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暗く、静かな御伽噺

#アリスラビリンス


●アリスの洋館
「ふんふん、ふーん♪ ふんふん、ふーん♪」
 陽気な鼻歌が聞こえてきます。私はそれが聞こえるのが怖くって、たまらなくって、膝を抱えて、耳を塞いで、必死に奥歯を噛みしめます。それが次第に近づいてくる事実をどうしても認めたくなかったのですから。暗く狭いクローゼットの扉を閉めて、隅にうずくまって必死にこらえます。

「とっても不思議なこの館♪ 君の出口はただひとつ♪」
 右側から声が聞こえてきます。
 それはそのまま、奥へと向かっていきました。

「とっても不思議なこの館♪ 君の出口は館の入り口♪」
 今度は左側から声が聞こえてきました。
 そのまま平行に、別の方角へと去っていきます。

「君が『掟』を遵守して♪ ゴールを元気に目指すんだ♪」
 この歌を、何回聞いたかわかりません。

「とっても怖いこの館♪ 君に課される『掟』はひとつ♪」
 あの巨人は、ずっとこの歌を歌っているんです。
 私が気づいた時から、ずっと、ずっと。
 いつからここにいるのかわかりません。
 どこからここにきたのかわかりません。
 どうしてここにいるのかわかりません。
 ただわかるのは――。

「君の『掟』はただひとつ♪ ――『私に見つかってはならない』」

 私が最後に聞いたのは、ふしゅるふしゅると鳴り響く吐息でした。
 私が最後に嗅いだのは、血肉が腐り果てた末に違いない、耐えがたい悪臭でした。
 私が最後に見たのは、大きな口とその周りの無数の白い牙でした。
 私が最後に触れたのは、――――――。

●グリモアベース
「『アリスラビリンス』――新しい世界が見つかったのを、君たちは知っているかな」
 耳に備えたインカム・マイクの出力を調整しながら、グリモア猟兵――天通・ジン(AtoZ・f09859)は猟兵たちに問いかける。彼が言及しているのはもちろん言葉通り、新しく見つかった世界『アリスラビリンス』。今そこで、事件が起ころうとしているのだという。

「詳しい説明は省くけど、『アサイラム』と呼ばれる場所から『アリス』と呼ばれる人間が召喚されて、『オウガ』って種類のオブリビオンに、捕食される世界なんだってさ。今回君たちには、そんな『アリス』を救出して欲しいんだ」
 頼めるかな?とジンは微笑む。
 危機に瀕する一般人の救出を、断る猟兵がいるだろうか。

「作戦の舞台は洋館。具体的には、そこからの脱出の手引きを頼みたい」
 もちろん館の主は『オウガ』であり、危険な潜入任務となることは疑いない。
 『オウガ』が具体的に何体潜んでいるのか、特に主人の正体は不明だという。

「ただし今回、君たちにはこの世界特有の、頼れる仲間がいる」
 曰く、舞台となる洋館は摩訶不思議な世界なのだ。
 なんでも、『館の調度品(家具)は全て生きている』のだとか。
「『愉快な仲間達』――と呼ばれる、特殊な生命体らしい。ま、その館の中では家具がみんな生きて喋ると思っておけばいいよ。で、そいつらは『君たちの味方』だ。普段は『オウガ』に隷属を強いられていて、事情を話せば必ず味方になってくれる。――今回、彼らが裏切るような予知はない。安心して頼ってあげてほしいな」
 館の主は『オウガ』であり、当然ながら脱出に危険を伴う。彼らを利用し、自分の力を発揮することこそが成功の近道といえるだろう。

「――予知できた範囲内でだけど、館の構造を説明するよ」
 館は三階建て。地下階層は予知されていない。
 館の中は、巨大な剣を持った巨人が徘徊しているという。赤い絨毯の敷かれた廊下の各所にクローゼットやサイドボードなどの収納家具や、高価そうな壺や甲冑が無造作に並べられており、隠れる場所に不自由はしない。
 しかし、敵の実力は未知数であり、油断はできない。
「『アリス』たちは外から攫われた存在で、自分の世界に帰りたがっているはずだ。帰るための『自分の扉』を見つけてもらうことが作戦目的となる。館の中でそれが見つかるといいんだけどね。見つからないかもしれない。その時は、館の外に彼、あるいは彼女を連れ出して欲しい。外に扉があるはずだ」
 ここまではいいかな?とジンは猟兵たちに視線を向けた。
 ある程度の了解を確認して、話を進める。

「館の外は、大きな池に囲まれているんだ。一応、池には浅瀬があって、歩いて外を目指すことが可能なはずだよ。ただし、それを渡れるかどうかは――微妙なトコだ。池を渡った先には、館の出口である『門』があるよ」
 そこには、首のないフラミンゴが棲んでいるという。アリスの『自分の扉』がどこにあるか不明な以上、実際に彼らと戦うことになるかは不明であるが、注意が必要だろう。

「肝心の館の主人の正体は不明。少なくとも、巨人やフラミンゴではないと思うんだけど――申し訳ない、わかんないや。君たちが出会わないことを祈っているよ」
 すまなそうに宇宙服姿のグリモア猟兵が首を振った。

「――それから最後にもう一つ。間違いなく、出会った『アリス』たちは君たちを信じてくれるだろう。でも、信じることと命令に忠実であることは別だ。意味はわかるよね。くれぐれも気を付けて欲しい」
 恐怖で足がすくむ、うっかり声を出してしまう――従おうと思っていても、従えずに君たちの足をひっぱってしまうかもしれない――、『アリス』は決して戦闘のプロではないのだと――、グリモア猟兵は警告する。

「色々言ったけど、君たちならできるさ。よろしく頼むよ」
 天通・ジンは人懐っこい笑みではにかむ。
 直後、彼のグリモアが――星の光が広がった。


隰桑
 お世話様です。ホラーを一人で見れない隰桑です。
 アリス世界、面白そうですね。わくわくします。
 今回は、そんな世界で一般人を救出する依頼です。

●依頼について
 集団→集団→ボス戦の三章構成です。

 一章・二章には『デストラップ』が存在し、それを発動させると大変なことになります。一章のデストラップは、OPで敵が口にしていたように『敵に見つかること』です。逆に見つからなければ容易に突破可能です。

 わざと『デストラップ』にかかるのはおすすめしません。
 フリじゃないですよ。あなたが守るべき『アリス』は『ユーベルコード』が使えるとはいえ、一般人であることをお忘れなく。

●アリスについて
 『ユーベルコード』を使えますが、メンタルは一般人です。怯える子供をイメージしてください。アリスへの呼び方・声かけは、記載がなければステータスシートを参考にいたします。(記載がないことで不利になることはありません)

 能力、人数はいただいたプレイング、一章の参加者様を基に決めます。猟兵の皆様の不利になるような人数設定にはいたしませんのでどうかご安心を。
 『アリスの扉』は、ボス戦の後に現れます。捜索描写はこちらで挟みます。『アリスの扉』のだいたいの方角はアリス自身が教えてくれます。プレイングでの捜索描写は不要ですが、得意の記載があれば反映するかもしれません。しないかもしれません。

●愉快な仲間達
 この洋館にあるものは家具でも絵でもお皿でもランプでも、すべて『愉快な仲間達』です。ありそうなものを恃みにしてください。彼らが皆さんを敵に売ることはありません。今回登場する彼らに戦闘能力はほとんどありません。

●隰桑について
 アドリブは呼吸です。独断での連携描写は好物です。
 連携NGなど、ご要望は明記をお願いします。最大限反映いたします。
 皆様の作戦の不備を指摘するより、『得意』を活かしたリプレイを書く方が好きです。

 受付期間は、OP承認後に追記いたします。

 それでは、熱いプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『トランプの巨人』

POW   :    巨人の剣
単純で重い【剣】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    トランプ兵団
レベル×1体の、【胴体になっているトランプのカード】に1と刻印された戦闘用【トランプ兵】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    バインドカード
【召喚した巨大なトランプのカード】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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●一章追加マスコメ
無事承認されました。

受付は『6/26(水)朝 8:30〜』とさせていただきます。

※プレイングが十分集まった場合でも『〜6/28(金)深夜 23:59』までは受付状態を保つ予定です。プレイング送信は慌てなくて結構です。

あらためて、皆様の熱いプレイングをお待ちしております!

隰桑 拝
穂結・神楽耶
【鋼色】鎧坂様/f14037
アリス様への気配りと周辺警戒、両立するには手が足りません。
ですので依頼して参りました。
「全員」負傷なく帰還することが依頼ですので。
よろしくお願いしますね、鎧坂様。

探索と周辺警戒は鎧坂様に全面的にお任せ。
わたくし自身はアリス様のサポートに徹します。
手を繋いで、歩調を合わせて。
静かな声ができるならちょっとだけお喋りもしましょう。
帰ったら何がしたいですか?

有事の際は鎧坂様の指示に従います。
アリス様が怯えられるようならいっそ抱きかかえてしまった方がいいでしょうか?
他人の体温は安心感を高めますし、速度を猟兵基準に合わせられますもの。
迅速に、確実に。突破致しましょう。


鎧坂・灯理
【鋼色】依頼人/f15297
護衛の補佐依頼を受けて参りました。これよりアリスを護衛する依頼人の護衛を開始します。
良かったですね、アリス。彼女は最高の守り刀だ。
さて。それでは参りましょうか、依頼人。

今回は見つからないことが肝要なので戦いは避ける。
UCを小鼠に変えて放つ。こいつと家具から得た情報を照合し、安全な経路を見つける。
こちらに近付いてきたら、機械鼠を使って別の場所で音を立て、意識を逸らして避難。
私自身も念動力を使って気を逸らさせる。家具は協力者だから壊されそうな事は避けたい。

いざとなれば二人を念動力で投げて、私が囮になろう。
依頼人の補佐が探偵の仕事だ、死ななきゃ帰れるさ。



●ひとりめのアリス
「……はぁ、はぁ。はぁ、はぁ。ここ……どこ……?」
 "誰かにそう言われたような気がして"、見つからないように私は走ります。
 ずしんずしんと響く足音からなるべく遠ざかるように、一生懸命走ります。
 足音が近づいてきたとき、偶然物陰に隠れて追って来る姿が見えました。
 巨大な巨人。大きな剣を持った巨人。
 鎧のところどころにトランプのマークがついていました。
 なにより怖かったのは、巨大な口。
 たくさんの牙があって、その間からだらりと涎が垂れているのが見えました。
 直感します。見つかったら、私は食べられてしまうのだと。
 だから、一生懸命走ります。
 見つからないようにと祈りながら。

 そんな私の背後で、音がしました。
 がさりと絨毯を踏む音です。
 お願い、どうか、どうか、気のせいであってください。
 それでも恐怖を抑えきれなくて、私はそっと振り向くのです。
 そして、見たのは――――。


「……やっと、見つけましたよ」
 それはとってもとってもきれいな、女の人でした。
 それもひとりではありません。ふたり。
 ですが、こんな不気味な場所にこんな綺麗な人たちがいるでしょうか。
 不自然に思えて、だから疑わずにいられません。

「……あなたたちは、だぁれ?」
 問いかけてしまうのは、きっと――黒い髪の女の人が浮かべる笑顔が、味方に、――全てを見守ってくれるような、まるで神様みたいに思えたからだと、思い返せばわかります。
 不躾な初対面での問いかけに、彼女は柔らかく微笑んで言いました。
「わたくしは、猟兵――いいえ、穂結・神楽耶と申します。あなたの名前はなんですか?」
 見たこともない上等そうな服を着た黒い髪の女の人――穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)さんはそう言って、尋ねるように顔を傾けます。さらさらと細やかな長髪が、薄暗い廊下の蝋燭に照らされて光るのが見えました。

「わたしは、リノ。ええと、ええと……」
 それ以上の自己紹介が思い浮かばなくて、言葉に詰まります。どうしたものかと困っていたら、神楽耶さんがゆっくりと歩いてきて、私の頭を撫でてくれました。隠れようとか、逃げようとか、拒もうとか、そんな気持ちは不思議とありませんでした。
「リノ様ですね。いいんですよ、慌てなくて。ここがどこだか、わかりますか?」
「ううん、わからないの」
「あなたはどこからきたか、覚えていますか」
「……あれ、どこだっけ。思い出せないや……なんでだろ。困ったな」
「大丈夫ですよ。帰るべき道は、わかりますか」
「……なんとなくだけど、あっち」
「一緒に行ってもいいですか?」
「……いいの?」
「はい、わたくしも一緒に行かせてください」
「……ええと、うん。お願いします」
 頭を撫でてくれていた手が離れて、でもそれを惜しむ間もなく、私の右手を優しく包みました。すべすべで、柔らかくて、暖かくて、ほっとします。
 そしたら今度は、別の声が聞こえてきました。

「――良かったですね、アリス。彼女は最高の守り刀だ」
 神楽耶さんとは対照的です。怖いな、と感じました。
 刃物みたいにぴしっと切りそろえられた黒い短髪、隙のないスーツ姿。
 眼鏡の奥で鋭く光る紫の瞳の輪郭は急斜面。
「もう、鎧坂様ったら。リノ様が怖がってますよ」
 どうやらあの人は、カイザカさんというらしいです。
 私の傍で、神楽耶さんが窘めました。
「そうは言われても、これが私ですから」
「うぅ……あっ……えっと……」
 カイザカさんはにべもありません。
 私は何も言えませんでした。
「もういいでしょう。時間が惜しい。私の担当は経路探索と警戒です。アリスについては――依頼人、あなたの仕事だ。」
「……仕方ないですね。わかりました。あなたの実力は信用しています。確認しておきますが、――鎧坂様、『全員』負傷なく帰還することが依頼ですので」
 よろしくお願いしますね?と神楽耶さんが諦めたように、はにかみました。カイザカさんと違って――なんて本人には決して言えませんが――、まるで天使みたいだなって思いました。

「無論です。依頼については、了解しています。――さて。それでは参りましょうか」
 背筋を微動だにさせず、ただ頷いたカイザカさんが促します。
 それは、先ほど私が指さした方向でした。

●育む信頼
「――はっはぁ! アリスの役に立てるのなら! 大歓迎さ!」
 壁に掛けられた蝋燭が、丁寧にお辞儀してくれたので、私はどぎまぎしてしまいます。そもそも蝋燭さんが突然動き出したこと自体、私にとってはびっくりなんですけど。でも、クールなカイザカさんはもちろんのこと、優しい神楽耶さんまでもがそれを当然のことのように受け入れていました。もっともっとびっくりです。
「……愉快な仲間達の情報を照合すると、このまままっすぐ行くと逃げ道のない隘路を通らねばならず、でも捷路。迂路をとれば、時間はかかれど障害物が多い道を行ける。鎧坂様、どちらがいいと思いますか?」
「不要なリスクは負うべきでないでしょう。――おそらく貴女も同意見なのでしょうが」
「ええ、蝋燭様が教えてくださった遠回りの道を行きましょう」
 神楽耶さんが、ふわりと唇を歪める様が見えました。何を話しているのかは、難しい言葉だらけでよくわかりませんでした。
「……えっと」
「ごめんなさい。そうですね。……信じて、心配しないでくださいね?」
「……はい」
 そう答えるしかなかったので、そう答えました。
 そんな風の私を見て、神楽耶さんは悲しそうな顔になり、それから元気にあふれた笑顔になりました。
「……そうだ、リノ様。楽しい話をしましょう? 帰ったら何がしたいですか?」
「帰ったら。……帰ったら。……お母さんに、会いたい」
 帰る場所はまだよく思い出せないけど、自然と口にしていました。
「ええ、いいですね。きっと会えますよ。会わせます、私たちが、必ず」
 神楽耶さんの優しい、宝石みたいな赤い目が私を覗き込んでいます。
「……うん。ぜったい、ぜったいに会いたい」
 さっきの答えとは違います。この人たちについて行けば、きっと会えると信じられたから。だから、ゆっくりと、しっかりと、私は小さく頷きました。

●迫る巨体
「――依頼人、それからアリス。止まって」
 手を横に突き立てて、カイザカさんが身を隠すように廊下の鎧に身を隠します。神楽耶さんが動き出したので、慌てて倣ってカイザカさんの横に並びました。隣の鎧さんは、素知らぬ顔で直立不動。まるで私たちなんていないみたいに平然と。
「鎧坂様、どうしました?」
「ここから8m戻った十字路を左に曲がった先、ゆっくりと向かってきます」
「……それってさっきの蝋燭さんがいるあたり?」
 距離は数字で言われてもよくわかりませんが、それは来た道でした。
 だから私は、カイザカさんに尋ねます。
「ええ、そうですね」
「わたくしにも、聞こえてきました。歌声です」

「……ひっ、あの歌声。聞こえて――」
 二人のお姉さんに出会ってから、忘れていたあの歌声。
 脳裏に、あの異形が浮かんで、悲鳴を上げてしまいます。
 声を発しきる前に、神楽耶さんが私の口を塞ぎました。
「……ちっ」
 カイザカさんが、大きな舌打ちをするのが聞こえます。
「――鎧坂様」
「問題ありません。対処は可能です」
「念動力を使うんですか?」
「いざとなれば。――ですが、まずは消費の小さいものを」
 カイザカさんは答えながら足元の小さなものに行けと命じていました。
「――――!」
 私は悲鳴をあげたのですが、すべて神楽耶さんの手に吸収されてしまいました。
 目にしたのは、それはそれは小さなネズミたち。
 忽然とそれが現れるなんて、奇跡以外の何物でもないのですが――やっぱりネズミは怖くって、驚くよりも恐怖が勝りました。
 散開し、駆けだして、ちゅうちゅう泣いて、巨人が吼えて、次第に次第に足音が遠ざかっていくのがわかりました。

「行ったみたいですね。もう安心ですよ、リノ様」
 巨人の足音が遠ざかったのを確認して、神楽耶さんが笑いかけてくれます。
 その笑顔に、なんだかホッとしました。

「あの巨人を妨害するために、俺を投げ飛ばすんじゃないかと思ったよ」
「わっ!?」
 またまたびっくりしました。突然、目の前の鎧が動き出したんですから。
「――びっくりさせちゃった? いやいやすまない。でもほっとしたからね」
「その必要はありませんでした。貴方たちが協力者である限りね」
 カイザカさんがゆっくりと首を振りました。
「怖い怖い。俺たちは味方さ。キミたちがオウガの敵である限りね!」
 張り合うように慇懃に、鎧さんが剣を立てた騎士の礼をしてくれました。

「……しばらくはチビ共が時間を稼いでくれるでしょう。その間に急ぎますよ、アリス」
 それに応じずカイザカさんは踵を返しました。
「……あの、カイザカさん」
「なにか?」
「私、アリスじゃありません。リノです。それから、あなたのお名前を聞いていません」
 どうして聞いたのか私にもよくわかりません。ですが、聞いた方が良いと思いました。
「――鎧坂。鎧坂・灯理です。鎧坂で結構。いいですね、リノ」
「鎧坂さん、ですね。ありがとう、ございます」
 その言葉たちは大きな違いの気がして、少し笑顔になりました。
 鎧坂・灯理(鮫・f14037)さんは変わらず険しい目つきをしています。
「――良かったですね、リノ様」
「うん、うん。ありがとう、神楽耶さん」
 私たちの様子を、にこにこ笑って見守ってくれていた神楽耶さんに微笑み返します。
 もしかしたら、初対面のあのときも鎧坂さんなりに精一杯友好的だったのかもしれないなと思えました。本当にそうかと聞かれたら、違うかもと答えてしまいそうなぐらいには――自信なんてないんですけど。

「――何をしているんですか。せっかく時間を稼いだんです、行きますよ」
 呆れたような声で、反応も待たずに歩き出す鎧坂さんを私は追いかけ始めました。
 私の右手には、相変わらず、優しくて温かな神楽耶さんの手が握られていました。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリスティアー・ツーハンドソード
※アドリブ連携歓迎
大丈夫さアリス、なにせこの僕が一緒に居るんだからね!
だからちょっと地面に刺さっている僕を抜いてくれないかな、そんなに重くないから

そんなわけで僕を装備してもらったらユーベルコードで創造する【戦闘鎧】をアリスに着てもらおう
これで洋館のインテリアのフリをして隠れることもできるし、もし見つかったとしてもアリスの身を守ることができる
無敵の鎧ということは隠密性隠蔽性も無敵だしね、普通の服を着るよりも安全で見つかりにくいはずだ
後は【狂気耐性】で鎧を保ち、【手をつなぐ】ことでアリスを安心させる
僕には手がないから、気持ちの話だけど
オウガの対処は他の猟兵に任せる、代わりにアリスは僕に任せてくれ!


筒石・トオル
怖いのはよく分かる。僕も戦うのはいつも怖いから。
それでも戦うのは、それで何かを失うのが怖いから。
今この場では、キミ──アリスを守りたいから戦えるんだ。怖いかもしれないけど、怖いもの同士、頑張って脱出しよう。

巨人に見つからないよう収納家具などの遮蔽物に身を隠しながら移動する。
出口については高価そうな壺に訊いてみよう。何かご利益ありそうな気がするし。
もし恐怖でアリスが音を立ててしまったら、申し訳ないけど甲冑さんに倒れて貰って、そちらのせいにさせて貰うね。

アドリブOK。
怖かったら手を握るくらいはするかも?



●第二のアリス
「大丈夫さアリス、なにせこの僕が一緒にいるんだからね!」
 僕が驚いて言葉を失ったのを、誰が謗れるでしょうか。どんなに友好的な声だろうと、どんなに僕を勇気づけようとする声だろうと、どこか高貴さを感じさせる声だろうと、その声が発されているものを見れば、それが自然な反応なのだと思います。

「――だからちょっと地面に刺さっている僕を抜いてくれないかな?」
 そんなに重くないからさ、と笑い声を立てるそれは、立派な剣でした。

「……この出会い方、僕は反対したんだからね」
 そしたらすぐそばの壺の影から、男の子が現れました。黒い髪はところどころ跳ねていてぼさぼさで、漆黒の瞳は油断なくきょろきょろ動いていて、なんだか猫みたいな雰囲気の。
「何を言うんだい、トオル。アリスと相対して僕らのなすべきことは、その旅路を共に歩むことさ! それこそが義務! それこそが使命!」
「わかった、わかったよ。アリスティアー、君はそれを何回僕に聞かせるつもりだい?」
「おっと、そうだね。まずは目の前のアリス。君だ! さあ、抜いてくれないかな?」
 苦笑いを浮かべるトオルと呼ばれた少年を通り越して、僕に水が向けられました。

「……えいっ」
 どう見ても不審な剣なのに、不思議と足が進んで、そのままゆっくりと手をかけちゃいました。変な表現ですが、剣さんの言う通り、そんなに重くはありません。むしろ軽いくらいです。
「――よくぞ僕を引き抜いた、アリスよ! ならば今こそ君に無敵の鎧を授けよう!」
 剣さんが高らかに声を張り上げるや否や、僕の体が光に包まれました。
 あまりに眩しくって、目を瞑ってしまいます。光が収まって、それはほんの一瞬だったのですが、ようやく目を開けられました。

「……えっ!? なにこれ!」
「知らずば教えて進ぜよう! これは今日の君の鎧! 君の身体を、命を、正気を守る輝く鎧さ! 名をば、サニティクロスという!」
「アリスティア―……鎧の名前、もうちょっとどうにかならなかったの?」
「何を言うか! かっこいいだろう!?」
「あ、あはは……えっと、ありがとうございます?」
 険悪にはならなそうだったけど、二人の喧嘩が始まっちゃいそうだったので、慌てて間に入りました。
「うむ! これで危なくなれば家具のふりもできるし、最悪戦うことだってできるぞ。僕と一緒にね!」
「なるほど。えっと、サニティクロスをくれた剣の――」
「――アリスティアーさ! アリスティア―・ツーハンドソード! よろしくね、アリス!」
「はい……! よろしくお願いします、アリスティア―さん。それから――」
「――僕は筒石・トオル。トオルでいいよ。よろしく。君の名前は?」
「僕の名前は、フリントです」
 自己紹介を終えて、僕たちは歩き出しました。僕の手には、アリスティアー・ツーハンドソード(王子気取りの両手剣・f19551)さんがいて、隣には筒石・トオル(多重人格者のマジックナイト・f04677)が音もなく歩いていて。なんだか不思議な気分です。自分がどこから来たのかも、
 赤い絨毯の上を。暗く伸びる廊下を。ゆっくり、ゆっくりと。

●クローゼットの中で
「(……あいつ、なかなか動かないな)」
「(そうだね。何か嗅ぎつけられるような要素、あったかな?)」
「(足跡は絨毯にも残らないようちゃんと消しているし、そんなはずはない)」
「(だよね。気まぐれと見るのが正しいだろう)」
 アリスティア―さんとトオルさんが、巨人に聞こえない様な声で相談しています。アリスティア―さんを纏った僕が、ぎりぎり聞こえるか、油断したら聞こえなくなるような声ですから、心配はいらないでしょう。

 がしゃん、がしゃん。
 重々しい巨人の足音が、行ったり来たりしています。
 しゅごー、しゅごー。
 荒々しい吐息が聞こえます。

 それがとても怖くって、恐ろしくって、気づけば僕はがたがた震えていました。
 折角着せてもらった鎧が、震えにあわせてかちゃかちゃと音を立てます。
 巨人は気づいていないようです。それでも、この震えが巨人に伝わってしまうかもしれないと考えると、一層震えが止まりません。
 やがて、巨人の足音が遠く、遠く去っていきました。
 しかし、僕はクローゼットを開けることができません。
 どうしてもう、巨人がいないと言えるでしょうか?
 誰が保証できるでしょうか。罠がないって、誰が言えるでしょうか。
 だから震えて、鎧ごと縮こまって、一歩も動きません。
 がたがた、がたがた。
 ただひたすらに、うずくまります。

 それを打ち破るような暖かな声が、聞こえてきました。

「怖いのはよく分かる。僕も戦うのはいつも怖いから」
 トオルさんの声です。じゃあ、どうして戦うんですか?と問い返します。
「それでも戦うのは、それで何かを失うのが怖いから――」
 何を言うか吟味するように、トオルさんはそこで一息呼吸します。
 アリスティア―さんは――それを黙って聞いています。
「この場では、キミ──アリスを守りたいから戦えるんだ。怖いかもしれないけど、怖いもの同士、頑張って脱出しよう」
 トオルさんの、はにかんだ笑顔が見えました。
 手の中のアリスティア―さんから、温かさを感じました。
 だからでしょうか。自分でも不思議なことに、震えは収まっていました。

「……はい!」
 だから、一歩を踏み出します。まずは小さなクローゼットの扉から。
 クローゼットにお礼を言って、視界に広がるのは相変わらず不気味な館の通路。
 でも、さっきとは違います。
 勇気を出して、また一歩。頑張って脱出しようって決めたんですから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニュイ・ルミエール
【花畑】

こ、ここわくなんてないもぉん……(ぷるぷる

だ、だってにゅいと同じ位の子が頑張ってるんだよ?

にゅいだって恥ずかしい姿見せられないのっ


リダンおねーちゃんにダンス教えて貰って
Remplir la terre!
ミニスライム沢山出して屋敷中に散らばせるの
そして
愉快な仲間たちと一緒にダンスダンス♪
騒がしく音出して時間稼ぎ

アリスちゃん達にはその内の何匹かプレゼントっ
スライムクッションなの♪
怖かったらむぎゅぅってすると
むにむにむにゅん落ち着くよっ♪

こわぁい兵隊さん来たらかくれんぼ……
ユーベルコードでお静かにぃ
こそこそこそり……
にゅいと一緒にぎゅってすれば透明なのー……

みぃんな一緒
こわぁくないよっなの♪


リダン・ムグルエギ
【花畑】のお友達とご一緒よ
姿を隠す方法は静かなデザインだけじゃないの
キマフュの心意気、見せてあげる

初めまして、壷さん、棚さん、カップさんも
今日は皆にステキな遊びを提案しにきたわ
それはね…ダンスよ!
一緒にどう?

色んな形状の愉快な仲間がいるでしょうし
教えるのは足で一定のリズムを刻むだけの簡単なもの
それをスマホで見せて皆に踊ってもらうの

口コミやパフォーマンスは得意よ
藍ちゃんくんの実演やニュイちゃんの助けも借りて
屋敷中で踊りを流行させたいわ

音で塗りつぶす事で戦闘音や足音を消すのが今回のデザイン
無音の圧力というアリスへの「精神攻撃」を和らげる狙いもあるわ

息をひそめる必要はもうないわ
舞うように逃げましょ?


紫・藍
【花畑】
藍ちゃんくんでっすよー! あなたのお名前なんでっすかー?(小声)
アリス呼ばわりで怖い思いをしてきたでしょうし、名前を呼んであげたいとこなのでっす
コミュ力で緊張を解すのでっす!
ダンス流行のお手伝いもするのでっすよー!

黒衣の皆さんには
・斥候役や藍ちゃんくんたちを追う形での後方警戒
・巨人たちが通り過ぎた時、本当に居ないのかの確認
・アリスの方々が見つかりそうになった時や、不安定になった時にあらぬ方向から音を立てる・物を投げて注意を惹く
などしてもらいたいのでっす!

時間稼ぎも得意な藍ちゃんくん!
それでも見つかりそうなら抑えていた存在感解放!
おびき寄せと挑発でアリスが見つからないよう囮になるのです!


ヴィサラ・ヴァイン
…この世界のオウガって言うのは悪趣味なのばかりだね
【花畑】で協力してアリス達を助けるよ
【死霊化】で幽体になって壁をすり抜け、通常あり得ないルートで建物内を回り、先行して様子を確認
家具に隠れ[目立たない]ように移動し、建物の構造も調査し逃走ルートを確認
後は屋敷中の愉快な仲間達にリダンさんのダンスを流行らせ物音を立ててもらうよ
また屋敷の壁の一部を《魔眼『コラリオ』》で石にして『近くに誰かが潜んでる』と誤認させ、壁に塗った猛毒触れたオウガを[毒使い]で[暗殺]
これは警告。『私達を侮るな』
[恐怖を与える]事でオウガ達を牽制するよ
…別に怒ってないよ?
ちょっとオウガ達をぎゃふんと言わせたくなっただけ


ナハト・ダァト
【花畑】で参加

かくれんぼかネ?
任せ給エ
叡智ノ鎧ヲ与えよウ

これデ皆、隠れられるヨ

触手に触れた味方全員を透明化

また、アリスは発見&保護次第七ノ叡智で形成した空間へ保護

怯えているであろうアリスへは、医術の経験を元に

六ノ叡智と瞳で聞き取った心こ声から望ましい対応を行う

安心したまエ
私達ハ、君ヲ救いニきたのダ

怖がらずニ、この中ヘ入るト良イ

探索や脱出ハ、共ニゆク仲間ニ任せるヨ

私ハ私ノ領分デ、仕事ヲさせテ貰うからネ



●第三のアリス
「……寂しいよぅ、怖いよぅ」
 がらんどうの部屋の中で、小さなアリスはひとり泣いています。
 ここはどこでしょうか。背伸びしたって届かないほど高い天井には不思議な絵が描かれていて、中央からはシャンデリアが垂れています。部屋の真ん中には巨大なダイニングテーブル、お揃いの木の椅子は背が高くって、これに乗るのは巨人に違いありません。
 幸か不幸か、ここにいるのは彼女一人。誰もいません。
 外を歩く、巨人の足音が聞こえます。
 きっと食事時になれば、彼らはここに入ってきて、宴会が催されることでしょう。
 そうなればおしまい。彼女はきっと見つかって、コースメニューの一つになるのです。

「誰か、誰か……わたしを、助けて」
 可愛そうなアリス。両手をあわせて祈っています。
 ですが安心してください。彼女の祈りは、きっと届きます。
 いいえ、届いています。だってほら、すぐそこに。

「――み、みつけたっ!」
 目を合わせないよう気を付けながら、赤い瞳が輝いているのですから。

●それからほどなくして
「――よく頑張ったナ。大丈夫、もう心配ないゾ」
 とっても不幸で幸運なアリスの前に現れたのは、五人の異形でした。
 一歩踏み出した長身の影、そのフードの奥から聞こえてきたのは丁寧な言葉。
「ひっ、知らない人……こ、来ないで……」
 怯え切ったアリスは、首を横に振って後ずさります。死の恐怖を与えられ続けてきたアリスにとって、未知の人間は脅威でしかないのです。だから一歩、一歩と後ずさります。後ずされば、何か変わるかもしれませんから。変わらないと知っていても。

「……ふム、初めから『否認』されていてハ、話術に打つ手なしだナ」
 フード姿の声は少し寂しそうです。しかし彼は、あるいは彼女は、ゆっくりと仲間の方へと目を向けました。視線の先にいたのは、青い、青い、本当に真っ青な山羊の女性。
「これ以上話してモ、次に来るのハ『怒り』か、よくて『取引』だろウ」
「……おっけ。つまり、アタシたちの出番ってわけね。準備はいいわ」
 そんな彼女がこくりと頷くと、深い宇宙を思わせる藍色の角から垂れた星飾りがきらきらと揺れました。それから彼女はぱんぱんと手を二回叩きます。

「キマイラフューチャーの心意気、見せてあげる」

 それが、ショーの始まりの合図でした。

●自己紹介のパフォーマンス
「――ああ! 可愛らしいお嬢さん♪」
 突然、朗々と響く声がしました。宇宙山羊のお姉さんの声です。
 それはさながら、暗示を与えるような、不思議な響きをしています。
「どうしてそんなに寂しがっているのかしらー?」
 緑の瞳が優し気に笑って、彼女に尋ねます。
「だ、だって、食べてやるぞーって言われて、一人で……」
 おどおどしながら、アリスが答えます。
「――それは、大変でしったねー♪ でももう、平気ですっよー♪」
 くるくると踊りながら、紫ドレスの吸血鬼が走り寄ります。
「……あなたは、誰?」
「ボクは、ワタシは、藍ちゃんくんでっすよー♪」
 きゅっと立ち止まって、両の瞳をピースで挟んで自分をアピール。
 紫・藍(覇戒へと至れ、愚か姫・f01052)さんのテンションは、既に最高潮のようです。

「こっちの山羊の美人さんっが、リダンのおねーさん!」
「ハァイ」
 ステップで走り寄って、リダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)さんを指さします。それに応じて、リダンさんがアリスに小さく手を振ります。

「こっちの怪しい人っが、院長さんっ! 」
「……誰が怪しい人だネ」
「――細かいことは抜き抜きっ、でっす!」
 両手を合わせてごめんのポーズを取りながら、ナハト・ダァト(聖泥・f01760)さんの長身を撫でるように、藍さんが体をくねらせます。
 ナハトさんが肩をすくめます。でも、心なしかフードの奥が笑っているように感じられたのは、アリスの勘違いでしょうか。

「今日は猫さんモードはお休みっな、可愛い蛇のヴィサラさんも♪」
「どういうこと!?」
「ほらほら、挨拶挨拶でっす!」
「……えっと、よろしく」
 赤い瞳を逸らしたまま、帽子を被った女の子がはにかみます。
 ヴィサラ・ヴァイン(魔女噛みのゴルゴン・f00702)さんの豊かな色をした毛先から、ちろりと赤い舌が覗きます。

「ほらほらっ、ニュイのおじょーさんもっ、怖がらないでっ♪」
 最後に奥の方にいた、青いスライムの女の子のもとへと走り寄ります。
「……こ、ここわくなんてないもぉん……」
 ぷるぷる震えながら、女の子は否定します。
「それじゃあますます遠慮なくっ! アリスにご挨拶、ご挨拶っ♪」
 歌に合わせて胸に手を当て、藍ちゃんくんさんが模範のお辞儀をひとつ。
「……にゅ、にゅいでしゅっ! よ、よろしくっ」
 ニュイ・ルミエール(神さまの遊び場・f07518)さんも噛みながらも自己紹介。
 うんうんと頷いて、スカートをばさばさと動かして、上機嫌なお姫様がアリスのもとへと踊り寄ります。

「アタシたちは、猟兵。あなたの味方よー♪」
「私達ハ、君ヲ救いにきたのダ♪」
「もう心配いらないんだよ♪」
「こわぁくないよっなの♪」
 四人の猟兵さんたちが、口々に歌ってアリスを励まします。

「さあ、アリス! 顔をあげてくださいっす!」
「……う、うん」
「うーん、いつまでもアリスじゃ他人行儀でっすねー」
 考え込むようなポーズ。
「そうだ。――あなたのっ♪ お名前なんでっすかー?」
 口に手をあて耳打つようなポーズ。
「……ジュノー」
「ジュノーのお嬢さんっ♪ 素敵な名前でっすねー♪」
「……ありがとう」
 名前を褒められて、アリス――ジュノーさんに少しだけ笑顔が戻ります。

●巨人から逃げるために
「……でも、こんな音を立てたら、あの巨人に気づかれない?」
「心配いらないでっすよー♪ なぜなら、とっておきがーあるんでっす!」
 心配そうなジュノーさんを前に、渾身のどや顔で、藍ちゃんくんさんが胸を張ります。

「第一の策は、私から。良く言うでしょう、木を隠すなら――♪」
「……森のなか?」
「ふふっ、大正解よ! ――お願い、皆!」
 一歩前に出たリダンさんが、手をかざして合図します。

「まったくーどうしてー♪」
 その歌声は、食器棚から聞こえてきました。
「面白いことを、考えなさるー♪」
 響くような低音が、今度は白い景徳鎮から聞こえてきます。
「「「「我々、愉快な仲間達はー♪」」」」
 かたかたと足を踏み鳴らすのは、たくさんのカップたち。
「アリスを守るためならー♪」
 壁に掛けられた蝋燭が朗々と歌います。
「何だって!」「そう、何だって!」「協力するのさー♪」
 アリスの傍に立っていた、長身の椅子たちが背を伸ばして吠えます。
「「「「ましてそれが愉快なことならなおのこと♪」」」」
 愉快な仲間達が、一斉に歌い、踊りだします。

「……す、すごい!」
「いいえ、ダンスはまだまだこれからよ。ニュイちゃん!」
 リダンさんの合図で、ニュイさんが何かを唱えます。

『――Remplir la terre(地に満ちよ)!』
 ニュイさんの合図と共に、無数の青いスライムが弾けるように広がります。

「アリス! 心配ないの♪ これをプレゼントっ♪」
「……何これ?」
「スライムクッションなの♪ むにゅんむにゅん落ち着くよっ♪」
「……わあ、柔らかくって、気持ちいい!」
 ジュノーさんがクッションを抱きしめると、むにゅんとクッションが歪みます。
 アリスの青い瞳が嬉しげに皺を作ると、ニュイさんは嬉しそうに笑うのでした。

「第二の策ハ、私からだヨ」
 相変わらずフード姿のナハトさんが、大きく手を上げます。
「……今度は何?」
「君に与える第四ノ英知――慈悲の鎧サ!」
 ナハトさんの手から伸びた触手がアリスに優しく触れると――。
「私、透明になってる!?」
「かくれんぼにおけル、ズルのようなものだネ」
「すごいすごーい!」
 透明になったアリスが、ぴょんぴょん跳ねます。
 足音は絨毯に飲み込まれ、ぽすんぽすんと微かに響きます。

「おっと、猟兵さんばかりに!」「いい思いは、させられない♪」
「……あなたたちは、誰?」
 かちゃかちゃ音を立て歩み寄ってきた、甲冑さんに、アリスが尋ねます。

「おや、ご存知ない!?」「我ら、愉快な仲間達!」
 しょんぼりしたように、ぶるぶるとポットが身を震わせます。
「このアリスラビリンス世界の!」「あなたーのー、みかたー♪」
 戸棚が身をかがめる様に背を曲げて、アリスに目線をあわせます。
「「「「役立つところーを、見せなくてはー♪」」」」
 椅子が一斉に合唱します。

「……おヤ」
 ナハトさんが、その足音に気づきました。
 どしん、どしんと。
 間違いありません。巨人の足音です。
「……ひっ」
 アリスが小さな悲鳴をあげます。恐怖の色が蘇りかけます。

「「「心配、しないでー、アリス♪」」」
「丁度近づいてきたー、あの巨人のー♪」「気を惹いて、見せまーしょうー♪」
 ばたばたと家具たちが一斉に駆けだします。あっちへ走り、こっちへ走り。
 どたんばたん。どすん。
 ぎゃおー。むぎゃー。
 にげろにげろー。
 どたどたどた。

――
――――

「……さあジュノーのお嬢さん、今のうちでっすよー!」
「うんうん。でもただじゃあ、面白くないわ。舞うように、逃げましょ?」
「――わわっ」
 アリスの両手には、藍さんとリダンさん。
 二人に手を引かれて、ジュノーさんは走ります。
「近くにいる巨人は、今のところ全部、愉快な仲間たちがその注意を惹いてくれているみたいなの」
「なら、一安心ね。足音を気にする必要はないわ」
 すぐ隣を走るニュイさんが報告すると、リダンさんが頷きます。

「……ジュノーちゃん、帰り道はわかるの?」
「えーっと……たぶん、あっち」
「おっけーでっす! 追い付かれないよう、全力ダッシュでっす!」
「でも、疲れたら言ってね。休み休みいきましょう」
 アリスを気遣うように、でもなるべく急いで。
 一行は扉を開けて、暗い廊下へと走り出すのでした。

●最後にちょっと隠し味
「……ヴィサラ君、何をしているんだネ?」
 殿を引き受けるように後背を警戒していたナハトさんが、まだ残っていたヴィサラさんに気づいて、尋ねます。
「……ちょっとね。ちょっと、オウガたちをぎゃふんと言わせたくなったから」
 直前までじっと見つめていた扉から離れて、ヴィサラさんが頷きます。
「成程。済んだようなら、行くとしようカ」
 理解したのか、はたまた否やわかりませんが、ナハトさんが頷き返します。

「はい、急がないと、置いて行かれちゃいますものね」
 二人は走り出します。アリスの脱出に心配はいらないでしょう。
 だってこんなにも頼りになる猟兵さんたちがついているのですから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【ヤド箱】
アドリブ◎

どの愉快な仲間達と会えるかお任せ

お前の懐中時計ってンな使い方出来ンのか(感心
巨人の居場所などはクラウン頼りになりそうだ
その鞄も便利だなァ
中は快適?

一応聞き耳で近付いて来た巨人に関しては把握
巨人遭遇前に何処かの部屋に入り家具に身を隠す
外の状況は隙間から確認
クラウンへ伝達

愉快な仲間達へ館の主の全体像や疑問点、扉に関する情報を聞く(些細な事でも
アリス発見後は怖がらせない様に目線合わせ自己紹介
巨人が口遊む歌に注意して館を慎重に捜索
扉を見つける
まだ外へ出ず

怖かっただろ
よく一人で頑張ったな
俺達も協力する
だから
すぐにとは言わねェが信じてくれ
絶対何があっても守る(何かあったら最優先でかばう


クラウン・アンダーウッド
【ヤド箱】

アドリブ 歓迎
「まずは情報をあつめなくちゃね」
UCで[懐中時計]を量産、広範囲に展開して【情報収集】【第六感】で巨人やアリスの位置を掌握する。

愉快な仲間達に頼んで「あっちにアリスがいるよ~」と嘘の情報を巨人に伝えて貰おうかな。

巨人と会敵しそうなら[カバン式移動工房]に入って隠れよう。鞄の中からは外が見えないから、周囲の状況はクロウさんから聞こう。

『アリス』と会えたら、道化師としての本領発揮だ。「怯える必要はないさ。キミが怯える暇がないくらい、ボクが笑わせてあげるよ♪」

護衛目的で[からくり人形]と[懐中時計]を『アリス』に渡す。
「これはキミを守ってくれるモノだから、大事に持っていてね」



●愉快なる猟兵
「……まずは情報をあつめなくちゃね」
「違えねぇ。だがよ、具体的にどうすンだ? 足使うにしても、手がかりがねえぞ」
「そこはほら、どうかボクに任せてくれたまえ」
 そう言うならばお手並み拝見とばかりに観戦体制に入った黒い猟兵の好奇に染まった二色の視線を平然と受け流し、猟兵――クラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)の靴がステップを踏む。かたたん、かたたんと軽快な音がひとまずの拠点としていた室内に響く。

「さあさ、お目にかけますは世にも奇妙な奇跡の御業」
 尊大な芝居がかった仕草で、張り付いたような笑みを浮かべ、彼は大きく一礼する。
「――これより出でるボクの分身が、館を巡り寂しく彷徨う哀れな子どもを確かに見つけてみせましょう」
 天を仰ぐ。操り糸が括られた指先がまっすぐ伸びて、薄暗い衣装室を舞台に変える。
「信じられない? 大いに結構。信じさせるのがボクの仕事♪」
 クラウン――道化の名を持つ猟兵の体が光に包まれる。
 刹那、まるで湧き出る水のように、夏の日の鳥の群れのように、飛び立つのは無数の懐中時計。それはまさしく非常の技――ユーベルコードに違いない。【錬成ヤドリガミ】で生み出された。
「さあ、ショーのはじまりだ♪」
 乾いた拍手が二回。主の合図を受けて、懐中時計が一斉に飛び立った。

●冷静なる猟兵
「――お前の懐中時計って、ンな使い方出来ンのか」
 感心したように顎を撫でる。まるで子供のような動作なのに、愛嬌を感じさせるのは何故だろうか。ただし、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の瞳は好奇心の奥で、どこか値踏みするような冷静さを保っている。
「(同時操作型のユーベルコード……おそらく、どっかに限界があるはずだな。効果範囲を広げるとそれだけ精密な動作が難しいとか、意識して動かせる数には限界があって残りは自動操縦とか、ンなとこか。館は思った以上に広いし、俺たちの担当する領域以外のアリスは、他の奴らに任せた方が良さそうか)」
            ボ ク
「おやおや、怖い目だね。懐中時計は頼みになるよ。安心してほしいな♪」
 おどけるように、しなを作り、それからくすくす道化は笑う。
「俺の心もお見通しってか? 安心しろよ。頼りにしてンだぜ」
 そんなにわかりやすい目をしていたかなと独り言ち、大男が苦笑する。
「そこは疑ってないし、疑わせないさ! ……おや、さっそく巨人を見つけたよ」
「うし、じゃあ遭遇しねぇよう気ぃつけて行くとすっか」
 二人の猟兵は頷き合って、館の奥へと進んでいった。

●巨人との遭遇
「――しっ。巨人が来るよ」
「ああ、忌々しい歌が聞こえてきやがる。どうすンだ?」
 隠れられそうなトコまで戻るか?と尋ねるクロウに、クラウンは静かに首を横に振る。
「戻る時間はなさそうだ。ここにあるクローゼットくんに隠れるしかないね」
「……俺とお前、両方入れるほど大きくはねェぞ」
「そこはほら、ご心配なく♪ ただ、寂しいから、時折話しかけて欲しいな――」
 真剣なクロウ、笑うクラウン。
「――さてさて、取り出しましたるは――」
 道化師が取り出したのは旅行鞄。もぞもぞ動いて、小さな鞄にヤドリガミの体がみるみるうちに収まっていく。やがてぱたんと閉じれば、何の変哲もないただの鞄の出来上がり。巨人が見ても、ただの道具にしか思うまい。

「……その鞄、便利だなァ」
 苦笑しつつも拾い上げて、それからクローゼットに問いかける。
「ンなわけで、一人と鞄一個、ちょっと隠れさせてくれや」
「うんうん、ちゃーんと見ていたよ。任せて! でも急いでね。巨人の歌が近づいてるよ」
「おうよ。だが慌てなさンな。いちいち慌てたら、良い男にはなれねーンだよ」
 悠々と扉を開き、腰を落として身を収める。薄い隙間からは、大きな足音を立てて進む巨人の姿が一瞬見えた。
「(おお、怖――ま、一体だけならなんとか倒せるな。ってことは、見つかると発動する罠が発動する前に叩けば――)」
「(それはオススメしないなぁ。見知らぬ世界の友人!)」
「(――そりゃ、どうしてだ?)」
「(あの巨人に見つかると、自動で警報が鳴るのさ。胸のハートが見えるだろう。あれが真っ赤に光って、館は大騒ぎ。正確には、アリスをみんなで食べるための仕掛けなんだけど、美味しいアリスを求めて無限に湧き出る彼ら巨人は、君たちにとっては悪夢に違いない?)」
「(――ははぁ、なるほどな)」
 自らを隠してくれた愉快な仲間が話しかけてきても、驚くどころか受け入れてしまった自分をクロウは少しだけ面白がる。
「(なァ、この館の主ってのは、どんな奴なンだ?)」
「(怖ァい人さ! 怖ァい人! 神出鬼没でどこにでも現れる! でも美味しいところをもっていくのが大好きで、現れるとしたらだいたい最後! 希望に辿り着く寸前で、アリスを絶望させるのが大好きなイヤなヤツ!)」
「(戦い方とか、知らねぇの?)」
「(この世界に、オウガと戦うようなマヌケはいないさ! みんな死んじゃうからね!)」
「(……でもお前は助けてくれてンじゃねぇか。)」
「(こっそり、こっそりでしかないけどね!)」
「(これも戦い方だろう? 立派なもんだよ)」
「(――ありがとう! ……さ、巨人の歌はもう聞こえない。行って平気だよ)」
「(礼を言うのはこっちだぜ。あンがとな)」
 起き上がり、サングラスの位置を直す。それから鞄を開いて、快適だったか?と中に潜んでいたクラウンに笑いかけると、彼はもちろんだとも!と肯首した。

●粗野な信頼、道化た励まし
「……よく頑張ったな」
 アリスの一人――ディエゴ少年を見つけて。その髪をくしゃくしゃと撫でながらクロウは笑う。
「よく一人で頑張ったな。帰りたいんだろ? 俺達も協力する。だから――」
 柔らかな金の髪の奥の、青い瞳に目線をあわせる。なんてことのない、ただの子供。他の世界の子供たちと、なんの違いもありはしない。
「――すぐにとは言わねェが信じてくれ」
 だから、まっすぐに、飾らずに言った。同じ人間なら、それで伝わると思った。
 少年がゆっくり頷いたのを見て、射干玉色の男は満足げに笑う。
「……立てるか?」
 少年は黙って首を振る。足がすくんで動けないのだろう――と猟兵は推察した。
「――なら、ここはボクの出番だね。怯える必要はないさ。キミにそんな暇がなくなるくらい、ボクが笑わせてあげるよ♪」
 赤い髪が揺れる。青い瞳が愉快で歪む。ステップを刻み、ダンスを踊る。警戒は怠らない。舞台のすべてを操るのが、道化師の生業なればこそ。クラウン・アンダーウッドの一挙手一投足が、少年に勇気と笑顔を取り戻す。
 最後は観客"二人"から拍手を受けて、にんまり大きくお辞儀。
「うんうん、元気になったようで嬉しいよ」
 それから語り掛ける。少年はすっかり逃げる元気を取り戻していた。

「――これはキミを守ってくれるモノだから、大事に持っていてね」
 最後に守り道具を手渡して、それから相棒に合図する。

「帰り道はわかるな? うし、行くぞ!」
 喧噪を終えた猟兵たちは、静かに歩み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

出水宮・カガリ
※アドリブ絡み可

カガリは壁であるから、見つからないように、というのは苦手なのだが…

物陰に隠れつつ、【導きのペンデュラム】に「一番近くにいるありすへ導いてくれ」と願う
無事合流できれば、この世界から一緒に出ようと説得して共に「ありすの扉」を目指す
同行中に巨人の歌が近くに聞こえたら【夢想城壁】にありすを一時的に保護
巨人が通りそうな床か絨毯(愉快な仲間達)に、巨人を滑らせるか引っ掛けてもらえないか頼もう
ありす発見時に、ありすと巨人が近ければ、近くの愉快な仲間達に一斉に悲鳴と、ありすの逆方向へ「あっちへ逃げた」と説明してもらう

命まで張れとは言わない、壊れそうだったら無理はするなよ
(ヤドリガミ的に親近感)


三寸釘・スズロク
ひえ、マジで家具が喋る。落ち着いて寝れねーよなこんな家
ゲームの中みてーだけど残機とかないんで、気を引き締めて行きますか

アリスのヒト、可愛い子さんならすげー張り切るんだけど
いや嘘だよおっさんでもちゃんと守りますって
電脳展開して『不可視の黒猫』見せたらちょっと和んでくれたりしない?

音やなんかに注意しつつ巨人の気配がしたら[物を隠す]
アリスには柱時計さんの中とか、長いカーテンの裏とかに隠れといて貰って
俺は大丈夫
【舞台袖の生殺与奪】で番兵の目を掻い潜りつつ[時間稼ぎ]
何もない所に『Jinx』撃って注意引いて、アリスから遠ざけた隙に進む
家具の皆サン、巨人が来たら「あっち行ったよ」って反対の方教えたげて?


未不二・蛟羽
迷子の迷子のアリスさん、っす?
ひとりぼっちでさむいなら、一緒に逃げて扉を探すっす!
アリスさんを安心させるために【コミュ力】と笑顔で話しかけて

大丈夫、俺達は味方で、ヒーローっす!
絶対アリスさんのこと、守るっす!

オウガに見つからないことが優先。明るく話すけど頑張って小声で、音を立てない様に

行く先はアリスさんの勘に任せて、俺は移動のサポートっす!
【怪力】でアリスさんを抱えて【スカイステッパー】と笹鉄の【ロープワーク】で障害物を乗り越えて道をショートカットっす!階の移動も任せて欲しいっす!

【野生の勘】と【コミュ力】フル活用で食器さん達に情報を貰って、敵を避けながらの遠回りルートを最速で突っ切るっすよ!



●走れ、猟兵
「……アリスのヒト、どんなかなぁ」
 『ペンデュラム』に導かれるまま走りながら、三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)が軽口をたたく。薄暗い洋館の廊下の中で、猟兵の白衣姿はよく目立つ。
「それがそんなに重要か? 如何な見た目であろうとアリスはアリスだろう」
 紫の瞳をきょとんとさせて、金髪の猟兵が聞き返す。
「そりゃあ、どんなおっさんだろうと、婆ちゃんだろうと、アリスはアリスなんだけどさ……こう、な?」
 スズロクは困り顔を浮かべる。出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)にとって、それが冗談であることすら伝わっていない様子だったから。代わりにもう一人の猟兵へと視線を向けた。
「どーなんすかね。ま、可愛い方がいいって言いたいのは、わからないでもないっす!」
 水を向けられて、小声で答えるのは有翼の青年。未不二・蛟羽(花散らで・f04322)はしたり顔で頷いた。
「……誰もそこまでは言ってねーよ!?」
 ――思ってたけど、と心のなかで続けるスズロク。
 それが見透けたのか、誰かが失笑する。
「あ、こら、笑うなって! あっ、そこの飾り甲冑さんまで!? ……つーか、マジで家具が喋るのな」
 噴き出したように顔に手をあてた『愉快な仲間達』――甲冑さんを後目に、拗ねたような顔を浮かべる。走り続ける猟兵に、緊張感は見られない。油断とは違う、余裕があった。揃いもそろって熟練の猟兵であるならば、それも当然のことだろう。実際、彼らの目だけは、油断なくあたりを見回していた。
「ヤドリガミとしては、親近感を覚えるな」
「確かに、それに近い雰囲気はあるっすねぇ!」
 談笑は続く。
 次第に探索可能範囲も狭まってきて、アリスが見つかるのも時間の問題だった。

●翼の生えたヒーロー
「……それじゃあフアンくん、行くっすよ!」
 未だ戸惑いこそ残れ、信頼の目を向けるアリスの少年――フアンを抱えて、翼を大きく羽ばたかせる。エントランス・ホールの階段を大きくショートカットするように飛び越える。跳ねるように、宙を蹴る。結ばれた黒髪が揺れる。ユーベルコード【スカイステッパー】の力だと、アリスの少年には知る由もない。
 紺色の靴が、音もなく柔らかく、赤い絨毯に着地した。
 間髪入れずに次の一歩。猟兵は走りをやめない。

「わあ、凄い、凄い!」
 少年が目を輝かせる。直前まで一人で彷徨っていた彼を包むのは、何よりも頼もしい暖かな腕。力強く羽ばたく音が聞こえる。
「当然っすよ。俺たちは猟兵、ヒーローっす!」
 明るく笑う。最速の道を、最短の遠回りで走り行く。
「……ボク、おうちに帰れるんだよね?」
「当然っすよ! 絶対アリスさんのこと、守るっす!」
 問いかけに大きく頷く。それは少年に安心感を与えるに十分だった。

●城壁佇む舞台袖
「カガリの城に入らなくて、本当にいいのか?」
「ああ、お構いなく。作戦通りでいこう。クランとツーソン、二人のアリスを頼んだぜ」
 気遣うように声をかけたカガリに、明るくスズロクは笑いかえす。
 黒猫と戯れている子供たちはそんな二人に気づかない。
「わかった。お前が往くべきというならば、止めはしない」
 その返答を聞いて、カガリはゆっくりと頷いた。
 それは、巨大な城門が閉じる動きに似ていた。

「(……さって、と)」
 足音を立てて歩みくる巨人を眺めながら、スズロクは冷静に観察する。
 相棒のカガリは平気だろう。壁も同然だし、近づかれて見られない限り、気づかれる要素はほとんどない。スズロク自身も気づかれていない。障害物のない壁にただ張り付いているだけなのに。赤い壁紙にくっきりと浮かんでいるはずの白衣が、まるで目立たない。ユーベルコードの力を受けて、三寸釘・スズロクは舞台袖で目立たぬままに生殺与奪を握るのだ。巨人にそれは十分に通用していた。
 ならば、あとは打ち合わせ通りに。
 構えるのはネイルガン――『Jinx』。装填を確かめて、狙いをつける。
「(動きがとろい。それと、あれは目が悪いな。動きが振幅してるってことは、おそらく音で何もかもを判断してる。なら、気を惹くのは簡単だ)」
 微かな音を立てて、釘が放たれる。ガチャン、と遠く離れた甲冑が倒れる。
「あ痛ぁああああああ!」
「さあ♪ アリスは――!?」
 ご機嫌に歌っていた巨人がその絶叫に視線を向ける。どたどたと慌てて走っていくのが見える。
「おい、どうした」
「――ひぃ、巨人様。それが、アリスらしき小さな影が、この釘を投げつけてきたんです。あそこから!」
「あっちだな。よぅしわかった。全く、ご主人様がアリスを運んできてくれたっていうのに今日は一人もありつけやしねぇ。一体どうなってんだ……」
 愚痴まきながら、言われた通りの方向に巨人が歩いて行く。
「(よっし、助演男優賞だぜ。甲冑さんよ。あとは――)」
 スズロクはほくそ笑む。思い通りの展開に、紫の瞳が愉悦で歪む。
 視線の先には、遠ざかる巨人。そして。

 がしゃーん!
「~~~~! 貴様、何をする!」
 巨人が大きく横転する。
 彼の足元には、大きく丸まった絨毯が一枚。
「す、すみません。巨人様! つい持病のくしゃみ止まらない病が!」
「馬鹿な! 俺が乗った瞬間にくしゃみで縮こまるんじゃない!」
「すみません、すみません。どうか命だけはご勘弁を……」
「……アリスの居場所はわかるか?」
「二階の方へ上がっていったはずです」
「……嘘だったら、ただじゃおかないからな」
 脅しながらも、巨人が歩いて行く。まるで義務を思い出したかのように、遠くから小さく歌が聞こえて、次第に遠ざかっていった。
 それを確かめたのか、遠く離れた場所の絨毯さんが城壁へとウィンクをひとつ。

「……危ない橋を渡ってくれた。感謝するしかないな」
 ユーベルコード【夢想城壁】を解除して、カガリがほっとしたように呟く。
「わかんねーけどさ。……ちゃんとアリスを助けて、その信用に応えなきゃな」
 スズロクは、無理はするなよとカガリに声をかけられたときの絨毯さんが嬉しそうに身もだえる様子を思い出していた。彼が危険を冒した理由が、わかる気がした。

「ああ。――行くぞ、ありすたち」
 カガリが頷いて、アリスたちに行動を促す。
 館の出口はひとつ。エントランスホールを抜けた先の、正面玄関。

 どうやら『アリスの扉』は、館の外にあるらしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ネックラック・フラミンゴ』

POW   :    滅多刺しクロッケー
【全身が針で覆われたハリネズミ型のオウガ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD   :    気まぐれギロチン
【刃物状に変化させた羽根を飛ばし、その羽根】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    女王様のローズガーデン
戦場全体に、【赤く塗られた花と鋭いトゲを持つ薔薇の木】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


一章にご参加くださった皆様、お疲れ様&ありがとうございました。

プレイング受付は、デストラップを説明する断章追加後です。
5日(金)23時59分締切を予定しています。

断章は火曜日中に追加するつもりです。しばらくお待ちくださいませ。
●断章
「……ケケ、ケケ」 「新たなアリス、勇敢なるアリス」
 青い青い緑の中に、透き通った水が浮かぶ。
 もしこれが休暇だったら、庭園散策はデートにぴったりだなと誰かが思った。
 池の中に幾つも浮かぶ浮島には、トピアリィの『草門』。
 可憐な花々が、いささか暑さを感じさせる陽射しの中で咲き誇っている。

「凄いネ」「優秀だネ」「今マデニ無い、賢いアリス」
 そこかしこから、嘲笑うような声が聞こえる。声の主は、正面玄関と館の門を軸とした左右対称構造の緑色の庭園中で、桃色の翼を持っているからよく目立つ。その数はひとつ、ふたつなどというものではない。
「デモデモ、彼ラ、帰レルつもりカナ?」
 「無理無理」「無理無理」「無理無理」
「コノ館ノ池ヲ渡ロウとしたラ……ウプププ」
 愉快そうに笑う。その未来を、待ちわびるかのように。
「ププププ」「ケケケケケ」「クピピピピ」
 笑い声は止まる気配を見せない。

  「「「クケケケケケ」」」
              フラミンゴ
 敵は無数、文字通り無数の、首無し紅鶴。
 口どころか首のない存在が一斉に笑い声をあげているのだから、異様といえよう。

 ぱちゃりぱちゃりと水を蹴る音がする。
 それはさながら、準備運動を始める様に広がっていく。
「デモデモ、可愛ソウだネ」「ウンウン、可愛ソウだネ」
「アリスの門は閉まっチャウ」「閉まっちゃったら帰れないヨ?」
「心配なんて要らないサ!」「だって彼らハ――」

 「「「「――――僕タチの餌 !!」」」」

●追加マスターコメント
 第一章、お疲れ様でした。ここからは第二章です。
 引き続きの集団戦です。

●デストラップ
 お察しかと思いますが、『池に踏み入る』とデストラップが発動します。
 一章と同様、わざと罠を発動させることはおすすめいたしません。

●戦場
 左右対称の庭園で、大きな池が広がっています。
 池には6つの島が浮いており、『草門』がそれぞれの島にあります。『それぞれの島は橋でつながれており』、橋を渡って全ての島を通った先に館への正門――この場合は、出口があります。

 猟兵の皆さんは、【橋を渡り、各島にある6つの『草門』を通って、アリスと共に正門へたどり着く】ことをこの章で成し遂げてもらいます。達成の方法は、もちろん皆様らしく、猟兵らしく、自由な発想をお待ちしております。

 『草門』は文字通り草で編まれた門で、調べても特別な仕掛けはありません。『草門』を通らずに島を渡ることはできません。たぶん不思議な力が働いて通ることになりますし、通らないことで得られる利点はありません。

●敵について
 『ネックレス・フラミンゴ』という名前の、クロッケーが好きな、首のないフラミンゴです。刎ねられたアリスの首をクロッケーのボールにするのが、何よりの趣味ないけ好かない奴らです。

 戦闘開始と共に猟兵とアリスの背後から襲い掛かって、戦闘中ずっと追ってきます。熟練の猟兵の皆さんなら一体一体は蹴散らせるかもしれませんが、数が多すぎてまともに戦おうとしたら苦戦は免れないでしょう。

 橋を渡ろうとすると、ユーベルコードで妨害してきます。
 敵の攻撃内容を猟兵の皆さんは知りませんが、対応する必要があります。

 また相手はフラミンゴであり、飛行に長けています。
 橋を渡らないショートカットは大変危険な選択です。

●受付期間について
 『7/5(金)~23:59』までは確実に受け付けられるようにいたします。
 それ以後は、進行に十分なプレイング数が集まっている場合はロスタイムとします。集まっていない場合は受付期間を延ばします。

 執筆期間の確保の問題で、もしかしたら一回まで再送をお願いしてしまうかもしれません。その場合は別途アナウンスいたしますが、再送をお願いする場合でも期間内にプレイングをいただいた方について、7/10(水)までに必ずリプレイを完成させる予定です。

 また、第三章はそれ以前と同様、『7/12(金)~23:59』まで受付の予定です。

 熱いプレイングをお待ちしています。

 2019/07/03 1時
 隰桑 拝
=====
●追記
失効タイミングの問題で、お手数ですが日曜朝失効のお客様には投げなおしをお願いします。
お客様のプレイングには一切問題ありません。隰桑の執筆スケジュールの都合です。
なお、投げなおしに際して、プレイングの変更を行ってもらっても構いません。

勝手ながら、日付変更頃まで投げなおしをお待ちし、揃わなかった場合でもその時点で完成しているリプレイを公開いたします。ご協力よろしくお願いします。

2019/7/7(日)3時
隰桑 拝
=====
鎧坂・灯理
【鋼色】依頼人/f15297と、アリス……いえ、リノ。

では、参りましょう依頼人。そして、リノ。
バイクの後ろに乗ってください。私の後ろにリノ、リノの後ろに依頼人が。
依頼人、リノを固定してください。

やりますね、依頼人。……おや、バラの迷路とは。
では、突破しましょう。
運転を念動力に任せて――ああ、依頼人。リノを抱いておいてください。落とさないように。

【鞄】からロケットランチャーを出して壁を壊す。
堅いとはいえバラの木だ、火には弱かろう。
燃やして脆くして衝撃で崩す。道を確保し、ゴールまで駆け抜ける。
ああ、無事着きましたね。
……依頼人? リノも。どうしました。顔が青いですよ。


穂結・神楽耶
【鋼色】鎧坂様/f14037と、リノ様と

お客様を招いた側に品がないのはどうかと思いません?
もてなすつもりのない館にいつまでもお邪魔していられませんね。
リノ様、あなたの扉はこちらで合っておりますか?
では運転はお願いますね、鎧坂様。
足止めはこちらで請け負います。

敵の数が多い?
ならばそれなりのやり方があります。
【神遊銀朱】『範囲攻撃』『なぎ払い』
端から端まで切り払うのは足と翼。
大人しくお団子になっていてください。

っと、これは迷宮構築のUC…!?
これでは速度が……って、鎧坂様?
リノ様を固定? 抱きしめておきますけど一体何を……って、

きゃあああああああ!?



●発進準備
「お客様を招いた側に品がないのはどうかと思いませんか?」
 奇怪な笑い声に身をすくめていた私の耳に、呆れたような声が飛び込みます。
「……え、えっと、どうでしょう」
「そういうものなんですよ、リノ様。さ、饗すつもりのない館にいつまでもお邪魔していられません」
 参りましょう? と穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)さんがほほ笑んでくれたので、私は頷きました。

「ところで、リノ様。確認しますが、あなたの扉はあちらで合っておりますか?」
 神楽耶さんが指さす先は、庭の奥――浮橋を渡った先の、館の入り口門。視線を向けると、脳の奥がちりちりと音を立てます。仕組みも理屈もわかりませんが、とにかくあそこが私の帰り道なのだと確信しました。だから、そうですと答えました。周りを見れば他のアリスも、めいめいそう認識しているようでした。
「わかりました。なら、飛び込むしかありません。運転はお願いしますね、鎧坂様」
「委細問題なく。参りましょう、依頼人。そして、リノ」
 まるで猛獣のような唸りを上げるものだから、いつの間にか私の手は神楽耶さんの手をぎゅっと握りしめていました。カイザカ――鎧坂さんの声と気づいて振り向くと、そこには真っ白のスポーツ・バイクに跨った彼女の姿がありました。リノと呼んでくださったのですが、その表情に変わりはありません。
 鎧坂・灯理(鮫・f14037)さんは、神楽耶さんのことを相変わらず依頼人と呼ぶようです。でも、それについて私が口出すことではないので口をつぐみます。
「バイクの後ろに乗ってください。私の後ろにリノ、リノの後ろに依頼人が」
「わかりました。さ、リノ様。大人しく乗ってくださいね」
「―――え、ちょっと、あの!」
 ひょいと持ち上げられて、鎧坂さんの後ろに乗せられ――いえ、載せられて、――どこから取り出したのでしょう? ――襷でぐるぐる私の胴を鎧坂さんの背にくくりつけます。あまりの手際の良さに、抵抗する間もありませんでした。

「準備はいいですね、依頼人」
「足止めはこちらで請け負います。ですからどうぞ、背中は御心配なく」
 準備を終えて、桃色の波が迫るよりも早く神楽耶さんが後部座席に両足で着地するのと同時に、鎧坂さんが確認します。さっきまで私の手を握ってくれていた神楽耶さんの白い指の中には、白銀の刃――見たことのない剣が握られていました。

「では発車します。――目を回さないように」
 こんな時でも鎧坂さんの顔は、全く変わりがないのでした。

●神遊銀朱
「――ひっ! ふわっ!」
 私の頬を、桃色の羽が掠めます。もし鎧坂さんがハンドルを切っていなければ、きっと敵の攻撃が当たっていたことと思います。
「ケケケ、ケケケ」「ケケケケケケ」「ケケケケケケケッケ」
「敵が、こんなに――たくさんっ!」
 もし走っていたら、きっと足がすくんで動けなくなっていたと思います。それぐらいたくさん、たくさんのフラミンゴ――としか形容できない化け物が、私たちの背後にいました。私にはこんなに恐ろしいのに、振り返った先の神楽耶さんの表情は穏やかなままです。穏やかなままの、優しい神楽耶さん。変わらないという異常さに、この人も鎧坂さんと同じ――猟兵なのだと思わされました。

「そんなに怯えなくて大丈夫ですよ。リノ様」
 私の心の内を見透かすように、神楽耶さんが私の目を見つめます。
「敵の数が多いなら、それなりのやり方があるんです」
 襲い掛かるネックラック・フラミンゴを斬り捨てながら、神楽耶さんは言い含めるように笑いました。激しく揺れるバイクの上に立っていて、神楽耶さんの身体は微動だにしません。まるで、一本の剣のように、まっすぐに。

「偽りなれど、彼の色は真となりて――」
 神楽耶さんが祝詞と共に剣を向ければ、空に無数の同じ剣が浮かびます。それが一斉に、まるで雨のように降り注いだのです。もともと夢みたいな世界ですが、その光景は現実には思えなくて、何よりとっても綺麗でした。
 赤い尾を引く銀色の雨は、首無しフラミンゴの羽を、足を、次々に落としていきます。フラミンゴの赤い血が噴き出す様が見えて、私は咄嗟に目を逸らしました。

「――大人しく、お団子になっていてください」
 見ている限り、神楽耶さんは顔色を変えません。自分の世界がどんなだったか未だきちんと思い出せませんが、生きている世界が違うのだということだけはよくわかりました。
 だって、あんなに色鮮やかな血だまりを前にしても、私を気遣うような目線を向けつづけてくれる神楽耶さんは、普通の人のはずがありません。神々しさすら感じさせる凛々しさを、普通の人が持っているはずがないのです。
 だけど、それだからこそ、この人は信じられるのだと思いました。

●迷宮踏破
「ケケ、ケケケ」「酷いネ、痛いネ」「ケケケ、悲しいヨ! ヨヨヨ!」
 数えきれない仲間が切り倒されても、フラミンゴの群れは笑い続けます。
「デモさ、でもサ」「ボク達ガ」「ワタシ達ガ」
 その笑い声には余裕があって、私にすらわかったのですから、神楽耶さんは一層警戒しているようでした。とはいえ何かできるわけでもなく、ただひたすらに切り捨てながら、奇襲を警戒していました。
 「ケケケッケケ」「ケケケッケケケケケ」
 「「突撃スルだけダと思っタラ、大間違イ!」」
 声を揃えて彼らは笑います。どこで啼いているのかはわかりません。
 とにかく鳴いているのです。嗤い続けているのです。

「――これは! 迷宮を構築するユーベルコード……!?」
 気配に気づいて振り向いた神楽耶さんが叫びます。黒い髪が風に煽られてばたばたと音を立てるのが聞こえます。つられて振り向いた私の目線の先に、さっきまで見えていた浮島の表面を覆う様にそびえるような生垣が。綺麗な薔薇の迷路を、もし遊びで探検するのならどれだけ楽しかったでしょう。
「これでは速度が――」
 神楽耶さんが歯噛みします。壁をびっしりと覆う茨を問題にしていないのは、切り払える自信があるのでしょう。バイクのような機動力のある移動手段にとって、その速度を殺す迷路は天敵――それぐらいは、戦いを知らない私にだってわかります。だから、その苦渋の言葉が途中で途切れたのが気になりました。神楽耶さんの視線の先には、鎧坂さん。
「では、突破しましょう」
「――鎧坂様?」
「運転を念動力制御に任せて――ああ、依頼人。リノを抱いておいてください」
 ――拘束が緩んでいるようです、くれぐれも落とさないように、と鎧坂さんは付け加えます。何事もないように。昼下がりの喫茶店で名物のパンケーキを前にして、紅茶を飲みながら言うような気軽さで。
 唐突に、嫌な予感がして背中に冷えた不快感を覚えました。

「――こういう時に、気の利いた文句を言えたらいいのですがね」
 そう呟いて、彼女は『鞄』を開きました。
「鎧坂様、一体何を――」
 神楽耶さんの抗議を無視して、私に文才は無いようだと自嘲する鎧坂さんは、ちっとも悔しそうには見えません。それから、鎧坂さんの【鞄】は私の見ている通りの『鞄』ではないのだと思います。見た目は知ってる鞄そっくりなんですけど、瞬きの後で、鞄それ自体より大きいロケットランチャーが出てくるなんて、ありえません。
 ですが、鎧坂さんはその取り出したロケットランチャーを構えているのですから、これは間違いなく現実です。現実なんです。

「まあ、そんなことはどうでもよろしい。堅いとはいえ所詮薔薇の木だ。……火には弱かろう?」
 それから私は初めて、鎧坂さんの笑顔を見ました。ただし、笑顔というには歯がむき出しで、だいぶ邪悪に寄っていたのですが。
 直後、両耳が柔らかな手で塞がれます。神楽耶さんの手だと、遅れて気づきました。
「――きゃぁあああああああ!?」
 神楽耶さんの叫び声と同時に、轟音が響きます。体の横を、爆炎――後から聞いた話によると、バックブラストというらしいです――が通り過ぎていきました。それに当てられて、一匹のフラミンゴが焼かれて奇声を上げながら地面に叩きつけられました。
 神楽耶さんの手が離れ、今度は腕が回され、ぎゅっと鎧坂さんの腰ごと掴まれます。きっと、次に何が起こるのか察したからでしょう。何もかもをなぎ倒す音と共に、焼け焦げた道を白いバイクが唸り声を上げて走り行くのを、私は抵抗できずにただその背から眺めていたのでした。
 浮島の門をくぐるのは、簡単なことでした。
 だって、障害物は悉く破壊され尽くされて。
 ――この圧倒的な暴力を、誰が止められると言うんです?

●渡り終えて
「……さあ、無事に着きましたね。お疲れ様でした」
 鎧坂さんはバイクを停めると、顔色ひとつ変えずに振り向きます。
「……依頼人? リノも。どうしました。顔が青いですよ」
 さきほどの笑顔よりも、幾分か人間らしい、きょとんとした驚きが鎧坂さんの顔に微かに見られました。神楽耶さんの顔は、真っ青というよりは引き攣っているようでしたが、鎧坂さんの驚きとは別種のそれに支配されているようでした。
 私はドキドキしながらも、ある意味少し安心していました。だって、こんなに頼もしい猟兵さんにも、私と同じ感情があるのだとわかったのですから。

「……と、とにかく、これで到着です。あとは――」
 言い聞かせるように神楽耶さんが言葉を発します。

 その視線の先には、大きな門。あとはそれを、通って出るだけ。
 それは、簡単なことのはずなのです。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三寸釘・スズロク
うわッ首がねえ!
しかも何だよこの数キモチワルーイ!!
って俺がぎゃーぎゃー騒いでたらアリス達は逆に落ち着いてくれたりしない?
アリスが居なきゃ「首無し」同士で遊んどいて貰うトコだけど
怖がらせたくねーしな
大丈夫、振り返らず歩いてけばすぐ着くって

後ろから来る奴らは『Jinx』連射しつつアリスを[かばう]
橋を渡る前に遠目から【氷海に棲む蛇の牙】で
順路の周囲の池をフラミンゴ諸共凍らせて[時間稼ぎ]
凍ってる池の上なら入ってもノーカン?
まあ念の為アリス達には道を外れないように注意しといて貰って

迷路は厄介だな…でも猟兵で前後を守れれば
逆に他の攻撃からは逃れられるかもな
電脳ゴーグルでマッピングしながら一緒に進むぜ


出水宮・カガリ
※アドリブ絡み可

何とも面倒な戦場だなぁ…機動力での勝負は無理だぞ、カガリは
(ずん、と【鉄門扉の盾】を下ろし)
だがまあ、殿の守りは任せておけ
カガリの壁の内に囲った以上は、怖い思いはさせんとも
絶対に大丈夫だ、とありす達の肩を叩いて励ましておくな(鼓舞)

出発前に【錬成カミヤドリ】で盾を最大数複製
スタートしたらありす達に先を走らせ、カガリは後から追う
常に後ろへ向けて傘を開いたような状態で盾を展開し、【不落の傷跡】【拒絶の隔壁】でありす達に羽根が飛ばないよう防ぐ
盾が切断されたらすぐ複製、補充
万が一漏れがあっても見逃さずに(視力)、念動力で弾くぞ

倒すより足止め、壁の構築を重視だ
それしか能の無い城門ゆえ、な



●猟兵は進む
「うわッ首がねえ! しかも何だよこの数キモチワルーイ!!」
 ばさばさと羽音を立てる怪物たちを前にして大騒ぎしているのは異世界に攫われてきて戸惑うアリス――ではなく、良い年した猟兵、三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)である。最近誕生日を迎え、めでたくも28歳になったお兄ちゃんがしなを作って怯えているのだからさあ大変である。本当に大変である。
 叫んでいたスズロクがぴたりと動きを止めて、ちらりと視線をアリスに向ける。
 二人のアリスが呆気にとられて自分の方を見ていたので、彼らにウィンク。
「――緊張は解けた?」
「……う、うん」「もしかして……」
「怖いのはみんな同じってコトさ。ま、泥船に乗ったつもりで安心しなよ」
 さっきとは打って変わった飄々とした態度に、アリスたちは真相を理解してそれを問う。スズロクは首を横に振って、それから笑った。気分は十分に伝わっていた。

「釘の人……泥船って、安心できるの?」
「三寸釘・スズロクな。……ま、ないよりマシってやつだな」
 アリスたちの落ち着いた様子を見て、ゆっくりとした口調で出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)が声をかける。名前を憶えられていないのは既に諦めたように、スズロクはお団子頭に刺さった釘を撫でた。
「それで、どうする? 言っておくが、機動力での勝負は無理だぞ、カガリは」
「……んーまあ、とりあえず逃げるしか―― って、何してんの?」
「当然、足止めだ。それしか能の無い城門ゆえ、な」
 言葉と共に『鉄門扉の盾』が大地に触れると、ずんと底に響く音がした。
「……いやいやいや、あの数はダメでしょ! お宅死んじゃうから!」
「問題ない。『複製』したあとで、ちゃんと追う」
「俺たちを追うことより防御を優先したりしない?」
「…………しない」
 間の空いた返答に、くしゃくしゃと髪を掻く。
「わかったよ。けど、頼むぜ。……この戦い、ここで終わりと思えないからな」
 最後の方はアリスに聞こえないように小声で耳打つ。同じ背丈の大男同士だからできる、まるでただ会話しているだけのような仕草。スズロクの言葉は無視できない内容だったから、無表情に近かったカガリの表情が僅かに動く。
「そうなのか?」
「……たぶんな。グリモア猟兵のジンが言ってた館の主、そいつの姿がまだ見えない。このまま帰してくれると考えるのは、楽観が過ぎるだろ。戦力が減るのはまずい。恃みにしてるんだぜ」
「じん……宇宙服の人か。確かに言っていたな。……わかった。任せておけ」
 猟兵たちは準備を済ませて走り出す。敵はもうすでに目の前まで迫っていた。

●城門は手折れず
「わかってはいたが、数が多いな!」
 『Jinx』から射出された釘が、一隻のフラミンゴを撃ち落とす。空いた穴を、別の首無し紅鶴が塞ぐのを見て、三白眼が苦笑で歪んだ。
「ケケケ」「ケケケケッケケ」「ケケケケケケッケケケケケケケ」
 次々に広がっていく笑い声。
「ったく、首がないのにどこで笑ってんだよ。……UDCもびっくりですよ?」
 また一匹を撃ち落とす。次を装填しながら、進路の先を見る。見えるのは赤く塗られた木造りの橋。そのまわりの池には無数のフラミンゴ。近づけば、彼らもすぐに敵になる。自分の手札――やれることを考えて、作戦を組み上げる。
「前も後ろもフラミンゴ。嫌になるぜ。……カガリ、ちょっとアリスを頼めるか」
「言われなくとも、問題ない」
「オーケー、任せたぜ」
 飛び掛かるフラミンゴの一匹を盾で殴りつけ弾き飛ばしながら、尾のように束ねた金髪が棚引く雲のように踊る。それを聞いて頷いた白衣の猟兵が手に持つ釘銃に何やら装填を始めるのを、首のない鳥はどうやって理解したのか、好機とみなして飛び掛かる。スズロクが撃ち落としていたぶんまで一斉に飛来して、空が桃色に染まる。
「なぜならカガリは城門ゆえな。蟻一匹とて通しはしない」
 無数の傷で彩られた鉄門扉が大地に突き立ち、壁のように広がる。
 それは後悔の証であり、覚悟の証である。
 次こそは脅威に守り勝つとの誓いである。
 桃色の翼が刃の形を取って、その鉄壁に突き立てられる。
 鉄門は決して揺らがない。
 ――なぜ?
 決まっている。彼の背には哀れなアリスたちと戦友がいるのだ。
 敵の数が幾万居ようと、何ゆえ下がれようか。
「カ、カガリさん……敵の攻撃が!」
 しかし敵の物量は圧倒的である。羽が次々突き立てられて、次第に鉄扉のひとつに罅が入る。一撃、二撃。飛び掛かるフラミンゴ。刃のごとき翼が群がる。アリスの一人が悲鳴をあげる。
「ケケ、ケッケケ」「ケケケッケ」「ケケケケッケケ」
「ケケケ! 大口叩イテ此ノ程度! ケケケ!」
「任せておけと言っただろう。カガリの壁の内に囲った以上は、怖い思いはさせんとも」
 鉄門の無骨な指が、アリス――少年の髪を優しく撫でる。
 念じると共に盾が動く。疎漏なく、生じた隙間を埋める。
「ズルい! ズルい!」「ズルい! ズルい!」
 ネックレス・フラミンゴの群れから不平が飛ぶ。

「繰り返しになるが、能の無い城門ゆえ――守りに関しては無敵だ」
 だから絶対に大丈夫だ、と紫の瞳がアリスたちを見つめ、庇うように立つ。
 恐れはもはやアリスたちの心の内にはなかった。

●凍てつく池
「っし、時間稼ぎせんきゅー。いくぜ!」
 準備が整ったスズロクが、カガリに微笑を見せ、池に向かって銃口を向ける。
「何をする気だ?」
「――こいつらを、一気に足止めする方法さ」
 不思議がるカガリに、得意のどや顔で答える。
 その銃弾の発射音は、何の変哲もなかった。
 だが。
「ケケ、ケケ」「クケケ、ケケ」「……ケケ?」

「――ちっとばかし、邪魔しないでいてくれよな」
 その呟きと共に、銃弾が水面に当たり、爆ぜる。
 刹那。冷気が広がる。ユーベルコード【氷海に棲む蛇の牙】の波動が広がる。
 ―――――池が凍てつく。そこに住まう怪物ごと。
「どうよ、いっちょあがりってな」
「す、すごい! スズロクおじ……お兄さん、すごい!」
「へへっ、もっと褒めてもいいんだぜ」
 お兄さんと呼ばせながらご機嫌そうにスズロクが胸を張る。
「ケケ、ケケケ」「寒いヨウ、冷たいヨウ」「許さナイ、許サなイ……」
「「「コウナッタラ……」」」
 ネックレス・フラミンゴから怨嗟の声があがるのを、彼は無視した。
「攻撃の手は、これでしばらく収まるというわけか」
「そゆこと。カガリが時間稼いでくれたおかげさ」
「そうか。五寸釘の役に立てたなら、良かった」
 今度はちゃんと名前を覚えたぞと言わんばかりのカガリに、だから三寸釘・スズロクだって――と彼は苦笑を繰り返した。

●薔薇の迷路
「……ってなわけで行くぞ――って、なんじゃこりゃ!?」
 直後、歩き出した一行の足が止まる。一瞬前までなかったものがそこにはあった。
 橋の上から浮島を覆うように、草門に至るまでびっしりと広がる迷路が生まれていたのだからそういう反応にもなろう。
「……今からでも引き返して池を――って、後ろまで塞がれてる!?」
 咄嗟に振り向く。だが、遅い。彼らの後ろもまた薔薇の迷宮に覆われていた。
「絶対絶命だな。どうする?」
「踏破するしかないっしょ。幸い、このユーベルコードはあいつらの攻撃と相性が悪い」
「……どういうことだ?」
「薔薇の生垣で前後左右を覆ったら、あいつらの攻撃は通路内か、真上からしか来ないだろ」
「簡単に防げるってことだな」
「ま、そういうことだな。つまり、俺たちはじっくり攻略すればいいだけさ」
「理解した。ならば、行こう。ありすたち、歩けるか?」
 気遣うようにカガリが問う。アリスたちは健気に頷いた。

「……なに、こういう迷路の踏破は得意さ」
 任せとけと得意げにはにかんで、耳の上にかけていた単眼ゴーグルを装着する。

 ディスプレイ上に光点が灯る。一行は進んでいく。
 アリスの帰り道は、まだ続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

未不二・蛟羽
フアンくんはフアンくん!エサなんかじゃないっす!
逆にエサにしてやりたいトコっすけど、今は守ることが大事っす
アンタ達の相手なんてしてあげないっす!

やることは変わらず、正解の遠回りを最速に!
【逆シマ疾風】を発動しつつ、フアンくんを連れて走るっす!背中は【No.40≒chiot】に任せて、最小限の動きで回避。速さを重視っす
池に落ちるのは不味そうだから、飛ぶのは最小限に。地面すれすれの低空飛行で【空中戦】っす

纏う風と風圧の弾丸で敵の攻撃を弾いて、そのまま近づいてきた鳥に【早業】で弾丸をぶつけて動きの邪魔をするっす!
「吹け吹け追い風、走れ走れ向かい風!悪い鳥はボールみたいに跳ねて吹き飛んじゃえーっす!」



●羽ばたくキマイラ
「フアンくんはフアンくん! エサなんかじゃないっす!」
 両腕に抱いたアリスの少年を励ますように、彼は笑う。迫る桃色の群れをなんなく、何事もないかのように。未不二・蛟羽(花散らで・f04322)は敵の多さを恐れない。

「……逆にエサにしてやりたいトコっすけど、今は守ることが大事っす」
 赤いマフラーをたなびかせ、大きく羽ばたき速度を上げる。
 首無し鳥に、追いつかれてなるものか。

「ケケ、ケケ」「逃げたゾ!」「逃ゲタぞ!」
「臆病!」「臆病!」「臆病!」
 前から、横から、後ろから、声が響く。
 ネックレス・フラミンゴの笑い声がする。

「アンタ達の相手なんてしてあげないっす!」
 挑発にはべーっと舌を突き出して応じ、地面というより橋面スレスレ低空飛行で猟兵は行く。桃色の羽が刃となって、その行く手を阻む。
「――っかぁ! 危ないっすねぇ! 当たったらどうすんすか!?」
「当タレよ!」「当タレ!」「当てテルんだヨ!」
「でも残念、当たってやんないっす! ――」
 にやりと笑い、念じる。翼に魔力を目いっぱい込める。

「――さあさ、吹け吹け追い風、走れ走れ向かい風!」
 寿命を削って放つ技なれど、まるで楽し気に。その恐れを考えていないように。
 ユーベルコード【逆シマ疾風】の突風に乗り、アリスと二人、滑り行く。飛び掛かるフラミンゴの羽刃に、風圧の弾丸を放ち、弾き、アリスを守る。まさしくヒーローのあるべき姿。隙を見計らい、特大の風弾が哀れなアリスを食い散らかさんと、飛来したフラミンゴたちを吹き飛ばす。

「悪い鳥はボールみたいに跳ねて吹き飛んじゃえーっす!」
 蛟羽の笑いにあわせて、銀のピアスが揺れる。その様子はまるでお気に入りのゲームをしているかのように。それが命をかけたものであろうと、お構いなしに。彼の明るさはまさに戦場を照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クラウン・アンダーウッド
【ヤド箱】

アドリブ 歓迎
「露払いはボク達に任せてよ♪」複数の[からくり人形]に[投げナイフ]を持たせて、一部をディエゴの護衛役として固定、残りをUCで強化(狂化)及び自立行動させる。
人形達は【かばう】【フェイント】【カウンター】【学習力】【鎧無視攻撃】【オーラ防御】【空中浮遊】【空中戦】の技能を使う。

人形から受けた傷は、ヤドリガミの特性を生かして修復。周囲の【情報収集】を行い、敵の攻撃からディエゴを守る。

ディエゴを中心として複数の[応援特化型人形]による人形楽団を形成。追随するように飛行し、【楽器演奏】による【パフォーマンス】で味方を【鼓舞】する。「さぁ、盛り上がっていこうじゃないか♪」


杜鬼・クロウ
【ヤド箱】
アドリブ◎

今は出口を目指すぞ
寄り道は無しだ
空はテメェらの専売特許じゃねェんでなァ
ちったァ揺れるが我慢しろよ、お前ら!
少し頭引っ込めてろ、ディエゴ

指鳴らし【杜の使い魔】使用
3人乗り
アリスは真ん中
普段より速度遅め

橋の上を飛び一気に渡る
全部の敵は相手にせず草門まで突っ切る
玄夜叉で紅焔宿し業火の如く敵を焼き斬る(属性攻撃・咄嗟の一撃・部位破壊
空中からの襲撃を回避(見切り・第六感
八咫烏の身も守り空の通り道作る

草門の所でUC解除
アリスの手離さず草門通る
アリスが怪我してたらおぶって向かう
通り道に敵現れたら必要最低限叩く(2回攻撃・掃除

クラウンの人形の支援がなかったら危なかったわ
もうちぃっと踏ん張れ



●風雲児の八咫烏
「今は出口を目指すぞ。寄り道は無しだ」
 いいな? と大男は道化に確かめる。
「もちろんだとも。露払いはボク達に任せてよ♪」
 折り目正しく一礼するも、その動作はいちいち滑稽だ。 

「――来たれ! 我が命運尽きるまで、汝と共に在り!」
 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)が高らかに吼える。まるで最初からいたかのように、一羽の烏が舞い降りる。濡羽色の八咫烏は出番を与えられて嬉しそうに嘶いた。
「――おお♪ これはすごいね♪ かっこいいね♪」
「うん! すごい、かっこいい!」
 クラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)がディエゴ少年を持ち上げて烏の背に載せながら笑えば、少年も嬉しそうに笑った。

「――ちったァ揺れるが我慢しろよ、お前ら!」
 二人が乗り込んだのを確かめて、濡羽色の八咫烏が力強く羽ばたく。
 風雲児は豪快に笑った。

「ケケ、ケケケ」「アイツら、空飛んでるゾ」
「俺たちの餌!」「俺たちの餌!」
「バーカ、バーカ!」「バーカ、バーカ!」
 尽きぬ怪物――ネックレス・フラミンゴが嘲笑うように声を放つ。
 翼の音が一面を覆う。それはまさしく、全方位に。
 
「――空はテメェらの専売特許じゃねェんでなァ」
 だが、敵が幾万いようともひるむ猟兵ではない。踏んだ場数が違うのだ。
 だからこそ、風雲児は不敵に笑う。

「(――とはいえ、ちと重ェか)」
 作戦は必ずしも悪くない。しかし、幾つかの誤算があった。召喚した八咫烏の大きさはおよそ12尺。6尺と5尺の男を乗せて、さらに真ん中のアリスを庇って空中戦をするにはいくら戦闘力を強化しようとも、空間が足りない。クロウの膂力で刀を振るい、その肘がアリスに当たるだけで大怪我である。

「(数が多い。機動力を犠牲にしたのは、失敗だな)」
 本人も自覚していたように、機動力を損なった結果、フラミンゴの襲来が間に合ってしまう。無数のネックレス・フラミンゴが空を埋める。彼らが揃って奇声をあげて、羽を叩きつけてくるのだから、始末に負えない。

「少し頭引っ込めてろ、ディエゴ――」
 少年の明るい茶髪の頭をぐいと烏の背に押し付ける。腕の瑠璃石が小さく揺れた。
「――俺を狙うには、まだまだ実力不足だな!」
 それが問題にならないのは、熟練の猟兵――杜鬼・クロウの実力だろう。黒剣――玄夜叉を大きく振るい、敵を切り倒す様はまさに業火のよう。一撃、二撃。彼が振るうたびに敵が倒れる。進んできた道には、数え切れぬ死体が伏していた。
「――ッチ、数が多い。これは、対処しきれねェな」
「――なら、ボクの出番だね♪」
 空を覆う桃色の影。速度の落ちた八咫烏では、逃げるのに限界がある。それを察知した戦友の舌打ちに、明るい声が応じる。クラウンの帽子が、ゆさゆさ揺れる。

「おウ、んじゃ――任せンぜ」
 疑う理由はなかった。それが、彼らにとって最大の誤算だった。

●狂妄舞踏
「――さぁ、盛り上がっていこうじゃないか♪」
 道化師の瞳が輝く。彼の指から伸びた糸。その先に居るのは人形楽団。
 たかたかたかとドラムが鳴る。ぴーぴーと間抜けな音を立ててラッパが鳴る。
 人形行進曲は高らかに。何か迫るような勢いを以て戦場に響く。
 狂気の楽団のリズムにあわせて、ナイフが空を舞い、桃色の怪異が地に墜ちる。

「(――この音、なンか嫌な予感が……)」
 理由はわからずとも直感する。この音は、ヤバいと。
「クラウン、その演奏を辞め――」
 だがもう遅い。【狂妄舞踏】は止まらない。

 第一の動作で道化の傀儡のナイフは、まず持ち主を切り裂いた。

「――アハハッハハハハハハッハハハッハハハハ!」
 第二の動作で主は地獄の炎に包まれて、その炎は拡散し、敵を焦がす。
 幾ら裂かれたところで、ヤドリガミは傷つかない。

 ――ズンタカタ♪ ズンタカタ♪
 第三の動作で軍楽隊は、その狂気を決して押しとどめない。

「――ネラエ! ハナテ! ネラエ! ハナテ!」
 第四の動作で絡繰り人形は、鼓舞の旋律にあわせてナイフを放つ。
 自立運動する狂化人形の狙いは、敵も味方も差別はしない。

「ったく! アリスを守る任務で、狂気に呑まれる技使ってんじゃねぇぞ!」
 玄夜叉の黒い剣身が味方のはずの一撃を弾く。大ぶりの剣は、小回りが利かない。自分とアリスを守るので精一杯。
 第五の動作で切り裂かれた八咫烏が、悲鳴をあげる。
 目の前には『草門』。道化の舞踏に恐れをなして、フラミンゴが迫ってこないのだけが救いだった。八咫烏を労い、その任を解く。アリスを背負い、投げナイフを躱して、なんとか『草門』をくぐると、フラミンゴの笑い声がぴたりと止んだ。

「残念」「残念」「残念」
「おめでトウ」「オメでとう」「オメデトウ……」
 遠巻きに、首無し紅鶴の声がする。その声はどこか寂し気で、敗北感を漂わせていた。だが、クロウにそれを喜ぶ余裕はなかった。

●目を覚ませ、戦友よ
「問題は――」
 視線の先には狂い踊る道化。『草門』をくぐり終えたディエゴ少年には、フラミンゴたちは最早関心を失くしたようですらあった。ひとまずは安心なのだろう。ならば――と、クロウは迷わず走り出す。
「――――しっかりしろ、クラウン!」
 剛腕が襲い掛かる絡繰り人形を振り払う。勢いつけて、ばちんと道化の頬を叩く。
 それで演奏は止んだ。
「クロウ? これからがいいところじゃないか。……って、あれ!」
「ピンチだったのは確かだけどよ……もうちょっと技を選んでくれよな」
 あたりにはフラミンゴの死体の山。
 それだけで足止めを彼が十分に果たしたことがわかる。
 誤算とは、アリスと密着して移動する作戦と狂化行動のユーベルコードの致命的な相性の悪さであった。寿命を犠牲にしてでも狂気を耐えるか、味方を攻撃しないためのなんらかの対策を講じるか、あるいは空中戦を選ばず、地上で別れて進軍していれば、結果は全く違ったものだったかもしれない。

「……だがまァ、結果おーらいってか。おまえの支援がなかったら危なかったしな」
「そういってくれると、助かるよ」
 くしゃくしゃと黒髪を掻いて、クロウが苦笑する。嘘は言っていなかった。クラウンがいなければ、機動力の落ちた八咫烏は桃色の波に呑まれていたかもしれない。
 それを見て、クラウンは少し申し訳なさそうに頭を下げた。
 それから周りを見た、二人の意思が合致する。
「それより――」「――ああ」

「――逃げよう!」「――逃げるぞ!」
 桃色の波が迫っていた。ディエゴ少年の待つ『草門』は、目の前だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナハト・ダァト
【花畑】で参加

地形の利用、罠使い、情報収集からトラップツールを用い早業で迷宮を作成
迷宮の装置としてアリスラビリンスの愉快な仲間たちを使用

さア。舞台ハ整えタ
後のアレンジハ、即興デ合わせル

思う存分、翻弄するト良イ

◇迷宮の効果
ステージパフォーマンスに引き込まれたフラミンゴの魂を
迷宮内の愉快仲間たちやフラミンゴ同士と入れ替える
入れ替えるのは魂のみのため
感覚は元の身体のまま動かしてしまう
しかし、思い通りに動くはずもなく
感覚と情報の乖離に混乱を招く結果に

お見事
御蔭デ、錯乱成功ダ
サ、早ク逃げよウ

ニュイとジュノーハ私が運ぼウ
十ノ叡智・物質主義で首飾りから
素早く走る駱駝を生み出し、義妹とアリスを乗せて運ぶ


紫・藍
【花畑】本日限りの限定ユニット、アヴェニューでっすよー!
藍、ヴィサラ、ニュイ、ジュノー、の名前からとったのでっす!
迷路もラビリンスもなんのその!
お嬢さんの世界まで伸びゆく道となるのでっす!
まずは島々をライブツアーなのでっす!

歌って踊れて楽器もできて存在感抜群の藍ちゃんくんでっすが!
今回はユニットですので!
ヴィサラ&ニュイのおじょーさんをリード&サポートしてUCが発動させやすいよう相手に意識を向けさせるのでっす
誘惑挑発ですよー!
もちろん藍ちゃんくんのダンスも炸裂でっす!
敵の数が多いからこそ一部でも全部でも踊らせれれば渋滞事故間違いなしかと!

敵迷路のゴールには警戒
希望を与えて奪う好きそうですしねー


リダン・ムグルエギ
今回のデザインは【花畑】によるアイドルショー、よ
大道具はナハトさん、小道具兼衣装がアタシ
ジュノーさんと三人娘が主役ね!
各種妨害でフラミンゴ達をアイドルに手を出せない観客へ仕立てちゃいましょ

まずは館を出る前に衣装作りから
衣装を作るための布やミシンは持ち歩いてるの
4人に似合う棘を通さない改造防刃アイドル衣装を仕立て、全員に後述の毒の血清と共に渡すわ

そして、本番の島渡り、ね
アタシは葉巻と香水で作った毒のスモークで場を盛り上げるわ
えぇ、コレがアタシのコードの下準備
右の島に行ったわ!
いいえ、左の島よ!
ナハトさんの攪乱と合わせて言葉で敵の五感を操り妨害するわ

4人の様子はもちろん、万魔電で撮って全国配信よ!


ニュイ・ルミエール
【花畑】
にゅい足が遅いから1人じゃきっと辿り着けなかった

でもね

リダンおねーちゃんの仕立てた可愛い衣装
ナハトにぃににお願いした大きなステージ

ダンスは苦手でも藍ちゃんおにーちゃんにリードして貰って

ヴィサラねぇねの流し目にフラミンゴさん達固まっちゃってるの♪

にゅいも負けてられない!
生まれながらの光でキラキラ照明
喉の粘液を調整したら7色の歌声を披露

•*¨*•.¸¸♬︎

お歌なら任せてねっ♪

暗く澱んだ魂達に一筋の光あれ
悪を穿つ輝きの矢
悔い改めよッ♪

聖歌の練習沢山してたから!

アヴェニュー──大通り

ジュノーちゃん大丈夫なの
お外の世界にはもっともっと素晴らしいものが満ちてるから
だからね
一緒に何処までも行こーっ♪


ヴィサラ・ヴァイン
【花畑】で参加
えぇ、何で私達いきなりアイドルやってるの…?(困惑)
私歌も踊りもあんまり得意じゃないんだけど…ってもうステージも衣装も出来上がってるんですけど??
し、仕方ないなぁ。私もこの流れに乗るよ…!
歌と踊りはニュイと藍ちゃん君を見よう見まねで何とか…質に関しては許して。[第六感]でカバーするから…!
代わりにオウガ達の動きに注意しておくよ
アヴェニューに近づいて来るオウガは流し目(メドゥーサの魔眼)で石化させ足止め
[恐怖を与える]事で《魔眼『コラリオ』》の威力も上げておくね
お客様、今は握手会じゃないですよ?
押し寄せる数が多いなら[範囲攻撃]で一気に石化させて、石像そのものを壁にしちゃおうかな



●ダンスの直前
「……あの」
 困惑に満ちた呟きが広い庭園に響いた。
「――どうしたの? ヴィサラちゃん?」
 舞台袖で忙しない小道具担当が首を傾げる。
「私達、何をしているの……?」
 当然の疑問だった。なにせ、ヴィサラ・ヴァイン(魔女噛みのゴルゴン・f00702)は戸惑う間すら与えられず、きびきび寸法を図られて、スリーサイズを口にしようとしたリダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)を必死に止めることに成功したはいいものの、彼女に指示されるがままに服を縫うのを手伝わされた上、そのままそれを着せられて、仕舞いにマイクを持たされて、この場に立つよう言われていたのだから。

「何って、もちろんジュノーちゃんを救うための作戦よ」
 今更何を言っているの? と言わんばかりのリダンさん。手に持つフリップボードには、びっしり書き込みのなされたアイドルたちのショーのタイムテーブル。あーでもないこうでもないとぶつぶつ呟いて調整中。
「じゃ、じゃあ質問を変える。なんで私達いきなりアイドルやってるの……?」
 そうなのだった。彼女が纏ってるのはリダンお手製のアイドル服なのだった。

「それは当然! 目立って目立って、目立ちまくった方が、作戦に役立つからでっすよー!」
 横から賑やかに割り込む声。その声を、誰が聞き間違うだろうか。紫・藍(覇戒へと至れ、愚か姫・f01052)はおニューのアイドル服を見せつけるように戸惑うゴルゴン少女の周りを廻る。
「……それにリダンおねーちゃんが仕立ててくれた衣装、とってもかわいいの♪」
 ずるりと音を立てて、ブラックタール……いや、スライムの少女が体をひねる。ニュイ・ルミエール(神さまの遊び場・f07518)の青い瞳は、嬉しそうに曲線を描いていた。
「ふふ。ありがとう、ニュイちゃん。……ジュノーちゃんはどうかしら? 気に入ってくれた?」
「……うん、うん! すっごく綺麗で、楽しい!」
 アイドルは四人。最後の一人は、なんと彼らが助けるべき対象のアリス。最初は恥ずかしそうにしていたアリスも、藍ちゃんくんとニュイが楽しそうにしていたらか、次第に乗り気になってきて、今では楽しそうにダンスの練習。もはや恐怖は顔にない。

「……さあさあ、残るは残るは!」
「そうね、ヴィサラちゃん?」
「にゅ、ヴィサラねぇね……」
「え、えっと……ヴィサラさん……!」
 期待の視線が、一人に集約する。

「し、仕方ないなぁ。私もこの流れに乗るよ……!」
 やったー! と誰かが叫んだ。それはつまり。
「これで、本日限りの限定ユニット、アヴェニューの結成でっすねー!」
 元気いっぱいに、藍が拳を突き上げる。
「アヴェニューってなんなの?」
 金の髪を揺らして、ジュノーが首を傾げる。動きにあわせて衣装が小刻みに動く。
「ふっふっふー、ズバリ! 藍、ヴィサラ、ニュイ、ジュノー、の名前からとったのでっす!」
「わあ、すごいすごーい! かっこいいー!」
 胸を張る藍ちゃんくん。喜ぶアリス。それを見守る猟兵たち。
 アヴェニューの士気は旺盛で、準備は万端だった。

「……さア。舞台ハ整えタ。客ハ待ちカネているゾ」
 彼らに声をかけるのは、最後のメンバー・大道具係。ナハト・ダァト(聖泥・f01760)の表情は相も変わらず見えないが、彼の構築した罠の迷宮――ユーベルコード【九ノ悪徳・不安定】に閉じ込められた、怪しげな抗議の声が幾つも上がっているのを無視していることだけは間違いない。

「後のアレンジハ、即興デ合わせルとしよウ。できるネ?」
 その言葉は、信頼を孕んでいた。

●舞台に立つ
「ア、アヴェニューです。よ、よろしくお願いします……!」
 迷宮を一望する特設ステージに立って、アイドルたちを代表してアリスのジュノーが挨拶をする。
「ジュノーのおじょーさん、声が堅いでっすよー! ほらほらもっと、元気よくー!」
「あ、アヴェニューでーす!」
「うんうん、いい感じでっすよー! ぴすぴすなのでっすよー!」
 今までにない体験に、アリスは目を白黒させる。それでもこうやって目立つ場所に立つのは、なんとも心躍る体験だった。今日限りのユニット、夢のような世界を旅するアリスのためにテンションはいつも通りの最高潮で藍ちゃんくんが盛り上げていく。
「ワアアァアアア」「イイゾオォオオオオ」
 「ケケケケ!?」「ケケケッケケケケ!?」
「にゅいも頑張るからね。みんな、楽しんで欲しいの♪」
 歓声と困惑が入り混じった観衆の声に、ニュイは未だ緊張を隠しきれない。
 それでも、精一杯観客にサービスをすれば、『首のないフラミンゴ』から歓声が上がる。彼らは皆、自分のことなど意識していないようだった。

「それでは皆様、ご一緒に! レッツ・ダンシングなのでっすよー!」
 •*¨*•.¸¸♬︎
 合図と共に、七色の歌声が響く。それにあわせて、猟兵たちが踊る。アリスラビリンスの世界に訪れる、楽し気な異形のパフォーマンス。難しくはない、むしろ簡単。誰でも踊れるようなもの。踊りに慣れた猟兵も、そうでない猟兵やアリスも等しく楽しく時が過ぎる。
「~~~♪」
 聖なる光をスポットライトの代わりにして、かわるがわるにアイドルたちは前に出る。

「ジュノーちゃん大丈夫なの♪」
 前に出たニュイが、青く柔らかな光を放つ。
「お外の世界にはもっともっと素晴らしいものが満ちてるから――」
「――だからね」
 自分が信じる言葉を歌にのせて、高らかに歌い上げる。振り付けはたどたどしい。だが、彼女は一人ではない。纏うのは、彼女の知る一番のファッション・アーティストの仕立てた衣装。一緒に踊るのは、彼女の知る一番のダンス・パフォーマー。失敗する余地は、どこにもない。だから、アリスに歌いかける。

「一緒に何処までも行こーっ♪」
 アリスの手ごと、マイクを取る。声をあわせて、歌い上げる。
 聖者の希望に満ちた歌が、観客だけでなく、アリスの心を広げていった。

●迷宮の罠
 歌にあわせて、フラミンゴたちが踊る。敵であるはずの彼らは楽し気に、邪気はなく。
 その原理は――当然、猟兵のユーベルコードに起因する。迷宮の名は【九ノ悪徳・不安定】―― ナハト・ダァトの編み出した狂気の空間は、そこに迷いこんだすべての魂と体を混濁する。魂を入れ替える大技は本来相応の準備を要求し、また対象を迷い込ませる策を講じる必要があるだろうが、このアリスラビリンスの不思議な空気が幻想的な現象を手助けしているかのようで、全く目論見通りに事が運んでいた。

 彼の目論みとはつまり、この場に存在する愉快な仲間達と敵の魂を混濁すること。

 つまり。今踊り、楽しんでいるフラミンゴたちは愉快な仲間達で。

「~~~~!」「~~~~~!」
 つまり。今こうして抗議の声をあげようと、慣れない体でもがいているのがネックレス・フラミンゴなのだった。その身体は草であり、木であり、魚であり、看板であり、柵であり、――あらゆる庭に存在するものである。

「#%$”#$#”$##”~~~~~~~~~~~!」
 堪忍袋の緒が切れたのか、そんな愉快な仲間達の姿をしたフラミンゴ――怪物たちが、一斉にステージに襲い掛かる。

「藍ちゃんくんさんっ!」
「あははっ、とうとう怒り出したっすねー! 心配ないでっすよ、ジュノーのおじょーさん!」
 アリスの少女が怯えても、ダンサーボーイは慌てない。当然である。
 だって彼らはアイドルである前に、猟兵なのだから。
 
「――お客様、今は握手会じゃないですよ?」
 右から迫る愉快な仲間達は石となり。
「――悔い改めよッ♪」
 左から迫る愉快な仲間達は光に打たれ。

「一応丈夫な生地にしたんだけど、いらなかったかしら?」
 紫煙を吐き出す。余裕の様相を見て、宇宙山羊は気だるげにつぶやいた。
 彼女の横にあるのは、キマイラフューチャーの技術の粋を凝らして作られた全国配信用の万魔電――激しい戦闘にも耐えられる優れもの。ダンス開始から今までばっちり全国配信中。見事なパフォーマンスに、演出家はにっこりである。

「いいヤ、お見事。御蔭デ、錯乱成功ダ。サ、早ク逃げよウ」
 音もなく、その傍に寄ってきて、こくりと頷く不審な影。
 一瞬の隙を見逃さず、ナハトが指示すれば、退却準備がぱたぱた始まる。

●ゴートリック・フォース
「――なら、私は最後の仕上げをしようかしら」
 酩酊の葉巻越しに大きく息を吸い、吐く。
 月光色をした紫煙がみるみる広がって、広がって、迷宮を覆う。
「~~~~~!」
 猟兵の攻撃をからがら回避していた愉快な仲間達(中身はフラミンゴ)は、たちまちその視界を奪われる。
「アリスが右の島に逃げたわ!」
 ぱたぱたと走っていくアリスの姿が見える。
「いいえ、左の島よ!」
 そちらにも、アリスの影。
 偽愉快な仲間達は困惑し、困惑し、二手に分かれる。
 見えているのだから、追うしかないのだ。獲物は待ってはくれない。

「アナタたちの世界、これでデザイン完了ね。気に入ってもらえたかしら?」
 美味しそうに葉巻を吸う。思い描いた通りの戦場に、緑の瞳は満足げだった。

●走りながら
「……でも、愉快な仲間達を攻撃するのはちょっと気が引けたね」
「うにゅ、巻き添えにするようでかわいそうだったの」
「たしかに、ちょっと酷かったでっすねー!」
「……あら、その苦情はナハトさんにお願いね?」
 
「――無事成功シタんだカラ、良しとシテ欲しいナ!?」
 からからと笑う声が、響いた。

 『草門』をくぐり、出口へ、出口へ。
 帰り道はもう、目の前だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリスティアー・ツーハンドソード
※アドリブ連携歓迎
ここはアリスが沢山いるのか!?皆助けたいところだけど……僕のアリス(フリント)を置いていくわけにはいかないからね

さてアリス、僕はしっかり握ってるかい?
それじゃあ【白馬の王子様】の白馬に乗って共に橋を駆け抜けようじゃないか!
同じアリスをカバーする人が入れば同乗するように促そう

敵の攻撃だけど……アリス、君が防ぐんだ
難しいことじゃないさ。見ての通り僕の刃は広く厚い、相手に刀身を見せるように構えればキミの体を覆う盾にできる
必要な能力は【サニティクロス】が与えてくれるしね
そして敵の攻撃が落ち着いたら、この【アリスランス】を投げ付けてやれ!
あれだけの大軍、一体でも躓けば将棋倒しだ!


筒石・トオル
庭園は綺麗なんだけどね…のんびり満喫できる状態じゃないみたいだ。
出口は橋を渡って草門を通らないといけないのか。
見るからに罠っぽいと言うか、絶対に攻撃されるよね。
橋の上では幅=逃げ場が限定されてしまうし、進む方向が決まっているから事実上逃げられない仕様と言ってもいい。
『見切り』『第六感』で敵の攻撃を察知し、敵の羽根攻撃を【極楽鳥花嵐】で相殺する。出来なければ『オーラ防御』しつつ、フリント(アリス)だけでも『かばう』よ。
だってキミを守る為に僕はここに居るんだから。
さあ行こう。出口はもうすぐそこだ。

※アドリブOK



●門を望む
「――さてアリス、僕はしっかり握っているかい?」
 その言葉に、集う桃色の羽音に圧倒されかけたアリス――フリントは我を取り戻した。
「……へ?」
「君に置いて行かれたら、僕はたいそう困るだろうな。なにせ移動ができないのだから!」
「……アリスティアーさんを持ったまま、走らなきゃいけないってこと?」
 握りしめた剣の柄は暖かさを感じさせる。どこか滑稽さすら感じさせる物言いを耳にして、少年を支配していた感情はすでにどこかへと走り去っていた。
「呑み込みが早くて助かるよ。なあに、足手まといにはならないさ」
「……わ、わかったよ。走るだけなら、たぶん……できる」
「良い返事だ。準備はいいね。――それじゃあ、白馬に跨って共に橋を駆け抜けようじゃないか!」
「――へ、わわっ!」
 気づいたときには、アリスの体は馬上にあった。もちろん、ツーハンドソード……アリスティアーを両手に抱えたまま。少年の当惑を顧みることなく、白馬が走り始める。フリント少年にとっての唯一の救いは、彼が馬術を何一つ知らないことが問題にならないことだった。迫る怪物たちの笑い声と、激しく揺られる乗り心地を前に気にしている余裕がなかったが正しい。しかし、不思議なことに心配はなかった。

 ――彼が握り、纏うのはアリスのための最強の武器なのだから。

●アリスの振るう両手剣
「ア、アリスティアーさん! 追い付かれそうだよ!?」
 白馬に揺られながら、怯えた悲鳴をアリスがあげる。 
「うん。敵の攻撃だけど……アリス、君が防ぐんだ」
「ぼ、僕が?」
「難しいことじゃないさ。見ての通り、僕の刃は広く厚い。相手に刀身を見せる様に構えれば、キミの身体を覆う盾にできる」
「そんなこと言われても……そんな能力、僕にはないよ」
「いいや、平気さ。必要な能力は『サニティクロス』が与えてくれるからね」
 まるでおとぎ話の王子様の甲冑のように、アリスの身体を纏う『サニティクロス』が呼応するように輝きを放つ。
「それから、どうやら議論する時間はなさそうだ――」
「――う、うわぁ!」
 桃色の影、首のない快物。コシュタ・バワーではない。ブレムミュアエでもない。
「ケケケ」「ケケケケケケケ」「ケケケケケケケケケッケケケケ」
 奇怪な笑い声を放つのは紅鶴。アリスラビリンスの首無しフラミンゴ。少年の耳に無数のはばたく音が飛び込む。視界の中に、流星のような桃色の線状が飛び込む。その合間を縫うように一匹のフラミンゴが飛来する。
「――え、えいっ!」
 禍々しいまでの大剣を、まるで紙切れのように扱う普通だったはずの少年フリント。鈍い輝きを放つ鉄塊が桃色の羽毛を切り裂いて、骨を砕き、血を噴出させ、その死骸を地面に伏さす。
「いいぞ、その調子だ!」
 一羽、二羽の話ではない。無数のフラミンゴが襲い掛かる。それが白馬で駆ける彼らに追いつけた数であるというのだから、残っていたとしたらゾッとしない。健気なアリスが律儀にそれらを打ち倒す。

●極楽鳥花嵐
「せいっ、やーっ! ……よし、これなら!」
 力を手にし、その成果を獲得した瞬間ほど、危険な時機はない。慢心――とまではいかずとも、油断だとか、注意力の欠如は起きうるもので、それがほんの少し前まで一般人だった少年であればなおさらだ。
「――危ない、アリス!」
 死角を突くように、地に沿って飛ぶ一羽のネックラック・フラミンゴ。振り向いたフリント少年の視界を、真正面に至った桃色の体が覆う。
「……へ?」
 けばけばしい桃色の羽毛。フラミンゴの赤い脚。およそ生命的でない方向に折れ曲がり、動く緑色の腕。あるべきはずのもののない首の先は虚ろで、何も見えない。まぎれもない怪物。目の前にいるのは、バケモノ。
 彼が纏う武器と防具は望みうる最良のものであっても、装備者の技量なくして本領は発揮しえない。どうにもならないこの状況で、少年は死を覚悟する。状況の理解が追い付かず、悲鳴すら上がらないこの状況で。

 だが、彼を見守るのはもう一人。

『――遥かな眠りの旅へ誘え』
 敵の翼にもひけをとらない、鮮烈な色をした花びらが舞う。
 魔術の加護を帯びた剣の如き一撃が、極楽鳥花の花弁となって敵を切り裂く。

「まったく、放っておけないな」
 白馬の臀部に微かな音を立てて、少年が飛び乗る。眼鏡の奥には呆れたようなまなざしが覗く。
「トオル!」「トオルさん!」
 剣と少年が同時に叫ぶ。筒石・トオル(多重人格者のマジックナイト・f04677)はぼさぼさの髪を気だるそうに掻く。色白の細い指をかざすと、宙を舞う花びらが集って剣の形を再び成した。
「その、えっと……ありがとう、ございます」
 つんとした表情に萎縮したように、たどたどしくアリスが礼を言う。
「……言っただろう、キミを守りたいって。キミを守る為に僕はここに居るんだから」
 素っ気ない表情で返す。
 トオルの視線は既に、次のネックラック・フラミンゴに向けられていた。
「(戦うのは、それで何かを失うのが怖いから……)」
 そう語っていた彼が、あんな風に戦えるようになるまで一体どんな戦いを経てきたのだろうか―― 少年は、その疑問を心の隅に押し込めた。

「――どうやら追撃の手は止んだようだね」
「分かってると思うけど、油断は禁物だよ、アリスティアー」
 戦うこと幾たびか。倒した敵はその何倍か。ネックラック・フラミンゴたちの作り出した迷宮を越え、その出口となっていた『草門』を潜り抜ると、攻撃の手がぴたりと止んだ。冷静にその状況を俯瞰するアリスティア―、軽挙を窘めるトオル。アリスの少年にとって、なんとも頼もしい味方に違いなかった。

「さあ行こう。出口はもうすぐそこだ」
「――はい!」
 アリスの少年は馬に乗って走る。後ろを振り返る必要はない。
 そんな猟兵たちと。少なくとも今この瞬間だけは、肩を並べているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『切り裂き魔』

POW   :    マッドリッパー
無敵の【殺人道具】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    インビジブルアサシン
自身が装備する【血塗られた刃】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    殺人衝動
自身が【殺人衝動】を感じると、レベル×1体の【無数の血塗られた刃】が召喚される。無数の血塗られた刃は殺人衝動を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

=====

●断章
 乾いた金属音が、正門の前に辿り着いた猟兵たちの前で響いた。
 フラミンゴたちの笑い声は遥か遠く、もはや猟兵たちの耳に届かない。

「いやぁ、お見事。お見事です」
 視線の先には、異様な影。背の高いシルクハットに隠れて顔の見えない男の姿。
 音の正体は、嫌悪感すら感じさせる禍々しい鉄の爪。

「――拍手ってのはよォ、手でするもンじゃねーのか」
「いやはや、申し訳ない。あいにくこの手を打ち合わせられるほど、器用ではありませんで」
 猟兵は感じた敵対心を隠さない。隠す必要がなかった。
 目の前のバケモノが、全く同じ感情を隠していないのだから。

「さて、見事ここまで到達した皆さまにお教えしましょう。この館に迷い込まれたアリスの方々の帰り道――『扉』は私の後ろにあります。帰りたくば、くぐるだけで十分です。破壊はおすすめしませんよ。何が起こるかわかりませんから」
 猟兵たちは、ここまで護衛してきたアリスの反応を確認する。アリスたちは猟兵たちへ頷いて見せる。怪人は嘘をついてはいないようだった。

 彼の背には、閉ざされた巨大な門扉。幅は人間三人分くらい。
 打ち倒さなければ、通れない。

「素直に通してくれたりとか……しない?」
「申し訳ない。それでは、アリスの皆様をお招きした甲斐がありませんからね。私は饗す側、館の主人として、そのような失礼は……クク、できませんとも」
「……そういうの、慇懃無礼っていうんだよ。せめて、その笑いを堪えるのを何とかして欲しいな」
 館の主人を名乗る怪人は、堂に入った一礼をする。
 自らの腹に当てた巨大な爪が陽光を反射して鈍く輝いた。ある猟兵は、その爪の端に拭き取られそびれた血がこびりついているのに気づいた。

「申し訳ない。ですが、笑わずにはいられないのです」
 特徴的な帽子の底から、恍惚に耽る不気味な声がする。

「これから私が皆さまを引き裂いて、引き裂いて、引き裂いて、それからたっぷりその血を浴びられるのですから!」

 顔のあるべき位置には、歪な歯が覗いていた。


●追加マスターコメント(第三章)
 第二章までお疲れ様でした。ここからは第三章です。

〇敵について
 ボス『切り裂き魔』一体です。外見はイラストを参考にしてください。
 身長は2mくらいの大男を想定しています。

 巨大な爪が特徴的な他、血塗られた刃を飛ばしてきます。
 タフではありませんが、回避行動を得意とします。

〇戦場について
 戦場は館の正門前。猟兵が戦うのに十分なスペースがあります。障害物は、せいぜいまばらに生えた植木がある程度です。愉快な仲間たちは登場しません。
 なお、門は愉快な仲間たちではありません。怪人を倒さずに門を通ることは不可能に近いです。正規の方法で門をくぐることで、アリスは元の世界に帰ることができます。

 範囲攻撃の取り扱いにはご注意ください。
 壊したらまずそうな門があり、一般人であるアリスがこの戦場にいます。

〇描写について
 ボス『切り裂き魔』との戦闘、アリスとの別れの2シーンが描写可能です。
 どちらを重視するか、それとなくプレイングに記載していただけたら幸いです。

〇執筆期間について
『受付開始は7/10(水) 8:30以降』とし、『7/12(金) 23:59』までは受付状態を保ち、仮締め切りとします。

 執筆状況によっては、再送をお願いするかもしれません。
 その場合は別途アナウンスいたします。なるべく多くのお客様のリプレイを執筆したいと思っており、作業時間確保にご協力いただけますと幸いです。


 7/10(水)5:00  隰桑 拝
=====
追記

お世話になっております。隰桑です。
火曜日失効の八名様についても、全員採用のための作業時間が足りず、完成が難しいです。
お気持ちに変わりがなければ、一度再送をお願いしたく思います。
なお、再送にあたってプレイングを書き替えてもらっても構いません。
(※既に完成している部分はそれに応じて書き直します)

なお、現時点でプレイングをいただいている14名様は全員採用する予定です。
二度再送を乞う予定はありません。

勝手ながら、ご協力をお願いします。
クラウン・アンダーウッド
【ヤド箱】

アドリブ 歓迎
アリスの護衛はボクに任せてよ♪傷ひとつ付けさせないさ。
からくり人形の4体を味方のサポートへ、6体をアリスの護衛に回す。

量産した懐中時計による【情報収集】【第六感】で周辺の味方や敵の位置、攻撃方向や弱点を掌握する。掌握した情報をからくり人形を通じて味方と共有、適時適切に指示を飛ばし人形を操る。

狂気も恐怖も何のその。笑顔を振り撒いて観客を楽しませるのが道化師の仕事さ♪
応援特化型人形楽団による演奏で味方を鼓舞して、アシストしよう。

味方に対する攻撃はボクか人形が防ごう。巧くいけばカウンターで返して、フェイントで翻弄させよう。

戦いが終わったら、帰るアリスに一曲演奏しようかな♪


杜鬼・クロウ
【ヤド箱】
アドリブ◎

いけ好かねェゲス野郎だなァ
下品な笑みが鼻につく
浴びるならテメェの汚ェ血だけにしとけや、オラァ!(恫喝

ディエゴ、下がってろ
…託すぞ(クラウンへ
必ずお前がいた世界へ帰す

前へ出て玄夜叉構え(威厳
【トリニティ・エンハンス】使用
攻撃力重視
クラウンの支援受け胴へ十字斬り
機動力低下狙いで爪を削ぎ落す(部位破壊・2回攻撃
爪立てる初動と風の流れ読んで敵の攻撃回避(第六感・見切り
懐へ潜り肉を切り骨を断つ戦法で一点突破
剣に魔焔宿し焼き尽くす

扉へ
アリスを笑って見送る

怖い思い沢山させてたら悪ィ
短い間だったがお前と駆けたこの脱出劇、忘れねェよ
お前を待つ人達の所へ早く戻って安心させてやれ
またなディエゴ



●オウガはルールを語る
「……ああ、そうだ。戦う前にひとつだけ。ゲームのルールを説明させていただきましょう」
 『切り裂き魔』――そう呼ばれるオウガが動きを止めて、口を開く。

「ゲームに、ルール……ああ、ここに来るまでの間、出会ったオウガがそんなことを言ってたね♪」
「……聞くだけ聞いてやンよ。従うか考えるのは、その後だ」
 アリスの少年を庇うように、二人の猟兵は立ちはだかる。

「御記憶かどうか。この館で開催されていたのは、アリスが条件を満たし脱出できるかを試すデスゲーム。第一の試練では番人に見つからないこと、第二の試練では池に踏み入らずクロッケーのをくぐること。そして、私が課すルールはただひとつ―――」
 カチ、カチ、カチと『切り裂き魔』は爪を鳴らす。
「――アリスは他のアリスの力を借りず、自力で脱出せねばならない」

「……どーいうこった?」
「クロウさん、周囲を見て。他のアリスと、ついてきた猟兵がいない」
 それは、言葉通りだった。14名の猟兵と7人のアリスが揃っていたはずの門前には、今や2人の猟兵と1人のアリスしか残っていない。
「あなたたちは、ほかのアリスとは隔絶した空間にいます。それぞれ、『私』と対峙していることでしょう。目の前の『殺人道具』たる私を倒せば、あなたたちは脱出ができる。」
 どうです?シンプルでしょう?と怪人は笑う。

「俺たちは残してくれたってわけか。ずいぶんとありがたいことだ」
「ゲームはゲームです。カードが配られるまでは参加者全員に勝ち目なくして勝負たりえない。ですから猟兵。あなたたちはここにいることを許された。それに――」
 黒衣のオウガは背筋を伸ばす。

「――希望を与えて奪うことで得られる血ほど、甘美なものはないのですよ」

●猟兵は不敵に笑う
「ディエゴ、下がってろ。それから――」
 それは獲物を捉えて身を伏せる猛獣の唸り声に似ていた。赤瞳が眼前の醜悪に対する闘志を燃やし、青瞳が傍らで悲鳴を堪える少年を確かめる。
「――もちろん、護衛はボクに任せてよ♪」
 続いた言葉は、闘志に燃える友のものとは対照的だった。傷一つ付けさせないさと彼はおどけて笑う。何も知らないような口ぶりで、何もかもを知っているようにクラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)は嘯く。
 道化かくあるべき友の言葉に、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は、ただ黙って頷いた。聞こえたのだから。男という生き物にとって、それが十分なあり方だった。
「……あの人、あなたよりずっと大きくて、刃物も巨大で、力強そうで――」
「――ボクたちじゃ勝てなそうだって、そう思う?」
「うっ、ごめんなさい」
 怯える少年が、身を縮める。猟兵たちはそれを笑い飛ばす。
「怒らねェよ。あのゲス野郎も見た目だけは一丁前だからな」
「ははっ、そうだね。見た目だけ。それをちゃーんと証明してあげるよ♪」
「……本当?」
 少年の瞳の奥に、希望の光が灯るのを彼らは見た。
「ホントさ、ホント♪」
「じゃあ、じゃあ、信じる。応援します。頑張って、頑張って――勝って!」
「任せろ。必ず、お前がいた世界へ帰す」
 だから安心しろよとクロウは不敵に笑う。恐れは微塵も感じさせなかった。

●燃やし尽くす剣
「くっくくく、お話は終わりましたか」
 黒い長剣を構え一歩前に進み出た猟兵に、怪人が声をかける。
「――いちいち、いけ好かねェ野郎だなァ。鼻につくぜ、テメェの下品な笑い方がよォ」
 唾を吐き捨て、魔力を身に宿す。炎を纏いし玄夜叉をしっかと握り、一陣の風のごとく走りだす。返答を聞くそぶりすらない。

「その程度の加速で、私を凌駕できると?」
 帽子の下からかちかちと軽い音がする。
 まるで獣のように、歯をうちあわせて嘲弄する。
「それをこれから、試してみンだよ!」
 轟雷のように猛々しく吼え、斬撃を放つ。炎の尾を引いた一撃が空気を切り裂く。クロウが視線を上げると、中空に『切り裂き魔』が跳躍している様が見えた。嫌みたらしく、胸に手をあて礼らしきそぶりすらみせる。
「――特製の足か、さぞ動きやすそォだな」
「これが自慢でしてね。そしてこの高さからの一撃で――」
「――クロウさん!」
「――ちっ!」
 ディエゴ少年の叫び声が遠くから聞こえた。敵の、高い位置からの降下襲撃。両手あわせて10の爪が、緩急つけて猟兵に襲い掛かる。玄夜叉が火花を散らしてそれらを受け止める。水のように冷えた視線が、鍔迫る爪を撫でる。落としきれない血糊がこびりついた、刃こぼれも見られる分厚い鉄の爪。
「……高さからの一撃がなんだって?」
「存外、抵抗なさるようで」
 進ませない、しかし一歩も動けない。口撃に敵は動じない。
「(……意外と腕力あンじゃねぇか)」
 素直な感想を口にはしないが、杜鬼・クロウの口元は少し歪んでいた。
「あなたの剣は所詮一本。だが私の爪は、まだ無数にありましてね」
 受け止めている爪は十本のはずだった――
「へェ、それがお前さんの技か。『複製』品で俺を倒せると?」
「我が身は刃。無限の刃を産み出して、戦うことこそが私の戦い方。一本の刀が及ぶ道理などないのです」 帽子に飾られた禍々しい眼球の瞳孔が、一斉に漆黒の猟兵へと向けられる。
「ほぅ、そうかい。生憎俺は自分の力だけに拘る性質じゃなくてなァ!」
「それが――ん?」
 それがどうした、と言いかけたオウガの言葉が、死角を突こうと動いた爪が途中で止まる。いや、止めさせられる。

「そうやって無暗やたらに振り回していたら、弱点もバレバレさ♪」
 爪を歯止めるのは、煤けた懐中時計。その針は動かず、ただ主の命にて浮かぶのみ。
「小細工を――」
 オウガの言葉と共に、無数に複製される血の刃が、浮かび上がり――
「――おっと、俺様相手に、余所見なんてしてる余裕あンのかよ?」
 『血塗られた刃』が力を失い、はらりと落ちる。『切り裂き魔』の胴体には、十文字に切り裂かれた斬り傷。どろりと赤い血が流れ出る。
「貴様っ――」
「おいおい、そんなに怒るなよ。お前さんも立派な格好してるならよ。せっかくクラウンの奴が良い演奏してるんだ、耳を傾けるゆとりを持とうぜ」
 にぃと笑う二色の瞳が向いた先には、少年を庇うように立つ道化師の姿。
 傍らに立つのは応援特化型人形楽団の人形たち。
 道化師の指揮の下、どんちゃかどんちゃか賑やかに音を奏でている。

「……ディエゴ、慌てる必要も、恐れる必要もないよ。君の隣にいるボクは道化師なんだ。狂気も恐怖も何のその。笑顔を振り撒いて観客を楽しませるのが道化師の仕事さ♪」
 歌うように彼は言う。器用に指先を動かして、ヤドリガミの力で人形たちを動かしていく。怪人が放つ血塗られた刃を、楽しそうにからくり人形が迎撃した。

「――楽しめたか?」驚くほどに落ち着いた声で、クロウは問いかける。
「いいえ、まだです。あなたを倒してから、もう少し楽しませてもらうとしましょうか」
 冷静さを取り戻したのか、あるいは別の理由か。『切り裂き魔』は静かに言葉を紡ぎ、爪を大きく広げる。さながら、猟兵をまるで両手で叩き潰すかのように。
 一瞬だけ、対峙する二人が静止する。

「――遅いンだよ!」
 中指二本の爪が動き出すと同時に、黒き猟兵は身をかがめ一撃を躱した。
 刈り取られた毛先の黒がはらりと舞う。
 環指と小指の爪がほぼ同時に迫り、時を同じくして風雲児は跳躍する。
 それを待っていたとばかりに、母指と示指がクロウを両腕ごと捕らえた。爪の刃は肩を引き裂き食い込んで、離そうとしない。そして、彼の頭上に、背に、全方位に浮かぶ血塗られた刃。号令一声で飛び掛かる状態に、オブリビオンは勝利を確信する。
「勝っ――」
「悪ィな。……俺の勝ちだよ」
 両肩の肉を抉られながら、黒き猟兵が白い歯を見せる。背中の心配はいらない。
 なぜなら、頼りになる味方がいるのだから。
 だから、まっすぐ向けるだけで良かった。

「――燃え上がりやがれェ! 玄夜叉ァ!」
 肉が裂けるのを無視して、黒剣を引き、突く。『切り裂き魔』が防ぐように両手を狭めるのを貫くように、まっすぐ、まっすぐ貫き通し、敵の身体に突き立てる。剣から湧き上がる魔焔が敵が全身へと広がり、焦げた臭いを立て始めた。
「私の刃は、健在で――」
「――ではないんだな。これが♪」
 念力で動く、自在の『血塗られた刃』。窮地にあっても、それを動かす精神力を敵は持っていた。不可視の暗殺者と銘打たれたその一撃はことごとく、無数の懐中時計によって、まるで時を止められたかのように阻まれる。
 炎に覆われていくオウガに残された僅かな視界の中で、道化師が嘲弄の笑みを浮かべていた。

「俺に近づかれた時点で、終わりなんだよ」
 それが、『切り裂き魔』の耳が焼き尽くされる前に聞いた最後の言葉だった。

●キミが信じてくれるなら
「……怖い思いたくさんさせちまって、悪かったなァ」
「う、ううん。平気だった。お兄さんたちが、守ってくれたから」
 一応の止血処置を終えたあとで、ディエゴ少年に笑いかける。あたりの異常な空間は既に過去のものとなり、アリスの扉が目の前にあるだけだった。
「一番怖いのは、敵じゃなくて目の前のお兄さんだったかもね♪」しんみりした空気を茶化すように、道化師は笑う。最後まで笑う。
「おいコラてめェ、クラウン。どういう意味だ?」冗談と知りつつも、むすっとした顔でクロウは反応を見るため少年に視線を向ける。
「そ、それは……」目を逸らすディエゴ。
「おい、ディエゴ。そこは否定するトコだろ!」
 慌てたように目を見開いて、クロウが抗議する。
「ほら、やっぱり♪」
 クラウンの言葉にあわせて、ぷぴーと楽団が落着の音を奏でる。
 くしゃくしゃと髪を掻くクロウ。だが、その顔には苦笑の色濃くも笑いが広がっていた。

「短い間だったがお前と駆けたこの脱出劇、忘れねェよ。お前を待つ人達の所へ早く戻って安心させてやれ」
「うん、ありがとう。本当に、ありがとう。クロウさん。それから――」
「――お礼はいいよ。道化師にとって最高の報酬は、観客からの笑顔だからね♪」
「うん、うん。でも、やっぱりお礼は言わせてほしいな。傍に居てくれて、ずっと励ましてくれて、ありがとう。クラウンさん! ……あ、あと最後の音楽も! 素敵だった!」
 少年はお礼を口にして、二人の猟兵の笑顔をかわるがわる見た。それから演奏を終えた人形楽団に視線を向けると、クラウンの合図で彼らは一斉にお辞儀をした。
 別れの時は間もなくだった。

「……また、会える?」
「そうだね。キミが信じるなら、いつか会えるさ♪」
「この夢みたいな冒険を、信じる限り?」
「……ああ。お前が俺たちを信じたように、これからも信じ続けるならな」
「じゃあ、信じる。信じ続けるよ」
 別れを惜しむ楽団の寂し気な音色を背に、三人は最後の約束を交わす。

「……またな、ディエゴ」
 一言。杜鬼・クロウは呟いた。ディエゴは小さく頷いた。
 扉をくぐるアリスを、二人の猟兵は最後まで見守った。

 小さな冒険の旅は、ここに無事に終わった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

出水宮・カガリ
※アドリブ絡み可

ありす、ありす
もう一度、名前を教えてくれ
…くらん、つーそん
カガリは忘れっぽいからなぁ、また名前を忘れてしまうかもだが
元の世界に帰って、次に会った時は、そちらから呼んでくれないか
うん、うん、きっと会えるだろうから

――ここでは、終わらせない

ありす達を、カガリの盾の後ろへ
【鉄門扉の盾】を地に打ち立て、【隔絶の錠前】で施錠した上で【追想城壁】を展開、維持する
カガリの壁の内は、如何なる形の脅威も通さない
カガリが脅威と認めたもの、全てだ
その刃が、ありすにとって脅威となるなら、カガリが通すことは無い
この城壁はただ、その為だけの壁であるがゆえ

防御に気を回す必要はない
存分にそれを駆逐してくれ


三寸釘・スズロク
こっちもワンダーランドの冒険、中々楽しませて貰ったぜ
生憎今日のアンタの収穫はゼロだけどな

足のトコにコードっぽいものが垂れ下がってるのが気になるんだよな
もしかしてメカの類?
なんでも良いんで試してみるぜ
【人形師の手繰る糸】『Jinx』残りの全弾使って数撃ちゃ当たる戦法
神経繋がってそうな舌とか口の中、胸元のハートの宝石も怪しいな

上手くクラックできたら視覚の奥行距離情報を狂わせて
ご自慢の刃も何故だかちっとも届いてないぜってのを狙う
その間に他の仲間が攻撃してくれると良いけど
必要なら俺も『Fanatic』で射撃


クランとツーソン
元の世界に戻ってもスズロクお兄さんのイケてる姿を忘れずに
強く生きてちょーだいよ。



●オウガかく語りき
「……ああ、そうだ。戦う前にひとつだけ。ゲームのルールを説明させていただきましょう」 『切り裂き魔』――そう呼ばれるオウガが動きを止めて、口を開く。

「この期に及んでゲームとは、アンタ正気じゃねーな。いや、わかってたけどよ」
 ネイルガン『Jinx』を構えた三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)が、くさすように言う。

「それはお互い様でしょう」 怪人は動じず、かちかちと歯を鳴らして白衣姿の猟兵に応じ、言葉を続ける。「御記憶かどうか。この館で開催されていたのは、アリスが条件を満たし脱出できるかを試すデスゲーム。第一の試練では番人に見つからないこと、第二の試練では池に踏み入らずクロッケーの門をくぐること。そして、私が課すルールはただひとつ―――」  がちゃりと金属音をたてて、掌を宙に向ける。

「――アリスは他のアリスの力を借りず、自力で脱出せねばならない」
 いかがです? と言いたげに『切り裂き魔』は鉄爪で周囲を示す。

「(他の猟兵がいない。アリスもだ。空間転移――そんな器用な真似まで、コイツはできるのか?)」
 周囲は、いつの間にか静けさに包まれていた。多くの猟兵、多くのアリス。それらがさっぱり誰もいないのだ。もし言葉通りなら強すぎるとスズロクは分析した。強い技にはなにか裏があるはず。それに――
「アリスまで、いないじゃねーの。脱出ったって、俺一人を分断してどうすんだよ」
「……なに?」
 ルールに対して、存在しないアリス。
 スズロクの当然の疑問に対し、意外そうな声が、な帽子の奥から放たれた。
 猟兵とオブリビオン双方の疑問に対する答えは、別方向からやってきた。

「答えは、かんたんだ。なぜなら、カガリがいるからな」
 まるで背景に溶け込むようにして、鉄門扉が声に合わせて鎮座する。
「お前の技の仕組みはよくわからんが、カガリの盾の内に居るものに手だしはさせない」
 流麗な鉄の扉の前に立って、出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)は表情を変えぬままに言う。

「(アイツのはたしか……別世界を作りだすタイプのユーベルコードだったな。それに邪魔されたってことは、敵の技も近しいタイプのものってことか。とはいえ空間そのものを弄ったにしては、発動に準備行動がなさすぎる。俺たちに有無を言わせず吸い込めるのは強すぎる。特定の条件を満たすモノを作り出すタイプのユーベルコードの応用技ってあたりが関の山。なら、特定の条件とやらを満たすなり、打ち破れば出られると見た)」
 数度の接敵を経て、出水宮・カガリの技のある程度を把握していたスズロクは、敵の技の絡繰りを推理する。口にはしない。敵に塩を送る義理はなかった。

「ま、いいでしょう。やることは変わりません。目の前の私を倒せば、あなたたちは脱出ができる。私はあなたたちを倒して、錠前を奪い取る。それだけのことです」
 スズロクの内心を読んだのか、あるいは否か――『切り裂き魔』はそう語る。
「ご親切にどうも。フェアプレー精神を持ってるとは、意外だね」
「ゲームはゲームですから。カードが配られるまでは参加者全員に勝ち目なくして勝負たりえない。ですから猟兵。あなたたちはここにいることを許された。私が許した。それに――」
 肩をすくめたスズロクの言葉に、『切り裂き魔』は無視するような口ぶりで答える。

「――希望を与えて奪うことで得られる血ほど、甘美なものはないのですよ」
 衝動への愉悦に満ちた言葉は、開戦のゴングと同義に違いなかった。

●その為だけの壁
「――さあ、楽しんでいただきましょう!」
 浮かび上がるのは、無数の『血塗られた刃』。一本や二本どころの騒ぎではない。
 それが一斉に飛び掛かる。始末に負えない血のごとき雨。
「……おいおい、その数はちょっとずるいんじゃないの?」
 三白眼が苦笑で歪む。
 残弾数を確認するまでもない。全部を撃ち落とすのは不可能だった。
「すずの人、刃はカガリが防ぐから」問題ないとばかりに、傍らで声がする。
「スズロクな。――その間になんとかしろってか?」
 不平のような言葉を、にやりと笑いながらスズロクは呟く。
 防御を捨てられるなら、あるいは対処のしようがあるかもしれなかった。
「ああ、防御に気を回す必要はない。存分にそれを駆逐してくれ」
 カガリは小さく頷いて、それに答える。
 こくりと頷くだけながら重々しい動作は、まるで城門のようだった。

「おーけー、んじゃ……任せたぜ」
 スズロクの言葉と同時に、血塗られた刃が飛来する。だが――
「――おや?」
 オブリビオンの目には、自らの技が空中に突き刺さっているように見えた。正面だけでない。上空からの斬撃も。地を這うように滑らせた刃も。死角をつかんと放たれた側方、後方からの一撃も。全てが動きを止めていた。

「カガリの壁の内は、如何なる形の脅威も通さない」
 凝視することで、ようやくその形が明らかになる。陽炎のように揺らぐその姿は、まさしく城壁。鉄の門を中心として広がる数十メートルの守り。刃を物ともしない幻想の城。
「カガリが脅威と認めたもの、全てだ」
 無数の血の刃が飛び交っても、城壁に突き立つばかりで進まない。出水宮・カガリは微動だにしない。城門が動く必要はなかった。彼は今、鉄壁となっているのだ。

「その刃が、ありすにとって脅威となるなら、カガリが通すことは無い。この城壁はただ、その為だけの壁であるがゆえ」
「……なるほど。見事なものですね。その城壁は」
 決定的な相性差。【追想城壁】と敵の【殺人衝動】は相性が良かった――あるいは、致命的に相性が悪かった。突き崩せるビジョンを、オブリビオンは見いだせない。幻想の城壁は決して揺るがない。それを信じる者がいる限り。
 だからせめて、悔し紛れに称賛した。諦観はない。遠距離がダメなら、近距離に切り替えるだけのこと。チャキリと鉄爪が音を立てる。ガチャリと金属の足が動く。
 だが――

「ウグ―――!?」
「ありがとよ、カガリ。おかげで準備完了だ」
 怪人のうめき声と共に、自信に満ちた声がした。

●自慢の刃は届かない
 話は少し前、怪人が血塗られた刃を放った瞬間に遡る。
 城壁に守られながら、スズロクは冷静な目を向けていた。
「(……足のトコにコードっぽいものが垂れ下がってるのが気になるんだよな)」
 もしかしてメカの類だったりして……と彼は心の内で舌を出す。それは明確な手がかりだった。アリスラビリンスという世界にとって、あまりに不釣り合いな電源コード。飾りとしてデザインされたにしては、今まで旅した館や庭にそぐわない。ならば、目の前の存在の正体を明かす鍵に違いない。相手が電脳を持つものならば、それは彼の専門分野。
 相手が得体の知れてるバケモノならば、いかようにでも対処ができるのだ。

「(……神経繋がってそうなのは、あの帽子を持ち上げてる舌とか、――よく見えねーけど、口の中? ――あとは、胸元の宝石も怪しいな)」
 電脳ゴーグル越しに観察し、怪しいところをまずリストアップ。理系の、研究者の検討は大前提を確かめたあとで、関与する要素を整理するところから始まる。とにかくプロトコルに忠実に。筋道を立てて再現性を担保することこそ、研究者の義務である。

「(『Jinx』の残弾はあと三発。……ま、なるようになるっしょ)」
 立てる音は微か。狙いを澄ませて三発の釘を放つ。
 念力で血塗られた刃を操作する敵は動かない。いや、動けないが正しい。
 だからこそ、射撃は狙いを逃さない。
 そして――

「ウグ―――!?」      ハック
「ありがとよ、カガリ。おかげで準 備完了だ」
 モノレンズグラスに灯る光点と、敵へと入力した神経信号。
 スズロクはそれらを目にしながら、走り出す。

「なんと軽率な。たかが釘ひとつ刺したぐらいで安全な城壁から出ようとは、いささか軽率ではありませんか。この程度、簡単に抜けますよ?」
 黒々とした口から釘を吐き出し、赤々とした触手のような舌から器用に爪で釘を引き抜き、慇懃な口調を崩さぬままに巨大な口をゆがめる。血塗られた刃が宙に浮かび、駆けだした白衣の猟兵へと襲い掛かる。だが。

「む?」
 オブリビオンが怪訝な声を発する。
 飛び出した刃が、あらぬ方向へ飛んでいくのだからそうもなろう。

「おやおや、ご自慢の刃も、何故だかちっとも届いてないぜ?」
 からかうような声でスズロクは笑う。その笑いは当然、仕掛け人ゆえのもの。
「この釘――くそっ、取れぬ!」
 三本目の釘が突き立てられていたのは、血の色をした胸の宝石。釘はアンテナの代わりとなって、オブリビオンの魔力の根源を穿っていた。そして、突き立てられた釘を抜くには、『切り裂き魔』の爪は大きすぎた。
「……だが所詮、釘は一本に過ぎない」
 摘まめないのならば、とブチリとむしり取る。
 血塗られた刃たちが、その寄る辺を失って掻き消えた。
「おいおい、ちょっと乱暴なんじゃねーの?」
 入力が途絶えたことを冷静に確認しながら、スズロクは剽軽な口調を崩さない。
 十分に時間は稼いでいた。『切り裂き魔』の眼前に立って、拳銃『Fanatic』を構える。
「いいえ。最善の手段です。そしてこうまで近づいたのは、むしろ失敗でしたね!」
 鉄の爪が両側から広がり、一挙に狭まる。だが、猟兵――三寸釘・スズロクは慌てない。ただ、まっすぐ立って、狙いを澄ませる。

「――言っただろう。如何なる脅威も、カガリが通さないと」
 爪の一撃が止まる。スズロクの両脇を、ハの字を描くように展開された幻想の城壁。カガリのユーベルコードの効果範囲は50メートルにも及び、それは戦場全域を覆うに十分なもの。そして、無敵の守りは脅威を決して通しはしない。

「……ってことだ。悪いな?」
 凶相の猟兵が、勝利を確信して笑う。引き金は一回だけで十分だった。
 オブリビオンの身体に穴が二つ空き、彼が倒れ伏した。
 それだけで、戦いは終わった。

●きっとまた会えるだろうから
「……ま、なんだ。クランとツーソン。元の世界に戻ってもスズロクお兄さんのイケてる姿を忘れずに……強く生きてちょーだいよ」
 戦いを終えて、何を言おうか迷ったあげく、くしゃくしゃ頭を掻きながらそう伝えた。アリスたちは冗談を本気ととらえたのか、尊敬のまなざしを隠さず向けてくるものだから、居心地悪そうにスズロクは視線を逸らす。

「ありす、ありす。なあ、もう一度、名前を教えてくれ」
 たどたどしいような、暢気な口調で彼はアリスたちに語り掛ける。
「……くらん、つーそん」
 そうか。そういう名前だったなと他人事のように彼は反芻する。
「カガリは忘れっぽいからなぁ、また名前を忘れてしまうかもだが」
 残念そうに見えない無表情で、残念そうに彼は言う。
「元の世界に帰って、次に会った時は、そちらから呼んでくれないか」
 きっと約束するよと彼らは口々に言う。その目には確かな信頼の火が灯っていた。
 
「うん、うん、きっとまた会えるだろうから――」
 そう言って、アリスたちが扉をくぐるのを、二人の猟兵は見守った。
 無事に、任務は果たされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
【鋼色】鎧坂様/f14037と、リノ様と

ゴール目前でボスとかゲームか何かですか。
嗜む程度ですので詳しいという程ではございませんが……
帰り道を邪魔するものは倒されると決まっておりますし。
すぐに道を拓いて参ります。お待ち下さいませ。

リノ様のことは鎧坂様がうまくやってくれるでしょう。
こちらはただ、一閃を当てることに集中します。
爪に血が付着しているとなると、本命の一撃は恐らくあれから。
余計な攻撃はしません。背は預けた。わたくしは返す刀を当てればいい。
【神業真朱】。
断ち割られなさい。

ええ。だって言いましたもの。
お母さんに会わせますと、ね。
だからこんな悪い夢は忘れて。
どうぞ、あなたの現実でお幸せに。


鎧坂・灯理
【鋼色】依頼人/f15297 加えて、リノと。
おや、依頼人はゲームにもお詳しい?
あいにくと私はそういった物と無縁でしたが、やることは現実でも同じようで。
リノはお任せ下さい。

リノを抱えてバイクを駆り、敵の攻撃を避ける。
【小人の智慧】で敵の殺人道具を見切り、完全に避ける。
無敵だろうが当たらなければ関係なかろう。
念動力で逸らし、余裕があれば狙撃もしよう。

ごらんなさい、リノ。依頼人は、あなたとの約束を守る為にあそこに居る。
扉をくぐれば、あなたはこの事を忘れる。それでも、出来れば覚えていて下さい。
あなたを守る為に、命をかける者が居たことを。



●『切り裂き魔』は笑う
「ゴール目前でボスとかゲームか何かですか」
 肩をすくめて、彼女は呟く。思い返せば巨人に見つからないように潜入し、鳥に追いつかれないように走るのも、ある意味ゲームのようでしたと述懐する。のんびりと呟いているように見えて、穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)の右手は剣の柄に添えられていた。それだけで彼女のありようが知れるだろう。

「……おや、依頼人はゲームにもお詳しい?」
 表情ひとつ変えずに相槌を打つ。他愛ない会話を口にしていても、バイク上の鎧坂・灯理(不退転・f14037)の表情は鋭いままである。その背にはアリスの少女――リノ。最初の印象はどこへやら、眼前の怪物を前に糊の効いたスーツをぎゅっと握りしめる姿があった。
「嗜む程度ですので詳しいという程ではございませんが……」
 ちょっとだけそっぽを向いて、頬に手をあて少女は答える。古式ゆかしき太刀のヤドリガミも、今や世界に慣れてあら不思議。ゲームのひとつやふたつ、嗜みなのである。

 それを聞きつけたのか、あるいは否か。
 『切り裂き魔』――そう呼ばれるオウガが帽子の下の口を開く。
「いえいえ、ご謙遜を。ゲームであっていますよ。この館で開催されていたのは、アリスが条件を満たし脱出できるかを試すデスゲーム。第一の試練では番人に見つからないこと、第二の試練では池に踏み入らずクロッケーの門をくぐること。当然ですから、最後もゲームにいたします。私が課すルールはただひとつ―――」
 重々しい鉄の爪が、さながら掌中に欲するものを掴んだかのように蠕動する。

「――アリスは他のアリスの力を借りず、自力で脱出せねばならない」

「それで、他のアリスがいないと?」
 あたりを冷静に見回していた灯理が静かに尋ねる。手はハンドルに置かれたまま。

「あなたたちは、ほかのアリスとは隔絶した空間にいます。それぞれ、『私』と対峙していることでしょう。目の前の『殺人道具たる私』を倒せば、あなたたちは脱出ができる」
 肯定するかのように、『切り裂き魔』は続ける。

「……猟兵が二人いるのはどうしてですか? まさかサービスとでも?」
 整った眉をひそめて、赤い瞳を半月に翳らせて神楽耶が尋ねる。
「ゲームはゲームです。カードが配られるまでは参加者全員に勝ち目なくして勝負たりえない。ですから猟兵。あなたたちはここにいることを許された。それに――」
 慇懃な態度でお辞儀をしながら、オブリビオンは言葉が切る。
 その先の言葉は、誰にも予想がつくものに違いない。

「――希望を与えて奪うことで得られる血ほど、甘美なものはないのですよ」
 金属の脚が大きくしなり、オウガの男がアリス目掛けて飛び掛かった。

●お気をつけて
「ゲームですか。あいにくと私はそういった物と無縁でしたが、やることは現実でも同じようで」
 要は倒せばいいんでしょう? と事も無げに灯理は言う。迂遠な言い回しを要約すれば、猟兵がアリスの力となって倒せと言われているにすぎないのだ。敵が迫っていることなど感じさせない余裕は、確かな実力に基づくもの。この程度の敵に、後れをとるはずがない。
「ええ。ですから、すぐに道を拓いて参ります。暫し、お待ち下さいませ」
 折り目正しく、優雅にお辞儀する。アリスの少女――リノが驚いたのは、彼女が振り向くのと同時に、手にとる太刀が黒塗りの鞘から抜かれていたその早業。臨戦態勢の彼女に、それでもどうしても言い忘れていたから声をかける。
「神楽耶さん……その」
「どうされました、リノ様?」
 それを不快ととらず、優しい声で答える。振り向きはしない。敵があと数秒で到達する寸前に、目を離すことはできないのだから。

「――時間です。依頼人、お任せください。行きますよ、リノ」
 そんな神楽耶の問いに分け入るように、灯理が割り込む。アクセルのけたたましい音がそれに続く。

「……お気を付けて」
 一般人が、その一瞬で絞り出せたのは月並みな言葉。
「はい、ありがとうございます」
 バイクにあわせて動き出した少女の視界には、微笑む神楽耶の横顔だけが映っていた。

●私は約束しました
「――殿(しんがり)などと、無意味なことを」
 彼女たちがいた場所に爪を突き立てんと跳ねた怪人の一撃を、結の太刀が一刀受け止め、流す。和装の少女は翻るように宙を舞う。
 オブリビオンは残念そうに虚空を掴んだ爪の感触を確かめた。
「そうですか? 現にこうして、あなたは外しているじゃないですか」
 だから無意味なんかじゃありませんよと彼女は首を振る。

「いいえ、この空間で私から逃れることなど不可能だという意味です!」
 咄嗟に振り替える。それは回避を始めたバイク上の二人を襲う、無数の殺人道具たち。
 獲物を捕らえるトラバサミがある。首を落とすノコギリがある。神経を突くキリがある。腹を割く開創器がある。
「いかがです? これぞ私の無敵の殺人道具コレクション。私が最も得意とするのは、『無敵の殺人道具』を呼びだすこと。逃げ道なんて最初からないのです。ここに来た時点で、殺されることは決まっている。さあ、悲鳴をきかせてもらいましょう!」
 無敵の殺人道具たちが呼び出され、彼らの逃走経路を塞ぐ形で襲い掛かる。『切り裂き魔』の言葉通り、逃げ道など与えぬとばかりに密集して、逃走路などないように思えた。

 だが。

「――その程度で余所見するなんて、ずいぶんと甘いですね?」
「なっ!?」
 体が反射的に動いた。刀の一撃を鉄爪がすんでのところで受け止める。
「無敵の殺人道具を名乗るだけありますね。今の一撃を良く受け止められたと褒めてあげます」
 つんと澄ました顔で、猟兵は言ってのける。薄々、絡繰りに気づいていた。
「いえいえ。この程度、大したことはありませんとも。それより、いいんですか。助けに行かないと、大事なアリスが死んじゃうかもしれませんよ?」
 隠しきれない悔しさが滲む声で、オブリビオンが尋ねる。

「いいえ、問題ありません。鎧坂様が任せろと言った以上、心配なんてむしろ邪魔です」
 何気ない調子で、平凡な口調でそう笑う。
 鍔迫るかのごとき押し合いで、猟兵は一歩も譲らない。

「それに、わたくしは約束しました、道を拓くと。だから、問題なんてないんです」
 敵を見据えるその瞳は、赤く燃えていた。


「(この程度の数――というにはいささか多く、強いな。無から有を産み出すこの手のタイプのユーベルコードは、術者が生命力なり代償を一度支払って終わりか、あるいは特定の条件をクリアし続ける必要があるはず。外れた殺人道具が消えて、新しい物が補充されている。惜しまないということは――前者よりは、後者か。こいつらの動きはおそらくサイキック操作で、生命力を感じない。サイキック相手なら、手のうちようは如何様にでもある)」
 バイクのハンドルを大きく切って旋回しながら、敵の挙動を冷静に観察する。
 傲慢と破壊と暴力で彩られた鉄面皮の女性、鎧坂・灯理という猟兵は観察と計算を違えない。彼女が最も恃みとするのは、彼女を猟兵たらしむ念動力でも、射撃技術や操縦技術でもない。その冷徹で、過剰なまでに合理性に特化した脳髄だ。
 ゆえに、『無敵の殺人道具』と銘打たれ、"念動力で操られて" 動くそれらの無謬ぶりと特質性を理解していた。陣形に無駄はない。対策なしに切り抜けるのは不可能だった。つまり、彼女にはそれができるということ。
 
「――リノ、生きていたくば、しっかり捕まっていなさい」
「……は、はいっ」
 相変わらず、何気ない口ぶりで言うから聞き逃しそうになるけれど、なんとかしがみつく。見上げた先には、変わらない――安心感を覚えるというには、可愛らしさから、ちょっとかけ離れすぎた鎧坂・灯理の笑顔があった。

「……この程度で殺人道具とは笑わせてくれる。人間を舐めるのも大概にすることだ」
 顔から数センチのところに迫った錐を前にして、猟兵はそれを嘲笑う。迷わず突っ込むその端正な顔に、錐が刺さり――いや、刺さらない。
 その軌道は捻じ曲げられて、大きく逸れた。

「いかに無敵だろうが、当たらなければ関係なかろう」
 野獣のように整った白い歯が光った。
 アクセルを踏む。もはや、敵の攻撃は脅威ではなかった。

●背は預けました
「あら、もう息があがっているのですか? さっきから攻撃が甘いですよ?」
「そうかもしれませんね。いやはやお強い。くっくっく!」
 何回爪と刀が打ち合ったか、その数を二人は数えていない。
 口撃の応酬も、どちらかの動揺を誘うには至らない。

「「(一瞬、一瞬の隙を見つけられれば)」」
 それは彼我どちらも思っていたことであろう。
 しかし気まぐれな運命の天秤は、オブリビオンに傾いた。

「ひひっ。その隙、いただきます!」
「――くっ!」
 刀を逸らし向きを変えた――反撃できない瞬間を突いて、オウガの爪が神楽耶の胴を割く。赤黒い血が桃色の袴に島を作る。黒い髪をふわりと浮かせ、神楽耶は後ろへ下がる。
「残念ながら、逃しません。無力な人間にしては、よく頑張りました。お覚悟――」
 勝利の確信をもって、『切り裂き魔』が爪を伸ばす。

「いいえ、私の勝ちです」
 いつの間にか鞘に仕舞っていた太刀の柄に再び手をかける。
 少女の身体はまだ、後方へと跳躍している最中ながら。
「――え?」
 怪人の鉄爪に銃弾が届き、火花が散る。帽子に縫い付けられた歪な瞳が、ぎょろりと飛来した方向を向く。スポーツバイクの上で、煙立ち昇る拳銃を構える猟兵。そして。

「――私はただ、返す刀を当てればいいのです」
 鞘の内を、太刀が滑る。少女の細腕とは思えぬ膂力で抜かれた斬撃が、火花の中心をなぞるように、真一文字を描く。
 続くように、とんと小さな音を立てて、神楽耶は着地した。

「技の名前は、【神業真朱】――」
 彼女は冷ややかに、その真髄の名を告げる。
「――断ち割られなさい」
 きん、と小さな金属音が響いた。怪物は断末魔すら許されなかった。

●どうぞ、幸せに
「……結局、どういう仕組みだったんでしょう?」
 すっきりした顔で、神楽耶は黒髪を揺らし首を傾げる。
「おそらくは、私達が戦った『切り裂き魔』自体が、彼の思い描く無敵の殺人道具だったということなのでしょう。事実かどうかは、知りませんがね」
 中指で眼鏡の位置を直しながら、灯理が素っ気なく答える。
「……それより」「……ええ」
 バラバラに散らばった怪人のことなど、もはや二人にとって過去のこと。
 三人の目の前には、門の形をした『アリスの扉』が存在した。

「ええと、その。ありがとうございました」
「いいんですよ。だって、約束しましたもの。お母さんに会わせますと、ね」
「あの扉をくぐれば、きっとお母さんに会える――そんな気が、するの」
「それが『アリスの扉』というものなのでしょう。安心して、行きなさい」
 アリスの少女は、二人の言葉にこくりと頷く。

「もう怖い旅は終わり。こんな悪い夢は忘れて――……そうだ。お守りをあげましょう」
 神楽耶はそう言って、羽織の袖から小さな符を取り出して握らせる。
 それを見て、灯理の眉が少しだけ動いた。
「……扉をくぐれば、あなたはこの悪い夢を忘れる。それでも、出来れば覚えていて下さい。――あなたを守る為に、命をかける者が居たことを」
 リノは一瞬信じられないようなものを見た気がして、灯理の顔を覗き込む。二度目に見たときには見られなかったのだから、もしかしたらそれは幻や錯覚だったのかもしれない。鎧坂さんが普通の笑顔をしているなんて、と俄かに信じがたいものがあった。
 本当に笑ったかは定かではないし、その心中も含め、本人にしかわからない。

 確かなことは門をくぐるその瞬間まで、リノの視界には、笑顔で見送る垢ぬけた和装と、その隣で直立不動を保つスーツ姿があり続けた。

「……どうぞ、あなたの現実でお幸せに」

――
―――
――――
 私は、正直に言えば夢の中の出来事をよく覚えてはいません。とにかく怖くて、恐ろしくて、物騒で、賑やかで、でも楽しくて、ホッとして。ただ、最後に見たものがずっと見守ってくれた優しい笑顔だったということだけは覚えています。不思議なことに、誰の笑顔だったかは覚えてないのだけど。
 優しくて、温かくて、ずっと傍にいる――まるで神様みたいな笑顔を、私はきっと生涯忘れないでしょう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリスティアー・ツーハンドソード
扉が見えるねフリント
あの先に進んだら僕達はもうキミを守れない、自分で戦うしかないんだ、できるかい?
……よし、それじゃあ最後に王子様が一肌脱ごうじゃないか!

フリントに無敵鎧を装着、同じ戦場に居るならこの方が安全だろう
もし鎧が破られそうになったら、背中を開いてこっそりフリントを逃がすよ
そして気持ちで【手をつなぎ】ながらフリントを【鼓舞】する
キミが纏うは無敵の鎧、キミが振るうは最強の剣!キミが勝利を思い描けば、向かうところに敵はない!とね
そうしたら【ウイニング・イマジネーション】を使用、フリントの身体を動かそう
相手も想像が武器のようだけど大丈夫
こっちの想像は二人分!正面から突っ込んで叩き斬ってやれ!


筒石・トオル
「血を浴びるのが好きとか、本当に趣味が悪いな」
フリントも他のアリスも決して傷付けさせはしない。

「光よ我が願いを叶えたまえ。聖なる力、邪なる者を封じる力をここに」
切り裂き魔が「殺人衝動(WIZ)」を発動する前に【ヒプノシスリストラクション】を使用し、敵の動きを止める事で刃召喚を防ぐ。
動きを止めれば仲間が攻撃し易くなるし、攻撃の手数を減らせれば優位に戦闘出来ると思うんだ。
「最後に笑うのはキミじゃなくて僕達だったみたいだね」

別れるのは寂しいけど、フリントは強いからきっと大丈夫。
向こうの世界でも頑張ってね。
あまりやり慣れていないけど、笑顔で握手出来たらいいな。ハグはちょっと厳しい(自分が)



●共に戦う戦士たち
「ぞんがい、しぶとく戦いなさる。アリスの力というよりは、猟兵――あなたの力なのでしょうけれど」
「いいやこれも、フリントの力だよ。僕と肩を並べているのは、アリス自身の意思なのだから」
 鷲掴みにするような鉄爪の挙動を大きく跳躍してトオルが躱す。さながら猫のように、しなやかに、音もなく後ろへと下がる。トオルを狙った一撃が外れた瞬間を狙って、フリント――アリスの少年は、アリスティア―を大きく振るい、オウガの胴を斬り付ける。だが、その一撃は急激に身を翻した『切り裂き魔』の爪の動きで阻まれた。

「ですが、次第に息が切れてきたのではないですか? 動きが粗雑になってきましたよ?」
「……そんなこと、ないっ!」
 荒くなった息を必死に抑え込み、反論の声を荒げる。アリスの少年は未だあきらめてはいない。なにより、自らの剣に全幅の信頼を置いていた。だが、このままではじり貧なのは間違いない。すでに十分以上打ち合っていた。

「――光よ我が願いを叶えたまえ。聖なる力、邪なる者を封じる力をここに」
 眼鏡がちかちかと光る。ユーベルコード【ヒプノシスリストラクション】の聖なる輝きが狂気に満ちた邪悪を捕らえる。大きく爪を振りかざしたその動きが静止する。――赤く、殺意に満ちた『血塗られた刃』がふつふつと、まるで芽生えるかのようにその周囲に生まれる。殺意に満ちた自動の刃が、アリスの少年へと襲い掛かった。

「――フリント!」
「大丈夫、アリスティア―さん!」
 剣が十字を描き、赤い刃を叩き落とす。落とせなかった一部が、無敵の鎧の胴を、肩を打つ。傷ついてはいない。しかし、優勢とは言い難い。【ヒプノシスリストラクション】でオブリビオンの攻撃が一時的に止んでいることだけが救いだった。

「(これは、ダメだ。効いてないというわけじゃないみたいだけど、相性が悪い)」
 敵から視線を逸らさぬまま後ろ足で着地し、僅かにずれた眼鏡の位置を指で直す。敵の攻撃より先に妨害するには猟兵は敵の攻撃原理を知りえず困難であり、なにより妨害手段と敵の攻撃の相性が悪かった。衝動とは内より湧き出で、志向性を持たぬものである。思考の方向性を縛る洗脳で抑え込めるものではなく、それはとりもなおさずユーベルコード同士の相性の悪さを意味していた。

「とはいえ、何もないよりは攻撃が通じるはずさ。だろう、フリント?」
 しかし同時に、トオルの行動は主目的が失敗しても、別の目的を副次的に達成しうる多重性で優れていた。猟兵は一人で戦うものではない。必ず隣に誰かがいる。トオルの慎重さは、必ずや報われる。
「――はい、いただいたこの隙、逃しません!」
 敵の攻撃の止んだ一瞬の隙を突くように、禍々しさすら感じさせる大剣をアリスは振るう。目の前には怪物。重々しく、殺意と悪意に満ちた鉄爪を広げ、飛び掛かる瞬間を封じられた悪魔の姿。周囲に漂う『血塗られた刃』が、彼の進撃を阻まんと向けられる。しかし、遅い。

「フリント、信じるんだ。キミが纏うは無敵の鎧!」
 アリスの手にある剣が叫ぶ。それは打算的に言えば、彼のユーベルコード【アリスナイト・イマジネイション】を確かなものとするための一手に違いない。だがそれ以上に、誇りと確信に満ちている。誰のものでもない、アリスの勝利への。

「僕が振るうのは――最強の剣!」
 だから、アリス――フリントは応える。そう信じるから。そう信じられるから。
 大きく、剣を横薙ぎに動かす。『切り裂き魔』の爪とぶつかって、火花が散る。手にびりびりと衝撃が走る。しかし、アリスを剣を離さない。共に戦う戦友を、手放すわけにはいかない。
「そうだ! キミが勝利を思い描けば、向かうところに敵はない!」
 アリスの心がわかるから、もはやアリスティア―に不安はない。ただ、信じるのみ。
「こっちの想像は二人分! 正面から突っ込んで叩き斬ってやれ!」
 フリントは剣をまっすぐ引いて、体勢を整える。視線はまっすぐ、敵に向く。

「――いいや、違うね。アリスティア―。三人分だよ」
 戦い慣れぬフリントの死角――認識できない箇所を狙った『血塗られた刃』が熱線に貫かれ、小さな血の欠片となって砕け散る。
 眼鏡の奥の確かな視線を背に受けて、アリスの少年は高らかに大剣を掲げる。

「私が、まさか――アリスごときに――」
 まっすぐ、振り下ろす。輝く縦線が一本、オブリビオン『切り裂き魔』の歪な帽子のてっぺんから、気取った襤褸の燕尾服の股に至るまで描かれる。自分の生が断たれたことを認めぬとばかりに、口から覗く赤い舌が触手のように蠢き、痙攣し、その動きを止める。唐竹割りにされた怪物の半分ずつが、地面に倒れる音がした。

「最後に笑うのはキミじゃなくて、僕達だったみたいだね」
 そう呟いたわりには笑みの少ない仏頂面で、トオルは敵の死体を睥睨した。

●聞こえるのは小さな音
「扉が見えるね、フリント」
 アリスの手の中で、諭すような声がする。彼の言葉が示す先、『アリスの扉』たる正門は静かに佇んでいる。もはや門番たるオウガ、館の主人『切り裂き魔』はいない。帰るべき道をしっかりと見定めたあとで、アリスの少年――フリントは目線を剣に送る。
「あの先に進んだら僕達はもうキミを守れない、自分で戦うしかないんだ。……できるかい?」
「できる、と思います。だって、最強の剣に勇気をもらいましたから」
 だから、健気に彼ははにかむ。
「良い言葉だ! ……元の世界でも、元気にやっていくんだよ」
 フリントは小さく頷いて、優しい手つきで両手剣をもう一人の猟兵へと手渡す。
「トオルさんも、どうもありがとう」

「……別れるのは寂しいけど、フリントは強いからきっと大丈夫」
 つんとした表情はどこか和らいで、小さく頷いて見せる。アリスティア―を左手に持ち替えて、それから色白な細い右手を差し伸べる。握手の合図を、アリスは誤解しなかった。
「向こうの世界でも頑張ってね」
 ぎこちない仕草で、確かな力を込めて二人は握手した。
 二人の手に残ったのは、互いに残した熱の感覚だけだった。

 戦いの終わった館は静かだった。
 猟兵たちに聞こえたのは、アリスが扉を開け、閉める音だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

未不二・蛟羽
POW・戦闘重視
怪我なんてさせない、守って、無事に帰すっす
だってそれが、ヒーローっすから!
それじゃ、いってくるっす
フアンくんは離れて待ってて欲しいっす!

【ブラッドガイスト】でNo.322を虎の手足、笹鉄を蜘蛛の脚へ
殺人道具の攻撃は蜘蛛の脚で武器受けして、威嚇するように吠え
相手が創造で強くなるっていうなら、それ以上の恐怖を与えて全部塗り潰すっす
喰われる側になるってこと、考えたことあるっすか?
逃げない様に脚で串刺しして、動きを止めて爪で攻撃っす
…まぁ恐怖って、正直あんまり分かんないっすけどね
きらきらが、好きだから
ファンくんもきらきらになって欲しいから!
だから悪いヤツは、もぐもぐっす!

アドリブ歓迎



●藍の瞳をしたヒーロー
「どうしよう、あの敵を倒さないと帰れないの? 僕を殺すって……」
「心配ないっすよ。怪我なんてさせない、守って、無事に帰すっす」
 怯える少年――フアンに、猟兵は屈託ない笑顔を向けた。勝利をいささかたりとも疑わない、根拠のない自信に満ちた笑顔。だが、今この状況で何よりも頼もしい姿だった。

「だってそれが、ヒーローっすから! だからフアンくんは信じて、離れて待ってて欲しいっす!」
「……は、はい!」
 いいっすね?と無辜な少年に言い聞かせる。その言葉に、フアン少年は確かに頷いた。

「――それじゃ、行ってくるっす!」
 笑って、猛禽の翼を広げる。迷いはない。ただ、彼が彼らしくあるために。
 黒髪の青年――未不二・蛟羽(花散らで・f04322)は飛び立った。異形のオウガが相手でも、彼はまっすぐ飛んでいく。彼がヒーローとしてあるために。

●金の瞳をした獣
「――さあ、勝負の時間っすよ!」
 右腕を口に近づけ、一挙に自らの皮膚を噛みちぎる。鮮血が噴き出す――それはとりもなおさず、捧げものに違いない。腕に描かれた――いや、刻まれたNo.322という数字が、その血を貪欲に吸い込む。胴付近を守るように広がっていた笹鉄――ワイヤーに血が這っていく。
「……喰われる側になるってこと、考えたことあるっすか?」
 彼の爪は、猛虎のそれ。
 彼の脚は、蜘蛛のそれ。
 異形の殺戮形態となって、冷ややかな目を敵に向ける。

「――そ、その姿はっ!」
 オウガの動きが僅かに止まる。怯んだ――と言ってもいい。
 怯むとは、恐怖に通ずる言葉。 
 無敵を信じきれぬ者のみが抱く心。
「――今、恐怖したっすね?」
 だから、笑う。にやりと笑う。
 作戦成功の証左なのだ。

「(……まぁ恐怖って、正直あんまり分かんないっすけどね)」
 恐れを感じたことのない猟兵が、それを語ること以上の恐怖があるだろうか。
 だがそれこそが未不二・蛟羽(花散らで・f04322)という異質者の在り方だった。

「きらきらが、好きだから! フアンくんもきらきらになって欲しいから!」
 異形の姿のまま、笑顔で謳う。彼の背には、自らの後ろにはアリスの少年がいる。
 ヒーローが守るべき存在がある。
 だから、何も考えない。ただまっすぐ、立ち向かう。

 敵の醜悪な鉤爪を蜘蛛の脚が抑え込んだ。
 虎の爪が、帽子の下の異様な口に据えられた歪な歯を握りつぶす。

「――だから悪いヤツは、もぐもぐっす!」
 猟兵は吠える。負けるビジョンなんて、彼には存在しなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナハト・ダァト
【花畑】で参加

いい加減、鬼役ハ飽きただろウ?
今度ハ私ガ鬼ヲ務めテあげるヨ

三ノ叡智で回避挙動の先読み

ヴィサラ、ニュイ、藍クン、リダン君の行動も「瞳」情報収集から把握し
先読みした時間へ切り飛ばす

事前に仲間へUCの仕組みと特性を伝達しておく

先読みした回避挙動の未来で待ち構え
一ノ叡智で自己強化
オーラ防御、毒/激痛/呪詛耐性も
備え、早業・力溜めによって防御力を固めておく

回避した先にいる切り裂き魔を
「溶け込む夜」によって武器改造
三態を制する体に変化することで捕まえ、仲間の攻撃が当たる様に導く

◇お別れ
もシ、将来困ったラ
異形の花畑ヲ尋ね給エ
何でモ相談ニ乗るヨ

…その時ハ、もう少シ
親しい外見デ君ト再会しよウ


ニュイ・ルミエール
【花畑】

味方の姿を映す幻影の霧を広げ刃の矛先を逸したり誘導
切り裂き魔にUターン

傘を振り聖なる雨飛沫
邪悪な魂に攻撃


ジュノーちゃんごめんね
ここから先はにゅい達行く事が出来ないんだあ

だからね
ここでお別れなの

ね、ジュノーちゃん
もしもまたしゃがみこんじゃいそうになったら思い出して?

皆で一緒に踊って歌った舞台の事

そして──

(ユーベルコードの能力を全開
湖の水を次々空に打ち上げ水と光と虹で出来た花火を弾く)

──怖いだけじゃ無かったこの世界の事をっ♪

たとえ離れても
ジュノーちゃんの思い出の中でにゅい達はいつまでも一緒なの!
だからこの道を迷わず行って

振り返っちゃダメだよ?

ジュノーちゃんの道の先に
幸いの光あらん事を!


ヴィサラ・ヴァイン
私達【花畑】の目的はジュノーさんを元の世界に送る事
敵が直接狙って来る可能性が高いからね、ジュノーさんを守りながら戦うよ
敵の【マッドリッパー】からジュノーさんを庇い【究極の価格】で返り血を浴びせるよ
血を浴びたい、って言うなら存分に浴びさせてあげる…私の血は《ゴルゴンの血》…猛毒だけど(毒使い)
切りつけるしか能の無い殺人道具じゃどうにも出来ないでしょ、無敵が聞いて呆れるね
…あー、ごめんねジュノーさん。びっくりさせちゃったかな(恐怖を与える)
【頂点捕食者】で恐怖の感情を食べて肉体を再生するよ
…大丈夫、私達猟兵はそう簡単には死なないから
だからジュノーさんが元の世界に戻っても、友達で居てくれると嬉しいな


紫・藍
【花畑】
メタルな歌に演奏で前座の怪人が喋ろうとする度に即割り込みかきけし!
ジュノーのお嬢さんに聞かせる価値もない言葉でっすし
ああいう方は好き勝手に喋れないと苛立ってくれそうでっすしねー
煩いと思わせれれば挑発大成功!
お嬢さんも言いたいことを一緒にマイクに向かって叫ぶのでっす!

お別れは寂しいものでっすが
思い出全部を寂しいに染めちゃうのはもったいないのでっす!
一緒に歌ったり踊ったりできて楽しかったでっすよー!
お嬢さんはどうでっしたかー!
その想いも連れていってらっしゃいなのでっす、お家にただいまを言うために!

それに藍ちゃんくんたちはいつかアサイラムにも辿り着くかもで
その時はアヴェニュー再結成でっす!


リダン・ムグルエギ
アタシは最後まで【花畑】の裏方
ガラスの壁を作ってニュイちゃんの幻惑の霧を効果的にしたり
藍ちゃんくんの叫びを録音し輪唱の如く再生したり
ヴィーさんに捕食者っぽいマントを渡し恐怖を増したり
そして

ね、ジュノーちゃん
アナタも何かしてみたくない?

迷わす構造作りの補助となる催眠術アートの知識と
粗雑でもガラスの壁を作れるコードで
彼女を全力アシスト

声を抑え震えていた時とはもう違う
貴方は一歩を踏み出せる
『アリス』として…
いえ、対等な友人として、ね

彼女を危険に晒すことになるでしょうね
だから常に傍らで庇う構えもとるわ
大人2人が守り、アヴェニューの4人が戦う
フィナーレっぽいでしょ?

願わくば4人の友情が続くことを祈って



●彼女の奇跡
「……ああ、そうだ。戦う前に――『ズギャァアアアアアアアアアアアアン』
 『切り裂き魔』――そう呼ばれるオウガが動きを止めて、口を開こうとした。
 ――したはずだった。

「ゲームのルールを説明させ――『ギュインギュインギュイイイイイイイイイン』
 掌を宙に向け、決めポーズで自分の言葉に頷きながら話を進めようとした。
 ――したはずだった。

「私が課すルールは―――『イエェエエエエイ! 乗ってまっすか?~~~?』
 カチ、カチ、カチと『切り裂き魔』は爪を鳴らして、他の猟兵たちにしたような説明を丁寧にしようとした。
 ――……したはずだったのだ。

「――何だお前は! 私に! ルールを! 説明! させろ!」
 オウガが、キレた。 
 当然だった。口を開くたびにギターが鳴り響き、ハウリングするほどの大音量でマイクパフォーマンスされては、何をも伝えようがない。それはすなわち、そこでぴーすしている、紫・藍(覇戒へと至れ、愚か姫・f01052)の作戦通り。

 腹を立てたオウガ『切り裂き魔』が、煩さへの――ある種の『殺人衝動』に駆られて、【無数の血塗られた刃】を召喚する。殺意と悪意に満ちた刃が、雲霞の如く飛来する。
「……うにゅ! させないの! ジュノーちゃんはにゅい達が守る!」
 だが、その一撃はアリスに届かない。防ぐのは傘振る少女の雨飛沫。
 ニュイ・ルミエール(神さまの遊び場・f07518)の青い瞳は確かな闘志に満ちている。その心の色を示すかのように、眩い光が少女の体から放たれていた。

「さあっ、お嬢さんも言いたいことを一緒にマイクに向かって叫ぶのでっす!」
 その隙を逃さぬとばかりに藍がマイクをアリスの少女に押し付ける。

「で、でも……私、藍ちゃんくんさん達みたいに、すごくなくて……その……」
 だが、マイクを向けられて、思わず身を強張らせる。

「そんなことないわ」
 きっぱりと、言い切る声がする。

「声を抑え震えていた時とはもう違う。貴方は一歩を踏み出せる」
 リダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)はただ少女の隣に立っている。
「『アリス』として……――」 言い直す前に、リダンは小さく首を振った。
「――いえ、対等な友人として、ね」
 慰めるような言い方はしない。甘やかすような行動もしない。態度にいわゆる優しさはない。だが、その言葉に籠められた愛情は、確かに伝わった。
 だから、アリスは大きく頷いた。

「いくら吼えようと、その口を切り刻めばしまいなのです」
 『切り裂き魔』――紳士服姿の異様なオウガは、わきあがる感情を堪えるようにかちかちと歯を鳴らす。

「いいえ。おしまいじゃないわ。そんなこと、させないもの」
 宇宙山羊は冷酷に言い切った。
 この作戦は彼女を危険に晒すことになると彼女は理解していた。
 だが、その道を選んだ。幾らか対策したとはいえ、危険な道を。
 理由は決まっていた。
 ――その方が、フィナーレでしょ?
 もし彼女に尋ねたら、きっと笑ってそう答えるはずだった。

「いいえ、するのです。――切り裂け、【マッドリッパー】!」
 殺人道具――何もかもを斬り落とす刀が再び呼び出されて、虚空より出でる。くるり、くるりと中空で回転しながら、アリスの身体を割こうと迫る。

「本当にお父さんの言う通りに来た―― なら、攻撃はさせない!」
 小さな体が、ジュノーを庇わんと前に出る。

「邪魔をしたところで―― ぐ、ぐがぁあああああああああ」
 刀は、立ちはだかった小柄な少女を切り裂き、そのままアリスまで貫くはずだった。『切り裂き魔』は少なくともそう計算していた。それが割いたのは少女の柔らかな肉のはずで、舞い踊った鮮血はただの血でしかないはずだった。

 まるで、花が咲いたかのような鮮やかさで舞うそれが。
 オウガ――『切り裂き魔』の体に吹きかかる。
 同時に、彼が絶叫した。

「血を浴びたい、って言うなら存分に浴びさせてあげる」
 冷えた赤い瞳が――ゴルゴンの瞳が――ヴィサラ・ヴァイン(魔女噛みのゴルゴン・f00702)の瞳が―――、シルクハットの怪人を見つめる。

「これが怪物殺しの代償――それとも、知ってました?」
「ひっ、私の、私の身体が――」
「私の血は《ゴルゴンの血》……猛毒だって。その様子じゃ、知らなかったみたいですけど」
「溶け、溶けて―――」
 猛毒を浴びて、ぼとぼとと体が溶けだした『切り裂き魔』が恐怖の声をあげる。

「……ヴィ、ヴィサラさんっ!」
 ジュノーが心配と恐怖の色をした叫びをあげる。
「……あー、ごめんねジュノーさん。びっくりさせちゃったかな?」
「びっくりというか、血がっ、血がっ……あれ?」
 二つの不思議が起こった。ひとつは、自分の恐怖の感情が急速に薄れていくこと。もうひとつは、それに伴って目の前のヴィサラの傷が急速に癒えていくこと。それがユーベルコード【頂点捕食者】の効果であることを、アリスの少女は知りえない。
「大丈夫、私達猟兵はそう簡単には死なないから。でも、心配してくれてありがとう」
 手で口許に付着した血を拭いながら、安心してと彼女はほほ笑む。
「えっ、私が……私の心がわかるんですか?」
「――うん、食べさせてもらったから。ごめんね、勝手に食べちゃって」
「いいえ、友達の――ヴィサラさんの役に立てたなら、よかったです」
「うん、うん。ありがとう。いつまでも友達で―――ジュノーさんが元の世界に戻っても、友達で居てくれると嬉しいな」
「……はいっ!」

「お取込み中悪いけど、敵が最後の攻勢をしかけてくるみたいよ」
 角飾りが揺れて、ちりんと音が鳴る。気だるそうなまま、リダンが警告する。

「さあ、ジュノーさん、あとは、わかりまっすね?」
「はい。やって、……やってみます。ヴィサラさんみたいに、ニュイさんみたいに、リダンさんみたいに、藍ちゃんくんさんみたいに、ナハトさんみたいに――」
 ジュノーが、小さな手を握りしめる。その瞳には、確かな意思が宿っている。

「たかが、逃げ惑うだけのアリス風情が――」
 溶けかかった体を奮い立たせ、人形のような骨格が露わになった体に鞭打って、『切り裂き魔』は爪を広げる。アリスの少女だけでも仕留めなくては、地獄で留飲を下げようがない。

 だが、声がした。さながら何もかもを見下すような無慈悲な声が。
「いい加減、鬼役ハ飽きただろウ? 今度ハ私ガ鬼ヲ務めテあげるヨ」
「な――!?」
 その影は、獲物を【捉える】瞬間を音もなく待っていた。その影は、気体のように軽やかに広がり、液体のようにしなやかに纏わりつき、固体のように強靭に離さない。その影は、言うまでもなく――ナハト・ダァト(聖泥・f01760)の【溶け込む夜】に違いない。
「ぐぎぎっ、離せっ! 離さぬのなら――【マッドリッパー】!」
 殺人道具――まるでギロチンのような器具が空中に浮かぶ。ギロチンの首枷台の下半分はなく、アリスの首を上半分に嵌めてやろうと飛来する。
「――うム、それを待ってイタ。さあ、――出番だヨ」
 だが、猟兵に――上位存在を名乗る彼に、焦りどころか、感情の動きは見られない。面白くもなさそうに、確信をもって未来を告げる。

         ユ ー ベ ル コ ー ド
「喰らえ、私の――【歌って踊った夢の旅路】!」
 アリスの少女がマイクに向かって高らかに叫ぶ。
 呼びだした奇跡は少女の思いを音波に変えて、脅威を包み広がっていく。

「今だけは、みんなと同じように――! もう、ひとりぼっちは嫌だから――!」
 それは、祈りであり、希望であり、なによりも友に思う当然の気持ち。誰しもが持ちうるもの。そんなありきたりの言葉がとどめとなって、ぱきりと殺人道具の刃が割れる。ぴし、ぴしと怪人の爪に罅が入る。音が続いたのは、数秒だけだった。未熟な術者のユーベルコードの持続時間などたかが知れている。

 だが、それが止んだ時。館は静穏を取り戻していた。
 脅威は去っていた。まぎれもない、勝利だった。

●an avenue beyond the door
「ジュノーちゃんごめんね。ここから先は……にゅい達、行く事が出来ないんだあ」
 だからね、ここでお別れなのと彼女は諭すように呟いた。
「あっ、……うん。そうだよね。そうなん、だよね。この扉は、『アリスの扉』――『私の扉』。仕組みは、たぶんお姉さんたちじゃないとわからないんだろうけど、そうだということだけは、私にもわかる」
 アリスの少女の表情を覗き込むまでもなく、その気分が猟兵たちに伝わっていた。ホントの最初、最初の最初こそ不安だったけど、猟兵と名乗る面々がやってきて、大騒ぎから始まって、大騒ぎで終わる旅。楽しくなかったはずがない。こんなことが、元の世界に帰ったあとでもう一度体験できるだろうか。普通の人間なら、否だろう。落ち込まないはずがない。別れはいつだって――。

 だが、そんなことを考えて、暗く沈み始めた彼女の顔がぐにゃりと曲がる。
 形容表現ではありません。
 ――もちろん、物理的にでっす!

「あいたたたたたたた!?」
「お別れは寂しいものでっすが、思い出全部を寂しいに染めちゃうのはもったいないのでっす!」
 むにむにとジュノーの小さな頬があっちへいったりこっちへいったり。決して乱暴な仕草ではない。優しい仕草で、めいっぱい痛く。目を白黒させた小さなアリスの顔からは、暗さなど吹き飛んでいた。

「ね、ジュノーちゃん。もしもまたしゃがみこんじゃいそうになったら思い出して?」
 そうそう、と頷き言葉を続ける。
「皆で一緒に踊って歌った舞台の事。そして──」
 池の水が七色の輝きを纏って、さながら噴水かのように次々空に打ち上げられる。吹き上げられた先で重力にひかれて落ちる様は、まるで花火のように美しく煌めく。言うまでもなくそれはユーベルコードのなせる奇跡。
             L’Arc-en-Ciel
 ニュイ・リュミエールの【平和を運ぶ虹】の輝きは、静謐を取り戻した正門前の空間をきらきらと照らす。
「──怖いだけじゃ無かったこの世界の事をっ♪」
 信頼に基づく、確信をもって聖者の少女は言い切る。だって、怖いだけの世界だったら、こんなに寂しそうな顔をするはずがないのだから。
「たとえ離れても、ジュノーちゃんの思い出の中でにゅい達はいつまでも一緒なの!」
「……うん、うん」

「あややややー! ニュイさんが良いこと言いすぎて、藍ちゃんくんとヴィサラさんが言えること、もう残ってないんじゃないでっすかー!? 困っちゃったなー! ね、ヴィサラさん!」
「……ええっ!? わ、私に振る!? ここで!?」
 おしゃべりな烏が巻き起こした風は、湿っぽさを僅かたりとも残さない。
 風に煽られたゴルゴンの少女は、おずおずと前にでてくる。
「言いたいことは、さっき言っちゃったんだけど。そうね、もう会えないかもしれないし――また会えるかもしれない。また会えたらいいなって思うよ」
「……ほんとう?」
「本当。だって私達……友達でしょう?」
「うん。私が元の世界に戻っても、友達。約束する」

「もシ、将来困ったラ、異形の花畑ヲ尋ね給エ。何でモ相談ニ乗るヨ」
「異形の花畑……? どうやって、行けばいいの?」
「そうだネ。尋ねれば、訪ねられル―― 君が望めバ、自ずと道が開かれるサ」
「……よく、わからないけど。わかったよ。ありがとう、不思議な外見のナハトさん」
「婉曲ニ、不審とか怖いトカ言っテないかネ? ……よろしい。……その時ハ、もう少シ、親しい外見デ君ト再会しよウ」
 私も君と約束ダ、と。ナハト・ダァトは顔の見えないまま頷いた。

「……リダンおねーちゃんはいいの?」
「アタシはいいのよ。キマイラってのはお気楽者なの。こういう湿っぽいのはキャラじゃないわ。それにほら。言いたいことはさっき言っちゃったからね」
 ヴィーさんも同じこと言って結局言わされてたけどね――と心の中で一人続ける。
「……ジュノーちゃんは、そう思ってないみたいなの」
「……あら?」
「ええと、その。ありがとうございました! それから、ええと……ええと……」
「しょうがない子ね。……ほら、良い女はここぞという時は笑顔になるのよ。湿っぽい別れなんて、誰も得しないんだから。」
「……うん、うん。わかった。笑顔で、笑顔に――なります。ありがとう!」
「ん。……ほら、最後の挨拶したくて、藍ちゃんくんがうずうずしてるわ。――行ってらっしゃい」
 マニキュアの塗られた青い指がちょいちょいと示した先には、抜き足差し足で忍び寄っていた藍の姿。だるまさんが転んだよろしく、ぴたりと静止したその様子に、くすくすとアリスが笑いだす。
「……ほんとだ。えっと、行ってきます!」
「――な、なぜバレたんでっすか!? 足音立ててなかったはずなのに!」
 アリスが駆け出すのと、抗議の声があがるのは同時だった。
 敢えて抗議の声を素知らぬ顔で無視して、リダンはただ見守った。
 大人びた緑の瞳が、優し気な弧を描いていた。

「へへへー。お嬢さんはどうでっしたかー! 藍ちゃんくんはでっすねー、一緒に歌ったり踊ったりできて楽しかったでっすよー!」
 すすすとスリ足で歩み寄り、顔を覗き込んでにかりと笑う。ハイテンションなその表情に虚飾は一切見られない。見せているものこそが全てであると、高らかに主張するかのように。
「私も、楽しかった。楽しかったよ。だんだんに私が誰だったか思い出してきた――だから、思うの。本当に、楽しくて、夢みたいな時間だった」
 ぽつぽつと、絞り出すように答える。その瞳に暗さはもはや見られない。
「その想いも連れていってらっしゃいなのでっす、お家にただいまを言うために!」
 心配は要らないとわかって、したり顔で頷く。
「うん、うん。『ただいまを言うために』――この想い――思い出を、大事にするね」
「その意気でっす! それにいつかそれに藍ちゃんくんたちはいつかジュノーさんの世界にも遊びに行くかもで……その時はアヴェニュー再結成でっす!」
「あっ――猟兵は、世界を旅するんだものね。私が行くだけじゃなくて、来てくれることもあるかもしれない。そしたら、再結成……できるかもしれない」
「希望が出てきたっすね? それじゃあ、そろそろ出発の時間でっす!」
 とんと背を押す。アリスの目の前に、ふたたび扉がやってくる。
 おずおずと手を伸ばす。

「ジュノーちゃんの道の先に――救いの光あらん事を!」
 扉が開く。ジュノーと呼ばれた小柄な少女の体が、見慣れぬ光の中に包まれた。

 アリスラビリンスは、不思議な国それぞれが独立した小さな世界として存在する、複数の『小さな世界』を孕む『複合世界』である。一方で、『アサイラム』は未だ謎に包まれている。アリスたちは異世界人とされるが、『アサイラム』が厳密に異世界であるかどうかすら、判然としていない。『アサイラム』の内容が言葉通りのものであるのか、あるいはそうでないのかすら。今は、その正体が既存の世界の中にあるのではという推論と調査も行われている。彼女の帰るべき場所の真相は、杳として知れない。

 少なくとも言えるのは、自身の境遇を知り、取り戻した後であっても、ジュノーは語らなかったということ。理由は推察するしかないが――おそらく、その必要がなかったことが一番大きいだろう。

 それ以上に、何か必要だろうか。
 だってもう、彼女の心の中には花畑が広がっていたのだから。
 そこには確かにあった。きらめく踊りが、歌が、何もかもが。
 恐れを潜り抜ける中で、猟兵たちと共に歩いた道のり。

 ならばこそ。扉を開けた先を、彼女は恐れない。

      avenue
 彼女は 人 生 をここから歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月20日


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#アリスラビリンス


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

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👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト