10
晩禍の贄

#UDCアース


●禁じられた儀式(あそび)
 この夏休みが終われば、あの子は遠くへ行ってしまう。そうなる前に、そうならない様に、神様にお願いしよう。
 教えて貰った通り、儀式(きせき)の材料はちゃんと揃えた。お兄ちゃんにも友達にもお願いして、終わったら返すって――嘘もついて。
 ただ、どうしても足りなかったアレだけは――お父さんの部屋からこっそり持ってきた別のアレで、数は揃えたんだ。それにその方が、綺麗だったし。
 あと少し――夕日がこの道を染めている間に、あの子を呼ばなきゃ。

「緊急の案件だ」
 グリモアベースの会議室、虻須・志郎が慌てた様子で集った猟兵達に説明を始めた。背後には大型のスクリーン――映し出された映像は寂れた三叉路、血の様な夕日、そして蝉の抜け殻。夏の風物詩と言えばそれまでだが、どこか尋常では絵面では無かった。
「偶然邪神――UDCを呼んじまう子供がいる。場所はどこぞの田舎の三叉路」
 それはスクリーンに映し出された場所。その三叉路の中心が、儀式の場所だという。見た所日本国内の地方都市であれば、似た様な造形は幾らでもありそうだった。
「予知じゃなきゃ場所の特定も出来なかった。それだけが救いだ」
 三叉路さえあれば手軽に邪神を召喚出来る方法らしい。対策は今後考えるとして、今回起こってしまうものはここで止めなければ――どこか別の場所でそういった事が起こってしまう可能性が生まれる故、確実に鎮圧しなければならない案件だ。
「で、その邪神を回収する為に悪い奴ら――敵のUDCが出てくる」
 つまりは連戦。だがそのUDCはどこから現れるか――そこまでは見えなかった。
「それがどうやって出てくるか迄は正直分からねえ。だが」
 確実に、それらをけしかけた奴が存在する。その黒幕が最後に現れるだろう。

「……見えない状況ばかりで済まねえが、一つとして残しておけねえ。放っておけば儀式の発生した地方都市一帯が、UDCどもに飲み込まれる危険がある」
 そして余り時間も無い。夏ももう終わりだというのに慌ただしい――しかし猟兵稼業は年中無休、そんな事も言ってはいられない。ではせめて、最初に召喚される敵の情報は見えなかったのかと誰かが尋ねる。その言に志郎は神妙な顔をして、知りうる限りの敵の情報をスクリーンに投影し始めた。
「今回、偶然呼ばれるUDCは特性として精神攻撃を仕掛けてくる」
 それは確かに厄介な……して、どの様な性質なのだと話は続けられる。
「罪悪感、約束、恋心――自身の中のそれらと対峙させられる。そしてそれを乗り越えなければ、奴を直接攻撃する事は難しい」
 それは『夏休み』に起因した、ある後悔の念が生み出した存在。そしてそれらの感情が湧かなければ、相手の姿を捉える事もままならない。つまり、攻撃が届かない。
「そのUDCにとって気になる存在になる事で、初めて具体的に姿が見えてくるらしい。少なくとも最初のUDCはそういう危険な奴だ――十分気を付けてくれ。あと」
 邪神を召喚しちまう子供は男女の小学生二人組だ。彼らも護ってほしいと加えて。

「相変わらず半端な話で申し訳ねえが、どうかよろしく頼む」
 ぺこりと志郎が頭を下げる。緊急案件故、殆どが現場判断となるだろう。深くまで見通せない自身への口惜しさと仲間への希望を抱いて――手にした蜘蛛の巣状のグリモアが青白く輝き、夏の残り香を引き連れて、門が開かれた。


ブラツ
 ブラツです。
 夏休みも終わりです。
 そんなお話のつもりです。
 アドリブや連携がOKな方は文頭に●とご記載下さい。
 特定の方と連携を希望される場合は何がしかの識別子をお願いします。

 第1章はボス戦『恋する蛹』との戦いです。
 このシナリオでは各属性の攻撃手段の前に、精神攻撃で動揺を誘ってきます。
 POWは罪悪感――己が秘めた過去、あるいは現在の罪の記憶と対峙させられます。
 SPDは約束――己が過去や現在に結んだ約束の記憶と対峙させられます。
 WIZは恋心――己が秘めた、あるいは秘めていた恋心と対峙させられます。
 再現した記憶は猟兵を責めたり、惑わす事で攻撃の機会を奪おうとしますが、
 記憶の内容と乗り越える手段を明記して貰う事でボーナス判定が発生します。
 特に記載が無い場合は、第一章において一切のボーナス判定が発生しません。
 余裕があれば保護対象の二人の子供(少年と少女。少年が実行犯)に、
 今回の儀式について聞いてみるのも良いでしょう。第2章以降に影響します。

 第1章のプレイングは8/28(水)8:30より募集を開始します。
 第2章以降は幕間情報をご確認頂ければ幸いです。各章からの参戦も大歓迎です。

 それでは、よろしくお願いいたします。
169




第1章 ボス戦 『恋する蛹』

POW   :    ばか、ばか、ばか
【心細くて泣きたい気持ち】から【虫取り網でぽかぽか殴る攻撃】を放ち、【罪悪感や切なさ】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    いかないで、わたしの気もち
【虫籠から飛び出した蝶の群れ】が命中した対象を爆破し、更に互いを【対象が拒絶すれば切れる赤い糸】で繋ぐ。
WIZ   :    ごめんねが言いたかったの
無敵の【あの子に好きになってもらえるわたし】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

 血の様な残照が道を赤く染めていく。
 人通りも、車も通らない様な寂れた三差路。
 道筋の街灯の光もまばらで、役割を果たしているとは言い難い。
 そして、その中心には、円を描く様に何かが順序良く配置されていた。

 一つ一つの大きさは手のひらに収まるくらい。
 その正体は蝉の抜け殻と、蝉の死骸。それらが互い違いに配される。
 よく見れば一部、蝉の死骸ではない――状態からしてチョウの標本だろうか。
 沈みかけた陽光を浴びて、鮮やかなチョウの羽が煌めいた。
 抜け殻と死骸、死と新生。輪廻を象った儀式か、だとしたら不足がある。
 この中には誕生が、無い。
 つまり、誕生するものはこれから――呼び出されるものがそれだとしたら、
 果たしてどのようなモノなのだろうか。

 規則正しく円周状に並べられた残骸は、まるで魔法陣の様。
 その魔法陣が、三差路の中心で血の様な光を浴びる。
『これで願いが叶うんだって』
 少年が言った。小学生くらいだろうか、その瞳に迷いは無い。
『願いって、何?』
 少女が尋ねる。少年と同い年くらいか、その手に人形を抱えていた。
『それはね……』
 不意にカタカタと残骸が音を立てて、小刻みに震動する。
 震動は更に大きくなって、残骸の中心が、その空間がぐにゃりと歪んだ。
 歪んだ空間から人影が現れ、風も無いのにひんやりとした空気を張る。
『……見つけた』
 誰? 少年が尋ねる。君が願いを叶えてくれるの?
『叶える? 違うわ』
 影が涼やかな声で返す。その響きは、この世ならざる者の様。
『叶えるのは、叶うのは――わたしの願いだもの』
 影から伸びるのは、巨大な虫取り網。
 その網が少年の顔を捉えようと、大きく振り上げられて……。



 転移完了。既に邪神は――UDCは召喚された後の様だ。
 少年と少女の安全を確保する為にも、眼前の敵へ直ちに向かわねばならない。
フィーナ・ステラガーデン

私の罪悪感?約束?恋心?そんなもの無いわね!

【フィーナの罪悪感リスト】
・健康診断身長測定で実は少し背伸びをした
・仲間猟兵の冷蔵庫のプリンに自分の名前をマジックで書いた
・依頼にて爆破した建物を敵がやったと言い張った
・スーパーの試食を全て平らげ、見つからないうちに逃げた
・家で待つ妹への自分の活躍報告は盛りに盛っている
・手持ちが少ない時に悩んだ結果、電車を子供料金で利用したことがある
・花壇のたんぽぽを食べた
・花壇のチューリップも食べた(球根が美味しかった)
・そしてそれを鳥のせいにした
・今も胸パットを着用している

叫び声をあげて【全力魔法、高速詠唱UC】で爆破して全部誤魔化すわ!
こいつ絶対許さないわ!



●三叉路の魔女
「私の罪悪感? 約束? 恋心? そんなもの無いわね!」
 虫取り網に火が放たれる。交差する道、燃える夕日を背にして現れた童顔の魔女、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)はいつも通りの調子で宣う。
『お姉さん……』
 影が揺らめく。いつの間にか燃える網は新品同様のしゃっきりした姿となって、再び大きく掲げられた。
「アンタ達! ここは危ないから早く逃げなさい!」
 道でへたり込む少年と少女を庇う様に前へ出て、花飾りの杖を構えるフィーナ。
『でも、君は』
「これでもアンタ達よりお・ね・え・さ・ん、よ!」
 心配する少年少女に、任せなさいと鼻息荒げて退避を促す。
『お姉さん、だけど』
 嘘つきね。呟く影がいつの間にか、大きな虫取り網でフィーナを捕らえた。

 ここはどこかしら。真っ暗闇――ああ、暗闇は嫌い。昔を思い出すから。
『お姉さんは嘘をついた』
 暗闇の奥から影――少女の声が響いてくる。どうやら敵の攻撃に囚われたらしい。だがこの位……力ずくで脱出してみせる。だが。
「――文字通り、封じ込めたって訳ね」
 炎が、魔力が出て来ない。呪文を唱えても力を込めても、何も起こらない。
『お姉さんは自分を偽った』
 ぐらりと視界が歪む。映し出された光景は、日常の些事……ささいな、小さな嘘の積み重ね。
『お姉さんは人を陥れた』
 それはいつぞやの依頼。あの時の爆発は……仕方が無かったのだ。
『お姉さんは人を泣かせた』
 花壇に咲く花を摘み取って、それすら空飛ぶ鳥のせいにした。
『お姉さんは嘘で出来ているの?』
 ――うるさい。視界が暗転する。元の風景、常闇の世界。その奥から聞こえるのは荒々しい悲鳴の様な吹雪。やめて、それ以上は。
『お姉さんは、そうやって……また偽るの?』
 吹き付けるのは雪だけではない。戦いの記録、戦いの記憶。そう、あの子にだけは――本当を伝えたくても、伝える訳にはいかない。
『ねえ、いつまでそうしているの?』
 そして最後に映るのは、一番最初の、血の記憶。
「いつまで、そうね――」
 あるいは、それが最初なのかすら……もう、分からない。
「いつまでも、よ」
 たとえ世界を敵に回しても、この思いだけは決して折れない。
「私の罪だって? 今更――数え切れるかっての!」
 瞬間、世界が業火に包まれた。

 三叉路の中心で火柱が立つ。ジェット噴流の様な業火が中心にいる影を焼き尽くし、アスファルトが溶けた様な焦げ臭さが辺りに広がった。
「こいつ……絶対許さないわ!」
 罪なんて誰もが抱えてる。私だってそう。償う事も出来るだろう。出来ない事もあるだろう。だから今は、背負って生きていくしかないじゃない。
「魔女を嵌めようとした罪、この場で償ってもらうわ」
 炎の魔女が吼えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

波狼・拓哉

ミミック、化け咆えな。あ、咆えるより先に子供達をその巨体で庇ってからね。咆哮は彼らをその背にしてからだ。…助けに来たのに巻き込むとか洒落にもならん。
自分は取り敢えず彼らの状態確認を優先。怪我とかしてないといいんだけど。後まあ…はっきり見せるわけにはいかんしなぁ…戦う部分はミミックに任せて自分はお話してよ。
罪悪感…まあないわけではないんだよね。なぜ俺が、自分が、私が、僕が。…探偵何て誰かの不幸を明かしてく時もあるからね。そういう声聞きながらも知らないの一言で片づけて進んで来てるし。
まあ、だからスタンスは変えない。例えそれが罪だとしても俺は全て糧として俺の存在意義として昇華して進むだけなんだ。



●探偵として
 目の前には地獄めいた火柱が立っている。その中心には『恋する蛹』――倒すべき敵が微動だにせず黒い影を映していた。
「――ミミック」
 波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)の左腕、黒水晶のブレスレットが肥大、展開し幻想的な巨竜が姿を現す。炎の手前で逃げ惑う少年少女を確認し、その前に巨竜を出す。寂れた三叉路、周りに身を隠す場所も無い。人通りが無いのは幸いだが、休耕地にゴミ捨て場か――いかにも、胡散臭い事が起きそうな場所ではあるな、と独り言ちて。
「子供達を守れ、咆えるのはその後だ」
 助けに来たのに巻き込むとか洒落にもならんと、拓哉の指示に無言で頷く巨竜。ばさりと翼を広げて子供達の前へ。そして火の粉から彼らを守らんと、火柱の中の影を睨みつけた。
『凄い……ドラゴンだ』
「凄いだろう。まあ、あんなモノを呼び出した君らも相当だけどね」
 そう言い影を見やる。炎の中の奴は相変わらず微動だにしない。そして二人とも幸い怪我は無い様だ。背後はミミックに任せて、二人が一体何をしたのか……それを聞くのが俺の役割だね。さあお話しようか、少年。
『呼び出した……違うよ! 願いが叶うって教えて貰ったんだよ!』
「へえ。それは一体どんな願いを? そして一体、誰に教えて貰ったんだい?」
 願いを叶える為の儀式、とでも聞かされていたのだろう。素人にその区別がつく訳が無い。恐らく願いは引き金だ。純粋な願いを悪用して、実態は悪しきものを呼び覚ます儀式――そんな所だろうかね。
『そうやって、人の心を傷つける』
 不意に声が頭に響く。澱んだ少女の様な声が。
『それが、お兄さんの罪』
 あの炎の中の奴……ちゃんと俺を見分けて、直接仕掛けてきたって訳か。ふと少年を見れば、俯いて何か口ごもっている。その様子を少女が心配そうに眺めて――時折俺の方を睨みつける様に。ああ、この目だ。真実を探ろうとすれば必ずぶち当たる、反抗の意志の目だ。
「なあ少年、伝えたい事があるならちゃんと言わないと」
 違う。そんな簡単な事じゃない……分かってる、分かっているけど。
『誰だって、言いたくても言えない事があるの』
 知ってるよ。それを問いただす事が罪だと言うのならば……俺にだって罪悪感が無いわけじゃないんだよね。だからこそ必要とされるんでしょう、俺みたいな奴が。故にスタンスは変えない。例えそれが罪だとしても、俺は全て糧として――俺の存在意義として昇華して、進むだけなんだ。
「そうだな。だから何だ? 俺は、探偵だ」

 頭に響く声に返す。この事件を終息させる、その為なら何だってやる。次に続く悲劇を止める為に。これまでだってそうさ……探偵なんて誰かの不幸を明かしてく時もあるからね。そういう声を聞きながらも『知らない』の一言で片づけて進んで来ているし。今更何を取り繕うというのだ。
「完璧とは程遠いかもしれないけど……それでも」
 なぜ俺が、自分が、私が、僕が。こんな事をしているのかって?
『絶対、誰にも言わないって約束する?』
「勿論、俺は探偵だ。依頼人の守秘義務は必ず守る」
 そうさ、守る為だ。何かを助けて救って進んで、明かされていく真実に道半ばで傷つく事もあるだろう。そんな時倒れない様にそっと守ってやるのが、俺の仕事だ。
『それは自己満足――』
「咆えろミミック、その虫を黙らせろ」
 瞬間、咆哮が影に放たれる。灼熱の炎獄の中、黒い影が爆ぜる。そして狂気が――狂気的な真実を追求する信念が、その存在に沈黙を齎す。
『めぐみちゃんが、夏休みが終わると、居なくなっちゃうんだって』
 その言葉に、傍らの少女が恥ずかしそうに少年を見た。
『だから、ぼくは――』
「ああ、大体分かった。それで十分だよ」
 だったら尚更許す訳にはいかないね。純粋な思いを利用した悪しき所業を。
『コーイチ君……』
 少女が、めぐみがコーイチと呼んだ少年の顔を見る。その表情からどうにも、いい関係ではなかったらしい。まあこの先幾らでも時間はあるだろう。その為にも。
「それで、一体誰に聞いたんだ。この……おまじないを」
 そんな思いを踏みにじったこの儀式、一体どんな奴が後ろで糸を引いているのかとコーイチに問う。しばらくしてゆっくりと、確かめる様にコーイチが答えた。
『……セーラー服のお姉さん』
『…………』
 その言葉にめぐみは手にした人形をまじまじと見つめる。そういえばこの人形は、何故当然のようにこの場にあるのだ。
「それは……」
 ああ、畜生。まさか――。
『お喋りは、終わりだよ』
 炎の中の影が囁く。ミミックの咆哮が繋いだ狂気も、狂気存在には効果が薄かったのか、奴は自由を取り戻したらしい。それでも有用な情報は手に入れた。

 偽りの儀式。
 行かないで、と願う心。
 一緒にいたい、という恋心。
 セーラー服のお姉さん。
 不穏な人形。

 だが今は、彼等の安全が優先だ。お喋りはその後でもいい。
「悪いが終わりじゃあないんだ。終わりはお前だよ」
 さあ化け咆えろミミック、真実を解き明かす為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イデアール・モラクス

嗚呼…恋心…そう、私はヒト(命と感情を持った生物全てを私はそう呼ぶ)が愛おしくて堪らない…誰も彼も恋しい!

・恋と掠奪
「喜怒哀楽、色とりどりの魂と…その器たる肉体が私は愛おしい…」
叩きつけられる精神攻撃に促されるまま答えながら攻撃準備。
UC【色欲の触手】を『全力魔法』で数を無数に増やした上で『高速詠唱』を用いて素早く召喚、『範囲攻撃』で同時に多方向から嗾け対象を絡め快楽漬けにする。
「嗚呼、だから私は全てを奪う!力づくで!心のままに奪い尽くすのだ!」
拘束したら触手で穴という穴を『串刺し』にして『属性攻撃』を用いて先端から電撃を流して『傷口を抉って』体内から焼きながら噛み付いて『吸血』だ。



●魔女達の饗宴
「クク……盛大にやっておるではないか」
 眼前で燃え盛る火柱をうっとりと眺めて、イデアール・モラクス(暴虐の魔女・f04845)が呟く。どう見てもアレはアレだ。いつも通り勇ましく、美しいアレ。
「それに……嗚呼……恋心……」
 自らを抱きしめながら、一歩、一歩と火柱の中の影に近付いて。
「そう、私はヒトが愛おしくて堪らない……誰も彼も恋しい!」
 クク、と笑みを含んで影に問いかける。お前もそうなのだろうと。
『お姉さんも、恋をしてるの?』
 飛び散る火の粉を払い、その声の主へとイデアールが距離を詰める。
『わたしもね、好きな人がいるの』
 ゆらりと影が形を変えて――少女ではない、麦わら帽子を被り、白いワンピースを纏った清廉な美女がイデアールの前に姿を現した。途端、視界が暗転する。
『だけどお姉さんには……絶対にあげない』

「フン、小娘が粋がるか……それもまた一興」
 大した呪いだ、と変貌した空間を一瞥。黒の中に映える白が舞う。手にしたハンドバッグを無造作に振り回し、その一撃が地面を抉り、衝撃を放つ。
「それがお前の思いの結晶か。成程……美しいな」
 涼しげな顔をしていても魂は灼熱。誰かを虜にする為に磨き上げた理想のわたし。込めた思いが威力となって、闇の中で魔女を追い詰めた――かに見えた。
「喜怒哀楽、色とりどりの魂と……その器たる肉体が私は愛おしい……」
 愛おしいのだ。その存在、思い、行い、何もかも。イデアールの頭上に血の様な色の魔法陣が――そこから、にゅるりと薄紅色の触手が這い出る。邪悪にして淫蕩の悪魔、このモラクスの眷属たる色欲の触手は、無垢なる白を塗り潰さんと悍ましい肢体をずらりをわたしの全身に這わせる。
『ああ……これは、何なの』
 振り回したハンドバッグに絡みつき、四肢を舐める様に締め付けて――その数を無限に増やす大小様々な触手の群は留まる事無く、頭上の帽子を跳ね除け、抱きしめる様にその頭をゆったりと覆う。
「悦びの悲鳴を上げろ、貴様とて女ならば」
 媚薬めいた甘い香りを嗅がされて、理想のわたしは力なく膝を付いて。
『嫌、いやよ……違うもの』
 こんなのじゃない。わたしの好きな人は……。
「――往きつく先はこの果てよ。その覚悟も無く」
 恋を語るか。これだから! 嗚呼!
「嗚呼、だから私は全てを奪う! 力づくで!」
 この甘露を! 失くしたかつてをありのままに!
「心のままに奪い尽くすのだ!」
 触手から海月めいた毒棘が飛び出して、わたしにぽっかりと空いた心の穴を埋め尽くす。最早理想は崩れ去り、闇の帳は晴れて、そこには思いの残滓だけ、がらりと姿を変えて残された。

「まだそんな所に隠れているつもりか」
 それにこんなに熱いと……体が火照る。
『……どうして』
 不意に火柱が消える。ぐつぐつと煮えたぎるアスファルトはまるで溶岩の様。それすら、震える蛹の一睨みが、周囲の空間を凍てつかせて。まるで噴火口の様に抉れた三叉路の中心から、もうもうと蒸気が立ち上る。
『どうしてこんな、酷い事をするの?』
 確かにアレは酷い事をした。この暑い中こんな大技を放つなんて正気の沙汰とは思えない。うん。本当に酷いアレだ。
「酷い? クク……違うな」
 違うな――この小娘は、汚された理想のわたしに憤っているのだ。
「その強欲が招き寄せた災厄を棚に上げて、成程……お前の方が余程、罪深い」
 ならば続きをしよう。再び理想が形を成す前に。ひゅんと風を切って、イデアールが虫籠の上の蛹の後ろに回り込む。
「その罪の味、啜らせて貰おうか」
 蛹の肩口にそっと手を回し、優しく抱き寄せるイデアール。最早逃れる事は叶わない。顎を開き、覗くのは深淵の様な闇と、刃の様な鋭い牙。
『やめ……』
 嗚呼、矢張り――思いを固めた過去の残滓。その純度は語るまでも無い。燃える様な恋心を注ぎ込んで、見返りに氷菓子の様な甘い思い出に喰らいつく。
「……その純粋な思いをもっと早く、解き放っていれば」
 こんな呪いになる事もなかったろうに。なぁ。
 口元から零れる血を拭い、魔女は悠々とその場を後にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

茜谷・ひびき

こいつらは騙されたみたいだが、後でキッチリ反省して、言いたいことを言ってもらうか
そのためにも生かして帰してやらねぇと

現場についたら子供達の前に立ってUDCの注意を引くぜ
向き合うのは……きっと罪悪感だ

俺の故郷はUDCに潰された
そんで家族も友達も皆死んだ
だけど俺は生き延びて……戦う事を選んじまった
死んだ家族は、俺が戦う事を望まないのは分かってる
爺ちゃんや婆ちゃんも俺がこんな事してるって知ったらきっと悲しむ
でも、このまま全部忘れるのも許せなかった

だから俺は今ここに立ってる
お前らみたいな奴をぶっ倒すために
そんで俺みたいな目に遭う奴を一人でも減らすために
その覚悟を示すべく、UCを使って全力でぶん殴る!



●戦う理由
「どうやら、騙されていたみたいだが……」
 悪気は無かったんだ。後でキッチリ反省して、言いたいことを言ってもらうか。その為にも、必ず生きて帰してやらねえとな。まだ火柱が煌々と燃え盛っていた時、茜谷・ひびき(火々喰らい・f08050)は救助された二人の子供の前に立ち、決意を新たに悪意を睨む。恐らく奴が仕掛けてくるのは――。
『嘘つき』
 精神攻撃――人ならざる少女の声だけが響き、空間が明かり一つ無い漆黒に塗り潰される。替わりに現れるのは、俺の過去を盗み見て、俺自身を弾劾するのは罪科の記憶。その一つ一つが映画の一場面の様に空間へ溢れ出て。
『お兄さんが戦うのは、あの子たちの為じゃないでしょう?』
 悲鳴がサラウンドで響く。フィルムが真紅に染まる。この世ならざる者達の跳梁。こうして俺の故郷はUDCに潰された――そんで家族も友達も、皆死んだ。
『だったらどうして、戦うの?』
 だけど俺は生き延びて……戦う事を選んじまった。組織に保護されて、戦う力をこの身に刻まれる。花のような朱色の曼陀羅図が胸元に――これが俺の抗う力の源。どうしてこんな事をしたのかって? それはこのまま全部忘れるのも許せなかったから。あの時何も出来ずに、沢山の命が目の前で消えていった事を、無かった事になんて出来なかったから。再び場面が切り替わる。映し出されるのは、これまでの戦いの記憶。
『そうだね、でも……』
 異形と化した右腕が邪悪を屠る。咢を砕き、鱗を削いで、地獄が全てを薙ぎ倒す。戦って、戦って、戦い続けて――それで死んだ人達が戻るわけじゃあない。死んだ家族だって、俺が戦う事を望む訳が無い。爺ちゃんや婆ちゃんも俺がこんな事してるって知ったら、きっと悲しむだろう。そんな事は、とっくに分かっている。
「それでも、戦うしかない……俺みたいな目に遭う奴を一人でも減らす為に」
 自己満足、復讐心、何とでも言えるさ。だけどこの思いだけは――本物だ。それが罪だというのならば、望まれぬ戦いを続ける事が俺の罪ならば、最後まで背負って立ってやる。
「お前らみたいな奴をぶっ倒す為に、俺は今ここに立ってる」
『じゃあお兄さんはわたしの事、やっつけるの?』
 ふと、悲しげな声が聞こえた。少女の――蛹の姿が目の前に。それが最後の質問。そうやって邪神(あくま)を殺して平気なの? と。
「ああ、やっつける。終わらせてやるさ」

 覚悟は出来ている。目の前のそれが何だったのかは最早どうだっていい。今やるべき事、生きている俺が成すべき事は、過去の残滓が現在(いま)を呑み込む事に否を突き付ける事。胸元の刻印が熱を帯びて、血管めいた真紅のラインが右腕を奔る。変容し異形と化した右腕。地獄の様な熱量がちりちりと神経を焦がして、全身から陽炎が揺らめき立った。
『わたしも、あの子を信じる事が出来ればよかったのかな』
 ふと蛹が漏らす。それは彼女がかつて成し得なかった現実への後悔だろうか。
「知らねえよ。ただ俺は、逃げたくなかった」
『そう……なんだ』
 行くぜ。漆黒の中で真紅が爆ぜる。突き出された拳が、虫籠ごと蛹を彼方へ吹き飛ばす。直後、漆黒に白い亀裂が――ひびきを捉えた空間がバラバラに砕け散って、目の前の火柱はいつの間にか消えていた。
「ハァ……ハァ……」
 血の巡りが悪い。右腕に喰われた分を補うべく、止むなく輸血パックに穴を開けてその中身を啜る。
「あの子達は……よかった、無事だな」
 背後の少年と少女は目を見開いて猟兵の戦いを刮目している。くるりと身を返せば、火柱の中心だったクレーターめいた三差路の中央には俯いたまま座る蛹の姿が。ダメージが響いているのだろうか、動き出す気配はない。
「……そうだ、俺は」
 そして守る為に戦うんだ。
 例えこの身を犠牲にしても、世界をお前達には渡さない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三千院・操

恋とは厄介なものだ。ただの感情に過ぎないのに、時に世界を壊し神をも縛る。
あぁ、そうだ。俺は恋をしてしまった、そして愛そうと思ったんだ。『三千院操』という名の神の如き才を持っていた彼を。

けれど彼は世界に飽いてしまって、俺に己を『壊す』ように頼んだ。
結果、なんの才能もない『操』が彼の欠片から生まれて、一族は死に絶えた。

これは、俺が消し去ったはずの恋の記憶だ。

「世界に飽きてしまった」
「ここらで一つ、リセットしよう」
三千院の言葉を思い出す。
散歩に出かけるかのような口調で、あの男は自殺を願った。

──まったく、無作法にも程があるね。
【指定UC】を発動。あの男の欠片は俺の中に、君が触れていいものではない。



●グラウンド零
 恋とは、愛とは――惑う蛹の思考にノイズが走る。私が犯した罪、受け入れ難い罰、なのにあの人たち――猟兵はそれすら受け入れる。真実がどんなに残酷でも。
『……わからないわ』
「だろうね」
 三千院・操(ヨルムンガンド・f12510)は爆心地めいた三差路の中心にふらりと現れた。普段の明朗快活な表情とは程遠い、異様に落ち着き払った声色で震える蛹に語り掛ける。
「恋とは厄介なものだ。ただの感情に過ぎないのに、時に世界を壊し神をも縛る」
『お兄さんも、そうなの?』
 あぁ、そうだ。俺は恋をしてしまった、そして愛そうと思ったんだ。操の――〓〓〓の脳裏に思い浮かぶのは、在りし日の恋慕の情。
『わたしはもう、あの子には会えないから』
 そういうとわたし――蛹は己の現身を作り上げる。それは虫籠の上で俯いている蛹とは対照的に、笑顔を振りまき爆心地を中心にぐるぐると走り回る。
『分からないの。本当は何がしたかったのか、欲しかったのか』
「知らないままでいた方が、良い事もある」
 彼は世界に飽いてしまって、俺に己を『壊す』ように頼んだ。そんな願いを叶えてやらなければ、俺は今もこんな思いを抱き続ける事も無かっただろう。あるいは彼がそうしていたかもしれない。世界すら巻き添えにして。

「知った故に本当に欲しいモノは、もう――」
 結果、なんの才能もない『操』が彼の欠片から生まれて、一族は死に絶えた。
『お兄さん?』
「それが」
 それが、俺が消し去ったはずの恋の記憶だ。もし彼が骸の海に眠っているのなら、今すぐにでも手繰り寄せたい。そして世界を滅ぼすというのなら共に肩を並べて蹂躙しよう。世界を救うというのならこの身を賭して、遍く過去を駆逐しよう。立ち塞がるモノが邪神だろうと三千院だろうと猟兵だろうと何もかも、君の為に俺はあるのだから――共に居たいのだ。それだけで良かったのに。
「それが罪だとしたら、君は何を望んでそうなった?」
 否、俺の為の君か――最早その答えは分からない。そして眼前の少女めいたオブリビオンは、男の問いかけにゆっくりと口を開けた。
『……わたしもあの子と一緒に居たかったの。だけど喧嘩して、それっきりで』
 だからもう一度、お話をしたかっただけなのよ。蛹が続ける。消え入りそうなか細い声を絞り出して、精一杯の思いを吐露した。
「喧嘩は良くないな」
 もっと正直に、互いに言葉を交わしていれば変われたのかもしれない――『世界に飽きてしまった』などと宣った彼とも、違う結末を迎えられたのかもしれない。
『ねえ、もっと知りたいわ。お兄さん』
 いいや、そんな都合のいい事がある訳が無い。幻想だ、曖昧な妄想だ。彼はそんな計り知れる様な存在では無いのだから。そうしてゆっくりと目を瞑れば、操の周りにぱらぱらと紫陽花の花弁が舞う。
「いや、ここまでだ、お嬢さん」
 お喋りの時間は終わりだ。あの男の欠片は俺の中に、君が触れていいものではない。こうもがっついてくるとは――全く、無作法にも程があるね。風が吹いて、少女が花弁に包まれる。
「ここらで一つ、リセットしよう」
 三千院の言葉を思い出す。
 散歩に出かけるかのような口調で、あの男は自殺を願ったのだ。

 後悔、慚愧、失恋――ネガティヴな感情が渦巻いて、己の中身を侵食する。まだ早かった、いいや――時期だった。ひらひらと舞う花弁はいつの間にか少女とその現身をぽっかりと失くす。偽りの幻想が還る時、再び骸の海への道は開かれるのだろうか。
「せめて、次は悔いの無い人生を」
 誰に放った言葉かは分からない。独りでに口を突いて出たその言葉が、がらんと取り残された虫籠に浴びせられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ


さて、子供の安全も確保したし。
私は私のすべきことをしましょうか。

罪悪感、か。
……そうね。
この剣で、拳で。
戦場で敵を屠る度に、そういう感情は湧かないでも無いわ。
例え、その敵がオブリビオンだったとしても。
私の両手は血に塗れて、歩んできた道は屍を積み重ねたもの。
彼らの可能性を潰してきた道の先に、今の私が居る。

……で、そんな解りきった事がどうかしたの?

私はこれまでの私の歩みを全て肯定して、受け入れているわ。
成功も失敗も、善も悪も。
勿論、ここまで積み重ねた罪も。
だから、罪悪感に囚われて歩みを止めるなんて無駄なことはしない。
そんな暇があったら前を向いて歩み続ける。
そして、立ち塞がるモノは打ち砕くだけよ!



●愛の輪郭
 蛹は姿を消して、残された虫籠の中でハート状の何かが煌々と輝いている。
「――あれが敵ね」
 さて、子供の安全も確保したし。私は私のすべきことをしましょうか。荒谷・つかさ(風剣と炎拳の羅刹巫女・f02032)は鬼瓦を腕に嵌めて、その輝きへ近付いていく。最早爆心地のような地形を難無く飛び越えて、辿り着いた先には啜り泣く少女の声が聞こえた。
『――来ないで』
「いいえ、行くわ」
 途端、強風がつかさを襲う。巻き上がる瓦礫が視界を塞ぎ、咄嗟に両腕で顔を覆う――再び目を開いた時は、漆黒の闇の中だった。
「これが、そうなのね」
 ぼう、と明かりが点いて。その中に映し出されるのは、つかさの過去の記憶。これまでの戦いの記憶が、人魂の様に浮かび上がり、呪いの声を上げていた。
「――罪悪感、か」
 ぼそりとつかさが呟く。広がる過去との邂逅は、あの時の血の匂いまでも鮮烈に呼び覚ます。痛めつけられた身体、焼け焦げた髪に血の滲む双眸。どれ一つとっても、容易ならざる相手ばかり。今まで良くも生き永らえたものだと苦笑して。
「そうね。この剣で、拳で……戦場で敵を屠る度に、そういう感情は湧かないでも無いわ」
『だったら、どうして』
 どうして戦う事を止めないの。あなた達は皆そう。分かっていて、それを止めない。罪も愛も、全部受け止めて、それで終わろうとは決してしない。
「私の両手は血に塗れて、歩んできた道は屍を積み重ねたもの」
 例えその敵がオブリビオンだったとしても、彼らの可能性を潰してきた道の先に、今の私が居るのだから。決してそれで終わる事など、無い。
「生きる事はね、諦めない事よ。私にとっては――あなたはどうだった?」
『わたし? わたしはもう死んじゃって、今のわたしは、わたしじゃあないの』
 呪いの声を上げる人魂が消えて、虫籠に囚われた魂が姿を現す。それはまるで、後悔という罪に捕らわれた囚人の様だった。
「ふーん……で、そんな解りきった事がどうかしたの?」
 つかさが問う。これはオブリビオン、そんな事はお互い承知の上だ。それでも尚、わたし――蛹は己の在り様に拘りを見せる。まるで滅びよりも『あの子』への執着が勝っているかのように。
『わたしはあの時喧嘩をして、本当はそんな事したくなかったのに。ずっと待っていれば、きっとあの子が来てくれるって思っていたのに』
「その子が来なかったから、あなたはそういう存在になったのね?」
 多分、そう。だけどあの子が――あの子が好きだから。嫌いになりたくないのに、今のわたしはそれを許してくれないの。
「ああ、そう……」
 こういうのは多分、ひかるの方が得意だろう。私だったらコレで全て解決してしまう。実際大体そうなのだから仕方が無い。だがこの魂めいた存在にコレは最早無い。私に出来る事なんて、何があるのだ。

「――私は私の歩みを全て肯定して、受け入れているわ」
 ならばせめて言葉を紡ごう。生憎諭すなんて柄じゃあないけれど、私が思う儘の全てをこの存在にぶつけるだけならば――。
「成功も失敗も、善も悪も。勿論、ここまで積み重ねた罪も」
 私は覚えている。あなたはどう? つかさが再び問う。この魂は決して救えないだろう。ここで消し去っても、次に現れる時があれば全て忘れてしまう。その名(オブリビオン)の様に、何もかも。
『わたしは……あの時のあの子の事しか、分からない』
 分からないの。それが、わたしの罪なの? 震える魂がつかさに返す。
「それを決めるのはあなたよ。たとえ罪だとしても……私だったら、罪悪感に囚われて歩みを止めるなんて無駄なことはしない」
 それに、とつかさが続ける。微動だにしない揺るぎない意志――それこそが私の償い。この先果てるまで終わる事の無い、戦いの記憶。
「そんな暇があったら前を向いて歩み続けるわ。あなたはどうしたいの?」
『わたしは、あの子に会いたい。会ってお話したいわ』
 だったら、お喋りは終わりだ。罪との対面が出来たのならば、後は罰を受けるだけ。鬼瓦を両腕に嵌めて、虫籠の目の前で中段の構えを取るつかさ。矢張り最後はコレに限る。この拳がせめて、刹那でも救いを齎せるなら……躊躇いは無い。
『……他の誰がどうとか、もういいの。囚われていたのは、わたしだったのね』
 魂が薄紅色の輝きを増して、虫籠の隙間から溢れんばかりの光が漏れる。
「そうよ。だから立ち塞がるモノは、打ち砕きなさい」
 次があればね。深く息を吸って放たれた一撃が――檻の様な虫籠を砕いた。

 罪悪感は己を縛るものではない。己を規定するモノかもしれないが、決してそれが全てではない。恋心はあくまできっかけだ。その先の形が如何様な物であろうと、その純粋さは決して色褪せないし、汚されない。
「あなたは……お仕舞いよ」
『そうね。でも……行きたい』
 消え入る迄の僅か、わたしはあの場所へ――わたしがまだわたしでいられた、最後の場所へ、いきたい。既に暗黒の帳は消えて、血の様な夕日も沈みかけている。
「止めるわよ」
『……ごめん、無理。だって』
 わたしはもう、消えるから。嗚呼……間に合わなかった。でも。
『……ここで終われて、よかったかも』
 ふわりと晩夏の香りがつかさの鼻孔をくすぐる。魂は――蛹は殻を破り、蝶となって、虚空へと溶けていく。
「……結局、何がしたかったのよ」
 偶発的に呼び出されたとはいえ、その理由は大体察しがついている。全く――傍迷惑な恋煩いだとつかさは嘆息した。
「それに、これからなんでしょう」
 夕日は沈み、真っ赤な月が煌々と頭上を照らし始めた。
 ここから先は、夜の時間だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『偽りの自由を手に入れた人形』

POW   :    存在を代価に願うもの
自身が戦闘で瀕死になると【邪神と再契約をし、ボロボロになった自身】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    略奪をもってしても得られぬもの
技能名「【盗み攻撃】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
WIZ   :    手に入れたものを捨ててでも手に入れたいもの
【自身の動く体の一部】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【邪神の加護をさらに増した形態】に変化させ、殺傷力を増す。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

※プレイング募集期間は幕間後にお伝えいたします。
 
●チャイルド・プレイ
 蛹は蝶となり虚空へと消えた。第一の災厄は去ったのだ。
『あの……』
 陽は沈み、空には赤い月が昇る。時刻が夜に差し掛かった最中、保護された少女がおもむろに口を開いた。
『ええと、今言わなきゃいけないと、思って』
 そういえば、探偵の猟兵からこの事件の発端を聞いていた。ここにいる少年がセーラー服の人物に儀式を教わり、ここで実践したと。だがその儀式は潰えた筈だ。不安そうな眼差しで、声を上ずらせたまま少女は続ける。
『わたしも、もらったんです。その……セーラー服の、お姉さんに』
 矢張り――探偵が危惧していた儀式の続きが、そこにあった。 
 人形。見た所単なる女児向け玩具の様だ。アイドルの様な意匠を纏って、キラキラとした瞳が輝いている。
『これを……渡されたんです』
 ずいと差し出されたそれは、否――人形は少女の腕を振りほどいて、突如走り出したのだ。あの戦いの爆心地へ向かって。
『まダ、まダよ。今ならまダ間に合う!』
 うわ言の様に奇怪な声を振り撒いて、関節をあらぬ方向へ曲げて人形が疾駆する。
『儀式ハ終わってなイ! 儀式ハまダ――今ならまダ、間ニ合う!』
 血の様に赤く染まった月明かりの下、爆心地に悲鳴が木霊する。それは人ならざるモノの声。深淵への入り口めいた漆黒の大穴に、再び溶岩の様な光が灯り。
『既ニ門ハ開かれタ! アの邪魔者ガイなけれバ――!』
 ぬらりと、影が続々と姿を現した。それはあの人形と同じ様な、がらくたの集団。純粋な思いを力とし、死と新生の魔法陣が門を開き、呪われた人形が触媒となって――邪神の眷属が続々と穴を這い上がる。
『コれで、後は――お前達だけだ、猟兵』
 奇声が重苦しい声に変わる。儀式は成された。這い上がった人形達は各々が人間大の大きさとなり、更に歪な姿へ変貌する。見る者が見れば分かる、人形を依り代にした邪神降霊術。降ろされたモノは、オブリビオンは――かつて倒した敵の残滓だ。

※敵は依然戦った覚えのあるオブリビオンの姿(但し即席の儀式の為、その姿はノイズ交じりの不完全なものです)をしています。指定があればその敵の姿に、指定が無ければゾンビめいた人形の姿となります。かつての戦闘経験を生かせればプレイングボーナスとなります。
※敵の攻撃方法は『偽りの自由を手に入れた人形』に準じます。

※プレイングは9/4(水)8:31より募集致します。
波狼・拓哉

心当たりあり過ぎというかノイズ交じり過ぎてどいつかわかんねぇ!
えー…いやまあ、オブリビオンに対する反応とかうるせぇ死ねしかやったことねーけど。まあ、どいつでもいいや。記憶にある限り焼いて死ななかったやつはいないし焼いておこう。
(箱状態のミミックを掴んで投擲)ほれ化け焦がしな?あ、味方は気をつけてね。あの炎無差別だし。
自分は取り敢えずいつも通り封殺するだけですよっと。衝撃波込めた弾で相手の武器ぽいの撃って攻撃逸らしたり、武器落とし狙ったり、攻撃の出掛かりに撃って行動阻害したり、何か召喚されれば早業で撃ち込んで消滅させたりと向こうの自由にはさせない。いつも通りミミックに暴れ回って貰うだけですよ。



●地獄めぐり
「――心当たりあり過ぎというかノイズ交じり過ぎてどいつかわかんねぇ!」
 それもその筈、波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)のこれまでの戦いの軌跡は尋常ではない。猟兵の本格的な活動開始と共に、優に100を超える対UDC作戦に従事し、その全てにおいて生還している。
「まあ……どいつでもいいや」
 現れた人形のUDCは虫の様な、石像の様な、爬虫類の様な、正体不明な……ざらりとしたヴィジョンに覆われて、それらが何を降ろされたかなど――最早気にしている場合ではなかった。
「ほれ、化け焦がしな?」
 黒水晶の箱――ミミックを穴より這い出る敵の集団に投げ込む。こいつの得意は無差別攻撃、がちゃりと姿を変えたミミックは文字通り炎そのものとなり、数多の人形を焼き尽くす。そうだ、何を降ろされたモノであろうと所詮は人形。燃やしてしまえば関係ないのだ。

「さて、大人しく喰らってくれよな……」
 自分は取りあえず、いつも通り封殺するだけだ。衝撃波を込めた弾丸が敵の出端を押え込み、手にした武装を地面へ落とす。ミミックの炎へ反撃を試みる人形へ、早業でその攻撃を潰す――攻撃の主役はミミックだ、俺はあくまでサポート……これまで通り、一つ一つ確実に潰していけば、そんなに面倒な相手でも無い。
「っと……大丈夫だよな?」
 少年と少女は上手く逃げだしているだろうか。この炎は本当に危ないから――逃げ惑う人形を早業で始末しながら、周囲の安全を確認する。焼けたセルロイドめいた鼻を衝く臭いが周囲に立ち込め、折角冷え始めた辻は再び業火に晒されて……最早現世が地獄か、どうなのかすら区別がつかない様相だ。
「約束、しちまったからな」
 依頼人は必ず守るって。不意に炎の中から黒い影が、尋常では無い速度で躍り出た。
「だからさ……」
 そして、それに気づかぬ拓哉ではない。フックの付いたロープを投げ込み、その影を瞬く間に捉える。
「ここから逃す訳には、いかないんだよね」
 ブンと拓哉が腕を振るえば、人形は再び炎の中へ。勢い余ってその腕がもげても――最早大した影響も無いだろう。何を盗ろうだとか、どんな邪神を降ろそうだとか、炎は全てを焼き尽くすのだ。
「だから、ここでお終いだ」
 全ての悪意を呑み込んで、赤黒い火柱が地獄の様に煌々と燃えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

荒谷・つかさ


・敵の姿
先の戦争で対峙した『一耀の羅刹『アラヤ』』

(変化した姿を見て)
……ふうん?
なるほど『そういう奴』なのね、お前は。
こういう形で、こんな直ぐに再戦する事になるとは思わなかったわ……ご先祖様。

さて。
『本物』と同様、一振り九連の魔刃が来るなら、真っ向から見切って打ち合いに持ち込むわ。(見切り、武器受け)
あの時は初見だったけれど、あれと同じ太刀筋ならばもう覚えたもの。
九連受けきったタイミング、そこに僅かながら隙があるのもね。

そのわずかな隙に納刀し、即座に【荒谷流抜刀術・神薙の刃】発動
居合で吹き飛ばしつつ再び納刀、更に再発動しての剣圧の刃で追撃し再契約及び召喚の隙を与えず一気に倒すわ



●神薙の剣
「……ふうん? なるほど『そういう奴』なのね、お前は」
 炎を逃れた一人の人形と対峙して、荒谷・つかさ(風剣と炎拳の羅刹巫女・f02032)がぼそりと呟く。
「こういう形で、こんな直ぐに再戦する事になるとは思わなかったわ……ご先祖様」
 敵の姿はエンパイアウォーで戦った、一耀の羅刹『アラヤ』そのもの。
 手にした傘は太刀となり、薄紫と薄紅色の着物を纏った武人の様に見えた。
『…………』
 しかし武人は黙して語らない。手にした太刀を正眼に構えたまま、ジリジリとつかさの方へ間合いを詰める。
「いいわよ、何度だって止めて見せる」
 そう約束したんだから。暁を八相に構え、つかさも一歩、一歩と前へ出る。相手がご先祖なら、繰りだしてくる技は凡そ見当がつく。ならば狙いは、あの一撃――否、九撃。
 ごう、と風が吹く。煤けた残骸が僅かに視界を塞いで……瞬間、武人が手にした太刀が、九つの切先に増えたかのように見える程、高速の連撃でつかさを襲う。
 対峙したつかさもその連撃を見事なまでの合わせ技で、一つ、一つと捌いていく。九耀の鏖殺は既に、つかさの手の内にあるも同然だ。打ち込み稽古の様に綺麗な手捌きが、漲る殺意を流れる様に躱していく。
「それにね……お前の打ち込みは、踏み込みが甘い」
 所詮仮初の器、偽りの人形だ。剣の重みも、技の冴えも、宿る魂すらもあの時とは比較にならない程……弱い。
「それで荒谷流開祖を降ろしたなどと……悪い冗談だわ」
 一閃、九つ目まで完璧に封殺したつかさが回し蹴りを喰らわせる。そして。
「来なさい、何度でも止めてあげるわ」
 その偽りの剣を、私の力を以てして。

『……!!!!』
 武人の人形はこの世ならざる奇声を上げたと共に、自らに再び何かを降ろす。それは同じく一耀の羅刹か……あるいは別の何かか。
「そうやって安易に力を得ようなどと……我が一族にあるまじき行いよ」
 故に下すわ、神罰を。
『!!!!!!』
 武人は再び太刀を上段に構えて迫る。しかし刹那、いつの間にか納刀した暁から剣閃が煌めく――抜刀術。達人によるその初速はライフル相当ともいわれる。では猟兵ならばどうだ――既に尋常ならざる筋力が抜き放たれた剣圧で武人を――人形の動きを封じる。そして既に、その身体は断たれていた。
「我、神をも薙ぐ刃也……!」
 くるりと手首を返して二の太刀、先の剣筋と交差する様に――人形はバツの字に切り裂かれ、地に伏せた。
「手合わせありがとう……二度と戻りませんように」
 そして再び暁がパチリと納められて。
 地獄の炎を背後に、武人の魂は再び骸へと還っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

茜谷・ひびき

即席とはいえ儀式は成功しちまったか、しょうがねえ

敵の姿は……『マガツアリス』だったか?
温泉の防空壕で見たやつ、あれに見える
偽物とは分かってるが、もう一度見るのはいい気分がしねぇな
……でもここで頑張らないと、この子達もああいう事になっちまうかもしれない
だから、絶対にぶっ飛ばす

敵の事は瀕死にさせず、出来るだけ素早く倒す事を意識
もう一度刻印を起動して、【怪力】で相手を掴んでUCだ
相手を上手く掴めたならば複数体を巻き込むようにぶん回す
出来るだけ弱ってる部分を見極めて【鎧砕き】するように意識したり、【傷口をえぐる】事を意識して一体一体確実に潰す
もし復活されたなら、その個体から優先的に撃破しようか



●禍ツ依代
 まるで先の戦いの様に、噴き出る炎の中から異形が続々と姿を現す。炎の勢いに抗えず崩れ落ちるモノもいるが、それを耐え抜け出したモノ達も続々と数を増やしていた。
「――即席とはいえ儀式は成功しちまったか、しょうがねえ」
 既に戦闘態勢、茜谷・ひびき(火々喰らい・f08050)は己に刻まれた呪いを血で呼び起こす。敵の姿は……『マガツアリス』だったか?
「温泉にいた奴か――偽物とは言え、もう一度見るのはいい気分がしねぇな」
 ゆらりと、人形にヴィジョンが纏わりつく。甲虫を思い起こさせる邪神の眷属、生体兵器でもあるマガツアリスの姿がはっきりと輪郭を形作る。
「でもここで気ぃ張らねえと、この子達も――」
 脳裏に過ぎるのは金属質のカプセル内で邪神と“融合”させられていた人々の姿。そんな事、絶対にさせる訳にはいかない。
「だから、絶対にぶっ飛ばす」
 解放された朱殷の刻印が、ひびきの全身を茜色に染めた。

『…………!』
 それは突然だった。ふらふらと徘徊する怪人がいきなり宙を舞う――ひびきの超常で投げ飛ばされたのだ。投げられた先は這い出た元の炎の中。灼熱の獄炎をかろうじで抜けた所を、また戻されて無事でいられる保証はない。炎がセルロイドの依り代を再び溶かし、その異変に気付いた怪人の一群がひびきに殺到する。
「そうだ……こっちへ来い!」
 手に付いた煤を払い、続けて迫る怪人が鉤爪を振り上げ両翼から潰しに掛かれば、その腕を奪い振り回す。そして再び炎の中へ――足を止め呆気にとられる怪人を、続けて両腕で腰を抱えて大きく投げ飛ばす。投擲は原始的なれど、幾多の戦場を制圧した最大の物理攻撃の一つ。空中で自在に動けねば、為す術も無く炎の中へとくべられていくだけ。
「……ちょこまかと、邪魔をするな」
 背後に裏拳、顔面が破裂し崩れ落ちる怪人。足を踏み付け、頭突きで崩れた頭部を抉る様に腕を突っ込み、脊椎を引き出す。情け無用、これ以上の地獄を広げてなるものか。ひびきの八面六臂の迎撃は、溢れる怪人を瞬く間に無力化――元の骸へと化していった。
 瀕死にさせず、出来るだけ素早く倒す。出来るだけ弱ってる部分を見極めて、確実に叩き潰す。これ以上、己の様な犠牲者を出さない為に。人の心を踏み躙る悪をのさばらせない為に。事態は終局へ傾きつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

イデアール・モラクス
【PPP開発室】
なかなかイイ執念だ、喰い甲斐がある!

・敵
人造フェアリー『ヘレン』

・戦術
UC【使い魔召喚】で使い魔ヘレンを呼び出した上で自身に『全力魔法』を用いて【身体能力を向上させ飛行能力を得る魔法】を付与、魔剣ドミナンスで斬り込む。
「ヘレン、お前の弱点は生来の怠け癖から来る…鈍さだ」
敵の攻撃を左手から『高速詠唱』で放つ無数の【魔法弾】『一斉射撃』による相殺や魔剣の『武器受け』で防ぎながら、『属性攻撃』で刀身に長大な業火を纏わせた魔剣の『範囲攻撃』で『なぎ払い』、『串刺し』にして『傷口をえぐり』『吸血』し『生命力吸収』し敵を滅する。
「よく見ておけよ、自分がヤられるところをなァ!」

※アドリブ歓迎


フィーナ・ステラガーデン
【PPP開発室にて参加】
ぽんぽこぽんぽこと呼び出してくるわね!

(以前戦った降りしきる雨の中、嵐を呼ぶ翼を持つ暴竜の残滓と
イデアールの蝋と触手と花嫁との「ヘレン」が現れる
二匹描写が難しそうであればヘレンだけでも大丈夫です)
またなんかほんのり懐かしいのが出てきたわね!
そっちの妖精は見たことがないわ!
イデアールが本物の妖精を呼び出すみたいだし動きを参考にしたいわね!
アドバイスがあるなら聞きたいわ!

んー、でもなんか不完全な感じね?
っていうわけで竜を呼ぶわよ!竜!
触手とかけしかけてきたら【属性攻撃】で焼き払って援護するわ!
そこのノイズっぽい妖精をきりきり舞いにしてやるのよ!

(アレンジ、アドリブ等々大歓迎



●危険なペアと泡沫の骸
「ぽんぽこぽんぽこと次から次へと呼び出してくるわね、もう!」
「クク……流石に敵がマグロの群れを召喚するとは恐れ入ったぞ」
 出てきてすぐ照り焼きになったわよ、全部! と依り代の人形が呼び起こされている炎を一瞥したフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)、ようやく鎮火したのにまた燃えたのは私のせいじゃないとむくれつつ、イデアール・モラクス(暴虐の魔女・f04845)に揶揄われながら、敵の出現に備えて炎を注視する。
「まあ……マグロだったからよかったけれど」
 これがかつて対峙したあんなのやこんなのだったら、只では済まなかったかもしれない。溜息をつくフィーナとは対照的に、イデアールはニヤリと笑みを浮かべる。
「では……これで最後か」
 見れば炎より這い出た影が二つ、腕を突き出し千鳥足で二人へ向かうその影は、突如鋭敏な動きになって――姿を変える。
 一つは、小柄で愛らしくも無気力な妖精に。
 一つは、大柄で見るからに恐ろしい暴竜に。
「クク……誰かと思えば、なあ。ヘレン?」
 満面の狂笑を上げるイデアール、その背後にはいつの間にか一対の翅を生やした妖精の美少女が浮かんでいた。ヘレンと呼ばれた妖精が、面倒そうに頷いて。
「貴様、なかなかイイ執念だ、喰い甲斐がある!」
 その姿は、眼前で浮かぶオブリビオンと瓜二つだった。
「またなんかほんのり懐かしいのが出てきたわね! って!」
 咆哮を上げた巨竜が翼を振るえば、辺りに熱風が巻き起こる。
「図体だけは一丁前だけど……何か不完全な感じね?」
 本来ならば炎ごと消し飛ばす嵐を呼ぶ暴竜は、不完全な依り代に、加えて既に消し去られた記憶そのものが自身の力を弱めていた。
「イデアール!」
「……何だ?」
 かつての宿敵を前に、不敵な笑みを隠さない友人へフィーナがその名を呼ぶ。
「どうする!?」
「どうするって……決まってるだろう」
 かつてと同じ相手と戦うのだ、何かいい考えがあるならば――だが、そんな事を考えるだけ無駄なのだ。こういう時、やる事は一つしかないのだから。
「返り討ちだ、あの時の様にッ!」

 最初に動いたのは敵の妖精だった。気だるげな表情のまま、空中に血の色をした無数の魔法陣を――先の戦いでイデアールが出したものと同じ――浮かび上がらせて、蠢く悍ましい物体を、触手の群れを解き放つ。
「クク、また同じ……相変わらず学習しない輩だな、貴様は」
 空間を歪ませてイデアールが魔剣を右手に取る。真紅の刀身がギラリと妖しい光を放ち、背後のヘレンが魔力を纏わせれば、イデアールは冠された“支配者”の名の如く弾丸の様に飛翔して、並居る触手をなます斬りにした。
「全く気色悪いのがわんさかと……って、こっちに飛ばさないで!」
 とばっちりを受けてぼとぼとと降り注ぐ触手の残滓を払うべく、フィーナが輝く魔方陣を空中に展開する。呼び出されたのは同じ巨大な暴竜の霊――その羽ばたきが目の前の紛い物とは比較にならない暴風を巻き起こし、暴れ狂う偽りの巨体を拘束した。同時に偽りの妖精も翅を絡め取られて、くるくると宙を舞う。所詮紛い物、真にその力を宿した二人の超常をもってすれば、そもそもが比較にならない相手なのだ。
「その生来の怠け癖から来る、鈍さが命取りだよ――ヘレンッ!」
 偽りの妖精はあくまでもだるそうな表情を崩さずに、暴風にその身を絡め取られたまま触手を放ち続けて。それはイデアールの全方位から絶える事無く迫りくる――しかし、その全てが遅すぎた。
「よく見ておけよ、自分がヤられるところをなァ!」
 イデアールが左手を翳せば、無数の魔力の塊が機関砲の様に放たれて触手を蹂躙する。千切れて弾け飛んだ諸々はフィーナの暴竜が巻き起こす嵐に呑まれて、哀れ塵芥と化した。そのまま切り込んだイデアールが魔剣を再び振るえば、刀身に纏わせた長大な業火が魔法陣ごとその尽くを打ち砕き――目の前には身動きの取れない妖精だけが取り残された。
「――さあ、再びのお仕置きだ」
 魔法陣を抉り砕いた刀身がそのまま、囚われの妖精を拘束から解き放つ。
『……コロ……シテ』
「いいや、駄目だ」
 鋭い牙が妖精に喰らい付く。貪る様にその血を――依り代の精気を取り込んだイデアールは残った残滓を放り投げた。貴様の魂は私だけのものだと言わんばかりに、無造作に炎の中へ。
「さあ、残りはアンタだけ。さっさと還りなさい!」
 偽りの妖精の消滅をその目に納め、フィーナが吼える。暴竜も吼える。打ち砕くべきは偽りの竜。血を喰らうまでも無い――その力は既に我が身に宿されたのだ。
「このまま灰燼へ――」
 杖の花飾りからぼうと巨大な火球が形成されて、竜の羽ばたきがその威力を増幅する。炎の嵐が偽りの暴竜を呑み込んで、そして。
「ハハッ! 斬り足りなかったのでつい、な」
 イデアールが手にした魔剣の刃が、そのまま竜の首を獲る。炎が竜だった依り代を包み込み――宣告通りの灰燼が嵐に吹き飛ばされた。

「これで、今度こそ終わりね!」
 いつの間にか依り代たる人形が召喚されていた炎はフィーナの竜の羽ばたきで掻き消され、魔力の篭った陣は既に、その効力を失った。
「クク……まだ終わってなど無いぞ、フィーナよ」
 フィーナの勝鬨にイデアールが水を差す。それもその筈、この事件はまだ、首謀者たる黒幕が姿を見せていなかった。
「いるんだろう、出て来いよ――黒幕とやら」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『月蝕』

POW   :    静かの海
【ナイフ】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    熱の入江
【身体を腐食させる劇物】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    善良の湖
技能名「【見切り】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●赤い月
『人間の感情はこの上ない素材だ』
 コツン、と靴音が響く。煤けた空間は今や闇夜に包まれ、天井には血の様な赤い月が煌々と光を放っていた。それにしても、おかしい。この違和感は一体。
『何より容易に手に入って、後腐れも無い』
 そうか――今日は月蝕ではない。この月の色は明らかに異常なのだ。コツン、と再び靴音が響いて。
『どうせ消えてしまうのだからな。なのに……』
 徐々に近付く声に合わせて、コートを羽織ったセーラー服の少女が俯いて姿を現す。それはこんな蒸し暑い夏の夜に、余りにも場違いな格好だった。
『何故だ、たった一つのイレギュラーがこうも状況を狂わせる!』
 少女は、少女の姿をしたそれは少女の声と中年男性の声が入り混じった奇怪な声色で激昂した。それはこの儀式が――邪神召喚の儀式が失敗に終わった事を暗に示していた。
『何処で見誤った、何処で――そうか、あれか』
 ぶつぶつと呟きながら何かに気付いたように、少女が面を上げる。
『過去の記憶も感情の残滓ならば成程、今度はこれを使えばいい』
 人の感情を素材に怨念の篭った媒介をもって、輪廻の輪を歪める儀式でこの世ならざるモノを現界させる。その目論見はヒトという素材の不確定さが要因となって失敗した。ならば確定的な別の素材で代替すればこの儀式はまだ、使える。
『ん? オブリビオンとて本能だけで動いているわけでは無いだろう』
 オブリビオン――過去の残滓が、過去の想念そのものを素材とすれば、この儀式で増幅する事で、より上位の存在を呼び出す事も可能だろう。それに過去は変わらない――幾らでも、代わりを用意出来るのだ。
『ならば、そっちを使った方が手っ取り早い。それだけだ』
 それに沿った過去を持つオブリビオンを用意出来れば――儀式は再開できる。そんな事をさせるかと猟兵達が身構える。その様子を見て少女が不敵に口元を歪めた。
『お前達は限りなく過去に殺されるんだ、諦めろ』
 諦めるのはお前だ。ここでお前を倒せば、この儀式の事は“次のオブリビオンには継承されない”のだから――。

※『月蝕』はあらゆる技能で猟兵の技能攻撃を相殺してきます。
※『月蝕』を倒すにはユーベルコードを当てて攻略して下さい。
※少年と少女は先の戦いの最中に職員に保護されました。気にせず結構です。
※プレイングは9/9(月)8:31より募集致します。
茜谷・ひびき

ごちゃごちゃうるせーな
関係ない子供達まで巻き込んで
面倒くせぇな、本当に
殺されるのはお前の方だよ

再び刻印を起動して今度は【ブレイズフレイム】だ
右腕を切り裂いて炎を出したなら、絶えず放出させつつ敵へと接近する
ナイフが見えるから接近が危険なのは分かってる
けど、こいつのやり口は本当に気に入らねぇ
一発入れてやらないと気が済まないんだ
【覚悟】を決めて前に踏み出す

仮にナイフで攻撃されても【野生の勘】で致命傷は避けよう
むしろ身体でナイフを固定してやるくらいの心積もりで
上手く接近出来たのなら、紅蓮の炎をこいつにぶち当てる!
拳が当たらなくても、全力で炎を飛ばしてこいつを燃やす
さっさと燃えて、骸の海で反省しやがれ


波狼・拓哉

…オブリビオンって本能だけで動いてるほうの方が多くないかな。いやUDCアースのは特に。大体正気ないですからね!!!
さてと…取り敢えず衝撃波込めた弾で牽制ぎみに撃ちますけど当たる気がしませんね!まーそういときはミミックに全て託すだけですけど。
それでは化け喰らいな。『かみ』殺せ。見切られようと関係ないね、いくら見切ろうが避ける余地ないくらいの物量なら問題なしと。…影だから物量ってのもおかしな話かな?まあ動き止まれば自分の弾も当たって効果が出るとは思うんだけど…あ、ミミック『かみ』切ってもいいよ。そっちの方がはやそうだし。


鵜飼・章


人の心は面白いよね
けど簡単には手に入らない
僕自身がその証明

誰って?
敢えて名乗るならきみを殺しに来た人だ
あと恋する蛹なら死んだよ
あの子は…
蝶になる事を選んだ
もう素材には使えないだろうね

後悔している訳はないし
罪滅ぼしのつもりもない
ましてや恋心なんて全く
僕はただの約束を破る酷い奴
でもね
酷い奴だから、何となくきみを殺します

きみも相当酷い奴だろうけど
僕は下手な笛を吹くだけで勝てるよ
きっと

きみはどんな動物が好き?
そう
一番好きな動物は『なりたい自分』なんだって

僕はね
人間って動物が好き
【無神論】
彼女の好む動物を呼んであげる
過去はなりたい自分になれないもの

可能なら少年達に会って帰りたい
アイスの一本でも手土産に


イデアール・モラクス
【PPP開発室】
ほぅ…ほう!
これは驚いた、不完全な儀式でこれほどのモノになるか!
フィーナ、これは楽しいぞ、我らの全力が出せる相手だ!

・行動
「これは生半では通じまい、しかし我らは猟兵…埒外の存在なのだよ!」
中途半端な攻撃などせぬ、敵の攻撃を『属性攻撃』で炎を纏わせた魔剣ドミナンスで斬り払い『武器受け』して『薙ぎ払い』身を守りながら己が魔力をひたすらに練り上げ、高め…
「技じゃない、理屈じゃない、これがユーベルコード…決まった結果へと世界の理を捻じ曲げる力だ!」
そして放つは必中の定められたUC【絶殺武刀】。
「過去が未来を超える事は出来ぬ、時の階段は決して引き返せない、それは神ですらな」

※アドリブ歓迎


荒谷・つかさ
「過去」に殺される、ね。
ねえ、それって……私の筋肉より強いのかしら?

技能を潰されるのなら、技能を使わなければいいだけ
つまり今必要なのは、圧倒的なパワー……筋力ね

【超★筋肉黙示録】を発動し、無造作に近寄る
敢えて先手はあげましょう
何故なら「ナイフに筋肉が負けるわけがない」からよ(自分自身へ「言いくるめ」)
まあ大威力を謳うからには刺さるくらいはするかもしれないけれど、それが何?
刺さったなら無敵の筋肉を収縮させ、ナイフを固定して抜けなくして捕まえるわ

そのまま適当な所……理想は顔面か首、厳しそうなら腕でもいいから鷲掴みにして
そのまま握力で握り潰すわね

技能が使えなくても、筋肉さえあれば大体何とかなるものよ


フィーナ・ステラガーデン
【PPP開発室】
何よあんた。暑くないのかしら?
まだまだじめじめ暑いわよ?
服を見るに学生かしら?わかるわよわかるわよ
そうやってコートとか着て格好付けたい年頃なのよね!
でもナイフはだめよ!その刃物じゃあんたの未来は切り開けないわ!
さあ、お姉さんに貸すのよ!
って、え?ああ。あれオブリビオンなのね!
さあ勝負よ!!

じゃあまずは手始めに【属性攻撃、ジャンプ、空中戦、範囲攻撃】で
様子を見てみるわ!
全部返されてからなーんとなく技能が効かないってわかったので
それならと敵の攻撃に合わせてアイテム「深淵のブラックオニキス」を起動させるわ!
まだナイフが来るならUCね!焼き落としてやるわ!
(アレンジアドリブ大歓迎!)



●晩禍の贄
「ほぅ……ほう!」
 赤い月明かりの下、イデアール・モラクス(暴虐の魔女・f04845)は感嘆の声を上げる。目の前にはセーラー服の異形――月蝕が、剥き出しの殺意を猟兵に向けて、凄まじき形相で睨みつけて来ていた。
「これは驚いた、不完全な儀式でこれほどのモノになるか!」
「っていうか何なのよあんた。暑くないの?」
 セーラー服にロングコート、晩夏の夜に明らかに場違いな恰好の月蝕へ、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)呆れながら言葉を返す。
「まだまだじめじめ暑いわよ? 中二病で熱中症だなんて余りにも不幸だわ」
『戯れ言を――常夜より来た者がそんな心配などしなくて良い』
 それは触れ得ざるフィーナの過去。挑発めいた口調で月蝕は口元を歪める。
「そんな口調で、そうやってコートとか着て格好付けたい年頃なのよね!」
 ため息交じりに、されど言葉尻に怒りを露わにしてフィーナは続けた。
「――でもナイフはだめよ」
 お姉さん的にそれは無しだわ。杖を握る手に力が篭る。
 瞬間、真紅の炎が月蝕に向かって弾け飛んだ。

 炎の連弾が月蝕を包み込む。同時にイデアールの魔剣から、真紅の炎が一直線に伸ばされて――眩い刀身が正面から月蝕を両断するかに見えた。しかし。
『それが、どうした?』
 音も無く張り巡らされた気と魔力の壁が炎を防ぎ、手にしたナイフが魔剣の物打ちを受け流す。先のオブリビオンを焼き尽くし蹂躙せしめた魔女の鉄槌は、にべもなく防がれた。圧倒的な防御――イデアールの言う通り、これが儀式で得られた力なのだろうか。眷属の召喚と引き換えに、漏れ出た魔力場が月蝕に取り込まれ、この場においての戦闘力を極限まで高めている事が感じられる。
「ハハッ……フィーナ、これは楽しいぞ、我らの全力が出せる相手だ!」
「なーんとなくそんな感じね。だったら焼き落としてやるわ!」
 空気の焼けた臭いが鼻を衝く。再びの詠唱――たかだか一撃で留まるわけが無く、二人の魔女は再び研いだ爪を月蝕へ向けて放たんとした。
「これは生半では通じまい、しかし我らは猟兵……埒外の存在なのだよ!」
 イデアールが再び魔剣に魔力を込めて、炎が長大な刀身を形作る。しかし二撃目など撃たせるかと月蝕が間を詰めれば、フィーナが漆黒の宝石に力を込めて漆黒の宝石盾が形成する。二人の間に割って入ってその攻撃を受けるが――月蝕のナイフの尋常ではない切れ味は、瞬時に宝石の盾を真っ二つに両断した。
「何なのよあのナイフ! よく切れるティーンエイジャーかしら!?」
『フン――心の力を転じた我に、貴様ら如きの力が通ると思うな』
「心ね……そもオブリビオンって本能だけで動いてるほうの方が多くないかな?」
 月蝕が腕を振り上げフィーナの息の根を止めんとした刹那、無数の影が割って入る。それは超常――波狼・拓哉(ミミクリーサモナー・f04253)のミミックが姿を変えて、嵐の様に月蝕へと殺到した。併せて拓哉が鮮やかな銃で衝撃波を放てば、それを躱さんと月蝕が再び魔力の盾を展開する。
『分かるまい、オブリビオンではない貴様らにはな』
「はぁそうですか……まあUDCアースのは特に、大体正気ないですから」
 のらりと詭弁を躱して、影の群が群狼の様に月蝕を追い立てる。矢張り衝撃は無効か……それでも、十分だ。ミミックは対象を噛み/咬み/神/守/皇/神 殺す。その威力で動きを封じさえすれば、幾らでも勝機は見いだせるさと口元を歪めて。
「――アンタみたいにね。そのまま『カミ』切れ!!!」
 影の群が月蝕の自由を封じると共に、鋭い牙を突き立てる。その動きに続けてイデアールの魔剣が再び月蝕を狙う。すかさずナイフがその動きを見切った様に捌いて、踏み込んだ月蝕がイデアールの懐へ。その動きを止めんと、ミミックが転じた無数の影が再び月蝕を取り囲み自由を奪う。一進一退の攻防、美女が影と円舞曲を踊る様に、くるくると辺りを飛び回って。
「さあ、化け喰らえ」
『させるものか、幾ら頭数が増えた所で――!』
 月蝕が叫ぶ。群がる影をステップで避けた瞬間――稲妻を纏った無数のサーベルが、月蝕の全身を貫いた。稲妻が月蝕へと纏わりついてその動きを封じ、サーベルの反りが斬り付けた全身より鮮血を跳び散らす。
「技じゃない、理屈じゃない、これがユーベルコード……決まった結果へと世界の理を捻じ曲げる力だ!」
 それはイデアールの超常――零距離でミミックに動きを封じられた月蝕へ、無限の剣を解き放つ。ただの攻撃が効かぬのならばユーベルコードを使えばよい――単純明快にして最も強烈な一撃が、月蝕の膝を地に突かせた。
「貴様は死ぬ運命だ。逃れる事は叶わん」
『フフ……確か、に。だが』
 流れ出た血を拭い月蝕が不敵な笑みを浮かべる。
『その因果を……歪めるのが』
 既に破壊された儀式場が再び冷たい光を上げて。
『骸の輪廻より外れし、この外法』
「イデアール! あいつまだ動くわ!」
 咄嗟にフィーナが炎を放つ。傷を負ってゆらりと立ち上がった月蝕を炎が包む。しかしそれも、一陣の風が瞬く間に吹き消して――黒い影が健在を誇示する様にすっくと立ちあがった。
『心を喰らい定めを覆す、未来(あす)の希望を過去(きのう)の怨嗟で塗り潰す』 迸る魔力が月蝕の周りに火花を散らして、一度殺された異形は再びその目に昏い光を湛えた。
「凄いね、本当に――人の心は面白いよ」
 不意に声が――これまでいなかった者が戦場へと姿を現す。
「けど簡単には手に入らない。僕自身がその証明」
『誰だ、貴様』
 苛立つような声色を月蝕が上げれば、声の主が涼しく返した。
「誰って? 敢えて名乗るならきみを殺しに来た人だ」
 鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が顔色一つ変える事なく、殺害の行使を宣言した。

『殺しに来た、だと?』
「そう。僕は酷い奴だから――何となくきみを殺します」
 どんな儀式だろうと、呼び出されたものが何であろうと、後悔している訳はないし……罪滅ぼしのつもりもない。
「僕はただの約束を破る酷い奴」
 ましてや恋心なんて全く――ただ、何となく。あっさりとした章の物言いに月蝕が苛立ちの声を上げる。儀式の否定どころか『そんな事に意味は無い』と言わんばかりの傲岸な口調に、己の全霊を賭した唯一無二の秘策を証明せんと、漲る殺意を抜き身の刃の様に全身から放って。
『笑わせるなよ小僧――焼け爛れて殺されるのは、貴様だ』
 ぞわり、と空間が歪む。月蝕を中心に鼻を突く劇物臭が広がって――津波の様な硫酸が円を描いて猟兵を飲み込まんとした。しかし。
「……そこよ」
 無数の光条が舐める様に酸の津波を焼き尽くす。光の渦が津波を飲み込んで、止めどなく溢れる劇薬を尽く灰塵へと帰す。その光はフィーナの超常――ありとあらゆるものを灰へと還して、辺りにはわずかに抉れた大地のみが残された。
『炎……いや、熱線か。だが――!』
「何度やっても無駄よ。そんなんじゃあんたの未来は切り開けないわ!」
 ニヤリと口元を歪め、圧倒的な魔力の奔流を続けて放つフィーナ。巻き起こる光の暴力をステップで躱しながら、手にしたナイフを腰溜めに構えて月蝕がフィーナの元へと駆け抜ける。
『未来だと? 言った筈だ、貴様らは過去に殺されるのだと!』
「『過去』に殺される、ね……」
 その行く手を影が塞いで、不意に手を伸ばした月蝕のナイフを飲み込んだ。
「ねえ、それって……私の筋肉より強いのかしら?」
 否――影はその肉体でナイフを受けたのだ。しかし血の一滴も流れず、慌てて切先を抜こうと力を込める月蝕は、その時異変に気付いた。
『抜け、ない……!?』
「このセパレーション、数えてみなさいよ」
 荒谷・つかさ(風剣と炎拳の羅刹巫女・f02032)のアイソメトリックスは、鍛え上げた超常のバルクは尋常ならざる殺意すら無為へと帰す。殺意の篭った一撃を受け止め、鍛え上げた肉体と超常を以てそのまま封じ込めたのだ。
『何故、だ……』
「何故なら『ナイフに筋肉が負けるわけがない』からよ」
 それこそが筋肉の黙示録、自己暗示と自己鍛錬が現実を超える人類の到達点。
「クク……新時代の幕開けだ!」
「プロポーションお化け!」
「正気じゃないね!」
「凄いね、仕上がってるよ」
 声援を受け更に盛り上がる筋肉はそのまま、肉体に食らいついたナイフを、込めた圧力でバキンとへし折った。
「私の背中に神は宿る……」
『理解出来ぬ! 何なのだ貴様らは!』
 激昂し恐怖した月蝕がナイフの柄を放し猟兵達と距離を取る。
「ごちゃごちゃうるせーな、テメェ」
 そして怒りに燃える新たな猟兵が、戦場へ姿を現した。

「関係ない子供達まで巻き込んで――面倒なんだよ、本当に」
 茜谷・ひびき(火々喰らい・f08050)が既に右腕を紅蓮の炎で包んで、じりじりと月蝕へ距離を詰める。その色は静かに怒るひびきの心の内の様。傷を負って血と炎を吐きだしながら、一気に駆けだし辺りに闘志を撒き散らす。
『ならば早々に……終わりを迎えるがいい』
「ぬかせ、終わるのはお前の方だよ」
 対峙して攻撃を受けんとナイフを――アレは折られた――辺りに転がるコンクリートだった鋭い物体を手に取って、月蝕が迎え撃つ。
「思ったより雑な奴だな、あんた!」
 熱で円錐状に変性した塊を突き出す月蝕、それすら意に介さず前進を続けるひびき。噴き出した炎が全身を舐める様に覆って、地獄めいた熱気が改めて戦場を焼き焦がす。
『馬鹿め、自分から近付く奴があるか』
「それでも――一発くれてやらないと、気が済まねえんだよ!」
 例えナイフの一撃を貰おうとも、こいつのやり口は本当に気に入らねぇ――刺し違えてでも、紅蓮の炎をこいつにぶち当てる! 大地を蹴り上げ飛び掛かったひびきを迎え撃たんと、円錐状の塊を突き出して半歩踏み込む月蝕。その塊を拳で捉えて、纏わりついた紅蓮の炎が月蝕へと乗り移る。
『貴様、死ぬ事が怖くないのか……!?』
「怖えよ。だがな、あんたみたいな奴を放っておく方が――もっと怖え!」
 熱を受けて脆くなった塊を拳で砕く。乗り移った炎が舐める様に月蝕を焼いて、そしてひびきの渾身の一撃が、月蝕を彼方へ吹き飛ばした。

『まだだ……何度だって、理を歪めて……』
「ああ――その事なんだけど、恋する蛹なら死んだよ」
 辛くも炎を払い、地に伏せたまま声を上げる月蝕へ、章が無情にも告げる。
『死んだ、当然だろう……オブリビオンは』
「話は最後まで聞こうよ。ね」
 あくまで静かに、月蝕を悟らせるように淡々と言葉を紡いで。
「あの子は……蝶になる事を選んだ」
 その言葉と共に、色とりどりの無数の蝶が、ゆらりと章の背後に現れる。
「だから、もう素材には使えないだろうね」
 蛹は――堀さんはもう、ここにはいないのだから。せめて最後に彼女が好きだったろう彼等で、黄泉路を飾ってあげようか。
『……ならば、貴様らを倒した後で、他を探せばいい』
 それでも月蝕は諦めない。まだ自身は潰えていないのだ、ここを抜け出せば幾らでもやり直せる。
「うん。でもね、それも無理」
 そんな事が許されるわけが無い。終わった過去が今をやり直せるのは、未来を望み今を生きる者達だけ。
「きみはどんな動物が好き?」
『貴様――ふざけているのか』
「……一番好きな動物は『なりたい自分』なんだって」
 ちなみに僕は人間が好きだ。きみは何になりたい?。
 オカリナの音色が戦場に響き、群がる色取り取りの蝶が月蝕を覆い尽くした。

「過去が未来を超える事は出来ぬ、時の階段は決して引き返せない、それは神ですらな
 腕を組み消えゆく月蝕を眺めたイデアール。重ねられた思いが偶然にも呼び起した邪神を思い返し、その純粋な思いと眼前の歪みを並べて、口元を歪める。
「まあ、狂った思いが壊れたプレーヤーみたいに、同じだけど違う事を延々と繰り返してるんでしょうけど」
 蛹や月蝕がどうしてそうなったかなんかはどうだっていい。似たような連中とは何度もやり合ったのだから……また出たら同じ様に止めるだけだと、拓哉が溜息をつく。ひんやりとした風が辺りを抜けて、空では月が白い光を放っていた。

「ねえ、君たちはちゃんと――」
 ちゃんと、何だ? まあいいや。手にしたアイスを保護した少年と少女に渡して、章は続ける。
「――好きなら好きって言って、その手を離しちゃだめだよ」
「バ……それを直球で言うか!?」
 狼狽える少年少女を横目に、ひびきが突っ込む。多感な年頃だ――言葉一つ取り違えば望まぬ結末だって起こしかねない。
「大丈夫さ、肝心な記憶は消しちゃうんだ」
「だから! そういう所が!」

「……なーんか盛り上がってるわね」
「まあ、筋肉さえあれば大体何とかなるものよ」
 そうじゃないでしょ! と自信に満ちたつかさにフィーナがため息を吐く。
「冗談よ。まあ大丈夫でしょう――あの行動力」
「うん。未来は切り開くのは、そういう心の力なんだから、多分」
 大地を明るく照らす白い月を見やり、フィーナが輸血パックを吸う。
「今宵は月が綺麗ね」
 晩夏の夜風が、猟兵達を祝福する様に柔らかく肌を撫でた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月14日
宿敵 『恋する蛹』 を撃破!


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース


30




種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鵜飼・章です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ショコラッタ・ハローです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト