バトルオブフラワーズ⑪〜Fast,Fast,Fast!
●システム・フラワーズにて
「モンキーに続きバニーまでとは、驚きました」
遠く、散り失せる花々を見て、1人の女がそう言った。
数多に車輪をあしらい、白き衣を翻らせる怪人は、自らの元まで迫ろうとしている猟兵たちの強さに感嘆していた。第一、第二の関門を突破されるとは想定の外だ。
が、その佇まいに慌てる様子は微塵もない。
「ドン・フリーダムがシステム・フラワーズを取り戻すまでの時間稼ぎならば、私の『風を操るユーベルコード』でも、決してあの2人にひけは取りません」
兆しなく、一陣の風が一瞬、足元から吹きあがった。
足場の花々が、飛沫のように散る。
女は、花が儚げに舞うさまを眺めると――やがて舞い降りる花弁をその左手に取り、握りつぶすように力を込めた。
「私達は全てを手に入れる。誰にも、邪魔は、させないッ!」
●グリモアベースにて
「スピード怪人『ウインドゼファー』。それが第三の関門を守る、大幹部だ」
慌ただしい喧噪の聞こえる中で、プルート・アイスマインドが目前に集った猟兵たちへ告げる。
突破すればドン・フリーダムへの道がひらける第三の関門――そこを守護する『ウインドゼファー』は風を操る能力で、迫る者に立ち塞がるという。
「エイプモンキーやラビットバニーのような荒唐無稽な力ではない。だがそれゆえに特別な対抗策も打てんということになる。奴を倒すには力でもって打ち破るよりないだろう」
ごつっ、と自らの拳を合わせるプルート。
真っ向勝負。
システム・フラワーズを巡る無茶苦茶な戦いの中だと、異彩を放つほどにシンプルだ。
けれどプルートが言うように、決して簡単な敵ではない。相手は大幹部の一角、地力で優るだろう彼女に無策で挑めば闘いの舞台にさえ上れないと思われる。
「そんな敵を、また幾度も骸の海に送り返してやらなければならん。骨が折れる戦いにはなるだろうな……だがおまえたち猟兵はすでに2体の大幹部を葬っている。必ずウインドゼファーを倒せると、信じているぞ」
1人ひとり、猟兵の眼を見たプルートがグリモアを取りだした。
花の道を塞ぐ最後の関門へ――猟兵たちの転移が始まる。
星垣えん
マスクの光沢に心躍るものを感じます。
そんな状態の星垣えんです。
第三の関門を守るスピード怪人『ウインドゼファー』が今回の相手です。
暴風渦巻く高速戦って、結構映えそうですよね。
以下、彼女との戦闘における注意点となります。
====================
敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
====================
ということなので、ウインドゼファーが使用するユーベルコードへの対応は必ず書くんだ!
でないとワンパンで沈むので、気を付けて!
それでは、皆さんのプレイングお待ちしております!
※ちなみに
⑪の戦力「40」をゼロにできれば制圧成功ですが、それ以上の成功数があった場合、上回った成功数の半分だけ「⑬『ドン・フリーダム』」の戦力を減らせます。
なので制圧必要値を超えて『ウインドゼファー』を倒しても、無駄にはなりませんよ!
第1章 ボス戦
『スピード怪人『ウインドゼファー』』
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POW : フルスロットル・ゼファー
全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : ソード・オブ・ダイアモード
対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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オル・クブナス
貴女にも守るべき矜持があるのでしょう、しかし私達にも猟兵としての誇りがあります。
というわけで…いざ、勝負でございます。
私は殴られ屋、攻撃を受ける事こそ私の礼儀でございます。
「肉を切らせて骨を断つ」ナノマシンアーマーで致命傷を避けて耐え凌ぎ、ユーベルコード発動までの時間を稼ぎます。
我が最終兵装『器装纏鎧(ブラックボックス』圧倒的な攻撃力と防御力、しかしその出力の代償として理性を放棄し、速く動くものを優先して攻撃する単純なシステムを取らざるを得ない。
しかし、この場において誰よりも疾いであろう貴女が相手ならば、この形態の力を十全に引き出せる!
無際限の武器による波状攻撃を食らわせてやりましょう!
風音が吹きすさび、中空には花が舞い散る。
横を通り過ぎてゆく花弁を摘み取ると、オル・クブナスは目深に被ったハットの鍔を指で押し上げた。
見える。花々の中央に。
紅の仮面の下からこちらを見据える怪人――ウインドゼファーの姿が。
「来ましたか、猟兵」
「ええ」
ウインドゼファーの体から暴風が巻きあがると同時に、オルは腰を折り、一礼する。
「貴女にも守るべき矜持があるのでしょう、しかし私達にも猟兵としての誇りがあります」
「では、私の風を止めてみることですね」
ふわり、と浮いた瞬間だった。
暴風に巻かれたウインドゼファーの体は弾かれたように加速し、爆発的な速度で肉迫。
黒鉄の膝が、オルの腹に叩きこまれる。
だがオルは苦悶にうめくどころか、笑った。
「傷を負い、何を笑うのですか」
「なに。私は殴られ屋、攻撃を受ける事こそ私の礼儀でございます」
「……ならば受けきってみますか!」
痛打を受けてなお慇懃な物腰を崩さなかったオルへ、ウインドゼファーの畳みこむような連撃が繰り出される。
拳、肘、踵。
極限の速度まで高まった痛打が、見る間にオルの体力を削ぎ取ってゆく。
しかしオルは倒れない。ナノマシンで硬化させた皮膚と意志とで、2本の脚で立ち続ける。
「耐え抜きますか……!」
「それが仕事でございますから。では次は私からいかせて頂きます」
オルの液状の肉体が形を変え、その場に謎めいた立方体を形作る。
そして刹那――ブラックボックスは、逃げ場もないほどの銃弾を拡散させた。
鉛弾が、ウインドゼファーの体に喰いこむ。
「こ、これは!?」
「我が最終兵装『器装纏鎧』……圧倒的出力の代償に速く動くものを優先して捕捉してしまいます。しかし、この場において誰よりも疾いであろう貴女が相手ならば、この形態の力を十全に引き出せる!」
銃砲が飛び出し、重々しい鈍器が暴れ出し、鉄をも裂く刃があふれ出す。
有り余る無際限の武器。その総攻撃は、ウインドゼファーの体へ確かな傷を刻んだ。
苦戦
🔵🔴🔴
ビスマス・テルマール
●POW
弾に『オーラ防御・属性攻撃(真空)・誘導弾・範囲攻撃』を込め『早業・クイックドロウ』を駆使の『一斉発射』で盾がわりの弾幕を張り『ダッシュ』と『残像』て動き回り『地形を利用』しつつ面制圧を意識し立ち回り
展開した真空で
敵が纏う荒れ狂う暴風の勢いはある程度弱まる上
トリニティ・ナメローズマバアを発動する時間も稼げる筈
隙を見て『早業』で発動
その後も面制圧の一連戦法(技能同じ)しつつ
『属性攻撃(真空)』を付与した『オーラ防御』を『範囲攻撃』で周囲展開
『激痛耐性と捨て身の一撃』で突撃し早業で『零距離射撃』を『鎧無視攻撃と属性攻撃(真空)』を込め敢行
仲間が居れば連携しつつ
※アドリブ絡み掛け合い大歓迎
「くっ……なかなか容易い相手ではありませんか!」
傷が深まるのを嫌ったウインドゼファーが、風にその身を預けて後退する。
しかしそこへ追いすがる猟兵が1人。
青く輝く結晶の制服少女――ビスマス・テルマールだ。
「立て直す暇は与えませんよ!」
「!?」
ビスマスの片手が、包みこむように持っていた漆塗りのお椀をかざす。
するとお椀はガシャンと瞬時に変形。
形成されたのは、ちょっと可愛らしいスッポンだった。
だが当然、単なるキャラアクセなんかではない。
「撃ちます!!」
「っ! 射撃武器ですか!」
ウインドゼファーが暴風を生み出すのと、ビスマスが弾幕を放ったのはほぼ同時だった。
撃ちだした何割かは風の圧に屈し、あらぬ方向へと逸れてゆく。だが残りはオーラの守りで風に耐え、炸裂して生んだ真空でもってウインドゼファーの暴風を弱めた。
そうして作った時間の猶予で、ビスマスはすかさず鎧装を起動する。
『Namerou Hearts tuna! banana! Avocado!』
電子音が響き、制服の上から鎧装が彼女を覆う。
鮪、バナナ、アボカド。赤黄緑と鮮やかに彩られたビスマスは、さらに真空弾を撃ちこみ、ウインドゼファーへぐんぐんと迫ってゆく。
ウインドゼファーは、自らの顔まで迫った弾を払い落とした。
「大した気迫です……が、私とて負けられない!」
気炎があがるとともに、ウインドゼファーを取り巻く嵐が獰猛に唸る。風力で浮かんだ体が、視認すら危うい速度でビスマスを打ち倒さんと飛来した。
が、ビスマスは再び弾幕を張り、広範に発生した真空で突撃を牽制。
わずか鈍った動きの隙を突き、被弾も覚悟で逆に吶喊をやり返した。
「私に……向かって!?」
「乾坤一擲、受けてもらいますよ!!」
漆塗りのお椀――スッポン型メカ『ウルシ』が、ぴったりとウインドゼファーに突きつけられる。
閃光。零距離で真空弾が炸裂した。
重い一撃を腹にくらったウインドゼファーの脚は、確かによろめいていた。
成功
🔵🔵🔴
ハロ・シエラ
【POW】
察するにあのぎざぎざしたタイヤの付いた棒で攻撃してくるのでしょうか。
それとも風で?
しかも随分と速いようです。
私が敵を捉え、斬る為には……
まず、私は速くは動きません。
速くなりたいという欲望も遅い者の前では少し萎えるかも知れません。
また、私の髪は敵の纏う暴風を孕み【第六感】に訴えて動きや攻撃を教えてくれるでしょう。
敵の攻撃を完全にかわす事は難しいでしょうから、【オーラ防御】と【激痛耐性】にも頼り、耐えながらチャンスを待ちます。
敵がどう動こうと狙うのは私。
攻撃を察知し、剣が届く範囲まで誘い込めれば【カウンター】でユーベルコードを使って斬る事が出来るはず。
この一撃だけは【早業】で叩き込む!
足場の花々を、つむじ風が巻き上げる。
飛んでいきそうな黒帽を押さえたハロ・シエラは、赤い瞳を静かにウインドゼファーに向けた。
「なるほど。風を使った攻撃ですか。しかも随分と速いようです」
敵を見据えたまま思案を巡らすハロ。
そして、ひとつの光明と覚悟を胸に、その脚は敵前へと躍り出た。
「猟兵……私の前に出て脚を止めますか。肝が太いのか、それともただの無謀ですか」
「剛毅か無謀か。知りたいのなら試してみてはどうです」
帽子の鍔の下から、ハロの赤い眼光が覗く。
それを見たウインドゼファーは、仮面の下で笑うような息をついた。
「いいでしょう。私の風を、速さを! その身に刻みつけてあげましょう!」
片腕を振るうウインドゼファー。豪風が巻きあがり、人間など吹き飛ばしてしまいかねない力がハロの小柄な体に叩きつけられる。
だがそれを受けてなお、ハロの脚は呑気なほどに緩慢だった。
「それでは私に打たれるだけになりますよ!」
「そうでしょうか? 脚ではあなたに敵いませんが……」
ウインドゼファーの声に応じたハロが、横に向けて腕を構える。
するとその腕は、繰り出されたウインドゼファーの蹴りをしかと受け止めた。その威力に腕には痺れるような痛みが走るが、それは命に響くものではない。
「攻撃を、読んだと
……!?」
「あなたの暴風が私の髪に居場所を教えてくれるんですよ」
声音に驚愕を滲ませるウインドゼファーに、ハロはわずか笑った。受けると決めれば、風から動きを読んで耐え凌ぐのもできないことはない。
だがそれより肝要なことは、あえて速く動かないという選択だ。張り合いのない状況がウインドゼファーの『速くなりたい』という欲求を抑制していた。
彼女の戦闘力の源泉たる欲求を。
「やりますね。ですが、受けてばかりでは私を倒すことはできません!」
「それはもちろん、そうです」
言いながら、ハロは迫りくるウインドゼファーの手を半身で避け、短剣を抜いた。
蛇切の名を冠する刃――サーペントペインが、奔る。
ウインドゼファーの黒鉄の体に幾筋もの刀傷が刻まれ、軋むような悲鳴があがった。
「ぐっ、ああ!?」
「あなたを斬る刃は、持っていますよ」
大成功
🔵🔵🔵
柊・雄鷹
ほーん、風を操る怪人なんか…カッコ良ぇやないか!
まぁ、カッコよさならワイも負ける気が…ん゛!?
もしかして女の子なん!?
敵の攻撃を躱さんことには始まらんな
翼を活かして【空中戦】や
【念動力】を使って、持っとるダガーを全部自身の傍に侍らせる
これで全方位、どこからでも敵の攻撃を弾くって計算やっ!
一応もしものために、『凍刃の鷹』を抜刀状態で装備
ダガーを躱してワイに突っ込んできたら
【属性攻撃】で凍っててもらうで!
っしゃ!次はワイのターン!
【空中戦】を維持しつつ
【念動力】で使ったダガーを回収、何度でも【投擲】
敵がダガーを意識し始めたら、意をついて『泪花』を使用
ワイも大好きな花や、遠慮せんと喰らってどーぞ!
「風を操る怪人の正体……それが女の子とは思わんかったで!」
花の足場へ降り立った柊・雄鷹は、風が頬をなでるのを感じながらそう言った。
ウインドゼファーの勇ましい戦いぶり、出で立ちからはおよそ女性らしさは感じられない。だから女性であるということには、いまだ信じがたい思いはあった。
「ちっとばかりやりづらい感じやな……ま、そんなこと言っとる場合やないけどな!」
頬をはたき、気合を入れた雄鷹は力強く足場を蹴る。
そして2歩目を踏んだとき、彼のオラトリオの翼は勇躍していた。
飛翔したそれを視界に捉えたウインドゼファーは、赤い仮面の無表情を上に向ける。
「……猟兵ですか」
飛んでくる雄鷹を迎撃すべく、2本の車輪剣を構えるウインドゼファー。体中のタイヤが燃え立つほど回転を増してゆく。
対して雄鷹はにやっと笑い――。
「翼を活かして空中戦や! そ・し・てー!」
華麗に(?)両腕をひろげた。
ばっ、と中空へばらまかれたのは両手に束ねて持っていた愛用のダガーたちだ。念動力で操作された色とりどりのダガーたちは、主を守護すべく体の周りを周回する。
「これで全方位、どこからでも敵の攻撃を弾いたるでっ!」
「ほう、考えた防備ですね。しかしそれゆえに残念です」
ウインドゼファーが車輪剣を振るい、その車輪の回転が竜巻を生み出す。
吹き荒れる竜巻は獣のように雄鷹へと迫り、彼のダガーの壁をことごとく吹き飛ばした。
「くっ!? 位置をキープできへん!?」
「風は無形。弾き飛ばすなど不可能です」
懐に滑りこんできたウインドゼファーが、車輪剣で雄鷹を無慈悲に斬りつける。回転する刃が肌を裂き、血飛沫が噴きあがった。
「アッ……カンなぁ……! こりゃ、キくわぁ……!」
「安心なさい。すぐ楽にしてあげます」
剣を振りかぶるウインドゼファー。
だがその瞬間、雄鷹は懐から最後のダガー『凍刃の鷹』を抜き、彼女のがら空きの脇腹を斬りつけた。
「くっ!? もう1本持っていましたか……!」
「まあな! それに、あとのダガーもなくしたわけじゃないで!」
言い放つ雄鷹の後ろから、飛ばされた7本のダガーが風を切って戻ってくる。
念動力で操作するそれらを、雄鷹は一挙にウインドゼファーにお見舞いした。
「小癪な攻撃を……!」
「気に入らんか? ならワイの大好きな花をくれたる!」
雄鷹が拳を握りこむや、砕け散るダガー。
散乱した破片はその身を美しいキンセンカの花弁に転じさせ、辺りの空間を満たす。
「遠慮せんと喰らってどーぞ!」
「ぐっ、ああああ!!」
咲き乱れるキンセンカが、殺到。
ウインドゼファーの苦悶が、風音を貫いてその場に響き渡った。
苦戦
🔵🔴🔴
アイン・ローレンス
【WIZ】
猿、兎の次はタイヤ…いえ、風ですか
中々に厄介ですが風を扱えるのが貴方だけだと思わないでください!
【聞き耳】でタイヤの回転音に耳を傾け、常に敵の位置を把握
【第六感、見切り】で剣を避け距離をとる
ついでに竜巻の渦の巻き方も見切る
【属性攻撃、全力魔法、範囲攻撃、吹き飛ばし】
風を纏わせた「生命の鞭」を渦を乱すようにぶつける
空気の渦が水平でなくなれば竜巻も消えるはず…
消えなくても軌道さえ反らせればラッキーです
さあお返しですよ!
「エレメンタル・ファンタジア」
炎の竜巻で電気を通さないゴムタイヤを溶かしてあげましょう
【2回攻撃】続けて雷の津波をおみまいですよ!
炎と雷で丸焦げです!
「猟兵……! さすがにモンキーとバニーを破っただけはありますか!」
重なった傷の痛みを払い飛ばすように、ウインドゼファーは車輪剣を大ぶりに薙ぐ。目に見えるほどの猛風が逆巻き、全身のあらゆる車輪が回転数を上げる。
傷を負えども、闘志はいまだ衰えていない。
アイン・ローレンスは己の銀髪をさらう風から、そう感じ取った。
「その力、その心。中々に厄介ですね……ですが!」
手元に鞭を収めて、アインは鳴りやまぬ風音に耳をそばだてる。
あらゆる音を覆い隠しそうな風の轟音――だがその中に、つんざくような車輪の音が確かにアインの耳朶を打つ。
アインは後方へ跳んだ。
するとその一瞬の後、アインが立っていた足場が、叩きつけられた車輪剣で散り散りに破壊されていた。
「私の剣をかわしますか……!」
車輪剣を引き上げたゼファーが、驚愕の声をこぼす。
だがそれならば、と腕をひらき、今度は剣を大きく構えた。
「剣自体はかわせても、風はどうです!」
宙を薙ぐ車輪剣。生み出された竜巻が花々を巻きこみながらアインへと迫る。
だがアインの瞳に臆した色はない。
むしろ微笑さえ浮かべながら鞭を――生命の鞭を振るった。しなるそれは鋭い風を纏い、ウインドゼファーの竜巻にぶつかると、空気の渦に干渉して軌道をはるか横へと逸らす。
「なっ!? 私の風を
……!!」
「風を扱えるのが貴方だけだと思わないでください!」
鞭とは逆の手をかざし、その手に精霊『スイ』が重なる。
スイの蝶の羽が紅蓮に燃えると――アインの手からは螺旋に暴れる炎が、顕現していた。
「ま、まずい!?」
車輪剣を盾代わりに構え、炎の竜巻を耐えるウインドゼファー。だが体を撫でる熱は黒鉄を焼き、回転するタイヤをも溶かしてゆく。
そして炎が消える間もなく、アインは次弾を撃ちこんでいた。
宙を切り裂き進むのは、波のように迫る雷。
「雷の津波もおみまいですよ! 丸焦げです!」
「がッあああああああああ!!?」
雷撃に身を焼かれたウインドゼファーが、膝をつく。
呼吸で上下する焼け焦げた体からは、消耗を物語る黒い煙が立ち昇っていた。
大成功
🔵🔵🔵
蒼汁之人・ごにゃーぽさん
ぬあー!先制攻撃にあっという間にボロ雑巾にされたボクは、ギャグ補正でダッシュで死に戻りすると現場に残ってたボクを埋葬しゼファーに抗議した。痛いじゃないか!何をする!あ、まって、まって無言で武器を構えるのはやめて、ぬあー!
……偏在する混沌の触媒、そう概念改変した無数のボク達は二人目のボクがヤられたのを見てわちゃわちゃごにゃーぽ!と抗議する!ボケ殺し反対!ネタをスルーは止めるんだ!ぬあー!
表のボク達が無双されてる間にゼファーの精神世界にも偏在することで潜入し、ごにゃーぽ☆ごにゃーぽ♪とその精神世界を概念改変しちまうよ。まともな思考が出来なくなれば、もう、おしまい♪
激闘が続く、花々の空間。
その色づいた世界の中を、蒼汁之人・ごにゃーぽさんは缶蹴りの缶のように猛スピードで転がっていった。
なんでかってゆーと、暴風纏ったウインドゼファーに突撃くらったからだった。
「ぬあー!」
「……何ですか、この手応えのなさは。あなた猟兵なんですよね?」
ボロ雑巾のように伏してるごにゃーぽさんへ確認を取るウインドゼファー。
すると――。
「な、なんてことをしてくれたんだー!」
「え?」
別の方向から声がしたので振り向くと、ごにゃーぽさんがもう1人立っていた。
なんか2人いた。
混乱を避けるために説明しよう! ごにゃーぽさんは恐るべきギャグ補正とかでカオスることができるのだ!
新ごにゃーぽさんは旧ごにゃーぽさんを花の中に埋葬すると、ウインドゼファーに抗議した。
「痛いじゃないか! 何をする!」
「……」
とりあえず車輪剣を持ち出すウインドゼファー。
「あ、まって、まって無言で武器を構えるのはやめて、ぬあー!」
ごにゃーぽさんがまた死んだ。
だが! いつの間にか一帯には無数のごにゃーぽさんが発生していた!
「ごにゃーぽ!」
「ごにゃーぽ!」
「ボケ殺し反対!」
「ネタをスルーは止めるんだ!」
「ぬあー!」
ごにゃーぽさんがまた死んだ。
敵に傷ひとつ刻まず、カオスという爪痕だけ刻んで数を減らしてゆくごにゃーぽさん。
だが!(2回目)
これで消えるほどごにゃーぽさんはおとなしくなかった!
『ごにゃーぽ☆』
『ごにゃーぽ♪』
「……ん?」
耳元で囁かれたような気がして辺りに目を配るウインドゼファーだが、誰もいない。
しかし『ごにゃーぽ』だけは確かに聞こえる。
『ごにゃーぽ☆』
『ごにゃーぽ♪』
「ぐっ
……!?」
鳴り響く『ごにゃーぽ』に、ウインドゼファーが頭を押さえる。
ごにゃーぽさんは偏在するのだ。
それがたとえ形のない世界でも、敵の精神世界であろうとも!
『ごにゃーぽ☆』
『ごにゃーぽ♪』
容赦ない『ごにゃーぽ』が確実にウインドゼファーの思考力を奪ってゆく。
が。
「まあ、戦いの支障になるほどではありませんか」
すくっと立ち上がるウインドゼファー。
ごにゃーぽさん、先制攻撃がっつりくらっちゃったしね! うん!
失敗
🔴🔴🔴
アリス・セカンドカラー
もうここまできたら残りの幹部にも邪神コンプしちゃおうかな?って。
ダイアモードは土遁法(念動力、地形の利用、トンネル掘り、水泳)で地中へと深く潜行することで回避を試みる。
そのまま地中を泳ぎながら、地上をクレヤボヤンス(念動力、第六感、視力、情報収集)で確認し、ゼファーに向けてワールドクリエイターで具現化した邪神を放つわ。回避されてもこいつ自体が妄想世界として顕在し蠢き続けるわ。知覚してるだけで精神と魂を蝕むことでしょう。下手に破壊しようものなら、よりエグい汚物として吹き上がり広範囲に降り注ぐことでしょう。
さて、ゼファーが発狂死する前に私を掘り起こせるかどうか。恨むならお猿さんを恨みなさい。
暴風という無言のツッコミを繰り出しまくっているウインドゼファー。
それをアリス・セカンドカラーは、遠くのほうから見物していた。
「あれね」
アリスが倒すべき敵を視認すると、ウインドゼファーもまた倒すべき猟兵の存在を察する。
「私から隠れることはできません!」
三度、ウインドゼファーが全身のタイヤを増速する。二振りの車輪剣を振りかぶると、次なる猟兵を蹴散らさんと竜巻が放たれた。
だがアリスは慌てる素振りもなく、抱いたぬいぐるみを優雅に撫でる。
「隠れられない? なら試してみるわね」
「……なっ!?」
ウインドゼファーのこぼした声に、動揺が滲む。
竜巻が薙ぎ払ったはずのその場所から、アリスの姿が消えていた。風で飛ばした感触をウインドゼファーは得ていない。なのに忽然と、その姿はなくなっている。
「どこです!!?」
辺りを見回し、車輪剣を体の両側に構えて警戒するウインドゼファー。
その様子をアリスは――固められた足場の花々の間から観察していた。
(「見失ってるみたいね。土遁法がうまくいったわ」)
すいすい、と花の海を泳ぎながら、わずか笑むアリス。直に見ているわけではなく、感覚を総動員してクレヤボヤンスで捉えているだけだが、狼狽する敵の姿は少しばかり楽しいものがある。
が、観賞はここまでだ。
アリスは赤い瞳を閉じ、妄想具現化念動力(ワールドクリエイター)を発動させた。
その名のとおり、妄想を顕在化する力。
それで生み出したのは――エイプモンキーに『アリスの弱点』として創造された、想像を絶する異形。邪神である。
邪神は上昇し、花々を抜け、ウインドゼファーの背後へ飛び出した。
「なっ、何ですかこの生物は……いや生物なのですか!?」
目の前に現れた、正気すら奪いそうな物体へウインドゼファーの車輪剣が唸る。
見続けていては何か精神に異常をきたす、という彼女の判断は正解だったろう。
だがアリスはそれも織りこみ済みだった。
「いいのかしらね。下手に破壊しようものなら――」
車輪と風で千々に切り刻まれた邪神の肉が、膨張。限界まで膨れたそれはやがて弾け、グロテスクな液状物体となって花々の上に降りそそいだ。
「な、な……アアァァァァーーーーー!!!」
降りかかる汚物に、ウインドゼファーの精神が軋む。
アリスはそっと花々の海から上がると、やはり悪趣味な微笑を浮かべた。
「これで幹部への邪神、コンプね」
大成功
🔵🔵🔵
ヴロス・ヴァルカー
【速芋】で連携を。
キマイラフューチャーの未来のため、ここは通してもらいます。
先ずは3人を抱えて…触手から蒸気を噴き出し【空中戦】へ、私達への攻撃は『イオン・イージス』の【歌唱】により生み出した盾で【かばう】ことで凌ぎます。
上手く凌げたら3人を離し、【狩獣】で『ストーム・ウォーカー』を複製した触手塊を展開。
バラバラに【操縦】し、黒城さんの鎖で繋ぐことで即席の足場を作り出します。
後は、盾を生み出しつつ防御を固めていくとしましょう、私が沈んでしまえば足場がなくなりますからね。
攻撃の本命は黒城さん。
彼女の一撃を通すため、私ももうひと踏ん張りするとしましょう。
黒城・魅夜
【速芋】で出撃。
ヴロスさんに初撃を防御していただき、「範囲攻撃」と「ロープワーク」で鎖を展開し足場を確保。
ルエリラさんとエドゥアルトさんの牽制に紛れ、攻撃は「第六感」「見切り」「残像」で回避、被弾は「覚悟」「激痛耐性」で耐えつつ間合いを詰めます。
そしてその傷より流れる血こそが逆転への道。
血を触媒にして発動するのがこの技。
確かにその暴風の前では血霧は消し飛ばされてしまうでしょう。
しかし、「私の体そのもの」が今も流れ続ける血に濡れています。
一瞬でいい、そして指先、いえ爪の先がかするだけでいい。
血塗られた我が身があなたに触れたその刹那、あなたの体内を引き裂いて、我が呪鎖が汚濁の魂を喰らうでしょう。
ルエリラ・ルエラ
【速芋】今までとノリが違うねこの人。
私も真面目に頑張ろう。
それにしても風魔法格好いいなぁ。
最初の敵の攻撃は、ヴロスに盾になってもらうよ。エドは捨ててもいいけど私と魅夜はしっかり守ってね。期待してるよ。
頃合いを見て、ヴロスの盾から『私のブーツ』に魔力を込めて飛び出して『空中戦』をしかけるよ。飛び出した後の風は『私の戦闘服』の魔力障壁で和らげて、【フィーア】をどんどん撃つね。
ただ、これは当てるためじゃなく誘いこむための攻撃。敵の進路を妨害して本命の魅夜の攻撃を当てるための誘導として撃つよ。もちろんそれを敵に悟らせはしないようにするけど。
その後はまぁエドと魅夜が上手くやってくれるはずだよね。
エドゥアルト・ルーデル
【速芋】で出撃
無駄に正統派だ!今更それで来るかー…
初撃の【足場を崩す暴風】はヴァルカー氏に盾になってもらいますぞ!直接の風はちょっと防げそうにないしな!
崩された足場も即興で作るそうだが…万が一落下させられ…したらサーチドローンをありったけ出して緊急の足場にして復帰でござるよ
ルエラ氏の矢が飛び次第作戦開始!
敵に対して【戦闘知識】で動きの予測と【第六感】による移動先の読み当てをし、【クイックドロウ】による早撃ちで【拳銃弾】をぶち当てますぞ
優先的に狙うのは足、車輪など機動力に関係ありそうな箇所でござるが最悪胴体に当たればヨシ!
撃破は狙いませんぞ!あくまで本命は黒城氏、拙者らはスキを作れればいいんだ
明石・真多子
チーム【フリスビー】で出撃!
暴風攻撃が来て足場もろとも吹き飛ばされちゃうの!?
だったらその風と崩される足場を利用しちゃおう!
アタシ達が乗れる花の足場なんだし、一際大きい花びらを六本の腕に付いてる吸盤でガッチリと[グラップル]しよう!
この即席グライダーになったアタシにみんな掴まってもらって距離を取るよ!
あとは一郷ちゃんのUFOが投げられてからがアタシの出番!
星美ちゃんの巨大手裏剣を持って【軟体忍法旋風大タコ巻きの術】でUFOの上でさらに回転しよう!
これがみんなの合体攻撃だ!
速度×回転×回転×遠心力=4乗の猟兵パワーを受けてみろー!!
レトロ・ブラウン
【フリスビー】
マずは敵の先手かラですネ!暴風は防御すルでなク、風のマまに吹き飛ばサれテおきマす。
そノ後一郷さんノUFOに回収しテもラい、アる程度離れタら【嘗て有った理想の残滓】ヲ発動!
ジェットパック付きノ外骨格を呼び出シ、空中に飛び出シまス!
離れタ場所かラですガ、こノ大きさナら目と鼻ノ先のようナもの!UFOを掴ミ、フリスビーのヨうに投げまス!
御三方、後ハお願いシます!ご武運ヲ!
一郷・亞衿
【フリスビー】4人連携!
先に足場ごと吹き飛ばされるんなら、即座に空中で姿勢を整えるのが先決だよね。
暴風を<見切り>、上手く風に乗るようにして吹き飛ばされたら『アイアン・スカイ』を発動!
平たい円盤型UFOを招来して、あたし含めた皆を回収して一旦機内に避難。こういう形の飛行物体は超音速で飛んでもソニックブームが発生したりせず、空気力学的に優れた特性を持つことが近年の研究により知られています(※マジ話)。
暴風域から脱したら、船外に出たレトロさんにぶん投げて貰って強引に暴風の障壁を抜ける目算。あたしは機体制御に徹するから攻撃は任せたよ!
……目が回って気持ち悪くなりそうだな。事前に酔い止めの薬飲んどこ。
海野・星美
チーム【フリスビー】の皆さんに続きますわ!
足場が無くなるのは困りますわね…。
でも真多子お姉さまが凧のように飛ぶ術を使ってくれるみたいですわ!
お姉さまに掴まって崩れる足場を逃れますの!
レトロさんの外骨格、一郷さんのUFOに助けてもらいましたら反撃開始ですわ!
最後の幹部、そして場を制するその圧倒的な力を前にして少し自信が無くなりそうでしたわ…でもワタクシには皆さんがいますもの!
[覚悟]は決まりましたわ!
巨大五方手裏剣『大金星』を真多子お姉さまに預けて【海星忍法大金星】の力を解放しますの!
4人の力と技を合わせたこの速度、既にあなたを越えましたわ!
お覚悟は、よろしくて!!
●血の花よ、咲き誇れ
「おのれ猟兵……味な真似をしてくれますね!!」
頭の中を覆うような靄。それを吹き上げた嵐で何とか払い飛ばしたウインドゼファーは、かつてない敵愾心をその声の内から染み出させる。
余裕がないのだ。
もうすでに、落ち着き払って立っていられるほどの体力も精神力もないのだ。
しかしだからこそ、手負いだからこそ彼女の攻撃はより激しさを増していた。
「やらせはしません……あなたがたに、私を止めさせはしないッ!!」
気合とともに、ウインドゼファーの全身から烈風が奔る。巨岩をも浮かしかねない風力が、足場となる花々さえも瓦解させてゆく。
支えを失った体が、落ちる。
その瞬間、ヴロス・ヴァルカーは戦線をともにする仲間たちへ腕を伸ばした。
「皆さん、いいですね」
「ええ、お願いします」
「私もいつでもいいよ」
「頼みましたぞ、ヴァルカー氏!」
一様に首肯したのは、黒城・魅夜とルエリラ・ルエラ、エドゥアルト・ルーデルの3人だ。
3人をウォーマシンの巨体に抱え上げると、ヴロスは自身の触手から勢いよく蒸気を噴出。その圧力でもって足場なき中空へと浮上した。
「……飛びますか。猟兵も厄介な手合いが多いですね」
「キマイラフューチャーの未来のため、ここは通してもらいます」
「ならば私の未来のため、止めさせて頂く!」
真向。意志がぶつかる。
ウインドゼファーが刃じみた暴風を放つのと、ヴロスの触手『イオン・イージス』が盾を生むのはほぼ同時だった。
風が暴れ狂う。盾越しでも、その身が吹き飛ばされそうなほど。
「なんという風でしょう……!」
「ヴロス。エドは捨ててもいいけど私と魅夜はしっかり守ってね」
「何を言うでござるか!? ヴァルカー氏、拙者のことも決して、決して離さんで下され!」
飛ばされぬようしがみつき、あるいは軽口を叩いて堪える仲間たち。ヴロスは触手が焼けそうなほどに蒸気を噴き出し、暴風に巻かれまいと耐えた。
するとわずか、風が弱まる。
好機。ヴロスは3人を宙に放り上げると、無数の触手塊を複製。蒸気を噴出して動くそれらを操縦し、魅夜たちの下方により集める。
すると魅夜は空中で曲芸のように108本の鎖を操り、触手塊同士を連結。
何もない空間に見事、即席の足場を作り出すことに成功した。
「ヴロスさん、ありがとうございました」
「ここからは私たちが頑張る番だね」
「そうでござるな――っとと!?」
魅夜とルエリラが華麗に触手に着地する――が、エドゥアルトは足を踏み外しかけた。下は奈落……というわけではないが空間に果ては見えない。
ありったけのサーチドローンで体を支えて落下は免れたものの、エドゥアルトは肝を冷やした。
「危なかったでござる……ヴァルカー氏、わざとではござらんよな……?」
「残念。よくわからない空間だし捨てるには最適だったのに」
「本気だったでござるか、ルエラ氏!!?」
「皆さん、戯れはそこまでにしたほうがよさそうです」
馬鹿をやってる2人を制した魅夜が、漆黒の瞳を細める。
新たに暴風をまとったウインドゼファーが、弾頭のごとく4人に迫っていた。
「機転には感心しますが……すべて吹き飛ばせば良いだけのこと!!」
嵐。
何物もその場に在ることを許さない。さながら怒れる龍のごとき波動が押し寄せ、即席の足場は頼りなく揺り動かされる。魅夜の鎖が強引に締めつけ、ヴロスが細かく蒸気を出してバランスを保たなければ、風のひと薙ぎで容易く崩壊していただろう。
だが持ちこたえた。暴風の中を。
ルエリラは魔力が浸透する手製のブーツで足場を蹴り、生成した翼を羽ばたかせて空中へ飛び出した。
向かうは当然、風の主だ。
「風魔法、格好いいね。でも私たちも格好いいって知っておくといい」
風に乱れる青い髪を、頭を振って振り払い、弓を引き絞るルエリラ。握りこんだ弦を解放すると、魔力で形成された矢が弾き出され、青白い光が尾を引いてウインドゼファーへと疾走する。
「それしきの射撃が、私に当たるとでも!」
腕を振り、生み出した風で横へと流れるウインドゼファー。軌道を読み、ルエリラの矢を回避できるよう自分の位置をずらしてみせた。
しかし真横を通過しようとしたまさにそのとき、矢は破裂し、無数の小さな魔力粒となって宙に散る。
「なっ!?」
「残念だったね。『フィーア』はただの矢じゃないんだよ」
粒が一斉に矢へと転じ、ウインドゼファーに殺到した。半ば包囲された状況にあったウインドゼファーは全力で風を吹かせ、最高速で離脱。小さな傷を受けながらも矢の雨を切り抜ける。
が、抜けきって体勢を整えようとしたところへ、衝撃が襲った。
足だ。正確には足元の車輪。そこに銃弾がめりこみ、車輪が音を立てて砕けていた。
「撃たれた……? どこからッ!!!」
辺りに目を配りながらも、連続しての被弾を避けるためその場を離れるウインドゼファー。すると勘が言ったとおり、浮遊していた場所を1発の銃弾が通過した。
銃撃が不発に終わったのを見届けると、射手――エドゥアルトはあくどい顔を薄っぺらく笑わせてみせる。
「おぉっと、さすがでござるな。2発目はくらってくれませんか」
「私の動きを予測して……? 小癪な真似を!!」
「よそ見してていいの? 私の矢もあるんだよ」
「くっ!?」
エドゥアルトへ反撃しようとした矢先、ルエリラの魔力矢が再び降りそそぐ。
風を操作して飛行し、回避するウインドゼファー。だがルエリラの矢から逃れた先を、間髪入れずエドゥアルトの拳銃弾が撃ちぬいた。
幾度も、幾度も、行く先を銃弾がかすめてゆく。
背後をルエリラの矢が覆い、前方をエドゥアルトの銃弾に塞がれる。その状態で致命的被弾を避けたのはやはり大幹部というところだったが、その実すでに彼女は術中にはまっていた。
「……お待ちしておりました」
「! おまえは!!」
射撃の雨の中でわずか息をついたウインドゼファーの背後に、魅夜がいた。
触手と鎖の足場で、瞬時に懐に迫れる速度を得られるはずはない。ヴロスの触手の蒸気にそれほどの出力はなかった。
ということは――。
「誘ったのですか! 私のほうを!?」
「ええ、ご明察です」
狼狽するウインドゼファーの首へ、魅夜の白い手が伸びる。
しかし手は触れない。ウインドゼファーが発した風が手を跳ね上げていた。
さらに鋭い風刃が魅夜の全身を蹂躙。ぱっくり裂けた傷から、生々しい鮮血が散る。
ウインドゼファーは、前のめりに倒れてゆく魅夜の黒い髪を見下ろした。
「良い作戦でした。ですが1歩足りなかったようですね」
「……そうでしょうか?」
地に伏す寸前――魅夜の脚が前に出ていた。
血に染まる体を支えていた。
「ま、まだ立って――」
距離をとろうとしたウインドゼファーの赤いマスクを、魅夜の手が触れた。
血に濡れた手が、触れた。
「血を触媒にして発動するこの技……あなたの暴風の前では血霧は消し飛ばされ、発動もままならないでしょう。しかし『私の体そのもの』が今も流れ続ける血に濡れています」
その端正な顔に、赤々と美しい血を滴らせて、魅夜は優しく頬を緩めた。
「一瞬でよかった。そして指先、いえ爪の先がかするだけでよかった」
「いったい、どういう――」
言いかけたウインドゼファーの全身から、真紅が噴き出す。
傷から覗くのは鎖。
「血塗られた我が身があなたに触れた。ならば我が呪鎖があなたの体内を引き裂いて、汚濁の魂を喰らうでしょう」
魅夜の言葉とともに、獰猛な鎖がウインドゼファーの体を八つ裂きに仕留める。
その身に血の花を咲かせた怪人が、力なく崩れた。
●速きよりも速く
「馬鹿な……私はここで、止まるのですか
……!!」
赤く濡れた傷だらけの体で、這いずるウインドゼファー。
その姿にはもはや、大幹部の威厳も風格も感じられない。
しかし彼女は車輪剣を足場に突き立て、咆哮をあげて奮い立った。
「止まるものですか……私は……ッ!!」
満身創痍。揺れる両脚には満足に力も入らず、立ち姿に漂うのは頼りなさばかり。
だがその欲望と闘志には、些かの陰りもなかった。
「止まってなどッ! いられない……ッッ!!!」
闘気とともに吹きあがる豪風。
それは今までの風と比べても遜色ない威力であり、その場に立つ者を支えていた足場はあっけなく霧消する。
「足場を消しちゃうなんて! でもだったら、その風と崩れた足場を利用して!」
瞬間、明石・真多子は触手含めた6本の腕を振り回し、散りゆく花々を吸盤でかき集めて1枚の大きな花弁を形作った。さながら凧のようになったそれは風圧を受け、ふわりとその場に滞留する。
「星美ちゃん! アタシに掴まって!」
「わ、わかりましたわ! 真多子お姉さま!」
ふわーっと浮かび上がる真多子に飛びついたのは、海野・星美。お腹の辺りに腕を回して、風に揺り落とされまいとぎゅっと力を込める。
そしてそんな2人の横を。
レトロ・ブラウンと一郷・亞衿が木の葉のように飛び上がっていった。
「一郷ちゃーん!」
「レトロさーん!」
「アっ、お2人とモお気になさラずー!」
「風が強いときは逆らわないのが一番だよね」
腕を伸ばす真多子と星美に手を振り、淡々と吹っ飛ばされてゆくレトロと亞衿。
だがそれは無策というわけではない。
暴風を耐え忍ぶのではなく、風に身を預けて飛んでゆく。つまりはいなすような形になって、その体を襲うダメージを抑制していたのだ。
そして暴風圏外に差し掛かり、風が弱まったところで、亞衿は両手を天に上げた。
「ベントラー・ベントラー・スペースピープル……」
怪しさ満点の詠唱を行い、なんか交信的なことを行う亞衿。
すると彼女の頭上には銀色の円盤飛行体――UFOがいた!
「回収よろしく」
フワァーッ、と照射された光の中を昇ってゆく亞衿。ものの数秒で収容完了。
そのまま近くを飛んでたレトロも回収すると、遅れてふわふわ舞ってきた真多子と星美もちゃちゃっと収容してしまった。
UFO内で一息つき、皆を見渡す亞衿。
「とりあえず全員無事みたいだね」
「イやあ、助かリまシた一郷さん。危うク彼方に消エテしまウかト」
「何とかあちらの攻撃を切り抜けましたわね!」
ふぅー、と胸をなでおろすレトロ&星美。
「でも強風の中、このUFOびくともしないんだね!」
「こういう形の飛行物体は超音速で飛んでもソニックブームが発生したりせず、空気力学的に優れた特性を持つことが近年の研究により知られているんだよ」
船内をしげしげ眺める真多子に、亞衿は交信ポーズをとりながら淡々と説明を放つ。
ただのオカルト志向ではない亞衿さんだった。
「よーし、今度はアタシたちのターンだね!」
真多子がみょいんとタコ足を掲げると、総員が顔を見合わせ、こくりと頷いた。
亞衿がUFOのハッチをひらく。
まずそこに立ったのは、レトロだった。
「でハ行っテきまス!!」
びしっと敬礼した笑顔マークのブラウン管は、ユーベルコードを発動。
かつての人々の憧憬、夢を手繰り、その有様を呼び起こすと――UFOのすぐ横の中空に、30m越えの巨大な外骨格が召喚されていた。
「こ、これはすごいですわ!」
「何だかロマンだねー」
「そレじゃア作戦開始ですネ!」
超ド級の強化外骨格に圧倒される星美と真多子に見送られながら、外に飛び出すレトロ。強化外骨格に乗りこむと、すぐさま装備したジェットパックを起動して揚力を得る。
で、何したかとゆーと。
「失礼しマス!」
外骨格の巨大な手で、むんずとUFOを掴んだ。
そしてフリスビーよろしく構えると、ぐぐっと上体をひねった。
「離れタ場所かラですガ、こノ大きさナら目と鼻ノ先のようナもの!」
きらーん、と顔画面を光らせるレトロ。
ひねった体を戻す反動をつけて、全力でウインドゼファーの暴風へ向けて投擲した!
「御三方、後ハお願いシます! ご武運ヲ!」
空を切り、風を切り、回転して飛んでゆくUFOを手を振って見送るレトロ。
彼の役目はここまで。あとは事の成功を祈り、仲間を信じて待つだけだ。
超高速でぐるぐるしながら突き進むUFO。
数秒もする頃には、ウインドゼファーの暴風圏の壁に突入していた。
圧倒的な風力にあおられ、UFO内は転覆船のように盛大に揺れる。
「……危うく吐くところだな。酔い止めの薬飲んでてよかった」
ぽつっ、と呟くのはUFOの制御に専心中の亞衿である。
もしも酔い止めを飲んでいなかったら、ウインドゼファーの暴風の威力と相まって船内が大惨事になっていた可能性もある。
超ファインプレーだった。
「一郷ちゃん! それじゃアタシたちは出るね!」
「ワタクシも行きますわ!」
「あたしは機体制御に徹するから攻撃は任せたよ!」
開いたハッチから外に出てゆく真多子と星美を、顔を向けずに見送る亞衿。
飛行中のUFOから出た2人は船体をたどり、円盤の上まで昇った。
UFOの速度と、横から殴りつけるような強風で、立つこともできない。けれど真多子と星美は何とか船体にしがみつき、前方を見据える。
すると、うっすら、見えてきた。
向こうも同じく、猟兵たちを視認していた。
「……猟兵、まだ、私のところへ来ますか!」
ウインドゼファーだ。
暴風の主、ウインドゼファーが、迎撃せんと立ち上がる。
手負いの獣の放つ威圧感が一帯を覆う。
いまだ幼い星美は、その圧に呑みこまれそうな恐怖を感じた。だが彼女の足はその場に根を張ったように留まり、星型……いやヒトデ型が浮かぶ瞳はまっすぐ敵の姿を捉え続ける。
「風の力で場を制する圧倒的な力……少し自信が無くなりそうでしたわ。……でもワタクシには皆さんがいますもの! 覚悟は決まりましたわ!」
「うん、討とう! アタシたちの力で!」
決意みなぎる星美に、ニカッと笑ってピースをかざす真多子。
互いに頷きあった2人は、ウインドゼファーを打ち倒すべく、ユーベルコードを発動した。
瞑目する星美の両手の内に、輝きが満ちる。
眩いまでの光が収まると、そこには光刃で成った巨大手裏剣が出現していた。
「真多子お姉さま!」
「まっかせてー、星美ちゃん!」
星美から光刃手裏剣を受け取った真多子が、6本の腕をひろげる。
そして、ぐる……ぐる……と回転しはじめる真多子。
UFO自体の回転も合わさることで、真多子の回転は加速に次ぐ加速。もはや形すらも捉えられない速度は、やがてウインドゼファーにも比肩する竜巻を生み出した。
「これがみんなの合体攻撃だ! 猟兵パワーを受けてみろー!」
「4人の力と技を合わせたこの速度、既にあなたを越えましたわ! お覚悟は、よろしくて!!」
「……私と風で勝負をするつもりですか!」
怒気にも似た闘気を放つウインドゼファーが、その場を暴風で覆い尽くす。
竜巻と暴風。
2つの風が正面からぶつかり、爆裂した衝撃波が空間を歪ませる。
巨大な力の衝突は鍔迫り合いのように一進一退し、なかなか決着を見ない。
しかし一際大きな唸りをあげ、風同士が喰らいあうと――静寂。
相殺していた。
「私の風と、互角……!」
「いいえ、まだですわ!」
己の風を消されたことで狼狽したウインドゼファーに、星美の高らかな声が響く。
相殺された竜巻の中から――光が、星美の光刃手裏剣が飛び出していた。
回転する刃が、ウインドゼファーの黒鉄の体に喰いこみ、そして切り裂く。
鮮血。千々に裂かれた肉体が、赤々と濡れて、糸が切れたように怪人は倒れた。
「私の速さを超えますか……見事、ですね……」
一陣の風にさらわれたとき、ウインドゼファーの姿はもうなかった。
大成功
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