エンパイアウォー②~屍人が頑張ってくれるから、昼寝する
●怠惰なる指揮官を撃破せよ
奥羽地方。江戸幕府からも遠く離れ、主に外様の大名達が置かれる辺境の地。そんな極北の地に集いしは、肩から刺々しい水晶を生やした、なんとも奇妙な屍人の軍勢。
『水晶屍人』と呼ばれる、この生ける屍達こそ、織田信長率いる『魔軍将』が一人、陰陽師『安倍晴明』の作り出した軍勢に他ならなかった。
このままでは、奥州諸藩が危機に陥る。もはや、猶予は残されていないと、神楽・鈴音(歩く賽銭箱ハンマー・f11259)はグリモアベースに集まった猟兵達に、事態の収拾を依頼した。
「……まあ、そういうわけで、あなた達には今からサムライエンパイアの奥州地方へ行ってもらいたいの。そこで発生している『水晶屍人』の根っこを断てば、危険も去ると思うから」
『水晶屍人』は戦闘力こそ高くはないが、これに噛まれると普通の人間は、新たな『水晶屍人』にされてしまう。感染が感染を呼び、雪だるま式に数を増やすことのできる、ある意味では最も効率的かつ恐ろしい制圧方法だ。
「『水晶屍人』の軍勢を式しているのは、『安倍晴明』配下のオブリビオンね。放っておけば、各地の砦や町、それに城を落としながら仲間を増やしつつ、江戸に向かって南下して来るわ」
このまま『水晶屍人』の軍勢が江戸に迫れば、徳川幕府軍は全軍の2割以上の軍勢を江戸の防衛の為に残さなければならなくなる。そうなれば、織田信長との決戦に、十分な軍勢を差し向ける事ができなくなってしまうだろう。
「2割って数字だけ見ると少ないように思えるけど、幕府軍の数は膨大だからね。その2割……数万人単位の戦力が削られるのよ? そうなったら、苦戦なんてものじゃ済まないわね、きっと」
幸い、『水晶屍人』の軍勢を指揮しているオブリビオンさえ倒せば、敵は統率を失い諸藩の侍だけでも対処ができるようになる。多少、危険な賭けではあるが、ここは猟兵達で先陣を切って『水晶屍人』の群れに飛び込み、その中枢にいるオブリビオンを撃破するのが最良の策だ。
「あ、ちなみに、猟兵は『水晶屍人』噛まれても『水晶屍人』になることはないから、そこは安心して構わないわよ。むしろ、連中を指揮しているオブリビオンの方が……なんというか、別の意味で厄介かもしれないわね」
鈴音の話では、敵の軍勢は『その日暮らしの狩人・漸弦丸』というオブリビオンが指揮しているとのこと。なんとも気の抜けた名前だが、その名に違わず、こいつは全くやる気がない。
基本的な戦闘は『水晶屍人』に任せ、自分は惰眠を貪りながら、適当な指示を繰り出すだけ。どうしても自分が戦わなければならない時でさえ、勝手に動く矢や式神達、果ては仕掛け罠などを駆使することで、とにかく少しでも楽をしようと立ち回る。
「屍人を薙ぎ払って正面から仕掛けても、式神や他の屍人なんかと戦わされて、その間に逃げられるのがオチね。ただ、とにかく面倒臭がりな敵だから、そこを上手く利用して、隙を突けば勝ち目はあるかも……」
馬鹿正直に正面から仕掛けずとも、脱力状態の敵に奇襲を仕掛ける方法など、いくらでもある。
働かざる者、食うべからず。その言葉を、この怠惰なオブリビオンに叩き込んでやって欲しい。そう言って、鈴音は猟兵達を、サムライエンパイアの奥州地方へと転送した。
雷紋寺音弥
こんにちは、マスターの雷紋寺音弥です。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
戦闘そのものは【ボス戦】ですが、数百~数千の『水晶屍人』の軍勢の中に飛び込み、『水晶屍人』を蹴散らしつつ、指揮官であるオブリビオンを探し出して撃破しなければなりません。
幸いなことに、猟兵は噛まれても『水晶屍人』にはなりませんが、攻撃自体は普通に受けます。
そのため、単に突っ込むのではなく、攻撃を少しでも防ぐ方法や、素早く指揮官を見つける方法、敵の特性を利用して奇襲を仕掛ける策などをしっかりと組めれば、戦いを有利に進められるでしょう。
第1章 ボス戦
『その日暮らしの狩人・漸弦丸』
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POW : 因果捻転・『何トカナッタ』(デウスエクスマキナ)
【強い因果・宿業に反応する呪術の矢】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【因果の複雑さに比例した激痛を与える呪い】で攻撃する。
SPD : 逃げれる時間が稼げりゃいいのさ
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【景色に擬態させた仕掛け罠】を作った場合のみ極めて精巧になる。
WIZ : 分霊式神『狩り木霊』、おれの代わりにがんばってな
レベル×5体の、小型の戦闘用【の弓矢で攻撃する、魂を分け与えた式神】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
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唯・刀
「難しいことはわかんねえけど……とにかく大将首をとればいいんだろ?」
自然体から、駆け出す
味方に近づかないよう頼む
「唯の刀、罷り通る!」
蠢く軍勢を切り抜ける
文字通り斬って抜ける
右足、右手、左足、左手
駆ける動作に不可視の斬撃が付随して発生する
戦場に産まれ、戦場に在った記憶を頼りに大将居そうな場所を目指す
「……てめえが、大将か」
見付けたんなら、問答無用
「お前を斬るぜ」
自身の頑丈さを活かし、痛みへの鈍さを活かして詰め寄る
呪いだの罠だの式神だの小細工を弄してくれるならその間に近くへ
「唯刀――」
なんで怯まないかって?
決まってる
「――鉄中錚錚」
俺が、唯の刀だからだよ
相手が悪かったな、怠け者さんよ
●罠は既に仕掛けられた
街道を進む、屍人の軍勢。両肩から奇妙な水晶の角を生やした人々は、焦点の定まらぬ虚ろな瞳のまま、次なる獲物を探して進軍を続ける。
彼らは既に人ですらなく、この世の理から外れた存在。噛み付くだけで仲間を増やし、加速度的に村々を制圧して行く様は、流行り病の具現化にも等しいだろう。
そんな忌むべき魔性の軍勢に、唯・刀(一本の日本刀・f21238)は敢えて真正面から戦いを挑んだ。
「難しいことはわかんねえけど……とにかく大将首をとればいいんだろ?」
この軍勢を操っている総大将は、随分と怠惰な存在だという。ならば、この屍人の群れを押し退けて進めば、後は斬り捨てるだけだと、刀はひたすらに敵を斬り払いながら突き進んで行った。
「唯の刀、罷り通る!」
両手と両足、それぞれが振るわれる度、駆け抜ける度に、不可視の斬撃が付随して発生した。それは、彼が戦場で生まれ、人を斬るために生まれた道具であるが故に。戦の記憶と、血の記憶。それだけを頼りに、敵の中枢目掛けてひた走る。
「……てめえが、大将か」
やがて、屍人の群れの中に陣取る怠惰な男を見つけ、刀は一気に距離を詰めようとした。が、それをするよりも早く、敵の大将である漸弦丸は、屍人を集めて彼の進路を妨害した。
「な~んか、熱い野郎が来たねぇ。そういうの、おれは好きじゃないんだけどな~」
戦いは屍人に任せ、漸弦丸は大欠伸をかましていた。だが、そうしている間にも屍人の群れは、次々と刀によって斬り伏せられて行く。
「お前を斬るぜ」
やがて、周囲の屍人を全て片付け、刀はついに漸弦丸のところへ辿り着いた。が、ともすれば首を刎ねられ兼ねない間合いに入られても、漸弦丸は動こうとさえしなかった。
「唯刀――」
周囲で爆発性の罠が炸裂するが、それでも刀は怯まない。それは何故か。決まっている。
「――鉄中錚錚」
自分は、唯の刀だからだ。光と音だけのコケ脅しなど、獣には効いても刃物には効かない。
「相手が悪かったな、怠け者さんよ」
「ふ~ん……それは凄いね。でも、君が屍人を倒している間に、逃げる準備はさせてもらったよ」
だが、鬼気迫る刀を前にしても、やはり漸弦丸は余裕の態度を崩さなかった。欠伸と共に、軽く指を鳴らしてみれば、今まで刀が土だと思って踏み締めていた大地が、畳返しの要領で跳ね返って刀の攻撃を受け止める。所詮は土塊、直ぐに壊れてしまったが、続けて飛び出したトラバサミが、刀の足に食らい付いた。
「……なんだ、これは? こんな罠で……舐めているのか?」
もっとも、所詮は捕縛用の罠であり、殺傷力はそこまで高くはない。武器の一つでも叩きつければ壊れてしまいそうな代物だったが、それも漸弦丸の計算の内だった。
「いや、別に? ただ、おれが逃げる時間を稼ぐだけなら、これで十分でしょ」
腕を振るうことで放たれた衝撃波を軽々と避け、漸弦丸は再び屍人の群れの奥へと逃げ込んでしまった。なんというか、逃げ足だけは早い。これでは、罠を先に外したところで、やはりその隙に逃げられてしまったことだろう。
漸弦丸は、元より最初から猟兵と戦うつもりなどまったくなかった。それにも関わらず、正面から正々堂々と突っ込んで行けば、彼に逃げてくださいと言っているようなものだ。
正面から戦えば、刀は決して負けなかっただろう。しかし、あまりに愚直過ぎた彼の行動は、逃げの一手を極めた漸弦丸には、全てお見通しだったのである。
苦戦
🔵🔴🔴
鈴木・志乃
(鈴木に憑いている霊が体の主導権を握っている)
(UC発動)
(最大ボリュームに設定したスピーカーを用意)
(【念動力】で空中に飛ばす)
(マイク片手)
(すうっ)
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
!!!!!
【破魔と祈りを籠めた歌唱、衝撃波、なぎ払い】
100パーうるさい(断言)
絶対屍人の動きは変わるだろうし、惰眠馬鹿はたたき起こされる
上空からシャウトし続けたまま観察
【第六感見切り】で感知
見つけたら念動力ロープワークで縛り上げる
罠は屍人ごと念動力で巻き上げ嵐と化し
敵に叩きつける
●惰眠厳禁! 安眠妨害!
増殖し、蹂躙し、そして延々と増え続ける屍人の軍勢。肩に水晶の角を生やした奇怪な集団を、鈴木・志乃(生命と意志の守護者達・f12101)は静かに上空から見つめていた。
翼を使って飛翔すれば、とりあえず敵に襲われる心配はない。しかし、あまり派手に飛び回ると、敵の大将に発見されてしまう危険性もある。
敵の指揮官でもある漸弦丸は、逃げの一手を極めた存在。惰眠を貪ってはいるだろうが、だからこそ中途半端に刺激して、警戒心を強めるのは拙い。
ここは自分が仕掛けるよりも、憑霊に任せた方がいいだろう。呼吸を整え、スピーカーを取り出すと、志乃は自らの肉体を憑霊へと委ねた。
「……シノの敵はアンタ? 悪いけど私、一切容赦はしないから」
口調と共に、髪と瞳の色が変わる。艶やかな黒髪は雪の如き白色へ、橙色の瞳は夕焼けの如き緋の色へ。手を離れたスピーカーが念の力で宙を舞い、志乃は大きく息を吸い込むと、全身全霊を込めて凄まじい音と共に吐き出した。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
!!!!!」
それは、歌唱というにはあまりに凄まじい炸裂音。スピーカーによって増幅された音は大地を振るわせ、空気を切り裂き、水晶屍人の身体さえも吹き飛ばした。
音というのは、振動する空気の塊だ。無論、いくら大きな音とはいえ、それをぶつけた程度で物体を動かすまでには至らない。
だが、志乃の放った音は、破魔と祈りを籠めた退魔の歌唱。外法により生まれ、この世の理を外れた屍人達にとっては、歪んだ気の流れを断ち切って、肉体を内外から破壊する浄化の音色。
「ウ……ウゥ……」
「オォ……ッァァァァ!!」
肩の水晶が崩れ落ちて行く痛みと苦しみに耐えかね、水晶屍人達は悶え苦しみながら、見境もなく暴れ始めた。
徐々に崩壊する隊列。統制を失って行く屍人達。その中央で、鬱陶しそうに耳を塞いでいる男を、志乃は決して見逃さなかった。
「見つけた……!」
大きな欠伸と共に身体を伸ばした漸弦丸へ、志乃がロープを投げ付ける。気が付いた時には、もう遅い。ロープは漸弦丸へと絡み付き、容赦なく彼の身体を縛り上げ。
「ん~、どうやら、捕まってしまったみたいだね~」
仕掛け罠を発動させてロープを切ろうとする漸弦丸。だが、それさえも志乃は読んでいた。
「そう簡単に、逃がすと思う?」
念を直接大地へと送り、その場にある全てのものを空中へ舞い上がらせる。屍人も、隠された罠も、そして漸弦丸自身までも、全て纏めて宙へと放り、次々に大地へ叩きつけた。
「……ぐぇっ!? い、いったい、何が起きて……うがぁっ!?」
ロープに繋がれたまま、何度も地面へ叩きつけられる漸弦丸。そんな彼の無様な姿を、志乃は冷ややかな表情のまま、上空から静かに見つめていた。
「言ったはずよ……一切容赦はしないって……」
大成功
🔵🔵🔵
巫代居・門
うへえ、軍勢とか過剰表現じゃねえのか……生きて帰れるか、俺……
来ちまったんだし、やるだけやるけどさあ……
UC禍羽牙で敵の位置を探りながら、乗りこむ。
細い奴はこういう時楽なんだろうなあ……
殺到されるとどうしようもねえしなあ……、うん、無理だろ。どうにか【目立たない】よう忌縫爪で道を拓き進む。
さて、見つけたら【破魔】の【呪詛】で斬らせもらう。
【呪詛耐性】で痛みは耐え、指定UC『兜陰衣』で馬鹿みたいに突貫し【呪詛】【カウンター】
まあ、役に立てるなら、肉盾だろうがやってやる。
……正直、まあ、嫌だけどさ
アドリブ歓迎
●抜き足、差し足、騙し討ち
街道を覆い尽くさん程に溢れ返り、延々と進軍を続ける水晶屍人。先手を打って仕掛けた猟兵達の活躍により随分と討ち倒されたものの、それでも未だ道を埋め尽くす程の数がいるというのが恐ろしい。
「うへえ、軍勢とか過剰表現じゃねえのか……。生きて帰れるか、俺……」
物陰から様子を窺いつつ、巫代居・門(ふとっちょ根暗マンサー・f20963)は改めて、敵の数の多さに辟易していた。
「まあ、来ちまったんだし、やるだけやるけどさあ……」
ふと、彼の頭をUDCアースで発見された邪神の眷族の姿が過る。水晶屍人などと言ってはいるが、噛み付いて仲間を増やし、数で制圧する様は、要するにゾンビそのものだ。
こんなゾンビの群れに飛び込んで、無事でいる方が難しい。映画であれば、主人公補正で無双することも可能だが、悲しいことにこれは夢でも幻でもなく現実だ。
「……つまみ食いするなよ?」
とりあえず、魚影の群れを呼び出して、門はそれらを屍人の影へと滑り込ませた。幸い、獲物を求めて進撃を続ける屍人は、門の放った影に気付くこともなかった。
(「よし、これでいい……。後は、こいつらで総大将の位置を探らせれば……」)
影の魚群が見た様が、そのまま門の視界に飛び込んで来る。感覚を共有した探索者。敵の群れに潜んで標的を見つけるには、おあつらえ向きの能力だが。
「殺到されるとどうしようもねえしなあ……うん、無理だろ」
問題は、この屍人の軍勢の中を、どうやって潜り抜けて行くのかということだ。魚群は気取られず敵の親玉へと辿り着けるかもしれないが、それだけでは親玉を倒せない。
こういう時、細身の人間は楽なのだろう。愚痴を零しつつも、門は愛用の薙刀を手に、水晶屍人の群れへと斬り込んで行った。幸い、屍人の強さはそこまでではなく、一振りでも浴びせれば容易に崩れ落ちて行く程度の相手だったが。
(「……つ、疲れる! これじゃ、親玉に辿り着くまでに、体力が持たない
……!!」)
身を隠そうにも、隠せるような場所が何もない状況で武器を振り回せば、それは敵に襲ってくれと言っているようなものだ。そうこうしている間に、魚影が漸弦丸を発見したようだが、このままでは近づくことさえままならない。
「仕方ねえ、こいつを使うか……」
本当は、あまり乗り気でなかったが背に腹は代えられない。蜥蜴の怪異から切り離された尻尾を付け、門は自分が屍人に襲われることもお構いなしに、漸弦丸目掛けて突っ込んだ。
「ウゥ……オォォォォ!!」
殺到する屍人の爪や牙が、次々と門の身体に食い込んで行く。だが、それらを強引に弾き飛ばしながら、門はひたすら漸弦丸を目指し、薙刀を振り回しながら道を切り開いて行く。
「くそっ! 治ってもさ、痛てえんだよ」
受けた傷は、即座に回復するから問題ない。それらは呪詛に変換し、今、この間にも薙刀の刃へと注ぎこまれている。
だが、その代償として、彼の寿命は確実に削られていた。さすがに、この程度の戦闘で10年も20年も寿命が縮まるわけではないが、それでも気分が良いものではない。
「おやおや~。な~んか、ま~た面倒臭そうなのが来たね~」
気だるそうに身体を伸ばしながら、漸弦丸は門目掛けて、複数の式神達を呼び出した。
「おれの代わりにがんばってな」
式神に全てを任せ、漸弦丸は早々に戦場から立ち去ろうとする。が、彼らの放った矢を全身に受けながらも、門は決して突き進むことを止めなかった。
痛みは既に限界だ。しかし、それは即ち、薙刀に宿る呪詛の力が、極限まで高まっていることを意味している。
「う、うぉぉぉぉっ!!」
ここからでは届かないと察し、門は薙刀を漸弦丸目掛けて投げ付けた。直撃させることは難しかったが、それでも切っ先が掠めれば十分だった。
「……うぐっ!? こ、こいつは、ちょっと油断したかねぇ……」
二の腕を掠め、後方に突き刺さった薙刀を睨みながら、漸弦丸は膝を突いた。今まで、攻撃を受け続けることによって門が溜めて来た呪詛は、掠っただけでも相手の内部を侵食し、力を奪い尽くす程にまで高まっていた。
「まあ、それでも……君も、これ以上は、おれを追えないだろうけどねぇ……」
苦悶に表情を歪めながらも、漸弦丸は足を引きずり、二の腕を押さえながら後方に下がった。それを追うべく、更に突き進もうとした門だったが、そこは漸弦丸の式神達がさせなかった。
「ちっ……ここまでか。悪いが、後は他のやつらに任せるしかないな……」
薙刀を拾い、式神どもを薙ぎ払って行くも、その間に漸弦丸は姿を消していた。だが、それでも門の一撃は、惰眠を貪る漸弦丸の肉体を、徐々にだが確実に侵食して行くことだろう。
成功
🔵🔵🔴
煌天宮・サリエス
怠惰な敵。ああいう手合いは本当にめんどくさい。
しかし、逃げるならこっちにも考えがあります。
まずは、『熾天使の書』を読み解くことで炎を生み出し、周囲にいる水晶屍人を焼きながら指揮官を探します。
そして、指揮官を見つけたらユーベルコードを発動。
【破魔】の力を籠めた白き炎を生み出し、指揮官の周囲を火の海に変え、逃げれば燃える状態に持っていきます。
そう、逃げるなら周囲の地形ごと燃やし尽くせばいいのです。
周囲を火の海にできたら、指揮官に炎を飛ばして燃やしにかかります。
防御は、水晶屍人からの攻撃は『時天使の秘盾』で威力を減らした上で受け、指揮官の放つ矢は【熾天白炎】の炎で呪いごと焼き尽くします。
●大炎上包囲網!
猟兵達の度重なる追撃を受けながら、それでも逃げ続ける漸弦丸。戦闘力こそ見劣りするが、そのしぶとさと逃げ足の早さは大したものだ。
「怠惰な敵。ああいう手合いは、本当にめんどくさい」
逃げの一手に走り続ける漸弦丸を見て、煌天宮・サリエス(光と闇の狭間で揺蕩う天使・f00836)はしばし考えた。
真正面から正々堂々挑んだところで、敵はこちらが仕掛ける前に、早々と撤退してしまう。元より、戦う気が最初からないのだ。強引に屍人の群れを突破しても、こちらが空回りするだけである。
「とりあえず、邪魔な敵を片付けましょうか」
『熾天使の書』を読み解くことで、サリエスは迫り来る屍人達を焼きながら、その群れの中心を突っ切って行く。時折、果敢に襲い掛かって来る屍人もいるが、その程度は些細な障害に過ぎない。
「……退いてください」
敵の攻撃を盾で受けつつ、炎を放って焼き払う。だが、止めを刺すようなことはしない。中途半端に燃えている屍人がいれば、それはそれで役に立つ。
「ん~、なんだか熱いと思ったら、今度は火攻めか~」
屍人の波を掻き分けながら進むと、やがて地面に寝そべっている漸弦丸が姿を現した。相変わらず、やる気のない態度だったが、相手のペースに飲まれてはいけない。
「魔を滅せよ白き炎。全ての厄災は神の名にて焼却される」
敵が動き出すよりも先に、サリエスは周囲に白焔を放つ。別に、漸弦丸を直接狙う必要はない。周りの屍人を燃料として、全ても痩せればそれでよい。
「ウゥ……ァァァ……」
全身を炎に包まれた屍人が、次々に大地へと倒れて行く。それでも、サリエスの放った炎は留まるところを知らず、勢いは更に増して行く。
「ああ、熱い! 熱すぎる! こいつは堪らんねぇ!」
さすがの漸弦丸も、早々に立ち上がって逃げ出さねば、瞬く間に炎に飲み込まれてしなう程の火力だった。
敵が逃げるというならば、全て焼き尽くしてしまえばいい。それを阻止すべく、漸弦丸が呪いの矢を放って来るが、今のサリエスにとってはそれさえも炎を広げる燃料だ。
「……な、なんだってぇっ!?」
矢がサリエスに届く前に燃え尽きてしまったことで、漸弦丸はいよいよ自分の危機を悟った。が、今さら気が付いても、もう遅い。屍人を燃料に燃え上がる炎は、徐々にだが確実に、漸弦丸の周囲を包囲して行く。
「ひぃっ! か、身体が燃えるぅ! な、なんでおれが、こんな目にぃ!!」
迫る業火を防ぐ手立てが存在しないまま、漸弦丸の身体は炎に消えた。やがて、炎の勢いが収まったところで周囲を見回すと、そこに漸弦丸の姿はなかった。
「しぶといですね。逃げ延びられてしまいましたか」
炎を沈めつつ、サリエスが呟いた。
大方、自分の身体が完全に焼かれる前に、屍人の残骸に紛れて逃げ出したのだろう。もっとも、あれだけの炎で焼かれれば、既に体力も限界なはずである。
敵はもはや、逃げ出すだけの力も残されていないはず。屍人を操る怠惰な指揮官を、撃破するまで、もう少しだ!
大成功
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花盛・乙女
はぁ、つくづく男というのは…などと愚痴るのは後だな。
不承不承ながら花盛乙女、推して参る。
水晶何某の群れの数ももう大分削れているか。
雑魚は【鬼吹雪】にて斬り払う。
羅刹女のお通りだ。見物料は命で良い。
さて、狩人。
私は貴様のような適当な男を見ると虫唾が走る。
遠慮なく片付けてやるから大人しく受け入れろ。
バキバキと指を鳴らし改めて二振りの刀を構える。
因果とやらを弄る技か。
私のよく知る仲間も同じような術を使う。
だが、その御仁のような敬意を貴様に払う気はない。
激痛には「耐性」がある。
歩みは止めず、距離を詰め、斬る。
一斬二打を以って一と成す我が【雀蜂】。
潔く喰らい、そして骸の海へ還るがいい!この愚図めが!
●断たれた糸
猟兵達の度重なる襲撃により、屍人の群れは、既に当初の半分程まで減っていた。街道を埋め尽くす程に溢れていた敵も、今となっては要所に隙間が見て取れる。が、それでも軍勢は健在であり、総大将も仕留めきれていないのは厄介だった。
「はぁ、つくづく男というのは……などと愚痴るのは後だな。不承不承ながら、花盛乙女、推して参る」
これだけ数が減っていれば正面突破も容易いだろうと、花盛・乙女(羅刹女・f00399)は刃を抜いた。
「雑魚に用はない! 鬼の吹雪で乱れ散れ!」
駆け出すと共に刃を振るい、屍人の群れを次々と斬り捨てる。元より、個々の強さで見れば、地元の侍でも十分に対応できるような相手だ。猟兵の駆るユーベルコードの前では、斬り伏せることなど赤子の手を捻るように簡単だった。
「さあ、羅刹女のお通りだ。見物料は命で良い」
続々と集まって来る屍人の群れに怯むこともなく、乙女は敵の中枢目掛けて進んで行く。斬り捨てた敵の数は、既に数えるのを止めた。それ程までに、多くの敵を葬って来たのだ。
「ウゥ……ァァァァ……」
恐れを知らずに正面から襲い掛かって来た屍人を斬り伏せ、乙女はその先に惰眠を貪る男の姿を見た。だが、好機と思い斬り掛かろうとした矢先、彼女の足に地面から競り出したトラバサミが食い込んだ。
「……っ!」
咄嗟のことで、避けることはできなかった。痛みこそ大したことはないが、これはこれで面倒なことになってしまった。
「あ~、また猟兵かい? もう、勘弁して欲しいんだけどね~」
こんなこともあろうかと、事前に罠を仕掛けておいたのだ。大欠伸をしながら告げる漸弦丸に、乙女の表情は怒りの色に染まって行き。
「さて、狩人。私は貴様のような適当な男を見ると虫唾が走る。遠慮なく片付けてやるから大人しく受け入れろ」
両手の指を鳴らしつつ、改めて二振りの刃を構える乙女だったが、漸弦丸は動じなかった。足を罠に取られた乙女から逃げるだけなら、そう苦労はしないと知っているからだ。
「ふん……確かに、貴様如きに技を見せ過ぎたのは、私の失態だ。しかし、二の轍を踏む程、愚かだと思わんでもらいたいな」
このまま速度に特化して攻めれば、更なる罠により足止めを食らうのは必至。だが、敢えて速度を捨て、力に特化すればどうだろうか。
自慢の怪力でトラバサミから強引に足を引っこ抜き、乙女は一気に距離を詰めた。罠を引き千切ったことで彼女の足は血に染まっていたが、この程度の傷など怪我の内にも入らない。
「いやいや、これは驚いたねぇ。でも、大技をいくつも使うのは、やっぱり感心しないなぁ」
乙女が力技に特化して来たと知り、漸弦丸もまた攻め方を変える。一度の戦いで複数のユーベルコードを使用すれば、それだけ相手の攻撃を受ける隙も生まれてしまう。
今度は自ら弓を引き絞り、漸弦丸は激痛の呪詛を与える矢を乙女目掛けて放った。それは寸分の狂いもなく、急所である胸元に突き刺さったのだが。
「……因果とやらを弄る技か。私のよく知る仲間も同じような術を使う。だが……」
胸元を貫いた矢に怯むこともなく、乙女は漸弦丸に向けて刃を突き立てる。元より、激痛に対しては耐性があるのだ。痛みで足を止めようとした漸弦丸の目論見は、ここに来て完全に破綻した。
「その御仁のような敬意を貴様に払う気はない。潔く、我が【雀蜂】を喰らい、そして骸の海へ還るがいい! この愚図めが!」
「ひ、ひぃぃぃぃっ!!」
逃走する機会を失い、悲鳴を上げる漸弦丸。まずは一撃、十字の軌跡を描いて放たれた斬撃が、漸弦丸を斬り捨てる。その上で、続け様に放たれた拳骨が、漸弦丸の顔面を文字通り木っ端微塵に粉砕した。
「一撃を避けぬ者には二撃が待つ、覚えておくが良い!」
ひしゃげた顔面のまま倒れ伏した漸弦丸に、乙女が冷たく言い放つ。しかし、倒れた男の顔を覗いてみると、どうにも様子がおかしい。
「あ、あぁ……お、おれの……からだが……」
砕かれた漸弦丸の顔からは、一滴の血も流れなかった。そこにはただ、得体の知れない歯車が覗いているだけ。惰眠を貪り、戦うことから逃げ続けた男は、人間ですらなかったのだ。
「おれも……おれも、人形だったのか……? こいつらと同じ……誰かによって作られた……」
崩れ落ちながらも、狼狽する漸弦丸。恐らく、彼自身もまた、自分が人形であったことなど教えられていなかったのだろう。
「い、いやだ……死にたくない……死に……たく……」
そこまで言ったところで、漸弦丸の身体は糸が切れたように崩壊し、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。後に残されたのは、壊れたマネキンのようになった、怠惰な男の残骸のみだ。
「ふん、所詮は人形風情だったか。まあ、貴様のような存在には、御誂え向きの末路だな」
刃を納め、乙女が言った。己の手を汚さず、配下さえも謀る安倍晴明。真に打ち倒すべき敵の卑劣さと悪辣さ。それらをしっかりと胸に刻み、彼女は戦場を後にした。
成功
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