-追想-
ニーナ・アーベントロート 2020年12月31日
【
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=30336 】
「ニーナ、ごめんね」
「たとえ元に戻れなくなったとしても、あなたを助けたい」
「あなたには、生きていてほしい」
10年前のあの日。
あたしの運命がひっくり返るみたいに、大きく変わった紅い月の夜。
彼女が遺した最後の言葉が、大きな濃い染みを記憶に落としていった。
遠退く意識の中で覚えていたのはその言葉と、
形を変え、段々広がっていく母の影。
それだけだった。
(宿敵撃破を踏まえてのソロRPになります)
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ニーナ・アーベントロート 2020年12月31日
母は変わったひとだった。
でも、優しかった。
吸血鬼でありながら人間のように生きたいと、
彼女はいつも願っていた。
人間を徒に傷つけることを嫌っていた。
人間の創る音楽や物語を嗜んだ。
人間である父を、ダンピールのあたしを、
人間の母親と同じように愛していた。
ニーナ・アーベントロート 2020年12月31日
「ねぇ、ニーナ」
「いつか吸血鬼が人の血を必要としなくなって」
「皆と一緒に仲良く暮らせたら、とっても素敵よね」
時々、母の言葉を思い出す。
あたしは子供ながら、夢のように都合のいい話だと思ったけど。
……それでも、頷いた。
こんな話はきっと、この世の誰も信じてくれないから。
あたしひとりだけでも、彼女の味方でいたかったんだ。
ニーナ・アーベントロート 2020年12月31日
でも時々、母からは新しい血の匂いがした。
半魔のあたしもなかなか気付けないくらい、微かだったけれど。
その血は彼女のものではなく、知らない人間の。
彼女が父と会う日は決まってそうだった。
……これは推測だけど、
母は父といる時ふいに吸血鬼の本能が目覚めて、彼を手にかけることを恐れていた。
だからきっと、その前にしっかりお腹を満たしていたんだ。
近くの町でそれらしい騒ぎがなかったということは、上手くやっていたのだろうけど。
大きな町には浮浪者や物乞いが幾らでもいて、食いっぱぐれることはない筈だから。
もしあたしが彼女なら「いなくなっても気に留める者が殆どいない」彼らを狙う。
ニーナ・アーベントロート 2020年12月31日
ローザ・アーベントロートは人のように生きたいと願いながら、吸血鬼の本能には抗えなかった。
そんな中で、自分が愛するものだけを守ろうと必死だった。
この話をすれば、勝手だと言う人も少なからずいると思う。
……それでもあたしは、彼女がいとおしい。
彼女があたしに母として与えてくれた愛情は本物で、誰にも奪えない。
最期にかけてくれたあの言葉が心からのものならば、あたしの家族に向けての愛だって本物だ。
こんなにも愛情深い、大切なひとが命を賭してまで「生きて」と願ってくれたのだから、あたしはそれに応えるしかない。
ニーナ・アーベントロート 2020年12月31日
まずは、身体に少しずつ起こり始めている変化をどうにかしないと。
初めての恋を心臓ごと奪ったあの男を、あたしは許せなくなってきているのに気付いた。
彼に恋い焦がれめらめらと炎を上げていた胸の地獄が、次第に弱々しくなってきている。
……このままじゃ、まずい。
ニーナ・アーベントロート 2020年12月31日
それに、最近あの子のことが気掛かりだ。
あの子がいつしかふっと消えるように遠くへ行ってしまいそうで、恐ろしい。
今まで向き合うのを避け続けてきたツケが、ここで回ってきたのかも。