【1:1】瑞香、花信風
都槻・綾 2019年2月20日
『宵にのみ開くという、手紙屋をご存知?』
謳い文句は何処へやら、
此のところ別件の仕事に明け暮れて、
宵にすら店が開いていなかったとか何とか。
春の使者が訪ってくれていたというのに、
「――まったく、まったく」
看板娘が大仰な溜息を吐いたとか何とか。
※お招きした方と
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都槻・綾 2019年2月20日
(頂戴した沈丁花の枝を湯飲みに活ける。嬉し気に花を見つめている縫が微笑しい。様々な紙が陳列されている棚奥の勘定台は畳の小上がりになっていた。)
都槻・綾 2019年2月20日
どうぞ、楽になさって下さい。茶でも…と思いましたが、この時間ですと眠れなくなってしまいそうですね。いっそ甘露の盃でも交わしますか。帰りはお送りしますよ。(いつかの依頼を思い出しての、楽し気な笑み。)
境・花世 2019年2月21日
(少女人形のちいさなつむりを撫でて、おじゃましますと軽やかに上がり込んだ)もし眠れなくなったら綾が一晩中語り明かしてくれたりしないかなあ。お酒も魅惑的な選択肢なんだけど、……綾、わたしに酔っぱらいのイメージがついてない?(ぷくり、薄紅刷いた頬を膨らませた)
都槻・綾 2019年2月21日
おや、共に夜明けを迎えるのも吝かではないですけれど、私がいつも紳士でいるとお考えでしたら、思い違いですよ。御身を大切になさいませ。(諭す言には揶揄の彩が乗って、嘘か誠かは窺えない。人形から投げられた冷ややかな視線はくつくつ揺らす肩で受け流す。)
都槻・綾 2019年2月21日
(薄いものにしましょう、と焙じ茶を淹れ向き直った。茶器と羊羹を薄紅纏うひとの膝元へ置きつ、)いや何、花筏の夢に漂う姿を見れば、余程お酒が好きなのかと。私は滅多に酔わない性質で。貴女は酒精に弱い方?
境・花世 2019年2月21日
自分をたいせつにするっていう観点がなかった。(心底不思議そうに瞬いて、膨れた頬をぷしゅっと両手で潰した)けど、紳士じゃない綾もすきだと思うよ。きみの声も言葉も、ここち良くて、ずっと聞いていたくなるもの。
境・花世 2019年2月21日
(香ばしい馨と湯気がくゆる。乾してしまうまではここにいても許されるのだ、きっと)(思わずにこりとした)わあ、ありがと。わたしはそんなにお酒弱くないよ、ふつうくらい。綾が笊なんじゃないかなあ、普段からここで傾けたりするの? めずらしく酔ったらどうなるの?(問うたのは眼前のきみか、心なしか目を眇めてみえる少女人形にか)
都槻・綾 2019年2月21日
ならば今から大切にして下さいな。……全く、困ったものですねぇ。戦庭でも直ぐ身を挺してしまうから。貴女は掛け替えなき花。萎れてしまえば御友人方が悲しむでしょう。私の何かが貴女に潤いを与えることが出来るのなら、喜んで差し出しますよ。
都槻・綾 2019年2月21日
(自身の分と、飲めはしないが縫の分も茶を淹れて、其々の前へ。両手で湯飲みを包む。問いへ暫しの思案の間。)はて……、余り記憶にない辺り、ただ眠りに落ちてしまうのではないかと思いますが。独り晩酌も味気ないですしね、飲むのは稀ですよ、(と告げたところで人形が否やと首を振る。呑んでいる、きっと呑んでいる。)
境・花世 2019年2月24日
(指先を温めるように湯飲みへふれて、ゆるく首を傾げた)綾のほうこそ、自分を大切にしなくていいの。わたしがたくさん何かをさし出せって言ったら、きみが減ってしまうかもしれないのに。
境・花世 2019年2月24日
…、……ウン。(縫の仕草にすべてを察した顔。突っ込むのは止めておいた、サムライエンパイアにおける武士の情けというやつだ)ひとりで呑むのがつまらないなら、わたしを呼んでくれたらいい気がする。眠っちゃうなら布団まで運んであげるよ。(言ってから気付いたように、)あ、でも、綾が声を掛けたら馳せ参じるひとはいっぱいいるかなあ。
都槻・綾 2019年2月25日
減る……そうですね、独りの時間は、確かに。(きょとんと眼を瞬いた後、ふくり、相好を崩した。)でも其れならお互い様でしょう。そして其の分、楽しい語らいの時間を得られるわけですから、等価交換のようなものですね。酒を嗜む時にお呼び立てするのもまた、貴女の潤いになります?(首を傾げて問うも、浮かべた笑みに悪戯が見え隠れ。)
境・花世 2019年2月26日
きみと一緒においしいお酒が呑めたら、たくさん潤うにきまってるよ。……交換こって言えるくらい、わたしがきみにあげられるものがあるといいんだけど。 (すこし面映ゆそうに睫毛を伏せる。手にした黒文字で羊羹をなめらかに切り分けて――)(ちょうど半分を、悪戯に笑む唇の前へそっと差し出した)
都槻・綾 2019年2月27日
(伏せられし睫毛の繊細さへ眩げに双眸を細めつ、)私の方がより多くのものを頂戴している気がしますよ。むしろ「等価」は自分を高く見積もりすぎましたねぇ。絵画の如く美しい春の使者を前にして、緊張しているのだとでも思って下さいな。眼福眼福、(軽く口を開けた。差し出された甘味に深まる笑顔。)
境・花世 2019年3月2日
(端整な唇が羊羹食むのを見守る――)(残らず消えたところで、止めていた呼吸をふっと取り戻した)あは、綾の口がじょうずなのって誰に教わったんだろう
。…、……差し出した分だけは貰っても許されるなら、こうやって先にあげることにする。そしたらきみにおねだりしても、胸がいたまないね。(わかりやすい公式を手に入れて安堵したような顔。早速とばかりに、紅ささずとも赤い唇を薄く開いた)
都槻・綾 2019年3月4日
(「ご馳走様です」と礼、而して、「じょうずとは褒められたのでしょうかね。」首を傾げた。)おや、少々意外。遠慮する方なのですか。等価交換で無くとも頼りにされるのは嬉しいものですのに、(僅かに開いた可憐な唇へと破願。愛らしいおねだりだ。残りの羊羹と、傍にあった小瓶から栗の甘露煮を取り出し、一粒、二粒、彼女の口元へ。)三倍返しです。
境・花世 2019年3月7日
(褒めてる、といらえようとした唇は甘いもので塞がれてしまう。雛のように素直にきみの手から食んで微笑む)おいしい。綾がくれたら、三倍よりもっとおいしい気がする。……遠慮、なのかなあ。いつまで居られるかわからないから、返せないままは食い逃げみたいでなんだかいやだっていうだけだよ。習い性みたいなものだ。
都槻・綾 2019年3月8日
いつまで……、此の世に? それとも、今此の場? 此所なら飽きるまでどうぞ。気が向いた際にもまたいつでもいらして下さいな。本と紙しかありませんけれど、雨風は凌げますからね。浮いた時間の活用に、読書でも、私に冒険譚を聞かせて下さるのでも。歓迎しますよ。
境・花世 2019年3月8日
此の世に。(何の感慨も滲ませない薄っぺらな調子で、)
境・花世 2019年3月8日
(けれど続ける言葉はやわらかな響きだった)いつでも、ずっと、いていいの。……きみの主は太っ腹でいい男だ、縫。(青磁の眸でなく少女人形にそう語りかけたのは、照れ隠しだったかもしれない) わたしも本がすきだよ。もう幾つも忘れてしまってると思うけど、きみのまだ知らない物語を語ってあげられるかなあ。
都槻・綾 2019年3月11日
(淡々とした口調に反して、花の香りが深さを増したように思うのは、気の所為だろうか。一つ頷くだけに留めて、「おや、今度こそ褒められましたねぇ」と縫のちいさな頭を撫でる。)えぇ、是非語って下さいな。忘れたのなら編めばいい、また綴りに行けばいい、「物語」は必ずしも真実でなくてはならない、という決まりは無いのですから。貴女の冒険譚の末端に、私も時折加えて下さいます?(悪戯な提案に「袖の下です、」添えて差し出す山吹色のお菓子――先程供したのと同じ、栗の甘露煮、三つ目。)
境・花世 2019年3月11日
あは、それはいい考えだ。きみの登場パートは真実にさせてくれる? 架空の冒険譚にも臨場感はだいじ、――ん、 (差し出されれば自然と嘴を開けて三つ目を食む)(すっかりと胃の腑におさめてから、今更のようにはっとした。薄紅の花びらが物言いたげに揺れる) だめだよ、わたしが先払いするはずだったのに。……綾、いい男だけどわるいカミサマだ。
都槻・綾 2019年3月12日
(流星群のようにきらきらと。声を立てて笑った。一頻り肩を揺らした後、自らの口元に指を当てて抑えるも、まだ、ふふりと吐息が零れる。)……常に先んじておけば、返して下さるまでは、此の世に命を繋いでいて下さるでしょうか。置いて行かれるのは、寂しいものです。
境・花世 2019年3月18日
な、なんで笑うの、……そんな顔されたら怒れないよ、綾。(星のさざめきが散る青磁の眸を見つめて、口元隠す指をつんとつついた) わたしがきみに何かを返せるまでここにいたら、すこしはさみしくない? そんなふうに笑っててくれる?
都槻・綾 2019年3月20日
笑みならいつでも大盤振る舞いですよ。本当は、何かを返して下さらなくとも構いません。縛られてしまったら、咲くも散るも自由に居られないでしょう? ただ、そう――廻る冬を越える度にきっと暖かな春を、かよさんを思い浮かべるでしょうから。風に舞う花弁や瑞々しき花の香が貴女だと思っていても、逢いに来て下さったのだと思っていても、許して下さいます? そうしたらきっと、寂しくない。
境・花世 2019年3月22日
うん、ありがと。(どうしてかすこし泣いてしまいそうに歪んだ唇は、笑みのかたちに見えたろうか)、それは、きみにとって祝福になる? もう逢えないのに、名前を呼んでくれる声がきこえないのに、春が廻る度に思い出すのは、……さみしい呪いになってしまわない?
都槻・綾 2019年3月22日
――私は然うして、命を見送ってきましたよ。只の器ですので、文字通り手も足も出せないまま。今は斯様に、(微かに震えたように思える花唇へ、其の白皙の頬へと、掌を差し伸べた。)貴女に触れることが叶いますが。――泣いていらっしゃる?
境・花世 2019年3月24日
泣いてないよ、(震えたのは一瞬。言のとおりに涙は零れなった、代わりに薄紅が一枚ひらひらと散る)……きみの呪いになるのと、きみにぜんぶ忘れられてしまうのと、どちらの方がさいわいなんだろうって。そう、想っただけ。(そう云って目を瞑る。頬に唇にふれる掌は、確かに生きるひとの熱を孕んであたたかい)
都槻・綾 2019年4月2日
(見えぬ涙の代わりに零れ落ちた花弁を手に取って、そっと包んだ。小さく息をつく。)何方も余り幸福では無さそうですね。やはり生身の方が良い。私も見送るより見送られる方が良い。終わりなき数の世界の、永き時の中では、ひとのいのちは刹那です。散り急がずとも、無為に散りに逝かずとも、何れは消えるもの故に――、どうか、境界を揺蕩うのではなく『此の世に居たい』と想っていて下さいな。
境・花世 2019年4月3日
もう、見送るのは、いやなの?(散花のゆくえをなぜか息を止めて見守って、そのまま閉じた掌をじぃと凝視した)そう、きみの言うとおり、放っておいたっていつか散る。だから散り急いでるつもりはないんだ、特段咲いていたいと思う理由もなかっただけで。……だけど……ただ……、(視線がうろうろとさまよい始める)
都槻・綾 2019年4月3日
(微笑みをいらえとして、手のうちの花弁を透かし見るかのように視線を落とした。枯れぬままの花も散らぬ花も無いけれど、留めておきたいと思うのは、きっと数多のひとの願いだ。)意識せずとも貴女は、充分に咲き誇っていらっしゃいますよ。(言い澱む声に顔を上げ、揺らぐ眼差しへとやんわり鸚鵡返し、)――……ただ?
境・花世 2019年4月3日
(つやつやとした青磁の眸に見つめられれば、困ったように眉を下げ)……あや、おねがいごと、きいてくれる?
都槻・綾 2019年4月15日
はて。願い事の内容にもよりますけれど、私で賄えることならば。(下げられた眉にさやりと笑って促した。)
境・花世 2019年4月16日
散るのが惜しいのは花だから。見送るのが切ないのはひとだから。わかってる、だけど、(慣れない指先で感情の繭にふれるように、そうっと願い事を紡ぐ。ぎこちなく織り上げた糸はきっと、まっさらな白さをしていた)今は“わたし”に想ったんだって、――そう言ってくれたら、いいなあって。
都槻・綾 2019年5月3日
(か細い絹糸を手繰るが如く編まれた願いは、穢れ無き真白の一枚布となって柔いひかりを弾くよう、)(指の檻に包んだ一片を、やんわりと両掌に頂く。)えぇ、勿論。“あなた”に想ったのですよ、かよさん。我儘を述べるのを赦されるなら、本体が砕ける以外に涯ての見えぬ生の私より、一秒でも長生きして頂きたい。(酷ですか、と湛える笑みは、凪いだ水面みたいに穏やかで、)
境・花世 2019年5月5日
うん、“わたし”の。(儚く震う花びらを頂く掌に、己の掌を重ねる。きっとそのぬくみは誰が触れても同じだったろう。けれど今伝うのは、確かに自分だけがもらった熱だ) あは、それじゃあ砕けるまでずっと隣で見張ってないといけないね。たいへんな仕事だけど、他ならぬ綾のわがままだからなあ。(ひかり映す水鏡の青磁を見つめる。あえかに、咲う) ……いいよ。一秒後なら、走ればすぐに追いつける。
都槻・綾 2019年6月4日
(重ねられた手を柔く包むよう、握手をするよう、まろく指を折る。今度は檻ではない、架け橋だ。あなたと私を繋ぐ、ささやかな秘め事。)そんなところにお得意の早業を用いなくても良いのですよ。其の頃には貴女にとって「生きていたい理由」が見つかっているかもしれません。大事にしてくださいな。(ひそやかに肩を揺らして、互いの膝元へ置かれた茶碗を見る。乾された頃合いだろうか。)
境・花世 2019年6月9日
(指切りと呼ぶには儚くやわい絡めかたをして、穏やかに笑うひとへ不思議そうに首を傾げた) 生きていたくなる、理由? よくわからないけど、でも、綾と遊ぶのは楽しいから。きみがいなくなったら此岸はもうつまらないかと思って。うーん……、(むずかしいことは考えるのをやめた、子どもみたいな顔をする) とりあえず当面は、綾がかよさん!って呼んだら駆けつけるのに使うことにする。
境・花世 2019年6月9日
(青磁の視線の流れた先を見て、そろそろ去らねばならない頃合いだと知る。――この杯を乾してしまうまで。ひととききみと一緒にいても許される口実も、今日のところはおしまいだ) ありがと、綾、そろそろきみが店番に戻らないと縫に怒られちゃうからお暇しないとだ。また、――また来るね、何度でも。
都槻・綾 2019年6月9日
此方こそ、ありがとうございます。随分引き留めてしまいましたね。えぇ、また気が向いた際に、いつなりと。――何度でも。
都槻・綾 2019年6月9日
(重ねた同じ言の葉で、きっと、浮かべる笑みもまるく重なる。看板娘の和人形が絡繰りとは思えぬ優雅な所作にて主と共に恭しき礼をした。)
都槻・綾 2019年6月9日
(ふわり、見送る為に開けた扉から風に乗って店に漂うは春の報せ。沈丁花。千里までも届くという花の馨。其の香りの瑞々しきを以て、瑞香、と謳う。)