≪1:1≫もののふ共の幕間
冬薔薇・彬泰 2020年10月19日
舞い踊る、幻朧たる花弁の先。
静謐を刻む古屋敷。
入口には、シムプルな看板が一つ。
――『御依頼、承リ〼』。
先約:ルドルフ・ヴォルフ(f30423)様
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冬薔薇・彬泰 2020年10月19日
(頁を一枚繰る。瞬きすら忘れ、文字の羅列を視線で追い始め、果して何刻が過ぎたろう)――(ぐっと伸びをしてみる。暇を持て余すとは斯様な事を指すに違いない)
…茶でも淹れますか(序でに、婦人への献上品も用意しようか)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月20日
(見慣れぬ街並み、心許ない足並み。
というのも、この男、この世界は初めてだった。
泥と血と硝煙に塗れた戦場は慣れていれど、
こういう小洒落たものにはとんと免疫がない。
──しかも、)
……どこだ、此処。
(迷っていた。)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月20日
(とある依頼にてこの花絢爛たる世界に立ち寄ったはいいものの、任務完遂したのちの帰路にて完全に迷ってしまった。元ではあるが、仮にも軍人であったもの。…なんと、あまりにもマヌケな。
自分で自分を嘲笑してしまう。悠長にそんなことしている場合ではないが。
……とにかく誰かに道でも訊くかと思った矢先。
不意にとある看板が視界に入った。)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月20日
──『御依頼、承リ〼』?
(見上げれば、そこは立派な屋敷だ。
人と共に時代を眺め続け、尚静謐に佇んでいる。
ふわりと舞う花弁を愛でているようだとさえ感じた。)
………。
(なんて、らしくもないことを感じたようだ。
誰に隠すわけでもない照れから溜息を吐いて、扉をノックする。)
……失礼、どなたかいらっしゃいませんか。
冬薔薇・彬泰 2020年10月22日
(ぴくん)(茶を沸かす傍ら、婦人の耳が動いた)……レディ?
(問い掛けるも返事はない。優雅なステツプで、迷いなく歩を進める先は玄関で)
『――お客様がいらっしゃったようですよ』
冬薔薇・彬泰 2020年10月22日
おやおや、本当ですか?
(斯様な時に冗談を述べる婦人ではないことは、己が最も知っている。火を止め、努めて急ぎ足で玄関へと向かう)(レディと共に顔を出す)はい、どちら様で――
(視線を上げた先、真先に留まったのは青…否、青紫の宝石。引き締まった褐色の男から微かに感じ取ったのは、嘗て嗅ぎ慣れた匂い――それは血と、硝煙)
……貴方は?
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月22日
(……驚いた。これはまたど偉い美人が出てきたのだから。)
あ、あー…申し訳ない。道に迷ってしまって。
駅までの道筋を教えていただきた──
(不意に虎が吠えたような音がする。
この男の腹だ。)
──い、の、だが。
(……そういえば朝から何も食べないまま仕事をしてたな、と今更ながら思い出す。
というか客観視しないと心が折れそうだった。主に恥ずかしさで。
否が応にも頬に熱が集まる。)
冬薔薇・彬泰 2020年10月23日
(『暴力』の匂いを纏う男へ抱いた警戒が、芥の如く霧散したのは一瞬のこと)
(この男は腹に獣でも飼っているのだろうか。最早見事と云うに相応しい腹の音である)…、っははは!(失礼を承知で、声を上げて笑ってしまった。殴られても文句は云えまい)(傍らの婦人は、大の男共を見上げ、溜息ばかり)
冬薔薇・彬泰 2020年10月23日
くく…し、失礼。悪気はないのです。詫びと云ってはなんですが、どうぞお上がり下さい。道を教える序でに、軽く腹を満たすものくらいでしたら用意致しましょう(僅かに肩を震わせ、促した)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月24日
(ますますバツが悪そうに視線が逸れる。じわじわ頬が熱いのもまた羞恥心を煽った。
笑ってくれたのがせめてもの救いだろうか。)
は…?
(瞳を微か丸くして一つ瞬く。)
いや、そこまで厄介になるわけにはいかね……いきませんよ!道を教えてもらえれば充分で…
(然し言葉とは裏腹に、まるで抗議するように再度腹が鳴った。
男に似ず随分と素直な腹のようだった。)
冬薔薇・彬泰 2020年10月24日
(再び鼓膜を打った獣の咆哮。くっくっと溢れる笑いを噛み殺し切るのは難しい)遠慮等不要ですよ。所詮手持ち無沙汰になっていたところでして、茶でも飲んで休憩しようと思っていたのですから。
(レディもいらっしゃい。お八つに致しましょう――甘く言葉を紡ぐ男の声。椿色の双眸が客人を一瞥し、優雅な足取りで奥へと消えた)…ささ、どうぞ。
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月25日
〜っ…
(がしがしと頭を掻く。未だ遠慮は拭えないが、ここまで相手に言わせておいて断るのも失礼というものだ。
それに、腹の虫…いや腹の"虎"は収まってはくれないだろう。
観念したように内心深く息を吐いて、)
じゃあ…お言葉に甘えて。
だが迷惑に感じたらしっかりと叩き出してくださいよ。
(俺に対してこそ遠慮は不要だと言いつつ、彼と黒猫の淑女に倣って玄関へあがる。
……事前知識としては知ってはいたが、この国では家に上がる際は本当に靴を脱ぐのだなと。男は頭の片隅でぼんやり思う。)
冬薔薇・彬泰 2020年10月25日
勿論。御配慮下さり、有難うございます(バツの悪そうな男とは対照的に、探偵は笑みを深めるばかり)
(スリツパを勧め、更に歩を進める)実は、帝都に美味いパン屋が在りまして。其処の餡パンが格別で良く買いに行くのです……ですが如何せん、気になる品が多過ぎて、ついつい買い過ぎてしまいましてね。どう消費したものかと途方に暮れていたのですよ(なので助かりましたと、本の積み上げられた卓を片付けながら)
それではぱっと拵えてきますので、暫しお待ち下さい…ああ、甘い物よりも辛い方がお好きですか? 洋食パン等もありますが。
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月26日
(有難くすりっぱとやらを拝借し、彼の後ろをついてゆく。
当然のことながら見慣れぬ様式と物で溢れていた。歴史を重ね、尚大事に愛でられ現存しているこの事実が愛おしい。己の故国を思うとより一層その感情が強くなる。)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月26日
アン…パン?パンって、あれか?小麦粉で作るやつ…だよな……ですよね。
(無理やりな敬語。
それはそれとして、『アン』とは何だろうか。果物か何かだろうか?)
甘いやつか…久しく食べてないな。好きなんだが、今の時世になってからそう食べられる物でもなくなったからなあ…。
(そして片されていく本に視線がいく。文字を習ってから、本を読むのが好きだった。
そのせいかタイトルを目で追っていってしまう。)
冬薔薇・彬泰 2020年10月27日
はい、小麦粉を練って作った食べ物になります。餡は小豆と云う豆を甘く煮た物なのですが、これがパンに良く合うのです(粗方綺麗になった卓に、丁寧に包装されたパンを一つ。これだけではひもじかろうと、少し離れた厨へ向かう。確か卵とハムは残っていた筈だ)
(油を引いて温めたフライパン。其処で、カリカリになるまでハムを焼き上げたならば、卵を投入。何処まで焼いたものか、未だに加減は分からないが何とかなるだろう)(――程なくして、少しばかり硬めに焼き上がったハムエッグと、猫用ミルクを手に戻ってきた探偵の姿が見えてくることだろう)
…おや。その本、気になりますか? 実は僕も大好きな怪奇小説シリイズなのですよ。
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月28日
へえ、豆を。アズキ……
(そういえば似たようなものを聞いたことがある。
尤もそれは遠い国のものであったゆえに、これまでお目にかかることはなかったが。)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月28日
(キッチンへ消えた彼の背を見送り、再度まじまじと背表紙を見つめた。
綺麗なそれには触れることも躊躇われ、けれどその視線は熱い。
タイトルから想像を膨らませていたところで、視界に彼が戻ってきたことを確認する。)
すみませんね、わざわざ。ありがとうございます。
(良い匂いだ。腹が減ったなあと改めて自覚しつつも、彼の話に興味深く耳を傾ける。)
…怪奇小説だったんですか。……怪奇……
(読んだことがないジャンルだ。想像ができない。
幽霊でも出てくるのだろうか。)
冬薔薇・彬泰 2020年10月29日
ふふ、如何致しまして。さっと作ったものですので口に合えば良いのですが…どうぞ召し上がれ(ああ、残っていた腸詰を焼いてしまっても良かったかも知れない、等と頭の隅で考えながら、陶器の器へ注いだミルクを黒猫の婦人へ。優雅に佇む彼女は、やはり優雅にそれに舌を這わせた)
はい、怪奇小説。所謂ホラア――ですね。読む人々へ恐怖を与える目的で描かれた物語…この作品は探偵視点で物語が進むのですが、その探偵を襲う怪異の数々がどれもおどろおどろしくて、心を揺さぶられるのです(つ、と表紙の装丁を指で撫ぜた)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月31日
ああ、
(いただきます、と感謝を込める。
思いの外上品な所作で切り分け、口にする。
…塩味も丁度良い。じゅわりと旨さが口の中に広がり、自然と口元が綻んだ。)
……旨いなあ。
(ふわりと周りに花でも飛ぶようだ。
がっつくことはせずとも、余程腹が減っていたのだろう。みるみるうちに綺麗に消えていく。
用意されたパンもありがたく頂戴し、指で千切って口に放り込む。食べたことのない味ではあったが、どこか懐かしい、心に沁み渡る甘さだ。
成る程、人気であるのも頷ける。)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年10月31日
ホラー…か。絵でもなく、ましてや映像でもない。
しかし読み手の想像力を引き出し、まるでその光景を目の当たりにしているような錯覚さえも起こさせる文章…
(気になる。すごく気になる。
そう言った本に触れてこなかったからこそ、好奇心が揺さぶられた。)
貴方…ええと、(看板を思い出す。作家か、医者か、
──探偵か。)
……先生は、こういう本がお好きで?
冬薔薇・彬泰 2020年11月2日
おお(料理が次々に口の中へ収まっていく様に、感嘆の声を上げる。空腹を訴えていたが故、もっとがっつかれるものと思っていたが、丁寧に平らげる姿があまりにも快くて、ついつい嬉しくて頬が緩んでしまう)ふふ、お粗末様です。
(然し…パンを知らず、小豆を知らない。斯様な人物が、そうそうこの世界に居るのだろうか。それに、彼の出で立ち――自然な動作で、眼鏡を押し上げる)
冬薔薇・彬泰 2020年11月2日
ん? そうですね…他には探偵小説も、科学小説も、色々読みますけれど…僕はきっと『恐怖』と呼ばれる感情が如何いったものなのか、知りたいのでしょう(目を細めながら、男はおもむろに書物を手に取る)宜しければ、此方をお貸ししましょう。――その御代と云ってはなんですが、貴方が住まれる『世界』について、どうぞ教えて頂けませんか?
(恐らくこの男は、己と同じ『猟兵』なのだろうと、確信めいたものがあった)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年11月2日
(『恐怖』と呼ばれる感情が知りたい、なんて随分と浮世離れしたことを言うものだ。
……まさかこの先生自体が「怪奇」だなんてオチじゃないだろうなと内心口元ひくつかせ)
ん?ああ、いや……
(この本に興味があるのは確かだ。
だが、次、生きて会える保障はどこにもない。
ゆえに困ったように笑って首を緩く横に振った。)
気持ちはありがたいが、遠慮しておきます。……こう見えてビビリなんですよ、俺は。
その詫びにもなりませんが……俺の住む世界は、
(刹那瞳に深く影を落とす。脳裏にこびりついた悲鳴、散りゆく花、蹂躙する嵐。
その世界の名は、)
──アポカリプスヘル。俺はそこから来ました。
冬薔薇・彬泰 2020年11月6日
(表情は、窺い知れない。けれどじいっと此方を見る双眸に目を細め、小首を傾げてみせた)如何かなさいましたか? …ああ、いえ。確かに『恐怖』を知りたいなぞ、普通の人間では云いませんね。これは失礼を(等と、からりと笑うばかり)
(次、紡がれた言葉に目を丸くする。斯様な男が…意外な気がしたが、察するものはあった。故に口を噤む。ミルクに舌を濡らしていた黒猫が、ゆるりと男を見詰めた)――アポカリプス、ヘル。(聞いたことはある。荒廃した世界――死の蔓延る世界の名を反芻)…成程。でしたら、納得です。
ルドルフ・ヴォルフ 2020年11月8日
(心の底が読めない人だ。霧の中で惑わされているような感覚。
それは決して不快なものではないが、飄々と掴めないその様子にもどかしさは感じてしまう。)
ご存知でしたか。行ったことは、あります?
(すっかりと荒廃し、何もかもが変わってしまった現状に思うところは当然ある。
けれど、自分の生まれた世界だ。慈しみ、愛している。
祖界を語る彼の表情は、声音は、優しい。)
俺は猟兵となって、あの世界を初めて出ました。この世界にも初めてです。
…世の中、色んなことがありますねえ。
(ゆるりと窓の外の桜を眺める。その横顔は穏やかだった。)
冬薔薇・彬泰 2020年11月14日
噂で聞いた程度で、実は未だ。然し、何れは任務に赴くこともあるでしょう。…貴方の故郷と云うのであれば、猶更行ってみたい気持ちが沸くというものです。(つと、視線は黒猫へ。その首元を撫でようとすると、二股に分かれた尻尾に叩かれた。少し痛い)
はは、そうですね。この世界はあまりにも広い。此処に似た、然し此処とは異なる世界も多々あると聞きます。もしかすると、その何処かに僕が求める答えが在るのやも知れませんね。
(綺麗でしょう? 等と、淡いその彩を同じく眺めた)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年11月18日
ええ、ぜひ来てみてください。俺で良ければいつでもお供させていただきますよ。
(気高い黒猫のお嬢さんだと微笑んで。
風が柔らかく頬を撫でる。花弁がひらりふわり舞う。)
他にはどんな世界があって、どんな景色が広がっているのか想像も出来ねえなあ…。
……先生は、何か探してるので?
(俺で良ければ一緒に探しましょうか、と)
冬薔薇・彬泰 2020年11月29日
(注がれる視線に気付いたのだろう。黒猫はちゃあんと小さく鳴くと、そっぽを向いた)おやおや。すみません、レディは少々恥ずかしがり屋のようで。気を悪くなさらないでください(睨めつける椿色の視線を意に介さず、男は笑う)宜しいのですか? それは願ってもないことです。何せ他の世界に関しては、右も左も分からぬ若輩者故(ポットに入れた紅茶を注ぐ。湯気立つ茶色の水面。二杯のカップのうち、ひとつを客人の目の前へ)
僕の探しているもの、ですか? …そんな、大したものではありませんよ。口に出すことすらおこがましい…一緒に探して下さるだなんて、貴方も随分物好きなのですね(くく、と喉を鳴らして)
ルドルフ・ヴォルフ 2020年12月18日
おっと──そりゃ失礼、レディ。確かに、不躾でしたな。
(先生へ向ける、その椿色の視線には勿論気付いた。彼らの掛け合いが面白くてくすくすと笑む。)
(注がれた紅茶にも感謝を述べ、ありがたく一口貰う。
豊潤な香りがふわりと鼻腔をくすぐった。)
いや、ほら、こうして飯や茶までくださって、それで何もお礼をしないなんてそんなことは出来ませんよ。
……なんて、口実に過ぎねえかなあ…
(はは、と力なく笑う。いや、礼をしたいのは本当なのだけれど。)
口に出すのもおこがましい、ね…そう隠されてしまうと尚更気になるのがヒトってものですが、無理やり土足で踏み入る趣味も無し。
まあ力が必要になったらいつでも呼んでくださいよってことで。
(そう言って、からりと笑った。)
冬薔薇・彬泰 2021年3月27日
(楽しげな男二人の笑いに、憤りは呆れに変わったらしい。まるで溜息でも吐くかのように小さく鳴くと、二股に分かれた尻尾をゆらゆらと揺らしている)
一宿一飯の礼、というやつですか?(等と、戯けるよう小首を傾げては)……っふふ(堪え切れず、つい噴出してしまった。分かり易いと言うべきか、実直と言うべきか。少なくとも、己に好ましく映っていることは確かである)
痛み入ります。中々の紳士振りに感服致します。僕なんて、直ぐに人の心を読みたがる無礼者ですから(気を付けないと駄目ですよ、なんて微笑を湛えながら、ふと視線を逸らす)…本当に、取るに足らぬことなのです。言うなれば、僕がこの世界に生きている意味と言いますか(まるで哲学的な理由だと、我ながら苦笑して)