【1:1】粋酔、花祭り
ロカジ・ミナイ 2020年5月15日
「花街へ続く通りに広場があるでしょ。ああ、ちょうどこの先の。
そこで大きな藤の祭りをやっててね」
景気付けに祭りで一杯やってこうなんて言って
藤棚の下の腰掛けに陣取った
普段より灯篭の数が増えて、彩りも橙に桃色や紫が増えて。
手には瓢箪、もう一方には串のつまみ。
いろめきに目を細める男共には、こんなもんで十分よ。
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ロカジ・ミナイ 2020年5月15日
(キュポン、といい音をさせて瓢箪の栓を抜く。上下する喉仏もまた別のいい音を奏で、祭りの喧騒に馴染んでいく)
カーッ、美味い。一日の一口目が夜風の下ってのは気分がいいね。
(並ぶ男と二人ぼっちで飲み交わす機会は、さていつぶりだったか。もしかしたら初めてかもしれないのだが、そうとは思えぬ気易さがあった。例え不意に、自分の持つ相手の情報の少なさに気がついてしまっても、楽しみが増えただけだと浮き足立つくらいには)
どうも寄り道したくなる質でさ。付き合わせちまったかい?
都槻・綾 2020年5月17日
(傍らから届いたのは開栓の響き)(花街通りの宵祭は妖しの潜んで居そうな艶めきもあったけれど、爽快に祓う音に釣られて、からり、笑い声をあげた)
都槻・綾 2020年5月17日
おや、其方が今日の一口目でしたか。終日酒を友にしているのかと、或いは伴侶? えぇ勿論、冗談ですとも。冗談になっています?
(悪戯な耀きを瞳に乗せての、軽口。隣人への気安さの表れ)
なぁに、『遊びをせんとや生まれけむ』ですからね。寄り道脇道迷い道、あなたとならどんな歩みも楽しめるでしょう。歓迎ですよ。
ねぇ風来坊さん。今迄立ち寄った道で、素敵な出逢いはありましたか。
(瓢箪へ向け、手を差し出す。相伴させてくださいな、)
ロカジ・ミナイ 2020年5月18日
カカカ!冗談とも言い切れねぇな。今日はだって、昼間っから飲んじまったら勿体ない日だったからさ。
(どうぞ、と言うまでもなく当たり前みたいに瓢箪を渡す。顔より大きな瓢箪はタプンという挑戦的な音と共に重たく揺れた)
ん〜、いいこと言うじゃないの。あっちへ行けば愉しい食卓が約束されてるが、こっちに逸れればすんごいおやつに逢えるかもしれない。出逢ったおやつならそりゃもう、一口目から甘ったるいのも、後味まで塩っ辛いのも、様々よ。アンタはどんな風味がお好きで?
都槻・綾 2020年5月18日
(たぷり、謝辞と共に両手で掲げた酒精も、仕舞いには空になっているのだろう。否や仕舞いまで保つかしら、なんのなんの其の時はまた買い足しに行けば良い。肩を揺らし口に含んだのは、笑みと酒と、)
都槻・綾 2020年5月18日
余りに個性的なおやつですと、食卓に辿り着く頃には皿が冷えてしまいそうですねぇ。温め直しは味を損なう。然れど嵌る程の出逢いなら、其れは其れで幸運かもしれません。風味も実味も「面白い」ものが好きですよ。
ね、甘いもの、塩辛いもの、交互に味わえば無限に食せる。あなたの舌を唸らせた逸品の話を伺いたいところ。
ロカジ・ミナイ 2020年5月19日
面白いもの!いいねぇ、アンタも舌が肥えてそうだねぇ、綾。ふむ……、綾が舌舐めずりしそうな逸品……。
(記憶の引き出しを探すみたいに視線を泳がせ、串の肉をかじる。咀嚼すると頭がよく動くのだ)
ロカジ・ミナイ 2020年5月19日
――ああ、こんなのはどうだい?アルダワの森で出会った、異国の女傑の話。若い頃にあの世界でカラクリを学んでいたことがあってね。材料探に慣れない森に入ってうっかり迷っちまってさ。心細くしてたら、僕とそう変わらない背丈の……まぁでっかい女に出会してね。
テメェで射た鹿から矢を引っこ抜いてるとこだったらしくって。僕を翡翠みたいな目で睨みながら血のついた手で顔の泥を拭うんだけど、白い肌についた鹿の血がまるで紅をさしたように美しくってさぁ。
うっかり見惚れてたら、徐にこっちに矢を向けくるのよ。あの時は口説くのに苦労したなぁ。正に命がけ。
都槻・綾 2020年5月21日
(からから、からから。愉快気で暢気な呵々の合間に浸る酒。夜風がほのり、甘い香りに染まりいく)
随分と野生的な出会いですねぇ。其の口説きはうつくしき狩猟者への命乞いでしたの、其れとも血濡れた女鹿を狩る為に?
(好い女でしたか、と問うた。綱渡りの駆け引きは、其れでも彼を心底から堕としはしなかったのだろう。命を懸けること事さえ、戯れのよう)
ロカジ・ミナイ 2020年5月23日
ふふ、ご明察。そこで僕がとる道は、女鹿を狩れば命が助かるっていう単純な一本道さ。(分け合う瓢箪をあおれば喉仏が大きく上下する。酒に灼かれる感覚が、思い出に呼び起こされた焦燥感を上塗りするようだ) ……いい女だったけどね、いい女である前に狩人だったから、僕が狐だとバレる前にお暇したよ。情が移ると泣いちまうだろう?(誰が、とも何に、とも言及せず。それが意図するところは要するに思いつく全てを指すということ。横の麗人が真っ先に思い浮かべるのは、さて)
都槻・綾 2020年5月23日
おや、あなたは狐だったのですね。
(のほほんと串を齧りつ、矢鱈に筋張った何かの肉を嚥下した。山椒がぴりりと効いていたから或いは鹿肉であったのかもしれないけれど、正体は不明だ。祭り屋台の、こうした粗雑で怪しく味濃い品々は謎めいていて面白い。酒にもなかなか合うと来た)
都槻・綾 2020年5月23日
喰われてしまえば血肉になるでしょう。離れがたいほどの情があるなら、いっそひとつになれて幸いかもしれません。
(前座の軽い口調で事も無げに嘯く。「――でも、」と続く言葉は穏やかな眼差しで、)
あなたからの手紙を待つ子ども達や、あなたの帰りが無いとかわいそうな――いいえ、「おかえり」を言いたいのはあなたの方かしら――の、妹さんが、泣いてしまいそうですねぇ。
(どんな意味で、とは此方も明確にしないまま)
ロカジ・ミナイ 2020年5月27日
ああ、狐。妖狐だよ。……綾は人間だっけ?そういやそういうとこ全然知らないねぇ、僕ら。(客と店主の間柄などそんなもんかもしれないが。客に相応しくないほど人懐こく笑って、倣うように肉を噛みちぎった)
ロカジ・ミナイ 2020年5月27日
ククク、そう、そういうことよ。狩人は獣を生きて返しやしないから。あわよくば逃げ果せても、どこまで追い縋られるかわかりゃしない。お察しの通り、縋られるにはもう手足も尻尾も埋まってるからさ。(空いた手で膝を数度叩く。足の裏はどっしりと土を踏んでいる)――……、(と、一方で笑顔はふわふわと夜空を仰ぎみて)
田舎のあの子らは何にも知らずに泣いてくれるだろうな。けども、妹が泣いてくれるのかどうかは、僕がちゃんと死ぬまで分からないかもしれないな。
都槻・綾 2020年5月31日
(同意の首肯は微笑みと共に。「いいえ、本性は『物』ですねぇ、」告げる口振りは歌うよう。知らなくても過ごせることは世に案外と多いものだが、知れば知る程、味わい深くなる。手にした串みたいに――と喩えるには、目の前の青年は例を見ない個性に思われて、ひとり笑みを深めた)
(確かな幹と、空行く雲のような柔らかさ。相反する気配。軽く首を傾いで傍らを見る)
……妹さんとは、不仲でいらっしゃるの?
ロカジ・ミナイ 2020年6月3日
(本性は物。ヤドリガミということだろう。何の?と気易く訊ね)
(その気易さも、続く問いかけにやや曇っただろうか。だとしたら不本意で、しかしどうにもならないものだ)
そうね、不仲の範疇だろうなぁ。僕ら家族は二人きりでね、だもんだから、僕にとって妹は可愛くて仕方ないし、普通に仲良くしたいんだけども。どうも、いい具合のとこに収まらないのさ。直ぐに家出するし、ニコリともしねぇし、お菓子は独り占めするし。
都槻・綾 2020年6月9日
(香炉ですよと此方も軽く返したところで、――つい、小さく吹き出した)
……家出に、お菓子。逆に随分と仲良しに思えるのですけれど……、二人きりの家族なら、あなたが妹さんを育てたようなものなのでしょうか。所謂、反抗期?
ロカジ・ミナイ 2020年6月11日
(香炉、と聞いて深く納得し、柔い笑みで頷いた)
……仲良しに思えるかい!?そいつは……、ふふ、嬉しいねぇ。(ニヤニヤ、と。どうにも顔に感情が溢れすぎるのは、きっと酒のせいもある) そうねぇ……昔は家族と住んでたのよ、その頃は引くほどのブラコンでさ。でも家がなくなってね。それ以来、僕が面倒見てるんだけど。家と一緒にブラコンもなくしちまったらしい。
都槻・綾 2020年7月3日
…ご両親と住まいを同時になくされた? 何かの災害に遭われたのでしょうか…お悔やみ申し上げます。
(立ち入ってしまってごめんなさいね、と添えて目礼。口に運びかけた瓢箪を下ろして振る。とぷり揺れる水音。慰めの一献代わりに恭しく徳利を差し出した)
其れを機に兄から自立したか、悲しみでこころを閉ざしてしまったのかしら。いずれ生を持ち言葉を交わせるのは、幸いなことなのかもしれません。ひとは声から忘れてしまうと聞きますから。少なくともあなたにとっては、掛け替えのない妹さんなのですよね。
ロカジ・ミナイ 2020年7月12日
いやぁ、家と家族が同時に……なんてのは僕の里じゃよくある話よ。気にしないでおくれ。――……ありがとう。
(恭しく首を垂れて徳利を受け取った。しんみりした空気の中なのに、どこか嬉しそうに頬が緩む。そうして含んだ酒は更に口も柔らかくするもので)
……実のところ、先になくしそうだったのは妹でさ。身体も心も弱くってね、文字通り死にかけたのよ。そこで僕が理を破ってあの子をこの世に繋ぎ止めた。……今思えば、家と家族はその代償だったのかもねぇ。
(ふっと吐息を夜空へ浮かべて) そういう綾は、縫の他に家族は?
都槻・綾 2020年7月13日
(「翼猫の精霊が居りますよ、今度お披露目いたしましょ」、齎された問いへ柔く笑いついらえたのち、謝辞にはゆるく首を振って、)
…沢山のいのちが潰えたと思えば、よくある話であってはいけない物語なのでしょうけれど、
(其れでも今は、彼の傍にたいせつな存在があることに安堵もしている、と頷きひとつ。もうひとつ、頷きかけたところで僅かに首を傾いだ)
理を破って、とは。反魂の術か薬か、ですか?
ロカジ・ミナイ 2020年7月21日
(「そいつは楽しみだ」ふっくら笑って返す。それが過ぎれば、やや睫毛が下を向く)
そう。反魂の術を使った。
(されど残る口元の笑みは、後悔の無いことを主張しているようで)
僕も若かったからね、躍起になって出来ることは全部してやろうと思ってさ。あっちこっち飛び回って、術を使う妖を突き止めて。寿命を八つに分けたうちの一つを妹に与えたのよ。……亡くしたものは亡くしたものとして有る世の中だからね、あんまり人には言えねぇ話だけども。
(グビ、と瓢箪を傾けて、隣に回す。顎を伝った酒を手の甲で拭う)
都槻・綾 2020年7月23日
(受け取った器を両掌で行き来するように暫し転がしてから、一口呷る。身に流れ込む清酒が初めより幾分温まった心地がするのは、いのちの話を聞いた後だからだろうか)
どうして、妹さんの魂を還そうと思ったのです?
(彼の言を借りるのなら、後に代償として失った家族は其のままに、妹だけを繋ぎ止めた、ということ。血縁も家族も愛も、自分には何一つ無いもの故に。含みも無くただ、純粋な問いかけだった)
ロカジ・ミナイ 2020年7月28日
……あの子がかわいいから。だろうね。きっと。
(当然の問いかけだ。しかしそれを問うものは少ない。だから回答も用意されていなかった。漠然とある「当然」を紐解くために、しばし夜空を仰ぎ見て)
ブラコンなんてオブラートに包んだけど、実のところもっと度が過ぎてるヤツで、鬱陶しいこともあったんだけど。助けられてるのも事実でね。失くすにはあまりにも惜しかった。
そんで妖術使いに頭下げたら、「別の命を吹き込んだら元の魂の形が少し変わる」なんて言われてさ。もしかしたらブラコンが治るかもしれないなんて、僕にしたらむしろ好都合でしょ。いわゆるエゴよ。
(俯いた口から言葉がポロポロとこぼれ落ちていく)
あとは、そうね……大人になりたいって言ってたから。
都槻・綾 2020年8月5日
(相槌を打って聞き入る。ひとつ間を置いて後、ゆったりと首肯、)
いのちの一つを失っても、亡くしたくなかったのですね。時の流れに従えば、健やかであれば、憂うことも願うことも無く当然訪れるのだろう未来が、手に入らない可能性もあることに、気付かずに居る人の方がずっと多いのかもしれません。
(エゴだ、との言にちいさく笑んで、柔らかな眼差しを向けた)
ね、少し意地の悪いことを尋ねても宜しいでしょうか。もし魂が分かたれていなかったなら、いのちを差し出したのかしら。
ロカジ・ミナイ 2020年8月9日
そうだね。僕も気付かずにいる側だった。(自嘲気味に笑って、俯いて)
(意地悪な声を覗き込むみたいに目を向け、笑ったまま首を横に振った)
……分からない。目を逸らすのは簡単だったよ。寧ろ世界はそうしろと言っていた。死とは続けるためのものだから、止まりたくないのならば受け入れなければならない。
ロカジ・ミナイ 2020年8月9日
妖術使いに聞かれたのよ。――生か死か。拘束か開放か。魂はそれらから一つずつを選んで現れるってさ。難しい話だったが、あの子の運命を狂わせたのは病気と僕の存在だからね。どうせ命ひとつと交換できるなら開放された生を選ぶのがお得でしょう?だからそう願った。
あの子の意思なんて知らねぇよ、死人に口無しさ。(最後の方には多少の恨み節も滲んだか。キッパリと言い放った)
都槻・綾 2020年9月4日
死とは続けるためのもの――、
(ちいさく繰り返す、ゆっくりと身に沁みていくよう)
あなたらしい…と口にする程、ロカジさんを知っている訳ではないのですが、「あなたらしい」と思ってしまった。
(許してくださいますか、と悪戯気に微笑う。続く恨み節には更に綻んで、)
家出へやきもきすることも、お菓子の独占も、病床のままなら叶わぬ遣り取りでしたでしょう。あなたのいのちのひとつは喪われたけれど、意味合いは違えども、確かに継続――妹さんの生に続いているのですねぇ。
都槻・綾 2020年9月4日
ね、あなたは今、「しあわせ」でいらっしゃる?
ロカジ・ミナイ 2020年9月10日
アンタの目にも僕らしく映るなら、僕の選択はきっと間違ってなかったんだろう。
(許しを乞われれば快く受け入れた。少し下がった眉には、安堵と、心ばかりの懺悔の色が滲むけど)
ああ、もちろんしあわせさ。あの子がそばで生きている。これ以上のしあわせはないよ。(自慢げに顎を上げて、目を細めた)
ロカジ・ミナイ 2020年9月10日
ねぇ、綾。僕も聞いていいかい?ヤドリガミとして新しく命を得たことは、よかったと思う?
都槻・綾 2020年10月8日
(微かに乗った悔悟の情は、誰に向けてのものだろう。妹御か、彼自身にか、己にか。然れど今、勿論、と言える彼と共に在るひと時が誇らしいようにも、あたたかにも思えて。「乾杯の酒肴を追加しませんとね、」手元の空串をゆらゆら)(手遊びを続けたまま、齎された問いへ首を傾ぐ)
…そうですねぇ、斯様にあなたと出逢えたことや、糧を美味しと思えることを、誠に僥倖だと感じておりますよ。
(ですが、と。続く応えは、ひとつ首を振って笑みに鎖した。顕現という最たる利己を肯定するには躊躇いがあるのだ、とは正直に言い添えて。懺悔の色もまた、今、彼と共に在るのかもしれない)
都槻・綾 2020年10月8日
(揺らぐ花房に眼差しを向け、坐したまま上半身の伸びをする。そうして深く花の馨を堪能するつもりが、漂う醤油の香ばしい匂いに釣られ相好を崩した)
藤波は実に眼福ですけれど、空腹を満たしてはくれないのが――あぁ、さすが屋台は商売上手ですねぇ。腹が減っては何とやらですし、夜は未だ未だ長いでしょう?
都槻・綾 2020年10月8日
(ひょいと立ち上がって数歩、跳ねるように歩き乍ら、)
(ねぇ、ね。まだまだ尋ねたいことが沢山あるの、いのちを八つに分けた理由もいつか聞かせてくださる。それからそれから、ねぇ、ね、)
(草葉が風にささめくように、子が親に寝物語をねだるように歌いながら、足取り軽く夜店へ向かう)
ロカジ・ミナイ 2020年10月12日
……そうかい、……そうかい。(微笑んだままの視線が、膝の上の10本の指に落ちた。正直に伝えられた幸福と躊躇いが全身にやさしく滲み入るのを待つ様な、間) ああ、夜は長いよ。とーっても。例え明けたって、またすぐにやってくる。(それでも腹は減るのだと、旨い匂いにはしゃぐ友を目にして、自身もヒョイと跳ねてついていく。酒に浮かんだ様な足取りは、彼の言葉に心底安心したのをまるで隠さない)
ロカジ・ミナイ 2020年10月12日
(もちろんよ、と戯れる酔っ払いの影がふたつ。カカカ!と景気のいい笑い声が人ごみに紛れて消えた)
都槻・綾 2020年12月30日
(風に馨るは酒精か藤か、届く旋律は祭囃子か色街の華やぎか)
(何れ今宵は明けるまで、花に酒に、さぁ存分に。あなたと二人、粋に酔うと致しましょう)
都槻・綾 2020年12月30日
―了―