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愛に狂いし『第五の貴族』

#ダークセイヴァー #地底都市 #第五の貴族

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「地底都市の攻略に新たな進展がありました。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「かねてよりダークセイヴァーでは、各地にある広大な『地底空洞』の中に築かれたヴァンパイアの拠点を攻略し、住人を救出する作戦が展開されてきました。この作戦の長期的な目的は、ダークセイヴァー世界を支配する上位の吸血鬼の手がかりを得ることでした」
 自らは表舞台に姿を見せることなく、『紋章』と呼ばれる寄生虫型オブリビオンを配下に下賜することで、地上世界の吸血鬼達を影から支配していた上位存在達。リミティアのグリモアはついにその者達の正体を予知したのだ。

「地底都市の支配者階級にして地上世界の黒幕である彼らは『第五の貴族』と呼ばれています。今回リムが予知したのは、そのうちの一人が住まう邸宅のひとつです」
 その暮らしぶりは地上の吸血鬼領主を、より豪華で退廃的にしたものと考えればいい。はるか地の底に築かれたゴシック調の屋敷で、配下のオブリビオンを囲って優雅な生活を送っているのだ。ただし、その危険性は地上の領主館を襲撃するのとは比較にならない。
「『第五の貴族』の邸宅を警備する直属のオブリビオン達は、みな『番犬の紋章』を与えられています。これまでに攻略した地底都市の門番達が持っていたのと同じものです」
 『紋章』は寄生したオブリビオンに比類なき力を与える。これまでの地底都市攻略に関わった猟兵ならば、地上のオブリビオンとは桁外れな『門番』の実力を体感したことだろう。『第五の貴族』の邸宅には、それと同格の配下が何十体と群れをなしているのだ。

「今回発見した『第五の貴族』――『マドンナ・ローザ』の邸宅に放たれているのは『混血の落とし子』と呼ばれる、オブリビオン化したダンピールの集団です。主人であるローザに絶対の服従を誓い、主と屋敷に仇なすものに対しては一切容赦をしません」
 本来ならば純血のヴァンパイアほどの力は持たない低位のオブリビオンだが、『番犬の紋章』を宿した彼女らは1人1人が絶大な強者と化している。素体からして選りすぐりであることの多かった地底都市の『門番』と比べれば多少格は落ちるかもしれないが、だとしても弱点である『紋章』以外への攻撃はほぼ通じないと思ったほうがいいだろう。
「これほどの強敵が何十体もいては、はっきり言ってまともに戦い続けるのは不可能です。ある程度戦ったら、敵が態勢を立て直す前に邸宅に侵入することを考えてください」
 どうにかして警備を突破することができれば、混血の落とし子は邸宅の中までは追撃してこない。屋敷を傷つけることを恐れてか、あるいは主に何らかの命令を受けているのか――ともかく、そこが『第五の貴族』討伐を目指す猟兵にとって最大のチャンスとなる。

「屋敷の主であるマドンナ・ローザは、禁断の魔術によって竜に変身した女吸血鬼です。その精神は狂気と恍惚に侵されており、全ての存在を己の愛しい子と認識しています」
 彼女の行動に一切の悪意はなく、あるのは極めて純粋な母性と愛情のみ。ただし絶大な力を持つ彼女の「愛情表現」に耐えられる生命体はほぼ存在しないだろう。狂った母性によって他者を蹂躙し、愛という名の狂気を無自覚なまま伝播させる邪悪な支配者である。
 紋章の授け手である『第五の貴族』の彼女は、自作の紋章による特別な力を得ている。
「マドンナ・ローザの紋章は『愛の紋章』。その効果は『悪意ある攻撃の反射』です。武器も魔法もユーベルコードも、ダメージを与えない妨害や拘束等も、全て本人に跳ね返してしまいます」
 限りなく無敵に近い反則級の能力で、まともに戦えば勝ち目はない。そもそものローザの実力自体も、番犬の紋章を与えた配下をさらに上回っている。これがダークセイヴァー世界を支配してきた『第五の貴族』の力なのだ。

「ですが『愛の紋章』にも弱点はあります。ひとつはローザに対して『一切悪意がない』者の攻撃は反射できないこと。もうひとつはローザ自身が『悪意を抱いている』間、紋章の効果が失われることです」
 悪意なき行為を愛によって阻むことはできず、常に母性愛に満たされているはずの心が悪意で濁った時、紋章は力を失いローザは大幅に弱体化する。無論、どちらも簡単な事ではない――敵を前にして悪意を抱くなというのも、狂気に陥った者の心を動かすことも。
「困難ではありますが、この二つの弱点のどちらかでも突くことができれば勝機はあります。諦めさえしなければきっと道は開けるでしょう」
 これまでにも猟兵は、理不尽な能力や強大な敵とは何度も戦ってきた。『第五の貴族』が何ほどのものでも、全力をもって挑めば勝ち目がないということは断じて無いはずだ。

「しかし気をつけてください。敵はこれまでずっと地下に潜み、正体を隠してきたこの世界の黒幕です。今回リムが予知できなかった未知の力がまだあるかもしれません」
 一度倒したと思っても決して油断しないように。これもグリモアがもたらす予兆なのか、リミティアは『第五の貴族』の能力に今だ底知れぬものを感じている様子だった。
 予知が及ばない事柄に関しては、実際に現場でその時になってから、目の前の情報を元に判断するしかない。重ね重ね困難な作戦となるが、それでもダークセイヴァーに光を取り戻すためには、ようやく明らかとなった『第五の貴族』を逃すわけにはいかないのだ。
「それでも皆様なら必ず勝利して、ここに帰ってくるとリムは信じています」
 リミティアはそう言って猟兵ひとりひとりを見つめ、手のひらにグリモアを浮かべる。
 開かれた道の先ははるかな地の底、恐るべき番犬の群れに守られた『第五の貴族』の邸宅。地下であるにも関わらず、そのゴシック屋敷の上には紅い月が不気味に輝いていた。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、夜闇の世界を支配する強大な『第五の貴族』の一人を討伐するのが目的となります。

 第一章は邸宅を守る『混血の落とし子』との集団戦です。
 主から『番犬の紋章』を与えられた彼女達は、集団敵でありながら1人ずつが並みのボス敵以上の力を誇ります。
 紋章はブローチのように胸元に寄生しており、ここを攻撃されるとダメージを受けます。しかし弱点を突いたとしても全滅させるのはまず不可能ですので、隙を作って屋敷内に突入する作戦を考えて下さい。

 第二章は屋敷内で『マドンナ・ローザ』とのボス戦です。
 荘厳なゴシック調に設えられた彼女の屋敷は、地下で屋内であるにも関わらず、紅い月光(のような謎の光源)に照らされています。戦場としての広さは十分です。
 第五の貴族であるローザは自作した『愛の紋章』で自らを強化しており、その効果と弱点はオープニングの通りです。いかにして弱点を突いて紋章の力を無効化するかが勝利の鍵となります。

 マドンナ・ローザを倒した後、第三章で何が起こるかは現時点では不明です。
 実際にこの章まで到達してから、断章にて状況説明と攻略の鍵をお伝えします。

 長きに渡るダークセイヴァーでの戦いも、ついにここまで来ました。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『混血の落とし子』

POW   :    落とし子の牙
【自らの血液で作られた矢】が命中した対象に対し、高威力高命中の【牙による噛み付き攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    血の盟約
【主人である吸血鬼に自らの血を捧げる】事で【黒き祝福を受けた決戦モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    落とし子への祝福
【邪悪な黒き光】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。

イラスト:i-mixs

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

播州・クロリア
流石はグリモア猟兵
紋章の黒幕の存在を突き止めるとは
この好機を逃さず強襲するとしましょう
何でも黒幕は悪意のある攻撃は反射するとか
であるならばこの戦いは終始、歌劇のように
楽しまなくてはいけませんね
(目を閉じ、すっと手を真横にピンと伸ばすと{絢爛の旋律}で『ダンス』を始める)
まずは大勢の敵との戦闘場面です
(『催眠術』による認識阻害で自分の『残像』を作り攻撃を回避しながら『衝撃波』を纏った蹴りで攻撃しつつUC【蠱の宴】で敵の動きを遅くし翅を使った『空中浮遊』で一気に館に侵入を試みる)
あまり時間を取ると観客が飽きてしまいますからね
さらっと流してしまいましょう



「流石はグリモア猟兵、紋章の黒幕の存在を突き止めるとは」
 暗黒が支配する地底世界にて、紅い月に照らされて荘厳さを示すゴシック様式の屋敷。
 遂に明らかとなった『第五の貴族』が1人、吸血鬼マドンナ・ローザの邸宅の敷地に、播州・クロリア(リアを充足せし者・f23522)は足を踏み入れる。
「この好機を逃さず強襲するとしましょう」
 敵はダークセイヴァーの地底と地上をあまねく支配する元凶と言うべき存在。まだ発見されたと気付いていない今だからこその勝機もある。有象無象には目もくれず警備の隙を突き、屋敷に突入――そしてマドンナ・ローザただ1人の首を落とせれば此方の勝ちだ。

「何でも黒幕は悪意のある攻撃は反射するとか。であるならばこの戦いは終始、歌劇のように楽しまなくてはいけませんね」
 クロリアは目を閉じ、すっと手を真横にピンと伸ばすと、リズムを刻みながらダンスを始める。この地においては失われたもの――蒼天に輝く太陽と、陽光に照らされ輝く大地の栄華を表した「絢爛の旋律」を、全身で躍動的にかつ喜びに心を満たしながら奏でる。
「まずは大勢の敵との戦闘場面です」
 心からダンスを楽しむ「リア」な感情が彼女にとって力になる。紅月をスポットライトにして意気揚々と舞い踊る少女に気付いたのは、警備を担当する「混血の落とし子」達。
 その胸に輝くのは「番犬の紋章」――主人の屋敷に近付く不審者を排除するのが彼女らの使命。すっと手をかざすと、指先から放たれた黒き光が、音もなくクロリアを貫いた。

「侵入者……排除します」
 警告なしで放たれた攻撃は、一発でも猟兵に重傷を負わせられるほどの威力があった。
 ただのダンピールにすら絶大な力を与える「紋章」の持ち主が、この屋敷には何十人といるのだ。まともに戦ってはまず勝ち目はない――ゆえにクロリアにそのつもりは無い。
「残念、それは残像です」
 黒光に貫かれたクロリアの像がふっとかき消え、新たな像が別の位置に現れる。彼女の踊りには観衆を催眠にかけて認識阻害を引き起こす作用がある。それを利用して攻撃を回避した彼女は、すかさず反撃を叩き込んだ。
「ぐっ……」
 旋律の力による衝撃波を纏った蹴りが、落とし子の1人の体勢を崩す。だが敵は僅かに顔をしかめたものの倒れる気配はない。耐久力や防御力も紋章で強化されているようだ。

「楽しんでますか? 私は楽しいです。リアです」
 しかしクロリアの目的はここで敵を倒すことではない。背中の翅を震わせて空中に浮かびながら、心から楽しげに旋律を奏でながら踊りを披露する、その行為が突破口になる。
 手足を伸ばして機敏に踊る彼女とは対照的に、彼女を取り囲む落とし子達の動きは、まるでスローモーションのように緩慢であった。
「なに……これは……??」
 主人への忠誠と使命に生きる落とし子達に、ダンスや旋律を楽しむような余裕はない。その結果彼女達は【蠱の宴】に取り残され、行動速度に大きな制約を受けることとなる。

「あまり時間を取ると観客が飽きてしまいますからね。さらっと流してしまいましょう」
 攻囲が鈍った隙をついて、すうっと闇空を踊りながら翔け抜けていくクロリア。ここはまだ舞台における最初の幕、たかが端役相手に手間を取らされるつもりはさらさらない。
 追いすがる落とし子達の手や攻撃をもするりと躱して、虫の踊り子は屋敷に侵入する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
強さをはかるためにちびアリスをしかけるよ。

うひゃあ、あんな一瞬で!?
こんなのが何十体もいるなんて、リミティアちゃんが言ってたみたいに一点突破しかないみたいだね。

ちびアリスとともに魔法のよる威嚇射撃をしながら、注意をひきつけるよ。

こちらに全力の攻撃を仕掛けてきた瞬間に目立たないよう、迷彩をかけておいたちびアリスが胸の番犬の紋章へ、銀の杭をうちつけるよ。

よし、いまだ!!とつげきー!!



「まずは相手のつよさをはからないとね」
 『第五の貴族』の拠点を訪れたアリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)はまず、【アリスの世界】で召喚した分身の1体を先行させて敵にけしかけてみる。
 警備にあたっているダンピールの娘に近付いた「ちびアリス」は、娘が軽く腕をひと振りしただけで吹き飛ばされ、消滅した。敵にはユーベルコードを使った様子すらない。
「うひゃあ、あんな一瞬で!?」
 主人から「番犬の紋章」を与えられたオブリビオンの力が改めて分かる。真に恐るべき点は『第五の貴族』は紋章を量産でき、屋敷を守る全ての配下にそれを与えている事だ。

「こんなのが何十体もいるなんて、リミティアちゃんが言ってたみたいに一点突破しかないみたいだね」
 予知にて伝えられた情報を現地で確認できたところで、アリスは残ったちびアリス達と共に魔法による威嚇射撃を仕掛ける。色とりどりのファンシーな弾幕が仄暗い戦場を照らし、周辺にいた「闇の落し子」の注意を引きつけた。
「我らが主の敷地内で、騒ぎを起こす者は許しません」
 虹色の魔弾の返礼に放たれるのは、全てを呑み尽くすような黒き光。使命によって行動する彼女らに油断や容赦と言うものはなく、初手から全力で此方を潰しにかかってくる。
 正面からの撃ち合いに勝機がないことは明白だった。アリス達が多少傷を負わせても、敵はすぐに【落とし子への祝福】でダメージを回復してしまう。対する落とし子の攻撃はちびアリス軍団を次々と撃破し、本体のアリスまで一気に殲滅しようという勢いだ。

(よし。落とし子ちゃん達はこっちを見ているね)
 しかしアリスは敵がこちらに全力の攻撃を仕掛けてきたのを見て、狙い通りだと笑い。
 その瞬間、あらかじめ迷彩をかけられていたちびアリスの別働隊が、激しい弾幕の撃ち合いに紛れて敵群に奇襲を仕掛けた。
「えいやー」
「ぐっ……!?」
 可愛らしくデフォルメされたアリスの分身達の手には、ギラリと輝く銀の杭。吸血鬼退治のお話においては定番中の定番とも言える武器――鋭く研ぎ澄まされた先端が、混血の落とし子の胸に打ち付けられ、寄生する「番犬の紋章」を穿った。

「よし、いまだ!! とつげきー!!」
 番犬の紋章は宿主に絶大な力を与えるが、同時に弱点にもなる。それを銀で傷つけられれば落とし子達も無事では済むまい。敵の動きが乱れた瞬間をアリスは見逃さなかった。
 残存するちびアリスをひとつに合体してパワーアップさせ、全力の魔法を放ちながら一点突破を仕掛ける。激しい閃光と爆発が起こり、防衛陣の一角に穴がこじ開けられた。
「ま、待ちなさい……!」
 慌てる敵の叫びも虚しく、情報妖精たちの背中は矢のように戦線から遠ざかっていく。
 混血の落とし子が態勢を立て直す頃にはもう、アリスは屋敷への侵入を果たしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
これ全部があの番犬の紋章を持っているのですか……とにかく、屋敷内に入りさえすれば良いのですよね。
それなら……

アマービレでねこさんをたくさん呼び出しつつ【果実変性・ウィッシーズガーディアン】を発動。

ねこさん達の【多重詠唱】【全力魔法】【オーラ防御】【結界術】を展開。

【第六感】と【野生の勘】で敵の行動や、最低限倒すべき敵、ユーベルコードを使わせて隙を作る為に弱らせるべき敵を【見切り】、ねこさん達の【スナイパー】【属性魔法】やセプテット、オラトリオによる【乱れ撃ち】、スタッカートによる【早業】で攻撃。

隙が生まれたら素早く飛翔し、多少の【激痛は耐えて】でも屋敷まで止まらずに駆け抜けます。



「これ全部があの番犬の紋章を持っているのですか……とにかく、屋敷内に入りさえすれば良いのですよね」
 過去にも同じ紋章を与えられたオブリビオンとの交戦経験がある七那原・望(封印されし果実・f04836)は、それが同時に何十体もいる脅威を実感をもって受け止めていた。
 幸いにして警備を担当する「混血の落とし子」は、屋敷の中には追ってこないと予知されている。目的である『第五の貴族』を討つために、配下を全滅させる必要はないのだ。
「それなら……」
 望は「共達・アマービレ」と名付けられた白いタクトを振って、友である魔法猫を呼び出す。リンと響く鈴の音を聞きつけたか、警備のダンピール達もすぐに駆けつけてきた。

「わたしは望む……ウィッシーズガーディアン!」
 敵の攻撃が始まるよりも先に、望は【果実変性・ウィッシーズガーディアン】を発動。
 白と黒の双剣で武装した愛らしくも凛々しい黒装束に変身すると、猫達と一緒に魔法を唱え、オーラの結界を展開する。
「猟兵……侵入者にして我らが主の敵。滅びなさい」
 直後、落とし子達が放った黒い閃光が、衝撃を伴って結界を揺るがす。紋章により強化された集団の集中砲火は、純血のヴァンパイアすら遥かに凌駕するほどの威力を誇る――だが望のウィッシーズガーディアンは超高速戦闘と精密な防御を得意とする変性形態。敵の攻撃に合わせて結界の魔力密度を変化させることで、柔軟に突破を防いでいた。

(最低限倒すべき敵、弱らせるべき敵は……)
 輝ける闇の猛攻を凌ぎながら、望は第六感と野生の勘を研ぎ澄ませて敵の行動を見極める。いかに強固な防壁でもこの数を相手に長くは持ちこたえられない事は分かっていた。迅速に突破口を見つけ出し、活路をこじ開けなければならない。
「……そこなのです、ねこさん達」
 彼女が指差したのは一点。そこにいる敵に向けて、猫達が魔法攻撃で狙撃を仕掛ける。
 同時に彼女の周囲で滞空する七つの長銃――「銃奏・セプテット」も一斉に火を噴き、銃弾の雨を敵群に浴びせかけた。

「くぅ、っ!?」
 集中攻撃の標的となった落とし子は咄嗟に身を護るが、放たれた魔弾のうち数発が胸の紋章に当たる。力の源を傷つけられた娘の口からは苦悶が漏れ、ぐらりと体勢を崩した。
 その機を逃さず望は結界を解除すると全速力で飛翔。一気に敵との距離を詰め、白と黒の双剣「夢奏・スタッカート」による追撃を仕掛ける。
「どいてもらうのです」
「疾い……っ、ぐあっ!?」
 対を成す黒き妖刀と白き聖剣は、紅き雷光を纏って燦然と閃き。目にも留まらぬ早業で斬り伏せられた混血の落とし子達の体から、血飛沫が戦場をより深い真紅に染めていく。

「何をしているのですか!」
 深手を負った仲間への叱咤と共に、他のダンピールから【落とし子への祝福】が飛ぶ。
 望の総攻撃が与えたダメージは、致命傷を除けばまたたく間に治療されてしまうが――回復のユーベルコードを使わせれば敵はその最中攻撃できない。それも望の狙いだった。
「今です……!」
 集団全体に生まれた隙を突いて、屋敷に向かって一目散に翔ける。その時点で狙いに気付いた落とし子からの追撃が飛んでくるが、これまでと比較すれば規模はまばらだった。

「痛っ……くない……!」
 闇色の光が身体を掠めるたびに激痛が走る。しかし望はぐっと堪えて立ち止まらない。
 彼女は屋敷の中に飛び込むまで一切スピードを落とさずに、見事敵の警備網を突破したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
「マドンナ・ローザってのは慈愛に満ちた素晴らしい御仁と聞くが…てめぇらの面見るに噂は嘘っぱちなんだろうなぁ?!」
とりあえず煽ってから考えよう
勿論いってるのは本心でなく嘘っぱち

「だっててめぇら…その主人から頼まれたのか?
愛し子を全て通さず追い返せと…」
頼まれてはないんでねぇの?
全てを愛し子として認識してるなら多分本当は案内しろとかじゃねぇの?
って思いながら攻撃を避けて口撃を
「頼まれたってならそいつぁ嘘つきペテン師だったって事だろ?
頼まれてねぇなら部下の躾もできねぇってこった!」
挑発し煽り隙を晒し攻撃を誘発
黒纏にてガードし崩し、カウンター
Nagelで胸元狙い打ち
その隙を付きUC発動
隠れて離脱するぜ



「マドンナ・ローザってのは慈愛に満ちた素晴らしい御仁と聞くが……てめぇらの面見るに噂は嘘っぱちなんだろうなぁ?!」
 第五の貴族の館を護る落とし子達と出会うなり、尾守・夜野(墓守・f05352)はそう言い放った。何かの明確な作戦と言うよりは、挨拶代わりに挑発してみたという様子で。
(とりあえず煽ってから考えよう)
 敵に忠誠心があるなら、明け透けに主人を罵倒されて気を悪くしない訳が無いだろう。
 案の定、死人めいて青白い顔に血を昇らせて怒りを露わにする連中を見つつ、夜野は思考を回転させる。

「今、我らの主人を愚弄しましたか? ローザ様への無礼は許しませんよ……?」
 目に見えるような憤怒を滲ませて、夜野の周りを囲む落とし子達。「番犬の紋章」により強化された彼女らの威圧感は凄まじく、只人であればそれだけで動けなくなるだろう。
 しかし夜野もこれまでに相当の場数を踏んできた猟兵だ。動揺など露ほど見せず、対峙する落とし子ひとりひとりを睨み返しながら、考えついた言葉を口にする。
「だっててめぇら……その主人から頼まれたのか? 愛し子を全て通さず追い返せと……」
「……それは」
 怒れる落とし子達が微かに言いよどんだのを彼は見逃さなかった。問いかけてみたのは予知で明らかになったマドンナ・ローザの僅かな情報を元にした類推だが、あながち的外れでも無かったようだ。

(頼まれてはないんでねぇの? 全てを愛し子として認識してるなら多分本当は案内しろとかじゃねぇの?)
 狂気に陥っているというマドンナ・ローザに敵味方を正しく認識できるとも思えない。ここにいる落とし子は発狂した主にかわって、来客者の選別を行っているのではないか。
 図星だったとしても彼女らがそれを認めることは無いだろう。だからこそ夜野は好き勝手に思ったことを好き放題に言える。別にこんなのは当たっていなくても構わないのだ。
「頼まれたってならそいつぁ嘘つきペテン師だったって事だろ? 頼まれてねぇなら部下の躾もできねぇってこった!」
「貴様ッ!!」
 勿論言っているのは本心でなく嘘っぱち。しかしその挑発と煽りを敵は無視できない。
 烈火のごとく怒る落とし子達の手から黒い閃光が放たれる。直撃すれば即致命傷となりかねないそれを、夜野はひらりと躱しながら敵と肉迫する。

「何も言い返せないってことは、認めたってことでいいんだな?」
「うるさいっ、その減らず口を閉じなさい、痴れ者がッ!!」
 なおも口撃で煽りたてながら、敢えて敵の前で隙を晒す夜野。怒りで判断力の鈍った敵はまんまと誘いに引っかかり、力任せに腕を振るう。怒りと腕力にものを言わせた雑な攻撃を、彼は着用した「夜纏」の形状を変化させてガードし、逆に相手の体勢を崩した。
「しまっ……ぐぅっ?!」
 直後に仕掛けられるカウンター。単発銃「Nagel」から放たれた釘型の弾丸が、敵の胸元に寄生する「番犬の紋章」を貫く。至近距離から弱点を狙い撃ちにされた落とし子は苦しげなうめき声を上げ、がくりとその場に膝をついた。

「聞きたくなけりゃ聞かなきゃいいし、見たくなけりゃ見なくていいぞ」
 夜野はその隙を突いて【消失事象】を発動し、刻印の力で装備ごと自身を透明化する。
 落とし子達からすれば忽然と敵が消えたように見えるだろう。慌てて辺りを見回しても、身を隠した彼の姿は見つけられない。
「ええい、よくも、よくもッ!!」
 散々に侮辱された挙げ句に取り逃したという屈辱を味わわされた落とし子達の叫びが木霊するなか、夜野はそのまま戦場を離脱しマドンナ・ローザの屋敷に突入するのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

カビパン・カピパン
「猟書家カビパンだ」
突然現れた猟書家の出現に静寂が走る。ある者は何だコイツと困惑し、ある者はカビパンに恐れ戦きながら。

「まだ時間に余裕もある…シークレットライブだ」
一方的に聖杖を構え、歌おうとするカビパン。

(なんというか私の歌って完璧すぎないだろうか?ワザと下手に歌ってみようかしら)
伝説のMSさんも酷評ばかりで飽きてきたのではないかという配慮。

【カビパン・リサイタル】を下手くそに歌った。

――が、マイナスとマイナスをかけるとプラスになる如く、一転して純朴な美しいハーモニーとなり、感動と希望、癒やしを届けるまさに天使の歌声の讃美歌となる。

聞き惚れボッーとしている落とし子達を尻目に屋敷にお邪魔した。



「猟書家カビパンだ」
 主の屋敷を守るダンピール達の前で、カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)は名乗った。幾つもの世界を股にかけて活動する恐るべき侵略者集団の名を。
 オブリビオン・フォーミュラが今だ健在であると考えられるこの世界では、猟書家の活動は確認されていない。よってその名を知る者もおらず、大半は「何だコイツ」と困惑するだけだが、やたら威厳と存在感に満ち溢れた彼女の態度に恐れ戦く者も僅かにいた。

「まだ時間に余裕もある……シークレットライブだ」
 不審者に敵が対応を決めかねている間に、カビパンは手にした聖杖をマイクのように構え、一方的に歌いだそうとする。持ち前の音痴をユーベルコードの域まで昇華した【カビパンリサイタル】で戦場をギャグとカオスの坩堝に陥れるのは、彼女の常套戦法だった。
 しかしこれまでにも幾つもの依頼をこれでゴリ押してきた彼女の心境には、ちょっとだけ変化が生まれ始めていた。
(なんというか私の歌って完璧すぎないだろうか? ワザと下手に歌ってみようかしら)
 彼女の歌を一度でも聞いたことがある人なら何を言っているのかと思うかもしれない。フグが自分の毒で死なないように、自分の歌を聞いてもカビパン本人は平気だからこその感想。同じ評価ばかりで飽きてきたのではないかという配慮も、そこには含まれていた。

「ということで私、歌います!」
 かくして始まるカビパンリサイタル。幾人ものオブリビオンを(たまにそれ以外の人間も)地獄に導いてきた衝撃的ミュージックを、カビパンはわざと下手くそに歌いあげる。
 その結果生まれるのは聞くも無惨な、もはや地獄という言葉すら生温い戦慄の惨状――ではなかった。マイナスとマイナスをかけるとプラスになるが如く、いつもなら精神攻撃になるほど酷い彼女の歌は、一転して純朴な美しいハーモニーとなって戦場に響き渡る。
「なに……この歌は?」
「どうして、涙が止まらないの……?」
 それは聴衆に感動と希望、癒やしを届ける、まさに天使の歌声と呼べる奇跡の賛美歌。
 暗闇に支配された地の底に、光が降り注ぐような感動に打たれて、混血の落とし子達は我知らず涙を流していた。

「わたしは~癒し系 ~~♪」

 普段なら絶妙に外れて不愉快MAXな音程も、今日だけはバッチリ合っている。聖職者の肩書きに違わぬ素晴らしい歌声を披露され、敵はもうすっかり聞き惚れてしまっている。
 どれくらい聞き入っていたかと言えば、カビパンが歌唱を終えて最後のフレーズが闇に溶けていった後も、まだ彼女らは余韻に浸りきったままボーッとしているほどであった。
「今のうちに入らせてもらいましょ」
 警備の役目もすっかり忘れている落とし子達を尻目に、カビパンは屋敷にお邪魔する。
 とても珍しいことに、今回の彼女のリサイタルは全ての聴衆にとって、ポジティブな意味合いで心に刻まれたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

春乃・結希
猟兵と、この世界で生きる人達
みんなで結んで来た希望
やっと、ここまで来た
…行こう、『with』
あなたと一緒なら、大丈夫
何があっても、最後まで

紋章は狙わない
当たりさえすれば充分な威力はある
あなたも私の旅の相棒。信じてるよ
『wanderer』の攻撃力を5倍、回数を半分に
威力を高めた蹴撃で敵を【吹き飛ばし】
そのまま空いたスペースに飛び込み、少しずつでも確実に、前に進んでいく
『wanderer』が再度使用可能になるまでの時間を『with』と拳を振るって稼ぐ【重量攻撃】【怪力】
ここで下がったら、何の意味もないから
負傷を焔で補い、絶対に退かない【激痛耐性】

あなたたちに用は無いんです
希望へ進む世界を
邪魔するな



「猟兵と、この世界で生きる人達。みんなで結んで来た希望」
 やっと、ここまで来た――『第五の貴族』の屋敷を前にして、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は感慨を噛みしめる。吸血鬼が支配するこの世界で猟兵達の反撃が始まってから2年近く。あの頃は朧げだった希望の道筋が、今はもうはっきりと見えている。
「……行こう、『with』。あなたと一緒なら、大丈夫。何があっても、最後まで」
 最愛の恋人にして無二の相棒である漆黒の大剣と共に、大貴族の邸宅に一歩踏み出す。
 立ちはだかるのは「番犬の紋章」を与えられた混血の落とし子達。しかし、どれだけ敵が強大であろうとも、彼女の心には希望と勇気の炎だけが燃え盛っていた。

(紋章は狙わない。当たりさえすれば充分な威力はある)
 力強く地面を踏みしめながら、敵に向かって駆けていく結希の脚には「wanderer」。
 蒸気魔導技術により脚力を強化するガジェットブーツ。思えば「with」ほどではないにしろ、この武具にも沢山の局面で助けられてきた。
「あなたも私の旅の相棒。信じてるよ」
 先手は頂く。襲撃側の利を活かして仕掛けるは【リアレンジメント】で強化した蹴撃。
 「wanderer」の蒸気魔導回路を組み替え、手数を犠牲にしてでも瞬間威力を高めるよう流路を最適化し。白霧を噴き上げながら放たれた一撃が落とし子の胴体に突き刺さる。
「ごは……ッ!!?」
 出力にして通常時の5倍に相当する凄まじい威力。その衝撃をモロに叩きつけられた敵はサッカーボールのように吹き飛ばされ、敵の防衛戦上に空白が生まれる。結希はその空いたスペースに飛び込んで屋敷までの距離を詰めながら、一歩ずつ前に進んでいく。

「止まりなさい!」
 結希の蹴撃の威力を目の当たりにした落とし子達は、接近戦を避けて血液で作った矢を射掛ける。ざあっと降りかかる紅い矢の雨を、結希は自らの拳と「with」で振り払う。
 リアレンジメントした「wanderer」が再使用可能になるまでには時間がかかる。膂力にものを言わせてその時間を稼ごうとするも、捌き切れなかった矢が次々と突き刺さる。
「くっ……!」
 四肢を縫い止めて動きを鈍らせる血矢、その後から襲い掛かるのは【落とし子の牙】。
 黒い風のように近付いてきた娘の口から、鋭い牙が覗き――結希の首筋に齧り付いた。

「このまま血を吸い尽くして……ッ!?」
 吸血鬼の本性を露わにして、敵を貪り尽くそうとする混血の落とし子。しかしその時、傷ついた結希の身体から噴き出したのは血ではなく、鮮血よりも赫い紅蓮の焔だった。
 慌てて飛び退いた落とし子の目の前で、焔は結希に刺さった矢を燃やし、傷口を焼いて塞ぐことで血を止める。負傷箇所を炎によって補いながら戦うのが、ブレイズキャリバーである彼女の戦い方だ。
「ここで下がったら、何の意味もないから」
 無論、その戦法に痛みが伴わないはずがない。だが彼女は不退転の決意で激痛に克つ。
 ここまで来るのにどれだけの血が流れ、どれだけの時がかかったのか。もうこれ以上は待つ気はない、絶対に退かないという意志で、焔纏う少女はただ前だけを見て突き進む。

「あなたたちに用は無いんです。希望へ進む世界を、邪魔するな」
 結希の足元で魔導蒸気機関が唸りを上げる。再び使用可能となった「wanderer」による蹴撃を、先程首に噛み付いてきた落とし子に、退けと言わんばかりに思いきり叩き込む。
 ズドンッ、と大気が震えるほどの衝撃が矮躯に突き刺さり、くの字に折れ曲がった敵は周囲にいた連中を巻き込んで吹き飛んだ。そして後に拓かれるのは屋敷まで続く一本道。
 ここで徒に時を過ごすつもりはない。また新しい警備がやってくる前に、結希は一目散に戦場を駆け抜け、マドンナ・ローザの屋敷に突入した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
この闇の世界の支配者…。ようやく掴んだチャンス…。
必ず、この世界の人々を解放してみせる…!

【九尾化・魔剣の巫女媛】封印解放…!
無限の魔剣を顕現させ、
空中から無限の魔剣を敵及び庭園全体に連続斉射で放ち、魔剣を起点に【呪詛】で庭園を侵食…。

呪いで敵を侵食して弱体化させると共に、庭を侵食する呪力で呪力の縛鎖を発動…。
敵をそれぞれ庭に縛り付けて動きを止めてる間に強化した凶太刀の高速化と飛行能力で一気に館に突入…。
進路上、障害になる敵だけ、【呪詛】を込めた凶太刀と神太刀による渾身の斬撃を胸の「番犬の紋章」に叩き込んで仕留め、「第五の貴族」の下へ進むよ…。

悪いけど、ここは通らせて貰うよ…!



「この闇の世界の支配者……。ようやく掴んだチャンス……」
 ついに明らかとなったダークセイヴァー世界の黒幕、『第五の貴族』の邸宅を前にして雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)の心は静かに昂ぶる。彼女もこの世界を守るために戦い続けてきた猟兵の1人であり、人々を闇から救うために何度も魔剣を振るってきた。
「必ず、この世界の人々を解放してみせる……!」
 決意を新たにする少女の腰の後ろからは九本の尾が揺れ、全身には莫大な呪力を纏い、周囲には無数の魔剣が付き従う。彼女は既に【九尾化・魔剣の巫女媛】の封印を解放し、臨戦態勢に入っていた。

「高貴なるお方の庭を土足で踏み荒らすとは何たる無礼。その命をもって償いなさい」
 屋敷の警備を任された「混血の落とし子」達は、迸る呪力によって周囲を崩壊させながら近付いてくる璃奈に眉尻をつり上げ、かざした手のひらに黒い光を灯す。宿主に絶大な力を与える「番犬の紋章」を宿したオブリビオンが数十体――心が挫けてもおかしくないような戦力差だが、これまでにも幾多の激戦を乗り越えてきた魔剣の巫女媛は怯まない。
「我らに仇成す全ての敵に悉く滅びと終焉を……」
 敵の攻撃が始まるよりも一瞬速く、顕現させた無限の魔剣が空中から戦場に降り注ぐ。
 立ちはだかる敵群だけでなく屋敷の庭園全体に放たれたそれは、楔のように戦場の各所に突き刺さり、込められた呪詛によって大地を侵食する。璃奈はそれを起点として呪術式を組み上げ、戦場そのものを自らのフィールドとして作り変えていった。

「汚らわしい呪いで主の庭を穢すなど、よくも……!!」
 それを見た落とし子達はさらに怒りを露わにするが、それを行動に移すよりも速く、地面から飛び出した鎖が彼女らの身体に絡みついた。それは庭に侵食させた璃奈の呪力が実体化したもので、ヴァンパイアの膂力でも容易くは千切れない拘束力を誇る。
「貴女達の相手をしている余裕はないからね……」
 敵をそれぞれ庭に縛り付けて動きを止めたところで、璃奈は呪力を放出して宙に浮き上がり、左右に妖刀「九尾乃凶太刀」「九尾乃神太刀」を構え、一気に館への突入を図る。
 ここで討ち倒すべき敵は「第五の貴族」ただ1人。紋章の支配者であるかの者がここにいる番犬より弱いということはあり得ないだろう。交戦と消耗は最小限に留めるべきだ。

「ま……待ちなさい……!」
 矢のように空を翔ける璃奈の進路上に、1人の落とし子が立ち塞がる。縛鎖にその身を戒められ、呪いの侵食により弱体化している筈ながら、まだ動けているのは紋章の力か。
 避けては通れないと判断した璃奈は凶太刀の呪力を解放。魔剣の巫女媛の封印を解いた今、彼女の魔剣・妖刀それぞれが持つ能力は平時よりも強化されており、凶太刀が有する「使い手を高速化させる」能力もさらに高められていた。
「悪いけど、ここは通らせて貰うよ……!」
 稲妻の如きスピードで敵と肉迫した彼女は、その勢いのまま凶太刀と神太刀による渾身の斬撃を敵に叩き込んだ。呪詛のオーラを纏ったその双撃は過たず胸の「番犬の紋章」を捉え、斬撃と呪いによる致命的なダメージを落とし子にもたらす。

「ぎ、がぁ……ッ!!!?」
 敵は胸から血飛沫を上げながら【落とし子への祝福】で傷を癒やそうとするが、璃奈が凶太刀と共に振るった神太刀は超常の存在の不死や再生力を封じる神殺しの妖刀。その力の前では吸血鬼の再生も治癒も機能せず、苦悶のうちに混血の落とし子は命を落とした。
 璃奈はその様を見届ける暇も惜しいとばかりに仕留めた敵の上を飛び抜けると、他の敵が追いついてくる前に屋敷の中に突入し、『第五の貴族』の元へ進むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
ついに地下都市の支配者に手が届くようになったのですね。
険しい道程である事は承知の上。
最善を尽くします!

今回は下僕を倒すのが目的ではありませんので、UCにて虫や小動物を眷属神として召喚して周囲を索敵してもらいます。
その上で結界術にて”姿隠しの結界”を自分の周囲に施し、空中浮遊しつつ念動力で自分を動かして、密やかに目立たないよう地形を利用して進みます。

戦闘が避けられない時は第六感と見切りで敵攻撃を読みつつ、敵を盾にするように動いて、包囲されるのを回避。
光の属性攻撃・全力魔法・貫通攻撃・高速詠唱・範囲攻撃・マヒ攻撃による光の矢をばら撒いて敵の胸の紋章を纏めて貫き、敵が立ち直る前に邸内に飛び込みます。



「ついに地下都市の支配者に手が届くようになったのですね」
 ここまでにあった幾つもの困難を思い返しながら、大町・詩乃(春風駘蕩・f17458)は『第五の貴族』が待ち受けるゴシック様式の屋敷を見据える。地上から地底へと戦場を移し、闇に囚われた人々を解放してきた、これまでの猟兵達の戦歴は無駄ではなかった。
「険しい道程である事は承知の上。最善を尽くします!」
 意気込みも高らかに気を引き締めて、邸内への潜入作戦を開始する詩乃。狙うは屋敷の主であるマドンナ・ローザただ1人。まずは道中の消耗を抑えるのが勝負の分かれ目だ。

「アシカビヒメの名によって召喚す、我が元に来りて命を受けよ」
 詩乃は女神としての名をもって【神使召喚】を発動し、眷属神を喚び出して周囲の索敵を命じる。植物の女神である彼女の眷属はそれぞれが虫や小動物の姿を取り、屋敷の周辺に植えられた薔薇園や生け垣に身を潜めながら各方面に散っていく。
(今回は下僕を倒すのが目的ではありませんので)
 消耗を最小限にするためには、そもそも敵に見つからないのが最良。さらに彼女は自らの周囲に姿隠しの結界を施し、足音を立てないよう念力で空中に浮かびながら移動する。
 先行する眷属神達の偵察情報を元にして警備網の穴を探し、物陰に身を隠して密やかに目立たないよう、緊張を糸のように張り詰めたまま細心の注意を払って先に進んでいく。

(とは言え、一切戦わずに済みそうにはありませんね)
 屋敷に近付くにつれて敵の警備も厳しくなってくる。すでに複数の猟兵との交戦状態にある「混血の落とし子」達は、これ以上は誰の侵入も許すまいと殺気立っている様子だ。
「……猟兵の匂いがします。そこにいるのは誰ですか!」
 ついに1人の落とし子が隠密を見破り、詩乃の潜んでいる物陰に血液の矢を放つ。詩乃は第六感が身体を動かすままにその場から飛び出し、すんでのところで攻撃を避けるが、騒ぎを聞きつけた他の警備がすぐに駆けつけてくる。
「やはり、こうなってしまいましたか」
 本当なら避けたかった展開だが、まだ状況は最悪ではない。口元で詠唱を紡ぎながら、最初に自分を発見した敵に近付く。迂闊に距離を取ろうとして狙い撃ちにされるよりは、敵を盾にするように動いて包囲されるのを回避することを選んだのだ。

「くっ……近すぎる!」
 駆けつけてきた落とし子達は、射線上に敵味方が重なっているせいで血矢を放てない。
 その隙に詩乃は素早く詠唱を完了させ、全力の神気を込めた光の矢を周囲にばら撒く。
「押し通らせていただきます!」
 放たれた光の矢は番犬共の弱点である「紋章」を纏めて射抜き、まるで金縛りのように落とし子達の動きを封じる。急所に当たったとはいえ一撃では倒すには至らないが、少しの間だけ態勢を崩させることができれば、今は十分だった。

「それでは、お邪魔いたします」
「ま……待ちなさい……ッ!」
 矢のダメージから敵が立ち直る前に、詩乃は『第五の貴族』の邸内に飛び込んでいた。
 一度屋敷の中に足を踏み入れれば、番犬達はもう侵入者に手を出せない。落とし子達は牙を噛み締めながら、彼女の後ろ姿を睨みつけることしかできなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フレミア・レイブラッド
なるべく余計な体力は使いたくないけど…番犬クラスなら、ある程度は仕方ないわね。

【ブラッディ・フォール】で「侵略の氷皇竜」の「氷皇竜メルゼギオス」の力を使用(氷皇竜の翼や尻尾等が付いた姿に変化)。
【アイス・リバイブ】の氷の鎧を纏い、【アイシクル・ミサイル】を自身の魔力【属性攻撃、誘導弾、高速詠唱、全力魔法、鎧砕き、鎧無視】で強化。
強化され、凍結の魔術を纏ったミサイルの弾幕で敵を物量と肉体の凍結で強引に押し留める事で侵入までの突破口を作り、反撃は【リバイブ】の効果で強化再生。
意地でも追ってくる様な敵は【アブソリュート・ゼロ】で完全に凍結させ、紋章を貫きトドメを刺すわ!

第五の貴族…待ってなさい!



「なるべく余計な体力は使いたくないけど……番犬クラスなら、ある程度は仕方ないわね」
 倒すべき敵と、途上に立ちはだかる障害。その脅威と残すべき力を考慮して、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は判断する。番犬相手に全力を出し尽くしてしまうのは論外だが、力を出し惜しみし過ぎても余計な消耗を被ってしまう。
「骸の海で眠るその異形、その能力……我が肉体にてその力を顕現せよ!」
 道を切り開くのに必要な力を考えて、彼女が発動するのは【ブラッディ・フォール】。
 蒼い氷の鎧がその身を覆い、背中からは一対の翼と尾が生える――それはかつてアックス&ウィザーズで撃破した「氷皇竜メルゼギオス」の力を顕現させた姿であった。

「貴女からは同族の匂いがします。ですが主人に仇なすのであれば容赦はしません」
 『第五の貴族』から番犬の紋章を与えられたダンピールの娘達は、蒼氷を纏った吸血姫に赫い血の矢を向ける。対するフレミアが構えるのは、自身の魔力で強化した氷皇竜のユーベルコード【アイシクル・ミサイル】。
「それはわたしも同じことよ」
 凍結の魔術を付与された数百本もの氷の棘が、蒼い弾幕となって敵集団に襲い掛かる。
 これで仕留められるとまでは期待していない。矢の物量と肉体の凍結によって強引に敵を押し留めることで、侵入までの突破口を作るのがフレミアの狙いだった。

「くっ……私達を足止めして、その間に屋敷に侵入するつもりですか……!」
 落とし子達に突き刺さった氷の棘は、根を張るように命中箇所の周りを凍らせていく。
 完全に凍りつくことはないが、それでも動きは鈍るだろう。フレミアの狙いを理解した彼女らは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、反撃の赫い矢を放つ。
「行かせるものですか……!」
 フレミアが過去に倒したオブリビオンの力で自らを強化するように、落とし子には紋章の強化がある。凝固した血液の矢は鋼のような硬さと鋭さで、氷の鎧ごと標的を貫いた。
 だが、破壊された【アイス・リバイブ】の鎧はすぐさま復元され、同時にフレミアが負った傷も瞬時に回復する。この鎧は単なる防具ではなく、無限に再生を繰り返しながら、装着者のダメージに応じて力を増していくユーベルコードの産物なのだ。

「悪いけど、貴女達に力を使っている暇はないの」
 フレミアの目的はあくまで『第五の貴族』の撃破。凍結の矢で障害を足止めした後は、鎧の再生力を頼みにして防衛線を突破しようとする。ほとんどの敵は何もできずに歯噛みするばかりだが、気合いの入った一部の連中はなおも意地になって追いすがってくる。
「行かせないと言ったはずです……!」
 彼女らを衝き動かすものは主人に対する無上の忠誠心。凍結した四肢を無理矢理動かすのには相応の痛みも伴うだろうに、身を挺してでも主の邸宅には立ち入らせまいと阻む。
 その忠義はフレミアの目から見ても大したものだったが、さりとて容赦するつもりは無い。どうしても邪魔をすると言うのならば、二度と動けないよう完全に凍結させるまで。

「その忠義を抱いたまま、骸の海に還りなさい」
 フレミアから放たれた【アブソリュート・ゼロ】が、周囲の敵を一瞬で氷像に変える。その胸元に宿る「番犬の紋章」を魔槍で貫けば、落とし子達はようやく動かなくなった。
 厄介な番犬にトドメを刺すと、フレミアはまた増援がやってくる前に急いで邸内に突入する。ここまで来ればもう妨害を受けることもなく、屋敷の主の元まで一直線だ。
「第五の貴族……待ってなさい!」
 ダークセイヴァーに絶望と悲劇をもたらす諸悪の黒幕。その心臓に突き立てるための魔槍を固く握りしめながら、氷皇竜の力纏う吸血姫はまっすぐに屋敷の奥に駆けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
「『第五の貴族』。吸血鬼との戦いで楽なものは
一つもなかったけど。今回はどうやら特別の様だ。」

呪装銃「カオスエンペラー」で
フェイントを織り交ぜつつ紋章を狙った弾幕を張り。
【呪詛】による【マヒ攻撃】を狙うと同時に
フレイムテイルの炎で目晦まし。突破を図る。
(ただの配下と思えない力。
それでも戦い活路を見出すしかない。)

敵の配置や動きを【見切り】
囲まれたところで
「此処までやるとはね。」
紋章を狙い拘束する闇の黒鎖を放ち。
「折角だ。何人かは道連れにさせて貰おう。」
フレイムテイルの炎とスカイロッドの風を利用して
自爆に見せかけた爆発を起こし
その隙に爆風を利用し龍翼の翔靴を使い上空に跳躍。
囲みを抜け邸宅に向かう。



「『第五の貴族』。吸血鬼との戦いで楽なものは一つもなかったけど。今回はどうやら特別の様だ」
 地底都市を支配し、紋章という力を与えることでダークセイヴァー世界を影から支配してきた闇の黒幕。その邸宅を前にしてフォルク・リア(黄泉への導・f05375)は呟く。
 これまでに何体もの吸血鬼やその眷属と戦ってきた彼でも緊張は隠せない。かつてない程の強敵だが、ここで第五の貴族を倒せれば、この世界の未来は大きく前進するだろう。
「ここは我らが主、マドンナ・ローザ様の邸宅。許可なき来客はお帰り願います」
 それを許すまいと立ちはだかるのが、「番犬の紋章」を与えられた混血の落とし子達。
 赫い血の矢や黒い光を携える彼女らに対して、フォルクは呪装銃「カオスエンペラー」を構え、戦闘態勢を取る。

「許されないのなら、力尽くで突破させてもらおう」
 フォルクが呪装銃のトリガーを引くと、幾多の死霊が弾丸となり敵集団に襲い掛かる。
 それはフェイントを織り交ぜながら胸の「紋章」を狙い、命中すれば物理的損傷に加えて呪詛による麻痺を引き起こす。死霊術士ならではの危険な弾幕に対して、混血の落とし子達は血の矢と黒い光で応じる。
「突破できるとお思いですか?」
 紋章の力で強化された矢は死霊の弾幕を次々と射抜き、ダメージや麻痺を受けても【落とし子への祝福】がすぐに治療する。その様子にフォルクはフードの下で眉をひそめた。

(ただの配下と思えない力。それでも戦い活路を見出すしかない)
 紋章持ちのオブリビオンの実力を改めて実感しながら、フォルクは弾幕を張り続けると同時に黒手袋の魔本「フレイムテイル」から炎を放つ。その名のとおり尾のように振るわれた劫火の明るさは、地下世界の闇に慣れた落とし子達の目を眩ませる。
「くっ……待ちなさい!」
 その間に突破を図ろうとするフォルクと、目元をかばいながら追いかける落とし子達。
 しかし術士と吸血鬼では単純な身体能力においては後者のほうに分があるか、邸宅まであと僅かというところで、彼は敵の集団に包囲されてしまった。

「もう逃げられませんよ」
「此処までやるとはね」
 辺りをぐるりと取り囲むダンピールの娘達を見回して、フォルクは小さく肩をすくめ。
 観念したかのように呪装銃を手放すと――空いた指先から【拘束する闇の黒鎖】を放ち、落とし子に寄生した紋章を狙う。
「折角だ。何人かは道連れにさせて貰おう」
「なっ……!?」
 それは肉体ではなく魂を拘束する鎖。予想外の抵抗に反応できず捕らわれた敵は数人。
 何をする気かと彼女らが目を見開く前で、フォルクは黒手袋から炎を、銃に替わって実体化させた「スカイロッド」から風を放ち、大規模かつ急速な燃焼現象を発生させる。

「まさか……自爆する気ですか!?」
「今になって気付いたも、もう遅い」
 直後、フォルクの足元を起点として大規模な爆発が起こり、炎と風が周囲を薙ぎ払う。
 黒鎖に拘束された落とし子はそれをもろに喰らって悲鳴を上げ、その他の敵も巻き添えにならないよう慌ててその場から飛び退く。
「なんということを……」
 爆発が収まった後に彼女らが目にしたのは、真っ黒に焦げ付いた爆心地の惨状。そこにフォルクの姿は跡形も残っていない。屋敷への侵入が果たせないとみるや、即座に自爆に目的を切り替えた彼の判断の潔さに、混血の落とし子達は戦慄するのだった――。

「……なんとか撒けたかな」
 ――だが。爆死したかと思われたフォルクは、実際には敵の邸宅の入口に立っていた。
 彼は履いていた「龍翼の翔靴」と爆風を利用して上空に跳躍し、爆発による被害を避けるとともに敵の頭上から囲みを抜けていたのだ。自爆と見せかけたのはフェイクである。
 まんまと警備の裏をかいた彼は、そのまま『第五の貴族』の邸宅に踏み込むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
『第五』…いえ、今は思考を割く時ではありませんね
この夜闇の世界の真実が地の底にあるのであれば、駆け抜ける他ありません

弾かれることを承知で格納銃器の発砲と同時、UCの杭を●投擲
『仕込み』として幾本か地に突き立て

背から抜き放つ剣盾で血の矢を防御
牙剥かんとする敵の胸元の紋章に格納銃器●乱れ撃ち●スナイパー射撃

射線を見せた以上当然躱してくるでしょう…弾の密度を少なくした方向へ
その移動先の『仕込み』のUCを『壁』として起動
ぶつかった隙を●推力移動で逃さず接近
剣で紋章を突き

さて、侵入経路上の敵を倒した以上長居は無用ですね

騒ぎ聞きつけた集団の足元へUCをばら撒き『壁』を形成
足止めしている内に内部へ全速で侵入



「『第五』……いえ、今は思考を割く時ではありませんね」
 ついに正体が明らかとなったダークセイヴァー世界の黒幕、その呼称と番号が意味するものは一体何なのか――考察を巡らせかけた思考を切り替え、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は目の前の目標と障害に対応する。
「この夜闇の世界の真実が地の底にあるのであれば、駆け抜ける他ありません」
 二年近くに渡る戦いの末、ようやく指先にかかった真実への手がかり。いかなる困難が待ち受けていようとも、ここで撤退するという選択肢は、騎士としてありえぬ事だった。

「用があるのは貴女方の主人だけです。道を開けてもらえますか」
「聞くまでもなく分かっているでしょう。ここから先は通しません」
 主人に仇なす者には容赦しないと、混血の落とし子達が凄まじいプレッシャーを放つ。
 この邸宅を警備するオブリビオンは、一人残らず「番犬の紋章」による強化が付与されている。過去に「門番」との交戦経験があるトリテレイアは弾かれることを承知の上で、機体各部から展開した銃器とユニットによる射撃戦を仕掛けた。
「そう仰るものと分かっていました」
 発砲と同時に手元から投げるのは【多機能型電磁障壁発振器射出ユニット】から出した杭状の発振器。この先の作戦の仕込みとして、弾幕に紛れて幾本か地に突き立てておく。

「こんな豆鉄砲で私達を倒せるとでも?」
 機械騎士の弾幕を腕で振り払いながら、落とし子達は自らの血液から作った矢を放つ。
 本来なら牽制程度の威力しか持たないそれも、紋章の力があれば恐るべき威力と化す。トリテレイアは背から抜き放った剣と盾で防御するが、凄まじい強度と質量を持つはずの彼の大型盾に、赫い矢がまるで射的の標的のように突き刺さる。
「血の流れない獲物は好みではありませんが。噛み砕いてあげます」
 防戦に追いやられた騎士に追い打ちをかけるのは、【落とし子の牙】を剥き出しにした娘達。儚げな容姿の印象をかなぐり捨て、吸血鬼としての本性を露わにしたその一撃は、たとえウォーマシンの装甲であろうとも容易く噛み千切るだろう。

「確かに強い……ですが、貴女方の弱点は分かっています」
 敵の力を実感してもトリテレイアは冷静に、牙剥かんとする敵の胸元に狙いをつける。
 紋章持ちのオブリビオンが最も苦手とするのは紋章本体への攻撃。電子頭脳の高度な演算能力を活かした正確な射撃が、今度はその弱点をロックオンして放たれる。並みの相手であればこれで決着がつくだろうが――機械仕掛けの騎士は決して敵を過小評価しない。
(射線を見せた以上当然躱してくるでしょう……弾の密度を少なくした方向へ)
 彼が予測したまさにその通りに、敵は噛みつきの動作から一転して身を翻し、紋章狙いの弾幕を躱してみせた。そして彼女らが移動した先は、予め「仕込み」を終えていた地点――その瞬間、地面に突き立てられた発振器が起動し、板面状の電磁障壁を発生させた。

「これは……ッ?!!!」
 突如発生した高圧電流の「壁」にぶつかった落とし子達の動きが止まる。その隙を逃さずトリテレイアは脚部スラスターを吹かせて急接近、構えた儀礼剣で番犬の紋章を突く。
 一瞬のうちに形成は逆転していた。紋章を破壊された混血の落とし子は断末魔の悲鳴を上げて倒れ伏し、その肉体は灰となって土に還っていく。
「何事ですか?!」
 その悲鳴と騒ぎを聞きつけて、周辺からは仲間のダンピール達が次々と集まってくる。
 機械仕掛けの騎士はやはり冷静に、割れた紋章に突き刺さった剣を抜くと、やって来た新手の足元にも電磁障壁の発振器をばら撒いた。

「さて、侵入経路上の敵を倒した以上長居は無用ですね」
「ま、待ちなさい、この……!!」
 地面に刺さった杭を起点として形成される障壁が、機械騎士と落とし子達の間を阻む。
 じきに突破されるだろうが、少しでも時間を稼げれば十分。敵が足止めされている内にトリテレイアは全速前進で『第五の貴族』が住まう屋敷内部に侵入するのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

随分と華美で…悪趣味な館だな
フン、このまま地下に籠っていれば良いものを

装備銃器で攻撃
番犬の紋章を正確に狙った一斉射撃で、敵の初動を鈍らせる
その後はダッシュで屋敷内を目指す
こちらに向かってくる血液の矢は軌道を見切り銃撃のカウンターで全て撃ち落とす

聞いてた通り、中々に手強い番犬どもだな
やれやれ…大袈裟な歓迎はいらなかったんだが

敵の守りが厚くなったらUCを発動
周囲に居並ぶ敵集団の紋章を狙い、錆びた刃で深く切り裂く
倒せなくても一時的な行動不能に出来るだろう
防衛網を突破したら屋敷内を目指し、追ってくる敵には再度UCを発動し突き放す

鮮血の光を浴びて輝く屋敷か…
フン、どこまでも趣味の悪い話だ


天星・暁音
余計な戦闘をして消耗していくよりかは一気に抜けちゃうべきだね…
相手が攻撃してきた時に転移でそのまま躱して中まで行くとしようか…追尾式という可能性もあるから自分の周囲の空間の位相をズラして攻撃が届かないようにして…目標は邸宅の目の前、転移後は構わずに突入かな…
出来れば入り口付近の敵は空間壁で押し出して他の人の助けなれば…出来るかな…

自分の周囲の空間の位相をズラす事で攻撃が直接届かないようにしつつ攻撃が始まると同時に空間を歪めて距離を無視して瞬間移動で邸宅入り口まで移動、後に可能なら空間壁や空間を固めた手等で少しだけ敵を押し出しておきます
無理なら即突入

スキルUCアイテムご自由に
アドリブ共闘歓迎



「随分と華美で……悪趣味な館だな。フン、このまま地下に籠っていれば良いものを」
 荘厳なゴシック調に設えられた『第五の貴族』の邸宅に、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は冷たい視線を向ける。それはまるで支配者としての威厳を誇示するかのようであり、彼女の感覚からすればあまりに不愉快なものだった。
「……我らが主への侮辱は許しません」
 それを聞き逃さなかったのは、主人に「番犬の紋章」を与えられた混血の落とし子達。
 絶対の忠誠と引き換えに力を与えられた彼女らは、長く垂れた前髪の奥より殺気の込もった視線を向ける。

「余計な戦闘をして消耗していくよりかは一気に抜けちゃうべきだね……」
 殺気立つ敵集団を前にして、思考を巡らせるのは天星・暁音(貫く想い・f02508)。
 ここにいる配下は全員が「紋章」の力で大幅に強化されている。全て撃破するのが戦力的に不可能である以上、本命である『第五の貴族』に持てる全力を注ぐのが得策だろう。
(相手が攻撃してきた時に転移でそのまま躱して中まで行くとしようか……追尾式という可能性もあるから自分の周囲の空間の位相をズラして攻撃が届かないようにして……)
 手札にある【空間掌握・次元支配】の力を活用して、最小限の消耗で敵の防衛線を突破する方策を考える暁音。杖の形をした「星具シュテルシア」を手に魔力を練り上げていくと、その様子に気付いた落とし子達は自らの血液から赫い矢を作成する。

「何をするつもりかは知りませんが、貴女達にはここで死んで貰いま……ッ!?」
「遅い」
 混血の落とし子達が矢を放つよりも速く、キリカの持った銃火器が一斉に火を噴いた。
 右手には神聖式自動小銃"シルコン・シジョン"、左手には強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"。聖句と秘術で強化された弾丸は全て「番犬の紋章」を正確に狙っている。
「くっ……?!」
 慌てて射線上から身を翻す落とし子達。相手の初動を鈍らせたところで、キリカはダッシュで防衛線を抜けて屋敷に向かう。暁音もその後に続いて走りながら、次元支配に必要な周辺空間の解析を行う。
「空間認識、空間解析、空間掌握……支配領域展開……」
 光の粒子が衛星のように彼の周囲を巡り、その軌跡が立体的な魔法陣を描いてゆく。
 落とし子達はそうはさせじと急いで態勢を立て直すと、二人に赫い血の矢を放った。

「屋敷には行かせません!」
 紋章の力で強化された血液の矢は、ただのダンピールのものとは思えない威力を誇る。
 血を素材としているためか連射速度も凄まじく、キリカは矢の軌道に合わせて銃撃のカウンターを放つが、このままではリロードの隙を突かれて押し切られるのは予想できた。
「聞いてた通り、中々に手強い番犬どもだな。やれやれ……大袈裟な歓迎はいらなかったんだが」
 屋敷に近付くにつれて敵の守りも厚くなり、それに伴って攻撃の勢いも激しくなる。いつまで撃ち落とせるだろうかとキリカがマガジン内の残弾を数え始めた時――飛来する矢の軌道が、突如としてぐにゃりと不自然に曲がった。

「ごめんね、すこし解析に時間がかかっちゃった」
 軌道の歪んだ矢はキリカ達の元を逸れ、あらぬ方向へと飛んでいく。それを為したのは【空間掌握・次元支配】を発動させた暁音。彼が掌握した領域内では、次元は彼の思念に従う――周囲の空間の位相をズラすことで、攻撃を届かないようにするくらいは容易だ。
「なに……っ?!」
 急に攻撃がまったく届かなくなったのを見て、落とし子達は動揺する。その機を逃さずキリカは待機させていた呪い人形「デゼス・ポア」に命じ、ユーベルコードを発動する。

「嗤え、デゼス・ポア。貴様に出会った不運な者達を」
 不気味に響き渡る人形の笑い声と共に、次元を切り裂いて現れるのは無数の錆びた刃。
 それらは周囲に居並ぶ敵の「紋章」を狙って、無慈悲な【苦痛の嵐】を巻き起こした。
「ッ、があッ!!!?」
 胸元を深く切り裂かれた落とし子達は、錆びた刃がもたらす激痛に悶えのたうち回る。
 異形を憎むかの人形の魂はキリカと共鳴し、オブリビオンに最大限の苦痛と死を与えんとする。この一撃だけで仕留め切れずとも、一時的な行動不能にさせるには十分だった。

「先に行くよ」
 敵の攻勢が止んでいる間に、暁音は空間を歪めて目的地までの距離を無視し、一気に屋敷の目の前まで瞬間移動する。間に敵がいようとも関係ない、彼だけに可能な移動手段。
 一方のキリカは流石に空間を跳び越えることはできないが、物理的にも屋敷までの道程はあと僅か。防衛線を突破して一気に駆け抜けようとするが、後方から敵が追ってくる。
「もう態勢を立て直したか」
「逃がすものですか……ッ?!」
 まだ身体に残る鈍い痛みを堪えながら、【落とし子の牙】を剥いて迫るダンピール達。
 しかし彼女らの伸ばした手は見えない「何か」に阻まれ、そこに透明な壁でもあるかのように、標的を目前にして足が止まってしまう。

「出来れば入り口付近の敵は空間壁で押し出して他の人の助けになれば……出来るかな……」
 落とし子達の追跡を阻んだのは、先に転移していた暁音の仕業だった。屋敷周辺の空間を固めることで「壁」や「手」を作り、味方の邪魔をしようとする敵を押しのけたのだ。
 次元領域からの妨害を認識できない落とし子達は、なぜ前に進めないのかと困惑するばかり。そんな連中にキリカは再度【苦痛の嵐】で追い打ちを仕掛け、一気に突き放した。
「残念だったな、番犬ども」
「ぎゃぁぁあっ!!!?」
 苦痛の絶叫を背にして、人形遣いの傭兵は『第五の貴族』が住まう屋敷の入口に立つ。
 地上世界のはるか下にあるにも関わらず、その邸宅の真上には紅い満月が輝いていた。

「鮮血の光を浴びて輝く屋敷か……フン、どこまでも趣味の悪い話だ」
「第五の貴族……いったいどんな相手なんだろう……」
 無事に警備を振り切って屋敷に着いたキリカと暁音は、気を引き締めてその先に足を踏み入れる。ダークセイヴァー世界を支配する黒幕を討伐する作戦は、ここからが本番だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

森宮・陽太
銀髪のねーちゃん(アカネ・f05355)と
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

けっ、見上げた忠誠心だことで
命令に忠実であることを幸福だと思っていた過去の俺が重なって
正直、見ていて反吐が出るぜ

銀髪のねーちゃん、思うところがあるのか
…ああ、アカネ、って言うのか
じゃあ、二人で道を切り開こうぜ!

「高速詠唱」から【悪魔召喚「スパーダ」】
810本の紅き短剣全てに炎を纏わせ
全身を無作為に斬り刻ませる(属性攻撃、投擲、制圧射撃)
落とし子が炎を纏った短剣に気を取られたら
俺の二槍を伸長させ、胸元の紋章を直接貫いてやる(ランスチャージ、串刺し)

隙が生じたら紅き短剣を全て前方に投擲し強引に道をこじ開け
今のうちに走り抜けるぞ!


アカネ・リアーブル
陽太様・f23693と
連携アドリブ歓迎

混血の落し子
彼女達はきっと「愛しい子供達」なのでしょうね

アカネと申します陽太様
いつぞやはお世話になりました

アカネもかつてはそうでした
縁姫の…オブリビオンの箱庭で何の疑問も抱かずお母様に盲従して
そこへ猟兵が来た時は及ばずながら抵抗致しました

だからこそ
アカネはここで断たねばなりません
参りましょう陽太様!

先制攻撃で指定UC
状態異常は麻痺を乗せます
負傷は激痛耐性で堪え
目を狙った攻撃で目を眩ませ隙を突き
行く手にいる敵に空中戦とランスチャージ麻痺攻撃と貫通攻撃で狙うは胸元の紋章
倒せれば良し怯ませられれば上々
隙を作り館へと駆け込みます

参りましょう!
過去を断ち切るために!



「ローザ様のお屋敷に侵入を許すとは、なんと申し開きすれば良いのか……」
「かくなる上はこの命にかえてでも、主人に仇なす者共に死の裁きを!」
 『第五の貴族』の邸宅を守護する混血の落とし子と、猟兵の戦いは佳境を迎えていた。
 主人から「番犬の紋章」を授けられたにも関わらず、与えられた主命を果たせていない事実にダンピールの娘達は奥歯を噛み締め、これ以上の失態を犯すまいと闘志を燃やす。
「けっ、見上げた忠誠心だことで。正直、見ていて反吐が出るぜ」
 そんな連中の様子に悪態を吐くのは、森宮・陽太(人間のアリスナイト・f23693)。
 彼が苛立ちを覚えるのは過去の自分――命令に忠実であることを幸福だと思っていた暗殺者時代の自分と、あのダンピール達が重なって見えてしまうからだった。

「混血の落とし子……彼女達はきっと『愛しい子供達』なのでしょうね」
 そこに静かな風音と共に現れたのは、流れるような銀髪をなびかせたオラトリオの娘。
 彼女――アカネ・リアーブル(ひとりでふたりのアカネと茜・f05355)はどこか憐れむような、あるいは鏡に写った己を見るような、複雑な眼差しを落とし子に向けていた。
「銀髪のねーちゃん、思うところがあるのか」
「アカネと申します陽太様。いつぞやはお世話になりました」
 顔見知りの間柄だった陽太が声をかけると、アカネは名前を名乗りながら一礼を返す。
 どうやら彼女も、あの落とし子達の有り様が気にかかるらしい。奇しくもそれは陽太と同じく、当人の過去に起因するものであった。

「アカネもかつてはそうでした。縁姫の……オブリビオンの箱庭で何の疑問も抱かずお母様に盲従して、そこへ猟兵が来た時は及ばずながら抵抗致しました」
 とある猟兵により救われることがなければ、アカネは今も縁姫の娘・茜姫を名乗っていただろう。揺籃のように安らかな日々の記憶は、今でも忘れがたきものであり――ほんの少しの巡り合わせの差で、彼女は猟兵ではなくオブリビオンと化していたかもしれない。
「だからこそ、アカネはここで断たねばなりません。参りましょう陽太様!」
「……ああ、アカネ、って言うのか。じゃあ、二人で道を切り開こうぜ!」
 あり得たかもしれない末路、逃れられぬ過去の記憶を敵に投影しながら、アカネはそれを自らの意志で断ち切らんと欲す。その気持ちを語られた陽太は同意を示すように力強く頷くと、肩を並べて混血の落とし子達と対峙する。

「ごちゃごちゃと何を言って……!」
 猟兵の事情など頓着する気もない落とし子は、ただ主命を果たすべく二人に牙を剥く。
 しかし彼女らの動きに先んじて、アカネが舞薙刀を持って【茜花乱舞】を発動させる。
「あかねさす 日の暮れゆけば すべをなみ 千(ち)たび嘆きて 恋ひつつぞ居(を)る」
 舞台衣装を翻して悠然と舞い踊れば、武装が無数の茜の花びらとなって咲き誇り。日暮色をした花吹雪が敵集団を巻き込んで、込められた魔力が麻痺の状態異常を引き起こす。
 機先を制された落とし子達の足並みが乱れると、陽太もダイモンデバイスを片手に呪文を唱える。悪魔召喚士である彼が喚び出すのは、捻れた二つの角を持つ漆黒と紅の悪魔。
「紅き剣を司りし悪魔の剣士よ、我が声に応え顕現せよ。そして己が紅き剣を無数の雨として解き放て!」
 業火と共に現れた悪魔「スパーダ」は、得物である810本の紅き短剣に炎を纏わせ、敵集団に向けて飛翔させる。それらは複雑な軌道を描いて落とし子達を包囲しながら、その全身を無作為に斬り刻んだ。

「これしきのことで……ッ!」
 茜の花弁と炎の短剣に襲われた落とし子達は、怒りの形相を浮かべてそれを振り払う。
 紋章の力で強化された彼女らには、並大抵の攻撃ではダメージを与えることも難しい。多少の手傷を負わせたところで、すぐに【落とし子への祝福】の光で回復されてしまう。
 だが。ひらひらと戦場を舞う花弁は敵の目を眩ませ、幾何学模様を描きながら飛翔する短剣は注意を引きつける。そこに敵が気を取られれば、アカネと陽太に勝機が生まれる。
「そこです!」
「食らいな!」
 白翼を広げて飛び立つアカネの手には舞薙刀。同時に陽太は左手に持つ濃紺のアリスランスと右手に持つ淡紅のアリスグレイヴの柄を伸長させ、遠間から直接敵の紋章を狙う。

「ぐあ、ッ!!?」
 三本の矛先が三人の落とし子の胸元を同時に貫き、ブローチ型の「紋章」に罅が入る。
 紋章持ちのオブリビオンにとって、それは力の源にして最大の弱点でもある。たまらず三人が崩れ落ちたことで、落とし子達の防衛線上にほころびが生じた。
(倒せれば良し、怯ませられれば上々)
 アカネはとどめを刺すよりも敵陣突破を優先し、敵に突撃した勢いのまま翔け抜ける。
 残された落とし子は追撃を仕掛けようとするが、させじと陽太が紅き短剣を投げ放つ。
「やらせるかよ!」
 前方に向かって集中して放たれた短剣は、全てを焼き払わんとする紅蓮の大波の如く。敵が慌てて射線上から飛び退いた隙を突いて、陽太はこじ開けた道を一気に駆け抜ける。
 落とし子達が態勢を立て直した時にはもう、二人は手の届かないところまで遠ざかっている。またしても使命を果たせなかった彼女らの嘆きが、獣の遠吠えのように木霊した。

「今のうちに走り抜けるぞ!」
「はい、参りましょう! 過去を断ち切るために!」
 敵が追いついてこないか後ろを警戒しつつ、全速力で移動しながら言葉を交わす二人。
 落とし子達を紋章と忠誠心で縛り付けた元凶、『第五の貴族』ローザはこの先にいる。
 紅い月光に照らされたゴシック様式の洋館の中に、陽太とアカネは駆け込んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セシリー・アリッサム
混血……種族は違うけれど、わたしと一緒ね
それに紋章……もしかしたら、パパと同じで
無理やりに戦わされてるのかしら?
どちらにせよお屋敷に入る為には――退いてもらうわ
覚悟して先へ進む

空中浮遊で上から高速多重焼却魔法で牽制を
相手の出方を確認しつつ、落とし子への祝福が見えたら――
ママ、あの光を塞いで!

母の霊を召喚し花びらへと変えて
敵の黒き光を遮って回復を阻害する
わたし自身は蒼炎の礫で落とし子の番犬の紋章を狙う
当たらなくてもいい。ただ注意を逸らす事さえ出来れば
仲間の突入は援護出来る筈
一秒でも多くその隙を生むのがわたしの役目……だから
自身を鼓舞し全力で攻撃を続ける

ゴメンね、仇はきっと取るから、そこを退いて!


ヴィリヤ・カヤラ
この空間は地下だけど凄いよね、建物も豪華そうに見えるし。

ダンピールって事は私と同じだけど敵なら倒さないとだよね。
門番だから手は抜けないけど。

地面には影のUDCを自分の周りに常時展開。
数が多いから道を作って屋敷まで走るのがシンプルな方法かな?
『全力魔法』『高速詠唱』の『属性攻撃』で、
【四精儀】の氷の津波を屋敷までの
間にいる敵にぶつけて道を作ってみるよ。
うまくいきそうなら即『ダッシュ』して屋敷に向かうよ。
進路を邪魔する敵は『見切り』で避けつつ、
黒剣の宵闇で攻撃しつつ、敵を倒すより
避けたり踏んで進むのを優先して行くね。
出来るだけ敵が追いにくい状態に出来たら良いかな。

アドリブ・共闘歓迎



「この空間は地下だけど凄いよね、建物も豪華そうに見えるし」
 はるか地の底に築かれた『第五の貴族』の邸宅を眺めて、ヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)は感嘆したように呟く。地下であるにも関わらず紅い月のような光に照らされたその空間の中央には、幾人もの番犬達に守られた荘厳なゴシック様式の建物がある。
「ダンピールって事は私と同じだけど敵なら倒さないとだよね。門番だから手は抜けないけど」
 屋敷を守るのがオブリビオンとなった同族ということに思う所はあれど、邪魔をするなら容赦はできない。ついに明らかとなった『第五の貴族』の首、逃すわけにはいかない。

「混血……種族は違うけれど、わたしと一緒ね」
 人狼の父とオラトリオの母の間に生まれたセシリー・アリッサム(焼き焦がすもの・f19071)も、人と吸血鬼のハーフである「混血の落とし子」達に親近感を抱いていた。
「それに紋章……もしかしたら、パパと同じで無理やりに戦わされてるのかしら?」
 彼女の父はかつてオブリビオンとなり、「辺境伯の紋章」を与えられて吸血鬼の支配に従わない人類の殲滅を任されていた。あの事件の背後にも『第五の貴族』がいたとすれば、ここに住まう吸血鬼と、父と同じ境遇にある落とし子達を見過ごすことはできない。

「どちらにせよお屋敷に入る為には――退いてもらうわ」
 覚悟を決めて先に進むセシリーの前に、立ちはだかるのは黒いドレスを纏った女性達。主から「紋章」を与えられたオブリビオンの強大さは、彼女も身をもって実感している。
「数が多いから道を作って屋敷まで走るのがシンプルな方法かな?」
 同じく敵地に足を踏み入れたヴィリヤは、足元から影のUDC「月輪」を展開しつつ詠唱を紡ぐ。全ての敵を相手している余裕はない以上、屋敷までの道を切り開くのが最優先。
 揺らめく影に囲まれた彼女の元に、冷たい氷の精霊力が集まっていき。それは術者の意によって現象としての形を与えられ、巨大な津波となって敵集団に向かって押し寄せる。

「この地を構成するモノよ、その力の一端を示せ」
 【四精儀】によって発生した氷の津波は、ヴィリヤから屋敷までの進路上にいる敵を押し流さんとする。呑み込まれた落とし子達は身を切るような冷気に顔をしかめたものの、ぐっと両脚で地面を踏みしめて、まるで根を張ったようにその場から動こうとしない。
「ここは……通しません……ッ!」
 主に仇なす者を阻まんとする強い忠誠心。本人の意志によるものか、あるいは紋章と共に植え付けられたものかは定かではないが、彼女達にとってそれは命よりも重い使命だ。
 だが。氷の津波に抵抗する落とし子達の頭上から、ふいに蒼い炎が雨のように降り注ぐ。見上げればそこにはセシリーが呪杖「シリウスの棺」を構えて、空に浮かんでいた。

「……わたし達はこの先に行かないといけないの」
 杖先のオーブから焼却魔法を次々と放ちつつ、セシリーは空中から相手の出方を窺う。
 二人の猟兵による氷と炎の共演は、軽度とは言えない凍傷と火傷を敵に負わせていた。だが紋章の力を得た敵はこれしきでは倒せない。受けたダメージも【落とし子への祝福】があれば、即座に治療できるのだから。
「こんなもので、我々を退けられるとでも―――ッ!」
 落とし子達の手元に、邪悪な黒い光が灯る。その瞬間を見逃さなかったのはセシリー。
 ここまでの奮戦を元の木阿弥に戻されないために――呼びかけるのは愛する母の霊魂。

「力を貸して、ママ!」
 死霊術師であるセシリーの意志と力が、聖女である母の御霊をひと時現世に召喚する。
 その加護は毒を持つ無数の庭薺の花弁となって戦場を舞い踊り、敵の黒き光を遮った。
「なっ……!」
 治癒を妨害された落とし子達の顔色が変わる。その機を逃さずセシリーは杖を蒼炎の礫に変えて、敵の力の源にして最大の弱点でもある寄生体――「番犬の紋章」を狙い撃つ。
(当たらなくてもいい。ただ注意を逸らす事さえ出来れば、仲間の突入は援護出来る筈)
 舞い散る花弁に合わせて降りしきる炎の礫は、落とし子達の警戒を引きつけるのに十分だった。彼女らの意識が上に向いた隙を突き、青髪のダンピールが矢のように駆け出す。

「通してもらうよ」
 ヴィリヤが駆けるのは、自ら放った氷の津波が作り上げた軌跡。氷河のように凍りついた地面を滑るように疾走し、態勢の乱れた敵集団の隙間をするりと抜けて屋敷を目指す。
「ま、待ちなさいっ!」
 落とし子は慌てて進路を妨害しようとするが、ヴィリヤは展開した影のUDCをセンサーのように扱って近付いてくる敵の動きを見切り、ひらりと身を躱しつつ黒剣を振るう。
 宵闇と名付けられたその剣は、敵の胸元の「紋章」を捉え、回復困難な傷を負わせる。それで敵が怯めばよし、とどめを刺すよりも屋敷に向かうのを優先して先に進んでいく。

(出来るだけ敵が追いにくい状態に出来たら良いかな)
 邪魔な敵を避けては踏んで前進しつつ、ヴィリヤはもう一度【四精儀】を発動させる。
 追いすがる落とし子達を押し返すように、再び流れる氷の津波――二度の天災によって荒らされた地形は歩くことさえ困難となり、敵の追跡を妨げる。
「くっ、このっ……何としてでも、通すわけには……っ、ぎゃぁっ!?」
 滑る足場に苦慮する落とし子達の上から、またも降り注ぐのは蒼炎の礫と庭薺の花弁。
 彼女らにとっての敵は地上にいる者だけではない。空中に控えたセシリーは常に戦況を俯瞰して、仲間が突入するための適切な隙を生みだすために攻撃を仕掛ける。

(一秒でも多くその隙を生むのがわたしの役目……だから)
 自らを鼓舞し、仲間を援護する為に全力で攻撃を続けるセシリー。その猛攻はいかな紋章持ちであろうと無視できるものではなく、落とし子の群れはその場に釘付けにされる。
「ありがとう、助かったよ」
 ヴィリヤは空中にいる味方に感謝を述べつつ、返礼代わりに宵闇を一閃。鞭状に変形し伸長した刃が、上ばかりに気を取られた敵集団の足元を薙ぎ、地面に這いつくばらせる。
 堕ちた同族が折り重なって崩れ落ちるのを尻目に、彼女は悠々と『第五の貴族』の屋敷まで辿り着き。それを見届けたセシリーも、自らも屋敷に向かうべく空中を飛んでいく。
「ゴメンね、仇はきっと取るから、そこを退いて!」
 最後に手元に残った炎の礫が敵の抵抗を焼き払い、庭薺の花の回廊の先に道ができる。
 助けてくれた母の霊に心の中で感謝しつつ、少女は『第五の貴族』の邸宅に突入した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…まさか、配下全員に番犬の紋章を与えているなんて…

…これは流石に、正面からどうにかなる相手では無さそうね

事前に大鎌を武器改造して手甲剣に変形してUCを発動
"変装、仮面、暗殺者、道化師、奉仕者"の呪詛を付与
全身を●存在感を変える残像のオーラで防御して落とし子に●変装する

…主にお伝えせねばならない火急の要件よ。通してちょうだい

…そうね。邸宅に近付くことは許可されていない
だけど、たとえ禁を破ってでも伝えないと駄目なの

…なら貴女から伝えて。耳を貸して、手短に伝えるから…

声をかけられたら主に●奉仕する従者の●演技をして油断を誘い、
●怪力任せに手甲剣で紋章を貫く早業で●だまし討ち●暗殺して邸宅に向かう



「……まさか、配下全員に番犬の紋章を与えているなんて……」
 地底都市攻略作戦の折、交戦した「番犬の紋章」持ちのオブリビオン。一体でも手を焼く相手だったそれがこんなにも大勢ひしめいている事実に、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は流石に驚きを隠せなかった。
「……これは流石に、正面からどうにかなる相手では無さそうね」
 紋章を創造する『第五の貴族』の恐るべき力を知ると共に、其れがこの世界を救うために見逃してはならない敵だと理解する。かの大貴族が住まう屋敷に潜入するべく、彼女はまず警備の目を欺くために【吸血鬼狩りの業・千変の型】を発動する。

「……主にお伝えせねばならない火急の要件よ。通してちょうだい」
 すっと「混血の落とし子」達の前に姿を見せたリーヴァルディは、自身が敵の同胞であるかのように振る舞う。変装、仮面、暗殺者、道化師、奉仕者――様々な呪詛術式により正体を偽装した彼女は、外見だけでなく内面まで完璧に落とし子を演じきっていた。
「今はこちらも一大事なのです。それに貴女は屋敷に入る許しを得ているのですか?」
 敵襲の最中にいきなり火急の要と言われ、落とし子は本当なのかと怪訝な顔をするが、リーヴァルディの正体そのものは疑っていない様子だった。魔術的に認識を妨害し、感じられる存在感までオブリビオンと同一化した彼女の変装を見破るのは、まず無理だろう。

「……そうね。邸宅に近付くことは許可されていない。だけど、たとえ禁を破ってでも伝えないと駄目なの」
 あくまでこれは主人への忠誠心ゆえの行動であると、リーヴァルディは静かな熱弁をふるう。言葉遣いから視線や仕草まで計算された、心にも無いことを言っているとは思えない迫真の演技は、混血の落とし子を信用させるのに十分なものだった。
「そ、それほどまでの一大事なのですか……?」
「ええ」
 すっかりと主に奉仕する従者になりきり、こくりと頷くリーヴァルディ。すぐに報せなければ手遅れになるぞと、言外に視線で訴えて圧力をかけるが――それでもまだ落とし子には、彼女を通すのに些かの躊躇いがある様子だった。

「ですが私はここの警備を命じられた身です……私の一存で通していいものか……」
「……なら貴女から伝えて。耳を貸して、手短に伝えるから……」
 忠誠と使命に凝り固まった相手に最後のひと押しを加えるべく、リーヴァルディは楚々とした足取りで近付く。一切の敵意や殺気を感じさせない仕草に、敵はもはや完全に警戒を解いていた。
「聞かせてください。一体何があったのですか」
「それは……」
 油断しきった落とし子の耳元に唇が寄せられた直後――彼女の胸元に鋭い痛みが走る。
 はっと視線を落とせば、主人より与えられた「番犬の紋章」を、黒い刃が貫いていた。

「ぁ……な……ぜ……!?」
「……これで通して貰えるわね」
 それまでの演技を捨てて冷たい無表情で告げ、リーヴァルディは手甲剣"現在を貫くもの"を引き抜く。深く穿たれた落とし子の胸元から、真っ赤な血が勢いよく噴き出した。
 相手が油断していたのを差し引いてもなお驚嘆に値する早業だった。弱点である紋章を破壊された落とし子は、最期まで何が起こったのかを理解できぬまま事切れたのだった。
「……急ぎましょう」
 リーヴァルディは剣に付いた血を拭うと手甲に収納し、他の警備がやってくる前に邸宅に向かう。紅い月に照らされた屋敷の主に、本当の「火急の要件」を伝えるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
人と吸血鬼の混血、私の同族……しかし、闇に呑まれましたか……!

バニーの姿に変身
ならば、同族の私が振るうこの大鎌を手向けとします

【死睨の魔眼】を起動し【視力】を強化
放たれる血の矢を、振るわれる爪牙を【見切り】、大鎌で【受け流し】て直撃を避ける
【怪力】には自信がありましたが……一撃で骨が軋む
吸血鬼の膂力と比しても遜色なし、この代償はいったいどれだけの負荷なのか……!

魔眼の力で紋章、すなわち死に易い箇所を看破
告死の大鎌で斬り裂いて死の呪力を流し込む(切断・属性攻撃)
あなたを狂わせた吸血鬼は、必ず討ちます

包囲の欠けたところをウサギの脚力で駆け抜ける(ダッシュ)



「人と吸血鬼の混血、私の同族……しかし、闇に呑まれましたか……!」
 邪悪なる『第五の貴族』の眷属と成り果てたダンピールの集団に、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は複雑な想いを禁じえなかった。既にオブリビオンと化した「混血の落とし子」達は、今はただ主人の命令を果たすために牙を剥く。
「ならば、同族の私が振るうこの大鎌を手向けとします」
 忌まわしき隷属から同族を葬送するため、彼女は「告死の大鎌」を携えたバニーガールの姿に変身する。その扇情的な服装とは裏腹に、鋭く細められた瞳は剣呑な輝きを放ち、立ちはだかる者達の"死"を見つめていた。

「主よ、我らの血を捧げます……貴女様に仇なす者に裁きをもたらす力を!」
 対する落とし子達は【血の盟約】により、黒き祝福を受けた決戦形態に変身を遂げる。
 主の邸宅をこれ以上荒らさせはしないと、決死の覚悟をもって挑む彼女らの戦闘力は、「番犬の紋章」の効果もあって爆発的に強化される。
「死になさい!」
 一喝と共に放たれた血の矢をオリヴィアが切り払った直後、敵は猛スピードで彼女の懐に入り込んでいた。至近距離から振るわれる爪牙を大鎌で受け流して直撃を避けるが、それでも得物越しに伝わる衝撃に身体が揺れる。
(怪力には自信がありましたが……一撃で骨が軋む)
 動揺を表に出さないよう努めても、オリヴィアの額には一筋の汗が。『第五の貴族』の恩寵を最大限に与えられたダンピール達は、歴戦の吸血鬼狩人である彼女が手を焼くほどに、1人1人が恐るべき強敵と化していた。

「吸血鬼の膂力と比しても遜色なし、この代償はいったいどれだけの負荷なのか……!」
「元より我らの全てはローザ様のもの! 主命のために生命を落とすならば本望です!」
 己の寿命を燃やし尽くさんばかりの勢いで、怒涛の猛攻を仕掛ける混血の落とし子達。
 速度も膂力も到底常人が及ぶところではない。それでもオリヴィアがどうにか追随できているのは、【死睨の魔眼】を起動し自らの視力を強化しているためだ。
(1人でも油断できない相手が複数。ですが速くとも視えないほどではない)
 バニーの姿でのみ使用されるこの魔眼は、対峙した相手の"死に易い"箇所を看破する。紋章の力で強化された落とし子にとって、最も死に易い弱点とはその紋章に他ならない。
 研ぎ澄まされた魔眼の眼力で敵の動きを見切り、行動の合間に生じる僅かな隙を探る。息も吐かせぬ攻撃の最中、まばたきもできぬほどの刹那の猶予に、大鎌を振るって――。

「我が魔眼に魅入られし者、万象等しく滅ぶのみ――!」
 一閃。神秘の金属から鍛え上げた禍々しき大鎌が、混血の落とし子に死の運命を刻む。
 一瞬の内に斬り裂かれた「番犬の紋章」、その傷口から流し込まれた死の呪力は、呪われた生命を断ち切るのに十分な致命傷だった。
「ぁ……?」
 何が起こったのかを理解するより先に、糸が切れた人形のように崩れ落ちる落とし子。
 彼女が起き上がることは二度となく、その肉体は一握の灰となって土に還っていった。

「あなたを狂わせた吸血鬼は、必ず討ちます」
 オリヴィアは討ち取った同族に手向けの言葉を残し、力強く地面を蹴り上げ前進する。
 バニーの姿はただの見栄えだけにあらず。本物のウサギさながらの脚力で包囲の欠けたところを突破すると、一気に敵の邸宅へと向かう。
「ま、待ちなさ―――っ」
 他の落とし子達が追いついてくるよりも速く、その足は土から屋敷の床を踏んでいた。
 大鎌を手に闇を駆けるバニー――その魔眼が次に狙う獲物は『第五の貴族』ただ1人。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニーナ・アーベントロート
ねぇ、退いてよ……!
彼らが聞いてくれる筈などないのに
この先に「彼女」がいると聞けば心は逸る

……ロラン(f04258)、
声を掛けられれば
不安の霧に包まれていた意識が晴れ始める
心配かけてごめん、でもありがとう
話したいことは山ほどあるけど
まずは一緒に、目の前の奴らを何とかしなきゃ!

油断せず、併せ技で動きを封じて突破
ロランが敵を惹き付けた隙に
高速詠唱による先制攻撃で、敵を紋章ごと包み込む
『Unsterbliche Liebe』

敵の追撃は第六感と戦闘知識で見切り
避けきれないものはオーラ防御で受け流す
ダッシュ、ジャンプ、残像と逃げ足で
包囲を突破し屋敷の中へ

往こう、「彼女」が
……おかーさんが、待ってる


ロラン・ヒュッテンブレナー
おねえちゃん(f03448)、様子が変だったの
こっそり着いてきちゃったけど、なにしてるんだろ?
えと、あれは、オブリビオン?
おねえちゃん、焦ってる…
バレちゃうけど、お手伝いなの

おねえちゃんから隠れたままUC発動して変身(生後10か月程度の子狼)なの
響け遠吠え、進むべき道を切り開け
声を聞いた相手の意識に【ハッキング】して惹きつけて忘我状態にする人狼魔術、変化と魅了の満月の力で支援なの

さすがに、見つかっちゃうよね…
ごめんなさい
でも、心配なの
どうしたの、おねえちゃん?

相手の意識が戻らない内に、
【オーラ防御】の【結界術】でぼくとおねえちゃんの姿と音を消しすね

おねえちゃんの、ママ?(驚きつつも並走する)



「ねぇ、退いてよ……!」
 悲痛ささえ感じさせる声を上げながら、灰髪の少女が混血の落とし子達と戦っている。
 彼らが聞いてくれる筈などないと分かっているのに、この先に「彼女」がいると聞けば心は逸る――ニーナ・アーベントロート(埋火・f03448)は焦りに支配されていた。
「何人であろうとも通すわけには参りません。ここを守るのが我らの使命です」
 対する敵の態度は頑なで、忠義に裏打ちされた心は揺るがない。どんなに少女が先を急ごうとしても、「番犬の紋章」を与えられたオブリビオンは力押しで突破できるような相手ではなく。心の乱れは技の乱れを生み、爪牙に切り裂かれた肌からは血が滲む。

(おねえちゃん、様子が変だったの。こっそり着いてきちゃったけど、なにしてるんだろ?)
 そんなニーナの後方にひっそりと近付いてくるのは、まだ年端のいかない人狼の少年。
 彼の名はロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)。腹違いの姉であるニーナの様子がおかしかったのを案じて、本人にも内緒で後をつけてきたのだ。
(えと、あれは、オブリビオン? おねえちゃん、焦ってる……)
 黒衣のダンピールの集団と矛を交えるニーナの戦いぶりは、弟の目から見ても明らかに普段と違っていた。そびえ立つ洋館のほうをちらちらと気にかけ、目の前の敵に集中できていない――焦燥感のままに振るわれる槍は、相手を捉えきれずに空を切るばかりだ。

(バレちゃうけど、お手伝いなの)
 大事な姉がこれ以上傷つくのを見ていられず、ロランは物陰に身を隠したままひっそりと【静寂を慈しむ音狼の加護】を発動し、生後10か月程のハイイロオオカミに変身する。
 見た目こそ愛らしい子狼だが、その身に秘めたポテンシャルは古き魔術師の一族、ヒュッテンブレナー家の最高峰。猛る叫びに魔力を乗せれば、其は呪文となって神秘を成す。
「響け遠吠え、進むべき道を切り開け」
 ほぉぉぉぉぉぉぉぉ……ん、と、紅い月が照らす戦場に響き渡った遠吠えは、聞きつけた相手の意識をハッキングして惹きつけ、忘我状態にする人狼魔術。ただ1人義姉であるニーナを除いて、その場にいた者達はぼうっと白昼夢に囚われたように動きを止めた。

「……ロラン?」
 狼の遠吠えに変わっていようと、日頃から気にかけている弟の声を聞き違えはしない。ニーナが振り返ると、バツが悪そうに耳と尻尾をぺたりと伏せた子狼が、物陰からひょこりと姿を現した。
「さすがに、見つかっちゃうよね……ごめんなさい。でも、心配なの」
 勝手についてきたことを謝りつつ、ロランは「どうしたの、おねえちゃん?」と問いかける。変身しても変わらない、無垢で純粋な紫の瞳に見つめられるうち、不安の霧に包まれていたニーナの意識が晴れ始める。

「心配かけてごめん、でもありがとう」
 焦燥感に囚われ周りが見えなくなっていた自分を自覚したニーナは、心配してくれる弟に微笑みかける。もう大丈夫だと示すように、竜槍「Dämmerung」をくるりと回して。
「話したいことは山ほどあるけど、まずは一緒に、目の前の奴らを何とかしなきゃ!」
「うん、おねえちゃん!」
 ロランの魔術が敵を忘我に陥らせるのは一時的なもの。「番犬の紋章」の力で我に返った混血の落とし子達は、いつの間にか2人に増えていた侵入者に牙を剥いて襲い掛かる。

「人であろうと獣であろうと、主に仇なすならば屠るのみです!」
 主人に対して絶対の忠誠を誓い、紋章で強化された落とし子達の力は強大。だが焦燥感から解き放たれたニーナはこれまでのようにはいかない。油断なく槍を構え、爪牙の間合いに敵が踏み込んでくる前に、目配せで弟に合図を出す。
「夜の灯りを、呼びし遠吠え、大いなる円の下、静寂を尊ぶ」
 ロランはそれに応えて再び人狼魔術を唱え、さらに変化と魅了を司る満月の力をもって敵を幻惑する。満月のオーラを纏った仔狼に落とし子達の注意が惹き付けられれば、その隙を狙って姉が素早く詠唱を紡ぐ。
「痛いくらいに、愛してあげる」
 発動するのは【Unsterbliche Liebe】。無数の黒い薔薇の花弁に変化した槍が、敵集団を「紋章」ごと包み込む。強大な力の源だからこそ、それは弱点にもなる――これで倒しきれずとも、黒い花弁の渦は敵の目を眩ませるのにも役立つ。

「くっ……このっ!」
 落とし子達が月狼の幻惑と黒薔薇の花吹雪を振り払った時、姉弟は既に彼女らの視界から消えていた。ロランの作ったオーラの結界で姿と音を消し、二人は隠密裏に先に進む。
「やったね、おねえちゃん」
「油断しないで、ロラン」
 屋敷の中に入るまでは、追撃がくると思っておいた方がいい。ニーナが警戒を緩めずにいると、視界の端から赫い血の矢が飛んでくる。第六感でそれを察知した彼女は身に纏ったオーラで鏃を受け流し、そちらに視線を向ける。

「行かせるものですか……!」
 姿隠しの結界の中にいても、落とし子達はおぼろげながらも二人の姿が視えているらしい。ロランの魔術は月光を象徴としたもの――この地を照らす紅い月が、彼の術式に何らかの干渉を及ぼしているのかもしれない。
「どうしよう、おねえちゃん」
「このまま走り抜ける……!」
 視えているとは言っても正確には捉えきれていないはず。飛んでくる血の矢を躱しながら、ニーナは弟に足を止めないように言う。幾度の戦場で鍛えた身体と健脚を活かして、障害を飛び越え、戦場を駆け抜ける。その疾走を止められる者はもはや誰もいない。

「しまった……!」
 残像が生じるほどの速さで包囲網を突破する少女と仔狼を、落とし子達は止められなかった。そのまま屋敷の中に突入した二人は、スピードを緩めることなく奥へと突き進む。
「往こう、『彼女』が……おかーさんが、待ってる」
「おねえちゃんの、ママ?」
 ニーナが呟いた一言に、ロランは驚きつつも並走する。見上げた姉の横顔は、これまで彼が見たどんな表情とも違っていた。そこに宿る感情を表す言葉を、幼い彼は知らない。
 紅月の邸宅に住まう『第五の貴族』――マドンナ・ローザの元へと急ぐニーナの胸の奥で、かつて奪われた心臓の代わりが、めらめらと焦がれるような炎を上げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…遂に敵の大戦力の一つを補足したようですね。
個々の質は落ちれど番犬の紋章を有するオブリビオン、
大きな脅威には他なりません。

UCを発動、敵の一体を残像、怪力、部位破壊、2回攻撃にて紋章を破壊
血を捧げる動作に入る前に即座に無力化ないし体勢を崩し、
怪力、グラップル、範囲攻撃にて無力化した敵を掴み敵集団に向けて投擲、
纏めて吹き飛ばし出来た隙間を残像にて通り抜け、
それでも敵集団が向かってくるようであればジャンプ、踏みつけにて
頭上を通り抜けつつ屋敷内に走る


…あるいは貴方がたも、『母』を求めてここに立っているのでしょうか。
されど貴方がたの母と私共は決して相容れぬ命ですゆえ。
――ここを、推し通らせて頂きます。



「……遂に敵の大戦力の一つを補足したようですね」
 前方にそびえ立つ荘厳なゴシック様式の屋敷を見据えて、月白・雪音(月輪氷華・f29413)は静かに呟く。あそこに居るのがダークセイヴァー世界を影から支配してきた『第五の貴族』、そして屋敷を守護するのは主人より力を与えられた混血の落とし子達。
「個々の質は落ちれど番犬の紋章を有するオブリビオン、大きな脅威には他なりません」
 敵戦力を冷静に把握し、かつ悲観した様子もなく彼女は言う。基礎的な力で言えば歴然とした差があろうとも、この先に討たねばならぬ敵がいるのなら、技を以て征するまで。

「……弱きヒトが至りし闘争の極地こそ、我が戦の粋なれば」
 ゆらりと拳を構えた雪音の姿が、残像だけを残して敵集団の視界から消える。単純な速さではない、足運びから重心移動まで全ての動作に無駄をなくすことで生まれる"疾さ"。
「どこへ……ッ」
 敵が視線を彷徨わせる一瞬のうちに、彼女はその懐に入って拳を振るう。武器も爪も牙も用いず、闘気すらも纏わない徒手空拳を極限まで練り上げた、純粋な【拳武】の極地。
 ヒトとして研鑽を重ねた武の力が、混血の落とし子の胸元から「紋章」を打ち砕いた。

「がふっ……!」
 【血の盟約】の為に血を捧げる動作に入る暇もなかった。紋章を破壊された落とし子は力なくその場に崩れ落ち、その他の連中は一拍遅れてようやく何が起こったかに気付く。
 だが遅い。彼女らが行動に入る前には雪音はもう次の行動に移っている。目の前で無力化した敵をがしりと掴み上げ、襲いかかろうと身構える敵集団に向けて力一杯投げ込む。
「道を開けて頂きます」
「きゃっ!?」
 雪音の武器は武術のみに非ず。人虎のキマイラとして生まれた身体に宿る獣の膂力は、投じた人体を質量弾に変える。この程度で紋章持ちのオブリビオンが倒れることはあるまいが――多少でも吹き飛ばし、隙間をこじ開けることができれば十分。

「失礼」
 白い残像を描きながら、キマイラの少女が敵陣を駆ける。人が通れる僅かなスペースがあれば、女豹のようなしなやかさと素早さで敵と敵との間をすり抜け、屋敷へと一直線。
「待ちなさいッ!」
 そうはさせじと【血の盟約】を発動させ、道を阻もうとする落とし子もいた。爆発的に強化されたスピードと反応速度によって雪音の前に先回りし、予め進路を塞ぎにかかる。
 再び正面から相対することになれば、今度は前のように簡単に倒させてはくれないだろう。すでに手の内を見せた攻撃に同じようにやられるほど、彼女らも愚かでは無い筈だ。

「……あるいは貴方がたも、『母』を求めてここに立っているのでしょうか」
 己の血と寿命を捧げ、文字通り必死になって主人を守ろうとする落とし子達を、雪音は物憂げな眼差しで見つめる。武によって培った精神で常に己を律している彼女が、感情を表に出すことは稀だが、内心ではこのダンピール達に思う所が無いわけではないようだ。
「されど貴方がたの母と私共は決して相容れぬ命ですゆえ」
 立ち塞がる敵集団との距離があと数歩まで縮まった瞬間、彼女は力強く地面を蹴った。
 ひらりと跳び上がったその身は落とし子達の頭上を越え、さらに敵の頭や肩を足場として踏みつけて、振り返りもせず通り抜けていく。

「――ここを、推し通らせて頂きます」

 再び地を踏んだ雪音の足は、そのまままっしぐらに『第五の貴族』の邸宅に走り込み。
 突破された落とし子達の愕然とした視線の先で、その姿は屋敷の奥へと消えていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

宵鍔・千鶴
🌸🐣

……厭な気配
纏う屋敷の重苦しさに
傍らの彼女と繋いだ手を
確りと握る

混血の番人に眉を顰め
所詮お前達も黒幕の駒
…貴族なんて華やかさはハリボテ、裏側は腐りきってる
変わらない世界だね
ーーねえ、退けて、
俺たちは進むから
菫、行こう
交わす紫眸は強く

指定UCで足止め、先制攻撃
敵数を減らしながら
菫が放つ人形達に合わせ
紋章狙う胸元の
確実に、相棒刀で仕留めんと

完全に斃せずとも
隙が出来、突破口が開けたなら
深追いは止めて屋敷内へ
追うならば彼女を先に
俺は殿を
噫、可哀想な我が同胞の
成れの果て
けれど、邪魔するならば
……斬り捨てるよ
俺達は意志を持って
今此処にいるのだから


君影・菫
🌸🐣

地の底に在る屋敷
普段なら来ないトコやけど
行かなきゃって不思議と思ったんよ
握られた手は確り返して

門番も随分おるねえ
勤勉やわ
貴族ってこういうもんやの?
キミらが邪魔するなら
うちらは蹴散らす
猟兵やもの、ねえ?
うん、ちぃ行こ
交わす紫の色は褪せず

先制攻撃の範囲攻撃で沢山のジャックを喚んで
人形劇、付き合うて貰うよ
敵の一体へ喚んだ数体で不意打ちをかけ胸元狙い
当たらんくても構わんよ
――だって、
次はうちの頼もしいヒトが来はるもの

斃したひとりが抜け道になるなら其処が隙
ジャックを再度喚び数で目眩まし
オーラ防御を纏いすり抜けて屋敷へ
行くのはうちが先
鍵あったら開けるよて

うちらは進むだけ
邪魔は無粋ていうの
どいてや?



「……厭な気配」
 紅い月光に照らされた『第五の貴族』の屋敷、その雰囲気の重苦しさに、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は傍らの女性と繋いだ手を確りと握る。結ばれた指先から彼の緊張を感じ取った君影・菫(ゆびさき・f14101)は、確りと握り返しながらその言葉に応じた。
「地の底に在る屋敷。普段なら来ないトコやけど、行かなきゃって不思議と思ったんよ」
 虫の知らせにも似たその感覚が何なのか、彼女自身にもうまく言葉で表すのは難しい。ただ、来てしまったからにはここで退くことはできないだろう――この世界に絶望と悲劇の種を撒く黒幕が、この先に待ち受けているとあっては。

「門番も随分おるねえ。勤勉やわ」
 貴族ってこういうもんやの? と首を傾げながら菫が見やる先には混血の落とし子達。向こうも既に此方に気付いているようで、儚げな容姿に剣呑すぎる殺気を漲らせている。
「所詮お前達も黒幕の駒……貴族なんて華やかさはハリボテ、裏側は腐りきってる。変わらない世界だね」
 穏やかな菫とは対照的に、千鶴は眉を顰め胡乱な視線を混血の番人どもに向ける。旧き貴族の血縁故に、人の世から隔離されて育った過去が、彼の瞳に仄昏い感情を宿させる。

「――ねえ、退けて、俺たちは進むから」
「キミらが邪魔するなら、うちらは蹴散らす。猟兵やもの、ねえ?」
 千鶴は「燿夜」と銘打たれた打刀を抜き、菫は本体の簪に手を添える。無論その言葉で敵が道を開けるはずも無く、主人に仇なす不届き者を皆殺しにせんとより一層殺気立つ。しかし凍りつくような殺気を浴びても二人は平静のままで、互いに眼差しを交わしあう。
「菫、行こう」
「うん、ちぃ行こ」
 千鶴の紫眸は強く、菫の紫の色は褪せず。歌うように詠唱を紡いで、指先を踊らせて。
 【血の盟約】を発動した番人が飛びかかるよりも速く、ユーベルコードを発動させる。

「――憐れ傀儡、幽世で狂うまで縫い止めて、赫く咲いて、さあ御伽噺を聞かせて」
 ぎいぎい、ちくたく、きらきらと。無機質な音を立てて【仮縫ノ匣】から飛び出す器物の数々。歯車の檻と針の城が混血の落とし子達の行く手を阻み、赫い絲が足を絡め取る。
「人形劇、付き合うて貰うよ」
 千鶴の足止めに合わせて菫が発動するのは【ジャックの葬】。喚び出された沢山のマリオネットの「ジャック」が、躯体から無数の惨殺ナイフを生やして不意打ちを仕掛ける。敵一体に対して数体掛かりで、狙うのは胸元の「番犬の紋章」。
「このような人形遊びに……!」
 しかし主人に血を捧げることでスピードを強化した落とし子達は、驚異的な反応速度で人形の刃を躱す。『第五の貴族』から与えられた紋章と祝福の恩寵は、彼女ら1人1人を恐るべき強者に仕立て上げている。打倒はおろか、手傷を負わすことさえ容易ではない。

「当たらんくても構わんよ」
 しかし菫は穏やかに微笑んだまま、足止めと不意打ちを躱して近付いてくる敵を見つめている。吸血鬼の爪牙に切り裂かれれば無事では済まないと分かっていながら、決してそんなことはあり得ないと確信しているように。
「――だって、次はうちの頼もしいヒトが来はるもの」
「なに……ッ!?」
 閃いたのは血染め桜の打刀。千鶴の相棒たる美しき凶刃が、落とし子の胸元の「紋章」を斬り裂いていた。ぱっと花吹雪が散るように鮮血が舞い上がり、愚かな敵は倒れ伏す。

「今だよ」
「はいな」
 斃したひとりが抜け道になるなら其処が隙。突破口が開けた瞬間、菫はジャック達を再度喚び出して好きなように遊び回らせ、人形の数で目眩ましを仕掛けながら走り出した。
 鮮血に染まった刀を携えながら、千鶴も彼女の後を追う。完全に斃せたかどうかの確認よりも、今は屋敷に向かうのが先決。深追いは止めてまっすぐに、紅月の下をひた走る。
「このッ、待ちなさい……!!」
 目眩ましを食らった敵は、歯ぎしりしながらジャックの大群を払いのけると、猛然と二人の後を追いかける。千鶴に斬り伏せられたひとりを除けば、残った者は【落とし子への祝福】で傷を癒やしたらしく、さしたるダメージを受けた様子はない。

「菫、先に行って。俺は殿を」
「うん、鍵あったら開けるよて」
 敵の追撃に対して二人は素早く隊列を組み、一列となって矢のように戦場を疾走する。
 菫はオーラの護りを身に纏い、攻撃を逸らしながら敵と敵の間をすり抜けて。殿を努める千鶴は【仮縫ノ匣】で追手を妨害しつつ、なおもしつこい輩には刀を以て応じる。
「噫、可哀想な我が同胞の成れの果て。けれど、邪魔するならば……斬り捨てるよ」
 こと、菫に危害を加えようとする者には容赦なく。的確に「紋章」のみを狙う白刃には敵も迂闊には近寄れない。いかに強大な力を与えられようとも、ただ命令されるままに行動するだけの人形同然の連中に遅れを取るつもりなど、千鶴にはさらさらなかった。

「俺達は意志を持って、今此処にいるのだから」
 進む道も、共に歩む同胞も、すべて自分の意志と力で選び取ったもの。なればこそ二人の足取りは力強く、細い細い進路を切り開いて、立ちはだかる障害を払い除けていく。
「うちらは進むだけ。邪魔は無粋ていうの、どいてや?」
 たしなめるように微笑みながら、ひょいと菫は最後のひとりをすり抜けて屋敷の中へ。
 直後に千鶴も後を追って飛び込めば、もう敵が追ってくることはなく。かくして二人は無事に『第五の貴族』の邸宅に足を踏み入れたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『マドンナ・ローザ』

POW   :    接吻
【鋭い牙による噛みつき】が命中した対象を切断する。
SPD   :    抱擁
【鈎爪の生えた両掌】から【左右双方向からの斬撃】を放ち、【刺突】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    子守唄
【美しい歌声にも似た狂気を招く咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:音七香

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はニーナ・アーベントロートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 番犬の紋章を与えられた警備を突破して、『第五の貴族』の屋敷に踏み込んだ猟兵達。
 屋敷の内装は敷物から調度品まで全てが格調高く調えられており、地上のヴァンパイアの館にもこれほどのものはそう無いだろう。屋敷の主の格の高さが否応なしに分かる。
 館内に照明はなかったが、窓から射し込む紅い月光のおかげで視界に問題はない。廊下を道なりに進んでいくと、やがて彼らはダンスホールのような大きな広間にたどり着く。

「まあ……まあまあ……よく来たわね、かわいい私の愛しい子たち……」

 そこに待ち受けていたのは、気品ある女性の言葉遣いで話す、一頭のドラゴンだった。
 ステンドグラスのようなの美しい翼を羽ばたかせ、紅い月の光をその身に浴びて、慈しむような眼差しで猟兵達を見つめ、そしてその胸元には「番犬」とは異なる紋章が宿る。
 彼女こそ『第五の貴族』マドンナ・ローザ。紋章の力で世界を操ってきた黒幕の1人。
 しかし現在の彼女は禁術によってその身を竜と化し、狂気と恍惚に取り憑かれていた。

「さあ、もっとこっちに来て。私にあなたを抱きしめさせて、そのかわいい頬に口づけをさせて。疲れているなら子守唄を歌ってあげるわ、私の愛しい大切な子たち」

 そう語りかけるローザの振る舞いには一片の悪意も感じられず、あるのは純粋な母性と愛情のみ。しかし竜化した肉体はただの愛情表現でもか弱き者の生命を奪い去るだろう。
 本人の意思と意図に関わらず、存在そのものが全生物に対する脅威となる絶対的強者。加えて彼女には『第五の貴族』としての力、独自に創造した「愛の紋章」がある。

「どうしたの? もしかして恥ずかしがっているのかしら。うんと甘えていいのよ」

 "愛しい子ら"に近付くローザの胸元で輝く宝石型の寄生生物。かの紋章は宿主に対する「悪意ある攻撃」の一切を反射する。対抗するにはあらゆる悪意を捨てて立ち向かうか、彼女自身に悪意を抱かせることで、紋章の効力自体を無効化させるしかない。

 全てにおいて強大な吸血鬼、愛という狂気に歪んだ『第五の貴族』マドンナ・ローザ。
 力をつけた今の猟兵達でも勝算は高いとは言えないだろう。しかしこれはオブリビオンの支配からこの世界を解放するために、避けては通れない戦いだった。
セシリー・アリッサム
抱きしめたい? 愛したいの?
ママと同じ、きっとあなたも……だったら
覚悟は出来たわ

抱擁の瞬間、悪意を解いた間隙――この身ごと投げ出して
わたしはどうなってもいい
でも、パパが黙ってはいない
きっと間に合う。それを信じているから
己を鼓舞してローザの元へ

恥ずかしくなんて無いわ
ずっと、戦って疲れちゃったのも本当
一歩、一歩、油断なくローザへ近付いて
攻撃なんてしない。彼女の愛に応える様に
その愛が報われるよう、悪意を捨てて祈りを捧げ
彼女が隙を曝した瞬間――ねえ、パパ
これがママかしら?

わたしの想像通りなら
その愛を逃れた人狼騎士に悪意を抱かずにいられるだろうか?
そう、わたし自身が罠……全力高速多重詠唱で焼き尽くす!



(抱きしめたい? 愛したいの?)
 自分を殺すためにやってきた猟兵達に、まるで慈しむべき我が子のように語りかける、『第五の貴族』マドンナ・ローザ。無辺なる慈愛に満ちあふれた者が、狂気に取り憑かれて災いを為す――その有り様に、セシリーは己の母を重ね合わせていた。
(ママと同じ、きっとあなたも……だったら、覚悟は出来たわ)
 ここで彼女を止める。娘を守るために命を落とし、オブリビオンと化していた母のように。もうこれ以上、歪んでしまった愛が誰かを傷つけるところなど、見たくはないから。

「恥ずかしくなんて無いわ。ずっと、戦って疲れちゃったのも本当」
 呼びかけに応えるように、セシリーは一歩一歩、油断なくローザの元に近付いていく。
 攻撃の意思がないことを示すように、その手には何も持たず、彼女の愛に応える様に。その愛が報われるよう、悪意を捨てて祈りを捧げる姿は、さながら竜の生贄となる乙女。
「ああ、嬉しいわ……おいで、私の愛しい子……」
 ローザはセシリーのことを本当の我が子だと信じ込んでいるような様子で、翼と両腕を広げながら待ち構える。本人からすればただの【抱擁】でも、竜と化したその身の膂力と鋭い鉤爪は、抱きすくめた者の命を奪うには十分過ぎるだろう。

(わたしはどうなってもいい。でも、パパが黙ってはいない)
 自らの足で死地に身を投げ出す恐怖に、セシリーの心はすくみ上がりそうになる。彼女は恐れを知らぬ戦士ではない、それでも立ち尽くさずにいられるのは、窮地になれば必ずや、父の魂が冥府の果てからでも駆けつけてくると知っているから。
(きっと間に合う)
 そう信じているからこそ、どれほど絶望的な脅威にも立ち向かっていける。父母との別離から幾度の戦いを経て、強く逞しく成長したのは身体面だけではない――決して折れずに己の心を鼓舞しながら、アリッサムの娘は『第五の貴族』の前に。

「さあ、私の腕の中でゆっくりとお休みなさい……」
 抱擁の距離に少女が踏み込んだ瞬間、ローザの両腕が目にも止まらぬスピードで動く。
 両掌の鉤爪による左右双方向からの斬撃。愛する子に"死"という安息をもたらす抱擁。
 だがそれは、強大なる『第五の貴族』が明確に隙を曝す瞬間でもある。まさにその間隙を縫うように、セシリーの亡き父たる白狼騎士「ロウ・ヴァイ・ラン」は召喚される。
「――ねえ、パパ。これがママかしら?」
『否。彼女はお前の母でも……私の妻でもない』
 白き鎧を纏いて現れた人狼の騎士は、愛する娘の声に応えて魔竜の爪撃を受け止める。
 キンッ、と刃がぶつかる音が鳴り響き、娘をかばった騎士の剣と鎧には亀裂が走る――だが彼はその誇りにかけて、愛娘にだけは傷ひとつ付けさせはしなかった。

「お前は……!」
 それまで慈しみに満ちていたローザの目つきが、白狼騎士の姿を見たとたんに変わる。
 娘の手によって凶行を終わらせられる以前、彼は「辺境伯の紋章」を与えられた吸血鬼勢力の騎士として剣を振るっていた。セシリーは父に紋章を与えた『第五の貴族』こそ、このマドンナ・ローザではないかという疑いを抱いていた。
(わたしの想像通りなら、その愛を逃れた人狼騎士に悪意を抱かずにいられるかしら?)
 配下に紋章を下賜するのもローザの愛情表現だとすれば、その呪縛から解かれた現在の騎士は"愛を裏切りし者"。それが自身に刃を向け、あまつさえ"愛し子"との抱擁を阻止したとなれば――"母"たるものがどんな感情を抱くのかは、容易に想像がついた。

「よくも私の前に顔を出せたわね……邪魔をしないで!」
 愛ではなく怒りをもって、抱擁ではなく明確な攻撃の意思を込めて、マドンナ・ローザは再び爪を振るう。だがそれは彼女にとって最大の失態――慈愛の心を忘れた者に「愛の紋章」が力を与えることはない。あらゆる攻撃を反射する力も、この瞬間に効果を失う。
 この時を待っていたとばかりに、セシリーの体から青白い炎が勢いよく燃え上がった。
「―――ッ!? あ、あなた、まさかっ!!?」
「そう、わたし自身が罠……全力で焼き尽くす!」
 この身を投げ出したのは自己犠牲ではない。隙が生まれた瞬間、至近距離から確実に敵を焼却するため。少女の激情と魔力の昂りによって蒼茫たる炎は苛烈さを増し、狂える竜を焼き焦がしていく。

「あ、ああぁ……どうして、どうして……!?」
 なぜ自分が"愛し子"から攻撃を受けているのか、狂気に堕ちたローザにはわからない。
 恍惚をかき消す猛火の痛みは、猟兵達の牙が『第五の貴族』に届きうる証明となった。

成功 🔵​🔵​🔴​

天星・暁音
愛…愛か…
愛とは大きくなり過ぎると全てを傷つけてしまうこともある重くて深くて怖いものだけど…でも愛すること愛されることは素敵て幸せなことでもある
でも、ごめんなさい
貴方の愛は怖い方で受け入れるのは無理なんだ
相手は強敵、攻撃も必要だけど護りも癒やしも大事だからね


召喚した霊で護りと癒やしで味方を支援することを最大限に重視して行動し攻撃は余りしません
霊は本体の分霊で感情的なもの慈しみしか持たずある程度の自律行動は可能なので一度星光に寄る攻撃を試しつつ効くなら攻撃にも時折参加します
自分はローザへではなく霊の方へ愛を返しているように見せて愛を否定し拒絶する感じで


スキルUCアイテムご自由に
アドリブ共闘歓迎


フォルク・リア
「そんな大層な愛は見ず知らずの俺に向けるのは相応しくないし。
君の様な暴力的で絶対的な愛はこの世に相応しくない。」
「だから、その魂を冥府に届けるよ。」
恨みもなく憎しみもなく。
猟兵の責務として、黄泉への導として。

動きを止める事を重視。
先手を取られる前に拘鎖塞牢で咆哮の力を封じ
呪装銃「カオスエンペラー」で銃撃、
【マヒ攻撃】の効果を持つ【呪詛】を宿す死霊を放ち
その隙に愛の紋章自体の魂の在処を【見切り】
拘束する闇の黒鎖を発動。
紋章の魂を縛りその効力を制限し
カオスエンペラーに【全力魔法】の魔力を込め
弾丸を撃ち出す。
「禁術に寄生生物。その力で一体何を得た。
それでは得られないものが、君にもきっと有った筈だ。」



「愛……愛か……愛とは大きくなり過ぎると全てを傷つけてしまうこともある重くて深くて怖いものだけど……でも愛すること愛されることは素敵て幸せなことでもある」
 狂気的なまでの母性と愛情に満ちたマドンナ・ローザの言葉に、暁音はしみじみとした様子で応える。たとえ初対面であっても、彼女の愛が口先だけの嘘や詐術ではなく、真に猟兵達を"愛する子"と認識して慈しんでいるのは分かった。
「でも、ごめんなさい。貴方の愛は怖い方で受け入れるのは無理なんだ」
 狂気を孕むほどに肥大化した『第五の貴族』の愛情を受け止めきれる者など、この世に何人いるだろうか。物腰こそ穏やかでも、彼の返答は明確にローザの愛を拒絶していた。

「そんな大層な愛は見ず知らずの俺に向けるのは相応しくないし。君の様な暴力的で絶対的な愛はこの世に相応しくない」
 続くフォルクの返した結論も、暁音のそれと似たものだった。元々はどんなに尊ぶべき想いだとしても、これ以上の愛の暴走は誰も――彼女自身さえも幸せにすることはない。
「だから、その魂を冥府に届けるよ」
 恨みもなく憎しみもなく。猟兵の責務として、黄泉への導としての宣告と共に、巨大な棺桶が現れる。それは彷徨える死者の力を封じる拘束具となって、マドンナ・ローザを閉じ込めた。

「なにを……!?」
 召喚された「拘鎖塞牢」は一瞬で消滅するが、封印の効果自体は残る。ただ話すだけでも歌声のようなローザの美声は掠れ、聞き手に狂気を伝播させる効果も一時的に薄れる。
 【子守唄】が歌えず敵が困惑している内に、フォルクはカオスエンペラーのトリガーを引いた。混血の落とし子にも使用した麻痺効果の死霊弾が、魔竜の翼や四肢に着弾する。
「少しは効いてくれるだろうか」
 ダメージを与えるよりも動きを止める事を重視した彼の攻撃を受けて、ローザの動きは確かに鈍ったように見えた。しかし胸元に寄生した「愛の紋章」が輝くと、その身はすぐに自由を取り戻し、体に刺さった銃弾を払い落としながら襲い掛かってくる。

「あらあら、悪戯っこね。いいわ、遊んであげましょう」
 正確にはローザ自身に襲撃という意識はなく、やんちゃな"愛し子"と戯れたいだけなのだろう。その一挙一動が、猟兵にとっては致命的な威力を生む攻撃になるというだけで。
「遥か彼方より、全ての境を越え、時を越え。星の護り手よ。顕現せよ。我が呼び声に応えて、神威を示せ!」
 フォルクがその爪牙に掛かりかけた寸前、間に入ったのは暁音の喚んだ【遥か遠き星の護り手】だった。召喚主に似た姿形に色彩だけが反転した銀髪銀瞳の天使が、光の防御壁を展開してローザの攻撃を阻む。

「相手は強敵、攻撃も必要だけど護りも癒やしも大事だからね」
 暁音は後方から護り手の霊に指示を出し、味方を支援することを最大限重視して動く。
 絶対とされる守護者の防御壁も、規格外の力を誇る『第五の貴族』にはどこまで通用するか。しかし敵の攻撃をこちらで引き受ければ、味方はそのぶん攻撃する機会が増える。
「何か作戦があるんだよね? 今のうちによろしく」
「ああ。助かった」
 銀髪の天使に護られながら、フォルクは呪装銃で弾幕を張って少しでも相手の動きを鈍らせ、その隙に「愛の紋章」を観察する。あれが他者に寄生する特殊なオブリビオンだと言うのならば、紋章自体にも魂が宿っているはずだ。その在処を見極めれば勝機はある。

「ふふ、そんなに見つめてどうしたのかしら?」
 フォルクの視線に可笑しそうに笑いながら、彼を抱き締めるように腕を振るうローザ。触れるだけで骨がへし折れそうな豪腕の打撃を、星の護り手の絶対防御壁が受け止める。
「一撃一撃が重い……でも大丈夫、耐えられる」
 攻撃を受けるたびに防壁が軋んでいるのが、守護霊を通じて暁音にも分かる。しかし彼は弱音を吐かず、不屈の神威を示さんと守護霊はローザの前に立ちはだかり続ける。その姿を見せることで味方は癒やされ勇気づけられ、普段以上の力を発揮できるのだから。

「……見切った。影より現れし漆黒の鎖よ。その魂を闇へと堕とせ」
 護りと癒しを暁音に任せ、観察に徹したフォルクは一点を見据え。詠唱と共に放たれた【拘束する闇の黒鎖】は、じゃらじゃらと音を響かせながら「愛の紋章」を縛り上げた。
「これが欲しいの? だけどこれはあげられな……っ?」
 その瞬間、これまで余裕の態度だったローザの体からふいに力が抜ける。闇の鎖が紋章の魂を拘束したことで、宿主に与える効力が一時的に制限されたのだ。無効化とまではいかずとも『第五の貴族』の戦闘力が大幅に低下する、この好機を逃す手はない。

「一体、何をしたの……っ!?」
 自身の優位性を剥がされ当惑するローザを、星の護り手から放たれた星光が撃ち抜く。
 暁音の分霊であるそれはある程度の自律行動は可能だが、感情的なものは"慈しみ"しか持たない。もしやと思って試しに攻撃させてみたが、その性質はどうやら「愛の紋章」の反射をすり抜けられるようだ。
「だったら今がチャンスだ」
 暁音自身はローザではなく霊の方へ愛を返しているように見せて、攻撃に余計な"悪意"が混ざるのを防ぐ。燦然と煌めきながら放たれる星光は、マドンナ・ローザの狂える愛を否定し、拒絶し、さらに味方の攻撃の射線上へと追いやっていく。

「禁術に寄生生物。その力で一体何を得た」
 星光に追われた竜の体躯が呪装銃の照準と重なった時。フォルクは全力の魔力を込めて弾丸を撃ち出した。闇色の呪詛を帯びたその一撃は悪意をもって敵を滅ぼすためでなく、満たされることなく現世をさまよう亡者に、安らかなる引導を渡すために。
「それでは得られないものが、君にもきっと有った筈だ」
「――――ッ!!!!」
 闇の黒鎖に縛られた胸元を銃弾が射抜き、「愛の紋章」にぴしりと小さなヒビが入る。
 得られぬもの、失ったもの。それを忘れてしまった哀れな吸血鬼は、今はまだ猟兵達の想いを理解できぬまま、苦悶の叫びを上げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
悪意を跳ね返すか。難しいな。マドンナ・ローザに悪意を持たせるのも難しそうだし。

なら、これならどうだろ。
ちびアリスを召喚するよ。
攻撃されたら爆発する魔法つきでね。こちらは攻撃する意思はないよ。攻撃に反応する自動機能があるだけでね。

さあ、甘えてきていいよ。
「ままー。」
「あまえさせてー。」

さあ、どうなるかな。



「悪意を跳ね返すか。難しいな。マドンナ・ローザに悪意を持たせるのも難しそうだし」
 強大な『第五の貴族』の力の源である「愛の紋章」をどう攻略しようかと、首をひねるアリス。一切の悪意を抱かずに敵を攻撃するのも、愛情に狂った敵に悪意を抱かせる方法も、彼女にはなかなか思い浮かばなかった。
「なら、これならどうだろ」
 自分にはできない事なら、自分以外のものに任せてみる。【アリスの世界】によって再び召喚されたちびアリス達は、無垢で無邪気な笑顔でぴょんぴょんと屋敷を跳ねまわる。

「さあ、甘えてきていいよ」
 アリスがマドンナ・ローザを指差しながら言うと、ちびアリス達はわちゃわちゃと群れをなして走っていく。彼女らにローザを攻撃する意思はなく、両手を前に伸ばしててちてちと近付いていく様子は、母親に甘えようとする幼子そのものだ。
「ままー」
「あまえさせてー」
 片言な調子で紡がれる無邪気な言葉遣いも、母性をくすぐるもの。狂的なまでの愛情と母性を行動原理とするローザが、この可愛らしい"愛し子"を無視できるはずもなかった。

「まあまあ、甘えん坊さんね。慌てなくてもみんな一緒に抱きしめてあげるわ」
 竜の貌に喜色を浮かべ、両腕を広げてちびアリス達に近付いていくマドンナ・ローザ。
 彼女の膂力で抱擁を受ければ、さほど耐久力の高くない分身はあっさり壊れてしまうだろう。力加減の分からない子供が人形の首をもいでしまうように――それは、召喚主であるアリスにも分かっていることだった。
(さあ、どうなるかな)
 分身に勝ち目がないことを知っている上で、彼女はあえてこの状況を静観する。無警戒にやってきたちびアリス達の前で、狂愛の竜は両掌に生えた鉤爪をギラリと輝かせ、目にも止まらぬ速さで死の【抱擁】を――。

「――――っ!!!?!」
 マドンナ・ローザの爪がちびアリスに触れた瞬間。ボンッと音を立てて爆発が起きる。
 その発生源はローザが抱えたちびアリスそのもの。彼女らには召喚された時点で予め、攻撃を受けたら爆発する魔法が付与されていたのだ。
「な、なにっ?! なにが起こったのっ?!」
 濛々たる爆煙が収まったとき、目を白黒させるローザの体には、至近距離で受けた爆発による火傷があった。つまり、「愛の紋章」による攻撃反射の効果は発揮されていない。

「こちらは攻撃する意思はないよ。攻撃に反応する自動機能があるだけでね」
 どうやら上手くいったようだねと、満足げな微笑みを浮かべるアリス。悪意のない者に仕掛けられた、本人の意思とは関係なく発動する魔法は「愛の紋章」の対象外のようだ。
「ままー」
「あそんでー」
 言わば自走爆弾としての役割を与えられたちびアリス達は、そんなことも知らず無邪気に甘えようとする。すでにタネの割れてしまった攻撃手段だが、母性と愛情の権化であるマドンナ・ローザに、彼女らを無視することができるだろうか?

「あぁっ……私の子がこんなに沢山……なんて愛しいの……!!」
 苦痛をも上回る歓喜に身を震わせて、ローザは近寄ってくるちびアリス達を抱擁する。大きすぎる力の差ゆえに彼女の愛情表現は攻撃にしかならず、魔法の起爆は止まらない。
 しかし連続する爆音が屋敷を震わせる中で、傷ついてゆく魔竜の表情は幸せげだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

播州・クロリア
初対面の敵に自分の親と告げられる展開はそうそうないですね
歌劇としては個性的で受けが良いかもしれません

さぁヤマ場です
役になりきるとしましょう

(直立し目を閉じて両腕で自分を抱きしめるようなポーズをした後{白銀の旋律}で『ダンス』を始めながら『催眠術』による自己暗示で一時的に敵を親だと認識改変する)

自覚はないかもしれませんが貴女の与えた紋章は多くの人達を苦しめました
過ちを正すためにも目覚ましの一撃を入れさせていただきます
貴女を案じ変わってほしいと願う心からの行動です
幾ばくか跳ね返されるでしょうが貴女が変わってくれるなら受け止めます

その後は一緒にダンスを踊りましょう
(一撃を入れた後UC【蠱の心】発動)



「初対面の敵に自分の親と告げられる展開はそうそうないですね」
 歌劇としては個性的で受けが良いかもしれません――と、演者らしい視点から呟きつつ『第五の貴族』と対峙するクロリア。もちろん生まれた世界も種族も異なる二人に血縁があるはずがない。全ては狂気と恍惚に侵されたオブリビオンの語る世迷い言だ。
「さぁヤマ場です。役になりきるとしましょう」
 だが、その誤認も利用すれば敵を制する糸口になる。踊り手の少女は直立し目を閉じて両腕で自分を抱きしめるようなポーズをした後、内なるリズムに合わせて踊り始める。

「自覚はないかもしれませんが、貴女の与えた紋章は多くの人達を苦しめました」
 奏でるのはしんしんと降り積もる雪と、朝日に照らされ光り輝く雪原を表現した「白銀の旋律」。静寂と純真のリズムに合わせて舞い踊るクロリアの瞳には、厳しさと共に相手を慈しむような感情が宿っていた。
「過ちを正すためにも目覚ましの一撃を入れさせていただきます」
 彼女は今、催眠術による自己暗示でローザのことをを一時的に親だと思い込んでいる。強力な認識改変によって敵意を抑え込み、これから為すことは相手を慮るがゆえなのだと自分に信じさせる――それが「愛の紋章」を突破するために彼女が考えた作戦だった。

「そんなに難しい顔をしてどうしたの。眉間に皺を寄せてちゃ、可愛い顔が台無しよ?」
 "愛し子"からの糾弾を受けたマドンナ・ローザは、まるで罪の自覚がない様子だった。自分の子ではない者がどこで何人死のうと、彼女にはどうでもいいことなのだろう。完全に発狂した"母親"の成れの果てを前にして、クロリアの心は悲しみで満たされる。
「これは貴女を案じ変わってほしいと願う心からの行動です」
 かりそめの親愛なれども、心の底から彼女を救いたいという想いに身を委ねて。旋律から生み出した力を両足に込めて、ダンスの動きに合わせて蹴撃を放つ――クロリア渾身の一撃は"愛し子"への【子守唄】を歌おうとするマドンナ・ローザの胴体に直撃した。

「ぐぁ……っ?!」
「……っ」
 竜の巨体が吹き飛ばされるのと同時に、攻撃を仕掛けた側のクロリアも胴に痛みを感じて顔をしかめる。やはり暗示により植え付けた感情では「愛の紋章」を完全には騙しきれなかったのか、幾ばくかの衝撃が自身にも跳ね返ってきたようだ。
「……ですがこれも貴女が変わってくれるなら受け止めます」
 クロリアはなおも踊り続けることで、暗示の没入感を深めつつ【蠱の心】を発動する。
 これは彼女が攻撃を当てた対象に「ダンスすることが自分の存在意義」という精神を付与するユーベルコード。どれだけ強固な敵対心に満ちた相手でも、精神の上書きによってダンスパートナーに変えてしまう、舞踊と音楽が持つ力を最大限高めたような技だ。

「さあ、一緒にダンスを踊りましょう」
 クロリアが手を差し伸べて呼びかけると、起き上がってきたローザはふらふらと夢心地な様子で踊りだす。凶悪ながらも優美さを感じさせる竜の肢体をくねらせ、ステンドグラスのような翼を羽ばたかせて空を舞う姿は、思わず見惚れてしまうほど美しい。
「ああ、楽しい、楽しいわ……!」
 ダンスが生み出す高揚感に、このままずっと身を委ねていたいという想いは、ローザを侵す狂気さえも押しのける。その結果、彼女が正気になって真っ当な"母親"に変わってくれることを願いながら、クロリアは彼女の動きに合わせるように踊り続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…驚いたわ。私は吸血鬼を狩りに来たはずなのに、
まさか喋る蜥蜴に子供扱いされるなんてね

それで?この屋敷の主はどこにいるのかしら?
まさかお前のような畜生が主だ、なんて言わないわよね?

…ふうん、流石は第五の貴族と讃えるべきかしら?
そんな醜い姿を晒して生きるなんて、私なら恥ずかしくてとても…

それとも、畜生になって貴種の誇りも失われたのかしら?
ふふふ、それなら同情してあげるわ、マダム・ローザ?

事前にUCを発動して吸血鬼の姿に変身して、
霧化して攻撃を残像のように受け流しつつ挑発を繰り返し、
第六感が敵の殺気を捉えたらカウンターで懐に切り込み、
紋章を狙い限界を突破して魔力を溜めた大鎌を怪力任せになぎ払う



「……驚いたわ。私は吸血鬼を狩りに来たはずなのに、まさか喋る蜥蜴に子供扱いされるなんてね」
 紅い月の屋敷の主である『第五の貴族』マドンナ・ローザに、リーヴァルディは冷笑を浴びせる。細められた紅の双眸には相手への侮蔑を宿して、紡ぐ言葉には嘲りを込めて。
「それで? この屋敷の主はどこにいるのかしら? まさかお前のような畜生が主だ、なんて言わないわよね?」
 無論、本当は最初から分かっている。歴戦の吸血鬼狩人である彼女が、狩るべき獲物の血の匂いを、対峙した相手の力量を読み違える訳がない。禁断の魔術によって竜と化し、「愛の紋章」にてあらゆる悪意を反射する吸血鬼――その力は言語に絶するほど強大だ。

「母の姿を忘れてしまったの? 私がこの屋敷の主、あなたたちの愛しい母親よ?」
 リーヴァルディの辛辣な物言いにも、ローザは"愛し子"に対する態度を変えなかった。反抗期な娘に対する溺愛な母といった振る舞いで、彼女に迫り【接吻】を行おうとする。
 しかし竜化したローザの口に柔らかい唇はなく、代わりに並ぶのはナイフのような鋭い牙。そんなものに噛みつかれてはたまらないと、リーヴァルディはひらりと身を躱す。
「……ふうん、流石は第五の貴族と讃えるべきかしら? そんな醜い姿を晒して生きるなんて、私なら恥ずかしくてとても……」
 対峙に先駆けて【限定解放・血の変生】を発動したリーヴァルディの肉体は、伝承に謳われる吸血鬼のそれに変異している。身体能力は人間の比にならず、望めば霧に変化して攻撃をすり抜けることもできる。迫る烈牙を残像のようにひらりひらりと受け流しつつ、彼女は冷笑を浮かべたまま挑発を繰り返す。

「それとも、畜生になって貴種の誇りも失われたのかしら?」
 肉体の変異は精神面にもやや影響を及ぼすのか、今のリーヴァルディは普段よりも高慢で高圧的な雰囲気を纏っている。その態度の全てが演技というわけでは無いのだろう。ダンピールである彼女の心にある吸血鬼としての一側面が、やや強く表に出ているようだ。
 闇の貴族たる吸血鬼流の振る舞いをもって接する今の彼女からすれば、魔物の姿になり果て、狂気や感情をコントロールできていないローザは"無様"の一言に尽きるだろう。
「ふふふ、それなら同情してあげるわ、マダム・ローザ?」
 霧と実体への変化を繰り返し、紅い月光の下で踊るように竜の攻撃を躱し続ける少女の姿はあまりに華麗で。どちらがこの屋敷の主だったのか、一瞬忘れてしまいそうになる。

「……どこでそんな悪い言葉ばかり覚えてきたのかしら。母に対してなんてことを」
 立て板に水のごとく流れる挑発の雨に、それまで穏やかだったローザの態度が変わる。それは聞き分けのない幼子を叱る母親のような、ごく一瞬かつほんの些細な怒りだったが――第六感を研ぎ澄ませていたリーヴァルディは、その瞬間をはっきりと捉えた。
「……ほら。この程度の挑発で心を乱すなんて、やっぱり憐れだわ」
 殺意には届かないほどの微細な怒りであっても悪意には違いない。「愛の紋章」の効果が失われた間隙を突いて吸血鬼狩人は反撃へと転じ、大鎌を構えて敵の懐に切り込んだ。

「……その狂った愛を断ち斬ってあげる」
 これまでにも数多の吸血鬼の命を狩ってきた、漆黒の大鎌"過去を刻むもの"。今、その刃は限界を超えたリーヴァルディの魔力を宿し、紅い鮮血にも似たオーラを纏っている。
 最後まで酷薄な口調のまま力任せに振るわれた一閃は、マドンナ・ローザの胸元をさっと横一文字になぎ払い、そこに寄生する「愛の紋章」に一筋の深い傷を刻みつけた。
「―――ッ!!!!」
 苦しげに胸を押さえながら、ふらふらと力なく降下していくローザ。『第五の貴族』であっても力の源である紋章に与えられたダメージは、けして小さくはない様子であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

カビパン・カピパン
「よく来たわね、かわ「やだぁ、癒し系だなんてぎゃはは」
「もっとこっちに来て。私にあなたを抱「第五の貴族ってトカゲじゃん…獣臭いし」
「疲れているなら子守唄を歌っ「はぁ、なにいってんの。多分だけど音痴でしょう?」
ブチッ

「恥ずかしいとか甘えるとかはもっと私みたいに歌が上手くなってから言ってよね」
ブチッ

「このカビパンさんが、真の子守唄を聞かせてあ・げ・る!」
ブチッブチッ

カビパンは悪意もない素で言っていた。
この何気ない言葉一つ一つがマドンナ・ローザを傷つかせ無意識に煽る。かつてない悪意や殺意を抱かせた。

伝説のアーティスト戌MSの全面協力の元で新曲:子守唄の【カビパン・リサイタル】が開催された。



「ああ……なんてやんちゃな子たちなのかしら。でも、そんなところも愛おし――」
「やだぁ、癒し系だなんてぎゃはは」
 猟兵達の力と戦略によって、徐々にだが傷ついていくマドンナ・ローザ。"愛し子"からの予想外の反抗に、それでも彼女は慈愛を示すのだが――その言葉を遮って爆笑が響く。
 誰かと思って振り向けば、そこにいたのはカビパンだった。何がツボに入ったのか腹を抱えて大笑いしている彼女も、ローザの認識上では"愛しい私の子"の範疇である。

「貴女ももっとこっちに来て。私にあなたを抱――」
「第五の貴族ってトカゲじゃん……獣臭いし」
 抱擁するように両腕を広げながら敵が近付いてくると、カビパンは鼻をつまんで顔をしかめる。二度も発言を遮られたローザは若干ムッとしたようだが、それでも彼女は我が子を愛する寛大な母。これしきのことで腹を立てたりはしない。
「疲れているなら子守唄を歌っ――」
「はぁ、なにいってんの。多分だけど音痴でしょう?」
 が。それが立て続けに三度目となると、さすがにイライラは無視できない段階になる。
 微笑むように細められていたローザの目が、今は違う理由で細くなっているのに気付かず、カビパンはさらに失礼極まりない発言を連発する。

「恥ずかしいとか甘えるとかはもっと私みたいに歌が上手くなってから言ってよね」
 強大な『第五の貴族』を前にしても一歩も怯まないとこどか、無闇矢鱈と自信に満ち溢れたその態度。竜の尻尾を踏んでいることにも気付かずにぺらぺらと大言を口にするが、一体彼女の歌がどれほどのものだと言うのか。
「……そんなに歌がお上手なら、ぜひとも聞かせてくれないかしら?」
 屋敷の外で配下の「混血の落とし子」達がどんな事になったのかを知らないローザは、無謀にもそう言ってしまった。ライブをリクエストされたカビパンは最高にイイ笑顔を浮かべると、待ってましたとばかりにマイク代わりの聖杖を握る。

「このカビパンさんが、真の子守唄を聞かせてあ・げ・る!」
「…………(ブチッ)」

 驚くべきことにカビパンに相手を煽るという意識はない。悪意もなく素で言っていた。
 この何気ない言葉一つ一つの積み重ねがマドンナ・ローザを傷つかせ無意識に煽り、かつてない類の悪意を抱かせる。どうやら高貴な吸血鬼にカビパンのギャグは相性が合わなかったようだ。胸の奥からこみあげる不快感が「愛の紋章」の効力を打ち消してしまう。
 そこに満を持して開催される【カビパンリサイタル】第二章。今回はとある伝説のアーティスト(詳細不明)の全面協力の元で作られた新曲「子守唄」も初披露である。

「わたし↑は↓~癒し系↑↑↑ ~~♪」

 新曲なのに歌詞が前と変わらない気がするとか、そういうのは気にしたら負けである。
 今回は"わざと"下手に歌うわけでもなく、真面目に本気で歌うカビパンの歌は本来の持ち味を発揮する。一度聞いたら頭にこびりついて離れない、精神攻撃になるほど絶望的に酷い音痴歌が、マドンナ・ローザの鼓膜に襲い掛かった。
「~~~ッ!!!?!」
 こんなものを子どもに聞かせれば、寝かしつけられるどころか卒倒待ったなしだろう。
 大人でも耐えられないようなデス子守唄の洗礼を受けたローザは、両手と両翼で耳を塞ぎながらほうほうの体で逃げていった――。

成功 🔵​🔵​🔴​

春乃・結希
『第五の貴族』…すごく強いっていうのは、前に立つだけでわかる
まともに受ければ焔でも補えないかもしれない
…だけど私にはあなたが居るから。何も怖くない

頬にキス…頭を狙ってくるということかな
背中に感じる恋人の重みからくる【勇気】でその場に足を留め、【カウンター】を狙う
ギリギリまで引きつけ、死角になる筈の足元から跳ね上がる『wanderer』で顎を蹴り上げ
背より抜き放ち振り下ろす『with』を叩き付ける

別にあなただから、海に還したいわけじゃない
私はただ、この世界に希望を結びたいだけ
私を愛して欲しいのは『with』だけだから
あなたの愛なんて要らない
それに…あなたに本当に想いを伝えたい人も
ここに来てるから



(『第五の貴族』……すごく強いっていうのは、前に立つだけでわかる)
 目の前にいるマドンナ・ローザから放たれる強烈な存在感を、結希は肌で感じていた。
 敵意も悪意も感じない。なのに近付くのも躊躇われるほどのプレッシャー。人とな隔絶した力を誇る存在にとっては、ただの愛情表現すら無自覚な破壊行為になる。
(まともに受ければ焔でも補えないかもしれない……だけど私にはあなたが居るから。何も怖くない)
 結希の心を支えるのは、背中に感じる恋人の重み。最愛の『with』から勇気を貰って、竦みそうになる足をその場に留める。『with』と共に在る限り自分は誰にも負けない――彼女の強さの根幹となるその想いは、何者にも揺るがせぬほどに強固であった。

「ああ、そこにいたのね、愛しい私の子……」
 結希の存在に気付いたマドンナ・ローザは、相手のことを本当に我が子だと信じているらしく、愛おしげな様子で近付いてくる。微笑むように歪んだ口元からは鋭い牙が覗く。
「もっと近くで顔を見せて。あなたの頬にキスさせて」
 本人はそう言うものの、彼女の【接吻】という名の噛みつきを受けて耐えられる者が何人いるだろう。あの強靭な顎にかかれば、肉も骨も纏めて噛み千切られてしまいそうだ。

(頬にキス……頭を狙ってくるということかな)
 結希はその場から動かず、接吻のために近付いてくるローザの動きをじっと見ていた。
 しくじれば頬どころか頭を丸ごと食い千切られるかもしれない。しかし敵が警戒もせず接近してきてくれるのなら、カウンターを狙うチャンスだ。
(まだ……まだあと少し)
 一度きりのチャンスを確実にものにするために、ギリギリまで引きつける。竜の吐息を肌で感じ、牙が頬に触れかかる寸前まで待って――敵自身の巨体が、死角を作り出す時。真っ白な蒸気を噴き上げて、結希の蹴り足が跳ね上がった。

「さあ……うぐっ!?」
 "愛し子"の頬に口付けようとしたまさにその瞬間、ガジェットブーツ「wanderer」によって強化された蹴撃が、真下からローザの顎を蹴り上げた。視界と意識の外から脳を揺らされ、竜頭が真上を向く――そこに間髪入れず、結希は背より『with』を抜き放った。
「別にあなただから、海に還したいわけじゃない。私はただ、この世界に希望を結びたいだけ」
 結希の攻撃が「愛の紋章」に阻まれなかったのは、そこにローザに対する悪意が含まれていなかったから。世界に希望をと願うのも、己がそうしたいからという個人的な好み。彼女が戦う理由は常に「誰か」のためで無く、己自身の想いのためである。

「私を愛して欲しいのは『with』だけだから。あなたの愛なんて要らない」
 己と『with』で完結した結希の想いの世界に、ローザの愛が介在する余地はなかった。ある意味では他者に対する究極の無関心とも言えるそれが「紋章」を攻略する鍵となる。
「私はもう誰よりも愛されている。これが私が、最強でいられる理由」
 絶対的自信の根源たる【with】を、全身全霊を込めて振り下ろす。単純ゆえに重く、何者にも防ぐこと叶わぬ"愛"の一撃が、マドンナ・ローザの頭部をばっさりと斬り伏せた。

「―――ッ!!!!」
 頭から噴水のように血を撒き散らして、言葉にならぬ悲鳴を上げるマドンナ・ローザ。
 愛をもって愛を拒絶したに等しい結希の一撃が、彼女に与えたダメージは相当だろう。赤く染まった『with』を背負いなおし、くるりと踵を返した少女は去り際に告げた。
「それに……あなたに本当に想いを伝えたい人も。ここに来てるから」
 彼女の愛を受け止めるべき"子"は、他にいる――邂逅の時は、そう遠くはないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(「悪意ある攻撃」とは何処までを指すのか。
剣は間違いなく、では妖精ロボのような無線兵器は?
手を下すモノに指示したモノの悪意…殺意の在処は?  
放たれた矢との相違は?)

…確実性を採りましょう

(己の殺意に責任を取れぬのは騎士として忸怩たる想いですが…機械とは善悪思想の介在なく他者を害せるモノであれば)

私達は貴女を討ち取り、この世界を解放を目指すもの
堕ちた私にその愛情は無為かと

自己●ハッキングでローザの排除を目標設定
UC起動

目標確認、排除開始

瞬間思考力で噛み付き見切り回避
推力移動怪力大盾殴打で頭部にアッパー
頭部にワイヤーアンカー射出し引き摺り倒し
紋章か防御薄い眼球を剣で刺し貫き傷へ格納銃器乱れ撃ち



(「悪意ある攻撃」とは何処までを指すのか。剣は間違いなく、では妖精ロボのような無線兵器は?)
 悪意をもった一切の攻撃を反射するという「愛の紋章」を攻略すべく、トリテレイアの電脳は演算を繰り返す。そもそも「悪意」という基準が人の思いによる曖昧なものである以上、導きだせる答えもなかなか推測の域を出ない。
(手を下すモノに指示したモノの悪意……殺意の在処は? 放たれた矢との相違は?)
 思いついた手を片っ端から試せればいいのだが、『第五の貴族』という強敵相手にそこまでの余裕は無いだろう。攻撃を跳ね返された隙を突かれて【接吻】なり【抱擁】なりを受ければ、そのまま大破する危険性は高い。

「……確実性を採りましょう」
 様々な手段を考えた末に結論を出した機械仕掛けの騎士は、大盾を構えながら敵の前に立つ。血縁的な"親"を持たぬ種族相手でもマドンナ・ローザの認識は変わらないらしく、新たな"愛し子"の来訪を両手を広げて歓迎しにかかった。
「ああ、強く、勇ましく、凛々しい私の子。その兜を脱いで、私に口付けをさせて?」
「私達は貴女を討ち取り、この世界を解放を目指すもの。堕ちた私にその愛情は無為かと」
 言葉では我が子を労う母親のように、実態としては牙を剥き出しにして襲い掛かる魔竜に対して、トリテレイアは静かに言葉を返しながら、自らの電子頭脳をハッキングする。
 敵が悪意ある攻撃を跳ね返すのなら、悪意を生む源である「感情」を、この身から排除する。戦機である彼にとっては自らの感情も、演算されたプログラムに過ぎないが故に。

(己の殺意に責任を取れぬのは騎士として忸怩たる想いですが……機械とは善悪思想の介在なく他者を害せるモノであれば)
 【ベルセルクトリガー・リミテッド】起動。人並みの感情を排することで精神構造を完全に戦闘に最適化させたトリテレイアは、起動時に自ら設定した「ローザの排除」という目標遂行のために動き出す。
「目標確認、排除開始」
 そこに善意や悪意が介在する余地はない。あったとしても機械には関係ない。相手が何者であろうとも命令のままに自律的に目標を排除する――兵器としての理想形のひとつ。好ましからざる己の側面をさらけ出してでも、彼はこの戦いに勝たねばならなかった。

「どうしたの? 急に怖い顔をして……」
 戦機の雰囲気が変わったことに気付いたローザは、心配そうな顔で近付いてくる。その振る舞いは本心からのものだが、近付かれる者にとっては脅威――トリテレイアは瞬間的に思考を回転させて敵の"攻撃"動作を見切り、回避する。
「脚部スラスター、腕部アクチュエータ、出力最大」
 【接吻】のために突き出された頭が空を切った直後、ジェットの推力が彼のボディを動かし、豪腕にて振るわれた大盾が質量兵器となってマドンナ・ローザに叩きつけられる。
 悪意なき機械の攻撃に「愛の紋章」は反応しない。強烈なアッパーを食らったローザの頭部は勢いよくかち上げられ、「うぐっ!?」とくぐもった悲鳴が口の端から漏れた。

「ワイヤーアンカー射出」
 トリテレイアの攻勢は止まらない。敵が体勢を崩した隙を突いてワイヤーを頭部に絡みつけ、自機への反動すら顧みないほどの怪力で引き下ろす。まるで手綱をつけられた馬のように、屋敷の床に引きずり倒されるマドンナ・ローザ。
「ら、乱暴ね……っ」
 顔を上げた彼女の"目の前"に突きつけられたのは儀礼用の長剣。式典の為に誂えられた優美な刃が、生物にとって最も防御が薄い箇所のひとつ――すなわち眼球に突き刺さる。

「―――ッ!!!!」
 片目を潰された竜の絶叫が館に響き渡る中、トリテレイアはどこまでも冷徹に追撃を。
 機体各部に格納されていた銃器が銃口を覗かせ、負傷箇所を狙って弾丸を乱れ撃つ。
「……目標へのダメージを確認。攻撃を継続」
 例えその行いが騎士の本懐から外れようとも、「人」ではないからこそ出来る事を断行する。機械仕掛けの騎士の覚悟によって、『第五の貴族』は着実に力を削がれていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
ここから先は私の番ね
私つまり女性人格に交代するわ

私はただ愛したい(壊したい)だけ
他の私よりは害意は少ない筈よ
攻撃しても
「…この愛が悪意に分類されるなんて…あぁ悲しくてどうにかしてしまいそうね」

しくしく泣き真似しながら赤い紅い雨を降らせましょう
狂気を招いてくれるのならそれにのりましょう

…ちなみに私、自覚しているのだと壊される前に壊したい
大切な物程壊したい
という感情が強い…攻性の人格なのよね

俺の場合二度と大切な物を無くしたくないという守護よりなのだけれど

そして私の感情は本来人に向くの
でもそれはよろしくないから敵を人として暗示をかけて見ているのだわ
更にそこに狂気が加われば…
はてさて何に見えるのかしら



「ここから先は私の番ね」
 『第五の貴族』マドンナ・ローザの居室に辿り着いた夜野は、身体の主導権を基本人格から女性人格に交代する。敵の力の源である「愛の紋章」を攻略するためには、こちらの人格のほうが適していると判断したからだ。
「私はただ愛したいだけ。他の私よりは害意は少ない筈よ」
 "彼女"にとって愛するという言葉は、すなわち壊したいという意味に近い。愛情表現という名の暴力によって、無自覚に相手を壊してしまうローザとは似て非なるものだが――相通ずるものがそこにはあった。

「さて、私の愛は受け入れて貰えるかしら?」
 楚々と微笑みながら「怨剣村斬丸」を手に斬り掛かる夜野。猟兵達を"愛し子"と認識しているマドンナ・ローザは、それを避けようともしない。無防備な胴体を斬り伏せる一閃――しかし、血飛沫を上げたのは夜野の身体のほうだった。
「……この愛が悪意に分類されるなんて……あぁ悲しくてどうにかしてしまいそうね」
 反射された攻撃の痛みよりもそちらの方が辛いと言うように、しくしくと泣き真似しながら崩れ落ちる。胸から滴り落ちる血と連動するかのように、夜野の頭上からは赤い紅い血の雨が降り、戦場をむせ返るほどの血臭で満たしていく。

「泣かないで、愛しい私の子……」
 降りしきる紅い雨の下、マドンナ・ローザは心から夜野を労るような調子で【子守唄】を歌い始める。もっとも、それは人の耳からすれば単なる竜の咆哮にしか聞こえないが。
 彼女の咆哮には狂気を伝播させる力がある。間近でそんなものを聞かされ続ければ正気ではいられないだろう。ただ――今の夜野にとってはそれが好都合でもあったのだが。
(狂気を招いてくれるのならそれにのりましょう)
 夜野が発動したのは【死散血餓】。血の雨が降るこの領域の中では正気であろうとする者ほど死に近付いていき、狂気に適応できた者は力を得る。先の攻撃に"愛"が足りなかったと言うなら、今度はより深い狂気に身をやつして、紋章の護りを突破してみせよう。

(……私、自覚しているのだと壊される前に壊したい、大切な物程壊したい、という感情が強い……攻性の人格なのよね)
(俺の場合二度と大切な物を無くしたくないという守護よりなのだけれど)
 頭の中で交わす人格同士の会話。泣き崩れたふりをして時間を稼いでいる間にも、竜の子守唄は"彼女"の狂気を加速させる。敵であるはずの目の前の相手が愛しくて愛しくて、今すぐにでも壊したくて。彼女が再び顔を上げた時、その瞳は完全に正気を捨てていた。
「あら……まだ眠くないの? なら抱きしめてあげましょうか……」
 マドンナ・ローザはそんな夜野の変化に気付いていないのか、今度は鋭い爪の生えた両掌で抱擁しようとする。これまでの対峙で分かったことだが、この女には身を守るという意識がない。殆どの攻撃は「愛の紋章」で反射できるのだから、それも当然だろうが。

「ああ……あなたは……」
 死の抱擁をもたらさんとする竜の巨体を、夜野は食い入るような視線で見つめている。
 今の彼女には敵がまったく別のものに見えている。彼女の感情は本来"人"に向けられるものであり、異形の怪物は対象外。先の攻撃が悪意と見做されたのはそれも一因だろう。
 だから彼女は自分に暗示をかけた。敵を"人"として見られるように。それは【子守唄】と【死散血餓】により加速する狂気と重なりあって、見えるはずがないものを見せる。

「…………懐かしいわね」

 その時、夜野に何が見えていたのかは、彼女だけにしか分からない。ただ一瞬、彼女の手元で刃が閃いた直後――「愛の紋章」の護りを抜けて、ローザの両腕が斬り裂かれる。
「え?」
 『第五の貴族』の五感でも認識できなかった、血風舞う斬撃。呆然とするローザとは対照的に、夜野はうっとりとした笑みを浮かべながら、降り注ぐ血雨の中に消えていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

おお、なんと偉大で美しい姿だ
大海の如く深い愛を持つ、我らが母よ

慈愛に満ちたその姿に思わず武器を取り落とし、母の前で手を広げ
接吻を受けるためにその身を捧げよう

ああ、偉大な母よ
私の全てを受け止めてください

噛みつかれる前にUCを発動
私は彼女の愛を受けるために進んで毒に満ちたこの身を捧げよう
腐蝕に出血、さらに幻覚作用を持つ毒物のカクテルに満ちたこの身をな
その御身を焼き腐らせ、その御目に私が子供を殺す憎い仇に映る幻覚を見せよう
狂った脳でもわかるようにな
奴が怒り狂ったら動きが鈍いうちに一斉に弾丸を叩き込む

悪意が無くとも、其処に在るだけで人を害する…それが「毒」だ
まるでお前の「愛」のようにな



「おお、なんと偉大で美しい姿だ。大海の如く深い愛を持つ、我らが母よ」
 思わず武器を取り落して、キリカはマドンナ・ローザの前で手を広げる。慈愛に満ちたその姿に心打たれでもしたのか、表情には敬愛と思慕の感情をありありと浮かべている。
 敵が発する狂気と恍惚に感化されて、正気を失ってしまった――というわけでは勿論、ない。これは敵の懐に入るための演技。母性と愛情を行動原理とするローザは、自らを称える"愛し子"に手ずから寵愛を与えようとするだろう。その瞬間こそが攻略の好機だ。

「ああ、偉大な母よ。私の全てを受け止めてください」
 あるいは神に身を捧げる生贄のように、敵の前で淑やかに跪くキリカ。これほど謙虚な態度を示す"愛し子"からの訴えを、ローザに無視できるはずもなく。ようやく自分の愛情が通じたのだと喜びを見せながら、ステンドグラスのような美しい翼を羽ばたかせる。
「ええ、ええ、もちろんよ。あなたの全てを受け入れてあげる……!」
 ばさりとキリカの元に降り立ったローザは、翼と腕で相手の身体を包み込むようにしながら、彼女に【接吻】を施そうとする。だが唇を持たない彼女の口付けがもたらすのは、牙による苦痛と死のみ。それを分かった上でキリカは受け入れる姿勢を変えず――。

「貴女に捧げます……毒に満ちたこの身を」

 噛みつかれる寸前に、発動させるのは【プワゾン】。官能的なまでに甘い香りと共に、キリカの身体は薄紫色の毒霧に変わる――ローザはそれに無警戒に食いついてしまった。
「むぐ……ッ!!!?」
 手応えのなさに違和感を覚えた直後、腐蝕に出血、さらに幻覚作用を持つ毒物のカクテルが彼女の肉体を侵す。体内から焼き腐らせられる激痛、全身の穴という穴からの出血、混濁する意識に歪む視界。それら全ての症状が一斉に『第五の貴族』に降り掛かった。

「悪意が無くとも、其処に在るだけで人を害する……それが『毒』だ」
 崇拝者のフリをやめたキリカは元の冷徹な表情に戻り、取り落とした銃を拾い上げる。
 彼女の推測は正しかった。悪意なくそれを敵に服用させる為に「自分から服毒させる」プロセスを考える必要はあったが、毒自体の悪影響は「愛の紋章」に反射されなかった。
 毒には誰かを殺したいという意思はなく、ただ毒として命を侵食するだけなのだから。
「まるでお前の『愛』のようにな」
「き……貴様あぁぁぁッ!!!」
 マドンナ・ローザが怒りの咆哮を上げる。猛毒に侵された彼女には、幻覚作用によってキリカの姿がまったく別の者に見えていた。その御目が映すのは愛しい我が子ではなく、子供を殺す憎い仇――狂気と恍惚に浸っていた心に、恐ろしいほどの怒りが燃え上がる。

「許さない! 一度ならず、二度までも! 私の子供に手出しはさせな―――」
 愛ではなく怒りに狂った魔竜から「愛の紋章」の加護が失われた時、キリカは躊躇なくトリガーを引いた。秘術と聖句により強化された弾丸が、弱体化した標的に突き刺さる。
「これ以上『愛』で人を害する前に、骸の海に還るがいい」
「がああぁぁぁぁぁぁっ!!!!?」
 全身から血飛沫を上げ絶叫しながら、怒りと苦痛にのたうち回るマドンナ・ローザ。
 そのおぞましき醜態からはもう、『第五の貴族』としての威厳は見る影もなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
その愛はきっと共有出来ないし、その身体では理解してもらえない。
骸の海へ還しましょう。このままでは憐れです。

オラトリオをドーム状に展開し、外を見えなくしてから【果実変性・ウィッシーズアリス】を発動し、ねこさんに事情を説明。
アマービレで後から呼んだ攻撃役のねこさん達に悪意ではなく善意で攻撃してもらう為に敵が呪いの魔物に囚われた女性に見える幻覚を掛けてもらいます。
その後オラトリオを解除。

敵の攻撃は最初に呼んだねこさん達との【多重詠唱】【全力魔法】【オーラ防御】【結界術】で防御。

ねこさん達、彼女を救ってください。

攻撃役のねこさん達に【多重詠唱】【浄化】【属性】【全力魔法】【一斉発射】をお願いします。


大町・詩乃
アドリブ・連携歓迎

この人の愛は、もはや侵略行為…。
しかし禁術でこうなったのなら、(リムさんが言った一度倒した後の展開も考え)理性を戻す事も不可能ではないのでは?
と考え、彼女が理性を持った上で愛情深い存在になれればと想いを籠め、悪意無く戦う。

空中浮遊で浮かんで念動力で自分を動かし、残像を産み出して幻惑しつつ、空中戦で自在に舞い、第六感・見切りで攻撃を読んで回避。

仲間が危険なら結界術による防御結界でかばいます。

氷の属性攻撃・全力魔法・高速詠唱で氷の槍を多数創造し、貫通攻撃・スナイパーで相手の翼や手足を撃ち抜き、一瞬でも動きを止めた間に懐に飛び込んで、想いを籠めた神罰付きのUCで胸の紋章をなぎ払う。



「その愛はきっと共有出来ないし、その身体では理解してもらえない」
 純粋に愛を唱え、愛を与えようとしながらも、狂気と破壊しかもたらすことのできないマドンナ・ローザに、望はふと哀しげな表情を見せる。このまま放置しておけば、彼女は自らの狂気に振り回されたまま、我が子の幻影を追い求めて凶行を繰り返すのだろう。
「骸の海へ還しましょう。このままでは憐れです」
 エクルベージュ色の「影園・オラトリオ」をドーム状に展開し、外を見えなくしてから【果実変性・ウィッシーズアリス】を発動。青いエプロンドレス姿に変身した望は、召喚した4匹の魔法猫達に『第五の貴族』を打倒するための作戦を伝える――。

(この人の愛は、もはや侵略行為……。しかし禁術でこうなったのなら、理性を戻す事も不可能ではないのでは?)
 一方の詩乃は、マドンナ・ローザの向ける愛情に望と同様の見解を抱きながらも、彼女に救いはないだろうかと考えていた。ブリーフィングの際にグリモア猟兵が言っていた、『第五の貴族』にはまだ未知の力があるかもしれないと――現在のマドンナ・ローザを討った後の展開まで考えれば、彼女に理性が戻る可能性はあり得ないとまでは言えない。
「なら、彼女が理性を持った上で愛情深い存在になれれば……」
 か細くとも信念を賭すに足る理由のために、詩乃は狂える『第五の貴族』と対峙する。
 戦いに際して胸に抱くのは悪意でなく、純粋に彼女を救いたいという想いだけだった。

「ああ、愛しい私の子たち……どうしてあなたたちは私の手から放れていくの……」
 嘆くように、慈しむように言葉を紡ぎながら、煌く翼を羽ばたかせてマドンナ・ローザは宙を舞う。念力で自らを動かすことで空中に浮かび、それと対峙するのは詩乃だった。
 竜の体躯から放たれる【接吻】や【抱擁】は、本人にその気がなくとも致命的な攻撃。詩乃は荒ぶる爪牙の猛攻を第六感で察知し、残像を発生させることで狙いを狂わせる。
「あなたの手では本当に愛しい人でさえ傷つけてしまいます」
 ひらりと空中で身を翻しながら、慈しむように声をかける。だが狂気と恍惚に侵された魔竜に女神の言葉は届かない。その「愛情表現」はますます苛烈さを増し、詩乃は避けるだけでも精一杯の状態に陥る。

「加勢するのです」
 その時、開放された影園のドームの中から、望に率いられた魔法猫の群れが姿を現す。
 望の手には猫を呼び出す白いタクトがあり、【ウィッシーズアリス】で召喚したよりも多くの猫がそこにはいる。彼らは詩乃と空中戦を繰り広げる敵を見上げると、魔法による一斉攻撃を開始した。
「うっ……なに!?」
 猫達が放ったのは魔を浄化する魔法。清らかな光に照らされたマドンナ・ローザの身体に、太陽に焼かれたような痛みが走る。魂まで魔に染まりきった彼女には辛い攻撃だろう――だが、奇妙なのは何故その攻撃に「愛の紋章」が反応しなかったのかだ。

『これから戦う敵は、呪いの魔物に囚われた女性です』
 影園による隔離を解く前に、望はアマービレで呼び出した魔法猫にこう説明していた。それが真実だと思いこむように、先に喚んだ4匹の猫から幻覚魔法をかけてもらいつつ。
 今、ローザを攻撃した猫達には、本当に「呪いの魔物に囚われた女性」が見えている。だからこそ悪意ではなく、女性を助けようという善意で浄化の魔法を放ったのだ。
「どうして母を傷つけようとするの……?」
 狂気に侵された者と幻覚にかかった者、互いの認識はすれ違う。悪意なく敵を攻撃する猫達に対し、なぜ"我が子"に攻撃されているのか分からないローザは、全力の【抱擁】をもって猫達を宥めようとする。

「やらせません!」
「防いでください」
 猫の群れの左右双方向から繰り出された必殺の斬撃を止めたのは、詩乃と望のふたり。
 防御結界を張った詩乃が右手の爪を止め、望が4匹の猫と一緒に張ったオーラの結界が左手の爪を防ぐ。
「なぜ……っ!?」
 抱擁を拒まれたローザの懐ががら空きになった瞬間、鋭い氷の槍が彼女の翼と四肢を撃ち抜いた。与えたダメージは然程大きいものではないが、一瞬でも動きが止まれば上々。
 氷槍を放った詩乃はすっと姿勢を低くしてローザの懐に飛び込み、同時に望がタクトを振って魔法猫たちに指揮を飛ばす。

「ねこさん達、彼女を救ってください」
 ローザの事を救けるべき相手だと信じ、一斉に浄化魔法を放つ魔法猫の群れ。紅い月光をも霞ませるほどの眩い光が、禁呪によって変異したローザの肉体を焼き焦がしていく。
 竜が苦悶に悶え悲鳴を上げる隙に、迫るは詩乃。ピンと伸ばした手のひらに想いを籠めて、女神として備わった神罰の力と共に――全身全霊の【改心の一撃】を叩き込んだ。
「どうか正気に戻ってください!」
 バシンッ、と屋敷中に響き渡る快音。厳しくも優しい愛の平手打ちが、ローザに寄生する「愛の紋章」に亀裂を入れる。それは同時に、狂気に侵された精神にも衝撃を与えた。

「い、いやああぁぁぁぁっ!!?」
 絹を裂くような女の絶叫。それはただ激痛に耐えかねただけとは思えない悲鳴だった。
 浄化の魔法と改心の一撃が、マドンナ・ローザの心に何らかの変化をもたらしたのかもしれない。今はまだ、すぐに狂気にかき消されてしまうほどの小さな変化だが――それがこの先に何をもたらすのかは、まだ未知数であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

森宮・陽太
アカネ(f05355)と
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

ここまで悪意がねーと逆にやりづれぇな
しかし悪意は捨てられねーし
…っておいアカネ…じゃねえ茜姫!?

突然ローザを母呼ばわりする茜姫に驚くが
何か意図があるのだろうとしばらく観察
その間に小声で「高速詠唱」+【悪魔召喚「ヴァサゴ」】
不測の事態を警戒

アカネが割って入ったところで介入
共に茜姫を引き剥がし割込む
てめえの娘はてめえが死ぬまで何度でも奪ってやる
どうだ? 愛し子を奪われる気持ちは

二槍を伸長させ徹底的に紋章を撃ち抜く(ランスチャージ、串刺し)
いくら茜姫が泣き喚こうが心を鬼にし容赦なく攻撃
ローザからの攻撃は未来予測で回避か「オーラ防御」で軽減


アカネ・リアーブル
陽太様f23693と
茜姫が前に

あそこにいるのは竜?
いいえ
あそこにいるのはお母様
お懐かしいお母様
そこにいらしたのですね
お母様が猟兵に倒されたなど
やはり悪夢だったのです

両腕を広げてお母様の許へ
連れて行ってくださいませ
懐かしい故郷へ
愛しいあの里へ

抱き締められる寸前身体が止まり
強引に引剥がされ猟兵が割り入り

「アカネは貴女から大事な娘を奪います!
どうぞ憎んでくださいませ!
アカネは何度でも貴女を貫いてみせます!」
わたくしを取り返そうとするお母様の胸を舞薙刀が貫いて…

もうやめてくださいませ!
泣いても叫んでもアカネはやめません
お母様もアカネを容赦なく攻撃を
動きを止められたまま
何もできないまま
ただ立尽くして
ああ



「ここまで悪意がねーと逆にやりづれぇな」
 狂気に侵された母性と愛情をもって、猟兵に暴虐的な愛を振り撒くマドンナ・ローザ。
 彼女の存在は純然たる脅威だが、当人に一切の悪意はない。それが「愛の紋章」の力にもなっているのだろう、陽太がひと目見た限りでもその戦闘力は絶大であった。
「しかし悪意は捨てられねーし……っておい」
 どうやって攻略すべきか思案が纏まりきらぬうちに、彼の隣からアカネがふらりと前に出ていく。一人では危険だと止めようとするが、ただならぬ気配に思わず手が止まった。

「あそこにいるのは竜? いいえ、あそこにいるのはお母様」
 虚ろに据わった眼差しでローザを見つめ、何事かを呟くアカネ――否、そこにいるのは正確には"アカネ"ではなく、亡くした母のことを未だに慕い続け、願わくば共に在りたいと焦がれる、過去への執着が人格を成したもの。
「アカネ……じゃねえ茜姫!?」
 突然表に出てきた彼女の別人格にも、それが敵を母呼ばわりするのにも陽太は驚くが、何か意図があるのだろうとすぐに考える。先刻の落とし子との戦いでもアカネは強い意気込みを見せていた、その彼女が何もなしに茜姫に主導権を渡したとは考えられない。
(過去現在未来を知る悪魔よ、我に憑依し、未来を見通す権能を与えよ)
 ことの成り行きを観察しながら、彼は小声で【悪魔召喚「ヴァサゴ」】を発動。未来視の権能持つ悪魔の力を借りて不測の事態を警戒すると共に、これから先起こりうるであろう事象――そして茜姫の、ひいてはアカネの目的を識る。

「お懐かしいお母様、そこにいらしたのですね。お母様が猟兵に倒されたなど、やはり悪夢だったのです」
 白銀から漆黒に染まった髪をなびかせ、感動に打ち震える声で呼びかける茜姫。彼女にはローザのことが愛おしい母にして、すでに居なくなったはずの「縁姫」に見えている。
 それは妄執にも似た願いが見せた幻覚か。過ぎ去ってしまった母との日々を取り戻したいと願い続けていた彼女には、もはや其れ以外の何もかもが目に入らない様子だった。
「私はどこにも行ったりしないわ。あなたが来てくれるのをずっと待っていたのよ」
 そして、正気を失ったマドンナ・ローザも、茜姫を愛しい我が子として認識している。
 錯誤に染まった両者の認識が奇妙な一致をみせたことで、茜姫とローザはともに歓喜に打ち震えながら、最愛の人との【抱擁】を交わそうとする。

「連れて行ってくださいませ、懐かしい故郷へ、愛しいあの里へ」
 茜姫は両腕を広げて"お母様"の許へ向かう。結界によって外界から隔絶された、変わることのない過去の世界で、愛しい母と一緒に永劫を過ごす――それが彼女の願いなれば。
 マドンナ・ローザもまた、そんな"愛し子"の望みを叶えてやろうと、両腕を大きく広げて抱擁の構えを取る。その掌から生えた鉤爪では、どうあっても愛する者を傷つけることしかできないと言うのに。
「ええ、いらっしゃい。これからはずっと、ずっと永遠に――」
 狂える魔竜による死の抱擁が、母の面影に焦がれる姫を抱き締める――その、間際に。
 ふいに茜姫の背後から伸びた手が、マドンナ・ローザの元から彼女を引き剥がした。

「え……?」
 呆然とする茜姫の前で、割って入るように敵に立ちはだかったのは陽太と――アカネ。
 なぜ同一人物のはずの二人が同時に存在するのか。それは現在の茜姫は【演者の矜持】によって喚び出された分身だったからだ。彼女が取りうる言動も、全てこの場にふさわしい立ち居振る舞いとして、アカネのコントロール下にあったもの。
「アカネは貴女から大事な娘を奪います! どうぞ憎んでくださいませ!」
 金縛りにあったように身体が止まった茜姫にかわって、アカネが叫ぶ。茜姫をローザに"愛し子"と認識させたうえで引き剥がしたのは、全てこのためだ。我が子を奪われて憎しみに駆られない母親などいない――茜姫と同じ過去を持つからこそ、彼女には分かる。

「てめえの娘はてめえが死ぬまで何度でも奪ってやる。どうだ? 愛し子を奪われる気持ちは」
 アカネと共に割り込んだ陽太も、二本の槍をマドンナ・ローザに突きつけながら叫ぶ。
 文字通りの"憎まれ役"だ。露悪的で挑発的な物言いを受けた"母"は両目を真っ赤に血走らせて怒り狂い、"愛し子"を取り戻そうと腕を伸ばす。
「私から……その子を奪うつもりか! させるものか、絶対に、絶対に、絶対にッ!!」
 彼女の怒気はそれを煽った二人からしても予想以上に激しかった。しかし怒りに支配された心では「愛の紋章」の力を発揮することはできない。自身が大幅に弱体化したことにも気が付いていない様子の敵に、アカネと陽太は容赦のない攻撃を仕掛けた。

「アカネは何度でも貴女を貫いてみせます!」
 茜姫を取り返そうとするローザの胸を、アカネの舞薙刀が貫く。彼女はもはや過去には囚われない――それを証明しようとするかのように、何度も、力強く、刃は振るわれる。
「がああぁぁぁぁぁ―――ッ!!!」
 もはや獣そのものの絶叫を上げて、ローザの身体が血に染まっていく。「紋章」の加護が失われても、まだ地力では彼女のほうが勝るはずだ。しかし"愛し子"の奪還ばかりに気を取られ、冷静な判断ができていない今の彼女は、実力の半分も発揮できていなかった。

「返せッ! 返せ返せ返せ返せぇぇぇェェェェッ!!!!」
 悲鳴じみた咆哮と共にローザが鉤爪を振るう。だがその動きは陽太に予測されていた。
 悪魔ヴァサゴより与えられた未来視の権能は、敵の攻撃の予想と回避にもっとも効果を発揮する。余裕をもった動作で鉤爪を躱しざま、伸長させた二本の槍で「紋章」を狙う。
「悪いな」
「ッぎぃ……!!」
 魔竜の貌が苦痛に歪み、撃ち抜かれた「紋章」にまた傷が入る。配下と同じように『第五の貴族』も此れから力を得ているのなら、弱点も同じはず――敵の反応から確信を深めながら、彼は徹底的に「紋章」のみに狙いを絞って追撃を重ねていく。

「もうやめてくださいませ!」
 茜姫が泣いても叫んでも、アカネも陽太も戦闘をやめない。演者として求められた行動を終えた彼女は動きを止められたまま、何もできないまま、ただ立ち尽くしているだけ。
(……これもこれで、やりづれぇけど)
 どれだけ茜姫が泣き喚こうが、陽太は心を鬼にして攻撃を続行する。『第五の貴族』をここで仕留め損なえば、直接間接を問わず多くの人々が犠牲になるだろう。狂った愛情がもたらす災禍に終止符を打つには、たとえ恨まれる事になろうと躊躇ってはいられない。

「やめてください……やめて……おねがい……」
 茜姫の叫びはやがてすすり泣きの混じった懇願に変わり、眼からはつうと涙がつたう。
 半身にして自分自身でもある少女の嘆きを感じながら、それでもアカネは戦い続けた。
 我が子を取り戻さんとする"お母様"もアカネを容赦なく攻撃し、双方共に血に染まっていく。その光景が茜姫にとってどれほどの絶望か、理解できるのはアカネだけだろう。
「……ああ」
 そのアカネが、すでに覚悟を決めていると悟った時、茜姫は言葉を発するのを止めた。
 舞台から下ろされた演者の前で戦いは続く。どちらか一方の命が尽きる、その時まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

君影・菫
🌸🐣

大切な友人のニーナ(f03448)の手助けを

感じるのは敵意でも悪意でもなく
…ちぃが――親が向けてくれるのに似てる?
小首を傾げてから理解したように

――桜狐、キミはあっち
自身の傍にいる親狐をちぃの元へ
――琴狐、子のええとこ見せようなあ
ふたり同時に絆ノ導の詠唱して
桜と菫、親子の絆で駆けよ
悪意は無いよ、うちらにあるのは絆だけやもの

リーラの淡い藤色を舞わせ
先制攻撃の不意打ち
第六感が働けば声で来るよて伝えて
すみれ色のオーラ防御を纏い今一度、親子で駆けて
ニーナの路を開こ
キミが心置きなく進めるように

…ねぇ、ちぃ
おかーさんってこんな感じやの?
うん、強いね、強い
でもうちにとってのキミも、きっと同じくらい


宵鍔・千鶴
🌸🐣

大切な友人のニーナ(f03448)の手助けを


其処に在る愛だけの眼差しは
そうだね、俺も…憶えている
向けられたことも、
菫へ向けたものも同じ…なのかな?

――琴狐、ほら、お行き。
菫と共に力を合わせておいで
――桜狐、親の、俺達の強さを示すときだ
詠唱の聲が重なって
菫と桜の花が咲くように
其れはただ純粋なきみとの絆の力のみ

燿夜に映る、桜狐と
頼れる相棒がふたつならば
オーラ防御と結界術で護りの壁を
先制攻撃、部位破壊でローザの動きを
鈍らせてくれたなら
友人の彼女へ、託そう
ニーナ、頼んだよ

…そう、だな
母親とは、そういうもの
子のためなら、何だって出来る
強い、強い、ヒトだ。
だから何方にとっても、唯一無二なんだよ



「ああ……どうして、どうして拒むの。私はあなたたちを抱きしめたいだけなのに」
 激闘の中で傷ついていく『第五の貴族』マドンナ・ローザ。地の底から世界を操ってきた強大なる闇の領主も、幾多の死線を超えてきた猟兵の前ではけして無敵ではなかった。
 だが、傷ついた彼女の瞳から感じるのは敵意でも悪意でもなく。敵から向けられるものとは思えない不思議な感覚に、菫は小首を傾げてから理解したように呟く。
「……ちぃが――親が向けてくれるのに似てる?」
 狂気と恍惚に侵された今でもなお、かの吸血鬼を衝き動かすのは母性と愛情。禁断の魔術によって人間の姿を失ってもなお、母親の愛情に満ちたその眼差しだけは変わらない。

「そうだね、俺も……憶えている。向けられたことも、菫へ向けたものも同じ……なのかな?」
 菫の呟きに千鶴もこくりと頷き、自分達を見つめる竜の慈愛に満ちた目を見つめ返す。
 親が子に注ぐ愛情。それはとても尊いものだ。しかし強すぎる愛情は時として災いを招く――あの女吸血鬼はそれがあまりにも過ぎた結果、自分自身が災いとなってしまった。
「止めよう、菫。これ以上の悲劇を止めるために」
「せやね、ちぃ。なにより……あの子のために」
 二人がここで戦う理由は、共通の大切な友人が、もう一度母と対面する手助けのため。
 そっと手をつなぎ合わせる彼らの傍らから、約束の証でもある稲荷狐の親子が現れる。

「――桜狐、キミはあっち」
「――琴狐、ほら、お行き」
 菫は自身の傍にいる親狐を千鶴のほうに寄越し。千鶴は逆に子狐を菫の下に行かせる。
 親と親、子と子が一堂に会したところで、菫と千鶴は同時に【絆ノ導】の詠唱を紡ぐ。
『親が仔を連れ、魅せるは絆』
「今宵、菫の覚醒を」
「今宵、桜の覚醒を」
 詠唱の聲が重なって、菫と桜の花が咲くように、稲荷狐の親子の真なる力が覚醒する。
 華やかなオーラの輝きと共に、二頭はそれぞれが乗り手を跨がらせて、風のように戦場を駆けだした。

「――琴狐、子のええとこ見せようなあ」
 菫は子狐の頭をそっと撫でながら、「リーラ」と名付けた淡い藤色の扇をふわりと舞わす。劇場の一幕を思わせるような鮮やかな騎行と舞が、マドンナ・ローザの不意をつく。
「うっ……なに、これは……?」
 相手を夢心地に誘う扇の魔力を受け、急な睡魔に襲われたようにローザの動きが鈍る。
 悪意ある攻撃を反射するはずの「愛の紋章」は機能しない。うちらにあるのは絆だけやもの――と、琴狐の背中の上で菫はにっこりと微笑んだ。

「ああ、動かないで……いい子だから、おとなしくしてて……」
 夢心地の感覚に抗いながら、ローザは狐に乗った"愛し子"達を【抱擁】しようとする。
 鈎爪の生えた両掌を広げる挙動に、菫の第六感が働いた。強烈な攻撃が来ると察知した彼女は「来るよ」と相方に声で伝える。
「――桜狐、親の、俺達の強さを示すときだ」
 それに応えて動くのは千鶴。背中を借りる親狐と共に、築き上げるは強固な護りの壁。
 オーラによる防御と結界術を重ね合わせたそれは、左右から抱きしめようとする魔竜の斬撃をしかと受け止め、自分達と菫達への被害を防ぐ。

「どうして、どうして触れられないの……!」
 "愛し子"との抱擁を阻む結界を、何度も鉤爪で引っ掻くローザ。その声は子への愛情と嘆きに満ちていて、その猛攻は千鶴達が築いた渾身の防壁をも破りかねないほど激しい。
「……ねぇ、ちぃ。おかーさんってこんな感じやの?」
 自分たちを守る結界の内側から、菫は必死そうなローザの様子をじっと見つめていた。
 ヤドリガミに血縁上の親と呼べる相手はいない。容姿は大人でも内面にはまだ幼子のような無垢と好奇心を宿した彼女は、自身にとって未知なるものに強い興味を示していた。

「……そう、だな。母親とは、そういうもの。子のためなら、何だって出来る、強い、強い、ヒトだ」
 だから何方にとっても、唯一無二なんだよ――と、千鶴は菫の問いに答えた。燿夜に映る桜狐と共に、引き裂かれてゆく結界を張り直しながら、しかし一切の焦りは見せずに。
 彼の答えに得心がいったのか、菫はこくこくと何度も頷きながら、今度は彼に視線を。
「うん、強いね、強い。でもうちにとってのキミも、きっと同じくらい」
「……ありがたいね」
 この信頼を、絆を違える訳にはいかない。幸いにして頼れる相棒がここにはふたつ。
 愛刀"燿夜"の刀身に桜狐の額の紋様が映った時、ひときわ強い桜色のオーラの結界が、マドンナ・ローザの爪撃を押し返した。

「そんなっ……!?」
 結界に攻撃を弾かれ、敵が体勢を崩した隙。琴狐と桜狐は今一度親子そろって駆ける。
 菫の手にはリーラ。千鶴の手には燿夜。すみれ色と桜色のオーラを纏った二頭と二人は、息も吐かせぬ速さで竜の懐に飛び込み――おのおのが渾身の一撃を見舞う。
「―――ッ!!」
 二色の軌跡が駆け抜けていった後、ローザの翼にはそれぞれ大きな傷が刻まれていた。
 敢えて紋章や頭部を狙わなかったのは、彼らの目的がトドメを刺すことではないから。相手の動きをいくらか鈍らせて、路を開くことができれば十分。

「ニーナ、頼んだよ」
「キミが心置きなく進めるように」
 "母"と"娘"の邂逅の舞台を整えた二人は、そのまま前線より退いて成り行きを見守る。
 自分たちの大切な友人が、この戦いでどんな決断を下すのか。それを見届けるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…あるいは狂気なればこそ、貴女の愛は間違いなく『本物』であるのでしょう。
貴女が自らを『母』と名乗る事は否定致しません。
されど、貴女が支配してきたこの世界にてヒトという『子』は苦境に晒され、
その愛は子に受け入れ難き力そのもの。

武の極地とは力に在らず、その力に呑まれぬ精神こそがその真髄。
善意も、悪意も等しく抱くことなく。
無我にて、貴女の無垢なるその愛を阻みましょう。
――子とは、いずれ親から巣立つモノなれば。


UC発動にて、見切り、野生の勘、残像で攻撃を避けつつ隙を見てカウンター、
怪力、2回攻撃、部位破壊にて紋章を狙う


相手が倒れた後もも油断することなく見切り、野生の勘を働かせて最大限の警戒を



「……あるいは狂気なればこそ、貴女の愛は間違いなく『本物』であるのでしょう」
 傷ついても、拒まれても。ただひたすら愛を訴え続けるマドンナ・ローザの姿を、雪音は見ていた。敵意や悪意は無論、疑心や打算もない純粋な母性と愛情。それだけは認めざるを得まいと、涼しげな眼差しのまま前に立つ。
「貴女が自らを『母』と名乗る事は否定致しません。されど、貴女が支配してきたこの世界にてヒトという『子』は苦境に晒され、その愛は子に受け入れ難き力そのもの」
 拳を握り、構えを取る。愛という凶器を振るい、狂気に乱舞する『母』を討つために。
 【拳武】の真髄を再びここに。竜と比べれば遥かに脆弱なヒトの身なれど、その構えには一分の隙もない。

「ああ、私の愛しい子……どうしたの、そんなに怖い顔をして……」
 無表情に拳を向ける雪音をまるで気遣うように、ローザは優しい声音で近寄ってくる。
 しかし竜の剛腕から放たれる【抱擁】は肉を裂き骨を砕く。無自覚なままに死を与える『第五の貴族』の愛情表現に、雪音の野生の勘は最大の警鐘を鳴らしていた。
「辛いことがあったの? 私の腕の中で慰めてあげるわ……」
 慈しむような言葉と共に左右双方向から襲い掛かる斬撃。しかしローザの鉤爪が抱き締めたのは、雪音の残像だけだった。人外の速度と膂力なれども、動作自体は単調なもの。冷静に動きを読めば見切ることは不可能ではない。

「……貴女は強い『母』ですが、武の心得はないと見えます」
 抱擁が空を切った隙を突いて、雪音は敵の懐に入り込む。見据えるのはかの魔竜を無敵たらしめる「愛の紋章」――悪意をもって拳を振るえば、その威力は全て本人に跳ね返ってくるだろう。そかし今、雪音の心はその瞳と同じくらいに澄み切っていた。
(武の極地とは力に在らず、その力に呑まれぬ精神こそがその真髄)
 古くは明鏡止水とも形容される、さざ波ひとつ立たない完全に凪いだ心の在り方。其を会得した雪音は己の心を律し、内なる闘争本能も渦巻く感情も全て鎮めながら拳を握る。

「善意も、悪意も等しく抱くことなく。無我にて、貴女の無垢なるその愛を阻みましょう」
 雪原のごとき静謐の心で突き放たれる正拳。ヒトとしての研鑽によって生まれた力が、禁術によって自身を獣に貶めた吸血鬼に叩きつけられる。それは決して蟷螂の斧に非ず。
「かは……っ!?」
 胸を打たれたマドンナ・ローザの口から乾いた悲鳴が漏れる。雪音は間髪入れず拳を引くと腰を捻り、しなやかな全身のバネを使って蹴脚による追撃を同じ箇所に叩き込んだ。

「――子とは、いずれ親から巣立つモノなれば」

 目にも止まらぬ二連打を撃ち込まれた「愛の紋章」が、ピシリと音を立てて罅割れる。
 衝撃と蓄積したダメージに耐えかねたか、ローザの巨体はどうとその場に崩れ落ちた。
 だが、雪音はまだ構えを解かず、野生の勘を働かせて最大限の警戒を保つ。相手は猟兵にとって未知の『第五の貴族』――完全に斃したと確信するまで、油断はできなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

オリヴィア・ローゼンタール
私に吸血鬼への悪意を捨てることなどできない
故に、貴様の歪んだ愛を掻き乱す

庭先に放っていた彼女たちのことを覚えているか?
私が殺してやったぞ
首輪(紋章)を引き裂き、毒(死の呪力)を流し込み、一握の灰と化してやった

同族を悪し様に言うのは気が引けるが、それこそが無敵を穿つ刃になると堪えて
逆上して襲い掛かって来たならば、爪や翼を大鎌で【受け流し】
喰らい付いてきた下顎を、【怪力】の【熾天流星脚】で思い切り蹴り上げる

神ならぬその身に、無限の愛など宿り得ない
他者の心を斟酌せず、十把一絡げに一方的な愛を押し付ける
それは「すべてを愛している自分は素晴らしい」という自己愛にすぎない!



「ふふ……やんちゃな子たちね……母に甘えるのがそんなに恥ずかしいのかしら……」
 猟兵達の攻勢により一度は地に伏せたマドンナ・ローザは、微笑みとともに再起する。
 何度拒絶されてもなお"我が子"への想いを唱え続けるその愛は、もはや妄執に等しく。その胸元では罅割れた「愛の紋章」が紅い月光に照らされて煌いていた。

「私に吸血鬼への悪意を捨てることなどできない。故に、貴様の歪んだ愛を掻き乱す」
 そんな愛情に狂った吸血鬼の姿を、敵意に満ちた眼差しで睨め付けるのはオリヴィア。
 邪悪に対する怒りと殺意を胸に戦い続けてきた彼女に、今からそれを捨てることは不可能。「愛の紋章」の能力を無効化するには、ローザ自身にも悪意を抱かせる以外にない。
 告死の大鎌を敵に突きつけながら、彼女は冷ややかな口調で語りだす。自身に思いつく限りで、あの母親気取りの怪物を最も動揺させられるであろう情報を。

「庭先に放っていた彼女たちのことを覚えているか? 私が殺してやったぞ」
「……なんですって?」
 それまで慈愛と恍惚に満たされていたマドンナ・ローザの表情が、その言葉で変わる。
 屋敷を守護していた「混血の落とし子」達も、彼女にとっては"愛し子"のはず。紋章を与えるほどに寵愛してきた我が子を殺されたと聞いて、平静でいられる母はいまい。
「な……何を言って……」
「首輪を引き裂き、毒を流し込み、一握の灰と化してやった」
 オリヴィアは淡々と冷酷な表情で事実を語る。その手に携えた大鎌こそ、落とし子達の命を刈り取った凶器である。赤金色の刃に微かに残った血痕が、彼女の言葉を裏付ける。

「貴様もあの奴隷達と同じ所に送ってやろう。母と子で一緒に死ねるなら本望だろう?」
 平時の清楚な振る舞いはなりをひそめ、苛烈な態度で敵を痛罵するオリヴィア。闇に呑まれていたとは言え同族を悪し様に言うのは気が引けるが、それこそが無敵を穿つ刃になると信じ、罪悪感を堪えて冷酷に徹する。
「……き、貴様ぁぁぁぁァァァァァァッ!!!!!」
 果たしてその効果は覿面だった。逆上したローザは慈悲深い母としての顔をかなぐり捨て、烈火の如き怒りの咆哮を上げる。"愛し子"に対して無尽の愛情を注ぐ彼女にとって、"子"を害する者は最大級の憎悪と殺意の対象だったのだ。

「許さないッ! あの子たちが受けた痛みのぶん、何度でも、何度でも殺してやるッ!」
 憤怒に衝き動かされるままに襲い掛かるローザに、もはや「愛の紋章」の加護はなく。
 抱擁のためではなく殺戮のために振るわれる爪や翼を、オリヴィアは大鎌で受け流す。
「神ならぬその身に、無限の愛など宿り得ない」
 鍍金の剥がれ落ちた怪物に辛辣な言葉を投げかけながら、その攻勢をことごとく捌く。
 紋章を無効化された『第五の貴族』の力は大幅に衰えているうえ、怒りで我を失っている。無闇矢鱈に暴れ回るだけの獣の対処など、彼女にとっては容易いことだ。

「他者の心を斟酌せず、十把一絡げに一方的な愛を押し付ける。それは『すべてを愛している自分は素晴らしい』という自己愛にすぎない!」
「黙れえええェェェェェェェェッ!!!!」
 厳しくも真実の一端を突いたオリヴィアの言葉に、ローザは耳をつんざくような絶叫を上げる。己の愛を否定されることは、彼女にとってはアイデンティティの否定に等しい。
 黙らないのなら喉笛ごと噛みちぎってくれると、殺意を込めて剥き出しにされた牙が襲い掛かる――しかしそれを読んでいたオリヴィアは、自身に喰らいつこうとする邪悪な竜に目掛けて、渾身の【熾天流星脚】を放った。

「猛き炎よ、我が脚に集い、破邪の流星となれ――!」
 聖なる炎を纏った跳び蹴りが、竜の下顎を思いきり蹴り上げる。強引に閉口させられたマドンナ・ローザの頭部は上に向かって跳ね上がり、バキリと牙がへし折れる音がした。
「ごぐ、ぁッ!?」
 くぐもった悲鳴を上げてアーチ状の軌跡を描き、背中から地面に倒れ伏す魔竜の巨体。
 徐々に、だが着実に、愛を否定された『第五の貴族』の終焉の時は近づきつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィリヤ・カヤラ
あのヒト……ドラゴン?どっちでも良いかな。
他者は子供みたいな感じなのかな。

強くなる為に戦ってるから、どの敵にもあまり敵意だったり悪意は無いんだけど。
甘えるのは難しいけど、強くなる為に相手をしてほしいな。

攻撃通るかな……それか誰かが無効化したらのっかろう。
周囲の把握に月輪で影のUDCを常時展開。
相手の動きや様子に注意して何かあればすぐ動けるようにするね。
……当たったら痛そうだし。
黒剣の宵闇で遠近問わず攻撃しつつ、
【氷晶】で背面と翼を狙ってみるね。



「あのヒト……ドラゴン? どっちでも良いかな。他者は子供みたいな感じなのかな」
 マドンナ・ローザのこれまでの言動やその戦い方を、ヴィリヤはじっと観察していた。
 攻撃と呼ぶにはあまりに無駄の多い動作。何度拒絶されても立ち上がってくる狂気的な執着心。"愛し子"に対する愛情と母性が、あの『第五の貴族』を衝き動かしている。
「甘えるのは難しいけど、強くなる為に相手をしてほしいな」
 ローザが我が子への愛ゆえに戦うのだとすれば、ヴィリヤが戦う理由は強くなる為だ。
 外の世界に送り出された日、父から「世の中を知って力を付けたら俺を殺しに来い」と告げられた。その言葉にいつか決着をつけるために、彼女は世界を巡り、力を磨く。

「あなたは強くならなくてもいいのよ……私がずっと守ってあげるから……」
 ヴィリヤの事を誰だと認識しているのか、マドンナ・ローザは慈しみに満ちた声で呼びかける。狂気に侵された彼女の言動は論理性に欠け、一瞬前との情緒が一貫していないこともままある。言葉を交わすよりも、剣を交えたほうが無駄な時間は少なかろう。
(強くなる為に戦ってるから、どの敵にもあまり敵意だったり悪意は無いんだけど)
 攻撃通るかな――と「宵闇」を蛇腹剣に変形させて、まずは遠間から一閃。自己研鑽を第一とし、一般的な倫理観に欠けた面のある彼女の精神は、普通の人間とはやや異なる。今回はそれが良い方向に作用したのか、鞭状に伸びた刃が跳ね返される事はなかった。

「良かった。効くみたいだ」
 駄目そうなら誰かが「愛の紋章」を無効化するのに乗っかろうと思っていたが、これなら何とかなりそうだ。しなる刃を振るって遠距離攻撃を仕掛けるヴィリヤに対し、攻撃を受けるローザは不気味なほどに変わらない笑みを浮かべたまま近付いてくる。
「暴れないで、愛しい私の子。もうお休みの時間よ……」
 ローザの口から発される言葉と呼気が大気を震わせる。その瞬間、周辺把握のために事前に展開しておいた「月輪」が異常を察知し、ヴィリヤは咄嗟にその場から飛び退いた。

「~~~♪」

 直後、聞き手に狂気を伝播させる竜の咆哮が戦場に轟く。その響きは美しい【子守唄】にも似ているが、常人が正気のままそれを聞くことは叶わないだろう。間一髪のところで効果範囲から逃れることができたヴィリヤは、耳を塞ぎながらほっと息を吐く。
「……今のは当たったら痛そうじゃ済まなかったかな」
 爪や牙で屠られるよりも、ある意味もっと致命的な事になりうる精神への攻撃。
 しかし躱すことができれば、咆哮の直後に生じる隙を彼女は見逃さなかった。

「氷よ射抜け」
 短い詠唱とともに発動するのは【氷晶】。宵闇の黒剣に魔力を込めてさっと振るうと、斬撃の軌跡に沿って何百という数の氷の刃が放たれ、マドンナ・ローザに襲い掛かった。
 狙うのは比較的防御が薄いと考えられる背面と翼。子守唄を歌うのに夢中で反応が遅れた敵に、鋭い刃が次々と突き刺さり――それを見たヴィリヤはぐっと拳を握る。
「爆ぜよ」
「ぐ、ッ!!?!」
 直後、全ての氷の刃が一斉に爆発を起こし、轟音とローザの悲鳴とが戦場に木霊する。
 ダイヤモンドダストのような爆煙の中で、至近からの爆撃を受けた魔竜の背中は爛れ、翼は破れ――最初の頃の威厳ある面影はまるでない、傷ついた無惨な姿を晒していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
こういうのは好みじゃないけど…愛と憎しみは表裏一体…その狂気の愛を利用させて貰うわ。

【創造支配の紅い霧】を発動
霧で視界を封じつつ、紅い霧の力で「多数の一般人の幻影」を創造。
当然、彼女の「愛情表現」で潰されるだろうから、無残な光景を見せつつ、潰された一般人達の幻影による何故殺した!といった怒りや罵倒、嘆きといった言動を聞かせ、ローザを追い詰めるわ。

時に言葉は如何なる攻撃よりも強い刃となる…特に、愛してる者からの言葉はね。
耐えかね、振り払う為に「悪意」を持って幻影に攻撃を仕掛けた時…彼女の紋章は力を失う。

その瞬間を見計らい、霧の中で【限界突破】して【力を溜めた】【神槍グングニル】を紋章に撃ち込むわ



「ふふ……あはは……もう大丈夫よ、愛しい私の子……これからはずっと一緒に……」
 うわ言のように我が子への愛を囁きながら、マドンナ・ローザはゆらりと起き上がる。
 "愛し子"と認識した当の猟兵達に、何度も拒絶されているにも関わらず、狂気に侵された愛は止まることを知らない。痛ましくもあるその姿に、フレミアはそっと目を伏せた。
「こういうのは好みじゃないけど……愛と憎しみは表裏一体……その狂気の愛を利用させて貰うわ」
 愛が彼女の力の源ならば、その愛をもって彼女の力を挫く――【創造支配の紅い霧】を発動させたフレミアの周囲から魔力の霧があふれ出し、戦場を真っ赤に包み込んでいく。

「あら……? どこにいったの、私の子……」
 屋敷全体に充満した霧はマドンナ・ローザの視界からフレミア達猟兵の姿を隠し去る。
 この霧に包まれた空間は吸血姫の領域。何を具現化するのも思いのままで、法則さえも彼女に従う。それでも流石に「愛の紋章」を持つローザを直接害するのは難しいが――。
「なら、こういったものはどうかしら?」
 フレミアが創造したのは剣でも槍でもなく、何の力もない多数の一般人の幻影だった。
 霧の中から現れた幻を見たローザは、当然それも"愛し子"と認識するだろう。無力な一般人が彼女の「愛情表現」に耐えられる筈もないが、フレミアの狙いはその先にある。

「ああ、そこにいたのね……!」
 幻影を見つけたローザは喜色を満面にして、彼らを【抱擁】し【接吻】しようとする。
 受ける側からすれば、それは竜の暴力に他ならない。鉤爪に引き裂かれた男はバラバラになり、牙に噛みつかれた女の首がもげる。思うがままに彼女が愛情を表現した後には、無惨な虐殺の光景が広がっていた。
「あら……? あなたたち、眠ってしまったの……?」
 動かなくなった"我が子"の前で、不思議そうに首をかしげるローザ。狂った彼女の思考では、相手が眠っているのか死んでいるのかの区別もつかないらしい。ならば現実を突きつけてやろうと、フレミアは潰された幻影達を操作する。

「何故殺した!」
「この化け物!」
「人殺し!」
 バラバラになった死体が、胴体からもげた頭が、怒りや嘆きの形相で一斉に叫びだす。
 たった今その手で殺した"我が子"自身からの糾弾には、"母"も平然とはしていられないだろう。予想通り、罵声を浴びたマドンナ・ローザの表情がさあっと青ざめていく。
「ち……違う……私は、殺そうとなんて……」
「違うものか! お前が殺したんだ!」
「私たちは、もっと生きたかったのに!」
 怒号やすすり泣きが紅い霧の空間に反響し、四方八方からローザのことを責めたてる。
 違う、違う、と否定する言葉はだんだんと小さくなり、糾弾から逃れるようにローザは縮こまる。見上げるほどに大きかった巨体が、今は酷く小さくみじめに見えた。

(時に言葉は如何なる攻撃よりも強い刃となる……特に、愛してる者からの言葉はね)
 殺してしまった"我が子"から現実を教えられ、恨みをぶつけられるのはさぞや応えるだろう。言葉は刃だが言葉以上のものではない故に、「愛の紋章」で阻むこともできない。
「やめて……やめてぇっ!!」
 鳴り止まない罵倒に耐えかねて、とうとうローザは手を上げた。抱き締めるためではなく振り払うために、悪意をもって幻影達を引き裂いた時――彼女の「紋章」は力を失う。
 その瞬間を見計らい、フレミアは霧の中から限界以上の力を込めた一撃を撃ち込んだ。

「全てを滅ぼせ、神殺しの槍……。消し飛びなさい……! 神槍グングニル!!」

 幻影にて敵を翻弄する最中も、彼女は力を溜め続けていた。膨大な吸血姫の魔力を集束させた魔槍「ドラグ・グングニル」は、長大な真紅の流星となって紅霧の中を飛翔する。
 その一撃は狙い過たず、力を失ったマドンナ・ローザの「愛の紋章」に突き刺さった。
「――――ッ!!!!!!」
 胸を串刺しにされた竜の、言葉にならない絶叫が空間を震わせる。己の"愛"の現実を突きつけられたローザが、その肉体と精神の双方に受けたダメージは甚大なものであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
…貴女は本当に人々を愛しているんだね…例えそれが狂気から生まれたものだとしても…。
でも、だからこそ貴女を止めないと…。
人々の為だけでなく、貴女の為にも…。

貴女の愛情表現は他の生物には強すぎる…。
それは貴女にも愛しい子を傷つけてしまう悲劇にしかならない…。
これ以上の悲劇を齎さない為にも、貴女を止めてみせるよ…。

悪意ではなく、彼女を愛を持って止めるよ…。

【九尾化・魔剣の媛神】封印解放…。
神速で動き回りつつ、彼女と言葉を交わしながら無限の終焉の魔剣や呪力の縛鎖による呪力を重ねて弱らせ、可能なら【共に歩む奇跡】で救おうと試み、無理であれば…その愛の紋章へ竜殺しの魔剣バルムンクを突き立て、眠らせるよ…。



「……貴女は本当に人々を愛しているんだね……例えそれが狂気から生まれたものだとしても……」
 狂気のままに愛を囁き、愛を表し、愛を与え。それが他者を傷つけると知らず、拒まれても傷つけられてもなお愛に狂い続けるマドンナ・ローザの姿を、璃奈は見つめていた。
 たとえオブリビオンであっても、彼女の母性と愛情そのものは本物なのだろう。愛しい我が子を永遠に愛し続けたい、ただそれだけが彼女の望みなのだろう。
「でも、だからこそ貴女を止めないと……。人々の為だけでなく、貴女の為にも……」
 すっと哀しげに一度目を伏せてから、再び開かれた少女の瞳には決意が宿っていた。
 悪意ではなく、愛をもって彼女を止める。それがこの戦いにおける璃奈の決断だった。

「どうして、あなたたちは私を拒むの……私はこんなにもあなたを愛しているのに……」
 なぜ"愛し子"たちに自分の想いは届かないのかと、マドンナ・ローザは血の涙を流す。
 目を閉じて声だけに耳を傾ければ、それは哀れな母親の嘆きに聞こえるだろう。しかし彼女は『第五の貴族』。禁断の魔術によってヒトの姿を捨てた肉体は、強靭かつ、凶暴。
「貴女の愛情表現は他の生物には強すぎる……。それは貴女にも愛しい子を傷つけてしまう悲劇にしかならない……」
 璃奈は【九尾化・魔剣の媛神】の封印を解放して、そんなローザの前に立ちはだかる。
 足元の床が崩壊するほどの莫大な呪力を身に纏い、手には魔剣「バルムンク」を構え。毅然とした態度で対峙しながらも一片の悪意を感じさせず、澄んだ心のまま魔竜に挑む。

「これ以上の悲劇を齎さない為にも、貴女を止めてみせるよ……」
「悲劇? 我が子をこの手で抱き締められない、これ以上の悲劇があるというの?!」
 たんっと地を蹴って神速の歩法で駆け出す璃奈に、翼と両腕を広げて咆哮するローザ。
 あくまでも我が子を【抱擁】せんとする竜の鉤爪を、魔剣の媛神は目にも止まらぬ速さで躱しながら、呪力により顕現させた魔剣と縛鎖を放つ。
「どうか牙を収めて……貴女はまだ救えるかもしれない……」
「救いなんていらない……! 救ってあげなければいけないのは、私の子どもよ……!」
 ローザは魔剣を振り払い縛鎖を引き千切って、なおも"我が子"に鉤爪を伸ばす。言葉を交わしながら戦う両者は一歩も退かず、紅月に照らされた戦場に幾つもの火花が散った。

(可能なら【共に歩む奇跡】で彼女の救済を……)
 竜の猛攻を神速でいなしながら、璃奈は懐にしまった一枚の呪符を意識する。敵意のない相手に限るが、彼女にはオブリビオンとの共存を可能にするユーベルコードがあった。
 しかし、戦闘の隙をみて呪符をかざしても、相手に反応はなかった。『第五の貴族』というこれまでのオブリビオンとも別格の敵は、それ自体が共存困難な存在ということか。
「無理であれば……仕方ない……」
「何を言っているの……っ?!」
 ここで彼女を"斬る"という決意を改めて固めた時、それまで縦横無尽に空中を飛び回っていたローザの動きが鈍る。戦闘中に璃奈が放った魔剣や縛鎖の呪力には、対象を弱らせる効果もある。強敵ゆえ効果がでるまで呪いを重ねるのには時間がかかったが、一瞬でも隙を作ることができれば彼女には十分だった。

「貴女をここで眠らせるよ……」
 璃奈は神速の足運びでローザの懐に踏み込むと、その勢いのまま魔剣を「愛の紋章」に突き立てる。かつて魔竜を屠った逸話から竜殺しの力を宿すバルムンクの刃は、禁術にてその身を竜に変えたローザには致命的な効果をもたらした。
「が、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!!!!」
 耳をつんざくような絶叫が屋敷中に響き渡り、貫かれた「紋章」から鮮血が噴き出す。
 ローザの身体はぐらりと力なくよろめいて、どうと音を立ててその場に倒れ伏す。愛の執念で戦い続けてきた『第五の貴族』にも、いよいよ生命力の限界が迫りつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイ・ランス
【POW】※アドリブ歓迎、 ニーナちゃん(f03448)と同行
■心情
いやうん、でっかいなあニーナちゃんのお母さん。
で、開放してやりたい、と。んじゃ、そのお手伝いはちゃんとしてあげないとね。
オレにもはや敵意はない。あるのはただ―――願い。

■行動
"ツェアライセン"を呼び出してUCを虚空に向け、【母子を引き裂く未来と狂化した過去】を【先制攻撃】します(世界知識+ハッキング+情報収集+切断)。
ローザの攻撃に対しては"慣性制御術式"と"重力制御術式"による回避機動をします。(フェイント+滑空+ダッシュ+オーラ防御+時間稼ぎ)

行ってきなよニーナちゃん。行って、ちゃんと再会しな。幸いあらんことを願うぜ……


ヴィクター・グレイン
ニーナ・アーベントロート(埋火・f03448)に協力

(「母親か…。俺にとってはクソ喰らえだが、今はいい。」)
自身の母親の事を思い出しながら構える。
常人と然程違いはない自分が竜に成り果てた者に何処まで通用するか。
とは言えこの戦いは彼女のものだ、俺はその為の踏み台になろう。
「取り敢えず隙は作る、あとはなんとかしろ。以上だ。」
攻撃を躱しつつ相手の懐に潜りUC【限られた一撃】を放つ。
(「一番良いのは目か顎だが…この際隙を作れれば何処でもいい。」)
使用後はその場からほぼ動けなくなる(右腕が大破しているうえに爆発をもろに喰らっている為)。


バンリ・ガリャンテ
◎ニーナ(f03448)さんの助太刀

遍くあなたの愛し子だなんて
欲張りだ、あなた。
俺ぁあなたに愛される謂れはねぇから
その愛、拒みますよお母様。
告げて自身の身を裂き、地獄の炎で己を包む。
あなたの愛し子たる俺自身を俺自身が蔑ろに棄てるのさ。
無論身のうちの炎で俺が焼かれるわけはねぇんだが、あなたにとっちゃ憤ろしい事だろう。

怒りと言う名の悪意が俺に牙を剝いた瞬間
お身体に軛を、自我に綻びを与える呪歌をローザさんにお贈りする。
ニーナさんと彼の御方がまみえる隙を作る為に。

愛すべきたった一人は此処にいる。
真にあの方を愛し護ったその結末にあなたが、いらっしゃるのなら
或るべきあなた方へと帰れる……きっと。


一駒・丈一
ニーナ(f03448)の助太刀だ。
母娘の対面の機を作る事のみが目的故に、相手への悪意は己自身の感情を【受け流し】封じる

俺はローザの動き…特に飛翔力を削ぐ事に注力だ
胴体と翼の付け根の可動域が弱点だ。そこが損傷すれば翼を上手く動かせまい

が、流石にミスは許されん。ならば…
秘中の秘、UC『持たざる者の埋み火』を使う。
代償は21歳頃の後半半年の記憶。代償としては十分だろう

後は【早業】で装備の杭を【投擲】し
ローザの右半身の3枚の翼の間接を穿ち損傷させることに「成功」させる

アンタの愛しい我が娘は、あちらでお待ちだ
これで母と娘の再会の機に繋げる事が出来れば重畳
あとは、彼女次第だな…。区切りを、付けてくると良い


ニーナ・アーベントロート
トドメ希望

ローザは…母は、優しいひとだった
過去にあたしを襲ったオブリビオン
それを追い姿を消した母
禁断の魔術、あたしの為に使ってくれたんだよね
…彼女はもう覚えてないかな

無力な子の為に戦おうとした本来の貴女が
狂気の中これ以上子を傷つけぬよう
ここで終わらせて、母を解放したい
ロラン(f04258)も皆も、お願い
あたしに迷いはないから、一緒に戦って

覚悟と共に指輪の封印を解きリミッター解除
攻撃はオーラ防御と狂気・激痛耐性でいなし、止まらずに
『Walküre』で変身、飛翔
その胸に、真っ直ぐ飛び込んで
紋章ごと彼女の躯を貫く
…おかーさん
あたし大きくなったし、強くなったよ
見違えた、でしょ

おやすみなさい
愛してる


ロラン・ヒュッテンブレナー
※狼化は解除
おねえちゃん(f03448)、どういうこと?
おねえちゃんのママに、なにがあったの?
助けに行くの?

そっか、さすが、パパが好きになった人だね
ここにパパはいないけど、変わってぼくが、おねえちゃんのママを助けるね

(深呼吸)
今日二度目の人狼魔術…
だけど、パパなら迷わないよね

ローザを「助けたい」と強く念じUC発動
瞳を月光で光らせ
髪を灰色に染め
命を削りながら満月の魔力でできた狼のオーラを纏う
狼の脚力と小柄な体格を活かして残像を残しつつ一気に接近
母親の胸に飛び込む様に取り付く

ぼくが届けるのは、眠りに導く【優しい】狼の子守唄
あなたの子どもは、もう、大丈夫だから
おやすみなさい

姉と一緒に最後の一撃を


飛白・刻
蠱惑の言の葉を落としながら
美しき翼を紅の月で照らす竜を見上げる

…ニーナの親、なのだな
彼女が告げた真を聴いて

ローザには向ける悪意は無い
…俺は親という存在を目の前で人の形すら残さず喪った
このような形であろうと見えることは羨みすら覚える
故に誘いは酷く惑うものなのかも識れない

然しこれ以上その力を振るわせるはならぬ
己は蜜毒を用いてUCを封じるに努めよう
封ずる事が出来ずとも足枷のひとつとでも成るならば
行動の意図は凡て

親と子を再びと逢わせるに繋ぐ為
情が
僅かとでも残るのならば
向かい逢うが誰か解るのだろう
彼女の心内は視えずとも
其れはきっと愛情故に選び下したもの
互い受け入れねばならぬもの
その結末を、…ただ靜かにと



 ――時は、少しだけ過去に遡る。

「おねえちゃん、どういうこと? おねえちゃんのママに、なにがあったの? 助けに行くの?」
 『第五の貴族』の屋敷に突入した際、ニーナが呟いた「おかーさんが、待ってる」という一言。それがどうしても気になったロランは、決戦が始まる前に姉を問い質していた。
 ここから先は私情を交えての戦いになる。命がけの戦いに巻き込む以上、隠し立てするわけにもいかないだろうと、ニーナは俯いてひと呼吸入れるとえ、弟や駆けつけてくれた仲間達に、マドンナ・ローザ――本名、ローザ・アーベントロートと自身の因縁を語る。

「ローザは……母は、優しいひとだった」
 ニーナの身体に流れるヴァンパイアの血は、母から受け継いだもの。父親の家へ引き取られる8歳のときまで、ニーナはその母と一緒にいた。吸血鬼としては稀有な――異端と言ってもいい気質の持ち主だったのだろう。彼女の存在なくして、今のニーナはいない。
「けど、あたしがオブリビオンに襲われたとき、母はその怪物を追って……姿を消した」
 以来、ずっと行方知れずとなっていた彼女が、いかなる経緯を辿って地底都市で『第五の貴族』の座に収まっていたのか、それを知る由はない。ニーナが生まれる以前からの因縁だったのか、あるいは禁術に手を染めたのをきっかけとして、その力に目覚めたのか。

「禁断の魔術、あたしの為に使ってくれたんだよね……彼女はもう覚えてないかな」
 ニーナの視線の先には、変わり果てた『第五の貴族』マドンナ・ローザの姿があった。
 肉体は竜と化し、心は狂気に侵され、かつての面影を探すことは難しい。けれどあの優しげな声は、慈しむような瞳は、間違えるはずもない、忘れもしない母のもの。
「無力な子の為に戦おうとした本来の貴女が、狂気の中これ以上子を傷つけぬよう、ここで終わらせて、母を解放したい」
 すでに存在が災厄と成り果てていても――否、だからこそ"娘"である自分が終わらせなければいけないのだと、毅然とした様子で少女は語る。そこにはもう、屋敷の前で焦燥に駆られていた時の面影はない。全てを受け入れ、覚悟を決めた表情だ。

「ロランも皆も、お願い。あたしに迷いはないから、一緒に戦って」
 集まってくれた知己の面々に対して、ニーナは真剣な顔で頭を下げようとする。それを制するように笑い、または頷き、あるいは手を差し伸べたのは、弟を含めた6人の猟兵。
「そっか、さすが、パパが好きになった人だね」
 初めて聞かせてもらった腹違いの姉のルーツに、ロランはにこりと微笑みを浮かべた。
 きっと素敵なひとだったのだろうと思う。強くて優しい大好きな姉が、こんなにも切実に助けたいと願う相手なのだから。そして、尊敬する父がかつて愛した女性なのだから。
「ここにパパはいないけど、変わってぼくが、おねえちゃんのママを助けるね」
 迷いなく宣言する人狼の少年。その他の者達もニーナに助太刀する意思は変わらない。
 今ここで肩を並べる者の他にも、本当に、本当に多くの者達が、離れ離れとなっていた母と娘を再会させる為に、この戦いに参加していた。

 ――そして、時は現在に巻き戻る。

「いやうん、でっかいなあニーナちゃんのお母さん」
 畏怖と美しさを感じさせる巨大な竜を見上げ、驚き混じりに呟くのはジェイ・ランス(電脳の黒獅子・f24255)。すでに幾度の交戦を経て、その肉体には相当なダメージが蓄積されているようだが――彼女の心は未だ狂気に囚われたままだ。
「で、開放してやりたい、と。んじゃ、そのお手伝いはちゃんとしてあげないとね」
「取り敢えず隙は作る、あとはなんとかしろ。以上だ」
 陽気な笑みを浮かべて走り出すジェイと、並走するのはヴィクター・グレイン(闇に紛れた真実を暴く者・f28558)。寡黙な調子で必要事項のみを語り、右腕の義手を固く握り締める。対照的な雰囲気の二人ではあるが、ここに来た理由と目的は一致していた。

「来いよ、"ツェアライセン"」
 電子の海からジェイが呼び出すのは、全長7mに及ぶサーフブレイド型の概念兵装。名を可変式対艦概念破断剣"ツェアライセン"――その刃は肉体ではなく過去と未来を斬る。
 【運命変転術式『Nibelungen』】を起動させ、彼が断ち斬らんと欲するは母子を引き裂く「未来」と狂化した「過去」。運命改変力を刀身に籠めて、切っ先を虚空へと向ける。
(オレにもはや敵意はない。あるのはただ―――願い)
 斬――と、何もない空間をなぎ払う概念兵装。それが何を斬り、いかなる結果をもたらしたのかを3次元空間上から観測するのは困難だ。まるで無為にすら見える一閃に、ただ一人確かな手応えを感じていたのはジェイだけ。それでいいし、それだけで十分。

「私の……愛しい……私の……子……」
 すでに満身創痍のマドンナ・ローザは、それでも傷ついた翼を広げ、近付いてくる猟兵に手を伸ばす。愛しい我が子を【抱擁】し【接吻】しようと、血塗られた爪牙を振るう。
「っとと、危ねえ」
「見境なしか」
 対象者にとっては暴力でしかない愛情表現を、ジェイは"慣性制御術式"と"重力制御術式"を起動させ、ヴィクターはそれに相乗りする形で各自回避機動を取る。至近にて対峙したローザの猛攻はもはや災害級だが、これしきで冷える肝など彼らは持っていない。

(母親か……。俺にとってはクソ喰らえだが、今はいい)
 自身の母親の事を思い出しながら、ヴィクターは狂気乱舞する魔竜ローザを見上げる。
 彼は他の猟兵のような特殊能力は持ち合わせていない。小道具と己の拳だけで悪と立ち向かう、それがヴィジランテというものだ。身体的には常人と然程違いはない自分が、竜に成り果てた者に何処まで通用するかという疑問はあったが、さりとて恐怖はなかった。
(この戦いは彼女のものだ、俺はその為の踏み台になろう)
 あれもこれもと成果を求める必要はない。自分は宣言通りにただ一度だけ、敵に隙を作ることだけに専念する。あとはニーナと他の連中がうまくやるだろう――とはいえ、その一度の隙を作るのも、空中を自在に飛び回る相手には難儀なことだが。

「苦戦してるみたいだな。なら俺はローザの動き……特に飛翔力を削ぐ事に注力だ」
 前線の仲間とローザの戦いの模様を見ていた一駒・丈一(金眼の・f01005)は、ロングコートの内側から杭を取り出して投擲の構えを取る。彼もまた母娘の対面の機を作るために助太刀に駆けつけた猟兵の一人。その一念に専心することで相手への悪意は抑え込む。
「……あれがニーナの親、なのだな」
 彼と並んで、美しき翼を紅の月で照らす竜を見上げるのは飛白・刻(if・f06028)。狂える愛情に魂を投じ、蠱惑の言の葉を落としながら災禍を振り撒いてゆく、それがニーナの母だと聴いてから、彼はローザに対して悪意とは異なる感情を向けていた。

「……俺は親という存在を目の前で人の形すら残さず喪った。このような形であろうと見えることは羨みすら覚える」
 故に、全ての者を"愛し子"と認識し抱擁を呼びかけるローザの誘いは、刻にとって酷く惑うものなのかもしれない。遺る忌々しき記憶の向こう、とうに失われてしまった還る場所で、かつて抱かれていたぬくもりを一時、この肌に感じられるのならばと。
「然しこれ以上その力を振るわせるはならぬ」
 惑いを捨てて、白き青年が構えるのは【蜜毒】を込めた絲、針、牙の三種。これを以てローザのユーベルコードを封じることができれば、ニーナの道行きの助けになるだろう。彼の行動の意図は全て、親と子を再びと逢わせるに繋ぐ為。

「胴体と翼の付け根の可動域が弱点だ。そこが損傷すれば翼を上手く動かせまい」
「承知」
 敵の機動力の源を封じる為に、慎重に狙いを定めていく丈一と刻。前衛が稼いでいられる時間にも限りはある、余力も考えれば恐らく狙撃のチャンスは一度切りになるだろう。
(が、流石にミスは許されん。ならば……秘中の秘を使う)
 信頼する仲間の一世一代の戦いに、丈一は己の過去を賭ける事にした。21歳頃の後半半年の記憶を代償に【持たざる者の埋み火】を発動、狙撃の成功率を格段に引き上げる。
(過去を棄て、未来を切り拓く。この選択に後悔は無い)
 朧げにほつれていく記憶と引き換えに、感覚が研ぎ澄まされ、敵の動きがよく視える。
 仇を追って戦場を彷徨い、咎人を潰しながら生きてきた自分が、いつの間にか復讐でもない他人事に手を貸すようになるとは。思えば奇妙なことだと考えながらも、彼は対峙する「未来」だけに意識を集中させる。

「ああ……私の愛しい子たち! みんな、みんな、抱きしめてあげないと……!」
 彼方より狙われているなど露知らず、マドンナ・ローザの狂愛はさらに加速していく。
 まるで何かの強迫観念に衝き動かされているように、何かから我が子を守ろうとするように――その行動が、他ならぬ彼女自身が、"我が子"を害するものとは理解できぬまま。
「遍くあなたの愛し子だなんて。欲張りだ、あなた」
 愛狂う竜に向かってそう言い放ったのは、バンリ・ガリャンテ(Remember Me・f10655)。意志の強そうなピンク色の瞳で敵を見上げ、片手でくるくると刃物を玩び。いくら自分に親の覚えがないからって、勝手に"愛し子"にされちゃあたまらない、と笑う。

「俺ぁあなたに愛される謂れはねぇから。その愛、拒みますよお母様」
 皮肉を交えて刃物を振り上げ。害意をもって斬りつけるのは彼女ではなく――己自身。
 斬り裂かれた傷から血飛沫のかわりに噴き出す地獄の炎が、バンリの身体を包み込む。
「なぁ―――ッ!!!?」
 その瞬間、目前にいるジェイとヴィクターの事すら忘れて、ローザの目は彼女に釘付けとなった。困惑、驚愕、焦燥、様々な感情が心の中で渦を巻き、思考が乱れ理性が飛ぶ。
 己を包む地獄の業火の中から、バンリはそのパニックぶりを満足そうに見つめていた。

(あなたの愛し子たる俺自身を俺自身が蔑ろに棄てるのさ。無論身のうちの炎で俺が焼かれるわけはねぇんだが、あなたにとっちゃ憤ろしい事だろう)
 それは真に子を愛するが故の情動。己自身を大切にしない我が子への悲しみの裏返し。怒りと言う名の悪意がバンリに牙を剝いた瞬間、炎の中で少女の唇はそっと歌を紡いだ。
「この歌をあなたにお贈りするよ、ローザさん」
 曲名は【HEAR ME】。足には軛を、腕に慄きを、自我には綻びと懐疑を与える呪い歌。
 美しくも儚い旋律を受けて、「愛の紋章」の加護を失ったローザの心身が硬直する――それがバンリの作りたかった隙。この瞬間を見逃す仲間たちではないと信じた上で。

「悪いが、墜ちてもらうぞ」
「三つ毒の。蜜の味を」
 空中で動きの停まった竜を、狙い撃つのは杭と毒。丈一が投じた杭はローザの右半身の3枚の翼の間接を穿ち、刻の放った絲と針と牙は左半身の3枚の翼にそれぞれ突き刺さる。
「っ、あ……!?」
 全ての翼を一度に封じられたローザは空に留まる力を失い、体勢を崩して墜ちていく。その落着点で待ち構えるのは、ゆらりと拳を構えたトレンチコートの男――ヴィクター。
(一番良いのは目か顎だが……この際隙を作れれば何処でもいい)
 このタイミングと位置関係ならば絶対に外さない。振り上げた拳は過たずローザの顔面に叩きつけられ――その瞬間、掌中に握り込まれていた爆弾が炸裂した。

「ああぁあぁぁぁぁぁぁあぁッ!!!?!」
 至近距離から爆炎と衝撃と大量の破片を受け、たまらずローザは苦痛の絶叫を上げる。
 一方で【限られた一撃】を放ったヴィクター自身も、爆発のダメージをもろに喰らう羽目になる。特に、爆弾を握っていた右腕の義手は完全に大破していた。
「言った通り、隙は作ったぞ」
「いやもう、無茶するよまったく」
 有限実行の代償としてその場からほぼ動けなった彼に、ジェイが苦笑しつつ肩を貸す。
 確かに、ここまでやればお膳立ては十分だろう。機動力もユーベルコードも封じられ、重傷を負った敵。これ以上ないくらいのチャンスを整えた後は"彼女"の出番だ。
「行ってきなよニーナちゃん。行って、ちゃんと再会しな。幸いあらんことを願うぜ……」
 ヴィクターと共に前線を離脱しながら、ジェイは優しい笑顔で言う。最悪の未来と過去はすでに断ち斬った、この先にどんな結末が待っているのかは全て当事者達の行動次第。

「アンタの愛しい我が娘は、あちらでお待ちだ」
 手元の杭を投げ終えた丈一は、冷静に仲間が待機している方を、くいと親指で指差す。
 なびく鈍色の髪に黄昏色の瞳。指には虹水晶の指輪を嵌め、竜槍を構えた少女が、人狼の弟と共にそこに立っている。それは、およそ10年ぶりになろうかという、母娘の再会。
「あとは、彼女次第だな……。区切りを、付けてくると良い」
 道引きは終えたと一歩下がる丈一。誰が合図したでもなく、他の仲間もそれに倣う。
 ここまで助太刀してくれた友達に「ありがとう」と言って、ニーナは母の前に立つ。

「あ……あなたは……」
 傷ついた竜の視線と、少女の視線が交錯する。この母娘が分かたれていた時間は余りに長い――ローザは言うに及ばす、ニーナも既にあの頃の無力な幼子ではなくなっている。
(其れでも情が、僅かとでも残るのならば、向かい逢うが誰か解るのだろう)
 母娘の対峙を見守りながら、刻はそう思う。彼女達の内心は視えずとも、これはきっと愛情故に選び下したものであり、互い受け入れねばならぬもの。ならばこれ以上の手出しは無用と、その結末を、ただ静かに見届けんとする。
「愛すべきたった一人は此処にいる。真にあの方を愛し護ったその結末にあなたが、いらっしゃるのなら。或るべきあなた方へと帰れる……きっと」
 そして呪歌を紡ぎ終えたバンリは、これまでとは違う穏やかな口調でローザに告げる。
 愛するがゆえの結末がただの悲劇で終わるなど、承服し難い理不尽だ。せめてこの邂逅に何かしらの救いがあることを信じて、彼女もまた見守る側へ。

「いこう、おねえちゃん」
「うん……ありがとう、みんな」
 傍らにいるロランの呼びかけに頷き、ニーナは槍を強く握りしめる。覚悟は既にできている、愛する母に持てる全力をここで見せる――そのために彼女は指輪の封印を解いた。
 かつて母から譲り受けた魔法具「Kafka」の指輪。その力を以て変ずるは【Walküre】。黄金の鎧をその身に纏い、背には白鳥の翼を羽ばたかせて、力強く空に舞い上がる。
 戦乙女と化した姉の美しい姿を見上げながら、ロランも深呼吸とともに覚悟を決める。
「今日二度目の人狼魔術……だけど、パパなら迷わないよね」
 ローザを「助けたい」と強く念じながら、発動するのは【憑きて荒ぶる音狼の狩猟】。
 瞳を月光で光らせ、髪を灰色に染め。満月の魔力でできた狼のオーラを身に纏う。代償として命を削ることになろうとも、彼の心にもはや恐れは微塵もない。

「行くよ―――!!」
 翼が大気を叩く音が聞こえた瞬間、戦乙女と人狼は飛び出した。空には黄金の軌跡を、地には銀月の軌跡を描いて、まっすぐに向かう先には『第五の貴族』マドンナ・ローザ。
「……っ!!」
 痛みか、あるいはそれ以外の理由でか、対応するローザの反応は鈍かった。二人をかき抱くように振るわれる鉤爪は、黄金の鎧にオーラの護りを纏ったニーナにいなされるか、小柄な体格に狼の脚力を得たロランに躱される。瞬きする間もない程の刹那のうちに肉薄した二人は、そのままローザの胸に、真っ直ぐ飛び込んでいき――。

「ぁ、あ……ニー、ナ……?」

 ローザの口からその名が出た時。ニーナの竜槍は「紋章」ごと彼女の躰を貫いていた。
 幾年ぶりに見上げる母の顔。それを見つめる娘の瞳は、けして零すまいと涙を溜めて。
「……おかーさん。あたし大きくなったし、強くなったよ」
 あの頃よりも背丈も手足もずっと伸びた。母に守られてばかりだった自分が、今は誰かを守れるようにもなった。大切な家族や仲間と共に、しっかりと自分の足で生きている。
「見違えた、でしょ」
 あふれ出しそうな感情の洪水を誤魔化すように、へらりと笑う。成長した娘の姿を見たローザは、そっと顔を近付け――噛み付くのではなく、本当の意味での口付けを、頬に。
「ええ……それに綺麗になったわ、愛しいニーナ」
 すっかり立派なレディね――と、血塗れの顔で目を細める竜に、ニーナはかつての母の面影を見た。ここにいるのは間違いなく愛しい母親、ローザ・アーベントロートだった。

「あなたの子どもは、もう、大丈夫だから。おやすみなさい」
 母と娘のやり取りを見届けてから、ロランがそっと子守唄を届ける。狼の遠吠えにも似たそれは、優しい満月のオーラとともにローザを包み込み、安らかな眠りに誘っていく。
「あなたは……あのひとの息子ね。ニーナのことを、これからも助けてあげて……」
 紅月の竜は義理の息子となる彼にも穏やかな眼差しを向けて微笑み、まぶたを閉じる。
 その躰から力と体温が抜けていくのが分かる。禁断の魔術によって人の姿と心を失い、『第五の貴族』として罪に染まり続けた魂に、ようやく安息の時が訪れようとしていた。

「おやすみなさい。愛してる」
「私もよ……あなたのことを、ずっと愛してる……」

 万感の想いを込めた二言と共に、ニーナは母の血で染まった「Dämmerung」を抜いた。
 穿たれた「愛の紋章」の中央から放射状に亀裂が走り、粉々に砕け散る。それと同時にローザ・アーベントロートの躰は灰となり、砂細工のようにさらさらと崩れ去っていく。
 それは、この世界を闇から支配する『第五の貴族』の一角が、斃れた瞬間でもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『老獪なヴァンパイア』

POW   :    変わりなさい、我が短剣よ
【自身の血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【真紅の長剣】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    護りなさい、我が命の源よ
全身を【自身の血液】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ   :    立ち上がりなさい、我が僕よ
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【レッサーヴァンパイア】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。

イラスト:イツクシ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠館野・敬輔です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 多くの猟兵との長きに渡る激闘の末、遂に『第五の貴族』マドンナ・ローザは倒れた。
 その骸は完全な灰となり、「愛の紋章」も砕けて散った。紅い月光に照らされた屋敷に静寂が戻る――だが、猟兵達はまだ警戒を解いてはいなかった。ダークセイヴァー世界を闇から支配してきたかの貴族達の力は未知数であると、予め警告を受けていたゆえに。

 ――ぞわり、と。灰の中から宝石のような"何か"が這い出てきたのはその時だった。
 デザインは過去に見たどれとも異なっている。しかしそれは間違いなく「紋章」。天井から降り注ぐ紅い月光がそれを照らした時、ざわざわと音を立てて灰の山が渦を巻く。

「……ぅ、あ、ぁ。わたし、は……」

 ローザの遺灰は新たな「紋章」を中心にして一箇所に集まると、一人の女の姿を取る。
 灰銀の髪に紅い瞳、鮮血色のドレスに鋭いナイフ――若々しい外見に老獪な雰囲気を纏ってたヴァンパイア。その存在感は先刻までの竜と比較してもけして遜色はない。

「……そう。『ローザ』は死んだのですね。ではここからは『私』の番ですか」

 その女は足元に転がっていた「愛の紋章」の残骸を見て、状況を理解したようだった。
 改めて猟兵達のほうを向いた彼女の雰囲気や振る舞いは、これまでとはまるで別人だ。新たな「紋章」が彼女を蘇生させたのは間違いだろうが、しかしこれは復活というよりも変身――全く違う存在に変わったと言ったほうが正しいように感じる。

「……困惑していますか? 当然でしょうね。貴方達は私達のことを何も知らない」

 艷やかに挑発めいた笑みを浮かべる女吸血鬼に、種明かしをするつもりは無いようだ。
 明らかな事実は一つ。目の前にいるのは紛れもない『第五の貴族』であり、今回の依頼を完遂するためには、もう一度ここで彼女を倒す必要があるということだ。

「マドンナ・ローザの名は、もはや過去のもの。今の私は――『クリムゾン・ムーン』とでも名乗っておきましょう。ふふ、我ながら安直ですが」

 そう語る女吸血鬼の胸元には、頭上に浮かぶ紅い月とよく似た真紅の「紋章」が煌く。
 月光に照らされた彼女の体からは息が詰まるほどの魔力が溢れ出しており、真っ向から戦ってもおそらく勝ち目はないと本能的に感じる。「愛」に代わる新たな紋章がどのような性質を持つのかは定かではないが、宿主に絶大な力を与える点は共通しているようだ。

 だが「愛の紋章」がそうであったように、どれほど強大な紋章にも弱点はあるはずだ。
 特定の条件が満たされている限り、効力を発揮する――というのが最も考えられる弱点だろうか。それなら条件を暴き出して封じてしまえば「紋章」の力は無効化できるはず。

「ふふ……久しぶりの現し世です。まずは貴方達の血で喉を潤すとしましょう……」

 あちら側に猟兵達を逃すつもりはないらしく、女吸血鬼の口元に残酷な笑みが浮かぶ。
 突入から始まる連戦で、少なからず消耗している者もいるだろう。しかしここが最後の正念場だ。二つ目の「紋章」も打ち砕いてしまえば、流石に三つ目の切り札はなかろう。
 紅い月が照らす地の底の屋敷で『第五の貴族』クリムゾン・ムーンとの決戦が始まる。
トリテレイア・ゼロナイン
確かに私達の知ること少なく、貴女達は強大です
ですがそれは抗わぬ理由とはなりません
喉も潤せぬ鋼の身で恐縮ですが、お付き合い頂ければ

(変身過程と屋敷の構造からある程度目星は付きましたが…『アレ』が足りるかどうか)

脚部●推力移動で後退しながら剣盾で剣を捌きつつ、屋敷構造●情報収集
同時に格納銃器の弾種を●目潰し用ペイント弾へ変更

変更完了後、煙幕手榴弾●投擲目潰し
同時にUCを屋敷内に射出
展開した障壁に●乱れ撃ちスナイパー射撃
窓を塗料で覆い紅き月光遮り

趣味で蒐集していた故郷以外の世界の御伽噺
多くの御話で月は魔性を意味する存在

さて、どうでるか…

大盾殴打で弾き飛ばし作法に乗っ取り心臓へUC投擲
串刺しにし放電



「確かに私達の知ること少なく、貴女達は強大です。ですがそれは抗わぬ理由とはなりません」
 変貌を遂げた『第五の貴族』の前に、揺るぎなく立ちはだかるのは機械仕掛けの騎士。
 彼我の知識や戦力差など今さら教えられるまでもなく、トリテレイアは理解している。それでも果たさなければならぬ使命があるから、彼は今ここに立っているのだ。
「喉も潤せぬ鋼の身で恐縮ですが、お付き合い頂ければ」
「良いでしょう。肩慣らしのダンスパートナー程度にはなりそうだわ」
 自身を『クリムゾン・ムーン』と名乗った女吸血鬼は紅い月の光を浴びて、余裕の笑みを浮かべる。この場所にいる限り、自らの勝利は揺るぎないと確信しているかのように。

「変わりなさい、我が短剣よ」
 女吸血鬼が短剣で自らの掌に傷を付けると、吹き出した鮮血が刃と絡まり、真紅の長剣を形作る。あまり戦慣れしていない風情ながら、彼女の身のこなしは軽やかで隙がない。
 風のように斬りかかってくる敵から、トリテレイアは剣と大盾を構えたままスラスターを逆噴射させ、後退して距離を取りながらセンサーで周囲の探査を行う。
(変身過程と屋敷の構造からある程度目星は付きましたが……『アレ』が足りるかどうか)
 敵の胸元に輝くのは新たな『紋章』。マドンナ・ローザと戦った時と同様、それを突破する手段を見つけなければこの戦いに勝機はない。少ない情報から一つの推測を立てた彼は、検証と実践を行うために格納銃器の弾種を通常弾からペイント弾に変更する。

「ふふ。お待ちになって?」
 女吸血鬼のドレスから覗く脚は細く、にも関わらずその疾走はウォーマシンの推力さえ上回る。懐に入りざま振るわれた真紅の長剣を、トリテレイアは辛くも剣と盾で捌く――過酷な連戦を耐えてきた彼の武具も、いよいよ耐久度の限界が迫りつつある。
「ここが最後です、出し惜しみは無しでいきましょう」
 血の剣と儀礼剣とで鍔迫り合いを演じながら、彼は機体に設けられた収納スペースから煙幕手榴弾を取り出し、【多機能型電磁障壁発振器射出ユニット】の起動と同時に投擲。
「何を……?」
 濛々と立ち上る白煙が女吸血鬼の目を眩ませた間に、射出された杭状発振器が屋敷内のあちこちに突き刺さり、平たい板状の防御結界を形成した。

(趣味で蒐集していた故郷以外の世界の御伽噺。多くの御話で月は魔性を意味する存在)
 伝承になぞらえて女吸血鬼の『紋章』が月光を力の源としているのではないかと考えたトリテレイアは、展開した障壁にペイント弾を乱れ撃つ。本来は目潰しに用いられるそれは、着弾と同時に色鮮やかな塗料を撒き散らして障壁を塗り潰す。
「さて、どうでるか……」
 彼が障壁を張ったのは屋敷の窓や扉など、月光が差し込んでくる場所。それを塗料との合せ技によって即席の遮光板とし、敵が月光を浴びられない環境を作るのが騎士の狙い。
 暗さを増した戦場に対応して視界を暗視モードに切り替えながら、彼は女吸血鬼の様子に変化はないかと窺う――。

「……あまり屋敷を汚すのは止めて貰いたいですね」
 障壁に月光を遮られても、女吸血鬼の態度は表面的には何も変わらないように見えた。
 だが、これまでは息も詰まるほどだった威圧感は明らかに弱まった。再び剣戟を交わせば、武具を通じて手応えの違いが顕著に伝わってくる。それらは全てトリテレイアの推測を裏付けるものだった。
「やはり……あの紅い月こそが、貴女の力の源なのですね」
「くっ……!」
 能力を看破された女吸血鬼が顔をしかめる。「紋章」の力が弱まっているうちに、騎士は大盾を強く押し出して敵を弾き飛ばすと、その胸元を狙って杭状発振器を投げつける。
 御伽噺において吸血鬼を倒す方法は、心臓に杭を刺すものと決まっている。その作法に則った彼の一投は過たすに標的を貫き、障壁形成用に蓄積された大量の電力を放出する。

「く、ああっ?! なかなか、やりますね……ッ」
 胸に深々と突き刺さった杭と電撃によるダメージに、たまらず悲鳴を上げる女吸血鬼。
 彼女は顔をしかめながら放電する杭を引き抜くと、血の剣を振るって障壁を破壊する。
 再び戦場に降り注ぐ月光――だが、一度受けた負傷を即座に癒してくれるほど、その力は都合のいいものではないようだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
リミティアの言っていた未知の正体がアレか…
パーティーはもう終わりだ、遅刻をしたゲストは早々にお帰り願おう

紋章が力を発揮する条件か…
恐らくだが、この悪趣味な真紅の月が関係してるんじゃないか?
奴が現れた時も、あの血色の光が輝いていたからな

フン、遅れてきたうえにスポットライトを独占か
どうせならもっと強烈なステージライトで照らしてやろう

UCを発動
90機以上のオーヴァル・レイの砲口を全て奴に向け、超強力な光の奔流を浴びせてやろう
光を闇で覆い隠すことは難しい
だが、より強力な光で上書きするだけなら簡単だ
奴が纏う血液の鎧も、負傷がほぼ無い状態であれば簡単に蒸発する筈だ

予測が間違っていたら他の猟兵への援護を行う



「リミティアの言っていた未知の正体がアレか……」
 斃したはずの敵の中に隠されていたもう一つの「紋章」、それがグリモアの予知でも明らかにできなかった『第五の貴族』の秘密の力だと知ったキリカは、底知れぬ力に恐れを抱くよりもまず、冷静に銃口を敵に向けた。
「パーティーはもう終わりだ、遅刻をしたゲストは早々にお帰り願おう」
「あら、ここは私の屋敷でしてよ? いつ宴をお開きにするかは私が決めること」
 射抜くような眼光に艷やかな笑みで応じ、紅いドレスを翻す『クリムゾン・ムーン』。
 彼女こそがこの舞台の主役なのだと誇示するように、偽りの月光が戦場を紅く照らす。

(紋章が力を発揮する条件か……恐らくだが、この悪趣味な真紅の月が関係してるんじゃないか? 奴が現れた時も、あの血色の光が輝いていたからな)
 敵が復活した際の状況と現状から、キリカは女吸血鬼の持つ「紋章」の特性を推測していた。マドンナ・ローザが倒れてもなお、変わらず存在する紅い月――地底世界において明らかに不審なそれに疑惑を向けるのは当然のことだっただろう。
「フン、遅れてきたうえにスポットライトを独占か。どうせならもっと強烈なステージライトで照らしてやろう」
 鼻を鳴らしながら皮肉げにそう言って、キリカは【オーヴァル・ミストラル】を発動。傍らにある卵型の浮遊砲台「オーヴァル・レイ」を複製し、90機以上の大群を編成する。

「行け、逃がすな」
 キリカの号令の下、全ての浮遊砲台は砲口を女吸血鬼に向けて一斉攻撃を開始。紅い月光に満たされた戦場に、目を開けていられないほどに強烈な、蒼い光の奔流が放たれた。
「なんのつもりで……っ、護りなさい、我が命の源よ!」
 これだけの火力を投入してもなお『第五の貴族』を仕留めるには至らないだろう。ユーベルコードを発動した女吸血鬼は、光線の威力のほとんどを身に纏った血液で減衰してしまう。効果としては精々目眩まし程度――だが、それこそが最も重要なポイントだった。

「光を闇で覆い隠すことは難しい。だが、より強力な光で上書きするだけなら簡単だ」
 太陽が出ている真昼に月が輝けないように、数多のオーヴァル・レイによる蒼い閃光の暴風雨は紅い月光をかき消してしまう。それが敵の女吸血鬼に与えた影響は顕著だった。
「まさか……私の月が、かき消されて……!」
 月光を浴びられなくなった「紋章」からは輝きが失せ、それまで光線を遮っていた血液の鎧が蒸発を始める。力が弱まったことでキリカの攻撃を防ぎきれなくなっているのだ。

「どうやら予測は当たっていたようだな」
 内心の安堵を静かな微笑みに変えて、キリカは途切れることなく蒼光の砲撃を続ける。
 女吸血鬼が纏う血液の鎧には自身の負傷に応じて強化される特性もあったが、この序盤においてはまだ彼女の出血量は然程ではなく「紋章」なしでの防御力には限界があった。
「この……無粋な光で、よくも私の屋敷を……ッ!」
 血の護りを蒸発させられた女吸血鬼の肉体を、太陽よりも眩い蒼の閃光が灼き焦がす。
 90機以上のオーヴァル・レイに蓄積された全エネルギーが放出されるまで、その攻撃が止むことは無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
…私や俺よりもボクの方が向いてそうだね
攻撃を避けながら腹黒で通ってるボクに変わり考察を続けるよ

(名は体を表すというし名乗った名前に意味があるんじゃないかな
ローザだった頃は…薔薇からかな?
花言葉に愛とかあった筈だし

…こいつが出てきたのは灰となって外気に触れた…いや、名前から考えると月の光…かな
試してみるか)

月の光を遮るように毒の霧をばらまこうか
完全には防げないだろうけど検証にはなると思うよ
「おっと
予想はあたったかな?」
あってればきっと窓を割って霧を流そうとする筈
そう思って見えない程細くした黒纏を窓近くに張り巡らせておいたけれど
引っ掛かったかな?
どうかな?直前まで雨を浴びて硬度を増したその切れ味



「……私や俺よりもボクの方が向いてそうだね」
 復活――あるいは新生した『第五の貴族』を前にして、夜野の人格が再び切り替わる。
 一人称は女性人格の「私」から「ボク」に。未知の敵の能力を考察するには、計算高く身内からは腹黒で通っている"彼"が最も適していると判断したようだ。
「複数の人格を住まわせているとは面白いですね。道化として見応えがありそうです」
 女吸血鬼『クリムゾン・ムーン』は愉快そうに微笑むと、自らの血液を短剣に纏わせ、長剣の刃を形成して斬りかかってくる。月光に冴える紅い一閃を、少年は間一髪避けた。

「人格によって悲鳴の声色も違うのでしょうか。ぜひ聴き比べてみたいですね」
 悪趣味なことをのたまいながら長剣を振るう女吸血鬼。弄ぶような素振りではあるが、身のこなしは高度な剣術を修めた者のそれであり、パワーもスピードもマドンナ・ローザだった頃と比べてまったく衰えていない。やはり正攻法で挑んでも勝算は皆無だろう。
(名は体を表すというし名乗った名前に意味があるんじゃないかな。ローザだった頃は……薔薇からかな? 花言葉に愛とかあった筈だし)
 ギリギリの線で致命傷を避けながら、夜野は目まぐるしく思考を回転させる。敵がわざわざクリムゾン・ムーン――"紅い月"などと名乗ったのも、それを安直だと自ら称した事も単なるブラフとは考えにくい。となれば怪しむべきものも自ずと絞り込まれていく。

(……こいつが出てきたのは灰となって外気に触れた……いや、名前から考えると月の光……かな。試してみるか)
 考察を終えた夜野は【縲絏呪毒】を発動。屋敷に降り注ぐ月光を遮るように、刻印(ドライバー)から過去に取り込んできたオブリビオンの毒を放出する。粒子一粒でも吸い込めば致命的な害をもたらす毒の煙は、たちまち戦場をどんよりと包み込んだ。
「あら? なんですかこれは……っ」
 最初は何の気なしに煙を払おうとしていた女吸血鬼は、ふいに苦いものを口にしたように顔をしかめる。もし「紋章」の加護が十全であるならば、どんな猛毒も効果は無かったはず――それが効いたということは、やはり「紋章」の効果が弱まったということだ。

「おっと。予想はあたったかな?」
 完全な遮光はできなかったものの、検証結果としては十分だった。クリムゾン・ムーンの「紋章」は、紅い月光を浴びている時のみ宿主を強化する。そう断定していいだろう。
 ニヤリと笑みを浮かべる夜野とは対照的に、女吸血鬼の表情に余裕はない。このままでは弱体化したまま屋内に充満する毒にじわじわと蝕み殺されると悟った彼女は、急いで煙を晴らそうと、近くにあった窓を長剣で叩き割ろうとする――。
「こんなもの、屋敷の外に流してしまえば――ッ?!」
 ――だが。窓辺に近付いた彼女を待っていたのは、蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸だった。毒煙が視界を悪くした隙に、夜野は自分の衣服「黒纏」を細い繊維の束にして、前もってその場所に仕掛けておいたのだ。

「引っ掛かったかな?」
「ッ……!!」
 よくよく目を凝らさなければ見えもしないほど細い糸の罠が、クリムゾン・ムーンの肌をざくりと切り裂く。接触者の生命と血を啜ることで強度を増す性質を持つ「黒纏」は、ローザとの戦闘中に"私"が降らせた血の雨を浴びて、ぬらりと赤く濡れそぼっていた。
「どうかな? 直前まで雨を浴びて硬度を増したその切れ味」
「おのれ……ッ」
 思考の先を読まれまんまと罠に嵌められた女吸血鬼は、痛みよりも屈辱から怒りを露わにする。大貴族らしい余裕の消えたその顔を見て、夜野はさらに笑みを深めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
クリムゾン・ムーン……まさかとは思いますが紋章の名前は紅月の紋章とかそんな名前だったりしますか?

それならわたしは困りませんし、こんな光は要りませんね。

アマービレで呼んだたくさんのねこさん達にお願いして【全力魔法】【多重詠唱】闇【属性】【結界術】をわたしと敵の中心を起点に展開してもらい、結界の外側のレッサーヴァンパイアの素材になりそうなものから隔離してもらいつつ、オラトリオも併用して月の光を完全に遮断します。

【果実変性・ウィッシーズガーディアン】を発動し、【第六感】と【野生の勘】で敵の行動を【見切って】回避や防御を。
【踊る】ように【早業】や【カウンター】で胸元の紋章を斬り刻んであげましょう。



「クリムゾン・ムーン……まさかとは思いますが紋章の名前は紅月の紋章とかそんな名前だったりしますか?」
 新生した『第五の貴族』が自ら口にしたその名から、望は「紋章」の名前を予想する。もし、本人の名前と同じように「紋章」の特性も月に関連するとしたら――確かにそれは"安直"極まりないだろう。猟兵達のことをあまりにも舐めきった、迂闊とさえ言える。
「それならわたしは困りませんし、こんな光は要りませんね」
「そうはいきません……立ち上がりなさい、我が僕よ!」
 望の狙いに気付いた女吸血鬼は、戦場に散らばる灰から自らの僕を創造しようとする。それは彼女が復活する際に残された「マドンナ・ローザ」の遺灰の一部。レッサーヴァンパイアに劣化しようとも、その戦闘力は十分過ぎるほどの脅威となる。

「ねこさん達、お願いします」
 だが望は敵がユーベルコードを発動するよりも早く、白いタクトを振って指示を出す。
 呼び集められた沢山の魔法猫はにゃおんと重なり合う鳴き声の詠唱を響かせ、望と敵との中間位置を起点として、両者をすっぽりと包み込む規模の結界を展開した。
「これは、っ!?」
 夜の帳のように広がる闇の結界は、レッサーヴァンパイアの素材から女吸血鬼を隔離する。しかしそれ以上に重要なのは、「紋章」の力の源である月の光が遮断されたことだ。
 望はさらに「影園・オラトリオ」も併用して月光が射し込む隙間を埋めていき、結界内をほぼ完全な暗闇にする。それは夜よりも昏く地の底よりも冥い、漆黒の領域であった。

「やってくれましたね……!」
 ここではもう女吸血鬼に「紋章」の加護はない。焦った彼女は光を取り戻そうと結界の破壊に向かうが、そうはさせじと望は【果実変性・ウィッシーズガーディアン】を発動。
「わたしは望む……ウィッシーズガーディアン!」
 混血の落とし子達との戦いでも披露した、超高速戦闘と精密な防御を得意とする形態。暗闇の中に紅い稲妻の軌跡が閃いたかと思うと、白と黒の双剣が「紋章」を斬り付けた。
 "番犬"も"愛"も、そしてこの"紅月"も、宿主にとっての弱点でもある点は共通。胸元からぱっと鮮血の花が咲き、女吸血鬼の表情が苦痛に歪んだ。

「小癪な……これしきのことで、勝ったと思うな!」
 たとえ「紋章」の力が失われようとも、彼女とて高位のヴァンパイア。無明の結界の中でも戦闘に支障はなく、手にした短剣で望の喉をかき切ろうと鋭い反撃を仕掛けてくる。
 しかし闇の中での戦闘に困らないのは、元々視力に頼っていない望も同じこと。直感を頼りにして敵の攻撃を見切り、高速移動による回避を、またはオーラの盾による防御を。
「紋章の力さえなければ、負ける気はしないのです」
 精密かつ的確な守りで敵の攻め手を凌いで、返す刀で一気呵成に「紋章」を斬り刻む。
 万全な状態であればこうはいかなかっただろう。だが月光から隔離された女吸血鬼は、闇の結界の中で完全に望に圧倒されていた。

「くっ……覚えていなさい……!」
 この場では勝ち目がないことを認めざるを得なくなり、女吸血鬼は苦渋の表情を浮かべながら一時撤退する。だが彼女が闇の結界から脱出するまでに「紋章」が受けたダメージは、決して無視できるものではなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カビパン・カピパン
生贄のゲストを確保し口元に色んな意味で残酷な笑みが浮かぶ。処刑用BGMが【黒柳カビパンの部屋】の合図となり、開幕から圧倒的なウザさを発揮した。

クリムゾン・ムーン!?あーたネーミングセンスなさすぎでしょうッ!!!

そんな感嘆符を三つもならべて叫び凄む。

あたくしがお名前を考えて差し上げましょう。そうね、なめ蔵と名乗りなさい。

すげぇ。適当に考えた名前を、さも素晴らしいでしょうと言いたいかのように答えた。いや、それどころかむしろ誇らしく。

ちなみにあたくしの血を飲むと、思考が同じになりますのよ。
まぁ悪霊ですから飲めませんが。

ただひたすらにウザかった。

次回『なめ蔵の面白い波乱なる日々』をお楽しみに。オホホ。



「予想外です。まさかあの者達がこれほどの力を持っているとは……」
 猟兵達を侮ったツケを手痛く払わされ、広い屋敷の中を撤退するクリムゾン・ムーン。
 傲慢なプライドの裏返しである屈辱に身を焦がしつつも、体勢を立て直し逆襲せんと企んでいると――その目前に、雪女のような白い着物を着たカビパンが立ちはだかる。
「黒柳カビパンの部屋にようこそ。本日のゲストはあなたです」
 生贄のゲストを確保した彼女の口元には色んな意味で残酷な笑みが浮かぶ。どこからともなく聞こえてくる「ルールルー」という処刑用BGMが【黒柳カビパンの部屋】開幕の合図となり、司会者の霊をその身に宿した彼女はのっけから圧倒的なウザさを発揮した。

「クリムゾン・ムーン!? あーたネーミングセンスなさすぎでしょうッ!!!」

 そんな感嘆符を三つも並べて叫び凄む。いきなりのツッコミに女吸血鬼はつい怯んだ。
 なにせ自分でも「安直」と言ってしまった手前、反論をしようにもバツが悪い。二の句を返せなかった時点で彼女の劣勢は早くも明らかとなり、調子に乗ったカビパンはさらに弾丸のようなトークを連発する。
「あたくしがお名前を考えて差し上げましょう。そうね、なめ蔵と名乗りなさい」
「なめ……何ですって?」
「なめ蔵」
 凄い。適当に考えた名前を、さも素晴らしいでしょうと言わんばかりに――いや、それどころかむしろ誇らしげに相手に押し付けようとする、その度胸と面の皮は本当に凄い。
 流石に今後一生なめ蔵を名乗って生きていくのは嫌だったのか、女吸血鬼は文句を言うが、「じゃあもっと素晴らしい名前があって?」と聞かれると言い返せない。伝説級の霊と一体となったカビパンが発する強烈なプレッシャーに、気勢を削がれてしまっている。

「ちなみにあたくしの血を飲むと、思考が同じになりますのよ」
 すっかりと場の空気を自分色に染め上げたカビパンは、ゲストを置いてけぼりにして一人語りを展開する。トーク番組における司会とは普通ひな壇側に座るゲストを立てるものだが、色んな意味で普通ではない彼女にその常識は通用しない。
「いや、そんなもの絶対飲みたくな……」
「まぁ悪霊ですから飲めませんが」
 ウザい。ただひたすらにウザい。いっそ一思いに八つ裂きにしてやろうかと女吸血鬼は考えたが、今ここでそれをやると相手のちょっかいにキレたみたいで格好が悪い。無駄に高い吸血鬼としてのプライドが邪魔をして、彼女は余計に神経をすり減らす羽目になる。

「も、もう付き合ってられません……!」
 結局、殺る気さえ失せた女吸血鬼が取ったのは、この訳のわからない場から逃げ出すという選択だった。こんな謎トークに付き合っているうちに他の猟兵が追いついてきたら、それこそバカバカしい話になる。
「次回『なめ蔵の面白い波乱なる日々』をお楽しみに。オホホ」
「次があってたまるものですか!」
 罵声を吹っかけながら逃げていく女吸血鬼の背中を見送りながら、カビパンはオホホと高笑いを上げ――かくして今回のトーク対決は彼女のウザさの圧勝に終わったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシリー・アリッサム
あのヴァンパイアも、あの人のママで、わたしは……
せめて祈るだけ。どうか安息を迎えられる様にと
ごめんなさい。だけど
あなたは違うみたいね?

真の姿――白き花々の使いとなって、真紅の月と対峙する
そして呼び出す、死霊を纏った大領主を
その呪詛で紅き月を覆い
その剣で敵の攻撃を捌く
そして訊くわ。あの月は何かしら?
あの月の光が届かなければ、あなたはどうなるのかしら?
さあ、答えて!

今まで無かったモノ、胸に浮かぶ紋章
恐らくは紅い月が力の源だろうと踏んで
覚悟はいいかしら――炎の属性、全力高速多重詠唱!
焼滅の蒼き炎で、敵の血液を焼き焦がす!
力を遮り、生命を吸収するそれさえ無ければ
あなたに、この大領主の剣捌きを躱せて!?



(あのヴァンパイアも、あの人のママで、わたしは……せめて祈るだけ)
 狂気に堕ちた吸血鬼ローザと、ある猟兵の娘の再会と別れを、セシリーは静かに見届けていた。かつて自身が父母と対峙した時のことを思い出しているのか、その瞳には哀悼の意が宿っている。
(どうか安息を迎えられます様に)
 娘を守るために禁断の魔術に手を出し、狂気と悪業に染まった女の魂は、これで救われたと信じたい。消滅する間際、最期に見せた「母」としての表情が、その証明であると。

「ごめんなさい。だけど――あなたは違うみたいね?」
 祈りを終えて顔を上げた時、セシリーの表情は悼む者から戦う者のそれになっていた。
 その身を中心として花弁が舞う。髪も装束も白に染まったその姿こそ、彼女の真の姿。
 白き花々の使いとなった少女は、黄金に輝く瞳で"敵"を見据え、真紅の月と対峙する。
「まあ、可愛らしい花だこと。摘み取って飾ればどんなに綺麗でしょう」
 酷薄な笑みを浮かべて、鮮血に染まった刃を輝かせる女吸血鬼。その陰惨な言動からしても、彼女がもはやローザとは別の存在であることがわかる。ゆえに――容赦はしない。

「来たれ――死霊を纏いし大領主よ」
 死霊術師である少女の呼びかけに応え、骸の海からかつて葬った宿敵の魂が姿を現す。
 高貴な装束の上から外套の様に死霊を纏い、手には黄金の十字剣を執る。『同族殺し』として数多の領主と人民の命を奪った吸血鬼の大領主は、今は少女の頼れる従卒として。
 歴戦の戦士の風格で佇む彼の背から、セシリーは女吸血鬼に【無幻刃問】を仕掛けた。
「あの月は何かしら? あの月の光が届かなければ、あなたはどうなるのかしら?」
「……それは」
 答えはない。だが言い淀んだ際に見せた表情の変化は、答えを言ったのも同然だった。
 女吸血鬼『クリムゾン・ムーン』の力を支えているのは、戦場に降り注ぐ紅き月の光。その確証を得た少女は、白花を散らしながらより強い語調で糾弾をかける。

「さあ、答えて!」
「言う必要は……ありませんッ!」
 焦りを誤魔化すように振るわれた短剣を、大領主の抜き放った黄金の剣が受け止める。
 地上世界にて同族からも恐れられたその剣技は今もなお健在。同時に背負った死霊が放つ呪詛は暗雲のように戦場に立ち込めて、天上に浮かぶ紅い月を覆い隠してゆく。
(今まで無かったモノ、胸に浮かぶ紋章)
 恐らくは紅い月が「紋章」と彼女の力の源になのだろうと踏んだ、セシリーの推測は正しかった。屋敷に呪詛の帳が落ちるにつれて『第五の貴族』の動きは明らかに鈍くなる。
 それを補うように女吸血鬼は【護りなさい、我が命の源よ】と叫び、鎧のように纏った血で大領主の攻撃を凌ぐ。自らの血液を自在に操って戦闘力を強化し、さらに敵の生命力さえも奪う、その力は正しく高位のヴァンパイアを名乗るに相応しいものだった。

「紅き月がなくとも、赫き血潮が私を守ってくれます……!」
「なら、焼滅の蒼き炎で、その血液を焼き焦がす!」
 侮るなとばかりに吠える女吸血鬼に、負けじとセシリーも吠え返した。真の姿の解放に伴って形を変えた「シリウスの棺」を構え、燃え滾る感情の全てを激情の魔力に変える。
「覚悟はいいかしら――!」
 全力かつ高速の術式多重詠唱。驚くほどの精緻さで紡がれた呪文は蒼茫にして苛烈なる炎の嵐を生み、天をも焼き焦がさんばかりの勢いでクリムゾン・ムーンに襲い掛かった。

「く……このッ!?」
 灼熱の蒼炎に包まれて、女吸血鬼を守る血の鎧が蒸発していく。力を遮り、生命を吸収するそれさえ無ければ、紅月の加護なき彼女に『第五の貴族』を名乗るだけの力は無い。
 パワーソースとなる要素をことごとく排し、並の吸血鬼の域に堕としてしまえば――。
「あなたに、この大領主の剣捌きを躱せて!?」
 かつて両親の命を奪った宿敵だからこそ、その技がいかに優れているかを知っている。
 喪った愛する人の面影を求めて、終わりなき妄執と復讐に囚われていた彷徨える魂は、セシリーに掬われたことで、『同族殺し』と恐れられたその技量を今一度発揮する。

「……同族としての忠告だ。晩節を汚すものではないぞ、傲れる者よ」
 "ローザ"として討たれた時点で、既に勝敗は決したと、黄金の一閃が女吸血鬼を薙ぐ。
 その太刀筋は女の胸元に宿る「紋章」を捉え、月光よりも紅い血飛沫を戦場に散らす。
 白き花々の使いと大領主。その二人の眼光に射竦められたクリムゾン・ムーンは、たじろぐようにその場から後ずさるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

播州・クロリア
(涙をぬぐいながら)
暗示が解け切っていなかったようです
「母」を弔いたいので貴女にはもう一度
灰になっていただきます
(肩幅ほどに足を開き、両手で太ももをなぞりながらゆっくりと上体を起こした後{紅焔の旋律}で『ダンス』を始める)
そういえば貴女の紋章、月光に反応していましたね
(UC【蠱の腕】で月光を遮る様に{錆色の腕}を広げた後『衝撃波』を使って一気に接敵し『オーラ防御』の檻で敵を閉じ込めた後{紅焔の旋律}で生み出した炎を纏わせた蹴りで『貫通攻撃』と『属性攻撃』を仕掛ける)
「母」の遺灰で得たヒントです
想いを上乗せで賭けてみましょう



「まだ終わりではないようですね……おや」
 マドンナ・ローザの消滅と入れ替わりに現れた紅衣の女吸血鬼を見て、再び戦いに参加しようとしたところで、クロリアは自身の目元からつうと一筋の涙が伝うのに気付いた。
「暗示が解け切っていなかったようです」
 ローザの「愛の紋章」を攻略するために、彼女を母と思い込むよう自らに施した暗示。役になりきり過ぎるのもよかれ悪しかれだ――でなければ、こんなに胸を締め付けられるような、切ない思いはせずに済んだだろうから。

「『母』を弔いたいので貴女にはもう一度、灰になっていただきます」
「ふん。敗れた敵のことまで気にかけるなんて、随分とお優しいこと」
 肩幅ほどに足を開き、両手で太ももをなぞりながらゆっくりと上体を起こした後、火が付いたように激しく踊りだすクロリア。その様子を見た女吸血鬼はふんと侮蔑と嘲りに満ちた視線を向けながら、手にした短剣に自らの血を纏わせる。
「変わりなさい、我が短剣よ」
 瞬く間に真紅の長剣に変化した得物を振るい、踊り子の命を刈り取らんとする吸血鬼。
 対するクロリアは鼓動で刻む「紅焔の旋律」に身を任せたまま、ひらりと紙一重でその切っ先を躱した。

「そういえば貴女の紋章、月光に反応していましたね」
「……っ」
 すれ違う際に呟かれた一言に、女吸血鬼の表情が変わる。遺灰からの復活時を初めに、たびたび暗示された彼女の「紋章」と月光との関連性をクロリアは見逃していなかった。
「ダラキュな貴方に相応しい腕が決まりました」
 確証をもってさっと振り上げた錆色の【蠱の腕】が、彼女の意思に従い変化していく。平時は人間の形をしていても、バイオモンスターである彼女の肉体は千変万化。空に向かって高々と掲げられたそれは、降り注ぐ月光を遮るように大きく広がる。

「そんなもので……っ?!」
 巨大化した錆色の腕が、女吸血鬼の元に影を落とす。「紋章」に光が当たらなくなったその瞬間を狙って、クロリアはステップを踏みながら足元よりリズムの衝撃波を放った。
「『母』の遺灰で得たヒントです。想いを上乗せで賭けてみましょう」
 敵の傍まで一気に接近したのち、身に纏うオーラを全力で放出。蠱腕の傘にオーラの檻を合わせることで、一時の間ながら「紋章」が受ける月光を完全にシャットアウトする。
 今の自分が持てるありったけをベットした賭けに、クロリアは勝った。錆色の檻に囚われた女吸血鬼からは明らかに覇気が失われ、表情には隠しきれない動揺が浮かんでいる。

「出番に遅れた役者には、即刻退場してもらいます」
 敵をレンジに捉えたクロリアが全身を使って表現するのは、天を衝かんと燃え上がり、鎮まることなく燃え広がる紅蓮の炎。胸に残り続ける「母」への想いも上乗せする事で、より激しさを増した情熱と欲望のリズムは、彼女の脚に灼熱を纏わせる。
「ま……待ちなさ……ッ!!!!!」
 慌てる女吸血鬼の制止も聞かず、燃え盛る蹴撃は銛のように鋭く標的に突き刺さった。
 女の身体は衝撃でくの字に折れ曲がり、腹には風穴を開けられ、炎上しながらその場に崩れ落ちる。その威力は、まやかしなれども「子」の「母」への想いを証明するが如く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
「紋章」の力の源にでも変えられていたか、紋章に封じられた本体や別人格、というところかしら?
まぁ、正体が何にせよ、貴女を倒す事に違いないわ。

引き続き【創造支配の紅い霧】を発動。
「クリムゾン・ムーン」という名乗りと紋章の形から、頭上の紅い月が紋章の力の条件では、と考え、充満する紅い霧で月の光を遮る事で無効化を試みるわ。

後は紅い霧から実体を持った自身の分身体を『創造』。
分身体と共に魔槍による近接戦や魔術による一斉攻撃で敵の動きを観察し、無効化のヒントを探ったり、無効化できたらそのまま一気に追い込むわ!

最後は数多の分身達と共に【神槍グングニル】を発動。
【グングニル】の一斉攻撃で消し飛ばしてあげる!



「『紋章』の力の源にでも変えられていたか、紋章に封じられた本体や別人格、というところかしら?」
 マドンナ・ローザの遺灰から現れた「紋章」、そして再生した新たな吸血鬼について、フレミアはそのような考察を巡らせていた。明らかに別人と思しき態度や思わせぶりな言動、状況証拠等からの推測だが――いずれもこの場では確証に至れるものではない。
「まぁ、正体が何にせよ、貴女を倒す事に違いないわ」
「やれるとお思いですか? ローザにも苦戦した貴女達に」
 思考を切り替え、引き続き【創造支配の紅い霧】を発動する彼女に対し、クリムゾン・ムーンは【立ち上がりなさい、我が僕よ】と唱える。すると復活時に再生しきらずに残された灰の一部がレッサーヴァンパイアの群れとなり、主人を脅かす者に襲い掛かった。

「全てを満たせ、紅い霧……」
 広がる紅い魔力の霧から、フレミアが創造するのは自分自身。今度はあの一般人のような無力な幻覚ではなく、実体を持ち戦闘も可能とするほどの再現性を持たせた分身体だ。
「夢も現実も、全てはわたしの思うまま。ようこそ、わたしの世界へ」
 艷やかに微笑んだフレミア"達"は、同時に複製された魔槍の穂先を女吸血鬼とその眷属に突きつけ、魔術による一斉攻撃を開始する。放たれた真紅の魔弾はレッサーヴァンパイアの群れを蹴散らし、血の雨のようにクリムゾン・ムーンの元に降り掛かった。

「混血とはいえ流石は同族ですか。しかしこの程度ではまだ……!」
 女吸血鬼は魔弾の豪雨をひらりと躱すと、分身体の一人に近付いて短剣を突き立てる。
 閃光と見紛うほどの鋭い刺突を受けた分身体は、声もなく紅い霧へと還る。外見は人に近いとはいえ『第五の貴族』、その戦闘能力はローザと比較してもまるで衰えていない。
(力は前と同等かそれ以上といったところね……でも、弱点も分かってきたわ)
 フレミアは分身と連携して接近戦を挑みながら、敵の動きを観察していた。紅い霧が覆う戦場で、女吸血鬼は窓際等のなるべく明るい位置に陣取っている。闇の種族である吸血鬼が暗闇を避けるような振る舞い――そこに彼女は「紋章」を無効化するヒントを得た。

(あの頭上の紅い月が、紋章の力の条件ではないかしら)
 敵が名乗った「クリムゾン・ムーン」という名や紋章の形からも確信を深めたフレミアは、創造支配の紅い霧をさらに充満させ、内部から紅い月が完全に見えないようにする。
「くっ……また……!」
 月光の下から隔離された女吸血鬼の反応は顕著だった。胸元の「紋章」から光が消え、それまでの超人的な動きにも陰りが表れる。明らかな敵の弱体化から無効化の成功を確認したフレミアは、ここぞとばかりに一気に攻勢を仕掛けた。

「力に傲って情報を出し過ぎたわね」
「っ……!」
 生き残った分身と本体に攻め立てられ、あっという間に劣勢に追い込まれる女吸血鬼。
 この好機を逃さずフレミアは【神槍グングニル】を発動。一振りでもマドンナ・ローザに大打撃を与えた最大火力を、今度は分身達と共に顕現させて――。
「これで消し飛ばしてあげる!」
「――――ッ!!!!?!」
 頭上の紅月よりも紅く燦然と輝く神槍の一斉攻撃が、クリムゾン・ムーンに降り注ぐ。
 目も眩むほどの爆光が戦場を満たし、余波の衝撃により紅い霧が吹き飛ばされ――見るも無惨に破壊された屋敷の一角には、ボロボロになった女吸血鬼が膝を付いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天星・暁音
また紋章か…まあ紋章があろうとなかろうと強敵なのは分かってたことだからね
悪いけど君にあげる血はないから諦めてちょうだい
消耗を出来る限り抑えた甲斐はあったね
弱点を探す時間だっているもの、とにかく皆が倒れないように護る
皆、全力で治して支えるけど気をつけて、危ないと思ったら一度下がって身を護ることも必要だからね


攻撃よりも回復と支援を全力で行います
自分の消耗は気に留めずとにかく全員に高速回復を施していきます
敵からの攻撃は躱すなりスキルで防御するなりで対処します
どれだけふらふらになっても戦闘が終わるまでは立ち続けて癒し続けます
戦闘後は任せます

スキルアイテムご自由に
アドリブ共闘歓迎


一駒・丈一
単身で挑む。

…全く。余韻が台無しだ。

紋章の特性は、月光に因むものと推測するが、もう少々この推測の確度を上げたい

よって、もう一つの秘中の秘、UC『偽善』を使う。
模造対象は、お前の最大の武器…その紋章だ…!
何、使おうとは思わん。一瞬身に宿し、特性と弱点を暴ければそれで良い。

俺が勝利を掴む事は出来ぬだろう。が、構わん。
その紋章が何かを後続に伝え、その者らの勝利の確度を上げる事が狙いだ
故に、紋章の強大な力で意識を手放す前に、【見切り】を付けた紋章の特性と弱点を叫んで後続に伝えよう

名乗るのが遅れたな。俺は一駒だ。戦場において、常に一つの駒に過ぎぬ者。即ち、捨て駒だ
故に…勝利は、この後に続く者が掴めば良い



「……全く。余韻が台無しだ」
 マドンナ・ローザの死と母娘の別れを見届けた丈一は、これまで一緒に戦ってきたはずの仲間達から離れ、復活した『第五の貴族』クリムゾン・ムーンに単身で対峙していた。
 冷静沈着な面持ちの裏に秘められた心は、仲間の礎となる覚悟。正体不明の敵から確実な勝利をもぎ取るためには、誰かが身を挺して情報を引き出す必要もあるだろう。
(紋章の特性は、月光に因むものと推測するが、もう少々この推測の確度を上げたい)
 既に記憶を対価とする秘策の一つを使った彼は、更にもう一つの秘中の秘を解禁する。
 その名は【偽善】。己の勝利と引き換えにして、眼前の敵の持つ武器を模倣する技だ。

「……それは!?」
 丈一の胸元で形成されていく「それ」を見て、女吸血鬼は思わず驚愕の叫びを上げた。
 月光を浴びて煌く、ブローチほどの大きさの宝石状のそれは紛れもなく『第五の貴族』のみに創造が許されたはずの「紋章」――しかもそれは彼女のオリジナルだった。
「俺が模造する対象は、お前の最大の武器……その紋章だ……!」
 まさしくそれは秘中の秘と呼ぶに相応しい妙手だった。敵が有する最大の優位性である「紋章」を我が物とすれば、彼我の力関係は前提からして覆る。クリムゾン・ムーンが焦るのも無理はないことだった。

「バカな。猟兵如きに紋章を創れるはずが……できたとしても使いこなせる訳がない!」
 動揺を隠しきれぬまま叫ぶ女吸血鬼の発言は、しかし的を得てもいた。「紋章」とは只の道具ではなく、それ自体が一種のオブリビオンである。猟兵とは根本から相反するそれが、複製だとしても素直に力を与えようとするかは限りなく怪しい。
「何、使おうとは思わん。一瞬身に宿し、特性と弱点を暴ければそれで良い」
 だが丈一にとってはそれでも十分だった。模造した「紋章」を己に寄生させ、身を以て全容を解明する。反動として「紋章」に身を蝕まれることになろうとも――構うものか。

「させるものですか! 護りなさい、我が命の源よ!」
 丈一の狙いを知った女吸血鬼は全身を自身の血液で覆い、解析の隙を与えまいと襲って来る。『第五の貴族』が手ずから作り上げたオリジナルの紋章となれば、流石に"一瞬"で効果を把握するまでには至れない。その間に口を封じてしまおうという算段だ。
「ぐ……っ」
 降り注ぐ紅い月光を浴びて二つの「紋章」が輝く。その時、丈一は確かに自身の内から力が湧き上がってくるのを感じた。普段とは別物のように身体が軽く、五感もはっきりと研ぎ澄まされている――平時ならば捉えるのも困難な敵の動きも、はっきりと視えた。

「この紋章の効果は純粋な戦闘能力の向上か。そして弱点は――」
「口を閉じなさいッ!」
 短剣を振りかざす女吸血鬼の猛攻に、丈一は刀を抜いて応戦する。模造品とはいえ同じ「紋章」を持つ者同士の戦いは拮抗するが、変種のオブリビオンを寄生させた代償は確実に彼を蝕んでいく。
(使うつもりは無かったのだが……こいつ、勝手に力を与えてくるな)
 自動的にそう設定されているのか、あるいは紋章自身の意思なのか。人の身に過ぎた強大な力は丈一の心身に多大な負荷をかけて自滅へと導く。彼は意識を手放す前に気力を振り絞り、後続に情報を伝えようとするが――その時、月とは異なる光が戦場を照らした。

「祈りを此処に、妙なる光よ。命の新星を持ちて、立ち向かう者達に闇祓う祝福の抱擁を……傷ついた翼に再び力を!」

 それは暁音が唱えた【神聖なる祈りの抱擁】。心身を癒やす神聖なる光は、敵から受けたダメージを治療するだけでなく、邪悪な「紋章」がもたらす悪影響をも和らげていく。
「また紋章か……まあ紋章があろうとなかろうと強敵なのは分かってたことだからね」
 星具シュテルシアをかざして戦場を聖光で照らしながら、暁音はやれやれといった様子で敵を見る。いったい幾つ「紋章」を作っていたのかと文句を言いたくもなるが、こちらも何が起こっても対応できるように、ここまで力を温存してきたのだ。

「悪いけど君にあげる血はないから諦めてちょうだい」
「喧しい……ッ!」
 厄介な治療能力持ちの出現に顔をしかめる女吸血鬼。だが暁音の血を吸い尽くしてやりたいと思っても、目の前にいる「紋章」を模造者――丈一を放置するわけにもいかない。
 焦りからか彼女の攻撃はより苛烈さを増し、それを受ける丈一は防戦一方に。血塗られた短剣に切り刻まれる彼を、暁音がひっきりなしに神聖なる光で治療する。
(消耗を出来る限り抑えた甲斐はあったね。弱点を探す時間だっているもの)
 丈一が敵の「紋章」を解析しようとしているのを知った暁音は、とにかく彼が倒れないよう全力で護ると決めた。【神聖なる祈りの抱擁】は使用する度に自身の疲労を伴うが、これを見越して残してきた体力は十分、例えフラフラになっても癒やし続けてみせる。

(彼が援護に入ってから紋章の負荷が弱まった。これは治癒効果だけではないな)
 一方の丈一は暁音の癒やしを受けながら「紋章」の特性について見切りをつけていた。
 心身を蝕まれるような感覚が薄らぐと共に、全身に漲っていた力も弱まった。にも関わらず戦いはまだ拮抗しているという事は、敵にも同じ現象が起こっているのだろう。
「俺を治療するこの光が月光を陰らせた。紋章の力が弱まったのはそれが原因か」
「……ッ!!」
 そう指摘された瞬間に敵が浮かべた苦渋の表情が、推測を裏付ける最後のピースとなった。「紋章」の弱点を看破した彼はすうと息を吸い、普段は出さないような大声で叫ぶ。

「聞け! この紋章は宿主を大幅に強化する。だがそれは月光を浴びている間だけだ!」
 屋敷の隅まで響くような大声は、必ずや後続となる仲間達にも届いたであろう。努めを果たした丈一はどこか満足そうな様子で、自身の胸元に寄生した「紋章」を引きちぎる。
「やってくれましたね……!」
 これで「紋章」の弱点はより多くの猟兵に伝わった。怒りに震えながら牙を剥く女吸血鬼の攻撃を防ぐ力は、もはや彼には残っていない。それでも男の表情に死の恐怖はない。
「名乗るのが遅れたな。俺は一駒だ。戦場において、常に一つの駒に過ぎぬ者。即ち、捨て駒だ」
 唯の捨て駒が、治癒の援護があったとはいえ単身で未知の敵にここまで食い下がれた。
 たとえ勝利をこの手に掴むことができずとも、一矢報いる以上の戦果と言えるだろう。
「故に……勝利は、この後に続く者が掴めば良い」
「その為なら自分の命は惜しくないと? ならば望み通りにしてあげましょう!」
 心臓に向かって振り下ろされる短剣。突き刺されば確実に絶命に至るであろう一刺し。
 しかし間一髪――両者の間に割り込んだ暁音が、燦然と輝くオーラの結界を展開する。

「俺の前で、誰かを殺せるなんて思わないでよね」
 丈一に捨て駒としての覚悟があるのならば、暁音には癒し手としての覚悟がある。度重なる治癒の連発で身体は鉛のように重く、視界はチカチカと霞むが、まだ膝は折れない。
「全力で治して支えるけど気をつけて、危ないと思ったら一度下がって身を護ることも必要だからね」
「……ああ。そうだな」
 彼の言葉に丈一は静かに頷くと、朦朧とする意識を辛うじて繋ぎ止めながら後退する。
 それに合わせて暁音も結界を維持したまま撤退を援護。無論、それをみすみす逃がすほど敵も甘くはなく、即座に追撃を仕掛けようとするが――。
「待ちなさ――ッ?!」
 どうやら、先ほどの叫びを聞いて駆けつけた猟兵の誰かが、女吸血鬼を阻んだようだ。
 丈一と暁音が掴み取った"情報"と"時間"は、『第五の貴族』をさらに追い詰めていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
確かに、力はローザに劣らないかもしれない…でも、貴女には彼女の様な狂気のような信念・執念を感じられない…。

彼女が復活したのは紅い月の光を受けた時だった…。
そして、紋章が煌き、力が放出されたのも月光に照らされた時だった…
つまり、彼女の力の源はあの月…。

【九尾化・天照】封印解放…!
月と相反する太陽の光…
月は太陽の光を受けて輝く…。
だけど、月は太陽が出ている間はその輝きを失う…。

【天照】の太陽の光と光を操る力で月光が彼女に届く前に遮り無効化…。
そのまま太陽光のレーザーで敵を狙い撃ちしつつ、光速で接近…。
二刀による連続攻撃を仕掛け、神太刀で再生力を封じ、紋章に刃を突き立てるよ…

貴女はローザより弱い…



「確かに、力はローザに劣らないかもしれない……でも、貴女には彼女の様な狂気のような信念・執念を感じられない……」
 後退していく味方に代わって、クリムゾン・ムーンの前に飛び出したのは璃奈だった。
 血に染まった短剣を二振りの妖刀で受け止めながら、彼女は毅然とした視線で告げる。この女吸血鬼はローザと精神性において完全に別人――理性的であり傲慢だが、そこには他を圧倒するような強い気魄や、狂おしいまでの情念は無かった。
「だから、何だと言うのです……私があの狂人に劣るとでも?!」
 クリムゾン・ムーンは不快そうに眉をひそめながら【護りなさい、我が命の源よ】と唱え、全身を自身の血で覆って戦闘力を強化する。血の鎧に守られるように胸元の「紋章」は輝き、膂力を増した刃が妖刀を押し返していく。

(彼女が復活したのは紅い月の光を受けた時だった……そして、紋章が煌き、力が放出されたのも月光に照らされた時だった……つまり、彼女の力の源はあの月……)
 しかし璃奈は既に女吸血鬼の力の秘密を看破している。月光を浴びている間のみ、絶大な力を宿主に与える「紋章」――わざわざ地底に月を創り出したのもその為なのだろう。
 条件さえ分かってしまえば、それを封じる手段はある。魔剣の巫女は妖刀を握る手に力を込めながら、【九尾化・天照】の封印を解く。
「我らに仇成す全ての敵に太陽の裁きを……封印解放……!」
 その瞬間、彼女の身体から放たれたのは燦然たる太陽の輝き。全ての吸血鬼達が恐れるその光を間近で浴びたクリムゾン・ムーンは「きゃっ?!」と悲鳴を上げて飛び退いた。
 眩き光の中で璃奈の髪と尾は銀から金に変化し、九本に分かれた尾がゆらりと揺れる。それはまさに神話に謳われる太陽神・アマテラスを彷彿とさせる姿であった。

「月は太陽の光を受けて輝く……だけど、月は太陽が出ている間はその輝きを失う……」
 月光と相反する太陽の光は、本来ならそれが届かないはずの地底世界を明るく照らし、直上に浮かぶ紅い月を陰らせる。敵に届く前に月光を陽光で遮って無効化してしまえば、もはやクリムゾン・ムーンの「紋章」は力を発揮しない。
「忌まわしい太陽の光……まさか、こんな力を隠していたなんて……!」
 目を焼かれないようにと、血液のヴェールを纏う女吸血鬼。璃奈はそれを太陽光を集束させたレーザーで狙い撃ち、敵を牽制しながら接近する。天照の力を解放した彼女は自在に光を操り、さらには光と同じ速さで動くこともできるのだ。

「紋章の力を封じられただけで、そんなに焦るなんて……」
 天照による光速の剣技を以て敵に斬り掛かる璃奈。先程とは攻守が逆転する形となったが、「紋章」の力を喪ったクリムゾン・ムーンに、今の彼女の太刀筋を見切る力はない。
 二刀による目にも止まらぬ連続攻撃――特に再生力を封じる「九尾乃神太刀」の斬撃は、敵の肉体に消えない傷を刻みつけていく。追い詰められゆく女吸血鬼が焦りから隙を見せれば、その瞬間に天照の剣姫はさらに一歩踏み込んで。

「貴女はローザより弱い……」
「―――ッ!!!」
 突き立てられた言葉と白刃は、クリムゾン・ムーンの「紋章」と精神を同時に貫いた。
 胸元から鮮血を吹き出して、ふらり、とよろめく女吸血鬼。その表情は苦痛と屈辱から醜く歪み、当初の高貴な態度は見る影もなくなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・フォーサイス
血に固執してる感じはするな。それが、能力の条件?それとも吸血鬼だからなのかな。

まずは様子見だね。ユーベルコードを使って避けながら、あいての紋章の正体を解析していくよ。

そういえば、いつもアレを維持してるな。それが条件?なら試すまでだね。

高速詠唱の魔法で仮説を試しながら、推理していくよ。



「血に固執してる感じはするな。それが、能力の条件? それとも吸血鬼だからなのかな」
 不気味な紅い月が照らす屋敷で、復活した『第五の貴族』を前にして、分析と解析を行うアリス。データを収集して答えを導き出すのは、情報妖精にとっては得意分野である。
「血を……流しすぎましたね……」
 一方で負傷の蓄積したクリムゾン・ムーンは【護りなさい、我が命の源よ】と唱え、流した血液で自らの全身を覆う。失った生命力を他者から補充しようと、その瞳は飢えた獣のようにギラギラと輝いていた。

「私の糧となりなさい……!」
 逆手に持った短剣を牙のように振りかざし、獰猛に襲い掛かる女吸血鬼。対するアリスは【ファデエフ・ポポフゴースト】を発動、分析を続けながら自身の身体を量子化する。
「まずは様子見だね」
 敵の刃が切り裂いたのは彼女の残像のみ。量子と現実の狭間を飛び回りながら、その視線は常に相手の「紋章」に注がれている。それの正体を明らかにするまでは闇雲に攻めても効果はないだろう、ゆえに回避に徹しながら解析に全力を尽くす。

「えいっ」
 量子化直後に実体化したアリスがロッドから炎の魔法を放つ。もしも血液が条件なら、火で蒸発させればどうなるか――という仮説に基いた攻撃が女吸血鬼の纏う血液を焼く。
「……この程度ですか?」
 結果は失敗。血の鎧をいくらか蒸発させはしても、炎に炙られた敵は平然としている。
 再び襲い掛かる刃をまた量子化で避けながら、アリスは次の仮説を考える。ひとつ失敗したくらいでめげたりしない、解析においてトライ・アンド・エラーは基本中の基本だ。

(そういえば、いつもアレを維持してるな。それが条件? なら試すまでだね)
 アリスはすぐに新しい仮説を立てると、情報端末の力を借りて高速で呪文を組み上げ、今度は敵ではなく頭上に向けて放つ。発動するのはホログラフィックの技術を応用した、一種の幻覚魔法――仮想現実で創られた風景が、戦場を照らしていた紅い月を覆い隠す。
「……しまった?!」
 今度は当たりだったようだ。本来は地底世界にあるはずのないあの月は「紋章」の力を維持するのに必要なものだった。急激に魔力の衰えていく女吸血鬼の様子を見れば、それは一目瞭然だった。

「解析完了。そしてチャンスだね」
 推理を終えたアリスは敵の「紋章」が無効化されている隙に、一気に反撃へと転じる。
 杖先から放たれる炎や水、電撃に風といった魔法の数々。それは女吸血鬼を護る血の鎧を焦がし、押し流し、本体にまでダメージを与えていく。
「くっ……覚えて、いなさい……!」
 ここでは分が悪いとみた女吸血鬼は、悔しげに歯を食いしばりながら幻影のフィールドより撤退する。高慢にして強大なる『第五の貴族』は、確実に追い詰められつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
ローザは有害極まりない愛に満ちていましたが、逆に貴女は愛が足りませんね。
この世界を解放し、人々を救う為にも倒させて頂きます!
と、UC発動して戦闘突入。

頭上の紅い月の光が相手に力を与えているかもしれないので、天候操作で雲を発生させて月を隠す。

相手の攻撃は第六感と見切りで読んで、UCの高速飛翔能力&空中戦で回避(地底という限られたスペース内での戦闘なので、速度は程々に抑えます)。

多重詠唱による氷と雷の属性攻撃・全力魔法・高速詠唱・スナイパーで雷纏う氷の矢をばら撒いて撃ち抜き、冷気と痺れで動きを止めた所に、煌月による光の属性攻撃・神罰・破魔・貫通攻撃で真紅の紋章を貫いて、彼女を倒します!



「ローザは有害極まりない愛に満ちていましたが、逆に貴女は愛が足りませんね」
 別人としか思えない、余りに両極端な変貌を遂げた『第五の貴族』を視野に捉えつつ、詩乃は凛とした表情で呟く。愛に狂った者と愛なき者、いずれもこの世界の人々に害為す存在であるのならば、彼女の為すべきことは変わらない。
「この世界を解放し、人々を救う為にも倒させて頂きます!」
 高らかな宣言と共に【神性解放】。植物の女神アシカビヒメの象徴たる若草色のオーラを身に纏い、神としての威光を明らかにした彼女は、翼もなくふわりと宙に舞い上がる。

「異教の神……貴女達は辺境で大人しくしていれば良いものを!」
 既にこの世界を支配する吸血鬼にとっては、神など煩わしいものに過ぎないのだろう。【変わりなさい、我が短剣よ】と唱えれば、女吸血鬼が流した血は紅い長剣を形成する。
 彼女も「紋章」持ちとなればその実力はローザに劣るまい。しかし詩乃が手を上にかざすと、頭上から戦場を照らしていた紅い月が、にわかに発生した雲に覆い隠されていく。
「この紅い月の力が貴女に力を与えているのでしょう」
 それはこれまでの戦闘や味方が伝えてきた情報から明らかだ。ならば敵が月光を受けられないようにすればいい――女神の力を以てすれば、局所的な天候操作など容易いもの。
 紅月が雲に隠されるのと共に「紋章」も輝きを失い、女吸血鬼は本来の力を喪失する。

「くっ……まだです!」
 月光の加護が受けられなくなっても女吸血鬼は諦めない。飛蝗のような跳躍力で床を蹴ると、空中の敵に真紅の長剣を振るう。対する詩乃は第六感でいち早くその動きを読み、【神性解放】によって得た高速飛翔能力を活かして攻撃を回避する。
(地底という限られたスペース内の戦闘では、全速力は出せませんが)
 程々に抑えたスピードでも「紋章」を無効化された敵を相手取るには十分。神の戦巫女は天女のように戦場を舞いながら、指先を追いすがる敵に向けて、涼やかに詠唱を紡ぐ。

「氷よ、雷よ、邪悪を射抜け」
 ひょうと風を切る音を立てて、雷を纏う氷の矢が放たれる。月光を遮る雲から降り注ぐような矢の雨を、クリムゾン・ムーンは血の剣で切り払うが、全ては捌き切れなかった。
「ぐっ……!」
 数本の矢が標的を撃ち抜き、冷気と痺れによって女吸血鬼の動きが止まる。その機を逃さず詩乃は自らの神力を籠めた薙刀「煌月」を振りかざし、流れ星のように急降下する。

「人々を世界を護る為、全力で貴女を討ちます!」
 護りたいという想いの高まりに比例して、女神アシカビヒメの力は増大する。その一撃は危害ある全てを浄化する若草色のオーラの光を纏い、過たず真紅の「紋章」を貫いた。
「がは……ッ!!!」
 胸元を深々と抉られたクリムゾン・ムーンは喉から絞り出すような悲鳴を上げ、罅割れた「紋章」を押さえながらよろよろと後退する。その様はまるで神威に慄くかのように。
 紅月の加護なき戦場において、植物の女神の加護は美しくも苛烈に咲き誇るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
紋章の宿主の死をトリガーとした別存在への新生、或いは召喚……?
いや、理屈はどうでもいい。何度でも滅ぼすのみ

シスターの姿に戻り、【怪力】を以って聖槍を振るい、長剣と斬り合う
強大な膂力、聖槍の加護(オーラ防御)を突破してくる生命力吸収、従僕を創り出す能力、そして何よりその不死性……純粋に、吸血鬼としての完成度が極めて高い

夜と闇を支配する無敵の怪物
それを穿つのは神でも英雄でもない……人々の【祈り】だ
【闇の世界に青空を】

暗黒の地底世界で晴れ渡る青空、紅き月の出る幕など、もうありはしない
人々の祈りによって作り出された太陽の光
それを受けて輝く聖槍を、全霊の力を以って【投擲】
貫き、穿て――!



「紋章の宿主の死をトリガーとした別存在への新生、或いは召喚……?」
 これまでに例のなかった「紋章」とその所持者の変貌に、オリヴィアの頭脳は反射的に思考を巡らせる。こうして対峙した今でも『第五の貴族』とはいかなる存在なのか、その全容は未知のヴェールに阻まれ明らかにはならない。相手も明かすつもりは無いだろう。
「いや、理屈はどうでもいい。何度でも滅ぼすのみ」
 一度滅ぼせたのならば二度目も滅ぼせるはず。復活した敵にも闘志は萎えることなく、彼女はバニーからシスターの姿に戻り、最も使い慣れた武器である破邪の聖槍を構えた。

「この私を滅ぼす……? そんなこと不可能です。我らは不死にして不滅の貴族」
 威圧するように告げる女吸血鬼の眼光は、射竦めめられただけで背筋が凍るほど鋭い。しかし彼女が決して無敵の存在ではない事は、先の『マドンナ・ローザ』の敗北、そして彼女自身に付けられた数多の傷が証明している。
「傲慢だな」
「ほざきなさいッ!」
 全身には血の鎧を、手には真紅の長剣を構え、灰から生み出した眷属と共に斬り掛かるクリムゾン・ムーン。胸元で輝く「紋章」の加護を受けたその力は、凡百のヴァンパイアとは比較にもならず――聖槍にて真紅の剣を受け流したオリヴィアの手に、痺れが走る。

(重い……!)
 人並み外れた怪力を誇るオリヴィアが、正面から力負けするほどの膂力。それも力任せに剣を振るうのではなく、女吸血鬼の手には技倆も備わっており、捌き切れなかった斬撃が獲物の肌を切り裂くと、流れ出した血が刃に吸われていく。
「こんなものですか! 身の程を知りなさい、猟兵風情が!」
 真紅の刃と黄金の穂先が斬り結び、戦場に幾多の火花が散る。だが傷を負っているのはオリヴィアだけで、拮抗していると言うよりもギリギリで凌いでいると言うほうが近い。さらに創造されたレッサーヴァンパイアの眷属までもが、彼女に追撃の牙を剥く。

(強大な膂力、聖槍の加護を突破してくる生命力吸収、従僕を創り出す能力、そして何よりその不死性……純粋に、吸血鬼としての完成度が極めて高い)
 本人の資質と「紋章」の効果により、極限の域まで高められた基礎能力。それは特殊な能力や搦手を用いずに、真っ向からあらゆる相手を圧倒できるほどの脅威となっている。
 こういった手合いこそが、ある意味では最もやり辛い――だが、いかな強大な存在にも弱点はある。それはオリヴィアがこれまでに経験してきた数々の戦歴が教えてくれる。
「夜と闇を支配する無敵の怪物。それを穿つのは神でも英雄でもない……人々の祈りだ」
「なにを愚かなことを……ッ?!」
 嘲笑おうとした女吸血鬼の表情が、視界の端に映った「色」を見て、はっと一変する。
 頭上を見上げれば、そこにあったのは見慣れた地底世界の天井ではない。この世界には存在しない――否、彼女達が奪い去ったはずの、青く、どこまでも突き抜けるような空。

「切なる願い、尊き祈り、希望の象徴を、今ここに」

 【闇の世界に青空を】――この世界の生きとし生けるものの祈りを束ねたオリヴィアのユーベルコードによって、晴れ渡る青空が暗黒の地底世界に現出する。雲ひとつなく澄み切った天に月の居場所はなく、代わって戦場を照らすのは太陽の光。
「紅き月の出る幕など、もうありはしない」
「ば、馬鹿な……ッ!!?」
 オブリビオンとしてこの世に舞い戻って以来、二度と見ることは無いだろうと思っていた蒼穹と太陽が、夜闇の怪物から力を奪う。月光を受けられない「紋章」は輝きを失い、従僕は灰に還り、血の武具は溶けるように崩れる。その機を見逃すオリヴィアではない。

「貫き、穿て――!」
 幾多もの人々の祈りによって作り出された太陽の光を受けて、燦然と輝く破邪の聖槍。
 オリヴィアはその矛先を苦しげによろめく女吸血鬼に向け、全霊の力を以て投擲する。
 その瞬間、槍は黄金の流星となって、邪悪なる者の心臓に吸い込まれるように翔けた。
「がは―――ッ!!!!!!」
 胸元の「紋章」ごと、深々とその身を貫かれたクリムゾン・ムーンの口から、悲鳴と共に夥しい量の血反吐が溢れ、その膝はがくりと崩れ落ちる。青空を願う人々の想いと破邪の力、その全てを一身に受ければ、いかな『第五の貴族』とて無事ではいられなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

北条・優希斗
陽太(f23693)さん、アカネ(f05355)さんと
アドリブ・連携可
…何やら胸騒ぎがして来てみれば
紅き月、か
ならば対なる蒼で無効にするまで
先制攻撃+早業+属性攻撃:蒼穹+UC使用
蒼穹の骸の海を放出、紅の月光を断つ
その後、アカネ&茜姫へ
何、2人が無事なら安いものだよ
陽太さん…いや、皆
今は、一気に畳みかけるよ
陽太さん・アカネ(茜姫)さんと連携しつつ
情報収集+第六感+戦闘知識で敵の動きを見切り
残像を曳いてダッシュ、ジャンプで肉薄
敵の懐に潜ったら蒼月、月下美人を抜刀、二回攻撃+早業+薙ぎ払い+属性攻撃:蒼+鎧無視攻撃+串刺しで胸元の紋章を攻撃
防御は残像で攪乱しつつ見切り+早業で回避
気休めにオーラ防御


アカネ・リアーブル
陽太様
優希斗様

現れた敵の姿にざわつく胸を押さえます
この場の死者ーマドンナ・ローザが蘇り
再び茜姫を籠絡しようと手を伸ばし
その声に茜姫が魂の内側から叫ぶ声が

甘い声をかき消すように世界が蒼穹に染まり
いけません優希斗様!その技は…!
同時に強引に外へ出ようとした茜姫が正気に返り息を呑む気配が
よく御覧ください茜姫
あそこにいるのは縁姫ではありません
アカネは茜姫を縁姫には渡しません!
絶対に!

アカネが足止め致します!
指定UC
無数の鎖でムーンを捕縛しローザをおびき寄せ強く抱擁
激痛耐性と軽減効果で耐えながらローザ足止め

アカネの大事な人達を骸の海へ行かせません
アカネ達の幸せを過去に渡したり致しません!
どうぞお覚悟を!


森宮・陽太
黒髪のにーちゃん(優希斗・f02283)&アカネ(f05355)と
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

けっ、復活しやがったか
しかも紅き月の光で、か?
月光を遮ればどうにか…って黒髪のにーちゃん!?

その技(優希斗指定UC)を使うなら速攻勝負しかねえ!
アカネ、行くぞ!!

「高速詠唱、言いくるめ」から【悪魔召喚「アスモデウス」】
アスモデウスに命じ、胸元の紋章に獄炎を浴びせる
獄炎に気を取られている間に「忍び足、闇に紛れる」で背後を取り
優希斗、アカネと連携して背後から「ランスチャージ、串刺し」、背中から紋章ごと貫く
反撃は「残像」を囮に回避か「オーラ防御」で軽減

誰の過去も未来も持って行かせやしねえよ!
てめえが散れ!



「けっ、復活しやがったか。しかも紅き月の光で、か?」
 これまでとは別人の姿で蘇った『第五の貴族』を前に、陽太は顔をしかめながら頭上に浮かぶ月を見上げる。本来地底にあるはずのないあれが復活の要因にして「紋章」の力の源であることは、幾つもの状況証拠から断定して良いだろう。
「……あまり、良くない状況ですね。ここは……立ち上がりなさい、我が僕よ」
 劣勢に立たされた女吸血鬼「クリムゾン・ムーン」は、自身の復活時に取り残された灰に命を発する。それは先刻倒された「マドンナ・ローザ」の遺灰――単独でも十分に猟兵を苦しめた魔竜が、新たな『第五の貴族』の眷属として今ひとたび蘇る。

「あれは……」
 翼を広げる竜の姿を見た瞬間、アカネがざわつく胸を押さえる。先程の戦いにてローザの事を「母」と認識していた茜姫の意識が、ひとつの身体に戻った後も暴れているのだ。
『私ノ……愛シイ、子……サア、オイデ……』
 レッサーヴァンパイアとして蘇らされたローザに自我はない。それは遺灰から創られた魂のない抜け殻のようなもので、命令に従う他はレコードのように生前の言動を繰り返すのみ。だが――再び"愛し子"を籠絡しようと伸ばされる手が、茜姫の心を乱す。
『ああ、お懐かしいお母様……わたくしも、すぐお傍に……!』
 魂の内側から叫ぶ声が聞こえる。慟哭にも似た茜姫の感情に身体の主導権を乗っ取られないよう、アカネは己を律するので精一杯。とても戦闘に集中できる状態ではない彼女を見て、陽太は険しい顔を浮かべながら、酷薄に笑う女吸血鬼と魔竜に対峙する。

「無様なものですね。分かたれた自分の心に反逆されるとは」
 クリムゾン・ムーンにとっては、盾にする程度のつもりで呼び出した下僕だったかもしれないが、この結果は思わぬ僥倖となった。敵が一人動けなくなっている内に戦力を削ぎ落とそうと、レッサー・ローザと共に襲い掛かってくる。
「ちっ。月光を遮ればどうにか……」
 分の悪い状況に陽太は舌打ちしつつ、敵の力の源であるを月光を断つ方法を考えるが――彼がそれを思いつくよりも先に、聞き覚えのある声が足音と共に背後からやってきた。

「……何やら胸騒ぎがして来てみれば」
 現れたのは陽太とアカネにとって共通の知人となる黒髪の妖剣士、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)。仲間の危機を察して急遽駆けつけた彼はすぐに状況を理解すると、戦場を不気味に照らす紅月に視線を向ける。
「紅き月、か。ならば対なる蒼で無効にするまで」
 使用するのは【闇技・蒼滅永眠波】。己の全身より骸の海を放出し、この世界から失われた蒼穹の「過去」で戦場を染め上げる。津波のように押し寄せる過去の奔流は、ローザの残滓が発する甘い声をかき消し、頭上より降り注ぐ紅の月光を遮断した。

「忌々しい蒼……またしてもッ!?」
「って黒髪のにーちゃん!?」
「いけません優希斗様! その技は……!」
 紅い月の加護を失った女吸血鬼が驚きと怒りの入り混じった叫びを上げる。だが驚いたのは仲間である陽太とアカネも同じだった。優希斗の参戦自体もそうだが、彼が使用したユーベルコードは極めてリスクの高い技。継続可能な限界を超えれば、即座に死に至る。
「何、2人が無事なら安いものだよ」
 心配そうな仲間とは対照的に優希斗は涼しげな顔で骸の海を放ち続ける。現在の実力で彼がこの力を維持できるのは88秒――ならば、それまでに敵を倒せばいいだけのこと。

「陽太さん……いや、皆。今は、一気に畳みかけるよ」
 仲間達に声をかけ、狼狽する敵の元へ一目散に駆けていく優希斗。穏やかな態度の裏に秘められた覚悟を見せつけられ、陽太もまた意を決してダイモンデバイスを起動させる。
「その技を使うなら速攻勝負しかねえ! アカネ、行くぞ!!」
「はい、陽太様、優希斗様!」
 発動――【悪魔召喚「アスモデウス」】。魔導書にもその名を記された偉大なる大悪魔が、獄炎を纏い現世に降臨する。同時にアカネも【退魔封縛の舞】を使い、オマモリサマと呼ばれる姫巫女の姿に変身を遂げた。

「よく御覧ください茜姫。あそこにいるのは縁姫ではありません」
 蒼穹に染まった戦場で、アカネは魂の中にいるもう1人の自分に呼びかける。"母"を求めて強引に外へ出ようとしていた茜姫は、蒼滅永眠波がもたらす「精神攻撃の無力化」の効果で正気を取り戻し、"母"だと思っていたものの正体を知った。
『あれは……お母様ではない……?!』
 息を呑む気配がアカネにも伝わってくる。そこにいるのは彼女の母ではなく、別の誰かの母――否、それですらないただの残滓。一握の灰から呼び戻された吸血鬼の操り人形。
 そんなものに。否、例えそれが骸の海から還ってきた本当の"母"だったとしても――。
「アカネは茜姫を縁姫には渡しません! 絶対に!」
 自分はもう過去には戻らない。停滞に囚われるのではなく、自らの意思で未来に進む。
 その決意を示すかのように、巫女姫の振るう舞扇から無数の鎖が放たれ、オブリビオン達に襲い掛かった。

「アカネが足止め致します!」
 一本一本が異なる軌道を描いて伸びていく鎖の束は、マドンナ・ローザを主人から分断し、孤立した女吸血鬼を捕縛する。そしてアカネ自身は踊るような身のこなしでローザに近付くと、その巨体を強く抱擁した。
「放しなさいッ!!」
 マドンナ・ローザは怒りの形相で暴れるが、紅月の「紋章」を無力化された状態では、オマモリサマの鎖は簡単には千切れない。彼女が苦戦している隙に、仕掛けたのは陽太。
「やれ、アスモデウス!」
 彼と契約を結んだ大悪魔は命令に応じ、敵の胸元の「紋章」に獄炎の魔術を浴びせる。
 それは『第五の貴族』の力を支える根源。みすみす焼かれては堪らないと女吸血鬼は縛られたまま身を翻すが――その動きを読んでいたように、優希斗が懐に潜り込んできた。

「眠れや、眠れ、存在せし者達よ。海の底で永遠に」
 闇技の詠唱を紡ぎながら、優希斗は「蒼月・零式」と「月下美人」を抜刀。曇りなき刃に闇と呪を秘めた二振りの妖刀が、斬光の軌跡を描きながら女吸血鬼の「紋章」に迫る。
「ッ……!」
 ピシリ、と罅割れる音と共に鮮血が散る。苦痛の呻きを呑み込んだクリムゾン・ムーンはギリッと牙を噛み締めて、短剣で鎖を断ち切り反撃の刃を振るう。目の前にいる彼こそが蒼穹の発生源――ここで仕留めることができれば、まだ逆転の兆しはある。

「散りなさい、下郎ッ!」
 貴族としての余裕をかなぐり捨てた必死の一撃を、優希斗は残像が生じるほどの早業で避ける。気休め程度に張っておいたオーラの守りの上を、血塗られた刃が掠めていった。
 たとえ「紋章」の力がなくとも、やはり第五の貴族は油断ならぬ強敵。優希斗も、ここにいる仲間達も、それはよく理解している。だからこそ、1人ではなく連携を以て挑む。
「誰の過去も未来も持って行かせやしねえよ! てめえが散れ!」
 アカネの拘束に始まり、アスモデウスの獄炎と優希斗の正面攻撃。この3つを隠れ蓑にして陽太は敵の背後を取る。十分な助走を付けて放たれたランスチャージが、濃紺の軌跡を描いてクリムゾン・ムーンに襲い掛かった。

『私……ノ……子ヲ……』
「行かせません!」
 主人の窮地を見てレッサー化したローザは駆けつけようとするが、アカネがそれを許さない。鉤爪で引き裂かれ牙で喰らいつかれようと、変身に付随したダメージの軽減効果で耐え、鎖による拘束と抱きしめる腕の力は決して緩めない。
「アカネの大事な人達を骸の海へ行かせません、アカネ達の幸せを過去に渡したり致しません! どうぞお覚悟を!」
 痛みなど気にしない。大切な仲間の――そして"アカネ"と"茜姫"、ふたりでひとり分の未来と幸せを守る為なら、この程度の苦痛が何だというのか。固い決意に支えられた少女の献身は、皆の勝利として結実する。

「がは……ッ!!!!!」
 クリムゾン・ムーンの背中から突き刺さった濃紺のアリスランスは、そのまま胴体を突き抜けて胸の「紋章」に達する。串刺しにされた女の喉からは、悲鳴と鮮血が溢れ出た。
 同時にアカネが足止めしていた魔竜は灰に還り、限界時間に達した優希斗のユーベルコードが解除される。引いていく蒼穹の後には、敵の流した血が床を赫く染め上げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
過去の名、私の番という言葉…、
これが第五の貴族を永き支配者たらしめる世代交代、ということでしょうか。

真正面から挑んだとて勝算は薄いでしょう、
先ずは戦力を削ぐ事を考えねばなりませんね。


UC発動、残像にて周囲の調度品を使い
窓から差し込む月光を素早く遮断、
あるいは野生の勘、情報収集を用いて、浮かぶ月そのものの
根幹となる痕跡、物体を探し破壊する

光源が無くなるなら暗視を使用し、
残像、見切り、野生の勘にて相手の攻撃に対応しつつ隙を見てカウンター、
怪力、2回攻撃、グラップル、部位破壊にて紋章を狙う


どうやら、あの竜は真に『母』であった様子。
貴方が『仇』に当たるモノなのであれば。

……此処にて、討たせて頂きます。



「過去の名、私の番という言葉……、これが第五の貴族を永き支配者たらしめる世代交代、ということでしょうか」
 別人のように変化した『第五の貴族』の復活を目の当たりにして、雪音はそう考える。ヴァンパイアによるダークセイヴァー世界の支配を、より盤石にして永遠のものとする為に、このシステムと「紋章」は作られた――根拠は無いものの、仮説としては在り得る。
 ただ、どんな相手にせよここで討たなければ、この世界に未来はないのは間違いない。
(真正面から挑んだとて勝算は薄いでしょう、先ずは戦力を削ぐ事を考えねばなりませんね)
 【拳武】の構えを取ったまま、キマイラの武人は残像だけをその場に残してふっと姿を消す。本当に消失したかと思うほどに自然かつ素早い動きで、敵の視界から外れたのだ。

「何処へ――ッ」
 負傷から立ち上がるまでの隙を突かれた女吸血鬼は、白虎の少女の姿を探して屋敷中を見回す。雪音は部屋の壁際まで移動すると、そこに掛けてあった絵画に目をつけていた。
「これなら都合が良さそうです」
 正確には絵自体の価値や芸術性ではなく、それを飾る額縁のサイズに。ガッと手をかけて壁から絵を外した彼女は、窓に向かってそれを押し付け、月光を遮断する障壁にする。
「なッ……何をしているのですか!」
 敵からすれば「紋章」の力を維持するのに必要な月光を封じられたうえ、屋敷の調度品まで破壊されるという踏んだり蹴ったり。二重の驚きと怒りに見舞われた女吸血鬼は全身に自らの血液を纏い、これ以上屋敷を荒らさせまいと襲い掛かってくる。

「遅いですよ」
 しかし敵が行動に移る頃にはもう、雪音は付近の目張りを終えていた。その為に利用した絵画や絨毯、テーブルに棚等の価格は考えない。どうせすぐに家主不在となる屋敷だ。
(浮かぶ月そのものの根幹となる痕跡、物体を探し破壊できれば、手早かったのですが)
 調度品荒らしのついでに探した限りでは、それらしき物体は見つけられなかった。雪音の野生の勘が訴えるところによれば、地底に浮かぶ紅い月の発生源となっているのはあの女吸血鬼か「紋章」そのもの。相互に力を高めあい、互いを不滅の存在とするシステム。

「よく出来た仕組みと言えるでしょう。ですが、此処までです」
 薄暗さを増した屋敷の中で、少女の瞳が猫のように光る。焦燥のあまり月光の薄い暗所に踏み込んだ女吸血鬼には、血の鎧で戦闘力を補っても、動きにはっきりと陰りが出る。
「死ねッ! 死ねッ!」
 もはや貴族の振る舞いもかなぐり捨てて短剣を振り回す敵の猛攻を、武術の理に当てはめて見切り、捌き、躱す。怒涛の攻めの中に生じる一瞬の隙、それのみに焦点を定めて。

「どうやら、あの竜は真に『母』であった様子。貴方が『仇』に当たるモノなのであれば」
 母性もなく、愛もなく。傲慢さと悪意だけを剥き出しにしたオブリビオンを前に、雪音は拳を固め。流水の歩法でその懐に飛び込むと、乾坤一擲の打撃を「紋章」に打ち放つ。
「……此処にて、討たせて頂きます」
「が、は……ッ!!!?」
 身体の芯まで響く程の衝撃がクリムゾン・ムーンに叩き込まれ、直撃を受けた「紋章」に罅が入る。血の鎧でも受け止めきれないその破壊力に、敵は再び膝を突いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
「確かに俺は其方の事は何も知らない。
だが、倒すべき相手の見極める事位はできる。」
紋章を観察しつつ
(奴が姿を現した時あったのは
宝石の様な紋章、灰、月光。
紋章が力を持つ条件は光…。推測の域を出なくても
試してみるしかないか。)

真羅天掌を発動。減衰属性の夜を発生させ
敵の周囲の光を遮断。更に減衰属性の効果で
紋章や魔力、(居れば)出現したレッサーヴァンパイア
の力を落とす。自身は霊玉ブラッドルージュの力で
身体能力を向上させつつ
敵の所在を【暗視】で【見切り】
生者の輪環、月光のローブで高めた魔力で
ファントムレギオンの死霊を操り
【範囲攻撃】でクリムゾン・ムーンとその紋章、
レッサーヴァンパイアの魂に向けて攻撃する。



「確かに俺は其方の事は何も知らない。だが、倒すべき相手の見極める事位はできる」
 魔術士であると同時に研究者――知の探求者であるフォルクは、未知なる能力を示した『第五の貴族』に対しても恐れることなくそう言ってのけた。
(奴が姿を現した時あったのは、宝石の様な紋章、灰、月光)
 彼は目深に被ったフードの下から「紋章」を観察し、敵が復活に至ったプロセスを思い返す。観測した事実を元に推測を組み立て、仮説と実験を経て実証に至る。どんな学問であっても、研究にかける基本的な思考理論は同じだ。

「紋章が力を持つ条件は光……。推測の域を出なくても、試してみるしかないか」
「何をぶつぶつと言っているのですか……立ち上がりなさい、我が僕よ!」
 既に余裕のないクリムゾン・ムーンは、灰から眷属のレッサーヴァンパイアを創造し、思考を遮るようにフォルクにけしかける。マドンナ・ローザの遺灰を元にして創られた僕は、オリジナルとは比べ物にならないとは言え、レッサーの域には収まらない力を誇る。
「大海の渦。天空の槌。琥珀の轟き。平原の騒響。宵闇の灯。人の世に在りし万象尽く、十指に集いて道行きを拓く一杖となれ」
 対するフォルクが唱えたのは【真羅天掌】の詠唱。天を掴むように伸ばされた手から、溢れ出した魔力が戦場に広がっていく。それはやがて星一つない「夜」として具現化し、ヴァンパイア達の下に無明の影を落とした。

「ッ……! 何ですか、これはっ」
 フォルクが発生させた夜の領域に置かれたクリムゾン・ムーンは、急に力が抜けたようにその場に膝を付く。夜闇が紅い月の光を遮断したことで「紋章」の力が失われたのだ。
「どうやら推測は正しかったようだ」
 研究者の青年は静かに笑みを浮かべると、飛び掛かってくるレッサーヴァンパイアを前にして「霊玉ブラッドルージュ」を取り出す。紅い宝石の姿で人に憑くこの死霊は、現世に留まる代償に宿主を守護し、身体能力を向上させる能力がある。
『抱キ締メ……サセテ……』
 虚ろな譫言と共に振るわれる竜の鉤爪を、霊玉の力を得たフォルクはひらりと避ける。
 自らが作り出した闇夜の中にいても、暗視能力を持つ彼ならば戦闘に差し支えはない。

「身体が重い……!」
『ウアアァァァ……』
 一方の女吸血鬼とレッサーヴァンパイアは、思うように身体が動かずに苦慮していた。
 それは「紋章」が無力化されただけではなく、フォルクが術に合成した「減衰」の属性が、敵の魔力や身体能力を低下させているのだ。
「征け、彷徨える魂の軍勢よ」
 敵が弱体化している間にフォルクは決着を付けにかかった。指に嵌めた「生者の輪環」と身に纏った「月光のローブ」で高めた魔力で、死霊の集合体「ファントムレギオン」を実体化させ、クリムゾン・ムーンとレッサーヴァンパイアに襲い掛からせる。

『オオオオオオオオ―――ッ!!!!』
 地獄の底から響くような雄叫びを上げて猛進するレギオンは、敵の魂に直接ダメージを与える。死霊の爪牙に喰らいつかれたクリムゾン・ムーンに、実態のない痛みが走った。
「ぐぅ……ッ!!!」
 胸元に宿る「紋章」や配下のレッサーヴァンパイアも同様に、魂を傷つけられて力を損なう。致命傷には至らないものの、フォルクの攻撃は確実に敵の力を削ぎ落としていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニーナ・アーベントロート
ゆっくり別れを惜しむ暇さえ、ないんだね
涙に濡れた顔を上げ
紅月の名を持つ彼女を睨む

…うん、負けられない
ロラン(f04258)も、皆もいる
今はとにかく立ち向かうのみ

言葉で仲間を鼓舞しながら
後方で構え力溜め
先刻はあれだけ「ひとつ」になれたんだ
あたし達になら絶対やれる!

攻撃は『ブレイズフレイム』で炎を武器に纏わせ
月灯りが陰る程に眩く燃やし
味方の攻撃で生じた隙に乗じてダッシュで接近し
高速詠唱による属性攻撃を
敵の攻撃は衝撃波で押し返す

…ロラン!
傾ぐ身体に気付き悲鳴が飛び出した
こんなに無茶して…ばか

お願いだから、どうか
これ以上あたしの家族を
大切な人を、奪わないで
誰にともなく祈りながら
弟を背負い家路につく


ロラン・ヒュッテンブレナー
灰から現れた姿は、まるで、満月の魔力で暴走して人狼化する自分の様で
さっき眠らせた義母(ママ)とはまるで違う冷たさで
いつかぼくが打ち勝たないといけない姿

負けない、負けられないの!
おねえちゃん(f03448)の為にみんなが助けてくれて、まだもう少し動けるから
今度は、ぼくがぼくの全てで道を開くの

UC発動
月光【属性攻撃】の光の槍を【全力魔術】で【乱れ撃ち】なの
目標は下僕と、空の紅い月
壊せなくてもいい
【ハッキング】して、銀に書き換えてぼくの力にするの
防御は捨てて、傷付いても、撃ち続けるよ

おねえちゃん、勝って、ね…
人狼魔術の使い過ぎだね
もう動けない…
でも、あとは、みんなが、きっと、おねえちゃんを、守って…


ジェイ・ランス
【WIZ】※アドリブ歓迎、 ニーナちゃん(f03448)と同行
■心情
…なんか生えたし。いやいいけどさあ、もうちょっと感動の余韻に浸るとかあってもよかったんでねーの?
まあいいや、オブリビオンだろお前さん?じゃ、倒すだけさ。

―――Operation:Dreizehn_Schwarz_Löwe Lauf

■行動
UCを起動。相手の全権能を無力化し、60秒間、"ツェアライセン"による斬撃を叩き込み続けます。
"事象観測術式"による【情報収集】は怠らず、紋章を解析して仲間に伝えます。

さて、これでもマトモ動けるなら、あんた相当なもんだが……
ニーナのお母さんを自由にするんだ、残り香のあんたにゃ消えてもらう。



「……なんか生えたし。いやいいけどさあ、もうちょっと感動の余韻に浸るとかあってもよかったんでねーの?」
 マドンナ・ローザの消滅から時間を置かず、復活を遂げた『第五の貴族』を目にして、ジェイが呆れたように言葉を漏らす。それはたった今母との別れを終えたばかりの仲間を気にしているのか、視線はちらりと鈍色の髪の少女の様子を窺っている。
「ゆっくり別れを惜しむ暇さえ、ないんだね」
 その少女――ニーナは涙に濡れた顔を上げ、紅月の名を持つ敵を睨む。彼女の戦意はまだ挫けてはいない。母の冥福を祈るために、終わらせなければいけない戦いがあるから。思い出に浸るのも、思う存分涙を流すのも、その後でいい。
(あれは、いつかぼくが打ち勝たないといけない姿)
 その弟――ロランは灰から現れた敵の姿に、満月の魔力で暴走して人狼化する自分の姿を重ねていた。先刻眠らせた義母とはまるで違う、身震いするほどの冷たさに背筋が凍りそうになるが、それ以上に"負けられない"という魂の熱が彼の胸に滾っていた。

「負けない、負けられないの!」
「……うん、負けられない」
 強い闘志を燃やす弟に頷き、ニーナも竜槍を構える。ここには家族も皆もいる、今はとにかく立ち向かうのみと、再誕せし『第五の貴族』クリムゾン・ムーンに穂先を向けて。
「先刻はあれだけ『ひとつ』になれたんだ。あたし達になら絶対やれる!」
「だな。さて、オブリビオンだろお前さん? じゃ、倒すだけさ」
 仲間を鼓舞するニーナの言葉に応じて、ジェイも"ツェアライセン"を構え。さも気軽そうな口調で対峙する敵にそう告げるや否や――彼の表情はゾッとするほど冷徹に変わる。

「ローザを斃した程度で、いい気になるな……ッ! 血よ、灰よ、私に従いなさいッ!」
 劣勢に立たされたクリムゾン・ムーンは憤怒の形相で猟兵達を睨みつけると、手にした短剣を真紅の長剣に変化させ、ローザの灰から新たなレッサーヴァンパイアを創造しようとする。母の遺灰を冒涜する所業に、ニーナの表情が僅かに曇る。
「―――Operation:Dreizehn_Schwarz_Löwe Lauf」
 だが。女吸血鬼のユーベルコードが発動するのとほぼ同時に、ジェイの口から機械的で無機質な言葉が紡がれる。コマンドに従って複製される13基の概念破断剣、そのうち12基が戦場の全方位に突き刺さり、巨大な電脳結界を展開する。

「何を……ッ!?」
 未知のフィールドに閉じ込められた女吸血鬼の手元で、たった今生成したばかりの血剣が溶け落ちていく。構成されかけたレッサーヴァンパイアも呻き声を上げて崩れていく。
 ジェイの【OP:Dreizehn_Schwarz_Löwe】は、戦場内全ての敵性オブリビオンを媒介とする全権能を無力化する。そのために彼が受ける負担は絶大で、1日に何度も使えるものでは無いが、『第五の貴族』のユーベルコードすら無効化するその効果は劇的であった。
「私の力が、封じられた? 馬鹿な、猟兵風情に……ッ!」
「甘く見ていると、火傷じゃ済まないよ!」
 クリムゾン・ムーンは焦りと怒りを同時に露わにするが、その暇もなく今度は後方より紅蓮の輝きが彼女を照らす。それはニーナが発動させた【ブレイズフレイム】――竜槍に纏わせた地獄の炎が、天をも焦がさんばかりに周囲をまばゆく照らし出す。

「くっ……!」
 炎熱の光に敵の目が眩んだ瞬間、飛び出したのはロラン。【静寂を慈しむ音狼の加護】を発動させた彼の姿は再びハイイロオオカミに変わり、四つの脚で力強く戦場を駆ける。
「おねえちゃんの為にみんなが助けてくれて、まだもう少し動けるから。今度は、ぼくがぼくの全てで道を開くの」
 度重なる人狼魔術の行使による消耗の蓄積は、確実に彼の身体を蝕んでいる。それでも最後まで戦い抜くために、残された力の全てを振り絞って、咆哮と共に月光の槍を放つ。
「ほぉぉぉぉぉぉぉぉ……ん」
 銀色の軌跡を描いて乱れ撃たれる閃光が狙うのは、女吸血鬼の下僕と、頭上に浮かぶ紅い月。敵のパワーソースが自身と同じ"月"に属するのなら、そこに干渉する糸口がある。

(壊せなくてもいい。ハッキングして、銀に書き換えてぼくの力にするの)
 月に突き刺さった銀光の槍が、月の色を紅から銀にじわじわと染め替えていく。それに伴って月光も紅に銀が混じったものに変化して、尽きかけたロランの魔力を賦活させる。
 敵が創造したパワーソースを利用するという荒業。全身に纏う満月のオーラを輝かせ、灰狼の少年はただひたすらに光槍を放ち続ける。防御を捨てたがむしゃらなまでの乱れ撃ちによって、崩れかけていたレッサーヴァンパイアはとうとう灰に還る。
「私の月を、穢しましたね……!! もはや楽に死ねるとは思わないことです!」
 激昂した女吸血鬼は元に戻った短剣を振りかざして、咆哮するロランの喉笛をかき切ろうとするが――そうはさせじと割り込んだのは"ツェアライセン"を構えたジェイである。

「さて、これでもマトモに動けるなら、あんた相当なもんだが……」
 電脳結界で権能を無力化し、地獄の業火で月光を陰らせ、銀月の槍で紅月を侵食する。
 三人掛かりによる対策によって、クリムゾン・ムーンの「紋章」は完全に機能を停止していた。彼女の「紋章」の発動条件に紅い月光が不可欠であることは、ジェイの事象観測術式を含めて、先駆けていった仲間達の検証や解析によって既に明らかになった事実だ。
 それでもまだ戦闘能力を失っていないだけ、この吸血鬼の実力は確かなものではある。しかし三対一の劣勢を覆せるかと問われれば、それは否だ。
「ニーナのお母さんを自由にするんだ、残り香のあんたにゃ消えてもらう」
「ぐ……ッ、馬鹿にするなッ! この私を、残り香などとッ!!」
 がむしゃらに攻撃を仕掛ける女吸血鬼を軽くいなし"ツェアライセン"による斬撃を叩き込むジェイ。心身にかかる負担を考慮して、結界のリミッターが作動するのは60秒後。
 その1分間に賭けた電脳の黒獅子の全力攻撃が、女吸血鬼の手から刃を弾き飛ばした。

「そこ……っ!」
 ジェイが作った好機を見逃さず、放たれたロランの光槍が敵の手足を杭のように貫く。
 床と壁に縫い付けられた女吸血鬼の身体は、槍が消えるまでの間その場に拘束され――敵の動きが止まったのを確認した彼は、ふっと笑みを浮かべながら崩れ落ちた。
「おねえちゃん、勝って、ね……」
「……ロラン!」
 灰狼の傾ぐ身体に気付き、ニーナの口から悲鳴が飛び出した。だが、ここで駆け寄れば弟と仲間達が作ってくれた折角のチャンスを逃す事になる。倒れ際に送られたエールに背中を押され、少女は前に足を踏み出した。
(人狼魔術の使い過ぎだね。もう動けない……でも、あとは、みんなが、きっと、おねえちゃんを、守って……)
 駆けていく姉の勇姿を目に焼き付けて、そっと瞼を閉じるロラン。意識を手放す最後の瞬間まで、彼が案じていたのはニーナの事と、一緒に戦ってきた仲間達への信頼だった。

「貴女を倒して……おかーさんを本当の意味で自由にする」
 囁くような呟きを置き去りにして、ニーナの身体は加速する。手にした槍は紅蓮の炎に包まれて煌々と輝き、火の粉を散らしながら一直線に、磔にされた吸血鬼の元に向かう。
「っ、やめなさい……やめろッ!」
 苦し紛れに敵が放つ血の矢など、もはや彼女には届かない。突撃の勢いが生む衝撃波が迎撃を押し返し、詠唱にて更に火力を増した獄炎の槍が、敵の「紋章」に突き刺さった。
「があああああああ―――ッ!!!!!」
 炎槍にて串刺しにされたクリムゾン・ムーンの口から、獣のような絶叫がほとばしる。
 そこでニーナ達の戦闘開始からジャスト60秒が経過。ジェイの電脳結界が解除され、十分な手応えを感じた二人は倒れたロランを連れて前線から離脱する。

「こんなに無茶して……ばか」
 ぐったりとした弟を背負いながら、ニーナが呟く。ロランの心身は人狼魔術の多用で激しく消耗していたが、幸いにして命に別状は――多少、寿命が縮んだ他にはないようだ。
「帰って適切に治療すれば、また元気になるさ」
 観測術式を用いたジェイの診断に少女はほっとするものの、まだ不安は拭えない様子。
 母との別離を終えた直後に、今度は弟まで失ってしまう恐怖に駆られているのだろう。
(お願いだから、どうか。これ以上あたしの家族を、大切な人を、奪わないで)
 天の恵みなき地の底で、誰にともなく祈りながら、背負った弟の体温に心を寄せる。
 前線より退いた彼女達の前で『第五の貴族』との戦いは終わりを迎えようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ようやく、私の本懐が果たせそうね
目覚めてすぐで恐縮だけどお前の生は此処で終わりよ

…邸宅に入らない落とし子に真紅の月光を取り込む構造
…私の予測が正しいかどうか、確かめさせてもらうわ

過去の戦闘知識と第六感を頼りに敵の攻撃を見切り、
"怪力の呪詛"で強化した踏み込みで柱や天井を駆ける疑似空中戦機動により、
攻撃を回避しつつ大鎌に魔力を溜めUCを発動

…この地の底で輝く太陽を見るがいい

月光をかき消す限界突破した陽光のオーラで防御を無効化し、
吸血鬼を浄化する光を放つ大鎌を連続でなぎ払い敵を乱れ撃つ光属性攻撃を行う

…そういえば、まだ名乗っていなかったわね
私の名前はリーヴァルディ・カーライル。お前達の天敵よ



「ぐ、ぅ、あ……馬鹿な……なぜ、この私が……」
 満身創痍の窮地に立たされ、息も絶え絶えに声を絞り出す吸血鬼クリムゾン・ムーン。
 何故、己が敗北しかかっているかも理解していない『第五の貴族』の前に、大鎌を携えた黒衣の少女――リーヴァルディが立ちはだかる。
「……ようやく、私の本懐が果たせそうね」
 この世界を闇夜に閉ざす諸悪の黒幕を葬る、それが吸血鬼狩人たる彼女が自らに課した使命。「紋章」の力で世界を支配する悪しき貴族の一人に、今日、ここで終止符を打つ。

「……目覚めてすぐで恐縮だけどお前の生は此処で終わりよ」
「終わる……私が? ありえない……そんなことはッ!」
 罅割れた「紋章」を握りしめ、女吸血鬼は取り落とした短剣を再び握る。手負いの獣こそが最も危険だとはよく言われるが、今の彼女はまさにそれだろう――紅い月の光を浴びて膨れ上がる殺気と魔力は、尋常なヴァンパイアの比ではない。
「我らは永劫にして不滅……永遠の闇を生きる者! 家畜風情が、思い上がるなッ!」
 ヴァンパイアという生物の傲慢さと邪悪さを体現するが如きその振る舞い。嫌悪と殺気を静かに漲らせながら、リーヴァルディは振るわれた刃の軌道を見切る。どれほど速く鋭かろうと、彼女の中にある膨大な吸血鬼との戦闘経験は、必ずや対処法を導き出す。

「……邸宅に入らない落とし子に真紅の月光を取り込む構造」
 血塗られた刃に斬り裂かれる寸前に、リーヴァルディは"怪力の呪詛"で防御力と身体能力を強化。力強い踏み込みからの跳躍で攻撃を躱し、付近にある建物の柱に跳び移った。
「……私の予測が正しいかどうか、確かめさせてもらうわ」
「何をするつもりですか……ッ!」
 クリムゾン・ムーンは【立ち上がりなさい、我が僕よ】と叫び、呼び出した眷属に追撃を行わせる。だが少女は驚異的な運動能力で重力に逆らい、柱や天井を足場にした擬似的な空中機動によって戦場を駆ける。天地を無視した縦横無尽の動きは、素体からして只者ではないとはいえ、レッサーヴァンパイア程度に追いきれるものではない。
「……天地を照らす日輪よ、我が手に光を宿すがいい」
 俊敏に敵の攻勢をいなしながら、リーヴァルディは大鎌に魔力を溜めて詠唱を紡いだ。
 地底世界には存在し得ないはずの月を、『第五の貴族』に力を与える紅き輝きを、より強き光にて塗り替えるために。

「……この地の底で輝く太陽を見るがいい」

 【吸血鬼狩りの業・曙光の型】――高々と掲げられた"過去を刻むもの"から放たれたのは、擬似的に再現された太陽の光。それは紅い月の光をかき消し、吸血鬼の細胞を灼く。
「なぁ――――ッ?!!!!!」
 驚愕するクリムゾン・ムーンの声は、最後まで続かなかった。この世から放逐したはずの宿敵と相対して、全身の細胞が悲鳴を上げる。血の鎧を全身に纏うことで少しでも直射を避けようとしても、浄化の陽光はその血液さえ蒸発させた。

「この、光は、忌まわしき太陽の……一体、お前は……!?」
「……そういえば、まだ名乗っていなかったわね」
 光を放つ大鎌を振りかぶりながらリーヴァルディが告げる。あまねく吸血鬼を浄化する力はダンピールである彼女自身にも影響を及ぼし、制限時間を過ぎれば死亡する諸刃の刃だが――そんなことは些末だと言わんばかりに毅然とした、冷徹な眼差しで。
「私の名前はリーヴァルディ・カーライル。お前達の天敵よ」
 名乗りと共に振るった斬撃が、光の軌跡で敵を薙ぎ払う。狩人の予測通りに「紋章」を無力化されたクリムゾン・ムーンに、それを防ぎうる手段はもはや残されていなかった。


「おのれ……おのれ、猟兵どもめぇぇぇぇぇ―――ッ!!!!!!」


 陽光の乱れ斬りを受けた女吸血鬼の体はバラバラに断たれ、胸の「紋章」が砕け散る。
 断末魔の絶叫と共にその骸は灰に還り――そして、二度と蘇ってくることは無かった。
 それが、地底に潜みし『第五の貴族』に、猟兵が完全なる勝利を納めた瞬間であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年12月25日
宿敵 『マドンナ・ローザ』 を撃破!


挿絵イラスト