【1:1】暗夜、花航路
境・花世 2020年3月2日
月なき暗夜、音もなく桜散る川の上。
ちいさな舟が闇をゆうらりと流れていく。
行き先は杳として知れぬまま。
宵に朧な花の色も見えぬまま。
ひとつの舟が、岸辺を離れてすべっていく。
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境・花世 2020年3月2日
(もの慣れぬ櫂が水面を揺らすたびに花は渦巻き、そしてひそやかに遠ざかる。澄んだ水音だけがさらさら響く夜だった)
境・花世 2020年3月2日
……月が隠れると、今どこにいるのかたやすく見失ってしまうねえ。一本道だから来た方角はわかるけど。(夜桜を見るなら川からがよいと風流なひとびとに唆され、さりとて船頭を雇う金などなく。懐と相談してちいさな舟を借りた結果が今だった) 黒羽、暗いのはへいき?
華折・黒羽 2020年4月3日
(舟の上、尾を身体に巻き付けるように縮こまった影ひとつ)
華折・黒羽 2020年4月3日
………(小さい舟だからか、水面が近くて余計に身体は縮こまる。問い掛けた声に顔を上げた)…暗いのは、別に…平気です。ただ…(ちらり、水へと視線を投げた)
境・花世 2020年4月27日
でも黒羽、なんだかちんまりして……尻尾も……あ。ごめん、もしかして水は苦手だった? いざとなったらわたしが抱えて泳ぐから、とりあえずその、ええと。(近寄ろうとすれば舟が揺れてしまうから、せめてもと漕ぐ手を止めた。さらさらと流れる水はそれでも舟を先へ先へと緩やかに運ぶ) ……泳いだり濡れたりするのが苦手? それとも、水がこわい?
華折・黒羽 2020年5月4日
花世さんが…抱え…?…い、いえ…お気持ちだけ受け取っておきます…(そんな事になってしまえば恥ずかしさと情けなさで穴にも埋まってしまいたくなるだろう、やんわりと断ってほんの少しだけそうっと力んだ身体を解した)見ての通り身体がこうなので、水を吸ってしまうと身体が重たくなるんです。だから苦手…の方が、近いですかね。絶対に嫌だという事もないんですが。泳ぎ、は……(ふと思い返せばあまり水の中を泳ぐという事はしてこなかったような気がする。前回の夏も、然り)
境・花世 2020年5月9日
じゃあ、絶対にきみを落とさないようにする。わたし、あんまり遠い約束はできないけど……今だけはきっと守るよ。(夜目が利いて良かったとちいさく笑う。ふかふかした黒い毛並みは闇に紛れてしまうけれど、それでもちゃんと見つめていられるから)
境・花世 2020年5月9日
ふふ、もしかして泳いだこと、ないんだ? それなら黒羽にはまだまだ、知らないことがたくさんだね。
華折・黒羽 2020年5月25日
いえ…落とす様な事をしないでいてくれれば、それだけで構いません。お転婆は、舟の上ではお休みしてくださいね…?(それは何処か、懇願する様にも聞こえる声音で)…滝から落ちた事はありますけど、その時は浮き具がありましたし、…あ、少し前には橋の上からも水中に落ちました。…でもしっかりと泳いだ事は無いかもしれません。
華折・黒羽 2020年5月25日
……(思い返せば、落ちてばかりだという事に気付いた)
境・花世 2020年5月27日
(実は落ちるのがとくいなのでは……? みたいな顔をしたのも束の間、ちいさく首を傾いだ)(ひらひら、花びらが絶え間なく水面に落ちる。水と夜気との境界線が曖昧な闇のなか、仄白い桜はいつまでも宙に揺れるよう)
境・花世 2020年5月27日
おてんばはいや? 黒羽は、どんな女の子ならすき?
華折・黒羽 2020年6月13日
…………好き好んで落ちているわけでは、ないですからね(表情から何かを感じ取って一言添える)(講義するかの様に尾が一度たしん、と舟板を叩いて)
華折・黒羽 2020年6月13日
お転婆が嫌というわけでは…今この状況でお転婆を発揮するのはやめてくださいって事です。…どんな女の子…と、聞かれても…(こういう会話には慣れていない)……(考え続け目線はつい、と水の上)
境・花世 2020年6月14日
(吹けば飛ぶような小さな舟がかすかに揺れる。闇に融けいる黒い尾が叩いたせいか、桜散らす風のせいかさえ分からないほど、ひそやかに)
この前、一緒に列車に乗ったとき、黒羽と詞が通じた気がして。だからきみも恋を知っているのかなって想ったんだ。……ちがう?
華折・黒羽 2020年6月21日
………(戀繋ぐ思いを運ぶ列車、確かにあの時告げた事は事実。探し続けていた人がもうこの世にいないのだという事を知った。それからずっと、この思いの形を探していた)…影を、見るんです。黒い影じゃない、思い出の欠片の様な、夢の一幕のような…あの人の姿を(ひらり落ちる花弁に手を伸ばす)絞め付けられる程に悲しいのに、泣きたくなる程にあたたかくて…。花世さん…あなたの知っている恋も、そういうものなんですか…?(掴めない花弁が一片舟板へと)
境・花世 2020年6月22日
(黒い指先が掴みそこねた花びらの行方を追って、まなざしが落ちる。どうしてだかきみの表情を見てはいけないような気がして、そのまま)
涙みたいに温いものが胸にひたひた満ちていて、その声や姿を見つけるだけで震えて毀れそうになる。うんとしあわせで――ひどくさみしい。
わたしの恋は、そんなかたち。(似ている? と仄かに微笑う)
華折・黒羽 2020年6月27日
(空を掴んだだけの掌を握って力が抜けた様に膝の上に落ちれば、視線はついと水面をなぞる。耳は良い方だ。表情を見なくとも声を聴けば口元がどう表情を形作っているのか、なんとなくだが分かる気がした。顔は、まだ見れない)……どう、なんでしょうか…。…最初は、苦しいばかりだった。姿を見れば後悔が押し寄せて…(「どうして」「ごめんなさい」。そればかりを繰り返していたように思う)
境・花世 2020年7月1日
ずっと探していた大事なひとなんだって、きみは言っていたね。
(あの日も花が降っていた。幻の、命の輪廻を辿る淡い色をした桜が。きみが捧げた、哀しくやさしく透きとおる祈りを思い出す)
…、……今は、後悔だけではない?
華折・黒羽 2020年7月14日
…はい。何もかもを捨てて失くしてしまった俺に、沢山のものを与えてくれた(優しさを、厳しさを、楽しさを、強さを…名前だって、あの人が与えてくれたものだ)あの人は、俺を…華折黒羽を形作ってくれたかけがえのない人でした。
華折・黒羽 2020年7月14日
(視線を上げればそこに見守る眸があって。心配をさせぬようにと、笑みを浮かべてはみるけれど)…猟兵になって…色々と経験していく中で、気付いたんです。後悔ばかりでは強くなれない…前に、進めないって。生きる事を託してくれたのに、それじゃあかっこ悪いじゃないですか…(上手く、笑えているだろうか)
境・花世 2020年7月18日
今の黒羽は、(毀れそうな想いを湛えて、それでも確かに笑おうとする顔を見た。夜の底、花の白い明かりだけが静かに少年を照らす)
真面目で、すっごくいいこで、かっこいいひとだよ。きみを“黒羽”にしたのがそのひとなら、――とても素敵なひとだったんだね。
華折・黒羽 2020年10月22日
(言葉が響く。普段なら突っぱねているであろう花降らす言葉も、己を通してあの人に向けられているものだと思えば、こんなにも心地よく心を満たす)──はい、とても。(思い出すのはいつだって咲って手を繋いでくれたあの子の姿)…花世さん、その、ありがとうございます(そうと眸を開けば徐に零す心詞)
境・花世 2020年11月19日
(詞と共に薄紅の花びらがひらひらと降ってくる。少年のくちびるは今度こそ柔らかに微笑んで見えた)(遠く儚く、けれどしあわせに満ちたような)
ふふ、それならわたしはそのひとにお礼を言うよ。黒羽へたくさん優しくしてくれて――黒羽に想われて――ここまで連れてきてくれてありがとうって。わたしは黒羽が大切だけど、きっときみが心に連れたそのひとのことも一緒にすきなんだ。
華折・黒羽 2020年12月2日
花世さん…(彼女が紡いでくれた言葉はあなたにも聴こえているだろうか。何処かで、己の裡を通しあなたにも届いていたなら良いと、そう思わずにはいられなかった。でも)…此処まで連れてきてくれたのは、その子だけじゃないんです(始まりは、そしてひとつの終わりは確かにあの子だったのかもしれない。けれど今こうして此処に居られるのは絶対にその縁のおかげだけではない)──花世さんもですよ。明るく、強く、優しく…そして時にお転婆に、俺を当たり前の様に受け入れてくれたから。だから俺は今もこうして、生きていられるんです。
境・花世 2020年12月31日
(ぱちくりと花色の眸がまたたく。想像もしなかったというような、不思議そうに宝石を眺める猫のような、あどけない仕草で首が傾いだ)
わたし、も? 今、この舟に乗っている黒羽の中に、わたしのかけらも、いるの?
境・花世 2020年12月31日
(実を結びもせずに水面へ散って流れるばかりの花は、虚ろなばかりの花は、けれどもそれだけではなかったろうか)(ひとひら散ったそれが、いとおしく想ういのちへと、廻り連なるというのなら)
……ああ、そっか、こんなにうれしい、ものなんだね。わたしも、きっと、そのひとも。きみの中で生きて、きみが生きていくことが。
華折・黒羽 2021年4月11日
──はい、確かに、此処に(己の胸に獣手を添える。幾多の縁の中に結ばれた確かなひとつ。あなたに咲いた八重牡丹の色の一糸。今度は曇りなく浮かべた表情があなたの眸に映るだろうか)(生きていく。生かされていく。嘗てあの子が教えてくれた縁の“繋がり”が此の命を灯してくれる。)
(すると何処からか不意に吹いた風が花弁を舞い上げ、小舟を優しく押し進めた。…何故かふと、得意げなあの子の笑顔が頭を過った。)
境・花世 2021年6月5日
(どこか清々しい色を浮かべた横顔を見つめて、おだやかに嬉しそうにうなずいた)
(きみの抱いた感情の名が恋であったのかどうかは今も知れない。けれどそれは、淡く降り頻る花のようにやさしく、流れゆく時の川の先までもきみの傍らにあった)(これまでも──これからも、ずっと)
ねえ、黒羽。──いい、春だったね。
(伝えたい幾つもの言葉の代わり、それだけを静かにささやいた)
(歩んできた道で見つけたもの、終わらない哀しみとさみしさ、それでも尚連綿と繋がれてゆくいのち。それら何もかもをやわらかく包んで、春宵は更けていく)
華折・黒羽 2021年6月26日
──はい。
(いい、春だった。心の裡に染み渡るその言葉が自然と頭を頷かせる。いつまでも眸に映る終える事ない花雨は、柔く、時に追えぬ速さでこの手をすり抜けていくけれど、その色は、匂いは、美しさは、暖かさは、いつまでも己の裡に存在し続けるのだ)
(そしてその一片一片が招き、導き、綯いでゆく。此れからの此の命、そして縁を)
華折・黒羽 2021年6月26日
(漕ぐ事もなく流れる水に運ばれた舟はやがて岸へと戻ってゆく)
(春は巡る。時もまた、廻る。目まぐるしく変わるものの中で変わらぬものもきっとあるだろう。哀しみも寂しさも、抱いたままそれでも生きて行こう)
(さあ、また、もう一歩──。)