Remnants
皐月・灯 2019年7月19日
訪れた静寂は、重い。
荒ぶる鼓動を鎮めようと深く息を吸い込めば、濃い血のにおいが肺腑に充満する。
足元に転がる肉塊に目をやった。
もう原型を留めちゃいねーが、オブリビオンの成れの果てだ。
普通のヤツなら気絶してもおかしくねーだろうな。
……我ながら、派手にやったもんだ。
刻印回路に残る熱を感じながら、顔についた返り血を拭った。
派手にやったし、無茶もした。
直撃こそしてねーが、全身に受けた傷がじくじく疼く。
まあ、それだけ気に食わねー野郎だった、ってことなんだが……
野郎をブチ砕いても、苛立ちが直ぐ様なくなるわけじゃねー。
あんまりすっきりしねーから……アンタに声を掛けた。
――アンタなら、何て云うんだろう。
そう思ったのは、この女がオレよりも無茶をするヤツだってことを、もう知っていたからだ。
・アストリーゼ・レギンレイヴ(闇よりなお黒き夜・f00658)
・皐月・灯(喪失のヴァナルガンド・f00069)
2
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年7月25日
あたし? ……(視線を向けられ、明らかに険のある――ただ、彼のそれは怒りと同義ではないと云うのは何となく察せるが――声音で云われれば。女も自身の傷を、見下ろすように眺めやった。視線を落とした途端、額の傷に滲んでいた血が重力に従って伝い落ち、頬を濡らす。……顔色一つ変えずにそれを指先で拭って)大したことはなくてよ。腕も足もついているじゃない。(……特に大きいのは、脇腹の傷だろうか。深々と穿たれた傷から流れる血は、真紅のドレスをどす黒く染めている)
皐月・灯 2019年7月30日
……大したことあんだろ。手足ありゃかすり傷みてーなこと言ってんじゃねーよ。(今度こそ100%の呆れた声で、そう言った。普通なら立っているのも苦痛の筈だ。これがもし自分でも、彼女ほど涼しい顔はできないだろう。かといって、きょとんとした表情は、襲い掛かる痛みに耐えているという風ではない。)……お前、いっつもそーだよな。(最初に出会ったときといい、以前ドラゴンテイマーを相手にしたときといい、彼女は自身の負傷を顧みない。それはきっと、彼女の「特別な肉体」ゆえのことなのだろうが)
皐月・灯 2019年7月30日
(彼女の扱う力、死霊を使役する者、死者に近しい者。全身に呪を纏い、溶け込ませた女――負傷もそれに伴う出血も、確かに彼女の言う通り、「大したことはない」のだと、魔術師としての己の知識が告げている。)――気に食わねーな、どうも。(それでも――そう言わずにはいられなかった)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年7月30日
事実、千切れなければ問題はないのよ――ああいえ、千切れたことはないのだけれどね。(飽く迄喩えよ、と言い添えて、脇腹の傷に手をやった。確かに煩わしいが別段大したことはない。自分にとって、損傷して困る箇所は一つだけだ)仕方がないわ、力の代償に支払えるものが傷くらいしかないのだから。(半鬼(ダンピール)であるゆえの法外な膂力、死霊術士に依る肉体変異こそあれ、女は言ってしまえば只の「少し腕が立つだけの、遊牧民の娘」だ。他を凌駕しうる才能や技量もなければ、特異な力を操れるわけでもない――なかった。ある程度の負傷を見込まなければ、とても敵の喉元へまで刃を届かせるには至らぬと、女はそう自認している)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年7月30日
(――唯、女は折れないというだけだ。折れないがゆえに、負けはない。相手が先に折れたならば、最終的に勝ちを捥ぎ取ることとてできよう。然し折れぬからこそ、その過程には夥しい血と傷が横たわるのもまた、道理というだけのこと。)……ごめんなさいね。もう少し巧い戦いができるようであれば、貴男の気を害さぬよう居られたのだけれど。
皐月・灯 2019年8月1日
(謝罪の言葉を耳にして、更に眉根を寄せた。とはいえ他の言い方が出てこないものだから、ぶっきらぼうに続けるしかない)……そこに怒ってんじゃねーよ。お前、魔術は詳しくねーみてーだし、大威力をブチ込むタイプでもねーだろ。(――膂力なら自身を遥かに上回る。特別製の体というのも知っている。しかし、剣や身のこなしにずば抜けたものは感じないというのが、少年の見立てだった。彼女の強さの本質は別にある、と)ただ、な。
皐月・灯 2019年8月1日
(折れず、耐えて、結果を掴み取る。並大抵の意思力ではできないだろう。けれど)……アストの体は他と違うし、痛みにも強いのかもしんねーけどな。なんでそう、傷に無頓着でいられるんだよ。お前にだって限界はあるんだろ。(少年も自身の負傷をかえりみない点では人のことを言えないけれど、だ)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年8月1日
痛くないからよ。(直截に口に出したそれは、事実だ。痛みには慣れている――と嘯くそれは、より正確に言い換えれば「痛いという感覚がない」ということなのだ。とりもなおさずそれは、「特別製」の肉体であるから、だ)……限界は、考えたことがないわね。猟兵になってからは「これ以上は死んでしまう」なんて考えることはなくなったから。それに、……どうせもしそうだとしても、屹度、変わりはないわ。
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年8月1日
(そう、屹度。もしこの体が、他者と同じように、痛みを痛みとして認識できたとしても。そうだとしても、この在り方が変わることはないだろう。何故ならば、)あたしにとって、死ぬとは肉体が死することではない。自身の在り方を偽ることだもの。手の届くものをもう諦めないと決めたのだから、その為ならばなんだってするわ。
皐月・灯 2019年8月2日
……そうか。(言い切る彼女の言葉に、僅かに苛立ちを覚えた。なぜだかよくわからないまま、言葉を続ける)多分そういうヤツなんだろうってのは、思ってた。(絶対に動かせない芯がある。自分の命を喪うことよりずっと受け入れられないことがある。それ以上に優先することがあるから、傷に構っていないだけ――そう理解する)やっぱり、死にたがりってわけじゃねーみてーだな。それだけは安心したぜ。……?
皐月・灯 2019年8月2日
(ふと、怪訝な顔をした。自分が今口走った「安心」という言葉が耳に残って……先ほど覚えた苛立ちの理由に行き当たるまでに、そう時間はかからなかった
)…………くそ。そういうことか。(自覚してしまえば、いったい彼女の何が気に食わなかったのかもすぐにわかる。思わずその場で毒づいた)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年8月5日
無論だわ。死ぬつもりがあるのなら、戦いになど赴かないもの。座して終わりを待つことを承服しないからこそ、あたしはこうしてここに立っているのだから。(彼の言葉に頷いて。手を触れた腹の傷は少しずつだが塞がり始めている。やはりこのくらいで死にはしないか、と微かな笑みが口元に浮いた。苦笑のようであったかもしれない。こういう身体であると理解はしていたし、ゆえに無理無茶もしようものだが――)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年8月5日
(――そこに続く思索は打ち切り、顔を上げる。そうすれば少年の表情が見え、微かに動かされた唇から零れた悪態が耳に届いて)……どうしたの、アカリ。何か気になることでもあった?
皐月・灯 2019年8月10日
……あったんだよ、それがな。(女の言葉は、どこか達観して聞こえた。そう思ったのは、聞いたことのある響きを伴っていたからだ。――ほかでもない。自分に似ていると思った)……オレは……お前みたいに、自分の体を顧みずに戦うヤツらをよく知ってる。……「知ってた」、か。まだ、オレがガキだった頃の話だ。(気づけば、静かな声が唇から零れていた。止めようかとも思ったが、彼女以外に聴く者もいないだろう。ならば……。)
皐月・灯 2019年8月10日
……オレが戦う力を手に入れた場所は、そういうヤツらの寄せ集めだった。「ひとりでも多くヴァンパイアをブッ殺すためなら、命なんていらねー」ってな。いいヤツもいけすかねーヤツもいたけど……みんな死んだ。(淡々と語る声に、感情の揺らぎはない。繰り返し続けて、慣れてしまった。そう、慣れていた……けれど)……お前も、そうなのかと思った。無茶繰り返して、ある日いなくなんのか……って。
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年8月11日
(彼の口から話される言葉を、静かに聞き遂げる。語られる過去の片鱗と、端的に零されたその結末。――僅かも揺らぎのない声音に、僅かばかり眉根を寄せてしまったのはむべなるかな、というものであろうか)そう、見えていたのだったら、それはあたしの不徳の致すところね。……大丈夫よ。死ぬつもりはないし、それに、
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年8月11日
あたしは死を伴とし、その隣に立っているのだから(脇腹に添えていた手を放す。もう、血は流れていない)……その死があたしを侵すことなどないわ。(否、むしろ、)(――もう死(それ)に余すところなく侵されているからこそ、と言い換えるべきであったかもしれないが。屹度、その言い分は彼にとって好い響きには思えないであろう、と思ったから、言葉にはしなかった)
皐月・灯 2019年8月16日
(彼女の言葉には、きっと嘘偽りはないのだろう。無茶な戦い方だろうと、己を削る戦いだろうと……それが、殊更に終わりを求めてのものでないのなら)……なら、いい。(そう思えた。そのように思えたことが、)
皐月・灯 2019年8月16日
(──どうにも、気恥ずかしかった。何故なら、其処にあったのは安堵の二文字。安堵を覚えたということは、)……じゃあ、急にいなくなったりすんなよな。なんか、落ち着かねーから。(それだけ、相手を心配してしまっていたということだ。)……あーあ、らしくねー。そんなにしょっちゅう会うわけでもねーのにな!(語尾を強めて言い放つ。戦闘の高揚が自制心を緩めでもしたのだろうか。がん、と血混じりの黒い土を蹴った)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年8月28日
…………(どこか照れた様子のあなたを、女は首を傾いで見遣っていただろう。土を蹴り飛ばすあなたのそのしぐさを眺めやりながら、女はぽつりと零す)そんなに、あたし、死にそうに見えるのかしら。(……あなたに問うたというよりは、それは独り言を零すような。正直、自覚は、あまりなかった。だけれど人にそう見えているということは、そうなのであろうとも思う。昔から向こう見ずとはよく云われていたが、この身体になってからは自覚的にも、自身を、悪く云えば軽視するようにはなっていると思う。……「どうせ死など訪れない」と、思ってしまっているからだろうか)
皐月・灯 2019年9月2日
(土を蹴るのを止めて、ふうっと深く息を吐いた)……お前にそんなつもりねーってのは、もうわかったけどよ。ただ……。(今の独白を聞いて、ふと思い当たったことがある)お前の体は特別で、お前にとっての死は精神の死……そう言ったな。「だから」だろ。(要するに彼女の肉体は、彼女の信念を貫くのに都合が良すぎるのだ。いつからそうだったのかは知らないが、どんな無茶をしても、彼女の肉体は終わらなかった。魂の在り方に寄り添いすぎた器とでもいうべきか)
皐月・灯 2019年9月2日
……その体が何かの呪詛の結果だとして、お前は「それ」を余すところなく受け入れた。それどころか、自分の在り方にまで取り込んじまった。……そんなヤツが、危なっかしく見えねーわけねーだろ。
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年9月11日
どうして?(返ったのは、酷く直截な疑問の言葉であった)……そうなってしまったものを嘆いたとて、仕様がないでしょう? 膝を折って、運命を呪って泣き伏すことほどに、無駄なことがあるとも思えない。(……折れてしまうのは屹度楽だった。何もかもを手放して眠ることだって屹度できた。けれど、それを選ぶ気などなかったのだ。それならば毒であろうと呪いであろうと受け入れて歩む以外にないだろう、と女は思う。ゆえに)……それと伴に歩むことは、そんなにも危なく見えるものかしら?
皐月・灯 2019年9月12日
そうだな。オレがお前でも、泣き喚いたりはしなかったろうよ。受け入れて、伴に歩んだろう。(静かに頷いた。確信できるのは、実際にそうしてきたからだ。突き付けられた現実から目を背けられるほど理性的ではなかった。打ちひしがれることができるほどに感情的でもなかった。その結果として、このふた色の瞳がある)……その選択が間違いだとは思わねー。思わねーが、それでもこう言う。危なく見えるぜ、アスト。この先も今のままならな。
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年9月12日
……。(そんな彼の言葉に、感情的に言い返すことだってもしかしたらできたのかも知れない。昔の自分なら、そうしたのかも知れない。だけれどそうするにはもう、諦めすぎている。自分が「こう」であることを。そうして生きていくことを、諦めている)……なら、(それでも口を開いたのは、彼の言葉に滲むどうしようもない共感を、それを押してまでも彼がそう云ったという、その事実から)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年9月12日
……貴男なら、どうする? 生きるに足りず、死ぬこともできない自分を知って。それでも歩まねばならぬと知ったとしたら。
皐月・灯 2019年9月19日
戦う。(答えは、とても簡潔だった。言葉を探すまでもない。常に胸の裡にあるものを汲み上げる、それだけで事足りる。しかしその答えは、きっと彼女の選んだものと同じ選択肢だろう。彼女の在り方に意見しておきながら、自らも同じ在り方を選ぶのか。――否だ)……オレの言った「受け入れる」ってのは、抗うのをやめるってことじゃねー。事実を見据えて、その体の真実を明らかにして、必ず戻ってやるって意味だ。……碌でもねー運命を押し付けてくるヤツに、オレはぜってー屈しねー。(踏みつけた足元には、圧政を敷いた領主の血溜り。赤黒い泥で靴を汚しながら、前を見た)
皐月・灯 2019年9月19日
……お前はその呪いを力に変えたんだろ。「だからこそ戦えてる」ってのは、見てりゃわかる。ちょっとやそっとじゃ痛くねーし、死なねー体があるから、敵に喰らいついて行けてる。……確かにそれは、お前の力だ。でも
、…………。
皐月・灯 2019年9月19日
――お前は「自分」を支払い過ぎてる。このままじゃ、途中で潰れちまうぞ。
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年9月28日
…………。
(彼の言葉は簡潔で。それは自分と同じもので。……だけれど続いた内容は、)
(ふ、と、小さく笑った。だけれどその笑みには別段、彼の言葉を嘲弄する意はない。彼はどこまでも真っ直ぐだな、と。そう思ったら、自然とそんな表情になってしまったというだけだった)
……それができないと判っているとしたら、貴男はどうする?
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年9月28日
この身体のことは誰よりもあたしがわかっている。
元に戻ることはできない。このまま生きていくか、或いはそれを受け入れず朽ちるかしか道はない。
……そういうものなの。あたしのこの、身体は。
(そうと知って受け入れたものを、支払うことを厭うわけがない。そうと知って受け入れたのだから、疾うに諦めている。きっとそれは――彼には理解しがたい感情かも知れない。だけれど、)
何かを諦めなければ生きられない者も、いるのよ。
あたしは生きることを、救うことを、守ることを諦めたくはなかったから、他のものを諦めた。……それだけのことなの。
皐月・灯 2019年10月4日
(零れた声にぴくりと眉が跳ねた。しかし、彼女の顔が浮かべていたのは穏やかな笑みで――正直なところ、虚を突かれた。)
……お前。
(続く言葉は、どこまでも静かに、ありのままを受け入れた者のそれだった。揺らがない声音に苛立ちは感じられない。己を支払い続ける意味も、既に解っているというように。)
…………そうか。
(否。当然に解っているのだろう。考え尽くしてきたのだろう。村娘だった彼女の選んだ道と、村の子供だった自分が辿った道に、如何ほどの違いがあるのか――もしかすると、思ったよりも遠くはなかったのかもしれない。)
オレよりも、長く生きてるもんな、お前は。
皐月・灯 2019年10月4日
…………悪かった。
(諭すような響きを宿した彼女の言葉を思いながら、――珍しく、謝罪の言葉を口にした。小さく、だがはっきりとした声で。「もういいだろ」という自戒の声は、ずっと胸の裡から響いていたのだ。それでも話をつづけたのは、ただのエゴでしかない。……だから、理由も口にする。絞り出すようにではあったけれど)
…………心配、だったんだ。
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年10月9日
謝るようなことは何一つないわ。何も捨てずに生きられるのなら、何も諦めずに走れるのなら、それが一番だもの。
……特に、貴男のようなまだ若い子は、ね。
(それは、心からそう思う。若いがゆえだろうか、あるいは、そういう性質に生まれついたがためか。いずれにせよその真っ直ぐな信念は、素直に美しいと思うし。それがゆえに、彼の道は何も諦めることなき道であってほしいなどとも――身勝手にながら――思ってしまう)
…………
皐月・灯 2019年10月14日
……そうできりゃ、よかったんだろうけどな。
(その呟きは、今日この場で口にしたどんな言葉よりも昏く、虚ろな響きが籠っていた。何も捨てずに来た訳ではなく、諦めずに走ってきた訳でもない。血と骨と肉の畦道を踏み砕きながら歩いてきただけだ。魂の奥にある炉心には、熔けた心が煮えたぎっている。自分はその熱に己を構築する全てをくべて、ここまで歩く力に変えてきただけで――だから。)
……オレだって、お前の生き方に口出しできるほど真っ直ぐは生きちゃいねー。なのに、踏み込み過ぎた。……。
皐月・灯 2019年10月14日
……お前とは、そんなに付き合い深いわけでもねーけどな。
(不思議に思うのも当然だろう。彼女とは戦場で数度共闘した程度の縁しかないのだから)
…………けど、しょーがねーだろ。オレだってよくわかんねーよ。
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年10月25日
…………。ごめんなさい。
(謝罪の言葉が突いて出たのは、ほとんど反射的なものだった)
(彼の零した呟きそれ一つで、彼とて屹度、同じくして生きてきたのであろうと思い至らされたからだ)
(それこそ、無神経であったというならば此方のほうだ。謝られるような謂れなど何一つない。加えて、別段、……踏み込まれたことが、厭であったわけでもないのだ。だってそれはもう、諦めたのだから。諦めたくないもののために諦め、喪わないために失うことを受け入れた――はずだったのだから)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年10月25日
(小さく、息を吐いて)
……しょうがない、というのは。
似ていると思ったから、……とか。そういうこと、なのかしら?
(よくわからない、と云っている相手に。問うことでもないのかも知れない、とは思ったが。)
皐月・灯 2019年11月2日
……お前が謝ってどーすんだよ、ったく。オレが謝ったの、ここ数年ぶりなんだぞ。
(迎える声は素っ気なく、普段通りの調子を取り戻していた。)
(取り戻させていた)
(思いがけず揺らいでしまった蝶番を締め直して、立ち昇る火の粉に気付かないふりをして。一呼吸すれば、それらは意識という視界から見えなくなる。)
皐月・灯 2019年11月2日
(幼いころは、奪われ続けていた。大きくなるにつれて相手は変わっていったけれど、そいつらはより大切なものを奪うようになっていった――それが運命だと云う者がいれば、きっとそいつを憎むだろう。彼女に告げた「絶対に屈しない」という言葉には、欠片も嘘はない。)
……ああ、そうかもな。
(きっと、ともに何かを背負った身として、重ねてしまった部分は確かにあるのだろう)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年11月16日
“だから”あたしが謝らなくていい、とはならないでしょう。
(義理は通すたちだ。礼を失することはすまいとするのは、相手を輩と認めるからだ。――過去より這い出るものたちを葬るそのみちゆきを、同じくするものだと。)
(そうであればこそ、自らがそうすべきと思ったことは通す。親しき仲にも礼儀あり、など世のものは云うが、そうではない。礼を失しないからこそ、そうなるのだ)
(だから、踏み込むべきでないことに踏み込んだ。その非礼は詫びるべきだ)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年11月16日
…………まあ、お互い様だわ。どうかお気に為さらないで。
それと、
……案じてくれたことには、礼を云うわ。
有り難う。
皐月・灯 2019年11月28日
……そうかよ。
(彼女の目を見た。視線は互いに色違い。こちらの2色を合わせてみれば、向こうの2色には、意志の強い光が絶えず燈っているのがわかる。――嗚呼。これは、正しいと信じたことをする人間の目だ)
(いくらか背も低く、年齢も下である自分。あくまで礼を通そうとする様には、此方を子供扱いせず、一人の人間として接しようとする決意が見て取れた)
皐月・灯 2019年11月28日
(――そのこと自体は、悪くない、と思った。「嬉しい」という気持ちに近かったけれど、そう認めてしまうのはどうも照れ臭いし、ここまでの流れからいえば……ばつが悪い。)
(此方も何かを言おうと口を開いて、閉じて、そっぽを向いて)
――かてー女。
(唇から零れたのは、結局そんな憎まれ口だった)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年12月16日
(視線を外された。首を傾いでそれを見やり。)
(そこから零れた言葉を耳にすれば――)
……其方は、少しばかり捻くれているのではなくて?
(なんて、小さく笑ってみせた。)
(彼の胸中にどんな思いが浮いたのかを知るすべはない。それでも、零されたその言葉は、言葉自体が示すだけの意味以上のものを含んでいるように聞こえたものだから。)
アストリーゼ・レギンレイヴ 2019年12月16日
(小さく息を吐く。
腹の傷はもう、血の匂い一つ残さず塞がっていた)
……ねえ、アカリ。
あたし、この噎せ返りそうな臭いには飽いてきたわ。
そろそろ帰るとしましょう? ――長居が得策とも思えないし。
(傷は癒えたから、と。腹に当てていた手を外して、示してみせる)
皐月・灯 2019年12月31日
(うっせーよ。素っ気なくそう返す声は、すっかり普段のものに戻っていた。ただ、少しだけ頬は赤くなっていたけれど)
……そーだな。そこまで快適な場所でもねーし……とっとと帰るとすっか。
(ちらと示された手を一瞥し、小さく、しかしどこか安堵の色をにじませるように、肩をすくめて。)
行くぞ。
(それだけ言って踵を返した。転送を目当てに、村までの道を引き返す)
皐月・灯 2020年1月4日
(歩みは止まらない。二人が足を止めることは、きっとないのだろう。いままでもこれからも、魂の奥に譲れないものを抱いて。──それぞれに、残されたものを削りながら)
(それは、互いに別の、しかしどこか似通った、覚悟のつくる道だった。)