●病と餓え
慎ましくも幸せな村がある。
圧政に怯えながらも、日々を精一杯生きる村だった。
自然の恵みに感謝し、細工の腕を磨いて糊口をしのぐ村だった。
子供が笑い、男女が歌い、夫婦で支え合い、老人が知恵を語る村だった。
隣人と助け合い、励ましあって命を繋ぐ村だった。
どこにでもある村だった。
病が来る。
青い羽ばたきに病を乗せた蝶が来る。
触れた物を毒に沈め、病に侵す蝶が来る。
泣き叫ぶような気が狂うような、笛の音に乗って蝶が来る。
餓えが来る。
暴食の化身と化した虫が来る。
触れた物に全て齧りつき、喰らい尽くす虫が来る。
轟くような吹き飛ばすような太鼓の音に乗って虫が来る。
疫病楽団が訪れる。
幸せな村はもうなくなってしまう。
病と餓えに覆われて消え失せる。
●
「お手伝い、お願いしますー……」
寧宮・澪(澪標・f04690)が力を貸してほしいと言う。
「疫病楽団、ご存知でしょかー……」
ダークセイヴァーには慎ましくも平和に暮らす人々を探し出し、不治の病を感染させる「疫病楽団」と呼ばれるオブリビオンの群れが存在している。
「で、今回の予知、ですが……とある、普通の……幸せな、村なのですがー……ここに、疫病楽団が訪れますー……」
貧しくとも幸せに暮らしていた村目掛けて、オブリビオンの群れが襲来する。
この暴力から村を守ってほしい、というのが今回の依頼だ。
「まず、疫病楽団が来る前に……村の付近にお送り、しますのでー……村の人と、交流を深めながら、屋内に、隠れる準備やー……防御を固めて、迎え撃ってくださいー……」
今回の疫病楽団は送ってから数日後の夜にやってくるという。
それまでに迎え撃つ準備をしてほしいのだ。
しかし猟兵が現れて頭ごなしにすぐに別の場所に隠れろ、村を捨てて避難しろ、というのは受け入れ難いだろう。
土地を捨てることはできないし、付近に受け入れられるような村もない。
虫達が過ぎたあとには暮らしを再開する場所なのだから。
「ですので、村にできるだけ、被害がないよう……防衛、お願いしますー……」
娯楽に少ない村なので旅人として訪れれば、話や近況を対価に簡単に泊めてくれる。
その際、虫の群れがやってくる噂を聞いた、対策をしよう、力になりたい、と言ってもいいだろう。
普段の生活をしつつ村人だけで防衛するには難しいから、その申し出は快く受け入れられる。
「村の防衛、準備中ー……彼らの日常に触れてみるの、いいと思いますー……。物づくり、の活発な村なのでー……一緒に、何か作ると、いいかもですねー……」
装飾品や玩具、お守りや飾りなど。
そういったものを作って生活する村なので、物づくりの作業を一緒にするのもいいだろう。
「で、実際の疫病楽団、ですがー……第一に、蝶が、やってきますー……」
青い美しい翅を持った蝶の群れ、これらは死に至る病の象徴として見られているとても危険な蝶だ。
群れをなして擬態した髑髏の鉤爪で、力任せに攻撃してダメージを与えてくる。
素早く死病の象徴である翅の模様を晒し、不安や苦しみの心象を与えて動きを封じる。
自身と親しい者、親しい者への病の恐怖を与えて、死病を運ぶ髑髏の霊から命中率の高い体力を奪う毒の鱗粉や感染力の強い病原体を飛ばしてくる。
不吉な毒と病を齎す蝶だ。
「蝶をある程度、凌ぎますとー……楽団のかき鳴らす、楽器の音色が変わりましてー……別の、オブリビオンになりますー……」
変わった姿は、黒い雑食性の昆虫の群れ。
触れた物を全て食い尽くす、餓えた虫の群れ。
戦闘中に食べた物の量に応じて戦闘力を増していく虫達だ。
蝶よりも戦闘力が増しているので注意が必要だ。
オブリビオン達は村の東にある荒れ地から押し寄せてくる。
入り口以外から入らないようにバリゲードを立てたり、虫除けの香を焚いたり。
村の外なら火などで焼き尽くすのもいいだろうし、殺虫作用のある薬を使ってもいいだろう。
これ以外にも思いついた手段で対応してもらいたいが、できるだけ村に被害がないよう、立ち回ってもらいたい。
「はた迷惑、な楽団にはー……速やかに、立ち去っていただきましょー……。どうか、よろしくお願いします、ねー……」
そう言うと澪は一音、謳って道を紡ぎ、猟兵達を送り出した。
霧野
小物作りは楽しそうですが、ちょいとばかし不器用なのでなかなか手を出せないタイプです。
よろしくお願いします。霧野です。
● ダークセイヴァーで、小さな村で物づくり体験しながら防衛準備し、疫病楽団を撃退する。
そんなシナリオです。
皆様のプレイング、お待ちしております。
●シナリオについて
一章:ダークセイヴァーの小さな村にて、物づくりを体験しつつ疫病楽団に備えてください。
描写のメインは物づくりや、防衛への心情になると思います。
防衛準備や、村への訪れは書いてもちょっぴりかと。
日常です。
二章:病の先触れ『ヤミイロシチョウ』と戦います。
集団戦です。
三章:暴食飛蝗の群れとたたかいます。 集団戦です。
●複数人で参加される方へ
どなたかとご一緒に参加される場合、プレイングに「お相手の呼び名(ID)」を。
グループ参加を希望の場合は【グループ名】をご記入いただけると、助かります。
●アドリブ・絡みの有無について
勝手に連携していただいたり、アドリブを加えさせていただくことがあります。
以下の記号はプレイングの文字数削減としてプレイングの頭にご利用下さい。
◎ アドリブ歓迎・絡み歓迎。
△ アドリブ歓迎・絡みNG。
× アドリブNG・絡みNG。
第1章 日常
『ささやかな物作り』
|
POW : 乙女の心を慰める、小さな装飾品を作る
SPD : 子どもたちのため、素朴な玩具を作る
WIZ : 災いを遠ざける、魔除けの飾りを作る
👑5
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●
その村に特別なものはない。
子供達は家の手伝いをしながら遊び、大人は日々の糧を得るために働く。
懸命に日々を生きている。
この世界のどこにでもある、幸せな村だ。
猟兵達の訪れは歓迎される。
防衛の準備の助けもありがたく受け入れられるだろう。
その中で、一緒に何か作ろうと誘われた。
せっかくだ、何か作ろうか。
猟兵達は、村人と共に何かを作り始めるのだった。
祝聖嬢・ティファーナ
WIZで判定を
※アドリブ・協力・支援は積極的にお願いします☆
松明の枝や木を立てて、火の精霊に松明を灯してもらいながら、子どもたちを中心に光の精霊に明るくしてもらいます♪
お守りや十字架の作り方や持って来たお守りや十字架をお配りします☆ 音なの方には聖書を配って「皆様の生命の灯火の為に必要なら燃やして暖にお使いくださるほか」と謂います♪
『シンフォニック・メディカルヒール』で疲れを癒やし『祝聖嬢なる光輝』で体力を回復させたて頂きます☆
疲れが溜まる前に“こんぺいとう”をお配りします♪
もちろん、精霊・聖霊にも差し上げます☆
「みんな、頑張ろうね!☆」と笑顔で応援します♪
ジークフリート・ヴァールハイト
【wiz】
職人に教えて貰って物を作ってみるというのは初めての体験だ。手先は存外器用な方だが、流石に知識も無しには作れない。職人の方、宜しくお願いする。
俺は魔除けの飾りを作る。さて、どのような形が良いのだろうか。故郷では天秤で水平になった形は調和が取れているとして、平和の象徴を現す物であったが、この村での平和を現す形は何になるだろう?……貧しく小さな村だ。そのような物は無いのかもしれない。もし無ければ、天秤の形の魔除けにしても構わないだろうか?
もし、あるならばそれを作ろう。この村が災厄から守られるように、この平穏がずっと続くように、と祈らずには居られない。どうか、幸せであってくれ
アイシス・リデル
◎
この世界で、当たり前のしあわせって
それだけですごく貴重なもの、だよね
それでも、こうして壊そうとするオブリビオンがいる、から
守らなきゃ、ね
わたしは、村の人たちの前には出ないようにして
隠れてこっそり、疫病への耐性を付けて回る、ね
こうすれば、すぐ病気になったりはしない筈、だから
それと、できたら
追跡体のわたしたちに、他の猟兵や村の人が物づくりしてるとこ、見てきてもらう、ね
時間があったら、わたしも作ってみてもいい、かな?
見よう見まね、だから、上手くできないかも知れない、けど
材料は、収集体のわたしたちの中にある、から
それで、ちっちゃな装飾品を作ってみる、ね
……えへへ。ちょっとだけ、かわいくなれた、かな?
檀・三喜エ門
◎
子供らは家の手伝いをするのだね。感心感心
慎ましく、懸命に生きる人々を脅かすなんて無粋な輩は懲らしめてやらないと
ましてや、子供らも狙われるのは見過ごせない
何か力になりたいものだ
おじさんも子供らの物作りの仲間に入れて貰おうかな
玩具の材料に、竹を少しばかり持参。
「これはね、竹という植物で、木と違って中が空洞なんだよ」
この辺りには生えてる?等、世間話を交え、
小刀でもって作ってみせるのは竹トンボ
完成すれば飛ばしかたも教えようか
「ああ…そう言えば、噂で聞いたのだけれど…」
近々、虫の群れが来るらしい。大人達へ、噂を耳にしたという体で伝える
煙突には布等を被せ、蓋をし、外から侵入されるのを防ぐ対策を提案しよう
グリツィーニエ・オプファー
◎
疫病楽団――我々にとっても厄介な敵に他なりますまい
ええ、ええ…分っておりますよ、ハンス
慎ましやかな平穏は守られなければなりませぬ
然し、小物に御座いますか
特に光り物はハンスも喜ぶ事でしょう
宜しければ、私にも御伝授頂けませぬでしょうか?
作成するは魔除けの石を用いた魔除けの飾り
一つは興味深げに覗くハンスへ差し上げましょう
もう一つは、強い呪詛を込め村の入口へ
然すれば、多少の物の怪は退けられる筈に御座います
…さて、遊んでばかりもいられますまい
村にある薬草の中から虫が嫌う物を選択して香を焚きましょう
後は呪詛による罠を村の周辺へ張り巡らせる事で足止めにはなりますでしょうか
我々の許しなく、村へは近付けませぬ
リーヴァルディ・カーライル
◎
…ん。少し前までなら、無駄な事をしている暇はって考えていたけど。
今は…うん。上手に出来たら、あの人に渡すのも悪くない。
…我ながら本当に、変われば変わるものね。
…恋人に渡す装飾品か小物を…相手はお医者様なんだけど。
そうね……お守りが良いかな?作り方を教えてくれる?
…そういえば、近隣の村で人を襲う蟲の噂を聞いたわ。
確か…ここから東の荒野を抜けた先辺りの話だったと思う。
何か対策をした方が良いと思うけど…?
…蟲の第六感に訴え嫌な予感を与える“虫避けの呪詛”。
宿代の代わりに、護符の造り方を教えましょうか?
…私、こう見えて旅の呪術師だからね。
後は、村の東側の目立たない場所に【常夜の鍵】を設置しておこう。
●
無事に旅人として迎え入れられた猟兵達。
一番大きな家、村長の家で心ばかりの歓待を受けた。
祝聖嬢・ティファーナ(フェアリーの聖者×精霊術士【聖霊術士】・f02580)は村長へ聖書を差し出す。
「よろしければ、こちらをお読みください」
「これは、聖書ですかな。高価な物を……」
「いいえ、ボクはこういうの配るのも使命なので」
聖者たる彼女の申し出にありがたく、村長は本を受け取る。
希望者がいれば読み聞かせましょう、と言ってくれた。
質素ながらも村人から少しずつ分けられた食卓を囲みながら、村長に、何か旅の話を、と請われ簡単に彼らが経験した話や、伝え聞いたという体で話す情報を幾らか伝えたあと。
檀・三喜エ門(落日・f13003)が、此度の事件について切り出した。
「ああ……そう言えば、噂で聞いたのだけれど……近々、虫の群れが来るらしい」
「……私も、近隣の村で人を襲う蟲の噂を聞いたわ」
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)も、それに同意する。
「確か……ここから東の荒野を抜けた先辺りの話だったと思う」
ティファーナとジークフリート・ヴァールハイト(Chaos Legion・f17072)も頷く。
「ボクもその話は聞いたよ」
「俺も聞いたな。病と餓えを運ぶ虫の群れがくるとか」
「ええ。不気味な楽の音と共に現れた 病を運び……更には何もかもを食い尽くすと」
グリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)も脅威を語る。
「何か対策をした方が良いと思うけど……?」
リーヴァルディの言葉に村長は頷くもどう対処するか悩む様子だった。
「……蟲の第六感に訴え嫌な予感を与える“虫避けの呪詛”。宿代の代わりに、護符の造り方を教えましょうか? ……私、こう見えて旅の呪術師だからね」
「ならば、私も村の周りに呪詛を巡らせましょう。我々の許しなく、村へは近付けませぬ。あとは村にある薬草の中から虫が嫌う物を選択して香を焚きましょうか」
「ならボクはその火が消えないよう、手伝うよ♪あと、子供達が怯えないように光であやそう」
「ああ、煙突のある家には煙突には布等を被せ、蓋をし、外から侵入されるのもいいかもしれないねぇ。もし隙間や穴があれば、一時的に布を詰めておいてもいいかも」
「俺も虫が入らぬよう、群れが来たら警護に当たろう。村人には家に入っていてもらえればありがたい」
リーヴァルディが護符を提案すれば、グリツィーニエも守りと虫除けを。
ティファーナはその煙が消えぬよう支援を、三喜エ門も入り込まぬよう知恵を出し、ジークフリートも力を貸す、と名乗り出る。
ただただ村長は、よろしくお願いしますと感謝に頭を下げるのだった。
●
夜、寝る前にできることを、と猟兵達は動き出す。
リーヴァルディは村の東側の目立たない場所に常夜の鍵を設置。
グリツィーニエは呪詛を張り巡らせておく。
更に深夜、村人が寝静まった村の中に動く影。
アイシス・リデル(下水の国の・f00300)は疫病への耐性を配って回る。
深夜ぼろぼろのローブを纏い、真っ黒な幼子が徘徊する様は、見るものがいれば彼女の持つ異臭と相まって、恐怖に陥ったかもしれない。
けれど彼女が行っているのは浄化による聖者の業。
己の身に汚れを集めて、辺りを浄化し疫病を払う、自己犠牲。
きたないわたしにきたないものを。
当たり前のしあわせを守るために。
一人彼女は村の家を周り、中にいる人に力を与えていった。
●
明朝、村に留まり準備をするという猟兵達に村長は申し出る。
よろしければ、村の特産品である小物や装飾品作りを楽しんでいただければ、と。
猟兵達は各々村に散らばり、小物作りをすることにした。
●
この村では、いくつか人数がまとまって作業できる場所がある。
ティファーナはそういった場所の一つに赴いた。
6人の女性が集まるその場では、ゆったりとした時間が流れているようだった。
乳飲み子や、まだ一人で立てぬ子もそばにいる。
ここは母親とほんの小さな子が集まる作業場。
乳飲み子を抱える母親は一箇所で子らを見れるし、先達に教えを請うこともできる場所。
「こちらどうぞ〜」
ティファーナは持って来たお守りや十字架を配る。
「へえ、こった細工」
「こういう意匠もいいかも」
持ち込まれたお守りや十字架は、職人の魂を刺激したのか、母親達は職人の顔で細工をまじまじと見ていた。
抱かれた子らにティファーナは、光の精霊を呼び出し、あやしてみる。
「はい、どうぞ」
「うー?あー」
「おや、綺麗だねぇ」
きらきら光って、幼子に近づいたり離れたりする精霊に気を引かれたか、小さな手を伸ばしたり、握ったりしている。
そこに気づいた母親が抱き上げる腕を揺すったり、子の頭を撫でたり。
それはとても、尊く平穏な空気だった。
ティファーナはせっかくだから、と母親達とお守りを作る。
この辺りに伝わる樹木の意匠を使った編み飾りらしい。
蔦や糸を組んで、編み込んで行く作業は意外と楽しいものだった。
時折珍しい甘い、星のような七色こんぺいとうを母親に配って疲労を回復する。
甘味に女性は脇たち、幸せそうだった。
しばし母親達と交流して、幼子と遊んでから。
ティファーナは外に出て松明の枝や木を立てて、火の精霊に松明を灯してもらう。
暗い夜を払う火の守りを。
あとで香を炊くときにもここから火を取れるだろう。
そのまま風にのせて歌う。
疲れを癒やし、良き眠りをもたらす歌を。
おやすみ、おやすみ。
どうか幸せな夜を。
●
(……貧しく小さな村だ)
ジークフリートの目に映るこの村は、貧しいものだった。
日々飢えを凌ぐのが精一杯で、衣類も何度も何度も繰り返し繕いながら着て。
建物も塗装や華麗な装飾もない、石と木の簡素なものだ。
(けれど、幸せそうだ)
笑顔があって、やりがいがあって、ともに過ごす仲間が、家族がいる。
普通の、幸せな村なのだ。
ジークフリートにとって職人に教えて貰って物を作ってみるというのは初めての体験だ。
彼は訪れた作業場で、中にいた職人達に頭を下げる。
「宜しくお願いする」
手先は器用な方であるという自負はあるが、なんの知識もなく好き勝手に作れるというものでもない。
先達に教えを請い、技術を見せてもらって作りたい。
そういった姿勢を見せるジークフリートを、村の職人は好意的に迎え入れた。
魔除けの飾りを作りたいというジークフリートに用意されたのは石材と小刀。
メダルのように丸く削られた石材に、魔除けの石を埋め込みモチーフを掘る魔除けだ。
何か希望のモチーフがあるか、と聞かれればジークフリートの脳裏には1つの意匠が浮かぶ。
「故郷では天秤で水平になった形は調和が取れているとして、平和の象徴を現す物であったが、この村での平和を現す形は何になるだろう?」
「平和ねぇ」
少しばかり悩んだ青年は、近くの作品おを手に取りジークフリートに示す。
それは樹木をモチーフに彫り込んだ石のメダル。
この辺りによく生えており、細工にも用いられる丈夫な木だという。
身近にあり、暮らしの中に繋がっている大事な木。
故にこの村の平和の象徴といえば、このモチーフかもしれないという。
「まあ、好きに作っていいさ」
「ああ。そうだな……天秤と、この木を組み合わせたモチーフは、可能だろうか」
青年は頷き、いくつかデザインを炭で木の板に描いて示してくれる。
その中からメダル中央に石を嵌め、そこを中心とした天秤、背景にこの村の木のモチーフを選んだ。
ジークフリートは丁寧に小刀で石を削りながら、願う。
この村が災厄から守られるように。
この平穏がずっと続くように。
ジークフリートは、ただ祈らずには居られない。
(どうか、幸せであってくれ)
●
(みんな、しあわせそう)
少し村から離れた場所に身を潜めて、小さな追跡体達から伝わる村の様子をアイシスは覗き見る。
追跡体のアイシスたちの目から見たこの村は、しあわせそうだった。
子供も大人も、生活が豊かではないけど笑っている。
たまに泣いたり悩んだり、喧嘩もあったけど、でも幸せそうだった。
(この世界で、当たり前のしあわせって、それだけですごく貴重なもの、だよね)
きらきらしたもの、ぴかぴかしたものを取り出しながらアイシスは笑う。
人の命がとても軽いこの世界。
もしかしたらこの村も、遠くないうちにヴァンパイアに目をつけられるかもしれない。
今回のように悪意に晒されるかもしれない。
故にこそ、当たり前のしあわせは貴重なものだった。
(それを壊そうとするオブリビオンがいる、から。守らなきゃ、ね)
そばにはいけないけど、守りたい気持ちはいっぱいある。
小さなアイシス達は村を見回ったあと、広場の片隅で小さな子供達が猟兵と作業をしているところを覗き見る。
その中の一人がやっている蔦を編む作業をアイシスもすることにした。
あたりにあった蔦を抜いて、互いに組み合わせていく。
一個、少し歪になってしまったけれど、同じ網目が作れた。
アイシスは楽しくなって、何度も間違えたり、こんがらがったりしながらも繰り返して、編んだ蔦のブレスレット出来上がった。
子供達が編んだものより目は荒いし、歪だけれど、アイシスが一生懸命編んだものだ。
それに自分の中にあったきれいなビーズを取り出して、通して腕に結ぶ。
「……えへへ。ちょっとだけ、かわいくなれた、かな?」
追跡体から見えた楽しげな子供達の笑顔が、頷いてくれる気がした。
●
三喜エ門は村の子供達を見やる。
(子供らは家の手伝いをするのだね。感心感心)
細工物を作れるようになった子は、村の広場の片隅で小さな手で作っている。
まだ小刀を握るにはおぼつかない子も材料を拾い集めてきたり、少し年嵩の子が、むつきが取れたくらいの小さな子の面倒をみたり。
つい他のことに夢中になって遊んで怒られる子もいれば、早く終わらせようと躍起になる子もいた。
大人が作業している間は子供同士で遊び、時には家業を手伝い、日々を過ごしているのだ。
(子供らも狙われるのは見過ごせない。慎ましく、懸命に生きる人々を脅かすなんて無粋な輩は懲らしめてやらないと)
三喜エ門はそんな子らの輪に近づく。
「おじさんも混ぜてくれるかな?」
「んー? おじさんおとなのほうじゃなくていいの?」
「うん、君達の作るのが見たいなぁ」
「いーよ!」
無邪気に迎えられ、三喜エ門は持ち込んだ竹を取り出して小刀で削っていく。
「おじちゃん、その不思議なの、なーに?」
隣で木を削っていた少年が削られて行く竹を見て首を傾げる。
ダークセイヴァーにはない不思議な材料に気を引かれたのだ。
「これはね、竹という植物で、木と違って中が空洞なんだよ」
「へー! 木じゃないの?」
「うん、別物だねぇ。この辺りには生えてる?」
「知らない。見たことないなー」
珍しい材料に辺りの子らも集まってきた。
「あんちゃんしってる?」
「知らねー。どんなの? 軽い? 重い?」
「基本軽いねぇ。水で腐りにくいし、容器に向いてるかな」
器用に竹を割き、切り出して薄い板を点対称に削る。
中心に穴を開けて、細く丸く削っておいた棒を突き刺す。
「完成」
「なにそれ」
「へんなのー」
今まで見たこともないような代物に、子らは口々に疑問の声を上げる。
「これはね、棒をこう挟んで、手のひらをすり合わせると」
「あっ、飛んだ!」
「くるくるー!」
「すごーい!」
「むし?とりー?」
三喜エ門の手から竹とんぼが飛ぶ。
くるくる回って浮かび上がり、ゆっくり止まると落ちていく。
子供達はもっともっと、とねだり、はしゃぐ。
三喜エ門は優しい笑みを浮かべると作った竹とんぼを仲良くお使い、と差し出して、また新しい物を作り始めた。
●
グリツィーニエは村を見ながら、紹介された作業場へ向かう。
決してこの村は豊かではない。
土が痩せ、作物を得るには難しいからこそ装飾品や小物を作るのを生業にしたのだろう。
それでもグリツィーニエが見た村人達は日々の小さな幸せを大切に、懸命に生きているように見えた。
この幸せを目指して疫病楽団はやってくる。
(疫病楽団──我々にとっても厄介な敵に他なりますまい)
厄介ではあるが、この村を守らなければ。
側に従う精霊たるハンスがその想いにそうように、小さく鳴いた。
「ええ、ええ……分っておりますよ、ハンス。慎ましやかな平穏は守られなければなりませぬ」
嘗ての自身が知らなかった、この平穏を守らねば。
「ああ、あんたが旅人さんかい」
グリツィーニエが訪れた場は壮年や老年の男が集う場であった。
予め話を聞いていたからか、静かに彼を招き入れる。
この場で作っているのはこういうものだ、と見せられたのは。
「小物に御座いますか」
この辺りに伝わる魔除けの飾り。
石に彫刻して作る置物。
わずかながら拾える、小さな煌めく石を用いた細工品。
そういったものが並んでいた。
「宜しければ、私にも御伝授頂けませぬでしょうか?」
「構わんよ」
グリツィーニエを席に招き、一人の男が側につく。
魔除けの石を用いた魔除けの飾りを作りたい、と請えば、彼はグリツィーニエに小さく煌めく石と、樹木のシンボルの見本、更に無地の石の輪っかを用意した。
輪の中心に石を嵌めて止め、シンボルを彫り込んでいけばいいらしい。
石を止めるのは職人がやってくれるようだ。
それ以外の彫り込みを好きなように作っていけと示される。
グリツィーニエは白い指で小刀を握り、慎重に削り始めた。
いくらか時間がたって、荒いながらも無事に魔除けは完成した。
1つは興味深げに覗いているハンスへ。
(……遊んでばかりもいられますまい)
1つは、物の怪よけの呪詛を込めて、村の入り口に埋めて。
それから申し出ていたとおり、村の薬草を見に行くのであった。
●
(……ん。少し前までなら、無駄な事をしている暇はって考えていたけど)
リーヴァルディは村の作業場でへ向かいながら、考える。
オブリビオンの殲滅と、死者の弔い以外のことはすべからく無駄なこと。
ましたや何か作ったりするなんて、考えもしなかった。
(でも今は……うん。上手に出来たら、あの人に渡すのも悪くない)
今は、大事な大切なあの人に何かを作って渡したいと思う、なんて。
昔はただひたすらにヴァンパイアを狩るだけ、そう思っていたのに、僅かな時間で随分と自分も変わったものだ。
──嫌な、変化ではない、けれど。
そう思いながら、彼女は作業場のドアを開けた。
中年の女性が景気良く迎え入れてくれたその作業場は、どちらかといえば小物や女性向けのデザインをメインに作成しているらしい。
柔らかな曲線のお守りや組紐、カラフルな石を嵌めた小物などをサンプルとして見せてくれた。
「お嬢ちゃんは何を作りたいんだい?」
「……恋人に渡す装飾品か小物を…相手はお医者様なんだけど」
「ほうほう!」
そんなら首から下げるものがいいか、と女性は小さなお守りも見せてくれた。
色糸を編んでシンボルを作り、小さな石をあしらった物にリーヴァルディは目を留める。
「そうね……お守りが良いかな?作り方を教えてくれる?」
「もちろんさね、お嬢ちゃん」
中年の女性はにかっと笑って、作業所の机へと誘った。
丁寧に一つ一つ糸を組み、健康や幸福を願うシンボルを模って。
思いを込めて、祈りを込めて仕上げるといい。
多少下手でも、それが一番さね。
そう言って女性はリーヴァルディが集中できるよう、離れていった。
リーヴァルディは真剣に糸を組む。
一つ、一つ、大事な思いを込めて。
たった一人に届きますように、と。
成功
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第2章 集団戦
『病の先触れ『ヤミイロシチョウ』』
|
POW : 其は貴賎問わず等しく与えられるもの
【蝶が擬態した髑髏の爪】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : いずれ来る時に悔いること無き様
【不治の病に罹る未来を相手に予期させるため】【不吉と忌み嫌われる姿を目前に晒すことで「】【身体的苦痛」「不自由」「愛別離苦」の心象】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 死の訪れに備えせよ
【自身や親しい存在の病や死への恐怖】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【死病を運ぶ髑髏の霊】から、高命中力の【体力を奪う毒の鱗粉や感染力の強い病原体】を飛ばす。
👑11
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※2章は29日8時31分以降に受付させてください。
●そして病が訪れる
ヒュー……ヒュー…………
ビョォウ ビョウ……
……ィーーーーーーン……
激しく咳き込むような笛の音。
絶え絶えの息が喉を通るような弦の音。
常に鳴り響く耳鳴りのような鐘の音。
嫌に耳につく鼓動のような太鼓の音。
病で寝込み、死へと道をすすめる時に聞こえるような音を組み合わせた楽団の曲に合わせて蝶が飛ぶ。
疫病を払われた村では村人が眠っている。
猟兵達の守りに包まれ、安全に過ごせるだろう。
──侵入を許さない。
──決して通るなかれ。
猟兵達は病を退けんと、東に立つ。
祝聖嬢・ティファーナ
WIZで判定を
*アドリブ・共闘・支援は可能な範囲でお願い致します☆
妖精で子供なせいでまだ事の深刻さを『大変だ!』と理解している♪
『クリスタライズ』姿を隠して猟兵1名を含めます☆
“祈り”“鼓舞”“歌唱”“毒耐性”“呪詛耐性”“勇気”“オーラ防御”を使って支援して応援・協力します♪
『エレメンタル・ピクシィーズ』の火/風で攻撃をして『エレメンタル・ミューテーション』で上位精霊/真神聖霊と化して威力と抵抗力と速度を上げます☆
『祝聖嬢なる光輝精』で怪我を治して『シンフォニック・メディカルヒール』で状態異常を治します♪
「させません!人も猟兵も皆様を神様と精霊・聖霊の御加護で守護を致します!祝福と聖静を☆」
リーヴァルディ・カーライル
◎
…ん。此処から先には行かせない。
死は必ず訪れるものだけど…それは今ではないもの。
死が救いとなる時も確かにあるけれど…。
恐怖しかもたらさない先触れなんて不要よ。
事前に防具を改造して第六感を強化する“見切りの呪詛”を付与
目立たない精霊の存在感を残像として暗視して
“精霊石の宝石飾り”に魔力を溜めて彼らと手を繋ごう。
…闇の精霊、炎の精霊、力を貸して。
世界を冒す、不吉な羽ばたきを焼き滅ぼす為に…。
そして精霊使いの礼儀作法に則り助力を乞い、
吸血鬼化した生命力を吸収して【血の教義】を二重発動(2回攻撃)
殺気や病を追跡する“闇の炎”を上空に展開した後、
空中戦を行う蝶の群れに“炎の雨”を降らせ敵をなぎ払うわ。
●
「大変だ!」
幼いティファーナは病の蝶の群れを見て、ただ大変だと思った。幼いゆえに本質を見抜き、それらがもたらす病が、村の人達が被害に合うだろうことが、自分達が対応すべき敵が大規模な群れであることが、大変だ、と。そして自分達が倒れればもっと大変だ、と。
「させません! 人も猟兵も皆様を神様と精霊・聖霊の御加護で守護を致します! 祝福と聖静を☆」
彼女はそれに抗う術を持っている。光り輝き自身を上位精霊へと変化させて病への抵抗力と速度、精霊術の威力を上げた。
「……ん。此処から先には行かせない」
リーヴァルディは準備していた見切りの呪詛を付随した防具に身を包み、村の入り口に佇む。
(死は必ず訪れるものだけど…それは今ではないもの)
どんな幸せな村でも、いつだって未来には死が訪れる。それは変わってはいけない事実。けれどその訪れは今ではない。
リーヴァルディの目が真紅に変わっていく。闇に住む吸血鬼へと体を変えていく。
「死が救いとなる時も確かにあるけれど……。恐怖しかもたらさない先触れなんて不要よ」
二人の猟兵の前で蝶は舞う。ただ目の前の猟兵達を、その奥の村を病に落とそうと翅を翻し飛んでいる。
「お手伝い、しますね!」
「ん」
ティファーナがリーヴァルディの腕に抱きついた途端二人の姿は透明になる。蝶の視界からも消え失せただろう。
けれど蝶の進みは変わらない。そこにいようといまいとただ進み、病を巻きちらすだけだ。蝶の群れは羽ばたきをやめず、彼女達の側へも迫っていく。
姿を消したティファーナとリーヴァルディは無言で意識を研ぎ澄ませ、精霊達に祈りを捧げる。
(火の精霊、風の精霊……力を貸して! 大変なこの事態を、蝶を止めるために!)
(……闇の精霊、炎の精霊、力を貸して。世界を冒す、不吉な羽ばたきを焼き滅ぼす為に……)
二人の精霊使いは世界にあまねく精霊へと祈った。声無くともその真摯たる祈りは世界へと伝わり精霊へと届けられた。
彼女達の目には精霊達が集う様が映っている。村で虫除けの香を焚いた火から、空の高いところを吹き通う風から、夜の濃い闇の中から精霊達が、祈りに答えて現れる。二人の願いと手をつなぎ、応えたのだ。
リーヴァルディの意思に応じて闇の精霊と炎の精霊は混じり、闇の炎を生み出した。ティファーナの呼んだ風の精霊が彼らを蝶の群れの上、空の高みへと押し上げる。
ただそこに立つティファーナとリーヴァルディに向けたかはわからないが、髑髏が鱗粉を撒き散らしだした。青い靄のような鱗粉が彼女達に迫る。
透明になったからと言って存在が消えたわけではない。呼吸もしているのだから、このままでは鱗粉を吸い込み、異常をもたらされるだろう。
その時、炎が降り注ぐ。
殺気や病を追う闇の炎は的確に、雨のように蝶を一体一体焼き尽くしていく。同時に鱗粉も火の粉が焼きはらい、塵は風が吹き飛ばし、二人には届かない。精霊達に愛された二人の精霊使いは守られている。
光の精霊と闇の吸血鬼は精霊達の力を借りて、病を浄化していった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ジークフリート・ヴァールハイト
【wiz】
ここから先には通さない。疫病楽団と対峙するのはこれで二度目だ。病を振りまいて移動する迷惑な連中なのは変わらないようだ。ここの住民は皆、幸せに暮らしている。貴様らの出番はない。早々に骸の海に消えるがいい。
複数体を相手にする為にこちらもUCで対抗を。十体前後を村の入り口付近で守りに残し、残りを突撃させると同時に俺自身も紛れながら、蟲を相手に【捨て身の一撃】【生命力吸収】【激痛耐性】で剣を振るっていく。
俺の軍勢は感情などという物はほぼ無く、あるのは食欲だけだ。俺自身も死への恐怖などに惑わされはしない。俺が死ぬのは全ての過去の獣を狩り尽くしたその時だけだ(【覚悟】使用)
●
「ここから先には通さない」
ジークフリートは確固たる決意を持って反逆の剣を握る。病をもたらす蝶へ反逆を。過去より戻りたるものへ反逆を。師の言葉を胸にここに立つ。
彼が疫病楽団と対峙するのはこれで二度目。かつての敵は骸骨の群れと亡霊であった。あれらも此度の事件と変わらず、ささやかな幸せを狙い、病を振りまいて移動してきた。
姿形、楽の音は違えど本質は同じ。疫病を撒き散らし不幸を撒き散らす。
けれど、先の事件同様この村にも疫病の音色は不要である。
「ここの住民は皆、幸せに暮らしている。貴様らの出番はない。早々に骸の海に消えるがいい」
ジークフリートの周りに揺らめく蒼と黒の炎が浮かび上がる。百を優に超えるそれらは小型の狼。混沌が狼の形を取って集い、夜の闇に浮かび上がった。
「混沌よ。過去の亡霊を喰い殺せ」
ジークフリートの命とともに、数体を村の守りに残して混沌の軍団は蝶へと襲いかかる。そこにあるのは食欲。過去から蘇ったものを食い尽くそうとする貪欲。
狼達は爪と牙で裂き、齧りつき、飲み込む。蝶の鱗粉でその身がはじけようと構うものか、獲物をただひたすらに喰らうのだ。
その最中にジークフリートの姿もあった。狼が蝶を喰らい、蝶が狼を消していく中、彼は剣で蝶を切り裂いていく。
毒の鱗粉を吸い込み激痛が走っても耐え、切り裂いた蝶から命を吸収しただ剣を振るう。
僅かに衰えた蝶が髑髏の腕を伸ばして、死を与えようとするがジークフリートの胸に死や病への恐怖は沸き起こらない。
「俺が死ぬのは全ての過去の獣を狩り尽くしたその時だけだ」
その覚悟は剣をより鋭くさせ、狼とともに蝶を次々と屠るのだった。
成功
🔵🔵🔴
アイシス・リデル
くるしそうで、やな音……
こんな音、村の人たちにさせるわけにはいかない、よね
だからこれ以上、いかせない、よ
敵はちっちゃくて、数も多いから
バラックスクラップをおっきくして、まとめて叩き潰すように戦う、ね
収集体のわたしたちの中にあるのは、きれいなもの、だけじゃないけど
こういう風にも、使えるんだから
村の人たちは、わたしの親しい人、なんかじゃないけど
くさくてきたないわたしに、親しい人なんて、いないけど
それでもわたしは、あの人たちを、守りたい、から
鱗粉も病原体も、【毒耐性】があるわたしには効かない、よ
できれば、他の人に向かう分も【犠牲者】でわたしの中に取り込んじゃう、ね
●
「くるしそうで、やな音……」
病そのもののような楽の音は蝶の羽ばたき合うような、合わないような、何とも不快なリズムで刻まれている。どこまでも苦しく、先も見えず、ただ死へと落ちていくような病の音。
(こんな音、村の人たちにさせるわけにはいかない、よね)
もし蝶が村に入れば。大人もも子供もこの不安定な音色を聞いて怯えることになるだろう。耐性を付けて回ったとはいえ、もとは普通の人間でしかない村人が、鱗粉を浴びてしまえばこんな音を出す病をもたらすのだろうか。
楽しそうな音が響いていた光景を思い出す。追跡体を通して聞いた様々な営みの音を思い出す。その音が、こんな音に変わってしまうのはいやだった。
「だからこれ以上、いかせない、よ」
アイシスはスプラッタースクラップに自身の体から一部を付与し、大きくする。蝶を幾つもまとめて叩き潰せるくらいに大きく。
そうして赤黒い汚れのついた武器を蝶へ振り上げ、叩き潰す。幾つも幾つも蝶を巻き込んで、地面を青へ染め、毒も病もアイシスの黒へ取り込まれていく。病の鱗粉も、毒の鱗粉も、穢れへの耐性を持つ彼女には効かなかった。
汚泥を集めるアイシス達の中には綺麗なものばかりではない。このように敵を叩き潰すために使えるものだって存在するのだ。
(村の人たちは、わたしの親しい人、なんかじゃないけど)
一生懸命働いていた村の人達。
(くさくてきたないわたしに、親しい人なんて、いないけど)
近づくことなく見守っていたアイシス。
「それでもわたしは、あの人たちを、守りたい、から」
きれいなしあわせを守りたいから。
アイシスはスプラッタースクラップを幾度も振るい、蝶を屠っていった。
成功
🔵🔵🔴
グリツィーニエ・オプファー
◎
ああ、これが死を運ぶ音に御座いますか
これはまた中々に、心ざわつく音色です
警戒するハンスを宥めつつ、鳥籠を開きます
中から解放するは【母たる神の擒】
…さて、其方は死と病を運ぶ蝶で御座いますが
此方は呪いを運ぶ蝶に御座います
広範囲へ拡散する事で可能な限り多くの蝶を巻き込み、行動の阻害を試みましょう
然すれば此処に御座す皆様の支援になると思います故
…ハンス、貴方も手伝って下さいませ
然し、死に対する恐怖に御座いますか
…私の身は既に『母』のもの
彼女の慈悲なくして、私は存在し得ぬのです
故に――今更私に恐怖という感情は御座いませぬ
とはいえ毒の類は厄介に御座います
毒耐性や呪詛耐性にて、幾らか軽減すれば良いのですが
●
「ああ、これが死を運ぶ音に御座いますかこれはまた中々に、心ざわつく音色です」
響き渡る不協和音は不安を煽る音色であった。病に倒れた時に聞こえるような、一人で孤独な時に聞こえるような、葬列を見た時に聞こえるような。
「ええ、ハンス。今はまだ」
グリツィーニエは、警戒して羽を忙しく震わせ、首を巡らせるハンスを指で触れ、優しく撫でて宥めつつ、手にしたTrauerzugを開く。
中から解放され、羽ばたくのは青き蝶。神の残した残滓、母と慕った彼女の愛しみの一欠片。
「……さて、其方は死と病を運ぶ蝶で御座いますが、此方は呪いを運ぶ蝶に御座います」
呪いを運ぶ青き蝶はどこまでも、グリツィーニエの意のままに広がって羽ばたいていく。
全てを虜にする青き蝶は病の蝶をも魅了した。髑髏を模した群体の動きが目に見えて鈍くなる。
「……ハンス、貴方も手伝って下さいませ」
腕に止まった夜の闇にも負けぬ黒い鴉に願えば彼も蝶を啄み、落としゆく。村には入れぬよう、そこに留めて落としていく。
(然し、死に対する恐怖に御座いますか)
病の蝶が動けぬことに苛立ったか、それともただの反射か、髑髏から病を、毒を鱗粉にのせて散らしてきた。
話通りならこの粉は体を蝕み、死へと誘うだろう。けれどそれに恐怖するかと言われれば。
「……私の身は既に『母』のもの。彼女の慈悲なくして、私は存在し得ぬのです」
グリツィーニエが捧げられた神の慈悲なくして己はここに在らず。彼を美しいと笑った母の愛無くして彼はここに在らず。
「故に──今更私に恐怖という感情は御座いませぬ」
ならばそう、母のものであるこの身が死すことを恐れることはない。
病も毒もグリツィーニエを蝕むことはできず、病を告げる蝶は呪いの蝶に魅了され、ハンスによって駆逐されていくのだった。
成功
🔵🔵🔴
檀・三喜エ門
◎
いやはや…何て聞くに堪えない音色だろう
こんな押し売り同然の死などは願い下げだよ
鱗粉対策は風下へ立たない様、風向きに警戒を。
病や死への恐怖か。村の子供らを守り切れなかった時…そんな考えがよぎる
一時ばかりの交流であれ、あの温かな時間はとても心地よかった
守れなかった暁には、悔やんで悔やんで…ずっと引きずるんだろうなぁ
子供らが病床に伏す姿は見たくも無い。
両手でバチンと頬叩き思考一転、コレを回避するには討ち払うのみ
擬態へは鬼雨で数減らし
数の暴力で来るのなら、此方も数で対抗しよう
数が多ければ狙う的も多くなるというもの
擬態から漏れ、単一で来る虫は通常の矢で射ぬき
数で囲まれぬ為、視野を広く持つ立回りを努める
●
「いやはや……何て聞くに堪えない音色だろう」
平穏を掻き乱し、病と死しかもたらさない悪意に満ちた音色は三喜エ門の耳を不快に引っ掻く。不吉にしか感じられないその音に彼は眉根を顰めた。
確かに病は突然である。予期でぬ死もあるだろう。けれど、この蝶達が押し付けてくるのはそういったものではない。悪意の押し付けにも等しいものだ。
「こんな押し売り同然の死などは願い下げだよ」
三喜エ門は風上に立ち、蝶を迎え撃つ。
村へ近づきくる蝶達が目に入ったとき、昼にともに過ごした子供らの姿を思い浮かべた。
自身が病や死に倒れるというのは心折れるものではない。けれど、もしも。共に笑った子供が倒れるのは──きっと怖いだろう。
(ほんの一時、だけどあの時間は心地よかった)
温かな交流の時間は日だまりで温まるようで、ひどく身に沁みた。もしこの蝶を押しとどめられず、あの子らが病や毒に蝕まれ死んでしまったら、悔やんでも悔みきれない。
顔に走る罅以上にずっと残る疵になるだろう。いつまでも底なしの沼のように、終わりなく引きずるのだ。
三喜エ門はそこまで考えてから、己を頬を両の手でバチンと張る。音と痛みは暗く沈み行く思考を切り替え、敵へと向かせた。
(子供らが病床に伏す姿は見たくも無い)
それをを回避するには、この病もたらす蝶を討ち払うのみ。三喜エ門は手にした弓を軽く握りしめた。
「雨あめ降れふれ……蛇の目は効かないよ」
童歌の一節のように口ずさみ、擬態の髑髏に弓を向ければ、幾つも天から降り注ぐ矢の雨。幾つもの矢が蝶を一匹一匹地へと縫い落とす。
運良く雨から逃れて飛ぶ蝶は、逃さぬようつがえた矢で射落とす。
ここは通さない、病を払い除けよう。
邪を払う鳴弦の音が鳴るたび、病の蝶は地に沈むのだった。
成功
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第3章 集団戦
『暴食飛蝗の群れ』
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POW : 選択進化
戦闘中に食べた【肉】の量と質に応じて【各個体が肉を喰らう為の身体へと進化して】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 飢餓
戦闘中に食べた【動植物】の量と質に応じて【少なければ少ない程に攻撃性を増して凶暴化】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : 大繁殖
戦闘中に食べた【動物の肉や植物】の量と質に応じて【群れの個体数が飛躍的に増殖して】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
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●
耳奥を苛み、病と死を想起させる不協和音が急にその音色を変えた。
狂ったように奏でられる激しさは変わらないが、全く異なる楽曲を奏で出す。
どこまでも飢えた虫の羽音のような、全て喰らい尽くす虫の顎の打ち合わされる音のような、全てを飲み込む虫の足音のような。
病と死から変わった音色はただただ飢えを表した。
数を減らした蝶達の姿が変わる。
病の蝶から、全てを喰らい尽くす飢えた虫の群れへと。
病を、毒をもたらせぬなら──全てを食らいつくせ、と。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。数で私を止められると思わない事ね。
一匹足りとも逃しはしない。
ここがお前達の終着よ、疫病楽団…。
第六感を頼りに目立たない魂の存在感を見切り、
死者の誘惑を呪詛耐性で受け流しつつ、
魔力を溜め暗視した疫病楽団の犠牲者達の残像と手を繋いで、
礼儀作法に則り祈りを捧げ【断末魔の瞳】を発動
…この先にはどこにでもある、だけど慎ましくも幸せな村がある。
彼らを助ける為に。そして貴方達の魂を鎮める為に。
どうか力を貸して…。
身体を覆う呪詛のオーラ防御で近寄る敵の生命力を吸収するカウンターで武器に、
“血の翼”で姿勢制御を行いつつ、怪力の踏み込みから、
音速超過の空中戦ダッシュで敵陣を往復してなぎ払う2回攻撃を行う
●血の天使は翔け巡る
「……ん。数で私を止められると思わない事ね」
姿を変え、より強く群れをなしたところでリーヴァルディは止まらない。止められるはずがない。
「一匹足りとも逃しはしない。ここがお前達の終着よ、疫病楽団……」
最後の曲を奏でているがいい、黒騎士は止らないから。
虫の存在は群体なら大きいが、一匹一匹は小さく目立たない。けれどリーヴァルディは、その身を喰らおうとする小さな魂を第六感で見切り、触れさせない。
左目に強く魔力を貯める。闇を見通し、過去にこの疫病楽団が喰らい、内に貯めて苦しめてきた犠牲者達の残影に手を伸ばし、祈った。
「……この先にはどこにでもある、だけど慎ましくも幸せな村がある」
きっと貴方達が暮らしてきたような、村だろうとリーヴァルディは死者の残影に語りかける。
「彼らを助ける為に。そして貴方達の魂を鎮める為に。どうか力を貸して……」
もう苦しまないように、これ以上苦しみを増やさないために。どうか力を貸してほしい。そんなリーヴァルディの想いに触れた死者達は応え、彼女の左目の聖痕に吸収されていく。
「……汝ら、この瞳をくぐる者、一切の望みを棄てよ」
その望みを叶えよう。思いも絶望も抱え込もう、我が身に集え。同じ想いを抱く者たちよ。
残影とひとつになった彼女の背から血の翼が広がる。呪詛がオーラのように体を覆い、喰らおうとする虫達を逆に包み、喰らい尽くす。
リーヴァルディが強く踏み込み、勢いをつけて音速を超える。そのまま過去から蘇ったいくつもの虫の群れの中に飛び込めば、呪詛が虫の生命を喰らい魂を喰らってより強くなる。血の翼で回り込み、逃さない。
一方的に殲滅し、血の天使は戦場を翔け巡る。その身に呪詛を蓄えて。
成功
🔵🔵🔴
アイシス・リデル
◎
「暴食」には【暴食】で
何かを食べてつよく、おっきくなるのは、あなたたちだけじゃない、よ
これまでに取り込んだ……「食べた」毒とか病で、わたしの身体をおっきく、つよくする、ね
……お肉、じゃないけど、こんな風にくさくてきたなくて、あぶなくて
そんなわたしの事も、食べられるように進化、するのかな?
だったら、その前にまとめて叩き潰す、ね
武器にも、さっきまでと同じようにわたしの一部を使って、さらにおっきく、つよくして
あなたたちが振り撒いた、毒や病、あなたたちに返す、ね
戦いが終わったら、周りをちゃんとお【掃除】しておくね
毒や病を、ちょっとでも残しておいたら、危ないもん、ね
全部、わたしの中に取り込んでく、よ
●喰らい尽くす毒の娘
全てを喰らい尽くそうとする虫達にアイシスが怯むことはない。彼らと彼女は同じことができるのだから。
「何かを食べてつよく、おっきくなるのは、あなたたちだけじゃない、よ」
汚泥に蓄えた毒と病が彼女の体内で毒液へ変わる。あの人のように強く大きく。濃く多く生成された毒液は、アイシスの柔らかな黒い体の体積を増やし、強靭に変える。そうして強化された毒の娘は、ゆっくりと虫達へ向き直った。
「……お肉、じゃないけど、こんな風にくさくてきたなくて、あぶなくて、そんなわたしの事も、食べられるように進化、するのかな?」
こんなにに酷く汚く臭う、食べればその肉を溶かしてしまいそうな、毒の体すら喰らい尽くすよう進化するのだろうか。そんな呟きに答えるかのように、虫達は大きくなったアイシスの体を喰らおうと近づき、顎を開く。
「そっか、食べちゃうん、だ。だったら、その前にまとめて叩き潰す、ね」
そうアイシスが呟くと、スプラッタースクラップにより濃くなった自分の体を分け与え、先程より大きく、そして濃い毒を纏わりつかせる。
「あなたたちが振り撒いた、毒や病、あなたたちに返す、ね」
毒の体を纏い大きくなったスクラップを振りかぶり、振り払い、アイシスへ集う虫達を叩き潰していく。一匹たりとて逃さない、全て叩き潰して死骸もアイシスの中に取り込んで、より毒を生み出し、自分を大きく強くする。
最後には潰れた虫も、わずかに飛び散ったアイシスの一部も、綺麗に取り込むから。病や毒はアイシスが引き受けるから。
幸せな村を平穏なまま守るために、毒の娘はひたすらにスクラップを振るい、虫を喰らい尽していくのだった。
成功
🔵🔵🔴
祝聖嬢・ティファーナ
WIZ>SPD=POWで判定を
*アドリブ・共闘・支援は可能な範囲でお願い致します☆
『クリスタライズ』で姿を隠して『月霊覚醒』で全体とまでは行かずとも可能な範囲を封じ弱体化させます♪
『エレメンタル・ミューテーション』で上位精霊/真神聖霊と化し『神罰の聖矢』で聖攻撃『エレメンタル・ピクシィーズ』で火/風(雷)属性で攻撃を仕掛けます☆
猟兵と自分を『祝聖嬢なる光輝精』で治し『シンフォニック・メディカルヒール』で癒します♪
精霊・聖霊・月霊には“こんぺいとう”を配って労を労います☆
“祈り”“歌唱”“鼓舞”“勇気”“オーラ防御”“属性攻撃”で強化や支援をします♪
「哀れなる群れよ、静寂と安息の底で眠りなさい」
●浄化の火と風
ティファーナは透明になって姿を隠したまま、月の力を集める。日々形を変える月の力を編み上げ、闇から生じるような虫の群れを包んで動きを封じていく。全て封じれずとも、可能な限り。彼女は小さな体を翻し虫の群れへ立ち向かう。
「ここから先、通ることはできません」
彼女が編んだ月の力は虫達を包み込み、届いた範囲の虫達の動きを封じる。
闇から浮かび上がり、封じられた虫達が顎を鳴らすその前で、髪を変化させて真神聖霊となったティファーナは歌いながら舞を踊る。宙を踏み、精霊を呼び起こし、力を借りるための舞を。
足の動きに合わせて、手の振りに合わせて、火と風が舞い踊る。月に縛られた虫達に火が襲いかかり、風がより燃え上がらせていく。舞いながら歌い、祈り、精霊を鼓舞する。
どうぞこの村を守れますように。
どうぞ幸せを守れますように。
どうぞ、この哀れな過去たちも眠れますように。
虹の色を映したこんぺいとうを供物に精霊を労えば、彼らはより力を増して虫達を燃やしていく。
「哀れなる群れよ、静寂と安息の底で眠りなさい」
ティファーナの浄化を願う想いに応えた精霊たちに包まれて、飢えた虫達はその渇望を浄められ、骸の海へ帰っていった。
成功
🔵🔵🔴
アイシス・リデル
ちょっと、思ったより数が多い……? ううん
さっきよりも数が増えてる、ね
あなたたちはわたしの身体を食べて増える、けど
わたしもあなたたちの病気を食べて大きくなる、から
このままじゃ終わらない、かな
だったら、うん
もうやめる、ね
スプラッタースクラップはしまって、虫たちにそのまま身をさらす、よ
こんなわたしの事も、食べようと向かってくるなら
そのまま受け入れて、全部わたしの中に取り込んで
わたしの中できれいにしちゃう、ね
病気でくるしいのも、おなかがすくのも
もう、おしまいにしてあげる、から
おやすみなさい
●聖母は受け入れる
(ちょっと、思ったより数が多い……?)
いつまでも尽きない虫の群れに、アイシスは一度スクラップを振るう手を緩める。少し注意深く観察すれば、簡単にその違和感の元はわかった。
「ううん、さっきよりも数が増えてる、ね」
アイシスの体で大きくした武器で叩けば、もちろん僅かとはいえ彼女の一部が剥がれ落ちる。その毒の欠片を食らい、攻撃されないもの同士で食い合い、辺りの僅かに生える植物を喰らえば、数が増えていく。
「あなたたちはわたしの身体を食べて増える、けど、わたしもあなたたちの病気を食べて大きくなる、から。このままじゃ終わらない、かな」
アイシスと虫達が互いに食い合い、増え続け、いつまでも続いていく永久機関。歪で救われない、無限の連鎖はどこまでも不毛だった。
「だったら、うん」
アイシスはスプラッタースクラップを元の形に戻し、収納する。
「もうやめる、ね」
そして空いた両手を広げ、動かずに──虫達にそのまま身を晒した。
避けず、防がず、ただ虫達へ身を捧げる生贄のように。
そんな彼女に虫達は群がって、顎を開いて食らいつこうと、飢えを満たそうとする。
「こんなわたしの事も、食べようと向かってくるなら」
その黒い汚泥の体に虫が食らいついた瞬間、アイシスは彼女の中に虫を取り込んでいく。
腕に、脚に、腹に、顔に。体中に群がる虫を彼女の中に。アイシスは飢えた虫達を拒絶しない。ただ母親のように受け入れ、取り込んで。
その身の中で浄化の光を与えていく。
「病気でくるしいのも、おなかがすくのも。もう、おしまいにしてあげる、から」
聖母のように微笑んで、哀れな飢えて全てを食らうしかない虫達を浄化し続ける。もう苦しまなくとも、もう餓えで悲しむこともないから。
「おやすみなさい」
どうぞ、安らかに。
大成功
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グリツィーニエ・オプファー
◎
これは、これは
斯様に迄腹を空かせていらっしゃいましたか
それは失礼致しました
ならば、たんと御馳走させて頂くと致しましょう――私の呪詛に御座いますが
…さあ、ハンス
撫でた精霊を花弁と変え、群れに対して【黒き豊穣】を発動
己の呪詛にて威力を高め、多くの虫を払い落としましょう
更に個体を増やすというならば
増えた数以上の虫を駆除すれば良い事
この場に在る食物は有限なれば
この侭ではジリ貧に御座いましょう
虫が此方へ標的を定めたならば恐怖を与えて怯ませ
また攻撃を見切り、黒剣にて斬り捨てます
多少噛まれようと怯む私では御座いません
痛みは耐性で堪え、我が全てをもって災厄に終止符を
尊き人の営みは、守られなければなりませぬ故
●贄は藤の花弁で払う
「これは、これは」
共食いと植物と、猟兵の一部を食らって増えゆく虫達をグリツィーニエは憐れに思った。
「斯様に迄腹を空かせていらっしゃいましたか」
同胞すら喰らうまでに飢餓を抱いた虫達に、彼は月の白と夜の紫の瞳を臥せて詫びる。
「それは失礼致しました。ならば、たんと御馳走させて頂くと致しましょう──私の呪詛に御座いますが」
なぜならこの身はすでに『母』のもの。憐れに思ったとしても、己の身で既に食べさせる場所などあるはずもなく。ならば呪詛にて苦しみの生を祓って見せるのだと。
「……さあ、ハンス。おいきなさいませ」
黒い手袋をした手で撫でた鴉は姿を変える。羽が、体が、嘴が解けてかの精霊と同じ色した藤の花弁へ。それはグリツィーニエが指し示すまま、虫の群れへと襲いかかる。
闇に漂う藤の花には、グリツィーニエの呪詛を纏って舞い散った。薄い花弁に触れた虫はいとも容易く払い落とされ、地に落ちる。
落ちた虫を他の虫が喰らって増えようともそれ以上を駆除すれば問題ない。この場にある食物は有限であるがゆえ、長期戦は猟兵達が有利であるから。
払われる虫が花弁の主へと群がりゆくが、その動きはグリツィーニエへ近づくに連れて鈍くなっていく。グリツィーニエから放たれる恐怖が虫の本能に囁くのだ。アレハアブナイ、と。
鈍った虫の動きを見切り、避けて黒剣でもってグリツィーニエは虫を払う。数が多いので抜けてきた虫に多少噛まれようと、彼は怯まない。彼の全てをもって災厄に終止符を打つという意志で持ってここに立つ。
「尊き人の営みは、守られなければなりませぬ故」
藤の花弁と黒剣は、どこまでも続く虫を確実に落としていった。
●そして朝が訪れる
最後の虫が骸の海へと還っていった。
夜の中で戦い続けた猟兵達が、疫病楽団の進行を止めきったのだ。
気づけば鳴り続いていた余りにも歪な楽の音は消え去り、静寂が訪れていた。
警戒を解く猟兵、辺りを整える猟兵、村を伺う猟兵、各々思うように動いているだろう。
気づけば夜の気配はもう薄い。暗澹としているけれど空が明るみ、小鳥の囀りがどこからか聞こえる。
暗いこの世界ではあるけれど、朝が訪れた。
猟兵達が守った村は、また同じようにささやかな幸せの日々が続いていく。
彼らが守り抜いた笑顔とともに。
成功
🔵🔵🔴