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境界

#サムライエンパイア



 グリモアベースの一角にて。ひらりと手を振る仕草で視線を捕らえた男は、にこりと微笑んで話しかけてきた。
 曰く、サムライエンパイアのとある城下町にて、食い逃げが頻発するという話があるらしい。
 なんでも、足が自慢の若者達が、『いたずら』のつもりで数カ所で食い逃げを起こすと言う。
 一人ではないことと、足が速いために現地の者ではなかなか捕らえられない事態になるようだ。
「それ自体はまぁいいんだけどね。その食い逃げ犯が、あろうことかオブリビオンの縄張りに突っ込むようなんだ」
 これは、まだ予知の話であり、現実に起こった話ではない。
 だが、放置すれば確実に起こる話でもある。
「だからね、食い逃げ犯を止めて、ついでにオブリビオンも倒してほしいんだ」
 ついで、というよりメインはこちらなのだが、とグリモア猟兵エンティ・シェア(欠片・f00526)はメモをめくる。
 城下町の近隣に縄張りを形成したオブリビオンは、藤を操り、紫電を放つカモシカだ。
 これは群れを形成し、非常に強い縄張り意識を持つ。そして、侵入者があれば、それを排除するまで襲い続ける性質でもある。
 ここに食い逃げ犯が突っ込もうものなら、間違いなくオブリビオンは彼らを襲う。彼らも必死に逃げるだろう。そして城下町へ取って返すような事があれば、町事態が危険に晒される。
「君達が一般人を守りながらという戦闘を避けるためにも、食い逃げ犯には町にいる間にお縄にかかってもらわなければならないわけだ」
 大事なことだろう、と告げて。
 それからもう一つ大事なことがあるのだと、エンティは続けた。
「このカモシカのオブリビオンとは別に、その城下町周辺はあるオブリビオンに脅かされているんだ」
 それは森の奥に棲む、白狼のオブリビオン。
 時には人を狩り、時にはオブリビオンを狩り、森を守り続けてきた土地神のような存在。
 『彼女』は高い知能を持つが、統治を目的とはしない。ただ、『居城』である森への介入を許さないだけだ。
 その介入の基準も随分と曖昧なもので。城下町へ迷い込んだ小動物を森に帰しただけの幼子を断罪することもあれば、馬で横切る旅人を見逃すこともあるし、今なお森には己が居るのだと誇示するように城下町に現れることも、稀にある。
 触らぬ神になんとやら。よく言う言葉だが、触れても居ないのに襲いかかってくるのは、傍迷惑にも程がある。
 ……今回の予知では、よく考えずに触れに行ってしまう愚か者が現れるので、彼らのみならば、自業自得と言えるわけだが。
「カモシカと白狼の関係性は定かではない。普段は山岳地帯に居るようなカモシカが森の、それも人里に近い場所に縄張りを形成しているんだ。配下として配置された可能性もあるわけだが……まぁ、君達にはあまり関係ないかもね」
 どうせ、全部倒してしまうだろう?
 にこりと微笑んで、ぱたり、メモを閉じる。
「オブリビオンがすぐ近くに居るとは思えないほど、城下町は賑やかだ。賑やかであることで、人々は恐怖に呑まれずにいるのかもね。そんな彼らの生活が壊されることのないよう、努めてもらいたい」
 つまり、戦闘場所は森の中が望ましい。
 こちらからカモシカの群れに突っ込んでやろう。そうして城下町から離れた森の奥へ誘導してやるのだ。
 森で盛大にドンパチやらかせば、白狼は必ず制裁に現れる。
「心配は何もしていないが、無茶は程々にしたまえよ」
 サムライエンパイアへの道を開き、エンティは彼なりの激励を添えて見送るのであった。


里音
 サムライエンパイアでの冒険です。
 冒険、集団戦、ボス戦の流れになります。
 第一章では食い逃げ犯を捕らえて頂きます。犯人は一人ではないので、同じ店で待ち構えて居なくても問題ありません。
 うどんやそばなどの食事系や茶店が並ぶ感じの場所です。捕縛がおろそかにならない程度に食事を楽しんで頂くのもあり。

 第二章、第三章開始時点での状況を冒頭文章で投稿予定です。
 プレイングの参考にどうぞ。

 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『戦国捕物帖』

POW   :    現場を押さえ、走って捕らえる。

SPD   :    見当を付けて張り込み、効率よく捕らえる。

WIZ   :    店員や客になりすまし、警戒されず捕らえる。

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長宝院・清乃
オブビリオン討伐は勿論として
無銭飲食もお店の方にとっては大きな災い事
一人たりとも見逃すわけにはまいりません!

気合を入れ兆候を見逃さぬようしっかと周りを見渡して
……とても気になるお茶屋さんがございますけれど
ええ、今はぐっと我慢の時ですわね
不届き者を見つけましたら全力で捕り物と参ります!
そこの貴方、御待ちなさいまし!
薙刀の柄で転ばせたり大連珠を縄のように放ったりと
無手の格闘にもわたくしすこうし自信がございましてよ
逃がしは、いたしません…!(ぎりぎり締め上げて)

とはいえ相手も一般の方
無用な怪我はさせぬよう心がけますわね
止めの仕置きはお店の方々にお任せといたします

アドリブ連携歓迎




 賑わう城下町を真っ直ぐに見通す位置に立ち、長宝院・清乃(紅の奔流・f14630)は、すぅ、と一つ呼吸をする。
 そうやって気持ちを落ち着かせるようにしつつも、憤る感情と入りまくった気合はなかなか落ち着くものでもない。
(オブビリオン討伐は勿論として、無銭飲食もお店の方にとっては大きな災い事。一人たりとも見逃すわけにはまいりません!)
 通りの左右を見る。立ち食い蕎麦の暖簾が垂れ、涼し気な色合いをした甘味ののぼりが立っており、そのいずれもに人が居た。
 閑散としている店が見当たらないのはいいことだと、眺めながら通りを進む。
 昼時なのだろう、人の量は軽食屋の方が多く、年齢層もまちまちだ。犯人集団は若者と言っていたのだから、若者が好みそうな店なども目に留めておいたほうが良かろうか。
(あら……)
 ふと、一軒の茶屋が目に留まり、つい、清乃は足を止めた。
 団子の専門店のようだ。秘伝のタレやつやつやした餡をたっぷり掛けた団子を頬張る客の姿が伺える。
 気になる。とても、気になる。
(今はぐっと我慢の時ですわね)
 そうだ、無事に解決したら、思う存分回ればいいのだ。
 言い聞かせ、清乃は警戒を再開した。そうして城下町の中ほどまで来た頃だろうか。
「く、食い逃げだ!」
 慌てたような男の声が響き、それから逃れるように、年若い青年がうどんの店から飛び出してきた。
 人混みを物ともせず、その間を縫うように駆ける青年は縦横無尽といった様子で、叫んだ店主と思しき男は愚か、それを聞き止めた住民らもなかなか手が届かないでいる。
「出ましたわね」
 くるり、手にした薙刀の柄の部分を下に向け、清乃は声を張り上げた。
「そこの貴方、御待ちなさいまし!」
 たっ、と素早く地を蹴り駆け出せば、所詮は一般市民でしか無い青年との距離は数瞬で縮まる。
 それでも往生際悪く横道へ逃れようとする青年の足元に、薙刀の柄を引っ掛けてやった。
「うわぁ!?」
 急に曲がろうとしたこともあり、足を取られて派手にすっ転んだ青年へ、清乃は素早く組み付いた。
「無手の格闘にもわたくしすこうし自信がございましてよ」
 逃しは、いたしません。
 うっかり怪我をさせてしまうような事のないよう、細心の注意を払っていることもあってか、ぎりぎりと締め上げながらの台詞には重さがあった。
 これは抵抗すればただでは済まないのではないか。そんな凄みを感じて、青年は観念したように力を抜く。
 やがて店主の男が追いついてくれば、青年は大人しく代金を支払う。
 本当にいたずらの一環であり、逃げられれば良し、そうでなくとも支払う金はちゃんと持っていたのだと、ぼそぼそ小さな声で言う。
「いたずらと言うには度が過ぎますわ。猛省なさいまし」
 きついお説教は彼らの親族なり店の人間なりが行うだろうと思い、一言だけを添えた清乃は、さてと再び通りを見渡した。
 一人捕らえることはできた。後何人居るかはわからないが、他の猟兵が上手くやってくれることを願おう。
(場合によっては助成もしませんとね)
 気合も新たに、清乃は往来へと戻っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

枦山・涼香
つまりは仲間にいいところを見せたいのでしょう?
街を散歩しながら
仲間とつるんでいた若者が、何故か一人で店に入っていく…
ような場面を探します

続いて店に入って入口近くに陣取り
甘味など注文もして、頂きながら
犯行を待ちます

逃走する犯人に、しれっと鞘を突き出して足払い
「おや、これは失礼を。大丈夫ですか?

転んだ相手に【殺気】を当てつつ、丁重な素振りでがっちり腕を掴みます

「そんなに慌てては危ないですよ? あら、お代も払わずに?
ではここはわたしがお詫びを兼ねて払いましょう

でも、まだ帰ってはいけませんよ
わたしが食べ終えるまではご一緒に
こんな美人とですから、悪くないでしょう?
【殺気】のせいで針の筵かもしれませんが




「つまりは仲間にいいところを見せたいのでしょう?」
 短絡な思考ではあるけれど、と。ややため息混じりに枦山・涼香(烈華なる黒狐・f01881)は呟いた。
 足の速さを自慢してやりたいといったところだろうが、その手段が犯罪では迷惑極まりない。
 止めねばなるまい。散歩をするように気軽な足取りで、しかし注意深く、涼香は往来を観察する。
 と、彼女の視界の先に居た三人ばかりの青年集団が、茶屋の入口で何事か囁きあった後、何故だか、その内の一人だけが店に入っていった。
 なるほど。涼香は一つ頷いて、青年に続くように入店すると、店の入口近くの席に陣取った。
 お品書きを眺めながら、さり気なく青年の位置を確かめる。彼もまた、入口の近くに居る。これは黒だろう。
 確信を抱きつつ、涼香はあんみつと団子を注文し、のんびりと食べながら待った。
 捕らえるならば、現行犯。青年が注文したのはそこそこ大きさのあるかき氷のようだ。
 暑くなってきたから涼を取りたかったのだろう。その気持はよく分かる。そしてこのあんみつは美味しい。きっとかき氷も美味しいことだろう。
 うんうん、と一人納得したように頷いて、涼香はお茶を飲みながらその時を待った。
 果たして彼女の予想通り、青年はかき氷を食べ終えると、店員の位置を確認するようにちらりと周囲を見渡した後、唐突に店の外へ――。
「っとぉ!?」
 真っ直ぐに駆け出そうとした青年の足に、とんっ、と刀の鞘が突きつけられ、足を払われた。
 一目散に駆け出す算段だったところをものの見事に引っ掛けられ、青年は店の外に文字通り転がりでた。
「おや、これは失礼を。大丈夫ですか?」
 転ばせてしまいましたね、お怪我はありませんかと助け起こす体で腕を掴み、涼香はたおやかに微笑む。
 しかしその笑顔の下に強烈な殺気が秘められているのを、相対した青年は如実に感じ取っていた。
 青年の顔が引き攣ったのを確かめるように見つめて、涼香はにこりと笑う。
「そんなに慌てては危ないですよ? あら、お代も払わずに?」
 よほど急いでいたのでしょう、ご友人に呼ばれましたかとおろおろした顔で様子を窺っていた連れの青年らも見渡して、首を傾げる。
 けれど疑問を追求はせず、それでしたら、と笑顔のまま涼香は続けた。
「ではここはわたしがお詫びを兼ねて払いましょう」
 唐突な提案に、青年は引き攣った顔のまま、疑問符を浮かべる。
 見逃すというのだろうか。このお嬢さんは天然の金持ちか何かなのだろうか。そんな風に思ったのは、一瞬。
 金色の瞳がじっと見つめてくれば、変わらぬ殺気をひりりと肌で感じてしまい、青年は竦み上がる。
「いや、あの……」
「ご遠慮なさらずに。お詫びですから。でも、わたしはまだ食べ終えておりませんので、待って頂けますか?」
 尋ねる言葉だが、視線は有無を言わさない。
 青年は反射的に頷いて、すごすごと店に戻っていく。
 にこにこしながら団子を頬張る涼香の隣に座らされた青年は、居心地悪そうに体を縮めているし、連れの者らも流石に笑い飛ばせるほど愉快な状況ではないことを悟って店の前で右往左往しているようだった。
「かき氷、美味しかったでしょう?」
「は、はい……」
「お団子も美味しいですよ。一つどうぞ」
「い、いや……ありがとうございます……」
 涼香に声を掛けられる度、放たれたままの殺気にびくりと肩を震わせて返事をする青年は、罪を犯して店に迷惑をかけることもなく、美人の隣で甘味をつつくのだ。
 実にめでたい一日ではないか。
(流石に、懲りるでしょう)
 『いたずら』のつもりで針の筵に座らされたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

…どこの世界にも、傍迷惑なバカっているのねぇ…
まあ後々しっかり雷は落とすとして。自滅からの大炎上なんてさすがに冗談じゃないわねぇ。
そもそもふつーに犯罪だし、とっととお縄にしちゃいましょ。

ぼーっと待っててもしょうがないし、茶店の表に座って甘いもの食べてようかしらぁ。えーと、お団子とお茶と…あら、わらび餅あるの?それじゃ…とりあえず5皿お願いするわねぇ。(実は大好物:わらび餅)

食い逃げ班相手には見つけ次第誤射と流れ弾に気をつけて●封殺をぶっ放すわぁ。
いくら足が自慢って言ったって、銃弾より速く走れるわけないでしょぉ?
あ、もちろん〇マヒ攻撃なんかの非殺傷弾よぉ。




 今日はとてもいい天気。城下町は聞いたとおりの賑わいで、平和な日常を描いている。
 だというのに。
「……どこの世界にも、傍迷惑なバカっているのねぇ……」
 甘味よりも甘い声に溜息を乗せてこぼしながら、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は傍らに皿を一つ重ねた。
 既に三皿突破した皿とは別に、まだ二皿のわらび餅と一皿の団子を残し、ティオレンシアは往来を右へ左へと見渡した。
 まだそれらしい声は上がらず、直感的に怪しいと思うような姿も見ていない。
 ぼーっと待っているだけでは仕様がないと、茶店の表に設えられた涼し気な畳の座席に掛けて、のんびりと甘味を楽しむ時間が取れるほどに、町には賑わいだけが広がっていた。
「それにしてもこのわらび餅、とっても美味しいわねぇ」
 満足気に次の更に手を出したティオレンシアは、実は大好物であるわらび餅がお品書きに並んでいるのを見つけてから気分上々。
 やや胡散臭さを伴うものの、美女と称して差し支えない見た目とはあまりにもギャップが激しい幼気な甘い声。その声が、「とりあえず五皿お願いするわねぇ」と頼むものだから、注文を受けた店員が色んな驚きを心の内に止められずに顔に示してしまうのは仕方のないことだろう。
 ティオレンシア自身も、もはや慣れっこ。わらび餅が食べられるわくわくを削ぐほどではなかった。
(なかなか現れないものねぇ)
 ぷるぷるでもちもちのわらび餅をひょいと掬い上げ、ティオレンシアは再び往来を見渡す。
 傍迷惑な『いたずら』にはしっかり雷を落とすつもりでいるが、彼らの自滅に飽き足らず、町まで文字通りの大炎上になってしまうのは流石に冗談ではすまない話だ。
(そもそもふつーに犯罪だし、とっととお縄にしちゃいましょ)
 ぱくり、きなこの絡んだわらび餅の味と食感に、嬉しそうに顔をほころばせた時だった。
「そ、その人、食い逃げなんです、誰か……!」
 捕まえてください! と声を張り上げたのは甘味処の若い店員。着物がはだけるのも構わない程に全力で追ったようだが捕縛は叶わず崩れ落ちた娘の傍らに、スッ、とティオレンシアが立つ。
 その手には銃。サムライエンパイアでは早々お目にかかれないようなリボルバーは、しかし明確に武器とわかる代物で。驚いたのは娘ばかりではない。
「任せてちょうだいねぇ」
 真っ直ぐに構えたその引き金に指を掛けて、ティオレンシアは薄く眇めたような糸目で正確に現場の情景を捉える。
 人の波を避けながら走る食い逃げ犯である青年の背にぴたりと銃口を向け、それが周りを巻き込むことのない射線に至った瞬間。
「いくら足が自慢って言ったって、銃弾より速く走れるわけないでしょぉ?」
 躊躇なく、引き金を引いた。
 猟兵としての動体視力とユーベルコードによる速射は、混雑の隙間をすり抜けるように、一直線に青年の背中まで届き。そうして、彼をその場に縫い止めた。
 命中を確かめて微笑んだティオレンシアは颯爽と青年の傍らに歩み寄り、屈み込むようにして驚きに満たされた顔を覗き込んだ。
「食い逃げは犯罪よぉ?」
 地面に倒れ込んだ青年の周囲に血の流れたような後はなく、勿論傷もない。彼に撃ち込まれた銃弾は、ただその体を痺れさせる麻酔弾。
 体が痺れている内にお縄を掛けられた青年は、そのまま連行されていった。
 きついお級が吸えられることだろうと見送って、ティオレンシアは踵を返す。
 あまり油を売ってもいられない。まだ大好きなわらび餅の皿が残っているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御剣・刀也
POW行動

やれやれ。飯を食って金を払わず逃げようとは
美味いもん食わせてもらったんならそれ相応の礼は必要ってもんだ
ま、力を誇示するのもあれだし、なるべくやんわり捕まえようかね

うどんを食べつつ食い逃げが逃げようとしたら椅子をタイミングよく引いて妨害する
当たって妨害出来たら悪い、と言いつつ、目の前に立つ
「お前、食い逃げはいけねぇよ。美味いもん食わせてもらったんだからその分はお礼をしないと」
話を聞かず逃げようとしたら腕を掴んで捻り上げて動きを封じる
「はいはい。岡っ引きに引き渡されて前科持ちになるのと、此処で金を払って丸く収めるのと、どっちがいい?」
とちょっと脅しつつ、腕を締める




 どの猟兵からも、やれやれと呆れる声や溜息が漏れ出たもので。御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)もまた、例外ではなかった。
「やれやれ。飯を食って金を払わず逃げようとは。美味いもん食わせてもらったんならそれ相応の礼は必要ってもんだ」
 そう言うものだろうと独り言ちて、刀也は城下町の風情を楽しむように眺め歩いた。
 老若男女、皆がそれぞれに城下の町を楽しみながら過ごしているようで、とても良く賑わっている。
 彼らは彼らなりにこの日常を楽しんでいるのだろう。無論、今回迷惑を巻き起こす若者達も。
(ま、力を誇示するのもあれだし、なるべくやんわり捕まえようかね)
 猟兵という立場として訪れた町だが、その力を振るう相手は、オブリビオンだけでいいのだ。
 思案も含みつつの散策の最中。ふと、きょろきょろと何かを値踏みするような、あるいは物色するような視線で歩く一人の青年を見つけ、刀也はひそりと彼を観察した。
 ひょいと店内を覗き込んでは肩を竦め、思案気に立ち止まっては踵を返すさまは、昼時の食事処を選ぶようでもあったが、彼が立ち去った後の店が特別混んでいるわけでもないし、選ぶ店は食事から甘味まで節操がない。
 これは当たりか、と青年の後をさり気なく追い、同じ店に入ると、刀也は青年に近い位置で席に座り、うどんを注文してゆるりと過ごす。
 横目に見れば質素な掛けうどんを注文して食べている青年が見える。行動把握は問題ない。
 やがて青年がうどんを食べ終えた頃。彼はちらりと周囲を見て、店員が厨房の方へと視線をやった隙に、さっと立ち上がって駆け出した。
 店員が気付くのは数秒後。しかし、あっ、と声を上げようとしたその瞬間だった。
「ぐぇ!?」
「おっと、悪いな」
 背後を通り過ぎる瞬間という絶妙なタイミングで席を立った刀也の椅子の背が、勢いよく駆け出そうとした青年のみぞおちに食い込む。
 出鼻をくじかれた上に結構な痛みを与えられた青年はその場に蹲るが、自身の前に影が降りたのを見留てか、はっとしたように顔を上げる。
 眼の前には、自分より随分と背の高い男の姿。
 それが、覗き込むように腰を屈めて来た時、その表情が椅子にぶつかった青年を慮るものではなく、訝しげに潜められたものであると気がついて、青年は思わず目を逸らしていた。
「お前、食い逃げはいけねぇよ。美味いもん食わせてもらったんだからその分はお礼をしないと」
「そ、そんなことしてねぇし」
 今払うつもりで、などと言いながら懐を探って見せるが、その視線はまだ逃亡を諦めていない様子で。
 刀也の登場で一先ず声を上げるのを収めた店員がまた背を向けようとした瞬間に体を起こしたのを見て、刀也は青年の腕を掴んだ。
 そうして軽やかに捻り上げ、はいはいと宥めるように数度肩を叩いた。
「岡っ引きに引き渡されて前科持ちになるのと、此処で金を払って丸く収めるのと、どっちがいい?」
 頼んだものが一番安い掛けうどんだった辺り、万が一咎められれば払うつもりでは居るのだろう。
 そんな中途半端な策から察するに、前科持ちという発想はなかったようだ。刀也の凄みを利かせた声と、一瞬で力量差を判断できる捕らえ技に、いよいよ青年の顔から血の気が引いて、観念したように力を抜いた。
 きちんと謝罪をして支払いも済ませるまでを見届けて、刀也はまだ残っていたうどんを食べる。
 少し冷めてしまったかと苦笑する彼の席に、店からお礼の品として小鉢が一品差し出されたのは、ほんの余談。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
「人生を棒に振る」って言いますけど、棒に振ったら即終了とは思ってなさそうですよね。
…。…まさかとは思いますけど、遊び感覚の食い逃げごときで悪いコトしてるつもりですか? ぬるい。実にぬるい。
このままほっといて阿鼻叫喚を見ウソです。シゴトはちゃんとします。
最後の相手が獣なら、興奮させるのは得策ではないですし。

素直に足で追いますよ。そう凝ったことはしません。ちょっと上を行くだけです。
城下の道が狭くとも問題なく、行き先もアタリはつくでしょう。
先回りできれば御の字。《忍び足》で捕まえられますかね。
縛って店の前に置いとけばいいですか?
お礼とかはいいです。始まる前に鰊そば食べに行きたいんで…そういうことで。




 人生を棒に振る。などとはよく言う言葉だ。積み重ねてきたものをちょっとの失敗で台無しにしてしまうことである。
「棒に振ったら即終了とは思ってなさそうですよね」
 矢来・夕立(影・f14904)はぽつりとこぼす。『いたずら』のつもりの彼らは、むしろ棒に振るとも思っていないのではなかろうか。
 いや、『いたずら』というのだから、悪いという感情程度はあるのだろう。
 けど。
「……。……まさかとは思いますけど」
 遊び感覚の食い逃げごときで悪いコトしてるつもりですか?
 きょとん、と。首を傾げるようにして、夕立は未だ相対していない若者集団の心理に問いかける。
 問いかけて、首を振る。
「ぬるい。実にぬるい」
 どこぞの大店から千両箱を盗むような大仕事でもなく、誰かの命を自分の意志で奪うわけでもなく。
 みみっちい食い逃げごときで悪者気取りとは。
 程度も低ければ自分達の行いが周囲や未来にどのような影響を及ぼすかを思い至れないような幼さしか無いのだというのなら、いっそ。
「このままほっといて阿鼻叫喚を見ウソです。シゴトはちゃんとします」
 言い切る前に、夕立は思考を軌道修正した。誰に咎められたわけでもないが、強いて言うなら、自分にもあると思われる良心的な何かに言及される前に。
 これはシゴトだから、きちんとすべき。それ以前に、判別しているオブリビオンの首魁が森への介入を許さぬ獣だというのだから、あまり興奮させ過ぎるのは得策ではないのだ。
 ふるりと頭を振って思考を切り替えると、夕立は往来を歩く。歩いて、眺めて。そうして、聞き止める。
「食い逃げだ!」
 切迫した声と、駆けていく背中を振り返り、即座に、夕立は駆けた。
 地の利は相手にあるのだろう。横道や走りにくい裏路地も熟知しているのだろう。
 だが、道とは繋がっているものだ。駆ける方向がある程度分かれば、先を読むのは難しいことではない。
 広い通りを避け、隠れるように進める道ばかりを選ぶというのなら、なおのこと。
(足音……間違いなさそうですね)
 近からず、遠からず。泳がせるように走らせた青年が向かう先は、路地を抜けた大通りの先にある、反対の路地。
 だが、その道に立ち入ろうとした青年の前に、夕立が居た。
 忍び足で先を進んだ夕立の足音なんかは、一般人でしか無い青年に察せるはずもなく。いっそ気配もなく、唐突に現れたようなその姿に、ぎょっとしたように足を止めた青年を素早く捕らえ、地面に縫い付けた。
「自信があったようですが、上がいるとは思いませんでしたか」
 やっぱり、ぬるい。
 縛って食い逃げを起こした店の前に放り捨てて、やれやれと夕立は息をつく。
「ありがとうございます、なにかお礼を……」
 何度も頭を下げる店主に、ひらりと手を振り、要らないと告げる。
 説教を含めた罰の与え方は現地の人間に任せればいい。それよりも夕立にはやるべきことがある。
「始まる前に鰊そば食べに行きたいんで……そういうことで」
 踵を返した夕立に、それならむしろお礼にうちで食べて行ってくださいと声が掛けられるのは、数秒後の話。
 声に振り返りゆっくりと見上げた暖簾に、蕎麦の二文字がそよいでいるのを見つけるのは、それから更に数秒後。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『荒ぶるカマシシ』

POW   :    アオの寒立ち
全身を【覆う和毛を硬質の毛皮】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    神鳴り
自身に【紫電】をまとい、高速移動と【電撃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    影より出づる藤波
【自身の影】から【召喚した藤の花】を放ち、【絡みつく蔓】により対象の動きを一時的に封じる。
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 猟兵達の活躍により、問題児集団は軒並みお縄と相成った。
 同じように企んでいた者が居ようとも、流石に起こす傍から捕まっていくのを見れば、迂闊な行動は取れまい。
 こうして、猟兵達はそれぞれに万事準備を整える時間を得、いよいよ森へと打って出る時が来た。
 人の里と森との境を示すかのように、古い時代には街道として利用されていただろう道が存在していた。
 しかしそれも、今や誰が通るわけでもなく。伸び放題の草に、張り出した根が地面を隆起させ、道としての役割を妨げている。
 その草の繁茂は人里に近くなるほど薄れてはいたが、それでもこのまま放置すれば、やがて里を飲み込むに至るだろう。
 境界は、とうに崩れ去っていたのだ。
 ふと、猟兵達の視線の先で、ばちりと音を立てて紫電がはぜた。
 即座に警戒するだろう。それは、相手も同じだった。
 体に纏った藤の花を振り乱し、狂ったように上げた咆哮は、怒りの声。
 群れの縄張りに立ち入った不届き者を排除すべく、次々と集まってくるカモシカ姿のオブリビオン。
 あれらが人里に向かってしまうことのないように。
 受けた要請を、猟兵達は忘れていない。
 そう、食い止めるだけでは、足りない。
 いっそ押し込んでしまうほどの力が、彼らの意識を森の奥へ向けさせるほどの策が、求められるのだ――。

 続々と集まってくるオブリビオンを前に、刀也はすらりと刀を抜き、隙なく身構える。
「じゃ、ちゃっちゃとこいつらを倒しましょうか。人里に降りられたら迷惑だからな」
「ええ、ええ、そうですね。英気も十分養いましたし」
 同様に、涼香も刃を構える。それはやや小柄な涼香の身にはいささか不釣り合いで、けれど居並ぶ刀也の持つ美しい刀剣同様、鋭さを伺わせる美しさを持った、大太刀。
 彼らの会話から、他の猟兵も食事をしたのだなとなんとなく察し、夕立は先程食べた蕎麦を思い起こす。
「鰊そば、美味しかったですよ。故郷の味ですね」
「鰊そばが有名な土地の生まれなのか?」
「生まれ? 全然違うところです」
 何気なく尋ねた問いへ、息をするように嘘を吐く夕立に、そうかい、と刀也は笑って返した。
 懐かしさを覚える味というものはあるものだ。そしてそんな味を提供する城下町へと敵を向かわせるわけにはいかない。
 つまりはそう言うことだろう、と。
 二振りの刃が、その切っ先を敵へと向けるや否や、閃く。
 同時、カモシカの蹄が打ち鳴らされ、山岳を駆ける強靭な足から成る突撃を猟兵達へと見舞った。
 ただの突進を行うものもいれば、紫電を纏っているものもいる。動きはまばら、色もまちまちな敵と、それに切り込んでいく仲間をそれぞれに見て、夕立は手にした脇差をすらりと抜いて、接敵した。
 近くに寄って、応戦しながら観察する。彼らに怯えた様子でもあれば、後に待つ白狼から逃げ出してきた可能性も考えられるから。
(……そういうわけでもないのか)
 慌てて逃げ出してきたわけでは、なくて。追いやられただけ、なのかもしれない。
 だとすればわざわざ森の主たる白狼が居る奥地へ向かうことは避けられるだろう。
 ゆるりと首を傾げて、夕立は思案した。そんな彼らを追い立てるには、どうしたものかと。
「我らはあなた方の境界を侵すもの。全力で抗いなさい!」
 思案に応えるような、鋭く張られた声。
 森の奥まで響くような涼香の宣言は、無策に突撃したカモシカを斬り伏せながらのもので。その言葉に力強さと現実味を感じたオブリビオン達はいきり立つ。
「そうとも、抗わないなら全滅するだけだぜ」
 助長するように刀也が続けば、ヒトの分際で生意気なとでも言うように蹄を振り上げ、ほど近くに居た夕立を踏み潰そうとした。
 見上げ、脇差を構え。
 ひとつ、ふたつ、みっつ――。
 オブリビオンの挙動をじっと見据えた夕立は、その刃を振るうことなく、大量の式神を展開させた。
「鏖だ」
 小さく。こぼすような一言と共に。蝙蝠の群れが、一体の敵を覆い尽くさんばかりに襲いかかる。
 圧倒的な力でもってねじ伏せた個体を打ち捨てて、さぁ怯えろと言わんばかりに見据えれば、一部の敵がじりと足を引くさまが伺えた。
 しかし、それが群れの総意として広がることはなく。勇ましい個体がその身に紫電を纏って突っ込んで行けば、じわりと広がった恐怖と勇猛が、拮抗する。
(興奮されたか……)
 それならば、仕方がない。
 責任を持って、全部殺すだけ。
「おっと、そのまま人里へ抜けようってのはなしだからな」
 勇猛果敢なオブリビオンの勢いを削ぐように立ちはだかった刀也へ、高速で移動するオブリビオンは電撃を放つ。
 だがその電撃は真っ直ぐ刀也へ向かうことはなく、彼が投げた日本刀へと殆どが吸い込まれた。
 微かに痺れる程度にまで殺せた電撃の感覚を払うように何度か拳を開閉させ、刀也は電撃を放った直後で足を止めている相手へ掴みかかる。
 そうして、短くも鋭い角へと手を掛け、べきり、纏う紫電ごと圧し折った。
 悶絶する仲間を助けようと、召喚した藤を伸ばして刀也を捉えようとする。その動きを察し、木で遮るように跳躍を重ねて投げた日本刀を拾い上げると、そのまま地を蹴り距離を詰めて、一閃。
 胴を二つに切断されて崩れ落ちる個体を一瞥だけして、刀也は再び構えた。
「鹿だけあってすばしっこいな。が、読めない訳じゃない。相手が悪かったな」
 さぁ、どんどん掛かってくると良い。顔を上げた刀也の目に、踊るように燃え上がる炎が映る。
 敵が群がる真ん中へ急襲し、身の丈ほどの刃で薙ぎ払った涼香が、その周囲に浮かべた狐火を展開させたのだ。
「――蒼炎よ、我が妖気を糧として燃え上がり、彼奴らを黄泉路へと導きなさい」
 浮かぶ炎は青白く、熱を増し、的確にオブリビオンを襲う。
「何一つ残さず、彼奴らの存在を焼き尽くしなさい」
 森ごと、焼き払われてしまうのだろうか。そんな錯覚を抱かせるほど強烈な炎に呑まれ、瞬く間に燻るばかりの灰へと転じた仲間を見て、いよいよ、足を引くだけだった個体が踵を返した。
 涼香はそれを素早く追う素振りで森の奥へと駆け込み、ちらと確かめるように背後を見る。
 それぞれの猟兵が力を示すことで、敵の中に恐れを広げることはできている。
 こうして逃げ出す先が森の奥となったのは、刀也や夕立が人里への通り道を遮って居るからだろう。
(こちらを追ってくれれば、なおいいのですが)
 一体が逃げ出したのを皮切りに、幾つかが逃げ出す姿勢を見せている。
 それをさらに追い立てるように夕立が踏み込めば、また一体。刀也が刃を振るえば、また一体。
 徐々に、戦闘の中心は森の奥へと移っていった。
「このまま、散開されるのも困りますからね」
 追う形になっていた個体との距離を詰め、突き立てるようにしてその足を止めて。
 ゆらりと狐火を周囲に踊らせたまま、涼香は振り返る。
(このまま、もう少し――)
(奥に突っ込んでくれれば、後が楽ですね)
 立ち止まって全身の毛を硬質な毛皮に変えている個体を見据え、夕立は思案した。
 逃げることはしないという主張かも知れないけれど。
 動けなくなる代償を払ってまでこちらの攻撃を遮りたいなんて。
 怯えているのと大差ないな、と。

 カモシカ達の大勢はほぼ崩れた。
 彼らは白狼がオブリビオンをも狩ることを知らぬのか、それとも白狼よりも猟兵を恐れたのか。森の奥へと逃げるばかり。
 後は、白狼が出てくるに至るほどに暴れるだけ。
 逃げるカモシカが人里へ紛れ込むことのないよう、しっかりと、始末を付けるだけ。
御剣・刀也
おお、おお。集まってきたな
じゃ、ちゃっちゃとこいつらを倒しましょうか
人里に降りられたら迷惑だからな

アオの寒立ちで防御態勢になられたら、距離を取って呼吸と体制を整える。相手が状態を解除したら斬りかかる
神鳴りで高速移動できるようになったら距離を取られない様に注意しつつ、電撃で攻撃されたら日本刀を相手の近くに投げて避雷針代わりにして避けつつ、距離を詰めて斬り捨てる。距離がないなら、手を放してグラップルで角を圧し折りに行く
影より出づる藤波で拘束しようとしてきたら障害物を使って跳躍して距離を詰めて斬り捨てる
「鹿だけあってすばしっこいな。が、読めない訳じゃない。相手が悪かったな」


枦山・涼香
英気も十分養いましたし、危険の排除に向かいましょうか

会敵したならば
「我らはあなた方の境界を侵すもの。全力で抗いなさい
と大音声を上げて、こちらの存在を知らしめると同時に
周囲に狐火を数多浮かべ、抜き放った大太刀とで敵の目を引き付けます

敵がどれほど居ようとも恐れはしません
敵の密度が濃いところに踊りこみ、大太刀で薙ぎ払い
続けて狐炎疾走を使用、周囲の敵影全てを攻撃し
こちらが現実の脅威だと理解させましょう

警戒されればしめたもの
注目を引いたまま森の深奥へと向かい
後を追わせます

慌てずに移動し敵を引き付けて
狐炎疾走で攻撃し、接近されたなら太刀で反撃

絶対防御は相手にせず他を攻撃
わざわざ足を止めてくれるのですからね


矢来・夕立
鰊そば、美味しかったですよ。故郷の味ですね。
生まれ?全然違うところです。

素直に考えると、狼から逃げてきた…んでしょうか?
だとすると、また森の奥へ戻ってくれそうな策は思いつきません。
…仕方ない。追い立てます。せめて少しだけは捻りましょう。
近接戦闘のフリから《だまし討ち》で【紙技・冬幸守】。
一度に全部の式を使います。見た目の脅しも兼ねた一発勝負ですね。
コレでビビって後退してくれればイイんですけど…逆に興奮させるかな。
そしたら責任を持って全部殺せるよう尽力します。

他の方に手立てがあるならそちらをお手伝いします。
《援護射撃》はそれなりに、《暗殺》ならかなりお役に立てるはずですよ。

アドリブ連携可




 続々と集まってくるオブリビオンを前に、刀也はすらりと刀を抜き、隙なく身構える。
「じゃ、ちゃっちゃとこいつらを倒しましょうか。人里に降りられたら迷惑だからな」
「ええ、ええ、そうですね。英気も十分養いましたし」
 同様に、涼香も刃を構える。それはやや小柄な涼香の身にはいささか不釣り合いで、けれど居並ぶ刀也の持つ美しい刀剣同様、鋭さを伺わせる美しさを持った、大太刀。
 彼らの会話から、他の猟兵も食事をしたのだなとなんとなく察し、夕立は先程食べた蕎麦を思い起こす。
「鰊そば、美味しかったですよ。故郷の味ですね」
「鰊そばが有名な土地の生まれなのか?」
「生まれ? 全然違うところです」
 何気なく尋ねた問いへ、息をするように嘘を吐く夕立に、そうかい、と刀也は笑って返した。
 懐かしさを覚える味というものはあるものだ。そしてそんな味を提供する城下町へと敵を向かわせるわけにはいかない。
 つまりはそう言うことだろう、と。
 二振りの刃が、その切っ先を敵へと向けるや否や、閃く。
 同時、カモシカの蹄が打ち鳴らされ、山岳を駆ける強靭な足から成る突撃を猟兵達へと見舞った。
 ただの突進を行うものもいれば、紫電を纏っているものもいる。動きはまばら、色もまちまちな敵と、それに切り込んでいく仲間をそれぞれに見て、夕立は手にした脇差をすらりと抜いて、接敵した。
 近くに寄って、応戦しながら観察する。彼らに怯えた様子でもあれば、後に待つ白狼から逃げ出してきた可能性も考えられるから。
(……そういうわけでもないのか)
 慌てて逃げ出してきたわけでは、なくて。追いやられただけ、なのかもしれない。
 だとすればわざわざ森の主たる白狼が居る奥地へ向かうことは避けられるだろう。
 ゆるりと首を傾げて、夕立は思案した。そんな彼らを追い立てるには、どうしたものかと。
「我らはあなた方の境界を侵すもの。全力で抗いなさい!」
 思案に応えるような、鋭く張られた声。
 森の奥まで響くような涼香の宣言は、無策に突撃したカモシカを斬り伏せながらのもので。その言葉に力強さと現実味を感じたオブリビオン達はいきり立つ。
「そうとも、抗わないなら全滅するだけだぜ」
 助長するように刀也が続けば、ヒトの分際で生意気なとでも言うように蹄を振り上げ、ほど近くに居た夕立を踏み潰そうとした。
 見上げ、脇差を構え。
 ひとつ、ふたつ、みっつ――。
 オブリビオンの挙動をじっと見据えた夕立は、その刃を振るうことなく、大量の式神を展開させた。
「鏖だ」
 小さく。こぼすような一言と共に。蝙蝠の群れが、一体の敵を覆い尽くさんばかりに襲いかかる。
 圧倒的な力でもってねじ伏せた個体を打ち捨てて、さぁ怯えろと言わんばかりに見据えれば、一部の敵がじりと足を引くさまが伺えた。
 しかし、それが群れの総意として広がることはなく。勇ましい個体がその身に紫電を纏って突っ込んで行けば、じわりと広がった恐怖と勇猛が、拮抗する。
「そのまま人里へ抜けようってのはなしだからな」
 オブリビオンの勢いを削ぐように立ちはだかった刀也へ、高速で移動するオブリビオンは電撃を放つ。
 だがその電撃は真っ直ぐ刀也へ向かうことはなく、彼が投げた日本刀へと殆どが吸い込まれた。
 微かに痺れる程度にまで殺せた電撃の感覚を払うように何度か拳を開閉させ、刀也は電撃を放った直後で足を止めている相手へ掴みかかる。
 そうして、短くも鋭い角へと手を掛け、べきり、纏う紫電ごと圧し折った。
 悶絶する仲間を助けようと、召喚した藤を伸ばして刀也を捉えようとする。その動きを察し、木で遮るように跳躍を重ねて投げた日本刀を拾い上げると、そのまま地を蹴り距離を詰めて、一閃。
 胴を二つに切断されて崩れ落ちる個体を一瞥だけして、刀也は再び構えた。
「鹿だけあってすばしっこいな。が、読めない訳じゃない。相手が悪かったな」
 さぁ、どんどん掛かってくると良い。顔を上げた刀也の目に、踊るように燃え上がる炎が映る。
 敵が群がる真ん中へ急襲し、身の丈ほどの刃で薙ぎ払った涼香が、その周囲に浮かべた狐火を展開させたのだ。
「――蒼炎よ、我が妖気を糧として燃え上がり、彼奴らを黄泉路へと導きなさい」
 浮かぶ炎は青白く、熱を増し、的確にオブリビオンを襲う。
「何一つ残さず、彼奴らの存在を焼き尽くしなさい」
 森ごと、焼き払われてしまうのだろうか。そんな錯覚を抱かせるほど強烈な炎に呑まれ、瞬く間に燻るばかりの灰へと転じた仲間を見て、いよいよ、足を引くだけだった個体が踵を返した。
 涼香はそれを素早く追う素振りで森の奥へと駆け込み、ちらと確かめるように背後を見る。
 それぞれの猟兵が力を示すことで、敵の中に恐れを広げることはできている。
 こうして逃げ出す先が森の奥となったのは、刀也や夕立が人里への通り道を遮って居るからだろう。
(こちらを追ってくれれば、なおいいのですが)
 一体が逃げ出したのを皮切りに、幾つかが逃げ出す姿勢を見せている。
 それをさらに追い立てるように夕立が踏み込めば、また一体。刀也が刃を振るえば、また一体。
 徐々に、戦闘の中心は森の奥へと移っていった。
「このまま、散開されるのも困りますからね」
 追う形になっていた個体との距離を詰め、突き立てるようにしてその足を止めて。
 ゆらりと狐火を周囲に踊らせたまま、涼香は振り返る。
(このまま、もう少し――)
(奥に突っ込んでくれれば、後が楽ですね)
 立ち止まって全身の毛を硬質な毛皮に変えている個体を見据え、夕立は思案した。
 逃げることはしないという主張かも知れないけれど。
 動けなくなる代償を払ってまでこちらの攻撃を遮りたいなんて。
 怯えているのと大差ないな、と。

 カモシカ達の大勢はほぼ崩れた。
 彼らは白狼がオブリビオンをも狩ることを知らぬのか、それとも白狼よりも猟兵を恐れたのか。森の奥へと逃げるばかり。
 後は、白狼が出てくるに至るほどに暴れるだけ。
 逃げるカモシカが人里へ紛れ込むことのないよう、しっかりと、始末を付けるだけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
連携歓迎!

藤のカモシカ! あれ、イノシシ?
ま、どっちでもいいか。勝負だー!

うっわ、バリバリだねー。
雷避けを唱えながら、真っ向から縄張りに突っ込む!

「くわばら くわばらー♪」(ダッシュジャンプパフォーンスダンス)

怯えて逃げ惑う獲物に見えないと、追っかけてもらえないからねー。
まあ、周囲の兄ちゃん姉ちゃんよりか、おいらの方が組し易そうでしょー?
(とか言いつつ楽しそうに逃げまくる野生児♪)

十分な数、引き寄せた? そろそろいいかなー?
さて、ここからがおいらのオンステージ!

くるりと振り返り、へへへっと笑い。
すうっと息を吸い込んで。

ココはおいらの縄張りにするからね!
せえのー。

「ぼええーーーーーー!」(咆哮)


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

あ―美味しかった。終わったらもっかい行ってもいいかしらねぇ。
ま、狩りを終わらせてからゆっくり考えましょ。

正面からは他の人が行ってくれてるみたいだし。あたしは側面から当たろうかしらねぇ。
森の中なんだから隠れるとこはたくさんあるし。
〇忍び足で〇地形の活用して〇目立たないような位置取りを確保。
他の人たちに追い立てられた敵を●射殺で仕留めていくわぁ。
逃げてるとこへの不意討ちだもの、止まって無敵になってるヒマなんてないわよねぇ。
一応〇電撃耐性と魔除けにエオローのルーンも用意はしたけど、焼け石に水程度でしょうし。なんとか遠間から削り殺したいわねぇ。




「うっわ、バリバリだねー」
 森の奥へと目を凝らし、時折爆ぜる紫電を見止め、木元・祭莉(土わらしの友達・f16554)はそうこぼした。
 その紫電の発生源は視認できている。足元から藤を召喚し、その花弁をひらりと身に纏いながら、同じ色の雷を迸らせているその『生物』は……。
「藤のカモシカ! あれ、イノシシ?」
 見た目はカモシカだが、平地で突撃するさまはイノシシのようにも見えて、祭莉は首を傾げた。
 しかしそれも一瞬。どちらでもいいかという結論に早々に至って、軽い身のこなしで森の中へと突撃した。
「あら、元気な子が居るわねぇ」
 駆けていく祭莉を、他の猟兵を、視線だけで追いかけて。ティオレンシアは彼らとは少し距離を開けるようにして森へ入った。
 奥へと誘導されている様子なのは見て取れるが、一部に猟兵から逃れようとする動きも見えるのだ。
 ならば、それを阻止する人員も必要だろう。
「狩りが終わったら、また美味しいものを食べに行きたいものねぇ」
 わらび餅はとても美味しかった。また食べに行くか他のお店を覗くかは、ゆっくり考えて決めたいもの。
 そのためにも、後顧の憂いは断っていくべきだ。
 戦場に響く戦闘音や木々を障害物として利用し、ティオレンシアは忍ぶように森の中を移動すると、逃げ出そうとする敵の前方に配置する。
 恐れで視野が狭まっているオブリビオンは潜むティオレンシアには気付かずに駆け抜けようと、して。
「あたしの前に立ったんだもの。逃げられるわけないでしょぉ?」
 ゆるりとした笑みを讃えたまま、引き金を引く。
 彼女のユーベルコードがその射撃の精度を底上げし、駆けるオブリビオンの眉間を真っ直ぐに射抜いた。
 続けて放たれたもう一発は、足を貫く。惰性で駆けていた敵も、それにより転がるように倒れ伏し、立ち並ぶ木々に激突して、動かなくなった。
「先ず一体よぉ」
 逃げ道など与えない。とは言えこちらも大きな攻撃を受けるのは避けたい。
(電撃耐性も魔除けのルーンも、焼け石に水、でしょうしねぇ……)
 極力気取られぬようにと移動を繰り返しながら、ティオレンシアは次の狙いを定めていく。
 ぴくり、と。祭莉の耳が遠くに聞こえる銃声を聞き止めて揺れた。
 他の猟兵が行動しているだろう場所をちらりと横目に見て、目の前に見える敵の行動を見て、うん、と一つ頷いた。
 倒す気でおり、逃がす気のない猟兵がたくさんいるなら、好都合。
「くわばら くわばらー♪」
 雷避けを唱えながら、なるべく小さく縮こまり、逃げるようにひょこひょこと駆け回る祭莉。
 人狼であり野生児である彼にとって、森を駆けるのは楽しいことだが、今は戦いに怯えて逃げる少年のフリ。
 そうやって逃げていこうとする祭莉を、未だ戦闘意欲と逃走欲求が半々で防御に動けなくなっている敵は都合の良い獲物として認識した。
 己を鼓舞するように一つ咆哮を上げれば、それに呼応して仲間が寄り集まる。
 ――臆病風に吹かれた者同士が。
(おいらの方が組し易いと思わせられたかなー)
 なかなかに演技できたものだと見えない位置で得意げに笑って、祭莉は他の猟兵達が向かった方向とは少しずれた場所へと敵を誘導する。
 その光景は、爆ぜる紫電の大きな移動としてティオレンシアの目にも止まっていて。
 時折高速で突撃してくるのを先頭でひょいと躱している祭莉の姿に、一瞬加勢すべきかと足を踏み出したが。
(なんだか……楽しそうねぇ?)
 窮地には見えないその顔に、ティオレンシアはほんの少し思案してから、彼に背を向けた。
 彼がただ『逃げて』いるわけでないのなら、自分には自分の立つべき場所があるのだと。
 一方、暫く駆けた祭莉は、周囲に仲間の姿がなく、敵ばかりとなったのを確かめるように振り返ってから、くるり、立ち止まって敵へと向き直る。
 狙いすましたように放たれた電撃に、わぁ、と声を上げつつ飛び退くが、その顔には笑みがある。
「ココはおいらの縄張りにするからね!」
 そう、ここからは、祭莉オンステージだ。
 へへへっ、と勝気に笑った祭莉は、大きく息を吸い込んで。
 せえのー。

 ぼええーーーーーー!

 至って無邪気に放たれた、怪音波じみた咆哮は、祭莉を追ってきたオブリビオン達を襲撃する。
 オブリビオンを次々と戦闘不能に貶めるその威力は凄まじく、ついでにその声は、よく響いた。
「……本当、元気ねぇ」
 丁度数体目の敵を仕留め終えたティオレンシアが、微笑ましげに顔を上げる。
 ――直後のことだった。
 祭莉の咆哮に呼応するかのように、鋭い咆哮が響いたのは。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ホロケウカムイ・オーロ』

POW   :    汝らを生かしてはおかぬ
【怒り 】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD   :    森の嘆きと苦悶を知れ
自身に【 森の生物たちの怨念】をまとい、高速移動と【負の感情による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    黄泉の国より甦れ戦士たち
レベル×5体の、小型の戦闘用【 白狼の亡霊】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 猟兵達は声を聞く。
 それは威嚇する声。
 怒りを顕にする声。
 聞こえたそれに、運良く生き延びていたカモシカのオブリビオン達は萎縮したように縮こまる。
 ――普段は山岳にいるカモシカ達が、何故人里近くで縄張りを築いたのかは、定かではない。
 だけれど少なくとも、彼らは、『彼女』の存在とその驚異を、認識していた。
 ゆえに、怯えた。そうして、また逃げ出そうと足を引いた。
 しかし、それを許さぬというように、白影が横切る。
 深い森の中ではよく目立つ白は、カモシカへと食らいつき、蹴散らし、また一つ咆えて。
 低く唸りながら、猟兵達の前に立った。
 猟兵も、オブリビオンも、人も、等しく敵とし、排除しようとする白狼は、その瞳に怒りを湛えていた。
 『彼女』の抱く怒りは、その身を強大にする。
 『彼女』が感じる森の嘆きは、怨念としてその身に纏われる。
 『彼女』が亡くした子孫たちは、黄泉より還り、再び牙を剥く。
 相対した猟兵達は悟るだろう。何があっても、『彼女』の怒りは収まらないと。
 ここで『彼女』を討ち果たさねば、彼らが訪れた人の里は、滅ぼされることになるだろうと。
御剣・刀也
狼か。動物に無念が集まったものかもしれないが、お前らの気持ちが分からない訳でもない。が、もう存在を認めるわけにはいかない。
すまんが、打ち取らせてもらう

怒りで体のサイズと戦闘力が増大したら、大きい分小回りは聞かなくなると思うので、相手の懐に飛び込んで牙に注意しつつ、斬り捨てる
怨念を纏って高速移動と衝撃波を打てるようになったら距離を取られると不利なので距離を取られないようにしつつ、遠距離戦にはさせない
亡霊を召喚したら邪魔な物は斬り捨て、邪魔でない者は無視して本体を狙う
「狼か。山の神ともいわれるが、お前を生かしておくわけにはいかない。悪いな」


木元・祭莉
母ちゃん狼かあ……やりにくいなあ。(耳伏せ)

体勢は低く。足音は忍んで。
五感をフルに使い。
敵モーションは大気の震えで感じて。

全身から怯えの波動を発しながら、母狼の目を盗むように接近。
うわー、怒った母ちゃんとか、むっちゃヤバいぞ……
できるだけ刺激しないように、そろそろと。

動物会話で、宥められないか試すけど。
どうしたの?
何があったの??

……そっかー。
それじゃ、しょうがないねー。
おいらたちが、母ちゃんを眠らせてあげる!

ダッシュとジャンプで、懐へ飛び込む。
攻撃は半身で受け流し、衝撃で方向を変えながら。

最後は、スライディングで腹の下。
……ココは、いつでも、安全地帯なんだよね。

零距離から、灰燼拳!
ゴメン。




 あの城下町も、かつては森の一部だったのだろうか。
 人は、彼らを追いやったのだろうか。
 先に、境界を超えたのは――。
「お前らの気持ちが分からない訳でもない」
 怒りの感情を顕にし、低く唸る声を発する白狼に、刀也は真っ直ぐに告げた。
 この白狼の存在は、この森に長く蓄積され、燻り続けた動物たちの無念が狼という母体に寄り集まった結果なのかもしれない。
 平穏な日々を妨げられた恨みが募ったものだというのなら、その平穏を壊しに来た猟兵やオブリビオンに……まして、長く居着く人々に怒りを覚える気持ちも、汲み取れる。
 だが、それは、それだけでしかない。
「狼は山の神ともいわれるが、お前を生かしておくわけにはいかない。すまんが、討ち取らせてもらう」
 人の側に居る以上、そして、相手がオブリビオンである以上、その存在を認めるわけにはいかない。
 過去に、未来が食い潰されることは、あってはならない。
 相対する覚悟を表すように刀の切っ先を向けた刀也とは、やや対照的に。祭莉はその身を縮こまらせて、居心地悪そうに視線を泳がせていた。
(母ちゃん狼かあ……やりにくいなあ)
 祭莉は、人狼で。それ以前に、両親を持つ少年で。
 だからこそ、母親であり狼である白狼の存在には、どうにも萎縮してしまう。伏せた耳と同じように、体も伏せるように低い姿勢になっていた。
(うわー、怒った母ちゃんとか、むっちゃヤバいぞ……)
 自分の母が怒った姿は、こわい、と。思う。
 だがそれ以上に、いま対峙している白狼にはもっと明確な敵意と殺意があるのだ。ひりひりと肌を刺すような感覚に晒されながらも、祭莉はそろり、刺激しないように白狼に忍び寄った。
 そっと、というよりは、いっそおずおずと。
 叱られた子供のように歩み寄った祭莉は、人のそれではなく、獣に伝わる『言葉』で語りかけた。
「どうしたの?」
 どうして、そんなに怒っているの?
 何があったの?
 理由があるなら解決できるかもしれない。
 例えば『彼女』が討ち倒されることでしかこの場が収められずとも、再び同じ存在が現れないように。
 だが、祭莉の『言葉』は、『彼女』を宥めるには至らなかった。
『聞かぬ者の声を、聞く道理はない』
 貴様らが去ることは許さぬ。
 貴様らが滅することだけが、我らに安寧を齎す。
『疾く、朽ち果てるがいい!』
 咆哮は、祭莉の毛をびりびりと震わせ、逆立てさせた。
 距離を置いているはずの刀也の身も、引き締めさせる。
「そっかー……」
 『声』が届くことは、ないのだと。祭莉は、刀也もまた、痛感した。
 分かって、いた。
 咆哮と共に爆発的に巨大化した白狼を見上げ、その根強い怒りをひしと感じながら、刀也は懐に飛び込むようにして接敵した。
 木々の立ち並ぶ森の中で、その巨躯は小さな刀也達より立ち回りに不便そうで。
 それでも、前足を薙ぎ払う一つの所作で、めきめきと音を立てて木が薙ぎ倒され、空間が生まれるのだから、直接受けるわけにはいかない。
「自分で荒らしてちゃ世話ないと思うんだけどな……」
 ぽつりとこぼす刀也の声には、少しの憂いがある。それほどの怒り、だと言えばそれまでなのだろう。
 あるいはオブリビオンでなく本当にただの森の守り神のような存在であったなら、こんな暴れ方はしなかったのかもしれない。
 考えても、詮無いことだ。今はただ、刃を振るうのみ。
 見上げるほどの真白な体毛の足元には、小さな白狼がわらわらと群がっていた。
 かつて亡くした子孫の亡霊。怒りで肥大化した体に比べれば、小さな小さなこどもたち。
 元より全て切り捨てるつもりだった刀也は、剣を振るう妨げにならぬものは全て無視して、渾身の力を込めて掲げた刀を振り下ろした。
「この切っ先に一擲をなして乾坤を賭せん!!」
 一喝と共に放たれた一閃は、小さな狼達を蹴散らすようにして白狼の後ろ足に届き、白に深々と赤い傷跡を刻んだ。
 文字通り浴びるほどの血が溢れる傷口を見上げながら、祭莉もまた、白狼の巨躯の足元でひょいひょいと障害となっているものを避けながら跳び回っていた。
(派手にやったな~)
 駆ける障害は、薙ぎ倒された木々であり、抉り取られた地面であり、小さな亡霊達であり。
 母狼の血を浴びる子狼を見るとやるせない気持ちにはなるが、相容れないことを理解してしまえば、躊躇うことなどできなかった。
「おいらたちが、母ちゃんを眠らせてあげる!」
 怒りに狂うこともなく、過去の海の中で安らぎの夢と共に揺蕩えるように。
 祭莉の決意に似た言葉に、聡明な『彼女』が、ぴくりとその耳を蠢かせたようには見えたが、応える声はない。
 それでも祭莉は見上げ、微笑みかけ、ぴょん、と飛びつくようにして白狼の体にしがみついた。
 振り落とそうと白狼が身をよじれば、深々と傷を負った後ろ足ががくりと崩れ、ずしりと地響きを立てて倒れ込む。
 それにより、埋もれるようにして腹の下に収まった祭莉は、その位置がいつだって安全地帯だったことを思い起こした。
 とん、とん。二度ほど、労るように撫でて。そのふかふかの毛並みと、確かな温もりに、祭莉はほんの少し、瞳を細めて。
「ゴメン」
 撫でる手を拳に変えて、きらりと煌めく琥珀色を滲ませながら、力一杯、叩き込んだ。
 傷を与えるほどに、白狼は大きく咆え、暴れる。
 『彼女』の森が、『彼女』の手によって、壊れていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

枦山・涼香
怒りに駆られる獣よ、あなたの嘆きを受け止めましょう
けれど、あなたは過去の残滓に過ぎない
今を生きる者たちのため、必ずや躯の海に返します

狐炎分身術を用いて白狼の亡霊に分身をぶつけ排除
相殺できればよし
それ以上は望みません

わたしと白狼が相対する場面を作り
抜いた大太刀を手にし一直線に間合いを詰めます

ただ白狼のほうが速いと見ました
追うのではなく肉を切らせて反撃を狙います

先制はくれてやりましょう
多少の傷は構いません
急所だけは太刀で受け、浅い攻撃なら見切ります

相手が本気で掛かってきたときにこそ本気の反撃を
獣の攻撃に合わせ、こちらも渾身の一撃を繰り出します
そこで怯むわたしではないと、覚悟を見せつけてやります


矢来・夕立
共食いすることもあるんですね。
ガワだけ見ればただの食物連鎖ですけど…ひょっとして珍しいものを見たんでしょうか。
今後の殺し方のひとつとして参考にします。

森なら引き続き《忍び足》での行動は容易なはず。
今度は少し趣向を変えていきましょう。
死角から《暗殺》【紙技・影止針】。
ユーベルコードが面倒なので少し黙らせたいトコです。
当然撃ち込めば位置も存在もバレますから、
そこからは《だまし討ち》交じりの接近戦になります。回避・フェイント・本命、と。

動物愛護の精神は他の方に期待してください。
オレは相手がシカ型でもイヌ型でもどんな過去どんな事情があってもフツーに殺します。

だってお金もらってますもん

※アドリブ連携歓迎


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

いよいよ本命のご登場ねぇ。
ホロケウカムイ…狩りをする神、って意味だったかしらねぇ。
…何があなたを「そう」させたのかしらねぇ。
あなたが還ってきてしまった以上、知っててもやることは変わらなかったでしょうけど。

あれだけ怒り狂ってるなら、あたしの弾丸じゃ決定打にはならないかしらねぇ。
…なら、猟犬とはいかなくても、トラバサミくらいの役には立とうかしらぁ。
〇ダッシュ・ジャンプ・スライディング駆使して〇地形の利用しながら〇先制攻撃で●的殺を撃ちこむわぁ。
特殊弾やグレネードも利用して、〇足止め・目潰し・吹き飛ばし。
徹底的にイヤガラセするわぁ。
こう見えて手札はいろいろあるのよぉ?




 白狼に蹴散らされることとなったカモシカのオブリビオンは、もう一体も残っていない。
 それが居た場所をちらりとだけ振り返ってから、薙ぎ倒される木々に巻き込まれぬよう、夕立はそっと数歩下がる。
 狼がカモシカへ食いつくなど、字面だけで受け取れば食物連鎖のそれでしかない。
 けれど、そのいずれもがオブリビオンとなれば話は別だ。
 オブリビオンが、オブリビオンを、なんて。
 それではまるで、共食いではないか。
(ひょっとして珍しいものを見たのでしょうか)
 思案の間にも、怒りに暴れる白狼はなりふり構わず爪を掲げ、牙を剥く。巨躯と化した白狼の一撃はいちいち重く強烈で、適切な距離を測りながら、同時に、足音を忍ばせ『彼女』の認識から外れる。
(今後の殺し方のひとつとして参考にしますか)
 戦闘後には忘れている可能性も、ゼロではないけれど。
 夕立と同じように、降り注ぐ勢いの枝葉を躱しながら、ティオレンシアは怒りの化身を見上げる。
「ホロケウカムイ……狩りをする神、って意味だったかしらねぇ」
 白狼である『彼女』の持つ、その名は神聖なものであったはずだった。
 『過去』となり、オブリビオンとなったことで歪んでしまったのか。それとも、かつてこの世界に在ったころから、ささやかな怒りは存在していたのか。
 なにが、『彼女』を「そう」させたのか。
「考えても仕方のないことなのかも知れないわねぇ」
 どのような理由でも、どのような意味でも、骸の海から還ってきてしまった者へは、手向けを贈るしかない。
 さぁ、思い悩む時は終わり。軽やかに地を蹴ったティオレンシアは、斬撃に崩れた後ろ足を引きずるようにして立ち上がる白狼の足元に滑り込む。
 そこには群がるようにして白狼の亡霊が存在していたが、ティオレンシアを追うようにして揺れた狐火が次々と变化し、亡霊と相対した。
「狐火よ、我が姿を写し取りなさい。その小さくとも鋭利な太刀で以て、数多の敵を切り裂きなさい」
 凛とした声を受けたその姿は、炎を纏った涼香を小さくしたよう。だが、小さくとも大太刀を果敢に振り回すそのさまは、涼香そのものと同様の気迫すらあった。
 それでも彼らは脆い存在。放った涼香本人とて、相殺以上の成果は望んでいなかった。
 亡霊と狐火はぶつかりあい、ぱっ、とシャボン玉が弾けるような儚さで双方が瞬く間に消えていく。
 それだけで、十分だった。
「攻撃=防御の解除。そこを崩せばハイこの通り、なぁんてね?」
 地面を踏みしめ駆け出そうとするその前足を狙いすました射撃は真っ直ぐ撃ち込まれ、高速移動を開始しようとした白狼の出鼻をくじく。
 足元の存在を疎ましげに見下ろし、鋭い牙を剥き出して咆えた白狼は、怒りの感情に攻撃に対する恨みを乗せた衝撃波を放とうと、した。
「静かに」
 すとん、と軽い衝撃が、見えない位置から放たれる。
 死角に潜む敵の存在を視認する間も惜しむように怨念を爆ぜさせようとするが、それは何かに堰き止められたように不発に終わった。
 衝撃波を封じたのは、一つ、二つ、三つと突き刺さった紙の手裏剣。
 それが白狼に直接的なダメージを与えたかと言えば、否だ。しかし式を宿した紙は、夕立の手に寄って自在に姿を変えて届き、ティオレンシアが放った射撃と共に、白狼の放つ技を封じるに至った。
 そう、ただ、技を封じられただけだけれど。
(随分、苦しそうな顔をしたものですね)
 森の生物たちの怨念と、それに伴う負の感情は、『彼女』が立つ理由にも等しいのだろう。
 技を封じられた影響か、纏っていたはずの怨念さえ掻き消えて。敵を探す視線のはずが、夕立の目にはまるでなくした寄る辺を探すようにさえ見えた。
「哀れだとは、思いませんよ」
 同じ感想を抱いた涼香が、ぽつりと呟いた。けれど気持ちを寄せるような声は、その一言だけ。
 すぅ、と息を吸い、次に紡ぐのは巨躯となり高く遠くなってしまった耳へも届く宣言だ。
「怒りに駆られる獣よ、あなたの嘆きを受け止めましょう」
 けれど。あなたは。
「過去の残滓に過ぎない。今を生きる者たちのため、必ずや躯の海に返します」
 放った狐火は、やはり模ったに過ぎない。凛と佇む真っ直ぐな眼差しが白狼を射抜き、聞く耳すら持たぬ獣の視線を引き寄せた。
「覚悟を」
 開いた足を、引いて。確かめるように踏みしめた涼香の静かな声には、気迫があった。
 ちっぽけな人間一人に気圧されるなど、仮にも神の異名を持つ白狼の矜持が許さない。
 ありったけの怒りを乗せて上げた咆哮。その口に居並ぶ牙を剥き出して、涼香へと食らいつく。
 ――無論、涼香がそのまま食われる気でいるわけもなく。また、ティオレンシアや夕立がそれを黙って見過ごすはずも、なかった。
「あたしの弾丸じゃ決定打には欠けるでしょうけどぉ……」
 その弾丸も爆弾付きともなれば、蚊に刺されたでは済むまい。まして、目に撃ち込まれたならば。
「イヤガラセなら任せてちょうだい」
 鮮やかな手際で弾薬を装填し直し、次々と弾丸を打ち込むティオレンシア。
 別方向から接近した夕立もまた、前足に入れた軽めの一太刀から始まり、気を削ぎ、機を殺し、仕上げに前足の根本に突き立てて。
 体毛の隙間からぱくりと覗く傷口は、さながら解剖じみて、的確に白狼の体勢を崩した。
(四足ならもう一箇所くらい落とした方がいいでしょうか)
 思案する夕立の精神に、動物愛護という概念はない。怒りの声も苦悶の声も、降るような血を浴びる小さな亡霊達も、先程倒したカモシカ達も、皆一様に、おなじもの。
 金銭を受け取って駆除を依頼された、その対象。
「そういうのは、他の方にお願いします」
 誰に言うでもなく独り言ち、わらわらと群がってくる亡霊達から逃れるように夕立は再び距離を置いた。
 目元で爆ぜる弾丸や体勢を崩す斬撃に白狼は顔をしかめ、それでも攻撃を継続しようとしている。だが、片目の眩んで崩れた姿勢で、勢いが削がれているのは明らかだった。
 そんな攻撃を、涼香は真正面から見据える。そうして、その体がほんの一瞬、白狼の口の中に消えた。
 けれど、掠めただけでも肌を裂く程の鋭利で巨大な『刃』の内側で、涼香は一切怯むことなく、自身の力を最大限引き出す型を振るった。
 渾身の力を込めて抜き払われた大太刀は、幾つもの牙を折り、そのまま、白狼の頭部を斬り裂いた。
 吹き出すほどの鮮血と共に、ぐらりと白狼の体が傾ぐ。巨躯のまま、地響きを立てて倒れた白狼は、徐々に元の大きさに戻り、自らが流した血の海に沈む。
 巨大な獣の口腔内から離脱した涼香は、そんな『彼女』を見て、向き直り、己の避けた皮膚から流れる血を拭って、刃を突きつけた。
「わたしにも、覚悟がありましたから」
 思いの強さが勝ったのだ、などと言う気はない。ただ、幾つもの攻撃を受けても『彼女』が退かなかったように、涼香もまた、退くことをしなかった、その結果だ。
「……もう、聞こえてないみたいよぉ」
 ぴくりとも動かない白狼は、もはやその白かった体毛も血に染まりきっている。
 ぱしゃりと水音を立てる血溜まりに歩み入り、夕立は確かめるように触れて、そうですねと頷いた。
 すっかり荒れた周囲を見渡し、木々が無くなってぽっかりと開けた空を見上げる涼香。
 そこを、ちちちと鳴く鳥が横切っていく。
 守護者として戦った白狼を見守るでもなく、見送るでもなく、当たり前のように、森の命は己の時を生きる。
 倒れた木々も、やがては草に飲み込まれ、森の一部に戻るのだろう。
 『彼女』が居ようと居まいと、森に流れる時間は、変わらず進んでいくのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月14日
宿敵 『ホロケウカムイ・オーロ』 を撃破!


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#サムライエンパイア


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はマリス・ステラです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト