某日 1:00 AM
皐月・灯 2019年9月8日
(日付が変わって暫く経った頃。)
(無人の魔術工房の扉に、何かが当たる音がした)
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皐月・灯 2019年9月8日
(扉と壁の隙間に沿って魔力光が走り、虚空に魔法陣が浮かび上がる。そこに描かれた紋様が目まぐるしく形を変え、ぴったり1秒後、二つに分かれた。解錠。その直後に、ゆっくりとドアが開く)
皐月・灯 2019年9月8日
……。(現れた人影は、ぼさぼさの黒髪をフードで隠し、異色の瞳で工房内を見回す。異常がないことを認めると、ほとんど倒れ込むように中に入った。)っ……、くそ……。
皐月・灯 2019年9月8日
(呼吸を荒くしながら床に手をつくと、黒手袋の端から赤い光が漏れているのが見えた。いや、それどころか煙のようなものが上がっている。まるで、手袋の中で手が燃えているか、あるいは強酸に溶かされているかのように。……これといって異臭はない。だが、激痛に苛まれるという点では、いい勝負だった)
皐月・灯 2019年9月8日
っぐ……ぅ!(どうにか上半身を起こし、口と手を使って、黒手袋を脱ぎ捨てる。その瞬間、室内を赤い光が芒と照らした。……両手の甲から五指の指先にかけて、どことなくトライバルタトゥーを思わせる紋様が刻み込まれている。魔術刻印回路、MDナーヴ・サーキット。魔力の「出力端子」といってもいい。その紋様が、毒々しさすら感じさせる深紅の光を放っていた)
皐月・灯 2019年9月8日
……撃ちすぎた、か。最近、多かった……からな……ぐ、あ……!(額にじっとりと脂汗が浮かぶのを感じながら、また床に倒れ込む。紋様からの煙の量が増えるたび、骨が溶け落ちるような激痛は、神経網を通して肘、肩へと範囲を広げつつあった。)っざけ、やがって……っ!
皐月・灯 2019年9月8日
(這うようにテーブルに向かう。両腕が思い通りに動かないのは、逃げ場をなくした余剰魔力が内側に流れ、神経を侵食しているせいだ。足と顎、全身を使ってどうにか進み)……っう、ぐ、ぉぉぉぉっ……!(唸りながら上半身を起こす。ろくに言うことを聞かない腕で、卓上に置かれたものを乱暴に払い落した)
皐月・灯 2019年9月8日
(痛みのあまり意識が朦朧としてきた。このまま「落ちる」とどうなるか、あまり考えたくない。その前に、と左右を見回して、足元に転がる瓶に目を留めた。いくつかの薬草と小動物の肝、霊獣の角、女性の髪などの素材を鍋で煮詰めて作った、所謂霊薬だ)……っ、畜生……しっかり、しろよ……!(小瓶を持ち上げるだけでも、力の入らぬ片手ではうまくいかない。両手で包み込むようにしてやっとテーブルに置き、口を使って蓋を回し開ける。)
皐月・灯 2019年9月8日
(ゆっくり小瓶を倒し、中の黒みがかった透明な液体を手にかけていく)ッッあ! ――あ……っ、っ……ぐ……。(ジュウウウ、と、熱された鉄板に水を掛けたような音が弾けた。霊薬が触れた場所から魔力が霧散していき、徐々に痛みが和らいでいく。刺青に宿っていた深紅の光も弱まり、やがて完全に消えていった)……はあ……はあ……。(脂汗を拭う。さっきまであれほど重かった腕が、嘘のように軽く感じられた。)……ったく……。
皐月・灯 2019年9月8日
(長椅子に腰かけ、そのままごろんと仰向けに寝転がった。数日ぶりの自分の寝床は、相も変わらず冷たく硬い。まあ、この季節にはちょうどいいのかもしれない
)…………。(薄暗い天井に向けて片手をかざす。輝きは喪われているが、刻まれた紋様は、消えることなくそこに在る)……やれやれ。(ため息を一つついて、腕で視界を塞ぐ。そのまま、静かに目を閉じた)