●犠牲者
「やめろ! 何が望みだ!?」
男が一人、後ずさり、尻餅をつく。
「なんで、なんでこんなこと――」
彼の首を挟み込むのは、二つの刃。
「ぎゃ……っ」
悲鳴は途切れる。
肉と骨を断つ音が響き、ごとりと丸いものが転がった。
●深夜、漁村のとある家で
何者かが、玄関の戸を開け、中に入ってくる。
場は暗く、その人物の顔や体格は見えない。
かろうじて分かるのは、手に、巨大な鋏を持っているということだ。
その人物は家の中を真っ直ぐ進むと、家族が完全に寝入っていることを確認した上で、横の台所へ移動し、その大振りの刃物を研ぎ始めた。
この夜も、新たな犠牲者を出し終えた後である、その鋏を。
●彼は語る
「UDCアースの、とある寂れた漁村の周辺で、首を切断された遺体が次々に見つかってる」
表情を引き締めた、宙夢・拓未(未知の運び手・f03032)がグリモアベースで説明を始めた。
「凶器は大振りの刃物なんだが、これは巨大な鋏で、祭具だ。これを使って多数の人間の首を切断することで、邪神が復活するって寸法だ」
ここまでは彼が予知で得た情報だ。ならば、その凶行に及んだ犯人も分かっているのか、と、猟兵の一人が問うと。
「……いや、予知で見えた光景が暗くてな。分からなかった」
拓未は苦々しげに、首を横に振る。
「けど、犯人が帰った家の大まかな間取りなら、なんとか」
玄関から真っ直ぐ進んだ位置に寝室、その横に台所。暗かったとはいえ、犯人の一連の行動からこれらは推測できた。
「この家に住んでる誰かが犯人だと思う。俺が、問題の漁村に皆を転送するから、まずはその家を見つけてくれ。漁村のどこかにあるはずだ」
拓未は当該の家の間取り図を猟兵達に配る。
「家を探すための方法は任せるぜ。ただ、漁村の住民は、排他的で非協力的だ。それだけ頭に入れておいてくれ」
とはいえ、上手くやれば、より多くの情報を引き出し、後に繋げることも可能だろうと彼は補足した。
「犯人の家を見つけ出したら、そこに住んでる人達……つまりは容疑者を、追及することになるだろうな」
嘘をつく者を見分け、真相を突き止める――猟兵の腕の見せ所だ。
「犯人が分かったら、おそらくそいつは、不完全な形であっても邪神を復活させようと試みると思う。そうしたら、あとはその邪神と戦うだけだ。存分にやってくれ」
終始、真剣な顔で語った拓未は、最後に一言だけ添えてから、猟兵の転送を開始する。
「健闘を祈るぜ」
地斬理々亜
地斬です。
よろしくお願い申し上げます。
●第1章
冒険『寂れた漁村』。
連続殺人事件が周辺で起きている、漁村が舞台です。
第1章は、犯人の自宅を突き止めるのが目的です。ですが、上手く情報収集ができれば、第2章で最初に出る情報が増える可能性があります。
●第2章
冒険『嘘つきは誰だ』。
当該の家に住む一家を追及し、連続殺人事件の犯人を突き止めます。
●第3章
ボス戦。詳細は伏せます。
不完全な形で復活した邪神と戦います。
●補足
情報収集や容疑者の追及、推理といったプレイングも、判定はダイスで行います。
真相に近づいていたプレイングがあれば、より多くのプレイングボーナスを付与します。
それでは、ご健闘をお祈り致します。
第1章 冒険
『寂れた漁村』
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POW : 漁村を歩き回り、情報を探す。どんな時も、足で稼ぐ方法は有効だ。
SPD : 漁村にある怪しい場所にあたりをつけ、そこを捜す。時には、手先を使う事態もあるだろう。
WIZ : 住人と慎重に接触、情報を引き出す。相手と意思疎通できれば、可能なはずだ。意思疎通できれば……。
👑11
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涼風・穹
目的の家の間取りは分かっているのか
ただ、村人達は排他的で非協力的となると、直接交渉するのは最後にして暫くは村人達に気付かれないように立ち回った方が良さそうだな…
まずは飯時にでも俺の『スカーレット・タイフーン・エクセレントガンマ』で飛んで村の家々を上空から見て、煮炊きする煙やらが出ている場所から台所の位置を割り出して、事前に受取った間取り図とは合致しない家と、洗濯物の数や出入りしている人の数から明らかに一人暮らしをしている家を除外していく
ある程度絞り込めたなら除外出来なかった家の住人が家に戻る際に《影の追跡者の召喚》で追跡させて屋内の間取りを確認していくぜ
それでも確認しきれなければ後は足で探すか
(「村人達は排他的で非協力的、となると……」)
涼風・穹(人間の探索者・f02404)は、考えを巡らせる。
(「しばらくは、村人達に気付かれないように立ち回った方が良さそうだな」)
そう判断した穹は、自身の専用機である宇宙バイクへの生体認証を手早く済ませる。
陸上、水上、水中から、空中や宇宙空間まで走破可能であるそのバイク、『スカーレット・タイフーン・エクセレントガンマ』は、漁村の上空へ、穹を乗せて飛び上がった。
潮風が、穹の空色の髪を撫でる。
「今は昼前、飯時だな。ちょうどいい」
呟いた穹の、銀色の瞳が家々を見下ろす。彼が観察しているのは、煮炊きの煙が出ている場所だ。
(「あの家とあっちの家は、台所の位置が間取り図と違うな。それに……」)
続いて穹が着目したのは、干されている洗濯物の数と、家々に出入りする人の数。
「あの家は明らかに一人暮らしだな」
予知によれば、犯人は家族と暮らしているはず。ならば、一人暮らしをしている村人の家は、候補から外せる。その点を見落とさなかった穹は、地道ながらも順調に、候補を絞り込んでいった。
(「あとは……」)
家の中に戻っていく住人に目をつけた穹は、ユーベルコード『影の追跡者の召喚』を発動。
地上へと降り立ったシャドウチェイサーに、穹は、住人を密かに追跡させる。
五感を共有した追跡者を通して、穹は屋内の様子を探る。
(「この家も間取りが違う、か」)
また、候補が絞られる。
これで、多くの家々を穹は除外することができた。
ただ、この漁村は、人口密度こそ低いものの、広い。まだ確認できていない家も多いだろう。
「後は、足で探すか。他の猟兵とも情報を共有した方がいいしな」
穹は、地上に降りるために、宇宙バイクをゆっくりと上空から降下させ始めたのだった。
成功
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カタリアンナ・バソリー
※アドリブ・連携歓迎です。
さて、問題の漁村に着きましたが…
他所の家の間取りなど、聞いたところで教えてくださるものなのかしら?
なんだか視線も感じますし、あまり歓迎されていないようですわね。
SPDで判定を。
聞き込みは他の方にお任せして、私は怪しいところを探しましょう。
漁村ですし、海にまつわる邪神なのかもしれませんわね。
海や海に関するものを祀った社など、探してみようかしら。
手先を使う作業には念動力を用います。
小さな出入口があれば、ユーベルコード「チェンジバット」で
蝙蝠に変身して入り込みます。
カタリアンナ・バソリー(1/2の純なる血統・f12516)の姿に、漁村の住民達はじろじろと冷ややかな視線を向ける。
彼女の赤い瞳や、極端に白い肌のせいではない。単純に、『村人ではない、よそ者』だからだろう。
(「あまり歓迎されていないようですわね」)
それを悟ったカタリアンナは、足早にその場を離れ、村内の怪しい場所を探しに向かった。
彼女の狙いは、海や、海に関するものを祀った場所。漁村であるがゆえ、海にまつわる邪神が復活しようとしているのかもしれないと踏んだのだ。
しばしの探索の結果、海岸沿いの岩場で、不自然に入り口が崩された洞窟を、カタリアンナは発見した。
「これなら……なんとかなりますわね」
小さな隙間を見つけた彼女は、その身を小型蝙蝠の群れに変え、中に入り込んだ。
すぐにユーベルコードを解除したカタリアンナは、少女の姿に戻り、灰色の長い髪をかき上げる。
洞窟の奥へ進んだ彼女はやがて、小さな祠を見つけた。観音開きの戸は、閉まっている。
カタリアンナが手を触れたわけでもないのに、その戸はゆっくりと開いた。彼女の操る、テレキネシスである。
「まあ……悪趣味ですわね」
祠の中には、小型の首吊り紐のようなものが無数に下がっていた。
下には、紙切れと紙の玉がいくつも転がっている。
「……確か、UDCアースの日本では、晴れを願う時にこの紙人形を使う風習がありましたわね」
カタリアンナはそのことを思い出す。
紙人形――てるてる坊主が下げられた、祠。
「漁村であることを考えると、好天や豊漁を願う祠だと思って良さそうですわね。そして――」
てるてる坊主は首を切られ、祠に続く入り口は塞がれていた。それも、犯人の仕業だとしたら。
「邪神復活を願う犯人は、『晴れ』を望まない……? これはどういうことですの?」
まだ分からないことは多い。それでも、重要な情報を得たという手応えが、カタリアンナにはあった。
成功
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火奈本・火花
「排他的な閉じた社会というのは、何かを隠すにはうってつけですね。こういった異常な事件が発生していても、それを表に出さないとなると……厄介な案件になりそうです」
■行動(WIZ)
Dクラス職員を要請し、村民との接触を図ります
村民に接触出来た場合、Dクラスとは『夫が漁業に夢を見る、漁村に引越し予定の新婚カップル』の体を装いましょう
UDC組織に転居関係の書類を偽造した物を用意して貰い、私とDクラスも『変装』で村の雰囲気になじんだ格好を心掛けます
『コミュ力』や『情報収集』を活かし、「漁業で家に帰るのは夜遅くになりそうなのか」や「家族は村でどう過ごしているのか」などの話題で犯人に目星をつけられないか試します
「……厄介な案件になりそうですね」
火奈本・火花(エージェント・f00795)は所見を述べ、隣に視線を向けた。
「そうかもな」
当たり障りのない相槌を打つこの男は、状況説明を受けた、UDC組織Dクラス職員。火花のユーベルコード、『≪援助申請≫Dクラス職員派遣』によって、この場に現れた者である。
「では、説明の通りにお願いします」
火花は言い、Dクラスの男は頷く。変装として粗末な和服を身に纏った二人は、歩き出した。
「失礼します、少々よろしいでしょうか?」
村民の、高齢の夫婦に、火花は声をかける。老爺と老婆は、じろりと睨みつけてくるのみ。
「私達は、この村に引っ越し予定の者です」
火花は臆さずに言い切る。Dクラスと共に、新婚カップルを演じる手筈なのだ。
「こんな村に引っ越しだと? なんでまた」
老爺が疑問の言葉を吐く。
「俺、漁業って夢があると思うんで」
Dクラスが『説明通り』の言葉を返す。次の瞬間、老爺はDクラスにつかみかかった。
「漁業をなめるな! 遊びじゃないんだぞ!」
すると、老婆が言葉を発した。
「いいじゃないか。この村に、若い男女が増えるんだから。歓迎しよう」
老爺はそれを聞き、舌打ちして、Dクラスの胸倉から手を離した。
火花は、老夫婦からの情報収集を開始する。彼女は、コミュ力を発揮し雰囲気を和らげてから、話題を移行した。
「この村の家族の方々は、村でどう過ごされていますか?」
「働ける男は早朝から深夜まで漁に出る。女子供は家事なり留守番なり、さね」
老婆が答える。
(「やはり……。それと」)
火花は内心で思う。気になった点が、一つ。
「子供がこの村にいるのですか?」
「いるよ。アザミさん家の……」
「おい」
老爺が老婆の言葉を止めた。言う必要はない、と伝えるかのように。
「ありがとうございました」
火花は丁寧に頭を下げて礼を述べ、Dクラスを連れてその場を離れた。
(「アザミ、ですか――その家族、事件に無関係とは思えませんね」)
UDCエージェントとしての火花の直感が、そう告げていた。
大成功
🔵🔵🔵
火奈本・火花
「情報は得られましたし、まずはそこから当たるのが定石ですね。思いの外、話はしてくれますし」
■行動(SPD)
引き続きDクラスと一緒に、『アザミさん』の家を探しましょう
恐らく苗字でしょうし、表札を見ていけば見つかるでしょう。もし表札が無ければ『新婚カップル』の設定のまま、アザミさんの家の近くに引っ越す予定なので場所を見たい、と言って聞き込みます
アザミさんの家を発見出来たら、周辺や家に人がいなければ『鍵開け』で家屋に浸入するか、人が居れば『聞き耳』で話し声を拾えないか試します
怪しい行動になりますし、Dクラスにはその間に周辺の警戒をして貰いましょう。村民に見つかって怪しまれるのは避けたい状況ですからね
「情報は得られましたし、まずはそこから当たるのが定石ですね」
火花は呟く。自分が思っていた以上に、村民の懐に入ることができたことへ、内心、驚きを感じながら。
「『アザミさん』の家を探しましょう」
火花の言葉に、隣に立つDクラス職員の男が頷いた。
他の猟兵の働きで、『犯人の家』の候補は、既にある程度絞り込まれている。
その情報を参考に探索した結果、火花の目的の家は、比較的簡単に見つけることができた。
表札にある文字は、『浅見』という苗字を示している。
「周辺の警戒をお願いします」
「分かった」
依頼する火花に、Dクラスは応じた。
火花はまず、玄関の鍵の様子を確かめる。
……開いている。留守ではないということだ。その状態でいきなり侵入するのは、ためらわれる。
Dクラスがしっかりと辺りを警戒していることを確認した火花は、耳を玄関の戸に押しつけた。
眼鏡の奥の赤い瞳を閉じて、内部の物音に集中する。
最初に聞こえたのは、男が咳き込んでいる音だ。
続いて、心配そうな女の声。
『無理はしないでね、賢治』
『……分かってるさ、結衣香。早くこんな風邪、治さないと』
苦しげな男の声からは、焦りのようなものが感じられた。
『……』
わずかな沈黙。
『そうね。早く、元気になってね』
それから、水を汲む音。
結衣香という女性が、賢治という男性の看病をしている状況と見ていいだろう。
(「仮病によるアリバイ工作……? それとも、本物の風邪? いえ、それより……」)
今、おそらく台所であろう場所で水を汲む音は、玄関から見て斜め奥から聞こえた。
話し声が聞こえたのは正面。ここが寝室だとすれば……。
――この間取りは、やはり……。
そこまで火花が考えた時、彼女の肩に手が置かれた。
「!」
振り向くと、それはDクラスの男であった。
(「庭に子供が二人いる。このままじゃ気づかれる」)
彼は小声で、火花にそう伝えた。
急いで、火花はそこを離れる。
(「この家が犯人の家で、ほぼ確定でしょうね」)
あとはこの家族と接触するだけだが、まだ少しだけ余裕がある。
何か他に調べたいことがあるなら、今のうちかもしれない。
大成功
🔵🔵🔵
火奈本・火花
「犯人の住居は突き止めましたが、まだ気づかれてはいないようですし……。邪神絡みであるなら、土着の信仰などについて調べてみるのも手掛かりになるかも知れませんね」
■行動(WIZ)
Dクラスとの行動は継続します
『引っ越してくる新婚カップル』の設定と変装はそのまま、別の村民に土着の信仰やおまじないについて聞いてみましょう
『漁業に夢を見る』Dクラスの身を案じる妻の役として、漁での安全を祈願する為の風習やお祭りがあるかを聞き込みましょう
なるべく女性の村民に話を聞き、男性の村民にはDクラスから漁業のコツを聞くなどして気を逸らして貰いましょう
「ああいう人ですので……無事に帰って来てくれるよう、何かしたいんです」
(「邪神絡みであるなら……」)
続いて火花が調査することにしたのは、土着の信仰などについてであった。
変装、ならびに『新婚カップル』であるという偽装はそのままに、彼女は聞き込みを開始する。
「失礼します。伺いたいことがありまして」
「ああ、確か、今度引っ越してくる……何かね?」
相手は、最初に話を聞いたのとは別の老婆だが、既に話が伝わっている。火花にとっては、好都合だ。
火花はまず、Dクラスの男がいる方向をちらりと見やった。
「漁業のコツというのは……」
「コツって、そりゃあ、まず体力・気力を鍛えて……」
Dクラスは、男の村民の気を逸らすための話をしている。……上手くいっている。
火花は老婆に向き直った。
「この村に、漁での安全を祈願するための風習やお祭りは、何かありますか?」
「風習ねえ……」
老婆は少し考える様子を見せた。
心当たりはあるようだが、火花に話して良いものか悩んでいるのだ。
「彼はああいう人ですので……漁から無事に帰ってきてくれるよう、何かしたいんです。どうか、お願いします」
ひたむきに、真摯に、『夫の身を案じる妻』。その仮面をつけて、火花は老婆に頼む。
「そういうことなら……」
――演技は成功した。老婆は、語り出す。
「悪天候で海が荒れたら、その日は漁を中止するか、危険を承知で漁に出なければならない。だから、晴れを願って、紙で作った人形を軒に吊すんだ」
「てるてる坊主ですか?」
「いや。この村では、『ルテルテ様』って呼ばれてるよ」
「ルテルテ様……ですか」
「そうだ。無事に晴れたら、祠に人形を奉納するんだ」
「祠……」
――確か、祠を調査しに行った猟兵もいたはず、と、火花は思い出す。
「ただ、ルテルテ様を起こしてはならない、とも言われているねぇ」
「……」
伊達メガネの奥で、火花の目つきが鋭さを増した。
「もしも起こした場合はどうなるのか、何か言い伝えはありますか?」
「そりゃあ……」
火花の問いに、老婆はこう答えた。
「赤い雨が降るのさ」
成功
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第2章 冒険
『嘘つきは誰だ』
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POW : 力を見せつけるなど精神的プレッシャーにより自白させる
SPD : 容疑者達の一挙一動を素早く観察し、不審なそぶりを見せた者を探す
WIZ : 容疑者達のアリバイや主張に矛盾点がないか考え、嘘をついてる人を特定する
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猟兵達は、一度、情報をまとめることにする。
連続殺人事件の犯人は、『浅見家』に住む家族のうち、誰かだ。
この家に暮らすのは、四人。
一人目……浅見・賢治。
現在、風邪で寝込んでいることが確認されている。
二人目……浅見・結衣香。
賢治の看病をしている女性だ。妻である。
それに、三人目と四人目……子供二人だ。
猟兵達が調査を進めた結果、姉が『紅(こう)』、弟が『蒼(そう)』という名前だと言うことが判明した。
紅は10歳、蒼は5歳である。
この中の誰かが、邪神を復活させるために、多くの人間を手にかけた。
その邪神は、復活したならば、赤い雨を村に降らせるのだ。晴れを望まず、赤い雨を望む……それが犯人である。
猟兵達は、浅見家の人々に接触し、真相を究明する必要がある。
嘘をつく者もいるだろう。――それに惑わされては、ならない。
火奈本・火花
「本番は此処からですね。先手を取られる訳にはいきませんし、慎重に見定めなければ」
■行動(WIZ)
彼らの前で新婚を演じる必要はないでしょう
Dクラスには一度帰って貰い、私自身は事件の調査をする警察を装うつもりです
犯人の特定に当たって、まずはそれぞれの当日の行動、家庭内で変わっていた点が無かったか聞くつもりです
家族の中で犯人を捜しているのではなく、あくまで情報収集である事を強調すれば、少しは警戒も薄れるでしょうか?
「犯人から警察が全力を賭けて守ります。家族の中でも……もしかすると偶然犯人や何かを見てしまい、言えずにいる方が居るかも知れません。最近、家族の方でも何か変わった点はありませんでしたか?」
(「本番はここからですね」)
慎重に見定めなければ――そう考えながら、火花は浅見家の戸を叩いた。新婚という偽装は不要、Dクラスは一度帰している。
「はぁいっ」
元気のいい声が返ってきて、少女が顔を出す。
「警察です。事件について、ご家族の皆さんに聞かせて欲しいことが……」
火花が言い終わる前に、少女は笑顔で家の中を示す。
「どうぞ!」
「……上がっていいということですか?」
「うん!」
――何かおかしい。
疑問を感じながらも、浅見家の戸をくぐる火花。彼女を、少女……浅見・紅は、にこにこしながら見つめていた。
「お疲れでしょう、よろしければ」
浅見・結衣香が冷たい麦茶を勧める。火花はそれには口をつけず、切り出した。
「お聞かせいただきたいのは、それぞれの当日の行動。それに、家庭内で変わっていた点がなかったか、の二点です」
「……俺達を疑っているのか?」
「まさか。あくまで情報収集です」
浅見・賢治の言葉に、火花は落ち着いて返す。『情報収集』を強調した物言いに、賢治の瞳から警戒の色が薄れる。
「……最初に騒ぎが起きた頃は、俺は、昼は漁に出て、夜は疲れて帰って寝てた。で、ここ数日は、一日中、風邪で寝込んでた。漁師仲間や結衣香が証明してくれるはずだ」
賢治は、時々苦しげに咳き込みながらも語る。
「夫の言うことに相違ありません。私自身は、昼は家事。夜は、賢治が眠ったのを確認してから寝ています。家庭内で変わったことなんて、何も」
結衣香は、淡々と。
「紅はね! お昼はお勉強してて、終わったら遊んで、あとは早めに寝てたよ!」
紅は表情を輝かせて言う。
「……」
部屋の片隅でうずくまる少年、浅見・蒼は……何も言わない。
「……皆さんのことは、警察が、犯人から全力で守ります」
「……」
火花の言葉に蒼は顔を上げる。
「家族の中でも……もしかすると偶然犯人や何かを見てしまい、言えずにいる方がいるかもしれません」
火花は再度、変わった点が家族になかったか尋ねてみる。
蒼が、拳をぎゅっと固めてから口火を切る姿が、火花の目に映った。
「おかしいのは……このおうちの、みんなだとおもう」
一斉に視線が彼に集まった。
「――あら」
「おい、蒼、何を言ってる?」
「えっと……」
表情をなくした結衣香と、眉を寄せる賢治。紅は、視線をさまよわせていた。
(「これは――」)
火花は、全員の言動を冷静に観察した。
大成功
🔵🔵🔵
涼風・穹
邪神が関わっているとなると妙な具合に身体を強化されたりする場合もあるから、子供であろうと容疑者から除外は出来ないのが厄介だな…
《影の追跡者の召喚》で後を追わせたいのは「蒼」だな
まあそこまで確証がある訳でもないけど、外れでも子供なら夜は家で眠るだろうから見張らせていれば夜中に誰かが外出すればすぐ分かるし、家の中で件の鋏でも見付けられれば重畳
……ただ、人の首を切れる程の大きな鋏を家の中に隠して同居している家族に見付からないとも思えないから外に隠しているかもな…
それに、複数殺して一度も返り血を浴びなかったとも思えないし、普段洗濯をしている方が犯人でないのなら…母親が庇うのって子供な気がするんだよな…
火奈本・火花
「落ち着いて下さい。皆さんの思った事や気付いた事を聞くのが私の仕事です……蒼君の話も、公正に聞かせて頂きます」
■行動(SPD)
とにかく蒼君の話を聞きましょう
きっと不安でしょうし、身をかがめて視線を合わせ、『コミュ力』で不安を和らげられるように努めます
「大丈夫、何かあっても私が蒼君を守ります。思っている事を聞かせて下さい」
聞きながら全員の挙動を観察します
結衣香さん、紅ちゃん、賢治さんの優先順で注視しましょう
ただし、蒼君が犯人ではないと決まったわけでもありません
可能性は低いでしょうが、話をしている蒼君の動きも注意して見ましょう。そうすれば、犯人が蒼君に妨害を仕掛けようとしても防げるでしょうしね
「落ち着いてください。皆さんの思ったことや、気付いたことを聞くのが、私の仕事です……蒼君の話も、公正に聞かせていただきます」
火花の凛とした声が室内に響く。
直後、火花の所持する、UDC職員用スマートフォンが振動し、着信を知らせた。
「失礼します」
浅見家の面々に聞かれないよう、一度、家の外まで移動してから、火花は電話に出る。
「もしもし」
『俺だ。状況は?』
相手もまた猟兵――穹である。火花は、これまでの経緯を彼に伝えた。
『なら、俺がユーベルコードで蒼を追跡してみる』
「蒼君を疑っているのですか?」
『そこまで確証があるわけでもないけどな。夜に家の中で動きがあればすぐ分かるし、件の鋏を見つけられれば重畳だ。それに』
「それに?」
『犯人が返り血を浴びなかったとも思えない。普段洗濯をしている方が犯人でないのなら……』
――母親が庇うのは子供、という気がする。穹はそう述べた。
「分かりました。お願いします」
重要なのは、真相を究明すること。様々な視点から切り込んだ方がいい。火花は、そう判断した。
電話を切り、火花は家の中に戻る。穹の放った影の追跡者も、屋内に忍び込んだ。
火花は、不安げな表情を浮かべる蒼の前にかがみ込み、視線を合わせる。
「大丈夫、何かあっても私が蒼君を守ります。思っていることを聞かせてください」
蒼はじっと火花の瞳を見つめ返し、小さく頷いた。
「……おとうさんは、なんにもきづいてない」
「……えっ? 何の話だ?」
賢治は、虚をつかれたような顔をしている。
「ひとが、いっぱいしんでるのに、おねえちゃんはわらってるし」
「……」
紅は張りついたような笑顔を浮かべて、蒼を見ている。
「おかあさんだって、なんだかうれしそうにしてる」
「…………」
蒼を見つめる結衣香の視線は、どこまでも冷ややかだ。
「だから、このおうちは、おかしい……こわい」
ぎゅっと自分の身をかき抱くようにする蒼。その様子は、火花にも、シャドウチェイサー越しに見ている穹にも、嘘をついているようには見えなかった。
「……そろそろお帰りいただけますか?」
火花へとその言葉を向けたのは、結衣香だ。
「ですが……」
蒼の身を守ると言った以上、蒼の傍を離れたくはない。蒼が犯人でないのなら、犯人のいる場に蒼を残すことになるのだから。
「さきほど、おっしゃいましたよね? 『あくまで情報収集』だと。――それとも、やはり私達を疑っているのですか?」
「……いいえ」
結衣香にここまで言われて、『今夜はここに泊まる』とも言えない。火花は、浅見家を一旦離れるしかなかった。
「……子供の言うことを真に受けないでくださいね?」
結衣香が火花の背中へ声をかける。火花が振り向いて確認した結衣香の表情には、明らかな敵意が宿っていた。
穹は浅見家周辺を探ったが、凶器の鋏が外に隠されている様子はなかった。
(「家の中に隠して、家族に見つからないとも思えないんだがな……」)
時間帯は、そろそろ深夜に差し掛かる。
影の追跡者を通して見える、家の中の光景は……。
(「……暗いな」)
発見されづらく、穹と五感を共有できる追跡者だが、明かりのない部屋を見通すのは難しい。
ただ、寝息は聞こえる。……賢治のいびきだけが。
(「……他の三人は寝てないのか?」)
『こわい』と言っていた蒼が寝付けないのは、当然かもしれない。……ならば、結衣香と紅は?
『――うあっ!!』
突如、鋭い悲鳴が響く。……蒼だ。
『ふふふっ』
笑い声が聞こえた。さらに、囁きが続く。
『言うこと聞かない悪い子はね……お姉ちゃんがお仕置きしてあげる』
……この声は、紅だ。
『いたい……だれか……!』
勇気を振り絞るように、蒼が叫んだ。
『――たすけて!!』
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
火奈本・火花
「浅見・紅が動いたのは――少し予想外ではありますね」
■行動(POW)
帰らざるをえなかったのが悔やまれますが、犯人が動いたなら問答無用です
再度Dクラスを呼び、浅見さん宅に突入しましょう
鍵が閉まっているならば体当たりを、結衣香さんが妨害する可能性が高いですし、その場合はDクラスに抑えさせます
現場では蒼君を庇えるように動きます
『覚悟』の上『捨て身の一撃』で庇い、攻撃があれば耐えつつ蒼君を逃がしましょう
「守るって、約束しましたからね」
蒼君の安全が確保されたら紅ちゃんへ
「貴女が今回の殺人事件の犯人なのですか? このような行動に及んだ理由を、聞かせて貰います」
念の為、短針銃を抜けるように身構えておきます
――ドンッ!!
火花は、鍵の掛かった戸への体当たりを実行する。数度試みれば、戸は開いた。
Dクラス職員の男を連れて、火花は再び浅見家に踏み込んだ。
結衣香による妨害は、火花の予想と異なり、ない。
そのまま寝室内に駆け込んだ火花は、明かりを点けると、蒼と紅の間に割り込んだ。
「逃げてください、蒼君」
「……けいさつのおねえさん」
「守るって、約束しましたからね」
火花が微笑んでみせれば、蒼の瞳に宿るのは信頼の色。
「……ありがとう!」
火花に礼を言った蒼は、外へと逃げていった。脇腹を押さえていたが、走れるところを見ると、大きな怪我はなかったようだ。
「なんの騒ぎだ……?」
寝ぼけ眼の賢治が身を起こす。だが、ただならぬ空気を察したのか、その後は黙った。
火花は改めて紅の姿を見る。その右手には……。
――シャープペン。
(「……?」)
火花は疑問を感じる。鋏では、ない。
いずれにしろ、問う必要がある。火花は、鋭い声音で、紅へと尋ねた。
「貴女が今回の殺人事件の犯人なのですか?」
「そうだよ! 私が殺したの!」
笑顔で、あっさりと、紅は認めた。
――けれど、火花の追及は終わらない。
「このような行動に及んだ理由を、聞かせてもらいます」
「え――」
……紅の笑顔が凍り付く。
「聞こえませんでしたか? なぜ蒼君を襲うような真似をしたのか。それに、どうして人々を殺したのか。聞かせてください」
「…………」
紅は視線を泳がせる。この場にいる誰かに助けを求めるかのように。
「……えっと、蒼は、言うことを聞かなかったから、悪い子なの。だから、お仕置きしたの。他のみんなはね、その……」
火花はじっと紅の答えを待つ。そして、紅は、言った。
「――殺すのが楽しかったから」
違う。
火花は確信した。紅は、嘘をついている。
なぜなら、犯人の目的は、『邪神を復活させ、赤い雨を降らせる』ことだと分かっているからだ。
(「……誰かを庇っている?」)
母親が子供を庇っている、猟兵達はその可能性は考えた。だが……その逆だとしたら。
「どうしたんですか? その子が人を殺したんでしょう。早く捕まえてくださいよ」
その人物は、言う。
「……そういうことでしたか」
火花は、『彼女』に向き直る。短針銃を抜く準備は、できている。
「紅ちゃんに動機を聞いてみて良かった――危うく騙されるところでした。やはり、あなたが真犯人だったんですね」
火花は、その名を呼んだ。
「――結衣香さん」
大成功
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第3章 ボス戦
『ルテルテ様』
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POW : 首チョンパ
【空間から突如出現する巨大な鋏】が命中した対象を切断する。
SPD : 貴方モ首吊リ
【首に巻きついた鎖】から【念能力で操作された鎖】を放ち、【拘束】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 赤イ雨ヲ降ラセマショウ
【空間を赤く染め天から降らせた血の雨】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を血の海に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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「……あっはははは」
結衣香は笑い出す。乾いた笑いだ。
「ええ、ええ。その通り。私がやったの」
ふらりと、結衣香はよろめく。その目は、血走っている。
「だって、賢治ったら毎日漁に出てばかり。私はこんなにも賢治のことを愛しているのに、私のことなんて全然見てくれやしない」
何もかも諦めた結衣香は、ぺらぺらと語り出した。
「いっそ赤い雨が降ってしまえばいい。そうすれば、漁へなんか、賢治は出られない」
「何言ってる、結衣香……未来のためには、金が――」
「未来未来未来未来! あなたはそればかり! 私には、『今』があれば、それで良かった!」
口を挟んできた賢治へと叫んだ結衣香は、右手を高く掲げた。
空中から、大きな鋏が現れる。
「ルテルテ様、ルテルテ様。赤い雨を、降らせておくれ」
結衣香が唱えれば、浅見家の屋根が砕けて吹き飛んだ。
狂気の笑顔を浮かべる結衣香の背後に立っているのは――巨大なてるてる坊主に似た、禍々しい邪神だ。
「結衣香……俺は……」
「何これ……私、聞いてないよ……」
呆然と立ち尽くすのは、賢治と紅。
猟兵達がなすべきこと。それは、この邪神を倒すことだ。
ここにいる者達を救うかどうかは、猟兵の選択次第だろう。
火奈本・火花
「姿を現したな、UDC。復活そのものを阻止できるのが一番ではああるが――復活したのなら、収容か終了、その二択だ」
■戦闘
最優先は浅見家の人達の安全だ
浅見・賢治、浅見・紅を投入した機動部隊に強制的に保護させる。UDCも漫然とは眺めないだろうし、私自身が囮になろう
9mm拳銃による『クイックドロウ』と『2回攻撃』でUDCを攻撃する。比較的脆い個所もあるだろう、まずはその、不愉快な頭部を集中して撃つつもりだ
人員に余剰があれば、機動部隊員も銃撃に参加させよう
他の村民含め、戦場から猟兵以外を退避させる
浅見・結衣香はUDCの討伐が済むまでは動かないだろうし、極力傷つけたくはないが……故あれば、それも覚悟しよう
「姿を現したな、UDC」
怪物を前にした火花が言う。今ここにいる火花は、これまでのような、礼節をわきまえた『エージェント・火奈本』ではない。
「復活したのなら――収容か終了、その二択だ」
火花は言い捨てる。――今ここにいるUDCに、容赦など不要だと。
だが、その前になすべきことがある。最初に火花がしたのは、『≪緊急要請≫機動部隊投入』であった。
ユーベルコードの効果で、ただちにその場に駆けつけたのは、『機動部隊ひー4("四葉のクローバー")』である。
「浅見・賢治、浅見・紅の、両名の保護を」
「了解」
火花の指示に従い、機動部隊は動く。
それを見たUDC怪物、ルテルテ様は、賢治と紅の首へ鎖を伸ばそうとしたが、火花が瞬間的に彼らの前に飛び出した。
伸びてきた鎖は、自らを囮とした火花の左腕に巻き付き、その体を宙づりにする。
けれど、火花の右手には、既に自動式9mm拳銃が握られていた。
不完全に拘束された体勢から、火花は銃口をルテルテ様の頭部へ向ける。
乾いた銃声が幾度も響き、そのたびにルテルテ様の頭部からは赤黒い液体が噴き出した。
『ギ……』
ルテルテ様が声を上げる。じゃらりと音を立てて鎖は引っ込み、火花の体は解放された。
「保護は完了。次のご指示を」
着地した火花へ、機動部隊隊員が短く告げる。ちらりと火花が視線をやると、茫然自失のまま遠くへ連れられてゆく賢治と、泣き叫び暴れるも強制的にこの場から引き離された紅の姿が見えた。
「他の村民の、戦場からの退避。余剰人員はUDCへの銃撃を」
「了解」
火花の指令を果たすべく、機動部隊は散開する。複数の銃口がルテルテ様へ向けられ、火を噴いた。
結衣香はルテルテ様の正面に立ったまま動いていないが、火花や機動部隊は、巨大な背丈を持つ怪物の頭部を狙っているため、結衣香は射線に入っていない。
(「浅見・結衣香……」)
火花には、いざとなれば覚悟を決める意思はある。だが、同時に、極力傷つけたくないとも思っていた。
「明日、雨を望むなら、赤い雨が降るでしょう。明日、晴れを望むなら、明日を迎えはしないでしょう――」
結衣香は、呪文とも歌ともつかない言葉を呟いている……笑ったまま。
大成功
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火奈本・火花
「愛する人と一緒に居たい気持ちが分からない訳ではない。だが、だからこそ、そのやり方は間違っていると証明してみせる」
■戦闘
呪文か願望かは分からないが、浅見・結衣香の言葉に意味があるのかも探ろう
邪神が彼女を攻撃しない所を見ると、彼女はまだ必要なように見えるしな
蹴撃乱舞で、攻撃回数を重視した攻撃を仕掛ける
まずは彼女に対短針銃で怪我にならぬよう攻撃し『催眠術』を仕掛ける。記憶消去で彼女の行動を止めるつもりだ
邪神の鋏は首を狙うだろう
いつでも姿勢を低く出来るようにしながら、邪神には9mm拳銃の連撃を叩きこむ
■真の姿
胸から左腕にかけてが樹木化
浮き上がった血管のような根が、顔や腕、脚に張り巡らされている
「愛する人と一緒にいたい気持ち、か」
火花の端正な顔には、いつしか血管のようなものが浮いていた。
否、それは、植物の『根』である。
顔だけではない。腕にも、脚にも、それは張り巡らされていた。
胸から左腕にかけては、樹木そのものと化している。――これが火花の、真の姿だ。
「その気持ちが分からないわけではない。だが、だからこそ、そのやり方は間違っていると証明してみせる」
言い切った火花は、まず結衣香に短針銃を向けた。
(「浅見・結衣香のあの言葉に、何か意味はあるのか?」)
火花は一瞬の間に思考を巡らせた。その時……。
『――明日、雨ヲ望ムナラ』
掠れた、おぞましい声が、ルテルテ様から発せられた。
内容は一言一句、結衣香の言葉と同一。
(「……もしや、浅見・結衣香の精神は、邪神と一体化しかかっているのか」)
そう火花は推測する。だとすれば、時間はない。
火花は、短針銃を撃った。
針が結衣香の首筋に突き立ち、薬剤が彼女の体を巡る。
すっと目を閉じた結衣香は、すぐに目を開く。
「……私は一体?」
UDC関連の記憶が、結衣香からは消去された。その手から、大鋏が滑り落ちる。
その鋏は不意に消え、ルテルテ様の元に出現し、結衣香の首に向かった。
素早く接近した火花が、結衣香の足下を蹴り払い、転ばせ、強制的に鋏を回避させる。
(「浅見・結衣香が攻撃されたということは……邪神には、もう彼女は必要なくなったか」)
顔を上げた火花は、すぐにまた頭を下げる。頭上で、ばちんと金属音がした。
火花の警戒は有効に働いた。今度は火花の首を狙った鋏の一撃を、彼女は避けたのだ。
火花は、自動式9mm拳銃をルテルテ様に向ける。連続して放たれた弾丸は、邪神の頭や体に撃ち込まれた。
『痛イ……痛イ……』
血糊で描かれた笑顔はそのままに、ルテルテ様はうめき声を上げる。
「なんなの、なんなのこれ……」
倒れた状態で怯えている結衣香には、もう狂気の気配はない。
忌むべき記憶は消え去ったのだ。――罪は、消えたわけではないが。
大成功
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火奈本・火花
「邪神の影響からは脱したか。……聞くべき事は沢山あるが、まずは彼女の保護を最優先にしなくてはな」
■戦闘
浅見・結衣香の保護が優先だ
UDC関連の記憶を消去する事で無力化はしたが、現在の状況が分からず混乱しているだろう
邪神も彼女を狙うとなれば、とにかく遠くへ逃げて貰うしかないな
「結衣香さん! 今此処は非常に危険な状態です。遠くへ、走って逃げて下さい! 早く!」
彼女が状況を理解する必要はない
私は邪神への攻撃を続けて気を引きつつ、急き立てる事でとにかく逃げて貰おう。恐怖で体が動かないのであれば、体当たりしてでもせめて屋根のある場所へ逃がす
邪神が攻撃に移ろうとしたら、鋼糸によるキャプチャーで動きを止めよう
(「邪神の影響からは脱したか」)
火花は、結衣香を見やる。
聞くべきことはたくさんあるが、まず最優先にすべきは、結衣香の保護。火花はそう判断した。
火花は、ルテルテ様への銃撃を続けながら、叫ぶ。
「結衣香さん! 今ここは、非常に危険な状態です。遠くへ、走って逃げてください! 早く!」
「あ……あ……」
火花は急き立てるが、結衣香は動かない……いや、動けないのだ。
目の前に、『見たこともない』化け物が……ルテルテ様がいるからだ。
(「仕方ない」)
火花はまず、辺りを見回す。屋根が吹き飛んだこの家では、邪神による赤い雨の攻撃にさらされるからだ。
火花の視界に入ったのは、半開きになったままの、観音開きのクローゼット。
火花は無理やりに結衣香を立たせると、半ば体当たりするような形で、強引に結衣香の体をクローゼットに押し込んだ。
「合図があるまで、絶対に出てこないでください!」
火花は結衣香に念を押してから、クローゼットを閉めた。
ルテルテ様は、自分の視界から消えた結衣香からは興味を失ったかのように、クローゼットから視線を外す。それから、火花を見た。
『赤イ、雨ヲ、降ラセマショウ』
直後、ルテルテ様が、身の毛もよだつような声を発した。
「させるか。捕獲任務はエージェントの得意分野だ――舐めるなよ」
火花が手にはめたエージェントグローブから、UDC捕獲用の特殊鋼糸が射出された。彼女のユーベルコード、『アンディファインド・キャプチャー』である。
鋼糸はルテルテ様の全身に巻きついてゆく。火花は自慢の怪力で糸を強く引き、ルテルテ様を束縛した。
――直後、ぽつん、と冷たい雫が右肩に落ちる感触と、鋭い痛みを火花は感じた。
(「……!」)
とっさに、火花は近くの布団を拾い、その下に自分の身を隠した。
ざぁ、と、赤い色のにわか雨が降る。
それが止んだのを確認した火花は、赤い雨水を吸って重くなった布団を投げ捨てる。周辺は、血の海と化していた。
(「動きは確かに止めたが、それでも雨を降らせることは可能だったか。UDCめ」)
火花はルテルテ様を鋭く睨みつける。
――戦いは、佳境に入ろうとしていた。
結衣香の安全は、差し当たって確保できたと言っていいだろう。あとは、この邪神を『終了』するだけだ。
成功
🔵🔵🔴
火奈本・火花
「確保すべき安全は確保した。我々の準備は整ったぞ、邪神」
■戦闘
痛みを訴えている以上、このまま奴の頭部を狙い続けるのが無難か
『戦闘経験則』で攻撃を避けながら『2回攻撃』で一気に攻めるつもりだ
最初にみた奴の鎖は、対象を宙吊りにしようとするようだからな。首はもちろん、手首、足首への攻撃に注意しよう
避けながら、可能なら奴に接近する
『激痛耐性』で『覚悟』の上、『捨て身の一撃』で掴みかかろう
成功したら『怪力』で奴を引き摺り倒し、馬乗りになって頭に銃弾を叩きこむ
「お前が歪な信仰を受ける概念上の神なら、我々はお前を捉えきれなかっただろう。だが顕現し狂気を振りまいた時点で、我々の終了措置が届く存在になったのだ」
「確保すべき安全は確保した。我々の準備は整ったぞ、邪神」
ルテルテ様を見上げて、火花は言った。
『……』
邪神は火花を見下ろす。それから、鎖を火花の首へ伸ばした。
(「速い」)
火花が最初に見た時よりも、鎖の速度は上昇している。周囲が血の海になったことで、ルテルテ様の戦闘力が増しているのだ。
「くっ」
それでも火花は、素早く横に転がり、その鎖を回避した。戦闘経験に加え、性格を理解した読心により、ルテルテ様の攻撃を予想したのだ。『戦闘経験則』に基づく、回避行動である。
「ならば――こうだ」
鎖を避けながら、火花は邪神目掛けて駆けてゆく。
攻撃を受けるのは覚悟の上で、火花は跳躍し、ルテルテ様に掴みかかった。捨て身である。
ルテルテ様の伸ばした鎖が火花の胴体に巻きつくのと、火花の伸ばした手がルテルテ様の頭部を掴むのは、同時だった。
火花は、腰部を締め付けられる痛みに耐えながら、怪力でルテルテ様を引きずり倒す。
幸い、火花の腕は、鎖に拘束されてはいない。ルテルテ様に馬乗りになった火花は、銃口を、ルテルテ様の頭部に向けた。
「お前が歪な信仰を受ける概念上の神なら、我々はお前を捉えきれなかっただろう」
パンッ、と乾いた銃声が響き、赤黒い液体が飛び散る。
「だが、顕現し狂気を振りまいた時点で、我々の終了措置が届く存在になったのだ」
パンッ――もう一発、弾丸がルテルテ様の頭部に撃ち込まれた。
びくんと痙攣した邪神の全身が、赤く溶けてゆく。あとには、生臭い液体と、大きな鋏だけが残った。
「――邪神の『終了』を確認。祭具を回収する」
立ち上がった火花が呟き、大鋏を拾う。
それから彼女は、クローゼットの方に歩み寄り、開けた。
「結衣香さん。我々に、ご同行を」
中にいた結衣香は、小さく頷いた。
「――はい……」
こうして、連続首切り殺人事件は幕を下ろした。
犯人と、その家族の保護。ならびに、邪神の『終了』によって。
大鋏に首を断たれる者も、未来を絶たれる者も――もう、これ以上増えることは、ない。
大成功
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