアタシが正義だろうが!」
彌三八の言葉に富子は首を振った。持ちすぎて悪いことなどない。真の悪は金を使ったあいつらであり、自分は正義でしかない。
そう語る富子に哀れみめいた思いを感じ、彌三八は告げる。
「そら、お前ェの炎と恨みごと全部、俺の波濤で流しちやる」
刹那、大浪が容赦なく富子を襲った。
衝撃を押し殺しながらぶつぶつと恨み言を呟く彼女は彌三八を強く睨みつける。
またあの視線が来る。
そう感じた彌三八は力を振り絞り、御所内の建物を背にした。そして迫る炎の爆発に邸を巻き込んで、建物そのものを破損させようと動く。
「あ、あああ、てめぇ!!」
それによって富子が発狂したような声をあげた。
よくも、と怒り狂う彼女を見据え、彌三八は筆を構える。本当は息があがるほどに消耗し、立っているのもやっとだ。
それであっても彌三八は其処に立ち続けていた。
あの哀れな女の最期を見届ける。
そのときが訪れるまで膝を折ることなど出来ないのだから――。
苦戦
🔵🔴🔴
ヴィクティム・ウィンターミュート
【ヌル・リリファと】
そんじゃあ一丁──悪女を狩り殺すとしようぜ
【ハッキング】で自分の機械部位──サイバネをハック、出力を限界まで向上。【ドーピング】でコンバット・ドラッグ摂取。
身体能力、知覚能力、演算能力、反射神経を強化する!
飛来する火矢の怨霊を【ダッシュ】で走り回避
【ジャンプ】で足元に来るものは回避
【早業】で手近な投擲可能オブジェクトを投げつけて防いでもいい
【地形の利用】で建物、オブジェクト活用しパルクール
とにかく機動力で避け続け、遮蔽も使っていこう
捌き切ってからが本番だ
お前の今のUC──「見たぞ」
一度見れば解析は簡単だ
もう二度と同じ手が使えると思うなよ?
"管理者権限掌握"
こいつは俺のものだ
ヌル・リリファ
ヴィムさん(f01172)と
簡単な言葉は平仮名、難しめのものは漢字でお願いします
うん。一度死んだ魂は、とっととかりとっちゃおう。
シールドを展開、【盾受け】と、サイキックエナジーをたたきつける【衝撃波】で攻撃をそらしつつ【見切り】で先制攻撃は対処。
ヴィムさん、無事だよね?
なら、あっちはまかせるよ。
UC起動、【カウンター】。
【属性攻撃】で【破魔】とひかりのちからを強化した武器で富子を攻撃。
流石に200本こえる武器、それもそのばでわたしが軌道を全部管理してるものをさけるのはむずかしいはず。
とくにうらみはないけれど。
殺されてあげるわけにも、世界を滅させるわけにもいかないから。ここで、さよならだよ。
●ひかりと焔
朝顔の花が陽を受けて咲いていた。
花の御所へと繋がる転送陣から降り立った直後、目に入ったのは様々な夏の花。
だが、既に此処は戦場。
ゆっくりと花を眺めるような時間は何処にもない。
幾つか吹き飛ばされた形跡のある御所の花々を横目に、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)とヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)は禍々しい気配の方へと視線を向けた。
「そんじゃあ一丁――悪女を狩り殺すとしようぜ」
「うん。一度死んだ魂は、とっととかりとっちゃおう」
ヴィクティムの声にヌルがこくりと頷き、大悪災と呼ばれる者の姿を捉える。
それと同時に日野富子もふたりの存在に気が付いた。
「チッ、新手の鼠か。忌々しい!」
悪態を吐いた富子は苛立ちを隠すことなくヌルたちを睨みつける。そして右手を掲げた富子は誰かアイツらをぶっ殺せ、と告げて怨霊を呼び出した。
その数は膨大。
一目では数え切れぬ程の火矢の切っ先がヴィクティムとヌルに向いている。
既に解き放たれたそれらに対して出来ることはひとつ。
耐えるか、避けるかだ。
ヌルがシールドを展開して盾で受けようと構える中、ヴィクティムは己の機械部位を限界まで向上させてゆく。
出力全開。
コンバット・ドラッグ摂取。
身体能力、知覚能力、演算能力、反射神経を強化。
一瞬でそれらを終えたヴィクティムは地を蹴り、向かってきた矢を回避する。されど数は多く、幾つもの矢がまるで追尾するかのように彼に迫った。
厄介だと感じつつもヌルは自分に迫る矢をシールドで弾き返す。それすら破ってしまいそうな勢いの矢にはサイキックエナジーを叩きつけて撃ち落とした。
それでもヌルの身を怨霊の矢が掠っていく。
ヴィクティムの腕にも数本の矢が刺さっており、鋭い衝撃が走っていた。
ヌルは盾を展開したまま、彼のもとに此れ以上の追撃が行かぬよう立ち回る。ヴィクティム自身も手近な小石を投げ放ち、火矢を地に落とした。
「ヴィムさん、無事だよね?」
「何とかな」
「なら、あっちはまかせるよ」
ヌルの問いかけに平気だと答えながら突き刺さった矢を引き抜く。その姿はとても痛々しかったが、彼が大丈夫だというのならば信頼するのみ。
それに相手からの攻撃を捌き切ってからが本番だ。
――かけゆく閃光は暗翳をけしさり、乱立するひかりはうせたのぞみをてらす。
ヌルはユーベルコードを起動する。
それによって破魔と光の力を強化した数々の武器が周囲に顕現していく。
その数はゆうに二百を超える。富子へと放ったそれらはヌルが軌道をすべて管理しているため、避けるのは容易ではないはず。
「これ、さけられる?」
「……! てめぇ、小癪な……!」
迸る光に富子の身体が貫かれ、痛みに喘ぐ声が零れ落ちた。
ヌルの攻撃が次々と戦場を駆けていく中、富子はふたたび火矢の怨霊を操ろうと動いていく。だが、此処からヴィクティムが本領を発揮する番だ。
「お前の今の力――『見たぞ』」
先程の火矢を思い返し、そして腕にまだ残るダメージに意識を巡らせたヴィクティムは鋭い視線を敵に向けた。
見る間に解析されていく火矢の力。彼が告げた言葉通り、一度見れば解析はより容易になる。
――解析終了。対象データのコンパイル完了。ホストユーザー書換終了。No.005ハイジャック、実行。
「もう二度と同じ手が使えると思うなよ?」
「ふん、何が出来るってんだ!」
富子がヴィクティムに向けて叫ぶ。だが、敵はすぐに状況を理解した。何故ならば自分が放ったはずの怨霊の矢が相殺され、遡りはじめからだ。
「管理者権限掌握。こいつは俺のものだ」
「こっちも、わすれないで」
ヴィクティムからの反撃に富子が舌打ちをすると、ヌルも追撃にかかる。
火と光が幾重にも重なって大悪災のもとへと向かっていく。ヌルは透き通った青の瞳に敵を映し、このまま最後まで戦うことを決める。
「ああああてめぇら! アタシのジャマをするなあああッ!」
絶叫に近い声で喚き散らす富子は徐々にではあるが消耗し始めているようだ。
ヴィクティムとヌルは静かに頷きあい、哀れな金の亡者への言葉を向けていく。
「お前の傲慢も執着も打ち壊してやるよ」
「とくにうらみはないけれど。殺されてあげるわけにも、世界を滅させるわけにもいかないから。ここで、さよならだよ」
ふたりの視線と、殺意に満ちた富子の眼差しが交差した。
戦場に満ちる空気は重く息苦しいほどだ。それでも決して退くことはないのだとして、彼らは続く戦いへの思いを強めていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
鵜飼・章
お金に取り憑かれたヒトってこんな顔になるんだ
口には出さずそう思う
爪攻撃を受ける合間に
【コミュ力/優しさ/言いくるめ】で恨み言に相槌を打ち
憎悪や苛立ちを抑えていく
動きを鈍らせるのが狙いだけど
悟らせない【演技】で本気で共感しに行く
攻撃自体は【見切り/早業】を駆使してメスで優しく受ける
避けきれない分は【激痛耐性】でカバー
彼女が僕の相手に集中している隙に
UC【現在完了】で蠍を放ち足元を刺す
この様子じゃ虫一匹に気づく余裕は無いだろう
視界を閉ざせたら僕は距離をとり
暫く息を潜め様子を観察
寿命を削るか自傷するか
欲張りさんはどちらを取るのかな
興味があるんだ
実験が終わったら
蠍の毒が切れる前に【投擲】で急所を突こう
●彼女の心
金、権力、憎悪。
目の前で怒りの表情を浮かべる女を表すならば、そんな言葉が相応しい。
(――お金に取り憑かれたヒトってこんな顔になるんだ)
鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は浮かんだ思いを口にすることなく、大悪災・日野富子を見つめた。
その眼差しに対抗するかのように富子は鋭い視線を向け返す。
「何か言いたいことでもあるのかよ!」
彼女が響かせた怒号に章は首を横に振った。すると富子はその反応を嘘だと決めつけたらしく、苛立ち混じりに爪を振りあげる。
「どいつもコイツも、アタシをコケにしやがって!」
すると爪が輝き、それは長く伸びる強固な武器になってゆく。
章は手にしたメスをくるりと回し、振るわれる爪の軌道を読もうと目を凝らした。地を蹴った彼はそれと同時に彼女に頷いてみせる。
「そうだね、貴女は理不尽な仕打ちにあったんだろうね」
「あぁ!?」
それはまるで富子に共感して寄り添うような言葉だ。
しかし相手は眉間に皺を寄せている。更に素早い斬撃が章を引き裂かんとして連続で振るわれていく。一撃が章の腕に掠り、其処から血が散った。
それでも章は次の攻撃をメスで捌き、これ以上の痛みを受けぬよう弾き返す。
恨み言に相槌を打った彼の狙いは富子の憎悪や苛立ちを抑えていくこと。無論それは演技でもあるのだが、そうと悟らせぬ力が彼にはある。
だが――。
「そういうヤツこそアタシのジャマをする輩なんだよ……忌々しい!」
富子は吐き捨てるような言葉を落とす。
誰も信じぬ彼女の憎悪は和らげることなど出来ない。そのように感じた章はちいさく息を吐き、鋭いメスで以て伸びた爪を一気に切り落とした。
ち、と舌打ちが聞こえる中で章は即座に反撃に入る。
――現在完了。
既に準備は整っている。章が放つのは蜂と蠍と毒蜘蛛だが、それらが近付いていることを気取らせぬよう動くのも章の策だ。
「貴女の怒りは真っ当なものだよ」
その意志を否定はしないと章は示した。しかし富子は聞く耳を持たない。
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い! 黙ってろ!」
富子は叫ぶ。だが、これでいい。この様子では虫一匹に気づく余裕は無いはず。
章の読み通り、蜂と毒蜘蛛が富子の背後に回り込む。彼女は手でそれを振り払おうとするが、今回の本命は足下に近付いた蠍だ。
「……!?」
鋭い痛みと共に富子の視力が一時的に奪われた。
その瞬間を逃さず、章は敵と距離を取る。息を潜めて様子を探る章の目的は次に彼女がどう動くかの観察。
「畜生が! 何処に行きやがった!」
富は再び伸ばした爪を無差別に振るい、怒りのままに暴れる。
寿命を削るか自傷するか、欲張りな彼女はどちらを取るのか。興味深くそれを見つめていると、富子の爪が周囲に浮かんでいる火矢――おそらく別の猟兵に向かわせようとしていた怨霊に向いた。
「なるほど、そう来るんだ」
彼女は決して自身を傷つけることなどない。其処に本質が見えた気がして、納得した章はメスを握り直した。
実験は終わり。そろそろ蠍の毒が切れる頃だ。
そして章は手の中の得物の切っ先を敵に差し向ける。狙いを定めて解き放たれた刃は鋭く、戦場の空気を斬り裂いていくかの如く宙を駈けた。
成功
🔵🔵🔴
花剣・耀子
嗚呼、せっかく花の綺麗な季節なのに。
おまえはそれも目に入らないの。
視線が先に此方へ向くのは仕方が無い。
可能な限り速く抜き打ち、残骸剣の布を解いて正面を払いましょう。
目が動くものに釣られれば良し。
布で釣れなくたって、幾許かの視線は塞げる。
半分でも逸らせれば、――否。
あたしが踏み込む間さえ得られれば、充分よ。
炎が物理的なものにせよ、呪詛にせよ、痛みは全部後回しにするわ。
脚が動けば踏み込める。
腕が動けば剣は振るえる。
燃え尽きるよりも先に、成すべきことを成しましょう。
一緒に燃えてみる?
……なあんて。心中は趣味じゃないけれど、相打ちなら上々なのよ。
至近距離まで踏み込んで一閃。
炎もおまえも、斬り果たすわ。
●刃は褪せず
絢爛な御所に咲く花々は美しい。
しかし、その中心にいる彼女の瞳には咲き誇る花など映っていないようだ。
「嗚呼、せっかく花の綺麗な季節なのに。おまえはそれも目に入らないの」
戦場に降り立ち、残骸剣を手にした花剣・耀子(Tempest・f12822)は日野富子への言葉を落とす。するとそれを聞きつけた富子は血走った目を此方に向けた。
「またジャマ者かよ。チッ……」
花のような可憐さは微塵もない、横暴さを思わせる声に耀子は肩を竦める。
そして、攻撃が自分に放たれる気配を感じ取った。憎悪に満ちた視線が先に此方へ向くのは仕方が無い。
「アタシの前に立つんじゃねぇッ!」
富子が叫ぶと当時に耀子の紫炎が放たれた。
来た。そう感じた彼女は可能な限り速く抜き打つべく残骸剣の布を解く。正面を一気に払えば炎が散った。すぐに爆発が起こったが、幾らかは威力を削げたようだ。
しかし、眼差しを防ぎきるには足りない。
抗えぬ痛みが巡る中、耀子は地を蹴った。爆風で舞い上がった布がひらひらと宙で揺れている。それによって一瞬だけ富子の視線が其方に向かった。
痛みは全て後回し。
脚が動けば踏み込める。腕が動けば剣は振るえる。
燃え尽きるよりも先に、成すべきことを成す。今はただ標的にこの一閃を――反撃の刃を打ち込むだけ。
「あたしが踏み込む間さえ得られれば、充分よ」
「てめぇ、近付くんじゃねぇ!」
富子の怒声は耳に痛いほどだ。それでも耀子は足を止めずに残骸剣を振りあげた。
剣刃一閃。
純粋なる刃の一撃が富子を斬り裂き、血を散らせる。
「……!」
痛みに悶えるような声なき声が相手から上がった。だが、富子も耀子を更に睨み付けることで新たな炎を生み出した。
されど耀子は怯まず双眸を鋭く細めた。
「一緒に燃えてみる?」
「ほざけ、小娘が」
視線が交差して真っ直ぐな敵意と歪んだ憎悪が絡み合う。
そして、紫焔が爆発する直前に耀子は富子との距離を更に詰めた。
「……なあんて。心中は趣味じゃないけれど、相打ちなら上々なのよ」
互いの呼吸まで聞こえそうな至近距離。踏み込んだ耀子はもう一度、渾身の力を込めた一閃を振り下ろした。
「炎もおまえも、斬り果たすわ」
静かな、それでいて凛とした声が相手に向けられる。そして爆発が巻き起こり、耀子の黒い髪が激しくなびいた。
衝撃は大きい。全身に駆け巡る痛みに声をあげてしまいそうなほどだ。
しかし耀子は決して刃を離さない。この剣を振るい、大悪災を討つ。
そのために自分は此処に来たのだから――。
成功
🔵🔵🔴
逢坂・宵
有り余る私財……というのは実にうらやましいことですが
多大なる材があることは、精神の安定につながらないことは見ていて感じ取れますね
満ち足りたものを知る、ということは実に大事なことです
飛び交う火矢の怨霊には
「火炎耐性」「呪詛耐性」で耐えつつ「第六感」で感知し
「オーラ防御」を展開して防ぎます
対応が間に合わないものは「激痛耐性」で防ぎながら
「衝撃波」で落としていければ
「高速詠唱」して「属性攻撃」「鎧無視攻撃」「鎧砕き」「2回攻撃」を伴った「全力魔法」に「破魔」をのせ
【サモン・メテオライト】で狙い撃ちを行いましょう
●満ちる悪意
様々な花が咲き、豪華絢爛な雰囲気が満ちる場所。
花の御所を見渡した逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は、戦場と化したこの場所の中心にいる女に目を向けた。
「有り余る私財……というのは実にうらやましいことですが」
宵は軽く息を吐く。
日野富子は猟兵たちに悪態をつき、到底綺麗とは思えない言葉ばかりを並べ立てている。そんな彼女を見て思うのは呆れにも似た感情だ。
多大なる材があることは、精神の安定に繋がらない。
「満ち足りたものを知る、ということは実に大事なことです」
「ああ?」
その言葉を聞きつけた富子はじろりと宵を睨み付ける。その眼差しは鋭く、誰一人として信じていないかのような印象をおぼえてしまうほど。
そして富子は片腕を振りあげ、宵に狙いを定めた。
「行け、誰かアイツをぶっ殺せよ!」
命じた言葉に呼応する形で火矢の怨霊が次々と召喚される。苛立ちは強く、燃え盛る炎を纏った矢が宵へと飛来してゆく。
「これは――」
避けられない、と宵の第六感が告げていた。
あれらは普通の矢ではなく怨霊の念が籠もっているものだ。身を翻しても火矢は宵を追尾していくだけ。
咄嗟に張り巡らせたオーラ防御も貫くほどの勢いで幾つもの矢が宵を襲った。
火と呪詛の力は宵を貫き、激痛が身体中に走る。耐性があったとしても堪えきれぬほどの衝撃が彼の身体を蝕んでいた。
「ははは、燃えろ燃えろ!」
富子の嘲笑めいた声が響く中で宵は状況の拙さを感じる。
相手を甘く見ていたわけではない。だが、先ずただ純粋な防御に入ったことが多大なるダメージを受けた要因になった。幾本かでも先に衝撃波で撃ち落とせていれば違ったのかもしれない。
しかし今、宵は満足に動けぬほどに力を削られてしまっていた。
それでも彼は反撃の機を見出し、素早く詠唱を紡ぐ。
「あなたに、終わらない夜を」
――サモン・メテオライト。
中空から隕石が召喚され、富子目掛けて落下していく。相手から舌打ちが聞こえた気がしたが、宵の視界は大きく揺らいだ。
想像以上に消耗が激しい。腕に、胸に、そして脚に――突き刺さった矢を引き抜こうにも力が入らず、宵はその場に膝をついた。
それでも決して意識は失うものかと誓い、宵は激痛に耐え続けることを決めた。
苦戦
🔵🔴🔴
花川・小町
【花守】
☆共通
同時や交互に不規則なフェイント加え敵の意識を分散
隙を引き出すよう連携
双方遵守
お金はあって損はないとは思うけど――憎悪だの憤怒だの、オマケに執着心まで有り余らせてるのは困りものね
UCで神霊体に
加えてオーラ防御と呪詛・激痛耐性も合わせ、急所や足の防御を集中強化
更に火炎耐性を肌や衣に重ね炎軽減
破魔と水属性攻撃重ねた薙刀でなぎ払いや武器受けも試行
機動力維持と深手回避に注力
隙掴めば生命力吸収の衝撃波を
当たらずともその影に乗じて動く狐の助けになれば良し
最悪矢ごと敵の懐に突っ込んででも一矢報いる気構え
やーね清宵ちゃん、何が言いたいのよ?
私は唯のか弱い蝶よ――気紛れに蜂になってみたりもするけれど
佳月・清宵
【花守】
☆共通
見切りと情報収集で矢動作観察し急所直撃回避
他は激痛耐性で凌ぐ
また息合わせ交差or敵前後から挟撃で迫り、矢ぶつけ合い相殺試行
双方遵守
激情や欲望に溺れりゃ大概は身を滅ぼす――ってのに、また御所まで築いて天下に悪名轟かせるたァ恐れ入る
だが其も此処まで
UCに呪詛耐性乗せ展開し防御
特に急所は火合体し守備強化
同時に地形の利用で設備等の影伝いに駛走
残像混ぜ的絞れぬ様に眩ませ
遮蔽物に矢誘導し威力軽減
隙生じりゃ一太刀
と見せかけフェイント2回攻撃
UCの火と衝撃波に紛れ毒塗手裏剣投じマヒ攻撃
こうも色々燃え上がってちゃ花も形無しだな
だが苛烈さは此方も中々――誉めてんだよ
――悪の花の栄華にゃ、破滅の幕引を
●焔の狐と苛烈なる蝶
夏の花が激しい風を受けて揺れている。
御所が静かで穏やかであれば風情も感じられるというのに、此処の主として振る舞う女がそれを消してしまっていた。
「激情や欲望に溺れりゃ大概は身を滅ぼす――ってのに、また御所まで築いて天下に悪名轟かせるたァ恐れ入る」
佳月・清宵(霞・f14015)が大悪災、日野富子への思いを零せば、花川・小町(花遊・f03026)もそっと首肯する。
「お金はあって損はないとは思うけど――憎悪だの憤怒だの、オマケに執着心まで有り余らせてるのは困りものね」
きっと彼女は此れまでに様々な理不尽を行ってきたのだろう。
だが其も此処まで。
清宵と小町が其々に身構えると富子がふたりの存在に気が付いた。地獄耳なのか、どうやら彼らの言葉をしっかりと聞きつけていたようだ。
「ムカツク奴らだな。おい、アイツらをぶっ殺せ!」
苛立ちのままに富子は叫び、清宵たちを指差した。すると彼女の周囲に怨霊が現れてゆく。即座に其処から放たれたのは燃え盛る火矢。
来るわ、と小町が呼びかけた声に清宵が頷く。同時に地を蹴ったふたりは交差し、富子を前後から挟み込む形で駆けていった。
此方がユーベルコードを使う暇は与えられない。
それゆえにこれで互いを狙い撃つ矢をぶつけあい、相殺する――その算段だったが、矢はぴったりと彼らを追尾する。
拙い、と感じた清宵は妖刀を振り抜いて迫る矢を落とした。
小町も不規則に動くことでフェイントを交えて矢を振り解こうとしたが、燃える矢に完全に捉えられてしまった。
刹那、幾本もの矢が突き刺さり炎が小町の身を包み込む。
すぐさま小町は焔を振り払うように身を翻した。大事はないかと清宵が問う視線に頷きを返す小町は果敢に痛みに耐えている。
清宵の方もすべてを撃ち落とすには至らず、何本かの矢が背に刺さっていた。
「ふん、そのまま無様に倒れればいいものを」
そんなふたりの姿を見遣った富子は吐き捨てるように言う。
されど此処からが反撃の時だ。
激しい痛みが駆け巡っていたが、清宵は狐火を周囲に呼び出してゆく。其処に呪詛への耐性を乗せた彼はこれ以上の痛みを受けぬよう火を展開して防御に回す。
同時に小町も神霊体に変じ、薙刀を構えた。
これでもう後れを取ることはない。後はふたりで共に敵を討つための一手を重ねていけば良いはずだ。
互いに痛々しい傷を受けたが、どちらも怯んでなどいない。
「――行くぜ」
「お返しをしてあげなくちゃね」
清宵は邸の影に炎を添わせて駛走させ、小町が生命力を吸収する衝撃波を飛ばす。風を切る一閃が迸る中で富子は舌打ちをした。
「虫けら共が、小賢しいったらありゃしねぇ!」
身を翻した富子は小町の一閃を避ける。だが、当たらずとも構わないと小町は感じていた。何故なら、影に乗じて動く狐火が富子を穿ったからだ。
炎は大悪災の周囲で燃え盛る。
痛みを感じたらしき富子はぎりぎりと拳を握り締め、炎を振り払った。
「クソがッ! とっとと死ねってんだよ!」
叫びと共に再び火矢の怨霊が動く。また多くの矢が向かって飛んできたが、先程のようには行かせぬ気概がふたりの裡にあった。
清宵は矢を炎で受けて燃やし、小町は受けた矢の衝撃を軽減する。彼女の纏う着物に火が燃え移っているが、神霊体となっている今はそれすらまるで衣装のようだ。
その姿を見た清宵は炎が舞う戦場を見渡しながら戯れに呟く。
「こうも色々燃え上がってちゃ花も形無しだな」
「やーね清宵ちゃん、何が言いたいのよ?」
すると小町が小首を傾げて問うた。
両者とも確実に疲弊し始めているが、言葉をかわす余裕は未だ少しある。
「だが苛烈さは此方も中々――」
誉めてんだよ、と清宵が告げると小町は薄く笑んだ。
「私は唯のか弱い蝶よ――気紛れに蜂になってみたりもするけれど」
そして、小町は己の身に宿した機動力で以て敵との距離を詰めにかかる。矢は突き刺さったまま、炎は燃え続けていた。
されどこのまま矢ごと敵の懐に突っ込んででも一矢を報いる。そんな強い心構えを持って駆け出した彼女に続き、清宵も狐火を迸らせた。
「近付くんじゃねぇ!」
「いいえ、その願いは聞けないわ」
富子が怒号を飛ばすが、首を振った小町は一気に至近距離に迫る。そして振り下ろした刃は敵の力を奪い取ってゆく。
其処に清宵の炎が重なり、衝撃波と混じりあって弾けた。
更には彼が投げた手裏剣が富子の肌を掠め、血を滴らせる。その間に小町が敵との距離を開けて身構え直した。
悔しげに表情を歪ませる富子を見据え、清宵は双眸を鋭く細める。
燃える焔によって花の御所の景色が揺らいでいた。
戦場に満ちる或る気配を気取った清宵と小町は頷きを交わし、身構え直す。
きっともうすぐだ。
間もなく、この戦いの終わりが訪れる――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
神々廻・夜叉丸
日野富子は天下の悪妻と呼ばれる一方で
学に熱心な才女だったとも聞いた覚えがあるのだがな
今や残るは飽くなき富への執着のみか
向けられる憎悪の視線はその瞬間を【見切り】
【早業】にて脇差を抜き捨て盾とする
意識をこちらへと向ける以上
投げられた脇差には反射的に視線を移してしまう筈
おれは防ぎ切れぬ爆炎を逆に利用しその内に紛れ
死角へと姿を消そう
傷を負うのは承知の上
襲い来る【激痛など耐える】のみ
世界の為に身命を賭し
今この瞬間も歩み続ける者達がいる
その者達に報いる為にも、この程度の痛みで足を止めるつもりはない
爆炎が晴らされれば狼狽える隙をその突き
大悪災を一刀の下に斬り捨てる
おれとお前では、背負っている物の重みが違う
●この刀に賭けて
怨嗟に満ちた声が戦場に響き渡る。
日野富子は猟兵たちに我武者羅に爪を振るい、火矢の怨霊を放ち、苛立ちと殺意が入り混じった眼差しを向けていた。
彼女は天下の悪妻と呼ばれる一方で学に熱心な才女だったとも聞いた覚えがある。
「今や残るは飽くなき富への執着のみか」
神々廻・夜叉丸(終を廻る相剋・f00538)は金と権力に執着し、憎悪に塗れた女傑の成れの果てを見つめた。
「てめぇもアタシに楯突く輩か。クソッ……!」
夜叉丸の気配と視線に気付いた富子はぎりぎりと奥歯を噛み締める。
そして血走った目で少年を見据えた。
その眼差しは鋭く、憎悪の炎となって迸る。夜叉丸は迫ってくる紫炎を瞳に捉え、素早く脇差を抜き捨てた。
一瞬。まさに瞬く間だが富子の目が其方に向く。
それによって炎の射線が僅かに揺らいだ。元より夜叉丸は其処から巻き起こる爆発を避けきれるとは思っていなかった。
それゆえに痛みは覚悟のうえ。防ぎ切れぬ爆炎を利用しようと考えた彼は音もなく駆けた。炎は確実に夜叉丸を捉えており、富子は致命傷を与えられたと確信している。だが――。
夜叉丸は瞬時に死角に回り込んでおり、既に泡沫を抜き放っていた。その刃が向けられた瞬間、富子が気付く。
「何だてめぇ、その傷でもまだ動け
……!?」
されど時既に遅し。
富子の目に映ったのは爆風によって傷を負いながらも刀を振るう少年の姿だった。
襲い来る激痛など耐え、ただ一刀の下に敵を斬り捨てる。
それだけのために全力を揮う夜叉丸の眼差しは鋭く、冷ややかな色を宿していた。
「――斬り捨て、御免」
静かな言の葉が落とされた刹那、富子の身体が刃によって切り裂かれた。着物がはらりと散り、白い肌に紅い筋を刻む。
「この……そうまでしてアタシに刃向かうのかよ!」
痛みと怒りにわなわなと震えながらも富子は再び夜叉丸を睨み付けた。
憎悪は先程よりも激しく、紫焔が少年の身を包み込む。眩むような痛みと感覚が巡ったが夜叉丸は地を踏み締めて耐えた。
今にも倒れそうな痛みだが、彼の裡には魂の奥から湧き上がる思いがある。
世界の為に身命を賭し、今この瞬間も歩み続ける者達がいる。
その者達に報いる為にも、この程度の痛みで足を止めるつもりはなかった。更なる爆発が迸ったが、夜叉丸はそのまま爆風に紛れる。
「なっ……てめぇ、また……!」
煙が晴れた瞬間、未だ立っている少年を見た富子は目に見えて狼狽えていた。其処に生まれた隙を突くべく夜叉丸は泡沫を振りあげる。
彼が見据える先はただひとつ、大悪災に最期を齎すこと。
「おれとお前では、背負っている物の重みが違う」
片や金と権力に執着する者。
片や、この世界の未来を掴もうと手を伸ばす者。
そして――大悪災へと振り下ろされた刃は夏の陽射しを受け、鋭く燦めいた。
●大悪災の滅び
戦場を駆け抜けた風が花を揺らした。
御所に集い、戦いに身を投じていた猟兵たちは富子の身体が大きく揺らいだ瞬間を捉える。花の御所には紫炎が燻り、燃えている。
「ムカツク……ああ、ムカツク……!」
富子は苦しげに呻く。
その声を聞いた宵は痛む身体を押さえ、顔をあげた。既に富子は虫の息。だが、その内に有り余る憎悪の力が彼女をその場に留まらせている。
宵は力を振り絞ってメテオライトの力を解き放った。隕石が戦場に降りそそぐ中、真珠も強く敵を見つめる。
その傍らには傷つきながらも主を護る絡繰人形たちが控えていた。
「殺す、……殺す、ぶっ殺す!!!」
怨嗟を吐く女を見遣り、真珠はそっと花唇をひらく。
「お前もエンパイアの子、お前が怨嗟の鎖から解き放たれる事を祈っている」
――全ての子等に幸あれかし。
願いの言葉を紡ぐ中で、その頬に涙が伝った。煌めく宝石に変わる雫が戦場に散る様を富子はじっと見つめて唇を噛み締めている。
「ぐ、う……」
「如月、皐月」
真珠はその魂を僅かに捉えられたと感じ、従者たちの名を呼んだ。如月は素早く蹴撃を叩き込み、皐月は背後から回り込んで一閃を放つ。
富子が苦しむ中、たからも其処に続いた。
「砕け散りなさい」
たからが告げた言葉は何処か冷ややかで、氷を纏った拳が高速で突き放たれる。
その一閃は冰雪の如く、偽の正義を語る女を貫いた。
そして、凍りついた富子目掛けて狐火が舞う。それは理彦が解き放った力であり、曼珠沙華の花のように迸る炎が富子を包み込んだ。
「もう一度、花を贈ろうか」
すると戦場に花が咲いたかのように焔が赤々と燃え上がった。
理彦の焔花に目を細めた類もまた、富子に炎を差し向ける。すると彼女は血走った目で類たちを睨み付けた。
「クソッ……熱い、熱い――!」
「聞かせて。君の業、その全てを」
詠唱を紡いだ類は此方に向けられている負の感情を受け止め、浄化の炎をその身に纏う。これまでの攻撃をすべて打ち返すが如く、接敵した類は刃を振り下ろす。
生命力を吸い上げる力が富子から体力を奪う。
通は其処に好機を見出し、硝子の名を呼んだ。
「硝子姉ちゃん!」
「はい、通くん」
彼の名を呼び返した硝子は痛む身体を押さえて歌声を紡ぎ始める。
響いた音は強く、魔力を伴う歌声となって戦場を彩っていった。そして、その声は富子が放った火矢を次々と打ち消していく。
通は最後まで自分を信じて歌ってくれる彼女に報いるために駆け出した。
「喰らえ!」
真正面から放った正拳突きを起点に、通は怒涛の五連打を打ち込んでいく。ただその打撃に翻弄されるばかりの富子は即座に反撃出来ぬほどに疲弊していた。
瑠碧は其処に憐れみを覚えたが、オブリビオンに容赦はできない。
「終わらせてしまおう」
両手を重ねて瑠碧が願えば、その想いに応えた精霊が氷の力を解放した。
燃える御所に煌めく氷の一閃が富子の動きを阻んでゆく。だが、瑠碧を睨んだ富子は力を振り絞る。
「許さねぇ……アタシに楯突くヤツは皆殺しだ!!」
命じた富子の声に反応した火矢の怨霊が瑠碧たちに向かって飛翔した。
されど、それらをただ甘んじて受けるような猟兵たちではない。
「ヴィムさん、お願いできる?」
「そんじゃあ最後に腕を振るっとくか」
盾を展開して仲間を護る姿勢を取ったヌルが呼び掛けると、ヴィクティムが頷く。自分に向かってきた火矢は建物の柱を蹴って跳躍することで躱し、パルクールの要領でヴィクティムは敵の死角に着地する。
ヌルは更にサイキックエナジーで矢を弾き返して彼の援護に入った。
そして次の瞬間、再度権限を掌握したヴィクティムは宙を舞っていた火矢を富子に向けて打ち返した。
矢の雨に襲われる敵を見据え、章も最後の一撃を振るうことを決める。
「――議論は既に終わっている」
この先に待つのは覆すことのできぬ結末。
章の放った蜂が富子を刺し、毒蜘蛛はその意識を奪う勢いで毒を与える。身動きが取れず眩むような感覚を覚えた富子は我武者羅に叫んだ。
「ああああ畜生! 畜生が!!」
「……おまえはもう、何も見えていないのね」
耀子は絶叫する富子を静かに見つめていた。未だ身体に痛みは残っているが、最後の一閃を振るう力くらいは残っている。
駆けた耀子はただ真っ直ぐに敵を瞳に映した。
この剣で、そしてこの刃で斬り伏せる。それだけを思って振り下ろした一閃は鋭く、富子の身体を裂いた。
だが、刃を払おうと腕を振るった富子の爪が耀子に直撃せんと迫る。
その瞬間、危機を察したまいが加々知丸を振り上げた。それによって爪が両断され、耀子への攻撃は防がれる。
ありがとう、と告げた耀子に笑みを向けたまいは刃を切り返す。
「いきますですよ!」
そして少女はもう一度、一気に加々知丸で敵を穿った。紫電の一閃は紫炎ごと相手を斬り裂きながら迸る。
其処へ宛ら蝶が舞うかのような衝撃波が追撃として走った。
それは小町が放った一撃であり、狙い澄まされた衝撃は富子の胸を貫いていた。小町は小さく口元を緩め、今よ、と告げて視線を横に向ける。
其処には清宵の姿があった。彼は身構え、小町が作った好機を利用するべく手裏剣を手にする。
「――悪の花の栄華にゃ、破滅の幕引を」
鋭く投げ放たれた刃は宙を華麗に舞い、富子の着物を貫くことで地に縫い付けた。
「てめぇらは絶対、殺す……殺す殺す殺すコロス……!」
更に動けなくなり殺意を言葉にした大悪災を見遣り、さつまと彌三八は其々の思いを口にする。
「何もかも、誰もかれもを敵視して、憎悪苛立ちばかり……」
なんと虚しい、つまらない人生か。
憐憫を抱くさつまが狐火を放つ中、彌三八も千鳥を描いて解放していく。
「黄泉に金は持って行けやしねえんだ。手前ェの為に使っちまやあ良かったんだ」
「其れが成せずに彼女は……いや、最早何も言うまい」
彌三八たちの声を聞いた夜叉丸は首を横に振り、ただ斃すしかない存在を見遣る。炎と千鳥が宙を舞っていく様に続き、夜叉丸は刃を一気に振り抜いた。
三者其々の一閃が重なり、富子の身を貫く。
「あ、あああ、あ……」
膝をついた大悪災はもう弱々しく呻くだけ。
ユースは近付く最期を感じ取りながら、淡々とした言葉を落とす。
「言ったよね、悪行には報いがあるって――」
そして、判決は下される。
罪には罰を。過去の骸は正しき場所へと還すのみ。
ユースの力が発動し、それまでの痛みすべてを富子へと返していく。だが、富子は片手をあげて爪を伸ばし、最期に一人だけでも道連れにしようと図った。
されどフェルトがそうはさせない。
即座に騎士へとフェルトが指示を送ると、その刃が伸びた爪を斬り落とした。
「何で、誰も彼もアタシを……アタシのことを――」
均衡を崩され倒れ伏した富子はぶつぶつと何かを呟いている。フェルトはその姿を見下ろし、別れの言葉を紡いだ。
「――さよなら、可哀想な人」
そうして、真の終わりは其処で訪れる。
止めを刺す機を得たのはティエルだった。皆を苦しめた悪鬼を討つため、勢いよく飛び上がったティエルは風の刺突剣を構えた。
「いっくぞー!! ボクたちの力、思い知るといいよ!」
もう防御など顧みなくても良い。
ただ全速力でこの一閃を当てればこの戦いは終わる。
そして――大悪災・日野富子は鋭い一撃によって貫かれ、すべての力を失った。
崩れ落ちた大悪災は空ろな目で虚空を見つめていた。
もう、彼女に再びオブリビオンとして蘇る力はない。この場に立つ誰もがそのことを感じ取り、最期の刻を見つめていた。
「燃える、燃える……アタシの花が、燃えてゆく……」
富子の表情は苦悶に満ちている。最早その瞳が猟兵たちを映すことはない。
口惜しい。
すべてが憎い。
苦しい。嗚呼、苦しい。
そんな怨嗟を零した彼女が伸ばした腕は力なく床に落ちた。そして纏っていた憎悪の炎が激しく燃え上がったかと思うと、見る間に小さくなっていく。
やがて、この世を呪わんとした女の存在は完全に消失した。
大悪災の末路を見送った者たちは顔をあげる。彼女はなにゆえにあれほどの憎悪に満ちたのか、そして本当はこの世界にどのような思いを抱いていたのか。
それはきっと、御所に咲く花のみぞ識ることだ。
成功
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