●幼い絶望
―――ヒーローになりたかった。それだけなのに。
どことも知れぬ牢屋の中、虚ろな瞳で部屋の端で共食いするドブネズミを虚ろな目で見つめ、少年、タクヤはそう独り言ちた。
きっかけは些細な、いや驚くべきことだった。小学校からの下校途中だった彼は、帰る道すがら、何やら妖しい人影の集団が少女を車に押し込もうとしている様を見つけたのだ。
ヒーローになれる、つい最近放映されたばかりのヒーロー映画を見たばかりの彼は、ただその一心で車に押し込まれようとしてる少女を助けようと集団の群れに走っていき、暴れ、結果として、少女の代わりにタクヤが車の中に押し込まれ連れ去られる事となった。
目隠しをされ、車中を移動し、そして牢屋に捉えらえる。初めの内は恐怖より反骨心と英雄願望が勝った。そうだ。この牢屋からどうやって出てやろう。きっとこんな牢屋だってあるんだ。悪の組織に違いない。今に抜け出してこてんぱんにやっつけてやる!どうやら粗末ながら食事も出された。ふふふ、馬鹿な奴らめ。今に見てろ。
1日目、タクヤは自分がヒーローになる夢を見た。
2日目、タクヤは自分の行いを後悔した。自分が少女を助けた事で、きっと自分を牢に入れた連中が困るだろうという事で心を慰めた。
3日目、ヒーローが助けに来ないかと祈った。
4日目、父と母が頼んだ警察がきっとここに現れないか願った。
5日目、眼前でタクヤを攫ったカルト教徒の信者たちが自身の信者を拷問し、布を掛けて眷属を生み出す様を見せつけられた。心が折れた。
6日目、白髪で金の瞳の尊大な王がタクヤの眼前に現れ、彼の運命を告げた。自身の完全復活の生贄は誰でもよかった。少女は偶々選ばれただけで、むしろより深い絶望を抱きつつあるタクヤの方が生贄に相応しいと言った。泣いた。けれどもその男の超自然的な威圧に屈服し、泣く事すら叶わなくなった。
7日目、生贄の運命を受け入いれた。
そうして8日目、今日が最後だ。生贄となる日だ。もうどうしようもなかった。ただ、ただ。一つだけ、タクヤは不満を口にした。
「悪の組織があるのに、正義のヒーローがないなんて、ずるいや
・・・。」
その後タクヤは狂える王の復活の生贄とされ、イネブ・へジの狂える王が復活。タクヤの居た都市は壊滅的な被害を受ける。誘拐されたタクヤの生存を願った父も母も、警察に保護されたタクヤの助けた少女も、みんなみんな、死んだ。
●火を灯せ
「正義のヒーロー?おるぞ、ここにな!!」
グリモアベースで開口一番、アイリ・ガング―ルが君たちにそう声を掛けた。何事?と見られ、彼女は少し顔を赤らめ目をそらし、
「婆の癇癪じゃ。気にするでない。ともかくじゃ、UDCアースで邪神復活の儀式が行われておる。それを阻止してくれ。」
そう言うとアイリは自身の見た未来を語った後、地図を広げた。
「タクヤを捕えておるのは要注意団体『黄昏秘密倶楽部』のA市支部じゃな。支部とはいえ非公式なものじゃ。地下鉄の廃線に隠れ潜んで居るようじゃの。そこで自身らの神を復活させようという儀式をして
・・・。」
ハッと嘲るように笑い、
「見事に失敗。召喚されたのは下エジプトにてUDCを信奉していたイネブ・へジの狂える王の不完全体、という訳じゃ。で、それ以降この支部はこやつに乗っ取られてな。こやつの完全復活を目指す組織になっとる。」
アイリは地図に印を付けながら話を続ける。
「さて、支部の位置は明白じゃ。地下鉄の廃線路のこの辺りに教団連中が改造した支部がある。まずは生贄にされかけておるタクヤを救ってくれ。救い方は任せる。教団への入り口を守る連中をぶっ飛ばして正面から入るもよし、同じ教団員とだまくらかして入って行くもよし。もしくは廃線路を利用して作られた支部じゃ。入口の他から侵入もできよう。ともかく、タクヤは教団内にとらわれておる。それを救ってくれ。」
そう言うと一端アイリは言葉を切り、
「ちなみにイブン・へジの王は大変我がままのようでの、『群れればそれだけ絶望は薄まる。ただ一つ、深く絶望した魂があればよい』とか抜かしておるので捕えられているのはタクヤのみじゃ。複数人の救出を考える必要はないぞ。」
ただし、
「お主らが行った段階で8日目じゃ。牢からタクヤを救出した時、おそらく『救われなかった事』に対して絶望しとるじゃろう。まだ日が浅ければすぐに快復もしようが、簡単には折れた心は戻らぬじゃろう。つまりはただ救出しただけでは逃げる際もタクヤは絶望したままじゃ。もし逃げる際にイブン・へジの王と出くわした際に絶望した心のままでおれば、たとえ生贄と出来ずとも、奴はその絶望の心からも力を得るであろう。」
そうなれば危険じゃ、とアイリは注意する。
「故に逃げる際、タクヤを救出した辺りで流石に教団員も気付くじゃろうし、そうなれば眷属が差し向けられるじゃろう。そいつらをバッタバッタなぎ倒してやってタクヤに希望を見せてやれ。」
出来る限りヒーローらしくの?と悪戯げに笑う。
「そうればもしかりにイネブ・へジの王と出くわしてもやつは絶望の心を糧と出来ず、不完全なままであろう。そうすりゃお主たちの敵ではあるまいよ。いやさ強いぞ?慢心はするでないぞ?」
そういってアイリはいったん言葉を止め、
「世界は優しくない。人は殺され、隣人同士憎しみあい、親兄弟ですら裏切りあう。そして国は滅ぼされ、尊厳は侵される。そういうものじゃ。けれども、優しくないからこそ、それに抗う者たちもおる。ヒーローは居るものじゃとみどもは思う。故に童に教えてやってくれ、祈ってもいいと。世界は優しくあるべきだと。そして、夢を取り戻してやってくれ。」
深々と頭を下げた。
みども
皆さま、絶望する子供の前に立ち、彼に背中を向けて、
「大丈夫だ、希望はある(待機音)・・・変身!(デュイーン
!!!)」
とかしたくないですか?みどもはしたい。それと平ジェネFOREVER良かったですね。はい、そういう感じで気持ちよくライダーして欲しいな、って感じのシナリオです。
そう言う感じで皆様のプレイング、お待ちしております。
第1章 冒険
『去らば平凡、ようこそ非凡』
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POW : 正面突破で救い出す
SPD : 潜入し、ばれないように連れ出す
WIZ : 教団員を誘惑、或いは騙して連れ出させる
👑11
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虻須・志郎
■連携可
ああそうだな、俺も生贄だったが、助けられたんだ
だから今度はこっちの番だ。必ずタクヤを開放する
正義と暴力の伝道師、参上ってね
UC発動、内臓無限紡績兵装で暴れ回るぜ
腕から粘糸で教団員の動きを封じる
脚から鋼糸で邪魔な障害物をぶち壊す
怪しい扉は糸で鍵を作り鍵開けだ
派手に暴れればこっちへ向かってくるだろ?
その隙に潜入する奴ぁ行けばいい。時間稼ぎは得意だ
しつこい奴はアムネジアフラッシュで黙らせる
UDC謹製の記憶操作装備、効果は抜群の筈だ
ここから先は人類の時間じゃねえ
踏み込める度胸がある奴だけ掛かってこい
もし子供の前まで行ける様なら言ってやるさ
遅れてすまない、よく頑張ったな。後は俺達に任せろ、ってね
聖護院・カプラ
【WIZ】
おお……タクヤ君の勇気ある意志、行動、まさにいい行いでしょう。
彼に応える為、何が何でも救いの手を差し伸べねばなりません。
教団員に、予知から知り得た知られていない筈の情報をちら付かせて『説得』してタクヤ君の位置まで案内させましょう。
コホン。
私はイネブ・へジと対になる王……ジヘ・ブネイ。それも完全体です。
(『存在感』による説得力のごり押し)
ただ一つ、深く希望を持った魂があればよい……。
その場所を教えなさい。
私はイネブ・へジより穏便ですが、温厚ではありませんよ。
彼岸花・司狼
護堂・結城(f00944)とともに参加。
基本的に見た目のヒーロー要素が薄く、説得力がないかもしれないので
護堂の手の者、ぐらいのノリでいる。
ヒーローとは、堂々と正面突破する者だろう。
と言うわけで黒剣で自傷して狼の群れを呼び出し、
潜入なにそれおいしいのと言う勢いでアジトの中を駆け回らせる。
その最中にタクヤがみつかれば良し、
見つからなければそのまま陽動に入る。
力が無くても動いたその意志は、確かに素晴らしい
ナニカに影響されたとして、決断したのは自分だ。
だから、例え拙くともその小さな「ヒーロー」の夢くらいは、守りたい。
護堂・結城
彼岸花・司狼(f02815)とお互いに協力
誰かを助けた所為で救われないなんて認めない
俺の時も誰も助けてくれなかった。だから、ここでは俺がヒーローになってやる
【POW】
正々堂々正面突破だ
司狼の攪乱に合わせて『雪見九尾の狂葬の尾』を発動し九尾と翼を生した姿に変身して突っ込む
攻撃力を重視して立ち塞がる団員は【串刺し】や【2回攻撃】で排除していこう
司狼の捜索で見つかればよし
見つからなければ司狼に陽動を任せてタクヤを探しに走る
分かれ道等があれば【第六感】で道を選ぶ
タクヤが見つかれば「遅くなったがよく頑張ったな、小さなヒーロー」と声をかけて【手をつなぐ】
ヒーロー同士が助け合う時の握手は、大事だろ?
蘇芳・薊
生贄にされて殺される、それも絶望させて殺すなんて許せる物ではありません!
まずは牢獄から連れ出してあげましょう。
恐らく他の方が彼をスマートに救出してくれるでしょうから、私はそれを支援する事にします。
味方が動いた事を確認してから廃線路の正面から向かい、敵にあえて気付かせた上でブラッド・ガイストを発動し敵へ駆け寄ります。
[暗視]能力と[戦闘知識]を活かし敵攻撃を回避したり変異した腕で[武器受け]をしつつ接近。
敵が複数いれば[範囲攻撃]で薙ぎ払い、少数であれば[2回攻撃]で仕留めます。
味方がいれば協力し[かばう]事も視野に入れ、敵に隙があれば[カウンター]や[だまし討ち]をお見舞いしてさしあげます!
青葉・まどか
「あ~、好奇心や義侠心で事件に首を突っ込むとか他人事じゃないね」
頑張った男の子が絶望しながら生贄になるとか冗談じゃない!
【SPD】を活かして廃線路から潜入。廃線路の地図や情報は人類防衛組織「UDC」に協力してもらい、入手できないかな?
技能【暗視】も活用してタクヤ君を探すよ。
無事にタクヤ君の下に到着したら励ましてあげなくちゃ!
「君が、一人の女の子を救ったのは間違いのない事実!君は凄いことをしたんだ!」
胸を張って生きて欲しい。
ヴィクティム・ウィンターミュート
ハッ!自ら行動するとは、中々見どころのあるジューヴ(子供)じゃねえの。
SPD重視で、潜入してタクヤを救出しにいく。正面からは多分見張りもいるだろうから、別の入口を探す。ダクトみたいな普段気を遣わない入口がいいな。支部の中には監視カメラやらの電子機器もあるはずだ。俺の【ハッキング】でそれらを掌握して、中にいる教信者の位置、タクヤの牢屋、全体の見取り図等の情報を手に入れにいく。そんでもって、ユーベルコードによる偵察ドローンも複数機走らせておいて、より確実性の高い情報を収集だ。
タクヤを救出できたら
「俺は英雄なんかじゃない。ただの猟兵、ただのデータシーフの…Arsene(アーセン)さ」
ロカロカ・ペルペンテュッティ
ボクは、ヒーローなんて名乗れるようなモノではありませんが、UDCに席を置くものとして邪神教団の好きにはさせられませんし、勇気ある少年が絶望のままに生贄にされるなど、見過ごすわけにはまいりません。
内部調査とかく乱を行います。
ボクの内に眠る数多のUDC因子、標本番号342《追跡者》の力を借りましす。
姿を消して相手のアジトに侵入し、生贄の少年の場所を探りましょう。通常の五感だけではなく、地霊の声を聴き、その導きに従います。(技能:地形の利用、第六感)
少年の場所がわかったら、あえて物音を立てて、恐喚紋の力を使い、恐怖を喚起することで、見張りの冷静な判断力を失わせて引き寄せ、救出の隙を作り出します。
クレア・フォースフェンサー
判断
場所は地下鉄の廃線路。
周囲に気兼ねすることなく戦える。
派手に暴れて教団員の目を引きつけよう。
心情
自分は仕事としてオブリビオンと戦ってきた。
他人がやったことの後始末として、邪神やその眷属を骸の海に返してきた。
こんな自分も「正義のヒーロー」になれるのだろうか。
手段
廃線路や支部に関する情報を収集し、仲間に伝える(ハッキング、情報収集)。
陽動として目立つように、そして教団員が逃げたり奥に引き込んだりしない程度に、支部を正面から攻撃する(戦闘知識、気絶攻撃)。
台詞
「悪は討伐する。人質も助ける。両方を“格好良く”やらなくちゃいけないのが、正義のヒーローの辛いところですね」
ジョン・ブラウン
胸糞悪いねほんと
さて潜入なんだけど、同じ旅団のヴィム(ヴィクティム)がハッキングしてくれるみたいだからね
詳細な地図なんかのデータを送ってもらって、後は明かりを落としてもらうように頼んでおけば
真っ暗になって見回りが戸惑うだろうから、その間に一気に駆け抜けようか
障害物とかバリケードみたいな邪魔なのがあれば液体ワイヤーや動力付きシューズを使えば
壁でも天井でも頑張れば走れるんじゃないかな
幸いウィスパーのおかげで暗いとこでも見えるしね
見張りが居たらワイヤーで拘束したりすれ違いざまに蹴り飛ばしておこう
前にやったスニーキングゲームでもよく敵を気絶させてたしセーフセーフ
仲間との連携やアドリブは歓迎だよ
ジン・エラー
く、ガハ、ぶははははは!!!
『救われなかった』だァ!!??
そりゃこのオレが来るまでだろォーが!!!!
正面突破でブッ飛ばす!!
お前らもヒーロー名乗りてェーならそっちの方がかっけェーだろ?
【オレの救い】は魂まで響くぜ
もちろん【攻撃】にガン振りだ
あ?防御?いらねェーよンなモン
【箱】でブン殴るも良し、【拘束具】で縛ってからブン殴るも良し
とりあえずブン殴れるならなンでもいい
好きに暴れられンなら、それが一番だよなァ!?
アレクシス・アルトマイア
ヒーロー、なんて柄ではないですが
そういうのも、たまには良いでしょう
ええ、ええ。タクヤくんをばっちり救い出して
ばっちり見惚れさせてあげましょう。
ヒーローは……遅れてしまっても、必ず間に合うものなのですから
【SPD】重視に参りましょう
忍び足に暗視、変装、暗殺技能を有効利用。
皆さんと連携して静かに、裏をかいて、助け出しましょう。
正面突破が騒がしければ陽動とさせて頂くのもよいですね。
時には強引さも重要かと存じます。
必要ならば、実力行使も大いにありかと。
はい、仮面(目隠し)は、ヒーローのお約束ですよ。
……目隠し、怪しければサポートに回りますね。
よく頑張りましたね。タクヤくん。あなたを、助けにきました。
ティアー・ロード
泣く事すら叶わない……?
聞き捨てならないねぇ
使用コードは刻印「夢幻泡影」
これで透明になり牢屋まで潜入
そして隙間から牢屋に入って少年を激励するよ
「少年、顔を上げろ」
「んー……あんまり好みじゃないなぁ」
「おっと、私はティアー・ロード。グールドライバーさ」
「乙女の涙を救ったキミに選択肢を用意した」
「選べッ!」
「美少女になってヒーローになるか!私と共に戦うか!」
「お勧めは前者だよ?」
後者を選んだら腰に巻きついて私の力でタクヤを強化
教団員ぶちのめしてアジトから脱出しよう
「捨て身パンチ!」
もし前者ならタクヤを気絶させて刻印「撲朔謎離」で美少女にしてから
強化して脱出したいね
「ハーッハッハ!捨て身キィック!」
狭間・悠弥
向こう見ずなのは若気の至りっちゅーやつかね
…けど、何の影響であれ誰かを助けようとしたその想いを無下には出来ん
何より子供が犠牲になるんを見過ごしたら寝覚めが悪くなる
その子、助けたらんとな
地下鉄っちゅーのはよう分からんが…空気の悪い地下にあるなら、
鉱山みたいに空気を送る通気口みたいなんがあるやろ
牢屋に直接とはいかずとも、近くの部屋に繋がってるかもしれん
人が通れそうな通気口を探してそこからの潜入を試すわ
気配を忍ばせ、声に耳を澄ませ、牢屋の場所を探り目指しながら進んでいく
避けて通れん見張りなんかがいたら【暗殺】の技能で死角から締め落とす
牢屋に辿り着けたら【鍵開け】の技能で、なんとか錠をこじ開けれんかね
ある日。地上で生きる蒙昧なる大多数にとっては取るに足らぬ日であり、地中にて多いなる真実を探求する彼ら、「黄昏秘密倶楽部A市支部構成員」、いや、「偉大なる、イネブ・へジの狂いし王が信奉者達の集い」にとっては主が完全な姿で復活する最も尊ぶべき日に、地下鉄の廃線のスペースを利用して秘密裏に作られた彼らの支部の入り口で、見張りに立った二人の男は困惑していた。
3人の客人である。1人が主であるとでもいうように前に出る。何やら機械的な骨で構成され、仏のように座禅を組み浮遊するデバイスに座るSF世界から抜け出してきたかのような異形。聖護院・カプラだ。そしてその背後に控える2人もまたどこかしら違和感がある、ような気がする。いや。気のせいだ。『猟兵はその世界の住人に違和感を与えない』。3人の容姿をさして気にせず、門番は誰何の声を上げた。
「なんだ貴様らは。」
「フム・・・貴様ら、ですか。」
落ち着いた声が反芻する。
「貴方方。どうやらイネブ・へジの狂える王の対になる者たるこの、ジヘ・ブネイに向かって結構な言い草ではありませんか。」
そう言った異形の【存在感】が増す。
「な!?」
男たちは流石に動揺した。そのような者の存在は知らなかったからだ。
「貴様ら!偉大なるジヘ・ブネイを知らぬというのか!!!」
白髪に左右の瞳の色が違う褐色の男が気色ばみ、胸元のアクセサリを握る。反対側に立っている少年は「ソウダソウダー」と同意していた。
「控えなさい、眷属たちよ。」
見張り達はあくまで当番であり、そして戦闘者ではなかった。だからこそ血気に逸る彼らに気圧されて後じさる。どうしよう、このまま中に逃げて同じ信者達に怪しい存在を知らせ、眷属達を連れてこさせようか。門番たる彼らはそういう役割であった。一瞬そういった思考が頭をよぎった瞬間。血気逸る彼らを異形が抑えた。そして、再度見張り達に向かって声をかける。ジッと無機質なカメラアイが見張り達を見つめ、
「そうか。そうですね、知らぬのも無理はない。貴方達はそもそも黄昏秘密倶楽部、というイネブ・へジの狂える王とは違う邪神を信奉する者達。それが偶々、かの王を呼び出し、各々の蒙昧さを啓かれた訳だ。彼の王の来歴は隅々まで詳しくないでしょう。ならば、この身を知らぬのも無理はない。」
事実であった。もしこの集団がそもそもとしてイネブ・へジの狂える王を信奉していたのなら、『ジヘ・ブネイ』という存在などありはしないという事を自信を持って言い返し、怪しい彼らの存在を排除する方向へ向かっただろう。だが現実には、イネブ・へジの信奉者となって日が浅い彼らには、そういった事を自信を持って言い返すだけの知識がなかった。
「なら、王へ確認を・・・」
「控えなさい。彼の王の気性は存じてましょう。もし私の存在を知らぬと彼の王に知られれば、汝らの首が飛びますよ? 」
「そ・・・それは。」
「それにこれは祝福です。なにせ私は完全体である。」
大きく手を広げ、さらに【存在感】が増していく。その雰囲気が彼の言への説得力となる。
「対となる私が完全体であるならば、彼の王の完全なる復活も約束されたもの。ついては最後、絶望に染まった魂がありましょう。絶望と希望は表裏一体。ともすれば何か間違えば、その絶望が大いなる希望に反転する場合もある。私はその目を詰みに来たものである。さぁ、生贄の少年が居るのでしょう。案内するのです。早く。私は穏便ですが、温厚などでは決してありませんよ・・・」
圧力が最大限に高まる。そうしてついには、
「なら、ならば・・・、私どもから一人、と。中の詰め所に何人か信者の者が居ります。その者たちの案内が付く事を了承して頂けるのならば。」
信奉する王の復活を執り行う重大な日である。そのような日に門の見張りに配置される者が信頼置けぬとあっては大事であるある。それそのものが間違いだった。彼ら門番は彼らの判断で来訪者を施設内へ迎え入れる事が出来た。それだけの信頼が組織内であった。だからこそ彼らにとっての災いを迎え入れる事になってしまった。
「妥当でしょう。さぁ、眷属達よ。参りましょう。」
そうカプラが答えると、眷属という体で彼の後についていた二人、彼岸花・司狼に護堂・結城は相手に悟らせずに肩を撫でおろした。小声で
語り合う。
「何とかなったな・・・」
とは従者たる護堂。
「静かにしておけ。」
たしなめるのは主人である司狼だ。
救われる事の無かった自分とは違い、タクヤには救われて欲しい。そのうえで少しでも可能性が高いならと正面きって入り込む班に志願した。
とはいえこのままであれば正面突破せずとも問題なくタクヤの元へたどり着けそうだ。
「さて、ヒーローになれるかねぇ。」
なりたさもあり、なる状況は切羽詰まっているという事でもあり。扉が開き、それをくぐって行く司狼の心中は、複雑だった。
扉が閉まり、残った男が通信装置で中枢、王の間に控える幹部に連絡をする。いくらなんでも王の客人について連絡しない、という事は出来ない。とりあえずはこれで問題ないだろう。連絡を終えて、再度門番として立つ。
その様を、支部の門の前、廃線路からジッと見つめる影たちが、あった。
ところ変わってとある廃路線のダクト。その少し広いスペースの中。少し辿って行けば実は支部の排気口へとつながるその中腹で、2人の男女が語らっていた。1人は地図を手に。もう一人はスマートフォンを手に。
それぞれ手元を照らし、何やら作業を行っている。
「おい。青葉ァ。分かれ道。どっちだ。」
「んー。右、だね。」
「おう。了解した。」
そう言って男はスマートフォンを操作する。彼ら二人は潜入班の手助けを行う組だった。
男、ヴィクティム・ウィンターミュートがタブレット経由で自身の偵察ドローンを駆使しダクトから侵入している潜入組の先導。そして女、青葉まどかがUDCから協力を得て手に入れた廃線路及びダクトの地図を使ってそのナビゲートをしていた。
「それにしても意外だねぇ。」
青葉が独り言ちる。
「何がだよ。」
ヴィクティムが苛立たし気に返す。
「いやだってさ、ハッキングで来たんでしょ?あの施設内の全部。もう見取り図も手に入れてタクヤ君の捕らわれた位置だって分かってるし監視カメラの位置だってお手の物。だったらこんなダクトの中や構造も分かるんじゃないのかな、って。」
「ふん。そりゃ、連中があの施設を全部が全部作ってるってなら分かるぜ。けれどそうじゃねぇ。あくまでアナログな方法でアナログに作られた場所を利用しているだけだ。分からねぇところはある。」
それにな。とドローンで先導しつつ話を続け、
「青葉の持ってきた廃路線とダクトの地図と俺が情報として得た見取り図を使ってな、脳内に完全な3Dマップを作るこたぁ可能だ。それで潜入している連中をナビする事もな。だが流石に監視カメラ掌握して電源システムにも介入してる現状、そこまでするのは、な。」
頭を人差し指でトントン、と叩き。
「ここが死ぬんだよ。」
「はえー。サイバーパンクシーフにもできない事があるんだねぇ。」
「うっせぇアナログシーフ。絶対出来ねぇんじゃねぇよ。今ここで出来ねぇだけだ。然るべき設備と装備がありゃ出来るの・・・っと次。右、中央、左。右だけ緩く伸びてる感じの道だ。どれだよ。」
「右で。」
そういった風に二人でナビし続ける。少し時間が経ち、何やらピクリとヴィクティムが反応したのと、青葉の持っていた携帯が震えたのは同時だった。潜入組に待機するように連絡して、2人はそれぞれが情報を得る。
「ヴィクティムさん、入り口待機班から連絡正面潜入班が中に入れたって。でも入り口に残った門番が幹部に連絡したらしいよ。バレるんじゃないかな。だからそろそろ正面突破させろって。」
「ああ!?血気盛んな連中だなおい!だから正面班なんだろうがな・・・ちょっと待て。入って行くのは『見てる』。で、今連中、幹部が王に
その事伝えようとしてるらしい。広間の映像『見てる』からちょっと待てや。」
そういってさらに潜入班に待機を呼びかける。ヴィクティムは広間、復活の儀式の場が着々と整っているそこにて、黙してそれを見るイネブ・へジの狂える王へと近付く幹部の姿を注視した。
光がある光がある。高貴なる王の知性の光が。
闇がある闇がある。知性溢れるが故に世の果ての深淵まで見通したが故の闇が。
光と闇。物理法則を犯し常識を捻じ曲げ、非論理的哲学によって構築され外宇宙の幾何学によって構成された雑然とかつ整然とした卑猥な/神聖な/醜悪な/美麗な/非文明的な/先進的なモニュメント。それが広間の中央に配置され眩いばかりの光に照らし出され、宇宙的な闇をそこかしこに作り出していた。
そのモニュメントを前に座り佇む男が1人。金の瞳で睥睨するは狂える王。イネブ・へジの狂える王。総てをUDCに捧げ、富を、栄光をかつて手に入れた過去の染み。それが一つの絶望に塗れた無垢な魂をこのモニュメントにおいて捧げ、現実のものとして浮上しようとしていた。
王は機嫌がよかった。もはや儀式の場はほぼ出来上がり、後は生贄を連れてこさせれば儀式は始まる。広間には布を被った黄昏秘密倶楽部がそもそも持ち合わせていた眷属と共に、このA支部における構成員たちが控えていた。
儀式の為に楽器が冒涜的な音色で打ち鳴らされる中、何やら外部から連絡を受けた構成員の一人が王の座る玉座に近寄り、声をかける。
「畏れながら我が偉大なる王よ。」
「何事か。」
この時常になく王は機嫌がよかった。儀式を前に声をかけるという不敬を成した臣の振る舞い、言葉が終わった後に右腕一本消し飛ばす位で済ましてやろうと思う程度には。
「ハッ・・・偉大なる御身と対となる存在、ジヘ・ブネイ様が現れまして、御身の贄たる少年の心を真に絶望させんとおっしゃいまして、こちらの支部の方に入られました。今、贄のいる牢獄へ向かわせている所で・・・す、が
・・・。」
王から尋常ではない圧が発せられている事に気付き、構成員は顔を青ざめさせて言葉を詰まらせた。
「フム
・・・。」
一言呟き、指を鳴らす。報告した構成員の周囲、10名ほどの首が飛んだ。血が噴き出す。
「ひ・・・ひぃぃぃぃぃ
・・・!」
報告した構成員は中央、血だまりの中しりもちをつき、ただ恐怖に声を上げる。
「で、それで全部か?」
「は・・・はひ。はひ・・・ひ。ぜんぶ、ぜんぶでございます。」
「そうか。」
そうして狂える王は王座から立ち上がり、構成員の眼前に近付いていく。恐怖。反射的に土下座をする。
「どうか!!どうかご容赦を
!!!!」
「ん?・・・フフフ。」
微笑み。
「容赦?既に罰は与えたではないか?そう。相応しい罰は与えておる。」
「は、はひ?罰、罰でございますか?」
「うむ。貴様の罪、それは即ち『主の歴を隅々まで把握しておらなかった事』である。もしかつての我が歴を隅々まで把握しておれば、ジヘ・ブネイなる者、我が歴に名を連ねるものではなかったと、ただの侵入者が謀り、外患を裡に入れてしまったと。分かった筈ではないか。もしそういった話となれば、儀式の前に我に声をかける不敬のみで済んだものを。外患は貴様らが消せばよいのだからな。」
もしそうなら貴様の腕一本で済んだのだが、王はため息を吐いた。構成員は青ざめた。
「しかし貴様は誤った。その罪、許し難し。されど貴様の命一つで贖えるものでもなし。故に『貴様以外の10人の命』で贖いとした。良いな。」
つまりはこうである。『お前のミスでお前以外の人間が10人も死んだのだぞ』という事である。これが狂える王の治世。万事このような振る舞いだ。全く関係の無い誰かのせいで自分が死ぬ。故に王の治世は密告、裏切り、人心が荒みに荒んだ。なれど誰も王に立ち向かおうとはせず、出来ぬ地獄。そして今この場においてもその空気が形成された。
生き残った構成員を周囲の、無事だった構成員たちが恐怖と非難の目で見て来る。終わった。儀式の後、リンチにより自分は死ぬだろう。
そして門番たちも。どうにか自分だけ生き残れないか、構成員の頭脳は只管に回転する。
「お、王よ!!されど私は、私自身が罪を償っておりませぬ!どうか、どうか償いを!!侵入者共を捕える事でその償いを!!!」
「ふむ。良かろう。」
そうして王は構成員の手を握り、冒涜的な呪文を唱える。
「んぎ・・・ぎ・・・ひぃぃぃぃ
!!!!」
白目をむき、血涙を流し、そして、男の手の平に無数の目の模様が浮かび上がる。
「さて、貴様の感覚とここに存在する眷属総ての感覚をつなげた。眷属達の自立に任せるもよし、貴様自身が指揮を取るもよし。安心せよ。貴様自身脳が耐えきれずそう長くはもたんだろう。だから貴様が死んでもちゃんと眷属共は自律的に判断して行動できるぞ。つまり貴様が死のうが生きようが、眷属達は確実に不埒者どもを捕えよう。さて・・・励んでみせよ。」
「ひ・・・ひひひひひ・・・」
もはや言語を理解する事すら困難な構成員は、眷属を連れ立って広間から去って行った。
異様な光景に音楽すら止まり、構成員たちは凍ったように動かない。その様を見て王は苛立つのでなく、新たな楽しみを考え出した。
「さぁ貴様ら!余興だ!儀式の前の余興だ!!!どうやら愚かにも我が王座を狙う者たちが居るらしい!そいつらをひっ捕らえてここに持って来い。命のあるなしは問わぬ。初めに持ってきた者は、我が今生の一の家臣としてやろう。」
ちなみに一の家臣の今生の最初の役割は王に心臓をささげる事である、というのは理解しているだろうから敢えて口にはしていない。
構成員たちは皆、その地位には全くそそられなかったが王の不興を買うのがただただ恐ろしく、弾かれたように広間から方々施設の中へと散っていく。
その様を見て王は満足げな顔をし、そして広間の隅に設置された監視カメラを見て、
「不快である。」
視線が合った。一瞬で目を逸らした。
「ギッ!」
「ヴィクティムさん!?」
今の今まで広間の様子を見ていた筈のヴィクティムがいきなり仰け反った。何!?敵の攻撃!?青葉はすかさず駆け寄った。片目から血を流し、鼻血も僅かに出ている。
「大丈夫!?」
血をハンカチで拭っていると意識を取り戻したらしい。瞳に精気が戻ったヴィクティムが開口一番、
「あのオカルトクソ野郎がぁぁぁ!!!」
叫びを上げ、流石に青葉は後ずさった。
「いきなり叫ぶなんてひどいんじゃないかな!」
「っとすまん!でも時間がねぇ!俺らも行くぞ!」
「やっぱりばれた?」
「ああ、バレた。それにやべぇぞあれは。畜生、アイリの奴。もっとちゃんと未来予知しろってんだ。」
そう言いながらヴィクティムは手早くデバイス類を纏めながら、デバイス経由でダクト侵入組と内部に入ったカプラに侵入がバレた事、だから今から施設内の電源を落とす事、ナビゲートは出来ないので各々頑張ってタクヤの元に辿り着いて欲しい事、自分たちも直接施設に向かう旨、そして眷属や構成員たちが施設を侵入者を探し回っているという内容を伝えた。
「青葉ぁ!外の連中にもバレた、ブチかましてやれって伝えておけ!」
「おっけぇ!」
そうして青葉は青葉で携帯にて門の前に隠れ潜んでいた強行突破組に連絡。もう突撃していいよ、と。
「それじゃあ青葉、今から電気落とすぞ!」
そう言いながら自身は網膜加工型電脳ゴーグル、ヒラドリウスの暗視モードを起動。もう既に爆音が響く中、ダクトを施設方面に入って行く。もはや潜入とはならない為、先行組とは違い、ある程度の距離を稼いだら施設内の通路に出る予定だ。
「いいよ大丈夫!【暗視】の技能はあるからね!」
「はっ!デバイスもねぇのに器用なこって。いくぞ!」
バズン!!!ブレーカーの落ちる鈍い音と正面突破組が門を破壊する音が響いたのは同時だった。
「あーくっそ!もともとハリウッドは覚悟してたけどな!」
だがボスがあそこまでサイコパスだとは聞いてねぇぞ!ヴィクティムは悪態をついた。
「でもいいじゃん。主役は私達だよ?ほら。ヒーロー。」
ダクトを這って行くヴィクティムに追随しながら青葉は悪戯気に声をかける。
「はっ!ヒーローはタクヤだよ。」
皮肉気にヴィクティムは答える。
「あはー。いるよねそういうヒーロー!好奇心や義侠心で事件に首を突っ込むとか!」
笑みから一転、他人事じゃねぇ・・・と青葉は真顔になった。
「ま!なんにせよ早くいって助けに行こう!一番内部構造を把握してるのは私達だし、ワンちゃんタクヤ君に会えるのは私達かもだよ?」
そしたらやっぱヒーローじゃん、とモチベーションを上げるかのように青葉が楽し気に先行するヴィクティムに言葉を掛ける。
「いやいや、ヒーローじゃないさ。所詮俺は、ただの猟兵、ただのデータシーフ。・・・Arsene(アーセン)だよ。」
少年は皮肉気に笑い、闇の中を進んでいった。
「♣・・・ハッハァー
!!!!!!!!!!!」
叫び声と共に門番ごと門をぶち抜いたのはジン・エラーだった。
「♣・・・『救われなかっただぁ
!!!!!!』そりゃ俺が来るまでだろうがよぉ
!!!!!!」
施設内、緊急を知らせるアラームが鳴り響く中、詰め所に声がこだまする。
「♦・・・凄いよ凄い!!!こんな扉もぶちやっぶちゃうなんて!箱をどかーんって!」
男が幼い調子で声を発し、
「♠・・・ああ畜生!!!結局こうなるのかよ!!」
固まっている構成員達の間に草臥れた男の諦観が響く。
「♡・・・うーん、及第点。子供はやっぱりたすけなきゃね。」
女の調子で構成員達が調子を取り戻せば、
「♣・・・『俺が救ってやろう』じゃねぇかぁ!!!!てめぇら邪魔だぁ
!!!!」
傲慢、驕傲、不遜で塗り固められた『すべてを救う』という意思が破壊力を強化。箱状の武器を振り回し構成員達を薙ぎ払っていく。
「♣・・・タクヤぁ!!!どこだぁ
!!!!!!!!!」
そのまま詰め所の扉を破壊。決断的、直線的に壁を破壊して進もうとする。
そのような蛮勇。当然留められるが必定だ。眷属達はまだ儀式の広間周辺にいるらしく、向かって来るのは構成員ばかり。しかりこの不埒者を止めなければ自分たちが死ぬ。人が波となって超自然的な嵐に立ち向かっていく。
「♣・・・畜生!!!数が多い!お前らが居ると救えねぇんだよ!!!俺の救いの為に死ね!!!」
「さすがに待て。な?」
そう言って今まさにジンに挑まんとしていた構成員達を縛るのは蜂須・士郎だ。即ち【死紡遊戯】内臓された無限紡績兵装による腕から射出された粘性を持つ糸から只人が逃れられる道理はない。
「血生臭いのはこれ以上見せられんだろう?」
「♣・・・おう!!!そうだな!!!やるじゃん!!!」
ニカっとした笑い。
「♡・・・いい男じゃない。惚れちゃいそう。」
嫣然とした笑みもついてきた。それに士郎はため息をつきながら。
「他を当たってくれ。」
そう言いながら今しがた縛り上げた構成員達にアムネジア・フラッシュ。記憶を奪っていく。これで彼らはもし捕まっても邪神の信者だったころの記憶自体は無くなる。一般的な生活に戻れるだろう。聞けば今回救出するタクヤも凄惨な拷問を見せられた記憶があるらしい。それは消さねば。そう思う。自分も同じように救われたのだ。今度は自分が・・・サイボーグだ。行動に一切の遅滞は無く、けれど士郎は少しなつかしさと決意に浸った。
そうして詰め所の前の通路で構成員の処理に立ち往生していた二人に左右から人波がなだれ込んでくる。
「仕方ない。ジン、俺が正面の壁に亀裂を入れる。頼んだぞ。」
「おうよ任せな!」
機械の瞳が絞られる。構造計算。強度測定。問題なし。
「編む織るも 吊るも締めるも 自在故 生かす殺すは 我の儘也……往くぞ、終いを舞わせてやる
・・・!」
瞬間、足が振り上げられ鋼糸が射出。目にも止まらぬ速さで振るわれたそれが強固な壁に無数の傷をつけていき、
「やれ、ジン!」
「♣・・・おっしゃあ
!!!!」
箱が振るわれ行き止まりに大穴が開き道になった。すぐさま二人は大穴をくぐる。必死にこちらに来ていた連中がお互い激突ながら施設の外側でなく男二人をとらえる為に内側を向く。瞬間、
「「油断、しましたね
!!!!」」
涼やかな少女の声と凛とした少女の声が響いた。次の瞬間、彼らに向かって異形の影と金の影が飛び掛かり、瞬時に打ち倒す。戦闘形態の蘇芳・薊とクレア・フォースフェンサーだ。
鮮やかな範囲攻撃のコンビネーション。金の髪を振り乱しショートレンジでサイボーグらしい機械的な戦闘理論に則った身体運用を的確に行う事で信者たちをクレアが気絶させれば、薊はミドルレンジの敵をその異形の体躯と膂力を以て力任せに気絶させていく。男たちに注意が向いた瞬間の不意打ち。ものの数秒で門の異常を感知して向かってきた構成員達の波は鎮まった。
「とりあえず第一波はどうにかなりました。」
まだ戦闘はあるだろう。そのため異形の姿のまま薊は一息ついた。が、自分以外見た目は常人に近い。何とはなしに恥かしくなって身じろぎする。
「そうでしょうね。」
戦闘一時中断。とはえい敵は今の所一般人に毛が生えた程度だった。相手の主力は眷属だ。まだ本領は発揮されていない。至急この施設の牢獄へ向かうべきだろう。クレアは決意を固めた。幸いヴィクティム経由で脳内マップはアップロードされている。さしたる障害はない。
ただ、
「悪は討伐する。人質も助ける。両方を“格好良く”やらなくちゃいけないのが、正義のヒーローの辛いところですね。」
職業戦闘者としては戸惑う所だ。そう独り言ちたのだが、薊がそれを耳ざとく聞いていたらしい。
「いいじゃないですか、正義のヒーロー。私は好きです。」
どうやら微笑んでいる、らしい。ひょんな事件に巻き込まれてグールドライバーとなり、日々心をすり減らしていた部分のある薊にとって、何かを助ける戦い、というのはそれだけで癒しになった。
「♣・・・おいお前ら、何だべって・・・」
女子陣の間で和やかな空気がながれかけた為、それを嗜めようとジンが声を掛けた瞬間、ヴィクティムの策だ。電源が落ち辺りが暗闇に満ちた。
「♣・・・おいおい。他の連中もアガってんじゃねぇか!」
祭りの気配だ。ジンのテンションが上がる。
「ともかく、急ごう。クレアと薊、先導を頼む。」
このパーティーの中で暗視持ちの二人を頼りに、4人は道すがら構成員達をぼこぼこにノシながら進んでいく。こうすれば他のチームが、タクヤを助ける事が出来ると信じて。
ヴィクティムがブレーカーを遠隔で落として施設の中から光が消え、ダクトから潜入していた潜入組は徐にダクトから通路に躍り出た。金属製の蓋が落下し大きな音を立てる寸前でワイヤーに絡めとられ、静かに降ろされる。
そのまま4つの影が躍り出て、それぞれが静かに周辺の構成員を無力化した。1人はワイヤーで締め上げて拘束し、1人はその身よりあふれ出る異形の力を以て気絶させ、1人は鍛えた暗殺術による手刀で無力化。最期の1人は左腕の機械義手の機工で以て意識を失わせた。
「これでとりあえず周辺のは全滅かな。」
そう言って気だるげな声を上げるのはジョン・ブラウンだ。暗視用にヘッドデバイスのウィスパーのバイザーは展開している。
「そうみたいですね。」
周囲を油断なく警戒するのはアレクシス・アルトマイア。
「幸い門の所で暴れまわっているのが効果的なようです。」
目隠しを巻いて瞳は余人に見えずとも、その整った美しい唇が安堵の形に僅かに上がる。
「さて、一息つく暇はあるのかな?キミたち。」
女性の声がアレクの腰元から響く。白と赤と黒で構成された女性用の仮面、のティア―・ロードは僅かに声を荒げた。
「ちゅうてロード。もうすぐにあけそう焦らんでもええやろうて。」
焦りを窘めるのは右脚左腕が機械の剣豪にして忍、狭間・悠弥だ。
「とはいえだね。少年は既に絶望が心に巣くってるわけだよ。一刻の猶予もない。」
「それには同意だ。けれど僕達が焦ってもしょうがない訳だ。幸いヴィムからマップデータは貰ってるし、ロカロカ。頼めるかい?」
そういってジョンが声を掛けるのは見目麗しい少女のような少年、ロカロカ・ペルペンテュッティだ。
「ええ、勿論です。さぁ、起きて。姿なき影、音もなく駆け回る者、《追跡者》」
そうロカロカが囁くと、体の刺青が僅かに発光し、普段は自身に秘められているUDC、その一体である標本番号342《追跡者》の力を解放した。形無き影は静かに主の望むままに動き、一直線に牢獄のあるであろう場所へと導いていく。
「ついてきてください。」
ロカロカの言葉に一同は静かに頷いた。
数分後、一同はついに牢屋のある部屋の前に辿り着いた。10名程の人員が非常用のライトを付けて警備している。どうやら王に捧げる大事な生贄、万が一にも助け出される事があってはならないと構成員の中でも精鋭を配置しているらしい。道すがら無力化してきた構成員とは比べ物にならない手練れの雰囲気があった。
「どうやろ?」
話を切り出したのは狭間だ。
「問題にもなりませんね。」
にべもなく返したのはアレクだった。
「ハハハハ、流石に君らにとっては形無しか。じゃあささっと片付けちゃおう。どうする?」
ジョンが声を掛ける。
「ではボクが恐喚紋の力を使って一時的に恐慌状態にさせますね。その隙に制圧してください。」
一端《追跡者》を収めてロカロカが答えた。
「それじゃあティア、力を貸してくれないかな。」
「はー?私は美少女の腰に居る方がいいんですけどー?」
「とも言ってられないだろう。」
「むぅ。」
フワリ。ティア・ロードがアレクの腰から離れ、今度はジョンの腰に巻かれる。そのまま、
「コードセレクト、ザ・ドリーマー!」
刻印《夢幻泡沫/ミッシング・ザ・ドリーマー》だ。途端、ジョンとティアの姿が見えなくなる。これから突入するにあたって、暗殺術を修めたアレクと狭間と違って、そういった術を修めて無いからこそのアシストだった。
「いいねいいね。ステルス迷彩か。一週目クリアした気分だ。」
初めて体験する異世界の技に年相応の楽し気な声を揚げながらジョンはワイヤーシューターとエアトリックの調子を確かめる。
もとより準備の出来ている狭間とアイリが通路の影、ロカロカの恐喚紋の力が発動次第直ぐに構成員達に襲い掛かれる位置につき、ジョンは姿が見えないからこそどうどうと通路の正面に立つ。
「いきますよ。」
小声でロカロカが宣言した瞬間、紋章が強く光り、
「!?!?!?!?」
精鋭達は突然、『自分が王にむごたらしく殺されるかもしれない』という恐怖を喚起されうろたえた。その次の瞬間には決着がついていた。タクヤに血生臭い光景を見せる訳にはいかない。殺しはご法度だ。
黒塗りのナイフの鞘が翻り精鋭たちが崩れ落ちる。男の爆轟鉄拳が精鋭達を壁に叩きつけた。そしてその様に動揺している間に姿なき少年による液体ワイヤーに絡めとられて天井に張り付けられたまま身動きできなくなる。
僅かな一瞬の間に精鋭たちが無力化され、そして少年を捕えた牢屋への道は狭間の刀で一刀によって両断された。
虚ろな眼でタクヤは不思議な装いの一連を見る。
「・・・あ。・・・あ?」
現実を信じられない声が出た。
「これは、胸糞悪いね。ほんと
・・・。」
ティアの夢幻泡沫を解除して、ジョンは吐き捨てるように言った。持ってきたライトに映された少年は、風呂も入らせてもらってないのだろう。薄汚れた様子だった。
「あ
・・・。」
先ほどからの爆発、突然の停電。タクヤにも何かが起こっているのは分かっていた。望んで、良いのだろうか。分からなかった。
だから、カッコイイメカの手足を持った男が牢の鍵を開けて、目隠しをしたきれいなお姉さんが入ってきたら、
「よく頑張りましたね。タクヤくん。あなたを、助けにきました。」
微笑んでそう言ってくれた時は、思わず一目もはばからず大泣きしてしまった。
「落ち着きましたか?」
しばらくして、アレクに抱きしめられたタクヤはゆっくり頷いた。
「でも・・・」
立つことはできなかった。この1週間の牢屋での生活が確実に体力を奪っていたのだ。逃げる事が出来ない。
「想定内やろ。」
髪をポニーテールにした男が近寄ってくる。背負って運ぶつもりだ。
「待ってくれ。」
それを止め、ふわりと少年の前に留まるのはティア・ロード。ヒーローマスクだ。
「この身の顔じゃないが仕方あるまい・・・さぁ少年!乙女の涙を救った君に選択肢を用意した。選べ!」
「美少女になってヒーローになるか!私と共に戦うか!」」
力無くともその想いは本物だ。それを認めているからこその選択肢。けれど今ここに居る少年は、まだ。ただの少年である。
「え・・・えっと?」
「さすがに時期尚早って事やな。」
何を言うべきかまごついてる少年を狭間が背負い、そのまま通路から歩いていこうとする。
「あっ、待ちたまえ!まだ話は終わってないぞぅ!」
ふわりと並走。
「ま、怖かったんだよね。」
そこにジョンが並んで牢屋の部屋の外へと共に歩いていく。
「・・・うん。」
未だに信じられない。少年は頷いた。
「大丈夫です。私達、これでもヒーローですから。」
そう言う柄でもないですけどね。アレクが悪戯げに笑う。
「急いでください。眷属達が迫ってますから。」
ロカロカが鋭い表情で急かした。
そうして牢屋のある区画から出た瞬間・・・
幽鬼のような影の集団と出くわした。眷属の集団だ。
「ひっ・・・ぃぃぃいいい!?」
「おわっとぉ!?」
タクヤが五日目のトラウマが想起され暴れる。狭間が態勢を崩し、それに伴い他の面々も一瞬反応が遅れた。
先制を取られる。各人がダメージを覚悟した瞬間、
「狩りは終わらない、ヒトが『ワレラ』を必要とする限り。」
声が響く。眷属の集団に狼の群れが襲いかかり、
「我が身、切り札を放ちて、この一符余すこと許さず!」
閃光がその隙をついて狼の集団を撃ち滅ぼした。
「おや・・・」
一息ついてタクヤを助けた一団を見やるのは、護堂・結城だ。
「なんだ。お前らが先に助けたのか。」
彼岸花・司狼も狼たちを散らして近付いてきた。
自分のトラウマとなった眷属を一瞬で消し飛ばした二人、確かなヒーローの予感にタクヤは目をキラキラとさせながら声を掛ける。
「お兄ちゃんたちは?」
その様にかつて救われなかった自分の在り得た姿を幻視して結城は微笑んだ。
「ヒーローだよ。遅くなったがよく頑張ったな、小さなヒーロー。」
そう言って【手を繋ぐ】。絶望に濡れた少年の瞳に希望がともり始めた。
「急ぐぞ。あっちにカプラも居る。もう構成員の連中は大体片付けたが、今度は眷属で溢れて来てやがる。はぐれるなよ?」
司狼が急かす。
「それはまずいな。急ごう。」
ジョンが号令をかけた。さぁ、後は逃げるだけだ。並みいる眷属を蹴散らし、ヒーローなどいないと嘆いた少年に「現実」を叩きつけてやろう。
大成功
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第2章 集団戦
『黄昏の信徒』
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POW : 堕ちる星の一撃
単純で重い【モーニングスター】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 神による救済の歌声
自身に【邪神の寵愛による耳障りな歌声】をまとい、高速移動と【聞いた者の精神を掻き毟る甲高い悲鳴】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 黄昏への導き
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身と全く同じ『黄昏の信徒』】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
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虻須・志郎
こういう輩は変身しないでこのまま倒すんだろ? 俺は詳しいんだ
仲間の退路を確保する為、殿で番を張ってやる
討ち漏らさん様、余り突出しないでな
戦闘は内臓無限紡績兵装を使用
モーニングスターで攻撃してくるなら
そいつを鋼糸で絡め取って無力化してやる
周辺地形をぶっ壊されたらタクヤが危ないからな
無力化したらそのまま近付いて、捨て身で一発ずつブン殴る!
ダメージがきつけりゃ奴ら自身の生命力を喰らってやるぜ
まあ、あんまり子供には見せられん姿だな
こいつら……眷属もある意味被害者だが
こうなっちまったらもうお終いだ
速やかにあの世へ送ってやるさ
イェーガーファイ! あ、〇ッドマンて知ってるか?
敵を皆殺しにする時、こう叫ぶんだ
ヴィクティム・ウィンターミュート
クソサイコパスのオカルトフリークスが。俺のニューロンにダメージを与えた罪は重いぜ。こうなりゃ、眷属も残らず殲滅しなきゃ気が済まねえ。
ユーベルコードで自爆ドローンぶつけまくって一気に薙ぎ倒してやる。集団相手に爆発物が有効なのは、ストリートのガキでも知ってらぁ。閉所なら尚効果的ってもんよ。無論、味方を巻き込まないような運用が第一だ。
【神による救済の歌声】とやらで耳障りな歌を奏でるらしいが……飽和爆撃による死のオーケストラと、どっちが綺麗か試してみるか?
爆撃の轟音で歌をかき消せるか、賭けだがやってみる価値はあるな。
おっと!まさか爆撃の音に負けて何も聞こえねーなんてオチもあるか?
だとしたら、最高だな。
青葉・まどか
「ヒーローの時間だよ!」
この状況、問答無用で敵を殲滅。
ヒーローらしく、タクヤ君にカッコいいとこ見せないと!
シーブズ・ギャンビットで攻撃、とはいえ荒事は苦手、周囲との連携やフォローを心掛けて行動。見栄を張らず、自分の出来る事を着実に。
余裕があるならタクヤ君に飲み物や食べ物を渡したい、お腹すいてるよね?
「ここに居るのは皆んな、タクヤ君のファンなんだよ。君が頑張ったから私達は今、ここに居るんだ!」
タクヤ君に一言伝えたい。
西園寺・メア
自身の身の危険を顧みず、邁進する
タクヤ君の勇気ある行動は間違っていない
それは絶望の闇ではなく、希望の光であるということを証明するために恐れることなく突き進む
……ヒーローというのは柄ではないのだけれどね
絶望の1つや2つ、乗り越える切欠になってみせましょう
さぁ行くわよもう一人の私。ドッペルゲンガーアームズ!
呪詛で強化した鎧砕きで敵を攻撃
敵の反撃を見切りで避けてさらに攻撃
手をつなげば呪詛を直接叩き込んで攻撃
■
お嬢様思考、アドリブ歓迎
アレクシス・アルトマイア
タクヤくんを護るように立ち回りつつ
仲間をサポート
援護射撃に二回攻撃
此度も【SPD】重視に参りましょう
敵の高速移動は
私の銃弾よりも遅いようなら問題ないかと
四肢を撃ち抜いてもその速度
保っていられるものでしょうか
鋼糸で敵を絡めとったり
味方の救助も行えたならよいですが。
私の危機には助けを求めましょう
ヒーローは、助け合いだとも申します
耳障りな歌声に悲鳴がタクヤくんを怯えさせるようなら
優しく耳を塞いであげましょう
横から抱き寄せるカタチなら、片手は空きますから応戦にも十分かと
大丈夫なら開放しますが
無理をしないのも勇気です
頑張っているなら褒めて差し上げましょう
ヒーローにだって、苦手なものはあるものですよ
ティアー・ロード
仕方ない、当ては外れたし
今回は美少女の猟兵に被って―
ん、なんだい、ジョン
(タクヤと、召還されたヒーローを見る)
むぅ、いいだろう
この二人に免じて、ジョン
今回だけ、私とキミとで涙の支配者だ
腰に装着されたまま
ジョンと共に涙の支配者へ成るよ
(女物のヒーロコスチュームを展開)
男だし乗っ取りはしないけど
最低限の思考の共有と
技能を合わせて使徒をぶちのめす!
「合わせろ、ジョン!」
「私たちこそ」
「「涙の支配者!ロード・ブラウン!」」
「美少女の涙を拭う者だ!
ん?ジョン、何故合わせない?」
使用ユベコは刻印「大義名分」
我らの雄姿をタクヤに魅せるぞ!
再生怪人なぞ一撃で粉砕だ!
「コード・ザ・ジャスティス!
―キィィック!」
ジョン・ブラウン
ティアー・ロードと共闘
ねぇタクヤ、キミの1番好きなヒーローって誰だい?
僕はそうだね、日曜の朝にやってる仮面のヒーローや光の巨人
戦隊シリーズも大好きかな
……もしかして、そんなお話のヒーローなんて居ないと思ってる?
違うんだなぁ、僕らは手伝ってるだけさ
ほら、そっち見てごらんよ。君のヒーローはそこに居るぜ?
【会話で聞き出したタクヤのヒーローを、ユーベルコードで具現化し戦わせる】
さて、後は見てるだけってのも格好付かないね
頼めるかいティアー
変…身!
見てなよタクヤ!
ここから先は、君のためだけのヒーロータイムだ!
ってこれ衣装デザイン固定なのぉ!?
【衣装以外には文句なく仲良く口喧嘩します】
蘇芳・薊
どれ程敵が出てくるのか分からないのですから、腕の変異に留めて体力を温存しましょう。脱出したは良いものの、追手にやられるなんて事は一番良くないですから!
モーニングスターの単純で重い一撃は戦闘知識と見切りと暗視能力で避けましょう。大ぶりの一撃であればカウンターを叩き込む事や2回攻撃等を入れる余裕もあるでしょう。
思った以上に敵の攻撃が弱ければ、こちらも力溜めをした上で敵攻撃を武器受けなんて事も出来るかもしれません。
体力は幸いにしてある方だと思いますから味方を積極的にかばう事にして、極力チーム全体の戦闘力の損失を避ける様に努力します!
狭間・悠弥
ド派手に暴れて退路を開く…といきたいトコやけど、
マトモに動けん小僧を置いて戦って、その隙にまた攫われでもしたら洒落にならん
歯痒いが、ここは小僧を背負って皆が開いてくれた退路を駆け抜ける事に専念させてもらうで
「しっかりつかまっとれよ、小僧」
あの化物共の気色の悪い声、小僧が聞かされたらひとたまりも無いな
自分の服を小さく破いて、切れ端を小僧に渡しとく
「何もないよりマシやろ、耳栓代わりに詰めとけ」
交戦は可能な限り避けて出口を目指すが、避けきれんなら速攻や
【剣刃一閃】、居合の【早業】で叩き斬って、あの鉄球ごと【爆轟鉄拳】で殴り吹っ飛ばす
即席の飛び道具や。複数巻き込んで道を開ければ御の字っと
「しっかり捕まっとれよ
・・・!」
背負った少年に声を掛ける男を中心とした一団が、今や数多くの眷属で溢れた施設の通路を駆け抜けていく。
「よし、次は右だ。」
集団前方、ウィスパーのバイザーを展開させたまま走りつつ、声を掛けるのはジョン・ブラウンだ。通路を右に曲がる。瞬間、眼前に現れた眷属の集団が振り上げた鉄球を回避しようと左側の壁へ体を向けていく。
鉄球も当然それに対応して軌道を変え、このままでは壁と鉄球に体を挟まれると言った所で動力付きローラーシューズ、エアトリックを履いた脚を壁に押し付ける。そのままモーターの力に任せ螺旋状に壁を駆けあがり、丁度眷属の集団を下に見た所でワイヤーシューターを起動。一瞬で縛り上げて無効化していく。
「よおやった!」
快哉を叫びながら少年を背負った男、狭間・悠弥は縛られ動けない一段の前で急停止。右前で半身になり、大地を踏みしめた右足からバンカーが射出され確実に固定。そのまま右腕で少年を背負ったまま左腕が振りかぶられ、
「逝っとけや!!!」
爆音。爆轟鉄拳。内臓パイルバンカーが射出され、今しがた拘束された黄昏の眷属の一団が消し飛んだ。そのまま右足のバンカーを格納し再度走り出す。
「凄いですねー。」
殿を務める銀髪の女、アレクシス・アルトマイアが感心したように走りながら手を叩く。
「アレクもお世辞、言うんだね。」
バイザーで周囲を確認しながらジョンが答える。そのまま道を進んでいく。
既に構成員の誰かが直接電力を復旧したのだろう。周囲は明るい。それでもなお、ジョンがバイザーを付けているのはヴィクティム・ウィンターミュートから送られてきたマップデータを頼りにこの黄昏秘密倶楽部A市支部からの脱出を図っているからだった。
あの牢屋から逃げ出して既に10分程経っている。思ったより進軍速度ははかどらなかった。黄昏の信徒のせいである。
倒しても倒しても、1体でも相手が残っていれば【黄昏への導き】の力で戦線に復帰するのだ。眷属でないこちらの道を阻もうとする一般の構成員ですら壁としてよみがえってくる。
一体一体は余裕で対処出来ようともこの数ではどうしようもない、と先ほど護堂に彼岸花やロカロカが囮としてある程度の集団を引きつけてくれなければ、進む事すら難しかっただろう。
とはいえ幸いににもあの三人が引きつけてくれている事で、脱出の目が見えていた。
そして背に背負われながら、きらきらとした目で少年は彼らを見つめている。夢がかなったのだ。ヒーローは居る。つい最近まではテレビの中に居て、そして自分がそうなる事を夢想して、願って、裏切られて、存在しないと絶望していた筈の、正義のヒーロー。それがついに自分の前に現れて、こうして助けてくれる。少年、タクヤは心の底から感激していた。
「うんうん。顔色もよくなってきてよかったです。」
アレクが安堵したように頷き。
「そうね!まったく。腰が外れて動けないなんて、情けないけれども当てが外れたか。」
「そこは流石に普通の小学生ですらかね、少しは勘案してあげない・・・っと!」
ヒュッ・・・っとアレクの左腕が翻り、今まさに脇道から躍り出てタクヤ達を襲おうとしていた信徒の集団の先頭に向けて投げナイフを放つ。
飛来してゆくそれは過たず信徒の仮面ど真ん中に突き刺さり、昏倒させ、後続達も先頭が倒れた事でドミノ倒しのように崩れていく。
そのままアレクは塊となった一団を通り抜けて、見もせずに後ろ手に拳銃で撃ち抜いて行った。もぞもぞとした音が聞こえなくなる。ある程度は外れているだろうが、とりあえずは行動を制限できればそれで良い。
「ね?」
二コリ、隣を並走するヒーローマスク、ティアー・ロードに口元のみで笑い掛けた。
「そうだね。それにしてもキミもすごい腕じゃないか。どうだい?私を装着してみれば、さらにタクヤにヒーローを見せてやれるよ?」
「私はもう間に合ってますので。」
二コリ、目隠しの女はにべもなかった。
「酷いね!?」
「それに。」
「それに?」
そのまま先行するジョンと狭間たちに目を向け、
「ジョンくんが、楽しい事をするみたいですよ?」
新たに出てきた信徒の振るわれた鉄球を懐に入って梃子の原理を駆使して相手に叩き返しながらアレクは楽し気に言った。
良し、ある程度進んだな。バイザーに表示されている見取り図と自分たちの光点。それを確認してジョンのテンションは上がっていた。1人の少年を胸糞悪い状況から救い出して、今は脱出の時。確実にこれでゲームだったらクライマックスBGM流れてるやつだな。というか今からでも流したい。ヘッドホン型デバイス、ウィスパーは装着しているのだ。しかし流石にこの状況で聴覚が遮断される事を良しとするほど愚かではない。だから何も言わずに集団の最前線をそのまま進む。
そうしてさらに進むと、正面閉ざされた扉がある。その扉の先に広い空間があり、信徒の集団が束になって控えているらしい。ウィスパーから齎された情報がそう告げていた。不運な事に迂回しようとするとある程度引き返す必要がる。時間が惜しい。それに少し面白い事を思いついた。いったん扉の前で止まり、タクヤに声を掛ける。バイザーを開き、目線を合わせ、出来るだけ優しく。
「タクヤ、遅れてごめんね。」
「そんな、いいよ。お兄ちゃん・・・助けてくれたし。」
「そうか。よかった。所でタクヤ、キミの一番好きなヒーローは何だい?僕はそうだね、日曜の朝にやってる仮面のヒーローや光の巨人戦隊シリーズも大好きかな。」
優しく声を掛ける。もしこれが助けた直後ながらタクヤも口をつぐんだだろう。ヒーローというものに、絶望しきっていた直後なら。けれど今、少年や少女の戦いを見て、父のように頼もしい男の背中に背負われて、少年の絶望は溶けだしていた。楽しそうに語りだす。どうやら戦隊ものが好きらしい。
「そっか。タクヤ、実はね。彼らも来てくれているんだ。今この扉の奥で戦ってる。」
そうして他の仲間に目配せをした。行くよ。
「さぁタクヤ!見てごらん!」
勢いよく扉を開けた瞬間、【バトルキャラクターズ】。今しがた聞いたタクヤの好きな戦隊のヒーローたちが、怪人である黄昏の信徒たちに踊りかかっていた。
「わ・・・わぁー
!!!!」
助けに来てくれた!!!祈りは通じた!!!ヒーローは居るんだ
!!!!!!!ここに至りタクヤの絶望は涙と共に溶けて行った。少年の涙を首筋で感じ、狭間はニカリと笑う。
「ハハハハ!!!いい笑い声出しよるじゃねぇか小僧
!!!!」
『ヒーロー達』と共に戦うために広間に躍り出る。多勢に無勢。まだまだ突破できるほどではない。ならば魅せてやらねば。
「みとけや小僧!!!」
右手で柄を握りしめ、一気に抜き放つ。そのまま、
「おらぁ!!!」
【剣刃一閃】。剛剣がまとめて敵を切り飛ばす。
「凄い!!!かっこいい
!!!!!!」
「はははは!そうやろう・・・がっ!!!」
気分がいい。決してタクヤに敵が触れぬよう立ち回りながら、道を拓こうと斬りかかる。
「これは負けていられませんね。」
アレクはあくまで支援だ。扉から入ったところですぐの所に立ち、神速の銃撃が二連づつの銃声を奏でながら、ジョンによって作り出された『ヒーロー達』の隙を【援護射撃】が確実に埋めていく。
「これは私だけ役に立ってなくないかい!?」
めいめいが戦っていく中、ティアー・ロードが抗議の声を上げた。
「そんなことはないさ。ティア。」
浮かぶ仮面の傍らに立つのはジョンだ。ジョンもまた少年。自分が作り出したこの光景であろうとテンションが上がらぬはずもなく。
「いこう、ティア。見ているだけというのも恰好が付かないしね。」
「はっ!良いだろう。」
召喚されたヒーローとタクヤを見て。
「彼らに免じて、今は私と君とで、涙の支配者だ。」
そう言うとロードがジョンの腰に巻き付き。
「いくよ・・・」
「勿論だとも。合わせろジョン!」
「ああ!変、身ッ
・・・!・・・!?うぇ!?」
それらしいポーズをとったジョンを、ロードを軸に展開された女物のコスチュームが包み込んでゆく。乗っ取りはしない、最低限の思考と技能の共有だけで済ませる。
そうしてスカートに体のラインが出つつも要所でそれを隠したヒロインコスチュームがジョンを包みきり、ロードが高らかに宣言する。
「私たちこそ」
「涙の支配者!ロード・ブラウン!」
「美少女の涙を拭う者だ!・・・ん?ジョン、何故合わせない?」
日曜日の朝のヒロイン、といった風情のコスチュームに身を包んだジョンが顔を上げながら真っ赤にして思いっきり声を上げる。
「衣装デザイン固定なのこれぇ!?」
「当たり前だろう!私は基本的に女性専門だ!恨むならテンション上がってしまった自分を恨むがいい!そら!!!再生怪人が来るぞ!!」
幸いなのがまだジョンが少年と呼べる年で、比較的犯罪チックでない事だろう。そしてそこに新たな脅威と見て信徒たちが殺到してくる。
「さぁ肩慣らしだジョン!やってしまいたまえ!コードセレクト、ザ・ジャスティス!」
「畜生やってやる!」
やけくそな勢いのままに、【刻印「大義名分《インフレーション・ザ・ジャスティス》】によって強化されたキックが黄昏の信徒たちを撃破していく。
「うう・・・、無駄に強い。」
「無駄とはなんだ無駄とは。これは乙女の涙の為の強さだぞ。」
そんな漫才じみたやり取りも、今ではタクヤの心を癒す助けとなっていた。自然と笑いが漏れる。絶望の心が晴れてくる。だからだろう、そんな心を折ろうと広間に残った信徒たちが一斉に固まり、ガパリ、と仮面が割れ口が開く。【神による救済の歌声】だ。聴く者の精神を掻きむしる邪神の寵愛による耳障りな歌声。しかも高速移動を可能とする。通路で、そして今この場所でもこれまで使ってこなかったのはその高速移動能力を使うには前者は狭すぎ、後者は密集しすぎていたからだ。
それが今、ある程度こちらが間引いた事で高速移動が可能となったからだろう。歌が響こうとしている。
「まずい!。」
狭間が服のすそを切り、タクヤに渡す。
「耳栓代わりに使えや。」
急いでアレクがタクヤの方へ向かって来る。高速移動する敵からタクヤを守るには狭間一人では流石に手が余る。
そうやって皆が敵の新たなる脅威に備えようと動き、敵もいざ動こうといったところの一瞬の静寂。黄昏の信徒共の深淵のような喉奥が震える。震えが波となり、歌を形成しようとした瞬間、
「はっはぁーーー
!!!!!!!!!クソサイコパスのカルトフリークス共ぉ
!!!!!!!」
黄昏の信徒たちの背後から爆発が巻き起こり、連中を吹き飛ばし、歌声が中断された。
「おらぁ!!!クリティカルだぞアホ共ォ
!!!!」
ダクトから通路に侵入し、タクヤ救出組と合流せんとしていたヴィクティム・ウィンターミュートが快哉を上げる。 マップを頼りに通路を頼りに進んでいる途中で出くわした閉ざされた扉の向こう、何やら敵が固まっており、それに対峙するように生体反応がある事をデバイスで感知したヴィムは、同行していた青葉・まどかに何も告げず、扉を蹴破るなりドローンのプログラムコード、【Saturation Suicide 《クイチラカスハエノグンゼイ》】を起動。
自爆機能を搭載したドローン群が黄昏の信徒たちの群れに着弾。みごと機先を制し大部分を削る事に成功した。
「クリティカルじゃないよ馬鹿じゃないかな!!!味方も爆発に巻き込まれたらどうするのさ!」
ツッコミを入れながらヴィムの脇から青葉・まどかが飛び出す。状況判断。多くの信徒たちは撃破され、しかし生き残りが【黄昏への導き】を使用して立て直しを図ろうとしている。屋内の敵味方どちらもまだ混乱中なので動きは鈍いが、ターゲットを【黄昏への導き】を使用しようとしている個体に絞る。ダガーが煌めき信徒たちの仮面が割れ確実に狙った相手を沈めてゆく。状況、場所を選ばずに着実に狙った相手をナイフで以て仕留めていく。【シーブズ・ギャンビット】だ
「ああ!?俺の処理能力を舐めてんじゃねぇぞ!んなもん被害が及ばないようにしてるに決まってるだろうが!」
「だったら私の手伝いもして欲しいかなぁ!」
そもそも荒事は苦手なんだよぅ・・・青葉はぼやく。そのぼやきはまさに年頃の少女といった風情だが思考は冷徹に脅威となる対象を見定めている。少女だって、タクヤと同じように行動力でこの世界に入ってきて、けれど一端の猟兵を出来ているのだ。それにたる実力はあった。
「はっ!お前案外読みやすいから楽だわ。」
ドローンを操作しながらヴィムがポツリとつぶやく。先程の自爆ルーチンプログラムを駆使して、まだ残ってるドローンを的確に爆撃させてゆく。ドローンを迎撃しようとする鉄球は青葉の投げるナイフによって的確に阻止され、効率的に信徒の数が減ってゆく
「えー。ひどーい。それって私が単純って事?」
「ちげぇよば・・・かとはいえねぇか。アナログ野郎、褒めてるんだよ。」
そう。ヴィムのプログラムによって制御されたドローンと青葉のコンビネーションは即席にしてはとてもうまくいっていた。それもそのはず。こういった非常時に冷徹な判断を青葉は下せる。そして冷徹な判断とはすなわち効率的な判断だ。
いかに敵を効率的に無力化できるか。それはドローンも同様だ。いかに効率的に敵を爆撃できるか。肉体的な思考と電子的なシステム。アプロ―チは違えど至る結論は一緒だった。だからこそ今この場で、綺麗に連携が取れる。ドローンは、それを操るヴィムはシステムと電子的な思考、計算により。青葉は経験的な非論理的勘と一瞬の判断により。
「意外だね。褒めてくれるとは。」
ふふん。ナイフを振るう手も鋭くなろうというものです。
もうこの頃には敵同様、硬直していたタクヤ救出組も動きだし、何やらコスプレ野郎が拳や蹴りを駆使して戦い、テレビから出てきたかのような戦隊集団もまた残りの信徒たちを蹴散らしていく。そういった合間を銀の影が翻れば、タクヤの周りを斬撃の嵐が護る。もはやこの部屋における戦いの趨勢は決していた。
そうして一端広間での戦いが終わり、一端それぞれで集まる。なおジョンの創り出したヒーローは消耗が激しかったのか消えていた。タクヤには『次の悪者が居るから』という事で納得させてる。幸い青葉がタクヤ用に、という事でお菓子を持ってきていた。ここまでタクヤ自身も緊張のし通しだった。ここに集まってたのが黄昏の信徒の多くを占めていたのだろう。気配も周囲にないという事で、タクヤを少し休めるという事で、皆でお菓子を食べる。
「いやー本当によかったよかった。タクヤ君助ける事が出来て。あとはここから出ればそれで大丈夫だからね!」
青葉がタクヤに元気よく声を掛ける。それにタクヤは無邪気に笑い、答える。もう腰も抜けておらず、自分で歩けるらしい。背負うより護衛は楽になる。
「うん・・・ありがとう。ヒーローの皆!本当に助けて・・・くれて。」
8日間、心細い日を過ごしたのだ。それがこれだけ暖かい人々に囲まれ、知っているお菓子の甘い味も感じ、少年の目から涙がこぼれる。
「フフフ、それはねタクヤ君。ここに居る皆は、タクヤ君が頑張った事を知っている。だからファンなんだ。助けるのは当り前さ。」
始まりは考え無しだったとしても少年の善性からだ。戦いと脱出の間の僅かな間、少し和やかな空気が流れ、
「にしてもよぉ
・・・。」
和やかな空気に耐えきれず、ジョンをみやった。女物のコスチューム。知人のトンチキな恰好に突っ込まざるを得なかった。
「まさかお前が男の娘(TRAP)だったとは思わなかったぞ・・・グッ・・・プッ・・・ギャハハハハ
!!!!」
「し、仕方ないだろうこのヒーローマスクがこれしかないっていうんだから!」
「何を言うんだい!?そもそも私だって変身するなら美少女がいいんだよ?」
黒歴史確定である。そうやってひとしきり笑って和やかな空気が流れる。僅かな時間だったがタクヤの体力も回復したらしい。さぁ行こう、皆が立ち上がり、ヴィム達が来た道へと向かおうとした瞬間、
「その必要はない。」
深淵のような声が響く。ジョンとヴィムの電子的なシステムでは観測できず、しかし皆の脳内に響く声。
そして全く予期してない方向から、人が3人。極彩色の嵐に巻かれながら壁を突き破って皆の居た広間に躍り出てきた。
丁度ヴィムが信徒達を爆撃していた頃、全く別の場所で蜂須・士郎と蘇芳・薊はその爆発音を聞いていた。潜入組の助けになれればと暴れまわっていた正面突破組、敵の数の多さに分断され、今は薊と士郎の二人がペアになっていた。他の2人は他の二人で暴れまわっているのだろう。
とはいえ数が多い。薊は当初の全身異形から体力温存の為に両腕の変異にのみ留めている。それでもなおその暴虐は黄昏の信徒たちを許さない。半端に残しては復活されて意味がない。膂力で以て殴り裂き、原形を壊していく。
「爆発音!?士郎さん!?」
対して士郎は無限紡績兵装で敵を縛り上げ無力化していく。倒したって復活するなら倒さず無力化すればいいのだ。
「ああ、どうやらあっちで大きくドンパチやってるという事は・・・おそらく其処にタクヤはあっちに居るんだろうな。さっきからこちら側の信徒が減っている気がするし・・・っと薊!!スイッチ!!!」
それぞれが別の手段で信徒たちを無力化しておりながらも、得手不得手がある。薊は信徒たちを確実に無効化するには少し時間がかり、反面士郎はすぐさま無力化する事が出来た。そして今、お互い背中合わせに戦っている状況で、士郎の方に回避するだけは対処できない数の鉄球が降りかかってきて、互いの位置を反転して交換。
迫りくる無数の鉄球を前に薊は冷静な【戦闘知識】以て避けるべき鉄球を選別。確実に【見切】っていく。それでもなお避けきれない攻撃は異形の腕をクロスさせて、衝撃。けれど耐えきった。強力な一撃を放った後だ。隙も大きい。
「士郎さん!」
「任せろ!」
薊が対応していた信徒を既に無力化していた士郎が、内臓無限紡績兵装を唸らせて即座に拘束した。こういった風に信徒たちのひきつけを薊が引き受け、無力化を士郎が担当。それでうまく回していた。
一端通路の敵を総て無力化して、額を突き合わせて相談する。
「どうします?」
「そりゃ、行くしかねぇだろ。」
「でもどうやって?」
「・・・まぁなんとかしてやらぁ。」
サイボーグ舐めんなよ?各種観測システムを使えばまぁ、なんとかなるだろうという楽観もあった。
よし行くぞ、と士郎の先導で歩いていこうとした時、
「ひ・・・ひひひいひひえぃげいいいい・・・」
狂気の声が進もうとする方向から響いてきた。思わず二人とも身構える。
すると瞳孔を出鱈目な方向に動かしながら目の端から血を流し、口は噛み締めすぎて歯が砕けたのだろう、血を流しながら泡を吹いてる男が現れた。手に刻まれた目の紋様からは絶えず血が流れ、それどころか手そのものが壊死しかけている。
「うわ
・・・。」
思わず薊が後ずさる。
男の背後には黄昏の信徒が付き従っていた。
「ありゃ駄目だな。死んでねぇだけだ。」
神妙に士郎が告げる。
「ここで眠らせてやろう。」
「はい
・・・。」
二人ともタクヤの元へ行く前にこの憐れな男を休ませてやらねば。構え、信徒に相対しようとした瞬間。士郎と薊がやってきた方向から声が響く。
「・・・おお!!おお!!!お嬢様!完全に道を間違えおりますぞこれは!やはり爆発音のあった方向へ向かったほうがよかったの
・・・。」
「骨の分際で煩い。」
鈍い音。
「ぐわー!!!しか、しかし我らお嬢様を守り隊、諫言も恐れませんぞ!!」
「そう。」
ボグッ!
「ぐわー!!お嬢様の愛が痛い!!」
そうして通路から歩いてくるのは仕立ての良い服を着た金髪に青の瞳と金の瞳を持ち合わせる少女だ。見るからに上流階級の行儀のよい雰囲気を漂わせて、明らかにこの鉄火場にそぐわない少女。
しかし敵は待ってくれない。いきなり来た少女に気を取られる暇すらなく、黄昏の信徒たちが襲いかかってくる。
「おい!猟兵か!!」
無限紡績兵装で次々と信徒たちを無力化しながら士郎が問う。
「ええ、そうですわ。メアはメアよ。メアと呼んでくれると嬉しいわ。」
「ああ、クソややこしい。で、メア!」
糸が翻る。信徒たちが拘束され、薊は薊でその腕でもって信徒たちを破壊している。
「手伝ってくれるんだな!?」
「勿論。」
フンス。西園寺・メアは胸を張った。
「で、件のタクヤ君はどこですの?」
「こっちにはいねぇ!!」
「そう・・・」
「お嬢様!やはり先程の爆発音の所に行った方が・・・グワー
!!!!」
ゴガッ!杖を床にたたきつける鈍い音がした。溜息を一つ。
「仕方ないですね。それではここに居る連中を片付けてから、タクヤ君達に合流するとしましょう。」
そう言って杖を構える。
「災いよ我が腕に集え。これは私であって私にあらず……《我が腕は違う他が腕/ドッペルゲンガーアームズ
》!!!」
叫び、杖に自分の別自覚がインストールされ強化される。そのまま絶望に立ち向かうが如く決断的に進んでいく。近寄る鉄球は構わず【鎧を砕くが如く】にそれごと粉砕した。
恐慌の叫びをあげて高速移動してくる敵は【見切って】襲い掛かるその機先を制して叩き潰した。
歩を止めようとする手が迫るならば【手を繋ぎ】、呪詛を叩き込んで無力化した。
「それでは
・・・。」
そうしてもはや生きておらず、死んでないだけの男の前に立ち、
「ごきげんよう。」
その心臓を無理やり動かしていた呪詛を呪詛をぶつける事で止めた。
「で、結局こちらにはいらっしゃらないわけですね。」
「ええ。けれど助かりました。」
薊も眉根を下げた。
「それは良かったです。」
「しかしお嬢様!彼らの助けになりましたが、タクヤ君にはあえておりませんぞ!このままでは、彼に勇気あるその行動は間違いではないとかなんとか恥かしい感じの事をつたえるのが、ぐわ!ぐわー!あばー!?」
ゴガ!ゴガ!!ゴガゴスゴリ!!!
「え、ええと。大丈夫?杖とか
・・・。」
コクリ、お嬢様は頷く事で答えた。
「それでどうなんですのお二人方。位置は?わかってらっしゃるの?」
「ああ、俺の方で何とかするから、行くぞ。」
「その必要はない。」
男の静かな声が聞こえた。瞬間、極彩色の嵐が、3人を襲い、壁を突き破りながら3人をタクヤ達の居る広間の壁に叩きつけた。
「大丈夫か!?」
まず反応したのは狭間だった。3人に駆け寄る。
ガラ、と瓦礫をはねのけて金と黒、2人の少女が立ち上がる。
「大丈夫ですか士郎さん!?」
「感謝、ですわね。」
二人の下敷きになっていたのは士郎だった。女子2人がダメージを受けないようにとっさにクッションになっていたのだ。
「つつ・・・大丈夫だ。まぁ役得さ。」
他の面子も近寄ってくる。
「気を付けなさいませ。」
メアが今しがた自分たちが空けた穴の奥を睨む。奥から金色の男が歩いて来た。
「貴様ら、素晴らしいぞ。」
感極まったように男、イネブ・へジの狂える王は言葉を紡ぐ。
「貴様らが居る事で、居るからこそ、貴様らが死ねば、もはや計り知れぬ程の絶望を、贄は得るだろう。王の饗応の手法としては些か以上に不敬であるが、赦そう。なぁ、贄よ。」
超自然的な圧を以てタクヤを睨む。一度は心が折れたその力に、しかしタクヤは抗った。そうだ、自分は独りじゃない。助けたくれた人々が、ヒーローが居る。なら、ここで自分が屈するわけにはいかない。悪いやつはやっつけないと。
「お前なんか・・・コテンパンにやっつけてやる
!!!!」
脚は笑い、声は震えていた。それでもタクヤは確かに、希望を持って男をにらんだ。
「不快である。」
不機嫌そうな男の声。その様に、メアは微笑んだ。そう、例え力無くともその自身の身を顧みない勇気ある行動は間違ってない。だから、次は自分たちの番だ。
「行きましょう。」
立ち上がり、王を睨む。ヒーローという柄ではない。それは猟兵としてこの場に居るほとんどの者が思っている事だ。だが、けれど。今抗いの声を上げた小さな少年にとって、自分たちはヒーローなのだ。だから、ならば。ヒーローらしく、さぁ。悪いやつを、やっつけよう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第3章 ボス戦
『イネブ・ヘジの狂える王』
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POW : アーマーンの大顎
自身の身体部位ひとつを【罪深き魂を喰らう鰐】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD : カイトスの三魔槍
【メンカルの血槍】【ディフダの怨槍】【カファルジドマの戒槍】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : ネクロポリスの狂嵐
【腐食の呪詛を含んだ極彩色の旋風】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑17
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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聖護院・カプラ
【WIZ】
名前を嘘偽りで塗り固めた事、お詫びします。
聖護院カプラと申します。
……はて、私達が死ねば赦そうとはおかしな事をおっしゃいますね。
”本当に力が戻っていれば”、”本当に神性が宿っているならば”
そのような事を言わずとも実行に移しているのではないでしょうか?
この世界の希望を掻き消すなどできはしません。
行いを改めるつもりがあるのならば、私は貴方を赦しましょう。
それができないのなら――。(『経法』による浄化)
皆さん、タクヤ君。
こういった時は、ヒーローはどのような決め台詞を言いましたか?
「正義は勝つ」でしたかな。
ヴィクティム・ウィンターミュート
俺は英雄じゃあない。だから主役にはならない。タクヤに英雄の背中を見せる役目は、もっと相応しいのがいる。だから俺は英雄の膳立てをするだけ。さぁ、英雄に非ざる者のダンスだ。しっかりついて来いよ?スクィッシー(三下)!
SPD重視、戦闘で囮役をする。奴の攻撃はUC封じにドレイン、範囲攻撃。どれもめんどくせえが…前者2つは特に面倒だ。俺のUCで挑発かまして、ターゲットを取り続ける。気合いで避け続けてやるさ
「ハッ!生贄がいなきゃ復活もできない格下が、よくもまあ吠えやがる」
「状況を見な!手下も生贄もいねえ。取るに足らない猟兵に、詰まされてんだよ!無様になァ!」
「最後にエースオブスペーズを引くのは、テメエだ」
虻須・志郎
■連携可
また会ったな詐欺師のおっさん
ああ、もしかして別の奴か……
まあいい。喰らってやるよ、何度でもな
タクヤ、こっから先は人外の領域だ。だが安心しろ
俺達は心まで喰われちゃいない
ここでやればいいんだよな?
散々これまで狂気に触れてきたんだ。たまにはいいだろ……
往くぞ化け物、変……身!
電子タバコに偽装した血液パックをスライドさせ
注入用シリンダーを露出、首筋に突き立てる
最大出力で血液を刻印――王者の石へと注入する
本来ならば四肢が肥大化し赤目複眼の異形となるが
内臓無限紡績兵装で漆黒の戦闘服を縫製し
剥出しの金属骨格を残してその異形を隠す
さあアンタの狂気を魅せてみろ、同類
捨て身で殴って、その生命を喰らってやる
蘇芳・薊
ある意味都合が良いですね、貴方を倒しさえすれば事件は解決するのですから
まず希望を持たせる為にも左手の刻印を見せ付ける様に皆さんとタイミングを合わせ変身です
敵はユーベルコードを封じる攻撃が出来るとの事ですから、第六感に戦闘知識その他視覚や聴覚全てを使い見切る事が出来る様に努力します
生身の仲間やタクヤ君へ攻撃が向かった場合はかばう様にその攻撃を武器で受けるなり範囲攻撃で掻き消すなりして無効化し、そこから返す刀で何度でも攻撃を重ねます
味方が大技を撃とうとしていれば時間稼ぎの為何でもしますが、
勿論私が攻撃をする隙があれば気合を込めて切り捨てます
タイミングを合わせてのキックや決め技等も格好良いですよね?
ジョン・ブラウン
引き続きティアーを装着して変身したまま
うう……ついにラスボスかぁ
何ていうか期間限定のオシャレ装備でムービーシーンに突入しちゃったような気分なんだけど。
え、待ってまってティアー僕それ聞いてない
あのさぁ!今これ僕色んな意味でギリギリだからね!?
……いーよいーよ分かったよ!
今は僕の装備品だろ!?使いこなしてやるよ!
ウィスパー、介入しろ!
<ティアー・ロードを解析><該当条件”男性装備時”を検索><使用可能ユーベルコード1件見つかりました>
<コードセレクト>
<刻印「臥薪嘗胆」(シンクロ・ザ・ネメシス)>
<アクセス権限がありません、強制起動しますか?>
やれ!
【自身のUCで装備品であるティアーを活用する】
ティアー・ロード
良く言ったぞ、タクヤ!
「ロード・ブラウンの真の力、今こそ見せてあげよう!」
「フルーイド出力最大!サイキックエナジーフルパワー!」
「あ、ごめ嘘ついた……ダメ、パワーでない」
「やっぱり男の子でテンションMAXとはいかないねぇ
あと反動も辛いし出力6割くらいでいいかい?」
「ひゃぁッ?!ジョン!今なにを――」
起動させられるユーベルコードは刻印「臥薪嘗胆」
血涙等を代償に男でもフルパワーになる刻印だ!
「ネメシスだと?ちょまてジョンやめt……ッ!」
「イヤァーーー!」
「嫌がる女性を無理やりなんて!それでも男かい!」
「まったく……うえ、涙に血混ざってるぞ」
(ジョンの涙を仮面の裏で啜り、無茶した分の生命力を補充)
狭間・悠弥
ここまで来たら総力戦や。小僧は物陰に隠れといてくれよ
「お前は絶望の贄やない、希望の象徴や。その輝きは俺達が必ず護る」
…ガキの時分に、鬼に喰われそうになっとった俺を助けてくれた侍がおった
その侍は、俺が気ィ失って目覚めた時には右腕だけ残して消えとったけどな
…せやから俺は、誰かを助けようとした奴が死ぬんは我慢ならん
その我慢ならん事をしてくれようとしたんや、出し惜しみは一切せんぞ
真の姿…鬼神解放、【逢魔転身】
的を絞らせんよう最大速度で、一撃離脱の斬撃を連続で叩き込む
生み出した隙を見切り、右脚の固定杭を敵の足に打ち込む
「来いや。お前の槍とどっちが疾いか勝負や」
全薬室最大加圧の【爆轟鉄拳】、持っていきな!
青葉・まどか
これはヤバイ。私一人なら逃げるね。
でも今の私は一人じゃ無い、守るべき存在と共に戦う仲間たちが居る。さあ、気合い入れて出来る事をこなしていきますか!
連携を心掛け、フォローを忘れずに行動する。
シーブズ・ギャンビットで攻撃。
SPDを生かしてヒット&ウェイ。
皆んなから攻撃を受ければ、無傷で済むはずは無いから【傷口をえぐる】事を狙っていく。
ついでに【盗み攻撃】。奴の懐に何かあるなら掠め取り、苛つかせる。
全てが無事に終わったら、タクヤ君の今後はUDCに任せよう、きっと良くしてくれるよ。
私の時もそうだったからね!
西園寺・メア
狂える王のお出ましね。私達もタクヤ君も絶望に屈しないということを教えて差し上げますわ
ブレイズフレイムで狂える王を燃やしてダメージを与えつつ、オルタナティブ・ダブルで反撃、連携に合わせて対応
もう一人のメアは、迷彩で隠れて騙し討ちによる鎧砕きで敵の攻撃や移動の初動を制限する
タクヤ君、私達イェーガーを応援してもらえるかしら?
あなたの声が絶望に負けない力になるとなると信じて、力いっぱい応援して欲しいわ
■
お嬢様思考、アドリブ歓迎
アレクシス・アルトマイア
それでは、仕上げと参りましょう。
ええ、時には強引さも必要です
【POW】重視に戦いましょう
まずは【従者の時間短縮術】で味方のサポートしつつ
隙があれば連撃からの一撃をお見舞いして差し上げましょう
援護射撃に二回攻撃、暗殺技能の大盤振る舞いですよ
ヒーローとは
転んでも立ち上がるもの
倒れても進むもの
絶望を晴らして希望をもたらすもの
まあ、そんな感じで参りましょう。
悪役は必ず討ち果たされるものなのですよ
貴方が負ける理由は…
そうですねぇ
(きっと、貴方が弱かったからですね)
なにより、たくさんのヒーローたちを、怒らせてしまったからでしょう。
絶望が深いほど
それを晴らしたいと願う力も集まるのですから。
「これは躾にして王自らが振るう鉈である。伏して拝せよ。」
言葉と共に虚空から生み出された冒涜的、非幾何学的な宇宙論理によって鍛え上げられた奇異にて狂気的な形状の3本の槍が猟兵たちに襲い掛かる。「メンカルの血槍」、「ディフダの怨槍」、「カファルジドマの戒槍」。【カイトスの三魔槍】と呼ばれる魔具だ。総て当たれば超常の力すら封じる驚異の槍に対応したのは、
「ハッ!来やがたったか!」
「一本は任せて!」
ヴィクティム・ウィンターミュートと青葉・まどかだった。
(いやぁ、怖い怖い。早く逃げたいんだけど。)
タクヤを庇うよ一団から飛び出した二人の内、青葉は「メンカルの血槍」を迎撃するためにナイフを取り出しならそう心のなかで呟いた。だってそうじゃん。今もなお無感動な瞳を向けてくる狂える王。ありゃ駄目ですぜ。こちらを養豚場の豚としてみてないような目ですぜ。
(けど
・・・。)
ちょいさ!【シーブズ・ギャンビット】で迫りくる血槍を迎撃しながら自分の心の中の言葉を声に出して否定する。
「今は仲間が居るもんね!!」
だから戦える。そのまま王の気を引こうと前に進んでいった。
「おいおい俺に二つ任せるのかよ!」
そしてもう一方。ヴィムはドローンを操って残る2槍を迎撃していた。
「ハッ!伏して拝せだの、躾けだの。手下や生贄だのがいねぇと何にも出来ねぇ野郎が吠えやがる!」
「状況を見な!」
バッと右手を広げ、それに合わせてドローンの群れがタクヤ達と王の間を遮る。
「手下も生贄もいねえ。取るに足らない猟兵に、詰まされてんだよ!無様になァ!」 言葉は無い。無感動な瞳がヴィムを見つめ返答とばかりに槍が飛ぶ。ドローンを以てそれを難なく迎撃し、指を突きつける。さぁ来いや。俺は英雄じゃねぇ。主役でもない。だから「そいつら」のお膳立てをしてやる。しっかりついて来いよ三下(スクィッシー
)・・・!
そうして起動したのはユーベルコード、《Neuron Control/オマエノノウハショウジキダナ》だ。大出力の工業用電脳接続デバイスはウェット(非電脳接続者)の脳すらハッキングし、思考を読み取る。
が、
「ギッ!?ガァ
!?!?」
「不敬。王の宇宙を詳らかにするか。」
思わず崩れ落ちる。確かにヴィムは脳をハックして相手の思考を盗み見た。しかしそれによってもたらされたのは理解不能のノイズデータの群れ。そう、過去から湧き出た狂気の王は、UDCの信奉者。その思考は狂気に浸っていた。 そしてその狂気を翻訳するためのデータが今、ヴィムにはなかった。それでもなお大容量の工業用デバイスは優秀で意識は保っている。しかしノイズデータが電脳を掻きまわし、立つことが出来ない。
「串刺しとなれ。まずはその絡繰り仕掛けの魂を前菜としよう。」
3本の槍が迫る。
「・・・っ!」
前に出た青葉では庇えない位置だ。だから仲間を信じてかく乱するために青葉はさらに前に出て、
「ちくしょ
・・・!」
ヴィムは脱落する事を覚悟した。
「そうはしませんからね。」
「これで今日の女装ネタで弄るのは無しだからな!」
涼やかな銀髪の少女の声と何時もより荒っぽい少年の声が響く。
銃声が鳴り、槍の軌道が変わる。まかり間違ってもそれが誰かに向かわないように、ファンシーな服を着た少年の拳がそれぞれを砕き割った。アレクシス・アルトマイアとジョン・ブラウンだ。
「面目ねぇ。」
「いえいえ、ヒーローは助け合いですから。」
そう言ってアレクが、銀の風が先行して狂える王に接敵していた青葉に追従した。青髪の少女がナイフを振るって王に僅か傷を付ければ、そこから【罪深き魂を喰らう鰐】の頭部が現れ、それをアレクが王の四肢を貫く事で気を逸らし、遅れてきたティアー・ロードを纏ったジョンが拳で迎撃する。相手の四肢を撃ち貫く技巧、《従者の時間短縮術/タイムキーパー》の面目躍如だ。
「固い、ですねぇ。」
確かに翻弄はしていたがそれでも削りきれる程ではない。幸い大技は他の皆が用意してくれている。だから、
「いきましょうか。」
ヒーローとは、絶望を晴らして希望をもたらすもの、とかそんな感じで。アレクは微笑み、それを横目で見た青葉もまたついつい嬉しくなって口元が緩んだ。
狂気の王の周りを青の風、銀の影、ニチアサ女児向けアニメヒロインが入れ代わり立ち代わり包み込み、翻弄する。ヴィムは膝をつき、それを見ていた。依然としてノイズが走る。ドローンを制御する事も出来ない。クソッ!悪態をついていると。
「お立ちなさい。」
いつの間にか隣に上品な服を着た金髪虹彩異色のお嬢様が立っていた。西園寺メアだ。
「へっ・・・言われなくても
・・・!」
そう言ってどうにか立ち上がる。しかし膝は震えたままだ。
「・・・杖が必要みたいね。」
「なんですとお嬢様!?我々お嬢様を守り隊、お嬢さまを守る為ならたとえ火の中水の中、どのような辱めも受けましょうがしかし!しかし他人を立たせるため我々を貸そうなど・・・!それは特殊なプレイでは!?お嬢様は特殊なプレイがお好きでございましたか!」
ゴスッ!
「ヒギィ!」
微妙な沈黙が流れる。
「んっん。」
お嬢様が咳払い。
「大丈夫か・・・その、頭とか。」
「骨の頭を心配なさい。わたくしではありません。」
そういいながら彼女はヴィムに情報デバイスを渡す。
「虻須さんから預かって来ましたわ。貴方に必要なものだそうです。それで、虻須さん、蘇芳さん、狭間さんは大技を使えますが隙が大きく、嵐が来るとタクヤ君を守り切れないからどうにかしてほしいとの事。わたくしも時間稼ぎに加わりますから。」
《オルタネイティブ・ダブル》。そう呟き、メアは二つに分かたれた。一方は堂々と進み、もう一方は隠れ潜むように進んでいく。
「さぁ行きましょうか!」
メアが駆けだすと同時、少年の応援が聞こえてくる。自分が頼んだのだ。そう、少年もわたくし達猟兵も、絶望に屈する事はない。だから行こう。それを証明するために。
杖を持たないメアが駆けだす。
「皆さま、お退きになって!」
イネブ・へジの周囲で翻弄している3人に声を掛ける。呼応するように3人とも退いて、お嬢様が突っ込んでいく。
「無茶だよ!?」
思わず青葉が叫ぶも止めるには遅い。まさか無策で突っ込んでいくとは思わなかったのだ。
「大丈夫ですわ!」
そうして分かりやすい軌道で殴りかかって行けば。
「大義。」
鰐の咢が少女を捕える。すんでのところでアレクの【従者の時間短縮術】が間に合い、噛みちぎられる事はなかったが、それでも傷は深い。お嬢様が倒れこむ。王が今まで僅かに負っていた傷も癒える。そして再び迫る咢。そこへ、
「【ブレイズフレイム】。」
傷口から一斉に火が噴き出し、王を捕えた。
「ぬおおぉ!?」
たまらず後ずさり、その背後から、
「今ですわ!」
迷彩にて隠れ背後へ回っていたもう一人のメアが、《我が腕は違う他が腕/ドッペルゲンガーアームズ》を起動した杖にて強襲した。
ゴガァ
!!!!!!!!鈍い音。この戦い始まって以来のクリーンヒットだ。
隙を逃さずジョンとアレクが追撃し、攻勢に出る。杖を持ったメアもそれに加わっている間、青葉は傷付いたメアをワイヤーにて巻取り回収。安全な後方へと座らせた。
「無茶するねメアさん。」
「ええ。けれど。」
少し血の気の引いた顔で微笑み、
「仲間が、居ますから。」
「そうだけれどもさぁ!無茶はやめてね?」
自分と同じ思いを共有してくれる仲間が居る。そのことを噛み締めながら青葉は再び戦場へ戻って行った。
「必要なもの
・・・?」
メアの働きで相手に有効打も入り、攪乱組がダメージを与えるペースも上がってきている。それを横目にしながら、藁にも縋る。そういった思いでヴィムが情報デバイスから情報を吸い上げると、そこにはイネブ・へジの狂える王のデータ入っていた。そう、虻須は以前、『この王と交戦して』いる。
「は・・・はは。」
確固たるデータを元にノイズが晴れる。視界と感覚がクリアになる。ドローンが情報を収集し、相手の思考が手に取るようにわかり、だからこそもはや勝ちは揺るがない。
ドローンの収集した情報が更なる幸運を知らせ、だからこそジョンは王に宣言した。
「おいイネブ・へジの狂える王、いや。三下ぁ!もうお前の全部は分かっちまってるんだ。お前、口数が少ないが本当はいあめちゃくちゃキレてるんだろう?怖いんだろう?俺たちの事を生贄だのなんだの言いながら今しがた思いっきりぶん殴られて、『もしや我はこいつらに再度骸の海に浸されるのでは?』って恐れてるんだろう?なぁ。」
「なに・・・を。」
この戦いで初めて、狂える王が尊大な王としてではない反応を返した。
「そうだよなぁ。怖いよなぁ。やっと今日完全体になれるかもしれなくてそれを妨害されて、腹が立つよなぁ。けれどそれを表に出すのも難しいよな。だってお前は今までオウサマだったんだ。感情のままに暴れるなんて出来ねぇよな。威厳が剥がれる。剥がれちまったらもう誰もお前を王とみてくれない。でも安心しな、俺だけはお前を分かってやれるから。なにせ。」
トントン、と頭を人差し指でたたく。
「《Neuron Control/オマエノノウハショウジキダ》からなぁ!?自分の心を宇宙なんてほざきやがった、嘘つきの臆病野郎
!!!!!!」
「・・・!!!!!!!!」
王が顔を真っ赤にして周囲の攪乱を一切無視した。隙は逃さない。青葉のナイフが肩を裂く。メアの杖がわき腹を打ち据える。アレクのナイフが喉を引き裂き、ジョンとロードの拳が水月に叩き込まれた。
けれどなお、王は止まらない。呼び出したるは【ネクロポリスの狂嵐】。腐食の呪詛を宿した極彩色の嵐が巻き起こる。
敢えて今まで使ってこなかったのは、本気でこれを使えば生贄をささげる儀式の場ごとこの地下支部全体を崩しかねなかったからだ。
だがもう良い。こいつらを殺そう。この支部も壊滅的な被害を受けるが、よい。生きていれば新たな組織を作るか乗っ取り、そのうえで完全なる復活を遂げてみせよう。
ダメージは蓄積する。だがそれでもなお、倒れるには程御遠い。だから、王は極彩色の嵐を解き放とうとした瞬間、
「頼むぜ、神様!」
「は、は、は。他力本願、承りました。」
《経法/キョウボウ》の光が広間へ通じる通路の奥より迸り、極彩色を貫き、浄化していった。
「外まで聞こえてきましたよ。貴方のお声。はて、真に”力が戻っていれば”、”神性が宿っているならば”私共など疾く亡くなっておりましょうに。しかして私達は今ここに居る。それどころか。」
ハハハ、通路から現れたのは機械の巨躯、聖護院・カプラだ。
「お、おー
!!!!!かっけー
!!!!!!!!!」
タクヤが叫ぶ。小学生、当然ロボは好きだ。
「ありがとうタクヤ君。助けに来ましたよ。」
少年にカメラアイを向け会釈。そして再度、鍍金の剥がれかけた王へと向き直り、
「それどろこか、ヴィクティム君からドローン経由で聞いた戦況は有利。それどころか、私も嵐を防ぐために丁度良く現れる事の出来るタイミングと言った有様。まさしく天祐。」
貴方、機械の巨躯のカメラアイが王を冷たく見下ろし、
「天から見放されたのでは?」
「だまれええええええ
!!!!!!!」
ついに鍍金がはがれた。王は怒り、再度極彩色の嵐を放とうとするも、
「その程度で希望はかき消せませんよ?」
再度《経法/キョウボウ》の光。また大きな隙を晒し、王の傷が増えるばかりだった。
「悔い改めるつもりもないようで。まったく遺憾ではありますがね。」
溜息を一つ。その後、タクヤ君、と聖護院はタクヤに声を掛ける。こういう時、ヒーローはどのような決め台詞を言いましたか?
「え?ええと・・・」
どれだろう?今まで見てきたヒーロー達のキメ台詞を思い起こし、どれを言えばいいのかタクヤは混乱した。
「は、は、は。これは失敬。タクヤ君、ただ一言、これでいいのですよ。」
そうして聖護院は魔法の言葉を口にした。
「『正義は勝つ』、と。」
「「その通りだ(や
)!!」」
それに男二人が呼応した。
「行くぞ二人とも!!!」
今までタクヤを守っていた3人のうち、中央に位置する男、虻須・士郎が二人に声を掛ける。変身能力を持つ三人だ。変身さえすれば攻撃の要となる事が出来たが、変身自体に隙が大きい。
他の皆が攪乱しつつダメージを与えている最中、変身途中に万が一でも自爆覚悟で【ネクロポリスの狂嵐】が使われ、タクヤを襲ったら庇う事が出来ない。だから控えていた3人でもある。
「その、ちょっとすごくなるので、怖がらないでください・・・ね?」
そう言いながらタクヤを背にして右側、蘇芳・薊は左腕の刻印を晒す。キラキラとしたタクヤの目が眩しい。隠したいがこれもある意味希望の証と思って晒し、左腕を正面に持ってきて構える。
「よっしゃ。もう大丈夫やろう。小僧、物陰に隠れとけよ。」
そう言うのは左側に控えた狭間・悠弥だ。そして深く息を吐き、心を整える。
・・・ガキの時分に鬼に襲われていた自分を助けてくれた侍が居た。その時は気を失い、気付けば鬼は討たれ侍も右腕が残っているのみ。タクヤはかつての自分で、そして今の自分はかつての侍だ。そしてだからこそ、皆が皆、生きて帰らえねばならない。
誰かを助けたやつが死ぬのは我慢ならん。失わせないし失わない。そういった気概を込めて、男は敵を見据えた。
「はっ・・・結局は今回も”詐欺師”だったわけだ。」
中央に立つ士郎は敵を見据えてそう独り言ちる。
オブリビオンは過去の存在だ。一度討たれただけでは、また過去から浮かび上がってくる。ならば、
「いいさ、喰らってやるよ、何度でも。」
そう言いながら右手に持った電子タバコに偽装した血液パックをスライド。注入用シリンダーを露出する。
「さぁ!狂気を喰らってくぞ!」
「ただの小娘と侮らないでくださいね
・・・!」
少女の左腕の刻印が光り輝き、そのまま禍々しい光がその瞳を妖しく照らす。【戦闘衝動】が喚起され、内なる野生が体の奥から湧き上がり、そして光が完全に少女の姿を包み込んだ。
「切り札、切らせてもらう
・・・!」
男の体からあふれ出るのは【風の幽鬼の力】【雷の悪鬼の力】【火の神の力】、3種の力。人の身では無しえぬ力が湧き上がる代償に、男のそこかしこから血が流れ出で余人を近寄らせぬ嵐の壁となる。その嵐の中、男は鬼へと変じて行く。機械の腕と足もそれに応じて超自然的な変化で膨れ上がる男の体に合わせて巨大化していた。
「悪しき邪神の名の元に、正気を食み狂気を育め……」
そういってシリンダーを突き立て、刻印、王者の石へと血液を注入する。瞬間、サイボーグの男の四肢が肥大化し、赤目複眼の化物と成り果ててゆく。だが、それを阻むのは内臓無限紡績兵装だ。
「生むは破滅殺すは希望而して人の世の理は不滅也。」
まるで繭。怪物になりかけた男は内臓無限紡績兵装によってつくられた漆黒の糸の繭の中にとらわれた。その中から声が響く。
「故に我闘争す、全回路開放安全弁解除!」
正気を代償に、けれどそれでも尽きぬ正しき怒りを胸に、男は希望を紡ぐ正義となる。
「変・・・生ッ
!!!!!」
光の中から少女の意思が響く。
「鬼神解放ぉ
・・・!!!」
血の嵐の中から男の覚悟が響く。
「変・・・しぃぃぃん
!!!!!!!!」
繭の中から正義の産声が上がる。
そして次の瞬間、爆音とともに、それぞれを覆っていたものが晴るとそこには、
「《化身変生/アヴァターラ》ァ
!!!!!」
少女の声をした悪魔の異形が現れ、
「《逢魔転身/オウマテンシン
)》!!!!!」
心優しき鬼神が咆哮。
「《血風怒涛大処刑陣/ブラッディ・ランペイジ・エクスキュージョン
》!!!!!」
そして狂気すら呑む、むき出しの金属骨格を残して黒衣を纏った希望が顕現する。
降り立った3名がふと後ろを振り向くと、そこにはまだタクヤがキラキラした目で3人を見ていた。
ぽりぽり、頬を掻きながら鬼神が声を掛ける。
「小僧、隠れろゆうとろうに。」
ぶんぶん。大きく首を振った。
「そ、その。怖くないですか?」
もじもじとした女性的な動きで悪魔が問いかける。そのアンバランスさに少年は思わず笑い声をあげた。
「ひ・・・ひどい!?」
「さて、行くぞ。狭間、蘇芳。」
気合で耐えてるとはいえ正気は刻一刻と削られる。だからタクヤの無事だけを見て、士郎は前を向いた。
「ええ、行きましょう。相手の攻撃は任せてください。」
悪魔がフンス、と腕にこぶを作れば。
「カカカ、じゃあ俺はちょこまかしつつ全力でぶち込んでやるわ。」
気軽に鬼神が宣言する。
「知らねぇ。俺はやつの狂気を喰らうだけだ。」
執行者は手短に応えた。だが、
「頑張れ!!!みんな
!!!!」
少年の声に僅かに口元を上げ、
「いくぞ!!!」
一気呵成、飛び出した。これより始まるは現実。世界で最も贅沢なヒーローショーだ。
「お前ら来たぞぉ!離れろぉ!!!」
ヴィムが叫ぶ。
超重量の3つの砲弾が迫りくる。急いで攪乱していた者たちは離れていった。
離れていく途中、3人と攪乱組と目が合う。目礼で今まで戦ってくれた感謝を述べ、後は行動で示すのみ。既に王は近くにいた。
「貴様らぁぁぁぁぁああああああ
!!!!!!」
血に濡れ、もはや余裕をなくした王が叫び、三魔槍が複数組、連続して放たれる。これならば浄化の恐れはない。だが、
「無駄ですよ
・・・!」
静かな少女の声が応え、豪腕が振るわれる。ただ自分たちに向かって来る槍を打ち落とす動き。只人の状態なら苦労したであろうそれも、変生してより広範囲に【範囲攻撃】が出来る今なら別だ。的確に打ち落とし、三者はついに王に肉薄した。
「お先!」
まず仕掛けたのは狭間からだ。雷の悪鬼の力は巨躯に電光石火の速さを齎す。それでもって王を翻弄。斬撃を叩き込みつつ一撃離脱を心がけ、体のそこかしこから鰐の咢の群れを翻弄する。
「虫が!」
「かか!鬼だよ!」
「虫は俺だなぁ!」
嘲笑するように士郎の強化された拳が叩き込まれ、吹き飛ばされる。
「そんなもんかぁ!?ああ!?宇宙的邪神の狂気がよぉ!!!そんなもんかぁ!!!」
そのまま吹き飛ばされていく王に士郎がダッシュで追いすがる。
「お・・・のれぇぇぇぇ!」
吹き飛ばされながらも召喚した【メンカルの血槍】を手に着地。迎え撃とうと構えた瞬間、
「えい。」
可愛らしい声と共に槍が横から掴まれる。頭に血が昇りすぎていて全く気が付かなかった。
思わず掴んできた腕の先、悪魔の顔を見る。二コリ、もし少女の姿をしていたなら、しとやかな笑みであろう形に顔の筋肉を動かし
「よいしょ。」
悪魔の膂力で思いっきり槍を視点に体を持ち上げて、床に叩きつけようとする。
「うぉぉぉ!?」
間一髪。叫びながら槍を消し、たたらを踏んだ悪魔の女に鰐の咢が殺到する。まずはこいつを殺して状況を打開する、が。
「忘れてんじゃねぇぞ!!!」
正義の鉄拳が突き刺さった。
「がはぁ!!」
そうして王はついに壁に叩きつけられ、隙が出来る。そこに再び鬼神が躍りかかり、
「もう槍も出せんか軟弱者ぉ!」
王の矜持だった、三本の魔槍が生成され、狭間を狙う。それににやりと笑い、
「は!!お前の槍と俺の拳、どっちが疾いか、勝負や・・・な!」
射出される槍。それを紙一重で避け、正面から来るものは風の力で払った。
「お前の方が疾いか、だが。当たらなきゃ意味ないもんなぁ!!!」
左脚で地を踏みしめ、右脚の固定杭は敵の足に打ち込む。
「がぁぁぁぁあああ!」
「全薬室最大加圧の【爆轟鉄拳】、持っていきな!」
叫びと共に左腕のシリンダーが高速回転、薬莢を射出し、貯めた力を一気に解放した。
破滅的な力で壁に叩きつけられた王はそして右足を残したまま、幾枚もの壁をブチ抜いて、施設の最奥まで吹き飛ばされて行った。
「やったか!?」
数瞬の後、狭間が叫ぶ。
「それはやってないフラグになってしまうのでは?」
近寄ってきたアレクがツッコミを入れ、
「それとは関係ないが、確かにそうだぜ。・・・ジョン、頼む。」
めいめい王が吹き飛ばされた穴に近付く中、ヴィクが声を掛けた。
「ボクかい?いい加減疲れるんだけれどこの姿。」
ニチアサ女児向けアニメヒロインルックの男が素っ頓狂な声をあげる。
「私だってもう限界なのだがね!主にメンタルが!」
腰に装着されたティアー・ロードも抗議の声だ。
そんな二人の振る舞いは無視して、つとめてヴィクは真面目な話を続ける。
「ああ、変身してる連中だってもう限界だろう?」
強い分代償が大きい。狭間は今の一撃の後床にへたり込んでるし、士郎も荒い息を吐いて正気を保つのが精いっぱいだ。薊も薊で、悪魔の姿で女性的にもじもじとしている。早く戻りたいらしい。
「で、あの臆病者は今無力化した黄昏の信徒を喰らって再生してるはずだ。」
こめかみをトントン、と叩きながらヴィクは続ける。
「それを一撃で葬れる火力があって、なおかつすぐに奥まで行けるのは・・・」
「お前たちという訳さ。頼む。」
「仕方ないね。」
ジョンは肩を落とした。
「だけれどもし女装でおちょくんなよ?」
「りょーかい。」
軽いやり取りの後、穴の奥へと向かおうとする。
「お兄ちゃん
・・・。」
不安な声ではない。タクヤの声だ。振り返り、一言声を掛ける。
「言って来るよ。」
穴の中を掛けて行った。
施設の最奥。丁度タクヤを牢に閉じ込めていた場所。薄暗いそこで王だった男は、辺りに拘束されたまま放置されていた黄昏の信徒を咢でむさぼりながら、力を回復していた。おのれ。おのれ、許さぬ。確かに脅威ではあった。
だが、だが。しかし、まだだ。施設に点在する黄昏の信徒共を喰らえば力の回復は容易・・・いや。そもそも己の完全復活に贄などと言っていたのが間違えであった。 そうだ、そうなのだ。もはや事ここに至りてえり好みはせぬ。まずは連中に見つからず、連中が撃破せずに無力化に留めた信徒共を喰らい尽くそう。
そうすれば全盛期の力を取り戻す事も容易。ああ、なぜ。なぜ儀式などしようとしたのだ。それでいいのだ。えり好みなどせず。
男は悟った。しかしそれは男の矜持を痛く傷付ける決断でもあり、だからこそ男は咢で信徒共を喰らいつつ、血涙を流した。
力を取り戻したら男はむごたらしく殺し、女は晒し物とする。ああ、おのれ。だが油断したな愚か者共。王の誇りを捨てた我は、強いぞ。
「そうかな?」
思考を読んだかのように少年が声を掛ける。
光が差し、その姿は逆光でよく見えない。しかしその影が、少年の装いがニチアサ女児向けアニメヒロインルックであることを示していた。
「お前は、ここで終わりだよ。」
「きさ・・・き、さ、まぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ
!!!!!!!!!」
男の赫怒。もはや策もなく飛び掛かってくるそれを、ジョン・ブラウンは見据えた。
(あー、なんていうかこう。イベント戦闘って感じだなこれ。)
迫りくる男を見据え、ジョンはそんな場違いな感想を抱いた。イベント戦ならちゃんと服戻ってほしい。だが最近のゲームは無慈悲にも親切だ。DLC装備もしっかりムービーやイベントにも反映してくれる。
「で、いけるんだよな?ティアー?」
「勿論だとも!観客が居ないのがわびしいが、ロード・ブラウンの真の力、今こそ見せてあげよう!」
腰に巻かれたベルトの中央、仮面のティア―・ロードが誇らしげに宣言する。
「フルーイド出力最大!サイキックエナジーフルパワー!」
そうして仮面が発光し、途中で止まる。
「あれ?・・・ごめ。嘘ついた。やっぱり男子じゃテンションアガらないしだめだわ。MAXの60%しかパワーでない・・・かも?」
「はぁ!?」
どうにか飛び掛かってきた男を避けるも通路に出てきた。そうして横たわる眷属達を喰らい尽くしていき、見る見るうちに回復していく。
「ああ、畜生!」
これ以上回復されてはたまらないと襲い掛かって行く。容赦ない鰐の咢の群れをいなし、これ以上黄昏の信徒を吸収しないようにと攻撃を仕掛ける。
ある程度信徒を喰らったとてもとより致命的な傷を負っていたのだ。本調子であるはずがない。だからこそ先程とは違い、1人で対処出来るが故にどうにか信徒の吸収は避けられているが、代わりに鰐の咢で僅かにこちらの傷が増えていく。今は拮抗しているが、このままでは相手の治療が上回り、何時しか天秤が傾くだろう。
「聞いてなかったんだけどティア―!?ちょっとかなりぎりぎりなんだけど僕もさ!?」
「いや私も今知ったよ!!本当にごめんね!ふぬぬぬぬ
・・・!」
気合を入れてティアーもテンションを上げようとするが、一定以上にどうにもならない。
「くそ
・・・!」
どうすればいい?ジョンの頬を汗が流れる。思考回路が高速回転し、一つの答えを出した。
「よし、悪く言うなよティア―。」
「何をだい!?」
「今だけは僕の装備品だって事をさ!介入しろウィスパー!!!」
「はい
!?・・・!?!?!?!?ちょ、ま!?」
遠慮なくまさぐられる感覚。ジョンのデバイス、ウィスパーが容赦なくティアー・ロードというヒーローマスクを解析しているのだ。
<ティアー・ロードを解析>
<該当条件”男性装備時”を検索><使用可能ユーベルコード1件見つかりました>
<コードセレクト>
<刻印「臥薪嘗胆」(シンクロ・ザ・ネメシス)>
<アクセス権限がありません、強制起動しますか?>
「あるじゃねぇか!!!やれ
!!!!!」
「あ、でもそれネメシス!ちょまてジョンやめt……ッ!」
ベルトの前に収まっていた仮面が浮き上がり、ジョンの顔に装着される。
「イヤァーーー!」
絹が裂かれるような乙女の声がして、ジョンの両目から血の涙が迸った。ユーべル・コード《刻印「臥薪嘗胆」/シンクロ・ザ・ネメシス》は、血を代償に本来男にしかつかえないティアー・ロードの力を100%使わせることのできる力だ。
力がさらに増す。今ならいける。
「これなら!ウィスパー!!」
<ポジティブ> <コード、《Nowhere Hero/ナウヒア・ヒーロー》トライアル実行します>
<プラグイン起動。高速、特殊、攻撃。トリオ・サーキット、オン>
<ユーザーポテンシャル、反映>
<対象行動データによる機動予測、実行><プランニング、完了>
<撃破予測、88.7%>
<アイ・ハブ?>
「ユー・ハブ!!行くぞティアー!」
気合を入れた少年の声に
「好きにしてくれたまえよ・・・」
しくしくと涙声が応答する。
そして発動するのは《Nowhere Hero/ナウヒア・ヒーロー》。ジョンの持つすべての装備品を活用した三次元起動による一撃だ。
常であれば限界があったその起動も、今は100%の力をティアーから受けている。不可能を可能にして、
「終わり・・だ!」
完全な一撃を見舞った。
「ぐあああああ
!!!!」
苦悶の声が上がり、先ほど壁を貫通してイネブ・へジの狂える王の体が吹き飛ぶ。先ほどとの違いは通路の中を吹き飛ばされている事であり、
三次元的軌道で追いすがり絶えず攻撃を浴びせかけてくる存在が居る事だ。
「あああああ
!!!!!」
「ぬあああああああ
!!!!!」
そうして吹き飛ばされ、通路を一本、通り終える頃には、もはやイネブ・へジの王の姿はなく、壁に激突する一歩手間で停止する、ジョン・ブラウンの姿のみがあった。
残心。
「嫌がる女性を無理やりなんて!それでも男かい!」
仮面が抗議の声を上げた。
「こんな土壇場でこっちの命の危険を晒すとか、男女関係なく悪いのはそっちだと思うけど。」
本心だった。
「まったく……うえ、涙に血混ざってるぞ」
血涙を啜り、無茶した分を補充したティアーが、ジョンの体から外れ、それに伴い服もニチアサ女児向けアニメヒロインから何時もの装いに変わった。
「なんにせよ。」
溜息を一つ。
「終わりかな。」
確かに絶望に浸された少年は1人、救われた。
青葉の情報を受け、壊滅した施設の前にUDC(アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ)の隊員が来たのは、猟兵たちが去ってから数分の事だった。
「君、大丈夫かい?」
これが件の少年だろう。隊員はタクヤに声を掛けた。
「うん!」
元気な返事。1週間近く監禁されていたにしては、栄養状態の悪がさ見て取れる辺りから確かにそうであったのだろう事は察せられるが、それ以外はいたって元気そうなふるまい。意外であった。
「辛かっただろうに
・・・。」
もしや現実を受け入れる事が出来てないのでは・・・隊員たちは沈痛な面持ちをした。
「お兄さん。」
静かにタクヤは声を掛ける。
「悪の組織はあるんだね。」
「・・・ああ。」
確かに存在する。そして昨今の邪神事件はもはやUDCのキャパシティを越えつつあるのが現状だ。ヒーローは居ない。現実を見て、今あるものを駆使して対処していくしかない。
「でも大丈夫だよ!ヒーローが居るから!」
隊員の心の声を呼んだかのようにタクヤは確信に満ちた声を掛ける。それに反論したくなる自分を抑え、子供の夢を壊さない為に隊員は同意を示そうとタクヤの顔を見る。その瞳の中に、決してそれが夢想ではないというような確信的な強い光を見た。
「いるよ。」
「・・・猟兵か。」
異世界からの来訪者。そしてここ最近ではUDC内でもその力に目覚めた者たちが存在するという。今回の件も彼らの連絡が無ければ、後手に回った自分たちでは少年を救えず、むしろこのA市すら壊滅の憂き目にあっていたかもしれない。ならば確かに。
「そうだな、確かに居るのかも、しれないな。」
それは希望の光だった。
「だから僕も、大きくなったらヒーローになるんだ!」
自分の行いは決して間違いじゃないと確信したから。だから目指していくんだ。少年はそう宣言した。
これからの事は分からない。だからもしかしたら、少年がアーティファクトを手に入れ、猟兵として活躍する未来もまた、あるのかもしれなかった。
大成功
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