奈落滝の奥、地下水脈の先
●奈落の大瀑布
それは、耳を劈く程の水の落下音だった。
地面にぽっかりと空いた穴から、無数の川から集った水が深淵へと落ちていく。
アックス&ウィザーズに存在する、冒険者たちが揃って『神域』と呼ぶ場所。
奈落滝、というらしい。
轟々と音をあげる大穴を遠目に見ながら、街から街へと行き来する冒険者の一人が声を上げる。
「いつ見ても凄いな、ここは」
そりゃそうだ、と冒険者たちが笑いあう。
「奈落に続く滝の奥に宝が眠ってるだのなんだの言われてるけどな。……あの滝の水、本当に無限に落下してたりするんじゃねぇか?」
「んな馬鹿なことあるかよ!ほら、こんなところで無駄話してないで、ギルドに行くぞギルドに!」
話に花を咲かせながら、冒険者たちがその場を後にする。
奈落へと落ちる水。
その深淵から、微かに邪悪な気配が漂っていた。
●地下の激流下り、始まる?
「皆は、クラウドオベリスク、って知ってるか?」
青年姿のアイン・セラフィナイト(精霊の愛し子・f15171)が、集った猟兵に問う。頷く者もいれば、首をかしげる者もいる。アインはコクリ、と頷くと、言葉を続けた。
「アックス&ウィザーズのオブリビオン・フォーミュラ……帝竜の棲む群竜大陸が、そのクラウドオベリスクっていう巨大な柱の力で隠されてるらしいんだ」
クラウドオベリスク。雲の碑とも呼ばれる邪悪の柱によって、群竜大陸は秘匿されている。群竜大陸を探し出すためには、その柱を一つずつ壊していかなければいけない。
「今回、そのクラウドオベリスクが立つ場所を予知できた」
一拍、呼吸を置く。
「なんでも、その柱は、奈落滝って呼ばれる大穴の奥にあるらしい」
奈落滝?と猟兵の一人がその言葉を繰り返した。
「一部の冒険者の間じゃ有名な場所……らしい。奈落の大瀑布……本当に底のない滝だとか、一番底に宝が眠ってるだとか色々言われてるよ」
とはいえ、だ。
「眠ってるのは宝じゃなくて、むしろミミックってところか」
アインが指を弾くと、どこからともなく現れた八咫烏がその肩に止まった。どうやら、得た情報をアインに伝えているらしい。
「俺の使い魔に滝の底を確認してもらった。滝は地下水脈に続いていて、激流の川になってるそうだ」
まさか、と猟兵たちがにわかに騒ぎ出す。大体どんなことをしなければいけないのか、分かってしまったようだ。
「あー……一応、いかだは数個用意してある。6人ぐらいが乗れる簡素ないかだだけどな……その激流に乗って、クラウドオベリスクがある場所まで行ってもらいたい」
そこで、一人の猟兵が手を上げた。空を飛んだりはできないのか、と。
気まずそうにアインは頭を掻く。
「クラウドオベリスクの影響か、もしくは地下水脈に流れる魔力の影響だと思うんだが……空を飛んだりするにはちょっと天井が低すぎるし、自分の身体を強化、変異させるようなユーベルコードが弱体化するみたいだ」
クラウドオベリスクの邪悪な魔力によって、空を飛んだり、自己の身体を変質させるようなユーベルコードは弱体化してしまうらしい。結局、いかだに乗ってなんとかしなくてはいけないようだ。
「……あとは、オブリビオンとの戦闘もある。クラウドオベリスクに近づくんだ。守護者たちが黙っちゃいないだろう」
不安定ないかだに乗りながらオブリビオンに応戦するなど前代未聞だが……。
「帝竜を見つけるためにも、クラウドオベリスクの破壊は何が何でもしなくちゃいけない。大変な激流下りにはなるとは思うけど、皆、よろしく頼む!」
猟兵たちに転移の輝きが集う。
転移先は、滝の底。いかだが繋がれた小さな足場だ。
夕陽
地下水脈、激流をいかだに乗ってどんぶらこ。……え?いかだが壊れないかって?
気にしたら負けです。
OPをご覧頂きありがとうございます。初めましての方は初めまして、お会いしている方はこんにちはこんばんは、夕陽です。
今回のシナリオはA&W、オブリビオンとの連戦、クラウドオベリスクを破壊するシナリオです、が。
第1章にこんなルールを設けております。
いかだに乗って地下水脈の川を下る猟兵達へ、ボス級オブリビオンが襲いかかってきます。
猟兵たちは成功率に以下のマイナス補正を受けます。
●激流による不安定な足場。
●激流によるいかだの操縦困難。
●明かりはいかだの四方に備え付けられた篝火の光のみ。視界不良。
上記どれか、プレイングにその対策を書いて頂くと、プレイングボーナスが与えられます。
また、激流にばっしゃーと飛び込むようなプレイングは何かしらのユーベルコードの恩恵があったとしてもマイナスの補正となりますのでご了承下さい。
第2章、第3章につきましては、章が進むにつれ公開していく予定です。
それでは、皆様のプレイングお待ちしております。
第1章 ボス戦
『浮遊するアトランティクス』
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POW : 奔る蒼雷
【迸る電撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【落雷に匹敵するほどの雷撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 暴れ蒼雷
【莫大量の電撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 穿ち蒼雷
【雷撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に帯電させることで】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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●暗黒を貫く蒼雷
滝の底から続く洞穴、激流の川となった地下水脈の中、いかだに乗った猟兵たちは前方を見渡した。
とにかく、暗い。いかだの篝火が暗黒の地下水脈を静かに照らし出している。
水が跳ねる、激流に逆らうように、いかだの舵を取る。延々に続くかに思われる地下水脈をなんとか突き進んでいた猟兵だが。
ふと、視界に蒼い線が走った。ばちり、と弾けるような音。篝火の火の音ではない。これは―――
ハッ、とそれに気づいた猟兵の一人が頭上を見た。ふわり、とそこに浮かんでいるのは5m程の巨大なアオミノウミウシだ。だが、ただのウミウシではない。
蒼電が弾けて、周囲をその光で照らした。次の瞬間、莫大な電流が空間に拡散する。
本来緩慢な動きのウミウシではあるが、クラウドオベリスクの魔力によって力が強化されているのか、激流に流れる猟兵たちをしっかりと追従してくる。
見た目で判断するには、恐ろしい雷撃だった。猟兵たちは武器を取る。クラウドオベリスクに接近する猟兵たちを葬ろうとするこのオブリビオンを、撃破しなくてはいけない。
イーファ・リャナンシー
なかなかの滝だったわね…あの滝の水の中に巻き込まれたら私くらいのサイズだとひとたまりもなかったりして…
クラウドオベリスクっていうのはほんとあるところにはあるっていうか…ともかく今回はいつも以上に悪条件が重なってるみたいだし、注意して臨んだ方がよさそうね
【装飾品】として装備している10の燐光を頼りに暗闇対策をして進むことにするわ
【フェアリー・リング】で敵の雷撃を打ち消しつつ、敵の戦闘力補正をなくすために地形のビリビリも取り除いていくわ
成功率を上げるために、敵が攻撃するのをしっかり観察しながら戦いに望むつもりよ
攻撃する時は、小さな体を活かして敵の死角に入りつつ、【全力魔法456】を使って攻撃するわ
梅ヶ枝・喜介
かはははは!真っ暗な洞の中で川下りってェだけでもスゲぇのによ!
今度はウミウシの化け物かい!
世界は広い!おれの知らんモンがたっくさんある!
なんだか面白くなってきやがった!
おれにゃあ筏の操作も暗がりもどうしようもない!
けどここで終わるってのは勿体無ぇよナ!
もっと先に何があるのか見てみたい!
ならばここは一つ無茶苦茶やって道理を蹴っ飛ばす!
迸る雷へ抜き身の打刀を力任せにぶん投げる!だがこれは単なる盾じゃあないぜ!
筏を蹴って跳躍し!ぶん投げて壁に突き刺さった刀へと手を掛け壁へと足を着く!
これで一回こっきりだが十全に飛び跳ねれるってもんヨ!
勝負は一瞬!
矢のように飛び出しウミウシに一太刀食らわせてやる!
ローズ・ベルシュタイン
偽葉(f01006)と一緒に参加
WIZの行動
アドリブや他猟兵との絡み歓迎
■心情
いかだですか、あまり船酔いしない様に気を付けなければ。
■いかだの対策
不安定な足場には【気合い】で投げ出されない様注意し
【地形の利用】で揺れにも対処
操縦困難には、私は【視力】【暗視】で先の水流を見抜き
偽葉にその情報を伝え【操縦】を頼み協力を行う
視界不良には【暗視】で対処
■戦闘
それは儚き不壊の薔薇(UC)を使用して戦う。
【かばう】で偽葉を守りながらUCで敵の攻撃の相殺を試みる。
【学習力】で敵の攻撃はすぐに見抜けるようにしますわね。
雷撃を相殺できなかったら【電撃耐性】で耐え
【カウンター】でプリンセス・ローズを使用して反撃
燈夜・偽葉
ローズさん(f04715)と参加します
激流下りというやつですか
こんなもの突破してやりましょうね、ローズさん
ローズさんからの情報に合わせて自身でも視力と暗視で先を見つつ
うまくいかだを操縦します
敵の電撃発光もありますから、想定よりは暗くない筈ですが
いかだ操縦の際、「剣よ、地を鎖して」による水面凍結もうまく使っていきますよ
凍った水面を利用してのターンとか、その上を滑ったりとか
弱体化の影響ですぐ砕けたりしますが、一瞬でも十分ですよ
一瞬でも攻撃する余裕があれば、念動力で刀を操作して斬りつけますね
敵の攻撃は第六感で感知してそちらに念動力操作した刀を動かして武器受けします
ミント・ベルガモット
等身大の少年型からくり人形(ヴァン)と一緒に戦う
うひゃあ、気持ちいーなー!
激流イカダ、すげーヒリヒリで楽しいぜ!
敵が出たら
バチバチ、こいつぁ壮観だな!
ヴァンを【ロープワーク】でイカダに結んで
ヴァンにオレを投げさせて空中へ
【スカイステッパー】で空中で軌道修正しながら【空中戦】すれば
足場の悪さに関係なく戦えるぜ
【フェイント】で敵の視線を誘導しつつ
愛用の剣(猫サイズなので実際は短剣)で
そのビラビラ、切り落としてやらぁ!
落ちそうになったら
からくりの糸を回収して
イカダの上のヴァンに抱き止めて貰うって寸法
よっ、と
人形を繰り出して戦わせるだけが人形遣いじゃねえってな
あっ、どっちが人形だとか言うんじゃねぇぞ!
斬崎・霞架
【POW】
目的はわかりました。飛んだり出来ないのも良いでしょう。
…もう少しマシな移動手段は用意出来なかったのか、とは言わせて頂きますが。
影響の程がわからないので、上手く行くかはやってみなければわかりませんが。
『ジャック』、貴方の力を貸して下さい。
ジャックの身体の大きさや力がそのままなら、手をオール代わりにしたり、天井や壁に手を付く事で、進路変更や制動、安定化が可能かも知れません。
僕の動きに連動するので、戦いは他の方にお任せする事になりますが。
激しい場所では、振り落とされないように片手はいかだを掴む方が良いかも知れませんね。
…簡単ではないでしょうが、やってみましょう。(【激痛耐性】【電撃耐性】)
●雷撃と激流を越える
十数分前。
「すっごい滝ね……私なんかが巻き込まれたらひとたまりもなかったりして」
「かはははは!こんなでっけえ滝見たことねぇ!世界ってのは広いんだなぁ!」
「こいつぁ壮観だな!猟兵だからこそ見れる景色ってのも良いもんだ!」
奈落滝の底に存在する小さな足場から、怒涛の如く落下する滝を見て、イーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)と梅ヶ枝・喜介(武者修行の旅烏・f18497)、ミント・ベルガモット(人形と躍る銀猫・f18542)が感嘆の声を上げていた。
上空にポツンと空いた穴から差し込む僅かな光によって滝が照らし出されている。轟々と打ち鳴らされる音の奔流。滝と川が隣接する箇所は、気化した水分によって飛沫が上がり、猟兵たちを凪いでいる。
そんな3人の猟兵たちとは裏腹に、少し離れた場所で話し合いを行っていたのは。
「まったく……こんな無茶な依頼、そうそうありませんよ」
ため息混じりにそう声を漏らしたのは、斬崎・霞架(ブラックウィドー・f08226)だった。それに呼応するように。
「激流下り、とはいいますが、あの洞穴の中をくぐるとなると何が起きるか分かりませんね」
「少なくとも、船酔いしない様に気をつけなければ。あ、偽葉さんは酔い止めの薬いります?」
「……ちょっと待ってください。船酔いとかそういう話以前の問題ですよ」
ローズ・ベルシュタイン(夕焼けの薔薇騎士・f04715)が、燈夜・偽葉(黄昏は偽らない・f01006)に錠剤を手渡していた。ローズが言うことも尤もではあるが、それ以前に。
「目的はクラウドオベリスクの破壊、分かります。その石碑の力のせいでユーベルコードが弱体化するのも分かります。ですが……」
目線をそちらへ向けた霞架は、ふぅ、と肩をすくめた。
「……もう少しマシな移動手段は用意出来なかったのか、とは言わせて頂きますよ」
足場に繋がれていたのは、今いる猟兵6人がなんとか乗り込めそうな簡素ないかだだった。縄を何重にも巻かれ形を保ってはいるが、洞穴の先の激流で破壊されることはないのだろうか、というのが問題だ。
「転移する前に訊きましたが、魔法で強化されているみたいですよ?」
「私、いかだに乗るのは初めてですの。不慣れですがこんな川突破してやりますわ」
「ええ、こんなもの突破してやりましょうね!ローズさん!」
「……」
やれやれ、と霞架が額に手を置いた。
「クラウドオベリスクっていうのは、ほんとにあるところにはあるっていうから」
そこで、3人の声がかかる。先程まで滝を観察していたイーファがふよふよと近寄ってくる。
クラウドオベリスク。魔の石碑。群竜大陸を隠すために立てられている柱だ。簡単に見つかるような場所にあるはずがない。しかし。
「……ともかく今回は、いつも以上に悪条件が重なってるみたいだし、注意して進んだほうが良いわね」
今回は、地下水脈の先にそれはある。オブリビオンだけではなく、自然そのものが猟兵に襲いかかってくるようなものだ。十全に準備をして挑まなければならないだろう。
「お、なんだ?そろそろいくのか!地下の川下り……たっのしみだなぁ!」
「敵が出たらオレとヴァンに任せてくれよ!どんなオブリビオンだって撃破してやるからな!」
快活な剣豪の少年と人形遣いのケットシーに、他の猟兵たちが顔を見合わせる。
とにかく。
振り向いた先に存在する、急斜面の洞穴。落下、とまではいかないが、いかだで挑んだ瞬間、とんでもないスピードで地下の川を突き進むことになる。
覚悟を秘めて、6人の猟兵がいかだに乗り込んだ。
そして、現在。
「偽葉さん!霞架さん!先に岩があります!」
「了解……です!」
「人使いが荒いですね……!しっかり掴まっていて下さい!」
ローズの言葉に、偽葉と霞架がいかだを操縦する。轟々と流れる水の奔流に、『ジャック』の巨大な腕が沈んだ。瞬間、水の抵抗によっていかだが軋む。岩を回避するように方向転換したいかだを、今度は偽葉がその軌道を元に戻す。
その刹那、元いた場所に、蒼雷が弾けた。いかだの魔術的防護によって雷撃は猟兵たちへと伝播しないが、膨大な熱量に川の水が気化して霧を撒き散らす。
「ほんっとにしつこいわね!!そんなに私たちをクラウドオベリスクに近づけさせたくないのかしら!」
偽葉の肩に止まり、こちらを追従するアトランティックスへ魔法弾を撃ち込むのはイーファだ。
「イーファさんも助かりますわ!便利なものを持っているのですね!」
「本当はこんな風に使うものじゃないけど、この状況だもの、仕方ないわ!」
イーファから拡散した10の燐光が、周囲の状況を照らし出す。本来はイーファの周囲を漂う神々の名を冠した燐光ではあるが……。
「こんな激流の中、電撃使いのオブリビオンと戦うなど正気の沙汰ではありませんよ!」
『ジャック』を召喚していかだの舵を取る霞架が、周囲に目を凝らしながらそう口にする。
状況はオブリビオン側の優勢。そもそも、電撃を操るオブリビオンと、膨大な水が存在する空間。猟兵たちには厳しい状況だった。
「でも……おおお!?気持ちいーなー!激流イカダ、すげーヒリヒリで楽しいぜ!」
「真っ暗な洞の中で川下りってェだけでもスゲぇのによ!今度はウミウシの化け物かい!本当に、おれの知らんモンが世の中にはたっくさんあるんだなぁ!」
「ちょっと!呑気に激流下りを楽しんでる暇なんてないわよ!―――!!雷撃がくるわ!!」
アトランティクスが電撃を溜めるような動作へと変化する。それは、莫大量の電流を放つ予備動作。こんなに近接されては、いかだに乗っている猟兵たちは無事では済まない。
「―――薔薇よ、私たちを守って下さいませ!」
前方への確認を一瞬だけ逸し、ローズが懐から取り出すのは破魔の薔薇。鮮やかなオレンジ色の薔薇だ。
アトランティクスの充電が終わる。―――来る。
爆ぜる電撃と、蒼雷の閃光が周辺に撒き散らされた。全てを電撃によって焼却する一撃は……しかし。
拡散したはずの電流は、時間が止まったように停止すると、空中に投げ出されたオレンジの薔薇に吸収されていく。
【それは儚き不壊の薔薇(インヴァルネラブル・ローズ)】は、その力を十分に発揮し、蒼雷の災禍から猟兵たちを護り通した。
「やっるなぁ!姉ちゃん!薔薇ってそんな使い方もできんのかぁ!」
「私の特別性ですわよ!……っ!前方に激流の渦です!偽葉さん!」
「任せてください!―――少し冷えますよ!」
不安定ないかだから立ち上がった偽葉は、腰に携えている太刀の柄を握る。認識するのは眼前の水面。ユーベルコードの弱体化は仕方のないこと。しかし、一瞬だけでいい。
中空に翻った剣閃から、極低温の剣風が迸った。眼前の激流を氷結させ、全てを呑み込む渦を凍てつかせる。
そこに超高速でいかだが侵入した。滑るいかだは一瞬中空を飛び、激流へと再び身を任せた。
飛び散る水しぶき、いかだに捕まりながら、猟兵たちはふぅ、と息を吐いた。
「ちょっと皆!本当になんとかして!あたしのフェアリー・リングだけじゃ、全部の雷撃を無効化できないわ!」
猟兵たちに牙を剥く雷撃を、イーファ一人で対応しているのだ。虚空を走る蒼の線が、猟兵たちに直撃するのは時間の問題だった。
「任されたぜ!行くぜぇ、ヴァン!」
ミントの傍らに立つ少年型のからくり人形とイカダが、そしてミントが繋がれる。そのままアトランティクスへとスカイテッパーで近接するケットシーに、喜介が感嘆の声をあげた。
「足場が悪くって戦えねぇってんなら、空中で戦うだけだ!」
スカイテッパーも例外ではない。ユーベルコードは弱体化し、ジャンプできるのは数回程度だろう。だが、ミントはその隙を見逃さなかった。
自分の雷撃が無効化されていることに憤っていたのか、眼前に迫る猟兵に向けて雷撃が放たれた。その一撃を空中ジャンプでなんとか回避したミントは、落下するように短剣を持って連続で切り裂いた。
弾けたのは、雷撃ではなく、悲鳴。
アトランティクスの悲鳴は、体に存在する外套膜を斬り裂かれた激痛の悲鳴だった。
周辺に暴力のごとく拡散する雷撃に弾き飛ばされたミントが、いかだに乗っていたヴァンに抱きかかえられて着地する。
「っしゃあ!ビラビラ切り落としてやったぜ!」
にやり、と笑うミント。後方から追撃するアトランティクスは、体を連続発光させると、水の中に沈んでいった。
「どうだ、オレの剣技!人形を繰り出して戦わせるだけが人形遣いじゃねえってな!」
「すっげえ!すっげえな!人形と息ぴったりじゃねえか!」
「二人共、少しお静かに!!オブリビオンの気配が消えていません!まだ―――」
霞架の警告は、すぐに現実となって目の前に到来する。
進行方向の水面から、青白い発光。水しぶきをあげて飛び出してきたのは、自身の体を斬り裂かれて激昂するアトランティクスの姿。
口元から、蒼雷の塊が収束。それは一束の雷撃となって、目の前の猟兵たちを薙ぎ倒す、必殺の一撃。
「偽葉さん……!」
「ダメです!間に合いません!」
「フェアリー・リングの対処も間に合わない……このままじゃ……!」
「くっ……万事休すですか……!」
襲いかかる蒼雷に、猟兵たちが覚悟したその瞬間だった。
いかだの後方から飛んだのは、一太刀。空中に投げ出された太刀と、蒼雷がこちらに襲いかかるのはほぼ同時だった。
雷は目の前の金属に収束し、軌道が逸れる。大太刀は上空へと投げ出され、暗黒へと消え去った。
唖然とする猟兵たち、その上空を、一つの人影が飛んだ。
「き、喜介さんですの!?」
「やっぱりみんなすげぇよなぁ!おれにゃあ筏の操作も暗がりもどうしようもない!けどここで終わるってのは勿体無ぇよナ!」
アトランティクスと通り過ぎた神速の跳躍の先は、消えていった大太刀の在り処。
だん!と着地したのは、上にある壁。快活な表情で口元を歪ませた喜介は、太刀を握り締めた。
「一回こっきりだが……十全に飛び跳ねれるってもんヨ!!」
それは、洞穴に閃いた一つの流星だった。眼前にいた存在が、いつの間にか後ろにいる。アトランティクスは、その攻撃を回避しようがない。
燐光によって輝いた太刀の剣閃は、アトランティクスの胴を一刀両断した。
キィイイィイイィイイィイイィイイィイイ!!!
甲高い悲鳴をあげて、今度こそアトランティクスは激流に呑まれた。そのまま水面に落下しそうになった喜介を、霞架の『ジャック』が両腕で受け止めた。
「な、なんて無茶を……」
「いやぁ!上手くいった!賭けだったがなんとかなった!」
「ふふふ……面白いことをしますね。そういうのは、嫌いではありませんよ」
激流のいかだを操縦しながら、偽葉が微笑んでいた。
が。
もう一度、水面から影が飛び出した。
「―――!うっそだろ!?」
傷つきながらも、こちらへと敵意を向けるアトランティクス。蒼雷が今一度弾け―――
る、と思った次の瞬間。眼前に飛び出したのは、『ジャック』の片腕だった。必殺のパンチがアトランティクスの体を的確に捉えてぐしゃりと圧殺。
今度こそ砂に還ったオブリビオンに、猟兵たちは呆然としたまま、ファイティングポーズで立っている霞架に視線が移る。
「……失礼しました。櫂を漕ぐだけで何もしていなかったので、体を動かしたくてですね」
……凄まじい一撃だった。
大成功
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第2章 集団戦
『激浪せし水棲馬』
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POW : 血染めの魔角
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
SPD : 貪り喰らうもの
戦闘中に食べた【人肉】の量と質に応じて【魔力を増幅させ】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : 欲深き者共へ
【欲深き人間達に対する怨嗟の呪い】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
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●幻想の地下空洞
水の流れが穏やかになってきた頃。先に見えた光に目を覆うと、その先はあり得ないほどに開けた風景が広がっていた。
竜の骨にも似たトゲ状の巨岩が連なり、その間を川が流れている。飛んでいるのは蝶や小鳥、はるか上空にある岩の裂け目から、太陽の光が差し込んでいた。
猟兵たちは川から地下空洞の陸地へと足をおろす。
まるで理想郷かと思えるほどに咲き誇る花々。その先に見えた風景に、猟兵たちの顔がこわばった。
遥かに続く道の先、丘の上に、巨大な岩の人工物がそびえ立っていた。じわり、と漏れ出すのは邪悪の波動。間違いなく、クラウドオベリスクだ。
歩を進めようとした猟兵は、ふと気が付く。
周囲に、突然濃霧が立ち込めてきたのだ。
周辺を埋め尽くす濃霧から、薄い影が飛び出す。それは、空中を浮遊する馬のような存在―――ケルピーの如きオブリビオンが猟兵たちへと襲いかかった。
間一髪避けた猟兵を嘲笑うかのように、そのオブリビオンは霧の中へ姿を消す。
ぶくり、ぶくり、と水が泡立つような音と共に。
周辺から感じる凶悪な視線を掻い潜らなければ、クラウドオベリスクにたどり着くことはできないだろう。
【MSより】
状況の記載が不足しておりました……大変申し訳ございません。
周辺は濃霧によって覆われ、そこから水棲馬は飛び出し、猟兵たちを攻撃してきます。
つまり、この状況は必ず激浪せし水棲馬の『先制攻撃』となります。
霧に対する対策、もしくは先制攻撃に対する対策をプレイングに書いて頂きますと、ボーナスが発生いたします。
それでは、皆様のプレイングお待ちしております。
梅ヶ枝・喜介
おおっ!こりゃあ堪らん景色だ!
いやぁ!良いモンを見た!いやさ絶景カナ!
それだけに惜しいゼ!あのぶっとい柱が邪魔で邪魔でしょうがねェ!
早々にぶち折って散歩と洒落込みたいもんだが…
へっ!今度は霧に半馬半魚か!飽きさせねぇなァ!
どけよ馬面!おれァこの景色が気に入ったんでい!
……しかし霧は切れん、遠いトコのやつも切れん。
ましてや自然の災害なんぞには刃が立たん!
襲いかかる竜巻を踏ん張って堪え、稲光をほうほうの体で躱して転がり、炎から逃れるために川に潜る!
ああクソっ!こうなりゃヤケだ!知らねぇからな!
尖った巨石の根本を叩いて壊し、落石で自分諸共馬面を埋めて霧を散らす!
おれが頑丈さであんなヤツに負けるかよ!
●剣士の秘策
桃源郷、理想郷……そんな言葉が似合う幻想に満ちた光景に、梅ヶ枝・喜介(武者修行の旅烏・f18497)は目をキラキラと輝かせる。
「おおっ!こりゃあたまらん光景だ!良いもんを見た!いやさ絶景カナ!」
そう言った喜介だが、遥か遠方に見える邪悪の柱に微かに眉を潜ませる。未踏の絶景の中に鎮座する、邪悪を放出する巨大な柱。明らかに、あれだけがこの光景に不釣り合いだった。
―――視界を覆い尽くす濃霧とそこから襲いかかる水棲馬によって思考を中断させられた。
濃霧は視野を奪い、自分が立っている場所でさえどこなのか分からない。襲いかかってきた水棲馬をひらりと躱し、周辺から感じる殺気ににやりと口元を綻ばせる。
「へっ!今度は霧に半馬半魚か!飽きさせねぇなァ!……っておわっ!!」
霧から降りかかるのは、数多の自然災害だ。全てを切り裂く竜巻が四方八方から飛んでくる。次いで瞬くのは天空を裂く豪雷だ。視界を裂く雷撃を軽やかな身のこなしで避けるが、水棲馬がどこにいるか分からない以上、対策のしようがない。
「自然災害なんぞにおれの刃が適う訳ないだろうがッ!ああクソっ!こうなりゃ―――!!」
ばっ、と踵を返した喜介に、周辺を取り囲むだろう水棲馬の嘶きが響き渡った。愚かな人間が、自分たちの天変地異に恐れ慄いて逃げ出そうとしている。愉快だ、滑稽だと。
だが、喜介は逃げるわけではない。
「―――よっし!」
霧の中に見出したのは、屹立する棘型の巨岩だ。グル……と馬の声が疑問の声音に変わったと同時。
「いくぞ、馬共ッ!!!」
ばっ、と拳を振りかざす。ユーベルコードの力によって、振り上げた拳に全てを破壊する膂力が宿る。
その一撃は、まるで隕石の激突の如く。
ぴしり、とひび割れた巨岩は、次の瞬間周辺に落下する岩の塊へと形を変えた。
―――響き渡るのは、岩石に押しつぶされる水棲馬の断末魔。
パラパラ、と砂塵を撒き散らし、水棲馬の濃霧が晴れていく。そこには、押し潰されて絶命する複数の水棲馬の姿があった。
「―――だあっ!!死ぬかと思ったぞ!」
運良く大きな岩石の被害に遭わなかった喜介が砂塵から飛び出した。けほけほ、と咳き込んで、周囲の状況を認識する。
「……二度とできんな、こんなこと」
濃霧によって仲間たちと分断されてしまったからこそできる芸当だ。ぽりぽりと頭を掻きながら、喜介はクラウドオベリスクへと続く道を歩き出したのだった。
成功
🔵🔵🔴
イーファ・リャナンシー
全く…見ず知らずの場所でいきなり霧が出て来るなんてついてない…っていうか、絶対なんかあるわね
いつ何と遭遇しても大丈夫なように気を配るわ
ただ、そうは言ったものの、やっぱり急に敵が現れたらびっくりして焦っちゃうかも
そしたら【リアライズ・スピリットビースト】が勝手に発動しちゃうかもしれないわ
3m以上もある星霊獣が47体…勝手に敵を追跡しながら攻撃するっていうんだから、最初に襲ってきた連中は見失わずにすみそうかしら
以降は敵が近付いてくる度に、星霊獣の陰に隠れて接近したりして死角に入りつつ、私自身も攻撃するわ
攻撃時は【全力魔法480】を使うつもりよ
クラウドオベリスクまでもう少し…誰も欠けずにたどり着くわ
斬崎・霞架
【WIZ】
やっと揺れる足場から解放されましたね。
皆さんはご無事でしょうか。
…幻想的な場所ではありますが、
のんびり観光、とは行きませんね。
相手は霧に潜んでいるだけなのか、その都度“発生して”いるのか。霧自体を晴らす事は出来るのか。
相手の動きを【見切る】ためにも、【オーラ防御】で攻撃を逸らしつつ観察しますか。
…とは言え、いつまでも手を拱いていても仕方がありません。
一つ、やってみましょうか。
(『ネクロシス』を上空に向けて構え、霧に向かって墜ちるように【流星】を放つ)
さぁ、これで貴方がたが消えるかどうか、勝負と致しましょう。
…駄目なら、攻撃を受けながらでも捕まえて、直接撃ち抜いて差し上げますよ。
●濃霧の先を見抜け
「全く……見ず知らずの場所でいきなり霧が出て来るなんてついてない……っていうか、絶対なんかわるわね」
「ええ、いくら何でも唐突すぎますね。やっと揺れる足場から解放されたと思ったのですが……幻想的な場所だったというのに、これでは周囲の確認もできません」
イーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)が斬崎・霞架(ブラックウィドー・f08226)が周囲の異変について話し合う。
「―――いえ、少々厄介なことになったかもしれません。のんびり観光、とは行きませんね」
周囲から放たれる殺気に、霞架が身構えた。え?と首を傾げたイーファ。
濃霧を裂くように、馬面のオブリビオンが襲いかかってきた。
「!?」
「……なるほど、敵の巣の中でしたか」
イーファと霞架に襲いかかるのは、人間へのあらゆる怨嗟を込めた呪いの奔流だ。黒煙のような呪いの塊が目の前の猟兵へとのたうち回る。
だが、その呪いが、霞架の纏う呪詛によってかき消された。
「このような呪詛では、私に傷一つつけることなどできませんよ」
霧に紛れて姿を消した水棲馬に、ふむ、とメガネをあげる。
「どう思います?イーファさん」
「……奇妙、よね?」
「ええ」
こくり、と2人の猟兵が頷き合う。今現れた水棲馬は、“霧の中に潜んでいる”のか、それとも“霧と同化している”のか。
それが分からない限り、濃霧からの邪悪な視線に対抗する術はない。
連続して襲いかかる呪詛の奔流を霞架が呪詛のオーラによって防いでいるが、このままでは防戦一方だ。
「……とは言え、いつまでも手を拱いていても仕方がありませんね。一つ、やってみましょうか」
霞架が構えたのは、銃忌『ネクロシス』と呼ばれる大型拳銃型の呪術器だ。込められた魔弾は天空を裂き、黒色の驟雨となって降り注ぐ。
【流星(フォールンデス)】が大気を薙ぐ。霧の中に潜んでいるのか、霧そのものと同化しているのか。これで全てが分かるだろう。
霧の奥で、複数の嘶きが聴こえた。これは。
「どうやら潜んでいただけのようですね」
「あなたの武器すごいわね……範囲攻撃なら、わざわざ認知する必要はないものね」
「……そういう貴女も、私には到底真似できないものを召喚しているようですが」
霧が晴れた先に巨大な何かがいる。イーファを護るように立つのは、47体の星霊獣だ。微かに明滅する体をしならせながら、イーファに『焦り』の感情を与えた水棲馬を捕捉し、巨躯の一撃で粉砕した。
眼の前にいるのは恐ろしい存在だ。本能的に勝てないことを悟り、逃げ惑うオブリビオンに、イーファの魔法が突き刺さる。より精密に、圧倒的な精度で放たれる魔法の数々によって、水棲馬は為す術なく消え去っていった。
沈静化した周辺の状況に、2人はふぅ、と息を吐いた。
「はぐれた仲間が心配ね……クラウドオベリスク前で会うことができるかしら?」
「皆さんの無事を信じて進むしかないでしょうね。行きましょうか」
クラウドオベリスクは、丘の上に存在する。遠方に見える邪悪な柱を見据えながら、2人の猟兵は仲間の無事を信じて突き進む。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
燈夜・偽葉
ローズさん(f04715)と参加します
ケルピーというやつでしょうか
それにしても筋肉の付き方がきしょいですね
それはそれとして霧に紛れて襲撃などと、厄介なことを
全員捌き斬って進ませてもらいますよ!
敵の行動は第六感や聞き耳で感じ取ります
怨嗟の呪いに対してはオーラ防御と呪詛耐性・狂気耐性で耐えつつ、破魔をのせた刀でなぎ払います
霧は衝撃波・範囲攻撃・氷の属性攻撃で強化した「剣よ、地を鎖して」で凍らせつつ吹き飛ばします
これにも破魔の祈りを乗せておきましょう
霧を払えれば敵の行動も見切れるでしょう
「剣よ、地を鎖して」は攻撃にも使いますよ
ローズさんと協力して、お互いに補い合うように行動しますね
ローズ・ベルシュタイン
偽葉(f01006)と一緒に参加
WIZ判定の行動
アドリブや他猟兵との共闘歓迎
■心情
濃霧の中から奇襲とは、何とも厄介な状況ですわね
ですが私達はこの程度で屈する訳には行きませんわ
■霧や先制攻撃対策
霧に視界を遮られても【第六感】や【聞き耳】で
視界に頼らない感覚での察知を心掛け
敵からの攻撃は【呪詛耐性】で呪いに備えつつ
【祈り】や【破魔】で呪いを弱体化させますわね
■戦闘
私は夕暮れ時に薔薇は踊り咲くを使って戦いますわね
【範囲攻撃】で敵を纏めて攻撃し
【マヒ攻撃】や【気絶攻撃】で敵の動きを止めながら
弱っている敵を優先して倒しますわ
偽葉と互いに背中合わせに位置し
互いの死角をカバーし合いながら戦いますわ
●少女たちの絆
周囲から感じる悪意は、他の猟兵たちにも向けられている。いかだから降りた後、濃霧によって分断された猟兵たち、その内の2人は今、全方向に神経を尖らせていた。
「……ケルピーというやつでしょうか」
「ええ、そうですわね。それにしても、これほど人間に敵意を向ける妖精はみたことがありませんわね」
燈夜・偽葉(黄昏は偽らない・f01006)とローズ・ベルシュタイン(夕焼けの薔薇騎士・f04715)が背中合わせになりながら、いつでも奇襲に対応できるように剣を構えている。ローズはどうやら、ケルピーを見たことがあるらしい。
「私は初めて見たのですが、筋肉の付き方がきしょいですね」
「……確かに」
馬の筋肉と魚の筋ようなものが体表に現れているのか、正直なところあまり見たくはないオブリビオンである。
オブリビオン側は、それを許してくれないようだが。
「それはそれとして霧に紛れて襲撃などと、厄介なことを。全員捌き斬って進ませてもらいますよ!」
「その通りですわ!私達はこの程度で屈する訳には行きません!」
濃霧の奥から気配。それは、こちらへと襲いかかろうとする水棲馬の殺気だ。
「偽葉!」
「はい!」
霧の中から、汚泥の如き呪いの塊が連続で吐き出される。それは2人の猟兵を的確に捉えた必殺の一撃だ。
「させません!」
偽葉が構えた大太刀から迸るのは、地下水脈内でも使用したユーベルコード【剣よ、地を鎖して(ヒョウフウ)】だ。巻き起こった剣風は、霞がかった黒色の呪いを押し返すと、濃霧そのものを氷結させた。
そして、巻き起こる疾風。水棲馬のユーベルコードによって発現していた濃霧が、一瞬だけ吹き飛ばされる。露わになった水棲馬たちの無防備な体を認識したローズは、偽葉との訓練によって見出したユーベルコードを発現させる。
「さぁ、数多に咲き誇りなさい!」
手に持った薔薇の花弁が、はらり、と周囲に満ちていく。それは瞬時に拡散し、舞い踊る薔薇の嵐が形成された。
大気が切り裂かれる音と共に、【夕暮れ時に薔薇は踊り咲く(ローズ・ワルツ)】は霧の中に紛れていた水棲馬たちを薙ぎ倒した。
断末魔に揺れるように、徐々に濃霧が晴れていく。その先に見えるのは、地下空洞に差す太陽の光と、遥か遠くに存在するクラウドオベリスクだ。
お互いがお互いの長所を知っているからこそ、背中を預けられる。偽葉の攻撃が霧を一瞬でも薙ぐと信じていた。ローズの攻撃が水棲馬を討ってくれるだろうと信じていた。2人は、固い絆で結ばれているのだ。
無言で片手をあげたローズに、偽葉が優しく、とんと手を合わせる。
にこり、と微笑んだ2人は、先に見えるクラウドオベリスクへと歩を進めたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミント・ベルガモット
上陸後の光景に
あははは、すげーな!
地面の下なのにこんだけ花が咲いてるのなんか初めて見たぜ!
これが冒険ってヤツだよなー!
んで、あれがクラウドオベリスクか
確かにやばい臭いがすんなー
と、鼻をふんふん
等身大の少年型からくり人形(ヴァン)と一緒に戦う
霧の中を見通すのは流石にムリだな
仕方ねえ、ヴァンを囮にするか
頼むぜ、と頬に口づけ
ま、人形の肌はオレの毛皮よか丈夫だし、あと喰えるとこねえしな!
ヴァンの服の中に隠れたまま操って
霧の中を慎重に進むぜ
泡の音で敵の位置の目星をつけられるかもだが
過信は禁物だな
ヴァンを攻撃されたら
敵がまた霧の中に隠れる前に【早業】で飛び出して
【かぐわしき棘】でその頭を撃ち抜いてやるぜ!
●最高の相棒?
猟兵たちが濃霧によって分断される数分前のことだ。
「あははは、すげーな!地面の下なのにこんだけ花が咲いてるのなんか初めて見たぜ!」
いかだから降りたミント・ベルガモット(人形と躍る銀猫・f18542)は、地下空洞に広がる光景にそれはもうワクワクドキドキしていた。
『ヒリヒリするような冒険』に憧れているミントにとって、まさにこの景色はそれに当てはまっていた。
「……んで、あれがクラウドオベリスクか。確かにやばい臭いがすんなー」
ふんふん、と鼻を鳴らして、大気中に流れてくる邪悪の臭気を辿る。
「ま、でもオレにはヴァンがいるからな!頼むぜヴァン!」
傍らに佇む人形、ヴァンはこくり、と頷いたかと思うとその肩にミントを乗せる。
ヴァンに乗せられて色々な場所を巡るのはいつものことだが、今回ばかりはテンションが違うらしい。
眼前に見えるクラウドオベリスクへと歩みを進めていたのだが……。
そして今。
ヴァンが濃霧に落とされた獣道を突き進む。周囲から感じる悪意ある視線。それでも、ヴァンは揺らがない。
無数の水棲馬が、その肉を喰らおうとヴァンに躍り出る。大きく口を開けると、その腕に足に、胴体に噛み付いた。そして、食い千切ろうとぐっ、とひっぱるが……
「―――!!」
硬い。噛みちぎれない。いや、そもそも。
この人間は……人間ではない?
「おい、オレのヴァンになにすんだ!」
ばっ、とヴァンの懐に潜り込んでいたミントが姿を表す。目の前の人間は、人形。濃霧の中だからか、それともヴァンの姿が等身大の少年だからか……しかしそれが功を奏した。
退避しようとした水棲馬たちの額に、投げナイフが的確に突き刺さる。
断末魔をあげることもできずに、水棲馬は塵へと還っていく。
そして、ついに濃霧の大元の水棲馬が全て倒されたのか、眼前の光景が開けた。
「うわああああ……ごめんなヴァン……」
噛まれた箇所の服が少し破けている。おろおろと涙目になっているミントだが、なんとか冷静さを取り戻すと、ヴァンの肩に乗って再び獣道を歩み始めたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『騎士竜アシド』
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POW : ネイル・ジャベリン
【右腕】から【無限に出現する槍】を放ち、【磔にする事】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : ナイツ・サンクチュアリ
【強制的に1対1の戦闘にする結界】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : ビハインド・キック
【背中】を向けた対象に、【後ろ脚からの蹴り】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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●魔柱の守護者
遥か上空に存在する地の亀裂から差し込んだ日の光が、そこに鎮座する邪悪の柱を映しだしている。
黒檀のように鈍く輝く、丘の上に立つ巨大な石柱。破壊しようと武器を取った猟兵たち。
そこに、一つの影が躍り出た。
「ここから先は、我が領域である!」
岩壁に穿たれていた大きな洞穴の一つから、巨大な何かが落下してきた。ズズン、と地が揺れると、身の丈程のジャベリンと剣を構えた巨竜が、猟兵たちを威嚇するように身を構える。
「この地を脅かす存在など久方ぶり。故に……全力で推して参る!」
クラウドオベリスクも巨大な建造物であるが、この竜もまた猟兵たちの身長の数倍はあった。騎士竜は巨体を軽やかに動かしながら、毅然とした立ち振舞いで目の前に現れた敵対者を迎え撃つ。
竜の咆哮が轟いた。
【MSより】
正真正銘の真っ向勝負です。プレイングお待ちしております。
イーファ・リャナンシー
はるばる随分奥まで来たけれど、まさかこんな風になってるとは
なかなか強そうなのがいたもんね
とにかく、あれをやっつけないことにはクラウドオベリスクだって壊せないし
うわぁ…あの後ろ脚に蹴られるのだけはごめんね
何とか工夫して乗り切るわ
つまり、背中を向けられなければいいわけだから…
【フェアリーズ・プリマヴェーラ】で245人の妖精たちを呼び出してその中に紛れ込むわ
妖精たちに紛れて、小さな体を活かして立ち回るわ
敵に背中を向けられない位置を心がけつつ【全力魔法504】で攻撃するの
もちろん、召喚した妖精たちも飾りじゃないし、みんなにも攻撃参加してもらう予定よ
大きくて強い相手には、数と知恵で対抗するしかなさそうね
梅ヶ枝・喜介
このデッカいヤツが次の相手か!
しかもこいつはモノノフだ!一筋縄じゃあいかん!
だが最後の一戦だ!
この期に及んで真の黒幕が、なんて事にはなるまい!
だったらもう後先を考えなくて良いって事だゼ!
いくぜぇえええぇえい!
ここは水上でもなけりゃ先の見えぬ霧中でもない!
漸くマトモに剣が振るえるってぇモンよ!
踏みしめた地を割り砕く勢いで突進するが、元より圧倒される体格差!
剣よりも槍が先に届くは道理だ!
だから、そんなことは百も承知だっつーんだよッ!!
突きかかる槍を、異常な切れ味を誇る妖怪刀を振るって切断する!
驚いたか!もっと近くでじっくり見やがれ!
振るう勢いのままに刀を投ずる!目眩まし!
本命は木刀での大上段!!
●知恵と刃
薙いだ巨槍の暴風が、梅ヶ枝・喜介(武者修行の旅烏・f18497)を打ち据える。暴風に掻き乱れる和装を掴みながら、にかり、と得意気に笑った。
先行したのは喜介一人のようだ。眼前の竜が、ぐぬ、と声をあげる。
「ほう……貴公、侍か」
「はははは!言わずもがなだろう!お前こそ、モノノフだろう!」
「……我は武士に非ず。剣と爪槍の竜騎士、アシドなり!」
ぶん、と槍が翻る。
(こりゃあ一筋縄じゃあいかんな!)
腰にさげた妖怪刀『エボシ』の柄に手を当てながら、目の前に岩山のように立つ竜を見る。
頬に冷や汗が伝う。アシドから迸る強者の波動は、自分の力量をあっさりと超えていることを知らしめている。
だが。
「―――最後の一戦だ!この期に及んで真の黒幕が、なんて事にはなるまい!」
妖怪刀を抜き放つ。荒い作り、見た目からすれば業物ではないだろう、と誰もが思うその刀は、全てを断ち切る程の力を秘めた忌刀だ。
「いくぜぇえええぇえい!」
突進、眼前の巨岩を見据える。その突撃に、アシドが薄く微笑んだ。
「素晴らしき覚悟!なれば、我が槍、受けてみよ!」
まるでそれは隕石の落下のように。振り落とされる槍を前に、真横に構えた刀に全神経を集中する。
―――ここは水上でもなけりゃ先の見えぬ霧中でもない!
ならば。
「漸くマトモに剣が振るえるってぇモンよ!」
中空に閃く剣閃。轟音と共に振り下ろされた槍が。
「―――ぬッ!!!」
あり得ない。竜の槍は鋼をも貫く業物であったはずだ。それが、まるでバターの如く断ち切れた。衝撃波が巻き起こる。槍の先端が地面に落下し、砂塵を撒き散らした。
瞬間、飛んだのは槍を断った刀だ。眼前に迫る妖怪刀、それを既の所で回避するアシド。
「俺には……これしか出来ねぇ!だから……往くぞ、モノノフッ!!」
振りかぶる木刀。それは渾身、必殺の一撃。懐に入り込む喜介に。
アシドが、ふむ、と唸った。
上空から飛来した影に、喜介の足がとまる。それは、“第二の槍”だ。
「我が槍は不滅なり……!」
轟音と共に、喜介がトライデントの先に縫われる。思わぬ衝撃に目をパチクリさせる喜介に、左手の剣が振り下ろされた。
―――終わる。
「みんな、ちょっとの間力を貸して!」
聴こえたのは、助力の声。それが助けを求める純粋なものではなく、ユーベルコード発現のための断片的な詠唱だった。
アシドの前に瞬いたのは、無数の妖精たちだ。その妖精たちが手のひらをかざすと、幾何学模様の魔法陣から魔法弾の雨が降り注ぐ。
「……!!新手……だと!?」
狼狽するアシド、片手の剣を振り回しながら、纏わりつく魔法攻撃をいなしていく。
「なにやってんの!早く立ち上がりなさい!」
それは、イーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)の声だった。眼前に瞬く星を頭を振ってかき消し、トライデントの拘束から脱出する。
「すまん、助かった!」
「大きくて強い相手には、数と知恵で対抗するものよ!私に続いて!」
上空を飛来する妖精たちは、アシドの剣によって次々と消滅させられている。時間は少ない。
「―――この戦、愚弄などさせんぞ!!」
次いで現れた3本目の槍が中空を飛来する妖精たちを薙ぎ払った。魔法攻撃によって鎧にダメージを受けたアシドは、先程までいた人間を探すために周囲を見渡す。
「はるばる随分奥まで来たけれど、まさかこんな風になってるとは……なかなか強そうなのがいたもんね……!」
「妖精……!!魔術はお前の仕業か!!」
激高したアシドが小さな個体であるイーファへと槍を構え、投擲の構え。
「あたしばっかりに構ってていいのかしら……!」
「何
……!!」
上空から差し込む光に影が差す。ハッ、と見上げたその先。大棘の岩をいつの間にか登っていた喜介が、自然落下のままこちらへと木刀を構えている。
イーファを見る。喜介を見る。
どちらかを防げば、どちらかの攻撃の餌食となる。
アシドは、考え、そして。
「なれば、こそ……ッ!!」
槍が投擲された。魔法攻撃ほど恐ろしいものはない。その攻撃を阻害するためにイーファへと投げられた槍は、その攻撃を中断してみせたが。
喜介の落下攻撃は、防ぎようがない。
恐ろしい鋭さで突き刺さった木刀が、アシドの鎧に亀裂を走らせる。内側へと侵食するような強撃に、アシドは口元から吐血した。
「おう、大丈夫か、イーファ!!」
「ええ!やったわね!」
喜介は器用に着地すると、眼前で呻く竜を見やる。
「我が大義……未だ屈せず
……!!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ミント・ベルガモット
こいつ、バカデカい上に速いな!?
ははは、こりゃやべえかも
ああ、なんでか笑いがでちまうな……
等身大の少年型からくり人形(ヴァン)の肩に【騎乗】して
愛用の剣(猫サイズなので実際は短剣)で立ち向かうぜ
1対1に持ち込まれたら
騎士道だかなんだか知らねえけど、こんなモンと決闘して勝てるかよ!
踏み潰されそうだぜ
くそっ
……いや
そうか、オレが勝たなくていいんだ
一緒に戦ってる仲間がいるんだからな
オレはオレにできることをする!
尻尾を立てていくぜ!
ヴァンの肩に乗って、一心同体の動きで敵の周囲を巡り
【フェイント】を入れて敵を翻弄しながら
【めくるめく一幕】で、敵の妨害にオレの全力を使うぜ!
オレの一刺し、意外と効いただろ?
ローズ・ベルシュタイン
偽葉(f01006)と一緒に参加
WIZ判定の行動
アドリブや他猟兵との絡み歓迎
■心情
いかだに乗って、大変な思いをしてまでここまで来ましたわ
ここで退く訳には行きませんわね
■行動
夕暮れ時に薔薇は踊り咲く(UC)を使用して戦いますわ
範囲攻撃で広範囲を攻撃し、避け辛いUCを放ち
マヒ攻撃や気絶攻撃で敵の動きを止める様に攻撃
鎧無視攻撃や鎧砕きも使用して、敵の装甲を破る様にしますわね
相手が背中を向けてきたら、蹴りに注意して
見切りや残像で避ける様に心がけつつ
避けきれない時は盾受けや武器受けで防御しますわね
偽葉が狙われたら、積極的にかばう様にし
かばう際も盾受けや武器受けで防御
防御が上手く行けばカウンター狙い
燈夜・偽葉
ローズさん(f04715)と参加します
ようやくここまで来たわけですが…何でしょう、あれ
竜…竜ンタウロス…?
まぁ強そうなのはいいことです
斬り甲斐がありますし
頑張りましょうね、ローズさん!
先制攻撃で高速詠唱から「剣は雨の炎」を全力魔法の一斉発射
武器落とし、鎧砕き、鎧無視攻撃も活用
呪詛によるマヒ攻撃も乗せてあげますね
背中を向けてきたら蹴りを見切り
タイミングを合わせてカウンターで手に持つ黄昏の太刀と念動力で操作する8本の刀を振るい、足を部位破壊します
防御はローズさんを信頼してお任せします
その足、貰っていきますね
捨てますけど
ローズさんとの連携を心掛けて
互いに補い合うように動きますね
●役目
口元の血を拭って立ち上がったアシドは、次いで現れた侵入者を睥睨する。
「……次は猫の妖精……であるか」
ぶおん、と槍を振り回すと、巨躯の鈍さを感じさせない速さで身構える。
「こいつ……バカデカい上に速いな
……!?」
少年型からくり人形、ヴァンの肩に乗りながら、ビリビリと感じる殺気にミント・ベルガモット(人形と躍る銀猫・f18542)の口元が緩む。
「……ははは、こりゃやべえかも……ああ、なんでか笑いがでちまうな……」
その言葉に、アシドの慧眼が瞬く。
「しかし、恐れをなして我に背を向けぬ、か。なれば良し……我が槍と対決願おう!!」
瞬間、アシドから迸った魔力の波動が周囲に変化をもたらす。それは、現れた猟兵との一騎打ちを臨む騎士竜のユーベルコードだ。薄板のような結界に包まれ、ミントはそれ以上後退できない。
「1対1か……!騎士道だかなんだか知らねえけど、こんなモンと決闘して勝てるかよ!」
「征くぞ!!」
それは、神速と膂力の籠もった一撃だ。まるで新幹線の突撃のように、目の前の猟兵をなぎ倒そうと迫りくる。
「くそっ……ヴァン!」
突撃と掛け声はほぼ同時だった。穿たれた空間にすでにミントはいない。軽やかな身のこなしによって翻るヴァンの背に乗って、アシドの攻撃を回避する。
「我が必殺の一撃を回避するとは……!」
「あっぶねぇ!!ヴァン、引き続き頼むぞ!」
それでも、超高速の攻撃に終わりはない。四方八方を切り刻む槍と剣の攻撃を、ヴァンはなんとか回避していく。
(……どうすりゃいいんだよ!)
あまりの連撃に、攻撃をする暇がない。煌々と瞬くアシドの両眼。迸る殺気。攻撃を回避するだけでも精一杯だ。
……いや。
「……そうか」
呟かれた言葉。ヴァンがミントの意志を汲み取り、結界の端まで待機する。
「逃げ場はないぞ、猫の妖精よ!!」
(オレが勝たなくていいんだ)
それは、確信に似て。
(一緒に戦ってる仲間がいるんだからな)
「終わりだ!!」
「オレはオレにできることをするだけだ!!」
擲った麻痺毒の投げナイフ。しかし、それをアシドは槍と剣で回避する。次いで投げられた閃光のボールは、アシドの剣によって両断された。
ミントへと槍が届く、その間際。
結界内に、全てを拘束するワイヤートラップが発現する。
「なに
……!?」
ピン、と張ったワイヤーが、アシドの動きを阻害した。眼前で静止した槍に、ミントがにやり、と笑う。
「後は頼んだぜ……!」
「「任されましたよ!」」
ミントの後方、その際の結界の壁にぴしり、と亀裂が入る。結界が崩壊、飛び退くように、遅れて現れた猟兵に場を譲る。
アシドへと疾駆するのは、2人の猟兵、ローズ・ベルシュタイン(夕焼けの薔薇騎士・f04715)と燈夜・偽葉(黄昏は偽らない・f01006)だ。
「ようやくここまで来たわけですが……何でしょう、あれ」
「すごい竜ですわね……!竜……?」
「竜……竜ンタウロス?まあ、強そうなのはいいことです。斬り甲斐がありますし!」
「いかだに乗って、大変な思いをしてまでここまで来たのです、ここで退く訳には行きませんわね!」
「ぐ……ぬ……!!このような糸など!!」
ぶちり、とアシドを拘束していたワイヤーが千切れ飛ぶ。こちらへと並んで突撃する猟兵2人にアシドの殺気が放たれた。
「さぁ、数多に咲き誇りなさい!」
ローズの武器が変容する。それは、黄昏に似た色を持つ花弁の蹂躙だった。拡散した薔薇の花弁は、アシドをその刃によって切り刻む。
「花弁の刃……!!こんなもの!!」
暴風を伴って、薔薇の花弁が槍の一薙によって散開、次いで、アシドは2人の猟兵へとその槍と剣を振り下ろす。
「ローズさん!」
一心同体、という言葉が相応しい。偽葉にコクリと頷くと、小型のラウンドシールドをその武器に対して構える。
強靭なる一撃が、盾と激突した。
恐るべき膂力を誇る一撃が、その小さな盾によって完全に防がれたのだ。驚きを隠せないアシドに、偽葉はローズの背後から再び駆け出した。
再び、ローズの薔薇が咲き乱れる。
そして。
「空に突き立て、空を焼き、空より来たる、それはきっと空の涙―――!!」
ユーベルコード発現の詠唱。空間が、ぐにゃり、と歪み始める。
それは、刃の豪雨だった。偽葉の回りのみではない、丘の周囲に顕現したのは、恐ろしい数の太刀と短刀だ。
「これ……は……!」
「ローズさん、行きますよ!」
「私も援護しますわ、全力で行きましょう!」
薔薇の嵐がアシドの鎧を斬り刻む。次いで、降り注ぐ短刀が、アシドの足も腕も、体全てを穿つ。
「我は……騎士の竜なり……!!これ、しき
……!!!!」
足を裂かれ、腕を裂かれ、槍と剣を壊されてなお、アシドは襲い来る太刀と短剣、そして薔薇の嵐を咆哮と魔力の波動によって防御し続けた。
砂塵の後に現れたのは、満身創痍で立ち尽くす騎士竜の姿だった。
「……我は、未だに立っている。立っているぞ、猟兵ッ!!!」
圧倒的な覇気を放つ。アシドは体中に絶大な裂傷を多いながらも、ゆらり、と静かに立ち上がったのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
斬崎・霞架
【SPD】
最後に一仕事あるようですね。
腕には自信アリ、と言う事でしょうか。
…ふふ、それでこそ甲斐があると言うもの。
川下りに霧の中と、そんなものばかりでしたからね。
まずは小手調べと参りましょうか。
(エンクローチの封印を解き前へ)
【早業】で攻撃を仕掛けつつ、相手の攻撃を【見切り】ましょう。
リーチの異なる二つの武器を十全に扱えるとするなら、間合いの隙は少ないかも知れませんね。
なら、対処できない速さで攻めるしかありません。
1対1にする結界ですか。
ええ、自信があるなら是非どうぞ。(【誘惑】)
…周囲を気にせずとも良い、と言うのは
こちらにとっても同じですよ。
(【力溜め】から全力の【忌み嫌われる厄災】を放つ)
●呪詛の渦
すでに勝敗は決している。そんな大怪我を負いながらも、アシドは眼前に現れた猟兵を認識する。
「最後に一仕事あるようですね」
「痩躯の男……我と斬り結ぶ覚悟あり、か」
鋭い眼光が斬崎・霞架(ブラックウィドー・f08226)を射抜く。そんなアシドに、肯定の意味で霞架は薄く微笑んだ。
「腕には自信アリ、と言う事でしょうか」
「我が騎士道、潰えず!さあ勝負だ、猟兵!」
再び現れた巨槍を構えると、アシドから輝きが迸った。目の前の猟兵との真剣勝負、そのために、騎士竜は再び結界を構築する。
「1対1にする結界ですか。ええ、自信があるなら是非どうぞ」
そんな挑発を受けて、アシドがグル、と竜の唸り声を上げる。
槍が空間を裂く。大怪我を物ともせず、裂傷を追う四肢を翻し、霞架へと突撃した。
「……ふふ、それでこそ甲斐があると言うもの。川下りに霧の中と、そんなものばかりでしたからね」
目の前から襲い来る死に、霞架は至って冷静だった。
「まずは小手調べと参りましょうか」
「我が槍に対して小手調べなど
……!!」
霞架が構えたのは、呪いに侵された黒の手甲『エンクローチ』だ。そこから伸びた触腕がうねり、呪詛を一点に収束させる。
「―――!!」
アシドが感じたそれは、怖気だ。死に対する恐れではない。純粋すぎる、何か得体のしれないものを知覚するときに感じる恐怖そのもの。
「一つ言っておきましょう。1対1にして頂いたのは僥倖ですよ」
エンクローチの先に収束する黒色の塊。ブレるように鳴動する漆黒の呪詛は、全てを侵す絶大の呪いとなって今まさに発現しようとしていた。
「周囲を気にせずとも良い、と言うのは、こちらにとっても同じですから」
収束、そして肥大。拡散。裂波と絶望の嵐。
空間そのものを食い潰すような呪詛の奔流が、何の制御もなしに解き放たれる。黒一色に拡散する腐敗と侵食の風が、襲い来るアシドへと降り掛かった。
「ぐ……ぬ……!!このような呪詛を無差別に解き放つ……など!!!」
「この地下空洞は素晴らしい景色でした。その景色が呪いに侵されるというのは喜ばしいことではありませんからね。結界を作って頂き感謝しますよ」
「ぐ……う……ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
呪いを槍で裂き、猟兵へと切迫する。呪いを裂き、大気を裂き、腐敗の風をその身に受けながら、この戦いに悠然と構える猟兵に一矢報いるために、アシドは巨槍を突きつけた。
轟!と、かき乱された大気。槍は霞架の数センチ先で静止した。
「……我が槍、呪いに押し負けるとは、な」
ずず、と槍が砂となって消失する。
「此度は、我の完敗よ……。また仕合たいものだな、猟兵」
風に乗って消えていく騎士竜の声が、地下空洞に静かに響き渡った。
●魔柱崩壊
猟兵の攻撃によって、クラウドオベリスクにヒビが入る。無数の亀裂を伴って、邪悪の方尖柱は崩壊した。
鳴り響いた轟音の後、静寂を取り戻した地下空洞には、穏やかな空気が流れていた。
冒険者たちが噂する宝は存在しなかったが、何者にも侵されないこの領域こそが、アックス&ウィザーズにとっての宝と言うべきだろう。
転移の輝きに包まれた猟兵は、この場から姿を消す。この美しい景色を帝竜の手から護るために、彼らは再び他の地を踏みしめる。
地下空洞に、清浄の風が吹き始めていた。
大成功
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