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双花の塔~小鳥の歌唱会~

#ダークセイヴァー


●薔薇の塔のお嬢様
 カチャリ。
 金属特有の軽い音をたて、カトラリーが置かれる。口元をナプキンで拭った少女が小さく溜め息を溢し、未だに皿の上に残る『料理』をナイフの先でつついた。
「やっぱりダメね。時間がたつと味が落ちてしまうわ。やっぱり『小鳥』も新鮮じゃないと」
 肩頬に手を当てた少女は皿の上から視線を外し、室内に美しく咲く薔薇へと視線を移した。赤々と咲く薔薇は血よりも赤く、今日も美しい。
「ねえ、『小鳥』の在庫は?」
 愛おしげに薔薇を見つめながら、少女が口にする。
「あと僅かでございます、お嬢様。お嬢様が直接口にされない『お食事』は潤沢にございます」
「そう。でもやはりわたくしは『小鳥』が良いわ」
 即座に背後から答えが返るが少女は当然のものと受け取って、椅子の上で小さく足を揺らす。
 室内に美しく咲く、薔薇。その薔薇達へは少女が口にしなかった部分を全て与えている。美食家の少女が口にする部分は限られているが、だからこそ希少価値も高いと少女を悦ばせる。
「あの子もそろそろ新鮮な食事を欲しがる頃だと思うし、盛大に何かしたいところだわ。でも最近は質も落ちているし……」
 はあ、と悲しげにため息を零す少女。
 背後に控えた下僕が、労しげに少女を見遣る――が。
「そうだわ、『歌唱会』を開催しましょう。ええ、それがいいわ」
 明るい声と共に、お嬢様と呼ばれた少女が手を叩く。それに合わせて下僕が「素晴らしいお考えです」と褒め讃え、お嬢様への賛辞を忘れない。
「あの子にも知らせておいて。わたくしだけ楽しんだら拗ねてしまうかもしれないもの」
 ああ、歌唱会が楽しみ。早く歌わせたいわ。
 再びカトラリーへ手を伸ばして食事を再開した少女が、唇を濡らして微笑む。
 ぬらぬらと、血の赤で濡らして。


   ~歌唱会開催のお知らせ!~

 天上の美声を持つ小鳥
     夜の静寂の小夜啼鳥
        異国情緒溢れる神秘的な小鳥

 華やかで美しい鳥の様な美声をお持ちの方、歌唱会へ参加いたしませんか?
 主催者が一等美しいと選んだ方には、褒賞が与えられます。
 美しい鳥の様に着飾った皆さんのご参加をお待ちしております!


●猫の語り
「今回はね、ちょっと特殊なんだ」
 よいしょとチェストの上に登りながら、小柄な猫の姿のグリモア猟兵――グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)が口を開いた。
 今回の舞台は、ダークセイヴァー。そこのとある領地の館に二体のオブリビオンが住んでいるという。
「館と言うよりは規模が大きくて……ほぼお城、かな。左右に塔があって一体ずつ住んでいるんだ。同じ館内のことだから、片方だけを倒しに行っては片方が逃げてしまう」
 両手の小さな人差し指を立て、左右に振ってからバッテンを作る。
 オブリビオンたちは共闘や共存等という考えはないらしく、片方の塔が猟兵たちの襲撃を受けている隙に逃げてしまう。どうしたものかと考えていたグィーだったが、ちょうど似た予知を見たというグリモア猟兵が居た為、共同作戦を行うこととなった。
「僕が見たのは、右の塔に住むオブリビオン。君たちにはこちらの相手をしてもらうよ」
 黒い髪に赤い目の、大層可愛らしい少女のオブリビオンだ。
 右側の塔はいたるところに薔薇が咲いており、どうやらその薔薇は塔の最上階から蔓を伸ばしているらしい。
「彼女は、大層『美食家』なのだそうだよ。決まったものしか口にしないんだって。君たちは――『同物同治』って知っているかい? 人ならば、よくしたい場所を食べればそこがよくなるっていうやつなんだ。肝臓を患っていたら動物のレバーを、ってね」
 しかし彼等はオブリビオン。ただ自身がよりよくなりたいが為に、その部位を食べる。
 そして、少女オブリビオンが求めているのは、美しい声が出せる喉。声は美しければ美しい程良い。
 美しい声への執着は凄まじく、美しい声の歌姫の噂を聞いては下僕に浚いにいかせたりしていたようだ。彼等の領地という名の箱庭に住まう領民の中から、美しい声の持ち主だけを選んでいた。
 グィーは指先で何かを摘んで引き抜く動作をしてからパッと手を広げて肩を竦め、話を続ける。
「けれど美しい声の人ってそんなに沢山居るわけではないんだ。領地の中の美しい声の人は粗方食べ尽くしてしまったのかも知れないね」
 そこで彼女は一計を講じた。領地内に居ないのなら、呼び寄せてしまえばいい。
「美しい声の人を集めるために『歌唱会』開催のお触れが出ているよ。ああ、あとそれから、声が美しい人の事を彼女は『小鳥さん』と呼んでいるらしい」
 歌唱会への参加方法は、三通りある。
 そのいち、普通のルート。小鳥さんは着飾って受付を済ませる。すると、こちらへと案内された先でガツンと眠らされ、気付けば会場へご招待。
 そのに、裏ルート。『調律師さん』が小鳥さんを売り込む。所謂人身売買だ。その際、調律師さんは自分じゃないと小鳥さんを鳴かせられないことを実演してアピールしなくては一緒に行くことはできないだろう。オブリビオンは小鳥さんさえ居れば問題無いのだから。双方の演技力が必要かも知れない。
 そのさん、闇ルート。着飾る財力が無いけれど歌唱会へ憧れている小鳥さんを演じ、道端で歌唱力を披露すれば……きっと気付けば会場へ招待されていることだろう。
 グィーは指を一本ずつ立てて方法を伝えると、どうだろうと君たちを見た。
「お触れを出している近隣の街には黒い鴉の面を付けた人たちがウロウロしていると思う。普通に受付を済ませたい人や裏ルートで行きたい人はその人に声をかけてね。……ちょっと手荒かもしれないけど、案内してもらえるから」
 条件さえ揃っていれば、潜入は簡単だ。ちょっと眠っている間に潜入は終えている。
 けれど、と。言葉を区切ってグィーが口を開く。
「二体のオブリビオンは、お披露目会をする予定のようだよ。こちらは歌唱会、あちらは舞踏会……だったかな」
 手帳をペラリと捲って確認し、あってた、と頷いて。
「きっと普通の歌唱会では無いと思うから、気をつけて」
 少女オブリビオンは『歌わせたい』と言っていた。何かしらの彼女が好む用意がされていることだろう。
 そうしてお披露目会を終え、オブリビオンたちは満足すると塔へと戻っていく。
 襲撃はその後だ。
「一度牢に入れられるけれど、手引きしてくれる人は用意してあるよ。牢から抜け出し、一気にオブリビオンを倒して欲しい」
 お願いするね。
 グィーの掌の上に手紙が踊る。封が開いてパッと飛び出た便箋に、何事か文字を書き込む仕草をすれば道は開かれる。
 行き先はダークセイヴァー。
 小鳥たちが囀る、夢の舞台。


壱花
 お目に留めてくださってありがとうございます、壱花と申します。
 皆様の物語を彩れるよう頑張らせて頂きます。
 マスターページに受付や締切、お知らせ等が書かれている事があります。章が変わるごとに参照頂けますと、幸いです。

◇◆◇
 このシナリオは里音MS様とのコラボシナリオとなります。
 概要はOP通りとなります。
 同時に行われる作戦のため、双方に参加することは【不可能】です。
 プレイング受付開始は合わせて行いますので、断章と告知をお待ちください。
◇◆◇

 第1章:日常『ドレスアップ・ビフォー・アフター』
 お嬢様が『小鳥さん』を求めて喉自慢さんを集めるため、歌唱会開催のお触れが出ています。
 すてきな『声』をお持ちの方は、お洒落をして奮ってご参加ください。
 着飾って普通に受付へ行って参加を済ませても良し、着飾れなくとも道端で歌声を披露すれば『親切な』人さらいさんがあなたをお城へすてきにご招待してくれるはずです。
 また、『調律師さん』とのペア参加も可能です。歌は歌えないけれど「この小鳥を存分に鳴かせられるのは我のみ!」という調律師さんは小鳥さんと一緒にどうぞ。
 【第1章のプレイング受付は、6/11(火)朝8:31~でお願いします】

 第2章:集団戦
 さぁさ、みなさま。歌唱会の始まりです!
 可愛らしい小鳥さんの皆様は囀ってくださいなとご案内。
 お嬢様の可愛いペットの手で、悲鳴を聞かせて頂きます。
 調律師さんは小鳥さんを鳴かせなくてはいけません。
 判定は特殊なものになります。断章にて詳細が出ますので、お待ち下さい。

 第3章:ボス戦
 ボスのお嬢様との戦闘になります。
 大抵の場合、負傷した状態からの戦闘となります。

 どの章からでも、気軽にご参加いただけるとうれしいです。
 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『ドレスアップ・ビフォー・アフター』

POW   :    肉体や強靭な精神を引き立てて美しくなってみる

SPD   :    凝った装飾や軽やかな仕草で美しくなってみる

WIZ   :    ミステリアスさや神秘さを引き立てて美しくなってみる

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グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と。
こう言う愚かな勘違いをした人間は稀にいたがこれはヴァンパイア、か。
これは排除するしかあるまい。
『調律師』しっかり努めさせてもらう。
だがマクベス。無茶はするなよ。

マクベスの武器は俺が預かっておこう。
俺の方が疑われにくいだろうしな。

『調律師』としてのアピール。
マクベスの白に対して黒の衣装で対照的に。
「すまないが、これを一番うまく鳴かせられるのは俺の炎だけでね」
【属性攻撃】炎でマクベスの肌を燃やす。
多少の加減はするが疑われない程度に苛烈に。
あぁ、本当にいい声でなくな。

正直他のものにマクベスを傷つけられるのは癪だが。耐えろよマクベス。俺以外に鳴かされるのは許さないからな。


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
歌唱会ね…胡散臭いことこの上ねぇな
とりあえず潜入するしかねぇけど
てわけでグラナトさんは『調律師』役頼むぜ

少し露出多めの赤が映えそうな白系の服で着飾って
あ、揃いのピアスは今回は外しておくぜ
あと武器はグラナトさんに預けとく

最初は声は一切出さず
反抗的な様子醸し出していくぜ
んで、グラナトさんの実演時には
一応【激痛耐性】で耐えるけど本気でやってもらう
じゃないとバレそうだしな
それにグラナトさんにしかオレを鳴かせられないのは本当だし
もしグラナトさん以外が鳴せようとしたら
【激痛耐性】で耐えて声は出さねぇ

アドリブ歓迎



●反抗的な小鳥さんと炎の調律師さん
(――こう言う愚かな勘違いをした人間は稀にいたが)
 陰気な街に紛れるような黒い衣装を纏ったグラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)は、街の中へと視線を向けた。グラナトとその恋人たるマクベス・メインクーン(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)が訪れた其処は、ダークセイヴァー”らしい”陰気なところだった。どこもかしこも薄暗く、道端では飢えた人々が無気力に座り込んだりしている。
 グラナトから一歩後方を、マクベスは歩く。露出の多い白い衣装に、首には首輪。そして首輪から伸びた鎖をグラナトが握っていた。関係性を怪しまれないよう揃いのピアスは外し、武器もグラナトへと預け、そこにあるのは身ひとつ。歩く度に音を立てる鎖を不満いっぱいの顔で見つめて立ち止まれば、ぐいっと鎖が引かれて歩くことを強要された。
 黒い鴉面を付けた男を見つけると、グラナトはそちらへ足を向けて声を掛ける。
「『小鳥』を求めているって言うのは、あんたらか?」
 手にした鎖をジャラリと音を立てながらグラナトが引けば、鴉面の男の前へ有無を言わさず引っ張り出されるマクベス。
「っ」
 小さく息を呑む。けれど悲鳴も声も、ひとつも上げはしない。ただ静かに敵意を篭めた瞳で、マクベスは鴉面を睨む。
「空を映した瞳が綺麗な小鳥のようだが、囀る声は持っているのか? 見目が良くとも声がつまらなくては意味がないぞ。……それに、躾が出来ていないのではないか? 酷く反抗的に見える」
 それでは買えないぞと、値踏みするような視線がマクベスへと注がれて。
「ああ、すまないな。これは俺の趣味でね。心を折ってしまうのは容易いが、それではつまらないだろう?」
 ニヤリと口元を歪めれば、「ああ」と同意を示す声を漏らす鴉面。
 後は声を確認するだけだと鴉面が腰に下げた鞭へと手を伸ばそうとする。グラナトには、それを遮ることは容易であっただろう。しかしそうはせず、振り下ろされる鞭をただ見守る。
(耐えろよマクベス。俺以外に鳴かされるのは許さないからな)
 自分以外に彼が傷つけられるなど、正直癪だ。が、実演して示した方が効果があるだろう。
「っ!」
 グッと歯を食いしばり、耐えるマクベス。白い衣装は裂け、肌に赤い鞭の跡がいくつもついても、その口から悲鳴はひとつも溢れはしない。腕で頭を庇いはするが、その腕の下からは反抗的な視線が向けられている。
「なんだ、鳴かないじゃないか」
「すまないが、これを一番うまく鳴かせられるのは俺の炎だけでね」
「ほう……」
「どれ。お見せしよう」
 グラナトが掌の上に炎を浮かべ、意地の悪い笑みを口端に乗せてマクベスへと向き直る。
「ひっ」
 それだけでマクベスの喉は小さく引きつった声が溢れた。先程までの反抗的な態度はどこへいったのか。恐怖に揺れる視線は炎から離せず、今にも崩れ落ちそうな程に足を竦ませていた。
「いや、だ……それ、は……ッ」
 ぐっと鎖を引っ張られれば、足に力が入っていない身体は安易に引き寄せられ――そして。
 グラナトの炎が、マクベスの肌へと押し付けられる。
 マクベスを焼くのは、多少の手加減はあるものの苛烈なグラナトの炎。
 無理はするなと言われていたマクベス。――けれど。
(――グラナトさんが俺に必要だと思わせねぇと)
 マクベスは耐えるように眉を潜め、歯を食いしばる。恐怖に心は支配されても楽しませる声等は出さぬと、矜持だけはまだこの身に宿っているのだと鴉面へと見せつけるように。
 じゅうと肌を焼く熱。
 焦げた人皮の厭な臭い。
 立ち上る煙。
「ッ……ぅ、ぅぁ……っ」
 次第に喉から漏れる悲鳴は、抑えられなくなる。
 声変わり前の喉が奏でる悲鳴。
 細く伸びやかに、耳朶を打つ。
「あぁ、本当にいい声で鳴くな」
「よろしい。実に素晴らしい小鳥だ」
 合格だと鴉面の男が告げるとグラナトは炎を消し、手にした鎖を緩めてマクベスを開放する。膝を付きそうになるマクベスを片腕で支えながら、放り投げられた金貨入の小袋を受け取った。
「確かに」
 軽い音を立てて掌に収まった小袋を懐へ仕舞おうと――した。
 しかし、マクベスとグラナトの意識はそこで途切れたのだった。


 小鳥さんが一羽に、調律師さんが一人。
 小鳥さんは少し反抗的で、わたくし好みではないのかしら?
 けれど大丈夫。炎を操る調教師さんがいるもの。
 きっと素敵に鳴かせてくれるはず。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス
アドリブ&共演歓迎


潜入自体は難しくないでしょうけれど
なるべく街の人を巻き込まないようにしたいです

美しい歌声が聞けそうで且つ人浚いが目を付けそうな所を
<動物と話す、コミュ力、世界知識で情報収集>し向かう

【供宴】と【覚聖】による賛美歌を
<祈りと優しさで歌唱し存在感>を出して
人浚いが猟兵以外に興味を持てないぐらい<誘惑しおびき寄せ>る

それでも街の人まで浚われそうなら格闘で少し抵抗し
<コミュ力、救助活動、勇気、覚悟で交渉しかばう>

お互いに無傷で私を連れて行きたいなら
他の人は連れて行かず見逃して下さい

要求が通れば大人しく浚われる


人浚いなどによって
囚われの天使をイメージしてドレスアップされた姿の描写を希望


ユキ・コシイ
歌唱会へのお誘いとあらば…サウンドソルジャーとして、まず参加しない手はない…よね
…それが、人を食い物にするという、許し難い所業を阻止するものであるならば…尚更。

エントリー方法は…うーん、直接売り込みに行くのもやぶさかではないけれども
【闇ルート】で。
だって、街角で歌えば…沢山の人が聞いてくれるでしょう?
オブリビオンのために歌うよりも…ダークセイヴァーの人々に、少なからず安らぎと娯楽を届けられる
街角コンサートの方が…性に合ってるよ。

…と、いう訳で。しがない旅の歌い手ですが―と名乗りつつ
領内の道端でも広場でも、皆様に癒やしを届ける、取っておきのバラードを…お届けしましょう。

♢♡



●心優しい癒やしの小鳥たち
 ダークセイヴァーというこの世界は、どこもかしこも暗く陰気で。
 道の端には飢えた町人が座り込む姿を視界に入れては、聖者たるシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は愁眉を開けずにいた。幾ら救いをと祈っても、神々の救いは届かないのだろうか――。完全な救いを与えることを人の身には不可能かもしれない。けれど人々の心を癒やし、軽くすることは可能なはず。
「……そう。あちらに広場があるのですね」
 チチチと愛らしい鳴き声を発して指先に止まった鳥を「ありがとう」と空へ返し、シホは動物に教えてもらった広場へと足を向ける。
 ――そのシホの後ろ。暗がりから黒い鴉面の嘴が覗き、男の指示で数人の人攫いらしき男達が跡を追う。町で見かけぬその姿は充分と目立っていたため、早速目を付けられたようだ。

 普通に受付を済ませて、自分を直接売り込みに行くのもやぶさかではない。けれどユキ・コシイ(失われた時代の歌い手・f00919)は街角で歌うことを選んだ。
 街角で歌えば、町の人々の耳に入る。娯楽の少ないこの世界で、歌は安らぎで娯楽だから。オブリビオンの為に歌うよりも、人々の心を少しでも癒やすために歌った方がユキも町の人々も嬉しいだろう。人を食い物にするという恐ろしい所業を成すオブリビオンが居るのならば尚の事、人々の心へ癒やしのバラードを届けなくては。
 そうして向かった広場。そこには先客が居た。
 広場へと足を向けている最中から聞こえていた、歌。
 優しさと祈りに満ち満ちた、麗しい賛美歌。
 心を隅々まで洗い流してくれそうな、爽やかさと清らかさで満ちた声。
 その歌声の持ち主、シホが広場で歌っている。シホは人攫いが町の人達に危害を加えるのではないかと懸念していたが、その懸念は不要のものであった。お嬢様が求める小鳥以外は不要なのだ。人攫いが町の人達へ危害を加えるとしたら猟兵が暴れた時だけだ。町人を盾とし脅すだろうが、最初から従順な素振りを見せていれば悪いようにはされない。何せお嬢様のお望みの、可愛い小鳥さん、なのだから。
 けれどもそうした懸念は、シホの慈しみ深い心からくるものだろう。そしてその優しい歌に導かれるように、小鳥がもう一羽、広場に訪れた。
「しがない旅の歌い手ですが――私も一緒に歌ってもいいですか?」
 瞳を閉じて歌うシホへ近寄ると、ユキは歌の邪魔にならないタイミングを見計らってそう声を掛ける。
 二人の猟兵たちの視線が、交差した。ひとつふたつ瞬く、その短い時間。たったそれだけの時間で、瞬時に二人は互いの目的が一緒であることを理解する。
 シホが断る理由もなく、歌いながら小さな頷きを返せばユキが隣へと並び、シホの歌声に合わせて口を開く。
 高く伸びて交ざる二人の歌声。
 聞くものの足を止め、暖かなもので胸を満たす二人のユニゾン。
 二人の歌う曲も、声も、違うのに。二人を中心として、言葉に出来ない何かが響く。
 次第に出来た人の輪の向こう。黒い影が蠢いて――。

 ガタゴト揺れる、馬車が行く。
 お嬢様の居城へと向かう馬車の中、二羽の小鳥が眠っている。
 お嬢様の前に姿を見せるのだ。人攫いたちがドレスを纏わせ放り込んだ、二羽の小鳥。
 一羽は、白い清楚なワンピースドレスに、黒茨。純白の翼にも絡むそれは囚われの天使を演出して、銀髪の少女を映えさすもの。
 残る一羽には薔薇スカートのドレス。長い前髪の下の整った顔に気付かれたのだろう。髪も綺麗にセットして。
 二人が目覚める頃には歌唱会の舞台へ着くことだろう。


 小鳥さんが二羽。
 天使のような銀の小鳥さんと、珍かな淡い紫を持つ旅する小鳥さん。
 民草に向ける、優しい心と声をお持ちみたい?
 けれど残念。そんなものは不要なの。わたくしの為だけに囀りなさい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

七那原・エクル
調律師として七那原・望とペアで参加するよー

衣装は黒を基調とした礼服を着ていくよ。華美過ぎない仮面も装着するよー。貴族の嗜みとかよくわかたないけれどね。形から入るの大事。

ガジェットショータイムで召喚した遠隔操作ができる電気ショック機能付きの鎖付き首輪を「小鳥」役の首に嵌めるよー。
このガジェットは電気ショックの調節がかなーり難しいからボクじゃないと扱えないよ。


首輪から伸びた鎖を引いてペットのように連れてあるきます。


オブリビオンを討つためとはいえ、自分にとって大切な人物にこんな仕打ちをするのに少なからず嫌悪感を抱いています


七那原・望
小鳥役としてえくるん(f07720)とペアで参加です。

衣装はボロボロの布のワンピースと封印の目隠し。後ろ手で拘束されておきます。

あっぅう……っあっ……?!

えくるんの優しさで首輪の電気ショックはかなり弱めですけど、見た目には凄まじい電流が流れていると思わせるため、かなり大げさ悲鳴を上げ、身悶えします。
弱すぎず、強すぎず、辛うじて歌うのに支障が出ないギリギリの電流と思わせるのが目標です。

所々で萎縮した演技をしながら声を発することでわたし自身の売り込みも忘れずにしておかないとですね。


誘ったのはわたしですし、事前に話し合いもしてるけど、えくるんはそれでもきっと……
そう思うと、罪悪感が湧いてきます。



●幼い小鳥と幼い調律師
 しゃらん。細い鎖が、軽い音を奏でる。町の人々は、その音へと自然と視線を向けて――目を、逸らす。
 黒い礼装に身を包み、口元だけが覗く仮面を身に着けた七那原・エクル(ダブルキャスト・f07720)が、まだ幼い少女をペットのように連れ歩いていた。仮面から覗く口元は幼く、彼自身もまた幼いのだろうと知れる。
 エクルの後ろに付き従うのは、後手に拘束され襤褸を纏った少女。元は美しいワンピースだったのかもしれない。けれどその姿は既に無く、奴隷と思われる出で立ちだ。顔には目隠し、首には首輪。銀の髪を揺らして歩くその姿に、色はなく。ただ、頭部に咲いたアネモネだけが赤を纏っていた。
 首輪から繋がる鎖を引いてエクルは歩き、黒い鴉面の男を見つけると声を掛ける。
「可憐な声で鳴く小鳥をお探しと聞きまして」
 子供と侮られぬよう、余所行きな声と言葉遣いに気をつける。
 幼い声だなと、鴉面の男が訝しむが。
「ほう。まだ幼い小鳥か。銀色の髪も美しいな。主はそういったものも喜ばれる」
 小鳥の姿に色好い声を上げて。
「……あ、あの……」
「ほら、ちゃんとして。こういう時はどう言うの」
 首輪についた鎖をぐいっと引っ張れば、望は簡単につま先立ちになってしまう。首輪を両手で掴んで、苦しそうに顔を歪める。
「……あっ、ありがとう、ござい、ます」
「続きは?」
「は、はい……。おほめいただき、光栄、です……」
「よく躾が行き届いているようだな」
 従順な小鳥は主の命に応じて容易く鳴いてくれることだろう。気を良くした様子で、鴉面は鎖の持ち手を引き継ごうとする。
「まだ声を披露していませんよ」
 さあ、歌って。ボクの小鳥。
 エクルに促され、小さな声で望が歌い始める。
 良い声だと鴉面の男が頷くのを待ってから、二人の視線が一度交わった。それは、決意の眼差し。望の顔には目隠しがされているが、思いは通じ合っている。
 エクルは首輪のし掛けを起動させた。
「あっぅう……っあっ……?!」
 びくん。大きく身体が跳ね、喉から悲鳴が溢れる。それでも望は、細く歌い続ける。歌に悲鳴を織り交ぜて。
 実際には然程電流は走っておらず、大げさな程の演技を交えて居るのだが、小さな身体を打ち震わせながらも歌うその様は健気な小鳥を演出させた。
「……どう、でしょうか」
 エクルにとって望は大切な人だ。望が望んだ事とは言え、大切な人にこんな仕打ちをするなんて。エクルは胸に浮かぶ罪悪感を押し殺し、鴉面の男の反応を見る。
 望もまた、エクルがそう思うのを理解しており、胸に罪悪感を抱きながらも声を震わせ歌った。素晴らしいと拍手が鳴る、その時まで。
「いい声だ。悲鳴と歌が混ざるのもまた良い。主がお喜びになることだろう。電気の仕掛けはその首輪か? 歌うのに支障がない電気が流れるのだな」
「ええ。この首輪はガジェットなんです。電流の調節がかなーり難しいからボクじゃないと扱えませんよ」
「では、外してしまえば問題ないな?」
「おっと。それはよしてください。この子が逃げられように仕掛けがついてるんです。無理に外すとこの子が死んでしまいますよ」
「む、そうか。ならばお前に任せたほうが良さそうだな」
 何せ小鳥は貴重ゆえ。主たるお嬢様のために、たくさん集められた方が良い。
 ならばこちらへ。
 そう案内されて二人は薄暗い路地へと向かう。
 そこで、二人の意識は途絶えたのだった――。


 小鳥さんが一羽に、調律師さんが一人。
 まだまだ幼い小鳥さん。きっと声はソプラノだわ。
 調律師さんは電気の道具の扱いが上手なのかしら。悲鳴と歌を織り交ぜられるなんて素敵。
 ああ、早くわたくしの為に鳴いてほしいわ。
 着せ替え人形のように、可愛いお洋服に着替えさせておいてね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨乃森・依音
…小鳥、ね
己の天使の羽をぱたつかせて溜息
まあいい
戦闘では戦力外もいいとこだし
俺の歌が役に立つなら行くまでだ

俺はこの世界での着飾り方なんてわからねぇし
道端で歌を披露することにする
奇異の目で見られても構わねぇ
どん底には慣れてる
見下されることにも
それでも、俺は歌い続けてきた
嘲笑され唾を吐きかけられても
暗い歌ばっかり歌いやがってと後ろ指刺されても
それでも、
俺は俺の歌を歌う

この暗い世界で見出す希望を
雨雲の切れ間から差す一筋の光を

見せてやるよ
だから聴いてけ
これが俺の存在証明――

紡ぐ歌声はどこまでも伸びやかな
性別を感じさせないハイトーンボイス
神に捧げる祈りのように切々と歌ってやる

…まあ俺の神様は邪神だけどな



●雨晴らす小鳥
(……小鳥、ね)
 腰から生えた小さな純白の羽をぱたりと動かして、雨乃森・依音(紫雨・f00642)は小さく溜息を吐いた。小鳥のような小さな羽根を持つ依音だが、頭には白い猫の耳。小鳥や、ましてや天使なんかじゃない。いつだって雨の中、生命の歌を声の限りに鳴く、子猫だ。
 戦闘では戦力外もいいところだ。そう思う依音ではあるが、依音には歌がある。それが役に立つ場所があるのなら行くまでだと、薄暗い路地を征く。
 夜と闇に覆われたこの世界は、いつだって薄暗い。空を覆った雨雲から、ポツリポツリと雨滴が垂れるが、傘を差すほどではない。
 ギターは壊されるといけないからと置いて来たが、服装は普段どおり。ポケットに手を入れて歩き、狭い路地から少し広い道へと出る。余所者の姿に気付いた者たちの視線が一度突き刺さるが、依音が静かに見渡すと即座に逸らされた。
(ま、ここでいいか)
 何の変哲も無い、通り。そこで歌を披露する。
 突然口を開いて歌い出した依音へと、再度視線が集まった。
 こんなところで何をと言いたげな、奇異の視線。胡乱げな視線。
 どん底にも、見下されることにも、依音は慣れている。何だその暗い歌はと嘲笑され唾を吐きかけられても、暗い歌ばかりを歌う根暗なやつと後ろ指を刺されても、依音は歌うことをやめてこなかった。
 依音は依音の、依音だけが歌える歌を、ただ歌う。
 こんな気持ち、真似できるものなら真似してみろ。
 お前たちにこの歌が歌えるのか?
 見せてやるよ。
 だから聴いてけ。
 これが俺の存在証明――。

 ダークセイヴァーの陰気な町並みに溶け込むように立った少年が、喉を震わせる。
 伸びやかなハイトーンボイスは性別を感じさせず、するりと耳へ、心へ、隙間を埋めるように入り込む。
 この世界に、晴れ間は存在しない。けれど、希望という光で照らすことは出来るから。こんな世界でも希望があるのだと思わせてくれる歌があることを、町人達の心へ響かせて。
 神に捧げる祈りのような歌が途切れる頃、そこには奇異の目は存在しなかった。
 みな、どん底に居るような人々だ。そうした人たちの心に依音の歌は響き、涙する者まで居た。
 町人達が近寄ってくる。
 口々に歌を褒めて。
 もう一度聞かせて欲しいと願って。
「……いい歌だった」
 そして、その声を最後に依音の意識は闇に飲まれる。
 雨は、いつの間にか止んでいた――。


 小鳥さんが一羽。
 世界の底をご存知なのかしら。
 更に深淵を覗いたことはあるのかしら。
 暗闇の底でもピィと鳴いてみせて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
♢♡
歌唱会、ね。
オブビリオンが主催する以上、名の通りのものではないのでしょう。
彼らの愉悦のためだけに、どれだけの命が犠牲になったのか…。
彼女達の無念に報いる為にも尽力させて頂きます。

侵入は闇ルートを。
『歌唱』能力には自信がありますので、みすぼらしいながらも声だけは張って『存在感』をアピール。
使者の方が近づいてきたら歌だけでなく言葉でもお願いしましょう。
「歌唱会に行かせてください」
…なんて小娘、とても都合のいい餌ですよね?
抵抗は致しません。
どうぞ、塔まで連れていってくださいませ。



●異国情緒の小鳥さん
(彼らの愉悦のためだけに、どれだけの命が犠牲になったのか……)
 過去の『小鳥さん』たちの事を思えば、様々な想いが胸に浮かぶ。彼等の無念に報いる為にも尽力せねばと想いを歌に乗せ、穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)は大きな通りの傍らで声も高らかに歌っていた。
 服装は普段の服装と違い、丈の足りなさが目立つ継ぎ接ぎだらけの薄い着物。肌も所々汚してみすぼらしさを強くし、身なりを整える金銭はなく道端で歌を披露して日銭を稼ぐ旅の娘を演出した。
 この世界からしたら異国情緒溢れるであろう歌をひとつふたつ披露した頃、一人の男が神楽耶へ近づいてくる。鴉面も付けていない、何処にでも居そうな町人だ。
 一見何の変哲もない町人……と見せかけて、足運びやその振る舞いが一般のそれとは違う事に気付いた神楽耶は、真っ直ぐにその男を見上げて歌を止める。
「不思議な歌だね、お嬢さん」
「ありがとうございます。――わたくし、歌唱会に行きたいのですが、その……」
 着飾る金銭がないのだと言いたげに、胸元で手を握り斜めに視線を落とす。それだけで察したように男は「ああ」と頷いて。
「服装はこちらで用意する、と言ったらどうする?」
「歌唱会に行かせていただけるのですか?」
「勿論だとも。君のような歌姫の卵はもっと綺羅びやかな場所で歌うべきだ」
 何処か胡散臭い笑顔を浮かべた男が頷いて、神楽耶も笑顔で応じる。
(――このままついていけば、難なく塔へと連れて行ってくれそうですね)
 元より無駄な抵抗をするつもりは無かったが、
「では、まずは服装だ。君に合いそうなものを揃えに行こう」
「それでしたら……ええ。是非。連れて行ってくださいませ」
 男に促され、神楽耶は歩き出す。
 まずは服装。そう言って案内された場所では、値が張りそうな着物が沢山あり神楽耶自ら選ぶこととなる。どんなルートで入手したのか、きっとまともな入手手段ではないのだろう。赤に黒に白に黄色。地の色が様々な着物達。浴衣から小紋。振り袖に打掛に至るまで、ありとあらゆる美しい着物がそこにはあった。
 赤地に小花と手毬が散りばめられた振り袖に、黒い帯に金糸で刺繍がされた帯。帯揚げは、黄色から淡い紫のグラデーション。女性スタッフに手伝って貰い、帯は花のような形に結んで。頭飾りは常通り。
 こうして、神楽耶の支度は整ったのだった。


 小鳥さんが一羽。
 異国、の小鳥さんみたい。
 キモノという艶やか和装を着せたようね。腕を広げると鳥のようだと聞いているの。
 異国の鳥は、どんな風に鳴くのかしら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸リル/f10762の調律師


可愛いリルを一番うまく奏でられるのはあたしだけよ

でも
鳥籠水槽にリルを入れるなんて心が痛む
ごめんね
今日のあたしはあなたの座長ね
纏うのは洋装燕尾服
着飾り売り込むわ

揺蕩う尾鰭に秘色の髪
身を飾る宝石すら霞む奇跡の如く美しい人魚よ
硝子細工の様に繊細な人魚の奏る
悲痛な程に美しい至高の歌声は心蕩かし魂堕とす甘美な音色
私自慢の作品を歌唱会で歌わせたいの!

けど
人形に薇が必要なように
あたし以外に心を開かない

水槽叩けば人魚が歌う
中毒になる蠱惑の歌声
これがリルの―

そこまで
悪夢みたいに素敵よ
魅入られて廃人になるわ
あたしの言うことしか聞かないでしょ
魅了込め微笑む

絶対リルを守る
そばを離れない


リル・ルリ
■櫻宵/f02768


重ねた布に宝石や真珠飾りは仰々しく重い
よく用意出来たよね
こんな豪華な衣装

また水槽に入るなんて
鳥籠を模した煌びやかな水槽は過去いた劇団を思い出す
櫻が調律師…大丈夫?

僕は君の為にしか歌う気はない
いいよ
僕は君の作品、櫻の人魚
演技は得意だ

指示あるまでヴェール深く被り人形の様に瞳伏せて黙っている
神秘的さを強調する
何あっても反応しないし歌わない
櫻の合図があれば歌おう

透徹な心蕩かす人魚の歌
心奪い離さぬ魔性
正気を剥ぐ至高の音色
高らかに
培った歌唱活かし本気で歌う
君と共にいる為に
海底に引きずり込む人魚の歌を
歌をご所望なんだろう?
儚く微笑み
櫻がいなきゃ手がおえない風に装う

大丈夫
櫻は僕が守るんだ



●水槽の小鳥さんと木龍の調律師さん
 カツリカツリと男がヒールを鳴らして歩く度、光沢のある天鵞絨が揺れる。深い水底のような藍色をした天鵞絨。その端に付いた銀の房飾りがまた、波のように揺れて。
 頭に桜枝を戴いた男は燕尾を翻し、特別製の台車を押して目的地へと向かう。台車の上には、天鵞絨が掛けられた、何か。大きな鳥籠のように見えるが、それにしては大きい。まるで人ひとり、入れそうな――。
 がたん、と大きく台車が揺れる。ダークセイヴァーの土地は段差の無い道など少なく、その度に小さく「ひゃ」っと声が聞こえては、男は盛大に咳払いをしなくてはいけなかった。
 男――誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)が向かったのは、歌唱会の受付。先に町中で声を掛けた黒い鴉面の男に此処へ来いと言われてやってきたのだった。
「私の自慢の作品を歌唱会で歌わせたいの」
 そう言って櫻宵は天鵞絨に手を掛け、一思いに剥ぎ取る。天鵞絨の海の向こう、現れたのは――人魚だった。鳥籠型の水槽の中、秘色の髪と尾鰭が揺蕩う。重ねた布は豪奢に。身を飾る数多の宝石や真珠は絢爛に。
 こぽり。泡を口から零した人魚――リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)はヴェール深く被り、瞳を伏せて水中にふわりと浮かんでいる。白皙に落ちるヴェールの陰に睫毛の影が薄く落ちて。その様は人形のような無機質さを伴い美しい。
「ほう……」
 美しい人魚の姿に、思わず感嘆の声が漏れる。
「如何でしょう。見目は見ての通り、硝子細工の様に繊細。そしてその人魚の奏る歌声は、心蕩かし魂堕とす甘美な音色」
 悲痛な程に美しい至高の歌声を、あなたのご主人様にも聞かせたいとは思わない?
 今日のあたしはあなたの座長と張り切っている櫻宵は、芝居がかった仕草でくるりと杖を回してからカッと石突で地面を突いて。片手を胸に、恭しくお辞儀をした。
 少々胡散臭すぎやしないだろうか。水槽の中、人魚の瞼がひとつ震える。けれど演技が得意なリルは、今日は彼の作品の振りを通す。他の誰かの作品なんて厭だけれど、愛しい彼の作品。そう想うだけで胸は甘く騒いでしまいそうになる――が、我慢我慢。
 鴉面の男が頷くのを待ってから、それではと櫻宵は杖を動かして。
 ――カツン。
 杖が水槽を叩く音と共に、人魚が目と口を開く。
 透徹な、心蕩かす人魚の歌が響く。水と硝子に阻まれて居るにも関わらず、鮮明さを失われる事無く耳朶を打つのは魔性の歌。
(――歌をご所望なんだろう?)
 儚い笑みを浮かべ、人魚が誘うように手を伸ばす。ふらりと手を伸ばせば、海底へと引きずり込まれてしまいそうだと錯覚してしまう。それでも構わないと思えてしまう程、蠱惑的。
(――ああ、あたしの人魚。悪夢みたいに素敵よ)
 鴉面をしていないスタッフが、惚けたように動きを止めているのを横目に櫻宵は満足気に微笑む。魅了効果のある美貌に、何と美しい二人なのだろうかと魂を抜かれた様な姿の一般スタッフたち。
「よろしい」
 鴉面の男が実力は充分解ったと手を打つ。呪縛が溶けたかのように、一度ハッと正気に返る者もいた。しかし、人魚は聞こえていない様子で歌い続け。またもうっとり海の底。
「あなたでは駄目よ。あたし以外にこの人魚は心を開かないの。――リル、そこまで」
 いかが? なんて、聞くまでもない。鴉面を付けている者たち以外は、夢から覚めたような顔をしているのだから。
「お前も必要そうだな」
 鴉面が頷く。これでリルの側に居られると、櫻宵は微笑んで。
 微笑んだ顔のまま、櫻宵が倒れる。
 リルの目が見開かれ。
 口が開かれ。
 けれど、口から何かが溢れる前に倒れた櫻宵と視線が交わって。
『      』
 最愛の彼の唇の動きを読み取って、リルは人形の演技を続ける。
 ここで声を漏らしたら、櫻宵を傷つけても鳴くと思われてしまうから。
 鳥籠水槽に、再び天鵞絨掛けられる。
 深い藍に包まれて、人魚はひとり、海の底。
 握り締めた手だけが、小さく震えていた。


 小鳥さんが一羽と、調律師さんが一人。
 物語の人魚は、歌で船乗りを虜にして、頭から食べてしまうのですって。まあ、怖い!
 花を咲かせた調律師さんも、だいぶ入れ込んでいる様子ね。
 わたくしが食べるよりも先に、食べられてしまわないように気をつけて。あなたしか鳴かせられない人魚の鳴き声、楽しみにしているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セラフィム・ヴェリヨン
【青鳥】
人声は出せないので基本無言
有事は筆談

マレークさまの売り込みを聞きながら
少し怯えたふりをしてその背に隠れ
口上を終えたなら作法に則った礼を一つ

纏うのは淡い青のドレス
レース代りの羽飾りは
幸せを呼ぶ小鳥の印象を濃くして
食べるに相応しいと思わせなくてはね

受付に身を晒せど視線はすぐマレークさまを追って
私が鳴くにはあの方がどうしても必要だと
秘めた想いを覗かせながら

私は唯の歌う小鳥
見合わぬと知るも想いを捨てきれない子供
見せられる情には思わず期待をしても
決して流されぬよう唇をかんで
――これは全て演技
けれど彼にだけは分かるよう
触れる一瞬に猟兵としての信頼を寄せて

ええ行きましょう
私を鳴かせられる、唯一の方


マレーク・グランシャール
【青鳥】

これなるは幸せをもたらす青い鳥
その歌声は悠久の青空の如くお嬢様に幸福をもたらすであろう
だがこの鳥は俺の奏でる調にしか歌わぬ
さあ、疾く歌唱会へと通されよ

…と、調律師となって小鳥のセラを売り込む

セラの青い鳥のドレスに合わせ、俺は夜の静寂のような群青色の上着の胸に青い羽根を一本
携えるのは【竜哭風琴】(バンドネオンに似た蛇腹の楽器)
セラの無口と俺の無表情とで秘めた想いを演出する

俺は年の離れた飼い鳥である少女に情を移した男
セラを見つめる目は、無表情なれど葛藤と苦悩を醸して切なに眇めて
セラに触れる者には、無表情なれど嫉妬と独占も露わに眼光を向ける

歌唱会こそが俺達の本番
そうだろう? 俺の青い鳥



●幸せの青い小鳥さんと夜色の調律師さん
 町で見かけた黒い鴉面へ歌唱会に参加したい旨を告げたマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は、受付をしているという建物へ向かうように告げられた。
 青い小鳥を伴ってそこへ訪れたマレークは、受付を担当している別の鴉面の男の前に立つと、芝居がかった仕草で口上を述べる。
「これなるは幸せをもたらす青い鳥」
 無表情の男と無口な少女を前に鴉面の男が訝しむ視線を向けるが、夜の静寂を思わせる群青色の服装を纏ったマレークはその視線を無視して傍らの青い小鳥を紹介する。マレークの胸には、青羽の飾りがひとつ。暗色に映えるその青は、まるで青い鳥の加護か寵愛を得ているかのように存在を主張して。
「その歌声は悠久の青空の如くお嬢様に幸福をもたらすであろう」
「ほう、幸せを。お嬢様のご多幸を願うとは良い心掛けだ」
 語り口上を聞き、鴉面の男が値踏みをするような視線を青い小鳥の少女へと向ける。見られている事に気付いた少女は怯えたように鴉面を見上げ、マレークの背へと隠れた。一度隠れてから、そっと伺っているのだろう。マレークの横腹から海辺のような青髪が揺れている。
「……珍しい小鳥とて、鳴かねば意味がないぞ。声も聞けねば、こちらも参加の受付を許可できぬ」
「すまないな。この鳥は俺にしか心を開いておらず、俺の奏でる調にしか歌わぬ」
 マレークは背に隠れた青い小鳥の少女の頭をひと撫でし、携えていた『竜哭風琴』を軽く鳴らす。『悪魔が発明した楽器』に似た形状の蛇腹の楽器は、独特のシャープな音を奏で――。
 La――♪
 音に合わせ、少女の声が響く。硝子を思わせる、甲高くも澄んだ音。
 鳴った楽器の音に合わせて奏でられた音は短く。マレークが音を鳴らさないため青い小鳥は再度口を閉ざし、だんまりを決め込んだ。
 然れど、審査の為の声音を聞くには充分だ。鴉面の男の主たちのお嬢様が求めているのは美しい声が出る喉であって、美しい歌ではない。短な音でもその判定に足りた。
「ご理解頂けただろう。――さあ、疾く歌唱会へと通されよ」
 マレークに紹介された青い鳥――セラフィム・ヴェリヨン(Trisagion・f12222)はマレークが口上を終えると再度彼の背から姿を現す。ほっそりとした足が映える、膝上丈の淡い青のドレス。胸元にはレースの代わりに羽飾りを配い、胸下をドレスよりも青の強いレースリボンが背へと回るハイウエスト。背へと回されたリボンは背中で大きく結ばれ、その先は膝裏まで長く垂れて。動く度にふわり、青い翼が揺れるよう。
 ドレスのスカートの裾を摘んで折り目正しくカーテシー。
 その姿を見守るマレークの瞳に優しい色が混ざる。顔を上げて佇まいを直した青い鳥は、すぐさま彼の姿を追って――そして、その色に気付いてしまう。
 自分が彼に見合わないと青い鳥は知っている。彼もまた、それは一緒だ。すぐに優しい色には葛藤と苦悩が混ざり、内に秘めた想いに切なげに眇められた。
(――俺は年の離れた飼い鳥である少女に情を移した男)
(――私は唯の歌う小鳥)
 期待に高鳴る胸を隠して、青い鳥はそっと唇を噛む。
 けれど、許されるなら。
 少しでも触れていたい。
 そう願って、彼の服の裾を摘む。
 ――そう。これは全て演技。触れる一瞬に、猟兵としての信頼を寄せて。
 想いを口に出来ぬ無口な男と、想いのままに感情を発露させない飼われた小鳥。二人の関係性に気付いたのだろう、鴉面の男は得心した様子で頷いて二人を奥の部屋へと招こうとする。
「さあ、小鳥のお嬢さん。こちらへ」
 歌唱会の主役はマレークではなくセラフィムだ。麗しい声の持ち主。お嬢様が愛する喉の持ち主。
 彼女へ声を掛け、手を差し向ける。と、長身の男が間に割って入る。能面のような顔に嫉妬と独占も露わな眼光を貼り付け、鴉面を睨みつけた。
 彼女を導くのは己が役目。そう言わんばかりに、マレークがセラフィムへ手を差し伸べる。
「歌唱会こそが俺達の本番」
 その手にセラフィムはそっと手を乗せ、真っ直ぐに彼を見上げる。
(そうだろう? 俺の青い鳥)
(ええ、行きましょう。私を鳴かせられる、唯一の方)
 視線が交わり、意思を伝えあった。


 小鳥さんが一羽、調律師さんが一人。
 ねえ、幸せの青い小鳥さん。わたくしにも幸せをくださるの? あなたの喉の味でわたくしを幸せにしてほしいの。
 飼い鳥に情を移しすぎてはいけないわ。それではあなたはただの男になってしまう。
 けれどもそれでいいのかしら? 小鳥さんの大事なものを奪ったら、どんな声で鳴くのかしら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス

【双星】
着いてくると言うアレスを突き放す様に
歌えねえだろ
…望まれる調律師が何かわかってんのか?
潔く受け入れるにはアレスが大事過ぎた

…俺もお前にはついてきて欲しく無いんだけど

尚折れない事が嫌なのに嬉しかった

なついてるのはアレスだけと主張する様に腕を絡ませ
今ここで歌えって?
いいけど…、聞きたいのは誰?
お前?
アレスの正面に周り
胸に両手を押し当て上目遣いで
アレスだけをみてくすくす尋ねる
他など眼中にないのだと態度で示して
お前が望むならいくらでも
その代わりひとつも聞き漏らすなよ

鳴かせられるものなら啼かせてみろ
俺の歌はコイツのもの
他の誰に何をされても
1音たりとも漏らさぬと
誘惑したそばから突き放して挑発する


アレクシス・ミラ

【双星】

僕も連れて行って欲しい
突き放すような物言いにも怯まず見据える
調律師としてついていく
…解っているさ
…正直、僕は君には行って欲しく無い
でも、君は行くんだろ?

…彼の気持ちも分かる
けど…僕だって君が大切だから
…退くつもりは無い

同行を認めてくれた事に少しだけ安堵する
…今度は君の傍にいられる

調律師らしく礼装に着替え
セリオスを伴い、鴉の面の者に恭しく近づく
…失礼、歌唱会の噂を聞きまして
どうか私の自慢の小鳥の声も披露したい
…さあ、歌ってご覧?…僕の黒歌鳥
如何でしょう
嗚呼…しかし、一つだけ
ご覧の通り、彼は私にしか興味を持とうとしません
なので、私も連れて行くことをお勧めします
気高い小鳥はお嫌いですか?



●黒い小鳥さんと案じる調教師さん
「僕も連れて行って欲しい」
「歌えねえだろ」
 懇願するような声に、即座に突き放すような声が返る。それに怯まずにアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)は「調律師としてついていく」と、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)を真っ直ぐに見つめながら告げた。
「……望まれる調律師が何かわかってんのか?」
 セリオスの声から勢いが削がれる。調律師として望まれること、それはどう考えてもアレクシスを傷つけるだろう。彼が大事だからこそ、セリオスは付いてきて欲しくはなかった。
「……解っているさ」
 君が、そう思うことも。
 けれど。
「……正直、僕は君には行って欲しく無い。でも、君は行くんだろ?」
「……俺もお前にはついてきて欲しく無いんだけど」
 やっと再会が叶った幼馴染。セリオスがアレクシスを大事に思うように、アレクシスとてセリオスを大切に思っている。
 行かせたくない。
 付いてきて欲しくない。
 どちらも退かず、話は平行線を続けるのかと思われたが、アレクシスの強い視線に折れたのはセリオスだった。アレクシスが折れない事が嫌なのに、嬉しかったから。

 一悶着あったものの、無事にグリモア猟兵に転送された先。町中で見付けた黒い鴉面の者に歌唱会へ参加したい旨を告げると受付の建物を教えられ、二人はそこへ向かうこととなった。
「私の自慢の小鳥の声も披露したい」
 腕にぴたりとセリオスを引っ付けた礼服姿のアレクシスが、受付担当の鴉面へと声を掛ける。
「歌唱会への参加か。……随分と小鳥になつかれているようだな」
 鴉面の視線がセリオスへと向けられると、そうなのですと困った様子もなく応えるアレクシス。セリオスはアレクシスの腕に両腕を絡めて、ジッと、ただアレクシスだけをその目に映している。
「ご覧の通り、彼は私にしか興味を持とうとしません」
 そして、彼を歌わせられるのも、私だけ。
「……さあ、歌ってご覧? ……僕の黒歌鳥」
「今ここで歌えって? いいけど……、聞きたいのは誰? お前?」
 アレクシスの言葉を聞いたセリオスは、彼の腕からするりと手を離し彼の正面へと回る。鴉面の男に背を向け、アレクシスの腕から離した両腕はすぐに彼の胸に収まった。
 胸に両手を押し当て、夏の青空色の瞳を見上げて。
 彼だけを瞳に映し、くすくすと笑って。
 心を動かすのも、行動に表すのも、彼のためだけ。
「お前が望むならいくらでも」
 その代わり、ひとつも聞き漏らすなよ。
 蠱惑的な笑みをアレクシスだけに向けると、喉を震わせる。
 これは、アレクシスのためだけに奏でられる歌。
(他の誰に何をされても、一音たりとも漏らさねえ)
 歌唱会なんてどうでもいい。けれど彼が望むならこうして歌うのも吝かではない。そう、態度で示して。
 もういいよとアレクシスが声を掛かるまで歌うと、再度アレクシスの隣に並んで彼の腕に腕を絡めてくっつくセリオス。
「如何でしょう」
 私のためにしか歌わないでしょうと告げて、さあ褒めてと主張するセリオスをひと撫で。
「……ふむ。鳴かせ方にも色々と作法はあるが」
 鴉面が、自身の腰に下げた鞭へと視線を下ろす。しかし、此度の名目は『歌唱会』である事を思い出したのかかぶりを振って、鳴かせられるものなら啼かせてみろと挑発する視線を振り払った。
 気高い小鳥はお嫌いですか? とアレクシスが鴉面へと問うが、気高さとはまた違うものではないか? と逆に返されてしまう。この場で気品ある様子をセリオスは見せては居ないため、鴉面はどうやらお互いしか見えていないのは本当のようだなと小さく笑みを浮かべて。
 けれど、主たるお嬢様は気高いため、その様な性質も大層喜ばれる。
 華々しい歌唱会となるよう、楽しみにしている。
「受付は完了した。ついてこい」
 そう案内された先で二人は昏倒させられ、会場へと運ばれる手筈となった。


 小鳥さんが一羽、調律師さんが一人。
 黒い小鳥さんは調教師さんにべったり。
 調教師さんも満更でもない様子。きっととても甘やかしているのね。
 気品ある姿が見られたら、わたくしもうれしいわ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
美しい声のため、人の声を……喉を奪うだなんて
そんなことをして美しい声など手に入るものでもないでしょうに
なによりも、その心が汚らわしい
悪戯に人を殺めるなど、許せるはずもありません

先ずは目的のため、潜入を果たさなければなりませんね

着飾るのは普通にお洒落をしていけばいいのかしら
ミニドレスでも失礼ではないといいのですけど

赤と黒のミニドレスに、パールのネックレス、ピアス
髪はアレンジアップスタイルに

こほん
受付へと向かい、お願いします
歌唱会に参加したいんです。ご案内いただけますでしょうか
少し作った声を意識して出して

必要であれば歌の披露もしますね



●鳥籠に舞い込む小鳥さん
 美しい声のために人の声を、喉を奪う。そんな事をしても美しい声など手に入るものではない。
 けれどオブリビオンたちは何人もの人々を殺めて食らっている内に、そう思うようになってしまった。配下の者たちが、そう褒め称えるのも原因のひとつだったのだろう。美しくなったかしらとお嬢様が問えば、即座に讚する言葉が飛ぶのだから。
 しかし、だ。
(――なによりも、その心が汚らわしい。悪戯に人を殺めるなど、許せるはずもありません)
 受付の建物へ向かう最中の三咲・織愛(綾綴・f01585)は、そう憤った。その思いが知らず知らずに出たのだろうか。低めのヒールがカツカツと道を叩いて音が鳴る。
 身を包む装いは、胸元に大きめの花をあしらった赤と黒のミニドレス。正面から見れば短めに見えるが、フリルのフィッシュテールスカートが上品さを損なわせない。スカートからすらりと伸びた形の良い足元を飾るのは、胸元の花と同じ花を添えた控えめな高さのヒール。ヒールの中には小さな赤と黒の薔薇の花が閉じ込められ、内を飾っていた。
 受付の建物の前で、足を揃えて立ち止まる。一度建物を強い瞳で見上げてから、アレンジアップにセットした髪を軽く手直しし、耳や首元を飾る真珠の位置も整える。整えるその手は、リボンのついた黒レースの手袋で包まれていて。その姿を係の者が見れば、彼女が歌唱会のために指先までお洒落をして来たことが知れるだろう。
 こほんと小さく咳払いをひとつ。
 決意を新たに、建物の扉へ手を掛けた。
「歌唱会に参加したいんです。ご案内いただけますでしょうか」
 受付の鴉面の男へ近寄り、声を掛ける。
「解った、参加だな。ひとりか?」
「ええ、私ひとりで」
 今日は幾人も調律師が来ているのだろう。織愛が入ってきた扉を見てから、鴉面が尋ねた。
 品良く見えるよう作った声を意識して織愛が頷くと、受付の男は紙にサラサラとペンを走らせる。主への報告用のものだろう。
「受付はこれで完了した。才能に恵まれし小鳥よ、奥へ」
 必要ならば歌を披露するつもりであった織愛だが、すんなりと参加受付は終了した。織愛が一人なこと、話す言葉で声が知れていること、歌唱会へと意気込んだ装い――その三点からだろう。
 織愛は奥の間へと通される。
 扉を抜けた先には真っ暗な空間が広がっていた。
 暗闇に目をしばたたかせる間もなく、室内に満ちた薬品の香りで織愛の意識は閉ざされた――。


 小鳥さんが一羽。
 可愛いお洋服を着て、自ら鳥籠に来てくれた小鳥さん。
 一人で来てくれるのだもの。きっととても鳴き声に自信があるのだわ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東雲・咲夜

幼馴染のそうくん(f01798)と

うちは歌が好き
お料理も写真も好きやけど
歌うんが一番の生き甲斐
此の聲を響き奏でることこそ
生きる悦び、生涯の輝
歌わへん時は一日もあらへん

せやけどこないな恐ろしいこと…
人肉を食らうやなんて
思わずそうくんの服の袖を握り
…此のえげつない夢を終焉へと導きましょう

天女を思わせる美々しき漢服
桜の花をふんだんに
黄金月の装飾がしゃらり、涼風に謡う
桜銀糸を彩るは月来香の髪飾り
靡き揺蕩う星を鏤めた羽衣

所作が美しければ美麗な歌声が連想される
礼儀作法に気配り嫋やかな振る舞いで
鴉の面へと近づいて
そうくんがいてくれはったら
独りよりずっと、此の聲に魂を乗せられる
――さあ、参りましょう


朧・蒼夜
幼馴染の咲夜(f00865)と

人を喰いその聲を奪う
きっと歌う事が好きな咲夜には悲しい出来事だな
彼女が許せないのはわかる
でも…危険には晒したくない
なら騎士として傍で彼女を護る

彼女の歌声は天から頂いたほど美しい
だからこそ俺が必要だと思わせる
幼き頃から彼女の歌に合わせ笛の音を奏で
彼女が一番美しい歌声出せる音色を俺知っている
俺以外の奏でる音では彼女の本当の聲では鳴かない
俺は彼女の『調律師』天女の聲を聴けるか聴けないかは俺次第

藤の花を咲かせた蒼い燕尾服
彼女の美しさを際立てるように
シンプルで上品に
袖を握る彼女の手をエスコートするように握り大丈夫だよと微笑んで
彼の前へと天女を導く

一一ん、行こうか



●桜花の小鳥さんと藤花の調律師さん
 うちは、歌が好き。
 東雲・咲夜(詠沫の桜巫女・f00865)が、ポツリと小さく零した。
 料理をするのも写真を撮るのも好きだけど、咲夜は歌を歌うのが一番好きだ。一番に好きで、生き甲斐で。それが無くなることなんて、歌のない人生なんて考えられない。
(――此の聲を響き奏でることこそ生きる悦び、生涯の輝き。歌わへん時は一日もあらへん)
 憂うように瞳を伏せる咲夜の両肩を、傍らからそっと伸ばされた手が包むように触れる。
「……そうくん」
 顔を上げ、見上げたところには、親しんだ幼馴染の顔。咲夜が思いそうなことは長い付き合いからよく理解している朧・蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)は、彼女を安心させるように見つめていた。
「大丈夫だよ、咲夜」
 他の誰かの大切なものを、咲夜の大切なものを奪わせないように。俺が傍らで咲夜を護る騎士になるから。
 触れた場所からじんわりと温かさが広がる。彼の優しさと気持ちが伝わってくるようで、咲夜は眉尻を下げて微笑む。考えるだけでも恐ろしいことだ。けれども彼が居れば大丈夫。そう、信じられるから。
「……此のえげつない夢を終焉へと導きましょう」
「ああ」
 それでも胸の内には不安があるのか、蒼夜の袖を控えめに摘む咲夜の手。蒼夜は大丈夫だと再度告げるように、思いを込めて彼女の頭を撫でれば蒼夜の天女は桜のように綻んで。
 そうして意を決した二人は、受付があると案内された建物へと歩を進めた。

 蒼い燕尾服の片襟に大ぶりの藤花を咲かせた蒼夜が、天女を伴って受付へ向かえば。
「ほう」
 思わずと言った様子で、受付担当の鴉面から声が漏れる。
 藤花で洒落込んだ燕が先導するのは、桜の精か春の天女か。春色の漢服には桜花が咲き、歩く度にしゃらりと黄金月の装飾が謡う。仄かに桜色を宿した銀糸の髪には、月来香の髪飾り。星を散りばめた星躔の羽衣は、柔らかにひらりと揺れて。
 蒼夜の意匠も素晴らしい物ではあるが、彼の落ち着きある物腰は咲夜の華やかさより一層際立たせていた。
「なんと美しい小鳥だ」
「ええ。見目だけではなく、彼女の歌声は天から頂いたほど美しい」
「ああ、そうだろうな」
 指先まで気を使った咲夜が美しい礼をすれば、鷹揚に頷く鴉面。所作の美しさは育ちの良さを連想させ、またそのような小鳥ならば美しい声も持っているのだろうと期待させる。
 天上から舞い降りたような美しき天女を連れてきた男は付き人か。それとも――。
 関係性を問う鴉面の視線に気付いた蒼夜は、頷きをひとつ返して口を開く。
「俺は彼女の『調律師』。天女の聲を聴けるか聴けないかは俺次第」
 彼女が一番美しい歌声を出せる音色は、俺だけが知っている。
 蒼夜はそう言って、懐から篠笛を取り出すと横に構え――。
 澄んだ音を響かせる笛の音に、咲夜の歌声が重なる。
 二人が披露したのはほんの僅か。けれどそれで充分だろうと蒼夜は笛を収め、鴉面を見る。
「俺以外の奏でる音では、彼女は本当の聲では鳴かない」
 ひたりと見据えて蒼夜がそう口にすれば、蒼夜の斜め後ろに居た咲夜も鴉面の男へと近寄って。
「そうくんがいてくれはったら、独りよりずっと、此の聲に魂を乗せられる」
「続きをと望むのならば、歌唱会にて」
「そうだな。お嬢様も大変お喜びになることだろう」
 さあ、どうぞこちらへ。
 鴉面の男が奥の間へと案内する。
 まずはひとつの関門を突破。咲夜は胸元で思わずぎゅっと手を握るが――横から蒼夜の手が差し伸べられる。お手をどうぞレディと告げる紳士のように、優雅に自然に。
(そうくんがいてくれはるから大丈夫)
 咲夜は花の笑みを浮かべ、蒼夜の手に手を重ね。
「――さあ、参りましょう」
「――ん、行こうか」
 数多の小鳥たちが集う、夢の舞台へ――。


 小鳥さんが一羽、調律師さんが一人。
 桜の小鳥さんは、異国の物語の天女のようだと聞いているの。天女にはまだ会った事がないから、とても楽しみだわ。
 調律師さんは、そんな桜の小鳥さんを護っているそうね。寄り添う花は目にも楽しくて好きよ。
 ああ、天女はどんな声で鳴いて――命乞いをするのかしら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『死花』ネクロ・ロマンス』

POW   :    パイル・ソーン
【既に苗床となったヒトの手による鷲掴み】が命中した対象に対し、高威力高命中の【背から突き出す血を啜る棘を備えた茨の杭】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    フラバタミィ・ニードル
【体を振い止血阻害毒を含んだ大量の茨棘】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    バイオ・ビュート
レベル×5本の【木属性及び毒】属性の【血を啜る棘と止血阻害毒を備えた細い茨の鞭】を放つ。
👑11
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『大変お待たせしました、お嬢様。これより歌唱会の始まりです。
 お嬢様の可愛らしい小鳥たちもそろそろ目覚める頃。
 ――ああ、早速一羽、目覚めた様子。それでは、お楽しみください』

●何も知らない小鳥さん
 目覚めたそこは、鳥籠を模した檻の中だった。閉じ込めているのか、守られているのか。或いはその両方なのかもしれない。
 大変お待たせしましたと何処からか声が聞こえて、歌唱会の始まりを知る。
 そうだ。私はここへ、歌を歌いに来たのだ。幼い頃から誉められてきた声で私は一番になって、弟へ美味しいご飯を食べさせてあげたい。父さんと母さんには育ててくれてありがとうってお花を贈れたらいいな。綺麗なお花はとても高いから、買ったこと、ないんだけど。
「どうぞ」
 恭しい手つきで黒い鴉のお面の人が扉を開けてくれて少し驚いた。こんな扱いをしてもらうのは初めてだ。私がお姫様みたいな格好をしているからかな?
 歌唱会の作法は全然解らなくて、いつもの襤褸で受付に行ったら顔をしかめられちゃった。けど、歌を披露したらこんなに素敵なお洋服を着せてもらえて……とてもいい人たちなんだわ。
 私は扉を潜って鳥籠を出る。
 そこはお城で舞踏会とかをするような広い場所。どこもかしこも綺麗で、素敵で、夢の中にいるみたい。
 ここが私の舞台。
 ここで私は選ばれた小鳥さんになって、それで――。

●小鳥たちの歌唱会
 広間は、どこもかしこも美しい。のに……鉄錆の臭いが微かに香る。直前まで『舞踏会』が行われていたせいなのだが、意識を奪われてここまで運ばれてきた猟兵たちには知る由もない。しかし、綺麗に片付けられてはいても隠しきれるものではない。きっと隠す気もないのだ。地面に微かに残る拭い残しの血に、先に何かがあったと察する者も居ることだろう。
 憐れな小鳥が一羽、定位置に立つと『歌唱会』は始まる。
 口を開こうとしたその時、カシャン、と小さな音がする。何かの檻が開いたような、そんな音。なんだろうと視線を向けたその先に、人影があることに気付く。ゆうらり身体を揺らす人物、小鳥へと向かってくるのだ。
 その人物は花を咲かせていた。赤い、赤い、大きく美しい花。花から伸びた茨が身体を伝い――否、違う。茨は人体から伸び、花を咲かせているのだ。小鳥は可愛い目をまぁるく見開いて、凝視する。
 花を咲かせたその人の肌は、土気色。口を開くように、ぱくりと喉に穴が空いている。あれでは生きては――そう、思ったところで小鳥は理解する。アレは、死体に咲く死の花だ。
 小さな小鳥の喉が、ヒッと短く鳴った。

 これは、お嬢様のための歌唱会。


======================
⚠ MSより ⚠
 第二章において以下のルールが適用されます。
●判定
 任務達成の為にも、お嬢様好みの行動を取る必要があります。
 お嬢様の好みであればあるほど、大成功等の良い判定結果になります。逆に、お嬢様の好みでなければ判定結果は悪くなります。
 歌だけの披露では満足いたしません。これはそう言った『歌唱会』なのです。

●お嬢様のペット『死花』
 たくさん居ます。お嬢様が大好きな喉を食べ終えた可哀想な死体たち。
 あまり強くないので、簡単に倒せます。が、簡単に倒してはお嬢様は喜びません。
 お嬢様のために、小鳥さんを優先的に狙います。必要に応じてわらわら群がります。
 『自分以外に鳴かせられない』と調律師さんが言っていた場合の小鳥さんに対しても小鳥さんを狙います。が、小鳥さんが鳴かなければ狙いは調律師さんになります。調律師さんを傷付けて、小鳥さんを鳴かせようとします。調律師さんへは割と容赦なく攻撃するようです。
 また、小鳥さんの喉を枯らしてしまってはいけないので、適当なところで開放されます。

 👉調律師さんが頑張る!
 調律師さんが自ら小鳥さんを鳴かせることも可能です。
 啖呵を切って行動に示せば、お嬢様は死花を退かせることでしょう。

●お嬢様
 悲鳴が好き。歌が好き。喉が好き。小鳥が好き。
 可愛いものも美しいものも好きだけど、それが歪むところは尚愛おしい。
 美しい歌に悲鳴が交じるのなんて、たまらなく好き。
 とにかく小鳥さんが泣いたり鳴いたり啼いたり哭いたりしているところが見たい。

●服装
 第一章で特に服装の指定が無かった小鳥さん宛です。
 第一章にて着せる描写がなかった方は、指定くださいますとその服装で歌唱会への参加となります。方向性だけでお任せしてくださっても大丈夫です。

 それでは、大変長らくお待たせしました。素敵な歌唱会をお楽しみください。
 【第2章のプレイング受付は、6/21(金)朝8:31~でお願いします】
======================
シホ・エーデルワイス
容赦なく傷付け&♢♡


普段お洒落をする機会が無い為
気絶中に着替えさせられた事を恥ずかしく思う以上に
ドレス姿にときめく

汚してしまうのが勿体ないです
時間があるならエリカの瞳で画像を撮っておく


【覚聖】と<救助活動、ダッシュ、勇気、覚悟>で
町の人を庇う

私が彼女の分も歌いますから彼女に手を出さないで
と<コミュ力、優しさ>で懇願

少女に耳打ちで歌えなければ悲鳴を上げるよう願う

【盾娘】と【供宴】で悲鳴にも聞こえるオペラを
少女の無事を<祈りつつ歌唱>

蔦に絡まれ宙づりにされるも
<激痛耐性や毒耐性>で耐えつつ苦しみ悶えお嬢様を満足させる
危なければ【祝音】で回復

痛い目に遭うのは依頼で慣れています


戦後
【贖罪】で負傷を癒す



●天上の小鳥の歌唱会
 ――……や! いや! 来ないで……ッ!
「……ん、」
 耳朶に響く悲鳴に、シホは薄ら目を開けた。
 ぼんやりと霞む視界に、白い清楚なワンピースドレス映り込む。
(……誰の、)
 浮かんだ思いは、服装に対してか。それとも――。
 ハッと息を呑みこんで、意識がしっかりと覚醒する。
 悲鳴が、確かに聞こえる。
 小さくか細い、少女の声。
 自身が違う服装を着ている事への疑問よりも、聖者たるシホがそちらへ意識が向いてしまうのは自然なことだ。
 鳥籠のような檻。その外に、今まさに赤い花を咲かせたヒトに襲われんとする一人の少女の姿を見付けた。
 今の状況を考えるよりも先に、身体が動く。立ち上がり、檻の扉へと急ぎ向かう。
「ここから出してください!」
 早く!
 鴉面の男へ急かすように声を掛け、扉が開ききるのを待たずに飛び出した。
 白いワンピースドレスが翻る。服装に合わせあえて素足なのであろう足が、地を蹴る。一秒でも早く少女の元にたどり着くべく、黒茨によって生み出された美しいドレープをはためかせ。
 今にも茨の鞭が振り下ろされんとしているが、腰を抜かした少女は僅かに後退る事しか出来ずに居た。直前まで希望に満ちていた表情は恐怖に染まりきり、ただ禍々しくも美しい赤い花へと視線を縫い付けて。
 勿体つけるかのように撓らせた茨の鞭が、少女を襲う――!
「ああッ――!」
 仰け反らせ、悲鳴を零す、喉。
 遅れてさらりと溢れる銀の髪。
 悲鳴を零したのは、シホだった。
「私が彼女の分も歌います……!」
 ですから、彼女には手を出さないで。
 恐怖に震えるだけの少女を腕に抱き締めて、背中に茨の鞭を受け、何処かに居るであろう主催者へと訴える。腕の中の少女の耳に「歌えなければ悲鳴を上げてください」と言葉を届けて。
 ヒトの優しさもコミュニケーション能力も、お嬢様は持ち合わせてはいない。訴えかけても本来は聞き入れることはないのだが、聞き入れられたのは『面白そうだから』。ただ、それだけだ。
 ――ちりぃん。
 甲高いベルが鳴る。
 それを皮切りに、死花の群れがぞろりとシホへと向かう。
 蔦がシホの足に絡み、宙吊りにされて。
 さあ、歌唱会は始まったばかり。
 小鳥のオペラと鳴き声にお嬢様が飽きるまで、時間はたっぷりとあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・エクル
調律師として七那原・望とペアで参加

衣装は黒を基調とした礼服で

威力を調節可能な電気ショック機能搭載の鎖付き首輪を望に嵌めます

ボクがこの小鳥に苦痛の電撃を放ち、悲鳴の織り交ざった歌声を鳴かせてご覧に入れましょう

啖呵切ったのはいいけど悲鳴が大好きなお嬢様を演技で騙すのは危険な気がする、さっきはどうにかなったけど今度は本当に痛いと感じるレベルでやらないと。だけど望に痛いおもいをさせちゃうのは嫌だよ。大切なひとにそんなことしなきゃいけないなんて

状況を見兼ねたボクの別人格の「ヒメ」が危険だと判断して強引にボクと人格を交代させてエクルの覚悟の甘さを指摘、電気ショックの威力を最大にして悲鳴を引き出そうとします


七那原・望
小鳥役としてえくるん(f07720)とペアで参加です。

衣装、目隠し、首輪は前章のままです。それ以外の拘束具はお任せします。

酷い、血の臭い……
いえ、今は我慢して従順な演技を続けるのです。

えくるんとお嬢様の会話から状況はなんとなくわかります。もうすぐ事前の打ち合わせ通り、さっきと同様の電気ショックが来る。それに合わせて悲鳴混じりの歌を演じ……っ!

ーーーAhaaぁあぁあっ?!ああがぁぁぁっ?!

痛い!痛い!こんな出力なんて聞いてない!
全身が張り裂けそうな激痛を【激痛耐性】でどうにか我慢しながら、最早演じているのかどうか自分でもわからないまま必死に歌います。
その決断が正しいものなのだと、強く信じながら。



●幼いふたりの歌唱会
 目覚めたそこは、檻の中。
 襤褸を纏っていた望だが、意識を失っている間に美しいフリルのワンピースドレスへと着替えさせられていた。そもそも、お嬢様の目に入っても不快に思われない姿でなければ、ここに立つことは許されない。歌唱会のお触れにもそうあったはずだ。檻の中に横たわる人々もみなそういった衣装になっており、今は静かに眠っている。
 望には自身の姿は見えないが、肌に触れる感触から違いには気付いたことだろう。そして、頸を振ってエクルを探す。チャリ、と鎖が揺れる音に気付くと首輪へと手を伸ばし、そのまま鎖へ指を滑らせれば暖かな手に行き着いた。傍らには首輪から伸びた鎖を手にしたままのエクルが居るのだと思えば、張り詰めた糸も僅かに緩んだ。
 エクルが目覚めれば鴉面の男によって二人は檻から出され、広間の中央へ。
 黒い礼装を纏ったエクルは、対のような白いワンピースドレスを着た望を紹介するように腕を動かして。
「ボクがこの小鳥に苦痛の電撃を放ち、悲鳴の織り交ざった歌声を鳴かせてご覧に入れましょう」
 ぞろりと死花が動く気配を感じながらも、芝居がかった仕草で一礼を。鎖を引かれて連れてこられた望も、同時にお辞儀をする。背中で拘束されていた手は、今は胸の前。血の臭いに顔をしかめそうになるが、今は従順な振りをと祈るように手を組んで。
 ちりんとひとつベルが鳴り、死花たちはその場で動きを止める。鳴かせて御覧なさいという、お嬢様からの合図だったのだろう。姿を見せては居ないがこの場のどこかに確実に居るお嬢様の視線を確かに感じながら、エクルは横目で死花たちを確認した。
「この様な機会の場を与えてくださり、光栄に思います」
 それではと、手にした電気を流すスイッチへと指を掛け――。
 ……躊躇った。
 悲鳴が好きな、悲鳴を聞き慣れているであろう人物が演技で騙されるのだろうか。深く考えずとも、答えは否であろう。きっと彼女は、本当の悲鳴じゃないと満足はしない。しかし、演技ではない本当の悲鳴となると先程の演技の時の電流では済まない。苦痛を与えるレベルの電流――否、悲鳴を上げさせるならば最大レベルの電気を流すべきだ。
(……だけど望に痛いおもいをさせちゃうのは嫌だよ)
 大切な人に、そんなこと。頭ではするべきだしなくてはと理解しても、心はどうしても嫌がってしまう。
『……甘いですよ、エクルさん』
 エクルの頭の中に声が聞こえ、そして――。

「――……?」
 本来ならば、既に電気が流れている筈。それなのに電流は一向にくる気配は見せず、エクルが動きを止めてしまっていることに心配した望は、微かに伺うようにエクルを見遣る。広間には静けさが満ちており、時間が経てば経つほど訝しまれることだろう。
 これ以上主催を待たせる訳にはいかない。そう判じて、望は口を開き、歌い出す。
 小さな唇から溢れるのは、聞く者に希望を与える明るい歌。
 いずれ来るであろう電流も、打ち合わせ通りに。鴉面の男へ見せた時のように上手く演技をする。
 はずだった。

 ――Ahaaぁあぁあっ?! ああがぁぁぁっ?!

 歌が、悲鳴に変わる。
 悲鳴というよりも、それは絶叫だ。
 大きく身体が跳ね、背を仰け反らせる。
 視界は赤く染まり、思考はまとまらなくなる。
 けれど、望には激痛に対する耐性があった。突然走った最大威力の電気ショックをどうにかやり過ごし、震える声で歌を再開する。
 けれど、再度走った電流に大きく身体を跳ねさせて。
(痛い! 痛い! こんな出力なんて聞いてない!)
 打ち合わせにない痛みに、目隠しの奥で見開いた瞳から涙がボロボロと溢れて頬を伝う。口端では唾液が泡となり、顎を汚す。
 けれども小さな小鳥は、身体を震わせ、喉を震わせ、必死に歌う。
 彼女の大切な人の判断が正しいものだと信じて。
 二度目のベルが鳴らされるまで、小さな小鳥はそうして鳴き続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と。
悪趣味というのは同意だな…。
「お嬢様」とやらの機嫌取り…正直面倒ではあるが。マクベスの頑張りを無駄にするわけにもいくまい。
お前との会話はここまでか。また後でな。

【属性攻撃】炎で鞭状の炎を作りマクベスを攻撃。
死花を退けられるようこれ以外では鳴かないと言うアピールをする。
(死花を退けられればマクベスのダメージは減るとは思いつつ顔には出さず)
あぁ、自らが本心から「いい声」だと思える声で鳴かせてみせよう。
反抗的で可愛いらしい小鳥。そう映るように。


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
はぁ…しっかし悪趣味だなほんと
まぁ、今は存分にお嬢様を満足させに行くか
って事でグラナトさんは引き続きよろしく
オレの事存分に啼かせてくれよな?

花に攻撃されようが
【激痛耐性】で一切声は出さねぇぜ
グラナトさんからの攻撃にだけ
存分に鳴いてやるよ
最初は反抗的な感じでいって
嫌がって逃げるような仕草から
許しを請うような態度に変えて泣き
【激痛耐性】と【火炎耐性】でしぶとく耐えて
長時間遊べる壊れにくい玩具を演出し
お嬢様好みに【誘惑】していく



●反抗的な小鳥と炎の調律師の歌唱会
「はぁ……しっかし悪趣味だなほんと」
 檻から出されたマクベスは、思わず悪態をつく。
「悪趣味というのは同意だな……。しかし、『お嬢様』とやらが何処から見ているかもわからん。慎重にな」
「まぁ、今は存分にお嬢様を満足させに行くか」
 広間の中央へ向かいながら、マクベスとグラナトの二人は小さく言葉を交わす。
「オレの事存分に啼かせてくれよな?」
 半歩前を歩くグラナトの背にマクベスが声をかければ、悪趣味な戯れに付き合うのは面倒ではあるがマクベスの頑張りを無駄にする気は無いグラナトは浅く頷きを寄越して。
 話しながら二人が歩いてきたせいだろうか、定位置には既に死花たちが蠢いていた。
 ぱくりと喉を開けた死体に赤い花を咲かせた死花『ネクロ・ロマンス』。お嬢様の従順なペットたる花であり動く死体は、真っ直ぐに小鳥へと茨の鞭を差し向ける。
「……ッチ、ほんとに悪趣味だな」
 反抗的に舌打ちをし、茨の鞭を真正面から見据えるマクベス。
 茨の間に割入る事も、止める事も容易く。けれどそうはしないグラナトは一歩引いてその姿を見守る。本来の彼ならばそのような行為を許すはずもないのだが、想いを表に出さず。マクベスが身体の痛みに耐えると言うのなら、グラナトは心の痛みに耐えるのだ。
 風が鳴り、鞭が打ち付けられる。
「当たらねぇよ」
 そう簡単には当たらない。当たってやる道理もない。
 このノロマ。唇を歪めて嘲笑えば、茨の鞭の数が増やされて。
 床に当たる鞭の音が増えれば、反抗的な態度で避けていたマクベスとて避けきれなくなる。白い衣装は何箇所も避け、赤く血が滲む。じわりじわりと赤が面積を広げていくが、マクベスは痛みに耐え、悲鳴はひとつも漏らさない。
 しかし。
「――ッ」
 次第に効いてくる毒に、マクベスは眉を顰める事となる。攻撃を食らえば食らう程、二種類の毒が毒耐性の無いマクベスの身を蝕むのだ。
 ちりぃん。甲高い音をたて、ベルが鳴る。
 茨の鞭の先が、グラナトへと向けられる――が。
「そんな鞭ではその小鳥は鳴かせられない」
 茨の鞭が自身に届くよりも先に、グラナトはマクベスへと炎の鞭を振るう。
 火の粉を舞い踊らせ、赤い軌跡とともに靭やかに振り下ろされれば。
 マクベスは怯えた顔で逃げるように身を捩り。
「――ッぁあ!」
 その背に鞭が打ち付けられる。
 肌を焼く炎。
 先に焼かれた肌も、癒えては居ない。
 その身に新たな火傷を作り、逃げようとした足は縺れ、大きな音をたてて床に転がった。
「立て、マクベス。お前はその程度ではないだろう?」
 もっと楽しませてみせろ。
 『飼い主』の笑みを浮かべて見下ろせば、目尻に涙を溜めつつも気丈にもマクベスが睨みつけてくる。
 再度ちりんとベルが鳴った。死花たちが退くのを横目に、グラナトは炎の鞭を振るう。毒で身動きも鈍くなっているマクベスには既に逃げる術はなく、ただ身を捩りその炎から少しでも身を守ろうとする。
 止血阻害毒により出血が止まらないマクベスの傷に気付いたグラナトは、傷口を焼いて出血を止めるべく狙って鞭を振るうが……傷口に塩を塗り込むようなもの。炎や痛みへの耐性があろうと、それを上回る痛みに喉からは悲鳴が漏れた。
「っ……ぅ、やめ、やめ……っ」
「お前は本当に可愛い小鳥だよ」
 反抗的で可愛い小鳥の這って逃げ出す足を炎で絡め取って羽根を折り、恐怖心を抱いている彼の炎で反抗的な心をも絡め取る。
 嫌だと泣く小鳥が開放されるのは、暫く後だ。
 歌が無いせいかお嬢様が満足するまで時間がかかり、長く遊べる玩具としてマクベスは鳴き続けるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リル・ルリ
■櫻宵/f02768


水槽の中
不安げに櫻宵をみる
歌う様に言うまで瞳伏せ黙って待つ
聴きたいのは悲鳴か

櫻になら打たれてもいい
少し痛くても君になら
僕が歌い泣けば櫻は傷つかずにすむ
ちゃんと悲鳴もあげて演技する

花が下がり安堵
指示通りに怯えたふり
歌唱とパフォーマンス活かし悲鳴も混ぜて歌い蕩かし―

……え?

櫻宵、ばか!
何考えてる!
血が
やだ
なんで
僕うたって

水槽の中暴れて叩く
やめてやめてやめて
僕の櫻、櫻が!しんでしまう
歌うのはやめられない
これは歌か叫びか
絶望と悲痛な叫びが混じり心が軋む

ただ君を喪うことだけが怖いのに

何故君は笑う?
震え涙零れ歪む

心に宿る識らない感情
怒りと


殺意

君を傷つけた
殺してやる
全てを込め殲を歌う


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762


周囲を見渡し
なるほどね

歌だけではなく悲鳴が必要ね
リルの悲鳴なんて聴きたくない
あたしがリルを傷つけるなんて有り得ない
あたし以外が鳴かせるのも癪

リルを美しく奏でられるのは
あたしだけよ!

啖呵きり
水槽を叩きリルに歌わせる
最高に美しいわ
…悲鳴を聞き慣れている様子
演技はすぐバレるでしょう
なれば危険になるのはリル

痛いのは嫌い
でもリルが傷つくよりマシ

指揮するように操華を使い
オーラ防御で防ぎ
死花を操作し寄せてあたしを傷つけさせる
あたしの意思でね
これが一番傷つく事
リルは自分への暴力は慣れていると耐えてしまう子

悲痛と絶望と悲嘆の歌う哭き声
ゾクゾクするわ

そんな顔しない
大丈夫
必ずあなたを守るから



●水鳥と木龍の歌唱会
 鳥籠水槽を伴って、櫻宵は広間の中央へと向かう。燕尾を翻し、カツリと踵を鳴らし、何処からか見ているであろう視線を意識して。ライトの当たる定位置へとつけば、慇懃に礼をし――その隙に軽く周囲を見渡した。
(――なるほどね)
 先に行われた『出演者』たちの姿から、歌以外にも悲鳴が必要な事を知った。けれど、愛しい人魚の悲鳴なんて聞きたくないし、自分以外が鳴かせるなんて以ての外だ。
 傍らの水槽から、リルは不安げにヴェールの下から櫻宵をチラリと見る。歌う様に言われるまでは瞳を伏せて黙って待つが、瞳を伏せれば倒れた櫻宵の姿を思い出してしまう。それだけで小さく手が震えてしまうが、怯える演技もするつもりでいたため無理に止めようとはしなかった。
「リルを美しく奏でられるのはあたしだけよ!」
 ライトを浴び、嫋やかな顔を晒して櫻宵が高らかに宣言する。
 ちりんとベルが鳴るのを待ってから水槽を叩き、櫻宵は愛する人魚を歌わせた。
 不安げに怯えた様子で、それでも指示通り歌い出す美しい人魚。
 水底へと魂を引きずり込む歌は、尚美しく響いて。
(悲鳴がほしいなら。櫻になら打たれてもいい)
 彼が傷付かずに済むのなら、自分が鳴いて演技をする。これから櫻宵に、打たれるのだろう。リルはそのつもりで居たのに――。
(――演技では、すぐバレるでしょうね)
 悲鳴を聞き慣れている。櫻宵のその読みは正解だ。お嬢様の耳の前では演技はすぐに見破られ、お嬢様が充分に満足することはない。満たすならば、『本物』でなくてはならないのだ。
 そう判じた櫻宵は《操華》を発動させる。見えない式神たちによって死花を操作しようとしたが、死花は物ではない。式神が茨鞭を掴んだ所で、死花が抗えばそれまでだ。死花を操作するならば、死花の精神に作用する操り方が必要だっただろう。
 しかし、『優しい』お嬢様が察したのだろう。ちりぃぃんと長めにベルが鳴らされれば、死花たちは櫻宵を攻撃し始める。
(……これで、いいわ)
 痛いのは嫌い。でも、リルが傷つくよりマシ。
 茨の杭が間近に迫る中、艶めいた笑みを浮かべる櫻宵。
「……え?」
 わざわざ死花たちに自身を攻撃させるように仕向けた櫻宵を見て、リルの唇が震えた。
 花が、咲く。
 赤い赤い、血の花だ。
 パッと咲いた花は呆気なく散り、広間の床に新たな花を咲かせる。
 ――やめて。
(僕の櫻、櫻が! しんでしまう!)
 歌を紡ぎながら、人魚が荒々しく水槽を叩く。やめてやめて、やめて。お願いだから、こんなことはやめて。誰か、お願い。やめさせて――!
 リルの愛しい櫻の身体に、茨の杭が刺さっている。貫かれている。予め櫻宵は防御態勢を取り、軽減させてはいたが、リルはそれを知らない。けれど知っていたとしても、きっと行動は変わらなかっただろう。
 掌に血が滲むのも厭わずに、くしゃくしゃに顔を顰めながらも歌い、嘆き哭く。歌うのを止めてしまったら、櫻宵が怪我をした意味もなくなる。それだけは、嫌だった。櫻宵の血を、櫻宵の行動を、無駄には出来ない。
 ゆっくりとした動きで、唇から血を零しながら櫻宵がリルを見る。二人の視線が交わされ、そして――櫻宵が眉尻を下げて、笑った。
(――そんな顔、しないで。大丈夫、必ずあなたを守るから)
 大粒の涙を零す愛しい人魚を見て、ゾクゾクするなんて思ったことを知られたら、きっと怒られるのだろうけど。否、それ以前に既に説教コースは確実だから、伝えても変わらないのかも知れない。
 あたしがリルを傷付けるなんて有り得ない。そう思いながら、心を傷付けている。それでも、暴力には慣れてしまっているあの子が、耐える姿を見たくはなかった。
(……何故、君は笑う?)
 瞬きする間も惜しくて。けれど、瞬きをしなくても涙はポロポロこぼれ落ちては水に混ざって消える。
 安心させるような櫻宵の笑み。
 けれど君は、本当に、何一つ解っていない。 
 ――ただ、君を喪うことだけが怖いのに。
 リルはもう、歌っているのか、叫んでいるのか、分からない。
 絶望と悲しみで、心が軋む。
 怒りと、識らない感情が渦巻く。
 灼き尽くすその感情は、明確な、殺意。
「――Aaa、aaaAaaaa―――!」
 人魚が、歌う。
 怒りと殺意で、視界を真っ赤に染めて。
(――殺してやる)
 声にならぬその歌は、もはや歌に非ず。
 無差別に攻撃するその叫びが、愛する者へ更に血の花を咲かせるものだというのに。
 初めての殺意で我を失った人魚は、気付けずに。衝動を止められずに。
 愛する者を、自ら傷付けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

東雲・咲夜
♢そうくん(f01798)と

微かに鼻腔を痺れさせる鐵の香り
生を蹂躙し尽されし小鳥は
怯え、震え、
暗澹たる狂詩曲と伴に幕を綴じた

そして今、眼前に揺らめく紅
…精気も生気も既に亡い冥界の骸の華
嗚呼…せめて彼之人が『ヒト』として帰幽出来るよう
うちは、其の為に歌いましょう
おこしませ我らが太陽、我らが母神…

燃ゆる紅蓮の眸と髪
其れは彼の命の色
桜の薫りを振乱し
嗚呼お願い、此身を護る為と云うならば
一秒でも長く傍にいて

破魔を宿す花霞
此れ成るは現世と幽世の狭間の桜
雅樂に解け羽衣と舞い
邪を昇華せよ

誰も傷つかないで
誰も奪わないで
誰も争わないで
然れど其れは夢物語
不条理の鎖に冀う滑稽な天女の謡

伝う泪は慟哭
伸ばす腕は煩悶…――


朧・蒼夜
幼馴染の咲夜(f00865)

本番
彼女の美しい唄声は誰もが魅了し涙を流すだろう

だが、ただ美しい歌声ではきっと相手は満足しない
怯え、悲鳴、命乞いし鳴く事
しかし歌に誇りを持つ彼女は何があっても美しく鳴くだろう
それにそんな鳴き方はさせたくない

だから

ごめん、ツライかもしれないけど少し我慢して
そっと頬に触れた後彼女の前へ

【紅蓮鬼】となり笛の音を奏でる
寿命を削る紅鬼を彼女は嫌がった
彼女の盾となり死花から攻撃をくらう

自分よりも他人を想う彼女
その者が親しければ親しいほど

彼女は謳うだろう、哀しみの歌を
白い肌に綺麗な雫を流しながら

君の笑顔を護る騎士
今は天女の哀しみの詩を歌う美しい鳴き声を聴きながら
笛の音を奏で続ける



●桜花と藤花の歌唱会
(……嗚呼)
 微かに鼻腔を痺れさせる鐵の香りに、咲夜は悲しげに瞳を伏せた。天女を思わせる薄桜色の漢服の袖で口元を隠し、切なげに溜息を零す。
 きっとこの広間でこういった催しが過去に何度もあったのだろう。希望を胸に訪れた小鳥たちは生を蹂躙し尽され、希望は絶望へと変わり、暗澹たる狂詩曲と伴に幕を閉じた。そして、今尚その骸は蹂躙され続けている。
 大切な声を奪われて、大切な命を奪われて。死して尚、安寧を与えられない。
 なんておぞましくて、なんて酷い仕打ち。
(……せめて彼之人が『ヒト』として帰幽出来るよう。うちは、其の為に歌いましょう)
 口元に当てていた袖を下ろしても、咲夜の顔に浮かぶのは憂う色。けれど犠牲者の為にと祈りを篭めて、胸元で小さく手を組んで。
 その咲夜の一歩後ろに佇む蒼夜には、矢張り咲夜の気持ちが手に取るように理解できていた。犠牲者たちへの祈りを篭められた彼女の歌声は、普段の歌よりもより美しいものになると確信していた。幼馴染の贔屓目が無くとも、そうなるだろう、と。
 しかし、ただ美しい歌声ではきっと相手は満足しないことも蒼夜は理解していた。ただ純粋に心を傷めて憂う咲夜とは違い、蒼夜は『歌唱会』の趣旨を理解し――彼女のことを想い、憂う。
 愛らしい小鳥に恐怖を与え、怯えさせ。
 羽根をひとつひとつ剥いで、悲鳴を上げさせ。
 命の危険を目の前に突きつけて、愛らしく命乞いをしてみせろと嗤う。
 どんな状況であろうと、蒼夜の幼馴染は美しく鳴くことだろう。けれど、そうさせぬ為に、蒼夜はこの場に居る。咲夜の笑顔を護る騎士として、彼女とともにここへ来た。
(そんな鳴き方はさせたくない)
 だから。
「ごめん、ツライかもしれないけど少し我慢して」
(――そう、くん?)
「――おこしませ我らが太陽、我らが母神……」
 頬に触れた蒼夜が、前に出る。歌い始めた咲夜に続いて、篠笛を奏でる手筈だった。咲夜の傍らで常に咲夜を立ててくれる蒼夜は、咲夜が歌う時は常に奏者として後ろに控えて篠笛を吹いていた。それなのに前に出た彼へ、咲夜は困惑した。
 咲夜の疑問は、すぐに解ける。
 咲夜の前に出た蒼夜の藍色の髪が、紅蓮に染まる。炎の燃えるその色は、彼が命を燃やして生み出される色。
 一秒ごとに命を削る紅蓮に身を包み、蒼夜は咲夜の歌をより高めるために篠笛を奏でる。彼女へと向かってくるであろう死花たちから守るために前に立ち、篠笛を奏でながら盾となり、命を燃やす。その行為で咲夜が悲しむ事は、解っている。
 自分よりも他人を想う、咲夜。その者が親しければ親しいほど、彼女は相手の為に涙を零す。
 そして、蒼夜は――。
(――これくらい、自惚れてもいいだろう)
 唇に笑みを乗せ、篠笛を奏でる。
 茨棘が飛んできても、蒼夜が足を退くことはない。

 ――破魔を宿す花霞
 ――此れ成るは現世と幽世の狭間の桜
 ――雅樂に解け羽衣と舞い
 ――邪を昇華せよ

 誰も傷つかないで。
 誰も奪わないで。
 誰も争わないで。
 然れど其れは夢物語。不条理の鎖に冀う滑稽な天女の謡。
 白い頬を、涙が伝う。凛とした声が、どうしても震えてしまう。
 けれど、天女の悲しみの籠もった歌はより美しいものへと昇華し、彼女をより輝かせる。
(――嗚呼お願い、此身を護る為と云うならば)
 一秒でも長く傍にいて。咲夜の願いは、ただそれだけなのに。
 彼の背へ、手を伸ばす。目前で命を燃やしながら盾となり、篠笛を奏でる彼へと。けれどその腕が届くことはない。届かないと知りつつも、止めさせたいと願う手は震えながら彼へと向けられる。
 天女の哀しみの詩を歌う美しい鳴き声を背に聞きながら、篠笛を奏でる彼には決して届かなくとも――。

 歌が続けば続くほど、命の炎が燃えていく。
 歌がなければ生きていけないと思うほど、歌を愛しているのに。
 嗚呼、この歌が早く終われば良いと思う日が来るなんて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユキ・コシイ

恐怖を浮かべ
あらん限りの叫びを上げ
逃げ場を失い、せめてもの助命を乞い
それでも…許されず慟哭を歌い続ける夜鳴鶯

…悪趣味で、虫酸が走る舞台
だけど…新たな犠牲者が増えるぐらいなら、わたしが舞台に立つ

幸い、この身体は人造のもの…「耐える」事には向いている
生物であれば耐えられぬラインも超えられる
それに歌うことに不利な状況であるほど
わたしの【シンガーズ・プライド】は燃え上がり…身体能力を上げてくれる

犠牲者の「花」を倒さなくてもいいのは、せめてもの救い…かな
彼らの茨に彩られ…歌うは鎮魂歌
深い、どこまでも深く、途切れぬ悲しみで…舞台全体を満たすような歌声を捧げましょう
死して尚、尊厳さえ奪われた人々に…慈悲を



●夜鳴鶯の歌唱会
 鼻にかかる鉄錆の香り。
 拭い残しの、誰かの血。
 美しい広間だからこそ、陰惨たるそれらが目について。
(……悪趣味で、虫酸が走る舞台)
 足元を見ればまだ新しい誰かの血が残っていて、ユキは眉を顰める。
(だけど……新たな犠牲者が増えるぐらいなら、わたしが舞台に立つ)
 広間の中央に立ったユキは、薔薇スカートのドレスを両手でぎゅっと握り、ライトを浴びながら顔を上げた。わたしが、やらなくちゃ。
 決意を篭めた目で、ゆっくりとユキへと向かってくる人影を見る。のったりと足を引きずるように歩いてくるその人の首にはぽっかりと暗い空洞が開き、身体から伸びた茨に紅い花を咲かせる――死花『ネクロ・ロマンス』。歌も命も、尊厳すらも奪い取られた、小鳥たちの成れの果て。安寧は訪れず、死して尚、こうして利用されている。
 眼前に立った死花――その苗床となったヒトの手が、ユキへと伸ばされる。
「ひっ」
 恐怖し怯える表情を見せ、喉を引きつらせて後退る。けれど気丈にも歌おうと声を震わせ、か細い声で歌いだす。
 ちゃんと歌えば助けてくれるのでしょう? そうでしょう?
 悲鳴のような歌を紡ぐも、死花の動きは止まりはしない。
「――あっ」
 ズリッ。
 後退ろうとしたところ、誰かの血に足を滑らせ尻もちをつく。そうなっては力の無い哀れな小鳥に逃げ場など無く、いやだと髪を振り乱して頭を振ることしか出来ない。
 頭を、鷲掴みにされる。死者の顔が間近に迫って、虚ろな目がユキを覗き込む。それは瞬きをいくつかするくらいの短い間だったことだろう。けれど、恐怖を与えるのには十分だ。――普通の小鳥ならば、だが。
「ごめ、なさ……おねが……ッ、ゆる、し、」
 助けてと乞う哀れな小鳥。
 けれど歌を止めるなと言わんばかりに鷲掴みにされた頭を横に払われて。
「――ッ!」
 叩きつけられる音が響くが、床に手を付きノロノロと身を起こし、謝罪を口にしながら震える歌を零す。
 ――しかしその一部は、演技だ。
 ユキが主催者に求められる通りの行動を取れば、彼等を倒す必要はない。哀れな骸たちに心を傷めるユキにとって、それはせめてもの救いだった。倒さなくてはいけないなら、倒す。けれど彼等は犠牲者で、被害者で、救えなかった人々だ。猟兵として人々を救いたいと願うユキは、彼等を殲滅するよりも彼等の攻撃を受けて耐える方が性に合う。何せこの身体は、人造のもの。幸いにも、耐える事には向いていた。
 痛みはある。苦しさも、ある。けれどその逆境の中で歌えば《シンガーズ・プライド》が身体能力を高めてくれる。
 茨の杭がその身を穿っても。茨の鞭がその身を打ち付けても。
 ユキは深い悲しみの旋律を、鎮魂歌を歌い続ける。
 死して尚、尊厳さえ奪われた人々へ、慈悲を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セラフィム・ヴェリヨン
【青鳥】

♪小鳥
誰に傷つけられようと
怯えは見せても決して歌わず
調律師さまの音にだけ口を開きましょう

喉を震わせば響く
アルモニカの歌声
比喩ではない“そのもの”の音を
人の姿で奏で歌う
高く透き通る旋律が響き合えば
貴方にしか引き出せない音だと微笑んで

一身に災を引き受ける姿に
悲鳴染みた音が混ざる
やめて、傷つけないで
貴方こそが私の空
失うくらいなら
羽も声もいらないの

♪猟兵
小鳥としての演技だけでなく
傷つく姿にはやっぱり心が痛む
けれど今の私がやるべきは
なんとしてもかの方の気をひくこと

珍しいでしょう
美しいでしょう
熾天使の名を冠す天上の音
人々を狂わせる悪魔の囁き
なんだっていい

歌は密かにUCを乗せて
マレークさまを癒します


マレーク・グランシャール
【青鳥】

◆調律師(役)として
小鳥の歌を【竜哭風琴】の伴奏と低音コーラスで支える
大地が無ければ空の高さを知る事もない
ハーモニーが重なる時だけが秘めた想いが通じ合うとき

小鳥の身に危険が及ぶくらいなら全ての災いを我が身に受けよう
もう俺のために鳴かなくていいから逃げてくれ
お前は俺という鳥籠から飛び立ち自由に生きるんだ

◆猟兵として
俺の歌と伴奏はあくまでセラの歌と声を引き立てるもの
目立ちすぎず、だが恋情はしっかり醸してみせる

敵に襲われても回避・防衛に徹して今は手の内は見せない
激痛に耐えきってみせる
流した血はボス戦への供え、血を代償とする俺のUCのトリガーとなろう
体力はセラのUCが回復してくれるはずだ



●幸せの青い小鳥の歌唱会
 長身の男に手を取られ、青い小鳥が広間の中央へと誘われる。
歩む度、背の後ろで結ばれたリボンの裾が鳥の羽のようにふうわり舞う。その姿はまるで、一羽の青い小鳥が室内に迷い込んできたよう。『ヒトの声』を持たない少女は、所作への音も持っていないのか。静かな佇まいの中、揺れるリボンだけが目を引いた。
 ライト浴びる定位置についた少女が、足を揃える。ふわりとついてきていたリボンがそれに合わせて落ちれば、青い小鳥が羽根を畳んで止まり木に止まったようにも見えたのか。鴉面の男が僅かに顎を引く様子が視界の端に映った。
 青い小鳥――セラフィムをたたせる為に半歩引いた位置でマレークも足を止める。セラフィムが微かに横を向けば、視線も合わせられる絶妙な位置。また、愛していると寄り添うには遠すぎ、お前はただの飼い鳥だと突き放すには近すぎる。そんな心の距離も思わせて。
 僅かに瞳を交わせば、マレークが『竜哭風琴』を奏でだす。その音に合わせ、小鳥は喉を震わせる。響く声音は、アルモニカ。高く澄んだ硝子のその音色は、比喩ではなく”そのもの”の音。天上の天使の歌声を、幸せの青い鳥が奏でる。
 アルモニカの歌声に、シャープな音質の竜哭風琴の音色。そこへ少し遅れて低音のコーラスが混ざる。マレークの歌声だ。三つの音が混ざり合い、不協和音を奏でること無く共鳴すれば、歌声はより高みへと昇華される。まるで元よりひとつの音のように。二人の想いもひとつであるかのように。感情の籠もった瞳も、ひそりと交わされあって。
 歌が始まれば、死花たちも動き出す。ぞろりと動き向かう先には、澄んだ声を響かせる青い小鳥の姿。
 茨の鞭が撓り、小鳥へと飛ばすように伸ばされる。
 肌に当たる、乾いた音。
 小さな、呻き声。
 しかし、それはセラフィムのものではない。セラフィムへ茨の鞭を振り上げる死花との間に入ったマレークが、その背に鞭を受けていた。不安げに向けられる視線に、大丈夫だと言うように頷いて。幾度も振るわれる茨の鞭をその身に受け、避けられるものは回避してやり過ごす。何処かで見ているであろう『お嬢様』の視線を気にし、手の内を見せぬ為にも攻撃は行わず。
 その度に小鳥は、針を飲み込んだような表情になった。それは演技だけではない。傷つく彼の姿には、やはり心が痛んでしまうから。
 楽器を思わせる声音に、感情の、悲しみの、色が乗る。悲鳴染みた音が混じれば、ちりぃんとベルの音が響いて、その後の死花はマレークのみを狙うようになる。セラフィムへの攻撃を遮るよりも攻撃を避けるのは易くなったが、一撃一撃が確実に重たいものとなった。セラフィムが密やかに《シンフォニック・キュア》を歌に乗せ、目立たぬように癒やしてはいるが、止血阻害毒は消せぬし啜られた血は戻ってはこない。血を操ることが叶うマレークにとって血を流すこと自体はデメリットではなく、今後の戦いに備えると思えば問題ではない。だが、身体を蝕む毒もある為、血を流しすぎるのは命に直結する問題となりそうだ。避けられる攻撃は避けるに越したことはない。
 銀の瞳が、水銀のように、揺れる。
 紫の瞳が、意思を燃やし、揺れる。
 その間も、二人の歌は途切れることなく続いている。

 お前に危険が及ぶなら災いは全て我が身に受けよう。――お前の幸せを願っている。
    やめて、傷つけないで。――けれど貴方は私を守るために自ら前へ。
 もう俺のために鳴かなくていい。逃げてくれ。――お前だけが俺の小鳥。
    貴方こそが私の空。――貴方が居なくては、私の声ははばたけない。
 俺という鳥籠から飛び立ち自由に生きるんだ。――共に生きられたら良かったのに。
    貴方を失うくらいなら羽も声もいらないの。――これが本当の、私の気持ち。

 互いの想いを、歌に篭め。
 互いにしか通じ合わぬ、互いには決して通じぬ、想いを乗せて。
 この場に作詞家が居たら、美しい言葉を連ねた喜劇にしただろうか。
 この場に戯曲家が居たら、決して結ばれない悲劇にしただろうか。
 珍かで美しい天上の音は、悪魔の囁きにも似て。
 二度目のベルが鳴らされるまで広間に響き渡るのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨乃森・依音
♢♡

ゴシック風の少年装
これがこの世界の装いか
…俺いくつだと思われてんだろ
舌打ち

絢爛豪華な内観が鼻につく
ついに始まるのか
…覚悟を決める
どこがステージだろうと構わねぇ
歌う歌が俺の歌ならな

今日の観客はお前らか
喉が…そういうことかよ
…今日はお前らのために歌ってやる

元より俺はそんなに強くねぇし
きっとこいつらにいいように弄ばれる

歌声に痛みに喘ぐ声が混ざることも隠さず
こんな歪んだ旋律の何がいいんだか
ああ!くそ…!それでも、それでも…!

耐えることには慣れているから
ずっとそうして生きてきたし
この身の白をいくら血で穢そうと
心は折れねぇし
這い蹲ってでも
祈りを籠めて歌い切ってやる

無様だと笑えよ
けれどこれが俺の戦いだ


穂結・神楽耶
♢♡
…痛みにはそこそこ耐性があるのですよね。
ヤドリガミですので。
しかしそれではお嬢様が満足なされないと。
ふむ。
一計が必要でございますね。

自分より前の小鳥の『うた』を見て、怯えて歌えなくなった小鳥を演じましょう。
死花に攻撃されて始めて、喉に力を込めます。
震える声に悲鳴を交えて。
朱の雫を彩りと添えて。
どうぞ、ご満足頂けますように。

この『唄』自体が癒しのUCです。
次の段階に備え、自分と他の猟兵を密かに治療しておきましょう。

…声がひきつるのは演技ではなく。
死して尚オブリビオンに利用される方々を思うと心が痛むのです。
ごめんなさい、救えなくて。
あと少し待っていてください。



●異国の小鳥と
(――ふむ。一計が必要でございますね)
 鳥籠で目覚めた神楽耶は、先に歌を披露していた”出演者”たちを見て思考を巡らせる。目覚めた小鳥たちを順番に広間の中央に連れて行く鴉面と、そこで繰り広げられる死花たちとの”共演”。歌う小鳥に悲鳴を上げさせる、悪趣味な催し。共演者から振るわれる茨の鞭はとても痛そうで、普通の小鳥であったならば恐怖に怯え、痛みに悲鳴を上げ、主催者の思惑通りに囀ってくれたであろう。
 しかし、神楽耶はヤドリガミ。痛みへの耐性があり、その上猟兵なため恐れる程の相手ではなかった。しかしそれではお嬢様が満足しない。
 ならば――。

●雨晴らす小鳥の歌唱会
 依音は、違和感を覚え目を覚ます。まず感じたのは肌に当たる布の感触だった。
 中世風のフリルブラウスは、上質なのだろう。とても肌触りが良い。ゆったりとしたバルーン袖は袖口を腕半ばまで取り、締めるべき場所は締める印象。袖に付いたカフス依音の瞳に合わせて二色の石が並んでいた。しかし襟が窮屈だ。緩めようと手を伸ばしたそこには金糸レース付きのベルベットリボン。見下ろす足は膝丈黒ズボンにソックスガーターが見える。
(……俺、いくつだと思われてんだろ)
 身長のせいか?
 思わず浮かんだ言葉に、チッと舌打ちが漏れた。
 囚われていた鳥籠も、衣装も、どこもかしこも豪華で鼻につく。いい趣味してるなと吐き捨てて――歌が、聞こえた。微かだが、歌が。猫の耳がぴくんと跳ねて、そちらへ向けられる。
 耳と一緒に向けられた視線の先は、広間の中央。そこに赤い着物の少女と何かが居た。少女は腰を抜かしているのか床に座り込み、その少女へ向かって何か――花を生やしたヒトが茨の鞭を振るわれている。歌えと命じられて居るのだろうか。鞭を振るわれる度に悲鳴をあげながら、震えた小さな声で異国のわらべ歌を口にしていた。
 ――チッ。
 再びの舌打ち。
 依音は考えるよりも先に、鳥籠から飛び出した。
(俺はそんなに強くねぇんだけどな)
 痛くないなら、痛くない方がいい。罵倒されずに済むなら、罵倒されない方がいい。唾を吐かれずに済むなら、その方が――。それでも依音は、今まで歌ってきた。石を投げられても罵倒されても唾を吐かれても。鞭がなんだ。それくらいくらってやるよ。耐えることには慣れているのだから。
 赤い着物の少女の前に飛び出して、代わりに鞭を受ける。白いブラウスは裂け、肌に赤い跡。切れた肌からぷくりと赤い血粒が浮かんで。
「っ」
 悲鳴を飲み込み、花咲くヒトを見る。生けるヒトの肌をしていないその姿。喪われた喉。それだけで、察するには十分だった。悪趣味で、胸くそ悪くて、鼻の上に皺が寄る。
 庇った少女に袖を引かれ、見る。視線を向ければ赤い着物の少女――神楽耶と真っ直ぐに目が合った。間近で見た神楽耶の瞳に、恐れは、ない。唇からは小さくわらべ歌が紡がれ、依音の怪我を目立たぬ程度に癒やしていく。
(ああ、こいつも)
 同朋。お仲間か。
 瞳にある強い色に、それが演技なのだと知った。ならば依音も歌わねばならない。主催者が好む、悲鳴や嗚咽混じりの歌を。歌わねばもっとひどい事をされると訴えるように首を振ってみせる神楽耶に合わせ、依音もまた、歌い始めた。
 ふたつに増えた獲物に、死花たちがぞろりと蠢き集ってくる。鞭が飛び、棘が飛び、ふたりの肌を傷付ける。
 痛みに耐性のある神楽耶の声が震えるのは、演技だけではない。死花が動かす死体の、ぽっかり開いた空虚な喉を目にする度に心が痛んでしまうのだ。救えたかも知れない。けれど、救えなかった命。そして全てを奪われ尽くして尚利用される遺体。
(――ごめんなさい、救えなくて)
(……今日はお前らのために歌ってやる)
 喉も声も命も、尊厳さえも奪われて、屈辱の夜に身を晒し続けるお前たちのために。
 二人の歌声が喘ぐように掠れても、二人の心が折れることはないのだから。
 依音と神楽耶は歌を歌う。
 それは、お嬢様のためではない。
 犠牲となったかつての小鳥たちへの、死して尚、利用されている人々のため。
 ふたりは歌う。祈りを篭めて、願いを篭めて、救えなかった悲しみを篭めて。
 その身がいくら朱に染まろうとも、ふたりは歌い続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス

【双星】
服:綺麗系お任せ

死花に囲まれても黙ったまま
表情だけで誘う様に挑発する
さあいいように鳴かせてくれよ
…けどいくら待ってもアレスは動かない
あのバカ…!
最初からそういうつもりか
…アレス!
悲鳴にも似た声で名前を呼んで
駆ける寸前静止の声に何のためにここに来たかを思い出し足をとめる

笑うアレスと目があった

鳥籠で、街を守る為と自分に殺されていった優しい人達の姿とアレスがダブる
…わかっている
わかっていてもアレスの元に駆け寄って
傷つける全てを殺したいと思った

ああ、でも
許したのは俺だ

やめろ…
ソイツを傷つける必要なんてない
いくらでも素直に鳴いてみせるから
攻撃するなら俺にしろ
無意識で泣き
歌で誘う様に
必死に囀ずる


アレクシス・ミラ

【双星】

僕が調律師としてやるべき事は、求められている事は解っている
けど…鞭なんて使いたくない
…だから

剣を抜き、セリオスに背を向け
死花を斬る
煽るように剣を構える
彼を鳴かせたいのでしょう?…ならば、私を狙え
ーー来るな、セリオス!!
止めるように叫ぶ
代わりに振り返り微笑んで見せる
…ごめんね
歌って、セリオス
心に誓うは【天誓の暁星】
僕は…君を守る

死花の手が届く前に斬り倒す勢いで
孤軍奮闘するも
多勢に無勢か、確実に消耗されていく
セリオスが懇願しても
彼の方へは行かせるか、傷つけさせるかと彼を背に死花の前に立ち塞がる
…歌声が震えている
君にこんな思いさせたくなかったのに
…泣かせてごめん
…調律師に向いていないね、僕



●双星の歌唱会
 星を散りばめた夜の色。漆黒のリボンは幾重にも。細身の黒い下衣は、ドレスのようなフィッシュテールのドレープに守られて。
 銀の玉飾りをしゃらりと揺らして見詰める先には、ゆっくりと近付いてくる悪趣味な赤い花たち。調律師として鞭を手にしたアレクシスを連れ、セリオスは悠然と死花たちを見ていた。
(さあ、いいように鳴かせてくれよ)
 死花たちに傷付けられるつもりは毛頭ない。俺を鳴かせられるのはアレスだけ。そうだろ、アレス?
 誘うような笑みを乗せ、アレクシスを見上げる。手筈通り、その手にした鞭を振るえばいい。アレクシスの鞭で、鳴いて。鳴きながら歌えば、主催者は満足するのだから。
 しかし、いくら待ってもアレクシスは動こうとしない。否、先程からずっと、鞭を握る手だけが震えていることに、顔だけを見上げていたセリオスは気付いていなかった。
 死花が近付いてきている。これ以上近付かれれば射程範囲になる、そんな時。セリオスからしたら唐突に、アレクシスからしたら悩んだ末に、彼は身を翻し、剣を抜いた。
 止める間も、無かった。
 アレクシスは一番近い死花へと駆け寄り、切り伏せる。喉を喪った屍体は、悲鳴のひとつもあげずに両断され崩れ落ちた。
「彼を鳴かせたいのでしょう? ……ならば、私を狙え」
 隙無く剣を構えて告げれば、ちりぃんとどこかでベルが鳴り、控えていた死花たちがぞろりぞろりと動き出す。標的が自分に定まったと確信できたアレクシスは、更にセリオスから距離を取る。万が一にも、彼が傷付かないように。
「……アレス!」
 アレクシスが最初からそのつもりだったことに気付いたセリオスが、悲鳴にも似た声で叫ぶ。あのバカと心の中で罵るが、最前に出る感情はいつだって彼を案じる気持ち。
「――来るな、セリオス!!」
 一歩。前に踏み出したセリオスの足が縫い留められる。アレクシスの声が、耳に、心に、痛い。今すぐに駆け寄りたいのに、それが出来ない。ここに来た目的を、彼の声が思い出させてくれるから。だからこそ、痛かった。
「……ごめんね」
 剣を死花たちへと構えたまま、顔だけ振り返ってアレクシスが微笑む。歌ってと、唇が動く。
 優しい人の、優しい笑顔。
 それは、セリオスが殺した優しい人たちの笑顔にも似て――。
(……わかっている)
 歯を、食いしばる。そうしなくては、駆け出していた。今すぐに駆け寄って、お前を傷付ける全てを殺してやりたい。そう、思ってしまう。
 けれど、彼がついてくるのを許して、彼にそうさせているのは、自分だ。アレクシスがセリオスを守ろうとしないはずがないことを知っていたのに。知っていて、出来るだけ考えないようにしたのだ。『調律師』としてついてくると言った優しい彼が、全う出来ない事なんて解りきっていたことなのに。
 セリオスは唇を戦慄かせ、歌を、紡ぐ。せめて、せめて、彼が少しでも傷付かないで済むようにと願い、癒やしの歌を。
 死花がアレクシスに群がり、赤い花で彼の姿が見えなくなる。
(やめろ……)
 やめてくれ。
 ソイツを傷つける必要なんてない。
 歌声がほしいなら、歌ってやる。
 鳴き声がほしいなら、いくらでも素直に鳴いてみせるから。
 攻撃するなら俺にしろ。俺を攻撃すればいい。
 だから。だから、お願いだ。優しいソイツを傷付けないで――。
 必死に想いを込めて、セリオスは歌う。こっちを見ろと死花たちへと訴えかける。けれど死花たちは主の命令のベルが鳴らなければ、セリオスがどんなに必死に囀り誘っても見向きもしないのだ……。
 いつの間にか、セリオスの頬を涙が伝っていた。熱い涙が頬を濡らしていることに、セリオスは気付かない。それよりも、早くこの巫山戯た舞台が終わるように、アレクシスが開放される事を願い。ただ、歌った。
(ああ……歌声が震えている)
 セリオスの歌声が、涙の色に染まっている。花たちで姿は見えないけれど、彼が泣いてしまっていることが解る。
 泣かないで、と思う。泣かせてごめん、とも思う。けれど泣かせてしまっているのは自分で。泣かせてしまっていることが、苦しくて。自分のために泣いてくれることが、微かに嬉しい。
(……調律師に向いていないね、僕)
 苦い笑みを乗せ、剣を振るう。
 空いた肩口に、杭が穿たれる。
 返す刃で斬り伏せて、主催が飽きぬように死花を相手取る。アレクシスに飽きたら、セリオスへとまた矛先が向かうかも知れない。それだけは絶対にさせはしないと、ただ剣を振るった。
 いつだって、心に誓うは《天誓の暁星》。
 君を守ると決めたあの日から、僕は君の盾で剣だ。
 例え手にした剣が折れようと、心に宿した剣は折れない。
 君を守る誓いの炎は、消せやしないのだから。

 黒鳥が歌い、騎士が戦う。
 震える歌声に、勇ましい声。
 歌唱会の幕が降りるまで、黒鳥の歌声を伴にした騎士のダンスは続くのだった。


●三度のベル
 ちりぃん、りぃん、りぃん。
 ベルが三度鳴らされれば、終幕の合図。

 楽しい楽しい、お嬢様のための歌唱会。これにて、終幕――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『黒茨の魔嬢『メローゼ・トロイメツァライ』』

POW   :    おなか、へった
全身を【黒茨の咎の牢獄】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    ……ねむい
【夢幻の眠りを齎す蝶の残滓】【幻惑し迷いを齎す蝶の亡骸】【焼け焦げた黒茨の咎鞭】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    大輪の薔薇にて紅く染めテ
自身の装備武器を無数の【伝染する呪詛の込められた薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
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●幕間
 とてもとても、すてきな『歌唱会』だった。
 やっぱし歌唱会を開いて正解だったわ。最近は小鳥さんを探しても全然見つからなかったのに、少し遠くの町まで触れて回ったのだ良かったのかしら。
 余韻も冷めぬまま、わたくしはほうと小さく吐息を零す。
「生きがいいと矢張り違うわね。すてきなダンスにすてきな歌だったわ」
 どうやら隣で見ていた彼も、今日は楽しめた様子。
 あまり血を流させすぎては小鳥さんの質が落ちてしまうし、この子に欲しがられても困ってしまう。喉しか口にしないとは言え、他の部分は茨が、そして可愛いお花の苗床として活用しているのだからあげられないもの。ベルを鳴らすタイミングはとても難しいものだったけれど、楽しく愛しいひと時だった。
 お気に入りはあの子でしょう。問われた声に顔を向け、笑みを浮かべる。
「ご想像にお任せするわ」
 だって、わたくしのお気に入りが誰かだなんて、あなたには関係ないもの。横取りされたくもないし、ね。
「また遊びましょうね」
 そう言ってわたくしは席を立ち、住処の塔へと戻っていく。

●右の塔
 ふたつの塔へ、オブリビオンたちが戻っていった。
 鳥籠ごと地下牢へと運ばれた猟兵たちは、見張りの監視下で大人しく夜を待つこととなる。
 僅かな明かり取りの穴から夜を知れる頃、かちゃりと閉ざされた扉が開かれた。いつの間にか監視をしていた見張りたちの姿はなく、グリモア猟兵が手引きをした協力者が鍵を手に駆け上がるべき階段を指し示してくれている。
 猟兵たちは、ひと息に塔を駆け上る。静まり返った塔に人影はなく、難なく『お嬢様』の部屋の前までたどり着けた。
 扉の前、息を正して。猟兵たちは互いに顔を見合わせ、頷き合う。
 そうして開かれた扉の先は、とても暗かった。
 塔の最上階。丸みのある天上には星々が描かれ、広い室内には至るところに花が咲いているようだ。むせ返しそうな程の強い香りに、その花が薔薇と知れることだろう。
 その、中央。仄かな洋燈の明かりと共に、この塔の主『黒茨の魔嬢』メローゼ・トロイメツァライの姿があった。
「あら」
 薔薇の香りが充満する中、白いガゼボのような場所で優雅に紅茶を楽しんでいたメローゼの赤い瞳が、開かれた扉へと向けられる。
「怪我が少ない生きの良い子から食べようかと思っていたけれど」
 次々と室内へと押し入ってくる猟兵たちを見渡す赤い瞳は、爛々と輝いて。
「どの小鳥さんも、わたくしに早く食べられたいのね」
 室内に満ちた、黒い茨たちが蠢く。猟兵たちの足下でも何かが動いて、床が茨に覆われている事をやっと気付ける程度に、室内の闇に茨たちは同化していた。
 ふわ。メローゼが小さく欠伸を零す。
「眠たいし、早めに終わらせましょう」


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⚠ MSより ⚠
 とても基本的な事ですが、戦闘ルールにあるとおり、敵は使用したユーベルコードと同能力値の戦闘方法で反撃してきます。たくさん選択すれば、敵も同じくらい動ける時間があると考えてください。あなたが動いた分だけ、敵もただ見ている訳ではないので動きます。

 戦闘場所は、塔の最上階。全員で押しかけても戦えるだけのスペースはありますが、夜なので室内はとても暗いです。光源はメローゼの側にランプがひとつと壁に蝋燭の炎が一定間隔に。
 室内にドッと人が詰めかけている状態の描写となりますので、フレンドリーファイアに気をつけて戦って頂けると、あなたもみなさんもハッピーになれます。同様に敵の「大輪の薔薇にて紅く染めテ」は部屋の大きさ的に全体攻撃になります。
 他者と絡みたく無くとも、同じ場所に居るため、どうしても絡ませてしまう場面が出てくることもあります。

 此度の『お嬢様』は、歌を沢山聞いて過ごしてきている為、『あるもの』への耐性があります。お気をつけください。(他参加者様のシーンも参照されますと、匂わすものがあるかと思います)

●二章からの負傷について
 歌唱会で披露中、歌に違和感無く回復ユーベルコードを乗せた分である程度回復している人も居ます。が、ユーベルコードを使う=猟兵と思われない程度ですので、「調律師さんに庇われて無傷!」な人以外は負傷しています。
 負傷度合いはそれぞれ違うので、二章での描写から読み取って頂ければ幸いです。
 一度牢屋に収容されているので、その時に軟膏と包帯くらいは支給されています。(三章開始してからでないと回復ユーベルコードは使用できません)
 また、三章からのご参加の場合も同様の扱いになります。

【第3章のプレイング受付は、6/30(日)朝8:31~7/2(火)8:29まで】です。
 いつもより一日短い受付となりますのでお気をつけください。
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誘名・櫻宵
🌸リル/f10762


ごめんねリル
怪我はない?
リルを守りたかった
悔いてない
あなたが無事ならいいの
(歌であたしを傷つけた事に気がついてない?それでいい

泪の歌に癒されて
いいわ
閉じ込めて離さないで
あなたという水槽に

戸惑うも優しく片腕でリルを抱え
片手で刀を握る
【櫻華】で喚んだ友達、青龍と朱雀
仲間を巻き込まないよう注意しながら戦って頂戴
なぎ払い貫き噛み砕き
青龍で守り朱雀で穿つ

攻撃は見切りで躱し
呪詛込めた衝撃波でなぎ払い、傷を抉る
リルが守ってくれるから大丈夫

あなた
沢山食べてきたのね
あたしの人魚はあたしのなの
渡さない
今度はあなたの番

食い殺せ

友達が消えたなら
グラップルで殴り込み怪力のせ叩きつけて
首を刎ねるわ


リル・ルリ
■櫻宵/f02768


水槽割って詰め寄る
櫻宵のばかばか!
何やってるんだ!
怒りたいことは沢山
君が傷つく方が痛い苦しいって何度言ったら!
でも
悔いてないと笑う
不器用な癖に
不器用なりの精一杯で守ってくれる君がすき

まず優先するのは櫻の治療
『泪の歌』歌って傷を癒す
しまいには閉じ込めるぞ!なんて脅し


僕を抱えて
…櫻
アレには多分
歌は効かない

僕は君を守る事に尽力する
僕から離れないで
離さないで
そうであれば僕は何者からも君を守れる
歌唱に鼓舞をこめて歌う『花籠の歌』
信じるんだ
君を閉じ込める水槽は守りの囲
櫻が傷つきにいくなら
傷つかないように僕が守る

しがみついて歌う
もう君を傷つけさせはしない
悪いね
この喉は
彼の為にあるんだ


朧・蒼夜
幼馴染の咲夜(f00865)

俺のこんな傷は大丈夫
何ともない
ただ
咲夜の心を傷つけてしまった
彼女が愛していた歌を
哀しみの唄にしてしまった
君の笑顔を護ると誓ったのに

そっと寄り添う彼女がとても心地良い
彼女は唄う、凛と前へを向き愛と癒しの歌を
亡くなった者、ここにいる皆、俺に贈る優しい歌

あぁ…
この姿こそ彼女の本当の姿
美しい天女の歌姫

だから今度こそ護ろう
誰にも奪わせない

俺が何があっても今の彼女なら大丈夫だ

【藤騎士】で彼女を護りつつ
彼女の歌を聴きながらそれを力に変えて

【黒藤】でトドメを刺すように暗殺
敵の首、喉を斬る

彼女の声も歌も笑顔も
お前にはやらない


東雲・咲夜
♢そうくん(f01798)と

幼馴染の負傷した姿に胸を痛めつつも
暗澹と対峙する最中気は緩めへん

うちは大丈夫
奏でる歌がどないなものであっても
其れはうちらが生きてる証
哀しくても、傷ついても
此の魂が在る限り謡い続ける
愛すべき瞬間――

今度はうちが、そうくんを守りたい
水神霊の楯を常に寄り添わせ

紅血に赫う輝を跳ね返すよう
清泉の燐光にて真っ直ぐに見据え
宵闇を震わせる旋律は神々しく
凛と澄み渡る水鈴琴の奏聲

黒檻を物理的に毀せへんのなら
又、内側依り崩すだけ
祝詞に麗しき調べを添えた巫女の楽音は
破魔のみに特化し魔を浄化する

周囲を巻き込む灼熱の薔薇の嵐から
皆さんを温かく包み籠む桜花の吹雪
どうか痛苦を、哀しみを和らげて……


穂結・神楽耶
♢♡
歌唱会にはご満足頂けたようで何より。
けれどわたくし達にとってはこちらこそが本番ですので。
早く終わらせることだけ、同意致します。

部屋の床一面が茨…となると、どこから攻撃されるかも読めませんか。
『戦闘知識』から予測立てて攻防を両立させましょう。
纏った炎で『オーラ防御』を張り、負傷等で動きの鈍い方々を『かばう』のを主に。
隙が見え次第『援護射撃』で道を拓きます。
茨…しかも闇に紛れるオブリビオンの手足でしたら炎と光には弱いはず。
猟兵の皆様方への巻き込みと、塔自体の崩落にだけ注意しながら派手にやらせて頂きましょう。

あなたのこれまでの狼藉は許しがたいものです。
歌いたいなら骸の海相手になさってください。


ユキ・コシイ
……この舞台のメインを務めるのはわたしじゃないわね
未来を創る力は、生身の人間には及ばないもの

わたしがやることは…部屋全体に舞う薔薇の花弁に誰よりも率先し、立ち向かうこと
ダメージは少なくない、痛覚情報を遮断…覚悟を決めて、行く
そして、【インプロンプト・ソング】は…受けた攻撃を己の歌として取り込むUC
歌とともに放つ花弁で狙うは、敵、そして…放たれた全ての薔薇
私の全装備と引き換えに、あなたの薔薇となった全装備を撃ち落とし…次に繋ぐ

…命を…塵芥のように扱い
歌を紡ぐ者の未来を、可能性を喰らう存在
人類の隣人といて造られた私とは…決して相容れない存在
夜鳴鶯…いえ、墓場鳥が…冥府までの道を照らしましょう
♢♡


雨乃森・依音
♢♡

あーくそ…
いくら覚悟決めても痛ぇもんは痛ぇし
本当はめちゃくちゃ怖ぇ…けど
あいつらの仇取ってやらねぇと
体に鞭打ってでも往く

あ、
俺なんか回復しても戦力の足しにはならねぇから
他の奴優先してくれな
歌えるだけの力が残っていればそれでいい
戦うのは俺じゃないから


――ソテル、お願いだ
俺たちを、この世界を
救ってくれよ救世主!


祈りを籠めた歌で共依存の邪神を喚ぶ
俺は邪魔にならない場所で歌って支援
基本的に小回りの利くサイズで立ち回ってもらい
ここぞというときに巨大化し威力を増す
花弁も茨も全部喰っちまえ
俺や仲間に攻撃が及びそうなら盾になってもらう

てるてる坊主は晴れの象徴
いつかこの世界も晴れるよう
俺は祈ることをやめない


セリオス・アリス

【双星】
アレス、お前は下がってろ
牢の中で泣いて怒ったそれ以上に
甘い自分とアイツを傷つけたヤツに対する怒りがまだ身を焼いていた
【青星の盟約】で攻撃力を上げ
怒りのままに駆け
拳に全力の炎を纏わせて
茨が邪魔をするならそれごと燃やせばいいと2回攻撃
敵が燃え尽きるまで
それを何度も繰り返そう
茨で手が傷つこうが知った事かと何度も殴る

はなせっ…!
拳を止められても動こうとしたそれは抱える腕に遮られ
後ろに下がる

その体温と焼けたアレスの手が
熱い筈のそれが
頭にのぼった熱を冷ましてくれた
…お前は、悪くない
けど後で説教だ
…アレス、借りるぞ
手に優しく触れ赤星を抜く
何時もより少し重たい剣に
今度は光の属性を纏わせ
鎧砕きの一撃を


アレクシス・ミラ

【双星】

…歌唱会で無茶をしてしまった
君の言う通りにするが
せめて…手助けはさせてくれ
闇を照らすように光属性の衝撃波で援護する

セリオスの容赦無い炎に危機感を抱く
この荊の部屋でそれ以上炎を使っては君や周りまで…!
セリオス!!
炎が燃え広がる前に後ろから炎纏う手首を火炎耐性と激痛耐性で掴み
彼を落ち着かせようと抱き寄せて一旦退く
…掴む手が焼ける
でも、彼の激情の原因の殆どは僕で
護りたい意志が、行為が…君を泣かせ、怒らせたのは事実だ
…ごめん
君をさらに怒らせるかもしれないが
…最後まで君を守らせて欲しい
彼を抱えたまま【聖護の盾】を展開、攻撃を相殺する
傷つけさせるものか…!

…ああ、君が望むなら
僕の光を赤星に託そう


マレーク・グランシャール
【青鳥】

槍の一撃は強力だが、敵に無敵化されると威力を発揮出来ない
そのためには無敵化させないことが前提となる
セラ、無敵化されないよう、敵に別の技を使わせるか、技そのものを封じて貰えるか?

セラが敵の技を封じたその瞬間、【邪竜降臨】で槍を邪竜へと変え、【黒華軍靴】でダッシュしたら捨て身の一撃を食らわす
歌唱会で受けた傷と疲労、そして敵の耐性を考えれば一度きりのチャンスだろう

なおセラがUCを使う時は【竜骨鉄扇】で花弁を吹き飛ばして彼女を守る
青い鳥を──同志である彼女を傷つけさせない
またこちらの意図が悟られないよう、最初のうちは【金月藤門】の演技やフェイントを駆使して無敵化する必要なしと思わせる


セラフィム・ヴェリヨン
【青鳥】
ようやくお目見え
ここであなたの食事を終わらせましょう
尋ねられれば頷き
応えて見せるわ、とUC発動
金髪の少女、美しい声
もしかしたらあなたの好みかもしれないわね
でもこの子は私の隣人だから
あげられるのは、拘束だけ
さぁ叫んで、声の限り
悲鳴で歌を奏でましょう
敵が聞き惚れて動けなくなるまで

マレークさまが花弁を飛ばすのは
私も赤のエリュテイアに風を纏わせ加勢を
青い鳥も調律師も、もうここにはいない
だからここからは猟兵として隣に
ここまで守ってくださったことへ
信じてくださったことへ
小鳥としての思いを信頼に変えて
今、マレークさまに返すわ

そしてあなたには終焉を
命の奪われた歌う小鳥の
無念をここで、知りなさい


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
はぁ、痛ってぇ…長々と遊びやがって
グラナトさんからじゃなきゃ我慢してねぇっての
この借りはキッチリ返してやっからなっ!
痛む傷は【激痛耐性】で耐える、あの女に一発くれてやらねぇと気が済まねぇ

グラナトさんの後ろから風【属性攻撃】で炎の威力を高めて援護する
やばそうな攻撃は【野生の勘】で回避するが
それ以外の攻撃を喰らったら
敢えて倒れて動けない振りをする
もう既にボロボロだかんな【演技】も必要なさそうだけど
敵が接近してくんなら【だまし討ち】で炎の【全力魔法】【零距離射撃】してやるよ
放っておかれんなら
意識が逸れたタイミングを見計らって
UCで敵の死角から接近して一発お見舞いする


グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と。
さて、やっと悪趣味なオブリビオンを倒せるな。マクベスへ俺以外がつけた傷の借りは返させてもらおうか。

俺の小鳥に俺以外が傷付けるなど許さない。
(それが歪んだ愛情だとしても)

マクベス。傷を負っているんだ出来るだけ後ろに下がっていろ。

敵UCに備えて【呪詛耐性】

【封印を解く】で神の力を限定解除。
【高速詠唱】でUC【業火の槍】発動。
【属性攻撃】炎で業火の槍を強化。
先ほどまでとは火力が違うぞ…花弁ごと燃やしつくそう…!

【戦闘知識】【属性攻撃】炎で向かってくる攻撃は全て燃やしてそらす。


七那原・エクル
七那原・望と共に参戦

もっと念入りに詳細に作戦の打ち合わせをしておけば、もう過ぎたことで後悔しても遅いのは頭ではわかっているけど、どこか納得できない、ボクの判断ミスで望に必要のない痛みを与えてしまった。望に負担をかけずにここはボクが頑張らないと。

外で待機させていた宇宙バイクを喚んで戦闘に参加、敵のユーベルコードから放たれる攻撃を蒸気ガトリングガンで撃ち落とすよ。宇宙バイクは戦闘に応じてレールカノン砲形態に変形してボクの【援護射撃】をお願い。追従させたクンバンダ・Fに搭載した火器から放つ【誘導弾】を敵ユーベルコード攻撃の隙間を縫うように放ち攻撃 

魔剣>魔斧>魔槍(敵UC迎撃用)の優先度でUCを放つ


七那原・望
えくるん(f07720)とペアで参加です。

深刻なダメージを受けた身体での戦闘は困難な為、【念力】【操縦】で遠隔操作した機掌・プレストに【騎乗】し、【第六感】と【野生の勘】を駆使して戦います。

鳴かせられますか?
【歌唱】で相手を【誘惑】し気を引きます。
【アベンジ・オブ・アークライト】で相手の攻撃を防ぎつつ、先の披露会でのえくるんの電気ショックで受けた生命活動に影響を及ぼすほどのダメージを糧に、戦闘能力を強化します。

ここまでやってくれたおかげの力。
えくるんの判断は何一つ間違ってない……!

穿奏・ヴィヴァーチェでフレンドリィファイアに気を付けながら【援護射撃】、隙が出来たら【零距離射撃】を決めます。


シホ・エーデルワイス
♢♡
【救園】に隠していた聖銃を取り出して参戦

私が庇った少女は無事かしら?
協力者さん達が保護していると安心して戦えるのですが…

お嬢様に憎悪などは感じません
世界を壊す事が役割のオブリビオンに
毎回怒っていたら心が保てなくなるから…
抱く感情は分かり合えない悲しみぐらいです


味方との連携重視
邪魔にならないよう翼で浮遊

視界は<暗視>で確保

呪詛や咎鞭への対策に
<医術、呪詛耐性、火炎耐性>を応用した【祝音】で
負傷具合が酷い人を優先して回復

敵の攻撃は<第六感、見切り、残像>で回避し
当たりそうなら<呪詛耐性でオーラ防御>


戦後
鎮魂歌を歌唱し犠牲者を弔う

庇った少女が無事なら
元気に帰れるよう
髪の花と【救園】の保存食を渡す



●ラスト・ソング
 欠伸を零したメローゼが、手にしていた紅茶のカップをテーブルに置いて立ち上がる。ゆっくりとした動きでティーセットから離れてメローゼがガゼボから出てくると、ぽかりと浮かぶ月を閉じ込めたような洋燈は彼女の背に隠される形となり、猟兵たちの視界の闇の濃さが増した。
「歌唱会にはご満足頂けたようで何より」
 闇の中、神楽耶(思惟の刃・f15297)は真っ直ぐにメローゼへと視線を向ける。逆光となったメローゼの表情は見えない。しかし、微笑んでいるのだろう。そんな気配がした。
「けれどわたくし達にとってはこちらこそが本番ですので。早く終わらせることだけ、同意致します」
 神楽耶の言葉と闇に紛れ、しゅるりと小さく響くその音は、リボンを解くような音にも衣擦れの音にも似て。されど、違う。この場にいるのは猟兵たちと『黒茨の魔嬢』メローゼ・トロイメツァライ、そして――。
 猟兵たちへと闇から何かが襲いかかり、ある者は足を絡め取られ、ある者は飛び退いて避ける。僅かではあるが暗闇でも目が効くシホ(捧げるもの・f03442)は、翼を広げて浮遊してそれを躱した。ばさりと大きく翼を動かして見下ろす先にあるのは、闇に紛れて蠢く黒茨。そして、手元にも伸びたそれを優しく触れるメローゼ。彼女を見詰めるシホの瞳はとても静かだった。他の猟兵たちは多かれ少なかれ怒りに近い感情を抱いているが、シホには全くと言って良いほどそれがない。胸に浮かぶのは、ただ分かり合えない哀しみ。それだけだった。
 中空に浮かんだシホは突然姿を消す。しかし、十字架のペンダントが地面に落ちる頃には白い聖銃『Pea』を手に再度現れており、落ち着いた優美な佇まいで腰を屈め、地面に落ちたペンダントを拾い上げた。庇った少女とは牢で別れ、協力者に保護を頼んだ。そのため、シホは憂いなく安心して戦える。
 腰を屈めたシホの上を、ふたつの影が飛び出した。白い宇宙バイク『機掌・プレスト』には望(封印されし果実・f04836)、『トライデントクェイカー』にはエクル(ダブルキャスト・f07720)。外で待機させていた宇宙バイクを喚び出した二人は騎乗して、バイクのライトで茨を照らして宙を駆る。
 望の損傷具合の激しく、身ひとつで立ち回る事は困難だった。しかし、機掌・プレストを意思の力で操る事により、戦場に身を置けている。大丈夫だと笑みを向けても彼女の大事な人は眉を下げるばかりだろうから、その身で示すために金のハンドルを握り締めた。
 そんな望を先導するように、エクルはトライデントクェイカーを駆る。そんな彼の心中は後悔で埋め尽くされていた。自分の甘さ、覚悟の無さ、そして別人格の行動。過ぎた事で後悔しても遅いとは解っていても、大事な人に必要のない痛みを与えてしまったと思わずにはいられなかった。実際不必要であるかと問えば、答えは否だ。あの場には必要で、演技やニセモノではない痛苦の中、望はエクルを信じて歌いきったのだから。
(――望に負担をかけずに、ここはボクが頑張らないと)
 決意を胸にハンドルを握ったエクルは、撹乱すべくトライデントクェイカーを走らせた。
 炎を混ぜたオーラを纏った神楽耶が、依音(紫雨・f00642)に迫っていた黒茨から彼を庇う。どこから襲われるか解らない黒茨であったが、戦闘経験を生かして予測を立てれば傷ついた者――それも死角から狙おうとするだろうことが解る。ならばと動いた先、それが依音の元であった。
 庇われた依音はと言うと、思わず庇わなくていいと言いかけた。正直戦力の足しにならないだろう自分を回復したり庇うよりも、他の奴等を優先して欲しい。その方が戦力になるとは彼の弁。戦力にならないと思いながらも身体に鞭打ちここまで来たのは、犠牲になった小鳥たちの仇を取るためだけだ。
 しかし。
「先程、庇って頂きました。おあいこです」
「……そ。ありがと」
 素直に感謝の言葉が出たのは、神楽耶が振り向き笑みを浮かべながら告げた言葉がすとんと胸に落ちたから。おあいこならしょうがないよな。
 でも回復はいらねぇからと固辞する。他の猟兵たちにも聞こえるように、はっきりと。
 依音には歌うだけの力が残ればいい。這いつくばってでも、歌えればそれでいい。戦うのは、依音じゃないから。歌さえ歌えれば、依音の『神』は応えてくれる。
「皆さん、ご無事ですか?」
 咄嗟に蒼夜(藤鬼の騎士・f01798)に抱えられ黒茨を回避した咲夜(詠沫の桜巫女・f00865)の声が、闇の中に優しく響く。
 自身を守るように抱く優しい腕に愛しさを感じながら「そうくん、無理せんでな」と笑みを向けるが、その表情はいつもより暗い。自分の為に傷を負った幼馴染を想う度に胸は締め付けられるようにぎゅっと痛み、ともすれば空を宿した瞳に涙が浮かびそうになる。けれど、ここは戦場。これ以上彼は傷付けさせないと強い意志を呼び起こして気を張った。……それでも不安の現れか、彼の腕へと自然と腕が伸び、その袖を握ってしまう。彼が怪我をするのが、彼が喪われるのが、怖くて。
 咲夜の手に、蒼夜の手が重ねられる。言葉にしなくても、きっと彼女に想いは伝わる。大丈夫だと想いを篭めて彼女の顔を見る蒼夜の瞳もまた揺れていた。
(君の笑顔を護ると誓ったのに――)
 咲夜の心を傷付け、彼女が愛した歌を哀しみの唄に変えてしまったのは外でもない自分。だからこそ、蒼夜は決意する。これ以上彼女を傷付けはしないと。他の何者にも傷付けさせはしまいと。
 大事無い。そう答えるのは火炎の戦神グラナト(火炎纏う蠍の神・f16720)だ。
「さて、やっと悪趣味なオブリビオンを倒せるな」
「はぁ、痛ってぇ……長々と遊びやがって」
 グラナトさんからじゃなきゃ我慢してねぇっての。
 そうぼやくマクベス(ツッコミを宿命づけられた少年・f15930)を見れば、グラナトは僅かに口の端を上げる。露出の高い白い服に身を包む『小鳥さん』の彼の頭は、今は帽子で隠されておらず、愛らしい猫耳がぴょこんと立っている。その右耳には、牢を抜け出した折に武器と共に手渡した揃いの赤薔薇水晶のピアス。血の色よりも火傷の跡よりも、断然似合う色が暗闇の中でも尚輝いて。
「なに」
「いや。俺の小鳥に俺以外が傷付けるなど許さない……と思ってな」
「おう! この借りはキッチリ返してやっからなっ!」
(――例えそれが歪んだ愛情だとしても。誰かに傷付けられるお前を見るよりはいい)
 傷が痛むであろうに拳を握って宣言するマクベスを見つめる炎神は、内に秘めた炎を口にせず。
「マクベス。傷を負っているのだ。出来るだけ後ろに下がっていろ」
 あの女に一発くれてやらねぇと気が済まねぇと意気込む彼の肩に手を置いて、グラナトは一歩前へ出る。
 掌の上に炎を出すと、暗闇が照らされた。
 視界の端で蠢いた影に備えて炎を放てば、黒茨が焼け焦げて。
 焦げた茨を飛び越えて、二機の宇宙バイクが宙を駆ける。室内というバイクで駆けるには狭い空間。二人は衝突事故を起こさないように気をつけながらぐるぐると駆けて、援護射撃をする。
 ――鳴かせられますか?
 メローゼを誘惑しようと、望は喉に手を這わせて小さく誘惑の歌を紡ぐ。だが、メローゼはチラと一瞥するだけで視線を逸らす。たくさんの小鳥たちの歌を聞いてきた彼女に、魅了や誘惑は効かない。いちいち誘惑や魅了をされていては小鳥に逃げられ、愛しい喉にはありつけはしない。
 そしてメローゼは、小鳥たちが調律師を傷つければ鳴く事を知っている。唇に楽しそうな笑みを見付けた望は、「あ」と口を開いた。
「えくるんっ」
 小鳥が一羽、鳴いた。鳴かせられますかと挑発して、鳴かされた。
 いくつもの茨が、望の大切な人へと向かう。
 既に望は満身創痍。傷ついた身体を癒やすことを選択しなかった望は、痛みに震えながら手を伸ばす。大丈夫、この痛みを糧に出来るから。そう思いながら手を伸ばし、エクルの前に飛び出した。金属の装甲で自身の身体を包んで、一番大事な彼を庇う。そうして望のユーベルコード《アベンジ・オブ・アークライト》は彼女の身体能力を高め――なかった。かのユーベルコードは、『敵から受けた』負傷と生命活動の危機的状況から戦闘力上昇と回復させるものだが……。
(えくるんは、敵、じゃない)
 望が負ったダメージは、エクルの手によるものだ。糧に出来る痛みではないことに、望は気付く。だけど、彼は守れた。この行動は、無意味ではない。
(――また、望に……)
 エクルは唇を噛むと望の向こうの花びらをガトリングガンで撃ち落とし、『クンバンダ・F』を追従させてメローゼへと向かう。トライデントクェイカーとクンバンダ・Fに援護射撃をさせながら魔剣を放ち――
「噛みつけっ!」
 メローゼへと振り下ろす。
「眠気が増すくらい、ゆっくりね」
 ふわり、と。重力を感じさせない動きでメローゼが躱す。ふわ、と欠伸をする余裕さえ彼女にはあった。欠伸とともに「……ねむい」と呟けばふわりと蝶が舞い、エクルは魔斧で振り払う。最的確な斬撃を自動で繰り出す魔斧だが、蝶は朽ちてもメローゼは矢張り難なく躱してしまう。格上のメローゼに、同系統のユーベルコードがいけなかったのかもしれない。メローゼの攻撃を全て食らうことは無かったが、エクルの攻撃もまた当たることは無かった。
 決断は、素早く。望をこれ以上傷付ける訳にはいかないエクルは、望へ合図を送り二人揃って退避した。

 ――時間は少し遡り、牢の中。
 パリィィィンと盛大に水槽を割った人魚――リル(想愛アクアリウム・f10762)はぽこぽこ怒りながら愛しい人へ詰め寄った。
「櫻宵のばかばか! 何やってるんだ!」
 こんなに沢山怪我をして!
 硝子が割れる盛大な音に見張りが覗き込むが、櫻宵(屠櫻・f02768)はリルを受け止めながら何でもないのよと笑みを向けた。硝子も割れたし、水浸し。後から他の子たちにも謝らなくちゃと思いつつ、今は腕に収まった可愛い子へ心を向ける事の方が優先事項。
「君が傷つく方が痛い、苦しいって何度言ったら!」
「ごめんね、リル。怪我はない?」
 花霞の瞳を揺らして顔を覗き込めば、ふるりとかぶりを振られる。櫻宵が代わりに傷を負ったから、人魚の肌にも鱗にも傷はひとつだってありはしない。その姿に、櫻宵は悔いていないと淡く笑む。泣かせることも、知っていて。それでもリルに怪我をして欲しくはなかった。
 櫻宵の怪我の一端はリルのせいでもあるのだが、気にした様子を見せない姿に歌で傷付けた事に気付いていないのだろうと櫻宵は察した。それでいい。きっと気付いたら、人魚が泣いてしまう。哀しみの中、泡になって消えてしまうかもしれない。泣くよりも自分に怒ってくれていた方が、生き生きとしていてずっといい。
「……次は尾鰭でぶつからな」
 君が、すきだ。不器用なりの精一杯で守ってくれる君。僕のことをいつだって第一に考えてくれる君。その君が、精一杯考えて護ってくれた。
 そして今、リルは罰と称して櫻宵に抱き抱えられている。
 罰、なのだろうか。いっそご褒美? けれどこれでは敵へと走れない。櫻宵は戸惑いながらリルを片腕で抱き上げ、残る片手に刀を握る。
 抱き上げられたリルは、櫻宵の頭をぎゅうっと抱きしめる。そして歌うは《泪の歌》。君を癒やす、慈愛の歌。僕の腕で君を囲んで泪を落としたなら、僕は君の水槽になれる。あんまり無理をすると閉じ込めてしまうぞと脅せば、閉じ込めて離さないでと細い指が腕に触れて。一層愛しい気持ちが胸に広がった。
 人魚の歌が響く中、天女も口を開いて水鈴琴を鳴らす。
 嫋やかな歌声に祈りを篭め、亡くなった者、ここに居る皆、そして大切な幼馴染の為に贈るは《木花之佐久夜毘売》。
 ――咲き誇るも散りゆくも 燦めく命の美しきかな
 紅血に赫う輝を跳ね返すよう。
 ――今一度優しき世界を祈り 我が歌声に舞い踊りませ
 清泉が、心に広がる。遮光が差したような感覚を齎し、闇を震わす旋律は神々しく。春の訪れを祝う花神の舞を彷彿させる歌は、凛と前へと向き進むための愛と癒やしの歌。哀しみに染まった歌は、今はどこにもない。
『奏でる歌がどないなものであっても其れはうちらが生きてる証。哀しくても、傷ついても此の魂が在る限り謡い続ける、愛すべき瞬間――』
 咲夜は牢でそう蒼夜へ告げたが、蒼夜の胸には後悔が燻っていた。
 けれど、それも。その暗雲さえも、咲夜の歌が晴らしてくれる。こうしてあなたが側にいるからこそ歌えるのだと、そう歌で告げてくれている。
(あぁ……この姿こそ彼女の本当の姿。美しい天女の歌姫。俺の天女――)
 咲夜が謳う間にも、赤い薔薇の花びらが舞い、黒茨は悪戯に攻撃してくる。それらから守るように蒼夜は《藤騎士》を発動させ、聞き惚れながらも彼女を護っていた。
 赤い薔薇の花びらが舞う。そこへ、炎の槍が顕現した。神の力を限定解除したグラナトの《業火の槍》だ。常ならばすぐに放たれる槍だが、更に炎を纏わせ強化する。
 その間、彼は無防備だ。呪詛耐性を付与したとは言え、食らえば呪詛は伝染する。グラナトが耐えられても、伝染した呪詛はマクベスを焦がすだろう。
「させねぇよ」
 既にボロボロの身で、マクベスはグラナトの前へ出る。後ろから援護をするだけのつもりだった。だけど、そんな攻撃に彼を無防備に晒すことなんて出来なかった。
 グラナトが槍に炎を溜める時間を稼ぐ間くらい、痛みを我慢してみせる。銃を手に、マクベスは薔薇の花びらと黒い茨の前に躍り出た。
 その攻防を、長く続ける必要はない。
 炎が満ちれば、グラナトが動く。槍たちへ合図を送るように手を上げて。
「先ほどまでとは火力が違うぞ……花弁ごと燃やしつくそう……!」
「わたくしを鳴かせると言うの? 楽しい催しね。やってご覧なさい」
 振り下ろす手と同時に槍が射出される。それに合わせ、黒茨に弾き飛ばされながらもマクベスが風属性も篭めさせる。風の加護を受け、炎は一層燃え上がり、速度を増してメローゼへと迫った。
 黒茨で壁を作り、その殆どを回避するメローゼ。
 だが、全てではない。
 炎の槍が彼女の横腹を抉り、少女は悲鳴を上げること無く眉を潜めた。その姿をゆらり、黒い陽炎のように揺らして。
 攻める手は緩めずに、猟兵たちが動く。猛毒と呪詛に濡れた龍と黒炎の朱雀を連れ、人魚の歌で傷を癒やした櫻宵が駆ける。青龍と朱雀は櫻宵が《櫻華》で喚んだ友達。……少々禍々しいが、櫻宵の友達だ。
 駆ける櫻宵にしがみついた人魚が歌うは《花籠の歌》。
 僕から離れないで。離さないで。リルがそう願うから。
 離れないわ。もう、離してあげられないから。そんなのとうに解っているでしょうと櫻宵が笑んで。
 ――ラ・カージュ 花を飾って
 横合いから伸ばされた黒茨を朱雀が燃やす。
 ――ラ・カージュ 閉じ込めて
 それでも近づけさせまいと黒茨が伸び、水龍が守る。
 ――ラ・カージュ 雲戀う鳥などいない
 間近で薔薇の花びらが舞っても、愛しい人の為に造られた幻想の花籠水槽が守る。
 ――アムール・オン・カージュ 君を守る、花籠を
 薔薇の向こうで迎え撃つ黒茨。更にその向こうで、しゅるしゅると黒茨が動く。黒茨の咎の牢獄が完成し、メローゼは絶対の防御を得てしまう。攻撃が通らないと知っていても、櫻宵は止まらない。
「食い殺せ」
 無敵の防御を得ているメローゼへ友達を放ち、リルを連れて退いた。
「アレス、お前は下がってろ」
 そう言い置いて、セリオス(黒歌鳥・f09573)は怒りのままに駆け出す。牢の中で泣きながら、怒りを満身創痍の彼にぶつけた。けれどそれ以上に、甘い自分と彼を傷付けた者に対する怒りが強く、今尚この身を焼いている。
「星に願い、鳥は囀る。いと輝ける星よ、その煌めきを我が元に――さあ歌声に応えろ、力を貸せ!」
 黒歌鳥は囀り、力を寄越せと星に願う。あの女を殴る力を貸せと、怒りのままに拳に炎を纏わせる。
 歌唱会で無茶をしてしまった自覚のあるアレクシス(夜明けの赤星・f14882)は彼の言いつけを守り、ただその背中を見つめていた。けれども、彼の背中を守ることは許されるはず。炎纏い駆けゆく背中に追従するように光の衝撃波を放ち、セリオスの行く道と闇を切り裂いた。
 メローゼは未だ黒茨に包まれ防御を固めている。
「……邪魔、なんだよ!」
 捻り合って強度を増した黒茨へ、拳を打ち付ける。邪魔をするなら燃やしてしまえばいい。道を阻むと言うのなら、全部燃えてしまえばいい!
 セリオスは、何度も拳を茨へ打ち付ける。拳が裂けて血が流れようと気にしない。どれだけ拳を打ち付け、怒りを燃やして茨を焼こうとも、身を燻る怒りは消えやしなかった。
「セリオス!」
 その姿に、アレクシスは危機感を抱く。強く名を呼んでも、彼は怒りのままに拳を打ち付ける。このまま茨を燃やし続けては、彼はもちろんのこと、周りとて無事では済むまい。
「――セリオス!!」
 駆け寄り、セリオスの手首を掴むアレクシス。
「はなせっ……!」
 炎纏う彼の手首を握ればじゅうと音を立て、掌を焦がす。植物の焦げる臭いではない人肉を焼く厭な臭いが鼻につき、暴れて力任せに振りほどこうとしたセリオスの身体から僅かに力が抜ける。その隙にアレクシスは彼を抱き寄せ、セリオスを抱えて後退した。
「……ごめん」
「……お前は、悪くない。けど後で説教だ」
 ポツリと小さく零された声に、突き動かしていた強い怒りが消えた静かな声が応じる。セリオスの拳から炎は消え、けれど掴んだままのアレクシスの焼けた手が、とても熱い。腕に抱かれ、触れ合う体温は心地よい。なのに、彼の手だけがこんなにも熱くて。そうしたのは彼の意思だけれど、焼いたのは自分の炎で……。セリオスは、ギリッと奥歯を噛み締めた。
 手首を掴んでいた手が、少しの躊躇いの後、頬に添えられる。セリオスが導かれるように見上げる先に、湖の色が揺れていた。護りたいと貫いた行為でセリオス泣かせ、怒らせた。激情の原因の殆どが自分にあると理解している、アレクシスの瞳。
 更に怒らせるかもしれない。けれど願ってしまう。アレクシスは、セリオスの騎士だから。願わずにはいられない。
「……最後まで君を守らせて欲しい」
 セリオスを腕に抱いたまま、騎士は《聖護の盾》を展開した。
 赤い薔薇の花びらが室内をさらっていく。
「主よ、この方にどうか慈悲と祝福をお与え下さい」
 仲間たちの行動を阻害せぬようにと宙に浮かんだシホは、喉を震わせる。歌うは、《【祝音】苦難を乗り越えて響く福音》。
 仲間たちを薔薇の花びらから守るべく果敢に庇い続けていたユキ(失われた時代の歌い手・f00919)の身も、ふわりと暖かな光が優しく包んで傷を癒やしていく。
 回復していく猟兵たち、そして撃ち落とされて数を減らしていく花びらたちを見て、メローゼは守りを固めようと再度黒茨の咎の牢獄で自身を包む。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になれる、牢獄。しかし、『ほぼ』であって、それは完全ではない。
 破魔に特化した巫女が祝詞を歌に乗せて詠えば、じわりと崩れ、その身が顕わになる。
「な……!」
 流石に驚いたのだろう。咲夜だけを狙って赤い花びらを舞わせるが、水神霊の楯と彼女の藤騎士が守り、そしてユキがすかさず前へと出て庇う。
(……この舞台のメインを務めるのはわたしじゃない)
 未来を創る力は、生身の人間には及ばない。ユキはそう考えて仲間の猟兵たちを守るべく、誰よりも率先して薔薇の花びらに立ち向かってきた。負傷した身体に鞭を打ち、けれども自身の身体はつくられたものだからと、痛覚情報を遮断すれば大丈夫だからと、覚悟を決めて。
「――ッ!」
 頬に大きく出来た裂傷に、思わず片目をぎゅっと瞑る。けれど、大丈夫、耐えられる。
 シホが歌い続けるおかげでユキの傷はゆっくりと癒えるが、癒えきる前にまた新たな傷が生まれる。
 身を固くして仲間たちの代わりに攻撃を受ける度、ユキは《インプロンプト・ソング》を使用する。防御したユーベルコードを即興歌として借用できるユーベルコードだ。
 ――薔薇よ。わたしの歌に集って。
 色違いの薔薇の花びらが、ふわりと舞う。ユキの薔薇も、メローゼの薔薇も、既に最大数ではない。
 ユキは花びらを撃ち落とすためだけに花びらを飛ばしては居ない。相手の武器を破壊すべく全力でぶつけている。……が、メローゼの方が格上なせいか、命中率は遥かに及ばない。けれど幾度も繰り返せば、どうだろう。メローゼが花びらを飛ばす度に仲間を庇い、《インプロンプト・ソング》を歌って反撃する。そうして少しずつ。少しずつ、ユキはメローゼから武器を奪っていっていた。陰ながら仲間を支え続けていた。
 命を塵芥のように扱い、歌を紡ぐ者の未来や可能性を食らうメローゼ。彼女は人類の隣人として造られたユキとは決して相容れない存在。
「夜鳴鶯……いえ、墓場鳥が……冥府までの道を照らしましょう」
 嘆きの歌は、歌いませんけれど。墓場鳥がそう囀って。天使と墓場鳥の再演は暫く続くのだった。
 ようやくお目見え。セラフィム(Trisagion・f12222)は猟兵たちと戦うメローゼの姿を真っ直ぐに見据えた。人の声を出せぬ彼女だが、その想いは瞳が雄弁に語っていた。――ここであなたの食事を終わらせましょう、と。
「セラ、無敵化されないよう、敵に別の技を使わせるか、技そのものを封じて貰えるか?」
 傍らの長身の男――マレーク(黒曜飢竜・f09171)が問う。彼が振るう槍、『碧血竜槍』の一撃は強力だが、敵に無敵化されてはその攻撃は通らない。攻撃を通すには無敵化されない事が前提となるため、マレークとセラフィムは攻撃を避けながら敵の動きを観察していた。
 長身を見上げ、セラフィムはこくりと頷く。
『《魔女のケーキ、恋占の果て。今この瞬だけ、偽を顕に》』
 響く硝子器、謳うはアルモニカ。
 喚び出されるは、金髪の少女。《セイラムの魔女裁判》。
 セラフィムが響かせた歌声に、メローゼが瞳を向けて微笑む。
「その喉、ほしいわ。とっても珍しいもの」
 そして隣に現れた金の髪の少女も、きっと珍しい小鳥なのだろう。メローゼの唇に赤い舌がチロリと這った。
 白い少女の指が向けられる。荒れ狂う薔薇の花びらが、部屋中に渦巻きながらセラフィムと金の髪の少女を狙い襲いかかってくる。
 セラフィムへ血のように赤い花びらが届くよりも早く、黒い鉄扇が開かれる。片手に槍を携えたまま、マレークが舞うは黒竜の舞か。花びらを落とすべく『竜骨鉄扇』を振るうが、その花びらは唯の花びらでは非ず。風にふわりと浮かぶが、メローゼの武器が変じたもの。相応の重さと攻撃力を持って、マレークの身を刻んでいく。
 花びらの赤に、血の赤が混じり。そしてもうひとつ、赤が混ざる。マレークへの信頼を返すべく、風の力を纏わせた赤のエリュテイアを飛ばすセラフィム。青い鳥も調律師も、もうここにはいない。ここからは、猟兵として隣に。背中を預けられる仲間として、ふたりはそこにあった。
 セラフィムはメローゼへ向け、ふるりと首を振る。深海と浅瀬がそれに合わせて小波を立たせるが、瞳は真っ直ぐメローゼへ。この子はあげられないわとその目で告げて。
(――あげられるのは、約束だけ)
 さぁ叫んで、声の限り。悲鳴で歌を奏でましょう。
 セラフィムの傍らの少女があらん限りに悲鳴を上げる。それはきっとメローゼ好みのものだろう。うっとりと瞳が笑み崩れ、そして見開かれる。響くは悲鳴。そして名指しの糾弾。
 『黒茨の魔嬢』メローゼ・トロイメツァライ。彼女は、人々の口伝によって歪められた過去の亡霊。古の、魔女――。
「ああ……」
 メローゼの花唇が震え、吐息にも似た声が漏れる。その身がぐらりと大きく揺れて見えるのは錯覚ではない。彼女の輪郭が、黒く靄のようにぶれたのだ。ふつふつと、胸の内に何かが浮かぶ。それが何なのか、彼女は知らない。既に忘れてしまったのか、それとも――最初から無かったのか、解らない。けれど、けれど。わたくしを魔女と糾弾するのは――したのは、お前たちじゃないか……!
 不自然に動きを止めたメローゼの姿に疑問は浮かべど、好機と見たマレークは《邪竜降臨》を発動させ碧血竜槍を鮮血のヴェールを纏う邪竜へと変じさせる。
 大きな隙。それは一度きりのチャンスだろう。
 空力を利用し地を蹴って邪竜と共に捨て身の一撃を放てば、直撃したメローゼは大きく吹き飛ばされ、美しいガゼボが崩壊する。
 粉塵が勢いよく湧き、そして緩やかに部屋全体へ散っていく。その中で、メローゼは立ち上がる。
「少し……そうね。少し、いたかった」
 猟兵たちの攻撃で身体は疲弊して。けれど、それよりも、どこか。内側が痛かったような、そんな声。
 小さく息を飲んだ猟兵もいた。
 だが。
「彼女の声も歌も笑顔も、お前にはやらない」
 メローゼが見せた僅かな隙。それを狙ったのはマレークだけでは無かった。庇うという不利な行動を取り《藤騎士》で身体能力を上げた蒼夜が音も無く背後へ忍び寄り、妖刀『黒藤』を振るう。
 しかし首を切り落とすのならまだしも、喉を掻き切るのに太刀は向いていない。素早く掻き切るならば大刀ではなく、短刀や脇差と言った小刀を用いて最低限の動きで行うべきだっただろう。オブリビオンとて命が掛かっているのだ。刃の煌きを、それに伴う動作を見過ごすほど、甘くはない。
 メローゼは身を捩って躱し、その細腕に傷を作る。が、黒い靄が揺らいで傷跡が消えてしまう。
「あなたのこれまでの狼藉は許しがたいものです」
 茨や花びらから他の猟兵たちを庇う事に専念していた神楽耶も、今が好機と炎を纏う。
 ――多少派手にやってもいいですよね。
 塔自体の崩壊や仲間への巻き込みだけは注意して、纏った炎を飛ばし黒茨を次々に焼いていく。
「歌いたいなら骸の海相手になさってください」
 闇を炎で照らし、闇を焼き、近接戦を持ちかける猟兵達の道を切り拓いた――。
 人魚を腕に抱いた櫻宵が、歌を伴に駆ける。
「あなた、沢山食べてきたのね」
「……あら、素敵な歌声。あなたの人魚、わたくしにちょうだい?」
 悲しませていたもの。いいでしょう? 窮地と知りながらも、赤い瞳を笑みの形にしてメローゼが嗤う。
 腕に抱かれたリルは、歌いながら悪いねとメローゼへと笑みを向けて。
(――この喉は彼の為にあるんだ)
「あたしの人魚はあたしのなの」
 人魚を抱え、残る片手も刀で埋まっている櫻宵には組み技は使えない。けれども、そのまま。美しくない太刀筋になろうとも、力の限り刀を叩き込んだ。
「オレだって接近戦くらいやれるっての」
 猫のように、靭やかに。《身体能力超強化》で超強化した瞬発力でメローゼへと迫る。櫻宵の攻撃に意識が行っているその死角を狙い、銃を撃ち込んだ。
 《身体能力超強化》は諸刃の剣。使用者は代償を受けることとなる。況してや既にボロボロの、手負いの身。一撃を入れればすぐに足から力が抜け、崩折れたところへボロボロの蝶が飛び――じゅうと焼き消えた。
「グラ、ナトさ……」
「下がっていろと言っただろう」
 蝶へと炎を放ったグラナトは、マクベスの腹を抱いて後退する。深追いせずとも、この場には仲間の猟兵たちが居る。後は彼等がやってくれるだろう。
 ――ソテル、お願いだ。
 雨を晴らす声が響く。アカペラでも伸びる、少年の歌声。
 ――僕は僕を肯定したい ここにいてもいいですか 生きていてもいいですか
 祈りを籠めた依音の歌が共依存の邪神を喚ぶ。救世主(ソテル)の名を冠した邪神は、てるてる坊主の姿で現れ、依音の祈りと歌に応じて動く。
 ――救ってくれよ救世主!
 後方で謳う、依音。てるてる坊主は晴れの象徴。いつかこの世界も晴れるよう、俺は祈ることをやめない、と。
 ソテルも彼の声に応じて巨大化しながらメローゼへと飛んでいく。てるてる坊主の姿をした邪神のひらりとした襞から触手が覗き、横合いから飛び出してくる黒茨を捕らえながらメローゼへと体当たりをした。
「ぐっ……!」
 吹き飛ばされはしなかったものの、蹈鞴を踏んで。
 入れ替わるように駆けるのはセリオス。光の衝撃波を引き連れ、依音のソテルの攻撃を引き継ぐように攻撃を繋ごうとするが、目前に黒茨が飛び出してきた。しかし、タンッと乾いた音を立ててシホの聖銃により弾かれる。
 セリオスの手には、アレクシスの『赤星』が握られていた。彼から借りた騎士剣は、普段セリオスが使っている『青星』よりも少し重い。持ち主ではないため力を引き出せる訳ではないが、彼を近くに感じられる。
 追従する光の衝撃波が黒茨を弾き、セリオスは剣を上段に振り上げて――。
「取った……!」
「……っぐ、この……!」
 振り下ろした剣が、肩口で止まる。呪詛で編まれた身体に黒茨が強度を増そうと巻き付き、剣の進行を食い止める。
「まだだよ、セリオス」
「……アレス!」
 間近に聞こえた声。背後から守られるように包まれて。
 剣を握るセリオスの手の上に、いつもは優しいアレクシスの手が力強く重ねられる。
 二人の手に握られた赤き星。セリオスの腰に下げた青き星。双星の煌きが眩く輝き――。
「そんッな――……!」
 騎士が触れた剣が暁色に光り、騎士に応えて本来の力を発揮する。袈裟斬りにされ、暁に焼かれ、獣のような絶叫を上げ、『黒茨の魔嬢』メローゼ・トロイメツァライは朝を迎えること無く暁光の中に消滅した。

●小鳥たちの歌唱会
 最初に歌いだしたのは、誰だったのか。
 ひとり、ひとりと。仲間を、大切な人を癒やすために、小鳥たちが口を開いた。
 傷を癒やし終えた歌は次第に鎮魂歌へと変わり、この地で喪われた魂たちへと捧げられていく。其々年齢も性別も違えば、ルーツも、言語も違う歌。けれど耳に障る事無く美しく聞こえるのは、彼等の歌唱力が高く自然と合わさるように歌う技術を持っているからだ。
 天女が桜を喚んで歌い、人魚が唯一人を見つめて戀を歌う。
 天使と楽園の果実の歌に異国の童唄が混ざり、黒歌鳥と夜鳴鶯が囀って。
 アルモニカの歌声が室内を震わせるように響けば、雨を晴らす歌が憂いも晴らす。
「オレ、別に歌は……」
「今日のお前は俺の小鳥だろう? ほら、仲間たちと囀ってこい」
 一人歌わずに離れていた小鳥も火炎の戦神に背を押されれば、頬を僅かに朱に染めて躊躇いながらもその輪に混ざっていく。
 その背を追うように、篠笛と竜哭風琴が奏でられた。

 暗い闇を切り裂く太陽がなくとも、夜が明ける。
 領内で最も早く朝を迎えるのは、ふたつの高い塔かもしれない。
 赤い薔薇咲く美しい庭園のようだった室内は、既にその面影は無い。喉を食らうオブリビオンも、茨の糧となった骸も、犇めく黒茨に美しい薔薇たちも。その姿は既に無く、今はただ猟兵たちが歌を歌っている。
 世界に青空が広がらなくとも、明けない夜がないように。止まない雨もまたない。
 夜が明ける前に潰える運命の小鳥はもういない。血の雨ももう降らない。
 二体のオブリビオンが猟兵たちによって倒され、この地にも平穏が訪れることだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月05日


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#ダークセイヴァー


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠パラノロイド・スタングリクスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト